花丸「恋の魔力」

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45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 13:25:08.75 ID:hsSCbHDC0

―――
――


 梨子ちゃんと一緒に帰ると善子ちゃんがいなくなり、1人きりになった教室。

花丸「恋人……」

 善子ちゃんの恋路が上手くいったのは嬉しい。

 でも少し残念だな。せっかくロマンティックな展開を楽しみしてたのに。

 堕天使だの何だのと言ってる割に、変なところで現実的なんだから。


 でも寂しいな、恋人ができたら、今までのように仲良し3人組とはいかないだろう。

 善子ちゃんは恋人優先、マルとルビィちゃんは取り残される。

 せめて、マルにも恋人がいればいいのに。

 そうすれば寂しさなんて無縁の生活を送れるだろうから。
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 13:28:23.13 ID:hsSCbHDC0
花丸「うーん」

 ドキドキしていた時なんて、あの図書室での曜ちゃんとの絡みぐらい――


ガラッ


曜「あれ、花丸ちゃん」

花丸「曜ちゃん?」

 教室のドアが開く音に反応して目を向けると、そこには曜ちゃんの姿。

 思考は人を惹きつけるのかな、本人が来るなんて。


曜「なにしてるの?」

花丸「えっと、試験前に勉強を」

曜「一人で? 熱心だね」
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 13:30:24.42 ID:hsSCbHDC0
 善子ちゃんが座っていた場所に、自然と腰掛ける。

 幼馴染と同じ距離感は、とても近い。

花丸「ちょっと前までは善子ちゃんが居たんだけど……」

曜「あらら、フラれちゃったの」

花丸「うん、恋人には勝てなくて」

曜「恋人?」

花丸「あれ、知らないの?」

 もしかして、言ったらマズかったかな。

 梨子ちゃんとは仲良しだから、知ってると思っていたんだけど。
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 13:33:05.28 ID:hsSCbHDC0
曜「善子ちゃんに恋人ができたの? 誰?」

 当然、曜ちゃんは興味満々に食いついてくる。

 これ、話しちゃってもいいのかな。もしかして本当は秘密なのかも。

 でも普通に教えてくれたぐらいだし、たぶん問題ないよね。


花丸「えっとね、何か梨子ちゃんと付き合い始めたみたいで」

曜「あー、なるほど。あそこは仲良いもんね」

 納得したようにうなずく曜ちゃん。

曜「でもマジかぁ、全然知らなかったよ」

花丸「梨子ちゃん、話してなかったんだね」

曜「たぶん他のみんなも聞いてないと思う。恥ずかしがり屋だからねぇ」

花丸「あぁ」

 それだと梨子ちゃん的には隠しておきたかったかな、悪いことをしたかも。
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 13:35:39.14 ID:hsSCbHDC0
曜「うーん、でもちょっとうらやましいよね、みんな恋人ができてさ」

花丸「曜ちゃんなら、作ろうといつでも思えばできるでしょ」

曜「それがなかなか上手くいかなくてね」

 髪をくるくるしながら天井を見上げる。


 好きな相手がいるのかな。それとも周囲にいる子がみんな自分の好みじゃないとか。

 簡単にキスをしちゃう時点で、堅い恋愛観を持っているわけじゃないだろうし。

曜「花丸ちゃんの方こそどうなの」

花丸「マル?」

曜「恋人、いるんだっけ」

花丸「ううん、いないよ」
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 13:38:05.58 ID:hsSCbHDC0
曜「男の子にモテそうだし、ルビィちゃんもいるのにねぇ」

 また出てくるルビィちゃんの名前。

 そんなに仲良しに見えるのかな、それはちょっと嬉しいかも。


曜「でもそっか、恋人はいないのか」

 その言葉と共に真顔になり、じっと顔を見つめられる。

花丸「な、なに?」


曜「じゃあさ、私と付き合ってよ」


 そして飛び出した、予想外の言葉。


花丸「付き合うって、何に?」

 思わず聞き返してしまう。

 あまりの衝撃にショートした脳は、その言葉をとっさに処理できない。
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 13:40:25.24 ID:hsSCbHDC0
曜「……今の話の流れだよ、分かるでしょ」


 そっけない曜ちゃんの態度。

 罰ゲームか何かなのかな? 恥ずかしがっているだけ?

 でも素直に嬉しかった。地味なマルの元に、王子様が現れた、そんな気分。


花丸「マルで、いいの?」

 だから、例え疑問があっても、断る理由なんてなかった。


曜「わざわざ聞くってことは、OKでいいのかな」

 こくりと頷く。

曜「そっか、ありがとう」

 笑顔になり、やさしく頭を撫でてくれる。

 それがこそばゆくて思わず目を細めると、迫ってくる唇。
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 13:42:22.19 ID:hsSCbHDC0
花丸「ぅ」

 気づいたときは、マルのファーストキスは奪われていた。


曜「好きだよ」


 耳元で囁かれる甘い言葉。


曜「大好きだよ、花丸ちゃん」

花丸「ま、マルも、曜ちゃんのこと――」


 言い終わる前に、また塞がれる唇。

曜「離さないよ、絶対に」

花丸「よ、曜ちゃん……」
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 13:48:44.04 ID:hsSCbHDC0
 恋愛なんてしたことのなかったマルには情熱的すぎる、曜ちゃんの行動。

 クラクラして、真っ白になって。

 気づけば頭の中は、曜ちゃん一色になっていた。

 これが恋の力、恋の魔力。


 流される。

 警告を発する冷静な自分は、抗えずにどこかへ消え去ってしまう。

 思考が侵略され、何も考えられない。でもそれが不思議と心地よくて。


曜「二人で、ずっと一緒にいようね」

花丸「……うん」
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 13:49:27.51 ID:hsSCbHDC0
続きは夕方以降に投稿します
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/09(水) 19:21:40.17 ID:RJBD5t7X0
渋で見た気がする
56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/09(水) 19:41:50.56 ID:cJuPs/0SO
童貞じゃないやん
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 19:52:47.94 ID:hsSCbHDC0


――――
―――
――



 曜ちゃんから告白された。

 曜ちゃんと付き合うことにした。

 あんな格好いい人が恋人になった。


 夢じゃない。

 朝、会った時に確認しても、確かに曜ちゃんはマルの恋人だった。

 これは現実なんだ。

 恋愛なんて、縁がないと考えてたのに。
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 19:55:38.73 ID:hsSCbHDC0
善子「花丸、手が止まってるわよ」

花丸「あっ」

 目の前にあるプリントは、まるで進んでいない。

 曜ちゃんのことに夢中になって、普段にも増してぼんやりしてる。


善子「全く、昨日私に注意しておいて、自分でやる?」

花丸「ごめん……」

善子「……何かあったの?」

花丸「えっと……」

 曜ちゃんは特に隠そうとは言っていなかった。

 でも気軽に教えていいのかな、これは。
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 20:00:32.58 ID:hsSCbHDC0
 曜ちゃんは特に隠そうとは言っていなかった。

 でも気軽に話していいのかな。


善子「気になるわね、誰にも言わないから教えなさいよ」

花丸「うーん、ちょっと待って」

 ただでさえ同性同士の恋愛、あんまりペラペラ喋るような話ではないのは確か。

 だけど善子ちゃんは昨日、自分の事を話してくれた。

 マルだけ隠しちゃうのも、何か不公平な気がする。


花丸「あのね、実は昨日、告白されたの」

善子「告白!?」

花丸「うん」

善子「私が帰った後に?」

花丸「そうだね」
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 20:01:58.28 ID:hsSCbHDC0
善子「相手は誰? ルビィ?」

花丸「ううん、曜ちゃん」

善子「曜さん?」

花丸「意外かな」

善子「正直ね、あんまりかかわりがあったとは思えないから」


 そりゃそうだ。

 みんなが見てる前で曜ちゃんと話したことなんて、ほとんど記憶にない。

 二人の時も、最近の図書館と教室ぐらい。

 客観的に考えれば、曜ちゃんの名前は出てこない方が普通だろう。
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 20:04:13.44 ID:hsSCbHDC0
善子「それで、付き合うことにしたの?」

花丸「うん」

善子「でも曜さん、恋人いなかった?」

花丸「えっと、今はちょうどフリーだったみたいで」

善子「流石は浦女のヒーロー、とんだプレイガールね……」 

 ありゃ、変な誤解をされちゃった。

 だけど恋人でもない相手にキスをしていたって話すのも変だし、仕方ないかな。


善子「不安だわ、そんな人と花丸が付き合うなんて」

花丸「そんな人って、Aqoursの仲間なのに」

善子「それとこれとは別問題よ」

花丸「大丈夫だよ、曜ちゃんはやさしい人だから」

善子「それは、分かっているけど」
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 20:12:29.70 ID:hsSCbHDC0
 善子ちゃんが本気で心配するのも無理はない。

 傍から見れば、経験豊富な先輩に遊ばれている後輩みたいな形。

 実際、告白された意図も理解できていないのだから、それが事実な可能性も十分にある。

 でも――


花丸「心配してくれありがとう」

花丸「だけど今は、曜ちゃんを信じてるから」

善子「……それなら、一応素直に祝福しておくわ」

善子「おめでとう、花丸」

花丸「うん、ありがとう」
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/09(水) 20:22:35.13 ID:hsSCbHDC0
善子「でもこの事、ルビィには話しちゃ駄目よ」

花丸「なんで?」

善子「可哀想でしょ、一人だけ恋人がいない状態だと」

花丸「あっ、そっか」


 本当は真っ先に報告するつもりだったけど、確かにそのとおりかも。

 自分だって昨日、善子ちゃんが梨子ちゃんと付き合い始めたって聞いてショックだった。

 それが二人同時なんて、あんまりいい気がしないよね。

 昨日に続いて、ルビィちゃんがダイヤさんにさらわれていてよかった。
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 20:24:13.06 ID:hsSCbHDC0
善子「あと、ルビィ以外の人にも言いふらしたりしない事ね」

善子「昨日、あんたに報告したことを話したら、リリーに凄く怒られたんだから」

花丸「何となく想像はできてたけど、やっぱり」

善子「だから私の件についてもこれ以上は他言無用だからね」

花丸「……了解ずら」


 曜ちゃんに教えちゃったことは話さない方がいいかも。

 でも曜ちゃんが梨子ちゃんをからかったりする姿が容易に想像できる。

 きっとその件で、また梨子ちゃんに怒られるんだろうなぁ。

 ごめん善子ちゃん、いつかお詫びはするから。
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 20:50:22.45 ID:hsSCbHDC0
   ※


善子「あー、やっと終わったぁ」

ルビィ「うゅ〜」

花丸「ずら〜」

 問題の試験がようやく終了。

 試験前からの勉強が大変だったから、凄い開放感。


ルビィ「善子ちゃん、出来はどうだった?」

善子「ダイヤ効果もあってまあまあね」

ルビィ「マルちゃんは――聞くまでもないかな」

花丸「う、うん」
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 20:52:06.51 ID:hsSCbHDC0
善子「微妙だったの?」

花丸「そこまで悪くはないんだけど……」

 しっかり勉強した割に、試験中に集中できず、感触は良くなかった。

 その原因は間違いなく曜ちゃんなんだけど。


ルビィ「じゃあ気分転換も兼ねて、どこかに寄っていかない?」

 まだ昼間、曜ちゃんとの関係を知らないルビィちゃんの誘いは当然のこと。


花丸「ごめんね、マルは今から用事があって」

ルビィ「え、そうなの」

花丸「うん」

 用事があるのは本当。

 試験が終わったら図書室に集合と、曜ちゃんと約束してるんだ。
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/09(水) 20:53:39.76 ID:hsSCbHDC0
ルビィ「……マルちゃん、付き合い悪いよぅ」

 ちょっと拗ねちゃってるルビィちゃん。

 無理もない。

 今まではお互いに、相手からの誘いを断ることなんかなかったし、何も言わなくても常に一緒にいるような仲だったから。

 それなのに試験前も(ダイヤさんの所為だけど)一緒に勉強せず、今も誘いを断る。

 マルとしても、結構申し訳なさはあるんだ。


善子「ルビィ、外せない用事かもしれないんだから、あんまり困らせちゃ駄目よ」

ルビィ「うゅ……」

花丸「この埋め合わせはちゃんとするから、ね」

ルビィ「それなら、まあ……」
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 21:29:33.69 ID:hsSCbHDC0

―――
――



曜「ふぁぁ」

 2人きりの図書室。

 ゆっくり本を読むマルと、時々本に手を伸ばしがらも、半分はお昼寝モードの曜ちゃん。


花丸「眠いの?」

曜「流石に試験で疲れてさ」

花丸「あはは、それはマルもだよ」

曜「よく本を読めるね、試験後なのに」

花丸「マルは本が大好きだからね」

曜「私も本は嫌いじゃないけど、流石に辛い〜」
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 21:42:30.22 ID:hsSCbHDC0
 机に突っ伏しながら、足をバタバタさせる。

 付き合い始めて気づいたけど、曜ちゃんは案外子どもっぽい。

 普段の格好いい姿とのギャップが、また素敵なんだけどね。


曜「うーん何か――あ、そうだ!」

花丸「どうしたの?」


曜「花丸ちゃん、おいで」

 とつぜん曜ちゃんが膝を空けて手招きする。

花丸「これはどうすれば」

曜「膝の上に乗ればいいんだよ」
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 21:44:12.17 ID:hsSCbHDC0
花丸「えっと――こう?」

 ちょこんと膝の上に座ると、伝わるのは鍛えられたら太ももの感触。


曜「あとはこうやってギューっとね」

 膝に乗ったまま、後ろから思い切り抱きしめられる。

花丸「よ、曜ちゃん」

曜「やっぱり柔らかい。この感触が好きなんだよね」

花丸「恥ずかしいよぉ」

曜「大丈夫、誰も来ないから」

花丸「そういう問題じゃなくて……」

曜「うーん、花丸ちゃんは可愛いねぇ」
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 23:09:40.33 ID:hsSCbHDC0
 付き合い始めてから少しの時間が経ったけど、マルたちの関係はずっとこんな感じ。

 最初に曜ちゃんが見せてくれたような、情熱的な愛し方はしてくれない。

 仲の良い後輩か、ペットのような扱い。


 愛されているのは分かるんだけど、どうしても不安になる。

 やっぱりマルとの関係は、曜ちゃんにとって遊びに過ぎないのかなって。

 違うとは思う。でも考えてしまう。

 結局、マルには自信がないから。

 曜ちゃんに愛されているという自信が。
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 23:11:05.24 ID:hsSCbHDC0
曜「ありゃ、黙り込んじゃった」

花丸「あ、ごめん」

曜「抱っこされるの、嫌だった?」

花丸「ううん、そんなことはないよ」

曜「そう? 本を読むのに邪魔だと思ったんだけど」

花丸「うーん、言われてみるとそうかも」

曜「あちゃー、余計な事を言ったか」

花丸「ふふっ、かもね」
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/09(水) 23:25:50.63 ID:hsSCbHDC0
曜「ホント、本の虫。スクールアイドルとは思えないねぇ」

花丸「うん、そうかもしれないね」

 ルビィちゃんや千歌ちゃん、曜ちゃんみたいな明るくて活発な子が普通のイメージ。

 一般的なアイドル象からはかけ離れたタイプなのは間違いない。


曜「花丸ちゃん、何で文芸部に入らなかったの?」

花丸「この学校、そもそも文芸部がないからね」

曜「えっ、そうなの」

花丸「うん」

曜「それはまた、残念だったね」

 ただでさえ部員の少ない学校。

 本を読むよりは外で身体を動かすのが好きな人の方が多い事を考えれば、仕方ないと思う。
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 23:27:33.17 ID:hsSCbHDC0
花丸「例え存在しても、ルビィちゃんが居るから入らなかったとは思うけど」

曜「ルビィちゃんは嫌がるのかな」

花丸「ううん、きっとマルに合わせて入ってくれると思う」

曜「うん、そんな気はするよ」

花丸「でもね、そこで無理をさせたくないから、マルは部に入らないんだよ」


曜「……なるほど――本当に仲良いね、二人は」

花丸「曜ちゃんと千歌ちゃんも仲良しでしょ」

曜「……まあ、そうだね」

花丸「曜ちゃん?」

 急に声のトーンが落ちた。

 もしかして、変な地雷を踏んじゃったかな。
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 23:31:41.85 ID:hsSCbHDC0
花丸「あ、あの、マル――」

曜「大丈夫、千歌ちゃんを水泳部に誘って断られたのを思い出しただけ」

 元に戻る曜ちゃん、少し安心。

 でもどうしたんだろう。

 もしかしたら、千歌ちゃんと喧嘩でもしてるのかも。


曜「元々無茶だったからね、水泳部に入ってもらうのは」

花丸「千歌ちゃん、特別泳ぎが得意なわけじゃないもんね」

曜「結局、私も水泳部を辞めて一緒にスクールアイドルを始めるんだから、面白いけどね」


花丸「へっ、曜ちゃん、水泳部を辞めたの?」

曜「うん、言ってなかったっけ」
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 23:34:01.71 ID:hsSCbHDC0
 そんな話、聞いてない。

 ついこの前まで水泳部の活動に顔を出していたはずなのに。


花丸「どうして辞めたの」

曜「ちょっと部で揉めちゃってさ、居辛くなった」

花丸「揉めた?」

曜「ほら、前にキスした子。花丸ちゃんに見られた時の」

花丸「ああ、クラスメイトの」

曜「あの子が水泳部なんだけどね、キスから色々あってさ」


 その色々は、あまり想像したくない。

 でも仕方ないと思う、キスをされたら普通は勘違いをするもの。

 そう、キスをされただけじゃ、勘違いなんだ。
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 23:36:17.52 ID:hsSCbHDC0
曜「いっそさ、Aqoursも辞めちゃおうか」

花丸「えっ」

曜「そうすればずっと、2人でいられるよ」

 確かにそのとおり、そのとおりだけど――。


花丸「だ、駄目だよ、それは流石に」

曜「わかってるよ、ちょっとした冗談」

 いたずらっ子のような笑顔。

花丸「も、もう、たちの悪い冗談は辞め――」

 言い終わる前に重ねられる唇。

 発しようとした言葉は遮られる。
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 23:38:45.46 ID:hsSCbHDC0
 でもマルは、自分から唇を離す。


曜「花丸ちゃん?」

花丸「ねえ、マルとあの子にしたキスは、同じ意味なの?」

曜「……なるほど、そこが気になるか」


 もう一度キスをされる。

曜「舌、出して」

花丸「んっ」


 今までとは違う、大人のキス。

 お互いの口の中をむさぼりあう、濃厚な。

 たぶん、時間にしたら一分にも満たない。
 
 でも永遠のように感じられる、不思議な感覚。
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 23:45:49.42 ID:hsSCbHDC0
曜「これで許してくれる?」

花丸「……仕方ないなぁ」

曜「ありがとう、花丸ちゃんは特別だからね」


 特別。

 曜ちゃんの、特別。

 嬉しかった、マルが聞きたかったのは、きっとその言葉だったから。


曜「花丸ちゃんにとっても、私は特別かな」

花丸「もちろんだよ」

曜「それは、ルビィちゃんより?」

花丸「……それは」
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 23:46:51.86 ID:hsSCbHDC0
 曜ちゃんが特別なのは間違いない。

 でもルビィちゃんも、曜ちゃんとは違う意味で特別な人。

 二人を区別なんてしたくない。

 でも、決めなきゃいけないとしたら――


曜「ふふっ、いまのは意地悪な質問だったね」

花丸「……ごめんね」

曜「大丈夫、私も似たような質問をされたら、答えるのは難しいから」

 曜ちゃんの場合は千歌ちゃん?

 喧嘩してるかもしれないのは勘違いなのかな。

 それとも、例え険悪でも特別な相手であることには変わりないってこと?。
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 23:53:51.05 ID:hsSCbHDC0
曜「さて、そろそろ帰ろうか、あんまり遅くなるとダイヤさん辺りに怒られそう」

花丸「うん」

曜「悪かったね、最後に変なこと言っちゃって」

花丸「ううん、気にしないで」
 

 マルは特別な人を一人選べと言われたら、曜ちゃんを選べる。

 でも曜ちゃんは違うのかな。

 幼馴染としての時間、それは簡単に乗り越えられるものじゃないのかもしれない。


 でもいつか、いつか曜ちゃんに言わせたい。

 一番の特別は、マルだって。
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/09(水) 23:56:35.52 ID:hsSCbHDC0
ここまでで全体の半分ぐらいの予定です

続きは明日投稿します
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/11(金) 22:14:07.83 ID:BnnuJvs60
待ってます
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/12(土) 21:40:27.31 ID:Kzn9sCI40

   ※



ダイヤ「はい、今日はここまでにしましょう」

 ダイヤさんの声に、一斉に崩れ落ちる面々。

 夏休みになっても、当然Aqoursは練習。

 真夏の日差しと暑さは体力を奪うけど、みんな弱音を吐くことはない。


千歌「果南ちゃん、この振り付けのところなんだけど」

果南「あー、それはさ――」


善子「リリー、この後どこか行かない」

梨子「いいけど、疲れてない?」

善子「私は全然大丈夫よ!」
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/12(土) 21:42:00.08 ID:Kzn9sCI40
 Aqoursはラブライブの決勝に進むことができなかった。


 でもみんなそこまでの悲壮感はない。

 世間に伝えたいことは十分に発信できたし、ラブライブは年に二回ある。

 まだ最後のチャンスが残っているから。


ルビィ「マルちゃん、お疲れ」

花丸「うん、お疲れ様」

ルビィ「流石にこの時期の練習はキツイね」

花丸「でも慣れたよね、最近は」

ルビィ「最初はずっと、ヒーヒー言ってたのにね」
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/12(土) 21:44:16.12 ID:Kzn9sCI40
 二人で笑い合う。

 仮入部の時、階段を登ってもすぐにバテちゃうぐらいだったのに。

 当時の体力だったら、この時期の練習は30分も持たないんだろうな。


花丸「次のラブライブ、勝てるかな」

ルビィ「大丈夫だよ、きっと」

花丸「その自信はどこから出てくるの?」

ルビィ「なんかね、根拠はないけどみんな集中できていれば、勝てる気がするんだ」

花丸「不思議ちゃんみたいだよ、その言葉」

ルビィ「預言者ルビィ! ――みたいな感じ?」
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/12(土) 21:46:01.06 ID:Kzn9sCI40
善子「格好いい!」

ルビィ「ピギッ、善子ちゃん!?」

花丸「いつの間に」


善子「いいわね、私にも似たような二つ名ちょうだい」

ルビィ「え、えっと」

花丸「中二病善子とかでいいんじゃない?」

善子「なによ中二病って! それにヨハネよ!」

 何一つ間違ったことを言ってないけど。

 そもそも普段から堕天使ヨハネって二つ名を名乗っている気が。
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/12(土) 21:49:29.26 ID:Kzn9sCI40
善子「そういうあんたは、暴食者ずら丸よ!」

花丸「いやいや、流石にそれは酷くない?」

ルビィ「あー、でも分かるかも」

花丸「ルビィちゃんまで!?」

善子「ふっふっふっ、これは多数決で決定ね」


花丸「酷い裏切りを受けたずら……、悪魔ずら……」

ルビィ「あはは、じゃあルビィは悪い子ルビィだね」

善子「あー、なんか妙にしっくりくる」

 確かに、結構語感もいいし。
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/12(土) 21:50:59.36 ID:Kzn9sCI40
花丸「でも中二病、暴食者、悪い子だと、全くアイドルには聴こえないね」

ルビィ「でもそれがいいんじゃないかなぁ、ルビィたちらしくて」

 確かに、これがAqoursらしさなのかな。

 そんな変わった人間の集団が団結するからこそ、素敵なものを生み出せるのかもしれない。


花丸「流石ルビィちゃん、いいこと言うよ」

ルビィ「えへへ〜」

善子「あんたはルビィのことになると甘いわねぇ」

花丸「そんなことないよ……たぶん」

善子「自覚はあるのね、一応」

 多少、贔屓目が入っちゃってるかなとは思う。

 でも仲良しの相手にそうなるのは仕方ないよね、人間だもの。
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/12(土) 22:08:23.31 ID:Kzn9sCI40
ルビィ「そういえばマルちゃん、今度の――」

曜「花丸ちゃん、ちょっといいかな」


 ルビィちゃんの言葉と重なる、曜ちゃんの言葉。

花丸「どうしたの?」

曜「ちょっと急いで話したことがあってさ、一回下に来てくれる」

花丸「あっ、うん――ごめんルビィちゃん、話は後でもいいかな」

ルビィ「……うん、大丈夫だよ」

善子「曜さん、タイミング悪いわよ」

曜「あー、ごめん、でも緊急で」

ルビィ「あっ、あんまり気にしないでね」

 申し訳ないけど、急ぎの用なら曜ちゃんが優先。

 ルビィちゃんとも、いつでも話せるもんね。
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/12(土) 22:10:30.11 ID:Kzn9sCI40

―――
――


曜「あー、やっぱり中は涼しいねぇ」

 屋上を出て、やってきたのは部室。

花丸「どうしたの、急に」

曜「いや、外は暑いし、早く室内に入りたいな〜って思ってさ」

花丸「それだけ?」

 急ぎの用って言ったのに。

曜「いや、あとあそこではしにくい話もあって」

花丸「どんな話なの」
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/12(土) 22:12:17.09 ID:Kzn9sCI40
曜「今度、デートでもしない?」

花丸「デート?」

曜「ほら、私たちそういうの全然してなかったじゃん」


 言われてみると確かに。

 夏休みに入っても練習ばかり、学校に来ても図書室で会うだけの日々。

 一度、曜ちゃんが家に来たこともあったけど、普段学校で過ごすのとほとんど変わりなくて。

花丸「デート、いいね」

曜「だよね」

花丸「どこに行くとか決めてあるの?」
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/12(土) 22:19:44.42 ID:Kzn9sCI40
曜「うん、その辺は考えてきてるよ」

 そう言いながら、自分の鞄から二枚の紙を取り出す。


曜「ちょうど遊園地のチケットを貰ったから、ここに行かない?」

花丸「遊園地!」

 遊園地といえば定番デートスポットの一つ。

 青春小説なんかだとよく出てくる、ある種憧れの場所。


曜「その反応、乗り気かね」

花丸「うんうん、行きたいずら!」

曜「よし、じゃあ決定。行くのは今度の練習休みの日でいいかな」

花丸「うん!」
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/12(土) 22:20:37.80 ID:Kzn9sCI40
 デート、デートかぁ。

 ちゃんとおめかししていかないと。

 流行りの服とかはルビィちゃんに教えてもらわなきゃ。

 あ、でもそんなこと聞いたら恋人がいることバレちゃうかな。

 でも大丈夫だよね、たぶん。

 善子ちゃんにもデートについて聞いてみよう。

 事前に本も読んで勉強しておかないと。
 
 
 あぁ、曜ちゃんとデート、楽しみだな。
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/12(土) 22:41:31.62 ID:Kzn9sCI40
   ※

 

 デート当日。

 電車に揺られ、無事にたどり着いた遊園地。


花丸「わぁ、凄いねぇ」

曜「あはは、ごめんね、TDLとかUSJじゃなくて」

花丸「ううん、マルはこういう場所の方が好きだよ」

 それなりに賑わっているけど、人が多すぎることはない。

 鮮やかに彩られたアトラクション、楽しそうに響く笑い声。

 日常と非日常の境目にあるような空間に、不思議と心が躍る。
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/12(土) 22:42:56.10 ID:Kzn9sCI40
曜「花丸ちゃん、遊園地に来たのは初めて?」

花丸「なんで?」

曜「いや、何となくそんなイメージが」

花丸「一応、中学の時に一度、ルビィちゃんと一緒に行ったよ」

曜「そうなんだ」

花丸「でもその時は2人とも慣れない場所でパニックになって、あんまり楽しめなくて」

曜「あー、人見知りちゃんだし?」

花丸「否定はしないずら……」

 田舎の中学生2人ではなかなか厳しいシチュエーションだったと、心の中では言い訳しておこう。
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/12(土) 22:48:39.70 ID:Kzn9sCI40
曜「そんな感じなら、私が主導でいいかな」

花丸「そうだね、その方が助かるかも」

曜「今日は天気が崩れるかもしれないって予報だよね」

花丸「うん、朝の天気予報だとそうだったよ」

曜「ならとりあえず、最初に定番のところを回っちゃおうか」

花丸「定番?」


曜「もちろん、ジェットコースター!」

花丸「へっ」

曜「今回の目的の一部はこれだからね! 最低3回は乗らないと!」

花丸「いや、流石に三回はちょっと――」

曜「いいから、行くよ!」

花丸「よ、曜ちゃん〜」
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/12(土) 22:50:49.54 ID:Kzn9sCI40
―――
――



曜「いやぁ、満足〜」

花丸「ひ、酷い目にあったずら……」

 言葉通り満足げな曜ちゃんと対照的なマル。

 抵抗もむなしく、結局複数のジェットコースターに、数回ずつ乗る羽目になった。

 おかげですっかり疲れ切って、ベンチでダウンしてる。


曜「おーい、こっち向いて」

花丸「ふぇ」


 カシャリ


 響くシャッター音と、したり顔の曜ちゃん。

曜「よし、弱った可愛い姿を撮る計画も完了!」

花丸「そんな計画も立ててたんだね……」

 たぶん文句を言うべきところだけど、その元気もない。
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/13(日) 00:49:33.05 ID:E7bAYQzi0
曜「こういうアトラクションに乗るの、初めてだっけ」

花丸「うん、ルビィちゃんと来たときは、結局メリーゴーランドやコーヒーカップしか乗ってなくて」

 最初はジェットコースターにも乗ろうと思っていたけど、ルビィちゃんが他の人の悲鳴で怖がって止めちゃった思い出。

 結局、身長制限に引っかかる小学生みたいな遊び方をしたっけ。

 それはそれで、とても楽しい時間だった気がするけど。


曜「ふーむ、なら私たちもその辺に乗ってみようか」

花丸「えっ、でも流石に高校生になって恥ずかしいような……」

曜「中学生も高校生も変わらないよ、ほら!」
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/13(日) 00:51:14.43 ID:E7bAYQzi0
花丸「結構高さあるね」

曜「だね、子どもだとなかなかのスリルかも」

 受付のお姉さんの視線が気になりながらも、結局引っ張られて乗ることに。


『それでは発車します』


 お姉さんの合図とともに、回りだす馬。

曜「あはは、揺れてるね〜」

花丸「そうだね」

曜「あっ、あそこで子どもが見てるよ――おーい」

花丸「ちょ、ちょっと、恥ずかしいよ」

 だけど子どもも楽しそうに手を振り返してくれてる。

 こういう場所では恥とか考えたら駄目なのかな。
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/13(日) 00:52:52.68 ID:E7bAYQzi0
曜「ほら、花丸ちゃんも振ってみなよ」

花丸「う、うん」

 でも曜ちゃん、子どもみたいにはしゃぎながらも、白馬に跨る姿は、流石に様になっている。

 やっぱり格好いいなぁ、地味なマルとは大違い。

 まさに王子様って感じで、ますます好きになっちゃう。


『終了です、降りる時は転ばないように注意してください』


 そんな風に見惚れている内に、遊具は動きを止める。

曜「だってさ――よっと」

 アナウンスに逆行するように、馬から飛び降りる曜ちゃん。
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/13(日) 01:00:58.38 ID:E7bAYQzi0
花丸「駄目だよ、ゆっくり降りないと」

曜「まあいいじゃん、子どもじゃないんだし」

 そう言いながら、差し出される手。


花丸「……マルも子どもじゃないんだけど」

曜「そうだね、私のお姫様だもの」

花丸「お姫様――」


 お姫様って、そんな子どもやお姉さんが見ている前で。

 でもここで拒否しちゃうのも勿体ないから、大人しく曜ちゃんの手を借りて馬から降りる。

 恥ずかしい、でも曜ちゃんがマルのことを大切にしてくれているみたいで、嬉しかった。
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/13(日) 01:09:43.54 ID:E7bAYQzi0

曜「あー、楽しかったね」

花丸「そうだね――ん?」

 メリーゴーランドを出ると、盛り上がってきた気持ちを妨げるように、顔にポツリと当たる雨粒。

曜「ありゃ、降ってきちゃったか」

花丸「予報だともう少し持つはずだったのに」

曜「とりあえず一度、濡れない場所に入ろう」

花丸「うん」




曜「あーあ、だいぶ雨が強くなっちゃったね」

 徐々に強くなる雨、とりあえず急いで近くの施設の屋根の下へ。

 一息つくと、雨はすっかり大降りになっていた。
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/13(日) 01:11:33.35 ID:E7bAYQzi0
曜「どうしよう、もう帰る?」

花丸「せっかくだから、屋内の施設を見て回ろうよ、雨も止むかもしれないし」

曜「そりゃそうだよね、このままだと――」

 曜ちゃんが突然、言葉を詰まらせてマルの後ろを凝視する。

 マルもそれに倣って後ろを向くと、見覚えのある顔が見えた。


ダイヤ「あら、花丸さん」

花丸「ダイヤさん?」

ダイヤ「珍しいですね、こんなところで会うなんて」

花丸「あの、何でここに」

ダイヤ「私は遊びに来たんですよ、ね、ルビィ」

ルビィ「……」
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/13(日) 01:13:05.43 ID:E7bAYQzi0
 そこにはダイヤさんと一緒のルビィちゃんの姿。

 何で、こんなタイミング悪く鉢合わせに。


ダイヤ「花丸さんは曜さんと2人で来たんですか」

花丸「う、うん」

ルビィ「マルちゃん、何でここにいるの」

花丸「えっと、その」


 ルビィちゃんには曜ちゃんとの関係は内緒

 でもこの状態、曜ちゃんとの元々の関係を考えれば言い逃れは難しい。

 そもそも今までの行動を見られていたら、どうやって説明したら――


曜「デートだよ」
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/13(日) 01:17:09.93 ID:E7bAYQzi0
ダイヤ「はい?」

花丸「ちょ、曜ちゃん」

曜「2人でデートしにきたんだよ」

 マルの悩みなんて気にもせず、はっきりと告げる。

 まるでその事を強調するみたいに。


ダイヤ「デート?」

 怪訝そうな顔をするダイヤさん。

 そっか、この人は女の子二人でデートって発想にはならないんだね。
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/13(日) 01:22:43.86 ID:E7bAYQzi0
ルビィ「それ、本当なの」

 でもルビィちゃんは違う。

 その意味をしっかりと理解している。


曜「もちろんだよね、花丸ちゃん」

花丸「うん……」

 ここまで来たら隠せない。

 下手に誤魔化しても逆効果だ。


ルビィ「付き合ってたんだ、2人は」

曜「うん、ずっと前からね」

ルビィ「っ――」


ダイヤ「あっ、ルビィ!」

 曜ちゃんの言葉に、ダイヤさんの静止も聞かず、雨の中へ駆け出していくルビィちゃん。
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/13(日) 01:27:14.33 ID:E7bAYQzi0
ダイヤ「どうしたのかしら、傘も持たずに」
 

曜「追いかけなよ、花丸ちゃん」

花丸「でも、今は――」

曜「いいから、あのままだとマズいよ」

花丸「わ、分かった」

 そうだよね、いくらデート中だからって、様子がおかしい親友を放っておくわけにはいかない。


曜「これ、ルビィちゃんに渡してあげて」

 鞄から折り畳み傘を取り出し、渡してくれる。

花丸「ありがとう」

曜「何があったのか、ちゃんと話してきなよ、時間かかっても待ってるから」

花丸「うん」
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/13(日) 01:36:40.15 ID:E7bAYQzi0
 園内を走り回り、ようやくルビィちゃんを見つけ出したのは、さっきまで曜ちゃんと乗っていたメリーゴーランドの傍。


花丸「ルビィちゃん……」

ルビィ「マルちゃん……」

 すっかりびしょ濡れになっているルビィちゃん。

 近づくと、驚いたような表情を見せる。

 マルが来るとは、まるで想像もしていなかったような。


ルビィ「なんで、来てくれたの」

花丸「その、曜ちゃんに言われて」

ルビィ「……あぁ、そういうこと」

花丸「追いかけていいのか分からなかったけど、心配だったから」

ルビィ「……うん」
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/13(日) 01:40:12.03 ID:E7bAYQzi0
花丸「この傘、使う?」

ルビィ「いい、ちょっと濡れてたいの」

花丸「……そっか」

 でもそんなわけにもいかないので、自分の傘の中にくっつくようにしてルビィちゃんを入れる。

ルビィ「……ありがとう、マルちゃん」

花丸「うん」



「「…………」」



 無言で、降りしきる雨を眺める。

 ルビィちゃんはただうつむいて、地面を見ている。
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/13(日) 01:48:22.04 ID:E7bAYQzi0
花丸「どうして、急に飛び出したの」

花丸「マル、何かルビィちゃんの気に障るようなことを言っちゃったの?」

ルビィ「……違うよ、ルビィが勝手にショックを受けただけ」

花丸「ショック?」


ルビィ「チケットを二枚買ったんだ、友達と二人で、遊園地へ行こうと思って」

ルビィ「本当は今日ね、お姉ちゃんじゃなくて、その子とここに来るつもりだったの」

ルビィ「でもね、断られちゃったの。ううん、厳密には誘えなかった」


『そういえばマルちゃん、今度――』


花丸「あっ……」

 あの時だ、練習終わりの、曜ちゃんに呼ばれた時。

 そこで誘うつもりだったんだ、マルのことを。
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/13(日) 01:51:07.95 ID:E7bAYQzi0
花丸「ごめん……」

ルビィ「ううん、ルビィの方こそごめんね」

ルビィ「知らなかったの。マルちゃんが曜ちゃんと付き合ってるなんて」

花丸「ルビィちゃんの所為じゃないよ、言わなかったマルの所為」
 
 知らないルビィちゃんからしたら、裏切られたような気分だっただろう。

 
ルビィ「ねえ、なんでルビィにその事を隠したの」

花丸「それは、善子ちゃんに言われて」

ルビィ「そっか、善子ちゃんが気を遣ってくれたんだ」

花丸「うん、自分だけ恋人がいないって知ったら、悲しむかもと思って」


ルビィ「……違うよ、そんな理由じゃない」
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/13(日) 01:55:22.52 ID:E7bAYQzi0
花丸「でも、それ以外には」

ルビィ「察し悪いなぁ、でもずっと気づいてくれなかったマルちゃんらしいか」


 どういうこと。

 それ以外、理由なんて――


ルビィ「ルビィね、花丸ちゃんのことが好きなの」


花丸「えっ」


ルビィ「花丸ちゃんのことを、ずっと前から愛してた」

ルビィ「だから曜ちゃんとデートしてる所を見て傷ついた」

ルビィ「善子ちゃんはそれを知ってるから、曜ちゃんとの関係をルビィに隠そうとした」

ルビィ「ただ、それだけのことだよ」

 
 これは、告白?

 いや、疑問を持つことすらおかしい、正真正銘のそれ。

 ルビィちゃんから、マルへの告白。
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/13(日) 01:59:49.67 ID:E7bAYQzi0
花丸「そう、だったんだ」

 駄目だ、いま必要なのはそんな言葉じゃない。

 でも、でも、何も出てこない、脳の機能が停止している。


ルビィ「返事はいいよ、分かってるから」

花丸「でも――」

ルビィ「ごめん、しばらく関わらないで」

 走り去っていくルビィちゃん。

 遅れて追おうとした時には、もう姿は見えなくなって。


花丸「待って、ルビィちゃん!」

 方角だけを頼りに、必死に追いかける。

 でもいくら走っても、ルビィちゃんの姿を目にすることはできない。


花丸「……マルの、馬鹿」

 残ったのは、渡すはずだった曜ちゃんの傘だけだった。
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/13(日) 02:03:31.07 ID:E7bAYQzi0
―――
――



 雨宿りしていた場所に戻ると、そこにはちゃんと曜ちゃんが待っていてくれた。

曜「おかえり」

花丸「……」

曜「どうだった、ルビィちゃん」

花丸「…………」

 曜ちゃんの顔を見ると、泣きそうになる。

 でも泣く資格なんてないからと必死に耐えるせいで、言葉が出ない。


曜「その様子だと、駄目だったみたいだね」

 近づいて、抱きしめてくれようとする。

 でもマルは、その大好きな人の手を振りほどく。
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/13(日) 02:06:39.23 ID:E7bAYQzi0
花丸「ルビィちゃん、マルのこと好きだったんだって」

曜「……そっか」


花丸「マルね、ルビィちゃんを傷つけた」

花丸「きっと、いくらでも気づく機会はあったのに、見ないふりをして」


 知らなかったなんて言い訳。

 思い返せば、いくらでもそれを知らせる行動はあった。

 それなのに、勝手にルビィちゃんは自分と同じ考えだと決めつけて。


 最悪だ、マルはなんて自分勝手な人間なんだ。
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/13(日) 02:08:32.74 ID:E7bAYQzi0
曜「花丸ちゃんはルビィちゃんが好きなんだよね」

花丸「……うん」

曜「もしもさ、私より先に告白されたら、付き合っていたと思う?」

花丸「……そうだね」

 きっと、凄く悩んで、考えるだろう。

 でも最終的に、ルビィちゃんから気持ちを伝えられれば、それを受け入れていたと思う。



曜「……ねえ、観覧車に乗らない?」

花丸「観覧車?」

 何で、この状況で。


曜「話さなきゃいけないことがあるんだ、私も」
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/13(日) 02:16:01.67 ID:E7bAYQzi0
―――
――



 雨が降りしきる中での観覧車。

 物語のデート中に出てくるシチュエーションとは、全然違う、薄暗い空間。


曜「さて、と」

 頂上へ向けて登っていく中、曜ちゃんはゆっくりと口を開き始める。

曜「ごめんね、花丸ちゃん」

曜「実は私、隠していたことがたくさんある」

曜「それを全部、正直に話すよ」


花丸「曜ちゃん……」

 口ぶりと状況を考えれば、歓迎できる話なのは察することは容易だ。

 聞きたくなかった、でもこの場所では、どこにも逃げることはできない。
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/13(日) 02:18:58.88 ID:E7bAYQzi0


曜「私ね、一番好きな人は花丸ちゃんと別にいるんだ」


 単刀直入に放たれた、衝撃的な曜ちゃんの言葉。

花丸「そっか……」

 でも不思議と、それを動揺することなく受け止めることができた。


 心のどこかで理解してはいたんだ。

 強く自覚するべきだった、告白された時か、その直後に。

 曜ちゃんが求めていたのは、マルじゃないと。


 でもルビィちゃんの気持ちから逃げていたのと同じ。

 そこに踏み込むのを恐れて、逃げてしまった。
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/13(日) 02:26:56.28 ID:E7bAYQzi0
曜「私が好きな人、千歌ちゃんなんだ」


 驚くことはない。

 自分の事を好きじゃないと分かった時点で、その名前が出てくるのは自然な事。


曜「ずっとずっと、小さい頃から千歌ちゃんが好きだった」

曜「他の人から告白されることはそれなりにあったけど、全部断ってきた」

曜「私の恋人は、千歌ちゃん以外に考えられなかったから」


曜「でも千歌ちゃんね、とある人と付き合い始めたの」

曜「その人は私もよく知ってる、素敵な人」

曜「とても頼りになって、千歌ちゃんにとって、私より数倍魅力的な人」

曜「千歌ちゃんは昔からその人と仲良しで、信頼しあってる」

曜「だから悟ったの、私が千歌ちゃんを手に入れるのは不可能だって」
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/13(日) 02:32:31.69 ID:E7bAYQzi0
曜「だけど頭では理解しても、心は違う、千歌ちゃんから離れてくれない」

曜「その板挟みが、苦しくて、耐えられなかった」

曜「だからそれを誤魔化すために、他の癒しを求めた」


曜「花丸ちゃんと付き合う少し前の時期ね、恋人をとっかえひっかえしてたの」

曜「告白されたら、とりあえず受け入れて、楽しんで。面倒になったらすぐに別れて」

曜「それは全部、千歌ちゃんのことを考えないようにするため」


花丸「…………」


曜「花丸ちゃんも、例外じゃない」

曜「あの時も、誰でも良かったんだよ」

曜「水泳部の後輩と喧嘩別れした後、たまたま通りかかった教室に、花丸ちゃんが居ただけ」
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/13(日) 02:34:30.69 ID:E7bAYQzi0
曜「ほかの人とは違って、特別だったけどね」

曜「だって千歌ちゃんの大切な、Aqoursの仲間なんだから」


 やっぱり、クラスメイトの子とも付き合っていたんだ。

 この様子だと曜ちゃんは、違和感を覚えた相手に尋ねられたら、こうやって話してるんだろうな。


 そりゃ、みんな別れるよね。

 曜ちゃんの行為は最低だ。

 水泳部を辞めなきゃいけないぐらい揉めても、仕方ないこと。

 むしろ今まで、刺されていないのが奇跡。

 本当に最低最悪、なんて酷い女たらし。
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/13(日) 02:36:35.58 ID:E7bAYQzi0
曜「私たち、別れよう」


曜「別れて、花丸ちゃんはルビィちゃんの元へ行ってあげて」

曜「きっと二人はお互いの事が好きになれるから」

曜「恋をするなら、もっと健全な相手としなよ」

曜「私みたいな、最低の相手じゃなくてさ」


 別れよう、か。

 マルだって、ショックだよ。

 曜ちゃんの言うとおり、別れるのが正しいと思う。


花丸「……遅いよ、もう」

 でも無理だよ。

 今さら、告白される前には戻れない。
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/13(日) 02:40:50.32 ID:E7bAYQzi0
花丸「そんなことを言われても、遅いよ」

花丸「告白された直後だったら、すんなり別れていたかもしれない」

花丸「でもね、マルはもう曜ちゃんのことが大好きになっちゃったから」

花丸「世界で一番、他の誰よりも、曜ちゃんのことが」

花丸「どんな酷いことをされても、別れられないぐらい」
 

曜「…………」

 マルの言葉に、曜ちゃんはポカンと口を開けて呆然としてしまう。

 曜ちゃんのイメージからはかけ離れた、まさに間抜け面。


花丸「今の言葉の意味、分かるよね」

曜「……これは予想外だよ、変わってるね、花丸ちゃんは」

花丸「曜ちゃんよりはマシだよ」

曜「ははっ、それもそうか」
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/13(日) 02:46:36.58 ID:D71cD55SO
なんっつってなヨーソロー
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/13(日) 02:50:43.45 ID:E7bAYQzi0
曜「一番は、千歌ちゃんだよ」

花丸「それでもいいよ」

曜「きっともう、ルビィちゃんとは以前のような関係に戻れないよ」

花丸「分かってる」

曜「私はきっと、たくさん迷惑をかける」

花丸「大丈夫、全部受け入れるから」

曜「後悔しても、知らないからね」

花丸「しないよ、後悔なんて」



 安定しないゴンドラを叩く雨音、鈍く明かりの見える夜景。

 それらはまるで行く末を暗示し、警告を与えているようで。


 でももう、そんなことは関係なかった。


 例え先にどんな道が待っているとしても、この人からは、恋の魔力からは逃れられないから。

127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/13(日) 02:53:21.19 ID:E7bAYQzi0
予定より投稿が遅れてすいません
待ってくださった方ありがとうございます

明日までには完結させたいと思っています
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/13(日) 03:00:09.89 ID:eyJXwyhA0
待ってます!期待
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 00:54:09.61 ID:l8lGRxzr0
  ☆



 9月になり、新学期に入った。


 ルビィちゃんとマル、曜ちゃんと千歌ちゃん。

 その関係は、何も変わっていない。

 歪な関係のまま、Aqoursの活動は続いている。


 実質的に決まってしまった廃校。

 それを阻止しようという目標が全員を一つにまとめ、回避という行動を抑制する鎖となっているから。
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 00:55:51.76 ID:l8lGRxzr0


善子「ルビィ、帰りましょう」

ルビィ「うん」

善子「今日はどこに行こうかしら」

ルビィ「やっぱり梨子ちゃんのおうち?」
 

 教室ではずっと、ひとりぼっち。


 遊園地での出来事、マルは善子ちゃんに全部話した。

 それ以降、善子ちゃんはずっとルビィちゃんと2人でいる。

 きっと気に病んでいるんだ、自分がルビィちゃんを傷つける一因を担ってしまったことを。

 でもルビィちゃんも善子ちゃんと梨子ちゃんの中を邪魔したくないと、最近はずっと、その3人で遊んでいるみたい。

 まるで姉妹みたいで微笑ましいと、何も知らないダイヤさんが話してくれた。
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 00:58:13.44 ID:l8lGRxzr0

 彼女はそこに、マルがいないことに違和感を持っていないみたい。

 それも仕方ないこと。

 遊園地の件を考えれば、ルビィちゃんより、曜ちゃんを優先していると思われても仕方がないから。


 善子ちゃんはルビィちゃんと一緒にいる。

 ルビィちゃんはマルを避ける。

 その状況で弾きだされるのは誰か、考えるまでもない。


 他に友達のいないマルの居場所は、どこにもない。

 残った居場所は、Aqoursと、曜ちゃんの横だけだった。
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 01:00:34.99 ID:l8lGRxzr0
  ※



曜「…………」

 図書室の椅子に座りながらぐったりとしている曜ちゃん。


花丸「大丈夫?」

曜「……駄目、無理」

 時間の経過とともに、曜ちゃんはさらに不安定になってしまった。


曜「昨日もね、千歌ちゃんが楽しそうに惚気てきたんだ、恋人との関係」

曜「私は心の中では歯ぎしりしながら、笑顔でそれに相槌をうつ」

曜「心が悲鳴をあげてる、止めて、止めてと」

曜「それでも私は、止められなくて」
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 01:02:27.54 ID:l8lGRxzr0
 話しかけてくるわけでもなく、ブツブツとほとんど独り言のようにつぶやく。

 マルの力が足りないから、曜ちゃんはずっとこのまま。

 千歌ちゃんと恋人の関係が深まるにつれて、苦しみを増している。


 曜ちゃんの気を紛らわす方法はたくさん考えた。

 色々な場所に遊びに行く、スポーツで汗を流す、やけ食いみたいなこともした。

 それでも全然効果がない。


 だから最終的には、性的な行為も提案した。

 でも曜ちゃんはそれを拒否した。

 理由は『下手そうだから』だって、酷いよね。
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 01:04:38.67 ID:l8lGRxzr0
曜「千歌ちゃん、わざとやってるのかな」

曜「わたしの気持ちを知って、苦しむのを楽しむために、わざと」

曜「それで楽しんでくれているなら、千歌ちゃんの為になっている?」

曜「でも私は苦しくて――あれ、私は何をしたいのかな」

 頭を抱え、髪を掻き毟る。

 その姿は、ほとんど狂人のようで。


花丸「落ち着いて。千歌ちゃんはそんなこと――」

曜「うるさいな! そんなこと言って、私の気持ちなんて分からない癖に!」

花丸「ご、ごめんなさい……」

 最近の曜ちゃんは、余裕がないことが多い。

 こうやって怒鳴られることは日常茶飯事になってる。
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 01:05:38.71 ID:l8lGRxzr0
曜「……ごめん、ちょっと頭を冷やしてくる」

 鞄を持って、図書室を出ていく。

 ちょっとと言いながら、今日は戻ってこないんだろうな。
 

 遊園地の件の後、曜ちゃんはマルに気を遣わなくなった。

 平気でキツイことを言ってくるし、手が出そうになることもある。

 やさしい人に囲まれて育ってきたマルには、それが結構辛いの。


 だけどそれは、心を許してくれた証。

 曜ちゃんが他人には絶対に見せない部分。

 それを晒すほど、信頼されているという事実は素直に嬉しかった。
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 01:08:50.43 ID:l8lGRxzr0
 そしてどんなに辛くても、弱音を吐くわけにはいかない。

 マルが助けてあげないと、曜ちゃんは壊れてしまうもの。

 
 それにね、冷静になった曜ちゃんはやさしいんだ。

 本を数ページ読んでから、曜ちゃんに薦められて買ったスマホの電源を入れる。

 そして、曜ちゃん相手にしか使わないSNSアプリを開く。

 そこには予想通り、メッセージが届いていた



『怒鳴ってごめんね』

『お詫びに今度の日曜日、デートしない?』
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 01:10:35.64 ID:l8lGRxzr0
   ※



曜「さっきのショー、凄かったよね」

花丸「うん!」

 デート当日。

 水族館で魚のショーを楽しんだ後、松月でお茶をしながら、二人で笑顔を浮かべる。


花丸「あのイルカさん、あんなに高く跳ぶなんてビックリしたよ」

曜「私も何度かバイトしたり、遊びに行ったりしてるけど、あそこまでの高さは始めて見たかも!」

 興奮気味に話す曜ちゃん。

 飛び込みの選手として、どこかシンパシーを感じたりしているのかな。
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 01:13:36.60 ID:l8lGRxzr0
 こんなに楽しそうな曜ちゃんは久しぶり。

 水族館へ行くことを提案したのはマルだった。

 行き慣れた場所だから心配だったけど、上手くいってよかった。


曜「この後は花丸ちゃんの家に行っていいんだっけ」

花丸「うん、そうだよ」

 家族はみんな、都合よく用事で家を空けている。

 ただでさえ、Aqoursの練習の忙しさもあり、デート自体が久しぶり。

 今までに家に来たことがない曜ちゃんを呼ぶには最適な状況、逃す気ははない。

139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 01:14:41.97 ID:l8lGRxzr0
曜「うーん、でもその前にさ、海で泳いでいこうよ」

花丸「えっ、この時期に泳ぐのはちょっと……」

曜「あはは、冗談だよ」

 今日の曜ちゃんはずっとこんなテンションのまま。

 不安定じゃない時は、今までと変わらない、明るい曜ちゃんのまま。


曜「でも恋人の家か、少し緊張するなぁ」

花丸「曜ちゃんなら慣れてるでしょ」

曜「いやいや、そうでもなくてさ」

花丸「そうなの?」

曜「うん、今まで付き合った人の家に行ったことはなくて、今回が初めてなんだ」

花丸「へぇ」
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 01:20:34.14 ID:l8lGRxzr0
 ちょっと意外かも。

 でも早く別れることが多かったから、行く暇もなかったのかな。

 事実だとしたら、初めて曜ちゃんが家を訪れた恋人ということになる。

 意味はないのかもしれないけど、少し嬉しい。


曜「でも親御さんに挨拶できないのは残念だなぁ」

花丸「普通は恋人の親って、気まずいものじゃないの?」

曜「そうかもだけど、私はそこまで気にしないな」

 逆の立場だったら、絶対に無理なのに、変わってる。

 まあ普段の曜ちゃんなら、気に入られることはあっても嫌われることはなさそうだし。
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 01:22:24.89 ID:l8lGRxzr0
曜「さて、と」

 曜ちゃんは美味しそうにみかんジュースを飲み干すと、席を立つ。

曜「そろそろ行こうか」

花丸「うん、そうだね」

 マルも残ったジュースを飲み、曜ちゃんに倣う。


曜「歩いていけるんだっけ?」

花丸「うーん、微妙な距離かも」

曜「それならとりあえず歩こうか、タイミングよくバスが来たら乗ればいいし」

花丸「そうだね」
 
 お店を出て、鼻歌を歌いながら、上機嫌で歩き出す曜ちゃん。


 本当に機嫌が良い、良すぎて逆に不安になるぐらい――
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 01:24:53.49 ID:l8lGRxzr0
??「あー、何で上手くいかないの!」



花丸「あ」

 すぐ近くの砂浜から響く声。

 その声の主は、いま一番遭遇したくない相手。


曜「千歌ちゃん……」

 マルでも聞き取れるんだから、当然曜ちゃんも気づき、走り出す。

 慌てて後を追い、二人で隠れて様子を見ると、そこには――


花丸「一緒にいるの、果南ちゃん?」

曜「…………」

花丸「曜ちゃん?」
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 01:26:29.31 ID:l8lGRxzr0
 黙り込み、二人を睨むように鋭い視線を向けている。

 こんな怖い顔の曜ちゃんは、今まで見たことがない。



果南「でもさ、今のはよかったよ」

千歌「そうかな?」

果南「うん、今の調子で、もう少し練習してみよう」



花丸「もしかして、今度のライブの練習かな」

曜「……そうみたいだね」

花丸「ちょっと意外かも、あの2人が一緒にいるところ、あんまり見ないから」

曜「……そんなこと、ないよ」


 言われてみれば、幼馴染だっけ。

 曜ちゃんも含めて三人で。

 千歌ちゃんと曜ちゃん二人のイメージが強いから、すっかり忘れてたけど。
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/16(水) 01:28:18.68 ID:l8lGRxzr0
千歌「今の惜しくなかった?」

果南「そうだね、でももう少し勢いをつけるといいかも」

千歌「なるほど……」



 何となくその場から離れられないまま、立ち尽くすマルたち。

 そうしている間にも、二人の特訓は続く、

 一生懸命、でも楽しそうに。


曜「……」

花丸「曜ちゃん?」


 そんな様子を見ながら、曜ちゃんは口を真一文字に結び、震えている。

 よくない兆候だということは理解できた。

 つまり、早くこの場を離れた方がいいということは。
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