白菊ほたる『災いの子』

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1 : ◆ikbHUwR.fw [saga]:2018/05/04(金) 23:07:27.35 ID:GasL4mJG0
モバマスSSです。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1525442847
2 : ◆ikbHUwR.fw [saga]:2018/05/04(金) 23:08:44.73 ID:GasL4mJG0
   01.

「本日の出演者の白菊です……。みなさん、よろしくお願いします……」

 スタジオでは、テレビ局のスタッフと思わしき人々があわただしく行き交っていた。私が口にした挨拶に反応はない。喧噪にかき消されて、誰の耳にも届かなかったのかもしれない。
 邪魔にならないよう隅のほうに移動し、こそこそと辺りを見回す。
 今から収録する番組には、同じ事務所に所属しているアイドルといっしょに出演する予定で、彼女とは現地で合流する手はずとなっていた。だけど、その姿が見当たらない。
 時計を見ると、収録が開始される予定時刻の15分前だった。まだ来ていないのか、あるいは、別の場所で待機しているのかもしれない。
 しかし、それから20分経っても、30分経っても、一向に同僚のアイドルは現れず、収録が始まる気配もなかった。

「おーい、そこの……アンタ! 今日はもう帰っていいよ」

 突然スタッフのひとりからそう言われ、びくりと体が震えた。

「わ、私ですか?」

「そう、お疲れさん! おいAD、番組のプロデューサーとクソ事務所のプロデューサー呼んで! 会議するぞ!」

 スタッフはイライラした様子でどこかに歩き去っていった。
 状況はよくわからないけど、どうやら収録は中止になったらしい。スタジオからは波が引くように人が消えていき、すぐに私ひとりだけが残された。 

「あの……すみませんでした」

 誰もいなくなったスタジオに頭を下げて、そこをあとにする。自分のことながら、誰に、なにを謝っているんだろうと思った。



 建物の外に出ると、空はどんよりと曇っていて、少し肌寒かった。雨は降っていないけど、いつ降りだしてもおかしくない。降ると思っておいたほうがいいだろう。
 とぼとぼと駅に向かって歩き出す。赤信号に捕まっているあいだにいちど振り返って、出てきたばかりのビルを眺めた。

 ……せっかくの、テレビのお仕事だったのにな。
3 : ◆ikbHUwR.fw [saga]:2018/05/04(金) 23:10:04.99 ID:GasL4mJG0
 今日撮るはずだった番組のメインは、私の同僚アイドルだった。私はいてもいなくても変わらないオマケのような役柄で、もしちゃんと収録が行われたとしても、トータルで5分映っているかも怪しいといったところだろう。
 それでも、テレビに出たという実績があれば今後仕事を取りやすくなる、とプロデューサーさんが言っていた。実績、芸能事務所に籍をおいてはいても、私にはそれがない。

 ……そうだ、連絡しなきゃ。

 携帯電話を取り出し、事務所に電話をかける。
 はい、と事務員の女性の、機械のような声が応答した。

「もしもし、白菊です。お疲れさまです」

《お疲れさまです》

「あの、収録現場に行ったんですが……中止になったみたいで……」

《……ええ、存じてます》

 少し前にテレビ局からクレームの電話が入ったらしく、収録中止の件はすでに事務所に伝わっていた。
 そもそも中止になった理由が、私と共に出演する予定だった所属アイドルが急なキャンセルをしたためだったそうだ。

 腹が立たなかったと言えば嘘になる。だけど、私は文句を言える立場にはなかった。
 共演予定だったその人は、事務所で唯一の『売れているアイドル』というもので、うちの事務所は実質的にその人がひとりで全職員を養っているような状況だった。
 だから彼女はどんなワガママも許されたし、誰も苦言を呈することはできなかった。ほとんどまともにお仕事をこなしたこともない私とは、比較するまでもない。

「そう、ですか……私は、どうしたらいいですか?」

《白菊さんは、もう事務所には来なくてけっこうです》

 事務員さんが明日の天気を告げるみたいに言った。
 事務所には立ち寄らず直帰していい、というだけの意味ではなく、なにか含みを感じる響きだった。

「あの、それは……どういう……?」

《それから、近日中に寮からも退去していただきます》

 クビを言い渡されているのだということに、やっと気付く。頭の中が真っ白になった。

「待ってください! どうして!」

《どうしても、白菊さんとは共演したくなかったそうです》

 今日の仕事をキャンセルしたアイドルのことだろう。

《局からは、今後うちの事務所に仕事を依頼することはないと言われました》

「そんなの……」

 私のせいじゃないと言いたかった。勝手にキャンセルしたのはその人で、そんなの私の落ち度じゃない、と。

《白菊さんもご存知の通り、最近のうちの経営は順調とはいえません。今回だけの話ではありません、他にも大きな仕事が流れました。……白菊さんが所属してから》

 それだって、私が関わっているものはない。
 だけど私も、事務所の職員もみんな知っていた。直接関与していなくても、私が『そういうこと』を呼び寄せているのだと。
 私は電話を耳に押し当てたまま固まっていた。電話の向こうの事務員さんも、なにも言わずに黙っていた。

 しばしの沈黙のあと、ごうっとノイズのような音が耳に届く。電話の向こうで事務員さんが吐いた息が、受話器のマイクに当たって起こした音のようだった。

《あなたさえいなければ》

 そう言い残して、通話が切れた。ツーツーという電子音を聞きながら、私はしばらくその場に立ち尽くしていた。
4 : ◆ikbHUwR.fw [saga]:2018/05/04(金) 23:11:04.22 ID:GasL4mJG0
   *

 幼いころから、人並外れて運が悪かった。

 歩けば転び、走れば更に転び、階段があればいつも転げ落ちた。足場はよく崩れたし、なにもないところでは空からなにかが降ってきて、子供のころはいつも生傷が絶えなかった。
 物心ついたころにはすでにそうだったため、私はしばらくのあいだ、それが異常なことだとは思っていなかった。
 気付いたのはある時期から、同年代の他の子供たちに避けられるようになってからだ。

「ほたるちゃんの近くにいるといやなことが起こる」

 なんの悪意も込められていない、文字通りの無邪気な言葉だった。
 改めて周りを見回してみる。他の人たちは私と比べて、そんなにケガをしていなかった。
 私以外の人間にとって、この世界では、犬は誰にでも吠えているわけではなく、鳥は人を狙ってフンを落としてはおらず、雨の日のドライバーは歩行者に水を浴びせることに生きがいを見出しているわけでもないらしい。
 
 じゃあどうして、私だけが?

 答えはやはり子供たちが教えてくれた。「ちかよるな、不幸がうつる」と。
 ひそかに抱いていた数々の疑問が、そのひとことで氷解した。



 ああそうか、私は『不幸』なんだ。
5 : ◆ikbHUwR.fw [saga]:2018/05/04(金) 23:12:42.10 ID:GasL4mJG0
 なにごとも慣れてしまえば普通というもので、自分の身に降りかかるだけだったなら、たいしたことじゃないと思えた。だけど私の不幸は、しばしば周りの人たちを巻き込んだ。
「ごめんなさい」と謝ることが口癖になった。私のせいで、ごめんなさい。

 いつからか自然と、他人と距離をとるようになっていた。傍から見れば私は、暗く、おとなしく、人付き合いの悪い、引っ込み思案な子供と映っていただろう。だけど他人が嫌いだったわけじゃない。他人を不幸にしてしまうことが嫌だった。
 私はただそこにいるだけで不幸を撒き散らす。災いをもたらす。
 だから私はそこにいてはいけないと、楽しそうに笑う人たちの姿を、いつも遠くから見ていた。

 とはいえ、子供の身である以上、現実問題として家族と距離をとることはできない。
 己の異常な体質に気付かなかった理由に、母や父もよくケガをしていたということがある。だけどそれは、同じ体質を持っているのではなかった。ケガは、私がさせていた。

 あるとき思い立って、「私がいるとあぶない?」と母に訊ねてみると、
「お母さんはいいよ、お母さんだから」と、答えになっていないような答えが返ってきた。
 それから、母は少し笑いながら、「お父さんもね」と付け加えた。
6 : ◆ikbHUwR.fw [saga]:2018/05/04(金) 23:13:40.48 ID:GasL4mJG0
 ある日、『アイドル』というものを見た。
 それはテレビの音楽番組で、若い女の人がフリルいっぱいのひらひらしたドレスに身を包んでいた。

 彼女は希望の歌を歌っていた。
 信じればいつか夢は叶うというような、陳腐でありふれた歌詞。だけどそれは、これまでに聴いたどんな歌よりも私の心に響き、深く深く刻みつけられた。

 後から思い返してみれば、歌もダンスも技術的には立派なものではなかったと思う。
 だけど、そのときの私の目は、すっかりテレビの中の彼女の姿に釘付けになっていた。

 彼女は楽しそうだった。
 とてもとても楽しそうに見えた。
 色とりどりのライトが照らすステージで、力いっぱいに歌って、踊って、笑っていて、なんだか見ている私まで幸せな気分になったことを覚えている。

 その笑顔が、私にもうひとつの呪いをかけた。
 私もアイドルになりたいと、そう願ってしまったことだ。
7 : ◆ikbHUwR.fw [saga]:2018/05/04(金) 23:16:04.73 ID:GasL4mJG0
 家族にも内緒で小さな芸能プロダクションのオーディションを受け、数日後に合格の連絡が届いた。それから三日三晩かけて必死に両親を説得し、知り合いのひとりもいない東京で生活を始めた。
 これで私もアイドルだと、胸をときめかせて。
 だけど現実はそんな甘いものじゃなかった。故郷を離れても、芸能事務所に所属しても、私の不幸は止むことはなかった。

 最初に所属したプロダクションはたびたび空き巣被害にあい、事務所が火災で半焼して、最後は従業員がお金を持ち逃げして倒産した。
 当時のプロデューサーさんが紹介状を書いてくれて、私は他の事務所に移籍することができた。

 移籍した先のプロダクションは、あまり経営がうまくいっておらず、ある日訪れたら入り口に、『倒産しました』と張り紙が残されていた。社長が脱税容疑で書類送検されていたことは後で知った。
 私はすぐに別のプロダクションを探して、所属オーディションを受けに行った。

 契約には保護者の同意がいる。移籍をするたびに私は実家に書類を郵送し、電話をかけた。
 電話に出た母に、不安を感じさせないように事務的な口調を作って、「別のプロダクションに移籍した、書類を送ったから記入して返送してほしい」と伝える。
 あまりに短い間隔で移籍を繰り返す私に、きっと言いたいことはたくさんあったと思う。だけど母はいつも私の説明に淡々と相槌を打ち、最後に「寂しくなったら、いつでも帰ってきていいからね」とだけ言った。
「だいじょうぶ」と答えるときだけ、いつも涙がこぼれそうになった。
 本当はいつだって寂しかった。帰りたいなんて、毎日のように思っていた。
 だけど、まだあきらめたくない。もう少しだけがんばりたい、がんばらせてほしい。
8 : ◆ikbHUwR.fw [saga]:2018/05/04(金) 23:17:10.80 ID:GasL4mJG0
 夜、眠るたびに夢を見た。かつて所属していた事務所の社長や、同僚のアイドルや、プロデューサーさんたちが私を指差して「お前のせいだ」と責めたてる夢だ。夢の中の私は、ひたすらに頭を下げて「ごめんなさいごめんなさい」と繰り返していた。

『お前のせいだ、お前さえいなければ』

 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
 私さえいなければよかったのに、ごめんなさい。

 目が覚めるたびに、この世から消えてしまいたいと思った。
 とっくにわかっていた。私がアイドルになろうとすればするほど、たくさんの人に不幸が降りかかる。
 私は呪われている。アイドルなんて目指していい人間じゃないと。

 だけど、アイドルを目指すことをやめてしまったら、私は不幸を撒き散らすだけの災厄でしかないから、
 こんな私でも、いつかみんなに幸せを届けられるって、信じていたかった。
9 : ◆ikbHUwR.fw [saga]:2018/05/04(金) 23:19:02.70 ID:GasL4mJG0
   *

 ひどく喉が渇いていた。

 辺りを見回し、すぐ目の前の公園に飲み物の自動販売機があるのを見つける。
 重い足取りでそれに近づき、財布を開く。小銭の持ち合わせがなく、千円札を投入した。吸い込まれていった紙幣は、機械に認識されず、投入口から戻ってくることもなく、どこかに消えてなくなった。
 私は、もたれかかるように自販機に額をぶつけた。この衝撃でお金が返ってこないかと、淡い期待を込めて。
 もちろんそんなことはなく、ただ痛いだけだった。



 私はどうして、いつもこうなんだろう。



 これでも、一生懸命がんばった。
 アイドルになりたくて。いつか見たあの人のように、みんなに幸せを届けてみたくて。

 ……幸せになりたくて。

 だけど、もう、疲れてしまった。



 鼻の奥がツンと痛くなり、涙がこみ上げてくるのを自覚する。



 あきらめなければ夢は叶うなんて嘘だったよ。

 がんばってもがんばっても、いいことなんて、なにもなかったよ。
10 : ◆ikbHUwR.fw [saga]:2018/05/04(金) 23:21:36.15 ID:GasL4mJG0
「どうしたの?」

 ふいに背後から声がかかる。あわてて目元をぬぐい振り返ると、すぐそばにスーツ姿の男の人がいた。
 周囲に他に人の姿はない。さっきの言葉は、私に向けて言ったようだ。

「……ちょっとだけ、つらいことがあって」

 いつもだったら、聞こえなかったふりでもして、逃げるようにその場を立ち去っていたと思う。そうしなかったのは、誰でもいいから会話をしたかったのかもしれない。

「収録のこと?」

「どうして、それを……?」

「見てたから」

「テレビ局の……スタッフさんですか?」

 男の人は、「いや」と言って、名刺を差し出してきた。
 受け取ったそれをながめて、思わず身が震えた。346プロダクション、それは私の所属している――していた事務所なんて比べ物にならない、大手の芸能事務所だ。そこの、プロデューサー……。

「そうだったんですか……でも違うんです。つらいのは収録のことじゃなくて。私、アイドルじゃなくなっちゃいました」

「どうして?」

「実は、暗い話で申し訳ないのですが……。今まで私が所属したプロダクション、全部倒産してるんです。前のも、その前のも……」

 当たり前のように身の上話をしている自分を不思議に思った。
 相手が、本当なら私なんかが一生関わることのない雲の上の人だから、かえって気が楽になっているのかもしれない。
11 : ◆ikbHUwR.fw [saga]:2018/05/04(金) 23:22:42.83 ID:GasL4mJG0
「今回のプロダクションでは、お仕事をもらえて……。売れっ子さんのバーターでの出演でしたけど、それでもいけるかなって思ってたんですけど……やっぱりダメで」

「今日の、現場に来なかったって子かな」

 こくりとうなずきを返す。

「その人は、私なんかと組みたくなかったらしくて……。プロダクションの人からは、大きな仕事がなくなったのは私のせいだって言われて……。いつもそうなんです、事故とかアクシデントが私のせいでたくさん起きて……。私なんかがアイドル目指したら、ダメだったんですね」

「ダメじゃない」

 私は首を横に振った。

「私は、人を不幸にしちゃうんです。呪われてるんです。そんな人は、アイドルにはなれないんです。きっと」

 たぶんこの人は信じていないんだろう。すべてはただの偶然で、被害妄想にでも陥ってるとでも思ってるんだろう。

「アイドルになりたくない?」

 男の人が、握手でも求めるみたいに、手を差し出してきた。
 スカウトをされているのだと気付き、どくんと心臓が跳ねる。
 心が揺れ動く。期待をしてしまう自分が嫌になる。また同じことを繰り返すだけだって、わかってるのに。
12 : ◆ikbHUwR.fw [saga]:2018/05/04(金) 23:23:44.97 ID:GasL4mJG0
 ――あなたさえいなければ。



 伸ばしかけた腕がこわばる。
 もしも私がこの手を取ってしまったら、この人も、いつかはそう思うのだろうか。

「……ダメです。スカウトなら……他を当たってください」

 そう言い残して、私はほとんど走るように足早に公園を出た。

 私はきっと、後悔するのだと思う。
 せっかくの誘いをなぜ受けなかったのか、なぜ諦めてしまったのかって。この先、ずっとずっと。

 だけどもう、これ以上、私の夢のせいで傷つく人を見るのが怖かった。
 最初は優しかった人が、私の不幸を知って、忌まわしいものを見る目を向けてくる瞬間が怖かった。



 それから、追いかけてきた男の人が、私の行く手をさえぎるように前に出て、

 私の目の前で、車にはねられた。
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/05(土) 07:41:29.73 ID:5oRT5R0SO
シンデルヤン
14 : ◆ikbHUwR.fw [saga]:2018/05/05(土) 11:10:05.29 ID:sqRoe9hI0
   02.

 あたしはかなりの夜型なもんで、たいていの場合、かなりの深夜になってから床につく。
 昨夜は特に、次の日(つまり今日)が久々のオフだと知っていたこともあって、なんの遠慮もなく夜更かしして、ベッドに潜り込んだころにはもう空が明るみ始めていた。

 目覚ましアラームもなんもかけずにぐっすりと熟睡し、目を覚ましたころには当然、おてんとさまはすっかり高いところまで昇っていた。
 あかん、このままでは昼食まで食べ逃してしまう、なんて思いながらも、寝起きのだるさに抗えず、布団にくるまってぐだぐだとしていた。そんなとき、
 突如ガガガガガっと削岩機のような音が上がり、なにごとやねんと目を向けると、机の上にほっぽらかしていたスマートフォンが振動していた。
 もう少し静かに鳴ってくれたなら無視してもよかったけど、これはちょっとあまりにもうるさい。あたしは断腸の思いで愛するおふとんに別れを告げ、元気のよすぎるスマホを手に取った。
 画面を見ると、事務員の千川ちひろさんからの着信だった。はて珍しい、と思いながら通話ボタンを押して耳に当てる。

「はいはい、シューコちゃんですよ」

 ついさっきまで寝ていたせいか、声は自分でもびっくりするぐらいガラガラで、恥ずかしくなってあわててげふんげふんと咳払いをした。

《まさか、こんな時間まで寝てたんですか?》

「いや、うん、いや?」

《まあ、オフですし構いませんけどね。手が空いているようなら、ちょっと周子ちゃんに頼みたいことがあったんですが……その様子だと空いてますね?》

 こういう人の弱みにすかさず付け込むところは、是非とも見習いたいものだね。

「内容によるかな」
15 : ◆ikbHUwR.fw [saga]:2018/05/05(土) 11:11:39.14 ID:sqRoe9hI0
 ちひろさんからの依頼は、新人アイドルが寮に入るから案内してやってほしい、とのことだった。
 平日のまっ昼間ということもあり、学生たちはみんな学校に行っている。そうでない人らは仕事やらレッスンやらに出ていて、ちょうど手の空いているのがあたしぐらいしかいなかったそうだ。

 特に用事があるわけでもなかったので、あたしはそれを承諾した。
 新人さんがどんな子かというのにも興味があったし、寮に入るのならなにかと顔を合わせる機会も多いだろう、他の誰よりも早く顔見知りになれるというのに、ちょっとした優越感を感じたりもする。
 新人さんは鳥取県出身の13歳、今日は手続きのために学校は休んだらしい。若いというよりは、まだ子供だね。寮に入るということは、親元を離れて暮らすことになるわけだ。

「13歳っていうと中学生か、さぞかし寂しがるだろうね」

《いえ、もともとこっちで生活していたみたいですよ》

 それは、ひとり暮らししていたということだろうか。13歳が?

「……ワケアリな感じかな? 家庭事情にはあまり突っ込まない方がよさそう?」

《そういうわけではなく、先日まで他事務所に所属していたそうです》

「へえ、移籍なんだ。引き抜き?」

《……私もあまり詳しいことは》

「まあええよ。で、時間は?」

《今こちらで書類手続きをしてますので……そうですね、30分後ぐらいにロビーで待っててもらえますか?》
16 : ◆ikbHUwR.fw [saga]:2018/05/05(土) 11:12:32.82 ID:sqRoe9hI0
 ちひろさんとの通話を終え、あたしは手早くシャワーを浴びてから1階ロビーに降りた。
 長椅子に寝そべり、共同スペースから持ってきた雑誌を眺めながらしばし待つ。ほどなくして、入り口の自動ドアの向こうにひと組の男女が連れ立って歩いてくるのが見えた。
 少し後ろを歩いている少女が新人さんだろう。聞いた年齢よりはいくらか大人びて見える。
 男のほうは、あまり話をしたことはないけど見覚えのあるプロデューサーだ。あの人が新人さんの担当になったのかな。……って、なんだあれ?

 あたしは体を起こし、自動ドアを通ってきたふたりに向けて片手を上げた。

「白菊ほたるです……よろしくお願いします」

 緊張した様子の少女がぺこりと頭を下げる。業界経験があるせいなのか、やけに礼儀正しい。

「ほたるちゃんね、よろしくー。あたしは塩見周子。えーと……知ってるかな?」

「はいもちろん。CDも持っていて、よく聴いてます」

 あたしは心の中でほっと胸をなでおろした。自分ではそこそこ売れてきてるんじゃないかなー、なんて思ったりするものの、そもそもアイドルなんてのは興味のない人はまったく興味がないわけで、有名人ヅラして相手が知らなかったりすると、なかなか恥ずかしいことになる。
 まあ、同業に知られてないってことはさすがにないとは思うけど、念のためね。

「では塩見さん、案内はお願いします」とプロデューサーが言った。「白菊の部屋は616号室で、荷物はもう運びこまれているはずです」

「うん、それはいいんだけどさ……それ、どしたん?」

 あたしは自分の頬を人差し指でとんとんと叩いた。
 プロデューサーの頬には、大きなガーゼが医療用テープでとめられていた。よく見れば、手やほかのあちこちにもガーゼや絆創膏がぺたぺたと貼られている。
 なぜか、ほたるちゃんがばつが悪そうに顔を伏せた。

「かすり傷です」とプロデューサーが答える。

 そのかすり傷の原因を聞きたかったんだけどな、と思ったけど、たぶん言いたくないということなのだろう。それ以上の追求はやめておいた。

「じゃあついてきて」

 ほたるちゃんに向けて言って、あたしは先導して歩き出した。
17 : ◆ikbHUwR.fw [saga]:2018/05/05(土) 11:13:43.40 ID:sqRoe9hI0
 ここが大浴場だけど各部屋にもユニットバスはついてるよ。こっちは共同スペースで何種類か定期購入されてる雑誌があるから勝手に読んでいいよ、読み終わったら戻しておいてね。エレベーターはあっちとそっち、このドアの向こうは非常階段、と適当に施設内を案内していく。
 ほたるちゃんはきょろきょろと周りを見回しながら、慎重な足取りであたしについてきた。新しい環境への興味というふうではなく、なんとなく、警戒をしているように見えた。この子は殺し屋に命でも狙われているのだろうか?

「で、最後にここが食堂ね、朝昼晩にごはんが出るよ。時間逃したら食べられないから気を付けてねー」

 そのときはギリギリで昼食を出してもらえる時間だった。ほたるちゃんもお昼はまだ食べていなかったそうなので、あたしらはせっかくなのでうどんをすすっていくことにした。

「だいたいこんなところかなー、あとなにかわからないことある?」

「いえ、だいじょうぶです」

 ほたるちゃんは毒でも盛られていないかと疑うように、ゆっくり、おそるおそるといった感じにうどんを食べていた。いったいなんなんだろう、一風変わった子には慣れているつもりでいたけど、これはなかなか珍しいタイプだ。

「……あの、わざわざ案内までしてもらっておいてこんなこと言うのは失礼だと思いますが、私にはあまり関わらないほうがいいです」

 ほたるちゃんが言った。
 正直なところかなり驚いた。積極的に打ち解けにくるほうではなさそうだとは思ったけど、こんなにもはっきりと拒絶されるとは予想外だった。

「あ、いえ、違うんです。その、私がいると迷惑になると思うので……」

「うーん? 迷惑なんてことないけど、なんでそう思うん?」

「不幸がうつりますから」

 あたしは考えた。考えたけど、なにを言っているのかわからなかった。
18 : ◆ikbHUwR.fw [saga]:2018/05/05(土) 11:15:12.92 ID:sqRoe9hI0
「……不幸が」

「はい」

「うつりますから」

「はい」

 これは、どう反応したらいいものだろう。ジョークにしては真剣な表情をしているし、笑うところではなさそうだけど。

「プロデューサーさんも、私をスカウトしたせいで……交通事故に」

「交通事故?」

「はい、車に……昨日のことですが」

 なるほど、それで傷だらけだったのか……なんて簡単に納得するはずもない。

 ちら、とほたるちゃんのどんぶりに目を向ける。麺は見えない、おつゆはまだ残ってるけど、かなり片寄った割れ方をした割りばしはきちんとそろえて置かれているから、もうごちそうさまということだろう。どうやら毒も入っていなかったようだ。

「なかなか面白そうな話だから、もう少し詳しく聞かせてもらいたいかな。ちょっとあたしの部屋こない?」

「いけません! そんな、なにが起こるか……!」

 ほたるちゃんがあわてて首を横に振る。
 大真面目で言ってるんだよね、これ。

「じゃあ、ほたるちゃんの部屋だったら?」

 そう問いかけると、ほたるちゃんはそわそわと視線をさまよわせた。迷っているらしい。

「はい決定、行ってみよー」

 これは強引に行けば押し切れると判断し、あたしはそう言って勝手に616号室、ほたるちゃんの部屋に向けて歩き出した。
19 : ◆ikbHUwR.fw [saga]:2018/05/05(土) 11:16:57.68 ID:sqRoe9hI0
「どうぞ……気を付けてください」

 鍵を開けたほたるちゃんが先に部屋の中に入る。
 引っ越してきたばかりなので、中は当然がらんとしていた。間取りはあたしが住んでいる部屋と変わらない。家具と呼べるものは備え付けのベッドがひとつだけ、ほたるちゃんの荷物らしい開封されていないダンボール箱がいくつか、部屋の隅に積み重なっていた。

 このなにもない部屋で、いったいなにを気を付けろというのだろう、と思った。そのとき――

「きゃう!」

 ダンボールの塔が崩れ、ほたるちゃんの姿が埋まって見えなくなった。

「ええ……?」

 あたしは絶句しつつ箱をひとつひとつ脇にどかしていき、うつぶせに倒れたほたるちゃんを発掘した。

「だいじょうぶ? ケガしてない?」

 むくりと起きあがり、床にぺたんと座ったほたるちゃんが、点検するように体のあちこちを触り、小さく腕を回す。
 手慣れているな、と思った。その動作はまるで決まった手順をたどるように、今までに何十回、何百回と繰り返してきたように、無駄がなく洗練されているように見えた。

「……平気です」

「なによりだね。それで……うん、だいたいわかったよ」

 あたしは見ていた。
 ダンボールが崩れる前、ほたるちゃんはそれにほんの少しも接触してはいない。なんの衝撃も受けていないのに、箱の山が勝手に動いて崩れた。
 どんな理屈でそんなことが起こるのかはわからない。だけど、あの口ぶりからすると、どうやらこの少女にとっては、これが日常であるらしい。

 難儀だね、なかなか。
20 : ◆ikbHUwR.fw [saga]:2018/05/05(土) 11:19:13.70 ID:sqRoe9hI0
「そういえば、プロデューサーが事故にあったってのは?」

「えっと……昨日、私が公園でスカウトを受けまして」

「うん」

「私はそれを断って、公園から出て行ったんですが」

「あれ? 断ったん?」

「はい。ですけど、追いかけてきたプロデューサーさんが目の前で車にはねられて……私が駆け寄ったら、血まみれのプロデューサーさんが私の手を握って、『たのむ、アイドルになってくれ』と……」

「おいおい……」

「救急車を呼ぶから離してくださいって言ったら、『スカウト受けてくれるなら離す』って……」

「うーん……」

「それで私は……アイドルでもなんでもなりますから救急車呼ばせてください、と……」

 またとんでもないスカウトもあったもんだ。というか、それ普通に脅迫じゃなかろうか。

「私のせいで……」

「誰のせいとかはとりあえずいいや。それよりほたるちゃんさ、アイドルやりたいの?」

「え……」

「たぶんそれ法的にアウトだからね。もう契約済ませちゃったとしても、無効にしようと思えばできるよ」

「そう、ですか……じゃあやっぱり、断ったほうが……」

「とりあえず質問に答えてくれるかな、アイドルやりたいのかどうなのか」

「……私は、アイドルなんかやっちゃいけないんです。……みんなを不幸にするから」

「だーかーら!」

 あたしはほたるちゃんの両頬をつまんで横に引っ張った。やわらかい、大福のようだ。

「質問に答えんかい! 今は不幸とかどうでもええねん! あたしはほたるちゃんの気持ちを訊いてんの! やりたいかやりたくないか、二択だよ、どっち?」

「いひゃいれふ、はらひてくらはい」

「はいよ」

 最後にちょっと強めに引っ張って、あたしは手を放した。
 ほたるちゃんは涙目になってかすかに赤くなった頬をさすっていた。

「あんね、答えが『やりたくない』なら、それで話は終わりだよ。引き止めもしない。……で、どうなん?」

 返事は返ってこない。
 ほたるちゃんはスカートの裾をぎゅっと握り、唇を固く引き結んでうつむいていた。そして、声ももらさず、肩を震わせるでもなく、表情すら変えずにぽろぽろと涙だけを流した。

 よくない泣き方だ。まだ子供なんだから、どうせ泣くならもっと大声をあげて泣きわめいたほうがいいのに。
21 : ◆ikbHUwR.fw [saga]:2018/05/05(土) 11:20:22.74 ID:sqRoe9hI0
「私は……」

 長い沈黙のあと、消え入りそうな声でほたるちゃんがつぶやいた。

「アイドルになりたいです」

「そっか」

 あたしはぐすぐすと鼻をすすり上げるほたるちゃんの頭にぽんと手を乗せた。

「じゃあ、アイドルになりな」

 ほたるちゃんが探るように目を上げる。

「体質ってことでいいのかな? それ、いろいろと不便でしょ、あたしは巻き込んでくれても構わないから、気軽に絡んでいいよ」

「よくないですよ」

「あたしがいいって言ってるんだから、いいんだよ」

 あたしはぺしぺしとほたるちゃんの頭を叩きながら、軽くほほ笑んで見せた。

 この子は人気出るだろうな、と思った。
 ほたるちゃんにはなんとなく、守ってあげたくなるような、庇護欲をそそるようなかわいらしさがある。きっと、男だったらなおさらだろう。
 また、それに矛盾するようでもあるんだけど、なんか、なんというか――

「……いじめたくなる」

 ついうっかり、声に出してしまった。

「えっ」

「いや、なんでもない」

 どうやら聞こえていたらしく、ほたるちゃんは後ずさるように身を引き、怯えのこもった目をあたしに向けてきた。

「ごめんて」
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/05(土) 12:01:39.84 ID:WpU1h5/Ao
話は面白いんだけど、トリップの後ろの数字が全く意味をなしてないから今日はここまでとか書き込んでくれると嬉しい
23 : ◆ikbHUwR.fw [sage]:2018/05/05(土) 12:45:18.68 ID:sqRoe9hI0
>>22
今後そのようにします。本日はここまでです。
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/07(月) 01:07:25.72 ID:N8Mk+dzk0
面白いです 期待
25 : ◆ikbHUwR.fw [saga]:2018/05/07(月) 19:52:40.49 ID:eRaIODkj0
   03.

 346プロダクションの事務所はとにかく大きい。
 敷地内に広い中庭とカフェがあり、ビルの中にはエステルームやトレーニングルームまで完備されている。このトレーニングルームは街のスポーツジムにも負けないくらい設備が充実していて、ルームランナーにエアロバイク、変わったところだとボクシングのサンドバッグやリングまであるらしい。

 そしてここには、複数のレッスン室がある。



 ひと通りの手続きを済ませ、引っ越しも終えた次の日、私はプロデューサーさんに案内されて、『第3レッスン室』と札の掲げられた部屋の前にやって来た。
 第3ということは、少なくとも3つ以上のレッスン室があるんだ、と私は心の中で感動していた。

 プロデューサーさんが丁重にドアをノックする。「どうぞ」と中から女性の声がした。
 
 部屋の中はとても広々としていた。
 壁の一面が鏡張りになっていて、壁際には見るからに高級そうな大きいオーディオ機器が設置されている。
 足を踏み入れると、フローリングの床がシューズとこすれて、きゅっきゅと小気味いい音を立てた。
 先ほどの声の主らしい、黒いバインダーを持った女性が、私に目を向けてニヤリと笑う。歳は20代中盤ぐらいだろうか、長い黒髪で、少し吊り上がり気味の目をしている。
26 : ◆ikbHUwR.fw [saga]:2018/05/07(月) 19:54:34.92 ID:eRaIODkj0
「聖さん、こちらが新人の白菊ほたるです。白菊、この人は青木聖さん。うちの専属トレーナーでかなりのベテランだ」

 とプロデューサーさんが言った。
 私は『専属トレーナー』という言葉にまたもや感動を覚えつつ、「よろしくお願いします」と言って頭を下げた。

「ああ、君が白菊か。話は聞いている、いい覚悟だ」

 私は首をかしげた。覚悟?

「あの、話というのは、どのような?」

「君のプロデューサーから、なんの遠慮も手加減もなくシゴいてやってほしいと言われている。私の本気のレッスンといったら、第一線で活躍しているアイドルでも泣いて逃げ出すと有名だからな。新人の身でありながら、立派な気概だ」

 私はぽかんとなった。

「プロデューサーさんが、そんなことを?」

「……君が言い出したことじゃないのか?」

 トレーナーさんがプロデューサーさんをにらみつけ、プロデューサーさんはポリポリと頭を掻きながら顔をそらす。
 なんだか悪戯のばれた子供みたいに見えて、ちょっと笑ってしまいそうになった。

「あ、私はだいじょうぶです。それでお願いします」

 怖いと思う気持ちはあったけど、それ以上に、『第一線で活躍しているアイドルでも泣いて逃げ出すレッスン』というものに興味があった。
27 : ◆ikbHUwR.fw [saga]:2018/05/07(月) 19:55:52.75 ID:eRaIODkj0
 この日はダンスを教えてもらった。
 ダンスは昔から好きではあったけど、これまで正式に習えるような機会はなく、私の技量はほとんど素人と変わりない。まずは基礎の基礎からということになった。

 スピーカーから流れる音楽とトレーナーさんの叱責の声を浴びながら、懸命に体を動かす。トレーナーさんの見せるお手本では簡単そうに見えるのに、いざ自分でやってみるととても難しい。
 何度も転んでは立ち上がりを繰り返し、およそ1時間半後、私は全身汗だくで床にへたりこみ、必死に息を整えていた。

 少し離れたところで、トレーナーさんとプロデューサーさんがなにか話をしている。声は聞き取れなかったけど、表情から察するに、あまりいい内容ではなさそうだ。

 それからトレーナーさんがこちらに振り返り、パンと手を鳴らした。

「よし、ここまで。しっかりストレッチをしてからシャワーを浴びて、今日はもう帰っていい」

「もう少し、お願いできませんか?」

 私はふらふらと立ち上がって言った。
 トレーナーさんとプロデューサーさんが顔を見合わせる。

「聖さんはこのあと別のところでレッスンが入ってる。俺も仕事があるから」

 とプロデューサーさんが言った。

「じゃあ、ひとりでこの部屋使わせてもらうのはダメですか? 復習していきたいので」

「今日はここはもう使わないみたいだから、かまわないけど……疲れただろ?」

「だいじょうぶです。楽しいですから」

「楽しい?」

 プロデューサーさんが怪訝そうに繰り返す。

「はい、前の事務所ではレッスンとかさせてもらえなかったので、とっても楽しいです」

 私が今までに所属してきた芸能事務所には自前のレッスン室というものはなく、必要なときはレンタルスペースを使っていた。
 ただし、お金がかかるからだろう、そこでレッスンを受けられるのはすでにある程度の人気を得ている人に限られていて、私は残念ながらそうではなかった。
28 : ◆ikbHUwR.fw [saga]:2018/05/07(月) 19:56:55.85 ID:eRaIODkj0
「なかなか面白いヤツじゃないか」

 トレーナーさんが笑って、プロデューサーさんの背中をばしんと叩く。

「水分だけはしっかりとるように」

 そう言って、トレーナーさんが部屋を出て行った。 

「うーん、復習か……」

 叩かれた背中をさすりながら、プロデューサーさんがつぶやく。

「はい、プロデューサーさんも、見ていて気になったことがありましたら、なんでも言ってください」

「気になるところ、じゃあひとついいかな」

「なんでしょう」

「笑ってみて」

「え?」

「笑う、笑顔、スマイリング」

「あ、はい。えっと…………こう、ですか?」

 私は当惑しつつ、笑みを作ってプロデューサーさんに向けてみた。

「いや?」

「えっ……」

「まあ、これから練習していけばいいさ」

 苦笑しながらプロデューサーさんが部屋を出て行き、私はひとりぽつんと残された。



 ……笑顔、そんなに、変だったのかな?



 鏡の前に行き、そこに映った自分に向けて笑いかけてみる。
 ぴしりと音がして、鏡に大きなヒビが入った。ひどい。
29 : ◆ikbHUwR.fw [saga]:2018/05/07(月) 19:57:53.16 ID:eRaIODkj0
 いやそれよりも、どうしよう? これいくらぐらいするんだろう? このぐらい大きい鏡だと、かなり高いはず……

「あ、言い忘れたことが――なんだこれ」

 声に目を向けると、さっき出て行ったプロデューサーさんが戻ってきていた。

「ご、ごめんなさい! ちゃんと弁償しますから……」

「ケガは?」

「してません、触れてないですから」

「触れてない?」

 プロデューサーさんがひび割れた鏡をしげしげと眺める。

「本当にケガはない?」

「はい」

「これは、なんで割れたんだ?」

「えっと、私の不幸によるものかと……」

 笑顔の練習をしたら、なんて恥ずかしくて言えるわけがない。

「殴ったとか、なにか叩きつけたとかじゃないんだ?」

「そんなことしません」

「だったら弁償なんて必要ないよ。勝手に割れたってことだし。すぐ交換の手配しとくから問題ない」

「……でも、私のせいです」

「もしそうだとしても、直接打撃を加えてないなら責任はない。うちの事務所はカネだったらアホほどあるから気にしないでいい。むしろどんどん備品が壊れて新品になればみんなが喜ぶ」

 無茶苦茶なことを言うなあ、と思った。怒られなくてよかったけど。

「その、言い忘れたことというのは?」

「そうそう、ここ使い終わったら帰る前にひと声かけてって。あと交換は明日になるから、今日のところはその鏡にはあまり近づかないように」

「わかりました」
30 : ◆ikbHUwR.fw [saga]:2018/05/07(月) 19:58:47.49 ID:eRaIODkj0
 再び部屋を出て行くプロデューサーさんを見送り、オーディオの再生ボタンを押す。
 トレーナーさんから指摘されたところを思い返し、流れる音楽に合わせてひとつひとつ反復していく。
 体中から汗が流れ、筋肉がきしみを上げる。苦しいけど、なんだか気持ちよかった。
 体を動かしているあいだはなにも考えずにいられて、嫌なことをぜんぶ忘れられるようだった。

 途中でいちど、「水分だけはしっかり取るように」というトレーナーさんの言葉を思い出して、レッスン室近くの自販機に向かった。
 500ミリリットル入りペットボトルのお水を2本買って、十円玉ひとつしか飲まれなかった。今日は運がいい。

 喉をうるおすと元気が出た。まだまだいくらでも踊れそうな気がした。
 運動はあまり得意なほうじゃない。きっと私には才能なんてないのだろう。わかっていても、つい同じようなミスを繰り返してしまう。

 でもだいじょうぶ。できないなら練習すればいいだけだから。

 失敗しなくなるまで。

 ちゃんとできるようになるまで。



 何度も何度も、何度でも。
31 : ◆ikbHUwR.fw [sage]:2018/05/07(月) 19:59:41.63 ID:eRaIODkj0
(本日はここまでです)
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/07(月) 21:59:12.02 ID:XX5iWazL0
お疲れ様です
良い感じ
33 : ◆ikbHUwR.fw [saga]:2018/05/10(木) 17:25:39.88 ID:xTncLF7m0
   04.

「間に合いそうにないなこれ」

 運転席のプロデューサーさんが、ひとりごとのようにつぶやいた。
 あと30分ほどで私の参加するオーディションの開始時刻になる。予定ではとっくに着いているはずだったけど、この先で信号機の故障があったらしく、私たちの乗る車は渋滞に巻き込まれていた。

「仕方ない、縁がなかったと思おう」

 プロデューサーさんの声に怒りや苛立ちの色は感じられず、私は少しほっとした。
 オーディション会場にたどり着けないのはこれが初めてじゃない。というより、様々なアクシデントで、参加できないことのほうが多い。内心では、今度こそ怒鳴られるんじゃないかと怯えていた。

「すみません」と私は言った。

「すぐ謝るよな」

「……すみません」

「あまりよくないクセだよ、それ。やめたほうがいい」

「でも、私のせいですから」

「出れなくて困るのは白菊だろ。他の参加者は勝率が上がって喜ぶよ」

「……プロデューサーさんは、困ってるでしょう?」

「別に」

 プロデューサーさんがそっけなく答える。

「この程度のオーディション、受かっても落ちてもたいしたことじゃない」

 ちらりとハンドルにかけられたプロデューサーさんの包帯の巻かれた手を盗み見て、私は「オーディションのことだけじゃないんです」と心の中でつぶやいた。
34 : ◆ikbHUwR.fw [saga]:2018/05/10(木) 17:26:58.01 ID:xTncLF7m0
 346プロに所属してから、およそ1ヶ月が経つ。
 私と行動を共にすることが多いプロデューサーさんは、たびたび私の不幸の巻き添えにあっていた。
 私自身は長い経験で慣れていることもあって、目に見えるようなケガをすることは多くない。だけどプロデューサーさんはそうはいかない。
 不幸中の幸いか、重症というほどのものは今のところないけど、細かな擦り傷や切り傷は、日を追うごとに増えていっている。
 誰だって痛い思いはしたくない。プロデューサーさんも、いいかげん嫌になってきているころだろう。だけど、この人はなぜか、そのことについてなにも言及しない。

 私の近くにいなければ不幸はなくなる。どう考えてもそうしたほうがいい。
 だけど、私からそれを言い出すことはできなかった。新しい担当プロデューサーがついても、どうせまたその人にも不幸が降りかかる。
 そうなったとき、その人がこのプロデューサーさんみたいに、なにも言わずに耐えてくれるとは思えない。むしろ私の担当になんて、なりたがる人がいるんだろうか?

 プロデューサーさんはどうして、私の担当を続けているんだろう?
 自分がスカウトしたから?
 後に引けなくなったから?

 ……かわいそうだと思ったから?

「あなたはいつ私を捨てるんですか?」と訊ねてみたい衝動に駆られる。
35 : ◆ikbHUwR.fw [saga]:2018/05/10(木) 17:28:47.38 ID:xTncLF7m0
「そう焦ることはない」

 プロデューサーさんが言った。

「全部が全部オーディションにもたどり着けてないわけじゃないだろ。多くはないけど仕事もしてる。うちはよっぽどのスキャンダルでもない限りは契約解除するようなことはないから、細々とやっていくなら今のままでも心配は要らない」

「……そんなの、嫌です」

「なんで?」

「そんなんじゃ、トップアイドルになれないじゃないですか」

「トップアイドル」

 プロデューサーさんが繰り返すのを聞いて、急に恥ずかしくなった。
 まだほとんど仕事もしてないのにトップアイドルなんて、大口を叩くにもほどがあるだろう。

「す、すみません、忘れてください……」

「安心した」

「……なにがですか?」

「俺も、トップアイドルのプロデューサーってものになってみたかったから」

 冗談なのか、それとも本気で言っているのか、その表情からは読み取れなかった。
 
「でも、白菊はなんでトップを目指す? ふつうのアイドルじゃ駄目なのか?」

 プロデューサーさんが訊ねる。私は、どう言葉にしたらいいものだろうかと、しばらく考えこんだ。

「私は……自分の夢のために多くの人を不幸にしてるんです。いくつも事務所が潰れて、たくさんの人が職を失って」

 言葉を切って、運転席に目を向ける。プロデューサーさんは、「聞いている」というようにうなずいた。

「他人を巻き込みたくないなら、アイドルなんて目指さないほうがよかったんです。……でも、もうさんざん迷惑をかけちゃったから」

 私はうつむいて自分の膝に目を落とし、スカートの裾を握り締めた。

「……仕事のないアイドルなんかで満足しちゃったら、みんなの不幸が報われない」
36 : ◆ikbHUwR.fw [saga]:2018/05/10(木) 17:29:58.97 ID:xTncLF7m0
「本当にそれだけか?」

「え?」

「いや……じゃあトップアイドルにならなきゃな」

 前方の車は、まったく動き出す気配がない。
 沈黙が車内を満たしたけど、不思議と居心地が悪いという感じはしなかった。

「……プロデューサーさんは、信じれば夢は叶うって思いますか?」

「いや、信じてるだけじゃ駄目だろう」

「努力して、実力をつけろってことですか?」

「それもあるけど」

 プロデューサーさんがハンドルを離してシートに背中を預ける。

「人気とか知名度ってのは実力順じゃないから。あまり世に知られていない実力者が知られないまま消えていくなんて、珍しいことじゃない」

「その違いは……運、でしょうか……」

「違うなぁ」

「違うんですか?」

「才能や運のせいにしてるようなやつは、まだまだできることをやり切ってないよ」

 呼吸が止まる。
 プロデューサーさんは特定の誰かを指して言っているわけじゃない。そうわかっていても、自分のことを言われているように思えた。
 私は、不運のせいにしているのだろうか?

「実力ってな、世に知らしめるところまで含めて実力だよ。黙ってても誰かが見つけてくれるだろうなんて大間違い、それは自分でやらなきゃいけないことだ。ひとりきりで山にこもって延々修行しているやつを誰が見つけてくれる? そいつが世界一強いとしても、一生誰にも知られることはないのが当たり前だ。自分だけが知ってればいいというのならかまわないけど、それで世に認められないと嘆くのは、ただの馬鹿だろ」

 平然とした口調で厳しいことを言うので、少しびっくりした。

「えっと……じゃあ、どうしたら?」

「この例だったら、山を下りて道場破りでもしたらいいんじゃないかな」

「……アイドルだったら?」

「そんなに変わらない、戦って勝つ。戦えるチャンスを探して飛び込んでいく」

「どうして、戦いなんかにたとえるんですか?」

「人生はなんでも戦いだよ。まあ、戦略的なところは悪い大人が考えることだから、白菊が頭を悩ませることじゃない」

 雨が降り始めた。
 ぽつぽつと雨粒がフロントガラスを叩くのを見て、プロデューサーさんがワイパーのスイッチを入れた。
37 : ◆ikbHUwR.fw [saga]:2018/05/10(木) 17:31:34.88 ID:xTncLF7m0
「少し話を戻すと」

 しばらくメトロノームみたいに行き来するワイパーを眺めて、プロデューサーさんが言った。

「間に合いそうにないなこれ」

「戻りすぎでは……」

 プロデューサーさんが小さく笑う。

「信じるだけなら、なにもしてないのと同じだよ。夢を叶えたいなら、そのための方法を考えて実践しないとさ。その点では、白菊はその歳で自ら芸能事務所に飛び込んでいってる。行動力は悪くない。ただ、事務所はもっと選ぶべきだった。最初の事務所は、どうしてそこに入った?」

「えっと、オーディションを開いているところを調べて……所属アイドルがそんなに多くはないところに」

「つまり、自分でも入れそうな程度のところを受けたんだな」

 私は言葉に詰まった。間違ってはいないけど、これを肯定してしまったら、最初にいた事務所に失礼だと思ったからだ。

「小さい事務所ってのはカネがない。そういうところが求めているのは即戦力か、なんでもいいかのどっちかだ。実際のところはズブの素人に即戦力なんているわけないから、だいたい後者ってことになる。そういった意味では入りやすいのは間違いないけど、そこから成功することは難しい。育成や売り出しにカネをかけられないから、取ってこれる仕事もたかが知れていて、なかなか実績には結び付かない。小さい事務所から成り上がるよりは、最初から大手に入ったほうが成功する可能性はずっと高い。大きいところも利益を出すことが目的なのは同じだけど、こっちは気が長いっていうのかな、すぐに仕事をさせられるレベルでなくても、将来利益を出す見込みがあると思えば採用する。駄目元でもなんでも、まずは大きいところから、片っ端から受けた方がよかった」

 今更そんなことを言われても、という思いはある。
 だけど346プロに来てから、環境の差というものはたしかに実感した。レッスンの設備もそうだし、事務所のお仕事に対する姿勢がぜんぜん違った。
 以前所属していた事務所のプロデューサーさんが、「大手は大手というだけで優遇されている」と愚痴をこぼしていたことがある。事実、オーディションの合格率は、大きい事務所の所属アイドルが圧倒的に高いらしい。
 だけど、346プロに入ってわかった。それは優遇されているのではなく、心構えの違いだ。
 今までにいた事務所ではオーディションの予行練習なんてやったこともなく、基本的にアイドル任せだった。とりあえずエントリーして、なにかの間違いで受かればいいというような方針だ。
 一方で346プロは、同種のオーディションの合格傾向、主催や審査員の好みまで綿密に分析し、それに合わせたレッスンを積んだ上でのぞんでいた。これでは、勝負になるはずがない。

「……じゃあ、もし私が346プロを受けていたら、採用しましたか?」

「選考が俺だったらね」

 私はプロデューサーさんのほうを見た。

「……本当に?」

「そうなってたらよかったんだけどな」
38 : ◆ikbHUwR.fw [saga]:2018/05/10(木) 17:33:28.34 ID:xTncLF7m0
 プロデューサーさんがいちど腕時計を見てから携帯電話を取り出し、どこかに電話をかけ始める。
 おそらく、開始時刻までにオーディション会場にたどり着けないことが確定したんだろう。

 渋滞に巻き込まれて間に合わない旨を告げ、時間を遅らせる、あるいは日をずらすことは可能かと問いかける。しばらく相手の言葉に合わせて相槌を打つ。
 プロデューサーさんのほうの声しか聞こえないけど、「無理だ」という回答が返ってきたらしいことはわかった。
 念のため訊いてみたといったところなのだろう、プロデューサーさんは特に落胆した様子もない。
 それから改めてお詫びの言葉を言って、電話を切った。



「それにしても動かないな」

「……ですね」

「ヒマだな」

「ですね」

「白菊は、やってみたい仕事とかある?」

「えっと……お仕事でしたら、なんでも」

「女の言うなんでもはアテにならないんだよ」

 なんですかそれ、と思った。
 しかし、「なんでも」では、なにも答えてないのと同じかもしれない。私がやってみたいお仕事は――
 少し考えて、浮かんだのはやっぱり、かつてテレビで見たアイドルの姿だった。

「歌のお仕事を、やりたいです」

「歌番組?」

「はい。あと、大きい会場で、お客さんがいっぱいいる前で……」

 言っていて、顔が熱くなった。

「ライブか」

 こくりとうなずく。

「そのうち、出させるよ」

「大人の言うそのうちは、アテにならないです」

「たしかに」

 プロデューサーさんは笑った。

「でも本当だよ」
39 : ◆ikbHUwR.fw [saga]:2018/05/10(木) 17:35:49.53 ID:xTncLF7m0
   *

 お仕事が少ないぶん時間には余裕がある私は、空いているレッスン室を使って自主レッスンすることを日課にしている。

 長い時間をかけて渋滞を抜け、事務所に戻ってきたあと、私はプロデューサーさんと別れてそのまま第4レッスン室に向かった。
 レッスン室の使用予定は前もって訊いていて、手帳にメモしてある。今の時間はこの部屋が空いているはずだった。
 だけど、ドアを開けてみるとそこには先客がいた。周子さんだ。

「およ、ほたるちゃんおつかれー。どしたーん?」

「あ、お疲れさまです。今日はこのレッスン室が空いてるみたいなので、自主レッスンに使わせてもらおうと……周子さんは、どうしてここに?」

「あー、あたしも同じだよ」

「周子さんが、自主レッスンを?」

「なんかおかしいかな?」

「すみません。ただ、周子さんはあまり、そういうことをしないものかと」

「へえ、ほたるちゃんはあたしにどういうイメージ持ってるん?」

 失礼なことを言ってしまったかもしれない、と思ったけど、周子さんは気を悪くしたようには見えない。むしろなにか面白がっているようだった。

「周子さんは……売れっ子で、歌もダンスも凄くって、お喋りも上手で、なんでもできる完璧な人だと……」

「そこまでベタ褒めされるとなんか恥ずかしいね」

「すみません……」

「なんで謝んのさ」
40 : ◆ikbHUwR.fw [saga]:2018/05/10(木) 17:37:36.06 ID:xTncLF7m0
 周子さんがあごに手を当てて、ううんと小さくうなった。

「あたしはなんというかね、自分で言うのもなんだけど、要領がいいんだよ」

「要領、ですか?」

「そ、あたしがデビューしたあたりの時期に、たまたま世間の需要と合ってたみたいな感じかな。外見とか性格とかね。だからまあ、売れたのは実力じゃないよ。運がよかったんだね」

 そんなことはないだろう、と思った。
 周子さんはさまざまなお仕事をしていて、歌やダンスはもちろん、トークや演劇にいたるまで、どれをとってもレベルが高い。
 自由奔放であるにもかかわらず、どんな仕事もけろりとこなす天才肌と世間でも評判で、実力がないなんてことは、とても考えられない。

 困惑が表情に出ていたのか、周子さんは私の顔を見てくすりと笑った。

「あたしってもともと、なにやらせても他人よりうまくできるみたいなとこあったんだよね。昔から歌は上手いって言われてたし、運動神経もけっこうよかったし。だけどね、なんやかんやで人気出てきてぽんぽんお仕事貰えるようになってから、ふと周りを見渡してみるとね、みんなすごいんだこれが。これはあかん、あたし場違いすぎるって思ったね」

 そう言って、周子さんが肩をすくめる。私は黙って続きを待った。

「お仕事するたびに、今度こそボロがでるんじゃないかってびくびくしてたよ。『こいつ本当はたいしたことないな』ってね。だから、そうならないように、こうやってコソコソ練習したりして、一生懸命繕ってんの。その点について、あたしはいつも必死だよ」

「……でも私は、周子さんすごいって思います。本当に」

「うん、ありがと。まー、今はそんじょそこらのアイドルには負けてないってぐらいには自信もあるよ。でもそれは、こうやってあとから帳尻合わせをした、その成果だね」

「あ……すみません、なんか失礼なことを言って」

「いや、そーゆーキャラで売ってるわけだからね。そんなふうに思ってもらえてたなら、むしろうまくいってるってことだし、あたしとしちゃ万々歳だよ」

「やっぱり、誰でも一生懸命努力してるんですよね。私も、もっとがんばらないと……」

「んー……いや、誰でもってのはどうかなー」

「え?」

「あたしは違うけど、ホンモノの天才ってのはいるもんだよ」

 私は少し考えた。

「……一ノ瀬志希さん?」

「そーゆーこと」
41 : ◆ikbHUwR.fw [saga]:2018/05/10(木) 17:41:11.49 ID:xTncLF7m0
 志希さんはものすごく頭がよく、アイドルになる前は海外に渡って飛び級で大学に通っていたらしい。ちょっと私には想像もつかない世界だ。
 大学を辞めて日本に戻っていたところで、屋外でテレビ番組の撮影を見守っていた346プロのプロデューサーに自分から声をかけ、紆余曲折の末にアイドルになったそうだ。
 
「志希さん……すごいらしいですね」

 彼女はアイドルとしても天才的で、デビューしてからあっという間に人気アイドルになった。
 周子さんも本物の天才とたたえる、その目からはいったい、どんな景色が見えてるんだろう?

「うらやましいと思ったことはないけどね」

 ぽつりと、周子さんが言った。

「……どうしてです?」

「あたし、けっこう志希ちゃんとのお仕事になること多いんだ」

 私はうなずいた。
 346プロは所属アイドルでユニットを組ませて売り出す商法をとることが多く、いちど限りのものから長期的に活動するものまで、覚えきれないほど多くのユニットがある。
 たしか周子さんと志希さんは複数のユニットにいっしょに編成されている。共演することも多いだろう。

「だからあたしにはわかる。あれはたぶんね、しんどいよ」

 私は首をひねった。しんどい?
 どういう意味かと詳しく聞きたかったけど、周子さんは優しげなような悲しげなような、不思議な微笑を浮かべていて、なんだか声をかけてしまうのがためらわれた。

「それよりほたるちゃん、自主練しにきたんでしょ。せっかくだからちょっと見せてもらおっかな」

「しゅ、周子さんの前でですか? その……恥ずかしいです」

「見られるのも練習のうちだよ。どんなお仕事だって人に見られながらだからねー」
42 : ◆ikbHUwR.fw [saga]:2018/05/10(木) 17:43:52.49 ID:xTncLF7m0
 それから私は、周子さんに手伝ってもらって準備運動のストレッチをした。

「ん、ほたるちゃん意外と固いね。ちゃんと柔軟やんないとダメだよ、体柔らかいほうがケガしにくいから」

「す、すみません、がんばります」

 周子さんが、「また謝ってる」と言ってけらけらと笑った。

 周子さんはよく笑う。ある時は天真爛漫な子供のように、またある時はいじわるな狐のように。この笑顔は間違いなく、彼女の魅力のひとつだろう。

「……笑顔って、やっぱりだいじでしょうか」

 ふと思い立って訊ねてみる。

「また唐突だね。笑顔?」

「はい、前にプロデューサーさんに笑ってみろと言われて……やってみたんですが、その……ヘタだったみたいで……」

「うーん、まあ必要不可欠ってわけでもないかな? クール系のイメージで売ってるアイドルもいるわけだし、そういう人は無表情でミステリアスなのが魅力だったりもするから」

 なるほどミステリアス、と頭の中にメモを取る。
 ……クールでミステリアス、私にできるだろうか?

「――と、ここまでが一般論ね。あたし個人としては、とても大切だと思う」

「そうなんですか?」

「うん。あたしの知ってる、すごーく強いアイドルは、いつだって笑ってるから」

「強い?」

 と私は繰り返した。
 アイドルの評価として、それはあまりそぐわないように思ったからだ。

「うまく言えないんだけどねー。あの子は、すごいとか上手いじゃなくて、なんか『強い』って感じがする」

 誰のことだろう?
 周子さんは首をかしげる私を見て、小さく含み笑いを漏らした。

「あとほたるちゃんにも、その素質があるような気がする」
43 : ◆ikbHUwR.fw [saga]:2018/05/10(木) 17:45:55.84 ID:xTncLF7m0
   *

 レッスンを終えて、私は周子さんといっしょに寮に帰ることにした。
 事務所を出る前に周子さんに少し待ってもらって、いつものようにプロデューサーさんに声をかけに行く。

「お疲れさまです。私、そろそろ上がりますね」

「あ、白菊ちょっと待って」

 プロデューサーさんが私を呼び止める。
 はい、と向き直った私に、プロデューサーさんは躊躇するように少しの間を置いて、ゆっくりと言った。

「黙っていてもいずれどこからか伝わるだろうから、今のうちに言っておく。お前がうちに来る前にいたプロダクション、倒産したそうだ」

 全身が粟立つ。急に室温が下がったような気がした。

「……そう……ですか」

 硬直してしまったような喉から、かろうじてそれだけ絞り出す。声はかすれて、震えていた。

 私のせい? 私はもうあの事務所には所属していないのに?

 ……そうだ、経営が危なかったのは、私がいたときからだ。
 おそらく、あのころにはすでに倒産が視野に入るくらい財務状況は悪かったのだろう。なんとか立て直そうと一縷の望みをかけて、疫病神たる私を解雇した。だけど、そのあとも回復しきれなかったということだ。

「白菊、だいじょうぶか?」

 私は弱々しくうなずきを返す。

「あの事務所には……あまりいい思い出がないんです。いつも怒鳴られていて、大きな声を聞くだけで怖くなっちゃって……、他のアイドルの人たちからも、嫌われていて……」

 みんなは私を恨んでいるだろうか?

 ……きっと、恨んでいるだろうな。

「それでも……潰れてほしくなんてなかったです」

 事務員さんの言葉が脳裏によみがえる。

『あなたさえいなければ』

 私がいたせいで、

 346プロもいつかは――



「お前のせいじゃない」

 プロデューサーさんが珍しく、語気を強くして言った。
 その顔はほんの少しだけ、苦しげに歪んでいるように見えた。
44 : ◆ikbHUwR.fw [sage]:2018/05/10(木) 17:46:46.50 ID:xTncLF7m0
(本日はここまでです)
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/10(木) 20:50:49.29 ID:8M81jSYSO
笑顔です
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/10(木) 22:00:54.85 ID:f0JIF5EKo
(乙です)
47 : ◆ikbHUwR.fw [saga]:2018/05/16(水) 19:23:03.67 ID:sFL9uHdg0
   05.

 346プロに入ってから頻度は少なくなったけど、今でもときどき夢を見る。
 内容は変わらない。みんなが「お前のせいだ」と私を責めたてて、私が「ごめんなさい」と繰り返す。変わったのは、『みんな』に前の事務所の人たちが加わったことだ。

 夢から覚めると、いつもびっしょりと汗をかいていた。
 部屋のバスルームに入って汗を流し、鏡を見る。
 暗い、よどんだ顔が映っている。

 ぱんっと両頬を手で叩く。

 ――暗い顔をしてたらオーディションの印象が悪くなる。気合いを入れなくちゃ。



 オーディションやお仕事の際の移動は、いつもプロデューサーさんといっしょだった。
 プロデューサーさんは前もって現場への道のりを詳しく調べ、起こり得る交通機関のトラブルの予測と、移動の代替手段を考慮している。その上で、私から見ても過剰と思えるような余裕を持って出発する。それでも間に合わないことはあったけど、それは時間の問題ではなく、なにをどうしてもたどり着けないような状況のときだった。
 
 無事に到着してオーディションが始まっても、私の番で機材が不調になることがよくあった。
 プロデューサーさんが前もって、「なにかあっても審査員に止められない限りは続けろ」と指示を出していて、私はそれに従った。「もう一度頭から」とやり直しをさせてもらえたこともあったし、そのまま最後まで続けて合格をもらえることもあった。

 また、まれに大手の強みともいうべきお仕事が舞い込んでくることがあった。
 人気のあるアイドルは黙っていてもお仕事の依頼がやってくる。ただし、スケジュールの都合が合わなかったり、目指す方向性との齟齬があったりで、断ることも珍しくない。
 そんなとき、346プロではその仕事に向いていそうな別のアイドルを紹介する。思惑はいろいろあるのだと思うけど、クライアントは紹介されたアイドルをそのまま起用することが多かった。この形のときはオーディションもなにもなく、即座に起用が決定となる。
 私も何度か紹介でお仕事をもらった。特に深夜のテレビドラマで、悲劇のヒロイン役をやらせてもらったときは、関係者全員がびっくりするぐらいの好評を得た。

 日々がゆっくりと流れていった。

 私はたくさんのレッスンを受け、たくさんのオーディションを受けた。
 そうして、少しずつだけどお仕事が増えていった。



 でも、こんなものじゃ、ぜんぜん足りない。
48 : ◆ikbHUwR.fw [saga]:2018/05/16(水) 19:25:16.11 ID:sFL9uHdg0
 プロデューサーさんは、相変わらず負傷が絶えない。

 他のアイドルや社員の人たちともお話をするようになって、ちょっとした噂話を耳にした。
 それによると、私の担当プロデューサーさんは中堅と呼べるくらいにはキャリアがあって、本当なら新人ひとりにかかりきりになっているような立場ではないそうだ。
 ならばなぜ、私の専属になっているのかというと、

『本人の希望』

 ということらしい。
 これ以上のことは周りにはわからない。直接訊ねてみようかとも思ったけど、答えを聞いてしまうのが怖いという気持ちもあって、結局口に出せずじまいだった。

 そんなある日、

「白菊」

 事務所にやってきた私に向けて、プロデューサーさんが手招きをする。

「今、ちょっと代役を探してる案件があって――」

「やります」

 私は即答した。
 アイドルも人間である以上、なんらかの事情によって決まっていたお仕事に急に出れなくなることはある。代役は紹介と同様、即起用が決定する。貴重な機会だ。

「せめて内容聞いてから返事しないか? じゃあ社内オーディションにエントリーしておくから」

 社内オーディション? 聴き慣れない言葉だ。

「なんですか? それ」

「今回は希望者が多そうだから、346プロ内だけでオーディションみたいな形式で選考するんだって」

「誰の……どんなお仕事です?」

「最初にそれを訊こうな。桜舞姫のライブ、塩見さんの代役だ」
49 : ◆ikbHUwR.fw [saga]:2018/05/16(水) 19:26:22.62 ID:sFL9uHdg0
 桜舞姫……さくらまいひめ……
 少し考えて思い出す。桜舞姫は周子さんと志希さん、それに相葉夕美さんの3人ユニットだ。
 346プロではよくある期間限定のユニットで、継続的な活動はしていない。だけどメンバーひとりひとりが単独でも十分お客さんを呼べるくらいに人気があって、再度ユニットとしての活動を望む声も多い、と聞いたことがある。

「詳しく、聞かせてもらえますか?」

「本番は2週間後、このライブは撮影してライブビデオとして販売する予定だった。会場は定員5000人で、すでにチケットは完売済。なかなかデカいな」

「周子さんは、だいじょうぶなんですか? ケガですか?」

「いや、ただの風邪みたいだけど、最近仕事が詰まってたせいか過労気味だったそうで、かなりこじらせてるらしい。さすがにライブの日までダウンしてるってことはないだろうけど、コンディション整える余裕があるかわからないから、今回は大事を取って見送らせることにしたんだって」

「それって……周子さんのファンの人たちから苦情がきませんか?」

「詳細は未定だけど、後日代わりに塩見さんメインのイベントを企画するって話が上がってて、代役のアナウンスと同時に発表する。桜舞姫はファン層がけっこう被ってるから、たぶん塩見さんだけが目当てで他ふたりには全く興味ないって客はあまりいない。仮にふたりだけでやるとしても、払い戻しはほとんどないだろうって予測になってる」

 集客力としては志希さんと夕美さんのふたりでも問題ない。それなら、事務所の考えは『どうせなら他のアイドルにもチャンスを』ということだろう。346プロにはたくさんのアイドルがいるけど、さすがにふだんの活動でそれだけの規模のライブに参加できる人は限られている。

「社内オーディションというのは……どのくらいの人が参加するんですか?」

「急な話だし、もともとスケジュール入ってた子はどんなに小さい仕事でもそっちを優先するようにってお達しが出てる。それでも30人以上にはなるかな。今日で募集を締め切って、オーディションは明日だとさ」

「30人……」

 これを多いと見るべきか、少ないとみるべきかはわからない。
 参加者が全員346プロのアイドルということを考えたら、外部のオーディションよりもよっぽど厳しい競争といえるかもしれない。

「もちろん人気のあるアイドルほど忙しいから、トップクラスの売れっ子はあまりエントリーしていない。ただし、たまたまスケジュールが空いていたということはある。たとえば、このふたりがそうだ」

 そう言って、プロデューサーさんがパソコンのモニターを示した。
50 : ◆ikbHUwR.fw [saga]:2018/05/16(水) 19:27:51.88 ID:sFL9uHdg0
   *

 翌日、私は臨時のオーディション会場となるレッスン室にやってきた。部屋の前の通路に、緊張した様子のアイドルたちがレッスン着姿でたむろしている。
 社内オーディションは、いちどに3人ずつ入室して審査を行うという形で行われるらしい。審査員は志希さん、夕美さんに、それぞれの担当プロデューサー、それに周子さんのプロデューサーを加えた5人だ。
 入り口のドアに1枚の紙が張ってある。審査の順番が書かれたもののようだった。

 私といっしょに受けるのは――

「おお! 其方も天界へ続く門を開かんとする者か。されど呼び声が求めしは唯一枚の翼、今宵は存分に猛り狂う魂を比べ合おうぞ!」

「は、はいっ!?」

 びくりと身を震わせて振り返ると、神崎蘭子さんが突き出した手のひらを私に向けていた。

「キミもオーディション受けるんだね、がんばろう。――みたいな意味だよ」

 その後ろで、二宮飛鳥さんが言った。

「然り」

「あ、はい。よろしくお願いします」

 私はぺこりと頭を下げる。

 蘭子さんと飛鳥さん、このふたりが私と同時に審査を受ける、プロデューサーさんがこのオーディションの本命だろうと言ったふたりだった。

 選ばれるのはたったひとりだから、組み合わせや順番にさほど意味はない。
 それでも、最低でも同時に審査を受ける3人の中では、いちばんいいと思わせることが出来なければ話にもならない。そんな中で、本命候補と見なされるふたりのいる組になってしまうのは、我ながらさすがの引きの悪さだろう。
51 : ◆ikbHUwR.fw [saga]:2018/05/16(水) 19:28:51.92 ID:sFL9uHdg0
「……出番までの時間潰しといってはなんだけど、他愛のない戯言を聞いてもらっても構わないかな?」

 飛鳥さんが言った。

「なんでしょう?」

「ボクは、夕美さんと志希、それぞれとふたり組のユニットを組んだことがある」

「……あっ、そういえば」

「やれやれ、気付いていなかったのか」

 飛鳥さんが、ふっと息を漏らして首を横に振る。

「す、すみません」

「いや、ボクのほうこそ謝るべきだな。どうやら無用な勘繰りをしていたようだ」

「どういうことですか?」

「ようするに……ボクは審査に有利だと思われてるんじゃないか、とね」

「ああ……」

「しかし、ボクの知っている限りでは、あのふたりはそういった身びいきをする性格ではない。その点は安心してくれていいし、とらぬ狸のなんとやらだが、仮に審査の結果ボクが選ばれたとしても、そんなふうには思ってほしくない、ってところだね」

「はい、もちろんです」

「しかし、多少なりとも意識されているだろうと思っていたのは、いささか自意識過剰だったかな?」

「いえ……本当に忘れてただけです。プロデューサーさんも、飛鳥さんと蘭子さんがこのオーディションの本命だろうって言ってましたから」

「……へえ、それは光栄だね」

 飛鳥さんがあごに手を添えて、なにか考え込むような仕草をする。

「其方も炯眼の賢者に見出されしワルキューレ、その魔力を軽んじるは愚者の行いよ」

 蘭子さんが、託宣を告げる予言者のようにおごそかに言った。

「そうだな、ボクも同感だ」と飛鳥さん。

「……えっと?」

 私が助けを求めるように視線を向けると、飛鳥さんは軽く肩をすくめた。

「お互いさま、だってさ」
52 : ◆ikbHUwR.fw [saga]:2018/05/16(水) 19:30:41.39 ID:sFL9uHdg0
 審査を終えた3人が部屋から出てきて、新たに3人が部屋に入る。何度かそれを繰り返し、やがて私たちの順番をむかえる。
 3人でレッスン室に足を踏み入れ、最後に入った私が部屋のドアを閉めた。

 壁際に、普段はレッスン室にはない長机が置かれており、審査員となる5人が椅子に腰掛けていた。
 夕美さんがこちらに向けて小さく手を振る。その肩に、志希さんが電車の中で居眠りをする人みたいに頭を預けている。
 入り口のかたわらに、椅子が3脚並べられていた。座ってしまっていいものかと少し悩む。

「内輪のことですから堅苦しいのは抜きにして、入って来た順で1曲ずつお願いします」

 審査員席のひとりが代表するように言った。たしか周子さんの担当プロデューサーだ。

「他のふたりはどうぞ座っていて」

 入室したのは、蘭子さん、飛鳥さん、私の順だった。
 私と飛鳥さんが椅子に腰を下ろし、蘭子さんがつかつかと部屋の中央に歩を進める。

「創世のホルンは?」

「特になしで。準備がいいようならすぐにでも音楽を流します。好きなように入ってください」

 蘭子さんがこくりとうなずく。

「血が滾るわ」

 曲が流れ出し、蘭子さんが歌い踊り始める。すでにCD販売もされている自分の曲ということもあってか、さすがに手慣れている。声の響きも体の動きも自信に満ち溢れていて、ほんのわずかの迷いも感じられない。

 審査で披露する曲は、エントリーの際に指定したものだ。特に制限はなく、どんな曲を選んでもよかった。

 ほんの少し、うらやましいと思ってしまう。
 蘭子さんも飛鳥さんも自分の曲がある。私にはない。しかし、これを不利だと思うのはわがままだろう。持ち歌という手札があることも実力のうちだ。アイドルの活動でそれだけの実績を残してきた証拠なのだから。

 曲が終わる。蘭子さんは音楽が途切れた瞬間の姿勢のまま数秒間静止し、審査員席に向けて優雅に一礼した。ミスらしいミスは見当たらない、完璧なパフォーマンスだった。
 いくつもの感嘆のため息が重なり、次いでぱちぱちと拍手の音が上がった。私も、半ば無意識のうちに手を叩いていた。

「ありがとうございました。次の方」

 と周子さんのプロデューサーさんが言った。
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