魔女娘「あたしを弟子にして下さい!」手品師「なんで!?」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 19:04:57.39 ID:bJSsrpC50
― バー ―

手品師「今、私の右手にはコインが握られております」グッ…

手品師「これがなんと!」パッ

手品師「左手に瞬間移動しちゃいました〜!」



シーン…

「でさぁ〜!」 「マジでぇ〜!?」 「例の件だけどさ……」



店主「ご苦労さん。はい、今日のギャラ」

手品師「どうも……」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1525082697
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 19:06:50.11 ID:bJSsrpC50
― 夜道 ―

手品師(来る日も来る日も、手品なんかろくに見てない連中を相手にショーをして……)

手品師(ほとんどスズメの涙みたいなギャラをもらう……)

手品師(どうしてこうなった……。いつまでこんな生活すりゃいいんだ……)

ドンッ!

酔っ払い「……ってえな」

手品師「す、すみません」

酔っ払い「あら? オメー、さっき手品してた奴だろ」

手品師「あ、どうも! 覚えててくれたんですね!」

酔っ払い「ふうん……そうだ!」

酔っ払い「オイ、手品師なら、オレをどうにかして消してみろよ!」グイッ

手品師「な、なにを……! やめろ……!」

酔っ払い「手品師なら手品でどうにかしてみろよ! オラオラァ!」

手品師「で、できるわけない……! た、助けて……!」
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 19:08:08.26 ID:bJSsrpC50
「やめなさーいっ!」

手品師「!?」

酔っ払い「な……誰だ!?」

魔女娘「乱暴はやめなさい!」

酔っ払い「なんだ……女じゃねえか。どっから湧いてきやがった!」

酔っ払い「ちょうどいいや! お嬢ちゃん、ちょいと胸でも触らせてくれや!」

手品師「君……逃げろ! 近くの交番に駆け込むんだ!」

魔女娘「大丈夫です!」
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 19:09:31.17 ID:bJSsrpC50
魔女娘「吹っ飛べ!」パァァァ…

ドンッ!

酔っ払い「うぎゃ!?」ブオッ

ドザァッ…

酔っ払い「…………」ピクピク…

手品師(なんだ!? 手も触れないで、酔っ払いをふっ飛ばした!)

魔女娘「大丈夫ですか?」

手品師「は、はい……」
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 19:11:47.69 ID:bJSsrpC50
手品師「君は今……何をしたんだ? いわゆる、気功……みたいなやつ?」

魔女娘「いえ、あれは魔法です!」

手品師「魔法!?」

魔女娘「あたし、これでも魔女でして……つい最近、魔女の里で見習いを卒業させてもらったんです」

魔女娘「それで、人間の街にやってきたところなんです!」

手品師(なにいってるんだ、この子は……)

手品師(だけど、さっきの技、俺の目でもタネがあるようには見えなかった)

手品師(信じるしかない……この子は本当に魔女なんだろう)
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 19:14:04.55 ID:bJSsrpC50
手品師「ありがとう、助けられたよ。なにかお礼をしたいけど……」

魔女娘「いえいえ、お礼なんて! それより実はあたし、あなたにお願いがあって来たんです!」

手品師「お願い? 俺に?」

手品師(なんだろう……?)

手品師(なんたって魔女のお願いだし、まさか生贄になってくれ、とかじゃ……)

手品師(それもいいか……どうせこのまま生きてたって――)

魔女娘「あの……あたしを弟子にして下さい!」

手品師「…………」

手品師「…………?」

手品師「なんで!?」
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 19:15:51.30 ID:bJSsrpC50
魔女娘「なぜかというと、あたし、手品が大好きで……手品師になりたかったからです!」

手品師「手品が大好きって、君の方がよっぽどすごいことできるのに……」

魔女娘「お願いします!」ペコッ

手品師「…………」

手品師(本物の魔法を使える子が、手品ができるようになりたい? ……わけが分からん)

手品師(でも、さっきは助けられたわけだし……)

手品師(どうせ暇な時間は多いし、手品を教えることでいい気分転換になるかもしれない)

手品師「……いいとも。君を弟子にしよう」

魔女娘「本当ですか!? ありがとうございます!」
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 19:18:15.52 ID:bJSsrpC50
魔女娘「じゃ、じゃあ今から練習を……」

手品師「ちょっと待った! これでも俺は仕事を終えたばかりなんだ」

手品師「悪いけど、明日からにしてくれ」

魔女娘「あっ、そうですね! すみません!」

手品師「えぇと……手品グッズに紙とペンがあったはず……」ゴソゴソ

手品師「明日の昼、この地図の場所に来てくれ。ここが俺の家だから」サラサラ

魔女娘「分かりました!」

魔女娘「それじゃ明日、家にうかがわせていただきます!」サッ

ドヒュンッ!

手品師「…………」ポカーン…

手品師(ホウキに乗って飛んでった……もうあんな遠くまで……)

手品師(世界一の手品師でも、あんなことはできねえだろうなぁ……)
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 19:20:18.62 ID:bJSsrpC50
次の日――

― 手品師のアパート ―

手品師「ふあぁぁ……」

手品師(昨日の女の子はいったいなんだったんだろう……)

手品師(もしかしたら、俺は夢でも見てたのかもしれないな)

手品師(でも、記憶はしっかり残ってるし……一応、手品グッズを用意して待ってるか)

手品師「今日の朝飯は、目玉焼きだ」コツッ

パカッ ジュアァァァァ…
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 19:22:10.53 ID:bJSsrpC50
昼すぎになり――

手品師(……来ない)

手品師(やっぱりあれは夢だったのかもしれんなぁ)

手品師(あるいはからかわれただけかも。魔女が手品師の弟子になるなんておかしな話だし)



ピンポーン…



手品師「!」
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 19:25:23.86 ID:bJSsrpC50
手品師「はい」

ガチャッ…

魔女娘「す、すみません……道に迷っちゃって、遅くなりました」

手品師「あっ……!」

魔女娘「前にも来たことあるのに、人間の街はなかなか複雑で……」

手品師(夢じゃなかった……。ていうか、迷うような場所じゃないんだけど)

魔女娘「それじゃさっそく、稽古をつけて下さい!」

手品師「あ、ああ……分かったよ」

手品師(魔法使いに手品を教える……うーむ、不思議な気分だ)
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 19:27:53.52 ID:bJSsrpC50
手品師「じゃあ、簡単なマジックから教えよう」

魔女娘「はいっ!」

手品師「よし、いい返事だ」

手品師「右手にコインを握る……今、右手に入ってる……むむむ、と唱えると……」

魔女娘「むむむ……」

手品師「ほら、左手に瞬間移動にしてる!」パッ

魔女娘「すっごーい!」パチパチパチ

手品師(こんなすごい反応もらったの久しぶりだな……)

手品師「じゃあ、タネを教えるからやってみせてくれ」

魔女娘「え、教えてくれるんですか!」

手品師「当たり前だろ」
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 19:31:17.19 ID:bJSsrpC50
手品師「まず、右手にコインを握る」ニギッ

手品師「左手を動かしながら、まだ右手に入ってますよアピールをする」ヒラヒラ

魔女娘「ふむふむ」

手品師「この時、客に見えないように左手にパスするんだ」サッ

魔女娘「あっ!」

手品師「で、あとはいかにも念力でコインを瞬間移動させるような仕草をする」

手品師「あとは、もうとっくに左手に入ってたコインを見せるだけ」

手品師「タネというより、指先の速さや正確さが求められる手品だな」

魔女娘「なるほどー!」
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 19:36:07.64 ID:bJSsrpC50
手品師「じゃ、やってみせてくれ。最初はゆっくりでいい」

魔女娘「はいっ!」

魔女娘「ゆっくりと……」ノロノロ

魔女娘「あっ」ポロッ

チャリーンッ

魔女娘「ああ……」シュン…

手品師「初めてなんだから仕方ない。速くやろうとしないで。さ、もう一回だ」

魔女娘「は、はいっ!」
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 19:37:04.45 ID:bJSsrpC50
チャリンッ

チャリーンッ

チャリリーンッ

……

……

魔女娘「はぁ、はぁ、はぁ……」

手品師(こりゃかなり不器用だな……)

手品師「もしかして、魔法の習得もかなり手こずったりした?」

魔女娘「なぜそれを!? それも手品ですか!?」ギクッ

手品師(そりゃ分かるって……)
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 19:40:36.18 ID:bJSsrpC50
手品師「今日はこの辺にしておこうか」

魔女娘「いえ、まだやれます!」

手品師「焦ることはない。なにも期限が迫ってるって話じゃないんだろ?」

魔女娘「それは……そうですけど」

手品師「なぁに、練習すれば君も必ずできるようになる。手品ってのはそういうもんだ」

魔女娘「……あ、その言葉……」

手品師「ん?」

魔女娘「いえ! なんでもないです! はいっ!」

手品師「…………?」
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 19:44:32.66 ID:bJSsrpC50
手品師「それに、今日はもう仕事でね。ショーがあるんだ」

魔女娘「ショー!?」

手品師「だから、君はもう帰っていいよ」

魔女娘「いえ、あたしも行きます!」

手品師「いや、だけど……面白いもんじゃないよ?」

魔女娘「あたしも連れてって下さい! 弟子として! お願いします!」

手品師「そこまでいうなら、いいけど……」
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 19:47:39.82 ID:bJSsrpC50
― ショッピングモール ―

手品師「お買い物中の皆さま、これから手品を始めま〜す!」

手品師「ぜひ足を止めてご覧になって下さいね!」



シーン…



手品師(いつもこうだ……)

手品師(みんな、ショッピングに夢中でこっちなんか見ちゃいないんだよなぁ)
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 19:49:00.30 ID:bJSsrpC50
手品師「ほら、布をこすったら……花が出てきました〜!」サッ

魔女娘「わーっ! すごいすごい!」パチパチパチ…

手品師「お、おい……君が驚いてどうすんだ」

魔女娘「もっと! もっとやって下さい! アンコール!」

手品師「ああ……分かったよ」



「なんだ?」 「あそこ、えらく盛り上がってるな」 「ちょっと見てみるか……」

ワイワイ… ガヤガヤ…



手品師「あ……」
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 19:52:18.54 ID:bJSsrpC50
手品師「ふぅ〜……それなりに客を集めることができたな」

魔女娘「お疲れ様でした!」

手品師「いや、疲れたのは君の方だろ」

手品師(一人で三十人分騒いでくれて……)

手品師「いつもは閑古鳥なんだけど、君のおかげで助かったよ……ありがとう」

魔女娘「?」

魔女娘(なんで、あたしがお礼いわれるんだろ?)
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 19:54:42.24 ID:bJSsrpC50
― 手品師のアパート ―

手品師「ほら、出来上がり」サッ

魔女娘「わぁっ、おいしそう!」

魔女娘「手品師さんって、お料理も得意なんですね!」

手品師「昔から手先が器用だったからな。こういうことは得意なんだ」

手品師「テレビでも見ながら、くつろいでてくれ」

魔女娘「では、お言葉に甘えて!」

魔女娘「あ、今日はテレビでマジックの特番があるんですよ! 見ちゃおっと!」
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 19:56:26.45 ID:bJSsrpC50
テレビ『さぁ、マジシャンさんの登場です!』

テレビ『ワァァ…! パチパチパチ…!』

テレビ『会場は大盛り上がり! 今や超売れっ子のマジシャンさん、華麗にステージへ降り立ち……』

魔女娘「あ、この人知ってます! 最近よくテレビに出てますよね!」

手品師「…………」ピッ

プツッ…

魔女娘「あっ……?」

手品師「悪いな、同業者の手品はあまり見ないことにしてるんだ」

魔女娘「あ、そうだったんですか。すみません……」
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 19:59:08.85 ID:bJSsrpC50
魔女娘「今日はごちそうさまでした!」

魔女娘「また明日から、よろしくお願いします!」

手品師「ああ、当面の目標は、コインの瞬間移動ができるようになることだな」

魔女娘「はいっ!」

ドヒュンッ!

手品師(ホウキで飛んでった……すごい速さだ。あ、でもちょっと危なっかしいな)

手品師(やっぱりまだ理解できん……魔女が手品を習うだなんて)
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 20:00:50.13 ID:bJSsrpC50
次の日――

― 手品師のアパート ―

魔女娘「今日もよろしくお願いします!」

手品師「元気がいいな。さっそく練習を始めよう」

魔女娘「はいっ!」

魔女娘「えいやぁぁぁぁぁっ!」ポロッ

チャリーンッ

魔女娘「あぐぅ……」

手品師「そんなに気合入れなくてもいいよ。さ、落ち着いてもう一度」
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 20:02:15.25 ID:bJSsrpC50
魔女娘「…………」モタモタ…

手品師「よし、今のは形はできてたぞ。それっぽかった」

魔女娘「ホントですか!?」

手品師「あとは今のを素早く出来るようになれば、人にも見せられる手品になる」

魔女娘「やったぁ! ありがとうございます!」

手品師「ハハ……」

手品師(こりゃ、一人前どころか半人前にするのも手こずりそうだ)
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 20:04:31.11 ID:bJSsrpC50
手品師「ところで、君は魔法を使えるんだろ?」

魔女娘「はいっ!」

手品師「魔法を使って、コインを瞬間移動させることはできる?」

魔女娘「できますよ!」

手品師「やってみせてくれる? たとえば、俺の手元に瞬間移動させるとか」

魔女娘「分かりました……えいっ!」パァァァ…

パッ

手品師「うわっ!?」

手品師(俺の手元に……コインが……!)
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 20:06:45.11 ID:bJSsrpC50
手品師「うーん、どう見ても君のやったことの方が、手品よりすごいと思うんだけど……」

手品師「なぜ手品を習いたいんだ?」

魔女娘「前にもいいましたが、あたし手品が大好きですから!」

手品師「どうして手品が大好きなの? なにかきっかけがあったの?」

魔女娘「そ、それは……は、恥ずかしいので秘密です! ――すみませんっ!」

手品師「いや、俺こそ変なこと聞いて悪かった。忘れてくれ」

手品師(ま、いいか……)
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 20:09:34.10 ID:bJSsrpC50
そんなある日――

― 手品師のアパート ―

手品師「今日の予定は、あるマジックショーに出演することだ」

魔女娘「おお〜!」

手品師「といっても前座だがな。俺の後にもっとすごい人が控えてる」

魔女娘「前座でもすごいです。後にはどんな人が?」

手品師「それが……運営側からは知らされてないんだよ。まあ、知る必要もないが……」

手品師(久々の“まともな仕事”だ……腕がなるぜ)
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 20:11:57.84 ID:bJSsrpC50
― 会場 ―

ワイワイ… ガヤガヤ…

魔女娘「小さな会場ですけど、かなり人が集まってますね」

魔女娘「もしかして、手品師さん目当てで、皆さん駆けつけてくれたんじゃ!?」

手品師(そんなわけがない。しかし、この人の多さ……)

手品師(メインで出る演者は……まさか!)





「よぉ〜、来てくれたのか! “前座”クン!」
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 20:14:09.11 ID:bJSsrpC50
マジシャン「久しぶりだな」バサッ

手品師「やはりお前か……!」

魔女娘(あっ、この人は……!)

魔女娘(今一番売れてる奇術師である……マジシャンさん! うーん、マントがかっこいい!)

マジシャン「わざわざ元ライバルの前座になってくれるなんて、本当にありがとう!」

マジシャン「同じ舞台に立つんだ。仲良くやろうぜ。ま、ギャラは何倍も違うだろうが」

手品師「お前の前座だと知ってたら、来なかったよ……」

マジシャン「そりゃそうさ。だからマネージャーに伝えないようにいっておいたんだからな」

魔女娘「…………」ドキドキ…

魔女娘(この二人、知り合いだったんだ……)
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 20:16:21.53 ID:bJSsrpC50
手品師「帰る」クルッ

マジシャン「仕事を引き受けておいてドタキャン〜?」

マジシャン「おいおい、とうとうプロマジシャンとしての誇りもなくしたのか?」

手品師「冗談だ……手品はちゃんと演る」

マジシャン「そうこなくちゃな! じゃ、しっかり前座をこなしてくれよ!」

マジシャン「前座のレベルが低すぎると、かえって俺が引き立たないからな!」

手品師「……ああ」ギリッ…

魔女娘(こんなに険しい手品師さんの顔……はじめて見た……)
32 : ◆giYLo4fN2M [saga]:2018/04/30(月) 20:16:52.31 ID:bJSsrpC50
今回はここまでとなります
次回へ続きます
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/30(月) 20:37:07.34 ID:b9QZmYiOO

楽しみ
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/01(火) 03:30:39.04 ID:NeJiNTVU0
乙期待
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/01(火) 19:13:52.91 ID:bBDZCTAW0
マジックショーが始まった――

パチパチ…

手品師「それでは、手品を始めていきたいと思いまーす!」

手品師「よっと」サッ

手品師「まずは花を取り出させていただきました〜!」



パチパチ… パラパラ…



魔女娘(こんなにお客さんがいるのに、拍手がまばらだ……)
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/01(火) 19:16:49.90 ID:bBDZCTAW0
司会「どうも、ありがとうございましたー!」

パチパチ… パラパラ…

手品師「……くっ!」

手品師(精一杯やったが……全く盛り上がらなかった……)

魔女娘「手品師さん、お疲れ様でした! 飲み物とタオルです!」

手品師「ありがとう……」



司会「さぁ、それでは皆さんお待ちかね! グレートイリュージョニスト・マジシャンの登場です!」

マジシャン「待たせたね、みんな!」バッ

ワァァァッ!!!
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/01(火) 19:18:55.40 ID:bBDZCTAW0
マジシャン「こうして念じると……ほらっ、花束が出た!」サッ

マジシャン「う〜ん、いい香りだ」クンクン

マジシャン「ほら、みんなも嗅いでくれよ!」ポイッ



ワァッ!!!

パチパチパチパチパチ…

ヒューヒュー… ピーピー…

「マジシャンさーん!」 「ステキーッ!」 「すっげぇ〜! どうやってんだ!?」



魔女娘(やってること自体は、手品師さんとあまり変わりないのに……)

魔女娘(盛り上がり方が全然ちがう……!)
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/01(火) 19:20:29.11 ID:bBDZCTAW0
……

手品師「…………」ガックリ

マジシャン「ほら、今日のギャラだ。ありがたく受け取れよ」

手品師「…………」

マジシャン「どうした? あらためて実力差を目の当たりにして、自信喪失しちまったか?」

手品師「だ、誰が……!」

マジシャン「じゃあ、この盛り上がりの差をなんとも思ってないわけか」

マジシャン「なおさらどうしようもないな」

手品師「なんだと……!」

マジシャン「お前さぁ……もう手品師辞めろよ」

マジシャン「忍びないんだよ。かつて競い合い、憧れさえした男が落ちぶれるのを見るのは……」
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/01(火) 19:22:43.40 ID:bBDZCTAW0
マジシャン「もう分かってんだろ? 自分にはパフォーマーとしての才能がないって」

マジシャン「いわゆる普通の人生を歩むなら、今の年齢くらいがラストチャンスだ」

マジシャン「俺が今日、前座をやらせたのはだな。お前にそれを思い知らせるためだったんだよ」

手品師「ふざけるな! やめてたまるか!」

マジシャン「しょぼい手品師として、わびしい人生を終えるか……ま、それもお前の勝手だ」

マジシャン「狭いアパートの一室で、埃をかぶった手品道具に囲まれながら」

マジシャン「みじめに哀れに孤独に死んでいくんだろうなぁ……」

手品師「お前……!」

マジシャン「お、怒ったか? まだいっちょ前にプライドだけはあるようだな」

マジシャン「ほら、殴ってみろよ。手品師を引退するいい理由になるぜ」

手品師「…………」ググッ…



魔女娘「――ちょっと!」
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/01(火) 19:24:38.78 ID:bBDZCTAW0
魔女娘「いい加減にして下さい!」

魔女娘「ずっと黙ってましたけど……いくらなんでも言いすぎです!」

マジシャン「ん、なんだ君は?」

魔女娘「手品師さんに絡むのをやめないと……」ムクムク…

魔女娘「ガオォォォォォォッ!!!」

マジシャン「わわっ!?」ビクッ

マジシャン(顔だけライオンに!?)

魔女娘「さ、行きましょ!」スタスタ

手品師「あ、ああ……」スタスタ

マジシャン(なんだったんだ、今の……!? マジック……!?)
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/01(火) 19:26:09.38 ID:bBDZCTAW0
手品師「さっきのは……魔法か」

魔女娘「はい、顔だけライオンに化けたんです」

手品師(魔法ってのはそんなこともできるのか……ますます手品がみじめになる)

手品師「ありがとう、助かったよ」

魔女娘「いえ……」

手品師「今日はもう疲れただろう。ここで解散しよう」

魔女娘「あ、でもアパートまで……」

手品師「いや、解散しよう」

魔女娘「……お疲れ様でした!」
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/01(火) 19:28:35.13 ID:bBDZCTAW0
ホウキに乗る魔女娘――

ヒュー……

魔女娘(うーん……)

魔女娘(あたしが見たところ、手品師さんの腕はマジシャンさんにも負けてなかった)

魔女娘(なのに、お客の盛り上がりは全然違った……)

魔女娘(なんでだろう? 手品師さんとマジシャンさん、何が違うんだろう……)
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/01(火) 19:33:26.14 ID:bBDZCTAW0
― 魔女娘の小屋 ―

魔女娘「って、あっ、このところ留守がちだったからすっかりチラシが溜まってる!」

魔女娘「捨てないと……」ガサゴソ…

魔女娘「ん?」



『マジシャンのマジック講座!
 
 宴会やパーティーで使える簡単なマジック、お教えします!』



魔女娘(ふうん、マジシャンさんってこういうこともやってるんだ……)

魔女娘(手品師さんに教えてもらってばかりじゃなく、自分でも自習しなきゃ上達できないし)

魔女娘(これ……受けてみよう!)
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/01(火) 19:34:39.15 ID:bBDZCTAW0
週末――

― 教室 ―

ワイワイ… ガヤガヤ…

魔女娘「…………」コソコソ…



マジシャン「本日は大勢の方にお集まりいただき、ありがとうございます!」

マジシャン「短い時間ではありますが、いくつか簡単なマジックをご教授いたします!」

マジシャン「ご家族やお友達にぜひ披露して下さいね!」



パチパチパチパチパチ…
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/01(火) 19:36:20.08 ID:bBDZCTAW0
魔女娘(……なかなか勉強になったな)

魔女娘(“簡単なマジック”といっても、どれもあたしにとっては難しいのばかりだったけど)

魔女娘(じゃあ帰ろうかな……)

魔女娘(――あ)



マジシャン「…………」スタスタ



魔女娘(マジシャンさんがいる……!)

魔女娘(ようし!)
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/01(火) 19:39:18.64 ID:bBDZCTAW0
魔女娘「あのっ!」

マジシャン「君は! ……手品師と一緒にいた」

魔女娘「手品師さんの弟子、です。今日の講習で、勉強させて頂きました」

マジシャン「あいつに弟子がねえ……完全に腐ってたわけでもなかったか」

マジシャン「あのライオンのマジックは、あいつに教わったの?」

魔女娘「え!? まぁ、なんていうか……アハハ」

マジシャン「企業秘密ってところか」

魔女娘「それで……こちらは秘密なのに、誠に恐縮ですが、教えて頂きたいことがあるんです」

マジシャン「なんだい?」

魔女娘「もしよかったら……手品師さんに足りないものを教えて下さいッ!」

マジシャン「!」

マジシャン「…………」

マジシャン「いいとも」

魔女娘「いいんですか!?」

マジシャン「教えたところで、どうにかできるもんでもないしね」
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/01(火) 19:41:28.72 ID:bBDZCTAW0
マジシャン「俺にあって、あいつに足りないもの、それは――」

マジシャン「情熱だよ」

魔女娘「じょうねつ……」

マジシャン「実はね、俺とあいつは同門の同期なんだよ」

魔女娘「“同門”ってことは、一緒に練習したってことですよね?」

マジシャン「ああ、ある師匠のもとでね」

マジシャン「一門の若手の中で、あいつの才能はずば抜けてた」

マジシャン「師匠のマジックをあっという間に吸収し、いち早く一人前になってしまった」

マジシャン「若手大道芸のコンテストでも、毎回のように優勝や入賞してたっけ」

魔女娘(さすが手品師さん!)

マジシャン「だが――」
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/01(火) 19:43:16.26 ID:bBDZCTAW0
マジシャン「あいつは伸びなかった。そこで止まってしまった」

マジシャン「おそらく、あいつはあまりに簡単に数々の技をマスターしてしまったため」

マジシャン「マジックに対する情熱をなくしてしまったんだ」

マジシャン「マジックってこんなもんなのか……って」

マジシャン「そういうのって、観客も敏感に感じ取るもんさ」

マジシャン「だから、だんだんとあいつのマジックは客にウケなくなっていった」

マジシャン「当然、あいつはますます情熱をなくす」

マジシャン「そんな奴に仕事を回す人間はいないから、仕事もどんどん減っていく」

マジシャン「あいつは誰よりもマジックの才能があったが――」

マジシャン「誰よりも才能がなかったんだ……」

魔女娘「そ、そんな……」
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/01(火) 19:46:01.65 ID:bBDZCTAW0
マジシャン「情熱なんてもんは“取り戻そう!”と思って取り戻せるもんじゃないからね」

マジシャン「こればかりはどうしようもない」

マジシャン「君にこうしてあっさりタネをバラしたのも、どうしようもないって分かってるからさ」

魔女娘「…………」

マジシャン「まあ、これだけ忠告しておこう」

マジシャン「君も手品師として、マジシャンとして生きるなら……あいつから離れるべきだ」

マジシャン「あいつにくっついてても大成はできないよ」

魔女娘「あ、あたしは……離れません! 手品師さんじゃないとダメなんです!」

マジシャン「俺も近く自分の一門を持とうと思っていてね」

マジシャン「弟子入りしたいのなら、いつでも歓迎するよ」スタスタ…

魔女娘「あ、ありがとうございました……」
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/01(火) 19:48:00.52 ID:H+byUxf3o
正直売れるには手品の才能より話術とかタレント性の方が大事なんだよな
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/01(火) 19:50:04.93 ID:bBDZCTAW0
次の日――

― 手品師のアパート ―

魔女娘「ていっ!」パッ

手品師「まだだいぶぎこちないが、コインが瞬間移動してるように見えた。上達したな」

魔女娘「ありがとうございます!」

魔女娘「…………」ソワソワ…

手品師「ん? どうした?」

魔女娘「あの、実はあたし……週末にマジシャンさんの講習に行って……」
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/01(火) 19:52:24.97 ID:bBDZCTAW0
手品師「……情熱が足りない?」

魔女娘「は、はい……」

魔女娘「余計なことかと思ったんですけど……」

魔女娘「あのショーの後の手品師さん、あまりにも元気がなかったから……」

手品師「そうか、あいつにそんなこと聞いたのか……」

手品師「そしたら、ご親切にも教えてくれたってわけか。ふーん……」

魔女娘「きっと、マジシャンさんも手品師さんのことを気にかけて――」

手品師「…………」

手品師「ふざけるなッ!!!」

魔女娘「!」ビクッ
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/01(火) 19:54:47.00 ID:bBDZCTAW0
手品師「あいつにそんなこと聞くなんて、本当に余計なことしやがって!」

手品師「とんだ恥かいちまった! 売れてなくて悩んでますって告白するようなもんじゃねえか!」

魔女娘「いえ、そんな……」

魔女娘「だけど、こういうことはちゃんと聞かないと……」

手品師「聞いてどうなるもんでもないだろ! みじめさが増すだけだ!」

手品師「あ〜……俺、前からずっと疑問だったんだ」

手品師「なんで、魔法を使えるお前が、俺なんかに弟子入りしたのかって」

手品師「お前さぁ……俺をバカにしたかったんだろ?」

魔女娘「え……」
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/01(火) 19:58:42.97 ID:bBDZCTAW0
手品師「お前、多分……魔女の中じゃあまり出来のよくない方なんだろう?」

魔女娘「え、それは、まぁ」

手品師「ほらやっぱりな!」

手品師「前々から、お前の魂胆にはうすうす気づいてたんだ!」

手品師「お前はきっと、魔女として伸び悩んで、スランプだったんだ」

手品師「どうにかして、自信を取り戻したい……」

手品師「だから、明らかに下の存在である手品師である俺に弟子入りするなんてからかって」

手品師「自信を取り戻そうとしてたんだろ?」

手品師「魔女であるあたしはやっぱりすごいんだー……ってな」

魔女娘「そ、そんな……ちが……」
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/01(火) 20:00:34.76 ID:bBDZCTAW0
手品師「だいたい、いくらなんでも覚えが悪すぎる」

手品師「魔法よりはるかに簡単なはずな手品をできないなんておかしい!」

手品師「お前からは真剣さが感じられないんだよ!」

手品師「『手品なんて覚える必要ないし〜、魔法使えるし〜』だなんて内心思ってるんだろ!?」

手品師「手品バカにすんじゃねえよ! この魔女がッ!」

魔女娘「…………!」

タタタッ… バタン…



手品師「ふん、返す言葉もないか! やっぱり図星だったかよ!」
56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/01(火) 20:03:26.45 ID:bBDZCTAW0
手品師「…………」

手品師「これでよかったんだ……」

手品師(手品師として伸び悩んだ時、俺は自分に何が足りないか、どんな手を使っても探るべきだった)

手品師(下らないプライドなんか捨てて、マジシャンにだって頼るべきだった)

手品師(俺にはどうしてもそれができず、落ちぶれ……俺の出来なかったことをあの子がやってくれた)

手品師(それなのに、あの子が教えてくれた時、俺の心には……)

手品師(『恥をかかされた』『余計なことをされた』という思いしか浮かばなかった)

手品師(本来なら、『ありがとう』『よく教えてくれた』となるべきところなのに……)

手品師(俺には、人に何かを教える資格なんてない)

手品師(いや、人を楽しませる手品師である資格すらない)

手品師(いさぎよく引退しよう……)
57 : ◆giYLo4fN2M [saga]:2018/05/01(火) 20:04:02.84 ID:bBDZCTAW0
今回はここまでとなります
次回へ続きます
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/01(火) 20:53:37.68 ID:ZQR3nd8yo
おつ
期待してる
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/02(水) 01:21:53.83 ID:Q8BPu6I80
おつはよはよ
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/05/02(水) 05:26:43.86 ID:Tv6knbkco
むっちゃきになる
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/02(水) 19:35:07.60 ID:0Hs7vLAW0
手品師(夜になった……もうあの子は帰ってこないだろう……)

手品師(引退すると決めたら、なんだかスッキリしちまったな)

手品師(手品への情熱なんか……とっくの昔になくなってたってことだろう)

手品師(散歩にでも出かけるか……)スタスタ…
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/02(水) 19:38:36.66 ID:0Hs7vLAW0
手品師(……ん?)



チャリーン…

チャリーン…



手品師(この音は……コイン?)

手品師(ま、まさか!?)
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/02(水) 19:40:09.92 ID:0Hs7vLAW0
魔女娘「えいっ!」

魔女娘「あっ!」チャリーン

魔女娘「ダメだ……もう一回! どうしても、手品師さんのようにできない……!」





手品師(あいつ……!)

手品師(まさか、アパート飛び出してからずっと練習してたのか!?)
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/02(水) 19:42:28.47 ID:0Hs7vLAW0
手品師「……おい」

魔女娘「あっ!」

手品師「何やってるんだ?」

魔女娘「えーと、自主トレです!」

魔女娘「さっき手品師さんを怒らせてしまったから、もっともっと練習しようと……」

手品師「…………」

手品師「あんだけなじられて、まだ手品をやろうだなんて……バカだな」

魔女娘「す、すみません! あたし、本当にバカで……。魔女の里でもいつも……」
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/02(水) 19:44:42.91 ID:0Hs7vLAW0
手品師「なんでだ? なんでそんなに手品が好きなんだ?」

手品師「それに、手品を習うなら、もっといい人がいくらでもいるだろうに……」

手品師「さっきのやり取りで、俺がろくでなしだってのは分かっただろうに……」

魔女娘「それは……」

魔女娘「あたし、手品師さんに救われたことがあるからです」

手品師「え……!?」

魔女娘「魔女の里では見習い時代にも、人間の街で修行するしきたりがあるんです」

魔女娘「色んな経験をした方が、魔力も伸びるし、魔法も上達しますからね」

魔女娘「だけど、あたしは全然うまくいきませんでした。そんな時――」
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/02(水) 19:47:04.93 ID:0Hs7vLAW0
――

――――

魔女娘『はぁ〜、里を出たはいいけど、魔法がちっとも上達しない……』

魔女娘『このままじゃ、またみんなにバカにされる……』

手品師『ん?』

手品師『君、そんなところに座って、どうしたんだい?』

魔女娘『(人間の男の人!)あ、いえ……なんでもないです!』

手品師『そうか……よかったら、俺の手品を見てくれないか?』

手品師『今日もいくつか覚えたから、誰かに披露したくてウズウズしてたんだ』

魔女娘『手品……?』

魔女娘『まぁ、いいですけど』
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/02(水) 19:49:02.45 ID:0Hs7vLAW0
手品師『ほらっ、猫のぬいぐるみがライオンのぬいぐるみになりました〜! ガオーッ!』

魔女娘『わっ、すごーい!』パチパチパチ

魔女娘『魔力は感じられないのに……これは魔法なんですか?』

手品師『いや、魔法じゃないよ。これは手品さ』

魔女娘『これが……手品……』

手品師『もし、魔法というものがこの世にあるんなら、多分それは選ばれた人しか使えないんだろう』

魔女娘『その通り、です』

魔女娘(魔法を使えるのは、魔女の里に生まれた魔女だけ……)

手品師『だけど、手品は違う!』
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/02(水) 19:51:19.02 ID:0Hs7vLAW0
手品師『手品にはタネがある。だから練習すれば誰だってできるようになる』

手品師『もちろん、手品によっては本当に難しいものもあるし、個々の素質の差もあるけどね』

魔女娘『あたしでも……できるようになりますか?』

手品師『もちろんだとも!』

手品師『もし、君も……何かができないと壁にブチ当たった時があったら、練習あるのみだ』

手品師『そうすれば、きっとできるようになる!』

魔女娘『ありがとうございます! あたし、おかげで元気が出ました!』

手品師『それはよかった』

――――

――
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/02(水) 19:54:18.76 ID:0Hs7vLAW0
手品師「……そんなことが」

手品師(そういや、そんなことがあったって記憶はある)

手品師(あの頃はまだ、俺も落ちぶれてなく、手品が楽しかった頃だ……)

魔女娘「おかげであたしは、魔法の練習に身が入るようになり」

魔女娘「里に戻った後での試練で、ようやく見習い魔女を卒業できたんです」

魔女娘「そして、もう一度人間の街にやってきた時は――」

魔女娘「絶対手品師さんに弟子入りしよう、手品ができるようになろうって決めてたんです」

魔女娘「だから……あたしは手品が好きなんです。手品師さんじゃなきゃ、ダメなんです」

手品師「…………」
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/02(水) 19:56:30.82 ID:0Hs7vLAW0
手品師「ごめんっ! ……本当にごめんっ!」

魔女娘「え!?」

手品師「君が本気で手品に取り組んでるってのに、俺は……! ずっと君を疑ってて……!」

手品師「さっきはあんなひどいことを……!」

手品師「手品をバカにしてたのは君じゃない……! 俺の方だ!」

魔女娘「いえ、そんな! あたしだって悪いんですから!」

手品師「さっき猛練習してる君を見て、俺はかつての自分や、修行時代のマジシャンを思い出したよ」

手品師「君のおかげで、俺も少しは情熱ってもんを取り戻せたかもしれない」

魔女娘「手品師さん……」

手品師「これからは君のことを、本気で指導していくぞ! 覚悟はいいな!?」

魔女娘「はいっ!」

手品師「いい返事だ!」
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/02(水) 19:58:26.76 ID:0Hs7vLAW0
魔女娘「それじゃあ……」

魔女娘「これからは手品師さんのこと、先生って呼んでもいいですか?」

手品師「先生、か。ちょっと照れ臭いけど」

手品師「いいとも!」

魔女娘「やったぁ!」

手品師「う〜ん、手品をやりたくてウズウズしてきた」

手品師「さっそくアパートに戻って、特訓だ! 魔女娘!」

魔女娘「はいっ、先生!」
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/02(水) 20:00:36.04 ID:0Hs7vLAW0
― ショッピングモール ―

手品師「さぁさぁ! 手品を始めるよ〜!」

魔女娘「見ないと損ですよ〜!」



ワイワイ… ガヤガヤ…

「面白そうだな」 「ちょっと見ていこうか」 「いつもより雰囲気いいね」



手品師「破いた新聞紙が……はい、元通りっ!」サッ

魔女娘「うわっ!? どうなってるの!?」



オォ〜……!
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/02(水) 20:02:26.69 ID:0Hs7vLAW0
― 路上 ―

魔女娘「ううう……緊張する……」

手品師「路上でやるなら、とにかく目立たなきゃな。いつも以上に騒いでくれよ」

魔女娘「はいっ!」

手品師「さあさあ通行人の皆さん! 疲れた体にちょっとした手品はいかがですか〜?」

手品師「さぁて、袖から栄養ドリンクでも出すか」サッ

魔女娘「キャーッ! すっごーい! タウリンたっぷり!」



ザワザワ… ワイワイ…
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/02(水) 20:05:18.46 ID:0Hs7vLAW0
― バー ―

手品師「手に持ってる100円玉が、なんと……」

手品師「あららっ! ほら! 10000円札に!」パッ

手品師「これがホントにできりゃ、手品師なんかやってないんですけどねえ」



オォ〜……! ハハハ…

「へぇ〜、すごいもんだ!」 「楽しそうに演じてるな、あの人」 「いいぞーっ!」



店主「ご苦労さん。おかげで盛り上がったよ。次回も期待してる」

手品師「ありがとうございます!」
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/02(水) 20:08:29.61 ID:0Hs7vLAW0
酔っ払い「……おい」

手品師「はい?」

手品師(ゲ、いつぞや俺に絡んできた……)

酔っ払い「さっきのあんたの手品、すごくよかったよ」

手品師「え……」

酔っ払い「前までは、どこかつまんなそうに手品してたから、正直ムカついてたんだが」

酔っ払い「今日のあんたは本当にすごかった……」

酔っ払い「まるで、子供の頃に戻ったように、手品を楽しめたよ」

酔っ払い「この前は……絡んだりして申し訳なかった!」

手品師「こちらこそ……どんなお酒より、酔える言葉をありがとうございます」

手品師(前までの俺は、小さな仕事に対してはふてくされた態度を取っていた……)

手品師(だけど今は、どんな仕事も楽しい! 手品をすること、見られることが楽しい!)

手品師(これも、魔女娘のおかげだ……)
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/02(水) 20:11:32.27 ID:0Hs7vLAW0
……

― マジシャンの事務所 ―

マネージャー「……マジシャンさん」

マジシャン「なんだ?」

マネージャー「以前、前座に採用したあの手品師なのですが……」

マジシャン「とうとう引退したのか?」

マネージャー「いえ……このところ少しずつ評判を上げているようです」

マネージャー「地方紙ですが、新聞にも取り上げられていて……」バサッ

マジシャン「…………」

マジシャン「あの子、だな。俺も余計なことをしてしまったよ」
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/02(水) 20:13:49.30 ID:0Hs7vLAW0
マジシャン「マネージャー」

マネージャー「はい」

マジシャン「俺が若手ナンバーワンといわれて数年……頂上からの景色ってのは実にいいもんだ」

マネージャー「は……?」

マジシャン「俺はこのまま独走を続けたい。俺を脅かす、強力なライバルなんか必要ない」

マネージャー「…………!」

マジシャン「俺のいいたいことが分かるな?」

マジシャン「ヤツは……俺の手でツブす!」
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/02(水) 20:16:33.07 ID:0Hs7vLAW0
― 上空 ―

ビュオッ!

魔女娘「ふんふ〜ん」

魔女娘(今日も先生のお手伝いをして、楽しかったな〜)

「ずいぶんと楽しそうだこと」

魔女娘「はいっ、とても楽しいです!」

魔女娘(――って誰!? 今あたし、ホウキで空にいるのに!?)
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/02(水) 20:19:25.44 ID:0Hs7vLAW0
金髪魔女「お久しぶり、半人前さん」

魔女娘「あっ……せ、先輩!」

魔女娘「どうしてここに……!?」

金髪魔女「出来の悪い後輩が、人間の街で男と遊んでるって聞いたから駆けつけてやったのよ」

金髪魔女「てっきり美少年アイドルとか、大会社の社長なんかをゲットしたのかと思ったら……」

金髪魔女「まさか、あんな冴えない男と仲良くしてるだなんてねえ」

魔女娘「先生は冴えない男なんかじゃありません!」

金髪魔女「ふん、金もない、地位もない、魔力の欠片もない男に、ずいぶん熱を上げてるじゃないの」

金髪魔女「いい? 魔女というのは、選ばれた人種なの。この世で一番の存在なの」

金髪魔女「だから男も最高クラスの男を選ばなきゃいけないわけ」

金髪魔女「あなたみたいなことされると、魔女全体の品位が落ちてしまうのよねえ」

魔女娘「ううう……」
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/02(水) 20:22:11.46 ID:0Hs7vLAW0
魔女娘「あまり先生をバカにすると、先輩といえど許しませんよ!」

金髪魔女「あら、怒ったの? どうするつもり?」

魔女娘「風よ!」パァァァ…

金髪魔女「風よ!」パァァァ…



ビュオオオオオオッ!!!



魔女娘「きゃあああああああっ!」グルグルグルッ

金髪魔女「血迷った? 魔法で私に敵うわけないでしょ? 見習いを終えたばかりの半人前のくせに……」

魔女娘「ううっ……」ヨロヨロ…
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/05/02(水) 20:24:48.84 ID:0Hs7vLAW0
金髪魔女「仮にも魔女ともあろう者が、あんなクズ男にほだされちゃって……」

金髪魔女「これは先輩として放っておくわけにはいかないわね」

金髪魔女「あなたの“先生”とやらがどれほど大したことない存在か、私自ら見定めてあげる!」

金髪魔女「オーッホッホッホッホ……!」



魔女娘(どうしよう……)

魔女娘(とんでもないことになっちゃった……)
82 : ◆giYLo4fN2M [saga]:2018/05/02(水) 20:25:33.18 ID:0Hs7vLAW0
今回はここまでとなります
次回へ続きます
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