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僧侶「勇者様は勇者様です」
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566 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 15:30:21.75 ID:8Mb4mLm20
僧侶「きゃっ!?」
黒い騎士は僧侶と自分の腕を抱えてその場を離脱することにした。
作戦による撤退以外で、敵に背を向けたのは初めてだった。
それほど圧倒的な何かを、勇者から感じたのだ。
勇者「僧侶を離せええええええええっ!!!!」
その背後から勇者が迫った。
背中の傷で死ぬとは、何とも不名誉なことだ、と騎士は思った。
迫る勇者の肩に、矢が突き刺さった。
勇者も良く知る、生木から削り出された特殊な矢だ。
勇者「な、んで……!」
567 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 15:31:19.99 ID:8Mb4mLm20
射手は、木の上からその紅い瞳で勇者たちを見下ろしていた。
僧侶「エ、エルフさん……! 一体何で!!」
紅目のエルフ「…………」
勇者達が初代格闘家の隠れ家を出た直後に入ってきた情報を思い出した。
>大陸会議で取りまとめられた帝国、王国、共和国による共同攻撃が魔国に向けて行われたが、それは完全に失敗に終わってしまった。
>まるで、作戦の全てが筒抜けであったように。
>現在各国は内通者の存在を疑っている。
>特に、あの会議の場に居た者が疑わしいとされている。
勇者「内通者って……エルフさん、だったの……?」
紅目のエルフ「……そうよ」
568 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 15:35:22.74 ID:8Mb4mLm20
勇者「いつから……!」
紅目のエルフ「最初からよ。私は新生魔王軍の弓兵なの」
僧侶「そんな……」
紅目のエルフ「私ね、人間なんて大嫌い」
紅目のエルフ「私が何であそこまで奴隷商人達を追っていたか教えてあげるわ」
紅目のエルフ「昔、私も奴隷だったのよ」
紅目のエルフ「ハイエルフの白い肌に、ダークのエルフの紅い瞳が珍しいって、随分な高値で取引されたのを覚えているわ」
紅目のエルフ「一緒に妹も奴隷として市場に並んでいた」
紅目のエルフ「でも妹は身体が弱くて、粗悪な環境に耐えられなかった」
紅目のエルフ「安値で叩き売りされて……それで買った奴は妹を連れて行く際に何ていったと思う?」
569 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 15:37:14.46 ID:8Mb4mLm20
紅目のエルフ「『壊れる前に沢山使ってやる』ってね」
僧侶「ひ、酷い……」
紅目のエルフ「私や妹みたいな目にあった亜人は、大陸中に幾らでもいるはずよ」
紅目のエルフ「そして皆、人間を恨んでいる」
紅目のエルフ「現に、奴隷商から救い出された人外奴隷達の多くがこちらの軍門へ下ったわ」
暗器使い「エルフの森で奴隷商から情報を聞き出した途端に、各地で奴隷市場が襲撃されたのはそういう事か」
紅目のエルフ「そうよ」
僧侶「法国での検問を突破できたのはどういう事なんですか……!?」
紅目のエルフ「それは簡単なことよ。まだ魔王軍での契の儀式をしていないから、術の検知に引っかからなかったの」
紅目のエルフ「何でかは知らないけれど、勇者一行の紋章まで出ちゃうもんだから、内通者にピッタリでしょう?」
570 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 15:38:19.50 ID:8Mb4mLm20
紅目のエルフ「法王サマは、紋章持ちにはそれぞれ役割があるなんて言っていたけれど、私の役割って何だったのかしらね」
紅目のエルフ「勇者一行を騙して出し抜いてやるってのが役目だったのかもね、あははっ」
僧侶「エルフ、さん……」
紅目のエルフ「皆上手いこと騙されてくれて良かったわ」
暗器使い「……薄々は、気がついていた」
紅目のエルフ「あら、そうなの?」
暗器使い「まず内通者の存在を疑ったのは、あまりに都合よく敵が現れる事からだ」
暗器使い「始めのうちは勇者の行く先を阻むように何度も……今思えばこれは紋章持ち探しを妨害するためだったんだろう」
暗器使い「そして法国での一件を皮切りに、勇者を排除する方針に変わった訳だが……」
暗器使い「あんな山奥に幹部級が二体も現れたのはおかしかった。確実に行き先を流している奴が身近にいなければな」
571 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 15:40:01.09 ID:8Mb4mLm20
紅目のエルフ「ま、私達の中に内通者がいるとすれば消去法で私よね」
暗器使い「……いや、それでも仲間であるお前を疑いたくは無かった」
紅目のエルフ「……あっそ」
暗器使い「だが確信に変わったのは、ある事に気がついたからだ」
勇者「ある事……?」
暗器使い「法国でその騎士に出会ったときからそうだ」
暗器使い「お前、一度だって新生魔王軍の配下相手には直接攻撃をしていないだろう」
勇者「……確かに……」
僧侶(言われれば……)
暗器使い「法国のダンジョンでは違和感なく戦闘から離脱できるように、あんな芝居を打って俺達と離れたんだろう?」
572 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 15:40:48.73 ID:8Mb4mLm20
紅目のエルフ「芝居を打ったなんて酷いわ。あの時はこの騎士サマが本気で勇者を殺しに行くから」
黒い騎士「……俺はあの時点で、勇者が危険な力を秘めていると感じ取っていた……」
暗器使い「……そう、“そこに俺は違和感を感じていた”」
紅目のエルフ「違和感……?」
暗器使い「その時もそうだしが、何より……」
暗器使い「何故格闘家の隠れ家での一戦で、サロスから僧侶を庇った! 最後にゼパールの逃亡を妨害した!!」
紅目のエルフ「……!」
暗器使い「お前の行動にはゼパールも解せない表情をしていた」
暗器使い「お前は恐らく……」
紅目のエルフ「……違うわ」
573 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 15:42:01.08 ID:8Mb4mLm20
暗器使い「お前は勇者達が、仲間が大切に感じられるようになっていたんじゃ無いのか!!」
紅目のエルフ「違うわよ!!!!」
紅目のエルフ「勝手なこと、言わないで……」
紅目のエルフ「少しあなた達のおままごとに付き合ってあげただけよ」
紅目のエルフ「早く撤退しましょう。これ以上は時間の無駄だわ」
黒い騎士「……ああ……」
僧侶「は、離して……!」
黒い騎士が僧侶を抱えて踵を返した。
僧侶(駄目……もう一度術を打つ力の余裕がない……)
勇者「待て……!!」
574 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 15:45:49.18 ID:8Mb4mLm20
暗器使い「追うな勇者!!」
勇者「だけれど!!」
暗器使い「こっちはもう全員が満身創痍だ。下手に深追いして敵の罠があったらどうするつもりだ……!」
辻斬り「……俺も同意見だよ。これ以上は危険だ」
勇者「このままじゃ僧侶が殺されてしまうんだよ!?」
暗器使い「いいか。今追えば敵の思う壺かもしれない」
暗器使い「僧侶が攫われたのは、俺達の力が足りなかったからだ。この足りない力では、世界どころか僧侶だって救えない。そうだろ?」
勇者「くっ……!」
暗器使い「それに……気休めかもしれんが聞いてくれ」
暗器使い「僧侶は恐らく殺されない」
575 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 15:46:33.70 ID:8Mb4mLm20
辻斬り「……なんでだい?」
暗器使い「初めの頃、勇者が殺されずに見逃されていた理由と同じだ」
暗器使い「僧侶を殺せば次の僧侶の紋章持ちが現れるだけだ」
辻斬り「なら、殺さずに捕らえておいた方が良い、か」
暗器使い「ああ。奴らはあの能力がこちらの陣営にいることを厄介に思っていたようだからな」
暗器使い「それに、殺すならこの場でも出来たことだ」
暗器使い「黒い騎士はそうしようとしていたが……アイツはそうはしなかった」
勇者「……エルフさん……」
暗器使い「……良いか勇者」
暗器使い「今の俺達に出来ることは二つだ」
576 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 15:47:19.82 ID:8Mb4mLm20
暗器使い「一つは今まで通り、残りの紋章持ちを探すという事」
勇者「……残りは魔法使いと格闘家の紋章持ちだね」
猫又「へえ、紋章持ちっていうのは全部で七人なんだ」
暗器使い「……そして二つ目は、俺達自身がもっと強くなることだ。もう二度と負けないためにもな」
勇者「うん……そうだね」
暗器使い「それから勇者。お前に一つ聞いておきたい」
暗器使い「その剣と、お前自身についてだ」
勇者「…………」
暗器使い「そろそろ俺達も、知っておいて良いんじゃないのか?」
勇者「……分かった。話すよ」
577 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 15:48:01.20 ID:8Mb4mLm20
勇者は街まで戻り安全が確保できた所で、暗器使い達に剣の秘密を語った。
暗器使い「……驚いたな。その剣の中に“初代勇者様がいる”って言うことになるのか?」
勇者「そうだと思う」
勇者「初めの内は夢にぼんやりと出てくる程度だったんだけど、最近ははっきりと認識できるようになったんだ」
勇者「剣のおかげで僕は初代勇者様の力を借りることが出来る」
勇者「それこそ最近は……かなり力が馴染んできた感覚があるよ」
暗器使い(時折別人のように強くなるのはそのせいか……)
暗器使い「しかし何で今日までその事を黙っていた? 何か問題でもあるのか?」
勇者「それは……その……ほら、確証が持てなかったって言うか」
勇者「この剣に宿っているのが誰かをきちんと認識できるようになったのは最近だから、言い出すタイミングがなくて」
578 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 15:53:04.52 ID:8Mb4mLm20
暗器使い「……そうか。そういう事にしておこう」
勇者「うん……」
猫又「あのさ、初代勇者の魂と一体化したような状態になったおかげで記憶の共有も出来たのなら、あの騎士のことも何か分からないの?」
勇者「ええっと、まだ完全に記憶が共有できている訳じゃ無いんだ」
勇者「現に魔王の事ですら何にも頭に浮かんでこないんだ」
勇者「ただそれにしても恐らくは……あの騎士は千年前の大戦の時にはいなかったはずだよ」
辻斬り「新しく加入した幹部って事か」
辻斬り「ま、新生なんて名乗るぐらいだし中身は結構別物って可能性は高いね」
辻斬り「初代勇者の記憶……場合によっては俺達にとってかなり有益な情報をもたらしてくれるかもしれないね」
暗器使い「かもな……」
579 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 15:53:50.27 ID:8Mb4mLm20
暗器使い「そんで、これからそうするんだ? いつもの直感で行きたい場所は無いのかよ」
勇者「それがね……中々ピンと来なくて」
勇者「もしかしたら、ここで少し腕を磨いていけって事なのかもしれない」
辻斬り「そういう事なら付き合うよ」
辻斬り「俺もかなり、剣筋に鈍りがあるみたいだからねえ」
暗器使い「お前はどうするんだ?」
猫又「私? ……うーん……」
猫又「君たちが良ければだけど、しばらくは一緒に行動してみようかな」
猫又「妖刀の監視もしなきゃ、だし」
辻斬り「それは心強いけど……何でまた?」
580 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 15:54:39.94 ID:8Mb4mLm20
猫又「盗品の刀は今回で全部回収できたから、私の生きている目的っていうのは果たされてしまったわけ」
猫又「前はね、その目的が無くなったあとどうしたら良いんだろうって不安だったの」
猫又「でもね、皇国で知り合ったある二人組のおかげでその不安も消えた」
猫又「どんな些細な、どんな下らない事でもまた次を見つければ良い。簡単なようで難しいことだけど、そう思うようにしてるの」
猫又「しばらくは君たちが歴史をどう動かしていくのか眺めているのも面白いかなあって」
暗器使い「同行者が増えるのは心強いが、大丈夫なのか?」
勇者「あんまり紋章持ち以外が仲間になると良くないとは聞いているけど、一人や二人なら何の問題も無いはずだよ」
勇者「実際初代勇者様だって色々な人と冒険していたからね」
勇者「猫又さんが良いなら是非」
猫又「それならしばらく厄介になるね」
581 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 15:55:12.09 ID:8Mb4mLm20
辻斬り「あんたと一緒に行動する日が来るとはね……」
猫又「それはこっちのセリフ。あのときの傷跡残っているんだから」
辻斬り「それは……悪かったよ」
猫又「ま、いずれ何かの形で返してもらうわ」
辻斬り「ああ、そうする」
辻斬り「さて、取り敢えずは道場に戻るって事で良いんだよね」
勇者「うん、そうしようかな」
辻斬り「それじゃあ行こうか」
辻斬り(初代勇者が宿った剣か……恐らくはこの刀も……)
辻斬り(いろいろと調べてみる必要が有りそうだな)
582 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 15:56:56.75 ID:8Mb4mLm20
*
──数日後、魔国にて
百目の異形「では無事に僧侶の紋章持ちを捕獲できた、と」
黒い騎士「ああ……だが肝心の勇者を仕留めきれなかった」
隻腕の忍「あっちには剣士の紋章持ちも加わっていたんだろ? それは予定外だったから仕方が無い」
隻腕の忍「あの紋章持ちは毎度毎度、単純戦闘力が飛び抜けているからな」
妖艶な術師「だからこそ、発展途上の今に叩いてしまえれば良かったのだけれど」
黒い騎士「済まない……」
妖艶な術師「まあ、僧侶の力と貴方の魂の相性は最悪だからね……不意打ちを食らったのであれば仕方が無いけれど」
百目の異形「もう少しそちらに兵力を回せれば良かったのだが、敵の目を掻い潜るためにはあまり大所帯では困るのでな……」
583 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 15:58:53.52 ID:8Mb4mLm20
隻腕の忍「何より人間の連合国側の攻撃が苛烈になってきているからなあ。主力はやはり前線に置きたい」
隻腕の忍「向こうも先の作戦の失敗分を取り戻そうと必死なんだろう」
百目の異形「うむ。その件については見事な働きだったぞ、エルフよ」
百目の異形「まさか勇者パーティー内に間者がいるとは思いもしなかっただろう」
紅目のエルフ「……それはどうも」
妖艶な術師「それにしても、僧侶は殺さなかったのね」
妖艶な術師「当代はかなり強い力を持っているみたいだから殺して次に移しても良かった気がするけれど」
妖艶な術師「長いこと一緒に居て情でも移っちゃった? エルフちゃん?」
紅目のエルフ「……まさか」
新生魔王軍の長「そこまでにしておけ」
584 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 15:59:27.28 ID:8Mb4mLm20
新生魔王軍の長「黒い騎士が殺さずに捕獲をしたのであれば、あれは騎士の物だ」
新生魔王軍の長「四天王は互いに過干渉をしてはならない……そう決めたはずだ」
妖艶な術師「分かっているわ。ちょっと疑問に思っただけよ」
新生魔王軍の長「今回は先の戦の穴を突いて黒い騎士らを送り込めたが、この先は警戒も強まってそう簡単には行かないだろう」
新生魔王軍の長「残りの転移魔法陣も多用はでき無いのでな」
新生魔王軍の長「勇者本人を叩けなかったのは痛かったが、回復役を削げたのは大きい」
新生魔王軍の長「次の機を見て当代勇者は消す」
新生魔王軍の長「四天王はこの先も自身の役割を果たせ。良いな?」
百目の異形「うむ」
妖艶な術師「はあい」
585 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 15:59:59.79 ID:8Mb4mLm20
黒い騎士「承知した」
隻腕の忍「へいへい」
新生魔王軍の長「紅目のエルフも今後は別の役割を与えることになる。頼んだぞ」
紅目のエルフ「分かりました……」
新生魔王軍の長「傲慢な人間共からこの大陸を奪い取る。その日まで我々は止まれん」
新生魔王軍の長「さあ奴らにもう一泡吹かせてやろうか……!!」
586 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 16:00:44.72 ID:8Mb4mLm20
《ランク》
S2 九尾
S3 氷の退魔師 長髪の陰陽師 初代格闘家
A〜 黒い騎士
A1 赤顔の天狗 共和国首都の聖騎士長 第○聖騎士団長
A2 辻斬り 肥えた大神官(悪魔堕ち) レライエ ゼパール 勇者(初代の力)
A3 西人街の聖騎士長 お祓い師(式神) 赤毛の術師 隻眼の斧使い サロス
B1 狼男 赤鬼青鬼 暗器使い
B2 お祓い師 勇者 第○聖騎士副団長 褐色肌の武闘家
B3 猫又 小柄な祓師 紅眼のエルフ
C1 マタギの老人 下級悪魔 エルフの弓兵 影使い オーガ 竜人 ゴロツキ首領 柄の悪い門下生
C2 トロール サイクロプス 法国の熱い船乗り 死霊騎士
C3 河童 商人風の盗賊 ウロコザメ
D1 若い道具師 ゴブリン 僧侶 コボルト
D2 狐神 青女房 インプ 奴隷商 雇われゴロツキ 粗暴な御者
D3 化け狸 黒髪の修道女 天邪鬼 泣いている幽霊 蝙蝠の悪魔 ゾンビ
※あくまで参考値で、条件などによって上下します。
※黒い騎士は特に条件変動が激しいためA〜とします。
※聖騎士団長は全団A1クラス
※聖騎士副団長は全団B2クラス
※前作「フードの侍」を「猫又」に変更。
※勇者(初代の力)は名前の通り、剣の力に頼った状態でのランクです。
※お祓い師(式神)は、狐神の力を借りている時のランク。
587 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 16:01:33.99 ID:8Mb4mLm20
《出会いと》編でした。
次回は《不毛の大地》編です。
588 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/07/03(水) 02:08:25.04 ID:PPMgNJKDO
待ってたぜ!乙乙
589 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 19:57:31.58 ID:B6eGxfUL0
《不毛の大地》
──紅目のエルフが裏切り者だと判明し、僧侶が新生魔王軍に攫われてから二ヶ月が経過しようとしていた。
連合国と魔国の戦いは一進一退で終りが見えず、日に日にお互いが疲弊していくのが感じられた。
紅目のエルフの裏切りが露見した事もあり、過激派がより一層人外を糾弾するようになった。
彼らと人外擁護派の衝突によって戦線から遠い街の治安も悪化の一途を辿っていた。
勇者達はそんな各地を回って暴動や事件を治めながら、他の紋章持ちを探して帝国から共和国へと拠点を移すことになっていた。
勇者「あ、暑い……」
暗器使い「これはキツイな……」
帝国と共和国の国境を越えてしばらく、勇者達は巨大な砂漠の真ん中を進んでいた。
辻斬り「地域的に暑いのは当然なんだけど、こうも植物がないと肌を刺すような暑さになってしまうんだねえ……」
猫又「水ちょうだい……」
590 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 19:58:18.69 ID:B6eGxfUL0
辻斬り「はいはい」
勇者「次の集落まではどれ位かな」
暗器使い「日が沈むまでには着けそうだな」
猫又「良かった。夜は日中と打って変わって冷え込むから」
辻斬り「その距離なら水も十分持ちますね」
暗器使い「ああ、あと少しだ。頑張って行こう」
勇者「……そうだね」
休憩を終え、砂漠でのメジャーな移動手段となる砂漠アシダカドリに各々騎乗した。
最後に腰を上げた勇者は身長こそ変わらないものの、少し逞しい背中に成長していた。
591 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 19:58:48.75 ID:B6eGxfUL0
*
目的の集落が近付いて来た時、勇者達はある異変に気がついた。
猫又「何か騒がしいね」
勇者「うん、行ってみよう……!」
勇者達が騒ぎの起こっている方へと駆け付けると、集落で逃げ惑う人々の姿があった。
砂漠の村人A「に、逃げろおおおお!!」
砂漠の村人B「ヒイイイイイッ!!」
勇者「一体何があったんですか!?」
砂漠の村長「た、旅の人かね……! ここは危ないから逃げなさい!」
砂漠の村長「“ヤツ”らが現れたのだよ……!!」
592 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 19:59:43.17 ID:B6eGxfUL0
暗器使い「ヤツら……?」
その時、勇者達の背後の砂の中から巨大な影が姿を現した。
砂漠の村長「あ、危ないっ……!!」
暗器使い「何だ!? ジャイアントワームか!?」
巨大なミミズのような怪物が、勇者達を飲み込もうとその口を開けて迫ってきた。
勇者「っ!!!!」
しかし、次の瞬間には勇者の抜いた剣によって真っ二つに切り裂かれてしまった。
辻斬り「うん、だいぶ様になってきたな」
勇者「……まだまだ、辻斬りさんには敵わないよ」
砂漠の村長「あ、貴方がたは一体……」
593 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:00:19.17 ID:B6eGxfUL0
勇者「僕は勇者です。ここは僕たちにお任せを」
*
しばらくして、集落に大量発生していた怪物たちは一掃された。
お礼に、と勇者達は快く集落に招き入れられたのだった。
砂漠の村長「勇者様方にはなんとお礼を言えば良いのか……」
勇者「そんな、当然のことをしたまでですよ」
辻斬り「それにしても、さっきの怪物たちは一体……」
砂漠の村長「あれはジャイアントワームの砂漠固有種、サンドワームです」
砂漠の村長「砂の中から馬や牛ですら一飲みにしてしまう恐ろしい怪物ですが、ある特定の音を嫌がるという性質が有りましてな」
砂漠の村長「その音を砂中に流し続ける特殊な魔法の鐘で集落を守るのがこの辺りでは普通の事なんですよ」
594 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:02:44.16 ID:B6eGxfUL0
猫又「そんな事を知らずに砂漠越えをしていたね」
辻斬り「最悪睡眠中に食われていたかもねえ」
暗器使い「まったく運が良いんだか、なんだかなあ……」
暗器使い「それで、今回はその鐘が有りながらなんであれ程のサンドワームが集落に?」
砂漠の村長「最初は鐘の故障を疑ったのですが、どうやらそうでは無いらしく……」
砂漠の村長「サンドワームの生態に詳しい者によると、何やら奴らは怯えた様子だったと言っていましてね」
猫又「普通なら嫌がる鐘の音を無視できる程の何かから逃げてきた、と」
砂漠の村長「うむ……」
砂漠の村長「先程他の集落からも同様の報告が来ましてね。この砂漠で何かが起こっている可能性は高いでしょうな」
勇者「サンドワームが怯える程の何か……」
595 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:03:36.41 ID:B6eGxfUL0
勇者「…………」
砂漠の村長「…………」
砂漠の村長「勇者様のお考えになっていることは分かります。ですがご自身の目的のためにここは早く出られたほうが良いでしょう」
勇者「で、ですが……」
砂漠の村長「今回は急にヤツらが現れたものだから対応に遅れましたが、警戒をすれば何てことは有りませんな」
砂漠の村長「既に周辺集落との連携も始めていましてね」
暗器使い「勇者、村長のおっしゃる通りだろう」
暗器使い「実際さっきの戦い、彼らの活躍が大きかっただろう?」
村守護のダークエルフ「町へ食糧の買い出しに行っている間にこんな事に……申し訳ない」
砂漠の村長「何、自分の人員配分ミスだ」
596 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:04:13.28 ID:B6eGxfUL0
砂漠の村長「我々はこの砂漠で代々ずっと暮らしてきた民族でしてね」
砂漠の村長「この程度の困難、乗り越えてみせましょう」
勇者「……分かりました」
砂漠の村長「しかしやはり砂漠に現れた何かについて、勇者として気になる点は有るのでしょうな」
砂漠の村長「他の集落からの情報をまとめると、方角は恐らく南東側……」
砂漠の村長「この共和国の首都の方角とおおよそ一致しますな」
砂漠の村長「あちらの方がより情報が手に入るでしょう。元々の目的地のようですからな、丁度良いのでは?」
猫又「そういう事なら明日の朝にはまた出発した方が良さそうだね」
辻斬り「うん。今晩はお言葉に甘えてここで休ませて貰おうか」
砂漠の村長「ええ、しっかりと疲れを取って下され」
597 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:05:00.79 ID:B6eGxfUL0
*
翌朝、村長の厚意で携帯用のワーム避けの鈴を貰い、勇者達は共和国首都を目指して出発した。
更に砂漠の案内人としてダークエルフが同行してくれる事になった。
勇者「すいません、わざわざ僕たちのために……」
村守護のダークエルフ「旅人を送り届けるのも我々の仕事だ」
勇者(確かにそれなりのお金も取られたけど……この地で暮らすために必要な仕事なんだろうな)
村守護のダークエルフ「村のことは大丈夫だ」
村守護のダークエルフ「……この砂漠は広いが、生き物が暮らせる場所は限られている」
村守護のダークエルフ「水が湧き、わずかに緑が茂る場所に少数が寄り添う……そんな村々が点在している」
村守護のダークエルフ「一つ一つの規模が小さいからこそ、昔から有事の際は皆で結託をして乗り越えてきた」
598 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:08:43.68 ID:B6eGxfUL0
村守護のダークエルフ「今回も“何か”が起こっていると思われる場所の周囲の者は、比較的広い集落へと避難させ、我々ダークエルフが重点的に守護にあたっている」
暗器使い「ダークエルフは古来よりこの砂漠に住まう亜人種なんだな?」
村守護のダークエルフ「……古来言うほど長い歴史は無い。せいぜい八百年ほどだろう」
猫又「八百年でも十分長いけれど……」
辻斬り「俺達と亜人とでは時間の尺度が違うのさ」
勇者「失礼な質問になってしまうんですが、良いですか」
村守護のダークエルフ「気にするな。だいたい聞きたいことは分かる」
村守護のダークエルフ「何故こんな不便な場所に住んでいるのか、だろう?」
村守護のダークエルフ「理由は森の民と大体同じだ。過去の大戦で人間と人外が対立した後、教会勢力がいる国々では俺達亜人も迫害の対象になった」
辻斬り「森の民……エルフか」
599 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:09:47.88 ID:B6eGxfUL0
村守護のダークエルフ「ああ。だが俺達と奴らとでは境遇が違った」
村守護のダークエルフ「千年前の当時、俺達の祖先の多くは魔王軍側に加わっていた」
村守護のダークエルフ「エルフに領土を分け与えた王国も、流石にダークエルフに干渉することは出来なかったみたいだ。そのときには既に、教会の力は絶対的なものになっていたからな」
暗器使い「初代勇者パーティの弓使いもエルフだったと聞くからな。そういう点も、当時の国王の行動が見逃された理由の一つだったんだろう」
村守護のダークエルフ「その口ぶりでは今回もエルフなのか?」
勇者「うん……今は訳あって居ないけれど」
村守護のダークエルフ「……詳しくは聞かないでおこう」
暗器使い「やつの瞳はお前たちのように燃えるような紅色だった」
暗器使い「本人曰く、どこかにダークエルフの血が混ざっているらしいが」
村守護のダークエルフ「エルフのとダークエルフの混血か……珍しいな」
600 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:10:34.34 ID:B6eGxfUL0
村守護のダークエルフ「かの大戦後は我々は砂漠に、奴らは森に籠もっているからな。交流は無いに等しい」
村守護のダークエルフ「大戦以前も良い間柄では無かったようだしな」
村守護のダークエルフ「さて話を戻すか」
村守護のダークエルフ「この砂漠に留まる理由……それは俺達ダークエルフも、あの集落の人々も同じだろう」
村守護のダークエルフ「ここが故郷だからだ」
村守護のダークエルフ「先祖がここに住み着いた理由は関係ない。それは彼らも同じだろう」
村守護のダークエルフ「生まれ育った場所を簡単に捨てることは出来ないものさ」
辻斬り「故郷、か……確かに大事なものだね」
猫又「…………」
辻斬り「しかし大丈夫なのかい? ここの国のお偉いさんには人外亜人嫌いが多いと聞くけれど」
601 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:11:02.63 ID:B6eGxfUL0
村守護のダークエルフ「その心配はない……まあ街に着けば理由も分かってくるだろう」
辻斬り「…………?」
602 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:11:46.74 ID:B6eGxfUL0
*
集落を発って一月近く、ようやく一面砂の景色から変わって人々が多く行き交う場所に到達していた。
しかし彼らの顔はどこか暗く、活気が感じられなかった。
その空気は首都に到着しても同じで、少しメインストリートから外れればならず者がたむろする怪しい地域に迷い込んでしまうようになっていた。
村守護のダークエルフ「流石にこの先はついて行けない。この先の酒場で仕事を探しているから、また用があれば来てくれ」
村守護のダークエルフ「次は大値引きするさ」
勇者「はは、分かりました。ありがとうございます」
ダークエルフに別れを告げると、予め退魔師ギルド経由で連絡を取っていたとある人物に謁見するために中心部に向けて歩き出した。
足を進めると少し賑やかさが出てきたようで、出し物などをしている姿も散見された。
観光客らしき男「食いもんはここまでだ。夜に食べられなくなっても知らねえぞ」
603 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:12:12.88 ID:B6eGxfUL0
観光客らしき女「ふん、わしの胃が底なしであるという事を忘れたのかのう?」
観光客らしき男「俺の財布が底ありなんだよ!!」
観光客のような人々の姿も増えていき、ようやく中心部らしい雰囲気になってきた。
しかしそれでもどこか影があるのは、今が戦争中だからなのだろうか。
604 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:15:45.58 ID:B6eGxfUL0
*
それからしばらくして、勇者らは目的の人物と卓を囲んでいた。
眼鏡の共和国外交官「久しぶりですね勇者殿。会議以来なので半年以上ですか」
勇者「お久しぶりです……」
眼鏡の共和国外交官「そちらが剣士の紋章持ちの方と……また新しいのが“一匹”紛れ込んでいますね」
勇者「そんな言い方は……!」
猫又「気にしないよ。私猫だし」
眼鏡の共和国外交官「また同じ轍を踏むのですか、勇者殿」
眼鏡の共和国外交官「例の内通者のことはとっくに耳に届いています」
勇者「…………」
605 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:16:37.36 ID:B6eGxfUL0
眼鏡の共和国外交官「人外共は我々を同じ知的生命だとは思っていない。家畜と同じです」
眼鏡の共和国外交官「分かり合うことなど出来ないのですよ」
勇者「それは、貴方も同じなのでは無いですか……?」
眼鏡の共和国外交官「そうです。だから争うしか無いのです」
勇者「でも少なくとも僕は……僕たちは違います」
勇者「全員が納得の行く方法なんて無い……だから僕は僕の信じたようにやるんです。それは貴方と同じことのはずです」
眼鏡の共和国外交官「……後悔してからでは遅いのですよ?」
勇者「後悔はもう十分してきました。これからも沢山するでしょう」
勇者「でも僕はやります」
暗器使い「勇者……」
606 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:17:08.09 ID:B6eGxfUL0
眼鏡の共和国外交官「……そうですか。ならば好きにすると良いでしょう」
眼鏡の共和国外交官「ただしここは我々の国です。ルールには従っていただきます」
勇者「勿論です」
眼鏡の共和国外交官「さて本題ですが……ここ最近共和国で入手できた情報について教えて欲しい、でしたか」
勇者「はい」
607 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:19:35.86 ID:B6eGxfUL0
*
暗器使い「やはり戦線は厳しい状態か……」
眼鏡の共和国外交官「例のダンジョンの罠で各国とも主力を多くを失いましたからね」
眼鏡の共和国外交官「最深部に誘い込みダンジョンごと爆破するとは卑劣な手段を……」
眼鏡の共和国外交官「勇者殿はよく生還できたものだ」
勇者「僕に関しては恐らく、あの時点では向こうが殺すつもりが無かったんだと思います」
眼鏡の共和国外交官「ふむ……?」
勇者「実は……」
勇者は眼鏡の共和国外交官に事情を説明した。
眼鏡の共和国外交官「勇者の力のシステムを逆手に取るために、勇者の力を見極めていたという事ですか……」
暗器使い「予想に反して勇者が成長し始めたから、始末するって方針に変わったようだがな」
608 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:20:19.44 ID:B6eGxfUL0
辻斬り「相手は勇者の力を厄介におもっているようだからねえ。紋章持ちが全員揃うのも快く思わないんじゃないかな」
眼鏡の共和国外交官「そうですか……しかし残念ながら我が国で紋章持ちが覚醒したという話は聞いていない」
勇者「そうですか……」
眼鏡の共和国外交官「力になれず申し訳ない」
眼鏡の共和国外交官「その件に関しての情報はありませんが、少し気になる話が有りましてね」
暗器使い「気になる話?」
眼鏡の共和国外交官「ここから南西に向かった砂漠の中にダンジョンらしき建造物が現れ、そして消えたという噂です」
勇者「ダンジョンらしき建造物……!」
辻斬り「へえ……?」
眼鏡の共和国外交官「元々は古代の遺跡があった場所なのですが、それとは似て非なるものが一晩だけ観測されたのことで、今聖騎士達が調査の準備をしているところでしてね」
609 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:20:51.96 ID:B6eGxfUL0
眼鏡の共和国外交官「勇者殿は戦線ではない地域で活躍することに注力している様子なので、良ければ聖騎士らに話を通しましょうか?」
勇者「……よろしくお願いします……!」
610 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:21:41.36 ID:B6eGxfUL0
*
勇者達は案内されるがままに、大聖堂横の聖騎士の兵舎へとやって来た。
そこに現れたのは修道女にしては顔の険しい、騎士にしてはあまりに身軽な女性だった。
その姿を一目見て、勇者は気がついた。
勇者(人間じゃ、無い……? 教会に何故……)
目付きの悪い細身の女性「貴様が勇者か」
勇者「う、うん……」
目付きの悪い細身の女性「付いて来るが良い」
勇者「は、はい……」
暗器使い(怖い姉ちゃんだな……)
611 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:26:21.39 ID:B6eGxfUL0
辻斬り(しかもかなり強そうだ)
猫又(お腹空いたなあ)
目付きの悪い細身の女性「何故我がこのような小間使いのような……」
終始機嫌の悪そうな女性に付いていった先は小さな応接間のような場所で、既に何人かの人物が待機していた。
その多くがフードを深く被っており、異様な雰囲気に包まれていた。
その中心にいる騎士らしき男だけが柔和な笑みで勇者達を招き入れた。
共和国首都の聖騎士長「私はこの首都教会の聖騎士長を任されている者です。よろしくお願いします、勇者御一行様」
勇者「よろしくお願いします」
共和国首都の聖騎士長「案内を任せてしまって済まなかったね。こちらも慌ただしくて」
目付きの悪い細身の女性「二度とやらんぞ」
612 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:27:30.80 ID:B6eGxfUL0
ぶっきらぼうな女性の物言いに、控えていたうちの一人が立ち上がって不機嫌そうな顔を見せた。
赤毛の術師「貴女、誰の温情で今存在できているのかまだ理解できないみたいね」
目付きの悪い細身の女性「……それは貴様が言うことではなかろうが、雌餓鬼が」
赤毛の術師「は?」
目付きの悪い細身の女性「あ?」
共和国首都の聖騎士長「こらこら二人共、お客様の前だ」
赤毛の術師「しかし……!」
共和国首都の聖騎士長「落ち着いて、な?」
赤毛の術師「…………はい」
火花を散らす女性二人を、聖騎士長が困った顔をしながらその場を収めた。
613 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:28:13.18 ID:B6eGxfUL0
暗器使い「(うちの子はこうじゃなくて良かったな……)」
辻斬り「(いやいや、この子も意外と凶暴だよ?)」
猫又「(……あ?)」
勇者「(ま、まあまあ……)」
辻斬り「(それにしても案内してくれた子も、赤毛の子も並の実力じゃない……)」
暗器使い「(何よりあの優男……法国の正騎士団長に劣らない力を感じる)」
猫又「(首都を任されるにはそれだけの力が必要って事なんじゃないの?)」
猫又「(これだけの実力者が集まる必要があるものなの? ダンジョンってやつは)」
勇者「(うん。決して油断できない場所なんだ)」
共和国首都の聖騎士長「さて少し狭いけれど席に着いてもらえますか」
614 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:28:56.02 ID:B6eGxfUL0
共和国首都の聖騎士長「まさかこのタイミングで勇者殿らが訪れてくださるとは、これも導きなのでしょうか」
暗器使い「砂漠にダンジョンらしきものが出現したとの事だが……」
共和国首都の聖騎士長「恐らくはダンジョンで間違いないみたいですね。本来あの位置にあるはずのダンジョンが宣戦布告時に現れなかったそうなので」
辻斬り「本来あるはず……? 何故そんな事を知っているんだい?」
共和国首都の聖騎士長「敵の情報を握っている者はこっち陣営にもいるってことですよ」
目付きの悪い細身の女性「…………」
共和国首都の聖騎士長「ダンジョンを出現させた者の検討もついています」
共和国首都の聖騎士長「非常に強力な敵です。ここの戦力だけで勝てるかどうか……」
暗器使い「それほどの……!?」
共和国首都の聖騎士長「ええ。“理”側の存在と考えていいでしょう」
615 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:31:05.54 ID:B6eGxfUL0
勇者「つ、つまり……素の状態でもランクSなのは確定だと……」
目付きの悪い細身の女性「しかも生半可な者ではではない」
目付きの悪い細身の女性「死ぬ気がないのであれば残って寝ているが良い」
勇者「…………!」
共和国首都の聖騎士長「本来ならば“あの方”の協力を得たかったのですが」
赤毛の術師「『この街からは出ない』との事で……」
共和国首都の聖騎士長「やれやれ、いつも通りですか……」
勇者(ランクSの凄さは目の当たりにしてきた……)
勇者(初代格闘家様やダンジョンでの黒い騎士……皆自分一人では及ばない強さだ……)
勇者(でも……!)
616 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:31:40.37 ID:B6eGxfUL0
勇者「この剣が、行かねばならないと言っているんです……!!」
暗器使い「勇者、それは……」
勇者「うん、そらくは」
目付きの悪い細身の女性「……好きにしろ……」
共和国首都の聖騎士長「よし。それならこの先の話に進めましょうか」
共和国首都の聖騎士長「やはりダンジョンの主は、“アレ”で間違いないのですね?」
目付きの悪い細身の女性「うむ、確実だ」
目付きの悪い細身の女性「彼処に眠っていたのは海の王レヴィアタンと対を成す、ベヒモスと呼ばれる獣だ」
赤毛の術師「……ベヒモス……!」
猫又「私でも知ってるぐらい有名な怪物だね」
617 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:32:27.24 ID:B6eGxfUL0
猫又「でも確かレヴィアタンと同士討ちで死んでしまったんじゃなかったっけ?」
目付きの悪い細身の女性「ふん、それは違うな」
目付きの悪い細身の女性「かの大戦が終結した後も、ベヒモスとレヴィアタンは戦い続けていた」
目付きの悪い細身の女性「奴曰く……真の死を求めてとの事だが、我にはあの考え方は理解できん」
目付きの悪い細身の女性「そしてその戦いに巻き込まれた男がいた…………初代戦士だ」
勇者「もしかして初代戦士様が海上で亡くなった原因って……」
目付きの悪い細身の女性「その時の消耗によるものだろうな」
目付きの悪い細身の女性「結果として初代戦士は死に、ベヒモスは瀕死に……レヴィアタンは生死が不明だそうだが恐らく死んだだろう」
目付きの悪い細身の女性「ベヒモスはそのまま数十年眠り続け……そして目覚めると辺り一面が不毛の大地と化していたという」
辻斬り「その言い方だと、あの砂漠が出来たのは大戦の後だったのかい?」
618 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:33:18.27 ID:B6eGxfUL0
目付きの悪い細身の女性「何だ、何も知らんのか」
目付きの悪い細身の女性「いかに初代戦士と言えど、あの怪物二体を同時に相手して致命傷を与えるなど無理な話だ」
勇者(その通りだ……剣の記憶をたどってみても、あの方一人だけではそんな芸当が出来るとは思えない……)
勇者(駄目だ……! 何か引っかかる……記憶が……)
目付きの悪い細身の女性「やはり“正しい歴史”は伝えられていないのか」
目付きの悪い細身の女性「……やれやれ」
目付きの悪い細身の女性「あの砂漠と同じような地域がこの大陸にあるだろう。そこについて調べてみることだな」
猫又「随分と詳しいんだねえ。それにさっきの口ぶりからすると……」
目付きの悪い細身の女性「……その通りだ。我は元々魔王軍下にあった」
暗器使い「やはりか……しかし何故」
619 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:33:44.73 ID:B6eGxfUL0
目付きの悪い細身の女性「経緯は省く」
目付きの悪い細身の女性「ただ単に、自分の愚かさに気がついただけだ」
赤毛の術師「…………」
目付きの悪い細身の女性「奴らの近くにいた立場からの言葉としてもう一度聞くが良い」
目付きの悪い細身の女性「勝てると思うなよ」
620 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:35:05.24 ID:B6eGxfUL0
今日はここまでです。続き頑張ります。
621 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/08/16(金) 20:15:08.64 ID:m2te1SYDO
乙乙
続き待ってるよ!
622 :
◆8F4j1XSZNk
[sage saga]:2019/09/11(水) 16:48:59.63 ID:zmSxpxYN0
>>621
頑張ります
623 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/09/11(水) 16:50:14.88 ID:zmSxpxYN0
*
──ダンジョン目撃場所への道中
辻斬り「なあなあ、おねーさん」
目付きの悪い細身の女性「……気安く話しかけるな」
辻斬り「ヒュウ怖い」
辻斬り「元魔王軍にいたってことで、内通者騒ぎの時に疑われなかったの?」
目付きの悪い細身の女性「ふん、当然疑われた。今も監視がついている」
目付きの悪い細身の女性「裏切ろうにも“枷”のある今は不可能だと言うのにな」
共和国首都の聖騎士長「枷なんて言い方しなくても……」
目付きの悪い細身の女性「貴様もああいった自体を想定して施したのだろう? 用意だけは周到な男だからな」
624 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/09/11(水) 16:52:14.82 ID:zmSxpxYN0
目付きの悪い細身の女性「お陰で必要以上の取り調べは無かった。そこは感謝しよう」
赤毛の術師「もう少し感謝が伝わるような言い方が出来ないの?」
目付きの悪い細身の女性「言い方一つで価値が変わるならば、それは真の気持ちと言えるのか?」
赤毛の術師「流石に屁理屈過ぎる……!!」
目付きの悪い細身の女性「何とでも言え」
目付きの悪い細身の女性「……しかし、裏切り者か」
目付きの悪い細身の女性「紅目のあいつも、そんな役をやる羽目になったな」
勇者「エルフさんのことを知って……って当然か」
目付きの悪い細身の女性「新生魔王軍としていまの軍勢が立ち上がった後、奴とは共に行動することが多かったのでな」
目付きの悪い細身の女性「……昔、弓も少々指南してやったな」
625 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/09/11(水) 16:53:08.10 ID:zmSxpxYN0
目付きの悪い細身の女性「奴とは主に、仲間を増やすために各地を巡って回っていた」
目付きの悪い細身の女性「特に大戦後に多く捕らえられた亜人……エルフなどを探し回った」
目付きの悪い細身の女性「多くの者は故郷へと戻ったが、中には我の配下として下る物好き共も居てな……」
共和国首都の聖騎士長「西人街で戦った彼らですか……」
目付きの悪い細身の女性「そうだ」
目付きの悪い細身の女性「命も奪わず無力化し、人目につく前に故郷へ送り返すとは器用な真似をしてくれたものだ」
目付きの悪い細身の女性「……その件も、感謝している」
共和国首都の聖騎士長「どういたしまして」
赤毛の術師「…………」
暗器使い「しかし紅目のエルフのことを知っていたのに内通者であると密告しなかったのは何故だ?」
626 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/09/11(水) 16:53:39.49 ID:zmSxpxYN0
暗器使い「昔の部下への温情か?」
目付きの悪い細身の女性「どうであろうな……温情、というのは違うだろう」
目付きの悪い細身の女性「やはり奴が紋章持ちとして選ばれたその意味を、見届けてやろうと思ったからかもしれんな」
辻斬り「紋章持ちとして選ばれた意味、か……」
暗器使い「…………」
それからしばらく続いた沈黙を破ったのは勇者だった。
勇者「聖騎士長さん。どうして外交官さんがあそこまで人外を毛嫌いするのか、その理由をご存知ですか?」
勇者「もちろん話せない内容でしたらこれ以上は聞きません」
共和国首都の聖騎士長「……いや、話しましょう」
共和国首都の聖騎士長「嬉々として言いふらすような事では決してありませんが、親しいものなら皆知っていることですので」
627 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/09/11(水) 16:54:25.72 ID:zmSxpxYN0
共和国首都の聖騎士長「よくある話といえば、よくある話です」
共和国首都の聖騎士長「あの方が兵士として活躍されていた頃に、大規模な暴動事件が有りましてね」
共和国首都の聖騎士長「その際に奥様とお子さんを亡くしているんです」
共和国首都の聖騎士長「その暴動の中心にいたのが人外だった……という事です」
共和国首都の聖騎士長「国を、街を守るために戦ったが、家族を守ることは出来なかった……その事実があの方を縛り続けているんでしょうね」
共和国首都の聖騎士長「せめてこの国、この街だけは守らなければ、と」
共和国首都の聖騎士長「しかしこの国はご覧の有様です。広大な不毛の大地に加えて生き物の住まわない死の海域……おまけに地下資源にも乏しく多くは輸入に頼り切り」
共和国首都の聖騎士長「そんな最中に隣国の皇国で巨大な炭鉱が発見された」
共和国首都の聖騎士長「だからこの国はあんな馬鹿な真似をしてしまったのでしょうね」
勇者「皇国にある教会を利用した例の工作の事ですか」
628 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/09/11(水) 16:55:09.70 ID:zmSxpxYN0
共和国首都の聖騎士長「命令とはいえ、関わった私にものを言える筋合いは無いのですがね」
暗器使い「工作活動の失敗による賠償に加えて魔国との戦争による更なる疲弊……」
暗器使い「首都があんな空気になっているはずだ」
辻斬り「ダークエルフの彼が言っていた、砂漠にいる彼らが放置されている理由……」
辻斬り「放置されていると言うより、そっちに手を回す余裕が無いって事なんだろうね」
猫又「みたいだね」
目付きの悪い細身の女性「不毛の大地と死の海域か……」
目付きの悪い細身の女性「あれらをどうにかする方法は無くはない……」
共和国首都の聖騎士長「何か知っているんですか?」
目付きの悪い細身の女性「……まあ、現実的な話ではない。忘れろ」
629 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/09/11(水) 16:55:58.84 ID:zmSxpxYN0
目付きの悪い細身の女性「さて、そろそろ目的の場所が近いのでは無いのか?」
共和国首都の聖騎士長「ええ、例の遺跡が見えてきました」
聖騎士長の視線の先には砂風によって朽ち果てた太古の遺跡が見えた。
しかしそれは昔ながらの姿であり、ダンジョンのような異形の姿と化してはいなかった。
共和国首都の聖騎士長「これは報告通りですね……しかし……」
辻斬り「うん、確実に“何かいる”ね」
目付きの悪い細身の女性「……確実に奴の気配だ。精々気をつけるが良い」
事前の打ち合わせ通りに散開し、前衛と後衛がうまく連携できるように準備を進めた。
そしていよいよ、聖騎士長らが率いる前衛が遺跡へと進行を始めた。
そこで待ち受けていたのは遺跡の眼の前でじっと動かない、様々は獣が溶け合ったような異形の巨大な姿だった。
630 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/09/11(水) 16:56:51.23 ID:zmSxpxYN0
共和国首都の聖騎士長「西人街での“偽物”とは大きさも力も比べ物にならないですね」
レライエ「当たり前だ。こんな怪物を完全に再現できるわけがなかろう」
レライエ「……まあ、まずは我に任せろ」
ベヒモス「……何者だ?」
目付きの悪い細身の女性「我だ」
ベヒモス「その声は…………レライエか? グハハハハ、久しいな」
勇者(このお姉さんの正体はレライエ……! やはり幹部級だったのか……!)
ベヒモス「今はいつだ? どれほどの時が経った?」
目付きの悪い細身の女性→レライエ「眠りについてから二百年少々だ」
レライエ「他の者は全て目覚めている。貴公は少々寝過ぎだ」
631 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/09/11(水) 16:59:12.59 ID:zmSxpxYN0
ベヒモス「の、ようだな。遥か遠くから大きな戦の気配がする」
レライエ「目覚めが遅れたのは術の不具合か何かだとは思うが……」
レライエ「何故折角のダンジョンを崩壊させた? 我々後発組とは発生までにかけた年月が違う」
レライエ「完成したダンジョンの力も更に強大なものとなっていただろう」
ベヒモス「フン……あんな小細工がなくとも我は全てを屠れる」
ベヒモス「しばらくは我の望む戦いが無いと判断し、眠りにつくのも悪くはないと思ったから従ったまでの事……」
レライエ「ふう……貴公はそういう者だったな……」
レライエ「しかしそうだとしても、何故転移陣を使わずここで油を売っている」
ベヒモス「戦局の見極めだ。どう立ち回るのが一番面白いのか、それを知りたい」
ベヒモス「貴様がここに来てくれたことでだいぶ手間が省けたぞ」
632 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/09/11(水) 17:00:01.46 ID:zmSxpxYN0
ベヒモス「…………貴様、人間に敗れたな?」
レライエ「…………」
ベヒモス「グハハハハッ、人間と共に行動する貴様を見ることが出来るとはな!」
ベヒモス「勝利は成長を促すが本質を変えることは無い。敗北は時に両方をその者に与える……」
ベヒモス「そういう事だろう」
レライエ「だとすれば、何だ?」
ベヒモス「グハハハハッ、決めたぞ! やはり我はこちらの陣営に残る! 人間とはいつの時代でも予想外の手を打ち、我らを楽しませくれるからな!!」
レライエ「そうか……残念だ」
レライエ「──今だ」
共和国首都の聖騎士長「魔導隊! 放て!!」
633 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/09/11(水) 17:00:54.18 ID:zmSxpxYN0
聖騎士長の掛け声と共に、後方に控えていた魔導隊が練り上げていた術を一斉に解き放った。
赤毛の術師(西人街のダンジョンの件で貴様に術の類が有効であることは分かっている! 最大出力の雷槌に焼かれて死ねっ!!)
赤毛の術師や、他の術使いが放った雷が、炎が、氷がベヒモスに向かって一直線に降り注がれた。
ベヒモスが避ける間もなくそれらは全て直撃し、爆音とともに大量の砂が舞い上がった。
赤毛の術師「よし当たった……」
辻斬り(あのフードの集団、やはり一人一人が強い……だが)
赤毛の術師「まあ、この程度で終わるならこんなに入念な準備はいらない」
砂煙が晴れた先では、表情一つ変えずに同じ場所にベヒモスが鎮座していた。
赤毛の術師「それならもう一発……!」
赤毛の術師が手をかけたのは地面に突き立てられた巨大なランス。
634 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/09/11(水) 17:01:58.32 ID:zmSxpxYN0
その表面にずらっと紋様が現れたその時、共和国首都の聖騎士長がそれを手に取りおおきく振りかぶってから投擲した。
ベヒモスに向かって一直線に飛んでくランスは、バチリと大きな音を立てて輝き出した。
ベヒモス「雷の槍か……面白い! 来い!!」
やはりベヒモスはそれを避けることはなく、体で受け止めた。
しかし聖騎士長の力で投擲された槍を無傷で受けきることなど無理な話で、腹部に深く突き刺さり、次の瞬間には体中を電撃が走り回った。
ベヒモス「ぬうううううううううううううううううううっ!!!!」
ランスの刺さった場所は勿論、最初の一斉攻撃による傷口からも血が滲み出ては焼け焦げた。
普通の相手ならばとっくに絶命しているであろう。
しかしそれでもベヒモスは一歩も動かず、そしてその瞳は勇者達を捉え続けていた。
ベヒモス「面白い。この時代にも優秀な術者共がこれ程に存在しているとは」
635 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/09/11(水) 17:02:53.43 ID:zmSxpxYN0
ベヒモス「やはりまずはこちらの陣営で暴れた方が楽しめそうだ」
共和国首都の聖騎士長「ふう、そこまで平気そうな顔をされると困ってしまいますね」
ベヒモス「否。人間だけでよくもここまで出来るものだ」
ベヒモス「千年前と同様に驚かされる」
ベヒモス「しかし人間の主力の術者共はかの大戦終結の際にあの国ごと滅んだのでは無かったか?」
共和国首都の聖騎士長「……今は亡国と呼ばれる連邦国に接した魔導の国の事ですか」
暗器使い(亡国……あの半島にかつて存在していた国で大戦は終結したと言われているが、あそこが魔導師の国だったとはな)
共和国首都の聖騎士長「確かに国は滅び、民の殆どは死に絶えたと聞いています」
共和国首都の聖騎士長「ですが初代魔法使い様によって多くの術が体系化され、世に広められました」
共和国首都の聖騎士長「貴方がたの敵となりうる者が、千年前と同じ程度しか存在しないと思わない方が良いですよ」
636 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/09/11(水) 17:03:31.27 ID:zmSxpxYN0
共和国首都の聖騎士長「彼女のように、亡国の民の生き残りの子孫も各地にいますしね」
赤毛の術師「…………」
ベヒモス「グハハハハッ、ますます楽しめそうで涎が滴る」
ベヒモス「まずは貴様らを屠ることで目覚めの一食目とさせてもらおうか」
痛みを感じていないのだろうか、腹に深く刺さったランスをずるりと抜き、その大きな口を歪めてニタリと嗤った。
その肩の傷口に、矢が刺さった。
ベヒモス「む…………?」
その矢は何の変哲も無い普通の矢で、鏃に猛毒などが仕込まれている訳でもない。
しかし、その矢を放った者が問題だ。
レライエ「そこまで深く抉られていれば、この細い矢も芯へと突き立てられる」
637 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/09/11(水) 17:04:02.13 ID:zmSxpxYN0
ベヒモス「レライエ……貴様ごときの力では我を殺せぬという事を忘れたのか?」
レライエ「その油断を待っていたのだ」
その鏃に毒はない。
しかし、レライエが放った矢はその標的の体を侵食し、腐り落とす。そういう事になっているのだ。
次の瞬間にはベヒモスの臓物に到達した矢の周りが、ドロリと腐り始めた。
ベヒモス「何っ!?」
レライエ「今の我は……不本意ながら聖騎士長の使い魔という事になっている」
レライエ「術者の絶対的な支配下に置かれる代わりに、我の力は底上げされている」
レライエ「この力ならば貴様に届く」
ベヒモス「貴様……!」
638 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/09/11(水) 17:08:14.27 ID:zmSxpxYN0
ベヒモスがこのまま腐った肉塊へと変わり果てる。そう思ったのもつかの間だった。
ベヒモス「グオオオオオオオッ!!」
ベヒモスは自らの腹の中に爪を立てた手をねじ込み、腐り始めたモツを引きずり出してしまった。
猫又「なっ!」
辻斬り「……! 避けろっ!!」
猫又は辻斬りに襟首を掴まれて投げ飛ばされた。
猫又「げほっ!」
先程まで猫又がいたところにはベヒモスの姿と、逃げ切れなかった前衛の兵士達……だった物がバラバラに転がっていた。
ベヒモスが口に含んだものぐちゃぐちゃと咀嚼すると、みるみる内に腹部を含めた全身の傷が回復し始めた。
ベヒモス「レライエェ……我を殺したくば心の臓を狙うのだったな」
ベヒモス「しかしその機会ももう巡って来るとは思わぬことだ」
639 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/09/11(水) 17:08:56.88 ID:zmSxpxYN0
レライエ「チッ……!」
共和国首都の聖騎士長「やはり倒すことは出来ませんか……ならば」
ベヒモス「ダンジョンからの脱出用に用意されている転移魔法陣で我を突き返すか?」
ベヒモス「楽しくなってきた所だ、その手には乗らんぞ」
共和国首都の聖騎士長「……!!」
ベヒモス「聖騎士長と言ったか……貴様も楽しめそうだが、向こうには更に楽しめそうな気配を感じる」
共和国首都の聖騎士長(首都の方角……! この怪物をあそこに向かわせるわけにはいきませんね……!)
ベヒモス「レライエを使い魔として使役するとは、貴様の力はまだまだ底が見えるものでは無さそうだな」
共和国首都の聖騎士長「いえいえ、買いかぶり過ぎも困りますね……」
ベヒモス「無理矢理にでもそのヤワな面の下を拝ませて貰おう」
ベヒモス「さあ、始めようではないか……!!」
640 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/09/11(水) 17:09:37.17 ID:zmSxpxYN0
*
──一方、共和国首都にて
共和国外交官の護衛「失礼します」
眼鏡の共和国外交官「……入ってください」
共和国外交官の護衛「報告です」
共和国外交官の護衛「勇者および聖騎士長らが目標との戦闘に入りました」
眼鏡の共和国外交官「それで、戦況は」
共和国外交官の護衛「劣勢、と言っていいでしょう」
眼鏡の共和国外交官「詳しく」
共和国外交官の護衛「通信術式の様子から推測しますと正騎士団長様は勿論、勇者殿一行の猛攻で何とか耐えているようですが」
641 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/09/11(水) 17:27:33.20 ID:zmSxpxYN0
共和国外交官の護衛「ベヒモスはどれだけ傷つけられても立ち上がってくるそうです」
眼鏡の共和国外交官「やはり伝説の怪物はそう簡単には倒せませんか……」
共和国外交官の護衛「やはり“あの方”に出て頂く他ないのでは」
眼鏡の共和国外交官「それが出来れば早いのですが、やはりこの街を出るつもりは無いらしくてね」
共和国外交官の護衛「そうですか……」
眼鏡の共和国外交官(私が政治で国全体を、彼がその力で都市を護ると確かにあの日そう決めた……)
眼鏡の共和国外交官(だが……)
???「この街にも危害が加えられる可能性がある、か」
共和国外交官の護衛「い、いつの間にいらっしゃたのですか!?」
眼鏡の共和国外交官「お前……! 出てきていたのか」
642 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/09/11(水) 17:28:38.57 ID:zmSxpxYN0
いつの間にか部屋に姿を現していたその男は、そのやつれた顔と、肌という肌に掘られた入れ墨のせいか異様な雰囲気を放っていた。
彼は三白眼の呪術師と呼ばれ、共和国最強の術者として長い間この首都を守り続けてきた男だった。
???→三白眼の呪術師「転移魔法陣で送り返すという算段は勘付かれたようだな」
眼鏡の共和国外交官「ああ……」
三白眼の呪術師「当然だ。向こうはあの伝説の怪物だ」
眼鏡の共和国外交官「だが、お前ならば戦えるはずだ」
三白眼の呪術師「この街を出ないという誓いを破るつもりはない。もし奴がここへと来るのであれば迎え撃つことは約束する」
共和国外交官の護衛「……た、たった今、追加の報告です!」
共和国外交官の護衛「ベヒモスがこの首都に向けて進行を開始したとの事です……!!」
眼鏡の共和国外交官「何っ……!?」
643 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/09/11(水) 17:29:05.44 ID:zmSxpxYN0
三白眼の呪術師「……なるほど、準備はしておこう」
三白眼の呪術師「お前も軍の方と連絡を取って準備を進めておくといい」
三白眼の呪術師「周辺諸国との連携も考えた方が良いかもしれないな」
眼鏡の共和国外交官「た、帝国や皇国の力など……!」
三白眼の呪術師「……私情に流されて、“また”失っても俺は知らんぞ」
眼鏡の共和国外交官「ぐっ……」
眼鏡の共和国外交官「各位に通達の準備を……!」
共和国外交官の護衛「はっ!」
眼鏡の共和国外交官「……お前はどうする」
三白眼の呪術師「当然奴がここに現れた際の対策は進める……」
644 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/09/11(水) 17:34:49.42 ID:zmSxpxYN0
三白眼の呪術師「だが、もう一つやる事があってな」
眼鏡の共和国外交官「この緊急時に一体何を……」
三白眼の呪術師「数日前に自分の元にとある若者が訪ねてきていてな」
三白眼の呪術師「彼らにとあるものを託しておいた」
三白眼の呪術師「知っての通り俺の力は、そう使い勝手の良いものではない」
三白眼の呪術師「だからこそここで迎え撃つ必要がある」
三白眼の呪術師「だが彼らの力にちょっとした手助けをすることは出来る」
三白眼の呪術師「同じ……運命を司る者としてな」
眼鏡の共和国外交官「まさか、お前と同じような術者が……!?」
三白眼の呪術師「モノは違うがその本質は同じ、とだけ言っておこうか」
三白眼の呪術師「俺達みたいな老人はそろそろ引退して、ああいう若者に任せていこうじゃないか」
645 :
◆8F4j1XSZNk
[sage saga]:2019/09/11(水) 17:35:56.46 ID:zmSxpxYN0
あと二回ほどで「不毛の大地」編は片が付きます
646 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/09/12(木) 00:54:28.84 ID:LgNyABaDO
乙乙
647 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/09/15(日) 12:04:38.14 ID:L72ZccVJO
何気に前回の話にお祓い師達らしき人達が出てる件
648 :
◆8F4j1XSZNk
[sage saga]:2019/10/24(木) 20:13:59.70 ID:q4fF5FA70
>>646
ありがとうございます
>>647
649 :
◆8F4j1XSZNk
[sage saga]:2019/10/24(木) 20:15:40.29 ID:q4fF5FA70
*
ベヒモスは何も、砂漠を駆け出した訳ではない。
しかしその大きな一歩ゆえに、全速力のアシダカドリに劣らぬ速度で共和国首都へと歩き始めていた。
その進行を止めようと聖騎士らが斬りかかるが、薙ぎ払われ、潰され、胃の中へと放り込まれてしまった。
ベヒモス「まだ足りぬ。大きな街に行けば腹も満たされるだろうか」
共和国首都の聖騎士長「あちらに行かせる訳にはいきません」
ベヒモス「手を抜いたままでは我を止めることは出来ぬぞ」
共和国首都の聖騎士長「……そうですね」
共和国首都の聖騎士長「あまりやりたくは無いのですが……」
剣を構えた聖騎士長の纏う雰囲気が先程とは変わった。
650 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/10/24(木) 20:16:44.54 ID:q4fF5FA70
勇者(何だ……!? 別人みたいに……)
辻斬り(あれが真の力、って事なのか?)
レライエ「…………大丈夫なのか?」
共和国首都の聖騎士長「あまり時間はかけたく無いですね」
共和国首都の聖騎士長「行きますよ!!」
ダッ、と踏み出した先を周りの騎士たちは目で追うことが出来なかった。
辛うじてその姿を捉えていたのは、ベヒモスやレライエ、そして勇者と辻斬り、暗器使いらだけだった。
それほどに聖騎士長の動きは素早かった。
ずぷっ、という音がしたかと思うと、ベヒモスの右の手足が砂上に転がった。
ベヒモス「ぐっ!?」
651 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/10/24(木) 20:17:17.21 ID:q4fF5FA70
勇者(何だ……!? 別人みたいに……)
辻斬り(あれが真の力、って事なのか?)
レライエ「…………大丈夫なのか?」
共和国首都の聖騎士長「あまり時間はかけたく無いですね」
共和国首都の聖騎士長「行きますよ!!」
ダッ、と踏み出した先を周りの騎士たちは目で追うことが出来なかった。
辛うじてその姿を捉えていたのは、ベヒモスやレライエ、そして勇者と辻斬り、暗器使いらだけだった。
それほどに聖騎士長の動きは素早かった。
ずぷっ、という音がしたかと思うと、ベヒモスの右の手足が砂上に転がった。
ベヒモス「ぐっ!?」
652 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/10/24(木) 20:17:58.38 ID:q4fF5FA70
共和国首都の聖騎士長「まだです!!」
聖騎士長の猛攻がベヒモスを襲う。
その姿は果たしてAランクに収まる者の動きなのだろうかと、その場の誰もが思った。
そしてついにベヒモスは大きな音を立てて地面に伏した。
しかし。
暗器使い「……バケモノめ……」
その巨体は再びゆらりと立ち上がった。
ベヒモス「グ……グフ……グフフフフフフフ……」
ベヒモス「面白いぞ人間……! やはり、戦いはこうでなくてはな!!」
共和国首都の聖騎士長「いい加減倒れてくれませんかね……!」
653 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/10/24(木) 20:18:39.06 ID:q4fF5FA70
聖騎士長が剣を構え直した時、その手に血がポタリと落ちた。
血は聖騎士長の口から流れていた。
共和国首都の聖騎士長「ごほっ……」
赤毛の術師「聖騎士長様っ……! 無理をしすぎです……」
共和国首都の聖騎士長「ごほごほっ……いやあ、そうみたいですね」
ベヒモス「……病持ちか」
共和国首都の聖騎士長「色々とありましてね」
ベヒモス「病人を嬲る趣味はない。しかし逃すには惜しい相手だ」
ベヒモス「その魂燃え尽きるまで戦え。さもなくば周りから屠るまでだ」
共和国首都の聖騎士長「そうは、させませんよ……」
654 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/10/24(木) 20:19:17.52 ID:q4fF5FA70
赤毛の術師「駄目です……! 一旦引いてください!」
共和国首都の聖騎士長「私が引いては貴女達が、街の皆が危険にさらされる……」
共和国首都の聖騎士長「私は護るために騎士になったのです……」
赤毛の術師「ですが……!」
ベヒモス「魔導の国の生き残りよ。邪魔をするのであれば貴様から殺してやろう」
赤毛の術師「……来なよバケモノ……!」
共和国首都の聖騎士長「……! 駄目です!」
赤毛の術師「この紫電で骨の髄まで焼き尽くす……!」
ベヒモスが赤毛の術師に向かって飛びかかる。
彼女の手に纏わりついたイカヅチと、ベヒモスの獣の身体がぶつかりあう音が……。
655 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/10/24(木) 20:20:03.54 ID:q4fF5FA70
聞こえることはなかった。
ベヒモス「ごっ……!?」
赤毛の術師「……ふう。正面しか見えていないの?」
ベヒモスを横に吹き飛ばしたのは、その小柄な体から打ち出されたとは思えないほど重い重い、勇者の剣の一撃だった。
勇者「僕は……“俺”は歴代でも出来損ないの勇者だが」
勇者「それでも勇者一族の末裔なんだ……!」
ベヒモス「面白い……! 受けて立つぞ末裔よ!!」
掠りでもすれば死にも繋がる攻撃を掻い潜り、勇者は剣を繰り出す。
僧侶が居ない今、重症を負えばそれで全てが終わってしまう。
それでも勇者はその手を、脚を止めなかった。
656 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/10/24(木) 20:20:39.49 ID:q4fF5FA70
眼の前の敵は乗り越えなくてはならない壁だと感じていたからだ。
大きく空振ったベヒモスの腕を駆け上がり、その顔面に飛びかかった。
勇者の剣はベヒモスの瞳に深く突き立てられた。
ベヒモス「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?!?」
暗器使い(あいつ、また別人みたいな……!)
猫又「凄い……」
共和国首都の聖騎士長「やりますね……」
勇者の猛攻に怯んだベヒモスを見て、全員が「いける」と思ってしまった。
戦いに油断は禁物である。
勇者「……!? まずっ……!」
657 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/10/24(木) 20:22:02.38 ID:q4fF5FA70
ベヒモス「逃さんぞォォォォ小僧ォ!!」
そう、ベヒモスは勇者の剣を抜かせんと瞼を強く閉じて固定してしまったのだ。
剣を握る勇者に、ベヒモスの腕が襲いかかる。
猫又「ぼさっとしてないで!!」
あと一瞬遅れたらミンチになっていたであろうという所で、猫又が勇者を抱えて救出した。
猫又に抱えられた勇者の瞳にはその光景が映っていた。
──勇者の剣が、バキリと二つに折られたのだった。
忌々しそうに剣を抜き取り勇者を睨むベヒモスの足元でキラリと何かが光った。
それは美しい靭やかさで繰り出される剣撃だった。
聖騎士長が切り落としたものとは別の手足がボロボロと身体から離れていく。
658 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/10/24(木) 20:23:37.11 ID:q4fF5FA70
辻斬りはベヒモスの足元から離れて刃についた血を拭った。
辻斬り「どういうわけか俺は、あの伝説の剣士の紋章を任されているらしいんだよ」
辻斬り「この刃、かつての英雄達のようにあんたらに届かさせてもらう」
猫又「あいつ無茶を……!」
猫又「ああもう! これを使って!」
猫又が投げたものを受け取ると、それは一本の刀だった。
しかし何か違和感がある。
猫又「それは普通の刀から太刀程の長さまで変幻自在に化ける妖刀……」
猫又「並の剣士じゃ扱いきれないんでしょうけれども、あなたなら出来るでしょ」
辻斬り「なるほど……これならデカイの相手に丁度いいね」
659 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/10/24(木) 20:24:17.25 ID:q4fF5FA70
辻斬り「それじゃあ行くよ!!」
ベヒモス「ぬうううっ!」
辻斬りの猛攻によって、わずかにでは有るが確実にベヒモスの動きは鈍り始めていた。
──そしてついにベヒモスが攻撃を避けた。
地面には一本の矢が刺さっている。
レライエ「フン……我の矢など効かぬのでは無かったのか?」
ベヒモス「レライエェ……!」
レライエ「流石にこの人数差ではやせ我慢も続かんか」
ベヒモス「レライエェェェェッ!!」
ベヒモスが飛びかかったその先にいたのはレライエと…………どこから持ってきたのか巨大な大砲の砲撃準備をしている暗器使いだった。
660 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/10/24(木) 20:26:47.87 ID:q4fF5FA70
暗器使い「俺はな、武器なら何でも隠し持てるんだ。猪突猛進過ぎるぞデカブツ」
ベヒモス「ぬおおおおおおおおおっ!!」
ベヒモスは止まれない。その顔面にめがけて大砲が放たれた。
頭は血飛沫とともに弾け飛び、巨体が宙を舞った。
ぐしゃりと地面に落ちたそれは、それでも。
暗器使い「……いい加減死ねよ……」
それでもまだ動き出した。
ベヒモス「……終わりか?」
勇者「なんて底なしの生命力……」
共和国首都の聖騎士長「ふう……一体どうすれば殺しきれるんでしょうね……」
661 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/10/24(木) 20:27:25.13 ID:q4fF5FA70
猫又「こんなの……勝てっこないじゃない……」
赤毛の術師「くっ……」
満ちる絶望の空気。
しかしその場に居た全員が気がついていないことがあった。
少し遅れてようやく、ベヒモス本人が気がついた。
ベヒモス「…………!!」
ベヒモス(ここは……馬鹿な! 偶然か!? いやそんなはずが……!!)
ベヒモスは今、転移魔法陣の真上にいる。
ダンジョン跡を離れ街に向かっていたはずが、いつの間にかスタート地点へと戻っていたのだった。
そこに、勇者達一行にはいなかった二つの影が姿を現した。
662 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/10/24(木) 20:28:30.33 ID:q4fF5FA70
観光客らしき女「おぬしよ、今じゃ!!」
観光客らしき男「分かっている!! 転移魔法陣発動!!」
男の方が叫ぶと、ベヒモスの足元の魔法陣が輝き出した。
ベヒモス「ぐっ! しまっ……!!」
観光客らしき男「ここは取り敢えず退場してもらうぜ。もう二度と会わないことを願っておくぜ」
観光客らしき女「まったくじゃな。こんなのを相手にしては命がいくつあっても足りんわい」
ベヒモス「貴様らァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!」
ベヒモスは雄叫びとともに虚空に消え、砂漠に一瞬の静寂が訪れた。
撃退に成功はした。しかしそれは多大な犠牲に見合う結果だったのかは定かで無い。
勇者「撃退できた……! あの伝説の魔獣を……」
663 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/10/24(木) 20:29:25.12 ID:q4fF5FA70
勇者(でも……)
勇者(これだけの戦力で……これだけの犠牲を払って、撃退しか出来ない……)
共和国首都の聖騎士長「……」
暗器使い「チッ……」
今回の戦いで一同は、今起こっている戦争の厳しさを改めて思い知らされた。
そんな暗い雰囲気の中、転移魔法陣を発動したと思われる謎の男女は、衣服についた砂を払うと勇者達の方に歩いて寄って来た。
観光客らしき男「おー、何とも見覚えのある顔ぶれだな」
どこか氷の退魔師と雰囲気の似たその男は、勇者達を見渡してそう言った。
664 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/10/24(木) 20:30:04.34 ID:q4fF5FA70
*
観光客らしき男「特に……お前が何でこんなところにいる?」
観光客らしき男は辻斬りをギロリと睨んだ。
辻斬り「これはこれは、お祓い師と狐神……だったかな」
辻斬りのおどけた態度に対して、お祓い師と呼ばれた男は一切表情を崩さなかった。
観光客らしき女→狐神「……おぬしよ」
観光客らしき男→お祓い師「分かっている。今のこいつが敵だって言うなら、事情を知っているはずの“アイツ”が同行しているはずがない」
お祓い師の言葉を肯定するように、猫又はため息をついた。
お祓い師「俺はただ本人の口から聞きたいだけだ。何でここにいるのかって事をな」
辻斬り「分かっている。ちゃんと説明するさ」
665 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/10/24(木) 20:30:46.50 ID:q4fF5FA70
辻斬りはお祓い師破れた後帝国に逃げ延び、己を見つめ直すために剣術道場の門下生になった事。
そこで勇者や猫又に出会い、自分が剣を握りる理由のために彼らに同行することに決めたことなどを簡単に説明した。
お祓い師「……お前が剣士の紋章持ちに選ばれるとはな」
辻斬り「俺にもなぜかは分からない」
辻斬り「でも、選ばれたからにはこの役目を全うするつもりさ」
お祓い師「……そうか」
お祓い師と辻斬りの間のピリッとした空気に、入り込むタイミングを見計らっていた勇者がようやく口を開いた。
勇者「……お祓い師さん、お久しぶりです」
お祓い師「おう、大きくなったな」
勇者「お祓い師さんもなんだか変わったね」
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