僧侶「勇者様は勇者様です」

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485 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/04/26(金) 15:36:32.85 ID:r8B/g0op0
《出会いと》


初代格闘家の隠れ家で新生魔王軍の幹部を打ち破ってから二ヶ月が経過した。

道中で新生魔王軍に感化された人外らとの小競り合いなどには何度か巻き込まれたが、魔王軍そのものの幹部級の襲撃は一度しか無かった。

おそらくは戦線の激化に伴って遠方に割ける戦力も多くは無くなってしまったのだろう。


暗器使い「こっちには第五聖騎士団長が言っていたっていう、初代勇者の剣術に大きく影響を与えた流派の里が有るんだってな?」

勇者「うん、今はそこを目指そうと思って」

紅目のエルフ「そこで勇者が修行を始めるなんて言い出したら、私達は何をしていれば良いのかしら」

僧侶「仮にそうなったとしたら、退魔師ギルド員としての仕事をしましょう」

僧侶「実力者が多く戦線に招集されている今、今までのような安全確保がままならない地域も有ると聞いてます」

僧侶「それならば自由に動ける我々は出来る限りのことをするべきでしょう」
486 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/04/26(金) 15:37:14.83 ID:r8B/g0op0
紅目のエルフ「真面目ねえ……」

紅目のエルフ「はあ、それにしても……」

暗器使い「言いたいことは分かるが、改めて実感するな」

紅目のエルフ「広すぎるのよ帝国は……! 汽車であと一体何日移動すれば着くのかしら……!?」

僧侶「途中で車両のトラブルも有りましたからね……まだしばらくはかかるでしょうね」

紅目のエルフ「あーもう。次に停泊する街では酒をたらふく飲んでやるわ」

僧侶「それはいつも通りでは……」

紅目のエルフ「暗器使い、付き合ってよね」

暗器使い「仕方があるまい」

勇者「暗器使いもしょうがなくじゃなくて、行きたくて行ってるでしょ」
487 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/04/26(金) 15:41:36.15 ID:r8B/g0op0
暗器使い「どうだろうな」

勇者「まあ二人がお酒で問題を起こしたことは無いし良いんだけどさ」

勇者「とにかく今は僕の感じるままに大陸を旅することしか出来ない」

勇者「法王様の仰っていた通りなら、紋章持ちの仲間を探すっていう当初の目的通りになるし」

勇者「それに初代格闘家様も紋章持ちを全員探すことを優先しろって言っていたし」

僧侶「紋章持ち……勇者の仲間には一人一人に役割がある、という事でしたね」

勇者「もしそれが本当なのだとすれば、この大陸を取り巻く状況を良い方向に持っていくきっかけになれるかもしれない」

暗器使い「こうして大陸の端から端まで周っている内に事は解決していそうな気もするがな」

勇者「と、とにかく急げる様に頑張ろう」

暗器使い「ま、徒歩と馬だけの時代よりはよっぽど早いはずだ」
488 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/04/26(金) 15:48:29.12 ID:r8B/g0op0


暗器使いはパンをひとかじりして新聞を広げた。


暗器使い「戦線は完全に停滞、か……」

暗器使い「戦線に面していない国……北方連邦国や、皇国などの力も必要になるはずだ」

暗器使い「この間の会議を経て、各国の連携が上手くいくようになれば少しは状況打開への道が見えるのかもな」

紅目のエルフ「いがみ合っていた者同士に共通の敵が出来たから一致団結……なあんて単純にはいかないとは思うけどね」

僧侶「ですが会議において各国の法が一斉に変わることになりました」

僧侶「真の信頼とか、そんな子どもじみたことを言うつもりはありませんが、確かに大陸は一つの方向を向こうとしています」

紅目のエルフ「……まるで新生魔王軍は大陸の平和への礎みたいね」


それから数日、蒸気機関車は目的の駅に到着した。
489 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/04/26(金) 15:57:09.93 ID:r8B/g0op0





蒸気機関車の駅から定期便だという馬車に二日揺られた頃、勇者たちは目的の集落にたどり着いた。

昔は隠れ里のようなものだったと聞いているが、今では山中の重要な中継地点として多くの人が行き交っていた。

その集落の大通りに、建物は少し古ぼけているが、それとは対照的に新しい看板が掲げられた施設があった。


勇者「失礼します」

山中集落支部の受付係「ようこそ退魔師ギルドの支部へ! ご依頼ですか?」

勇者「いえ自分たちは……」


勇者がギルドの会員証を見せると、受付係の男はかけている眼鏡のように目を丸くして驚いた。


山中集落支部の受付係「あ、あなた方が当代の……!」

勇者「ええ、旅の途中ですがしばらく滞在することになりそうでして」
490 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/04/26(金) 15:57:57.77 ID:r8B/g0op0
勇者「何かお手伝いできることがあればと、一応登録と挨拶に」

山中集落支部の受付係「そ、そんな、勇者様御一行のお手を煩わせるなんて……」

僧侶「いえいえ、ぜひ手伝わせて下さい。勇者様が用事が済むまでは我々三人は時間が余っていますので……」

紅目のエルフ「私はお酒を飲むのに忙しいのだけれど……」

僧侶「三人共暇ですので……! ぜひ!」

山中集落支部の受付係「そ、そうおっしゃって頂けると……ありがたいお申し出です」

山中集落支部の受付係「それでは早速簡単なお手続きの方を……いえ、署名を頂くだけで結構ですので」


勇者を含めた四人は支部への登録を済ませると、掲示板に貼り付けられた現在引き受けられる仕事の依頼書に目を通した。


紅目のエルフ「危険魔獣の駆除から幽霊騒ぎまで様々ね」

僧侶「あれ……これは物盗りの捕獲依頼ですか? こんなのも依頼として舞い込んでくるんですね」
491 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/04/26(金) 16:01:19.56 ID:r8B/g0op0
山中集落支部の受付係「ああそれは、犯人が人為らざるものだって噂で……」

僧侶「ああ、なるほど……えっと、依頼主は……剣術道場……?」

僧侶「これって……」

山中集落支部の受付係「ああそれは……」

山中集落支部の受付係「どうにも物盗りっていうのが、力の宿った特殊な剣や、曰く付きの得物ばかりの狙っているらしいんですけれど……」

山中集落支部の受付係「最近近くの街の富豪の蔵からも盗まれたとかで、あの道場も警戒しているんじゃないでしょうか」

山中集落支部の受付係「“あの”道場に限って、剣が盗られるなんて無いとは思いますが」

勇者「……その道場の場所、教えて頂いても良いですか?」

山中集落支部の受付係「ええ、今地図を書きますね」
492 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/04/26(金) 16:02:28.27 ID:r8B/g0op0





勇者「やっぱりこの二ヶ月大きく変わったよね」

僧侶「ええ。亜人や他の人外の皆さんもこうして街角で多く見かけるようになりました」

暗器使い「もう平気なのか?」

僧侶「はい。エルフの里で頂いたこのペンダントが効いているみたいです」

紅目のエルフ「婆様曰く、効果は完全ではないらしいから気をつけなさいよ」

僧侶「はい、分かっています」


それからしばらく歩くと、ギルドで教えてもらった場所に到着した。


勇者「さて、ここがその道場か……」

僧侶「大きな門ですね。まるでお城みたいです」
493 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/04/26(金) 16:03:44.00 ID:r8B/g0op0
勇者「すいませーん! 誰かいらっしゃいませんか!」


勇者が戸を叩いてからしばらくして長く白い髭の老人が姿を表した。


白髭の老人「ここに何か用かね?」

僧侶「退魔師ギルドの依頼で来たのですが」

白髭の老人「ギルドの依頼……? 全く馬鹿共が、平気だと言っておろうに……」

白髭の老人「悪いがお前さん達、盗人ごときにどうにかされるような場所では無いのでね」

白髭の老人「後で依頼の取り消しをしておくから、帰ってもらって構わんよ」

僧侶「えっ、あの……」

勇者「……申し遅れました、僕は当代の勇者です。依頼の事を抜きにしても、ぜひ貴方とお話をしたくてここに来ました」

白髭の老人「……私と話を、か」
494 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/04/26(金) 16:05:06.52 ID:r8B/g0op0
白髭の老人「よく私がここの師範だと分かったな」

勇者「あはは、流石に分かりますよ」

紅目のエルフ(……ただの掃除の爺さんだと思っていた)

僧侶(……同じくです)

白髭の老人→古流剣術師範「よし、付いて来なさい」

暗器使い「……随分と大きな道場だ」

古流剣術師範「初代剣士様が修めたという剣術で、初代勇者様にも大きく影響を与えた……と聞けば自然と人も集まるものだ」

古流剣術師範「その名にばかり惹かれてきた者など、すぐに厳しさに耐えかねて辞めていくがね」

古流剣術師範「さ、立ち話も何だ。お前さん達も座ると良い」

僧侶「失礼します」
495 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/04/26(金) 16:06:01.49 ID:r8B/g0op0
古流剣術師範「それで、話とは何だね」

勇者「率直に言いますと、僕の剣を見てほしいんです」

古流剣術師範「……確かに勇者一族の振るう剣術に、我々の流派は大きな影響を与えた」

古流剣術師範「しかし、やはり同じ物ではない。大きく得られるものが有るとは限らないが良いのかね?」

勇者「僕は一族に伝わってきた剣術を習うだけで、十を学べるほどの才能はない」

勇者「だからその成り立ちについて、初代勇者様と同じように辿って行く必要があると思うんです」

勇者「急ごしらえではあるけれども、昔ながらの剣術の基礎は第五世騎士団長さんに叩き込んで貰いました」

勇者「だから次はここに来たんです」

古流剣術師範「……なるほど、それなら丁度いい」

古流剣術師範「ここに訪れてまだ日が浅い奴が居るのだが、中々に筋がいい」
496 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/04/26(金) 16:09:28.72 ID:r8B/g0op0
古流剣術師範「師の元で指導を受けるような段階では無いはずなのだが……奴も剣術そのものを習いに来ている訳ではないからな」

勇者「……その方と、一試合するという事ですか?」

古流剣術師範「察しが良いな。その通りだ」

古流剣術師範「おい、少し時間をもらえるか」

疲れた様子の黒髪の男「……何でしょうか」

古流剣術師範「此奴は当代の勇者でな、一戦だけ交えてやって欲しいのだが」

疲れた様子の黒髪の男「……分かりました」


黒髪の男は少し気怠げに腰を上げて勇者の方を見た。


勇者「お疲れの所すいません」

疲れた様子の黒髪の男「俺なら大丈夫だよ」
497 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/04/26(金) 16:10:17.11 ID:r8B/g0op0
古流剣術師範「勇者よ、お前さんの得物はこれだ」


古流剣術師範は勇者に一振りの刀を手渡した。


勇者「これは……刀?」

古流剣術師範「うちの流派ははるか昔、皇国より伝わった剣術を取り入れたものだ」

古流剣術師範「流派そのものでは両刃剣を使うが、その芯を理解するにはそいつを使うのが手っ取り早い」

勇者「で、でも刀なんて使ったことが……」

古流剣術師範「ならば尚更頑張るのだな。両者構えい」


黒髪の男が腰に下げていた刀を抜いたため、勇者も慌てて構えた。


古流剣術師範「始めっ!」


開始の合図と共に黒髪の男が踏み込んできた──かのようの見えたが、それは気迫の見せた幻影で、実際には男は一歩一歩すり足で近づいて来ているに過ぎなかった。
498 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/04/26(金) 16:13:10.89 ID:r8B/g0op0
しかしにじり寄ってくる彼の構えに、勇者は隙きを見出すことが出来なかった。


勇者(何だこの威圧感は……!?)

疲れた様子の黒髪の男「……なあ」

勇者「えっ……」

疲れた様子の黒髪の男「やる気、有るの?」


勇者が気づいた時には、その手から剣が叩き落とされていた。


疲れた様子の黒髪の男「戦う気の無い奴に割く時間は無いよ」

勇者「いや、これは……その……」

紅目のエルフ「あらあら、飲まれちゃってるわね」

僧侶「勇者様……」
499 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/04/26(金) 16:13:46.88 ID:r8B/g0op0
暗器使い「……ったく……おい勇者」

暗器使い「せっかく時間を取ってもらっているんだ。中途半端は失礼だろ」

暗器使い「殺す気でいけ」

勇者「……わ、わかっている……!」

勇者「もう一回お願いします」

疲れた様子の黒髪の男「よし、来い……!」


それから数十分、二人は何度も剣を交えた。

しかしその内で一度でも勇者の剣が黒髪の男に届くことは無かった。


疲れた様子の黒髪の男(まだまだ荒削りで俺には遠く及ばない……)

疲れた様子の黒髪の男(だが、何故だ……この短時間で着実に上達している……)
500 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/04/26(金) 16:14:36.84 ID:r8B/g0op0
疲れた様子の黒髪の男(そういう事か……師範の狙いはこれだったのか)

疲れた様子の黒髪の男(勇者の末裔と言うからには幼い頃から剣術には打ち込んでいたはずだ)

疲れた様子の黒髪の男(この男には剣術の才能はない……勇者の子孫と言えど凡人のそれだ)

疲れた様子の黒髪の男(だけれど、二十年の人生で積み上げてきた努力は本物だ)

疲れた様子の黒髪の男(才能が無いから、勇者一族の剣術に眠る基礎に自分で到達が出来ていなかった)

疲れた様子の黒髪の男(だからあえて、その根幹にあたる片刃の実戦を行うことで、身体に気が付かせるってことか……!)


勇者の刺突を、黒髪の男が弾く。


勇者(せめて一本は……!)

勇者(全力で……! 倒す気でいかなくちゃ駄目なんだ……!!)

疲れた様子の黒髪の男「……!?」
501 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/04/26(金) 16:19:48.71 ID:r8B/g0op0
疲れた様子の黒髪の男(何だ!? 急に雰囲気が……!)

疲れた様子の黒髪の男(この感覚……後ろの剣か……!?)

疲れた様子の黒髪の男(覚えがあるぞ……これは“アレ”と同じような……!!)

勇者「っ!!」

疲れた様子の黒髪の男「チィッ!!」


砂埃が舞ったその先で、勇者の刀が黒髪の男の喉元を捉えていた。


僧侶「やったぁ!」

暗器使い「ふう……惜しいな」

僧侶「えっ……?」

古流剣術師範「実戦ならば、その刀が喉を貫くよりも先に、お前さんの胴が真っ二つだったな」
502 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/04/26(金) 16:21:03.16 ID:r8B/g0op0
紅目のエルフ「黒髪の彼……本当に強いわね」


よく見ると黒髪の男の刀は、ピッタリと勇者の胴に当てられていた。


勇者「……はあ、参りました……」

疲れた様子の黒髪の男「いや、最後のは惜しかった。この短時間でよくここまで出来たものだね」

疲れた様子の黒髪の男「しかし……一つ良いかい」

勇者「……?」

疲れた様子の黒髪の男「後ろに置いてある剣……普通のものではないと見た。例えばそうだな……“中に何かいるのかい”?」

勇者「…………さ、さあ、何の事やら」

勇者「我が家に代々伝わるという点では普通では無いのかもしれませんが……」

疲れた様子の黒髪の男「……そうか。いや、少し気になっただけなんだ」
503 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/04/26(金) 16:22:32.56 ID:r8B/g0op0
古流剣術師範「よし、二人共お疲れだったな。時間もそろそろ遅い。皆さんもこちらで夕食に参加してはどうかな?」

暗器使い「し、しかし……」

古流剣術師範「なに遠慮することはない。もともと大所帯だ。数人増えた所で変わりはしない」

僧侶「そういうことでしたら是非……」

紅目のエルフ「おじさま、美味しいお酒はあるかしら?」

古流剣術師範「せっかくの歓迎の席だ。とっておきのを持ってこよう」

紅目のエルフ「やったぁ!」

僧侶「まったく貴女は……」

古流剣術師範「お前は修練場の連中に声を掛けてくると良い」

疲れた様子の黒髪の男「……分かりました」
504 : ◆8F4j1XSZNk [sage saga]:2019/04/26(金) 16:23:08.10 ID:r8B/g0op0
GW中にもう一度更新予定です。では。
505 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/26(金) 23:23:37.58 ID:fIk3moFDO
乙乙
楽しみ
506 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/05/03(金) 17:12:26.40 ID:mEfttAV60





紅目のエルフ「美味しい! 何これ!? 何のお酒!?」

古流剣術師範「米から作られたもので、これも皇国から伝わったものだな」

紅目のエルフ「これは一度皇国にも行かないと駄目ね」

勇者「僕にはまだ少し香りがキツイかも……」

紅目のエルフ「お子ちゃまねえ」

僧侶「そうですよお、こんなに美味しいのに」

勇者「今日は飲みすぎないようにね……」

僧侶「言われなくても分かっていますう」

暗器使い「勇者がしばらくお世話になる事になったようで……急なことですみません……」
507 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/05/03(金) 17:13:25.53 ID:mEfttAV60
古流剣術師範「なあに、こちらとて勇者に剣の指南をするとは光栄なことだ」

古流剣術師範「お前は飲まないのか?」

疲れた様子の黒髪の男「……いえ、自分は」

古流剣術師範「欲を切り離すことが精神の成長に繋がるとは限らないぞ。ほれ」

疲れた様子の黒髪の男「しかし……」

柄の悪い門下生「師範が飲めって言ってるんだから飲めよ」

柄の悪い門下生「正確には門下生ですら無いくせにでかい面しやがって……」

疲れた様子の黒髪の男「……そういうつもりは無いんだけど、不快にさせてしまったのであれば謝るよ」

古流剣術師範「折角の歓迎の席だ、止めないか」

柄の悪い門下生「……師範も師範ですよ」
508 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/05/03(金) 17:30:25.61 ID:mEfttAV60
古流剣術師範「お前さんたちの稽古の時間を削ったり、手を抜いたりはしていないだろう」

古流剣術師範「こいつには少し、特別な事情があるだけだ」

柄の悪い門下生「へっ、結局は特別扱いじゃねえか」

柄の悪い門下生「邪魔したな客人ども」


柄の悪い門下生は酒瓶を一つ奪って自分の席へと戻っていった。


紅目のエルフ「なあにあれ、感じ悪いわね」

疲れた様子の黒髪の男「師範に特別な稽古をつけてもらっている自分が気に食わないらしい」

疲れた様子の黒髪の男「こちらは諍いを起こすつもりなど無いんだけどね……」

暗器使い「ああいう手合は無視するに限ると思うが」

古流剣術師範「腕は確かなのだが、精神面ではまだまだ未熟だ」
509 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/05/03(金) 17:37:44.90 ID:mEfttAV60
古流剣術師範「そういう意味では奴もお前さんと同じような修行が必要かもしれないな」

疲れた様子の黒髪の男「……」

勇者(うーん、ちょっと人間関係が難しいのかな……)

勇者「あの、貴方は皇国出身なんですか?」

疲れた様子の黒髪の男「うん、そうだよ。皇国の奥の、何もない田舎で生まれた」

疲れた様子の黒髪の男「何もないけれど、良いところだった」

疲れた様子の黒髪の男「平凡な農家の息子だったあの頃の俺は、こうやって刀を握ることになるなんて思いもしなかった」

疲れた様子の黒髪の男「……勇者は何故剣を取った?」

勇者「何故と言われると、それが一族の使命だったから、としか言えないです」

勇者「初代勇者様のように、素晴らしい理由はないです」
510 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/05/03(金) 17:38:31.91 ID:mEfttAV60
疲れた様子の黒髪の男「確かに前向きな理由では無いが、後ろめたい理由でもない」

疲れた様子の黒髪の男「それに比べて俺は……本当にどうしようもない理由さ」

疲れた様子の黒髪の男「取り返しのつかないことをしてしまった」

勇者「……僕は、剣をはじめた理由はその程度だったけど」

勇者「今も握っている理由は、別にあります」

疲れた様子の黒髪の男「今の……理由……」

勇者「僕は、僕の守りたいものを守る。そのために剣を握っています」

勇者「エゴに満ちた理由だけど、それでも僕はやるって決めたんです」

勇者「またこんな事が繰り返されないようにするために。僕たちの代で終わらせるために」

僧侶「勇者様……」
511 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/05/03(金) 17:39:45.77 ID:mEfttAV60
勇者「……偉そうに言いましたが、そんなふうに考え出したのはつい最近のなんですけれどね」

疲れた様子の黒髪の男「……そうか」

疲れた様子の黒髪の男「ああ、そうだ。もっと普通に話してもらって構わないよ。俺は敬われる立場ではないからさ」

勇者「分かった。そうするね」

疲れた様子の黒髪の男「……勇者が良ければ、明日も一本、稽古に付き合って貰えないかな」

勇者「勿論いいよ、任せて。むしろよろしくおねがいしますって感じ」

暗器使い「ふう。やはりしばらくは俺たちだけで依頼をこなすことになりそうだな」

紅目のエルフ「みたいねえ」

僧侶「眠いです……」

紅目のエルフ「はいはい、貴女はもう寝ましょうね〜」
512 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/05/03(金) 17:40:59.44 ID:mEfttAV60
僧侶「はあい」

紅目のエルフ「んじゃ、この娘寝かせてくるわね」

暗器使い「ああ。済んだら戻ってこい。この酒瓶は空けてしまって良いらしいのでな」

紅目のエルフ「そうするわね」

紅目のエルフ「今晩は勇者にも付き合ってもらうわよ」

勇者「えっ」

暗器使い「諦めろ。あいつが寝るまでは終わらないからな」

勇者「暗器使いって、毎回相手してあげてるよね」

暗器使い「誰かが相手をしてやらんと不機嫌になるだろう」

暗器使い「まあ、あいつの飲み方に付き合える人間は多くは無いだろうからな」
513 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/05/03(金) 17:41:46.19 ID:mEfttAV60
勇者「そりゃそうだよ……」

暗器使い「今のうちに水を飲んでおけ」

勇者「うん、そうするよ……」
514 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/05/03(金) 17:42:34.65 ID:mEfttAV60





それからしばらく、勇者は師範の元で剣術修行に励み、他の三人は退魔師ギルドにある依頼をこなしながら過ごした。

そしてある日、ギルドに気になる依頼が舞い込んだ。


僧侶「またこの依頼……盗人から刀を守ってほしい、ですか」

紅目のエルフ「今回の依頼人はこの道場ではないみたいだけれどね」

古流剣術師範「この依頼人は……ふむ」

僧侶「ご存知なんですか?」

古流剣術師範「まあ、な。趣味の悪い金持ち、とだけ言っておこうか」

古流剣術師範「おそらくはコレクションの一つが例の盗人に狙われているとか、そういう話なんだろう」

古流剣術師範「しかし、刀ばかり狙う人外の盗人か……修行の一環として相手してみるのも面白いかもしれんぞ?」
515 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/05/03(金) 17:43:18.31 ID:mEfttAV60
勇者「えっ、それって」

古流剣術師範「もちろん勇者と……お前も行ってくると良い」

疲れた様子の黒髪の男「自分も……ですか?」

古流剣術師範「誰かと共に闘う。これが今のお前にとって良い刺激になるかもしれん」

疲れた様子の黒髪の男「……そういうことであれば……」

勇者「それじゃあ早速依頼人のところに行ってみようか」

僧侶「あれ、暗器使いさんは?」

勇者「少し用事があるって言っていたけれど」

紅目のエルフ「ふうん?」

門下生A 「こちらに暗器使い様がいらっしゃいましたら、行き先をお伝えしておきますよ」
516 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/05/03(金) 18:10:13.08 ID:mEfttAV60
僧侶「ありがとうございます」

勇者「ええっと、場所は町外れの豪邸だったかな」

柄の悪い門下生「──ちょっと待てよ」

柄の悪い門下生「その依頼、俺も参加させろよ。俺のほうがそいつよりも使えるってことを教えてやるぜ」

古流剣術師範「参加させろと言われても、自分の一存ではなんとも言えないぞ」

勇者「僕は別に構わないよ。人手は大いに越したことは無いしね」

柄の悪い門下生「へっ、勇者様は話が分かるじゃねえか」

勇者「とにかく直接話を聞いてみないと何もわからないから、行くとしようか」
517 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/05/03(金) 18:42:41.87 ID:mEfttAV60





集落の成金男「おお勇者殿、よく来てくださいましたな。貴方が居てくだされば百人……いえ、千人力ですな」

勇者「早速ですが見せてもらってもいいですか?」

集落の成金男「ええ勿論ですとも。ささ、こちらです」


成金男の先導に付いていくと、大きな倉庫のようなところにたどり着いた。

そこには様々な国から取り寄せたと思われる品が溢れかえっていた。

その奥の方に、目的のものは飾られていた。


集落の成金男「皇国のとある有名な鍛冶師が打ったと言われる妖刀でございます」

疲れた様子の黒髪の男「…………」

紅目のエルフ「ふうん? これが……」
518 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/05/03(金) 18:44:12.13 ID:mEfttAV60
勇者「……」

勇者(何だこの刀……異様だ……)

勇者「……どこか少し、似ている……?」

僧侶「勇者様?」

勇者「……ん、いや。何でも無いよ」

勇者「それで、何故この刀が賊に狙われていると気がついたんですか?」

集落の成金男「最近この辺りの地域で刀剣を狙った賊が出ているのは知っているでしょう」

集落の成金男「そしてつい先日、見張りの者が見つけてしまったのです。屋敷の外を何度も調査しに来たであろう足跡を」

集落の成金男「足跡は北の丘側と、南の大森林側に見られました。そのどちらかから賊が来るものだと私は踏んでいます」

勇者「なるほど……じゃあ三手に別れよう」
519 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/05/03(金) 18:46:19.45 ID:mEfttAV60
疲れた様子の黒髪の男「いや、四手だ。個人的に気になることがあるから単身行動をさせてもらうよ」

柄の悪い門下生「ちっ、勝手なこと言いやがって」

勇者「わかった。じゃあ北側には僕が、南の森側はエルフさんが担当しよう」

紅目のエルフ「ま、適任ね」

勇者「現地は僧侶と門下生さんでお願いします」

僧侶「お、お願いします」

柄の悪い門下生「へいへい」

勇者「ほぼ全員が個人行動になるから、もし相手が単身じゃないとわかったら無理をせずに撤退をして」

勇者「これだけは約束してほしい」

疲れた様子の黒髪の男「……分かった」
520 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/05/03(金) 18:46:52.59 ID:mEfttAV60
紅目のエルフ「知ってるでしょ? 逃げるのは得意なんだから」

勇者「それじゃあ各々情報を集めに行こう」
521 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/05/03(金) 18:47:59.02 ID:mEfttAV60
もう一回GW中に上げたいですね……
どうなるかは分からないですが
522 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/04(土) 00:26:29.90 ID:6qKfvimDO
乙乙
待ってるぜ
523 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/06/01(土) 12:55:34.80 ID:hdVxsX6L0





──集落北側の丘


勇者(これが見回りで見つけたっていう足跡かな)

勇者(あそこの木の枝、よく見ると切り取られている……偵察の邪魔になるから、かな)

勇者(……ん、この足跡……まだ新しいぞ)

勇者(そしてこの木の周りだけ不自然に葉が落ちている……という事は……!)

勇者「上か!!」

フードの侍『チィッ!!』


上からの襲撃者の刀と、勇者の剣がぶつかった甲高い男が辺りに響き渡った。


フードの侍『今ので倒れてくれれば良いものを……』

524 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/06/01(土) 13:00:38.36 ID:hdVxsX6L0
その声は小柄な体躯には似合わず、低く淀んでいた。


勇者「……人では無いね」

フードの侍『分かるか』

勇者「まあね」

フードの侍『お前はあの屋敷の主に雇われたのか?』

勇者「うん、退魔師協会に依頼が出ていたから」

フードの侍『となると、お前は退魔師か』

勇者「そう言うことも出来るね。専門ではないんだけど」

フードの侍『なるほど、面白い……』

フードの侍『同業者とやり合えるとはな……!』
525 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/06/01(土) 13:01:14.01 ID:hdVxsX6L0
勇者「なっ……! それは協会の会員証……!!」

フードの侍『隙きありだ……!!』

勇者「しまっ……!?」


以前の勇者ならば、その一撃で斬り伏せられていただろう。

しかし、その刀は勇者に届くことはなく、ギリギリの所で受け流されてた。


フードの侍『……今のに反応するか……』

勇者「あ……危なあ……」

フードの侍『並の腕ではないな。何者だ?』

勇者「い、いや僕自身は大した者じゃないんだけどね? 一応当代の勇者って事になっているよ」

フードの侍『勇者……! お前がか……!』
526 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/06/01(土) 13:03:02.78 ID:hdVxsX6L0
フードの侍『……お前が勇者であるとして、それならば何故、あんな屋敷の主に雇われているのか』

勇者「どういうこと……?」

フードの侍『ふん、知らないのか。あそこの屋敷にある物は多くが盗品だ』

フードの侍『あの成金と部下共は、盗賊団上がりの犯罪者共なんだよ』

勇者「なっ……!」

フードの侍『勇者サマが犯罪者の手助けをするのか?』

勇者「……か、仮にその話が本当だとしても、犯罪者相手だから盗み返しても良いって理屈にはならないよ」

勇者「きちんとした手続きを踏むべきだ」

フードの侍『……これが人外相手だったら、そんな面倒なことをしないで殺したって罪には問われないのにな』

勇者「えっ……」
527 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/06/01(土) 13:16:45.59 ID:hdVxsX6L0
フードの侍『……とにかく、あそこに恩人の大切な形見があるんだ。退かないと言うのであれば、斬ってでも進む』

勇者「……君の話を信用するには、まだ証拠がない……」

フードの侍『……そうか、では……』

勇者「……だから、証拠を見せてよ。もし君が言うことが本当なら、僕も手伝うよ」

フードの侍『参る……って、ええ?』

勇者「だって君の言うことが本当なら、野放しには出来ないよね」

フードの侍『し、しかし……良いのか?』

勇者「僕は自分が正しいって思うことをしたい」

フードの侍『…………』

フードの侍(似ている……彼に……)
528 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/06/01(土) 13:17:30.77 ID:hdVxsX6L0
フードの侍『しかし証拠か……。持っているのは鍛冶師の売却証書だけだ。これは自分にとっての目安にはなるが、第三者にとっての証拠とはなり得ない……』


疲れた様子の黒髪の男「……証拠は無いけれど、証人ならいるよ」


フードの侍『っ……!』

勇者「あれ、何でここに?」

疲れた様子の黒髪の男「誰よりも早くそいつを見つけ出すつもりだったんだけどね……先を越されたか」

フードの侍『な、何故……何故お前がここにいる!!』


フードの侍は何か恐ろしいものを見るような目で、刀を構えて黒髪の男と向き合った。


勇者「知り合いなの?」

フードの侍『勇者よ……お前は何故こんな男と一緒にいる……!』

勇者「何故って、お世話になっている道場での稽古の相手で……今回は一緒に依頼を受けてくれることになって……」
529 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/06/01(土) 13:25:05.81 ID:hdVxsX6L0
フードの侍『こいつは……妖刀に取り憑かれて罪なのない人外を斬って回っていた、辻斬りという男だ……!!』

勇者「え……」

疲れた様子の黒髪の男→辻斬り「……久しぶり」

辻斬り「お前は相変わらず自分を隠しているんだな」


フードの侍「……勇者を騙して“善い人”を演じていたあなたには言われたくないかな」

勇者「えっ……その声、女の子!?」

勇者(猫の耳が生えてる……化け猫か何かなのかな……?)

辻斬り「隠していたわけではないよ」

辻斬り「……俺はあの男に敗れ、お前に刀を折られてから、逃げるように皇国を去った」

辻斬り「自分を支配していた妖刀が消えてしまって、自分自身を見失ってしまったから」
530 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/06/01(土) 13:25:59.72 ID:hdVxsX6L0
辻斬り「だけれど結局この手には刀が握られていた。生きていく術を、他に知らないんだ。だからせめてこれ以上見失わないように、俺は道場の門を叩いた」

辻斬り「結局未だに、自分のことを理解する事は出来ていないけれどね……」

フードの侍→猫又「……じゃあ何? 今はもう悪いことはしていなくて、更生目指して頑張っています、とでも言いたいの?」

猫又「信じられるわけないじゃない!」

猫又「あなたは、私を、彼を、あの神サマを……殺そうとしたんだから……!」

辻斬り「……許してもらえるとは思っていない。だけれど、今は信じてほしい」

辻斬り「俺は、お前の言っていることが正しいと勇者に証明しに来たんだ」

猫又「なっ……」

勇者「じゃあ証人っていうのは……」

辻斬り「ああ、俺だ」
531 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/06/01(土) 13:33:35.07 ID:hdVxsX6L0
辻斬り「あの刀を打ったのはその猫女の……家族だ」

辻斬り「詳しい事情は知らないけれど、その猫女は大陸中に散らばった盗品を回収してまわっているらしい」

辻斬り「盗品でなくとも、危険な刀は大金を積んで買い取っているとも聞いている」

辻斬り「それなのにわざわざ今回は盗み出すという手段を取っている。これはつまり、あれが盗品であるということなんだろう」

勇者「そんな事情が……」

猫又「なんであなたがそこまで知っているの」

辻斬り「……自分も関わったことだから。多少は情報を仕入れるさ」

猫又「…………」

辻斬り「それよりも早く戻ろう。アレは俺もよく知る種類のやつだ……早めに回収して処分してしまったほうが良い」

猫又「……うん、そうだね。あなたのことを信用した訳ではないけど、あれは長いこと放置しておきたくない」
532 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/06/01(土) 13:36:11.87 ID:hdVxsX6L0
勇者「あの刀はそんなヤバイものなの?」

辻斬り「……ああ。あれは……」

辻斬り「持った者の殺戮衝動を増長させる、そんな効果がある」

辻斬り「……そう。俺を人外殺しに変えた刀と、同じ気配がするんだ」
533 : ◆8F4j1XSZNk [sage saga]:2019/06/01(土) 13:37:39.96 ID:hdVxsX6L0
GW中に三回更新すると言って出来なかった分です。
辻斬りや猫又(フードの侍)を思い出せない方は >>1 から過去スレを読み直して頂けると幸いです。
534 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/10(月) 10:14:33.36 ID:QpCimaKDO
>>533
正直忘れてたけどすぐに思い出した…けどまた読み直して来た

…のにまだ更新されて無いのは一体どういう訳じゃ?
535 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/06/10(月) 20:16:44.15 ID:WDKhBHLy0
>>534 書き直し部分ができてしまったため遅れてしまいました。申し訳ございません。
現状書き直せたところまで今晩投下します。
536 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/06/10(月) 20:17:44.05 ID:WDKhBHLy0





暗器使い「遅れて来てみれば……何だこの状況は」

僧侶「あ、暗器使いさん……! 実は彼があの刀に触れた瞬間、急に暴れだして……!」

柄の悪い門下生「ウ……ウオオオオオオオオオッ!!」

暗器使い「妖刀は聞いていたが、本物だったのか……」

柄の悪い門下生「コロス…………!!」

暗器使い「ちっ……! 僧侶は下がってろ」

柄の悪い門下生「オオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

暗器使い(速いな……!)


門下生が刀を振り下ろすと、石畳が大きく抉れた。

537 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/06/10(月) 20:18:26.62 ID:WDKhBHLy0
暗器使い「お前みたいなパワー馬鹿とは正面でからやり合いたく無いな……!」


暗器使いはどこからともなく鎖を取り出してそれを門下生の持つ刀に巻き付けた。


暗器使い「そいつを奪えば勝ちなんだろ! 楽勝だ……!」

柄の悪い門下生「グギギギ……」

暗器使い「って、この馬鹿力……!」

僧侶「暗器使いさんっ……!」


暗器使いは鎖で刀を奪うどころか、逆に鎖で手繰り寄せられそうになってしまった。

しかし暗器使いは更に鎖を取り出し、門下生の体中に巻きつけて動きを完全に封じた。


暗器使い「流石にこれなら動けないだろう。刀を奪うことも出来なくなったがな……」


そこに勇者たちが遅れて駆けつけた。

538 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/06/10(月) 20:19:07.47 ID:WDKhBHLy0
勇者「この状況は……!? 僧侶は平気?」

僧侶「ええ、暗器使いさんが来てくれたので……」

僧侶「それよりもそちらの方は……」

猫又「その刀に縁がある者とだけ。しかし、予想通り刀の力に飲み込まれてしまっているね」

辻斬り「…………」

猫又「昔の自分に重ねるのは勝手だけど、今はあの刀を奪い取ることに集中して」

勇者「刀を奪うって言っても、一旦暗器使いの鎖を解かないと……」

柄の悪い門下生「……新参者ノクセニ、生意気ナ……」

暗器使い「その必要は無さそうだ……構えろ!」


門下生は鎖を引き千切り、辻斬りに向かって飛びかかった。

539 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/06/10(月) 20:19:57.69 ID:WDKhBHLy0
柄の悪い門下生「オ前ヲ殺シテ、俺ノ方ガ優レテイルト証明シテヤル!!」

辻斬り「チッ……!」


門下生と辻斬りの刀がぶつかり合って火花を散らした。

二人の戦いはほぼ互角のように見えて、徐々に辻斬り側が押され始めていた。


勇者「僕たちも加勢しよう……!」

古流剣術師範「それは駄目だ」

勇者「師範さん……いつの間に?」

古流剣術師範「野暮用でついさっきな。しかし予感は的中か」

古流剣術師範「この方は以前目にしたことがあってな。その時から嫌な雰囲気は感じ取っていた」

古流剣術師範「様子を見るに、おそらくあの刀はあいつの過去に大きく関係したものだ」
540 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/06/10(月) 20:20:41.33 ID:WDKhBHLy0
古流剣術師範「ここで立ち向かうことが今のあいつには必要だ」

勇者「でも……」


辻斬りは明らかに劣勢に転じていた。

このままでは勝敗は明確だ。


古流剣術師範「あいつは過去の自分に負い目がある。それでもなお刀を握ったならば、何をするべきなのかを理解する必要がある」

古流剣術師範「ところでお前さん」

暗器使い「自分ですか」

古流剣術師範「少し頼みがある」

暗器使い「……?」


師範が暗器使いに何やら耳打ちをしている間、勇者は辻斬りらの戦いから目を離せないでいた。
541 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/06/10(月) 20:21:18.16 ID:WDKhBHLy0
明らかに辻斬りの方が実力は上なのだが、その体はすでに限界を迎えようとしていた。

それはおそらく、その過去の自分への負い目のせいなのだろう。


辻斬り「ハァ……ハァ……」

勇者「……僕も、後悔はいっぱいある」

勇者「今も矛盾を抱えながら生きている。沢山の犠牲の先に僕たちは立っている」

辻斬り「…………」

勇者「でも、この剣を握っている限りは止まれないんだ。一度踏み込んでしまった僕や君には、やり遂げることに責任があるんだ……!」

辻斬り「やり遂げる……責任……?」

勇者「だからそんな所で立ち止まってないで、自分自身の責任を果たしに行こう」

辻斬り「…………」
542 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/06/10(月) 20:22:06.36 ID:WDKhBHLy0
柄の悪い門下生「ヨソ見ヲスルナァァァァァッ!」

辻斬り「……ああ、そうかもしれない……」


辻斬りの刀から迷いが消えた。


柄の悪い門下生「グアッ!?」


辻斬りは門下生の刀を弾き飛ばした。

すかさずその刀を猫又が『妖刀折りの妖刀』で破壊すると、門下生は糸の切れた人形のように倒れ込んだ。


猫又「……これで、最後の一本だ」


猫又は刀のリストを小さく畳んでポケットへとしまった。

ちょうどそこに、成金男が駆け込んできた。


集落の成金男「こ、この状況は何ですかね!?」

古流剣術師範「ああ、これはこれは丁度いいところに」

集落の成金男「……?」
543 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/06/10(月) 20:22:58.52 ID:WDKhBHLy0





成金男の資産の多くが盗品によるものだった。

暗器使いが途中で師範から指示を受けていたのは、その証拠となる書類の回収だった。

帝国軍と昔から縁の深い道場の主として、前々から大盗賊団の頭領の疑いがあった成金男の調査が指示されていたのだという。

多少の抵抗はあったが、屋敷の外で控えていた帝国軍兵と門下生らの協力もあって全員がお縄についたのであった。


猫又「……過去の罪は、いずれ消えると思っているの?」

勇者「いや、僕はそうは思わないよ」

勇者「罪を一度背負ったら……それが相手に許されないのだとすれば、背負ったまま歩き続けなきゃいけないって思うんだ」

暗器使い「…………」

辻斬り「……俺はかつて、本当に取り返しの付かないことをしてしまった」
544 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/06/10(月) 20:26:44.93 ID:WDKhBHLy0
辻斬り「妖刀の力によるものとは言え、この手で多くの人外を殺してしまった」

僧侶「……でもそれって、妖刀のせいであって、辻斬りさんが全て悪いというわけでは無いんじゃ……」

辻斬り「罪というのは、望まなくても背負ってしまうことがある。そういうことなんだろうな」

猫又「……望まなくても背負う、か……」

猫又「それを言うなら、私もこんな刀を生み出したご主人様を止められなかった」

猫又「あの時はただの猫だったから、どうしようもないと言えばそれまでだけど」

猫又「私はご主人様の罪を代わりに背負って、今ここに立っているってことなんだね」

猫又「……君を、君の故郷を巻き込んでしまって、ごめんね」

辻斬り「……そんな、俺は……!」

猫又「私は君に斬りかかられた事は許すよ。他のことに比べたら些末な事かもしれないけど、少しでもその方の重荷を下ろしてあげたいんだ」
545 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/06/10(月) 20:27:20.79 ID:WDKhBHLy0
辻斬り「……俺も」

辻斬り「俺もこの運命が、お前やお前のご主人のせいであるとは思わない。これは俺の心の弱さが生んだ結果なんだ」

辻斬り「だから、お前もその肩の上の物を少しは下ろしてくれよ」

猫又「……うん。さっきは丘で散々な言い方をしちゃって、ごめんね」

辻斬り「あれは事実だ」

辻斬り「……何の因果か、俺はここまで生き延びてきた」

辻斬り「出来ることと言えば、刀を握って戦うぐらいだ。ならばせめて、この腕を誰かのために役立てたい」

辻斬り「勇者。俺もお前たちの旅に同行させてくれないか」


そう言って差し出された辻斬りの腕に、淡い光とともに紋章が現れた。


僧侶「こ、これは……!」
546 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/06/10(月) 20:27:54.54 ID:WDKhBHLy0
勇者「剣士の紋章……!」

暗器使い「お前が次の仲間という訳だな」

辻斬り「……の、ようだね。勇者さえ良ければ、助力させてくれないかな」

勇者「勿論、歓迎するよ」

勇者「早くエルフさんにも教えてあげないとね」

僧侶「まだ南の森から帰ってきていないんですね」

暗器使い「ああ、こちらが片付いたのがまだ伝わっていないようだな。呼びに行くとしよう」

猫又「……待って」

勇者「どうしたの?」

猫又「南の森側……何か変だよ……」
547 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/06/10(月) 20:28:28.92 ID:WDKhBHLy0
暗器使い「変だと?」

猫又「私は猫又だから、霊とか、そういう死に纏わる気配に敏感なんだけど」

猫又「南側に沢山の“死”を感じる……」

僧侶「言われてみれば、確かに感じます……!」

勇者「……! 急ごう……!!」
548 : ◆8F4j1XSZNk [sage saga]:2019/06/10(月) 20:30:12.26 ID:WDKhBHLy0
投稿予告しても有言不実行になりそうなので、今まで通りにやっていきます。
半年後ぐらいに思い出してください。申し訳ございませんでした。
549 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/12(水) 01:37:01.78 ID:A9v4qX2DO
>>548

狐神読み直してそのノリで突っ込んだだけだから気に病む事はあらぬのじゃ!
550 : ◆8F4j1XSZNk [sage saga]:2019/06/17(月) 23:00:51.39 ID:kGe2xwg10
>>549
乙ありがとうございます。更新頑張ります。
551 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/06/24(月) 07:27:17.75 ID:ZDw34mNLO
今の辻斬りのランクはどれくらいなんだろ
552 : ◆8F4j1XSZNk [sage saga]:2019/07/02(火) 15:03:45.78 ID:8Mb4mLm20
>>551
この話の終わりにランク表を出しますが、変化がないとだけお伝えしておきます。
妖刀の狂気に飲まれた強さは無いですが、修行で剣士としてステップアップしたのでプラスマイナスそのままという事です。
553 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2019/07/02(火) 15:05:28.50 ID:8Mb4mLm20





勇者達が南の森に駆けつけると、そこには異様な空気をまとった甲冑の軍団が待ち構えていた。

その先頭に立っているのは、法国のダンジョンで遭遇した新生魔王軍の四天王の騎士だった。


黒い騎士「久しいな、勇者よ」

勇者「エルフさんをどこにやった……!」

黒い騎士「……あの森の民か……」

黒い騎士「知らんな」

勇者「……! 居場所を言えっ!」

僧侶「ゆ、勇者様……」

黒い騎士「今はあの女の心配よりも、自分たちの事を気にしたほうが良い」
554 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/07/02(火) 15:06:55.10 ID:8Mb4mLm20


黒い騎士の後ろに控えている甲冑の騎士たちが動き出した。

その数は二十ほどだ。


僧侶「あの全てが死霊です……! ですが、何かがおかしいです……」

僧侶「あそこにいる以上の数の気配を感じるんです……」

暗器使い「伏兵か……!?」

猫又「……違うよ……」


猫又は、その猫の耳を丸めて怯えていた。


猫又「あの先頭のヤツ……アイツに“沢山いる”……!」

辻斬り「あの騎士そのものが、死霊の集合体なのか……!」

黒い騎士「今はあの時と状況が違う」
555 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/07/02(火) 15:07:52.48 ID:8Mb4mLm20
黒い騎士「手は抜かないと思え。行くぞ」

死霊騎士「オオオオオオッ!」


黒い騎士が剣を抜くと同時に、死霊の騎士たちが一斉に勇者たちに襲いかかってきた。

勇者、暗器使い、辻斬りはそれぞれ得物を抜き、遅れて猫又も怯えながらも刀を抜いた。

聖なる加護のない普通の武器では霊体を斬ることは出来ないため、暗器使いと辻斬りは敵の動きを封じる事に集中した。

そしてそれらを、勇者の剣と、猫又の持つ『霊体斬りの刀』が一体ずつ葬っていった。

しかし一体一体が驚くほど強いというわけでは無いが、数の差のは覆せなかった。

それに加えて黒い騎士の存在が勇者たちを追い込んだ。


黒い騎士「驚いたな。この数ヶ月で見違えるほど強くなった。」

勇者(ぐっ……! こんなじゃ駄目だ……! もっと“受け入れないと”……!)

556 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/07/02(火) 15:09:08.27 ID:8Mb4mLm20
勇者をまとう雰囲気が、格闘家の隠れ家での一戦のときのように一変した。


黒い騎士「ほう、まだ強くなれというのか……!」

黒い騎士「だが、足りないな!」


黒い騎士の剣が、勇者の首筋を切り裂いた。


勇者「が、がああああああああああああっ!!」

僧侶「勇者様!!」


直ちに僧侶が勇者の傷を治療した。


勇者(おかしい……! ダンジョンの力の恩恵を受けていたはずのあの時と、今の黒い騎士が同じぐらい強い……!)

黒い騎士「不思議か、勇者よ」

黒い騎士「まあ知らずとも良い。貴様はここで死ぬのだからな」
557 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/07/02(火) 15:10:31.37 ID:8Mb4mLm20
黒い騎士「厄介な能力を持つ僧侶とともに葬ってやろう」


黒い騎士が剣を振り上げた。


暗器使い「チッ! 間に合わねえ……!!」

黒い騎士「さらばだ」

僧侶「あ……」


僧侶は、死んだ、と目を伏せたが、その剣が僧侶を切り裂くことは無かった。

ギリギリで飛び込んだ辻斬りの刀がそれを受け止めたのだ。


辻斬り「ぐ……おお……!」

辻斬り(何て重い……!)

黒い騎士「剣士の紋章持ちか……」
558 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/07/02(火) 15:11:33.85 ID:8Mb4mLm20
黒い騎士「やはり勇者は早めに葬るべきであったか」

黒い騎士「来い……! その剣技を俺に見せてみよ!」

辻斬り「……!!」


辻斬りは黒い騎士と善戦はするが、やはり少しずつ押されていった。


黒い騎士「どうした! そんなものか!」

黒い騎士「あの島で戦った正騎士団長や、先の戦場で葬った将の方が強かったぞ!」

辻斬り(猫又の話ではこいつは霊体の集合体らしいが……ちゃんと肉体は持っている)

辻斬り(ならば俺の刀でも倒せるはずなのだが……それが届かない)

辻斬り(最近は精神修行に専念しすぎていた……勇者との稽古があったとは言え、やはり体が出来上がっていないか……)

辻斬り(流石に今の実力差では……)
559 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/07/02(火) 15:12:32.57 ID:8Mb4mLm20
黒い騎士「もう終わりか? ならば望み通り……」

猫又「ちょっと君! 何諦めてんの!」

猫又「休んでいる暇があったらこれを使いなさいよ!」


猫又が投げたものを受け取ってみると、それは鞘に収まった一本の刀だった。

その雰囲気に、辻斬りは覚えがあった。


辻斬り「馬鹿な……これはさっきお前が折ったはずでは!?」

猫又「君が昔持ってたのとも、さっきのとも別。帝国に来る途中に盗賊から取り戻したの」

猫又「それを使えばまだ太刀打ちできるんじゃないの?」

辻斬り「だがこれは……!」

猫又「ああもう! 言ってる場合じゃないでしょ!」
560 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/07/02(火) 15:13:24.46 ID:8Mb4mLm20
猫又「今の君なら大丈夫だから! さっき自分で誓ったことをもう忘れたって言うの!?」

辻斬り「それは……」

黒い騎士「……参る!」

辻斬り「……!」

辻斬り(俺は……せめて死ぬまでは誰かのために刀を振るうと決めた)

辻斬り(だが死ぬのは、今じゃない……!!)


辻斬りが妖刀を抜くと同時に、その身に嫌な感覚が走った。

よく覚えている、懐かしい感覚だった。


辻斬り(俺はもう、あの時とは違う……! 憎しみや、怒りに飲まれない……!)

辻斬り「おおおおおおおおおおおおおおっ!!」
561 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/07/02(火) 15:14:24.92 ID:8Mb4mLm20
黒い騎士「何っ…………!?」


辻斬りの一太刀が、黒い騎士を袈裟斬りにした。


黒い騎士「ぐうううううううっ!?」

辻斬り「ハァ……ハァ……」

辻斬り「もう俺の信念は、曲げさせはしない……」

猫又「ふう……やれば出来るじゃん」

猫又「仮に暴走しちゃったら、また私が止めるから安心しなよ」

辻斬り「いや……もうあんな事は、させない」

猫又「……そ。なら良いんだけど」

辻斬り「トドメだ」
562 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/07/02(火) 15:15:22.83 ID:8Mb4mLm20
黒い騎士「……! 来い! 死霊騎士達よ!!」


黒い騎士の呼び声に応じて甲冑の中から霊体が飛び出し、彼の身体へと吸い込まれていった。

すると辻斬りから受けたはずの深い傷は塞がり、何事も無かったかのように立ち上がった。


黒い騎士「……仕切り直しと、いこうか」

勇者「そうか……アイツは『霊体を吸収して強くなる力』を持っているんだ……!」

勇者「だから法国の地下墓地でもあれほどの強力な力を有していたんだ!」

暗器使い(冗談じゃねえ……俺も勇者も体力の限界だ。辻斬りだってもう一回剣を交える余裕は無いはずだ)


勇者達が満身創痍で得物を構え直したその時、僧侶がその後ろですっと立ち上がった。


僧侶「……今の様子からすると、やはり肉体はあってもその本質は生霊で構成されているようですね」

勇者「僧侶……?」
563 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/07/02(火) 15:16:43.06 ID:8Mb4mLm20
僧侶「貴方が以前よりも力が増しているというのも、二ヶ月前に三国との大戦で沢山の生霊を吸収できたからではありませんか?」

僧侶「ならば、これが効くはずです……!」

僧侶「戦闘が始まってからずっと溜めさせて貰いました! 聖なる光をくらいなさい!!」


僧侶がそう叫ぶと、その両手からまばゆい光が放たれた。

しかしそれは目くらましのためのものではなく、霊体に絶大な威力を発揮する聖属性の術だ。

かつて旅立ちの前に、王都の郊外でゾンビ相手に放った一撃よりも更に強力なものが、黒い騎士の体を直撃した。


黒い騎士「があああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」


光と砂埃でその姿は見えないが、苦しむ騎士の声が辺りに響いた。

次こそ終わりだと、辻斬りが踏み込んで刀を振り下ろした。


しかし、その刀は宙を斬った。

564 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/07/02(火) 15:18:48.94 ID:8Mb4mLm20
黒い騎士「やはりその力は厄介だ。ここで斬り捨てなければいずれ我軍の損失に繋がるだろう……!!」


辻斬りも勇者も無視をして、黒い騎士が狙ったのは僧侶だった。


僧侶「やっ…………!」

暗器使い「僧侶っ!!」


先ほどと違い、誰もが間に合わない場所に立っていた。

次の瞬間には、ごろんと僧侶の首が地面に転がっていた。
565 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/07/02(火) 15:29:28.90 ID:8Mb4mLm20





──はずだった。

僧侶の首の代わりに地面に落ちていたのは、黒い騎士の腕と剣だった。


黒い騎士「……馬鹿な……! 間に合う距離では無かったはずだ……」


それを斬り落としたのは、勇者だった。


勇者「僧侶を……殺させはしない……!」

勇者「“俺”は……!!」


黒い騎士は瞬時に判断した。

消耗した今では確実に“これ”には勝てないと。

眼の前に立っている男は、自分の知る勇者では無いと。
566 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/07/02(火) 15:30:21.75 ID:8Mb4mLm20


僧侶「きゃっ!?」


黒い騎士は僧侶と自分の腕を抱えてその場を離脱することにした。

作戦による撤退以外で、敵に背を向けたのは初めてだった。

それほど圧倒的な何かを、勇者から感じたのだ。


勇者「僧侶を離せええええええええっ!!!!」


その背後から勇者が迫った。

背中の傷で死ぬとは、何とも不名誉なことだ、と騎士は思った。


迫る勇者の肩に、矢が突き刺さった。

勇者も良く知る、生木から削り出された特殊な矢だ。


勇者「な、んで……!」

567 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/07/02(火) 15:31:19.99 ID:8Mb4mLm20
射手は、木の上からその紅い瞳で勇者たちを見下ろしていた。


僧侶「エ、エルフさん……! 一体何で!!」

紅目のエルフ「…………」


勇者達が初代格闘家の隠れ家を出た直後に入ってきた情報を思い出した。


>大陸会議で取りまとめられた帝国、王国、共和国による共同攻撃が魔国に向けて行われたが、それは完全に失敗に終わってしまった。

>まるで、作戦の全てが筒抜けであったように。

>現在各国は内通者の存在を疑っている。

>特に、あの会議の場に居た者が疑わしいとされている。


勇者「内通者って……エルフさん、だったの……?」

紅目のエルフ「……そうよ」
568 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/07/02(火) 15:35:22.74 ID:8Mb4mLm20
勇者「いつから……!」

紅目のエルフ「最初からよ。私は新生魔王軍の弓兵なの」

僧侶「そんな……」

紅目のエルフ「私ね、人間なんて大嫌い」

紅目のエルフ「私が何であそこまで奴隷商人達を追っていたか教えてあげるわ」

紅目のエルフ「昔、私も奴隷だったのよ」

紅目のエルフ「ハイエルフの白い肌に、ダークのエルフの紅い瞳が珍しいって、随分な高値で取引されたのを覚えているわ」

紅目のエルフ「一緒に妹も奴隷として市場に並んでいた」

紅目のエルフ「でも妹は身体が弱くて、粗悪な環境に耐えられなかった」

紅目のエルフ「安値で叩き売りされて……それで買った奴は妹を連れて行く際に何ていったと思う?」
569 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/07/02(火) 15:37:14.46 ID:8Mb4mLm20
紅目のエルフ「『壊れる前に沢山使ってやる』ってね」

僧侶「ひ、酷い……」

紅目のエルフ「私や妹みたいな目にあった亜人は、大陸中に幾らでもいるはずよ」

紅目のエルフ「そして皆、人間を恨んでいる」

紅目のエルフ「現に、奴隷商から救い出された人外奴隷達の多くがこちらの軍門へ下ったわ」

暗器使い「エルフの森で奴隷商から情報を聞き出した途端に、各地で奴隷市場が襲撃されたのはそういう事か」

紅目のエルフ「そうよ」

僧侶「法国での検問を突破できたのはどういう事なんですか……!?」

紅目のエルフ「それは簡単なことよ。まだ魔王軍での契の儀式をしていないから、術の検知に引っかからなかったの」

紅目のエルフ「何でかは知らないけれど、勇者一行の紋章まで出ちゃうもんだから、内通者にピッタリでしょう?」
570 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/07/02(火) 15:38:19.50 ID:8Mb4mLm20
紅目のエルフ「法王サマは、紋章持ちにはそれぞれ役割があるなんて言っていたけれど、私の役割って何だったのかしらね」

紅目のエルフ「勇者一行を騙して出し抜いてやるってのが役目だったのかもね、あははっ」

僧侶「エルフ、さん……」

紅目のエルフ「皆上手いこと騙されてくれて良かったわ」

暗器使い「……薄々は、気がついていた」

紅目のエルフ「あら、そうなの?」

暗器使い「まず内通者の存在を疑ったのは、あまりに都合よく敵が現れる事からだ」

暗器使い「始めのうちは勇者の行く先を阻むように何度も……今思えばこれは紋章持ち探しを妨害するためだったんだろう」

暗器使い「そして法国での一件を皮切りに、勇者を排除する方針に変わった訳だが……」

暗器使い「あんな山奥に幹部級が二体も現れたのはおかしかった。確実に行き先を流している奴が身近にいなければな」
571 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/07/02(火) 15:40:01.09 ID:8Mb4mLm20
紅目のエルフ「ま、私達の中に内通者がいるとすれば消去法で私よね」

暗器使い「……いや、それでも仲間であるお前を疑いたくは無かった」

紅目のエルフ「……あっそ」

暗器使い「だが確信に変わったのは、ある事に気がついたからだ」

勇者「ある事……?」

暗器使い「法国でその騎士に出会ったときからそうだ」

暗器使い「お前、一度だって新生魔王軍の配下相手には直接攻撃をしていないだろう」

勇者「……確かに……」

僧侶(言われれば……)

暗器使い「法国のダンジョンでは違和感なく戦闘から離脱できるように、あんな芝居を打って俺達と離れたんだろう?」
572 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/07/02(火) 15:40:48.73 ID:8Mb4mLm20
紅目のエルフ「芝居を打ったなんて酷いわ。あの時はこの騎士サマが本気で勇者を殺しに行くから」

黒い騎士「……俺はあの時点で、勇者が危険な力を秘めていると感じ取っていた……」

暗器使い「……そう、“そこに俺は違和感を感じていた”」

紅目のエルフ「違和感……?」

暗器使い「その時もそうだしが、何より……」

暗器使い「何故格闘家の隠れ家での一戦で、サロスから僧侶を庇った! 最後にゼパールの逃亡を妨害した!!」

紅目のエルフ「……!」

暗器使い「お前の行動にはゼパールも解せない表情をしていた」

暗器使い「お前は恐らく……」

紅目のエルフ「……違うわ」
573 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/07/02(火) 15:42:01.08 ID:8Mb4mLm20
暗器使い「お前は勇者達が、仲間が大切に感じられるようになっていたんじゃ無いのか!!」

紅目のエルフ「違うわよ!!!!」

紅目のエルフ「勝手なこと、言わないで……」

紅目のエルフ「少しあなた達のおままごとに付き合ってあげただけよ」

紅目のエルフ「早く撤退しましょう。これ以上は時間の無駄だわ」

黒い騎士「……ああ……」

僧侶「は、離して……!」


黒い騎士が僧侶を抱えて踵を返した。


僧侶(駄目……もう一度術を打つ力の余裕がない……)

勇者「待て……!!」
574 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/07/02(火) 15:45:49.18 ID:8Mb4mLm20
暗器使い「追うな勇者!!」

勇者「だけれど!!」

暗器使い「こっちはもう全員が満身創痍だ。下手に深追いして敵の罠があったらどうするつもりだ……!」

辻斬り「……俺も同意見だよ。これ以上は危険だ」

勇者「このままじゃ僧侶が殺されてしまうんだよ!?」

暗器使い「いいか。今追えば敵の思う壺かもしれない」

暗器使い「僧侶が攫われたのは、俺達の力が足りなかったからだ。この足りない力では、世界どころか僧侶だって救えない。そうだろ?」

勇者「くっ……!」

暗器使い「それに……気休めかもしれんが聞いてくれ」

暗器使い「僧侶は恐らく殺されない」
575 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/07/02(火) 15:46:33.70 ID:8Mb4mLm20
辻斬り「……なんでだい?」

暗器使い「初めの頃、勇者が殺されずに見逃されていた理由と同じだ」

暗器使い「僧侶を殺せば次の僧侶の紋章持ちが現れるだけだ」

辻斬り「なら、殺さずに捕らえておいた方が良い、か」

暗器使い「ああ。奴らはあの能力がこちらの陣営にいることを厄介に思っていたようだからな」

暗器使い「それに、殺すならこの場でも出来たことだ」

暗器使い「黒い騎士はそうしようとしていたが……アイツはそうはしなかった」

勇者「……エルフさん……」

暗器使い「……良いか勇者」

暗器使い「今の俺達に出来ることは二つだ」
576 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/07/02(火) 15:47:19.82 ID:8Mb4mLm20
暗器使い「一つは今まで通り、残りの紋章持ちを探すという事」

勇者「……残りは魔法使いと格闘家の紋章持ちだね」

猫又「へえ、紋章持ちっていうのは全部で七人なんだ」

暗器使い「……そして二つ目は、俺達自身がもっと強くなることだ。もう二度と負けないためにもな」

勇者「うん……そうだね」

暗器使い「それから勇者。お前に一つ聞いておきたい」

暗器使い「その剣と、お前自身についてだ」

勇者「…………」

暗器使い「そろそろ俺達も、知っておいて良いんじゃないのか?」

勇者「……分かった。話すよ」
577 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/07/02(火) 15:48:01.20 ID:8Mb4mLm20


勇者は街まで戻り安全が確保できた所で、暗器使い達に剣の秘密を語った。


暗器使い「……驚いたな。その剣の中に“初代勇者様がいる”って言うことになるのか?」

勇者「そうだと思う」

勇者「初めの内は夢にぼんやりと出てくる程度だったんだけど、最近ははっきりと認識できるようになったんだ」

勇者「剣のおかげで僕は初代勇者様の力を借りることが出来る」

勇者「それこそ最近は……かなり力が馴染んできた感覚があるよ」

暗器使い(時折別人のように強くなるのはそのせいか……)

暗器使い「しかし何で今日までその事を黙っていた? 何か問題でもあるのか?」

勇者「それは……その……ほら、確証が持てなかったって言うか」

勇者「この剣に宿っているのが誰かをきちんと認識できるようになったのは最近だから、言い出すタイミングがなくて」
578 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/07/02(火) 15:53:04.52 ID:8Mb4mLm20
暗器使い「……そうか。そういう事にしておこう」

勇者「うん……」

猫又「あのさ、初代勇者の魂と一体化したような状態になったおかげで記憶の共有も出来たのなら、あの騎士のことも何か分からないの?」

勇者「ええっと、まだ完全に記憶が共有できている訳じゃ無いんだ」

勇者「現に魔王の事ですら何にも頭に浮かんでこないんだ」

勇者「ただそれにしても恐らくは……あの騎士は千年前の大戦の時にはいなかったはずだよ」

辻斬り「新しく加入した幹部って事か」

辻斬り「ま、新生なんて名乗るぐらいだし中身は結構別物って可能性は高いね」

辻斬り「初代勇者の記憶……場合によっては俺達にとってかなり有益な情報をもたらしてくれるかもしれないね」

暗器使い「かもな……」
579 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/07/02(火) 15:53:50.27 ID:8Mb4mLm20
暗器使い「そんで、これからそうするんだ? いつもの直感で行きたい場所は無いのかよ」

勇者「それがね……中々ピンと来なくて」

勇者「もしかしたら、ここで少し腕を磨いていけって事なのかもしれない」

辻斬り「そういう事なら付き合うよ」

辻斬り「俺もかなり、剣筋に鈍りがあるみたいだからねえ」

暗器使い「お前はどうするんだ?」

猫又「私? ……うーん……」

猫又「君たちが良ければだけど、しばらくは一緒に行動してみようかな」

猫又「妖刀の監視もしなきゃ、だし」

辻斬り「それは心強いけど……何でまた?」
580 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/07/02(火) 15:54:39.94 ID:8Mb4mLm20
猫又「盗品の刀は今回で全部回収できたから、私の生きている目的っていうのは果たされてしまったわけ」

猫又「前はね、その目的が無くなったあとどうしたら良いんだろうって不安だったの」

猫又「でもね、皇国で知り合ったある二人組のおかげでその不安も消えた」

猫又「どんな些細な、どんな下らない事でもまた次を見つければ良い。簡単なようで難しいことだけど、そう思うようにしてるの」

猫又「しばらくは君たちが歴史をどう動かしていくのか眺めているのも面白いかなあって」

暗器使い「同行者が増えるのは心強いが、大丈夫なのか?」

勇者「あんまり紋章持ち以外が仲間になると良くないとは聞いているけど、一人や二人なら何の問題も無いはずだよ」

勇者「実際初代勇者様だって色々な人と冒険していたからね」

勇者「猫又さんが良いなら是非」

猫又「それならしばらく厄介になるね」
581 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/07/02(火) 15:55:12.09 ID:8Mb4mLm20
辻斬り「あんたと一緒に行動する日が来るとはね……」

猫又「それはこっちのセリフ。あのときの傷跡残っているんだから」

辻斬り「それは……悪かったよ」

猫又「ま、いずれ何かの形で返してもらうわ」

辻斬り「ああ、そうする」

辻斬り「さて、取り敢えずは道場に戻るって事で良いんだよね」

勇者「うん、そうしようかな」

辻斬り「それじゃあ行こうか」

辻斬り(初代勇者が宿った剣か……恐らくはこの刀も……)

辻斬り(いろいろと調べてみる必要が有りそうだな)
582 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/07/02(火) 15:56:56.75 ID:8Mb4mLm20





──数日後、魔国にて


百目の異形「では無事に僧侶の紋章持ちを捕獲できた、と」

黒い騎士「ああ……だが肝心の勇者を仕留めきれなかった」

隻腕の忍「あっちには剣士の紋章持ちも加わっていたんだろ? それは予定外だったから仕方が無い」

隻腕の忍「あの紋章持ちは毎度毎度、単純戦闘力が飛び抜けているからな」

妖艶な術師「だからこそ、発展途上の今に叩いてしまえれば良かったのだけれど」

黒い騎士「済まない……」

妖艶な術師「まあ、僧侶の力と貴方の魂の相性は最悪だからね……不意打ちを食らったのであれば仕方が無いけれど」

百目の異形「もう少しそちらに兵力を回せれば良かったのだが、敵の目を掻い潜るためにはあまり大所帯では困るのでな……」
583 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/07/02(火) 15:58:53.52 ID:8Mb4mLm20
隻腕の忍「何より人間の連合国側の攻撃が苛烈になってきているからなあ。主力はやはり前線に置きたい」

隻腕の忍「向こうも先の作戦の失敗分を取り戻そうと必死なんだろう」

百目の異形「うむ。その件については見事な働きだったぞ、エルフよ」

百目の異形「まさか勇者パーティー内に間者がいるとは思いもしなかっただろう」

紅目のエルフ「……それはどうも」

妖艶な術師「それにしても、僧侶は殺さなかったのね」

妖艶な術師「当代はかなり強い力を持っているみたいだから殺して次に移しても良かった気がするけれど」

妖艶な術師「長いこと一緒に居て情でも移っちゃった? エルフちゃん?」

紅目のエルフ「……まさか」

新生魔王軍の長「そこまでにしておけ」
584 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/07/02(火) 15:59:27.28 ID:8Mb4mLm20
新生魔王軍の長「黒い騎士が殺さずに捕獲をしたのであれば、あれは騎士の物だ」

新生魔王軍の長「四天王は互いに過干渉をしてはならない……そう決めたはずだ」

妖艶な術師「分かっているわ。ちょっと疑問に思っただけよ」

新生魔王軍の長「今回は先の戦の穴を突いて黒い騎士らを送り込めたが、この先は警戒も強まってそう簡単には行かないだろう」

新生魔王軍の長「残りの転移魔法陣も多用はでき無いのでな」

新生魔王軍の長「勇者本人を叩けなかったのは痛かったが、回復役を削げたのは大きい」

新生魔王軍の長「次の機を見て当代勇者は消す」

新生魔王軍の長「四天王はこの先も自身の役割を果たせ。良いな?」

百目の異形「うむ」

妖艶な術師「はあい」
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