僧侶「勇者様は勇者様です」

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350 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 17:08:36.60 ID:p2+N267H0
遅れましたが《大陸会議》編です。
前作登場人物の氷の退魔師が出てきました。いずれ他にも出てくるかもしれません。
では。
351 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/13(木) 23:18:53.81 ID:yBi6lTYVo
352 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/14(金) 01:51:06.78 ID:NKXPiO+DO
来てたか乙!
353 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 18:51:26.73 ID:HuOAqhe80





大柄な熊髭の老人「さて、そろそろ今日の本題といきましょうか」

眼鏡の共和国外交官「…………」

大柄な熊髭の老人「……先の報告にもありましたが、先日の新生魔王軍の決起以来多くの人外が彼らに合流いています」

大柄な熊髭の老人「それが手伝ってか、新生魔王軍の勢いは全く衰えることはなく、むしろ増大していっていると言っても過言ではない……」

大柄な熊髭の老人「これは、食い止めなければならない」

帝国軍将軍「……彼らにとっては幾百年と溜まった恨みつらみが晴らせるいい機会だ」

第二聖騎士団長「それで各国での人外に対する法の制定の促進……」

第二聖騎士団長「彼らに市民権を与える、という話になるのですね」

眼鏡の共和国外交官「言いたいことはわかりますがねえ……しかしあまりにも急すぎる」
354 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 18:52:20.99 ID:HuOAqhe80
眼鏡の共和国外交官「術者にはわからないでしょうが、根底まで根付いた法を改めていくというのは簡単な話ではない」

切れ長の目の女皇帝「ではこのまま新生魔王軍とやらがぶくぶくと膨れ上がっていくのを黙ってみていると言うか?」

王国軍総軍師「共和国外交官殿……この事は近年でも問題となりつつあった」

王国軍総軍師「我が国でも徐々に彼らのための法が敷かれつつある」

王国軍総軍師「帰国も何もせず来たというわけでは無いはずだ。その歩みを少しばかり早めねばならない段階に来たということなのだ」

眼鏡の共和国外交官「…………」

逞しい祈祷師「我が国でも当然、様々な法整備が始まっている……しかし法だけでは守れない者達についてはどうすれば良いと考えられているのか」

逞しい祈祷師「具体的言うならば、人や、自然から得られる力そのものによって生きているような者のことだ」

逞しい祈祷師「我が国ではこの教会で言うものとは別の……自然界に偏在する神々を信仰している」

逞しい祈祷師「我々は神々の恵みを受けて豊かな生活を営み、神々は我々の信仰によって永年に存在し続ける……」
355 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 18:54:40.46 ID:HuOAqhe80
逞しい祈祷師「そのような文化があれば話は別だが、他の地で彼らは果たして人の世に溶けこむことは出来るのか?」

氷の退魔師「その事だが……どこから説明しようか……」

氷の退魔師「ううむ、まず、そうだな…………」


氷の退魔師「俺の目指す先は“人外をこの大陸から消し去ること”だ」


勇者「えっ!?」

眼鏡の共和国外交官「何だと……?」

自治区五代目区長「ふむ…………」

色白の法王「それは、一体……?」

切れ長の目の女皇帝「言葉足らずだ馬鹿者め……」

氷の退魔師「まあまず聞いてほしい。俺の半生で研究した成果と考えについてだ」
356 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 18:55:39.64 ID:HuOAqhe80
氷の退魔師「みな一口に人間と人外と呼んでいるが、そう単純な話でもない」

氷の退魔師「まず人間の中には我々術者のような特殊な力を扱える者がいるが、これは人外と何が違うのだろうか」

氷の退魔師「これは力を自ら習得するか、外力によって与えられた力かの違いだ。この外力をこれからは巨大意思と呼ぶことにする」

第三聖騎士団長「しかし例えば、氷の退魔師殿の力も僧侶殿の力も先祖から受け継がれてきたものなのではありませんか?」

氷の退魔師「この力は家系的な適性があって得られたものであって、生まれてそのまま術を使える訳ではない」

氷の退魔師「そこには選択の余地すらもある。実際うちの馬鹿息子は一族の血に逆らったようだしな……」

第五聖騎士団長「それでは人外は巨大意思なるものに力を強制的に与えられた者たちを指すと?」

氷の退魔師「正確には一般的に人外と呼ばれている者たちの多くはそうではない」

氷の退魔師「そもそも人外という括りは大きすぎるし、好きじゃない」

氷の退魔師「エルフやらドワーフやらコボルトやら……そういった奴らは人間と同じように代々血が続いてきた種族だ」
357 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 18:56:37.72 ID:HuOAqhe80
氷の退魔師「俺が形式上人外と呼んでいる奴らは、種族じゃない」

氷の退魔師「どこからともなく生まれてきた個人のことを指している」

第五聖騎士団長「確かに、人間や犬猫が突然人外になったという報告も珍しくない。彼らを種として分類するのは難しい」

自治区五代目区長「その通りです。我々エルフが何らかの原因でエルフ以外の血から生まれるという事はあり得ません」

眼鏡の共和国外交官「……なるほど……」

眼鏡の共和国外交官「その原因が巨大意思、というものであると……?」

第三聖騎士団長「その巨大意思とは一体……」

切れ長の目の女皇帝「人々が抱く畏れや信仰のことだ」

切れ長の目の女皇帝「多くの者が恐れるものはいずれ真となり、具象化する」

切れ長の目の女皇帝「奴らの多くはその巨大意思によって生まれた代償に、その畏れを糧にせねば消えてしまう」
358 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 18:58:19.55 ID:HuOAqhe80
切れ長の目の女皇帝「特に近年、奴らの誕生自体が大きく減ってきている」

切れ長の目の女皇帝「これは人々が世の真を知り始めたから……」

切れ長の目の女皇帝「風は風神が、雷は雷神が起こしているわけではない……科学技術の発展が奴らの存在に取って代わった……」

切れ長の目の女皇帝「いや、元に戻ったと言う方が適切か」

第三聖騎士団長「それでは氷の退魔師殿が仰っていた“人外をこの大陸から消し去ること”とは、その者たちの衰退を促すということのですか?」

切れ長の目の女皇帝「ふう……そら見たことか、誤解を生んでいるぞ」

氷の退魔師「おお、これは失礼」

切れ長の目の女皇帝「衰退は促さなくとも起こっている。先程言ったように時代が人外を生み出さなくなっているからだ」

切れ長の目の女皇帝「此奴のが言いたいのは巨大意思に頼らないと存在できない人外を消す……つまりは巨大意思に頼らなくても生きていけるようにするということだ」

第三聖騎士団長「そんな事が可能なのですか?」
359 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 18:58:51.81 ID:HuOAqhe80
氷の退魔師「可能だ。それが俺の半生の研究成果の一つだ」

切れ長の目の女皇帝「我が国も協力して効果は実証済みだ。今後の改良の余地はまだまだあるが……」

王国軍総軍師「それは興味深い。更に詳しくお聞きしたいものだ」

大柄な熊髭の老人「ですねえ」

氷の退魔師「是非この後にでも…………」

紅目のエルフ「……一つ、いいでしょうか?」

色白の法王「貴女がたも会議の参加者です。どうぞ発言なさってください」

紅目のエルフ「ありがとうございます。それでは…………」


紅目のエルフ「人間と人外の共生を目指すのならば、魔国を国として認めるのも一つの手なのではないのでしょうか?」


勇者「…………!」
360 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 19:00:16.93 ID:HuOAqhe80
僧侶「エ、エルフ様……」

暗記使い「…………」

切れ長の目の女皇帝「ふふふ、確かに」

眼鏡の共和国外交官「笑い事ではないぞ女帝殿! 奴らは不当に我が国や王国、帝国の領土を蹂躙しているのだ!」

眼鏡の共和国外交官「それを許せるとでも?」

紅目のエルフ「失礼を承知で申し上げますが…………」

紅目のエルフ「今皆さんが国土と主張する土地は、一体誰の土地を蹂躙して手に入れたものなのでしょうね」

第二聖騎士団長「侵略を正当化するつもりですか?」

紅目のエルフ「正当化しないとこの大陸に正義など無いのでは? 何百と繰り返されてきたことでしょう?」

紅目のエルフ「ならば最も簡単な解決策に思える、魔国の建国を阻害する理由としては十分では無いと思えるのですが」
361 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 19:01:12.94 ID:HuOAqhe80
紅目のエルフ「それに彼らの中には巨大意思無しには生きていけない者がいるのでしょう?」

紅目のエルフ「それならば人間を滅ぼすような事は絶対に無いでしょうし……」

氷の退魔師「奴らが国を建ててお終い…………ってなるならそれで良いんだが」

氷の退魔師「どうやらそうじゃ無いみたいでな」

紅目のエルフ「……一体何が……?」

帝国軍将軍「私が話しましょう」

帝国軍将軍「新生魔王軍の占領下から救出された国民の中に様子のおかしい者たちがいます」

帝国軍将軍「わかりやすく言うならば……感情の暴走、でしょうか」

帝国軍将軍「各々がある感情を常に懐き続けているように見える…………」

勇者「まさか…………」
362 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 19:01:48.26 ID:HuOAqhe80
帝国軍将軍「ええ……彼らはもしかしたら“巨大意思を生み出すだけの家畜のようなもの”を創り出そうとしているのかもしれません…………」

第五聖騎士団長「ふむ…………」

第二聖騎士団長「野蛮な……!」

氷の退魔師「ああ、その可能性は十分にある」

氷の退魔師「俺にも色々とツテがあってね。俺のやろうとしていることは奴らの耳にも入っているはずだ」

氷の退魔師「だがどうやら、歩み寄るつもりは無いらしい」

氷の退魔師「新生魔王軍の目的はおそらく、必要な分の人間を“管理”できる世界にすることなんだろう」

氷の退魔師「流石にそうさせるわけにはいかないだろう?」

紅目のエルフ「……それはその通りですね……過ぎた発言をお許しください」

氷の退魔師「なに、君の言ったことは当然の疑問のはずだ」
363 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 19:03:07.22 ID:HuOAqhe80
色白の法王「それでは氷の退魔師殿の詳しい説明はこの後していただくとして、一つ私の口から伝えたいことが有るのですが……よろしいでしょうか」

氷の退魔師「ええ勿論」

色白の法王「……現勇者およびその仲間の皆さん」

勇者「は、はい……!」

色白の法王「私がお伝えしたいのはあなた方の今後の活動についてです」

勇者「それは……」

勇者(まさか情勢が不安定な今は旅を自粛しろって話では……)

色白の法王「結論から申し上げます。思うように、好きになさってください」

勇者「え……」

色白の法王「千年前の戦いから代々現れたという勇者の仲間たち……彼らは一体どのようにして選ばれているのか聞いたことはありますか?」
364 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 19:03:59.65 ID:HuOAqhe80
僧侶「いえ、推測ばかりで正しいことは……」

色白の法王「ええ、私がこれから話すことも推測の域を出ません」

色白の法王「しかし、私が聞いた中では最も興味深い説でした」

色白の法王「あなた方、勇者の仲間たちには、一人ひとりに役割があるのだというのです」

色白の法王「その役割というのは、人によって、そして時代によって様々でした」

色白の法王「しかし過去に数度、同じ様に魔王軍の残党を名乗る者たちが現れた時は、彼らの役割はそれを止めるために与えられたと言います」

色白の法王「例えば、弓は趣味程度という吟遊詩人が弓使いの紋章持ちとして選ばれた時のことです」

色白の法王「彼が詩に良く用いる星座の知識を以って、星を使った大規模魔法陣の発動を阻止したと聞いています」

色白の法王「私はあなた方にもそのような役割があるのだろうと考えています」

色白の法王「そしてそれは、そのリーダーである勇者様、貴方も同様です」
365 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 19:04:26.59 ID:HuOAqhe80
色白の法王「その役割とはあなた方があなた方自身であるからこそ、与えられたもの」

色白の法王「だから自分らしく、思ったように行動していってもらいたいのです」

色白の法王「その先に危険が有るとしても、それが信じる道ならば進むことも必要となるでしょう……」

色白の法王「全ては、あなた方自身の判断にお任せいたします」

色白の法王「ですが我々があなた方の助力を必要としている時、可能であればお手を借して頂けると助かります」

勇者「はいっ……!」

暗記使い「お任せ下さい」

僧侶「有事の際は必ず駆けつけます……!」

紅目のエルフ「……ふうん、役割ねえ……」
366 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 19:05:04.71 ID:HuOAqhe80





──晩餐会場外のバルコニー


氷の退魔師「よう、お疲れさん。こんな所で何してんだ?」

勇者「お疲れ様です。いやあ、ちょっと酔いを覚まそうと……」

氷の退魔師「そうか、お前ももうそんな歳か」

勇者「あはは、まだ慣れないですね」

勇者「しかし凄いことになりましたね。これは前々から計画されていたことなんですか?」

氷の退魔師「ああ。退魔師協会を独立させて退魔師ギルドとする……皇国の皇帝サマの他にもうちの国王サマも協力してもらっている」

勇者「国王様も……!?」

氷の退魔師「ああそうだ。退魔師ギルドとして教会から独立したメリットは大きいぞ」
367 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 19:09:57.36 ID:HuOAqhe80
氷の退魔師「今まで以上に幅広い活動が出来ることは勿論だが……」

勇者「今までは退魔師の拠点がなかった北方連邦国、南部諸島連合国、自治区にもギルドを設立することが出来るんですよね」

氷の退魔師「人外への法整備の件も含めて本国に帰ってそれぞれ協議はするらしい。まあ恐らくは可能であろうという事だ」

氷の退魔師「それに伴って君達勇者一行も退魔師ギルドに加入してもらう。その方が今後の活動もしやすいはずだ」

氷の退魔師「この件も国王サマから承諾済みだ」

勇者「なるほど……」

氷の退魔師「今は色々と慌ただしいから時間がかかりそうだが、お前達の組合証の発行はなるべく急がせる」

氷の退魔師「発行でき次第帝国の使節と一緒に大陸に戻ると良いだろう」

勇者「色々とありがとうございます」

氷の退魔師「なあに、これぐらいさせろっての」
368 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 19:10:29.06 ID:HuOAqhe80
氷の退魔師「……あいつの忘れ形見なんだからな」

勇者「あいつとは……父のことでしょうか」

氷の退魔師「ああ……」

氷の退魔師「薄々勘付いていると思うが、俺があいつのパーティーの魔法使いの紋章持ちだった」

勇者「やっぱりそうでしたか……」

勇者「初代魔法使い様の御子孫ですものね」

氷の退魔師「こうなる恐れはあったんだ……もっと強く忠告しておくべきだっただろうか」

勇者「何か知っていたのですか?」

氷の退魔師「まあ独自のルートでな。皇国に出向いていたのは半分はそのためだ」

勇者「半分は……?」
369 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 19:11:13.93 ID:HuOAqhe80
氷の退魔師「まあ色々あんだよ」

氷の退魔師「……今はな、色んな事が複雑に絡み合っていっている最中だ。常に自分を見失わないようにしておけよ」

勇者「…………」

氷の退魔師「さて、あんまり席を外しすぎていると失礼だろう。そろそろ戻るとしようか」

勇者「そうですね」

勇者(氷の退魔師さんが魔法使いの紋章持ちだったということはもしかしたら息子の彼も……)

勇者(確かまだ皇国に滞在しているっていう話だったけれど)

勇者(まあまた後で聞いてみよう)
370 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 19:12:06.95 ID:HuOAqhe80





それから各国の代表に限って安全のために転移魔法で帰還をしていった。

転移魔法は消費する魔力も莫大であるためそう多くは使えない。

そのため付き人など他の者達は船に乗っての帰国になる。勿論勇者達もそれに従うことになっている。

新生魔王軍は各ダンジョンからの脱出のために転移魔法を多用していたようだが、そこからも彼らが準備に如何に年月をかけていたのかが窺える。

氷の退魔師が出立する直前に尋ねたところ、彼の息子は今は皇国にいるがこの後自分を含めてとある式を挙げた後にはどこへ行くかは分からないと言った。

氷の退魔師に着いていくことも考えたが、またもや勇者の“直感”が帝国へ向かうべきだと言っているために断念した。

結局諸々の手続きや準備が終わったのは会が終わってから一月も経った頃だった。


帝国使節団員「いやあまさか我々の船の準備が整った矢先に海が大荒れして出るに出られなくなってしまうとは……」

勇者「ようやく晴れて出発となりそうですね」
371 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 19:13:05.97 ID:HuOAqhe80
帝国使節団員「いやはや、本当にお手数をおかけいたしました」

僧侶「いえいえ、私達はお世話になる側ですので……」

帝国使節団員「道中はよろしくおねがい致しますね。それでは確認が取れ次第出発と……って、法王猊下!?」

勇者「えっ!?」

色白の法王「ふふ、見送りに来ました」

僧侶「そんなわざわざこんな所まで……!」

色白の法王「君達にはもう一度会っておきたくね」

色白の法王「僕とそう歳が違わないのに大陸中を駆け回っているなんて……本当に尊敬しているよ」

勇者「そんな……猊下の責務の重さと比べましたら……」

色白の法王「僕なんて大した事はないよ。法王とは名ばかりのお飾り……」
372 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 19:14:01.65 ID:HuOAqhe80
色白の法王「何で僕が選ばれたのかも未だに分からないんだ」

僧侶「そんなお飾りなどと……」

勇者「……仮に猊下がご自身をそう思われているとしましょう。しかしお飾りなのは僕たちも同じなのです」

勇者「ですがお飾りだからといってただ黙って座しているわけではありません」

勇者「飾り物は飾り物なりに出来ることをやっていきましょう」

僧侶「ゆ、勇者様……! 流石に出過ぎた言葉かと……!」

色白の法王「……飾り物なりに、か……」

色白の法王「ふふ、そうかもしれないね」

色白の法王「ありがとう、少し迷いが取れたよ」

色白の法王「この先きっとお互いに厳しい日々が待ち受けているとは思うけれども、頑張っていこうね」
373 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 19:14:46.31 ID:HuOAqhe80
勇者「はい……!」

色白の法王「勇者一行の行く先に天の導きがあらんことを!」

僧侶「それでは行ってまいります……!」


法王に見送られながら二人は乗船した。

船には既に他の使節団員や暗器使いらが乗り込んでおり、出向に向けて慌ただしく走り回っていた様子も落ち着いていた。


紅眼のエルフ「はい、酔い止めの薬。婆様に調合してもらったから効き目も抜群のはずよ」

勇者「ありがとうございます!!」

暗器使い「なるべく甲板で遠くを見ておけよ。食事中も手元を見すぎないようにな」

勇者「うん、気をつけるよ……」

帝国使節団員「それでは皆さん、出港しますよ!」
374 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 19:15:26.39 ID:HuOAqhe80


いかりを巻き上げる音が止むと次はごうと煙が吹き上がる音が響いた。

最新式の蒸気汽船は嵐の後の静かなら海原を悠々と進み始めた。

375 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 19:16:10.64 ID:HuOAqhe80
《ランク》


S2 九尾
S3 氷の退魔師 長髪の陰陽師

A1 赤顔の天狗 共和国首都の聖騎士長 黒い騎士 第○聖騎士団長
A2 辻斬り 肥えた大神官(悪魔堕ち) レライエ
A3 西人街の聖騎士長 お祓い師(式神) 赤毛の術師 隻眼の斧使い 

B1 狼男 赤鬼青鬼 暗器使い
B2 お祓い師 勇者 第○聖騎士副団長
B3 フードの侍 小柄な祓師 紅眼のエルフ

C1 マタギの老人 下級悪魔 エルフの弓兵 影使い オーガ 竜人
C2 トロール サイクロプス 法国の熱い船乗り
C3 河童 商人風の盗賊  ウロコザメ

D1 若い道具師 ゴブリン 僧侶 コボルト
D2 狐神 青女房 インプ 奴隷商
D3 化け狸 黒髪の修道女 天邪鬼 泣いている幽霊 蝙蝠の悪魔 ゾンビ


※あくまで参考値で、条件などによって上下します。
※聖騎士団長は全団A1クラス
※聖騎士副団長は全団B2クラス
376 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 19:19:10.64 ID:HuOAqhe80
登場人物が一気に増えました。
希望があればいずれ人物紹介をまとめたいです。
次回は《歓楽街》編です。
377 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/07(月) 23:41:37.11 ID:33Rz+WoDO

待ってた
378 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 15:56:45.85 ID:a5Ewyth70
《歓楽街》


法国本島から南下し、帝国と王国の国境にある深い湾へと蒸気船は進んでいった。

湾の最深、帝国と王国の国境が交わる巨大な港町にたどり着いた頃には報告に滞在していたのも遥か昔に感じられるような気がした。


┌──────────────────────────────────
|                       。                                           
|                _n__                                             
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|    /       V               /    /\                               
|    >                     <      > ∨\                  __ ◇   
|    \                __/      |法国Σ 。    ◇       /    /      
|     _/  北方連邦国  /   <        \___/        __  /     \     
|    /                |     \__                  /    W        /     
|   「                /\自治区 V\_  __      /     /        \   
|   >___n__ _/  \__/   | |   \   |      \        |   
|   /       _ /   V                / /      |  /        |        \ 
|  / 亡国 //        /\___ ____V         \|         /  皇国   < 
|  [_   /  \       |      ∨                          |_        / 
|     \/     |    _/                                  /        \_
|            /    \                                  |          _/
|            |       /                  帝国             \_       /。 
|            L  王国 |                                     /      \
|            /       \_                                 \_  _/
|            |            \___     ____              /   V  |
|            |           _ _く  \_/        \_/\___     |       /     
|            \M       |  V  \          共和国      \_/       |     
|                \    Σ 。  _ \         /\/\_ _        _/     
|                  |_ /   /  \|/\__N      。 V  |      /       
|                    ∨     \_/ V     _◇        /    「             
|                      ◇       _    /  V  \_/\  \  n/           
|                          。   /  \ /              <  /__/               
|───────────────\__南部諸島連合国 __/ ────────
|    。                               。   \_/ \/                       
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勇者「り、陸地だ……! 景色が揺れない……!」

帝国使節団員「はは……長い間お疲れ様です」
379 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 16:02:25.61 ID:a5Ewyth70
帝国使節団員「さて、入国手続きを済ませた後は我々と宿舎へ向かうということでよろしいですね」

勇者「はい、よろしくお願いします」

暗器使い「それにしても大きな街だな……」

僧侶「二大国家の国境にある港町で、更には法国への玄関口とも言われていますからね」

僧侶「主に交易などで栄えた巨大商業都市です」

勇者「この街は特殊で、二国の国境を跨いでいるのにも関わらず、街の中には関所がないんだよね」

僧侶「両国の軍隊も中には入れません。その代りに両国の民間出身の自警団がいて、街の出入りには厳重な検査があります」

暗器使い「なるほど……」

紅眼のエルフ「商業の街とは即ち歓楽の街……! 世界各国のお酒が手に入ると見たわ……!」

紅眼のエルフ「早く手続きを済ませたいわね」
380 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 16:03:02.48 ID:a5Ewyth70
僧侶「エルフ様……遊びに来たわけではないと……」

紅眼のエルフ「いつまでも気を張ってたらいざという時力が出ないわよ?」

暗器使い「まあ適度の息抜きは必要だろう……適度ならばな」

帝国使節団員「それではこちらへどうぞ」


使節団員に案内された勇者達は厳重な入国検査を済ませてから門を潜った。

その先には見渡す限りの綺羅びやかな街並みが広がっていた。


勇者「うおお……!」

僧侶「大きい……ですね」

暗器使い「法国の港町が気品のある美しさならば、こちらは情熱的な美しさと言えるだろう」

紅眼のエルフ「これは本当に楽しめそうね」
381 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 16:07:26.08 ID:a5Ewyth70
僧侶「まずは用意していただいた宿舎へ向かいますよ」

僧侶「よろしくお願いします」

帝国使節団員「はい、お任せください」


繁華街を抜けた先で四人は客人用の宿舎へと通された。


勇者「フカフカのベッドだ! 今日はぐっすり眠れそうだ」

紅眼のエルフ「あら、今晩寝るつもりなの? 私はてっきり朝まで遊ぶものだと」

勇者「それも魅力的だけど……」

僧侶「ほどほどにお願いしますね」

紅眼のエルフ「強くは止めないのね」

僧侶「エルフ様はその……止めても無駄な気がしてきまして」
382 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 16:11:08.77 ID:a5Ewyth70
暗器使い「ふっ、見限られているぞ」

紅眼のエルフ「いいもん、自由にやるわ」


紅眼のエルフは硬貨を入れた財布代わりの布袋を懐にしまって外套を羽織った。


紅眼のエルフ「それで、男衆はどうするの?」

勇者「僕は船の疲れがまだ大分あるから今日は遠慮しておくかな」

紅眼のエルフ「ま、それが懸命かもね」

暗器使い「……誰も行かないのであれば付き合おう」

紅眼のエルフ「あら、無理にとは言わないわよ」

暗器使い「俺も酒を入れたかったところだ」

暗器使い「法国でも上等なものは提供されていたが、宴席での酒は堅苦しくて好きではない」
383 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 16:19:38.14 ID:a5Ewyth70
紅眼のエルフ「それは同感。じゃあ行くとしましょうか」

僧侶「あまり遅くならないようにしてくださいね」

暗器使い「ああ」

紅眼のエルフ「大丈夫よ。私もこの男も飲まれるようなタイプじゃないから」
384 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 16:35:14.96 ID:a5Ewyth70





紅眼のエルフ「それで、何の用かしら?」


繁華街の外れで紅眼のエルフはふと足を止めて振り返った。

暗器使いは特に表情を変えることもなく彼女を追い越した。


暗器使い「お前が用がある所に俺も少しな」

紅眼のエルフ「私が用があるところなんて酒場だけだけど?」

暗器使い「宿舎に向かう途中表情を変えた場所……件の人身売買組織の拠点の一つか何かだろう」

紅眼のエルフ「……鋭い男ねまったく」

暗器使い「あの空気感は、どうにも馴染みがあってな」

暗記使い「あの件はうちの国の売人も一枚噛んでいたらしい。背景を探るように俺も指示を受けた」
385 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 16:51:04.99 ID:a5Ewyth70
紅目のエルフ「ああ、この間法国で議員さんと何か話していたものね」

暗記使い「見ていたのか」

紅目のエルフ「コソコソとなにか企んでいそうだったから、つい」

暗記使い「ふん、どうだろうな」

紅目のエルフ「ま、深くは追求しなわ」

暗記使い「そうしてくれ……」

暗記使い「さて、と……」

紅目のエルフ「着いたわね」
386 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 17:02:58.22 ID:a5Ewyth70


二人が見上げた先には、半壊した大きな建物がある。

一見すると普通の酒場のようだが、奥へと進むと異様な空間があった。


紅目のエルフ「これは……」

暗記使い「地下への入り口だな。おそらくこの先が……」

紅目のエルフ「……行きましょう」

暗記使い「ああ」


元は隠し扉のようになっていたと考えられるが、勇者らが自治区で入手した情報が発端の強制立ち入りの際に破壊されたようだ。

抵抗もあったようであちこちに戦いの跡が残っている。

石造りの螺旋階段を降りた先には見世物小屋のような広間があった。


暗記使い「……連れ去られた者たちはここで競りにかけられていたのだろうか」
387 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 17:12:01.05 ID:a5Ewyth70
紅目のエルフ「……そうでしょうね。許せないわ……」

暗記使い「ここにもエルフは囚われていたのか?」

紅目のエルフ「ええ、一人いたみたいね。もう自治区の方で保護されているはずだわ」

暗記使い「そうか……」

暗記使い「しかし妙だな」

紅目のエルフ「どうかしたの?」

暗記使い「おかしいと思わないのか? どうしてこの街にこんな所がある」

暗記使い「確かにこの街では手に入らないものは無いと言われている。だが人身売買だけは例外的に禁止されていると聞いている」

暗記使い「しかしあれほど厳重な検問があるのに、ここではそれなりの規模の売買が行われていたようだ」

紅目のエルフ「それは……確かに変ね」
388 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 17:14:01.03 ID:a5Ewyth70
暗記使い「可能性があるとすれば……」

紅目のエルフ「この街に、グルのやつがいるってことね」

紅目のエルフ「それもお偉いさんか、検問関係の人間に」

暗記使い「そういうことだな」

暗記使い「ま、解決した今となってはどうでもいいか」

暗記使い「……と、言いたいところだが」

紅目のエルフ「少し探ってみるのも面白そうね」

暗記使い「ああ。誰かの影響を受けているみたいだな」

紅目のエルフ「本当よね。あの子、視界に写ったことは解決しないと気がすまないのよね」

紅目のエルフ「自治区から法国への間でも人助けやらで何回脇道に逸れたことか」
389 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 17:15:42.39 ID:a5Ewyth70
暗記使い「おかげで旅程は滅茶苦茶だったな」

紅目のエルフ「ここに長く滞在はしないみたいだけど、出来る範囲で調べてみますか」

暗記使い「ああ、そうしよう」

紅目のエルフ「……早速面白いものを発見したわ」

暗記使い「どうした?」

紅目のエルフ「この壁の向こうから空気の流れを感じるわ」

暗記使い「隠し通路か……!」

暗記使い「国境を越えた大商業都市の地下に密輸用の地下通路があるとはな……」

紅目のエルフ「おそらく街の外へとつながっている通路もあるのでしょうね」

紅目のエルフ「ただしこれがそうとは限らない」
390 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 17:22:32.82 ID:a5Ewyth70
暗記使い「ああ。進んでみないとこの先は分からないな」

暗記使い「おそらくここを作動させれば……」


暗記使いが石壁の近くに隠されていた魔法陣を起動させると、壁が左右に割れて通路が現れた。

その通路を進むことしばらく、ふと暗記使いが足を止めた。


暗記使い「……気がついているな?」

紅目のエルフ「ええ、巡回の見張りかしらね」

暗記使い「あの地下室に繋がる隠し通路に見張りがいる……しかも自警団の制服ではないから、誰かが雇ったゴロツキだろう」

紅目のエルフ「……ま、殺さないようにね。面倒事になるかもしれないし」

暗記使い「わかっている」


暗記使いは音もなくゴロツキに忍び寄り、背後から口をふさいで首に針を突き刺した。
391 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 17:27:25.34 ID:a5Ewyth70
しばらく抵抗しようともがいたゴロツキは、徐々にその動きが鈍り、ついには床に崩れ落ちた。


紅目のエルフ「睡眠薬でも塗ってあるのかしら?」

暗記使い「ああ」

暗記使い「こいつは縛り上げてどこかに隠しておこう」

紅目のエルフ「……待って、まずいわ」

紅目のエルフ「複数の足音……近づいてくるわ……!」

暗記使い「何……!? まさか……」


暗記使いが眠らせたゴロツキの手のひらにはいつの間にか小型の魔道具が握られていた。

おそらくは仲間のもとに緊急の信号を送るためのものだと考えられる。


暗記使い「やられた……ゴロツキにしては良いもの持ってるじゃねえか……!」
392 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 17:29:44.43 ID:a5Ewyth70
紅目のエルフ「貴方やあの奴隷商も色々と持っていたけれど、最近は便利な物が多いのね」

暗記使い「この手の道具を開発している優秀な南部諸島連合出身の男がいるらしい」

暗記使い「とにかく引き返すぞ」

紅目のエルフ「いえ、進みましょう」

暗記使い「何? 全員倒すつもりか?」

紅目のエルフ「それでも何とかなるでしょうけれど、もっと楽な方法があるわ」

紅目のエルフ「何より今は時間をかけたくないわ」


雇われゴロツキA「いたぞ!」

雇われゴロツキB「男は殺せ! 女は生け捕りにすれば上乗せの報酬が貰えるはずだ!」

雇われゴロツキC「へへっ、耳長じゃねえかちょうどいい。もう一匹と一緒に運び出しちまおう」
393 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 17:30:36.51 ID:a5Ewyth70


紅目のエルフ「あんたらに構ってる時間はないの!」


紅目のエルフが右手を振り上げると同時に、ゴロツキたちの足元から木の根のようなものが飛び出してきた。

それらが絡まり合い檻のようになり、ゴロツキたちを中に閉じ込めてしまった。


雇われゴロツキA「なっ!?」

雇われゴロツキB「くっ、出られねえ!」

紅目のエルフ「先に行かせてもらうわね」

暗記使い「何をそんなに急いでいる?」

紅目のエルフ「わざわざこの通路にこんなに見張りを付けている意味は何だと思う?」

紅目のエルフ「既に街の外に奴隷を運び出していたならこんな事はしないわ」

紅目のエルフ「それにゴロツキが言っていたでしょう、エルフもまだどこかにいるわ」
394 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 17:33:27.34 ID:a5Ewyth70
暗記使い「なるほど……自警団が救い出した奴ら以外の奴隷がまだこの街に隠されているのか」

紅目のエルフ「ただし私達が侵入したことがばれてしまったから、このままじゃその子達は街の外に連れ出されてしまうかもしれない」

紅目のエルフ「そうなったら足取りを掴むのは難しくなってしまうわ」

暗記使い「それは急がないとまずいな……」

暗記使い「奴らが走ってきた方面からしてこっちの道のはずだ。行くぞ……って」

暗記使い「おい……どこに行った?」


暗記使いが辺りを見回すが紅目のエルフの姿は無い。


暗記使い「ちっ、敵の罠か……!? いや、まさか……」

ゴロツキ首領「待てよ侵入者」

暗記使い「…………!」
395 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 17:35:13.77 ID:a5Ewyth70
ゴロツキ首領「部下を向かわせたはずだが……あの馬鹿共。使えねえな、まったく」

ゴロツキ首領「ま、感謝するぜ。こう一つぐらいアクシデントが無いと報酬も上がらねえからな」

暗記使い「……残りの奴隷は無事なのか?」

ゴロツキ首領「ん? 俺は雇われだから詳しくは知らねえが、無事だろう」

ゴロツキ首領「商品を自ら傷付けるとは思えないね」

暗記使い「そうか」

ゴロツキ首領「聞きたいことはそれだけか? それじゃあお喋りはここまでだ」

ゴロツキ首領「行く……ぜっ!」

暗記使い「っ!!」

暗記使い(速いっ……!)
396 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 17:37:34.47 ID:a5Ewyth70


ゴロツキ首領が繰り出した短剣を暗記使いは間一髪で躱した。


ゴロツキ首領「ひゅー、やるねえ!」

暗記使い(こいつ自信の実力は並以上だが俺なら捌けないほどでは無い……)

暗記使い(だが、あのガントレット……)

ゴロツキ首領「もう気がついたか、流石だねえ」

ゴロツキ首領「こいつは良いぜ。俺でもBランク賞金首を殺っちまう事ができた」

暗記使い「便利な物が出回りすぎるのも考えものだな……」

ゴロツキ首領「さあさあ、次行くぜっ!」

暗記使い「ちっ……!」

暗記使い(それにしてもあの女はなぜこうすぐ居なくなるんだ……!)
397 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 17:38:04.15 ID:a5Ewyth70
今日はここまでです。
398 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/22(火) 03:10:48.29 ID:aNNNVEcDO

誤変換を指摘する様な野暮はしたくないんだけどさすがに暗“記”使いは次から直した方が宜しいかと
399 : ◆8F4j1XSZNk [sage saga]:2019/01/23(水) 09:40:18.11 ID:q9jNfns+0
>>398
ご指摘ありがとうございます。
上げる前に一回は見直すんですけれど相変わらず減りません……。
400 : ◆8F4j1XSZNk [saga sage]:2019/02/08(金) 17:03:43.47 ID:k1LIl9NS0





勇者「うーん、暇だ!」

僧侶「疲れているから休みたいと言ったのは勇者様でしょう」

勇者「うーん、もうだいぶ元気なんだよね」

僧侶「はあ……ずいぶんと勝手ですね」

勇者「僕たちもちょっと街に出てみようよ」

僧侶「体調の回復が最優先なんですから、お酒は駄目ですよ」

勇者「わかっているよ。通りに大きな書店があってから行ってみたいんだ」

僧侶「書店……? 勇者様が本とは珍しいですね」

勇者「悪かったね活字が苦手で」
401 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/02/08(金) 17:04:32.08 ID:k1LIl9NS0
勇者「いや、ちょっと自分自身……いや勇者一族についてもっと詳しく知りたくなったんだ」

勇者「あの規模の書店なら、勇者一族についての本も沢山あるはずだと思うんだ」

僧侶「なるほど……しかしなんでまた突然?」

勇者「何となく、もっと色々と知っておかなければならないって思ったんだ」

僧侶「……? まあ、もう当主になったのですから当然ではありますけれど」

僧侶「早速向かいますか? そのまま夜は残りのお二方と合流するのも良いかもしれません」

僧侶「ここへ向かう途中で何やら数件の酒場が気になっていたようですので、その内のどれかにいることでしょう」

勇者「うん、そうしようか」


勇者は軽く身支度を整えると、僧侶とともに街で一番の書店へと繰り出した。


書店の坊主店主「やあいらっしゃい。何かお探しで?」
402 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/02/08(金) 17:05:40.76 ID:k1LIl9NS0
勇者「ええ、ちょっと勇者一族についての本を」

書店の坊主店主「勇者一族について、か」

書店の坊主店主「それならこっちの棚にいくつかあるが……もしかするとあんたは勇者様本人かい?」

勇者「そ、そうですがよく分かりましたね」

書店の坊主店主「なに、商人の耳はどんな奴らより研ぎ澄まされているからな」

書店の坊主店主「一行がこの街に入ったことは既に知れ渡っているさ」

勇者「そうでしたか……一応ですが身分証です」

書店の坊主店主「ふむ、これが新しく発足されたっていう退魔師協会のものかい」

書店の坊主店主「あんたらみたいに自由に動ける奴らの存在は大事だって、兄貴も言っていたしな」

僧侶「お兄様が?」
403 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/02/08(金) 17:08:48.91 ID:k1LIl9NS0
書店の坊主店主「おう。うちの兄貴は皇国で書店をやっているんだが、例の迷宮騒ぎにみごとに巻き込まれたらしくてな」

書店の坊主店主「その時にあの氷の退魔師様たちに助けられたんだと。教会の指示を待っていたら間に合ったかどうか……」

僧侶「なるほど、そんなことが……」

書店の坊主店主「本物の勇者様だっていうなら、あっちに通しても良いな」

僧侶「そちらは?」

書店の坊主店主「希少価値が高くて普通の客には売れないような書物を保管しているのさ」

書店の坊主店主「うちは歴史ある司書の一族でね。国から書物の保管を任されたりもしているのさ」

勇者「通りでただの書店にしては封印が強力なわけだ……」

書店の坊主店主「そういうことだ。さ、開けるから退いてな」


店主が懐に大事そうにしまっていた鍵を使って封印された書庫への扉を開いた。

404 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/02/08(金) 17:09:25.83 ID:k1LIl9NS0
僧侶「貴重な書物がこれだけの量……」

書店の坊主店主「持ち出し厳禁、取扱い注意、鍵付きの本棚は触れるの厳禁。これだけ守ってくれればどれを閲覧しても構わないぜ」

勇者「ありがとうございます」

書店の坊主店主「良いってことよ。いつの時代だって勇者一行は俺たち民衆の希望の光だ」

書店の坊主店主「その役に立てるって言うなら出来る限りのことはするさ」

勇者「……本当にありがとうございます」


それから勇者は、自分の祖先に関する記述のある書物を幾つか手に取り読み漁った。

店主曰く“原書に近い”らしく、今まで聞かされていた事とはずいぶんと異なる記述も多くあった。

書庫に窓は無いが蝋燭の減り方からおそらくは数時間が経過し、外もすっかり暗くなったと思われる頃合いになった。


僧侶「勇者様、そろそろ時間も遅いです」
405 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/02/08(金) 17:11:56.42 ID:k1LIl9NS0
僧侶「なにか気になることがあるのでしたら、出発日をずらしてまた明日来てもよいのでは無いでしょうか」

勇者「……いや、大丈夫だよ。読みたいものは大方読み切ったから」

僧侶「確かにすごい速度で読んでいましたが……ちゃんと内容が頭に入っているんですか? 飛ばし読みのように見えましたよ?」

勇者「それが不思議と、ちゃんと読めているんだ」

勇者「まるで書いてある内容を前々から知っていたような……」

僧侶「それはどういう……」

勇者「まあとにかく、出発日は変更しなくて大丈夫」

勇者「そろそろ暗器使い達と合流しよう」

僧侶(勇者様……?)
406 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/02/08(金) 17:12:37.35 ID:k1LIl9NS0





僧侶「ええと、確か酒場はこちらの方で……」


書店を出た二人が細道を抜けてメインストリートに差し掛かったその時、全速力で馬車が目の前を駆けて行った。

間一髪轢かれそうになった僧侶はその場に尻もちをついてしまった。


僧侶「きゃっ!?」

粗暴な御者「危ねえぞ馬鹿野郎!」


御者は転んだ僧侶に謝ることも無く、そのままの速度で通りの奥へと走っていった。。


勇者「僧侶大丈夫!?」

僧侶「え、ええ。怪我はありません」

僧侶「あんなに急いでどうしたのでしょうか……」
407 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/02/08(金) 17:14:28.10 ID:k1LIl9NS0
勇者「分からない……ただ、今の馬車はかなり怪しいよ」

僧侶「怪しい、ですか?」

勇者「うん、よほど焦っていたんだろうね。後ろの扉が片側開いていたんだけれど……」

勇者「馬車の外装に対して中が少し狭い気がしたんだ」

僧侶「それって……」

勇者「密輸用馬車の可能性があるね。例の人身売買組織との関係もあるかもしれない」

僧侶「……! 急いで自警団に通報しないと!」

勇者「僧侶は通報をお願い。僕はあの馬車を追うよ。丁度雨上がりだから轍を探すのは困難では無いと思う」

僧侶「単独行動は危険です……!」

勇者「それはわかっているけれど、あの急ぎ様はもしかしたらこの街を出る準備をしているのかもしれない」
408 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/02/08(金) 17:18:24.68 ID:k1LIl9NS0
勇者「大丈夫、逃げられないように上手くやるだけだから」

僧侶「……分かりました。無理だけはしないで下さい」

勇者「そっちも任せたよ!」

僧侶「ええ、なるべく急ぎます!」
409 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/02/08(金) 17:20:52.02 ID:k1LIl9NS0





──とある商会の館


粗暴な御者「状況は!?」

成金趣味の商会長「地下に侵入者のようだ……! どうやら“あの場所”から入ったらしい」

粗暴な御者「となると人身売買の件との関わりはバレてしまったと見ていいか……」

成金趣味の商会長「だが地下には彼らを向かわせた。既に侵入者は始末されているのでは?」

粗暴な御者「敵が一人は限らない。逃げ延びた連中が自警団に通報していたとしたらここにいるのは得策ではない」

粗暴な御者「馬車を用意した。早く金と商品を積んでずらかるぞ」

成金趣味の商会長「し、しかし……」

粗暴な御者「俺とお前がいればまた別の地でもやり直せる。いいから行くぞ」
410 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/02/08(金) 17:26:03.07 ID:k1LIl9NS0
成金趣味の商会長「ちっ……仕方がない」

成金趣味の商会長「ほら、さっさと歩かないか!」

少女エルフの奴隷「痛っ……!」

成金趣味の商会長「他の奴隷も続け。逃げ出そうと思うなよ……勿体無いが撃ち殺してやる」

粗暴な御者「急げ! 自警団が直に来るかもしれん!」


御者が玄関の扉に手をかけた瞬間、逆側から蹴破られ、後ろへと吹き飛ばされてしまった。


粗暴な御者「ぐぎゃっ!?」

勇者「これはこれは、大当たりかな」

成金趣味の商会長「何者だ貴様!」

勇者「通りすがりの勇者だ!」
411 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/02/08(金) 17:26:39.45 ID:k1LIl9NS0
粗暴な御者「ゆ、勇者だと……!?」

勇者「すでに自警団には通報済みだ! 大人しくその子達を解放しろ!」

成金趣味の商会長「くそっ……!」

粗暴な御者「(おい聞け! お前は奴隷を人質に取りながら地下でゴロツキどもと合流して逃げろ)」

粗暴な御者「(俺は“もう一つの地下通路”から逃げる。落ち合う場所は例の所だ、いいな?)」

成金趣味の商会長「(わ、わかった……!)」

成金趣味の商会長「く、来るんじゃねえ! こいつらの頭をふっとばすぞ!」

少女エルフの奴隷「きゃあああっ!」

勇者「その子を離せ!」

成金趣味の商会長「お前が下手なことをしなければ離してやるさ」
412 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/02/08(金) 17:27:16.77 ID:k1LIl9NS0
成金趣味の商会長「だが逃げ切りが確定するまでは一緒だ。さあ来い!」

少女エルフの奴隷「いやっ! 離して!」

勇者「くっ……!」

成金趣味の商会長(地下でゴロツキと合流したら、惜しいがこいつは処分だ)

成金趣味の商会長(正義の勇者サマは傷ついた奴隷を放っては置けないだろうからな……!)

成金趣味の商会長「さあこっちだ……げほっ!?」


商会長からエルフの少女を引き剥がすように拳をお見舞いしたのは、地下室への隠し階段から現れた男だった。


勇者「あ、暗器使い!?」

暗器使い「よう」

成金趣味の商会長「ば、馬鹿な……あのゴロツキどもはどうしたのだ……!」
413 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/02/08(金) 17:31:38.65 ID:k1LIl9NS0
暗器使い「……あいつら確かにいい道具を持っていた。商会の力で手に入れた物なんだろうな」

暗器使い「だが」


暗器使いの足元に使い終わった無数の武器がガラガラと転がった。


暗器使い「あんなもの俺は色々と持っていてな。まあコレクションがまた増えて良かったぜ」

成金趣味の商会長「ひ、ひいいいっ!」


暗器使いは商会長を拘束し、奴隷たちの手枷を外した。


少女エルフの奴隷「あ、ありがとうございます……」

暗器使い「いや、勇者一行としては当然のことだ。それより……」

暗器使い「勇者、何を探している」

勇者「いや、もう一人仲間が居たんだけれどね。もうどこかに逃げてしまったみたいなんだ」
414 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/02/08(金) 17:34:29.79 ID:k1LIl9NS0
暗器使い「他にも隠し通路があったか……」

勇者「そうみたいだね……」

勇者「そういえばエルフさんは?」

暗器使い「ああ、また途中で消えやがった」

暗器使い「おそらく大丈夫だと思うが……」

暗器使い「そういうお前は僧侶と一緒じゃなかったのか?」

勇者「僧侶には自警団への通報を任せたんだ」

勇者「ほら、来たみたいだよ」

暗器使い「よし、あとの処理は任せるとするか」
415 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/02/08(金) 17:35:00.32 ID:k1LIl9NS0





粗暴な御者「ふっ……ふっ……!」

粗暴な御者(追手は……無さそうだな)

粗暴な御者(馬鹿なやつだ……ゴロツキどもが戻って来ていないということは考えられる事は一つ)

粗暴な御者(悪いがトカゲの尻尾切りに利用させてもらうぜ……)

粗暴な御者(よし出口だ……! 十分な金は金庫から持ち出してある)

粗暴な御者(取りあえずは遠くの街へ逃げて、そこで再出発だ……)

粗暴な御者「くくっ……こんな金になることやめられるかよ……!」

紅目のエルフ「あら、呆れるほどのクズ野郎で助かったわ」

粗暴な御者「何者だ!」
416 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/02/08(金) 17:35:45.79 ID:k1LIl9NS0
紅目のエルフ「少なくとも貴方の味方ではないわ」

粗暴な御者「耳長の雌か……」

粗暴な御者「商品として持って行きたいところだが、今は逃げるのが先決」

粗暴な御者「見られたからには処分しなくてはな。死ね」


御者が懐から拳銃を取り出して引き金を引いた。

しかしその弾丸はあらぬ方向へと飛んでいってしまった。

それもそのはず。御者の手があらぬ方向へと曲がってしまっているからだ。


粗暴な御者「な、なんだああああああっ!? 痛てええええええええっ!!」

粗暴な御者(ツタだと!? 一体どこから……!?)

紅目のエルフ「貴方を自警団に渡すわけにはいかないわ。だからわざとここまで逃したの」
417 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/02/08(金) 17:36:54.17 ID:k1LIl9NS0
紅目のエルフ「この間捕まえた人攫いの吐いた情報だけでは不十分だったの」

紅目のエルフ「貴方は別の所へ引き渡すわ。死にたくなければ早めに全てを吐くことね」

紅目のエルフ「……全て吐いても生き残れるかは知らないけれど」
418 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/02/08(金) 17:37:34.68 ID:k1LIl9NS0





紅目のエルフ「た・だ・い・ま」

暗器使い「……どこに行っていた」

紅目のエルフ「途中で風の流れから別の場所への抜け道を発見してね」

紅目のエルフ「そこを進んでいたら何やら逃げている男を発見したんだけれども……通路の出口が断崖絶壁の場所でね」

紅目のエルフ「足を滑らせて落ちていってしまったわ。あの高さなら多分……」

暗器使い「……そうか。まあ首謀者の一人はこちらで捕らえることが出来たから問題は無いだろう」

自警団員「ご協力有難うございました、勇者一行の皆さん!」

勇者「いえ、お力になれたようで何よりです」

勇者「ささ、後は自警団の皆さんにお任せして僕たちは退散しよう」
419 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/02/08(金) 17:38:14.41 ID:k1LIl9NS0
僧侶「早く夜の歓楽街に行きたいだけですよね?」

勇者「さ、さて? なんのことやら」

紅目のエルフ「ふふふ、私も待ちきれないのよね。経由地点とはいえ、せっかく来たのだから楽しまないと」

僧侶「……分かっていると思いますが、明日出発ですからね」

暗器使い「まあ息抜きも大切だろう」

僧侶「特に二人は常に息を抜いているように見えるのですが……」

暗器使い「お前も少しは気を休めろということだ」

暗器使い「どうやら五十年に一度の仕上がりの酒が入荷したらしい。今回の報奨金で入手してみたくはないか?」

僧侶「ご、五十年に一度の……!」

勇者「僧侶、よだれ」
420 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/02/08(金) 17:38:57.18 ID:k1LIl9NS0
僧侶「えっ、嘘っ!?」

勇者「嘘」

僧侶「勇者様!!」

勇者「あはは、ごめんってば」


その後あまりの酒の美味さに宴は長引き、翌朝青ざめた僧侶を気遣って出発が遅れたのだった。
421 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/02/08(金) 17:39:53.18 ID:k1LIl9NS0


《ランク》


S2 九尾
S3 氷の退魔師 長髪の陰陽師

A1 赤顔の天狗 共和国首都の聖騎士長 黒い騎士 第○聖騎士団長
A2 辻斬り 肥えた大神官(悪魔堕ち) レライエ
A3 西人街の聖騎士長 お祓い師(式神) 赤毛の術師 隻眼の斧使い 

B1 狼男 赤鬼青鬼 暗器使い
B2 お祓い師 勇者 第○聖騎士副団長
B3 フードの侍 小柄な祓師 紅眼のエルフ

C1 マタギの老人 下級悪魔 エルフの弓兵 影使い オーガ 竜人 ゴロツキ首領
C2 トロール サイクロプス 法国の熱い船乗り
C3 河童 商人風の盗賊  ウロコザメ 

D1 若い道具師 ゴブリン 僧侶 コボルト
D2 狐神 青女房 インプ 奴隷商 雇われゴロツキ 粗暴な御者
D3 化け狸 黒髪の修道女 天邪鬼 泣いている幽霊 蝙蝠の悪魔 ゾンビ


※あくまで参考値で、条件などによって上下します。
※聖騎士団長は全団A1クラス
※聖騎士副団長は全団B2クラス
422 : ◆8F4j1XSZNk [sage saga]:2019/02/08(金) 17:41:25.40 ID:k1LIl9NS0
《歓楽街》編はここまでです。
暗器使いの誤字は直したつもりですが修正漏れがあったら教えてください。
次回は《過去の英雄》編です。
423 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/10(日) 01:01:02.72 ID:V9UZLcJDO

いや、そんなに気にしなくても…なんかスマン
424 : ◆8F4j1XSZNk [sage saga]:2019/02/13(水) 02:02:07.44 ID:OdchVni40
>>423
いえいえ、少しでもクオリティ向上に努めたいと思っていますのでありがたいです。
425 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/03(日) 19:28:42.00 ID:cdGZSoBF0
《過去の英雄》


──はるか昔のお話……


少年が目を覚ますと見慣れた景色は無く、崩れた家屋からは黒い煙が立ち上っていた。

その焦げ臭さと、血生臭さと、そして全身に走る痛みに、少年は指の一本も動かせずにいた。

死体の山の上で。


ふと、優しい声がした。

母を思い出させる声だった。

声の主は少年を抱きかかえ、そっとその場を離れていった。

少年の意識は再び途絶えた。
426 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/03(日) 19:30:06.36 ID:cdGZSoBF0


少年が引き取れた先は、町の小さな孤児院だった。

少年を助けた女性が院長として営んでおり、院長の他に“せんせい”が一緒になって身寄りのない子供たちが自立できるまで世話をしていた。

その美しい院長は街の人々からも慕われていた。


少年に親友ができた。

同じ孤児院の男の子だが、院長にとって彼は他の子供達とは少し違う存在のようだった。


少年と男の子は逞しく成長し、やがて彼らは青年になった。

まだ大陸には無数の部族と小国がひしめいており、争いの絶えない時代だった。

その中でも彼らのいる町は大国に囲まれた不安定な地にあった。

青年たちは自分の身を、そして何より大切な孤児院と院長を守るために、剣と魔導書を手に取った。

後に彼らは初代勇者と初代僧侶と呼ばれる。
427 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/03(日) 19:32:25.04 ID:cdGZSoBF0


二人は町の自警団の中心となり、その規模を大きくした。

それと同時に町は大きくなり、小さな国のような様相にありつつあった。


自警団もさらに活動の規模を広げ、まるで軍隊のようになった頃。

初代勇者はふと考えた。

なぜこんなにも争いが耐えないのだろうか。

僧侶は言った。

それはきっと自分とは違う他人が怖いのだろうと。


勇者と僧侶は旅に出た。

自分とは違う者たちを理解していく中に、平和への鍵があるのでは無いかと思ったのだ。

428 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/03(日) 19:36:04.18 ID:cdGZSoBF0
旅の中で、彼らは新しい仲間たちと出会った。


世界を知る、という話に興味を示した、魔道士の国出身の細身の男。後の初代魔法使い。

大切な人を守るために力を付けたい。その思いに共感した大陸中央の小国出身の剣士の男。後の初代剣士。

外の世界に憧れて森を飛び出して来たエルフの少女。後の初代弓使い。

人間嫌いのエルフが人間と行動していることを不思議に思ったドワーフの鍛冶師。後の初代戦士。

紛争に巻き込まれた所を勇者に助けられた武術家の娘。後の初代格闘家。

被差別民として極東の国に逃げ延びた人外らに育てられた暗殺家の男。後の初代アサシン。


彼らは共に世界を旅する中で、力なき弱者たちを救った。

時には小国同士の紛争に巻き込まれることもあった。

そして彼らが、無差別に命を食い荒らす厄災“黒竜”を打ち倒した頃から、勇気ある者として勇者と呼ばれるようになった。
429 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/03(日) 19:37:03.86 ID:cdGZSoBF0


彼らがそう呼ばれるようになってしばらく、それは起こった。

人外が組織する巨大な盗賊団が立て続けに人間の村や町を蹂躙したのだ。

彼らが去った後には草木すら残らないと言われ、人々は恐れ、そして怒った。

我々は力無き人間だが、邪悪な人外を勇気を以って排さねばならないと。

人々は剣を手に取り、戦い始めた。

人外であれば何も構わず命を奪うような者も多かった。

亀裂が亀裂を生み、人間と人外の間に大きな溝が出来た。

勿論その型にはまらんとする者たちもいたが、大きな時代の流れはそれを許さなかった。

それは勇者たちも同じで、人間として、人間のために剣を取らねばならなくなった。
430 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/03(日) 19:38:10.95 ID:cdGZSoBF0


そしてついに、勇者が恐れていた事が起こってしまった。

彼らの第二の故郷でもある、孤児院のある街が人外らに襲撃されてしまったのだ。

院長は無事だったが、子供が一人犠牲になってしまい、孤児院はその後閉鎖されることになってしまった。


しかし同時にその街で、奇跡が起こった。

まさに犠牲になった子供が息を吹き返したのだ。

僧侶ですら手の施しようが無かった子供が亡くなった次の晩に、ふと。

修道院の“せんせい”の身に、絶対神が降臨し、子供を蘇生させたのだという。

その子供は「光を見た」と言った。

修道院の子供らからは聖書の元となった“神のお言葉”が多く聞き伝えられたという。
431 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/03(日) 19:39:29.18 ID:cdGZSoBF0


しかし、絶対神様は凶刃に倒れることになる。

絶対神様に教えを請いていた者たちに、最後の言葉を残して天に帰ったという。

凶刃の主こそ魔王であり、その者は魔王軍を結成して人間へと牙を剥いた。

最後の言葉を聞いた男らは絶対神様の教えを広めるため、そして魔王軍を討ち滅ぼすために教会を設立した。


勇者らも魔王軍を討ち滅ぼすため立ち上がった。

魔王軍四天王や魔王本人との激しい戦いによって、僧侶は命を落とした。

また、剣士・格闘家・アサシンも最後の戦いで行方不明になっており、恐らくは激戦の最中で死亡したのであろうと言われている。


最後の戦いの地は国ごと消滅し、そこは現在では亡国と呼ばれている。


彼らの偉大な犠牲を越えて、大陸に平和が訪れたのだった。

しかし、勇者と僧侶の目指した平和の形では無かった。
432 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/03(日) 19:44:01.93 ID:cdGZSoBF0


弓使いは故郷の森へと帰ったが、その後エルフの独立紛争などに巻き込まれていった。

戦士はしばらく勇者や魔法使いと交流があった後、故郷へ帰る船の上で急死した。原因は不明とされている。

魔法使いは妻子を持っても変わらず魔法の研究に身を粉にして生涯を過ごしたという。

亡くなった僧侶には旅の中で恋に落ちた女性との間に子供が産まれており、彼女らは勇者の助けの元で王都で暮らす事となった。

勇者は孤児院の頃の幼馴染と結婚するが、晩年、行方不明となる。

勇者一家と僧侶一家はその後千年の付き合いとなる。
433 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/03(日) 19:44:34.18 ID:cdGZSoBF0





ここで書かれていることは、現在に伝わる冒険譚の内容とは異なる部分がある。
434 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/03(日) 19:49:45.67 ID:cdGZSoBF0





僧侶「……どうかしましたか勇者様? 随分とぼーっとしていますが」

勇者「……え、いや……何でも無いよ?」

僧侶「しっかりしてくださいよ、まったく……」

僧侶「本来ならあのまま使節団の皆さんと帝都まで向かう予定だったところを、突然東に向かいたいと仰ったのは勇者様なんですからね」

勇者「う、うん……そうだったね。ごめんごめん」

僧侶「本当にどうしたんですか? もしかしてかなりお疲れですか?」

勇者「いや、大丈夫。本当にちょっと考え事していただけなんだ」

僧侶「それなら良いのですが……」

暗器使い「ま、勇者の直感を信じた方が良いってのは、この数ヶ月で良く分かった」
435 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/03(日) 19:50:28.76 ID:cdGZSoBF0
暗器使い(しかしあれ程戦線に行きたがっていた勇者がこの変わり様……)

暗器使い(法王の話を聞いたから……という訳では無さそうだ)

暗器使い(様子がおかしかったのはあの島のダンジョンを攻略した辺りから)

暗器使い(ダンジョンの最深で一体何が……?)

僧侶「暗器使い様? どうかされましたか?」

暗器使い「……いや、何でも無い」

紅目のエルフ「しかしいかに勇者の直感を信じるとは言っても……」

紅目のエルフ「行き先を地図で見ると、ただの険しい山岳地帯よ? 麓に小さな集落が有る以外の情報が無いわ」

勇者「うーん、なんかその集落には何もないような気がするんだよね」

勇者「もっと奥の、山の中に……大事な人がいる気がするんだ」
436 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/03(日) 19:53:21.16 ID:cdGZSoBF0
僧侶「大事な人……紋章持ちの仲間ということでしょうか」

勇者「そうかもしれないし、違うかもしれない。そこは行ってみないとわからないかも」

紅目のエルフ「ふうん、結構漠然としたことしかわからないのね」

勇者「これでも以前よりは大分感じ取りやすくなった方なんだよ」

勇者「最初の頃はそうだな……右か左かでいえば右、っていうのが分かる程度だったんだから」

勇者「北方連邦国に向かったのもその程度の理由から」

紅目のエルフ「へえ。じゃあ徐々に勇者の力を使いこなせるようになっているってわけ?」

勇者「……そうだね。そういうことだと思う」

紅目のエルフ「ふうん……」

紅目のエルフ「それで、その麓の集落まではどれ位で着くのかしら?」
437 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/03(日) 19:54:09.79 ID:cdGZSoBF0
暗器使い「明日に着く駅から馬で一週間程だそうだ」

僧侶「また馬を借りることになりますね」

勇者「大陸中を機関車が走っているとはいえ、最後は結局馬に乗らないと行けない所は多いからね」

勇者「線路の要らない機関車が登場すれば、もっと便利になるんだろうけど」

暗器使い「線路の要らない機関車か……どんなものか思いつきもしないな」

僧侶「私達が生きている間に発明されると良いですね」

紅目のエルフ「私なんかは立ち会えそうだけどね……老い先短い人間ではどうでしょうね」

勇者「こういう時は亜人が羨ましくなるよ」

紅目のエルフ「長く生きることって、良いことばかりではないけどね」

暗器使い「ま、そうだろうな」
438 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/03(日) 19:56:22.41 ID:cdGZSoBF0
暗器使い「俺なんかは仕事柄恨みを買いやすいから、長く生きてちゃ抱えきれないほどの恨みを抱えちまう」

暗器使い「ある程度でさっさと死んでしまうほうが良いと思っているぐらいさ」

僧侶「そんな……」

暗器使い「心配するな、ただの気分の話だ。実際に死んでやろうってわけじゃない」

僧侶「そうですよね、死んじゃったりしないですよね……?」

僧侶「もう親しい人が亡くなるのは沢山です……」

暗器使い「……悪かった、話題として適切じゃなかったな」

紅目のエルフ「まったくよ。私の僧侶ちゃんを泣かさないでくれる?」

僧侶「エ、エルフさん……苦しいです……」

暗器使い「悪かったって。ほら、話題変えようぜ」
439 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/03(日) 19:57:04.99 ID:cdGZSoBF0
暗器使い「ほら……勇者、何かないか?」

勇者「えっ、そんな無茶ぶり……」

勇者「それよりせっかく買ったんだからトランプやろうよ」

紅目のエルフ「トランプー? 今そんな気分じゃないのだけれど……」

勇者「こういうのはどう? 一番の人は最下位の人になんでも一つ、命令出来るっていうのは」

紅目のエルフ「……ほー、いいわね……」

僧侶「何故かは分かりませんが、エルフさんを勝たせてはいけない気がします……」

僧侶(自分がトップを目指すのではなく、エルフさんが勝たないように上手く試合を運ばなければ……!)

暗器使い「……トランプか……」

紅目のエルフ「どうしたの? まさかやったことが無いなんて言わないわよね」

暗器使い「……悪いがそのまさかだ。娯楽の類は酒以外関わらずに育ったものでな」
440 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/03(日) 19:57:43.27 ID:cdGZSoBF0





勇者「さて、ようやく集落に着いたね」

僧侶「かなり山奥まで来ましたね……」

勇者「うん、このまま更に奥に進むのは危険だから、寝床が借りられないか聞いてみよう」

暗器使い「……頼む、今晩もう一戦だけ……」

紅目のエルフ「駄目よ。もう私が一位で貴方が最下位なのは覆らないわ」

僧侶「経験の有無が関係ないババ抜きを選んだはずなのに、見事に暗器使いさんがボロ負けですものね」

僧侶「ここに来るまでの一週間での暗器使いさんの勝率、一割を切っているような気が……」

暗器使い「絶対におかしい……なにか仕組まれているはずだ……」

紅目のエルフ「暗器使い相手にイカサマやれるほど器用じゃないわよ私達は」

僧侶「それにしても暗器使いさん、変わりましたよね」
441 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/03(日) 19:59:12.07 ID:cdGZSoBF0

暗器使い「俺がか……?」

僧侶「ええ、最初に出会った頃よりもずっと、感情を表に出してくれるようになった気がします」

暗器使い「……そうだろうか」

紅目のエルフ「ま、勇者の影響でしょうね」

勇者「え、僕の?」

紅目のエルフ「自覚は無いかもしれないけれど、貴方にはそういうところがあるのよ」

紅目のエルフ「罰ゲームは好きなタイミングで使わせて貰うわね。楽しみにしていて」

暗器使い「はあ、お手柔らかに頼む」

紅目のエルフ「さあて、それはどうしましょうかね」
442 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/03(日) 19:59:47.01 ID:cdGZSoBF0


楽しそうに鼻歌をしながら歩く紅目のエルフを先頭に、勇者たちは集落の中で部屋を貸してくれるという酒場を目指した。

その酒場の主人曰く、ここより先に何かがあるとすれば山の仙人の住処だという。

仙人とはこの集落で古くから伝わっている山の主で、数百年も前から度々その姿が目撃されているという。

その仙人が勇者の探している者かは分からないが、一行は一晩を集落で過ごすと、伝承にあるという一際険しい山道を進んだ。

443 : ◆8F4j1XSZNk [sage saga]:2019/03/03(日) 20:00:33.99 ID:cdGZSoBF0
《過去の英雄》編です。
あんまり長くはないです。
444 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/03(日) 21:39:25.77 ID:v09+sAZDO
乙乙
待ってた
445 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/04(月) 07:45:58.80 ID:Oe6kDEZaO

書き込みしてないけど見てる
446 : ◆8F4j1XSZNk [sage saga]:2019/03/31(日) 13:51:57.58 ID:4+gFEq4K0
>>444 >>445
いつもありがとうございます。
447 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/31(日) 13:56:20.26 ID:4+gFEq4K0





そして、その住処らしき場所は呆気なく見つかった。

呆気なく、とは言うが険しい山道であったことは確かだ。

しかしその途中で何者かの妨害があったり、罠が張り巡らされていたりという事は無かった。

山頂付近の台地にあるその建物は、かなり古いがきちんと手入れされている様子で、ここに何者かがいることは確定だった。

勇者は警戒しつつ、その扉を叩いた。


勇者「すいません、どなたかいらっしゃいますか」


勇者の声に帰ってきたのは沈黙で、間をおいてから再び扉を叩こうとしたとき、向こう側で鍵を開ける音が聞こえた。

中から顔を覗かせたのは、勇者よりも幾つか下に見える短髪の少女だった。

あまり大柄では無いが、その引き締まった筋肉と身なりから何らかの武術家ではないかと予想された。
448 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/31(日) 13:57:03.65 ID:4+gFEq4K0


勇者(お、女の子……!? この娘が仙人ってこと……?)

褐色肌の武闘家「……どうぞ、お師匠様が中で待ってるよ」

僧侶「(……彼女の師が仙人と呼ばれている方なのでしょうか)」

勇者「(うん、流石にこの娘が仙人っていうことは無さそうだね……)」


四人は案内されるがままに奥の間へと進むと、そこは甘ったるい白煙が立ち込める異様な空間だった。


暗器使い(この煙は……まさか……)

暗器使い「お前たち下がれ。この煙を吸うな」

僧侶「なっ、まさか毒……!?」

暗器使い「毒ではないが……似たようなものだ」

紅目のエルフ「これは……麻薬よ。かなり流行りのものね」
449 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/03/31(日) 13:58:49.03 ID:4+gFEq4K0
僧侶「ま、麻薬……!?」

勇者「一体なんでこんな所に……」

褐色肌の武闘家「……お師匠様! それは控えてって何度も言っているじゃないか!」


短髪の少女がそう怒鳴ると、部屋の奥で横たわっていた人物は面倒臭そうに白煙を吐き出した。

少女は喫煙具を取り上げてから、窓を全て開けて部屋の換気を行った。

それから十分に換気ができた頃に、もう一度勇者たちを招き入れた。


褐色肌の武闘家「先程は師が失礼を……ほら、しゃんとして!」


師と呼ばれた人物は少女に叩き起こされて、ようやく勇者たちと顔を合わせた。

その虚ろな目をした人物は女性だった。

武闘家の少女ほど幼くは無いが、やはり仙人と呼ぶには若いように見えた。
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