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【ガルパン】まほ「アンツィオ高校で幻の戦車道を撃破する」
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63 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/09(月) 19:43:06.48 ID:vqX8nANu0
乙
今更だけどチョビんとこの先輩達ってどこぞの暗殺者チームかよw
つーか会長(ボス)とか絵面想像したら吹くんだがw
64 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/10(火) 08:07:07.39 ID:b/TETwp7O
乙
65 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/10(火) 22:03:55.94 ID:STIjIGMf0
ドゥーチェ・アンチョビはアンツィオの風が育てた。
投下します。
66 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/10(火) 22:04:41.81 ID:STIjIGMf0
<高校2年の8月・静岡県東富士戦車演習場>
アンチョビ(何が…何が起こった!?)
アンチョビ(試合は黒森峰が優勢だった筈だ…川岸にプラウダのフラッグ車を追いつめて)
アンチョビ(あと一撃、あと一撃で黒森峰が優勝するところだった)
アンチョビ(あと一撃で、西住が10連覇を…)
アンチョビ(先行していた黒森峰の戦車が、谷川に落ちた)
アンチョビ(雨で水量が増していた谷川に…)
アンチョビ(そして黒森峰のフラッグ車から、選手が一人、飛び出した)
アンチョビ(雑誌で読んだぞ…今日のスタメンでもアナウンスされた…)
アンチョビ(西住みほ…フラッグ車の車長…西住の、妹だ)
アンチョビ(川に落ちた戦車を助けるために、仲間を助けるために、飛び込んだんだ)
アンチョビ(西住の妹は、無事だった)
アンチョビ(仲間達と一緒に、水面まで上がってきた)
アンチョビ(けどその時にはもう…黒森峰のフラッグ車はやられていた)
アンチョビ(審判の声が、聞こえた気がする…)
アンチョビ(試合、続いてたのか!?)
アンチョビ(待て待て待て! 何でだ!? 何で試合が続いてるんだ!?)
アンチョビ(戦車が川に落ちたんだぞ!? 完全に水没してたんだぞ!?)
アンチョビ(何で誰も止めないんだ!?)
アンチョビ(審判は何やってた!? プラウダ高校もなんで撃った!?)
アンチョビ(人間、水に溺れたら死んじゃうんだぞ!?)
アンチョビ(どうして、誰も…!!)
声「あーあ、何やってんだよ西住妹ー!」
アンチョビ(!?)
声「お前のせいで負けたじゃねぇかー!」
アンチョビ(待て…)
声「戦車が水に落ちた程度で取り乱して…これだから近頃の若い娘は!」
アンチョビ(こいつら…)
声「西住の娘のせいで10連覇ならずか…ハハッ、こりゃえらい騒ぎになるぞ!」
アンチョビ(何、言ってるんだ…!?)
声「死ぬ覚悟もない娘に戦車なんて乗って欲しくないなぁ、あーおもしろくない!」
アンチョビ(覚悟だと…!?)
声「おい西住姉妹の顔撮っとけ! 東京戻ってすぐ記事出すぞ!!」
アンチョビ(やめろ…なんでそんな…!!)
声「こりゃ号外だ! 黒森峰まさかの決勝敗退! 戦犯は西住妹!!」
アンチョビ(やめてくれ…そんなの…!)
声「西住ー!! 戦車辞めちまえーーーーっ!! 」
アンチョビ(そんなの…!!)
声「そのまま川に戻って死ねーーーーーっ!!!」
カチッ
67 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/10(火) 22:05:17.01 ID:STIjIGMf0
ごめん…兄貴…リーダー…
68 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga !red_res]:2018/04/10(火) 22:06:20.80 ID:STIjIGMf0
ブッ殺すッッッ!!!
69 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/10(火) 22:07:18.89 ID:STIjIGMf0
ぺパロニ「テメェ今なんつったァーーーーっ!!!」ガシィ!!
アンチョビ(!!)
観客「うぐっ!? な、なんだオマエ!?」
ぺパロニ「うるせぇ! 今なんつったって聞いてんだよ!?」
ぺパロニ「西住何やった!? 仲間助けただけだろーがッ!! それの一体何が悪いってんだよッ!!」
ぺパロニ「仲間の命より勝ちが大事だってのかよ!? たかが試合の一勝じゃねーかッ!!」
アンチョビ(ぺパロニ…)
ぺパロニ「それにテメェ西住の何だってンだよ!? 黒森峰の、戦車のなんだってんだよッ!?」
ぺパロニ「客席でビール食らって管巻いてるだけのオッサンじゃねーかッ!!!」
ぺパロニ「そんなに言うならテメーが戦車に突っ込んでって死ねッ!!」
観客「っ、このガキ!!」
ひな「やめなさいぺパロニ」ガシッ
ぺパロニ「ひな! けどコイツ!!」
ひな「ちょっと飲み過ぎちゃっただけよ。本心からの言葉じゃない」
ひな「戦車道を応援してくれる人が、そんなこと言うわけないもの。でしょう? お兄さん」ニコッ
観客「お、おう…そ、それをこのガキ」
ひな「ですが、あまり飲み過ぎない方がいいですよ? 他にも飲み過ぎた方、結構いらっしゃるみたいですし」
チョットゴメンヨ! オレノカメラガ!? ナンナンダヨテメーラ! ジュウドウロクダンカラテゴダンニンゲンイチモンジハヤト! オナジクオレジャーナルノキドシンジ!!
ひな「怖い人に絡んじゃったりしたら、取り返しのつかないことになっちゃうかも、ね?」ニコッ
観客「…!!」ゾクリ
ひな「…帰りましょう、ドゥーチェ」
アンチョビ「あ、ああ…すまない、カルパッチョ。だが私は」
ひな「ひなです。ここにいてもきっと、どうにもなりません。西住さんも多分…ですから」
アンチョビ「…わかった」
ぺパロニ「おいオッサン!! テメェ顔覚えたからな!! 二度と戦車道見に来るんじゃねーぞ!!」
70 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/10(火) 22:09:23.07 ID:STIjIGMf0
短いですが今日はここまでです。
71 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/10(火) 23:03:23.83 ID:aL1HtyHF0
乙
72 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/11(水) 19:29:11.74 ID:Ofr4HpSgO
乙
73 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/12(木) 22:54:38.10 ID:lMdeZzgr0
投下します。
74 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/12(木) 22:55:30.49 ID:lMdeZzgr0
<高校2年の9月・アンツィオ高校学園艦・戦車道科ガレージ>
新聞『家元断言「犠牲なくして勝利なし!」西住妹勘当か!?』
新聞『チームメイト涙の激白! 西住妹は空気が読めない!』
新聞『聖グロOG会会長も喝! 堕落した現代戦車道!』
新聞『西住姉疑惑のMVP! 西住流と高校戦車道の闇!』
新聞『近づくもの皆傷つける! ボコから探る西住妹の異常行動!』
新聞『カチューシャ・プラウダ 奇跡の逆転V!』
新聞『失踪の戦犯西住みほ、萩原雪歩激似AV転向! はよ』
アンチョビ「……」
ひな「ドゥーチェ」ヒョイッ
アンチョビ「あ、おいひな。まだ読んでる途中…」
ひな「こんなもの読んでたって、いいこと一つもありませんよ」ビリビリビリッ
ひな「それより発注してた砲弾が届きました。砲撃演習、やりましょう?」
アンチョビ「そうだな…ちょっと待ってろ、今準備する」フラフラ
ひな「……」
ひな「…ドゥーチェ」ギュッ
アンチョビ「おっ、なんだ? 珍しいな、ハグだなんて。お前もようやくアンツィオに…」
ひな「戦車道、嫌いになっちゃいましたか?」
アンチョビ「!!」
75 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/12(木) 22:55:38.12 ID:XfX8IVo70
待ってた
76 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/12(木) 22:56:13.52 ID:lMdeZzgr0
ひな「失望しましたか? 戦車道に」
アンチョビ「……」
アンチョビ「…普通のコトなんだろう? こんなこと」
アンチョビ「部隊が一丸となって勝利を目指す。負けたのなら、原因を徹底的に洗い出す」
アンチョビ「隊の皆の日頃の努力を無駄にしないためにも、勝利を目指すことこそが隊長の義務」
アンチョビ「隊員は勝利の為に己を捨てて隊に忠誠を尽くす」
アンチョビ「そして戦車道の試合は十分な安全確認の下に行われているから危険は一切ない」
アンチョビ「審判の判断は絶対である。誤審は在り得ない」
ひな「…そうですね。私も、戦車を始めた時からずっと、そう教わってきました」
ひな「リトル・シニアとずっとやってきて、先輩にも後輩にもなった」
ひな「隊長役にも隊員役にも、紅白戦ですけど、審判役をやったことだって」
ひな「だから、気持ちがわかっちゃうんですよ。いろんな人の気持ちが」
アンチョビ「ひな…」
ひな「全国大会の決勝戦、それも史上初の10連覇が懸かった試合」
ひな「黒森峰は絶対に勝ちたかった。でもそれ以上にプラウダ高校だって勝ちたかった筈なんです」
ひな「東のプラウダ西の黒森峰と称されながら、もう9年も優勝してない。まして10連覇を眼前で成し遂げられるなんて耐えられない」
ひな「そんな矢先に目の前にあんなチャンスが転がり込んできて、しかも審判は試合を止めてない」
アンチョビ「…撃つか」
ひな「…撃ちます。戦車道をやってきた者なら、誰でも」
ひな「でも審判も、試合を止めることはできなかったと思います」
ひな「西住さん、みほさんが川に飛び込んでから、フラッグ車が撃たれるまで、一瞬でしたから」
ひな「審判からは水没した戦車の状態は確認できないし、みほさんは搭乗員を救助できて『しまった』」
ひな「生身の人間一人で救助できる程度の事態なら、それは事故ではない。ただの行動不能である」
ひな「戦車道の審判なら、そう判断します」
アンチョビ「…結果論じゃないか」
ひな「結果論です。ですが、戦車道にまぐれなし。あるのは実力のみ」
ひな「だから、黒森峰側も黙って結果を受け入れるしかなかった」
アンチョビ「受け入れる、か…」
アンチョビ「なあ、ひな…受け入れてるのか? これ」
ひな「…受け入れられてませんね。それでも、前に進み続けるしかないんです」
ひな「西住流に後退はありませんから…でも」
ひな「ホントは言うほど強くないんですよ、戦車道やってる子って」
ひな「多分、この敗北は今まで誰も経験したことのないくらい、重かったんだと思います」
ひな「だって、史上初だったんですから」
ひな「期待が大きければ大きいほど、失望もまた大きくなる」
ひな「戦車道の試合は隊員達だけのものじゃない。監督やコーチ、整備サポート、OG、後援会…」
ひな「黒森峰ともなれば、西住流の総本山ともなれば、それこそ膨大な数の人間が関わっている筈です」
ひな「だからこそ、誰もが自分の身を守るために…誰かを生贄にしなければならなかった」
アンチョビ「…仲間を生贄に、か」ギリッ
ひな「……」
77 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/12(木) 22:58:26.70 ID:lMdeZzgr0
ひな「…或いは、仲間じゃなかったのかもしれません」
アンチョビ「何? そりゃどういうことだ、ひな?」
ひな「……」
アンチョビ「ひな?」
ひな「…戦車道は、団体競技です。団結の力が個人の才能を凌駕することもままあります」
ひな「特に西住流は、そのための流派と言われていて、だからこそ多くの人が集まった」
ひな「努力と連携で、常人でも天才を倒せるようになるから…」カタッ
アンチョビ「…ひな?」
ひな「…ドゥーチェ、戦車道チームでは、よくあることなんです」カタカタ
ひな「才能があって、戦車道も大好きで、そんな風にして入ってきた子が」カタカタ
ひな「妬みや嫉みで爪弾きにされて、孤立して、やがて戦車道を嫌いになって出ていく」ガタガタ
アンチョビ「ひな」
ひな「光の巨人じゃない。仮面の戦士でもない。人間なんです」ガタガタ
ひな「人間の集まりなんです。私達は」ガタガタ
アンチョビ「ひな」
ひな「お願いです、ドゥーチェ…!!」ガタガタ
ひな「どうか、戦車道を、嫌いにならないで下さい…!!」ガタガタ
アンチョビ「……」ギュッ
ひな「ドゥー、チェ…?」ピタッ
アンチョビ「私の大好きな役者さん…うん、役者さんがこんなことを言ってたんだ」
アンチョビ「『誰かに失望しそうになった時には、その人が今までしてくれたことを思い出して、感謝の気持ちで許そうと思う』」
アンチョビ「『人を嫌いになりたくないから』…だそうだ」
アンチョビ「正直、私だって今もへこんでる。でも、戦車道を嫌いになりたくない」
アンチョビ「だから、大丈夫だ。私も、戦車道を好きでいたい。これだけは間違いなく、胸を張って言える」ポンポン
ひな「っ…!!」
アンチョビ「…ありがとうな、ひな。私の為に、話したくないこと、話してくれて」
アンチョビ「絶対、アンツィオの戦車道は、そうじゃない戦車道にしよう」
ひな「ドゥーチェ…」ジワッ
アンチョビ「私達の手で、そんなことしなくてもいい戦車道を作り上げるんだ! な?」
ひな「ドゥーチェぇ…!」ポロポロ
アンチョビ「あっはっはっは! ほらほら泣くな! そんなんじゃ砲を撃たせてやらないぞ!?」バシンッ
ひな「っ…!!」ゴシゴシ
ひな「はい…!!」
アンチョビ「ぺパロニも屋台から呼び戻せ! 一週間ぶりの、念願の砲撃演習だぞォ!」
アンチョビ(そうだ…嫌なとこいっぱい見せられたけど、やっぱり私はまだ戦車道を辞めたいとは思わない)
アンチョビ(戦車道をやりたい。戦車道を好きでいたい)
アンチョビ(でも、一体どうすればいいんだろう…? 戦車道を好きでいるためには…)
78 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/12(木) 23:00:10.44 ID:lMdeZzgr0
お待たせしました。今回は以上です。
79 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/12(木) 23:06:42.15 ID:XfX8IVo70
お疲れ
80 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/13(金) 08:49:35.52 ID:KSEODURuO
乙
81 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/13(金) 19:17:35.88 ID:MAglbMei0
投下します。
82 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/13(金) 19:19:19.02 ID:MAglbMei0
<高校2年の9月・アンツィオ高校学園艦・戦車道科ガレージ>
ぺパロニ「…ふぅ、仕込み完了っと!」
ぺパロニ「スンマセン姐さん、待たせちゃって。そっちは終わりそうっすか?」
アンチョビ「ああ、今終わったとこだよ。9月の売上、いい感じだな」
ぺパロニ「秋は長期滞在のお客が多いっすからね。ここらでちょっと変化球なものも食べたくなってくるんスよ」
ぺパロニ「ちゃんとした箱の本格イタリアンがいつでも最強なわけじゃない。現にサンダース辺りじゃうちが最強でしょう?」
ぺパロニ「屋台の和製イタリアンでも、腕と戦術次第で十分戦える。戦車道と一緒っすよ、姐さん」ニカッ
アンチョビ「ははっ、そうだな…けどペパロニ、お前だってホントは本格的なイタリアン、作ったりしたいんだろ?」
ぺパロニ「そりゃそうですよ。でもご心配なく! 屋台で出せる本格イタリアン、ちゃんと研究始めてますから!」
ぺパロニ「材料の使いまわしと仕入を工夫すりゃ、ピッツァはともかくパスタは行けそうなんスよねぇ」
アンチョビ「ピッツァは無理なのか?」
ぺパロニ「流石に屋台に窯は置けませんからねぇ。材料の使いまわしにも限界ありますから」
ぺパロニ「それこそ、うちの戦車道に、考えなしにポンとティーガー持ってくるようなモンですよ」
ぺパロニ「ちゃんと運用できる下地を作ってからじゃないと、大枚叩いてお荷物を抱えるだけ。そんなことすると、店が潰れるんスよ」
アンチョビ(そういえば、書類上では確か炊事車両が何台かあったな。いずれ、もっと人が増えたら探してみるか)
アンチョビ(…昔っからこんな感じの戦車道だったのな、アンツィオ高校)
ぺパロニ「とにかく、料理の事は私に任せて下さい! 絶対に、姐さんやひなにひもじい思いはさせません!」
アンチョビ「はは、ありがとうなぺパロニ。お前が居てくれて、本当によかったよ」
ぺパロニ「へへっ、もっと褒めていいっすよ姐さん!」
アンチョビ「…なあ、ペパロニ」
ぺパロニ「姐さん?」
アンチョビ「お前戦車道、好きか?」
ぺパロニ「戦車道って、うちでやってる戦車道っすか?」
アンチョビ「そうだ、その戦車道だ」
ぺパロニ「んー…そうっすねぇ」
アンチョビ「……」
ぺパロニ「うーーーーん…」
アンチョビ「……」
ぺパロニ「むむむ…」
アンチョビ「…お、おいぺパロニ?」
ぺパロニ「むむむーーーーん…」
アンチョビ「そっ、そんなに悩むことか!? ぺパロニお前、うちに不満でもあるのか!?」
アンチョビ(いっ、いやよく考えたら不満ないわけないよな!? というか不満しかないよな!?)
アンチョビ(屋台はあんなだしメニューも1品だけだし戦車もお財布もああだから、現状一番働いてるのぺパロニだし!)
アンチョビ(おまけに私の思いつきで戦車道大会にくっついてくなんて無茶もしたからお財布ますます苦しいし!)
アンチョビ(けっ、けど今ぺパロニに愛想尽かされたらうちはもう…!!)
アンチョビ「ぺっ、ペパロニ!」
ぺパロニ「好きですね」
アンチョビ「へっ…!?」
ぺパロニ「うん、私は戦車道好きっすよ! 姐さん!」
83 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/13(金) 19:20:53.71 ID:MAglbMei0
アンチョビ「〜〜〜〜〜〜っ!!」ペタン
ぺパロニ「って、どうしたんスか姐さん? そんなフニャっちゃって」
アンチョビ「お、お前なぁ〜〜〜〜…!!」プルプル
アンチョビ「何でそんなに悩んだんだよ!? 不安になるだろォ!?」
ぺパロニ「やー、何か姐さん真面目な顔していきなり聞いてくるもんだから」
ぺパロニ「だったら私も本気で考えなきゃなって。スンマセン、姐さん」
ぺパロニ「でも大丈夫です! 私、ちゃんと戦車道好きっすよ姐さん!」
アンチョビ「ならいいんだが…でもホント、なんでそんなに悩んだんだ? あんなにウンウン唸ってるお前なんて初めて見たぞ?」
ぺパロニ「んー、一個ずつ考えてたら時間かかっちゃったんすよねー」
アンチョビ「一個ずつ?」
ぺパロニ「戦車道の何が好きって、まずCV33でかっ飛ばすのが一番好きで」
ぺパロニ「次に機銃をブッ放すのが好き。なんかアリアリアリアリッって感じで好きなんすよねー」
ぺパロニ「装填は別にそうでもなくて、砲を撃つのはまあ普通」
ぺパロニ「だから砲を撃つのは姐さんやひなにいっぱいやらせたいなーとは思います。ウッキウキでやってますもんね、二人とも」
ぺパロニ「戦車の整備はけっこーワクワクして、でも整備自体はそんなに好きじゃない」
ぺパロニ「けどこれやったらどんだけいい感じの走りを見せてくれんのかなーとか考えながらやると楽しいからセーフ」
ぺパロニ「戦術とか作戦とかは、ぶっちゃけあんましよくわかんないッスね」
アンチョビ「オイ」
ぺパロニ「でも姐さんが楽しそうにアレコレ話してるの見るのは好きなんで眠くはならないッス」
ぺパロニ「ひなの話は完全にダメっすね。細かすぎて眠くなっちゃう」
アンチョビ「…なんかひなの方が精巧な作戦立ててるみたいじゃないか、それだと」
ぺパロニ「あはは! 姐さんの話は感覚的なんすよ。だから私でもついてけるんです」
ぺパロニ「…てか、その与太話みてーな姐さんの話をひなが細かく詰めていくってのがうちの流れなんじゃなかったんすか?」
アンチョビ「ちーがーう! 私はそんな、要介護隊長じゃあないんだぞ!? なんだよ与太話ってーーーーっ!!」
ぺパロニ「あっはっはっは! なーんだ、そうだったんスかぁ!!」
ぺパロニ「…でもってそうやって姐さんを支えて戦車をガッチリ固めてるひなは大好きで、先頭に立っていっつも何か頑張ってる姐さんのことは超好きっすね!」
ぺパロニ「だから全部ひっくるめて、私は戦車道が好きってなったわけっす!」
アンチョビ「そうか…お前も結構考えてるんだな」
ぺパロニ「へへ、他でもない姐さんの問いかけでしたから。本気で頭回しましたよ。私、姐さんのコト超好きっすから!」
ぺパロニ「…だから姐さん、誰かをぶん殴るなんてことは、私に任せちゃ貰えませんか?」
アンチョビ「!!」
84 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/13(金) 19:21:56.46 ID:MAglbMei0
アンチョビ「ぺパロニ、お前」
ぺパロニ「私、笑ってる姐さんが大好きです。涙目でプルプル震えてる姐さんもムキーッてなって怒ってる姐さんも大好きです」
ぺパロニ「けどあんな真っ黒な目ぇした姐さんは初めて見ました。こりゃヤベーって」
ぺパロニ「こりゃ、あんまし見てたくないなって、それで私が行ったんですけど。多分ひなも気付いてたと思いますよ?」
アンチョビ(そうか…それでひなは)
ぺパロニ「私に言わせりゃあんなゴミクズ野郎ぶん殴られて当然だって思いますけど」
ぺパロニ「姐さんはあんなゴミでもぶん殴った後引きずるんじゃないっすか? 姐さん、誰にでも優しいっすからね」
アンチョビ「いや、そんな…」
ぺパロニ「しかも姐さん、あんとき拳握ってましたけど、何か変でしたよ? いやそれで人殴ったら絶対怪我するだろって握り方で」
ぺパロニ「だから、人を殴るなんてのは私の仕事なんです。姐さんはそんなことしちゃダメっすよ。ね?」
アンチョビ「ぺパロニ…」
ぺパロニ「私はいいんですよ。元々がこうですからね。『やめろこのバカロニ!』とでも叱ってくれれば、それで十分ご褒美っすから!」
アンチョビ「…ありがとう、ペパロニ。でも、やっぱりダメだよ。私も、ぺパロニが人を傷つけるとこなんて見たくない」
アンチョビ「この話はなしだ。ごめんな。せっかく心配してくれたのに」
ぺパロニ「…へへっ、姐さんならそう言うと思ってました」
ぺパロニ「ま、大丈夫っすよ! 姐さんの隣にはいつだって、私が立ってます。姐さんの気持ちなら、隣に居れば大体わかるッスから」
ペパロニ「姐さんが本気でブチ切れたら、私がすぐにビシッと、ね?」
アンチョビ「はは、だからダメだって…ホント、ありがとな? ペパロニ」
ぺパロニ「へへ、鍵掛けて帰りましょう、姐さん。明日も早いんすから!」
ペパロニ「明日も戦車道、頑張りましょう!」
85 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/13(金) 19:25:44.49 ID:MAglbMei0
ここまでです。あの事件は黒森峰だけじゃなくみんなにとって大事件だったと思う
86 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/14(土) 04:39:13.86 ID:8Ob6JPAU0
乙
87 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/14(土) 07:58:41.17 ID:hJzAcisdO
乙
88 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/16(月) 17:18:37.34 ID:c4gTYo6a0
投下します。今回はほとんどチョビの独白です。
89 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/16(月) 17:19:35.26 ID:c4gTYo6a0
<高校2年の9月・アンツィオ高校学園艦・アンチョビの部屋>
アンチョビ(一個ずつ考える、か…)
アンチョビ(そもそも私は戦車道の何が好きだったんだっけ…?)
アンチョビ(……)
アンチョビ(まずいなぁ…全部好きだぞ。戦車走らすのも戦車弄るのも戦車砲撃つのも)
アンチョビ(キューポラから身を乗り出して、景色が流れていくのを見てるのも楽しいし)
アンチョビ(煤だらけの戦車をバラして手入れしてやるのも、何か手のかかる弟みたいで大変だけど好きだ)
アンチョビ(まあカルパッチョみたいにうっとりとしながらやれる境地にまでは至れてないけど)
アンチョビ(砲を撃つことなんてもう、最高だ。あんな遠くのものを自分の引き金一つでバシャっとできるなんて)
アンチョビ(ちょっと間抜けだけど、人間ってすごいなぁって思える)
アンチョビ(…うちじゃあめったに砲撃演習できないから、余計に楽しく感じるな。もっと大きい砲だったら、もっと楽しいんだろうなぁ)
アンチョビ(ペパロニはああ言ってたけど、ティーガーとか欲しいよなぁ。せめて重戦車が欲しい)
アンチョビ(うちでも運用できる重戦車とかないかな? 今度探してみよう)
アンチョビ(…作戦を考えるのは…好き、というより得意だな)
アンチョビ(砲を撃つのも戦車を走らせるのも大好きだったけど、大体いつも私より上手いヤツ居たからなぁ)
アンチョビ(渚にせよ翠にせよ、汐華やミスターにせよ…今だって装填はカルパッチョのが早いし走りじゃペパロニのが速い)
アンチョビ(1年の時の、先輩たちと居たときくらいじゃないかなぁ。私が戦車で1番だったのって)
アンチョビ(そもそもメローネ先輩くらいしか、まともに戦車乗ってくれなかったのもあるけど)
アンチョビ(…戦車に触れて、戦車を動かす楽しさは戦車道が私にくれるもの)
アンチョビ(だったら作戦を考えるのは、戦車道で私ができること…?)
アンチョビ(たぶん、そうだ。私だってホントは、ティーガーらへんのThe戦車みたいなのをズラッと並べて)
アンチョビ(並み居る敵を装甲と火力でガンガン押しつぶしていくような戦いをしてみたい。そっちの方が気持ちいいし、かっこいいもの)
アンチョビ(それこそ、西住流みたいな…)
アンチョビ(けど、それをやってもうちの戦車じゃ黒森峰には絶対勝てない)
アンチョビ(というよりどこの戦車でも勝てない。それをやらせたら黒森峰が、西住が最強だ)
アンチョビ(だから絶対に同じことをしちゃいけない。同じことをしたって勝負にならない)
アンチョビ(じゃあどうするかどうすれば勝てるかってあれこれ考えるのは…やっぱり最高に楽しい)
アンチョビ(ダメだ、キリがない。やっぱり私は戦車道が好き。こんなにモヤモヤしてても、どうしようもなく好きなんだ)
90 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/16(月) 17:21:06.08 ID:c4gTYo6a0
アンチョビ(…逆に考えるんだ。戦車道の何が嫌だったか。なんで私はこんなに悩んでるんだ?)
アンチョビ(……)
アンチョビ(一番堪えたのはやっぱりあの野次だ。あの瞬間私は間違いなく心の中で『思った』)
アンチョビ(…兄貴と違って、『思った』ところで私に何ができた訳じゃあないけれど、それでもそのくらい嫌だったんだ)
アンチョビ(その後の、どんどん話が大きくなっていったのも嫌だった)
アンチョビ(西住を、西住の妹をみんなして好き勝手に、遠巻きに囲んで叩く様なんて、最悪だ)
アンチョビ(西住の妹は、みほはただ、仲間を助けたかっただけなのに)
アンチョビ(…そうだ、戦車道で一番嫌いなところは)
アンチョビ(一つ間違ったら人が死んでしまうところだ)
アンチョビ(カーボンのせいで忘れがちだけど人間は死んでしまうんだ)
アンチョビ(履帯に巻き込まれても、機銃で撃たれても、砲弾の破片が刺さっても)
アンチョビ(鉄の箱に閉じ込められたまま、水の中に沈められても)
アンチョビ(他にどんなに楽しいことがあったとしても、人死にを出してまでやることじゃない)
アンチョビ(やっていいことでもない。だから私は、戦車道を嫌いになりそうだったんだ)
アンチョビ(そうだ、戦車道で一番、何よりも私が好きなのは)
アンチョビ(人と親しくなれるところだ。仲間ができるところだ)
アンチョビ(戦車の中の、あのせまっ苦しい空間で)
アンチョビ(戦況次第じゃ何時間も何も起きない、あの退屈な時間の中で)
アンチョビ(私は初めて、友達を作れた)
アンチョビ(中学に上がって、戦車に乗るまで、友達と言ったらりぼんとなかよしと『あの番組』だけだったもんな、私)
アンチョビ(それが初めて、人の輪の中に入れた。中学の、実習チームの二人なんて、今でも連絡取っている)
アンチョビ(カルパッチョもペパロニも、部下じゃない。大事な、仲間だ)
アンチョビ(それに、西住…私はあいつともう一度会いたくて)
アンチョビ(それで…)
アンチョビ「んん!?」
アンチョビ「ちょっと待て! 今日、何日だ!? ひょっとして、まさか…!!」ガバッ
アンチョビ「うあ”あああああっ!! や、やっぱりだ…!!」
アンチョビ「あと10日で、黒森峰と航路が重なる…西住が…!!」
91 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/16(月) 17:21:44.62 ID:c4gTYo6a0
―――西住が、やってくる。
<高校2年の9月・アンツィオ高校学園艦・戦車道科ガレージ>
ペパロニ「姐さーん! 週刊誌と新聞、バックナンバーあるだけ買ってきたっすよー!!」
アンチョビ「そこに置いといてくれ! 後で全部読む!!」バババババッ
ひな「やめてくださいドゥーチェ! そんなの、そんなの読んでも何にもなりませんよ!!」
アンチョビ「いいやダメだ! 目を逸らしちゃダメなんだ私は!」
アンチョビ「私なら大丈夫だ! 何があろうと戦車道を嫌いになることはない!」
アンチョビ「最悪、そんなに嫌なら辞めてしまえばいい! でもあいつは、あいつは…!!」
アンチョビ「あいつは一生、戦車道するんだ!!」
92 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/16(月) 17:23:38.60 ID:c4gTYo6a0
今回は以上です。俺、このSSを書き上げたら初めてドラマCD買うんだ。
93 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/16(月) 17:33:13.81 ID:j/zQX94U0
乙乙
94 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/16(月) 18:24:01.50 ID:pIiBhKsfO
今回の渚だの翠だの元ネタは何だ?
95 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/20(金) 20:02:59.49 ID:hbpUV7Jk0
投下します。まほチョビの可能性を考える上で
チョビが愛知で産まれたことには重要な意味があると思うので
このSSには愛知に縁のあるキャラがちょこちょこ出ています。
96 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/20(金) 20:05:58.40 ID:hbpUV7Jk0
<高校2年の9月・アンツィオ高校学園艦・例の公園のベンチ>
アンチョビ(ダメだ…あれから新聞や、いろんな雑誌を読んだけど)
アンチョビ(どの記事も西住を、みほの行動を否定している…)
アンチョビ(特に戦車道の大家や強豪のOGなんかは酷い叩きようだ…)イクヨトーチャン!
アンチョビ(覚悟が足りない…自覚が足りない…)バッチコーイ!
アンチョビ(戦車道って…強豪校って…)ヒュッパシィッ
アンチョビ(というよりスポーツやるって、そういうことなのかな…?)ナイスボール!ヒュッパシィッ
アンチョビ(……)
アンチョビ(ああやって楽しそうにキャッチボールなんてしてる子供も、いつかはああいう風になるのかな…?)モウイッキュウ!
アンチョビ(野球も、色々厳しいって言うもんなぁ…)スッポヌケター!
ビュンッ…ポテッポテッ…
アンチョビ「あ…ボールがこっちに…」
父親「すみませーん!」
アンチョビ「あ、大丈夫ですよー」ボールヒロイ
アンチョビ「必殺ドゥーチェボール!!」ブオンッ
バスン! コロコロ…
アンチョビ「あ…」
父親「地面に直撃…」
子供「あっはっはっは! おねえちゃんへたくそー!」
アンチョビ「う…ちょ、ちょっと待ってろ!」ヒョイッ
アンチョビ(とはいえどうする!? 私、球技は全部ダメで、それで中学の選択でも戦車道を…)
通りすがりの長期滞在者「貸してごらん」
アンチョビ「あ、はい」
シュッ…パシィッ
アンチョビ「!!」
アンチョビ(お父さんの構えたグローブに一発で入った。すごいコントロールだ)アリガトウゴザイマシター!ナゲサセスギニキヲツケテネ
通りすがりの長期滞在者「それじゃあね」
アンチョビ「あのっ、すみません!」
通りすがりの長期滞在者「ん?」
アンチョビ「おじさん、高校で野球部だったりとか、しました? 凄い球、投げてましたけど」
通りすがりの長期滞在者「…そうだねぇ、高校でもやってたね。野球」
通りすがりの長期滞在者「それが、どうかしたかい?」
アンチョビ「その…母校が弱かったりすると、やっぱり嫌、ですか?」
通りすがりの長期滞在者「母校…母校かぁ」
アンチョビ「負けたりしたら…何か言いたくなったり、しますか?」
通りすがりの長期滞在者「うーん…そもそも僕の母校は、強かったからねぇ。それに、勝ち負けはしょうがないよ」
通りすがりの長期滞在者「どんなに強くても、どんなにいい選手を揃えても、いつでも絶対勝てるとは限らないからね」
通りすがりの長期滞在者「…何か、悩んでるのかな? おじさんでよければ話くらい聞くよ?」
アンチョビ「あっ、すみません」
97 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/20(金) 20:07:27.20 ID:hbpUV7Jk0
アンチョビ「…私、戦車道やってて、ずっと夏大会のことで悩んでて…」
通りすがりの長期滞在者「戦車道…ああ、黒森峰の、あの」
アンチョビ「はい。うちは戦車道そんなに盛んじゃなかったから、そんなことなかったんですけど…友達が、黒森峰に居るんです」
アンチョビ「中学の時にもアイツ、勝ったのにビンタとかされてました。今回も、OGとか師範みたいな人達がみんなして西住を叩いてる…」
アンチョビ「スポーツって、そういうものなんですか…? 勝つことって、そんなに大事なことなんですか?」
通りすがりの長期滞在者「…戦車道は、伝統ある武道だからね。黒森峰と言ったら、僕でも知ってるような名門だ」
通りすがりの長期滞在者「まして10連覇の懸かった試合で負けたとなったら、それはすごい騒ぎだろうね」
通りすがりの長期滞在者「すごいね、10連覇。巨人でも果たせなかった偉業だ」
通りすがりの長期滞在者「そんなものが目の前にぶら下がってたら、どんな綺麗ごとだって吹っ飛んでしまう」
通りすがりの長期滞在者「絶対勝て、何としても勝て、どんなことをしてでも勝て、ってね」
アンチョビ「…そうです、か」
通りすがりの長期滞在者「でもね、それは精々1チーム、1校程度でしか通用しない考え方なんだ」
通りすがりの長期滞在者「競技全体のことを考えれば、勝つことより大事なことはある」
アンチョビ「!!」
アンチョビ「な、なんですか!? それって!」ズイッ
通りすがりの長期滞在者(おお、近いなぁ)
アンチョビ「……」ジッ
通りすがりの長期滞在者「…その競技を楽しんでもらうことだよ」
アンチョビ「楽しんで、貰う?」
通りすがりの長期滞在者「勝負である以上勝つことは確かに大事だ。でも、勝利を目指すのはあくまで勝つことが楽しいから」
通りすがりの長期滞在者「そのための練習が、自発的な努力を通り越して強いられる苦痛になっては本末転倒だ」
通りすがりの長期滞在者「『何としても勝て』が『どんなことをしてでも勝て』になって『勝つためには何をしてもいい』になる」
通りすがりの長期滞在者「挙句それが『勝ったものは何をしてもいい』『負けたものには何をしてもいい』になってしまったら、スポーツなんて害悪でしかなくなってしまう」
アンチョビ「害悪…」
通りすがりの長期滞在者「そういうやり方しか知らない人間を作ってしまうのなら、社会教育上よろしくないと言われても何も言い返せないよ」
通りすがりの長期滞在者「現に、僕の母校の野球部は、強かったけどなくなってしまった」
アンチョビ「ええっ!?」
通りすがりの長期滞在者「優勝もしたし、プロ選手だっていっぱい出したのにね」
アンチョビ「っ…ごめんなさい! 嫌なこと聞いてしまって!」バッ
通りすがりの長期滞在者「はは、いいんだよ。高校野球だけが、野球じゃないからね」
通りすがりの長期滞在者「…競技を楽しんでもらう。綺麗ごとに聞こえるかもしれないけど、実はスポーツの未来を考えると、本当に大事なことなんだ」
通りすがりの長期滞在者「勝ち負けしかないんじゃ、戦争だ。戦争、したい?」
アンチョビ「…したくありません」
アンチョビ「戦車道は戦車を、兵器を使います。でも、戦争じゃないと思いたい…戦争なんかに、したくない!!」
通りすがりの長期滞在者(戦争なんか『に』、したくない…ね)
通りすがりの長期滞在者(そっか、この子…)
通りすがりの長期滞在者「…大丈夫。野球だって強い兵士を作るためだった頃があった。でも、ちゃんとスポーツになれたからね」
通りすがりの長期滞在者「スポーツだったら勝ち負けだけじゃない。プロならまた違った話になってくるのかもしれないけど」
通りすがりの長期滞在者「それでも、嫌な思い出しかないスポーツを、わざわざ見に来る物好きが何人いるのかと…わかるかな?」
アンチョビ「…競技人口の、問題。そっか! だから楽しんで『貰う』って!」
通りすがりの長期滞在者「そう」ニッコリ
98 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/20(金) 20:08:48.45 ID:hbpUV7Jk0
通りすがりの長期滞在者「もっとも、現場に近ければ近いほど勝利至上主義に陥りやすい」
通りすがりの長期滞在者「結果を求められる日々じゃ、そんなこと考えてる余裕はないからね」
通りすがりの長期滞在者「それでもようやく、最近は変わりつつあるんだ」
通りすがりの長期滞在者「現役の一流選手達が言葉を発し始めている。かつての名選手が指導者として、野球をより良いものにしようとしだしてる」
通りすがりの長期滞在者「ずいぶんと、時間が掛かってしまったけれどね」
通りすがりの長期滞在者「…だからこそ、僕は戦車道も、もっと色々聞いてくれればいいのにって思う」
アンチョビ「聞く?」
通りすがりの長期滞在者「そう。この国のスポーツとして、そして娯楽、或いは興業として」
通りすがりの長期滞在者「野球はずっと考え続けてきたんだ。勝利至上主義の問題も、誤審の問題も、或いはもっと嫌な問題もね」
アンチョビ(誤審の問題…そういえば渋谷凛のラジオでも、よくゲストに呼ばれる人が誤審されたって…)
通りすがりの長期滞在者「もちろん、全部に答えを出せてるわけじゃない。どの問題もまだまだ根深い」
通りすがりの長期滞在者「それでも失敗談くらいならいくらでもしてあげられる」
通りすがりの長期滞在者「戦車道は確かに伝統ある武道だけど、それでもまだまだ若いスポーツなんだから」
通りすがりの長期滞在者「まだまだこれから、成長していくスポーツなんだからね」
アンチョビ「成長…だったら!」ズイッ
アンチョビ「どうすればいい!? どうすれば戦車道は変われる!? 聞かせてください!」
通りすがりの長期滞在者「…変えたいのかい? 戦車道を」
アンチョビ「嫌なんだ、私は…! 勝ったのにぶたれて! 好きで戦車道始めたのに、重荷になって、嫌いになって出て行って!」
アンチョビ「出る杭をみんなで囲んで打って、嫌なつながりばかりできて! 挙句大事な仲間を助けただけなのに、吊るし上げを食らう!」
アンチョビ「そんな戦車道、私は嫌だ…!!」
アンチョビ「私はアンツィオのドゥーチェだ…ドゥーチェ・アンチョビだ!!」
アンチョビ「うちの戦車道には何もないけど…それでもせめて、入ってきた子には戦車道を楽しんで貰いたい!!」
アンチョビ「一緒に喜んで一緒に笑って、一所懸命に頑張って、一生の仲間を作りたい! 作ってもらいたい!」
アンチョビ「私は…戦車道をずっと好きでいて欲しいんです!!」
通りすがりの長期滞在者「おお、正解全部言っちゃったね」
アンチョビ「えっ!?」
通りすがりの長期滞在者「それが正解だよ、アンチョビさん」ニッコリ
99 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/20(金) 20:09:24.16 ID:hbpUV7Jk0
通りすがりの長期滞在者「勝つことよりも大事なこと。強い選手を育てることよりも大事なこと」
通りすがりの長期滞在者「それはその競技をずっと好きでいてもらうこと」
通りすがりの長期滞在者「小学校、中学校、高校、大学、そしてプロ…レベルが上がるにつれて、選手人口は減っていく」
通りすがりの長期滞在者「でももしも選手として引退した子たちが、それでもその競技を好きでいてくれれば」
通りすがりの長期滞在者「その競技はどんどん盛り上がっていくはずだ」
通りすがりの長期滞在者「スポーツは、選手だけじゃできないんだから」
アンチョビ「!!」
アンチョビ「知っていた…私、知っていたのに…!!」ヒザギュウッ
通りすがりの長期滞在者「僕も、野球をやってるすべての子供たちに、ずっと野球を好きでいてもらいたい」
通りすがりの長期滞在者「たとえ選手を卒業しても、あの頃の僕らを懐かしめるような野球をしてほしい」
通りすがりの長期滞在者「そして次の子供たちにも伝えてほしい。野球はいいぞ、野球は楽しいぞってね」
通りすがりの長期滞在者「それで親子で球場に来てさ、プロのプレイを見て、それでまたその子に野球をやってみたいと思ってもらえたら」
通りすがりの長期滞在者「こんなに素晴らしいことはないじゃないか。ね?」ニッコリ
アンチョビ「はい…! 私も、戦車道を好きでいてもらいたいです! これから入ってくる子たちにも…西住にも!」
アンチョビ「っ…おじさん!!」
通りすがりの長期滞在者「ん?」
アンチョビ「おじさん、しばらくこの艦に居ますか!?」
通りすがりの長期滞在者「ああ、いるよ。少し遅めの、夏休みなんだ。毎年お邪魔しているね」
アンチョビ「でしたら、これ! うちの屋台のチラシです! よかったらいらしてください!!」バッ
アンチョビ「いっぱいサービスしますから!」
通りすがりの長期滞在者「ありがとう。今度寄らせてもらうよ」
通りすがりの長期滞在者「迷いはもう、晴れたかな?」
アンチョビ「はい! 見つかりました! 私の戦車道!!」
通りすがりの長期滞在者「そっか。じゃあよかった。頑張るんだよ」
アンチョビ「はい! 本当に、ありがとうございました!!」バッ
タッタッタッタ…
100 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/20(金) 20:10:00.37 ID:hbpUV7Jk0
通りすがりの長期滞在者(姫川さんと、同じ目だったな)
通りすがりの長期滞在者(あの子もきっと、自分の好きを、自分の楽しいを、みんなに伝えていける子だ)
通りすがりの長期滞在者(これからの戦車道界にとって、ああいう子がいることはきっと大きな財産になるだろうな)
通りすがりの長期滞在者(これからのスポーツなんだから、色んな人材を抱えていかなきゃいけない)
通りすがりの長期滞在者(…ホントは今回の件も、勝利至上主義の問題でもなく、誤審の問題でもなく)
通りすがりの長期滞在者(もっと嫌な問題が絡んでるんだろうし)
通りすがりの長期滞在者(…太刀打ちできるのが児玉さん一人きりじゃ、厳しいんだろうなぁ)
通りすがりの長期滞在者(……)
prrrrrrrrrrrrrrrrrr…
101 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/20(金) 20:10:47.59 ID:hbpUV7Jk0
―――もしもし、僕だ
102 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/20(金) 20:11:47.29 ID:OL+FjHcSO
ミカ
103 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/20(金) 20:11:50.98 ID:hbpUV7Jk0
――――僕は西住みほさんの行動は、全てのアスリートが規範とするべき、スポーツマンシップに則った素晴らしい行動だったと思う
104 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/20(金) 20:12:40.49 ID:hbpUV7Jk0
――――任せたよ、タツナミ
105 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/20(金) 20:13:28.62 ID:hbpUV7Jk0
ピッ
通りすがりの長期滞在者(…それにしても)
―――おじさん、高校で野球部だったりとか、しました?
通りすがりの長期滞在者(時代は流れていくんだなぁ)
通りすがりの長期滞在者(せめて、いい方向に行ってくれていれば、いいんだけれど)
106 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/20(金) 20:14:29.99 ID:hbpUV7Jk0
―――その日からしばらく
107 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/20(金) 20:15:34.30 ID:hbpUV7Jk0
――――強い雨が続いた。
108 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/20(金) 20:16:14.66 ID:hbpUV7Jk0
<高校2年の9月・アンツィオ高校学園艦・戦車道科ガレージ>
ペパロニ「姐さん雨っすよ雨! 戦車全部洗っちゃいましょう!!」
アンチョビ「はあっ!? 何言ってんだお前!?」
ペパロニ「水道代の節約っすよ! 結構馬鹿にならないんですから!」
アンチョビ「馬鹿! 風邪ひいたらどうするんだ!」
ペパロニ「平気っすよー! 何とかは風邪ひかないって言うじゃないっすか! ほら姐さんも!」
アンチョビ「オイ! 私までバカ扱いか!? ったく、ひなも何か言ってやってくれ…」
ひな「合羽着れば大丈夫ですよ。はい、ドゥーチェの分!」
アンチョビ「おいおい、お前までそんな…」
ひな「ふふ、たまにはこういうのもいいじゃないですか。ね?」
アンチョビ「うー…わかった。その代わり、やるからには徹底的に行くぞ!!」
アンチョビ「全部の戦車を表に出せーーっ! 顔が映るほどピッカピカにしてやるんだーーーっ!!」
ペパロニ「へへっ、了解っすよ姐さん!!」
ガラガラガラガラ…
ひな(ペパロニったらあんなにはしゃいじゃって)
ひな(でも、当然かな。ようやく消えたんだもんね。あの日からずっと、刻まれてた)
ひな(ドゥーチェの眉間の皺が)
ひな(よかったわね、ペパロニ)
アンチョビ「おいひな! 何をやってるお前も来い! 一人だけサボりなんて許さないんだからな!!」
ひな「ふふっ、今行きますドゥーチェ♪」
109 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/20(金) 20:17:13.89 ID:hbpUV7Jk0
アンチョビ(そうだよ、戦車道だって完璧じゃない。いいところもあれば悪いところもある)
アンチョビ(でも、だったら、これで完成ってわけじゃないはずだ)
アンチョビ(だったら悪いところは変えられる。変えていっていいはずだ!)
アンチョビ(壊れているなら直せばいい。汚れているなら洗えばいい)
アンチョビ(受け継いだものを先に進めるのが私たちの使命なら)
アンチョビ(私は戦車道をもっといいものにしたい!)
アンチョビ(西住、お前が一生戦車道するなら、私は戦車道がお前にとって好きでいられるものであってほしい!)
アンチョビ(…ん?)
――――こんなの運動部じゃ普通のコトなんだって!!
――――大丈夫。このくらい、なんでもないから
――――犠牲なくして勝利なし!
――――生まれついての戦車のり
――――西住流の後継者
カラン
ペパロニ「ん?」
アンチョビ(西住、お前は今、何を思ってる…?)
アンチョビ(西住、お前…ひょっとして)
アンチョビ(戦車道…好きなままか?)
アンチョビ(だったら私は…私の戦車道は…)
アンチョビ「…お前の、敵?」キュ
ペパロニ「…姐さん?」
アンチョビ「あ、いや何でもない! 独り言だ!」
ひな「……」
110 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/20(金) 20:18:10.27 ID:hbpUV7Jk0
<高校2年の9月・アンツィオ高校学園艦・ひなの部屋>
ひな(…ドゥーチェの眉間に、また皺が出来た)
ひな(全国大会決勝戦…ドゥーチェは悩み続けてる…あの日からずっと…)
ひな(ああいう風になった子を、私は何人も見てきている…)
ひな(みんな、戦車道を辞めていった…)
ひな(…ペパロニがよかったんじゃない)
ひな(うれしかったのは…私だ)
ひな(いつの間にか私、こんなにドゥーチェのことが好きになっちゃってたんだ…)カタカタ
ひな(いつも楽しそうなドゥーチェを)カタカタ
ひな(戦車道を楽しんでるドゥーチェを)カタカタ
ひな(戦車道は楽しいって、そう教えてくれるドゥーチェを)カタカタ
ひな(…ドゥーチェがいなくなってしまうのが、怖い)ガタガタ
ひな(私達のドゥーチェでいて欲しい…でも、私じゃ…私達じゃドゥーチェを…!!)ガタガタ
コンコン
ひな「!!」
ペパロニ「ひな、まだ起きてるか?」
ひな「ペパロニ?」ガチャ
ペパロニ「ちょっと、頼みたいことがあるんだ」
ひな「頼みたい、こと?」
ペパロニ「明日からサンダースで屋台だろ? だったらさ…」
111 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/20(金) 20:20:58.49 ID:hbpUV7Jk0
今回は以上です。
なお、今回のモブの元ネタはあくまでゴーゴー!ゴジラッ!!マツイくんであり
実在の人物団体素晴らしい先輩とは一切関係ありません。
112 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/23(月) 14:19:49.65 ID:2DwgUH3i0
サンキューユッキ
113 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/25(水) 20:36:21.34 ID:/AK1Sj1s0
投下します。サンユキ好き
114 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/25(水) 20:37:39.15 ID:/AK1Sj1s0
<高校2年の9月・サンダース大付属高校学園艦・正門前>
アンチョビ「いいか!? この2日間は何よりも大事な2日間だ!」
アンチョビ「この戦いの如何によって我々の秋の活動が決まると言っても過言ではない!」
アンチョビ「抜かるなよ二人とも!」
ペパロニ「任せてください姐さん! こっちはもうバッチリっすよ!!」
ひな「……」
アンチョビ「カルパッチョ?」
ひな「…あっ、すみません。了解です、ドゥーチェ」
アンチョビ「…大丈夫か? 朝もちょっと遅れてきたし、具合悪いなら…」
ひな「いいえ大丈夫です! 問題ありません!」
アンチョビ「そうか? 無理するなよ? ダメそうだったらすぐ言えよ?」
ひな「大丈夫です! いっぱい稼ぎましょう、ドゥーチェ! 私達の戦車道のために!」
アンチョビ「…よし、そうだな! やるぞ二人とも! 目指せ週3砲撃演習! いや週5、いいやいっそ毎日だーーーっ!!」
サンダース生「やってるね、千代美ッ!」
ひな「!!」
アンチョビ「おお、いらっしゃい! いやちょっと待て、お前授業は? 12時にはまだまだ早いぞ!?」
サンダース生「へへっ、ちょっとお腹減っちゃってね!」
アンチョビ「お前、授業抜けてきたのか?」
サンダース生「固いことは言いっこなしッ!」
アンチョビ「はぁ…お前なァ、サンダースのくせにウチみたいなこと言って」
ペパロニ「まあまあ姐さん! せっかく来て下さったんスから! ちょっとお喋りでもしてきたらどうっスか?」
アンチョビ「はあ!? お前あとちょっとでお客さんが押し寄せてくるってのに」
ひな「こっちは私達だけで大丈夫ですから、ね? ドゥーチェ」
ペパロニ「はいはい席の準備できましたよ! パスタもすぐ、アッツアツのを二人前、持ってきますから!」
サンダース生「お、サンキューペパちゃんッ!」
アンチョビ「お前らなぁ…」
115 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/25(水) 20:38:28.70 ID:/AK1Sj1s0
サンダース生「やっぱ千代美んとこのパスタは美味しいなァ! 肉たっぷりってのがまた嬉しいねッ!」
アンチョビ「フッフッフッ、そうだろう? うちのパスタは戦うみんなのためのパスタだからな!」
アンチョビ「どこの学園艦行っても大人気だ! 特にサンダースは売上いいぞ!」
アンチョビ「アメフト部とかめっちゃ食うからな!」
サンダース生「アメフト部かぁ、鉄馬あたり黙々とすごい量食べそう」
アンチョビ「鉄馬は食うぞォ! その半分でいいからキッドにも食欲分けてやれってくらい食う!」
サンダース生「やっぱり! 知波単とかも行ってんの?」
アンチョビ「知波単かー、知波単は航路が読めないからなぁ。なっかなか行けてないんだよ」
サンダース生「そっか。や、翠のヤツが海の上でも濃い味のものが食べたいって嘆いてたからさ」
アンチョビ「翠に会ったのか!?」
サンダース生「ん、実家帰った時に偶然。346プロにスカウトされたって言ってたよ?」
アンチョビ「346プロぉ!?」
サンダース生「1年の子と歩いてたら2人とも声かけられたって。戦車道の子だって言ってたけど、千代美知らない?」
アンチョビ「戦車道っても知波単には行けてないからわからないぞ…いや、というかやるのかアイドル?」
サンダース生「や、弓に専念したいから断ったって。そしたら来年の夏また来るってさ」
アンチョビ「マジかー、いやすごいな…何部門とか言ってた?」
サンダース生「それが、翠のやつ、クール部門だってさ」
アンチョビ「クール部門!? クール部門ったら346の花形じゃないか! 渋谷凛とか高垣楓とか!」
アンチョビ「…ホントにクール部門なのか? あいつ、外見はともかく中身は食いしん坊の天然じゃないか」
サンダース生「あっはっはっは! やっぱり千代美もそう思った!?」
サンダース生「私もさ、どっちかというとあんた中身はパッションじゃないって言ったら『着ぐるみなんて着ません!』って」
アンチョビ「着ぐるみって、鈴帆サン以外にもなんか居るだろパッション。ほら、きらりんとか本田未央とか猫耳とロックのコンビとか…」
アンチョビ「城ヶ崎美嘉…はLippsだし、クールだよな? 後は…」
サンダース生「んー、キュートだったら島村卯月とかウサミンの人とかすぐ出てくるんだけど」
サンダース生「…そうだ! あの子がいたじゃん! ほら、スポーツニュースによく出てる…ああ、ダメだ名前出てこない!」
アンチョビ「スポーツニュース…ああ! あの子か! 突撃レポとかよくやってる野球の子! 畜生の子!」
サンダース生「そう! 野球で畜生の子! 千代美名前出るッ!?」
アンチョビ「…ダメだ出てこない! 畜生の名前が出てこないぞォ!!」
サンダース生「あーちくしょう! なんて名前だっけあの畜生! 顔は浮かぶのに全然名前が出てこないッ!!」
アンチョビ「ちくしょう、なんか妙に悔しいぞ!」
サンダース生「…あー、これは重傷だね」スッ
アンチョビ「へ…ひゃっ!?」
サンダース生「美味しいもの食べてお喋りしても消えない。こりゃ確かに重傷だ」サワサワ
アンチョビ「お、おい? 何のつもりだ? 人の眉間をいきなり撫でて…」
サンダース生「はぁ…千代美」
アンチョビ「な、なんだよ…?」
サンダース生「どう考えてもおかしい」
116 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/25(水) 20:40:50.77 ID:/AK1Sj1s0
アンチョビ「へ…?」
サンダース生「どう考えても、普通じゃないよ。千代美」
アンチョビ「普通じゃ…? あっ」
――――こんなの運動部じゃ普通のコトなんだって!!
アンチョビ「オマエ、なんでそのこと…」
サンダース生「眉間の皺。アンタ昔っからそう。何か悩みを抱えてると、ずっと眉間に皺寄せてる」
アンチョビ「眉間っ…!?」バッ
サンダース生「普段はノリと勢いでガンガン突っ走って行っちゃう子なのに、一回悩み出すと長い。なまじ頭がいい所為なのかな?」
サンダース生「でもって、一人で悩んだからって別に何かいい答えが浮かぶわけでもないのに周りには隠す」
サンダース生「けど隠し事も下手だから、結局周りに感づかれてご飯奢られて取り調べをされる。ホント、一個も変わってないねー、アンタ」
アンチョビ「うぅ…そんなに隠し事下手か? 私」
サンダース生「普段あんだけ騒がしいヤツが眉間に皺寄せて黙り込んでみ? 心配通り越して若干怖かったよ私は」
アンチョビ「待て、黙り込んでなんかないぞ!? 私はいつも通り…」
サンダース生「そーいう空元気も無理する理由も全部バレバレで、だから余計に心配するんだって」
アンチョビ「う…」
サンダース生「ほれ、白状してみ? 後輩には無理でもさ、中学の友達にだったら話せるでしょ?」
サンダース生「ま、私の考えは最初に言った通りだけどね。どんな強豪校でも、あんなのは普通じゃない。普通であっちゃいけないよ」
アンチョビ「…それはわかってる。私だってあんな戦車道はいやだ。私は戦車道を変えたい」
アンチョビ「私はもっと、戦車道をいいものにしたい。ずっと、好きでいられる戦車道に」
アンチョビ「それは、私がずっと戦車道を好きでいたいし、みんなにもずっと戦車道を好きでいてもらいたいから」
アンチョビ「でも何よりそう思うのは、この先一生戦車道する西住に…西住が、一生好きでいられる戦車道をして貰いたいから」
アンチョビ「でも…」
――――大丈夫。このくらい、なんでもないから
アンチョビ「ひょっとして、全部余計なお世話なのかなって。西住にとっては、こんなの全部、なんでもないことなのかなって」
アンチョビ「だったら私は、今の戦車道を変えたい私は、西住の敵じゃないかって」
アンチョビ「戦車道はスポーツだけど、伝統のある武道でもあるから…」
アンチョビ「そう考えたら、すごい不安になって…明後日、黒森峰に屋台で行くんだけど」
アンチョビ「…怖いんだ。西住に会うのが。今の西住を見るのが」
サンダース生「んー、なんでもないことないと思うなぁ。だって、アンタが言ってる西住って、あの西住さんでしょ?」
サンダース生「だったらなんでもないなんてことないよ」
サンダース生「私の知ってるあの人は、自分を庇って先生に怒られたアンタを、心配して謝りにくるような子だ」
サンダース生「そこでの約束を果たすために、わざわざ1年後、1軍率いて実習チームと戦いに来るような子だ」
サンダース生「今の西住さんとは会ったことないからわかんないけどさ、少なくとも中学ん時の西住さんは、とびっきり優しい子だったと思う」
サンダース生「だったらなんでもないなんてことない。妹さんがあんなことになって、なんでもないなんてことは」
サンダース生「人間そうそう変わるもんじゃないってのは、今のアンタが証明してるじゃないのさ?」
アンチョビ「…アイツは私とは違う。何にもないアンツィオ戦車道の隊長じゃない。黒森峰の、隊長だ」
アンチョビ「今回のことで思い知らされた。西住流は、重いんだ」
アンチョビ「だって、みほを、西住の妹を切り捨てたのは…」
――――犠牲なくして勝利なし!
アンチョビ「西住の、母親だぞ? だったら西住だってそうなったって…」
サンダース生「そうしたくないから、そうなって欲しくないから戦車道を変えるんでしょ? 千代美は」
サンダース生「だったら、そんなとこで怯んでる場合じゃないよ」
117 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/25(水) 20:42:14.64 ID:/AK1Sj1s0
サンダース生「ぶつかってごらんよ、千代美。アンタ、悩んで物事をどうにかできる子じゃない」
サンダース生「あの頃みたいに、ノリと勢いと精一杯の強がりで、周りみんなを巻き込んで」
サンダース生「ガツンとぶつかっていけばいいじゃないの。それが一番、アンタには合ってる」
アンチョビ「…ぶつかって、伝わるかな? だってアイツは」
――――生まれついての戦車のり
アンチョビ「―――なんて言われて…」
サンダース生「違うよ千代美。人間だ」
サンダース生「どんな強豪校でも、どんな伝統校でも」
サンダース生「ロボットじゃない。マシーンじゃない。私達はちゃんと、人間だ」
サンダース生「押しも押されぬ強豪校、サンダース大付属高校女子バスケットボール部キャプテン」
サンダース生「愛野渚が保証するよッ!!」
アンチョビ「!!」
サンダース生「どんな競技も、結局最後は人と人だ。人間の関わり合いだ」
サンダース生「だったらさ、私はアンタほどのアスリートを見たことがない」
――――西住流の後継者
サンダース生「人と人なら、安斎千代美は世代最強だ」
サンダース生「黒森峰の重戦車でも、アンタの想いは止められない」
サンダース生「現に私たちは一回、黒森峰に勝ってるじゃない」
サンダース生「確かに作戦読まれちゃって、戦車の白旗は上がったけどさ?」
サンダース生「結局アンタはこうやって、西住さんのそばに居られてる。西住さんを想えてる」
サンダース生「だからあの試合は、アンタの勝ちだったんだ」
サンダース生「勝ち目はある。だったらもう、怯む理由はない」
サンダース生「西住さんの敵になっちゃいなよ、千代美。そんでもって、また勝つんだ」
サンダース生「勝ってまた、二人で笑いあうんだよ。戦争じゃない、戦車道だからこそできる」
サンダース生「それがアンタの、戦車道だよッ! 千代美ッ!」
アンチョビ「うぅ…渚ぁ”ぁ…」ボロボロ
サンダース生「…やっと泣いたね、千代美。これで一安心だ」ミケンサワサワ
118 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/25(水) 20:43:24.94 ID:/AK1Sj1s0
サンダース生「それじゃ…」グググッ
デコピンビシィ!!
アンチョビ「いっだぁ!!?」
サンダース生「……」
アンチョビ「な、なんで!? デコピンなんで!?」
サンダース生「後輩に泣いてるとこなんて見せないッ! 『キャプテン』なんでしょッ!?」
アンチョビ「はっ!」
コツン
サンダース生「千代美千代美千代美ィ〜〜〜〜…こっからは同じ『キャプテン』としてのアドバイスだよ」
サンダース生「アンタは確かに恋する乙女かもしれないけど、同時にあの子らの『キャプテン』なんだ」
アンチョビ「うっ…」
サンダース生「あんまり不安にさせちゃダメッ! アンタを慕ってついてきてくれる、大事な仲間なんでしょッ!?」
アンチョビ「…まさか! オマエが今日ここに来たのって!」
サンダース生「まったく…ひなちゃん泣きそうな顔してたよ、かわいそうに。今度こんなことになったら、デコピンなんかじゃ済まさないからねッ!?」
アンチョビ「ッ…!!」ガタッ
キーンコーンカーンコーン…
サンダース生「ほら、話はおしまいッ! さっさとあの子らのとこに行くッ!!」パシン
アンチョビ「っ…ありがとう渚! 明日も来てくれるか!?」
サンダース生「当然っ! 部活終わりの、腹を空かせたうちの部員を全員つれてくよッ!」
アンチョビ「ようしわかった! 腹いっぱいごちそうしてやる!!」ダッ
119 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/25(水) 20:44:20.45 ID:/AK1Sj1s0
アンチョビ「……」
ひな「ドゥーチェ…」
ペパロニ「……」
アンチョビ「二人とも…」
ギュウッ
アンチョビ「ありがとう。心配かけて、ごめんな」
ひな「ドゥーチェぇ…」ボロボロ
ペパロニ「…おかえりなさい、姐さん!」
アンチョビ「ああ…待たせたな、2人とも!!」バッ
アンチョビ「アンツィオ戦車道のドゥーチェ・アンチョビ!! 完ッ全ッ復ッ活だぁーーーーーっ!!!」ビッシィ
ひな「ドゥーチェ!!」
ペパロニ「姐さん!!」
ゾロゾロ…ガヤガヤ…オイ!キョウドゥーチェキテルゾ!ワァイ!ノリコメー!
アンチョビ「ペパロニ! カルパッチョ! 『アレ』をやるぞ覚悟を決めろ!!」
ひな「了解!!」
ペパロニ「そうくると思ってましたよ姐さん!!」
ゾロゾロ…ガヤガヤ…
アンチョビ「よく来てくれたな諸君! 今日はドゥーチェ・アンチョビの復活祭っ!!」
アンチョビ「大盛特盛全部無料だッ!! 皆腹いっぱい食ってってくれーーーーーーっ!!!」
ウオオオオオオオッ!!
屈強なアメフト部員「ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!」
屈強なバスケ部員「ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!」
屈強なボクシング部員「ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!」
屈強なベースボール部員「ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!」
屈強なボディビル部員「ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!」
屈強なレスリング部員「ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!」
屈強なプロレス部員「ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!」
屈強な対戦車道部員「ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!」
屈強なタカシ「ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!」
アンチョビ「お、おい止めろ! なんだこのノリ!? こんなとこで大騒ぎしちゃ迷惑だろーーーーっ!?」
ひな「ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!」
ペパロニ「ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!」
アンチョビ「オマエらまで、ああもう! なんだかよくわかんないけどしょうがないなぁ! こうか!? こういうノリでいいのか!?」バッ!ビシィ!
とにかくなんかマッチョで屈強な胃袋共の野太い大合唱「「「「「ドゥーチェ!! ドゥーチェ!! ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!」」」」」
サンダース生(ホントはこういうとき、先輩なんかが支えてくれるといいんだろうけど…みんな、いなくなっちゃったからなぁ)
サンダース生(リゾット先輩もホルマジオ先輩も…プロシュート先輩も。みんな…)
サンダース生(それでも…アンタは、独りぼっちなんかじゃないッ!)
サンダース生(私だって、話くらいならいくらでも聞くよ。千代美の戦車道のOGだからねッ!)
サンダース生(頑張れ、千代美ッ!)
アンチョビ「ドゥーチェ!! ドゥーチェ!! ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!」ババッ!ビシィ!
120 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/25(水) 20:44:56.66 ID:/AK1Sj1s0
―――そして、その日がやってきた
121 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/25(水) 20:45:58.30 ID:/AK1Sj1s0
<高校2年の9月・黒森峰女学園学園艦・正門前>
アンチョビ「……」
ひな「あの、ドゥーチェ」
アンチョビ「なんだ?」
ひな「屋台の方は大丈夫ですよ? ドゥーチェは早く西住さんのところに…」
ペパロニ「そうっすよ! 何だったら私が呼んで…」
アンチョビ「いや、いいんだ。こうやって、ここで待ってるのが一番いい」
アンチョビ「ここでこうして、パスタを茹でていれば」
アンチョビ「アイツは絶対、ここに来る。来る気がするんだ、私は」
ひな「そう、ですか」
アンチョビ「まあ、来なかったら来なかったで、今度は私から会いに行くけどな!」
ペパロニ「わかりました。でも来たらすぐ、外れちゃって下さい。後は私達で十分っすから」
アンチョビ「ああ、頼むぞ」
アンチョビ(そうだ…アイツはいつだって、来てくれた)
アンチョビ(中学3年の、シニアチームで履帯拾いしてた時も、プラウダに落ちてアンツィオでパスタを茹で始めた時も)
アンチョビ(アイツは私に、会いに来てくれた)
アンチョビ(だから来る。今日だって。絶対に)
アンチョビ(…正直、来なかったら、その時は)
アンチョビ(その時は、きっと…)
ペパロニ「姐さん」
アンチョビ「!!」
ペパロニ「来ましたよ、西住さん」
アンチョビ「来たか! どこだ!?」
ペパロニ「向こうです、ほら」
アンチョビ「向こう…?」
ひな「っ…!!」
アンチョビ「んん!?」
122 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/25(水) 20:46:52.50 ID:/AK1Sj1s0
―――手には一刀
―――斃すは五人
―――魔都上海に
―――報仇雪恨の剣が哭く
123 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/25(水) 20:48:14.81 ID:/AK1Sj1s0
―――昔見た、俳優目当てで見てしまった
―――トラウマ物の映画の一節が、頭によぎった
124 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/25(水) 20:48:47.26 ID:/AK1Sj1s0
アンチョビ(でも…)
125 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/25(水) 20:50:56.98 ID:/AK1Sj1s0
アンチョビ(それでもお前は、来てくれた)
アンチョビ(そんなになっても、来てくれた)
アンチョビ(私に会いに、来てくれた)
アンチョビ(だったら、希望はある。勝ち目はある)
アンチョビ(これも戦車道…いや、これこそが)
まほ「安斎」
アンチョビ「久しぶりだな、西住。肉増し大盛でいいな?」
アンチョビ(これこそが私の戦車道!!)
126 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/25(水) 20:52:26.28 ID:/AK1Sj1s0
今日は以上です。チョビは共学なら早いもの勝ちだと思う。
127 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/25(水) 21:59:34.89 ID:U4CgrUPDO
乙
共学じゃなくても引く手数多だよ
128 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/27(金) 13:40:55.50 ID:x8vExl+70
黒繋がりでアメフトも黒森峰一強なのかしら
129 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/27(金) 21:14:45.69 ID:e9gxefgP0
投下します。共学はサンダースだけっぽいですね。金回りの良さもその辺に理由があるのかも。
130 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/27(金) 21:16:23.37 ID:e9gxefgP0
まほ「」モグモグ
アンチョビ(痩せたな、西住…いや、引き締まった…違う、こういうのは、研ぎ澄まされたって言うんだな)
まほ「」モグモグ
アンチョビ(前見た映画の、黒野玄武みたいに…大事な人を失って、全部自分で背負い込んで)
まほ「」モグモグ
アンチョビ(刀か剣かに、成り果てて…)
まほ「」モグモグ
アンチョビ(でも、私は…)
まほ「」モグモグ
アンチョビ(私はお前を知っている。こんな顔した、お前を私は知っている)
まほ「」モグモグ
アンチョビ(そうだ、全部、思い出した)
まほ「」モグモグ
アンチョビ(あれこれいっぱい悩んだけど、結局何も、変わってなかったんだな)
まほ「」モグモグ
アンチョビ(お前の今も、私がお前に、してやりたいことも)
まほ「」モグモグ
アンチョビ(あの頃の私らから、少しも)
まほ「」ゴクン
アンチョビ「…美味かったか?」
まほ「美味しかった。具が、肉に変わったんだな」
アンチョビ「ああ、そっか。お前に食わせたのは初めてか。今年の夏からレシピ変えたんだよ」
まほ「私は、今の方が好きだ」
アンチョビ「へへ、みんなそう言うよ。うちに来る子は、大体みんな腹ペコだ」
アンチョビ「…みほは、大丈夫なのか?」
131 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/27(金) 21:17:05.22 ID:e9gxefgP0
まほ「」
アンチョビ「……」
まほ「みほはもう、戦車には乗れない」
まほ「今は阿部さん、お父様の友人が、匿ってくれている」
まほ「ほとぼりが冷めたころに、どこか遠くの、戦車道のない学校に転校する予定だ」
アンチョビ「そっか、お父さんが守ってくれたか…じゃあ、一安心だな」
アンチョビ「…なあ、西住。中学の時の、私達の最初の約束…まだ覚えてるか?」
まほ「もう一度、戦車道でお前と戦う」
アンチョビ「そうだ…私、あの時言ったよな? 西住。あっさりなんて勝たせてやらない、って」
アンチョビ「…やっぱり、変わらないよ西住。お前に、黒森峰に、あっさりなんて勝たせてやれない」
まほ「」フッ
アンチョビ「今年の夏は、ずっと屋台を引いてたんだ。それで、戦車道大会にくっついてってさ」
アンチョビ「結構な数の子達が、戦車道やりたいって言ってくれた。うちに来てくれるって言ってくれた」
アンチョビ「いよいよ来年の夏は、うちも大会に出場できる。随分と待たせちゃったけど」
アンチョビ「シェフ大泉夏野菜スペシャルより、時間掛かっちゃったけど」
アンチョビ「やっと準備が整った。アンツィオの戦車道が出来上がった」
アンチョビ「来年の夏大会、そこでもう一度、戦おう」
アンチョビ「私達の約束を果たそう。勝負だ、西住」
まほ「安斎」
まほ「お前も私の、敵になるんだな」
アンチョビ「え…?」
まほ「今までありがとう。ごちそうさま」ガタッ
アンチョビ「待て待て西住! どうしてそうなるんだ!? なんでそんな…」
まほ「私は西住流そのものだ。そして、伝統ある黒森峰戦車隊の隊長だ」
まほ「あのような形で10連覇を逃してしまった以上、来年こそは何が何でも優勝しなければならない」
まほ「常勝不敗・西住流の戦車道を、今一度体現しなければならない」
まほ「勝利こそが黒森峰に求められるものであり、一度敗れれば全てを奪われるというのなら」
まほ「私は勝ち続ける。それが西住流の宿命ならば」
アンチョビ「西住、お前…」
まほ「立ち塞がる全ての敵を叩き潰して前に進む。勝利を、栄光を持ち帰る」
まほ「それが私の使命であり、唯一の存在意義」
まほ「そして、私が、道半ばで去らざるを得なかったみほのためにしてやれる、ただ一つのこと」
まほ「敵を倒す。勝利する。それが、西住流」
アンチョビ「っ…!!」
まほ「さよならだ、安斎。次会うときは、敵同士」
132 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/27(金) 21:17:33.68 ID:e9gxefgP0
カチッ
133 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/27(金) 21:18:07.91 ID:e9gxefgP0
アンチョビ「ちーーーがーーーうーーーーだーーーーろーーーーっ!!!」バンッ
まほ「!!」ビクッ
アンチョビ「おかしいぞお前! なんでそんな…お前はアレか!? 孔濤羅か何かか!?」
まほ「こん、たおろー?」
アンチョビ「映画の主人公だよ! ほらあの、黒野玄武と葛之葉雨彦がチャンバラして楊菲菲と三船美優がめっちゃ怖かった…って、そんなんどうだっていいんだ西住!!」
アンチョビ「おかしいだろ!? なんでみほが死んだみたいなこと言ってるんだよお前!? みほ、死んでないよな!? 生きてるよな!?」
アンチョビ「お父さんに匿ってもらって、ほとぼり冷めたら転校できるんだよな!?」
アンチョビ「なんでそんな死んだみたいなこと、みほは戦車道に葬られたみたいなこと言ってんだよおかしいだろ!?」
まほ「だがみほは、もう戦車に乗れない」
アンチョビ「戦車に乗れないからって死ぬわけじゃないだろ!? というかこんな目に遭うようなら戦車なんか乗らない方がいいんだよ!!」
アンチョビ「あんな、仲間助けただけで袋叩きにされるような戦車道なら、やらない方がいい!!」
アンチョビ「そもそもあれだっておかしいぞ!? たかが高校生のスポーツだろ!? なんでそれであんな大騒ぎしてるんだ!?」
アンチョビ「騒ぎ方にしたっておかしいよ! フツーなら戦車道の安全性とか競技のルールとか、そっちの方で騒ぐだろ!?」
アンチョビ「なーんーで! 取り組む姿勢がーとか心構えがーとか、そういう戦犯叩きで盛り上がっちゃってんだよ違うだろ!?」
アンチョビ「誰かが死んだわけでもないし、戦争に負けたわけでもない! なんでここまで、アレか? 金でも賭けてたのか!?」
アンチョビ「たかが毎年やってる戦車道の大会で、9年連続で優勝した高校が10連は流石に無理でしたってそれだけのことだろ!?」
アンチョビ「巨人軍でも9連覇だぞ!? それで誰か巨人の選手を叩いたか叩かないだろう!!」
アンチョビ「そもそもそこが一番おかしいんだ西住! なんで黒森峰だけ負けちゃいけないんだよ!?」
アンチョビ「前に私言ったろォ!? 他の子も、曲がりなりにも勝つために頑張ってきてるんだから、そんな勝つのが当然みたいなこと言っちゃ失礼だって!!」
アンチョビ「ほかの学校は勝ったら喜んで、なーんーで黒森峰だけ勝って当然みたいな扱い受けてんだよなんだよお前使命って!!」
アンチョビ「そんなに勝つのが大事ならカールでもB29でも江田島平八でも好きなもん持ってくりゃいいじゃないかええ!?」バンッ
アンチョビ「勝ってるチームを見たいならそれこそ巨人戦でも見てりゃあいいんだよ!」バンッ
アンチョビ「高校戦車道は誰のためのもんだ!? 金出してる後援会か!? 客席でビール飲んでるおっさんか!?」
アンチョビ「違うだろ! 高校戦車道は、私達のものだ! まず私達が楽しめなきゃダメなんだよ西住!!」
アンチョビ「言ってみろ西住! お前戦車道楽しいか!? 言ってみろ!!」
まほ「安斎、競技歴の浅いお前は知らないかもしれないが、戦車道はそういうものじゃないんだ」
まほ「全てを捨てて勝利を目指す。それこそが西住流、それこそが戦車道」
まほ「誰が何を言おうと、それは決して変わらない。変えることはできない」
アンチョビ「ほら見ろ西住! やっぱりお前も嫌なんじゃないか!! そんなこと言うなんて、辛いって言ってるようなもんだぞ!!」
アンチョビ「嫌なことは嫌と言えって、私言ったろ!?」
まほ「辛くないとは言わない。これも戦車道だ」
アンチョビ「違う! 辛いなら変えろ西住! お前は西住流を継ぐんだろ!? だったらお前が変えなきゃダメなんだ!!」
アンチョビ「うちのパスタを見ろ!! 兄貴に教わったレシピじゃ魚肉ソーセージ使ってたんだ!!」
アンチョビ「アンツィオの本格イタリアンの向こうを張って、とことん洋食屋のナポリタンを究めようとした結果の自家製魚肉ソーセージだ!!」
アンチョビ「アンツィオに来る観光客はローマ気分を味わいに来てるから本格的なイタ飯を食べたがる!」
アンチョビ「けど別荘構えて長期滞在するような世代の人にとっては、こっちこそが本物のイタリアンだ! 屋台で箱と戦うならこっちに賭けるのが正解だってな!!」
アンチョビ「でも、私が本気で戦車道を建て直そうとして、戦車道大会についていくって言い出した時、ペパロニがレシピを変えたんだ!!」
アンチョビ「戦車道女子は運動してるんだから、ガッツリ肉が入ってた方がいい。今の子には昔ながらの魚肉ソーセージよりも、とにかく肉だってな!!」
アンチョビ「それでお前はなんて言った!? 今の方が好きだって言ってくれただろ!? うちのパスタ、美味くなっただろ!?」
アンチョビ「変えちゃいけないものだってそりゃ間違いなくあるよ西住! でもな、全部が全部変えちゃいけないなんてことはない! いやむしろそれじゃダメだ!!」
アンチョビ「受け継いだものはさらに先に進めなくてはならないんだよ、西住!!」
アンチョビ「私達の戦車道はまだまだ、まだまだこれからなんだから!!」
134 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/27(金) 21:19:05.54 ID:e9gxefgP0
まほ「」
アンチョビ「ハーッ…ハーッ…!!」
まほ「もし」
アンチョビ「!!」
まほ「もしお前の言うとおりだとして、私にいったい何ができる?」
まほ「妹一人守れなかった、この私に」
アンチョビ「守れなかったなんて言うな、西住。お前が戦車に乗る限り、みほは戦車に乗らずに済むんだから」
アンチョビ「戦車道辞めなきゃなんないのはちょっと残念かもしれなけど、別に戦車道が世界の全てってわけじゃない」
アンチョビ「新しい場所で、きっとまた何か別の、楽しいことを見つけられるはずだ」
アンチョビ「西住、お前は知らないかもしれないが、世の中楽しいことはいっぱいあるんだ」
アンチョビ「そしてこの先の、みほが傷を癒すための時間は、全部お前の頑張りが作ったものだ」
アンチョビ「お前はちゃんと、みほを守れるんだよ、西住」
まほ「みほを、守れる」
アンチョビ「そうだ。だからその孔濤羅キャラ止めろよ。その、色々…」
まほ「?」
アンチョビ「っ…とにかく!! みほはもう大丈夫だ! だから次はお前なんだよ西住!」
アンチョビ「お前は一生戦車道するんだろ? だったら辛いままの戦車道じゃ絶対ダメなんだ!」
まほ「安斎、私なら大丈夫だ。今までずっと、こうやってきた」
アンチョビ「いーや、大丈夫じゃない! 絶対大丈夫なんかじゃない!!」
アンチョビ「今までったってたかだか17年だろ!? 一生が、何年あると思ってるんだ!?」
アンチョビ「そうやって辛いのに辛いって言わないで! みんなしてずっと無理して我慢してきちゃったから、今の戦車道は辛いものになっちゃったんだよ!」
アンチョビ「私はな、お前が頑張ってるってことを皆に認めさせたかったんだ! お前が辛いの我慢して、それでも戦車道頑張ってるって認めさせたかったんだよずっと!」
アンチョビ「だからあっさりなんて勝たせてやれないんだよ絶対! 黒森峰の、お前のもたらす勝利が、当たり前なんかじゃないって言いたいから!!」
アンチョビ「何だよ勝ったのに勝ち方が悪いってビンタとか! 今思い出しても腹立つぞあのヒゲめ!!」
まほ「安斎、そんな昔のことを」
アンチョビ「今も大して、ひとっつも変わってないだろ!? だから!!」
アンチョビ「いい勝負をしよう、西住!! 私とお前で、いい試合をするんだ!!」
135 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/27(金) 21:20:24.60 ID:e9gxefgP0
まほ「!!」
アンチョビ「あの決勝戦からずっと考えてたんだ。結局何がよくなかったのかって」
アンチョビ「ルールの問題とか安全性の問題とか、スポーツマンシップとか勝利至上主義とか」
アンチョビ「いろんな問題が出てきちゃったけど、まあそれはおいおいやるとしてだ!」
アンチョビ「とりあえず今はお前といい試合がしたい!」
アンチョビ「あんな試合じゃダメだったんだ、西住! 常勝不敗の西住流、絶対王者黒森峰の連覇の最後は!」
アンチョビ「あんな、勝った方も負けた方も見てる方も皆して首を傾げるような試合であっちゃいけなかったんだよ!」
アンチョビ「だからやりなおそう! 来年の決勝戦、お前と私とで、最高の試合をするんだ!!」
アンチョビ「別に結末はどっちでもいいんだ! 覇者黒森峰が栄光を奪い返したっていい! まったく無名のアンツィオが、新時代の扉を開いたっていい!」
アンチョビ「でも、いい試合をしよう西住! 観客みんなが総立ちで、拍手なんかしちゃうような試合をだ!!」
アンチョビ「見てるみんなが戦車道っていいなって思えるような試合をだ!!」
アンチョビ「それこそみほが、もう一度戦車に乗りたくなるような試合をだ!!」
アンチョビ「私とお前とでやるんだよ西住! やりなおすんだよ西住!!」
アンチョビ「黒森峰が弱くなったなんて口が裂けても言わせない! 西住にビンタなんか二度とさせない! でも黒森峰だけが戦車道じゃない!!」
アンチョビ「周りが黒森峰に追いついた! だからこれから、もっと戦車道は面白くなっていく!! もっといいものになっていく!!」
アンチョビ「そう思わせるような試合をだ!! 私はお前と、西住まほと二人でやりたい!!」
アンチョビ「それが!!」
アンチョビ「私達の戦車道の、第一歩だ!!」
まほ「…今年の黒森峰は」
まほ「ザンギエフ隊長とガイル隊長…二人の巨人の殴り合いの、間隙を縫って優勝をくすねていた去年までの黒森峰とは違う」
まほ「リトルの頃から私自らの手で鍛え、私と共に戦い抜いてきた精鋭だ」
まほ「間違いなく、ここ10年で最強の、黒森峰戦車隊と言える」
まほ「勝てるつもりか? 安斎」
アンチョビ「フン! 私を誰だと思ってる!? アンツィオのドゥーチェ・アンチョビだぞ!!」
アンチョビ「お前を下す戦術は、今や100や200は下らん!!」
アンチョビ「何せ私は、あの日からずっとお前のことだけを想って戦車道をしてきたんだからな!!」
アンチョビ「だから負けない! 私のアンツィオ戦車道は絶対に負けん! いや、勝つ!!」
まほ「そうか…だったら」ガタッ
まほ「今から私たちは敵同士。次に会うのは、戦場だな」
アンチョビ「…そうだ、次に会うのは戦場で、私たちは敵同士」
アンチョビ「でも、これは戦争じゃない。殺し合いなんかじゃ絶対ない」
アンチョビ「お互い全てを出し切って、持ってる全部でぶつかり合って、最高の勝負が終わったら」
アンチョビ「私はお前にパスタを茹でてやる。今よりもっと美味くなった、アンツィオの料理を振る舞ってやる」
アンチョビ「全部出し切りお腹を空っぽにしたお前に、腹いっぱい食わせてやる。私だって腹いっぱい食べる」
アンチョビ「そうやって、互いを労い讃えあうんだ」
アンチョビ「私達がやるのは戦争じゃない。殺し合いでも潰し合いでもない」
アンチョビ「なあ、西住!」
136 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/27(金) 21:21:39.69 ID:e9gxefgP0
アンチョビ「一緒に戦車道やろう!!」
137 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/27(金) 21:22:37.66 ID:e9gxefgP0
ラジオ「それでは今日のラストナンバー、アイドルがひたすらカラオケしてるだけのCDより」
ラジオ「新田美波・アナスタシアで『No.1』。マキハラノリユキさんの名曲だね。これ歌ってる時の二人、なーんか気になるなぁ」
ラジオ「『凛の気になるりん♪』本日のゲストはヒライケンさんでした。どうもありがとうございました」アリガトウゴザイマシタ
138 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/04/27(金) 21:31:17.93 ID:e9gxefgP0
今回で第2部完結です。一番辛い思いをしていたまほを、きっと誰かが支えてたはず。
139 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/28(土) 07:07:41.05 ID:2nQfrtk5O
乙!
140 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/28(土) 07:54:14.07 ID:PGULXLKSO
姐さん正論かっこいい
141 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/28(土) 11:31:45.42 ID:RoKIuOcrO
鬼哭街わらた
あれ、妹の方がヤバいやん
142 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/30(月) 02:18:55.35 ID:2R9dqe+f0
乙
さすがアンチョビ姐さんだ。迷った末に出した答えが素晴らしいな
143 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/05/08(火) 19:55:42.68 ID:u3zjgnaN0
鬼哭街に堕ちそうなまほをチョビは皆から貰った全ての力で引っ張りました。
投下します。今回から第3部です。まほチョビの種に水をやります。
144 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/05/08(火) 19:56:39.94 ID:u3zjgnaN0
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜第三部・対決列島<The Battle Of Tanks!>〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
145 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/05/08(火) 19:58:17.94 ID:u3zjgnaN0
<高校2年の9月・黒森峰女学園学園艦・警備ゲート>
アンチョビ「でっ、出入り禁止ィ〜〜〜〜!?」
黒森峰風紀委員「先日機甲科よりアンツィオ高校関係者の一切の乗艦を禁止するよう要請があった」
黒森峰風紀委員「今後アンツィオ生を艦内で発見した場合黒森峰防諜プログラムTが適用されることになる」
黒森峰風紀委員「例外は一切ない。即刻アンツィオ艦に戻られよ」
ひな「そんな…!!」
ペパロニ「姐さん…」
アンチョビ「―――」
アンチョビ(いやいやちょっと待て! どうしてだよ西住!? なんで、なんでそんな!!)
アンチョビ(ちゃんと伝わってなかったのか西住!? いやそもそも私、言いすぎだったか!?)
アンチョビ(私はただ、お前と二人で戦車道をもっといいものにしていきたいって)
アンチョビ(そのために来年の夏、最高の試合をしようって)
アンチョビ(私はお前の味方でいたいって、一緒に戦車道やろうって)
アンチョビ(それだけ伝えられればいいって思ってたら、お前が予想以上に孔濤羅っぽくなっちゃってたから!)
アンチョビ(孔濤羅道をAvanti!しちゃってたから!)
アンチョビ(こっちも馬鹿野郎! 戻れ! 即刻戻れ! って…)
アンチョビ(それで、言いたいこと全部言っちゃって…)
アンチョビ(…でも、思い返せば何様のつもりだって感じだよな)
アンチョビ(戦車道戦車道言ってるけど、大会どころか練習試合すらできてないような学校のヤツが)
アンチョビ(黒森峰や西住流はおろか、戦車道全部にあれこれものを言うなんて)
アンチョビ(これじゃ、野次を飛ばした連中と一緒だ…)
アンチョビ(味方でいたいなんて言いながら…結局私も、あいつの敵になってるじゃないか…!!)
アンチョビ(あいつが辛い思いしてるって知っていながら、あいつを全部否定して…!!)
アンチョビ(…嫌だ)
アンチョビ(言い過ぎたのなら、謝りたい。伝わってないのなら、伝えたい)
アンチョビ(こんな…こんな終わり方は絶対に…!!)
アンチョビ「絶対に嫌だ!!」ダッ
ひな「ドゥーチェ!!」
黒森峰風紀委員「…戦術電光服、起動」バチィ!
ペパロニ「!!」ザッ
ペパロニ(風紀委員3人、姐さんにぶつかる前に全員…!!)ドドドドドド…!!
アンチョビ「ううううあ゙あ゙あ゙あああああっーーーー!!!」パタパタ
黒森峰隊員「千代ちゃんストーップ!!」
146 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/05/08(火) 20:01:25.52 ID:u3zjgnaN0
アンチョビ「!!」ビタッ
黒森峰隊員「あー、よかった間に合った! やっぱりここにいたよ千代ちゃん!」
アンチョビ「お前…!」
黒森峰隊員「はいはい風紀のみんなもバチバチ止める! チョビ取歌なんて私が絶対許さないよ!?」パンパン
黒森峰風紀委員「了解」スッ
アンチョビ「おいお前! これはいったいどういうことだ!? 私、西住に嫌われ…!」ジワッ
黒森峰隊員「ああ違う違う、そうじゃないよ千代ちゃん。これはなんというか、うーん…」
黒森峰隊員「黒森峰病、って言えばいいのかな?」
アンチョビ「黒森峰病? なんだよ、それ」
黒森峰隊員「やー、この間新体制の方針を決めるブリーフィングがあったのよ。色々ごたついてたせいで、まだだったからさ」
黒森峰隊員「そこでまほちゃんが…」
まほ「来季の仮想敵には新たに継続高校とアンツィオ高校を加えようと思う」
黒森峰隊員「って。継続はともかくアンツィオも? ってみんなしてざわついてたのよ」
黒森峰隊員「何ならアンツィオって戦車道あったの? なんて子もいてさ」
黒森峰隊員「料理対決かもよ? って言ったのはこの私だ」ビシィ
アンチョビ「オイ」
黒森峰隊員「そんな中、まほちゃん一人が大真面目な顔をして」
まほ「アンツィオ高校はこの2年間、打倒黒森峰だけを考え戦車道に打ち込んできた」
まほ「黒森峰の王座奪還にとって最大の、他の四強以上の脅威となる」
まほ「少しでも侮る気持ちがあるのなら、今ここで捨てて貰いたい」
まほ「私は、アンツィオとの戦いは、黒森峰戦車隊の総力を賭した戦いになることを想定している」
黒森峰隊員「ってさ」
アンチョビ「西住…」
黒森峰隊員「そしたら副隊長の逸見ちゃんが…」
エリカ「では、アンツィオ高校も黒森峰防諜プログラムTの対象に加えるということで、よろしいでしょうか?」
黒森峰隊員「って。言った瞬間、ブリーフィングルームが凍りついたよ」
黒森峰隊員「この訓練バカ、今いったい何言った? って。や、誰も口には出してないよ?」
黒森峰隊員「逸見ちゃん1年だけどムッキムキで超こえーもん、腹筋とかもうバッキバキだし」
黒森峰隊員「でも、言った瞬間逸見ちゃん自身もヤベッって顔してさ、慌てて『今の発言は取り消します』なんて言ったんだけど」
黒森峰隊員「嗚呼、時すでに遅し。まほちゃんはこないだまでみたいな光を失った瞳で『よく言ってくれたエリカ』ってね」
黒森峰隊員「果たして黒森峰の誰一人として望んでない、アンツィオ屋台の出入り禁止ってな状況が出来上がったわけさぁ」
黒森峰隊員「安くて美味いアンツィオ屋台を締め出すなんて、セルフ兵糧攻めもいいとこだよう…」ションボリ
147 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/05/08(火) 20:02:59.38 ID:u3zjgnaN0
アンチョビ「いやいやちょっと待ておかしいだろ!? 誰も望んでないんなら止めればいいじゃないか!」
黒森峰隊員「そこが黒森峰病なんだよ千代ちゃん…ほら、うちら骨の髄まで西住流でしょ?」
黒森峰隊員「少しでも勝利が近づくのなら、なんだってやっちゃう。というより、やらずにはいられない」
黒森峰隊員「どんなに些細なことでも、どんなに嫌なことでも、勝利の可能性が1%でも上がるのなら」
黒森峰隊員「気づいてしまってはやらずにはいられない。それが黒森峰病、西住流の宿命さぁ」ガックリ
アンチョビ「そっかぁ…」
黒森峰隊員「…まほちゃんのこと、嫌いにならないだげてね?」
黒森峰隊員「あの決勝戦からのまほちゃん、ホントに戦車だけになっちゃってさ」
黒森峰隊員「映画のげんげんみたいで、見てらんなかったもん」
アンチョビ「んん?」
黒森峰隊員「それが、こないだ千代ちゃんと会ってから、ちょっとだけ元気になって」
黒森峰隊員「戦車ばっかなのは相変わらずだけど、それでも確かに、目に光が戻った」
黒森峰隊員「たぶん、誰かがどうにかしなかったら、まほちゃんホントにひどいことになってたと思うから」
黒森峰隊員「だから、うちの方からこんな仕打ちしといてなんだけど」
黒森峰隊員「これからも、まほちゃんと友達でいてくれたら嬉しい、な…?」
アンチョビ「…フン! 私を誰だと思っている!? 私はアンツィオ戦車道のドゥーチェ・アンチョビだぞ!」
アンチョビ「これが西住の本気なら、堂々と正面から受けて立つまでだ!!」ビッシィ
アンチョビ「こんなことで怯むくらいなら、そもそも私は戦車道続けちゃいない! あんな屋台まで引いてさぁ!!」
アンチョビ「来年私はこの黒い牙城に攻め込んで、必ず西住の前に立つ!!」
アンチョビ「今年の決勝戦はアンツィオと黒森峰とで最高のヤツをやるんだ! それまで西住はお前に預ける! 頼んだぞ!!」バッ
黒森峰隊員「私ぃ!?」
アンチョビ「…いや、ホントに頼むぞ? 映画のげんげんって、黒野玄武のことだろ?」
黒森峰隊員「!!」ピキーン
アンチョビ「ホントに今の西住、ちょっと油断するとすぐ孔濤羅っぽくなりかね…」
黒森峰隊員「何!? 千代ちゃんも神速一魂好きなの!?」ガシィッ
アンチョビ「うわっ!? な、なんだよ!? なんだよいきなり!?」ビクッ
黒森峰隊員「鬼哭街のげんげんよかったよねー! もう血ぃドッバドバ吐いちゃって、セクシーエロいっ! 危うく失神するとこだったよ私は!」ブンブンブンブン
アンチョビ「やーーめーーろーーーゆーーーらーーーすーーーなーーーーっ!!」ブンブンブンブン
アンチョビ「私は別に、あの映画だって黒野玄武と葛之葉雨彦が出てたドラマが好きだったから見に行っちゃっただけで!」ジタバタジタバタ
アンチョビ「お前みたいに特定のアイドルが好きってわけじゃない! そんな仲間を見つけたみたいなテンションで掴むな! 放せ!!」ジタバタジタバタ
148 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/05/08(火) 20:04:36.72 ID:u3zjgnaN0
黒森峰隊員「ありゃ、残念。せっかく仲間が増えたと思ったのになぁ」パッ
アンチョビ「はぁ…はぁ…くっそ、お前中学ん時より力強くなったな? こないだ履帯運びやった時には手伝いに入った割に私と一緒にぐったりしてたのに」
黒森峰隊員「うちの履帯は重いからねぇ、自然と鍛えられちゃうわけさ。これでも黒森峰じゃみほちゃんの次に非力だったんだぜ?」
黒森峰隊員「まあ…今では黒森峰で一番非力な子になりましたがね」トホホ
アンチョビ「でも、西住との付き合いなら一番長いだろ? 頼むぞ、ホント」
黒森峰隊員「んー…まあ、やれるだけやってみるよ。やれるだけね?」
アンチョビ「オイ! なんだよそのはっきりしない返事!? あっ! まさかお前!!」
アンチョビ「やめろよな!? ボロボロの西住見てセクシーとかエロいとか言うの! そんなの絶対ダメなんだからなーーーーっ!?」
黒森峰隊員「み、見ないよそんな! そんな邪な目でまほちゃん見てたりしたらまず逸見ちゃんが黙ってないもの!!」
黒森峰隊員「超怖いんだぞ逸見ちゃん!? 趣味なんてボクササイズだぞ!? 暇さえあればサンドバック叩いてんだぞぉ!?」
アンチョビ「そ、そうか。ならいいんだ」
アンチョビ(そんなに怖いのか逸見ちゃんって子…ボクシングでムキムキったら、鷹村守みたいな感じなのか?)
アンチョビ「とにかく! 頼んだからな!? それと、戦車道もちゃんとやれよ!?」
アンチョビ「こんだけ決勝決勝言っといて! あっさり2回戦負けとかやらかしたら絶対許さないからな!?」
黒森峰隊員「オッケー! そっちはバッチリ任された!」
黒森峰隊員「ま、うちとアンツィオがやれるとしたら多分1回戦だろうけどさ」
アンチョビ「何だと!? うちはそんなに弱くない! いや、強い! やるなら絶対決勝戦だ!!」
アンチョビ「おい行くぞペパロニ! カルパッチョ! 次西住と会うのは、夏の全国大会決勝戦!!」
アンチョビ「屋台ができないなら帰って戦車の特訓だ!!」
ペパロニ「何言ってんすか、姐さん」
アンチョビ「へ?」
ペパロニ「今日分の材料捌いてからじゃないと帰れないっすよ。大赤字ッス」
ペパロニ「戦車乗れなくなっちゃうッスよ?」
アンチョビ「ええっ!? ちょっと待てうちってそこまでカツカツなのか!?」
ペパロニ「ま、戦車乗れなくなるってのはウソですけど、今日分の材料捌かなくちゃってのはホントっす!」
ペパロニ「食材は鮮度が第一っすからね! ほら姐さんも準備しちゃって下さい!」
アンチョビ「そ、そんなこと言ったってめっちゃ怖いクローンみたいな風紀委員の人達がゾロゾロと…」
ひな「この辺ならどうですか?」ガラガラ
黒森峰風紀委員「いや、もう少し左…そう、ここだ。ここならアンツィオ側だし、屋台があっても通行の邪魔にならない」
黒森峰風紀委員「というわけで特盛肉増しを人数分頼む。電光服を使うと腹が減って困る」
黒森峰隊員「あっ、私も私も! 大盛肉増しひとーぉつッ!」
ひな「…だ、そうですが、どうしますドゥーチェ?」
ひな「黒森峰に食わせるパスタなんかねぇ! なーんて、言っちゃいます?」
アンチョビ「っ、そんなの…」
アンチョビ「そんなの答えは、決まってるだろーーーーーーーっ!!」
149 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/05/08(火) 20:05:48.75 ID:u3zjgnaN0
アンチョビ「みんな寄っといでーっ! アンツィオ名物鉄板ナポリタンだよーーーーっ! 美味しいパスタだよーーーーーっ!!」
150 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/05/08(火) 20:09:14.65 ID:u3zjgnaN0
今回は以上です。ありがとうございました。
ちなみに、このSSでは直下履帯子はまほと同い年設定です。
151 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/05/09(水) 08:17:29.47 ID:eZgEudJBO
乙
152 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/05/10(木) 01:40:14.97 ID:nbCTOmxz0
筋肉モリモリマッチョウーマンなアマゾネスエリカ……
153 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/05/11(金) 19:16:11.67 ID:QRdFzBdf0
投下します。ムキムキだしバキバキだけどモリモリではないからセーフ。
154 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/05/11(金) 19:17:35.36 ID:QRdFzBdf0
<高校2年の1月・熊本・西住邸周辺>
まほ(…疲れた)
まほ(お母様に付き添われての、黒森峰隊長としての挨拶回り)
まほ(宗家の師範方や後援会、OG会、スポンサー企業…会う人会う人全てが、私に求めてきた)
まほ(来年こそは優勝を、黒森峰に栄冠を、絶対勝利を西住に、と)
まほ(当然だ。理由はどうあれ、私は負けたのだ)
まほ(皆で必死に積み上げてきた10連覇という栄光、私は全て台無しにしてしまったのだから)
まほ(それでも私を叩こうともせず、変わらぬ支援の約束と、励ましの言葉をくれたこと)
まほ(感謝こそすれ、それを重荷に思うことなどあってはならない)
まほ(あってはならないのだが…)
まほ(疲れた…)
まほ(年末年始の自主練期間。そこまでのハードワークをした覚えもない)
まほ(人と会う程度で疲れ果てるほど、軟な鍛え方をしてきたつもりもない)
まほ(…人から期待されることにも慣れていたはずだ。私はこれまで、ずっとそうしてきたのだから)
まほ(生まれた時から17年間、ずっと…)
まほ(…まさか、たかだか4か月程度でこうも弱るなんてこと)
犬「ワンッ!」
まほ(……)
まほ(いや、理由はわかっている。原因なんてわかりきっている)
まほ(みほだ)
まほ(みほがもう、ここにいない。ここにもう、帰ってこない)
まほ(それだけで、心がもう息苦しい)
まほ(喪って初めて分かった…私はみほを守るつもりが、私もみほに守られていたんだ)
まほ(みほと居る時だけ、私は戦車を降りられたんだ)
まほ(みほを喪った私は、もう戦車から降りられなくなってしまったんだ)
まほ(学校に居ても、隊に居ても、家に帰っても、こうして犬の散歩をしている時でさえ…)
まほ(まるで直下の部屋に飾ってある、がんだむの戦車みたいに)
まほ(心が、もう息苦しい)
犬「ワンワンッ!」
155 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/05/11(金) 19:18:16.90 ID:QRdFzBdf0
まほ(……)
まほ(この息苦しさをどうにかする作戦が、一つだけある)
まほ(だが、それをすることは許されない。西住流を継ぐ者として、戦車道を嗜む者として)
まほ(そしてそれ以上に、みほの姉として。みほを救えなかった、不甲斐ない姉として)
まほ(…それよりなにより、人としてもう、ダメだ)
まほ(それでも、心が、もう、息苦しい)
まほ(明後日の朝には学園艦に帰る。それまで耐えれば、私の勝利だ)
まほ(学園艦に帰ってしまえば、この欲求に苛まれることもない)
まほ(大丈夫、耐えられる。耐えることは、得意だ)
まほ(けど…)
まほ(耐えきった先に、何があるのだろう?)
まほ(このまま学園艦に帰って、隊に戻って…その先私は、どうなってしまうのだろうか?)
まほ(今までどおりに、ちゃんとやれるのだろうか?)
まほ(……)
まほ(心が、もう)
犬「ワンワンワンッ!」ダッ
まほ「あっ、おい待て」
ワイワイガヤガヤ
アンチョビ「みんな寄っといでーっ! アンツィオ名物イタリアン屋台だよーーーーっ! 戦車のパスタだよーーーーーっ!!」
ワイワイガヤガヤ
まほ「んん!?」
156 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/05/11(金) 19:18:50.75 ID:QRdFzBdf0
ひな「ドゥーチェ! あれ!! 来ましたよ西住さん!」
アンチョビ「おお! やっぱり来てくれたか!」
ペパロニ「よかったっすねぇ、姐さん」
まほ「安斎!」
アンチョビ「久しぶりだな、西住! あけましておめでとう!」
まほ「ん、あけましておめでとう…いや、違う、安斎。どうしてこんなところに?」
まほ「お前の実家は、愛知じゃないのか?」
アンチョビ「フッフッフ、我がアンツィオ戦車隊はこの冬の間秘密の強化合宿を行った!」
アンチョビ「その名もアンツィオ対決列島! この2ヵ月間戦車屋台で日本中を駆け回ったんだ!」
アンチョビ「…まあ、黒森峰ユースのアレを参考にしてな? 今日はその締めくくりだ」
まほ「2ヵ月間って…学校は? それに正月だって」
ペパロニ「学外実習の申請出してちゃんと稼いで帰れば、うちは単位貰えるスよ、西住さん。アンツィオは商人の学校っすからね」
ひな「お正月は私の実家でちゃんとしましたよ。ドゥーチェもペパロニも別にいいって言うから」
ペパロニ「うちの実家は年末年始忙しいからなぁ。行っても邪魔っつわれるだけだし」
アンチョビ「うちの実家も正月は誰もいないんだ! あ、弟は帰ってたかも」
ひな「まあおかげ様で私は存分に、たかちゃん成分を補充できたんでいいですけど…何ですか? その目」
アンチョビ「いや、まあ…うん」
ペパロニ「ひなの意外な一面を発見、っつーか…ねぇ?」
ひな「別にいいじゃないですか! 私だって四六時中、鋼の戦車女子ってわけじゃないんですよ?」
ひな「実家に帰って幼馴染に会えば、あんな感じにもなります!」
アンチョビ「いや、別に悪いとは言ってないぞ! うん! そういうのは大事だ!」
ペパロニ「つーかお前、最近は言うほど鋼の戦車女子でもねぇだろ? 割と寝坊もするようになったし。私と殴り合いしたときと比べてだいぶ緩々に…」
ひな「うっ…来年からはビシビシ行くから。ドゥーチェの側に立つ鋼の副官に戻るから」
ペパロニ「どーだかねぇ…はいよっ! 秘伝スープパスタにアラビアータお持ち帰り用、お待ちどう!」オオウマソー! コレホントニヤタイノパスター!?
まほ「…それで、私に何の用だ? 合宿の締めくくりと言ったが、まさかこの西住のお膝元で、私に勝負でも挑むつもりか?」
アンチョビ「フッフッフ、そう逸るなよ西住。お前との決着は全国大会の決勝戦でちゃんとつける」
アンチョビ「まあ、どうしてもと言うのならこの場で受けてやらんでも…いや、止めだ止め。せっかく会えたってのに、こんなんじゃダメだ」
まほ「ん?」
アンチョビ「ほら、学園艦に帰ったらまた敵同士でさ。今年は2月とか3月にも多分会えないだろ? 黒森峰の防諜何とかがあるから」
アンチョビ「そう考えたら、なんか寂しくなっちゃって、辛くなっちゃってさ?」
まほ「!!」
アンチョビ「熊本行けば、ひょっとしたら会えるかもって。それで最後にここに寄ってから帰ることにしたんだ」
アンチョビ「ホントに会えるなんてな…うれしいよ、西住」
まほ「安斎…」
アンチョビ「鉄板ナポリタン大盛卵増しお待ち! …さ、次は西住の番だな。何にする?」
アンチョビ「ペパロニの営業努力で、メニューもかなり増えたんだ! どれもとびっきり美味しいからな!」
まほ「いや、安斎、今日は…」
しほ「まほ?」
157 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/05/11(金) 19:20:28.56 ID:QRdFzBdf0
ひな「!!!???」
アンチョビ「ん?」
まほ「お母様」
アンチョビ「…ぃい゙っ!?」
ペパロニ「……」
まほ「どうしてこちらに…?」
しほ「…この西住の地に、断りもなくイタリア戦車が入り込んでいると聞きました」
しほ「まさか…貴女だったとはね。アンツィオ高校のドゥーチェ・アンチョビ」
アンチョビ「ぅええっ!? わ、私のこと、ご存じで…!?」
しほ「連盟でも話題になっているわ。どこの支援も受けず、全くのゼロから戦車道を立ち上げようとしている学校があると」
しほ「どこの傘下にも入ろうとしない、戦車道があると」
まほ「っ、お母様!」
しほ「これが戦車屋台…セモヴェンテは公道用にカスタマイズしたのね?」
アンチョビ「えっ、ええ、まあ…もっ、もちろん試合の時には元に戻しますよ!? ルール、いえ掟ですからね! 鉄の掟鋼の心って! あっはは!」
しほ「……」
アンチョビ「はは…え、えと…その…」
アンチョビ(うゔあ゙ぁああああああっ!? マズイマズイマズイ!! これはマズイぞぉ〜〜〜〜っ!?)
アンチョビ(そうだよなぁ! 西住の土地にイタリア戦車で入り込んだりしたらこうなるよなぁ! なんで気づかなかったんだよ私のバカ!)
アンチョビ(どうするどうするどうする!? アンツィオの学外実習許可証があれば大体の問題はクリアできるけど!)
アンチョビ(こういうシマとか縄張りとかそういう問題までクリアできるのか!? 多分そういう問題じゃないよなコレ!?)
アンチョビ(あっ、アレか!? このままじゃ私達、海か風呂かに沈められるのか!? いっ、嫌だぞそんなの!)
アンチョビ(コンクリ塗れも泡塗れも、どっちも嫌だ! 絶対に!!)
アンチョビ(いや、私はいい! せっ、せめてペパロニとカルパッチョだけでも!!)
しほ「…菊代」
アンチョビ(っ、ひぃいいいいいいいいっ!!!)
しほ「今日はここで食べていきましょう」
菊代「はい、奥様」
158 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/05/11(金) 19:21:17.81 ID:QRdFzBdf0
アンチョビ「…へ?」
まほ「お母様?」
しほ「まほも掛けなさい。ご近所様の目もあります。立ったまま物を食べるなど許しませんよ」
まほ「はい」
アンチョビ「……」
しほ「メニューはこれね。まほ、おすすめを教えなさい」
まほ「…申し訳ありません、お母様。私も、今のメニューを見るのは初めてで」
アンチョビ「どれも全部美味しいですよ! うちは屋台ですけど、美味いと思えたものしか出しませんから!」ズイッ
ひな「ドゥーチェ!?」
アンチョビ「なんでしたら、上から全部順番に作りますよ。もちろん1皿の量は減らして」
アンチョビ「それで3人でちょっとずつ、シェアして食べるとかやるのはどうでしょう!?」
まほ「安斎!?」
アンチョビ「せっかく3人いるんだからそうしろよ西住! 私達が精一杯工夫して増やしたメニューだぞ? 私はお前に、全部味わってもらいたい!」
アンチョビ「今日を逃したら、次は夏大会が終わるまで食べさせてやれないんだからな!?」
まほ「待て、待て安斎、それはいい。それはわかってる。でも今は、お母様が」
しほ「そうね、そうしましょうか」
まほ「お母様!?」
しほ「ただし、量を減らすなどという気遣いは無用です。全部1人前で出してちょうだい」
アンチョビ「うへへ、了解であります大隊長殿! 行くぞカルパッチョ!」
ひな「りょ、了解ドゥーチェ!」
アンチョビ「頼むぞペパロニ!」
ペパロニ「任せてください姐さん!! アンツィオのマカロニ魂、見せてやりましょう!!」
アンチョビ「おお、そうだ! 行くぞ二人とも! 見せつけてやろう!!」
アンチョビ「これが私の、ドゥーチェ・アンチョビのアンツィオ戦車道だぁーーーーーーっ!!!」
159 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/05/11(金) 19:22:20.20 ID:QRdFzBdf0
しほ「ふぅ…こんなに思い切りイタ飯を食べたのなんて、学生以来ね」
アンチョビ「やー、私もこんなの初めてでしたよ。なぁ、ペパロニ?」
ペパロニ「うっす、見事な食べっぷりでした! サンダースの運動部だって、並の連中じゃこうは行きません!」
しほ「当然です。まだまだ、老い衰えるつもりなど毛頭ありません」
しほ「2人とも、食べたりないということはありませんか? 遠慮は要りません、足りなければ追加の注文を」
まほ「大丈夫です、大丈夫ですお母様」
しほ「そうですか。菊代は?」
菊代「私も、十分に頂きました。奥様」
しほ「そう…それでは」
西住一家「「「ごちそうさまでした」」」
しほ「…ところで安斎さん、一つだけ聞いてもいいかしら?」
アンチョビ「なんでしょう?」
しほ「戦車道は、楽しいですか?」
アンチョビ「…はい! とっても!」
しほ「そう、それはよかった…まほ」
まほ「はい、お母様」
しほ「私達は先に帰ります。貴女もあまり遅くならないように」
しほ「行くわよ、菊代」
菊代「はい、奥様」
菊代「今日は本当に、ごちそうさまでした」
160 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/05/11(金) 19:22:59.69 ID:QRdFzBdf0
<高校2年の1月・熊本・西住邸周辺>
しほ「…どう見る? 菊代」
菊代「とても美味しかったですよ、奥様。屋台の強みを生かしていけば、東京でも十分戦えるかと」
しほ「菊代」
菊代「…安斎さんとペパロニさんは私達と喋りっぱなし。あとの一人も、一言も声を発することなく黙々と」
菊代「戦車での長旅だというのに、屋台の器具は固定すらされていない」
菊代「スープパスタのブイヨンは、注ぎ足し注ぎ足しの秘伝の物と言っていましたね」
菊代「…恐らく、すでに」
しほ「そう…」
161 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/05/11(金) 19:23:56.05 ID:QRdFzBdf0
<高校2年の1月・熊本・西住邸周辺>
アンチョビ「ふぅ…それじゃ、ぼちぼち店仕舞かな」
ペパロニ「あ、じゃあ店の方は私がやっときます。ひなは戦車の方を…って、いつまでへにゃってんだよひな!?」
ひな「うう…無理言わないでよペパロニ。さっきまでいったい誰の相手をしてたと…」フラフラ
ペパロニ「誰って、西住さんのお袋さんだろ?」
ひな「っ、ペパロニあなた知らないの!? 今の方は! 西住流次期家元、西住しほ師範!」
ひな「全国大会での島田流家元島田千代との激闘や、高校戦車道連合を率いての女子では初の天挑五輪大武會出場!」
ひな「他にも伝説を挙げればきりがない! 戦車道をやるものにとっては憧れの、雲の上の存在よ!」
ペパロニ「そ、そんなにスゲー人だったのか! でも、うーん…?」
ひな「なぁに? その顔?」
ペパロニ「いや、なんつーか…私ら、フツーに喋っちゃってたけど? 何か割と普通の、友達のお母さんっつーか」
ひな「っ、あなた達はあの人の凄さを知らないからよ! 全盛期のしほさんはマウント斗場にも勝ったんだから!!」
ペパロニ「えっ!? マジ!? うおおそりゃスゲー!!」
まほ「安斎」
アンチョビ「ん? どうした西住? やっぱり食べ足りなかったか?」
まほ「そんなわけあるか。それよりお前、今日の宿は? どこか当てがあるのか?」
まほ「無ければ、うちに」
ひな「!!」ビックゥ!
アンチョビ「あー…その申し出は嬉しいんだがな、西住」
アンチョビ「実は時間がかなりやばい。明日の朝までに佐多岬につかないと、新学期までにアンツィオ艦に帰れないんだ」
アンチョビ「だから今夜は、寝ずに走ります。過酷な合宿の、スタートです」グッ
まほ「…そうか」
アンチョビ「なんだ西住? そんな顔して…寂しいのか?」ニヤッ
アンチョビ「だったら2月も食べに来い。連絡橋のこっち側で、また屋台やるからさ?」
まほ「…いや、そういうわけにはいかない。私は黒森峰の隊長だ」
まほ「言い出した私がそうでは、皆に示しがつかないだろう」
アンチョビ「そっか。まあ、そうだよな。本気なんだもんな」
アンチョビ「嬉しいよ西住、ようやく私は、本気のお前と向き合えるんだな」ニコッ
まほ「!!」
アンチョビ「だがな西住! うちだって負けちゃいないぞ、42人だ」
まほ「42人?」
アンチョビ「この合宿で色んな中学校を回ったんだ。42人、来年は今ある戦車を全部動かせるだけの人数が揃う」
アンチョビ「これでようやく、世代屈指の技巧派策士ドゥーチェ・アンチョビの真髄をお見せできるというわけだ!」
アンチョビ「喜べ西住! そして恐れおののけ震えて眠れぃ!!」ビッシィ
まほ「……」
アンチョビ「…いや、震えて眠るってのはダメだな。ちゃんと眠れよ? ぐっすり眠れ」
アンチョビ「お前はただでさえ、どうやったって頑張り過ぎちゃうんだからな?」
ひな「ドゥーチェ! そろそろ時間が!!」
ペパロニ「行きましょう姐さん!」
アンチョビ「それじゃ、またな西住。ちょっと寂しいけど、次に会うのは夏大会だ!」
ギャリギャリギャリギャリ…
まほ「……」
162 :
◆Bkxeh6JCZU
[saga]:2018/05/11(金) 19:25:05.24 ID:QRdFzBdf0
<高校2年の1月・熊本・西住邸>
まほ(…解った)
まほ(あの日、私の隊が2輌の損害を出したとき)
まほ(私は安斎に勝てなかったと、そう思った)
まほ(だから私は、安斎との約束に拘った。翌年には1軍を率いて再び名古屋を訪れ)
まほ(豊田のシニアチームも完膚なきまでに叩きのめした)
まほ(プラウダに行くと言うのなら、そのプラウダ高校も全国大会決勝戦で打ち破った)
まほ(そしてアンツィオ高校。安斎の準備が整うまで、私は待ち続けた)
まほ(偏に、あの日の約束を果たすために)
まほ(だが、違ったんだ。本当はそうじゃなかったんだ)
まほ(あの日、私の隊が2輌の損害を出したとき)
まほ(あいつは私を庇ったんだ。叱責される私を)
まほ(戦車道では当たり前で、西住を継ぐ者としては当然で)
まほ(それでもあいつは、私を庇ったんだ)
まほ(戦車に乗らないあいつは、戦車の中にいる私を)
まほ(生まれて初めて、私は誰かに、庇われたんだ)
まほ(西住流も黒森峰も関係ないと、私自身を庇ってくれたんだ)
まほ(みほを喪った時にも、西住流の私からさえ、私のことを庇ってくれたんだ)
まほ(西住流を継ぐ者として、黒森峰の隊長として、強く気高くある私の中で)
まほ(それを息苦しく、辛いと思う私だって、確かに存在したんだ)
まほ(私すら気づいていなかった、それに気づいたのはきっと、みほと安斎だけだったんだ)
まほ(だから私は、安斎を…)
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