【ガルパン】まほ「アンツィオ高校で幻の戦車道を撃破する」

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112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/23(月) 14:19:49.65 ID:2DwgUH3i0
サンキューユッキ
113 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/25(水) 20:36:21.34 ID:/AK1Sj1s0
投下します。サンユキ好き
114 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/25(水) 20:37:39.15 ID:/AK1Sj1s0

<高校2年の9月・サンダース大付属高校学園艦・正門前>

アンチョビ「いいか!? この2日間は何よりも大事な2日間だ!」

アンチョビ「この戦いの如何によって我々の秋の活動が決まると言っても過言ではない!」

アンチョビ「抜かるなよ二人とも!」

ペパロニ「任せてください姐さん! こっちはもうバッチリっすよ!!」

ひな「……」

アンチョビ「カルパッチョ?」

ひな「…あっ、すみません。了解です、ドゥーチェ」

アンチョビ「…大丈夫か? 朝もちょっと遅れてきたし、具合悪いなら…」

ひな「いいえ大丈夫です! 問題ありません!」

アンチョビ「そうか? 無理するなよ? ダメそうだったらすぐ言えよ?」

ひな「大丈夫です! いっぱい稼ぎましょう、ドゥーチェ! 私達の戦車道のために!」

アンチョビ「…よし、そうだな! やるぞ二人とも! 目指せ週3砲撃演習! いや週5、いいやいっそ毎日だーーーっ!!」




サンダース生「やってるね、千代美ッ!」




ひな「!!」

アンチョビ「おお、いらっしゃい! いやちょっと待て、お前授業は? 12時にはまだまだ早いぞ!?」

サンダース生「へへっ、ちょっとお腹減っちゃってね!」

アンチョビ「お前、授業抜けてきたのか?」

サンダース生「固いことは言いっこなしッ!」

アンチョビ「はぁ…お前なァ、サンダースのくせにウチみたいなこと言って」

ペパロニ「まあまあ姐さん! せっかく来て下さったんスから! ちょっとお喋りでもしてきたらどうっスか?」

アンチョビ「はあ!? お前あとちょっとでお客さんが押し寄せてくるってのに」

ひな「こっちは私達だけで大丈夫ですから、ね? ドゥーチェ」

ペパロニ「はいはい席の準備できましたよ! パスタもすぐ、アッツアツのを二人前、持ってきますから!」

サンダース生「お、サンキューペパちゃんッ!」

アンチョビ「お前らなぁ…」
115 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/25(水) 20:38:28.70 ID:/AK1Sj1s0

サンダース生「やっぱ千代美んとこのパスタは美味しいなァ! 肉たっぷりってのがまた嬉しいねッ!」

アンチョビ「フッフッフッ、そうだろう? うちのパスタは戦うみんなのためのパスタだからな!」

アンチョビ「どこの学園艦行っても大人気だ! 特にサンダースは売上いいぞ!」

アンチョビ「アメフト部とかめっちゃ食うからな!」

サンダース生「アメフト部かぁ、鉄馬あたり黙々とすごい量食べそう」

アンチョビ「鉄馬は食うぞォ! その半分でいいからキッドにも食欲分けてやれってくらい食う!」

サンダース生「やっぱり! 知波単とかも行ってんの?」

アンチョビ「知波単かー、知波単は航路が読めないからなぁ。なっかなか行けてないんだよ」

サンダース生「そっか。や、翠のヤツが海の上でも濃い味のものが食べたいって嘆いてたからさ」

アンチョビ「翠に会ったのか!?」

サンダース生「ん、実家帰った時に偶然。346プロにスカウトされたって言ってたよ?」

アンチョビ「346プロぉ!?」

サンダース生「1年の子と歩いてたら2人とも声かけられたって。戦車道の子だって言ってたけど、千代美知らない?」

アンチョビ「戦車道っても知波単には行けてないからわからないぞ…いや、というかやるのかアイドル?」

サンダース生「や、弓に専念したいから断ったって。そしたら来年の夏また来るってさ」

アンチョビ「マジかー、いやすごいな…何部門とか言ってた?」

サンダース生「それが、翠のやつ、クール部門だってさ」

アンチョビ「クール部門!? クール部門ったら346の花形じゃないか! 渋谷凛とか高垣楓とか!」

アンチョビ「…ホントにクール部門なのか? あいつ、外見はともかく中身は食いしん坊の天然じゃないか」

サンダース生「あっはっはっは! やっぱり千代美もそう思った!?」

サンダース生「私もさ、どっちかというとあんた中身はパッションじゃないって言ったら『着ぐるみなんて着ません!』って」

アンチョビ「着ぐるみって、鈴帆サン以外にもなんか居るだろパッション。ほら、きらりんとか本田未央とか猫耳とロックのコンビとか…」

アンチョビ「城ヶ崎美嘉…はLippsだし、クールだよな? 後は…」

サンダース生「んー、キュートだったら島村卯月とかウサミンの人とかすぐ出てくるんだけど」

サンダース生「…そうだ! あの子がいたじゃん! ほら、スポーツニュースによく出てる…ああ、ダメだ名前出てこない!」

アンチョビ「スポーツニュース…ああ! あの子か! 突撃レポとかよくやってる野球の子! 畜生の子!」

サンダース生「そう! 野球で畜生の子! 千代美名前出るッ!?」

アンチョビ「…ダメだ出てこない! 畜生の名前が出てこないぞォ!!」

サンダース生「あーちくしょう! なんて名前だっけあの畜生! 顔は浮かぶのに全然名前が出てこないッ!!」

アンチョビ「ちくしょう、なんか妙に悔しいぞ!」



サンダース生「…あー、これは重傷だね」スッ



アンチョビ「へ…ひゃっ!?」

サンダース生「美味しいもの食べてお喋りしても消えない。こりゃ確かに重傷だ」サワサワ

アンチョビ「お、おい? 何のつもりだ? 人の眉間をいきなり撫でて…」

サンダース生「はぁ…千代美」

アンチョビ「な、なんだよ…?」

サンダース生「どう考えてもおかしい」
116 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/25(水) 20:40:50.77 ID:/AK1Sj1s0
アンチョビ「へ…?」

サンダース生「どう考えても、普通じゃないよ。千代美」

アンチョビ「普通じゃ…? あっ」

――――こんなの運動部じゃ普通のコトなんだって!!

アンチョビ「オマエ、なんでそのこと…」

サンダース生「眉間の皺。アンタ昔っからそう。何か悩みを抱えてると、ずっと眉間に皺寄せてる」

アンチョビ「眉間っ…!?」バッ

サンダース生「普段はノリと勢いでガンガン突っ走って行っちゃう子なのに、一回悩み出すと長い。なまじ頭がいい所為なのかな?」

サンダース生「でもって、一人で悩んだからって別に何かいい答えが浮かぶわけでもないのに周りには隠す」

サンダース生「けど隠し事も下手だから、結局周りに感づかれてご飯奢られて取り調べをされる。ホント、一個も変わってないねー、アンタ」

アンチョビ「うぅ…そんなに隠し事下手か? 私」

サンダース生「普段あんだけ騒がしいヤツが眉間に皺寄せて黙り込んでみ? 心配通り越して若干怖かったよ私は」

アンチョビ「待て、黙り込んでなんかないぞ!? 私はいつも通り…」

サンダース生「そーいう空元気も無理する理由も全部バレバレで、だから余計に心配するんだって」

アンチョビ「う…」

サンダース生「ほれ、白状してみ? 後輩には無理でもさ、中学の友達にだったら話せるでしょ?」

サンダース生「ま、私の考えは最初に言った通りだけどね。どんな強豪校でも、あんなのは普通じゃない。普通であっちゃいけないよ」

アンチョビ「…それはわかってる。私だってあんな戦車道はいやだ。私は戦車道を変えたい」

アンチョビ「私はもっと、戦車道をいいものにしたい。ずっと、好きでいられる戦車道に」

アンチョビ「それは、私がずっと戦車道を好きでいたいし、みんなにもずっと戦車道を好きでいてもらいたいから」

アンチョビ「でも何よりそう思うのは、この先一生戦車道する西住に…西住が、一生好きでいられる戦車道をして貰いたいから」

アンチョビ「でも…」

――――大丈夫。このくらい、なんでもないから

アンチョビ「ひょっとして、全部余計なお世話なのかなって。西住にとっては、こんなの全部、なんでもないことなのかなって」

アンチョビ「だったら私は、今の戦車道を変えたい私は、西住の敵じゃないかって」

アンチョビ「戦車道はスポーツだけど、伝統のある武道でもあるから…」

アンチョビ「そう考えたら、すごい不安になって…明後日、黒森峰に屋台で行くんだけど」

アンチョビ「…怖いんだ。西住に会うのが。今の西住を見るのが」

サンダース生「んー、なんでもないことないと思うなぁ。だって、アンタが言ってる西住って、あの西住さんでしょ?」

サンダース生「だったらなんでもないなんてことないよ」

サンダース生「私の知ってるあの人は、自分を庇って先生に怒られたアンタを、心配して謝りにくるような子だ」

サンダース生「そこでの約束を果たすために、わざわざ1年後、1軍率いて実習チームと戦いに来るような子だ」

サンダース生「今の西住さんとは会ったことないからわかんないけどさ、少なくとも中学ん時の西住さんは、とびっきり優しい子だったと思う」

サンダース生「だったらなんでもないなんてことない。妹さんがあんなことになって、なんでもないなんてことは」

サンダース生「人間そうそう変わるもんじゃないってのは、今のアンタが証明してるじゃないのさ?」

アンチョビ「…アイツは私とは違う。何にもないアンツィオ戦車道の隊長じゃない。黒森峰の、隊長だ」

アンチョビ「今回のことで思い知らされた。西住流は、重いんだ」

アンチョビ「だって、みほを、西住の妹を切り捨てたのは…」

――――犠牲なくして勝利なし!

アンチョビ「西住の、母親だぞ? だったら西住だってそうなったって…」

サンダース生「そうしたくないから、そうなって欲しくないから戦車道を変えるんでしょ? 千代美は」

サンダース生「だったら、そんなとこで怯んでる場合じゃないよ」
117 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/25(水) 20:42:14.64 ID:/AK1Sj1s0
サンダース生「ぶつかってごらんよ、千代美。アンタ、悩んで物事をどうにかできる子じゃない」

サンダース生「あの頃みたいに、ノリと勢いと精一杯の強がりで、周りみんなを巻き込んで」

サンダース生「ガツンとぶつかっていけばいいじゃないの。それが一番、アンタには合ってる」

アンチョビ「…ぶつかって、伝わるかな? だってアイツは」

――――生まれついての戦車のり

アンチョビ「―――なんて言われて…」

サンダース生「違うよ千代美。人間だ」

サンダース生「どんな強豪校でも、どんな伝統校でも」

サンダース生「ロボットじゃない。マシーンじゃない。私達はちゃんと、人間だ」

サンダース生「押しも押されぬ強豪校、サンダース大付属高校女子バスケットボール部キャプテン」





サンダース生「愛野渚が保証するよッ!!」





アンチョビ「!!」

サンダース生「どんな競技も、結局最後は人と人だ。人間の関わり合いだ」

サンダース生「だったらさ、私はアンタほどのアスリートを見たことがない」

――――西住流の後継者

サンダース生「人と人なら、安斎千代美は世代最強だ」

サンダース生「黒森峰の重戦車でも、アンタの想いは止められない」

サンダース生「現に私たちは一回、黒森峰に勝ってるじゃない」

サンダース生「確かに作戦読まれちゃって、戦車の白旗は上がったけどさ?」

サンダース生「結局アンタはこうやって、西住さんのそばに居られてる。西住さんを想えてる」

サンダース生「だからあの試合は、アンタの勝ちだったんだ」

サンダース生「勝ち目はある。だったらもう、怯む理由はない」

サンダース生「西住さんの敵になっちゃいなよ、千代美。そんでもって、また勝つんだ」

サンダース生「勝ってまた、二人で笑いあうんだよ。戦争じゃない、戦車道だからこそできる」

サンダース生「それがアンタの、戦車道だよッ! 千代美ッ!」




アンチョビ「うぅ…渚ぁ”ぁ…」ボロボロ

サンダース生「…やっと泣いたね、千代美。これで一安心だ」ミケンサワサワ
118 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/25(水) 20:43:24.94 ID:/AK1Sj1s0
サンダース生「それじゃ…」グググッ


デコピンビシィ!!


アンチョビ「いっだぁ!!?」

サンダース生「……」

アンチョビ「な、なんで!? デコピンなんで!?」

サンダース生「後輩に泣いてるとこなんて見せないッ! 『キャプテン』なんでしょッ!?」

アンチョビ「はっ!」

コツン

サンダース生「千代美千代美千代美ィ〜〜〜〜…こっからは同じ『キャプテン』としてのアドバイスだよ」

サンダース生「アンタは確かに恋する乙女かもしれないけど、同時にあの子らの『キャプテン』なんだ」

アンチョビ「うっ…」

サンダース生「あんまり不安にさせちゃダメッ! アンタを慕ってついてきてくれる、大事な仲間なんでしょッ!?」

アンチョビ「…まさか! オマエが今日ここに来たのって!」

サンダース生「まったく…ひなちゃん泣きそうな顔してたよ、かわいそうに。今度こんなことになったら、デコピンなんかじゃ済まさないからねッ!?」

アンチョビ「ッ…!!」ガタッ


キーンコーンカーンコーン…


サンダース生「ほら、話はおしまいッ! さっさとあの子らのとこに行くッ!!」パシン

アンチョビ「っ…ありがとう渚! 明日も来てくれるか!?」

サンダース生「当然っ! 部活終わりの、腹を空かせたうちの部員を全員つれてくよッ!」

アンチョビ「ようしわかった! 腹いっぱいごちそうしてやる!!」ダッ
119 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/25(水) 20:44:20.45 ID:/AK1Sj1s0
アンチョビ「……」

ひな「ドゥーチェ…」

ペパロニ「……」

アンチョビ「二人とも…」

ギュウッ

アンチョビ「ありがとう。心配かけて、ごめんな」

ひな「ドゥーチェぇ…」ボロボロ

ペパロニ「…おかえりなさい、姐さん!」

アンチョビ「ああ…待たせたな、2人とも!!」バッ

アンチョビ「アンツィオ戦車道のドゥーチェ・アンチョビ!! 完ッ全ッ復ッ活だぁーーーーーっ!!!」ビッシィ

ひな「ドゥーチェ!!」

ペパロニ「姐さん!!」

ゾロゾロ…ガヤガヤ…オイ!キョウドゥーチェキテルゾ!ワァイ!ノリコメー!

アンチョビ「ペパロニ! カルパッチョ! 『アレ』をやるぞ覚悟を決めろ!!」

ひな「了解!!」

ペパロニ「そうくると思ってましたよ姐さん!!」

ゾロゾロ…ガヤガヤ…

アンチョビ「よく来てくれたな諸君! 今日はドゥーチェ・アンチョビの復活祭っ!!」

アンチョビ「大盛特盛全部無料だッ!! 皆腹いっぱい食ってってくれーーーーーーっ!!!」

ウオオオオオオオッ!!

屈強なアメフト部員「ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!」

屈強なバスケ部員「ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!」

屈強なボクシング部員「ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!」

屈強なベースボール部員「ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!」

屈強なボディビル部員「ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!」

屈強なレスリング部員「ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!」

屈強なプロレス部員「ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!」

屈強な対戦車道部員「ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!」

屈強なタカシ「ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!」

アンチョビ「お、おい止めろ! なんだこのノリ!? こんなとこで大騒ぎしちゃ迷惑だろーーーーっ!?」

ひな「ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!」

ペパロニ「ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!」

アンチョビ「オマエらまで、ああもう! なんだかよくわかんないけどしょうがないなぁ! こうか!? こういうノリでいいのか!?」バッ!ビシィ!

とにかくなんかマッチョで屈強な胃袋共の野太い大合唱「「「「「ドゥーチェ!! ドゥーチェ!! ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!」」」」」






サンダース生(ホントはこういうとき、先輩なんかが支えてくれるといいんだろうけど…みんな、いなくなっちゃったからなぁ)

サンダース生(リゾット先輩もホルマジオ先輩も…プロシュート先輩も。みんな…)

サンダース生(それでも…アンタは、独りぼっちなんかじゃないッ!)

サンダース生(私だって、話くらいならいくらでも聞くよ。千代美の戦車道のOGだからねッ!)

サンダース生(頑張れ、千代美ッ!)



アンチョビ「ドゥーチェ!! ドゥーチェ!! ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!」ババッ!ビシィ!
120 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/25(水) 20:44:56.66 ID:/AK1Sj1s0





―――そして、その日がやってきた




121 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/25(水) 20:45:58.30 ID:/AK1Sj1s0

<高校2年の9月・黒森峰女学園学園艦・正門前>

アンチョビ「……」

ひな「あの、ドゥーチェ」

アンチョビ「なんだ?」

ひな「屋台の方は大丈夫ですよ? ドゥーチェは早く西住さんのところに…」

ペパロニ「そうっすよ! 何だったら私が呼んで…」

アンチョビ「いや、いいんだ。こうやって、ここで待ってるのが一番いい」

アンチョビ「ここでこうして、パスタを茹でていれば」

アンチョビ「アイツは絶対、ここに来る。来る気がするんだ、私は」

ひな「そう、ですか」

アンチョビ「まあ、来なかったら来なかったで、今度は私から会いに行くけどな!」

ペパロニ「わかりました。でも来たらすぐ、外れちゃって下さい。後は私達で十分っすから」

アンチョビ「ああ、頼むぞ」



アンチョビ(そうだ…アイツはいつだって、来てくれた)

アンチョビ(中学3年の、シニアチームで履帯拾いしてた時も、プラウダに落ちてアンツィオでパスタを茹で始めた時も)

アンチョビ(アイツは私に、会いに来てくれた)

アンチョビ(だから来る。今日だって。絶対に)

アンチョビ(…正直、来なかったら、その時は)

アンチョビ(その時は、きっと…)



ペパロニ「姐さん」

アンチョビ「!!」

ペパロニ「来ましたよ、西住さん」

アンチョビ「来たか! どこだ!?」

ペパロニ「向こうです、ほら」

アンチョビ「向こう…?」

ひな「っ…!!」




アンチョビ「んん!?」
122 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/25(水) 20:46:52.50 ID:/AK1Sj1s0


―――手には一刀



―――斃すは五人



―――魔都上海に



―――報仇雪恨の剣が哭く

123 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/25(水) 20:48:14.81 ID:/AK1Sj1s0



―――昔見た、俳優目当てで見てしまった



―――トラウマ物の映画の一節が、頭によぎった


124 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/25(水) 20:48:47.26 ID:/AK1Sj1s0




アンチョビ(でも…)



125 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/25(水) 20:50:56.98 ID:/AK1Sj1s0

アンチョビ(それでもお前は、来てくれた)

アンチョビ(そんなになっても、来てくれた)

アンチョビ(私に会いに、来てくれた)

アンチョビ(だったら、希望はある。勝ち目はある)

アンチョビ(これも戦車道…いや、これこそが)




まほ「安斎」

アンチョビ「久しぶりだな、西住。肉増し大盛でいいな?」





アンチョビ(これこそが私の戦車道!!)
126 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/25(水) 20:52:26.28 ID:/AK1Sj1s0
今日は以上です。チョビは共学なら早いもの勝ちだと思う。
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/25(水) 21:59:34.89 ID:U4CgrUPDO

共学じゃなくても引く手数多だよ
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/27(金) 13:40:55.50 ID:x8vExl+70
黒繋がりでアメフトも黒森峰一強なのかしら
129 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/27(金) 21:14:45.69 ID:e9gxefgP0
投下します。共学はサンダースだけっぽいですね。金回りの良さもその辺に理由があるのかも。
130 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/27(金) 21:16:23.37 ID:e9gxefgP0

まほ「」モグモグ

アンチョビ(痩せたな、西住…いや、引き締まった…違う、こういうのは、研ぎ澄まされたって言うんだな)

まほ「」モグモグ

アンチョビ(前見た映画の、黒野玄武みたいに…大事な人を失って、全部自分で背負い込んで)

まほ「」モグモグ

アンチョビ(刀か剣かに、成り果てて…)

まほ「」モグモグ

アンチョビ(でも、私は…)

まほ「」モグモグ

アンチョビ(私はお前を知っている。こんな顔した、お前を私は知っている)

まほ「」モグモグ

アンチョビ(そうだ、全部、思い出した)

まほ「」モグモグ

アンチョビ(あれこれいっぱい悩んだけど、結局何も、変わってなかったんだな)

まほ「」モグモグ

アンチョビ(お前の今も、私がお前に、してやりたいことも)

まほ「」モグモグ

アンチョビ(あの頃の私らから、少しも)

まほ「」ゴクン

アンチョビ「…美味かったか?」

まほ「美味しかった。具が、肉に変わったんだな」

アンチョビ「ああ、そっか。お前に食わせたのは初めてか。今年の夏からレシピ変えたんだよ」

まほ「私は、今の方が好きだ」

アンチョビ「へへ、みんなそう言うよ。うちに来る子は、大体みんな腹ペコだ」




アンチョビ「…みほは、大丈夫なのか?」




131 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/27(金) 21:17:05.22 ID:e9gxefgP0


まほ「」

アンチョビ「……」

まほ「みほはもう、戦車には乗れない」

まほ「今は阿部さん、お父様の友人が、匿ってくれている」

まほ「ほとぼりが冷めたころに、どこか遠くの、戦車道のない学校に転校する予定だ」

アンチョビ「そっか、お父さんが守ってくれたか…じゃあ、一安心だな」

アンチョビ「…なあ、西住。中学の時の、私達の最初の約束…まだ覚えてるか?」

まほ「もう一度、戦車道でお前と戦う」

アンチョビ「そうだ…私、あの時言ったよな? 西住。あっさりなんて勝たせてやらない、って」

アンチョビ「…やっぱり、変わらないよ西住。お前に、黒森峰に、あっさりなんて勝たせてやれない」

まほ「」フッ

アンチョビ「今年の夏は、ずっと屋台を引いてたんだ。それで、戦車道大会にくっついてってさ」

アンチョビ「結構な数の子達が、戦車道やりたいって言ってくれた。うちに来てくれるって言ってくれた」

アンチョビ「いよいよ来年の夏は、うちも大会に出場できる。随分と待たせちゃったけど」

アンチョビ「シェフ大泉夏野菜スペシャルより、時間掛かっちゃったけど」

アンチョビ「やっと準備が整った。アンツィオの戦車道が出来上がった」

アンチョビ「来年の夏大会、そこでもう一度、戦おう」

アンチョビ「私達の約束を果たそう。勝負だ、西住」

まほ「安斎」




まほ「お前も私の、敵になるんだな」




アンチョビ「え…?」

まほ「今までありがとう。ごちそうさま」ガタッ

アンチョビ「待て待て西住! どうしてそうなるんだ!? なんでそんな…」

まほ「私は西住流そのものだ。そして、伝統ある黒森峰戦車隊の隊長だ」

まほ「あのような形で10連覇を逃してしまった以上、来年こそは何が何でも優勝しなければならない」

まほ「常勝不敗・西住流の戦車道を、今一度体現しなければならない」

まほ「勝利こそが黒森峰に求められるものであり、一度敗れれば全てを奪われるというのなら」

まほ「私は勝ち続ける。それが西住流の宿命ならば」

アンチョビ「西住、お前…」

まほ「立ち塞がる全ての敵を叩き潰して前に進む。勝利を、栄光を持ち帰る」

まほ「それが私の使命であり、唯一の存在意義」

まほ「そして、私が、道半ばで去らざるを得なかったみほのためにしてやれる、ただ一つのこと」

まほ「敵を倒す。勝利する。それが、西住流」

アンチョビ「っ…!!」

まほ「さよならだ、安斎。次会うときは、敵同士」
132 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/27(金) 21:17:33.68 ID:e9gxefgP0








カチッ








133 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/27(金) 21:18:07.91 ID:e9gxefgP0

アンチョビ「ちーーーがーーーうーーーーだーーーーろーーーーっ!!!」バンッ

まほ「!!」ビクッ

アンチョビ「おかしいぞお前! なんでそんな…お前はアレか!? 孔濤羅か何かか!?」

まほ「こん、たおろー?」

アンチョビ「映画の主人公だよ! ほらあの、黒野玄武と葛之葉雨彦がチャンバラして楊菲菲と三船美優がめっちゃ怖かった…って、そんなんどうだっていいんだ西住!!」

アンチョビ「おかしいだろ!? なんでみほが死んだみたいなこと言ってるんだよお前!? みほ、死んでないよな!? 生きてるよな!?」

アンチョビ「お父さんに匿ってもらって、ほとぼり冷めたら転校できるんだよな!?」

アンチョビ「なんでそんな死んだみたいなこと、みほは戦車道に葬られたみたいなこと言ってんだよおかしいだろ!?」

まほ「だがみほは、もう戦車に乗れない」

アンチョビ「戦車に乗れないからって死ぬわけじゃないだろ!? というかこんな目に遭うようなら戦車なんか乗らない方がいいんだよ!!」

アンチョビ「あんな、仲間助けただけで袋叩きにされるような戦車道なら、やらない方がいい!!」

アンチョビ「そもそもあれだっておかしいぞ!? たかが高校生のスポーツだろ!? なんでそれであんな大騒ぎしてるんだ!?」

アンチョビ「騒ぎ方にしたっておかしいよ! フツーなら戦車道の安全性とか競技のルールとか、そっちの方で騒ぐだろ!?」

アンチョビ「なーんーで! 取り組む姿勢がーとか心構えがーとか、そういう戦犯叩きで盛り上がっちゃってんだよ違うだろ!?」

アンチョビ「誰かが死んだわけでもないし、戦争に負けたわけでもない! なんでここまで、アレか? 金でも賭けてたのか!?」

アンチョビ「たかが毎年やってる戦車道の大会で、9年連続で優勝した高校が10連は流石に無理でしたってそれだけのことだろ!?」

アンチョビ「巨人軍でも9連覇だぞ!? それで誰か巨人の選手を叩いたか叩かないだろう!!」

アンチョビ「そもそもそこが一番おかしいんだ西住! なんで黒森峰だけ負けちゃいけないんだよ!?」

アンチョビ「前に私言ったろォ!? 他の子も、曲がりなりにも勝つために頑張ってきてるんだから、そんな勝つのが当然みたいなこと言っちゃ失礼だって!!」

アンチョビ「ほかの学校は勝ったら喜んで、なーんーで黒森峰だけ勝って当然みたいな扱い受けてんだよなんだよお前使命って!!」

アンチョビ「そんなに勝つのが大事ならカールでもB29でも江田島平八でも好きなもん持ってくりゃいいじゃないかええ!?」バンッ

アンチョビ「勝ってるチームを見たいならそれこそ巨人戦でも見てりゃあいいんだよ!」バンッ

アンチョビ「高校戦車道は誰のためのもんだ!? 金出してる後援会か!? 客席でビール飲んでるおっさんか!?」

アンチョビ「違うだろ! 高校戦車道は、私達のものだ! まず私達が楽しめなきゃダメなんだよ西住!!」

アンチョビ「言ってみろ西住! お前戦車道楽しいか!? 言ってみろ!!」

まほ「安斎、競技歴の浅いお前は知らないかもしれないが、戦車道はそういうものじゃないんだ」

まほ「全てを捨てて勝利を目指す。それこそが西住流、それこそが戦車道」

まほ「誰が何を言おうと、それは決して変わらない。変えることはできない」

アンチョビ「ほら見ろ西住! やっぱりお前も嫌なんじゃないか!! そんなこと言うなんて、辛いって言ってるようなもんだぞ!!」

アンチョビ「嫌なことは嫌と言えって、私言ったろ!?」

まほ「辛くないとは言わない。これも戦車道だ」

アンチョビ「違う! 辛いなら変えろ西住! お前は西住流を継ぐんだろ!? だったらお前が変えなきゃダメなんだ!!」

アンチョビ「うちのパスタを見ろ!! 兄貴に教わったレシピじゃ魚肉ソーセージ使ってたんだ!!」

アンチョビ「アンツィオの本格イタリアンの向こうを張って、とことん洋食屋のナポリタンを究めようとした結果の自家製魚肉ソーセージだ!!」

アンチョビ「アンツィオに来る観光客はローマ気分を味わいに来てるから本格的なイタ飯を食べたがる!」

アンチョビ「けど別荘構えて長期滞在するような世代の人にとっては、こっちこそが本物のイタリアンだ! 屋台で箱と戦うならこっちに賭けるのが正解だってな!!」

アンチョビ「でも、私が本気で戦車道を建て直そうとして、戦車道大会についていくって言い出した時、ペパロニがレシピを変えたんだ!!」

アンチョビ「戦車道女子は運動してるんだから、ガッツリ肉が入ってた方がいい。今の子には昔ながらの魚肉ソーセージよりも、とにかく肉だってな!!」

アンチョビ「それでお前はなんて言った!? 今の方が好きだって言ってくれただろ!? うちのパスタ、美味くなっただろ!?」

アンチョビ「変えちゃいけないものだってそりゃ間違いなくあるよ西住! でもな、全部が全部変えちゃいけないなんてことはない! いやむしろそれじゃダメだ!!」

アンチョビ「受け継いだものはさらに先に進めなくてはならないんだよ、西住!!」

アンチョビ「私達の戦車道はまだまだ、まだまだこれからなんだから!!」
134 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/27(金) 21:19:05.54 ID:e9gxefgP0

まほ「」

アンチョビ「ハーッ…ハーッ…!!」

まほ「もし」

アンチョビ「!!」

まほ「もしお前の言うとおりだとして、私にいったい何ができる?」

まほ「妹一人守れなかった、この私に」

アンチョビ「守れなかったなんて言うな、西住。お前が戦車に乗る限り、みほは戦車に乗らずに済むんだから」

アンチョビ「戦車道辞めなきゃなんないのはちょっと残念かもしれなけど、別に戦車道が世界の全てってわけじゃない」

アンチョビ「新しい場所で、きっとまた何か別の、楽しいことを見つけられるはずだ」

アンチョビ「西住、お前は知らないかもしれないが、世の中楽しいことはいっぱいあるんだ」

アンチョビ「そしてこの先の、みほが傷を癒すための時間は、全部お前の頑張りが作ったものだ」

アンチョビ「お前はちゃんと、みほを守れるんだよ、西住」

まほ「みほを、守れる」

アンチョビ「そうだ。だからその孔濤羅キャラ止めろよ。その、色々…」

まほ「?」

アンチョビ「っ…とにかく!! みほはもう大丈夫だ! だから次はお前なんだよ西住!」

アンチョビ「お前は一生戦車道するんだろ? だったら辛いままの戦車道じゃ絶対ダメなんだ!」

まほ「安斎、私なら大丈夫だ。今までずっと、こうやってきた」

アンチョビ「いーや、大丈夫じゃない! 絶対大丈夫なんかじゃない!!」

アンチョビ「今までったってたかだか17年だろ!? 一生が、何年あると思ってるんだ!?」

アンチョビ「そうやって辛いのに辛いって言わないで! みんなしてずっと無理して我慢してきちゃったから、今の戦車道は辛いものになっちゃったんだよ!」

アンチョビ「私はな、お前が頑張ってるってことを皆に認めさせたかったんだ! お前が辛いの我慢して、それでも戦車道頑張ってるって認めさせたかったんだよずっと!」

アンチョビ「だからあっさりなんて勝たせてやれないんだよ絶対! 黒森峰の、お前のもたらす勝利が、当たり前なんかじゃないって言いたいから!!」

アンチョビ「何だよ勝ったのに勝ち方が悪いってビンタとか! 今思い出しても腹立つぞあのヒゲめ!!」

まほ「安斎、そんな昔のことを」

アンチョビ「今も大して、ひとっつも変わってないだろ!? だから!!」





アンチョビ「いい勝負をしよう、西住!! 私とお前で、いい試合をするんだ!!」




135 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/27(金) 21:20:24.60 ID:e9gxefgP0
まほ「!!」

アンチョビ「あの決勝戦からずっと考えてたんだ。結局何がよくなかったのかって」

アンチョビ「ルールの問題とか安全性の問題とか、スポーツマンシップとか勝利至上主義とか」

アンチョビ「いろんな問題が出てきちゃったけど、まあそれはおいおいやるとしてだ!」

アンチョビ「とりあえず今はお前といい試合がしたい!」

アンチョビ「あんな試合じゃダメだったんだ、西住! 常勝不敗の西住流、絶対王者黒森峰の連覇の最後は!」

アンチョビ「あんな、勝った方も負けた方も見てる方も皆して首を傾げるような試合であっちゃいけなかったんだよ!」

アンチョビ「だからやりなおそう! 来年の決勝戦、お前と私とで、最高の試合をするんだ!!」

アンチョビ「別に結末はどっちでもいいんだ! 覇者黒森峰が栄光を奪い返したっていい! まったく無名のアンツィオが、新時代の扉を開いたっていい!」

アンチョビ「でも、いい試合をしよう西住! 観客みんなが総立ちで、拍手なんかしちゃうような試合をだ!!」

アンチョビ「見てるみんなが戦車道っていいなって思えるような試合をだ!!」

アンチョビ「それこそみほが、もう一度戦車に乗りたくなるような試合をだ!!」

アンチョビ「私とお前とでやるんだよ西住! やりなおすんだよ西住!!」

アンチョビ「黒森峰が弱くなったなんて口が裂けても言わせない! 西住にビンタなんか二度とさせない! でも黒森峰だけが戦車道じゃない!!」

アンチョビ「周りが黒森峰に追いついた! だからこれから、もっと戦車道は面白くなっていく!! もっといいものになっていく!!」

アンチョビ「そう思わせるような試合をだ!! 私はお前と、西住まほと二人でやりたい!!」

アンチョビ「それが!!」





アンチョビ「私達の戦車道の、第一歩だ!!」






まほ「…今年の黒森峰は」

まほ「ザンギエフ隊長とガイル隊長…二人の巨人の殴り合いの、間隙を縫って優勝をくすねていた去年までの黒森峰とは違う」

まほ「リトルの頃から私自らの手で鍛え、私と共に戦い抜いてきた精鋭だ」

まほ「間違いなく、ここ10年で最強の、黒森峰戦車隊と言える」

まほ「勝てるつもりか? 安斎」

アンチョビ「フン! 私を誰だと思ってる!? アンツィオのドゥーチェ・アンチョビだぞ!!」

アンチョビ「お前を下す戦術は、今や100や200は下らん!!」

アンチョビ「何せ私は、あの日からずっとお前のことだけを想って戦車道をしてきたんだからな!!」

アンチョビ「だから負けない! 私のアンツィオ戦車道は絶対に負けん! いや、勝つ!!」

まほ「そうか…だったら」ガタッ

まほ「今から私たちは敵同士。次に会うのは、戦場だな」

アンチョビ「…そうだ、次に会うのは戦場で、私たちは敵同士」

アンチョビ「でも、これは戦争じゃない。殺し合いなんかじゃ絶対ない」

アンチョビ「お互い全てを出し切って、持ってる全部でぶつかり合って、最高の勝負が終わったら」

アンチョビ「私はお前にパスタを茹でてやる。今よりもっと美味くなった、アンツィオの料理を振る舞ってやる」

アンチョビ「全部出し切りお腹を空っぽにしたお前に、腹いっぱい食わせてやる。私だって腹いっぱい食べる」

アンチョビ「そうやって、互いを労い讃えあうんだ」

アンチョビ「私達がやるのは戦争じゃない。殺し合いでも潰し合いでもない」

アンチョビ「なあ、西住!」
136 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/27(金) 21:21:39.69 ID:e9gxefgP0









アンチョビ「一緒に戦車道やろう!!」








137 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/27(金) 21:22:37.66 ID:e9gxefgP0

ラジオ「それでは今日のラストナンバー、アイドルがひたすらカラオケしてるだけのCDより」

ラジオ「新田美波・アナスタシアで『No.1』。マキハラノリユキさんの名曲だね。これ歌ってる時の二人、なーんか気になるなぁ」

ラジオ「『凛の気になるりん♪』本日のゲストはヒライケンさんでした。どうもありがとうございました」アリガトウゴザイマシタ
138 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/04/27(金) 21:31:17.93 ID:e9gxefgP0
今回で第2部完結です。一番辛い思いをしていたまほを、きっと誰かが支えてたはず。
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/28(土) 07:07:41.05 ID:2nQfrtk5O
乙!
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/28(土) 07:54:14.07 ID:PGULXLKSO
姐さん正論かっこいい
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/28(土) 11:31:45.42 ID:RoKIuOcrO
鬼哭街わらた
あれ、妹の方がヤバいやん
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/30(月) 02:18:55.35 ID:2R9dqe+f0

さすがアンチョビ姐さんだ。迷った末に出した答えが素晴らしいな
143 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/05/08(火) 19:55:42.68 ID:u3zjgnaN0
鬼哭街に堕ちそうなまほをチョビは皆から貰った全ての力で引っ張りました。
投下します。今回から第3部です。まほチョビの種に水をやります。
144 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/05/08(火) 19:56:39.94 ID:u3zjgnaN0







〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜第三部・対決列島<The Battle Of Tanks!>〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜






145 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/05/08(火) 19:58:17.94 ID:u3zjgnaN0

<高校2年の9月・黒森峰女学園学園艦・警備ゲート>

アンチョビ「でっ、出入り禁止ィ〜〜〜〜!?」

黒森峰風紀委員「先日機甲科よりアンツィオ高校関係者の一切の乗艦を禁止するよう要請があった」

黒森峰風紀委員「今後アンツィオ生を艦内で発見した場合黒森峰防諜プログラムTが適用されることになる」

黒森峰風紀委員「例外は一切ない。即刻アンツィオ艦に戻られよ」

ひな「そんな…!!」

ペパロニ「姐さん…」

アンチョビ「―――」

アンチョビ(いやいやちょっと待て! どうしてだよ西住!? なんで、なんでそんな!!)

アンチョビ(ちゃんと伝わってなかったのか西住!? いやそもそも私、言いすぎだったか!?)

アンチョビ(私はただ、お前と二人で戦車道をもっといいものにしていきたいって)

アンチョビ(そのために来年の夏、最高の試合をしようって)

アンチョビ(私はお前の味方でいたいって、一緒に戦車道やろうって)

アンチョビ(それだけ伝えられればいいって思ってたら、お前が予想以上に孔濤羅っぽくなっちゃってたから!)

アンチョビ(孔濤羅道をAvanti!しちゃってたから!)

アンチョビ(こっちも馬鹿野郎! 戻れ! 即刻戻れ! って…)

アンチョビ(それで、言いたいこと全部言っちゃって…)

アンチョビ(…でも、思い返せば何様のつもりだって感じだよな)

アンチョビ(戦車道戦車道言ってるけど、大会どころか練習試合すらできてないような学校のヤツが)

アンチョビ(黒森峰や西住流はおろか、戦車道全部にあれこれものを言うなんて)

アンチョビ(これじゃ、野次を飛ばした連中と一緒だ…)

アンチョビ(味方でいたいなんて言いながら…結局私も、あいつの敵になってるじゃないか…!!)

アンチョビ(あいつが辛い思いしてるって知っていながら、あいつを全部否定して…!!)

アンチョビ(…嫌だ)

アンチョビ(言い過ぎたのなら、謝りたい。伝わってないのなら、伝えたい)

アンチョビ(こんな…こんな終わり方は絶対に…!!)

アンチョビ「絶対に嫌だ!!」ダッ

ひな「ドゥーチェ!!」

黒森峰風紀委員「…戦術電光服、起動」バチィ!

ペパロニ「!!」ザッ

ペパロニ(風紀委員3人、姐さんにぶつかる前に全員…!!)ドドドドドド…!!

アンチョビ「ううううあ゙あ゙あ゙あああああっーーーー!!!」パタパタ





黒森峰隊員「千代ちゃんストーップ!!」




146 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/05/08(火) 20:01:25.52 ID:u3zjgnaN0
アンチョビ「!!」ビタッ

黒森峰隊員「あー、よかった間に合った! やっぱりここにいたよ千代ちゃん!」

アンチョビ「お前…!」

黒森峰隊員「はいはい風紀のみんなもバチバチ止める! チョビ取歌なんて私が絶対許さないよ!?」パンパン

黒森峰風紀委員「了解」スッ

アンチョビ「おいお前! これはいったいどういうことだ!? 私、西住に嫌われ…!」ジワッ

黒森峰隊員「ああ違う違う、そうじゃないよ千代ちゃん。これはなんというか、うーん…」

黒森峰隊員「黒森峰病、って言えばいいのかな?」

アンチョビ「黒森峰病? なんだよ、それ」

黒森峰隊員「やー、この間新体制の方針を決めるブリーフィングがあったのよ。色々ごたついてたせいで、まだだったからさ」

黒森峰隊員「そこでまほちゃんが…」



まほ「来季の仮想敵には新たに継続高校とアンツィオ高校を加えようと思う」



黒森峰隊員「って。継続はともかくアンツィオも? ってみんなしてざわついてたのよ」

黒森峰隊員「何ならアンツィオって戦車道あったの? なんて子もいてさ」

黒森峰隊員「料理対決かもよ? って言ったのはこの私だ」ビシィ

アンチョビ「オイ」

黒森峰隊員「そんな中、まほちゃん一人が大真面目な顔をして」



まほ「アンツィオ高校はこの2年間、打倒黒森峰だけを考え戦車道に打ち込んできた」

まほ「黒森峰の王座奪還にとって最大の、他の四強以上の脅威となる」

まほ「少しでも侮る気持ちがあるのなら、今ここで捨てて貰いたい」

まほ「私は、アンツィオとの戦いは、黒森峰戦車隊の総力を賭した戦いになることを想定している」



黒森峰隊員「ってさ」

アンチョビ「西住…」

黒森峰隊員「そしたら副隊長の逸見ちゃんが…」



エリカ「では、アンツィオ高校も黒森峰防諜プログラムTの対象に加えるということで、よろしいでしょうか?」



黒森峰隊員「って。言った瞬間、ブリーフィングルームが凍りついたよ」

黒森峰隊員「この訓練バカ、今いったい何言った? って。や、誰も口には出してないよ?」

黒森峰隊員「逸見ちゃん1年だけどムッキムキで超こえーもん、腹筋とかもうバッキバキだし」

黒森峰隊員「でも、言った瞬間逸見ちゃん自身もヤベッって顔してさ、慌てて『今の発言は取り消します』なんて言ったんだけど」

黒森峰隊員「嗚呼、時すでに遅し。まほちゃんはこないだまでみたいな光を失った瞳で『よく言ってくれたエリカ』ってね」

黒森峰隊員「果たして黒森峰の誰一人として望んでない、アンツィオ屋台の出入り禁止ってな状況が出来上がったわけさぁ」

黒森峰隊員「安くて美味いアンツィオ屋台を締め出すなんて、セルフ兵糧攻めもいいとこだよう…」ションボリ
147 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/05/08(火) 20:02:59.38 ID:u3zjgnaN0

アンチョビ「いやいやちょっと待ておかしいだろ!? 誰も望んでないんなら止めればいいじゃないか!」

黒森峰隊員「そこが黒森峰病なんだよ千代ちゃん…ほら、うちら骨の髄まで西住流でしょ?」

黒森峰隊員「少しでも勝利が近づくのなら、なんだってやっちゃう。というより、やらずにはいられない」

黒森峰隊員「どんなに些細なことでも、どんなに嫌なことでも、勝利の可能性が1%でも上がるのなら」

黒森峰隊員「気づいてしまってはやらずにはいられない。それが黒森峰病、西住流の宿命さぁ」ガックリ

アンチョビ「そっかぁ…」

黒森峰隊員「…まほちゃんのこと、嫌いにならないだげてね?」

黒森峰隊員「あの決勝戦からのまほちゃん、ホントに戦車だけになっちゃってさ」

黒森峰隊員「映画のげんげんみたいで、見てらんなかったもん」

アンチョビ「んん?」

黒森峰隊員「それが、こないだ千代ちゃんと会ってから、ちょっとだけ元気になって」

黒森峰隊員「戦車ばっかなのは相変わらずだけど、それでも確かに、目に光が戻った」

黒森峰隊員「たぶん、誰かがどうにかしなかったら、まほちゃんホントにひどいことになってたと思うから」

黒森峰隊員「だから、うちの方からこんな仕打ちしといてなんだけど」

黒森峰隊員「これからも、まほちゃんと友達でいてくれたら嬉しい、な…?」

アンチョビ「…フン! 私を誰だと思っている!? 私はアンツィオ戦車道のドゥーチェ・アンチョビだぞ!」

アンチョビ「これが西住の本気なら、堂々と正面から受けて立つまでだ!!」ビッシィ

アンチョビ「こんなことで怯むくらいなら、そもそも私は戦車道続けちゃいない! あんな屋台まで引いてさぁ!!」

アンチョビ「来年私はこの黒い牙城に攻め込んで、必ず西住の前に立つ!!」

アンチョビ「今年の決勝戦はアンツィオと黒森峰とで最高のヤツをやるんだ! それまで西住はお前に預ける! 頼んだぞ!!」バッ

黒森峰隊員「私ぃ!?」

アンチョビ「…いや、ホントに頼むぞ? 映画のげんげんって、黒野玄武のことだろ?」

黒森峰隊員「!!」ピキーン

アンチョビ「ホントに今の西住、ちょっと油断するとすぐ孔濤羅っぽくなりかね…」

黒森峰隊員「何!? 千代ちゃんも神速一魂好きなの!?」ガシィッ

アンチョビ「うわっ!? な、なんだよ!? なんだよいきなり!?」ビクッ

黒森峰隊員「鬼哭街のげんげんよかったよねー! もう血ぃドッバドバ吐いちゃって、セクシーエロいっ! 危うく失神するとこだったよ私は!」ブンブンブンブン

アンチョビ「やーーめーーろーーーゆーーーらーーーすーーーなーーーーっ!!」ブンブンブンブン

アンチョビ「私は別に、あの映画だって黒野玄武と葛之葉雨彦が出てたドラマが好きだったから見に行っちゃっただけで!」ジタバタジタバタ

アンチョビ「お前みたいに特定のアイドルが好きってわけじゃない! そんな仲間を見つけたみたいなテンションで掴むな! 放せ!!」ジタバタジタバタ
148 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/05/08(火) 20:04:36.72 ID:u3zjgnaN0
黒森峰隊員「ありゃ、残念。せっかく仲間が増えたと思ったのになぁ」パッ

アンチョビ「はぁ…はぁ…くっそ、お前中学ん時より力強くなったな? こないだ履帯運びやった時には手伝いに入った割に私と一緒にぐったりしてたのに」

黒森峰隊員「うちの履帯は重いからねぇ、自然と鍛えられちゃうわけさ。これでも黒森峰じゃみほちゃんの次に非力だったんだぜ?」

黒森峰隊員「まあ…今では黒森峰で一番非力な子になりましたがね」トホホ

アンチョビ「でも、西住との付き合いなら一番長いだろ? 頼むぞ、ホント」

黒森峰隊員「んー…まあ、やれるだけやってみるよ。やれるだけね?」

アンチョビ「オイ! なんだよそのはっきりしない返事!? あっ! まさかお前!!」

アンチョビ「やめろよな!? ボロボロの西住見てセクシーとかエロいとか言うの! そんなの絶対ダメなんだからなーーーーっ!?」

黒森峰隊員「み、見ないよそんな! そんな邪な目でまほちゃん見てたりしたらまず逸見ちゃんが黙ってないもの!!」

黒森峰隊員「超怖いんだぞ逸見ちゃん!? 趣味なんてボクササイズだぞ!? 暇さえあればサンドバック叩いてんだぞぉ!?」

アンチョビ「そ、そうか。ならいいんだ」

アンチョビ(そんなに怖いのか逸見ちゃんって子…ボクシングでムキムキったら、鷹村守みたいな感じなのか?)

アンチョビ「とにかく! 頼んだからな!? それと、戦車道もちゃんとやれよ!?」

アンチョビ「こんだけ決勝決勝言っといて! あっさり2回戦負けとかやらかしたら絶対許さないからな!?」

黒森峰隊員「オッケー! そっちはバッチリ任された!」

黒森峰隊員「ま、うちとアンツィオがやれるとしたら多分1回戦だろうけどさ」

アンチョビ「何だと!? うちはそんなに弱くない! いや、強い! やるなら絶対決勝戦だ!!」

アンチョビ「おい行くぞペパロニ! カルパッチョ! 次西住と会うのは、夏の全国大会決勝戦!!」

アンチョビ「屋台ができないなら帰って戦車の特訓だ!!」



ペパロニ「何言ってんすか、姐さん」



アンチョビ「へ?」

ペパロニ「今日分の材料捌いてからじゃないと帰れないっすよ。大赤字ッス」

ペパロニ「戦車乗れなくなっちゃうッスよ?」

アンチョビ「ええっ!? ちょっと待てうちってそこまでカツカツなのか!?」

ペパロニ「ま、戦車乗れなくなるってのはウソですけど、今日分の材料捌かなくちゃってのはホントっす!」

ペパロニ「食材は鮮度が第一っすからね! ほら姐さんも準備しちゃって下さい!」

アンチョビ「そ、そんなこと言ったってめっちゃ怖いクローンみたいな風紀委員の人達がゾロゾロと…」

ひな「この辺ならどうですか?」ガラガラ

黒森峰風紀委員「いや、もう少し左…そう、ここだ。ここならアンツィオ側だし、屋台があっても通行の邪魔にならない」

黒森峰風紀委員「というわけで特盛肉増しを人数分頼む。電光服を使うと腹が減って困る」

黒森峰隊員「あっ、私も私も! 大盛肉増しひとーぉつッ!」

ひな「…だ、そうですが、どうしますドゥーチェ?」

ひな「黒森峰に食わせるパスタなんかねぇ! なーんて、言っちゃいます?」

アンチョビ「っ、そんなの…」



アンチョビ「そんなの答えは、決まってるだろーーーーーーーっ!!」
149 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/05/08(火) 20:05:48.75 ID:u3zjgnaN0





アンチョビ「みんな寄っといでーっ! アンツィオ名物鉄板ナポリタンだよーーーーっ! 美味しいパスタだよーーーーーっ!!」




150 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/05/08(火) 20:09:14.65 ID:u3zjgnaN0
今回は以上です。ありがとうございました。
ちなみに、このSSでは直下履帯子はまほと同い年設定です。
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/09(水) 08:17:29.47 ID:eZgEudJBO
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/10(木) 01:40:14.97 ID:nbCTOmxz0
筋肉モリモリマッチョウーマンなアマゾネスエリカ……
153 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/05/11(金) 19:16:11.67 ID:QRdFzBdf0
投下します。ムキムキだしバキバキだけどモリモリではないからセーフ。
154 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/05/11(金) 19:17:35.36 ID:QRdFzBdf0

<高校2年の1月・熊本・西住邸周辺>

まほ(…疲れた)

まほ(お母様に付き添われての、黒森峰隊長としての挨拶回り)

まほ(宗家の師範方や後援会、OG会、スポンサー企業…会う人会う人全てが、私に求めてきた)

まほ(来年こそは優勝を、黒森峰に栄冠を、絶対勝利を西住に、と)

まほ(当然だ。理由はどうあれ、私は負けたのだ)

まほ(皆で必死に積み上げてきた10連覇という栄光、私は全て台無しにしてしまったのだから)

まほ(それでも私を叩こうともせず、変わらぬ支援の約束と、励ましの言葉をくれたこと)

まほ(感謝こそすれ、それを重荷に思うことなどあってはならない)

まほ(あってはならないのだが…)

まほ(疲れた…)

まほ(年末年始の自主練期間。そこまでのハードワークをした覚えもない)

まほ(人と会う程度で疲れ果てるほど、軟な鍛え方をしてきたつもりもない)

まほ(…人から期待されることにも慣れていたはずだ。私はこれまで、ずっとそうしてきたのだから)

まほ(生まれた時から17年間、ずっと…)

まほ(…まさか、たかだか4か月程度でこうも弱るなんてこと)

犬「ワンッ!」

まほ(……)

まほ(いや、理由はわかっている。原因なんてわかりきっている)

まほ(みほだ)

まほ(みほがもう、ここにいない。ここにもう、帰ってこない)

まほ(それだけで、心がもう息苦しい)

まほ(喪って初めて分かった…私はみほを守るつもりが、私もみほに守られていたんだ)

まほ(みほと居る時だけ、私は戦車を降りられたんだ)

まほ(みほを喪った私は、もう戦車から降りられなくなってしまったんだ)

まほ(学校に居ても、隊に居ても、家に帰っても、こうして犬の散歩をしている時でさえ…)

まほ(まるで直下の部屋に飾ってある、がんだむの戦車みたいに)

まほ(心が、もう息苦しい)

犬「ワンワンッ!」
155 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/05/11(金) 19:18:16.90 ID:QRdFzBdf0
まほ(……)

まほ(この息苦しさをどうにかする作戦が、一つだけある)

まほ(だが、それをすることは許されない。西住流を継ぐ者として、戦車道を嗜む者として)

まほ(そしてそれ以上に、みほの姉として。みほを救えなかった、不甲斐ない姉として)

まほ(…それよりなにより、人としてもう、ダメだ)

まほ(それでも、心が、もう、息苦しい)

まほ(明後日の朝には学園艦に帰る。それまで耐えれば、私の勝利だ)

まほ(学園艦に帰ってしまえば、この欲求に苛まれることもない)

まほ(大丈夫、耐えられる。耐えることは、得意だ)

まほ(けど…)

まほ(耐えきった先に、何があるのだろう?)

まほ(このまま学園艦に帰って、隊に戻って…その先私は、どうなってしまうのだろうか?)

まほ(今までどおりに、ちゃんとやれるのだろうか?)

まほ(……)

まほ(心が、もう)

犬「ワンワンワンッ!」ダッ

まほ「あっ、おい待て」



ワイワイガヤガヤ

アンチョビ「みんな寄っといでーっ! アンツィオ名物イタリアン屋台だよーーーーっ! 戦車のパスタだよーーーーーっ!!」

ワイワイガヤガヤ



まほ「んん!?」
156 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/05/11(金) 19:18:50.75 ID:QRdFzBdf0
ひな「ドゥーチェ! あれ!! 来ましたよ西住さん!」

アンチョビ「おお! やっぱり来てくれたか!」

ペパロニ「よかったっすねぇ、姐さん」

まほ「安斎!」

アンチョビ「久しぶりだな、西住! あけましておめでとう!」

まほ「ん、あけましておめでとう…いや、違う、安斎。どうしてこんなところに?」

まほ「お前の実家は、愛知じゃないのか?」

アンチョビ「フッフッフ、我がアンツィオ戦車隊はこの冬の間秘密の強化合宿を行った!」

アンチョビ「その名もアンツィオ対決列島! この2ヵ月間戦車屋台で日本中を駆け回ったんだ!」

アンチョビ「…まあ、黒森峰ユースのアレを参考にしてな? 今日はその締めくくりだ」

まほ「2ヵ月間って…学校は? それに正月だって」

ペパロニ「学外実習の申請出してちゃんと稼いで帰れば、うちは単位貰えるスよ、西住さん。アンツィオは商人の学校っすからね」

ひな「お正月は私の実家でちゃんとしましたよ。ドゥーチェもペパロニも別にいいって言うから」

ペパロニ「うちの実家は年末年始忙しいからなぁ。行っても邪魔っつわれるだけだし」

アンチョビ「うちの実家も正月は誰もいないんだ! あ、弟は帰ってたかも」

ひな「まあおかげ様で私は存分に、たかちゃん成分を補充できたんでいいですけど…何ですか? その目」

アンチョビ「いや、まあ…うん」

ペパロニ「ひなの意外な一面を発見、っつーか…ねぇ?」

ひな「別にいいじゃないですか! 私だって四六時中、鋼の戦車女子ってわけじゃないんですよ?」

ひな「実家に帰って幼馴染に会えば、あんな感じにもなります!」

アンチョビ「いや、別に悪いとは言ってないぞ! うん! そういうのは大事だ!」

ペパロニ「つーかお前、最近は言うほど鋼の戦車女子でもねぇだろ? 割と寝坊もするようになったし。私と殴り合いしたときと比べてだいぶ緩々に…」

ひな「うっ…来年からはビシビシ行くから。ドゥーチェの側に立つ鋼の副官に戻るから」

ペパロニ「どーだかねぇ…はいよっ! 秘伝スープパスタにアラビアータお持ち帰り用、お待ちどう!」オオウマソー! コレホントニヤタイノパスター!?

まほ「…それで、私に何の用だ? 合宿の締めくくりと言ったが、まさかこの西住のお膝元で、私に勝負でも挑むつもりか?」

アンチョビ「フッフッフ、そう逸るなよ西住。お前との決着は全国大会の決勝戦でちゃんとつける」

アンチョビ「まあ、どうしてもと言うのならこの場で受けてやらんでも…いや、止めだ止め。せっかく会えたってのに、こんなんじゃダメだ」

まほ「ん?」

アンチョビ「ほら、学園艦に帰ったらまた敵同士でさ。今年は2月とか3月にも多分会えないだろ? 黒森峰の防諜何とかがあるから」

アンチョビ「そう考えたら、なんか寂しくなっちゃって、辛くなっちゃってさ?」

まほ「!!」

アンチョビ「熊本行けば、ひょっとしたら会えるかもって。それで最後にここに寄ってから帰ることにしたんだ」

アンチョビ「ホントに会えるなんてな…うれしいよ、西住」

まほ「安斎…」

アンチョビ「鉄板ナポリタン大盛卵増しお待ち! …さ、次は西住の番だな。何にする?」

アンチョビ「ペパロニの営業努力で、メニューもかなり増えたんだ! どれもとびっきり美味しいからな!」

まほ「いや、安斎、今日は…」





しほ「まほ?」
157 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/05/11(金) 19:20:28.56 ID:QRdFzBdf0
ひな「!!!???」

アンチョビ「ん?」

まほ「お母様」

アンチョビ「…ぃい゙っ!?」

ペパロニ「……」

まほ「どうしてこちらに…?」

しほ「…この西住の地に、断りもなくイタリア戦車が入り込んでいると聞きました」

しほ「まさか…貴女だったとはね。アンツィオ高校のドゥーチェ・アンチョビ」

アンチョビ「ぅええっ!? わ、私のこと、ご存じで…!?」

しほ「連盟でも話題になっているわ。どこの支援も受けず、全くのゼロから戦車道を立ち上げようとしている学校があると」

しほ「どこの傘下にも入ろうとしない、戦車道があると」

まほ「っ、お母様!」

しほ「これが戦車屋台…セモヴェンテは公道用にカスタマイズしたのね?」

アンチョビ「えっ、ええ、まあ…もっ、もちろん試合の時には元に戻しますよ!? ルール、いえ掟ですからね! 鉄の掟鋼の心って! あっはは!」

しほ「……」

アンチョビ「はは…え、えと…その…」

アンチョビ(うゔあ゙ぁああああああっ!? マズイマズイマズイ!! これはマズイぞぉ〜〜〜〜っ!?)

アンチョビ(そうだよなぁ! 西住の土地にイタリア戦車で入り込んだりしたらこうなるよなぁ! なんで気づかなかったんだよ私のバカ!)

アンチョビ(どうするどうするどうする!? アンツィオの学外実習許可証があれば大体の問題はクリアできるけど!)

アンチョビ(こういうシマとか縄張りとかそういう問題までクリアできるのか!? 多分そういう問題じゃないよなコレ!?)

アンチョビ(あっ、アレか!? このままじゃ私達、海か風呂かに沈められるのか!? いっ、嫌だぞそんなの!)

アンチョビ(コンクリ塗れも泡塗れも、どっちも嫌だ! 絶対に!!)

アンチョビ(いや、私はいい! せっ、せめてペパロニとカルパッチョだけでも!!)

しほ「…菊代」

アンチョビ(っ、ひぃいいいいいいいいっ!!!)

しほ「今日はここで食べていきましょう」

菊代「はい、奥様」
158 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/05/11(金) 19:21:17.81 ID:QRdFzBdf0
アンチョビ「…へ?」

まほ「お母様?」

しほ「まほも掛けなさい。ご近所様の目もあります。立ったまま物を食べるなど許しませんよ」

まほ「はい」

アンチョビ「……」

しほ「メニューはこれね。まほ、おすすめを教えなさい」

まほ「…申し訳ありません、お母様。私も、今のメニューを見るのは初めてで」

アンチョビ「どれも全部美味しいですよ! うちは屋台ですけど、美味いと思えたものしか出しませんから!」ズイッ

ひな「ドゥーチェ!?」

アンチョビ「なんでしたら、上から全部順番に作りますよ。もちろん1皿の量は減らして」

アンチョビ「それで3人でちょっとずつ、シェアして食べるとかやるのはどうでしょう!?」

まほ「安斎!?」

アンチョビ「せっかく3人いるんだからそうしろよ西住! 私達が精一杯工夫して増やしたメニューだぞ? 私はお前に、全部味わってもらいたい!」

アンチョビ「今日を逃したら、次は夏大会が終わるまで食べさせてやれないんだからな!?」

まほ「待て、待て安斎、それはいい。それはわかってる。でも今は、お母様が」

しほ「そうね、そうしましょうか」

まほ「お母様!?」

しほ「ただし、量を減らすなどという気遣いは無用です。全部1人前で出してちょうだい」

アンチョビ「うへへ、了解であります大隊長殿! 行くぞカルパッチョ!」

ひな「りょ、了解ドゥーチェ!」

アンチョビ「頼むぞペパロニ!」

ペパロニ「任せてください姐さん!! アンツィオのマカロニ魂、見せてやりましょう!!」

アンチョビ「おお、そうだ! 行くぞ二人とも! 見せつけてやろう!!」




アンチョビ「これが私の、ドゥーチェ・アンチョビのアンツィオ戦車道だぁーーーーーーっ!!!」
159 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/05/11(金) 19:22:20.20 ID:QRdFzBdf0
しほ「ふぅ…こんなに思い切りイタ飯を食べたのなんて、学生以来ね」

アンチョビ「やー、私もこんなの初めてでしたよ。なぁ、ペパロニ?」

ペパロニ「うっす、見事な食べっぷりでした! サンダースの運動部だって、並の連中じゃこうは行きません!」

しほ「当然です。まだまだ、老い衰えるつもりなど毛頭ありません」

しほ「2人とも、食べたりないということはありませんか? 遠慮は要りません、足りなければ追加の注文を」

まほ「大丈夫です、大丈夫ですお母様」

しほ「そうですか。菊代は?」

菊代「私も、十分に頂きました。奥様」

しほ「そう…それでは」



西住一家「「「ごちそうさまでした」」」



しほ「…ところで安斎さん、一つだけ聞いてもいいかしら?」

アンチョビ「なんでしょう?」

しほ「戦車道は、楽しいですか?」

アンチョビ「…はい! とっても!」

しほ「そう、それはよかった…まほ」

まほ「はい、お母様」

しほ「私達は先に帰ります。貴女もあまり遅くならないように」

しほ「行くわよ、菊代」

菊代「はい、奥様」

菊代「今日は本当に、ごちそうさまでした」
160 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/05/11(金) 19:22:59.69 ID:QRdFzBdf0
<高校2年の1月・熊本・西住邸周辺>

しほ「…どう見る? 菊代」

菊代「とても美味しかったですよ、奥様。屋台の強みを生かしていけば、東京でも十分戦えるかと」

しほ「菊代」

菊代「…安斎さんとペパロニさんは私達と喋りっぱなし。あとの一人も、一言も声を発することなく黙々と」

菊代「戦車での長旅だというのに、屋台の器具は固定すらされていない」

菊代「スープパスタのブイヨンは、注ぎ足し注ぎ足しの秘伝の物と言っていましたね」

菊代「…恐らく、すでに」

しほ「そう…」
161 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/05/11(金) 19:23:56.05 ID:QRdFzBdf0
<高校2年の1月・熊本・西住邸周辺>

アンチョビ「ふぅ…それじゃ、ぼちぼち店仕舞かな」

ペパロニ「あ、じゃあ店の方は私がやっときます。ひなは戦車の方を…って、いつまでへにゃってんだよひな!?」

ひな「うう…無理言わないでよペパロニ。さっきまでいったい誰の相手をしてたと…」フラフラ

ペパロニ「誰って、西住さんのお袋さんだろ?」

ひな「っ、ペパロニあなた知らないの!? 今の方は! 西住流次期家元、西住しほ師範!」

ひな「全国大会での島田流家元島田千代との激闘や、高校戦車道連合を率いての女子では初の天挑五輪大武會出場!」

ひな「他にも伝説を挙げればきりがない! 戦車道をやるものにとっては憧れの、雲の上の存在よ!」

ペパロニ「そ、そんなにスゲー人だったのか! でも、うーん…?」

ひな「なぁに? その顔?」

ペパロニ「いや、なんつーか…私ら、フツーに喋っちゃってたけど? 何か割と普通の、友達のお母さんっつーか」

ひな「っ、あなた達はあの人の凄さを知らないからよ! 全盛期のしほさんはマウント斗場にも勝ったんだから!!」

ペパロニ「えっ!? マジ!? うおおそりゃスゲー!!」



まほ「安斎」

アンチョビ「ん? どうした西住? やっぱり食べ足りなかったか?」

まほ「そんなわけあるか。それよりお前、今日の宿は? どこか当てがあるのか?」

まほ「無ければ、うちに」

ひな「!!」ビックゥ!

アンチョビ「あー…その申し出は嬉しいんだがな、西住」

アンチョビ「実は時間がかなりやばい。明日の朝までに佐多岬につかないと、新学期までにアンツィオ艦に帰れないんだ」

アンチョビ「だから今夜は、寝ずに走ります。過酷な合宿の、スタートです」グッ

まほ「…そうか」

アンチョビ「なんだ西住? そんな顔して…寂しいのか?」ニヤッ

アンチョビ「だったら2月も食べに来い。連絡橋のこっち側で、また屋台やるからさ?」

まほ「…いや、そういうわけにはいかない。私は黒森峰の隊長だ」

まほ「言い出した私がそうでは、皆に示しがつかないだろう」

アンチョビ「そっか。まあ、そうだよな。本気なんだもんな」

アンチョビ「嬉しいよ西住、ようやく私は、本気のお前と向き合えるんだな」ニコッ

まほ「!!」

アンチョビ「だがな西住! うちだって負けちゃいないぞ、42人だ」

まほ「42人?」

アンチョビ「この合宿で色んな中学校を回ったんだ。42人、来年は今ある戦車を全部動かせるだけの人数が揃う」

アンチョビ「これでようやく、世代屈指の技巧派策士ドゥーチェ・アンチョビの真髄をお見せできるというわけだ!」

アンチョビ「喜べ西住! そして恐れおののけ震えて眠れぃ!!」ビッシィ

まほ「……」

アンチョビ「…いや、震えて眠るってのはダメだな。ちゃんと眠れよ? ぐっすり眠れ」

アンチョビ「お前はただでさえ、どうやったって頑張り過ぎちゃうんだからな?」

ひな「ドゥーチェ! そろそろ時間が!!」

ペパロニ「行きましょう姐さん!」

アンチョビ「それじゃ、またな西住。ちょっと寂しいけど、次に会うのは夏大会だ!」

ギャリギャリギャリギャリ…

まほ「……」
162 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/05/11(金) 19:25:05.24 ID:QRdFzBdf0

<高校2年の1月・熊本・西住邸>

まほ(…解った)

まほ(あの日、私の隊が2輌の損害を出したとき)

まほ(私は安斎に勝てなかったと、そう思った)

まほ(だから私は、安斎との約束に拘った。翌年には1軍を率いて再び名古屋を訪れ)

まほ(豊田のシニアチームも完膚なきまでに叩きのめした)

まほ(プラウダに行くと言うのなら、そのプラウダ高校も全国大会決勝戦で打ち破った)

まほ(そしてアンツィオ高校。安斎の準備が整うまで、私は待ち続けた)

まほ(偏に、あの日の約束を果たすために)

まほ(だが、違ったんだ。本当はそうじゃなかったんだ)

まほ(あの日、私の隊が2輌の損害を出したとき)

まほ(あいつは私を庇ったんだ。叱責される私を)

まほ(戦車道では当たり前で、西住を継ぐ者としては当然で)

まほ(それでもあいつは、私を庇ったんだ)

まほ(戦車に乗らないあいつは、戦車の中にいる私を)

まほ(生まれて初めて、私は誰かに、庇われたんだ)

まほ(西住流も黒森峰も関係ないと、私自身を庇ってくれたんだ)

まほ(みほを喪った時にも、西住流の私からさえ、私のことを庇ってくれたんだ)

まほ(西住流を継ぐ者として、黒森峰の隊長として、強く気高くある私の中で)

まほ(それを息苦しく、辛いと思う私だって、確かに存在したんだ)

まほ(私すら気づいていなかった、それに気づいたのはきっと、みほと安斎だけだったんだ)

まほ(だから私は、安斎を…)
163 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/05/11(金) 19:26:41.47 ID:QRdFzBdf0
まほ(……)

まほ(安斎が、必要だ。戦車に乗ったドゥーチェ・アンチョビではない)

まほ(安斎千代美が、私には必要なんだ)

まほ(黒森峰に再び栄冠をもたらす為にも、常勝不敗・西住流の戦車道を体現する為にも)

まほ(みほを喪った今の私には、今の弱い私には、再び強い私に戻るためには)

まほ(安斎千代美が必要なんだ)

まほ(隊に戻ったら、仮想敵からアンツィオ高校を外そう)

まほ(いや、安斎を黒森峰に呼ぼう。望むのなら、後輩二人も一緒でいい)

まほ(それで、一緒に戦車道をやるんだ)

まほ(大体なんだ、42人って。ほぼ1年生だけのチームでどうやって戦うつもりだ?)

まほ(他の学校ならいざ知らず、この私が率いる黒森峰戦車隊を相手に)

まほ(そもそもお前は何回約束を破った? というより本当に約束を守る気はあったのか?)

まほ(名古屋の時も豊田の時もプラウダの時も、挙句アンツィオでも結局2年間、パスタを茹でてただけじゃないか)

まほ(きっと今回だってどうせ、期待させるだけさせておいて1回戦か2回戦あたりであっさり負けるに違いない)

まほ(…いや、止そう。安斎はずっと、無理をしてきたんだ。私のために、無理をしてくれたんだ)

まほ(私が戦車に乗っていたから、戦車から降りられなかったから、前に進むことしかできなかったから)

まほ(追いつくために安斎は、無理をして戦車を用意したんだ)

まほ(アンツィオ高校なんかに行って、屋台を引っ張りパスタを茹でて、他にもきっと、色々な、私の知らない苦労をして)

まほ(それだけやって、やっとの思いで、あんな短砲身のセモヴェンテ1輌を用意して)

まほ(それで私に、会いに来てくれたんだ。私のために)

まほ(…今度は、私が迎えに行く番だ。もう二度と、安斎に苦労をさせはしない)

まほ(ティーガーだろうがパンターだろうがエレファントだろうがマウスだろうが、好きなだけ乗せてやる)

まほ(みほの代わりにお前を求める。私はきっと酷いやつなんだろう)

まほ(そのことを私は忘れない。それでも安斎、私にはお前が必要なんだ)

まほ(だから私は、お前に私の全てを捧げる。私の全てをお前にやる)

まほ(だから安斎、どうか、私を…)





しほ「まほ、話があります」
164 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/05/11(金) 19:27:40.20 ID:QRdFzBdf0

しほ「隊と共に暮らし、戦車と共に旅をする」



しほ「人馬一体、島田の境地に至る修行」



しほ「私達西住が、決して敗れてはならぬ相手」



しほ「全国大会で、アンツィオ高校と当たることがあれば」



しほ「西住流を継ぐ者として、全力で叩き潰しなさい」



しほ「いいですね、まほ」
165 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/05/11(金) 19:28:55.68 ID:QRdFzBdf0



まほ(なんで…どうして…どうしてお前は、島田流に行ってしまったんだ…?)




まほ(どうして…どうして私は、西住流なんだ…?)




まほ(あんざい…おまえは…ひどいやつだ…)


166 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/05/11(金) 19:30:08.65 ID:QRdFzBdf0

しほ(私はみほを、実の娘を、この手で殺めた)

しほ(本当は、みほが正しいと解っていたにも関わらず)

しほ(西住流を、戦車道の未来を守るために)

しほ(この罪は消えない。死ぬことすら私には許されない)

しほ(ならばせめて、私は戦車道を守ろう。西住を守ろう)

しほ(みほの犠牲を、無駄にしないためにも)

しほ(私の残りの人生の全てを賭して)

しほ(それが私の背負いし罰)

しほ(私にできる、私に許された、ただ一つの償い)



しほ(けれど、もし…)

しほ(もしもう一つだけ許されるのなら…)

しほ(まほだけは、一人残った、まほだけは…)

しほ(どうか…)
167 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/05/11(金) 19:31:23.84 ID:QRdFzBdf0

まほ(今夜は、みほの部屋で寝よう)

まほ(それで、全てを忘れよう。今夜…いや、今日と明日)

まほ(みほに包まれて眠る。それだけで、私は強くなれるから)

まほ(強い私に戻れるから)

まほ(私にはもう、何もない。西住流の他に、何一つとして残ってはいない)

まほ(なら、今日と明日…いや、この家に帰ってきたときだけ)

まほ(それで私は、ちゃんとやれるから。ちゃんと耐えていけるから)

まほ(…形見を一つだけ。それでこの家を出ても、学園艦に帰っても)

まほ(隊に戻っても、皆の望む西住まほでいられるから)

まほ(みほのぬくもりを、一つだけ)

まほ(それで、元の私に戻れるから)




まほ(また、頑張れるから)
168 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/05/11(金) 19:32:25.04 ID:QRdFzBdf0








―――――この無常の世界は守りきれなかったものばかりさ








169 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/05/11(金) 19:34:24.29 ID:QRdFzBdf0

ラジオ「おーいえー! って、2番はおーいえー言わないんだね、残念」

ラジオ「というわけで本日のラストナンバー、お送りしましたのはアイドルがひたすらカラオケしてるだけのCD2より」

ラジオ「南条光で『DIE SET DOWN』でした。うん、なんだかやけくそっぽさが楽しい歌だね。おーいえーのとことか。今度私も、歌おうかな」

ラジオ「というわけで『凛の気になるりん♪』本日のゲストはオダユウジさんでした。どうもありがとうございました」アリガトウゴザイマシタ



ペパロニ「…姐さん」

アンチョビ「なんだペパロニ?」

ペパロニ「何か今日、西住さんと会えてよかったっすね。本当に」

アンチョビ「そうだな。ホントによかった」

ペパロニ「…お母さんも、案外ふつうっしたね」

アンチョビ「そうだな」

ペパロニ「最初、姐さんが前みたいに『ブッ殺した』モード入っちゃうんじゃないかって、心配してたんすよ、私」

アンチョビ「はぁ!? なんで!? 私はむしろ殺されるんじゃないかって…」

ペパロニ「でも、なんつーか…普通でしたね、ホント」

アンチョビ「…そうだな、なんでだろうな。なんか、食わせなきゃって使命感、湧いたよな?」

ペパロニ「あ、やっぱり姐さんも感じました? 私もこう…」

ペパロニ「こいつにスパゲティを食わしてやりたいんですがかまいませんね! みたいな、魂の叫び、感じたっす」

アンチョビ「…多分、似たもの母娘なんだろうな」

ペパロニ「っすね」

アンチョビ「…頑張るぞ、ペパロニ。今年の全国大会、絶対に、西住と最高の試合をやるんだ」

アンチョビ「こうして楽しくやれてるのも、料理上手くなったのも、友達ができたのも」

アンチョビ「お前たちと出会えたのも、西住を好きになれたのも」

アンチョビ「全部戦車道のおかげなんだ。私の全部は、戦車道に貰ったものなんだ!」

アンチョビ「だから今度は、私が戦車道に恩返しする番だ。私達のアンツィオ戦車隊の手で、新しい戦車道の世界を見せてやるんだ!!」

ペパロニ「了解っす、姐さん。明日からまた、頑張りましょう」
170 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/05/11(金) 19:35:14.04 ID:QRdFzBdf0




アンチョビ「…おい」

アンチョビ「寝たのかペパロニ!?」

ペパロニ「ZZZ…」

アンチョビ「おい寝るな! 起きろペパロニ! 話をしてくれよペパロニーーーっ!!!」

ペパロニ「ZZZ…」

アンチョビ「いやホントに頼むよペパロニ! ドゥーチェももう限界なんだって! 一人で運転なんてしてたら、もう寝ちゃうんだって!!」

ペパロニ「ZZZ…」

アンチョビ「くっそう、ダメか! ひなも早々に、真っ先に寝ちゃったし!!」

ひな「すぅすぅ…」

アンチョビ「なんだよ一番体力がありそうな顔して真っ先に寝るとか! お前ホントに、たいっがいゆるゆるだぞ!」

ひな「んぅう…」ゴロン

アンチョビ「何が鋼の戦車女子だよ! 入学当初の、あのクールでかっこいい副官カルパッチョはどこに行っちゃったんだよーーーーっ!!」




アンチョビ「…くっそう、こんだけ騒いでもまったく起きない。というより私も…眠く…」コクリ

アンチョビ「あきらめて…ここをキャンプ地とする…か…?」コクリ

アンチョビ「…いいやダメだダメだダメだ!!」ブンブン

アンチョビ「私達は帰るぞ! アンツィオに帰るぞ! 絶対に帰るぞーーーっ!!」

アンチョビ「でけでん! っかわのみなぁもぉにぃい! ほおっぺたちかづけて…ぇ…」



カクン



ガシャン!!

アンチョビ「!!」ビクッ

グラサンの屈強な黒のカリスマ「ガッデム! 免許持ってんのかゴルァ!!」

アンチョビ「うああああああっ! や、やっちゃったぁーーーっ!!?」




――――この後、事情を聴いた心優しいグラサンの屈強な黒のカリスマが佐多岬まで運転してくれました。
171 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/05/11(金) 19:37:52.30 ID:QRdFzBdf0
今回は以上です。ありがとうございました。
172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/12(土) 04:53:06.13 ID:HsjWQBMYO
乙です
173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/12(土) 12:51:35.52 ID:Gk/MSGwn0
174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/16(水) 11:56:15.24 ID:5nMCKjk/0

西住親子がスゴい勢いで地獄に転がり墜ちてく……
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/16(水) 21:12:09.77 ID:ObrmkSLjO
とりあえず戦車道関係者、特に黒森峰とその周囲の奴は全員惨たらしい死を迎えるべき
176 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/17(木) 06:59:31.05 ID:OSFBU6+Z0
>>175
誰もそこまで言ってない、ってかこの話の中の黒森峰はむしろ被害者側だろうが
読み直してきて、どうぞ
177 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/05/22(火) 23:35:17.63 ID:5TsFLnTk0
投下します。全て理由あってのことだったのは間違いありません。
178 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/05/22(火) 23:36:54.71 ID:5TsFLnTk0
<高校2年の3月・大洗女子学園艦・校門前>

ペパロニ「…とりあえず昼の波はおしまいみたいっすね、姐さん」

アンチョビ「あとは放課後までパラパラと、か…」

ペパロニ「結構渋い感じっすねぇ、大洗。放課後はトッピング増し無料で在庫掃いちゃいましょう」

アンチョビ「そうだな、こうなったらちょっとでもお客さんに喜んで貰おう。明日の仕入れもちょっと考えないと…はぁ」

ペパロニ「…残念っしたね、姐さん。今年の2月は、西住さんに会いに行けないで」

アンチョビ「こうなる覚悟はしてたよペパロニ。アンツィオ屋台は戦車道だけじゃないんだ」

アンチョビ「黒森峰が出禁だって話なら航路を変えてでも他を探すのが当然だろう?」

ペパロニ「…っすね」

アンチョビ「あっはっは、そんな顔するなよペパロニ! どのみち西住は来なかったさ! 何せ今のアイツは本気の西住まほだからな!」

アンチョビ「今私達にできるのは、じゃんじゃんパスタを回して演習費を稼ぎ出すこと! 何せ4月になれば一気に大所帯だ!」

アンチョビ「今まで埃被ってた残りの戦車たちも、全部動かせるようにしてやらなくちゃだもんな!」

アンチョビ「…まあ、カルパッチョ抜きの二人体制で余裕で回せてる時点で、売上は渋いことになりそうだけどなぁ」ガックリ

ペパロニ「そういやうちはスパイとかいいんすか? ひなのヤツ、整備にかこつけて格納庫にたかちゃん連れ込んでると思いますけど」

アンチョビ「大丈夫だ。大洗に戦車道はないし、それにそもそもうちの戦車の編成なんて、調べる気になればすぐ調べられるだろ」

アンチョビ「誰かさんがTVで宣伝しちゃった所為でな」ギロリ

ペパロニ「あっはっはっは! そういやそうでした! やー、懐かしいっすねぇ!」

アンチョビ「ペーパーローニー! まあでも、そのおかげでその後の勧誘が上手く行ったってのはあるけどな」

ペパロニ「でしょう? やっぱ嘘なんてついてもダメなんですって!」


杏「やあやあ、チョビ子ゥー!」


アンチョビ「!!」

ペパロニ「あぁん? なんだテメェ、姐さんをチョビ子呼ばわりなんて」ギロリ

桃「…!」ザッ

アンチョビ「お、おい止せペパロニ! 生徒会長の角谷さんだぞ!!」

杏「かーしま」

桃「はっ」スッ

アンチョビ「ほっ…」

杏「そんで、まだやってるかいチョビ子? 生徒会の仕事で、お昼ずれちゃってさぁ」

アンチョビ「お疲れ様です、角谷会長。まだまだやってますよ。何にします?」

杏「あー、そんな堅苦しくしなくていいよー。タメ年なんだからさぁ」

ペパロニ「えっ、姐さんとタメ年!? オメェ、1年じゃねぇの!?」

アンチョビ「なっ、何言ってるんだこのバカロニーーーーーっ!? すみません会長! こいつペパロニなもんで!!」

杏「あっはっはっは! いいよいいよ。そんじゃ…この鉄板ナポリタンを」



杏「肉抜き卵抜き自家製魚肉ソーセージトッピング山盛りで」


179 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/05/22(火) 23:37:42.42 ID:5TsFLnTk0


ペパロニ「!!」

アンチョビ「はい! かしこまり…」

ペパロニ「姐さん!!」ガシッ

アンチョビ「…ペパロニ?」

ペパロニ「下がっててください、姐さん。この人の相手は、私がします」ドドドドドド

杏「んっふっふっふ…!」ゴゴゴゴゴゴゴ

アンチョビ「えっ、ちょっと待てなんだこの空気!? お、おいペパロニ!?」ビクビク

桃「お前には私の相手をして貰おうか、安斎」ズズズズズズ

アンチョビ「ぴぃっ!? こ、こっちにも来たァ!? や、止めろ! そういうの無理なんだって!」

アンチョビ「ドゥーチェそういうノリは無理なんだってばぁーーーーーーっ!!!」




杏「ふぃー、ごっつぉさん。美味しかったよ」

ペパロニ「へっへっへ、でしょう? これが本物のナポリタンっすよ会長サン」

杏「いい後輩連れてんだねぇ、チョビ子。この子の腕ならどこでもやっていけるよ」

アンチョビ「ふふん! そうだろうそうだろう! うちの自慢の後輩だ!!」

ペパロニ「うへへ、姐さんに褒められた」

杏「そんでさ、こんだけ美味しいナポリタンをこの値段で出して…実際どうなのよ?」

アンチョビ「どうって、何がだ?」

杏「ちゃんと儲かってんの? チョビ子んとこはパスタ道科ってわけじゃないんでしょ?」

アンチョビ「当然だろ! 全ては戦車道全国大会に出場、いや優勝するためにやっていることだ!」

アンチョビ「まあいろいろ無茶な合宿とかしたせいで結構カツカツだけど、それでも演習費くらいなら余裕で稼げてるぞ!」

アンチョビ「そして今のペースなら念願の秘密兵器導入だって夢じゃあない! 相手チームの恐れおののく姿が目に浮かぶわ!!」ビシィ

ペパロニ(姐さんも結構ノリと勢いで余計なこと言っちゃうよなぁ)

アンチョビ「でもなんでそんなこと聞くんだ角谷? なんか欲しいもんでもあるのか?」

杏「んー、うちでも戦車道やろうかなって」

アンチョビ「!!」

杏「色々聞きたいことがあるんだよね、アンツィオ戦車道の救世主ドゥーチェ・アンチョビにはさ」

杏「それも込みで大洗の航路をアンツィオに寄せ…」

ガシッ

アンチョビ「戦車道はいいぞ! これからどんどん盛り上がっていくスポーツだ!」

アンチョビ「角谷、一緒に戦車道やろう!!」ギュッ
180 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/05/22(火) 23:38:58.80 ID:5TsFLnTk0
杏(うおっ、ちけー)

杏「やー、でもそんなに簡単に始められるもんなの? 実際のところさー」

杏「大洗でも昔は戦車道やってたみたいで、戦車はあるっぽいんだよ」

杏「でも実は私、ただやるだけじゃなく、優勝したいんだよねー。戦車道で」

桃「っ…」

アンチョビ「いいねぇいいねぇ! やるからにはてっぺん目指さなくちゃだよなぁ!」

杏「そうそう。で、どうよ? 実際。戦車さえあれば、できちゃうもんかね? 戦車道」

アンチョビ「できるできる! 最初の戦車さえあれば、戦車道なんて案外簡単に始められちゃうもんなんだ!」

アンチョビ「最初の研修なんかも1日で終わるぞ。座学なんて全然なくって」

アンチョビ「『戦車なんてバーっと動かしてダーッと操作してドーンと撃てばいい!』ってな感じの挨拶みたいな話があるだけで」

アンチョビ「後はもう戦車乗ってみんなで模擬戦だ!」

杏「えぇ…マジ?」

アンチョビ「マジマジだ! 私は中学の実習とシニアに入った時との2回初回研修受けたけど、2回ともそうだったから間違いない!」ビシィ

アンチョビ「違う人だったけど、どっちの時もいい感じの自衛官のお姉さんが来てさぁ。多分、連盟に電話すれば学校まですぐ来てくれるぞ」

杏「学園艦でも?」

アンチョビ「多分来る。輸送機に戦車乗っけて飛んでくるんだもの、教官。で、戦車落として帰ってったなぁ。2回ともそうだった」

杏「はは、想像つかないや」

アンチョビ「すぐに実物見られるって! 戻ったらすぐ電話してみろよ!」

アンチョビ「それにな、角谷。いきなり始めて優勝したいならやるべきは戦車道だ。これは絶対、間違いない!」

杏「んー、なんで?」

アンチョビ「他のスポーツだったら、それこそ小学生のころからずっとやってないと試合なんてできないだろ?」

アンチョビ「小学生のころからやってた奴らが強豪校に集まって、そういう学校が優勝争いをしてる」

アンチョビ「そこにぽっと出の学校が優勝したいったって、どうにもなんない」

アンチョビ「あ、でもあれだな。渋谷凛のラジオによく出てる野球選手の人とか、無名校を一人で甲子園まで連れてったとか…」

杏「!!」ギラリ

アンチョビ「なんて人だったかは忘れちゃったけど…」

杏「タダノカズヒト投手だね。八千代松陰高校をほぼ単身で甲子園に導いた後、立教大学に進学」

杏「怪我などの理由でドラフトには掛からなかったけど単身渡米して野球を続け」

杏「07年、ついに北海道日本ハムファイターズに1位指名」

杏「NPBでは通算18勝して日本シリーズにも出場したけど、14年に戦力外通告を受ける」

杏「それでも独立リーグに移って17年に現役を引退するまで決して野球を手離さなかった、不屈の男だ」

アンチョビ「お、角谷野球詳しいのか?」

杏「野球はあんまし。でもネットの人気者だからねぇ、タダノは。チョビ子も今度調べてごらんよ」

アンチョビ(ネットの人気者かぁ。1年生もいっぱい入ってくることだし、そういう流行の情報も調べておいた方がいいのかな?)
181 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/05/22(火) 23:39:47.57 ID:5TsFLnTk0
アンチョビ「って、話逸れたな。とにかく普通のスポーツはそれこそ小さいころからの繰り返しの練習があって初めて試合になる」

アンチョビ「けど戦車道は違う。いや、もちろん練習は大事だぞ? でも何というかアレだ」

アンチョビ「普通の人がいきなり始めても、ちゃんと試合ができるんだよ、戦車道は」

アンチョビ「理由は簡単。戦車は近代兵器だからだ。普通の人が戦争に参加するようになってから造られた兵器だからだ」

アンチョビ「武術を究めた無双の武将が一人で何千人も倒してた時代とは違う、一般人が兵士として、戦地に出てった時代の兵器だからな、戦車ってヤツは」

アンチョビ「だから訓練をすれば誰でも動かせる。十年や、二十年なんて修行はいらない」

アンチョビ「アクセル踏めばちゃんと走るし、狙って撃てばちゃんと当たるし、撃って当たればちゃんと倒せる」

アンチョビ「150kmのボールを投げたり40ヤードを4秒台で走ったり、ベンチプレスで100kg持ち上げたり、或いは身長を190cmにしたり」

アンチョビ「そういうのよりはよっぽどちゃんと、人間が出来ることなんだ。戦車を動かして戦うってことはさ」

アンチョビ「どうだ角谷? 出来そうな気がしてきただろ!?」

杏「チョビ子こそスポーツ詳しいじゃん。アメフトとか野球とか」

アンチョビ「…サンダースで屋台やってるとさ、運動部の子達が楽しそうに話してくんだ。部活のことをさ」

アンチョビ「ごっつい体でわらわらやってきて、バカ話で笑いながら大飯を食らってく。すっごい楽しそうに…ホント、青春って感じでさ」

アンチョビ「そういう楽しみって、運動できる子だけのもんだと思ってたんだ」

アンチョビ「そういう子達が集まって輪を作って…私みたいにあんまし動けない子はそれを外からずっと眺めてて」

アンチョビ「でも戦車道なら、誰だって輪に入れる! いや面白いぞ、ホントに!」

アンチョビ「私の中学時代の実習チームなんて操縦手はバスケ部で砲手は弓道部、そんで車長の私は図書委員だ!」

アンチョビ「フッフッフ、何を隠そうこの編成で私はあの西住まほに勝ったからな!」ビシィ

杏「えっ、マジ?」

アンチョビ「…いや、正確には負けちゃったんだけど、ほぼ勝ちかけた! あの黒森峰の西住まほにだぞ!」

アンチョビ「どうしてそういうことになるのかって言うと、戦車道が最高のチームスポーツだからだ!」

アンチョビ「戦車道はホント、色んなことが詰まってるからな!」

アンチョビ「体力や運動神経、集中力なんかはもちろん要る、スポーツだからな。でも作戦を立てたりシュトリヒ計算したりなんかは完全に優等生の領分だ」

アンチョビ「でもって戦車の整備や知識なんかはマニアの子達の領域で、相手と戦う闘争心なんかはそれこそ『俺は今からお前たちを殴る!』の世界だろ?」

アンチョビ「ホント、色んな子達が関わっていける、交わっていける。それが戦車道の一番いいとこ、最高に楽しいとこなんだと私は思ってる」

アンチョビ「黒森峰みたいに戦車一筋の子達を集めれば話は早い。でも、普通の学校でも戦車隊は作れる。大洗にもいるだろ? 色んな子達がさ」

杏「…いるね。色んな子達が」

アンチョビ「フフ、そういう子達のいいところをうまく組み合わせてやれば、どんな学校でも戦車隊は作れる。戦車道はできる!」
182 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/05/22(火) 23:40:37.69 ID:5TsFLnTk0
アンチョビ「どうだ角谷!? 戦車道やりたくなってきただろ!?」

杏「まあ、できるのはわかったよ。サンキューチョビ子。でもさぁ、できるのと勝てるのは違うでしょ?」

杏「学園艦を挙げて取り組むからには結果が欲しい。やるからには絶対したいんだよねぇ、優勝」

アンチョビ「優勝か…ふっふっふ、角谷。私はあえて断言するぞ。ぽっと出の学校でも、戦車道なら優勝できる!」

アンチョビ「言ったろう? 戦車は撃って当てれば倒せるんだ。一騎当千の武人の戦いじゃない。戦車隊を作れたのなら、あとはココの使い方さ」アタマツンツン

アンチョビ「もちろん戦車隊の練度は重要だ。装甲も火力も大切だろう。でも、どんな戦車でも撃って当てれば倒せるのなら」

アンチョビ「最後に重要になるのは隊長の立てる作戦だ。特に、装甲と火力と練度に恵まれた学校ほど、奇策には弱い!」

アンチョビ「宣言するぞ、角谷。今年の戦車道全国大会、西住率いる最強の黒森峰を破り優勝するのは!!」スッ

アンチョビ「このドゥーチェ・アンチョビ率いるアンツィオ高校だぁーーーーっ!!」ビッシィ

ペパロニ「おお、姐さんカッケーっす」

アンチョビ「ふっふっふ! そうだろうそうだろう! それじゃあ一丁アレをやるか!? せーの!」

アンチョビ「ドゥーチェ!! ドゥーチェ!! ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!」ウデブンブン!

ペパロニ「ドゥーチェ!! ドゥーチェ!! ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!」

ひな「ドゥーチェ!! ドゥーチェ!! ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!」

アンチョビ「ってカルパッチョ、こっち来てたのか?」

ひな「はい、全戦車の整備完了しました。これでいつでも、新入生を迎えられます」

アンチョビ「おおそうか! ご苦労だったな!」

アンチョビ「ようし、今一度みんなで! 全国大会優勝を目指してのドゥーチェコールだぁーーーっ!! せーの!」

杏「ねぇ、チョビ子。それ、うちでやらない?」



アンチョビ「…へ?」

杏「うちにおいでよ、チョビ子。後輩も一緒にさ。たった2人しかいないんでしょ?」

杏「来年度大洗女子は学園の総力を挙げて戦車道をやる。アンツィオ以上の支援ができると思う」

杏「戦車だって、地元のスクラップ工場を通せば大洗に持ち込める」

杏「優勝するなら、戦車道やるならアンツィオじゃなくてもいいでしょ?」

アンチョビ「……」

杏「うちにおいでよ、安斎。大洗で、一緒に戦車道やろう」
183 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/05/22(火) 23:41:56.89 ID:5TsFLnTk0

アンチョビ「…いや、それはできない」

杏「……」

アンチョビ「うちには来年、私と一緒に戦車道をしてくれるって仲間が39人入ってくる」

アンチョビ「全国大会や、冬の合宿で、私自ら声をかけて、そしてその声に応えてくれた大事な仲間達だ」

アンチョビ「その子達を裏切ることはできないよ」

アンチョビ「それに、私はアンツィオに育てられたんだ。ドゥーチェ・アンチョビはアンツィオの風が育てた」

アンチョビ「黒森峰でもプラウダでも、私はきっとダメだったんだ。アンツィオだったから私は、安斎千代美はここまで来れたんだ」

アンチョビ「だから、私の歩んだ戦車道は、私を育てたアンツィオ高校に捧げたい」

アンチョビ「私はアンツィオのドゥーチェ・アンチョビだ」



杏「…そっか、ごちそうさん」ガチャ

アンチョビ「明日も食べに来い、角谷。私が読んだ入門書、全部やるよ」

杏「え?」

アンチョビ「初回特典ってやつだ。このドゥーチェの注釈入りだぞ!」

杏「ちょっと待って、いいの?」

アンチョビ「大洗に転校することはできないが、それでも私は嬉しいんだ」

アンチョビ「一緒に戦車道をやる仲間が増えたことがな!」

アンチョビ「わからないことがあったら何でも聞け! 私にわかることなら全部教えてやる!」

アンチョビ「そんでもってもし全国大会で当たることがあったら」

アンチョビ「その時はこのドゥーチェ・アンチョビが直々に、戦車道の楽しさを実地で教えてやろう!!」ニカッ

アンチョビ「戦車道はいいぞ! 戦車道は楽しいぞ!」

アンチョビ「角谷、一緒に戦車道やろう!」

杏「…サンキュー、チョビ子」
184 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/05/22(火) 23:43:12.62 ID:5TsFLnTk0
桃「…よろしかったのですか?」

桃「安斎千代美は現高校戦車道で唯一、うちに来てくれる可能性のあった隊長」

桃「どんな手を使ってでも引き入れるべきだったのでは」

杏「どんな手を使ったって無理だよかーしま」

杏「だから私達はこうやって、戦車道やろうとしてんじゃないか」

桃「…そうでしたね、会長」

杏「ま、チョビ子の言を信じるなら、戦車道自体は始められそうだし」

杏「後は在校生の中からやれそうな子を集めるしかないでしょ」

杏「かーしまは、チョビ子の入門書で猛勉強よろしくー」

桃「はっ」


prrrrrrrrrrrrrrrrrr…


杏「っと、小山から電話だ。もしもーし」

柚子「朗報です会長! 新年度から我が校に…!!」








柚子「西住みほさんが転校してきます!!」
185 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/05/22(火) 23:44:01.18 ID:5TsFLnTk0

<アンツィオ高校学園艦・アンチョビの部屋>

アンチョビ(タダノカズヒト、検索っと)

アンチョビ(お、なんだろうこの動画? ドラマかな?)

アンチョビ(いい声してるなぁ…そういえば渋谷凛もしきりに声を褒めてたっけ)

アンチョビ(野球選手なのに俳優もやってたんだ…二足のわらじですごいなぁ)

























アンチョビ「う”あ”あああああ””ああああああああああああ!!!!???」




アンチョビ「なっ、な”あ”あああああ””ああああああああああああ!!!!???」




アンチョビ「わ”あ”あああああ””ああああああああああああ!!!!???」







ペパロニ「どうしたんすか姐さん!?」ガチャッ

ひな「大丈夫ですかドゥーチェ!?」

アンチョビ「うわああっ!! み、見るなぁ! 見るんじゃなぁい!!」

ペパロニ「…何見てんすか? 姐さん」

ひな「なんだこれは…たまげたなあ」
186 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/05/22(火) 23:44:46.82 ID:5TsFLnTk0

<おまけ・少し先の未来・大洗女子学園艦>

杏(…ホントにバーッと走らせてドーンと撃ってで座学が終わった)


杏(確かにそれで動かせちゃったけど…)






杏(…大丈夫なのかなぁ、これ)
187 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/05/22(火) 23:45:20.73 ID:5TsFLnTk0
今回は以上です。ありがとうございました。
188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/23(水) 06:21:49.10 ID:OhO0uaYJO
乙!
189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/23(水) 07:42:58.38 ID:YWUXwqGSO
パッチョ姐さんwwwwww
190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/24(木) 08:49:56.38 ID:ed8IPq1i0

チョビ子はどこに行っても元気だなぁw
191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/24(木) 11:20:24.66 ID:IxDyh4db0
モブがやたら濃かったりホモビ見たりまほチョビの可能性とは一体…うごごご!
192 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/06/03(日) 20:46:53.85 ID:JyO0DgQv0
投下します。まほチョビは超隠しルートです。
アンツィオをちゃんと育てないとたどり着けないんです。
193 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/06/03(日) 20:50:02.75 ID:JyO0DgQv0
<高校3年の4月・アンツィオ高校学園艦・アンチョビの部屋>

アンチョビ「この子はアマレット、この子はパネトーネ…この子はジェラート先輩と同じ名字だから、ジェラートでいいな」

アンチョビ「…鈴井はやっぱり、どうしてもミスターって呼びたいなァ。食べ物じゃなくても…イタリアっぽければ別にいいか!」

アンチョビ「よし、イタリアっぽさマシマシでミスタにしよう! 奈良はナランチャ、汐華はジョバーナ…いや、名前から持ってきてジョルノだな!」

アンチョビ「うーん、去年と違って人数多いからソウルネーム考えてやるのも大変だなァ…うへへ、今から会うのが楽しみだぁ!」

コンコン

ひな「失礼します、ドゥーチェ」ガチャ

ペパロニ「こんばんはっす、姐さん」

アンチョビ「ん? おお、どうした二人とも? ドゥーチェは今新入生の子達のソウルネームを考えるのに忙しいんだ」

ペパロニ「おっ、恒例のアレっすね! どれどれ…食べ物くくりじゃないんスか姐さん?」

アンチョビ「ああ、そいつらは中学時代からの後輩だ…いや! ダメだぞ!? 鈴井のヤツは絶対にミスタって呼ぶんだ! そこだけは譲らん!」

ペパロニ「や、別にいいっすよそんなん…何スかそのこだわり?」

アンチョビ「…小さいころ、ムンクさんになりたかったんだよ私は」

アンチョビ「まあこんだけ人数増えたからな。その辺はもう緩々で行こうかなってさ」

アンチョビ「で、どうしたんだひな? 何か用事があったから来たんだろ?」

ひな「はい、単刀直入に言います。イメチェンしましょう、ドゥーチェ」

アンチョビ「…はい?」

ひな「イメチェンです、ドゥーチェ。イメージチェンジ。よりアンツィオ戦車道の総統として相応しいドゥーチェへと」

アンチョビ「おいひな…それじゃまるで、私がドゥーチェに相応しくないみたいじゃないか!」

ひな「はい。今のドゥーチェでは、この先のアンツィオを率いていくことは不可能かと」

アンチョビ「なあ゙っ!? お、おいカルパッチョ、お前…」プルプル

ひな「覚えていますか? ドゥーチェ。去年の今頃、私達2人が出会った日のことを」

アンチョビ「…そんなの、忘れるわけないだろ? 私にとって、初めての後輩だったんだからな、お前は」

アンチョビ「確か、『茨城に帰るーーーーっ!! たかちゃんといっしょの学校行くーーーーーっ!』って大泣きしたっけなお前」

アンチョビ「そんでもって私も『お願いだから逃げないでくれーーーっ!!』って、2人して泣いちゃって…いやぁ、懐かしい」

アンチョビ「でも、アンツィオに残ってよかったろ?」ニカッ

ひな「それはまあ…って、そっちじゃないんです! 思い出してほしいのは、その前! その前の私の態度です!!」

アンチョビ「その前…? んー…」


―――そうですね。それじゃあ、パスタがいっぱい売れて

―――せめて砲塔のついた戦車が買えるようになったら

―――その時に、改めて勝負を挑ませて貰いますね。ドゥーチェの座を賭けて


アンチョビ「はっ!? まさかカルパッチョお前、いよいよこのドゥーチェの座を狙って!?」バッ

ペパロニ「何!? ひなテメェ、姐さんの寝首をかこうってかァ!?」ザッ

ひな「違うわよペパロニ。今更そんなことしないわ。私だって、ドゥーチェのこと大好きだもの…そう、『私は』ね」

アンチョビ「『私は』って…それじゃあまさかペパロニが!?」

ペパロニ「いやいや姐さん! 私が姐さんを裏切るわけないじゃないッスかぁ! 流石に怒りますよ?」

ひな「…でもペパロニ、あなた最初にドゥーチェと出会った時にこう言ったでしょう?」


―――弱っ!? 戦車道って格闘技っすよね? こんなんで大丈夫なんスか?

―――びびって怒って泣いて笑って、そんでもって歌まで歌いだして…戦車道やってる奴ってあんな感じだったかなぁ?


ペパロニ「あー、そういや確かに。最初はそんなこと思ったっけなぁ」

アンチョビ「お、おいペパロニ?」
194 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/06/03(日) 20:50:57.43 ID:JyO0DgQv0
ペパロニ「基ッ本的に弱そうなんすよねぇ、姐さんは。そこがかわいいんスけど」

アンチョビ「ペパロニ!?」

ひな「そう、そこなのよペパロニ。ドゥーチェはいっつも笑ってて、優しくて、楽しそうで…もちろんそれがドゥーチェのいいところなのは解ってますよ?」

ひな「でもそのせいでドゥーチェは…はっきり言って威厳ゼロです。戦車道の隊長に必要不可欠な威厳が全く、なくなっちゃってるんですよ」

アンチョビ「威厳ゼロ…」

ひな「想像してみてくださいドゥーチェ。あなたはアンツィオ戦車道科の新入生です。中学時代はバリバリ戦車道やってました。今日は初顔合わせです」

ひな「ガレージに入ったらツインテールの隊長がチョビチョビニコニコしながらパスタ茹でてました。さあどうします?」

アンチョビ「ニコニコはともかくチョビチョビってなんだよ…パスタ食べて自己紹介?」

ひな「はい0点。正解は勝負の二文字です…いえ、ひょっとしたらパスタ食べてから勝負かもしれませんけど」

ひな「普通、戦車道やってる子は我が強いんですよ。常に自分が一番でありたい。強い自分でいたい」

ひな「それは戦車女子の美徳でもありますが、同時に欠点でもある。だからこそ、そんな彼女達を束ねる隊長には威厳というものが必要不可欠なんです」

アンチョビ「威厳…」

ひな「…あの頃からは信じられないことですが、この一年でアンツィオ戦車隊は大きく変化しました」

ひな「39人の新入生を迎えればもう、9輌の戦車を運用できる立派な戦車隊です」

ひな「資金だって、あと少しで新戦車だって導入できるくらいにまで貯まりました」

ひな「しかも私達には他校にはない、自力で軍資を稼ぎ出せるという強みまである」

ひな「私が入ってきたころの、ドゥーチェがオンボロ屋台で一人でパスタを茹でていたころとは違う」

ひな「アンツィオ戦車隊は、十分に魅力的な部隊になったんです…そう、乗っ取るには十分過ぎるくらいに」

アンチョビ「……」

ひな「ですから! イメチェンが必要なんですよ、ドゥーチェ」

ひな「私とペパロニは、ドゥーチェのことが大好きです。ドゥーチェの凄さも優しさも、全部全部知ってます」

ひな「でも、新入生たちはそうじゃない。だからドゥーチェは、変わらなければいけないんです」

ひな「大きくなったアンツィオ戦車隊を率いるにふさわしい、強くて大きな鋼のドゥーチェに!」

アンチョビ「強くて大きな鋼のドゥーチェ…!!」ゴクリ

ひな「私も、偉大なドゥーチェの側に控える鉄の副官に戻ります。そしてペパロニも、屋台の気のいい姐さんの顔だけじゃなく、戦車隊に相応しい顔を持たせます」

ペパロニ「えー、私も?」

ひな「…立ち振る舞いは私が教えます。小学生の頃から戦車道の世界に首までずっぽり浸かっていた、この私が」

ひな「これがアンツィオ戦車隊戦車担当副隊長としての、この私の最初の大仕事。そしてここまで連れてきてくれたドゥーチェへの最初の恩返し!」

アンチョビ「!!」

ひな「…やってくれますね? ドゥーチェ」

アンチョビ「ひな…ようし、お前の思いはよくわかった!」

アンチョビ「私だってチーム・ナックスに憧れた身だ! 完璧に演じてやるさ!!」

アンチョビ「大きくなったアンツィオ戦車隊を率いるにふさわしい、強くて大きな鋼のドゥーチェというやつをなァ!!」ビッシィ
195 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/06/03(日) 20:51:55.57 ID:JyO0DgQv0
<高校3年の4月・アンツィオ高校学園艦・戦車道科格納庫>

ひな「ひぐっ…ぅううううっ…うわああああああんっ!!!」ボロボロ

アンチョビ「あー…」

ひな「返してよ…私達のドゥーチェを返してよぅ…うああああああんっ!!」ギュウウ

アンチョビ「よしよーし、大丈夫だぞー。お前たちのドゥーチェはどこにも行かないぞー」ナデナデ

ペパロニ「やー、姐さん…っと、いけね。ドゥーチェだドゥーチェ…ドゥーチェ、演技上手いっすねぇ? 超意外っしたよ」

アンチョビ「フフン、こう見えて演劇とか結構興味あったからな! 実は割と自信あったぞ」

アンチョビ「戦車道始めてなかったら、大学なんかで演劇研究会に入るつもり…っ、いだだだだっ! 泣くのはいいけど装填手パワーで絞めるなひなぁ!!」ジタバタジタバタ

ひな「ひっく…ひっく…ドゥーチェは一生戦車道するんだもん…演劇部なんかにあげないもん…!!」ギチギチミシミシ

ペパロニ「あー、アレっすね。姐さ、ドゥーチェ戦車女子をダメにする電波とか出してません?」

アンチョビ「おいなんだ? 今度は人を怪人扱いか? まあ、言いたいことはわかるけど」

ひな「ぅう…違う…違うもん…ダメじゃないもん…ダメになんてなってないもん…」グスングスン

アンチョビ「よしよし…しっかし、そんなに怖かったか? こう、ひなの言う隊長イメージに私なりの鋼のドゥーチェ分を加えて演じてみたんだけど…」

アンチョビ「まさか言いだしっぺのひながここまでダメージ食うとはなぁ」ナデナデ

ペパロニ「あー、怖いッつーかなんつーか…嫌、ッスかね?」

アンチョビ「嫌?」

ペパロニ「去年の決勝んとき、姐さんブチ切れたじゃないっすか。あんときと似た感じっすね」

アンチョビ「ああ、あれかぁ…あれと同じかぁ。そういえばあの時もひなはこんな感じになってたなぁ」

アンチョビ「じゃあアレか? ペパロニも嫌か? 勝利第一の西住風アイアン・ドゥーチェは?」

ペパロニ(あ、やっぱり西住さん意識してたんすね姐さん)

ペパロニ「あんまし見たくないっすねぇ。必要ならしょうがないっすけど」

ペパロニ「でもぶっちゃけ、あんなん見るくらいなら調子こいた1年坊を片っ端から焼き入れて回る方がずっとマシっすね」

ひな「ぐすっ…私もやる…さっきまで新入生だったものを辺り一面に転がしてやる…!」ギラリ

アンチョビ「なっ、ダメだダメだダメだ!! そんなこと絶対にダメだ2人とも!! そんなんやっちゃあ2年前に逆戻りだぞ!!」

ペパロニ「えー、でも戦車道チームならちょっとくらいそういうのもアリなんじゃないすか? それこそ黒森峰辺りじゃ…」

アンチョビ「っ…」


(筋肉モリモリマッチョマンの逸見エリカとさっきまで新入生だったものが辺り一面に転がるイメージ)


アンチョビ「いーや、ナシだナシ! 例え黒森峰がそうだとしてもアンツィオじゃそんなの絶対に許さん!」

アンチョビ「大体黒森峰と同じことやったってうちが黒森峰に勝てるわけないだろ!?」

アンチョビ「むしろ黒森峰で逸見…逸見サンがその筋肉と剛腕で新入生達を大虐殺しているならうちは逆をやらねばならん!!」

アンチョビ「黒森峰が力と恐怖で支配するのなら、うちは…うちは、なんだろう?」

ペパロニ「いや、私に聞かないで下さいよ。話してんの姐さんじゃないっすか」

アンチョビ「うーん…上手くは言えないけど、アレだ。すごーい!とたのしー!で支配しよう!」

アンチョビ「いや、支配ってのも違うな。何だろう? 何て言えばいいんだろうな? むむむ…」

ペパロニ「姐さん…姐さんも戦車女子ダメにする電波にやられてません?」

アンチョビ「やられてない! まあ、とにかくアンツィオはそんな感じで行きたい! それがアンツィオの戦車道だ!」
196 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/06/03(日) 20:53:27.92 ID:JyO0DgQv0
ひな「…それで、具体的には何をするんです? ドゥーチェ」

アンチョビ「お、復活したなカルパッチョ」

ひな「ひなです。さっきまでの私は忘れてください。それで、いったい何をされるつもりですか?」

アンチョビ「ふっふっふっふ…聞いて驚け! 在校生VS新入生、2対5の模擬戦だ!!」

ひな「2対5の模擬戦!?」

ペパロニ「正気っすか姐さん!?」

アンチョビ「ああ、正気だペパロニ! これで勝ったら新入生たちも絶対、私達のことを凄いと思うだろ? 私達のことを認めるだろう?」

ひな「いえ、それは認めるでしょうけど…」

ペパロニ「勝てるんスかドゥーチェ。大見得切って負けたら超かっこ悪いっすよ?」

アンチョビ「西住は中学ん時、こっちの5輌の包囲をほぼ単騎で突破したぞ? それにペパロニ、お前ケンカなら1対5で勝てるって言ってたじゃないか」

ペパロニ「いや、そりゃ素手なら5人でも10人でも辺り一面に転がしてやりますけど、ねぇ?」

ひな「…何か作戦がおありなんですね? ドゥーチェ」

アンチョビ「作戦、というよりは策略だな」ニヤリ

アンチョビ「まず一つ、この新歓模擬戦は豆戦車のみを使おうと思う。ひな、お前リトルやシニアで、豆戦車どれだけ乗った?」

ひな「それは…」

アンチョビ「ほとんどないだろう? うちの新入生達もきっとそうだと思う。豆戦車なんて言うと低く見られがちだけど、あれはあれで特性ってヤツはある」

アンチョビ「操縦と機銃とで戦う豆戦車の戦い。そこに慣れない最初の最初だからこそ、この模擬戦は私達に有利なはずだ」

アンチョビ「何せ操縦なら、私達は強豪校にだって負けないくらいの訓練を積んできているからな。そうだろう!?」

ひな「…確かに。『校外実習』の名目で1日中戦車を走らせられた私達は、その点では通常の授業も受けなければいけない強豪校よりも恵まれていますね」

ペパロニ「まあ途中でパスタ茹でたりもしてたッスけどね」

アンチョビ「次に一つ、今年の新入生は結構バラバラなところからうちに入学してくる点」

アンチョビ「リトルやシニアの経験者もそこそこまあまあいるけれど、一つのチームからまとめての入隊は、それこそ豊田シニアの奴らくらいだ」

アンチョビ「つまり、大半の車両は互いの癖もわからないまま模擬戦に挑むことになる。まして車間の連携など望むべくもない」

ひな「対するこちらの2輌は阿吽の連携で戦いに臨める…!!」

アンチョビ「その通り! 2対5の戦いと言いつつその実この模擬戦、2対1を5回繰り返すだけというわけだ!」

ペパロニ「なるほど! だったら楽勝ッスね姐さん!」

アンチョビ「2対1×5の状況に持っていくには地形の把握が最も重要となる…だがその点ここアンツィオ演習場は我々の庭も同然! これもまた一つ!!」

アンチョビ「ちなみにこちらのチーム分けはひなとペパロニで1輌、私の1輌には豊田のジョルノを機銃手につけようと思う」

アンチョビ「人が足りないから顔見知りの後輩を引き入れる。何の不自然もない行為だが…これで豊田シニアの連携も阻害できる」
197 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/06/03(日) 20:54:09.92 ID:JyO0DgQv0
アンチョビ「以上、3つの策略を以てこの新歓模擬戦は我々の勝利で終わるというわけだ! どうだ? すごいだろう!?」

ひな「すごいですドゥーチェ!」

ペパロニ「姐さんちゃんと作戦考えられたんすね!」

アンチョビ「当然だ! 私だって戦車道がやりたくて、こうして頑張ってきたんだからな! 念願の、我が校初の模擬戦だ! 作戦を立てるこっちだってこう、気合がな!!」ビシィ

アンチョビ「…まあ、半分くらいだまし討ちみたいな感じになっちゃうのは申し訳ないから、最後にはネタばらししようと思うけどな」

ひな「ええっ!? そんなことしたら…」

アンチョビ「いや、そうした方がいいんだ。この模擬戦の目的は私達が勝つことじゃない」

アンチョビ「あくまで私達が、アンツィオ戦車道が弱くないということをわかってもらうこと」

アンチョビ「一緒にやっていけばもっともっと強くなっていけるってことをわかってもらうことが目的なんだ」

アンチョビ「そしてもっと言えば、作戦次第で戦力差なんていくらでも覆せるってこと、つまりアンツィオの戦車道を知ってもらうことが目的なんだ」

アンチョビ「だから、ちゃんとネタばらしはしなきゃダメだ。敵じゃなくて仲間なんだからさ」

ひな「…ですが、それをしてしまえば模擬戦での勝利の意味が半減してしまうのでは?」

アンチョビ「まあな。だから、半減する前に次の作戦を実行するんだ」

ひな「次の作戦? それはいったい」

アンチョビ「決まってるだろう?」ニカッ



アンチョビ「みんなで美味い飯を作って食べる! それが私達の戦車道だ!」
198 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/06/03(日) 20:55:06.13 ID:JyO0DgQv0
<高校3年の4月・アンツィオ高校学園艦・戦車道演習場>

アンチョビ「こぉらーーーーーーーーーっ!!」



アンチョビ「誰だ機銃弾出しっぱにしたヤツはぁ! こんなとこ置いてちゃ危ないだろぉっ!!」



アンチョビ「脱いだ服はちゃんと畳めぇ!! いやその前に戦車乗るときは脱いじゃダメだ!! 怪我しちゃうだろぉ!!」



アンチョビ「お前ら約束の時間だぞーーーっ!! 時間になったらちゃんと集まれぇーーーーーーっ!」



アンチョビ「今はドゥーチェが大事な話してるんだぞォ!? 時間だからって勝手に解散するなぁーーーーっ!! いや時間守れとは言ったけどぉ!!」



アンチョビ「好き放題勝手に走り回るなーーーーっ!! 孤立したらすぐやられるって模擬戦で教えただろーーーーーっ!!?」





アンチョビ「あーーーーーもーーーーー! ちーーーーがーーーーうーーーーだーーーーろーーーーーっ!!!」





ペパロニ「やー…今日も頑張ってんなぁ、姐さん」

ひな「そうねー。今日も今日とて、みんなのドゥーチェとして頑張ってるわねぇ」

ペパロニ「結局、全部要らなかったな。演技の練習とか、アイアンドゥーチェとか」

ひな「あら、模擬戦は大成功だったじゃない? ドゥーチェも『これがアンツィオ戦車道だぁーーーーっ!!』なんて大はしゃぎしちゃって」クスクス

ペパロニ「でもアレだろう? 私が言うのもなんだけど、あんなノリで大丈夫なのか? 戦車道って」

ひな「大丈夫よ。みんな、あんなノリでも戦車を動かすのは好きな子ばっかりだから」

ひな「走り込みなんかの地味な基礎練も、ジョルノがいい具合に皆を挑発してくれてるし」

ペパロニ「あー、アイツいいよなぁ。アマレット達、アイツにだけは負けたくねぇって躍起になって走り込んでるもんなぁ」

ペパロニ「あとアレだな。エッタとかリコとか、あの辺の幸薄そう組にも負けたくねぇって」

ひな「ふふ、あの子達もまだまだ伸びるわよ? 中学3年間のブランクがあるわけだしね」

ひな「料理の方はどうなのペパロニ?」

ペパロニ「とりあえず、アマレット、パネトーネ、ジェラートはイケるな。食うのが好きなら、作るのも大体覚えるのは早ぇ」

ペパロニ「他は全員、去年のお前並だ」

ひな「あら、パスタドーム?」

ペパロニ「ま、5月までには全員形にするけどな! せっかくドゥーチェが食う量の多い船舶科の学食当番取ってきてくれたんだ」

ペパロニ「これだけ人手が多くなって、屋台だけで養うのはもう無理だ。この仕事を逃すわけにはいかねーよ」

ひな「ええ、燃料も弾薬も、びっくりするくらいの早さで減ってくものね…やっぱり列島縦断合宿、無駄だったんじゃないかしら?」

ペパロニ「馬鹿言え。あれやったからこそ、こういうメンツが揃ったんだろうが」

ひな「ふふ、それもそうね」
199 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/06/03(日) 20:56:26.09 ID:JyO0DgQv0

ペパロニ「…ひな、お前さ。こうなることわかってただろ?」

ひな「ん?」

ペパロニ「うちらで顔見て声かけた奴らだ。姐さんの寝首をかこうなんてのはいないって、わかってたはずだろ?」

ペパロニ「そんなギラギラした、『真っ当な』戦車女子はうちになんてそもそも来ないだろ」

ひな「私は来たんだけど…まあ、豆戦車と自走砲しかないって知ってたら絶対来なかったでしょうね」

ペパロニ「お前、なんであんな、鉄のドゥーチェなんて言い出したんだ?」

ひな「そうねぇ…ホントはこの機会に、ドゥーチェを自分好みの隊長に仕立てて遊ぼうかなとか思ってたんだけど」

ひな「まさか、あんなにドゥーチェが演技上手だったなんて…完全に油断してました」

ペパロニ「それで泣くとか、バカじゃねーの?」

ひな「はい、馬鹿でした」

ひな「…でもね、ペパロニ。普通はこうじゃいけないのよ? あんな風に、隊長がみんなにがなってるのに」

ひな「誰も何も堪えてない。そんなんじゃ戦車隊は、やっていけないの」

ひな「少なくとも、普通の戦車道ならね。普通の戦車道なら、それこそ力と恐怖と規律とで、まとめ上げなきゃやっていけない」

ひな「少なくとも私は、そういう戦車道の中で生きてきた」

ペパロニ「……」

ひな「…不安、だったのかな? このままでいいのかなって。このままで大丈夫なのかなって」

ひな「せっかくここまでドゥーチェが育んできたアンツィオ戦車道が、バラバラのメチャクチャになってしまう」

ひな「そんなのは絶対嫌だったし、そうなったときのドゥーチェを見るのはもっと嫌」

ひな「だったら、私も何かしなくちゃなって。私には何ができるかなって」

ひな「でも、そんな心配要らなかったみたいね…」

ペパロニ「昔お前の言った通りだったろ。ドゥーチェはすごいんだ」

ひな「ええ、本当…何だかんだでドゥーチェはちゃんと考えてて」

ひな「1年生の子達も、出自も考えもバラバラでも、ちゃんとみんなで戦車に乗れてる」

ひな「お昼や夕方には、パスタを茹でたり、屋台をやったり、ちゃんとやれてる」

ひな「ちゃんとみんなで、ドゥーチェの下でまとまれて…」




アンチョビ「だーーーかーーーらーーーーっ!!」

アンチョビ「おやつを減らさないと新戦車買えないんだって! うちはお金ないんだって!!」

1年生A「えー、でもペパロニ姐さん言ってましたよー? この調子なら新戦車買えるって」

1年生B「そーそー、今年の冬にはバッチリ金貯まるってさー!!」

アンチョビ「冬じゃ間に合わないだろーーーーーっ!?」

1年生C「間に合わないって何に?」

1年生D「何にでしょう?」

アンチョビ「何にでしょうって、夏大会に決まってるだろーーーーっ!!?」

1年生E「別に夏大会に間に合わなくったっていいんじゃねーの?」

アンチョビ「ぬなぁ!?」



ペパロニ「まとまれて?」

ひな「……」スッ
200 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/06/03(日) 20:57:57.99 ID:JyO0DgQv0
パンパン!



ひな「はいみんな聞いてー! ドゥーチェはねー! 3年生なのよー!」

ひな「今年の夏大会で引退しちゃうのー!」

1年生E「えっ!? ドゥーチェ3年生だったのかよ!?」

1年生G「僕らの2年上なんですから3年生に決まってるでしょう」

1年生I「ひな姐さん達と同い年かと思ってた」

ひな「みんなー! ドゥーチェだけ新戦車に乗れないの、かわいそうでしょうー!?」

1年生A「そりゃかわいそうだ」

1年生C「かわいそうっす!」

ひな「だったらみんなー! おやつ我慢できるよねー!?」

1年生B「じゃあしょうがねーか」

1年生D「そうですねー」

1年生H「ひな姐さんが言うならしゃーねーかー」

ひな「ありがとうみんなー! ほら、ドゥーチェもありがとうしましょうねー?」

アンチョビ「ああ、ありがとう皆…ってオイ! 私にまでそのノリでしゃべりかけるのはやめろ!」

アンチョビ「お前たちもここは幼稚園じゃないんだぞー!? 栄光のアンツィオ戦車隊なんだぞー!? 少しは恥ずかしいと思えーーー!!」


カンカンカン!!


ペパロニ「オメーら! いつまでもグダグダやってんじゃねーぞ飯の時間だーっ!!」

ペパロニ「さっさと支度しろー! 今日もビシビシ行くからなァーーーーっ!!」

アンチョビ「あっ、おいペパロニ! 私の話はまだ…」

1年生A「ペパロニ姐さーん、たまには学食行きましょうよー!」

1年生B「私らもうくたくたですよー!」

1年生C「せっかくアンツィオなんだからー」

ペパロニ「ダメだ! てめーの飯も作れねー分際で学食なんざ10年早ぇ!!」

ペパロニ「ここはアンツィオ高校だ! 料理で食ってく術を学ぶ場所だ!!」

ペパロニ「学食よりも美味い飯を作るくらいの気合を持てーーーっ!!」

1年生H「そんなん無理だぜペパロニ姐さーん!」

1年生E「マルガリータが食いたーい!」

ペパロニ「ピッツァなんざ100年早ぇ! いいからまずはパスタを覚えろ!!」

アンチョビ「いやいやちょっと待てペパロニ! だったら今日はピッツァにしよう!」

ペパロニ「いやちょっとダメっすよ姐さん、こういうのは順番に…」

アンチョビ「せっかくピッツァのリクエストがあったんだ。だったらこの機に覚えさせた方がいいだろ?」

アンチョビ「5月には学食やんなきゃなんないんだからな!」

ペパロニ「えー、私にも段取りがあるんスけど」

アンチョビ「そんなの気にするな! こういう時こそノリと勢い、そうだろう!?」
201 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/06/03(日) 20:58:41.98 ID:JyO0DgQv0
アンチョビ「いいかよく聞け諸君! パスタは一応卒業だ! 今日から炊事訓練はピッツァをやるぞ!!」バッ

1年生H「ヒャッホーイ!」

1年生E「さっすがドゥーチェ! 話がわかるゥ!!」

ペパロニ「ちょっ、姐さんそんな勝手に!」

アンチョビ「その代わり! やるからには本気でやるぞ! 学食なんかよりずっと美味いピッツァを焼くんだ!!」

アンチョビ「いいかお前らー! 今夜は夜通しピッツァ焼くぞぉ! ひたすら焼いて食って焼いて食ってを繰り返す!!」

アンチョビ「おやつを減らす代わりに食事はきっちりガッツリ採る!!」

アンチョビ「今夜は夜通し、ドゥーチェ・アンチョビのピッツァ祭りだーーーーっ!!」

オオーッ!!

アンチョビ「ドゥーチェ!! ドゥーチェ!! ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!」ウデブンブン

1年生達「「「「ドゥーチェ!! ドゥーチェ!! ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!」」」」

アンチョビ「ドゥーチェ!! ドゥーチェ!! …ほらペパロニもーっ!!」グイッ

ペパロニ「姐さん…ったく、しょうがないなぁ…ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!」

アンツィオ戦車隊「「「「「ドゥーチェ!! ドゥーチェ!! ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!」」」」」




ひな(撃てば必中、守りは堅く、進む姿に乱れなし。鉄の掟、鋼の心)

ひな(西住流に限らず、戦車道とは力と恐怖と規律で形作られるもの)

ひな(程度の差はあるかもだけど、それが普通の戦車道…)

ひな(でももしも…)

ひな(もしも『好き』と『楽しい』だけで、それでまとまれる戦車道があるならば)

ひな(それはきっと、全く新しい戦車道の世界…)

ひな(ねぇ、ペパロニ。ねぇ、ドゥーチェ)

ひな(戦車道に詳しくない二人にはちょっとわからないかもしれないけれど)

ひな(実は私達、すごいことしようとしてるのよ?)

ひな(変で、あり得なくて、とても変で)

ひな(それでも…)

アンチョビ「カルパッチョー! お前もピッツァは苦手だろー!? いつまでも幼稚園のお姉さんモードで眺めてるんじゃないぞーーーっ!!」

ひな「はーい、今行きまーす」



ひな(それでも、あなたなら。あなたとなら、きっと…)
202 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/06/03(日) 20:59:49.43 ID:JyO0DgQv0




――――その半月後




――――そんな私の馬鹿げた幻想は




――――木端微塵に粉砕されることになるのでした





絹代「吶ッ喊ッ!!」



203 : ◆Bkxeh6JCZU [saga]:2018/06/03(日) 21:02:12.43 ID:JyO0DgQv0
今回は以上です。ありがとうございました。
204 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/03(日) 22:18:39.99 ID:/SU1DYFs0

なんか将来的にギャングスタになりそうな奴が混じってるぞ新入生w
あとチョビの中でのエリカに対するイメージが愉快にヤバい方向に走ってるじゃねーかwww
205 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/04(月) 10:04:09.02 ID:1W8zvONU0

いつも面白かったけど今回の更新が一番好きだな
最初のもそうだけど、ガチ泣きひなちゃんかわいい
206 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/03(火) 12:45:12.09 ID:mp3XCKs20

もう1か月だな
>>1大丈夫かな
207 : ◆Bkxeh6JCZU [sage]:2018/07/04(水) 22:13:38.82 ID:snF25DMT0
お待たせして申し訳ない。リアル多忙につきまともに創作できてない状態です。
秋頃に戻れたらいいなと。
208 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/02(木) 07:02:05.99 ID:KknNMJYK0
待つよ、いつまでも!
209 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/15(月) 09:14:46.73 ID:gvBRgTba0
そろそろ秋だな
210 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/19(月) 12:17:20.15 ID:rhe++jGF0
11月なってる
211 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/09(水) 17:55:27.44 ID:k63njbWq0
秋とは2019年のかもしれないな
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