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ギャルゲーMasque:Rade 李衣菜√
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1 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2018/03/27(火) 20:18:25.48 ID:qI0KAu2uO
これはモバマスssです
ギャルゲーMasque:Rade 加蓮√
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1514899399/
ギャルゲーMasque:Rade 美穂√
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1516469052/
ギャルゲーMasque:Rade 智絵里√
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1517466864/
ギャルゲーMasque:Rade まゆ√
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1518286150/
の別√となっております
共通部分(加蓮√81レス目まで)は上記の方で読んで頂ければと思います
また、今回は李衣菜√なので分岐での選択肢には無かった4を選んだという体で投稿させて頂きます
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1522149505
2 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/03/27(火) 20:20:24.13 ID:qI0KAu2uO
P「……青春があったよ」
加蓮「は?」
なんかもう、色々あった。
鍋やったり、キスされたり。
遊園地行ったり、キスされたり。
一言で言うなら、きっと青春がピタリと当てはまる言葉だろう。
P「なんて言うかまぁ……高校生だな、って」
今まで、そんな経験した事無かったから。
もしかしたら高校生なら当たり前の事なのかもしれないけど。
正直どうすれば良いのか分からない、ってのが本音だったりする。
P「……ん、そうだ。先週の金曜日さ」
放課後、屋上で。
北条にもキスされたんだ。
なんだかこの学園が突然アメリカンハイスクールになってしまったんじゃないかと疑うレベル。
彼女達からしたら、キスは挨拶がわりなのだろうか。
……んな訳無いよな、流石に。
加蓮「……あれ、鷺沢の事だからもっとはぐらかそうとすると思ってたんだけど」
P「はぐらかして良い事だったのか?」
加蓮「まさか、このまま言い出してくれなかったらポイント失効どころか会員永年追放だったよ」
危ないところだった。
そして。
北条はけらけらと笑いながら言ってはいるが。
それは、つまり……
3 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/03/27(火) 20:21:05.36 ID:qI0KAu2uO
加蓮「……何?もう一回キスして欲しいの?」
P「……いや、やけに明るいなぁって」
加蓮「アンタの性格は分かりやすいからね」
P「自分じゃどうか分からんけど、そうなのか?」
加蓮「どうせ『あいつさては俺に気が……いや待てよ?ドッキリの可能性やその場の雰囲気に流さてた場合も考慮すべきだ……取り敢えず次会った時確認しよ』って考えだったんでしょ?」
お見事過ぎて何も言い返せない。
加蓮「……はぁ。それに……ふーん、へー……」
P「なんだ、日本語で話さないと伝わらないぞ」
加蓮「だよね、言葉にしないと伝わらないよね」
……こいつ、どこまで分かってるんだ?
加蓮「まぁいいけど。放課後は時間ある?」
P「あ、悪い……放課後は予定が入っちゃってるんだ」
加蓮「誰?」
気温が一瞬にして0を下回った気がする。
おかしい、さっきまで楽しく談笑出来ていた筈なのに。
いきなり異世界あたりにワープしたりしてないだろうか。
GPS情報を確認しても、別にここはシベリアになっていたりはしなかった。
加蓮「……ねぇ、誰?」
P「……ヒ・ミ・ツ!」
加蓮「は?」
P「ちえ……緒方さんです」
震えてなんていない。
もし震えていたとしたら、それは寒いせいだ。
加蓮「……ふーん、何?また告白の練習に付き合ってとか言われたの?」
P「いや、単純に来れたら来てって言われただけだけどさ」
加蓮「そ。なら断っても問題ないよね」
……いや、その理論はどうなんだろう。
文的には間違ってないが人間的に色々とアレな気がする。
キーン、コーン、カーン、コーン
加蓮「……続きは教室で話そっか」
P「俺知ってるぞ、俺だけ千川先生に怒られるやつだ」
4 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/03/27(火) 20:22:00.96 ID:qI0KAu2uO
教室に俺と北条が遅刻して入る。
一斉に向けられる大量の視線が痛い。
特に、まゆと美穂。
なんでお前北条と登校してるの?的なオーラを感じる。
ちひろ「まったく鷺沢君……二年生になって気がたるんでるんじゃないですか?」
P「気は張り詰めてるつもりなんですけどね……」
当然北条はお咎めなし、と。
さっさと窓側の席に座って俺をニヤニヤと眺めてやがる。
俺はと言えばこの後美穂とまゆと智絵里ちゃんに囲まれなきゃいけないっていうのに。
智絵里「……Pくん……その、ライン……見てくれましたか……?」
P「ん、あー……後ででいいか?」
智絵里「……はい…………」
まゆ「智絵里ちゃん、Pさんと仲良しさんですね」
美穂「ふふ、仲が良いのは素敵な事だと思います」
この教室、外より気圧が高過ぎないだろうか。
肩と心にかかる重圧にプレスされそうだ。
ちひろ「特に連絡事項はありません。夕方は雨らしいので、傘を忘れた子は事務室で借りられますから利用して下さいね」
HRが終わり、千川先生が教室を出て行く。
それと同時、北条が俺の席まで来た。
加蓮「さて、鷺沢。私と一緒に一時間目サボってみたりしない?」
P「流石にそれは遠慮させて貰おうかな」
美穂「えっと……貴女は……?」
まゆ「彼女は北条加蓮ちゃんです。先週のPさんの用事の原因ですよぉ」
加蓮「……ん、アンタは確か……」
まゆ「佐久間まゆ、です。まゆは加蓮ちゃんの事をよく知っていますから、自己紹介は結構です」
加蓮「アンタの趣味が覗き見なのは知ってるよ」
まゆ「それはお互い様なんじゃないですか?」
……逃げ出したい。
居心地の悪さが半端無い。
胃が痛くなって来た気がする。
保健室でサボタージュ、悪くないんじゃないだろうか。
美穂「えっと……加蓮ちゃんとまゆちゃんは知り合いだったんですか?」
加蓮「先週の金曜日に偶々会っただけ」
まゆ「偶々、ですか……ふふっ」
加蓮「ところで鷺沢。私が保健室に行きたいのは本当なんだけど、付き添ってくれない?」
P「ん、それなら構わないけど」
この場から離れられるなら、万里の長城だって天竺への旅だって付き合ってやる。
まゆ「でしたらまゆがお付き合いしましょうか?」
加蓮「体調が悪化しそうだから遠慮しとこうかな」
5 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/03/27(火) 20:22:39.85 ID:qI0KAu2uO
北条と一緒に教室から出て……
P「……ふぅーー……はぁーー……酸素が美味しい」
思いっきり息を吸い込んだ。
加蓮「おすすめの酸素マスク教えよっか?」
P「酸素マスクが必要にならない状況の作り方を教えてほしいよ」
加蓮「簡単じゃん。私と付き合えば良いだけ」
P「わぁすごい、インスタントラーメンよりお手軽!」
……なわけないだろ。
普段滅多にインスタントラーメン作らないけど。
P「……はぁ」
思わず溜息が漏れてしまう。
可愛い女の子に好意を向けられるのは、まぁ嬉しい事だけど。
それが複数人となると、嬉しいなんて言ってられない。
P「そういや、まだ結局体調悪かったのか?」
加蓮「治ってはいるんだけどね。マスク忘れちゃったから、保健室で貰っとこうかなって」
P「大変だよなぁ、身体弱いって」
加蓮「なにそれ他人事みたいに」
P「他人事だからな。俺はバカだから、風邪ひいても気付かないんだよ」
保健室に着き、北条はマスクを持って出て来た。
サボっちゃおっかなーと言っていたが、流石にそれは止める。
6 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/03/27(火) 20:23:17.27 ID:qI0KAu2uO
加蓮「……アンタはさ、好きな子とかいるの?」
P「ん?んー……んー……」
好きな子か……
好きな子、か……
P「好きな食べ物ならすぐにでてくるんだけどな」
加蓮「聞いてないから。私はポテトだけど」
P「うーん……分からん」
加蓮「何それ」
P「友達として好きってのなら何人かいるし、家族として好きもいるけど……恋愛的な、付き合いたい的な話だろ?」
加蓮「だから私が唐突に家族愛について尋ねると思ってるの?」
P「だよなぁ……」
誰かと付き合いたいだなんて思った事も無かった。
そんな事を想像出来るほど、誰かの恋愛を見てきた訳でも無いし。
今いる友達と、ずっと友達でいられれば満足だったから。
P「……誰かと付き合って誰かと気不味くなるくらいなら、誰とも……なんて考えてる様じゃ、失礼だよなぁ」
加蓮「良いんじゃない?それで」
P「良いのか?」
加蓮「失礼も何も、周りの子が勝手に鷺沢を好きになっただけでしょ?鷺沢も好きにすれば良いんじゃない?」
P「そんなもんなのかなぁ……」
加蓮「告白された子の中から選ばなきゃいけないって訳じゃないんだし、保留なり今は応えられないなりそう言えば良いでしょ」
P「んな曖昧な返事されても困らないか?」
加蓮「消去法で付き合われても困るでしょ?それに他の子もアンタを既に困らせてる訳だし」
7 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/03/27(火) 20:23:54.90 ID:qI0KAu2uO
うーん、どうなんだろう。
……あれ?なんで知ってるんだ?
P「俺、北条にその話したっけ?」
加蓮「見てれば分かるよ、私だって女の子だもん。あぁ、この子は鷺沢なんかに恋しちゃってるんだなーとか」
P「なんかにって……」
加蓮「まぁ、私もそのうちの一人な訳だけど」
P「……北条、俺は……」
加蓮「返事は……まだ、いいかな。私、ちょっと焦り過ぎちゃってた。よくよく考えれば、出逢って間もない女子から告白されても困るだけだよね」
少し俯いて、それでも微笑む北条。
焦り、か……一体彼女の中でどんな思考が渦巻いていたんだろう。
加蓮「……で、放課後の話。屋上行くの?」
P「ん?その予定だけど……」
加蓮「……行かない方が良いんじゃない?」
P「行かない方が良い……?あ、放課後雨降るからか?」
加蓮「それもあるけど…………うん、あんたの為にね」
俺の為……?
どういう事だ?
P「ってか北条急にどうした?俺の為なんてらしくないぞ」
加蓮「えー?善意の忠告にそんな事言っちゃう?」
P「俺が屋上行くとなんかあるのか?」
加蓮「……良い事は無いと思うよ」
非常にアバウトな表現。
残念ながら俺はバカだから、逆に気になって行きたくなってくる。
8 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/03/27(火) 20:24:21.20 ID:qI0KAu2uO
加蓮「……あの子もきっと……あ、ねぇ鷺沢。放課後、代わりに私が行っておいてあげよっか?」
P「……え?」
加蓮「鷺沢の代わりに、私がその子の告白の練習に付き合う。何も問題は無いよね?」
何も問題はない……のか?
加蓮「私はほら、こないだあの子のラブレター読んだし、それなりにアドバイスも出来るんじゃない?」
P「本人に言ってやるなよ?……ん?」
確か、あのラブレターって……
加蓮「よし、決まりだね。鷺沢はその間に、断り方でも考えておけば?」
P「……いいのか?」
加蓮「……私と付き合ってるから、って断り方の方が楽?なら私と付き合う?」
P「……確かに、そんな理由で付き合いたくは無いな。北条だって嫌だろ?」
加蓮「…………うん。ま、私は好き勝手に好きにやるし、好き勝手に好きになる。今回は私の弱さからの特別サポートって感じで」
P「……ありがとう、北条」
加蓮「感謝は態度で示したら?呼び方変えるとかさ」
P「……北条氏?」
加蓮「大名じゃん。鎌倉幕府執権職を継承させないで」
P「じゃあ加蓮で」
加蓮「……うん、よろしい」
9 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/03/27(火) 20:25:06.31 ID:qI0KAu2uO
P「さて、帰るか」
まゆ「あら、Pさん。智絵里ちゃんと何か用事があったんじゃないんですかぁ?」
P「ん?あ、そっちは加蓮が行ってくれるって」
まゆ「……そうですか。良かったですね」
美穂「なら、今日もPくんの家にお邪魔して大丈夫ですか?」
李衣菜「お、今日も集まる感じ?私も行っていい?」
P「あぁ、勿論」
四人で俺の家へと向かう。
途中で雨が降ってきたけど、小雨だし本格的に降る前には家に着くだろう。
P「ただいまー姉さん」
文香「お帰りなさい。……あら、いらっしゃいませ」
李衣菜「お邪魔しまーす」
美穂「おじゃまします」
P「あ、まゆ。俺の部屋は二階だから」
まゆ「ご存知ですよぉ」
なんで?
まゆ「……さて、ここが現実のPさんの部屋ですね」
美穂「現実の、って……」
李衣菜「何する?言っとくけど本ぐらいしか無いよ?」
P「事実だけど酷くない?」
まゆ「……男の子の部屋に来たら、するべき事なんて決まってるに決まってますよねぇ?」
そう言って、まゆはベッドの下を覗き込んだ。
美穂「何してるんですか?」
まゆ「エッチな本を探してるんです」
P「おいやめろ」
李衣菜「そう言えば確かに、何処にあるんだろうね」
美穂「Pくんの事ですから、無い筈は無いんですけど……」
P「そんな本、俺は一冊も持ってないぞ」
まぁ持ってるけど。
上手く隠してあるし、バレる事は無いだろう。
10 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/03/27(火) 20:26:25.72 ID:qI0KAu2uO
まゆ「何処ですかねぇ?引き出し一番下段の二重底下の箱に入ってたりしませんかねぇ?」
……なんて具体的な例なんだ。
だが残念だったな。
P「……部屋に引き出しなんて無いぞ」
李衣菜「いやあるじゃん」
美穂「……そこに隠してあるんですね……」
まゆ「エッチな本って言った時、一瞬視線がそちらに移りましたからねぇ」
P「いやマジで無いから!引き出しには何も入ってないから!!」
李衣菜「はーい空気が入ってまーす」
P「小学生かお前は」
李衣菜「で、本当に入ってるの?」
P「……ないぞ?マジでないからな?絶対開けるなよ?俺が見張ってるからな?」
コンコン
部屋の扉がノックされた。
文香「お取り込み中すみません。P君、荷物が送られて来たので運ぶのをお願い出来ますか?」
P「……みんなも手伝ってくれたりしない?」
まゆ「まゆはここで何もせずに待ってますよぉ」
美穂「わたしも、力仕事は……あ、安心して下さい!絶対に何もしませんから!」
李衣菜「しょうがないなぁ……私が手伝ってあげるから」
P「……頼むぞ?絶っ対に引き出し開けるなよ?そこは異世界へと続く扉になってるからな?」
まゆ「ご安心下さい、まゆが信用出来ないんですかぁ?」
にっこにこな笑顔だ。
こんな状況じゃなければ惚れてたかもしれない。
P「……信じるぞ?」
美穂「わ、わたしが見張っててあげますからっ!」
李衣菜「はいはい、行くよP」
11 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/03/27(火) 20:27:17.64 ID:qI0KAu2uO
バタンッ
俺と李衣菜が部屋から出る。
「さぁ、開けますよぉ!」
「……はいっ!」
P「……遠くに旅に出たい」
李衣菜「あはは……ま、元気出しなよ」
P「二度と女子を部屋に入れないわ」
俺はそう固く誓った。
李衣菜「私もダメ?」
P「李衣菜はいいや」
李衣菜「おっと、それは私を女子だと思ってないって事?」
P「回答は控えさせて頂きます」
信頼してる、って意味なんだけどな。
そんな恥ずかしい事を言いたくも無いし。
文香「……すみません、こちらの段ボールをお願いします」
P「あいよ。李衣菜は悪いけど、中の本を出して机に積んどいてくれるか?」
李衣菜「りょーかい!」
うーん、重い。
若いとはいえ腰やらない様に注意しないと。
……そうだ。
P「……そういえばさ」
李衣菜「ん?どうしたの?」
P「美穂に告白された」
李衣菜に、相談してみる事にした。
李衣菜「えっ、美穂ちゃん勇気出したんだ……!」
P「……知ってたのか?」
李衣菜は美穂と、一年生からずっと仲が良いから。
もしかしたら、前から美穂は李衣菜に想いを打ち明けてたのかもしれない。
李衣菜「まぁうん。前から応援してたんだよね、美穂ちゃんの事」
P「言ってくれれば良かったのに」
李衣菜「言える訳無いでしょ」
P「それもそっか」
李衣菜「で、OKしたの?」
P「……いや、まだ返事をしてない」
李衣菜「……え?なんで?」
突然声のトーンが下がった。
へ、へー……李衣菜ってそんな怖い声も出せたんだな。
P「……えぁ、えっと……それがだな……まゆと加蓮からも……」
李衣菜「……ふーん。モテ期到来じゃん」
声ひっく冷た怖。
12 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/03/27(火) 20:27:56.40 ID:qI0KAu2uO
李衣菜「で、Pはどうすんの?」
P「……どうすれば良いんだろうな、ってさ」
李衣菜「……そんなの自分で考えなよ。好きな人と付き合えば良いじゃん」
P「それもそうなんだけどな……」
李衣菜「私としては美穂ちゃんと結ばれて欲しいけど、そこまで口出せる様な事でも無いしね」
好きな人と付き合えば良い、か……
みんなすっごく可愛いとは思うけど。
正直、まゆも加蓮もつい先日出会ったばっかりでよく知らないし。
美穂ともずっと友達って距離で接してたから、付き合うと言われてもピンとこない。
李衣菜「ま、のんびり考えれば良いんじゃない?その間に嫌われちゃうかもしれないけど」
P「それは避けたいなぁ。とはいえ、断っても……」
李衣菜「っていうか、なんでそれ私に相談してきたの?」
P「他に相談出来る相手がいないからだけど?」
李衣菜「……寂しいなぁ」
P「うるせぇ」
李衣菜「あ、そうだ。文香さんは?」
P「姉さんって恋だの愛だのに疎そうじゃない?」
李衣菜「すっごく失礼だけど……うん、確かにそんな気がするね」
P「まぁ、後で少し相談してみようかな」
李衣菜「っよし、こっちは終わったよ」
P「俺ももう直ぐ終わるわ。んじゃ、お茶でも持って部屋戻るか」
李衣菜「部屋に戻る覚悟は出来た?」
……まぁ、大丈夫だろうけど。
P「……お茶、茶葉から育てるか!」
李衣菜「部屋に戻るのは四年後以降になっちゃうね!」
13 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/03/27(火) 20:28:56.83 ID:qI0KAu2uO
まゆ「さて、それでは……」
美穂「ひ、開いちゃうんですね……!」
まゆ「いえ、引き出しは開きませんよぉ」
美穂「……え?あ、あれ?」
まゆ「他の人の引き出しを漁るなんて、そんな非常識極まり無い事をまゆはしませんから」
美穂「……で、ですよね!もし本当にしようとしてたら、わたしが止めてたところだもん!」
まゆ「……じとーっ」
美穂「……な、なにかな?」
まゆ「まぁいいです、本命は別にありますから」
美穂「……え?どういう事?」
まゆ「引き出しの底はフェイクです。いえ、一応数冊は隠してあると思いますが、一番バレたく無い本は別の場所にある筈ですから」
美穂「なんでそんな事が分かるの?」
まゆ「Pさんはあれでいて頭が回りますから。おそらくこちらはバレてもまぁ軽度の致命傷で済む程度の本しか隠されていません」
美穂「軽度の致命傷で済むって、言葉が複雑骨折してない?」
まゆ「おそらく先ほどの会話からしても、引き出しの本を見つけさせてそれ以上探させない為に大げさに焦ったフリをしたんでしょう」
美穂「ねえその心理戦必要?」
まゆ「普通に考えてみれば分かる事です。李衣菜ちゃんや美穂ちゃんや文香さんが当たり前の様に出入りする部屋のあからさまもあからさま過ぎる場所に、バレたら本気で困るものを隠すと思いますか?」
美穂「……確かにそうだね。文香さん、割とナチュラルにタンスとか引き出しとか開ける時あるから……」
まゆ「では、そうですね……見られて特に困るのは文香さんや李衣菜ちゃんだと仮定しましょう」
美穂「なんか探偵みたいだね」
まゆ「さて、ここで問題です。誰かに見られては困る物を隠す時、一番自分が見張りやすい場所はどこだと思いますか?」
美穂「……あっ!……えぇ……」
まゆ「はい、おそらくはそこです。基本誰にも開けられず、常に自分で見張れるのは……」
美穂「……学校の鞄、だよね……?」
まゆ「まぁ憶測に過ぎませんけどねぇ……」
美穂「本当だとしたら、Pくん四六時中エッ……えっと、そういう本を持ち歩いてたんですね」
まゆ「では……開けますよぉ」
美穂「さっきそんな事しないって言ってなかったっけ……」
まゆ「あっ、偶然Pさんの鞄が倒れて偶々チャックが開いてて運悪く中の物が出てきちゃいましたぁ」
美穂「白々しさもここまでくると才能だね……」
まゆ「……見て下さい美穂ちゃん。このブックカバーの本、学校で使用する教科書には無いサイズだと思いませんか?」
美穂「……つ、つまり……この二冊の本は……」
まゆ「……さぁ、開きますよぉ!」
14 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/03/27(火) 20:29:30.05 ID:qI0KAu2uO
パラッ
まゆ「…………」
美穂「…………」
まゆ「……こちらは義姉モノですねぇ」
美穂「た、確かにこれは文香さんに見られたら冗談じゃ済まされないね……」
まゆ「表紙の女性のイラスト、ついさっき部屋をノックした女性とソックリですねぇ」
美穂「……た、たまたま似てるだけって事にしておこっか」
まゆ「踏み込んだら不味い気がしますねぇ……」
美穂「こっちの本は……うわぁ……」
まゆ「……幼馴染モノですか……なんだか、ついさっき部屋から出て行った女性とソックリですねぇ」
美穂「……これも見なかった事にしようかな」
まゆ「たまたま似ているだけだと信じたいですねぇ」
美穂「……あ、あはは……」
まゆ「……ですねぇ、デスですねぇ」
美穂「……自分と似てる女の子じゃなくて、ちょっと嫉妬してる?」
まゆ「……少し。ですが、実際まゆと似たイラストの本を目にしたらそうも言ってられないかもしれません」
15 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/03/27(火) 20:30:03.78 ID:qI0KAu2uO
美穂「……引き出しの方、気になる?」
まゆ「美穂ちゃんは気になるんですか?」
美穂「……あっ、偶然引き出しが開いて二重底の下から箱が飛び出て来ました!」
まゆ「……随分と超常的な偶然ですねぇ」
美穂「この地図帳、表紙と本誌がサイズ合って無いね」
まゆ「開きますよぉ……」
ピラッ
まゆ「…………」
美穂「……おめでとう、まゆちゃん」
まゆ「割と本気でどういう顔をすれば良いのか分かりません」
美穂「……まゆちゃんソックリの女の子が……うわぁ」
まゆ「ま、まゆはこんなはしたないポーズなんてしませんよぉ!」
美穂「こっちの本は……」
まゆ「……おめでとうございます、美穂ちゃん」
美穂「……えへへ……」
まゆ「え゛」
美穂「……えっ?あ、ぇっと……!Pくんってば!わたしをそういう目で見てたんですね!幻滅しました!」
まゆ「一瞬安心していた様な」
美穂「してません」
まゆ「……ニヤッって」
美穂「してません!しないもん!」
まゆ「……それも見なかった事にしてあげますよぉ」
美穂「……何も見なかった事にしよっか」
まゆ「それで、皆が幸せになれるなら……!」
16 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/03/27(火) 20:31:14.60 ID:qI0KAu2uO
部屋に戻ると、まゆと美穂が顔を真っ赤にして会話していた。
……あ、鞄の位置が微妙にズレてる。
そうだ、宇宙に旅行なんてどうだろう。
俗世の事も後の事も忘れて、ただ宇宙空間を無限に漂いたい。
李衣菜「疲れたー……はい、お茶」
美穂「あ……お、お疲れ様です!」
まゆ「言われた通り、何もせずに喋って待ってましたよぉ!」
P「……いや、まぁ、うん……そっか、うん」
見なかった事にしてくれるらしい。
なんて優しい子達なんだろう。
その優しさエネルギーで俺を大気圏外まで飛ばして欲しい。
P「あ、そうだ。夕飯どうする?」
まゆ「今からまゆが作りますよ?」
美穂「あ、でもそれだと寮の門限ギリギリになっちゃわない?」
まゆ「むぐぐ……仕方ありません、もう少しみなさんとお喋りしたら今日はまゆをお引き取り願わせますよぉ」
李衣菜「ねぇ二人とも!どんな本があったの?!」
美穂「見てません」
まゆ「知りません」
李衣菜「えー、教えてくれたって良いじゃん」
P「もう雨は止んでるぞ。よかったな、一時的な雨で」
美穂「はい!」
まゆ「両手を振り回して帰れますよぉ!」
李衣菜「みんなはぐらかすんだ……へー」
P「さ!何して遊ぶ?!ここは童心に帰って鬼ごっこでもやるか?!」
まゆ「まゆが鬼をやりますよぉ!手つなぎ鬼をしますよぉ!!」
李衣菜「まいっか。はいバリアー!ここから先進入禁止ね!」
美穂「わたしもバリアーを張ります!ここから先は車両通行止めです!」
なんてまぁ、アホな会話をして。
あっと言う間に時間は過ぎていった。
17 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/27(火) 23:03:10.93 ID:AFsOpAUSO
待っていました
ふみふみ√来るか?
18 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/28(水) 00:05:02.42 ID:vMELCeC/0
天使ちひろ√おねがいしマンモス
19 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/03/29(木) 00:54:56.37 ID:Mp3+e6Ol0
美穂「じゃあね、Pくん」
まゆ「また明日、Pさん」
P「……また明日な」
時刻は午後七時半過ぎ。
寮の門限で美穂とまゆが帰って行った。
なかなか目を合わせてくれないのは、まぁ気の所為だと信じたい。
P「で、李衣菜はどうする?」
李衣菜「親に連絡するの忘れてて夕飯用意されてないみたいだし、久し振りに私が夕飯作ってあげよっか?」
文香「是非!」
P「姉さん座って」
さっきまでリビングで本読んでたよな?
P「いやいいよ、俺が作るから」
李衣菜「いつも朝ご飯はたかっちゃってるし、偶には適度にお礼してかないとね」
P「お返しは三倍返しが相場だぞ」
李衣菜「三食全部になっちゃうじゃん」
P「俺割と李衣菜の作る料理好きだし、それでも嬉しいんだけどな」
李衣菜「はいはい、そういうのは誰かと付き合ってから言ってあげてね」
P「鍋とかの場所分かるか?手伝うぞ」
李衣菜「一人で大丈夫だって。何年来てると思ってるの?」
そう言って、李衣菜がキッチンへと向かって行った。
文香姉さんは目をキラキラと輝かせながら微笑んでいる。
文香姉さん……
20 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/03/29(木) 00:55:44.99 ID:Mp3+e6Ol0
P「あ、姉さん」
文香「すみません、今李衣菜さんを見守るのに忙しいので」
P「あ、はい」
文香「……あ、失礼しました。今のは、その……先ほど読んでいた本の一文が口から出てしまっただけで……」
そんなピンポイントな本ある?
文香「それで……P君も、料理が楽しみで仕方がないのですか?」
P「姉さんと一緒にしないでくれ」
文香「……P君は、ですね」
P「まぁいいや、それでさ……恋愛って、何なんだろうなってさ」
文香「男女間の、恋いしたう愛情ですね」
P「うわぁすごく抽象的!」
文香「ごほんっ!それで……何故、突然その様な事を……?」
P「えっと……女の子に告白されてさ、今までそういう事って無かったからどうすれば良いんだろ、って」
文香「……告白、されたのですね……それは、美穂さんからですか?」
P「うん。あとまゆと加蓮って子から」
文香「……女の敵ですね、P君は」
P「悪い事はして無いんだけどな……」
21 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/03/29(木) 00:56:16.91 ID:Mp3+e6Ol0
文香「それで……どうすれば良いのか分からない、と……」
P「っていうかこう……なんだろ?誰々が好きーとか付き合いたいーとか、そんな風に考えた事も無かったから」
文香「……例えば……そうですね。今はそうで無いにしても、これからそういったお相手が現れる事があるかもしれません。返事は、その時でも良いのではないでしょうか?」
P「待ってて貰うって事?」
文香「今はそういった相手としては見れない、と……そう断るのも、一つの手だと思います。今後その方が好きになった時、P君から告白すれば良いんです」
P「それ都合良過ぎない?」
文香「嫌われてしまえばそれまでですね」
ズバッと言うなぁ。
文香「ですが……告白されたから、という理由で付き合って……勿論、恋人となってから相手を好きになる事もあるかもしれませんが……付き合う理由としては、不純極まり無いと思います」
P「好きになる、なぁ……恋とか好きとかって、どんな感じなんだろ?」
文香「……一緒に過ごしたい、側に居たい、側に居て欲しい、相手に自分の事を見て欲しい、自分の事を考えてして欲しい……そういった感情では無いでしょうか?」
P「一緒に居たい相手なら沢山いるけどな」
文香「たった一人しか選べないなら……P君は、誰と一緒に居たいですか?」
たった一人しか選べないなら、か……
文香「複数の女性と付き合う、そういった恋愛の形もあるのかもしれませんが……少なくとも日本では一般的ではありません。ですから、P君が……この人とずっと一緒に居たい、と。心からそう思う方を選ぶべきだと思います」
P「おぉ……なんか姉さんがすげーそれっぽい事言ってる」
文香「……はぁ。私には、そういった恋愛経験や知識は無いと思っていたのですか……?」
少しムスッとした表情をする文香姉さん。
流石に失礼過ぎたか。
22 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/03/29(木) 00:56:57.20 ID:Mp3+e6Ol0
P「だってなんか、そういう相手とかいなさそうだし」
文香「……P君、今晩から冷水シャワーのみを使用してみたら如何ですか?」
P「いやほんとすみません……」
文香「……私にも、以前は……想い慕う男性がいましたから」
え、まじで?!
文香「……張り倒したくなる様な表情ですね」
P「いや、だって……えぇ、まじで?」
文香「……はい、話は此処までです」
P「ごめんごめんごめん!え、どんな感じだった?!」
文香「……そうですね……とても、優しくて……頭の悪い方でした」
文香姉さん、自分より頭の悪い人が好みだったんだな。
でも、なんて言うか。
きっとその相手を思い浮かべているであろう文香姉さんは、なんだか楽しそうだった。
文香「……誰よりも、近しい存在になりたい、と……そう思えるくらい……彼は、私の世界を変えてくれたんです」
自分の世界を変えてくれた人、か……
確かにきっと、そういう相手がいたら好きになるんだろうな。
文香「……彼の作る料理を食べたい。誰よりも彼の近くに居たい。ずっと、彼と過ごしていたい……心から、そう思える人でした」
でも。
それが過去形って事は。
23 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/03/29(木) 00:57:24.14 ID:Mp3+e6Ol0
P「……失恋したのか……?」
文香「さぁ、どうでしょう……?もしかしたら、私はまだ諦めてはいないかもしれません……」
P「にしても、姉さんにそんな相手がいたなんてな……一回会ってみたいわ」
文香「……ふふ。残念ながら、P君は一生、逢う事が叶わないでしょう」
今はもうどっか遠くに住んでるんだろうか。
文香「……さて、私のお話はこれで終わりです。今度は……そうですね。P君が誰かと付き合い始めた時に、P君のお話を聞かせて下さい」
P「あいよ。まぁ、いつになるか分かんないけど」
李衣菜「おーいP、運ぶの手伝ってくれない?」
P「あいよ」
文香「急いで下さい……時間は有限ですから」
P「なら姉さんも運ぶの手伝ってよ」
24 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/03/29(木) 00:57:52.89 ID:Mp3+e6Ol0
P「ん、もう結構いい時間だな。送ってくよ」
李衣菜「別にいいのに、私が道に迷うと思ってる?」
P「女子一人をこんな時間に放り出す訳にもいかないだろ」
文香「ご馳走様でした。また、いつでも来て下さいね」
李衣菜「もちろんです。それじゃ、おじゃましました」
バタンッ
四月の夜風はまだまだ冷たい。
こんな事ならコートでも羽織ってくれば良かった。
P「寒く無いか?」
李衣菜「夕飯食べたばっかりだから大丈夫」
P「にしても久し振りに李衣菜の料理食べた気がするな。美味しかったぞ」
李衣菜「ほら、今後はもっと振る舞う機会減っちゃうかもしれないじゃん?」
P「そうなのか?」
李衣菜「恋人が出来てからも、別の女子の料理食べるのってどうなの?」
P「……なんか大変だなぁ、そういうのって」
正直、嫌だなぁ。
今まで通りって訳にはいかなくなるの。
25 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/03/29(木) 00:59:10.42 ID:Mp3+e6Ol0
P「小学生に戻りたいわ」
李衣菜「私に会う前?後?」
P「後に決まってんだろ。李衣菜と会う前とか本読んでた記憶しかねぇよ」
李衣菜「ま、そういう訳にもいかないでしょ。もう高校生なんだから、高校生らしい青春をしないとね」
P「高校生らしい、ねぇ……いつまでも子供じゃいられないんだな」
李衣菜「高校生だってまだまだ子供だとは思うけどね。Pは特に」
P「精神年齢の話をするんじゃない」
李衣菜「見た目だけはどんどん大っきくなってくからね……後は、うん。人間関係とか」
P「友達を数えるの、もうすぐ片手じゃ足りなくなるんたぜ!」
李衣菜「うん、普通の人は両足の指を使っても足りないと思うよ」
P「……人間関係、か……」
李衣菜「変わらないなんて事は無いんだよ。背も高くなるし、声だって変わるし、恋だってするんだから」
P「恋、ね……俺はどうなんだろうなぁ」
李衣菜「少年少女はあっという間だよ、本当に。三日と経たないうちに勝手に大人になってくんだから」
確かに、そうだとは思う。
金曜日からの三日間で、色々な事がありすぎた。
それで俺が大人になれたのかと聞かれれば、即答は出来ないけど。
以前の俺だったら、そもそもそんな事を自分に問いかける事すらしなかっただろう。
李衣菜「変わらないでいたいって思うのも大事かもしれないけど、変わる事だって大切なんじゃない?」
P「……ずっと友達でいたいってのはワガママなのかな」
李衣菜「……Pはさ、本当に……誰かと恋人になりたいって思った事は無いの?」
P「……今は無いなぁ」
李衣菜「じゃ、これからもずっとみんなと友達でいれば?」
26 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/03/29(木) 00:59:53.75 ID:Mp3+e6Ol0
ふふっ、と。
笑いながら、ため息を吐く李衣菜。
李衣菜「でも……ちょっとだけ安心したかも」
P「安心?」
李衣菜「私もまだまだ子供だなーって事」
P「んな事は知ってるよ」
李衣菜「え、ひっどい。こう見えて色々成長はしてるんだけどなぁ」
P「自分で言っといて否定しなかったらひどいってひどくない?」
李衣菜「……Pが友達でいたいって、本気で思ってるなら。その気持ちも、大切にしてね」
P「そりゃ友達は大切だからな」
李衣菜「少ないもんね」
P「少ないさ、だからこそ大切なんだよ」
李衣菜「……P、中身は全然変わらないなー」
P「質保存の法則だよ」
李衣菜「量は何処にいったの?」
P「友達が増えたから量は変わった」
李衣菜「そっちも変わらなければ良かったのにね」
バカにする様に笑って、李衣菜は走って行った。
あ、もう李衣菜の家の近くまで来てたんだな、
李衣菜「じゃ、また明日ね!」
P「おう、またな!」
大きく子供みたいに手を振って別れる。
さて、帰り道は寒いから。
少し小走りして、身体あっためるか。
27 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/29(木) 03:01:28.25 ID:OuWkRHTf0
ほへー義姉ルートもありそうだなこりゃ
でもまずは李衣菜ルートをしっかりみたい
そしてゲームとかだと脈絡なく設定されてる裏ヒロインがもう1人いたりするのもよくあることだけれど
おつ
28 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/29(木) 03:08:01.21 ID:JbMlxWnqo
つまりフレデリカルート
ともあれおつ
29 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/29(木) 03:26:45.92 ID:OuWkRHTf0
>>28
そういえば一瞬出てきてたな
ランダムイベントでルート入りそう
30 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/29(木) 07:46:24.67 ID:wEe7lDEXo
乙です
無意識なんだろうけど受け応えの端々に李衣菜の好感度が上がりそうな返事が入ってるあたりさすがだなって
>>23
の「時間は有限」って表現に何か深刻な事実が隠されてるのではと勘ぐってしまったが、冷静に考えてご飯を待ちきれないだけか
31 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/29(木) 12:21:27.05 ID:PKcBgjUw0
ふみふみフラグが着々と構築されていく
残りネームドはちっひとフレちゃんとふみふみの3人だけど特にフレちゃんは接点が無さすぎて難易度高そう
ヘタすりゃ追加ディスクぐらいのことあるわ
32 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/03/30(金) 18:53:52.89 ID:R/E4x381O
翌日、起きると部屋にまゆが居た。
……なんで?
まゆ「おはようございます、Pさん」
P「おはよう、まゆ……」
まずい、会話の繋げ方が分からない。
俺は今までどんな風に会話していただろう。
まゆ「朝ごはん出来てますよ。美穂ちゃんと李衣菜ちゃんも来てますから」
P「あー……えっとだな、まゆ。その……」
言わなければ。
出来れば今は、恋人とかそういうの抜きにして。
友達としてこれからも過ごして欲しい、と。
とはいえ寝起きでまだ頭も回らないし、髪もボサボサだし後でにしようか……
まゆ「……ねぇ、Pさん」
P「ん?なんだ?」
まゆ「まゆに、突然好意を向けられるのは迷惑でしたか?」
P「……えっ?」
まゆ「まゆは、Pさんの迷惑になる様な事はしたくないんです。きっと、こうして真正面から尋ねられる事すら迷惑かもしれませんが……よければ、教えて下さい」
P「それは……」
……言える訳が無い。
好きって言われても困るしやめて欲しい、だなんて。
それが、こんなにも優しい子なのだとしたら尚更。
33 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/03/30(金) 18:54:38.31 ID:R/E4x381O
P「迷惑って言うか……まだ俺達って会って間もないし、まゆの事を良く知らないから直ぐには返事出来ない、ってのが正直なところで……」
まゆ「……そうですよね。まゆ達はまだ、出会って……一週間程しか経っていないんですから」
……なんで、そんな悲しそうな表情をしながらも。
そうやって、笑顔でいようとしてくれているんだ。
P「……まゆは、優しいな。だからこそ……今は、友達でいて欲しい」
こんなにも優しい子を、良く知らないまま振りたく無い。
出来れば関係が変わらないまま、気不味くならないままでいたい。
もっとお互いを知って、その時俺がまゆと付き合いたいと思ったら返事を返す。
……なんて、ワガママで子供過ぎる。
まゆ「……任せて下さい。まゆはそう簡単には諦めませんから。お返事は、Pさんがまゆを好きになってからで結構です」
P「……俺、都合良過ぎるよな」
まゆ「まゆじゃ無ければ、ポイされちゃってるかもしれませんねぇ」
P「……ありがとう、まゆ」
まゆ「それだけPさんにとって、お友達は大切な存在って事ですよね?」
まぁまゆは、振られたところで諦めたり距離を離したりなんてしませんが、と笑う。
……嫌だなぁ。
優しさに甘えるのも、その優しさを痛いと感じるのも。
やっぱり俺は、まだまだ子供だ。
まゆ「さ、早く着替えて降りて来て下さい」
P「あぁ、ありがとう」
34 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/03/30(金) 18:55:04.34 ID:R/E4x381O
まゆが下に降りていった後、パパッと着替えて支度を済ます。
リビングに着けば、既に皆食べ始めていた。
李衣菜「遅いよP。待ってたら遅刻しちゃうところだったじゃん」
ならなんでうちに来るんだろうか。
美穂「おはようございます、Pくん」
P「おはよう美穂」
文香「……んぐっ……おはようございます、P君」
P「姉さん……おはよう」
まゆ「Pさんの分も準備してありますから」
李衣菜「まゆちゃん、ほんと料理上手いよね。手早くこんなに美味しいの作れるなんて」
美穂「わ、わたしも女子力を鍛えないと……」
まゆ「ふふ、ありがとうございます」
P「うん、美味しい」
李衣菜「Pももっと料理頑張って!」
P「まゆと競うのは無理があるだろ……」
美穂「が、頑張って下さい!」
P「よしやったるぞ!一人暮らしの男の料理ってやつを見せてやる!」
文香「……あの……」
まゆ「まゆは負けませんよぉ。ところで申し訳ないですけど、先生にHR前に用事を頼まれてるんです。李衣菜ちゃん、付き合って貰えませんか?」
李衣菜「ん、おっけー。なら私達は先に行こっか」
まゆ「はい、お願いします。Pさん……後、お願いしますね?」
……本当に感謝しかないな、まゆには。
美穂「でしたら、後片付けはわたしも手伝います!」
P「ん、いやいいよ。玄関で待っててくれるか?」
美穂「は、はいっ」
35 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/03/30(金) 18:55:43.30 ID:R/E4x381O
片付けを終えて家を出る。
四月の朝はまだ寒い。
女子はスカートだからもっと寒いんだろうな。
P「お待たせ、それじゃ行こうか」
美穂「はい。えっと……Pくん」
P「ん、なんだ?」
美穂「わたし、Pくんとこうして歩くのが大好きでした。こうやって、ありふれた毎日を過ごすのが幸せでした」
P「あぁ、俺も美穂と一緒に過ごす時間は好きだよ。なんだか心地良いし」
美穂「そう言ってくれると、とっても嬉しいです」
並んで歩く美穂の声は、どことなく暗い。
美穂「もしかしたら……でも、そうじゃなければ良いな、って。そう願ってて……だから、これからわたしが話すのは、独り言だと思って下さい」
冷たい風が街を吹き抜ける。
美穂の声は、ギリギリ聞き取れるくらいだった。
美穂「もっとPくんの側に、もっと近くにいられたら。それは、とっても幸せな事です。でも……もし、Pくんの側にいられなくなったら……それは、わたしにとって凄く辛い事なんです」
消え入りそうな、泣き出しそうな声。
美穂にそんな思いをさせてしまった事が、本当に辛くて。
36 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/03/30(金) 18:56:15.81 ID:R/E4x381O
P「俺も、そうだな……美穂と一緒に遊んだり、こうして楽しく過ごせなくなるのは……いやだな」
美穂「……誰と、付き合うんですか……?良ければ……それだけでも、教えて下さい」
P「……えっ?」
美穂「……えっ?」
P「いや、俺誰とも付き合って無いけど……」
美穂「……あ、あれ?まゆちゃんがわたしとPくんを二人きりにしてくれたから、てっきり振られちゃうのかなって……」
P「……俺さ、まだちゃんとした返事は出来なくて……出来れば、これからもみんなと友達でいたいって思いが強いから……」
美穂「……お友達、ですか……」
P「……あぁ。いきなり過ぎて、色々ピンと来てないんだ。出来れば……もう少し待って欲しい」
美穂「…………うぅぅ……良かった……」
一気に、緊張の糸が溶けた様に大きなため息を吐く美穂。
美穂「不安だったよぉ……うぅぅうぅぅっ……」
P「……すまん、でも……美穂と友達でいたいって思いは本当だから」
美穂「グスッ……はい。わたしも、Pくんにそう言って貰えて良かったです」
それに、と。
言葉を続ける美穂。
美穂「だったら!恋人になりたいって思って貰える様に、わたしも頑張っちゃいますからっ!」
P「……ありがとう、美穂」
37 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/03/31(土) 19:10:02.18 ID:eVVepE3YO
加蓮「おはよー鷺沢」
P「よっ、加蓮」
加蓮「加蓮ちゃんって呼んでもいいよ?」
P「加蓮ちゃん」
加蓮「きもっ、やっぱやめて」
なかなか酷いムーブだと思う。
美穂「仲良いんですね、二人は」
加蓮「それはそうだよ。だって私達は……なんて言うんだろ?」
まゆ「赤の他人ですかねぇ」
加蓮「赤いのは黙って」
まゆ「赤要素はリボンだけですよぉ」
加蓮「ってかソレ校則で禁止されてるでしょ」
まゆ「……うふっ?」
誤魔化した。可愛い。
まぁ先生相手に上手くやったんだろう。
美穂「あ、わたしは小日向美穂です。よろしくね?加蓮ちゃん」
加蓮「加蓮ちゃん……良い響きだね。鷺沢も加蓮ちゃんって呼んでいいよ?」
P「オチが見えてるからやめとくよ」
加蓮「……呼んでくれないの?」
演技だって事くらい分かってる。
残念だったな、その程度の捨てられた猫力じゃ俺の心は変わらないんだよ。
P「……加蓮ちゃん」
加蓮「うへっ」
P「……トイレ行ってくる」
泣いても許されると思う。
人を信じる事が出来なくなった今の俺には、一人になれる場所が必要だ。
38 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/03/31(土) 19:10:29.26 ID:eVVepE3YO
智絵里「……Pくん。えっと……」
P「……ん、智絵里ちゃん」
教室に戻ろうとすると、扉の前に智絵里ちゃんが立っていた。
P「あ、ごめんな?昨日は加蓮に行って貰っちゃって」
智絵里「……いえ、その……改めて、頑張ろうって決意する良い機会になりましたから……」
P「告白か?」
智絵里「はい。次は、練習じゃなくって……ホントの気持ちを、きちんと伝えます」
P「そっか……頑張れよ、智絵里ちゃん」
智絵里「だから……Pくん」
P「ん?どうした?」
智絵里「……今日の放課後。もう一度、屋上に来て貰えませんか……?」
P「……それは……」
今、このタイミングで俺にそれを言うという事は。
智絵里ちゃんが好意を向ける相手は……
智絵里「……待ってますから」
そう言って、智絵里ちゃんは教室へ戻って行った。
俺は一人、誰も居ない廊下に溜息を吐く。
39 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/03/31(土) 19:10:59.77 ID:eVVepE3YO
まゆ「……行くんですか?」
P「うぉっ?!」
一人じゃなかった、背後にまゆが立っていた。
まゆもお手洗い帰りだろうか。
P「……聞いてたのか?」
まゆ「はい、聞こえちゃいました。それで……Pさんは、智絵里ちゃんの告白を受けるんですか?」
P「……だよなぁ……俺の自意識過剰ってオチだったら良いんだけど」
まゆ「……首を縦には振りませんよね?」
P「……その時にならないと分からないけど……」
多分まゆの言う通りの結末になると思う。
正直、智絵里ちゃんの事をまだよく知らないし。
だから、尚更……
まゆ「……申し訳ない、なんてPさんが思う必要はありません。告白するだなんてワガママに付き合わせようとしているのは智絵里ちゃんなんですから」
P「なぁ、まゆ」
まゆ「はい、なんですか?」
P「……ごめんな、色々と」
告白するだなんてワガママ、と。
まゆの口から言わせてしまった事が、本当に申し訳なかった。
それもこれも、全部俺が子供だから。
P「よし!俺屋上行くわ」
まゆ「……やっぱりやめておきませんか?」
P「いいや、行くよ」
まゆ「……うふふ、頑張って下さい!」
40 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/03/31(土) 19:12:02.41 ID:eVVepE3YO
李衣菜「ふー、今日も終わったー!ねぇP、この後遊びに行かない?」
P「あー……悪い、俺この後少し用事あるからさ」
李衣菜「そっか、おっけー」
加蓮「……」
まゆ「……」
美穂「……二人はなんでそんなコソコソと後ろの扉から出て行こうとしてるの?」
加蓮「えっ、あっほんとだ!こっち後ろの扉じゃん!前と後ろ間違えてた!ありがと美穂!」
まゆ「……虫ケラの様な演技力ですねぇ」
加蓮「虫の擬態力をバカにしてるの?」
まゆ「加蓮ちゃんをバカにしてるんですよぉ」
美穂「……?」
仲良いなあいつら。
帰りのHRが終わった後、さっさと荷物を持って屋上へ上がった。
屋上へ続く扉を開ければ、こないだと同じく智絵里ちゃんが一人で待っていて。
智絵里「あ……Pくん。来てくれて、ありがとうございます」
咲くような笑顔で駆け寄ってくる智絵里ちゃん。
相変わらず儚くも可憐なその姿に、俺はまた目を奪われた。
智絵里「……わたし、えっと……き、来てくれるって信じてました」
……あぁ、やっぱり俺やまゆの思い違いって事にはなってくれなさそうだ。
こんなにも真剣な表情で見つめられて、気付けない訳がない。
P「昨日はごめんな、加蓮に代わって貰っちゃって」
智絵里「……いえ……その、Pくんの気持ちも分かるから……」
俺の気持ち……?
智絵里「加蓮ちゃんに言われたんです……『鷺沢は誰かと付き合いたいなんて思ってないし、迷惑になるからやめたら?』って……」
加蓮……こう、なんていうか……
もっとこう、あるだろう色々……
いや実際のところそれで間違ってはいないけど、言い方が……
智絵里「……それなのに、来てくれたから……わたし、嬉しかった……かな」
41 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/03/31(土) 19:12:40.62 ID:eVVepE3YO
P「……なぁ、智絵里ちゃん」
智絵里「……はい。分かってるけど……きっと、想いに応えては貰えない、って……」
それなのに、どうして……
言葉にしようとするんだろう。
智絵里「……それでも、伝えたかったから……」
そう言って、智絵里ちゃんは俺の目を見つめてきた。
きっと、そういうものなのかもしれない。
智絵里「Pくん……!わたし、貴方の事が好きです……っ!!」
屋上に智絵里ちゃんの言葉が響く。
彼女は精一杯の声で、想いを打ち明ける。
智絵里「練習なんかじゃないです……ずっと……入学式のあの日からずっと……!Pくんの事が好きでした!」
智絵里「授業中に先生の話を聞かずに本を読んでる、そんな横顔も。体育の時に女の子にカッコ良い所を見せようとして転んじゃう、そんな姿も……」
智絵里「……わたしは、大好きなんです……!」
その言葉は、あの時の同じ。
けれど今は練習なんかじゃなくて、智絵里ちゃんにとっての本心で。
智絵里「貴方は、相手が誰でも優しく分け隔てなく仲良くしてくれる人で、大きな優しさで包み込んでくれる様な人で……!」
智絵里「こんなわたしにも、声を掛けてくれて!とっても、嬉しかったです……!」
智絵里「一緒にご飯食べて……一緒に遊園地で遊んで……名前で呼んでくれて……一緒に、二人で学校から帰って……」
智絵里「わたし、とっても幸せでした……っ!これからも、ずっと。一緒に……わたしと一緒にいて欲しくって!だからっ!!」
彼女の顔は涙に濡れていた。
なのに、こんなに頑張って。
想いを、言葉を届けてくれている。
智絵里「……Pくん!わたしと……わたしと!付き合って下さい……っ!」
智絵里ちゃんの言葉が、全てを伝え切った。
きっと、凄く勇気が必要だっただろう。
自分の想いを伝えるのは、とんでもなく難しいから。
それでも、俺は。
俺の気持ちは……
42 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/03/31(土) 19:13:41.92 ID:eVVepE3YO
P「……なぁ、智絵里ちゃん」
智絵里「……はい……」
P「……俺は……」
智絵里「……ねえ、Pくん……ワガママかもだけど……今、答えて欲しい……です……」
P「……あぁ」
なら。
真正面から想いをぶつけてくれた智絵里ちゃんが、それを望むなら。
俺も、きちんと……
P「……ごめん、智絵里ちゃん」
俺は、首を横に振った。
好意を向けられてると知って、嬉しくないと言えば嘘になる。
けれど正直なところ、俺は智絵里ちゃんに対してそういった気持ちで接してこなかったから。
それに今、自分が置かれた状況で。
ただ告白されたから、と言う理由で付き合う訳にもいかないから。
P「俺は、智絵里ちゃんの気持ちに応えることが出来ない」
智絵里「……うぅ……っ!わ、わたしは……!」
彼女の頬を大きな雫が伝う。
そんな顔なんて見たくなかったけど。
今すぐにでも撤回して、答えを先延ばしにして貰いたくなるけど。
それでもこれ以上、俺は誰かをワガママで振り回したく無かったから。
P「……本当に、ごめん」
もう一度、きっぱりと言葉にする。
それからしばらくの沈黙。
その空気の重さが耐えられなくて、俺は口を開いた。
P「……それでも、これからも……」
智絵里「……あの、Pくん」
その言葉を、智絵里ちゃんに遮られる。
P「……どうした?」
智絵里「……Pくんは今……好きな人は、いるんですか……?」
P「…………いないよ……」
智絵里「……そう、ですか……ありがとうございます」
涙を流しながらも、微笑んで。
智絵里ちゃんは、校舎内へと戻って行った。
43 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/03/31(土) 19:14:21.15 ID:eVVepE3YO
李衣菜「お、やっほーP」
重たい心で足を引き摺って教室に戻ると、李衣菜が一人で立っていた。
P「ん……あぁ、李衣菜か……」
李衣菜「李衣菜かって酷くない?折角待っててあげたのにー」
P「頼んでないぞ、さっさと帰れば良かったのに」
つい、毒づいてしまう。
虫の居所が悪いと言うか、虫けらの様なメンタルと言うか。
李衣菜にそんな八つ当たりをしたって、誰も幸せになれないって事くらい分かってるのに。
それでも……
李衣菜「うん、私が待ちたかったから待ってただけ。さ、帰ろうよ」
笑って、そう言ってくれた。
なんだかその笑顔が眩しくて。
なんの含みも無い、子供みたいに無邪気な微笑みが綺麗過ぎて。
きっとそれは窓から射し込む夕陽のせいだと自分に言い聞かせ、俺は目を逸らした。
李衣菜「おっ?私に惚れちゃった?」
P「いや、なんていうか……変わんないなーって」
李衣菜「うん、私は変わらないよ」
なんだろう。
李衣菜と喋っていると、悩みなんてどっかに飛んでってくれる様な感覚は。
ずっと昔からの付き合いだから、居心地が良いんだろうな。
P「……よしっ!なんか食って帰るか!」
李衣菜「奢ってくれる?」
P「三百円までな」
李衣菜「小学生の遠足じゃん」
P「バナナだったら何本でも買ってやるよ」
李衣菜「それじゃ、早くインドのバナナ農園行こう!」
P「遠足にしては遠過ぎるだろ」
44 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/03/31(土) 19:14:53.34 ID:eVVepE3YO
並んで歩いて、校門を抜ける。
振り返って屋上を見ると、また心が重くなった。
李衣菜「元気無いね。何かあった?」
P「色々あったよ、ここ数日で」
李衣菜「……そっか」
それから、しばらく無言で。
特に会話も無しに、俺たちは道を歩く。
すれ違うカップルは、手を繋いで笑い合っていた。
もしさっきオーケーしていたなら、俺もあんな風に楽しそうに笑っていたんだろうか。
李衣菜「よし着いた」
P「ん……?」
いつの間にか、結構歩いていた様だ。
目の前には大きな川が広がっていて。
そこは、昔たまに李衣菜と遊びに来ていた河川敷だった。
李衣菜「よしP、肉まん買って来て」
P「飲み物は何がいい?」
李衣菜「お茶かポカリ」
P「あいよっ」
少し走って、近くのコンビニで肉まんとポカリを買う。
またすぐに戻ると、木製のボロボロなベンチに李衣菜が腰掛けていた。
P「ほいよ」
李衣菜「ありがと」
隣に腰掛け、肉まんに齧り付く。
うん、肉まんだ。
45 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/03/31(土) 19:15:35.60 ID:eVVepE3YO
P「にしても、ここ来るの久しぶりだな」
李衣菜「春休みに一回来たよ」
P「そうだったわ」
確か桜が咲いてるか見に来たんだった。
わざわざ小雨の日に傘差して見に来て、結局枝の写真だけ撮ったのを覚えてる。
李衣菜「もう葉桜になっちゃってるね」
桜の旬は大体一週間くらい。
既に葉桜に変わった桜の樹木は、翌年の春へ向けて再び養分を蓄え始める。
P「ま、俺は葉桜も好きだけどな」
李衣菜「Pは花より団子でしょ?」
P「今は団子じゃなくて肉まんだけどな」
李衣菜「ロマンのカケラも無いなぁ」
笑いながら、李衣菜も肉まんを齧る。
李衣菜と並んで座って。
なんの変哲も無いいつも通りの会話をしていると。
なんだか、子供の頃に戻った様な気がしてくる。
李衣菜「……今日、放課後何かあった?」
P「屋上に行ったんだ」
李衣菜「一人で屋上なんて危ないよ、きちんと保護者さんと一緒に行かないと」
P「俺は幼児か」
李衣菜「で、屋上で?」
P「……智絵里ちゃんに告白された」
李衣菜「Pは?」
P「……断ったよ」
李衣菜「へー」
P「いやおい、聞いたんならもうちょっと興味持てよ」
李衣菜「掘り返して欲しい?」
P「桜の木の下に埋めといて欲しい」
李衣菜「将来の夢は桜の養分なんだ」
P「いずれ春を運んでやるよ」
46 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/03/31(土) 19:16:20.97 ID:eVVepE3YO
李衣菜「……ちゃんと、断ったんだ」
P「……あぁ」
李衣菜「……どうだった?」
P「どうだったも何も……しんどかったな」
真正面から向けられた好意を真正面から断るのは、とてもしんどかった。
断った時の智絵里ちゃんの表情が、見ていて耐えられなくなった。
そしてこれからも。
こういった事があるんだとしたら……
P「……やっぱり俺は、子供でいたかったよ」
世界中みんなが子供だったなら良かったのに。
そんなバカな事を考えてしまう。
智絵里ちゃんだって、まゆだって。
みんなあんなに、強くて、優しくて。
俺だけ幼稚なままで、それを実感するのも嫌で。
李衣菜「……でも、ちゃんと断ったんだね」
P「それだって、智絵里ちゃんに返事を求められたからだし……」
李衣菜「理由も大事だけど、結果も大事だよ。どっちかじゃなくて、どっちもじゃない?」
P「理由がダメな俺は半人前じゃん」
李衣菜「もう半分は何にする?魚?馬?」
P「桜が良いな」
李衣菜「また来年お越し下さーい」
P「また来年も来るか。今度は満開の時に見に来たいな」
47 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/03/31(土) 19:16:53.66 ID:eVVepE3YO
そう言えば、李衣菜はどうなんだろう?
ふと、気になった。
P「なぁ李衣菜。李衣菜って好きな奴いるのか?」
李衣菜「福沢諭吉とか?」
P「それは俺も大好きだ。財布にあの人が映った日本銀行券ブロマイドを沢山挟んどきたいくらい」
李衣菜「あとは樋口一葉」
P「なんて現金な奴だ」
李衣菜「あっはは。にしても、ねぇ。Pはそんな人の好きな人を知ってどうするの?」
P「いや、単純に李衣菜は恋をするのかって気になっただけだよ」
李衣菜「え何、私雌雄同体だと思われてるの?」
P「カタツム李衣菜って語呂よくないか?」
李衣菜「……悪くないと思っちゃった自分がいた。あ、早く食べないともう肉まん冷めちゃってるんじゃない?」
P「肉まんって雌雄同体なのかな」
李衣菜「マンだし男なんじゃない?」
P「肉まんは恋をするのかな」
李衣菜「難しいなぁ……」
なんか話が逸れた気がする。
48 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/03/31(土) 19:17:42.61 ID:eVVepE3YO
P「ってそうじゃなくてさ」
李衣菜「うーん、内緒でーす!」
P「おいおい、減るもんじゃ無いだろ」
李衣菜「じゃあP、持ってる『本』のタイトル私に言える?」
P「すまん、俺が悪かった……ん?」
……いやでもそれは信頼とかが減る気がする。
つまり釣り合って無いのでは?
P「俺たちの間に隠し事は無しだぞ。あの日そう誓ったじゃないか」
李衣菜「え、ごめんそんな覚え無いんだけど」
P「奇遇だな、俺も無いわ」
李衣菜「それに私がPに隠し事をしてた事って無いでしょ?」
P「美穂の事」
李衣菜「恋愛に関してはその限りでは無いんだけどね」
P「……まぁ確かに、それ以外で李衣菜が何か隠してた事って無いな」
李衣菜「その通り、分かってるじゃん」
P「逆に言えば恋愛に関しては話してくれないって事か」
李衣菜「それもその通り。ま、私も好きな人いるんだけどね」
P「はっ?!!?!?!」
李衣菜「……嘘だよ?まぁ嘘だけど、その反応的に私は一回殴っても許される気がするんだけど」
P「……嘘か」
一瞬天地がひっくり返ったかと思った。
聞いといてあれだけど、李衣菜が恋愛って、こう……イメージが湧かなかったから。
李衣菜「イメージ映像が出ない?」
P「頭ん中砂嵐だったわ」
49 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/03/31(土) 19:18:53.25 ID:eVVepE3YO
李衣菜「そういうのに憧れない訳じゃないけどね。恋人と並んで歩くーとか、二人で遊びに行くーとか」
そう言って笑いながら、李衣菜は此方を向いた。
李衣菜「でもま、私は今のままで充分かな……なんて、ちょっとクサかった?」
沈みかけた夕陽に照らされ、春の風に髪をなびかせて。
そんな李衣菜の笑顔が、堪らなく眩しくて。
なんだか恥ずかしくて、それでももっと見ていたくて。
P「…………あ……」
成る程、と。
色々と渦巻く思考の中で。
それでも冷静に納得している自分がいた。
そうか、こんな風に……
李衣菜「ん?何?どうしたの突然」
P「……いや、えっっと……何でもない」
李衣菜「さ、そろそろ帰ろ?文香さん待ってるんじゃない?」
P「ん、やべ。買い物してかないと」
李衣菜「それじゃ、私はあっちだから」
P「おう、じゃあな」
李衣菜と手を振って別れる。
風に乗って流れて来た桜の花びらが、その後ろ姿をより鮮やかにして。
P「……李衣菜ー!」
李衣菜「なーにー!」
もう一度、手を振る。
それに応え、李衣菜も振り向いて大きく手を振った。
P「また明日なー!!」
李衣菜「はーい!またねーっ!!」
俺はそこに、少し遅れてきた春を見つけられた気がした。
50 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/31(土) 19:43:11.66 ID:cQbE+jKgO
口の中が砂糖漬けレモンの味がする
51 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/04/01(日) 19:44:26.12 ID:hV8zDYZyO
文香「……随分と、機嫌が良い様ですね」
P「あ、見て分かる?」
家に帰って夕飯を作っていると、文香姉さんからそんな事を言われた。
どうやら俺は気分が表に出るタイプらしい。
文香「ふふ……なるほど」
P「そうそう!バレた?!」
文香「そうですね……」
P「うん!それだよ!」
文香「本日は、お気に入りの『本』の発売日でしたね……」
P「ちげぇよ!!」
文香「……違ったのですか……?」
P「違うそうじゃない姉さん。っていうかなんで把握してんの?」
いやまぁ買い損ねたけど確かに今日だったけど。
もっとこう……あるだろう。
文香「私が書籍類の発売日を把握していないとでも……?」
P「把握されてるのか……これから毎月この日はどんな顔して帰って来ればいいんだよ……」
文香「……堂々としていれば良いと思いますが……」
P「その話聞かされた後でとか無理だろ」
文香「ご安心下さい……その日のみ、きちんとノックする様にしていますから……」
P「心遣いが痛いし、それ以前に普段もちゃんとしようよ」
文香「……それで……P君」
P「何?ノックは二回だとお手洗いになっちゃうから三回だぞ」
文香「お手洗いでの時も」
P「やめて姉さん。いやほんとやめて下さい」
文香「……ふふ。少し、意地悪でしたか……」
52 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/04/01(日) 19:45:17.92 ID:hV8zDYZyO
珍しく悪戯っ子の様に笑う文香姉さん。
なんだかいつも以上に口では勝てそうにないなぁ。
文香「……P君が、とても楽しそうだったので」
P「従兄弟が楽しそうだから意地悪するってなかなか捻くれてない?」
文香「私にだって、そんな時もあります…………さて」
ニコリと笑って。
文香「……見つかりましたか?P君」
P「うん、案外近くにあるもんだったよ」
文香「ふふ……そうですか」
P「自分の事みたいに嬉しそうだな」
文香「当然です。私は、P君の……姉なのですから」
P「ありがと、姉さん」
文香「成就すると良いですね」
P「すると良いなぁ」
文香「お相手は……李衣菜さんですか?多田さんですか?多田李衣菜さんですか……?」
P「わぁすげぇ!実質一択じゃん!」
文香「……違ったのですか?」
P「いやまぁ、違わないけど……」
文香「……改めて、頑張って下さい」
P「もちろん」
文香「彼女の作る料理が……私は、大好物ですから」
P「うわそっち目当てか!」
文香「ふふふ……P君のお話を聞ける日を、楽しみにしていますから」
P「おう、あと食器くらいは運ぶの手伝って欲しいかな」
53 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/04/01(日) 19:45:58.11 ID:hV8zDYZyO
ガラガラ
P「おはよーございまーす」
李衣菜「おはよーP」
美穂「おはようございます、Pくんっ!」
智絵里「あ……えっと、おはようございます……っ!」
P「……おう、おはよう」
智絵里「……えへへ。おはようございます、Pくん」
P「……あぁ。おはよう、智絵里ちゃん」
智絵里「はい……おはようございますっ!」
あぁ、本当に良かった。
智絵里ちゃんが、前までと同じ様に接してくれて。
美穂「なんで挨拶してるだけなのに、あんなに嬉しそうなんだろ……?」
李衣菜「挨拶愛好家なんじゃない?」
加蓮「……おはよー鷺沢」
まゆ「……おはようございます、Pさぁん……」
P「えっと……おはよう」
美穂「……なんで挨拶してるだけなのに、あんなに死にそうなんだろ……?」
李衣菜「嫌挨拶家なんじゃない?」
智絵里「おはようございます、加蓮ちゃん、まゆちゃん」
加蓮「……お、おはようございます緒方様」
まゆ「昨日は、その……大変申し訳ございませんでした……」
いやマジで何があったんだ。
美穂「何かあったんですか?」
李衣菜「あそこ聞いちゃうんだ」
加蓮「……チョップが……ちえりんチョップが……っ!」
まゆ「やめて下さい……チョップだけは……っ!」
智絵里「……わ、わたし、そんな事してないけど……」
P「何をしたらこうなるんだ?」
智絵里「……ちょ、チョップです……!」
チョップが飛んで来た。
これ以上深追いはするなという意味なんだろうか。
54 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/04/01(日) 19:47:13.20 ID:hV8zDYZyO
李衣菜「む、じゃあ私バリアー張る!」
なんで張り合った。
智絵里「チョップです……!」
李衣菜「はいここらへんバリアー!バリアー張ったからチョップは効かないよ!」
加蓮「何この小学生みたいな会話」
まゆ「高校生とは思えませんねぇ……」
智絵里「えいっ!ち、ちえりんチョップ、です……っ!」
加蓮「さっきのチョップと何が違うんだろ?」
まゆ「高校生とは思えませんねぇ……」
美穂「な、ならっ!ちえりんチョップ無効バリアーですっ!」
加蓮「くらえっ!ちえりんチョップ無効バリアー無効ちえりんチョップ!」
智絵里「加蓮ちゃんのちえりんチョップじゃ、虚偽表示及び産地偽装です……」
李衣菜「犯罪じゃん、加蓮ちゃん犯罪者じゃん」
まゆ「っていうか加蓮ちゃんこのゴミ箱みたいな会話についてってたんですかぁ?!」
加蓮「じゃあ産地偽装ちえりんチョップ無効バリアー無効産地偽装ちえりんチョップ!」
智絵里「堂々と虚偽表示を申請しないで下さい……!」
まゆ「もういいです!まゆは自分の耳にバリアーします!!」
なんなんだこの会話は。
でもまぁ、楽しそうだしいいか。
55 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/04/01(日) 19:47:44.80 ID:hV8zDYZyO
美穂「あ、Pくん。もし良かったら、明日の放課後カラオケに行きませんか?」
P「ん、いいぞー」
明日は午前中で授業終わりだからな。
フリータイムで沢山歌えそうだ。
李衣菜「お、二人きりでカラオケ?」
加蓮「デートじゃんひゅーひゅー!」
美穂「で、デートだなんて……」
智絵里「ひゅ、ひゅーひゅー……っ!」
李衣菜「可愛い」
美穂「同意します」
まゆ「ひゅーひゅー!」
美穂「過呼吸ですか?」
まゆ「酷くありませんか?」
加蓮「ようこそ、まゆ」
まゆ「あと加蓮ちゃん、仲間見つけたみたいな表情やめて下さい笑い辛いので」
美穂「あ、折角だからみんなで行きませんか?」
李衣菜「おっけー」
加蓮「今日授業サボって今から行かない?」
李衣菜「加蓮ちゃん」
加蓮「うわーん鷺沢ー!李衣菜が怖い!」
P「……なんっていうか……」
加蓮、なんか最初の頃とキャラ違わない?
一週間前のお前はもっと尖った鋭利な刃物のような物みたいな奴だったぞ。
加蓮「む、なんか失礼な事考えてるでしょ」
まゆ「そうですよぉPさん、加蓮ちゃんの事を考えるなんて人間として最も愚かな行為ですよぉ」
加蓮「まゆ愚かって漢字書けるの?」
まゆ「え逆に加蓮ちゃん書けないんですか?」
加蓮「……読む事くらい余裕だし」
まゆ「暗に書けないって言ってる様なものじゃないですか……」
李衣菜「はいはい、そろそろ先生来るから席戻るよ」
李衣菜が手を叩いて撤収させる。
そんな呆れながらも楽しそうな李衣菜の横顔を、気付けば目で追っていて。
更に気が付けば、六時間目が終わっていた。
56 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/04/01(日) 19:48:36.06 ID:hV8zDYZyO
金曜日の四時間目が終わって、靴を履き替え六人で駅前のカラオケに向かう。
こう大人数でワイワイしてると、なんだか高校生だなーって感じがするなぁ。
まゆ「お昼ご飯はどうしますかぁ?」
李衣菜「カラオケで適当に注文すればいいんじゃない?」
加蓮「ポテトあるかな」
美穂「隣とハンバーガーショップにならあるんじゃないですか?」
智絵里「……えへへ……」
P「どうしたんだ?智絵里ちゃん」
智絵里「えっと……み、みんなで遊びに行くの……あんまり無かったから……」
P「なんかテンション上がるよな」
智絵里「……あ、その……Pくん」
P「ん?」
智絵里「みんな呼び捨てなのに……わたしだけ、ちゃん付けだから……」
P「……じゃ、智絵里で」
智絵里「……えへへ……はい……!」
57 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/04/01(日) 19:49:13.86 ID:hV8zDYZyO
李衣菜「へいへーい、何良い雰囲気醸し出してるの?」
加蓮「李衣菜はそれ何してるの?」
李衣菜「白線しか歩いちゃいけないやつ」
小学生かお前は。
俺も時々やるけど。
加蓮「私もやる!」
まゆ「小学生ですねぇ……」
李衣菜「……まずいよ、加蓮ちゃん」
加蓮「っ!この十字路、横断歩道が無い……!」
李衣菜「ジャンプじゃ届かなそうだね」
加蓮「あ、ねぇ鷺沢おんぶしてよ」
まゆ「張っ倒しますよぉ?」
加蓮「じゃあまゆでいいや、肩車して」
まゆ「加蓮ちゃん体重は?」
加蓮「軽いよ」
李衣菜「すごくアバウト」
まゆ「バストサイズは?」
加蓮「まゆよりは大きいよ」
まゆ「じゃあ肩車してあげません」
なんだかとても哀しい会話を聞いてしまった気がする。
加蓮「その理論じゃ誰も肩車出来ないんじゃない?」
まゆ「……智絵里ちゃん?」
智絵里「……えっ?わ、わたしは……多分、まゆちゃんよりは……」
まゆ「……Pざぁ゛ん……」
P「反応に困るからその会話やめない?」
58 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/04/01(日) 19:51:07.49 ID:hV8zDYZyO
まゆ「とろけさせてあげるっ!溢れるほどの愛で!」
智絵里「ここに来て Be my Darling」
まゆ・智絵里「抱きしめて心まるごと LOVE YOU」
まゆ「……ご清聴、ありがとうございました」
智絵里「ふぅ……」
まゆと智絵里がマイクを置く。
開幕はこの二人のデュエットだった。
めっちゃ可愛い、耳が溶ける。
まゆ「どうでしたかぁPさん?」
画面『フフーン、ボクみたいに上手です!上手だから大丈夫だよ!』
李衣菜「だってさ」
まゆ「この採点機なんでこんな上から目線なんですかねぇ。あとPさんに聞いてるんですよぉ」
P「良かった、可愛かった、女の子だなーって歌だった」
李衣菜「脳みそパステルピンクだね」
加蓮「やるじゃんまゆ、緒方様。これは私と美穂の二人で挑むしかないね」
まゆ「まゆと緒方様の絆パワーですよぉ」
智絵里「その……そろそろ恥ずかしいから……」
まゆ「らしいですよ、加蓮ちゃん。身の程を弁えて下さい」
加蓮「まゆは身の丈を弁えたら?」
李衣菜「身長トークやめない?多分私が一番刺さるから」
59 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/04/01(日) 19:51:48.08 ID:hV8zDYZyO
美穂「あ、加蓮ちゃんも一緒に歌いますか?」
加蓮「歌うよ、美穂。それで何入れたの?」
まゆ「……あー、成る程。美穂ちゃんらしいですねぇ」
美穂「えへへ……わたしの、とっても大好きな曲なんです」
可愛らしいイントロが流れ出す。
加蓮「げっ……私がこれ歌うの?」
まゆ「……んふっ……とっても可愛らしい加蓮ちゃん、期待してますよぉ……ふふっ……」
美穂「はいっ!加蓮ちゃん、前説入れて下さいっ!」
加蓮「え、無茶振り酷くない?えっと……ラブレター、蛙飛び込む、井戸の中」
まゆ「可燃ゴミみたいな前説ですねぇ」
加蓮「待ってごめんもう一回リベンジさせて!」
美穂「大好きな君に贈りますっ!小日向美穂と、北条加蓮で、ラブレター!」
加蓮「えぇ……」
二人が歌っているのは、恋する女の子の曲。
美穂の可愛らしいとヤケクソな加蓮の歌声がとても聴いていて楽しい。
美穂「Sunshine day 今すぐ、伝えたいから」
加蓮「Dreaming Dreaming Darling あなたのことを」
美穂・加蓮「大好きだから。ラブレター受け取ってくださいっ!」
まゆ「ひゅーひゅー」
加蓮「うるさい過呼吸!」
智絵里「とっても……上手ですね……」
李衣菜「これは惚れるしかないね」
美穂「どうでしたか?Pくんっ!」
画面『可愛かったです』
美穂「そ、そんな……可愛いだなんて、えへへ……」
P「俺まだなんも言ってないんだけど」
いや実際めちゃくちゃ可愛かったけど。
60 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/04/01(日) 19:52:31.90 ID:hV8zDYZyO
加蓮「ねぇ鷺沢、私は私は?!」
P「……んふっ」
まゆ「んふっ」
加蓮「は?」
P「加蓮、歌うの上手いな。上手かったし上手だなーって思ったよ」
加蓮「小学生の感想文以下だね。あー恥ずかしかった」
P「ヤケクソながらも熱唱してたもんな」
智絵里「次の曲は……」
李衣菜「あ、私だ。マイク取ってー」
美穂「はい、どうぞ!加蓮ちゃんはそのまま前説を入れて下さいねっ!」
加蓮「よし、リベンジするよ!」
李衣菜「あ、この曲前奏無いよ」
加蓮「なんでそんな曲入れたの?!」
李衣菜「前説を入れなければいいんじゃない?!」
智絵里「李衣菜ちゃん……その……もう、曲始まってる……」
李衣菜「あーもうっ!間奏入ってるじゃん!」
美穂「加蓮ちゃん!チャンスですっ!」
加蓮「よし!えっと……うーん……あ!オータムウィンド!」
李衣菜「秋風に手を振って!!」
李衣菜がようやく歌い出した。
……前から思ってたけど、李衣菜も歌うの上手いな。
まゆ「……上手いですねぇ」
加蓮「え、普通に上手い」
智絵里「……驚きです……」
美穂「三人は李衣菜ちゃんを何だと思ってたのかな……」
少し大人びた曲を歌う李衣菜。
その横顔は、普段と少し違う感じがした。
李衣菜「My dear ごめんね 素直になれなくて 誰より好きだった さよならを言っても……みんなは私を何だと思ってたの?!」
加蓮「李衣菜」
李衣菜「合ってるけど絶対バカにしてるでしょその言い方!」
61 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/04/01(日) 19:53:03.75 ID:hV8zDYZyO
智絵里「あの……マイク取ってもらってもいいですか?」
李衣菜「あ、ごめんごめん。はい」
智絵里「それと……出来れば、誰か一緒に歌ってくれると嬉しいです……」
まゆ「あ、これならまゆも歌えますよぉ」
美穂「わたしもです!」
李衣菜「私も歌えるよ」
加蓮「誰とデュエットする?」
智絵里「なら……せっかくだから、みんなで歌いませんか……?」
オシャレなイントロが流れ出す。
なんだか火サスとか昼ドラで流れて来そうな曲調だ。
美穂「加蓮ちゃん!前説リベンジですっ!」
加蓮「……また?……えっと、お料理さしすせその味噌だけなんかズルいと思うんだよね」
まゆ「アドリブ下手ですねぇ……『恋』、それは儚くも美しい永遠の」
美穂「小日向美穂とっ!」
李衣菜「多田李衣菜と!」
まゆ「えぇ……佐久間まゆで!」
加蓮「ちょっと!北条加蓮も!」
智絵里「お、緒方智絵里で……!」
「「「「「Love∞Destiny」」」」」
62 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/04/01(日) 19:53:40.69 ID:hV8zDYZyO
加蓮「ふー……かなり歌ったね」
P「もう十九時だし、そろそろ帰るか」
まゆ「楽しい時間はあっという間ですねぇ」
李衣菜「みんなは夕飯どうするの?」
美穂「わたしは門限があるので……」
加蓮「なら私も帰ろっかなー」
まゆ「まゆは今日は申請してあるので大丈夫です」
智絵里「わ、わたしもまだ時間はあるけど……」
李衣菜「なら、何処かで食べてかない?」
智絵里「え、李衣菜ちゃんが払ってくれるんですか……?!」
李衣菜「おっ、今日一のいい笑顔」
加蓮「え?李衣菜の奢り?ならまだ帰らなくていいかな」
まゆ「ご一緒していいですかぁ?」
李衣菜「ちょっとちょっと、私そんな手持ちないんだけど!ねぇP、どう?助けてくれたりしない?」
P「悪いな、俺は帰って夕飯作んないと」
美穂「じゃあね、李衣菜ちゃん」
李衣菜「薄情者ー!」
P「んじゃ、また適当に集まって遊ぼうな」
加蓮「じゃあねー」
まゆ「ふふっ、お疲れ様でした」
李衣菜達と別れて、帰路に着く。
四月中旬の夜風は、流石にまだそこそこ冷たい。
こんな事ならマフラーか手袋でも持って来れば良かったな。
美穂「うぅ……寒いですね」
P「だなー、結構冷えるわ」
63 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/04/01(日) 19:54:12.97 ID:hV8zDYZyO
美穂「あ、なら……」
美穂は片手を、俺の方へと伸ばしてきた。
その頬は、少し赤い。
美穂「手、繋ぎませんか?」
……仕方のない事だ。
だって、二人とも手が悴むなんて嫌じゃないか。
そう自分に言い訳して、俺は美穂の手を握った。
美穂「えへへ、ありがとうございます」
P「……あったかいな」
美穂「……はい、温かいです」
P「今日は楽しかったな」
美穂「ですね!また、みんなで遊びに行きたいですっ!」
気分が良さそうに手を振りまわす美穂。
美穂「で、でも今度は……Pくんと二人きりで行きたいなーなんて……えへへ……」
P「ん、騒がし過ぎるのは嫌だったか?」
美穂「そ、そうじゃないですっ!もちろん、今日みたいにみんなで遊ぶのもとっても楽しいですけど……」
P「みんな面白いしな」
美穂「はい。でも、その……恋人と二人きりで、みたいな……そんな事にも憧れちゃうなーって……」
64 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/04/01(日) 19:54:38.98 ID:hV8zDYZyO
……あぁ、言わないと。
このままでいようと思ってたのは、俺の気持ちが決まってなかったからで。
それを頼んでおいて、本当に都合がいい事だとは思うけど。
P「……なぁ、美穂」
美穂「はっ、はいっ!」
やっぱり、言葉にしようと思うと辛い。
こんなに可愛くて優しい子の、辛そうな顔なんて見たくない。
それでもこの気持ちを、勘違いにしたくないから。
P「俺、さ……」
大きく息を吸って。
俺は、言葉にした。
P「……好きな人が出来たんだ」
美穂「…………え……」
65 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/04/01(日) 19:55:52.92 ID:hV8zDYZyO
美穂の表情は、固まったままで。
お互い、口を開けずに。
会話もなく、重い空気の夜道を並んで歩いていた。
美穂「え、えっと……それは、わたしだったりして……えへへ……」
精一杯の笑顔を振り絞って、美穂はそう言って。
俺がここで頷けば、きっとお互い笑顔になれて。
ありふれたカップルの様な学校生活をおくれるんだろう。
それも悪くない。
この居心地の悪さから抜け出せるのなら、それで良いじゃないか。
……それでも、やっぱり。
心に浮かぶのは、夕焼けに照らされた李衣菜の笑顔で。
P「……ごめん」
絞り出した声は、それだけだったけど。
もう、それで全部が伝わっているだろう。
66 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/04/01(日) 19:56:49.17 ID:hV8zDYZyO
美穂「……そっか……振られちゃったんだ、わたし……」
P「……ほんとにごめん、美穂」
泣きそうになりながら、苦しそうな表情で。
美穂「……が、頑張って下さい!わたし、Pくんの事応援しちゃいますからっ!」
それでも、美穂はそう言ってくれた。
美穂「そ、それにっ!Pくんが誰かと付き合っても、わたし達は友達だもんっ!」
P「……ありがとう、美穂」
優しいな、美穂は。
本当に、美穂と友達で良かった。
美穂「それで、えっと……誰の事が好きなんですか?まゆちゃんですか?」
これも、口にしようとすると恥ずかしさがあるけど。
いずれは、本人にも伝えなきゃいけないから。
俺の、好きな人は。
P「…………李衣菜だ」
美穂「…………え、ぁ……」
P「……俺は、李衣菜の事が好きなんだ」
美穂「…………」
P「……美穂?」
美穂の表情は、再び固まっていた。
聞き取れなかった、って事は無いよな……?
美穂「…………李衣菜ちゃん、なんだ……」
67 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/01(日) 21:06:14.32 ID:E11MIfcfO
うわぁ、これは闇堕ち不可避
68 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/02(月) 16:17:46.83 ID:/04lAWyZ0
だれかガスター10持ってきて!!
69 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/02(月) 23:38:21.25 ID:qj5hOTJlO
支援
70 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/03(火) 01:34:11.35 ID:HFt+9zmho
ハイライトさんがログアウトしましたねこれは…
71 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/04/07(土) 21:17:15.64 ID:XYjU0z5D0
ポツリと、呟いて。
美穂「……わたし、寮の門限があるからっ!!」
そう言って、美穂は走って行ってしまった。
P「美穂っ!」
追い掛けようと走り出すが、狙った様なタイミングで信号が赤になった。
横切る車の切れ間から見える美穂の背中が、どんどん遠くなってゆく。
そして大きなトラックが視界を遮り、通り過ぎた時にはもう美穂は居なくて。
P「……」
もう今から追い掛けても、追い付く前に美穂は寮に着いてしまうだろう。
ラインを飛ばせば連絡は出来る。なんなら通話だっていい。
ポケットからスマホを取り出して、ほんの数回タップするだけで。
それなのに、たったそれだけでいいのに。
P「……はぁ……」
今美穂と話して、より傷付けてしまうのが怖くて。
今美穂と話して、拒絶されるんじゃないかと思うと怖くて。
俺の手は動かず、ただトボトボと家に向かって歩くだけだった。
72 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/04/07(土) 21:17:43.15 ID:XYjU0z5D0
翌日土曜の朝、起きてすぐスマホを確認する。
誰からも連絡は来ていなかった。
P「……はぁ」
昨晩のあの件から、美穂と連絡を取っていない。
いや、取る勇気がない。
部屋に野郎の溜息がこだまする。
李衣菜「溜息吐くと幸せが逃げてくよ」
P「まじかー……はぁ」
李衣菜「……重症だね。何かあったの?」
P「幸せが逃げたんだよ」
李衣菜「溜息吐いてるからじゃない?」
P「だよなー……はぁ」
李衣菜「一緒に居るこっちまで気が滅入るからやめて」
P「うっす」
当たり前の様に俺の部屋に居る李衣菜が、窓を開けて換気をする。
取り込まれた新鮮な空気と眩しい陽の光のコンボに、流石に眠気は消し飛んだ。
李衣菜「文香さんが待ってるよ、早く下来てね」
P「姉さんが待ってるのは俺じゃなくて朝食だろ?」
李衣菜が出て行った後、パパッと着替えて気分も変える。
グダグダ考えてたって仕方がない。
謝るなら直接会ってするべきだし、月曜会った時に……
……気が重いな。
でも、美穂なら大丈夫だろう。
73 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/04/07(土) 21:18:15.34 ID:XYjU0z5D0
文香「P君」
P「はいはい、今すぐ作るから待っててくれって」
文香「いえ……いただきますを待っているのですが……」
P「え?」
李衣菜「私が作ってあげたんだよ。感謝してね」
P「……なんか変なもん食った?」
李衣菜「あ、こっちがPの分ね。酸素と窒素の二酸化炭素添え」
P「空気じゃん」
李衣菜「何か言う事は?」
P「すまん。あと、ありがと」
文香「……土下座では無いのですか?」
李衣菜「切腹でも良いよ」
P「妥協点が妥協を許してくれてないぞ」
まぁそんな感じで朝食を食べる。
うん、美味しい。
いつもだったら、きっとこの場に美穂も居ただろうに……
74 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/04/07(土) 21:18:41.58 ID:XYjU0z5D0
李衣菜「……どうしたの?」
文香「まるで、悩んだ様な顔をして……悩めるんですか?」
P「悩んでるんですか?じゃなくて悩めるんですか?って酷くない?」
李衣菜「あ、文香さんおかわり要ります?」
文香「……お願いします」
P「尋ねたなら聞こうよ」
李衣菜「楽しそうな話じゃなさそうだし」
文香「食事を満喫したいので……」
P「へーへー」
まぁ美味しい朝食を食べながらする様な話でもないか。
李衣菜「あ、P。この後暇なら一緒にCD買いに行かない?」
P「ん、構わないぞ」
文香「……ひゅーひゅー……?」
文香姉さんがやると割とマジで過呼吸っぽいな。
言ったら殴られそうだから言わないけど。
文香「……殴りませんよ……?」
P「言ってないよ……」
文香「目は口ほどに、という言葉がありまして」
李衣菜「あ、片付けは私がやっとくから食べ終えたらPは出掛ける準備してきてね」
P「サンキュ、ご馳走様でした」
食器を流しに置いて、一旦部屋へと戻る。
まぁ男子の準備なんて鞄に財布突っ込むくらいだけど。
後まあ一応、雨降ってきた時用に折り畳みも持ってくか。
李衣菜「お、準備出来た?」
P「おう、行くか!」
75 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/04/07(土) 21:19:09.36 ID:XYjU0z5D0
李衣菜「……ふんふん、ふむふむ……ほー……」
P「何聴いてるんだ?」
李衣菜「えっと、ロックだけど?」
P「何系?」
李衣菜「……えっ?ろ、ロックはロックだよ?」
P「……ほーん」
駅前のビル五階、CDショップにて。
李衣菜がロックを試聴している間、俺はヘッドホンを眺めていた。
うわ耳に当てる部分柔らかっ、マシュマロかよ。
李衣菜「Pも聴いてみる?」
P「聴いてみるかー。ヘッドホンパス」
李衣菜「はいよっ」
李衣菜からヘッドホンを受け取り、装着する。
……ん?音結構小さいな。
李衣菜「あーごめん、もっとボリューム上げないと聴き辛いよね」
手元のタッチパネルで李衣菜が操作すると、少しずつ音量が上がってきた。
っへー、李衣菜ってこういうの聴くんだな。
時たまロック好きだって言ってるのは聞いたけど、俺自身がロックに疎くてイメージが付かなかった。
李衣菜「どう?」
P「ロックだな」
李衣菜「へへーん、分かってるじゃん」
いや今の俺の発言は分かってる奴の言葉だったか?
まぁロックが好きな李衣菜が言うんだからきっとそうなんだろうけど。
76 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/04/07(土) 21:19:44.25 ID:XYjU0z5D0
P「で、このCDは買うのか?」
李衣菜「買ってくれても良いんだよ?」
P「よかろう」
李衣菜「えっ、ほんと?!」
目をキラッキラさせて……
なんだろう、うん。
……李衣菜が、可愛い。
店員「あっしたー」
CDを購入して、李衣菜に渡す。
なんかまるでデートみたいだな、と内心一人で喜んでみたり。
李衣菜「サンキュー、P!」
P「いいって、朝食のお礼だよ」
李衣菜「だとしたら私の方がお返ししなきゃいけない回数多くない?」
P「ならその分李衣菜が作ってくれてもいいんだぞ」
李衣菜「……うん、考えとくよ」
ビルから出て、並んで歩く。
もうお昼時だし、そろそろお腹が空いてくるな。
P「……んっ、なんか良い匂い」
李衣菜「あ、あっちにケバブの屋台があるみたい」
P「食ってくか?」
李衣菜「……カロリーと相談中」
P「審議結果は」
李衣菜「GOサイン出た!行くよ!おおおおおおおっ!」
李衣菜が走って屋台へと向かって行った。
なんか、テンション高いな。
李衣菜「すいませーん、ケバブ二つで」
P「二個も食べるのか」
李衣菜「自分の分って可能性は考えないの?」
P「やば、本気で思い付かなかった」
李衣菜「はいはい、こっちPの分ね」
P「幾らだった?」
李衣菜「いいって、さっきCD買って貰っちゃったし」
77 :
◆x8ozAX/AOWSO
[saga]:2018/04/07(土) 21:20:11.67 ID:XYjU0z5D0
李衣菜からケバブを受け取り、近くの公園まで歩く。
ベンチに腰掛けて、並んでケバブ齧って。
……めっちゃデートみたい!
前までだったらいつも通りな事なのに、意識し始めてからは全てがデートに思えてきた。
全ての道はデートに繋がっているらしい。
李衣菜「うん、美味しい」
P「もっと食レポっぽく」
李衣菜「このジューシーなお肉とジューシーな野菜がすっごくジューシーですよ!」
P「ジューシー以外のバリエーションもうちょい増やそうぜ」
李衣菜「Pならなんて言うの?」
P「……めっちゃ美味い、すっごくケバブ」
李衣菜「Pの方が下手じゃん」
P「どんぐりの背比べだろ」
目の前を、小学生達が走って通り過ぎて行く。
鬼ごっこでもしてるんだろうか。
何にも考えずただ遊んで楽しんでるだけの小学生達に、かつての俺たちが重なって見えた。
昔はあんな風に、終わりなんて決めずに遊び回ってたなぁ……
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