大石泉「高峯のあの事件簿・都心迷宮」

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1 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/03/14(水) 19:14:57.24 ID:29cK37xH0
あらすじ

都心迷宮の奥で、彼女は待っている。

前話
イヴ・サンタクロース「高峯のあの事件簿・プレゼント/フォー/ユー」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1513078349/

あくまでサスペンスドラマです。
設定はドラマ内のものです。

それでは、投下していきます。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1521022496
2 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/03/14(水) 19:17:06.60 ID:29cK37xH0
メインキャスト

探偵・高峯のあ
助手1・木場真奈美
助手2・佐久間まゆ

刑事一課和久井班
警部補・和久井留美
巡査部長・大和亜季
巡査・新田美波

科捜研
松山久美子
梅木音葉

少年課
巡査部長・相馬夏美
巡査・仙崎恵磨

交通安全課
巡査部長・片桐早苗
巡査・原田美世

生活安全課
巡査・斉藤洋子

大石泉
村松さくら
土屋亜子

小松伊吹
吉岡沙紀
真鍋いつき

古澤頼子
3 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/03/14(水) 19:18:21.29 ID:29cK37xH0


清路駅南西・下向き矢印のビル・屋上

下向き矢印のビル
3階建ての小さな雑居ビル。清路駅の南西、駅や新開発地域からも離れた雑居ビルと町工場の多い寂れた場所にある。半年ほど前に大きな下向きの矢印が北側面に書かれたが、放置されている。

小松伊吹「沙紀、アイツら追いかけてきてる?」

小松伊吹
ストリートダンサー。開発が進行中の乱雑とした今の清路市をスケートボードで滑り抜けるのが趣味。

吉岡沙紀「道にはいなし、おそらく屋上まで登ってきてるっすね」

吉岡沙紀
『ペインター』。彼女が指示を受けて作り上げた作品はこの街の至る所に存在している。

伊吹「準備するよ」

沙紀「了解っす」

伊吹「アイツら、誰なの?見たことない警察官だけど」

沙紀「見たことないっすか?」

伊吹「うん。よしよし、君は問題なさそうね」

沙紀「少年課のコンビっすよ。なっちゃんとエマ」

伊吹「少年課ぁ?そっか、沙紀は未成年だもんね」

沙紀「そこら辺の刑事より厄介な相手っすよ」

伊吹「ふーん……行けるわよ。沙紀、捕まっててよ」

沙紀「足音が聞こえてきたっすよ」

伊吹「タイミングは扉を開けたら」

沙紀「オッケーっす」

伊吹「よし……」

沙紀「3、2、1、開いたっす!」

仙崎恵磨「沙紀ともう一人、止まれっ!」

仙崎恵磨
少年課の巡査、夏美のバディ。ベリショの溌剌とした若手警察官。

伊吹「止まんないよっ、バイバイ!」

沙紀「しまった、一人しか来てないっす!下で待ち伏せされてるっすよ!」

伊吹「でも、降りるしかないから!行くよっ!」

恵磨「うわっ、スゲェ!そんなに高いビルじゃないけど一人背負ってスケボーで降りれるんだ!」

相馬夏美『恵磨ちゃん、矢印を降りてく二人を確認したわ』

相馬夏美
少年課の巡査部長。日課はランニング。英語も堪能らしい。

恵磨「了解!アタシも追いかけます!」
4 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/03/14(水) 19:21:15.36 ID:29cK37xH0


清路駅南西・雑居ビル、工場街

雑居ビル、工場街
かつてはビジネスの中心であったが、時代と共に寂れた区画。最近は新築のビルや工場も増えつつあるが、かつての賑わいには程遠い。

伊吹「沙紀、跳んで!」

沙紀「よっと!着地成功!」

伊吹「大丈夫みたいね!警察は!?」

沙紀「少年課のなっちゃん見っけ、コッチがひきつけるっす!」

伊吹「オッケー、またね!」

沙紀「他の警官にも気をつけるっすよ!」
5 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/03/14(水) 19:23:23.54 ID:29cK37xH0


清路駅南西・雑居ビル、工場街

夏美『早苗さん、美世ちゃん、よろしく!』

片桐早苗「任せておいて!」

原田美世「スケボーを追います!」

片桐早苗
交通安全課の巡査部長。パトカーでの警邏が普段のお仕事。

原田美世
交通安全課の巡査、早苗のバディ。パトカーの運転が普段のお仕事。

早苗「対象のスケートボードが前を通過、美世ちゃん発進!」

美世「はい!」

早苗「予定通り気づかれたわ!対象は坂道を下って加速中!」

美世「坂道が多い場所ですから、地理間があれば速度を落とさずに通過できますっ」

早苗「パトカーからこのまま逃げ切れるわけないから、ルートを変えるはずよ……」

美世「曲がりました!」

早苗「美世ちゃん、停車!対象はビルとビルの隙間に入って行ったわ!」

美世「停車しました。早苗さん!」

早苗「予定通り!スピードを落とした、いや落ちざるを得ないはずよ!」

美世「はい!回り込みます!」

早苗「夏美ちゃん、洋子ちゃん、情報よろしくっ!」
6 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/03/14(水) 19:26:40.58 ID:29cK37xH0


清路駅南西・雑居ビル、工場街

夏美「吉岡さん、止まりなさい!」

沙紀「うえっ!なっちゃん、足はやいっすね!」

夏美「なっちゃん呼びはやめなさい!」

沙紀「伊達に警察官じゃないっすね。距離が詰まってる」

夏美「吉岡沙紀、止まりなさい!」

沙紀「さすが、アタシ……直感的っす!」

夏美「行き止まりよ、大人しくとまりな……」

沙紀「行き止まりじゃ、ないっす、よ!」

夏美「へっ!?」

沙紀「なっちゃん、チャオ!」

夏美「この落書き、案内図なのね……恵磨ちゃん、逃げられたわ」

恵磨『振り切られたんですか!?』

夏美「違うわ。パルクールみたいな動きでガスボンベから町工場の2階の金属階段に移動、今頃ビルの上を移動してるんじゃないかしら」

恵磨『やるなっ、どうします?』

夏美「状況把握しましょうか。洋子ちゃん、見えてる?」
7 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/03/14(水) 19:30:08.00 ID:29cK37xH0


清路駅南西・某ビル屋上

斉藤洋子「はーい、生活安全課の斉藤です!吉岡さんは見えてますよ!」

斉藤洋子
生活安全課の巡査。普段は防犯教育などを担当しているが、夏美に協力に駆り出された。

恵磨『洋子、二人はどっちに向かってる?』

洋子「方向を変えました、やっぱり北側に逃げてる!」

恵磨『ヨッシャ、北に行く!』

洋子「身軽ですね、誰かパルクールかフリーランニングできないんですか?」

恵磨『できない!』

夏美『私も。留美さんとかなら出来そうだけど』

洋子「あはっ、あの人なら出来そう。あっ、吉岡さん地面に降りました!東方向に移動中です!」

夏美『了解。私はどうしたらいい?』

洋子「ちょっと待ってください……2ブロックだけ東方向、そのあと北方向でお願いします!」

夏美『わかったわ。動きがあったら、連絡してね!』

洋子「わかりました!」

早苗『洋子ちゃん、スケボーの位置わかる?』

洋子「ごめんなさい、ここからは見えないです!屋根とかに邪魔されてて!」

早苗『そろそろ、見えそうなはず……こっちで視認出来たわ!』

洋子「パトカーのどちら側ですか?」

早苗『進行方向左側!並走してる!』

洋子「こっちも少しだけ見えました!そんな細い道で追いかけてるんですね!」

早苗『うちの美世ちゃんを舐めてもらったら困るわ!上から連絡よろしく!』

洋子「はいっ。たまにはこういう緊迫感ある仕事もいいかも」

夏美『洋子ちゃん、二人はどっちに向かってる?』

洋子「聞こえてます。えっと……あれ?」

夏美『どうしたの?』

洋子「合流しようとしてる?」

夏美『大まかでいいわ!合流しそうな場所を教えて』

洋子「わかりました!地図で送ります!」
8 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/03/14(水) 19:31:28.58 ID:29cK37xH0


清路駅南西・雑居ビル、工場街

恵磨「夏美さんが言ってたサインって、これか!ということは、居た!」

夏美『吉岡さん、見つけた?』

恵磨「このペイント、沙紀が描いたやつだな。相変わらずオカシな所走ってる」

夏美『落書き通り走らないでいいわ。洋子ちゃんが送ってくれた合流地点まで最短ルートで、いいわね!?』

恵磨「最短ルートだと沙紀を追わないとだけど、地上ってことだよね!?」

夏美『当たり前でしょ』

恵磨「オッケー、仙崎恵磨、走るよっ!」
9 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/03/14(水) 19:32:44.04 ID:29cK37xH0


清路駅南西・雑居ビル、工場街

早苗「洋子ちゃんから送られてきた場所だけど、見て」

美世「ここ、って」

早苗「うん、この前大雨だった時に、水没車が出たとこよね?」

美世「はい、一緒に見に行きました」

早苗「つまり、窪地ね。スケボーはここに向かって加速していくと」

美世「追いながら止めるのは難しいかな」

早苗「一番下まで落ちたら登るしかないわ、減速するところを捕まえましょう」

美世「わかりました、それならこっち!」

早苗「あたしも賛成!恵磨ちゃんが西から、夏美ちゃんが南から、スケボーは東から」

美世「パトカーで一番速度が出せるのは北側の道しかありません!」

早苗「よーし、ナビするわ!先着出来る?」

美世「距離のロスがあるので互角です」

早苗「互角なら勝ったようなもんね!頼むわ!」

美世「頼まれました!」
10 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/03/14(水) 19:34:01.72 ID:29cK37xH0


清路駅南西・雑居ビル街の窪地

恵磨「とーうちゃく!!」

洋子『二人とも建物の影になっちゃってるんです。状況を教えてください!』

恵磨「あれ!?」

洋子『どうしました?』

恵磨「誰もいないんだけど?」

洋子「え?確かにそこに二人とも向かってたのに?」

恵磨「美世のパトカー、着いた!」

早苗「恵磨ちゃん、スケボーは!?」

恵磨「沙紀もスケボーの子もどこ行った!?」

早苗「まさか、元来た道をUターン?」

洋子『戻ったようには見えないですけど……』

夏美「二人は!」

早苗「この通り。どこにもいないわ」

夏美「……ふーん」

早苗「どうしたの?なんか見つけた?」

夏美「早苗さん、振り返って上方向」

早苗「振り返って、上?」

恵磨「沙紀の落書きだ。なんだろ、あれ?」

早苗「十字架に見えるわね」

恵磨「ひっくり返ってる?」

早苗「道順だとすると、夏美ちゃんが来たほうだけど」

夏美「すれ違わなかったわ」

恵磨「ん、それだと」

夏美「単純じゃない。下よ」
11 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/03/14(水) 19:38:34.27 ID:29cK37xH0
恵磨「下ぁ?」

早苗「うーん、このマンホールとか。恵磨ちゃん、ちょっと手伝って」

恵磨「はいっ!」

早苗「行くわよ、せーのっ!」

恵磨「おー、斜め穴だ」

早苗「ワンチャン、スケボーで降りて行けそうね」

恵磨「追いますか?」

夏美「辞めておきましょう」

早苗「むー、残念。美世ちゃん、降りて来て!」

恵磨「せっかくチャンスだったのに」

夏美「仕方がないわ。でも、わかったこともあるわよ」

早苗「わかったこと?」

夏美「この街にある落書きには意味があるものがあること」

恵磨「フム」

夏美「それと」

早苗「それと?」

夏美「秘密の場所は地下かもしれないことね」
12 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/03/14(水) 19:40:43.52 ID:29cK37xH0


後日

土曜日

高峯探偵事務所
高峯ビル3階にある探偵事務所。清路駅からはバスでのアクセスが良好。

高峯のあ「……ダメかしら」

木場真奈美「決定権は家主の、のあにある。だが、私は反対だ」

高峯のあ
探偵。移動の際には自身が所収する2台の外国車を、真奈美に運転させている。

木場真奈美
のあの助手その1。彼女曰く、運転技術は人よりは自信がある、とのこと。

のあ「でも、ライフスタイルに新しいソリューションを運んできてくれるわ」

真奈美「説得が下手なのはいい。だが、言葉まで借り物なのはどうかと思うぞ」

佐久間まゆ「ちょっと休憩しようかな……あらぁ、お話中ですかぁ?」

佐久間まゆ
のあの助手その2。彼女が通う星輪学園の最寄り駅は卯美田駅。

のあ「ええ」

まゆ「座っていいですかぁ?」

のあ「どうぞ」

まゆ「失礼しますねぇ」

真奈美「佐久間君、オルガンの調子はどうだい?」

まゆ「ちょっとずつ弾けるようになってきましたぁ」

のあ「成長というのは嬉しいものね」

まゆ「のあさん、後で教えてくださいねぇ」

のあ「小さい頃に自分の意思もなく、練習していたくらいでいいのなら」

まゆ「大丈夫ですよぉ。まゆもちっちゃい頃からやってたらなぁ」

真奈美「なに、いつだって取り戻せるさ」

のあ「真奈美くらい何でも出来ればね」

真奈美「私でも突然出来たりはしないよ。基礎があるから、練習を続けられる。そして、出来るようになるんだ」

まゆ「基礎?」

のあ「前も聞いたわ。まゆならお料理かもしれないわね」

まゆ「お料理、ですかぁ?」

真奈美「そうだな。間違ったり、上手く行ったりした経験が私の基礎だ」

のあ「要するに」

真奈美「何かをがんばれたら、これからもがんばれるさ」

まゆ「わかるような、わからないような……?」

のあ「まゆは大丈夫よ」

真奈美「そうだな」

まゆ「のあさんと真奈美さんがそう言ってくれるなら、信じます」
13 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/03/14(水) 19:41:58.74 ID:29cK37xH0
真奈美「ありがとう。オルガンのことは私も多少は知っている、遠慮なく聞いてくれ」

のあ「この助手は何でも出来るのね……」

まゆ「のあさんと真奈美さんは何を話してたんですかぁ?」

のあ「ペットを飼うかどうかを真奈美に相談したの」

まゆ「まぁ、素敵ですねぇ」

真奈美「だが、問題がある」

まゆ「ビルはのあさんのおうちだし、お世話も大丈夫ですよねぇ」

真奈美「のあはネコを飼いたいと言っているんだ」

のあ「……」

まゆ「ネコちゃん、いいと思いますよぉ」

真奈美「しかし、のあには踏み切れない理由があるようだ。だから、おススメしない」

まゆ「そうなんですかぁ……?」

のあ「……」

まゆ「のあさんは正しいと思ったらすぐに行動しますからぁ、理由があると思います」

真奈美「佐久間君、どうしたらいいかな?」

まゆ「のあさんが悩むならやめた方がいいですよぉ」

のあ「そう、いえ……でも」

真奈美「のあ」

のあ「何かしら」

真奈美「ネコちゃんの画像をSNSにアップしても、前川君の気は引けないぞ」

のあ「……!」
14 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/03/14(水) 19:42:48.96 ID:29cK37xH0
まゆ「のあさん……?」

のあ「別にリプライが貰いたいわけじゃないわ」

真奈美「ほら見ろ、馬脚を露したぞ」

まゆ「……のあさん?」

のあ「違うわ。いいね、でも構わない」

まゆ「変わってませんよぉ……」

のあ「別に認知されたいわけじゃないの。日々のアイドルをがんばるみくにゃんにネコちゃんの画像で癒されてもらいたいの。わかるでしょう」

まゆ「人はやましい気持ちがあると、言葉数が増えるらしいですよぉ……」

真奈美「のあも普通の人間だったな。と言うことで反対だ。それにだ、肝心なことを教えてやろう」

のあ「肝心なこととは、何かしら」

真奈美「前川君もネコは飼っていない。彼女の趣味はなんだ?」

のあ「はっ……猫カフェ巡り!」

真奈美「のあも猫カフェ巡りくらいで留めて置け」

のあ「そうね、野良ネコ迷いネコ探しは得意よ。探偵だもの」

真奈美「話を聞いてたか?」

のあ「失礼。猫カフェ巡りから脳内が先走り過ぎたわ」

まゆ「猫カフェいいですねぇ、一緒に行きましょう?」

のあ「ありがとう。今度調べておくわ」

真奈美「志保君あたりは知ってるかもしれないな」

のあ「確かにそうね、今度聞いてみましょう」

ピンポーン!
15 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/03/14(水) 19:43:20.62 ID:29cK37xH0
真奈美「お客様かな。見てくるよ」

まゆ「志保さんは動物好きでしたかぁ?」

のあ「キライではなさそうね。それ以上にカフェが好きよ」

真奈美「2人とも制服だが、佐久間君の友人か?」

のあ「インターホンの映像、見せて」

まゆ「お友達は呼んでいませんけれど……」

のあ「この辺りの公立中学の制服よ。まゆ、お茶の準備を。お茶菓子は彼女達が持ってるわ」

まゆ「わかりましたぁ」

のあ「真奈美、お招きして」

真奈美「わかった、依頼人か?」

のあ「そうでなければ、わざわざ制服でお茶菓子を持って探偵事務所になんて来ないわ」
16 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/03/14(水) 19:46:41.47 ID:29cK37xH0
10

高峯探偵事務所

のあ「探偵の高峯です」

真奈美「助手の木場だ」

のあ「お茶を出してくれたのも助手の佐久間よ。お名前をお聞きしてもいいかしら」

村松さくら「村松さくらですぅ」

土屋亜子「土屋亜子、です」

村松さくら
本日の依頼人。アコちゃんとイズミンとは昔からの友達らしい。

土屋亜子
本日の依頼人。お金を稼いで3人で楽しい老後を迎えるのが目標なんだとか。

のあ「そんなにかしこまらなくていいわ。お茶をどうぞ」

さくら「それじゃあ、いただきますぅ」

まゆ「いただいたお菓子を持ってきましたぁ。うなぎの粉末が入ってるお菓子みたいですよぉ」

のあ「ありがとう、まゆ。メモをお願いしていいかしら」

まゆ「はぁい。のあさんの机をお借りしますねぇ」

のあ「あなた達もお茶菓子をどうぞ」

亜子「アタシもお茶を……むっ!」

のあ「どうかしたかしら」

亜子「これ、高い味がするで……」

真奈美「もしかして、料金を気にしてるのか?」

のあ「安心して。中学生から巻き上げるほどお金に困ってないわ」

亜子「助手さん、ホンマか?」

真奈美「金銭面は信頼していい。君達が困っているなら、のあは助け舟を出す」

亜子「はー、安心したわー……いや、親友のために貯金は差し出す!」

のあ「差し出さなくていいわ。中学生の貯金なんてたかが知れてるもの」

亜子「ホンマに金持ちなんか……?」
17 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/03/14(水) 19:47:08.21 ID:29cK37xH0
さくら「ビルの名前も探偵さんの名前でしたぁ、もしかして?」

真奈美「そのもしかして、だ。遠慮なく仕事を依頼するといい」

のあ「依頼の話に入りましょう。親友がどうかしたの?」

さくら「え、言いましたかぁ?」

のあ「村松さんではなく、土屋さんが言っていたわ」

真奈美「親友のために貯金を差し出すと」

亜子「……実はな、アタシ達の親友の、いずみ、大石泉が」

さくら「どこにもいないんですぅ……」
18 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/03/14(水) 19:48:33.06 ID:29cK37xH0
11

高峯探偵事務所

のあ「行方不明ということ?」

さくら「はい、学校にも来てなくてぇ」

真奈美「まだ2学期がはじまって間もないが」

のあ「体調を崩しているだけかもしれない」

亜子「違う」

のあ「違う、とは」

亜子「学校に行くまではわからんかったんや、いずみがいなくなってることに」

まゆ「行くまでわからなかった……?」

のあ「例えば、連絡が取れているとか」

さくら「そうなんですぅ」

亜子「メールとかSNSだと返ってくる」

真奈美「ケータイ電話は」

さくら「出てくれないですぅ」

真奈美「文字限定というところか」

のあ「ふむ。大石さんの自宅には、行ったの?」

亜子「もちろんや。親も知り合いやし」

のあ「自宅にはいないのね」

さくら「はい、お部屋にもどこにもいなくて」

のあ「大石さんの家族構成は」

さくら「イズミンのですかぁ?」

のあ「ええ」

さくら「お父さんとお母さんと」

亜子「あと、弟が一人」

のあ「ご家族は何と言ってるのかしら」

亜子「それがな……」

さくら「はっきりと言ってくれなくてぇ……」

のあ「ふむ。警察には連絡をしたのかしら」

さくら「連絡しないで欲しい、ってぇ……」

亜子「そこまで直接じゃなかったけど、言ったようなもんやな」

まゆ「……」
19 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/03/14(水) 19:52:30.84 ID:29cK37xH0
真奈美「ご家族3人共その様子か?」

亜子「オトンとオカンはそうやな。弟の方はわかんない」

のあ「わからない?」

さくら「梅雨頃から病気で入院中なんですぅ。イズミン、よくお見舞いに行ってましたぁ」

亜子「アタシらが会いに行くのもおかしいから、行ってない」

真奈美「フム、大石泉に事故や病気が降りかかった可能性は」

のあ「ないでしょうね。友人に伝えない理由がない」

亜子「アタシらに言えなくても、アタシらの親には言えるはずやろ?」

のあ「後ろめたい話でなければ、伝えてない理由がない」

さくら「イズミン、わたしたちに会いたくないのかなぁ……」

亜子「さくら、そんなわけあらへん」

真奈美「のあ、どう考える」

のあ「何とでも考えられるわね。だから、聞くことにしましょう」

真奈美「誰に、だ?」

のあ「あなた達に」

さくら「わたしたち、ですかぁ?」

のあ「真実に直感で近づいているのは、あなた達よ」

亜子「勘な……」

のあ「何個か質問させてちょうだい。いいかしら」

さくら「わかりました」

のあ「大石泉は無事かしら」

さくら「もちろんですぅ」

のあ「メールの差出人が別人の可能性は」

亜子「ない」

真奈美「どうしてだ?」

亜子「似せただけだったら、あんなやり取りにはならへん」
20 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/03/14(水) 19:52:57.09 ID:29cK37xH0
さくら「絶対にイズミンですよぉ。絶対ですぅ」

亜子「思えば、アタシらに心配されたくないように隠してるのかも……」

のあ「信じましょう。電話に出ない理由は」

亜子「取り上げられてるとか、か?」

のあ「あなた達と連絡はどうやって取ってるのかしら」

真奈美「PCか?」

のあ「一時的に与えられているのかもしれないわね」

さくら「イズミン、パソコンが得意なんですよぉ」

亜子「いずみは成績もいいし、プログラミングが得意なんや。IQ150とかあるとかないとか」

のあ「大石泉は、どこにいると思うかしら」

亜子「皆目見当もつかん」

のあ「質問を変えましょう。どこにいないのかしら」

さくら「おうちと学校ですぅ」

のあ「あなた達が検討もつかないような所にいると」

亜子「うーん、そういうことやな」

のあ「大石泉のご両親に焦った様子は」

さくら「なかったと思いますぅ」

亜子「なんやろな、いずみがいないことは不安ではあると思うんやけど」

さくら「今はいないけど大丈夫、とか言ってましたぁ」

亜子「悪いこと、じゃないとか。考え過ぎか」

まゆ「……」

のあ「大石泉は家出をするようなタイプかしら」
21 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/03/14(水) 19:54:13.05 ID:29cK37xH0
さくら「違いますよぉ。真面目で優しいんですぅ」

亜子「胸元のボタンは、ちゃんと閉めて欲しいくらいやな」

のあ「家出するとしたら」

亜子「アタシかさくらの家やろ。本当に泊ったこともあるで」

真奈美「家族との仲は?」

亜子「普通の中学生くらいや」

のあ「普通、ってどんな感じかしら」

まゆ「ふつう……」

真奈美「つまり、そんなに仲良しというわけではないと」

亜子「そういうことやな」

真奈美「家出しても友人の家がせいぜい、といった所か」

のあ「フム。家出はなし」

真奈美「ご両親の態度から誘拐の可能性も薄いか?」

さくら「誘拐……」

のあ「薄いと思うわ」

真奈美「残る可能性はなんだ?」

のあ「最後の質問を。あなた達は何だと思う?」

さくら「……」

亜子「……」

のあ「ないかしら」

さくら「あの、おかしいことかもしれないですけどぉ……」

のあ「どうぞ」

さくら「お仕事に行ってるとかぁ……」

のあ「仕事、ね」

亜子「いずみにお金が必要な理由なんてないけど、アタシもさくらと同じことはちょこっと考えた」

のあ「ご家族はお金に困ってたのかしら」

さくら「全然ですぅ。イズミン、さくらよりお小遣いが多いんですよぉ」

亜子「さくらが無駄遣いするからやろ……とにかく、そんなことはない」

のあ「考慮に入れておくわ。お話してもらって、ありがとう」

亜子「どういたしまして。それで」

さくら「イズミン、探してくれますかぁ……?」
22 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/03/14(水) 19:55:28.78 ID:29cK37xH0
のあ「引き受けましょう」

さくら「やったぁ」

のあ「真奈美、契約書を用意して」

真奈美「わかった」

のあ「まゆ」

まゆ「メモは大丈夫ですよぉ」

のあ「お茶のお替りを」

まゆ「はぁい」

亜子「それで……ナンボなん?」

のあ「料金は後払い。調査時間で算出するけど、中学生が出せる金額しか出さないわ」

亜子「そういうシステムなんやな。探偵業って儲かるん?」

のあ「儲からないわよ。私の収入源は親が残してくれた財産を元手にした投資ね」

亜子「そうなんか。探偵事務所を経営するのはやめとくわ」

のあ「賢明な判断ね」

真奈美「のあ、契約書だ」

のあ「ありがとう。お茶とお話でもしながら、やりましょう」
23 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/03/14(水) 19:56:15.89 ID:29cK37xH0
12

高峯探偵事務所

のあ「フム……」

まゆ「うーん……のあさんは何かわかりましたかぁ?」

のあ「荒唐無稽な推理すら披露できそうもないわ」

真奈美「手掛かりもないもないな」

まゆ「家出するような子でもないみたい……」

のあ「大石泉、公立中学に通う中学3年生、仲の良い友人は先ほど来た村松さくらと土屋亜子」

まゆ「写真も一杯貰いましたよぉ、大人びてますねぇ。まゆももう少し大人っぽく……」

のあ「まゆはそのままがいいわ。大石泉には大石泉の個性があるのだから」

真奈美「おや」

のあ「真奈美、何か見つけたかしら?」

真奈美「ネットで調べてみたが、彼女かな」

のあ「年齢的にも一致、そうでしょうね」

まゆ「何を見つけたんですかぁ?」

真奈美「プログラミングのコンテストだ。入賞しているよ」

のあ「優秀だったのは間違いないようね」

真奈美「発想はどちらかというと堅いな。大賞には選ばれないわけだ」

のあ「しかし、大石泉がいない理由にはならない」

真奈美「さて、のあはこれからどう進める?」

のあ「親友を信じましょう」

まゆ「それなら……」

のあ「彼女達の仮説で進めていく、最初の一歩は」

まゆ「お仕事って話、ですよね……?」

のあ「そうね。でも、仕事とは限らないと考えている」

真奈美「というと?」

のあ「ご両親の話からすると、大石泉や家族が一方的に不利益を得ているとは思いにくい」

真奈美「見返りを得ている、と?」

のあ「そういうこと。それがどんな条件かはわからないけれど」

真奈美「家族を問いただすか?」

のあ「答えないでしょうね。私が犯人なら秘密は守らせるわ、それに」

まゆ「それに……?」

のあ「人質は犯人側にいるもの、なんだって出来るわ」
24 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/03/14(水) 19:57:00.31 ID:29cK37xH0
真奈美「怖いことを言うんだな」

のあ「彼女達の親友を危険な目にあわせるわけにはいかない」

真奈美「人助けをする方だとは思っていたが、いつにもまして気に掛けるな」

のあ「学生時代の友人は大切にするべきね、そうすべきだったわ」

真奈美「……そうか」

のあ「まゆも大切にするのよ、いいかしら」

まゆ「はい、のあさん」

のあ「真奈美、調査をお願い」

真奈美「任せておけ。調査内容は」

のあ「大石泉と家族について調べて来て。直接訪問しないこと、いいわね?」

真奈美「了解した。気になることがあったら、深堀りしてこよう」

のあ「お願いするわ」

真奈美「では、行ってくる」

まゆ「今から行くんですかぁ?」

真奈美「仕事は早急に、だ。佐久間君、夕食は任せた」

まゆ「わかりましたぁ。何時頃戻られますかぁ?」

真奈美「遅くはならない。のあ、車を借りるぞ」

のあ「ご自由に」

真奈美「行ってくる」

まゆ「行動するのに悩まないのはカッコイイですよねぇ」

のあ「そうね」
25 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/03/14(水) 19:57:32.30 ID:29cK37xH0
まゆ「のあさん、まゆにすることはありますかぁ?」

のあ「大丈夫よ、お休みはあなたのために使ってちょうだい」

まゆ「そうですかぁ……」

のあ「真奈美を借りるから、家事をお願い。いいかしら」

まゆ「はぁい、任せてください」

のあ「ねぇ、まゆ」

まゆ「なんですかぁ?」

のあ「家出や行方不明者に詳しい人と言えば?」

まゆ「ストリートチルドレンとか少年探偵団とか」

のあ「かつての名探偵は利用できたわね。でも、今はいないわ」

まゆ「それだと……」

のあ「プロに聞くのが一番でしょうね」

まゆ「プロですかぁ?」

のあ「夏美あたりに聞いてみましょう」

まゆ「少年課の?」

のあ「ええ。訪ねてみるしょうか」

まゆ「あの……のあさん」

のあ「何かしら?」

まゆ「ふつうの中学生3年生はご両親と仲が悪いんですかぁ……?」

のあ「私にはわからない。その時期に面倒を見てくれた叔母は優しすぎたわ」

まゆ「そうですよね……」

のあ「経験はないけれど、私は私の今までは嫌いじゃないの」

まゆ「どうしてですかぁ?」

のあ「真奈美もまゆもいるもの」

まゆ「……はい。まゆも、です」

のあ「明日にむけて調べ物と考え事をするわ。お夕飯になったら呼んでちょうだい」

まゆ「がんばってくださいね、のあさん」
26 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/03/14(水) 19:58:40.44 ID:29cK37xH0
13

翌日

高峯探偵事務所

のあ「わかったわ。今から行くからよろしく」

まゆ「のあさん、お出かけですかぁ?」

のあ「ええ。恵磨が警察署にいるみたいだから、訪ねてみるわ」

まゆ「わかりましたぁ、事故には気をつけてくださいねぇ」

のあ「ええ、真奈美は?」

まゆ「上の階にいると思います。そう言えば、昨日の調査はどうだったんですかぁ?」

のあ「成果は得られなかったわ。そうね、強いて言うならば」

真奈美「大石泉の弟についてかな」

まゆ「弟さん……?」

真奈美「難病のようだな。治療法は確立されていないそうだ」

のあ「真奈美、丁度いい所に。出れるかしら」

真奈美「大丈夫だが、どこにだ?」

のあ「警察署へ。恵磨の話を聞きに行くわ」

ピンポーン……

まゆ「はーい、ただいまぁ」

のあ「こういう時に限って、来客があるものね」

まゆ「雪乃さん、こんにちはぁ。中へどうぞ」

のあ「雪乃?」

相原雪乃「まゆちゃん、こんにちは」

相原雪乃
高峯ビル2階にある喫茶店St.Vのマスター。先月立てこもり事件に巻き込まれたが、心身共に健康。
27 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/03/14(水) 19:59:37.29 ID:29cK37xH0
のあ「雪乃、どうしたのかしら」

雪乃「のあさん、お忙しいところ申し訳ありませんわ。お話がありますの」

のあ「雪乃が急ぎで用事を持ってくるのも珍しいわね。聞かせてちょうだい」

雪乃「拘置所から喫茶店にお電話がありまして」

真奈美「拘置所?」

のあ「誰から」

雪乃「トナカイさんですわ、ブリッツェンと名乗っていた男性からです」

のあ「自主したとは聞いているけれど」

真奈美「目的がわからないな」

雪乃「その通りですわ。面談が許されているとかしか言っていなくて……」

のあ「雪乃に来いと言ってたわけではないのね?」

雪乃「ええ、事件を知る関係者でも良いと言っていましたわ」

まゆ「何か新しいことを話す、とか……?」

真奈美「それなら、どうして警察じゃないんだ?」

のあ「警察に話すことではないのか、それとも」

雪乃「私に伝えたいことがあるのでしょうか……思い当たるフシがありませんけれど」

のあ「雪乃は会いたいわけではないのね?」

雪乃「悪い人ではないと思いますわ。でも、お仕事を優先してまでお会いする人では」

のあ「わかったわ。雪乃の代理として会ってくるわ」

雪乃「お願いしてもよろしいでしょうか?」

のあ「問題ないわ。行き先が一つ増えるだけだもの」

真奈美「警察署と拘置所か。先に行くのは?」

のあ「拘置所。雪乃、面会を要求したトナカイについて教えてちょうだい」
28 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/03/14(水) 20:01:27.74 ID:29cK37xH0
14

清路拘置所・面会室

清路拘置所
清路駅から北西の街はずれ、清路刑務所に併設されている。自家用車もしくは本数の少ないバスでしか移動手段がない。

ブリッツェン「よう」

ブリッツェン
イヴ・サンタクロースの部下だった男性。イヴの死後に自主し、身柄を拘置されている。

のあ「こんにちは。相原雪乃の代理で来たわ」

ブリッツェン「そうかい。で、何モンだ?」

のあ「探偵よ。こっちは助手の木場」

真奈美「よろしく」

ブリッツェン「探偵か。バレンタインの姉ちゃんが連絡を取ってた相手だな」

のあ「その通りよ、ミスター。ブリッツェン」

ブリッツェン「ここに来てんだから、名前くらい知ってるだろ」

のあ「どうでもいいこと」

ブリッツェン「まぁ、いいか。トナカイとして話をするんだからな」

のあ「それで、雪乃に連絡した理由は」

ブリッツェン「情報を提供する。ただし、警察ではない奴にだ」

真奈美「警察に流さない理由は?」

ブリッツェン「内通者がいるから、だな」

のあ「内通者の存在は頭にはあるわ。でも、当の誰かはわからない」

ブリッツェン「それは俺も一緒だ」

真奈美「わからないのか」

ブリッツェン「俺はサンタの右腕だったが、知らされないことも多いんだ」

のあ「ふむ」

ブリッツェン「今思えば、サンタが守ってくれたのか。こうして無事生きてんだから」

真奈美「情報の秘匿には」

ブリッツェン「口を封じるのが一番だからな。知らないなら、殺しはリスクでしかない」

のあ「イヴ・サンタクロースも口封じに殺された、と」

ブリッツェン「そっちはどうだろうな」

のあ「別の理由があると?」

ブリッツェン「俺がわかることじゃない」

のあ「そう」

ブリッツェン「無駄話は終わりだ。情報を提供する」

のあ「どうぞ」

ブリッツェン「イヴ・サンタクロースは爆弾を提供していた」

真奈美「それは警察にも話していることだな?」

ブリッツェン「そう慌てるな。取りまとめ役を経由して、使う奴の手に届く」

のあ「取りまとめ役というのは」

ブリッツェン「俺にはわからない。犯罪組織、というほど大規模じゃないと予想してる」

真奈美「フム……」
29 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/03/14(水) 20:02:05.65 ID:29cK37xH0
ブリッツェン「それで、だが……」

のあ「……」

ブリッツェン「……イヴが最後に行った場所についてだ」

真奈美「……」

ブリッツェン「詳細な場所はわからないが、都心迷宮と呼ばれてるみたいだな」

のあ「都心迷宮?」

ブリッツェン「ああ。清路市のどこかにイヴは出かけて行った」

のあ「どこか、ね」

ブリッツェン「そして、どこかで殺害されて、遺棄された」

のあ「清路市は開発が進んでいるから、隠れ場所もあるのかもしれないわね」

ブリッツェン「逆に取り残された場所もある、そんな日の当たらない場所かもしれないぜ」

のあ「迷宮を利用してるなら何か情報があるはず。心当たりは」

ブリッツェン「地図に相当するものはあると思うんだが、知らされてない」

真奈美「しかし、都心迷宮か。大層な名前だな」

ブリッツェン「それに、もう一つ。気をつけるのは爆弾じゃない」

のあ「爆弾ではない?」

ブリッツェン「爆弾はほぼ残ってないはずだ。イヴもいないし、爆弾を製造出来る奴も死んでる」

真奈美「佐藤心のことみたいだな」

のあ「ならば、気をつけるのは何を」

ブリッツェン「発火装置だ」

のあ「宮本フレデリカも使ってたわね」

ブリッツェン「俺が伝えたいことは終わりだ」

のあ「質問を」

ブリッツェン「構わないぜ」

のあ「あなたは私達に何を期待しているのかしら」

ブリッツェン「それを聞くか?」

のあ「私は人の思いを汲み取る力が弱いの。言いなさい」

ブリッツェン「わかった、俺の希望は単純だ」

のあ「……」

ブリッツェン「イヴを殺した奴を恨んでる、復讐してくれ」

のあ「復讐は私の仕事ではないわ」

ブリッツェン「俺は希望を伝えた。後は任せる」

のあ「……わかったわ。期待しないでちょうだい」

ブリッツェン「呼び出して悪かったな」
30 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/03/14(水) 20:03:10.25 ID:29cK37xH0
のあ「あなたの要望は聞いたわ。私の要求にも答えてもらいましょう」

真奈美「のあ、何か目的があったのか?」

ブリッツェン「なにかあんのか?」

のあ「個人的好奇心から質問させてちょうだい」

ブリッツェン「なんだ、そんなことか。いいぜ」

のあ「どうして、自首したのかしら」

ブリッツェン「サンタクロースがいなくなったら、トナカイではいられない」

のあ「復讐なら自分で行うことも出来たはずよ」

ブリッツェン「そうすることは出来たな。結果はともかく」

のあ「実際は自首しているわ。なぜかしら」

ブリッツェン「……」

真奈美「答えにくい事情があるのか」

ブリッツェン「もうこんな身だ。事情なんてない」

のあ「事情がないのなら」

ブリッツェン「ハートだよ。俺はサンタクロースの言いつけを守ってるだけだ」

のあ「言いつけ、とは」

ブリッツェン「探偵さんは、慈善事業は大切だと思うか?」

のあ「具体的に」

ブリッツェン「親のいない子供にもクリスマスプレゼントは与えられるべきか」

のあ「そうね、出来ることなら幸せになって欲しわ。私もその1人だったもの」

ブリッツェン「……そうか」

のあ「今は支援する立場よ」

ブリッツェン「それなら、丁度良い。イヴの遺産を全て慈善事業にばらまいた」

真奈美「爆弾で得た資金を、か?」

ブリッツェン「かなりの金額を世界中に。もしも、フォローしてくれんならイヴも喜ぶだろうよ」

のあ「……」

ブリッツェン「それと一緒に言いつけられたことは、こんな状態になったらトナカイは辞めろってことだな」

真奈美「その言いつけを守って、これを選んだのか」

ブリッツェン「トナカイだからな。俺が元警官なのは知ってるか?」

のあ「聞いたわ」

ブリッツェン「私がいなくなったら、あなたは罪を犯していたことに耐えられませんよ、だとさ」

真奈美「……」
31 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/03/14(水) 20:04:31.50 ID:29cK37xH0
ブリッツェン「その通りだな……まぁ、その通りだったよ」

のあ「サンタクロースがあなたの罪を背負っていたのね」

ブリッツェン「ああ。だから、俺はここにいるのが一番いい」

のあ「他の仲間は」

ブリッツェン「知らない。どうしようが、勝手だ」

のあ「……」

ブリッツェン「これぐらいでいいか?」

のあ「最後に質問を」

ブリッツェン「なんだ?」

のあ「ハッキングは仲間内に精通してる人物がいたのかしら」

ブリッツェン「仲間内にはいない」

のあ「ショッピングモールのシステムを奪っていたけれど」

ブリッツェン「イヴが調達してきた。おそらくだが」

真奈美「取りまとめ役と取引があったのか?」

ブリッツェン「そう推測してる」

のあ「ありがとう。情報は活用させてもらうわ」

ブリッツェン「すまない、頼むぜ」

のあ「真奈美、行きましょうか」

真奈美「了解だ」

ブリッツェン「バレンタインの姉ちゃんには、迷惑をかけた。謝ってると伝えてくれ」
32 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/03/14(水) 20:06:58.73 ID:29cK37xH0
15

清路警察署・科捜研

真奈美「少年課の仙崎君と会うのに、どうして科捜研なんだ?」

のあ「さぁ?」

真奈美「仙崎君に会えばわかるか」

松山久美子「あら、のあさんに真奈美さん」

松山久美子
科捜研所属。常時白衣着用の美女。日曜日もこの通り科捜研にいる。

のあ「久美子、お疲れ様」

真奈美「休日出勤か?」

久美子「急ぎの仕事をほとんど終わらせて、休憩してたところ。二人は何かご用?」

真奈美「仙崎君に呼ばれてる」

のあ「久美子は、何か用事を頼まれていないかしら」

久美子「頼まれたわ。音葉ちゃんの所にいるわよ」

のあ「ありがとう」

真奈美「梅木君も仕事か?」

久美子「違うわよ?仕事じゃなくてもよくいるけれど」

真奈美「梅木君のことだから音響機器を借りてるだけだろうが……いいのか?」

のあ「私の心配することじゃないわ」

恵磨「おっ、二人とも来たか」

梅木音葉「お二人とも……お待ちしておりました」

梅木音葉
科捜研所属。久美子の後輩らしく常時白衣着用。音のスペシャリストであることを口実に解析室の音響を整備しつつある。

久美子「恵磨ちゃん、終わった?」

恵磨「久美子、バッチリ!データも貰ったし!」

音葉「参考になれば……嬉しいです」

恵磨「もちろん!音葉、ありがと!」

音葉「どういたしまして……」

のあ「何をやっていたのかしら」

恵磨「落書きの写真を取り込んで、意味を調べてもらった」

真奈美「落書きの意味?」

のあ「私にも見せてもらえるかしら」

音葉「もちろんです……モニターを見てください」

恵磨「落書きなんかに興味あんの?」

のあ「意味があるのならば」
33 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/03/14(水) 20:07:45.12 ID:29cK37xH0
音葉「こちらです……全部で50枚ほど」

真奈美「思っていた落書きのレベルじゃないぞ」

のあ「大きいわね。作品としての質も高い」

恵磨「そんなこと言うと、沙紀が喜ぶから辞めてよ」

のあ「沙紀、とはどなたかしら」

恵磨「吉岡沙紀、これ描いた張本人」

真奈美「知り合いなのか」

恵磨「たびたび補導されてたからね、それに」

のあ「情報源なのかしら」

恵磨「そうだった」

久美子「今は違うの?」

恵磨「付き合いが悪くてさぁ、その後に大掛かりな落書きは増やしてるから困ってる」

のあ「付き合いが悪くなったのは何時頃から」

恵磨「この前の秋の終わりくらいかな?多分そんなもん」

のあ「吉岡沙紀は家に帰ってるの?」

恵磨「あんまり帰ってみたい」

音葉「そこで……この落書きです」

恵磨「写真データを集めて、音葉に渡したんだ」

久美子「音葉ちゃん、何をしたの?」

恵磨「音葉に頼んで、地図の記号にしてもらった」

のあ「この落書き達は地図の記号ということかしら」

恵磨「この前、沙紀を捕まえに行った時に本人がそうやって使ってたからさ」

のあ「逃げられたの?」

恵磨「そう、逃走ルートだったんだよ!音葉ちゃん下向き矢印のビル出せる?」

音葉「わかりました……画像解析の結果も同時に表示します」

のあ「大きい矢印ね」

真奈美「さっきまでの物と違って、明確だな」

恵磨「次かな、袋小路に書いてあったヤツ」

音葉「はい……これは上だそうですが」

久美子「上に見える?」

音葉「私にはわかりません……」

真奈美「のあ、見えるか?」
34 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2018/03/14(水) 20:08:16.51 ID:29cK37xH0
のあ「そんな気はするわね」

恵磨「アタシはわかんないんだけど、なんで?」

のあ「わかりにくいけれど、徐々にグラデーションしてるわ」

久美子「それなら、ムリヤリ彩度上げてみたら?」

音葉「なるほど……どうぞ」

真奈美「なるほどな。確かに上に行きたくなる」

恵磨「一枚一枚アタシが見てもわかんないから、美術品に見識がありそうな久美子を訪ねてみたわけ」

真奈美「久美子君、詳しかったのか?」

久美子「いいえ、恵磨ちゃんの勘違いじゃない。忙しいし、音葉ちゃんに任せてみたけど」

音葉「私も……美術品には疎いので……」

久美子「主観でわからないなら画像解析、データ解析を持ち出してきたわけ」

恵磨「なんか良いパソコンとソフトが入った、ってウワサだけど使ってるんだ」

真奈美「ほう。どうやっているんだ?」

音葉「まず……恵磨さんから頂いた画像を取り込みました」

久美子「それに恵磨ちゃんの情報と合わせて」

音葉「矢印、上下左右、などの単純な情報を引き出そうと試みました……」

のあ「結果は」

音葉「矢印で表記してあります……」

久美子「精度はどれくらい?」

音葉「参考程度にしてください……赤い矢印は恵磨さんがくれた情報通りです」

真奈美「位置情報も入ってるのか」

恵磨「入れてもらった」

久美子「恵磨ちゃん、これは何に使うの?」

恵磨「それで、さっきの話」

のあ「帰ってないこと」

真奈美「落書きが地図の記号だとするならば」

久美子「どこに着くのか、気になるわよね」

のあ「恵磨、どこなの?」

音葉「名前が付いているそうですよ……」

真奈美「名前?」

恵磨「都心迷宮、そう呼んでる子が結構いる」
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