【艦これ】ex.彼女

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303 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/06(月) 01:37:48.69 ID:cwUSskD70

「………引くわー…。」

「おや?寝取られ趣味はお持ちでないようで?
生前キョウには黙っていたのでありますが、もし浮気していたら現場を覗き見したいと常々…。
大丈夫、実際の我々の夜の生活はそれはそれは濃厚な愛の……。」

「いや、ほんと黙れお前。とりあえず黙れ。な?」

聞きたくねえよんなハードコアなナイトライフ。

はぁ……さっきまで身構えてたのがバカバカしくなって来た…。
まあ、何すりゃ良いかは何となく分かった。用が済みゃこいつもどっか行ってくれんだろ…。


「…じゃ、行くか。」

「どこへでありますか?」

「決まってんだろ。お前の眼鏡の王子様んとこさ。」

304 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/06(月) 01:38:42.61 ID:cwUSskD70

「戻りましたー。」

「おかえり。頭は冷えたか?」

「あんたはずっと沸きっ放しですね。」

ったく…呑気なもんだぜ…。
照れ隠しか知らねえけど、こっちはご本人様経由であんたの嘘を知ってんだからよ。

あきつ丸の力で、こっちはテレパシーでやり取り出来る。
問題は……さて、このバカにどう気付かせようか。

“あきつ丸、霊力を俺に送れるか?”

“可能だとは思いますが…どうするのでありますか?”

“前の幽霊騒ぎの原因は、俺の霊力の暴走だ。ちょっと分けてもらえりゃ、このバカに見せるぐらいは出来るかもしれねえ。”

“やってみるのであります…!”

さて、後はそれとなく眼鏡に触れれば見えるはず。
そうだな、机の対面にいる今なら…。

「…っと、失敬。ペンが…。」

ペンを転がしたフリして、それとなく手に触れる。
後は俺がケーブル代わりになって、眼鏡にあきつ丸が見えるって寸法だ。

…さて、感動のご対面かな?


「………キョウ。」

「……アキ!?」


よっしゃ見えたか…これで眼鏡の目にも涙だ。
くくく、貴重な瞬間しっかり確認してやるぜ……ほれ、こんな白目剥いて…。

……って、白目?


「……………オバケ。」


バターン、と派手な音と共に、眼鏡は椅子ごとぶっ倒れた。

前んとこに朧って奴がいてな、朧には相棒がいた。
カニさんって言うんだけど…ふと思い出したなぁ。

うん…だってすっごい泡吹いてるもん。眼鏡。


305 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/06(月) 01:40:07.73 ID:cwUSskD70

あ、あはははは……そういやこいつ、幽霊ダメだったな……。」

「……自分も浮かれてて、忘れてたのであります。」

「……因みに何でこんな強いのに、幽霊ダメなの?」

「物理で倒せない存在とかあり得ない、と言っておりましたなぁ…。
昔冗談でわらべ唄を歌ったら、発狂したのでありますよ。」

「基準そこか。」

「………は…試しに…。」


……これ、詰んでね?

どうしたものかと椅子に座り、手は無いものかと考えてみる。
ん?何かケツがもぞもぞすんなぁ…。

“どくのであります!苦しいのであります!”

“人が考え事してんのにどこ行ってんだよ?大体どくってどこに…”

“お、重…死ぬ……ど、どけと言っているでありましょう!?”

「づあだあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!!???」

「何だ!?」


丹田が放つ一世一代の叫び。

痔主が大痔主に出世しそうな激痛がケツに走り、思わず視界がビッグバンだ。
頭蓋で鼓膜が自爆しそうな大音響、流石に眼鏡も飛び起きた。
朦朧とする視界の中、後ろを見るとそこには…

カンチョーのポーズでどっしりと立つ、浮き輪さんがいた。指から煙を上げつつな。

306 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/06(月) 01:41:25.87 ID:cwUSskD70

「……あ°がっ……おふぅ……!!」

“はぁ…はぁ……潰れるかと思った…。
こ、この面妖なクッションに取り憑いたのであります…。君が早くどかないから…!”

「て、てめえ…俺は痔主なんだよ…!」

「………その浮き輪は、何だ?」

「……あ、あんたの昔の女だよ…今浮き輪に取り憑いてる……これなら怖かねえだろ…?」

「…………アキ!!」

“キョウ!!”


えー、感動的な光景に見えそうですが、ここで状況を整理しようか。

まず、目付きの悪い眼鏡が愛おしげに浮き輪を抱き締めてる。
浮き輪(中身はあきつ丸)は、短い手をひょこひょこと一生懸命動かしている。正直動きが虫のようだ。

で、その横。
俺は這いつくばってケツから煙を吹きつつ、脂汗をかきながらそれを見ている訳だ。

………何だこの光景。


「……アキ、ずっと会いたかったぞ!!」

“キョウ…この日を待っていたのであります!!”

………鬼の目にも涙、かぁ。

ま、こんな事があってもいいじゃねえの。
さーて、お邪魔虫は少し席を外して…。


「………浮き輪にも、穴はあるんだよな。」

“……キョ、キョウがそれでいいなら、自分は…。”

「…待てやコラァ!!」

「ほぼぁっ!?」


我ながら、見事な延髄切りだったと思う。
そうだ、こいつら重度の変態だった…。


307 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/06(月) 01:42:30.32 ID:cwUSskD70

「…な、何をするのだ…!」

「こっちのセリフだ馬鹿野郎。憲兵が詰所でお縄とかやめろや。
……ところで、声は聞こえてます?」

「………いや、声は聞こえないな。」

“……そうでありますか。”

……二人の声が分かるのは、俺だけって事か…。
この際だ、何とかしてやりたい。幽霊体だと眼鏡が本能的にぶっ倒れる…じゃあどうしよ


う?


おや、俺の意識と関係なく足が動くぞ?
てくてくと眼鏡の方へ……。


「……キョウ。」(憲兵ボイス)


……待て、何で俺は慣れ親しんだこの低ーい声でこいつの名前を呼んでんのかなぁ…?


“…あきつ丸、今どこにいる?”

“自分、あきつ丸。今あなたの体にいるのであります。”

“何故に?why?почему?Perché?”

“……どうしても、話したいのであります。”

"だったら意識まで乗っ取れや!?”

“いやー、自分、そこまでの力は無くて…”

"おい!?”

308 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/06(月) 01:43:52.88 ID:cwUSskD70

「…ずっとあなたのそばにいた…どれほどあなたが自分の事を想ってくれていたのかも見ていた…。
でも…早く忘れるのであります。あなたには未来があるのだから。」

「……アキ。」

「……らしくないですなぁ、説教なんて。言いたい事は、こんな事じゃないのに…。」

「……俺は、ずっと悔やんでいた…あの時少しでも、お前のそばにいられたならと。
……大切なものを守るどころか、近くにいる事さえ…!」

「……ここは、良い鎮守府でありますな。
ひとたび戦地から戻れば、皆笑顔で…本当に楽しそうであります。
それをあなたが陰で支えてきたのを、ずっと見ていたのでありますよ。

だから…もう自分を許してあげて欲しい。」

「………アキ。」

「キョウ……愛しているであります!!」(憲兵ボイス)


あ"ーーーーーーーっ!!??

お、俺の声で何言ってくれてんだおい!感動的なセリフが台無しだ!
待って…この流れ……あきつ丸、何故しゃがむ?

共有する視界に近づくのはツリ目とレンズ…そしてつまりその動作の解とは…!!






『ぶちゅううううぅぅん………』






はは……すげえや……人って、魂だけでも気絶出来んだな…。

生々しい野郎同士のあまりのあまりにもな感触に意識が遠のく。
瞼を閉じるかのように意識がフェードアウトして行く中、俺の目にはある光景が映っていた。


眼鏡も……ゲロ吐いて倒れてんじゃん……。


309 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/06(月) 01:45:21.84 ID:cwUSskD70

「いやー、昨日は話せて良かったであります。感謝感謝!」

「感謝じゃねえよ馬鹿幽霊。流石のあいつも、キスの瞬間の記憶飛んでたぞ。」

「………ふふ、思い返すとホモも悪くないでありますなぁ。」

「大丈夫だ、お前はもう性根が腐ってる。この性癖キツキツ丸。
あの後気絶から覚めて、真っ先に吐いたからな。どうしてくれんだこのトラウマ。」

「……自分にとっては、良い思い出でありますよ。
体を借りたとは言え、もう一度キス出来たのでありますから。」

「……は〜…ったく、こっちゃ損ばっかだっての。」

………ま、人助けだと思えば悪い気はしねえか。

寮の屋上で話しながら、ぼんやりと中庭を見ていた。
笑い声に、楽しそうな皆の姿……なんて事ない日常だけど、皆いつも、戦地から戻った上でここにいる。
こうして見れば、皆普通の女の子だけどな。

……初期に比べれば、戦況はとても良いと聞く。
でもこいつみたいに、生きて帰ってこれない奴もこれから出るのかもしれない。

日常を、笑える場所を守る……か。
そうだな、ただ鎮守府の治安を守るのだけが、俺達の仕事じゃねえ。

「お前、これからどうすんだ?」

「そうですなぁ、何でか成仏も出来なかった訳でありますし…しばらく、幽霊らしくふらふらしてみるのでありますよ。
キョウの事も、まだまだ心配でありますし。」

「……そうか。クッションも届くし、あの浮き輪ならもう空いてるぜ。浮遊霊に飽きたら使えよ。」

「……ふふ、そうするであります。」

「おや、先客は『お二人さん』かい?」

「……隼鷹。」

「……隼鷹殿、感謝するであります。」

「あたしは何もしてないってーの。礼は憲兵にだけ言いなよ。
……少しは気は晴れたかい?」

「ええ、少しだけ。でも、まだまだあの馬鹿は心配ですなぁ。」

「……そこであたしの出番、だろ?」

「ふふ……どうか、頼むでありますよ。」

「頼まれなくても適当にやるよ。あたしはそんなに良い人じゃないからね。
……死人とは言え、あんたに手なんか貸すかっつーの。だから憲兵紹介したんだよ。」

「ん?俺?」

「……女の嫉妬の怖さは、あんたも翔鶴でよく知ってるだろ?
ま、ここからは『生者』に任せな!じゃーあたしは飲みに行くから!」

「ふふ…頼もしいでありますなぁ。」

「はぁ……あいつ、そういう事か。押し付けやがって。」

くく…飲んでもねえのに真っ赤でやんの。
まぁあれぐらいガサツな女の方が、眼鏡みたいな奴には良いのかもな。眼鏡が振り向くかは置いといて。

「あきつ丸……あら、いねえ。」

ぼんやりと座るベランダに、一陣の風が吹いた。
夕暮れ時のオレンジの中、何とも落ち着くような、ぽっかりとしたような。

そんな不思議な時間に、しばしぼんやりと浸っていた。

310 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/06(月) 01:46:27.23 ID:cwUSskD70

……とか感傷に浸ってた時期が、俺にもありましたとさ。
溜息止まんねえ…その理由はと言えば…。


「あきつ丸ー!あれやってー!!」


声が掛かると同時に、浮き輪さんがしゅたっと起き上がる。
結局あれから数日もしない内に、あきつ丸は浮き輪さん経由で存在をアピールし始めた。

曰く、ヒマすぎるからと。

隼鷹と俺で中身について説明をし、そこからは一瞬で鎮守府内のマスコットと化してる始末だ。
あの提督と秘書艦コンビの後押しがあったのは言うまでもない。

“ふふ、駆逐艦達の相手をしていて思いますが、幽霊も悪くないでありますなぁ…。”

“さっさと成仏してくれや…知り合いの霊能者呼ぼうか?”

“その時は全力で戦うでありますよ。
キョウが本当に立ち直る日まで、自分はこうして見守るのであります。”

「……アキ、またここにいたのか。」

「………。」ポスン

ものは言えねえけど、嬉しそうに膝に乗っちまう辺り、どっちもまだまだだろうな。
まぁ…浮き輪さんを愛でる眼鏡、シュール極まりねえけどよ。

「……あきつ丸ぅ…そろそろ成仏するかい?」

“げ!逃げるであります!!”

「待ちなコラ!
……ったく、あんにゃろう。」

「まあまあ、あいつもここが気に入ったようだからな。気が済むまで置いてやろうではないか。」

「良いのかい?あんたの元カノ成仏出来てないんだよ?」

「……私次第、という事だろう。」

「けっ…まあいいや。憲兵長、た、たまにはあたしと飲むかい?」

「……そうだな。一献付き合わせてもらおうか。」

「へへ…そうこなくちゃ!」

色々と、まだまだ時間掛かりそうだな。
でもそんなもんでいいだろう。ゆっくりと進むのを願うぜ。

今回の事は、相当学ぶ事は多かったな…。
さて、明日からもまた頑張ろう。

311 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/06(月) 01:47:17.20 ID:cwUSskD70

…で、その後の一件なのですが。
守らなきゃいけない方と一悶着起こるのでありました。

艤装装着時の怪我なら、艦娘は入渠や修復剤で治る。
ただ、裏を返せばそれ以外の時は効かない。例えばプライベートで重症負ったら、勿論入院コースな訳だ。

この数日後、俺が来る前に『ある怪我』で入院してた奴が帰って来る訳で。
まあ、何と言うか……

時雨どころか土砂降りなドタバタ劇が、俺と眼鏡を襲う事になるのだった。


312 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/06(月) 01:47:56.83 ID:cwUSskD70
今回はこれにて。次回はまたいずれ。
313 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/06(月) 07:41:10.93 ID:XqGAZQBG0
興奮するでありますなぁ
あきつ丸www
314 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/06(月) 08:49:05.74 ID:qkkw5pY0O
おつおつ
シリアスなんだけど重い空気にさせないこの感じ狂おしいほど好き
315 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/06(月) 11:12:32.81 ID:0RlkTKa6O
隼鷹殿初いwww
これあきつ丸を取り付かせたふりして誘いかけて自爆とかしねえか心配だなw
316 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/15(水) 17:32:13.07 ID:isx4OB8s0

今日も鎮守府を守る平穏な勤務……とは行かない日もある。
珍しい事に今俺は、仕事として車の助手席に座っている訳だ。

「……はぁ。もうサボって飯でも食うか?」

「珍しいですね、あんたがそんな事言うなんて。お疲れですか?」

「いくら私とは言え、気が乗らない任務もあるさ。」

ハンドルを握る眼鏡は、何やらうんざりしている様子。
これからの任務は、どうも相当気が進まないものらしい。

任務と大げさに言っちゃいるが、今日やる事は、実際の所ただの迎えだ。
何でも入院してた艦娘を迎えに行くって話しだが…何で俺らの出番なんだろう?

317 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/15(水) 17:32:53.83 ID:isx4OB8s0




第15話・時に雨、時に晴れ



318 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/15(水) 17:34:36.74 ID:isx4OB8s0

「普通の病院ですね…じゃ、行きますか。」

「待て、まだ降りるな。話がある。」

車から降りようとすると、眼鏡に制止を食らう。
何だ一体…すると眼鏡は、後部座席からバッグを2つ取り出した。

「貴様も持っていろ、中には警棒と手錠が入っている。」

「へ?わざわざ私服で来たのに?威圧しないよう私服で〜って言ってたじゃないですか?」

「それは病院や他の患者への配慮だ。
……今回退院して来る奴は、うちで一番の問題児でな。もしもの為の保険だよ。」

「一番の?」

この時俺の頭ん中では、なかなか武闘派な想像が浮かんだ。
入院もしてるし、まさか喧嘩っ早いのか?

「元ヤンとか格闘技とか、そっち系ですか?」

「そうではないな。ただ、少々過激だ。
私も手を焼いていてな…一度、『私の私』に痛恨を喰らった事もある。蹴りでな。」

「げ……そもそも、何で入院してたんですか?」

「高所からの転落だ。右足、アバラ4本、肩甲骨の骨折。頭と腕をそれぞれ10針と7針縫っている。
合わせて全治2ヶ月半、足にはボルトとプレートが入った。」

「……まさか飛び降りですか?ちょっと鬱入ってるとか…。」

「鬱ではないな……いや、ある意味病んでいる。」

「ある意味とは?」

「………会えば分かるさ。」

毎度の悪戯心じゃなく、純粋に説明する気力が湧かないのは雰囲気で察した。
さて…鬼が出るか蛇が出るか、向かうとしようか。

319 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/15(水) 17:36:18.27 ID:isx4OB8s0

入り口を抜けると、至って普通の病院だ。
眼鏡が手続きを済ませ、教えられた病室へと進んで行く。
一般病棟、結構奥なんだな……何だか余計緊張感が増して来る。

扉を開けると、椅子に座る女が一人。
犬みてえな外ハネの髪と、赤い眼鏡。私服な点と言い、まさにこれから退院する様子だ。
見た所駆逐艦か…こいつで間違いねえな。

「……迎えに来たぞ。お勤めご苦労だったな。」

「なんだ…憲兵長か。提督はいないの?」

「いる訳ないだろう、すぐに会わせる訳にはいかん。」

窓の外では、ポツポツと雨が降り始めたようだ。
そんな中、俺に気付いたのかそいつは声を掛けて来た。

「いい雨だね…後ろの人、新しい憲兵さん?噂はかねがね聞いてるよ。
初めまして、僕は時雨。よろしくね。」


その瞬間、外で雷が光った。

320 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/15(水) 17:37:52.78 ID:isx4OB8s0

「〜〜〜〜♪」

通り雨も過ぎ、外は再び晴れ模様。
しかし車の中は、カーステレオだけが声を発している状態だ。

そんな俺らの妙な緊張感を無視するように、時雨は微笑みながらスマホをいじっている。
退院が嬉しいのか、機嫌は相当良さそうだ。

「……時雨、着いたら寮へ直帰だ。分かったな?」

「その後提督に会いに行けばいいの?」

「…正規の命令は後で来るが、あいつから伝言だ。
ひとまず3日は出撃無し、体の慣らしの為に普通に過ごせとさ。要は貴様は待機という事だ。」

「……じゃあ、『まだ』正規命令じゃないんだね?だったら体を慣らす意味でも、会いに行ってもいいよね?」

「ダメだ。」

「どうして?」

「私達の出番になるだろう?」

何だこの重い空気…問題児とは言ってたけど、こいつら自体も仲悪いのか?
そうは言っても退院明け、2ヶ月半も入院してたら、見たい顔だってあるだろう。
しゃあねえ、ちょっと間入ってやるか…。
321 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/15(水) 17:39:33.76 ID:isx4OB8s0

「まあまあ、久々に見たい顔ぐらいあるでしょう?許してやったらどうです?」

「……貴様はこいつの本性を知らぬからそんな事が言えるのだ。」

「……はい?」

「提督は鎮守府近くのマンションに住んでいるんだが…こいつが怪我をしたのはそこだ。
ベランダから侵入しようと、雨どいを伝い3階のあいつの部屋へ登っている途中…どさりとな。」

「……提督より、先に入ろうと思ったんだよ。」

「そもそも、あいつは貴様に家を教えていないのだが…近所とは言え、部屋番まで見抜く洞察力が恐ろしいよ。」

「…………!!」

「……気付いたか?こいつの本性に。」

はは……ま、まさか、こいつが一番の問題児たる由縁は…。

「…そう、時雨は超が付く程あいつが大好きなのさ。所謂ストーカーと言って差し支えないぐらいだ。
ついでに言うと、こっそり翔鶴君にストーキングのイロハを教えていたらしいな。
以前の妖精ストーキングの件は、聞くまで私も知らなかったぞ。アレはさすがにやり過ぎだ。」

「僕は好きな人の事を知りたい気持ちを、手助けしただけだよ?
ふふ…早く会いたいなぁ……提督、今度こそ…。」

それ以降の時雨の独り言は40行ぐらいになりそうだったが、全て割愛させてもらう。
ってか、ほぼピー音になる内容だ。後ろからお経みてえに聞こえてくるそいつは、かなりの恐怖だった。

この時ようやく、なぜ俺達が駆り出されたのかを理解した。
あいつの師匠にして、ターゲットは提督…笑えないレベルのヤンデレが、まさにこの車中にいるのだと。

322 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/15(水) 17:41:45.93 ID:kGDSvamzO

「どうして付いてくるの?」

「…分からんのか?」

「何もしないよ。僕も部屋でゆっくりしたいんだ。」

寮に着くと、俺達はこいつの部屋までしっかり付いて行った。
ひとまず部屋までは送ったが…さて、これからどうなるのか。

「私が連絡するまで、ここで待機していろ。他の者が来た際は通して構わん。」

「憲兵長は?」

「寮の外へ行く。駄犬には灸を据えてやらねばならんからな。」

「いや、駄犬ってあんた…。」

何故外なのかは分からないが、何か考えがあるらしい。
眼鏡と別れ、しばらく部屋の前に立っていると……。

「憲兵さん、時雨が帰って来たっぽい?」

時雨と同じく、外ハネの髪…えーと、この子は確か…。

「ああ、夕立か。時雨の姉妹艦の。」

「そうだよ。時雨に会いに来たっぽい。」

久々に仲間に会いに来た…って割には、何やら真面目な顔だ。
姉妹艦だからだろう、この子も色々思う所があるのかもしれない。

「……やっぱり、あいつって色々やらかしてんの?」

「アレは提督さんも悪いっぽい。変に気を遣うから時雨も思い詰めちゃうっぽい。」

「……気を遣う?」

「そうっぽい。病院じゃお説教も出来なかったから、これからお話するっぽい。」

バレてる気もするが、一応見張ってるのは黙ってる。
俺はドアの死角に身を寄せ、夕立もあまり開けないように中へ入ってくれた。

それで5分としない内に…

「時雨!?」

夕立の声!?
慌てて部屋に入ると、中には夕立しかいなかった。
323 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/15(水) 17:44:07.52 ID:kGDSvamzO

「憲兵さん!時雨が飛び降りたっぽい!!」

おい、ここ3階だぞ!?
…ん?枠に鉤付いてる!!忍者かあんにゃろう!!

慌てて外へ出るが、部屋の真下はかなり回りこまなきゃならない。
全速力で落下地点に向かうが、恐らく2〜3分は掛かってる。逃げられたかと思ったが…。

「離してよ!」

「くくく…貴様の考えなどお見通しだよ。」

息を切らして辿り着いた所には、時雨をお姫様抱っこする眼鏡がいた。

「…くっそ〜…!!何で会いに行っちゃダメなんだい!」

「貴様には前科があるからな。一服盛ろうとした件を忘れたか?
お姫様抱っこ…一見ロマンチックな言葉だが、この体勢がどう言う意味を持つか分かるかな?」

「……!!」

「貴様と私の体格差なら、このまま肩と膝を締める事も出来る…或いは股と喉を押さえれば、危険な背骨折りの完成になるぞ?また入院したいのか?」

「……分かったよ。」

「良い子だ、抵抗しないなら降ろしてやろう。」

「………なんて言うと思ったかい?」

時雨が降ろされた直後、ごしゃ…と鈍い音が響き渡った。
金的…!アレは洒落にならねえ!!思わず眼鏡に駆け寄るが…。

「……ファールカップと言うものを知っているか?貴様相手に何も用意しない訳なかろう。」

「………!!」

「悪い子だ……少しお仕置きが要るな。」

「速…痛たたたたた!!ギブ!ギブだって!!」

一切の無駄の無えアームロック……ってこりゃダメだろ!止めねえと!!
324 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/15(水) 17:45:24.55 ID:kGDSvamzO

「憲兵長!!やりすぎですよ!!」

「おっと…つい熱くなってしまったな。さて、大人しく部屋に帰ってもらおうか。」

「………嫌だ。」

「……どうしてもか?」

「………うん。」

時雨を見ると、涙目でむくれてる。
こりゃ重症だな…どうしたもんだろうか。

「はぁ……貴様の為でもあるんだよ。
あいつの気持ちも汲んでやってくれ。何故貴様を避けようとするか、理解出来ないのか?」

「……僕だって、女の子なんだよ。なのに提督はいつも…。」

「……『女の子』だからだよ。『女』ではなくな。
例え無理矢理迫ろうがストーキングをしようが、あいつの中でそれは覆らん。」

「……分かってるよ……でも、じゃあどうすれば良いんだい!?僕だって…ずっと提督が……!」

今日は不安定な天気だ。
また通り雨が降り出すと共に、時雨の目からぽろぽろとこぼれるものがあった。

…俺は事情を全部知ってる訳でも、経験豊富な訳でもない。
ただ…ここまで泣くような事は、放っておけねえよな。


「……憲兵長、少し時雨と二人にしてもらってもいいですか?」

325 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/15(水) 17:47:37.55 ID:kGDSvamzO

「……ほれ、タオル使えよ。」

「……ありがとう。」

外はいよいよ土砂降りだ。
ひとまず俺の部屋に連れて来て、落ち着かせる事にした。


「……いい雨だね。」


時雨は頭にタオルを被ったまま、ぼーっと窓の外を見てる。
病院の時も感じたが、よっぽど雨が好きらしい。

「……この近くに、コンビニがあるよね。」

「ああ、どうかしたか?」

「…ゲリラ豪雨で帰れなくなってた時、たまたま提督がいたんだ。
1kmも無いけど、一緒に入る?って傘に入れてくれた。その時の雨に似てるんだよ。」

「……そっか。」

「………外面はゆるい人だけど、誰よりも皆の事を考えてる。だからこそ、僕に限らず『艦娘』を異性として好きになったりしないのさ。
良き上司でありたい、それが提督の願いだから。

私生活荒れてるのも知ってる…知った時は、思わず殴っちゃったけど。
本当に頭に来た。何で僕の方は見てくれないのに、外で女ばっかり作るんだって。

………一度、好きだよってちゃんと伝えたんだ。振られちゃったけどね。
よく覚えてるよ…時雨が子供な以上、応えてはやれないって。

…そこから、歯止めが効かなくなった。
家を探したり、コーヒーに一服盛って襲おうとしたりね。憲兵長のお世話になった事も、一度や二度じゃない。
我ながら卑怯だよね…無理矢理にでも関係を持てば、僕から逃げられなくなるって思ったんだ。
それである日、とうとう忍び込もうとして…あの大怪我に繋がった。

提督ね、僕を真っ先に見付けてくれたんだ。
その時はまだ意識があって……あの悲しそうな顔は、忘れられない。

……僕がどれだけ馬鹿な事をしても、嫌ってくれなかった人だよ。
見舞いには来なかったけど、毎日連絡をくれた……馬鹿だよね。せっかく心を鬼にしようとしてるのに、結局僕なんかを甘やかしてさ。
お前なんか大嫌いだ!解体(クビ)にしてやる!って言ってくれれば、まだ楽になれたんだけど。

ねえ、憲兵さん…僕は今年で15歳なんだ。
体はもう大人に近付いてる…それでもダメなのかな?」

「…………。」

…問題は違うけど、既視感あるなぁ。
ただ、『俺達』と違うのは……。

326 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/15(水) 17:48:56.47 ID:kGDSvamzO

「……そうだな。時雨、お前今まで誰かと付き合った事はあるか?」

「……ううん。提督が初恋だよ。」

「遅めなんだな…今まで同世代の男の子とは、交流が無かったって事でいいな?」

「……うん。艦娘になる前も、特に無かったね。」

「よし。ちょっと待ってろ。」

廊下に出て、取り出したるはスマホ。眼鏡の介入を避ける意味でも、ここは俺が動くべきだろう。
そういやこの前飲んだ時、連絡先交換してたんだよな……さて、今は暇かな?


「もしもし?お疲れ様です。ええ、時雨の事なんですけど……。」

327 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/15(水) 17:50:52.01 ID:kGDSvamzO

「………どうしたんだい?随分長かったけど。」

「ゲストを呼んだのさ。もう来るぞ。」

「失礼するよー。」

「……提督!!」

確かに時雨の行動は良くないし、眼鏡の言い分も分かる……でもここは一つ、ちゃんと話をさせてやるべきだろ。
俺がいる限り、時雨も思い切った事はしない。そこの分別ぐらいは付く子だと思う。

「……時雨、退院おめでとう。」

「………ありがとう。提督……ごめんなさい!!」

真っ先に出てきたのは、謝罪の言葉だった。
提督にぎゅっと抱き着くと、時雨は嗚咽を漏らしていた。
提督はと言うと、そんな時雨の頭を優しく撫でてやっている。

「……謝るのは、僕の方だよ。距離を置けば分かってもらえるなんて、甘えだったね。」

「ううん…あんな事までしでかしたのは、僕が悪いんだ…。
入院中は、ずっとその事ばかり考えてた…ごめんなさい、提督……。

でも………。」カチャカチャ 


ん?カチャカチャ?


「………僕はやっぱり、提督の事が好きなんだ。」

「てめえどっから手錠出した!?」

「いった!?」

思わずゲンコツしちまったぜ…懲りてねえこのガキ…!
目に一切の悪意がねえのがタチ悪ぃなオイ。純粋に愛情表現のつもりだ…。

328 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/15(水) 17:52:45.39 ID:kGDSvamzO


「……………。」

あーあー、提督キョトンとしたツラしてんじゃねえか…。
いつものヘラヘラ感もどっか行っちまった。流石に擁護しきれねえぞ…。

「………そっかぁ、時雨は『まだ知らない』もんね。」

手錠をまじまじと見ながら、そう提督が呟いた時。




『どんっ……!!』





提督が、激しく壁を叩く音が響いた。


329 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/15(水) 17:54:07.71 ID:kGDSvamzO

「………提督?」

「……まだ分かんないかなぁ?大人の男に近付く意味が。」

叩きけられた腕の横には、壁際に追い込まれた時雨がいた。手錠のせいで、時雨の片手も壁に磔だ。
空いた方の手が、時雨の頬に触れる。
それが顎を掴むような形になると、提督はそこに顔を寄せて……

時雨の目は、その時確かに怯えを孕んだ。

「……ひっ……やめて!!」

時雨が提督を突き飛ばすと、手錠のせいで時雨も引っ張られてしまう。
だがそのまま二人が床に倒れた時、提督が時雨を守るように受け身を取ったのを、俺は見逃さなかった。

「………提督!!」

「いたた……ちょっと強かったなー。」

いつものヘラヘラした調子でそんな事を言うが、全くの無傷だ。
提督は時雨の背中をぽんぽんと叩き、一際優しい声色で話し出す。
330 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/15(水) 17:56:06.50 ID:kGDSvamzO

「……時雨、男は狼だよ?」

「……狼?」

「そう。火が着いたら、子供でも食べちゃう怖い生き物さ。
……同時に、それは自分のものにしたい、深くその人を愛したいって気持ちでもある。中には食欲だけの奴もいるけどね。

女の子にとって…特に初めてそんな目を向けられて、おまけにそれを受け入れるのは、とても怖い事なんだ。
世の中、若いお肉を食べたいだけの奴もいてね…それで深く傷を受ける子だっている。
……男にとっても、最初は同じ。誰かと愛し合うと言うのは、性も深く関わるんだよ。

君ぐらいの子が大人の男に近付くのは、それなりに危険な事さ。
僕の歳にもなれば、さすがに躊躇いなんて無いから。

……もっと年頃らしい恋をして、自分を大事にして欲しい。」

「………子供扱い、しないでよ…年頃らしいって何なのさ!?
確かに子供だよ……それでも僕は!!」

………胸が痛えな。
でも、時として現実は残酷だ…憲兵として、何より大人として今は動かなきゃならねえ。

331 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/15(水) 17:58:24.89 ID:kGDSvamzO

「………時雨、提督が捕まってもいいのか?」

「……!!」

「こいつは軍規に限らず、法や条例の話でもある…例えば提督がお前ぐらいの子に手ェ出したら、俺らは仕事しなきゃなんねえんだ。
お前からしたら理不尽な法だろうが…それは、お前ら子供を守る為の物でもあるんだよ。狼さんも、いい奴ばかりじゃないからな。

思い詰めるのも分かるぜ?でも、一度立ち止まってみな。
感情ばかり押し付けないで、少しは提督の立場や気持ちも考えてやれ。提督は、お前を傷付けたくないんだよ。」

「憲兵君…どうだかね?僕は君の知ってる通りのダメ男だよー?」

「普通なら、さっきはビンタからの最低宣告ぐらいされてもおかしくないでしょう?
よく覚悟決めたと思いますけど?しかも俺の前で。」

「……言うようになったねー。キョウの影響かな?」

「知らねーっすよあんな奴。ま、コンビ組んでる分、影響はあるかもですけどね。」

さて、後は時雨がどう捉えるかかな?
あーあ、胃が痛えや…でもこんな事も、こいつが大人になる上でのスパイスか。
憎まれんだろうなぁ……いいぜ、この件の恨み辛み、受け入れてやろうじゃねえか。

「…………ねえ、提督。」

「どうした?」

「…今は子供だから、ダメなんだよね…。
じゃあ…僕が18歳になったら、どうする?」

「そうだなぁ…。」

この時自分の事みてえにハラハラするとは、俺も意外だった。
提督…あんたは時雨にどう告げるんだ?

332 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/15(水) 17:59:43.09 ID:kGDSvamzO

「もし君が18歳になっても気持ちが変わらなかったら、僕も真面目に考えるよ。提督としてじゃなく、一人の男としてね。
……その間に、僕より素敵な男の子が現れなければね。」

「………提督。」

「…………!?」

「………ふふ、大丈夫。18どころか、おばあさんになったって君が好きだよ!絶対変わらないから!」

へへ…下手な映画より、よっぽど良いキスシーンだぜ。
……っと危ねえ、俺はなーんにも見てねえぞ?雨が止むとこ見てただけだ。


日々を守るは、突き詰めりゃ心を守るだ。
その為だったら、不良憲兵で上等だよ。

333 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/15(水) 18:02:29.51 ID:kGDSvamzO

「今回ばかりは、素直に褒めてやろう。よくやった。
まぁ、あいつはあの後歯医者通いになったがな。女遊びを一切やめ、そのツケを払ったそうだ。」

「あんたが褒める…雨降りそうですね。」

「くく…もう止んだだろう?」

「ええ、土砂降りでしたよ。ありゃ問題児でした。」

何日後かの夜、俺は珍しく眼鏡の部屋にいた。
缶ビール片手の簡素な飲み会だが、それで事足りる。お互い時雨の件の疲れを引きずってたのか、どちらとも言わず飲む流れになっていた。

「なかなか、私が言っても聞かなかったからな。上手く踏み込んだものだよ。」

「気持ちのすれ違いってのは、俺も経験ありましたからね…どう悔いの無いよう持ってくか、それを考えただけです。」

「悔いのあるような言い方だな?」

「…過ぎた話ですよ、今となっては。」

……これで良かったのか?なんて、一時期は思い悩んだっけ。
今は……いや、でも特に誰かを好きとかはねえかな。

334 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/15(水) 18:04:16.99 ID:kGDSvamzO

「あーあ…思い返しゃこの頃人のサポートばっかり、俺の春はいつ来んのかはぁっ!?」

「おや、アキじゃないか。」

『こいつのケツを突けと天啓を受けたのであります。』

「……あ、あきつ丸…何しやがる…!!」

最近この馬鹿はタブレットを覚えて、浮き輪時でも筆談出来るようになった。
だがこの後、テレパシーで俺にだけ話をして来たんだ。

“自分、少しなら人の思考も読めるのでありますよ…。
君はもう少し、自身への目を意識するべきですなぁ……人の事ばかりでなく。”

“俺への目ぇ?”

“そういう所であります。もう一発逝くでありますか?”

それだけ伝えると、あきつ丸は浮き輪から出てどっか行っちまった。
ま、霊体見えんのは俺と隼鷹ぐらいだし、騒ぎにゃなんねえだろ。

「お、隼鷹からだ。瑞鳳君と部屋飲み中だとさ。」

「げ、大丈夫すかあいつら?」

「隼鷹はプロの酔っ払いだ、行き過ぎた者を収めるのも上手いぞ。心配は要らん。」

ふーん…軽空母同士、交流も必要かね。
以降は特に気にする事も無く、眼鏡としょうもない話ばかりしていたもんだった。

……結局後で注意しに行くぐらい、何人も入り乱れての大騒ぎになってたけどな。

335 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/15(水) 18:05:06.37 ID:kGDSvamzO
今回はこれにて。
次回、番外編・『女子会』となります。
336 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/15(水) 18:25:08.62 ID:BJK8LQZ20
おつ!
女子会と聞いて普通なら可愛い感じをイメージするのになんか胃が痛くなりそうな感じしかしない(笑)
337 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/15(水) 22:33:38.42 ID:tDQNHtCd0
病まない雨はないさ・・・

>>336
酸っぱい臭いしかしない女子会よりよっぽどマシだろ・・・。
338 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/16(木) 10:26:50.36 ID:i9ftrpeqO


やはり闇時雨はいいものだ・・・
339 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/19(日) 01:49:11.31 ID:Vmrz7WkJO

こんばんわ、瑞鳳です。

今日は最近仲良くなった隼鷹さんと部屋飲み中。
所謂ガールズトーク…と言えば、もちろん話題はそんな事。

ん?恋のお話?
それもあるけど…年頃の女2人揃ったら、その延長線上も行くでしょ。
とてもじゃないけど『あいつ』には見せられない、女の本音を晒し合う。


そう、それこそが女子会の醍醐味なの。

340 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/19(日) 01:49:58.48 ID:Vmrz7WkJO





番外編・女子壊





341 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/19(日) 01:52:42.42 ID:Vmrz7WkJO

「へー、憲兵とは随分仲良いんだねぇ。」

「うん!__とはしょっちゅう遊んでたの!」

「……で、女としては見てもらえてないと。」

「………ふふ、そうなんだよねー……。」

お酒を飲みつつ、出てくるのはあいつの話。
隼鷹さんは憲兵長に一生懸命近付いてるみたいだけど、ちょっとずつ打ち解けられてるみたい。
いいなぁ…私なんて打ち解けたってレベルじゃないのに、あいつはこれっぽっちもそんな目じゃ見てくれない。
好意どころか、エロい目ですら見てくれないってどう言う事よ。もう。

「あいつ口調とかヤンキー臭い割に、クソ真面目だもんねぇ。
なまじ過去や距離がある分、今は翔鶴に分がある感じかぁ。」

「………それだけじゃ、ないんだよね。」

「ん?」

「隼鷹さん…まず友達として仲良すぎるのって、ダメなのかなぁ?
私結構お酒でやらかして、ついついやり過ぎちゃったりして…。」

「………具体的には?」

「そうだね…さっき、知り合った頃に私がヤケ起こして迫ったって言ったよね?その後肩に吐いちゃって…。」

「んー…ま、そんぐらいじゃ愛想尽かすタイプじゃないね。」

「あー……他にも色々…。」

「……言ってみ?」

「例えば…普段飲んでて、セクハラやひっどい下ネタ言ったり。それこそあいつの乳揉むなんて序の口で……。
性感帯やらフェチやら言ったり根掘り葉掘り聞いちゃったり…今日あの日だからお肉食べたい!とか言っちゃったり…あ、おならしちゃった事も何度か…。

あいつには何でも話せちゃうから、ついつい…。」

「……あ、ああ。」

342 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/19(日) 01:54:48.49 ID:Vmrz7WkJO

「……一回、あいつが寝てる時にパンツ被せちゃったんだ。」

「…は?」

「……あいつとは、よく部屋飲みしてたの。
でも皆、いつもなーんにも言わない。その時点で、__だったら何も起きないだろって皆思ってたんじゃないかな。

私、映画の定額サービス入っててね。部屋飲みの時によく一緒に観てたの。
その日はあいつちょっと疲れてて、途中で寝ちゃったんだ。

丁度ね、その時観てた映画の主人公が、パンツ被る場面だった。
それでふと思い立って、寝てる所に私のパンツ被せて…。」

「待ちな。パンツ被せたって頭かい?それとも顔?」

「………顔。」

「ひゃひゃひゃひゃひゃ!!!やべーよ!!その映画ってもしかして…。」

「あ、もちろん洗濯したのだよ?洗濯カゴから出そうかちょっと迷ったけど…。
息苦しかったんだろうね、悪夢見たらしくて…フオオオオオオオオオオオッッッ!!!って飛び起きて…ぷっ…。」

「〜〜〜〜〜っ!!〜〜〜〜っ!!」バンバン 

「ふふ、殺す気か!!って怒られちゃった。
…でもそれだけ。パンツ自体にはぜーんぜん慌ててくれなかったなぁ。」

「あちゃー…翔鶴で慣らされたとか?」

「あいつ中高生の頃、お母さんいない日は洗濯担当だったみたいでね、お姉ちゃんの下着も洗ってたんだって。だから見慣れちゃってるんだよ。
何でもお姉ちゃん、今は東北の方で艦娘やってるらしいけど…悪い意味で女慣れしてるの、お姉ちゃんのせいっぽいね。
いつもお風呂上がりに裸で出歩いて、俺がキレてた〜って言ってたもん。」

「ははは…でもさぁ瑞鳳。」

「ん?」

「……そりゃ女として見てもらえないよ。いくらあたしでも、そこまでやんない。」

「……だよねぇえええええ!!!!」

分かってる…分かっちゃいるのよ……!!
でもダメなの、あいつの前じゃ甘えちゃうしさらけ出しちゃうの!!
ふふ…バカの出来る親友と言う距離が、今ほど憎らしい日々も無いわね…。

343 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/19(日) 01:57:33.57 ID:Vmrz7WkJO

「話聞いてると、同棲長いカップルみたいじゃん。
でもあんた達の場合、知り合ってからすぐそれだろ?裏返すと…憲兵からは完全に女として見られてないよね。」

「……うう、お姉ちゃんには食い付いたクセに〜〜…!!」

「姉ちゃん?」

「…私のお姉ちゃんも艦娘なの。××鎮守府の祥鳳、知ってる?」

「……え!?あれ瑞鳳の姉貴!?ただの姉妹艦だとばっかり…。」

「実姉でもあるのよ…前のとこにたまたま演習来て、ついでに遊びに来たんだ。
その時__も会ったんだけど、そしたらあいつ…

“…やべえ、お前の姉ちゃんタイプだわ。”

とか言い出して〜〜〜〜……!!」

「瑞鳳、缶潰れてる。」

「ダメ!あっちの提督と出来てるから!!って嘘ついてごまかしたけどね!
はーあ…私そんなに魅力無いかなぁ。そりゃちんちくりんだけどさ。」

「あー…元カノが翔鶴な上に、あそこの祥鳳にも食い付く…美人が好きなのかねぇ、可愛い子よりもさ。
あっちいた時、あいつ他に誰かと何かあったりしなかった?」

「意外と何にも無かったよ?誰に対してもああだから、人望はあったけどね。
まぁ、そのー…私がこっそり囲ってたのもあるけど…いつも真っ先に遊びに誘って。」

「……なかなか努力は実らず、ってとこか。」

「………うん。」

……………つらい!

あーあ、女の子らしさかぁ…これでもそれなりには持ってるつもりなんだけど。
あいつといる時は、ぜーんぶ吹っ飛んじゃうんだよね。

344 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/19(日) 01:58:56.01 ID:Vmrz7WkJO


「……瑞鳳、良かったら他の連中も呼んでみる?翔鶴も入れてさ。」

「…へ?」

「敵を知り己を知る、なーんて事もあるかもよ?
翔鶴も変わった奴だけど、何かヒントはあるんじゃないかい?ついでに、他の奴も参考にしてさ。」


345 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/19(日) 02:01:25.77 ID:Vmrz7WkJO

「隼鷹さーん、お疲れー!」

「お、来たねー。座んなよ。」

一通り連絡して来たのは、二航戦の2人と翔鶴さん。瑞鶴ちゃんは出掛けてるみたい。

飛龍ちゃんに蒼龍ちゃん…この二人も、なかなかの物をお持ちで。
うーん、揉みたい…でもそれ以上に、今はこの無い胸をじっと見ちゃうなぁ。
いや、それより身長が欲しい。皆すらっと見えるもん。

……チビだから、たまに近くにいても気付いてくれないんだよね。

「さっきまでえぐい話してたんだよ。瑞鳳、なかなか持ってる奴でさ。」

「なになに、下ネター?」

「ふふ、教えないよー。」

駆け付け3杯するまでも無く、女が5人揃えばあっという間に盛り上がる。
一通り女子高ノリなトークをした後、蒼龍ちゃんが爆弾を落としてきた。

「翔鶴さーん、高校の時の憲兵さんってどんな感じだったの?」

……高校時代かぁ。
あいつと翔鶴さんが付き合ってた頃だ。私は昔話でしか知らない、あいつの事。

346 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/19(日) 02:03:53.01 ID:Vmrz7WkJO

「そうね…目立つ方では無かったわ。運動は得意だから、体育祭でよく駆り出されてたぐらいかしら。
空手の道場に通ってたから、放課後になるとすぐそっちに行ってたわね。」

「部活じゃなくて?」

「うん。うちの高校は空手部が無かったの。
だから付き合うきっかけまでは、あまり話す事は無かったわ。」

「きっかけって何だったの?」

「ふふ…通り魔から助けてくれた事かしら。
襲われそうになった所を、犯人を倒してくれて…。」

聞いた事ある。
前のとこでもあったけど、あいつは誰に対してもそう。困ってる人を見ると体が動いちゃうから。
………この前助けてくれた時だって、下手したら怪我してたのに。

「その時はさっさと帰れよ!って、すぐどこかに行っちゃったの。
でも、同じ学校だから…しばらくは、こっそり遠くから見てた。お礼も言えずに別れちゃったから。」

「青春ー。ねえねえ、そこからは?」

「そうね…共通の友達もいなかったから、思い切って手紙を下駄箱に入れたの。」

「このご時世に大胆だねぇ!ラブレターって奴かい?」

「ええ…遠巻きに見てる間、彼の普段の行動をいっぱい目にして。段々好きになってた自分に気付いたの。
それで手紙を入れたのはいいけど…名前と連絡先を書き忘れちゃって。」

「やっちゃったねー。内容はどれぐらい書いたの?」

「………枚。」

「……へ?」

「………原稿用紙30枚に、改行もせず想いの丈をひたすらぶちまけたわ。」

「「「「怖いわ!!」」」」

うわぁ…無記名でそれはヤバいよ…そ、その頃からストーカー気質だったんだ…。
長い手紙もらった事あるって言ってたけど、あいつよくそれで流したね…。
347 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/19(日) 02:05:07.90 ID:Vmrz7WkJO

「あ、あはは…その後どうなったの?」

「次の日学校に来なくてね…高熱で休んでるって聞いたの。
それで居ても立っても居られなくなって、放課後家に行ったわ。」

「…ん?待て、家どうやって調べた?」

「その……こっそり見てた時期に、気付いたら家まで付いてってた事があって…その日は部活休みだったから…。」

「「「「だから怖いってば!!!」」」」

よ、よく付き合えたわね…。

でも翔鶴さんは、そんな話でも愛おしげな顔をしていて……ああ、思い出の一つ一つが、本当に大切なんだって思った。
それと、今でもあいつが大好きなんだろうなって。


………むぅ。


348 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/19(日) 02:07:42.88 ID:Vmrz7WkJO

「インターホンを押したら、ふらふらの彼が出て来たの。ご両親は法事で遠くに行ってて、一人で寝込んでたみたい。
一応行事のプリントコピーして、その体で来たって言ったけど…今思えば、違うクラスだから不自然よね。
でも、そんな事考える余裕も無かったんでしょうね。そのまま廊下に倒れて、助けてくれって…。」

「大変だ…そこからは?」

「看病したわ。担いでベッドまで連れてくの、大変だったわよ?
まず寝かせて熱を見ようとしたら、手を掴まれたの。

おでこに触れた時だけど、冷たくて気持ちいいって……その時かしら、二度目に手を繋いだのは。最初は助けてもらった時。
きっと心細かったのね…少しこのままにさせてくれって、寝付くまでそのままでいた。

お粥を作ったりはしたけど、ぐっすり寝てたからすぐには起きなかったわね。
でも苦しそうで、昔妹にしてあげたみたいに、落ち着くまで胸を叩いてたわ。

助けてもらったもの…今度は私が何とかしなきゃってね。」

「そこで付き合う事になった感じ?」

「ううん、その日は寝てる間に帰ったわ。机に鍵が置いてあったから、ポストに入れてね。
あれは金曜だったわね…それから週明けに、やっと学校に来たの。

この前はありがとなって言ってくれたけど、その時はそれだけ。でも連絡先は交換出来たわ。
何を送ろうかって思って下駄箱を開けたら…封筒が一枚入ってた。」

「やっぱり差出人って…。」

「“あの手紙のせいで知恵熱出しました、勘弁してください。

付き合うとか経験無いけど、こんな奴でよければよろしく。あんたにゃ負けました。
この前は本当に助かった、ありがとう。”

……って。
ふふ、今思うと恥ずかしかったのかしらね?
付き合い始めたのは、その手紙のやり取りからよ。」

「………青春。」

「そうね……青春だったわ。」

349 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/19(日) 02:10:07.37 ID:Vmrz7WkJO

「へー。ねえねえ、そこから初体験ってどれぐらい掛かった?」

「……2ヶ月。」

「2ヶ月ぅ!?また長くね?」

「それまでタイミングが無かったのもあるけど…彼は元々ガツガツ迫ったりするのが嫌いなのよ。
その頃は特に、私を傷付けたくないって思ってた節はあったわ。

それである日、うちが誰もいない日があったの。
彼は道場疲れで寝落ちしちゃって、今しかないって思った。」

「……どう焚きつけたの?」

「んー…正攻法だと煙に巻くって思ったから……

…ベッドに手足縛っちゃった♪」

「逆レじゃん!!」

「生!?生だったの!?」

「あー…片田舎だったから、まだ自販機が残ってて…そこでこっそりね。
だって……そうでもしないと一線超えるなんて無理だったもの。でも、そんな状態でも優しかったわ…。」

「__も掴み所無いとこあるもんね。性欲あるのか無いのかいまいち分かんないし。」

「瑞鳳ちゃんは、前の所でそう言う場面見なかった?」

「下ネタとかは普通に乗ってくれたけど、実際誰かをエロい目で見たりは無かったなぁ。下ネタは軍学校のノリで慣れたせいって言ってた。
そうそう、あいつ軍学校の時、同級生に『そっち』な人がいたみたいで……。」

「え!何それ気になる!」

……卑怯だなぁ、私。

こう言う場で話がどんどん脱線してくのは、よくある事。
でもこの時は、わざとそっちに持ってっちゃったんだ。
私の知らないあいつの事を聞くのは、やっぱりちょっと辛かったもん。
350 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/19(日) 02:12:59.26 ID:Vmrz7WkJO

「わははははは!!今んなって痔主になったの、そいつの呪いじゃねーの!?」

「人のを生で蹴る羽目になるとは思わなかったって、遠い目してたわ…。」

「ふふ、あの人もちゃんと男の子だもの。」

「お、元カノの貫禄ー?」

「そうね…でも、今の彼をちゃんとは知らないわ。そっちは瑞鳳ちゃんの方が詳しいわよ。」

ちらりと目が合った時、胸がズキッとした。
その時の翔鶴さんは、ライバルを見る感じじゃなくて…本当に、羨ましげな子供のようで。

一瞬、その先を言うか迷った。
結局私は…囁いてくる悪魔の誘惑に、勝てなかったんだ。


「………翔鶴さん、それからどうして別れちゃったの?」


………ほんと嫌な女、私。


351 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/19(日) 02:15:03.10 ID:Vmrz7WkJO

「………最近やっとそう思えたからだけど、私が子供だったからよ。

あの頃は特に怒るのが苦手で…やきもち焼いても、どう伝えればいいか分からなかった。
でも、ああいう人じゃない?男女問わずそれとなく色んな人に助け船を出して…彼に好意を持つ子も、少なからずいたわ。
どうぶつければいいのか分からなくて…それで…。

彼の2歩前を狙って、吸盤付きの矢をプシュっと…。」

「うん。待って、その理屈はおかしい。」

………さっきから話してて思ったけど、いや、絶対そうだ。
翔鶴さんって、もしかしなくても…。

「…翔鶴さん、色んな人から天然って言われない?」

「言われるわ。失礼しちゃうわよね、瑞鶴だって翔鶴姉は天然だからーって言うのよ?」

「………やべえ、こいつ重症だ。」

「隼鷹さんも言うの?もう。」

「いや、翔鶴さんは天然だよー。この前もさー…。」

あー、やっぱりどっかズレてるかぁ。

でもそんな天然さが、あいつの中に割って入れた秘訣なのかもね。
それにこの人も根は優しいし、女の子らしい。
散々私と喧嘩してたのも、怒れるようになったって事なんだろうな……。

私、いつもあいつにじゃれたり甘えてばっかりだ…。
辛い時にそばにいてあげた事なんてあったのかな?

……ほんとはね、前から気付いてるよ。
翔鶴さんの話をする時のあいつは、いつもと目が違う事。

352 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/19(日) 02:16:47.66 ID:Vmrz7WkJO

「……そういう馬鹿な事の、積み重ねだったのかしらね。
“俺じゃお前を安心させてやれない”って、振られた時に言われたわ。

散々泣いたし、説得もした……それでも彼の方が辛く見えてね。最後は私が折れたの。」

ああ…そっか……あいつ、多分…。

………ごめんね、翔鶴さん。
それでも私、負けたくないんだ。

「隼鷹さん、___借りて良い?」

「あたしの?何すんのさ?」

「……瑞鳳渾身の一発芸、推して参ります!」

353 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/19(日) 02:18:25.00 ID:Vmrz7WkJO

しんみりした空気を戻したくなった…なんてのは建前。これ以上は聞きたくなかったのが本音で。
この空気をめちゃくちゃにしたくなった私は、隼鷹さんからあるものを借りた。

今この手にあるは…隼鷹さんのパンツ。(黒、花柄)
例えるならば、弾薬を込めるヒットマン…ゆっくりとした動作でパンツを広げ、震える手でそれを……被る!!

「ダメだ…もう私は…でも……!!
……気分はエクスタシィイイイイイイッッ!!!!」

「「「「ぶはははははははっ!!!!!」」」

「クロス・アウツ!!」

でも本家みたいに特殊なのは履いてないから、とりあえず下だけ脱ぐ。今の私はキャミとパンツのみ。
そして…あの映画みたいに渾身のポーズを決め、こう告げるんだ。


「変態仮面、見参!!」

「おい、さっきからうるせーぞ。」ガチャ 


………アレって、時間止められたっけ?


354 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/19(日) 02:20:02.26 ID:Vmrz7WkJO

「………………………。」バタン

「待って!!せめて何か言って!!」

「瑞鳳ちゃん、彼なら無かった事にしてくれるから…。」

「そう言う問題じゃないよおおおおおお!!!」

「ぶははははははは!!!やべえ!最っ高のオチじゃねーの!!」

「飛龍、今の動画撮ってた?」

「うん!バッチリ!!」

「のおおおおおおおおお!!!」

その後延々余韻を引きずり、湿った空気は無くなりました。
ただ……あいつの中での私の『女』は、さらに壊れちゃったと思います。

私があいつにとって、女子壊から女子・改になる日は、果たして来るのでしょうか。
そればかりは、神様のみが知っている始末なのでした。

追伸

パンツの被り心地は、悪くなかったです。

355 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/19(日) 02:20:56.94 ID:Vmrz7WkJO
今回はこれにて。久々に頭の悪いお話でした。
356 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/19(日) 12:56:12.19 ID:gwL03W6A0
乙おつ
づほには頑張って欲しいね
357 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/19(日) 13:21:40.07 ID:fhpXIp1BO
他所の世界線で変態仮面が提督やってるのも有るから
艦娘が変態仮面でも問題無いはず
づほもM字開脚でウェルカムやってたら落とせたかもしれない
358 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/19(日) 17:45:29.33 ID:HAMlq5If0
正直づほ応援したい
359 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/19(日) 19:35:04.49 ID:eb51eZmdO
づほはどうにも女として意識されないことには……
360 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/23(木) 00:24:04.54 ID:pnSUu4yTO

今日も今日とて平穏なる日、警邏を終えて詰所でしばしの事務作業。
眼鏡はと言うと、演習組の案内と警備で駐車場に出てる。

今日はうちで演習やるらしいが、大体そう言う時は俺が行かされる。
しかし珍しく、この日はたまには私がと眼鏡自ら警備に向かった訳だ。

何か怪しいなぁ。今日来るとこ、どこからだっけ…


『こん…こん…。』

「はーい。」


タイミング悪いな…たまに暇つぶしに来る奴はいるが、今日は誰だ?
のそのそとドアを開けると、そこには……


「……………。」バタン


……何も見てないぞ、俺は。外には誰もいない。


361 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/23(木) 00:25:12.45 ID:pnSUu4yTO




第16話・ANEKI CRISIS-1-



362 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/23(木) 00:27:08.60 ID:pnSUu4yTO


『こんこんこんこんこんこんこんこん!!』

うるせえ!!今俺はいない設定だ!無視無視!!
はぁ……やっと静かになったか…疲れてんのか俺、何であのバカがドアに…。


「……………。」ニコッ


窓に、スーツ姿の女が見える…何かこう黒髪ロングでニヤニヤした亡霊が見える…。
あはは…た、たまにはサボって寝てやろうかなー…。

「戻ったぞ。どうした?そんな虚ろな目をして。」

開けんじゃねえ馬鹿野郎。
おい、後ろに何かいるぞ。お前と口調被ってそうな女が立ってんぞ。

「…おお!いつの間に後ろに!これはこれは失礼致しました。」

わざとらしんだよ、ニヤケ面が隠せてねえぞクソ眼鏡。
眼鏡の後にいるスーツの女は、腕を組んだまま殴りたいドヤ顔で俺の方を見てるじゃねえか。

「あー、失礼。演習の艦娘の方でしょうか?
集会室でしたら母屋の方入って1階右から三番目の部屋に…。」

「…見取り図ならいただいている。
演習準備までは少々自由時間があってな、顔を出させてもらった。」

「いえいえ、私共などたかが憲兵隊ですし、第一初対面でしょう?
提督がお待ちですよ、出口はあちらです。」

「ふぅ…つれない事を言うじゃないか。なぁ、__。」

「__とは確かに自分のアダ名ですが、よくご存知ですね。
えーと、あなたは確か○○鎮守府の…あ、やはり自分とは初対面ですね。初めまして。」

「確かに『仕事では』初対面だな。立派にやっているようじゃないか。」

「いえいえ、大体あなたにはセクシーで立派な妹さんがいらっしゃるでしょう?
自分などそこらの雑草にも劣るイチ憲兵でして…名前を呼ばれるような資格など…。」

「それは『艦娘としての姉妹艦』の話だろう?
確かに私はどちらでも長女にして長子だが…『一個人の家族として』は、その下にいるのは格闘技をやっていて、そして今は軍属でもある者だ。
せっかくの家族水入らず、腹を割って話そうじゃないか…少しはこの『戦艦・長門』の血縁者である事を誇れ。

なぁ?『弟』よ。」

「……馬鹿野郎!帰れ!!」

363 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/23(木) 00:28:28.77 ID:pnSUu4yTO

「コーヒーをどうぞ。」

「ああ、お構いなく。ありがとう。」

ニヤつきながらコーヒー淹れんじゃねえよクソ眼鏡…買って出た訳ゃこれか!

はぁ……一番仕事で会いたくねえ奴が来た…。
そうなんだよ…目の前にいる『戦艦・長門』は、何を隠そう血を分けた俺の姉貴だ。

……そして、生粋の馬鹿でもある。

「……お袋に今日の事は?」

「言ってある。だが、母さんには黙っておくよう頼んでおいたよ。
ああ、父さんにも伝えたんだが、お前に連絡はしていないらしいな。」

「親父…あんにゃろう。」

「ふふ…そう怖い顔をするな。全く、昔はこんなに可愛かったのに…。」

姉貴はしれっとスマホの画面を眼鏡に向け、その瞬間眼鏡が鼻水吹き出した。
そこに映っていたのは……!!


『長門の服(子供用ドレス)で女装させられた憲兵・6歳』


「だぁしゃああああああああっっっ!!!」

「おっと危ない。ふふふ、良いではないか減る物じゃなし。」

「俺のプライドと社会的地位が減るわボケェ!!まーだ待ち受けにしてんのかこの野郎!!」

「ふっ…それは勿論、可愛い弟だからな。年度別にベストショットを入れてある。」

「おめーのベストショットは俺の黒歴史なんだよ!!消せ!!今すぐ消せ!!」

「くくく…他には無いのですか?」

「ああ、例えばこの七五三の時など…」

「おめーもスマホ下ろせや!」

364 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/23(木) 00:31:33.31 ID:pnSUu4yTO

はぁ…はぁ……こ、こんのクソ姉貴が…!!

そもそも俺が空手を始めた理由も、元を辿ればこいつが元凶。
ガキの頃、腕っ節で勝てなかった俺は事あるごとにこの馬鹿に女装させられていた。

“強い男になりたい、姉貴に負けないぐらい。”

そう考えた俺は空手道場の門を叩き、そして今に至る。
無駄の無い方向へ筋肉を纏い、生来お袋譲りの女顔だった顔面も少しは厳つくなった。因みに姉貴は親父似だ。

「ふふふ…まぁまぁ、久しぶりに…。」

何より勘弁して欲しいのは、全く変わんねえこの…

「かわいいでちゅね〜〜」スリスリスリスリ

「なぁぁあぁぁっ!!!やめろ!!やめろおおおおおお!!!へぐっ!?」

頭のおかしい猫可愛がり。
へへへ…首に極まってるぜ…女の筋力じゃねえよ、ゴリラ・ゴリラ・ゴリラだ…。

「げほっ!げほっ!」

「おっと、極まってしまったか。すまんな。」

「結構な腕前で。艦娘以前も何か経験がおありで?」

「女子ボクシングを少々。今は趣味と実益を兼ねて総合をやっている。
敵艦も対人も、殴り合いなら任せてくれ。」

「それは素晴らしい…是非ともこいつの根性を叩き直していただきたいものですな。」

絞まって聞いてりゃ好き放題言いやがって…あの頃の俺じゃねえの見せてやんよ畜生が…!!

365 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/23(木) 00:34:18.86 ID:pnSUu4yTO


「…らぁ!!」

「…っと、掠ったか。しかし本気で当てに来ない辺り、貴様も甘いなぁ。
仮にも姉弟だぞ?もっと攻めるがいいさ。」

「ちっ…生憎仕事中なんでな、まだやらかしてねえ奴にゃこれが限度だよ。」

「ほう、そこは規定厳守か。弟ながら見上げたものだ。
ふっふっふ……ならば思うようには動けぬという事か…いいだろう、全力で可愛がってやろうではないか…。

…さぁ!お姉ちゃんの胸へ飛び込んで来るんだ!」

「………小学校時代のアダ名はゴリ子。」

「………なっ!?」

「……高校時代、女子に告白される事5回。
19歳の時、やっと出来た念願の彼氏との初体験で、全力のハグの末にアバラをへし折ってフラれる。
実家では風呂上がりに全裸でおっさんの如く歩き回り、しかし酒飲める歳になってもいちご牛乳が卒業出来ない。」

「……は、裸だったら何が悪い!!」

「悪いわ。床が濡れんだよ。
また、可愛いものや幼女に目が無く、親戚の女の子相手によだれ垂らして俺に回し蹴りを喰らう。
見栄を張ってブラックコーヒーに挑み、お袋の顔面に噴射してブチ切れさせる事数回。
ある移動で駆逐艦数名を乗せてワンボックスを運転中、警察から任意同行寸前を喰らった……理由は顔が逝ってたから。
尚、本人は不服と愚痴っていたが、弟たる俺からすれば容易に想像出来る表情であった事も付け加えておく。」

「………き、貴様…!」

「もっと攻めろって言ったのはてめえだろ?殴れねえから頭でボコってるだけさ。
…えーと、他にログはっと……お、これもいいな。
えー…あまりのモテなさに耐え切れなくなった姉貴はある日でぶぅっ!?」

「……ハァ…ハァ…ひどいじゃないか!そ、そんなにお姉ちゃんをいじめなくてもいいだろう!?」

「……お、俺はたった今…ぶっ飛ばされたんだけど……。」

「大体あの件はお前に話していない!まさか…。」

「そのまさかよ。」

ガチャリと開いた扉の向こうには、見覚えのある美人がいた。
そう…一度遊びに来いって言われてこいつの鎮守府に行った事がある。その時知り合った、頼れる姐さんだ。

366 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/23(木) 00:38:10.33 ID:pnSUu4yTO

「……陸奥さん!!」

「……通称ムツペディア。長門のお馬鹿な行動を記録するデータベース。勿論、逐一弟くんには報告済みよ。
あらあら…この陸奥に隠れてこんな所でサボるなんて…分かってるのかしら?」

「ひっ…!」

「お邪魔したわね、弟くん。
今日は私達泊まりだから、後でゆっくりお話しましょ?」

「え、ええ…また後で…。」

「は、離せ!私はもう少し弟と…!!」

姉貴は陸奥さんに首根っこ掴まれ、ズルズルと母屋へと引きずられて行く。
うわぁ…陸奥さんあんな怖え笑顔すんだ…ありゃ折檻コースだな。

「おお……良いか、ああ言うタイプの女こそ怒らせてはならん。」

「ええ、肝に銘じ……ってかおめーも共犯だよ!知ってたな!?」

「ふっ、上司としては一度貴様の姉を拝んでおきたくてな。
……ただ、想像以上だったな。すまなかった。」

「……あんたが引くレベルだよ、確かに。」

軍学校時代から周りにゃツッコミキャラ扱いされて来たが、元を辿ればあいつが原因な気もする…。
今も離せ、離せ、と外から喚く声が聞こえてくるが…この時俺は、ある事を失念していた。

「__ちゃーん!!__ちゃーーん!!」

「げっ!?」

その時あいつが叫んだのは、元カノの本名。
そうだ…あいつはあのバカと面識がある…!

367 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/23(木) 00:39:31.86 ID:pnSUu4yTO

「はーい!!お久しぶりです、お姉さん!」

「た、助けてくれないか!?秘蔵の弟コレクションをあげるから!」

「………内容は?」

「……寝顔シリーズ0歳〜7歳!今なら恥ずかしいサービスショット+1枚付き!」

「…もう1枚、お願いします。」

「……わかった!」

「ふふ……そちらの方、恨みはありませんが、演習前に少し準備運動はいかがですか…?」

「おめーら勝手に人の黒歴史取引してんじゃねえええええ!!!!」

ああ…もうめちゃくちゃだよ…!
姉貴は妙にこいつの事気に入ってっからな、俺からしたら爆弾に爆弾のコラボだ。
ひとまずこのバカを集会室にぶち込んで…。

「どうしたの?」

「づほ!良いとこに来た!!」

「……この人達は?」

「…今日演習に来た艦娘。ついでにそこで引きずられてんのは俺の姉貴な。
このバカを集会室にぶち込むの、手伝ってくんねえか?」

「……へー。」

……何か、ぴくって不穏な音が聞こえたのは気のせい?

「どうも初めまして!瑞鳳ですぅ!__にはいつもお世話になってて…」

パアアアアァ…って感じの眩い笑顔で、づほは姉貴に挨拶した。
……あれ?何か嫌ーな予感がするんだけど…。

「ひとまず集会室に行きませんか?一度お姉さんとはお話したかったんですよー。」

「ま、待て…そこを掴まれたら首ゅっ!?」

「ほらほら、お茶もありますから是非中へ!」

づほと陸奥さんに引きずられ、姉貴は母屋へと消えて行った。
……こ、これは…結果として良かったのかなぁ…?

「ふふ…お姉さん相変わらずね。じゃ、私も行くから!」

「あ…おい!」

元カノも続いて中へ消えて、俺はポツンと佇むばかり。
ま、いっか…演習後がまためんどくせえけど、そこは陸奥さんにお願いしよう。

368 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/23(木) 00:40:55.20 ID:pnSUu4yTO



「……ふふふ…お前達、中々強引じゃないか。」

「弟くんに恥かかせないの。長門と違って真面目に憲兵やってるんだから。」

「なっ…私程真面目な艦娘はいないだろう!?」

「真面目なのは戦闘だけでしょ?」

「ふふ、お元気そうで何よりです。」

「__ちゃん…艦娘になったとは聞いていたが、立派になったものだな…。」

「いえいえ、まだまだひよっこです。」

「ふふ……そういえば瑞鳳と言ったな?君は__とはどう言う関係だ?」

「前の所からの友達です。この前私もこっちに異動して…いつも__にはお世話になってます。」

「おお、仲の良い艦娘がいると聞いていたが、君の事だったのか。
因みに聞きたいのだが、あいつは今彼女は出来たのか?__ちゃん以来すっかり聞いていなくてな。
全く、__ちゃんのような器量好しと別れるなどあいつは…。」

「……ええ、『今は』いませんよ。」

「……『いずれ』は出来ると思います。」

「……ほう、なるほどな。」

「あらあら、弟くんも大変そうね。」

「くく…今日の演習なんだが……。」




369 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/23(木) 00:41:56.29 ID:pnSUu4yTO


「たまには演習でも見てきたらどうだ?」

「姉貴の戦闘ですか…大体、まだ仕事ありますよ?」

「一日ぐらい私に任せればいい。
彼女達の日常を守るのが我々の仕事だが、同時に我々もまた、戦争に於いては彼女達に守られる立場だ。
演習を見るだけでも、何か感じるものがあると思うぞ?」

「………そうですね。じゃあお願いしてもいいですか?」

「任せておけ。」

あきつ丸の件もあって、この時俺は眼鏡に促されるまま見学を決めた。
確かに演習は感じるものがあった…だがそれ以上に、俺は思い知る事になるのである。

血を分けた我が姉は、やっぱ真性のバカであると言う事を。
何してくれんだ、あの姉貴め…!!

370 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/23(木) 00:42:36.18 ID:pnSUu4yTO
今回はこれにて。次回はまたいずれ。
371 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/23(木) 07:11:54.24 ID:YA8cLDR7O
乙!
372 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/23(木) 10:40:22.33 ID:sNvdDW7fo
おつ
ながもんだったか
373 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/23(木) 11:56:28.10 ID:U4kIpLNBO
乙。酷いw
むっちゃんはながもんの後輩とかかねえ。
374 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/23(木) 12:56:10.43 ID:sxn148Cx0
おつ!
375 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/24(金) 04:12:43.03 ID:2OZ/r4OQ0
乙?相変わらず面白い

もう憲兵さんの胃とケツはボロボロじゃないかw
376 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/08/24(金) 09:18:14.52 ID:Hzr1DaSTO
おつ!
次も期待してます!
377 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/25(土) 22:43:29.37 ID:lpIk7y0nO

「憲兵君、見学とは珍しいねー。」

「ええ、憲兵長に勧められたのもありまして。」

「あそこの長門、君のお姉さんだってね。昔あっちに演習しに行ったけど、よく覚えてるよー。」

「……どう言う意味ででしょうか?」

「あはは…ごめん、正直キャラ濃いなって…。」

「ほんっとすいません、あのバカは…。」

演習は、鎮守府前の沖で行われる。

提督に案内されてたどり着いたのは、浮きで描かれた境界線の横。区画の中間地点だ。
見学者は、停められた見学船から演習を見る形だ。

提督は船から別のボートを降ろして、そのまま左側に向かう。
そして各司令官が自陣に浮かされた指示船に乗り、艦隊を指揮する。これが通常の演習スタイルらしい。

今日は他のメンツはいないようで、見学船にいるのは俺だけ。
いつも陸で仕事だから、初めて見るな…ん?あっちの指示船誰もいなくね?

378 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/25(土) 22:45:44.84 ID:lpIk7y0nO

『憲兵君、聞こえるかい?』

「あ、はーい。」

『あちらの提督が多忙でね、今日は不在なんだ。
代わりに、僕と君のお姉さんの対決になる。』

「え?」

『選手兼監督って奴だよー。楽しみだねー。』

「マジですか!?」

そうこうしてる内に、各チームが陣を組んで行く。
6対6、フルメンバーでの演習になるようだ。

うちの方はづほと元カノ、相対するは陸奥さんと……そして姉貴。
俺の方に気付いたのか、お姉ちゃん頑張るからなー!!とクソでかい声で手を振ってやがる。
やめろ。皆めっちゃ見てる。

『憲兵君、君の持ってるトランシーバーは複数同時受信が出来る。チャンネル2を押してごらん。』

「はい。」

『聞こえるかしら?』

『ちゃんと見ててねー。』

「あ、本当だ!」

『こうやって艦娘はインカムで会話が出来るんだ。
ただ、混線予防に君のは僕以外と会話出来ないようになってる。だから応援はしっかり声出してねー。』

「了解ですー。」

皆真剣な顔だ…何かこっちが緊張してくるぜ。
トランシーバーを横に置いて、俺は食い入るようにその様を見つめていた。
379 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/25(土) 22:46:51.62 ID:lpIk7y0nO




第16話・ANEKI CRISIS-2-



380 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/25(土) 22:48:43.87 ID:lpIk7y0nO

『ぱんっ…!』

見学船の対岸には、審判船がいる。
そこから放たれた空砲と共に、遂に演習が始まった。

まず、お互いの空母から先制が始まる。
放たれた矢が飛行機に変わり…あれが攻撃!?

ミニチュアサイズの艦載機から放たれたものは、その実凄まじい爆発音と煙を伴っていた。
すげえ……なんて迫力だ…。

『演習で使われてるのは、音量と発煙のリアリティに重きを置いた演習弾さ。艦娘自体は艤装の防御壁で守られている、心配はいらないよ。
音と煙を実戦に近付ける事で、感覚を慣らせる意図もある。』

「ペイント弾じゃないんですか?」

『艤装には演習モードがあるんだ。
被弾数に応じてダメージをカウントし、一定に達すると浮遊以外の機能が停止される。
そこで轟沈判定となった者は失格、最終的に敵を多く轟沈判定にさせたら勝ちってわけ。』

「なるほど…。」

次第に爆煙が晴れて、ここからでも状況が見えてきた。
今のはどっちが多く喰らった…?

『……やられたわ。』

『くくく…今回は駆逐のエースを連れてきたからな。なあ、秋月?』

『はい!!』

「……!?」

双眼鏡で海面を見ると、姉貴の陣の方に多くの残骸が浮いてる…あれは…!!

381 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/25(土) 22:50:41.42 ID:lpIk7y0nO

『予想はしてたけど、思ったよりやられたねー。憲兵君、アレも駆逐艦の役目の一つさ。』

「撃墜されたって事ですか。」

『ああ。なかなかやるねー。』

『すまないが、そちらの翔鶴も知った仲なのでな。どれ程のものか喰ってみたくなったのさ。
__ちゃん!!瑞鳳!!そんな事では我々には勝てんぞ!!もっと本気で来い!!』

おいおい…まだ一発もぶっ放してねえのによく言うなぁ…。
だがあの二人の方を見ると、空気が異様に殺気立っていた。

『…翔鶴さん、絶対勝と?』

『……そうね、絶対に負けられない理由があるわ。』

『良い気合だ!でなければご褒美にはありつけんからな!!』


………ご褒美?


382 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/25(土) 22:52:24.09 ID:lpIk7y0nO

『翔鶴さん、f○oってやってる?』

『少しならやってるわ。』

『アス○ルフォ君、いいよね…。』

『そうね……オトコノコプレイトカシタカッタ……でもやっぱり、現実的にはメイドよね。』

『…ナニイッテンノヨコロスワヨ……翔鶴さん、あなたは何も分かってないわ。そこはゴスロリでしょ。』


……待って、その会話は何?


『ふふふ…私は敢えての第六コスを推したいところだが、何にせよ、私に勝たねばそれらを得る事は出来ん。
さぁ!私を沈めてみせろ!!さすれば約束通りのものをくれてやる!!』

『……ええ、負けませんよ。』

『どちらかが長門さんを沈めれば…。』

『『__に好きな女装をさせる権利が手に入る!!』』

「おめえら何賭けてんだ馬鹿野郎おおおおおおおおっっっ!!!!!???」

横隔膜に激痛、直後に立ちくらみ。一瞬俺の前に波が立つ幻を見た。
この時、自分でもビビるぐらいの大声を出した事は、生涯忘れる日は無いだろう。

そして俺は思い出すのだ……この鎮守府は馬鹿だらけだと言う事実を。

383 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/25(土) 22:54:43.19 ID:lpIk7y0nO

『へー…面白そうだねー。』

『提督、僕ってたまに男の娘扱いされちゃうんだ…でも、だったら本物と比べてみたいな…。』

『その…あたし的にはナースがOKかなって。』

『憲兵さんなら香取さんコスっぽい。ストッキングと長袖で体格誤魔化せるし、胸は詰めれば…』

『いえ、体格隠しならグラーフコスね。ドイツ艦のなら、男性でもサイズ差はそこまで…』

高まる結束力、迸る悪巧み。
自陣はもうダメだ!常識人…常識人はどこ!?あ、いたぁ!!

「陸奥さぁん!!何か言ってやってくださいよおおおお!!!」

『……ごめん。弟君の女装、ちょっと見たいかも…。
あ!でもちゃんと勝つ気でやるわよ!安心して!』

「フォローになってねえええええ……!!」

自陣を見る、明らかにオーラが違う。殺る気が違う。
夕立の魚雷が捉えたのは、向こうの駆逐…クリティカル!時雨は……空母沈めやがった…!
他の奴らも怒涛の快進撃…だが確実に、姉貴と陸奥さんだけを残す方向で進んでる…。

『……ふう、面白いじゃないか…そろそろ本気で行かせてもらおう!!』

『きゃっ!?』

『阿武隈さん!!』

『うう…やられた…。』

一発だと…!?
続く陸奥さんも、今度は夕立を潰した。素人目でも分かる…あの二人、ただもんじゃねえ。

384 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/25(土) 22:58:42.73 ID:lpIk7y0nO

『数の優位など些事さ…問題は、一撃の正確性と殺傷力だ。ましてや耐久性ならば、そう易々とは負けん。
くくく…これで姉ちゃん頑張れコールが私の耳に…さぁ弟よ!!恥をかきたくなくば私を応援するのだ!!』

(ゴミを見るような目で親指を下に向ける憲兵)

『何故だぁぁあぁぁっ!?』

「てめえの胸に手ェ当てて感じろボケェ!!」

『……ならば、同じ戦艦はどうかしら?』

直後、一際でかい砲撃が聞こえる。
あいつは確か…ビスマルクか!!

『ふっ…いいだろう!!受けて立つ!!』

「なっ…!?」

弾を…撫でた…?

軌道を逸らされた弾は、明後日の方向に飛んで行く…。
一瞬の油断。姉貴はそれを見逃さず、逃げられない軌道でビスマルクに砲が向く。

だが、放たれたのはそれだけじゃなかった。

『…!?』

斜めからもう一発、今度は陸奥さんからの弾もビスマルクを狙う。
二つの砲撃はやがて重なるように線を描き…倍となった爆煙が、ビスマルクを包んだ。

『くっ……艤装停止、失格ね…。』

『私と陸奥を舐めないでもらおう。我々はコンビとなった時、真の強さを発揮する。』

『普段は私が世話係だけどね。』

『なっ…それを言うんじゃない!!』

『………僕を忘れてもらっては困るよ。』

385 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/25(土) 23:00:16.39 ID:lpIk7y0nO

時雨!!

砲撃が姉貴達の方へ向くが、効いている気配は無い。
だが俺の位置からは見えていた…アレは…!!

『ふん…削る気か?だが微々たるものだな。』

『派手にやったね、煙で足元が見えないよ……お陰でお留守さ!!君達がね!』

『………!!』

時雨の足下からは、二発の遅い魚雷が姉貴達に向かっていた。
砲撃の最中、こっそり魚雷を放っていたらしい。

派手な水柱が上がる…どうなった!?


『貴様もお留守だぞ?』

『……!?』


ドウッ…と言う音と共に、時雨の小さな体が宙を舞った。
水柱ごとブチ抜く姉貴の弾が、時雨にとどめを刺したのだ。

『ふふ…失格か……後は任せたよ。』

自陣はづほと元カノ…最後は2対2の構図が出来上がっていた。
だが…時雨の狙いは、違う所にあったらしい。

386 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/25(土) 23:01:54.11 ID:lpIk7y0nO

『ふふ、こちらのHPもあまり無いようだ。
良い仲間を持ったな……お前達を温存しつつ、こちらをある程度削っておく。
よほど弟の女装が見たいと見える…なかなかの好き者揃いのようだな。』

『ええ…故に勝たなきゃいけません。メイドの為に!』

『せっかく託してもらったからね…負けないよ!ゴスロリの為に!』


………夢中になってたけど、これ俺ピンチじゃね?


「陸奥さーん!!頑張って!!超頑張って!!」

『ええ…頑張るわ……でも、その……。

私、弟くんのOLとか見たいなって…。』


神様、あんたをブッ殺していいですか?

387 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/25(土) 23:02:58.52 ID:lpIk7y0nO

『瑞鳳ちゃん、ヘアゴムって持ってる?』

『あるわよ…2本。』

『……一人勝ちは、無理そうね。』

『うん…だから共同プロデュースしよ?』

スピーカーから聞こえた不穏な言葉に、思わず双眼鏡を手に取った。
奴らの手元を見る…うん、各々持ってる矢を全部ヘアゴムで纏めて……え?それ引くの?マジで?
奴らは矢尻を豪快にわし掴み、ギリギリとその束を引いている…しかしその動きは、寸分違わずシンクロしていた。放つ瞬間さえも。

射抜く正確性なんぞ、もうどうでもいいのだろう。とりあえず姉貴らに向かえば、奴らの狙いは叶うらしい。
バズーカの如く飛んだ、二つの矢束。
そいつらは次々艦載機へと変化し…その瞬間だけ、太陽が隠れた。

空に広がる一陣の闇…ではなく、ムクドリの大群の如く空を覆い尽くすのは、ウジャウジャと飛ぶ艦載機の群れ…。
そいつらが一斉に攻撃を開始した時、スピーカーからポツリと姉貴の声が聞こえた。



『………嘘だろ。』



しかしこの瞬間、最も死を意識したのは俺だった。間違いなく。

388 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/25(土) 23:04:17.82 ID:lpIk7y0nO

「ふふふ…女の子の歴史は偉大だよね!」

「ええ、メイクや体格を隠すテクニック……現代に生まれた事に感謝したくなるわ。」

いくら俺でも、艤装付きの女6人に囲まれたらひとたまりも無い。
無理矢理着替えさせられた挙句、手足を縛られ顔面を塗りたくられ、とどめにヅラを被せられた。

何処からかゴツいカメラ片手の駆逐艦が現れ、探照灯が熱いぐらい焚かれている。
ここは白壁の視聴覚室、だが机は全て退かされていた。

「……やばいね…ハァハァ……。」

「…….うん、やばいよ……ハァハァ……。」

ははは…人生で初めて、こんなに沢山頬染めた女の子に囲まれてるぜ…息荒いけど。
ああ、タイツって窮屈だし、つけまって超パサパサする…女の子って大変だね。


……今俺は、ゴスロリメイドになっている。


389 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/25(土) 23:06:30.35 ID:lpIk7y0nO

「ほう…見学に行かせたら、性別が変わって帰って来たか。意外と似合うものだな…。」

「……こいつら全員、憲兵への暴行罪でしょっぴいていいですかね?」

「すまないが貴様が諦めた時点で、立件不可だ。」

「ですよねー…。」

もはや心は折れ、されるがまま。
時よ早く過ぎ去れ…ついでに俺の記憶も。

「……くくく、悪くないな。お前の6歳頃なら至高中の至高なのだが。」

「クソ姉貴、鼻血を拭け。
お前ビッグセブンじゃねえよ、バカのナンバーワンでオンリーワンだよ。」

「そんなに褒めるなよ照れるじゃないか!」

「耳鼻科行ってこい!!」

「ふふふ、せっかく可愛く仕上がったんだから、目くじら立てないの。」

「そうだよ。あ、磯波ちゃん、スリーショットお願いしていい?」

もうどうにでもなりやがれ。
両サイドにはづほと元カノ…腕をがっしり掴まれた俺は、全てをかなぐり捨てた笑みを浮かべていた。

「良いショット撮れましたよ。ほら。」

…まぁ、少なくともこいつらはいい笑顔してんじゃねえの?
これが見れたんなら、ズタズタになったプライドも少しは報われる。そう思わないとやってられない。

……尚、自分で見ても似合ってたのが、物凄く悲しかったりした。
俺、強い男になりたいんだけどなぁ…あはは…。

390 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/25(土) 23:08:53.36 ID:lpIk7y0nO

「……__ちゃん、随分立派になったものだな。あの戦法は、アレで実戦でも使えるぞ?」

「反則負けだったけどな、演習自体は。」

この日演習組は、寮の空き部屋に泊まりだった。
姉貴に呼び出された俺は、久々にまったりと話をしている。

「……でもよ、実戦だとアレ、全部実弾って事だろ?
そう思うと、皆すげえ事してんだなって思ったよ。」

「防御壁はあるが、確かに痛みは演習の比ではないな。命の危険もある。
…だが、戦いと言うのはそう言うものさ。それでもこんな風に馬鹿の出来る日常がある限り、私達は戦える。それを守る為ならな。」

「……毎日仕事でヒーコラ言ってるけどよ、アレ見ると何か情けなくなっちまうぜ。すげえよ、姉貴達は。」

「私の誇りさ…でもな、お前も立派に戦っている。一度陸に上がってしまえば、日常の守護を預けられるのはお前達だからな。

二人から聞いたよ…瑞鳳を誘拐から助けたそうだな。
それ以外でもお前の方が、よほど危険に身を突っ込んでいる。今まで何度犯罪者の逮捕に協力した?
もし反撃を受けていたら、死んでいた可能性はお前の方が高かったぐらいじゃないか?生身である以上はな。

大丈夫だ、お前は立派にやっているよ。」

「……姉貴。」

普段ならブッ飛ばしてる所だが、何でかこの時ばかりは頭を撫でる手を払い除ける気にはならなかった。
……ガキの時を思い出すな。結局、腐っても姉貴か。

「……だが、無茶はするなよ。誘拐の話を聞いた時、気が気では無かったぞ。」

「ああ、気を付ける。
でも…いざって時は命賭けるぜ?何てったって憲兵さんだからな。」

「ふっ……大きくなったものだな。」

姉弟水入らず、たまにはこんなのも悪くない。
その後は眠くなるまで、実家の頃みたいに話をしていたもんだった。

391 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/25(土) 23:10:07.18 ID:lpIk7y0nO




「…磯波ぃ、頼んでたの出来た?」

「うん。憲兵長と憲兵さんのツーショット。」

「ふふ……良いねえ、インスピレーション湧きまくりだよぉ。
あー……捗るわぁ……。」



……暗い廊下で起こっていた、腐敗臭漂う不穏な動きに気付かないでな。



392 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/25(土) 23:11:25.21 ID:lpIk7y0nO
今回はこれにて。
先生、進捗どうですか。的な次回はまたいずれ。
393 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/25(土) 23:44:16.84 ID:D7hsjiukO
乙。憲兵君、割と女顔なのかw
細マッチョな坊主をイメージしてたから少し意外だったな。
394 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/26(日) 00:04:28.73 ID:aHX/rnino
愚腐腐腐
395 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/26(日) 02:07:47.82 ID:9Us6Rm5L0
一体なに雲さんなんだ…
396 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/26(日) 07:04:49.91 ID:zQ8IaD1z0
秋なんとかさんを疑うのはそこまでだ!
397 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/31(金) 05:52:21.15 ID:c/bLVADwO

軍人あるある…と言うか、男所帯あるあるなんだが、そう言う場所は色々不透明な話が湧く事はある。
それこそ男子校だとか、男臭いイメージな競技の部活とか。

艦娘制定以降そんなイメージも薄くなった気はするが、そいつはあくまで当事者たる海軍の一部だけの話。
俺が軍学校の頃はやっぱり噂もあったし、何なら実際にぶち当たった事もある。

憲兵隊は陸の扱いだ。
そして艦娘に纏わる組織は海軍で、女所帯なわけだ。

実態とパブリックイメージ。
この辺の乖離を、俺はある件で感じる事となるのである。

398 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/31(金) 05:54:09.02 ID:c/bLVADwO





第17話・思春の花はラフレシア




399 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/31(金) 05:55:07.18 ID:c/bLVADwO

「〜〜〜。」

「〜!〜!」

ある日の昼休憩、俺は中庭でぼーっとしていた。

いくつかベンチがあるのだけれど、この時間は皆思い思いに会話に花を咲かせている。
だが食後の眠気にウトウトしてた俺は、そんな会話もちゃんとは聞こえていなかった。

「あら、珍しいわね。」

「…ああ、天気良いからな。」

そこにふらりと元カノが現れ、しれっと隣に座った。
うーん、寝る程時間ねえな…ひとまずこいつと話して誤魔化すか。

「この後は詰所?」

「事務作業だな。飯食った後はちょっとキツいぜ……くぁ…。」

だめだ、やっぱ眠い…。
うつらうつらとした頭の中、周りの話し声が聞こえてくる。

「……イサン……ホ…。」

ポツポツと耳に飛び込む声も、眠りを誘うばかり……と思いきや。

「………っ!?」

突然走った強烈な悪寒に、俺は一瞬で目を覚ました。

400 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/31(金) 05:57:05.19 ID:c/bLVADwO

「……ど、どうした……?」

ゾワっとする感覚の発生源は、隣に座ってた元カノ。
口元は微笑んじゃいるが…目はカッと見開かれている。
怒ってる……?いや、でもこのパターンは見た事ない。一体何だと思案している内に、あいつは口を開いた。

「ねえ……あなた、憲兵長と噂になってるわよ?」

「………は?」

「ちょっと『お話』してくるわね…。」

「あ、おい!」

元カノはつかつかと話してる子達の方へ近付き、何やら色々聞き出してるようだ。
あ、あの子らだんだん顔が真っ青に……そう思ってすぐ、あいつはこっちに戻って来た。

「……な、何の話?」

「妄想って怖いわね…あなたが痔になった辺りから、憲兵長と何かあったんじゃないかって話がちらほら出てたみたい。」

「待て…何かって、何?」

「うん、その…ホモ疑惑よ。」

「……はい?」

この時ショック以上に、クエスチョンマークで頭が埋まった。
俺らの何処にそんな要素があるんだと。いつも殴り合いしてるし。

401 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/31(金) 05:59:06.57 ID:c/bLVADwO

「……憲兵長、磯風ちゃんとよく似てるわよね。あの子を短髪な大人の男に変換したって感じで。」

「従兄弟だからな…まずあいつの親父さんと叔母さんが瓜二つらしい。」

「それで眼鏡に憲兵の制服じゃない?」

「そうだな。」

「…言われてみればBLに出て来そうって納得しちゃったわ。憲兵長には悪いけど。
やっぱり陸って多いのかな…って言ってたわよ。」

「…ああ、確かにいそう…。」

眼鏡と、今や名物幽霊と化したあきつ丸が本来どういう関係だったかは、実はあの件の関係者以外知らない。
あいつも実際に行動は起こさないタイプの変態……なるほど、本性知らねえ奴には、せいぜい顔のいい変人程度の認識か。

「世の中にはね、色んな趣味の人がいるわ。
そう言う噂の種は、元を辿ればそうであって欲しいって言う願望が多いもの。

でも……あなたにもあらぬ疑いが掛かるのは、捨て置けないわね。」

「……待て、弓は使うなよ?」

「ふふ、大丈夫よ、噂の元を探して『お話』するだけだから…。

ね?」

あ、これすげえキレてる。

こっちもあらぬ噂は迷惑だが、それよりもこいつに釘を刺す方が先だ。
うっかり元を見つけようもんなら、出動案件になる気しかしない。

でも噂の元ねぇ、見つからねえ気もするけど…。
まぁ、ほっときゃ皆すぐ飽きると思うがな。火が無い以上は、煙は立たねえってもんだ。

そうだ…この時俺は、認識が甘かった。
火のない所でも、ガソリン掛ければどこでも燃える。そんな当たり前の事を見過ごしてしいたのだから。

402 : ◆FlW2v5zETA [saga]:2018/08/31(金) 06:00:05.93 ID:c/bLVADwO

午後、いつものように鎮守府内を見回ってると、廊下であるものを見付けた。

USBメモリ?落し物かね…。
後で落し物の報せでも出そうと、ひとまずそいつを詰所に持って帰ったんだ。

軍内って特色上、落し物は中身を確認しなきゃならない。
情報漏洩や風紀管理の関係で、拾ったらチェックが義務化されちまってるからだ。

正直俺は、この手のチェックが好きじゃない。
誰にだって秘密の一つや二つはある。前ん所で財布拾って、風俗の名刺入ってた時はいたたまれなくなったもんだ。持ち主は整備さんだった。
メモリかぁ…それこそ海での水着姿やら、女子会の動画やら入ってたらどうしよう。
女の子だけの秘密に割って入っちまうようで、何とも嫌ーな気分になる。

はぁ……しかし手掛かりが無い以上、中身を見るしかない。
PCにそいつを突っ込み、表示されたファイルを見た。

ん?サンプル.zip?
そいつを解凍してみると、何やら複数の画像。その中の一枚目をクリックした時……

俺は、開けてはいけない扉を開いたと気付いた。

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