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【艦これ】ex.彼女
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103 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/04/21(土) 01:52:31.80 ID:VF317A2nO
頭ん中に亀裂、走る。
まず国道の方に振り返る。
そこには一台の車、ナンバーには思いっきり現職場の土地名。
視線を移動、運転席。おっと隈の深え緑のツインテールだ。顔が死んでる。
さあさあ心拍数は一気に上昇、いやしかし振り向くな俺。俺の真後ろ、歩道の方は見ちゃあいけねえ。
背中にはづほ、顔はカメラでバッチリ公開済み。
幾らづほが煽ったとは言え元は俺の問題、巻き込み事故だけは避けねばならない。
ゴールだ、ゴールを目指すんだ。正門に着けば『あの人』を頼れる、最悪俺が連れ帰られるだけで済む…!
「………ん…あれ?あなた…。」
おっと瑞鳳選手の覚醒だ。
あ、やめて、振り向かないで、肩から手ぇ離さないで。
あ、あ、腕の動きに釣られて俺の視線もおおおおおお!!!!
「帰りなさいよ、ばーか。」
さざめく潮騒…そのリズムに合わせ揺れる白い髪…
朝日に照らされる笑顔には……
「ふふ……本当に面白いわね、あなた。」
目元に暗黒が立ち込めておりました。
ゴール、決まったね……平和の。
104 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/04/21(土) 01:53:27.18 ID:VF317A2nO
「……ちょっと降ろしてもらっていい?」
づほは固まる俺から勝手に降りると、つかつかとあいつへと近付いて行く。
何やる気だ…開幕クロスカウンターとかやめてくれ…。
「ふーん……ほうほう…。」
手が伸びる。え?何?襟掴む気か?
まずいまずい!止めねえと!
「づほ!待て!」
「……………えい。」
『もにゅん。』
「ふーん…85のEってとこかぁ……ふむ、この弾力と張り…恐らくは…。
___あなた、将来垂れるわね♪」
カウンターじゃねー!?おっぱいストレーーートゥ!!!
105 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/04/21(土) 01:54:56.17 ID:VF317A2nO
「ふふ…そう、気を付けるわ。ちなみに歳はおいくつ?」
「あなたと同い年よ。聞くまでもっと上だと思ってたけどね。」
「ふぅん…あなた、ヒヨコに似てるわね。よく言われないかしら?
私“鶏は胸派”なのだけど…ああ、“その歳までヒヨコ”なら、もう“胸肉は育たない”のかしら?ふふふ。」
翔鶴選手、捻りの効いたリバーブロウです。
づほを見ると……表情が、無い。サンマみてえな目になってやがる…!
106 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/04/21(土) 01:56:38.65 ID:VF317A2nO
「……ふふ、言うじゃない。
でも心は顔にも出るものよ?随分大人びて見えるけど、内心不安だからストーキングするのよね?
しかもとっくに切れてる男相手に…そう言うのを情緒不安定って言うのよ。だから嫌われる以上に怖がられちゃう。
あ、そっかー。メンタルが更年期だから、そんな大人びて見えるんだね!おばさん♪」
その瞬間、確かに重力が増した。
だ、大地を揺るがすアルカイックスマイル…!
付き合ってた時すら感じた事ねえプレッシャーが空間を支配しやがった。
「そう…見た目相応に幼いあなたが言うなら間違いないわね。
あなた、男性とお付き合いした事はある?」
「……あ、あるわよ、勿論…。」
「くす…二人で飲みに行くぐらいだから、今は違うと言うことでいいかしら?
そうね、その人は容姿で人を差別しないからいいでしょうけれど、お付き合いした方は大変だったでしょう?
例えば…お相手がロリコンさんと間違えられて、警察のお世話になっちゃったりとか。
それで段々肩身が狭くなったお相手の気持ちも冷めて……みたいな。
やっぱりお子様に恋は難しいかしら?ふふふ。」
もう、モノローグも出てこねぇ…なんだこの地雷原で相撲取るみてえな地獄絵図は…。
しかもよ…今のは……!
107 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/04/21(土) 01:59:29.90 ID:VF317A2nO
「ふふ……ふふふ……。
…その通りよちっくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「づほ!やめろっての!!」
「離して!!こいつの脳みそかち割りゅうううううう!!」
その時のづほ、マジでこんなん→(´??Д??`)だったな…あいつ、づほのトラウマピンポイントで突きやがった…。
ああもう、どっちが悪いとか言ってる場合じゃねえ!妹も何やってんだよ、姉貴止めろよ!!
「騒がしいわね。」
そんな騒ぎの中、正門脇の通用口が開いた。
そこにいたのは、まさにづほの世話を頼もうとしてた『あの人』。
「…加賀さん!」
正規空母・加賀。
この鎮守府の艦娘の長にして、真の元締めと言われる人。
108 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/04/21(土) 02:01:26.34 ID:VF317A2nO
【訂正】顔文字が反映されないの忘れてました。血の涙の顔文字と思っていただければ。
109 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/04/21(土) 02:02:51.70 ID:VF317A2nO
「馴染みの声がすると思ったら、昔見た顔もいるわね。
……わざわざ隣から御足労ね、どう言う事かしら?五航戦。」
「………あ、あ、その…。」
あいつがたじろぐ…だと?
え、加賀さんって向こうと付き合い無いと思ってたけど、知り合いなのか?
「酔った子もいるようだし、場所を変えましょう………ふん!」
「……!?」
うお…ラリアット一発でのしちまった…。
「この子程度、鎧袖一触よ。
もう一羽いるようね、今度はうるさい方の鶴。」
姉を引きずりつつ、加賀さんはつかつかと車の方へ。
後部座席にあいつを突っ込んで…え、運転席開けた?何だ、すげえ揺れて……止まった。
すると間もなく、ゆっくりと俺たちの前へと車が近付いてくる。
ガーッと窓が開くと……
助手席で泡吹いてる妹がいました。
110 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/04/21(土) 02:04:44.50 ID:VF317A2nO
「駐車場に停めてくるから、瑞鳳を中までお願い。立ち入り許可は出しておくわ。」
「は、はい…。」
行っちまった、なぁ…いけね、づほを離さないとだ。
「おーい、づほー?」
「ムス-」
「こらこら、いつまでもブーたれてもしょうがねえだろ?中入ろうぜ。」
「……おんぶ。」
「へ?」
「怒り疲れたからおんぶしてって言ってるの!そしたら入る!」
「まーだ酔ってんのか…しゃあねえ、乗りな。」
まぁこいつ軽いからいいけどよ…。
おぶってやると少しは機嫌が直ったのか、づほは終始ニコニコと笑っていた。
うちは姉貴一人だけど、妹とかいたらこんな感じ……
「……何か失礼な事考えた?」
「滅相もございません!」
……いや、今その事考えるのはやめよう。死ぬ気がする。
でも加賀さん、あいつらまで中に入れてどうすんだ?
ん?加賀さんからだ。
『中に入れたかしら?弓道場まで来てちょうだい。』
弓道場……とりあえず行くか。
………行かなきゃ良かったと、数分後の俺は心底思うんだけどな。
前夜の酒は序の口。
波乱の休日は、まだまだ続くと思い知る事になるのである。
ああ…夕方まで、タイムスリップしてえ…。
111 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/04/21(土) 02:07:20.78 ID:VF317A2nO
今回はこれにて終了。次回はいずれ。
112 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/21(土) 02:29:09.59 ID:rIKFPUdmO
乙
次の更新を楽しみにしてる
113 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/21(土) 03:26:59.52 ID:k/fa+gZYo
乙
114 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/21(土) 04:23:17.17 ID:65eg+GmO0
これはまごう事なき一航戦ですわ
頼りになるぅ!
115 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/21(土) 09:19:38.22 ID:nn+x3jYA0
キャー加賀さんステキー
116 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/21(土) 20:46:49.21 ID:CsOzKkM60
レディ・カガ・・・
げに素晴らしき、一航戦のHOKORIよ
117 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/22(日) 01:39:05.77 ID:4uCL5eJs0
加賀さん、一生ついていきますっ!
翔鶴が妖怪じみてたから、普通の姿を見れて少しほっとした
118 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/04/30(月) 21:35:09.57 ID:fgkf4R9fO
第7話・LAN、卵、乱-その3-
119 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/04/30(月) 21:36:14.32 ID:fgkf4R9fO
「さて…。」
かつての職場なんて言っても、ほんの一月前までいた所。
迷わず弓道場に着いたんだが……。
「すぅ……すぅ……。」
づほ、遂に力尽きる。
どうしたもんか…いや、あいつらも気絶してるしな。とりあえず寝かせとく感じだろ。
そう思いつつ扉を開けると、目をぐるぐるさせたままの姉妹が寝かされてた。
加賀さんはと言うと……へ?道着?
さっきはジャージにクロックスとかだったのに、何やる気だ?
「来たわね。早速で悪いのだけれど、10分席を外してくれる?」
「はい、いいですけど…。」
で、10分経過。
いいわよと声が掛かり、扉を開けてみると…。
「………道着?」
「ええ、全員着替えさせたわ。」
「こいつらまだ落ちてますけど、何するんですか?」
「………こうするのよ。」
120 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/04/30(月) 21:37:16.69 ID:fgkf4R9fO
ばっしゃーーん、と、直後に水しぶきが3人を襲った。
加賀さんは躊躇いもなく、30リットルはありそうなバケツの水を奴らにぶちまけたんだ。顔面から。
「ぶーーっ!?」
「ふえっ!?へっ!?」
「え?何!?」
三者三様のリアクションで目を覚ますと、ようやく状況を理解したらしい。
なんかメイクとか色々大惨事になってるけど、もうそんな事気にする余地も無さげだ。
皆、ある一点を見て固まったからな。
「………あなた達。」
ゴゴゴって擬音が目視できそうな威圧感だった。
加賀さん……め、めちゃくちゃ怒ってる…!
121 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/04/30(月) 21:38:25.17 ID:fgkf4R9fO
「まず翔鶴。朝から人の鎮守府の前で騒ぐとはいい度胸ね。しかもうちの子と喧嘩という形で。」
「え…えーと、そのー…。」
「今日は休日よ。確かにあなた達がどこへ行こうが勝手。
……人に迷惑を掛けないのならば。」
「はい…!」
「瑞鶴。あなたの運転のようだけど、どうして車を降りて喧嘩を止めなかったのかしら?」
「…………からよ。」
「何かしら?よく聞こえないのだけど?」
「……こ、怖かったのよ!免許取りたてで初めて高速乗ったから!
それで着いたらもう、糸切れちゃって…。」
「そう。因みにどちらから言い出したの?」
「わ、私からよ……翔鶴姉の様子見て、つい運転するって言っちゃって…。」
「つまり自滅という事ね。次、瑞鳳。」
「は、はい!」
「たまに羽目を外すのは良いけれど、揉め事は感心しないわね。
どうしてそうなったのかしら?」
「え、ええ、それは……最初翔鶴さんの妖精さんが…。」
づほはそれをきっかけに、事の全てを加賀さんに話した。
話終えるまで、加賀さんは黙ってそれを聞いていたんだが……話が進むにつれ、3人ともどんどん顔色が青くなって行った。
それとは別に、加賀さんにも青いものが。
顔はいつものポーカーフェイスなんだが…組んでる腕にな、徐々に青い方の血管が浮いてきてた。
「…………そう、大体事情は分かったわ。」
すくっと立ち上がると、加賀さんは正座する3人の前に立ちはだかり…。
ごん!ごん!ごん!と三発、こっちの頭も痛くなりそうな音がこだました。
122 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/04/30(月) 21:40:00.12 ID:fgkf4R9fO
「「「〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」」」
「あなた達全員が悪いわね。
まず瑞鳳。
頭に来るのは分かるけれど、積極的に喧嘩を売ったのはいただけないわ。ストーキング道具の電源を落とすだけで充分よ。
ただでさえ__に面倒を見てもらっていたのだから、余計な迷惑を掛けてはダメ。
次に瑞鶴。
不慣れな時期の無理な運転は、事故の元よ。
それにストーキングの時点で止めなかったのかしら?
盗撮を知らなくとも、どう言う経緯で翔鶴が動いたのかは理解出来ると思うのだけれど。
止めようとしなかったのならば、いよいよ正真正銘の七面鳥よ。
次……翔鶴。
妖精の私的利用、ストーキング、おまけに揉める可能性を理解しつつこちらまで来た事……更に__への日頃の行い。五航戦の名にさえ恥じるわね。
あなたのような大人しい子が、__相手には豹変…人とは分からないものだわ。
__の立場も理解してあげるべきね。
憲兵とは言え今日は休暇、ましてや私達艦娘も、艤装なしではただの人。せいぜい少し腕っ節の強い女でしかない。
__のような武術に長けた男性が安易に止めようとしたら、あなた達に怪我をさせる可能性が高い…あまり強硬手段には出られないわ。
……それとも昔付き合っていたのなら、そんな性質を分かっていてやったのかしら?
それ如何によっては、更にあなたの罪は重くなるけれど。
また“餌やり”をさせられたいのかしら?
最後、__。
手は出せなくとも、口ぐらいはもう少し上手く出しなさい。
あなたは少し人が良すぎるきらいがある、それは時には人の為にならないわ。
こちらの安全と取り締まりを預けるのが憲兵、仕事以外でももう少し厳しくいなさい。」
「は、はい…!」
「翔鶴と瑞鳳、まずは各々に謝りなさい。それで手打ちにする事。いい?」
123 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/04/30(月) 21:40:44.65 ID:fgkf4R9fO
……か、神様がいた。
すげえ人だと思ってたけど、こいつらをこうもまとめ上げられるなんて…。
「加賀さん、あの二人と知り合いなんですか?」
「そうよ。以前、空母合同合宿の教官を務めた時に。
特に五航戦の二人には、“魚に餌をたくさんあげてもらった”もの。」
魚の餌?
その時ふと、軍学校時代の訓練合宿を思い出した。
“コラァそこ!照準がヨレてんだよ!またタンポポさんに栄養あげるまで走らせんぞオウ!!”
あ…魚の餌ってそういう……。
なるほど、あいつらのビビリようも分かる。
「翔鶴さん、ごめんなさい。」
「いえ、私こそ。」
良かった…これで何とか解決…。
「ふふ…瑞鳳さん、プール帰りの子供みたいで可愛らしいわ。」
「あなたも濡れた道着がセクシーね。熟女みたい。」
「ふぅん?」
「何?」
し て ま せ ん で し た ! !
124 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/04/30(月) 21:42:50.45 ID:fgkf4R9fO
俺たちの戦いはこれからだ!じゃねえんだよ…1R目は手打ちにして2R目で仕切り直しってかコラ。
おい、これ加賀さん本当にキレんぞ…ん?
…何で笑ってんのあんた。
「ふう…ああは言ったけれど、艦娘たるもの血気盛んでなくては務まらないのも事実かしら。
しかし醜悪な戦いはそこまでよ。私達は空母にして弓使い、ならば潔く弓で決着を付けなさい。
そこまで争うならば…“あの方法”を取るわ。」
…………で、何でこうなったんでしょうか。
母さん。俺は今、的の前にいます。
……頭にリンゴを載せて。
「空母式ウィリアム・テル。艦娘発足初期、喧嘩になった弓使いの空母2名が編み出した決闘法。
どうしても気に食わないのなら、こちらで決着をつけてもらうわ。
ルールは簡単。先に吸盤式の矢でリンゴを3回落とした者の勝ち、負けた方は大人しく引き下がる事。
尚、今回は“落とし方そのものは問わない”とする。」
「………加賀さん、ちなみにその空母って…。」
「激しい戦いだったわ。プリンの怨みとは山よりも高く、海よりも深いもの。
いえ、むしろ宇宙の彼方よりも。」
「あんたかい!!」
ん?殺気…?
射場の方を見ると、明らかにそっちだけ空気が張り詰めている。
こ、これが臨戦態勢の艦娘の気迫…!どっちからだ?
125 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/04/30(月) 21:44:41.75 ID:fgkf4R9fO
「私が先行よ。」
吸盤式の矢…笑顔で構えるあいつ……嗚呼、蘇る青春時代。何度眼前で壁に吸い付くそいつを見ただろうか…。
はははやべえよ……む、武者震いがして来やがった……って思っとかねえと持ちゃしねえ…!
「__五航戦・翔鶴。参ります。」
来る!
………遅い…?
それこそ昔ソフトボールの授業で受けた球よりゆるく、矢はゆっくりとこちらへと飛んで来る。
でも軌道は揺れず、ただまっすぐに……え?急に落ち…
『ぽすん』
「……へ?」
俺の左胸に優しく触れたかと思うと、矢はポロリと足元へ。
拍子抜けして力が抜けた途端、今度は別の物が転がり落ちた。
そうか、頭の力も緩んだから、リンゴが…。
「ふふ…今度は逃がさないわ。私の狙いはあなたの心。
これでまず私が1点ね、瑞鳳ちゃん?」
昔から上手かったけど、これには俺もぽかんとした。
すげえ…矢をスローかつソフトに当てに行くなんて、なかなか出来る芸当じゃねえぞ。
126 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/04/30(月) 21:45:28.31 ID:fgkf4R9fO
「翔鶴、腕を上げたわね。」
「いえ、それ程でも。まだまだ加賀さん達には及びません。」
「次、瑞鳳。」
づほが射場に立てば、今度はさっきと別の張り詰めた空気が場を支配する。
どう来る気だ……まだ酒残ってなきゃいいが…。
「翔鶴さん、あなたらしい捻りの効いた弓ね…正規空母の余裕ってやつ?
なら私は軽空母らしく、少数精鋭の精神で行かせてもらうわ。
___航空母艦・瑞鳳、推して参ります。」
……あいつが柔軟なら、づほは鋭角!構えまでに無駄がねえ…来る!
このスピード感、覚えがあるぞ?
そうだ…試合で相手の技が来る、何度も見たあの感覚…!
「……うおっ!?」
丁度顔に来た矢を、俺は咄嗟に避けた。
当然避けた弾みでリンゴは頭から落ち、足元にコロコロと転がっていた。
づほの奴、まさか…!
「ふふ、君なら避けるって思ってたよ。人の蹴りや拳のスピードを意識したもん。
翔鶴さん…これが互いの恥すら知る飲み仲間の信頼関係ってやつよ?」
やってくれんなぁ、あいつ…。
127 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/04/30(月) 21:46:50.53 ID:fgkf4R9fO
「あなたもなかなかやるわね。
瑞鳳ちゃん、せっかくだからもう一つ賭けない?勝った方が……」
「ちょっと待ったぁ!!」
「?」
でかい声がしたかと思えば、どうやら声の主は妹の瑞鶴。
何だ物言いか?いや、あいつも弓持ってるな…いつの間に。
「加賀さん、私も混ぜてもらっていい?
こんな面白そうなの見てたら、燃えて来ちゃう。」
「いいわ、久々にあなたの弓も見たいし。」
おいおい、お前が混ざってもケリ着かねえだろ…ん?何か空気が…。
その時ふと、頭の中で眼鏡の言葉が蘇った。
“中には翔鶴君のその様に魘される艦娘もいてな…まあ、瑞鶴と言うんだが。”
明らかにさっきとベクトルの違う殺気を感じる。
何だろ、なんて言うんだろ。うん、狙うゆえの殺気じゃなく、文字通り殺す気な方。
射場の妹と目が合うと、妹はにっこりと笑った。
読唇術は座学でちょっとかじった事がある…だから何となく、何言ってるかも分かる…。
128 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/04/30(月) 21:47:57.10 ID:fgkf4R9fO
“う・ら・み・は・ら・さ・で・お・く・べ・き・か・?”
129 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/04/30(月) 21:49:45.04 ID:fgkf4R9fO
待て待て待て!!あいつ俺の頭リンゴみてえにパーンする気だ!
多分避けれねえ全速力で来る、逃げた所で出口は射場…となると、外させるしかねえ。
どうする?
そうだ、あいつは何となく『あの有名人』とキャラ被る……となれば!
「おい!妹!」
「…何よ。」
「……左で引けや。」
頼むぜ、乗ってくれ…!そして盛大に外せ!俺の命の為に!
130 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/04/30(月) 21:51:09.08 ID:fgkf4R9fO
「はっ……乗らないわよそんな挑発!
こっちはあの番組やって以来、散っ々色んな人から似てるっていじられてるの!耐性なんかとっくに出来てるわよ!
遠慮なく、利き手で行かせてもらうわ…!」
「いいっ!?」
皆考える事は同じかよ!!
どうする!?逃げた所で狙って来るぞ!
「瑞鶴。」
「…何よ加賀さん。いい所なんだから邪魔しないで。」
「左で引きなさい。」
「……………。
……やってやろうじゃないのよこの野郎おおおおおおおお!!!!」
加賀さんあんた女神だ!
利き手じゃなけりゃ力は弱い!当たらねえ可能性はグッと上がる!
「……!?
__!!だめ!!」
ん?あいつなに叫んで…
「妹の弓は両利きよ!!避けて!!」
………はぁ!?
131 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/04/30(月) 21:52:15.57 ID:fgkf4R9fO
「ふふふ……戦場に於いては、利き手に怪我をする可能性だってある…。
だから私は、日頃弓だけはどっちでも引けるように鍛えてんのよ!!
でも、“少しコントロールが甘くなるかも”ね…空母らしくアウトレンジで行かせてもらうわ!!」
上に射った!?どこだ…?
そうして上を見ると、予想外の刺客が俺を襲った。
太陽…しまった!逆光で何も見えねえ!!
どこから来る…避けるポイントを予測されてるか、それともストレートに来るか。
目を懲らせ……見えた!!この軌道ならこうするしかねえ!!
後ろに下がった俺の眼前を、スレスレのところで矢が落下していく。
視界を通り抜け、後は地面へ…そう安堵したその時だ。
鋭い痛みが、俺を通り抜けて行った。
132 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/04/30(月) 21:53:16.42 ID:fgkf4R9fO
男には、防ぎようのない弱点がある。
数多のスポーツでも、防具を付ける場所。
所謂、漢のシンボルという奴だ。
袋の方にばかり気を取られがちだが、もう一つパーツがあるだろう?象の鼻的比喩をされるアレ。
アレもダメージを喰らえば、充分に痛い。
確かに矢は避けた…だが、ギリギリだった。
絶妙な角度で向かって来た矢は、象の鼻のみを引っ掻くように掠めたのだ。
よくあの痛みは地鳴りに例えられるが、そちらのみへの衝撃は……まるで雷に打たれたかのようだった。
長ったらしく回顧しちゃみてるが、実際のところは。
「 」
声にならない叫びすら、もはや上がらなかったよね。
そのまま倒れた記憶も無く、俺は意識を手放したのだった…。
133 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/04/30(月) 21:55:00.05 ID:fgkf4R9fO
「うーん…。」
うう…なんか色々痛え…。
床が固えな…ここは…弓道場か。一体どんぐらい寝てた?
最初に目に入ったのは青空だったが、手を握られている感覚が。
ふと横を見ると…そこにはすうすうと眠る、あいつの姿があった。
「あなたが一番ね。皆疲れて眠ってしまっていたわ。」
「加賀さん…。」
起きて握られていた手を離すと、一瞬あいつは顔をしかめた。
変わんねえなあと、何となくあいつの手の感触にそんな事を思っていた。
周りを見渡すと、気持ち良さそうに寝てるづほに、何だか青い顔して寝てる妹……って、こいつまた気絶してねえか?
134 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/04/30(月) 21:55:44.43 ID:fgkf4R9fO
「ふふ、瑞鳳も余程嬉しかったのでしょう。あの子があれだけはしゃいでる所は、久々に見たわ。
色々言ったけれど、あの子と遊んでくれてありがとう。」
「そんなんでしたか?変わんねえなぁって思ってましたけど。」
「表向きはね。でもあなたが異動して一番寂しがっていたのはあの子よ。」
「…確かに、しょっちゅうつるんでましたからね。」
「そうね。それにしても意外だったわ、まさかあなたの元相手が翔鶴だったなんて。
大人しい子だとばかり思っていたから、さっき目の当たりにするまでイメージが無かったもの。」
「……本当は普段通り大人しい、ちょっと気弱な奴なんですよ。
故に俺が絡むと、過激な行動に出ちまう。」
「そう…嫌いになったから振った、という訳では無さそうね。」
「…………。
……そうですね、心が折れたって言うのが、当時の正直な所だったのかもしれません。
今となっては、ビビったり苦手意識ばかりではありますけど。」
「異性としての意識は無いと?」
「ですね。戻る気も無いです。」
「…海とは非日常、陸とは日常。それを忘るべからず。
いつも下の子達に教えてる事よ。
帰る場所や守るものがあってこそ、私達は戦える。」
「…………そっちを守るのが、俺達の仕事って奴ですよ。
今の上司はクソ野郎ではありますけど、そこの所は同じですかね。」
「…相変わらず苦労しそうね、あなたは。」
「はは…よく言われます。
久々にお話できて、嬉しかったです。ご迷惑をおかけしました。」
「疲れたでしょう?更衣室にシャワー室もあるから、よかったら浴びて行きなさい。」
「ありがとうございます。少しお借りしますね。」
そうしてシャワー浴びてる間に、皆起きたみたいだ。
入れ違いに皆がシャワー浴びてる間、俺は射場に横になって、ぼーっと空を見上げていた。
色々あるけど、頑張らねえとな。
135 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/04/30(月) 21:56:45.81 ID:fgkf4R9fO
「お邪魔しました。づほ、またな。」
「うん!今度は皆で飲み行こ!」
挨拶してあそこを後にすると、近くに一台の車が停まっていた。
あれは…ああ、あいつらもさっき出てったばっかか。
「__、乗って行かない?」
「大丈夫。ちょっと散歩して帰りてえんだ。」
「そう?電車だと結構あるけど…。」
「ちゃんと帰るよ。悪いけど、先に行っててくれ。」
「………分かったわ。気を付けてね。」
あいつもそれ以上は食い下がる事なく、車は遠く離れて行った。
妖精も返したし、今は正真正銘一人きり。
駅までの少し遠い道のりの中を、潮風を浴びつつ歩く。
夕暮れか。まだ時間あるな…。
そう思うと柵に腕を乗せて、ぼんやりと海を見ていた。
自分でも何でそうしたのかは、いまいち分からなかったけどな。
136 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/04/30(月) 21:57:34.34 ID:fgkf4R9fO
「翔鶴姉、よかったの?」
「……いいのよ、今日は。」
「……………そう。」
「…眩しいわね、夕日。」
「…………。
ご飯食べて帰ろ?お腹空いちゃった。」
137 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/04/30(月) 21:59:12.89 ID:fgkf4R9fO
「ああ、この事か。今印刷するから、このデータに目を通しておいてくれ。」
明けて数日後。
事務作業をしていると、眼鏡に声を掛けられた。
何枚かプリントアウトを待つ間、奴は資料についての説明をしてくれた。
「艦娘の交換異動制があるのは知ってるだろう?」
「ええ、経験を積ませる為、戦力の等しい艦娘を定期的にトレードする制度でしたよね?」
「そうだ。今年はうちと隣でやるらしい。
1ヶ月後に来るんだが、顔とパーソナリティを把握しておかねばならんからな。憲兵隊の方にも資料が来る。
隣という事は、恐らく貴様の知り合いでもあるだろう?この前そちらの者と飲みに行ったと言っていたものな。」
「…………。」
何だろう、この胸騒ぎ。
嬉しいような、嫌な予感もするような…。
「お、出てきたな。この子のようだ。
ほう、駆逐艦かな?随分可愛らしい…。」
その時、机に置きっぱにしてた携帯が震えた。
ちらりとそこを見ると、緑の通知…ま、まさかな…。
『今度そっちに行く事になったから、よろしくぅ!』
「ほう、瑞鳳と言うのか…貴様と同い年だと!?」
「……………はは…はははははは……。」
この一月後、当然のようにまた一悶着が起きるのだが。
その間にも、他の連中による事件は続くのである。
例えば『あいつ』とかな。
138 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/04/30(月) 22:00:33.11 ID:fgkf4R9fO
ひとえに駆逐って言っても、年齢層は意外と広い。歳的には高校の高学年ぐらいとか、中学低学年ぐらいとか。
でも総合的に見れば、結局の所子供な訳で。色々な事に興味を持つ年頃だ。
物事のセンスの有無も、そんな興味の中で学んで行く歳だろう。
そんな学びの年頃により、俺の…いや、俺たちの胃腸は犠牲になるんだ…ストレスじゃなく、物理的にな。
まずてめえが食ってみろ。
『あいつ』に対して言いたい事は、これに尽きるぜ…。
139 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/04/30(月) 22:02:08.44 ID:fgkf4R9fO
瑞鳳編、ひとまず終了。
次回は亡国がイージスする予定です。
140 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/30(月) 22:06:05.97 ID:VrtD9AexO
乙です
141 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga sage]:2018/04/30(月) 23:44:02.36 ID:TyAmJswxO
乙です。あいつ=メシマズ界最凶の彼女ですね……
142 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/05/01(火) 09:44:49.89 ID:GC/SvjCMo
ヒダリデウテヤ
143 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/05/01(火) 11:28:11.53 ID:aS/OEvenO
乙!
まさかのあのMMD作品ご本人設定かよ瑞鶴w
144 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/05/13(日) 03:33:09.57 ID:YFzNwdWXO
第8話・かみにみすてられたやろうども
145 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/05/13(日) 03:34:26.30 ID:YFzNwdWXO
ある日の事だった。
本当に何でもない昼下がりだ。
嘘のようにサクサク仕事が進んだ俺達は、詰所で暇を持て余していた。
「………暇ですね。」
「………滅多にないな、こんな事は。」
「警邏でも行きます?」
「さっき回ったばかりだろう?一応規定があるからな。」
「……次、いつでしたっけ?」
「2時間後だ。」
お互い本は部屋で読む派、手元にあるのはスマホのみ。
これじゃ通報でも無い限り、いよいよ給料泥棒になっちまう。
「ん?何か焦げ臭くないすか?」
「ふむ、甘い香りも混じっているな。」
そんな時、何やら独特な香りを感じた。
一応ここのガス周りを見るが、特に何かが燃えてる訳じゃない。
外を覗いてみても煙が上がってる様子も無く、騒ぐ声も無し。
そうして一体何だと思っている間に、次々と匂いが増えていく。
「甘くて焦げ臭くて、ジューシーかつ刺激的な匂いもしますね…。」
「柑橘系と磯の香りもするな。」
いや、まだるっこしいのはもういい。シンプルに言おう。
くせえ。
色々混じってるが、全体的に甘さと炎を纏ってるフレーバー。
段々それが濃くなってくる。
その正体は…匂いがピークに達した時に判明した。
146 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/05/13(日) 03:35:28.53 ID:YFzNwdWXO
『どごおおおおおおおおん!!!!』
「爆発!?」
「い、いや、何処からも煙は上がっていないな…工廠で弾の実験でもしているんじゃないか?」
「いやいや何言ってんすか!実験やるって報告無いでしょ!!行きますよ!!」
この時は慌てていて気にしてなかったが、眼鏡が少し汗かいてたのを突っ込んでおくべきだった。
……爆発音の正体、多分知ってたと思うんだよなぁ。
147 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/05/13(日) 03:38:14.52 ID:YFzNwdWXO
外へ出たものの、未だ出動要請は無し。しかし俺達は憲兵、トラブルを放置する訳にも行かない。
煙は一向に見当たらず、相変わらず騒ぎになってる様子も無い。
仕方なく匂いの元を探してみる事としたが、もはや何処からか分からない。
「一度戻ろう。工廠の報告ミスかもしれない。」
そう眼鏡に促され、渋々戻る事にしたんだが…あれ?むしろ戻る程匂いが強くなってるよーな…?
そう疑問を持ちつつ詰所に戻ると、中で誰かが座っている。
ん?あの子って、駆逐艦の…。
「何処に行っていた?差し入れを持って来たんだ。」
ああ、確か磯風って言ったな。
挨拶以来、特に接触も無かった子だ。
ん?差し入れ?その言葉にふと、後ろにいる眼鏡を見ると…。
「い、い、い、磯風じゃじゃじゃないか…。」
……眼鏡がめっちゃ焦ってる…。
一瞬そっちに気を取られたが、すぐに磯風の方に意識が向いた。
いや、強制的に向けさせられた。
くせえ。
さっきから感じる異臭の原因は、磯風が片手に持ってる箱。
そのよくある100均のケーキ箱は、ずもももも…と擬音が見えそうな紫色の臭気を放っていた。
148 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/05/13(日) 03:39:59.69 ID:YFzNwdWXO
「いつも頑張っているからな!甘いものを食べて欲しいと思ったんだ。」
「そ、そうか…ありがたくいただこう…。」
笑顔が引きつってる眼鏡とか、初めて見たぞ…。
ん?そう言えばこの子って、誰かに似てるな…。
このドヤ顔にツリ目、赤い瞳…それにこの堅めな口調…あれ?何かいつもぶっ飛ばしたくなる奴にそっく…
「気にするな、私とあなたの仲じゃないか。」
「ああ、出来た従姉妹を持って幸せ者だよ…。」
従 姉 妹 ?
…え!?従姉妹ぉ!?
149 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/05/13(日) 03:41:30.61 ID:YFzNwdWXO
「…同じ場所に着任したのは偶然だが、磯風は叔母の娘でな。
たまにこうして差し入れをくれるんだ。
せっかくだ…貴 様 も 一 緒 に 食 べ な い か ? 」
(逃げるな喰え)って心の声が、ミシミシと掴まれた肩からよーく伝わって来た。
いや、絶対やべえだろこの匂い…。
恐る恐る箱を開けると、一層匂いが目に沁みる…が、中にあるのは普通のマカロンだった。見た目だけは。
「今回は自信作だ。心して食え。」
「ありがとう、いただくよ。」
一口で行った!?
今まで見た事ねえ菩薩のような笑顔でマカロンを頬張ると、眼鏡は数回の咀嚼の後、えづく様子も無くそれを飲み込んだ。
え…?意外と食えるのか…?
「どうだ!?」
「ああ、とても美味しいよ…五臓六腑に染み渡るようだ。」
この時眼鏡の瞳から、ポタポタと雫がこぼれ落ちた。
いや、瞳に限った話じゃない。顔面の穴という穴から次々と液体がこぼれ落ちていく。
それはもう赤黒い、出たらまずい色の血がな。
150 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/05/13(日) 03:43:19.45 ID:YFzNwdWXO
「貴様モどうダ?とテもうマイぞ?」
……いや、んな昔のホラゲみてえなツラで言われても説得力ねえから。
顔から羽根とかフジツボとか生えて来そうだよ今のあんた。
「そこの新人さんもどうだ?是非食べてみてくれ。」
おっとロック・オン。
あまりの事態に逆に冷静になっちまってたが、よーく考えなくても危険じゃねえか…メシマズってレベルじゃねえ…!
いや…しかし今は善意、心遣いな訳だ。
はははそうだ、なんか副作用あるだけで本当に食える代物かもしれねえだろ?邪険には出来ねえ。
ええいままよ!男なら黙って食う!
「ありがとう、いただくよ。」
………まずははじっこだけ一口ね。
『かり……。』
……。
………。
…………。
……………塩酸って、固形物だっけ?
151 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/05/13(日) 03:45:03.02 ID:YFzNwdWXO
「どうだ!?美味いだろう!?」
「…………。」
俺、まだ20代前半だけどよ……大人には、時に心を鬼にしなくてはならない瞬間がある。
自分より年若い者に、間違いを教えなくてはならない瞬間がある。
想像してみよう。
こいつが将来彼氏を作ったり、もしくは結婚したりしたとする。
キノコが採れた!とか言ってうっかり死の天使召喚したり、毒草のおひたし出しちゃったりな可能性もある訳だ。
そんな悲劇は食い止めなくてはならない。
故に俺のやるべき事は、一つしかない。
「……磯風。」
「どう……むがっ!?」
「……!?待て!!」
眼鏡よ、止めてくれるな。
片手で頬をむにっとやって、開いた口にマカロンを放り込む。ただそれだけだ。
食えば分かる、それ以上の教育など何も無い。
決してさっき一瞬意識が無かったとか、未だに喉の奥で血の味がするとか。
あるいは死にかけた事に俺がブチ切れてるとか、そんな事は無いからな。無いったら無い。
ごくりと音がし、しばしの静寂。
その間一体何秒か。やがて磯風は、さっき同様のドヤ顔に戻って口を開いた。
152 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/05/13(日) 03:46:16.87 ID:YFzNwdWXO
「ふふ、なるほどな……。
………○*マ?#ョ♪%〆ぎゃ÷^\-:ソ々〒ロ=☆っ!!!ニ_??ん?」
その言葉を遺し、磯風は泡吹いて倒れた。
ああ、終わったな……二つの意味で。
「………貴様、自分が何をしたのか分かっているのか?」
「憲兵長…俺は憲兵としての使命を果たしたまでです。
ここの平和のため、体を張った…それだけですよ。
……よく見てください憲兵長、これが指導です。」
「………憤!!」
俺の顔面がディストラクション。
掌底を打ち込む瞬間の眼鏡は、範馬の血が流れてそうな顔をしていた。
153 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/05/13(日) 03:48:32.70 ID:YFzNwdWXO
あれから数時間を経て、警邏に出ている。
眼鏡は磯風を寮に運び、俺一人で回っている最中だ。
可愛い従姉妹を傷付けたくないのは分からなくもねえけど、やっぱ甘やかしちゃダメだ。
何かが起きてからでは遅い……本当に、遅すぎるぐらいだ。
いや、もう起こっているのかもしれない。
え?今どこにいるかって?
………トイレだよ。
へへへ…やられたぜ畜生。
わずかひとかけのマカロンで、俺の腹はバイオテロを起こしていた。
仕事どころじゃねえ、出れねぇんだよ…!さっきから15分ぐらい籠ってんだけど。
あ、あのガキ…つくづくとんでもねえもんこさえやがって……アレか?あの一族はどっかしらネジが外れてんのか?
ふー…やっと波が引いたか……ケツ痛えけど、拭かなきゃ出れねえ…。
…………。
………紙が、無い。
154 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/05/13(日) 03:50:53.80 ID:YFzNwdWXO
指先に掴めたのは、一反木綿の如くひらひらと揺れる切れっ端。
シングルロールのこいつは、どう見ても足りねえ。
どうする?いや、こうなった時は文字通り身を切る覚悟を決めるしかない。
芯で拭く。
痛えだろうなぁ…切れたりすんのかなぁ……ええいままよ!いざオープンセサミ!
ははは最近のトイレットペーパーってすげえよな!最後まで紙ぎっしりだもん!
……って芯なしぺーーパーーー!!!
今ポケットティッシュは無い…だからこんなテンションになってる訳で。
あるのは憲兵道具以外は、財布とスマホ。
仕方ねえ。弱み握られるが、ここは眼鏡を頼るか。
『もしもし?』
「すいません、トイレの紙が無くて…。」
『ふっ…腹を壊したのか?あの子の料理を邪険にした罰だ。』
「…いや、アレに関しては俺謝んないっすよ。
むしろ従兄弟のあんたが教育するべきでしょう。どう考えても原因アレです。」
『貴様も学生時代、陸軍式のキャンプは経験しただろう?
蛇やヤモリを焼き、虫を食い…おおよそ現代人とは思えぬ食事をしたはずだ。それしきで腹を下すとは情けない。』
「ゾンビになってた人に言われたくないです。不味いもんと、体調崩すもんは別ですからね。
て言うかあんたどこいるんすか今?」
『……いつの時代も、ヒット曲と言うのはあるものだな。』
「………は?」
『………私は今、懐かしの“トイレの神様”だ。』
お 前 も か 。
155 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/05/13(日) 03:52:45.10 ID:YFzNwdWXO
無言で携帯を切り、俺は途方に暮れた。
状況整理。
まず整備や事務方は頼れない。まだ付き合いねえし、各部署にトイレ完備。偶然助けが来る事も無い。
提督も同じくだ…執務室近くにトイレあり、俺らとの連絡は詰所の電話が主。個人的な連絡先は知らない。
で、このトイレは、前元カノに追っかけられた時に使った場所…廊下の突き当たりだ。
艦娘はちょちょく隣の女子トイレを使うようだが、男衆はあまり使わない…俺だって、腹痛で駆け込んで久々に使った場所。
つまり、助け舟は期待出来ない。よって『やる』しか無い。
みっともねえ半ケツを晒し、洗面台上の棚から紙を出す。他の選択肢は滅んだ。
幸いここの入り口は扉がある、注意を払えば見られる事は無い…よし、これで行こう。
いざ行かん!この監禁からの脱出へ!
156 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/05/13(日) 03:54:47.91 ID:YFzNwdWXO
『がちゃ…ばたばたばた……がちゃん』
誰か隣に来た…!紙はねえけど、神の救いはやってきたぞ!
『じゃばああああああ……』
…いや、待て。
初っ端から派手に水流してる…て事は、今隣にいるのは音を気にする層の人間。
1年目の頃に学習したが、女所帯ゆえ女子高的なノリも強い…女子トイレが満員で、難を逃れにこっちに逃げ込んだ艦娘の可能性が高い。
誰だ…?この際背に腹は変えられねえ、ノックだ!
「………誰かいないか?」
そう拳を握った瞬間、先に弱々しいノックと声が隣から響いた。
……この声、さっき聞いたな。
ああ、そうだ…これはまさに俺の腹痛の元凶…!
「……磯風、てめえか。」
「その声はさっきの新人だな。
ふふ……紙が、無いんだ…助けてくれ…。」
「……お前もか。」
「まさか…あなたもか。」
「ああ…紙は尽き、神は死んだ。」
壁一枚隔て、しかし共に堕ちるは蟻地獄。
地獄への道は善意で舗装されている…まさにその通り。
眼鏡への善意で文字通りの飯テロリズムをぶちかましたこいつもまた、己の身すら地獄に叩き落としたのだ。
…食わせたの、俺だけど。
157 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/05/13(日) 03:58:06.93 ID:YFzNwdWXO
「そうだ、兄ぃに紙を持ってきてもらおう!」
「兄ぃって憲兵長の事か?あいつならトイレの神様になったぞ。お前のアレで。
こっちは頼れる筋は全滅、もう万事休すだ。
磯風…逆に誰かに連絡を取れないか?お前なら姉妹艦を頼れるだろ?」
「ふっ…この磯風を誰だと思っている?スマホなど、部屋で絶賛充電中だ……!」
「……GUSOHを漏洩させて大惨事を引き起こした挙げ句、自沈もするとはマヌケだな。“いそかぜ”だけに。」
「ふふふ、言うじゃないか“チン兵”さん?
今更下半身以上に晒す恥など無いだろう?大人しくこの磯風の為に紙を取りに行くんだ…。」
「言ったなてめえ。そもそも何で女子トイレが埋まってるんだ?お前、何人かに食わせただろ?」
「ああ、見た目はよく出来たから、皆褒めてくれたよ…お裾分けして、そのまま詰所に向かったんだ。
浜風、浦風、谷風…良い仲間を持った…。」
「きっと今隣で唸ってるのはそいつらだぞ。
近くで見てて鼻がバカになってたんだろ、アレ臭かったし。」
「な…臭いだと!?私は臭い物を兄ぃに喰わせてしまったと言うのか!?」
「確かに将来臭い飯喰わされそうな奴だけどな。
あいつの事を思うんなら、せめて人間に食えるもん作ってやれよ。冗談抜きにその内死ぬぞ。
折角作ってくれたもんを無下にしたくなくて、今まで無理して食ってたんじゃないか?
女に甘いバカだけど、従姉妹なら尚更だろ。」
「……そうか。私は…何と言う事を……うっ!?」
何度となく水洗音が、隣から響いた。
ああ、まるっと一個喰わせたもんな…そいつがやっと落ち着いた頃、弱々しい声が聞こえてくる。
「……兄ぃはな、小さい頃から何度も遊んでくれたんだ。艦娘になった今だって面倒を見てくれて…。
少しでもそんな兄ぃを労いたくて、今まで何度も作って……サンマだって、やっと少し焦がす程度に収められるようになったのに…。
ああ、この腹の痛みが罰なのだな…ふふ、きっと私は夜までここから出られず、クソ風とか言われてしまうんだ……。」
……………。
……ちっとばかり、言い過ぎたかな。
158 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/05/13(日) 04:01:34.36 ID:YFzNwdWXO
「…ま、確かにお前の言った通りだな。今更晒す恥なんてありゃしねえ。
これで貸し一つな、俺が取りに行ってやる。」
「新人…ありがとう…!」
「これに懲りたら、今度は美味いもんあいつに作ってやれよ。」
はぁ…大の男が半ケツによちよち歩きかよ…しゃあねえなぁ。
でも可愛げのねえクソガキだと思ってたが、人思いなとこもあんじゃねえか。だったら一肌脱いでやる。
ずり落ちたズボンのまま移動する様はマヌケ以外の何者でもねえが、俺の気持ちは晴れやかだった。
最初からこうしときゃ良かったんだ、さーて、棚を開ければ……。
「…………磯風。」
「どうした……?」
「天は俺達を見捨てた。」
棚の中は、何度瞬きをしてもがらんどうだった。
棚に紙など無い。そしてこの世に神など無い…!!
この男子トイレに個室は2つ、どっちも俺達が使っていた。
水道んとこもペーパータオルじゃなくエアータオル、もう一体どうしろってんだ。
うなだれたまま、すごすごと個室へと戻る。
磯風も察したのだろう、もはや何も言わない。
沈黙が重い、人は真の絶望を前にはもはや言葉も出ないのか。
ここのトイレ掃除、確か艦娘の当番制だったな…サボった奴、絶対シメる。
「ふっ……なぁ新人、もう仲良くクソ艦娘とクソ憲兵になるしかなさそうだな…。」
「クソを連呼するな。前んとこの問題児を思い出す…ん?」
…着信?ああ、メルマガね。眼鏡かと期待したんだが……。
………待て、一つだけ手はある。
159 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/05/13(日) 04:02:52.62 ID:YFzNwdWXO
「磯風…翔鶴と俺の関係は知ってるか?」
「知っているぞ。あなたは翔鶴さんの元カレだろう?
皆ロマンチックだとか騒いでいたが…あなたはどうやら、彼女の事は苦手なようだな。」
「ああ、まぁ色々あって別れたからな…。」
「……まさか!?」
「……そのまさかだよ!」
あいつなら、艦載機を使って俺達に紙を届ける事も出来る。
やべえ、ドキドキすんなぁ…でもやるしかねえ。
俺とこのクソガキの名誉の為、何より最後に犠牲になるのは年長の務めだ。
ふー……行くぜ、発信!!
『もしもし?』
「頼みがある…。」
『ふふ…言ってみて?』
「ああ、実はな……。」
『そう…磯風ちゃんも災難ね。いいわ、届けてあげる。
今度一日、デートしてくれたらね♪』
…………一日かぁ。
もう、迷ってる場合じゃねえな。
160 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/05/13(日) 04:04:46.83 ID:YFzNwdWXO
「わかった。どっかの休みで一日くれてやる。だから俺達を助けてくれ。」
『了解♪ちょっと待っててね。』
「ありがとう…。」
『ふふ、どういたしまして。』
5分もしない内に、窓からエンジン音が聞こえてきた。
上の方から放り込まれたのは、まさに蜘蛛の糸の如き白さを放つトイレットペーパー。
本来なら真っ先に自分のケツを拭いて渡す所だが…。
俺はまず、そいつを隣の個室に放り込んだ。
「先に使いな。そんで何事も無かったかのように出てけ。いいな?」
「……良いのか?」
「俺も憲兵としての立場がある。変にタイミング被って、訳わかんねえ誤解になるのは勘弁だからな。後から出てくよ。」
「……ありがとう…本当に、ありがとう…!」
「これに懲りたら、まともなもん作れるように頑張れよ。
甘いもんは嫌いじゃねえ、今度は美味えの期待してるぜ?」
「……ああ、この磯風に任せておけ!」
磯風は自分の方を済ませると、俺の個室に紙を放り込み、またありがとうと言って去って行った。
161 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/05/13(日) 04:05:48.83 ID:YFzNwdWXO
「ふーー……。」
さっきはああ言ったが、実際の所後から出ると決めたのは、あの約束のせいだった。
デートか……この土地に来て間もない今じゃ、あいつ主導になる流れだよな…何が起こるんだろ。
今になって、ものすっっっごく不安になって来てたんだ…。
ああ、考えてもらちが明かねえ…まずは出るか…。
今は紙があると言う事に感謝し、この地獄から脱しゅ……
「痛ぅううううううううっ!!??」
隙間から入る、夕暮れのオレンジに染まる個室の中。
俺のケツは、切れていた。
162 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/05/13(日) 04:07:53.97 ID:YFzNwdWXO
今回はこれにて終了。
そろそろ艦娘側にもツッコミ枠が必要かな…。
163 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/05/13(日) 08:08:56.25 ID:Y/NcsmEX0
うむ、面白かった
164 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/05/13(日) 09:16:17.40 ID:Z7UZmZZcO
銀魂みたいに紙幣で拭けばよかったんでね?
更新乙さま
165 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/05/13(日) 09:19:06.29 ID:ZEP5v09CO
乙です。相変わらず別作品とのギャップが酷いw。
突っ込み役……霞ちゃんとか?年長組なら飛龍あたりかな。
166 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/05/13(日) 09:58:10.13 ID:yxzAL8V30
何故瑞鳳を頼らなかった!?
167 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/05/13(日) 10:06:48.71 ID:ZEP5v09CO
>>166
づほまだ来てなかったんじゃなかったっけ。
168 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/05/13(日) 12:40:48.00 ID:PV11j0MGO
飯テロ枠にちゃんと厳しく当たる主役も、メシマズを素直に認め受け入れる艦娘も珍しいからすっきりした。
169 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/05/13(日) 15:12:21.14 ID:iDsVhFOA0
更新感謝
乙おつ
そういや昔の駅のトイレってだいたい臭かったな
紙が無いときの絶望感と来たら……
170 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/06/16(土) 14:34:50.95 ID:h+MUqiKA0
まだ?
171 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/06/20(水) 03:10:30.04 ID:Rc8F7EBx0
今更だが、ex彼女って英語で元カノって意味だったのか
172 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/06/20(水) 03:31:59.36 ID:wOWVZ7vhO
実は前のとこで揉めた件以来、あいつは大人しくしていた。
過激だったストーキングの度合いも、暇な時にこっちを覗いてくるぐらいに。
特に話しかけてもこないし、もちろん俺からは声掛けたりもせずだ。
このままただの艦娘と憲兵の関係に…と思ったが、結局それは数日も持たなかった。
磯風がマカロンと言う名のGUSOHをおみまいしてくれた件で、助けてもらう代わりにデートの約束をしちまったからだ。
あの時トイレに紙があればな…と、今でも思う。
だが、約束は約束だ。
大人しく休みの日程をあいつに献上し、日取りも決まった。
自分から振った元カノとデート…響きだけでも気まずさ満載。
さて、一体何が起きるやら……。
何も起こらない訳、無かったけどな。
173 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/06/20(水) 03:32:40.67 ID:wOWVZ7vhO
第9話・布団の精
174 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/06/20(水) 03:34:39.44 ID:wOWVZ7vhO
駅前広場にて、ぼんやりと立つ午前。遂にこの日が来ちまったか。
一緒に鎮守府から出てくのは、さすがに全力で断った。
眼鏡を始めとした冷やかし組が、こっそり覗いて来るのは分かりきってたからな。
何なら今だって、尾行班がいねえか確認しながら来たぐらいだ。
よって今回は待ち合わせ。
少しでも一緒にいる時間を削る腹積もりでいたが、待ち合わせにしようと言った時、あいつは何でか妙に嬉しそうだった。
リュックの中も徹底的に探った、妖精も隠れてない。
まぁ、今回は街をぶらつくだけだ。ついでに買い物したかったし、そっちに集中してれば1日も終わるだろう。
さて…ぼちぼち来るかな。
175 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/06/20(水) 03:36:48.92 ID:wOWVZ7vhO
「お待たせ。」
「…おう、おはよう。」
めかし込んで来たあいつにそう挨拶すると、何とも説明し難い気持ちになった。
高校ん時を思い出すな…当時と違うのは、俺のテンションはさっきの通りって事。
そもそもデート自体、こいつと別れてからはした事ねえしな。
あの時はいずれ違う人となんて思ってたが…まさか成人した今、知らない街でまたこいつとなんて思わなかった。
「まずはどこに行こうかしら?」
「店覚えがてら回りたいんだよ、服屋とか分かる?」
「そうね、それならこっち。行きましょう。」
ごくごく自然に手を掴まれ、繁華街の方へと引っ張られていた。
表向きは微笑みぐらいなもんだが、随分と機嫌が良いのが理解出来るのは、昔取った杵柄って奴か。
「へー、結構栄えてるもんだな。」
「そうよ、大体の買い物はこの辺りで済むの。下見は出来なかったって言ってたものね。」
「前んとこ終わってからも、本部研修や引越しで忙しかったからな。
あそこもここに近いけど、結局あっちの方で大体済んでたし。」
…だからこいつがいるの、知らなかったんだけどな。
176 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/06/20(水) 03:38:33.61 ID:wOWVZ7vhO
何度か異動してりゃ多少顔も効くが、去年は新人だったわけで。
担当の鎮守府以外、特に交流も無かった身だ。
あっちの問題児なんてたかが知れてたんだけどなぁ…こいつ抜きでも、なかなか今の所は骨が折れるぜ…。
ああ、思い出すとケツが痛え…診てもらったら軽傷だったけど、まだちょっと気になるんだよなぁ。
あ、そうだ。せっかくだし探してみるか。
「…悪いけど、後で寝具見てもいい?」
「枕が合わないの?」
「いや、こないだの磯風の件で、ちょっとケツがな…。」
「それなら買わなくても大丈夫よ、鎮守府に良いものがあるの。」
「どんなの?」
「うん。前に戦闘である艤装核を回収して、その核で艤装を組んだら…。」
「……待て、それ見た事あるかも。」
「駆逐や海防の子達が、よくあれで遊んでるわね。浮き輪さんって皆呼んでるけど。」
「アレに座れってか!?」
アレ、確か元々深海のだろ…何故か艤装と一緒に出来たって言う。
カンチョーとかされそうなんだけどよ…実は生きてたりしねぇだろうな。
「ふふ…冗談よ。あ、これあなたに似合いそうじゃない?」
「お前なぁ…。」
意外と茶目っ気があるというか、たまに人をおちょくってみたりするのは相変わらず。
久々だな、この読めない感じ。
ふむ…これはなかなか…。
「いいなこれ、買うか。」
「気に入ったの?」
「ああ、そろそろ暑くなるだろうしな。」
「ふふ…よく似合うと思うわ。」
何て事ない、新作のTシャツ1枚。
でもあいつは、俺がそれを買うと妙に嬉しそうだった。
……調子狂うな、何か。
177 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/06/20(水) 03:40:39.49 ID:wOWVZ7vhO
集合は11時だったから、一旦買い物をストップしてメシを食う事になった。
まだ土地勘のない俺は、勧められるままにとある店へ。
そこはこいつのお気に入りのカフェで、今は丁度ランチをやってる時間帯のようだ。
「良いところでしょう?」
「そうだな…こっち来るまでは飲み屋ばっかりだったし、新鮮だ。」
「……あの子と?」
「づほとサシが一番多いけど、6〜7人で飲む事も多かったよ。
たまーにづほが暴走して、俺と加賀さんで止めたりな。」
「…本当に仲が良いのね。」
「あっちで一番仲良かったな。
今度異動してくるけど、前みたいに喧嘩すんなよ?あいつも酒乱の気はあるけどよ…。」
「大丈夫よ。あ、お姉さん元気?」
「……相変わらずだよ。盆と正月に会ったけど、あのバカ本当変わんねえ。
私生活の仲はともかく、仕事じゃ絶対関わりたくねえ。身内捕まえたくねえもん。」
「ふふ、こっちはお姉さんの所からは遠いからね。そうそう演習で来たりはしないでしょう。」
「だといいけどな。」
…変わんねえのは、姉貴だけじゃねえけどな。
こうしてメシ食いつつ話してると、付き合ってた頃みてえだなとデジャヴを覚える。
いや、でも変わったか…あの時は小遣いやりくりして安いファミレスだったが、今はそこそこするカフェ。
俺らも大人になったんだなぁと、妙に月日を感じた。
それでも会話の雰囲気だけは変わらない。
そんな矛盾が、妙にくっきりしたものに思える。
……再会してからゴタゴタばっかりだったけど、ちゃんと話したのは久しぶりだな。
178 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/06/20(水) 03:42:03.38 ID:wOWVZ7vhO
カフェを出て次に向かったのは、街中のファッションビル。
見たいものがあるからってついて来たものの…おや、何やら俺には縁の無いものばかりな気が…。
「ごめん、ちょっと待っててもらっていい?下着見たいの。」
「ああ、じゃあロビーのベンチにいるよ。」
付き添いとは言え、俺も流石にそこは入りたくない。
ひとまずゲームで時間潰す事にして、没頭し始めた時だった。
『にゅっ…』
「冷たっ!?」
首に冷たいものが触れ、思わず声が出た。
あいつかぁ?たまーにこんなイタズラしてたけどよ…。
「ふふー、こんな所で何してるの?」
「………づほ。」
………お前にだけは、この台詞は言いたくなかった。
今は会いたくなかったぜ、親友よ。
179 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/06/20(水) 03:44:06.38 ID:wOWVZ7vhO
「へへへへへへ……あ、ああああなたこそ何をしてらっしゃるんでしょうか…?」
「下見ついでに買い物よ。もうすぐ異動だし、色々見とこうと思ってね。
でもここ下着売り場だよ?こんな所で…あ、もしかしてそっちに目覚め…。」
「んな訳ねぇだろ!人待ってんだって!」
「……誰?」
「……翔鶴だよ。色々あってな、今日は一日付き合わなきゃいけねえんだ。」
「へー……何?脅された?」
ゴゴゴゴゴ…ってな擬音が聞こえて来そうなど迫力。
あ、ダメだこりゃ。あの時ゃ酒入ってたけどよ…づほ、シラフでもめちゃくちゃあいつの事嫌いだぁ…。
「貸しを作ったんだよ…それを返すだけの話だ。」
「そっか……じゃ、行こっか?」
「うん、俺の話聞いてた?」
いつの間にやら首に当たるのはペットボトルから、俺の襟をがっつり掴む拳に変わっていた。
やべぇ…今鉢合わせたら大惨事だ。てか、何でこんなにあいつを目の敵にすんのこの子は!
180 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/06/20(水) 03:47:29.57 ID:wOWVZ7vhO
「………スポーツブラなら、下の階よ?」
嫌に立体音響な靴の音。そんで冷たい声色。
あ、あれ…寝違えたかなぁ…首が全然回んねえや……。
あはははは…あは、あははは、あは…。
「はい、あなたはこっち向いて♪」
「…あばっ!?」
……実際は関節通りだけどよ、心の首はメキャっと折れたよ。
ああ……目元に…目元に影がかかってらっしゃるスマイルゥ……!
「…ババシャツでもお探しですか?ここは少し年齢層が合わないと思いますけど。久しぶりね、翔鶴さん。」
「ええ、お久しぶりね。
ところで何をしているのかしら?苦しそうだから離してあげて。」
「後で離してあげるわ。ついでにあなたからもね。」
「づ、づほ…マジで締まって…る…。」
「あ!ごめん!」
パッと襟こそ離してもらったが、一向に息が吸えた気がしねえ。
酸素が薄い、空気が重い、ここは精神と時のベンチか!?
はぁ…でもここはこないだと違って鎮守府じゃねえ、普通の商業施設だ。
軍関係者が揉めようもんならもっと面倒になる、こうなりゃ意地でも止めるっきゃねえ。
「まぁまぁお前ら、ここは一般施設だ…穏便に行こうぜ…。」
「そうね…『穏便に』帰ってもらわないといけないわね。」
「そうそう、『穏便に』あなたに離れてもらわないとね。」
……加賀さんの教えを思い出せ、俺。手を出せなけりゃ、口を上手く出せだ。
今考えるべきは、どっちから止めるべきか…。
ここはまず、こいつだ!
181 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/06/20(水) 03:48:44.06 ID:wOWVZ7vhO
「……俺、喧嘩っ早い女は苦手だなぁ。」
「「え"」」
…なんで二人とも反応すんだ?
「そ、そうね、確かにここじゃまずいわ。」
「うん、危ない危ない。怒られちゃうよ。」
元カノに言ったんだが、何でかづほも引き下がってくれたらしい。
……ふー、まぁ落ち着いて良かった。危ねえとこだった…。
二人とも、以降はにこやかに談笑してくれてる。
やれやれ、もう少ししたら仲間になるんだ、仲良くしてくれなきゃ仕事増える一方だぜ…。
182 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/06/20(水) 03:50:24.82 ID:wOWVZ7vhO
“何やってくれてんのよ?弱みでも握ったぁ?”
“助け舟を出しただけよ。あなた器用ね、彼から見えない方だけそんな怖い顔して。”
“あんたに言われたくないわ。女狐が隠せてないわよ?その薄目。”
“先約よヒヨコさん。悪いけど私が先なの。”
“…『元カノ』のクセに。”
“『今カノ』ですらないあなたに言われたくないわね。”
“……私が異動したら覚えてなさいよ。”
“せいぜい涙用のティッシュを用意しておく事ね。”
「「じゃあ、またね。」」
づほと別れ、そこからしばらくは街を回っていた。
それでこの後、事件が起きたんだ。
183 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/06/20(水) 03:51:36.42 ID:wOWVZ7vhO
そうは言ってもここは片田舎、メインストリートから離れると人通りは少ない。
15〜16時ぐらいの半端な時間になると、町外れはなかなか目立ちにくいもの。
小川を見に行こうとあいつに誘われ歩いていたが、やはり人通りはまばらだった。
“ん?づほだ。”
そんな時、そこそこ先にづほが歩いているのに気付く。
声でも掛けようかと思った矢先、ゆっくりとワンボックスがあいつの横を通って。
目にも留まらぬ速さで、づほが車の中に引きずり込まれた。
184 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/06/20(水) 03:53:10.20 ID:wOWVZ7vhO
「誘拐だ!!」
「えっ!?あれ瑞鳳ちゃんよね!?」
「憲兵長と警察に連絡してくれ!俺は追う!」
「わかったわ!気を付けて!!」
ナンバーは見えた…まだスピードは出きってねえ…!
フルスモのが露骨にぶっ飛ばしゃ、怪しいですって言ってるようなもんだ。
…クソっ!でも生身じゃキツいぜ!離されてく!
『プーーッ!!!』
あぁ!?今それどこじゃねんだよ!!
「お困りのようだな!乗れ!」
「…憲兵長!?」
185 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/06/20(水) 03:54:57.95 ID:wOWVZ7vhO
「たまたま近くにいてな、翔鶴くんから連絡を受けたんだ。
よし、ナンバー撮影済み。これで拡散出来る。」
「サイレン鳴らさないんすか!?ランプ積んでるでしょう!!早くしないと…」
「まぁ待て。誘拐直後の場合、脊髄反射で動くのは避けるべきだ。
大抵はアジトか停車地がある。仮に強姦や身代金目的として、動くのはそこからだ。
ワンボックスと言う事は、最低4人はいると見ていい。今刺激するのは危険だ、殺害される可能性がある。
ましてや追突などすれば、人質も無事では済まない。」
「……大通りに出たら、逃げられますよ。」
「翔鶴君の方で、瑞鶴に艦載機を飛ばすよう連絡してもらった。
全速力なら通常の飛行機並には速い、すぐ来るだろう。」
『こちら瑞鶴。憲兵長、応答願います。』
「こちら憲兵長。瑞鶴、発艦したか?」
『はい。ナンバーは?』
「××502 、_の○○-○○。車種は白のワンボックス。」
『了解です。妖精達に伝えます。』
「頼む。
……気が気でないのは分かるが、心は熱く、頭は冷静にだ。まず然るべき対処は全て行え。」
「……はい。」
「大通りに出たか…おっと、つい手が触れてしまうな。」
「…それ、サイレンのスイッチですよね。あんたの本音は?」
「………今すぐ鳴らして突っ込んで、連中の関節全てを外してやりたい所だな。」
「……あんた、バカだけどやっぱ憲兵ですね。バカだけど。」
「ふっ…その暑苦しい正義感に免じて、今の暴言は不問にしてやろう。」
付かず離れずを繰り返す内に、相手の車は大通りに紛れ、やがて見えなくなった。
これで頼れるのは艦載機が投下した、発信機付きマグネット。
車の天井に貼り付いたそいつだけが、俺達にづほの居場所を教えてくれる。
づほ、待ってろよ…絶対助けてやるからな。
186 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/06/20(水) 03:57:31.49 ID:wOWVZ7vhO
「止まったな…。」
「はい。」
発信機が示したのは、とある廃倉庫だった。
少し離れた所に車を停め、俺達はゆっくりと倉庫へと近付く。
あの車だ…あれは!?
“待て。眠らされているな……ほう、随分辺りを見渡すじゃないか。よし、撮影完了。”
“まだですか!?”
“そう急くな。警察に提出する証拠だ。
見張りは立てないか…扉が閉まった瞬間だ、そこで犯人は油断する。”
最後の犯人が鉄扉を閉めた。
俺達は裏の事務所に近付くと、まずガラスを割った。
そこそこでかい所だ、どうやら気付かれちゃいねえ。この廊下を抜ければ倉庫だ。
187 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/06/20(水) 04:00:13.41 ID:wOWVZ7vhO
“よし、いるな……さて、今から突っ込む訳だが、確認事項がある。
通常我々憲兵隊には、犯罪者と言えど一般人を捜査・逮捕する権限は無い。分かるな?”
“ええ、昔とっ捕まりそうになりましたからね。”
“そうだ。だが、軍関係者に被害を加えた一般犯罪者に関しては…。”
““その限りでは無い。””
“上出来だ…最近少し運動不足でな、そろそろ動かなくてはいかん。”
“奇遇っすね、俺もそろそろこっちの道場探そうと思ってました。”
“ふむ…10人はいるか。ノルマは1人4〜6人、一斉に行くぞ。3…2…”
「オラァ!!」
「ぶふっ!?」
手始めに1人に蹴りを入れ、そいつを狼煙に手当たり次第ぶっ飛ばして行く。
3人目まで倒した辺りで、眼鏡の方を見た…あいつの首尾は……。
「がああああああっっ!!???」
「何だみっともない、少し関節を外しただけではないか。」
もう5人!?
うわ、何か色々向いちゃいけねえ方向いてる…。
「この野郎!!」
「……っと、危ねえな!!」
4人目上がり!これであと一人…づほはどこだ!?
「動くんじゃねえ!!こいつ刺すぞ!!」
「「………!!」」
最後の一人は、抱えたづほにナイフを突き付けていた。
野郎……!
188 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/06/20(水) 04:00:46.71 ID:KICpYbPsO
蘭子「混沌電波第173幕!(ちゃおラジ第173回)」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1529353171/
189 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/06/20(水) 04:02:44.43 ID:wOWVZ7vhO
「てめえら警察かぁ!?邪魔しやがって!!」
「違うな。通りすがりの憲兵さんと言う奴だ。
だがその子は艦娘だ、私達の管轄になる。貴様への逮捕権はもう発生しているのだよ。」
「来るな!本当に刺すぞ!?」
ナイフの切っ先が、づほの頬に薄く触れる。
つう、と血が滴るのを見た時、俺の意識は真っ赤になりかけたが…。
「……待て。」
「憲兵長?」
それも、肩を掴む腕に制止された。
眼鏡は私服…次の瞬間、そいつと不釣り合いな物がジャケットから取り出された。
「……動けぬのなら、『飛ばす』までよ。」
……銃!?
「…正気かてめえ!!知ってるぜ!け、け、憲兵に一般人は撃てねえ!!」
「確かにそうだな……発砲しようものなら、大事件となる。だが…
それがどうしたと言うのだ?」
「………っ!!」
眼鏡の顔を見た時、確かに背筋に冷たいものが走った。
こいつ、本気だ…!
「………貴様のような素人のナイフと、私の銃弾。一体どちらが速いかな?」
「ひっ…!?」
動けねぇ…引き金がゆっくり動き、俺は思わず目を閉じた。
次の瞬間。
190 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/06/20(水) 04:05:09.87 ID:wOWVZ7vhO
『ぱりぃん!!』
「何だ!?」
ガラスが割れる音と共に、何かが飛び込んで来た。
あれは…矢か!?
『ぷしゅううううう!!!』
「__!!今よ!!」
煙幕と、俺を呼ぶ声。
そいつに気を呼び戻された俺は、真っ先に犯人へと向かった。
「……くたばれやオラァ!!」
「がぎゃっ!?」
足の甲が、ガッツリこめかみを捕らえたのを感じる。
後は無様な悲鳴と、廃材に突っ込む音のみだ。
……ふー、終わったか…。
191 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/06/20(水) 04:08:34.19 ID:wOWVZ7vhO
「づほ!!しっかりしろ!!」
「……ん……__!?」
「良かった…もう大丈夫だ!安心しろ!」
「……__…ありがとう!!怖かった…怖かったよぅ……!」
「…大丈夫だ。皆ぶっ倒したから。」
思わず抱き締めちまった通り、実際心底安心したのは俺の方だった。
づほは無二の親友だ…本当に、助けられて良かった。
「……良かったわね、本当。」
「__…いや、お前があちこち連絡してくれなかったら、こんな上手く行かなかったよ。ありがとう。」
「翔鶴さん…ありがとう。」
「ふふ、どういたしまして。」
……違う意味でも、礼を言わねえとだな。
もしこいつが煙幕撃ち込んでなかったら、眼鏡は本当に…。
「……さて、一件落着かな。」
「…憲兵長……。」
「この銃の事か?まぁ見ていろ。」
「げっ!?」
『ぽんっ…!!』
「………国旗?」
「ハッタリさ。ただのマジック用の玩具だよ。
プライベートでの銃器の携帯は禁止だろう?」
「……んだよもー!ビビって損した!」
「くく…まだまだヒヨッ子だな。」
ったく、ビビらせやがって…。
でもあの時の目、あれは……つくづく訳わかんねえ奴だな、このバカ。
192 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/06/20(水) 04:10:08.67 ID:wOWVZ7vhO
のびてる奴らを全員縛って、警察が来るのを待つ事になった。
ん?眼鏡の奴どこ行った?
「失礼失礼、少し探し物をしていてな。」
「それタライですか?」
「ああ、裏に池もあった。君達、少し退いていたまえ。」
犯人グループに水をぶっかけると、全員釣られた魚みたいにビクビクと眼を覚ます。
……叩き起こしてどうすんだ?
「……所属は違えど、艦娘が被害者だからな。引き渡す前に、こちらとしても調べておきたい事がある。
さて…貴様らの動機は何だ?」
「……いいロリがいたと思ったから攫った。」
「ほう、つまり乱暴目的という事か?」
「……ロリ?」
あ。
193 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/06/20(水) 04:13:04.34 ID:wOWVZ7vhO
「づほ、抑えろよ…。」
「うん、大丈夫…大丈夫だよ…。」
「くく…貴様らの攫ったこの子は、2×歳だがな。
だがどの道、貴様らのような外道の行き先は決まっている…もうじき貴様らの大好きなワンボックスが来るぞ?金網付きのな。」
「はぁ!?20代だぁ!?んだよババアだったのかよ!!」
「………………。」
空気が一気に重くなった。
づほはと言うと……あーあ…俺もう知らねえぞ…。
「………憲兵長さん、そいつの脚持ってもらっていい?
うん、もうちょっと股拡げて…そうそう、そんな感じ。
ふふ、九九艦爆と違って、全然可愛くない脚だね……真ん中の脚も憎たらしそう…
……死ねぇっ!!」
「______!!!!」
ぐしゃ…と、した音が聞こえた時、俺は思わず自分の股間を押さえた。
うわ…あいつ今日ブーツじゃねえか…えっぐぅ…。
「ふんっ!!ロリでもババアでも無いわよっ!」
「あはは……ず、瑞鳳ちゃん、大胆ね…。」
「翔鶴さん!女の敵に情けは無用!」
「はっはっはっ!瑞鳳君、なかなかやるじゃないか!」
「ははは……。」
194 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/06/20(水) 04:17:22.49 ID:wOWVZ7vhO
犯人達も無事逮捕され、づほも念の為に病院に搬送された。
残ってるのは警察と、俺達ぐらいなもの。
「では、事情聴取はまた後日で宜しいですね?」
「はい、ご協力誠に感謝致します。」
眼鏡が上手く話を付けてくれて、どうやら今夜は帰れるらしい。
ふー…何だか疲れちまったな…。
「乗って行くか?」
「そうですね…正直もう歩きたくもねえっす。」
そう助手席に乗ろうとすると、運転席の眼鏡にドアをロックされた。
後ろに乗れ?あぁ…なるほどね。
「隣、乗ってくか?妹は先帰らせたんだろ?」
「いいの?」
「……鎮守府に帰るまでがデートです。」
「…うん!」
あいつも疲れてたんだろう、短い距離ではあったが、すぐに眠っちまった。
俺はと言うと、ぼーっと窓を見るばかり。
…だから手に触れるものがあったのは、特に気にも留めなかった。
195 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/06/20(水) 04:19:28.02 ID:wOWVZ7vhO
“はーあ……ハードな1日だったぜ…。”
シャワーも浴びたし、ようやく愛しの我が部屋だ。
疲れた……このままベッドにダイブ…
「……おい、髪はみ出てんぞ。」
「だれもいませんよ。わたしはふとんです。」
「あー、何か固い所がいいなぁ。今日は床で寝るかぁ。」
もうダメだ、まともに追い出す元気もねぇ。
座布団を枕に寝入ろうとすると、ベッドの中からにゅっと手が出てきた。
おいでおいでしてる…いや、ちょっと怖えよ。
「かぜをひいてしまいますよ。ふとんへおいでなさい。」
………ま、そっちの方が疲れ取れるかぁ。
196 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/06/20(水) 04:21:22.98 ID:wOWVZ7vhO
「言っとくけど、何もしねえからな。変な事したら確保。」
「うん…わかってるわ。」
ベッドに入ると、人肌で暖まった布団が何とも心地良かった。
あいつは片腕に頭を乗せて、体を寄せてくる。でも、ただそれだけだ。
…懐かしいな、何か。
「約束は今日一日だもの。まだ終わってないわ。」
「俺が寝るまでが一日か。長えもんだな。」
「……うん。もう一度、こうしてあなたと眠りたかったの。」
「……そうか。おやすみ。」
この時俺は、いつかの昼寝を思い出してた。
あの桜の日だけじゃねえな…あの頃はよく、何するでもなくこうして昼寝してた。
会うのは大体道場や部活の後で、お互い疲れてる時も多かったもんな。
……懐かしい匂いだ。
気付けば隣から、すうすうと規則正しいリズムが聞こえてくる。
それに釣られるがまま、俺も段々と意識が遠のいて行った。
197 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/06/20(水) 04:22:54.75 ID:wOWVZ7vhO
寝る前最後に覚えてたのは、いつの間にか触っていた髪の感触。
そのまま朝になると、隣はもぬけの殻だった。
時間は…いつも通りか。
でも随分ぐっすり寝てたらしい、昨日の疲れもすっかり取れていた。
後に残っていたのは、あいつの匂い。
ゆうべ通りの懐かしさを払うように、俺はガバッと体を起こし、思わずぼやいた。
「……ったく、調子狂うぜ…。」
いつもより長く顔を洗って、ようやくそいつを振り払えた。
バカな上司と無茶苦茶な艦娘に振り回される、そんな一日が今日も始まる。
でも何となく、頭の中にはその匂いが残っていた。
198 :
◆FlW2v5zETA
[saga]:2018/06/20(水) 04:24:03.96 ID:wOWVZ7vhO
今回はこれにて終了。
次回から、いつもの頭の悪さに戻して行きます。
199 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/06/20(水) 15:36:23.74 ID:drHOiRGj0
乙
200 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/06/20(水) 15:50:23.41 ID:F9HQCXY5o
おつなのじゃ
201 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/06/21(木) 07:07:07.66 ID:PusqDkuj0
乙!
ずほ可愛い
202 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/06/21(木) 23:13:21.20 ID:pBwBfngMO
超乙!
づほ、自分の想いに自覚ありだったかw
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