【艦これ】 続 外地鎮守府管理番号88

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391 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/30(月) 00:37:21.36 ID:4HB+eitj0
また二重投稿やってしまった……
>>390は見なかった事にしてください
392 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/30(月) 00:41:21.40 ID:4HB+eitj0

艦橋内 作戦司令室


提督「前半戦は終了だ。こっから先はブラフをいかに効かせるか勝負だ。」

提督「配られた手札は変えれねぇ。不知火。被害報告を頼む。」



気合を入れるかのような独り言を一つした後、不知火からの報告を受ける。



不知火「撃沈ですが外周ピケット担当艦の駆逐艦娘が4名。

防空担当艦に2名。空母艦載機艦戦隊の損耗が搭載機数の5割です。」

提督「グラーフ達以外が結構落とされた感じか。」



精鋭揃いといえど規格外はほんの一握り。



提督「存外、被害が少なく済んでいるな。」

大佐「流石ですね。」

提督「えぇ、ここまで少ないのは後の作戦も有利に運べますからね。」



「General!」



大佐と会話をしている所に指揮官としてのジェネラル呼びで提督を呼び出す声がする。

提督「指揮官の少将提督だ。サラトガか?どうした?緊急事態か?」



所属はあくまで米軍。

その為指揮権を一時的に借り受けている形の為階級での呼び出しをしてくるとしたら

サラトガかアイオワのどちらかだろう。

そして、タイミングがグラーフ達へ夜間ハラスメントを指示しようかとしてのタイミングだった為

サラトガかと推測したのだが、それは間違いではなかったようである。



「サラの子も参加させていただいて良いでしょうか?」

提督「?」

提督「夜間攻撃機を所持しているなら是非お願いしたいが……?」



F6F-5Nといった機材は米軍から日本海軍へも供与されている。

わざわざ使用許可を取るような物ではないはずと頭で考えれば目の前の大佐がやっちまったの表情。

ははぁ、成程。



提督「大佐、新鋭機をお持ちですか。」


しかも夜間攻撃へ移ろうかというタイミングでの申し出。となれば夜間攻撃機で間違いない。


大佐「すみませんね、隠す心算ではなかったのですが。」


新鋭機ともなれば同盟相手でも出来れば秘匿しておきたい物だ。

この狸め、と思いながらどんな新鋭機が出てくるのやらとはやる気持ちを押さえ訊ねる。
393 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/30(月) 00:42:47.50 ID:4HB+eitj0


提督「サラトガは一体何を持ってきているのですかね?」

大佐「F7Fですよ。」



こいつぁ驚いたと提督が驚いた顔をして見せればしてやったりの大佐。

双発艦上戦闘機、それも夜間用とくれば3Nのレーダー強化型に違いない。

しかし、指揮権を借り受けているとは言え

秘匿しておきたい新鋭機をわざわざ自分に使用許可を求めてくる辺り……。

どうやら大佐も苦労してそうだと、なんとはなしに同情を禁じえない。



提督「うちにも是非、融通していただきたいものですな。」



明石のルートに出回ってないという事は完全に試作も試作。少数生産も良いとこの物。

何とは無しに明石の悔しがる顔が思い浮かぶ様である。




大佐「それは……、少将次第でしょうか?」



含むような言い方に言外の意図を悟る。



提督「休憩がてら甲板に出ますか。夜間攻撃はあくまで嫌がらせですからね。」

提督「グラーフ。」



レシーバーのスイッチを入れグラーフを呼び出す。


394 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/30(月) 00:43:55.02 ID:4HB+eitj0


グラ「Admiral、何か用かな?」

提督「夜間攻撃の指揮はお前に任せる。編隊の数が少ないから任せても大丈夫だろ?」

グラ「承知した。」

提督「頼む。」



提督から頼むといわれグラーフは瑞鳳隊の援護の為、自己艦戦隊の夜間攻撃機を上げる。



グラ「Adler隊は上空援護、Falke隊が下りてUhu(鷲ミミズク)隊があがってからだ。」



Uhu隊、その愛称を部隊名にそのままに艦載型へ無理やり改造した部隊。

He219改艦上型 双発夜間攻撃機であり機上レーダーを積んだ夜の愛し子。



グラ「さてと瑞鳳の方はどうであろうか?」

瑞鳳「大丈夫、彗星艦爆隊は準備万端なんだから!」



頭がおかしい狂人集団の中でも一際いっちゃってる搭乗員妖精が乗る艦爆隊。

彼らは夜間攻撃隊でありながら急降下爆撃もやるいかれ。



瑞鳳「がんがん殺っちゃうんだから!」

サラ「Hi ! Generalから許可をいただきました!サラの子も護衛しますね!」



といってもその武装は胴下パイロンに魚雷を一発抱える艦攻仕様でこちらも同じく殺る気まんまん。

血の気の多い姫達だとやれやれ感のグラーフ。

期せずしてここに独、日、米の夜間攻撃隊が揃い踏みとなった。

395 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/30(月) 00:45:29.28 ID:4HB+eitj0


強襲揚陸艦 甲板



提督「煙草を吸ってもいいですかね?」



相手からの承諾を得て手持ちの紙巻に火を点ける。

ふいと一息。



「それで 「まずはお話したいことが。」」



二人同時に話始め。どうぞどうぞと譲りあった後、提督から話が始った。



提督「米軍は私達からの応援要請がなくても自分達だけで出撃される心算だったんではないですかね?」



無言の肯定。



提督「うちの不知火がそちらに救援への援助打診をした後が早すぎたのが気になりましてな。」

提督「あらかじめ準備済みだったという気がしてならんのですよ。」

提督「それが悪いとか言うつもりは一切ありませんし

   寧ろ大助かりな現状をみれば何ゆえにそれを備えていたのかを伺えないですかね?」



暫しの間が空き。



大佐「成程、ペンタゴンの分析通りのお方のようですね。」



CIAではなくペンタゴンね。と心の中でごちる提督。



大佐「我々は現在救援に向っている拠点が敵に襲撃を受けていた事は事前に把握していました。」

大佐「ですが、そこはそちらの海軍の拠点であり我が国が同盟国であったとしても。」

提督「勝手に救援を派遣するのは侵略行為と他の国にとられかねないでしょうね。」



そう、仮に同盟相手が攻撃を受けていたとしても救援の要請が無い限り

勝手に動けばそれは内政干渉であり侵略行為の烙印を押されかねない。



大佐「我が国が攻撃を察知した時点でそちらの上層部、軍、政府双方へ

   外交ルート等を用いて救援の必要性を説いていたのですよ。」



はて?ならば何故軍令部が把握していなかった?

単純な疑問が思い浮かぶがそれの答えは提督が口に出す前に大佐が答えてくれる。

396 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/30(月) 00:46:44.52 ID:4HB+eitj0


大佐「我が国は少将提督の国の上層部に強い懸念を抱いています。」



成程、つまりはそういう事か。



提督「情報を止めた連中が居ると。それも思いもかけないような上の方に。」

提督「それでは、独自に私が救援に出ると言う話を持ちかけたのは渡りに船だったという事ですか。」

大佐「その通りです。因みに我々の方でも救援に向う上で日米合同の形を取りたかったですからね。

   その上で少将提督の鎮守府に出撃していただきたかったと言うのはあります。」

大佐「そして、今後を見据えて我が国の利益を守る為にも少将提督には協力者であって戴きたい。」



本題が来たかと思う提督。

そして、成程なと得心。

言葉の端々に大佐が同じ軍人でもエスタブリッシュの出身臭い教養を感じては居た。

米軍人としての出世コースの一つである潜水艦乗りとしての知識、

かと思えばミュージカル等の文化教養も備えている。

加えて自分より随分と若そうでありながら中将の補佐として観戦武官も勤め上げる。

397 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/30(月) 00:49:42.12 ID:4HB+eitj0


提督「質問ばかりでなんですが大佐はTIMEの表紙を飾られるおつもりですか?」

大佐「今ではなく4年後に。」

提督「州知事?上院議員?どちらの道を進まれるおつもりですか?」

大佐「はははは。少将提督は実に聡いお方だ。」

大佐「今後とも、どうぞ良しなに。」



質問への答えをはぐらかすように握手を求める手。だが、答えは既に出ている。


398 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/30(月) 00:50:46.99 ID:Cs8Z4y0/O
乙です。
更新されてないか毎日確認するのが日課になる程楽しみにしてました。 良かった〜

人間なんだからミス位しますよ、気にしない気にしない。


399 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/30(月) 00:51:52.17 ID:4HB+eitj0


提督「えぇ、今後とも宜しく。

それで今後も仲良くする為に教えていただきたいのですが

この船の乗員は海兵隊の者が多いようですが拠点救出後は制圧作戦でもするつもりなのですかね?」

大佐「必要とあらば。体つきで分かられましたか。」



同じ軍人でも特殊部隊員と一般機関員とではやはり色々違い、ろくでもねぇと思うが。



提督「何ゆえにかの理由をお教えいただけないですか?

まさか星を1つ増やす目的ではないでしょう?」

大佐「この救援作戦は南太平洋での潮目を変えるのは間違いないでしょう。」

大佐「南太平洋一の大国との航路が復活すれば資源や食料、その他色々の輸出入が活発化します。」

提督「パワーバランス、軍事ではなく経済の方での問題ですか。」

大佐「えぇ、我が国がこれからも優位を保ち続ける為に。」



えげつない。敵からの監禁が味方からの監視付監禁に変わるだけか。

とはいえ解放した後の海上航路の護衛を向こうが引き受けてくれると言うのなら利用しない手は無いだろう。

日本に余分を裂くだけの国力は無い。



提督「我が国の担当をきちんと同席させてケーキの配分にありつけさせていただけるんでしょうか?」

大佐「もちろんですよ。」

提督「公文書館に残る形でお願いしたいもんですね。」



口約束では困る。



大佐「決定権のある上に上申しておきましょう。」


ここまで準備出きる権限を与えら得ている人物の上。

恐らくはアメリカという国を一人称で語れる人物。

大佐の後ろ盾を垣間見たようで少し背筋に冷たいものを感じる。



大佐「余計な詮索はおよしくださいな。お互いの為にも。」



そういい残し大佐は艦内へと帰って行った。

深く、ちりちりと煙草が一気に燃え尽きるまで肺に煙を送り深く深く吐き出す。

そして、兎型の携帯灰皿で火を消す。



提督「予想以上にこっちの尻に火が付いている状況か。」

提督「ろくでもねぇ。」



吐き捨てるように呟くと提督もまた艦内へと戻っていった。


400 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/30(月) 00:59:58.55 ID:4HB+eitj0
レス数を抑える為に1レスに詰め込もうとすると改行のしすぎって怒られますのん……
今回の更新はこれにて終了です、当初の予定が大幅に狂っています、ごめんなさい、まだ結構続きそうです
計画性の無さが露呈していますが宜しければ今後もお付き合いいただけると幸いです。



次回嘘予告他

どこかの鎮守府

大淀「提督が死んでいる!」

明石「……、頭を鈍器で殴られたようですね。」

明石「これは…、南瓜?」

大淀「まさか!?」

涼月「てっ提督がわるいんですよ…。」

涼月「南瓜はもう飽きたって言われた提督が……。」

88鎮守府

提督「上官を撲殺。」

不知火「ですが対空に関しての戦績はなかなかのようです。」

提督「何が原因なんだ?」

不知火「痴情のもつれと書いてありますが。」

提督「困ったもんだ、まったく。」

こうしてまた問題児が一人地獄へ着任した。


Q1 グラーフの艦載機は最新鋭なのに何故瑞鳳の機体は零戦なんですか?

A  敵に体当たりして壊す事が多いのでその度に買い換えていたらお高くなる為コスパ優先だからです

Q2 サラトガの機体はどうしてF7Fなの?もっといい機体あるじゃん!

A 双発機のロマン優先です。
  またF8Fの夜間攻撃機もありますが調べている上で武装がロケット弾等になっていた為採用を見送りました


感想、応援レスいつもありがとうございます!いつも楽しみにしています!よかったら気軽にレス下さい!(レス乞食)
以上で本当に更新終了です、ではまた次回の更新でお会いしましょう!
401 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/30(月) 01:04:54.18 ID:4HB+eitj0
エリア88モチーフなので空戦描写をどこかで入れたいと思ってやりました後悔はしてないです
燃え系のSS増えないですね、追っかけてた方のまた止まっているし……
増やす為にはまず自分からの意思もあり書き始めたものの別のところでやったほうがいいのかしら……
萌え系SSは多いのだけど、なぜでしょうねぇ……、ぐぬぬ
需要が少ないであろうSSにお付き合いいただいている皆様に改めての感謝です
402 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/30(月) 11:43:01.59 ID:C719rEF5O
確かに燃え系は少ないねぇ
だからこそここを楽しみにしてるのもあるんだけど
あとうーちゃんに出番あって嬉しかったw

おつ!
403 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/30(月) 11:58:55.93 ID:Cs8Z4y0/O
乙です。
萌え系が多いからこそ、この燃え系が際立ってます。

更新されてるのが嬉しくて、作者殿が投下してる時にコメ打ってしまい作者殿、読者の方々申し訳ありません。
404 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/30(月) 16:50:15.79 ID:eFB3GoitO
グラーフの妖精さん達は、あの姿でこの会話をしているのだろうかw

ずほの妖精さん達は薩人マッシーンじゃないですかーやだー

戦場にいるシェフとかもうアレじゃん!
勝ち確じゃない!


とツッコミ満載で楽しかったです。
405 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/30(月) 18:36:17.82 ID:QVQRpYBUO
だが待ってほしい。沈黙の戦艦だった場合乗ってる船が……
406 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/30(月) 19:11:31.66 ID:Cs8Z4y0/O
405>>
あれはマズイ料理作るコックのおっちゃんだったからヘーキヘーキ
407 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/30(月) 20:34:11.71 ID:q8mFYEtB0
空戦中エクスクラメーションマーク山盛りだったけどちょっと多すぎで熱くなるより軽くなってしまった感w

大佐の取り扱いは至難を極めそうだなあ、提督が目を離したらあっという間に内地に食い込んでいそう
乗りたくもない御輿に乗せられんように気をつけないと
408 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/30(月) 22:07:28.93 ID:S7i/OmjHO
番外編でうーちゃんの1日が見たくなった
仕込み終わったら何してんだろね
409 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/31(火) 20:58:08.72 ID:i9bYQBct0
新谷世界にはファントムで木の葉落としやるイカレ自衛官がいたなそういや
410 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/06(月) 09:59:36.89 ID:aKOmevrqO
薩人マッシーンが居るってことはだ。

筋肉モリモリマッチョマンの変態な妖精さんも居る可能性が?

セガールは鎮守府にいたし
411 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/06(月) 12:51:41.83 ID:q/J8+Z29o
ちょっとエリアが違うと変態仮面もいるからなぁ
412 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/12(日) 09:09:35.72 ID:Rhs3aauG0
空母の夜戦のダメージだと夜間ハラスメントって良い表現かも
413 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/12(日) 23:56:04.74 ID:G/dalB0W0
夜になっても気温が落ちない……
毎日暑いですね、頭に話は浮かんでもなかなかアウトプットにまで時間が掛かる……
本日の更新に参りました、お時間宜しければお付き合い下さい
414 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/12(日) 23:57:54.04 ID:G/dalB0W0


強襲揚陸艦付近 海上



グラ「夜間攻撃に出ている部隊が敵と接触するまで少し時間があるか。」

グラ「サラトガに瑞鳳、よかったら珈琲はどうかな?」



無線での珈琲ブレイクのお誘いに二人がグラーフの元に集まる。



瑞鳳「流石グラたん。珈琲美味しいね!」

サラ「うぅ〜ん。実にperfectな味です。」



夜間攻撃隊を出しているのは3人だけであり

その管制を行う者が一箇所に固まるのは良くないのだが。



瑞鳳「南の海でも夜は少し冷えるね。」

グラ「ならば私のマントを貸そう。」

瑞鳳「やだ、グラたん。天然スケコマシなんだから…… /// 」

瑞鳳「そういう所愛してるぅ〜 /// 」ダキツキ



ポーン!



グラ「あぁ、ありがとう。さてと、とりあえず、

   此方の部隊が敵に届け物をするより先にお客さんがお越しのようだ。」

サラ「確かに、電探に機影が幾つか反応しているようですね。」



ウェラブルグラスに新たに表示される敵編隊襲来の報。

先遣隊と接触することなくどうやら上手くすれ違ったようである。

抱きついてきた瑞鳳を体から剥がしながらサラトガのほうに向き直る。



グラ「こちらに夜間攻撃機があるなら当然相手にもあると考えて当然であるな。」

サラ「でしたらサラにお任せいただけますか?」



ふわりとスカートの裾をたくし上げる。

415 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/13(月) 00:01:21.03 ID:tMhG3Ubb0


サラ「サラはお茶会を邪魔する不埒な深海棲艦を許しましょう。」



あら大胆と瑞鳳が感想を漏らす間に

スカートのドラムマガジンをトミーガンに模した射出装置に嵌める。



グラ(ほう、心が広いのだな。)



思ったよりまともなのかなとグラーフが感想を抱いて直ぐ後。



サラ「だが!このトミーガンが許すかなぁ!?」



憤怒の相をしたサラトガがサブマシンガンをぶっぱなし始める。



グラ  ブフォー 

瑞鳳  ブハー



サブマシンガン特有の弾のばら撒きが始まり強烈な音が

けたたましく空間に響き渡り艦載機が顕現し夜空へと消えていった。



サラトガ「ふぅ〜、快感 /// 」



一仕事やりとげた。そんな晴れやかな顔を見せるサラトガ。

夜の闇にF6F-5Nが舞い上がり溶け込み消えていく。

暫くすれば仕事をきちんとこなしているのか方々で火の手が上がるのが見える。



グラ「ふむ、私の部隊とスコア勝負をしようというのか。面白い。」

グラ「見せてもらおうか。合衆国の夜間攻撃機の性能とやらを!」



どうやら艦隊の上空警戒として先に上がっていたグラーフの夜間戦闘機と

サラトガの夜間戦闘機の搭乗員同士無線での会話で撃墜数勝負をする事が決まった様である。

しかして30分もすれば勝敗が決まる。



サラ「Oh My God …… 」

グラ ンフ― (ドヤッ)

416 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/13(月) 00:01:46.76 ID:tMhG3Ubb0


このドイツ人!新人への容赦なし!



グラ「さてと、勝負であったからな。」



ずいと差し出すのは手袋を嵌めた両手。



サラ「これを差し上げたのは内緒にしてくださいね。」

グラ「勿論だ。」ンフー



勝負に勝ったグラーフはサラトガから夜間戦闘機F6F-5Nをカツアゲ、

ではなく善意で1機、コレクション目的で受取っていた。

417 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/13(月) 00:05:58.72 ID:tMhG3Ubb0


グラーフ達が迎撃に当たっていたその頃、

提督は艦内でせわしなく作業をしている明石を見つけ色々打ち合わせを小声で行っていた。



明石「流石アメリカ級ですね。

   艦内に手術室やらまぁ、まぁ、色々充実してますよ。」

提督「ワスプ級の拡大発展型だからな。その辺も数は増えているだろうさ。」

明石「キッチンがちょっとしょぼいと感想も聞きましたけどね。」

提督「あいつは料理……、そうだな料理が生きがいだからな。」

明石「たまに料理に違う意味も混じってきますがそれは置いておきましょう。」

明石「ところで提督はどういった御用ですか?」

提督「分かっているんだろ?俺はこいつの簡易ドックのシステムが欲しい。」

提督「データとして持って帰れそうか?」

明石「流石に提督は悪ですねぇ。御参考にどう使うか教えていただけます?」

提督「コンテナモジュール化できないかなと思っているんだ。」

明石「ははぁ、成程。」



提督の考えはこうだ。簡易入渠施設を海上輸送に使用される

12フィートコンテナに納まるように改造、

ひとつのユニットとして独立させるという物である。

コンテナという規格の中に押し込めることで簡単に運搬、展開が出来るようになる。

こうする事で貨物タンカーや鉄道貨物、あるいはトラックに載せて海上、陸上。

場合によっては貨物輸送機からの現地への投下。

すばやく艦娘を展開する為に必要不可欠な修理施設を設置可能になるという考えなのだ。



提督「コンテナでモジュール化しておけば

   貨物タンカーが移動鎮守府として使えなくもないだろ?」ニヤリ

明石「提督の考えはどちらかというと見た目の偽装に重きが置かれているようですがね。」ニヤ

提督「お前には敵わねぇな。」

明石「付き合いが長いですからね。」

提督「じゃぁ、まぁ、そういう訳だ。頼むよ、あぁ、それから飯について何か聞かれたら

   あいつには艦橋に持ってきてくれと伝えておいてくれ。」

提督「あとな、他にもぶっこ抜いてるデータ、ばれない様にしとけよ?」

明石「勿論ですとも。」



去り行き際に小声で注意する提督に同じく小声で返す明石。

悪巧みは計画的かつ内密にという奴なのである。


418 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/13(月) 00:09:02.64 ID:tMhG3Ubb0
艦内をぐるりと色々見て回って後。

提督は艦橋にある作戦司令室へと帰って来た。



提督「いやぁ、休憩ついでに物見遊山とばかりに
   
   艦内を散歩してきたのでお待たせしました。」

大佐「いえいえ。私のほうは先に夕餉をいただいていますよ。」

大佐「実に腕前のいいコックをお持ちですね。」

提督「料理の質は士気に直結しますからね。」

不知火「司令。グラーフさんから此方に襲撃をかけてきていた

    敵夜間攻撃隊の迎撃を完了したとの報告が来ています。」

提督「敵に追加を出す余裕は無いだろうが一応第二陣、第三陣の可能性もあるから

   気を引き締めて引き続き警戒に当たるよう指示を出してくれ。」

提督「防空担当連中はどうだ?」

不知火「現時点での追加の撃沈は出ていません。

    また、長門さんを始めとする別働隊には出撃をしていただきました。」

不知火「他にも再度の補給が必要だった娘達には補給をすませ

    夜間のうちに交代で休憩に入らせています。」

提督「敵の機動部隊との接触は?」

不知火「現在の速度のままですと明朝、夜明けと同時くらいです。」

提督「払暁戦か。」



日の出、日の入りの時間というのは敵味方双方の判別がしにくくなる為本来は避けるのが定石。

当然ながら提督達所属の艦娘や使用艦載機に敵味方判別装置を積んではいるものの

空母艦載機は発着艦はしにくくなったり艦娘は視認性が落ちるなど積極的に仕掛けるべき時間帯ではないのだ。



提督「グラーフ達の夜間攻撃隊がどれくらい嫌がらせを出来るかが重要そうだな。」

大佐「夜間ハラスメントですか。」

提督「その重要性についてはお国でしたらお心辺りがあるのでは?」



ベトナム戦争時、ベトナム兵狙撃手による連日の夜間襲撃に業を煮やした米軍が

山一つを大量の軽機関砲に対空砲で禿げ山にしたのは軍事界隈では有名なお話。



大佐「眠らさせてもらえないというのは判断能力が落ちますから。」



苦笑しながら返事を返す大佐。



大佐「私どものサラトガも仕事をしてくれるでしょう。」

大佐「それに期待する事にしましょう。」

提督「ですな。」

提督「で、敵の機動部隊を叩いた後の話なのですが、敵の物資集積所。」

提督「デポを叩く方を優先します。」

大佐「敵の糧道を断つのは戦争を行う上での初歩ですしね。」


419 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/13(月) 00:11:20.23 ID:tMhG3Ubb0


再び強襲揚陸艦付近 海上



グラ「さてと、そろそろか……。」



機上レーダーが敵の艦隊郡を捉え巡航高度から

一気に敵艦隊に向け高度を下げ始める夜間攻撃隊。



グラ「サラトガ、一番槍は譲ろう。盛大に花火をあげてくれ。」



3人の夜間攻撃隊は艦攻、艦爆、艦戦の役割分担。

蝿叩きがグラーフの仕事ならば。



サラ「Okey−dokey  まずは、定石どおり外周から、ですね!」



野戦攻城、蟻の一穴。

艦隊布陣を城に見立てるのであれば

城の本丸に陣取る大将とその護衛を引き吊りださねばならず。

城に籠もられていては倒せない。

その為にも外堀、石垣に相当する外側を突き崩し。

野戦に持ち込まないといけないのだ。



グラ「敵に祈る神が居るとすれば祈る時間が来たようだな。」



敵艦隊上空に展開する夜間警戒機を叩き落しながらグラーフがポツリ。



サラ「No、深海棲艦達の神は留守です!」

グラ「?」

瑞鳳「?」

サラ「休暇を取ってベガスに行っていますから。」フフン

得意げにドヤ顔をするサラトガ。

グラ「成程、それは痛快だな!」

瑞鳳「うふふ。瑞鳳艦爆隊、がんばっちゃうんだから!」



グラーフ達の夜間攻撃は徹底して外側のみに集中して行われた。

陣形内側にまで浸透攻撃をする必要性は零だから。

嫌がらせ、ハラスメントは敵の神経を逆撫でする事に意味がある。


420 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/13(月) 00:17:07.85 ID:tMhG3Ubb0


深海機動艦隊



駆逐「くそう!陣形外側の駆逐ばかり!」

駆逐「いや、駆逐だけを狙って?」

駆逐「そんな!いや、これは明らかに駆逐のみを狙っている!」



駆逐艦という艦種は一番使い捨てになりやすいが実の所、

一番数が居ないと駄目な艦種でもある。

数が多いが故に多少の損害も甘く見られがちだが……。

補充が利きにくい状態での損害は致命傷となり易い。



駆逐「敵の攻撃は一方向に集中されている…。」



輪形陣内の空母達で夜間攻撃可能な者達に迎撃に向わせるも。



駆逐「逃げられた!?」



蝶のように舞い、蜂のように刺す。

その嫌がらせはヒットアンドアウェーの徹底。



瑞鳳「盆の迎えに、ちょいと早いが、迎え火一つ、点けましょう〜♪」



軽い鼻歌、それこそ近所のコンビニへ買い物にでも行くような気楽さで指示を出す瑞鳳。

この瑞鳳が敵にとって最悪なのは

サラトガ隊の魚雷が当り火が灯れば損害無視の艦爆隊を突っ込ませる事。



駆逐「外周のナ級達が……!」



そして。



駆逐「うっ、眩しい!」



嫌がらせとばかりに落とされる照明弾。

夜の暗さに慣れてきている所に照明弾の強烈な光は目に刺さり、

同じくついでで音響爆弾も落としていく周到さ。



駆逐「味方同士での砲撃は止めろ!」



どんどんと響く音をすわ敵からの砲撃かと

勘違いした愚か者が音のするほうへと砲撃を開始する始末。
421 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/13(月) 00:17:35.31 ID:tMhG3Ubb0


駆逐「おのれ!おのれぇ!!」



波状攻撃での嫌がらせは自分達への物理的被害は少ないが。



駆逐「艦隊全艦は敵の再度の夜間襲撃に備えろ!」



残存艦全てに指示を飛ばし緊張を持って夜間警戒に当らせる駆逐棲姫。

夜間攻撃に対して予め備えており警戒はさせるものの交代で休憩をさせる事の出来た提督達と

艦隊全艦で休憩を入れる事無く敵からの再襲撃に備えた深海棲艦達。

その差が出るのはもう、間もなくである。
422 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/13(月) 00:19:12.76 ID:tMhG3Ubb0


提督達が駆逐棲姫達の機動艦隊へ向け針路を取っていた丁度その頃。

また幾つかの部隊が海上を夜陰に紛れ移動をしていた。



時雨「ねぇ長門。」

長門「どうした?」

時雨「ゴーヤ達の報告を考慮して

   敵の機動艦隊指揮官は何人くらい残っているかな?」

長門「そうさな提督達が向っている機動艦隊については少なくとも1名。」

長門「多く見積もっても2名ほどだろうさ。」

川内「そんなものなの?意外に少ないんだね。」

長門「あぁ、敵の攻撃パターンからいって

   あまり機動艦隊に置ける艦載機の扱いになれていない節がみてとれたからな。」

長門「敵が指揮艦へ攻撃を仕掛ける際の攻撃が3方向からだった。」

長門「外周配置のレーダピケット艦……、本来のレーダーピケット戦術とは違うんだがな。」

長門「まぁ、とりあえずでの問題ではない、電探での早期警戒艦と思ってくれ。」

長門「艦隊の頭脳をやるつもりなら処理負担を増大させ

   処理落ちさせるのが教本通りでの攻め方になる。」

時雨「そうなんだ。」

長門「あぁ、戦術的な話をするのであれば艦隊の目を潰すのが最優先だ。」

摩耶「確かに敵の偵察機やら電探持ちを落すのは重要だもんな!」

423 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/13(月) 00:21:10.44 ID:tMhG3Ubb0


長門「それを考慮すれば敵がとるべき攻撃は一方向に飽和攻撃をしかけ

   一点突破を目指すやり方が正解だったんだ。」

時雨「でも、それを取らなかったんだね。」

瑞鶴「だから機動艦隊の指揮に慣れていないものが指揮官であると判断できたわけね。」

長門「そういうことだ。」

瑞鶴「じゃぁさ、なんで最大で2名なの?」

長門「それはこの周辺海域の状況からの話から説明しないといけないな。」

川内「結構面倒そうだね。」

長門「まぁ、聞いてくれ。

   今回敵が割ける指揮官クラスの人員としては前線から後方支援まで考えても最大10名ほどだ。」

長門「これ以上を割くと他の戦線の支障が出るギリギリだな。」

長門「その中で前線に遅滞なく物資を送る補給線の構築を考えると

   最低で2名以上は集積地の拠点守備に回さなければならない事、

   前線での攻撃と攻撃地点以外の各鎮守府への牽制に必要な人数を考えていけばだ。」

長門「機動艦隊にまわせる指揮官クラスは2名から3名。

   その内の1人についてはゴーヤ達が仕留めている為、

   最大2名と結論づける事が可能という訳だ。」
424 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/13(月) 00:22:57.84 ID:tMhG3Ubb0


時雨「流石だね。」

時雨「それで、今、僕らが向っているのは?」

長門「大小幾つかあるなかで

   敵にとってやられると痛いであろう集積所だ。」

摩耶「でもまぁ、本当にあるのかねぇ。」

長門「この周辺の海域図と以前から掴んでいる敵泊地に拠点。」

長門「それらから割り出した凡そこの辺りにあるだろうでの位置だからな。」

長門「我々の部隊かウォースパイト達の部隊のどちらかが壊滅させればいいさ。」

摩耶「まっ、私としちゃ出番があればそれでいいけどさ。」

瑞鶴「島風の死を無駄にしないためにも派手に暴れてやろうじゃない!」

長門「提督曰く、敵の退き口を潰す為の布陣だそうだ。」

時雨「相変わらず提督の考えはえぐいや。」

川内「まぁ、敗軍の将っていうのは必ず討ち取るべきだからね。」

時雨「そうだね。」

川内「負けた相手を逃がせば相手は臥薪嘗胆の思いで復讐に帰ってくる。」

川内「それも前回の負けを己の糧として一回り強くなって帰ってくる。」

摩耶「あぁ、そうだね。そいつだけはいただけない。」

瑞鶴「負けは人を強くするもんね。負けを知らない奴はここぞという時が弱い。」

瑞鶴「ぎりぎりの戦いをする上でそういう心が弱い娘とは組みたくないわ。」

長門「同感だ。まぁ、ここに居る者達には心配はないと思うがな。」

長門「我らを送り出した提督はなんと言ったって人生の負け組みだからな。」

時雨「それは本当かい?」

長門「あぁ、勿論だ。でなければ88鎮守府の提督なんかやっていないだろうさ。」

川内「じゃぁ、敗北の味を知っている提督が指揮を執る私達が勝つというの当然かー。」

摩耶「まっ、そうだろうさ。」



ここで一同大笑い。



長門「天国の扉は開いた。」

長門「後は我々が階段を上らせてやるだけだ。」

瑞鶴「ふふふ。良いわね。それ実にいいわ!」

長門「全員、気を引き締めて掛かるぞ!」



応とその場に居た者達が全員が応じる。

この戦いにおける天王山の訪れはもう間もなくである。


425 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/13(月) 00:29:07.01 ID:tMhG3Ubb0
本日の更新はここまで
次回から話のタイトルが変わります、といっても単なる続きに繋がるだけですが…
後編が長く無計画に続いちゃっているので仕切りなおすべくタイトルだけ変更
次回から天国の階段編へとつながります、尚、雪風はウォースパイト、北上、ポーラ組みと行動しております
乙レス、感想レス、いつもありがとうございます、色々勉強になるレスも頂く事があり感謝です
空中格闘戦の部分が空回っていたとのレス、申訳ありませんでした
量を減らすべきだったかと頂いたレスを見直して反省です
関係ないですが、点滴を受けている間の時間って何も出来ないで暇ですね
皆様、体調にお気をつけください、以下、もう少しだけ瑞鳳を採用するか隼鷹を採用するかで迷っていた際に書いた
隼鷹の艦載機発艦シーンのみを投稿させていただきます、ここまでお読み頂きありがとうございました
426 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/13(月) 00:34:51.11 ID:tMhG3Ubb0

酒瓶に口をつけ、くぴりと一口。

肺活量を活かし全開噴射。

あたりに酒精の香りが漂う中。

軽空母隼鷹はばさりと音を立て一巻の巻物を豪快かつ手荒に広げた。



隼鷹「剛気詔(ごうきみことのり)!」

隼鷹「黄泉の国の国主、洗鼻神、建速須佐之男命の名において召還す!」

隼鷹「黄泉より英霊、今、舞い戻り我が兵となり敵をニライカナイへ案内(あない)せよ!」

隼鷹「一二三四五六七八九十、布留部 由良由良止 布留部、布留部 由良由良止 布留部」

隼鷹「勅命! 英霊召還 急急如律令!」



死者蘇生の詔。

酒で場を簡易的に清め召還術式の発動。

陰陽師型軽空母の発艦儀式。

ぽうと巻物に挟まれていた人型に切られた式神が光り始める。

詔をあげる必要性から少し発艦に時間は掛かるが。

読み終えてしまえば一度に全機発艦が可能となる。



隼鷹「全機! 発艦!」



轟と一度に全機が上がる様は正しく圧巻。



隼鷹「何度やってもこの瞬間はたまんないねぇ。ヒャッハァー!」



彼女もまた、88鎮守府の特色ある一人なのである。



※途中の言上は布瑠の言(ふるのこと)をそのまま使用しています
 読みとしては ひと ふた み よ いつ む なな や ここの たり、ふるべ ゆらゆらと ふるべ
 中二漫画で巫女さんが割とよく使う詔でお馴染みでしょうか?

格好いい隼鷹さんを演出したかった形になります、以上ボツネタでした。
427 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/13(月) 01:52:01.05 ID:/FA5Tqqu0
陰陽道寄りの古神道か
428 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/16(木) 20:16:17.79 ID:eBmgxYMsO
続きを待ち焦がれるss です。
429 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/17(金) 10:32:11.95 ID:4/sjaTWnO
九字で召喚する艦娘も居るんだろうか
430 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/27(月) 23:33:31.85 ID:5tYPiHSO0
Html化で海域リセット!皆様、どこまで再解放されていますでしょうか?
やっとさ6-4まで辿り着きましたが相変わらずの糞さ加減にストレスマッハでございます
秋津洲は鬼回避するのになにお前さん達はなに大破してるんですかねぇ……、とイライラしだしたら止め時……
左ルートはCマスが鬼門かつお祈りポイント、仕方ないです
では、久しぶりの更新をさせていただきます
431 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/27(月) 23:37:08.94 ID:5tYPiHSO0


おまけ日常編  とある料理長のお品書き




「うし、夜間の人達への引継ぎ分の仕込みも終了。」

「さぁてと、今日は露助リクエストの食材を買いに市場へいきますかねぇ。」



パンと糊の利いたエプロンを叩き、着替えを終えると明石達の工廠へ。



明石「あっ、こんにちは。今からですか?」

「うん、司令に許可貰ってるからね。市場に買出し。」

秋津洲「預かっていた包丁の研ぎなおしも終わってるかも!」

「自分で研いでいてもやっぱり何回かに一回は研ぎなおしにださないと切れ味が落ちるからね。」

「見せてもらっても?」

秋津洲が店の奥からいかにも業務用といった包丁を数本抱えてやってくる。

秋津洲「切れ味はこんなだよ!」



ぷつりと自分の銀髪を一本抜いた後、ふっと風に乗せる秋津洲。

その髪は風にのり包丁の刃先に当った髪は抵抗なくさっくりと二つに切れた。



「いい仕上がりだね。」

明石「この包丁で斬られた人は斬られた事に気付かない事を保障しますよ。」



その切れ味、名刀級。



「市場で持ち歩くわけには行かないからね。買出しからの帰りに受取るよ。」

秋津洲「よろしくかも!」



そして、分かれた後、拠点から少し離れた所にある巨大な市場のある島へ。

432 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/27(月) 23:39:24.73 ID:5tYPiHSO0

雪風「護衛、いります?」

「まー、司令官が付けとけって言うからさ。」



脱走を危惧という訳ではなく行方不明を危惧してである。

脱走は無い訳では無いが脱走は確定と同時に高額賞金首へ変貌。

それもあり、艦娘によっては作戦中にわざと隙を見せ

懲役組みの脱走を誘発する者もいたりとなかなか闇が深い。

そして、行方不明というのも作戦中に脱走ではない原因で消える事もあるという事なのだ。



「まー、艦娘やめているとはいえ私ってば、か弱い乙女だからさ。」

雪風「よくいいますよ。」



見た目こそ少し成長した中学生くらいの少女とその妹らしき雪風。

ただ、危険度は歩く核弾頭。



「雪風はこういうのどうなの?」



雑多とした市場ならではの衣類のまとめ売りダンボール箱の中からぴらりと見せる女性物下着。



雪風 ブフォォォーッ



なんだ、その反応、乙女か。



雪風「ゆっ、ゆきかぜにはまだ、早いと思います……。」



顔を真っ赤にし手で顔を覆いちらちらとこっちを見る雪風。

ちくせう、萌え死にさせる気か。



「でも、司令官ってこういうの好きそうだよね。なんかむっつり系なエロ?」

店主A「それなら箱1つで10ドルだよ?」



超安値。



雪風「10……、10ドルですか……。」ムムッ



鎮守府の定期便で足りない物を買いに来ることもあれば。

休暇中の艦娘が複数人数で相互監視のもと、市場に訪れる事もある。

あるいは、作戦が終わっての帰りに市場の露店で一杯と割と自由でもある。

ついでに言えば周辺海域の治安維持も88鎮守府が担っているといった

様々な事情も有り市場の人達とは大体が顔見知りでもある。

その為か気さくに声をかけられることも多い。


433 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/27(月) 23:40:03.36 ID:5tYPiHSO0

「結構安いのね。」



セクシーランジェリーの部類になるのだが予想外の安さ。

10ドルという言葉を呪文のようにぶつぶつと繰り返す雪風。



「これは童貞殺し。」



いわゆるタンキニという奴が箱から覗いていたので引っ張り出し雪風の眼前にちらり。



雪風 ブフォ ――― ッ



なるほど、戦場の鬼神と言われる雪風にも弱点はあるようだ。

少し意地悪をしてみたくなるのも性という奴である。



「こんなのどうよ?」

雪風「あっ、それは天津風さんが着用しているのを見たことあります。」



Vストリングなのだが、まじか、あの痴女。



雪風「随分前に所属していた所での話ですが。

   上官であるしれぇが強要していたんですよ。」

「あぁ……。」

雪風「当時の雪風に今ほどの力があれば事故死して貰っていたんでしょうけれどね。」



ちょっと嫌なことを思い出させてしまったらしい。

434 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/27(月) 23:41:14.92 ID:5tYPiHSO0

店主B「おーい、料理長。いい加減うちの店に来てくれよ。」

「ん?おう!おっちゃん。ごめんよ!忘れていた!」



少しばかり重くなっていた空気を読まずに声をかけてきた精肉店の店主へと向き直る。



店主B「和牛を輸入するのは大変だった。」

「その分の金は払っているでしょ?」

店主B「いただく物はいただいているからね。」

重そうに店主Bが肩から下ろしたのは。

雪風「今日のメイン食材ですか?」

「そ、露助からのリクエストに使う食材。」

「司令官に正規の手続き踏んで申請してきてたからまぁ、応じてあげようかって所。」

「故郷の味が食べたいってね。」

雪風「故郷ですか。」

「木の股とかから生まれたのでなければ誰しも故郷と呼べる場所くらいはあるさ。」

「いい思い出にしても悪い思い出にしてもね。」

雪風「そう、ですね。」



少し思う所があるのか小さく首肯する雪風。



「そのダンボールの衣類は私が雪風に買ってあげるよ。高いもんでもないしさ。」

雪風「えっ!?いいんですか!?」



なんだこの喜びようは小動物か。



「後は、頼んでいた香辛料を受取って帰るよ。」

雪風「はい!」



大き目のダンボール箱にブロック肉が入ったクーラーBox。うん、なかなか量がかさばる。



店主A「台車を貸してあげよう。ちょっと待ってて。」

「ありがとうね!」

店主A「台車は次回にでも返してくれればいいから。」



そういい店主Aは何処かへと去っていった。

大きな荷物を抱え店主Aの帰りを待つ二人。

435 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/27(月) 23:42:19.59 ID:5tYPiHSO0


「ちょっと道の横に避けていようか。」

雪風「そうですね。」



通りの邪魔にならないように荷物を避けていた時に事件は起きる。



チンピラ「あいたたたぁ!」



雪風がどけたダンボールにわざとらしくぶつかり大げさに痛がるチンピラ。

そして、そこに台車を持って戻ってくる店主A。



チンピラ「これは治療費と慰謝料をもらわねーとなぁ。ガキ共よぉ。」

チンピラ「両方あわせて1000ドルで我慢してやるわ。」

店主A「オイオイオイ。」

店主B「死んだわあいつ。」


436 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/27(月) 23:43:21.27 ID:5tYPiHSO0


1分後



雪風「1000ドル分の治療費ですともう少し骨を折らないと駄目でしょうか?」

「うーん、両手両足折ったから後もう少しとなると肋骨かなぁ?」

チンピラ「たったすけ」

「1000ドル渡したでしょ?だったら金の分だけいい声あげなよ。」

「1000ドル分だけの美声聞かせてくれるつもりだったから声かけたんでしょ?」

「じゃ、後は肋骨ね。」



笑顔で拳を振り上げた丁度その時だった。



顔役「姉さんたちうちの馬鹿がすみません!」



血相を変えて市場の顔役がやって来た。そして、その勢いのまま土下座。



雪風「土下座なんて知っているんですね。」

「まぁ、知っている知っていないはどうでもいいけどそんな価値の無い土下座されてもね。」

「顔役ならさー、治安を良くするべく動くべきなんじゃない?」

顔役「返す言葉もございません。」

「いやさぁ、1000ドルって大金よ?」

「それをさー。」



艤装の力を使わなくても強い艦娘は強い。

そして、自分達以外にも被害が起きている可能性もある訳で

ねちねちと嫌味を言い続ける。

その結果。

437 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/27(月) 23:45:22.38 ID:5tYPiHSO0

「ただいまー。」

明石「あっ、お帰りなさい。楽しめました?」

「それがさー、聞いてよー。」



女子会のノリで市場での出来事を話す二人。



「侘び代わりに私達が買った商品代金返してくれたのはいいんだけどさー。」

「あの露助がね、

 みんなから離れて買い物していた時にかつあげされてたのが発端みたいでさー。」

秋津洲「情けない艦娘かも。」

「本当だよ。かつあげされたのが恥ずかしいからって黙っていたせいでこの始末よ。」

明石「申告してくれていたら対処出来ていたわけですしね。」

「そーそー、それで、そのチンピラが味を占めたのか今回の馬鹿に及んだって訳。」

雪風「まったくもって艦娘の恥さらしです。」

「そんな訳で雪風と話して楽しいブートキャンプに御招待と思ってね。」

明石「いいですねぇ。」

明石「丁度色々新製品を試してみたかったんですよ。」

「いいねぇ。」

「私はコマンドサンボとかカポイエラとかの格闘技中心に三途の川を渡って貰おうかなって。」

雪風「雪風はスパルタンに仲間全員に声をかけてサバイバル形式で行こうかと。」

秋津洲「ちょっと同情しちゃうかも。」ウヘァ

明石「最近は大規模作戦も来ないから皆さん暇してますしね。」

「そういう台詞はフラグじゃない?」

明石「まぁ、鎮守府総員が出撃とかなると私の場合は潤うんで。」

明石「ありがたいですかね?」

「商売人だねぇ。」

明石「死んだ人間、艦娘の魂以外なら。」

明石「金さえ払っていただければ「クレムリンだろうと引っ張ってくる。」

雪風「だったですね。」


明石の決め台詞に雪風が被せる。


「だったらちょいと頼まれない〜?」ウヒヒヒヒ

明石「楽しくて利益の出る事でしたら。」ニヒヒヒ



後日、ガングートが色々な意味で死んだ事を話の結びとして語らせていただく事とする。



ガン「いやぁ〜 ――――――――― !」

 ボガーン!    

                                              ヒュ ――――――― ン!

時雨「戦艦ってあんなに飛んでいくものなんだね。」

長門「なんだ?鎮守府ホームランダービの開催か?」

スパ「いいですねー。」

438 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/27(月) 23:46:45.59 ID:5tYPiHSO0


第十三話 天国への階段


439 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/27(月) 23:48:29.59 ID:5tYPiHSO0

駆逐「こんなの聞いていた話と違う!」


この作戦における総旗艦戦艦水姫から迎撃の任務を受けた時の説明は。


「簡単な迎撃任務よ?」



自分と空母水鬼に与えられた空母、戦艦、重巡等。

それらの戦力は機動艦隊としてそこらの敵鎮守府を1つ2つは余裕で叩き潰せる。

なんなら敵の大規模拠点を落しにいくことさえ出来る程の過剰戦力。



駆逐「おかしい!」



自分の置かれている状況を考えれば絶叫せずには居られない。

最初の敵との接触で空母水姫が撤退。それはまぁ、どうでもいい。

問題はその後だ。



駆逐「勝てるはずなんだ!」



敵の空母達が搭載している艦載機を凡そ半分は落とした。

敵の駆逐艦だって何隻か沈めた。

にも、関わらず。

自分達が連れてきている空母達の艦載機の数は全体で4割も落とされている。

空母の数で言えば自分達の方が当然多いため

母数が大きくなる自分達の方が同じ4割でも敵の半数より多く落とされている。

しかし、見方を変えれば6割という未だ、いや、敵を圧倒できる筈の戦力があるのだ。



駆逐「なのに、なんで夜間攻撃なんて仕掛けてくる!?」



夜間攻撃は戦果が得にくい物であり

自軍の残機が少ないのであれば控えるべき物。

敵の被害を考えれば夜間攻撃機があったとしても

夜間哨戒を自艦隊周辺に上げるくらいがせいぜい。

自分が敵の立場であれば仕掛けるなんて思考の外である。



440 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/27(月) 23:53:18.63 ID:5tYPiHSO0

駆逐「あり得ない!」



敵の夜間攻撃隊はそれでいて自軍のナ級達や

同士討ちをした愚か者共の所為もあり一定の戦果をあげ悠々と帰還。

此処に来て思い知る自軍との錬度の差。

そして、脳裏によぎるのは認めたくない二文字。



駆逐「私が負ける!?」

駆逐「この私が!?」



深海棲艦において敗北というのは単純に負けるだけでは済まない。

武威を示す事こそがその存在理由とする者達が多い中で、

更に言えばその最上種たる姫級。

となれば敗北は頂点からの転落を意味する。

此処に来てその矜持が彼女の判断を狂わせた。



駆逐「敵の機動艦隊を直接叩く!」

普段の自己評価が高い者程陥る罠。

駆逐「敵の旗艦、そう、指揮官の人間が乗る船を沈めて殺せば私の勝利!」

駆逐「私の勝利だ!」

駆逐「私達の被害もあるけれど敵の被害は私達以上。」

駆逐「であれば敵は全力での殴り合いでは絶対に勝てないはず!」



そして、自分がこうであるから相手もこうであるだろうという単純な思考の帰結。

この思考が彼女に此処での敗北を齎し、結果、海の藻屑へと還らせる事へとなった。

441 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/27(月) 23:55:31.36 ID:5tYPiHSO0


強襲揚陸艦 艦橋内 作戦指揮所



提督達は定時連絡による位置確認で更新されていく

分遣隊の海図の光点を見つめながら会話をしていた。

その内容は、もうまもなく訪れる払暁戦に備えての会話である。



提督「相手の心理、行動を推し量る際に

   自分ならどうするかという風に考えるのは誰しもがやる事です。」

大佐「確かに。」

提督「私も自分ならどう動かしどう弱点を突くかと考えますからね。」

提督「自分がこう考えるなら相手もこう考えている。

   それならば相手はこう出るはずとの自分の行動原理が下地になる思考。」

大佐「それでその思考における問題とは一体?」

提督「そうですね。思考については誰もがやりがちですし、実際にやる事です。」

提督「私が問題とするのは正常性バイアスですね。」

提督「自分は大丈夫。自分ならこの状況を切り抜けられる。」

提督「相手がこう出るのは間違いないから自分は切り抜けられるという考え。」

提督「ある程度までならポジティブシンキングとも言えなくは無いですがね。」

大佐「過ぎれば損切のラインを見誤るという事ですね。」

提督「その通りです。」

提督「ここは人によって賛否が出るところでしょうがね。」

提督「軍隊という組織である以上、

   結果とは勝利であり勝利という結果を残せない将は無能の烙印が押される。」

大佐「確かに。」

提督「その上で無能の誹りを恐れずに敗北を受け入れられるかどうか。」

提督「それが本当の名将の条件になってくるでしょう。」

提督「常勝無敗などというのは幻想ですよ。」

大佐「…………。」

提督「百の兵を失いつつも千の兵を残し雪辱を果たすべく備えるのと、

   全ての兵を失い雪辱を果たす事すら敵わない。」

提督「どちらの将が愚将とされるかは明白でしょう?」

大佐「負けを知っていれば敵への対処方も考えられますしね。」

提督「そうです。賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ。」

提督「命があれば学べる機会がある。その機会があるだけ儲け物です。」

大佐「引き際は大事ですね。」

提督「えぇ、つねに自分の中で引き際を決めて掛かる事は大事ですよ。」



珍しく苦々しく、そして重苦しそうに提督は言葉を紡ぎ会話を終えた。

442 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/27(月) 23:56:34.73 ID:5tYPiHSO0


そして、数時間の後。

お互いの艦隊が近付きその先鋒を早期警戒の二式大艇が電探に捕らえる。

早期警戒機の役目をさせている二式大艇からの索敵情報。

つづいて敵を補足した艦隊外周に配置している電探担当駆逐艦隊からの電探情報。

それらを強襲揚陸艦のデータ処理能力を活かし

敵艦隊から飛来する敵機の高度、方向、数を正確に分析処理。

そして、艦隊の全員へ一斉に伝達。



グラ「Achtung!!」



すでに警戒用の艦戦は上がっている。

グラーフが母国語で傾注、あるいは敵発見の言を大声で吐いた。



グラ「全機発艦!Vorwärts!!」



この号令は空母機動部隊の旗艦として所属空母達への一斉攻撃の命。

それは実にあっけない幕切れだった。

この結果を演劇などに例えれば手抜きとも消化不良とも尻切れ蜻蛉。

あるいは打ち切り漫画。

そういった誹りを受けてしかるべき位に間の抜けた最後。

その最後を決めたのは空母艦隊決戦にはあるまじき戦艦の一撃だった。

443 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/27(月) 23:57:32.29 ID:5tYPiHSO0


グラ「アイオワ、諸元入力を頼めるか?」



グラーフから無線を通して手持ち無沙汰気味に対空射撃をしているアイオワへの依頼。



アイ「What?」

グラ「外周駆逐艦からの電探情報、二式大艇からの敵艦隊位置情報。」

グラ「それに迎撃に上がっている私の艦載機。」

グラ「それら情報を総合した上で敵の旗艦位置情報を伝える。」

アイ「いいのかしら?」



戦艦が主砲をぶっぱなす。

ともなれば弾道はもちろん標的周囲に展開する飛行機は敵、味方区別無く消滅である。



グラ「巻き込まれる味方機なぞおらんよ。」



何を言っているのかと木で鼻をくくる返答。

つまりはその程度の艦載機しか扱えない空母艦娘等居ないという意思表明でもあり。

お前のところはその程度なのかという嘲笑も含めた冷たい態度の返答。

444 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/27(月) 23:59:17.95 ID:5tYPiHSO0


アイ「Hey!Holy Shit!That’s great !」

アイ「Ok!Come on !」



戦艦としての仕事が出来る事に喜びと興奮を隠せないアイオワ。

また、自分達を見くびるような態度への反発も入り挑発気味な返答。



グラ「頼んだ。」クスリ



自尊心の高い米軍海兵であればそうなる事を計算ずくでのグラーフの先の態度。

扱いやすくもあり素直であるとの事に少し好ましさを感じる。

強襲揚陸艦で情報が統合され位置が確定。

そして、先ほどからグラーフの艦載機がへばりつき位置を常に追いかけ続けている敵の旗艦。

最新鋭の戦艦に搭載されている演算装置にデータが送られ入力処理が完了。

ガコガコと音を立て主砲が向きを変え見えない位置の水平線の向こう側。



アイ「Lock on !」



敵艦隊の一番後ろに居る敵を葬るべく主砲が火を噴いた。



アイ「Yeeeeeeeeeeeya!」

アイ「Yippee yi yea , Mother Fuker!」

瑞鳳「うわぁ――。」



スラングに瑞鳳がややドン引きするが、その火力 is Powerな砲煙と。



グラ「空気振動の凄まじさは流石だな。」



ビリビリと空間を揺らす振動に巻き込まれ落ちてゆく敵機。

445 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/28(火) 00:01:14.75 ID:Glxp+2M40

アイ「Fire! Fire! Fire!」



深海側 艦隊最後尾



駆逐「なんで?どうして?」

駆逐「どうしてこうなるの?」



自軍の自慢の艦載機は敵機に落とされ

敵の駆逐艦娘達が先陣を切って雷撃戦を仕掛けてくる始末。

艦隊の前列は今、愁嘆場となっている。



駆逐「逃げなきゃ!」



此処に来てようやく生存本能が矜持を上回るが。



グラ「とき既に「遅しよ!」



艦載機達でマークし動きを完全に補足しているグラーフの一言。

そして瑞鳳はグラーフの言葉に被せどや顔。

当たり前に敵へ聴こえるはずはないのだが、二人ともしてやったり、と、いい笑顔。

446 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/28(火) 00:02:37.81 ID:Glxp+2M40


アイ「Well done !」



初弾は駆逐棲姫の鼻先に着弾。



駆逐「ひっ!」

アイ「Go to Hell !」



アイオワ型戦艦の主砲弾が南方特有の豪雨の様に降り注ぐ。

その様は正に悪夢。



駆逐「いやぁ!まだ!まだ死にたくない!」



懇願むなしくその狙いは正確に。全弾が命中した。



アイ「Good Game! Well played!」



アイオワが相手の健闘を讃える頃には駆逐棲姫はその活動を停止していた。



グラ「残心であったか?」

瑞鳳「擬態を警戒!瑞鳳艦爆隊の皆!殺っちゃって!」



殺り残しの無い様にしっかりと止めを刺す両名。



サラ「Oh …… ミンチより酷いです。」



惨状の確認をして漏らす言葉は心からの本音。

そして、駆逐棲姫は完全に活動を停止した。

また、時を同じくして別々の海域では此方もクライマックスへ向け動き始めていた。

447 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/28(火) 00:05:45.44 ID:Glxp+2M40


旗艦雪風 第一分遣隊



雪風「艦隊の空母の皆さんは全機発艦をお願いします!」



通常の鎮守府であれば戦艦や空母、

或いは重巡といった者が旗艦を任されるわけだが。



雪風「旗艦雪風から全員へ連絡です!」

雪風「まもなく敵の哨戒網に引っかかると思われます!」

雪風「敵からの猛攻が予想されますが敵の後方基地を破壊できれば

私達救援部隊の戦略的勝利がより達成しやすくなります!」

雪風「総員、気を引き締めて掛かってください!」



そこは通常という常識の外の連中。

旗艦を勤めるのは最も修羅場を潜った者になるのが自然な成り行きでもある。



「雪風さ〜ん?」



個人通信回線で旗艦の雪風を呼び出す声がする。



雪風「雪風です!ポーラさん、何用でしょうか!?」



雪風が自身が見落とした何かがあったのかもしれないと思いつつ返答。



ポーラ「あの〜。あのですね?」

ポーラ「もしも〜、もしもですね?

敵の旗艦が重巡棲姫だった時はポーラに譲っていただけませんか?」

ポーラ「戦果はお譲りしますから沈めるのだけはポーラに殺らせてもらえませんかね?」

雪風「そこに拘る理由があるんですね?」



場数を踏んでいる雪風ならではの勘で何かを察する。

恐らくそれは瑞鶴が88鎮守府に流れてきたのと同じ理由。

448 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/28(火) 00:07:43.35 ID:Glxp+2M40

ポーラ「 Si 」



返答に満足気に首肯をすると無線を艦隊全員へ飛ばす。



雪風「総員傾注!」

雪風「敵旗艦が重巡棲姫の場合、空母のエアカバー以外は一切の手出し無用!」

雪風「旗艦雪風の名においてポーラさんへの邪魔立ていっさいを禁じます!」



艦隊全員へポーラがその首級を挙げることへの妨害行為等を禁じる旨を宣告。



雪風「舞台は整えます。重巡棲姫が敵旗艦の場合は存分に。」

ポーラ「Signorina Yukikaze Grazie di cuore!」



そして、先に接触した空母艦娘の哨戒機からの報告。



雪風「ポーラさん!敵旗艦は重巡棲姫だそうです!」

雪風「後、角が一本、折れているとかだそうですよ?」



旗艦として情報を受取りそれをポーラへと伝達。

敵旗艦は珍しく身体的特徴があるようだ。




ぞる。




幾度となく死線の向うとこっちを行き来してきた雪風ですら久しぶりに感じる殺気。

今まで様々な種類の姫、鬼級達と対峙してきたがその中でも特級。

歴戦の姫、鬼級、片手の指で納まる程にしか体験した事のない殺気。

それは思わず振り返らずには居られないほどの殺気。

そこには恍惚とも憎悪とも、歓喜に震える、あるいは激情の怒りに震える。

雪風をして異様と言いたくなる艦娘が居た。

449 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/28(火) 00:10:21.13 ID:Glxp+2M40


「尻尾を引きちぎって。」


「右腕を引き抜いて。」


「左腕を食いちぎって。」


「右足を吹き飛ばして。」


「左足をぶっ潰して。」


「腹に主砲をぶっこんで。」


「内蔵を掻き出して、引っ張り出して。」


「内側からミンチにして。」


「頭を最後に踏み潰す。」


「足りない、足りない。」


「こんなんじゃ、全然足りない。」


「十遍でも、百篇でも、千篇、万遍。苦しませて。」


「あぁ、日本語で万死に値するだったかしら?」


「そう、姉さまはもっと苦しんで死んでいったはず。」


「姉さま以上に苦しませてやらなきゃ。」



そして。



「 み   つ   け   た  。」


450 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/28(火) 00:12:01.42 ID:Glxp+2M40


恋焦がれ、相手の事しか見えなくなる。

つねに相手の事を考え続けいつしか相手の感情と同化する。

しかして、それは恋愛感情ではなく。

純然たる、純度100%の。




憎しみ。





「北上〜。」

北上「あいよ―。」

ポーラ「背中、宜しく。」

北上「あいあい。」

ポーラ「彼女には命を持って支払いをしていただかないといけませんねぇ。」

北上「マフィアか。」

ポーラ「シチリアでは女はショットガンより危険ですよぉ〜。」

ポーラ「ポーラは幸せです。北上という得がたい友人を得る事が出来ましたから。」

ポーラ「どんなに強い者でも友人は必要ですからね〜。」

北上「よせやい。照れるぜぃ。」ニシシ



重巡と雷巡コンビ。

今、重巡棲姫を倒す為に両名が並び立つ。

451 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/28(火) 00:20:00.26 ID:Glxp+2M40
本日の更新は以上でございます
駆逐棲姫は最初から噛ませ犬の予定でしたのでその最期はお読みいただいている皆様から
お叱りを受ける事覚悟のあっさりかつ淡泊な最後とさせていただきました
ポーラが頭ぶっ飛んでいた理由はそういう事ですので次回はポーラと北上コンビ戦となります
体調が優れないことが多く亀更新となりつつありますが今後とも宜しくお願いいたします
質問でいただいております九字護法での召還士は事前設定では正直に言いますと作って無かったです
龍驤、雲龍のパターンとかは考えてはいたのですがどちらも中国導師寄りでした
乙レス、感想レス、いつもありがとうございます、書くための励みになっています
お時間よろしければ次回もお読みいただけると幸いです
それでは、また、次回
452 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/28(火) 02:47:36.49 ID:X8TfpFaD0
何度も妖精が死ぬ姿を見たくないからと一度死んだ妖精の顔に呪符貼ってキョンシーとして使役する雲龍とかだったら怖いなあw
それが仲間に向けられたら…gkbr
453 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/28(火) 22:30:32.15 ID:ADezDfxT0
更新乙なのね!

九字について質問したもんだけど、お答えありがとうデーす


ホームランダービー上位ランカーは熊野だったり?
454 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/28(火) 23:22:02.49 ID:+57E5a+rO
乙です。
毎日更新ボタン押して続きを待ち焦がれる日々です〜
実は艦これやった事ないし、艦娘もメジャーどころしか知らないのですが、読み物としてとても面白いから毎回楽しみにしてます。
455 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/29(水) 22:40:19.90 ID:8d3QiO9b0
>>452
あきつ丸キョンシーが似合いすぎるがそんな狂った優しさを振りまく雲龍は嫌じゃw
456 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/30(木) 00:23:52.88 ID:IyCYBxLK0
1でございます
元々用意していてボツにした雲龍の召還に>>452さんのネクロマンシーな雲龍というのを
実際にやったらどうなるかをやってみました、なんとなく雰囲気ありげなものになったかと思います
御笑納下さい
457 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/30(木) 00:25:12.35 ID:IyCYBxLK0



「独り……。」



空母艦娘、雲龍の出撃はいつも独り。



「そう、敵発見、ね。」



偵察機からの報告にぽつり呟く。

そして、背中に背負っていた錫杖を取り出し前方へ勢いよく振る。

侃。

金属の環の音が冷たく響き渡る。

そして、その錫杖に吊り下げられた一幅の掛け軸がざぁっと音を立て開く。



「東嶽大帝が臣、冥吏雲龍が命ずる。」



艤装から桐製のお札入れを取り出す。

ぶつぶつと小声で何かを呟くと

御札入れがふわりと空中に浮かび灯りが灯った。

458 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/30(木) 00:26:10.54 ID:IyCYBxLK0

ジャラン

「起来!」



ぶわり。

箱の蓋が開き、中から人型が周囲に溢れ術式が展開。

そして。

キキキキキ



「猴鬼。連れて来た?」



提灯を持った猿の姿をした鬼がトコトコと雲龍の周囲に這い出てくる。



「お連れしましたよー。」



こくりと小さく頷く。



「命!」

「東嶽大帝の旗下に集う者達よ!」

「仮初の宿に今、その魂を宿せ!」



普段の淡々とした口調からはまったく想像がつかないほどにはきはきと命令を下す雲龍。

そして。

人型に切られた紙に書かれた文字が光り始める。


459 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/08/30(木) 00:27:02.70 ID:IyCYBxLK0

武征王  大戦艦 長門

飛虎大将軍 空母 赤城

鉄騎大将軍 空母 加賀

狼威将軍  重巡 足柄

安国将軍  重巡 妙高

人型に書かれた称号と名前が光り、その名前に書かれた艦娘が受肉し。

顕現していく。

征蕃校尉 陽炎型駆逐 陽炎

征蕃校尉 陽炎型駆逐 黒潮

同じく次々と駆逐艦の名が紙の表面に浮かび上がり受肉。

顕現。



「皆さん。先日の戦場ぶりです。」

「本日もまた、お力をお借りします。」



生気のまったく無い空ろな目をした艦娘達。

そして、雲龍が突撃の命を下すといっせいに敵へと向っていった。

雲龍が使うのは道教の禁術。

死屍術であり、嘗て轡を並べて戦った仲間であり。



「鎮守府の皆さん。お力お借りします。」



嘗て同じ鎮守府に所属していた仲間達である。

総勢、200余名。

矢尽き、刀折れ、死して尚、深海棲艦達を相手に現世に彷徨い。

護国安寧の為に戦う。

帝国幽霊艦隊。

Imperial Ghost Fleet

それを呼び出し、使役した艦娘であり、師匠龍驤から受け継がれた道術。

道士、雲龍

海軍史においてその存在が不確かな者とされ、記録にすら残されなかった独りの艦娘である。
460 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/30(木) 00:30:55.36 ID:IyCYBxLK0
雲龍がヤベーイ
東嶽大帝は道教におけるあの世の支配者、早い話、閻魔大王です
閻魔大王は色々称号が仏教とか道教とかで色々違っていたりします、泰山王とかも割りとメジャー?
その他称号は適当ですのでどうぞ宜しくお願いいたします
艦これあまり詳しくない方にも読み物として面白いといっていただけるのは本当に嬉しいです
構成で勝負できているという風に好意的に解釈させていただきました、次回も燃える展開をお届けできればと……
ほんと、他に増えないですね……、なぜだ……
461 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/30(木) 00:45:55.03 ID:UjlZZBBR0
ちょっと書いた雲龍がえらいものになって帰ってきたw
もっと屍臭漂う感じをイメージしてたけど読み物としてはこの方向性だと絵になるね
462 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/30(木) 18:34:18.94 ID:w85aXa/00
おっかないなぁ
しかしくなると烈風拳とか紫電掌とか流星拳とかガチで使える
あきつ丸がいても不思議じゃなくなるか
463 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/30(木) 21:34:32.63 ID:5NZfoTU70
さて本戦はどうなることやら
出てきた情報は断片的だが本隊との艦隊決戦に引きずり込んでから長門隊での金床戦術を狙っているようにも見える
まだ鉄の温度が低すぎて叩けないけど
464 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/16(火) 13:50:33.67 ID:PDjQeAQu0
鯖が復活したが1はいつ気づくか…
465 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/17(水) 10:40:46.39 ID:JPKB8/QMO
今回は長かったからなー…
466 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/19(金) 01:09:52.96 ID:5ji6/SRC0

かーごめかーごーめ

かーごのなーかーのとーりーは

いーつ いーつ でーやーる

よあけのばーんに

つーるとかーめがすーべったー

うしろのしょうめんだぁーれー

加羅加羅加羅



手に持った摩尼車に内側からの灯りが灯る。

加羅加羅加羅

加羅加羅

加羅

摩尼車の表面に刻まれた孔雀明王陀羅尼の真言が空間に浮かび逝く。

467 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/19(金) 01:10:35.02 ID:5ji6/SRC0

「今宵も良き月夜ですなぁ。」

白粉により不自然なまでに白く染め上げられた顔に紅一つ。

そう彼女が呟いたと同時に昼夜が反転。

覇!

右手を前に出し頂点から右下、左上へと手を素早く動かす。

「黄泉と顕世の道、今繋がったであります。」

彼女が手で空間に描いたのは星型の図形。

ドーマンセーマンともセーマンドーマンとも呼ばれる魔除の図形。

「術者である自分が巻き込まれる訳にはいかないでありますからなぁ。」

ぞるり。

ぞん、ぞるり。

彼女が立っている足元の海面から黒い飛翔物体が形を成し現れた。

それは三本足の烏でありあきつ丸の肩に止り一声。

「有耶ァァ!」

八咫烏が無耶と鳴けば。大平を。

有耶と鳴けば。

鬼が出る。

468 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/19(金) 01:11:42.64 ID:5ji6/SRC0

「有耶ァァ!」

彼女の立っている海面のみを残し周囲の海面が一気に泡立ち始めた。

ぼこり。

あたり一面に焦げた肉の饐えた香りや、

腐った肉の酸い香りが立ち込め、それは正しく地獄の瘴気。

ぼこ。

べちゃり。

「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前!」

手に持った摩尼車を艤装に置き両手で手早く印を結び。

「千曳の闇、黄泉より今、舞戻れ皇軍の戦士達!」

印を結び終えた片手を海面に。

梵!

軽い爆発音と共に生え繁る白骨達の腕。

梵!梵!梵!

萬!

僅かに数瞬。

術者の周囲には嘗ての陸軍兵装を着込んだ骸兵士達が群を成す。

白骨化しているものもあれば生前の形もとどめた者もいたりと種々様々。

その数。

「参千の英霊達。皇国に仇なす不届きもの達の成敗をお願いするものであります。」

餓嗣。

髑髏の首が下に頷く様に触れたかと思えば。

数にして三個大隊、時として連隊とも数えられるほどの髑髏兵達が

一斉に敵へ向って突撃をしてゆく。

地の底から響く亡者達の雄叫びが周囲の空間に木霊する。
469 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/19(金) 01:12:36.97 ID:5ji6/SRC0

阿亜唖唖啞吾あああああああああ!


「壮観でありますなぁ。」


重機関銃を始めとする各種機関銃や終戦間際の試作無反動砲。

それらを周囲の敵へ向け進軍していく。

ある者は食らいつき敵をその胃袋へと納めて行く。

ごしゃごしゃばりばり。

がいん、ごきん。

ごくん。

その咀嚼音は敵の悲鳴さえも飲み込んでゆく。

くけぇ ――――。

判刻後、周辺に動くものは術者のあきつ丸を除いて生者は残っていなかった。


「無耶ァァ ―――― !」

「無耶ァァ ―――― !」

「皆様、お疲れ様であります。」


ぱしり。

柏手を一つ。

ぐらりと空間が揺れたと思うと敵を屠り

その場に立ち尽くしていた英霊達が一瞬にして崩れ落ちた。

470 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/19(金) 01:13:13.89 ID:5ji6/SRC0

「無耶ァァ ――――― !」

「鬼がいなくなれば無耶と鳴く。」

「有耶無耶。有耶無耶。」

「なにもかもが不確かであります。」

「塵は塵に。灰は灰に。」

「万物は流転。海軍さんの尻拭いは応えるでありますなぁ。」



戦場火消し請負人。

陸軍技術本部第九研究所、通称登戸研究所。

防疫や偽札製作、怪力光線の研究を行っていた研究所。

その第五課の所属、記録上も第四課までしか存在しないとされる。

しかし、オカルト、陰陽道、真言密教、神道等の研究を行い敵を呪詛、呪殺。

それを目的とした秘匿組織があったと噂されている。

陸軍艦娘 あきつ丸。

彼女はこの第五課が実験的に世へ送り出した艦娘である。
471 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/19(金) 01:18:59.92 ID:5ji6/SRC0
皆様お久しぶりです
鯖落ちでハーメルンへ移動しようかと小説形式に書き直していた矢先の復活
取り急ぎの生存報告を兼ねてあきつ丸さんに出張っていただきました
尚、本編とはまったく関係ない模様
本編の更新は今週末にはお届け出来るるかと思います
初秋イベに秋刀魚と色々ありまして、ゲームのほうを満喫しておりました
初月2人目にプリンツを2人、ゴトランド2人に岸波も確保!
初秋イベ後に燃料が6桁きりましたがまぁ仕方ないですね!
秋刀魚のすぐ後に秋イベこられたら詰みです、はい
とりいそぎではありますが生存報告兼ねまして、それでは皆様また次回の更新でお会いいたしましょう
464様、465様、こちらへの気遣いのレスありがとうございます、無事、復活に気付きました
今後も宜しくお願いいたします
472 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/19(金) 02:04:37.36 ID:XIdjV85D0
気が付いて何より
登戸研究所近隣住民としては突然の登場に噴いたw
未だに雑木林の地中からヤバそうな瓶が出て騒ぎになったりするが大体空振り(稀にあたり)
473 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/19(金) 09:27:24.40 ID:5Tf+35pjO
乙です。
あきつ丸さんおっかないですねぇ。
陰陽軽空母達とは術式や使役するモノが違う感じなのでしょうか
474 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/19(金) 10:01:47.04 ID:F4N3XPR4O
おつ!
475 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/21(日) 00:19:49.80 ID:Ba0DEi5B0
週末にあげますと宣言通りに更新にやってまいりました
鯖復活後の最初の本編更新をさせていただきます
宜しければお付き合いいただけますと幸いです
476 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/21(日) 00:20:57.20 ID:Ba0DEi5B0

ポーラが思い起こすは自分に優しかった姉。



ザラ「ほら、ポーラ。リボンが曲がってるわよ?」

ポーラ「戦えばどうせまがるです〜。」

ザラ「もう、そういう事は言わないの。

普段からの身だしなみは大切よ?」



二人は血の繋がった姉妹だった。

艦娘は適正のある人間が選ばれ、なるもの。

となればその血縁者ともなると自然姉妹で適正があるという事も珍しくなく。

二人もまた適正有りとされ艦娘へなった。

それも、イタリア海軍の重巡艦娘ザラ、

そしてその妹ポーラとして選ばれた。

世話焼きな姉は軍へ入った後も

つねに自分の事を気にかける少し妹離れの出来ない困ったさん。

ポーラという艦娘は酒好きが多いようだが自分はそこまで好きではなかった。

どちらかといえば嗜む程度。

だが、あの事件以降は少し、そう、少し飲む量は増えた。

477 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/21(日) 00:21:52.08 ID:Ba0DEi5B0


数年前 地中海上 某所



ザラ「ポーラ!貴方は逃げて頂戴!」

ザラ「これは負け戦よ!」

ザラ「でも!戦訓を後に生かすためにも誰かがその負けた事実を。」

ザラ「どうして負けたかを伝えなければいけないわ!」

ザラ「貴方にとても辛いお願いをしているのは分かっているわ。」

ザラ「でも、貴方にしかお願い出来ないの!」



姉から託され全力で振り返らずそれこそ恥という物を知らないほどに逃げた。

そして、上層部は必死の思いで持ち帰った負けの報告を仕方なしの一言で片付けた。

また、ポーラへの処罰は当たり前かのように無かった。



ポーラ「仕方ない?」

ポーラ「冗談じゃない。」

ポーラ「まるで、負けることを初っから分かっていたみたいじゃないですか。」

ポーラ「時間稼ぎの捨て駒?」

ポーラ「 Vaffanculo !」(糞食らえ)



雌伏しその後もイタリア海軍に在籍を続け姉の仇の情報を集め続けた。

自分の足りない実力の所為で姉のあの最後を迎えてしまったという思いがあった為。

最後に見た姉の姿と姉の砲撃により折れた相手の角。

相手が修復していたらそれは消えてしまう手掛かり。しかし幸にして。

相手はそれを修復していなかった。

そして、その出現情報を追い続けるうちに敵は追いかけられない範囲の外へ出た。

478 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/21(日) 00:22:37.74 ID:Ba0DEi5B0


ポーラ「だから、ポーラはここに来たんですよ。」



外地鎮守府管理番号88。

この鎮守府は任務、仕事の形態で通常の軍管区の括りに捕らわれない。

それは国ごとの受け持ちの外にあり、過去については問わず語らずの傭兵稼業。

その作戦行動海域は受けた任務、仕事によって世界の何処へでも形式上は出撃可能。



ポーラ「まさか、ここで 相見える事が叶うとは。まさに姉様の導き。」



艤装の主機が大きく咆哮を上げ速度を上げ始める。


479 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/21(日) 00:24:28.51 ID:Ba0DEi5B0

深海側拠点



重巡「敵の艦隊が迫って来ているか。」



頭上を通過していった敵偵察機、

自軍の哨戒網に引っかかった敵艦隊の情報。



重巡「ここの重要性を考えれば来ない方が変ではあるな。」

重巡「出番か。」

重巡「楽しめるといいねぇ。最後の最後まで足掻いてくれる。」

重巡「先日の島風、さらにその前の重巡。仲間の為に自分の命を差し出す。」

重巡「そんな気合の入った虫けらがくると……、実にいい。」



その性格。

サディストである。



雪風「皆さん!敵艦隊と接触します!」

雪風「乱戦になるかと思いますが各員の奮闘期待します!」



艦隊が敵艦隊と接触、方々で砲撃の歓声が上がり始める。



雪風「ウォースパイトさん!」

スパ「Yes Ma'am !」

雪風「敵の大将はポーラさん達に任せるので雪風達は雑魚退治です。」

雪風「加えて敵の揚陸済みの物資の破壊。設営済みの地上拠点の破壊が主な仕事です。」



雪風からの指示にこくこくと頷き確認をするウォースパイト。



雪風「それと。」

雪風「イタリア語だと思うのですが先程からポーラさんが歌われているこの歌なにかわかります?」

それはポーラが上機嫌で歌っている歌。

スパ「あぁ、この歌ですか。」

スパ「有名なオペラ、椿姫の曲で乾杯の歌っていう歌ですよ。」

雪風「乾杯ですか。」

スパ「えぇ。」

雪風「勝って祝杯をあげるつもりなのでしょうね。いい事です。」



乾杯の歌は娼婦のヒロインを好きになった主人公がめぐり合えた事に感謝して歌うといった場面で歌い上げる歌。

その場面としてはとても情熱的かつ実に盛り上がる歌であり椿姫の中で一番有名な場面とも言える。

スパ(でも、最後はヒロイン死んじゃうんですよねぇ。)

流石にどちらが死ぬかがわからない現状でそれを口にすべきではないだろう。

戦場では結果を口に出す、それが時として言霊として戦う兵を縛るからである。
480 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/21(日) 00:26:54.18 ID:Ba0DEi5B0


雪風「ウォースパイトさん!面舵一杯です!」



雪風の指示に慌てて反応し面舵を取れば。



スパ「あっぶな!」



避けた眼前を敵砲弾がすり抜け後方の海面に着弾。



雪風「敵の大将首が来ますよ……。」



砲煙の向うから現れるのは敵の指揮官とその随伴達。



重巡「チッ。勘のいい奴だ。」



そして、眼前からの敵指揮官艦隊に対峙するのは。



ポーラ「敵を取り違えてんじゃねぇ、mommone(マザコン野郎)。」



後方から主機を全開でぶん回しやって来たポーラ。

雪風とウォースパイトの間を抜き重巡棲姫に向け砲撃を試みるポーラ。

その砲撃を体を横にしてかわす重巡棲姫。



重巡「なんだ、随分いきった小娘がいんじゃねーか。」

重巡「遊んでもらいたいってのかい。」



ニタニタと笑顔を向け尻尾の砲塔を向ける重巡棲姫。



ポーラ「遊ぶ?testa di cazzo!(このち○こ頭)」

ポーラ「歯は磨いたか?聖書の一節はきちんと諳んじれるか?」

ポーラ「これから先はお前が死ぬその寸前まで5秒おきに手前が命乞いをするショーだ。」

ポーラ「トイレには行って来い。今ならまだ待ってやる。」



普段の何処か抜けたような喋り方と打って変わって一言一言が殺意を持った喋り。



重巡「いいねぇ。いい感じに頭が切れてやがる。」

重巡「It’s Shoutime !」



重巡棲姫が大声をあげると一気に距離をとり始める両名。

お互いに同じ重巡であればお互いの砲の性能や魚雷性能も凡そ予想がつく。

481 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/21(日) 00:28:15.10 ID:Ba0DEi5B0


雪風「おっと、随伴のお友達は雪風達がお相手です。」



重巡棲姫の随伴艦たちを遮る雪風とウォースパイト。



重巡「この距離ならお互いに必中かぁ!?」



ドンドン!



ポーラ「はん、表六玉。当るわけが無い。」



上半身を右へ逸らし重巡棲姫の砲弾を交す。

いずれは当る事が望める挟叉というより

どちらが当てるかを先に挑むロシアンルーレット。



ポーラ「さぁ!避けろ、避けろ!手前の命を賭けてあがけ!」



重巡棲姫の周囲をぐるぐると円を描くように動くポーラ。

それに呼応するように重巡棲姫も

円軌道を取りながら互いに砲弾を交していく。

スン



雪風「!」

雪風「ウォースパイトさん、二人から距離を取りますよ!」



スン



スパ「これは?」



雪風が砲煙に混じる火薬の香り以外に油。

それも艦娘が艤装に使用している燃料の香りに気付いた。



スパ「周囲ではまだ誰も沈んでないですよね?」

雪風「だからですよ!火に飲まれたくないなら距離をとって下さい!」



雪風がポーラと重巡棲姫との決闘している周辺から

離脱するようウォースパイトに指示を出したと同時だった。

ゴォウ

海上に流出していた燃料に火がつき炎上。

482 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/21(日) 00:30:11.20 ID:Ba0DEi5B0


ポーラ「邪魔が入っちゃ困りますからねぇ?」

重巡「お前、自分の艤装から燃料を撒いて火をつけたのか!?」



その言葉に返事を返す事無くニタリと微笑みを返す。



ポーラ「さぁ、楽しもうか。」



笑顔で砲撃が再開される。

間断なく周囲に響き渡る砲声。



重巡「?!」



そして、重巡棲姫は気付いた。



重巡「ちぃ!燃料の炎の所為で陽炎が出来やがる!」



強力な火炎により出来る空気の密度混ざり合い、

そこに昼間であるがために光が当ると屈折して見える自然現象。



ポーラ「昔ですね。

少しの間、コンビを組んだ事のある駆逐の娘に教えてもらったライフハックですよ〜。」

重巡「照準がずれる!」



お互いが視認出来る距離での砲撃戦。

当然ながら目視での照準付けのため

陽炎によりその距離感を狂わされればその命中精度も落ちる。



重巡「敵も同じはずなのに!!」



しかしポーラからの砲撃は確実に当り始めている。


483 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/21(日) 00:30:49.44 ID:Ba0DEi5B0

ポーラ「あんたがこっちの挑発に、踊りのステージに上がった次点で敗北は確定なんだ。」

ポーラ「この火炎の舞台は私のフィールドだ。ボレロといこうじゃないか。」



ドンドン



重巡「ちぃっ!」



しかし、姫級の装甲は伊達ではない。

装甲へ与えるダメージは少ない。



重巡「それなりに痛いだけだぁねぇ。」

重巡「それに照準がずれるのも慣れてきた。

今度は此方からの攻撃と洒落込ませて貰おうか。」

ポーラ「その程度は予想してる。かかって来いよ。」



不敵に笑い手で挑発。

炎上する海上でポーラと重巡棲姫達の砲撃戦が続く。

484 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/21(日) 00:32:50.80 ID:Ba0DEi5B0

そして、その周囲。


雪風「慈悲を請え。今日の雪風は優しいです。」

雪風「苦しませずにあなた方をあの世へ送ることを保障しましょう。」



重巡棲姫の随伴として来ていた

ル級や雷巡チ級達と雪風、ウォースパイトが対峙していた。

ドン!

問答無用とばかりに雪風達へと砲撃を開始するル級達。



雪風「ウォースパイトさん。」

スパ「はい!」

雪風「背中任せます。期待に応えて下さいよ?」ニヤリ



前衛を雪風、後衛をウォースパイト。

また別の戦いも始っていた。

そして、重巡棲姫は砲撃の照準をつけることに慣れてきた頃合でまた別の疑問にぶち当たっていた。



重巡(あたらねぇ。回避性能が段違いに上じゃねーか…。)

重巡(こっちの魚雷も綺麗に回避しやがる。)



ポーラは重巡棲姫の砲雷撃を全て華麗にかわしていた。

それは氷上を踊るスケーターの如く。



重巡(回避能力は知っているイタリア重巡と違う。)



重巡棲姫の本来の受け持ちは地中海方面部隊。

そこで普段相手取っているイタリア海軍の重巡艦娘と比べても格段に反応がいい。



重巡(なぜだ?まるで排水量そのものが違うような……。)

重巡(!)



重巡棲姫はポーラが先程から自分の砲撃を超回避し続ける事が可能である理由を把握した。

それは自身の攻撃を予測してかわしているというのは大前提であるがそれ以外にもう一つ。

艤装から燃料を捨て、自身の、艦そのものの重さを軽くした事により

機関の速度上昇等の恩恵を受けやすくしたのだ。

それはさながらカーレースやバイクレースの優勝常連チームが

あえて燃料を補給する回数を押さえギリギリにする事により

タンク内燃料の重量すら速度増加の敵とするかのように。

今、ポーラは燃料を限界まで捨て去った事により

カタログスペック以上の速度と回避性能を手に入れたのである。

485 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/21(日) 00:34:53.72 ID:Ba0DEi5B0

重巡「そして、捨てた燃料は攪乱に使うか。」

重巡「見た目以上に頭が働いているじゃねぇか。」



血が滾る、好敵手、たり。太平洋にはなかなか歯応えのある敵が居る。

そう考え、にやついていたときだった。

砲弾ではない何かが頭上に飛んでくる。

砲弾のような速度ではなく人の手で投げたようなもの。

それはゆっくりと放物線を描き飛んできた。



重巡「とっ。」



音速に近いスピードの砲弾は敵が撃つ前に砲撃を予測して避けるのが当然なのだが。



重巡「なんだこりゃ?」



いかにも投擲といった形で飛んできたそれはスピードがあるとはいえ充分視認可能な速度。

そして、真横に落ちる。



ポーラ「チッ。」



ドンドン



重巡「なんだこりゃ?」



砲撃の音声に混じり飛んでくる酒瓶。

対空機銃弾で割ってみれば内容物が周囲に霧状になり広がる。

一部は飛散し重巡棲姫の体に降り注いだ。

スン

自分の体に掛かった液体の香りを嗅ぎ、その正体を確認。



重巡「ワインか。勿体無い事をしやがる。」

ポーラ「私の故郷に世界最大の詐欺集団の総本山がありましてね?」

ポーラ「連中の元締めである神曰く、ワインは自分の血であるとかで。」

ポーラ「神の血を浴びれば負の塊である

あんた達も浄化出来るんじゃないかと思いましてー。」ゲラゲラ



ワインを頭から被った敵の姿が笑いの壷に入ったか笑うポーラ。



重巡「……?謎理論だな。」

ポーラ「お前をあの世に送ってやるという意味ですよー。」


なおも砲撃の間にワインの投擲は続く。

486 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/21(日) 00:36:15.72 ID:Ba0DEi5B0

野球で速い球ばかりに慣れていたバッターが

急に遅い球を投げられた所為でバッティングを崩し討ち取られる事がある。

ポーラの投擲はそんな影響をじょじょに重巡棲姫へもたらし始めていた。

敵の砲撃をかわすには敵が自分の位置の先読みをして

砲撃してくるさらにその先を読まないといけない。

ポーラのワイン瓶の投擲はその先読みした着弾点のちょっと手前、

或いはちょっと先、つまり砲撃が当らないように避けた地点に落ちてくる。

しかもタイミングを効果的にずらしながら。



重巡「うっとうしい!」



機銃で対処せざるを得ない事が何度か。

しかし、中身は所詮、ワインである。

次第にその中身を被る事に抵抗はなくなる。



重巡(私をワインまみれにしたいだけとはいえ。どれだけの量を持っているんだ!?)



すでに10に近い瓶を投擲され。その間も続く砲撃をかわし続け。

いくつも機銃で撃ち落し少なくない量のワインを体に被っている重巡棲姫。

ポーラからの間断ない攻撃を交し、応撃する事に全神経を集中。

ワインは料理のフランベに使えるほどアルコール度数は高くない。

その為体に掛かったところで火が付くことはない。

その為重巡棲姫はワインが体に掛かっても大して気には留めてることはなくなっていた。

せいぜいが酒臭くなるな程度。

であればこそ。ポーラの罠に嵌ったのは仕方のない事といえよう。

487 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/21(日) 00:38:28.27 ID:Ba0DEi5B0

ボン

幾本にも渡り打ち抜いてきたワイン瓶。

重巡棲姫は迂闊にもそれを打ち抜いてしまった。

幾度となく中身が無害なワインであれば飛んできたそれを疑う事無く、

今回もまた中身はワインと思ってしまったのも無理はない。

しかし、この一本。

そう、この一本はスペシャル。特別製だった。

ビチャァ

打ち抜いたそれの内容物は周囲に広がり、一部は重巡棲姫の表面に掛かった。



重巡「ヴェアアァアァァァァァァァァァアアアァァ!!!!」

重巡「あぁぁぁ!!痛い!痛い!焼ける!ぁぁあぁぁぁぁ!!!」



ポーラが投げたそれはアルコールに限界まで

カプサイシンの結晶を溶かした物の瓶詰め。

その液体が体に掛かれば激痛という言葉表現では生温い痛みが曝露箇所を襲う。

そして、アルコールである。可燃性の液体なればこそ周囲の火が燃え移った。



重巡「あぁぁぁああぁぁぁぁ!!!!」



その炎は視界を奪い、顔周辺の酸素を奪う。

呼吸でもしようものなら炎は口から喉へ通り気管を焼く。



ポーラ「その酒は奢りだ。味わって飲みやがれ。」

ポーラ「末期の酒にはちょいと刺激がありすぎたかもしれないがな。」



重巡棲姫の視界を奪い激痛を与える。

痛みと炎は全ての思考を止めさせ行動する事を不能とする。

そして、動きを止めたその一瞬。

そう、その一瞬をポーラは狙っていたのだ!

488 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/21(日) 00:39:46.92 ID:Ba0DEi5B0

シャー!



重巡「!?」



ポーラの実艦であるザラ級重巡洋艦は本来魚雷発射装置はついていない。

日本にイタリアから来ているザラ級の彼女達が

魚雷を搭載可能なのは日本で改造をされたからという裏事情があったりする。

普段の相手がある意味での純正イタリア艦相手であった事。

この一瞬のその時までポーラがまったく魚雷を使ってこなかった事。

そして、それらを気取らさせないように

砲撃やワイン瓶投擲を繰り返し意識を一切向けさせなかった事。

また、海面に燃料を撒き火をつけることにより海中、炎の下を通る雷跡を見難くした事。

詰め将棋のように一つ一つを組み立て、最後の王手。

その全てが繋がり。攻撃が決まった。

ドン!

派手にあがる水柱は命中を確信させる祝砲。

489 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/21(日) 00:40:49.22 ID:Ba0DEi5B0


ポーラ「Che gioia !」

ポーラ「死にましたかねぇ?」



うきうきとした様子でポーラが重巡棲姫の生死を確かめる為近付く。



ポーラ「と、止めはしっかりとは基本でしたね。」



そして、念入りにとばかりに近付く前に魚雷をもう1発。



ポーラ「これで……。」



ドン!



ポーラ「終わりです。」



そして、戦果を確認の為、警戒しながら近付く。



ポーラ「……。死んでいますかね?」



腰をかがめ、波間に漂う重巡棲姫の顔を覗き込み生死の確認。

その瞬間だった。

ポーラの首を掴み重巡棲姫が海面に再び立ったのだ!

490 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/10/21(日) 00:42:21.13 ID:Ba0DEi5B0

重巡「やってくれたなぁ!!!!!」



その表情には先ほどまでの余裕は一切無い。



重巡「ここまで。」

重巡「ここまで追い込まれたのは生まれて初めてだよ!」



憤怒と恍惚、両方が入り混じったどちらとも取れない表情の重巡棲姫。

それに対してポーラの表情は絶望。

無理も無い先ほどまでの確定的な勝ちからの逆転負け。



重巡「あんたはよくやったよ。あれだけの仕込みをして最後の最後まで。」

重巡「切り札をとっておいた。これはなかなか出来る事じゃない。」

重巡「実際、私の装甲でもぎりぎりだったよ。

   もう少しダメージを食らっていたら終わっていた。」

ポーラ「でも、勝てなきゃ意味がないです〜。」



首に手を回され宙に体を持ち上げられる。

その足はすでに海面に立ってはいない。



重巡「まぁ、確かにその通りだね。」

重巡「にしても、今のあんた、実にいい表情をしているよ。」



重巡棲姫の手に籠めた力がぎりぎりとポーラの首を絞めていく。



ポーラ「そ…う…ですか…?ちょっと首が…しまりすぎな。そんな気がしますがねぇ…。」

重巡「私はねぇ。愉悦に浸っていた相手の顔が絶望に染まる瞬間の顔が大好きでねぇ。」

重巡「今のあんたの表情。実に。」

重巡「実に最高だよ。」



重巡棲姫の艤装の砲塔。

尻尾のような砲塔が一斉にポーラの顔へ向く。



重巡「この距離じゃぁ、あんたらの防壁も役をなさないだろ?」

ポーラ「あぁ……、確かに…、少しばかり厳しいですかねぇ。」



艦娘の防御はその艤装が展開する障壁と衣服の反応装甲の2種。

しかし、至近距離からの重巡、

それも姫級の砲撃ともなれば流石に戦艦であろうとただではすまない。

ましてや、ポーラは重巡である。

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