【アイマスSS】「ランクDアイドル」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/26(月) 18:47:25.17 ID:q6OJlgc60
アイドルマスターのSSですが、オリキャラメインの短編になります。
苦手な方はご注意ください。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1519638444
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/26(月) 18:48:37.39 ID:q6OJlgc60
何ともパッとしない天気であった。
羽織るもの一枚だと心持たないが二枚着るほどの寒さではなく、かといって着ないならそれはそれで寒い。天気もそうだった。
カラッと星が綺麗に見えるほど晴れるわけでもないが、雨が降っているわけでもない。
灰色の雲がどんよりと被っている。
いっそのこと大雨になってくれたなら、『泣けない私のために空が、神様が泣いてくれている』とポエミーに浸ることもできるのだが、こうもあやふやな天気だとそういうわけにもいかない。
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/26(月) 18:49:18.62 ID:q6OJlgc60
お似合いですこと、と自虐的に笑っていると、
「準備は大丈夫か」
問題の答えを確認する教授のような調子で、その声は私に聞いてきた。
ノックなんて必要ない、とばかりに彼は控え室に入ってきた。
まぁ当たり前だ。
本番を三十分後に控えて、準備が大丈夫ではないアイドルなら、私はきっとここにはいないし、彼はさっさと私の担当から降りていたことだろう。
「もちろんだよ、プロデューサー」
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/26(月) 18:50:01.58 ID:q6OJlgc60
入ってきた扉の方に目を向けず、私は進行台本を眺め続ける。
練習を含めたら何千回歌ったか分からない曲たちだ。歌詞はもう身体の一部になっている。
舞台上での移動も特に今回だけみたいな変わったことはやらない。
「そうか」
「うん」
他のプロデューサーとアイドルならもっと言葉を交わすのかもしれないが、あいにく私とプロデューサーの関係はこんなのだ。
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/26(月) 18:51:16.09 ID:q6OJlgc60
ここに至るまでに、私が舞台に立つだけのことをしたと信頼されているから、これだけ言葉が少ないのだと気づいたのはいつだろうか。
パッとは思い出せない。
今日のこのライブが終わったらゆっくり思い返してみることにしよう。
今は目の前のお客様のために集中するだけだ。
心地のいい沈黙が部屋を包む。
私たちのいつもの時間だ。
ストレスが適度に身体を包む。今日は良いパフォーマンスができそうだ。
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/26(月) 18:52:45.71 ID:q6OJlgc60
「パッとしない天気だな」
ブラインドの隙間から窓の外を見やり、プロデューサーは私と同じ感想を漏らした。
どことなくそれがおかしくて、私は思わず笑った。
不思議そうな顔をしてプロデューサーが私の方を見る。
「ライブが終わったら教えてあげるよ」
プロデューサーが問う前に、私はそう答えた。
コンコン、とノックが二回。
プロデューサーがそれに応えた。
「15分前になったんで準備お願いします」
ADの彼はそう言うとせわしなく出ていった。
その言葉を合図に私とプロデューサーは舞台袖に移動する。
集まってくれたファンの熱気がここまで伝わってくる。
みんな、ありがとう。
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/26(月) 18:53:13.22 ID:q6OJlgc60
「それじゃあ行ってくるね。 プロデューサー」
「おう。 しっかりな」
いつも通りに肩を叩かれ、私は舞台に上がる。
25歳の、10年間Dランクに居続けたアイドルの引退ライブが始まる。
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/26(月) 18:54:32.59 ID:q6OJlgc60
Cランク、通称メジャーアイドル。
「二五歳までCランクに行けない者はアイドルとしては大成しない」と言われる。
トップアイドルになるための、ようやくの入り口。
14歳の時、私はアイドルになった。
ちょうど日高舞が引退して、アイドル戦国時代が始まろうとした時期であった。
きっかけは街でのスカウト。
口説き文句は「君なら第二の日高舞になれる」だった。
あの時の私たちの憧れになれると聞いて、浮かれない者などはいないだろう。
私もそうだし、両親も同じであったことだろう。
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/26(月) 18:55:11.50 ID:q6OJlgc60
事務所と提携していた作曲家の先生に挨拶に行き、デビュー曲を貰って、同期の子たちと一緒に中野サンプラザでそれを歌い、踊った。
忘れもしないあの夏の日。
その日、私はアイドルとしてデビューした。
今にして思えば、運が良かっただけなのだろうが、私はどんどん売れていった。
ランクDになるのに一年もかからなかった。
同期では一番だった。
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/26(月) 18:57:37.21 ID:q6OJlgc60
あの日みんなで出た中野サンプラザ、次には単独ライブの会場になった。
その次は全国ツアーの会場の一つになった。
歌ったソロ曲は着メロのランキングに年間で入り続けて、有線大賞の新人賞も貰った。
1次の年にはランクCに上がるものだと、事務所のみんなやファンのみんな、それに私も思っていた。
だけれども、それから10年間私はDランクに居続けている。
私にはCランクの壁を乗り越えることはできなかった。
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/26(月) 18:58:21.20 ID:q6OJlgc60
仕事の種類も変わってきた。
あんなに出してたCDは、年に一回になり、そのタイミングで一日だけライブをする。
それもどんどん歳を重ねるたびにトークパートが増えてきている。今では7:3だ。
内訳はトークが7で、歌が3だ。
オリコンなんて夢のまた夢。
着メロも有線大賞は、今はもう無い。
なので当然歌番組にも呼ばれない。
テレビの収録に呼ばれたのはいつだろうか。
なんなら私が歌ってそこそこ流行った楽曲たちは、今の流行りの若い子たちにカバーされて歌われている始末。
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/26(月) 18:59:30.19 ID:q6OJlgc60
今の私の仕事は、ラジオのパーソナリティ。
アイドルやら芸人やらのやるオールナイトなんちゃらみたいな華々しいのではない。
お昼時に流れる、トラックの運転手さんと床屋さんで流れてるそんな日常の中にあるラジオのパーソナリティ。
そして雑誌のコラムニスト。
多いのが大体スマフォのアプリとか、たまに家電とかのをつらつらと。
月々色々貰って差し引いて20万円程。
そこから家賃やら何やら引くとまぁ手元に残るお金の少ないこと。
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/26(月) 19:00:25.25 ID:q6OJlgc60
「25歳」
私の年齢なわけだけれども、他の25歳はどうしてるのだろうか。仕事で順調にキャリアを積み重ねていってるところだろうか。
もう結婚して主婦やってたり、お母さんやってたりするのだろうか。
私も仕事で積み重ねていってる、と言ってくれるだろうか。
でもそれは「アイドル」としてじゃない。
広い意味での芸能界、その隅っこで生きていくための術だ。
この仕事を何年続けたとして、今の私より、九才も年下だった「日高舞」になれるはずなんかない。
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/26(月) 19:00:36.66 ID:QYi0BqtSo
よければ一行空けながらお願いしたい
仕様ならあれだけども
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