物真似師「私は物真似師。他人のものまねをして生きている」

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 19:26:45.37 ID:FDHFhtG4o
兵士「事と場合によっては当日、ここで芸を見せられなくなるぞ」

芸人「すみません、こいつ新人なもんで、ここの決まりを知らないんですよぉ、へへへ」

物真似師「……」

芸人「お前も謝れ」

物真似師「すみません、こいつ新人なもんで、ここの決まりを知らないんですよぉ、へへへ」

芸人「真似すんなぁ!!」

兵士「……ふざけているのか?」

芸人「ちがうんです! こいつ育ちがよくなくて……!! ほら」

物真似師「
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/18(日) 19:28:57.74 ID:FDHFhtG4o
>>20
投下ミス
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 19:31:26.95 ID:FDHFhtG4o
兵士「事と場合によっては当日、ここで芸を見せられなくなるぞ」

芸人「すみません、こいつ新人なもんで、ここの決まりを知らないんですよぉ、へへへ」

物真似師「……」

芸人「お前も謝れ」

物真似師「すみません、こいつ新人なもんで、ここの決まりを知らないんですよぉ、へへへ」

芸人「真似すんなぁ!!」

兵士「……ふざけているのか?」

芸人「ちがうんです! こいつ育ちがよくなくて……!! ほら! 自分の言葉で謝れ!!」

物真似師「すみませんでした」

芸人「俺のほうから言い聞かせておきますので、ここは何卒穏便に……」

兵士「会場で練習したい気持ちは分かるが、こうして人が集まると我々も動かざるを得なくなる。自重してほしい」

芸人「そらぁもう、わかってますよぉ」

兵士「なら、いいが……」

物真似師「……」

兵士「くれぐれも気を付けるように」
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 19:36:48.40 ID:FDHFhtG4o
芸人「お前、何余計なことしてんだ。もしここで公演ができなくなったら、何もかもが水の泡なんだぞ」

物真似師「それは聞かされていなかったので……」

芸人「ここいらの兵隊も最近はピリピリしてんだからよぉ。やめてくれよな」

物真似師「分かりました」

芸人「で、なんで綱渡りなんてしてたんだ」

物真似師「ものまねをしていただけです」

芸人「あいつに頼まれたのか」

物真似師「はい」

芸人「そうか……」

物真似師「絶対に成功しなければならないのでしょう?」

芸人「そ、そうだけどよぉ……。妻も娘も出て行った。俺の足も無様なままだ。どうにもなんねえよ。けど、諦めるつもりはねえ」

芸人「足が動かなくても出来る芸はあるからな」

物真似師「御一人でやるつもりなのですか」

芸人「昨日からそういってんだろ」

物真似師「私では力不足でしょうか」
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 19:46:06.49 ID:FDHFhtG4o
芸人「だから、俺ぁものまね野郎を雇う気はねえんだよ」

物真似師「私は貴方に雇われたわけではありません。貴方の娘さんに依頼されました」

芸人「ぐ……」

物真似師「無論、貴方が力づくで私を止めるというのでしたら、遠慮なく実行していただいて結構です。恐らく、力では敵わないでしょう」

物真似師「貴方が」

芸人「う、うるせえ!! 万全だったら、お前なんかに負けるかよ!!」

物真似師「その通りです」

芸人「は……?」

物真似師「その足が折れていなければ、私では貴方に敵いません。それが、物真似師です」

芸人「……」

物真似師「でも、今の貴方より私の方が多くの芸を行えます」

芸人「ちっ……。お前、本当になんでもできるのか」

物真似師「目の前で実演していただけるのでしたら」

芸人「頭おかしいぜ……やっぱりよぉ……」

物真似師「良く言われます」
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 20:00:05.28 ID:FDHFhtG4o
芸人「いいか!! 芸の道は一日にしてならず!! 本来なら一朝一夕で身につくもんじゃねえんだよ!!」

物真似師「……」

芸人「だから、物真似師ってやつが俺は大嫌いなんだよ。他人様の技術で拍手喝采を掻っ攫っていくからな」

物真似師「そういった物真似師もいるでしょうね」

芸人「俺はお前を信じねえ。だから、今からお前に教える大道芸、曲芸は、封印する」

物真似師「私は真似たものを他で使用することはありません。物真似師の誇りに賭けてお約束します」

芸人「うるせえ!! これは俺の誓いだ!! てめえのことなんざ、どうでもいいんだよ!!」

物真似師「もぉ〜、強情なんだからぁ」

芸人「妻の真似するんじゃねえよ!!!!」

物真似師「失敬しました。あまりにも怒っているので、和ませたかったのですが」

芸人「和むかぁ!! 真面目にやれぇ!!」

物真似師「はい」

芸人「調子狂うぜ……」

物真似師「何から見せてくれるのですか」

芸人「お前、娘にいくつか芸を見せてもらったんじゃねえのか。あの剣の舞だけじゃねえよな?」
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 20:11:55.07 ID:FDHFhtG4o
―村―

物真似師「剣の舞。はっ! とうっ!!」シャッシャッ

芸人「よし、次」

物真似師「消える大樽。この大きな樽に布を被せまして……」ファッサァ

物真似師「さん、に、いちっ」バッ

物真似師「はい、消えちゃいましたー」

芸人「次ぃ」

物真似師「ねこむすめ。にゃーん、にゃんっ。ゆるしてにゃんっ」

芸人「……娘の芸が受けなかったときの芸まで完璧じゃねえかよ」

物真似師「ものまねをしているだけです」

芸人「合格だ」

物真似師「え?」

芸人「合格だっていってんだよ!! 手品も曲芸もなにもかもだ!! 当日はお前に任せる!! 報酬はその日の売上金の7割!! それでいいな!!」

物真似師「そんなに頂けるのですか」

芸人「うるせえ!! おれぁ何もできねえからな!! 黙って受け取れ、ボケ!!」
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 20:18:43.12 ID:FDHFhtG4o
物真似師「分かりました」

芸人「くっそ……これだからものまね野郎は嫌いなんだよ……簡単に人の技を盗みやがって……」

物真似師「一つだけよろしいでしょうか」

芸人「んだよ」

物真似師「私は貴方達の技術を決して軽く見てはいません。数十年の努力が詰まっているものだということは、真似した時点で身に染みています」

芸人「簡単にこなしておいてよくいうぜ」

物真似師「私は物真似師です。ものまねができないことは許されない。だからこそ、死ぬ気でものまねをしています」

物真似師「毎度、一芸一芸に自分の力の全てを注ぎ込んでいます」

芸人「……んなの、当たり前だろうが」

物真似師「貴方たちの芸は決して簡単にマネできるものではありません。それは物真似師の私が保証します」

芸人「ものまね野郎に保証されてもうれしくねえな」

物真似師「申し訳ありません。それでは、私は自宅に戻ります」

芸人「おい」

物真似師「はい?」

芸人「怪我、するんじゃねえぞ」
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 20:23:20.94 ID:FDHFhtG4o
―ものまね小屋―

物真似師「疲れた……」

物真似師「今日はもう寝よう……」

物真似師「……」

物真似師(あの人、案外優しいのかもしれない)

物真似師(今後、あの人の真似をするときは気を付けよう)

物真似師「……」

物真似師「うぅん……」

物真似師「……やっぱり、お腹空いた。何か食べよう」

物真似師「いつかの料理人の真似で作ってみようかな……」

物真似師「――ヘイ、らっしゃい!! 今日はいい魚が手に入ってるぜ!!」

物真似師「魚を使った料理を振る舞ってやらぁ!」

物真似師「この捌き方は誰にも真似できねえんだぜ! おらおらぁ!!」ザンザンッ

物真似師「……」

物真似師「お湯が先だった」
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 20:34:11.41 ID:FDHFhtG4o
―祭当日 城下町―

国王「本日はこの国が生まれた記念すべき日である!! 大いに騒ぎ、祝福をしようではないか!!!」

「「おぉぉぉ!!!」」

芸人「祭りが始まったな。さぁて、行くぞ」

物真似師「はい」

芸人「もっと元気だしていけよ。こういうときは声を張れ、声を」

物真似師「がんばりますっ」

芸人「そうじゃねえ。俺みたいにやるんだよ。わかんだろ」

物真似師「分かりました」

物真似師「――最高だぜぇ!! おらぁぁ!!! 騒いで騒いで騒ぎまくるぞぉぉぉぉ!!!」

芸人「そうそう!! いい感じだぁ!!!」

物真似師「愛しの妻よ!! 娘よ!!! 世界で一番俺が愛してるぞぉぉぉ!!!!!」

芸人「そんなことおもってねえよ!!!!」

物真似師「そうなのですか?」

芸人「……いくぞ!! 本番まで時間ねえぞ!!」
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 20:42:06.25 ID:FDHFhtG4o
―会場―

兵士「異常は?」

衛兵「いえ、ありません」

兵士「警戒を怠るなよ」

衛兵「はっ!」


芸人「兵隊がうようよいやがるな」

物真似師「厳戒態勢ですね」

芸人「時期が悪いからな。何が起こっても不思議はねえさ。まぁ、この大道芸会場を荒そうって輩はいねえだろうけど」

物真似師(色んな噂が私の耳にも届くぐらい国内が荒れているみたいだし、仕方ないのかも)

芸人「さ、んなことより準備しろー」

物真似師「了解」

芸人「って、準備もくそもねえか。お前は物真似師だもんな。見たことを真似るだけだ」

物真似師「その通りです」

芸人「……悪いが、頼むぞ。お前の綱渡りが話題になって、結構客も集まってるみてえだしな」

物真似師「心配いりません。私はものまねしかできないので」
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 20:49:06.63 ID:FDHFhtG4o
芸人「――ただいまより、我が一座の大道芸をみていただきます!! 上手くできましたら、盛大な拍手を!!!」

芸人「いけっ」

物真似師「はい」

「あいつだ、あいつ」

「綱渡りしてた人?」

物真似師「どうもー。今日は御集り頂き、まことに感謝いたしまーっす」

物真似師「私たちは村を転々とし、芸に磨きをかけ、そして今日! この建国記念祭という大舞台で芸を披露できるまでになりました!!」

物真似師「これも偏にみなさんのご声援あってこそ!」

物真似師「でも、本日は一見さんが多いみたいなので、やっぱり私の実力でここにいるみたいでーす!!」

「……」

物真似師「にゃーん、にゃんっ」

「かわいい」

「いいじゃん」

芸人(娘にやらせりゃあもっとウケてたはずなのによぉ)

物真似師「では、早速見て頂きましょう。剣の舞!!」シャキンッ
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 20:57:36.80 ID:FDHFhtG4o
物真似師「はいっ! ふっ! はっ!!」シャッシャッ

「おぉ!」

「なんかこえー!」

「かっこいいぞー!!」

兵士「……」

物真似師「とお!!」キリッ

パチパチパチパチ!!!

物真似師「ありがとうございまーす」

芸人(悔しいが……見事だなぁ……)

物真似師「それでは続きまして……」ゴソゴソ

物真似師「みなさんの前にあります、この大樽。見事に消してみせましょう!!」

物真似師「この布をかけまして……」

物真似師「さん、に、いち……」

物真似師「はいっ!! どうですかー! 消え去ってしまいましたよー!」バッ

「「おぉぉー!!!」」パチパチパチパチ!!!
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 21:06:06.04 ID:FDHFhtG4o
物真似師「――さぁさぁ。遂に最後の演目とあいなりました。最後のお見せするのは上空にあります!!」

物真似師「みなさんの頭上にあるあの綱を渡りきってみせましょう!!」

物真似師「今回は、命綱など無粋なものはつけません!!」

「「おぉぉー」」

物真似師「では、しばしお待ちください」

芸人「これで最後だ……。大丈夫か?」

物真似師「問題ありません。ここで眺めていてください」

芸人「気を付けろよ」

物真似師「はい。失敗はみていないので、真似できません」

芸人「むかつくな、相変わらず」

物真似師「事実です」

芸人「頼んだ」

物真似師「私はものまねをするだけです」

芸人「うるせえ、はやく行って来い」

物真似師「わかりました」
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 21:12:13.39 ID:FDHFhtG4o
少女「大丈夫かな……物真似師様……」

女性「きっと成功するわ」

少女「だよね……」


芸人「それでは最後の大技『綱渡り』をとくとご覧あれ!!」


物真似師「……」

物真似師「ほっ……」フラフラ


「お、おぉ……」

「揺れてるぞ……」


物真似師「んっ……あっ……あぁ〜……」グラッ


「ひゃぁぁ!? おちるぅ!!」


物真似師(わざと体勢を崩すのも技のひとつというのは勉強になる)


兵士「あ、あぶないなぁ……死人がでたら問題だぞ……」
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 21:14:56.95 ID:FDHFhtG4o
物真似師「ほっ……よっ……」


「もうちょっとだ……」


物真似師「っと」スタッ

物真似師「はい、大成功ー!」


「「ワァァァー!!!!」」

少女「やったぁ!!」

女性「流石、物真似師様ぁ!!」


芸人「今一度、大きな拍手を!!!」

パチパチパチパチ!!!

物真似師「成功しましたね」

芸人「やっぱり、すげえよ」

物真似師「いえ。では、私から挨拶をさせていただきます」

芸人「なに?」
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 21:33:44.51 ID:FDHFhtG4o
物真似師「これにて全演目無事終了いたしました」

物真似師「しかし、見て頂いた芸の数々は偽物です」

芸人「は?」

「どういうことだ?」

「にせもの?」

物真似師「一座の長があの綱から足を滑らせ、落下し、足を骨折してしまった所為で、本来の完成度で芸をお見せできませんでした」

兵士「なに……?」

芸人「(ばかやろう、それは秘密だっ! 練習してたってバレたら面倒だろうが!!)」

物真似師「あ、そうですね。ええと、ここではない場所で綱渡りの練習をしており、その際に怪我をしてしまったのです」

物真似師「私は急遽、雇われた応援の者です。練習不足もあり、御見苦しい芸を披露してしまい、誠に申し訳ありません」

「あれで完成度低いのかよ」

「じゃあ、本来の芸ってもっとすげえのか」

物真似師「はい。勿論です。一座の長の怪我が治り次第、本物の大道芸を皆さんにお見せすることをお約束します」

芸人「……」

物真似師「ですので、これからもこの一座を応援してほしいのです。よろしくお願いします」
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 21:43:03.03 ID:FDHFhtG4o
「あの綱渡りはすごかったなぁ」

「俺、あれ以上ってなると気になるよな」

「やるならみにいきてえなぁ」


物真似師「これで大道芸の発表は終了ですね。おめでとうございます。大成功と言ってもいいでしょう」

芸人「お前、最後の挨拶は誰のものまねなんだよ」

物真似師「はい?」

芸人「どうしてあんなこと言っちまったんだ。やりにくくなるだろ」

物真似師「申し訳ありません。ですが、ものまねでしかない芸は本物ではないので、それを伝えておきたかったのです」

芸人「余計なことばっかしやがってよ……」

物真似師「……」

少女「お父さん! 物真似師様にお礼いわなきゃ!!」

芸人「おま……」

女性「全部見ていたわ。物真似師様、夫のことを助けていただき、ありがとうございます。感謝しかありません」

物真似師「ものまねの依頼をこなしただけです。深く感謝される覚えはありません」

女性「とんでもありません。本当に、ありがとうございます」
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/18(日) 21:47:10.44 ID:FDHFhtG4o
>>37
訂正

「俺、あれ以上ってなると気になるよな」

「あれ以上ってなると気になるよな」
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 21:51:06.42 ID:FDHFhtG4o
少女「お父さんもお礼!」

芸人「むぅ……」

物真似師「――礼の言葉なんかいるかよぉ。礼なら、お前の芸で返してくれよな」

芸人「……」

物真似師「それが芸人ってもんだろぉ?」

芸人「だなっ!! ハッハッハッハ」

物真似師「ハッハッハッハッハ」

少女「もう……」

芸人「復活したら絶対に招待してやるからな。てめえがそのとき、病気になってようが、足が砕けてようが、俺ぁ引き摺ってでも連れていくからな!!」

物真似師「望むところだ、糞野郎!!」

女性「行きましょう」

芸人「なんで戻ってきたんだよ。俺は独りでもやっていけるんだぜ!」

女性「はいはい」

少女「物真似師様!! 貴方に依頼して良かったです!! それでは!!」

物真似師「さようなら」
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 21:55:59.44 ID:FDHFhtG4o
―城下町―

ガヤガヤ……ワイワイ……

物真似師「……」

物真似師(お祭りだけあって、人が多い……。早く家に帰ろう)

物真似師(依頼料、こんなにもらちゃったけど……よかったのかな……。もらい過ぎな気も……)

「やすいよ、やすいよー! お! そこの兄ちゃん!! みてってよ!! 良い物そろってんだぁ」

物真似師「私ですか」

「お? 嬢ちゃん、か? まぁ、どっちでもいいや。ほら、みてくれよ。このアクセサリーとか、どうだい?」

物真似師「んー……。興味ないです」

「そんなこというなって。こっちなんてどうだ? 似合うとおもうぜぇ」

物真似師「いりません」

ドンッ!!

物真似師「いたっ」

大男「ってなぁ、このやろう。気を付けろ」

物真似師「すみません」
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 22:00:22.05 ID:FDHFhtG4o
大男「けっ。腰抜けが」

物真似師(怖い人……。離れよう……)

「準備ができました」

大男「そうか。すぐに行く」

「始まりますね」

大男「焦るなよ。見つかったら終わりだからな」

物真似師「……」

物真似師(家で寝たい……)

「おーい!! そこのお嬢さぁーん! 貴方に似合う、可愛い服、どうだい?」

物真似師「私ですか」

「あ、あれ? おとこ……? じゃないよね、さぁ、これ! んー、とっても似合うわぁ!」

物真似師「いりません」

「もっと似合う服もあるから、みていきなさいよぉ」

物真似師「服はたくさんあるので」

「今日は祭りなんだからいいじゃない、ほらほらぁ」
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 22:20:47.30 ID:FDHFhtG4o
―ものまね小屋―

物真似師「ただいま……」

物真似師「つかれた……ほんとうにきょうはもうねよう……」バタッ

物真似師「……」

物真似師(久しぶりに楽しい仕事だった気がする……)

物真似師(いつもは……嫌な仕事が多いから……)

物真似師「……」

物真似師(あの人たちがもっと大きな場所で芸を披露するなら……私も見に行きたい……)

物真似師(次は観客として……あの芸を楽しんでみたい……)

物真似師「ふぅー……」

物真似師(でも、もう一度……綱渡り……しても……)

物真似師「……」

物真似師(あ……いしきが……)

物真似師(あしたは……いいことが……あります……よう……に……)

物真似師「すぅ……すぅ……」
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 22:55:44.55 ID:FDHFhtG4o
―翌朝―

物真似師「すぅ……すぅ……」

『郵便でーす』ガチャンッ

物真似師「うぅん……なにかきた……?」

物真似師「なんだろう……」ゴソゴソ

物真似師「……」

物真似師(依頼状……差出人は……いつものひと……)


物真似師へ。

本日、北の村に出向いて欲しい。村の位置を記した地図を同封しておく。
その村に今回の依頼人がいる。
この手紙を見せれば、分かってもらえるはずだ。


物真似師「……」

物真似師「きがえなきゃ……」

物真似師「やだな……はたらきたくないなぁ……」

物真似師「はぁ……」
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/19(月) 05:20:15.65 ID:w2mbYKTiO
面白い
某ものまね士と同じで性別不詳?
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/19(月) 19:49:43.17 ID:HjmM6du1o
おつー
どうしても午後でイメージしてしまう
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/28(水) 20:12:01.14 ID:emigqC3/o
―北の村―

物真似師「……」キョロキョロ

「お前か?」

物真似師「あ、はい? もしかして、この手紙……」

「この服を着て、俺の声色を真似てみろ」

物真似師「はい……」ゴソゴソ

物真似師「――これでいいのか?」

「すげえな。気持ち悪いぐらいだぜ。んじゃ、この荷物をもって、夜11時に城下町の酒場にいる男に手渡してくれ。その男は目印に分厚い本をテーブルに広げずに置いているはずだ」

物真似師「わかりました」

「あと、荷物の中身は絶対に見るんじゃねえぞ」

物真似師「はい」

「それじゃあな。報酬はその男からもらってくれ」

物真似師「了解です」

物真似師「……」

物真似師(お仕事は夜か……。折角、早起きしたのになぁ……)
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/28(水) 20:20:46.03 ID:emigqC3/o
物真似師(眠いし、帰ろう……。お昼寝でもしようかなぁ……)

『ふざけんじゃねえぞ!!!』

物真似師「……!?」ビクッ

『こんなものが商品になるわけねえだろ!!! ばかやろうぉ!!!』

物真似師(なんか騒いでる……。どうでもいいか、早く家に帰ろう)

ガシャーン!!!

物真似師「……!?」ビクッ

弟子「どうして……!! どうして認めてくれないんですか!! 師匠!!!」

鍛冶師「認めるだぁ!? 一人前を気取るにゃあ50年はええだよ!!」

弟子「くっ……!!」ダダッ

物真似師「おぉ」

弟子「あ、す、すみません……。お、俺、急いでいるので……!」ダダダッ

物真似師(大変そう)

鍛冶師「どうして……。どうしてわからねえんだよ……バカ弟子がぁ……はぁ……。すみません、うちの弟子が失礼なことをしたようで」

物真似師「いえ。私は気にしません」
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/28(水) 20:30:02.45 ID:emigqC3/o
鍛冶師「そうはいかないようです。その持っている服、どうやら弟子が汚していったみたいですよ」

物真似師「え? あ、ほんとだ」

鍛冶師「さっきまで鉄を打ってたからあいつの手、かなり汚れていたはずです。それでぶつかったときに付いてしまったんでしょう」

物真似師「洗濯しないと」

鍛冶師「よければ俺に洗わせてくれませんか」

物真似師「え? いいです」

鍛冶師「そうおっしゃらずに。この村の住人じゃない人は皆、客人。客人に無礼などご法度です」

物真似師「本当に気にしてません」

鍛冶師「俺が気にするんです。どうか、俺の気持ちを落ち着かせるために、その服を洗わせてください」

物真似師「……わかりました」

鍛冶師「ありがとうございます。中にどうぞ」

物真似師「お邪魔します」

物真似師(帰りたかったのになぁ)

鍛冶師「今、菓子と飲み物を持ってきます」

物真似師「お構いなく」
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/28(水) 20:40:00.05 ID:emigqC3/o
鍛冶師「よいしょ、よいしょ」ゴシゴシ

物真似師「……」

物真似師(初めて会った人間にここまで優しくできるなんて、ちょっと変わってるなぁ……)

鍛冶師「なんとか汚れは落ちそうだな」

物真似師(刃物がたくさんある……)

鍛冶師「刃物に興味あります?」

物真似師「別にないです」

鍛冶師「はっきりいいますね」

物真似師「料理人は包丁にすごい拘りがあったりするのは知ってますけど、普通は切れたら十分じゃないのですか」

鍛冶師「まぁ、そうですね。包丁にしろ、斧にしろ、剣にしろ、拘るのは切ることを仕事にしている者たちと、その作り手ぐらいですから」

鍛冶師「故にこういう場所も少なくなってきました……。今ではなんでも型にはめて、冷まして、ちょっと研いで出来上がり。打つ工程が大事だってのに、そういう粗製乱造された粗悪品ばっかりになってしまって……」

物真似師(お昼ご飯は何にしよう……)

鍛冶師「すみません。愚痴ってしまって」

物真似師「大丈夫です。聞いてなかったので」

鍛冶師「あっはっは。なら、いいですか。ほら、汚れは綺麗に落ちましたよ。干しておきますね。今日の天気なら昼過ぎには乾くでしょう」
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/28(水) 20:46:54.15 ID:emigqC3/o
物真似師(このお菓子、美味しい)

物真似師「はむっ」

鍛冶師「貴方は今日はどんな用事でこんな辺鄙な村へ?」

物真似師「仕事です」

鍛冶師「仕事……。うーん……。商人には見えないし、かといって同業者にも……」

物真似師「私は物真似師です」

鍛冶師「もの……まね……」

物真似師「はい。依頼人がこの村にいたので、来ました」

鍛冶師「他人の生業を盗みとる、あの……?」

物真似師「はい」

鍛冶師「……」

物真似師「気分を害したのなら謝罪します。服はまたあとで取りに来ますので。失礼します。お菓子、美味しかったです。では」

物真似師(天気良いし、外でお昼寝でもしよう)

鍛冶師「待ってください。その……俺の依頼をきいてはもらえないですか……?」

物真似師「え? 依頼、ですか」
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/28(水) 22:32:15.11 ID:emigqC3/o
鍛冶師「噂でしか知らないですが、物真似師は絶対に本人を越えられないとか……」

物真似師「はい。どうしても劣ってしまいます。見よう見真似をするだけなので、中身が伴わないのです」

鍛冶師「噂は本当なのですか」

物真似師「他人の技術を完璧に盗み取ることなど、できはしません。それがものまねです」

鍛冶師「それなら尚の事、貴方に頼みたいことがあります」

物真似師「はぁ……」

鍛冶師「弟子の目を覚まさせてやってほしいんです」

物真似師「どうやって?」

鍛冶師「あいつ、この世界に入って丸五年になるんですけどね。最近、そろそろ独り立ちしたいって言いだして」

物真似師「良いことですね」

鍛冶師「それは自分の育てたやつが看板掲げて、一人の職人として生きていこうとするのは嬉しいです。でも、まだ完璧じゃない」

鍛冶師「奴は俺の真似をしているだけなんです。あいつの打った鉄には熱さがない」

物真似師「真似……」

鍛冶師「こういうと弟子バカと思われるでしょうけど、あいつは天才です。たった五年で俺の真似ができるようになったんですから。でも、だからこそ、俺を越えて本物になってほしいんです」

物真似師「本物……」
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/28(水) 22:58:46.31 ID:emigqC3/o
鍛冶師「そこで、思い知らせてやりたいんです。自分の打ったものがどれだけ鈍らなのかを」

鍛冶師「貴方が俺の真似をして鉄を打つ。それはおそらく、弟子とほぼ同等のものとなるでしょう」

物真似師「お弟子さんも真似をしているだけ、というのであればその通りです」

鍛冶師「お前のやってることなんて昨日今日、鎚を持ち上げた人間にだってできるんだって思わせるんです」

鍛冶師「そしたら、あいつも少しは謙虚になってくれるかと思うんですがね」

物真似師「なるほど。でも、お互いが作ったものの優劣はどのように測るんですか」

鍛冶師「さっきあいつが作ったモノがあります。これをあなたにも作って欲しいんです」

物真似師「これはナイフ……?」

鍛冶師「依頼された果物ナイフなんですがね。これじゃあ商品にならないと言ってやりました」

物真似師「良いナイフだと思いますけど」

鍛冶師「俺も良いナイフだと思ってます」

物真似師「でも、これはあなたの真似でしかないと」

鍛冶師「弟子ってのは師匠よりも上に行かないといけない。俺はそう考えてしまう古い人間なんですよ」

物真似師「……」

鍛冶師「物真似師さん。手伝ってください。依頼料はきちんと払います」
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/01(木) 12:31:51.58 ID:b7/+Vj3vO
物真似師マイペースだなw
43.59 KB Speed:0   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 新着レスを表示
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)