物真似師「私は物真似師。他人のものまねをして生きている」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 12:27:40.18 ID:FDHFhtG4o
―ものまね小屋―

物真似師「はむっ」

物真似師「……」モグモグ

物真似師(今日はいい天気だなぁ。昨日、雨だった所為で洗濯物が溜まってるし、洗濯しよう)

物真似師「よいしょっと」

物真似師(今日は依頼くるかな……)

物真似師(別にこなくてもいいけど。働きたくないし)

物真似師「まずはこの衣装からあら――」

『すみません、物真似師様はいらっしゃいますかー?』

物真似師「……」

『物真似師様に頼みたいことがあるのですが……』

物真似師「……内容はなんでしょうか」

『おぉ! 実は三日後、城下町のほうで行われる祭りにて大道芸を披露するつもりだったのですが、芸人の一人が怪我をしてしまい、このままでは予定していた芸を披露できないのです』

『そこで、物真似師様にご依頼しようと思いまして……』

物真似師「それぐらいでしたら……」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1518924459
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 12:35:55.45 ID:FDHFhtG4o
物真似師「どうぞ、中で詳しくお聞きします。散らかっていますが……」

少女「わぁ……。ありがとうございます! 失礼いたします!」

物真似師「飲み物は紅茶しかないですが」

少女「そんな! お構いなく!」

物真似師「いえ、お客様は持て成すようにと言われていますので」

少女「で、では、いただきます」

物真似師「今、用意します」

少女「すごい……。色々な衣装があるんですね」

物真似師「全て頂き物です。依頼料と共に使用した衣装も貰うことが多くて、溜まっていく一方です」

少女「へぇー……」

物真似師「はい、どうぞ」

少女「申し訳ありません」

物真似師「大道芸、しているのですか」

少女「はい。物心つく前からやっています。家族で芸人をしているものでして」

物真似師「このご時世に大道芸だけで生活をされているのですか。素直に感心します」
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 12:48:45.02 ID:FDHFhtG4o
少女「まぁ、その、誇れるような仕事とはいえないですけど……」

物真似師「……」

少女「でも、今回はとっても大きなチャンスを頂いたんです。これが成功したら、きっと不自由のない生活ができるって、お父さんが……」

物真似師「城下町での祭で芸を披露するとなると、専用の会場か広場を借りないとできないですよね。他にも露店が多く出店してますし」

少女「そうなんです!」

物真似師「……っ」ビクッ

少女「今回、かなり無理をして会場を押さえたんです。地道に活動をしてきたのですが、ここでもう一旗揚げようと一念発起したんです」

物真似師「注目されたら城下町での公演や他地域からの依頼もあるでしょうね」

少女「はい! なので今回の公演、絶対に失敗は許されないんです。でも、張り切り過ぎた所為で、練習中にお父さんが怪我をしてしまって……」

物真似師「大怪我なのですか」

少女「命に別状はないんですけど、足を骨折してしまって……」

物真似師「それはお気の毒に……」

少女「歩けないどころか立てもしない状態なので、簡単な芸すらもままならないんです」

少女「そこで、噂の物真似師様にお父さんの代わりを務めてもらおうかって話になりまして」

物真似師「分かりました。どのような芸をするのか見せてもらえますか? そのものまねしますので」
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/18(日) 12:48:50.00 ID:cbG5y72SO
ゴゴ
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 13:10:47.39 ID:FDHFhtG4o
少女「あの物真似師様は噂通り、一度見ただけでそっくりにものまねができるのですか?」

物真似師「ええ。一応は……。本物にはどうしても劣りますけど」

少女「すごい……! それだけで城下町で一番大きな会場も満員にできるのでは……!!」

物真似師「どうでしょう」

少女「では、早速なのですが、この芸を……」ゴソゴソ

物真似師「……」

少女「演目名、剣の舞」シャキンッ

物真似師「それでお手玉をするということですか」

少女「はい! 見ていてください」

物真似師(大丈夫かな……)

少女「はっ!」シュッ

少女「はいっ、よっ、ほっ!」

物真似師「……」

少女「せいっ! と、こんな感じです」

物真似師「分かりました。やってみましょう」
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 13:19:30.68 ID:FDHFhtG4o
―村―

芸人「ふんっ」

芸人「いだだだだ!!」

女性「ちょっと、無理しないで」

芸人「バカ野郎! これぐらいの怪我で寝ていられるかよ! 本番は三日後なんだぞ!!」

女性「だからって、動けないでしょ」

芸人「うるせえ! 祭の会場を押さえるのに借金だってしたんだぞ! 中止になんてできるわけねえだろ!!」

女性「だから、今あの物真似師様に……」

芸人「なにぃ? どういうことだ」

女性「失敗はできなんだから、物真似師様に頼ることにしたの」

芸人「なんだと!? よりによってものまね野郎にか!?」

女性「それしか方法がないじゃない」

芸人「ふざけんな!! あいつは――」

少女「ただいまー。物真似師様に来てもらったよー」

物真似師「お邪魔します」
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 13:24:45.48 ID:FDHFhtG4o
芸人「こいつが……」

物真似師「どうも……」

女性「よく来てくださいました、どうぞ」

芸人「帰れ」

少女「え……?」

物真似師「……」

芸人「てめえの手は借りねえ! 帰れ!」

少女「な!? お父さん! なんてこというの!?」

芸人「他人のものまねで食ってる奴に手伝って欲しくねえよ」

女性「でも、これしか方法は……」

芸人「こっちは芸を完成させるために何十年と繰り返し練習してきたんだ。それを簡単にマネられちゃあ、商売あがったりだ!」

物真似師「私はものまねをするだけです。貴方達の芸を他所で見せることは絶対にありません」

芸人「それを信じろってか? 無理にきまってるだろ!」

物真似師「……分かりました。帰ります」

少女「ちょ、ちょっと待ってください!! 物真似師様ぁ!!」
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 13:35:05.68 ID:FDHFhtG4o
物真似師「貴女の父上のいうことも尤もです。マネをされてほしくない人だって決して少なくありませんから」

少女「で、でも……」

女性「あなた、いい加減にして。もしこのまま中止になったら、それこそ借金しか残らないでしょ」

芸人「これぐらいの怪我なんざ、唾付けてれば治る!」

女性「なわけないでしょう。意地張ってないで、お願いしましょう」

芸人「死んでもごめんだ」

女性「もう!」

物真似師「では、これで。洗濯物が溜まっていますので」

少女「ま、まって! お願いします!! 物真似師様しか頼る人がいないんです!!」

芸人「やめろ!! そんなものまね野郎にだけは絶対に頼るんじゃねえよ!!」

少女「お父さんは黙ってて!! 動けないくせに!!」

芸人「明日にはピンピンしてらぁ!」

少女「骨が飛び出すぐらいの怪我したのに無理に決まってるでしょ!?」

女性「あなた、このままじゃ一家全員、首を吊ることになるわよ。私、そんなことをなるぐらいなら、田舎に帰るから。もちろん、娘もつれて」

物真似師(帰りたい……)
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 13:43:00.83 ID:FDHFhtG4o
芸人「好きにしろぉ! 知るか!! けっ!!」

少女「お父さん……」

女性「分かりました。行きましょう」

少女「え!? でも……!?」

女性「苦労をかけるかもしれないけど、信じてついてきてほしいと言われ15年……。もう信じられないわ」

女性「田舎に帰らせていただきます」

芸人「おう! 帰れ帰れ!!」

女性「行くわよ」グイッ

少女「お、お母さん!? ちょっと……!?」

物真似師(本当に出て行っちゃった……)

芸人「せいせいすらぁ! お前も、早くでていきやがれ!!」

物真似師「……はい。さようなら」

芸人「二度と顔みせるなよ!!」

物真似師「はい」

芸人「本当にいけ好かねえやつだぜ……」
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 13:48:14.17 ID:FDHFhtG4o
物真似師(良い天気……。洗濯しないと)

女性「あの……」

物真似師「はい?」

女性「これが今、渡せる限界のお金です」

物真似師「……」

女性「あの人を助けてあげてください」

物真似師「でも……」

女性「本当にバカで融通がきかなくて、強引で、頭でっかちで、面倒で、気難しい人ですけど……」

物真似師(そこまで言うんだ……)

女性「それでも、私はあの人の妻なので……」

物真似師「……」

女性「どうか、お願いします」

少女「物真似師様、お父さんを助けてあげてください」

物真似師「それなら貴方達で助けてあげればいいのに」

女性「ああなったらもう、私たちを舞台にはあげてくれないでしょう。けれど、物真似師様なら……きっと……」
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 13:54:13.22 ID:FDHFhtG4o
芸人「なんとか……しねえとな……大見得切ったんだ……意地でも成功させないと……」

物真似師『すみません』

芸人「なんだこらぁ!!」

物真似師「あなたのものまねをすることにしました」

芸人「はぁ? 何も頼んでねえだろ!! 帰りやがれ!!」

物真似師「――やなこった!!」

芸人「なぁ!?」

物真似師「誰がてめえの指図を受けるかってんだ!! 俺は決めたぞ!! やるったらやる!!」

芸人「ざけんじゃねえ!! ものまね野郎に縋るほど、おちぶれちゃいねえよ!!」

物真似師「バカ野郎!! その使い物にならねえ足で何ができるってんだよ!! はぁん!? 添え木にすらなりゃしねえじゃねえかよ!」

芸人「て、めえ……! いってくれんじゃねえか!!!」

物真似師「こっちが助けてやるっていってんだよ! 黙っててめえは従っておきゃあまるっと解決だろうが!」

芸人「だから!! お前の手だけはぜーったいにかりたくねえっていってんだよ!!」

物真似師「だから!! お前のことを手伝ってやるっていってんだよ!!」

芸人「真似すんじゃねえええ!!」
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 14:02:45.74 ID:FDHFhtG4o
物真似師「まぁいい。とりあえず、この芸を見やがれ」シャキンッ

芸人「そりゃあ、うちの娘が得意な……」

物真似師少女「はいっ、よっ、ほっ!」

芸人(こいつ……噂通り、見ただけで真似ができるのかよ……)

物真似師「はいっ!」パシッ

物真似師「どうだ?」

芸人「ふ、ふんっ。娘の芸ができたからって、次の公演じゃ前座にしかなんねえよ」

物真似師「――話は聞いています。綱渡りをしていて、落ちてしまったとか」

芸人「ああ、そうだよ。文句あるか」

物真似師「その芸、見せてもらえますか」

芸人「この足が見えねえのかよ!? できねえよ!!」

物真似師「出来る人は?」

芸人「低い位置、短い距離での綱渡りなら、うちの嫁ができる」

物真似師「なるほど」

芸人「けどまぁ、出ていっちまったからなぁ。ものまね野郎も、元ネタが見れないんじゃあ、ものまねのしようがねえな! がっはっはっは!」
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/18(日) 14:03:30.42 ID:FDHFhtG4o
>>12
訂正

物真似師少女「はいっ、よっ、ほっ!」

物真似師「はいっ、よっ、ほっ!」
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 14:13:31.01 ID:FDHFhtG4o
物真似師「そうですね……」

芸人「もういいだろ。さっさと出て行け」

物真似師「では、奥さんのものまねをします」

芸人「はぁ?」

物真似師「――これが今、渡せる限界のお金です」

芸人「……!?」

芸人(このやろう……声色まで似せられるのか……!?)

物真似師「あの人を助けてあげてください」

物真似師「本当にバカで融通がきかなくて、強引で、頭でっかちで、面倒で、気難しい人ですけど……」

芸人「……」

物真似師「それでも、私はあの人の妻なので……。どうか、お願いします」

芸人「……」

物真似師「一言一句ものまねさせていただきました」

芸人「そんなことで俺が説得できるとでもおもってんのかよ。馬鹿馬鹿しい」

物真似師「――ちょっと嬉しいじゃねえかよぉ、ちくしょうめ」
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 14:20:17.61 ID:FDHFhtG4o
芸人「そんなこと言ってねえだろ!!」

物真似師「あなたのものまねをしたら、自然と出た台詞です」

芸人「てめえのものまねは完璧じゃねえな!!」

物真似師「心得ています」

芸人「いちいち癪に障るやつだなぁ……!!」

物真似師「私は本物に成りきることはできません。ですが、他の者を騙せるぐらいには似せられる自信があります」

物真似師「それはあなたが自身の芸に対して持っている誇りと同じです」

芸人「……」

物真似師「マネさえさせてもらえれば、期待には応えるつもりです」

芸人「この足じゃ、何もできねえんだよ。もう無理だ」

物真似師「……」

芸人「分かってる。俺は頑固者だ。下げる頭なんてどこかに置いて来ちまった。いつもあいつには迷惑と苦労をかけてきたよ」

芸人「支えてくれてきたのは、あいつだけだった……。感謝してもしたりねえ……」

芸人「だから、もうこれ以上、俺に関わってほしくないんだ。俺は、独りで成功させる。失敗するって分かっていても、成功させるつもりでやんねえと、あいつに申し訳が立たねえからな。すまねえが、出て行ってくれ」

物真似師「……わかりました」
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 14:27:47.67 ID:FDHFhtG4o
物真似師「――俺に関わってほしくないんだ。俺は、独りで成功させる。失敗するって分かっていても、成功させるつもりでやんねえと、あいつに申し訳が立たねえからな。すまねえが、出て行ってくれ」

女性「……」

物真似師「以上です」

女性「あの人ったら……」

物真似師「頑固者なんだからぁ、もぅ〜」

女性「そ、そんなこと思ってません!!」

物真似師「そうなのですか」

少女(物真似師様って意外とお茶目なのかな……)

物真似師「最大の芸である高所綱渡りをやりますので、一度見せてください」

女性「ですが、私ができるのは低所でしかも短距離ですよ?」

物真似師「綱渡りのものまねができれば、高さも距離も関係ありません」

女性「え……」

物真似師「私が真似をするのは『綱渡り』ですから」

女性「命にかかわりますよ……? 失敗したら旦那のように……」

物真似師「なりません。失敗のものまねをするつもりはありませんから」
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 14:42:32.68 ID:FDHFhtG4o
―会場―

女性「ここで私たちの芸を披露するつもりだったのですが……」

物真似師「あの一番高い柱の上で綱渡りを?」

少女「はい。お父さん、あそこから落ちちゃって……」

物真似師「よく助かりましたね」

少女「落ちたときのために用意していた分厚い布の上に落ちたので、なんとか……」

物真似師「どちらにしても幸運だと思います」

女性「綱渡りの準備ができました。本番のものより半分以下の高さと長さですが」

物真似師「構いません。見せてください」

女性「はい。では、この長くしなる棒を持ちまして……」

女性「ほっ……はっ……」フラフラ

物真似師「……」

女性「――っと、なんとか渡りきれました」

少女「やったー」パチパチパチパチ

物真似師「では、ものまねしてみます」
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 19:01:59.21 ID:FDHFhtG4o
―翌日 城下町 会場―

芸人「くっ……。ふぅー……」

芸人(村から大した距離じゃねえのに……。半日もかかっちまったな……。この足がまともなら……)

芸人(文句言ってる場合じゃねえな。本番は二日後だ。この足でもできる芸を用意しねえと……)

「すげえ奴がいるぞ!!」

「なんだあれー!」

「祭に向けての練習じゃねえの?」

芸人「な、なんだぁ? なんでこんなに人が……」


物真似師「ほっ……はっ……」フラフラ


芸人「な……あ……!?」

「見てるこっちがハラハラするぞ、おい」

「こえー!! 落ちたらどうするんだ!?」

「でも、命綱はつけてるっぽいぞ」

芸人「あ、あのやろう……!!」
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/18(日) 19:05:38.80 ID:FDHFhtG4o
物真似師「よいしょっと」スタッ


「渡りきりやがった!!」

「すげー!!」


物真似師「さてと……。よっと、ほっ……はっ……」フラフラ


「折り返したぞ!」

「あれがゴールじゃなかったのかよ!?」


芸人「お、おいこらぁ!! 降りて来い!! バカ野郎!!」

物真似師「どうも」

芸人「どうもじゃねえよ!! 降りてこいって言ってんだよ!!」

物真似師「分かりました」

兵士「なんの騒ぎだこれは」

芸人「あ、やべぇ」

兵士「おい、ここで大道芸をしていいのは祭のときだけだぞ。何をしている」
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