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リムル「俺の部下が出鱈目な件」(偶に安価)
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1 :
◆5ErMbW2vGU
:2018/01/14(日) 23:34:40.44 ID:/m4nMCCW0
彼女を自慢するために俺を呼び出した憎めない後輩。
そんな後輩が暴漢に刺されそうなのを庇い、気付いたら……異世界でスライムになっていました。
何を言っているのかわからないと思うが、俺にも何が起きたのか分からない。
だが、驚くのはまだ速い。
俺はその後、竜に出会い、子鬼族(ゴブリン)に出会い、狼牙族に出会い、大鬼族(オーガ)に出会い、蜥蜴人族(リザードマン)に出会い……紆余曲折を経て『魔王』なんていう魔物を統べる者の一柱へとなった。
うん、自分でもお前は何を言っているのか、と問われるのは仕方がないと思う。
妄想乙、と言われても広い心を持つ俺としては笑って許せるだろう。
あ、いや、やっぱりちょっとは怒るかもしれない。だって本当の事言ってるだけだし。
だから信じる信じないないは貴方次第。
だけどさ、信じなくても良いけどそれを俺の部下の前で口にすることはオススメしない。
本っ当に自分で言うのも何なんだけど。
俺の部下たちは俺には勿体ないほど優秀で何故か俺を崇拝し……その上強い。
もう一回言っておくけど、彼らは強い。
比喩でもなんでもなく腕っぷしという面で強い。
そんな彼らは俺を神聖視し過ぎているきらいがある。
悪い気はしないが過剰すぎるソレは時として、いやいつも大抵なにかトラブルを巻き起こす。
これは、そんな面白おかしくも、俺の胃痛の種になる話の愚痴みたいなものである。
良かったら聞いて行って欲しい。
《告。主様の肉体構造には胃、及び内臓に類する体内器官は存在しません》
ウルサイよ!
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1515940480
2 :
◆5ErMbW2vGU
:2018/01/14(日) 23:37:35.12 ID:/m4nMCCW0
魔物の国、テンペスト。
俺たちが興した国はいろいろありながらも人間たちに受け入れられ始めていると言える。
それは大変に喜ばしいことだ。これも偏に皆の頑張りのおかげだと思う。
未だ魔物、魔族を敵と認識し、恐怖し、畏怖し、嫌う者は少なくない。
それは仕方のないことである。
こういうことには時間がかかるのだ。
だから俺としてもそういった人たちがこちらに危害を加えてこない限りはこちらから敵対する意思はない。
現状、信じてくれる人達だけでもテンペストは賑わいを見せているし、ここから日々小さな努力を続けていくことが大事だろう。
と、言うわけで。
「みんなお疲れ様だな! 今日は無礼講としてパーッと騒ごう!」
「「「オオ─────ッ!!」」」
俺の合図で全員が手に持っているジョッキを掲げる。
記憶にあるキン、と高く響くようなガラスの音ではなく、やや鈍い音が木霊して全員がゴッキュゴッキュとエールを飲み干した。
この世界ではガラスが発達していない。
無いわけではないが、日用生活品に溶け込むまでに頒布するにはまだ時間がかかるだろう。
3 :
◆5ErMbW2vGU
:2018/01/14(日) 23:41:32.68 ID:/m4nMCCW0
今俺たちがいるのは自国、テンペストではなかった。
ドワーフの王、ガゼル・ドワルゴが統べる武装国家ドワルゴン。
我が国最初の友好国である。
ここはそのドワルゴンでも俺一押しの夜のお店、『夜の蝶』だった。
蝶、と言うからには皆さん、お分かりの事と思う。
このお店は綺麗所のお嬢様方、それもエルフがたくさんいるお店なのである!
薄い服に短い丈。膨らむ胸部にすらりと伸びる白い脚。
それだけで、
(うっひょーっ! 見えそうで見えない!)
と毎度俺の思考を刺激する。
彼女たちは絶妙に見えないラインで攻めてくる。
俺の『魔翌力感知』による視界は大抵の不意打ちにも気付ける程に高性能なのだがそれをもってしても覗きたい先が紙一重で見えないのだ。
いつか、やがていつかはその先を拝めることを目標に今日も自身のスキル性能を高める所存である。
《……》
おっと、意志無きハズの俺のスキルにして相棒とも呼べる智慧之王(ラファエル)さんが何か言いたそうだが、あえて無視しておこう。
4 :
◆5ErMbW2vGU
:2018/01/14(日) 23:44:19.18 ID:/m4nMCCW0
それに俺の目的は仕事なのだ。
決してこのお店に来ることが目的だったわけではないのだよ。
ドワルゴンにて俺発案のハンバーガーショップを経営する計画があった。
今日はその下見件準備いった所なのだ。
ドワーフの王、ガゼルとは既に知己であり、話は通してある。
今日俺たちがここに来ることは知っているが、どうしても外せぬ仕事の為に会うことは叶わないとのことだった。
「何故今日なのだリムルよ!」
などと抑えられない『英雄覇気』をまき散らしながら不満を述べられたのは昼間のことである。
あの場にいた部下の人たちは大丈夫だったのだろうか。
何人かが腰を抜かしていた気がするのだが、気がするだけだろう。うん。
そんなわけでこの国には仕事で来ており、決してこのお店に来ることが目的では無かったのだよ。
ただ、人の上に立つ者としては、他国まで出張して仕事をしている部下たちを労うのもまた大切な仕事、というだけなのだ。
え? 国家元首自ら来る必要は無かったんじゃないのかって?
馬鹿言っちゃいけないよ。この計画が俺の発案である以上、俺は責任もって仕事の仕上がりを見届ける義務があるのさ!
《……告。仕事という割にはその“人選”に疑問を呈します》
おっと、智慧之王(ラファエル)から何か疑わしい眼差しを向けられているような気がする。
ま、目なんてないんだけどね。
5 :
◆5ErMbW2vGU
:2018/01/14(日) 23:46:57.99 ID:/m4nMCCW0
しかし人選か……。
智慧之王(ラファエル)先生の言いたいこともわかる。
何故なら────
「リムル様、新しい酒をご用意致しました」
恭しく頭を下げながら俺の前のテーブルに酒を置く執事姿の男。
ディアブロである。
テンペストでの強さでは俺に次いでbQか3に連なる猛者と言って差し支えない。
というかだな。
「ディアブロ、店の子の仕事を取るんじゃないよ」
「は……い、いえですが」
「今日お前たちをここに連れてきたのはお前たちの慰安も兼ねてるんだ。俺の世話をすることよりも自分たちが楽しむように!」
「は……はい、かしこまりました」
やや戸惑いながらも頭を下げるディアブロ。
どこか仕方なく、という風体ではあるが女の子からお酒を受け取りその喉に流し込んだ。
その所作の一つ一つが流麗であり、エルフの女の子達はうっとりとディアブロを見つめている。
イケメンは何をしても様になるからな。
6 :
◆5ErMbW2vGU
:2018/01/14(日) 23:49:09.90 ID:/m4nMCCW0
「しかし、俺はこういう店には慣れませんね」
そう呟くのは両隣にエルフが座っているベニマルだ。
額から二本の角を生やす元大鬼族(オーガ)の青年である。今では進化して妖鬼(オニ)と呼ばれる種族になっている。
名実ともにディアブロとbQを奪い合う程の猛者であり、現在ではその役職から国の役どころとしてはbQはベニマルだ。
もっともこの二人に期待する役どころは違うので、この体制はそう変わらないだろう。
ベニマルは少し照れが入った顔でお猪口を呷る。
これまたイケメンは様になる。
「そうは言うがお前は体制上俺の次なんだからな。今後、各国との会合とかでこういう場も増えるだろうし、慣れて楽しみ方を覚えておけよ!」
やや偉そうにそう言っておく。
実際、ベニマルにはそういう事にも慣れてもらわなければならない。
「うへぇ……」
少し嫌な顔をするベニマル。
まあコイツの性格上、わからんでもないが。
とりあえず、せめてそうやってすぐに顔に出さないようにするのが喫緊の課題だな。
7 :
◆5ErMbW2vGU
:2018/01/14(日) 23:51:44.69 ID:/m4nMCCW0
「……」
そんなやり取りを我関せずとばかりに目を瞑って酒を呷るのはソウエイだ。
ソウエイ自身は気にならないのかそれとも気にしないのか。
隣の女の子がお酌をしてくれるが、冷静そのものである。
流石は“隠密”と言ったところか。この程度では心を乱されないという自信を律する事に成功しているようである。
代わりに慰安としての効果があるのかもまた分かりずらい。
もう少し愛想良くしてくれても良いんだけどね。
最も、ソウエイが笑う時は大抵俺の為に怒っている時なので怖かったりするんだけど。
あの顔を見ると裏で一体何をやるつもりなのかと相手に対して心配してしまうほどある。
他にも連れてきたメンバーはそれぞれ楽しそうに酒を飲んで陽気にしている。
概ね連れて来て良かった良かった。
《……連れてきている男性率百%》
……今度女性たちの慰安も考えるさ。
《……》
それはそれで不満なのかよ!?
8 :
◆5ErMbW2vGU
:2018/01/14(日) 23:54:54.36 ID:/m4nMCCW0
俺が自身のスキルとそんなやり取りをしていた時、それは聞こえてきた。
「それで言ってやったのよ! クソ雑魚スライムの分際で! ってな!」
「俺たちにかかればあんなスライム、たいしたことねーのよな!」
冒険者風の男たちが酒を飲みながら騒いでいる。
それは良いんだが……。
今スライム、とか言ったか?
反応してしまうのは少し自意識過剰だろうか……。
そもそも、なんだかその冒険者風の男たちには僅かに見覚えがあるような気がしないでもない……気がする。
「……」
「……」
その会話が聞こえたのか、ディアブロとベニマルも眉を顰め会話に集中しだした。
……何故だろう。すごく嫌な予感がする。
9 :
◆5ErMbW2vGU
:2018/01/14(日) 23:57:18.96 ID:/m4nMCCW0
「最近何かと話題になってるようだがな! まあ俺たちにかかればスライムなんてどれも同じようなモンってことよ!」
「そうそう!」
ヒートアップしてきているのか、彼らの声が徐々に大きくなっていく。
席に付いている女の子達が少し気まずそうにしだした。
時折こちらに視線を向けてくる。
……まあ気持ちは分からないでもない。
酒の席だし、彼らの言うスライムが俺の事とも限らないし、放っておこう、と考えたのだが。
彼らは調子にのってしまったらしい。
運も悪かったと言えるだろう。
「最近じゃ魔王を名乗ってるらしいけど雑魚も雑魚よ! たかがスライム!」
「当時俺たちは見世物にして売ってやろうかと思ってくらいだもんな!」
アウト。
アウトである。
彼らの言うスライムとは、どうやら俺の事らしい。
スクッとディアブロが席を立つ。
お、おい……と声をかけるより先に、ディアブロは冒険者風の者達の前に立っていた。
10 :
◆5ErMbW2vGU
:2018/01/14(日) 23:59:46.59 ID:/m4nMCCW0
「失礼、少々お話が聞こえてきまして」
「ああ? なんだアンタ?」
「いえ、先ほどからスライムがどうのと聞こえてきたものですから気になりまして。良ければどのようなお話なのか是非お聞かせ願えないかと」
ニッコリと微笑んで尋ねるディアブロ。
見る者が見れば背筋を凍らせるようなそれは、しかし酒の入った彼らには通用しなかったらしい。
「はははは! 良いぜあんちゃん! 座りなよ!」
「話題は今を騒がす例の新参魔王スライムの話さ!」
「ほうほう」
「ここだけの話だが、俺たちは前にこの町の入口でソイツに会ったことがあるのさ!」
「なるほど」
絶妙に相槌を打って話を気くディアブロ。
いつの間にかベニマルもソウエイも飲む手を止めて聞き耳を立てている。
それにしても入口で会った……?
うーむ……と俺が記憶を整理していると、智慧之王(ラファエル先生より解答が出る。
《解。彼らは主様が嵐牙狼族へと擬態して威圧した冒険者達です》
11 :
◆5ErMbW2vGU
:2018/01/15(月) 00:02:20.72 ID:ME4+nLZv0
おお! あの時の!
俺は威圧して気絶させてしまった冒険者たちを思い出した。
確かイチャモン付けてきた奴等だったな。
あの時失禁までしている奴等もいたはずだが……その話を自分からするものか?
俺が不思議に思っていると、どうやら話をそうとう作り変えているらしかった。
「臆病者のスライムとゴブリンでな!」
「ちょっと脅しただけで俺たちに恐れをなしたのさ」
「俺たちかかればあの程度のヤツ、あっという間に殺せるぜ!」
やばい。
このままではまずいという警鐘が俺の中でどんどん強くなる。
そしてソイツは決定的なことを言ってしまう。
「魔王リムルなんて所詮下等なスライム──」
「──黙れクズ共」
12 :
◆5ErMbW2vGU
:2018/01/15(月) 00:05:27.99 ID:ME4+nLZv0
言葉だけの威圧。
ディアブロは『魔王覇気』を使用していない。
だが、彼らはそれ以上口を開けなくなった。
ソウエイが人の男の首筋に剣を当て、ベニマルもまた一人の肩に刀を乗せていた。
「な──」
「貴様らクズがリムル様を貶めるような事を口にするなど……万回殺しても飽き足らぬ」
基本いつもニコニコしているディアブロの怒り顔は実際あまり見ない。
俺が見ていない所ではあるそうだが、俺がいるところではめったなことではそのようなことはないのだ。
よっぽど、ディアブロの琴線に触れたのだろう。
そしてそれは、ソウエイやベニマルにとっても同様のようであった。
そこからの流れは推して知るべし。
結局こうなるのかという程わかりきっている結末であったので、最後まで述べることは自粛しておくことにする。
尚、夜の蝶への出入禁止が言い渡されなかったのだけが僥倖であった。
13 :
◆5ErMbW2vGU
:2018/01/15(月) 00:21:27.65 ID:ME4+nLZv0
●
ども!
自分は人鬼族(ホブゴブリン)のゴブタと言うっす!
リムル様たちが夜のお店に行くって言うのにまた置いていかれたっす!
「ゴブタ殿、本当にこっちで会っているのか? 吾輩、ドワルゴンは初めてなのである」
心配そうにそう尋ねるのは龍人族(ドラゴニュート)のガビルさんっす。
置いていかれたメンバーの一人っす。
「……おで、道は自信ないっす」
ゴブゾウも不安そうにしているっすが……実は自分も自身ないっす。
なんとなくこっちだった気がするって道を歩いているだけなんすから。
実は置いていかれた自分たちもリムル様たちのところへお邪魔しようとお店を探している所っす!
店の名前は確か……夜の……夜の……なんとかってお店っす!
きっとそれっぽい所にいけば見つかるっすよね
14 :
◆5ErMbW2vGU
:2018/01/15(月) 00:25:02.84 ID:ME4+nLZv0
「あれ、ここ……」
その時、ゴブソウが一つの店を見つけたっす。
『夜の蛾』
おお!
確かこんな名前だったっす!
お手柄っすよゴブゾウ!
「おお、ここがリムル様たちが懇意にしている夜のお店ですかな、吾輩楽しみになってきたのである」
「この時間ならまだいると思うっす、乱入して面倒見てもらうっすよ!」
ウキウキ気分で扉をあけてカウベルが鳴ったっす。
そこにいたのは……
「いらっしゃ〜〜い!」
「うっふぅ〜〜ん!」
強面のドワーフが化粧に女装している光景だったっす。
脂汗が続々吹き出してくるっす。
15 :
◆5ErMbW2vGU
:2018/01/15(月) 00:25:33.95 ID:ME4+nLZv0
「ゴ、ゴブタ殿? こ、ここは違うのでは……!?」
「そ、そうっすね……」
「おで、この店の通りの向こうだって思い出しただす」
「そういう事は早く言うっすよ!」
ゴブゾウに文句を言ったっすけど、時既に遅しっす。
自分らは屈強そうな女装──オカマドワーフにしっかり腕を掴まれて逃げられないっす!
「う、うごご……!? 離せ、離すのである!」
ガビルさんも必死に抵抗しているっすが、どういうわけか全く逃げられないっす!
こんなことなら大人しくしていれば良かったっす!
「愉しんで言ってねぇん」
「「「助けてリムル様ぁ!!」」」
16 :
◆5ErMbW2vGU
:2018/01/15(月) 00:29:05.84 ID:ME4+nLZv0
●
「あん?」
今、助けを求められた気がしたが……
「どうかしましたかリムル様?」
「……いや」
ディアブロに尋ねられ、なんでもないと首を振る。
きっと気のせいだろう。
《……》
智慧之王(ラファエル)先生も黙っているし。
それよりも、だ。
「お前ら、本当にほどほどにしろよ?」
迷惑をかけたので予定よりかなり早く店を出た。
流石にあのままあそこで飲み続けるわけにもいかなかったのだ。
ママさんにはまた多めに金貨を握らせてきた。
まったく……やれやれだと思いながら次に訪れる時を楽しみにするのだった。
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