結城友奈「これは勇者たちの物語」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/12(金) 22:10:48.62 ID:QHT5/WDn0
すみません、前スレで終了の予定でしたが唐突に最終話を投下していきます
(需要がないのは理解しているのですが、何となく最後まで書きたくなってしまいまして……)

高嶋友奈の章・第一話「出会い」:郡千景「結城友奈は勇者である」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1511958755/
高嶋友奈の章・第二話「心の平安」:高嶋友奈「結城ちゃんは勇者である」(前スレ)
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1513680778/
高嶋友奈の章・第三話「純潔」:結城友奈「これは勇者たちの物語」(このスレ)



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1515762648
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/12(金) 22:13:46.49 ID:QHT5/WDno

*大赦本部前

高嶋友奈「風先輩を止められるならこれくらい! だって私は勇者だから」

友奈(それはどこかで聞いた言葉で、結城ちゃんなら言っただろう台詞。……私は勇気ある人じゃないけど、この世界で二年を過ごした結城友奈であることにも間違いないから、自然とその言葉が出てきたのだと思う)

犬吠埼風「ゆう、な……」

友奈(『結城ちゃんは勇者である』で言うと確か九話の場面。風先輩の姿がとても心に刺さって、泣いてしまったことを辛うじて私は覚えている。あの場面と同じ光景の今、目の前で風先輩は私の名前を小さく呟いてくれた。そして──)

三ノ輪銀「……!」

三好夏凜「……ぁ……」

ギュッ

犬吠埼樹「……」

風「……いつき……」

友奈(樹ちゃんが風先輩の背中を抱きしめる。泣きそうな顔で、だけど泣いたりなんかしないで、強く強く、風先輩を抱きしめていた)

風「あ、あぁ……っ……ああぁ……ッ」

友奈(……風先輩は泣き崩れてしまったけれど……大丈夫。今はそばに樹ちゃんが居る)

風「……ごめん……ごめん、皆……」

友奈(私と夏凜ちゃんと銀ちゃんは、ただ静かに風先輩と樹ちゃんのやり取りを見つめている。樹ちゃんが風先輩にスマホの画面を見せているところだった)

樹『私達の戦いは終わったの。もうこれ以上、失うことはないから』

風「でも! 私が勇者部なんて作らなければ──!」

樹「……」フルフル

友奈(樹ちゃんはポケットから一枚の紙を、私たちが書いたあの時の寄せ書きを……取り出して、ペンを走らせる。……いつも大事に持っていてくれたんだね……)

樹『勇者部のみんなと出会わなかったら、きっと歌いたいって夢も持てなかった。勇者部に入って本当によかったよ』

友奈(……うん。そうだね、樹ちゃん)

友奈「風先輩、私も同じです。だから、勇者部を作らなければ、なんて言わないで下さい」

風「……っ……」

風「……あぁ……あぁぁあぁぁぁ……っ!」

友奈(風先輩の握った拳はどこにもぶつけられることはなくて、風先輩の全てを樹ちゃんの小さい身体が包み込み、決して離さないように抱きしめていた)

友奈(……確か九話のタイトルは"心の痛みが分かる人"でアマドコロの花言葉。今の樹ちゃんにこそ相応しい植物の名前、だったんだね……)



3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/12(金) 22:18:21.76 ID:QHT5/WDno

友奈(泣き続ける風先輩を樹ちゃんがなぐさめ続けている。風先輩の優しさが起こしてしまった出来事だから悲しい光景だけど、それでも確かに、あたたかい時間はそこにあって──)

友奈(突然、目の前に私たちのスマホが現れた。緊急速報のような不快な異音が鳴り響く。見ると、この場に居る全員、夏凜ちゃんと銀ちゃんのスマホも同じ状態だった)

銀「特別警報発令……と言うことは──!?」

パァーッ

友奈("私が行かないと!"と思った時には、鮮やかな色が世界に広がり、私たちは樹海の中に居た。……風先輩を止めることはできた。なら、私が今行うべきことは──)

夏凜「──しっかりしなさい、私! 緊急事態だとしても、まずは状況確認よ。バーテックスの一体や二体私が──え……? なによ、これ……」

友奈(皆の居場所を示すいつものスマホの画面は、半分近くが真っ赤に染まっていて、その赤い点全てがバーテックスだと私は知っている。──東郷さんの名前は画面の一番端、私たちと最も離れた場所にあった)

友奈「東郷さん……!」ダッ

夏凜「待ちなさい! 友奈!」

友奈(いても立ってもいられず、私は駆け出していた。後ろに夏凜ちゃんの気配は感じていたけど振り返る余裕なんてなかった)

友奈(進み、大量のバーテックスが壁の穴から侵入してくる姿を目の当たりにする。アニメで見た時よりとは比べ物にならない、本能に訴えかけてくるような恐怖があった。心臓の中で冷たい感触だけが広がっていく。──でも、壁のそばには私が探していた人も確かに居て)

友奈「東郷さん! ──え……?」

友奈(アニメで見た覚えのある武器を構えた東郷さんの後ろ姿。そこからさらに奥、私のよく知る人が……壁の上で、東郷さんを見守るように立っていた)

友奈「ぐん、ちゃん……?」

友奈(勇者姿になったぐんちゃんが、何故か目の前に居て──今更ぐんちゃんの端末が私たちのスマホに表示されていないことに気付いてしまう──違う! 今はそんなことはどうでも良くて──!)

夏凜「何やっているのよ東郷! まさか千景もなの!?」

郡千景「……」

東郷美森「……見ての通りよ、夏凜ちゃん。壁を壊したのは、私よ」

夏凜「な……っ! 何を言っているのか、分かっているのあんた!?」

友奈(夏凜ちゃんはもう追い付いていて、夏凜ちゃんの言葉に東郷さんはアニメで聞いた覚えのある言葉を返している。でも、そんなやり取りすら満足に私の耳へは入って来なくて……ただ私は、ぐんちゃんに向かって)

友奈「ぐんちゃん……どうして、ここに居るの……?」

友奈(私の口から辛うじて出た問いに、ぐんちゃんが初めて目を合わせてくれる。いつものぐんちゃんの優しい瞳だった。だから安心してしまう。……だけど)

郡千景「……そうね、言葉にするなら物語の行く末を見届けるために、かしら。……私は東郷美森を止めることなく、こうして今も見過ごし続けている。言わば彼女の共犯者と言っても過言ではないのでしょうね」

友奈(……ぐんちゃんの言っていることが理解できない……したく、なかった)



4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/12(金) 22:36:56.03 ID:QHT5/WDno

友奈「ぐんちゃん、何を言って──」

シュタッ

銀「すみません樹さん、運んでもらっちゃって。……まったく千景さんったら今更そんな悪ぶらなくても良いでしょう?」

友奈(銀ちゃんが樹ちゃんに抱えられて、私の隣までやって来る。その後ろには──頭がごちゃごちゃな私だけど、これだけは本当に……本当に"良かった"と、心の底から思えて……私は嬉しかったんだ)

千景「事実を言っているまでよ、三ノ輪さん。……それにしても、まさかあなたまでこの早期に姿を見せてくれるとはね」

千景「……ねぇ、風先輩?」

友奈(今やって来たのは樹ちゃんと銀ちゃんだけじゃない。風先輩も居て、自分の足でこの場に立っていた)

風「……」

風「……みっともない姉で、本当にどうしようもない部長だけど……樹が、私の妹が、前を向いているのよ……。あの樹がよ……? だったら……姉であるアタシが、ずっと下を向いて座っているわけには、いかないでしょ……!」

千景「……そう。少なくとも私の知っている同じ時間の風先輩よりも大分マシな顔になっているようね」

風「……私が道を間違えたら皆が正してくれた。本当に言われた通りになったのよ。……あんたから貰った言葉にもアタシは勇気づけられた。だから、アタシにもう一度前を向かせる、そのきっかけをくれたのは、間違いなく千景なのよ!」

千景「……相変わらず素直過ぎて、お人好しも過ぎる人ね」

友奈(……私は風先輩に頼ってばかりだったけど、風先輩は、ぐんちゃんにだけは弱音を見せていて……いつも敵わないなって勇者部の皆はこっそり思っていたんだよ……? 多分形は違うけど、二人は私と東郷さんの関係に近くて……ぐんちゃんは風先輩にこうして何かを行ってくれたから、風先輩は立ち上がったんだ……)

友奈(……まだ何もできていない私と違って、ぐんちゃんはもう……風先輩を守っていたんだね……。……それなら私は? 風先輩を止めたのが本当はぐんちゃんなら、何もできなかった私は今東郷さんに何ができるの? そう思った瞬間、頭の中にもやが掛かり、アニメの結城ちゃんがどんな行動をしていたのか、私は何故だか思い出すことができなくなってしまう)

風「で、これは千景の望む未来に必要なことなの?」

千景「……さぁ、どうなのかしらね? ただ一つ言えることがあるとすれば」

千景「──それを決めるのは私でなくてあなたたちよ」

友奈(ぐんちゃんの強い意志を感じる瞳が、私を含めた全員を見た。──ここでようやく私は気付く。ぐんちゃんがいつものぐんちゃんで、何も変わっていないことに今更気付いたんだ。……本当に遅すぎるね、私……。だから自分が行わなければならないことも思いつかないし、こうして黙っていることしかできないんだ……。頭の中はさらにグチャグチャになり、私は自分自身がよく分からなくなっていく)

千景「東郷さん。全員が揃ってしまった以上、私も不干渉と言うわけにもいかなくなったわ」

東郷「元々私一人が始めたことよ。それに何があっても私は成し遂げてみせるつもりだけれど……そう言う意味の言葉ではないのよね?」

千景「理解が早くて助かるわ。特別に、犬吠埼姉にも伝えた言葉を聡いあなたにプレゼントしてあげる」

千景「──あなたの信じる道を進みなさい、東郷美森。間違っていたらあなたの仲間が何度だって正してくれるわ」

友奈「……っ……!?」

友奈(ぐんちゃんの言葉にドキリとした)

友奈(だって、私が行うべきことを今教えてもらった気がするのだから。……もやが掛かっていた記憶は少しずつだけど晴れていき、私がここに居る意味をゆっくりと確実に、思い出していく。──私の記憶は私の心に左右されているようだった)

美森「……ありがとう。千景ちゃんはやっぱり優しいのね」

千景「あなたに言われると嫌味にしか聞こえないわ」ハァ…

美森「くすっ。……そうなのね、私はまだ笑えるのね」

友奈(東郷さんから次に私へと、ぐんちゃんの視線は移動する。ぐんちゃんの優しい口調が聞こえてきた)

千景「正直、詳しい事情は分からないわ。けれどね、私も私の願いを叶えるために今ここに立っているの。……元の世界に帰りたいと言う願いは初めから変わっていないのよ。そして、その願いはいつだって──」






千景「あなたと共にあるのよ、高嶋さん」






友奈(真っすぐに私を見つめて、ぐんちゃんは宣言する。私の行うべきことはまた少しずつ見えてきて『ああ、そっか』と思った。ぐんちゃんは、私の正体に……気付いていたんだね……)



5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/12(金) 22:41:03.55 ID:QHT5/WDno

美森「……千景ちゃん、あなたに貰った言葉通り私は私の信じる道を進むわ」

千景「ええ。私もあなたのその選択を否定しないわ」

美森「……やっぱり優しいじゃない……」

友奈(東郷さんは小さくそう言って、ぐんちゃんに向けていた視線を別のところへ、銀ちゃんへと向ける)

美森「銀。あなただけは何があっても今一時は絶対にそこから動かないで。一生で一度だけの……東郷美森と鷲尾須美からのお願いよ」

銀「……須美にまで頼まれちゃ、それは聞いてあげるしかないよな」

美森「ありがとう、銀。私の精霊二体を置いていくわ。絶対にバーテックスには手出しをさせないよう厳命しているから安心して」

友奈(東郷さんが銀ちゃんにしたお願い事の理由を、私は多分理解していたのだと思う。今度は私たちに向かって東郷さんは言った)

美森「──私が壁を壊した理由を知りたい人はついて来てください」

友奈(東郷さんとぐんちゃんが壁に向かって進んで行く。すぐに姿は見えなくなった。壁を越えたんだと思う。銀ちゃん以外の全員は二人を追いかけて行き、そして──)

友奈(炎とバーテックスしか存在しない世界が、目に飛び込んできた)

夏凜「……なによ、これ……?」

樹「……!」

風「……まさか、樹海化の時みたいに、アタシたちどこかに飛ばされたの……?」

美森「違いますよ、風先輩。これが世界の真実の姿なんです」

千景「……この神樹と言う箱庭世界は揶揄抜きに箱庭だったのよ。世界規模の結界にこの四国は覆われていて、そのまやかしがなくなってしまえば……今、あなたたちの目に映っているありのままの日本、地球の姿が見えてしまうのよ」

夏凜「……う、そ……」

美森「偽りであったのならどれだけ良かったか……。神樹によって私たちは都合の良い世界だけを見せられていたに過ぎないの」

友奈(知っていたはずの私でさえ思わず絶句してしまうほどの光景。太陽のような大地と、無数にうごめくバーテックスたちの群れに鳥肌が自然と立ち、地獄と呼んでしまいたくなる程の世界が、どこまでも延々と続いていた)



6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/12(金) 22:51:49.14 ID:QHT5/WDno

美森「……分かってもらえたと思います。世界は滅んでいるに等しく、偽りの小さな世界を守るためだけに私たちは戦い……これからも散華を繰り返していく。そんな救いのない物語の真っ只中に私たちは居るんです!」

友奈(もしかしたら私は、今の東郷さんに返せる言葉を持っていたのかもしれない。だけど、本来なら知るはずのない未来を知っているからこそ言える言葉であって、あまりにも無責任と卑怯が過ぎているように思った)

友奈(私は出かけた言葉を飲み込む。すると……。ふと、何故私がここに居るのか、その理由をまた思い出せなくなりかける。今も思い出している途中なのに! 必死に奥歯を噛みしめてこらえた。……何を決意して、ここに居るのかもう一度思い出すんだ! そして、自分の行うべきことを行え! 高嶋友奈!)

夏凜「そ、それでも……私たちは世界を守らなくちゃいけなくて──」

美森「夏凜ちゃん! あなたは大赦の道具にされていたのよ!? それでもまだ大赦のために戦うの!?」

夏凜「私が、大赦の、道具……?」サァー

風「……アタシも大赦には思うところがあるし、今も全然許せてない。だけどね! それでもアタシはこの世界を守るわ! だって、アタシたちの住む世界には樹や皆、東郷あんただって生きて生活していることに変わりはないのだから!」

美森「……っ……!」

美森「わ、私たちは生き地獄をこれからも味わい続けるんですよ! そんな生き方のどこに幸福なんてあるんですか!?」

樹「……」フルフル!

千景「そう、樹さんは東郷さんの考えを否定するのね……」

美森「樹ちゃん……。こんな目にあってまで何故、この世界を守ろうとするの……?」

友奈(皆が自分の意思を示していた。私は自分の知識を卑怯だからと言って、このまま黙っているの? ここに居る意味はそんなことのためなの? 高嶋友奈はそれで良いの? ……良いはずがない! 私は高嶋友奈だけど、間違いなくこの世界で二年間、結城友奈として生きてきたのだから! だから、私は思い出す、思い出した! 自分がここに居るその意味を! 私は──)



友奈(私は東郷さんの心を守るために! ここに居るんだっ!)



友奈「──東郷さん。私は皆と、東郷さんと暮らしているこの世界が、本当に好きなんだ。皆と過ごした勇者部が、その活動で出会ってきた人々が、友達が、クラスの皆が、近所の人が、お義父さんお義母さんが……みんなみんな、あたたかくて優しくて、こんな私を受けて入れてくれて……だから! だからね!  心の底から私は皆が大好きなの!」

友奈「私はこの世界を守りたい、ううん、守るよ。東郷さんが居る私たちの生きる世界を、私は守りたいんだ!!」

美森「どうして分かってくれないの、友奈ちゃん……? 戦い続ければ、大切な人との記憶さえ忘れてしまうのよ! どれだけの宝物であっても、幸福な思い出であっても全部、全部! 私たちは忘れてしまうのよっ! 私は忘れたくなかったはずなのに!!」

友奈「……っ……!」

友奈(心で強く決意していてもその言葉は痛かった。本当なら東郷さんにきちんと"違うよ"と返したかった。だけど、私は忘れることの怖さを多分誰よりも知ってしまっていて、今だってポロポロと記憶はこぼれてしまっている。一秒後には自分が高嶋友奈であることを忘れてしまうかもしれない。だから、東郷さんの気持ちが痛いほど分かってしまうから、私はどうしても言葉を作ることができない……。でも……東郷さん止めたいと思う気持ちは本当で……私は、私は……っ!)

ポン

友奈(いつの間にか隣まで来ていたぐんちゃんが、私の背中を優しく叩いてくれる。不思議と心が穏やかになり、頭の中が落ち着いていく。……きっと私はぐんちゃんに力を貰ったんだ)

千景「おそらくね、私と結城さんほど東郷さんの気持ちを分かる人は……そうね、後は三ノ輪さんくらいのものでしょうね。……そのことだけは覚えておいて欲しいものだわ」

美森「何を、言っているの……?」

友奈(東郷さんには答えず、ぐんちゃんは私にだけ聞こえる小さな声でささやいてくれた)

千景「高嶋さん、"こちらのこと"はお願いするわね。だから"あちらのこと"は私に任せておいて」

友奈(そして、ぐんちゃんは一瞬だけど、一緒に暮らしていた時の懐かしい、あのいつもの日常のように──)

千景「……」フッ

友奈(ささやかな笑顔で、確かに笑ってくれたんだ。──多分、私とぐんちゃんの歩いてきた道がもう一度交わった、そんな瞬間だった)



7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/12(金) 23:28:00.10 ID:QHT5/WDno

千景「世界の真相は分かったのだから、ひとまず壁の中に戻りましょう。あまりにもバーテックスだらけで生きた心地がしないわ」

美森「……そうね」

友奈(バーテックスを倒しながら、私たちは壁の内側に戻ってくる。壁の中のバーテックスは神樹様を目指しているのか、私たちには見向きもしていないようだった)

銀「ありがとな、お前たち。東郷さんの元に帰りな」

友奈(樹海に残る銀ちゃんを守っていた精霊たちが東郷さんの元にやって来て、そのまま消える)

銀「千景さん。バーテックスの進み具合的にはまだ余裕はありますけど……もしかしてそろそろ出番ですか?」

千景「ええ、もうすぐよ。何なら準備運動でもしておきなさい」

銀「へへっ。ようやくかー」イッチニーサンシー

友奈(ぐんちゃんと銀ちゃんはまるで部室に居る時のような会話をしていた。だけど、樹海の中に戻ってきても、外の世界の惨状と目の前の光景はそれほど変わっていない。そして、東郷さんと私たち、お互いが向かい合う姿も一切変わっていなかった。……ううん、私の心は確かに変わっていて、今度こそ東郷さんと向かい合える自分になれると思った。思い込むことにした)

友奈(だって、もう一度同じ道に立ってくれたぐんちゃんと一緒だから、私はもう揺るがないはずだから! ……昔のように私はもう逃げ出したりなんか、しない……!)



8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/12(金) 23:28:55.67 ID:QHT5/WDno

千景「──さて」

友奈(私が心を決めたのと同じ頃、不思議と通るぐんちゃんの一声が皆の視線の集めていた)

千景「それぞれの想いがあり、世界を守るか壊すかの二論があることは全員理解出来ているのでしょう? なら、勇者部らしく話し合いをして結論を出すことがあなたたちのそれこそらしさだと私は思うわ。悩んだら相談、五箇条に掲げている以上その言葉を否定するような無粋な人は居ないことでしょうし……」

友奈(最後の言葉はあえて言ったのだと、ここに居る皆は多分理解している。でも、ぐんちゃんがこうして話している理由を誰も理解できていないと思う。私もそうだった)

千景「話し合いの時間制限としてはおそらく十分ともう少々……その程度しか与えてあげられないことだけは申し訳なく思うから謝っておくわ」

風「千景……? あんた何を言って……?」

友奈(風先輩の疑問には答えず、ぐんちゃんは話を続けていく)

千景「この世界の大人はバーテックスとの戦いに勇者と言う名の子供を使っている。大人は勇者になれないと言う理屈はあるのでしょうが、私が過ごしたこの一ヶ月でさえ分かってしまうことは多々あるのよ。代表的なものを挙げれば、全てのやり取りをメール一つで済ますと言う悪癖。聞こえの良い言葉を使うのであれば、勇者部に全てを一任しているのでしょう」

夏凜「……千景……?」

友奈(言葉は冷静なのに、ぐんちゃんは怒っているんだと私は思った)

千景「つまり、この世界の運命は大人ではなく子供の手に全てが委ねられていると言っても過言ではないわ。……正直そこにも色々思うところはあるのだけれど、私見はこの際置いておきましょう。──委ねられているのだから、ここから先の未来を決める権利はあなたたち勇者にあるのよ。犠牲を払って戦い続ける勇者部にその権利がないとは絶対に言わせない。今更大赦ごときに口は挟ませないわ」

樹「……」コクン

友奈(もしかしたら樹ちゃんはぐんちゃんの言いたいことを理解していたのかもしれない。ぐんちゃんの言葉に頷いていたのは樹ちゃんだけだった)

千景「……樹さん、あなたは本当に強いわね。勇者部の中で誰よりも成長して、勇者部で育んできたものを強さとした。私はそれをとても尊いことだと思うわ。……どうか、その心の強さを皆の出すであろう結論の手助けとしてあげて。きっとどちらの結論になったとしても傷つく人は生まれてしまうはずだから」

友奈「……」

友奈(私はまだぐんちゃんの言おうとしていることを半分も理解できていないだろう。だけど、私はぐんちゃんを信じていて、ぐんちゃんはこんなにも何もできていない私を今も支え続けてくれている。だから、私が訊ねることはたった一つ、これだけだ)

友奈「ねぇ、ぐんちゃん。何かを、行う気なんだよね?」

千景「……」

友奈(ぐんちゃんは答えてくれなかったけど、それが答えだった。なら、私はぐんちゃんの手助けをして、その上で私の決意を果たすことにした)

千景「……中学生くらいの大人になりきれていない子供に、世界の命運を託すなんて頭がどうかしていると思うし、今こうして結論を出さなければならないあなたたちは本当に良い迷惑でしょう。そして同時に、酷い役回りだとも思うわ」

千景「それでも、ここに居るのは勇者部のメンバーだけしかいないのよ。無責任を押し付けられた立場であっても、結論を下す重圧が如何に過酷であったとしても、最早あなたたちが決めるしかない状況よ。……世界を壊すか、それとも守るか、どちらの結論になろうとも、あなたたちが出した答えであれば……私は全て受け入れるし、それが正当な私の立場とも言えるわ」



9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/12(金) 23:30:41.76 ID:QHT5/WDno

風「……ごめん、千景。アタシはあんたの言っていることを半分くらいしか理解できていないと思うけどさ、一つだけ聞いても良い? さっきから"あなたたち"って、何で千景だけ他人事みたいになっているの? 千景は間違いなく勇者部の部員で、私たちの友達でしょう?」

銀「あー、その、すみません……。実はアタシも千景さん側になってしまうで、それに関してはアタシも一緒なんですよ。……でも、アタシも千景さんも風先輩の言っていることはちゃんと理解しているんで、今は信じてもらえるとその、助かります」

風「……信じることも部長の役目って、アタシも中々に大変なものよね。……良いわ、信じてあげる。と言うかいつだって信じているわよ、千景のことも銀のこともね!」

千景「……まったく恥ずかしい台詞だこと」

銀「いやー、さっきまでの千景さんの台詞も中々でしたよ?」

千景「三ノ輪さん!」

銀「やばっ! 口が滑った!?」

美森「……待って、待ってよ千景ちゃん! あなたは銀を巻き込んでいるの……? ……本当に何をする気、なのよ……!」

千景「少なくとも誰の損にもならないことよ。……そして、あなたはこの状況においても力づくに出ることはなかった。一番の不安要素であった東郷美森が話し合いの場に立ってくれることを今になってようやく確信出来たことは、僥倖よ。……おかげで最悪の選択をしなくても済んだわ」

美森「……」

千景「沈黙は許容と捉えるわよ? ……では、話を戻しましょう。バーテックスの大群は鈍足ながら今も進軍を続けている。目測であっても、神樹へたどり着くまで多くの時間があるわけではないことは明らかね」

千景「とは言っても、こうして言葉を交えることが出来るだけの時間は何とか許されている。でなければこうして悠長に私たちは言葉を交わしていないわ。それでも、そろそろ戦闘に移らなければいけない頃合いであることも事実。一方で、戦闘をしていては話し合いなんてまともに出来ないことは自明の理でしょう?」

千景「……いい加減私らしくない長台詞にも飽き飽きしてきたわね。そんなわけで、ここでようやく本題よ。あなたたちがどちらの結論を出すにしても、今この時世界が滅びてしまうことだけは誰の本意でもない。──だから、これは役割分担の話になるのよ」

友奈(……私にも話が見えてきた。正直、ぐんちゃんが心配でないと言えば嘘になる。だけど、私はぐんちゃんと銀ちゃんを信じていて、ぐんちゃんも私を信じて"こちら"を任せてくれた。だから、私は私が行うべきこと行ってぐんちゃんに応えよう)



10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/12(金) 23:36:38.07 ID:QHT5/WDno

銀「ってことで、アタシと千景さんがバーテックスを食い止めます。だから、皆は話し合って、一番良い結論をどうか出してください。アタシと千景さんだけ話し合いに参加しない理由は他にもあるんですが──今はこれで納得してもらえると助かります」

美森「銀っ! 何を言っているの!? そんなこと……いえ、そもそもあなたは変身すら出来ないのだから──」

銀「東郷さん、今度はアタシの一生に一度のお願いを聞いてもらう番ですよ? アタシがこれから行うことを見逃してください。──もう嫌だな、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。それにこれは、アタシたち、三ノ輪銀と鷲尾須美、乃木園子がもう一度未来を掴むために必要な、折角のチャンスになるんですから、逃す手はないってね!」

美森「……っ……銀、あなた……」

友奈(東郷さんはそれ以上何も言えず、銀ちゃんは何故か夏凜ちゃんの前に進んだ)

銀「夏凜さん。申し訳ないですけど、刀を一本お借りできますか?」

夏凜「……あんたまさか、それで戦うつもりなの? 無謀よ! そんなことに貸せるわけないでしょ!」

銀「いくらなんでもアタシもそこまでじゃないですよ。それに今のバーテックスが神樹様だけを目指して進んでいるとは言っても、流石に護身用の武器くらいないとアタシの身も危ないです。そうは思いませんか? さっきみたいに精霊を借りるのって、本格的な戦闘中だと無理でしたよね?」

夏凜「……一理は、あるわね。……はい、一刀預ける。私の判断で、刀を消すことができるってことは覚えておきなさい。あと、それはちゃんと返してもらうから」

銀「あはは、最後の部分はちょっと約束できないです。でも、その代わりと言ってはなんですが──お見せしますよ」

友奈(そして、銀ちゃんの顔がいつもの元気な女の子のそれから、──のそれへと変わる)



銀「"今の"三ノ輪銀が行う、最初で最後の変身を!」



友奈(……ああ……)

友奈(どうして私は今の今まで忘れていたんだろうか……? 少し前までの私なら覚えていたのかな? でも、少なくとも、今の私がこの瞬間思い出したことに何も変わりはないんだよね……。銀ちゃんの強い意志を秘めた瞳を見て私は、はっきりと思い出していた。……二年前、同じ瞳をした勇者に……そうだ、私は強く憧れたんだ!)



銀「行くぞ──鈴鹿御前」



夏凜「見たことのない精霊……! 何で? 何で銀のところに!?」

千景「私の手甲は精霊の集合体なのだそうよ。なら、その一片は一精霊程度になってもおかしくはないでしょう? 破片しか取り出せなくて、繰り返し使うことの出来ない消耗品にはなってしまったけれど、この一幕で使うのならそれで十分。精霊と"本来の三ノ輪銀"が所有した勇者装束の一部、その媒体さえあれば、勇者への変身は十分可能となるのよ。……初代勇者が残していた書物からもそれは明確な事実で、すでに実証も済んでいる」

千景「だから」



銀「──これがアタシたちの初陣だッ!」



バシューッ!

千景「三好夏凜、目に焼き付けておきなさい。先代勇者三ノ輪銀のその姿を!」

夏凜「ま、まさか……銀が、私の……!?」

友奈(銀ちゃんの全身が一瞬にして炎に包まれる。だけど、その火はさっきまで見ていた地獄のような炎じゃなくて、力強くて優しい赤。銀ちゃんの魂のように美しい炎がさらに激しさを増した。三つの勾玉模様が宙に浮かび上がり、回転しながら炎をさらにまき散らしどんどん加速していく)

友奈(そして、炎の中から人影は現れた。赤い装束に身を包んだ──そういうことだったんだね──夏凜ちゃんと同じ服の勇者が、そこには立っていて……)



銀「──今度こそ守ってみせる! そしてアタシは、皆と一緒に帰るんだッ!」



友奈(二つの大斧を構えた勇者としての銀ちゃんが、目の前に居る。それは、私が憧れた勇者との二年ぶりの再会、だった)



11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/12(金) 23:50:14.77 ID:QHT5/WDno

銀「やっぱり懐かしい感じがするんだよな……。こう言うのが身体で覚えているってやつかな?」

友奈(銀ちゃんは一瞬だけ複雑な表情を見せたけど、すぐに勇者の顔へと戻ると)

銀「千景さん、先陣はアタシに任せてくれるって約束でしたよね?」

千景「ええ、約束を違えるつもりはないわ。私もすぐに後を追うつもりだけれど……少しの間だけ任せても良いかしら?」

銀「……はい! 三ノ輪銀、確かに任されました!」

友奈(そして、銀ちゃんはぐんちゃん以外の全員に向かって)

銀「みんなの出す結論、アタシも全部受け入れますよ。だから、ここはアタシに任せてください──ねっ!」タタッ!

美森「銀っ!」

風「待ちなさい銀! あんた一人じゃ──!」

友奈(銀ちゃんは振り返らず、横顔だけで笑って、真っすぐに駆けていった。……大丈夫、私の知っている銀ちゃんは誰よりも強い人で、私が憧れた人なんだ)

千景「あなたたちが追いかけてしまったら三ノ輪さんの想い、その全てが無駄になってしまうのよ。増して、話し合いの出来なかった原因が自分だったら尚更ね」

友奈(ぐんちゃんはこの場に居る誰よりも銀ちゃんを信頼しているんだね……。銀ちゃんの後ろ姿を決して見ることなく、ぐんちゃんは言葉を続けた)

千景「それにあの勇者服、消耗品の力とは言え、以前の私が行った切り札開放時、その五割増し以上の力が今の三ノ輪さんには宿っているのよ。いえ、消耗品と割り切ったからの力と言えるのかもしれないわね。さらに、本来の自身の武器も加味したことで戦闘能力が向上しているようにも見えたわ。……とは言っても、多勢に無勢では限界が見えていることも確か。──だから、私も参戦するのよ」



12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/12(金) 23:52:00.24 ID:QHT5/WDno

友奈(ぐんちゃんは私に一度だけ視線を向けた。壁の外で伝えてくれたことの再確認だったと思う。私は頷く。ぐんちゃんは満足そうに少しだけ口元を一瞬だけ緩めていた。すぐに元のぐんちゃんに戻り)

千景「風先輩。酷な話だとは思うけれど、時間にして十分程度で勇者部の結論を出しなさい。その間、私と三ノ輪さんで何があっても神樹を死守してみせるわ」

風「……夏凜みたいに無謀だって言いたくなるけど、千景のことだから考えあってのことよね?」

千景「……あなたにしては分かっているじゃない」

風「ふふーん、アタシもそろそろ千景マスターを名乗れるかもしれないわねー」

千景「過言ね」

風「もう、相変わらずつれないわね……。……冗談は置いておくにしても、死守なんて言葉は使わないで。どうしても戦うんだったら、絶対に生きてアタシたちと再会すること! それ以外のことに関してはこの際目をつむるわ。……いいえ、違うわね。……どうかお願いね、千景」

千景「……分かったわ、約束しましょう。こう見えても私は約束を守る性質なのよ」

風「……ええ、良く知っているわ……。それと、アタシを風先輩と呼ぶ理由、帰ってきたら教えなさいよ?」

千景「……善処するわ」

夏凜「盛り上がっているところ悪いけど、戦うなら私も行くわ!」

千景「この話し合いはきっと三好夏凜、あなたにとっても大切なものとなるはずよ。それに、前までのあなただったら有無を言わずに、今頃バーテックスへと突撃していたはずでしょう? ここは私と三ノ輪さんに任せておきなさい」

夏凜「……くっ……! わ、私は──」

樹「……」クイクイ

夏凜「樹……? ……何よ、あんたまで千景の言う通りにしろって? ……はぁ。私はいったいどうしちゃったのかしらね……?」

千景「それが答えなのでしょ?」

夏凜「ああ、もう! あんたたちに任せる! 以上!」

千景「ええ、任されたわ。樹さん、この完成型勇者の面倒もお願いね」

樹「……!」ハイ!

千景「──もう油を本当に売っている暇はないのだけれど、東郷さんにも最後に一言だけ。あなたの考えはもしかしたら退廃的な思考なのかもしれない。だけど、神樹に与えられるだけの世界で、一人の人間として決断を下したことは誇っても良いことのはずよ。少なくとも、私はそう思うわ」

美森「……」

美森「……ずるいわ。これじゃあ、何もかも千景ちゃんの手のひらの上じゃない……」

千景「世の中何事も自分の思惑通りにいかないわよ。でも、私がずるいのは認めるわ。……そして、あなたの大切にしている三ノ輪さんをあなたの元に無事返すことも約束しましょう」

美森「……銀のことをお願いね」

千景「ええ──その代わり皆で結論を出しなさいよ?」

美森「……」

美森「……結論は見えているのでしょうけれど……分かったわ」

千景「そう。それじゃあ、行ってくるわ」ダッ!

友奈「……」コクン

友奈(いってらっしゃい、ぐんちゃん。こっちのことは私に任せておいて。──だから、絶対に無事でいてね……)



13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/13(土) 00:14:16.75 ID:gZU5fBxgo

*樹海・郡千景

千景(当初の計画より、現状は穏やかに進行していた。最悪の想定である東郷さんとの武力でのぶつかり合いは無事回避された。だから、計画の最善パターンを進んでいると思っても間違いないだろう。マイナス思考が標準の私だからその先のしっぺ返しも想像してしまうけれど、現時点ではキリのない雑念にしか過ぎない。今は差し迫ったことだけを考えることにしよう)

千景(目の前には夜空の星に等しいの数のバーテックスたち。前方では激しい金属音と共に三ノ輪さんの激戦が伝わってくる)

千景(ここから先は、三好夏凜が満開を繰り返してなおギリギリだった戦場。それを私と三ノ輪さんだけで何とかしのぐことになる)

千景(先陣を切った三ノ輪さんは鈴鹿御前の力で一気にバーテックスの先頭まで駆けて、神樹前の最前線で戦闘を繰り広げている。精霊の力で強化された視力で三ノ輪さんが約束通り自分を犠牲にしない戦い方をしてくれていることは見て取れた。……でも、双斧の破壊力で何とか留めているが、やはり物量が違う。二分も持たずに押し切られてしまう予想は多分的中するだろう)

千景(だから私も、出し惜しみはせず前回同様最初から切り札を切っていく)

千景(ただし、以前の戦闘でバーテックスに七人御先がほとんど通用しないことは分かっているのだから、それ以上の力の行使でなければ時間稼ぎすらまともに行うことが出来ないのが現状だった)

千景(……手甲の真相を知って以降、この大鎌の内部で何らかのアンロックが行われたらしいと言うのが私の見解。今の私の自力で通常時が切り札発動時と同等程度となっているのが、一つ目の幸運と言えた)

千景(三ノ輪さんの戦闘力もそれに引きずられているからこそ、この瞬間も彼女は戦線を維持出来ているのだ。だから私も──いえ、今は理屈よりも実用的な力が最重要ね。難しいことは放り投げて、さっさと実行することにしましょう)

千景(今から行使するのは七人御先の最奥。切り札のさらにその上の力を私はすでに掴んでいた。上里家の御記で気付いたことが二つ目の幸運で、乃木園子との計画立案時よりも強大な力を振るえる予感がある。──これは自覚が最重要となってくる)



14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/13(土) 00:20:13.49 ID:gZU5fBxgo

千景「……さぁ、泣いても笑ってもこれが最後の戦いね」

千景(バーテックスたちは私を無視して神樹へと進んで行く。こいつらの注意が向いていない今だからこそ、私は自身に集中出来た。これが三つ目の幸運。勇者同士の戦闘が起きていないせいか、アニメよりもバーテックスたちは大人しかった)

千景「でもね、バーテックス。それがあなたたちの不幸よ。──勇者部にほだされた私の力、甘く見ないことね」

千景(切り札に面倒な文言等は最早必要ない。私はすでに知っているのだから。切り札の最奥はすでに開かれていた)

千景(そして)

千景(これこそが真なる七人御先の力。──今こそ私はその言葉を高らかに叫ぶ!)






千景「──満開! 七人御先!!」






千景(切り札を満開すること、それは手甲にまとめられた精霊の力を消費し、転じて犠牲にする諸刃に等しい禁忌を超えた何か。おそらく、この戦闘が終わるかその前に私は二度と変身が叶わなくなり、同時に自分自身も──いえ、今は考えないことにしていたのだったわね)

千景(……こうして私の中で封じられていた扉は開かれ、郡千景と言う"一"は今、"七"へと姿を増す。けれど、それは明確にかつての七人御先のあり方とは違っていて──)



??「流石のタマも驚いたけど、あえて言うからな! タマに任せタマえ!」

??「もう、タマっち先輩は変わらないんだから……」

??「……中々に不快な状況のようね」

??「でも、私はぐんちゃんにまた会えて嬉しいよ?」

??「……まさか私までお呼びいただけるとは思ってもいませんでした」

千景(私と同じ姿をした者は一人だけ。残りの六は似ても似つかない存在。そして、七つ目の人影は私を見てすぐに)

??「──すまない、千景。私は……」

千景「……謝罪なら後で聞くわ。今は目の前の敵に集中しなさい。あなたも同じ立場ならそう言ったのでしょう。ねぇ──」



千景「乃木さん?」



乃木若葉「……ああ、その通りだ。まったくその通りだったな」

千景(彼女は頷き、かつての、バーテックスと戦ったあの戦場と同じように、自身の存在を鋭い声でこう示し出した。……相変わらず偉そうなことで)

若葉「──勇者たちよ! 私に続け!」

千景(彼女……乃木若葉は、初代勇者と呼ばれた者たちと共に、今再び戦場へと舞い戻って来た。これが七人御先の真なる力にして、与えられていた本来の役割。そして)

千景(──郡千景《私》が選ばれた理由の全てだった)



15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/13(土) 00:20:41.19 ID:gZU5fBxgo
続く
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/13(土) 06:09:15.62 ID:b+JtBEPZO
下手にぶつ切りで読みにくいのもそうなんだけど
オリジナル要素が少なすぎない?
これなら原作見れば良いしゆゆゆいやれば良い
もっとオリジナリティないと
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