勇者「ニートになりたい」

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440 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/31(水) 18:16:00.45 ID:Ks50AJWbO
【10年前 クィーンズベル城 中庭】

姫「ねぇ、ゆうしぁ? おままごとしない〜?」

勇者「ええ、またぁ? 姫が奥さんでメイドが愛人の? やだよ。飽きた」

姫「……うっ、うっ、ひぐっ……い、いやなのぉ?」

メイド「お、じょうさま、はんかち」ゴソゴソ

姫「いやだっていわれちゃったぁ……ひぐっひぐっ」

勇者「……泣くことないじゃないか」

姫「あああああんっ!! びいゃあああっ!!」ポロポロ

メイド「な、泣かない。泣かない。お鼻、ちーんっ」スッ

勇者「ちぇ。……ただいま。今日もつかれたなぁ」ドサッ

姫「……? ん、すんっ、すんっ」

勇者「今日のゴハンなにかなぁ」

メイド「お、おじょうさま。ほら」ニコニコ

勇者「泥団子まだかなぁ」

姫「ち、違うもん。そうじゃないもん、ひぐっひぐっ」

勇者「違うのぉっ⁉︎ 役が違った⁉︎」

姫「うっ、診察、ごっこっ、すんっ」

勇者「しんさつぅ?」

姫「わたくしが、お医者さんで、ゆうしゃは患者さん。メイドはナース」
441 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/31(水) 18:17:10.12 ID:Ks50AJWbO
勇者「な、なに、それ」

姫「今日はどうしましたかぁ?」

勇者「うっ、や、やだよ。やっぱり」

姫「ぴっ⁉︎ ま、まだやだっでぇ……!」

メイド「ゆ、ゆうしゃさま」ジー

勇者「……お、お腹いたいです」

姫「そうなんですかぁ? じゃあ見せてくださいっ!」

勇者「み、見せるの?」チラ

メイド「……」ジー

姫「見せてくださいっ!」ニッコニコ

勇者「わ、わかった。はい」グィ

姫「うーーん」ピト ピト

勇者「……」

姫「これはいけませんねぇ! 手術です!」

勇者「え……?」

姫「メイド! 患者さまを四つん這いに!」

メイド「はい、おじょうさま」

勇者「え? え?」

姫「だぁいじょうぶぅ。ちょこっとちくっとしますからねぇ」

メイド「あ、あの、おじょうさま。なにを」

姫「ニンジン! 生えてたんですの!」ニタァ

勇者「ちょ、なにするつもりっ⁉︎」

メイド「おじょうさま、勇者さま、嫌がって」オズオズ

姫「逆らうんですのぉ?」ニタァ

メイド「……」ガシッ

勇者「メイド、ちゃん? な、なんで抑えてるの?」

姫「おーほっほっほっ! 天井のシミ数えてる間に終わるからねぇ」

勇者「ひっ、や、やめて、いや」

姫「さきっちょだけ。さきっちょだけ」

勇者「や、やめてっ! あ、アッーーーー!!!」
442 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/31(水) 18:34:57.07 ID:Ks50AJWbO
【クィーンズベル城 姫の自室】

姫「懐かしいですわ。なにもかも――」ゾク

勇者『姫ちゃん! やめて! そこは違う! 穴が違う!』

姫『おーほっほっほっ! ならどこの穴ならいいんですのぉっ!』グリグリ

姫「――なにもかもが、懐かしく、また……いつまでたっても色褪せることはない、うふっ、うふふっ」ゾクッゾクッ

メイド「……ただいま、戻りました……」パタン

姫「もう帰ってきたんですの?」プィッ

メイド「先ほどのやりとり、まだ怒っておいでなんですか?」

姫「当たり前ですわ! というか、さっきの今でしょう! わたくしにあのような無礼千万なことをツラツラと!」

メイド「そ、そうですね。ついカッとなり、失礼いましました」ペコ

姫「なんですの……? いきなり」

メイド「姫さまは、私が守ります」

姫「……? あ、さっき伝えそびれていたんですけれどね、ハーケマルの使者というのは――」

メイド「姫さまはァッ!! 私がッ!!守護(まも)りますッ!!」クワッ

姫「……っ!」ビクゥッ

メイド「私、これまで、勘違いしておりました」

姫「は、はぁ?」

メイド「立ち向かわなければならなかったのです。怯えるのではなく! その、せいで……! 姫さままで!」

姫「いったい、なにを」

メイド「ハーケマルの使者のことは、お忘れください。私がカタをつけてまいります」

姫「ちょ、ちょっと?」

メイド「必ずやっ! この命にとしても!」

姫「……そ、そう」タラ〜

メイド「貴女は死なないわ……。私が守るもの」スッ

姫「……」

メイド「では、準備がありますので、私はこれで」

姫「が、がんばってね?」

メイド「御意」ペコ
443 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/31(水) 21:28:02.30 ID:YvuJAF6kO
【夜 城下町 酒場】

バニーガール「いらぁっしゃぁ〜いん♪」

ジャン「お、おう」

バニーガール「あらぁ? その格好は貴族さまぁ〜ん? パフパフ……い・か・がぁ?」

衛兵「ジャン殿! ここ! ここ! ここですよぉ!」フリフリ

バニーガール「衛兵さんのお連れだったのぉ〜ん?」

衛兵「今日もかわいいねぇ、可愛い子三人テーブルにつけちゃってよ。チップは弾むからさ、これぐらいでどう?」スッ

バニーガール「んもぅ、しかたないわねぇ〜ん」カサ

衛兵「ジャン殿。遅かったですね!」

ジャン「ちょっといろいろと見て回ってたもんで」ガタッ

衛兵「何飲まれます! 席についたらなにか飲まなくちゃ!」

ジャン「じゃあ、カクテルを」

衛兵「貴族さまは小洒落てますなぁ! おーい! なんかカクテル! あ、おしぼりどうぞ」スッ

バニーガール「ただいまぁん♪」

衛兵「どうですか? クィーンズベルは。都会なようでなんにもない街でしょー? 賑わっちゃいますが」

ジャン「活気があるのは良いことですよ」

衛兵「そうは言うてもですねぇ、実がないと田舎となにも――」

メイド「た、たたたたのもうっ!!」バターーンッ

店内「……」シーン

メイド「〜〜〜ッ!! あ、あのっ!」

バニーガール「メイド喫茶と間違えたのかしらぁん?」

店内客「わははっ! ねーちゃん! そんな力いっぱい扉開けたらびっくりするだろうがっ!」

衛兵「……っ⁉︎ あ、あいつっ⁉︎」ガタッ

ジャン「お知り合いですか……?」チラ

衛兵「い、いえ、そ、その」

バニーガール「どうしたのぉ? ここはメイドさんが来る場所じゃ」

メイド「人と、待ち合わせしているんですっ!!」

バニーガール「そ。ミルク、でいい?」

店内客「ぎゃっはっはっ! かわいそーだろ! 俺の席につけてくれよ! そのメイドねーちゃん!」

バニーガール「あらぁ? うちの子じゃ不満〜?」ギロ

店内客「うっ! そ、そうは言っちゃいねぇが」タジ
444 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/31(水) 21:42:55.21 ID:YvuJAF6kO
メイド「……」キョロキョロ

衛兵「うっ」ササッ

ジャン「どうなされました? テーブルの下に隠れて」

衛兵「い、いえ。小銭を落としてしまったもので」

メイド「……あ、あんなところに……!」ズンズン

ジャン「(ふーん。やはり、メイドの狙いは俺か。あれから城の中を調べてみたが、さしたる収穫はなし。鏡についてもどれがどれやら――)」

メイド「お、お待たせしましたっ!」

ジャン「――あぁ」

衛兵「お、お前ッ!! なんでここに! 俺を探していやがったな⁉︎」ガバッ

ジャン「あ……?」チラ

メイド「や、やはり……! 一緒にいるということは! あなたも盗賊の一味で間違いないようですね!」

ジャン「あなた、“も”?」

衛兵「ばっ⁉︎」アタフタ

ジャン「(おやおやぁ? これはもしかして、もしかすると、とんでもないマヌケな図式になってるんでない?)」

メイド「裏でこそこそと結託して!! 恥ずかしいという気持ちはないのですかっ⁉︎ 挙句に姫さままで!!」

衛兵「……ひ、姫?」

メイド「とぼけたって無駄です!! あなた方が二人でいることがなによりの証拠!!」バンッ

衛兵「ジャ、ジャン殿。少々席を外しても?」

ジャン「ええ、かまいませんよ」

衛兵「バニーガール! 奥の個室使わせてもらうよ!」

バニーガール「ご自由にぃ〜」

衛兵「おまえ、ちょっとこいっ!!」グィッ

メイド「いたっ、はな、離しなさいっ!」タタタッ

ジャン「やれやれ。これが衛兵とメイドで彼氏彼女の関係なら、ここでお幸せに〜で帰るんだけどねぇ」
445 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/31(水) 22:05:10.06 ID:YvuJAF6kO
【酒場 個室】

衛兵「な、なにしにきやがった⁉︎ 俺はこれから大事な接待をするところで!」

メイド「……」ゴソゴソ

衛兵「ああっ、ちくしょう! 絶対怪しまれちまった……警戒心を解くのが肝心なのに……どうしてくれんだよ、ったく」

メイド「これです! これが目的だったんでしょう!」バンッ

衛兵「そりゃぁ、もしかして、城の見取り図か⁉︎」

メイド「夕食の配膳係を変わっていただき、その際に宝物庫の鍵をとり。忍びこみ持ってきました」

衛兵「これは、原本か? そうなんだな?」

メイド「はい。間違いございません。……さあ、約束の品は渡しました」

衛兵「これがこうなって……ふんふん、おお、こんなところに隠し通路が……こっちにも! 隠し階段が!」

メイド「弟はどこなんですかっ⁉︎ 会わせててくれるって約束でしょう⁉︎」

衛兵「あ、あぁ。そうだったな、心配すんな。合わせてやる。ただ、今日はだめだ。これから接待を――」

メイド「私は約束を守ったじゃないですか! どうして弟に会えないんですかっ!」グィッ

衛兵「お、ちょ、あぶっ」ビリ ビリ

メイド「嘘つき! 嘘つき!」ブンブンッ

衛兵「まっ、待て! 破れる!!」ビリィィィッ

メイド「あ……」

衛兵「……う、うそ、だろ……っ。や、やべぇ、ぞ。真っ二つに破れて……どけっ!」ドンッ

メイド「あぅっ!」ドサ

衛兵「……だ、大丈夫だ、真っ二つに破れただけだから、繋ぎ合せりゃいいんだ……」

メイド「……」ムクッ ユラァ

衛兵「おまえどーかしてるんじゃないのか! 会わせると……⁉︎」ギョッ

メイド「……弟は、どこですか……?」スラァ

衛兵「た、短刀⁉︎ お、おまえっ! な、なにするつもりだ⁉︎」

メイド「弟の居場所を、教えて。会わせてください」スッ

衛兵「ま、待てっ! 落ち着け! な?」

メイド「(姫さまにも、お城にも迷惑をかけません。弟を助けたら、見取り図は必ず戻します……だから……っ!)」プルプル

衛兵「……? ふふぅ〜ん?」ニヤ

メイド「な、なんですか? なにがおかしいんですか! 私は本気ですよ!!」プルプル

衛兵「そんなにナイフの切っ先を揺らしてか? よく見りゃ膝もふるえちまってるぜ? お前」

メイド「……っ!」

衛兵「冷静になって考えりゃ、メイドに人を刺した経験なんたありゃしねぇよな」ムクッ

メイド「わ、私は本気でっ!!」





446 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/31(水) 22:24:39.35 ID:YvuJAF6kO
衛兵「本気で? なんだよ?」

メイド「ち、近寄らないでっ!」プルプル

衛兵「……ふんっ!」バシィ

メイド「あっ! うっ!」カランカラン

衛兵「こちとら潜伏してる盗賊とはいえ、毎日兵としての訓練もこなしてるんだ。やわな鍛え方しちゃいねぇぜ」スッ

メイド「うっ……くっ……!」キッ

衛兵「なんだぁ? その目は? こっちは予定を狂わされてちぃとばかし怒ってるんだぜぇ?」

メイド「弟に……」

衛兵「弟弟ってうるせぇっ!!」バンッ

メイド「ひっ」ビクゥ

衛兵「黙ってりゃ会わせてやるって言ってんだ!! わからねぇのかよ!!」

メイド「……うっ、うっ……ぐすっ……」ポロ

衛兵「あ〜あ、女はすぐこれだ。泣きゃいいと思ってやがる。なぁ?」グィッ

メイド「うっ、さ、触らないで」パサッ

衛兵「……おう、メイド服ってのは、そそるなぁ?」

メイド「な、なにを……?」

衛兵「お前のうなじ……はだけた胸元、前からいい女と思ってたんだ……」ゴクリ

メイド「……っ⁉︎ な、なに! いやっ! は、離して! だ、誰かぁっ!」ジタバタ

衛兵「だぁ〜れもきやしねぇよ。ここの個室はな、そういうこと専門なんだ。……よっと」ビリビリ

メイド「きゃ、きゃあああああっ⁉︎」ドサ

衛兵「白、か。ありがちだが悪くねぇブラジャーだ。着痩せするタイプなんだな」

ジャン「――……衛兵さーん!」コンコン

衛兵「チッ。良いところで」

メイド「……っ、や、やだ、っ、に、逃げないと……」ガタガタ

ジャン「そろそろ帰ろうかと思うんですけどー?」

衛兵「どうするか、こいつとヤレそうだってのに。しかし、使者を抱き込まねぇと」

メイド「と、扉、扉」ガチャガチャ

ジャン「内鍵閉まってますよねー? 蹴破ってもいいですかねー? 離れてた方がいいよー」

メイド「えっ?」

衛兵「な、なに?」
447 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/01/31(水) 22:34:31.89 ID:YvuJAF6kO
ジャン「よいせっと」バターーンッ

メイド「あうっ!」ゴチーーン

ジャン「あっ」

メイド「」

ジャン「だ、だから離れてろって警告したのに。お、おい、大丈夫か? ええい、くそ。ベホマ」ポワァ

衛兵「……」ポカーン

ジャン「ちょ、ちょっとまってね? すぐに治すから」ポワァ

衛兵「……ジャン殿? あの、扉が、壁にめりこんでますが、あれぇ〜? 見間違いかなぁ〜?」ゴシゴシ

ジャン「あ、それ? だいぶ加減したつもりなんだけどさ、よし」

メイド「」

ジャン「外傷は癒えたな。その内意識も取り戻すだろ」

衛兵「か、か、壁に、扉がぁ⁉︎」ギョッ

ジャン「さて、壁にコップを当てるというなんとも古典なやり方で聞かせてもらったよ。盗賊さん」

衛兵「えっ? えっ」

ジャン「とりあえず、右手と左手どっちがいい?」

衛兵「そ、それは〜。なんの質問でしょう?」タラ〜

ジャン「なんだと思う?」ニヤ

衛兵「ほ、暴力じゃないですよねぇ?」

ジャン「残念。でも当たり」ブンッ

衛兵「う、うわあああああっ⁉︎」アタフタ
448 : ◆7Ub330dMyM [sage]:2018/01/31(水) 23:01:26.01 ID:YvuJAF6kO
【数分後 同個室】

ジャン「ふんふん、それで? 城の見取り図を入手するため、こいつの弟を拉致ったと」

衛兵「ひゃい」ボロッ

ジャン「盗賊団はどうやって井戸の水脈を……たしか、学者に聞いた話だと“逃げさせてる”んだったか」

衛兵「わかりまひぇん」

ジャン「嘘?」スッ

衛兵「ひっ! ほ、ほんとへす! お頭が別働隊を仕切ってて、そっちの仕事で!」

ジャン「別働隊か。団全体で何人ぐらいの規模なんだ? 二、三十人ぐらいか?」

衛兵「詳しい数は、お頭しか、把握してないと」

ジャン「あ、そう。まだ殴られたいんだ」スッ

衛兵「ひゃ、百人は! いると思います! はい!」

ジャン「へぇ……結構でかい団じゃないか。シノギも大変だろう」

衛兵「まぁ、そこはその、こうしてたまにデカイヤマを扱ってるんで」

ジャン「この国だけじゃなく?」

衛兵「貴族様から依頼されることもあります。……ジャン様もももしよかったら」

ジャン「……」スッ

衛兵「な、ないですよねっ! だと思ってました!」

ジャン「あー、もう。なんでこう芋づる式になっちまうのかねぇ」ポリポリ

衛兵「あの、もう帰っていいですか?」

ジャン「いいわけないだろ。牢屋行きだからな、お前」

衛兵「そ、そんなぁっ! 頼みますよ! 謝礼はウンとはずみますから!」

ジャン「(まずは、人質になってる弟とやらの確保だな。じゃないとこいつが牢にはいったとバレると……)」チラ

メイド「Zzz」

ジャン「(危険になるだろうなぁ……どうするか……どうする? やることは決まってんのかねぇ)」

衛兵「考えなおしてくれました……?」

ジャン「アジトに連れてってくれたら考えてもいいよ」

衛兵「え、えっ? 俺らの仲間に?」

ジャン「行ってから決めるけど。儲けはどれぐらいもらえんの?」

衛兵「一人頭、100万ゴールドはかたいと」

ジャン「お前らさぁ、この国潰す気? 百人いたら最低一億ゴールドじゃない。元締めである親の取り分が100ぽっちってことはないだろし」

衛兵「そう、ですけど?」

ジャン「だぁ……」ガックシ

衛兵「へへっ、お頭、たいしたもんでしょ? どうされます?」

ジャン「とりあえず、バニーガールさん呼んできてもらっていい? ……そのまま逃げたら地の果てまで追っかけてぶち[ピーーー]からな」

衛兵「へ、へい」
449 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/01(木) 01:40:29.55 ID:IctMq2oQ0
450 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/01(木) 02:15:42.00 ID:4CSh5eWu0
おつー
あいかわらず安心して読めるSSだわ
451 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/01(木) 02:43:57.45 ID:fi/uy0dro
おつ
452 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/01(木) 13:08:18.56 ID:tIdBMrZ3O
【数時間後 酒場】

バニーガール「とっとと起きなァッ!!」バチィン

メイド「ひゃっ、ひゃいぃぃっ! ただいま支度をっ……はれ? へっ? ここは?」

バニーガール「なぁに寝ぼけてんの」コチン

メイド「あ……? 貴女は……」

バニーガール「そろそろ店じまいの時間だから帰ってよ」キュッキュッ

メイド「……あのっ! 私、なぜ?」

バニーガール「仮面つけてる貴族の人から起きるまで面倒見てくれって頼まれたの。最初は送ってくれって言われたんだけど……ねぇっ、あんたってお城で働いてんの?」

メイド「あ、そ、そうですけど? か、仮面の人から?」

バニーガール「いいなぁ〜! お城でメイドやりゃ貴族様とお知り合いになれるなんて! ……でも、んふふっ、お金はたんまりと弾んでくれたしいっか♪」

メイド「貴女、さっきと言葉使い違いません?」

バニーガール「ありゃ商売の顔。接客のね。男どもなんて媚び売っときゃいいのさ。酒場に来るようなやつらはみぃ〜んなさみしくて、気持ちよく飲めれば満足なんだから」

メイド「そ、そうなんですか」

バニーガール「よく見りゃあんたもかわいい顔してるじゃなぁ〜い……スタイルもメイド服ぬぎゃ悪くなさそうだし。おっぱい何カップ?」

メイド「……っ⁉︎」ササッ

バニーガール「女同士でなに隠してんのよ。……そっか。生娘か。ならウチはだめだ」

メイド「働くなんて一言も……! このような汚らわしい場所で……!」

バニーガール「……ちょっとあんた。今なんつった?」ギロッ

メイド「うっ、だって、そうじゃありませんか。無精髭を生やしているような、清潔感のカケラもない男を」

バニーガール「そうかい。なら尚更だめだな。あんたにゃ城の中が似合ってるよ。世間知らずのガキが」

メイド「ガキって……!」

バニーガール「そうだろ? 男を知らないで、ホイホイついてっちまってさ。貴族様がいなけれりゃ、あんた、犯されてたよ」

メイド「……っ⁉︎」ブルッ

バニーガール「人生ってのはね、生まれながらにして平等じゃない。メイド服きて城の中に住めるだけラッキーってもんだ。……あたしらは、その運がなかっただけ」

メイド「……」

バニーガール「運だよ。この世は。決められた定員数があって、それにあぶれりゃ問答無用で選択肢は狭まる。じゃなきゃ、理不尽なことに説明なんかつくもんか……っ!」ギリッ

メイド「あ、あの。貴族の人が、私を?」

バニーガール「そう言ったろ。……あんたから貴族様にあたしのこと紹介しておくれよ? おもいっきりパフパフするからって♪」

メイド「(どうして、助けて、くれたの……? 盗賊の仲間のはずなのに……)」

バニーガール「あのお方お抱えになればここから抜けだせそうだしさ。ね? 頼むよぉ〜」

メイド「貴族様は、どちらに?」

バニーガール「あん? 手癖の悪い衛兵さんと一緒にどっか行っちまったよ」

メイド「(行動をともにするということは……やはり……でも……)」

バニーガール「んふふっ、銀細工までもらっちゃったぁ」キラン

メイド「……? そ、それは……ちょっ、ちょっと! 見せてもらえませんか⁉︎」ガバッ

バニーガール「だめだよ! これは! あたしんのなんだからぁっ!」

メイド「み、見るだけ! 見るだけですから!」

バニーガール「……そんなに見たいの?」

メイド「はいっ! 見たいです! すごく!」

バニーガール「なら、カネ。カネだしな。見物料」クイクイ

メイド「えっ? えぇと、今、手持ちが」ゴソゴソ

バニーガール「じゃあ見せられないね!」プイッ

メイド「300ゴールドあります! これでどうですか⁉︎」ジャラジャラ
453 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/01(木) 13:29:46.17 ID:tIdBMrZ3O
バニーガール「たった300ぽっちぃ? そんなんじゃ一晩の遊び代にもなりゃしないよ」

メイド「うっ、あの、今はこれが全財産で。お城に行けばまだ」

バニーガール「だぁめぇ〜! 今度、いつか、なんて口約束ほど信用ならないもんはない」キッパリ

メイド「う、うぅっ、でも、約束は必ず守りますから」

バニーガール「ふぅ〜ん、ま、いっか。盗むんじゃないよ」スッ

メイド「こ、これは……間違いない。見間違えようがない……アデルの……」

バニーガール「なんでもさぁ、アデルにいってこれを見せりゃ仕事を斡旋してくれるって言ってたけど」

メイド「な、なんですって⁉︎」ガタッ

バニーガール「きゅ、急に乗り出してきたらびっくりするじゃないのさ」

メイド「(まさか……っ⁉︎ まさかまさかまさかまさかまさかっ⁉︎)」ギュウッ

バニーガール「ちょっと! なに握りしめてんだ! あたしんのだ!」

メイド「その方は! 今っ! どちらにっ⁉︎」バンッ

バニーガール「……いや、だから知らないって……」

メイド「な、なんてこと……私ったら、なんて勘違いを……」ワナワナ

バニーガール「あのさぁ、そろそろ返してくんない?」

メイド「あ、す、すみません」スッ

バニーガール「でも、ほんとなのかねぇ。これ見せれば選択肢が広がるって」

メイド「なんと、言われたんですか?」

バニーガール「ん? いや、少し世間話をしていたら、ひょんなことを言われたのさ」

メイド「……?」

バニーガール「“なりたいものがあるなら諦めちゃだめだ”って。ふふっ、なんとも青臭いセリフだけどね。ああまで透き通った瞳で言われちゃうとさ」

メイド「……」

バニーガール「私も、自分に対する負い目はあるからさ。境遇は運だけど、いつのまにやら、今の環境に慣れちまってる自分もいる」

メイド「そう、ですか」

バニーガール「つまらない話しちまったね。さぁ、はやく帰ってくれ。この300ゴールドはもらうよ」

メイド「(や、やはり、違う。盗賊なんかじゃない! この銀細工は……この形は……あの時の……ゆ、勇者様……?)」


姫『貴女も知ってる、懐かしい友人ですの――』


メイド「……っ⁉︎」ガタッ

バニーガール「わ、わぁっ! だ、だから勢いよく立つなって」

メイド「姫さまは知ってた⁉︎ 気がついてた⁉︎ あの人の正体に⁉︎」

バニーガール「ひ、姫さま……?」

メイド「も、戻らなくちゃ! お城に戻って確認しなくちゃ!」タタタッ
454 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/01(木) 13:48:48.97 ID:tIdBMrZ3O
【クィーズベル城 南西方向 廃墟】

ジャン「ぶえっっくしょんっ!! あー……風邪かな」ズズッ

衛兵「も、もう少しですよ」

ジャン「けっこー離れてんのな。かったりぃったらありゃしねぇ」

衛兵「あ、あの〜。さっき、バニーガールに支払ったお金は……」

ジャン「ん?」

衛兵「に、2000ゴールドも、その、俺の財布から。い、いつか、返してもらえるかな〜なんて?」

ジャン「お前がやらかしたからだろ?」

衛兵「そうはいわれましてもぉ〜? 気絶させたのはジャン殿といいますかぁ」

ジャン「お前がこじ開けなきゃいけない状況を作ったからだろ?」

衛兵「ぐっ、で、でもぉ、やっぱりぃ〜、最後の決めてはぁ」

ジャン「あ?」スッ

衛兵「さぁッ! 先を急ぎましょうっ!!」クルッ

ジャン「これこれ。待たれよ」

衛兵「……なんすか?」

ジャン「疲れたのである。おぶってたも」

衛兵「……」ヒクヒク

ジャン「おぶってたも」クイクイ

衛兵「こ、この野郎ッ!!!」

ジャン「あ゛ぁッ⁉︎」ギロッ

衛兵「おぶらせていたたぎますっ!」ササッ

ジャン「素直で嬉しいでおじゃる」

衛兵「(あ、アジトについたら、全員で、袋叩きにしてやる……っ!!)」ヒクヒク

ジャン「……その顔は良からぬことを企んでいるでおじゃ」

衛兵「い、いいぇ〜っ! そんなわけありませんよぉ〜!」ニコォ

ジャン「なんでもいいからおぶれや」(鼻ホジ)

衛兵「(殺してやる……!)」ギリッギリッ
455 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/01(木) 19:33:20.00 ID:T14vwUJbO
456 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/01(木) 20:31:32.02 ID:U+9Dlw5T0
457 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/01(木) 23:12:08.21 ID:75KL/yKEo
おつー
458 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/01(木) 23:58:16.21 ID:QfEMveoBo
459 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/02(金) 12:49:08.95 ID:m/4c0sLd0
続きマダー
460 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/02(金) 16:32:37.82 ID:396w4EcWO
【城下町 宿屋】

魔法使い「もう何度目? バカ勇者が無断で帰ってこないの」

僧侶「せめてぇ、帰ってこないのなら連絡の一本ぐらいほしいのですがぁ。せっかく使ったご飯も冷めてしまいますしぃ」

魔法使い「作ってないでしょ!」

戦士「勇者の勝手っぷりには困ったものだ。遊び人の方が似合ってるんじゃないかとさえ思えてきた」

武闘家「まぁ……この街にいるのは間違いないだろうし、ほっといたら帰ってくるだろうさ」

戦士「世話焼きの武闘家にしちゃめずらしいなぁ。前回なんか、アタイ達のリーダーがっ! って慌ててたくせに」ニマァ

武闘家「さっきの勝負をまだ根に持ってんの? 何回やっても負けは負け。アタイの5勝。アンタは0勝」

戦士「ぬぐっ。そ、それがなんだぁっ!」バンッ

魔法使い「あ〜はいはい。わかったから。武闘家の言う通り、この街にいるのは間違いないと思うし、どっかで遊びほうけてるだけでしょ」

僧侶「酒場にいらっしゃったりしてぇ」

魔法使い「あいつ、酒なんか飲むの?」

僧侶「さぁ〜? 存じ上げませんが、アレフガルドでは18が成人の歳。飲んでいたとしてもなんら問題ありません〜」

魔法使い「……それもそうね。酔っ払って嫌な絡み方しなければいっか」

武闘家「しばらく、様子を見よう。明日以降も戻らないようであれば、探しにいく」

戦士「ははっ、なんだよ。やっぱり世話焼きだ」

武闘家「そうじゃなくて、アタイはリーダーを」

戦士「ほぉら、また始まったぞ」ニマァ

武闘家「めんどくさいね、アンタ」

僧侶「……やっぱりぃ、まとめてくれる方がいないと締まりませんねぇ」

魔法使い「まとめる? 誰が?」

僧侶「勇者さまがですよぉ」

魔法使い「あ、あいつが? まとめてられてる様な気がしたことないんだけど? 私達が合わせてやってるだけで」

僧侶「衝突しそうになったら、勇者さまが身を呈して団結させてくれるではありませんかぁ〜」

戦士「いや、あいつは好き勝手にふざけているだけだろう」ピタ

武闘家「アタイもそれはちょっとどうかと……」

僧侶「そうは言われましてもぉ、こうして話題になると戦士さんと武闘家さんの喧嘩は止まりますしぃ」

戦士「それは……うーん? なんでだ? 魔法使い」

魔法使い「余計にツッコミやすいからに決まってるじゃない」

僧侶「なんだかんだで、率先してやられてるんですよぉ? 私達の間のクッションになっていただいてぇ」

魔法使い「例えそうだとしても! 連絡もよこさず勝手な振る舞いをしてるやつよ! ただテキトーなだけ! 夢見すぎ!」ビシッ

僧侶「それはぁ〜そうですがぁ」

戦士「うん、勇者がダラシないやつという部分に疑いはない」

僧侶「武闘家さんもそう思われますかぁ?」

武闘家「あ、アタイは、武に生きる者として、尊敬する部分もあるが、あいつの人柄を、そこまでは良く考えられない。人間的な部分は出来の悪い弟弟子というか」

僧侶「そうですかぁ〜」シュン

魔法使い「僧侶も勇者だからって甘やかしてばかりいちゃだめよ。信仰心という補正がかかってるだけなん――」


「きゃあああああ〜〜〜〜ッ!! だ、誰かぁ〜〜ッ!!」


戦士「叫び声っ⁉︎」ガタッ

武闘家「表の通りからか……!!」ダダダッ

魔法使い「あっ、ちょ、ちょっと!」

戦士「魔法使いと僧侶は後からこい!!」チャキッ ダダダッ
461 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/02(金) 16:47:41.75 ID:396w4EcWO
【城下町 表通り】

荒くれ者「逃さねぇぜぇ〜コイツぅ〜っ!」

メイド「あ、あ……」

荒くれ者「そんなはだけた格好で走ってどこいくのぉ〜? お嬢ちゃん」ニヤニヤ

メイド「ど、どいてくださいっ! 私はお城に! 見回りの兵はっ⁉︎」キョロキョロ

荒くれ者「四六時中いるもんかぁ〜! 恨むんならテメェの運の悪さを恨みなぁ。へっへっへっ」ジリ ジリ

武闘家「――お前らっ!! なにをしているっ!」ズザザッ

荒くれ者「あぁん? なにをって今からお楽しみに決まって……」クルッ

戦士「こいつらは……たしか、昼間のモミの木のタネの老人からお金を巻き上げようとしていた……」

荒くれ者「あ……っ、あっ……あ、あんたらは……」

武闘家「まだこんな元気があったんだね」ポキ ポキ

荒くれ者「ひ、ひィッ!」ガタガタ

戦士「ちぇ、雑魚か。ならあたしの出番はないな」ドサッ

荒くれ者「きょ、今日の昼間はたまたま調子が悪かったんだ! 今度はそうはいかねぇぞっ!!」

武闘家「御託はいい。さっさとかかってきな。今度はしばらく悪さできないようになるけど」クイクイ

荒くれ者「ヒャッハーッ!! 舐めてんじゃねぇぞぉ!」ブンッ
462 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/02(金) 17:14:57.65 ID:396w4EcWO
【数分後】

魔法使い「――あれ? もう終わってたの? ってこいつ、昼間のじゃない?」

荒くれ者「」チーン

魔法使い「うわっ、顔面ぼっこぼこ」

戦士「弱い者いじめだよなー」

武闘家「アンタじゃ勝てなかったかもよ」

戦士「んなわけあるかっ!!」

僧侶「これは、少々やりすぎでは〜」

メイド「あの、助けていたたぎありがとうございました」ペコ

戦士「あぁ、かまわな――」

武闘家「アンタ見てただけだろうさ」

戦士「なんだよ! いいだろあたしが言っても!」

僧侶「あのぉ〜。そのような格好で出歩かれてはぁ〜。時間も時間もですしぃ」

魔法使い「……露出狂?」

メイド「ちっ、ちちちっ違いますっ! 急いでて!」

僧侶「そうでしたかぁ〜。なにやらご事情があるご様子。でしたら、私の着ている服を〜」ヌギヌギ

魔法使い「二人に増やすんじゃないわよ!」

武闘家「……ほら、汚いマントだけど。これなら胸元隠せるだろ」パサッ

メイド「ど、どうも……ありがとうございます」

戦士「勇者がいたら喜んでたかな?」

魔法使い「きゃははっ、ないわよ。あいつ、絶対童貞だし」

僧侶「またお二人はそうやってぇ。純粋と言ってあげないとぉ」

魔法使い「甘い甘い。童貞は皆すべからずムッツリなの」

メイド「ゆ、勇者? そうおっしゃいました?」

武闘家「あ、んー……まぁ、その、アタイ達のパーティに」

メイド「今もご一緒なんですか⁉︎」

魔法使い「見たいの? やめといたほーがいいわよ。幻滅するから」

戦士「見た目は悪くないが、サインをもらうような相手ではな」

メイド「教えてくださいっ! 今もいらっしゃいますか⁉︎」

僧侶「いぇ〜。今日は別行動をしておりましてぇ、今は帰ってきておりません〜」

メイド「こ、これっ! これ見たことありませんかっ、私が小さい時にもらったお守りなんですけど……見覚えは……?」スッ

戦士「銀細工みたいだが、ススだらけだな。あるか? 魔法使い」

魔法使い「んーん、ない」

メイド「そ、そんなはず……! 勇者様のパーティなら見覚えが!」

武闘家「アタイも、ないな。僧侶は?」

僧侶「私もありません〜」

メイド「そ、そうですか。勇者様なら、コレを持ち歩いているはず……“別の勇者”なのでしょうね……」

戦士「偽物は実際に出ていたが、あたし達が同行している勇者は本物の――」

メイド「いえ、いいのです。姫さまに確認すれば済む話ですので」スッ

武闘家「ちょっと待ちなよ。アタイ達がウソつきだっていうのか?」

メイド「そうは言ってません。ですが、私も、なにがなにやらわからなくて……混乱しているんです……」

戦士&武闘家&魔法使い&僧侶「……?」

メイド「助けていただきありがとうございました。後日、お城におこしくださいませ」ペコ
463 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/02(金) 19:05:02.23 ID:nXSMbgjzO
【数時間後 廃墟】

お頭「でえっへっへっ!! おめぇ、なかなかに面白いやつじゃねぇかっ!」

ジャン「いやぁ、お頭ほどでもないですよ」モミモミ

衛兵「(な、なんで……こいつが、気に入られてやがる……っ!!)」

ジャン「それそうとお頭、分け前の話なんですけどね」

お頭「そんなにカネが好きか? あァ?」

ジャン「大好き! カネのためならハーケマル王の足の裏だってペロペロしちゃう!」

お頭「ぎゃはっはっ! プライドねぇのかよぉ〜おめえ」

ジャン「そんなんで金儲けできたら苦労しませんて。俺も噛ませてくださいよー」

お頭「おう、衛兵。帰ってきたと思えばなに神妙な顔してやがる。酒だ酒」

衛兵「へ、へい」トクトク

お頭「おめぇもご苦労だったな。ハーケマルの使者を見事にだきかかえちまうとは」

衛兵「あ、いや……それが」

ジャン「そりゃあねぇ、衛兵さんが頑張ってくれたおかげでこうして席があるわけですから」

お頭「違えねェ。お前の取り分、成功報酬から三割上乗せしといてやるよ」

衛兵「えっ⁉︎ い、いいんですかい? 三割……というと基本が100だから、130⁉︎」

お頭「なんだァ? 足りねぇか? ……そうだな。使者の協力があれば、成功したも同然だし、200ぐらいいっとくか」

衛兵「ば、ばばばはっ倍ですかいっ⁉︎」

ジャン「さすがお頭! 太っ腹!」

お頭「まぁよっ! 俺ぐらいになりゃあこれぐらい豪気じゃねぇとな!」

衛兵「(あ、あれ? こいつって、もしかして、良い奴?)」

ジャン「協力したいんですってぇ〜! でも、計画がどういうものかわからなきゃだめでしょ〜?」

お頭「……把握する。それが、狙いか?」ギロッ

ジャン「……」ピタ

お頭「だぁっはっはっ! ちょっと睨んだだけじゃねぇか!」

ジャン「(目は笑ってなかった。半分以上は俺を疑ってるな)」

お頭「いやいや、おめぇはおもしれーやつだ。ちっとも貴族らしくねぇ。だがな、だからこそ、大丈夫か? とも思う」

ジャン「はいはい〜」モミモミ

お頭「衛兵。お前は使者をどう見る?」

衛兵「へい? 俺ですか? ……そいつは」

ジャン「思った通りに行ってくださいよー。疑う余地はないって」
464 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/02(金) 19:20:24.74 ID:nXSMbgjzO
衛兵「お、お頭、実は……」

お頭「ん? なんだ? どうした」

衛兵「……そ、そいつは……」

ジャン「……」ジー

衛兵「俺からジャン殿に質問させていただいてもいいですかいっ⁉︎」

お頭「かまわねェよ」

衛兵「ジャン殿、ちょっと」

お頭「なんだァ? 俺の目の前でコソコソ内緒の打ち合わせか? まさかおめぇら二人で宝を横取りするつもりじゃあるまいな」ニタァ

衛兵「ひっ⁉︎ い、いいえっ! そ、そういうわけではなく!」

ジャン「衛兵さん。お頭は俺たちの雇用主になるわけです。信用を失っちゃったら元も子もありませんよ」

お頭「……」

ジャン「聞きたいことがあれば、どうぞ。ご随意に」

衛兵「(よく考えろ! ここは、俺の岐路だ。分岐点だ。こいつは危ないやつだって、お頭に教えるべき。……で、でも、そうなったら俺の倍のボーナスは、どうなる……?)」

お頭「なにか、あんのか?」

衛兵「(密告しても、もらえるのか? この野郎はどこまでが本気でどこまでがウソなんだ。俺たちの仲間になりたいのは……本気……なのか? 女を襲ったのが気に入らなかっただけか?)」

ジャン「はやくしないと俺だけじゃなく衛兵さんの信用まで失ってしまいますよー」

お頭「だぁっはっはっ! おめェ、よくわかってんじゃねぇか!」バンバン

衛兵「〜〜〜〜ッ! ジャン殿っ!!」

ジャン「はい?」

衛兵「お、お金。お金は、好きですか?」オズオズ

ジャン「好きですよ」

衛兵「じゃ、じゃあ、女を襲うようなやつは?」

ジャン「嫌いですね。陵辱は胸糞悪くなるので」

お頭「あァ? そうなのかァ? 嫌がる女を征服するっていいもんだろうが」

ジャン「いやぁ〜俺ドMなんで」

お頭「……まじかよ」(ドン引き)

ジャン「や、やだなぁ! 冗談ですって!」

衛兵「(な、なら、でも、牢屋いきだって言ってたしな。俺を。やっぱり報告するか! 報告して報酬もらおう! それでいこう!)」


465 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/02(金) 19:39:42.55 ID:nXSMbgjzO
ジャン「ほかになにか――」

衛兵「お頭ァッ! そいつは危ねぇやつです!!」ビシッ

お頭「あん? どういう意味だ?」

衛兵「そいつに殴られました! そんななりしてめちゃくちゃつええっす! そいつ!」

お頭「へぇ。おめェ、衛兵よりつええのか?」

ジャン「貴族なもので。幼少の頃より武術と剣術は嗜んでおります」

衛兵「俺が女を襲おうとしたら、こいつが扉を蹴破って入ってきたんです!! そんで俺をぼっこぼこに……!」

お頭「そのわりには、怪我が見当たらねぇが?」

衛兵「ここまで案内させるのに治しやがったんでさぁっ!!」

ジャン「まぁまぁ落ち着いて」

衛兵「お頭、そいつは……」

ジャン「俺、女を襲うようなやつは嫌いなんですよ。でもこの計画には一枚噛みたかった。だから案内してもらったんです」

お頭「ふぅん……」

衛兵「そいつは俺を殴った後、団の内情も聞き出そうとしてて!」

お頭「なに?」ピクッ

ジャン「それも全て、どういう規模で活躍されてるか知りたかったのです。より良い取り引きのために」

お頭「……なるほど?」

ジャン「雇い主を無条件に信用するほどおめでたくありませんよ。ましてや、こんな無能を雇っているようでは」

衛兵「な、なにをぅっ⁉︎」

ジャン「お頭。気がつかないんですか? ならなぜ最初からこいつは報告しなかったのか」

お頭「そいつは俺も気になっていた。なんで今頃になって言う?」

衛兵「……うっ、そ、それは、すぐバレると思って……」

ジャン「予想外に相手に取り入ってしまった。俺にビビってたのか?」

衛兵「ぬぐっ」

ジャン「別にそこはどーでもいいんだけど。ボーナスの話が出たからだと思ってた」

お頭「……」ピクッ

ジャン「迷ってた。俺に金に好きかって聞いたのはなんで?」

衛兵「そ、それは、その、よ、よく考えてから」

ジャン「ほーらね。こいつも俺も金が大好きなんですよ。金のためなら平気で打算しますよ。お頭だって好きでしょ? カネ」

お頭「ああ……」グビッ
466 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/02(金) 20:02:12.03 ID:nXSMbgjzO
ジャン「そこで――こっからは俺の取り引きです」

お頭「……言うだけ言ってみろ」

ジャン「この場所を知られてしまった以上、お頭達は俺を黙って帰すつもりはないでしょう。なので、先に条件を提示します」

お頭「……」

ジャン「俺を仲間に引き入れれば、計画はさらに円滑に進められるでしょう。そこの衛兵さんをボコった際に聞き出したのですが、なんでも井戸の水を枯れさせているとか」

お頭「おめェ……っ! ペラペラと喋りやがったのか!!」ギロッ

衛兵「ひ、ひっ⁉︎ す、すみませっ!」ドゲザ

ジャン「話を進めても?」

お頭「……」コクリ

ジャン「ハーケマルの使者として、お力になれることは多いはず。取り分は、そうですね。300万でいかがでしょうか?」

お頭「……話を聞くだけといったはずだ。誰がお前を仲間にいれるといった」

ジャン「決めるのはお頭です。どうぞ、存分に打算なさってください。俺を引き入れることによって得られる利点と危険を天秤にかけて」

お頭「……」

ジャン「黙って殺られる気はありませんよ。だめだというなら懐に隠してある短刀で抵抗します」スッ

お頭「……俺をおどそうってのか?」

ジャン「めっそうもない。……お頭らぁ〜。頼みますよぉ〜。俺もお金もうけしたいんですぅ〜」モミモミ

お頭「……」グビッ

ジャン「(考えてる考えてる。口から生まれたと俺に勝とうとは10年はやいわっ!ボケ衛兵が!)」チラ

衛兵「お、お頭。そ、そいつは」オズオズ

お頭「おめェはだぁってろ!! ……ボーナスはなしだ」

衛兵「そ、そんなぁ……」ガックシ

お頭「使者さんよ……まずはおめェになにができるか聞かせてもらおうか」

ジャン「私はハーケマルとクィーンズベルとを結ぶ使者でございます。そうですね、パッと思いつくのは、王子来訪と合わせ帯同してくる」

お頭「それで?」

ジャン「お頭達が安心して、余裕をもって仕事を行えるどころか、逃げ道までお手伝いできるかと」

お頭「う、む。注意を引きつけられるのか?」

ジャン「立場を利用すればたやすい。難しいことではないと想像できますでしょう?」

お頭「……」

ジャン「なにがひっかかてるかじゅ〜〜ぶんに理解できます。計画の重要ポストにおいたら、消えたり裏切りにあっては痛手。それもかなりの」

お頭「そうだ」

ジャン「私が信用できない。そこがひっかかってる」

お頭「……あぁ」

ジャン「信用できるようになにかやりましょう。あ、そうだ。メイドの弟を拐ってると聞いたのですが。衛兵さんから」

お頭「……なにから、なにまで……ペラペラと……っ!」ブンッ

衛兵「いたっ」コツン

ジャン「その弟の居場所を教えてもらえれば――」

お頭「いねぇよ」

ジャン「――はい?」

お頭「俺もヘタこいてな。ガンダタってやつに持ってかれちまった「

ジャン「な、なんですとぉっ⁉︎」



467 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/02(金) 20:30:33.68 ID:nXSMbgjzO
【クィーンズベル城 郊外】

ガンダタ「どおりゃあっ!!」ザシュっ

手下「うっ」ドサッ

ガンダタ「ふうっ、ふうっ、これで最後か……」

少年「ひっ、ひぃん」ガタガタ

ガンダタ「む、ぅっ、さすがに10人いっぺんには、こたえる」ガクッ

少年「お、おじちゃん」トコトコ

ガンダタ「ガキ。おめぇ、逃げなかったのか。バカなやつだ」

少年「こ、こわくて。動けなかった」ヘナヘナ

ガンダタ「あ? よく見りゃ小便漏らしてやがる。小便小僧だ」

少年「うっ、うっ、ぐすっ」

ガンダタ「おめェの姉ちゃんに会わせて、俺は金をもらう。そして、そのまましばらく姿をくらませる。再起は、その後だな」ドサッ

少年「だ、大丈夫?」

ガンダタ「ちっらたぁ根性見せたらどうだ。女みたいに人の顔色ばかりうかがってないでよ」

少年「あ、あぅ」

手下「ぐっ、ガンダタァッ……!」

ガンダタ「なんだ。まだ死に損ないがいたか」

手下「美味しい思いだけをできると思うなよ……! 追っ手は俺たちだけじゃねぇぞ!! うっ、ゲフッ」

ガンダタ「わかってるよ」ムクッ

手下「そいつを、渡して、謝礼をもらえてもっ、所詮、おめェは犯罪者だ。腐りきったクズ野郎だ」

ガンダタ「……あぁ」スタスタ

手下「仲間殺し、裏切り、裏社会での暗黙の了解を破ったお前に、もはや居場所なんか、ねぇっ!!」キッ

ガンダタ「だったらよ、俺は自分だけの居場所ってやつを作るだけだ」グサッ

少年「も、もういやだぁ、お、おねぇちゃぁ〜ん」ポロポロ

手下「が、がはっ」ドサッ

ガンダタ「自分の居場所なんてもんは勝ち取るもんだ。そうだろ」グサッ グサッ

手下「」

ガンダタ「――俺は生きる。生き残って、あがいてあがいてやる。その先が地獄なら、鬼になってもな」ポタポタ
468 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/02(金) 22:05:15.90 ID:E1d4QI8B0
469 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/02(金) 22:32:44.03 ID:9nEUDDxZO
毎日更新は嬉しいね
470 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/03(土) 09:07:32.86 ID:YBSEylk6o
471 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/03(土) 21:24:03.71 ID:0GHFRMQmO
【再び 廃墟】

お頭「どうして驚いて……いや、ちょっと待て。頭を整理したい」

ジャン「(まずいぞ。弟はいったいどこに……)」

お頭「使者よ……ジャンっつったか。おめェの指摘には間違いがいくつかある」

ジャン「あ……はい? 間違いとは?」

お頭「たしかに俺ァ金が好きよ。ボンクラ衛兵も、お前も好き。ソレに違いはねぇ……ただな、俺にとっちゃ、カネなんてものは手段にすぎねえ」

ジャン「……?」

お頭「“金に溺れてるつもりはねぇ”。そういうこった。富、権力、そういうものを追い求め野望を胸にしてりゃ、金は後からついてくる。金なんてもんは所詮――」ゴソゴソ

ジャン「……」

お頭「贅沢をするための、道具だ」チャリン

ジャン「さっすがお頭――」

お頭「腹をわって話しようぜェ? ジャンさんよ。おめぇは“カネに使われるモノか”、“カネを使うモノか”。どっちなんだァ? あぁ?」

ジャン「なんのことやら、さっぱり」

お頭「くっくっ、とぼけるんじゃねェよ。俺の手下を無能呼ばわしたお前が、これぐらいを察しがつかねぇでどうする。そんな無能なら、俺がいらねェ」

ジャン「……そうですねぇ、いずれは一人立ちしたいと考えています。いつまでもコキ使われるのはイヤなので」

お頭「盗賊になるか?」

ジャン「俺は働くのが嫌いなクズなんですよ。盗賊だって社会からはみ出して、人の迷惑をかえりみない犯罪まがいのことやっちゃいるが、ルールがある。働いてますよね、一応」

お頭「一般人が積み上げてきたものをぶち壊す汚ねェ手段ばかりだがな」

ジャン「性善説なんてありえませんし、あなた方みたいな人は、人が人間である以上、必ず出てくる。必然的にね」

お頭「……」

ジャン「そんなに複雑な話じゃないんです。私は、のんびり気ままなニートを目指してまして」

お頭「ニート? てェと、無職、世捨て人になるつもりか」

ジャン「今の肩書きを捨てたいだけなのかもしれませんね」

お頭「ほかに大きな野望はねェのか?」

ジャン「そんな先のことまで考えてませんよ」

お頭「そうか……骨のあるやつを期待したんだがな」

ジャン「お頭のおっしゃっている意味は理解できます。その先になにを求めているので? カネが主目的ではない、後からついてくる副産物なら……」

お頭「“国盗り”よ。それが俺の夢であり、盗賊としての野望」

衛兵「く、国盗り……お頭、自分も初耳です」ゴクリ

お頭「そんなんだからおめェはカネに振り回されてんだ」

ジャン「(こいつは……どうしたもんでしょ)」

お頭「ジャンよ、おめぇのここ(胸)になにもないんなら……カネほしさに国を潰せる突き抜けたクズ野郎か?」トントン

ジャン「宝を奪い、財政難に陥れるだけで国が陥落するわけがないでしょう。そうなる前に、ハーケマルや他の機関が援助に動きだします」

お頭「くっ、くっくっくっ。そうはならねぇのさ。なぜなら、落とすからだ」

ジャン「戦をしかけるおつもりで? たった百人たらずの盗賊団で?」
472 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/03(土) 22:03:19.35 ID:sz2fZswmO
お頭「衛兵から聞いたか……ぎゃっはっはっ! 百人じゃねェのよ。俺たちの団は」

ジャン「例え千でも同じこと、万を超える数ではないと……万もいるとか?」

お頭「いいや。いねェ、くっ、くっくっ」

ジャン「お頭ぁ、わかりませんよぉ〜」

お頭「“魔族”だよ。俺たちのバックにはやつらがついてる」

ジャン「(あぁ? ……ちっ)」

衛兵「えっ⁉︎ そ、そうなんですか⁉︎」

お頭「どうだい? これなら信じられないこともないだろう? 国を落とせると」

ジャン「魔族が人間と協力か、もしくは協同ともいいましょうか……初めて聞きましたが」

お頭「俺も驚いたさァ。なにしろ、人間の若い女の姿をしていたからなァ。最初は気がつかなかった」

ジャン「(人間の若い? 淫夢族か?) ……それで、どうやって?」

お頭「そこまで話する気にゃならねェ」

ジャン「魔族がいるかどうかだけでも」

お頭「今言ったろ……チッ、証明か」ゴソゴソ

衛兵「……そ、そんな……ま、魔族と繋がってたなんて……」ブツブツ

お頭「ほらよ。このビー玉見てみな」

ジャン「それは?」

お頭「こりゃあ、なんでも特殊な瘴気の溜まってるもんを閉じこめてる玉らしい。中でケムリが渦になってるのわかるだろ?」

ジャン「(たしかに、紫色の、なにか、形作ってないか?)」ジー

お頭「こんなもんは人間には作れない代物だ。呪いのアイテムなんかでもねぇ」

ジャン「(よく、見ると、竜か?)もっと、よく見せていただいても?」

お頭「ダメに決まってるだろうが。証明はコレで済んだ」サッ

ジャン「……けちんぼぉ〜」

お頭「さぁ、どうするよ? お前の結論は」

ジャン「お頭に協力します」キッパリ

お頭「あ、あぁ? 悩むそぶりも見せずにか?」

ジャン「他人が血を流そうかどうなろうか知ったこっちゃありません。俺はクズじゃなくドクズだったようです」

お頭「軽率なやろうだ」

ジャン「単純明快でいいじゃないですか。俺は答えましたよ。お頭はまだじっくり考えたいですか?」

お頭「うう、む」

ジャン「(魔族がなんでまた人間に。あいつら種族のプライド高いはずだけどな〜、クィーンズベルを潰すために人間同士の争いに演出するつもりなのかなぁ)」

手下「お、お頭ぁッ!!」ダダダッ

お頭「うるせぇなァ!! ゆっくり考えられねぇだろうがッ!!」

手下「す、すいませんっ! でも、ガンダタを追っていかせた、馬たちが……帰ってきてて……!」

お頭「馬? 馬だけか?」

手下「し、死体をくくりつけた、馬が……!」

お頭「チッ、やられたか。なら、さらに人員を増やして……いや、まてよ。おめェ、衛兵よりつええんだったな……なら、こうすッか。ガンダタって野郎を殺ってこい。そしたらお前を信用する」

ジャン「かまいませんけど、顔がわかりませんよ」

お頭「人相書きなら、ほらよ」ポイッ

ジャン「……」パシッ シュルシュル

お頭「そいつが、ガンダタだ」

ジャン「(あれ? これどっかで……あぁっ⁉︎ 山で出会った山賊じゃねっ⁉︎ こっちに合流してたの⁉︎)」
473 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/03(土) 22:42:50.34 ID:sz2fZswmO
【宿屋前 表通り】

ガンダタ「ぬっ、ぐっ」ヒョコヒョコ

少年「ずっと足ひきずって歩いてるけど」

ガンダタ「(矢を受けた足の痛みがおさまらねぇ、毒でも塗ってやがったな……!)」ヒョコヒョコ

少年「お、おじちゃん……」

ガンダタ「うるせぇよ、小便小僧。お前はもうすぐ解放されるんだから喜んでろ」

魔法使い「――たまには外食もオツなものよねー!」スタスタ

僧侶「そのわりにはぁ、あまりハシが進んでませんでしたけどぉ」

魔法使い「だって暑いか辛いしかないんだもんっ!! 気分だけでも味わいたくて言ったただけ!」

戦士「あたしは美味かったけどなぁ」

魔法使い「あんたは食えればなんでもいいんでしょうが!」

ガンダタ「(うるせぇ女どもだ。さっさと通りすぎやがれ)」

僧侶「武闘家さんもくればよかったんですけどねぇ〜」

戦士「ほっとけ! あんなひねくれ者!」

魔法使い「宿屋のご飯食べるっていたし、まぁいいんじゃない?」

ガンダタ「(いや、まてよ。こいつら、どこかで……?)」

魔法使い「寝苦しくないといいな〜」スタスタ

ガンダタ「思い出した……! おめぇらっ! 若僧のツレで寝てたやつ!!」

魔法使い「へ?」ピタッ

ガンダタ「あいつはっ、どこだぁっ!!」ブンッ

少年「わ、わぁっ、またぁっ⁉︎」


――バチィンッ――


魔法使い「あ? へ……?」ヘナヘナ ペタン

戦士「大丈夫か? 魔法使い」ザッ

ガンダタ「(こいつ……俺様の正拳突きを止めやがった……!)」

戦士「いい突き出しだ。ちょっと反応遅れたらウチの魔法職さんに当たってたろう。でも、残念ながらもっと凄いやつの正拳突きをあたしは知ってる」

僧侶「武闘家さんのことですねぇ〜」

戦士「余計な解説いれんでいい!」
474 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/03(土) 22:55:45.34 ID:sz2fZswmO
ガンダタ「なんだァ? てめぇは」グリッ

戦士「むっ⁉︎」シュタッ

魔法使い「せ、戦士ッ! 平気⁉︎」

戦士「(さらに拳に力が入っていたな、思わず距離をとったが)……問題ない」スラァ チャキッ

ガンダタ「小便小僧。少し離れてろ」

少年「あ、あわわっ」トテトテ

僧侶「補助魔法、おかけしますかぁ?」

戦士「いや、必要ないだろう」

魔法使い「ほ、ほんと? 油断してて負けるとかやめてよ?」

ガンダタ「……おい、ねぇちゃんよ。俺は血を見てちィとばかし、気性が荒くなってる。おめぇらの中に若僧がいたろ。あいつはどこだ?」

僧侶「勇者さまを訪ねる方が多いですねぇ。さすが有名人でしょぉかぁ〜」

魔法使い「い、嫌な来訪者だけど」

戦士「……あいにくとあんたの探してるやつはいない。今はね」

ガンダタ「ウソついてちゃなんにもなんねぇぞ」ヒョコヒョコ

戦士「……? 足、怪我してるのか? そんな状況であたしと――」

ガンダタ「だったら、なんだってぇんだっ⁉︎」バッ

戦士「――っ⁉︎ 砂っ⁉︎ い、いつのまにっ、くっ」

ガンダタ「正攻法だけでくると思うなよネェちゃんっ!」ブンッ

戦士「目に、砂がっ」ガクッ

魔法使い「……っ! メラミッ!!」ボフゥ

ガンダタ「なにっ」バァンッ

魔法使い「あんたこそっ! この大魔法使いである私の存在を忘れちゃいないでしょうね!」スチャ

僧侶「なんだかぁ、不意討ちのようなぁ〜」

魔法使い「し、しかたないでしょ! 戦士が危なかったんだから!」

ガンダタ「……魔力が練りこまれてねぇじゃねぇか。中級魔法(メラミ)の名が廃れるぜ」モクモク

魔法使い「言ったわね……! 時間なかっただけだもん! 咄嗟だからだもん!」キィィィン

ガンダタ「させるかよっ! 俺の斧でもくらっとけ!」ブンッ

魔法使い「え? ちよ、ちょっと、ま、まずっ⁉︎」アタフタ
475 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/03(土) 23:13:38.11 ID:sz2fZswmO
武闘家「あちょぉ〜〜〜っ!!」キンッ

ガンダタ「……っ⁉︎ なんだぁおめェ」

武闘家「今度は誰かと思えばアンタ達か。まったく、戦士。なんてザマなのさ」タンッ

戦士「くそっ」ゴシゴシ

魔法使い「た、助かった。あ、ありがとう、武闘家」

武闘家「……」キッ

ガンダタ「そーかい。おめェも仲間ってわけかい。女ばかりがゾロゾロと」

武闘家「女だと思って甘くみるんじゃないさ。……痛い目みるよ」スッ

ガンダタ「うるせぇよ。見たところ前衛職二人に、後衛職二人か……」

僧侶「あのぉ、争いはやめたほうがぁ」

魔法使い「女神様は休暇中で見ないことにしてくれるってさ!」

ガンダタ「俺も満身創痍な状態でこれはきついか。これを使うのは気が進まねぇが」

僧侶「……?」

ガンダタ「おい、お前ら。おれが喋る最後のチャンスだ。あの若僧はどこだ」

戦士「だから言ったろう! いないと!」

武闘家「また訪ねてきてるのか?」

僧侶「みたいですねぇ」

ガンダタ「そうかい……へ、へへっ、せっかく、最後の機会を与えたってのによ……」シュゥゥゥ

戦士「なんだ……? 身体から、煙が」

魔法使い「気のせい? 真っ赤になってきてない?」

武闘家「……こ、これはっ⁉︎」

ガンダタ「うっ、うぅっ! うぅっ、ヴゥうぅっ」シュゥゥゥ

戦士「唸ってるが」

魔法使い「唸ってるわね」

武闘家「僧侶! スクルトを! はやく戦士とアタイに! 戦士! 本気を出せッ!!」

僧侶「は、はいぃ〜」ポワァ

戦士「なんだ? いったい……?」


武闘家「こいつは……ッ!! バーサーカー(狂戦士)だッ!!」


戦士「バーサーカー?」

ガンダタ「う、ヴぅ」ピタ

武闘家「――来るぞっ!!」
476 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/03(土) 23:43:01.51 ID:sz2fZswmO
ガンダタ「ウガァッッ!!!」ダンッ

戦士「むっ! あたしに来るか!!」チャキッ

ガンダタ「がァッ」ブンッ

武闘家「避けろ! うけようとするなっ!!」

戦士「なっ、なんだこの力、づよさっ、きゃあぁぁぁっ!」ドーーーンッ

魔法使い「え……戦士が……女の子の悲鳴あげながら、吹っ飛んでった……」

武闘家「だから言ったじゃないさ!」

僧侶「ピオリム〜」ピュイ

武闘家「ナイスだ僧侶! はぁぁぁぁっ!! 哈ぁっ!!」ドゴンッ

ガンダタ「ヴゥッ?」ギロ

武闘家「ビクともしないか……っ! アタイの拳を舐めるんじゃないよ!! あちゃぁ! ほぉあたぁっ!!」ドゴォ バキィッ

ガンダタ「……」

武闘家「一撃必殺ッ!! 正拳突きぃぃっ!!」ドゴーーンッ

ガンダタ「うっ……っ!」ヨロ

武闘家「どうだ!」

ガンダタ「……」ギロッ

武闘家「ば、ばかなっ!? アタイの正拳突きがっ!? き、筋肉に阻まれてる……!?」

僧侶「戦士さんを回復してきますぅ」タタタッ

魔法使い「えーと、えーと、えーと、えーと、私は魔力を練らなきゃ」キィィィン

ガンダタ「ヴゥッ!!」ブンッ ブンッ

武闘家「うっ、くっ」ヒョイ ヒョイ

魔法使い「(ひ、ひぃ〜ん。ど、どどどうしよぅ。メンバーには黙ってたけどメラミ以上の魔法使えないのにぃぃ〜〜)」

僧侶「ベホイミ」ポワァ

戦士「うっ、うぅっ」

僧侶「じっとしててください」

戦士「う、受けた、剣が、折れた。ぶ、ぶとうかぁっ、そいつの攻撃は、うけちゃだめだ……」プルプル

武闘家「アタイが最初に言ったろ⁉︎」クルッ

魔法使い「あっ! よそ見っ!」

ガンダタ「ウガァッ!」ブンッ

武闘家「しまっ――」グッ
477 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/04(日) 02:49:05.03 ID:LUoP8PDu0
478 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/04(日) 07:16:58.81 ID:JyCFzePqo
479 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/04(日) 08:30:06.71 ID:0n55qv9no
480 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/04(日) 09:48:50.56 ID:idCM/mpeO
481 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/04(日) 12:44:09.78 ID:BK8AK1TlO
【数分後】

武闘家「……うぐっ」ガラガラ

戦士「どうなってるんだ! いくらダメージを与えてもおかましなしじゃないか!」キィンッ ギュインッ

ガンダタ「ウガァッ!!」ブンッ ブンッ

魔法使い「ぜんぜん効いてないじゃないのよぉ〜っ!
メラミッ!」ボヒュウ

武闘家「うっ、足が……」ズキンッ

僧侶「今治しますよぉ〜」ポワァ

戦士「武闘家っ!」ズザザッ

魔法使い「ちょっとぉ〜! なによアレはぁ!」タタタッ

武闘家「……コロシアムにいた時に聞いたことがある。何代か前に、バーサーカーと呼ばれるチャンピオンがいたと」

戦士「……」ジトォ〜

武闘家「なにさ、その目は。“もっとはやく教えろ”。そう思ってるな? ……しかたないだろ。バーサク化する特徴で気がついたんだからさ」

魔法使い「それじゃあ、あの化け物もマッスルタウンの元チャンピオンっ⁉︎」

武闘家「同一人物かは知らない。……戦士、今から言うことを良く聞け」

戦士「なんだ?」

ガンダタ「ウゥ……」ノシノシ

武闘家「バーサーカーはアドレナリンを分泌させて筋強アップや痛覚を麻痺させてる。でも、ダメージが蓄積されてないわけじゃない」

戦士「そうは見えないが……」

武闘家「されてるんだよ。アレはいってみれば“究極のやせ我慢”状態なのさ。状態解除されれば、本人もただでは済まない。恐ろしいほどのペイン(痛み)が肢体を駆け巡る」

戦士「状態解除といってもなぁ、止まる方法はなんなんだ?」

武闘家「一度あのモードにはいったら、目的を達成するまで止まらない。我慢を上回るダメージを積むしかない……!」ムクッ

僧侶「あぁ〜まだ途中ですよぉ〜」ポワァ

戦士「一発でも受ければ致命打だ。先にどでかいのもらうか、手数をぶちこむかの戦いってことだね?」

武闘家「その通り……!」

魔法使い「じゃ、じゃあ! 私も魔力が尽きるまで魔法を撃ちまくって当てまくればいいのね!」

戦士「僧侶。回復は最小限にして補助魔法を頼む」

僧侶「……はい〜。スクルトォ〜、ピオリム〜」ポワァ

武闘家「まさか、いきなりで苦戦を強いられるとは……世の中ってのは、ホントにわけがわからない」

ガンダタ「うがぁぁぁぁあっ!!」ズンズン

戦士「さっきまでは人間と思えてたんだが、あれじゃモンスターだな」

武闘家「……すぅーっ……はぁ〜……総力戦だっ!!」クワッ

僧侶「作戦名はぁ〜“ガンガンいこうぜ”。と、いったところでしょうかぁ」
482 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/04(日) 13:42:43.92 ID:BK8AK1TlO
【クイーンズベル 郊外】

ジャン「はぁ〜、なにやらこんがらがってきたな〜」パッパカ パッパカ

衛兵「……」

ジャン「どしたんだ? さっきから黙りこくっちゃって」

衛兵「魔族と裏で繋がってるなんて聞いて平気でいられるのがおかしいんですよ」

ジャン「悪そなやつはだいたい友達でいいんじゃないの。最高峰の魔族とツルんでるんだから、誇れば?」

衛兵「に、人間じゃないんだぞ⁉︎ お、おっかねぇ」ブルッ

ジャン「よくわからんなぁ〜。人間だからだとか魔族だからとか。やってる非道さは似たようなもんだろ」

衛兵「あいつらは人を食う!」

ジャン「……人間は人間を食わないけどさ、普通は」

衛兵「エサとしか見てねえだろ! お、俺らはそこまではしちゃいねぇ」

ジャン「お前なぁ、一般人から見たらどっちもタチ悪いんだが? ビビりめ」

衛兵「そんなんじゃねぇよ、俺はただ」

ジャン「衛兵が弱者を襲ったりする時だけ強気な典型的クソ野郎だとはわかったよ」

衛兵「な、なんとでもいえっ!」

ジャン「ガンダタは城に向かったのは確かなのか?」

衛兵「血の跡がまっすぐ続いてる。盗賊団との取り引き材料に使うよりも、謝礼を貰う方を選んだみたいだな」

ジャン「(このままほっとけば弟くんはメイドの元に帰る、が――)」

衛兵「お頭は人質の奪還をお望みだ。そうしないと、入団も認めてくれねぇぞ」

ジャン「(そこなんだよなぁ。魔族と井戸の原因がまだ判明してない……とりあえず、弟くんの無事を確認したら今わかってる情報だけ王様にながすか……?)」

衛兵「こういう取り引きはよくすんのか?」

ジャン「ん? いや、しないよ」

衛兵「それにしちゃ、慣れてるように感じたが。おカシラにもすぐ気にいられてたし」

ジャン「気に入ったんじゃなくて値踏みしてんの」

衛兵「……値踏み、ねぇ」

ジャン「気に入ったそぶりを見せてたのはハーケマルの使者だから。こいつは使えるとわかってはじめて“気にいる”のスタートラインに立てる」

衛兵「なるほど……」

ジャン「我輩のコミュ力におそれいったかね? なっはっはっw」

衛兵「もうすぐクイーンズベルだ。ジャン殿、まずは宿屋にいきやしょう」

ジャン「あっ! お前スルーしやがったな⁉︎ さみしいじゃないか!」

衛兵「めんどくさいんすよあんたの絡み!」

▼勇者は心に198758のダメージを受けた!

ジャン「き、傷ついた。会心の一撃をお見舞いするとはやるやないか……!」

衛兵「打たれ弱いな!」

ジャン「なんだよぉ、もっとかまってくれよぉ」

衛兵「さらにめんどくせぇ! ……城門は閉まってます! なんで! 宿屋です! 宿屋からいきやしょう!」

ジャン「はいはい」

衛兵「はぁっ」バシィッ

馬「ヒヒーンッ」
483 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/04(日) 15:18:39.60 ID:LUoP8PDu0
484 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/04(日) 20:08:21.87 ID:S3D9Cw+YO
【クィーンズベル城 姫の部屋】

メイド「……はぁっ……はぁっ、お、お嬢様」ガチャ

姫「わたくしの専属メイド様じゃございませんの。いいご身分ですわね、仕事を放棄していったいどこを……」ポト

メイド「……息を、乱してしまい、失礼いたしました……」

姫「貴女……そのマントは? そんなにメイド服を汚して、なにがあったんですの?」

メイド「姫さま、教えてくださいまし。ハーケマルの使者の正体について」

姫「まずは着替えて――」

メイド「お願いします、姫さま! わたし、とんでもない勘違いをしていたんじゃないかと……盗賊団の仲間かと思ってて、気が気じゃないんです……」ポロポロ

姫「盗賊団……?」

メイド「……もしや、もしや、あの方は、勇者さま……なのでは?」

姫「……そうですわよ」

メイド「や、やはり……そんな、どうして」ペタリ

姫「勇者も見かけなくなりましたけど、なにがあったの……盗賊団と間違えてたってなに?」

メイド「あ、謝らなければ。で、でも、盗賊団と一緒にどこへ」

姫「落ち着いて。順を追って説明なさい」

メイド「いえ、姫さまを巻き込むわけには……」

姫「余計な心配です。貴女はわたくしの従者なんですよ。主人に秘密を持つとはなんたることですか。裏切り行為です」ギロッ

メイド「す、すみません」シュン

姫「それとも、話せないほどわたくしは頼りない?」

メイド「いえ! そんな!」ブンブン

姫「ならば、申してみよ。一国の姫として命ずる」

メイド「……っ!」ギュゥ

姫「……」ジー

メイド「ふぅ〜、わかりました、姫さま。告白せねばならぬことがございます」

姫「……申せ」

メイド「実は……弟が、盗賊団を名乗る者に拐われ拉致されました……」

姫「なんですって? 城外にメイドの母と二人で暮らしているという。たまに遊びにきてたわよね」

メイド「ご存知の通り、私の母は、飲んだくれの父に先立たれてから床に伏せております。どうしようもない父でしたが、母には、心の拠り所だったようで」

姫「ええ」

メイド「給金が酒代に消えていたのはお嬢様も薄々感づいておられたのでしょう?」

姫「……」コクリ

メイド「父が不摂生な生活がたたり亡くなってからは、幼い弟が母の身の回りの面倒を見ていたのです」

姫「それもわかっておりました」

メイド「ちょうど二週間ほど前のことでした。城で従事している衛兵に呼び止められ、“弟を拉致した”……そう告げられたのは」

姫「衛兵が……?」

メイド「はい。私にとっては、晴天の霹靂(せいてんのへきれき)でした。父と母を忌み嫌っている私は、弟しか、家族と呼べる者がいないのですっ」ポロ

姫「それで……?」

メイド「うっ、ぐすっ、そ、それから、私は、あろうことか、お城の内部情報をっ、盗賊に流すようになりましたっ」

姫「……」
485 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/04(日) 20:30:46.42 ID:S3D9Cw+YO
メイド「幼き日、姫さまの従者として取り立てていだいた恩を感じながらもっ、私はっ、弟を失いたくないっ、それしか考えられずっ」

姫「盗賊団の狙いは? 身代金の要求じゃなく情報なんですの?」

メイド「ひっ、姫さまの、ぐすっ、縁談に合わせて、宝物庫に忍びこむらしいです」ポロポロ

姫「……そう。それで、勇者をなぜ盗賊団の関係者と?」

メイド「そ、それはっ、私が早合点してしまい、姫さまがハーケマルの使者じゃないといったときに、盗賊団の者が接触していたのかと」

姫「ここまでは理解しました。先ほど、謝らなければと言っていたわね? 勘違いが解け勇者とわかったきっかけはなに?」

メイド「私は、勇者さまが盗賊団の者だと勘違いしていた折に、姫さまが危険だと感じて、焦っていました」

姫「だから、出かけていたのね?」

メイド「はい。かねてより要求されていた物を手にして」

姫「要求されていたもの? それはなに?」

メイド「城の見取り図でございます」

姫「……っ⁉︎」ガタッ

メイド「弟を無事返していただいたら、王に全てを告白し、自害するつもりでおりました」

姫「自害で済むと思うっ⁉︎」バンッ

メイド「申し訳、ございません」ペコ

姫「でも、相手が勇者だと気がついたのなら見取り図を持ち帰ってきたのですよね? そうでしょ?」

メイド「いえ。それが……待ち合わせ場所である酒場に到着すると、なぜか、衛兵と勇者さまが一緒に卓を囲んでおられたのです」

姫「なんですって……?」

メイド「私はハーケマルの使者が、盗賊団の一味だったという確信を持ちました。そして、衛兵に個室に連れていかれ、二人きりの状況で見取り図を渡したのです」

姫「勇者が、なぜ……そ、それからっ⁉︎ どうなったんですのっ⁉︎」

メイド「……はやく弟の無事を確かめたかった私は、衛兵に詰め寄りました。懐に隠していた短刀を突きつけて」

姫「……」

メイド「でも、こわくてこわくて仕方なかった私は、身体中が震えてしまって……衛兵に気がつかれた後はは、たやすく武器を奪われ、襲われかけました」

姫「だから、そんな格好してるんですのね」

メイド「逃げようと必死になった時でした。個室の扉の前から勇者さまの声が聞こえてきて」

姫「……」

メイド「覚えているのはここまでです。どうやら、扉を無理やり開けてきたらしく、その際に私は気絶してしまい」

姫「目が覚めたら、どこにいたんですの?」

メイド「酒場の椅子に横たわっていました。そこでバニーガールからこれと同じものを見せられて」スッ

姫「それは……勇者の……貴女、まだ後生大事にしてたの……」

メイド「ふふっ、なにをいうんですか。姫さまもオルゴールの箱に大切に隠しているではありませんか」

姫「しっ、知ってたんですのっ⁉︎」

メイド「これは、アデルの像をかたどったもの。勇者さまが生まれた日に作られた記念の銀細工」

姫「サインみたいに配りまくってましたけどね」

メイド「勇者だけが配ることを許された品でもあります。底に刻印が掘ってあるのを気がつかれてましたか?」
486 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/04(日) 21:02:28.56 ID:S3D9Cw+YO
姫「ええ……」

メイド「これには、特殊な意味があるのです。姫さまに渡したものも、私に渡したものも。ただ、無闇に配っているわけではないのですよ」

姫「……わかってるんですの。ただ、あんまりにも渡しすぎるから。一時は袋に目一杯つめて歩いてましたもの」

メイド「あの時の勇者さまったら、ズルズル袋を引きずりながら」

姫「ふふっ……って! それでっ⁉︎ 見取り図はっ⁉︎」

メイド「申し訳ありません」ペコ

姫「勇者が持ってるんですのっ⁉︎」

メイド「なにぶん、気を失っておりまして」

姫「お父様に報告するにも、見取り図がなくては。貴女が……」

メイド「私のことはどうか、お気になさらないでくださいまし」

姫「き、気にするなですって……?」

メイド「罰を受ける。その覚悟で持ち出したのです。私は、最初から王と姫さまに打ち明け、弟をお頼みするべきだった」

姫「あ、貴女ねぇっ!」ブンッ

メイド「……」

姫「いい加減にしなさいよっ!!」バチィンッ

メイド「……っ、お怒りはごもっともでっ」

姫「痛いでしょう⁉︎ 頬を叩かれて痛くないわけないんですの⁉︎」

メイド「……」

姫「でもっ! 叩いた私の手だって痛いっ!! なぜ叩くと思う⁉︎ 楽しいからじゃあませんのよっ⁉︎」

メイド「も、もうしわけっ、ぐすっ、うっ」ポロポロ

姫「貴女が私の友だからでしょう!」ビシッ

メイド「ひぐっ、ぐすっ」

姫「……お父様には、まだ伏せておきます」

メイド「ひ、姫さまぁ、それでは、見つかった時に、姫さままで罪にぃっ」

姫「黙りなさい!! 勇者……勇者はどこほっつき歩いてんるんですの……!」
487 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/04(日) 21:38:18.69 ID:LMpz7L8A0
全部が主人公に集約するように書いてるのか
これはうまいな
488 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/04(日) 21:52:39.38 ID:mVRfNrTHO
489 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/04(日) 22:23:34.51 ID:LUoP8PDu0
490 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/04(日) 23:26:05.63 ID:PSV4AvuAO
【再び 宿屋前 表通り】

戦士「予備の剣まで折られるなんて……」カランカラン

ガンダタ「ヴぉおおおおぉっ!!」ブンッ

武闘家「諦めるなっ! 心が折れなければっ……ぐぁっ」ドゴォーーン

魔法使い「武闘家ぁっ! め、メラ……魔力が……力が、抜けてく」ガクッ

僧侶「私も精神力がぁ〜」ガクッ

戦士「こいつの、やせ我慢が勝ったか」

武闘家「まっ、まだまだぁっ!」ガラガラ

戦士「もう、いいよ」

武闘家「……戦士、アンタ、なに言って……」ズル ズル

戦士「世の中は広い。武闘家に負けて、こんないきなり出会ったやつにまで。つくづくあたしは、弱い」

魔法使い「戦士……」

戦士「なにが、自分の力を試したい、だっ。あたしが勝てないやつばかりがゴロゴロいるじゃないか」ポロ

ガンダタ「ウゥ」ノシノシ

武闘家「泣き言はいい、まだ戦えるだろ。折れた剣をとれ」ヒョコ ヒョコ

戦士「お前も! もう足がまともに動かないんだろ⁉︎ 勝てない! 勝てないんだよ! だったら、もう……いいじゃないか……」

武闘家「ふぬけがぁ……っ!!」

戦士「強くなりたかった。強くなりたいってことは、自分が弱いと思ってるってことだ。そうだ、あたしは、弱いんだ」

武闘家「それで納得するのかっ⁉︎ “とことん”までやってないだろ⁉︎」

戦士「立て続けに負けたことのないあんたにはわからないのよ! 自分の強さが、信じていたものを立て直せなくなる!」

武闘家「武は、いつだって己との戦いだ! 背を向けているものに微笑みかけはしない! それでも! 諦めないものに、勝利をもって微笑んでくれる!」

ガンダタ「うおおぉっ」ズシン ズシン

魔法使い「熱く語りあってるとこ悪いんだけど、待ってくれないみたいよ……」

武闘家「お前はそこで見てろ!! 戦いとはなにか!」

戦士「……」

僧侶「す、スクルトぉ〜!」ポワァ

武闘家「戦いとは――意地のぶつけ合いだッ!!」シュタッ

ガンダタ「ウガァッ!!」ブンッ

武闘家「くっ」ササッ スッ

ガンダタ「……ウゥッ」ヨロッ

武闘家「(やつも相当なダメージが蓄積されてる。もう少し、もう少しなんだ……!)ハイィィィィヤァッ!!」ドゴォ

ガンダタ「……っ」ヨロヨロ

魔法使い「き、効いてる? ねぇっ! あれって、効いてるんじゃない⁉︎」

戦士「……」ジー

僧侶「私たちも殴りにいきますかぁ〜?」

魔法使い「え……? あ、あの中に?」タラ〜

武闘家「あちょぉ〜! ちょぁっ!!」バキィ

ガンダタ「うがぁっ!!」ブンッ
491 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/04(日) 23:27:13.33 ID:PSV4AvuAO
戦士「無駄だよ。じきに、武闘家は捕まる」

魔法使い「戦士っ! どうしちゃったのよ!」

戦士「勝てないんだ、あれじゃ」

僧侶「押しているように見えますが〜」

戦士「武闘家の攻撃は、疾く、拳の質もいい。的確に急所を狙ってくる。でも――」

ガンダタ「ヌガァァッ!」ブンッ ドゴォ

武闘家「がっ! かはっ」ドサッ

戦士「足をやられ、翼をもがれた武闘家は、こわくない」

僧侶「やっぱりぃ〜、武闘家さんも痛みを我慢してたんですねぇ」

ガンダタ「ウゥゥゥ」ガシッ

武闘家「……ぐっ⁉︎」

戦士「ほら見ろ。言ったそばから捕まった。ああなったら、おしまいだ」

魔法使い「た、助けないとっ! め、メラ……あれ……鼻血が……」ツゥー

僧侶「魔力を使いすぎたんですよぉ」

魔法使い「え……? 魔力って使いすぎたら、鼻血でるの……」

僧侶「知らずに魔法使いをやってるんですかぁ? そのまま使えば血管切れて死んじゃいますよぉ」

魔法使い「ひっ……し、死ぬ……?」

僧侶「もっともぉ〜死ぬのは武闘家さんが先かもしれませんがぁ」

ガンダタ「わカぞうは……ドコだ……」ギリギリッ

武闘家「ぐぁぁぁっ」ミシミシッ

戦士「勇者か。なぜ探してるかは知らないが、勇者がきたところで――」
492 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/04(日) 23:41:01.14 ID:L2+6iqCLO
実は僧侶も最強格の一人なんじゃないかと思ってたけど
べつにそんなことはなかったか
493 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/04(日) 23:42:10.44 ID:PSV4AvuAO
【このちょっと前 宿屋 角】

衛兵「やけにうるせぇと思ったらストリートファイトしてる。それもすっげーハイレベルの」コソッ

ジャン「な、なにやっとんだ。あいつらは」

衛兵「ガンダタってあんなに強かったのか。お、おっかねぇ〜」ブルブルッ

ジャン「衛兵。使いパシリいってこい。ダッシュな」

衛兵「へ? どこに行くんですかい? ガンダタの首をとらねぇと」

ジャン「宿屋にヘンテコなマスクが置いてある。いや、俺の今つけてるやつじゃないよ。覆面レスラーみたいなやつな」

衛兵「は、はぁ」

ジャン「それ探してこい。とにかく急げ。俺はちょっくら時間稼いどくから」

衛兵「部屋番号は何番ですかい?」

ジャン「わからん」

衛兵「わ、わからんって……」

ジャン「僧侶か武闘家か戦士か、はたまた魔法使いかで部屋とってるはずだ。その部屋に荷物があるから。他のやつの荷物には触るなよ。俺のにはゼッケン貼り付けてある。母さんお手製の」

衛兵「へ、へい」

ジャン「くれぐれも。かわいい子だからって下着ドロなんかすんなよ」

衛兵「し、しませんて! 俺は生身にしか興味ないんで!」

ジャン「余計な情報はいらん。わかったら行け」スポッ

衛兵「わかりました」タタタッ

勇者「……ふぅ、しかたねぇなぁっ! ったくもぉっ!」タタタッ
494 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/05(月) 00:05:58.71 ID:3/mAan4kO
勇者「――ちょぉっとまったぁっ!!」ズザザッ

僧侶「あ、あれは……」

ガンダタ「……」ピクッ

武闘家「あ……う……っ」ドサッ

戦士「勇者……」

魔法使い「バカ勇者! 今までどこいってたのよ!」

勇者「酒場でパフパフしてもらってた」キッパリ

魔法使い「こ……っ、このっ、ボンクラ……っ!」

勇者「久しぶりじゃないか。おっちゃん。山で会って以来だな? 元気してた?」

ガンダタ「てメぇ……」

勇者「おやぁ? 前はもっとハキハキ喋ってたと思うけど、どうしたの? ダメージくらいすぎた?」

武闘家「ゆぅ、しゃぁっ! こいつは、バーサーカーだ!」

勇者「それってなぁに?」

僧侶「やせ我慢男みたいですぅ〜」

勇者「なるほど。わからん」

魔法使い「とにかく! あともうちょっとみたいなんだから! ピンピンしてるあんたがやりなさいよ!」

戦士「無理だ。勇者、逃げろ」

魔法使い「戦士っ⁉︎」

戦士「勇者の剣さばきじゃ、すぐに終わる」

勇者「(戦士ったらすっかり自信なくしてやがんの。うけるw ……まぁ、サキュバスの時は精神攻撃だったから仕方ないとはいえ、こうも立て続けに負けてちゃなぁ)」

武闘家「戦士……っ、安心しろ、この勝負、アタイたちの、勝ちだ」ムクッ

戦士「勇者じゃ勝てない」

武闘家「勝てる」

戦士「なぜ……? そうか、武闘家は、知らないんだったな」

武闘家「知らないのは、気がついてないのはあんたさ」ズリズリ

勇者「薬草をすりつぶした塗り薬だ。僧侶」ポイッ

僧侶「はい〜」パシッ

勇者「仙豆とまではいかないが、そいつを傷口に塗ってやれ」

ガンダタ「こ、コゾぉっぉおおおおっ!! おまえのせイでぇぇ」

勇者「カカロットォってか。いやはや、中途半端なことして悪かったな。おっちゃん」

ガンダタ「こ、コロしてやるッ!!」ズシン ズシン

勇者「……」チラッ

武闘家&戦士&魔法使い「……」ジー

勇者「(ばっちり見られてるねぇ。やっぱり、テキトーに時間稼ぐとするか)……スクルト、ピオリム」ポワァ

ガンダタ「ウガァァァッ!」ズンズンズン

武闘家「補助魔法……? 勇者、まさか……」

戦士「知らないのだろう。あれが、勇者の戦闘スタイルだ」

魔法使い「自身を強化する魔法剣士。一人でも戦える。だけど、なにかが突出してるわけじゃない器用貧乏」

武闘家「勇者ぁっ!! 本気でやれっ!!」

ガンダタ「ウガァッ!」ブンッ

勇者「むっ」チャキ

戦士「ば、バカっ!! 受けようとするな!!」
495 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/05(月) 00:36:30.16 ID:3/mAan4kO
ガンダタ「うぅぅぅっオオォォおおっ!!」

勇者「(おおっ、なかなかに重い……! こりゃ苦戦してるわけだ)」パキィッン

魔法使い「勇者の剣がっ!」

戦士「……終わった」

ガンダタ「ゥゥッ」ピタッ

勇者「……なぁ、おっちゃん。アデルに行かなかったのは自由だけど、なにも俺に会いにこなくたって」シュタッ

ガンダタ「オマエのせイで、オレはこうナッた」

勇者「自業自得な面もあると思うよぉ。いつまでも続けられるわけじゃないとわかってると思ってたけど」

ガンダタ「……」シュゥゥゥ

武闘家「……バーサーカー状態が、解けた……?」

ガンダタ「うっ、むぅ……」ガクッ

勇者「終わりか?」

ガンダタ「慌てるな。若いってのはせっかちでいけねぇな」ゴソゴソ

勇者「……?」

ガンダタ「お前が置いてったもの。こいつを返したくてよ」キラン

魔法使い「あれって……さっき、メイドが持ってたやつと同じ……?」

勇者「それは俺がおっちゃんにあげたもんだ。捨てるも自由、なにするも自由だ。俺が受けとらないのもね」

ガンダタ「勘違いすんな。これは、オマエの墓標に添えるもんだ」

少年「お、おじちゃん。終わったの?」ヒョコ

勇者「キミは……もしかして、メイドの弟くん?」

少年「えっ、な、なんでお兄ちゃんが、お姉ちゃんを?」

勇者「そうか……。なぁ、おっちゃん。悪いことは言わないからこのまま城に行け。そして、弟を助け出したと言うんだ」

ガンダタ「くっ、くっくっ」

勇者「金もらってどことなり消えりゃいいだろ。な?」

ガンダタ「そこだよォっ!! 俺が気にくわねぇのはぁーっ! なに上から目線で見てやがる!! オマエは! 誰に向かって言ってるんだ⁉︎ あ゛ぁッ⁉︎」ギロッ

勇者「……」

ガンダタ「オレはッ!! オレ様は認めねぇ!! お前みたいな世の中をなんも見てきてねぇでわかったようなツラしてるガキをッ!!」

勇者「現代っ子なもんで」

ガンダタ「ガキィッ!! だったら、オレが教えてやるよっ!!」シュゥゥゥ

魔法使い「そ、そんなっ……! またっ⁉︎ 武闘家、解除したら痛みが襲うんじゃなかったの⁉︎」

武闘家「意地があるんだ。その意地が、肉体と精神を凌駕している」

戦士「……」

武闘家「あいつも、戦ってる。胸がムカつくことに対して、認めないと」

戦士「勇者ぁっ! 剣の予備はもうない!」

勇者「そいつは、残念」タラ〜

ガンダタ「さァッ!! 覚悟ハいいカッ!!」クワッ
496 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/05(月) 00:52:44.81 ID:3/mAan4kO
【宿屋 部屋】

衛兵「ちぇっ、俺をアゴでこきつかいやがって。なんだってんだよ」ギィ

――ドゴォーーンッ――

衛兵「え……」

勇者「バーサーカーって筋力までアップされてんのな」パンパン

衛兵「あ、あの……。表から、ここまで?」

勇者「吹っ飛ばされてきた。ここってもしかして、俺らの部屋?」

衛兵「す、素顔はそんなに若かったんすね。仮面したまんまだから」

勇者「え〜と、たしかこのへんにぃ〜と」ゴソゴソ

衛兵「隠れてていいっすか?」

勇者「おっ、あったあった。いいよ。ここなら安全だろうから」スポッ

衛兵「ちなみに、なんでマスクを?」

マク「いろいろとめんどーなことにならないため」

衛兵「は、はぁ」

マク「服の衣装がないけど、とりあえず、同じなままじゃバレちゃうから……たしかこっちに、寝巻きが」ゴソゴソ

衛兵「正体を隠しているので?」

マク「まーね。ヒーローはいつだってそんなもんだろ?」ヌギヌギ

ガンダタ「ワカゾォォォッ!! 降りてコイっ!!」

衛兵「およびが、かかってますが」

マク「人にはせっかちだとか言ってたくせに」タンタン

衛兵「……」

マク「なにも盗るなよ? 盗ったらボコすかんな?」

衛兵「ひゃい」

マク「んーと、となりの部屋から飛び出すか」タタタッ

衛兵「(ここまで吹っ飛ばされて、無傷って……どうなってんの……)」
497 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/05(月) 01:54:10.42 ID:Dx56cLw6O
498 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/05(月) 07:08:07.87 ID:kIEySeL9o
499 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/05(月) 10:26:15.41 ID:fQ/B2oVuO
【再び表通り】

魔法使い「勇者、死んだんじゃ……?」

戦士「可能性としては、ありうる。もしくは戦闘不能になってるか」

武闘家「ないね」キッパリ

戦士「あれを見ろ。踏みこみで足跡がくっきりついてる。宿屋の三階まで吹っ飛ばされてるのが衝撃の強さの証拠だ」

僧侶「そろそろ出てくるんじゃないですかねぇ」

――バターンッ――

マク「……」シュタッ

魔法使い「あ、ああ、あ、あれはっ⁉︎」

戦士「マクさんっ⁉︎」

武闘家「(やっぱり……とことん隠したいみたいだね。勇者のやつ)」

僧侶「……くすっ」

ガンダタ「……?」

マク「……」クイクイ

魔法使い「見て見てえっ! 隣の部屋から出てきたわよぉ! マク様が泊まってたなんてぇ〜っ!! 颯爽と飛び出して……キャーーーッ! かっこいいっ!!」キラキラ

戦士「マクさんなら、あるいは……」

武闘家「こ、こいつらは……。アタイが全部ぶちまけてやろうかな」ボソッ

ガンダタ「ジャマするノなら容赦しねェッ!」ブシュウ

マク「(血が吹きだしてやがる。時間稼ぎのために長引かせて悪かったな。本当はとっくに限界こえてんだろ)」スッ

魔法使い「マクさまぁっ! がんばってぇ〜〜!」フリフリ

戦士「動きが、構えが洗礼されてる。勇者とは大違いだ」

武闘家「頭痛がする」

僧侶「くすくすっ、なんでもいいじゃありませんかぁ」

マク「(こっちの都合で本当にごめんな。一発でケリをつけるよ)」ビュッ

ガンダタ「ウォおおおっ!!」ブンッ

マク「(普通のパンチ!)」ズパァァァァンッ

魔法使い「戦士。み、見えた?」

戦士「見えない。いつのまに近づいて攻撃したんだ」

武闘家「(やはり、勇者は次元が違う。あそこまでの高みにはいったいどうすれば)」

ガンダタ「う……オォ……っ! な、なんだァ? テメぇ……」ヨロヨロ

マク「(俺の拳を耐えるとはたいしたもんだよ。人間の枠の中じゃおっちゃんは強い。でもな、俺は魔王に勝てる勇者。人間じゃ、勝てないんだ)」スッ

魔法使い「え……」

ガンダタ「ば、バカなぁっ! たった、一発でぇ」

戦士「限界間近だったのか……?」

武闘家「とっくに限界を迎えて、認めたくないという意地で保ってた。健気に歯をくいしばって耐えてた根性を上回る一撃だったのさ」

戦士「ど、どんだけ強いんだ……」ゴクリ

ガンダタ「」ズゥゥン

マク「(いかん、おっちゃんが死ぬかもしれん。ベホマ)」ポワァ
500 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/05(月) 10:53:01.39 ID:fQ/B2oVuO
魔法使い「あれって回復魔法っ? 武闘家! モンクって魔法使えるの?」

武闘家「ん? ん〜、えーと、き、聞いたことがあったよーな。体内で練りこんだチャクラを分け与えると」

僧侶「ブフッ……だめっ、こらなきゃっ」プルプル

魔法使い「しゅごい。あんだけ強くて、回復まで。完璧な人ね」

魔法使い「求婚されたら、オーケーしちゃうかも。ケーオーされちゃうかも……いやぁ〜ん」クネクネ

戦士「惚れ惚れする強さだ。あたしの師匠よりも、強い。勝てる人間がいるのかとさえ思う」

ガンダタ「う……」ピクッ

マク「(全快させても面倒だからな。これぐらいでいいか)」チラッ

魔法使い「あっ、だめっ。目が合っちゃった。妊娠しちゃいそう。むしろ子供ほしい……」ジュル

僧侶「ぶーっ、くっくっ、よだれでてますよぉっ」プルプル

マク「(ウチのメンツも満身創痍って感じだな。回復してやるか)」テクテク

戦士「あっ、あの……?」サッ

マク「(ベホマ)」ポワァ

戦士「治して、くれるのか。あ、の。あ、ありがとぅ」

マク「(ゆでダコみたいになっちゃってまぁ)」ポワァ

魔法使い「うらやましい……わ、私も怪我してれば……折れた剣、折れた剣はどこ」カサカサ

武闘家「傷つけるなら戦えよ!」

魔法使い「女の戦いよ! 武闘家にはわからないんでしょーけどね!」クワッ

戦士「(凄まじい治癒力だ。それに光が、暖かい)」ぽーっ

魔法使い「見なさいよ! あの戦士の表情! 軽くイッてんじゃないの⁉︎」

戦士「……ばっ、バカなこというなぁっ!!」ボッ

マク「(マジでうるせぇ。これぐらいでいいだろ。次)」テクテク

武闘家「アタイは、いい」プイ

マク「足、見せてみろ」ボソッ

魔法使い「あーーーっ! 武闘家だってなに黙ってやらせてんのよ!」

武闘家「うるさいなっ!」

マク「(無理したなこりゃ。ベホマ)」ポワァ

武闘家「なんで、そんなに隠すのさ」ボソ

マク「……」ポワァ

武闘家「ちゃんとしてれば、アンタだって、それなりに……」

マク「黙っててくれてるのは、感謝する」ボソ

武闘家「……別に、いいケド」

魔法使い「ね、ねぇっ⁉︎ 小声で喋ってない⁉︎ マク様喋っていいの⁉︎」

マク「(目ざとい)」

武闘家「なんでそういうとこばっかり気づいて別のことは気がつけないんだよ!」

僧侶「イメージの固定化でしょおねぇ〜。この人はこう、そう思ってるからわからないんですよぉ〜」

マク「(よし、これなら歩けるはずだ)」スッ

武闘家「マク。あとのことはアタイたちにまかせてアンタは行きな」

魔法使い「ちょっと武闘家! マク様を気やすく呼び捨てッ⁉︎」

戦士「武闘家は、マクさんと兄弟弟子なのか? あの、あたしにも紹介を……」モジモジ

武闘家「きっしょくわるいんだよ! アンタたち!」

魔法使い「独り占めしてんじゃないわよ! そうやってほかの女を遠ざけてんでしょ⁉︎」

僧侶「わ、わたし、我慢するの、限界ですぅ〜、あはっ、あははっ」
501 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/05(月) 11:17:21.39 ID:fQ/B2oVuO
【宿屋 部屋】

衛兵「ば、ばばばっ、バカなぁっ⁉︎ なんだあの強さは! 人間じゃねぇっ!」ガクガク

マク「お疲れちゃん」スポッ

衛兵「ひ、ひぃっ」ズザザッ

勇者「あー、壊れた窓から見てたのか。そんな距離とらんでも。俺を化け物だと思ってるんだろ」

衛兵「す、すいませんっ! もうご無礼はいいません! どうか、これまでのことはお許しをっ!」ドゲザ

勇者「……強すぎるってのはさ、なにも良いことばっかりじゃない。女にモテる。チヤホヤされる。それは、あくまで人間の枠の中での強さの話」テクテク

衛兵「……ひっ」

勇者「最初だけなんだ。みんな。次第に尊敬が畏怖にかわり、そして、怯えていく。魔族がいるから緩和されてるけどね」

衛兵「……」ガタガタ

勇者「ちょっとでも鍛錬したことあるやつなら余計に俺がこわいだろ。忌々しいったらない」ヌギヌギ

衛兵「ひゃ、ひゃい」

勇者「衛兵はアジトに戻ってお頭に報告しろ。俺は後から行く」

衛兵「ガンダタは、まだ息があるようですが」

勇者「きっちり殺っとくよ。信じねえの?」

衛兵「信じます! ジャン殿ならいつでも殺せますよね!」

勇者「これ。ガンダタの血をたっぷり染み込んだ布持ってきたから。渡しとくように」
502 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/05(月) 11:46:28.81 ID:fQ/B2oVuO
【アデル城 玉座】

大臣「また夜分遅くにこんなところで。歳も歳なんですからご自愛くださいといつも申しておりますにた

王様「ふぉっふぉっ。また、あの時の夢を見てしもうての。ワインを飲み気を紛らわせておったところじゃ」

大臣「もうお忘れなさい。あれは、あの“事件”は仕方ないことだったのです」

王様「悔やんでも悔やみきれなんだ。あれから……勇者は、両親に、ワシに……いや、人間に対する目つきが変わってしまった」

大臣「普段おちゃらけてますのは、その反動でしょうな」

王様「理解者は少ないがおる。アイーダの酒場の店主、城内の兵士達の一部。だが、ワシも含めて、目の奥に宿った恐怖は、ぬぐいされるものではない」

大臣「……」

王様「恥ずべきことよ。王が、たった一人の民に恐怖し持て余すとは。勇者とはなにか? そう聞かれた時になんと答える?」

大臣「人類の代表であり、女神の代弁者です」

王様「違う、違うのだ。勇者とは“孤高”であり“孤独”である。てっぺんのいただきに立つ瀬に見る景色は、そこに立たなければわからぬ」

大臣「陛下のような……?」

王様「王とはいうなれば、民達の親である。ワシもワシで孤独を感じることに否定はしない。勇者の抱えるものは、それよりもっと、異質なのだ」

大臣「人は、誰しもが心に孤独を感じて生きております。繊細であればあるほど過敏になりましょうが」

王様「だからじゃよ。あの子に対して普通の子と同じように接するべきじゃった。勇者として利用するのではなく」

大臣「……」

王様「(ワシは信じる。おぬしの帰るべき場所を用意して待っておるぞ。勇者よ)」
503 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/05(月) 12:18:54.25 ID:fQ/B2oVuO
【宿屋 表通り】

勇者「ぬぁぁっ、い、いてぇ」ノロノロ

魔法使い「チッ、使えない勇者が今頃ノコノコと」

勇者「あれ? 終わってたの?」

戦士「マクさんがやってくれた。感謝しなければな」

魔法使い「こっち見ないでよ! ぱふぱふなんかしてくるよーな男!」

勇者「生理現象だろーが! ずっと欲情すんなってのか⁉︎ 自慰マスターに俺はなる!」

魔法使い「……部屋の中でやったら、殺すわよ……」

僧侶「勇者さまぁ、この子はどうされますぅ?」

少年「……あ、う、お、おうち、帰りたいです」

勇者「その子は……戻すは戻すけど、なぁ、弟くん。そこのおっちゃんどう思う?」

少年「こわい……」

勇者「そうだろうな。こわいだけかい?」

少年「……こわいよ……うっ、ぐすっ」ギュゥ

勇者「……そっか。なら、お前らの中の誰でもいい。城に連れていってメイドを訪ねてやれ」

武闘家「メイド……? さっき訪ねてきて勇者を探してたさ」

勇者「な、なにぃ……?」ヒクヒク

僧侶「お知りあいさんですかぁ?」

勇者「(メイドにもバレてると考えるのが妥当か)……小さい時に少しね。それと、見取り図は俺が預かってると伝えといてくれ」

僧侶「かしこまりましたぁ」

勇者「明日の朝一番で頼む」

僧侶「今夜はぁ、お姉ちゃん達と一緒に寝ましょうねぇ〜」

少年「ほんと? 明日になれば、帰れる?」

僧侶「帰れますよぉ〜」ニコ
504 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/05(月) 12:21:01.81 ID:fQ/B2oVuO
勇者「俺はしばらく別行動する。戦士」

戦士「なんだ?」

勇者「お前は弱くねぇ」

戦士「……っ、な、なんだ、突然」

勇者「要領が悪いんだ。頭がバカなのは仕方ないから、長所をもっと伸ばせ」

戦士「あんたに言われずとも!」

武闘家「戦士、黙って聞いておいたほうがいい」

戦士「武闘家……なぜ……?」

勇者「お前は防御が下手くそだ。自覚あんのか?」

戦士「うっ、それは武闘家にも言われた」

武闘家「アタイは防御もできるようになれと言ったさ」

勇者「不得意の分野を伸ばしても人並みにしかなりゃしねぇよ。お前にはタフさがあんだろ? だったらもっと鍛えて、鍛えまくって“仁王立ち”できるまで極めてみろ」

戦士「……」

勇者「武闘家、お前もだ」

武闘家「……」スッ

勇者「お前自身にゃ力はない。踏み込みの鋭さとしなやかさで慣性の法則を生み出してる。その点についちゃ俺もいい線いってると思う」

武闘家「だけど……それも、最近壁が」

勇者「はやければいいってもんじゃない。壁が見えだしてんなら、考え方を変えろ。お前の脚力はほかに使いようないのか?」

武闘家「脚力……足……」

勇者「あと、魔法使い」

魔法使い「んー? なに?」

勇者「もっと頑張りましょう」ポン

魔法使い「なにっ⁉︎ なんか私だけものすごい適当じゃないっ⁉︎」

勇者「僧侶は――」

僧侶「……はい〜?」

勇者「真面目にやれよ。俺が言うのもなんだけどさ」ポリポリ

僧侶「やるときはちゃんとやりますよぉ〜。私の第一は勇者さまなのでぇ〜」

勇者「さいですか。……よいせっと」ヒョイ

ガンダタ「」ドサッ

武闘家「そいつ、どうするのさ?」

勇者「俺が蒔いた種だ。後始末は俺がつけるよ」

魔法使い「ケッ。なぁ〜にかっこつけてんだか」

戦士「……う、む。だが、気をつけろよ」
505 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/05(月) 13:16:30.55 ID:fQ/B2oVuO
【クィーンズベル 郊外】

ガンダタ「むう……」ムクッ

勇者「おはよう」

ガンダタ「んだぁ、おりゃあ、寝てたのか」

勇者「ヘンテコな覆面野郎に負けたっしょ。あれ、俺なんだけどね」

ガンダタ「……」

勇者「驚かないの?」

ガンダタ「どーでもいいんだよ。んなこた」

勇者「これから、どうする?」

ガンダタ「おめぇを殺りそこなったのはたしかだ。また殺りあうか」

勇者「それしかできないのならいいよ。けど……さぁ。強さってそこまで重要かなぁ?」

ガンダタ「あぁ?」

勇者「人生の先輩として教えてくれよ。わからねーんだよ、俺。魔物がいる世界で、人間が強さを追い求める理由があるのはわかる。強ければえらい、かっこいい、だからって、そうならなくても」

ガンダタ「……ふん」

勇者「強さなんてそいつの人間性になんの関係があるんだよ?」

ガンダタ「力だからだろ」

勇者「……」

ガンダタ「金、腕力、権力、地位、名誉。どれかひとつが突出してりゃ、それはチカラだ。いつの世も、チカラあるものが正義なんだよ」

勇者「善じゃなくてもか? チカラさえあれば――」

ガンダタ「力なき善に正義はない。良い志を抱えたとしても、実現できなけりゃ、無力だ。……わかるか? 無力って言葉の意味が」

勇者「……」

ガンダタ「無知、無力、能無し。“無”に共通することといやぁ、ただのゼロよ」

勇者「そうか、そうだな」

ガンダタ「おめぇはおめぇでこじらせてるみてぇだな、くっくっ」

勇者「……認めたく、ないんだ」

ガンダタ「なにをだ」

勇者「みんながっ、俺を勇者として、見る視線にっ! 化け物として扱う視線……擦り寄ろうとする視線……誰も、俺を見ちゃいない」

ガンダタ「だったらなんだってんだ? あァ?」

勇者「……」

ガンダタ「そんな雑魚どもはどうやったって寄ってくる。無視しときゃいいだけの話だろ」

勇者「……そうだな」

ガンダタ「ふん、知ったことか」

勇者「よかったら、俺と一緒に旅しないか? 中途半端にした責任もあるし」

ガンダタ「アホぬかせ。俺はおめぇを殺す。それを目的としてしばらくは生きていく」

勇者「……そ、そうか」シュン

ガンダタ「さては心許せる相手がいなくてさみしいんだなぁ?」

勇者「へ、へへっ、そんなんじゃあーりません!」

ガンダタ「ひとつ、忠告しておいてやる」
506 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/05(月) 13:23:39.21 ID:fQ/B2oVuO
勇者「なんだね?」

ガンダタ「おめぇの強さは常軌を逸してる。どこまでいっても孤独だぜ。勇者さんよ」

勇者「途中から意識があったな……狸寝入りしてやがったのか」

ガンダタ「メスどもがあんまりにもうるせぇからな。なぁ? わかってるか? 孤独を」

勇者「……」ギュゥッ

ガンダタ「ぎゃはっはっはっ! 芋虫を噛みしめたような顔しやがって! 充分理解して生きてきたかぁ? あ゛ぁ?」

勇者「黙れ……もう、行け」

ガンダタ「魔族でもねぇ! 人間でもねぇっ!! 勇者なんだぁ!! だぁっはっはっはっ! 笑えるぜぇっ! 知ったようなツラしてる若造が、誰より孤独な存在だとよぉっ!!」

勇者「やめろ、殺すぞ……!」ギロッ

ガンダタ「やってみろぉ? できんのかぁ? 勇者さまよぉ? ……偽善者なのもじゅ〜〜ぶんに理解ができた。おめぇはどっちつかずの、コウモリ野郎だ」ニタァ

勇者「……」バチィ バチバチィ

ガンダタ「殺れよっ!! やってみろ!! お前の本性を見せてみろやっ!!」

勇者「……行け」フッ

ガンダタ「ほぉら、コウモリ野郎だ! 口先ばっかりでなにもできやしねぇ! おめぇは自分の為に、勇者をやってるって気づいちゃいねぇ大馬鹿野郎よ!」

勇者「……」ギリッ

ガンダタ「せいぜい孤独と隣あわせで生きろや。いつか俺様が引導を与えてやるからよ、こいつぁ、傑作だ、だぁっはっはっはっ!」ノシノシ

勇者「(気づいてない? 俺は嫌というほどわかってるよ。だから、ニートになりたいんだ)」クルッ
507 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/05(月) 14:31:55.43 ID:00FdDXOa0
508 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/05(月) 14:42:34.95 ID:fQ/B2oVuO
【クィーンズベル 南西方向 廃墟】

お頭「ほんとかぁ? なんでもいいけどよぉ、相手は10人をぶっ殺しちまいやがったガンダタだろぉ?」

現場にいた衛兵は様子をこう語る……

衛兵「ガンダタを一発ですよ。一発で倒しちまいやがったんでさぁ。強さへの憧れを通り越して恐怖って言うんですかね……ぶっちゃけ逃げ出したいくらいでしたよ」

手下「エフッ、エフッ」

衛兵「やべぇよ。アレは。俺命からがらでさ」

お頭「で、ガンダタはちゃんと殺ってきたんだろうな」

衛兵「へい。これを渡すように頼まれました」スッ

手下達「うぉぉぉ〜〜まじかよぉ〜」

お頭「そうかィ。ちゃんと見てきてんだろうな? 殺したところを」ギロッ

衛兵「(まぁ、大丈夫だろ)……へい」

お頭「契約をきっちりやったってわけだ。なら、しょうがあるめェ」

手下「なぁなぁ? どこにパンチいれたんだ?」

衛兵「よく見えなかったけど。腹にじゃねぇか?」

手下「腹かよぉ。夜飯くったばっかだから、やべえな[

衛兵「胃が破裂するな」

手下「オイオイオイ、死ぬわw俺w」

お頭「ジャンはいつ頃戻ってくる?」

衛兵「さぁ。しばらくしたらとしか」

お頭「わかった……野郎ども! 月が傾いて二食形になりつつある! 就寝だ!」

衛兵「俺は城に戻りやす」ペコ

お頭「ああ。しっかりやれよ」
509 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/05(月) 15:01:28.47 ID:fQ/B2oVuO
【宿屋】

魔法使い「……」ササッ

戦士「魔法使い。廊下でなにしてるんだ?」

魔法使い「戦士っ⁉︎ しーっ! しーっ!」

戦士「なんだ?」

魔法使い「……声を潜めて。ちょっと耳貸して」チョイチョイ

戦士「……?」

魔法使い「忘れたの? マク様が隣の部屋に止まってるの」

戦士「……いや、覚えてるが……」

魔法使い「話しかけるチャンスじゃない!」

戦士「どこかに行った様子だったが。部屋に帰ってきてるのかな?」

魔法使い「帰ってきてなかったらそれでいいの! はぁ〜ドキドキするぅ」

戦士「くだらん。あたしは行く」

魔法使い「とかなんとか言っちゃってぇ〜? 戦士もまんざらでもないくせにぃ」

戦士「あ、あたしはっ、前も言ったろ。きちんと話してからでないと」

魔法使い「そのわりにはぁ〜。治療してもらってる間、顔真っ赤にしてたみたいのはどこのどちらさまかしら〜」

戦士「……っ!」ボッ

魔法使い「ぷっ、わかりやすいのね。戦士って。ウブなんだ? 慣れてないんでしょ? 自分より強い男に会うのが」

戦士「し、師匠はあたしより強い!」

魔法使い「歳がひとまわりもふたまわりも離れてる相手……まぁ、そういのが好きってのもいるけど、戦士はそうじゃないでしょ? 親みたいな感覚なんじゃない?」

戦士「うっ」

魔法使い「マク様って、ぜぇぇぇったい、若いわよ。あたし達と同年齢ぐらいだと思う」

戦士「なんでわかるんだ?」

魔法使い「匂いよ、匂い。おっさん臭しないし」

戦士「に、匂い」(ドン引き)

魔法使い「私、こういう時の勘は外したことないの」

戦士「そ、そうなの?」

魔法使い「ねぇねぇ、戦士」

戦士「う、うん?」

魔法使い「どうする? マク様が一緒に鍛錬しないかって言ってきたら」

戦士「ええっ⁉︎ そ、それは……その、やぶさかではないよ、うん」

魔法使い「ふたりきりで?」

戦士「二人でも三人でも同じだ! 鍛錬してれば、雑念は消える!」

魔法使い「ほんとにぃ? マク様あんなに強いんだもの。動きに見惚れちゃわない?」

戦士「……見惚れる……」ポー

魔法使い「ねぇ? 今、妄想してるでしょ?」

戦士「なっ⁉︎ な、してないっ!」

魔法使い「いいじゃない。私達だってオンナなんだから。なんで隠すの?」
510 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/05(月) 15:16:30.11 ID:fQ/B2oVuO
戦士「べ、別に話することじゃないだろ!」

魔法使い「共有しましょって言ってるのよ。武闘家とマク様の関係、怪しくない?」

戦士「元々、マクさんは武闘家の師匠である老人が知っていたんだ。なんら不思議はない」

魔法使い「さっきさぁ、マク様ってば、武闘家に話しかけてた。おかしくない? サイレントモンクなのに」

戦士「……」

魔法使い「なにかあるのよ。あのふたり」

戦士「……ふぅ、やっぱり、くだらん。あたしは寝る」

魔法使い「いいの? マク様が部屋にいるかもしれないのに」

戦士「魔法使いを見てると我にかえった」

魔法使い「あっそ。じゃあ、いいわよ。さっさと寝てれば? 私はマク様にぃ〜ゴホン」コンコン

戦士「ちょ、深夜だぞ⁉︎ ノックするやつがあるか!」

魔法使い「寝てたら出ないでしょ! そしたら帰る!」

      「はぁい」

魔法使い「……っ⁉︎ お、起きてるっ⁉︎ ていうか、普通に返事した⁉︎ ど、どどどどうしよっ、戦士!」

戦士「し、知らないよっ! どうするんだよ!」

魔法使い「戦士が先に挨拶して!」グィッ

戦士「なんであたしなんだよ! 魔法使いだろ! 会いたかったの!」

魔法使い「恥ずかしくなったの!」

おじさん「……どちら様?」ガチャ

魔法使い&戦士「……へ?」

おじさん「……?」

魔法使い「あ、あのぉ〜。マク、様?」

おじさん「マク? なんだそら?」

戦士「この部屋に宿泊しているはずなんだが」

おじさん「いんや。俺しかいないよ。お姉ちゃん達、マッサージにでも来てくれたの?」

魔法使い「……いえ」ブスゥ

戦士「す、すまない。どうやら、手違いがあったようで」

おじさん「はぁ?」

戦士「部屋を、間違えました……」
511 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/05(月) 15:32:24.32 ID:fQ/B2oVuO
【宿屋 部屋】

僧侶「あはっ、あははっ、面白すぎですぅ〜!」バンバン

魔法使い「……」ブッスゥ

戦士「魔法使いにも困ったものだ」

魔法使い「戦士だって少しはその気があったくせに!」

戦士「ないよ!」

魔法使い「いーや! あった!」

武闘家「明日はお城に行かなきゃ行けないんだ。さっさと寝るよ。……この子が起きちまうだろ」

少年「Zzz」

魔法使い「あいかわらずね。武闘家って世話やければ誰でもいいの?」

武闘家「アンタと一緒にすんな。この万年発情色情魔」

魔法使い「むぐぐ〜〜やめてほしいんだったら! マク様を紹介してよ!」

武闘家「できない。本人が望んでない」

魔法使い「なんでわか……っ、やっぱり、あの時なんか小声で話してたのはそのこと⁉︎」

武闘家「殴るよ? アタイは女同士だからね。優男みたいに躊躇しない」

僧侶「まぁまぁ〜」

魔法使い「武闘家って前々から気に入らないと思ってたけどさぁ、なんだか最近ますますいやぁ〜な感じ」

武闘家「なにも変わっちゃいないさ。そう感じるのは、アンタが嫉妬してるからだ」

魔法使い「なんですって⁉︎」キッ

僧侶「そこまでそこまでぇ〜。女の敵は女といいますがぁ、本人がいないのに争っても意味ないですよぉ」

魔法使い「あんたはいいわよね。勇者一筋で」

僧侶「そうですねぇ〜」ニコニコ

魔法使い「ほんっとに、あんなののどこがいいわけ? 理解できない」

僧侶「はいはい〜理解できないのならそのままでいいじゃないですかぁ〜」

魔法使い「どーしようもなくテキトーで、グーダラで、どこほっつき歩いてるかわかんなくて」

僧侶「そぉですねぇ〜」

魔法使い「おまけにむっつりで、童貞で、たいして強くもなくて」

武闘家「いい加減にしなっ!!」

魔法使い「な……なにっ?」

武闘家「うるさいんだよ。アンタのオンナの部分がうっとおしい」

魔法使い「……」ブッスゥ

戦士「……もう、寝よう。今夜は、あたしらもおかしいみたいだ」

僧侶「一人の話題なんですけどねぇ〜、くすくすっ」


512 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/05(月) 16:28:55.00 ID:1+uhoDvtO
【クィーンズベル城 郊外】

勇者「……」フラフラ

老人「これ、そこいく若者よ」

勇者「ん?」

老人「このような夜更けにどうした?」

勇者「じいちゃんこそ。俺は酒でも浴びたい気分なんだ」

老人「ふぇっふぇっふぇっ。お主、まだ若いじゃろ。なにを世に憂うことがある」

勇者「俺はさぁ、人間も魔族も、違いがわからねーんだよ。みんなは敵だなんだっていうけど、人間だって悪いことしないわけじゃないじゃん」

老人「人は、誰しもが宿命を背負って生まれおつるのよ」

勇者「……だぁったら教えてくれよ。ハッキリとした答えをくれよ! わかりやすくさぁ!」

老人「時がたてばわかる。お主の持つサダメが」スゥー

勇者「じぃちゃんが透けて見えるのは俺の目がいかれたんだろかねー」

老人「迷える勇者よ。砂漠の花を探すがよい」

勇者「……」

老人「太陽と雨が交わる場所に、一輪の花がある。その花を見つけた時に、また会おう」フッ

勇者「砂漠の花……太陽と雨が交わる……意味がわかんねぇっ……ての……」ドサッ
513 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/05(月) 16:32:43.89 ID:1+uhoDvtO
〜〜第3章『砂漠の花と太陽と雨と』〜〜(中編)

514 : ◆7Ub330dMyM [sage]:2018/02/05(月) 16:39:40.74 ID:1+uhoDvtO
ここで一旦区切ります。
徐々にフラグ回収が進んでおりますのでたぶんですけど終えるのにあと100レス〜150レスぐらいだろうと判断しました。

以前にちゃんと書いたら800レスぐらいだろうと書きましたがそんなもんじゃ終わらないのがこの時点で確定
適当なところで切り上げたいと思います
515 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/05(月) 18:37:45.78 ID:VlXVilc70
516 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/05(月) 21:37:38.44 ID:8ph8zZYDo
517 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/05(月) 21:51:18.00 ID:imCjLqQ+O

好きなだけ書いてくれてええんやで
518 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/05(月) 23:18:42.51 ID:0MVaU4BuO
519 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/06(火) 01:25:16.70 ID:g2wNedoKo
おつ
520 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/06(火) 01:55:02.55 ID:xBON21jw0
乙です
521 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/06(火) 04:38:28.73 ID:sFq/HIrE0

あと1000から1500レスとは嬉しい事言ってくれるわ〜
522 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/06(火) 07:38:31.16 ID:Qba0zEcaO
523 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/02/06(火) 11:21:10.12 ID:BL6zL6bc0
武闘家の戦いとは意地のぶつけ合いは名セリフ
読んでてゾクゾクした

524 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/06(火) 19:42:16.87 ID:gIu6BcBMO
【翌日 早朝 クィーンズベル城 城門前】

兵士「えぇいっ、だまれだまれ! 身分を証明する物がないやつを通すわけにはいかん!」

魔法使い「だからさぁ〜! メイドを呼んできてってお願いしてるだけだってばぁ!」

兵士「どこの馬の骨ともわからぬやつ! そんなやつの弁など聞く耳を持たぬ!」

魔法使い「そんな融通がきないこといいはって本当に知り合いだったらどうするつもり⁉︎ あんたよくそれで門番が勤まってるわね! 頭でっかち!」

兵士「なっ⁉︎ ななっ⁉︎」

僧侶「……じゃんけんっ、ぱー」

少年「あっち向いて、ホイ」

僧侶「あらあらぁ〜、また負けちゃいましたぁ」

少年「あの……いいよ。お姉ちゃんに会えなくても。ウチに帰れば母さんがいるし」

魔法使い「そぉ? 姉と弟の再会を邪魔する兵士のせいでぇ〜。ごめんねぇ〜」

兵士「うぬっ」タジ

武闘家「そうは言っても伝言も預かってる。メイドには会わねばならん」

戦士「昨夜、あたしたちはならず者から彼女を助けてるんだ。後日、城に来るようにも言われてる。メイドからなにか聞いてないか?」

兵士「知らん」プイ

魔法使い「ほんとにぃ? 大目玉くらうのは兵士さんなんだからね?」

兵士「知らんもんは知らん! ……メイド様は姫様専属だ。私は普段会えないんだ」

僧侶「仕方ありませんねぇ〜」

武闘家「? 少年を家に送り届けようというのか?」

僧侶「いえいえ〜。これを拝見したいだたきたいのですがぁ」パサ

兵士「はぁ……なんだ? 紙切れを出されたところで一般人の入城は――」シュルシュル

戦士&魔法使い&武闘家「……?」

兵士「……っ⁉︎ こ、これはっ⁉︎」ギョ

僧侶「どうですかぁ? これなら許可をいただけると思うのですけどもぉ」

兵士「しっ、失礼いたしました! ダーマ神殿“法王庁”の御婦人でしたか!」

戦士「ダーマ……」

魔法使い「法王庁……っ⁉︎」

僧侶「師にあたる方が最高顧問を務めておりましてぇ〜」

魔法使い「法王庁といえば特権階級にいる超エリート集団じゃない⁉︎ 僧侶って、そこから来たの⁉︎」

僧侶「はい〜」

兵士「他三名はお付きの者でしょうか?」

戦士「誰が付き人だ!」

僧侶「くすくすっ、まぁまぁ〜。穏便に済むのならいいじゃありませんかぁ」

武闘家「(こ、こいつ……いったい……)」

僧侶「行きますよぉ〜。お付きの方々〜」

魔法使い「(ダーマ神官の中でも選りすぐりの才能を持つ者だけ通れる狭き門。倍率はすごく高い。たしか……噂でつい最近、百年にひとりの天才を輩出したと……まさか……?)」

僧侶「さぁ、行きましょぉねぇ〜」

少年「う、うん」

魔法使い「(ま、まさかねぇ……)」
525 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/06(火) 20:09:26.39 ID:gIu6BcBMO
【クィーンズベル城 玉座】

王様「よくぞまいった! オモテをあげラクにせよ」

僧侶「王様。ご息災であられましたでしょうか」スッ

王様「健康だけが取り柄よ。この地の気候はなににつけても暑い。過酷ではあるが、丈夫な身体にもなる」

僧侶「健康だけとは、ご冗談が過ぎます。クィーンズベルは陛下のご采配で民達の笑顔が守られているのですから」

戦士&魔法使い&武闘家「……」ポカーン

王様「此度(こたび)は、水不足の件で参ったのであろう? ワシも不安でじっとしておられなんだ」

王妃「法王庁に申請を出してから、よもやこんなにはやく対応していただけるとは」

僧侶「……? いえ、今回わたくしは、法王庁とは別件で動いております」

王様「なに? では、法王庁からの使者として参ったのではないのか?」

僧侶「おそれながら。わたくしは勇者様と行動を共に致しております」

王様「勇者……勇者だと……⁉︎」ガタッ

王妃「まぁ……懐かしい。十年前に見かけたきり。大きくなったのでしょうね」

僧侶「左様でございます、陛下。その旅の途中で御国に立ち寄る運びとなり、この子を……」

少年「……」オズオズ

王様「そうか……勇者がこの国にいるか……ならば後で挨拶にこさせよ。して、その子は――」

姫「失礼いたしますっ!!」バターーンッ

王妃「……なんですか、騒々しい……姫……あなた、自室謹慎処分だと……」

姫「お説教ならば後で! さ、メイド」

少年「あっ!」

メイド「あ……あぁ……っ!」タタタッ

少年「お姉ちゃぁ〜〜んっ!」タタタッ

メイド「あぁっ、よかったっ、ほんとにっ、よかったっ」ギュッ

少年「うぐっ、ひっ、うぁぁあんっ」ギュッ

王様「こ、これは……? どういう……?」

姫「お父様。家族の再会です。それだけなんですの」グスッ
526 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/06(火) 20:29:54.25 ID:gIu6BcBMO
【クィーンズベル城 姫の部屋】

魔法使い「わぁ、ベッドがおっきぃ〜」

姫「横になってみる?」

魔法使い「そ、そんなっ、おそれおおいっ!」

姫「気にせずともよい。勇者のパーティであれば妾(わらわ)とっても友同然である。僧侶……といったな」

僧侶「ここに」スッ

姫「法王庁出身者とはまことであるか?」

僧侶「はい」

姫「その若さでか? 神官としての経験を積んではじめて選別されると聞いたことがあるが」

僧侶「良き師のお陰でございます。わたくしに力はなにもありません」

姫「謙遜するな。口利きで入れるというというのなら、格式と品格を落とす行為なるぞ」

僧侶「ごもっともでございます」

姫「役職はどこであったか?」

僧侶「……」チラ

戦士&武闘家&魔法使い「……」ジー

姫「なんだ? パーティの面々まで興味津々といった面持ちで眺めておるではないか」

少年「このお菓子おいしぃ」パリパリ

メイド「まだこっちにもあるわよ」ニコニコ

僧侶「内部事情をお話すのは戒律により厳しく禁じられているのでございます。どうか、ご容赦を」

姫「(つまんないんですの!)……そうか」

メイド「それで……勇者さまはいずこへ……」

戦士「ゆ、ゆうしゃはぁっ! どっかいっちゃったでありんすっ!」カチンコチン

魔法使い「ブフゥっ、あ、ありんすって」

姫「どこか? どこに行った?」

戦士「知らないです! 見取り図を持ってると伝えてくれと言われましたぁっ!」

姫「そう……やはり……」

メイド「姫さま。勇者さまが持っているのは幸いでございます。彼の方ならば、きっと悪いようには致しません」

姫「そうね……」

メイド「皆様、昨日は大変失礼を致しました。危ないところを助けていただいたばかりか、勇者様のパーティであることを疑ってしまい」ペコ

戦士「きっ、かかっ、きにしてなぁ〜〜いです!」

魔法使い「きゃはははっ!」バンバン

戦士「あとで覚えてろよ……」

姫「……堅苦しい挨拶はここまでにするんですの。メイド。皆さまに紅茶を」

メイド「ただいまご用意致します」ペコ
527 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/06(火) 20:50:22.32 ID:gIu6BcBMO
姫「――実は、実力者たる皆に折り入って頼みがあるんですの」

魔法使い「き、聞いたっ⁉︎ 実力者だって! 私たちののとかなっ⁉︎」

戦士「あたしたちしかいないだろ」

姫「なんです? 違うんですか? 法王庁出身とあれば疑う余地はないと思い、他三名もと思ったのですが」

僧侶「いえ。全員、“才能は”ピカイチの者たちばかりです」

姫「なにやら引っかかる物言いですの。まぁ、いいわ。頼みを聞いていただけるかしら?」

武闘家「……」

姫「貴女は先ほどからなにも喋っていませんね。どうですか?」

武闘家「アタイは、王族に興味ありませんので。内容を聞かずにはなんとも」

魔法使い「無礼よっ! お尋ね者になりたいのっ⁉︎」コソッ

姫「ふふっ、勇者は個性的な面々をパーティに選んだようなんですの。たしかに、まずはこちらからお話すべきでしょう」

僧侶「頼みとは……?」

姫「この国の財源が、脅威に晒されています」

戦士「脅威、ですか?」

姫「近く、わたくしの縁談があるのはご存知ですの?」

魔法使い「えぇと……?」

姫「省略しますと、盗賊団が宝物庫に忍びこもうとしているのです」

僧侶「まぁ……」

姫「勇者が盗賊団に接触しているので――」

魔法使い「え、えぇっ⁉︎」ガタッ

姫「……?」

魔法使い「あ、あわわっ、な、なんてこと。ついに悪事にまで手を染めるなんて」

戦士「いや、なにもまだそうと決まったわけじゃ。騙されてるのかもしれん」

武闘家「はぁ……」ガックシ

姫「……もしや? 貴女達は、勇者からなにも聞いてないんですの?」

メイド「姫さま」チラ

姫「……」コクリ

僧侶「皇女様。お話の続きをお伺いしてもよろしいでしょうか?」

姫「いえ、やはり、やめにします」
528 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/06(火) 21:16:25.71 ID:gIu6BcBMO
魔法使い「や、やっぱりぃっ、ち、違うんですっ、あいつも根は悪いやつでは」

姫「お黙り」ピシャリ

魔法使い「は、はぃぃっ」シュン

姫「見取り図の件を知っていなければ、勇者のパーティではないと疑っていたところです」

魔法使い「は、はい?」

姫「なにも聞かされていないとは……貴女達、信頼されていないんじゃ?」

戦士「え……」

姫「成人の儀を終えた勇者が魔王討伐のため、アデルを出発すると各国に早馬が飛ばされたのが二週間ほど前。いつから一緒に旅を?」

僧侶「私達三名は翌日には帯同していたと思われます」

姫「三名? もう一名は?」

武闘家「アタイは、マッスルタウンについてからだから、半分ぐらいかな?」

姫「期間が短いとは言い訳になりません。貴女方は勇者に選ばれて旅を共にしているのでしょう」

魔法使い「い、いぇ〜、最初は押しかけたっていうかぁ、私達の方から連れていってとお願いしたのでぇ」

姫「なんですの……?」

魔法使い「ですから、その、勇者と一緒に牢に入れられるのは……」

メイド「勇者様からのご指名を受けて旅をされてるのではないのですか?」

戦士「アイーダの酒場で待ってたんですが、勇者は“仲間は足手まとい”といって先に行ってしまったんです」

魔法使い「そうなんです! 私達もてっきり! 最初は凄く強い人なんだろーなーって思ってたんですけど!」

姫「……」ギュゥッ

メイド「姫さま」

魔法使い「それがぜんっぜん……てことはないけど、戦士と同じぐらいで」

姫「ほう。戦士とはそこまで強いのか?」

戦士「いや、あたしは、まだまだで」

姫「勇者は4歳で我が国の兵士長をデコピンで負かしたぞ。さぞや強いのだろう?」

戦士&魔法使い「へ……?」

武闘家「ごほんっ! あー、勇者はぁ、補助魔法を使うからなぁ!」

僧侶「勇者様の実力のほどはしかと。戦士と魔法使いは、その……」

姫「なんだ? さっきから黙って聞いておれば、妾の友をバカにしておるのか?」

メイド「ひ、姫さまっ! なりません! 勇者様が選ばれていないとしても! 共に旅することを認めておられるのです!」スッ

魔法使い「えっ? ど、どゆこと?」

姫「……そうですね」

戦士「(4歳の時に、兵士長をデコピンで? ははっ、さては冗談だな?)」

姫「失礼した。でも、貴女方に不満が残るのも事実です。勇者と連絡をつける方法はないんですの?」

僧侶「しばらく別行動をすると」

姫「なにか考えがあるようですね。しかし、その考えがわからぬことにはこちらも動きずらい」

メイド「しばらく、様子をみては?」
529 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/06(火) 21:41:57.86 ID:gIu6BcBMO
【クィーンズベル 南西方向 廃墟】

ジャン「本日からはいりましたー! 新人のジャンくんでーす! よろしくねー!」

手下「なぁ、あいつがホントにガンダタ倒したのか?」

ジャン「陰口なら見えないところでお願いしまーす!」

お頭「おめぇらァっ! こいつはあのガンダタを殺してきたそうだ!」

ジャン「ナイフでグサーっとやったりました!」

お頭「功績を認め、団の幹部にとりたてるッ!!」

手下「お、お頭ぁっ! いきなり新人をそんな扱いをするんですかいっ⁉︎」

お頭「当たりめェよ! この団はいつから年功序列になった! 実力主義だろうがッ!」

手下「うっ、それは、そうですけどぉ」

ジャン「(ざまぁwww)」

お頭「納得いかねェやつは前でろ。ジャンが相手になる」

ジャン「……ん?」

手下「いいんですかい? 仲間内での殺しは……」

お頭「このアホたれ。誰が殺し合えといったんだァ。喧嘩は日常茶飯事だろうが」

手下「なぁ〜ほどぉ。そういうことか」

ジャン「んん〜?」

手下「俺やりやす! こいつは強そうに見えねぇ! きっとマグレだったんでさぁ」

お頭「俺も強さを直に見たわけじゃねェからな。素手でやれよ」

ジャン「……めんどくせぇ」
530 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/06(火) 21:54:17.68 ID:gIu6BcBMO
【数分後】

手下「」ドサッ

ジャン「どんなもんでしょ?」パンパン

お頭「……ワンパンか……つえぇな。貴族とたまに取り引きしてるが、武術に精通してるやつなんてめずらしいぜ?」

ジャン「そのめずらしいやつの中の一人なんですよ。ほかの皆さんも信じていただけましたけねぇ〜?」

手下達「……」ゴクリ

お頭「くっ、だっはっはっ! 俺たちの団にようこそ!」

ジャン「取り引きが終わるまでの間ですけどね」

お頭「まぁ、そう生き急ぐなよ。こっちにこい。計画の詳細を説明する」

ジャン「(いよいよ核心に迫れるのかね。どうやって井戸の水を枯れさせてるのか……)」

手下「お待ちを。お頭。お客様です」ササッ

お頭「後にしろ。どうせ行商頼んでる水売りだろ」

手下「いえ、それが――」コショコショ

お頭「――なにィ? ……わかった。すぐいく」

ジャン「俺もご一緒しても?」

お頭「あ〜? ん〜、まぁ、いいか。そのかわり、なにも喋るなよ。口開いてご機嫌損ねたら舌を切るぞ」

ジャン「あいあいさー!」ビシッ
531 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/06(火) 23:37:02.89 ID:vsw5Z+FGO
532 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/07(水) 02:30:21.53 ID:zp9c0ucPo
おつ
僧侶さん、勇者との会話で只者じゃないのはわかってたけどかなりエリートだったのな
533 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/07(水) 02:44:37.93 ID:Hmh3XtaBO
>>490
僧侶「私も精神力が〜」ガクッ
とか言ってるし、底は知れたような気がするが……

まあ何か隠し玉は持ってそうだな
534 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/07(水) 07:04:23.97 ID:a9tZbFIro
535 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/07(水) 16:38:24.42 ID:NbYf4Q2GO
【廃墟付近】

お頭「お待たせしたな」

占い師「忙しいようだな。商(あきな)いは順調か」

お頭「お陰様で」

占い師「そちらの男は……?」チラ

ジャン「(まーた新しいやつが出てきた。フードを深めに被って顔はわからないが、女だな)」

お頭「ハーケマルの使者だ。なかなか使えるんで、仲間に抱き込んだ」

占い師「なに……? 間者ではないのであろうな。情報が筒抜けになるぞ」

お頭「金の魅力に取り憑かれてる男よ。なにかあった場合のケツは俺がとる」

占い師「……準備の進捗具合はいかが」

お頭「アンタに教えられた方法で、井戸の水を枯れさせてる。国相手となれば体力も尋常じゃねェ。困窮させるには期間を要する」

占い師「急いては事を仕損じるだけだ。かといって悠長に構えているつもりはない」

お頭「わァってるよ。ハーケマル王子の来訪に合わせられるように進めてる」

占い師「私の雇い主は気の長いお方ではない。計画が頓挫しようものなら、死を覚悟しろ」

お頭「その分、見返りはでかい。ハイリスクハイリターンってとこだな。俺にとっても国盗りの夢を叶える良い機会だ」

占い師「あのお方はクィーンズベルの没落を望んでおられる」

お頭「現政権を追い込んだら、俺を後釜に据えるという約束、忘れちゃいねェでしょうな」

ジャン「(そんな簡単にコトは済まんだろうに)」

占い師「覚えている。が、政権転覆となるとそうやすやすとはいかない」

ジャン「(そぉ〜らきた)」

お頭「な、なんだとォっ⁉︎ 約束を違える気かっ⁉︎」

占い師「名家出身でもない、王族でもない、盗っ人なぞに国を任せると思うか? 第一、周辺国にどう認めさせる」

お頭「国を疲弊させれば、現在の王族は窮地に立たされ、民の信用を失い――」プルプル

占い師「……」

お頭「そう持ちかけてきたじゃねェかッ!!」ビシッ

占い師「王になったとて、その先になにを見る?」

お頭「“自由”よッ!!」

占い師「愚かな……」

お頭「王になりゃぁ、国を、兵を、財をッ! 好きなように操れるッ!!」
536 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/07(水) 17:19:11.10 ID:NbYf4Q2GO
占い師「使者とやら。貴族であろう? こやつに王としての器があると思うか?」

お頭「言ってやれッ!! あるとッ!!」

ジャン「暴君としてならばあるんじゃないでしょかね? それか、独裁者か」

占い師「うふっ、はっはっはっ。暴君か。たしかに、それならば才気は望めそうだ」

お頭「暴君だァ?」

占い師「国をなんと見る? お山の大将よ」

お頭「お、オィ。誰にモノ言ってやがる」

占い師「国は、生き物だ。内政、物流、通貨、交通、さまざまな分野が折り重なり、人が生きて、国と成る」

お頭「……」

占い師「お前に国を任せたとしたら、5年もたないだろう。部下に殺されるか、民たちに殺されるか。そういう未来が見える」

お頭「な、なんだとォッ⁉︎」

占い師「盗賊として報酬を望め。その後は、このヤマから身を引け」

お頭「こ、このッ!」バンッ

占い師「……ふぅ。フードがうっとうしい」ファサ

ジャン「(若い。見た感じ俺とそんな変わらないぐらいか)」

お頭「魔族に会わせろ。オメェじゃ話にならねぇみたいだからな」

占い師「私に言っているのか?」

お頭「俺とジャンとオメェしかいねぇだろ!」

占い師「ニンゲンよ」

ジャン「(なんだ……この気配は……)」

お頭「あ……? あぐっ……⁉︎ アガガッ⁉︎」ガクッ

占い師「貴様に預けた水晶はどうだ。大切に持っているか……? ん?」

お頭「息がっ……! あぐぅぁあっ!!」ジタバタ

ジャン「(お頭には指一本触れてない。どうやってるんだ?)」

占い師「脆い生き物よ。脆弱で、浅はかで、欲深い。そなたたちが醜くければ醜いほど、憎めずにいる。そこのモノ、助けなくてよいのか……?」

ジャン「どうやって助けろというんです? 貴女の首をハネますか?」

占い師「試したらどうだ?」

お頭「ひゅー……ひゅー……っ」ドサッ

ジャン「いいんですか? お頭を殺せばこれまでの準備が全て無駄になっちゃうと思うんですけど」

占い師「……おおっ、そうであった」シュゥ

お頭「」ドサッ

ジャン「あの〜結局あなたはなにしに来たので? からかいに来ただけ?」

占い師「いや、私は、お頭に用があって。……あれ?」

お頭「」

占い師「これ。起きろ。起きんか」ペチペチ

ジャン「代わりに聞いときましょか?」
537 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/07(水) 18:34:19.87 ID:tg06EGxvO
占い師「やれやれ。ニンゲンは脆すぎていかん。そう思わんか」

ジャン「まるで自分が人間じゃないように言いますね」

占い師「あぁ……そうだな。気になるか?」ニタァ

ジャン「いいえ。ちっとも」

占い師「なんだ。肩透かしだな」

ジャン「俺媚びへつらうのは上に対してだけって決めてるんで」キリッ

占い師「なんぞ? 私はお前より下か?」

ジャン「誰かの指示で動いてるんだろう? あのお方と言っていた」

占い師「言ったが?」

ジャン「でかいヤマになればなるほど関わる人間は……あんたは人間じゃないかもしれないけど、数は増える。中間管理職に媚びたって、ねぇ?」

占い師「お前はさらに末端の下の下ではないか」

ジャン「違いない。だけど、計画を遂行するには、気絶してるお頭は必要だろ? ……話が逸れてる。なんでもいいから、用件があるならどうぞ」

占い師「小癪なやつだ。新しい水晶と古い水晶の交換にきた」

ジャン「なぜ?」

占い師「それは、水脈を止めるために決まってる」

ジャン「(いや、決まってるて知らねーし。調子合わせるか)……そうでしたね。さっきお頭から水脈を止める原理を聞いたばっかりで」

占い師「これには瘴気がつまってる」スッ

ジャン「らしいですね。それ使って逃げさせてるんでしたっけ?」

占い師「……」ギロッ

ジャン「(あら? 違った? 軽率だったかな?)」

占い師「……そうだ」

ジャン「(合ってるんかーい! ドキドキさすなこのボケッ!)いやぁ〜しかし、便利なアイテムですねぇ。それどうやって使うんです?」

占い師「水脈には、地点地点に息吹が存在する」

ジャン「ほぉ」

占い師「割り振られた場所にコレを埋める。すると、水は玉から染み出す瘴気を避けるようにして逃げていく」

ジャン「ほぉほぉ。てことは、ひとつじゃないですな? 何箇所にも埋まってると」

占い師「定期的な交換が必要でね。これを持ってきた」ジャラジャラ

ジャン「(にー、しー、ろー、はー……10個か)」

占い師「穴が結構な深さになるから、これを別働隊に渡してほしい」

ジャン「(なんだ。結局どんなカラクリがあるかと思えば、アイテムか。つまんねーの)……かしこまりました。たしかに伝えときます」
538 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/07(水) 18:54:59.53 ID:tg06EGxvO
占い師「あと、もうひとつ。これを渡しておく」

ジャン「(アイテムとかつまんねー。冷めた。なんだかすっごく冷めたわ)なんでしょ? 剣ですか?」

占い師「念のため、これを5個目の地点に一緒に埋めておけ。呪いをかけてある」

ジャン「どんな?」

占い師「お前は知らずともよい」

ジャン「あ、そう」スッ

占い師「……あの、本当に気にならないの?」

ジャン「え?」

占い師「や、普通だったら、こいつ何者だっ! とか、これにはこんな効果がっ⁉︎ とか」

ジャン「いや? 劇じゃないんだから用件が済んだなら帰れば?」

占い師「え……」

ジャン「あー、忙し忙し。お頭おぶっていかなくちゃ」ヒョイ

占い師「ちょ、ちょっとっ」

ジャン「ん?」

占い師「聞いて驚くがいい! その剣は呪われている!」

ジャン「聞いたよ」

占い師「うん、2回目……」

ジャン「じゃ、そういうことで」

占い師「聞くがいい! 私はっ!」

ジャン「……なによ?」

占い師「聞きたい?」

ジャン「いや」

占い師「……」プルプル

ジャン「わぁ〜。すごいなぁ〜。この剣にはこんな効果があったのかぁ〜」

占い師「聞いてないじゃん! 知らないじゃん! どんな効果があるとか!」

ジャン「……話したいの?」

占い師「……」プィ

ジャン「あー、魔族ってのはどの種族だぁ?」

占い師「き、聞きたいっ⁉︎」

ジャン「教えてほしいなぁー」
539 : ◆7Ub330dMyM [saga]:2018/02/07(水) 19:12:37.14 ID:tg06EGxvO
占い師「ふふっ、いやしい人間め。そんなに魔族と会いたいか。欲に目がくらみ――」

ジャン「厨二病か。お大事に」テクテク

占い師「ま、まてぇいっ」ポンッポンッスポポンッ

ジャン「……?」

ベビードラゴン「オラがせっかく盛り上げた雰囲気さ、壊すでねぇっ!!」

ジャン「お、おお」

ベビードラゴン「なんで無視するだ! 人間のくせして生意気だど! 恥ずかしいと思わんのか!」パタパタ

ジャン「すまん」

ベビードラゴン「謝っで済むことか! せっかく、せっかく……クールな人間を演じて盛り上がってたんに!」

ジャン「本当にすまん」

ベビードラゴン「もっかい仕切りなおしだど。ちゃんどやれっぺな?」

ジャン「あ、ああ」

ベビードラゴン「ふふっ、いやしい人間め――」

ジャン「す、すまん。ちょっといいか?」

ベビードラゴン「なによっ⁉︎ 現場の空気乱さないでぐんねっ⁉︎」

ジャン「どうしても気になってることがあって」

ベビードラゴン「それ、解決しなきゃできそうにない?」

ジャン「うん、まぁ、そうだな」

ベビードラゴン「だぐぅ、ぺっこしかたねぇ。質問は一個だけだかんな。特別にこだえてやる」

ジャン「――……竜族だろ?」

ベビードラゴン「……っ⁉︎」

ジャン「……」ジー

ベビードラゴン「なしてそげなこと思うだ?」

ジャン「なんでだろうな?」

ベビードラゴン「オラは見ての通り、人間だど」パタパタ

ジャン「……そだな」

ベビードラゴン「変わったニンゲンだっぺね。いきなり人を竜族なんて」

ジャン「うん」

ベビードラゴン「あ〜なんかシラケちまったよ。オラ帰る」

ジャン「うん、気をつけてな」

ベビードラゴン「おめっ! マジで言葉使いなんとかしろっ⁉︎ オラに馴れ馴れしいぞっ⁉︎」

ジャン「あんまりにも可愛いらしくて、つい」

ベビードラゴン「はっは〜ん。そっちの欲か。けがわらしい」
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