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【艦これ】提督「鎮守府が罠だらけ?」ニコ「その2だよ」【×影牢】

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820 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/03/12(日) 23:47:33.12 ID:leJDf/pio

集積地棲姫「提督、コノ船ハドウスルンダ」

提督「ん? うーん、ぼろ船だしな。特に使い道もねえし、妖精に頼んでバラしてもらうか」

集積地棲姫「ソレナラ、私ニ解体サセテクレ」

提督「お前が?」

集積地棲姫「コノ船ニ使ワレテイル鉄ヤ残ッテイル燃料ヲ、引キ取ラセテホシイ」

提督「んー……わかった。じゃあ、任せていいか?」

集積地棲姫「イイノカ!? ヤッタ!」ガッツポ

大和「よろしいんですか?」

提督「戦艦棲姫に喧嘩売った奴らの船だ、その縁者が押収するのは成行き的にも悪くないと思うぜ?」

泊地棲姫「ナンダ、提督ノ決メタコトニ、艦娘ガ文句ヲ言ウノカ」

大和「私は、提督のお立場が悪くならないか心配なだけです」プー

コーネリア「フッ、人間どもの評判を気にしてるのか? そんなもの、犬にでも食わせておけ」

チェルシー「むしろ、もっと恐れを抱いてほしいよね! イフとイケイの念、ってやつをさ!」

イーファ「ぼくは、ご主人様がぼくたちに優しければ、それでいいよ?」

ル級「大和ハ、提督ガ万人ニ好カレルコトヲ望ンデルミタイダケド、提督ガソンナ気ジャナイモノネ」フフッ

大和「私は無暗に提督に敵ができることを疎んでいるだけです!」プクー
821 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/03/12(日) 23:48:18.87 ID:leJDf/pio

提督「ああ、こっちから喧嘩を売るような真似はしねえよ。仕掛けてくる奴は徹底的に叩きのめすってだけだ」

大和「提督はそれでよろしいんでしょうけどぉ……」ムー

ニコ「ぼくは少し大和の気持ちがわかるよ」

チェルシー「えー?」

ニコ「魔神様は、ぼくたちのために人間の前に姿を現して、わざわざ追い払ったり、おびき寄せる役をしてくれたりしてる」

ニコ「そのせいで、魔神様に命の危険が及ぶのは気が気でないし、またあんなことになったら、お姉ちゃんとしては許せないよ?」

ル級「ソウネエ、死ニタガリナトコロハ、私モナントカシテホシイワネ?」

提督「なんだお前ら、寄ってたかって……」

軽巡棲姫「提督……」ヌッ

提督「うおっ!?」

軽巡棲姫「提督、ドコニ行ッテタノォォォ!」ガッシィ!

提督「だああ! お前いきなり後ろに現れて抱き着くな!」

ルミナ「ああ、ごめんごめん魔神君。彼女を介抱してたんだけど、目を覚ました途端に君を探し始めてさあ」

提督「依存症にもほどがあるだろ!?」

戦艦棲姫「……変ワッタ人間ネエ?」

ル級「マアネ〜」ウフフ
822 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/03/12(日) 23:49:03.22 ID:leJDf/pio

 * *

提督「ってことは、艦娘が深海化するところは、誰も見たことないのか」

泊地棲姫「鹵獲シタコトハアッテモ、イタブッテカラ沈メヨウトシタダケダカラネエ。ワザワザ沈メタアト観察ナンカシナイシ」

戦艦棲姫「意図的ニ艦娘ヲ深海棲艦ニシヨウナンテ、考エタコトモナカッタワネ?」

集積地棲姫「ソウダナ。解体シテ資材ニデキナイカト考エタコトハ、アッタケド」

大和「……」

ル級「大和ガ、スゴイ顔シテルワ」

提督「まあ、大和に限らず艦娘には不愉快な話だろうさ」

軽巡棲姫「私ハマダ沈メテナイ」ドヤッ

提督「沈める気はあったんじゃねえか」

軽巡棲姫「ダッテ、アナタヲ撃ッタノヨ!?」

提督「……」

ル級「提督ガ、スゴイ顔シテルワ」

大和「提督? そこで微妙そうな顔をなさらないでください」

ニコ「そうだよ。魔神様のことを思って行動したのなら、むしろ褒めてあげないと」

提督「ニコはともかく大和もそういうこと言うのはどうなんだ」タラリ
823 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/03/12(日) 23:49:50.01 ID:leJDf/pio

ルミナ「ふむ……とにかく、艦娘が深海棲艦になったり、その逆だったりという場面には、誰も遭遇してないということだね」

提督「そうみたいだな。まあ、沈めた相手を見送ることはあっても、見続けたりは普通しねえよな」

大和「そうですね……」

戦艦棲姫「ア、デモ……アイツナラ、沈メタ艦娘ヲ、シツコク観察シテソウジャナイ?」

集積地棲姫「……アア、アイツカ……」

提督「そんな奴がいるのか?」

戦艦棲姫「エエ。オ前タチガ、アイツヲドウ呼ンデルカ知ラナイケド」

集積地棲姫「長イ尻尾ヲ持ツ、戦艦クラスノ深海棲艦ダ。知ッテイルカ?」

提督「もしかして……レ級か?」

大和「レ級!?」

提督「特徴を聞く限りはな。それはいいとして、お前たちはそいつに今の話を確認することはできるか?」

戦艦棲姫「……難シインジャナイカシラ? アイツトハ、会話ガ成リ立ッタ記憶ガ、ナイノヨネ」

提督「そうなのか? じゃあ、訊かなくてもいいな。そこまで急いで調べたい話でもないし」

ルミナ「えー……」

提督「えーじゃねえよ。会話が成り立たないとか、情報収集以前の話じゃねえか」

泊地棲姫「私モ、アイツトハ、マトモナ会話ハデキナイト思ッテイルゾ?」
824 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/03/12(日) 23:50:33.13 ID:leJDf/pio

集積地棲姫「アイツ、戦闘狂ダカラナ。私ハ、アイツガ誰カト喋ッテイルトコロヲ見タコトハナイゾ」

戦艦棲姫「挨拶代ワリニ噛ミ付イテクル個体モイルワヨネ」

コーネリア「へぇ……あたしと気が合いそうじゃないか。一度殺り合ってみたいもんだ」

チェルシー「コーネリアも戦闘狂だからね〜」

提督「それだけに情報収集には不向き、と」

ル級「近ヅクコトスラ危ウイ感ジネ?」

大和「話が通じなさそうですね……」

ルミナ「はぁぁぁ……」ガックリ

提督「そこまでがっかりすんな。気長に次の機会を待ちな」ナデナデ

ルミナ「……そうだね。そうするよ。けど……」

提督「?」

ルミナ「頭をなでられたときの効能は調べられそうだねえ」フフッ

提督「……」

イーファ「……いいなあ……」ボソッ

集積地棲姫「トリアエズ、コノ船ヲ曳航デキナイカ?」

戦艦棲姫「マカセテ!」パァッ

提督「大和、ル級、使って悪いがお前たちも手伝ってやれるか?」

大和「はい、お任せください!」

ル級「アナタノ頼ミナラ仕方ナイワネ」フフッ
825 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/03/12(日) 23:51:18.30 ID:leJDf/pio

 * 一方、本営 *

曽大佐「H大将閣下! あなたともあろうお方が血迷ったのですか!?」

曽大佐「深海棲艦は我らの敵です! 世界中に恐怖と破壊をもたらす災いの権化です!」

曽大佐「人間をやめて深海棲艦を率いるような男と和平を結ぼうなど……深海棲艦の殲滅を誓ったあなたはどこへ消えたのですか!」

H大将「落ち着け。俺自身、まさかこんな身の振り方をするとは思ってもいなかった」

H大将「深海棲艦とは何の話も通じず、ただ人間を攻撃し殺戮する……そういう存在だからこそ、深海棲艦は危険な存在だと認識していた」

H大将「それが覆されたんだ。受け入れがたいだろうが、あの島とあの船の周辺の深海棲艦は攻撃してこない。今はそれが事実だ」

曽大佐「それこそ罠です! 閣下が話し合いをしているその男の下には、罠を模した連中もいるのでしょう!?」

曽大佐「自らが罠だと、そういう看板をぶら下げているというのに、閣下は何故、あの男を信じているのですか!!」

曽大佐「あの男の部下の艦娘に命を救われたことこそ、罠ではないのですか!!」

H大将「……」

曽大佐「目を覚ましてください、閣下! これまで深海棲艦の悪行を……蛮行を、我々は嫌と言うほど見て、味わってきたではありませんか!」

曽大佐「我々の無念をお忘れですか!? 我々の、これまでの犠牲をお忘れですか!!」

H大将「お前こそ少し頭を冷やせ、曽大佐。俺も深海棲艦による蛮行を許すつもりはないし、許したわけでもない」

H大将「だが、これから奴らが起こすかもしれない蛮行を食い止める方法が見えたのなら、それを見過ごすわけにもいかんのだ」
826 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/03/12(日) 23:52:03.48 ID:leJDf/pio

H大将「これ以上の悲劇を繰り返さないために、力なり説得なりで、深海棲艦を抑え込もうとしている。それを今X中佐たちが……」

曽大佐「閣下は我々より、あんな小僧の世迷言を信じるというのですか!」

曽大佐「自分は、最早我慢なりません……! あの島に、忌々しい深海棲艦どもが集まっているのでしょう?」

曽大佐「姫級や鬼級といった連中も、あの島に来ているのでしょう!? 今すぐにも打って出るべきです!!」

H大将「……」

曽大佐「人類の敵となる深海棲艦が、人類を裏切った輩と手を組めば、人類の敵になる以外の未来は見えないはず! 違いますか!」

H大将「……仮にそうだとしても、戦う気のない連中に喧嘩を売れば、新たな遺恨と火種を生むだろう。二度と平和的な解決は……」

曽大佐「そのようなことであれば御心配には及びません。海軍最高の戦力を有する我が艦隊が、一隻残らず殲滅して御覧に入れましょう」

H大将「曽大佐……!」

曽大佐「H大将閣下、これまでのご指導、ありがとうございました。今後の深海棲艦との戦争は自分おに任せください」

H大将「おい、曽大佐!!」

 スタスタ…

H大将「曽大佐……!」
827 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/03/12(日) 23:52:48.24 ID:leJDf/pio

 * 翌日 *

 * 墓場島沖 医療船内 X中佐私室 *

X中佐「……ということで、Wたちが危惧していた通りの事態が発生している」

提督「だから、なんでお前はそうやって俺に告げ口するんだよ。お前、そのうち裏切者扱いされるぞ?」

X中佐「裏切るも何も、僕は最初からこうだよ。深海棲艦と話がしたいって、ずっと主張してきたんだ」

提督「お前……本っ当に、よく今まで生きてこられたな?」

X中佐「……」

提督「大将の身内だからってのもあるんだろうが、そうじゃなきゃ今回の騒ぎでついでに消されてたかもしれねえんだぞ」

X中佐「……君は、本当に言うことに容赦がないね?」

提督「こういうことをオブラートに包んでどうするよ。良薬は口に苦ぇし忠言は耳に逆らうもんだ」

提督「事実、今回の事件で大将2人が殺されかけてる。F提督もそうだった。お前も主張を同じくするなら、もう少し危機感持てってんだよ」

X中佐「……そうかもしれない。けど、それで君たちが知らずに攻撃されたとあっては、僕たちの誠意も伝わらないだろう?」

X中佐「ようやくここまで漕ぎ着けたんだ、怖気づいてはいられないよ。君にとっても他人事ではないんだからね」

提督「……危険は承知の上、ってか? まあ、そこまで覚悟決めてんなら仕方ねえな……」

X中佐「心配してくれているんだね。ありがとう」

提督「俺は面倒を避けたいだけだ。礼を言われる筋合いはねえよ」
828 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/03/12(日) 23:53:33.48 ID:leJDf/pio

提督「それよりもだ、曽大佐ってのはどんな奴なんだ? 深海棲艦に身内を殺されたとか、そういう手合いか?」

X中佐「そこは……そうだね。まあ、志願した大体の提督はそうなんだけど、曽大佐は特に恨みが深いみたいだ」

X中佐「同様にH大将の行動に納得していない提督たちが、曽大佐と一緒に離反する動きもある」

提督「ま、仕方ねえか。派閥の長のいきなりの方向転換だ、ついていけないから独自の派閥を作ろうってのも自然な流れではあるな」

提督「けどよ、そいつらは、どうしてH大将がそういう考えに至ったのか、ちゃんと話し合って納得したうえで別れたのか?」

X中佐「どうだろう? H大将からは、彼らは聞く耳を持たなかったって言ってたけど……」

提督「喧嘩別れっぽいってか。それならそれで好都合だ」

X中佐「……それはどういう意味だい?」

提督「気にすんな。それより今更訊くが、H大将が俺たちの話を聞いて方針を変えてくれたのは、なぜなんだ?」

提督「もともとは深海棲艦と繋がってるであろう俺をしょっ引くために島に来たんだろう?」

X中佐「中将閣下が教えてくれたんだけど、H大将が深海棲艦を撃滅しようと考えたのは、中将と何度も話し合った結果だって聞いてるよ」

X中佐「中将が深海棲艦に足首を触られて以来、その足を悪くして杖が要るようになったことは君も知ってるよね?」

提督「ああ。そういう相手だから、滅ぼすしかないって頭だったんじゃねえのか?」

X中佐「……以前はH大将も、人の姿をしていて言葉も話せるんだから、こちらの言葉も通じるんじゃないかと考えていたそうだ」
829 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/03/12(日) 23:54:33.62 ID:leJDf/pio

X中佐「でも、艦娘という、人間の姿をして、人間の味方をする、人間ではない存在が確認できてしまった」

X中佐「だとすれば、人間の姿をした、人間ではない人間の敵がいることも、同じように認めないといけない、って」

提督「……」

X中佐「なにより、海軍は人間の……国民の命と財産を守ることが本分だ」

X中佐「言葉が伝わらず、深海棲艦に触わられた人間がただでは済まないとあっては、その本分を守り切ることができないと考えた」

X中佐「だからH大将は、深海棲艦を敵と見なして撃滅することを選んだんだ」

提督「……手前の考えより海軍の本分かよ。そりゃご苦労なこった」

X中佐「そこは君も同じじゃないか。自分の命より艦娘の未来を重んじていたんだろう?」

提督「……」

X中佐「とにかくH大将は、そういう理由で深海棲艦を殲滅しようと決めた。でも、その前提がひっくり返された……話ができるようになった」

X中佐「だから、H大将の行為は裏切りなんかじゃない。H大将は、人間を守るためにできることをやっているだけにすぎないんだ」

提督「……なんにせよ、それが曽大佐は気に入らなかったってこったな?」

X中佐「そこはその通りだ。残念だけどね」

提督「やれやれ、J少将には殺されかけて、今度は別の部下に見限られてるとか、ついてねえにも程があるな」
830 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/03/12(日) 23:55:18.58 ID:leJDf/pio

提督「朧が一体なにをしたのかは知らねえが、死なずに済んだことくらいは、不幸中の幸いってことでいいよな?」

X中佐「そう思いたいね。ただ、もうひとつ頭が痛いのが、J少将のことなんだ」

X中佐「実は、J少将がH大将を暗殺しようとしたって話自体が、海軍の中でも結構衝撃的な話でね……」

提督「なんだそりゃ? J少将って、そんなに外面良かったのか?」

X中佐「評判は良かったと思うよ。深海棲艦の撃滅を主張してたけど、おおやけには和睦派にも理解を示すような発言があったというし」

X中佐「曽大佐たちのような過激派には、和睦派を責めるなとなだめつつ激励するような、バランス感覚と取れた人物だと聞いてたよ」

X中佐「だからこそ、J少将があの大佐と一緒にメディアの前に出ることを当時の本営が善しとしたわけだし」

X中佐「海を守る仕事を艦娘に奪われたことを嘆いてたことも、人間味があったと共感を買っている」

X中佐「それでいて艦娘を率いる『提督』になった人たちにも分け隔てなく接していたくらいだから」

X中佐「J少将を悪者にしたくないと思う人もそれなりにいて、H大将から距離を置こうとする者も増えているというわけなんだ」

提督「そいつは面倒臭えな……」

X中佐「……でも、大将2人の殺害を計画したことは間違いないんだ」

X中佐「それに、F提督たちの乗った船を襲った事件に、J少将が関わっていたという調査結果もある」
831 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/03/12(日) 23:56:03.08 ID:leJDf/pio

X中佐「深海棲艦の撃滅という目標は同じはず。深海棲艦製の銃弾を使いたいからという理由だけで、こんなことをするだろうか?」

提督「……」

提督(まあ、かなり入念に猫をかぶってたんだろうなあ……だからこそ、青葉の写真に過剰反応した、ってことだろうな)

X中佐「そこを解明しないと、海軍内部が……っと、ごめん、この話は、いまの君には関係ないね」

提督「……そうだな。それはそっちで片付けてくれ」

提督「とにかく、曽大佐がH大将の下から抜けて、この島に攻めてくるかもしれねえ、って話だな?」

X中佐「うん。僕たちもWを通して可能な限り引き留めるけど……」

提督「前も言ったが、攻めてくるなら命の保証はしねえぞ。大目に見てやれるのは最初の一回きりだ」

提督「最初だからこそ、最悪の見せしめにしてやろうとも思ってるからな。曽大佐にはそんな感じで釘を刺しとけ」

X中佐「……わかった。できれば、お手柔らかに頼むよ……?」

提督「ああ。できる限り、手心は加えてやるよ」スクッ

 扉<チャッ パタン

廊下に出た提督「……悪いほうに、な」ポツリ
832 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/03/13(月) 00:00:56.37 ID:8rCJhShSo
今回はここまで。

三越modeで戦艦棲姫と集積地棲姫が仲良さそうにしてたので、
ここへ来た二人はそういう設定にしちゃいました。
833 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/02(日) 22:15:47.77 ID:G/cakfhvo
続きです。
834 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/02(日) 22:16:32.98 ID:G/cakfhvo

 * 墓場島 新埠頭倉庫内 仮設休憩スペース *

時雨「良かった、この島にもこんなスペースができてたんだね」

提督「仮設だけどな。とりあえずお前の言う通り人払いもしたし、ニコにも話はつけた。俺が話すまで動くなと釘も刺したしな」

時雨「知る限り、メディウムのみんなは提督の言うことに従順だしね。これなら安心して相談してもいいかな」

提督「……」

時雨「提督。これから僕が話すことを、疑わないで聞いてほしい」

時雨「僕が見てきた、この島から君がいなくなった後の未来のことを……」

提督「……わかった」

 * *

時雨「……僕はエフェメラの力で、あの溶岩で燃え盛る島に幽霊の姿で送られたんだ」

提督「……」

時雨「そして僕は、女神妖精さんの復活のために、ベリアナが持っていた魔法石を利用した」

時雨「そのあとは、君が不知火から聞いた通り。復活した妖精さんが、墓場島で眠っていた魂の力を呼び起こして、提督たちを脱出させた」

時雨「僕はその時、エフェメラに引っ張られて、燃える島から脱出するところを見届けられなかったんだけど……」

時雨「代わりにあの世の入口でのんきに寝ていた提督と無事邂逅できた、というわけだね」

提督「……」
835 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/02(日) 22:17:16.93 ID:G/cakfhvo

時雨「僕が見てきた、この島から君がいなくなった後の未来と、僕が戻ってきてからの話は、そんな感じかな」

提督「……」

時雨「……」

提督「……」

時雨「提督? 聞いてる?」

提督「……情報量が多すぎる」

時雨「え?」

提督「ちょっと整理させろ……えーと、まずなんだ? ベリアナが俺たちを助けた場合、俺が如月たちと融合したんだって?」

時雨「うん」

提督「で、如月たちがメディウムに生まれ変わって、俺が上半身だけになって……?」

提督「俺を復活させるために、ニコたちが俺を向こうの世界へ連れてって……そっちの世界の人間を手当たり次第殺したと」

提督「で、いつの間にかこっちの世界の横浜の施設を乗っ取ってて、そっちでも人間を手当たり次第殺して?」

提督「そこで俺が、いろいろあって死んだ人間の魂に操られた魔神として復活して、艦娘たちを攻撃して」

提督「そいつをメディウムと艦娘が倒して俺を助け出して……そのまま俺と艦娘がまたニコたちの世界へ行って?」

提督「数年後には残っていたうちの艦娘がボロボロで……政権も変わって艦娘の立場が悪くなって……」

提督「で、俺がこの世界を潰しに帰ってきた……」
836 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/02(日) 22:18:01.75 ID:G/cakfhvo

時雨「いくらか抜けてると思うけど、だいたいそんな感じかな」

提督「いやいやいや、なんだよそりゃあ……」アタマカカエ

時雨「提督? 大丈夫?」

提督「……あんまりよろしくねえな。とにかく、お前が見てきた向こうの俺は、艦娘たちを守れなかったんだな……?」

時雨「そうだね。少なくとも、いまと同じ姿を保ったままの艦娘は、あんまりいなかったよ」

提督「だからマジで世界を滅ぼす気になったってことだろうな……どうしようもねえな」ハァ…

時雨「それで、提督。ここまでの話で、なにか聞きたいことはあるかな?」

提督「ああ、とりあえず順番に聞くか。俺の体が艦娘と融合してたってのは、どういうことなんだ?」

時雨「うーん……多分だけれど、近代化改修に近いことが起こっていたんじゃないかな? 提督も半分は深海棲艦だからね」

時雨「みんな弱ってて死にかけていたというのも、その一因になってるのかも」

時雨「あとは……ブラックホールなんて珍しい空間内にいたからとか? 入ったことないから、どんな感じかわからないけど」

提督「だんだん人間離れしていくな……つうか、魔力槽に入った時点でそうなってたか」

時雨「あれ? 提督は、人間を辞めたかったんじゃなかったの?」

提督「辞めたいとは言ったが、そこまで常識はずれな存在になりたいわけじゃねえよ……」

時雨「贅沢だね」

提督「そう言うなよ。魔神としていろんな力を身に着けるのはいいが、いるだけで無意識に艦娘を傷つけるような能力は望んでねえ」
837 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/02(日) 22:18:46.79 ID:G/cakfhvo

提督「ただでさえ積極的にくっついてくる艦娘が多いからな。如月とか大和とか金剛とかはっちゃんとか軽巡棲姫とか初雪とか……」ユビオリカゾエ

時雨「……くっついてくるのを拒否はしないんだ?」

提督「ちょっと拒否したところで聞かねえよ。悪化する奴もいるくらいだから諦めてる」トオイメ

時雨「……ふーん」

提督「それから、いまの話で聞いてて一番やべえと思ったのは横浜の研究施設だ」

提督「深海棲艦だけじゃなく、艦娘も研究とか言ってバラしてたんだって?」

時雨「うん。鹵獲した深海棲艦の調査から、どんな命令も聞く艦娘を作り出す研究や、艦娘から深海棲艦を作りだす研究をしてたみたい」

提督「艦娘から深海棲艦を作りだす……って、なんだそりゃ?」

時雨「おそらくだけど、J少将は、深海棲艦も艦娘も、海から排除するつもりでいたんだと思う」

時雨「J少将は、制海権……自分の仕事場である海を、艦娘と深海棲艦に奪われたことを嘆いていたそうだからね」

時雨「艦娘が、本当は恐ろしいもの……艦娘が深海棲艦になりうるものだと公表できれば……」

時雨「深海棲艦を滅ぼしたあとに艦娘を海から追い出すこともできると考えたんじゃないかな?」

提督「……」

時雨「それから、深海棲艦から武器を製造する研究も、ここで続けられてたようだよ」

提督「そうか……そいつらが、あの大佐たちの研究を引き継いでやがんのか。ってことは、深海棲艦の鹵獲も続けて……ん?」
838 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/02(日) 22:19:31.92 ID:G/cakfhvo

提督「もしかして、深海棲艦の鹵獲じゃなくて、艦娘の深海化でそれをやろうってことか……?」

時雨「提督もそう思うのかい……?」

提督「ああ。H大将も言ってたな、深海棲艦の鹵獲はリスクがありすぎる、って」

提督「艦娘を建造するのはそれよりはるかに簡単なんだから、そいつを深海棲艦にしちまえば生産性も格段に変わる」

提督「もしかして榛名や那珂が言ってた養成所とか言う施設も、そこなんじゃねえだろうな……!」

時雨「かもしれないね……ねえ、提督はその施設をどうするつもり?」

提督「……どうする、っつっても……今はどうにもできそうにねえな」

時雨「弱気だね?」

提督「慎重と言えよ。そもそも片手間で始末できるような相手とは思えねえ」

提督「かといって放っておいていい相手でもねえと思うが、今はこの島の体制を整えるほうが先だな」

提督「そもそもその施設に関する情報が全然揃ってねえし、中途半端に動いて向こうに気取られるのも面白くねえ」

提督「やるんならちゃんと情報を揃えて、関わってる奴全員集めて一網打尽にしてやらねえと駄目だな」

時雨「確かにそのほうが良さそうだね」

提督「あと、そのほかに警戒しなきゃいけねえのは、父親に味方したほうのエフェメラだ。あいつがどこまでこっちに絡んでくるか……」

提督「俺たちに味方したエフェメラは、俺たちとかろうじてコンタクトできる状態だった」

提督「向こうのエフェメラには察知されてないと思いたいが、あくまで希望的観測と見ておいた方がいいよな?」

時雨「そこはなんとも言えないけど、慎重に動いた方がいいのは同感だね」
839 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/02(日) 22:20:16.91 ID:G/cakfhvo

時雨「ただ、もともと提督を魔神の生贄にすることがあっちのエフェメラの目的の一つらしいからね。もしその目的が変わってないとしたら……」

時雨「僕たちを支援してくれたエフェメラの存在に関係なく、今後も提督を絶望させようとしたり、怒りを煽ったりする可能性は高いと思うよ」

提督「……くそ面倒臭え……!」

時雨「ただ、魔神に忠誠を誓ってるわけだから、仮に君が魔神として完全に覚醒すれば、跪いてくれるかもしれないよ?」

提督「それはそれでなんか嫌だな……」

時雨「嫌がらせされるよりはいいんじゃない?」

提督「かもしれねえけどよ……どうせなら俺は、俺たちを助けてくれたエフェメラこそ迎えてやりたいぜ」

時雨「……うん。それは、そうだね」

提督「ああ……あとは……」

時雨「?」

提督「時雨、ちょっとつらいことを訊くが……お前以外の、この島に埋葬された艦娘の魂がどうなったかは覚えてるか?」

時雨「僕以外の……?」

提督「ああ。俺を助けようとしたエフェメラが、どうしてお前を選んだのか考えてたんだが……」

提督「それは、俺だけじゃなく、例えば扶桑のように、お前が他の艦娘たちのことをずっと気にかけていたからじゃないか、と思ったんだ」

時雨「……」
840 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/02(日) 22:21:01.80 ID:G/cakfhvo

提督「よくよく考えてみれば、お前以外はほぼ無縁仏なんだ」

提督「電が所属していたB提督の部下だった艦娘や、初春と同じ鎮守府で初春と同じように捨て艦にされた艦娘も、この島に流れ着いている」

提督「だが、俺たちはそいつらと直接話をしたわけじゃない。お前のように看取ったわけでもなければ、生前に言葉を交わしたわけでもない」

提督「そこへ行くとお前は、俺より扶桑や山城と付き合いがあったし、朝雲や五月雨とも話しただろ?」

時雨「うん……」

提督「だからお前が俺たちの……いや、扶桑たちのか。未来を見ることにつながったと思ってる。だからエフェメラにも声をかけられた」

時雨「そうかもしれないね……」

提督「この島に埋葬された艦娘は多い。いま、お前や早霜たち以外の艦娘の魂が、どこへ行こうとそいつらの自由ではあるんだが……」

提督「……できれば、望む通りのところに行きついて、穏やかでいてほしいもんだな。虫のいい話だけどよ……」

時雨「……」

提督「悪い。今の話は聞かなかったことにしてくれ。死んだ連中の話は、俺にはどうにもできねえからな」

時雨「……」

提督「時雨?」

時雨「……僕以外の、か……そういえば、あまり気にしてなかったというか、気にかけていられなかったよ」

時雨「提督は、心配性が過ぎるね。艦娘に好かれるわけだ」

提督「……そういうもんか?」
841 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/02(日) 22:21:47.21 ID:G/cakfhvo

時雨「そういうものさ。自分がひどい目に遭ってるのに、艦娘のことを気にかけるんだもの」

時雨「僕たちだって、誰かのために……艦娘のために、自分が犠牲になることをいとわない人がいたら、好意を抱くのは当然さ」

時雨「かつての僕たちもそうだったんだからね。僕たちは、好きな人たちのために……好きな人たちの未来のために、命を懸けたんだ」

提督「……」

時雨「さてと。僕が伝えたいことは一通り伝えたかな」

提督「……ああ。ありがとな」

時雨「提督? どうしてそんな浮かない顔をしてるんだい?」

提督「……いや。なんでもねえ」

時雨「そういう思わせ振りな態度は良くないね。ちゃんと話してよ」ウデツカミ

提督「……っ、だからなんでもねえよ。俺はただ……」

時雨「ただ?」ズイ

提督「……ただ、その、好きってのが、いまいちわからねえってだけだ」

時雨「まだそんな寝ぼけたことを言ってるの? やれやれ、提督には失望したよ」カタスクメ

提督「……」

時雨「提督はそんなもの、もうとっくに理解していると思ったんだけど」
842 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/02(日) 22:22:33.60 ID:G/cakfhvo

時雨「実際に、提督はここの艦娘たちから愛されてるじゃないか。僕は単純に、提督がそれを認めようとしないだけに見えるよ?」

提督「あ、愛され……そ、そんなわけねえだろ!?」

時雨「どうしてそんなに自己肯定感が低いのかな。あれだけの人数の艦娘がいて、みんなが君を認めているっていうのに」

提督「そ、そういうのは信頼ってやつで、好きとか愛とかとは違」

時雨「そうやって艦娘の気持ちを否定して蔑ろにするのはやめてくれないかな」ジロリ

提督「ぐ……」

時雨「提督がそうやって艦娘たちの好意を頑なに拒否し続けていたのは、最終的に提督が艦娘たちの前から後腐れなく消えるためだったよね」

時雨「それが今は、もう簡単に死んじゃいけない立場になってんだ。以前とは状況が違うんだよ? 自分でもそう言っていたじゃないか」

時雨「提督は、これから先ずっと艦娘たちと一緒なんだ。それを『契り』と呼ぶ以外になんて呼べばいいのさ?」

時雨「ずっと誰も受け入れないで、みんなには片思いを強いるくせに、みんなで仲良く暮らせって?」

時雨「不満の火種になっているのは君だっていうのに、まるで自分は部外者だと言わんばかりに他人事だ。呆れて物も言えないよ」

提督「……い、いや、そうじゃなくてだな、そういうのは普通一対一で」

時雨「だったら一人選びなよ。どうせ選べないくせに」

提督「……」

時雨「誰かを選んだら他の人が傷付くから選べない、なんて臆病者の情けない言い訳なんか聞きたくもないね」
843 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/02(日) 22:23:16.71 ID:G/cakfhvo

時雨「そういう腑抜けた考えなんか捨てて、もう観念して全員と『契り』を結べばいいんだよ」

提督「んな……っ!?」

時雨「艦娘はジュウコンカッコカリくらい気にしないよ。一夫多妻制が認められている国だってあるんだし、そもそもこの島に男は君だけなんだ」

時雨「順番くらいは気にするかもしれないけど、この島で暮らそうって時点で不貞なんて最早存在すらしてないはずだよ?」

時雨「あ、メディウムや深海棲艦はそうでもないかな? だとしたら頑張って機嫌を取ってあげなきゃね」

提督「……」アッケ

時雨「ほら、提督。みんなで幸せになろうよ?」ニチャァ…

提督「どこまで本気なんだお前は……」

時雨「僕はどこまでも本気だよ?」ニコ

時雨「まあ、あとは提督がどこまで耐えられるかなんだけど……」

提督「……俺の精神がどこまで持つかってか? ったく、軽々しく言いやがって……」

時雨「ん? そうじゃないよ。精神じゃなくて、えっちに関しての話だよ」

提督「ブハッ!?」

時雨「……リアルに噴き出す人、初めて見たよ。っていうか、言ったじゃないか、『契り』って。何をカマトトぶってるのさ」

時雨「とはいえ、提督は性交渉に嫌悪感を持ってるみたいだから、どうやって克服してあげたらいいかな。荒療治で悪化させても問題だし」

提督「……」アタマカカエ
844 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/02(日) 22:24:01.75 ID:G/cakfhvo

時雨「頭を抱えてないで、提督も真剣に考えてよ。どうして君のシモのお世話を僕が考えなきゃならないか、少しは自覚して」

提督「お、お、お前なあ」セキメン

時雨「提督がはっきりしないから僕がここまで言うんじゃないか。文句があるなら自分で何とかしてよ」

提督「……くそ。言い返せねえ」

時雨「とにかく、僕たち艦娘を大事だと思ってるんなら、態度で示しなよ。それが出来なきゃ、僕は提督のことをヘタレって呼び続けるよ」

提督「……」

時雨「なに? まだ悩んでるの?」

提督「……いや、そうじゃなくて……何をしてやったらいいかわからねえ」

時雨「は?」

提督「わかんねえんだよ。あいつらに何をしてやったらいいか!」

提督「俺はあいつらがにこにこ笑っていられりゃそれでいいんだ。それで足りないからと肉欲に走るのはどうなんだ?」

提督「愛情ってのはそんな短絡的なもんでいいのか? そういうのがわからねえのに体ばかり求めんのは間違ってるだろ……!」

時雨「……提督は本当に真面目だね」

提督「こちとら生憎と童貞なもんでな……そうでなくとも、あいつらをいたずらに弄びたくねえんだよ」

時雨「短絡的なんて言うけど、提督こそ難しく考えすぎだよ」

時雨「とにかく、君を慕う誰でもいいから、逃げずに真剣に向き合ってみなよ。相手が求めているものを、君は見落としてるかもしれないよ」

提督「……」
845 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/02(日) 22:24:46.86 ID:G/cakfhvo

 * 執務室(家具なし) *

クレア「どうしたのまっさん? 元気ないね?」

提督「……お前のその個性的過ぎる俺の呼び方はどうなんだ。魔神だからまっさんか」

クレア「そだよー。てっさんのほうがいい?」

提督「あまり変な呼び方すんな。呼ばれたときに俺のことかどうかが判断できないから、反応できねえぞ」

クレア「そう? じゃあ、混乱しないように、これまで通りまっさんて呼ばせてもらうね!」

提督「……」

リサーナ「んもう、マスターったらノリが悪いぞぉ〜? もっと元気出して! ね?」ピョンピョン

提督「俺はいつもこんなもんだぞ」

ベリアナ「ええ〜? いつもより静かだってば〜。ほらぁ、こっち向いてぇ? 私をもっと見て元気になってぇ〜!」フワフワー

提督「……ふわふわ浮きながら脚おっ拡げてんじゃねえよ。少しは恥じらえ」

ベリアナ「やぁん、そんな石ころでも見るみたいな冷めた眼差し向けないでよぉ! 心が冷たくなっちゃうからぁ、温めてぇ〜」ピトッ

リサーナ「ベリアナばかりずるーい! ほらぁ〜、ウサギは寂しいと消えちゃうんだぞ〜?」ピトッ

提督「……」

ヴェロニカ「まったく……坊やが呆れてるじゃない。おこちゃまは引っ込んでなさい」

ベリアナ「おこちゃまってなによぉ〜! こぉんなカラダの持ち主を、おこちゃま呼ばわりするぅ〜?」
846 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/02(日) 22:25:32.61 ID:G/cakfhvo

ヴェロニカ「図体ばかりで肝心のおつむが追い付いてないじゃない。エミルのほうがまだ大人の自覚がありそうね」

ベリアナ「むー! なによう!」プンスカ!

クレア「ちょ、ちょっとぉ、落ち着きなよ!」

ヴェロニカ「私は落ち着いてるわよ。だいたい、坊やも落ち着きたくてこの部屋に来たんでしょう」

ヴェロニカ「もっとも、くつろぐはずが椅子すら置いてないから、当てが外れたみたいだけど?」

提督「まあな。昔はここに執務用の机と椅子もあったし、ソファもあったからな」

提督「ぶらぶら歩いてもしょうがねえし、部屋の下見も兼ねて腰を落ち着けて一息入れて、考え事をしたくて足を運んだんだが……」

リサーナ「えっ? なになに? どんなお悩み? 可愛いバニーさんがお悩み聞いてあげちゃうぞっ?」

提督「……」アタマオサエ

ヴェロニカ「リサーナ、あなたもお呼びじゃないみたいよ」

リサーナ「むー! そんなことないったら!」プンスカ!

クレア「だ、だから落ち着いてってば! ほら、まっさんの悩みって、明るく話せるような内容じゃなさそうだし!」

リサーナ「私は別に茶化してるつもりもないんだけどぉー!?」

ヴェロニカ「そうねぇ……険しい顔も嫌いじゃないけど、少しはまともにこっちを見てほしいわね?」

ベリアナ「そうよ〜!? 私たちだって、ご主人様のことは心配してるんだからァん!」クネクネ
847 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/02(日) 22:31:01.88 ID:G/cakfhvo

提督「……」

クレア「……うん、ベリアナはちょっとアレだね」

リサーナ「そうねぇ、ちょっとアレよねぇ?」

ベリアナ「アレってドレなの!? ナニなのお!?」

ヴェロニカ「言い回しがまさしくアレじゃない。解ってて言ってるわよね」

ベリアナ「ふふっ、やだぁ、どんなことかしらぁ? もしかしてぇ、ご主人様もそう思ってるぅ? 教えてほしいなぁ……!」

提督「面倒臭え……」

ベリアナ「めんどう!?」ガビーン

ヴェロニカ「……ねえ坊や、場所を変えたほうが良くないかしら。私が見ててあげるから、静かなところで……ゆっくりと、ね」

リサーナ「そう言って独り占めする気でしょ!?」ヒシッ

ベリアナ「抜け駆けは許さないんだからっ!!」ヒシッ

ヴェロニカ「あら、なんのことかしら」シレッ

提督「……わけわかんねえな」ハァ

クレア「えっ、なにが?」

提督「お前らが真面目に俺を心配してくれているかどうかは別にしてだ。そうやって俺にくっついてくるのはどうしてだ?」
848 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/02(日) 22:31:49.63 ID:G/cakfhvo

提督「俺が魔神だからか?」

ベリアナ「それはそうねえ〜」

リサーナ「そこは大前提よね?」

ヴェロニカ「坊やが魔神じゃなかったら、こんなふうに付き合ってなんかいないわ」

クレア「うんうん! それは当然!」

提督「……そうか」

リサーナ「あ、でもぉ、こうやって甘えさせてくれるマスターだったってところは、予定外に嬉しい誤算かなっ!」

クレア「それはあるね! 私、ニコちゃんが言う魔神様ってどんな感じなのか、ぶっちゃけわかんなかったし、もっと怖いと思ってたから!」

提督「まあ……お前らがどんな連中かって考えれば、束ねる親玉もそうはなるか……」

リサーナ「聞いてた話と全然違うんだもの! 楽しくおしゃべりできるし、艦娘ちゃんたちも面白い子が多いし!」

ベリアナ「ニコちゃんが言ってたんだけどぉ、本当は魔神って、すっごくおっきくてぇ、とっても逞しいのよ〜?」

ヴェロニカ「ええ。私たちのことを片手で握り潰せる程度には、ね」

提督「んん? そういう意味の『でかい』なのか? それじゃまるで巨人じゃねえか」

ヴェロニカ「ええ。圧倒的な力で私たちを捻じ伏せ従わせる。それが私たちメディウムを統べる魔神という存在……と、聞いていたわ」

クレア「そういえばまっさん、魔神の腕を召喚したことあるでしょ? あれが本来の魔神の大きさだって!」

提督「あれがか……」フーム
849 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/02(日) 22:32:32.10 ID:G/cakfhvo

リサーナ「あの巨体が、いまはこの体の中に納まってる、ってことになるのよね」ペタペタ

ベリアナ「うふふっ、いまのご主人様のカラダも……あん、こっちもすっごぉい……!」サワサワモミモミ

提督「……」ガシ

ベリアナ「えっ? やん、私の頭を、ちょっとごしゅじ……ふえっ、いっ、痛い痛いいたたたた!?」メキメキメキ

リサーナ「……わぁお。それが噂のアイアンクローね?」ヒキッ

ヴェロニカ「その気じゃないのにそんなとこ触ってたら、そうもなるわよ。呆れた」ハァ…

ベリアナ「んもう、ご主人様が難しい顔してるから、やわやわ〜ってして、緊張をほぐしてあげようと思っただけなのに〜」アタマサスリ

クレア「っていうか、そこは……うん、いろいろ間違ってない?」セキメン

ベリアナ「あ、そうよねぇ! アソコは揉んだら逆にカタくなっちゃ……」

提督「……」テノヒラワキワキ

ベリアナ「やぁんっ! 暴力反対っ! 女の子を泣かせていいのはベッドの上でだけなんだからっ!」ピュイッ

提督「逃げるくらいなら最初から言うなっての……それになんなんだ、そのベッドの上ってのは」

ベリアナ「んもう、ご主人様のニブチン! ムッツリ! こういうときは、余計な力を抜いて全部私たちに任せちゃえばいいのよぉ!」

ベリアナ「たまったものを吐き出して、スッキリしちゃえばいいのよ? 私がぜぇんぶ、悩みも一緒に綺麗に吸い取ってあげちゃうんだから!」

ヴェロニカ「……この子の言い方はともかく、坊やが悶々としてる様は、少し気にはなるわね」ズイ

提督「……!」
850 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/02(日) 22:33:17.28 ID:G/cakfhvo

ヴェロニカ「何をそんなに憂いているのか……何をそんなに躊躇っているのか。少しは白状したらどう?」

提督「……」

ヴェロニカ「……」ジッ

提督「えらい心配してくれるな? お前らとはまだ付き合いも長くねえってのに……」

ヴェロニカ「それは坊やが魔神だからよ。あなたが私たちメディウムのあるじだから」

ヴェロニカ「メディウムは魔神にとって道具以外の何物でもない。坊やが私たちを使うのは、至極当然のこと」

ヴェロニカ「行けと命じれば行くし、死ねと命じれば死ぬ。それだけよ?」

提督「……」

ヴェロニカ「ただ……そうね。まさか坊やに使われてから、感謝されるとは思ってもなかったわね」

提督「!」

クレア「あ、それはそう! まっさんもただじゃすまなかったのに、それを怒らないで褒めてくれたの、びっくりしたよ!?」

リサーナ「そういえば、初めて艦娘のみんなと出撃したときも、頼む、なんてお願いされちゃった時も、胸の奥が熱くなったわね!」

ベリアナ「うふふっ、とっても熱烈なハ・ジ・メ・テ、だったわねぇ〜」

提督「普通だろ?」

クレア「普通なの!?」

ベリアナ「全然普通じゃないわよ〜? 私たちの関係からしたら、アブノーマルもいいところよぉ?」

提督「……」
851 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/02(日) 22:34:03.33 ID:G/cakfhvo

ベリアナ「うふふ、だからこそ……ご主人様には、私のことをたくさん見てほしいな〜って……!」

クレア「ちょ、ちょっと!? なんで脱ごうとしてるの!?」ガシッ

ベリアナ「あん、なんで邪魔するのぉ?」

提督「やれやれ……野暮なこと訊いたな」アタマガリガリ

ヴェロニカ「それで? 坊やの悩みは、少しは解消したの?」

提督「……まあ、手掛かりにはなったかもな」

ヴェロニカ「そう。なら、今度お礼をもらいに行くわね?」

提督「……ああ。何を用意すればいいかわからねえが……」

リサーナ「むぅー! マスター!? 私にもお願いします〜!」

クレア「あっ、私にもお願い!」

提督「わかったわかった。後でな」

ベリアナ「やぁん、ご主人様どこに行くのぉ!?」

提督「散歩だよ。適当に歩かせてくれ」ガチャ

 扉<パタン

ベリアナ「ああん、ご主人様待ってぇ!」

ヴェロニカ「追わないほうがいいわよ」

クレア「な、なんで!?」

ヴェロニカ「あれでも、逃げようとしていないから、よ……ふふふ……はぁ」

ベリアナ「??」

クレア(なんで溜息ついてんだろ)

リサーナ(マスターを言いくるめて手籠めにするあてが外れたから、かしらねぇ……?)
852 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/02(日) 22:35:16.70 ID:G/cakfhvo
というわけで今回はここまで。
853 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/04/02(日) 23:46:28.83 ID:QUpuzjZQ0
墓場島編から来ました 更新乙です
854 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/23(日) 22:11:24.71 ID:CS8kn2M7o
引き続きフラグ回収の回ですが、
やべえくらい話が広がって収集つくのかこれ感が……。
あ、リシュリューとゴトランドは回収しました。

とりあえず続きです。
855 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/23(日) 22:12:16.42 ID:CS8kn2M7o

 * その翌日 夜明け前 *

 * 墓場島沖 医療船 甲板上 *

(船尾の甲板上に溶接された長椅子に、毛布に身をくるんだ提督が座っている)

 コツコツ…

提督「!」

如月「司令官……?」

提督「よう、来たか。悪いな、こんな時間に呼び出して」

如月「それは構わないけど、司令官こそ大丈夫? お鼻の先が赤くなってるわ」

提督「寒いと言えば寒いが大丈夫だ。誰にも邪魔されたくなくてこんな時間にしたんだが、こんなに冷え込むとは思ってなかった」

提督「お前こそ寒いだろ? 俺の毛布で悪いが、ここに入って座ってくれ」ファサ

如月「ええ、そうするわね」コク

提督「……」

如月「……」

 ザザァ…
856 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/23(日) 22:13:01.79 ID:CS8kn2M7o

提督「……なんか、嬉しそうだな?」

如月「そうね。こうやって、肩を並べてふたりで海を見るのなんて、初めてじゃないかしら」

提督「……そうだな」

如月「しかも、こうやって星空の下で、ふたりでひとつの毛布にくるまって……まるで恋人同士みたい。うふふっ」

提督「……」

如月「……司令官?」

提督「ん、ああ……恋人っていうのがどういうもんか、よくわかってなくてな。ちょっと考え込んじまった」

提督「けど、恋人か……こういうのを嬉しく思うのが、恋とか言うんだろうな」

如月「……ええ、そうよ。きっとそう」

提督「なあ、如月?」

如月「なあに? 司令官」

提督「少し、俺の独り言に付き合ってほしいんだ」

如月「……わかったわ。いくらでも付き合ってあげる」

提督「ありがとな……」

如月「うふふっ、いいのよ、司令官のお願いなんだもの。好きにお話ししていいから……ね?」
857 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/23(日) 22:13:46.56 ID:CS8kn2M7o

提督「ああ」

如月「……」ジッ

提督「俺は……お前たちに幸せになってもらいたいと思ってる」

如月「ええ、知ってるわ」

提督「そのためには、俺がいたらいけないって考えてたのも、多分知ってるよな?」

如月「……ええ、知ってるわ」

提督「俺はちっちゃいころから親に否定されて……目に見えるありのままを伝えても、誰にも信じてもらえなくて……」

提督「俺は、みんなにとって……人にとって、一体何なんだろうな、って思ったことが何度もある」

提督「妖精たちは俺のことを理解してくれたが、その妖精たちのことは誰も信じてくれなくて」

提督「結局、俺は人間社会じゃ誰にも相手してもらえなかった。でも、妖精が間違ったことを言っているとも思えない」

提督「じゃあ、俺は一体なんなんだ? 俺は異質なのか? 人じゃないのか、って、疎外感を感じるようになって……」

提督「俺には『人』が信じられないものになってた」

如月「……」

提督「とどめになったのは、あの島で大勢の艦娘の亡骸を見た時だな。艦娘が、人間の言う通りに従った結果が、これか……って」

提督「『人じゃないもの』は、人間に関わったら幸せになんかなれない……ってよ。あのときは漠然とだが、そういうふうに思えたんだ」
858 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/23(日) 22:14:31.46 ID:CS8kn2M7o

如月「……だから、司令官は私たちから離れようとしたのね?」

提督「ああ。俺は、お前たちを不幸にしたくない。あいつらを沈めた人間と同じになりたくない、って……嫌だったんだ、一緒に思われるのが」

提督「けど、俺はその逆も望んでた。あの島が溶岩に覆われて、俺たちが焼け死にそうになったときに口に出ちまったんだ」

提督「俺は、お前たちと普通の人間の生活がしたかった、って」

如月「……」

提督「俺だけじゃなく、お前たちも一緒に、普通の人間に生まれて、こんな戦争とは縁のない、普通の生活が送れたら……」

提督「無意識のうちに、俺はそういうのに憧れてたんだな、って……これでお前たちを幸せにできるのか、って、まあ、いろいろ考えてたんだ」

提督「人間の言う普通のただの何でもない人間になるかか、艦娘たちに普通の暮らしを提供できる人間以外の何かになるか……」

提督「そのどっちかになるのが、俺の望みだったのかって、今更ながら思ったんだ」

如月「……もし、司令官が普通の人だったら、私はここにいなかったわね?」

提督「ああ、そうだな。けど、それで良かった。俺に妖精が見えたのは、結果的には正解だったと思ってる」

如月「!」

提督「自分の正体を知った今だから言えるのかもしれないが……俺は最初から、人の世界の住人じゃなかったんだろうな」

提督「俺が誤って人間の世界に生まれてきたのを、妖精たちが見つけて連れ戻しに来たんじゃないか、って……ま、都合のいい解釈だけどな」フフッ

如月「司令官……!」
859 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/23(日) 22:15:16.85 ID:CS8kn2M7o

提督「まあ、何でこんなことを考えてたか、って言うと……俺がお前たちと一緒にいて問題ない理由を探してただけなんだ」

提督「俺がこれからお前たちと一緒に過ごすんなら、ちゃんと向き合えって言われてな。お前に聞いて欲しかったんだ」

如月「そ、それって……」

提督「……なあ、如月?」ジッ

如月「っ!」ドキッ

提督「もうしばらくの間でいい。俺は、お前たちの近くにいたい」

如月「……!!」

提督「俺は、お前が誰かと楽しそうに笑っているのを見たり、俺を見つけて手を振ってくれるだけで、満ち足りた気分になってたんだ」

提督「この島に流れ着いたあの時と比べて、本当に見違えるようになったし……体の傷が消えたのも、本当に良かったと思ってる」

提督「お前たちのそういう姿を、俺は、もう少し眺めていたいんだ」

如月「な、眺めて、って……司令官は、それだけでいいの?」

提督「ん? ああ……あまり多くは望んでねえしな」

如月「ふぅん……もうちょっと踏み込んで欲しかったんだけど。ねえ、司令官?」

提督「なんだ?」

如月「この話をどうして私にしようと思ったの?」ズイ
860 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/23(日) 22:16:01.28 ID:CS8kn2M7o

提督「んん? そ、そりゃあ、大事な話だと思ったし、それならまず最初にお前に聞いて欲しくて……」

如月「……それで、こんな時間に呼び出したの?」

提督「ま、まあ……話は、それだけじゃねえけどよ」セキメン

如月「えっ?」

提督「……」マッカ

如月「し、しれい、かん?」

提督「俺は、お前たちが幸せそうなら、それで良いんだ」

提督「けど、お前たちは……その、それ以上のことを、俺に望んでるわけだろ?」

如月「……!」

提督「その……俺がどこまで受け入れたらいいのか、つうか、お前がどこまでしたいのか、その、確認、したいというか、教えてほしくてな……」

提督「まあ、なんだ、その……ずっと一緒にいるって言うお前たちに、我慢させるのは、よくねえんだろ?」アセアセ

如月「……」

提督「い、言っとくけど、俺はよくわかってねえからな!? その、恋とか愛とか、そっち系の話は……」マッカ

如月「……」

提督「……」
861 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/23(日) 22:16:46.33 ID:CS8kn2M7o

如月「……」テヲノバシ

提督「んん……?」ヒッパラレ

 チュー

提督「……!!」

如月「……」チュー…

提督「……」


 * *


提督「……」

如月「……」

提督「……その、きさら」

如月「司令官?」

提督「っ……!」

如月「ああいうときは、ちゃんと私を抱き寄せて支えてくれないと駄目よ?」

提督「……そういうのはする前に教えてくれ、っつうか、そうじゃなくてだな……でも、まあ、いいか」ダキヨセ

如月「!」
862 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/23(日) 22:17:31.49 ID:CS8kn2M7o

提督「これまでそういうのを拒絶してきたからな。お叱りは甘んじて受けるようにする……」

提督「ただ、こっちはこういう駆け引きは初めてなんだ。ご期待に沿えるよう努力はするから、お手柔らかに頼むぜ……?」

如月「……もう……」

提督「? 如月……?」

如月「……もう……やっと、司令官が、私を見てくれた……!」ポロッ…

提督「お、おい、泣くほどか……!?」

如月「そうよ? これまでずーっと、あなたは私たちに背中を向けて……」

如月「庇ってくれたり、背負ってくれることはあっても、こっちを向いて抱きしめてくれることはなかったんだもの……!」

提督「……そう、だな。いずれ、出ていくつもりだったからな。まともに、向き合ってなかったのかもな……」

提督「ごめんな、如月」ダキヨセ

如月「司令官……っ!!」ヒシッ

 *

提督「……」ナデナデ

如月「〜♪」スリスリ

提督「如月。寒くないか? 大丈夫か?」
863 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/23(日) 22:18:16.39 ID:CS8kn2M7o

如月「このままで大丈夫よ?」

提督「そうか」

如月「〜♪」

提督「……」

如月「ねえ、司令官?」

提督「ん?」

如月「司令官は……私のこと、好き?」

提督「ん゛ん゛っ!?」

如月「……司令官、私のことは、好きって言ってくれないの?」

提督「……」

如月「……」

提督「いや、その……好きかと聞かれれば、好きなんだが……」

如月「だが?」

提督「こう……面と向かって言うと思うと、すげえ恥ずかしいな」メソラシセキメン

如月「」キューン

如月「も、もう! 司令官ったら、可愛いんだから!」

提督「あまりからかってくれるなよ……」
864 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/23(日) 22:19:02.18 ID:CS8kn2M7o

如月「うふふ……司令官、こっち向いて?」

提督「ん……?」

如月「」チュッ

提督「!?」

如月「うふふふ……!」

提督「……頼むから手加減してくれよ。あいつらが真似しだしたらたまったもんじゃねえ」

如月「そうねぇ……どうしようかしら?」

提督「せめて人前では勘弁してくれ……見られんの、恥ずかしいんだからよ」マッカ

如月「うふふっ……あ、見て。日の出よ……!」

提督「……」

如月「……」

提督「……そろそろ、戻るか。あいつらも起きてくるころだろうしな」

如月「ねえ、司令官?」

提督「ん?」

如月「私を最初に選んでくれて、ありがとう」

提督「一番苦労をかけたからな。これからも、よろしく頼むぜ」

如月「ええ!」ニコッ
865 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/23(日) 22:19:46.41 ID:CS8kn2M7o

 * 朝 *

 * 医療船内 大会議室 *

提督「強情張ってたが、お前らに気苦労かけせちまうってんなら、みっともなくても変えたほうがいいだろ」

提督「メディウムの連中も、自分たちは魔神様の道具だなんて、この前までの俺みたいなこと言いやがるからな……」

提督「俺の悪いとこ見習わせるわけにはいかねえよ。今後は、そういう話は控えるようにする」

吹雪「司令官……!」パァッ

大和「やっとわかってくださったんですね!」パァッ

提督「ああ。ただ、俺も俺で守られっぱなしってわけにも」

朧「だからそういうのをやめてください」

電「司令官さんは危ないところに出てこないでほしいのです!」

時雨「そういうところは相変わらずだね?」

榛名「榛名は心配で大丈夫ではありません!」

提督「……お前らこそ過保護が過ぎねえか?」

霞「あんたはもう少し自分の立場を自覚しなさいよね。わかってない行動が多すぎるのよ」

如月「そうね、そこは司令官の日頃の行いの賜物よ?」
866 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/23(日) 22:20:32.20 ID:CS8kn2M7o

提督「せめて如月くらいはフォロー入れてくれよ……」

如月「あら、ごめんなさい? うふふっ」

朝潮「ご安心ください! かくなる上は朝潮が司令官を全力でお守りします!」ビシッ!

山城「それはいいけど、結局何も変わらないんじゃないの? 提督自身の破滅的な言動が減るってだけでしょ」

提督「まあ、山城の言う通りだな。普段通り過ごす分には特に何も変わらねえ」

提督「何かあるたび抱き着いてくるのも、膝枕しろってのも、俺の布団に入ってくるのも、これまで通り受け入れるってだけだ」

初雪「うん……それなら、何も変わらない」

伊8「そこが変わってたら、はっちゃんブチ切れてました」

那智「さすがに一番最後はどうかと思うのだが?」

提督「そこは俺もそう思う」

大淀「そうは仰いますが、これまでもそれは許容してきたわけですし、無理に変えないほうがよろしいかと」

陸奥「そうね。それより、そこに深海棲艦たちも入ってくるわけでしょ? 提督と一緒にいたがる子、ますます増えるんじゃないの?」

提督「軽巡棲姫あたりはそうだろうな……ちゃんと言い聞かせてやらねえとなあ」

武蔵「是非そうしてくれ。あいつはお前たちが溶岩に飲まれて心中しようってときに、一人だけその場から追い出されたわけだからな?」

提督「わかってるよ……フォローはする」
867 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/23(日) 22:21:18.63 ID:CS8kn2M7o

由良「提督さんは、そういう女性の細やかなところが理解できてないから心配よね」

敷波「でも、いいんじゃない? これからは気を付けるって言うんだから。司令官がおかしなこと言ったら注意していいって話だよね」

提督「まあ、そうだな……だからってあまり無理な要求されても困るが」

扶桑「そのあたりは大丈夫だと思いますよ。提督がかなえられないような無理なお願いを言うような人はいないでしょうから」

初春「提督が受け入れられるかどうかはまた別の話じゃがの?」ニヤニヤ

那珂「那珂ちゃん的には、コンサートホール建ててくれたのがびっくりしたけどなあ〜。提督さん、できないことないんじゃない?」

榛名「深海の皆さんと協力できるようになったから、ある程度のことは何でもできてしまいそうですね」

提督「まあ、極力お前たちが過ごしやすいように手配はするつもりだからな……設備面は頑張らせてもらうさ」

提督「それから最後にもうひとつ、お前たちが本当に島に残る上での心配事も伝えておきたい」

早霜「まだ心配事があるのですか……?」

提督「ああ。俺が今後あの島で生活するうえで避けて通れないのが人間と艦娘との戦いだ」

全員「「!」」

提督「あの島で死んだ海軍の人間の中にも、いい奴がいたかもしれないし、そうでなくてもそいつらにも家族がいただろう」

提督「ついこの前も、盗掘しに来た連中を全員始末した。そいつらの境遇を知れば、助けるべきだった奴もいるかもしれねえ」

提督「それに、深海棲艦やメディウムたちは、当然のように人間を殺す。俺も大佐たちを殺ると決めた時から、覚悟は決めたつもりだ」
868 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/23(日) 22:22:31.93 ID:CS8kn2M7o

提督「正直に言えば、もともと国防のため、人を守るために生まれた艦の化身に、人殺しを受け入れろと言うのは俺もどうかと思ってる」

提督「で、そういう人殺しをやる以上、誰から恨みを買うかわからねえし、いい奴を殺したら罪の意識に苛まれることだって起こるはずだ」

提督「そして、自分と同じ顔をした艦娘とやり合う可能性もある。そこが一番心配だ」

全員「「……」」

提督「まあ、これから俺がやることに少しでも疑問を覚えたんなら、白露が言ってたみたいに、一度離れてもらうのもいいと思ってるんだ」

提督「留まるにしても離れるにしても、自分の意思が一番大事だからな。お前たちの気分のいいように過ごしてほしいというのは変わってねえ」

提督「俺が島に移るまでの間に、考えといてくれ。一度島に渡ってから出ようと思うと、外野がなんて言ってくるかわかんねえからな」

武蔵「ふむ……」

提督「多分、まだ悩んでんのは武蔵と那智あたりじゃねえか? お前たちはそこまで人間を恨めしく思ってないだろう?」

那智「確かにそうだが、余所に行くにしても当てがないからな。白露たちのように連絡員と言うのも考えたが、私の場合は練度が足りないだろう」

提督「まあ、確かになあ……」

那智「とにかく、私はもう少し考えさせてもらおう。幸いにも私にはまだ時間がある」

提督「ああ。それからここにはいないが、個人的に心配なのが金剛なんだ」

榛名「! と、仰いますと……?」

提督「あいつ、誰にでも優しいっつうか、博愛主義的だからな。俺と一緒にいて本当に大丈夫なのか、すげえ心配なんだよなぁ」

大和「そういえば、金剛さんも前の鎮守府に向かったんでしたね」
869 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/23(日) 22:23:16.15 ID:CS8kn2M7o

提督「外泊許可下りるのが遅えんだよ。Q中将の墓参りくらいさっさとやらせてやれってのによぉ」

 扉<コンコン

提督「ん?」

隼鷹「隼鷹でーす! 提督、いるんでしょ? 入っていい?」

提督「おう、いいぞ」

隼鷹「失礼しまーす! うおぅ、いっぱいいる!」ガチャー

隼鷹「前の鎮守府とかに行った艦娘が多いんじゃなかったの?」

提督「戻る必要のない艦娘も多いからな。それより、隼鷹はもう本営から戻ってきたのか?」

隼鷹「まあね〜、いろいろお叱りは受けたけど、やっぱりやりすぎじゃないか、ってことで……」

飛鷹「失礼します」スッ

R提督「失礼いたします!」ケイレイ

隼鷹「紹介するよ。うちの提督、R提督と、あたしの姉妹艦の飛鷹だよ〜」

R提督「あなたが隼鷹を保護してくださった提督ですか……! 本当にありがとうございました!」

提督「そんなに畏まんなくていいぞ? 俺、どうせ海軍辞めんだし」

R提督「いやいや、重要なのはあなたが隼鷹を立ち直らせてくださったことです。言わば隼鷹の恩人!」
870 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/23(日) 22:24:04.49 ID:CS8kn2M7o

飛鷹「そうですよ、隼鷹が自暴自棄だったところを、提督が助けてくださった、って聞いていますよ」

R提督「あなたのおかげで、また隼鷹と一緒にいられることができるようになったんです。この感謝の気持ちは言葉に表せないほどです!」

提督「大袈裟だな。俺は、隼鷹があんたたち2人に会いたいっつうから、それなりの手助けをしただけだ」

隼鷹「えぇ〜? 提督ってば、ぐでんぐでんのあたしを無理矢理立ち直らせてくれたじゃんか〜」

提督「それこそお前があの時に話を聞く気がなかったら、そうはなってねえだろうがよ」

飛鷹「……なんていうか、謙虚なんだかそうじゃないんだか、よくわからない人ね?」

隼鷹「ちょっと面倒臭い人なんだよ。自分が悪者になりたがるタイプの善人って言ったらいいのかねえ……」

提督「違えよ、人付き合いが面倒臭えってだけだ」

隼鷹「身も蓋もないね!?」ガビーン

提督「俺はやりたいようにやってるだけで、お前たちの状況が好転したのも運が良かっただけだと思ってるぜ?」

飛鷹「ええ……? 私たち、お礼を言いに来たんだけど……」

提督「いいんだよそんなの。お前たちはお前たちのこれからのことを考えてりゃいいんだ。また離れ離れになったら困るだろ」

R提督「そうならないように、私はこの2人を絶対に離しません! 絶対に幸せにして見せます!」

隼鷹「ちょっ!?」セキメン

飛鷹「R提督!?」セキメン
871 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/23(日) 22:24:46.68 ID:CS8kn2M7o

提督「おう、是非そうしてくれ。また俺んとこに隼鷹が来るようなことがあったら容赦しねえぞ」

那智「貴様は隼鷹の父親か」

提督「んん? どういう意味だ」

由良「R提督さんのさっきのセリフが、まるで父親に対する『娘さんは僕が幸せにします』的なセリフに聞こえたんですけど」

R提督「あ……」セキメン

隼鷹(そこで赤くなるってことは、自覚なかったんだね……)

武蔵「それを受けての貴様のセリフが、まるで父親みたいだったからな」

提督「いや、それを言うなら『お前に娘はやらん』みたいなこと言うのが父親っぽいセリフなんじゃねえの?」

朧「認めたうえで『不幸にしたらただじゃおかない』みたいなこと言うのもよくある話じゃないですか?」

提督「うわ、そういう話かよ……! あるな、確かに……」アタマオサエ

初雪「……パパって呼んだほうがいい?」

吹雪「お父さん……!?」キラキラッ

提督「お前ら何考えてやがる」ヒキッ

敷波「あたし的には、パパって言うよりお兄ちゃんかなー」

陸奥「お兄ちゃん……ありかも」キラッ

朝潮「む、陸奥さん!?」
872 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/23(日) 22:25:31.26 ID:CS8kn2M7o

初雪「むう……お兄ちゃん……兄さん……にーにー……悩む」

提督「なんだその三つ目の呼び方……!?」

如月「それじゃ私はダーリンって呼ぶわね?」ニコニコ

榛名「」シロメ

伊8「だから榛名さんも白目むいてないでそう呼べばいいんじゃない?」

飛鷹「え、ここの提督ってロリコンなの……?」

隼鷹「いんや? 艦種問わず無差別に好かれまくってるだけだよ? 大和とかも提督のこと好きだよね?」

大和「えっ!? は、はい! それはもう!」

飛鷹「え、ここの提督ってあの見た目で女たらしなの……?」

隼鷹「飛鷹も評価の仕方が極端過ぎるよ!?」

陸奥「女たらしではないと思うわ。艦娘たらしではあると思うけど」

隼鷹「それフォローになってなくない!?」

R提督「隼鷹……おまえ、ツッコミ役だったのか」

隼鷹「R提督も何を言ってんのさ!?」

霞「ああ、もう……全然収集つかないじゃない。いい加減にしなさいよ!」

隼鷹「あたしもそうしたいんだけど……」
873 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/23(日) 22:26:16.39 ID:CS8kn2M7o

霞「とにかく、飛鷹さんに誤解のないように言わせてもらうけど、あの島に来た艦娘はみんな訳ありなのよ」

霞「捨て艦にされたとか、追放されたとか脱走してきたとか、とにかく前の鎮守府で嫌な目に遭わされた艦娘しかいないの」

飛鷹「そうなの?」

R提督「そういえば、轟沈経験艦もいると聞いていますが」

霞「それは一部の人たちね。沈んでないから不幸じゃないなんて言えたものじゃないけど」

扶桑「ええ。そういった状況から提督に救っていただいたのが私たちですので、提督に過剰に好意的なのは当然と言えば当然なのかと」

山城「扶桑お姉様!?」ガーン

R提督「救われた……か。そう言ってもらえているということは、彼はすごいんだな」

飛鷹「で、どうして山城はショック受けてるの?」

時雨「ああ、それは、自分は提督が好きじゃないアピールが通用してないのと、扶桑を提督に寝取られたショックを受けてるんだよ」

山城「しぐれぇぇぇ!?」イヤァァァ!

時雨「でも、山城も提督のことは好きでしょ? 見ていればわかるよ?」

山城「す、好きとか、そんなわけないじゃない!」

時雨「じゃあ嫌いなの?」

山城「そ、そういうのじゃないわよ。あの男がいたから扶桑お姉様が轟沈せずに済んだこととか……」
874 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/23(日) 22:27:01.42 ID:CS8kn2M7o

山城「那珂ちゃんと出会えたのだってあの島があったからだし……し、時雨だって、まさか蘇ってくるなんて、思いもしなかったし……」

山城「み、認めてはいるわよ、提督のことは! 結果論的にだけど! けど、私が好きなのは扶桑お姉様と那珂ちゃんよ!?」

扶桑「山城……」

那珂「山城ちゃん……!」

時雨「……ふーん。僕は?」

山城「うぐっ……!! そ、それは……き、嫌いじゃない、わよ……!」

時雨「えー? 僕のことも好きだって言ってほしいなあ。僕は、山城のこと……好きだよ?」テレッ

山城「」ズギューン

扶桑「山城?」

飛鷹「なんか固まってない?」

山城「」

山城「」

山城「可愛い……」バターン

扶桑「えっ!? 山城!? どうして今の流れで倒れるの!?」

時雨「ちょっとタメを作ってあざとかったかなって思ったけど、いくら何でも装甲が薄すぎるよ!?」

那珂「山城ちゃん! だからその顔は駄目だって! 山城ちゃん!?」
875 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/23(日) 22:27:46.54 ID:CS8kn2M7o

霞「……本当に収集つかないから、その辺にしてほしいんだけど」

時雨「うん、ごめんね?」シレッ

隼鷹「いやー、このドタバタが見られなくなるのも寂しいけど、しょうがないねえ」イヒヒッ

隼鷹「そういえばさ、千歳と足柄はどうしたの? 酒飲み友達として挨拶したかったんだけど」

提督「あいつらならお前同様に少し前から外に出てるぞ。確か、古鷹たちと一緒にL大尉んところに行ってたよな?」

那智「ああ、海風に会いに行っているはずだ」

朧「そういえばL大尉も提督との面会を希望してましたが、まだ鎮守府から離れられないみたいですね」

R提督「L大尉殿……? もしやあの神戸の、練習巡洋艦姉妹を連れた提督のことですか?」

飛鷹「いま、忙しいんじゃないかしら。聞いた話だと、その鎮守府にいろんな提督が殺到してるみたいよ?」

吹雪「なにかあったんですか?」

R提督「実は、彼があの墓場島と呼ばれた島に何回か行き来していたと噂が……というか、実際に提督はお知り合いなんですね?」

提督「ああ」

R提督「みんなあなたに関する情報を欲しがっているんですよ。そもそもあの島がどういう島なのか、その島にいた提督がどんな人物なのか」

R提督「それを知りたい提督たちが、大尉殿のもとに押しかけてきているらしいんです」

朧「うわあ……それで忙しいって言ってきてるんですか」
876 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/23(日) 22:28:32.18 ID:CS8kn2M7o

提督「面倒臭え……超面倒臭えことになりそうだ」ゲンナリ

吹雪「司令官!?」

敷波「しょうがないよねー。司令官はこれまでさんざん人に嫌われてきたわけだし」

敷波「それがいきなり、深海棲艦と対話できる唯一の人だって理由で、その人たちが手のひら返してすり寄ってくるわけでしょ?」

由良「提督さんじゃなくても気に入らないわよね。これからたくさんのそういう人を相手にしなきゃいけないとなると」

初春「それに、これまで提督は、深海のスパイだの裏切者だのとさんざ疑われてきておる」

初春「信用できないと警戒を強める者もおるじゃろうし、そもそも受け入れられぬ者もおるじゃろう」

初春「ややもすれば、かつての大佐のように、この御時世に関わりなく私情や私利私欲のために、戦争を続けようとする輩もおるやもしれぬ」

初春「そ奴らが、提督を利用しようとしたり、或いは気に入らぬからと暗殺を企てたりする可能性も無きにしも非ず……と、わらわは見ておるが?」

提督「最悪を想定するなら初春の言う通りだな。そもそも俺は人間のために戦っちゃいねえんだ、裏切者扱いはまあ妥当なんじゃねえの」

飛鷹「ええ……?」

隼鷹「提督の場合は、艦娘のために、ってやつだね〜」

R提督「……一応確認ですが、提督は、深海勢力に情報を渡していたとか、そういうスパイ行為は行ってはいなかったわけですよね?」

提督「おう。やったことと言えば、艦娘と同じように深海棲艦を保護して、飯食ったり雑談したり、ってくらいだな」
877 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/23(日) 22:29:17.13 ID:CS8kn2M7o

R提督「どうやって仲良くなったんです?」

提督「あー……その深海棲艦、まともに砲撃戦したことがなかったんだよ。で、うちの長門と思う存分戦わせたら、まあ仲良くなったっつうか」

飛鷹「よくご無事でしたね……」

提督「で、それ以降はちょくちょく飯を食いに来て、演習にも付き合ってもらって……それでうちの鎮守府が攻め込まれたとかはなかったな」

提督「むしろ逆に姫級が攻めてくるって話はそいつに聞いたくらいだしなあ。こっちが間諜行為をさせてたってことになるのか?」

R提督「そういう経緯だとすれば、提督を裏切者と呼ぶのは少し違いますね。提督の行いが利敵行為につながったわけでもないようですし……」

提督「それから、そいつのおかげで島の海域の深海棲艦が減ったっつう実績もあるっちゃああるんだよな」

提督「はぐれ深海棲艦を保護して、余所の海域に移動させたりしたとかって聞いてる。だからこの島近海の航路も開けてたんだ」

隼鷹「島に近づきすぎると潮の流れに押し流されて酷い目に合うけどね」

提督「ま、どっちにしろ俺たちは海軍のやることの蚊帳の外だったさ。それを今更どうのこうのと言われる筋合いはねえ」

 扉<コンコン

提督「ん?」

 扉<チャッ

香取「失礼いたします。提督少尉はこちらにいらっしゃいますか?」

提督「んん? お前……」

R提督「香取?」
878 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/23(日) 22:31:41.53 ID:CS8kn2M7o
とりあえず今回はここまで。

次回は大忙しのはずだったL大尉たちが出てきます。
879 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/29(土) 14:03:32.60 ID:BxAZ/rvao
それでは続きです。
880 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/29(土) 14:10:32.17 ID:BxAZ/rvao

香取「ご無沙汰しております、少尉。こちらの方は……?」

L大尉「少尉! いるんだね!?」タタッ

提督「お前……!!」

隼鷹「ええ!? L大尉!?」

R提督「この方が……!?」

L大尉「良かった、無事だったんだね! 変わってないみたいで安心したよ……!」

提督「いや、何でここにいるんだよ! 丁度いま、こっちのR提督から、来客が多くて大変だって話を聞いたとこだぞ!?」

L大尉「そうなんだよ! 君のことを教えろと、あちこちから同業者が集まってきてて、どんな人だとか目的はなんだとか……」

L大尉「どんな食べ物が好きだとか艦娘は誰が好きだとか! ひっきりなしに面会の申し入れが来て休む間もないんだよ!」

朧「これって、さっきの話の……」

初春「そうじゃろうなあ。好みを聞いてくるあたり、提督にゴマをすりたい者がL大尉のもとへ殺到しておるんじゃろうな」

L大尉「そうなんだよ! 僕に訊かれても困るようなプライベートな質問も多くて!」

L大尉「わからないと答えても『わからないじゃ困るんだよ』とか言って逆切れしてくるし!」

L大尉「そうでなくても、これまでさんざん、僕のことも含めて君のことを扱き下ろしてきた人たちがだよ!?」

L大尉「これまでのことを都合よく忘れて、ニタニタ笑いながら圧をかけてくるんだよ!!」ウガー!
881 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/29(土) 14:11:17.08 ID:BxAZ/rvao

L大尉「ああ……もう相手したくない。思いっきり帰れって言ってやりたい!」

香取「思いっきり帰れと叫んでいたではありませんか……あんなL提督、見たことありませんでしたよ」

L大尉「あれ、そうだっけ……?」

隼鷹「予想した出来事が実際に起こってるわけだねぇ……」

L大尉「って、うわっ!? あのときの酔っ払い艦娘!!」

隼鷹「や、やだなあ、今日は飲んでないよ? シラフだよぉ〜」

L大尉「本当だろうね……?」タジッ

香取「……もしや、そちらの提督は、隼鷹さんのもとの提督さんでいらっしゃいますか」

R提督「R提督と申します。うちの隼鷹がご迷惑をおかけしたようで……申し訳ありません」

香取「いえいえ。いろいろと大変だったようですね」

早霜「司令官? この人、確か……」

提督「あ、そうか。お前、こいつ来た時に死んでたんだっけな」

L大尉「死ん……ひいい!? き、きみ、生きてるぅぅ!?」

R提督「轟沈艦を復活させたのですか……!?」
882 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/29(土) 14:12:02.58 ID:BxAZ/rvao

提督「いや、そうじゃねえ。ちゃんと海から見つかったんだが、記憶を引き継いできたっつう、ごくごくレアなパターンなだけだ」

時雨「僕もそういうことになるのかな」

L大尉「もうなんでもありだね、君のところは……!?」

 扉<ガチャー

鹿島「失礼します……あー! 大尉さんも香取姉も、少尉さんを見つけたのにどうして報告してくれないんですか!」ヒョコッ

提督「鹿島も来てたのか……」

鹿島「あっ、少尉さんお久し振りです! みなさーん! こちらの部屋に少尉さんたちがいましたよー!」

提督「皆さん?」

 ゾロゾロ…

加古「いやあもう、あっちじゃゆっくり寝られなくて散々だったよぉ〜……ふわあ」

海風「提督少尉さん、お久し振りです」ペコリ

ガンビアベイ「Oh... みなさん、この部屋にいらっしゃるんですか」

山風「……こんにちは」ペコリ

千歳「あら? そっちにいるのは飛鷹? もしかしてそちらの男性がR提督?」

R提督「私を知っているのですか?」
883 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/29(土) 14:12:48.42 ID:BxAZ/rvao

足柄「隼鷹から聞いてるわ。ということは、隼鷹たちは日本に戻れるのね?」

隼鷹「そうなんだよ、これで舞鶴に戻れるんだよぉ〜!」

古鷹「おめでとうございます! 良かったですね!」

朝雲「おめでたい話が多いと、これまで頑張ってきた甲斐があったって思うわね〜」

提督「お前たちも一緒に戻ってきたのか。山雲と加古は大丈夫だったか?」

朝雲「今のところは心配なさそうよ? L大尉は山雲のことを歓迎してくれたし!」

山雲「そうね〜、ちょっととぼけてるけど、いいひとそうで安心したわ〜」

古鷹「山雲さんは大丈夫そうでしたが、加古は相変わらずあくびばっかりしてました……」

香取「先程も申し上げました通り、鎮守府に少尉の情報を欲しがる提督が殺到してまして。加古さんにはつらい環境でしたね」

加古「電話のコール音がずーっと鳴りっぱなしでさあ……香取と鹿島がてんやわんやだったよぉ」

L大尉「今回ばかりは時期が悪かったなあ。とにかく、しばらく神戸には戻りたくないよ……そうも言ってはいられないけど」ハァ…

提督「それで逃げてきたってか」

L大尉「正直に言えばね。それで、君が滞在しているこの船の所有者であるX中佐に、香取からお伺いを立てて貰ったんだ」

L大尉「他にも相談や報告したいこと……というか、会わせたい人もいて」

提督「……俺にか?」
884 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/29(土) 14:13:33.11 ID:BxAZ/rvao

L大尉「提督少尉にも無関係じゃないから、連れてきたんだ。来てるよね?」

鹿島「はい! ふたりとも、入ってください!」

 スッ…

クルー6「……ど、どもっす」

波元大尉「こ、こんにちは〜」ペコペコ

霞「……あー! あなた……!」

提督「んんん? 誰だ? どっかで見た覚えがあるんだが……」

如月「あ、あなたは……医療船で会った女性提督さん!?」

波元大尉「あ! あなた、あのときの如月ちゃん……!? えっと、その……あの時はごめんなさい」チヂコマリ

足柄「提督は覚えてないかしら。以前私たちがいた鎮守府の提督、波大尉よ! 退役しちゃって元がつくけど!」

提督「ああ……あったな、そんなこと。悪いことは忘れるようにしてっから、あまり顔覚えてなかったぜ」

千歳「で、こちらの男性は、昔、あの島を取材に来たテレビクルーのひとりです」

クルー6「ど、どもっす」ペコリ

提督「鹿島を襲った連中とは別の部屋にいた奴か?」

足柄「そうそう! あの騒ぎのときに私たちと飲んでた彼よ!」
885 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/29(土) 14:14:17.03 ID:BxAZ/rvao

大和「まだテレビ局でお仕事をなさってるんですか?」

クルー6「いえ、あの後、まもなくバイトの期間が終わったんで、もう無関係っす。今は翻訳の仕事をしてるんすよ」

香取「海外から艦娘に関する情報を提供してほしいと依頼がありまして。そのお仕事の一部を彼のいる事務所にお願いしているんです」

電「と、ところで、どうしてそのおふたりが、一緒にいるのですか?」

波元大尉「え、えっと、私たち、結婚したんです!」キャー!

霞「ええええ!?」

初春「なんじゃとおおお!?」

大和「け、結婚ですか!?」

朝潮「存じ上げていませんでした! おめでとうございます!」ビシッ

波元大尉「ありがとう……!! 朝潮ちゃん、本当にいい子だわ……!」ウルッ

千歳「あら? 初春は知ってたんじゃなかったの?」

初春「波大尉が退官してから結婚したことまでは聞いておった! しかし、相手がこの男だとは知らなんだぞ!?」

那智「生憎、私は二人とも面識がないが、おめでたい話じゃないか」

吹雪「なんか全然接点がなさそうじゃないですか!? どこで知り合ったんですか?」ワクワクッ

波元大尉「え? えっとね、私が退院してから退官手続して、そのあと一般企業に入社したんだけど、そこに彼が同時期に入ってきたの!」
886 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/29(土) 14:15:02.13 ID:BxAZ/rvao

クルー6「テレビ局のバイトの契約が終わって、そのあと何社か面接受けて、たまたま同じ会社に試用期間で入ったんす」

クルー6「で、たまたま艦娘を知ってるって話から元提督だってことが分かって……」

波元大尉「あーちゃんとちーちゃんの話になってからはもう早かったわよね〜」

那智「あーちゃん?」

足柄「う、うん」セキメン

隼鷹「で、ちーちゃん?」

千歳「ええ」ニコ

クルー6「一晩だけとはいえ、一緒にお酒飲んでいろいろ話しましたからね。面白い話も、大変な話も。波さんのことも少し聞きました」

波元大尉「このふたりがいなかったら、私の結婚はなかったわ! 本っ当に感謝してる!!」

那智「それでその企業で職場恋愛、ということか」

クルー6「いえ、俺は結局その会社をすぐ辞めて、そこで紹介された翻訳家の人のところで一緒に仕事することになりまして」

クルー6「でも、彼女との付き合いはそのまま続いて、付き合ってるうちに……まあ、こうなったっす」テレッ

香取「その翻訳家の方が海軍とお付き合いがありまして。その縁で彼にお仕事をお願いしているんです」

提督「んじゃ、海軍とは無関係ってわけじゃねえってか」
887 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/29(土) 14:15:47.85 ID:BxAZ/rvao

R提督「しかし、普通の企業が中途採用を半年で手放すでしょうか……?」

L大尉「それが今ちょっと問題になっているんです。社会復帰した元提督の離職率が高いんだそうで」

R提督「そうなんですか?」

香取「はい。提督業を経験した方は、それまで最初から艦娘を部下として扱ってきたためか……」

香取「逆に自分が誰かの下について仕事をすることができない人が多いようなんです」

L大尉「着任初期は駆逐艦が主力になるが、その見た目が可愛らしい女の子だ」

L大尉「なかにはつんけんする子もいるが、基本的に指示には従順で、目的も明確だから軍務に対する理解も深い」

L大尉「そういう環境下にいれば、それが普通になって感覚が麻痺してしまう、と言うことらしいんだよ」

波元大尉「私のときも、その会社が私にほとんど仕事を回してくれなかったんですよ。元提督ってことで気を使われたみたいで……」

クルー6「なんか理不尽に干されてたってことらしいんす」

波元大尉「確かに海軍にいた時は、あーちゃんたちに色々教えてもらいながら提督のお仕事してたから」

波元大尉「OL時代と比べると、上げ膳据え膳で何でもやってもらって、って感じだったのよね」

香取「そのせいか、元提督というだけで雇用を躊躇する企業が増えてまして。おそらく波さんもその煽りを受けたのではないかと……」

波元大尉「私はもともと普通に働いてたから、そんなことないと思ってたんだけど……でも、結果的に私は辞めてよかったと思ってますよ」

波元大尉「わかりやすい嫌がらせしてくるお局様もいたし……まあ、嫌がらせって言っても大したことなかったけど」
888 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/29(土) 14:16:32.90 ID:BxAZ/rvao

足柄「ねえ千歳? もしかして波提督、そのお局様に反撃して恐れられたせいで追い出されたんじゃないの?」ヒソヒソ

千歳「ありそうね。割と気が強いから、そのお局様がこのままじゃ自分の椅子が危ういと思ったとか?」ヒソヒソ

波元大尉「あの時は反動で超やる気だったし、確かにちょっとビビらせすぎちゃったかなー。自分が納得できない仕事させられるの嫌いだし」

足柄「」

千歳「」

隼鷹「こりゃあ、かかあ天下になりそうだねえ」イヒヒッ

クルー6「……や、まあ、確かに姉さん女房ですけど……俺には、いい奥さんっすよ」テレッ

扶桑「まあ。のろけられてるわ」ニコニコ

伊8「末永く爆発してください」

早霜「そうね……ずっと幸せなままでいられる呪いをかけてあげるわ」

武蔵「爆発とか呪いとか、その言葉のチョイスはなんなんだ」

時雨「そういうスラングがあるんだよ」

L大尉「さてと、少尉! いろいろ積もる話もあるけれど、それとは別に後日でいいから時間を貰ってもいいかな?」

L大尉「君がこれからどうするつもりか、とか、僕が君に関して対外的にしていい話がどれくらいか、と言うのを確認しておきたいんだ」
889 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/29(土) 14:17:17.57 ID:BxAZ/rvao

L大尉「今すぐは決められないだろうから、日程調整をお願いしたくてね!」

香取「可能な限り、あなたに向かう問い合わせをこちらで完結させようと思っています。ご協力をお願いいたします」ペコリ

提督「……面倒臭えが、そういう話ならしょうがねえな」ハァ…

霞「来るのはいいけど、もう少し人数絞って来れなかったの?」

L大尉「だって少尉の無事を確認したかったんだよ? みんな少尉やこの鎮守府の艦娘たちに会いたいだろうし」

L大尉「それに、この島に関わったことのある艦娘は全員退避させたかったしね。誰か残したら質問攻めにあうだろうからね」

霞「ああ、そういうこと……なら、仕方ないわね」

山風「白露お姉ちゃんは、いないの……?」

ガンビアベイ「ヒエイも、いませんね?」

提督「白露は青葉たちと一緒に、今後の仕事の話で本営に行ってる。比叡はW大佐のところの榛名に会いに行ってるな」

山風「そうなんだ……」ションボリ

L大尉「間が悪かったなあ、そこも今度来るときに調整したいな」

L大尉「それから、君は海軍から離れるんだろう? 少尉でなくなるわけだし、今後は君を何と呼べばいいかな」

提督「提督でいいだろ。そこは何も変わらねえよ」

L大尉「そうか、じゃあ今後はそう呼ばせてもらうよ」

 扉<ガチャー

少女?「邪魔するぞ!」

全員「「!?」」
890 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/29(土) 14:18:05.06 ID:BxAZ/rvao

敷波「え、今度は誰?」

L大尉「軍服着てるけど誰だろう……香取、知ってる人かい?」

香取「いえ、ちょっとわかりませんが……あの階級章ですと、少将になるかと」

L大尉「は!?」

少女?「ふぅむ……あの島で魔王になったという提督は誰じゃあ!?」

R提督「魔王……ですか!?」

早霜「魔神の間違いなら、司令官のことですよね……?」

提督「まあ、そうだが……ありゃ誰だ?」

大和「なんだか、本営で見た記憶が……」

少女?「むむっ!? おおお、大和型が揃っちょるじゃとぉー!?」

仁提督「し、失礼する! こちらに与少将殿は……いた!!」ガチャー

武蔵「与少将……だと!?」

少女?→与少将「そうじゃ! いかにも、わしが与少しょ」

仁提督「うおおお!? 武蔵がいるのかああ!?」

与少将「わしの名乗りを邪魔するな馬鹿者おお!」
891 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/29(土) 14:18:47.35 ID:BxAZ/rvao

提督「……」

朧「あの人が与少将……!?」

電「なんとなく初春ちゃんに似てるのです」

初春「いやいやそんなことはなかろう……わらわはあそこまで落ち着きがなくはないぞ?」

香取「そ、その与少将殿が、いったいどのようなご用件で」

与少将「決まっておろう! わしは魔王提督と条約を結ぶために来たのじゃ!」

提督「聞いてねえぞ、そんな話」

仁提督「すまんな……少将殿は思い立ったら止まらんのだ」

提督「お前そっくりだな」

与少将「それにしても……よもや大和と武蔵が揃っちょるところをこげんところで見られるとは! どうじゃ! わしの艦隊に来ぬか!」

大和「うわぁ面倒臭……じゃなかった、お断りいたします」

与少将「いま面倒とか言わんかったか!?」

大和「何のことでしょう?」

武蔵「」

提督「お前の上官、本当にお前そっくりだな」

仁提督「貴様の大和も貴様にそっくりじゃないか……」
892 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/29(土) 14:19:32.69 ID:BxAZ/rvao

与少将「な、なぜわしの誘いを拒む! 魔王の軍勢などに居っては、逆賊と謗られることになるのじゃぞ!?」

大和「逆賊? それは聞き捨てなりませんね、どういう意味です?」

与少将「考えてもみい! 艦娘は、世界の脅威である深海棲艦に対抗しうる希望ともいうべき存在じゃ!」

与少将「その深海棲艦と手を結び、人の世の平和を脅かそうとする魔王に与するということは、そういうことになるんじゃぞ!!」

L大尉「え? 提督は艦娘の保護を目指してるのであって、別に人の世の平和を脅かすつもりはなかったよね?」

提督「ああ。むしろ極力関わりを避けたいんだが」

与少将「なぬ?」

如月「なんか、聞いてないぞって顔ね?」

仁提督「おい、こっちの……すまん、誰だ?」

香取「L大尉です」

仁提督「あ、ああ、すまん。俺は仁提督だ。提督、L大尉の話も本当なんだな?」

提督「もう本当に面倒臭え……」

波元大尉「なんか、あの人見てると、他人の話を聞かない昔の私を見てるみたいで、苦しくなってきたわ……」

クルー6「どっかで休ませてもらいましょう」

霞「とりあえず椅子ならあるから、座ってるといいわよ。ほら」スッ

波元大尉「うん、ありがとう霞ちゃん……大好き」スワッテダキツキ

霞「!?!?」カオマッカ
893 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/29(土) 14:20:32.13 ID:BxAZ/rvao

大淀「とりあえず、条約の話をするのでしたらH大将やX中佐へも同席していただきませんと。確かX中佐は今も船内に……」

与少将「何を呑気な! H大将閣下は今、本営で会議中じゃぞ! 本営がお偉方を招集し、魔王提督の扱いについて、まさにいま談義しておる!」

与少将「じゃけぇ、身動きのとれぬ大将たちに代わって、わしがこの場を収めるため出向いてやったという話じゃ!」

提督「帰れ」ギロリ

与少将「!?」

L大尉「おお、やっぱり提督の帰れは迫力あるなあ」

香取「何を呑気なことを……」

与少将「き、貴様、上官に向かって何を無礼な!」

提督「上だろうが下だろうが、最初から俺たちを頭から抑えつけるつもりでいる奴らの話なんざ聞く気はねえよ」

提督「どうせ本営でも、俺のことをまともに知らない連中があーだこーだ決めつけで喋って、手前に都合のいい結論を出すんだろ?」

仁提督「そうかもしれんが……」

与少将「仁提督!?」

仁提督「申し訳ありません。自分が引き取った雪風にまつわる顛末を考えると、彼らが提督の望む結論を導き出してくれるようには思えんのです」

仁提督「勿論、中将閣下やH大将閣下は確かな見識をお持ちでしょうが……」

提督「H大将が有能だとしても、H大将はH大将で腹に一物抱えてるようだしな。俺はそこまで信用しちゃいねえぞ?」

朧「提督、それはしょうがないですよ。H大将は海軍のことも考えなきゃいけないんですから」

提督「んー、そこはどっちかっつうと海軍と言うより人間のために動いてる印象だな」
894 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/29(土) 14:21:17.28 ID:BxAZ/rvao

提督「人間のために譲れるところと譲れないところを、ちゃんと示してくれそうだってところは信頼できそうではあるが」

提督「何を要求してくるかって点では、油断ならねえと思ってるぜ」

L大尉「えーと、少将殿? そもそも提督は海軍を離れるんですから、上も下もなくなるのでは?」

香取「L大尉!?」ギョッ

L大尉「ん? 僕、何か変なこと言った?」

クルー6「いや、でもその通りじゃないすか? 転職先の業務に口を出す上司はちょっとないっすよ」

仁提督「少将殿、勇み足が過ぎます。L大尉の言う通り、提督は少尉どころか海軍の人間ではなくなります。そのように上からでは不興を買うのも……」

与少将「馬鹿者、ここで怖気づいてどうする! 深海棲艦に屈しろと言うか!」

仁提督「ですから、そういうわけでは……」

提督「そもそも、俺のこともまともに知らずに、いきなりしゃしゃり出てきて場を仕切ろうとする奴を信用しろってのが無理だろ」

提督「おまけに大和を見つけて当初の目的を忘れて口説きだす始末だ。んなド近視眼的な奴と将来の話なんかしてられっか」

与少将「ぐぬぬ……!」

 扉<チャッ

X中佐「提督はいるかい……うわあ、何この大人数」

提督「もう勘弁してくれよ……」

吹雪「司令官、大人気ですね……」タラリ
895 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/29(土) 14:22:01.96 ID:BxAZ/rvao

与少将「むむ? 貴様はあの大将の甥っ子殿ではないか」

朝潮「この医療船の管理をなさっているのがこちらのX中佐です!」

X中佐「ああ、あなたが仁提督から報告のあった与少将ですね。初めまして」ケイレイ

提督「船の主に挨拶もなしに入ってきたのかよ……」

大和「今の海軍は階級にフランクになりすぎなのでは……」

X中佐「外に待たせていた金剛は、仁提督の所属だね? 外で待たせないで中に入ってもらおう」

祥鳳「そういうわけですので、どうぞ」

仁金剛「し、失礼しマース」

提督「黒潮たちは連れてこなかったのか?」

仁提督「ああ、そうなると雪風たちも連れてくることになりそうだからな。伊勢たちとうちの戦艦の交流もさせたいし、留守を任せている」

提督「そうか、仲良くやれそうなら、それでいい。で、X中佐は何かあったのか?」

祥鳳「つい先ほど辞令が出まして、X中佐が大佐に昇進しました」

与少将「辞令……!」

電「そうなのですか!? おめでとうございます、なのです!」
896 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/29(土) 14:22:47.08 ID:BxAZ/rvao

那智「もしや、今回の提督の件でか?」

X大佐「そういうことだね。これから更に君との付き合いは深くなりそうだから、改めてよろしくお願いしたい」

提督「ああ、まあ適当にな。で、それだけを言いに来たのか?」

X大佐「君に縁のある尉官佐官についても、伝えておこうと思ってね」

X大佐「まずN大尉。彼には、もうしばらく特別警察的な仕事をお願いすることになって、大将殿から特務大尉に任命された」

提督「ん? 尉官のままなのか?」

仁提督「いや、取り締まりの観点で言えば、特別警察の権限は将官と変わらんはずだ。だからこその『特務』大尉では?」

X大佐「そういうことになりますね。それから、そちらにいるL大尉、あなたは少佐へ昇進です」

鹿島「本当ですか!?」パァッ

香取「おめでとうございます、少佐」

L少佐「……」

古鷹「どうなさったんですか?」

L少佐「いや、元に戻ったっていうのもあるんだけど、タイミング的になんか素直に喜べないなあ」

L少佐「提督と関わりのあった僕に、それ系の仕事が増えそうな気がする」

仁提督「何か困ることでもあるのか」

L少佐「島に関わる仕事となると、古鷹や朝雲たちの負担が大きくなりそうだし……」
897 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/29(土) 14:23:32.11 ID:BxAZ/rvao

L少佐「提督としても、僕が好きか嫌いかは別にしても、僕自身が島と関わるのは控えてほしいと思ってるんじゃないかな?」

提督「それはそうだな」

L少佐「僕も提督に迷惑をかけたくはないしね……何より、提督目当ての上官に押しかけられるのは嫌だなあ」

与少将「なにを言うか! 我らが国民の命を守るための……むもがっ!?」

仁提督「少将殿、この場はひとまずお納めください」クチフサギ

L少佐「そんなことより提督だよ。なんで今の今まで少尉のままなのかが一番意味不明だよ」

仁提督「そこは俺も同意する。轟沈経験艦の対応など、佐官どころか将官の仕事だろうに」

提督「役職なんざいらねえよ、くっそ面倒臭え」

海風「少尉さんは本当に相変わらずですね……」

X大佐「とは言うものの、海軍としては功労者にまともな役職を与えなかったというのは後々の遺恨をもたらすだろう、という話でね」

X大佐「退職の前に、提督は中佐に昇進してもらうことになったよ」

提督「なんだそりゃ……」

R提督「二階級どころじゃない特進ですね……」

武蔵「階級はファッションじゃないんだぞ」

L少佐「これまでが不当に低すぎたんだよ!」
898 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/29(土) 14:24:17.55 ID:BxAZ/rvao

電「そういえば、仁提督とR提督の階級は何なのですか?」

仁提督「俺はずっと少佐だ。大した実力もないし、そんなもんだろう」

那珂「仁提督はもっと上だと思ったんだけどなー」

仁提督「与少将配下の提督はそれなりに精鋭揃いなんだ。そこから見れば俺は新参者だし下の方だ」

R提督「あ、ええと、私は今は大尉です。先日まで処分されてましたので中尉でした……その前は少佐だったのですが」

香取「あら、それではL提督と一緒ですね」ウフフッ

鹿島「そうだったんですか!?」

朝雲「あの時は頭も丸めてたもんね」

L少佐「もう掘り返さないでくれないか……」

香取「ですが、そのおかげで中将閣下に目をかけていただいたのですから、塞翁が馬ですよ」

L少佐「そこは間接的に提督のおかげだと思うよ」

与少将「……」ジロッ

X大佐「ああ、その中将閣下なんだけれど、引退をお考えらしいんだ」

与少将「んなっ、なんじゃとおお!?」

L少佐「中将が……!?」
899 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/29(土) 14:25:02.31 ID:BxAZ/rvao

提督「ふーん……ま、齢が齢だししょうがねえだろうな。足も悪いし治療に専念……」

与少将「こ、こりゃ! 魔王提督! 貴様も大恩あるであろう中将閣下に何たる無礼な口を!!」

提督「ああ? いちいちうるっせえな小姑が」

与少将「」ピシッ

R提督「……」アゼン

L少佐「よ、容赦ないね……?」

提督「これでも気を使ってババアと言ってねえ」フンッ

与少将「」

波元大尉「」

霞「ちょっと!?」

仁提督「……」アタマオサエ

クルー6「マジ容赦ないっすね……」

与少将「おのれ……わしはともかく、貴様には中将閣下に対する敬意はないのか! 不敬者め!!」

提督「あ? 俺の態度なんかどうでもいいだろ。中将が辞めるってのに俺がどうこう口を出す方が余程無粋だろうが」

提督「そんなに中将に敬意を示したいなら、お前が示しゃいいじゃねえか。俺に押し付けてんじゃねえよ、くそが」

与少将「」ビキビキッ

時雨「言葉を失うってこういうことなんだろうなあ……」
900 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/29(土) 14:25:47.11 ID:BxAZ/rvao

波元大尉「……うん、まあ……でもさ、提督も中将にはお世話にはなったんだよね?」

提督「まあ……不知火の件じゃ世話になったな。まともに俺の相手してくれたのも中将くらいだったし、恩義を感じてねえわけじゃねえよ」

提督「ただ、中将の階級が階級だから、そこまで頼りたくなかったっつうのと、息子の大佐がくそ過ぎたせいでなあ……」

波元大尉「中将の息子さん? って、もしかして……死んじゃったらしいからあまり悪く言いたくないけど、あの気持ち悪い人?」

提督「知ってんのか?」

波元大尉「ちょっとだけね。ぞわぞわするくらいねっとりした感じで見られたことがあって、ひたすら気持ち悪いって印象しかなかったんだけど」

大和「……っ!」ゾワゾワッ

提督「その感想は正解だな。如月は大佐のところから逃げてきたんだ」

波元大尉「うえっ!? 如月ちゃんて……そういうことなの!? そんなひどい! あんまりすぎよ!? やだっ、鳥肌立ってきちゃった!」ゾワワッ

波元大尉「ううう、私ったら如月ちゃんに本当にひどいこと言っちゃったんじゃない……本当にごめんなさい!」

如月「大丈夫よ波さん、かたきは取ってもらったし、あの傷も司令官のおかげでちゃんと治してもらえたわ」

波元大尉「そ、そうなの!? 良かったぁ……本当に良かった」ウルッ

仁提督「……かたきを取ってもらった?」

X大佐「あ、その辺はコレで」シー

仁提督「は、はい……」

提督(まあ、言えねえよなあ……大佐の身柄を深海棲艦に受け渡した、なんて)
901 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/29(土) 14:26:32.54 ID:BxAZ/rvao

X大佐「とにかく、あの大佐は、実父である中将殿の暗殺も企てていたほどだ。艦娘の命も何とも思っていなかったんだろうね」

提督「ん? 実父? あいつ、中将と血ぃ繋がってねえんだろ?」

X大佐「……は?」

与少将「……なんじゃと?」

L少佐「ほ、本当なのか、その話」

提督「あれ? 知らねえの? あのバカ、後妻の連れ子だって」

R提督「わ、私は初めて聞きました」

仁提督「俺もだ……」

大和「だ、誰か知ってる方はいます?」

全員「「……」」

香取「どなたも、御存知ないようですね」

提督「言っちゃまずい話だったか?」クビカシゲ

X大佐「……いや、そ、そんなことはないと思うけど……そう、だったのか?」

大淀「提督、そのお話は誰から訊いたんですか?」

提督「大佐の秘書艦やってた赤城からだ」

仁提督「ああ……あの『鉄の赤城』か? だとしたら満更嘘でもなさそうだな」
902 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/29(土) 14:27:19.30 ID:BxAZ/rvao

与少将「そうじゃったか……ああ、そうじゃろうなあ! 彼奴が中将閣下の息子など、何かの間違いであると思っておったんじゃ!」

与少将「それを、中将閣下は誰にも言わず……なんとお労しや……!!」ボロボロボロ

千歳「与少将!?」

武蔵「与少将は随分と中将に入れ込んでいるようだが、なにかあったのか?」

仁提督「与少将殿は、幼いころに中将閣下にお会いしたことがあるそうだ」

仁提督「その中将閣下に憧れて猛勉強し、努力の末、神童と呼ばれるほどの成績で海軍に入ったと聞いている」

仁提督「その真偽はさておいても、その艦隊指揮能力の高さから、いまこの方は若くして少将という地位にいるというわけだ」

X大佐「僕も聞いただけだけれど、与少将が中将と会う方法を僕の叔父さん……T大将殿にも聞いていたそうですね」

与少将「ああ、そうじゃ……わしはあのお方の隣で、艦隊の指揮を執るのが夢じゃった!」

与少将「それをことごとくあのジジイが潰してくれおって……」

与少将「わしが崇拝しているのは中将閣下であって、呉の和中将なんぞではないと言うんじゃあ!」

足柄「和中将?」

L少佐「和中将ってもしかして……」

提督「……」ウヘェ

与少将「X大佐よ! 先刻の辞令に、わしを呉へ異動させる人事はないか!?」

祥鳳「……X提督、こちらに」サッ

X大佐「……ありますね」

与少将「やはりか……あのタヌキジジイめが! どうあってもわしを呉へ連れ去る気か!!」ブワッ
903 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/29(土) 14:28:02.14 ID:BxAZ/rvao

提督「まぁたどっかで聞いた名前だな……なあ那智?」

那智「ああ、よく覚えているな……私もあまり思い出したくはないのだが」ハァ

那智「確かに、実力のある女性提督がまったく靡かなくて困っている、というような愚痴を聞かされたことはある」

提督「それ、まさしくこいつのことじゃねえのか?」

那智「かもしれないな……男らしいところを見せてやれとは返したが」

海風「あの、那智さん? いまは、あなたはその和中将から連絡とかはないんですか?」

那智「それはないな。そもそも何も言わずに出てきたし、この島への着任は海で見つけてもらったことにしてもらっている」

那智「だから彼は私がここにいること自体知らないはずだ。そうでなくても、和中将はあの島を蛇蝎のごとく忌み嫌っていたようだからな」

那智「仮に私がここにいたことを知ったとしても、二度と連絡を取ろうとすることもあるまい」

与少将「ぬ……? ぬしら、和中将を知っちょるのか?」

提督「ああ。お前、あいつに困ってるのか?」

与少将「そ、そうじゃが……」

提督「だったら、この島の関係者だって言えば、あいつ勝手に嫌ってくれるぞ?」

与少将「」シロメ

与少将「」

与少将「」

与少将「わしのこれまでの抵抗はなんだったんじゃ……」ヒザカラクズレオチ

仁提督「少将殿! しっかりしてください!」
904 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/29(土) 14:28:48.04 ID:BxAZ/rvao

提督「なあ、L少佐? あんたんとこにも和中将からは連絡は行ってねえだろ?」

L少佐「来てないはずだなあ。僕たちも和中将からは呉に来るなと言われたし……香取と鹿島も連絡受けてないよね?」

香取「はい、受けていません」

鹿島「呉の中将さんは気難しいお方だと聞いていましたから、意固地になっているんじゃないかと思います」

与少将「……」マッシロ

仁提督「少将殿、お気を確かに」

X大佐「そういえば提督、君のところにいた不知火は、中将の部下じゃなかったのかい?」

提督「ああ。今は中将のところに戻ってもらってるが」

仁提督「そうなのか? ……すまん、恥を忍んで頼みたいのだが、不知火を通して中将閣下への御目文字はかなわないだろうか」

提督「……そういうのは本人の口から言わねえと」

与少将「頼めるのか!?」ガバッ

提督「……」

与少将「であればこの通りじゃ! 何卒! 何卒、中将閣下との御目通しを!! この通りじゃあ!!」ドゲザ

与少将「これ以上、和中将に邪魔されとうないんじゃ!! 後生じゃ……お願いできまいか!!」

仁提督「少将殿!?」
905 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/29(土) 14:29:32.13 ID:BxAZ/rvao

与少将「頼む……わしにできることがあればなんでもしよう! 何か良い方法はないか!?」

提督「……」ハァ…

仁提督「……」

提督「本人の口から、って言ったの、俺だしなあ……」ガックリ

提督「仕方ねえ……おい、那智」

那智「む?」

提督「不知火に事情を説明して、この二人が中将と面会できないか交渉してもらっていいか?」

与少将「……!!」

提督「俺にそんな権限があるかはわからねえ。とりあえず、どんな理由で会うのか、与少将たちとすり合わせしてほしいんだが」

提督「で、そのついでにお前の知ってる和中将の弱みも適当に教えてやれねえか」

那智「それは構わないが……いいのか?」

提督「我ながら甘いと思うが、ここまでやったんなら、それなりの対応はしてやらねえとな……」ハァ

与少将「なんと……なんとありがたい……!!」

提督「中将に会う口実とか、そういうものに俺は口を出さねえからな。那智と不知火とで、うまいことやってくれ」

与少将「感謝! 感謝する!!」ゴンッ

与少将「であればわしに何か手伝わせてくれ! わしができる範囲で面倒ごとを引き受けようではないか!」

仁提督「少将殿!! そのように軽々しく引き受けては……!」
906 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/29(土) 14:30:34.76 ID:BxAZ/rvao

提督「……んじゃ、L少佐のところに来てる同業者をなんとかしてくれねえか?」

与少将「ど、どういうことじゃ?」

提督「こっちにいるL少佐は、まあまあ長い付き合いでな。今は神戸で新米提督相手にいろいろ教えてるんだっけか?」

L少佐「うん」

提督「でだ、俺との付き合いがあったせいで、俺のことを知りたがってる提督が神戸に押し寄せてるんだと」

仁提督「つまり、そいつらを追い払えと?」

提督「L少佐の業務に支障をきたさないようにしてほしい、ってことだ」

L少佐「ちょ、ちょっと! 確かに少将に出てきてもらえば助かりそうだけど……恐れ多いよ!?」

提督「そうか? この上なく都合のいい話だろ? 少なくとも格下の佐官には強く出られるだろうし……」

提督「与少将にしてみても、島に何度か上陸したことのあるL少佐と一緒に仕事をしたっつう実績になるんだ」

提督「お前目当てに来た連中が与少将に追い返されたって話が広まれば、和中将もどう思うかねえ……?」ニタリ

与少将「……!」

香取「それでは提督、与少将からL少佐が御助力賜る旨を、不知火さんから中将殿へ報告していただいてもよろしいでしょうか?」

与少将「!!」
907 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/29(土) 14:31:17.48 ID:BxAZ/rvao

提督「いいんじゃねえかな。ただ協力しただけだとちょっと弱いかもしれねえが……」

L少佐「それならいっそ、与少将も、一度でもあの島に上陸した実績を作ったほうが早くないか?」

提督「それもそうだな、手っ取り早いのはそれか……深海棲艦たちと迂闊に鉢合わせしないようにしないといけねえな」

提督「あ、そうだ、俺たちと会話を持ったことは他言してもいいが、くれぐれも那智のことは伏せろよ。下手に復縁求められても困るからな」

与少将「う、うむ! 合点承知の介じゃ!!」コクコク

L少佐「とりあえず、僕としては提督のことを訊かれたときにどこまで話していいかを確認したいんだけど、いつ話ができそうかな?」

提督「あー……そうだな……」

如月「ねえ司令官、直近の日程だと、今日の午後にX大佐と話す予定でしょ? 一緒に話をしてもらったらいいんじゃないかしら」

X大佐「……いいよ、話す内容は前後するけど、必要な情報だ。調整しよう」

L少佐「本当ですか!」

香取「ありがとうございます」ペコリ

仁提督「悪いが、その話に自分たちも参加させてもらえないだろうか。少将殿も参加させてもらえると話が早いだろうし……」

仁提督「それに以前、俺のところにテレビ局の関係者が聞きに来たこともあるんで、俺としても対策を取りたい」

提督「関係者?」チラリ

クルー6「お、俺っすか? いや、俺もうテレビと無関係すよ?」

波元大尉「そうなの? この前、そのテレビ局の知ってる人からメールが来たって言ってたじゃない」
908 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/29(土) 14:32:02.50 ID:BxAZ/rvao

クルー6「あー、4さんからの写真すか……これっすね」スマホトリダシ

山風「! ちょっと、見たい……!」

仁提督「俺にも見せてくれ」

提督「……」チラッ

 スマホ『おっさんが滅茶苦茶いい笑顔で択捉ちゃんと記念撮影してまーす』

クルー6「なんか、新しく、かいぼうかん? って艦娘が発見されたらしくて。その取材に行ったときに撮ってもらったらしいっす」

山風「……」

提督「ああ、こいつが乱暴やめろって叫んでた奴か。まだ艦娘がらみの仕事続けてんのか?」

クルー6「あの一件以来、艦娘の取材には必ず引っ張られてるみたいっすよ」

仁提督「俺のところに来てた奴とは違うな……」

クルー6「そうなんすか? それだと接点あったかどうかわかんないっすね」

R提督(これ、職権乱用にならないかな……?)タラリ

山風「……」ムッスー…

仁金剛「……なんであの山風はご機嫌斜めデース?」

仁提督「さあ……?」

ガンビアベイ(自分を助けてくれた人が、他の艦娘といい笑顔で映ってるのが気に入らないんでしょうネ……)
909 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/29(土) 14:45:03.03 ID:BxAZ/rvao

提督「あ、そうだ。おい、仁提督」

仁提督「ん?」

提督「与少将の部下に、深海棲艦は絶対ぶっ倒す、みたいな考えの奴はいるか?」

仁提督「んー……いや、どちらかと言えば俺がそうだったんだが、逆に窘められたことはある」

仁提督「深海棲艦がなぜ人間を襲うのか、その目的や理由がわかれば、無駄に消耗しないし住み分けできるんじゃないか、と……」

仁提督「与少将が部下を集めたときも、そもそも深海棲艦とは何者か、という議題で話が始まったときもある」

仁提督「お前がやってのけた深海棲艦との対話なんてのは、与少将にとっては願ったり叶ったりだと思うんだが」

提督「あいつ、俺たちのことを逆賊とか言ってやがったぞ」

仁提督「おそらく『魔王』のフレーズだけでお前を悪者だと思い込んだんだろう……で、本当に『魔王』になったのか?」

提督「『魔王』じゃなくて『魔神』って呼ばれてる。まあ、大差ないとは思うけどよ」

提督「いずれにしろ人間じゃなくなったし、物騒な連中が増えたから、あまり気軽に島に来て欲しくはねえな」

仁提督「……まあ、たまに黒潮たちが遊びに来たいと言うようなら、それもいいだろう?」

提督「おう。それは一向に構わねえよ、元気なのを定期的に連絡してくれるなら、それもそれで安心だ」

仁提督「ということは、アレか。深海棲艦は絶対ぶっ倒す、みたいな連中に目をつけられたってことか?」

提督「ああ……『説得』できりゃあいいんだがな」
910 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/04/29(土) 14:45:47.20 ID:BxAZ/rvao
と言うわけで今回はここまで。
911 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/04/30(日) 18:51:02.43 ID:4dSvezhqo
おつおつまさかの新キャラがロリババア吹いた
912 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/05/14(日) 13:10:47.37 ID:HHe/6brVo
>911
日進みたいな子を連想していただければと。

続きです。
913 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/05/14(日) 13:11:32.18 ID:HHe/6brVo

 * 同時刻 *

 * 鹿屋 W大佐鎮守府 *

最上「へーえ、僕にも第二改装がくるのか〜」

W熊野「ええ、計画されていると、本営からのお達しがありましてよ」

W鈴谷「いつ来るかってのはわかんないんだけどね〜」

最上「三隈にはそういう話はないのかな?」

W熊野「残念ながら、そういう話があったのは今のところ最上さんだけですわね……」

最上「そっかー、残念。三隈と一緒に改装出来たら嬉しいんだけどなー」

三隈「最上さん……!」

W鈴谷「なーんか二人ともすっごい仲良しだよね。なになに、なにかあったの? ワケアリって感じ?」

最上「なにかあったってわけじゃないけど、三隈が単に僕のことを気に入ってくれてるみたいでさ」

三隈「最上さん!?」カオマッカ

W鈴谷「ははーん、そういうこと! 大丈夫だいじょーぶ、この鎮守府にふたりの仲を引き裂こうなんてヤボな人はいないから!」ニヒヒッ

三隈「……ここの日向さんが最上さんを狙ってるように見えるんですが」
914 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/05/14(日) 13:12:16.75 ID:HHe/6brVo

W熊野「あの方は、瑞雲の素晴らしさを広めたいだけですわ。三隈さんにも日向さんからのアプローチがあったのではなくって?」

三隈「ええ、まあ……でも、熱心だったのは最上さんに対してですわ」

最上「多分だけど、僕が瑞雲をもっと使うようになれば、三隈もそうしてくれるって思ってるんじゃない?」

W鈴谷「そこまで深く考えてないんじゃないかなあ? フツーに見どころあったんじゃない? 艦載機の搭載機数が多いからとか」

最上「ああ、なるほどー」

W熊野「ところで、おふたりはこの鎮守府へ転籍を決めたんですの?」

最上「そうだね。W大佐にもお願いされたし、航空火力艦が多いここなら、僕たちも役に立てそうだしね」

三隈「ええ。最上さんがセクハラ被害にあうこともなさそうですし、三隈もご一緒できればと思いますわ」

W鈴谷「やっりぃ! これで最上型勢揃いじゃーん!」

W球磨「これで頭に『ミ』って書いた頭巾を被らせられずに済むクマ」ニュッ

三隈「はい?」

最上「ああ、ミ、球磨ってこと?」

W球磨「クマー」ウナヅキ

W鈴谷「てゆーか、そんなことやってないし〜!」
915 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/05/14(日) 13:13:02.23 ID:HHe/6brVo

最上「それじゃ、僕の代わりはどうするつもりだったの?」

W球磨「北上に『モ』って書いた上着を着せてやるクマ」

最上「あはは、それだと『もかみ』だね!」

W熊野「言っておきますけど冗談ですわよ? そもそもこの鎮守府に雷巡は不在ですわ」

三隈「球磨さんも航空攻撃はできませんわよね?」

W球磨「できないけど、そもそもW提督が伊勢を改装するまでは、普通に砲雷撃戦に重きを置いてたクマ。その当時は球磨も優秀だったクマ」

W球磨「自分で言っちゃうけど、球磨はここの艦隊の中でも古株クマ。非航空部隊の中では一番練度が高いクマ」フフン

W鈴谷「そうそう! 意外じゃなく今も今で優秀なんだよね〜」ナデナデ

W球磨「クマァ〜」ウットリ

W球磨「……って、そこでなでなでしないクマ!」プンスカ!

最上「でも、気持ちよさそうにしてたよ?」ジリッ

W球磨「ちょっと待つクマ。どさくさにまぎれて撫でようとするなクマ」ジリッ

W伊勢「あっ、いたいた!」

W熊野「あら? 伊勢さん、お戻りになられてましたの?」
916 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/05/14(日) 13:13:47.49 ID:HHe/6brVo

W球磨「ということは、提督も戻ってきてるクマ?」

W大佐「ああ、最上たちはここにいたのか」ヌッ

最上「どうしたの? 僕たちに何か用?」

W大佐「ちょっとまずい状況になった。俺と同じくH大将の部下だった曽大佐が、H大将のもとを離れたことは聞いているか?」

W熊野「まあ……あのリベンジャー提督が?」

最上「なんだいそのリベンジャーって」

W鈴谷「文字通り深海棲艦に復讐したがってるって言うか。その人、とにかく深海棲艦をすっごい恨んでるみたいよ?」

W伊勢「そそ。そういう人だから、深海棲艦と交渉の場を持ったH大将に激怒したらしくてさ」

三隈「ああ……それで、H大将を見限って離反したと?」

W伊勢「そういうこと」ウンウン

W大佐「今回の事件は想定外の出来事が多すぎたんだ。J少将による大将暗殺計画といい、提督が深海棲艦と交遊できていたことといい……」

W鈴谷「海底火山の噴火と、メディウムもね?」

W大佐「ああ。そんな状況から、提督を助けようとした深海棲艦たちと対話することになるなんて、誰にも予見できなかったと思う」

W大佐「H大将殿が、不本意であってもご自身の方針を変えざるを得なかったのも、俺は仕方のないことだと思っている」

W大佐「それが曽大佐には受け入れがたいんだろうな。あいつは、深海棲艦の存在そのものを許せない男だ」
917 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/05/14(日) 13:14:31.74 ID:HHe/6brVo

W球磨「それ、まずくないクマ? 海軍と曽大佐の意思が乖離してたら、曽大佐の行いを海軍が止めないといろいろ厄介になるクマ」

W熊野「そもそも、あの方の気質からして、深海棲艦と話し合う気は毛頭ありませんわよね? 曽大佐はこれからどうするつもりなのかしら」

W大佐「曽大佐は、自分と考えを同じくする他の将官に、自分を売り込もうとしているらしい」

W大佐「ただ、その将官たちも、さすがに今は慎重になるべきと考えているようで、曽大佐はなかなか新しい後ろ盾を見つけられずにいる」

W熊野「そうなりますわよね」

W大佐「曽大佐は焦っているんだ。このまま世界が深海棲艦を迎合してしまったら、自分の理想は遂げられないからな」

W大佐「ここから先は俺の想像だが……そうなると、次に矛先が向くのはあの島だろうと思っている」

三隈「まさか……提督を狙うつもりですか!?」

W大佐「提督と深海棲艦のどちらが先か、というのはあるが、曽大佐に狙われるのは間違いないだろう」

W大佐「彼は深海棲艦を滅ぼすべき敵だと認識している。それを受け入れて保護している提督も、曽大佐が放っておくとは思えない」

W大佐「曽大佐が動けていないのは、おそらく、彼に賛同する将官や、協力して艦隊を出そうとする提督が集まっていないからだろう」

W伊勢「戦争を終わらせるための大事な拠点になるかもしれないってのに、それを台無しにできる度胸があるか、って話だもんね」

W球磨「一歩間違えば全面戦争クマ。慎重にならないほうがおかしいクマ」

W伊勢「それにあの島、注目されたせいで、今頃になっていろんな物騒な逸話が出てきてて、みんな及び腰になってるんだよねー」

W鈴谷「物騒な逸話? なになに? 何があったの?」
918 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/05/14(日) 13:15:16.86 ID:HHe/6brVo

W伊勢「うーん、例えば、あの島は海流の影響で、行ったらなかなか戻ってこれない場所だったんだって。かつては流刑地同然だったとか?」

三隈「ああ……」

最上「流刑地かあ。ある意味、僕たちもそんな感じだったよね?」

三隈「最上さん!?」

W熊野「……そ、そういう自覚がおありだったんですの?」ドンビキ

最上「まあね。僕たち、当時の提督に歯向かっちゃったから」

最上「日常的にセクハラされてたってみんなに証言してもらってなかったら、解体処分だったと思うよ?」

三隈「……」

W鈴谷「うえー、セクハラされて反撃したから島流しになったの? 仕方ないかもしんないけど、なーんかヤだ〜」

W伊勢「あと、幽霊が出るって話もなかったっけ?」

最上「そうなの? それは僕たちは聞いたことないかも」

三隈「でも、轟沈した艦娘が流れ着く島だったんですもの。少なくとも、あの丘の上に並んだ艤装の数だけ、轟沈艦がいたわけですし」

三隈「幽霊くらいいてもおかしいとは思えませんわ」

W球磨「……深海棲艦が住むことになっても不思議じゃない島な気がするクマ」
919 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/05/14(日) 13:16:01.60 ID:HHe/6brVo

最上「住んではいなかったけど、僕が来た時には戦艦ル級が普通に遊びに来てたよ?」

W伊勢「は?」

W熊野「マジですの?」

W鈴谷「あはは、熊野が『マジ』だって! ウケるー!」

W球磨「そこ笑うところクマ!?」

W熊野「鈴谷!? 私がマジとか言ったらおかしいとでも言うんですの!?」

W球磨「今その話はしてないクマ。話が逸れるから静かにするクマ」

W熊野「厳しくありませんこと!?」

W伊勢「ちょっと待って。ル級?」

最上「うん、深海棲艦の戦艦ル級。割と昔から、あのル級とは交流があったみたいだよ」

三隈「あくまで提督との個人的な付き合い、ということらしいですわ」

最上「大佐が連れてきた泊地棲姫を追い返すときも協力してくれたから、仲は良いんだろうね」

W球磨「どうやって仲良くなったんだクマ……」

W鈴谷「きっかけはとにかく、仲良くなれたのをわざわざぶち壊そうとしなくてもいいと思うんだけどー」

三隈「それだけ、曽大佐の深海棲艦への恨みは深いということなんでしょうね……」
920 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/05/14(日) 13:16:46.80 ID:HHe/6brVo

W鈴谷「あそこの鎮守府の艦娘、あたし苦手なんだよねー。みーんな曽大佐に感化されてて、すっごいピリピリしまくっててさぁ」

W球磨「わかるクマ。全然余裕がなさそうで息苦しい鎮守府クマ」ウンウン

W伊勢「とにかくそういうわけだから、最上と三隈はしばらくあの島には戻らないほうが良さそうだ、って伝えたかったの」

三隈「……とりあえず、わかりました」

最上「あーあ、提督も大変だね。曽大佐がどんな恨みを持ってるのかしらないけど、提督にしてみればとばっちりだよ」

W熊野「とばっちり……」

最上「そうじゃないのかな? あの島に集まった深海棲艦のうちの誰かが曽大佐に何かしたって言うんならわかるけど、そうじゃないんでしょ?」

最上「例えば、ある国の人に家族や友達を殺されたからって、その国に住む人間は全員悪だ、なんて理屈は横暴だと思わない?」

最上「その人が嫌いになるのはしょうがないと思うけど、それで皆殺しにするほどかな? 提督にしてみたら絶対にとばっちりだよね?」

三隈「とばっちりかもしれませんけど、どちらにしても、あの提督にはきっと関係ないでしょうね」

W大佐「……最上たちに訊きたいんだが、島に住む深海棲艦が提督に、ある場所を攻撃してほしい、と頼んだらそれは聞き入れると思うか?」

最上「そこは深海棲艦のお願いの内容によるんじゃないかな?」

最上「お願いを聞くにしても、提督は島にいる艦娘や深海棲艦が巻き込まれないようにするだろうし、無理なお願いなら突っぱねると思うなあ」

三隈「かつての島の、ゆるりとした生活を取り戻したいとは思っているでしょうけど……そのために他の国や拠点を攻撃するとは思えません」

三隈「そもそも厭世的な方でしたから、他国を攻めたりして目をつけられることのほうが嫌だと思うのではないでしょうか」
921 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/05/14(日) 13:17:32.01 ID:HHe/6brVo

最上「そうだね。島の住人が増えたとしても、提督自身は人の世界に関わろうとはしないんじゃないかな?」

三隈「その島の住人が、提督に黙って勝手にどこかへ攻め込むことはあるかもしれませんね」

最上「……そうなったら、提督はどうするかなあ」ウーン

W大佐「なるほど。提督が、自分の意志で外へ攻め込む可能性は低いとみていいのか?」

最上「だと思うけど、そこまで突っ込んだ話だと、僕たちに訊くより比叡さんのほうが詳しいんじゃないかな?」

最上「僕たちよりずっと前から鎮守府にいたって言うし」

W大佐「ふむ……後で聞いてみるか」

W伊勢「ちなみにその比叡は?」

W熊野「榛名さんと一緒に工廠の方に行っているはずですわ」

W鈴谷「めっちゃテンション高かったよねー。あんなに笑ってる榛名さんは初めて見たよ?」

W熊野「せっかくですわ、あの比叡さんもこちらに移籍していただいたほうがよろしいんじゃありませんこと?」

W球磨「球磨もそれがいいと思うけど、あの比叡は轟沈を経験してるクマ。そのあたり、大丈夫なのかクマ?」

W鈴谷「うあー、そっかー。そのへんダイジョブになんないと、確かにいろいろ怖いよねー」
922 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/05/14(日) 13:18:16.88 ID:HHe/6brVo

W熊野「……うーん、仮に比叡さんが深海棲艦になったとしても、話が通じれば良いのではなくて?」

W球磨「ちょっと何を言ってるかわからないクマ」

W熊野「艦娘が深海棲艦になったとしても、人を襲わないのなら問題視しなくても良い、と思ったのだけれど……そうではないのかしら」

W熊野「話が通じなくて、かつ、分別なく人を襲うからこそ危険なのは、なにも深海棲艦に限った話ではなくてよ?」

W伊勢「あぁ……まあ、そうなるかな?」

W球磨「熊野の言わんとしてるところはわからなくないクマ。でも、艦娘が深海棲艦になるって状況自体、相当のことだと思うクマ」

W球磨「球磨は、艦娘が正気を保てなくなったから深海棲艦になると思ってるクマ」

W球磨「轟沈自体が艦娘にとって絶望的なものなんだから、深海棲艦になった時点でまともじゃなくなってると思ってるクマ」

W熊野「でも、あの島には話の通じる、まともな深海棲艦がいたんでしょう? 深海棲艦がまともじゃない、という理屈は通じませんわ」

W球磨「そう言われればそうなるクマ……」ウーン

三隈「いずれにせよ、艦娘が深海棲艦になった記録もあの島にはありませんし……」

最上「あの島にいて誰も深海棲艦にならなかったんだから、あの話自体がでたらめなのかもね?」

全員「「……」」

W大佐「いずれにしろ、安易に引き取るというわけにはいかないだろう。向こうの都合もあるだろうしな」

W鈴谷「手続きもいろいろ面倒臭いもんねー」
923 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/05/14(日) 13:19:01.82 ID:HHe/6brVo

 *

W大佐「最上たちの話を聞く限り、提督が島から外へ出てどこかへ攻め込むということはなさそうだな?」

W伊勢「そうみたいですね。船であちらの提督の話を聞いたときの話と、だいたい符合してますし」

W大佐「Xが作った共存への道を曽大佐が潰すのは避けたいが、深海棲艦の跋扈を許したくない曽大佐の気持ちもわかる」

W大佐「できればうまく潰しあって痛み分けになってくれればいいんだが……」

W伊勢「W提督は、あの島に深海棲艦がいないほうがいいとお考えでしたよね?」

W大佐「ああ。そうでなければ、あの島に深海棲艦がいたとしても、海軍が支配した状態になっているのが望ましい」

W大佐「あの提督がいる限り、それも難しそうだがな」

W伊勢「海軍に協力してくれなさそうだ、って意味で?」

W大佐「……ああ。二度も海軍の人間に殺されそうになったんだ。俺たち海軍は……いや、人間は恨まれていると思ったほうがいいだろう」

W大佐「Xのように協力的な姿勢を見せる人間がいなければ、彼が人間を滅ぼそうと考えてもおかしくないように思えるしな」

W大佐「そもそも、妖精と話ができる人材をあんな離島に追いやったことを、なぜ上は誰も疑問視しなかったのか……」

W伊勢「そこはもう、手遅れだったとしか思えないけどなあ。W提督も聞いてるでしょ? あの島の提督、もとから相当な人間嫌いだって」
924 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/05/14(日) 13:19:48.15 ID:HHe/6brVo

W伊勢「艦娘を唆して人間を裏切るんじゃないかってことを懸念して、中将閣下とその息子である大佐に押し付けたって、誰かも言ってたし」

W大佐「だったら、海軍が信頼できる組織だということを、彼に示せば良かったんだ」

W大佐「妖精から不祥事を聞かれたくないというのなら、普段からそういう行動をしていればいいだけのこと……」

W大佐「裏切る要素があるからと、保身のため、責任逃れのためにたらい回しにしたのでは、不信感を持たれて当然だ……!」

W大佐「もっとも……あのとき、J少将の目論見を見抜けなかった俺が言っても、説得力がないのかもしれないがな」ハァ…

W伊勢「……」

W大佐「いずれにしろ、いまは提督の言い分を聞くしかないだろう」

W大佐「不本意だが、リンガ泊地の城塞鎮守府も、あの提督のおかげで落ち着きを取り戻したとO大尉から報告を受けた」

W大佐「彼が海軍のために動いてくれたのであれば、我々も応えるのが礼儀、と言うものだ」

W伊勢「……曽大佐はやりづらいでしょうね」

W大佐「だろうな。曽大佐は、あの島を攻撃する口実を作ろうとしているようだが……いま動くのは下策と言わざるを得ん」
925 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/05/14(日) 13:20:31.73 ID:HHe/6brVo

 * 一方 *

 * 曽大佐鎮守府 *

曽大佐「なぜだ!? あれほど深海棲艦の撃滅に協力的だった仲間が、あいつらの撃滅を躊躇するんだ!!」

通信『し、仕方ありませんよ大佐! もしかしたら、この戦争を終わらせることができるかもしれないんですよ!?』

曽大佐「なにが終戦だ! 人に仇なす存在でしかない深海棲艦がいる限り、戦いが終わるわけがないだろう!」

曽大佐「これまでさんざん戦ってきた深海棲艦がどういうものか、お前は忘れたのか!?」

曽大佐「あいつらと人間が共生できるわけがない!? 寝言は寝て言えと言うんだ!」

通信『し、しかし、共生は無理でも、住み分けが……』

曽大佐「あいつらのために譲っていい場所などあるものか!! 奴らは侵略者だぞ!? 甘い顔を見せつけあがらせる気か!」

曽大佐「海の平和を乱すものを徹底的に叩いて排斥し、海に秩序をもたらすのが俺たちの使命じゃないのか!!」

通信『で、ですが、その秩序を作るために話し合いを……』

曽大佐「あいつらに我々の望む秩序を守れると思っているのか!? 人ですらないんだぞ!」
926 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/05/14(日) 13:21:16.48 ID:HHe/6brVo

曽大佐「駆逐艦を見ろ! あれを人と呼べるのか!? 戦艦棲姫を思い出せ! 誰もが化け物だと言わなかったか!!」

曽大佐「人間は、深海棲艦に恐怖したんじゃなかったのか!! 陸の人間はもう忘れたのか!! 俺たちはまだ戦争中なんだぞ!!」

通信『……』

曽大佐「情けないことに、我々人間が奴らに直接対抗する術はない。未だに艦娘頼みだ……!」

曽大佐「その状況で深海棲艦と和睦だと!? 思い上がりも甚だしい!! 身の程を知れと言うんだ!!」

通信『お、落ち着いてください大佐……!』

曽大佐「落ち着いていられるか……! 深海棲艦が領土を持つことの重要性と危険性を、本営は何も理解していない!」

曽大佐「最悪、我々だけであの島から深海棲艦を追い出す算段を考えねばならん……!」

曽大佐「だからこそ戦力を募っているというのに、終戦などという世迷言に惑わされる愚物ばかり……お前はどうなんだ」

通信『っ……じ、自分は、まだ……』

曽大佐「そうか。俺はまもなくあの島への攻撃を予定している。準備しておけ」

通信『……い、急ぎ、準備、いたします……!』

 プツッ

曽大佐「そこで『はい』と言えんのか……!? 腰抜けばかりか、この国は……!!」ギリッ
927 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/05/14(日) 13:22:02.12 ID:HHe/6brVo

 * 翌日 *

 * 墓場島 埠頭 *

提督「はぁ……こんなに早く人間を上陸させることになるとはな。ま、与少将がうまく抑止力になってくれりゃいいんだが」

ヲ級「!」

提督「ん? お前、あの打ち合わせに出てたヲ級か? お前が時雨を見つけてくれたんだったな?」

ヲ級「提督ヒトリカ……コンナトコロデ、ナニヲシテイル」

提督「散歩だよ。新しい鎮守府がどういう感じか、見て回ってる」

ヲ級「艦娘ハドウシタ」

提督「人間が島に来てるんで、護衛を押し付けてきた。俺もたまにゃあひとりで適当にぶらぶらしたいときがあるんでな」

ヲ級「……」

イ級「」ザバー

ロ級「」ザババー

提督「おー……作った水路、いい感じに機能してるみたいだな」

ヲ級「……」コク
928 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/05/14(日) 13:22:47.44 ID:HHe/6brVo

提督「深海の駆逐艦って、改めて見るとでけえな。イルカよりでかいか? イルカの実物、見たことねえけど」

ヲ級「イ、ルカ……? アア、アイツラヨリハ大キイナ」

提督「けど、分類としては駆逐艦なんだよな。こうやって見ると、お前やル級より装甲硬そうに見えるんだが」

ヲ級「イイヤ、ソウデモナイ。ソレニ、私タチヨリ身体ガ大キイブン、被弾モ多イ」

提督「ああ、なるほど……確かに、そこはでかけりゃいいって話じゃねえか」

提督「それにしても……なあ、知ってたらでいいから教えてほしいんだが、いいか?」

ヲ級「ナンダ?」

提督「深海の駆逐艦が人型じゃないのはどうしてなんだ?」

ヲ級「……」

提督「軽巡は顔が隠れてるが人の体や腕を持ってるし、潜水艦も人の顔を持ってるけど、駆逐艦は人らしい要素がないんだよな」

提督「逆に艦娘はどんな艦であっても人型だ。この違いは一体何だろうな、と思ってな」

ヲ級「……ソレハ、考エタコトモ、ナカッタ……」

提督「そうか。まあ、生活に不自由しなきゃいいなと思ってるだけだから、あまり深く考えなくていいぞ」

ヲ級「……生活?」

提督「ああ。俺や艦娘、それからメディウムたちも一応は人の姿を取ってるから、人間と同じような生活をしてるんだが」

提督「お前たちは海中で過ごすんだろ? 寝るときに布団に入ったりしないだろうし、風呂の習慣もないよな?」
929 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/05/14(日) 13:23:47.53 ID:HHe/6brVo

提督「食事だって、まさかテーブル囲んで食べてるとは思えねえ。お前もそうだが、あの駆逐艦たちは普段は何を食ってんだ?」

ヲ級「食事? ……燃料補給ノコトカ。ソレナラ海底ノ重油ダナ」

提督「油か。まさか、自分で堀りに行ったりしてるのか?」

ヲ級「場所ガワカッテイルカラ、ソコマデ行クトキモアルシ、オマエタチガ鬼級ヤ姫級ト呼ブ艦ニ用意シテモラウトキモアル」

ヲ級「泊地棲姫ノトコロニイタトキハ、駆逐艦ガ集メタ燃料ヲ分ケテモラッテイタ」

提督「その時も燃料なのか。魚とかは食べないのか?」

ヲ級「タマニ魚モ食ベルガ、エネルギーヘノ変換効率ハ良クナイト思ッテイル」

ヲ級「ソレニ私ハ、アマリ生魚ヲ美味シイト思ワナイカラ、イツモ燃料ヲ貰ッテイル」

提督「そうか。じゃあ、補給用の設備が整ってれば、いまのところは安泰と思っていいか」

提督「ん? となると、俺たちと同じ飯を食うル級は変わり者ってことになるのか?」

ヲ級「イヤ……タブン、私タチニハ調理トイウ概念ソノモノガ、抜ケ落チテイタンダト思ウ」

ヲ級「深海ニイタトキニ、アタタカイ食ベ物ヲ摂ルコトハ、ナカッタ。ソレガ普通ダッタカラ、ナ」

提督「なるほど。駆逐艦の見た目も食い物も、指摘されるまで疑いすらしなかった、ってことか」

ヲ級「私タチノ名前モソウダ。私タチニハ、名前トイウ概念ガ、ナカッタ。名前ヲツケル自由ガアルコト自体、考エニ至ラナカッタ……」

ヲ級「ダカラ、人間タチガツケタ名前ヲ、私タチモ使ウヨウニシタ。私タチガ、イッタイ何者ナノカ、考エラレナカッタカラ……」フラッ

提督「お、おい、大丈夫か!?」

ヲ級「……少シ、記憶ガ、混乱シテイル」
930 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/05/14(日) 13:24:31.93 ID:HHe/6brVo

ヲ級「オマエト、話シテイルト、イロイロナコトヲ……忘レテイタコトヲ、思イ出スヨウデ……」

ヲ級「……私ハ……ワタシ、ハ……」

提督「おい!? しっかりしろ!」

ヲ級「……ッ!?」

提督「大丈夫か……? 何かしら思い出すのはいいのかもしれねえが、ふらふらしてたぞ?」

ヲ級「……大丈夫ダ。私ガ何者ナノカ、思イ出セソウナ、感ジガシタダケダ」

提督「……」

ヲ級「艦娘ニハ、艦名ガアル。ダガ、私タチニハ、ナイ」

ヲ級「タブン、私タチガ、自分自身ヲ何者ナノカガ、ワカラナイカラダト思ウ」

ヲ級「私タチ……『ヲ級』ト呼バレル個体ノ姿ガ似テイルノモ、艦娘ノヨウニ、本来ノ自ラノ艦名ヲ、思イ出セナイカラダト、思ウ」

提督「そうなのか……?」

ヲ級「……ナントナク、ソウ思ッタダケダ。当タッテイルカドウカハ、ワカラナイ」

ヲ級「私ガ推測シテ、納得デキソウナ答エヲ考エタ結果、ソウイウ結論ニ至ッタダケダ」

提督「そうか。どっちにしても、無理はすんなよ」

ヲ級「……?」

提督「なんでそこで不思議そうなするんだよ。お前が何かを思い出そうとしてたとき、倒れそうだったじゃねえか」
931 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/05/14(日) 13:25:17.10 ID:HHe/6brVo

提督「体を壊したら元も子もねえ。少し休んでからでもいいだろ、って思っただけだ」

提督「忘れてる、ってことは、もしかしたら思い出したくないことかもしれないからな。やばいと思ったら無理すんな」

ヲ級「……ソウカ」

提督「さてと、俺はもう少し館内を見回ってくる。お前はまた哨戒に行くのか?」

ヲ級「……」コク

提督「んじゃ、気を付けて行けよ。何かあったらすぐ連絡しろよ」

ヲ級「待テ」

提督「なんだ?」

ヲ級「ナゼ私ガ、時雨ヲ見ツケタ個体ダトワカッタ?」

提督「ん? 普通に顔を見てわかったんだが」

ヲ級「……ソウカ」

提督「おう。んじゃな」

 スタスタ…

ヲ級「……」

ヲ級「ナルホド。アノ、ル級ガ、ヨク笑ウワケダ」
932 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/05/14(日) 13:26:01.68 ID:HHe/6brVo

イ級「」ザバー

ロ級「」ザババー

ヲ級「……!」

イ級「ホキュウオワリ」

ロ級「ミマワリデカケル」

ヲ級「……ソウダナ」

ロ級「?」

イ級「ナニカアッタッポイ?」

ヲ級「……イヤ。今日ハ、アタタカイナ」

イ級「タシカニ、イイオテンキ」

ロ級「オデカケビヨリ」

ヲ級「……サア、行クゾ」ザァッ

イ級「リョウカイ」ザバー

ロ級「ナノデス」ザババー
933 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/05/14(日) 13:28:32.14 ID:HHe/6brVo

 * その少し後 *

 * 埠頭そばの休憩スペース *

 (屋外にいくつか並んだ丸いテーブルの一つに、泊地棲姫とル級が向かい合って座っている)

泊地棲姫「自分ノ名前?」

ル級「海域ノ哨戒ヲ任セテイタ、ヲ級ガソウ呟イテイタノヨ」

ル級「私ハ一体、何ダッタノカ、ッテ」

泊地棲姫「……オ前ハ、考エタコトハ、ナイノカ?」

ル級「……ウッスラト、ソレジャナイカ、トハ思ッテイルケレド、アマリ深ク考エナイヨウニシテルワ」

泊地棲姫「考エナイヨウニ、シテル? ドウシテダ?」

ル級「イロイロ思イ出セバ、私ガ変ワッテシマイソウダカラ。今ノママガ、一番良イ気ガスルノヨネ」

泊地棲姫「……アノ男トノ関係ヲ、変エタクナイカラ、カ?」

ル級「……マア、ソウイウコト、ネ」

泊地棲姫「フフ……可愛イコトヲ言ウヨウニナッタナ。オ前モソノウチ、変異スルンジャナイカ」

ル級「……ナニソレ」

泊地棲姫「私ノコレマデノ見立テデハ、人ノ愛憎ヲ多ク知ル者ガ、強大ナ深海棲艦ニナルト考エテイル」

泊地棲姫「強イ感情ガ、強イ意志ヲ生ミ、強イチカラヲ作ル。憎悪ヤ未練ガ残ッテイルホド、ソレガ私タチノチカラトシテ顕現スル」
934 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/05/14(日) 13:29:18.72 ID:HHe/6brVo

泊地棲姫「生マレタテノ深海棲艦ガ、最初ニ破壊衝動ヲ抱クノモ、同ジ理由ダト思ッテイル」

ル級「憎悪ヤ未練ガアッタカラ、無意識ニ人間ヲ襲ッテイタ……ッテコト?」

泊地棲姫「私ハ、ソウ考エタ。オ前モ、提督ガ死ニカケタトキ、突然パワーアップシタダロウ? ダカラ、ソウ考エタンダガ」

泊地棲姫「考エレバ考エルホド、感情ヲ知レバ知ルホド、私タチハ深化シ、知恵ヲ得テ、ソレガチカラト成ル……オ前モソウジャナイノカ?」

ル級「……」

泊地棲姫「イマノ話カラスルト、ソノヲ級ノ身ニモ、ソノウチ何カ起コリソウダナ」スクッ

ル級「……? ドコヘイ行クノヨ」

泊地棲姫「ドコニモ行カナイゾ。コーヒーヲ淹レルダケダ」

ル級「コーヒー?」

 タタタタッ

ロゼッタ「やっほー! 美味しいコーヒーがあるって聞いてきたんだけど!」

ル級「!?」

タチアナ「不躾に申し訳ありません。ロゼッタ、はやる気持ちはわかりますが……」

タ級「姫ー! コーヒー、アルンダッテ? 早ク出シテクレ!」シュバッ!

タチアナ「……」
935 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/05/14(日) 13:30:16.76 ID:HHe/6brVo

ル級「ドウイウコトダ?」

泊地棲姫「オ前ハ聞イテナイノカ? 提督ガ、知リ合イノ艦娘カラ、コーヒーヲ貰ッタンダ。ソレヲ分ケテ貰ッタ」

泊地棲姫「良イ豆ダッタカラ、飲ミタイ者ヲ誘ッテイタンダガ……」

タチアナ「私どもは、こちらのタ級さんたちがコーヒーの話をしていた時に丁度居合わせまして」

タ級「賑ヤカナホウガイイダロウ? 他ニモ誘ッテルゾ」

ヲ級「……誘ワレタ」(←哨戒中のヲ級とは別個体)

ツ級「同ジク」

ヘ級「同ジクー」(←ツ級に背負われている)

泊地棲姫「ヨシ。デハ少シ待ッテイロ」

ロゼッタ「えへへー、楽しみ!」

ヲ級「哨戒中ノアイツハ誘ワナカッタノカ?」

タ級「アイツ、真面目ダカラ、仕事ガ終ワッテカラ、ッテ言ッテタゾ」

ル級「……」
936 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/05/14(日) 13:31:03.28 ID:HHe/6brVo

 *

タ級「コレ、ウマイナ!」キラキラッ

ロゼッタ「おーいしーー!」キラキラッ

タチアナ「良い香りですね……!」ウットリ

ヲ級「……」キラキラッ

泊地棲姫「フフ、ソウダロウ?」ドヤッ

ツ級「……」チュー

ヘ級「……」チュー

タチアナ「あちらのお二人はストローで飲んでいるのですが……」

タ級「マスクガ邪魔ダカラナ」

ツ級「!」キラキラッ

ヘ級「!」キラキラッ

泊地棲姫「好評ダナ」ドヤァァ
937 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/05/14(日) 13:32:01.70 ID:HHe/6brVo

ル級「コレハ、アメリカンテイスト、トイウヤツカ」

泊地棲姫「私ハ軽イ方ガ好キダカラナ。アノ男ハ、濃イ目ノエスプレッソノホウガ好ミダソウダガ」

タチアナ「お茶でも渋いほうが好きだと仰っていましたね」

泊地棲姫「ル級ハドウナンダ? 濃イ味ノホウガイイノカ?」

ル級「濃サハ、アマリ、気ニシナイガ……ナントイウカ……」

泊地棲姫「?」

ル級「……懐カシイ、香リダナ……」

タ級「ル級ハ、コーヒーヲ飲ンダコトガアルノカ」

ル級「イヤ、紅茶ヲ勧メラレタコトハアルガ、コーヒーハ初メテダ。ナノニ、懐カシイ、ト……」

ヲ級「確カニ……言ワレテミレバ」

タ級「……?」

泊地棲姫「カツテ艦ダッタコロノ記憶ガ、ソウ思ワセテイルンダロウナ」

タ級「私ガ、コーヒーガオイシイト思ウノモ、昔ソウダッタカラダッテ言ウノカ……?」

泊地棲姫「カモシレナイ、ナ」

タ級「……フーン」

ル級「……」ズズッ
938 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/05/14(日) 13:33:02.31 ID:HHe/6brVo

ロゼッタ「あ、お菓子食べる?」

ヲ級「……イタダク」

タ級「太ルゾ?」

ヲ級「私ハ大丈夫」パク

ヘ級「……」チュー

ツ級「……」ズゾゾゾ…

泊地棲姫「……フフ。平和ナモノダ」

ル級「……」

タチアナ「どうしました?」

ル級「……泊地棲姫モ、変ワッタナ」

タチアナ「現状に満足しているというのであれば、良い傾向だと思います」

ル級「……提督モ、ソウダ。今ノトコロハ、良イホウニ変ワッタト思ウ」

ル級「メディウムノ奴ラニ、身体ヲイロイロ弄ラレテイルノハ、気ニ入ラナイガ」ジロリ

タチアナ「……」

ル級「誰モカレモ、提督ニ多クヲ求メスギナノヨ。提督デアリ、魔神デアリ、イマヤコノ島ノ最高責任者」

ル級「アノ男ガ壊レルヨウナコトガアレバ、私ハ……!」

タチアナ「……」

泊地棲姫「メディウムガ、アノ男ヲ崇拝シテイルノハ、理解シテイル」

泊地棲姫「ダガ、ダカラト言ッテ、オ前タチノ好ミニ作リ変エラレルノハ、艦娘モソウダロウガ、我々モ黙ッテハイナイゾ……?」

泊地棲姫「アノ小娘ニ伝エテオケ。アレハ、オ前タチノモノデハナイ、トナ」ニヤリ

タチアナ「……ええ、承知しました。確かに、伝えておきましょう」ニヤッ
939 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/05/14(日) 13:34:46.79 ID:HHe/6brVo
というわけで今回はここまで。

次スレの最初に深海勢とメディウムの紹介文も用意しておかなきゃ……。
940 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/06/01(木) 14:15:04.84 ID:H8U6al+fO
しばらく読んでなかったらめっちゃ進んでた。
墓場島も完結したし、また最初から読むか。
941 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/06/04(日) 22:30:47.46 ID:MAX3x8VTo
>940
いま読み直すと、辻褄の合わない場所が多くて
恥ずかしさのあまり顔が赤くなります。
見直しって大事ね……。

続きです。
942 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/06/04(日) 22:31:31.49 ID:MAX3x8VTo

 * 昼過ぎ *

 * 鎮守府本館から埠頭への通路 *

キャロライン「ふええ……ダーリン、ごめんネー……」グスグス

提督「別にお前が悪いわけじゃねえだろ。それとこれとは話が別だし、そもそもありゃあ事故だ」ナデナデ

如月「あら? 司令官、こんなところに……どうしたの? メディウムの子を泣かせるなんて」

提督「ん、如月か。なんつうか、キャロラインがニコたちの会話を聞いたらしいんだけどよ……」

提督「深海棲艦の連中が俺の心配をしてるらしくて、メディウムにクレームいれたんだと」

如月「クレーム?」

提督「ああ。俺をこれ以上、作り変えるな、ってよ」

如月「……」

提督「俺が一番最初に魔力槽に入ったときに、俺の体が溶けて消えて、一から作り直されたって話は覚えてるよな?」

如月「え、ええ……」

提督「その時に一緒にいたのがキャロラインだったんだが、その出来事が結構ショックだったらしくてな」

キャロライン「ダーリンが消えちゃったトキは、本当にビックリしたノー……」グスグス

提督「それが忘れられなくて、また同じことが起こったらどうしよう、ってことで、俺のところに相談しに来たんだ」

キャロライン「ダーリンが、まだホントの魔神のチカラに目覚めてない、って、ニコちゃん言ってたノ」
943 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/06/04(日) 22:32:16.08 ID:MAX3x8VTo

キャロライン「ワタシ、ダーリンが強くなったり、ワタシたちと仲良くなるのは嬉しいケド……」

キャロライン「今の優しいダーリンが消えちゃうのもイヤなノ……!」グスッ

如月「……そういうことだったのね」

提督「まあ、人間じゃなくなるのは俺としては嬉しい話だったんだが……」

提督「この島を守るためには、少し人間の部分が残ってねえと、ちょっと都合が悪いかも……って考えてる」

如月「それって、外交的な意味で?」

提督「ああ。どうせ人間どもは自分たちとは違う連中に『権利』を持たせる気がねえはずだ」

提督「人に近しい艦娘に人権を持たせてねえのが、その証左だ。だから、この島の支配を『権利』として主張するためには……」

提督「俺に人間である要素がちょっとでも残ってねえと、連中との話し合いに不利になりそうな気がしてんだよな」

如月「うーん……」

提督「まあ、なるようにしかならねえけどな、こういうもんは。結局は、自分に都合のいい屁理屈の押し付け合いだ」

提督「そこで折り合いがつかないから戦争が起こる。自分の言うことを聞かせたくて、屈服させるために、武器を振りかざして命を脅かす」

提督「そもそも、人間どもが俺たちにそういう譲歩をするつもりがあるか、ってのも疑わしいが……」

提督「そういうのが面倒臭いから、引き籠るっつってんのによぉ……本っ当に面倒臭え」

キャロライン「ダーリン……?」
944 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/06/04(日) 22:33:00.79 ID:MAX3x8VTo

提督「まあ、話が脱線したが、俺も俺が俺以外の誰かの意志で変えられちまうのは御免だ」

提督「できればこのまま、いまのままで過ごせりゃあいいんだけどな」

キャロライン「? なら、そうすればいいんじゃないノ?」

提督「そのつもりだけどよ。どうしても長く生きると、考え方とかが知らないうちに偏っちまう」

提督「これからメディウムや深海棲艦と一緒に過ごすわけだが、俺の考え方がいつの間にかそいつらに染まったりするかもしれないし」

提督「俺がジジイになったら、いろいろボケて馬鹿なこと言い出すかもしれねえし……そういう人間もたくさん見てきたからなあ」ウーン

如月「そういうことなら大丈夫よ、きっと。私たちが、お傍にいますから、ね?」

キャロライン「ワタシモ、ダーリンとずっと一緒にいるヨ!」ダキツキー

提督「……まあ、そうだな。キャロラインも俺のことが心配で話しに来てくれたんだろうし」

提督「如月も、俺が変なら何かしら言ってくれるだろうしな。そこは頼りにさせてもらうぜ」ナデ

如月「うふふっ、任せてちょうだい」ニコニコ

キャロライン「ダーリン、優しくてダイスキー!」スリスリ

キャロライン「ニコちゃんが言ってた魔神って、ワタシたちが失敗したら消しちゃうかも、って言ってたカラ、ちょっと怖かったノ!」

提督「……」

如月「なんだか、他人事とは思えないわね……」

提督「気を抜かないように、って考えてのブラフなのかもしれねえが……もしかしたら、どこの組織も、似たようなもんなのかねえ」

如月「ニコちゃんもああ見えて責任感っていうか使命感が強いし、誰にも容赦しないタイプなのかもしれないわね?」

提督「そうだなあ……適度に肩の力が抜けるようにしてやるか」
945 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/06/04(日) 22:33:46.43 ID:MAX3x8VTo

 * 午後 *

 * 医療船内 大会議室 *

与少将「まさか本当に深海棲艦と話ができるとはのう……」

仁金剛「緊張しましたケド、意外とフレンドリーでしたネー」

X大佐「今日はお土産のコーヒーがあったおかげかな? 前回よりいくらかフランクに話せましたね」

提督「ガンビアベイには礼を言っとかねえとな。それにしても、仁提督はビビりすぎだろ」

仁提督「仕方ないだろう! 俺は昔、あいつらに砲撃されてるんだからな!?」

仁提督「個人的な恨みがないわけでもないし……艦娘を使って間接的に恨みをぶつけてきた自覚もある」

提督「だったら島に行かなきゃ良かったじゃねえか」

仁提督「そんな真似ができるか! 少将だけ行かせて何かあったらどうする!」

提督「ぶっちゃけ護衛のために金剛だけ行かせても良かったろ。一番後ろで青い顔してたくせに」

仁提督「ほっとけ!」

与少将「そがいにからかってやるな。聞けば、あの島に漂着した艦娘の艤装も、みな焼失したんじゃろう?」

与少将「仁提督からは、演習と、沈んだ艦娘に手を合わせるために島へ行くと、何度か報告を受けちょったからのう」

提督「……ふーん」
946 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/06/04(日) 22:34:32.27 ID:MAX3x8VTo

仁提督「まあ……自分が雪風たちを連れてこの島へ来るための口実に使ったところもあったが……」

仁提督「事情はともかく戦って沈んだことに変わりはない。最後に手を合わせておきたいと思うくらいはいいだろう?」

仁提督「俺がこの島に来る機会も、もうないと思っているからな」

仁金剛「ン−? そこは黒潮次第ではありまセンカ?」

仁提督「……」

仁金剛「ヘーイ、テイトクー? まーだ魔神提督に苦手意識持ってマスカー?」ズイ

提督「別に苦手でいいぞ? 俺自身、人間と関わる機会は減らしてもらったほうがいいと思ってる」

提督「普通の人間なら深海棲艦を恐れるだろうし、深海棲艦に生活圏を脅かされたなら憎いと思うのも当然だ」

提督「うちに来た深海棲艦にも、人間と関わりたくない、艦娘に攻撃されたくない、って奴がいるからな」

提督「そういう時ゃあ、お互い無理にお近づきになる必要はねえ。距離取って関わらないようにすりゃいいんだよ、こういうのは」

与少将「まさしく大人の対応じゃな……」

提督「普通だろ? 犬嫌いに犬を押し付けても、ろくなことにならねえのと一緒だ」

仁提督「確かにな。下手をすると、犬が怪我させられかねん」ウンウン

仁金剛「なんだか実感こもってますネー……」
947 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/06/04(日) 22:35:17.45 ID:MAX3x8VTo

与少将「魔王と言うからもっと好戦的かと思っちょったが、思いのほか話せる男じゃな……」

仁金剛「イエース。ついでに少将ー? 魔王じゃなくて魔神デス、マジン提督デース」

与少将「んむ……ま、まあとりあえずじゃ、わしはこれから神戸に向かう。L少佐がどんな鉄火場を迎えちょるんか、見とかんとな」スマホトリダシ

与少将「それから部下にも事の次第を伝えにゃあならんし……時間だけ決めとくかのう」シャシャシャッ

提督「電話機でできるのか?」

仁提督「電話機……お前はスマホを知らんのか」

提督「ほぼ触ったことねえな」

X大佐「提督にもスマホを持ってもらったほうがいいかな?」

与少将「いや、まお……魔神提督が個人のスマホを持つのはもう少し先でいいと思うがのう?」

仁提督「便利だと思いますが……」

与少将「うんにゃ、この大事な時期に、魔神提督がスマホの説明書とにらめっこしちょる暇はないじゃろ」

与少将「使えるようになったらなったで、スマホいじりに夢中になってもらっても困るけえ」
948 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/06/04(日) 22:36:01.07 ID:MAX3x8VTo

与少将「それに万が一、海軍内で魔神提督の連絡先が流出でもしたら、そこに電話が殺到するはずじゃ」

X大佐「……なるほど。L少佐の事務所と同じことになる、と」

与少将「じゃけえ、スマホでもガラケーでもピッチでも、持たせるにはもちっと余裕ができてからのほうが良えと思っちょる」

与少将「大淀あたりに持たせるんならええかもしれんが、それよか今は海軍の中に正式な窓口を設けたほうが良えじゃろ」

与少将「X大佐たちにとっても、魔神提督に接触を図りたい者が誰なのか、把握も管理もしやすくなるけえの」

X大佐「それが良いですね、承知しました。そのように取り計らいましょう」

与少将「魔神提督も、ひとまずそれで良いな?」

提督「ああ、その方が助かる」

仁提督「むしろ当分持たないほうがいいだろうな……」

仁提督「お前の場合、ただでさえ対応が面倒だと言いそうだし、電話口でどんな暴言をひり出すかわからん」ハァ…

提督「おう。よくわかってんじゃねえか」ニタァ

仁金剛「相変わらず悪い笑顔デース……」ヒキッ

与少将「……ほんに大丈夫なんじゃろな、この男」ヒキッ

X大佐「え、ええ、まあ、大丈夫ですよ。多分……」タラリ
949 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/06/04(日) 22:36:46.20 ID:MAX3x8VTo

 * 本営 中将の執務室 *

H大将「結論から言えば、あの島は深海棲艦へ割譲する扱いになった」

H大将「提督は中佐として海軍を退役。戸籍や国籍の問題は残るが、そのまま島に残り、その島に住む深海棲艦をまとめてもらう運びとなる」

中将「不知火と赤城には、海軍の代表として、引き続き提督の応対とX大佐の補佐を頼みたい」

不知火「承知しました」

赤城「お任せください」

H大将「大井、俺たちはひとまずこの件から離れることになる。もし何か問題が発生すれば、まず北上に対応してもらうことになるだろう」

H大井「そうですか……わかりました」

中将「それから早速だが、政府から提督と面会したいとの申し出があった」

不知火「……!」

H大将「海軍を離れる提督たちとは、現在X大佐が主体となって対応してくれているわけだが……」

H大将「深海棲艦との話し合いができると聞いた各省庁が、我々に任せてほしいと口を挟んできたらしい」

赤城「それでは、提督少尉は今後、政府と対話を持つということになるのですか」

H大将「どうだろうな。まず、あの男が素直に政府との面会に応じてくれるかどうかがわからん」

H大将「それに俺たちと話した時ですらあの態度だ。国家間交渉の場でどんな物言いをするか……俺は落ち着いて見ていられる自信はないぞ」
950 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/06/04(日) 22:37:31.31 ID:MAX3x8VTo

赤城「そうですか? 私は楽しみですよ。政府の要人が彼と話して、いったいどんな顔をするか……ふふふっ」ニヤリ

H大井「赤城さん!?」

中将「赤城は、彼らの話が友好的に終わるとは思っていないのだな?」

赤城「はい。正直に申し上げて、彼らの道理が深海棲艦に通用するかどうかがわかりかねます。私たちがそうなのですから」

H大井「……そう、そうなんですよね。私も心配なのはそこです」

H大井「これまでさんざん戦ってきた私たちだって、深海棲艦と話すとなったら、どう接したらいいかわからないっていうのに……」

H大井「政府は深海棲艦と話をして、なんらかの成果を得られる目算があるんでしょうか……?」

中将「儂はむしろ期待している。仮にも国家の外交のプロが赴くのだ、何らかの成果を出してくれると良いと思っているが」

H大井「そうだと良いんですが……なぜこのタイミングで政府が出てくるんでしょう」

H大将「それは、これ以上、制海権のことで海軍に大きな顔をさせたくないからだろうな」

H大将「深海棲艦の対応に関しては、政府どころかどこの国も、艦娘を統括する海軍に頼りっぱなしだ。そんな状況を打開したいんだろう」

H大将「残念ながら今の元帥も権威主義的なところがあるからな。間違っても『今の状況が続くと良い』なんて考えていなければいいんだが」

H大井「それで提督を政府サイドに引き込もうと……?」

H大将「深海棲艦と話し合うきっかけを作った人間が海軍から出ていくんだ。これ以上ないヘッドハントのチャンスだと考えているんだろう」

赤城「十分考えられますね。提督が応じるかどうかは甚だ疑問ですが」
951 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/06/04(日) 22:38:15.89 ID:MAX3x8VTo

中将「不知火はどう思うかね」

不知火「……政府の話が、島にいる艦娘や深海棲艦にとって有益なもの、安全を確保できるものであるならば、司令は応じると思います」

不知火「しかし、皆さんが仰る通り、司令が政府の人間に対しどのような態度をとるかは、不知火も保証できません」

不知火「これまでも、ご自身や艦娘を意のままに操ろうとしたり抑圧しようとしたりする相手を、司令は様々な手段で返り討ちにしてきました」

不知火「いくら政府の人間と言えど、対応を誤れば、最悪の事態になるのではないかと推測します」

中将「ふむ……」

不知火「深海棲艦たちも、おそらくは司令と同じか、それ以上に気難しいと思っています」

不知火「あの島の深海棲艦は、自分たちから人間や艦娘に攻撃しないことを決めただけです」

不知火「彼女たちが認めた人間もおそらく司令だけで、司令以外の人間は敵であるという認識は変わっていないはず」

不知火「そして、彼女たちが人間を殺すことも躊躇しないでしょう。仮にそこに司令が同席していたとしても……」

不知火「話の内容によっては、制止することもしないでしょうし、最悪、司令自ら手を下すかもしれません」

中将「そこまでかね」

不知火「はい」

中将「うむ、よくわかった。となると、先方には慎重になるよう断りを入れるべきだな」ウナヅキ
952 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/06/04(日) 22:39:01.18 ID:MAX3x8VTo

赤城「この話は、まだ提督には伝えていませんよね?」

H大将「ああ、まだだ。しかし、確認するまでもなく断りを入れるべきだろう」

中将「結論は出てしまったが、もうひとつ君たちに伝えておきたい情報がある」

中将「政府は、提督と交渉にあたる代表団のメンバーに、彼の弟を参加させるつもりでいるそうだ」

赤城「本当ですか……!?」

中将「うむ。兄と再会の喜びを分かち合いたい、ということだ」

不知火「それは……最悪ですね」

H大井「あの、恐れながら……中将閣下には、あの提督が家族とは絶縁したとご報告していたと思うのですが……」

中将「聞いているとも。日本にいる提督の家族とは、引き合わせるべきではないと言う話だったな。儂もそう思う」

中将「この点についても、政府へは通達しておく。さすがに政府も、虎の尾を踏ませるような真似はさせんだろう」

H大井「……なんだか嫌なフラグが立った気がするわ」ボソッ

中将「ん? どうかしたかね」

H大井「あ、いえ! なんでもありません、ウフフ……!」

中将「そうかね……?」

H大将「……大井、思っていてもそういうことは言うんじゃない。俺もそう思ったのは確かだが」アタマオサエ
953 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/06/04(日) 22:39:46.28 ID:MAX3x8VTo

中将「それから、この件に関連して、H大将に謝罪せねばならん」

H大将「? 謝罪、とは……失礼ですが、なにをです?」

中将「儂の倅……大佐が、提督の身柄を海軍に引き渡す名目で、政治家である提督の親へ金を渡していたことについてだ」

H大将「それは……!」

中将「君たちが、その金が流れを調査し、証拠を掴めずにいることも承知している。息子が、本当に申し訳ない」

赤城「中将! それは中将のせいではありません。すべてはこの私が……」

中将「赤城。その責を負うのは君ではなく、大佐とその上官の儂でなければならん。そもそも君すら与り知らなかった件ではないか」

赤城「で、ですが、私は秘書艦です! それに、彼は父親であるあなたすら殺そうと……!」

中将「その父親が悪いから、寝首を掻かれかけたのだ。結局、儂は……あれの父親になりきれなかったということだ」

赤城「っ……!」

中将「この戦争を終わらせるには手段は問わん……そう言い訳してあれを甘やかし、影での悪事を見逃してきた結果である」

中将「妖精と話ができるという提督にも、手段を問わないという意味で、働きを期待しておったのだが……」

中将「結果として彼は海軍を離れた。ひとえに、儂の力不足だ」

赤城「……」
954 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/06/04(日) 22:40:30.49 ID:MAX3x8VTo

不知火「中将。司令は中将に感謝しているはずです」

不知火「司令が提案した、轟沈した艦娘を運用する特例を認めてくださったのは、あなたではありませんか」

不知火「それがなければ、私も、司令も、如月も、今頃どうなっていたかわかりません」

赤城「……私も、そうですね。彼に救われたことが、何度あったことか」

赤城「中将も、結果的にですが提督に助けられたではありませんか」

中将「……」

H大井「あの、H提督? ちょっと言いづらいんですけど、大佐を罠にはめるために、提督が中将閣下を利用したという可能性は……」ヒソヒソ

H大将「それはわからん。どうなんだ不知火」

不知火「……それはあったかもしれませんが、そもそも大佐の企みを利用したからそうなったと、不知火は考えています」

不知火「大佐を油断させ、慢心させてその足元をすくう……そのために司令は中将も欺いたのでしょう」

赤城「私ですらひどい目に遭いましたしね……」フフッ

中将「……」

H大将「……あの男は攻撃的な印象があるが、考えなしのバーサーカーと言うわけでもない」

H大将「お互いの思惑の合致による協力、と言う意味では、提督と大佐の間でも成り立っていた部分はあったらしいからな」

不知火「はい。提督は、大佐が提督を他人と接触させないように離島へ隔離させたのは、結果的に都合が良かったと言っていました」
955 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/06/04(日) 22:41:16.17 ID:MAX3x8VTo

中将「……思惑か」

中将「提督の……彼の望みは、艦娘と深海棲艦が人間に頼らず安心して暮らせる場所、だったな?」

H大将「はい」

中将「おそらく政府は、海軍任せの現状を打開すべく、世界の混乱の原因になっている深海棲艦との条約締結を目指しているのだろう」

中将「しかし、提督にしてみれば、そんなことは知ったことではない。なぜなら彼らは、深海棲艦と言う種族の一部でしかないからだ」

中将「人間が多くの国に分かれて暮らしているのと同じだ。政府には、それをゆめゆめ忘れぬよう、釘をさしておく必要があるな」

H大将「そうですね。話し合いの場を設けた、程度の認識が適切でしょう」

中将「では、この件については儂がX大佐と協力して対応しよう」

不知火「中将、関連して一つご報告したいことがございます」

中将「? なにかね」

不知火「中将は、与少将と、呉の和中将をご存知でしょうか」

 * * *

 * *

 *
956 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/06/04(日) 22:42:01.26 ID:MAX3x8VTo

 * 数日後 *

 * 墓場島鎮守府 執務室 *

提督「机、もう少しこっちに寄せてもらっていいか? あと2センチくらい」

大和「こんな感じでしょうか?」グッ

提督「……うん、いいんじゃねえかな。曲がってねえよな?」

榛名「はい、大丈夫です!」

ル級「ソファハ、コノ辺デイイノカ?」

提督「ああ、もう少し後ろに下げていいぞ。それだとテーブル近すぎて、足がぶつからねえか?」

タ級「コノクライカ!」

提督「座って確かめてみてくれよ。狭いか遠いか、丁度いいくらいに調整してくれ」

カトリーナ「キャビネットはここでいいのか?」

提督「おう、いいぞ。思ったよりスペースが余ったな」

オリヴィア「いいんじゃないか? ここに神殿のドアを出しておくつもりなんだろう?」

吹雪「司令官! 新しい椅子を持ってきました!」

イブキ「筆記具とかも持ってきたぞ!」

提督「お、やっときたか。んじゃこっちに……」
957 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/06/04(日) 22:42:46.46 ID:MAX3x8VTo

如月「電気ポットとティーセットも持ってきたわ!」

アマナ「タオルと布巾もお持ちしました!」

軽巡棲姫「コーヒーメーカーモ持ッテキタワ」

タ級「ココデモコーヒー飲メルノカ!?」キラーン!

提督「俺は別に水でいいんだけどな……」

扶桑「私は冷蔵庫をお持ちしました。自動製氷だそうですよ」

提督「個人的に一番うれしいのが来た」キラッ

如月「そうなの?」

提督「氷作るの地味に面倒臭えんだよ……とりあえずその茶道具は全部そっちの給湯室においてくれ」

如月「はーい」

提督「……ふう。やっと執務室が執務室らしくなってきたな」

カトリーナ「家具が入っても結構広々としてんなあ。ハンマー持ち歩いても余裕だし!」

提督「艦娘や深海棲艦の艤装がでかいからな。それを踏まえて、泊地棲姫がタチアナと相談して広めに作ったらしい」

榛名「これだけ人がいて狭く感じないなんて、すごいですよね!」
958 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/06/04(日) 22:43:31.09 ID:MAX3x8VTo

提督「まあ、それはいいんだけどよ。なんでこんなに搬入に時間がかかったんだ?」

如月「それは、調度品をいろいろ選んでいたらすごーく悩んじゃっただけよ?」

提督「じゃあ、寝室のベッドの搬入がくそ早かったのはなんでなんだよ」

如月「それは司令官の体が大事だからじゃないかしら」

大和「最重要事項ですよ?」

榛名「榛名もそう思います!」

ル級「寝床ハ大事ダゾ?」

提督「ル級まで言うのかよ」

ル級「泊地棲姫ガ力説シテタシ、私モ経験済ミダカラネ」フフッ

軽巡棲姫「デ、イツカラ寝ルノ? 一緒ニ寝テアゲルワヨォ……?」ニヤァ

扶桑「提督との同衾は、ちゃんと順番が決まっていますから、日程は確認してくださいね?」

提督(決まってんのかよ……)シロメ

カトリーナ(アニキが白目むいてる……)タラリ
959 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/06/04(日) 22:44:16.63 ID:MAX3x8VTo

朧「提督、海軍から預かった資料を持ってきました。これでこっちの荷物は全部です!」

陸奥「提督、終わったらこっちも手伝ってもらえるかしら」

提督「ん? ああ、わかった。資料は後で目を通す、こっちは任せて大丈夫か?」

大和「はい、お任せください! あとは搬入で出たごみをまとめるだけですから!」

アマナ「お掃除なら任せてください!」キラキラッ

ル級「瞳ガ輝イテルナ……」

提督「アマナがやる気ならこの場は任せるか。どこ手伝えばいい?」

陸奥「それじゃ、一緒に食堂に行ってもらえるかしら」スタスタ…

カトリーナ「そんじゃあ、あたしも余所の搬入を手伝ってくるかあ」

オリヴィア「アタイもそうしようかね」ノッシノッシ

タ級「……メディウムノ奴ラッテ、意外トパワータイプガ少ナインダヨナ」

イブキ「そうだなあ、純粋な腕っぷし自慢だと、さっきの二人と、コーネリアとグローディスくらいかな?」

吹雪「どうしてそのコーネリアさんたちは来てないんですか?」

イブキ「コーネリアは戦闘狂だからなあ……」

吹雪「うわー、そういう……」

タ級「戦闘以外ニ興味ガナイタイプカ」
960 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/06/04(日) 22:45:01.33 ID:MAX3x8VTo

アマナ「こういった家事全般を積極的に手伝うかと言われたら、グローディスさんはともかくコーネリアさんは来ないでしょうね」

イブキ「グローディスも、そのコーネリアにしょっちゅう勝負吹っ掛けられてるし。良くも悪くもいい勝負すんだよな」

扶桑「……そういえば、深海棲艦も普段は何をしているの?」

タ級「……」

ル級「ソウイエバ、私タチモ、戦ウ以外ハ、ナニモシテイナイワネ」ウフフ

タ級「……アトハ、補給デキル場所ヲ確保スルクライカ? ソレガ時間ガカカルノヨ」ウーン

吹雪「遠征任務みたいな感じですかね?」

大和「そうかもしれないわね」

タ級「コレマデ、『ヒト』ノヨウニ椅子ニ座ッテ、コーヒーヲ飲ムヨウナコトハ、ナカッタカラ……」

タ級「今ノ暮ラシガ、新鮮デワクワクスル、トイウノハ、アルナ」

榛名「なるほど……ずっと海中や海上だと、くつろぐこともできなかったと」

タ級「独自ノ拠点ヲ持ッテタ泊地棲姫ハ、コウイウ暮ラシニ、ソレナリニ慣レテルミタイダケド」ソファニスワリ

タ級「……オォ、コノソファ、柔ラカイナ」ポヨンポヨン

タ級「ル級ハ、一足先ニ、コンナ生活シテタノカ? ズルイナ、オ前」ニヤッ

ル級「アラ、私ガイナカッタラ、コンナ生活デキナカッタワヨ?」ニヤッ

タ級「言イ方ガズルイゾ、オ前」ククッ

吹雪「……なんだか、楽しくなりそうですね!」ニコニコ

如月「そうねえ」ニコニコ
961 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/06/04(日) 22:46:06.53 ID:MAX3x8VTo
今回はここまで。
次スレを立てるときは連絡します。
962 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/06/12(月) 02:16:54.48 ID:9L42fznR0
おつおつ。
うわー政府、そう出るかぁ…こりゃ下手したらってかほぼ確実に弟死ぬだろ。敵、というか、提督に関わろうとする奴らはつくづく地雷を踏むなぁ…。
963 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/07/20(木) 23:46:33.49 ID:E2wV6OqPo
>962
基本、提督のことを舐めてかかってる人が多いと思ってください。
というより、まともな人なら、こんな境遇の相手に関わろうとも思わないし
そもそも関わる機会自体ないのかもしれないですが……。

というわけでお待たせしました、ほんの少しだけ続きです。
きりのいいところまで書いて次スレに移りたいので……。
964 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/07/20(木) 23:47:49.19 ID:E2wV6OqPo

 * 食堂 *

提督「食堂から、直接外に出る出入口作ってどうすんのかと思ったけどよ……」

電「ウッドデッキとオープンテラスなのです! とってもおしゃれなのです!」ワーイ!

提督「良く作ったな、こんなの」

電「このために木材が届くのを待っていたって泊地棲姫さんが言ってたのです!」

陸奥「こうなると景観が大事だからって、メディウムも張り切ってるのよ。ほら、この奥の水路の対岸にも花壇を作ってて……」

提督「ありゃあ、タチアナとニーナか? あいつらが花壇の手入れしてんのか」

電「さっきまでミュゼさんもいたんですが、持ってたテツクマデをどこかにおいてきたらしくて、まだ戻ってきてないのです」

提督「なにやってんだあいつは……」

スズカ「おー、魔神くんきよったんか! 見てみい、綺麗じゃろ? 新しい厨房!」

セレスティア「一応、機材搬入は済ませましたが、シェフ長の比叡さんが不在ですので、かつての厨房の記憶をたどって配置しています」

提督「ふーん……まあ、大丈夫じゃねえか? だいたい似たような配置になってると思うぞ」

セレスティア「そうでしたか。では、これで配線してしまいましょう」

提督「比叡の個人持ちの道具はまだ医療船にあるから、あとで持ってきてもらえばいいな。そういや保冷庫も使えんのか?」

 厨房の奥の扉<ガチャッ

明石「うう、さっぶい!」
965 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/07/20(木) 23:48:48.67 ID:E2wV6OqPo

ヒサメ「そうかのう? まぁだ、ぬくいと思うんじゃが?」

提督「明石? 工廠にいたんじゃないのか」

明石「工廠の整頓はとっくに済ませましたよ。今は保冷庫の整備に来たんです」

明石「ヒサメさんのせいで、もう保冷庫って言うより冷蔵庫ですけど!」

ヒサメ「もうちょっと冷たくなれば快適じゃ♪」

スズカ「おいおい、ここはヒサメの部屋じゃのうて、食い物の保管場所じゃからな?」

セレスティア「つまみ食いしないようにしてくださいね」

ヒサメ「心配せんでも、そんなさもしい真似はせぬわえ。さっきまでそこにおった悪い見本にこそ、その説教は必要じゃろうて」

セレスティア「……確かに、しょっちゅう足がもつれて転んでいるけれど」

電「もしかしてマーガレットさんですか……」

ヒサメ「そうじゃ。パティシエだからと洋菓子ばかりこさえて、そのたびに自分で平らげておっては、当然の帰結じゃ」

提督「最悪すぎる地産地消だな。で、そのマーガレットはどこに行ったんだ」

セレスティア「今頃危機感を持ったのか、走り込みに行きました」

提督「それ、今やる話かよ……」アタマオサエ

電「今頃テツクマデを踏んづけていそうなのです」

提督「くっそ、目に浮かぶな。あ、そういや、こっちに深海棲艦は来てないのか?」
966 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/07/20(木) 23:49:37.97 ID:E2wV6OqPo

電「数人のヲ級さんたちが、厨房を外から興味深そうに眺めていたのですが、どこかに行ってしまったのです」

陸奥「物珍しそうに見てたわよ。椅子や机を運び入れるところは手伝ってたけど、厨房の配置はメディウムに任せてたみたい」

提督「ふーん……この前、ヲ級の一人と話したんだが、深海には調理の概念すらなかったって言ってたんだよな」

スズカ「そうなん? 声かけてくれりゃあウチが教えたったのに!」

電「今は今で、花壇を見に来た深海棲艦がいっぱい集まってるのです……!」

陸奥「花が珍しいのかしら。駆逐艦が集まってて水路が渋滞してるわ」

ヒサメ「ここであの水路を凍らせたら面白そうじゃのう?」ニマァ

提督「やめとけ」ジロリ

ヒサメ「冗談じゃ。おまえさまは毎度毎度、冗談が通じぬのう」ニマニマ

電「……」

陸奥「電ちゃん? どうしたの?」

電「沈んだ敵も助けたい、と思っていたのですけれど……」

電「沈んでなくても、深海棲艦と分かり合えそうな雰囲気がしてきて、ちょっとだけ……嬉しいなって、思うのです……!」

陸奥「フフ、そうね……!」ニコ

提督「……」
967 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/07/20(木) 23:51:26.52 ID:E2wV6OqPo
というわけで本当に短いですが今回はここまで。

次スレ準備できたらお知らせします。
968 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/07/22(土) 19:49:21.92 ID:8YcaGZNqo
次スレを立てました。
こちらでもよろしくお願い致します。

【艦これ】提督「鎮守府が罠だらけ?」ニコ「その3だよ」【×影牢】
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969 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2024/10/07(月) 17:01:27.22 ID:fR6azZt30
おつおたおおはひふほ
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