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【艦これ】提督「鎮守府が罠だらけ?」ニコ「その2だよ」【×影牢】

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720 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/12/11(日) 22:46:34.06 ID:zj9ZaBPqo

幽利根「トラウマを抱えたおぬしには荷が重かろう。筑摩を悦ばせるのは吾輩に任せて、おぬしは指を咥えて見ておるがいい」

筑摩「!?」(←幽利根から顎に手を添えられ)

利根「ええい、貴様は勝手な真似をするでない!!」ガシッ!

筑摩「と、利根姉さん!?」

利根「貴様のような色情狂に、可愛い妹を任せておけるか!!」チクマダキシメ

筑摩(と、利根姉さんに、抱きしめられてる!?)

幽利根「何を言うか! おぬしが一向に手を出さんから、吾輩がその役目を担ってやろうと言っておるのじゃ!」チクマノウシロカラダキツキ

筑摩「ほえっ!?」

幽利根「おぬしは堅物の提督と乳繰り合っておるのがお似合いじゃ! 二股をかける気か!?」

利根「二股などではない! 筑摩におぬしのような悪い虫が近づくのが許せぬだけである!」

筑摩(と、と、利根姉さんふたりに抱き着かれてる!?)オメメグルグル

雲龍「そろそろ止めないと、筑摩が大変なことになりそう」

龍驤「へ?」
721 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/12/11(日) 22:47:18.11 ID:zj9ZaBPqo

筑摩「……と……利根姉さ……」

利根「む? 筑摩、どうしたん……」

筑摩「んどぉ!!」ハナヂブパァ!!

幽利根「おわあ!?」

筑摩「し、しや……わ、ぁへぇ……」ヘナヘナヘナ…

利根&幽利根「「ちくまああああ!?」」

神通「」シロメ

提督「……」アタマカカエ

ニコ「……」アタマカカエ

陸奥「……」アタマカカエ

雲龍「感極まったのね」

龍驤「いくら何でもドン引きやわぁ……」

集積地棲姫「アノ艦娘ハ随分ウブナンダナ?」

メリンダ「ウブと申しますか、艦娘の皆様は、いずれも身の固い方が殆どのようです」

集積地棲姫「ソウナノカ? 世ノ中ノ艦娘ハ、ミンナ提督ト、ヤルコトヤッテルト思ッテタンダガ」

龍驤「それまた極端やな!? どっからそんな話になったん!?」
722 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/12/11(日) 22:48:03.63 ID:zj9ZaBPqo

集積地棲姫「オ前タチハソウデモナイヨウダガ、私ニ向カッテクル艦娘ハ、ミンナ指輪ヲシテイタ。ソウイウ意味ジャナイノカ」

龍驤「指輪? あぁー……カッコカリの指輪かいな」

メリンダ「かっこかりの指輪? それはどういったものですか?」

龍驤「ざっくり言うと、艦娘のリミッターの解除装置やね」

龍驤「提督との信頼関係が深まった艦娘に限定して、艦娘の能力の上限を上げるんやけど、その信頼を結婚に見立ててるんや」

集積地棲姫「ソレデ『カッコカリ』ナノカ」

雲龍「正式には『ケッコンカッコカリ』の指輪ね」

龍驤「まあ、結婚をモチーフにしてるわけやし、確かにヤってるかヤってないかってトコはうちらも知らんけどな」

龍驤「そういう間柄となるまでの信頼を得たからこそのリミッター解除の儀式っちゅうわけや」

メリンダ「ということは、集積地棲姫様は、能力の上限を解放した艦娘ばかりに狙われていた、ということですか」

集積地棲姫「不幸ダ……」ガックリ

提督「とりあえず、集積地棲姫も島に来い。今は工事中だが、その後ならひとまず保護はするからよ」

集積地棲姫「アア……ヨロシク頼ム」
723 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/12/11(日) 22:48:48.20 ID:zj9ZaBPqo

提督「後は……」

陸奥「川内ならまだ伸びてるわよ?」

幽川内「」キゼツチュウ

提督「まあ、こいつはうちじゃなくて、余所の鎮守府に行ったほうが幸せな気がするな?」

ル級「防衛以外デ戦ワナイナラ、ソノ方ガイイワネ」

提督「早霜はどうする? 島に残ることにしていいのか?」

早霜「ええ、それで……そのほうがいいわ」

提督「わかった。あとは利根は……」

利根「ちくまああ! しっかりするんじゃああ!!」

幽利根「よし、ここは吾輩の王子様のキッスで目覚めさせてや……」

利根「貴様は少し自重せんかあああ!」チョークスリーパー

幽利根「ぐえっ!? ちょ、ちょっ……」タップタップ

提督「……あとにすっか」

神通「」シロメ

雲龍「神通が戻ってきてないんだけど」

龍驤「信頼してた利根があの有様やからなあ」

ル級「オモシロクナリソウネエ」フフッ

集積地棲姫「私ハ不安デシカナインダガ……」
724 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2022/12/11(日) 22:50:09.53 ID:zj9ZaBPqo
今回はここまで。

別ルート編で書きたいことが思ったより長くなりそうで、
このスレに収まらなさそうです……。
725 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/12/14(水) 22:27:12.06 ID:HfgNkisC0
乙です。私は一向に構わんッッッッッッッッ!!
726 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/01/12(木) 00:56:49.65 ID:EDiAZ58Ro
本年もよろしくお願いします。

続きです。
727 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/01/12(木) 00:58:00.80 ID:EDiAZ58Ro

 * 数日後 *

 * 墓場島沖 医療船内 提督の個室 *

摩耶「利根が増えたって?」

霧島「それは好都合かもしれませんね」

提督「好都合? なんだそりゃ」

霧島「私たちは、かつての僚艦である三日月たちに会うため、リンガ泊地へ行って参りました」

霧島「そこで伺った話によれば、その鎮守府の提督である知大尉が、一度きりではありますが司令と面識がおありだと」

提督「リンガ泊地……?」

霧島「覚えておいでではありませんか? 確か、その鎮守府からは利根が移ってきたと……」

提督「ああ、あれか! あの利根の第二改装済みの奴が秘書艦だった、あの鎮守府!」

提督「確かあそこの鎮守府のあるじだった……なんだっけ、なんとか准将は自殺したんだったよな?」

霧島「はい、M准将ですね。その後釜を、M准将のもとで働いていた知大尉が引き継いだんだそうです」

摩耶「そこの鎮守府、城塞鎮守府っつうんだけど、なんでもあちこちの鎮守府から演習場として活用されてるんだと」

摩耶「人の入れ替わりも激しいらしくて、たまたまそこでそれなりに長く勤務してた知大尉が運営を引き継ぐことになったんだってよ」
728 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/01/12(木) 00:59:01.71 ID:EDiAZ58Ro

提督「……俺、そいつの顔、覚えてっかな?」

摩耶「提督に会ったときはただの士官だったらしいから、覚えてないかも、って言ってたぜ?」

霧島「それで、その知大尉からお願いされたことがありまして、利根を連れてきてほしい、と言われたんです」

提督「……利根を?」

霧島「はい。もちろん、私たちの仲間だった利根ではありません。彼女はあの鎮守府で深い心の傷を負ったと聞きました」

霧島「ですので、新造艦で、どこからか別の利根を連れてきてはくれまいか、と」

提督「待て待て、そこ、すでに利根がいるんだろ? なんで二人目を欲しがるんだ」

摩耶「そこの利根が、出家したいんだとよ」

提督「は?」

摩耶「頭丸めて尼僧になりたいんだと」

提督「……なんだって、そんなことに?」

霧島「城塞鎮守府の利根は、M准将を本当に好きだったようなんです。実際にM准将からも寵愛を受けていたそうで」

霧島「彼女は、M准将自身の弔いと、准将の手にかかった艦娘たちの鎮魂のため、そのような決心をしたと聞いています」

霧島「それで問題になったのが、そこの鎮守府の筑摩でして」

摩耶「そうそう。利根が鎮守府を出て尼僧になるっつーもんで、筑摩がやめてくれって泣き腫らしてんだよ」
729 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/01/12(木) 00:59:46.14 ID:EDiAZ58Ro

摩耶「もともとはその筑摩も、そこの利根の心のリハビリのために余所から連れてきてもらったらしくてさ」

提督「ああ……なんか繋がってきたぞ。それで今度は代わりの利根を連れてきてくれ、ってことか」

霧島「はい。その司令が連れてきたという利根を、城塞鎮守府へ連れて行ってもよろしいでしょうか」

提督「……なんとも言えねえな。くっそ難しいと思うぞ」

摩耶「難しい? なんでだよ」

提督「とりあえずお前ら、うちの利根が向こうでどんな目に合ってきたかは知ってるな?」

摩耶「あ、ああ。一応向こうでも聞いてきたけどよ……」

提督「その利根の前にも、同型艦が多数犠牲になったことも聞いてるな?」

霧島「は、はい。それがなにか……」

提督「城塞鎮守府の地下で、うちの利根は殺される前に見つかったんだが……」

提督「そのときに、それまでその部屋で殺された利根たちの魂も一緒に連れてきてたらしいんだよ」

霧島「は……!?」

摩耶「マジかよ!?」
730 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/01/12(木) 01:00:33.31 ID:EDiAZ58Ro

提督「蠱毒って知ってるか?」

摩耶「コドク? なんだよそりゃ」

提督「蛇とか猫とか、霊的要素が強い生き物を一か所に放り込んで、共食いさせて生き残った1匹を生贄に使う、くっそ凶悪で強力な呪詛」

摩耶「知っててたまるかよ、そんなもん……」ウヘェ

提督「M准将はそんなつもりじゃなかったと思うが、それに近しいことになってたんじゃねえかなって思ってたんだ」

提督「で、その数人分の利根の魂は、ここで艦娘らしい生活をしてるうちにいくらか成仏して、一人分くらいまで減って行って……」

提督「その魂が肉体を得て蘇ってきたのが、その新しくやってきた利根、っつー話だ」

霧島「……」

摩耶「……」

提督「信じられねえって顔をしてるが、俺はその利根に取り憑いた幽霊と会話したこともあるし、雲龍もそういうことだって俺に言ってきた」

提督「当の本人も、この島で起こったことや俺のことも知ってやがる。辻褄もあってるし、嘘ついてる感じでもねえ」

霧島「少し前に近海で見つかった時雨がそうだったことを鑑みると、同じ現象が他の艦娘に起こりうる可能性も否定できませんか……」

摩耶「そうだとしたら、その利根が城塞鎮守府に向かうのは止めといたほうがいいよな……」

霧島「そうね。もし戻って、その当時のトラウマが思い出されそうものなら……」

 扉<コンコン

提督「ん?」
731 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/01/12(木) 01:01:16.07 ID:EDiAZ58Ro

鳥海「鳥海です。ご報告したいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」

提督「おう、入ってくれ」

鳥海「失礼いたします」チャッ

幽利根「邪魔するぞ!」

提督「利根……!?」

鳥海「摩耶、霧島さん、こちらの新しくいらっしゃった利根さんが、城塞鎮守府に向かってくださるそうです!」

幽利根「うむ! よろしく頼むぞ!」

提督「」

霧島「」

摩耶「」

鳥海「……あの、どうしたんですか?」

幽利根「まあ、吾輩の過去を知ってるとなると、そういう反応になるじゃろうなあ?」

鳥海「ど、どういうことですか?」

提督「おいちょっと待て。なんで鳥海が利根連れてきてんだよ」
732 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/01/12(木) 01:02:01.25 ID:EDiAZ58Ro

霧島「も、申し訳ありません、実は私が……」

摩耶「そうじゃなくて、あたしが鳥海を……」

鳥海「あ、あの、私が摩耶たちにお願いして……」

提督「……っだああ、面倒臭え! その辺の話はどうでもいい! とにかく鳥海も城塞鎮守府に行ってきたってことだな!?」

鳥海「は、はい!」

提督「はー……で、事情も聞いてきて、戻ってきたら利根が増えてたから、鳥海が事情を話したと」

霧島「は、はい。その……勝手でしたでしょうか」

提督「本っ当に結果論だけどよ……いいほうに転がってるっぽいからいいものの……」ハァ…

鳥海「あの、どうかなさったんですか……?」

提督「その辺、追って説明するから、ちょっと鳥海は俺たちの話を聞いててくれ」

鳥海「は、はい……」

提督「さてと……利根は鳥海からどこまで話を聞いたんだ?」

幽利根「うむ。城塞鎮守府のあるじが代替わりして、そこで秘書艦を務めていた利根が退役するそうじゃな」

幽利根「それで、そこに残っておる筑摩が寂しがっていて、新造艦の利根が着任できないか相談を受けた、というところまで聞いておる」
733 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/01/12(木) 01:02:46.00 ID:EDiAZ58Ro

提督「で、その話を聞いてお前が行く気になったって? 大丈夫なのかよ?」

幽利根「うむ! ある程度事情を知っている者が行ったほうが話も早かろうと思ってな」

提督「お前自身はあの鎮守府にトラウマとかそういうもんはねえのか?」

幽利根「今となってはその辺の記憶も曖昧というか、よく覚えておらんのだ」

幽利根「好意的に考えれば、おそらく吾輩たちの中で成仏した者たちが、その辺の記憶を持ち去ってくれたのではないかと考えておる」

摩耶「持ち去った、って……やっぱりさっきの話は本当なのかよ」

提督「……あ」

霧島「どうしました?」

提督「思い出したんだが、俺、M准将と利根たちを地獄で見たぞ」

幽利根「は?」

霧島「地獄で……ですか?」

摩耶「何言ってんだお前」

鳥海「摩耶!?」

提督「いや、俺も自分で何を言ってんだとは思うけど、実際死にかけた時に見てきたんだよ。時雨も見たから聞けば話せると思うんだが」

霧島「あの世で亡くなった提督たちと出会ったというお話ですか」
734 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/01/12(木) 01:03:31.82 ID:EDiAZ58Ro

提督「ああ、その時に地獄もちょっとだけ覗いてきたんだ。でっけえ洞穴みたいなところで篝火炊いて、頭が牛や馬の獄卒たちがいて!」

摩耶「目を輝かせて言う話じゃねえだろが……」

提督「その地獄で、延々燃やされて火だるまになってたM准将がいて、そいつを取り囲んで槍やら鉾やらブッ刺してる利根たちと話したんだよ」

幽利根「なんと……」

提督「で、そこで見た利根たちは、全員体中つぎはぎだらけでな」

鳥海「つぎはぎ……?」

幽利根「確かM准将は、吾輩たちを切り刻んで飾っていたという話であったな?」

鳥海「ひい!?」ゾワワッ

提督「お前、覚えてんのか?」

幽利根「情報としてはな。記憶としてはないのじゃが」

鳥海「どっどどど、どういうことなんですか……!?」ガタガタ

提督「鳥海は知らねえのか? 利根を、学校にある人体模型みたいにバラして複数体飾ってたって話」

鳥海「……」ヘナヘナヘナ

摩耶「お、おい、鳥海!?」

鳥海「だ、大丈夫……ちょっと、気分が……」ウズクマリ
735 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/01/12(木) 01:04:15.83 ID:EDiAZ58Ro

提督「そういうのは大丈夫とは言わねえよ。部屋出て休んでろ」

鳥海「い、いえ、お話は、ちゃんと聞かせていただきます」アオザメ

提督「……無理すんなよ?」

幽利根「それで、その地獄へ行った吾輩たちの魂は、M准将を責め続けておるのか?」

提督「いや、説得して、利根たちには地獄から出て行ってもらった」

摩耶「なんだそりゃ? 地獄に落ちたってのに、そんな簡単に出て行けんのかよ?」

提督「周りにいた獄卒たちが、利根たちはそもそも本来地獄に来る予定がなかった、って言ってたんだよ」

霧島「行く必要のない地獄にわざわざ出向いたと……!?」

摩耶「そんだけ恨みが深かったってことか」

提督「そうなんだろうな。けど、M准将は、利根のいろんな表情を見たくて嫌がらせしたり、その延長で殺害にまで及ぶような奴だ」

提督「かまってもらえりゃなんでもいい。利根に拷問されることすら喜んでたようだから、もうかまうな、って俺は利根たちを説得したわけだ」

霧島「なるほど……だとすれば、惨劇の記憶や怨念を、復讐のため地獄へ向かった魂たちが全部持って行った、という説も十分頷けますね」

提督「ああ。もしそうなら、この利根が城塞鎮守府に行ってもいいかもしれねえな」

幽利根「良いのか!?」

提督「俺が心配なのは、お前が向こうでぶっ壊れたりしないかだけだ」
736 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/01/12(木) 01:05:01.51 ID:EDiAZ58Ro

提督「せっかくこの世に戻ってきたのに、またトラウマで泣き叫ぶようなことになって欲しくねえ」

摩耶「じゃあ、試しに利根を城塞鎮守府に連れてって、なんともなけりゃ転籍できるってことだな?」

提督「そうだな。けど、その前にひとつ利根に確認したいことがある。覚えてたら教えてくれ」

提督「利根に憑依していた複数人の利根の魂のうちいくつかが、地獄へ向かってM准将へ復讐を果たしに行った、というのはわかる」

提督「じゃあ、そうじゃないお前たちが成仏もしないで地上に残った理由はなんだ?」

幽利根「……ふむ……」

提督「……」

幽利根「それはおそらく、羨ましかったんじゃろう。かつての吾輩たちは、利根の背後からおぬしたちを眺めているだけじゃったからな」

幽利根「……うむ、うっすらと覚えておるのだが、あの利根の体を借りておぬしと話したこともあったのではないか?」

幽利根「あれが望外に嬉しかった、というのも、本当にうっすらとだが覚えておる。それが未練であったのかもしれん」

提督「まさしくそんな話を幽霊だったお前としたんだ。そこまでわかってるなら俺が心配するまでもなさそうだな」

鳥海「え、ええっと、あの、整理しますと、城塞鎮守府で殺された利根さんたちの生まれ変わりが、こちらの利根さん、ということなんですか?」

霧島「ええ、そういうことみたいね」

鳥海「……知らなかったとはいえ、私はなんてことを……」ガックリ

幽利根「良い良い。そもそも普通あり得ない話であるし、知っておれば吾輩にこの話が来ることもなかったであろうからな」ポンポン
737 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/01/12(木) 01:05:46.27 ID:EDiAZ58Ro

摩耶「なあ提督、なんとなくだけど、この利根なら城塞鎮守府に行っても問題なさそうじゃねえか?」

提督「そうかもしれねえな。ただ、くれぐれもやばいと思ったら戻ってこさせねえと……」

??『そんなに心配なら、魔神様もついていけばいいじゃない』

提督「ん?」

 神殿の扉<パッ!

提督「うおっ!?」

幽利根「なんじゃ!? いきなり扉が現れたぞ!?」

 神殿の扉<ガチャ

ニコ「話は聞かせてもらったよ。その城塞鎮守府、ぼくもついていきたいな」

摩耶「き、急に出てくんなよな! びっくりさせやがって……」

鳥海「いつからお話を聞いていたんですか?」

ニコ「きみと利根が部屋に入ってきたあたりかな? そのくらいに、ここと空間をつなぐことができたからね」

幽利根「ほお、便利なのだな。ならば、城塞鎮守府にもつなげられるのか?」

ニコ「それは無理かな。魔神様がいるところなら、どこへでもつなげられるってだけだよ」

摩耶「あ、そういう条件かよ。じゃ、提督が城塞鎮守府に行けば、メディウムたちも一緒についてこれるってことだな?」
738 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/01/12(木) 01:06:31.06 ID:EDiAZ58Ro

提督「つうか、俺も行くのか……?」

ニコ「うん。利根が転籍するにしても、魔神様のことだから、自分の眼で良し悪しを確かめないと気が済まないんじゃないの?」

提督「ま、そりゃあな……」

ニコ「それから、良かったらその鎮守府にある、利根に使った器具を、ぼくたちに譲ってくれないかな」

摩耶「そんなもん引き取ってどうすんだ? まさか、何かに使うのか?」

ニコ「魔神様の命を狙う不逞の輩には使うだろうね」

ニコ「たとえ使う機会がなかったとしても、人の血を吸った呪物(まじもの)は、強い魔力を秘めているんだ」

ニコ「こういうものは、ぼくたちの神殿に置いておくだけでも、ぼくたちの力になってくれるからね」

霧島「……私たちで言うところの、神棚に対する奉納品のようなものかしら」

提督「言ってる感じは近いかもなあ……」

鳥海「……確か、地下室は封印していると聞きましたね」

摩耶「見たくもない道具だってんなら、メディウムたちに引き取ってもらうのも手かもしんねーな」

ニコ「うん。ぼくたちなら有効活用できると思うよ?」ニコニコ
739 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/01/12(木) 01:07:16.14 ID:EDiAZ58Ro

 * 数日後 *

 * 城塞鎮守府 地下室 *

提督「……」

霧島「ここがそうですか……」

摩耶「なんつーか、いかにも、って感じの地下室だなあ」

知大尉「……」

O大尉「……いやー、すごいことになったねえ」

知大尉「うん、すげえっつうか、なんつうか……」


リサーナ「すっごーい、これで人間を真っ二つにしてたのね〜!」キャー!

メアリーアン「これはなんだべ? でっけえ冷凍庫だぁか?」

ティリエ「これ、どっちも電気で動くのかー?」

アマナ「そうみたいですね。神殿へ持ち帰ってから、鎮守府の電気を借りられるか、ご主人様に相談しましょう」

ウーナ「なあなあ! こっち! これ、燃やして使うのか!?」

セレスティア「どうやら竈みたいですね。持ち運べるのでしょうか……」

サム「攻め具も拘束具も多種多様……この部屋の主は良い趣味をしておられますね」


知大尉「バニーとかメイドとか執事とかシェフとか! それから原住民みたいな恰好だったり着ぐるみとか防寒着とか!」
740 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/01/12(木) 01:08:01.82 ID:EDiAZ58Ro

知大尉「季節感も統一感もないコスプレの女の子が、こんな物騒な代物に目ぇ輝かせてて、俺的にドン引きなんだけど!?」

O大尉「大丈夫、俺も混乱してる」アハハー

知大尉「笑ってんじゃねえよ……」アタマオサエ

提督「ま、どうせ今回限りだし、細かいことは気にしなくていいだろ」

知大尉「いやあ、そうかもしれないですけど……」

提督(艦娘よりキワドイ恰好してる奴もいるからな……ベリアナとかマリッサとか)


アカネ「ねーねーニコちゃーん、このお部屋の器具は全部持っていっていいの?」

ニコ「そうみたいだよ。扉はいくらでも広げられるから、全部運んでいこう」

カトリーナ「よっし、じゃあこっちのデカブツはあたしに任せな!」


知大尉「とにかく、こうして全部処分してもらえるっていうのは助かります」

提督「いいさ。こんなもん、普通の鎮守府に残しておくようなブツじゃねえしな」

摩耶「万が一誰かがこんな部屋に迷い込んだんじゃ、妙な噂立てられられてもしょうがねーもんなー」

提督「それにしても、よくこんな場所にこんな機材をここまで持ち込めたな?」

知大尉「M准将のコネもあると思いますが、この鎮守府も日本から離れてますから、いろいろ気を使ってもらってたんじゃないかと……」
741 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/01/12(木) 01:08:47.01 ID:EDiAZ58Ro

ルイゼット「魔神様、畏れながらご報告がございます」スッ

提督「どうした?」

ルイゼット「この石室の奥に、また別の部屋が見つかりました」

エレノア「すごいわよー? この部屋の器具より、もっと古めかしい拷問器具が並んでるの!」

ルイゼット「エレノア!? 魔神様になんて無礼な……!」

エレノア「あんたはいつも丁寧すぎて回りくどいのよ。それより、そっちの道具も持ってっていいんでしょう?」

提督「知大尉、そっちも入っていいか?」

知大尉「は、はい、それは構いませんが……俺も一応、ここの責任者ですんで、彼女たちと同行しますよ」

提督「いや、それはやめとけ」

知大尉「し、しかし……!」

ルイゼット「霧島様。お願いがございます」

霧島「? なんでしょう?」

ルイゼット「危険ですので、皆様にはこの部屋から出てお待ちいただけないでしょうか」

霧島「危険? この部屋が……?」

ニコ「そうだね。この部屋から……念のため、建物そのものから避難していたほうがいいよ」
742 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/01/12(木) 01:09:31.58 ID:EDiAZ58Ro

摩耶「そこまでやべーのか!?」

ニコ「君たちは気付かないだろうけど、この部屋にも、その奥の部屋にも魔力が充満してるんだ」

ニコ「これからぼくたちは、その魔力ともどもこの部屋の品物を全部回収するんだけれど、回収し終わった後にどうなるかはわからない」

霧島「どういうことです……?」

摩耶「よくわかんねーけど、とにかく退避したほうがいいんだな?」

ニコ「そうだね。そうしてもらえると嬉しいな」

摩耶「そういうことなら、この場は提督に任せちまうか?」

知大尉「い、いい、のか?」

摩耶「いいんじゃねえの? 提督もいいんだろ?」

提督「ああ、この場は俺とメディウムに任せとけ」

霧島「どういう意図かはわかりかねますが、彼女たちに従いましょう」

霧島「彼女たちメディウムは、人間を敵と見なしています。その彼女たちが言うのですから、お二人は特に避難したほうが良いでしょうね」

知大尉「……」
743 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/01/12(木) 01:10:32.42 ID:EDiAZ58Ro

O大尉「……わかった。この場は提督にお任せして、俺たちは外に出て待つとしよう。知大尉もいいな?」

知大尉「あ、ああ……」

 クルリ スタスタ…

ニコ「……」

ルイゼット「……」

ニコ「珍しいね、ルイゼットが情けをかけるなんて」

ルイゼット「ええ、不本意ながら。ですが、霧島様がいらっしゃいますし、魔神様を困らせるわけには参りませんので」

ニコ「……そうだね」

提督「お前ら殺気立ってたもんな。そうやって思いとどまってくれて安心したぜ」

提督「さて、それじゃ俺も手伝うか」

ニコ「あ、それはいいよ、魔神様。ここはぼくたちに任せて」

カトリーナ「そうそう、魔神様はそこで眺めててくれればいいんだって!」

アマナ「私たちの仕事ぶり、御覧になってください!」

サム「よろしければ、こちらにおかけになりますか?」スチャッ

提督「……大丈夫なのかよ、その椅子は」ジトッ

ニコ「サム?」ジトッ

サム「そのように警戒なさらなくても良いのですが……仕方ありませんね」フフッ
744 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/01/12(木) 01:11:16.35 ID:EDiAZ58Ro

 * それからしばらくして *

 * 城塞鎮守府 埠頭 *

O大尉「初めて入ったけど、あの地下室、かなり古そうだな」

知大尉「ああ、この建物自体もすごく古くて、何度か改装してるんだ。あの地下室はちょっとそんな感じじゃなかったけど……」

幽利根「それより提督は大丈夫なのか? いくらメディウムがいるとはいえ一人で残っては危なかろう」

摩耶「そこは安心していいんじゃねえの? ああいう部屋こそメディウムが得意なんだろうし」

摩耶「第一、メディウムが提督を危険な目に合わせるとは思えねーな」

幽利根「むう、それもそうか」

O大尉「メディウムか……艦娘だけでも現れた時は驚いたけど、まさか罠の娘もいたとはね」

知大尉「けど、俺たち、完全に無視されてたな?」

幽利根「それはあれじゃな。目を合わせたら殺したくなるからではないかな?」

知大尉「……」

幽利根「提督はメディウムたちに、あの墓場島と呼ばれた島に不用意に近づくもの以外には手を出すなと命じておる」

幽利根「そのメディウムたちは、人間の命などどうとも思っておらん。刈り取って当然のものだと考えておるようでな」

知大尉「うっわ……」
745 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/01/12(木) 01:12:03.14 ID:EDiAZ58Ro

霧島「提督に忠誠を誓うメディウムたちとしては、大尉たちを無視することで、その命令を守っていたのだと思いますよ」

幽利根「うむ。文字通り、見逃してくれたのであろう」

摩耶「なあなあ、ところで鳥海はどこ行ったんだ?」

O大尉「私の秘書艦の木曾君と一緒に、ここの利根に会いに行ってるはずだけど?」

三日月「司令官! しれーかーん!」タッタッタッ

知大尉「三日月!? どうしたんだそんなに慌てて!」

三日月「ち、筑摩さんが利根さんを襲ってるんです! 『利根さんが剃髪した髪を食べたい』とか言い出しまして!」

霧島「」

摩耶「」

幽利根「」

三日月「いま、鳥海さんと木曾さんで必死に筑摩さんを押さえつけてるところです!」

知大尉「なにやってんだあいつは! 三日月、案内してくれ!」

三日月「こちらです!」
746 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/01/12(木) 01:12:46.25 ID:EDiAZ58Ro

 * 城塞鎮守府 出入り口付近 *

尻もちをついている利根改二「……」アッケ

知筑摩「放して! 利根姉さん! 利根姉さぁぁん!」ジタバタ

木曾「くそ、なんて馬鹿力だ!」オサエツケ

鳥海「筑摩さん落ち着いて!!」ハガイジメ

知大尉「おい! なにやってんだ筑摩!!」タタタッ

知筑摩「ああ、提督! 提督こそ利根姉さんを説得してください! この鎮守府を離れるなんて……!」

幽利根「まあ待て、まずは吾輩が話させてもらおうか」

知筑摩「と、利根姉さんが……ふたり!?」

利根改二「……お、おぬしは……」

幽利根「ふぅむ……随分やつれたのではないか? 最初の吾輩よ」

利根改二「お、おぬしは何者じゃ? 吾輩を知っているような口ぶりじゃが……」

幽利根「吾輩は……この鎮守府で建造され、M准将に殺されて地下室に飾られていた、あの利根たちの生まれ変わりである」

利根改二「!!」

幽利根「最初の吾輩よ。おぬしは、M准将の後を追うつもりか?」

利根改二「い、いや、そのようなつもりではなかった……吾輩は、あの地下室で殺められた艦娘の供養をするつもりじゃった」
747 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/01/12(木) 01:13:32.77 ID:EDiAZ58Ro

利根改二「このままではいかんと……あの筑摩に甘やかされるがまま、怠惰な生活を送っていては申し訳が立たぬと思っておったのじゃ」

幽利根「ふむ……とすると、吾輩が供養されねばならんのか?」

鳥海「そ、それはちょっと違うと思うのですが……」

利根改二「それに……おぬしには言いにくいが、吾輩はどうしても……M准将のことが、忘れられぬ」

幽利根「それは、愛情と言う意味でか?」

利根改二「……長い時間、苦楽を共にした。吾輩の記憶の大半は、あの男と一緒であった。それは否定のしようがない」

利根改二「筑摩には忘れろと……私に甘えてほしいと何度も言われたが、それはどうしてもできなんだ」

知筑摩「大丈夫ですよ利根姉さん! 何も考えずに私にバブみを感じてオギャってくれればいいんです!」

霧島「は?」

鳥海「ばぶ……?」

木曾「おぎゃる?」

摩耶「何言ってんだ?」

利根改二「吾輩にもわからん! 筑摩には、たまにわけのわからん呪文を唱えられて、正直混乱しておるのじゃ……!」

O大尉「……」チラッ

知大尉「ちょっ、俺の趣味じゃねえぞ!?」
748 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/01/12(木) 01:14:16.23 ID:EDiAZ58Ro

幽利根「よくわからんが、筑摩はこっちの利根に甘えてほしいと?」

知筑摩「そうです! 鎮守府で一番長く秘書艦を務めていたんですから、誰かに甘えたいのは間違いありません!」

知筑摩「これまでだって、私にべったり甘えてくれていたではありませんか!」

利根改二「うむ、その通りだ……だから、それでは駄目だと気付いたのじゃ」

知筑摩「駄目なんかじゃありませんよ! こっちを見てください、利根姉さん!」

幽利根「その相手、吾輩ではいかんか?」ズイ

知筑摩「えっ!?」

幽利根「筑摩よ。見たところ、おぬしの練度も大したものではないな?」

知筑摩「そ、それは、ここに移ってきてから、ずっとあちらの利根姉さんのお相手をしていましたから……」

幽利根「ほほう。では、吾輩と一緒に鍛え直すつもりはないか?」カオチカヅケ

知筑摩「ほえっ!?」ドキーン

O大尉「なんだあのイケメン……」

木曾「……」ピクッ

知大尉「今まで見たことのないタイプの利根だな……」

三日月「な、なんだか見ててどきどきします!」
749 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/01/12(木) 01:15:00.89 ID:EDiAZ58Ro

幽利根「筑摩よ。残念ながらあちらの利根には、心に決めた男がおるようじゃ。執着しても迷惑になるだけであろう」

知筑摩「……!」

幽利根「おぬしもあの利根に愛を注いだのかもしれんが、だからと言って見返りを求めるのは野暮と言うもの」

幽利根「本当にあの利根のことを思うのなら、その決意を応援してやるのが一番じゃと思わんか?」

知筑摩「新しい利根姉さん……!」

幽利根「吾輩は、建造されてまだ間もない。できれば似たような練度のおぬしと、これから一緒に切磋琢磨したいのじゃが……」

幽利根「どうじゃ。吾輩と、共に征かぬか?」ニッ

知筑摩「……!!」ズギューン

知大尉「あの利根、筑摩のあごに手を添えてんだけど」

三日月「あ、あのままキスしちゃいそうな感じですよね!?」

O大尉「なんなんだあのイケメンムーブ……」

木曾「……」ピクピクッ

摩耶(隣の木曾が反応してやがる)

 ズズズ…!

全員「「!!」」

木曾「な、なんだ!? 地震か!?」

 バキバキバキ…!

知大尉「これは……木の倒れる音か!? 林のほうからだ!」

利根改二「任せよ!」

 瑞雲<バシュゥウウ!

利根改二「……鎮守府脇の林のほうじゃ。木が大量に倒れて……地面が陥没しておる!」

知大尉「どういうことだ……?」
750 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/01/12(木) 01:15:46.05 ID:EDiAZ58Ro

 * 城塞鎮守府 本館近くの雑木林 *

摩耶「なんだよこりゃあ……」

 (雑木林の一部の地面が大きく陥没し、木々が横倒しになっている)

利根改二「幸いにも本館には影響がでておらんようじゃな。まさしくこの部分だけ陥没しておる」

知大尉「穴自体は、そこまで深くないみたいだな……4メートルくらいか?」

O大尉「おい、あまり近づくな、危ないぞ」

霧島「ここは……もしかして」キョロキョロ

鳥海「?」

霧島「知大尉。この穴は、あの地下室があった場所ではありませんか……?」

知大尉「そ、そういえば……!」

摩耶「だとしたらやべーぞ! うちの提督はどうなったんだよ!?」

O大尉「まさか生き埋めに!?」

幽利根「一大事じゃ!!」

提督「そうはなってねえから安心しろ」ヌッ

鳥海「司令官さん!」
751 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/01/12(木) 01:16:31.02 ID:EDiAZ58Ro

霧島「ご無事でしたか、司令!」

摩耶「……んだよ、焦らせやがって……!」

O大尉「地下で作業していたメディウムたちは無事なのですか?」

提督「ああ、俺もあいつらも大丈夫だ。いきなり崩れてきて焦ったのは事実だがな」

木曾「いったい何があったんだ?」

提督「地下室の拷問器具を全部回収し終わったあたりで、部屋自体が震えだしたんだよ」

提督「そのあとは俺だけ外に出るようにニコに言われて、外で待ってたらあの地震だ」

提督「ニコが言うには、器具を回収し終えた後に、部屋に残っていた魔力もニコが全部引き取ったんだと」

提督「その魔力を回収し終わった途端、あの部屋が崩れてきたらしい」

木曾「魔力?」

提督「部屋に残った人間の念、とでも思ってくれ。そこで殺された人間の無念とか怨念とか、そういう悪いほうの感情の残り滓だ」

木曾「俺は聞いただけで奥に入ってないから詳しいことは分からないが……その部屋では、そういうことが行われていた、ということなのか?」

提督「ああ。奥の部屋からは、年季の入ったヤバイ代物がたくさん出てきてる。全部メディウムが回収していったがな」

提督「さらに奥には、地上へ出ると思われる階段もあったが、木の根やら土やらで埋まってて使えなかったらしい」

提督「とにかくあの部屋は、ここが鎮守府になるよりずっと大昔から、そういう目的で使われてた部屋だったってことなんだろう」
752 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/01/12(木) 01:17:18.69 ID:EDiAZ58Ro

鳥海「地下室と言うから、こちらの本館の真下に作ったと思っていたのですが、そうではなかったのですね……」

提督「そいつは多分、こっちの建物と無関係であることを装うためにわざわざ離れたところに作ったんじゃねえかな」

提督「あの部屋の存在が露見したら、館のあるじの沽券にかかわる。離れに作れば、自分以外が作ったものだと言い訳するにも都合がいい」

提督「痛めつける相手をわざわざ本館まで連れて行って目撃される心配も減るし、林の中に連れ込んだほうが人目につかないし」

提督「悪人に都合よく作ったんだろ。そうじゃなけりゃ、当時の技術的にあの建物の下に部屋を作れなかったか、だな」

摩耶「その部屋が、なんでいきなり崩れちまったんだ?」

提督「ん−……そこはなんとも言えねえが、多分……あの部屋が、自分の役目を終えたと思ったんじゃねえか?」

摩耶「役目?」

提督「ああ。どうせ知大尉はあの部屋を使う気はないだろ?」

知大尉「はい。むしろ、今回の地下室の整理が終わったら、お祓いしてもらってから封印する気でいました」

霧島「お祓い……なるほど。考え方を変えれば、あの地下室そのものをメディウムに供養してもらったと言えるのかもしれませんね」

利根改二「供養……!」

幽利根「ふむ……全部綺麗にした、という意味であれば、近しいのかもしれんな?」

霧島「メディウムたちにそういう意図はなかったとは思いますが、結果的にはそうなったのかと」

知大尉「それで勝手に崩れるってのも理屈がわからないが……」
753 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/01/12(木) 01:18:01.95 ID:EDiAZ58Ro

O大尉「なあ、お祓いは予定通りやるのか?」

知大尉「ん? ああ、それはそれで予定通りやるつもりだ。俺たちは俺たちで、ちゃんと区切りっていうか、けじめをつけなきゃ駄目だろ?」

知大尉「利根にも、そのお祓いが終わるまでにはこの鎮守府にいてほしいんだ。M准将と一緒に、この鎮守府を切り盛りしてきた功労者なんだ」

利根改二「……うむ、そうじゃな。あいわかった、それまではここに留まるとしよう」

知大尉「それから、新しく来てくれた利根には、改めてこの鎮守府への着任をお願いしたい」

利根改二「うむ! よろしく頼むぞ!」

知大尉「筑摩もそれでいいか?」

知筑摩「は、はい! 歓迎します!」

提督「……よし。じゃあ、俺たちの仕事は終わったな?」

霧島「はい! 予想以上の結果を上げられましたね!」

三日月「提督、霧島さん、摩耶さん、鳥海さん! 今回は本当にありがとうございました!」

O大尉「本当にご協力ありがとうございました。提督にはお世話になりっぱなしですね」

提督「俺は俺に都合のいいことをやってるだけだぞ?」

木曾「フッ、随分な謙遜だな」
754 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/01/12(木) 01:19:01.06 ID:EDiAZ58Ro

三日月「ところで、霧島さんと摩耶さんは、次はいつ来られるんですか?」

摩耶「へっ? そういや、特に決まってねーな」

霧島「また次の予定を立てたいわね」

 ワイワイ…

提督「……」

木曾「ところで提督、メディウムたちはどうしたんだ?」

提督「ん? あいつらなら、地下室を片付けた後の用事もないから、引き上げたぞ」

木曾「そうなのか。どんな連中なのか興味があったんだが、お目にかかれないとは残念だな」

提督「興味本位でなら、首を突っ込まないほうがいいぞ。あいつらは本来なら人間の敵だし、俺がいなけりゃ艦娘にも容赦しないはずだ」

木曾「……提督は人間を敵だと思っていると?」

提督「艦娘に理解のない人間は、俺にとっては敵だな。そもそも俺は人間が嫌いだ」

提督「そういう人間だからこそ、メディウムに一目置かれた、と思ってくれ」

木曾「なるほど……」

提督「まあ、O大尉には借りもあるから付き合うが、俺と仲良くしたら海軍的には立場が悪くなるんじゃないか? と思ってんだが」

木曾「そんなことはないと思うが……ん?」
755 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/01/12(木) 01:19:47.59 ID:EDiAZ58Ro

ニコ「魔神様、仕事は終わったの?」

提督「おう、わざわざ迎えに来てくれたのか」

木曾「……こ、こいつらが噂の……!?」

マリッサ「あらぁ〜、この子、眼帯なんかしちゃって! 可愛いわねぇ〜」ニタァ

木曾「ひい!? なんだこいつ! なんて破廉恥な……!?」

O大尉「うわぁ……」

知大尉「あ、あんなメディウムもいるのか!?」

三日月「あ、あの人は一体!?」

霧島「三日月は見てはだめです!」メカクシ

提督「おいニコ。なんでマリッサが来てんだよ」

ニコ「魔神様の帰りが遅いから迎えに行く、って言ったら、護衛役を買って出たんだよ」

マリッサ「そうよぉ〜? 御主人様ったらお帰りが遅いんだもの、どこでどんな寄り道をしてるか、気になるじゃな〜い?」

マリッサ「そうしたら、こんなに可愛い子とイチャイチャしてるんですもの、嫉妬しちゃうわぁ〜!」ネチャァ…

木曾「ひぃっ!! お、おい! た、助けてくれ!」
756 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/01/12(木) 01:20:46.74 ID:EDiAZ58Ro

O大尉「て、提督! なんとかできませんか!?」

提督「面倒臭えなあ……」ハァ

木曾「面倒臭い!?」ガビーン

摩耶「うげっ、マリッサ!? なんでお前がここに来てんだよ!」

マリッサ「あたしは、おふねのみんなと仲良くイチャイチャしたいだけよぉ〜?」ニタァ

摩耶「お前の言うイチャイチャって、絶対良くねー意味だろ……」

ニコ「マリッサ。いい加減にしないと電に言いつけるよ?」

マリッサ「やぁん、ニコちゃんったら、いぢわるぅ」パッ

木曾「た、助かった……」

摩耶「マリッサはクラーケンのメディウムだからな。艦の天敵だから無理もねえよ」

O大尉「クラーケン!?」

知大尉「艦相手じゃ洒落にならないやつじゃないですか!?」

木曾「なんでそんな奴が電にビビってるんだ!?」

マリッサ「んふふっ、あたしがこっちでやったことを電ちゃんに教えちゃったら、きっと激しくお仕置きされちゃうわぁ」ウットリ

マリッサ「一体どんなことされちゃうのかしら〜? 楽しみぃ♪」クネクネハァハァ

木曾「へ、変態だーーー!!」ゾワゾワッ


木曾「興味があるとか軽い気持ちで言ってしまってすみませんでした……!」

提督「……まあ、いいけどよ。あいつ、一番強烈な奴だし」
757 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/01/12(木) 01:22:49.03 ID:EDiAZ58Ro
今回はここまで。
もうちょっとメディウムの出番を増やしてあげたい……。

それからトラップガールズのWIKIを復活してくださった方に、改めてお礼申し上げます。
キャラの性格、時間が経ちすぎててだいぶ忘れちゃってました。
758 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/01/16(月) 23:18:57.39 ID:L/p4QmQS0
墓場の動画から見始めてやっと追いついた。
艦これも影牢も全然知らんから情景を思い浮かべることはできないけどめちゃくちゃ楽しませてもらってます。
続きファイトです。
759 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:00:47.15 ID:ldf42oh6o
それでは続きです。

今回は、青葉と余所の艦隊のお話です。
760 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:01:31.56 ID:ldf42oh6o

 * 数日後 *

 * 墓場島沖 医療船内 小会議室 *

X中佐「……というわけで、君にお詫びしたいというK大佐の部下の艦娘たちを連れてきたよ」

提督「面倒臭え……」ハァァ…

阿武隈「めんどう!?」ガビーン!

加古「提督は相変わらずだねえ……」

提督「面倒は面倒なんだからしょうがねえだろ。こいつら自身が利用されてたってのに、なんで俺に謝る必要があるんだよ」

白雪「利用されていたとしても、あなたがたを疑ってあのような事態を招いたんですから、お詫びするのは当然では……」

提督「当然か? つうかお前らも被害者だろうがよ」

子日「で、でもでもぉ、私たちだって、命令でみんなに向かって撃ったから……」

提督「姉妹に関する嘘を吹き込まれて、挙句捨て駒にされてんじゃねえか。気の毒さ具合は似たり寄ったりだろ」

曙「ああああ、もう!! いいから黙って私たちの謝罪を受け取りなさいって言ってんのよ、このクソ提督!!」

睦月「曙ちゃんそれ全然謝ってる感じじゃないですよぉ!?」ガビーン!

提督「だからなんで謝るんだよ……わけわかんねえ。俺は気にしてないからいいぞ?」
761 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:02:17.41 ID:ldf42oh6o

阿武隈「そ、それでよろしいんですか……?」

提督「悪いのは、俺や大将たちを殺そうとしてたJ准将たちだろ? お前らもそいつらに騙されてたわけだ」

加古「とにかく、提督は、こっちのみんなは悪くない、って言いたいわけだね?」

提督「おう。お互い大変だったな、でいいんじゃねえの」

白雪「……寛大なお言葉に感謝いたします」

提督「大袈裟だな」

雷「大袈裟でも何でもないわ。私たち艦娘が、自分の司令官や、海軍の人たちに手を上げるなんて一大事だもの」

子日「そうそう! それに、調べてみたら、あなたが何にも悪いことをしてなくて! 私たち、申し訳なくなってたんだから!」

曙「ほんとよ……朧も、潮も、あんたには感謝してるって……そんな人を疑っちゃって、私たち馬鹿みたいだわ……!」

提督「ん? お前ら、姉妹艦とは話してきたのか」

白雪「はい。提督にお会いするより前に」

睦月「怪我の具合も心配だったのです!」

X中佐「それから、君の人柄を彼女たちから聞いておいた方がいいと思ってね」

子日「なんでも面倒臭がる人だって聞いてたけど、本当にその通りでびっくりだよー?」

白雪「吹雪さんも、態度は悪いけどすごく優しいと言ってましたから」

阿武隈「ほんとほんと! 言動だけ聞いてると、とても面倒見がいいとは思えないんですけど……」

睦月「阿武隈さんぶっちゃけすぎですよぉ!?」ワタワタ
762 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:03:01.79 ID:ldf42oh6o

加古「あはは、まあ無理もないね〜」

雷「そういうわけだから、お詫びのしるしに何かお世話」キラキラキラッ

提督「嫌な予感しかしねえから断る」

雷「えええ!?」

加古「うん、まー、そうなるだろうねえ」トオイメ

雷「な、なんでよぉ!?」

加古「いやー、昔さあ、雷をママって呼んでた人がいてねえ……」

阿武隈「そうなの!?」

提督「そんなことあったっけか?」クビカシゲ

加古「提督はその場にいたじゃんか。都合よく忘れてんじゃないよ……」タラリ

 扉<コンコンコン

早霜「失礼しますね。司令官、お客様です」チャッ

提督「うん?」

矢矧「軽巡矢矧、失礼いたします」

酒匂「お邪魔しまーす……わ、ほんとに私と似てる人がいる!」

X中佐「僕!?」
763 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:03:46.92 ID:ldf42oh6o

提督「ん? おお……確かにX中佐と似てるな。で、お前たちは?」

酒匂「あ、私、阿賀野型軽巡4番艦、酒匂です! わたしたちは、J少将の部下だったんです!」

矢矧「提督、此度のご無礼、大変申し訳ありませんでした」ペコリ

酒匂「申し訳ありませんでした!」ペコリ

提督「お前らも謝りに来たのかよ。面倒臭えなほんとに……」

加古「いやいや、少しは真面目に受けてあげようよ」

提督「そうは言うが、あの島に上陸した艦娘以外は、メディウムたちが力づくで追い払ったとかニコが言ってたんだぞ」

提督「人間はどうでもいいが、艦娘にも攻撃してたとしたら、俺たちのほうこそ手荒な真似してごめんなさいしなきゃいけねえんじゃねえの?」

加古「……人間はどうでもいいんだ」タラリ

提督「俺にそいつらを守る義理はねえ」フンッ

提督「もしかしたら、あの島で死んだ人間の中にも、こいつらと同じように利用されただけの人間もいるかもしれねえが」

提督「それは俺が気にしたところで、どうにもならねえよな?」

X中佐「……そうだね。その責任は海軍にある」

提督「今回は俺たちが攻め込まれた側だから、正当防衛でいいって言われてはいるけどよ」

矢矧「J少将からは、提督が深海棲艦と共謀して謀反を企んでいると聞かされていました」
764 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:04:46.42 ID:ldf42oh6o

矢矧「ですが、蓋を開けてみれば、提督は轟沈した艦娘を救うために一人離島で奮起していたと……!」

提督「……奮起、ねえ。いつの間にか大層な話になってねえか?」

早霜「フフッ、いいんではないですか? それとも、重荷を背負いたくない、と?」

提督「常々言ってんだろ、面倒ごとは御免だって。気楽にしてたいんだよ、俺は」

提督「……それがまあ、今はそうも言ってられなくなったけどな」ガックリ

酒匂「ねえねえ提督さん? 提督さんは、私たちのことを責めないの?」

提督「俺はそのつもりはねえけどな」

酒匂「うーん……」

矢矧「そのように仰っていただけると大変ありがたいのですが……」

早霜「実はもう御一方いらっしゃるのですが、その件でものすごくやつれてまして。入っていただいても?」

提督「ああ、入れてくれ」

早霜「はい。では……どうぞ」チャッ

青葉「失礼します!」

古鷹「ほら、大丈夫だから、ね?」

衣笠「……」ゲッソリ
765 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:05:32.38 ID:ldf42oh6o

加古「うわぁ……」

提督「なんだその今にも倒れそうな不健康そうなやつは……」

矢矧「青葉型重巡2番艦、衣笠さんです。J少将の命令で、あの島へ三式弾を撃ったのが彼女です」

提督「!」

阿武隈「ええ!?」

白雪「衣笠さんが……!」

曙「なん……もがっ!? もがーー!?」クチフサガレ

睦月「曙ちゃんは何も言わないで黙ってるにゃしい!」クチフサギ

子日(どんなセリフが出てくるかわかんないもんね……)ウンウン

衣笠「えっと……あの……本当に、ごめんなさい」ヘナヘナ

衣笠「私が……うっ、うう……」ドゲザ

青葉「ちょっ!? 衣笠! いきなりそこまでしなくても!」

古鷹「提督はそんなに怖くないよ!?」

衣笠「だ、だって……わたしのせいで……」ボロボロボロ

提督「見てて痛々しいな。なんでこんなことになったんだ?」

青葉「それについては、青葉がいろいろご説明いたします!」ビシッ
766 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:06:17.26 ID:ldf42oh6o

青葉「そもそも、青葉があの島へ転籍させられたのは、J少将の写真を撮ったから、と司令官にはお伝えしていましたが……」

青葉「青葉、以前からJ少将とその部下のK大佐は前々から怪しいと思っていまして!」

提督「やっぱりか。何か探ってたからうちに来たんじゃねえかって邪推してたんだが。で、どう怪しかったんだ」

青葉「J少将は日頃から深海棲艦に対する嫌悪感をあらわにしていました。出撃すれば必ず撃滅を命じる、厳しい方でした」

青葉「しかし、青葉はその敵意が、どうも艦娘にも向けられているように感じていたんです」

青葉「そのJ少将の懐刀であるK大佐も、艦娘とのコミュニケーションは最低限。感情すらあるのか疑わしい人物でして」

青葉「これは何か裏があると思い、青葉は少しだけ、あのお二人の情報を集めようと思ったんです!」

青葉「そうしたら、どこかの施設で艦娘や深海棲艦に関する実験を行っているという情報を耳にしまして……」

提督「……」

青葉「それ以来、あの二人の周囲を調査し始めてしばらくしてから、身の危険を感じるようになりました」

青葉「矢矧さんたちのお姉さんにあたる阿賀野さんもそれをどこかで知ってしまったようで、どういうわけか青葉にお声が掛かりまして」

青葉「阿賀野さんからは協力を申し出られました。しかし、青葉は危険だと思って丁重にお断りしましたんですが……」

矢矧「阿賀野姉は、工廠で修理中に事故に遭ったの。クレーンで釣り上げていた鉄骨が落ちてきて……」

矢矧「それで私と酒匂がJ少将に話を聞きに行ったとき、ぼそっと、青葉、って呟いていたのを聞いて……」

青葉「おそらく、そのころから矢矧さんたちが青葉に対して風当たりが強くなったんですかねぇ」
767 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:07:02.36 ID:ldf42oh6o

青葉「でも、それは阿賀野さんが青葉に協力を申し出るより先に、能代さんがJ少将に脅されていたとも考えられます」

矢矧「……!」

青葉「そのころから青葉の出撃中に視線を感じるようになりまして。ちらっと能代さんを見ますと、怖い顔をして青葉を凝視してたんですよ」

青葉「おそらく、青葉のことを事故に見せかけて始末するように、J少将が能代さんに命じていたんではないでしょうか?」

青葉「阿賀野さんが事故に遭ったのも、青葉を早く口封じさせようという、J少将の能代さんに対する脅迫だったと考えています」

青葉「あるいはもしかしたら、能代さんの異変に気付いた阿賀野さんが独自に動こうとした結果なのかもしれませんが……」

青葉「いずれにせよ、こう、身内が狙われる事態になると、青葉もどう動けばいいか……実際、どうすればよかったんでしょうね」

青葉「そうこうするうちに、能代さんは、自分を撃ってしまったんですよ」

矢矧「……」

提督「……」

青葉「能代さんは真面目な艦娘です。その艦娘としての矜持を、曲げることはできなかったんではないかと、青葉は思っています」

青葉「それでどうにもJ少将が許せなくなりまして……」グッ…

青葉「その後、解体処分とまではいかない、ちょっとした不祥事を起こして、J少将のもとを離れた、というのが、青葉の転籍の顛末なんです」

提督「その不祥事ってのが、写真を撮ったってことか?」

青葉「表向きはそうですね! 転籍が決まる少し前に、J少将が鬱陶しがるくらいには付きまとって写真を撮りました!」
768 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:07:47.35 ID:ldf42oh6o

青葉「カメラは没収されましたが、それとは別に隠し撮りで一番撮りたかったものが撮れたので、青葉はそれで十分です」ピラッ

X中佐「これは……なんとも言えない笑顔だね」

提督「すげえ面だな。こんな顔して何考えてたんだか」

青葉「後ろに移ってるのはK大佐ですね。この時期から何かしらK大佐がちょくちょく出張してました。だいたい1年くらい前からですかね?」

X中佐「青葉、詳しい話はあとでさせてもらっていいかな? この話はあまり他言できそうにないね」

青葉「……そうですね。とにかく、そういう手口で衣笠もJ少将に脅されていたわけですよ」

提督「なんで衣笠がJ少将に脅されるようになったんだ?」

青葉「単純に手駒が欲しかったんでしょう。能代さんを意のままに操るため、阿賀野さんをあんな目に遭わせることも厭わない相手です」

提督「……胸糞な奴だな」

矢矧「青葉さんが鎮守府を去って少し経ってから、衣笠さんの様子がおかしいのは私もなんとなく感じていたわ」

矢矧「私は、青葉さんがJ少将鎮守府に、何か後味の悪いものを残していったからだと思っていたのだけれど……」

青葉「とにかく、衣笠も能代さんと同じように、言うことを聞かなければ、近親者の誰かを殺すと脅されていたんでしょう」

青葉「その結果、青葉も狙われましたし、命令を実行してしまって後悔して、こんな状態になってしまった、と」

衣笠「……ぐすっ……」

提督「なるほどねえ……」ウーン
769 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:08:32.82 ID:ldf42oh6o

X中佐「青葉はこの話を提督にする気はなかったのかな?」

青葉「それは単純に、あの島が青葉の話をしていい状況になかったからですね」

青葉「あとは、いつ話すべきか、あるいはお話して良い相手か、見定めたかったというのもあります」

提督「そういやお前が来てまもなくだったよな、大佐が泊地棲姫の塒に攻撃し始めたのは」

青葉「そうでしたねえ。とりあえず青葉からは以上です!」

提督「……艦娘や深海棲艦に関する実験、か。いろいろ知ってるであろうJ少将を潰せたのは、良かったのか悪かったのか、だな」

古鷹「あの、提督! 衣笠を、許してもらえませんか?」

提督「ん? 俺は最初っから許すつもりでいるんだけどな。けじめはつけたほうがいいか……おい、衣笠」

衣笠「!」ビクッ

提督「チョキかパーか、好きなほう選べ」

衣笠「……?」ビクビク

提督「別に選んで死んだりはしねえよ。悪いようにはしないから、どっちか選びな」

衣笠「……そ、それじゃあ……ちょ、チョキ?」オソルオソル

提督「よし、チョキだな」スッ
770 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:09:17.19 ID:ldf42oh6o

古鷹「あ」

 バッチィィィン!!

衣笠「いったああああああい!?」ブットビ

阿武隈「ひい!?」ビクッ

子日「なにあのでこぴん!? すっごい音したんだけど!?」

青葉「ちょっ、司令官!? なにするんですか!?」

古鷹「き、衣笠!? 大丈夫!?」

衣笠「んぎゅううう、痛ったああ……!」グスグス

提督「おい衣笠。俺たちの件はそれで手打ちにしてやるぜ。これ以上俺たちに謝るなよ?」

衣笠「……!」

X中佐「提督はそれでいいのかい?」

提督「形はどうあれ、やったことに対する罰が欲したかったんだろ。当事者に反撃されて、少しはすっきりしたんじゃねえの」

衣笠「……」パチクリ

阿武隈「あ、あの、なんでグーがなかったんですか?」

提督「げんこつは手加減できないんでな」
771 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:10:01.44 ID:ldf42oh6o

曙「じゃあパーはびんたしようってつもりだったの!?」

青葉「いえ、司令官の場合はアイアンクローでしょうねえ……」

提督「手加減はするぞ? さっきのでこぴんだって手加減したからな?」

古鷹「ねえ衣笠、大丈夫? 早く医務室に行こう?」

衣笠「……う、うん……あの、提督!」

提督「!」

衣笠「あ、あの……ありがとう、ございました」ペコリ

提督「おう。ちゃっちゃっと治せよ」

衣笠「は、はい!」

古鷹「提督! 私、衣笠を連れて行きますね!」

 扉<チャッ

ツバキ「おひけえなすって!!」バーン

衣笠「」オメメ

古鷹「」ミヒラキ

 ピカー

ツバキ「うおっ、まぶしっ」

提督「何やってんだ」

ツバキ「申し訳ありやせん、鉢合わせた古鷹の左目が眩しゅうて、面食らいましてん」
772 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:10:46.38 ID:ldf42oh6o

曙「あ! あんた、あの島にいた……!!」

ツバキ「おや、親分さんと一緒にいた艦娘は、こちらにおりんしたか」

ツバキ「改めまして、うちはカビンのメディウム、名をツバキとはっします。どちらさんも、よろしゅう頼んます!!」ズイッ

全員「「……」」ヒキッ

提督「まあ、堅気しかいねえからな。ツバキの口上こそ面食らうだろ」

ツバキ「大将さんところの艦娘の皆さんにゃア、受け入れてもらえたんですがねえ?」

X中佐(任侠ものの映画が好きだもんなあ、叔父さんは……)

ツバキ「ときに親分さん、恐れ入りやすが、この船の食堂までご足労願えやせんでしょうか」

早霜「墓場島へ攻め込んだ艦娘たちが、お詫びも兼ねて顔合わせのため集まっているの」

阿武隈「私たちもそうだったんだけど、先に提督さんにお会いしたくて……」

提督「面倒臭え……」

曙「まだ言うの!?」

雷「それじゃ、私がだっこして連れてっ」

提督「しょうがねえな、さっさと行くか」

雷「てあげようと思ってたのに!?」

提督「つうか、また食堂か? また比叡がカレー配ってるんじゃないよな?」

ツバキ「本日は、うちのメディウムどもが、甘味を振舞っておりやす」

提督「甘味……?」
773 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:11:31.85 ID:ldf42oh6o

 * 食堂 *

マーガレット「ご、ごめんなさい! 本当にごめんなさい!」

提督「……」

ツバキ「文字通り、西洋の甘味を振舞っておりやすな……」

阿武隈「なにこの惨劇……」

朧「秋月、しっかりして!」ユサユサ

顔にホールケーキをのせて仰向けに倒れている秋月「」チーン

顔にホールケーキをのせて仰向けに倒れている照月「」チーン

顔にホールケーキをのせて仰向けに倒れている初月「」チーン

パンプキンヘッドを被って鼻血を出して倒れている涼月「」ゴーン

X中佐「ケーキがもったいない……」

セレスティア「申し訳ありません魔神様、マーガレットがまた粗相しまして……」

朧「3人とも、ケーキを滅多に食べたことがないから、ダウンしたらしいんです!」

提督「……うん、まあ、そりゃしょうがねえとしよう。けど、こっちのパンプキンマスクはロゼッタだよな?」

ロゼッタ「そうだよー! だって、その子があたしのじゃこたん見るなりカボチャの煮付け? とか、調理がどうこうってうるさくてさー!」
774 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:12:17.45 ID:ldf42oh6o

ロゼッタ「話聞かないからじゃこたん被せたら、おとなしくなったからそのままにしてるの!」プンプン!

提督「こいつはなんで鼻血噴いてんだ」

酒匂「涼月ちゃん、カボチャマニアだからじゃないかなあ……」

提督「被らされて喜ぶのかよ。よくわかんねえな」

W大佐「提督、騒々しくさせてすまないな」

提督「! あんたも来てたのか」

W大佐「ああ、前回顔見せできなかった、うちの艦娘も連れてきたんだ」

W鈴谷「あ、X中佐じゃーん! おっひさー! で、そっちが噂の魔神提督? ちーっす!」

W熊野「ごきげんよう、お待ちしておりましたわ。ケーキ、お先にいただいていますわよ」

W大佐「紹介しよう、最上型航空巡洋艦、鈴谷と熊野だ」

提督「最上型?」

W大佐「ああ。君のところに最上と三隈がいると聞いている。良かったら話ができればと思ってな」

W鈴谷「それなんだけどさー、鈴谷達の出る幕、ないみたいよ? ほら」

W日向「ふむ、君が最上か。良い目をしているな」ズイ

最上「そうかな?」キョトン
775 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:13:03.02 ID:ldf42oh6o

W日向「お近づきのしるしに特別な瑞雲を差し上げよう。どうだ、私たちと一緒に来ないか」ズズイ

三隈「ちょっと! 最上さんに近づきすぎですわ!!」シャーッ!

提督「……ありゃ、お前んとこの日向か」

W大佐「そうなんだが……」

ヴァージニア「先ほどから最上に絡んでいる。三隈がいい顔をしていないようだぞ」

レイラ「こちらの日向とはだいぶ雰囲気が違いますわね」

提督「ヴァージニアにレイラか? お前たちがわざわざこっちに足を運ぶなんて珍しいな」

レイラ「たまにはこうやって一緒にティータイムを楽しもうかと思いまして」

ヴァージニア「私は、私の前に跪かなかった者たちの顔を見に来ただけだ」

W熊野「ふふん、このわたくしに目をつけるなんて、メディウムにもなかなか見る目がある御仁がいるようですわね」

ヴァージニア「調子に乗るな、未熟者め」

W鈴谷「もー、張り合ってる場合じゃないっしょ? ほら、ケーキおいしいよー?」パク

ヴァージニア「……」

ヴァージニア(ふむ……先程から観察しているが、この鈴谷とかいう娘……)

ヴァージニア(口にものを含んでいる間は決して口を開かず、ケーキをフォークで切るときも一切物音を立てていない)

ヴァージニア(ティーカップを口へ運ぶしぐさも、飲んだ後にティーカップの縁を指で拭うしぐさも、気品を漂わせている……!)
776 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:13:47.24 ID:ldf42oh6o

ヴァージニア(最上と三隈も育ちの良さが窺い知れたが、熊野という娘ともども様になっているではないか……面白い者どもだ)

W熊野「ちょっとあなた。さっきから、何をじろじろ見てますの?」

ヴァージニア「……なるほど。我らの出会いは、偶然ではなかったということか……」フンゾリ

W熊野「は?」

ヴァージニア「貴様らもいつか私の前に跪かせてやろう!」ズビシィ!

W鈴谷「え!? なになに、どういうこと!?」

レイラ「ご安心を。彼女があなたたちのことを一目置いたという意味ですよ」ニコッ

W熊野「ふ〜ん……そういうことですの。悪い気はいたしませんわね」フフン

ヴァージニア「レイラ。勝手な解釈をするな」

レイラ「あら、間違ってましたか? ウフフ」

ヴァージニア「それより貴様はあの猫娘の相手をしていたらどうだ。あれはシルヴィアを魚に見立てて追い掛け回していただろう」

レイラ「ああ、それでしたら、彼女の妹君にお相手していただいていますわ」

ヴァージニア「なに?」

北上「うーりうり、猫じゃらしだよー」ミョインミョイン

W多摩「多摩は! 猫じゃ! ないにゃ! じゃらすな! ってばァ!」シャッ! シャッ!

提督「猫じゃねえか……」
777 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:14:32.00 ID:ldf42oh6o

W大佐「多摩はなにをしてるんだ」ガシッ

W多摩「うにゃあ……」エリクビツカマレ

北上「あ、提督きてたんだー。お疲れ様」ヒラヒラ

H大井「北上さん? こちらの方は……」

北上「んー、この人があたしらの提督だよー。魔神様っても呼ばれてるけど」

H大井「この人が……」

北上「提督、紹介するねえ。H大将の秘書艦、大井っちだよぉ」

H大井「重雷装巡洋艦、大井です。H大将の秘書艦を務めております」ペコリ

提督「おう。お前が北上の姉妹艦か」

北上「ついでに言うと、提督がこの前会食した球磨姉や、城塞鎮守府で会った木曾もうちらの姉妹だよー」

W多摩「多摩もそうだにゃ」

提督「……なんつうか、一癖ある奴ばっかりだな」

北上「ありゃ、意外と反応薄くない?」

提督「まあ、あのメディウム連中を見てりゃあな?」チラッ

北上「あー……」

レイラ「あら、どうしてこちらに視線が?」
778 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:15:31.54 ID:ldf42oh6o

ヴァージニア「あるじよ、どこを見ている?」

W鈴谷「無理もないよー、実際、レイラちゃんの見た目は派手っ派手だよねー?」

ヴァージニア「私が煌びやかではないと申すか!」ガタッ

提督「ヴァージニア、お前、面倒臭えから座ってろ……」ハァ

ヴァージニア「あきれたようにため息をつくな」グヌヌ…

北上「まあまあそれよりさ、大井っちのところの、H大将の艦娘も来てるから、ちょっと対応してあげてよ」

H大井「こちらです」

摩耶「お、やっと来やがったか」

提督「摩耶? 鳥海もいるのか」

鳥海「はい。こちらにいるのが高雄型の1番艦、2番艦にあたる、高雄姉さんと愛宕姉さんですが……」

H高雄「」ブルブル

H愛宕「」ビクビク

提督「……なんか、あからさまに怯えられてねえか?」

摩耶「メディウムに相当怖い目に遭わされたらしくて、ずっとこんな調子なんだよ」

提督「ん? 2人だけか?」
779 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:16:16.51 ID:ldf42oh6o

H大井「あの場には6名の艦娘を出撃させていただきましたが、そのうち金剛型の2人は収拾がつかなくなるほど騒々しくなるので欠席に」

H大井「長門型の2人……長門は放っておくと駆逐艦を口説きだすので欠席、陸奥はその長門を見張るため欠席としました」

H大井「H大将が同席すればおとなしくはなるのですが、今日は外せない用事があるので、私が代行として参上した次第です……」ハァ…

提督「……苦労してんだな」タラリ

H大井「とにかく、こちらの2人も私たちの艦隊の主力ですので、どうにか立ち直って欲しいという期待も込めて連れてきたんですが」

提督「うちのメディウムどもは何をやらかしたんだよ、くそが……」

ヒサメ「それなんじゃが、主にサムとジェニーが調子に乗ったようでのう?」カキゴオリシャクシャク

提督「ヴォルテックチェアとデルタホースか……精神的にもダメージでかい奴だな」

メアリーアン「んだ。そのあと、でっけぐなったマリッサに襲われかけてただよ」シャクシャク

提督「でっけぐ? ……ああ、でっかくなったってか。泊地棲姫の力を借りて巨大化してたって言ってた奴だな?」

メアリーアン「んだんだ!」

ヒサメ「戦は終わったのじゃ。そのように怖がらずとも良いというのにのう? ほれ、艦娘にこさえてもらったかき氷じゃ、食わぬかぇ?」

高雄「!」ビクッ

提督「ガタガタ震えてる相手に勧める食い物じゃねえと思うんだが……」
780 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:17:03.76 ID:ldf42oh6o

メアリーアン「ヒサメの好みだがら、しょうがねえだ。おらがあったかい飲み物、用意すっぺが?」

 厨房の扉<チャッ

ビスマルク「かき氷の追加ができたわよー!」

提督「注文に関係なく作ってんじゃねえよ……」アタマオサエ

X中佐「うちのビスマルクがごめんね……」

ビスマルク「あら、あなた、噂の魔神提督ね。私はビスマルク、X中佐艦隊所属の艦娘よ、よーく覚えておくのね!」

提督「ああ……そういや、X中佐の主力は海外艦と潜水艦だったか」

ビスマルク「ええ、そうよ。このかき氷も、つい先日、新しく入った艦娘が作ってくれたんだけど」

ウォースパイト「我が名はQueen Elizabeth Class ! Battleship Warspite ! かき氷作りなら任せて!!」バーン!

X中佐「何やってんのウォースパイト!?」

提督「……何者だ、ありゃ。クイーンエリザベスっつったらイギリスの女王じゃねえか。なんでクイーンがジャパニーズかき氷作ってんだよ」

ビスマルク「私も知らないわよ、そんなこと。突然、あの子が作るって言い出したんだもの」

ヴァージニア「クイーン!? 貴様も女王を名乗る気か!?」ガタガタッ

提督「話が面倒臭くなるからお前はおとなしくしてろ」

ヴァージニア「これが口を出さずにいられるか! あるじは下がっておれ!」

提督「……」ムゴンデアイアンクロー

ヴァージニア「うごっ!? ぶ、無礼者、なにを……あっ、ちょ、やめっ、いだだだだだ!?」メキメキメキ
781 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:17:46.43 ID:ldf42oh6o

W大佐「容赦がなさすぎる」タラリ

阿武隈「あれを衣笠さんにやろうとしてたんですか……」

ヒサメ「ヴァージニアの奴め、落ち着かせ役のサムがこの場におらぬせいで我儘三昧じゃな」

メアリーアン「暴君だっぺよー」

ヒサメ「まあ、じゃからと言ってサムの奴めを放逐すれば、誰彼構わず椅子に電気を流し始めるからのう」

メアリーアン「暴君だっぺな!」ウンウン

摩耶「どっちみち駄目なんじゃねえか!!」

提督「このカオスな状況で、何やったらいいんだよ……摩耶、鳥海、なんかいい方法あんのか?」

鳥海「そうですね、とりあえず司令官さんがお優しいところを見せて、メディウム恐怖症を克服できるよう……」

提督「そりゃ無理だな」

摩耶「諦めんの早すぎだろ!」

提督「そんなこと言ってもなあ。俺が優しくににこにこへらへらしてたら、薄気味悪いと思わねえか?」

摩耶「……それもそうだな?」

鳥海「摩耶!?」
782 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:18:31.61 ID:ldf42oh6o

提督「俺からは、無理に島に近づかなくていいぞ、ってレベルの話しかできねえと思うんだが……なあ大井、ちょっと教えてくれ」

H大井「はい? なんでしょう」

提督「H大将は、今後も継続して俺たちと接触する気なのか?」

H大井「今後、深海勢力との折衝を行うのは、X中佐やF提督が中心になると、私は認識しています」

H大井「なので、もし関わるにしても、私たちは他艦隊のバックアップに回るでしょうね」

H大井「もちろん、H大将や北上さんがこちらに用があるというのなら話は別ですが……」

H大井「H大将が個人的にあなたがたとお付き合いしたいかどうかは、私にはわかりません」

提督「んー……だとしたら、この場で無理にメディウムたちと和解というか、克服しなくてもいいんじゃねえか?」

H高雄「!」

H愛宕「!」

提督「摩耶たちが姉を立ち直らせたいというのはわかるが、落ち着くまでは距離を取ったほうがいいこともある」

提督「H大将たちの都合が許す限りは、俺たちと接触しないほうが、かえって気が楽になって回復も早まると思うんだが」

H大井「……かもしれませんね」

提督「とりあえず俺は、こっちに敵意を示さない限り、これ以上危害を加える気はないし」

提督「島に来るときに北上たちがいてくれりゃあ、攻撃はしないとも決めたからな」
783 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:19:16.81 ID:ldf42oh6o

H大井「H大将から、罠の化身を束ねる魔神と聞いていたから警戒していたのだけれど……信じていいんですね?」

提督「そういう約束を守らなきゃ、俺たちの安全も担保してもらえないだろ。せいぜいお前たちに信じてもらえるように動くさ」

H大井「……承知しました。良く取り計らいましょう」

提督「ああ、よろしく頼むぜ」

ヒサメ「なんじゃ、もう話は仕舞いか?」

提督「今のところはな」

北上「慌てて解決する必要もなさそうだしね〜」

ヒサメ「それはつまらんのう。折角の機会じゃ、そこな猫娘のように一悶着あっても良いでは……」

 ベシッ

ヒサメ「あいた!?」

初春「まったく、折角まとまりかけておったところを引っ掻き回してどうするんじゃ!」

ヒサメ「いたた……初春め、何をする? ほんの冗談じゃろう、本気にするでない」アタマサスリ

初春「メディウムならやりかねん。というか、ヒサメこそ調子に乗っておるのではないか?」

初春「炎を操るメディウムたちが遠慮して船内に入ってこないことをいいことに、のう?」ズイ

ヒサメ「さあて、どうだかのう?」プイス
784 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:20:16.99 ID:ldf42oh6o

提督「? なんで遠慮してんだ?」

初春「火災報知機があるじゃろう? ウーナのように松明を掲げておっては一発じゃ」

提督「ああ……そういうことか。下手すりゃスプリンクラーでびしょ濡れだもんな」

メアリーアン「濡れるのも勘弁だべ。おらの防寒具が水吸ったらば、重でくて動かんにぇぐなっちまうだあ」

ウォースパイト「……ねえビスマルク? 彼女、日本語を話しているのよね? フランス語ではないわよね?」ヒソヒソ

ビスマルク「訛りがすごいだけよ。私もよく聞き取れないくらいだけど」

ウォースパイト「Hmm... 興味深いわ。ねえ、彼女の罠がどんなものか、見せてもらってもいいかしら」

提督「やるなら外でな。こんな狭いところで雪玉召喚したら、軒並み巻き込んで収拾がつかなくなるぞ」

ビスマルク「雪玉?」

メアリーアン「んだ、おらあスノーボールのメディウムだぁ。でっけえ雪玉呼び出して、みんな雪さ埋めて転がしちまうだよ」

メアリーアン「んでば、おらだづ、魔神様ぁ守るため、こっちの2人と戦うごとになったんだけども……」

メアリーアン「せいぜい驚かして、逃げてもらうか、ちょっと動けなぐなってもらうか、そのっくらいにしたがったんだよぉ」

H高雄「あ……」

メアリーアン「おっかねえ目に遭わせちまって、ほんとにごめんなあ」ペコリ

H愛宕「え、ええ……」

ヒサメ「敵対してない艦娘とは仲良くしろと、こやつが言うからのう。まっこと、甘い男じゃ」ウンウン
785 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:21:15.74 ID:ldf42oh6o

ツバキ「親分さん、そろそろこちらにもご挨拶願えやせんでしょうか」

提督「ん? ああ……こっちには武蔵がいるのか?」

X中佐「僕の叔父さん、海軍大将の艦娘たちだね」

T武蔵「……貴様が提督か。ツノが生えたと聞いていたが……」

T霧島「見た目は普通の男性ですね?」

提督「ツノ……ああ、そういやいつの間にかどっかに行っちまったな」

T霧島「生えていたことは間違いないのですか?」

提督「ああ。意図して生やしたつもりはないが……」

T清霜「もしかして出し入れできるの!?」

T武蔵「こら、清霜!」

提督「出し入れ……できるかもしれねえな。まあ、また生えてくるようなことはないようにしたいもんだが」

T霧島「それはどういう意味です?」

提督「ツノが生えた、つまり俺が魔神に覚醒したのは、うちの艦娘たちや、長く一緒にいた妖精が人間どもに殺された怒りからだ」

提督「あの島の海底火山が噴火したのも、俺が覚醒したからだって認識してる」

T霧島「……そういうことですか」
786 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:22:01.65 ID:ldf42oh6o

T武蔵「阿武隈、お前たちは確か島に乗り込んで提督と会ったと聞いているが、今の話は本当なのか?」

阿武隈「……提督の艦娘たちが、K大佐たちに襲われたのは事実です」

提督「そういやお前もあいつらに両脚撃たれてたよな? 大丈夫なのか?」

阿武隈「え? あ、はい! それは大丈夫です!」

提督「そうか、ならいい。治療できなくて痕が残ったら最悪だ。うちの艦娘に、入渠させてもらえず傷が消えなくなった奴がいたからな」

阿武隈「うえぇ……」

T妙高「少尉は、そういった過酷な状況にあった艦娘の保護に、奔走されていたのですね?」

提督「さすがに奔走は過大評価だ。俺はあの島に流れ着いてきた艦娘を保護してきただけだ」

提督「その中でも、体に傷が残るほどひどい目に遭ったのはわずかだが……まあ、まともじゃねえ扱いを受けてきた艦娘ばかりだったな」

T武蔵「貴様の艦隊にも武蔵がいると聞いているが、そいつもひどい目に遭ったのか?」

提督「いや、うちの武蔵は建造艦だ。苦労させてはいるが、ひどい目には遭わせてないつもりだぞ? 多分」

曙「多分、って……アンタは朧じゃないでしょ」

提督「まあ、それよりそっちの2人のほうが」チラリ

T羽黒「ひっ!」ビクッ

T初風「ひっ!」ビクッ

提督「……マジで重症そうだな」
787 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:22:46.74 ID:ldf42oh6o

T妙高「そうですね……ふたりとも、提督に失礼ですよ?」

T羽黒「わわ、わ、わかってます、わかってますけど……」ヒシッ

T初風「ど、どうしても、その……」ヒシッ

提督「さっきの2人といい……なにがあったんだ、あの2人は」

ナンシー「それなんだけどぉ」ヒョコッ

ナンシー「このふたり、リサーナとルイゼットがお相手したみたいなの!」

提督「……てことは、サーキュラーソーとギロチンか? んじゃトラウマになっても仕方ねえな」

T清霜「あ! トゲトゲ天井のお姉さんだ!」

ナンシー「ノン・ノン! あたしはフォールニードル! の、ナンシーちゃんだよー!」

T武蔵「……なんとも軽いな」

ナンシー「それ、マスターのところの武蔵にも言われちゃったんだよねー。ねえマスター、あたしってそんなに軽いかな?」

提督「ノリは軽いと思われるかもしれねえな」

提督「けど、俺が辛気臭えからってのもあるが、お前みたいにポジティブな奴がいると雰囲気良くなるから嫌いじゃねえぞ?」

ナンシー「!」
788 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:23:32.40 ID:ldf42oh6o

提督「むしろ、場を弁えていれば長所だと思ってるが、お前は不満か?」

ナンシー「ううん、そんなことないよ! マスター、長所だって言ってくれるんだ! 嬉しー!」ダキツキー

T武蔵「ふぅむ……まあ、一理あるか」

提督「必要以上に剣呑な雰囲気にしなくてもいいだろ。少なくともこの場はナンシーくらいのノリで話せる奴がいたほうがいい」

ツバキ「せやったら、うちも少し明るく振舞ったほうがええんやろか」

T清霜「そっちのお姉さんは、今のまんまでいいと思うよー? 私はよくわかんないけど、武蔵さんと霧島さんが盛り上がってたもん」

T武蔵「き、清霜!?」ワタワタ

T霧島「その話は内密に!」アセアセ

ツバキ「……隠す意味が、ようけわかりゃんせんな?」クビカシゲ

X中佐(やっぱり任侠物が好きなんだ……)

提督「とにかくだ。そもそも俺はさっきからずっと言ってんだが、お前らは俺たちに謝るような立場にないと思ってる」

提督「落ち度があるとすりゃあ、J少将の企みそのものと、そいつの本性を見抜けなかった大将たちだろうよ」

提督「そっちの2人のケアは必要だが、それ以外は、お互い大変だったな、で済ませてしまいたい」

提督「もちろん、お前らが大将の指示に背いて、独断で俺たちを攻撃したって言うなら話は別だが、そうじゃねえよな?」

T武蔵「ああ。貴様たちが深海棲艦との共存を目指していたことを知っていたら、我々は協力を申し出ていたはずだ」
789 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:24:17.77 ID:ldf42oh6o

ツバキ「あの人間に、そのお役目が務まりますやろか?」

T霧島「私たちの提督は、いささか猪突猛進なきらいがありますので、実際の交渉については私たちが受け持つつもりでいました」

T武蔵「それか、それこそX中佐にお願いしなければならないかと……」

ツバキ「そういうんとちゃいます。あの人間、うちの親分さんが覚醒したときに腰を抜かしはったんどす」

提督「ツノが生えたの見て、ビビッて俺から逃げようとしてたよな」

T武蔵「それはいま初めて聞いたんだが……」

ツバキ「ついでに言うと、スパイクボールに巻き込まれそうになって気ぃやってもうてましたな?」

T妙高「え? H大将からは、K大佐たちに気絶させられたと聞いていたんですが……」

提督「H大将が気を利かせてくれたんだろうな……」

ナンシー「ぶっちゃけ見栄っ張りだよね、あの人間!」

H武蔵「いや、まあ、ある程度はわかっていたつもりだがな。割と後先考えずに理想論に走り、ゴリ押しで物事を進めるのが常だというのは」

H霧島「悪いアプローチではないんですよね。手段を選ばず目的を果たすと言うのは、君主論そのものですから」

H妙高「毎回、その後始末が大変ですけれど、うまくいっていたからこそ苦にしなかったというのもありますね」

X中佐「それで僕たちが呼び出されることも、たまにあったんだよね」トオイメ

H清霜「たまに?」クビカシゲ
790 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:25:16.52 ID:ldf42oh6o

ナンシー「こっちのおチビちゃんの反応からすると、常態化してるみたいよー?」

提督「やれやれ……それで俺を部下にしようと息巻いてたのかよ。こき使う気満々じゃねえか、くそが」

H妙高「ちなみに、提督は交渉の場で、私たちの提督……大将の部下になるおつもりはありましたか?」

提督「くそっくらえだ、冗談じゃねえ」

H妙高「……」

ツバキ「ま、当然ですやろなあ」

H武蔵「妙高、この答えは予想できていただろう。なんでそんなことを訊いたんだ……」

H妙高「いえ、もし提督が深海棲艦と共存する気なら、海軍に協力を仰いでいたのではないかと……」

提督「仰がねえよ、むしろ追っ払ってる。俺は人間を信用してねえ」

H武蔵「……」

H霧島「……」

提督「なんでそんな顔してんだよ。うちの艦娘を苦しめていたのは他でもない人間だぞ?」

提督「俺が連中を利用することはあっても、俺が連中に協力したいなんて、これっぽっちも思ってねえよ」

W大佐「つくづく、彼とあんな取引ができたのが奇跡のようだな」

X中佐「まあね……」
791 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/05(日) 21:26:01.45 ID:ldf42oh6o

提督「そりゃお前が島を譲ると言ったから、その対価を返そうとしただけだ」

X中佐「……!」

提督「お前が裏切らねえ限りは、俺だってそう務めるつもりだ。お前は珍しく、艦娘に慕われてるみたいだからな」

提督「できれば、早いうちにあの場所を使わなくても深海棲艦と話し合えるようになって欲しいもんだが」

X中佐「……ありがとう」

ビスマルク「X提督? あなたはこっちの提督の信頼を得たみたいね? あなたの艦娘として鼻が高いわ」ニコニコ

ウォースパイト「お祝いにかき氷を作りますね!」

T武蔵「ちょっと待て、その手に持っているのはおろし金じゃないか」

ウォースパイト「ええ。これで氷を粉末にしているの。変かしら?」

T武蔵「普通ではないな……」タラリ

提督「まあ、削り氷(けずりひ)には違いねえか」タラリ



 * おまけ *

X中佐「そういえば紹介してなかったね、僕の秘書艦の祥鳳だ」

祥鳳「よろしくお願いしますね!」

提督「おう」

セレスティア「……なるほど、確かにツバキにに似ているかもしれませんね」

曙「……」

ツバキ「?」
792 : ◆EyREdFoqVQ [saga]:2023/02/05(日) 21:30:27.28 ID:ldf42oh6o
今回はここまで。
793 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/02/06(月) 08:07:49.78 ID:7qacf8550

摺り下ろせれば氷でも良いのか姫様ww
794 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/19(日) 21:22:38.88 ID:AXFSIrLto
>793
声帯の妖精さんネタとしては、もはや鉄板ですねw

では続きです。
795 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/19(日) 21:23:20.11 ID:AXFSIrLto

 * 1週間後 *

 * 墓場島 新埠頭倉庫内 仮設休憩スペース *

提督「順調だな」ペラリ

大和「はい。順調ですね」ニコニコ

提督「タチアナから渡されたダイヤの原石はとんでもねえ値段で売れた」

大和「木材購入や技師を雇うのに、十分な資金になりましたね」

提督「広い工廠、最新の入渠ドック3基、綺麗で大きな風呂、その電力を賄える深海謹製の地熱発電施設に、海軍の変電設備」

大和「海軍の紹介で島に来た技師たちが、地熱発電施設を調べさせてほしいと目を輝かせていましたね」

提督「どういう仕組みか知らないが、相当画期的だったらしいな?」

大和「応用できたら国内でも展開したいと言ってました。そのおかげか変電施設も短納期ながら不備のないよう相当入念にチェックしてましたね」

提督「食堂もきれいになったし、厨房は保冷庫も完備。外には新しいビニールハウスも新設して新しい土も入れたと」

大和「飲用水の確保は、島への来訪者に対しても必要です。水の濾過施設と浄化槽は深海棲艦たちが驚いていましたね」

提督「演劇もできそうなステージ付きのホールも、食堂とは別の棟に作ってもらったから、騒音の問題もなくなった」

大和「那珂さんが大喜びで駆け回ってましたよ。まるで体操選手の床の演技みたいに」

提督「ステージ上でバク宙決めてたもんな。あいつのアイドルの方向性、まるで一昔前の男性アイドルだぞ」
796 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/19(日) 21:24:04.15 ID:AXFSIrLto

大和「なのに歌で特にお上手なのはバラード系ですから……微妙に?み合わないのが残念ですね」

提督「まったくだ……あとは、手ごろな広さの執務室と通信室と資料室。会議室と客間と休憩室も揃えられたし……」

大和「人型ではない深海棲艦が行き来できるよう、水路も新たに敷設。館内の適度な広さと複雑さは、メディウムたちからの評判も上々です」

提督「集積地棲姫は北の洞窟があった岩場に居を構えるらしいな?」

大和「正確には洞窟があった場所から少し鎮守府寄りの場所になりますね。彼女以外にも戦禍を逃れたい深海棲艦がそこに集まるようです」

提督「西の林も燃えてなくなったことで、鎮守府の近くの住居スペースも十二分に確保できたと。近く植林もするって話だな?」

大和「はい。そして離れに、一回り大きくなった特注のベッドが鎮座する提督のお屋敷も……」ポ

提督「そこはどうしてそうなった」アタマカカエ

大和「それはもちろん、提督と同衾できる機会が増えるようにと。バスルームも完備しましたし」ニコニコ

提督「お前ら毎日泊まる前提かよ」

大和「宿泊日程に関しては鋭意調整中です。ちゃんと調整しませんと、ほら」ユビサシ

軽巡棲姫「……提督……」ギュゥ…

大和「軽巡棲姫さんも提督の腰に抱き着いたまま離れませんので、どこかで彼女の不安も払拭してあげないといけませんよ?」

提督「ったく……しゃあねえな」ナデナデ

軽巡棲姫「アゥ……」ウットリ
797 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/19(日) 21:24:50.47 ID:AXFSIrLto

大和「ところで提督? 先日、またメディウムの魔力槽に入ったと伺ったんですが……」

提督「ああ。今回はルミナに見てもらいながら入ったんだが……」

大和(見てもらいながら!?)

提督「なんとなく、感覚が鋭くなったような気がするっちゃあするんだよな。身体そのものはなんともねえんだが」

大和「感覚が、ですか……どのような感じなんですか?」

提督「ん−、人の気配? ……を感じるのが、なんとなく敏感になったっていうか……なんて表現したらいいんだ?」

ルミナ「やあやあ、魔神君! こんなところにいたんだね!」

提督「よう、何かわかったのか」

ルミナ「えーとねえ、この文献の……おそらくこれとこれだと思うんだけど。ちょっと実験したくてね?」

提督「実験?」

ルミナ「そう。魔神君は魔神として覚醒してそれなりに経つわけだけど、魂に関わる部分はまだ未覚醒でね」

ルミナ「おそらく今回、魔力槽に入ったおかげで、魔神としての感覚が戻りつつあると思うんだ」

提督「そういうもんか?」
798 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/19(日) 21:25:35.14 ID:AXFSIrLto

ルミナ「少なくとも、感覚が鋭敏になったと聞いたから、この辺の能力が使えるかを試したいわけだよ……まずはこれがいいかな?」ペラリ

提督「何をするといいんだ?」

ルミナ「そうだねえ……それじゃあ、大和君をじっと見てごらん?」

大和「!?」

提督「? 見るだけでいいのか?」

ルミナ「そうそう」

提督「お前みたいに目からレーザー出したりしないだろうな?」

ルミナ「今はそこまでできないだろうから大丈夫だよ」

提督「今は、ってお前……」

ルミナ「私をむしゃむしゃと食べるなりして魔神君と一体化すれば、できると思っているよ?」

提督「そういう意味かよ……」

ルミナ「一体化する方法としてはもっと別の方法でもいいけどね」ニヒヒ

提督「とりあえず、大和を見ていればいいのか?」ジッ

大和「……」ドキドキ
799 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/19(日) 21:26:20.73 ID:AXFSIrLto

ルミナ「そうそう。それで、見る位置というか眼の焦点を、大和君の『奥』というか『底』に合わせるような感じで、意識を集中させてごらん?」

提督「なんだそりゃ……んん?」

大和「て、提督? どうなさったんですか?」

提督「なんか、文字とか記号が見えてきた……なんか、上からの矢印にバツ印がついてる絵というか、マーク? が見えるぞ」

大和「えええ?」

ルミナ「お、見えてきたかい? その能力が『魔神の目』だね。見た相手の名前や能力、通用しない罠の種類を見抜く力だよ」

ルミナ「今の話を聞く限り、多分、大和君には上から降ってくるタイプの罠が通用しないということだね」

大和「た、確かに、ナンシーさんのフォールニードルを傘で受けたことはありますが……」

提督(なんか、プロフィールみたいな文章まで読めちまうぞ……人の秘密を覗き見しているみたいで、なんか嫌だな)

ルミナ「ほら魔神君、大和君だけじゃなく、私も見てくれたまえ」

提督「ん……お前は矢みたいなマークにバツ印がついてるな」

ルミナ「私の場合は飛んでくるタイプの罠が通用しないってことだね」

提督「体力っぽい数字も見えるな。大和と比べると低いのは、まあ、しょうがねえのか」

ルミナ「おやおや、そこまで見えるのか。うん、これなら問題なさそうだ」
800 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/19(日) 21:27:05.65 ID:AXFSIrLto

ルミナ「ちなみにニコ君もその能力を備えていて、射程も長いんだよ。意識すればこの島に入った瞬間に見えるくらいにね」

提督「マジか……まるで千里眼だな?」

ルミナ「慣れれば魔神君も同じくらいの能力を備えられるはずさ。ここまでできるんならもう一つ試してみようか」

ルミナ「そこの軽巡棲姫君から『黒い気配』を『手から吸いだして』ごらんよ?」

軽巡棲姫「?」

大和「は?」

提督「なんだそりゃ……?」

ルミナ「魂を視ることができたから、第二段階として今度は触れる練習だ。軽巡棲姫君の頭に手を置いたまま、意識を集中させてごらん?」

提督「このままでか……?」ナデ

軽巡棲姫「アァ……」ウットリ

ルミナ「うん。目を閉じて、集中して……」

提督「……」

大和「……」

提督「黒い気配……これか?」
801 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/19(日) 21:27:50.07 ID:AXFSIrLto

ルミナ「それを掴んで、引っ張り出すことはできるかい?」

提督「……」

 ズ…

軽巡棲姫「ア……ゥ!?」ビクッ

提督「……これ、吸えてるのか?」

ルミナ「大和君、軽巡棲姫君から黒い感じが抜けてきてないかな?」

大和「え? ええ、なんというか、少し血色が良くなったというか、雰囲気が神通さんに近く……あ、あら?」

提督「どうした?」

大和「あ、あの、少し透けて見えるんですけど……?」

ルミナ「え!? ま、魔神君、吸いすぎ!! 吸いすぎだよ!! そのまま吸いすぎたら軽巡棲姫君が消えてしまうよ!?」

提督「なに!? それを早く言え!!」

ルミナ「ほら、早く戻して! 今吸った分を吐き出すように!」

提督「わかったから焦らせんな!」

軽巡棲姫「アヒ……ハウ……!」ビクッビクッ

大和「だ、大丈夫なの……?」タラリ
802 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/19(日) 21:28:35.49 ID:AXFSIrLto

 *

 (眠っている軽巡棲姫を提督が膝枕している)

軽巡棲姫「……」スヤァ…

提督「……一時はどうなることかと思ったぜ」ナデナデ

ルミナ「そうか、軽巡棲姫君は、思ったよりも深海棲艦の成分が濃かったというわけだね……ふむふむ」

提督「つうか、なんで吸い出せなんて言ったんだよ」

ルミナ「軽巡棲姫君は神通君だったかな? 彼女の面影を強く残していたから、深海棲艦の成分を吸い出しても形が残るかと思ったんだよ」

ルミナ「うまくすれば神通君に変化しないかを期待していたんだけどね……なかなかうまくいかないね」

大和「……彼女の中に、深海棲艦ではない部分があると?」

ルミナ「うん、魔神君と一緒に過ごしていれば、真っ黒ではないと思ったんだ」

提督「俺と一緒だと真っ黒じゃなくなるのか?」

ルミナ「私が黒い魂と呼んでいるのは、憎悪や悲嘆などの負の感情を抱えた魂のことさ。深海棲艦はそういう負の感情が強くてね」

ルミナ「その一方で、嬉しかったり楽しかったりすると、魂の色合いが明るくなるんだよ」

ルミナ「軽巡棲姫君は君と一緒だと本当に嬉しそうだから、いけるかと思ったんだけど……まあ、彼女が深海棲艦である以上、仕方ないかな?」

提督「軽巡棲姫は、人間に取っ捕まって弾丸なんかにされちまったからな。そういう意味じゃあ真っ黒でも仕方ねえさ」ナデ

大和「そう……ですね」
803 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/19(日) 21:29:20.61 ID:AXFSIrLto

ルミナ「とにかく、これで魔神君も、先日ニコ君が余所の鎮守府の拷問部屋でやってみせた魂の回収ができるようになってるはずだね」

提督「……いいんだか悪いんだか。これじゃ迂闊にお前らに触れなくなるんじゃねえか?」

ルミナ「いやいや、そこまで尻込みすることはないと思うよ? ニコ君だってそれなりに集中しないと回収できないんだから」

提督「ならいいけどよ……」

大和「あの、提督? お体のほうは大丈夫ですか?」

提督「ん?」

大和「良く見知っている相手とはいえ、仮にも深海棲艦の魂を取り込むなんて、お体の負担になっていないか心配です」

提督「言われてみれば……今んとこなんともねえな? もともと俺の魂の半分が深海棲艦だから無事だってのもあると思うんだが」

ルミナ「そこは私の見つけたこの文献によるとだね」ペラリ

ルミナ「魔神君は、魂を蓄えて置ける巨大な貯蔵庫……タンクを持っているようなものなんだ。今ここにある肉体とは別の器としてね」

ルミナ「軽巡棲姫の魂もそちらへ入ったからこそ、魔神君の体に負担がかかっていない、と考えられる」

大和「そうなんですか……?」

ルミナ「うん。ニコ君も同じように魂のタンクを持っていて、自由に出し入れできるんだ。君もその力に目覚めたってことになるね」

提督「何に使うんだ、その力は」

ルミナ「私たちがメディウムとして力を使ったり、体を修復するためには魔力が必要なんだ」
804 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/19(日) 21:30:06.99 ID:AXFSIrLto

ルミナ「その魔力は、私たちが仕留めた死者の魂から作られる。これまでは、ニコ君が管理していたわけだけども……」

提督「……今度は俺がそれをやる番だと?」

ルミナ「嫌だというなら、私たちへの魔力の供給はこれまでと同じくニコ君に一任となるだろうね」

ルミナ「ただ、罠の運用に関しては、魔神君の使い方がなかなか面白いと私個人としては感じていてね?」

ルミナ「次の機会にはぜひ、君の指示と力の下で働いてみたいと思っているよ」ニマー

提督「んー……」

ルミナ「ちなみにだけど、ニコ君は、魔神君の能力をサポートできる力も持っているはずなんだ」

ルミナ「例えば、いま君がどのくらい魂を保有しているかを可視化できるようにしたり」

ルミナ「その魂を、君の代わりに私たちの能力を発動させる魔力に変換することができたりするはずだよ」

提督「へえ……」

ルミナ「もちろん、それらの力を魔神君自身でコントロールできれば、それが一番いいんだけれど」

ルミナ「コントロールが危ういうちは、ニコ君に管理してもらいながら練習したほうがいいね」

提督「なるほど……ただまあ、今みたいに身内の魂を吸い取る能力なんて、そうそう使う必要がなさそうだな」

ルミナ「今は、こういうことができる、という知識だけ備えていればいいよ。必要になれば、いつでも使ってくれて構わないからね」
805 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/19(日) 21:30:50.26 ID:AXFSIrLto

提督「ところで、魂の明るさの差ってのは、そのままポジティブな感情とネガティブな感情に反映されるって考えていいのか?」

ルミナ「その認識で良いと思うよ」

提督「もし、あいつらがそういうストレスから解放されて黒より白が濃くなったら、艦娘に変化するのか?」

ルミナ「仮にそうだとしたら、ル級君くらいは艦娘になってもいいと思うんだけどねえ?」クビカシゲ

大和「それはそうですね。鎮守府にいた時はいつも楽しそうににこにこしていましたし」

ルミナ「やっぱり何らかのトリガーが必要なのかな?」ウーン

提督「なんだそのやっぱりってのは」

ルミナ「泊地棲姫君から、深海棲艦が艦娘になるケースもあるらしい、と聞いていてね」

大和「え!? あるんですか!?」

ルミナ「なんでも、艦娘になった深海棲艦というのは、艦娘に撃沈されて海に消えた直後に艦娘になったと言うんだよ」

提督「は? ってことは、あいつらが死なないと変わらないってことか?」

ルミナ「状況的にはそういうことになるんだけど、どうしてそうなるのかの説明もうまくできなくて」

ルミナ「実験しようにも、どうしても轟沈が関わる実験になるからね。魔神君は、そういうのは嫌なんだろう?」

提督「まあな。これじゃ希望者募ったっていないだろうなぁ、沈んで消えてからひっくり返るなんてリスクが高すぎる」
806 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/19(日) 21:31:35.33 ID:AXFSIrLto

提督「この話が艦娘も同じだってんなら、あの訓話も最低な話になるぞ」

ルミナ「訓話? というのは?」クビカシゲ

大和「轟沈して戻ってきた艦娘が、深海棲艦になって鎮守府を壊滅させた、というお話です」

大和「それがもとで、轟沈した艦娘をそのまま復帰させてはいけないという決まりができたんですよ」

提督「泊地棲姫の話だと、沈まない限り深海棲艦が艦娘になったりしない、って見解だよな?」

提督「逆も同じだって理屈なら、その訓話のときには、まさしく艦娘をその鎮守府で沈めた、って考えるしかねえじゃねえか」

大和「……やはり、そう考えるべきでしょうか」

提督「戻ってきたときの状況にもよるだろうな。切羽詰まった戦況だったとかで、負傷者をまともに相手してられる状況じゃなかったとか」

提督「戻ってきた奴の性格が最悪だったせいで、まともに看護したくないような状況だったとか、深海で何かあって性格が変わったとか」

提督「最悪、戻ってきた奴は実際には沈んでて最初から深海棲艦が擬態していたとか。でも、そうだったら最初からそうだって説明するか?」

ルミナ「隠す方が不自然だね」

提督「あとは……病み上がりで配慮してもらったのを、贔屓だのずるいだのとぎゃーぎゃー囃し立てるガキみたいなやつにブチ切れたとか?」

大和「……軍に所属するものとしては、あるまじき行為ですね」

提督「いくら軍人でも所詮は感情を持つ生き物だからな。数あるいじめの理由なんて、きっかけそのものは些細なもんだろう」

提督「で、その訓話の場合は理由はわからないにしても、その艦娘が命を落とす事態にまで及んだ、と」
807 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/19(日) 21:32:35.22 ID:AXFSIrLto

ルミナ「考えうる限りの最悪の事態が起こった、と言いたいわけだね」

提督「だと思うんだけどなあ。そのくらい極端なことが起こったからこそ鎮守府も壊滅したんだろうしよ」

大和「海軍が公表するにも、あまりに恥ずべき事態だからこその隠蔽、だということですか」

提督「ま、俺の憶測だけどな。これまであの島に流れ着いて誰も深海化しなかったんだから、そうなんじゃねえか、ってだけだけどなぁ」

大和「理屈としては頷けるものだと思います」

大和「艦娘も一時の感情で簡単に深海棲艦になっていたのでは、もっと各地で大事になっているはずでしょうから」

提督「ただまあ、心配は心配なんだよな。深海棲艦にならなくても、深海棲艦みたいな雰囲気漂わせてるのはよろしくねえ」

ルミナ「そんな艦娘がいるのかい?」

提督「山雲がな……あいつ、空母棲姫に衝突されてんだ」

提督「巻き添えというかとばっちりに近いが、攻撃的な深海棲艦に激突されたせいか、ちょっと穏やかじゃねえ空気出すときがあるんだ」

提督「あいつがどのくらい大丈夫なのか、この力を使って診察してみたほうがいいかもしれねえな」

ルミナ「それはいいね!」

大和「そうですね! いいと思います!」

ルミナ「そうだ、さっきの感覚を忘れないうちに、大和君でも診察の練習したらいいんじゃないかな?」

大和「は!? や、大和がですか!?」
808 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/19(日) 21:33:20.49 ID:AXFSIrLto

ルミナ「一般的な艦娘のいちサンプルとしても、見ておいたほうがいいと思うよ?」

提督「まあ、そうかもしれねえけど……大和、いいか?」

大和「あのっ、いえ、は、はいっ! どどど、どうぞ!」マエカガミ

提督「んじゃ、頭の上に手をのせるぞ……」メヲトジ

大和「……」ドキドキ

提督「……」

ルミナ「どんな感じかな?」

提督「……色で言うと、白系、だな。光が見える」

大和「!」

提督「光が明るくて、あたたかいっつうか……春と夏の間くらいの日差しみたいだな」

大和「……」セキメン

提督「……まあ、色彩的に黄色やピンク系の色が混ざっていたが、全体的に黒いものはないみたいだな」スッ

大和「そ、そうでしたか! ありがとうございます!」

ルミナ「なるほど……やっぱり健全な艦娘の魂は、相応に綺麗なわけだね?」

提督(奥の方にドロドロした紫色の沼みたいなのが渦巻いてたところがあったが……そこは触れないほうが良さそうだな)
809 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/19(日) 21:34:05.57 ID:AXFSIrLto

ルミナ「うーん、やはりこの辺りが艦娘と深海棲艦の差なのかな?」

提督「とりあえず、この調子で山雲も診察してやりゃあいいのはわかったが……」

提督「もしその深海棲艦の成分が強いところが見つかったらどうすんだ? 診察はできても治療ができなきゃ見てもしょうがねえ」

ルミナ「やっぱり実験が必要だね!」パァッ

提督「目を輝かせんな」

大和「あの、例えばですけど、魂の暗い部分だけを提督が吸い取って、他の深海棲艦に移植する、というようなことはできるのでしょうか?」

ルミナ「魂の部分移植!? それもいいかもしれないね!」パァァッ

提督「だから目を輝かせんな」タラリ

ルミナ「いやあ、アイデアとしてはなかなか画期的だよ? 可能かどうかは別としてもね!」

提督「……やる気は起きねえけどな」

ルミナ「そうかい? それは個人的にちょっと残念だなあ」

大和「提督、私も残念というわけではありませんが、できるかどうかのテストくらいは行ったほうがいいかもしれませんよ?」

大和「提督が乗り気でないのは重々承知してるつもりですが、万が一の事態のことを考えますと……」

提督「……状況次第では、嫌だ嫌だで通せる話でもねえってか。仕方ねえな……」
810 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/19(日) 21:35:05.28 ID:AXFSIrLto

ルミナ「とりあえず問題は、彼女たちから深海棲艦の要素の分の魂を引き?がして問題ないかどうか、だね」

ルミナ「例えば、その山雲君を構成する魂のうち、深海棲艦の要素が仮に1割だとしても、魂が欠ければ能力が低くなると思う」

ルミナ「それを補うのが、そちらでいう近代化改修だったかな? 艦娘の艤装と魂の力を、ほかの艦娘の魂の力に加えるという儀式だね」

提督「……そんなことやってたのか」

ルミナ「個人的な見解だけど、生まれたばかりの艦娘が本来の力を出せないのは、魂の欠落があるからだと推測しているんだ」

ルミナ「同じ艦娘が複数存在して性格も少し違うのも、大本の魂が分裂しているとか、魂の形が若干変わったからとか……」

提督「分霊化とは違うのか?」

ルミナ「似たようなものじゃないかな。言葉の意味をどう捉えるかだけど、それ自体にあまり違いはない気がするね」

ルミナ「いずれにせよ、なにかを生成するときに、何かが欠けたり不純物が混じったりというのは、往々にしてよくあることだよ」

ルミナ「完全完璧な生物が生まれてこないのと同じようにね」

提督「山雲から深海棲艦の要素を取り出したら、その分だけ艦娘の要素をどうにかして入れてやれ、ってことか」

ルミナ「そうだね。移植なんだから、引いたら引いた分だけ足してあげないと」

大和「欠けた魂は自然に元に戻らないんですか?」

ルミナ「実験してみないと正確なところは言えないけど、戻らないんじゃないかなあ?」

ルミナ「自然治癒とは理屈が違うし、魂が勝手に増えて補完するとは思えないね」
811 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/19(日) 21:35:50.50 ID:AXFSIrLto

ルミナ「むしろ、生傷を治療せず放置したときみたいに、欠けたところからその辺の雑霊を取り込んで悪化する可能性もあるかもだよ?」

提督「……それ、見たことあるな。その辺の余計な魂取り込んで、悪霊みたいになったやつ」

大和「え」

ルミナ「だとすれば、放置しておくのは得策じゃないね。もっとも、強い思念を持つ魂は、たとえ欠けてなくても集まるものらしいけど」

提督「対策考えてやらねえと駄目か……」

ルミナ「まあ、厳密に魂の移植まで必要か、と言われれば、私は必要ないかもと思っているけどね?」

提督「ん? なんでだ?」

ルミナ「あの島の騒動で、君を庇って倒れた電君や吹雪君のことを思い出したまえよ」

提督「……?」

ルミナ「あの場に居合わせたツバキ君たちに聞いたけど、彼女たちは命を落としたにも関わらず、深海化しなかったそうだね?」

ルミナ「深海化した初春君や朧君も、深海棲艦から作られた弾丸を身に受けている間だけ深海化していたそうじゃないか」

大和「そ、そうなんですか?」

提督「あ、ああ……そういえばそうだった」

ルミナ「もし魔神君の心配が正しいとしたら、轟沈を経験している彼女たちも死んだ時点で、完全に深海化していたと思うんだけど?」

提督「……」
812 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/19(日) 21:36:35.38 ID:AXFSIrLto

大和「それは……それこそ提督のおかげではないでしょうか?」

ルミナ「心当たりがあるのかな?」

大和「私たち艦娘は……戦争に赴く私たちの願いは、守ること。私たちが守りたいのは、私たちの帰りを待ってくれている、大切な人」

提督「……」

大和「これまで提督は、私たち艦娘のために……私たちの望みのために身を尽くしてくださいました」

大和「私たちは、そんな提督のもとで戦えることが嬉しかった。中には、前の鎮守府の心残りや、そこで抱いた無念を晴らせた艦娘もいます」

大和「そんなことがあったのですから、その時には、彼女たちが深海棲艦になってしまうような恨みが残っていなかったのではないでしょうか」

ルミナ「ふむ……私たちには理解しがたいけど、そういうものなのかな?」

大和「はい。それに、あの子たちは提督を庇って倒れたんですよね。ある意味では本望だったのではないか、と思っていますよ」

大和「かくいう私も、少しだけ羨ましいと思いました。提督はやめろと仰るかもしれませんけれど」フフッ

提督「ああ、やめてくれ。二度と御免だ」ハァ
813 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/19(日) 21:37:20.90 ID:AXFSIrLto

ルミナ「ということは、やっぱり艦娘が深海棲艦になる現場か、その逆の現場を掴まないと、そのあたりは証明できなさそうだねえ」

提督「そういうことなら、泊地棲姫に詳しく話を聞きに行くか。軽巡棲姫も少しは話せるとありがたいんだけどな」ナデ

軽巡棲姫「ンフフ……」、ムニャァ…

ルミナ「……寝ながら笑ってるねえ」

大和(羨ましい……)

ルミナ「それにしても、その頭を撫でられる行為と言うのは、そんなに嬉しくなるものなのかな?」

大和「なりますよ?」

提督「即答かよ……」

大和「即答ですね」ニコー

ルミナ「……今度は、魔神君に頭を撫でられることで得られる効能の調査でもしようかな?」

提督「やらなくていいぞ。下手にお前が効果があるなんて結論を出しちまったら、面倒臭えことになりそうだ」

大和「提督の前に行列ができてしまいそうですね」フフッ

提督「ああ。さて、泊地棲姫はどこに行ったか知ってるか?」
814 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/02/19(日) 21:38:38.41 ID:AXFSIrLto
というわけで今回はここまで。

次は深海側に関する動きのお話の予定。
815 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/03/12(日) 23:43:13.49 ID:leJDf/pio
続きです。
816 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/03/12(日) 23:44:34.37 ID:leJDf/pio

 * 島の南岸 *

 (溶岩で覆われた島の南岸に、小型船が座礁している)

提督「なんだこりゃ」

泊地棲姫「密航船ラシイワヨ?」

提督「密航船? この島にか?」

ニコ「人間の気配がプンプンしたからね。そういう船なんじゃないの?」

提督「ニコもこっちに来てたのか。泊地棲姫もそうだが、二人ともこっちにいたのはなんでだ?」

ニコ「ぼくは侵入者の撃退のつもりで来たんだけれど」

泊地棲姫「私ハ、知ッテル気配ヲ感ジタカラヨ。ホラ」ユビサシ

戦艦棲姫「……アラ、艦娘ニ……人間モ住ンデルノネェ……!?」ジロリ

大和「戦艦棲姫……!」

提督「戦艦? また姫級かよ……なあ泊地棲姫、こいつがこの島に来た理由はわかるか?」

泊地棲姫「エエ、ソレナラ……」

ル級「連レテキタワヨ……アラ、提督モ来テタノネ」
817 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/03/12(日) 23:45:18.63 ID:leJDf/pio

集積地棲姫「オ、オマエモ来タノカ……戦艦棲姫」

戦艦棲姫「アア、集積地ッタラ、ココニイタノネ!」パァッ

提督「集積地棲姫、あの深海棲艦はお前の知り合いか?」

集積地棲姫「アア……ナントイウカ、気ニ入ラレタトイウカ……」

戦艦棲姫「泊地棲姫、コノ人間ガ集積地ヲ誑カシタノ……?」ゴゴゴ…

泊地棲姫「ソウジャナイ。集積地棲姫ハ、人間ノ襲撃カラ避難シタクテ、自分カラ、コノ島ヲ訪ネテキタノヨ」

戦艦棲姫「本当デショウネ?」ジトッ

提督「本当だよ。この島は……」


 * 説明中 *


戦艦棲姫「フーン……ツマリ、コノ島ナラ集積地ハ安全ダッテイウノネ?」

提督「取り決めの上ではな。もちろん、そういう約束を守ってくれる人間ばかりだとは微塵も思っちゃいねえ」

提督「どうせこの船も、そういう人間どもの船だってことなんだろ?」

ニコ「そうだと思うよ。武器だって残ってたし、あいつらがきみに攻撃したのは事実だよね?」
818 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/03/12(日) 23:46:07.13 ID:leJDf/pio

戦艦棲姫「ソウネ。効カナイッテイウノニ、コバエミタイニ鬱陶シイカラ、沈メテアゲヨウト思ッタノヨ」

集積地棲姫「トコロデ、コノ船ノ中ニイル人間タチハ、ドウシタンダ? 妙ニ静カダゾ」

ニコ「それなら、ぼくたちが全員始末したよ」

大和「え」

提督「周りに艦娘はいなかったのか?」

ニコ「いなかったよね?」

戦艦棲姫「私ハ見テナイワ」

提督「そうか。ならいいや」

大和「……」アタマカカエ

泊地棲姫「ナンダ、ナニカ文句アルノカ」

大和「いいえ? こういうことが起こると予測出来てはいたけれど……それが実際に起こってしまって嘆いているだけよ」ハァ…

チェルシー(船の中から)「あ、キャプテンだ! おーい、キャプテーン!」フリフリ

イーファ「ご主人様ー!」

提督「うん? なんだ、お前たちもここに来てたのか」
819 : ◆EyREdFoqVQ [sage saga]:2023/03/12(日) 23:46:48.84 ID:leJDf/pio

ニコ「人間の始末をしてもらったついでに、船内の荷物も改めさせてもらってたんだ」

チェルシー「そうそう! 見てよこれ!」

提督「つるはし? ……ああ、そういうことか。この船、盗掘目当ての密航船か」

コーネリア「そうみたいだね。船の中には、あたしの槍を括りつけたような機械も転がってたぜ」

提督「なんだ? 残虐系メディウムが多いな?」

コーネリア「あたしは戦いに飢えてるだけだよ」

チェルシー「私は船に乗りたかったんです!」

イーファ「ぼくは、ご主人様のお役に立ちたいな、って……」

提督「……ま、いいけどよ」

戦艦棲姫「ネエ、盗掘ッテ、ドウイウコト?」

提督「ついこの前、この島の北の海底火山が噴火したんだ。この溶岩の中に入ってる鉱石を狙ってきたんだろう」

戦艦棲姫「フーン」
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