ギャルゲーMasque:Rade 加蓮√

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22 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/02(火) 22:54:49.95 ID:w5LZSvi60


アホな会話をしているうちに、気付けばゲームセンターに到着していた。

李衣菜「さーて、一丁獲りますか!」

美穂「李衣菜ちゃん、必ずゲットして下さいね?」

P「一回で取れるもんなのか?」

美穂「Pくんもどうですか?わたしの分の無料券がありますから」

P「ん、いやいいよ。それは美穂が使いなって。俺はちょっと両替してくるから」

両替機まで向かい、野口を小銭に交換する。

そして二人の元へと戻ると、二人とも死んだような表情をしていた。

李衣菜「掠りすらしなかった……」

美穂「きちんと引っかかった筈なのに……」

まぁ、UFOキャッチャーってそういうものだし。

P「よし、後は俺に任せろ」

500円を入れて6クレジット。

出来ればカッコよくこの6回でキメたい。

李衣菜「ファイトーPー!」

美穂「頑張って下さい、Pくん!」

P「よし、あと500円追加だ!」

李衣菜「もっと右右!」

美穂「あっ、引っかかったのに……!」

李衣菜「センスないなー」

美穂「あ、今髪の毛一本分くらい動きました!」

P「応援する気ないだろ二人とも」
23 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/02(火) 22:55:31.63 ID:w5LZSvi60


結局、1500円かかってしまった。

取れたのはクマのぬいぐるみだ。

男子高生が何をムキになってクマのぬいぐるみを捕獲していたのだろう。

P「……美穂か李衣菜、いる?」

プレゼントするのが一番良いだろう。

持ち帰ったところで絶対押入れの肥やしにしかならない。

李衣菜「私は別にいいかな。美穂ちゃん貰っちゃえば?」

美穂「えっ、良いんですか?Pくん、クマのぬいぐるみ無くて大丈夫ですか?!」

P「えそんな必須アイテムなのか?クマのぬいぐるみって」

美穂「夜寝るとき、寂しくなったり……」

男子高校生が夜の寂しさをクマのぬいぐるみで紛らわすって、なかなかヤバイんじゃないだろうか。

美穂「なら、貰っちゃおうかな。ありがとうございます、Pくん!」

この笑顔で1500円は超お買い得だったと言えるだろう。

李衣菜「さーて、折角久しぶりに三人で遊んでるんだしプリクラでも撮ってく?」

美穂「え、Pくんとクマ君とわたしの三人でですか?!」

李衣菜「それを私が提案すると思う?!」

P「そもそもクマなのに人換算なのか」

結局、三人でプリクラを撮った。

なんやかんや、やっぱりこの二人と一緒にいると居心地が良い。

あっという間に時間が過ぎてしまう感じだ。

その後はゾンビを撃つゲームやエアホッケーをやって。

だから、夕方のバーゲンを逃してしまったのは仕方のない事だと言い訳させて貰おう。

24 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/02(火) 22:56:38.14 ID:w5LZSvi60




文香「……と、言うと思っていたので、今日は私が買い物に行っておきました」

P「ありがと姉さん」

文香「こちらこそ、いつも買い物をして下さっていてありがとうございます」

……文香姉さんが優しい。

何か裏があるんじゃないかと勘繰ってしまう。

文香「……はぁ。顔に出てますよ、P君」

P「え、ごめん」

文香「謝られる方が辛いのですが……ごほんっ、P君がまた彼女さんを連れてきた場合、私としても良き姉として振る舞いたいですから」

え、何その謎の心遣い。

P「……って言うか、また?俺に彼女……?」

文香「……違ったのですか?先日の、緒方さんと言う女の子は……」

P「あ、別に緒方さんとは付き合ってる訳じゃないから」

文香「……はぁ。早く夕飯の支度をお願いします」

検討違いだったからか、文香姉さんはため息をついた。

ちなみに買ってきてくれていた野菜は割と傷んでいた。



25 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/02(火) 22:57:46.95 ID:w5LZSvi60




加蓮「で、学校案内も今日で終わりなんだよね」

P「あぁ、多分」

北条さんが検診で帰っていた為、結局学校案内は三日に及んでしまった。

加蓮「お疲れ様。アタシなんかを案内するなんて重労働、大変だったでしょ」

P「まぁな、その分やり甲斐はあったよ」

加蓮「せーせーするよ、折角の放課後の時間を無駄に過ごすのも終わりだからね」

P「まぁまぁ、それもお互い様って事で」

嫌味なんて知ったことか。

こっちもそこそこ本音で返させて貰おう。

加蓮「はぁ……アンタ相手になんかムキになるなんて、アタシの方がバカみたい」

P「ようこそバカの世界へ。俺は歓迎するぞ」

加蓮「……ねぇ、なんで?」

P「え、歓迎会はナンでしてほしいのか?」

加蓮「張っ倒すよ」

P「へいへい……ま、なんか分かんない事あってクラスに馴染めなかったら大変だろ?」

加蓮「バカみたい。アタシは別に、馴染むつもりなんて……」

P「友達はいた方がいいぞ、一人でもな。一人ぼっちってしんどくないか?」

加蓮「……そんなの、分かってるけど……」

P「ま、ただそれだけだよ。あとほら、人に親切して徳を積む的な。なんだ?裏か下心でもあるんじゃないかと勘繰ってたのか?」

加蓮「え、何?私警察呼んだ方がいい流れ?」

……北条さんも、バカな事言えるんじゃないか。
26 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/02(火) 22:58:49.13 ID:w5LZSvi60


P「そんな下らない会話出来る相手って、とても大切なんじゃないかなって。その方が楽しいだろ?」

加蓮「今まで相手に恵まれなかったからね。そもそも友達になる程何度も会うのが難しかったし」

P「三回じゃ足りなかったか?」

加蓮「……え?」

P「……え、この三日で俺割と北条さんと仲良くなれたと思ってたんだけど。北条さん的にはまだ他人以上友達未満な感じ?」

加蓮「……まだ、足りないかな」

ダメだったか。

俺の友好関係は片思いだった様だ。

加蓮「そうだね……まず、さんは外す事。それから、これから私のお昼ご飯に付き合う事。そしたらきっと、友達にランクアップ出来るんじゃない?」

P「会員カードみたいなシステムだな」

加蓮「有効期限は最終利用日から三日間だよ」

P「連休挟んだら友好関係やり直しか……」

加蓮「届け出が出されてれば考慮してあげる」

P「忘れない様努力はするよ」

加蓮「……はぁ。私ほんと、何意地になってたんだろ。あーポテト食べたい!」

P「学食行こうぜ。ここのポテトあれだぞ、あのグルグルしてる北条の髪型みたいなやつ」

加蓮「アンタ誰?」

P「折角貯めた友好ポイントが!!」

27 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/02(火) 23:00:07.80 ID:w5LZSvi60



そして、ついに金曜日がやってきた。

金曜日という事は。

李衣菜「……今日、6時間目まであるんだよね」

美穂「Zzz……」

P「帰りたい……午前中で終わりな昨日までに帰りたい……」

そう、6時間目まであるのだ。

帰って寝たい欲が非常に高まってきた。

……いや、そうではなくて。

李衣菜「本当に新学年始まったなーって感じするよね」

美穂「Zzz……」

まゆ「美穂ちゃん、1時間目からずっと寝てますねぇ……」

P「4時間目の終わり頃に空腹で起きるだろ」

美穂「……んん……寝てません……寝て……」

李衣菜「録音したくならない?」

P「後が怖いからやめとこ」

まゆ「本当に仲が良いんですねぇ、三人は」

智絵里「……あの、鷺沢く

ガラガラガラ

ちひろ「はい、現代社会の時間ですよ。最初の章は日本経済についてーー」

28 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/02(火) 23:00:57.57 ID:w5LZSvi60


美穂「はっ!フォッサマグナ!!」

李衣菜「あ、美穂ちゃん起きた」

P「おはよう美穂。もう6時間目も終わったぞ」

まゆ「もうすぐ帰りのHRですよ」

美穂「そんな……あれ?なのにわたし、お腹すいてない……?」

李衣菜「寝てる間にまゆちゃんのサンドイッチ食べてたよ」

まゆ「小動物みたいで可愛かったです」

P「ほんと美味しかったよな、まゆのサンドイッチ」

まゆ「ふふっ、作ってきた甲斐がありました。さて……Pさん、一緒に帰りませんか?」

P「ん、あー……」

智絵里「……鷺沢くん、待ってますから」

ガラガラガラ

P「悪い、先約があってさ」

まゆ「そうですか……なら、仕方ありませんね」

加蓮「……」



29 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/02(火) 23:01:56.99 ID:w5LZSvi60



屋上へ向かう。

そう言えば、天気予報で今日は夕方から雨となっていたが大丈夫だろうか。

ガラガラガラ

屋上の扉を開ける。

その先には緒方さんが一人で立っていた。

一瞬だけ、目を奪われる。

いつもは教室で一人静かに、特に誰かと話すわけでもなく過ごしている緒方さん。

そんな彼女の、当たり前ではあるが初めてみる……待ち焦がれている様な表情。

たった一人でこの広い屋上に立ち、待ち人に想いを馳せている様な、そんな顔。

こんなにも、儚そうな。

こんな可憐な少女だったんだな。

智絵里「……あ……来て、くれたんですね……Pくん」

P「待たせてごめん。四月とは言えまだ寒いよな」

智絵里「いえ……寒さなんて全然感じませんでした」

場違いと言うか、むしろ何を言っているんだとなりそうだが。

まるで本当に、想い人を待っていたような反応をする緒方さん。

30 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/02(火) 23:02:45.55 ID:w5LZSvi60


智絵里「えっと……今日は、わたしに付き合ってくれてありがとうございます」

P「大切な事だからな。想いを伝えるのって」

彼女が頑張って勇気を出そうとしているのなら。

俺もしっかり練習に付き合ってあげたい。

ただし、俺の気持ちは考えないものとする。

智絵里「……緊張……しますね……」

分かる。

智絵里「いい、ですか……?」

P「あぁ、いつでもドンと来い」

智絵里「その……きっとどんなに考えてもその時になったら緊張して忘れちゃうかなって思って、ちゃんと手紙に書いて来たんです」

ラブレターか。

さながら推敲を兼ねた朗読会だ。

智絵里「では……伝えます……!」

ラブレターを広げ、息を吸い込む緒方さん。
31 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/02(火) 23:04:06.86 ID:w5LZSvi60


智絵里「……鷺沢くん!わたし、入学式のあの日から……ずっと、貴方の事を想ってきたんです」

そう、綴った想いを言葉に、自分の口で伝えようとする緒方さんは。

真っ直ぐな目をして、俺を見つめて。

本気で、目を奪われた。

智絵里「授業中、先生の話を聞かずに本を読んでる、そんな横顔も。体育の時に女の子にカッコ良い所を見せようとして転んじゃう、そんな姿も。わたしは、ずっと……そんな貴方を、目で追ってました」

空はどんどん黒く分厚くなってゆく。

ゴロゴロと雲から重い音が響いてくる。

それでも、緒方さんは。

精一杯、言葉を届けようとしていて……

智絵里「貴方は、相手が誰でも優しく分け隔てなく仲良くしてくれる人で、大きな優しさで包み込んでくれる様な人で……こんなわたしにも、声を掛けてくれて!とっても、嬉しかったです……っ!」

……これは、この彼女のラブレターの相手は……

P「……なぁ、緒方さん。本当に練習なんだよな?」

智絵里「はい……今はまだ、練習です。そう言って、鷺沢くんに来て貰ってるから……」

風が強く吹き上手く聞き取れなかったが、気になっていた事は把握出来た。

良かった、変な勘違いで恥をかく前に確認出来て。

一瞬本気で自分の事だと思ってしまった。

だとしたら、彼女の手にしているラブレターは練習用のものという事か。
32 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/02(火) 23:05:11.17 ID:w5LZSvi60


智絵里「いつか貴方に、きちんと伝えなきゃ、伝えなきゃ、って……でも、なかなか勇気が出せなくて……わたしの名前すら覚えてくれてなかったらどうしよう、って……」

ピシャァァァァン!と遠くで雷の音がした。

そろそろ、本当に雨が降って来そうだ。

智絵里「そのままクラス替えになっちゃって……でも、またおんなじクラスだったから……わたしも、決心したんです……!」

ぽつ、ぽつ。

雨が降り始めた。

でもそんな事なんて一瞬で思考から消えるくらい。

俺は、緒方さんの言葉に呑まれていた。

智絵里「……鷺沢くん!わたし、貴方のことが……えっと、その……貴方の……ことが……わたしは……」

そこで、緒方さんの言葉は痞えてしまった。

その先は、告白のメインとなる言葉なのだろう。

それを口にするのは、練習とは言えとても勇気が必要だという事は分かる。

彼女は必死に口にしようとして、止めようとしてはまた口を開いてを繰り返した。

P「……雨、強くなる前に戻ろう。また幾らでも付き合うからさ」

智絵里「……ごめんなさい……わたし、練習すら……ううん……練習だから……」

そう言って、俯いてしまう緒方さん。

P「大丈夫。ほら、濡れると風邪ひいちゃうぞ」

智絵里「……鷺沢くん……っ!」
33 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/02(火) 23:06:37.43 ID:w5LZSvi60


加蓮「ねえ、鷺沢。屋上あるなら案内してくれても良かったんじゃない?」

ガラガラガラ、と。

屋上の扉が開いて、北条が姿を現した。

P「悪い北条、今取り込み中だから。あともう雨降ってるから出てこない方がいいぞ」

加蓮「……何してたの?何かの練習?」

智絵里「……っ!」

P「あっ!緒方さん!」

緒方さんが俺の横を駆け抜け、走って校舎内へ入って行ってしまった。

加蓮「……鷺沢が泣かせたの?」

P「いや、まぁ……色々あってな」

加蓮「それにしても、今日は私に案内してくれなかったけど。鷺沢にとっての友情は三日で終わってもうバイバイなの?」

P「いや、単純にこう……屋上まで案内する必要はないかなって。ってか昨日北条がこれで終わりって言ってただろ」

加蓮「そのあと三日じゃ足りないって訂正したよね?」

そう言いながら、北条がこちらに歩いてくる。

加蓮「あの子、何か落としてったみたい」

北条が、さっきまで緒方さんがいたところまで来て何かを拾い上げた。

雨に濡れてはいるが、それは……

加蓮「……ラブレター、ね。なになに……ふーん……」

P「あんま人のそう言うの覗くもんじゃないぞ。練習とはいえなぁ……」

加蓮「で、ちゃんと上手く出来てたの?」

P「緒方さんの尊厳のために黙秘させて貰うよ。ほら雨強くなって来てるし、さっさと校舎入るぞ」

加蓮「……練習用、ね。なら……私が読んでも良いよね?」

……いや、ダメだろう。

加蓮「ほら、鷺沢。もっとこっち来て雰囲気作って」

P「だから人のそういうのを読むもんじゃありません」

加蓮「大丈夫大丈夫、私アドリブとか得意だから」

そういう問題じゃないだろうに。
34 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/02(火) 23:13:54.72 ID:w5LZSvi60


加蓮「……ねぇ、P」

P「ん、なんだ?急に俺の友好ポイントを貯めにきたのか?」

そんな、いつもあいつらとやっている様な。

友達同士のアホな会話をしようとして。

加蓮「足りないかな、全然。だから……」

いつの間にか、北条は俺の目の前にいて。

加蓮「……私と付き合って。私から離れないで……!」

彼女の唇が、俺の唇に触れた。

直前に目に入った緒方さんのラブレターには、好きとしか書かれていなかった。


35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/02(火) 23:34:41.97 ID:K0redlJq0
ギャルゲーって話ならゲーム形式でやってみたかったぞ
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/03(水) 02:50:26.49 ID:aGfDrHfmo
ルートが決まってる方が自分的にはありがたい
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/03(水) 06:34:50.36 ID:bUryXan5o
最高やん
進めて
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/03(水) 07:41:15.18 ID:6+c+RW3zo
これは期待
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/03(水) 10:04:12.85 ID:0QZ7Uax+O
これは当然他の√やってくれるんですよね?お願いしますなんでも島村
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/03(水) 10:38:21.81 ID:DMyZv64fo
エロゲの方も投下すんの?
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/03(水) 11:08:24.67 ID:aOQmL/KBo
なんか懐かしいノリだな
期待
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/03(水) 13:00:17.37 ID:3zendnZmO
期待
43 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/03(水) 13:26:34.44 ID:zjPlfDRA0


P「……」

李衣菜「……」

美穂「……ねぇ、李衣菜ちゃん」

李衣菜「……うん、美穂ちゃん」

美穂「……Pくん、どうしたのかな」

李衣菜「変なモノ食べたんじゃない?」

P「……」

昨日のあの出来事はなんだったのだろう。

思い返すと、鮮明に浮かぶあの唇の感触。

離した後の、北条の表情。

あれはどういうことだったんだろう。

そのままの意味で受け取っていいのだろうか。

それとも、場の雰囲気に流された的なやつだったのだろうか。

結局その後、北条は走って帰っていってしまった。

ラインを交換していなかった為、あいつとの連絡手段はない。

つまりまぁ、北条と次に会えるのは月曜日な訳で。

それまで俺は、この悶々とした気持ちを抱えて土日を過ごさなきゃいけなくて。

P「……李衣菜、美穂。恋って……難しいな」

あと何故この二人はナチュラルに俺の部屋にいるんだろう。

李衣菜「あ、帰ってきた」

美穂「心は此処にあらずみたいですけど……」

P「……春を迎えたかもしれない」

美穂「頭がですか?」

P「それは年中御花畑だから大丈夫」

李衣菜「まぁ今四月だからね。桜も咲いてるし」
44 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/03(水) 13:27:31.30 ID:zjPlfDRA0


美穂「何かあったんですか?」

P「……会員カードがランクアップしたんだ」

李衣菜「この古書店って会員カードとかやってたっけ?」

文香「……そのようなシステムは導入しておりませんが……」

P「ん、姉さんどうかした?」

文香「P君、緒方さんがいらっしゃいましたよ」

李衣菜「え。緒方さんって、智絵里ちゃん?」

美穂「Pくん、お友達だったんですか?」

P「ま、色々とな」

店先まで出ると、可愛らしいモコモコなコートに身を包んだ緒方さんが立っていた。

先日は制服だったから初めて見る私服姿だが、緒方さんめっちゃ可愛いな。

智絵里「あ……こんにちは、鷺沢くん」

P「こんにちは、緒方さん」

智絵里「……昨日は、ごめんなさい……せっかく付き合ってもらったのに、失敗しちゃって……」

P「まぁまぁ、気にしなくて大丈夫だよ。上がってく?」

智絵里「えっ……い、いいんですか……?」

P「うん。まぁ多田と小日向もいるけど」

智絵里「…………はい」

45 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/03(水) 13:28:34.39 ID:zjPlfDRA0



智絵里「お邪魔します……」

李衣菜「狭い部屋だけど寛いでいってね」

P「お前は俺の母さんかよ」

美穂「こんにちは、智絵里ちゃん」

智絵里「えっと……お二人は……」

P「李衣菜は小学の頃から、美穂は去年から割と入り浸ってる」

智絵里「ここが……鷺沢くんのお部屋……」

李衣菜「色々漫画とか小説とか揃ってるよ」

P「見ての通り古書店だからな。他には何もないけど」

美穂「そ、そんなことありませんっ!いいお部屋だと思いますっ!本しかないですけど……」

否定出来てないぞ。

美穂「それで、智絵里ちゃんはどうしたの?」

李衣菜「わざわざ貴重な土曜日を割いてPの家に来るなんてとんだ物好きだね」

P「おいお前ら」

美穂「ち、違います!わたしはお昼ご飯を食べに……」

P「うち古書店なんですよ」

美穂「ぞ、存じておりますっ!」

智絵里「……ふふ。とっても仲が良いんですね」

くすりと、緒方さんが微笑む。

なんだ、めちゃくちゃ可愛いじゃないか。

46 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/03(水) 13:29:47.62 ID:zjPlfDRA0


李衣菜「せっかく女子が三人も集まってるんだし、ガールズトークでもする?」

P「知ってるか?ここ俺の部屋なんだぜ」

李衣菜「知ってるよ」

分かってて始めようとする方がタチが悪かった。

P「あと、もう少ししたら俺買い物行かなきゃいけないんだけど」

李衣菜「夕飯の買い物?」

美穂「ご、御相伴に預からせていただきます!」

智絵里「わ、わたしも……っ!」

いつもの二人だけなら適当にあしらおうとおもっていたが、緒方さんもならまぁ良いか。

わざわざ土曜日に来てくれてるんだし。

李衣菜「買い物なら私も付き合うけど」

P「いや、いいよ別に」

ピロンッ

俺のスマホが震えた。

P「ん、誰からだろ」

李衣菜「Pに連絡なんて、私達以外からもあるんだね」

泣いてない。

決して泣いてなんてない。

P「ん……あー、ちょいと出て来るわ」

李衣菜「いってらっしゃい」

智絵里「え、あ、鷺沢くんが居ないのにわたしたちはいいんですか……?」

李衣菜「いーんじゃない?」

美穂「Pくん、無事に帰って来て下さいね」

P「おい美穂読んでる漫画のセリフを音読するな。次のページでその男子生徒事故に遭うやつだろ」


47 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/03(水) 13:30:45.39 ID:zjPlfDRA0


コートを羽織って家を出る。

四月とはいえ、まだまだかなり寒い。

どうせなら手袋でも着けてくればよかった。

まゆ「あ。こんにちは、Pさん」

P「こんにちは、まゆ」

家の前には、俺を呼び出したまゆが立っていた。

読モをやっているだけあって、来ている服もとても可愛らしい。

まゆ「午前中はお仕事だったんですけど、その時のお洋服を頂けたので最初にPさんに見せたくなっちゃって」

P「俺はファッションに関しては全くだけど、似合ってると思うよ。めちゃくちゃ可愛い」

まゆ「ふふっ、来て良かったです」

天使のように微笑むまゆ。

近くにドッキリ成功的なカメラが隠されてたりしないだろうか。

まゆ「これからお買い物ですよねぇ?」

P「あ、うん。夕飯の買い物に行こうと思ってたところだけど」

まゆ「まゆもお付き合いしますよ?五人分となると結構大荷物ですよね?」

P「うん……うん?」

あれ?俺の家に李衣菜な美穂が居ると言っただろうか?

まぁそれに関してはまゆが李衣菜か美穂から聞いていたのならともかくとして。

緒方に関しては、ついさっき来たばかりだし……

……まぁ、いいか。
48 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/03(水) 13:31:58.12 ID:zjPlfDRA0



P「でもなんか、クラスメイトに買い物付き合わせるなんて悪いしいいよ」

まゆ「では、こうしませんか?まゆ、夕ご飯をPさんに振る舞ってあげたいんです」

……良い子だな、まゆは。なんだこれ、本当に天使か。

二人並んで、スーパーに向かって歩く。

まゆ「まるで、新婚さんみたいですね」

P「まだ俺は年齢的に結婚出来ないけどな」

まゆ「あ……Pさん。手は冷たくないですか?」

P「割と。手袋着けてくれば良かったって後悔してる」

そう家を出る前の自分に恨みを飛ばしていると。

まゆが、自分の手袋を外した。

……流石にまゆの手袋はサイズ合わないと思うけど。

まゆ「一緒に、手を繋ぎませんか?」

……大丈夫?これオプション料金とか発生したりしない?

P「……今俺手持ちそんなないぞ」

まゆ「だったらまゆの手を持てばいいんです」

P「いいのか?」

まゆ「もちろんです。Pさんの手が冷えてしまったら大変ですから」

P「なら、遠慮なく」

まゆと普通に手を繋ごうとする。

まゆの指が一瞬で動いて恋人繋ぎになった。

まゆ「ふふっ、もう離しませんっ」

P「女の子と手を繋ぐなんて、昔に手繋ぎ鬼をやった時以来だな」

まゆ「なら、まゆで最後にしませんか?」

P「まぁこの歳以降で手繋ぎ鬼なんてする機会ないだろうしな」

まゆ「周りからはカップルって思われてるかもしれませんね」

P「俺じゃまゆとは釣り合ってないだろうなぁ」

まゆ「まゆからしたら、Pさんの方がとっても素敵な人だと思いますよ」

P「まゆにそう言って貰えるのは誇らしいな」

スーパーに到着。

まゆの分も含めて六人分の買い物はそこそこな量になる。

それでも。

誰かとカートを押して買い物をするのは、なんだか幸せだった。


49 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/03(水) 13:33:40.13 ID:zjPlfDRA0


智絵里「……お二人は、いつも鷺沢くんと一緒に遊んでるんですか?」

李衣菜「うん。ほら、うちの高校って男子少ないでしょ?だからPは友達全然いないし」

美穂「そ、そんな事……あるかもしれませんけど……」

智絵里「……」

李衣菜「ま、Pは色々面白いからね。一緒にいて楽しいから」

美穂「……それで、智絵里ちゃんは?」

智絵里「……え?」

美穂「智絵里ちゃんはどうですか?Pくんと一緒にいて」

智絵里「えっと、その……わたし、まだあんまり鷺沢くんとお喋り出来てないけど……」

李衣菜「でも確か、去年からクラスは一緒だったよね」

智絵里「その時から……えっと……」

美穂「そう言えば、昨日は何かあったの?」

智絵里「……告白……」

李衣菜「え、告白?!」

美穂「告白したんですか?!」

智絵里「……その、練習に付き合って貰って……結局ダメだったけど……」

美穂「ねぇ、本当に練習?」

智絵里「れ、練習です……っ!練習でした……まだ……」

李衣菜「Pの事だから茶化しそうだけどね」

美穂「……ふーん、そっか。仲良くなれるといいね!」

智絵里「……はい……」

50 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/03(水) 13:34:29.01 ID:zjPlfDRA0


李衣菜「ちなみに、どんな風に告白したの?」

智絵里「……な、ないしょです!」

美穂「かわいいね、智絵里ちゃん」

李衣菜「Pなら、声掛ければいつでも時間あけると思うよ」

智絵里「……なら、もっと遊びに誘ってみようかな……」

美穂「高頻度でわたし達もついてく事になるかもですけどね」

李衣菜「あ、なら折角だし明日私達4人で遊びに行かない?」

智絵里「……えっ、良いんですか?」

美穂「え、わたしとPくんとクマ君と智絵里ちゃんの4人で?」

李衣菜「だからそれを私が提案する訳ないでしょ?!」

「ただいまー!」

李衣菜「あ、帰ってきたみたい」

美穂「荷物運ぶの、手伝いましょうか」

李衣菜「いいよいいよ、美穂ちゃんと智絵里ちゃんは部屋で喋ってて」

バタンッ

美穂「……ねぇ。智絵里ちゃんも、誰かに恋してるの?」

智絵里「……あ……その……」

美穂「難しいよね、恋って。わたしも、いつも悩んでばっかりだもん」

智絵里「美穂ちゃんも……好きな男の子が……?」

美穂「うん、相手は……内緒。お互い上手くいくといいね」

智絵里「……はい……!」

ガチャ

李衣菜「Pが早めの夕飯にするって。降りといでよ」

美穂「はーい、すぐ行きますっ!」

智絵里「は、はい」


51 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/03(水) 13:35:38.35 ID:zjPlfDRA0



美穂「あれ?まゆちゃん?」

まゆ「こんにちは、美穂ちゃん」

智絵里「……えっ」

まゆ「こんにちは、智絵里ちゃん」

智絵里「こっ、こんにちは……」

まゆ「どうかしましたか?智絵里ちゃん…………大丈夫ですよ、誰にも喋りませんから」

P「どうかしたのかー?」

智絵里「えっ……あ……なんでも、ないです……」

P「まだ夕飯には早いけど鍋やるぞー」

李衣菜「おっ、いいね鍋。まだ寒いし」

P「あと肉じゃがだ」

美穂「良いですよね、肉じゃが」

P「あとちらし寿司」

李衣菜「どれだけ作るつもりなの?!」

うん、多いよな。

六人で食べきれる量にはならないと思う。

まゆ「ふふっ……まゆ、ついつい買いすぎちゃって」

普段から重い荷物運ぶのになれてて良かった。

買い物袋六つとか初めてレベルの買い物量だったよ。

美穂「食材費くらいは出させて下さい」

智絵里「わ、わたしも……」

文香「いえ……大丈夫です、P君はそこそこ貯蓄がありますから」

P「いや全然ないけど」

文香「私が……P君の、ヘソクリや『本』の置き場を把握していないとでも?」

P「嘘ついてごめんなさいお願いだから内密に……」

文香「冗談です……みなさんは、気にしなくて大丈夫ですから」

……文香姉さんが、本当に良き姉的な振る舞いをしている。

文香「……賑やかになりましたね」

P「ごめんね、姉さん」

文香「いえ……食卓は、賑やかな方が美味しいですから」

P「俺とまゆで作るから、悪いけど手が空いてる人はテーブルの方の準備しといてくれ。多分姉さんが本積んでるだろうから」

まゆ「Pさん、本当にお姉さんと仲が良いんですね」

P「まぁな。さて、俺たちも準備するか」

まゆ「はい、二人で初めての共同作業ですね」


52 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/03(水) 13:36:38.90 ID:zjPlfDRA0



P「それじゃ」

皆んな「「いただきます」」

まゆはとても手際が良く、あっという間に完成してしまった。

流石に肉じゃがはまだ煮込んでいるが。

ちらし寿司と鍋を取り分け、まずは薬味を使わずそのまま頂く。

P「……美味い」

李衣菜「うん、美味しいね」

文香「……美味しいです……とても……」

智絵里「……美味しい、です……」

美穂「あつっ!……うん、とっても美味しいよ、まゆちゃん」

まゆ「みなさんのお口に合うようで良かったです」

六人で鍋を取り囲みつつく。

美味しくて次々と食べてしまう。

うん、楽しい、美味しい。

まゆ「お鍋の食材が一旦なくなったら、その間に肉じゃがをお出ししますから」

智絵里「そ、そんなに食べられるかな……」

文香「……ご安心下さい」

P「まゆは普段から料理してるのか?」

まゆ「はい、今は寮で暮らしてますから」

李衣菜「寮で暮らしてるのに朝たかりにくる子もいるのにね」

美穂「そ、それは李衣菜ちゃんもですよね?」

李衣菜「私は実家暮らしだからセーフって事で」

P「本当にいいな、誰かの手料理を食べられるって」

まゆ「Pさんさえよろしければ、まゆはいつでも作りに来ますよ?」

P「流石に悪いからいいよ。またみんなで集まった時、一緒に作ってくれると嬉しいかな」

まゆ「ふふっ、まゆに任せて下さい」

智絵里「あっ……いつの間にか、もうお鍋が空に……」

文香「あら……不思議ですね」

P「姉さん……」

まゆ「はい、サクマ式肉じゃがですよぉ」

P「まゆ、それ肉じゃがちゃう!グラタンや!」

まゆ「食材が余ったので作っちゃいました」

文香「……素敵な女性ですね」

李衣菜「文香さんの判定基準って凄く分かりやすいですよね」

智絵里「……グラタンも、とっても美味しいです」

まゆ「ふふっ、良かったです」

P「あと最後にデザート用にロールケーキも買ってあるから」

美穂「……帰りは走って、運動しないと……」

53 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/03(水) 13:37:30.01 ID:zjPlfDRA0



李衣菜「ふー……ご馳走様でした。ついつい食べ過ぎちゃったね」

美穂「まゆちゃん、本当に料理お上手なんですね」

智絵里「あっ……そろそろ、寮の門限が……」

美穂「えっ、もうそんな時間?」

P「んじゃ先四人で帰ったらどうだ?」

まゆ「まゆは後片付けをお手伝いします」

そこまでして貰わなくても……頭が上がらないな。

P「ありがと。ならまゆは後で俺が送ってくよ」

李衣菜「あ、P。明日空いてたらみんなで遊びに行かない?」

P「ん、俺は構わないけど」

まゆ「すみません。まゆは明日もお仕事があるので……」

美穂「そっか……それじゃ、また今度遊ぼうね?」

まゆ「はい、喜んで」

P「それじゃまた明日なー。時間とかは後で送ってくれ」

李衣菜「りょーかい。また明日ね」

美穂「お邪魔しました」

智絵里「あ……また明日、鷺沢くん。お邪魔しました……」

三人が出て行くと、さっきまで賑やかだった部屋が途端に静かに感じる。

文香「……佐久間さんは、門限は大丈夫なのですか?」

まゆ「はい、今日はお仕事で少し遅れると伝えてありますから」

P「何から何まで悪いな……」

まゆ「いえ、まゆがしたくてしている事ですから」

文香「……洗い物は、私がやっておきます」

え゛。

文香「はぁ……P君は、佐久間さんを送って行ってあげて下さい。きちんとお礼もお願いしますね……?」

まゆ「ありがとうございます、文香さん」

文香「私も……楽しい食卓を、本当にありがとうございました」

まゆ「また、来ても大丈夫ですか?」

文香「こちらこそ、喜んで……いつでもお待ちしております」

P「……ん、美穂あいつポーチ忘れてってるな。確か俺の部屋に取りに戻ってないよな」

文香「明日会うのでしたら、その時に渡してあげて下さい」

まゆ「同じ寮ですし、まゆが届けますよ?」

P「いやいいよ、どうせ明日会うし。スマホとかはポケットに入れてるだろうから大丈夫だろ……さ。送ってくよ、まゆ」

まゆ「ありがとうございます。それでは、おじゃましました」




54 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/03(水) 13:41:03.20 ID:zjPlfDRA0



P「夜は昼以上に寒いな。手袋着けてきて大正解だ」

まゆ「まゆとしてはあまり美味しくないんですけどね」

二人並んで、夜の街を歩く。

時折夜風に乗って現れる桜の花びらが、なかなかに綺麗だった。

P「ほんとうに今日はありがとう、まゆ。とっても楽しかったよ」

まゆ「今度はPさんから誘ってくれても嬉しいですよ?」

P「是非そうさせて貰うよ。あ、ライン交換しておくか」

まゆ「……そうでしたね。はい、お願いします」

まゆとラインを交換する。

ラインの友達欄が増えた、嬉しい。

まゆ「……少し寒いですね」

P「四月だからなぁ」

まゆ「明日、まゆも参加出来れば良かったんですけどねぇ」

P「また誘うさ」
55 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/03(水) 13:42:07.97 ID:zjPlfDRA0



まゆ「加蓮ちゃんとのキス、どうでしたか?」

P「めっちゃ驚い…………え?」

まゆ「嬉しかったですか?心地良かったですか?」

……ん?

は、え?

なんでまゆはその事を知ってるんだ?

その方がよっぽど驚きだ。

まゆ「好きな人のことは何でも把握していますよぉ」

にこりと笑うまゆ。

その表情は、確かに笑顔なのに。

さっきまで皆んなと過ごしていた時の笑顔とは、まったくの別物だった。

まゆ「……まぁ、加蓮ちゃんは雨で体調を崩してしまったみたいなので、月曜日に来れるかどうかは分かりませんが……」

何故まゆは、そこまで把握しているんだ?

まゆ「本人にも、確かめないといけませんねぇ」

P「……なぁ、まゆ」


56 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/03(水) 13:43:03.60 ID:zjPlfDRA0


思わず立ち止まって、まゆの方に顔を向ける。

まゆもまた、俺の目をジッと見ていた。

まゆ「……まゆは、譲りませんよ」

一瞬足がすくんで、その場から動けなくなった。

そんな俺の方へ、まゆは距離を詰めて来て……

まゆ「お願い……まゆだけを見ていて……ずっと」

唇と唇が、重なった。

遠くで、誰かが走る足音が聞こえた。

57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/03(水) 14:28:21.36 ID:hGMgt8DYO
これは共通√がどこまでなのか気になるな
しかしなんだろこの地雷原でタップダンスしてる感覚
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/03(水) 15:34:14.96 ID:XNRr/xWUo
>>56
たのむつづけてくれ
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/03(水) 15:50:45.59 ID:Ls12gEdkO
手っ取り早く読みたいなら渋に加蓮√全部あるぞ
60 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/03(水) 19:33:19.11 ID:en/Eym4GO


P「遊園地?」

美穂「はい。来る途中、商店街の福引で四人分当てたんです!」

李衣菜「すごいじゃん、美穂ちゃん」

美穂「普段の行いが良いからでしょうか?」

李衣菜「うーん、自分で言っちゃうとあれだよね」

日曜日の正午。

俺たちは集合場所の駅前で、美穂から遊園地の招待券を渡された。

P「ありがとう、美穂」

美穂「いっぱい楽しみましょう!」

李衣菜「あとは智絵里ちゃんが来るのを待つだけだね」

P「……あ。そうだ美穂、昨日うちにポーチ忘れてっただろ。はい」

美穂にポーチを渡す。

美穂「あ、ありがとうございます……すみません、お手数おかけして」

李衣菜「せっかくだから、まゆちゃんも来れればよかったんだけどね」

P「ま、仕方ないさ。また今度誘おう」

読モだし、仕事じゃ仕方ないか。

……まゆ、うん。

昨日、キスされたんだよな……

実はどっきりで、月曜日に話し掛けたら赤っ恥を……

いや、それは流石にないか。

だとしたら……うーん……
61 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/03(水) 19:34:09.93 ID:en/Eym4GO


美穂「……」

李衣菜「……P、どうしたの?なんか考える人みたいなフリして」

P「いやまぁ、何も考えてないよ」

美穂「Pくんはいつでも頭空っぽですからね!」

P「つらい……何も言い返せないのがつらい……」

美穂「あ、いえ!Pくんってあんまり悩んだりしないですよね、って言いたかったんです!!」

李衣菜「Pって悩む事あるの?夕飯の献立とか?」

P「大体姉さんからリクエストくるからそれ作ってるよ。あとほら、レシピ本とかも家に沢山あるし」

美穂「Pくん、本当に色々な料理を作れますよね」

P「毎日同じじゃ飽きちゃうからな」

タッタッタッ

智絵里「ごめんなさい……っ、遅れちゃいました……」

李衣菜「あ、おはよう智絵里ちゃん。今ピッタリ12時だよ」

美穂「おはよう、智絵里ちゃん」

P「おはよう、緒方さん」

智絵里「……おはようございます……きょ、今日はえっと……お日柄もよく……」

お見合いかな?

モコモコのコートに身を包んだ緒方さんは、なんだかうさぎみたいだ。

白いベレー帽が凄く似合っている。

小動物的な感じがこう……かわいい。

智絵里「それで……今日は、何処に行くんですか……?」

P「美穂が福引で遊園地の招待券当てたから、四人で遊園地に行こうって話になってたとこ」

美穂「電車で30分くらいですね」

李衣菜「それじゃ向かおっか。飲み物とか食べ物は現地で買えばいいよね」



62 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/03(水) 19:35:03.14 ID:en/Eym4GO



李衣菜「うっひょぉぉっ!!」

P「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

美穂「きゃーーーーーっ!!」

智絵里「……カエルさん……カエルさん……」

ガガガガガッ、ガッコン!

係員「お疲れ様でしたー」

亡霊のような顔をして、ジェットコースターから降りる。

間違いなく一番最初に乗るアトラクションではなかった。

なんだこのサイクロンツイスタータイフーンハリケーンとかいうコースターは。

胃袋が大嵐だ、この人を苦しめる機能しか搭載されてない悪マシンめ。

智絵里「凄かったです……」

美穂「速さと高さがギネスに登録されてるみたいですね」

李衣菜「あとでもう一回乗りたいなー」

P「俺はパスがいいかな……うん、下からお前らを見守ってるよ」

李衣菜「え、P怖がってるの?」

P「は、ちげーし超余裕だったし、何なら乗りながら般若心経のサビ暗唱してたくらいだぞ」

李衣菜「うん、正直隣に乗ってる私の方がそのせいで怖かったから」

智絵里「次は……もうすこしユックリなアトラクションがいいです」

美穂「ならお化け屋敷にしませんか?自分のペースで歩けますよ」

鬼だ、鬼がいる。

なんとか膝から手を離して、歩けるようになった。

李衣菜「せっかくだし、二組に分かれて入らない?」

智絵里「えっ……?!」

美穂「き、危険です二人きりだなんて!そんな少人数でクリア出来る難易度じゃないんです!」

P「確かここの遊園地、お化け屋敷も凄いらしいからな……8割くらいの客が途中で退出するらしいぞ」

というかこの遊園地、一つ一つのアトラクションが本気すぎる。

いったいアトラクション系で何件ギネスに登録されているんだろう。

独占禁止法を守ってくれ。
63 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/03(水) 19:36:17.97 ID:en/Eym4GO


いよいよ現れた巨大な洋館は、明らかに子供の心を折りにきてる。

李衣菜「あ、そもそもこの戦慄ラビリンスって同時入場二人までだって」

P「んじゃ、グーとパーで別れるか」

美穂「Pくん、わたしはパーを出しますから!」

なにその心理戦。

智絵里「わ、わたしはグーを出します……!」

李衣菜「美穂ちゃんの勝ちだね!」

P「まぁグーとパーしかないからな」

そもそもそう言う話だっただろうか。

李衣菜「それじゃ。ジャンケンポン!」

P「……李衣菜と美穂がパー、緒方さんがグーか」

美穂「なんでPくんはチョキを出したんですか?」

P「いやほら、緒方さんの一人負けを防ぐ為にあいこにしたかったから……」

李衣菜「でもま、チョキはグーの元って言うし、Pは智絵里ちゃんと組んでね」

智絵里「よ、よろしくお願いします!」

P「お、おう」

なんだか緒方さんは物凄いやる気だ。

まぁ、気張ってかないと途中で心折れそうだしな……

李衣菜「それじゃ、並ぼっか」

P「……あいたたた、唐突に持病の腹痛で頭が痛い……」

美穂「……わ、わたしも家の決まりで、洋館に入る時はお祓いをして貰ってからじゃないと……」

智絵里「……わ、わたしは頑張ります……っ!」

P「……なんだか自分が情けなくなってきた」

美穂「ですね。お互い頑張りましょう、Pくん」

そこそこ長い列に加わる。

時折聞こえてくる悲鳴が、いい感じに恐怖を煽ってくる。

正直、四人で入れないか係員に掛け合いたいレベルだ。

でもまぁ、緒方さんの前だしかっこ悪い所は見せられないな。

今更感あるけど。
64 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/03(水) 19:37:06.99 ID:en/Eym4GO


P「大丈夫だよ、緒方さん。いざとなったら中のスタッフがドン引きするレベルで俺が泣き叫ぶから」

李衣菜「大丈夫な要素ある?」

美穂「うぅ……少しずつ入り口が近付いてきた……」

智絵里「こ、この中に対魔師の資格を持った方はいませんか……!」

P「今からでも資格獲得間に合うかな……」

李衣菜「はいはい、もうそろそろだけどどっちが先に入る?」

んなばかな、早すぎるだろあんなに並んでたのに。

と思ったが、前に並んでたカップルが列から外れていった。

なるほど、みんな流石に怖くなってやめてくんだな。

心からそのムーブに便乗したい。

美穂「それじゃ李衣菜ちゃん。わたし達が先に入りませんか?」

李衣菜「おっけー。P達は後でいい?」

P「あぁ、逃げ出さないことを此処に宣言するよ」

李衣菜「逃げたら文香さんに教えてあげるから」

P「……逃げ出さないことを此処に誓うよ……くそ……」

ま、まぁ?

緒方さんの手前、見苦しい事をするかは元からさらさらないし?

係員「はい、此方の同意書にサインをお願いしまーす」

……文香姉さんに笑われる方がよっぽどマシな気がしてきた。

李衣菜「じゃ、また後でねー」

美穂「お先に行ってきます!」

そうして、二人が闇に飲まれてゆく。

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」

直後、二人の悲鳴が聞こえた。

手のひらが汗に塗れる。

こんな事なら、般若心経きちんとサビ以外も覚えてくればよかった。

隣を見れば、緒方さんも泣きそうな表情をしている。

……よし。

P「……手、繋ぐ?」

智絵里「……えっ……えっ?!」

P「いやほら、その方が少しは怖さも紛れるかなって」

智絵里「あ……えっと……お願いします……」

ぎゅ、と。

緒方さんの小さな手を握る。

それだけで、なんとなく心強い。

係員「はい、次のペアの方どうぞー」

P「……それじゃ、行こっか!せっかくだし思いっきり叫んで楽しもう!」

智絵里「は、はいっ!」

暗幕をくぐって洋館に突入する。

俺たちが悲鳴をあげるまでに、2秒と掛からなかったと思う。


65 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/03(水) 19:38:11.16 ID:en/Eym4GO



李衣菜「お疲れ様ー」

美穂「お疲れ様です……二人とも……」

P「はぁ……あー、しんどかった」

智絵里「……怖かった……です……」

李衣菜「美穂ちゃんがずっと悲鳴あげてるから、面白くて怖さは薄れてたんだ」

美穂「そ、それは李衣菜ちゃんもですからね?!」

なんやかんや、正気は保てた。

文香姉さんの読み聞かせ(夏のホラースペシャル)である程度ホラー耐性がついていたらしい。

文香姉さん、めちゃくちゃ上手いからな。

それと……

李衣菜「智絵里ちゃん、さっきからずっとPにしがみついてるけど」

智絵里「……あっ、ご、ごめんなさい……」

緒方さんがずっと俺にしがみついて来るものだから、そっちの方が気が気じゃなかった。

女の子特有の柔かい感触がまだ腕に残っている。

離れた後、両手を胸に当たる緒方さん。

その顔は、ほんのり紅い。

……俺の手、汗凄かったかもしれない。

P「さて、なんかこの遊園地のトップ2みたいなアトラクションは乗ったけど次はどうする?」

李衣菜「フリーフォールとかコーヒーカーップとかあるけど、どっちがいい?」

美穂「つ、次はもう少し平和なアトラクションだと嬉しいんですけど……」

智絵里「……あ、メリーゴーランド!」

緒方さんが指差す先には、メリーゴーランドがあった。

メリーゴーランドか……男子高校生が乗っても大丈夫なんだろうか、光景的に。

美穂「あ、あれなら平和に楽しめる筈です!」

平和さを求められる遊園地ってどうなんだろう。

四人でメリーゴーランドを目指して歩く。

そんなに列は長くなく、次の回で乗れそうだ。
66 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/03(水) 19:38:49.46 ID:en/Eym4GO


P「……なぁ、メリーゴーランドってさ……こんな速かったっけ?」

李衣菜「……た、楽しそうではあるよね」

美穂「平和って何なんでしょう」

智絵里「……白馬の王子さまが全力疾走してます……」

目の前で回転しているメリーゴーランドは、明らかに角速度がおかしかった。

なんだこれ、競馬かよ。

一体どの年齢層を狙ったアトラクションなんだ。

『メリーゴーランドでギネスを狙うロマンに挑戦しました!』じゃないんだよ煽り文。

メリーゴーランドにそんなロマンは求められてないんだ、いやロマンチックではあるけどさ。

乗り終えたカップルが、お互いを支え合いながら近くのベンチに座り込むのが目に入った。

P「……乗るか」

李衣菜「この速度のカボチャの馬車だったら、シンデレラももっと長くお城に居られただろうね」

出来るだけ負荷の少なそうな内側の馬に乗る。

流れている優雅なクラシックが場違いも甚だしい。

係員「きちんとシートベルトの着用をお願いしまーす」

そしていよいよ、メリーゴーランドが回り始めた。

P「おぉ、速い!」

李衣菜「うっひょぉぉっ!!」

美穂「いぇーい!」

智絵里「……なんとか……耐えられそうです……!」

あぁ、案外楽しい。

昔遊んだ公園の地球儀を思い出す。

なんだか童心に帰ったみたいだ。

他の三人もなんとか楽しめるレベルの角速度らしく、楽しそうに馬にしがみついていた。

前二つのアトラクションよりは、よっぽど楽しめたと思う。


67 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/03(水) 19:39:36.83 ID:en/Eym4GO



その後も、色々なアトラクションを満喫した。

フリーフォール『スカイツリー』は落ちてる間に校歌の1番を歌い切れた。

ゴーカート『F1』は何度壁にぶつかったか分からない。

迷路『ラピュタ内部』で2時間かかり、再び乗ったジェットコースターでグロッキーになり。

西の空が赤くなるころには、みんなクタクタになっていた。

李衣菜「やー、かなり遊んだね」

美穂「ですね、とっても楽しかったです」

智絵里「わ、わたしも……今日は、とっても楽しかったです……!」

李衣菜「また来ようね」

P「あぁ。次はまゆも連れてきたいな」

李衣菜「まゆちゃん、ジェットコースター苦手そうだよね」

美穂「ふふっ、分かります」

智絵里「また、誘って下さい」

P「もちろん。さて……どうする?何か乗りたいアトラクション残ってるか?」

美穂「……あれ?智絵里ちゃん、今日ベレー帽被ってたよね?」

智絵里「……あれ?……あ……」

そういえば、集まった時は被っていた筈だ。

何処かで落としてしまったんだろうか。

美穂「フリーフォールに乗った時、係りの人に預けたんじゃなかったっけ?」

智絵里「そ、そうでした……」

李衣菜「忘れなくて良かったね。取りに行くの付き合うよ」

智絵里「ありがとうございます。取りに行ってきます……!」

俺も付き合うよ、と。

そう言おうとしたところで。

美穂に服の裾を引っ張られ、振り返っているうちに二人は行ってしまった。

P「……ゆっくりで良いぞー!俺たちは出口のとこで待ってるから!」

りょーかい!と李衣菜が返事をして、二人はフリーフォールの方へ向かって行く。

美穂「……ねぇ、Pくん」

P「ん?どうした?」

何かまだ乗りたいアトラクションがあったんだろうか。

ここからフリーフォールまでそこそこ離れてるから、一つくらいなら乗れそうだけど。

美穂「わたし、最後に乗りたいアトラクションがあるんです」

P「おっけー、付き合うよ」

美穂「……良かった。ありがとうございます」


68 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/03(水) 19:40:21.83 ID:en/Eym4GO



ガコン、ガコン、ガシャン

美穂と二人で観覧車に乗り込む。

ゴンドラの扉が閉まれば、そこはまるで別世界だ。

少しずつ少しずつ、地面が遠ざかって行く。

観覧車なんて、最後に乗ったのはいつだっただろうか。

美穂「ありがとうございます。どうしても乗りたかったんです」

P「1周2.30分くらいか。この遊園地のアトラクションにしては割と普通なんだな」

美穂「楽しかったですか?今日は」

P「あぁ、もちろん。ありがとな、美穂のおかげだ」

美穂「良かった、えへへ……」

微笑む美穂。

相変わらずキュートに全振りされてるなほんと。

窓の外では、太陽が殆ど姿を隠していて。

それと交代する様に、園内のイルミネーションが一瞬にして広がった。

美穂「わぁ……綺麗……」

P「凄いな、ほんと……」

美穂「わたし、Pくんと一緒にこの光景を見れて良かったです」

しばらく、二人でその光景を堪能する。

ゴンドラは既に半分くらいの高さまで昇っていた。

美穂「……ねぇ、Pくんって……」

P「なんだ?」

美穂がイルミネーションから此方に向き直って口を開いた。

なんだろう、語彙力ないよねとか言われるのだろうか。

69 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/03(水) 19:42:36.20 ID:en/Eym4GO


美穂「……まゆちゃんの事、好き……?」

P「……え?」

唐突な、思わぬ方向からの質問に一瞬戸惑ってしまう。

それと同時に昨晩の出来事を思い出し、また悩みが溢れかえった。

俺が、まゆのことを……

P「いやまぁ、嫌いじゃないさ。じゃなきゃ一緒に買い物なんてしないしな」

美穂「嫌いじゃない、じゃなくて。好きかどうかを教えて下さい」

P「え、えっと……なんでそんな事を聞くんだ……?」

自分でも答えが出ていない。

一晩中考えても自分の中で結論は出せなかった悩みだ。

けれど、それよりも。

見たこともない美穂の表情の方が、よっぽど今は……

美穂「……昨日、わたしがポーチをPくんの家に忘れちゃって……取りに戻ろうとしたんです」

そしたら、と。

美穂は続ける。

美穂「……まゆちゃんが、Pくんにキスしてて……」

P「それは……」

美穂「まゆちゃんはきっと……ううん、絶対。Pくんの事が好きなんだと思います」

そうなのだろうか……いや、そんな気はしてはいたが。

俺とまゆは出会ってまだ1週間も経っていないのに。

あんなに可愛い佐久間まゆが、こんなありきたりな男子高校生を好きになるなんてあり得るのだろうか。

美穂「……わたしは弱いから……今日一日、頑張ってPくんの前では笑顔でいようって頑張ってたけど……でも……」

観覧車は、既に頂上を超えて降り始めていた。

空は既に真っ暗で、イルミネーションがやけに眩しい。

美穂「……遊園地のチケット、福引で当てたなんて嘘なんです。本当は、自分で買ったもので……」

P「そうだったのか……」

美穂「Pくんとどうしても、二人きりで観覧車に乗りたかったから……ごめんなさい」

P「美穂がどんな事を考えてたんだとしても、楽しかった事には変わりないよ。きっと李衣菜と緒方さんも、それは一緒だと思う」

美穂「……優しいですね、Pくんは。でも、その優しさは……」

もしかしたら、美穂も……

いや、でも一年生の時からこの距離だったのに……

美穂「……わたしは、離れたくない……もっと、近づきたいんです。でもきっと、このままじゃそれは叶わないから……」

泣きそうに、けれど逸らさず此方の目を見つめる美穂。

ガコン、ガコン

少しずつ、ゴンドラの開く音が聞こえてきた。

そろそろメリーゴーランドは一周を終えるらしい。

美穂「……Pくんは、好きな人はいますか?」

P「えっ?!あ……」

バクンッ!と心臓が跳ねる。

ゴンドラの音なんて聞こえないくらい、胸の動悸が激しくなった。

その質問は……俺は……

70 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/03(水) 19:43:35.05 ID:en/Eym4GO


ガコンッ!

丁度、俺たちの乗っているゴンドラの扉のロックが解除された。

そろそろ、降りなくてはいけない。

でも、俺はちゃんと美穂の言葉に返事をしないと……

美穂「……ごめんなさい……返事は、今度で大丈夫です」

P「そうか……分かった。それじゃ降りるか」

ブーン、ブーン

俺のスマホが震えた。

見れば、緒方さんから電話が来ている。

もう既に出口に着いてしまったのだろうか。

立ち上がって、通話に出ようとして。

美穂「……Pくん」

両腕を美穂に掴まれ……

美穂「ずっと前から……わたしの心は、決まってますから」

唇の距離が、ゼロになった。

コールが切れるまで、その距離は開かなかった。
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/03(水) 20:42:01.20 ID:o/Phh6aeo
共通ルート(?)でこれとは、このP死ぬな…
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/03(水) 21:45:43.87 ID:M+6/RfeKo
共通でこれだと人生ハードモードだな…
命がいくつあっても足りないだろ
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/03(水) 22:17:05.57 ID:GL6vUF/Yo
>>59
渋ってなんやねん
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/03(水) 22:20:20.52 ID:0KYU2f+Qo
誰を選んでも選ばなかった奴に刺されそう
りーなだけが癒しやね
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/03(水) 23:19:11.76 ID:/wGMJHCmo
もしや全員とキスするまでが共通√か……
76 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/04(木) 00:54:19.95 ID:OjYrug8C0



ちひろ「……はい、出欠取れました。北条さんは体調不良でお休みです」

今までで、こんなに重い月曜日があっただろうか。

ここ三日間で、色々な事がありすぎた。

昨日は結局、美穂は先に一人で帰ってしまったし。

そしてその本人は今、俺の隣で楽しそうにまゆとお喋りしている。

ただ時折、二人の視線が此方に向くのが非常に居心地が悪い。

反対側に身体を向けると、一瞬緒方さんと目が合った。

……あぁ、教室の癒しだ。

いや、そうではない。

俺はさっさと、答えを出して伝えるべきなんだ。

P「……はぁ」

ため息は、今日で何度目だろうか。

迷っているという事自体が、本当に申し訳ない。

けれど直ぐに答えを出せるほど、俺の人生は恋愛慣れしていなかった。

気分転換も兼ねて、我慢していたトイレに向かう。

まゆ「どこに行くんですか?」

美穂「Pくん、少しお話が」

P「……ほんとごめん、その……」

二人に呼び止められる。

それでも、どうしても……

トイレを、済ませておきたかった。

P「トイレ済ませてからでいい?」

美穂「……あっ、ごめんなさい」

まゆ「ごゆっくり、どうぞ」

いや、本当に逃げるつもりとかではないんで。

トイレに着いた。

用を済ます。 30秒とかからなかった。

当然その一瞬で心が固まる訳はない。

手を洗いながら、俺は改めて考えた。

77 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/04(木) 00:55:47.52 ID:OjYrug8C0


俺は、誰と一緒に居たい?

誰と一緒に、これからの学園生活を過ごしたい?

それも、友達以上の距離で、だ。

トイレを出て教室に向かうと、美穂とまゆが教室の前で待っていた。

まゆ「……うふふ」

美穂「さて、Pくん」

……一瞬、金剛力士像かな?と突っ込みたくなってしまった。

流石に口にはしないが。

まゆ「……まぁ、まゆは分かってはいますけどねぇ」

美穂「わたしも、勿論です。まゆちゃんより一年長く付き合ってるんですから」

……それは、もしかして……

まゆ「どうせ、まだ心が決まってないんですよね?」

美穂「良く言えば優しくて、悪く言えば……優柔不断、ですから」

はい。

その通りです。

P「……ほんとうに申し訳ない。その……」

まゆ「謝らないで下さい……まゆは、貴方の返事を待ちますから」

美穂「今すぐじゃなくて大丈夫です」

P「……ありがとう、二人とも」

まゆ「まだPさんは、まゆの事をよく知りませんから……これからもっと知ってもらってからでも」

美穂「付き合う前に、相手の事をきちんと知るのは大切ですからね」

まゆ「それに、いつになっても……まゆはPさんの事を想ってます」

美穂「わたしの心は……昨日も言いましたけど、ずっと前から決まってますから」

それに、と。

二人の声が重なった。

まゆ・美穂「「選んでくれるって、信じてますから」」


78 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/04(木) 00:57:05.98 ID:OjYrug8C0


授業中も、頭の中はその事でいっぱいだった。

板書を写すのが遅れるのも構わず、普段使わない頭を全力でまわす。

それにしても美穂とまゆ、仲良いな。

さっき放課後遊びに行く約束してたのを耳に挟んだが、何というか……

それ以上考えるのはよそう。

それに関しては、俺は考慮するべきでは無い。

先ずは自分の心を決めるべきなんだ。

席を寄せ合って、まゆと李衣菜と美穂と緒方さんと弁当を食べる。

味なんて分からない。

いつの間にか、6時間目の授業の終わりのチャイムが鳴った。

帰りのHRなんて、ほんとに一瞬だった。

まゆと美穂は二人で遊びに行った。

李衣菜「まゆちゃんと美穂ちゃん、仲良いね」

P「だな。良い事だろ、友達が増えるって」

俺は友達全然いないし帰って本でも読もう。

……つら。

智絵里「あの……鷺沢くん。その……良かったら、一緒に帰りませんか……?」

P「ん?あぁ、良いよ。李衣菜はどうする?」

李衣菜「私は図書室で本借りてから帰ろっかなー」

P「あいよ、また明日な」

李衣菜「じゃあね、また明日」


79 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/04(木) 00:58:02.23 ID:OjYrug8C0



智絵里「……寒い、ですね……」

P「なー、もう少しあったかくてもいいんだけどな」

二人並んで、帰路に着く。

緒方さんは寮暮らしだから、二つ先の信号でお別れだが。

智絵里「昨日は、ありがとうございました……わたし、本当にとっても楽しかったです」

P「そっか、緒方さんが楽しんでくれて良かったよ」

智絵里「わたし……あんまり、遊べる友達が少なくて……その……」

P「これからも皆んなで遊びたいな。緒方さんさえ良ければだけど」

智絵里「こ、こちらこそ……っ!それと、えっと、あの……」

P「ん?どうした?」

智絵里「……わ、わたしだけ苗字呼びは仲間はずれみたいだから……ちょっと、さみしいなって……」

P「あー、そうだな。んじゃ、智絵里ちゃんって呼んでいい?」

智絵里「……はい……っ!ありがとうございます、その……Pくん」

あっという間に二つ目の信号まで辿り着いた。

智絵里ちゃんと別れて、一人で道を歩く。

話している時は気付かなかったが、思った以上に今日は凄く寒かった。


80 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/04(木) 01:00:34.38 ID:OjYrug8C0


翌日、起きると一件のラインが届いていた。

眠い目を擦って確認すると、送り主は智絵里ちゃんだった。

なんだろ……

『今日の放課後、屋上に来てくれると嬉しいです』

……果し合いだろうか。

んな訳ないだろ。 前回に引き続き、告白の練習だろう。

来て下さい、じゃなくて来てくれると嬉しいです、なあたり智絵里ちゃんっぽい。

にしても、送信時刻三時半って…… 智絵里ちゃん、割と夜遅くまで起きてる子なんだな。

……さて。

まゆ「朝ごはん、出来てますよぉ」

美穂「早く来ないと冷めちゃいますよ」

李衣菜「いやー、Pの家も賑やかになったね」

文香「……朝からこんな幸せが……ありがとうございます、佐久間さん」

増えた。 いや、失礼過ぎるか。

朝食をまゆが作りに来てくれていた。 朝早くから本当にありがたい。

着替えてさっさと支度を済ませ、食卓に着く。

P「朝から豪華だな」

まゆ「良妻ですから」

P「ありがとう、まゆ」

このまま甘える訳にはいかないが…… それにしても、美味しそうなご飯だ。

美穂「……わたしも、もっとお料理頑張らなきゃ」

李衣菜「それじゃ」

みんな「いただきます」

起きたら朝食が用意されてるって素晴らしい。

美味しく残さず全部頂いた。

P「さて……後片付けはやっとくから、三人は先に」

李衣菜「だねー。また時間ギリギリっぽいし」

美穂「ごちそうさまでした、まゆちゃん」

まゆ「片付け、よろしくお願いしますね。それと……Pさん、放課後よければ遊びに行けませんか?」

P「ん、すまん。ちょっと用事があるんだ」

まゆ「……そうですか、分かりました。では……行って来ます」

李衣菜「また教室でー」

美穂「お邪魔しました」

三人が家を出て行った。

俺もさっさと、片付けを終わらせちゃわないと。

文香「……P君。素敵なお友達に恵まれましたね」

P「……ほんと、心の底からそう思うよ」

文香「……私も、行って来ます」

P「食器運ぶの手伝ってくれると嬉しいかな姉さん」


81 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/04(木) 01:04:28.00 ID:OjYrug8C0



走って学校へ向かう。

ギリッギリ、予鈴がなる直前に校門に滑り込めた。

P「ふー、セーフ!」

加蓮「……ん、鷺沢じゃん。おはよ」

下駄箱で北条に会った。

こいつも遅刻ギリギリか。

P「お、北条か。体調は良くなったのか?」

加蓮「そこそこ。私がいなくて寂しかった?」

P「そこそこ」

加蓮「あ、そう言えば三日経ったから友好ポイント失効だったね」

P「いなくて大変寂しゅうございました!」

加蓮「ふふ、よろしい。ところで……私がいない間に、何かあった?」



1.P「ってそうじゃなくて、金曜の事なんだけどさ……」

2.P「四人で遊園地に行ったんだよ」

3.P「うちで鍋をやったんだ」

82 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/04(木) 01:06:08.12 ID:OjYrug8C0

共通√はここまでです
今回は加蓮√なのでここの選択肢は1を選んだという体で進めさせて頂きます
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/04(木) 01:39:01.78 ID:U0KVdZmGO
ここまでが共通√なのか
李衣菜だけ少し出遅れる感じになるのかな
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/04(木) 12:50:46.79 ID:/nwqMHBRO
りいなはあれだ、美穂とのルートで分岐があるパターンだ
85 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/05(金) 02:33:46.57 ID:ehN4p5Qs0


P「ってそうじゃなくて、金曜の事なんだけどさ……」

加蓮「……あれ、鷺沢の事だからもっとはぐらかそうとすると思ってたんだけど」

P「はぐらかして良い事だったのか?」

加蓮「まさか、このまま言い出してくれなかったらポイント失効どころか会員永年追放だったよ」

危ないところだった。

そして。

北条はけらけらと笑いながら言ってはいるが。

それは、つまり……

加蓮「……何?もう一回キスして欲しいの?」

P「……いや、やけに明るいなぁって」

加蓮「アンタの性格は分かりやすいからね」

P「自分じゃどうか分からんけど、そうなのか?」

加蓮「どうせ『あいつさては俺に気が……いや待てよ? ドッキリの可能性やその場の雰囲気に流さてた場合も考慮すべきだ……取り敢えず次会った時確認しよ』って考えだったんでしょ?」

お見事過ぎて何も言い返せない。

加蓮「……はぁ。それに……ふーん、へー……」

P「なんだ、日本語で話さないと伝わらないぞ」

加蓮「だよね、言葉にしないと伝わらないよね」

……こいつ、どこまで分かってるんだ?

加蓮「まぁいいけど。放課後は時間ある?」

P「あ、悪い……放課後は予定が入っちゃってるんだ」

加蓮「誰?」

気温が一瞬にして0を下回った気がする。

おかしい、さっきまで楽しく談笑出来ていた筈なのに。

いきなり異世界あたりにワープしたりしてないだろうか。

GPS情報を確認しても、別にここはシベリアになっていたりはしなかった。

加蓮「……ねぇ、誰?」

P「……ヒ・ミ・ツ!」

加蓮「は?」

P「ちえ……緒方さんです」

震えてなんていない。

もし震えていたとしたら、それは寒いせいだ。

加蓮「……ふーん、何?また告白の練習に付き合ってとか言われたの?」

P「いや、単純に来れたら来てって言われただけだけどさ」

加蓮「そ。なら断っても問題ないよね」

……いや、その理論はどうなんだろう。

文的には間違ってないが人間的に色々とアレな気がする。

キーン、コーン、カーン、コーン

加蓮「……続きは教室で話そっか」

P「俺知ってるぞ、俺だけ千川先生に怒られるやつだ」

86 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/05(金) 02:34:28.02 ID:ehN4p5Qs0


教室に俺と北条が遅刻して入る。

一斉に向けられる大量の視線が痛い。

特に、まゆと美穂。

なんでお前北条と登校してるの?的なオーラを感じる。

ちひろ「まったく鷺沢君……二年生になって気がたるんでるんじゃないですか?」

P「気は張り詰めてるつもりなんですけどね……」

当然北条はお咎めなし、と。

さっさと窓側の席に座って俺をニヤニヤと眺めてやがる。

俺はと言えばこの後美穂とまゆと智絵里ちゃんに囲まれなきゃいけないっていうのに。

智絵里「……Pくん……その、ライン……見てくれましたか……?」

P「ん、あー……後ででいいか?」

智絵里「……はい…………」

まゆ「智絵里ちゃん、Pさんと仲良しさんですね」

美穂「ふふ、仲が良いのは素敵な事だと思います」

この教室、外より気圧が高過ぎないだろうか。

肩と心にかかる重圧にプレスされそうだ。

ちひろ「特に連絡事項はありません。夕方は雨らしいので、傘を忘れた子は事務室で借りられますから利用して下さいね」

HRが終わり、千川先生が教室を出て行く。

それと同時、北条が俺の席まで来た。

加蓮「さて、鷺沢。私と一緒に一時間目サボってみたりしない?」

P「流石にそれは遠慮させて貰おうかな」

美穂「えっと……貴女は……?」

まゆ「彼女は北条加蓮ちゃんです。先週のPさんの用事の原因ですよぉ」

加蓮「……ん、アンタは確か……」

まゆ「佐久間まゆ、です。まゆは加蓮ちゃんの事をよく知っていますから、自己紹介は結構です」

加蓮「アンタの趣味が覗き見なのは知ってるよ」

まゆ「それはお互い様なんじゃないですか?」

……逃げ出したい。

胃が痛くなって来た気がする。

保健室でサボタージュ、悪くないんじゃないだろうか。

美穂「えっと……加蓮ちゃんとまゆちゃんは知り合いだったんですか?」

加蓮「先週の金曜日に偶々会っただけ」

まゆ「偶々、ですか……ふふっ」

加蓮「ところで鷺沢。私が保健室に行きたいのは本当なんだけど、付き添ってくれない?」

P「ん、それなら構わないけど」

まゆ「でしたらまゆがお付き合いしましょうか?」

加蓮「体調が悪化しそうだから遠慮しとこうかな」


87 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/05(金) 02:38:13.06 ID:ehN4p5Qs0



北条と一緒に教室から出て……

P「……ふぅー……はぁー……酸素が美味しい」

思いっきり息を吸い込んだ。

加蓮「おすすめの酸素マスク教えよっか?」

P「酸素マスクが必要にならない状況の作り方を教えてほしいよ」

加蓮「簡単じゃん。私と付き合えば良いだけ」

P「わぁすごい、インスタントラーメンよりお手軽!」

……なわけないだろ。

普段滅多にインスタントラーメン作らないけど。

P「そういや、まだ結局体調悪かったのか?」

加蓮「治ってはいるんだけどね。マスク忘れちゃったから、保健室で貰っとこうかなって」

P「大変だよなぁ、身体弱いって」

加蓮「なにそれ他人事みたいに」

P「他人事だからな。俺はバカだから、風邪ひいても気付かないんだよ」

保健室に着き、北条はマスクを持って出て来た。

サボっちゃおっかなーと言っていたが、流石にそれは止める。

加蓮「……で、放課後の話。屋上行くの?」


1.P「まぁ、その予定だけど……」

2.P「あぁ、先約だからな」

88 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/05(金) 02:38:44.78 ID:ehN4p5Qs0

今回は加蓮√なのでここの選択肢は1を選んだという体で進めさせて頂きます
89 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/05(金) 02:41:57.65 ID:ehN4p5Qs0


P「まぁ、その予定だけど……」

加蓮「私が行かないで、って言ったら……行かないでくれる?」

P「……理由、聞いてもいいか?」

加蓮「鷺沢を取られたくないから」

立ち止まらず即答する北条。

そこに、さっきまでの明るい調子は無かった。

P「取られる……?」

加蓮「あの子が鷺沢にどんな想いを向けてるかなんて、一目見ればすぐ分かったから」

P「……どうなんだろうなぁ」

加蓮「ズルいとこあるよね、鷺沢って」

今北条が言うズルい、は。

きっと、弱いとイコールだろう。

俺は何も言い返せなかった。

加蓮「私さ、嬉しかったんだ。鷺沢みたいな優しいバカに出会えて」

北条は、高校一年生の時殆ど学校に来れていない。

きっと小学の頃も中学の頃も同じだったんだろう。

だとしたら、だ。

今の北条の言葉に、どれ程の思いが詰まっているんだろうか。

言ってて悲しくなるが、友達が全然いないのは俺も一緒だ。

母親がいなくて、家が古書店という事もあり本ばかり読んでて。

小学校の頃からクラスの男子と全然仲良くなれなくて、時にはイジメの的にされた事もあったけど。

そんな時に仲良くしてくれた、助けてくれた李衣菜に対し、俺は同じ嬉しさを感じていたから。

P「……褒められてると信じたいな」

加蓮「褒めてるつもりはないよ」

心をへし折るのがお早い事で。
90 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/05(金) 02:43:01.12 ID:ehN4p5Qs0


そんなちょっとだけ凹んでいる俺に向かって、くるっと振り返り。

加蓮「だって……私みたいな、重ーい女の子を惚れさせちゃったんだもん」

照れたように笑う北条。

その笑顔に、俺は一瞬言葉を失った。

……なんだ、ほんとこいつは。そんな表情まで出来るのかよ。

加蓮「だから、私は鷺沢と離れたくない。誰かに取られちゃうのが怖いんだ……なーんて、自分勝手な理由なんだけどね」

P「……そうか」

加蓮「長々とごめんね。ほら、早く教室戻らないとまた怒られちゃうよ?」

P「帰ったらあいつらから色々言われるんだろうな」

加蓮「それは鷺沢がなんとかするべき問題でしょ」

P「まったくもってその通りだ、返す言葉もない」

二人並んで、階段を登る。一時間目開始のチャイムは既に鳴り始めていた。

でもきっと今を逃せば、俺はずっと弱いまま、甘えたままになってしまうだろう。

P「なぁ、北条」

加蓮「なに?まだ理由として不足?」

P「俺、悪いけど屋上行くわ」

加蓮「……そっか。うん、分かった」

P「それと……」

ふー、と息を吸い込んで。

心の弱さを、惚れた弱みに変える。

P「放課後、校門前で待っててくれ。雨が降る前に迎えに行くから」

加蓮「……やっぱりズルいよ、鷺沢は」


91 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/05(金) 02:44:50.20 ID:ehN4p5Qs0

帰りのHRが終わった後、さっさと荷物を持って屋上へ上がる。

あの金曜日と同じ様に、空は今にも降り出しそうだった。

智絵里「あ……Pくん。来てくれて、ありがとうございます」

P「あぁ。ごめんな、智絵里ちゃん」

本当に申し訳ない事をしていたと思う。

もし、北条の言っていた事が本当だとしたら。

俺がこんな宙ぶらりんに、行ったり来たりを繰り返していたせいで。

智絵里「……今日は、その……あの時言えなかった言葉を……」

あの時、それはきっと先週の金曜日の事だろう。

智絵里「それを、えっと……練習じゃなくって……」

P「……なぁ、智絵里ちゃん」

その言葉を遮った。

俺の方から、きちんと言葉にしないといけないと思ったから。

P「……俺、好きな人が出来たんだ」

智絵里「…………え……?」

P「……凄く難しいな、自分のそういう思いを口にするのって」

ただ一言、好きな人が出来たんだ、と。

そう口にするのがこんなにも大変な事だったのか。

智絵里「……わ、わたし……」

智絵里ちゃんは、今にも泣きそうな表情をしている。

正直この場から逃げ出したい。

それでも、俺は。目を逸らさずに、きちんと……

P「だから、智絵里ちゃんがこれから口にしようとしてた言葉が……練習だったとしても、そうじゃなかったとしても。俺は、付き合えない」

自分の思いを、言葉にした。

遠くで部活の声が聞こえる。トラックの音やゴミを捨てる音も聞こえてくる。

それくらい静かな重い沈黙が、屋上を埋め尽くしていた。

智絵里「……誰……なんですか……?」

ようやく発された言葉は、消え入りそうなほど小さな声で。

智絵里「……Pくんが、好きな相手は……誰なんですか……?」

俺はそれも、伝えるべきなのだろう。

智絵里「まゆちゃん……?美穂ちゃん?それとも、李衣菜ちゃん……?」

P「……北条だよ、クラスメイトの」

智絵里「……誰……?そんな子……」

P「悪い、俺もう行かないと」

空の雲は分厚く黒い。

それが地面に降ってくる前に、ちゃんと約束を果たさないと。

智絵里「……っ!待って、下さい……っ!」

P「……ごめん、智絵里ちゃん」

ポツリと、屋上に雨粒が落ちてくる。マズい、早く向かわないと。

急いで屋上を後にする。

彼女の頬が濡れていたのは、決して雨のせいじゃない。

それを俺は、絶対に忘れちゃいけなかった。

92 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/05(金) 02:45:42.86 ID:ehN4p5Qs0


P「悪い北条、遅くなって」

加蓮「……初回限定サービスって事で、セーフにしといてあげる」

校門前では、北条が一人で佇んでいた。

よかった、本格的に降り出す前に来れて。

P「どっか行きたい場所とかあったか?」

加蓮「うーん……ファミレス!」

P「よし、それじゃ初デートに適してないらしいイタリアンファミレスに行くか!」

加蓮「その誘い文句ってどうなの?」

そんな事言いながらも、笑ってついてきてくれる北条。

……って、こいつ傘持ってきてないのか。

加蓮「忘れちゃった、てへっ」

P「てへっじゃないだろ全く……ほら、俺二本持ってるから。良かったな、感謝しろよ」

加蓮「へし折るよ?」

P「何で?」

何だこいつ、傘をケミカルライトか何かだと思ってるのか?

残念ながら俺の折り畳み傘に発光機能は搭載されてないが。

加蓮「……そう言うところは本当にただのバカだよね、鷺沢って」

P「凄いな北条、この1週間で俺にバカって言った回数ベスト1だぞ」

加蓮「……はぁ。傘、一つで十分でしょって事!」

P「……俺に雨に打たれて歩けと?」

加蓮「本格的にそうしたくなってきたんだけど」

いや流石に気付いたけどさ。

なんだろう、こう……楽しいな、こういうやりとりって。

P「さっさと入れ、風邪引くぞ」

加蓮「何様のつもり?」

P「この傘が誰の傘か忘れないようにな」

そんな会話をしながら、北条が傘に入ってくる。

当然ながら、お互いの距離はかなり近くなった。

肩と肩が触れ合っては離れ、雨に濡れそうになりまたくっついてを繰り返す。

P「……さっさとファミレス行くか」

加蓮「……うん、そうだね……」

お互い、割と顔が真っ赤だ。

そんな感じで、不器用二人が寒さも忘れて歩き出した。
93 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/05(金) 02:49:05.77 ID:ehN4p5Qs0

店員「っしゃーせー」

店員に案内され、奥の方の席に着く。

外はいい感じに大雨になっていた。多分夕立だから帰る頃には止むだろうけど。

P「注文どうする?」

加蓮「山盛りポテトと厚切りチップスで」

P「パスタとかピザとかドリアじゃないのか」

加蓮「あとハッシュドポテト」

P「お前さてはジャガイモ以外の炭水化物知らないな?」

取り敢えずジャガイモ類を注文する。

加蓮「……それで、改めて聞いておきたいんだけど……」

P「……あぁ」

……こう、あれだな。

改めてきちんと伝えようとすると、やっぱり緊張する。

アホな会話のノリで言っちゃえば良かった。

P「……北条」

加蓮「はいやり直し」

えぇ……

加蓮「さて鷺沢。私のフルネームはなんでしょう」

P「北条加蓮です」

加蓮「分かってるなら分かるでしょ?!」

何故俺はキレられてるんだろう。

あとそんな怒りながらポテトを摘むな、色々と雰囲気が台無しだ。

いやまぁ、そもそもファミレスで告白する時点でアレだとは思うけど。

P「……加蓮」

加蓮「……ふふ……こう、なんだろ。改まって呼ばれると照れるね」

P「俺にどうしろと言うんだ」

加蓮「あ、いいよ。続けて」

感情の起伏が激しい事で。さながら漁船の様だ。

P「俺と付き合ってくれ」

加蓮「えー、どーしよっかなー」

……これはあれか?照れてるのか? だとしたらもう一撃加えてみよう。

一撃加えて弱らせたところをもう一撃で仕留めると、蟹漁業の本に載ってた筈だ。

P「……加蓮、好きだ」

加蓮「っ……そんなありふれた言葉で私を落とせると思わないでね」

……顔真っ赤だぞ。ニヤケてるぞ。

これあれだ、多分俺も凄い赤くなってると思う。

P「これからもずっと、加蓮と一緒にいたい……とかか?」

加蓮「……ねえ、鷺沢」

P「なんだ?ってかそっちからは鷺沢呼びなんだな」

加蓮「ポテト食べ終わったら、家行っていい?」

P「構わないぞ。本しかない家だけど」

追加で、いつの間にか注文されてたポテトが3皿届いた。

ファミレスを出る頃には、雨は完全にあがっていた。
94 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/05(金) 02:50:14.45 ID:ehN4p5Qs0


加蓮「おじゃましまーす」

文香「……初めまして。ええと……」

加蓮「北条加蓮、Pの彼女です」

文香「……あら……鷺沢文香、P君の従姉妹です」

P「姉さん、お願いだから一回座って。父さんに連絡しようとしてるでしょ」

文香「……いえ、そんなつもりは……家、開けた方がよろしいですか?」

加蓮「大丈夫です、そんなに長居するつもりはないから」

P「部屋開けるときは絶対ノックしてくれよ、姉さん」

文香「私は、貴方達が降りてくるまで此処で本を読んでいますから……」

二階に上がり、俺の部屋へ加蓮を招待する。

加蓮「うわー本当に本しかないんだね」

P「期待に添えたかな?」

加蓮「うーん、ザ・男の子の部屋!ってイメージとは程遠いけど……鷺沢はいつも此処で生活してるんだ」

早速部屋を物色される。

まぁ見られて困る物は見える範囲には置いてないし大丈夫だろう。

P「で、北じょ……加蓮。なんで俺の家来たいなんて言ってたんだ?」

加蓮「だってほら、いつも鷺沢と一緒にいる子達は来た事あるんでしょ?なのに私だけ無いとか許せるわけないじゃん」

そういうものなのだろうか。

そういうものなのだろうな。

加蓮「それと……人の視線が無いところで、きちんと言って欲しかったから。だって……」

P「もう一回言うよ。加蓮、好きだ。付き合ってくれないか?」

加蓮「一回しか言ってくれないの?」

P「何度だって言うよ。加蓮が望む分だけ」

加蓮「本当に?」

P「もちろん」

加蓮「もしかしたら、一生分要求するかもよ」

P「重いな……ま、俺も好きになっちゃったんだからしょうがないか」

加蓮「えー、そこでしょうがないとか言っちゃう?」

P「気の利く言葉が思いつかなかったんだよ。加蓮こそいいのか?こんな気の回らない男で」

加蓮「……うん。ねえ、鷺沢……」

なんだ?と。

そう尋ねる必要はなかった。

95 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/05(金) 02:51:22.45 ID:ehN4p5Qs0


加蓮「……うぅっ……怖かったよ!鷺沢ぁぁっ……っ!」

真正面から、加蓮に抱き着かれた。

息は荒く、声は涙に揺れている。

加蓮「本当は、ねっ……!怖かったっ!不安だった……っ!もし振られちゃったらどうしよう、って……!折角出逢えたのに!初めて好きになったのに!!鷺沢が他の子の方に行っちゃったらって……不安で、仕方なくて!全然寝れなくてっ!」

抱き締められる力がどんどん強くなる。

それに応える様に、俺も両手を加蓮の背に回した。

こんなに華奢で今にも折れそうな身体で、そんな不安に耐えて来たのか。

加蓮「私にはっ!Pしかいないから!!離れたくない!ぜったいに……っ!だからっ、お願いだからっっ!……私と!ずっと一緒にいて!!」

P「……あぁ、約束する。ずっと側にいるよ、加蓮」

加蓮「……っあぁ……うわぁぁぁぁぁぁっっ!!」

ダムが決壊したように、泣き声をあげる加蓮。

俺も絶対加蓮を泣かせないと、心に決める。

あの金曜日のキスが、彼女にとってどれだけの覚悟が込められていたかよく理解した。

今日の朝俺に話し掛けて来た時、どれだけ不安に溢れていたかも理解した。

放課後屋上に行って欲しくないという言葉に、どれ程の願いが詰まっていたのかも理解した。

P「加蓮、こっちを向いてくれ」

加蓮「え……?」

此方に顔を向けた加蓮の唇に。

そっと、俺の唇を重ねた。

P「ありがとう、加蓮。これからも……ずっと、よろしくな」

加蓮「……うん……っ!うんっ!」

再び、唇を重ね合う。

三度目の口づけは、もう加蓮のことしか目に入らずに。

きっと、心も重なり合っていた。


96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/05(金) 03:21:16.96 ID:Jou++iC+0
こういういいシーンでも胃のキリキリが止まらないのはなんででしょうね
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/05(金) 09:14:43.81 ID:umtM16lKo
>>96
目からハイライトさんが逃げ出す人しか残ってないからかなぁ…
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/05(金) 10:28:43.49 ID:AtqpXJ0JO
こうして見ると依存タイプが過半数を占めてるユニットなんだなぁと
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/05(金) 14:29:42.61 ID:77tC9bpbo
りーなは癒し
100 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/06(土) 08:55:43.88 ID:XY/10z/n0


加蓮「おじゃましましたー」

文香「ふふ、またいらして下さいね」

加蓮を家まで送る為に、二人並んで夜道を歩く。

夕立のせいで道路は濡れていて、夜風はいつもより数段冷たい。

それでも、寒さなんて文字通り何処吹く風。

加蓮「ありがと、鷺沢」

隣に加蓮がいる。

それだけで、なんだか心も身体も暖かかった。

P「にしても、結局そっちからは鷺沢呼びなんだな」

加蓮「なんでだろ、そっちの方がしっくりくるんだよね」

P「なら俺も北条呼びにしようかな」

加蓮「え…………イヤ…………」

立ち止まって、凄く哀しそうな顔をする加蓮。

流石にオーバーリアクション過ぎやしないだろうか。

P「……じょ、冗談だって。ほら行くぞ加蓮」

加蓮「まったく……危うく心臓止まるところだったじゃん」

お前が言うと若干冗談に聞こえないからやめてくれ。

……冗談だよな?

P「にしてもなぁ……明日学校に行くのが怖いわ……」

加蓮「ちゃんときっちり伝えられる?」

P「……あぁ。まゆにも美穂にも、ちゃんと言うよ」

加蓮「うん、お願い。鷺沢からじゃないと、諦めてくれそうにないし」

そうだ。明日、まゆと美穂に言わなければならないんだ。

まゆとは、美穂とは付き合えないって。

俺は加蓮が好きで、加蓮と付き合ってるんだ、って。

加蓮「……腕、組んでいい?まだちょっと寒いかも」

そう言うが早いが、加蓮が腕を組んできた。

腕を組む、なんて行為にお互い慣れていないせいで、足取りまで覚束なくなる。

加蓮「あれ、結構歩きづらいね。ドラマとかだと簡単にやってたのに」

P「なら、これから慣れてけばいいさ」

加蓮「……うん、あったかい。ねぇ鷺沢。私、よく本を読んでたんだ」

P「どんな本を読んでたんだ?」

加蓮「えっとね、小さい頃読んでたのはお伽話。外で遊べなかった分、何度も何度もおんなじお伽話を捲ってた」

そういいながら夜空を見上げる加蓮。

その先には、沢山の星が煌めいていた。
101 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/06(土) 08:56:29.09 ID:XY/10z/n0


加蓮「3匹の子豚が建築士の資格を学ぶ話とか、おばあさんが毒リンゴを訪問販売する話とか」

P「そんな話だったか?」

なかなか商業に寄ったお伽話だなぁ。

加蓮「あと……女の子が、素敵な王子様と結ばれる話」

P「結構色々あると思うけど」

加蓮「うん。だから何度も読んだし……憧れてたし、夢だった。もちろんいつの間にか諦めて忘れてたけど」

ぎゅっと、腕を組む力が強くなる。

加蓮「でも今は、鷺沢が王子様で……私が、薄幸だった女の子。他の主役やヒロインは必要ないから」

P「あぁ、分かってる」

加蓮「……私だけを見てて。これ、割と本音だからね?」

P「約束するよ、加蓮」

加蓮「ならよろしい。信じてるからね、鷺沢」

いつの間にか、加蓮の家の前に着いていたらしい。

楽しい時間は、幸せな時間はあっという間だ。

P「なかなかデカい家なんだな。それじゃ、また明日」

加蓮「ちょっと待って、何か忘れてると思わない?」

なんだろう、俺の家に何か忘れてきてしまったのだろうか。

加蓮「鷺沢に問題。恋人同士が分かれる時に、必ず行わなければいけない行為はなんでしょう?」

P「……そんな行為があるのか?」

加蓮「ヒントあげる。好意だよ」

P「成る程、分かりやす過ぎるヒントだ」

組んだ腕を一度離し、背中に手を回して。

ちゅっ、と。

唇が重なるだけの軽いキスをする。

加蓮「……ありがと……」

P「また明日な、加蓮」

加蓮「……うん、また明日ね」



102 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/06(土) 08:57:41.48 ID:XY/10z/n0


翌日、起きると部屋にまゆが居た。

……なんで?

まゆ「おはようございます、Pさん」

P「おはよう、まゆ……」

まずい、会話の繋げ方が分からない。

俺は今までどんな風に会話していただろう。

まゆ「朝ごはん出来てますよ。美穂ちゃんと李衣菜ちゃんも来てますから」

P「あー……えっとだな、まゆ。その……」

言わなければ。

俺は加蓮と付き合ってるから、と。

そう伝えなければ。

とはいえ寝起きでまだ頭も回らないし、髪もボサボサだし後でにしようか……

まゆ「……加蓮ちゃんと付き合い始めた、ですよねぇ?」

P「うん、だからさ……え?ん?あれ?」

なんで知ってるんだろう。

加蓮がそうまゆに伝えたのだろうか。

もしくは俺が寝言で言っていたのだろうか。

まゆ「Pさんの事は何でも知ってますよ。貴方のまゆですから」

P「まぁ、うん。だから……俺は、まゆの気持ちに応えられない」

まゆ「はい、知ってます」

おかしいな。

思ったよりも明るくサクサク会話が進んでいる。

まゆとしては、別にそこまで気に病むべき事では無かったのか。

まゆ「でも、まゆは諦めません」

微笑みながらも、しっかりと目を見つめてくるまゆ。

まゆ「まゆの想いは……たった一度の失恋程度でベクトルの向きが変わる程、弱くはありません」

P「……そうか」

まゆ「今は、Pさんは加蓮ちゃんの事が好きなのは分かっています。でも……いつか必ず。貴方に私のことが大好きだって、言わせてみせますから」

こんなにも優しくて強い子に。

俺はきちんと、諦めて貰わなきゃいけないのか。

まゆ「さ、Pさん。早く来ないと冷めちゃいますよ」

P「あぁ、ありがとう」
103 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/06(土) 08:58:14.76 ID:XY/10z/n0


まゆが下に降りていった後、パパッと着替えて支度を済ます。

リビングに着けば、既に皆食べ始めていた。

李衣菜「遅いよP。待ってたら遅刻しちゃうところだったじゃん」

ならなんでうちに来るんだろうか。

美穂「おはようございます、Pくん」

P「おはよう美穂」

文香「……んぐっ……おはようございます、P君」

P「姉さん……おはよう」

まゆ「Pさんの分も準備してありますから」

李衣菜「まゆちゃん、ほんと料理上手いよね。手早くこんなに美味しいの作れるなんて」

美穂「わ、わたしも女子力を鍛えないと……」

まゆ「ふふ、ありがとうございます」

P「うん、美味しい」

李衣菜「Pももっと料理頑張って!」

P「まゆと競うのは無理があるだろ……」

美穂「が、頑張って下さい!」

P「よしやったるぞ!一人暮らしの男の料理ってやつを見せてやる!」

文香「……あの……」

まゆ「まゆは負けませんよぉ。ところで申し訳ないですけど、先生にHR前に用事を頼まれてるんです。李衣菜ちゃん、付き合って貰えませんか?」

李衣菜「ん、おっけー。なら私達は先に行こっか」

まゆ「はい、お願いします。Pさん……後、お願いしますね?」

……本当に感謝しかないな、まゆには。

美穂「でしたら、後片付けはわたしも手伝います!」

P「ん、いやいいよ。玄関で待っててくれるか?」

美穂「は、はいっ」
104 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/06(土) 08:59:23.01 ID:XY/10z/n0


片付けを終えて家を出る。

四月の朝はまだ寒い。

女子はスカートだからもっと寒いんだろうな。

P「お待たせ、それじゃ行こうか」

美穂「はい。えっと……Pくん」

P「ん、なんだ?」

美穂「わたし、Pくんとこうして歩くのが大好きでした。こうやって、ありふれた毎日を過ごすのが幸せでした」

P「あぁ、俺も美穂と一緒に過ごす時間は好きだよ。なんだか心地良いし」

美穂「そう言ってくれると、とっても嬉しいです」

並んで歩く美穂の声は、どことなく暗い。

もしかしたら何かを察したのだろうか。

美穂「もしかしたら……でも、そうじゃなければ良いな、って。そう願ってて……だから、これからわたしが話すのは、独り言だと思って下さい」

冷たい風が街を吹き抜ける。

美穂の声は、ギリギリ聞き取れるくらいだった。

美穂「もっとPくんの側に、もっと近くにいられたら。それは、とっても幸せな事です。でも……もし、Pくんの側にいられなくなったら……それは、わたしにとって凄く辛い事なんです」

消え入りそうな、泣き出しそうな声。

美穂にそんな思いをさせてしまった事が、本当に辛くて。

だけど、それを俺が遮る訳にはいかなくて。

美穂「だからもし君に、他に好きな人が出来たんだとしても……わたしの想いを、受け入れる事が出来なかったとしても……恋人になる事が叶わないんだとしても……っ!」

独り言を言い訳に仮定を重ねる美穂の声は、泣きそうなほど震えていて。

だけど、最後まで此方を見つめていた。

独り言の、その言葉の瞬間まで。

美穂「これからもずっと!変わらないままでいてほしいのっ……!」

校門が近付いてきた。

そろそろ予鈴が鳴る時間だろう。

それでも、今。

きちんと俺から、全部を伝えなきゃいけないと思った。
105 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/06(土) 09:00:19.16 ID:XY/10z/n0


P「……俺は、加蓮の事が好きだ。だから……美穂と付き合う事は出来ない」

美穂「……まゆちゃんが、Pくんと二人きりの時間を作ってくれたって事は……そんな気はしていました。まゆちゃん、Pくんの事を何でも知ってますから」

ほんと何処で知ったんだろうな。

正直凄く気になるが、怖くて聞けない。

美穂「……知り合ってまだ一週間とちょっとなのに、もうわたしはまゆちゃんに追い抜かれちゃってたんですね。そして、加蓮ちゃんにも」

予鈴が鳴り響いた。

それでもまだ、校門を抜ける前に答えるべきものがある。

美穂「わたしの一年間って……なんだったのかな……」

P「……凄く自分勝手な事を言うけど、俺は美穂と一緒に高校生活を送れて凄く楽しかったよ。俺からしたら、それもとても大切な時間だから」

美穂「……ほんと、ズルいですよね。Pくんって」

P「うん、だからさ。これからも……美穂とは、友達でいたい」

美穂「…………はい」

身勝手が過ぎる俺の想いを、きちんと全て伝えた。

美穂の声は震えている。

美穂「……ごめんなさい。千川先生に、小日向は体調悪くて保健室行きましたって伝えておいてください」

P「……あぁ、分かった」

校門を抜け、下駄箱で別れる。

保健室へ向かう彼女を抱きしめたくなる気持ちを抑えて、俺は教室へと向かった

106 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/17(水) 19:51:12.29 ID:7OjJL5IjO



ちひろ「……鷺沢君、連日遅刻記録の更新でも狙ってるんですか?」

P「すみません、小日向が体調悪かったみたいで保健室に送ってきました」

ちひろ「あら、そうですか。分かりました」

教室に入って、席に着く。

ちらりと加蓮と目が合うが、すぐさま逸らされてしまった。

……嫌われてるわけじゃないよな?

P「はぁ……」

少しだけ不安になってため息と共に席に着く。

まゆ「きちんと伝えられましたか?Pさん」

P「あぁ、うん。ありがとな、まゆ」

千川先生が何か連絡事項を述べている。

話を聞こうと前を向いた所で、右側から視線を感じた。

P「……おはよう、智絵里ちゃん」

智絵里「おはようございます、Pくん」

笑顔で返事が返ってくる。

昨日の件、もう彼女の中では整理がついたのだろうか。

ちひろ「はい、先生からは以上です。何かあれば教卓まで来てください」

誰も来ないのを確認すると、千川先生は職員室へと戻って行った。

P「……なぁ、智絵里ちゃん」

智絵里「……えっと、どうかしましたか?」

P「その、昨日の事なんだけどさ……」

智絵里「昨日の事……?……あ。だったら、気にしないで下さい……」

気にしないでと言われても……

いや、彼女が自分でそう言う以上俺は踏み込むわけにはいかないか。

智絵里「その……よく考えたら、わたしが諦める程の理由じゃなかったから……」

ボソリと、智絵里ちゃんが呟いた。

よく聞き取れなかったが、一体どういう事だったのだろう。

まゆ「ねぇ智絵里ちゃん。まゆと放課後、二人でゆっくりお話ししませんか?」

智絵里「……はい、大丈夫です」

……トイレ行こ。なんだか聞いちゃいけない気がする。

トイレは良い、基本俺しかいないから。

こういう時だけはこの学校の男子が少なくて良かったと思う。

鏡を前に深呼吸して、教室に戻る心の準備をする。

加蓮「……で、結局あの二人にも伝えたの?」

P「ん、おはよう加蓮」

加蓮「おはよ、朝から大変そうだね」

P「なんとかなる……いや、なんとかするさ。ちゃんと伝えたよ、俺は加蓮と付き合ってるって」

加蓮「そ、お疲れ様」

P「お疲れ様のキスとかしてくれでも良いんだぞ」

加蓮「そんなキス知らないんだけど」

なら逆にどんなキスを知っているんだろう。

割と気になるし全部実践したい。
107 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/17(水) 19:52:08.49 ID:7OjJL5IjO


加蓮「……キス、しちゃったんだよね」

P「もう合計四回だな」

加蓮「……〜〜っ!これ後からくるっ!後からくるやつ……っ!」

顔を真っ赤にして、頭をブンブン振る加蓮。

今の彼女の脳内には、昨日の夜の事が思い描かれているんだろう。

……あ、俺もかなり恥ずかしくなってきた。

加蓮「……で、鷺沢。今日の放課後暇?」

P「なんだ、デートのお誘いか?」

加蓮「うん、そんなとこ」

P「おっけ、空けとくよ」

加蓮「どうせ遊びに誘ってくれる友達なんていないでしょ?」

P「……な、何人かいるし」

加蓮「美穂とまゆと……」

P「やめて、片手で済んじゃうからカウントしないで」

ははーん、さては俺って寂しい奴だな?

加蓮「いいじゃん、恋人いるんだし」

P「まぁそれもそうか。こんな可愛い彼女がいるんだからな」

加蓮「張っ倒すよ?」

なんで?

加蓮「不意打ちは禁止。時代劇の一騎打ちだってそうでしょ?きちんと正々堂々宣言してから仕掛けるように」

そう言う加蓮の顔は真っ赤だった。

まさか、学校案内の時はあんな冷えたナイフみたいだった奴がこんな風になるとは。

恋愛って人を馬鹿にす……成長させるんだな。

でもって、少し意地悪をしてみたくなる。

P「……分かった。もう今後はそういう事言わないようにするよ」

加蓮「……そんな事言ってないじゃん……っ!ぜんっぜん分かってない!バカなの?!」

P「……加蓮、お前ほんと可愛いな……」

なんだろう。

何言われても可愛いとしか思えない。

これが文字通りバカップルという奴なのだろうか。

P「んで、どっか行きたいとことかあるのか?」

加蓮「鷺沢の家」

P「二日連続でか」

加蓮「皆勤賞狙ってたりするかもよ」

P「夏休みのラジオ体操気分かよ」

そういうのって絶対三日目から怠くなってくるんだぞ。

友達がいたなら辛くなかったのかもしれないけど。

……つら。
108 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/17(水) 19:52:38.15 ID:7OjJL5IjO


加蓮「で、ダメなの?」

P「いやいいけどさ。スタンプカード忘れんなよ」

加蓮「今週分、全部押しといてくれない?」

いるよな、そういう奴。

ちゃんとくるからさ、って言って大体二日後には来なくなるけど。

加蓮「なんなら、一生分押しといてくれくれてもいいけど?」

毎日俺の家来るのか。

最早同棲とか結婚レベルじゃないか。

P「さて、教室戻るか」

加蓮「……はぁ……」

教室へ戻ると、李衣菜が詰め寄ってきた。

珍しく、その表情に笑顔は無い。

李衣菜「ねぇP、色々と聞きたい事があるんだけど」

P「……美穂の事か?」

李衣菜「美穂ちゃん今朝は体調悪くなかったよね?」

P「その話、昼休みでいいか?」

李衣菜「……そうだね、今教室でするような話じゃなさそうだし」

非常に胃が痛くなる。

保健室って胃薬とかあっただろうか。

……いや、今保健室行くほうがマズイ。

はぁ……と心の中に溜息を重ねる。

午前中の授業の内容は、まったく耳に入って来ない。

結局、美穂は四時間目が終わっても戻って来なかった。


109 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/17(水) 19:53:16.34 ID:7OjJL5IjO


李衣菜「で、何があったの?」

昼休み、李衣菜と二人で屋上に出る。

ここ最近、屋上に来るたびに曇り空だ。

P「……俺、美穂に告白されててさ」

李衣菜「えっ、美穂ちゃん勇気出したんだ……!」

P「今朝、断ったんだよ」

李衣菜「……え?なんで断ったの?!」

李衣菜の声が屋上に響く。

李衣菜は美穂と、一年生からずっと仲が良いから。

もしかしたら、前から美穂は李衣菜に想いを打ち明けてたのかもしれないから。

こんなにも李衣菜は、怒ってるのかもしれない。

P「……俺、他に好きな人がいてさ。そいつと、付き合ってるから」

李衣菜「誰?」

P「北条加蓮。クラスにいるだろ」

李衣菜「……Pと加蓮ちゃんって、前から知り合いだったの?」

P「そうじゃないけどさ。誰かを好きになるのに、期間なんて関係ないだろ」

李衣菜「……成る程ね、そっか。そっかー……」

李衣菜は、納得してくれただろうか。

こんな俺と、今後も仲良くしてくれるだろうか。

P「それでも美穂は、これからも友達でいたいって言ってくれてさ。でもやっぱり、きっと……」

美穂にとっては、ショックだっただろう。

分かっている、それが全部俺のせいだって事くらい。

李衣菜「……Pは、加蓮ちゃんの事が本気で好きなの?告白されたからオッケーしとくか、みたいなノリじゃない?」

P「あぁ、本気で俺は加蓮と付き合ってる。それが他の誰かを傷付ける事になるのも……分かってる」

李衣菜「……ならもう、これ以上私はとやかく言える立場じゃないね。私は加蓮ちゃんの事は詳しくは知らないけど、二人を応援するよ」

P「ありがとう、李衣菜」

李衣菜「別に。でも美穂ちゃんみたいな良い子を振るなんて、Pは勿体無い事したね」

P「あんなに気の回る美穂こそ、俺には勿体無いさ」

李衣菜「……話してくれてありがと。それじゃ教室戻ろっか、お昼食べる時間なくなっちゃうからさ」
110 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/17(水) 19:54:01.32 ID:7OjJL5IjO


李衣菜と一緒に階段を降りる。

教室に戻ると、加蓮の姿は無かった。

まゆ「お帰りなさい、Pさん、李衣菜ちゃん。お話は済みましたか?」

李衣菜「ただいままゆちゃん。うん、色々聞かせてもらってたとこ」

まゆ「Pさんの気持ちは堅そうですからねぇ」

李衣菜「だね、あんなに真面目なPなんて四年に一度くらいなんじゃない?」

P「俺はオリンピックかよ」

まゆ「さしずめ恋は聖火ですねぇ」

李衣菜「じゃあ二人は聖火ランナーじゃん」

冷やかされ方が特殊で分かりづら過ぎる。

にしても……まゆの思考が全く読めない。

李衣菜「ってそうじゃなくて!はやくお弁当食べないと!」

P「あ、俺作って来てないから購買行って来るわ」

まゆ「ふふ、そんなPさんの為に……じゃーん。まゆの特製サンドイッチです」

李衣菜「え、凄いよまゆちゃん。パン屋さんみたいな包装されてる!」

まゆ「はい、パン屋さんのサンドイッチですから」

特製、特製ってなんだ。

まゆはパン屋だったのだろうか。

まゆ「恋人が出来た以上、手作りのお弁当は受け取りづらいでしょうから。まゆのお気に入りのパン屋さんの、特製サンドイッチです」

P「略してまゆの特製サンドイッチか」

まゆ「はい、Pさんにもこの美味しさをお裾分けしたかったんです」

……まゆ、良くできた子過ぎるだろ。

P「ありがとな、まゆ」

まゆ「お礼、期待してますよ?」

李衣菜「三倍返しが相場だよね」

P「……うお、めちゃくちゃ美味しいなこれ……!」

まゆ「ふふ、良かったです」

ガラガラガラ

教室に加蓮と美穂が入って来た。

……加蓮と美穂?なんでだ?

加蓮「ただいまー鷺沢」

美穂「戻りました。もう大丈夫です」

P「……おかえり、美穂。あと加蓮も」

美穂「ごめんね李衣菜ちゃん、心配かけちゃって」

李衣菜「いいよいいよ、気にしないで」

いつもの空気が帰って来た事に安堵する。

五・六時間目は、頭を空っぽに気楽に過ごすことが出来た。


111 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/17(水) 19:55:31.35 ID:7OjJL5IjO

加蓮「じゃ、一回帰ったら鷺沢んち行くから」

P「あいよ、待ってるぞー」

美穂「あ、ねぇ李衣菜ちゃん。この後空いてる?」

李衣菜「ん、空いてるよ。何処か遊びに行く?」

まゆ「智絵里ちゃん、行きましょう」

智絵里「はい……」

放課後、各々の帰路に着く。 今日は雨が降っていなくて何よりだ。

そんな事はないはずなのに、一人で帰るのは久々な気がする。

二年生に上がってから一週間と少し、本当に色々あったなぁ。

家に帰ると、文香姉さんがレジで本を読んでいた。

文香「……お帰りなさい、P君」

P「ただいま姉さん。この後加蓮が来ると思うから」

文香「……家、空けましょうか?」

P「いや大丈夫だから、そんな気を使って貰わなくても」

着替えた後、少しだけ部屋を綺麗に片付けてみたりする。

元々本以外大したものはないから、一瞬で終わってしまった。

こう……なんだろう。

改めて、恋人を家に呼ぶのってめちゃくちゃ緊張する。

窓から外の道を覗いてみる。 室外機の上に乗っていた黒猫と目が合って逃げていった。

P「……いや別に何もないだろ!まだ二日目だしな!!」

叫んで自分の心を落ち着かせてみる。

と同時、店の扉が開く音がした。

文香姉さんの声が聞こえると言う事は、おそらく加蓮だろう。

文香姉さん、読書中は客にいらっしゃいませとか言わないし。

だん、だんと階段を登って来る足音がする。

今心電図を映したらすごい事になってそうだ。

コンコン、ガチャ

美穂「おじゃまします、Pくん」

……あれ? 加蓮、声と見た目と喋り方変えた?

P「って、美穂……えっと……ようこそ、俺の部屋へ」

美穂「なんで魔王みたいな台詞になってるんですか?」

P「世界の半分は難しいけど旧約聖書の半分くらいなら譲るぞ」

美穂「そんなもの要りません。でも……えへへ、良かったです。いつものPくんで」

P「……なぁ、美穂」

美穂「今日は加蓮ちゃんに呼ばれたんです。一回きちんとお話したい、って。この後李衣菜ちゃんも来ますよ」

その会話の場を当たり前のように俺の部屋にするな。

そして加蓮……いや別に?全くそういう事なんて期待してなかったし?

何か恋人的な進展があるかなーなんて考えてなかったし?

幾ら何でも早過ぎるよな、うん。 うん……はい。

美穂「わたしは、今朝も言いましたけど……今までと同じ様に、楽しく過ごせれば十分ですから」

P「……ありがとう、美穂」

美穂「その代わり!Pくんと加蓮ちゃんの馴れ初めは根掘り葉堀り聞かせて貰います!」
112 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/17(水) 19:56:01.75 ID:7OjJL5IjO


李衣菜「さっきぶり、P」

加蓮「ん、クッション出してよ鷺沢」

ドアが開き、李衣菜と加蓮も入って来る。

文香姉さんが全員分のお茶を用意してくれた。

文香姉さんが……?!

P「えっと……今日は足元の悪い中お集まりいただき……」

加蓮「ま、きちんと二人には説明しておこうかなってね。李衣菜と美穂は、前から鷺沢と仲良くしてたみたいだし。あ、自己紹介とかいる?」

李衣菜「聞かせて貰おっかな。かっこよく決めてね」

美穂「オサレポイントを失うとお茶が没シュートですよ」

加蓮「アタシの名前は北条加蓮……よろしく」

李衣菜「おー、クール系!」

美穂「多くは語らない感じが良いですね!」

加蓮「……私も乗っちゃったけどさ。何このテンション」

P「俺の友達だからな。類は友を呼ぶって言うだろ」

美穂「Pくんとの馴れ初めはっ?!」

加蓮「あれはいつだったかな……鷺沢の友達が少なかった頃だね」

李衣菜「ずっとじゃん」

P「おい」

加蓮「類友類友、私もだから安心して」

安心の要素がどこにも無い。

加蓮「……私、身体弱くってさ。一年生の時、全然学校来れなかったんだ。で、二年生になって初めて登校した日、鷺沢に学校を案内して貰う事になって」

P「千川先生に頼まれたんだよ」

美穂「初回限定の案内役クラスメイトガチャで、見事男子を引き当てたんですね」

李衣菜「Pだったらリセマラ推奨なのにね」

加蓮「最初はまぁ、色々冷たく当たっちゃったけど……ほら、鷺沢じゃん?」

美穂「Pくんですからね……」

李衣菜「Pだもんね……」

P「バカとでも言いたいのか」

加蓮「で、見事私の氷の様な心を溶かしきって、私を恋にドロップさせちゃったって訳」

李衣菜「恋にドロップさせちゃった。加蓮ちゃんの名言一つ目頂きましたー」

美穂「プレイヤーがドロップする側のゲームなんですね」

なんでさっきから一々例えがゲームなんだろう。

しかも過程の九割以上を端折ってるし。
113 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/17(水) 19:56:41.44 ID:7OjJL5IjO

美穂「どんな風に告白したんですか?」

李衣菜「どっちからの告白だったの?」

加蓮「……言わなきゃダメ?」

美穂・李衣菜「「ダメ」」

大変非常に居心地がよろしくない。

ガールズトークは他所でやって頂きたいものだ。

加蓮「……私にはPしかいないから、ずっと一緒にいて、って……」

美穂「……乙女ですね」

李衣菜「……成る程ね。Pだもん、うん」

美穂「そんな攻略の手口があったんですね」

加蓮「……超恥ずかしいんだけど。後は鷺沢がお願い」

李衣菜「その時のPの心境は!……って、聞くまでも無いか」

P「こっちに矛先向けないでくれ」

加蓮「ちょっと鷺沢、私を見捨てる気?」

ガチャ

扉が開いて、文香姉さんが入って来た。

助かった……

文香「加蓮さんが持って来て下さったお菓子です。私の分は既に頂きましたので、よろしければ……」

李衣菜「おー、美味しそう」

美穂「ありがとう、加蓮ちゃん」

加蓮「ま、私も二人とは仲良くしたいからね」

ところで、と。

加蓮が文香姉さんに向かって質問をした。

加蓮「彼の隠してる本とかって、何処にありますか?」

P「あぁあ、パリ語辞典の事か?!よく俺が最近パリ語勉強してるって知ってるなぁ!!姉さんは降りてって良いよ、俺が自分で出すからさ!!」

文香「……引き出しの」

P「冷蔵庫一番上の奥のバターサンド二つ」

文香「……四つ」

P「三つでなんとか」

文香「……すみません、私は済ませなければならない作業があるのでこれで……」

バタンッ

文香姉さんが出て行った。

114 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/17(水) 19:57:33.63 ID:7OjJL5IjO

P「……さて、なんの話だっけ?環境問題だったっけ?」

李衣菜「そう言えば確かに、何処にあるんだろうね」

美穂「Pくんの事ですから、無い筈は無いんですけど……」

P「そんな事より地球温暖化の話をするとしよう」

加蓮「今温暖化よりホットな話題してるじゃん」

P「お前らそんな一人の男子をよってたかって虐めて楽しいか?」

美穂「Pくん、わたしが入って来た時凄く不思議な表情をしてました」

加蓮「私と二人きりだと思ってた筈だから」

李衣菜「一体どんな期待をしてたんだろうね」

P「……最初のキスは加蓮からだったんだよ」

加蓮「ちょっと!!」

李衣菜「……ほーう」

美穂「もっとアツアツな話題ですね」

そんな感じに、美穂とも李衣菜とも今まで通りな会話を出来る事が本当に嬉しくて。

楽しい時間はあっという間に、気付けば太陽は完全に沈んでいた。

李衣菜「さてと、そろそろ帰ろっかな」

美穂「そうですね、Pくんも夕飯を準備しないといけませんから」

李衣菜「お邪魔しました、P」

美穂「また明日、学校で」

二人があっという間に支度を終えて部屋を出て行った。

加蓮「……いい友達に恵まれてるね、鷺沢」

P「ほんと、感謝しかないよ」

加蓮「それじゃ、私も帰らないと」

P「なら送ってくよ」

文香姉さんにその旨を伝え、家を出る。

日に日に少しずつ、夜風の冷たさは弱まってきていた。

加蓮「……私も、これからも仲良くして貰えるかな」

P「不安か?正直俺も不安だったけど」

加蓮「なら良し。今日の昼休み、私は美穂と色々話してたんだ」

そう言えば、昼休み教室に戻って来る時一緒だったな。

保健室で何を話してたんだろう。

加蓮「……ほんと、優しい子だよね。だって私と美穂、ほぼほぼ初対面だったのにさ……うん、邪険に扱われなかったんだもん」

P「……さっき一緒に居た時、美穂がどんな気持ちだったのかは……俺には分からない。でもきっと、俺たちが変な気を使うのが一番あいつを傷付けちゃうんじゃないかな」

加蓮「かもね。あと改めて、鷺沢が私を選んでくれた事が嬉しかったかな。だって、ずっとあんな優しくて可愛い子と一緒にいたんでしょ?」

P「加蓮だってめちゃくちゃ可愛いと思うけどな」

加蓮「えー、そこで優しさの方はフォローしてくれないんだ」

なんて話しているうちに、もう加蓮の家の前まで着いていた。

加蓮「さ、ほら鷺沢」

P「……そうだったな」

また明日を言う前に、加蓮にキスをする。

加蓮「……ありがと、鷺沢」

P「あぁ、また明日な。加蓮」

加蓮「じゃあね、また明日」
115 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/17(水) 19:58:47.97 ID:7OjJL5IjO



ピピピピッ、ピピピピッ

目覚ましの音で目を覚ませば時刻は六時半。

ぱぱっと着替えて顔を洗ってリビングへ行けば、文香姉さんが既に起きて本を読んでいた。

昨晩も遅くまで読書してた筈なのに、一体いつ寝てるんだろう。

P「おはよう姉さん」

文香「あ……おはようございます、P君。早起きですね」

P「今日は俺が朝食作るからさ。姉さんも早いね」

文香「私は、本棚の整理をしなければならなかったので……春は読書の季節ですので、抱き合せ販売強化期間ですから」

そう言えば確かに、姉さんはいつも早起きだった。

じゃないと、俺が寝てる間に李衣菜や美穂が入れないし。

P「さて、適当に作るかな」

文香「ふふ、期待してます」

冷蔵庫にある食材を適当に取り出す。

油揚げあるしガレットでも作るか。

トースターに食パンを投げて、その間にスープも作る。

コンコン

店の戸が叩かれる。

文香「はい、少々お待ち下さい……」

店の方に居た文香姉さんが戸を開けた。

李衣菜「おじゃましまーす。おはよーP」

美穂「おはようございます、Pくん」

加蓮「おはよ、鷺沢。おはようございます、文香さん」

加蓮までやって来た。

P「さては李衣菜か美穂から聞いたな?」

李衣菜「へへ、教えちゃった」

加蓮「私をハブるなんて酷いんじゃない?」

P「いやだって、加蓮朝弱そうだったから……と言うか朝食って普通自分ちで食べるもんだろ」

文香「……ふふ、朝から賑やかですね」

P「まぁいいや、五人分作るか」

四人分が五人分になるくらい、大した手間じゃない。
116 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/17(水) 20:00:02.50 ID:7OjJL5IjO

P「李衣菜、悪いけど皿とか用意してくれー」

李衣菜「了解っと!」

七時を少し回る頃には食卓に着けそうだ。

加蓮「鷺沢、料理出来たんだね」

美穂「とっても美味しいんです。ついつい通っちゃいますよ」

加蓮「へー、楽しみかも」

P「駄弁ってる二人もなんか冷蔵庫から調味料出しといてくれ。あと飲み物も」

美穂・加蓮「「はーい」」

文香「ふぅ……ようやく、一息着きました。あら……良い香りが」

P「よしっ、後はパパッと運んで……終わり!」

加蓮「おー、朝から凄いね」

李衣菜「私も前は朝食食べなかったんだけどね、今ではこのザマだよ」

このザマって……何かの中毒かよ。

文香「それでは……」

皆んな「「「頂きます」」」

加蓮「……っ!これは……っ!」

文香「油揚げのサクサクとした食感に包まれた、ほんのりシャキシャキ感の残る玉ねぎ……」

加蓮「ベーコン、卵、胡椒……それぞれの風味が完璧に噛み合ってる……!」

文香・加蓮「「美味しい……!」」

P「はいはい、さっさと食べて学校行くぞ」

実は内心ちょっとどころじゃなく嬉しかったりする。

恋人に手料理を褒められるのって、こう、いいな。

加蓮「いつもみんなこんなに美味しい料理を朝から食べてたんだ」

美穂「羨ましいですか?羨ましいですよね?」

加蓮「最近美穂そこそこグイグイ来るよね」

李衣菜「たまーにまゆちゃんが来て作ってくれる日もあるんだ」

ピタッと、加蓮の動きが止まった。

読書の春が唐突に氷河期に突入してしまったと錯覚するほど、視線がれいとうビームを放って来る。

加蓮「……被告人鷺沢、何か申し開きは。なければ終身刑だけど」

美穂「さ、裁判官さんっ!弁解の余地を下さい。まゆちゃんは、えっと……とっても良い子ですよ?」

面白いくらい弁護になっていない。

P「そ、それに牢屋になんか囚われなくても俺はずっと加蓮の虜だから……!」

俺は何を言ってるんだろう。 朝だからまだ頭が回ってないって事で。

加蓮「えっ、あっ、えへへ……そっかー。それじゃしょうがないね、実質既に終身刑だしいっか」

李衣菜「……美穂ちゃんそっちのタバスコ取って、うん。あれこの料理塩と砂糖間違えてない?」

美穂「ゴールは結婚ですから、文字通り人生の墓場ですね」

どうやら上手く切り抜けられたようだ。

……まぁそうだよな。 まゆが朝食を作ってくれるのはありがたいが、きちんと断らないと。

振る舞うのは兎も角、振る舞われるのはあまり立場上よろしくない。

加蓮「ご馳走様。後片付けは手伝うよ」

李衣菜「お言葉に甘えて。じゃあ私達は先に学校行こっか」

美穂「ですね、さっきみたいなやり取りをずっと聞いてたら糖尿病になっちゃいそうですから」

二人がさっさと出て行く。
117 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/17(水) 20:01:52.01 ID:7OjJL5IjO
加蓮「……ほんっと、優しいよね。美穂も李衣菜も」

P「だな。さて、俺たちも片付けして学校向かうか」

みんなの食器を運んで洗い、卓上調味料を片付ける。

キッチンで隣に恋人がいる感覚は、なかなかに幸せなものだった。

片付けを終えて外に出ると、雲一つない快晴の空。 ここ数日で一番あったかい朝だ。

P「忘れ物はないか?」

加蓮「行ってらっしゃいのキスは?」

P「夫婦みたいだな」

加蓮「……もう」

P「で、キスしていいか?」

加蓮「えっ、あ、もちろん……いつも何度でもどうぞ」

神隠しに遭いそうな台詞だな。 それはそれとして、加蓮を抱き寄せ唇を重ねようとする。

P「んっ?!」

加蓮の方からキスをされた。 しかも、割とディープなやつだ。

加蓮「んっ……んむっ、ちゅっ……んちゅぅ……っんっ……」

口のなかに加蓮の舌が入って来る。 俺も応える様に、加蓮とのキスを堪能した。

加蓮「……んっぷぁ……ふぅ……しちゃったね、大人なキス」

P「……だな」

お互いに顔が真っ赤だった。

加蓮「……『みたい』が……外れる日が、少し近付いたんじゃない?」

P「……ごめん、ちょっと恥ずかし過ぎてやばい。あと加蓮が可愛過ぎてやばい」

加蓮「ちょっと!私結構勇気出したつもりだったんだけどっ!……まぁ勢いもあったけどさ」

P「手、繋いで行くか」

加蓮「だね。あともう一つ忘れ物」

P「なんだ?」

そう言って隣に並ぶ加蓮の方を向くと、再びまたキスをされた。

加蓮「んっ、ちゅぅ……んちゅ……んむぅ、ちゅ……っふぅ……」

P「……良いな、キスって」

加蓮「またする?ねぇ、もっとキスする?」

……あぁ、まずい。 俺の恋人が可愛過ぎてまずい。

三千世界に俺の恋人の可愛過ぎさを自慢したい。

P「凄い魅力的な提案だけど、そろそろ時間やばいぞ」

加蓮「それじゃ、お昼休みまでお預けだね。我慢出来る?」

P「出来るけど」

加蓮「はぁ?!なんで我慢出来るの?!私はこんなにしたいのに!」

P「……そう言えば、忘れ物はなんだったんだ?」

加蓮「行ってきますのキスだよ」

P「一緒に登校すると一度に二回できてお得だな」

加蓮「恋人とのキスを抱き合せ販売みたく言わないで」

ちょっと怒りながらも、強く手を握りしめてくる加蓮。

P「でも俺は加蓮を抱きしめたいぞ」

加蓮「……お昼休み、楽しみにしてるから」

そんな恋人と二人並んで歩ける今が、とても幸せで。俺たちは、普通に遅刻した。
118 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/17(水) 20:02:54.35 ID:7OjJL5IjO


加蓮「……やばい……ほんとやっばい……」

李衣菜「どうしたの加蓮」

美穂「Pくんなら一時間目は教室移動でいませんけど」

加蓮「こう、なんだろ……私ってこんなにバカだったっけ」

美穂「バカっぽいとは思ってましたよ」

加蓮「ぽいならセーフ」

李衣菜「いいんだ……」

加蓮「……お昼休み、まだかな」

美穂「楽しい事を考えてればあっという間ですよ」

加蓮「楽しい事、ね………………あぁぁぁぁぁ……っ!」

李衣菜「顔真っ赤だよ加蓮ちゃん」

美穂「頭の中はPくんで埋め尽くされてそう……」

加蓮「……ふぅ、別に?私はぜんっぜん期待してなかったけど?」

李衣菜「なんか喋り出したんだけど」

美穂「ファービーみたいですね」

加蓮「そう言えば私撫でられた事ない……これって訴訟したら勝てるかな」

李衣菜「勝ったらどうなるの?」

美穂「賠償金を要求出来ますね」

加蓮「つまり鷺沢の財布を握れるって事。完璧な将来設計作戦じゃない?」

李衣菜「でもそれだと撫でて貰えてなくない?」

加蓮「裁判取下げる。直接示談して和解した方が平和だしね」

李衣菜「……春だね」

美穂「春のせいにするのは春に失礼じゃないですか?」

まゆ「楽しそうですねぇ」

加蓮「……何しに来たの?」

まゆ「授業を受けに来てるんですよぉ」

李衣菜「まぁまぁ、もう少しお互い会話する余裕を持とうよ」

美穂「まゆちゃん、最初から居ましたしね」

加蓮「まゆ。あんた鷺沢の家で朝食作ってる時あるんだって?」

まゆ「最近はあまり行けてませんけどね」

加蓮「やめてくれない?」

まゆ「Pさんから言われたら前向きに検討します」

加蓮「鷺沢は私の彼氏なんだから」

まゆ「とってもお似合いだと思いますよ」

加蓮「お似合い……たまになら大目にみてあげる。お似合い……ふふっ」

まゆ「まゆの方がもっとお似合いになれると思いますけどね」

美穂「モコズキッチンみたいですね」

李衣菜「今の加蓮ちゃんには何言っても届きそうにないよ」

美穂「……あの、もう先生来るから席に戻りませんか?」

加蓮「私の席はここだよ?」

李衣菜「ナチュラルにPの席を私物化しない。ほら戻るよ加蓮ちゃん」

119 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/17(水) 20:04:29.33 ID:7OjJL5IjO
加蓮「……」

P「……どうした、加蓮」

昼休み、屋上にて。 軽く周りを見回して、誰もいない事を確認した加蓮が口を開いた。

加蓮「鷺沢、キス」

メスの様にキスを要求するんじゃない。 するけど、したいけど。

P「おう」

唇を重ねようとする。 当然のようにディープなキスにさせられた。

加蓮「……ふぅ、よし。ねぇ鷺沢、今日の放課後は空いてる?」

P「もちろんなんも予定ないぞ」

加蓮「ならさ、デートしない?せっかく五時間目終わりで時間あるし駅前行こうよ」

P「構わないぞ。一回帰ってから迎えに行こうか?」

加蓮「ううん、直接行こ。制服デートって響き憧れない?」

P「……多分、大人になったら分かる良さなんだろうな」

そう言えば、加蓮と二人きりで何処かへ行くのは久し振りな気がする。

なんやかんやここ数日は新年度の学力テストやらなにやらで割と忙しかったし。

P「なんか買いたいものとかあるのか?」

加蓮「ううん、ただ鷺沢と一緒に色んな場所に行きたいだけ……で、抱きしめてくれるんじゃなかったの?」

そう言えばそんな事を今朝言ってた気がする。

P「……なんかこう、落ち着いて抱きしめようとすると恥ずかしいな」

加蓮「キスしながらの方がしやすい?」

P「それはあるな。いや、でも慣れていきたいし普通に抱きしめる」

そう言って加蓮の背に両手を回し、グイッと抱き寄せる。

ほんと、身体細過ぎて心配になるなぁ。

加蓮「……ふふ……はぁ、幸せ……」

加蓮が幸せそうな表情をしている。

ギュゥゥッと加蓮からも抱きしめてきた。

加蓮「あとそう、頭を撫でるのも忘れない様に」

P「なんだろ、女子の髪を触るのはどうとか聞いた事あったんだけど。良いのか?」

加蓮「もちろん。恋人に撫でられて嬉しくない訳ないじゃん?」

取り敢えず言われた通りに加蓮の頭を撫でる。

目の前の加蓮の表情は完全に蕩け切っていた。

P「……ちゃんとご飯食べてる?朝ご飯も抜いちゃダメだぞ?」

加蓮「……このシチュエーションでそれ言う?あと、なら鷺沢が毎朝作ってくれてもいいんだよ」

P「ほんと前も思ったけど細いなぁって」

加蓮「そこそこあるとは思うんだけどね」

P「……」
120 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/17(水) 20:04:55.84 ID:7OjJL5IjO


意識しないようにしていたが、ダメだ、ダメだった。

当然と言えば当然だが、真正面から抱きしめれば胸が密着する。

ブレザーで覆われてはいるが、胸の柔らかさはしっかりと伝わって来た。

P「……鳥の胸肉ってカロリー低くて安くて身体に良いんだよな」

加蓮「鷺沢、素直に」

P「えぁ、えっと……幸せです」

加蓮「素直でよろしい。次、まゆが朝食作りに来るの断って」

P「……はい。まぁそうだよな、俺にはもう加蓮がいるんだし」

加蓮「……絶対だよ?」

P「あぁ。約束する」

加蓮「……お昼休み、あと十五分しかないね」

P「だなー」

加蓮「五時間目、サボっちゃわない?」

P「それはダメだろ」

加蓮「私と授業、どっちが大事なの?なんてね」

P「放課後、何処行こうかなぁ」

楽しみで仕方がない。 俺の人生楽しみしかないな。

そのまま加蓮を抱き締めたまま、時折キスをして。

チャイムが鳴ってから教室に戻り、俺だけ先生に怒られた。
121 : ◆TDuorh6/aM [saga]:2018/01/17(水) 20:05:34.03 ID:7OjJL5IjO


加蓮「それじゃ、行こっか」

P「おう」

校門を出てすぐ、加蓮と手を繋ぐ。

最初は周りの目を気にしていた俺たちだったが、最近はそれもなくなり始めていた。

加蓮「そう言えば、もう六月頭には修学旅行なんだっけ」

P「だなー、沖縄だぞ沖縄。六月頭ならまだ暑くないといいんだけど」

加蓮「鷺沢は行動班絶対ハーレムじゃん。欠席してよ」

P「エグくない……?」

加蓮「冗談。多分自由に決められるし、美穂や李衣菜なら信頼出来るからいいかな」

P「修学旅行の夜一人とか寂しいよなぁ……他のクラスの男子と一緒になるのかな」

加蓮「もし一人だったら私が行ってあげる」

P「千川先生ブチ切れるぞー」

あっという間に駅前に着いた。

さて……何も考えて無い。

加蓮「あっ、鷺沢鷺沢!クレープの屋台あるよ!」

P「落ち着け、フランス北西部の罠かもしれない」

加蓮「なんでそんなピンポイントな地区から罠仕掛けられてるの。カロリー的にはハニートラップかもしれないけどさ」

P「結構並んでるけど、俺たちも並ぶか」

そこそこ長い列の最後に俺たちも加わる。

前に並んでいるのは、殆どカップルだった。

加蓮「……なんかいいね、こう、カップルで並ぶのって」

P「なー、前までなんでクレープにあんな並んでるんだろって思ってたけど」

加蓮「今度は遊園地とか行きたいな」

あぁそうか、そうだ。

今月頭に遊園地行った時は加蓮いなかったんだ。

確か風邪をひいてたとか……

口にはしない、絶対、後が怖いから。

と、前からメニューが回って来た。

P「何にする?」

加蓮「鷺沢とキスする」

P「……いやそうじゃなくて、クレープのメニュー」

加蓮「えっ、あ、メニューね。クレープだもんね」
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