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桃子「私のサンタさん」
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9 :
◆W56PhqhW.M
:2017/12/25(月) 04:37:23.81 ID:eVTNZvKo0
「全く…… 杏奈よりも下の子でもプレゼントを貰ってない子はいるんだぞ?」
そう言うと杏奈は少し声音が上がった。
「それって…… 桃子ちゃんのこと……?」
急に桃子の話を振られて、少し動揺してしまう。思い返してみれば、桃子は俺たちにサインを示していたではないか。桃子が描いた家族の絵、冗談を言った際も少し過剰な反応だった。そしてクリスマスプレゼントを貰っていないという事実。全てが今繋がった。
10 :
◆W56PhqhW.M
:2017/12/25(月) 04:38:11.80 ID:eVTNZvKo0
「プロデューサー……?」
「す、すまん。運転に集中しててな。それよりさっきの話、本当か?」
「うん…… 本人がそう言ってたし……」
「……」
桃子は賢い子だ。自らの家庭環境を理解し、これ以上の破滅を防ごうとしている。劇場でこそわがままお姫様だが、家に帰ればわがままなどは一切言わないだろう。クリスマスを楽しみたい、という欲求も胸の中で押しつぶしていたに違いない。
しばし会話が止み、俺は無言で車を進めた。最後の角を曲がったところで杏奈が口を開いた。
11 :
◆W56PhqhW.M
:2017/12/25(月) 04:39:02.88 ID:eVTNZvKo0
「……プロデューサー」
「ん? 何だ、杏奈?」
「杏奈、いくらクリスマスでも…… クマよりもウサギのぬいぐるみがいい…… だから、このプレゼント…… プロデューサーの、ガールフレンドとかに…… 渡せばいいと、思うよ……?」
「杏奈…… ありがとう」
「ううん、忘れないでね…… 杏奈は、ウサギのぬいぐるみを…… ご所望♪」
「あぁ、トクベツいちばんデカいのを準備するよ」
12 :
◆W56PhqhW.M
:2017/12/25(月) 04:39:56.06 ID:eVTNZvKo0
家族に杏奈を渡して俺は急いで劇場に戻る。本来、杏奈に渡すべきだったプレゼントは今もトランクに入ったままだ。時計を見れば11時を指している。あまり猶予はない。
劇場に戻ると既に音無さん以外の大人組が揃っていた。俺は息を切らせながら、口を開く。
「はぁはぁ…… すいません、みなさん! 少し、やらなくてはならないことができたので、 申し訳ありませんが、今日は帰らさせていただきます」
え〜? などの非難の声が少々飛んでくる。構うものか。俺は周防桃子に笑顔を取り戻さなくてはならないのだ。
13 :
◆W56PhqhW.M
:2017/12/25(月) 04:40:48.39 ID:eVTNZvKo0
「…… 何やら、訳アリのようだね? 真剣な眼差しをみて分かるよ。……プロデューサーの仕事はただアイドルに仕事を持ってくるだけでは務まらない。アイドル自身が楽しい、と思えるような、そんなプロデュースをしなくてはならないのだよ。くれぐれもアイドルを悲しませないでくれよ?」
「社長…… ありがとうございます!」
「君が来るのは一段落してからで全然構わないよ。その時は酒の肴になるようないい話を持って来てくれよ?」
「はい!」
社長から後押しを貰い、さっきまで着ていたサンタ服に着替え、再び劇場を出る。時刻は11時45分。随分と時間を食ってしまった。俺は急いで桃子の家に向かった。
14 :
◆W56PhqhW.M
:2017/12/25(月) 04:41:23.53 ID:eVTNZvKo0
サンタさんはトナカイに乗って空からやってくる。
そんな幻想は私が女優を始めたその年に消えた。
私が女優を始めて以来、母親と父親の関係は急に悪くなった。それまでは家族でどこかに出かけたり、誕生日を祝ってもらったり、と仲の良い一家だったと思う。しかし、私の女優業が波に乗り出した頃、私の教育方針で両親は真っ二つに分かれ、そのまま妥協点を見いだせずに今に至っている。怒りの矛先が私に向くこともしばしばあり、その時は決まって口を閉じて黙っていることしかできない。当たり前の幸せが、突然失われる悲しさを知って、私は大人にならざるをえなかった。
15 :
◆W56PhqhW.M
:2017/12/25(月) 04:41:53.47 ID:eVTNZvKo0
そして今年もクリスマスが来てしまった。世間が浮足立つのに対して、うちはいつも通り。しかし、今年は嬉しい出来事もあった。なんと劇場のみんなとクリスマスパーティができたのだ。私にはサンタは来ないけど、あんなに楽しかったんだからこれ以上望んだら欲張りだよね。そういえば、環と育にはちゃんとサンタが来たのだろうか。あの二人は私と違っていい子だから…… きっと今頃、枕の横にはプレゼントが置かれていることだろう。
サンタのことを考えているとふと思い出し、時計を見た。時刻は11時57分、ちょうどいい時間だ。そろそろ夢から現実に戻らなければ、周防桃子でなくなってしまう。私は自分への戒めとして部屋の窓から夜空を眺めた。
16 :
◆W56PhqhW.M
:2017/12/25(月) 04:42:52.18 ID:eVTNZvKo0
3分後、日付が変わった。ずっと夜空を見ていたが何ら変化はなかった。はぁ…… やっぱり今年もサンタさんはいなかった。数年前から毎年行っている儀式のようなものだが、もう今年で潮時だろうか。1時1分になったらやめよう。そう決めて最後、窓の外に目を遣る。……時間だ。我慢していた寒さが急に強みを増した。もう寝よう、そう決めて振り向きかけた時、視界の隅で何か動いてるものを捉えた。
私は驚き、もう一度、窓の外を見た。夜空は依然と静かなままである。しかし、見間違えではなかった。それは道路をせっせと走って私の家へと向かって来た。遠目で暗くて良く見えないが、帽子を被って大きな袋を持っている。あれは…… サンタなのだろうか?
17 :
◆W56PhqhW.M
:2017/12/25(月) 04:43:57.90 ID:eVTNZvKo0
私は興奮してそれに注目した。私の家に着いたと同時にインターホンを鳴らした。母親が出た。何やら話をしている。話が終わったのかそれは家の中に入った。足音が聞こえる。私の部屋へと向かってきている。私は慌てて布団に潜り込んで、寝たふりをした。
「桃子ちゃん、お邪魔しまーす」
声が聞こえる。きっとサンタだ。
「プレゼント持ってきましたよ〜 枕元に置いておきますね〜」
「……ねぇ」
「おぅ!? 桃子……ちゃん!? 起きてたの!?」
「サンタさん……なの!? 本物の!?」
「えっと…… そうだよ。僕は本物のサンタだよ」
「プレゼント持って来てくれたんだ! ありがとう! でも、どうしてここ最近持って来てくれなかったの?」
18 :
◆W56PhqhW.M
:2017/12/25(月) 04:44:52.24 ID:eVTNZvKo0
「うっ、え〜っと、そうだねぇ、あはははは、実は地図を失くしちゃってね。桃子ちゃんの家を忘れちゃったんだ〜 本当にごめんね?」
「もう! さみしかったんだからね! 本当に…… 今年は来てくれてよかったよ……」
「大丈夫! もうこれからは来年も再来年もぜ〜ったい、来るから安心しててね!」
「ふふふ、ありがとう。本当に、ありがとう、……プロデューサー」
19 :
◆W56PhqhW.M
:2017/12/25(月) 04:45:54.00 ID:eVTNZvKo0
「……いつから気づいてたんだ」
「最初からだよ。こんな夜中にサンタの格好して走ってきて。そんな事する人、桃子、プロデューサーしか知らないよ」
「あ〜あ、やっぱり俺には演技の才能は無いな。何か、根本的にダメな気がする」
「そんなので桃子を出し抜こうなんて、十年早いって思うな♪」
「流石、元天才子役ってとこだな。でも、無理しなくてもいいんだぞ?」
「っ!」
「お前は天才子役になったと同時に、失ったものも大きすぎる。俺はそれを少しづつ取り戻してほしいんだ」
「……無理だよ、周防桃子は結局、女優なんだよ。それは、お兄ちゃんが知ってるでしょ?」
20 :
◆W56PhqhW.M
:2017/12/25(月) 04:46:36.73 ID:eVTNZvKo0
「確かに、桃子の仕事の大部分は演技だ。でもお前の今の仕事は女優でも天才子役でもない。アイドルだ。だからお前を役者としては売り出さない。アイドルとして俺がプロデュースする」
「でも、だからといって昔と変わんないよ!」
「変わる!!!」
「!」
「俺がプロデュースする以上、大切な何かを犠牲にしてまでトップになってもらおうとは考えていない。これが俺の、765プロの方針だ。大切なアイドルに悲しい顔させたくないからな」
「本当に……? 信じていいの……?」
21 :
◆W56PhqhW.M
:2017/12/25(月) 04:47:21.85 ID:eVTNZvKo0
「あぁ。それとも桃子は劇場のみんなを信用できないのか?」
「そんなことっ……! ……ないけど」
「だったら大丈夫だ。辛いときは俺や劇場のみんなを頼れ。一人で持てない荷物でもみんなで持てば軽くなるもんだ。だから……、辛さや悲しみは俺たちと分け合おう」
「お兄ちゃん、そんなカッコで、キザっぽくしても、決まらないよ…… 本当に…… うぅ…… ぐすっ……」
22 :
◆W56PhqhW.M
:2017/12/25(月) 04:48:01.61 ID:eVTNZvKo0
涙が止まらない。まさかお兄ちゃんに泣かされる日がくるなんて。でも、胸のつかえは随分と軽くなった気がする。久しく触れてなかった人の温もりも十分に感じることができた。
「桃子、今すっごく幸せ」
「この程度で幸せになってもらっちゃ困るよ。桃子にはトップアイドルになってもらわなきゃだめなんだからな」
「当然! 桃子を誰だと思っているの?」
23 :
◆W56PhqhW.M
:2017/12/25(月) 04:48:39.99 ID:eVTNZvKo0
「天才アイドルの周防桃子だよ!!」
24 :
◆W56PhqhW.M
:2017/12/25(月) 04:49:19.72 ID:eVTNZvKo0
終わりです。寝ます
25 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/25(月) 05:23:21.20 ID:rTTmvZdCO
小生意気だけどめちゃくちゃ可愛い先輩のおかげで今日もなんとか生き延びられそう。
>>1
乙
26 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/25(月) 11:37:13.95 ID:VQXveDXD0
桃かわ
27 :
◆NdBxVzEDf6
[sage]:2017/12/25(月) 22:22:46.38 ID:3SlZX8z80
あの後の先輩に救いがあってよかった
乙です
>>4
周防桃子(11) Vi/Fa
http://i.imgur.com/s0804VA.jpg
http://i.imgur.com/SYBoVEv.jpg
>>8
望月杏奈(14) Vo/An
https://i.imgur.com/ArqHl3f.jpg
https://i.imgur.com/2s3b4NK.jpg
28 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/12/26(火) 11:08:06.75 ID:er8Ciy0F0
>>27
うざいしね
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クオリティの高いサービスを貴方に
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