ぬ〜べ〜「765プロの如月千早、か……」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 20:02:33.84 ID:CfLOJhTko



P「おーい、千早。そろそろ撮影に戻るぞ……って、何をしてたんだ?」

千早「あ、プロデューサー……すみません。綺麗な貝殻があったもので、つい」

P「どれどれ……。へえ、確かにすごく綺麗だな」

千早「ええ。それで、その……。
   みんなにも持って帰ってあげたいと思うのですが、どうでしょうか……?」

P「みんなに? なるほど、いいじゃないか!
 これだけ綺麗なら、いいお土産になりそうだ」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1513767753
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 20:03:23.47 ID:CfLOJhTko
P「でもせっかくなら、うんと綺麗なものを探した方がいいかもな。
 よく見れば結構落ちてるし、探せば見つかりそうだぞ」

千早「えっ? あの、私も綺麗なものを探したいとは思いますけど、
   もうすぐ休憩は終わりじゃ……」

P「もちろん、探すのは撮影が終わってからだ。
 けど、そのあとはもう予定はないから、たっぷり時間は取れるぞ!」

千早「……プロデューサー……。みんな、喜んでくれるでしょうか」

P「ああ、もちろん! さ、そうと決まれば早く撮影を終わらせよう!」

千早「ふふっ……。はい、今行きます」





  『……あの娘だ。あの娘がいい。あの娘なら……』
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 20:04:44.71 ID:CfLOJhTko



郷子「あれ? ねぇ、ぬ〜べ〜。それ何持ってるの?」

ぬ〜べ〜「ああ、これか? ライブのチケットだよ。
     ほら、桜井奈絵ちゃんって覚えてるか?」

郷子「奈絵ちゃん? もちろんよ、忘れるわけないじゃない!」

広「ずーっと人気アイドルとして頑張ってるよな!
 出演番組も雑誌も、ぜんぶチェックしてるぜ!」

郷子「って、もしかして、それって奈絵ちゃんのライブのチケット!?」

ぬ〜べ〜「ああ。まぁ彼女以外のアイドルも出るみたいだけどな。
      例の件(単行本3巻「夜毎の蛇」参照)のお礼ってことで、招待券を貰ったんだ」
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 20:05:55.26 ID:CfLOJhTko
ぬ〜べ〜「で、実はその人数が三人までは誘えるようなんだが……」

広「え!? じゃあ俺! 俺も行きたい!」

郷子「あっ、ずるいわよ広! 私も私も!」

ぬ〜べ〜「はは、慌てなくてもちゃんとお前らも指名されてるよ。
     手伝ってくれたお礼だってな」

郷子「本当!? でも、そうなるとなんか申し訳ない気もするわね……あはは」

広「手伝ったって言っても、俺たちあんまり役に立たなかったしなぁ」

ぬ〜べ〜「まぁまぁ、感謝の気持ちは素直に受け取っておくもんだ」
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 20:07:01.74 ID:CfLOJhTko
広「ところでぬ〜べ〜。
 さっき奈絵ちゃん以外のアイドルも出るって言ってたけど、誰が出るの?」

ぬ〜べ〜「ああ、えっと……確か如月千早って言ったかな」

郷子&広「え!? 如月千早!?」

ぬ〜べ〜「有名な子なんだよな。歌がすごく上手いとか」

郷子「な、なに言ってんのよぬ〜べ〜!」

ぬ〜べ〜「え? なんだ、違ったか?」

郷子「歌が上手なんてもんじゃないわよ!
   如月千早ちゃんって言ったら、日本を代表する歌姫だって有名じゃない!」
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/20(水) 20:08:08.11 ID:uBOFz58DO
期待
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 20:08:47.77 ID:CfLOJhTko
ぬ〜べ〜「歌姫だって? あはは、大げさな。
     その子もアイドルであって、別に歌手ってわけじゃないんだろ?」

郷子「それでも本当にすごいのよ! 千早ちゃんの歌はプロの歌手顔負けなんだから!」

広「そうそう! しかもめちゃくちゃ可愛いんだ!」

ぬ〜べ〜「へー……。ま、とにかくだ。
     二人ともライブには行くってことでいいんだな?」

郷子「もちろん! 奈絵ちゃんのステージも見られて、
  千早ちゃんの生歌が聴けるなんて、行かないわけないじゃない!」

広「途中で妖怪に会おうと這ってでも行くぜ!」
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 20:09:55.06 ID:CfLOJhTko



当日、楽屋

奈絵「先生、今日は来てくれてありがとうございます! それから二人も!」

ぬ〜べ〜「こちらこそ、呼んでくれてありがとう。ステージ楽しみにしてるよ」

郷子「でも、本当にすごいわ奈絵ちゃん!
   あの千早ちゃんと同じステージに立てるなんて、トップアイドルの仲間入りって感じね!」

広「うんうん! さすが奈絵ちゃんだぜ!」

奈絵「うふふっ、ありがとう。
   だけど私も、まさか千早さんと共演できるなんて夢にも思わなかったわ」
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/20(水) 20:10:21.30 ID:5s0FVkMI0
千早の人気に驚く、自分
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 20:10:37.81 ID:CfLOJhTko
奈絵「歌じゃまだまだ千早さんには及ばないけど、
   共演者としてがっかりさせてしまわないように……」

 コンコン

奈絵「? 誰かしら、スタッフさんかな。はい、どうぞ」

千早「……失礼します」

ぬ〜べ〜「! 君は……」

郷子&広「ち、千早ちゃん!?」

千早「あ……ごめんなさい、もしかしてお話の邪魔をしてしまったかしら。
  本番前に挨拶をと思ったのだけれど……」
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 20:11:51.17 ID:CfLOJhTko
奈絵「い、いえ邪魔だなんて!
   すみません、本当は私の方が挨拶に伺うべきだったのに……!」

千早「そんな、気にしないで。でも、邪魔でなかったのなら良かったわ。
  では、改めて……。初めまして、765プロの如月千早です。
  本日は、よろしくお願いします」

奈絵「あ、はい! こちらこそ、よろしくお願いします!」

千早「えっと……そちらは、お友達ですか?」

郷子「は、はい! 稲葉郷子っていいます!」

広「立野広です! こっちは俺たちの先生です!」
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 20:13:00.62 ID:CfLOJhTko
千早「先生、ですか。初めまして。
   本日は来ていただき、ありがとうございます。よろしくお願いします」

ぬ〜べ〜「あ、ああ、どうもご丁寧に」

ぬ〜べ〜(しかし随分落ち着いた子だ……。
      風格もあるし、日本を代表する歌姫ってのも納得かもな)

千早「では、私は失礼しますね。桜井さん、また後ほど。
   ……お互い、頑張って歌いましょうね」

ぬ〜べ〜「!」

奈絵「あ、はい! がんばります! ではまた!」

 ガチャッバタン
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 20:13:49.49 ID:CfLOJhTko
奈絵「……はあ、びっくりしたぁ。
   まさか千早さんの方から挨拶に来られるなんて」

ぬ〜べ〜「……」

郷子「それにしても、すごく礼儀正しい人なのね。
  美人だし、雰囲気もかっこよくて……。
  私も高校生くらいなったらあんな風になりたいなぁ」

広「あはは! 郷子が千早ちゃんみたいに? ムリムリ! 寝言は寝て言えってんだ!」

郷子「な、何よ! 別に憧れるくらい良いでしょ! ねぇぬ〜べ〜!」

ぬ〜べ〜「……ん? あ、あぁ、悪い。どうした? 何か言ったか?」
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 20:14:54.56 ID:CfLOJhTko
郷子「? 何よぬ〜べ〜ったら、ぼーっとして」

広「もしかして、千早ちゃんに見とれてたんじゃないの?
 ゆきめさんに言ってやろーっと!」

ぬ〜べ〜「バ、バカを言うんじゃない! それよりほら、そろそろ出るぞ!
      じゃあな、奈絵ちゃん。客席から応援してるよ」

奈絵「あっ、はい! ありがとうございます!」

ぬ〜べ〜(……気のせいか? さっきあの子……千早くんから、
      微かに妖気を感じたような気がしたんだが……)
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 20:17:46.44 ID:CfLOJhTko



奈絵『……を聴いていただきました! ありがとうございました!』

広「奈絵ちゃーん! 良かったよー!」

郷子「すごく上手だったー!」

ぬ〜べ〜「へぇ、上手いもんだなぁ。
      女優としてだけじゃなくて、歌手としてもやっていけるんじゃないか?」

ぬ〜べ〜(しかし、千早くんの歌はこれよりもっと上手いってことだよな。
      これは楽しみになってきたぞ)

奈絵『では、続いて如月千早さんに歌っていただきます! 千早さん、どうぞ!』
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 20:18:35.36 ID:CfLOJhTko
広「おおっ! いよいよ千早ちゃんの生歌が……!」

郷子「しっ! ちゃんと静かに聞かなきゃ!」

千早『……』

ぬ〜べ〜(む……!? まただ。また、微かに妖気が……。
      さっき楽屋で感じたものと同様の……)

千早『泣くことならたやすいけれど 悲しみには 流されない――』

ぬ〜べ〜「……!?」
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 20:20:02.10 ID:CfLOJhTko
ぬ〜べ〜(バ、バカな、この歌は!?)

千早『蒼い鳥 もし幸せ 近くにあっても――』 

広「う、うぅっ、ぐすっ……!」

郷子「えぐっ、えぐっ……!」

ぬ〜べ〜(広と郷子だけじゃない、観客たち全員が泣いている!
      それにこの妖気……間違いない……!)

千早『この翼 もがれては 生きてゆけない 私だから――』

ぬ〜べ〜(信じられん……! これは……『人魚』の歌だ!
      完全な人魚の歌ではないようだが、
      間違いなくこの歌には人魚の力が込められている!
      どういうことだ、なぜ人間であるはずの彼女の歌に、人魚の力が……!)
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 20:21:28.19 ID:CfLOJhTko



P「――お疲れさま、千早」

千早「プロデューサー……お疲れ様です」

P「家まで送るよ。ここで待ってるから、帰る準備ができたら言ってくれ」

千早「ありがとうございます。
   ですが、家ではなく事務所に送っていただければと。もう少し、レッスンをしたいので」

P「レッスンって……こんな時間からか?」

千早「時間は関係ありません。
   空いた時間は、少しでも歌のために使いたいんです」
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 20:22:43.50 ID:CfLOJhTko
P「千早……やっぱり、何かあったんじゃないのか?」

千早「……またその話ですか」

P「最近、何か変だぞ。
 このライブだって、千早がどうしてもって言うから急遽入れた仕事だよな?
 そのおかげでスケジュールもかなり詰まって、最近全然休めてないだろ?
 一体何をそんなに焦ってるんだ?」

千早「……心配はいりません。ただ、歌を歌いたい。それだけです」

P「千早……」

千早「では、帰りの支度をしてきますので。失礼します」

P(……一体どうしてしまったんだ、千早。
 あれじゃまるで、以前の千早に戻ったような……)
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 20:24:45.40 ID:CfLOJhTko



郷子「人魚の力って……それ本当なの、ぬ〜べ〜?」

広「単にめちゃくちゃ歌が上手いだけじゃねーの?」

ぬ〜べ〜「いいや、もちろん歌が上手いのもあるが、確かに妖気を感じた……。
      以前一度、速魚くんの歌を聴いてるから間違いようがない」

広「でも速魚さんの歌ほどじゃなかったよな?
  普通に感動する歌って感じだったと思うけど」

郷子「そうよね……。でも、ぬ〜べ〜が妖気を感じたのは確かなのよね?」

ぬ〜べ〜「ああ。あくまで不完全……
      人間の歌に人魚の歌が混ざっているような感じではあったが、
      それでもただの人間に歌えるものでないことは確かだ」
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 20:26:34.36 ID:CfLOJhTko
広「じゃあもしかして……千早ちゃんが実は妖怪だったってこと!?」

ぬ〜べ〜「うむ……。人間と妖怪が交わり、
      その能力が子孫へと受け継がれていくというケースは確かにあるが……」

郷子「それとももしかして、取り憑かれてるとか……!」

広「え!? それって、人魚に取り憑かれたってことかよ!?」

ぬ〜べ〜「まさか。今このあたりにいる人魚と言ったら……」

速魚「こんにちは、皆さん!」

三人「ぎゃあああああああああ!?」
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 20:27:32.98 ID:CfLOJhTko
ぬ〜べ〜「ってこらあっ! いきなり後ろから話しかけるんじゃない!
      深刻な話をしている時に!」

速魚「えっ? ご、ごめんなさい……」

広(し、心臓が口から出るかと思った)

郷子「で、でもどうして速魚さんがここに?」

ぬ〜べ〜「そ……そうだ。偶然にしては出来すぎている。まさか本当に千早くんに……」

速魚「? いえ、実は少し前に、この辺りから仲間の歌声が聞こえたような気がして」

広「えっ。仲間の歌声って、人魚の歌声?」
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 20:28:42.46 ID:CfLOJhTko
速魚「はい! でも、よく考えたらそんなことってあるはずないですよね。
   私以外の人魚が陸で歌ってるなんて……」

広「そ、そっか。じゃあ速魚さんが千早ちゃんに取り憑いてるってわけじゃなかったんだな」

郷子「そうよね、速魚さんがそんなことするはずないわ。
   そもそも、人魚が取り憑くっていうのもよく分からないし」

速魚「あのー……。もしかして、何かあったんですか?
   取り憑くって、どういう……」

ぬ〜べ〜「ああ、実はかくかくしかじかで……」
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 20:29:32.50 ID:CfLOJhTko
速魚「なるほど! じゃあ、やっぱりあの歌声は私の気のせいじゃなかったんですね!」

広「でもよく聞こえたね。速魚さん、普通に海の中にいたんだろ?」

ぬ〜べ〜「人魚の歌は一種のテレパシーみたいなものだからな。
     不完全とは言え、人魚同士にだけ通じたところがあったんだろう」

速魚「それにしても、あれを歌ってたのは千早さんだったんですね。
   通りで綺麗な歌声だと思いました」

郷子「えっ? 速魚さんも千早ちゃんのこと知ってるの?」

速魚「はい! 前からアイドルには興味がありましたから」
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 20:31:18.47 ID:CfLOJhTko
速魚「でも昔に一度聞いた時は、別に普通の歌だったような……。
   どうして急に人魚の歌を歌えるようになったんでしょう?」

ぬ〜べ〜「ふむ……。速魚くんにも分からないとなると、
     やはりこっちでなんとか調べてみるしかないな」

郷子「あ、やっぱり調べるんだ」

ぬ〜べ〜「人間の女の子が妖怪の力を持ってるなんてことを放っておくわけにはいかないさ。
      特に人魚の歌を歌うアイドルなんて、
      もし力を制御できなければ大変なことになるしな」

広「そ、そっか。よし、俺たちも手伝うぜ、ぬ〜べ〜!」

速魚「あ、じゃあ私も一緒に。できることがあったら、なんでも言ってくださいね!」
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 20:32:45.47 ID:CfLOJhTko



深夜 千早宅

千早「すー……すー……」

千早「……ん……」

  『歌って! 歌って、お姉ちゃん!』

千早「ゆ……う……」

  『歌って! 歌って! もっと歌って!』

千早「っ……ぅ、う……」

  『歌って! もっと! もっと! 歌って!』

  『歌って! 歌って! もっと! もっと! 歌って! 歌って!』

  『歌え』『歌え』『歌え!』『歌え!!』『歌え!!!』
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 20:34:52.39 ID:CfLOJhTko



数日後、とある街

ぬ〜べ〜「お前ら、自分の交通費くらい自分で出せよ。今月分の生活費が……」

郷子「まあまあ、細かいこと言わない言わない」

速魚「ごめんなさい。私、お金持ってなくて……」

広「それより、765プロの事務所まであとどれくらいで着くんだ?」

ぬ〜べ〜「ったく……。事務所までは、もう少し歩く必要がある。
      まあ、そう遠い距離じゃ……。っ!!」

郷子「? どうしたの、ぬ〜べ〜」
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 20:36:09.11 ID:CfLOJhTko
ぬ〜べ〜「……」

広「なんだよ? 何をじっと見て……。
  って、あそこ歩いてるの、もしかして……!」

P「……」

千早「……」

郷子(間違いないわ! 変装してるけど、千早ちゃんよ!)

速魚「早く見つかって良かったですね!
   早速話しかけに行きましょう。こんにちは〜、千早ちゃ……もごっ」

ぬ〜べ〜(しっ! 大声で名前呼んだりしたら騒ぎになるだろうが!
      相手は有名アイドルなんだぞ!)
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 20:36:49.68 ID:CfLOJhTko
速魚「もごもご……ぷはっ。そ、そうでしたね。ごめんなさい、私ったら……」

ぬ〜べ〜「分かればいいんだ。それに、早速話しかけに行くってのに違いはないしな」

P「……」

ぬ〜べ〜「失礼、ちょっといいですか?」

P「え?」

千早「……あなたは確か……」

ぬ〜べ〜「はは、覚えてくれてるかい? 以前、ライブ前に楽屋で会ったんだけど」
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 20:37:54.84 ID:CfLOJhTko
P「……? もしかして、いつかのライブのスタッフの方ですか?
 あ、でもそっちの男の子と女の子達は……?」

ぬ〜べ〜「ああ、すみません何の説明もなしに。
      えっと、あなたは……マネージャーさんか何かで?」

P「俺は如月千早のプロデューサーです。それで、あなた達は……」

ぬ〜べ〜「実はわたくしども桜井奈絵という子の知り合いでして。
     以前、楽屋に挨拶に行った時に、千早さんとはお会いしたんです」

P「ああ、あの時のライブの……。千早が彼女の楽屋に挨拶に行った時ですね。
 千早、この人たちのこと、覚えてるか?」

千早「……はい、覚えています。それで、何の用事ですか?」

ぬ〜べ〜「うむ、君に少し聞きたいことがあるんだ。
      立ち話でもなんだし、良かったら近くの喫茶店にでも……」
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 20:38:33.44 ID:CfLOJhTko
千早「ごめんなさい、もう次の予定が入っていますから」

ぬ〜べ〜「えっ? いや、そんなに時間は取らせないよ。
      なんなら、今ここでいくつか質問に答えてくれるだけでも……」

千早「いえ、今は無駄な時間は過ごしたくないので。
   少しでも、歌わないと……。優のために、もっと……」

ぬ〜べ〜(? 『優』……?)

千早「では、失礼します」

P「お、おい千早、一人で……。
 も、申し訳ないです。予定が入っているのは本当なので……!
 では、失礼します。大事な用事なら、事務所を通して、またよろしくお願いします!」
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 20:39:26.46 ID:CfLOJhTko
ぬ〜べ〜「……」

速魚「うーん、なんだかすごい勢いで断れちゃいましたね……」

広「お、おいおい、どうするんだよぬ〜べ〜。二人とも行っちゃったぜ!」

郷子「追いかけなくていいの!?」

ぬ〜べ〜「いや……やめておこう。仕事の邪魔をしちゃ悪いし、
      何よりあまり無理をすると騒ぎになりかねない。
      それより二人とも、さっき彼女が言ってた、
      『優のために』という言葉に何か心当たりはないか?」

広「ああ、えっと……。優ってのは千早ちゃんの弟の名前だよ」
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 20:40:10.11 ID:CfLOJhTko
郷子「そうそう。千早ちゃんの歌が大好きで、
   優くんのために千早ちゃんはアイドルを目指すようになったんだって」

ぬ〜べ〜「へー、そうなのか。それで、『優のために』か……。
     すごく仲がいい姉弟なんだな」

郷子「あ、うん。仲は良かったみたいなんだけど……」

ぬ〜べ〜「? なんだ、今は喧嘩でもしてるのか?」

広「説明するより、これ読んだ方が早いよ。
 ぬ〜べ〜、千早ちゃんのこと何も知らなさそうだから、持ってきたんだ」

ぬ〜べ〜「これは……インタビュー記事か? どれどれ……。
     っ……! これは――」
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 20:41:20.36 ID:CfLOJhTko
ぬ〜べ〜「――なるほど、そうだったのか。
      彼女も、アイドルとして輝かしい人生を歩んできたわけじゃないんだな……」

郷子「でも、変よね……? 千早ちゃんはあの騒動を乗り越えて、
   昔ほど歌に執着しなくなったって書いてあるのに……」

広「だよな? さっきの感じだと、
  この記事で千早ちゃん自身が言ってる『昔の私』ってのに戻っちまったみたいだぜ」

速魚「それに……さっきの千早ちゃん、妖気がかなり強くなってましたよね」

郷子&広「え!?」

ぬ〜べ〜「ああ……。まるで本物の人魚と変わりない妖気だった。
      むしろ速魚くんよりも強く感じたくらいだ」
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 20:42:05.34 ID:CfLOJhTko
郷子「ちょ、ちょっと! そういうことはもっと早く言ってよ!」

広「そうだぜ! 速魚さんはともかく、
 大事なことに限って言うのが遅いんだからぬ〜べ〜はよ!」

ぬ〜べ〜「そ、そんなにまくしたてるなよ。
      お前らに言ったところでどうにもならないだろうに」

郷子「そ、それはそうかも知れないけど……!」

ぬ〜べ〜「何、焦ることはないさ。彼女のこの後の予定は、もう分かってるしな」

広「え? まさかぬ〜べ〜、ミニライブに行くつもりなのか?」

ぬ〜べ〜「まあな。場合によっては忍び込むことになるかも知れんが……。
      ただそれより先に、まずは確認しておきたいことがある」

郷子「確認しておきたいこと……?」
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 20:48:57.22 ID:CfLOJhTko



ぬ〜べ〜「……この辺りか。どうやら、間違いなさそうだな」

速魚「ここが……」

郷子「優くんが、事故にあった場所……」

広「それで、確認したいことってなんなんだよ?」

ぬ〜べ〜「まず一つは、優くんがここに居るかどうか、ってことだ。
     だがそれは、もうはっきりしたよ」

郷子「! ってことは……」

ぬ〜べ〜「ああ。南無大慈大悲救苦救難……ここに居る霊よ、姿を見せよ!」
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 20:50:32.73 ID:CfLOJhTko
優『ひっく、ぐすっ……』

郷子「……! この子が、優くん……?」

広「た、確かに、どこか千早ちゃんと似てる気がするな」

速魚「でもどうして泣いているんでしょう……?
  事故の時の怖い気持ちが、まだ残ってるんでしょうか」

郷子「死んでから地縛霊になって、ずっとここで泣いてたってこと?
  だったら、早く成仏させてあげなきゃ!」

ぬ〜べ〜「まあ待て。それも確認したいことの一つさ。
     優くんの霊がもしここに留まっていたのだとしたら、その理由は何なのかってな。
     そしてそれは、考えるより本人に直接聞くのが一番だ」
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 20:51:15.11 ID:CfLOJhTko
優『っ……!』

ぬ〜べ〜「おっと、怖がることはないよ。
      鬼の手でちょっと触るだけだ。そうすれば俺は君の声を聞くことができる」

優『……』

ぬ〜べ〜「……わかってくれたかい、ありがとう。
     それじゃあ……教えてくれ。君はどうして、こんなところで泣いているんだい?」

優『……すけて、助けて……!』

ぬ〜べ〜「え……?」

優『お姉ちゃんを助けて……!
  このままじゃ、お姉ちゃんが、お姉ちゃんが……!!』
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 20:52:38.53 ID:CfLOJhTko



ライブ会場裏

P「――そろそろ、開演か。千早のステージ、見てやらなきゃな……」

P(……でも、何故だろう……。
 プロデューサーの俺が見てやらないといけないのに、
 今の俺は、千早のステージを見るのが少し怖いと思ってしまっている……。
 そう……確か、あの日からだ。
 およそ一か月前のあの日、PVの撮影のために、海に言って……)



P『おーい、千早。そろそろ撮影に戻るぞ……って、何をしてたんだ?』

千早『あ、プロデューサー……ごめんなさい。綺麗な貝殻があったもので、つい』

P『どれどれ……。へえ、確かにすごく綺麗だな』

千早『ええ。それで、その……。
   みんなにも持って帰ってあげたいと思うのですが、どうでしょうか……?』

P『みんなに? なるほど、いいじゃないか!
 それだけ綺麗なら、いいお土産になりそうだ』
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 20:53:28.76 ID:CfLOJhTko
P『でもせっかくなら、うんと綺麗なものを探したいな。
 よく見れば結構落ちてるし、探せば見つかりそうだぞ』

千早『えっ? あの、私も綺麗なものを探したいとは思いますけど、
   もうすぐ休憩は終わりじゃ……』

P『もちろん、探すのは撮影が終わってからだよ。
 そのあとはもう予定はないから、たっぷり時間は取れるぞ!』

千早『……プロデューサー……。みんな、喜んでくれるでしょうか』

P『ああ、もちろん! さ、そうと決まれば早く撮影を終わらせよう!』

千早『ふふっ……。はい、今行きます』




P(そうして、撮影を終えた俺と千早は貝殻を探し始めて……。
 でも、いつの間にか千早が居なくなっていたんだ。
 それで、しばらく探したら……。そう、あの洞穴の中に立っている千早を見つけて……)
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 20:54:15.69 ID:CfLOJhTko
P『千早! こんなところに居たのか……。でも良かったよ、見つかって』

千早『……』

P『千早……? っと、そうだ。いい貝殻は探せたか?
 俺は結構良さそうなのを見つけたぞ。ほら、これなんかなかなか綺麗……」

千早『そんなことより、プロデューサー。早く帰りましょう。
   帰って、歌のレッスンを入れていただければと』

P『え……? でも、いいのか? みんなへのお土産は……』

千早『歌のレッスンの方が大事です。さあ、早く帰りましょう、プロデューサー』
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 20:56:06.12 ID:CfLOJhTko
P(この時からだ。千早は、何より歌を優先するようになった。
 歌の仕事は挨拶なんかも含めて特に問題なくこなすが、
 歌以外の仕事はキャンセル可能なものはすべてキャンセルして、
 空いた時間はすべて歌のレッスンに当てて。
 春香や、事務所のみんなとの時間も、ほとんどなくして……)

P「……一体、どうして……」

ぬ〜べ〜「! あなたは、千早くんのプロデューサー!」

P「えっ……?」

郷子「ぜぇ、ぜぇ、ちょ、ちょっとぬ〜べ〜! もうちょっと加減して走ってよ!」

広「速魚さーん! こっちこっち!」

速魚「はあはあ、ま、待ってくださ〜い!」

P「あなた達は、さっきの……」
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 21:00:33.21 ID:CfLOJhTko
P「えっと、そんなに急いでどうしたんですか?
 あ、もしかして今からのライブに?
 でしたら、こっちは裏口ですから、表のスタッフにチケットを渡して……」

ぬ〜べ〜「いや、そうじゃない! 千早くんは今どこに居るんですか! 案内してください!」

P「は……? い、いや、無理ですよ。もうライブが始まって……」

広「いいから案内してくれよ! だいたい一か月前くらいに、
 海へ行ってから千早ちゃんの様子がおかしくなったんだろ!?」

P「!? な、なぜそれを……!」

郷子「彼女は取り憑かれているのよ! 人魚に……いえ、人魚の霊に!」
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 21:02:31.34 ID:CfLOJhTko
P「人魚の霊……? い、いきなり何を言い出すんだ」

ぬ〜べ〜「あなたと千早くんは、ひと月前にとある海岸へ、
      新曲のプロモーションビデオの撮影に行ったはず……。
      そこで千早くんはとり憑かれたんだ!
      首を切り落とされて死んだ人魚の悪霊が
      本来の守護霊であったはずの優くんを押しのけ、取り憑いているんです!」

P「なっ……」

P(何を言っているんだ、この人は……!?
 い、いやしかし、海岸でPVの撮影をしたことはまだ公表していないし、
 千早の様子がおかしくなったことも、
 765プロの者以外に気付かれるとは考えにくい……。でも、人魚の悪霊だなんてそんな……!)
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 21:04:17.65 ID:CfLOJhTko
広「なんだよ、ぬ〜べ〜の言うことが信じられないってのか!?
 早くしないと千早ちゃんが危ないんだぞ!」

P「ぬ〜べ〜……? その名前、どこかで……はっ!
 そう言えば聞いたことがある。多くの心霊現象を解決した、霊能力者の教師の話を……!
 ま、まさかあなたがそうなんですか!」

郷子「そうよ! だから早く!」

P「っ……わ、わかりました。ただ、さっき言った通りライブはもう始まっていますから、
 初めは客席からこっそり様子を見る程度にしてください」

ぬ〜べ〜「それは状況によります! とにかく急ぎましょう!」
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 21:06:12.08 ID:CfLOJhTko



コンサートホール入口前

速魚「……先生、これって……」

ぬ〜べ〜「ああ……。かなり強い妖気がここまで漂ってきている。
      しかも、やはり本物の人魚である君より強い妖力のようだ。
      力尽くで守護霊に取って代わるのも、これならきっと可能だろう……!」

P(ほ、本物の人魚……? って、今はそんなことに突っ込んでいる場合じゃない!)

P「やっぱり、変だ……。セットリスト通りなら、
 今はかなり盛り上がる曲を歌っているはずなのに、
 音楽も、ファンの声も、一切聞こえてこないなんて……!」
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