他の閲覧方法【
専用ブラウザ
ガラケー版リーダー
スマホ版リーダー
BBS2ch
DAT
】
↓
VIP Service
SS速報VIP
更新
検索
全部
最新50
相良宗介「HCLI?」
Check
Tweet
57 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/26(日) 08:51:55.25 ID:A7WOo7Bko
あれ?放熱索ってレーバテインのギミックじゃなかったっけ?
アーバレストにもあったか記憶が曖昧だ久々に原作読み直そうかな
58 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/26(日) 09:45:41.15 ID:N7WnKZ0Yo
F91みたいなのがついてたような気がする
59 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/26(日) 13:42:34.32 ID:n9YYOeuxo
アニメでは展開してる
原作で描写があったかは忘れた
60 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/26(日) 22:42:28.07 ID:LzCuHZJLO
背中から伸びてる板というか羽というかだな
アニメで大袈裟に表現されたなって思った記憶はあるが原作だとどうだったか
61 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/18(月) 20:18:13.68 ID:AHCstnE90
「無事か、ウルズ2」
『お陰さまで。敵からの銃撃は止んだわ。ま、最後の方はナイフ女が倒されたショックからか、勢いもなかったしね』
「……そちらに居たのは、爆弾魔とジョナサンだったな」
メリッサの言葉に、宗介の頭に僅かな疑念がよぎる――あの少年兵が、そんな軟なタマだとは思えない。
そしてその予感は、全くもって正しいものだった。
≪接近警報――≫
アルの警告が響く。だが宗介が反応するよりも早く、その頭上――コックピットの天板に、何か重いものがぶつかったような音が響く。
同時、ハッチが強制解放され、零下の外気が吹き込んできた。同時に、鋭い声も。
「動くな!」
声の主は、既にピンを引き抜いた手榴弾を構える少年兵。身を乗り出すようにして、上半身は半ば操縦席に入り込んでいる。
「ジョナサン・マル……」
「……ソウスキー・セガール?」
二人の少年兵の視線が、交差した。
62 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/18(月) 20:19:00.81 ID:AHCstnE90
◇◇◇
その傭兵と山岳兵が出会ったのは数年前の話だ。大したことを話したわけでも、感動するような経験を共有したわけでもない。
それでも、印象に残っている会話が無いわけではなかった。
「……セガールは、何で傭兵をやってるんだ?」
「……」
暗闇の中で、宗介――当時ソウスキー・セガールと呼ばれていた傭兵は、唐突な質問を繰り出してきた隣の山岳兵に虚ろな視線を向けた。
ジョナサン・マル。そう名乗った、褐色の肌の少年兵。
敵同士。ただし、それは30分ほど前までの話。崖から滑落した彼らは、互いに協力することでしか生き延びることはできなかった。
腕を撃ち抜かれた宗介の止血をジョナサンが行い、打撲で歩けないジョナサンを宗介が補助して光無き夜の山中を進む。
その途中で、ジョナサンが発したその質問。
宗介は口を開いた。親しみや愛想からではない。痛みと出血で意識が朦朧としている。意識を手放さない為に、会話という手綱は必要だった。
「……それしか知らんからだ」
「僕もだ。じゃあ、他の道があったらそっちに進める?」
「……想像がつかんな」
「それも、同じだ」
暗闇の中で、僅かに白髪の山岳兵が笑った――ような気がする。気のせいかもしれなかった。
「僕は、武器が嫌いだ。故郷の村を焼いた武器が。けれど、こうやって武器に頼る生き方しか知らない」
「少年兵など、皆同じようなものだ」
宗介は呟く。その事実に対する嫌悪も、諦めもない。ただ事実を指摘するように淡々とした口調。
ソ連で暗殺者として育てられ、その後、アフガンゲリラとして長年戦った。その波乱万丈に過ぎる人生の主は、だが己の境遇を憐れむこともない。
「俺達の食い扶持がなくなることなどない。おそらく、死ぬまで武器を手放すことはないだろう。世間の仕組みとはそういうものだ」
「そうだね、きっと。そうだ」
けど、とジョナサンは続けた。
「それでも、僕は世界が好きなんだ。きっといつか、僕らが武器を手にしなくていい時がくる――そう思うよ」
「……そうなればいいな」
そうなるだろう、とは言わなかった。
だが、そんなことはありえない、とも言わなかったのだ。
63 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/18(月) 20:21:17.34 ID:AHCstnE90
◇◇◇
幸運は二つあった。
ひとつは<アーバレスト>の体勢だ。
静的な安定性を得るための、膝立ちという姿勢。ASを保管する際の降着姿勢にも似たそれのお陰で、
アーバレスト頭頂部までの高さが通常時の約半分――4mほどしかなかったこと。
周囲の積雪を鑑みれば、実際はもっと低かっただろう。
そして二つめに、相良宗介が精神的に疲労状態であったこと。
ラムダ・ドライバの制御で神経をすり減らしていた為、アルの警告に反応するのが遅れてしまった。
幸運は、その二つだった――ヨナが機体表面をよじ登り、コックピットの強制解放レバーに手を届かせることが出来た幸運は。
宗介が昔、クルツやマオと初めて出会った時に行った戦法だ。
パイロット救助の為、どのASにも外部からハッチを強制解放するための仕組みがある。
だから機体に取りつくことさえできれば――そしてそれが『戦術』として考慮するには馬鹿馬鹿しくなるほどの難易度ではあるのだが――歩兵でもASを倒すことができるようになる。
"幸運"は前述の二つ。だが"理由"ならば他にもある。
メリッサが感じた、敵の攻性の弱まり方。それは単純に、ヨナが戦列を離れたのが原因だった。
倒されたバルメの救援に赴こうとした行動。それは結果として、ラムダ・ドライバ発動時に、アーバレストが見える位置にヨナが立っていることに繋がった。
ラムダ・ドライバで吹き上げられた雪柱をカモフラージュに、ヨナは機体に飛びつけるほどに接近を果たしたのだ。
加えてヨナがこういったシチュエーションを想定して、ASに登る練習をしていたこと。
同じく各ASの強制解放装置が設置されている場所について、ココからレクチャーされていたこと。
<アーバレスト>はワン・オフの機体だが、大まかな構造自体はM9をベースにしたものだ。
そしてココ・ヘクマティアルは、M9の情報を事前に入手できる立場にあった。
そうした幸運と理由の結果が、これだ。ココは白い巨人に果敢に飛び掛かって行った部隊員の姿を見上げていた。
ヨナがASに関する知識を学ぼうとしているのは知っていた。彼は武器を憎んでいる。だから、必要ならその弱点を知ろうとするのは当然のことだろう。
日課のAS登りも同じ理由だ。
だが、それが実戦で発揮されることなどないと思っていた。ASを歩兵が倒すなど夢物語だ。RPGで戦闘機を落とそうとするのと変わらない。
それを、彼は……
64 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/18(月) 20:22:22.30 ID:AHCstnE90
『ココ! セガールだ! セガールが乗ってる!』
「は、え? セガール?」
物思いから現実に引き戻される。通信機から響いてきた少年兵の声によって。
咄嗟に思い出したのは、しばらく前に封切されたハリウッド映画のことだった。
スティーブン・セガールがASをアイキドーで投げ飛ばし、あまつさえそのシーンをCG無しで撮影したという前評判が話題となっていたもので、
ネットレンタルサービスでダウンロードして船内で上映会を開いたのだが――
『ああ、ごめん――山岳部隊に居た頃に会った傭兵だよ。僕と同じ少年兵だったから、覚えてた。"正義の傭兵部隊"に入ったのか?』
「あ、ああ。なるほどね」
物を無理やり飲み下すように頷いて、混乱した脳内を何とか落ち着かせる。
「少年兵……傭兵、か」
独りごちるように呟き、ココ・ヘクマティアルは伏せていた雪の遮蔽から立ち上がった。そのまま白いASの方へゆっくりと歩き出す。
「最高だよ、ヨナ。後でちゅーをしてあげるから、彼を抑えていてくれ――勝負はここからだ」
65 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/18(月) 20:23:02.20 ID:AHCstnE90
◇◇◇
宗介は数年前の夜と同じように、ジョナサン・マルと一対一で向き合っていた。ただし、互いに所属を変え、多少は成長している。
変わらないのは、互いに武器を手にして、そして敵対しているということだ。
ジョナサンの手にはピンを抜いた手榴弾。手を離せば、操縦席に転がり込んだ其れは盛大に爆発するだろう。
操縦服には対爆性能もあるとはいえ、密閉空間での爆発力はおそらくそれを上回る。
ASの上半身を動かして、振り落としを試みるか? ――否。ジョナサンを振り落すことはできるかもしれないが、奴ならば落ちる前に手榴弾を投げ込んでくるだろう。
マスタースーツはその性質上、腕を一定位置に固定する必要がある。
足元に落ちた手榴弾を拾って投げ返すことはできない――とまでは言わないが、困難であることは確かだ。
「セガール……こんなところで会うなんて思わなかった」
「こちらも同じだ、ジョナサン。お前が奴の護衛をしていることは知っていたが、直接顔を合わせることはないと思っていた」
会話をしていても、互いに視線の鋭さは抜けない――それは数々の戦場を渡り歩いてきた、彼らの兵士としての資質だった。
「降伏してくれないか? 僕はこれを投げ込むだけで勝てる」
「お前を叩き落として、相討ちくらいにはできるぞ」
「じゃあ、訂正しよう――これを投げ込めば、僕たちは勝てる。僕が動けなくなっても、下に居る君の仲間を制圧することは簡単だ」
「……」
宗介は押し黙った。ジョナサンの目算は正しい。
あと5分ほどで到着する予定のチームβのことは知らないだろうが、どの道、SRTのほぼ半数が失われるということになれば作戦は大失敗といって良かった。
(これは……)
≪いいえ、そちらの負けです≫
声が響く。機械的な男性の声――アーバレストに搭載された戦術支援AI、アル。
他のM9に搭載されているAIとは違い、常に自由会話モードに設定されており、こいつは自由に喋ることが出来た。宗介にとっては、頭の痛いことに。
突如響いた声に、ジョナサンが目を丸くする。
「セガール、このASは喋るのか?」
≪私はこの機体の戦術支援AIです。ミスター・ジョナサン。それより、手榴弾を捨てて降伏することをお勧めします≫
「……何だって?」
≪こちらの勝ちは揺るぎません。私のAIとしてのコアユニットは、操縦席に手榴弾を投げ込まれた程度ではびくともしませんので。
歩兵程度なら私単独でも撃破可能です。軍曹殿から、事前に御命令をいただければ≫
「セガールは死ぬぞ、いいのか?」
≪彼に人質としての価値はありません。爆破するなり銃で撃つなりご自由に。ただし、葬儀はイスラーム式でお願いします≫
こいつは……
先ほど自分が口にしたクルツに対しての台詞を揶揄するかのようなこのAIに、宗介は頭を抱えたくなった。
だが、そうもいかない。苛つきをどうにかなだめすかして、宗介は鷹揚に頷いて見せた。
「ああ、許可する。俺が死亡した場合、自由に武装を行使して敵対勢力を撃滅しろ」
≪了解(ラージャ)≫
「……さあ、どうするジョナサン。形成は逆転したぞ?」
66 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/18(月) 20:25:20.07 ID:AHCstnE90
「いいや、してないね!」
女性の声が割り込んでくる。モニターを見れば、跪くアーバレストの目前にココ・ヘクマティアルが仁王立ちしていた。
光学カメラの位置を熟知しているのだろう。ディスプレイ越しに、こちらを真正面から見据えてくる。
「凄いな、そのAIは! M9に音声認識AIの搭載が検討されているというのは聞いていたけど。
嘘がつけるなんて、是非とも開発者と直接話したいものだね」
≪お褒め頂き光栄です、ミス・ヘクマティアル。しかし、残念ながら私は嘘などついておりませんが?≫
「それこそ嘘さ――そのセガール氏とやらに価値がないなんて。君に乗っている彼に価値がないなんて!」
犯人を明かす探偵のように、ココは滔々と台詞を張り上げた。
「ヨナが山岳部隊に居た頃、傭兵であるセガール氏と出会っている――少なくとも数年前まで、彼は普通の傭兵だったということだ。
ヨナの経歴については知っている。彼の基地が君たち"正義の傭兵部隊"に目を付けられるようなところではないことも。
そんな彼が、果たしてこんな機体を任されるものかな?」
ココは値踏みするように、アーバレストへこれ見よがしに視線を注いでみせる。
「M9をベースにしているが、バージョンチェンジと呼べる範疇を越えている。そっちに埋まってるD系列とは違ってね。
何らかの実験機だろう。それにどうして、おそらく部隊に所属して精々一年かそこらの、しかも少年兵が乗っているのか」
≪軍曹殿は腕の良い操縦兵です≫
「君たちの組織が年功序列を排し、徹底的な実力主義をしいているとしよう――だが、それでもやはり納得はできないな。
指揮官はD系列だったようだし、動きもそちらの方が良かった」
単純にAS操縦兵としての腕前を比較した場合、確かに宗介はクルーゾーに一歩譲るだろう。それは以前の謀で明らかになっている。
だがそれを、一目で看破したこの武器商人の目利きは異常だ。
「そもそも、何故その機体は雪崩に飲み込まれて無事だった? 雪に埋まった状態から、どうやって瞬時に姿勢回復を?」
「それは――」
「それを可能にする装備を積んだ実験機だとしよう。ではなぜ、それほどまでに強力な装備を他のM9に搭載しないのか?
整備性に問題がある? ペイロードを食う? 生産が難しい? そうだな、何らかの欠陥はあるのだろう。
だが、そんな欠陥だらけの装備を搭載した機体に、どうして組織に所属して日の浅いであろう少年兵を乗せる?」
ココ・ヘクマティアルの読みは正確だ。宗介がアーバレストに乗るようになったのは偶然に過ぎない。
本来はベテランのクルーゾーの機体にもラムダ・ドライバが搭載される筈だった。
その前に開発者が自殺したせいでそうはならなかったが、もしも宗介がアーバレストに乗らなければ、この機体の操縦者はクルーゾーになっていた可能性が高い。
「ひとつだけ分かるのは、おそらくその少年兵が乗っているのには何か理由があるということ。彼が操縦者でなければならない。そんな理由があるということ。
つまり――彼に価値がないというのは嘘だろう」
≪しかし、彼が死んでも私が動けるというのもまた真実です≫
「ならば試してみるかい? 君たちは武器商人とその一団をこの世界から排除できる。
代わりにその機体の操縦者は失われる。それが等価交換だと思うならね―― ヨナ、躊躇するな。敵が動いたら手榴弾を投げ込め」
「了解、ココ」
命令を受けたジョナサンの目が、さらなる冷たさを帯びる。
彼は、やる。脅しでも何でもない。少年兵の怖さは、自身の命を使い捨てにしてくることだ。ジョナサン・マルは命惜しさに寝返ったりはしない。
場が膠着する。
67 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/18(月) 20:26:20.59 ID:AHCstnE90
◇◇◇
「……ここまでの怪物でしたか、ココ・ヘクマティアルは」
テレサ・テスタロッサは艦長席で静かにそう呟いた。
認めなければならない。ヘクマティアルの命と、ミスリルが保持する唯一のラムダ・ドライバ起動の鍵である"相良軍曹"の命。
個人的な感情を抜きにしても、その天秤がどちらに傾くかなど明らかだ。
確かに武器商人は幸運に恵まれていた。相良宗介と過去に繋がりのあった少年兵を引き入れていたこともそうだ。
だが、それを抜きにしてもこうまで見抜かれるとは。
(それだけ、ヘクマティアルが優秀だった……いえ)
彼女の優秀さを差し引いても、そこには不自然なものを感じる。
まるで、ヘクマティアルが最初からそれを予期していたかのような――
「戦闘指揮官としてはともかく、策謀家としては一流のようですな」
思考の海に埋没しようとしていたテッサを引き戻したのはカリーニン少佐の声だった。
この状況でも冷静な雰囲気を崩しもせず、モニターをじっと見つめている。そんな彼が言葉を続けた。
「しかし、ヘクマティアルはここからどうする腹積もりなのでしょうか。確かに、サガラ軍曹はミスリルにとって得難い人材です。
それでも、我々はテロリストに譲歩などしない――できないといった方が正しいでしょうか」
そう、確かに相良宗介を犠牲に武器商人一行を撃滅するというのは割に合わないトレードだ。
だが、そもそもミスリルは損得勘定で行動する組織ではない。相良宗介を救うために、テロリストへの武器供給を許すという選択は有り得ない。
カリーニンがわざわざそれを口にしたのは、最終的にその命令を下さなければならないのはテッサだったからだろう。
彼女に覚悟を決めるよう促した。あるいは、覚悟を量ろうとしたのかもしれない。
だが、テッサの顔に緊張は浮かんでいなかった。肩をすくめて、カリーニンの言葉に首を振る。
「そうですね――けれど、過去の情報と、ここまでのやり取りから察するに。
ココ・ヘクマティアルがわたしの思っている通りの人物なら、これで手打ちになるでしょう」
「と、言いますと?」
テッサの両脇に控えるマデューカスとカリーニンが眉根を上げる。それと同時に、アーバレストの集音マイクがココ・ヘクマティアルの"要求"を拾った。
『――そちらの指揮官と話がしたい。我々は降伏を申し込む』
ほら、ね? とでもいうように、テッサは両脇の男たちに肩をすくめて見せた。
68 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/18(月) 20:27:40.89 ID:AHCstnE90
◇◇◇
『降伏ぅ!? お嬢、降伏ってどういう――』
「ごめん、ルツ。それにみんなも。だけど、ここらが落としどころさ」
膝立ち姿勢のアーバレストを見上げるようにしながら、ココ・ヘクマティアルはやれやれと頭を振って見せた。
「これ以上は、どうやったって犠牲が出る。お互いに、ね。喉元にナイフを突きつけあってる状態――だから、交渉が可能というわけだ」
『まあ、妥当なところではあるわな』
『レームのおっさんまで……ああ、クソっ。わーったよ。アネゴが起きたらもっと分が悪くなるしな』
「……さて、こちらはそういうことで纏まったわけだが……そちらの返答は?」
ココがそう尋ねると同時、ヘッドセットに酷いノイズが奔った。思わず顔をしかめる。
どうやら敵ASがその電子戦機能を使い、無線のチャンネルに介入しているらしい。
やがてノイズが引くと、入れ替わりに若い女性の声が聞こえてきた。
『――交渉、といいましたか。要求は何でしょう?』
「初対面だというのに挨拶もなしかね、謎の御婦人。君がこの荒くれ者どもをまとめる指揮官殿で?」
『ええ、その通りです。お分かりでしょうが、名前は名乗れません。謎の傭兵部隊ですから。
"謎の御婦人"が呼びにくければ"アンスズ"とでも』
「なるほど、ウルズにアンスズ……ルーンか。洒落たコードサインだね。教養のある人物とお見受けする。
では、こちらの要求を伝えようミス・アンスズ。我々をこの場から見逃すこと。迫っているであろう別働隊による追撃もなしだ」
『法外ですね』
呆れたような声音のミス・アンスズ。
当然と言えば当然か。ココはうっすらと笑みを浮かべた。彼らはまさに自分達を狩るために部隊を派遣したのだから。
それを達成できないとなれば、様々な"不都合"が生じるであろうとは想像に難くない。ましてや相手がそれを要求するというのであれば!
「無論のこと、私は商売人だ。暴利を貪るだけではない。相応のものは支払おう」
『では、そちらの払う対価は?』
「今回売る予定だった商品だ。これをそちらに引き渡す――M9を運用しているような集団にとっては無価値なデータだろうが。
だが、取引を止めることが目的だったのだろう?」
『うーん……』
ココの提案に、アンスズはわざとらしく、迷うように語尾を上げる。
『やっぱり割にあいませんね。こちらはM9を3機、中破させられてしまっているわけですし。
でも、まさか武器商人からお金を貰う訳にも行きませんから。
だって、賄賂だと思われてしまうでしょう? やっぱりこの取引はなしということで……』
「まったく、商売上手なことだ。どちらが商人か分かったものではないな」
呆れたように首を振るココ。だがその顔には明らかに歓喜からくる笑みが浮かんでいた。
(なるほど。トロホブスキー女史もこんな気持ちだったのかな)
僅かに会話しただけでも分かる。
ミス・アンスズ。この下手をすれば自分より年下であるかもしれない女性は、深い教養と知性、そして度胸を兼ね備えた傑物だ。
楽しい! この会話が、そしてのその結末を予想するのが! その予想が覆されるかもしれないという事実が!
69 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/18(月) 20:28:06.87 ID:AHCstnE90
「オーケイ。では追加料金を。確証があるわけではないが、君のところの情報部は私を銃弾以外の手段で攻撃していただろう?」
『ご想像にお任せします』
「彼らが私から奪おうとしていた、個人的な販路の一部を御譲りしよう。M9の修理代金としてはお釣りが出るほどだ。
運用は君たち実働ではなく情報部の仕事になるだろうが、だからこそ君たちは彼らに恩が売れる。
"彼らのミス"で今回のミッションは失敗しかけたが、挽回し、それどころか彼らの成し得なかった仕事を達成できる。どうかな?」
『まあ! ひどいです。そんな、わたし達作戦部と情報部の人達が犬猿の仲みたいな言い方。
適当な仕事ぶりのせいでわたしの部下を危険に晒した責任を取ってもらおうなんて、そんな乱暴な』
「大分いい性格をしているようだね。気に入ったよ、出来れば仕事は抜きに友人として付き合いたいくらいだ」
『ごめんなさい。友達は選びなさいというのが家訓でして。
もしかして、ひょっとすると、死の商人はお友達として相応しくないとおじさまに怒られてしまうかもしれません』
「では、これはおまけだ。私の取引相手の内、君たちが目の敵にしそうなテロリストや海賊の情報も流す。
以後、二度と君たちの目につくような取引はしないと誓おう。駄賃程度の条件だが」
『……うーん……』
「なんだい? "た、頼む! 金は渡すから命だけは助けてくれ!"という様式美に満ちた言い方をしなければダメかな?」
『いえ、食堂のドリンクサーバーにドクターペッパーを入れてくれという要望が上がっていたのを思い出しまして。
その分のお金をどうやったら毟り取れるか考えていたところです』
「ヨナー、もう手榴弾投げ込んじゃっていいよー」
『――冗談はさておき。手打ちの条件としては悪くありません。むしろ破格と言っていいでしょう』
「では?」
『ええ、そちらの言葉が、この場限りの出まかせでないと証明できるのなら、追撃はしないと約束してもいいですね』
「良い取引が出来て光栄だ、ミス・アンスズ――そこのパイロット、この規格のメモリー・チップは読み込めるか!?」
ココはコートのポケットから、薄い保護ケースに入った記録媒体を取り出すと、
目の前のASのパイロット――ヨナが言うところのセガール氏――に、アピールするように振って見せた。
「……ジョナサン。機体を動かすぞ」
むっつり顔の少年兵はそう呟き、機体の掌をココの前に差し出す。武器商人は竦みもせず、その上に乗り、安定姿勢を取った。
再度、ASの腕部が稼働し、ココ・ヘクマティアルを落とさないようにして解放されたコックピット・ハッチにまで移動させる。
ココは掌からハッチの縁に乗り移ると、同じく縁に体を固定しているヨナに笑いかけた。
「やあ、ヨナ。久しぶり。きついかもしれないけど、もうしばらくその体勢で頼むよ」
「大丈夫だ」
「それでこそ、男の子だ――で、君がセガール氏かい?」
操縦席を覗き込むと、そこに居たのは名前からの予想に反してアジア系の少年だった。ふむ? とココは首をひねり、
「ソウスキー・セガール……ああ、もしかして本当はソウスケ・サガラとか、そういう発音になるのかな」
「さあな。それより、その記録媒体とやらは?」
「なんとも愛想のないことだ……ほら、これだ。内容をアンスズ女史に送ってくれたまえ」
セガールは用心深くココの手からチップを受け取ると、操縦席にあるスロットのひとつに挿入した。
「アル」
≪ウィルス・チェック終了。トラップの類は見当たりません。三重に精査したので間違いはないかと≫
「では、送れ」
≪了解≫
僅かな間。やがて再び、ココのヘッドセットからアンスズの声が聞こえた。
『――確認しました。いいでしょう、今回は見逃してあげます』
70 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/18(月) 20:29:39.85 ID:AHCstnE90
◇◇◇
「よろしいので?」
と、口にしたのは隣に立つマデューカスだった。
制帽のつばの下から厳しく光る彼の瞳を見返しながら、テッサは頷いて見せる。
「M9が3機中破したのは痛いですが、彼女の提示した条件なら上から予算も引き出せるでしょう。
販路はジオトロン社辺りが喉から手が出るほど欲しがるでしょうし……
逆にここで断れば、残るのは中破したM9が3機と、パイロットを失ったアーバレスト。
ウチの部隊、破産しちゃいますよ? ミスリルで唯一の<ラムダ・ドライバ>搭載機を木偶の坊にしたことも突かれるでしょうし」
「ですが、死の商人相手に譲歩など……」
「今後、テロリストとの取引をしないというのであれば、処理の手間も省けますから」
「確実ではないように思われますが」
マデューカスの言に、テッサはもう一度、送られてきたファイルの中身に目を落とした。
「ヘクマティアルが送ってきたのは、非正規な顧客のリストでした。テロリストやマフィアの、それもご丁寧に拠点の位置情報まで添えられた。
ここからは情報部の仕事になりますが、こんなものを流出させたということが露見したら――露見させますけど――彼女はもう彼ら相手に商売は出来なくなるでしょう。
それどころか、狙われる側になるかも」
「なるほど、問題はないということですな」
「いえ……むしろ、問題は増えたかもしれません」
「なんですと?」
疑問符を浮かべるマデューカスを尻目に、テッサは再びインカムマイクに指を這わせた。その顔は真剣そのものだ。
これから米軍の精鋭潜水艦10隻が哨戒している海域を突破するということにでもなれば、同じ表情にもなるだろうか。
ヘクマティアルはアーバレストのコックピットハッチに腰掛けているようで、光学カメラの映像からは外れている。
それでも、回線の向こうであの鋭利な笑みを浮かべている白い女性の貌が、テッサの脳裏にこびりついていた。
「――ところで、ミス・ヘクマティアル。貴女は常に顧客情報をポケットに入れて商談に出かける趣味をお持ちで?」
それが分水嶺だったのだろう。
ヘクマティアルの笑みが、まるで底の見えないクレバスの様に深くなった。見えないが、その気配を感じ取る。
『我が社はきちんとコンプライアンスを遵守しているよ――普段はね。
説明するまでもない。その先の答えは、既に得ているのだろう?』
「貴女は、最初からこれをわたしたちに渡す気でしたね? そもそも勝つつもりがなかったんでしょう」
『いやいや、本来はもっと有利に交渉を進められる"程度には"勝つつもりだったさ。
ナイフを突きつけあうのではなく、こちらが一方的に突き付けている状態にしたかった。
全てを掌の上で転がす陰謀家を気取るつもりはないよ。それができなくなったのは、紛れもなく君たちが掴んだ成果だ』
「けれど、貴女は欲しいものを手に入れた。犠牲を払うことになりはしましたが、当初の目的は果たした」
『ほう? 私が何を望んでいたと?』
ヘクマティアルの質問に、テッサは一瞬だけ沈黙を挟んだ。
答えは分かっている。ここまでの式からは、ひとつの明確な解答しか導き出せない。
だが、その解答が意味するところが分からない。だからこその僅かな黙考だった。
「――わたしと会話することです。違いますか?」
ほんの少しの静寂。次はヘクマティアルが沈黙を――否。
それは静寂ではなかった。ただ、その次に起きたものが静寂と真逆の、とてもやかましいものだったから、だから静かなように感じただけだった。
『……クク、ハ、アハハハハ!』
大笑。ヘクマティアルが、実に愉快そうな笑い声をあげる。予想通りの、あるいは予想以上の答えを出した生徒を前にする教師の様に。
正解、ということなのだろう。この武器商人は、ミスリルと繋ぎをつけたいが為にわざわざ挑発するような真似を――テロリスト相手の商売を行っていたのだ。
テッサは武器商人の哄笑の隙を縫って、鋭く声を差し込んだ。
「次はこちらが質問する番です――なぜ、我々に接触しようと? まさか武器を売る為ではないでしょう」
『取引をお望みなら、こちらとしては喜んで応じるところだがね――だが、その通りだ』
「では、何の為に?」
その質問に、ヘクマティアルはかねてから用意してあったスピーチ原稿を読むような滑らかさで応える。
『――世界平和のために』
71 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/19(火) 07:45:23.88 ID:Ft4X/R9Io
最初はラムダドライバ狙ってやってんのかと思ってたがなるほどそういうことか
たしかに本編でもそうだしうまいわ
72 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/19(火) 11:08:49.81 ID:w8S4FxD0O
しえん
73 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/20(水) 23:44:32.52 ID:2IC2hJBrO
面白いねえ
74 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/04(木) 14:48:23.51 ID:oRSIZYwgo
またエター?
75 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/29(月) 20:42:20.99 ID:o2wJPf17o
支援
76 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/31(水) 21:09:54.45 ID:cq3YeS910
◇◇◇
「この世界は不自然だろう」
ココ・ヘクマティアルは両手を掲げた。頭上に広がるのは吹雪く曇天。それを抱きしめようとするように腕を目一杯伸ばす。
「世界をまわる内に、私は気づいた。東西の冷戦構造は、本来ならとっくに終わっていて然るべき筈のものだ、と」
ココ・ヘクマティアルは足元の装甲を蹴とばした。アーム・スレイブ。最強の陸戦兵器。
「武器を売る内に、私は気づいた。こんな不自然な兵器はある筈がない、と。
私は気づいたんだよ、ミス・アンスズ。世界の裏側には、どうしようもない悪意が潜んでいるのだ、と」
『……その悪意とやらが、世界を裏から動かしていると? 陰謀論者がいいそうな、陳腐な妄想ですね』
「君たちがそれを言うのかい? ――ミスリルにアマルガム。まさに陰謀論者がいう秘密結社そのものじゃないか」
『……』
何かを探るような沈黙を挟んで、アンスズは溜息を吐き出すように呟いた。
『……CIAのショコラーデですか』
「驚いてくれないのは少しだけ残念だ。そう、先進国の諜報機関なら、すでに君たちの名前くらいは把握している。
いや、名前しか把握できていないといった方がいいだろうね――だから、こうして直接話す機会を持ちたかった」
『話して、どうするつもりですか? 我々の仲間になりたいと?』
「いいや」
首を振る。ココはそこで一度言葉を切り、唇を舐めて湿らせた。
この言葉を向ける為に、自分はこんな無茶をした。この決定的な言葉を。舌の上に落ちた雪が末期の水にならないことを祈りながら、口にする。
「いいや――その逆さ。君たちを私の仲間にしたかった」
「ココ?」
手榴弾を握りしめているヨナが混乱したような表情を浮かべる。
セガール――おそらくサガラというのであろう少年兵も、不審げな眼差しを向けてきた。
アンスズは回線の向こうでどんな表情をしているのだろう。驚愕か? 侮蔑か? それとも呆れたか?
『貴女の私兵になれ、と? 武器商人の護衛に?』
「前半は正解で、後半は外れだ。私は武器が嫌いだ。兵士も嫌い。それを許容するこの世界が大嫌いだ。
けれど私は破滅主義者じゃない。だから世界から武器をなくしたいと、そう思った」
『武器をばら撒いている張本人が、ですか?』
「君たちだって、火種を摘み取るために本意でなくとも暴力を使うだろう? だが、そのやり方じゃ根本的な解決にはならない。
ミスリル。架空の銀を名前に戴く君たちは、世界から争いの火種を取り除いている
けれど、イタチごっこさ。君たちの努力とは裏腹に、人を殺すための鉄の塊が次々に生産され、何人もの子供が戦士として育てられている。
そして、そう。君の言う通り、私達のような武器商人が世界中に火種を撒く」
『……』
「対処療法だと、君も自覚している筈だ。そして永遠に続く組織なんてものはない。
君たちの場合はアマルガムというこれ以上ない敵対者がいるのだから、なおさらだ」
『我々ではアマルガムに勝てないと……?』
「勝敗に意味はないよ。君たちが勝ってアマルガムが消えても、途端に世界中の内戦が終わるわけじゃない。
ジオトロン社辺りの軍需企業が、第二のアマルガムになるだけだろうさ」
『"自分なら違う未来を提示できる"とでも言いたげですね。一介の武器商人が、世界を正せると?』
「そう、まさに一介の武器商人が真の平和にチェックを掛けているのさ。だから」
「ココ!?」
ヨナの制止を無視して、ココはハッチの縁から操縦席に飛び降りた。足首まで固めた登山用ブーツのお陰で、足を捻ることもない。
マスタースーツの上に着地し、アンスズのもとに繋がっているであろう搭載カメラに向かって手を伸ばす。この手を取れ、とでも言いたげに。
「――だから、同道したまえ。君が本当に世界の平和を望んでいることは分かった。
ミスリルという組織そのものはともかく、少なくとも君自身は。
その君が見たい景色を、私が見せてやろう」
77 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/31(水) 22:25:40.51 ID:cq3YeS910
◇◇◇
<デ・ダナン>の発令所には、ざわめきが広がっていた。
無理もない。武器商人の言葉は滅茶苦茶だ。世界平和? 戦争をなくす? 10にも満たない私兵を持つだけの武器商人が?
性質(たち)の悪い冗談だ。そう言って切り捨てるべきものだろう。
――そう、本来ならそうやって切り捨てられるものの筈だ。笑い話。与太話。その一言で済む戯言に過ぎない。
それでも発令所の空気が落ち着かないのは、ココ・ヘクマティアルの言葉に自信が漲っていることを全員が感じているからだ。
カリスマ、というものがある。それは人を惹きつける才能だ。
ヘクマティアルはそれを持っている。彼女の言葉を、荒唐無稽なはずのそれを、だが一笑に付すことが出来なくさせる力。
(そう……きっと、彼女はやる。嘘や誤魔化しじゃない。本当に、その為の手段を用意している)
モニターを見る。アーバレストのコックピット内カメラ。相良宗介を押しのけて、今は女武器商人の顔がアップで映っている。
ヘクマティアルは危険だ。もはや一介の武器商人とは言えまい。約束を反故にしてでも、ここで始末した方がいいのではないか?
テレサ・テスタロッサは足元に視線を落とした。自分の乗っている船。<トゥアハー・デ・ダナン>。世界最強の潜水艦。
やろうと思えば世界中を火の海にできる兵器。だが、この力をフルに発揮したところで世界から争いを無くすことなどできない。
ヘクマティアルになら、それが可能だと……
「嘘では、ないのでしょうね」
「艦長?」
少しだけ目を見開いて、マデューカスが声を掛けてくる。テッサは意図的にそれを無視した。
反対側のカリーニンは、先ほどから沈黙を保ったままだ。ヘクマティアルがASを不自然な兵器と言い放った頃からだろうか。
「貴女には、何か切り札があるのでしょう。詳細を教えてはもらえない?」
『もちろん、教えるさ――君が仲間になってくれるのなら』
「戦術データリンクへの介入に何か関係が?」
『さて、どうかな』
「……では、最後にひとつだけ」
テッサは背もたれに体重を預け、モニターの向こうのヘクマティアルを見つめることだけに注力した。
放つ弾丸は一つの質問。その論撃をもってして、相手を見定める。
「ココ・ヘクマティアル。貴女がどのような力を持っていても、世界から争いを無くそうとすれば、そこには多大なリスクが伴うでしょう。
四角いものを丸くするには、四辺を切り落とさなくてはならない。そして貴女の言う通り、世界が四角くあることを望む者達は大勢いる。
そんなことをするくらいなら、武器商人を続けていた方がよっぽど堅実です。貴女にはその才能がある。
そんな貴女が、どうして世界平和を実現しようと?」
『簡単な話さ。私は武器が嫌いなんだ』
「武器商人の貴女が、ですか?」
『冗談でもなんでもないよ。私が武器を売る理由は、ここにいる少年兵のヨナ、セガール氏が傭兵をやっているのと同じだ。
私には、それしか道が無かった。たったそれだけの理由さ。私が売った武器で死んでしまった人には本当に申し訳なくなる。
だから、彼らに報いたかった。彼らに納得してもらいたかった! あなた達の犠牲は、決して無駄ではなかったと!
そんな考えが積み重なって、私は世界平和に手を伸ばした』
「贖罪――ですか」
『その言葉が一番近いかな。といっても……』
ヘクマティアルが息を継ぐ。
続いたのは、予想していなかった言葉だった。
78 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/02/01(木) 18:45:53.92 ID:wPon2NkOO
2レスか…
ただ書くのにすごい労力使いそうだなこれ
79 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/02/01(木) 20:03:13.58 ID:RpEvvejf0
『……直接的な一番の切っ掛けは、クウェート事件ということになるんだろうけどね』
「クウェート事件、ですか?」
テッサは出来る限り平坦な声になるように努めながら、相手の言葉をオウム返しに繰り返した。だが、その心中は穏やかとは言い難い。
クウェート事件。クウェート北部で発生した、広島・長崎に続く人類史上3度目の対人核使用。
それに用いられた電磁迷彩の基礎技術は、他でもない。自分と兄が子供の戯れに造り上げたものだった。
『君たちに説明するのは、釈迦に説法というものだろうけどね。十万人以上の命を奪った核攻撃。
ECS搭載型のミサイルは、どこから、誰が、何の為に発射したのかを掴ませなかった。
中東がいまだにごたごたを続けている理由でもある』
そして、とヘクマティアルは続けた。
『その数日前に、私は本部から初めての仕事として、ある荷物の運搬を任されていたんだ。
中身は機密。取引相手の素性もフェイクだった。とにかく目立たず極秘裏に運べと言う指示でね』
「……まさか」
『そうさ。後で調べてみて分かったよ。クウェート事件で使用された、謎の核ミサイル――あれに搭載されたECSは、私が運ばされたものだった』
一瞬で10万人以上の人命を奪った最悪の禍事に加担してしまった。間違いなく彼女が売った武器の中で最大の被害をもたらした。
それが、ココ・ヘクマティアルの原点だ。そしてそれは、テレサ・テスタロッサの原点と同種のものでもある。
(ココ・ヘクマティアルは、わたしと同じ――同じ罪悪感に苛まれている。この重さを、知っている)
共有できる者などいないと思っていたこの枷の感触を知っている者が、目の前にいる。
思わず、テッサは唇を噛み締めた。でなければ、震えた声を漏らしてしまいそうだった。
その震えは何に起因するものか。同胞を見つけることの出来た歓喜か、心の内を吐露しそうになる恐怖か、果てまた――
『……さて、値踏みはこのくらいでいいだろう。寒空の下で待つのも辛い。そろそろ合否通知をくれたまえ』
そして響いた、ヘクマティアルの声に。
テッサは全身から力を抜いた。小さな真珠色の歯を、突き立てていた唇から離す。幸い、血の味はしなかった。
「……そうですね。分かりました」
モニターに向けて微笑みを浮かべた。妖精のような、儚く可憐な微笑。向こうには伝わらないだろうが、浮かべるべきはこの表情だと思った。
その笑みを浮かべながら、ミスリル西太平洋戦隊<トゥアハー・デ・ダナン>の艦長は。
「――謹んでお断り申し上げます、武器商人」
きっぱりと、拒絶の文言を読み上げた。
80 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/02/01(木) 20:03:39.09 ID:RpEvvejf0
◇◇◇
「……理由は?」
駄々をこね尽した挙句、ようやく目当てのお菓子を買ってもらえないことに気づいた子供の様な表情で。
ココは知らずの内こわばっていた体を弛緩させながら、溜息と共に言葉を吐き出した。
『一言でいえば、貴女が信用できないからです。確証も何もない話に、ましてや部下を道連れにして乗ることなんて出来ません』
「給料は今以上に出すよ?」
『お金の問題ではなく、信念の問題です――貴女は四辺を切り落とすという言葉を、否定しませんでしたね?』
「……何とも賢しいことだ。ひっかけ問題とはね」
『貴女の動機を知りたかったというのも本心です。ミス・ヘクマティアル。できれば、貴女こそ我々の仲間になって欲しいと思いますが――』
「それは、君にとって最大の賛辞なのだろうね、ミス・アンスズ。だが、それこそお断りだ。私は私の手管で世界平和を目指す」
『多くの犠牲者がでる方法で?』
「第三次世界大戦で死ぬ人間よりは少ないさ」
『結局、そこなのですね。貴女は、人に見切りをつけてしまったのでしょう。愚かしい人々は、自ら武器を捨てることはしないと』
「できない、と言った方が正しいね。一度武器の頼もしさを知った者は、武器を手放せなくなる。
それとも、君なら彼らに武器を捨てさせることができるとでも? 陳腐なファンタジーに出てくるような聖女よろしく?」
『それができるのなら、この席に座ってはいません。ですが、わたしは貴女ほど他人に絶望していない。
"その時"は、いずれくると信じることができます』
「では、勝負になるな。その時が来るのが早いか、私がスイッチを押し込むのが早いか」
『……貴女に勝つことは、おそらく困難な道ですが』
回線の向こうから、凛としたミス・アンスズの声が響く。
『けれど、貴女に負けることはできない。その企みは、いずれ我々が挫きます』
「決裂、か。なんとも悲しいことだ。だが、それでもこの邂逅自体は有益なものだったよ」
『遺憾ながら、それについては同感です。では、これで。ココ・ヘクマティアル』
「ああ、これで――さようならだ、ミス・アンスズ」
ぷつり、と通信が切れる。ココは溜息をひとつ吐くと、背後でむっつりとした表情を浮かべている少年兵と向き合った。
「ところで、君はどう思う? セガール君。人は、自ら武器を手放せると思うかい?」
「俺を引き抜こうとしているなら無駄なことだ」
突然水を向けられたことに驚愕も躊躇いも見せず、セガールは愛想が欠落した口調でそう返した。
その様子に、ココは苦笑を浮かべる。まさに忠犬と言った有様だ。
「いや、単純な興味だよ。ヨナと同じ少年兵。君は武器を憎んではいなそうだけど、その歳でこの世界にどっぷりと浸かっている。
そんな君から見て、ミス・アンスズの夢は現実になると思うかい?」
「……難しいだろうな。お前の言う通り、武器を捨てられない奴をごまんと知っている。俺もその一人だ」
「なら――」
「だが、俺は彼女を信じている。お前などよりも、ずっと信頼がおける人物だ。
彼女が来るというのなら、それはいつか必ず来る」
「……彼女も、部下に恵まれているな。分かった、籠絡は諦めよう――下におろしてもらえるかい?」
81 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/02/01(木) 21:27:36.89 ID:nyvJPa8P0
ココの言葉は簡単に言うといかがわしいんだよな、薄べったいとまでは言わんが
82 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/01(木) 19:42:32.20 ID:NjFxGLD10
◇◇◇
『――全チーム撤退。機体を起こして回収ポイントへ。βは到着次第、中破機体の補助に当たれ』
「ウルズ1、了解――終わったか」
ヘッドギアに響く<ダナン>からの通信に、クルーゾーは人心地ついたように息を吐いた。
狙撃、アーバレストの復帰、敵の取りつき、交渉――目まぐるしく移り変わる状況が、ようやく落ち着いたのだ。
「――そうですか。ならば、拘束を解いてもらっても?」
だから、そのタイミングで耳元に届けられた肉声に、クルーゾーは目を見開いた。
改めて認識した視界の中に、自分が拘束していたバルメの隻眼が写っている。意識を取り戻した彼女が、顔を半分だけこちらに向けていた。
「っ……これは失礼した」
ばっ、と首元に回していた腕を離すと、バルメはよろけもせずに雪原を歩いて見せる。
(水月に、これ以上ないほどの完璧な一撃をいれたというのに――もう回復したというのか)
尋常でないタフネスだ。さらに驚くべきことに、バルメはしばらく足を進めると、雪の中に腕を突っ込んだ。
クルーゾーが訝しげな視線を向ける中で、バルメはこともなげに雪中に埋まっていたナイフを取り出して見せる。
「――あの状況で、投擲したナイフの落ちる位置を完璧にイメージしていたと?」
「いいえ、そんな小難しい話ではありません――これはココがくれたものなので、たとえ地球の裏側にあっても分かります」
真顔で紡がれたそんな台詞に、クルーゾーは咄嗟に反応することもできなかったが。
バルメは拾ったナイフを鞘に納めると、クルーゾーに向き直った。拳を突き付ける。
「ミスタ・ファルケ。今回は私の負けですが、私がココの部下である限り、負け犬で有り続けることはできない
――次に戦場で出会った時には、必ずこの雪辱を返します」
「……武術を修めた者として、貴女のような練達者との切磋琢磨は何にも代えがたい経験だ
――次に見える時は、小細工なしで五分の勝負を」
包礼拳で返したクルーゾーの言葉に、バルメは満足したように頷くと踵を返した。軽やかに武器商人の元へ走り出す。
去りゆく背中に危ういところは一欠けらも見えない。対して、こちらは全身の裂傷がじくじくと熱を持っている。
ナイフ使いの背中が完全に見えなくなった辺りで、クルーゾーは誰にも聞こえないような小声でぼそりと呟いた。
「二度とごめんだ……」
◇◇◇
83 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/01(木) 19:42:59.13 ID:NjFxGLD10
◇◇◇
「ほらよ、兄ちゃん。返すぜ」
レームが放ったヘッドセットを、クルツは憮然とした顔で受け取った。
「何だかなぁ、俺、今回はいいとこ無しだったぜ」
「おいおい、超神兵たる俺様とルツの二人掛かりでどうにか抑えてたんだ。むしろ誇れよ。
お前さんがいなかったら、こっちはもっと楽が出来たんだぜ?」
「あーあー、嬉しいお言葉。一緒に基地までついてきて、凶暴な上司や整備隊長殿にそのことを話してやってくれよ。
あと、そっちが俺を抑えてたんじゃない。俺がそっちを抑えてたの。オーケー?」
「へっへっへ、ふかしやがる」
笑いながら、レームは防寒ジャケットの内ポケットから煙草を取り出した。寒冷地用のライターを使って着火。紫煙を肺に送り込む。
その独特の赤いパッケージを、クルツは見逃さなかった。ぶーたれていた表情をパッと輝かせると、図々しく手を突き出す。
「あっ、マルボロじゃん。おっさんもそれ吸ってんだ。一本くれない?」
「煙草の趣味は良いらしいな。ほらよ」
ライターごと投げてやる。クルツはヘッドセットと持ったのとは逆の手でキャッチし、片手で器用に取り出し、着火して見せた。
「サンキュー……ふぅー、一仕事した後の煙草は美味いぜ」
「全くだ。特にうちじゃ吸えねえことも多いからな。ひとしおだぜ」
「そりゃひっでぇな……うちの部隊に来るか? 喫煙スペースはそこら中にあるぞ」
「魅力的なお誘いだが、こっちの雇い主はもっと魅力的でね。ちょっとの禁煙くらいは目をつぶることにしてる」
「納得。若くて頭の切れる、美人のボスか。羨ましいね。うちの姐さんも、もうちょっと可愛げがありゃあ――」
『――可愛げがありゃあ、なんだって?』
「いぃっ!?」
ヘッドセットから漏れる、地獄の底から響くようなメリッサの声にクルツは思わず咥えていた煙草を取り落した。
どうやら回線が開きっぱなしだったらしい。そういえば、マイク感度も最大にしたままだ。
『呑気に談笑とは恐れ入るわー。帰ったら凶暴で可愛げのない上司とやらは何て言うのかしら?』
「いやっ、これは違くて! そう、姐さんに可愛げがあったらそれはもう姐さんじゃないっていうか――」
『いいからさっさと戻ってこいこの×××!
1分以内に機体を復帰させなきゃケツに砲弾を突っ込んでハンマーで叩いてやる! 返事は!?』
「イエス・マム! ――ああ、くそっ。おちおち煙草も吸えやしねえはこっちも一緒か。
じゃあな、おっさん――次は白黒つけようぜ」
ライフルを担ぎ、騒がしく喚き立てながらその場を後にするクルツを見送って、レームは煙を吐き出した。
「次がないことを祈るぜ……あるとしても、狙撃戦はできんな。あんなんがいるんじゃ、俺もロートルかねえ」
だが、おそらく"次"はくることになる。
レームは雪上車に向けて歩き出した。仲間たちも集結しつつある。
その中心で少年兵を随えた武器商人が、いつものように笑っていた。
(仲間にしたかった、か――嘘じゃねえんだろうが)
だが、ココがそれだけの為に今回の作戦を計画したとは思えない。
全滅の可能性というハイリスクさ。それなのにリターンが返って来るかは相手次第。
ココ・ヘクマティアルは優秀な"商人"だ。その彼女が計画したとは思えない。いや――
現状、自分に見える範囲ではそう思えないということだ。
(さぁて、ココは何を考えてるんだかね……)
疑念を胸中に浮かべながら、レームは煙草を携帯灰皿に押し込んだ。
84 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/01(木) 19:43:49.35 ID:NjFxGLD10
◇◇◇
緊張から解放されて、テッサは艦長席の背もたれに全ての体重を預けた。
雪に埋もれた<ガーンズバック>3機は全機復帰できた。回収ポイントまでの移動は問題ないだろう。
隣で直立不動を保っているマデューカスも、僅かに力を抜いたようだった。テッサ以外に気づいた者はいなかっただろうが。
「お疲れ様です、艦長。一区切り付きましたな」
「ええ。ですが、これからやらなくてはいけないことも山積みです。
さしあたり、ヘクマティアルから流された名簿と販路の確認、情報部との折衝……といったところでしょうか」
「それと、戦術データリンクへの干渉に関してもですな――やはり、内通者でしょうか?」
後半は声を潜めるようにして、マデューカス。
それに対して、テッサは迷いもせずに首を横に振った。
「チェックは必要ですが、8月の件で徹底的な洗い出しをした後です。可能性は低いでしょう」
「では、外部の線が?」
「私はそう考えています」
テッサの断言振りに、マデューカスが眼鏡の奥の瞳を見開いた。てっきり艦長は否定するものとして外部犯の可能性をあげたのだが。
「艦長。私は電子的なセキュリティ技術について専門の知識を持ちませんが、それでもミスリルのそれが非常に厳重であることは理解しています。
アマルガムとて簡単には突破出来ないでしょう。それを、一介の武器商人が成し得たと仰るので?」
「ええ。ココ・ヘクマティアルは武器を持っています。こと電子戦に関しては、至極強力な武器を。
彼女の資料を見ていて気づきました――」
言いながら、テッサは目を閉じた。そのまま間を空けないように意識しつつ、言葉を紡ぐ。
「――"おしゃべりラビット・フット"です。ヘクマティアルがキャンプ・ノーから誘拐した天才ハッカー。
タイミング的に、この作戦の為に用意した手札でしょう」
「その兎何某ならば、M9のデータリンクに介入できると?」
「世界的に見ても稀有な才能を持った人物です。
博士号も取得している、そこらのアングラ知識をかじっただけのギークとは訳が違います。
ヘクマティアルからの十分な支援を得られれば、あるいは……」
「対策は?」
「防壁の見直しを計ります。当面は暗号化のパターンを変更して凌ぐことになるでしょう」
「では、その様に各部門に通達を」
「お願いします」
隣でマデューカスが指示を飛ばし始めるのを余所に、テッサは瞑ったままの眼で天井を仰いだ。
85 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/01(木) 19:44:19.24 ID:NjFxGLD10
視界を閉ざしていても、<デ・ダナン>の中で彼女が思い描けない場所はない。
瞼を隔てた目線の先には、発令所の動きをチェックするカメラがある筈だった。
これはトラブルなどが起こった際、その事実関係を記録する為の物である。
8月のガウルンによる占拠騒動の後も、このカメラの映像を本部に提出し、後にセキュリティ対策を強化する際に反映された。
そのカメラも、もはや信用できない。そして、信用できないと思っていることを悟られてはならない。
カメラの向こうにいるかもしれない、ココ・ヘクマティアルに。
(――ラビット・フットがどれほど優れたハッカーであっても、<ダーナ>のプロテクトを突破できるとは思えない)
先ほどマデューカスに対し述べた考えは、意図的に誤解を招くような言い方をしてある。
必要な処置だった。もしも自分の考えていることが正解で、その解に辿り着いていることをヘクマティアルに知られれば――
(最悪、彼女は<ダナン>を沈めるでしょうね)
そう、追い詰められたものは形振り構っていられなくなる。
そしてあの武器商人は、おそらくそれができるほどの力を手にしているのだ。すでに艦内の映像・音声を把握していないとも限らない。
自分が組み上げた<ダーナ>もその初歩に踏み込んではいるが、おそらくヘクマティアルが擁しているのはもっと高度で、言ってしまえばSF染みた性能の物だろう。
(――量子コンピューター。M9の電子防壁を掻い潜った以上、既に実現していると見るべきでしょう)
試合に勝って、勝負に負けた。そんなとこだろう。ヘクマティアルは、いつでもM9全機のリアクターを停止させられたはずだ。
そして、それをしなかったのは――
(――本命の目的は、別にあった。わたし達を引き抜こうとしたのはあくまでついでね。いささか性急すぎる要求だとは思ったけれど。
ヘクマティアルが言う"世界を平和にする為の手管"は、量子コンピューターの存在がその鍵となる筈。
であれば、今回の接触の目的は、わたし達がそれに気付けるか、あるいは止められるかという確認でしょう)
果たして、ヘクマティアルは<ミスリル>をどう評価したのか。
取るに足らない存在だと思ったのか、果てまたアマルガムと争っている内は対応する余裕がないと判断したのか。
(何にしろ、ヘクマティアル――本当に、貴女を勝たせるわけにはいかなくなった。
貴女が取るであろう手段は、おそらく最低でも数十万単位での犠牲が出る)
誰かに相談することは出来ない。あからさまに動くこともできない。
それでも、テレサ・テスタロッサはココ・ヘクマティアルと対決する。
(貴女は、どこかあの人に似ている――この世界に見切りをつけてしまった怪物、わたしの兄に。
だからこそ、貴女のこと"も"わたしが止めて見せます)
86 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/01(木) 19:44:49.48 ID:NjFxGLD10
◇◇◇
ざふざふと雪を踏み鳴らしながら、ヘクマティアルはインカムに声を飛ばす。
「南、どこまで調べられた?」
『まあ、大体は。いまはソ連沿岸沖に潜航してるって。いやー、とんでもない化け物潜水艦だね』
無線の相手はミナミ・アマダ――自分の数少ない友人にして、共犯者。そして量子演算機<ヨルムンガンド>を開発したブレイン。
今回の作戦の真の目的は、あの部隊と接触し、機体及び母艦である潜水艦にヨルムンガンドで走査を行うことにあった。
仲間になって欲しかったというのも嘘ではないが、それはあくまでおまけのようなものだ。
ヨルムンガンドによる強制的世界平和――その実行に際して、彼女たちが障害になるかどうか。本当に知りたかったのはその一点。
事前の調査で、<ミスリル>という組織の規模や構成は大まかに知ることができた。
だがひとつだけ、異常に高いセキュリティを掛けられた情報項目があったのだ。
ハッキング対策として情報そのものが電子化されておらず、僅かなメールでのやり取りからおぼろげに浮かび上がってきたその存在。
世に出回っているものより遥かに高度な"存在しない筈の技術"。そしてミスリル内で唯一その運用を行っている部隊<トゥアハー・デ・ダナン>。
「で、どうだった?」
『たぶん、これだね。一か所、ヨルムンガンドでも通らない箇所があった。これはセキュリティレベルの問題じゃない。
多分、構造自体が既存の技術体系と異なるんだろう。ヨルムンは言わば桁外れの性能の計算機だ。
地球上のどんなパスワードでも瞬時に解析して開錠できるけど、使われてるのが火星人語なら話は別。
分かったのは名前だけだ。"レディ・チャペル"』
「推測もできないか?」
『おそらく艦の制御系に作用するものだと思う。
ログを漁ってみたけど、8月に一度だけ使用されてて、その際に操舵権のオーバーライドが起こってるから』
「それが船の制御中枢を担っているなら、沈めることは難しい、か……」
『おいおい、ココ。今回はあくまで調査だけって話だったじゃん。
あと、"おしゃべり"が後ろで凄いうるさいんだけど。向こうが今回の戦術データリンクへの干渉、こいつの仕業だって考えてて――』
「"本当に"そう考えてくれてるなら、問題はないんだけどね」
『あー、はいはい。殺されやしないから少し静かに――うん? ココ、なんか言ったぁ?』
「相手は想像以上にヤバイかも、だ。ミス・アンスズ――テレサ・テスタロッサ大佐は強敵だよ。こちらの思惑に気づいていてもおかしくない」
『どうすんの? ソ連軍の潜水艦全部そっちに回す?』
「いや――ここは待つ」
『待つ?』
「彼女は強敵だが、弱点がある。所属している組織が、現在アマルガムと抗争中ということだ。
おそらく最短で半年、長くても2年以内には両組織間で全面的な戦闘が発生するだろう。
結果はアマルガムの勝利、良くて相討ちが精々だ。そしてアマルガムの組織形態は、ヨルムンガンドを擁する我々にとってすこぶる相性がいい」
アマルガムは電子上のオンライン会議で組織の方向性を決議している。
そこに入り込むためのパスワードは複雑な方法で定められているが、電子データである以上、ヨルムンガンドならば暴くのは簡単だ。
「アマルガムは乗っ取っても、自滅させてもいい。
彼女がクーデターを起こしてミスリルの実権を握ろうとでもしない限り、我々の勝利は揺るがないというわけさ」
『逆に言えば、その子が自由に動けるようになれば私らヤバイってことじゃん』
「そうならないことを祈るしかないな。話は終わり?」
『あとひとつ。例のASだけど、それにも"レディ・チャペル"と似たようなものが搭載されてる。例によって詳細は不明だけどね。
ただ面白いことに、そのASの記録領域に日本の古文の問題が保存されてたんだよ。高校の宿題みたいだね、懐かしいものを見た』
「どこの高校のものか、調べられるか?」
『もう調べはついてる。ある学校の裏サイトでまったく同一の問題が挙げられてたよ。宿題は自分でやんなきゃダメだよね。
――都立陣代高校っていうらしい』
「……そのくらいの年ごろだとは思っていたが、まさか本当に高校に通っているのか? 学生と傭兵部隊との二足の草鞋とはね」
『気になるなら、さらに調べる? さすがに隊員のデータまでは吸い出さなかったから』
「いや、いい。ミス・テスタロッサが通っているというのならともかくね。
じゃ、切るよ南――続きは"そっち"で話そう」
待ってるよ、という返事を聞いてから、ココはインカムから指を離した。隣を歩く少年兵に微笑みかける。
87 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/01(木) 19:45:37.06 ID:NjFxGLD10
「終わったよ。ごめんねー、たて込んじゃって」
「……電話の相手はドクター・マイアミ?」
「おや? ヨナ、日本が分かるようになった?」
「いや。でも最後の"ミナミ"だけ聞き取れたから」
「耳がいいことだ。今回もそれで助けられたしね――ヨナ隊員は優秀である」
「……ところで、ココ。向こうの指揮官と話してた内容だけど……」
「気になるかね、ヨナ」
「ああ――ココは、何を企んでいるんだ?」
足を止める。少年兵も追随して歩みを止めた。
目的地に着いていた。周囲には彼女の私兵が集結している。トージョとウゴを除いてだが。
彼らの視線を真っ向から受けつつ、ココは小首をかしげて見せた。雪上車の後部座席を指さして、
「……なんでバルメが死んでるの?」
無論、本当に死んでいるわけではない。ただ、顔中に脂汗を浮かべた彼女がぐったりとダウンしているという光景はなかなか珍しいものだった。
レームが応える。
「強がってここまで走ってきたんだとさ。一発いいの貰ってるってのに。命に別状はねえだろうが、山を下りたら医者にも見せた方がいいな」
「未だに信じらんねえ。素手でナイフを持ったアネゴを倒すとか、相手はターミネーターか何かか?」
肩をすくめるルツの横を通って、ココは車両の窓越しにバルメに話しかけた。
「バルメ、大丈夫か?」
「ああ、ココ……すみません。私が無様をさらさなければ、交渉も容易かったでしょうに」
「いいや、君は――君たちは本当によくやってくれた。レーム、トージョ達の方は?」
「無事だとさ。既に救助の手配もしてある――で、だ」
レームはいつもの軽薄な笑みを引っ込めて、真剣な表情に切り替えた。
「聞かせて貰いたいね、ココ。今回の作戦の真意も、この後にやろうとしてる山についても」
視線が色を帯びる。信頼、値踏み、期待。それら全てが混ぜこぜになった混沌を注がれて。
ココ・ヘクマティアルは一切の動揺も躊躇いも怯懦もなく、いつものように薄い笑みを浮かべていた。
「ああ。諸君らに話す時が来た。さあ、行こう――我々に相応しい舞台が待っている」
88 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/01(木) 19:46:03.86 ID:NjFxGLD10
◇◇◇
暗がりに光るホログラムの不細工な人型。無数に乱立するそのひとつひとつが、世界を裏から牛耳るアマルガムの幹部たちであるなどと誰が思おう。
邪気のない笑みを浮かべながら、アマルガムの幹部であるミスタ・Cuは彼らの遣り取りを耳にしていた。
今の話題は、先の<トゥアハー・デ・ダナン>が行ったソ連での作戦行動についてだ。
本来なら、紛争の調整を行うこの会議に上がる筈もない話題である。
だが香港での一件以降、あの部隊はアマルガムの中でも注目度を上げていた。誰かが何の気なしに挙げた話題が、こうまで膨らむほどに。
『――ことの顛末は以上です。ミスリルのあの部隊も、今回は痛手を蒙ったようで』
『ふん! たかが武器商人相手にあの様とはな!』
『だが、それならミスタ・Kの失態は?』
『油断していたんだろう! まったく、あれは酷い損失だった――』
話が愚痴・不満大会の方に流れそうなのを見越して、Cuはミュートにしていたマイクのスイッチをオンにする。
「まぁまぁ! あの時は結果として、両中国の軍備事情に介入できたのですから」
『ミスタ・Cuか――通信状態が悪いようだが? 雑音が入るぞ』
「申し訳ありません。少し背後が立て込んでおりまして……」
『ふん。まあいい。ところで今日は聞きに徹してたようだが、何か提案でもあるのかね?』
水を向けてきたのはミスタ・Guだった。アマルガムの中でも、かなりの発言権がある人物だ。派閥造りに腐心しているとも聞く。
自分にも何度か『声』が掛かったことがあった。今日を境に、もう誘いはなくなるだろうが。
「ええ。提案ではないのですが――本日をもちまして、私は<アマルガム>から去ろうと思うので、最後に挨拶を、と」
どよめきが起こる。アマルガムに参加しているのは、戦争の調整で大きな利益を得ている者がほとんどだ。
脱退させられるのならともかく、自ら辞める者などあろう筈がない。
『どういうことだ? 君はメンバーの中でもかなり精力的に動いていた方だったと思っていたがね』
「個人的な事情ですよ。立つ鳥跡を濁さず。ここで話しておけば、後のことは調停役のミスタ・Hgが対応してくれると思いまして。
別にお別れパーティをして欲しいわけではありませんので!」
僅かな含み笑いのようなものが何人から漏れるが、引きとめようとする者はいない。
そして、ミスタ・Hgの対応も素早かった。ホログラムが一瞬で全て消え失せる。会議場から強制退室(キック・アウト)させられたのだ。
「ふぅ、こっちは終わり。いい商売相手が何人かいたような気もするんですけどね――うん?」
目の前で、暗転したはずの画面が切り替わり、先ほどまでとは別のチャットモードが起動する。
接続を意味するホログラムがひとつだけ表示されていた。その名前は――
「――ミスタ・Ag?」
『やぁ、ミスタ・Cu。いや、元、を付けた方がいいかな?』
「何でも構いませんが、わざわざ何の御用ですか?」
『手段ではなく、目的を聞く、か――その君の聡明さは、前々から気にかけていたんだよ。辞めてしまうのは残念だ。
コダールの部品調達にも、かなり貢献してくれただろう』
「まさか労いの言葉を貰えるとは思っていませんでしたが、その為にわざわざハッキング染みた行為を?」
『いや、理由が知りたかったんだ。君の背後が騒がしい理由と関係があるのかい? それなら――』
「それは関係ないですよ。ただ、妹から"そろそろ馬鹿げた八百長グループから抜けておけ"と言われまして。
あいつがわざわざこんな忠刻染みたことを僕にすることは滅多にない。だから、その"滅多"は信用することにしているんです」
『そうか、妹君も賢いようだ――僕の愚妹と交換してほしいくらいだよ』
「フフーフ、それはやめた方がいいでしょう。あいつはきっと貴方と相性が悪い。
それで、話は終わりですか? そろそろここも引き払おうと考えていまして」
『いや、最後にひとつ、質問をさせてくれ――キャスパー・ヘクマティアル』
89 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/01(木) 19:46:52.98 ID:NjFxGLD10
本名を言い当てられたことについて、元ミスタ・Cu――キャスパーは驚くことすらせずに、酷薄な笑みを口元に浮かべた。
「一応、プライバシーは守られているという話だったと思いますけど」
『ミスタ・Guからの勧誘を受けている連中を調べていてね。君の素性を掴むのが一番苦労したよ』
「では、後ろのこれは脅しで?」
「キャスパぁー、まだおわんないの? あの小型ASの相手、疲れるんだけど」
背後から響いているのは銃声と爆発音の連続だった。
部下であるチェキータが、対物ライフルを片手で軽々と持ち上げながら、部屋のドアを開けて首だけ突っ込んでくる。
対人用として人間大にまで縮小されたAS<アラストル>が、キャスパーのセーフハウスに襲撃をかけてきたのが15分ほど前。
キャスパーが擁する4名の私兵たちは、鋼鉄の執行者をここまでどうにか退け続けていた。
チェキータにもう少し、とジェスチャーを返す傍ら、画面の向こうのミスタ・Agが肩をすくめる気配が伝わってくる。
『その件に関しては謝罪するよ。君が向こうに着くのは好ましくなかったからね。
まさか、今日の会議であんな発言をするとは思わなかった』
「それなら、さっさと引きあげさせて欲しいものですけど」
『質問に答えてくれたらね。キャスパー・ヘクマティアル――君は、この世界を正しいと思うかい?』
「というと?」
『君なら気づいているだろう。ASという兵器の不自然さ。<ラムダ・ドライバ>なんていうSF染みた機構の存在。
それをもたらす<ウィスパード>という人種。その他、諸々についてさ』
「その口ぶりだと、貴方は"間違っている"と思っているようですね、ミスタ・Ag」
『ああ、その通りさ。この世界は間違っている。10年以上も前から、誤った方向に進み出してしまったのさ。
僕は、そんな世界を元通りにしたいと思っている――君もこっち側につかないか?」
「<アマルガム>を牛耳るのに手を貸せ、と?」
『あんなものに興味はないよ。それに僕は世界を正すのではなく、やり直すと言ったんだ』
「タイムマシンでも開発しましたか?」
『似たようなものかな。さあ、どうする?』
90 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/01(木) 19:47:26.53 ID:NjFxGLD10
問われて、キャスパーは黙考した。
丸っきりの絵空事、というわけではないだろう。ミスタ・Agは<コダール>開発の立役者。
<ラムダ・ドライバ>などという、人の意志を現実に反映させる胡散臭い装置があるのだ。
彼が何を作っていたとしても驚かない。
本当に世界をやり直すことができるというのなら。キャスパーは自問自答するような、小さな声で呟いた。
「僕は、その質問には答えられないな」
『時間が必要かい?』
「いや、そういうことではなくて――単に、どっちでもいいと思いましたからね」
キャスパーの返答を、ミスタ・Agは予想していなかったらしい。YesかNoか、そのどちらかが返ってくると思っていたのだろう。
『どちらでもいい、とは?』
「仮に、この世界の歴史が本来の物からずれているとして、それを正しても僕のやることは変わらない。
仮にアマルガムがなかろうが、冷戦が早期に終わっていようが、人は武器を手に取り、僕達は武器を売り続ける。
どれだけやり直したところで、世界は平和になんてならない。だから、貴方の計画が成功しても失敗しても僕には関係ない。
なら、精々楽な方を選びますよ」
『……残念だよ。まぁ、この勧誘は君がミスタ・Guに着くのを防ぐためのものだったから、
アマルガムを脱退した時点で半ば意味は無くなっていたのだけれど』
「貴方に目を掛けて貰ったのは、光栄と言うべきなんでしょうね。ですが、それも今日まで」
『ああ。そうだね。さよなら、キャスパー・ヘクマティアル』
通信が終る。ホログラムが消え去ったのを確認して、キャスパーはヘッドセットを取り外し、机の上に放り投げた。
背後では銃声が止んでいる。ミスタ・Agが撤退命令を出したのだろう。ネクタイを緩めながら、キャスパーは溜息をついた
「あーあ、アマルガムは結構いい稼ぎ場だったんですが、それもここまでですね。
――ココが言ったのはこういうことか。ミスタ・Ag……とんでもない厄ネタだ。フフーフ、触らぬ神に祟りなし、っと」
「キャスパー、敵さんが何か急に撤退していったけど――あ、こっちも終わった?」
「ご苦労様です、チェキータさん。こちらの損害は?」
「アランがベアリングで頬を切ったくらいかな。あと分かってると思うけど、もうここは使えないわ。
壁中穴だらけだもの。隙間風が酷くて風邪引いちゃう」
「では、さっさと撤収しましょう――我々は次の戦場へ」
91 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/01(木) 19:47:54.93 ID:NjFxGLD10
◇◇◇
結末は変わることもなく。
アマルガムの企みはミスリルの残党によって阻止され。
ココ・ヘクマティアルは最後のロケットを打ち上げた。
◇◇◇
92 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/01(木) 20:17:22.54 ID:NjFxGLD10
◇◇◇
バージニア州ポーツマス郊外。
墓参りを終えたテッサは、ボーダ提督と自分達のこれからについて話していた。
「こっちは五里霧中だよ、テッサ。<ミスリル>再建の目途は経っていない……マロリー卿もいなくなってしまったからな。
どうだ、もしいい金づるを捕まえたら、TDD-2を建造するというのは」
冗談のつもりで、ジェローム・ボーダはテッサにそう嘯いた。彼女は兄との因縁に決着をつけた。
もう、これ以上鉄火場にに足を踏み込むようなことはしないだろう。
だが、予想に反してテッサは「そうですね……」と呟き、黙考してしまう。ボーダは慌てて言い直した。
「いやテッサ、今のは冗談のつもりで――」
「ひとつだけ、心配事があるんです。兄の企みと同程度に危険かもしれない、そんな計画を立てている人物がいるかもしれません」
「……誰だね? <ミスリル>は壊滅したが、伝手を使えばそれなりの対処は――」
「いいえ。おそらく無駄でしょう。ですが諦めたくはない。おじさま、ひとつだけ頼みが」
「なんだね?」
「――しばらく、飛行機には乗らないでください」
◇◇◇
南アフリカ、ケープタウン。
タンカーから降りたココ・ヘクマティアルは、私兵たちに自分の計画を明かした。
ヨルムンガンド。同名の量子コンピューターを使用し、人類から軍事力を取り上げる強制的な世界平和の実現。
手始めに空を封鎖するという彼女の言葉に、ヨナは訊ね返した。それで発生する犠牲者の数は?
「――たった70万人だって。それがどうした、ヨナ?」
「そんなの、絶対に駄目だ、ココ!」
◇◇◇
93 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/01(木) 20:17:51.08 ID:NjFxGLD10
◇◇◇
沖縄、米軍基地傍。
救出作戦を待たず、自力で脱出してきた相良宗介は救出チームの面々と相対していた。
爆破で大騒ぎになっている米軍基地を横目で見ながら、メリッサの問いに応える。
「見ての通りだ。武器を捨てたいのは山々だが、これがなかなか難しい」
◇◇◇
カザフスタン、郊外。
ヨナは手にしていたライフルを崖から投げ落とす。
武器を捨てようとした。ヨナの私兵も、キャスパーの私兵も辞めた。もう、これは必要のないものの筈。
だけど、最後の武器である拳銃を捨てることができなかった。
武器の味を知ってしまったものは、武器を捨てることなどできない――そう、自分一人だけでは。
「何とかしてくれよ、ココ……!」
◇◇◇
94 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/01(木) 20:18:19.63 ID:NjFxGLD10
◇◇◇
東京、都立陣代高校。
抱擁を交わす二人の男女。相良宗介と、千鳥かなめ。
「ずっと……傍にいて」
「もちろんだ」
相良宗介は、自信満々に頷いて見せた。
◇◇◇
西アジア某国。
再会したヨナとココは、再びヨルムンガンドの是非を巡って言葉を交わしていた。
「私と世界、イカレているのはどっちだ?」
「僕は、世界もココもイカレていると思う」
ヨナは微笑みを浮かべながら、断言した。
◇◇◇
95 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/01(木) 20:18:51.16 ID:NjFxGLD10
「君さえいれば、武器などいらない」
「それでも僕は、ココについていくよ」
96 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/01(木) 20:19:31.90 ID:NjFxGLD10
終わりです。よーしエタらなかった!!
依頼出してきまーすヒャッホー!
97 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/01(木) 21:50:56.61 ID:4DrfEKiuo
乙
前の投稿から待ってた甲斐があった
98 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/01(木) 22:48:25.02 ID:L/wOvpQ6o
乙乙。最後まで続けてくれてありがとう
面白かったよ
99 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/02(金) 19:10:39.69 ID:FJPDfUmY0
おまけ ムンムンガンド・ふもっふ
100 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/02(金) 19:13:05.66 ID:FJPDfUmY0
南アフリカ、兵器展示会場にて。
ココとその私兵たちは、何とはなしにその中をぶらついていた。天田南博士との約束をすっぽかされた形になり、時間が空いてしまった為だ。
周り中、兵器と武器商人だらけなそんな状況の中。ヨナはふと思い立ったようにココに訊ねた。
「ねえ、ココ。さっき、ここにあるのはほとんど改造キットだって言ってたけど……」
「うん? ああ、その通りだけど、何か気になるかい?」
「ほとんど、ってことは、少しは新しい武器もあるの?」
「多少はね。大抵はコンセプトモデルというか、目新しさが先行してまだまだ実戦では使い物にならないものばかりだが……」
いいながら、ココはそういった兵器が集められている筈の一画を指示した。
遠目から見ても、珍妙な兵器ばかりが並べられているのが分かる区画だが――
その中でも、一際目を引く珍妙なシルエットを目にして、ココは動作をぴしりと停止した。
「……なにあれ」
それは一言でいうなら、動物を模したマスコットキャラクターの着ぐるみだった。
犬だかネズミだかよく分からないような外見。帽子に蝶ネクタイ、そしてつぶらな瞳が特徴的な、チャーミングな外見をしている。
兵器展のマスコットにしては、あまりにも牧歌的過ぎる異色の存在だ。事実、その周辺だけ異様に人気がなかった。
「ネズミのマスコット……ですかね? ほら、ココが好きなミッ○ーマウスの親戚とかじゃありません?」
「馬鹿言わないでよバルメ! ○ッキーは、もっと、こう、可愛いんだから! あんなのとは似ても似つかないって!」
「あれはあれで愛嬌があると思いますが……」
途端に声を荒げたココに気づき、私兵たちもなんだなんだとぞろぞろ集まってくる。そして件のキグルミを見て、誰もが適切な言葉を失った。
否。ひとりだけ、興奮したように声を張り上げた者がいた。トージョである。
「あれは……!? 『ふもふも谷のボン太くん』の主人公、ボン太くんじゃねーか!」
「知ってるの、トージョ?」
「ああ……日本の旧いアニメーションのキャラクターでな。
最高のスタッフと監督を集めて作られた、いまの水準からみても未だ見劣りしないクォリティの作品だったんだ。予算を使い果たして8話で打ち切りになったんだが、惜しいことをしたと思う。ファンの間じ
ゃ第三話でボン太くんが飛来する大量のミサイルを避けまくる伝説の5秒が有名なんだがな、確かに5秒間に100以上のコマを詰め込んだ無茶は相当のものだと思うんだがむしろ俺としちゃ2話のミュージ
カルシーンが見どころだと思うぜあの時代にアニメでミュージカルをやるっていうのはかなり異色というか時代を先取りしすぎていて過激派はボン太君唯一の汚点なんていうんだが何も分かっちゃいねえ
! ボン太君はふもふもの――」
「トージョ、早口で凄い気持ち悪いですね」
バルメの一言で死んだトージョを無視して、ヨナがボン太君に駆け寄った。心なしか少年兵の瞳が年相応の輝きを帯びている気がする。
「うわぁ……! ボン太君……! ……でも、これも武器なのか?」
「くぅ、ヨナが眩しい……! とはいえ、会場案内のマスコットじゃないの? 担当者が空気読めなかった――」
『ふもっふ!』
「喋った! 喋ったよココ!」
突如として喋りだし、それどころかふもふもと動き出した怪しげなキグルミに、ヨナ以外の私兵たちは思わず懐の銃を意識した。
101 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/02(金) 19:14:02.60 ID:FJPDfUmY0
それを抜かずに済んだのは、バシュゥ、という空気が抜けるような音と共にキグルミの背部が展開し、中から髭を生やした白人の若い男性が降りてきたからだ。
「やあ、ヘクマティアル! 相変わらず景気が良さそうだな!」
「べアール社長!? なんでそんなとこから……」
にこやかなオーバーアクションで手を広げる男に、ココが目を丸くする。いつの間にかココの傍に立ち位置を変えていたレームが、ココを横目で見、
「知り合いか、ココ?」
「まあ、一応。こちらはベルギーにあるブリリアント・セーフテックの社長、べアール氏だ。結構なやり手だよ」
「はは、お前に言われちゃ皮肉にしか思えんがな!」
「で、何でそんなところから? イベントコンパニオンに転向したとは知らなかったが」
「おいおい、冗談きついぜ。このボン太君はれっきとした兵器! 次世代を担うパワードスーツさ!」
「これが……? ああっ、ヨナ! そんな暗い顔しないで! ほら、飴を――飴をあげるから!」
それまでの輝きっぷりから一気に奈落の底に転落したヨナの表情を見て、ココが慌てたようにポケットからキャンディを取り出しヨナに与える。
「イチゴ味だ……」
菓子の甘さにヨナが平常心を取り戻すを待ってから、べアール社長は『次世代型パワードスーツ』について説明を始めた。
「知り合いの傭兵と共同開発したもんでな。豊富な各種センサに、ライフル弾さえストップする防弾性能!
おまけにASのパワーアシスト機能を応用して、着用しても重さを感じずに俊敏に展開できる!」
「それだけ聞くと、結構な性能に思えるけど……それにしちゃ、閑古鳥が鳴いてるね」
「痛いところをついてくれるな……その通り。これはいけると思ったんだが、何故かさっぱり売れなくてな。
例の傭兵に半分は引き取らせたんだが、それでも赤字なんでアフリカくんだりまで行商に来たってわけさ。泣ける話だろ?」
「で、ここでも相手にされないと」
「見ての通りな……なあ、ヘクマティアル。恥を忍んで聞くが、ボン太君は何故売れんのだと思う?」
(外見だろ)(形だな)(モチーフの問題でしょ……)(これを着るのはちょっと)(このガワじゃな)
ココの背後に控える私兵たちの心はひとつだった。が、さすがにココの商売相手になるかもしれない人物に向かって、直接言うのは憚られたので、黙っている。
そんな私兵たちを余所に、やれやれ、とココはかぶりをふってみせた。
「べアール。そんなことは一目瞭然だろうに……」
「なにっ!? 分かるのか!? 教えてくれ、ボン太君の一体何が!?」
食いついてきたべアール社長に、ココは胸を張って自信満々に、
102 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/02(金) 19:15:07.70 ID:FJPDfUmY0
「――このコンセプトは、各国軍部が切り捨てたXM3までのASと全く同じものじゃないか!」
「……はっ!? そうか、それか!? ……ところでココ、お前の護衛、なんでみんな床で寝てるんだ?」
「え? あ、ほんとだ。ちょっとみんな! はしたないからそんなところで横にならないでってば!」
ココの言葉に、よろよろと私兵たちが起き上がる。ふらふらと気力を振り絞るようにして手を上げたのはワイリだった。
「あのー……ココさん。XM3というのは……」
「うん? ああ、今でこそASは8メートルの大型兵器だが、最初期のコンセプトは3メートル以下のパワードスーツ染みたものだったんだよ。
とはいえ、それじゃ火力も装甲も貧弱だからってことで、いまの方向に転換したんだけどね」
「……形、とかは」
「形? 形はこれで問題ないでしょ。脅威性の判別が難しくなるし、いいチョイスだと思うよ。個人的にはミッキ○の方がいいと思うけど」
「そうか、じゃあディズ○ーに掛け合ってみるかな」
「それはやめた方がいいと思いますけど」
ワイリの突っ込みは、盛り上がる武器商人たちに聞き流された。
「それはともかく、軍受けしないのはコンセプトの問題だと思うよ。いまの技術を流用してるから、XM3よりはましだとしてもさ。
一度切り捨てたコンセプトを軍部が受け入れようとしないのは、君もよく知ってるだろ?」
「確かにな。そういや、売れたのは軍とのつながりが薄い警察関係だけだった……だが、そこもほとんど買わなかったぞ?」
「安い買い物じゃないからねぇ。ちょっと調べればXM3の事例は出てくるわけだし、そのせいじゃない?
べアールは若い世代だし、おそらくその傭兵も第一世代以前のASを知らない世代でしょ?
XM3の件が思い浮かばなくても仕方がないとは思うが……」
「うーむ。ということは、あと20年も待って軍上層部の入れ替えを待てばあるいは……?」
「ああ、可能性はあるね! つまり数十年後の戦場では、大量のボン太君が闊歩しているかもしれないというわけだ!」
「我がブリリアント・セーフテック社製のボン太君がな! わっはっは、未来は明るいぞぅ!」
そんな戦場は絶対に嫌だ。
戦争に携わる私兵たちは、心の中で声を揃えた。
103 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/02(金) 19:16:36.32 ID:FJPDfUmY0
だがそんな心中をよそに、べアール社長がとんでもない発言をする。
「ありがとう、ヘクマティアル。これで秘書にも言い訳がたつ。あいつ、売り切るまで戻って来るなとカンカンでな。
そうだ! お礼にひとつ、ボン太君を差し上げよう! お前のところの護衛に使わせると良い!」
『え゛っ』
濁った声を上げる私兵たちとは別に、ココは自身の顎に手を添えて唸って見せる。
「ふぅむ。広告塔代わりというわけかい? 相変わらずやり手だな、べアール」
「はは、おだてるなよ――で、誰に着させる?」
「そうだな、それじゃあ――」
「おじさんはパスしとくぜ。狙撃することの方が多いし、ポイントマンに持たせてやんな」
「あっ、レームのおっさんずりぃ……お嬢、俺もいいや。狙撃するから」
レームとルツが一抜けする。他の面々も我先にと続いた。
「私も砲兵なので……」
「アクセルやブレーキに足が届きそうにないので……ていうか運転席に座れそうにないです」
「爆弾を見つける時に、勘が働かなくなりそうで」
「ナイフ格闘はリーチが重要です。その短い腕はちょっと……」
ぐるぐるとたらい回しにされるボン太君。(遥か後方で死んでいるトージョは、幸いにして標的から免れた)
その中で、小さな手が自己主張するように挙げられた。手の持ち主は、口の中のストロベリー・キャンディーをかみ砕き、飲み込んでから、
「じゃあ、僕が貰ってもいい?」
なんて、驚天動地の発言を口にした。
その場にいた全員の視線がその人物、ヨナに集中する。
「え、ヨナが着るの? そんなの、そんなの……絶対に可愛いに決まってるじゃないか!」
「お、そっちの坊やか? ふむ、まあサガーラが着てたしサイズは大丈夫か……」
あれよあれよという間に進んでいく話し合い。それを心なしかわくわくした表情で見つめるヨナに、バルメが心配そうに声を掛けた。
「よ、ヨナ君? 本当にいいんですか? あれを着て戦うなんてこと……」
「? なんで戦うんだ?」
「え?」
きょとん、とした顔でそう返してくる少年兵に、私兵たちも疑問符を浮かべる。
「前から思ってたんだけど、ココの船は大きすぎて、たまに手が届かないところがあるんだ。
あれを着れば、きっと届くと思うんだけど。それにちょっと楽しそうだ」
「……あー、ヨナ君。でもべアール社長は、あれを着て戦って欲しいと思ってるんじゃ」
「でも、ココは『受け取る』って言っただけだ」
「それはそうですけど……まあ、ココもヨナ君の頼みならそっちを優先するでしょうしね」
というわけで。
それからしばらくの間、HCLIのタンカー船では、ふもふもと歩き回る少年兵の姿が、本人が飽きるまで見られたという……
104 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/02(金) 19:17:39.62 ID:FJPDfUmY0
今度こそ本当に終わり
105 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/02(金) 21:05:29.05 ID:q/B3VB6qo
おつおつ
素晴らしかった
106 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/03(土) 09:30:56.99 ID:yhwZpbCpo
乙
流石ボン太くんだ
でもかなり性能いいんだけどねボン太くん、工業AS相手なら普通に鎮圧できるし
207.53 KB
Speed:0
[ Aramaki★
クオリティの高いサービスを貴方に
VIPService!]
↑
VIP Service
SS速報VIP
更新
専用ブラウザ
検索
全部
前100
次100
最新50
新着レスを表示
名前:
E-mail
(省略可)
:
書き込み後にスレをトップに移動しません
特殊変換を無効
本文を赤くします
本文を蒼くします
本文をピンクにします
本文を緑にします
本文を紫にします
256ビットSSL暗号化送信っぽいです
最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!
(http://fsmから始まる
ひらめアップローダ
からの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)
スポンサードリンク
Check
Tweet
荒巻@中の人 ★
VIP(Powered By VIP Service)
read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By
http://www.toshinari.net/
@Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)