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【ガルパン】ダージリン「温泉旅行」
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19 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2017/11/20(月) 23:16:03.04 ID:bbiHhhnS0
取って参りますので暫しお待ちを、と言って西は部屋の中に消え、少しの後、まさしく探し物の本を持ってきてくれた。
話が早くて実に助かる。
夜分に押し掛けた詫びと、本の礼を言い、私達は部屋に戻った。
何だかんだで面白い肝試しになった。
遠巻きに眺めていた安斎からは私が幽霊と立ち話をしているように見えたらしく、相手が西だと知って随分安心していた。
「じゃあ、二人の脇をうろうろしてた子供みたいなのは知波単の生徒だったんだな。福田って言ったっけか」
んんっ。
【まほ編終了】
20 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/20(月) 23:17:38.13 ID:6kDehSrFo
面白い
21 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2017/11/20(月) 23:18:13.39 ID:bbiHhhnS0
【色即是空のミカ】
瞼を開くと、見慣れない天井。
周囲に漂う穏やかな違和感に少し戸惑って、ぼんやりと思い出す。
ああ、ここは旅館か。
そうそう、皆で泊まりに来たんだった。
それにしても快適な布団だ。
持って帰っちゃ駄目なのかな。
私の朝は早い。
まあ、特に理由は無いけれどね。
癖というか習慣というか。
22 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2017/11/20(月) 23:22:39.92 ID:bbiHhhnS0
障子から差し込む光はまだ夜の暗さを引き摺っていて、まるで、まだ眠っていても良いんだよと言っているみたいだ。
雀の声が聞こえる。
ふと、彼らの声が朝を思わせるのは何故だろうと考える。
雀色時という言葉もあるけれど、あれは夕方を指す言葉だ。
何より彼らは朝も夕もなく一日中鳴いている。
少し考えて、雀の声と言うよりも、雀の声が聞こえるほどの静けさが朝を思わせるのだと勝手に納得した。
時計を見ると午前五時。
当然というか何というか、起きているのは私一人。
皆のあられもない寝姿をぼうっと眺める。
早起きは三文の得と言うけれど、この光景は三文では安いね。
23 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2017/11/20(月) 23:23:44.71 ID:bbiHhhnS0
>>20
ありがとうございます!
24 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2017/11/20(月) 23:24:32.79 ID:bbiHhhnS0
昨日も思ったけれど、杏は眠る時、体を丸める癖がある。
なんだか猫みたいだ。
カチューシャの寝相が最悪なのは想像通りかな。
ダージリンはその下敷きになっている。
ケイは凄い。
まほと千代美は抱き合っ、んんんー。
待て待て待て。
何を待てば良いのか分からないけれど、待て。
あの、えっと。
ええー。
二人は、その、そういうあれなのか。
25 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2017/11/20(月) 23:26:38.74 ID:bbiHhhnS0
いや、たまたまかも知れないぞ。
偶然二人の寝相が、こう、互いにがっちりと、うん、無理がある。
まずは落ち着け、落ち着こう、私。
驚きのあまりボキャブラリーが一瞬壊滅した。
精神集中。
色即是空だ。
幸いにも目撃者は私一人。
他の誰かが目を覚ます前に何とかしないと。
26 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2017/11/20(月) 23:28:21.51 ID:bbiHhhnS0
しかし、どうするのが正解なんだろう、これ。
やんわり起こして離れさせるか。
それは野暮だろうか。
いや、野暮とか言っている場合ではないかも知れないが。
しかし起こすなら起こすで、どうやって起こそうか。
出来れば二人が自然に起きるよう仕向けて、私が目撃者である事は胸に仕舞っておいてあげたい。
うーん。
うーーーん。
「ん」
まずい、千代美が起きそうだ。
27 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2017/11/20(月) 23:30:10.07 ID:bbiHhhnS0
咄嗟に寝た振りをする。
全くもう、こんなのばっかりだな。
正直、熊の時よりドキドキしてるよ。
目を覚ました千代美が寝惚けながらも状況を確認している。
私は薄目を開けてその様子を窺う。
「うわ。ゆうべ、あのまま寝ちゃったのか」
待て待て待て、待ってくれよう。
あのままって何だ。
ゆうべ何をしたんだ君達は。
28 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2017/11/20(月) 23:31:32.43 ID:bbiHhhnS0
「ったく、いくらなんでも抱き付いて来るなんてなあ」
あっ、そうかあ。
まほがあっちで、千代美がそっちかあ。
やがて千代美は煩わしそうにまほの腕を解いて、再び眠りについた。
後には、ひどく脈打つ私の心音ばかりが響く。
雀の声はもう、聞こえなかった。
ふ、二人は進んでるなあ。
【ミカ編終了】
29 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2017/11/20(月) 23:34:26.64 ID:bbiHhhnS0
【孤立無援の角谷杏】
午前八時。
この旅館の朝ご飯は八時から九時までだよ。
皆の寝起きは概ね良好だね。
梃子でも起きない様子のカチューシャと、何故か落ち込んでいて、起きたくないというミカを部屋に残して食堂へ。
食堂には意外な先客が居た。
「やあ、これは皆様お揃いで」
去年の大学選抜戦で手を貸してくれた、知波単学園の西絹代ちゃん。
西住ちゃん達と同級生だから、今は三年生だね。
30 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2017/11/20(月) 23:35:33.18 ID:bbiHhhnS0
彼女はバイクが趣味で、学園艦の寄港日には必ずツーリングに出掛けるのだという。
知波単の性分なのか、ついつい走りすぎて帰れなくなり、現地で宿を探すこともしばしばあるらしい。
今回は偶然にもこの旅館に白羽の矢が立ったって訳だ。
姉住ちゃんとチョビはいつの間にか彼女に会っていたらしく、ゆうべはどうもなんて言葉を交わしている。
心なし、二人の顔が強張っているのは気のせいかなあ。
まあ、ともあれ朝ご飯。
ここはバイキング形式だ。
朝だから軽いものばかりが並ぶ。
私達も朝っぱらから冒険する気にもなれず、普段通りのものばかりを選んだ。
31 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2017/11/20(月) 23:37:21.69 ID:bbiHhhnS0
おケイ
・ご飯
・味噌汁
・納豆
・目玉焼き
ダージリン
・トースト(バター)
・目玉焼き
・サラダ
・コーヒー
姉住ちゃん
・ご飯
・味噌汁
・焼き鮭
チョビ
・トースト(ジャム)
・牛乳
私
・ご飯
・味噌汁
・沢庵
・目玉焼き
32 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/20(月) 23:38:04.70 ID:rDOdbQL30
>>19
ん?うろうろしていた子供みたいなの?
たしか西隊長一人だったよなあ……
33 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2017/11/20(月) 23:39:00.61 ID:bbiHhhnS0
チョビがお茶を汲んできてくれた。
おケイと姉住ちゃんの分も。
細かいところに気が付くなあ。
良妻賢母を育む武道であるところの戦車道の元隊長ともなれば当然なのかね。
いや、でも、他の隊長達は、うん、考えるのやめよっか。
「ダージリン、コーヒー飲めるのか」
「よく言われるわ」
私もそう思ったけど、言われてみりゃ、紅茶しか飲めない訳が無いか。
34 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2017/11/20(月) 23:41:08.58 ID:bbiHhhnS0
おケイにソースを取って貰いながら会話を聞くともなしに聞いている。
すると、ダージリンがこちらを見てにやりと笑った。
「ふぅん、角谷さんはソース派なのね」
しまった、と思ったが遅い。
油断したよ。
ダージリンの悪い癖だ。
彼女は、意見が対立しやすい食べ物にやたら目ざとい。
始末の悪いことに、彼女はその対立を楽しんでいて、わざと仕向けるような事を言う。
喧嘩した方が面白いからという理由で、きのこ派にもたけのこ派にもなる女だ。
今回は目玉焼きに目をつけたらしい。
35 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2017/11/20(月) 23:42:38.88 ID:bbiHhhnS0
>>32
曰く付きのお部屋ですからね…
36 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2017/11/20(月) 23:43:16.74 ID:bbiHhhnS0
「私はね、塩コショウ派なの」
「What、二人とも、目玉焼きには醤油でしょう」
簡単にイギリスの策に乗っかるアメリカ。
なんとなくだけど、塩コショウと醤油が相手じゃソース派は分が悪い。
堪らずドイツとイタリアに救援を求めた。
「私はプレーン派だ」
「私も」
絶対嘘だ。
早々に中立を宣言されちゃった。
仕方ないなあ、ここは孤立無援だが何とか、あ、そうだ。
日本、日本が居るじゃん。
37 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2017/11/20(月) 23:44:46.82 ID:bbiHhhnS0
目を遣ると西ちゃんが何か言いたそうにこちらを見ている。
彼女も目玉焼きを取っていた。
おケイとダージリンもその事に気が付いて、同盟の交渉に乗り出す。
「あ、ああ」
「Oh」
しかし交渉するまでもなく同盟は無理と判断。
彼女の目玉焼きを見て、私達三人はあっさりと停戦を決めた。
あれは戦っちゃ駄目な相手だと本能で察する。
彼女の目玉焼きは、タバスコで真っ赤だった。
【角谷編終了】
38 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2017/11/20(月) 23:46:52.04 ID:bbiHhhnS0
【天網恢恢のカチューシャ】
旅館での朝。
まだまだ寝ていたいけど、旅行の時くらい早く起きようかしらね。
そう思ってもぞもぞと起き出す。
午前九時。
他の皆は全員起きたのかなと思ったら、隅の方でミカが横になっていた。
まだ寝てるのかと思ったら、一応起きている。
だけど何故か気が滅入ってるらしく、起きたくないとか言って、あ、ミカ、もしかしてアンタ。
「違うよ」
違ったか。
39 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2017/11/20(月) 23:48:07.01 ID:bbiHhhnS0
じゃあ、ただ滅入ってるだけなら、お風呂にでも入ってサッパリしましょうと言って起こしてやった。
と言うわけで、今は二人で露天風呂。
何かあったなら言ってみなさいよ。
カチューシャが聞いてあげるわ。
「何かあったと言うか、ううん」
歯切れが悪いわね。
要するに、何かあったんだわ。
だけどハッキリとは言いづらくて言い回しを探してるって所かしら。
こういう時、普段のミカなら上手に誤魔化すんだけど。
余程の事があったのね、きっと。
40 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2017/11/20(月) 23:49:39.71 ID:bbiHhhnS0
ま、言いたくないなら無理には訊かないわ。
「すまないね、カチューシャ。この事は出来れば胸の内に仕舞っておきたいんだ」
仕方ないわね、見逃してあげる。
でも、なるべく隠し事はしないことよ。
友達なんだから。
その後、ミカはまだしばらく考え事をしたいと言うのでお風呂に置いてきた。
部屋に戻るとお客さんが来ていて、皆揃ってお客さんを交えての歓談に興じている所。
そのお客さんとは、知波単学園の西絹代。
たまたま同じ旅館に泊まってたのね。
今は三年生で隊長、つまり去年までの私達と一緒って事。
皆、話の合う後輩が可愛くてしょうがないって感じだわ。
41 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2017/11/20(月) 23:51:53.13 ID:bbiHhhnS0
「初めまして、西絹代と申します」
「絹代さん、そちらはエカチェリーナよ」
ダージリンがわざと分かりにくい紹介をする。
全く、性格悪いんだから。
「ややこしい事を言うな、ダージリン。西、そちらはカチューシャだ」
「はっ、カチュ、えっ、あの、ええっ」
「そうなるよねー」
その反応には慣れっこだわ。
身長が伸びてから会う人、みんな反応が同じなのよね。
ニーナにすら、誰だか分からないと言われたわよ。
42 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2017/11/20(月) 23:53:07.58 ID:bbiHhhnS0
「それはそうとカチューシャ、私に何か謝る事があるんじゃないかしら」
ダージリンに言われて考える。
あれっ、もしかして、もうバレたのかしら。
「西さんと車の話をしてたらね、彼女、私達の車を駐車場で見掛けたって言うのよ」
「キヌヨはね、ダージリンの車を、独特な塗装の車って言ったのよ」
笑いを堪えながらケイが補足する。
ああ、バレた。
傷だらけのラングラーの隣にある車なら間違えようも無い。
43 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2017/11/20(月) 23:55:22.86 ID:bbiHhhnS0
「不思議に思って見に行ったらね、確かに見覚えの無いファイアパターンが助手席側にだけあったわ」
堪えきれずケイがアハハハハと笑い出した。
天網恢恢ってやつね、これだから隠し事はするべきじゃないのよ。
「助手席の窓の辺りから放射状にな」
「カチューシャ、あなた昨日のお昼、何か赤いものでも食べたかしら」
あっ、はい。
ボルシチというか、そういったものを少々、はい。
すみませんでした。
【カチューシャ編終了】
44 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2017/11/20(月) 23:57:19.02 ID:bbiHhhnS0
【思考停止の西絹代】
珍妙な光景だ。
「カチューシャ、あなたいつの間に吐いたのよ」
「アンタが吐いた時に貰ったのよ。何よ、中に吐くより良いでしょ」
ダージリン殿とカチューシャ殿の口論が始まってしまった。
しかし周りの方々は笑うばかりで止める気配も無く、私だけが狼狽している。
「気にすること無いぞ。あれは、ああいう戯れ合いなんだ」
アンチョビ殿が解説をしてくれた。
聞けば彼女らは、対等に話せる友人が少なく、ああやって言い合う事を楽しんでいるのだと言う。
45 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2017/11/20(月) 23:58:58.20 ID:bbiHhhnS0
「あの二人だけではないさ。我々は皆、多かれ少なかれ似たような悩みを抱えていたんだ」
君にも心当たりは無いかとまほ殿に問われ、はたと気付く。
隊長という立場の人間にとって、対等な人間関係を築く事は、確かに難しい。
隊長が対等な人間関係を求めるならば、他校の隊長と仲良くなるのが最も理に適っているのかも知れない。
ならばこれは、成るべくして成った関係という事なのか。
「ほら、もう終わったわ」
ケイ殿の示す通り、口論にしか見えないやり取りをしていた二人は、もう笑いながら互いを小突き合っていた。
威厳や矜持、或いは見栄などと無縁ではいられない隊長ではこうはいかないな。
そこから解放された元隊長だからこそ築ける関係というものがあるようだ。
46 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2017/11/21(火) 00:00:20.50 ID:iiRsmIwp0
「私は会長だけどねー」
「そっちの方が凄いわよ、アンジー」
何だろう、羨ましいと感じてしまう。
私もいずれはこんな関係が築けるのだろうか。
「きっと来年は、君達の学年でもこういう事が起きるだろうさ。その時は妹をよろしく頼むぞ」
言われ、こちらこそ宜しくお願いしますと、よく分からない返事をした。
しかし、かの妹御は隊長でありながら学内で対等な人間関係を築き上げている稀有な例であるように思う。
やはり、宜しくお願いするのはこちらの方だなと感じた。
47 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2017/11/21(火) 00:02:21.39 ID:iiRsmIwp0
ある程度の歓談を終え、礼を述べてその場を辞去。
帰る前に今一度、風呂に浸かろうと思い露天へ行くとミカ殿が居た。
「妙な所で会うね。お久し振り」
もしやと思い訊ねてみると、やはりミカ殿も先程の集まりの一員だった。
「では私達の部屋からここに来たという事か。どこへ行っても先輩に会うのじゃ気が休まらないだろうね」
いえそんな事は、とは言ったが正直な所は確かに少々気疲れをしている。
目上の人の前で気を抜くという事が出来ない性分なのだ。
しかし、ミカ殿は私以上に疲れているようにも見える。
48 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2017/11/21(火) 00:04:16.66 ID:iiRsmIwp0
わざわざ御友人達と離れての一人風呂と言うことは、何事かお悩みなのだろう。
そして、そのお悩みは、恐らくあの集まりの中で吐露する事が憚られる内容か。
然もなくば、より簡単に、お悩みの原因があの集まりの中にあるか。
「まるで八卦見だね。その辺で勘弁してくれるかな」
あ痛、声に出ていましたか。
ミカ殿は笑って、駄々漏れだったよ、と言った。
「まあ、私一人が悩んでも仕方ない話さ」
今は事の真偽すら確かめようが無いんだからね、と、難解な補足をしてミカ殿は湯に首まで浸かった。
お悩みを抱えることも人生には必要なんですなあ、と言って私も首まで浸かる。
49 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2017/11/21(火) 00:05:44.38 ID:iiRsmIwp0
「さてと、私はそろそろ行こうかな。そちらはごゆっくり、おっと」
湯から出ようと立ち上がったミカ殿が苔でも踏んだか、体勢を崩した。
あ、危な、んちゅ。
「む、んんっ」
ん、ちゅ、んむ。
んん、ぷは。
互いの思考停止による気まずい沈黙が流れる。
50 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2017/11/21(火) 00:07:10.83 ID:iiRsmIwp0
暫しの後、ミカ殿が口を開いた。
「えっと、こ、コーヒー、飲むんだね」
よ、よく言われます。
からからぴしゃりと、脱衣場の戸が小さく閉まる音がして、その向こうから不自然に大きな声が聞こえてきた。
「西住ー、お風呂は清掃中だってよー、卓球やろう卓球ー」
こ、こちらに聞こえるように言っている。
つまり見られて、勘違いされて、気を遣われている。
「追うぞ」
かしこまりで御座います。
【絹代編終了】
51 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2017/11/21(火) 00:10:59.09 ID:iiRsmIwp0
【一時停止のケイ】
お土産を買って、旅館をチェックアウトして、キヌヨと別れた。
災難も多かったけど、なんだかんだで楽しい旅行だったよね。
今は帰りの車内。
結局、編成は行きと変わらず。
助手席にはアンジー、後部座席にはミカが乗っている。
カチューシャはゆうべ、こっちに乗るって騒いでた記憶があるんだけど、結局ダージリンの方に乗ったのよね。
やっぱりあの二人は仲が良い。
そうそう、仲が良いと言えば。
「姉住ちゃんとチョビってほんと仲良いよなあ」
付き合ってたりして、とアンジーが冗談めかして言う。
まあ、このメンバーじゃないと話せない事だよね。
当の二人は元より、カチューシャやダージリンが居たら絶対ややこしくなるし。
52 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2017/11/21(火) 00:12:08.63 ID:iiRsmIwp0
「違うって言ってたよ。馬が合うからよく一緒に居るのは確かだけど、そういう関係ではないそうだ」
ミカが答える。
えーっ、訊いたんだ。
「まあ、色々あってね」
キン、と短い金属音がした。
缶コーヒーを開けた音だ。
こぼさないでよ、と声を掛ける。
「うん。さて、どこから話そうかな」
それからミカは、ゆうべから今朝にかけてあった出来事を、順を追ってゆるゆると話し始めた。
53 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2017/11/21(火) 00:13:46.67 ID:iiRsmIwp0
当初泊まる予定だった部屋が曰く付きだった事を後から知り、別の部屋に換えて貰ったのが発端であること。
部屋を移る時、チヨミが元の部屋に小説を置いてきちゃったこと。
それに気が付いて、たまたま起きていたマホと一緒に本を探しに行ったらキヌヨが居たこと。
チヨミがそこで幽霊らしきものを見たこと。
意外にもマホの方が怯えちゃって、チヨミに抱き付いたまま眠っちゃったこと。
その状態の二人を、早めに起きたミカが見てしまったこと。
「まあそんな経緯があってね。さっき訊けそうだったから訊いてみたのさ」
丁度一緒に居た絹代からも証言が取れたよ、と言ってミカは缶コーヒーを一口飲んだ。
うーん、辻褄は合ってるけど、抱き合って寝てた理由が幽霊ってのは、ちょっとどうなのかしら。
54 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2017/11/21(火) 00:15:18.47 ID:iiRsmIwp0
「そういう事なら私は信じるよ。今だから言うけど、あの部屋、居たぞ」
妙に青褪めた顔をしてアンジーが言う。
えー、うっそだあ。
「ほんとだって。あの部屋で昼寝した時に、あっ」
喋りながら何かに気が付いたのか、アンジーが尚も青褪めた。
何だろう、ものすごく嫌な予感がする。
「おケイ、ごめん。話に夢中で気が付かなかった」
55 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2017/11/21(火) 00:16:33.89 ID:iiRsmIwp0
これから良くない事が起こるから身構えてね、とアンジーは言った。
ミカもその事に気が付いたらしく、気まずそうに声を出した。
「と、とりあえず、ミラーで後ろを見てみるといい」
言われてミラーを見たのとほぼ同時。
後続車の拡声器から声が聞こえた。
『そこのラングラー、停まってくださーい』
う、うっそだあ。
一時停止なんてどこにあったのよ。
【ケイ編終了】
56 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2017/11/21(火) 00:18:55.72 ID:iiRsmIwp0
【大盛天丼のダージリン】
失敗して落ち込んだ
元気だせ気にしないっ
小さい×乗り越えて
進化ですよみんなでね
「良い歌ね」
カーラジオから流れる曲を、カチューシャが珍しく誉める。
帰りの車内で聴くにはぴったりの曲よね。
特に、今回の旅は失敗も多かったものだから歌詞が沁みるわ。
57 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2017/11/21(火) 00:20:37.70 ID:iiRsmIwp0
さて。
果たしてあと何回、こんな旅行が出来るかしら。
柄にもなくしんみりする。
まあ、出来る間は存分に楽しみましょう。
こんな事が思い切り出来るのは大学生がピークだと聞いたことがある。
ならばこれが最後ではないのよ。
恐らく、きっと。
58 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2017/11/21(火) 00:22:09.83 ID:iiRsmIwp0
「ああ、分かった、ダージリンにも伝えるよ。ありがとう」
角谷さんからの電話を受けていたまほさんが何か言伝てを頼まれている様子ね。
声のトーンから、あまり良いニュースではないことが伺える。
「この先でネズミ取りをやっているから気を付けろ、だそうだ。ケイ達が捕まったらしい」
「何やってるんだか。ご愁傷さまね」
ふぅん。
「ちなみにダージリン、念のため訊くが、ネズミ取りって何の事か知ってるだろうな」
えっ、ネズミを取る事じゃないのかしら。
他に何か意味があるのかしらと考える事、暫し。
「アンタ、嘘でしょ」
カチューシャに叱られながら、まほさんからネズミ取りについての簡単な説明を受ける。
なるほど、要は交通取り締まりの俗称なのね。
59 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2017/11/21(火) 00:23:45.50 ID:iiRsmIwp0
「まあ、予め知ることが出来たのは良かった」
「知らずに捕まる所だったわね。もう天丼は懲り懲りよ」
ボルシチもね。
それはそうと、お昼は何処にしましょうね。
帰りすがら、寄れる所がいいわね。
嫌味ったらしく大盛天丼でも頼んでやろうかしら。
60 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2017/11/21(火) 00:25:48.35 ID:iiRsmIwp0
「CoCo弐がいい」
「カレーだって見たくもないわよ。小童寿司にしましょうよ」
「カチューシャ、新幹線が見たいのか」
「ち、違うわよ」
「あの、みん、な、ごめっ」
あら安斎さん、どうしたのかしら。
「あ、安斎、静かだとは思ってたがそういう事か。ダージリン、どこか近くに停められるか」
えっ、あっ、まさか。
嘘でしょ、ちょっと。
61 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2017/11/21(火) 00:27:10.01 ID:iiRsmIwp0
「んんっ、ぐ」
「安斎、堪えろ、もう少し辛抱しろ」
「窓開けなさいよ、窓」
「ご、ごめっ、え、」
カチューシャがピギャアアと叫ぶ。
『そこのライフ、停まってくださーい』
ああっ、あああーーっ。
【ダージリン編終了】
62 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2017/11/21(火) 00:28:52.83 ID:iiRsmIwp0
以上です
ここまでお付き合いありがとうございました
63 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/21(火) 08:41:29.22 ID:T1ABwIIEo
ネズミ取り?なんだいそれは
ボコな車とボルシチな車を見て止められたのさ…きっと(メソラシ)
乙でした
64 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/21(火) 10:52:35.82 ID:e+XLL5hj0
文章がうまい、地の文があるけどだるくならない
つまり……
いいぞ、もっと書け!
65 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2017/11/21(火) 15:57:28.08 ID:5R3BCtW70
>>63
ありがとうございます
オチどうしようかなって悩んでたら捕まりまして…
>>64
ありがとうございます
次は何を書こうか、ぼんやりとした構想はあるんですがまだ決まってません
何か新しいものが書けたらまたお付き合いをお願いに参ります
66 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/24(金) 01:20:07.05 ID:o7LQMbHSO
シキソリストのミカ
67 :
◆nvIvS/Qwrg
[saga]:2017/11/25(土) 01:57:09.16 ID:svE0520I0
>>66
ドゥエドゥエはしませんが、前半では木の枝を鞭っぽく使って熊倒してますね…
68 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2019/11/10(日) 20:22:09.65 ID:DXOXulgj0
乙ッ
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