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男「元奴隷が居候する事になった」【安価有】
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247 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/12(火) 03:53:11.57 ID:sLz/PBVL0
まず最初に映っていたのは、どこかの大きな施設。
色んな人種の子どもたちが楽しそうにはしゃいでいる姿が映し出されている。
ふと、カメラがとある子どもに向かってズームを始めた。
そこに映っていたのは。
私と一緒に日本へ来た、孤児の生き残りの二人だった。
彼女たちは朗らかに、声をあげて笑っている。
どうやら友達が出来たようで、ボールを蹴りながら一所懸命にそれを追いかけていた。
そしてカメラは一度暗転したかと思うと、次は食事のシーンを映してくる。
子どもたちは机に向かって美味しそうにご飯を食べている。
あの二人もしっかりパンとスープ、お肉やサラダなど好き嫌いなく食べていた。
とても、とても美味しそうに食べていた。
楽しそうだった。
幸せそうだった。
248 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/12(火) 03:54:37.49 ID:sLz/PBVL0
そして次の場面転換では、空いた部屋に二人が並んで座っていた。
二人はまじまじとした顔でカメラを見つめている。
物珍しい、を体現するとこうなるのか。
カメラを回している人が小さな声で、オッケー喋って喋って、と言ってるのが聞こえてきた。
249 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/12(火) 04:03:48.71 ID:sLz/PBVL0
“あー、いま、もう撮れてるの? 撮れてる? なら良かった。
サンディ。元気にしてる?
私たちは今、アメリカの孤児院で暮らしているわ。
ここの先生たち、とっても優しいの。神様みたい。
お行儀が悪いと怒るけれど、鞭で叩かないし、
意味もなく生爪を剥がしてレモン汁に浸して泣かせてくる、みたいな事もないの。
今のところはね。
人間なんて分からないから信頼なんて出来ないけれど、
ちょっとだけ、ちょっとだけ信じてみてもいいかな、って思ってる。
今ね。
人生で、一番幸せなのかも知れないわ。”
250 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/12(火) 04:07:29.79 ID:sLz/PBVL0
『やっほー。サンディ、私のこと忘れてないよね?
私もイザベルと一緒の孤児院にいるんだ。
ここはね、温かいよ。
身を切らずにご飯も出るし、それぞれにベッドとふかふかの毛布が分配されてるから
寒くて死んじゃうこともないんだー。
この前はすっごい雪が降ったけれど、院のみんなで雪かきして、集めた雪で遊んだんだ。
すっごい面白かったよ!
ここにいる子どもたちもね、私たちとおんなじような子ばかりでね。
夜に泣いている子がいると、みんなで集まってぬくぬくするんだ。
私たちが生きてたあの部屋を思い出しちゃうけれど、
サンディたちと温め合ってこうして生きて来れたこと、いっつも感じるの。』
251 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/12(火) 04:09:14.53 ID:sLz/PBVL0
“それとね。あたし達、貴方にどうしても伝えなくちゃいけない事があるの”
『うん、どうしても伝えたかったの』
せーの、と息を合わせる合図の後、その言葉は紡がれた。
252 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/12(火) 04:10:25.69 ID:sLz/PBVL0
サンディ、助けてくれて、ありがとう。
253 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/12(火) 04:12:07.22 ID:sLz/PBVL0
『辛かったとき、一緒にぬくぬくしてくれて、ありがとう』
“日本にくるとき、あの船の中で私たちを庇ってくれて、ありがとう”
『サンディ泣き虫だから、きっと誰よりも怖かったのに』
“貴方がいてくれたから、きっと私たちは生きていられたの”
“生きていれば、また会えるから。
きっといつか、会いましょうね。”
『私たちは適当に幸せに過ごしているから安心してね。
優しいサンディが、幸せに過ごせていますように、って祈ってるよ。ずっと。』
254 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/12(火) 04:15:17.99 ID:sLz/PBVL0
二人は満面の笑みで、カメラに向かって手を振っている。
映像はそこで終わっていた。
私は途中で二人の顔が見えなくなっていたから、もう一度見直さなければならない。
ただ、今の所は、何度見ても最後まで顔を見据える自信が無い。
幸せな二人を見る度にきっと私は泣いてしまうだろうから。
255 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/12(火) 04:29:11.03 ID:sLz/PBVL0
涙と鼻水で顔がぐしゃぐしゃになってしまった。
お兄さんはティッシュの箱を持ってきてくれたが、それを使い切りそうな勢いだ。
泣きすぎて息ができないから、おぅ、おぅ、とオットセイみたいな声が出る。
もはや恥も外聞もなく、私は枯れ果てるまで涙を流そうと決めた。
それからしばらくの間ののち、ようやく少し落ち着いた私に向けて
お兄さんはホットミルクを差し出した。
「いやぁ、そこまで感激してくれるとサンタ冥利につきるね」
「いづ、グスッ……、ずみ゛まぜん、いつ、の間に……、準備したんですか?」
「きみが願い事を投函した翌日から準備を進めてたよ。
組織の連絡先を調べていたら、色々と時間かかっちゃってさ」
「ありがとう……、ありがとう、ございます……。叶うなんて、思ってませんでした……」
未だ涙が少し溢れる私をお兄さんは優しく抱きしめてくれる。
温かい。ぬくぬくだ。
お兄さんは、私を腕の中に収めながら告げてくる。
「実はね、この映像をくれる代わりに一つだけ取引があったんだ」
「とり、ひき……?」
「それを聞いてくれるかい?」
「何でもいいです。私で出来ることは、何でも受け入れます……」
「“あの二人にサンディの現状を伝えてほしい”ってさ。
今日撮った写真、送っていい?」
「恥ずかしいからダメです」
「手の平大回転!? なんでもって言ったじゃんサンディ!」
「それはそれ、これはこれ、です」
「便利な日本語を知ってるね……!」
256 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/12(火) 04:40:31.81 ID:sLz/PBVL0
それから数日後。年の瀬も近づいた頃。
「じゃあ、カメラ回すよ」
「えっと、どのタイミングで喋ればいいですか?」
「ゴメン、もう回ってる」
「ええ!?
257 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/12(火) 04:43:54.79 ID:sLz/PBVL0
ええ!? もう始まってるんですか!!
あと、その、えーと。
イザベル、クロエ。元気ですか。
えっと、サンディです。
私は今、あの船で助けてくれたお兄さんの元で居候になっています。
お兄さんはとっても優しくて素敵です。
普段はにこやかなのに、キリッとした時の表情が凄く恰好いいです。
とっても良い匂いもします。
それに私の知らない事をいっぱい教えてくれて、
沢山の愛をいつも注いでもらっています。
え、あ、ちょっと、お兄さん、照れないで……。
私も本人が目の前なのに本音を言い過ぎました……自重します……。
あ、え、えと、そうだ!
最近はご飯も少しずつだけれど作れるようになりました。
昨日はサンドイッチを作ってみました。二人にも食べてもらいたいです。
あと、えーと、あとは……。
話したいことが沢山あって、全然まとめられません。ごめんなさい。
たまにこうして、やりとり出来たら嬉しいです。
また会いましょう。
ぜったい、ぜったい会いましょうね。
ふたりとも。たすけてくれて、ありがとう。
いま、わたしは、しあわせです。
258 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/12(火) 04:59:33.85 ID:sLz/PBVL0
〜〜〜〜
それから大晦日を越えて、年の始めの元日を迎えた。
明けましておめでとうございます。
二人でそう伝えあい、年越し蕎麦というものを食べる。
お兄さんお手製のお蕎麦は薄口でとても美味しかった。
鐘の音が鳴り響く境内、深々と降る雪の中を参拝する人々がテレビに映される。
とても厳かに感じるが、それ以上に私が感じているのは眠気だ。
時間を見ると午前零時を少し跨いだあたり。
お兄さんの下でお世話になって以来、こんなに遅くまで起きているのは初めてだ。
先に眠る旨をお兄さんに伝えると、明日はごろごろ過ごすから好きな時間に起きていいとの事。
お兄さんはしばらく夜更かしをしてテレビを見るらしい。
おやすみなさい、と私は先に伝えて就寝。
彼がいつ潜り込んできても良いように、お布団を温めておくのだ。
そして次に目が覚めたのは、午後三時。
久しぶりに飛び起きる。いくらなんでも寝すぎてしまった……。
259 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/12(火) 05:08:52.14 ID:sLz/PBVL0
「おはようございます……元日早々から寝坊して申し訳ありません……」
「おはよう、サンディ。僕も起きたばかりだし気にしないで」
お兄さんは朗らかに笑いながら、ご飯の準備を進めている。
おせち、というものを取り寄せていたようで、お雑煮というのを作り終えるまで
それを摘まんで待っていてほしいとの事。
私は重箱に入っている彩り鮮やかなその中から、不思議な形の食べ物をぱくりと食べてみる。
おお、かまぼこだ。美味しい。
「それにしても、よく寝てたねぇ。今日の夜が初夢になるから、その調子だといい夢を見れそうだね」
「あ、はい……」
私は夢を見ない。
お兄さんにそれを伝えていないから、もちろん知る筈も無く。
「今日はお兄さんの夢を見れたら嬉しいです」
と付け足してみる。
「嬉しいこと言うねぇ。じゃあ僕はサンディの夢を見ようかな。
あ、お餅は何個ほしい?」
「えっと、六個です」
「いいねぇ、僕は餅あまり食べないから助かるよ」
少々食い意地が張ってしまったような気がしなくもない。
運ばれてきたお雑煮が大きいドンブリに入っていた辺りで、少しだけ後悔した。
そんな穏やかな元日をお兄さんと過ごす事が出来た。
260 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/12(火) 05:24:28.46 ID:sLz/PBVL0
潮騒の音が聞こえてくる。
気が付くと私は、砂浜に立っていた。
足元には海水が寄せては引いている。
私の来ている服装は白いワンピースに麦わら帽子。
随分と肌を露出する恰好だ。
気になって左手を水平に上げてみると、拷問を受けた際に付いた大きい切り傷がなくなっているではないか。
よくよく見てみれば、体に刻まれた鞭の痕が随分と薄くなっている。
ふと後ろから声が聞こえてきた。
私を呼ぶ声なのだろうか。
耳を澄ますと、少年の声が聞こえてくる。
おかあさん、おかあさん、と。
はて一体誰を呼んでいるのだろうか。
そう思いながら振り返った直後、腹部にどしんと振動がくる。
先ほどの声の主であろう男の子が飛び込んできたのだ。
そして私に向かって告げる。
「おかあさん」、と。
なんとなく、腑に落ちる。
よく分からないが、私はきっとこの子のお母さんなのだ。
その子に手を引かれるまま、私は何処かへと足を進める。
どこへ行くのか訊ねてみれば、僕らのおうちへ帰るんだと言う。
おとうさんも待ってるよ、と嬉しそうに言うから、なんだか私も嬉しくなる。
砂浜から歩いて間もない所に建っている白い家。
そこの玄関を開けて、ただいまと男の子は元気に入っていく。
私も、なんとなく、ただいま、と言ってみる。
家の間取りは分からないのに、足の赴くままに進むと、リビングに通じていそうなドアの前まで来ていた。
男の子の声が聞こえる。お母さんが帰ってきたよ、お父さん。
お父さんと呼ばれた人は答える。よし、じゃあ二人で出迎えようか。
私は恐る恐る、そのドアを開ける。
そこには。
「おかえり、サンディ」
お兄さんが、その男の子を抱きかかえて、私を迎えてくれた。
261 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/12(火) 05:32:21.46 ID:sLz/PBVL0
ぴぴぴぴ、ぴぴぴぴ。
目覚まし時計のアラームが枕元で鳴っている。
私はむくりと起き上がり、寝惚けた頭でおもむろにそれをオフにする。
横を見ると、とても気持ちよさそうな顔でお兄さんが寝ていた。
いったい何の夢を見ているのだろうか。
良い夢だといいな、と思ってしまう。
顔を洗うために起き上がろうとしたその時、ふと頬が濡れているのに気付く。
何故に私は泣いていたのだろう。
原因を思い出そうとするが、分からない。
ただ、なんとなく、幸せだった事は分かる。
潮騒の心地良い港町で、不思議な男の子に出会っていたのだ。
ああ、なるほど。
私は夢を見たのだ。
――あれはきっと、初夢だったのだ。
262 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/12(火) 05:34:45.89 ID:sLz/PBVL0
読んで頂いてありがとうございます。
とりあえず、第一部完という事で。
【エンディング曲】
https://www.youtube.com/watch?v=A-D3pRQMiNw
263 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/12(火) 05:49:58.57 ID:hyUP4s/FO
乙
初夢が正夢になるかそれとも別の幸せを見つけるか…
サンディにはどんな形でも幸せになって貰いたい
264 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/12(火) 05:58:16.99 ID:53AlL6imO
乙、貼ってる歌の出だして泣きそうになった
初夢は誰にも喋らなければ叶うというジンクスがあるぞ
265 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/12(火) 10:14:27.46 ID:kAW1Hs42O
乙、良かったです
266 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/12(火) 15:33:11.09 ID:sLz/PBVL0
乙レス、感想など有難うございます。嬉しい限りです。
「虐げられてきた者が夢見る少女に変わるまで」という当初の脳内目標までは書けました。
スレはこのまま残して二人の幕間などをつらつら綴ろうとも思いましたが
内容的にキリも丁度良い頃合でしたし、一旦ここで〆ておくことにします。
次回作、または探偵と元奴隷の小話続編でお会いしましょう。
重ね重ね、お時間をかけて読んでくださって本当に有難うございました。 依頼を出してきます。
267 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/12(火) 18:02:41.37 ID:OHAp4f44o
マジかよ終わっちゃうのか
続編に期待するしかないな
268 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/12(火) 18:13:13.61 ID:dFXrh+q00
いい話すぎて壁に頭を打ち付けそうになった。
乙
269 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/14(木) 01:09:58.48 ID:DwkAWVf50
【番外編〜秘密の探偵物語〜】
ここは喫茶店、リーブル・ド・イマージュ。
フランス語で絵本という意味らしい。
僕は今この店のカウンター席に座り、モカマタリを堪能している。
芳醇な味わい、コクと深みのある香り。苦みすらも愛おしい。
マスターの淹れるコーヒーは間違いなく一級品だ。
店に来てから注文以外に言葉を交わさず、各々が思い思いの時間を過ごしている。
顧客と店主の距離感としても最高だ。
彼から情報を買う以外にも、普通に客として足繁く通ってしまうのは不可抗力というものか。
270 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/14(木) 01:11:14.05 ID:DwkAWVf50
人は沈黙を恐れる生き物だ。
しかして、僕とマスターは言葉を交わさずとも互いの心情を理解する仲だ。
彼はいま背中を向けて食器の手入れをしているようだが、
その後ろ姿の哀愁から察するに、さも人生の何某を僕に向けて語りかけているのだろう。
彼はふと磨いていたコップを置き、僕の方へ振り返る。
そしてこう告げた。
「一杯のコーヒーで三時間も粘る客に語る言葉なんてねぇよ」
どうやら今までのモノローグは口から全部出ていたようだ。
長い時間をかけて飲み干し、もはや水滴ほどしか残っていないコーヒーを無理やり啜る。
ハードボイルドは何事も冷静に。
恥ずかしさを誤魔化すことすら一流なのだ。
271 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/14(木) 01:12:52.43 ID:DwkAWVf50
さて、そもそもどうしてコーヒーをこんなに時間かけて飲んでいるのか。
理由は二つある。
「そういや、今更だけれど例のお嬢さんは一緒じゃねぇのか」
「ああ、彼女は事務所でDVDを見ているよ」
アメリカの孤児院から届いたビデオレターを改めて見たい、と
今日の昼飯の最中にサンディから頼まれたのだ。
彼女にDVDプレイヤーの使い方を教えてあげた後、
その間に僕は野暮用を済ませると嘯いて外出することに。
たぶん僕がいると気を遣うだろうから、ゆっくり一人で見せてあげたかったのだ。
他にも自分の部屋にあったサンディでも見れそうなお薦めDVDを渡しておいた。
探偵物語、探偵はBarにいる、名探偵コナン、ジュマンジ。
我ながらチョイス的には一部の隙も無い完璧な布陣だろう。
そして時間をかけているもう一つの理由。
財布を忘れてしまった事をどう伝えればいいのか悩んでいたのだ。
272 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/14(木) 01:14:27.34 ID:DwkAWVf50
もはやコーヒーから醸し出されていた湯気すらも飲み切っているような気がする。
ここは正直に言ってしまうか。
「マスター、申し訳ない。財布を忘れたから今回だけツケといてもらえないかな」
「はぁ? 仕方ねぇ奴だな、この赤貧ポンコツ探偵は」
頭をがしがし搔きながらも、マスターは了承してくれた。
有難い。なので言葉の後半部分は聞かなかった事にしよう。ハートには効いているが。
「支払いはトサンで待ってやる」
「十日で三割は暴利すぎるよマスター」
「馬鹿言うんじゃねぇ、十秒三倍だ」
「馬鹿言うんじゃないよ、ゲイツですら破産するわ」
273 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/14(木) 01:15:40.88 ID:DwkAWVf50
それから僕とマスターは時間を縫い合わせるかのように会話に興じる。
最近の景気、前所長の話、春先に店に置く植物の話、などなど。
その中で、二人の癖について話題が飛んだ。
「マスターって何だかんだ承諾してくれるときって頭掻く癖ありますよね」
「ああ、まぁそりゃこんだけ生きてると色んなもんが染み付いちまうのよ」
「そんなもんですか」
「そんなもんだ。そういやお前も色々と癖あるよな」
「曲者なので」
「十秒五倍な」
「大変申し訳ございませんでした。それで、僕の癖のことですか?」
そう言いながら、ツケにかこつけて追加注文していたコーヒーを軽く啜った。
「癖といえば、お前たしか自分の好きな映画のケースにエロDVD隠してるとか言ってたな。
年端もいかない同居人がいるんだったら、その癖を早く治しとけよ」
それを聞いた瞬間、飲んでいたコーヒーの手が止まる。
少し間を置いて全身の汗が一気に噴き出した。
探偵物語がクロだった。
274 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/14(木) 01:18:20.25 ID:DwkAWVf50
嫌な予感が確信に変わる前に喫茶店から出て、急いで事務所兼自宅へと戻ってきた。
「……た、ただいまー」
何故だか小声で帰宅を告げてしまう。
やましい事は無い筈なのに。たぶん、おそらく、きっと。
「……おかえりなさい」
玄関先で出迎えてくれたのは、両手を腰にあてた仁王立ちのシルエット。
もとい、顔を真っ赤にして涙目になりながら、ぷくっと頬を膨らませているサンディだった。
“ぷんぷん”という擬音が聞こえてきそうな動作からしてご立腹の様子だ。
傍からみれば只々可愛いだけなのだが、それこそご愛嬌というものか。
275 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/14(木) 01:20:31.71 ID:DwkAWVf50
さて、弁明を考えよう。
こういう時だって狼狽しない。あくまでクールに。
冷静沈着、頭脳明晰、奇想天外、四捨五入だ。いけない混乱している。
もしかしたら例の案件を見ていないかも、という一縷の可能性に賭けて
目の前の可愛い同居人の第一声を伺うことに。
肩をぷるぷる震わせながら、サンディは呟いた。
「………………おにいさんの、えっち」
次の瞬間には土下座を決め込んでいた。
最速で適した回答を出せるのもハードボイルドが成せる技なのだ。
とりあえず今日の夕飯、少しだけデザートを豪勢にせねばなるまいて。
276 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/14(木) 01:21:21.64 ID:DwkAWVf50
スレが落ちる前のエクストラとして小話を。
もし続編があるなら、こういう感じのゆるい話も増やして行きたいなと思います。
277 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/14(木) 01:32:05.80 ID:0437wubYO
番外編のタイトルで草生え散らかした
続き書いてくれてもええんやで
278 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/14(木) 01:54:26.79 ID:zhiA99K10
下手したらサンディのトラウマが蘇りそうかと思ったけどそんなことはなかった
279 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/14(木) 07:53:33.77 ID:lmlvEM3f0
おつ
続きも楽しみにしてる
280 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/15(金) 18:20:33.44 ID:xZtK72FO0
最高だった
つづきをたのしみにしている
281 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/15(金) 21:42:11.79 ID:dA6Qgnz90
>>1
の作品ほんとすき
昔からずっと追いかけて見てる
また書いてください
282 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/16(土) 09:31:18.16 ID:yuTTByYZO
やっと追いついた…
恋われた日の作者さんだったとは…
つづき…ある…よね?
283 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/12/20(水) 02:24:31.05 ID:32QB0K5q0
タイトルと内容に惹かれて一気読みしてきた。素晴らしすぎる、乙です
と、ところで続きは……続きはないんですか……!
284 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/22(金) 02:50:13.37 ID:7reG6FM70
ご無沙汰しております。夜分遅くに恐縮です。
一週間以上前には依頼を出しているのですが中々落ちないものですね……。
まだ覗いてくれる方がいるなれば、またエクストラ(番外編)でも綴ってみます。
気が向いた際に安価協力を頂ければ幸いです。
【イメージ曲】
https://www.youtube.com/watch?v=vtvVwgQCKrM
285 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/22(金) 02:53:49.64 ID:7reG6FM70
【二人のエピソード】 ※連れて行きたい場所、日常の一コマ、未来の話など
>>287
【視点:男 or サンディ】(多数決)
>>289-291
【サンディの最近の趣味】
>>293
286 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/22(金) 07:58:02.66 ID:i7oDoVEVo
季節は夏
夏祭りで花火を見る
287 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/22(金) 08:00:33.48 ID:mVYFEFODO
↑
288 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/22(金) 08:33:12.16 ID:iGaHxHSGo
男
289 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/22(金) 08:43:50.73 ID:aNis0w4+0
男
290 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/22(金) 10:35:11.75 ID:KnNtdvJuo
男
291 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/22(金) 12:11:10.38 ID:G5zW9NwHo
男
292 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/22(金) 12:16:40.71 ID:wOYmGqQAo
kskst
293 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/22(金) 12:21:55.50 ID:BH3UDmJro
猫観察
294 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/22(金) 12:35:17.98 ID:/tbiSFc1O
趣味が可愛すぎて悶えた
295 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/22(金) 14:34:17.41 ID:DhT8JNUs0
飼い猫か野良猫か…
どちらにせよ可愛いwww
296 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/22(金) 20:07:36.77 ID:O831xV+t0
かわいい(かわいい)
297 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/26(火) 08:29:52.70 ID:FJfmKFygO
おっ!更新きてるね。これは機体
298 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga sage]:2018/01/03(水) 01:21:25.65 ID:D/ZVingG0
謹賀新年。明けましておめでとうございます。
今年もどうぞ宜しくお願いいたします。
皆々様のご健勝とご多幸をお祈りしております。
私事で恐縮ですが、年末年始はしっかり寝込んでおりました。
一生分の咳をしたような気がします。
それが起因で声帯を痛めつけた結果、
かのプロレスラー天龍源一郎のような声で日々過ごしておりまして。
体調回復に努めていた故に安価内容は未だ未着手。
近日中に上げようと意気込みはありますので、
思い出した頃にスレを覗いてくださると嬉しい限り。
299 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/03(水) 09:41:21.49 ID:TKKPjbVqO
あけましておめでとうございます。
お身体を大切に、無理はなさらぬよう…
300 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/03(水) 14:24:27.45 ID:Ic+MS72qo
>>298
あけましておめでとうございます。
御自愛ください
301 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/04(木) 07:49:44.14 ID:nQQw/K0bO
天龍で草
お体に気をつけて過ごしてください
302 :
(´ω`)
:2018/01/08(月) 05:16:54.74 ID:SgrNZwah0
体調にお気をつけて無理せず更新してください…
私も年末にインフルエンザにやられたクチです…
303 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2018/01/09(火) 21:03:28.39 ID:xcA863R90
楽しみに待っていますよ
304 :
NATHAN
[sage]:2018/01/15(月) 01:40:12.44 ID:UDMIs4Zw0
保守
305 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/15(月) 17:01:08.96 ID:Hql4hg9c0
保守
306 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/16(火) 15:30:51.79 ID:Ng5+RBxr0
肺炎一歩手前でした。(挨拶省略)
週末には元の住まいに戻れるとの事なので、ようやくまともに書けそうです。
長らく投下できずに申し訳ありません……。
新年のあいさつや体調を気遣って頂けるレス、スレが落ちないための保守など有難うございます。心が温まりました。
ところで、私のようなぽんこつは脳内でよく物語のイメージソングを垂れ流してしまう性(さが)でして。
それを皆様にも共有したいと思い、このスレを想起しながら聞いた曲を一つ紹介させてください。
https://www.youtube.com/watch?v=I79m_otKgJI
本編に関しては、今週の土曜か日曜辺りにでも改めて覗いて頂けると幸いです。
307 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2018/01/16(火) 16:45:55.87 ID:LZPRrAq90
待ってます!
308 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/17(水) 17:57:05.64 ID:uGMrt0jSO
まだかなー?
309 :
名無し
[sage]:2018/01/17(水) 19:21:59.54 ID:DbbzBz000
肺炎手前とは危なかったですね・・・。
無理をなさらずに更新してくださいね、待ってます(∩´∀`)∩
310 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/19(金) 23:35:49.01 ID:zdfdEQWn0
保守
311 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/20(土) 00:03:24.21 ID:Qhwvu5580
【二人のエピソード】
季節は夏
夏祭りで花火を見る
【視点:男 or サンディ】
男
【サンディの最近の趣味】
猫観察
312 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/20(土) 00:08:37.57 ID:Qhwvu5580
部屋の窓から見える敷地に、桔梗の花が濃紫の花弁を慎ましく覗かせていた。
梅雨の空けたこの時期は吹く風みなに湿気が纏わりついているような気がする。
その風色が頬を撫でると涼やかさを少し感じた。
本格的に始まる夏が一歩一歩近づいているような兆しで、
緩やかでも確実に四季が巡っているのだと再確認できる。
朗らかな気持ちに流され軽く背伸びをしようと手を伸ばす。
ずきり、と右の肘が少しだけ疼いた。先月の怪我が未だ完治していないようだ。
この手の傷は何度か負った事がある。手酷いものではないので、そのうち治るだけでも良しとしておこう。
そのまま軽くストレッチでもしようかと思うと、不意に後ろから呼びかけられる。
「お兄さん、今日も行ってきます」
声のした方向を向くと、そこには少しだけ日に焼けた健康的な肌色の少女が居た。
名前はサンディ。去年の秋から一緒に住んでいる同居人だ。
313 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/20(土) 00:10:47.04 ID:Qhwvu5580
七分袖の白いシャツにショートパンツ。
そして日除けの麦わら帽子を被った格好で、
ピシッと音が立つような真っ直ぐな姿勢を向けてくれる。
「おぉ、今日も元気だね。ちゃんと飲み物は持ったかい?」
「はい、万全です。ぬかりはありません」
ふんす、を鼻を鳴らすような動作をしつつ、
肩にかけたポシェットから清涼飲料水を出して見せてきた。可愛い。
ポシェットの中には飲み物の他に筆記用具とノート、
そして塩飴、更にはGPS付防犯アラームが常備してある。
五月の事件以降、特に防犯アラームだけは絶対に手放さないよう言いつけていた。
素直な彼女はしっかりと言いつけを守ってくれているようだ。
よしよし、とサンディの頭を麦わら帽子の上からぐりぐり撫でてみる。
ショートパンツの裾をぎゅっと摘まんでサンディは僕の手を受け入れてくれた。
もじもじしている仕草からして、ひょっとすると照れているのだろうか。
それがまた何とも可愛らしいと思い、もう少しだけ愛おしむように撫でてみた。
君の今日が幸せでありますように、と。
ひとつまみだけ愛を添えて。
314 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/20(土) 00:15:31.60 ID:Qhwvu5580
「お、お兄さん!そろそろ修行に行ってきますね!」
「はい、いってらっしゃい」
玄関前で一度振り返って僕に向けて手をぱたぱた振り、サンディは外出した。
最近サンディは一人で外に出る事ができるようになった。
さらに外出先で趣味に興じるようになったのも非常に喜ばしい。
昔はどこに行くにしても僕が傍にいたが、以前に比べれば随分と快活に変わってくれたものだ。
もちろん彼女に気付かれないよう、当面の間は組織に頼んで護衛をつけてもらってはいるが。
外で遊ぶのも健康的で子どもらしいから大変喜ばしい事である。
ただ、遊ぶ、というのはひょっとするとサンディ的には語弊があるのかも知れない。
そう、あくまで彼女にとっては“修行”なのだ。
修行の内容は、猫の観察。ほんと愛らしすぎて悶死しそう。
315 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/20(土) 00:19:25.70 ID:Qhwvu5580
なぜサンディが修行などという言葉を使うようになったのか。
事の発端は彼女と一緒に図書館へ行ったときに遡る。
あの子に知識の幅を持たせるために、僕はそこへよく連れていくのだ。
図書館に赴き、いつもの如く読書用スペースに各々本を数冊持ってきた。
僕はノンフィクション小説、そして新書コーナーにあった本を幾つか見繕う。
サンディは多種多様な本を六冊持ってきた。
背表紙を見る限りは本当にジャンル不問の模様。
まさか青色申告関連の本まで読むのかい、君は。
もし本当にその手の専門書の内容を理解できているのならば、
年中火の車である我が探偵事務所の経営を一緒に回してほしい。
切に。切に。いや本気八割くらいで切に。
316 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/20(土) 00:22:50.23 ID:Qhwvu5580
サンディが持ってきた本の中でも特に僕が目を引いたのは、職業に関する本だった。
そういったものは僕も就職活動をしていた頃に読んだ事がある。
どういう職種や職業があるのか、どうやったらなれるのか、どのくらい稼げるのか。
夢への道筋、その先の現実、そんな未来の在り方が書かれているような内容だ。
ひょっとすると、サンディには将来の夢があるのだろうか……。
小さな声で問いかけてみた。
「サンディ、将来は何になりたいの?」
それを聞いたサンディは顔を真っ赤にした。まさかの地雷だったか。
彼女は耳まで紅潮させつつ、なにやら索引ページから探し始めた。
そして本をパラパラと捲ると、彼女はその項目を開いて僕にそっと差し出した。
そこにはこう書いてあった。
『 探偵 』 と。
317 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/20(土) 00:29:03.20 ID:Qhwvu5580
サンディはその項目を一所懸命に読んでいた。
その中で彼女が学んだ重要な点は、職業内容。
特に今の自分に出来そうな所をブラッシュアップしていた
探偵の探しものは人や動物。専門的に人を探す所もあるが、大体は動物を取り扱う方が多い。
そしてサンディは動物探しなら自分にも手伝えるかも知れないという結論に至った。
いつか自分が探偵の仕事を手伝えるようになるために、最近は“修行”を始めたというわけだ。
318 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/20(土) 00:31:30.30 ID:Qhwvu5580
これは只の余談になる。
それからしばらく僕らは読書に耽り、読み終えていない本を借りて図書館を後にした。
車の中で互いに今日読んだ本の感想を語りつつ、その合間で僕はふと思った。
読書をさせてみることで気づいたが、彼女の日本語に関する語学力は同年代よりもかなり高い。
難しい言葉をすらすらと読めて、且つ漢字の読み書きは中学生と同じかそれより上のレベル。
どうしてこんなに日本語が堪能なのか。それをふと聞いてみた。
曰く、日本に連れていかれるのは自分が奴隷になった早期の段階で決まっていたと。
国外の売却先であるご主人様に迷惑かけないように、
日本語、というか学問の分野に関しては相当仕込まれたとか。
それを聞き終えた後、衝動的に僕は彼女を抱きしめた。
突然抱き着かれたサンディは僕の胸のうちであわあわと慌てふためいたが、
ひとしきり手をパタパタさせたあと、観念したように僕の背中へとおもむろに手を伸ばしてくれた。
常人では耐えきれないような、そんな辛い経験を経て覚えた日本語は嫌いなのかも知れない。
彼女のことを鑑みず、勉強が出来る理由を聞いた事に対して「ごめんね」と呟く。
すると僕の耳元でサンディは囁く。
「あの辛かった時間も、こうして貴方とお喋りするためにあったと思うと、幸せなんです」
僕はまた、ぎゅっと彼女を抱きしめた。
319 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/20(土) 00:36:59.88 ID:Qhwvu5580
閑話休題。
それからサンディは探偵見習いと自称して、その修行のために動物の動きを見ていた。
僕らの住まいは周囲に野良猫が多いから、観察の場としては打って付けだろう。
サンディは動物好きという事もあり、まさに趣味と実益を兼ねている。
最近は猫の気持ちになりたいから、と猫耳付カチューシャを所望された事があった。
用途をもう少し深く訊ねると、それをつけて動物探索のために町内を闊歩するつもりだったとか。
現状あまり人目についてはいけないサンディだが、流石に色々と注目されそうなので却下した。
だが、シュンとしたあの子を見てしまうと僕の心はどうにも脆弱になってしまう。
家の中だけならいいよ、と買ってあげたのはここだけの話に留めておいてほしい。
320 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/20(土) 00:39:22.52 ID:Qhwvu5580
最近の修行場所は近所の空き地に住まう猫たちの観察が主流のようだ。
今日もそこに向かっており、持っていたノートに何やら色々と書いているのだろう。
そういえば、実際に修行している場面って見た事がなかったなと思い出す。
……尾行してみるか。
決して仕事が入らず暇なワケではない。
ハードボイルド探偵として、それこそ修行の一環を最近怠っていたのを失念していたのだ。
ここ一つ、サンディに本物の探偵の尾行をお見せしよう。いや見せたら尾行にならないけれど。
傍から見れば女子小学生に付き纏うアラサー青年になるという事か。
なるほどちょっと死にたくなる光景だ。
サンディに持たせている防犯アラーム、初めて鳴り響く相手が僕じゃありませんように。
321 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/20(土) 00:40:01.88 ID:Qhwvu5580
今宵はここまで。続きは近日。
322 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/20(土) 01:11:26.33 ID:T2FWtZAZo
おつ
ネコミミサンディを家に監禁(語弊)とか……マスターこっちです
323 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/20(土) 06:51:47.59 ID:YUXyrn6S0
五月の事件とは一体…気になる
324 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2018/01/20(土) 07:57:31.75 ID:Tt+9yqQ5O
おつ、楽しみ!
325 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/21(日) 00:21:41.91 ID:eL2mP0RHO
乙です。サンディ…
やっぱり翔太郎で再生される…
326 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/21(日) 02:17:09.20 ID:gEuhmUohO
更新きてるー!うれしい!!
サンディぐぅかわなんだよなあ……
327 :
m
[sage]:2018/01/21(日) 06:14:41.99 ID:T8WsVcJI0
更新キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
待ってます!
328 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/26(金) 14:25:27.29 ID:NrLW8VxQ0
相変わらず癒される...
無理しない程度でいいので更新待ってます
329 :
m
[sage]:2018/01/29(月) 02:10:19.02 ID:ZHfM2+Rs0
ほしぅ
330 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/01/31(水) 03:17:09.62 ID:VSRPkGtqO
ほしゅ
331 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/02/01(木) 04:28:50.39 ID:g3o3GpUFO
保守
332 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/02/01(木) 04:30:01.93 ID:g3o3GpUFO
保守
333 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/02/03(土) 12:43:19.75 ID:y3/GEi8TO
ほしゅるん
334 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2018/02/07(水) 02:06:10.28 ID:gEc+r8DH0
保守
335 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/02/08(木) 19:20:57.49 ID:e9FipieJ0
保守
336 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/02/09(金) 17:56:28.17 ID:ROQA8ONmO
ほっこりしたくなったらたまに読み直してる
更新のんびりまってます
337 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/02/09(金) 18:08:50.20 ID:K3sHqXN7O
ほしゅ
338 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/02/11(日) 06:40:53.93 ID:AYOUkIcBO
保守
読み返したけどやっぱ癒されるわ……
339 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/02/11(日) 13:42:04.15 ID:DiJEXGug0
保守
340 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[m]:2018/02/13(火) 00:23:47.81 ID:EfUJyyZh0
保守ううう!!!!!!!!
341 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/02/13(火) 00:45:48.34 ID:nmHWO3L10
何度読み返してもホッコリする…
続きを気長に待ってます
342 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/02/13(火) 08:44:12.76 ID:mXkgRK7bO
つづきのんびり待ってます
小説とかになればいいのに
343 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/02/13(火) 23:05:22.49 ID:95Pvhgo00
保守
344 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/02/14(水) 00:22:11.55 ID:lqfaoJaX0
ほしゅ
345 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/02/17(土) 01:20:42.45 ID:V0xcROtO0
保守
346 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/02/17(土) 15:32:02.67 ID:Jku2EmAH0
今更だけど保守いらんぞここ
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