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男「元奴隷が居候する事になった」【安価有】
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12 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/06(月) 22:26:26.87 ID:RfneMM/3o
ksk
13 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/06(月) 22:26:58.90 ID:vC6TSfSp0
リンダ
まともな名前が来ますように!
14 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/06(月) 22:27:10.84 ID:t2BjLYsM0
サンディ
15 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/06(月) 22:47:57.10 ID:1bqYoAB70
>>14
「私の名前は……サンディ、です……」
少女は俯いたまま、ぼそりと呟く。
可愛い名前だね。
そう率直な感想を告げると、さらに身を縮こまらせて耳を真っ赤にしていた。
「仲睦まじいようで何よりです。では、私はこの辺りで失礼させてもらいますね」
ああ、そうだ。報酬は忘れないでくださいよ。
そう釘を打つと、彼は微笑みを返してくる。
謎の不安が胸をよぎるが、まぁここは信用しておこう。
そして依頼人は去り、中に残されたのは自分と、少女……サンディの二人。
これから一年間の同居人に向かって、とりあえずは声をかけてみよう
「ずっと入口に立ってると寒いでしょ? 汚い事務所だけれど、まぁお入りなさい」
「お、お邪魔します……」
「これから宜しくお願いするよ、サンディ」
「は、はい、ご主人様……」
変な言葉が聞こえてきたのは気のせいだと願いたい。
前途多難になりそうだが、まぁ楽しくやっていきたいところだ。
彼女がほんの少しでも幸せで在るよう、祈りを続ける日々がこうして幕を開けた。
16 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/06(月) 23:00:14.17 ID:1bqYoAB70
今日はここまで。お目通し、安価協力に感謝を。
のんびり書いているので、ゆるりとお茶でも飲みつつお待ちください。
感想やご意見などあれば是非ぜひ。
【作業用BGMより一曲】
https://youtu.be/P20NA5_nMfw
17 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/06(月) 23:03:09.32 ID:c7c87bhwo
おつ
きたい
18 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/06(月) 23:03:28.70 ID:RfneMM/3o
乙
19 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/06(月) 23:16:05.09 ID:CbR4GO9cO
おつ
20 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/07(火) 06:41:20.02 ID:lfj9bXFJ0
仕事場でもあり居住地として使用している我が根城。
事務所兼自宅に男が一人だけ。
そこに暮らす輩が無精者だとすれば、それはまぁ見事に散らかっているもので。
顧客を招く職場としての事務所は辛うじて綺麗な環境を保ってはいるが、
これぞハリボテと呼ぶのが正しいものだろう。
少し裏に回れば掃き溜めの如き環境が広がっている。
ここに年頃の娘を住まわせるのか?
……え、ここに?
21 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/07(火) 06:48:30.54 ID:lfj9bXFJ0
否、断じて否。
部屋の散らかりは心の散らかり。美しい場所でこそ凛とした育ての場に相応しい。
元から性根の腐っている自分ならまだしも、これは子どもを預かる環境としてはあまりに不適切。
「サンディ。もしかしなくて、今日から早速一緒に住むって事でいいのかな?」
「は、はい。ご迷惑でしたら、適当に野宿をしながらでも生きていきますので……」
彼女の目じりに涙が一気に溜まる。
人に泣かれる事なぞ滅多にないので、ついあわあわと狼狽してしまう。
「いやいや、違う違う。もしそうだったら、ちょっとお願い事があってね」
「あ、しょ、承知いたしました。私に何なりとお申し付けください」
サンディは目元の涙を腕でごしごしと拭った後、スカートの端を軽くつまんでお辞儀をしてくる。
なんとも優雅な身のこなしだ。堂に入っている事が妙に胸をざわつかせるが、それは現状まぁ置いといて。
はい、どうぞと。彼女の両手にそれぞれハタキと空のバケツを持たせる。
そしてそのまま玄関先に向かい、OPEN札を裏返しておく。今日は早々に店じまいだ。
「……部屋の片づけ、一緒にやってもらってもいいかい?」
「お任せください。謹んでお受け致します」
普段から綺麗にしておかないから別嬪さんに迷惑かけるんだよ、と。
今は亡き母が空から怒っているような幻聴がした。
うむ、ごもっとも。
この情けない現状は自分だって心苦しいし恥ずかしいのだ。
とりあえずは、えっちな本だけ先に片付けておくことにしよう。
22 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/07(火) 07:14:10.65 ID:lfj9bXFJ0
彼女を招いたのがお昼過ぎくらいの頃だったか。
今やすっかり日も傾いて、もう夜の帳が下りそうな時間だ。
もっとこう、時間もあれば多少は片付けて招けたのだが……などと、心の内で言い訳だけ噛み砕く。
彼女の尽力のおかげで、居住地だけではなく、トイレ、風呂、果ては事務所の隅々まで見事に綺麗になっている。
久々に自分の部屋の床が見えて感動していた昼下がりの自分が、また何とも残念な大人っぷりを醸し出していた。
サンディは、未だに事務所の床をモップで一所懸命に磨いている。
そんなに擦ると摩擦係数がなくなるんじゃなかろうかと思ってしまう程だ。
「お疲れ様、サンディ。まだしんどいだろうに、初日から無理させてごめんね」
「いいえ、ご主人様。私如きがお役に立てるのならば幸いです」
滔々と彼女は言う。
滅私奉公が義務のような言い方だ。
そんな言葉を使い慣れているのが、今までの環境を想起させてくる。
「君が居てくれて良かった。今日はこのくらいにして、夕飯にでもしようか」
そんな素直な感想を伝えると、彼女は一瞬ピタっと動きを止めて、目を大きく見開いて驚いていた。
何か不味い事でもあったのかと心配していると、
「……今、なんと?」
と、訊ねてきた。
「いや、もう今日は終わりにして、ご飯でも食べようかって……」
「いえ、その、前の、言葉です……」
「ああ、君が居てくれて良かったっていうあれか。 うん、僕の正直な気持ちだよ」
「……っ」
彼女はその大きな瞳から、滂沱の涙を零し始めた。
とめどなく流れていくそれを抑えようと、サンディは両手を顔に添えて必死に堪えている。
「も、もったい、ない、おこ、おことば、です……。
あ、あり、ありが、……うっ、ありがどう、ございまず……」
当たり前の言動で心が震えてしまうほど。
虐げられてきたのだろう。傷ついてきたのだろう。
今まで辛かったのだろう。
かける言葉は、今の自分には見つからない。
ただ今日の夕飯は、とても美味しいものを準備してあげたい。
そう心に決めた。
23 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/07(火) 07:34:15.98 ID:lfj9bXFJ0
涙を流していたサンディを事務所のソファに座らせ、手元にティッシュを添えてやる。
その対面に自分は腰をおろして、感情の起伏が治まるのを待ってみた。
「お見苦しいところを、失礼いたしました」
ずびっ、っと鼻を啜りながら彼女は謝罪を口にする。
ようやく泣き止んでくれた頃には、辺りは既に真っ暗になっていた。
時刻は十八時を回って少々。秋の半ばは夏に比べると宵の口が早くなる。
「いいよ、気にしないで。ゆっくり慣れていけばいいさ」
「お心遣い、恐縮です」
不器用に頭をかくん、と下げてくる。彼女の年相応な本意の礼だろう。
何とも不慣れなのが妙に可愛らしい。
「それで、今日の夕飯なんだけれど。何か食べたいものとかあるかい?」
「いいえ、特に。……それで、私は何をすれば宜しいのですか?」
「え、いや別に。何もしなくても、出前で適当に頼もうかなって」
「そうではなく。食べ物を貰うときは、相応の何かをするという事でいつも貰っていたので」
「そういうのは要らないし、受け取らないよ」
冷えた言葉が口から漏れた。
彼女の過ごした環境への憤りが、つい態度に出てしまう。
こういう点が自身の幼い所で、改善しなければならないところだというのに。
猛省しながらサンディを見ると、やはり空気が変わってしまった機微に触れている。
緊張していただろう体が更にこわばっており、顔面蒼白になっていた。
「も、も、申し訳ありません……ご主人様への不快な発言をしてしまい、まして……」
彼女のスカートの裾が大きく皺になる。両手で握りしめているから。
早々に誤解を解かねばならない。
「ああいや、違う、違うんだ。君に怒っていたんじゃない。
君がいた昔の場所を考えて、僕はつい変な空気にしてしまった。そして、不安にさせてしまった事を心から謝罪する」
赦してくれとは言えないが、誠意が伝わりますようにと思いながら大きく頭を下げた。
24 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/07(火) 07:49:42.18 ID:lfj9bXFJ0
彼女の返答を待つまで頭を下げていたが、一向に答えが返ってこない。
嫌われてしまったか。
それも已む無しと思いつつ、ふと顔を上げると。
両手をあわあわと振りながらも、言葉に詰まって慌てふためく彼女の姿があった。
「あ、あの、あのその! お、お気にならさず、なさらず!?
わ、私如きに頭を下げるというのは滅相もないというか何というか
そういう風にされるのは生まれて初めてだからどうすればいいのか分からないというか私はそのあのそのその…!!」
一気にまくし立てて喋るから、後半は何を言ってるのか正直分からなかった。
だが、何とも愛くるしいその様に、つい吹き出してしまう。
嫌われていないのが分かっただけでも、こちらの心も随分と軽くなるものだ。
「ゴメンよ、サンディ。次から気を付ける。
付けるついでに取り直して、夕飯の相談をしよう」
「しょ、承知しました……」
尻すぼみな返答をしつつ、何となく「ここでは何もしなくても良い」と伝わってくれたようだ。
後は何か美味しいものでも食べよう。
食事というのは、それだけで心を満たしてくれる。
「ところで、君は何か好きな食べ物とかあるのかい?」
「す、好きな食べ物ですか……?」
「うん、ご飯を食べるついでと言っちゃ何だけれど、これから一緒に暮らすんだから、趣味嗜好とか知っておきたいんだ」
「出されたものは何でも全て食べていましたから、嫌いなものはありませんが……。
好きなもの、というのは存外難しいです……」
「まぁまぁ、何でもいいよ。インタビューみたいなものさ。 あくまで、好みだけ教えてほしい」
「そう、ですね……。今まで食べて来られたもの、で、美味しかったものと言えば……」
「
>>27
、ですかね」
25 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/07(火) 07:54:42.49 ID:fV6fJm9D0
さつまいも
26 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/07(火) 08:40:19.82 ID:d9cRRv3Uo
ピーマン
27 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/07(火) 08:41:03.41 ID:CpKmnU3DO
お魚
28 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/07(火) 09:14:24.06 ID:lfj9bXFJ0
>>27
「お魚、ですかね」
これはまたずいぶん漠然とした好物だ。
種類は何か、調理方法はどういったものが好きか、味付けはソースと塩のどちらが良いのか。
色々と聞きたい所はあるが、まずは彼女の好きな物が分かっただけでも良しとしよう。
「そうか、君は魚が好きなのか」
「はい。特に食べ方のこだわり等はありませんが、お魚さんが好きです」
お魚さん。なにそれ可愛い。
こほん、と誤魔化すための咳払いを一つ。
「何で魚が好きなのか、聞いてもいいかい?」
「私は物心が着く頃辺りまで港町に住んでいたのだと思います。
もう記憶も朧気なので、どこに居たのかまでは思い出せないのですが。」
「ほぅほぅ」
「そこで覚えているのは、活気のある町と、顔も思い出せない母の手、そしてお魚さんを使った色んな料理。
だから、魚を食べているときだけは、何となく昔を思い出してもいいような気がしまして……」
「なるほどね」
「失礼致しました。つまらない話をして申し訳ありません」
「いや、いいんだ。話してくれて有難う。
おかげさまで出前のメニューがようやく決まったよ」
まだ報酬の振り込みが確認できていないからほとんど素寒貧だが、今こそ見栄の張り所。
サンディ、君にはジャパニーズ海鮮料理の金字塔こと“SUSHI”の魅力を存分に堪能してほしい。
29 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/07(火) 09:28:46.63 ID:lfj9bXFJ0
「……綺麗」
届いた特上寿司を見た彼女の感想だ。
美味しそう、ではなく、綺麗というのがまた何とも奥ゆかしいというか。
薄いピンクの霜降りが垂涎を誘う大トロ、こんなに並んでいるのは自分でもほとんど見た事がない。
イクラが宝石と喩えたのは一体誰だったか。今なら非常に共感できる。
眺めているだけで垂涎を誘う素晴らしい光景、お預けのままでいるのはあまりに惜しい。
「よし、では一緒に食べよう」
「?」
サンディは首をかしげてこちらを見てくる。
はて一体どうしたのか。
「一緒に食べても、宜しいのですか?」
「いいよ。むしろ君に食べてもらいたいから準備したんだ。遠慮はダメだぞ」
「……すいません。あまりにも普段と違う環境なので、その、どうしていいのか分からなくて」
「うん。 これから少しずつ慣れていけばいいさ」
そう言いながら、彼女の頭をくしゃりと撫でてみる。
こそばゆそうな、でもどこか嬉しそうな顔で撫でる手を享受してくれた。
「では、いただきます」
「い、いただき、ます……?」
自分が手を合わせるのを見たサンディは、その仕草を真似たのちに寿司に向かって頭を下げる。
そう。美味しい物を食べるという当たり前の日常。いや、寿司は当たり前ではないが。
人が日々の中で過ごすそんな幸せに、少しずつ、慣れていってほしい。
30 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/07(火) 09:34:51.89 ID:lfj9bXFJ0
昨今の出前寿司は、ワサビ抜きがデフォルトになっている。
別個でワサビは準備されており、それを醤油入れ用の小皿に分けて好みの量を取るのが普通なのだ。
ただ、きっと彼女の食べた一口目はきっと例外でワサビがてんこ盛りだったのだろう。
泣きながら寿司を食べる人を初めて見た。
それでも美味しそうに食べているその様は、お腹よりも、心を充分に満たしてくれた。
まだ食べていないのに、何故かこっちまで泣きそうになってしまうのは困りものだ。
31 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/07(火) 09:50:17.57 ID:lfj9bXFJ0
「少し横になっても良いですか?」
それを承諾すると、お腹いっぱいになったらしい彼女は充足したようにソファに横たわった。
どうやら食べ過ぎたらしい。
もともと線の細い少女だと思っていたから、これからどんどん食べてほしいものだ。
「こんなに美味しいものを食べたのは、とっても、久しぶりです……」
くりくりの大きい瞳を目蓋が覆い隠そうとしている。
どうやら眠気が襲ってきたようだ。まるで子どものようだと思いつつ、そういえば子どもだったなと再確認する。
食後のお茶でも準備するために席を立ち、再び戻ってきた頃には対面の少女は穏やかな寝息を立てていた。
就寝用のベッドは一つしかないから、彼女にはそれを利用してもらい、自分は事務所のソファで寝ることにしよう。
寝室には後から運ぼうと決め、まずは一服しようと自分が淹れた玄米茶を軽く啜る。
気持ちよさそうに眠っているサンディを見ると、心が温かくなる。ふっと自分の口元がたわんでしまう。
これは傍から見たら事案になるのか。などと変な事を考える前に、窓際にかけてあるカレンダーに視線を移した。
今日の日付は、十一月十一日。語呂も良くて覚えやすく良い日だ。
同居人というか居候が突然増えた日。
おおよそ一年という期間が長いのか短いのは今は分からないが、とかく、大切に過ごそうと思った。
32 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/07(火) 09:56:55.52 ID:lfj9bXFJ0
【今後の呼ばせ方について】
1:ご主人様のままで構わない
2:先生、お兄さん、など特定の呼び名(要安価)
3:主人公の名前(要安価)
>>33-40
までの間、多数決にて検討。
33 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/07(火) 09:59:13.41 ID:d9cRRv3Uo
先生
34 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/07(火) 10:06:20.42 ID:zeWxoSbb0
お兄さんで
35 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/07(火) 10:11:06.25 ID:o4MwoIQHo
先生
36 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/07(火) 10:31:52.55 ID:XUmJd7Qro
3名前+さん
名前はまた安価で
37 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/07(火) 11:11:54.49 ID:mV0W04Za0
兄さん
38 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/07(火) 12:03:31.83 ID:MoSOz1bTo
兄さん
39 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/07(火) 12:04:07.34 ID:VPXDCBzPO
名前+さん
40 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/07(火) 12:19:59.13 ID:4w0OIzJ2o
兄さんで
41 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/07(火) 12:34:07.81 ID:lfj9bXFJ0
では、2番の「兄さん」にて採決を。ご協力に感謝。
ご主人様枠がレスで一つも無いという皆の優しさほんとすき。
のんびり書いているので、ゆるりとお茶でも飲みつつお待ちください。
感想やご意見などあれば是非ぜひ。
42 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/07(火) 13:38:29.16 ID:nEbuNM+xo
1だと他人に言い訳きかないからね…
43 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/08(水) 15:00:34.01 ID:q2+5VjSt0
【追加設定】
サンディの年齢は?(10〜15歳の間)
>>45
連れて行ってあげたい場所
>>47
44 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/08(水) 15:07:24.67 ID:J6iX0LlOo
13歳
45 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/08(水) 15:16:57.88 ID:BORsb27Ro
11
46 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/08(水) 15:20:35.16 ID:J6iX0LlOo
展望塔
47 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/08(水) 15:21:27.42 ID:ZXD2NsuDO
動物園
48 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/09(木) 22:08:10.74 ID:o6ummrG70
安価協力に感謝。
今帰宅したばかりなので、一息ついたらのんびり書いてみます。
49 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/09(木) 22:35:59.32 ID:oARFd2Gho
了解しました
50 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/09(木) 23:12:53.01 ID:o6ummrG70
ハードボイルドの朝は早い。
東雲の空に有明の月が少しだけ白を残す頃、僕はゆるりと目が覚める。
カーテンを開けると未だに外は静かなまま。静寂の帳があける前の時間帯。
今日はソファで眠ったので、少し姿勢が悪い寝方をしていたようだ。背伸びをすると軟骨が音を立ててくる。
くあぁ、と軽く欠伸を噛み潰すと、緩い虚脱感に抱かれているような心地良い気分を覚える。
寝起きで覚束ない足取りのまま、事務所の戸棚からコーヒー豆を取り出した。
それをミルで砕くと芳醇な香りが広がり、目覚まし代わりの気付けになってくれる。
今日の豆は粗挽きで仕上げてみた。コーヒーメーカーを起動させて、夜明けの一杯としけこもう。
出来上がるのを待つまでの間に微睡のゆりかごに揺られていると、ぴーぴーと機械音が聞こえてきた。
少し温めておいたカップにコーヒーを注いで、鼻先に近づけてみる。
ほろ苦さを醸し出す匂いが鼻腔をくすぐる空気を楽しみ、そのまま口元へ。
ずずっ、と一啜り。
これぞ朝の醍醐味。美味しい以外の感想なぞ野暮というものだ。
そしてそのまま淹れたてのコーヒーを嗜むため、次は一口目よりも少し多めに含んでみると。
< ええええぇぇぇぇぇーーーーーーーー!!!!
寝室からの絶叫でそれを盛大に吹き出した。
ハードボイルドな朝は終わりを告げたようだ。
51 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/09(木) 23:22:56.59 ID:o6ummrG70
すぐさま引き出しの拳銃を握りしめて駆け出した。
昨日は彼女をベッドに運んで、僕はそのままソファで眠っていた。
だからこそ、さっき寝室から聞こえてきた大声はサンディだろう。
一体なにがあったのか。もしや組織の残党が連れ戻しに来たのか。
口元に垂れたコーヒーと頭に浮かぶ不安は拭えぬまま、急いで寝室に駆け込んだ。
「サンディ、無事か!?」
そこで見たものは。
ベッドの上で深々と土下座をして迎えてくれた、年端もいかない少女の姿だった。
なんちゅう美しいフォームで頭をさげるんだこの子は。
52 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/09(木) 23:34:17.71 ID:o6ummrG70
気まずい雰囲気の際は時が止まる、というのは比喩表現ではなかったようだ。
自分の手には拳銃、目先には土下座スタイルの少女。外からうっすら聞こえてくる鶏の声。
体感的にだが、今たぶん確実に時間は停止している。凄まじい空気が部屋に漂っているぞこれ。
何なのだこれは、どうすればよいのだ。
一体どうやって声をかけようかと寝起きの頭を無理やり動かそうとする前に、彼女はゆっくりと頭を上げた。
そして、絞り出すように声を発する。
「……ご主人様より先に眠ってしまい、あまつさえ、寝室を占領するような体たらくで申し訳ありません」
一気に肩の力が抜けた。溜息をつきながら、ドアにもたれかかり、そのまま尻もちをついてしまう。
大事じゃなくて何よりだ。頭の中で思い描いた悪い想像が杞憂に終わってホッとした。
「いいよ別に、主従関係とか僕らにはないから気にしないで」
「ですが……」
「それより、サンディ。大事なことを一つ忘れてるよ」
「はい……?」
「おはよう。良い朝だね」
目の前の少女は目をまん丸にして、狼狽しつつも手元の枕を抱きしめる。
そして、とっても照れくさそうに、恥ずかしそうに、言葉を返してくれた。
「お、おはようございます……!」
53 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/09(木) 23:44:50.58 ID:o6ummrG70
予想外の形ではあるが、まぁ良い目覚ましにはなったかなと思う。
そのまま洗顔を済ませて朝食の準備に取り掛かる。
私にも何か手伝えることはありませんか、とはサンディ談。
特にこれといって手伝うものは無いというと彼女は気を遣うだろうから、とりあえずお皿を並べるようにお願いした。
朝食はトーストと目玉焼き、そして簡素なサラダ。
僕はコーヒーを、サンディには牛乳を準備して食卓に並べた。
彼女は目をキラキラさせながら朝食が出来上がる様子を眺めている。
「どうしたの?」
「私も食べて、いいんですか……」
「もちろん。ああ、でもパンは今この二枚しかないから、おかわりが無くてゴメンね」
彼女は首を大きくブンブンと何度も横に振り、ついでに手もパタパタさせる。
「いいえ!いいえ!お気になさらず!!こうしてご主人様からお恵みを頂けるだけで幸せです!!」
そんなサンディの頭に手を置き、軽くクシャクシャと撫でてみる。
そうすると、こそばゆそうな、でもちょっぴり嬉しそうなのが見て取れた。
俯きかげんな表情から覗ける口元がもにゅもにゅしているから。
「顔を洗っておいで。それが済んだら朝ごはんにしよう」
「は、はい!!」
54 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/11/09(木) 23:56:38.28 ID:uf8KxLWkO
見てます
55 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/09(木) 23:59:49.17 ID:o6ummrG70
「では、いただきます」
「い、いただきます」
昨日食べたお寿司の時と同じく、ご飯を食べる前の自分の動作を彼女も真似てみた。
たどたどしい身ぶりだが、これから時間が経つ毎に慣れていくだろう。
それにしても、とても美味しそうに食べてくれるなぁ。
作った身としては割と嬉しかったりする。
頬をぷっくりさせて一心不乱にもぐもぐしている様は、まるでハムスターみたいだ。
「ご飯は逃げないから大丈夫だよ。喉に引っ掛けないようにね」
「ふぇ!? ふぁ、ふぁい! 行儀が悪くてすいません……」
あまりに微笑ましいので、くっくっとつい笑いつつも一言告げてしまう。
サンディはあわあわしながら急いで牛乳を飲んで口内の食べ物を流し込んだ。
空になったコップにおかわりの分を注ぎ足すと、頭をぺこぺこ下げてお礼の動きを見せてくれる。
上司にビールを注がれたサラリーマンの動きそのものじゃないか。
くっはっは、とまたしても笑ってしまった。失敬失敬。
サンディは何が面白くて笑っていたのか分からなかったようで、キョロキョロしながら赤面していた。
56 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/10(金) 00:13:00.19 ID:uuR+QXp40
「ところでさ、サンディ」
「ご主人様、どうされました?」
朝食を終えてホッと一息ついた頃。
僕は片手に朝淹れたコーヒーを、サンディはオレンジジュースを持って、
お互いソファに向き合うように座っている。
「僕をご主人様って呼ぶのはそろそろ止めてみないかい?」
「え……? でも貴方様は私を助けてくれた恩人なので、貴方のモノとしてこれから生きていくのが普通では?」
「いやまぁ、そりゃ確かに助けたのは事実だけどさ。君に奉公されたくて動いたわけじゃないんだ」
「では、どうして助けてくださったのですか?」
「どうして助けた、か。 うーん……」
これはまた難しいな。どうして助けたのか、とは難しい。
誰かを助けるのに理由はいるかい、などと言うのはヒーローみたいだが、ハードボイルドではないな。
いや別にそこ(ハードボイルド)にこだわらなくてもいいんだけれど。
どうして助けたのか。仕事のためだ。
でも、きっとそれだけじゃない。
仕事のためというのは後出しの理由だ。本音を言うなら、たぶん。
「助けたかったから、かな」
「……」
サンディは訝しんだ顔をしている。理由になっていないからだろうか。
そう取られても仕方ない。確かに論理的ではないからね。
でも、あの時自分に浮かんだ感情なんて、そりゃもうシンプルなもの。
助けたかったから。
人の手を取る理由なんて、そのくらいの緩いスタンスで良いと僕は思うんだ。
57 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/10(金) 00:35:54.77 ID:uuR+QXp40
少しの間、サンディは黙ったままだった。何かを考えている様子だ。
それから、ぽつりと声を漏らした。
「私は、今まで生きてきた環境で、道具のように扱われてきました」
「うん」
「気に入られなかったらひどい事をされて、ご主人様の機嫌が悪くてもひどい事をされて。
機嫌が良いときこそ悲鳴が聞きたくなるという理由で、痛い事をされてきました」
「……そうなのか」
「ある日、その気まぐれで拷問を受けました。今までに一回だけ、本当に惨たらしい事を受けました。
その日の夜は死ぬ事ばかり考えていました」
「……うん」
「気まぐれというのは悪いものしか呼ばないと思ってました」
そしてサンディは、顔を上げてこちらを見つめてきた。
目には涙が今にも溢れんばかりに溜まっている。
「だから、そんな優しい気まぐれがあるなんて、思いませんでした」
涙の膜が張られた瞳は真珠のように淡く輝いて、美しかった。
「私は、ご主人様を、信じても、いいんですか……?」
僕はコーヒーを軽く啜る。彼女の気持ちに答える言葉を発するために喉を潤した。
「ご主人様、なんて呼ばせるような輩は信じちゃいけない」
「……」
「だから、この“お兄さん”を信じなさい」
「……!! はい、はい……! 信じます、信じます……! 信じさせて、ください……!!」
コーヒーを机に置いて席を立ち、そっと彼女の横に座る。
そのままゆっくり抱きしめて、胸の中に収めてみた。
朝方に零した淹れたてのコーヒーよりも熱いものが胸元を濡らしてくる。
ぽんぽん、出来るだけ優しく彼女の背中を叩いてみると、そのたびに胸にうずまった後頭部から嗚咽が響いてくる。
今まで辛い思いばかりの彼女が、ようやく年相応に泣くことが出来ているのかも知れない。
そう思うと何故だが僕の頬も濡れてしまう。涙を貰ってしまったようだ。
ハードボイルドとは程遠い朝だが、今日くらいは許してほしい。
58 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/10(金) 00:42:44.60 ID:uuR+QXp40
睡魔の都合にて小休止。現行で書いているゆえ、ゆっくりペースで恐縮です。
59 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/10(金) 00:49:47.09 ID:1yn0SZtN0
乙
60 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/10(金) 01:05:51.01 ID:5Ourvn8DO
乙
61 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/10(金) 01:08:00.01 ID:E++DTx1Qo
すき
おつ
62 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/10(金) 05:09:20.93 ID:uuR+QXp40
それからしばらく経って、ようやく落ち着いた頃、幼い顔が懐から離れる。
ぐずぐずの顔になっているサンディにティッシュを渡した。
びろんと鼻水がワイシャツに染み付いたのを恥ずかしがりながら、彼女は慌てて鼻をかむ。
一呼吸のちに、すん、と鼻を鳴らしながら言葉を紡いだ。
「泣いてばかりで申し訳ありません」
感情を流水、それを受け入れる心を器として喩えるなら。
きっとサンディの心は割れ物なのだ。
ほんの少し感情の起伏があるだけで、心の器が受け入れきれずに
涙となって溢れてしまうのだろう。
だからこそ、涙を流すことについてお咎めなんてある筈も無く。
それこそ嬉しかったり楽しかったりしたときに零れるならば致し方ないだろう。
63 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/10(金) 05:12:16.61 ID:uuR+QXp40
「気にしないで」
そう言いながら僕は彼女に微笑んでみる。
心に形は無いから、先ほどのはあくまで例え話の一環。
これから彼女に起こるのは幸せな事柄ばかり。祝福の花吹雪で毎日を過ごすのだ。
たった一年の間だけとはいえ、僕がそうしてみせる。
その度に泣かれては脱水症状でも起こしかねない。
僕がしてあげられそうなのは、サンディの傷ついた心と体をこれからゆっくり戻すこと。
今まで生きてきた結果で積み上げられた心身を大事にしながら、また新しく形成していけば良いだけ。
結論は至って単純。シンプルこそが難しくも美しいのだ。
64 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/10(金) 05:50:55.29 ID:uuR+QXp40
さて、今日はもともと探偵事務所が休みの日付だ。
折角ならサンディを連れてどこか外出でもしてみようか。
ふと改めて彼女の恰好をまじまじと確認してみる。
藍色を基調とした無地のパーカー、飾り気のない白いスカートに黒いタイツ。
これは服の下にある古傷を見せないための配慮なのか。
それとも見立ててくれた人の輝きすぎるセンスなのか。
後者ならばそっと目を瞑ろう。
何にせよ、将来はモデルか芸能人にでもなるような整った顔立ちに対して少々無骨すぎるファッションだ。
彼女も立派なレディ予備軍。ここはひとつ外出用やら部屋着やらで洋服を見立てるとするか。
「よし、今日は軽く出かけるとするか」
「はい、いってらっしゃいませ」
危うく前のめりにこけるところだった。ノータイムでお留守番の返事と来たか。
「いや、君も来るんだよ」
「私がついて行っても宜しいのですか?」
「もちろん。これから一緒に住むんだから、君の日用品とか買い足そうと思ってね。
好みの問題もあるだろうから一緒に選んでくれると嬉しいな」
「そ、それは恐縮ですが……では、ご一緒させて頂きます!」
そう言ってサンディはびしっと姿勢を正す。うむ、善き哉善き哉。
65 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/10(金) 06:13:35.91 ID:uuR+QXp40
本日の予定が決まった後は準備をしなければ。
部屋着から外出用の服に着替え、髪のセットや髭剃りなど身支度を整える。
その間にサンディはテレビをずっと見ていた。
朝のニュースは芸能界の何某な話題にシフトしており、彼女にとっては馴染みのないネタだと思うが
どうやらテレビ自体を見ることが物珍しいらしく
キャスターの話にうんうんと首を縦に振りながら頷いていた。なんてキュートな仕草。
自分は身支度している一環で歯ブラシを口に加えつつ、昨日チェックをし忘れていた郵便受けの中身を確認するため玄関へ。
そこには一通の封筒が投函されていた。
差出人は例の依頼人。丁寧に折られた便箋を解くと、中には手書きの文章が。
それを確認すると、歯磨き粉で泡立つ口元がさらにだらしなくポカンと開いてしまう。
> あの子の生活費は各月の十五日と三十日の隔週ごとに支払います。二月は月末予定で。
保護者である貴方の分も少し色を付けておりますが、無駄遣いはなさらぬように。
振り込みが満期を全うしたのちに、本来の報酬を振り込みます。
即日振込じゃないのか、とか。
結局は幾らくらいの金額が振込されるのか、とか。
いの一番に本報酬を支払ってほしいんですが、とか。
突っ込みたい事が山のようにある。
だが、まずは一つ。
絶望的に字が汚い……。
次からはパソコンで文章書いてくださいってどこにお願いすれば良いんだろうか。
66 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/10(金) 06:36:04.06 ID:uuR+QXp40
どうにか読解を終えて、軽くため息。なんか無駄に頭を使った気分だ。
ふと手元に握った封筒から何かの紙切れがヒラヒラと落ちていく。
そのまま自分の足元に着地したので拾い上げてみた。
ほぅ、なるほど。これは割と良い物かも知れない。
「ただいま」
「おかえりなさ……どうかされましたか?」
「……いや、なんでもないよ」
玄関から帰ってきた僕に向かって、サンディは心配の表情を見せてくる。
さっきの手紙を読んで変に疲れたのが表に出てしまったか。反省せねば。
まぁ近いうちに金銭面の心配が少しは和らぐのも分かったことだし、物事が前進したと捉えておこう。
手紙にはもう一つ。チケットが同封されていた。
これは郊外の動物園の入園チケットだ。割引券ではなくタダ券というのが太っ腹。
ただ、期限が今日だという点で見事に太っ腹な部分が帳消しになっている。
「サンディ、動物って好き?」
「はい、好きです。好きですが……何かあったのですか?」
「いや、ちょっと予定を追加しようと思って。買い出しがてら、動物園に行かないか?」
「……!?」
彼女の目がシイタケみたいに一瞬キラっとしたのを見逃さなかった。思った以上の好感触じゃないか。
グッジョブ依頼人、全力のサンクスを貴方に。
まずは動物園に足を向けて、その後にでも服と食料品を買うとするか。
あと三日は生き延びれるくらいは預金もある。
今日は可愛いものや楽しいものをサンディに見せてあげることが出来るよう、財布の中身を仮初めの潤沢にしておかねば。
現在時刻は七時五十分。
銀行が開く時間までは、とりあえず家で待機かな……。
67 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/10(金) 06:38:52.13 ID:uuR+QXp40
ここで一息。時間を見繕ってから改めて着手します。
一言だけでもレスは割と嬉しいもので。読んでくださる方々に感謝をば。
68 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/10(金) 07:06:45.01 ID:23riN+uo0
乙
69 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/10(金) 08:24:34.35 ID:IDMR8uvIo
乙です
70 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/10(金) 08:50:37.76 ID:Ghvc3d1c0
乙
71 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/10(金) 15:16:31.90 ID:z9TNpIkhO
乙
シイタケって…
72 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/10(金) 15:45:39.50 ID:Wxwn7AWrO
乙
73 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/10(金) 16:56:14.69 ID:sfW6kd/no
乙
74 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/11(土) 01:59:44.92 ID:ZDJ4wgU50
今帰宅。レスポンスに感謝。
今宵の投下は難しいので、少し睡眠を取ってから内容に着手します。
※
ちなみに。読んで頂いている方は男の年齢はどのくらいで想像されているのか。
明確な回答は特に無い&書く上での設定参考にしてみたいので、深く捉えずお気軽に答えてもらえると幸いです。
75 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/11(土) 02:12:29.28 ID:1Dyq91YXo
乙〜
年齢は28くらいのイメージ
76 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/11(土) 07:35:57.63 ID:bGcy+nyJ0
乙
30代前半ぐらい。20代後半にしてちょっと…
77 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/11(土) 08:16:04.65 ID:8y5v+uAQo
お兄さんよりむしろおじさんと言われた方が違和感の無い年齢
78 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/11(土) 11:21:13.61 ID:QK323oLm0
Wの翔太郎みたいなイメージだった
ハーフボイルドっぽいところもあるし
79 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/11(土) 11:25:45.73 ID:6Lu7LXaSo
前職あると考えてギリギリ29か8
80 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/11/11(土) 17:29:02.28 ID:zGnqo7znO
イメージは野々村病院の人々の海原 琢磨呂
海原琢磨呂探偵事務所の所長にして、事務所で唯一の私立探偵。32歳。数々の難事件を解決した手腕がありながら、女好きの性格のために悪名が高く、捜査依頼はさっぱりの閑古鳥であった。ある日、涼子とのふとした出会いが元で足を骨折し、搬送された野々村病院で亜希子から捜査を依頼される。
かなりのヘビースモーカーでもあり、何かにつけては紫煙を燻らせる。
81 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/11(土) 17:57:36.25 ID:Nl6ZjZqs0
とりあえず髭面ではない三十路を想定してた
82 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/11(土) 21:33:29.47 ID:0EtV53xmO
三十路手前のアラサー優男、ついでに髪は野暮ったく伸ばしてる感じ
83 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/12(日) 11:33:48.78 ID:LoDib1WAo
乙
すごくこういうの好み
年齢は28くらい
84 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/12(日) 21:02:59.93 ID:s+xF8aIN0
年齢に関するレス等ありがとうございます。 書き連ねる上での参考にさせて頂きます。
放映されている某怪獣映画を観終えた後にのんびり書き始めるので、夜半お時間ある方は覗いてみてくださいな。
85 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/12(日) 23:50:49.06 ID:s+xF8aIN0
何だかんだでダラダラと過ごしていると、気づけばもう九時を回ろうとしていた。
仕事中は一秒が体感三分にも感じられるのに、朝の時間はどうして過ぎるのが早いのか。
既に出かける準備は済ませておいたので、サンディに外出するよと声をかけて事務所を後にする。
玄関を出てから対面側の敷地にある月極駐車場。
そこには先代所長から受け継いだビビットピンクのハスラーが駐車されている。
結婚適齢期を迎えた年頃として、引き継いだ当時は乗り回すのを中々に恥ずかしがったりもしたが、流石にもう慣れたものだ。
当時の所長が「可愛いからハードボイルドだな」という謎すぎる理論のもとに購入していたのを思い出す。
「可愛い車ですね」
とはこれから助手席に乗り込もうとしているサンディ談。
それが気遣いから出た言葉ならば花マルを差し上げたい。
だが、どうやら彼女は本心で告げていたらしく、この車に乗る際にウキウキしている様が目にとれた。お気に召したようで何より。
まずは銀行でお金を引き落として、それから洋服を買い、そして動物園。
良い一日になりますようにと少しだけ願いつつ、僕は車のエンジンを起動させた。
86 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/12(日) 23:59:31.85 ID:XEYTZQK50
おまかわ
87 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/13(月) 00:03:55.02 ID:grI1dH9y0
車のカーステレオから流れているラジオは今日の天気を教えてくれた。
どうやら秋晴れが続くらしく、ここ一週間は出かけるのにうってつけの日取りだとか。
雨が降らないだけでも有難いのに、晴れ間にも恵まれているのは上出来だろう。
フロントガラスの先に見えるのは鼻歌でも歌いたくなるような青空だ。
季節柄だろうが日射しも強すぎず、日向ぼっこのような心地よい温かさが上半身を包んでくれる。
ふと横のサンディを見ると、シートベルトの根本に寄りかかるようにして目を閉じていた。
耳をすませば聞こえてくるのは穏やかな寝息。
よく考えるとやたら朝早く目覚めて、朝食を取り、この気候で車に乗っている。眠くなるのも頷ける。
普段よりも加速と減速に気を使い、今まさに育っている寝る子を起こさないよう早めに銀行の用事を済ませておこう。
しかし何だろうか。
助手席で心地良く眠られると、こちらもなんだか睡魔に肩を掴まれているような錯覚に陥る。
朝に補充したコーヒーのカフェインをゴリゴリ消費するようなイメージで戦わねばなるまい。
くわぁ、と生欠伸を一つ。
うん、良い天気だ。
88 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/13(月) 00:24:13.16 ID:grI1dH9y0
銀行からぼちぼちの金額を引き落とし、そこから走ること更に十五分。
目的地の一つである場所に到着した。
そこは全国でチェーン店が展開されている洋服屋の一つで、様々なジャンルの服を取り扱っている。
店内を少し見渡すだけでもキッズ用の衣類は散見されており、これなら色々と見繕えるだろう。
彼女の気に入る服はあるかなと思い、ふと横をみるとサンディがいない。
慌てて探すと入ってすぐのドアで口をあんぐりさせていた。
店の広さになのか、それとも服の種類の多さにだろうか。
「お、大きいですね……」
「そうだね。君の好きな服が見つかるといいな」
「でも、私なんかがこんな贅沢をしていいのでしょうか、ご主人様……」
僕はサンディの鼻先を傷つけない程度に優しくちょこんと指先で弾く。
「サンディ、僕はご主人様じゃなくて?」
「は、はい、そうでした……」
何やらもじもじしている。恥ずかしがっている様子だ。
「お、……おにい、さん……!」
頬を真っ赤にしながら、彼女は告げる。これから口にするべき僕の呼称を。
そう言ってくれたサンディの手を軽く握る。手を繋いでいれば、なんとなく年の離れた兄妹に見えてくれるだろうか。
彼女は俯き加減の姿勢になり、表情が見えなくなってしまった。
長い髪から覗く耳の赤さと、僕の右手に伝わる体温の温かさが気になるところだが、まぁ今は置いておこう。
入口から動かす意味合いと、好きな洋服を選んでほしいという気持ちで、僕らは手を繋いで売り場に向かうことにした。
89 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/13(月) 00:39:14.76 ID:grI1dH9y0
ファッションには疎いうえに、さらに子ども用の服なんてコーディネートした事も無く。
果たして一体どれがサンディに似合うのだろうか。さっぱり分からない。
まぁこの子は傍から見ても美形だ。目鼻立ちもくっきりしており、小顔で華奢ときた。
将来は美人になるのが容易に想像できる。
そんな彼女だからきっと何を着ても似合うのだろうが、それはそれとしてだ。
餅は餅屋というし、こういうのはショップの方に相談するのが一番だろう。
辺りを見回すと、手透きの女性店員を一人見つけた。早速声掛けしてみよう。
「すみません、この子に服を何点か見繕ってほしいのですが」
「はい、畏まりました。 こちらのお子さんですね。 ……あら、綺麗な子! お名前は何ていうの?」
店員は腰を屈ませて、自分の視点をサンディと同じ高さに持って行った。
当の彼女は急に大人に話しかけられてしどろもどろになっている。
「え、あ、うぅ……その……」
この子はサンディって言うんですよ、と軽く助け船。
素敵な名前ですね、と微笑みながら店員は言う。嫌味もなく、感じが良くて素晴らしい。
店員自体も綺麗な方だし、洋服はこの方に任せても大丈夫そうだ。
90 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/13(月) 00:53:36.29 ID:grI1dH9y0
「じゃあ僕は適当にレジ前のベンチにいるから、外出用と部屋着の洋服を最低三点ずつ選んだら教えてね」
「は、はい!承知しました!」
そういってサンディの頭を軽く撫でて、店員にお願いしますと声をかける。
そして少しだけ補足事項を伝えておいた。
「私はこの子の保護者ですが、あの子は過去の経験で古傷がありまして……露出の高い服は控えてくださると幸いです……」
「……畏まりました」
おおよそ察してくれたのか、深々とお辞儀をして僕に頭を下げてきた。色々な意図が見受けられるお辞儀だ。
きっとこの人は良い人なのだろう。
頭を上げてからすぐに女性店員はサンディに向かって声色高めに話しかける。
「さぁサンディちゃん! お兄ちゃんからOK貰ったから、いっぱい可愛い服を着ましょうね!!」
「え、え、えぇ……!?」
戸惑うサンディの肩を掴んで、キッズ用のラインナップが並ぶ棚に連れて行ってくれた。
うん、あとはのんびり待つことにしよう。
何となく子を持った親の気分だ。いや、親戚の子と遊んでるような感じが近いのか。
91 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/13(月) 01:07:01.74 ID:grI1dH9y0
それから一時間ほど後に、店員とサンディが手を繋いで歩いてきた。
いつの間にそんなに仲良くなっていたんだ……。
店員を見ると、なんだか目元の化粧がちょっと厚くなっている。気になる点が増えてしまった。
「お待たせ致しました。それぞれ日常用とレジャー用で着回しも出来る服を持って参りました」
「有難うございます、ファッションに疎いんで助かりました」
「いえいえ、お気になさらないでください。あ、あとこちらもどうぞ〜」
そういって手渡されたのは、数枚の割引券。
受け取っていいものかどうか考えていると、今日の新聞の折り込みに入っているので皆さんも使われてますよとの事。
そうであれば有り難く好意を頂こうとその券を貰い、そのまま精算する事に。
レジの前には人が列になっており、自分は五番目に位置している。
財布の確認をしていると、サンディがぽつりと零す。
「あのお姉さん、いいひとです」
そうだね、良い人っぽいね。
そう僕が言うと、いいえ、いいひとです、と彼女は言い切る。
「服を試着する際に上着を脱いだとき、背中の傷を見られました。
そしたら……お姉さん、泣いてしまいました」
「そして、ゴメンなさい。ほんの少しだけ、お兄さんの所にいる経緯を話してしまいました」
ああ、なるほど。目元の化粧が濃くなったのと、割引券をくれた理由がなんとなくわかった。
「お姉さんも、お兄さんも、良い人です」
そう言ってくれるサンディに、僕は返事の代わりに繋いだ手をほんの少しだけ強く握り返してみた。
92 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/13(月) 01:21:23.65 ID:grI1dH9y0
割引券と店員のチョイスのおかげで、自分が想像していた額の倍ほど安く買い物は済んだ。
会計を済ませて店を出る前に、ふと思い立つ。
「ねぇ、サンディ。せっかくなら買った服を着て動物園に行かないかい?」
「宜しいのですか……?」
「うん、試着室もあるし、いいんじゃないかな」
「で、では、袖を通すのが勿体なくも感じますが、着てみます!」
購入した服が入った袋を抱きしめて、そのまま試着室に駆け出していく。
服のタグはレジで取ってもらっているので大丈夫だろう。
それからしばらく、試着室の奥から聞こえてくるのは「えーと、うーんと、これと……これと……」というサンディの声。
お洒落を楽しんでいるのか、声が弾んでいるのが分かる。可愛い。
それからしばらく後、カーテンの端からぴょこんと顔を出してきた。
「その、……着てみました」
「どんな服になったのか、楽しみにしてるよ」
僕がそう言うと、意を決したようにカーテンをシャッと勢いよく開けた。
彼女が選んだのは、フランネルチェックのシャツに、ガウチョパンツ。アウターに白いセーター。
清楚に納めてきたファッションだ。とてもよく似合っている。
「サンディ」
「は、はい」
「似合ってる、可愛いよ」
それを聞いた瞬間、勢いよくカーテンが閉まる。
そして奥から聞こえてくるのは「ふぅぅぅぅう〜〜……ふぅぅぅぅぅぅう〜〜!」と悶えるような声。
「だ、大丈夫!?」
「はい!大丈夫です! 大丈夫ですが、息ができないので少しだけお待ちください!」
「いやそれ大丈夫じゃないでしょ!」
「大丈夫です!!」
「は、はい……」
思わず押し切られてしまった。本当に大丈夫なのだろうか……。
93 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/13(月) 01:36:14.95 ID:grI1dH9y0
待つこと数分、未だぜぇぜぇ息を切らすサンディが試着室から出てきた。
「お、お待たせしました……」
「お、おぅ……」
謎の圧を感じながらも、改めて彼女の手を取り、歩き出す。
出口方面ではなく、店内に。
最初は不思議な顔をしたサンディもすぐに察し、辺りをキョロキョロ見回していた。
そして、
「ご主人様、あれ」
「こら」
「す、すいません。お兄さん、あれを」
サンディが指さした先には、お世話になった店員がいた。
接客中でも棚の整理中というわけでもなさそうだったので、声をかけてみる。
「すみません、お世話になりました」
「あら、お兄さんとサンディちゃん!!」
店員は軽く屈んでサンディをハグする。当の本人はわたわたと両手をバタバタさせていた。照れ隠しだろう。
それからふと彼女の恰好を見て気づく。自分が見立てた服を着ていることに。
「あら、これはさっき一緒に試着室で着た……」
「改めて、有難うございます。おかげさまで良い買い物ができました。お忙しいところ失礼いたしました」
「いえいえ、とんでもないです」
「それとついでに、お気遣いのほど、有難うございました。それを伝えたくて」
僕が言い終えると同時に、サンディは軽くガウチョパンツの裾をつまんで優雅に一礼する。
「ありがとうございました。素敵なおねえさん。わたしは、あなたのような優しい大人になりたい」
店員の目に涙が溜まるのが分かる。それを誤魔化すような素振りで、こちらに向けて再度深々と頭を下げてくる。
「こちらの方こそ、少しでもお役立ちできて光栄です。またのご来店、お待ちしております」
94 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/13(月) 01:57:36.38 ID:grI1dH9y0
店を出てから、車を郊外方面に走らせる事おおよそ四十分。
その間に途中でドライブスルーに寄って昼食を車内で食べたりもした。
ハンバーガーを物珍しそうにもっきゅもっきゅと頬張って食べる助手席の小動物の可愛さに心奪われながらも
今回の第二の目的地である動物園に到着した。
そこは正確には動植物園と呼ばれるような施設であり、名前の通り動物園の施設が半分、植物園の施設が半分になっている。
車を動物園側の駐車場に停めて、無料入園券のチケットを準備し、いざ中に入ってみた。
大人二枚と子ども一枚ですね、と係員からの問い掛けにイエスと答える。
お連れ様が小学生以下の場合は風船のサービスがあるという。
……そういえばサンディって何歳なんだ?
「ねぇ、サンディ。君って今いくつだい?」
「確か十一歳か十二歳だったと思います」
「うん、ありがとう」
十一歳か十二歳、か……。
係員に十一歳と伝えて、手持ち風船を貰う事に。
それを彼女の右手に渡して、空いた片方は僕が握ってみた。
手を繋ぐ際は相変わらず照れる彼女に、つられて僕も照れてしまう。
僕が照れるのは、きっとこういう柄じゃないからだろう、きっと。
今日は休日という事もあったので親子連れがちらほら散見され、まぁまぁ活気を感じられる程度には人の気配があった。
動物園なんて何年ぶりだろうか、などと昔を思い返していると、僕の右手がきゅっと締まった。
横のサンディを見ると、まるで夢でも見ているかのように惚けたような目をしている。
「サンディ、どこから回ろうか?」
「えっと、キリンさん、見たいです!」
ノータイムで答える辺り、本当に見たいのだろうという気持ちがこれでもかというほど伝わってくる。
パンフレットを確認し、まずはキリンのコーナーから見ていく事にした。
95 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/13(月) 02:21:51.08 ID:grI1dH9y0
パンフレットを眺めて思った事がある。
ここの動植物園はかなり広く、それぞれの施設を回るだけで半日が潰れそうだ。
どちらも楽しもうと思うなら、それこそ丸一日は使わないと周り切れ無さそうではある。
今回はまず動物を堪能して、また別の機会に植物園の方を周ることにしておこう。
さてさてキリンのコーナーは、と。
なるほど端の方か。縮尺から考えて、大人の足でここから十分ほど。思ったより少々歩かなければならない。
ただ、サンディは服を選ぶことで気疲れしてそうではある。
さて、一体どうするべきか検討してみよう。
1:背中におんぶして向かう
2:肩車をして向かう
3:このまま手を繋いで向かう
【
>>97
】
96 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/13(月) 03:19:24.32 ID:0SAAm99u0
踏み台
97 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/13(月) 03:27:52.99 ID:V0rYhPwY0
1
98 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/13(月) 03:54:48.61 ID:grI1dH9y0
>>97
おもむろにサンディの前で屈んでみた。案の定、彼女は意図が分からぬようで。
頭にクエスチョンマークが浮かんでいるのが想起される。
「キリンの所までちょっと距離があるから、背中に乗っかっておいで」
「ふぇっっっ!?」
目を丸くして驚いている。まぁ今までの傾向から、すぐすぐ乗らないであろう事は予想していた。
「はい、じゅーう、きゅーう、はーち……」
「あ、あわわ……!」
謎のカウントダウンをしてみる。もちろんゼロになっても何も起こる筈など無い。
だが急に始まった事によりサンディはあわあわと焦っている。
残りカウントが五秒を切ったところで、意を決したような声が後ろから聞こえてきた。
「えいっ!」
という掛け声と共に、背中に筋張った感触を覚える。
首元に締まる細い手、後頭部に感じる顔の輪郭骨。
彼女が勢いよく飛び乗ってきたようだ。バランスを崩さなかった自分を少しだけ褒めたい。
立ち上がってみると本当に何か背負っているのか疑わしいほど負担もなく。有り体に言って軽すぎる。
冬の身支度で先日押入れから引っ張ってきた羽毛布団のほうがよほど手ごたえがあった。
背中でサンディが狼狽しているのが分かる。腕に抱えた足元がバタバタしているから。
「あ、す、すいません……。 重いですよね、重いですよね!! すぐ降りますから、調子に乗ってすいません!」
「サンディ、そのまましっかり掴まっててね」
「へ?」
足を腕にかっちり挟んで固定したまま、それいけと言わんばかりに馬になった気持ちで僕は走り出す。
うひゃぁ、と可愛い悲鳴を聞きながら、そのままキリンが見物できるコーナーを目標に駆け出していた。
年端もいかない子を背中に抱えたアラサー男子。
傍から見たらどんな絵面になっているだろうか。
犯罪の香りだけはしませんように。
何と言われようと今くらいは彼女の為に只のお兄さんになってやる。
動物園にいる間くらい、普段の渋くてダンディを纏うハードボイルドな自分は休憩しておくことにした。
99 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/13(月) 04:08:49.20 ID:grI1dH9y0
普段から鍛えている事が功を奏し、息を切らす事無く目的地に到着。
背中からサンディを降ろしてみれば、なんだか嬉しそうな顔をしていたのに気づく。
どうしたの、と訊ねてみると。
「お兄さん、すごい。しゅぱぱぱぱ、って、まるで飛んでるみたいでした」
「足の速さをそこまで喜んでくれるのは予想外だよ」
幼い子は足が速い男子が好きとはいうが。サンディも例に漏れないということか。
それよりほら、と前を指さしてみた。
「わぁ…………!!」
実際に目の当たりにしたキリンに感嘆の声を上げた。
サンディの大きな目が目映くキラキラ光っているような錯覚を覚える。
「大きいですね」
「うん」
「首が長いです」
「うん」
「目がぱっちりしてて、かわいいです」
「そうだね」
「かわいい……かわいいなぁ……」
嬉しそうにサンディはキリンを見つめている。
そんな彼女の気持ちなど何処吹く風で、キリンはマイペースにエサを食んでいる。
むっしゃむっしゃと食べるその様までたまらないようで、僕の服の裾をくいくいと引っ張ってくる。
「キリンがエサを食べてます」
「うん、食べてるねぇ」
「可愛いです」
「うん、可愛いね」
「あ、こっち見ました。可愛いです」
「そうだね」
「あ、かわいいです」
「うんうん」
当初会った頃から日本語が堪能だと思っていた彼女だが、どうやらキリンを見ていると語彙力が低下していく事が分かった。
100 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/13(月) 04:24:03.27 ID:grI1dH9y0
サンディは僕の服の裾を掴んでいる事にも気づかずに、夢中でキリンを凝視している。
そしてキリンを見始めてしばらく時間が経過した。
どれくらい過ぎたのかというと、僕は目蓋を閉じても黄色と茶色のまだら模様が浮かぶくらいずっとそこにいた。
それから更に時間が経ち、園内のチャイムから本日の業務時間がもうすぐ終わる放送が流れて来た。
僕はそこで意識をようやく取り戻す。
隣のサンディはまだずっとキリンの様子を目で追っていた。
「サンディ、もうすぐ動物園が閉まるんだって」
「…………」
「サンディ、サンディさん」
「…………」
「おーい、さーんでぃー」
「……はっ! す、すいません!キリンさんを見るのに集中していました!」
頭をびくんと縦に振ってサンディは僕を見つめてくる。
そして、ようやく自分が服の裾をがっしり掴んでいた事に気付いたようだ。頬を真っ赤にして慌てて手を放した。
なんとも微笑ましい。
「よし、じゃあ帰ろうか」
「は、はい……」
彼女は頷くものの名残惜しそうにキリンに何度か視線を送っている。
別に悪い事をしていないのだが、なんだか申し訳ない気持ちが沸き起こる。
そこで一つ妙案が浮かんだ。
「帰る前に寄りたいところがあるんだけれど、いいかい?」
「もちろんです。何処までもお供します」
軽くガウチョパンツの端をつまんで、恭しく一礼。
奴隷の頃にメイドの立ち振る舞いでも訓練していたのだろうか。
堂に入ったその動きは長い間培ってきた何某を思わせる。
彼女が辛かったであろう頃の面影が脳裏をよぎったので軽く頭を振り、
僕はサンディを動物園の売店まで連れて行く事にした。
101 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/13(月) 04:40:09.68 ID:grI1dH9y0
サンディを店の入り口で待機させて、僕は閉店の準備で忙しそうな売店に滑り込む。
店員に心の中で謝りつつも目当ての品を探してみた。
お土産コーナーの一角にそれを見つけ、プレゼント用に包んでもらう。
これ以上手数をかけないようお店を足早に後にして、外で待ってくれたサンディに駆け寄る。
「何か探していたものは買えましたか?」
「うん、どうにかね」
「それは何よりです」
「サンディ、手を出して」
「?」
疑問には思っただろうが、大人しく彼女は右手を差し出してくる。
その手の平に僕はラッピングされたものを置いてみた。彼女の手に包まるくらいの小さなサイズだ。
「これは?」
「まぁ、ラッピング破って開けてみてほしい」
言われたように彼女は丁寧にラッピングを解いていく。
そして、その全貌が分かったとき、息を飲んだ。
「これ、は……」
「キリンのキーホルダー。安物だけれど、今日の記念って事でさ」
「これ、わたしに……?」
「僕が使えるにはちょっと年を取り過ぎたからね」
あまりこういうのを誰かにしたことが無い身なので、照れ隠しに頬を軽く搔いてしまう。
好みかどうか分からないし、勝手に買ってしまった物だから受け取って困ってなければいいな、と心配ばかりが浮かんでくる。
「…………私の、生涯の、宝物が、………出来ました」
キーホルダーを両手に包んで、それを胸の真ん中に添えて、彼女は言う。
瞳からは感情が零れている。ぽろぽろと、ぽたぽたと。
感情は数値化されないから分からない。様子でだけしか判断できない曖昧なものだけれど。
サンディは、喜んでくれた。そうだと思う。
彼女の心に少しでも届いたのなれば、そうであれば、僕も嬉しい。
102 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/13(月) 04:52:49.95 ID:grI1dH9y0
閉園時間のギリギリで僕らは動物園を後にした。
一日ずっと歩き詰めになるかと思ったが、サンディがあそこまでキリンが好きとは思わなかった。
おかげでそんなに動かずに済んだ。
まだ暮らし始めて二日目だが、今日で好きな動物が一つ分かった。
こうやって、少しずつ、互いに互いを知っていけたらいいと思う。
サンディが幸せになりますように。
出会って間もなく、知り合ってすぐではあるけれど、僕は切に思っている。
今こうして車に乗って帰路に着くなか、無表情に街のネオンをずっと見つめる彼女にふと問いかけてみた。
「ところでさ、サンディ」
「どうされました?」
「キリン、好きなの?」
「はい」
「どの辺が?」
「……強いて言うなら、耳ですね」
「……マニアックだね」
僕らの二日目は、こうして緩く終わっていく。
別れの日まで、約三百六十二日。
103 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/13(月) 05:03:27.81 ID:grI1dH9y0
一旦休憩。安価協力に感謝をば。
今後の二人の動向等を安価で検討してまして、その際にも助力を頂けると有り難い限り。
104 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/13(月) 06:05:24.94 ID:grI1dH9y0
【連れて行きたい場所】
>>105
【視点:男 or サンディ】
>>107
【二人の寝床:一緒 or 別々】
>>109
105 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/13(月) 07:25:27.02 ID:+6uoFwsAo
ケーキバイキング
106 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/13(月) 08:41:28.83 ID:rRg8hJyA0
サンディ
107 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/13(月) 08:47:02.44 ID:RXltBsd90
サンディ視点
108 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/13(月) 08:51:48.24 ID:11Jw7LYl0
乙
kskst
109 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/13(月) 08:53:09.63 ID:rRg8hJyA0
一緒
110 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/11/13(月) 09:19:11.21 ID:4CIw6SJTO
wktk
111 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/13(月) 12:06:41.48 ID:grI1dH9y0
【連れて行きたい場所】
ケーキバイキング
【視点:男 or サンディ】
サンディ視点
【二人の寝床:一緒 or 別々】
一緒
承知しました。ケーキバイキング、良いですね。
時間を空けてから再開しますので少々お待ちを。
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