P「泣いた赤鬼」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/08(日) 21:43:47.16 ID:OgZG+FJaO

むかし、むかし。

ある山奥に、赤鬼が住んでいました。


赤鬼「フンフフーン♪……」

赤鬼「そろそろクッキー焼けたかなー?」チラッ

赤鬼「……わっ、ととっ!」ツルッ

ドンガラガッシャーン!

赤鬼「……てへへ、また転んじゃった」

赤鬼「っと、そんなことよりさっそく千早ちゃんに味見してもらおっと♪」


赤鬼はとても明るく、失敗してもめげない性格でした。




SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1507466627
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/08(日) 21:47:37.41 ID:OgZG+FJaO

赤鬼には、ささやかな夢がありました。


赤鬼「ねえ千早ちゃん。人間って楽しそうだよね」

青鬼「そう? 私は特に興味は無いけれど」

赤鬼「うーん、私にも人間の友達がいたらいいのになぁ」

青鬼「それは……色々と難しいんじゃないかしら」


大昔から、鬼は人間を脅かす存在として恐れられてきました。

自分にとって脅威の存在である鬼と友達になろうと思う人間などいるはずもありません。

しかし、赤鬼は少しだけ変わり者だったのです。

人間と仲良くしたい。

人間の友達が欲しい。

赤鬼はそんなことを考えながら毎日を暮らしていました。


3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/08(日) 21:49:34.17 ID:OgZG+FJaO

そんなある日、赤鬼は妙案を思いつきます。


赤鬼「……そうだ! 私は怖くなんかないんだよって人間の人たちにわかってもらえばいいんだよ!」

赤鬼「えーっと……」カキカキ

赤鬼「……でーきたっ。この看板を家の前に立てておこうっと」




看板『心の優しい、とっても可愛い鬼の家です。どなたでもお越しください。おいしいお菓子とお茶でおもてなししちゃいますよっ』




赤鬼は、人間を安心させる言葉を書いた看板を自分の家の前に立てました。


4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/08(日) 21:49:50.82 ID:zolk19i30
鬼役似合いそうhttp://i.imgur.com/zNVcEdz.jpg
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/08(日) 21:51:04.82 ID:OgZG+FJaO

青鬼「こんなもので本当に人間が来るのかしら……」

赤鬼「だーいじょうぶだって! きっとたくさん来てくれるよ!」

青鬼「だといいけど……」


親友の青鬼の心配をよそに、とても楽観的な赤鬼。

その日の夜、赤鬼は楽しみでなかなか眠れませんでした。


赤鬼「何人くらい来てくれるかな? 人間が来たらどんなお話をしようかな?」

赤鬼「クッキーもたくさん焼かなきゃいけないよね」

赤鬼「ああ、わくわくするなぁ!」


6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/08(日) 21:53:10.94 ID:OgZG+FJaO

次の日、赤鬼は朝早く起きて準備をしました。

自慢の手作りクッキーと友達の白鬼に分けてもらった高級茶葉だけでなく、部屋を可愛らしく飾り付けて準備は万端です。


赤鬼「よし、我ながらカンペキ!」





青鬼(大丈夫かしら……)




そんな赤鬼の楽しそうな様子を、青鬼は物陰からこっそりと見守っていました。


7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/08(日) 21:54:18.61 ID:OgZG+FJaO

やがて、昼になり……。






赤鬼「もうそろそろ誰か来るかな?」



8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/08(日) 21:55:08.73 ID:OgZG+FJaO

夕方になり……。






赤鬼「フフフ、なかなか焦らしますね! でもそんなことでめげる春香さんじゃありませんよ?」


9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/08(日) 21:56:10.97 ID:OgZG+FJaO

日が沈んで夜になっても、人間は一人も訪ねて来ませんでした。


赤鬼「うーん……さすがに昨日の今日じゃ急すぎたかも」

赤鬼「大丈夫、明日になったらきっと来てくれるはず!」





青鬼(…………)




張り切って準備したものも無駄になってしまいましたが、これくらいのことでへこたれる赤鬼ではありません。


10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/08(日) 21:57:20.06 ID:OgZG+FJaO

次の日も、赤鬼はせっせとクッキーを焼いて人間を待ちます。





赤鬼「今日のクッキーは自信作ですよ、自信作!」


11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/08(日) 21:58:53.82 ID:OgZG+FJaO

しかし昨日と同じく、時間が過ぎるばかりでいっこうに人間が訪ねて来る気配はありません。


赤鬼「ズズ……」

赤鬼「……ん、ホントにおいしいこのお茶! さっすが雪歩だね」

赤鬼「って、私が飲んじゃダメだよね、お客さんのお茶なのに」

赤鬼「…………」チラッ

赤鬼「…………まだかなぁ」





青鬼(…………)




そして結局二日目も、人間は赤鬼の家にはやって来ませんでした。


12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/08(日) 22:00:02.12 ID:OgZG+FJaO

それから赤鬼は何日も人間を待ち続けました。



赤鬼「きーらいーなーもーのーでもーすきーになーりーたーい♪」

赤鬼「フフンフーン♪」

赤鬼「…………」

赤鬼「…………」

赤鬼「…………」

赤鬼「………………誰も来ないよぅ」グスン






青鬼(…………)


13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/08(日) 22:01:24.68 ID:OgZG+FJaO

ザァァァ


赤鬼(今日は雨かぁ……)

赤鬼(雨ならまぁ……仕方ないよね、うん)


赤鬼「そんなとーきは♪ なやまなーいでジェットーがあーる♪ フライト♪」






青鬼(Fu!)


青鬼(…………)


14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/08(日) 22:02:42.26 ID:OgZG+FJaO

赤鬼「ううむ……」

赤鬼「今日で二週間来客なし……」

赤鬼「まさかこのままずっと……」

赤鬼「いやいや、そんなことないよね。大丈夫、大丈夫……。まだあわてるような時間じゃない……」

赤鬼「ブツブツ……」




青鬼(…………)


15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/08(日) 22:03:52.78 ID:OgZG+FJaO

赤鬼「今日こそは人間が私の家にやって来る……」ブチッ

赤鬼「来ない……」ブチッ

赤鬼「来る……」ブチッ

赤鬼「来ない……」ブチッ

赤鬼「来る……」ブチッ

赤鬼「…………」



赤鬼「………………来ない……」ズーン




青鬼(…………)


16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/08(日) 22:04:46.35 ID:OgZG+FJaO

赤鬼「…………はぁ」

赤鬼「なんで誰も来てくれないんだろう……」

赤鬼「私はただお友達になりたいだけなのに……」






青鬼(このままじゃ春香が……)


17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/08(日) 22:06:27.93 ID:OgZG+FJaO

そして、人間を待ちはじめて一ヶ月が過ぎだある日。


赤鬼(どうせ今日も誰も来ないよ……)

赤鬼(私って嫌われ者だったんだなぁ……)

赤鬼(それなのに、ひとりでバカみたい……)


いつも元気な赤鬼の心も流石に折れかかっていました。

そこへ、ノックの音が響きます。




コンコンッ




赤鬼「!!」


18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/08(日) 22:07:25.61 ID:OgZG+FJaO

赤鬼「はっ…………入ってます! じゃなかった、い、今開けますねっ!」タタタ

赤鬼「はうあっ!?」ズルッ

ドンガラガッシャーン!

赤鬼「うぅ、いたたた……」




ガチャ




青鬼「…………こんばんは、春香」


19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/08(日) 22:08:32.69 ID:OgZG+FJaO

赤鬼「あ…………なぁんだ、千早ちゃんかぁ」

青鬼「ごめんなさい、期待させてしまって」

赤鬼「う、ううん、そんなことないよ! なんか久しぶりだね?」

青鬼「ええ」




一ヶ月ぶりの来客は人間ではありませんでしたが、親友の訪問は荒みかけていた赤鬼の気持ちを少しだけ解してくれました。


20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/08(日) 22:09:47.95 ID:OgZG+FJaO

青鬼「春香、その……大丈夫?」

赤鬼「大丈夫って何が?」

青鬼「まだ誰も訪ねて来てないんでしょう?」

赤鬼「う……ま、まあ、これからだよこれから! 私、全然気にしてないし!」

青鬼「それは嘘ね」

赤鬼「っ……」

赤鬼「千早ちゃん……」


明るく振る舞う赤鬼は一見いつも通りのように見えましたが、赤鬼の様子をずっと見守っていた青鬼には、それが空元気だというのが分かっていました。


21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/08(日) 22:10:48.04 ID:OgZG+FJaO

赤鬼「……千早ちゃんには敵わないなぁ」

赤鬼「あのね……正直言うと、ちょっぴり辛いかも。人間が来てくれたら笑顔で迎えなきゃって思ってるんだけど、ずっと待ってるのも疲れちゃって」

青鬼「……そう」


気づけば赤鬼は、青鬼に愚痴をこぼしていました。

青鬼は励ますでもなく、ただじっと赤鬼の話を聞いています。


22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/08(日) 22:12:03.13 ID:OgZG+FJaO

赤鬼「あっ……ご、ごめんね? こんなこと聞かされてもどうしていいかわかんないよね!」

赤鬼「せっかく千早ちゃんが来てくれたんだし、何か楽しいお話しよう、うん!」

赤鬼「えーっと、最近何か楽しいことあったかなぁ……」

赤鬼「えーっと、うーんと……」

青鬼「…………」

赤鬼「あ、そうだ。そういえば雪歩にお茶っ葉のお礼しなきゃだね」

赤鬼「今度雪歩のところに遊びに行こう。ねえ、千早ちゃんも一緒に」

青鬼「春香。それより私、あなたに話があるの」

赤鬼「……え?」


青鬼が神妙な面持ちで切り出した話は、赤鬼を驚かせる内容でした。


23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/08(日) 22:13:32.47 ID:OgZG+FJaO

赤鬼「……ええっ!? 千早ちゃんが人間に意地悪して、私がそこに止めに入る!?」

青鬼「ええ。そうすれば多分、春香は人間の信頼を得ることが出来る」

青鬼「人間と友達になることも出来ると思うわ」


青鬼は、最初に赤鬼が人間と友達になりたいと言い出した時に『おそらく難しいだろう』と思っていました。

しかし同時に、なんとかして赤鬼と人間の仲を取り持つようなことは出来ないか、とも考えていたのです。

青鬼の提案はかなり強引な手段でしたが、今までのようにただ待っているよりは可能性が高いように思えます。

でも、友達思いの赤鬼はすぐに首を横に振りました。


赤鬼「ダメだよ! そんなことしたら千早ちゃんが人間から嫌われちゃう!」

青鬼「聞いて、春香。元々私たち鬼は人間に良く思われていないのよ。だから、春香の方法では人間と友達になるのはきっと無理だと思う」

赤鬼「で、でも……! 私、大切な友達を嫌われ者になんかしたくないよ」


24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/08(日) 22:15:26.29 ID:OgZG+FJaO

泣きそうな顔で反論する赤鬼に、青鬼は笑顔になって言いました。


青鬼「ありがとう、春香。でも、私にとっても春香は大切な友達」

青鬼「だから春香にはいつも笑っていてほしい」

青鬼「あなたの『人間と友達になりたい』という夢を叶えてあげたいの」

赤鬼「千早ちゃん……」


人間と友達になりたい。でも、青鬼を嫌われ者にしたくない。

かと言って、せっかくの親友の想いを無駄にしたくもない。

赤鬼は、たくさん悩みました。


25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/08(日) 22:17:27.01 ID:OgZG+FJaO

しばらく考えて、赤鬼は決断しました。


赤鬼「わかった。せっかく千早ちゃんが私のために考えてくれたんだもん、私、千早ちゃんの言うとおりにしてみるよ」

青鬼「春香……ありがとう」

赤鬼「でもお願い。絶対に無茶はしないでね?」

青鬼「ええ、約束するわ」


人間の村へ行くのは明日に決め、その日の夜は久しぶりに会った親友同士、ひとつの布団で寝ることにしました。


26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/08(日) 22:18:55.18 ID:OgZG+FJaO


赤鬼「わぁ、二人だとちょっと狭いねぇ」モゾモゾ

青鬼「でも、ひとりよりも温かいわ」ニコッ

赤鬼「うん、そうだねっ♪」ニコッ


布団の中で二人は色々な話をしました。

赤鬼の作るお菓子のこと。

青鬼の歌う歌のこと。

友達の白鬼がとても深い穴を掘った時のこと。

その穴にうっかり浅葱鬼が落ちてしまい、助けるのにとても苦労したこと。

どの話の時も、赤鬼は笑顔でした。

青鬼が自分の側にいてくれる。

それがとても嬉しかったのです。


27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/08(日) 22:20:41.44 ID:OgZG+FJaO

赤鬼「……そろそろ寝よっか」

青鬼「ええ、そうね」

青鬼「おやすみ、春香」

赤鬼「おやすみなさい、千早ちゃん」


久しぶりに青鬼とたくさん話をした赤鬼は、とても幸せな気持ちで眠りにつきました。


28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/08(日) 22:21:55.49 ID:OgZG+FJaO

翌朝。


赤鬼「…………ふわぁぁ。んん……」

赤鬼「……あれ? 千早ちゃん……?」キョロキョロ


赤鬼が目を覚ますと青鬼の姿はすでにありませんでしたが、代わりに枕元に書き置きを見つけました。


赤鬼「『先に山を下りてます。後から来てください』……」

赤鬼「そっか。千早ちゃんが先に行かないと意味がないんだね」

赤鬼「私も用意しなきゃ。えーっと、ハミガキ、メイク……」ゴソゴソ


赤鬼は急いで支度を整え、急がばまっすぐ山の麓にある人間の村へ向かいました。


29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/08(日) 22:23:47.33 ID:OgZG+FJaO

一方、人間の暮らす村では……。


青鬼「こんなもの」ポイッ

人間1「うわぁあ! お前、俺の大切なフィギュアになんてことしやがる!」

人間2「どうしたんだい、エンジェルちゃん? 君みたいなお淑やかそうな子がこんなことをするなんて」

青鬼「近寄らないで、鬱陶しい」

人間2「フフフ、照れているんだね☆」パチッ

人間3「まあまあ落ち着いてよお姉さん。いくら鬼だからっていきなり過ぎるんじゃないかな? 人間を襲うにしたってもっとこう、手順を踏んでさ」

青鬼「………………トイレ」ボソッ

人間3「ちょっと!? ヒドくない!?」


予定通り、青鬼が大暴れして人間たちを困らせていました。

あまりにも酷い仕打ちに人間は腹をたてます。


30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/08(日) 22:25:35.65 ID:OgZG+FJaO

人間1「おいあんた、どういうつもりだ!」

人間2「辛辣なエンジェルちゃんっていうのもまた趣があっていいなぁ」

人間3「トイレじゃない……ボクはトイレじゃない……」ブツブツ

青鬼「あなたたちなんて、ええと…………タンスの角に小指をぶつけて滅んでしまえばいいのよ」

人間1「そんなことで滅びねえよ!」


そこへ、赤鬼が遅れてやって来ました。


赤鬼「あ、あのっ!」


31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/08(日) 22:28:31.18 ID:OgZG+FJaO

人間1「げっ、また鬼が来やがった!」

人間2「チャオ☆ こっちのエンジェルちゃんも可愛いなぁ!」

人間3「トイレじゃない……ボクはトイレなんかじゃないんだ……」ブツブツ



赤鬼「えっと……」



青鬼「…………」チラッ



赤鬼「に、人間にヒドいことするのはやめてくださいっ!」


赤鬼は打ち合わせ通りに、人間たちと青鬼との間に割って入り……


青鬼「……邪魔が入ったみたいね。私はこれで失礼するわ」スタスタ


赤鬼の言葉を受け、青鬼は踵を返して行ってしまいました。

赤鬼はその後ろ姿を少し緊張しながら見送ります。


32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/08(日) 22:29:44.23 ID:OgZG+FJaO

赤鬼「…………ふぅ」

人間1「おい、あんた」

赤鬼「は、はいっ!」

人間1「ひょっとして、オレたちを助けてくれたのか?」

赤鬼「あ、あの、私……」


人間たちを騙していることに抵抗を感じる赤鬼ですが、せっかくの青鬼の計らいを無碍にするわけにもいきません。


33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/08(日) 22:30:55.81 ID:OgZG+FJaO

赤鬼「は、はい。えっと……意地悪な鬼はいなくなりました。だから安心してくださいね?」

人間1「……へぇ、鬼にもあんたみたいなヤツがいるんだな。ちょっと見直したぜ」

人間2「是非君のことを知りたいな!」

人間3「ねえお姉さん、ボクたちと友達になってよ!」

赤鬼「い、いいんですか!?」パァァ


赤鬼のことをすっかり信用した人間たち。

赤鬼は新しくできた友達に喜び、さっそく自分の家に招待することにしました。

そして同時に青鬼に心の底から感謝をするのでした。


34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/08(日) 22:36:41.51 ID:OgZG+FJaO

その日から、赤鬼の家には毎日のように人間たちが遊びに来るようになりました。


人間1「モグモグ……。ふーん、変わった味のクッキーだな。甘さが全くなくて、さっぱりしてて……ん、少し辛いか?」

人間1「てか辛っ!? めちゃくちゃ辛いぞコレ!?」

赤鬼「ああっ! 私、砂糖と間違えて大根おろし入れちゃいました!」

人間1「どんな間違えしてんだよ!?」

人間2「ははは、リボンちゃんは愉快だなぁ」

人間3「っていうか普通に考えて大根おろしでクッキーできるのがおかしいような……」


35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/08(日) 22:37:45.42 ID:OgZG+FJaO

赤鬼「お待たせしましたー♪ お口直しのパイをどうぞ!」

赤鬼「ってわぁ!」ツルッ

ドンガラガッシャーン! ベチャ

人間1「…………」ベットリ

人間3「ああ……パイが冬馬くんの顔に……」

人間2「真っ先にエンジェルちゃんの手作りパイを食べられるなんて、冬馬は幸せ者だな」

人間1「……お前、オレに恨みでもあんのか?」

赤鬼「ご、ごめんなさいごめんなさい! すぐ拭きます!」


36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/08(日) 22:38:59.66 ID:OgZG+FJaO

人間1「よう、天海」

赤鬼「わぁ、今日も来てくれたんですね!」

人間1「オレもヒマじゃねーんだけど、こいつらがどうしてもっていうからな」

人間2「チャオ☆リボンちゃん。君ともっと深い仲になりたくてまた来たよ☆」

人間3「ねえ春香さん。今日のお菓子は何かな?」

赤鬼「今日はチーズケーキですよ、チーズケーキ!」

人間1「お前らノリノリだなホント」

人間3「そんなこと言って、実は冬馬くんが一番楽しみにしてたんじゃないの?」

人間1「そ、そんなわけねーだろ!」

人間2「冬馬ももっと素直になればいいのに」

人間1「余計なお世話!」

赤鬼「さあさあ、みなさん上がってください!」


ちょっとドジなところもありますが、基本的には明るくて人当たりの良い赤鬼。

人間たちと打ち解けるのに時間はかかりませんでした。

赤鬼は人間たちと賑やかでとても楽しい日々を過ごしました。


37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/08(日) 22:40:13.75 ID:OgZG+FJaO

そんなある日。


赤鬼(あれからすごく楽しい毎日が続いてる)

赤鬼(それはとても嬉しいことなんだけど……)


ふと気づくと、願いが叶って幸せなはずの赤鬼の心は、どこか穴が空いたようでした。


赤鬼(あの日から、私の家に千早ちゃんが訪ねて来ることはなくなった)

赤鬼(わかってる。人間に意地悪した千早ちゃんと私が仲良くしているところをみんなに見られたら、きっともう誰も遊びに来てくれなくなっちゃう)

赤鬼(でも……)

赤鬼(千早ちゃん……私、千早ちゃんに会いたいよ)

赤鬼(会って、ちゃんとお礼を言いたいよ)


赤鬼は、人間たちとの仲を取り持ってくれた大切な親友に想いを馳せます。


38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/08(日) 22:42:13.02 ID:OgZG+FJaO

人間1「……どうした、天海?」

赤鬼「……ふぇっ?」

人間1「なにボーッとしてんだよ。ほら、大型モンスターが来るぞ」

人間3「春香さん危ないっ!」

赤鬼「わわっ!」カチャカチャ

人間1「す、すげえ……! 間一髪で避けやがった!」

人間2「リボンちゃんは緊急回避が上手なんだね」

人間3「てか、今のフレーム回避なんじゃ……」

赤鬼「え、えへへ」




赤鬼「…………」




赤鬼は決めました。

こっそり青鬼に会いに行こうと。


39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/08(日) 22:44:09.35 ID:OgZG+FJaO

次の日、赤鬼は少し離れた青鬼の家までやって来ました。

人間ならまず誰も踏み入れないような、赤鬼の家よりももっと山奥、そこに青鬼の家はありました。


赤鬼(なんだろう、緊張するなぁ)

赤鬼(会うの久しぶりだからかな?)

赤鬼「すぅーー」

赤鬼「はぁーー」


深呼吸をして気持ちを落ち着けます。


40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/08(日) 22:45:05.65 ID:OgZG+FJaO


コンコンッ


赤鬼「……千早ちゃん、いる?」





しばらく耳をすませますが、聞こえるのは小鳥のさえずりと風が木々を揺らす音だけ。


41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/08(日) 22:46:01.99 ID:OgZG+FJaO

赤鬼「千早ちゃーん、いないのー?」





二度目の呼びかけにも応える者はありません。

赤鬼の声だけが静かな山の中に寂しげに響きます。


42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/08(日) 22:46:51.94 ID:OgZG+FJaO

赤鬼「千早ちゃーん! 春香です! 遊びに来たよー!」





三度目。今度はさっきよりも大きな声で呼びかけますが、やはり誰の返事もなく、相変わらず水を打ったような静けさです。


43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/08(日) 22:47:59.20 ID:OgZG+FJaO

赤鬼「……いないみたいだね」

赤鬼「出かけてるなら仕方ないか。また出直そう」




諦めて帰ろうとしたその時。

赤鬼は玄関脇の郵便受けの上に二つに折りたたまれた紙が置いてあるのに気がつきました。


44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/08(日) 22:49:30.67 ID:OgZG+FJaO

なんとなくそれを手に取って開いてみると、その紙には青鬼の丁寧な字でこう書かれていました。



大切な春香へ


私と会っているのを人間たちに見られては

あなたの信用がなくなってしまいます

だから私は旅に出ることにしました

突然でごめんなさい

体に気をつけて

あなたが心から笑って日々を過ごせるよう

遠くから祈っています


千早


45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/08(日) 22:51:03.94 ID:OgZG+FJaO

青鬼からの手紙を読んで、赤鬼は頭を殴られたようにめまいがしました。

何回も読み直しましたが、どう読んでもお別れの手紙にしか読めませんでした。


赤鬼「どういう……こと……?」


人間たちに見つからないようにこっそり会えば、たぶん大丈夫。

そう考えていた赤鬼に無情な言葉が刺さります。

自分のことをいつも見守ってくれていた青鬼はもういない。

しばらくしてその意味が理解できると、赤鬼の目から大粒の涙が溢れてきました。


赤鬼「そん、な……! 私、まだお礼言ってないよ……!」

赤鬼「ありがとう……って……!」

赤鬼「これでさよならなんて……いやだよ……!」


46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/08(日) 22:52:40.10 ID:OgZG+FJaO

そのまま赤鬼は、地面に崩れ落ちました。

もう親友に会えなくなってしまったことを嘆きました。

本当に大切だったものに気づけなかった自分の愚かさを悔やみました。

そして、青鬼の優しさを想って、ずっとずっと泣き続けました。




赤鬼「うわあぁぁぁああんっ……!」




静かな山の中に、赤鬼の悲しい泣き声だけがいつまでも響くのでした。


47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/08(日) 22:54:38.71 ID:OgZG+FJaO
ーーーーーー
ーーー


P「……めでたしめでたし」




春香「いや、全然めでたくないですよ!」

P「そうか?」

春香「これじゃ赤鬼も青鬼もかわいそうじゃないですか!」

P「こういう終わり方もアリだと思うんだけどなぁ」

千早「あの、プロデューサーはこの物語は何を伝えたかったんだと思いますか?」

P「んー、そうだな……」

春香「それは赤鬼の可愛さじゃないかな?」

P「はいはいそうですね」


48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/08(日) 22:55:46.96 ID:OgZG+FJaO

P「人によって感じ方はそれぞれだと思うけど……」

P「鬼という、人間に恐れられる立場でありながら人間と友達になろうとした赤鬼。親友の願いを叶えるために自ら悪役を演じた青鬼」

P「思うに、この話のテーマは優しさなんじゃないかな?」

千早「優しさ、ですか」

小鳥(違います。テーマははるちはですよ!)


春香「でも、やっぱりこんな終わり方はあんまりだと思います。どうにかして赤鬼と青鬼を会わせてあげられないんですか?」

P「気持ちは分かるけど、これはこういう話なんだよ」

P「…………あ。でも確かこの話には続きがあるんだったっけ」

千早「続きがあるんですか? それは知らなかったです」

春香「プロデューサーさん、是非続きを話してください! 千早ちゃんも聞きたいよね?」

千早「そうね。鬼たちのその後は少し気になるかも。プロデューサー、お願いできますか?」

P「ああ、いいよ」




ーーー
ーーーーーー


49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/08(日) 22:58:00.13 ID:OgZG+FJaO

どれだけの時間が経ったでしょうか。

太陽が頭の上を通って沈んでも、赤鬼の涙は止まることなく流れ続けていました。




赤鬼「グスッ……ヒック……」




その様子を見かねたのか、鬼の大将が赤鬼の前に姿を現しました。


50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/08(日) 22:59:38.69 ID:OgZG+FJaO

緑鬼「ちょっと春香、いつまで泣いてるのよ」

赤鬼「……うぇっ? り……律子さん!?」

緑鬼「悲しいのは分かるけど、シャンとしなさい」

赤鬼「律子さぁん、千早ちゃんがぁ!」ヒック

緑鬼「わ、分かってるから」


鬼の大将である緑鬼は、最初から全てを見ていました。

だから知っていたのです。

赤鬼の想いも、青鬼の想いも。


51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/08(日) 23:01:36.87 ID:OgZG+FJaO

緑鬼「人間と友達になれたはいいけど、親友である千早を失っては本末転倒ってわけね」

赤鬼「はい、そうなんです……」

緑鬼「……まったく、不器用なんだから二人とも」


全てを知っている緑鬼は赤鬼に問いかけます。


緑鬼「ねえ春香。あなたは千早に会いたいのよね?」

赤鬼「は、はい! 会えるなら、会いたいです……グスッ」

緑鬼「ほらほら泣かないで」フキフキ

赤鬼「うぅ……すみません」

緑鬼「あのね、春香。もしあなたがまた千早に会えたとして、それを人間に見られたらどうなるかは分かっているわね?」

赤鬼「…………」


一瞬、人間たちとの楽しかった日々が赤鬼の頭をよぎります。

しかし、赤鬼はそれを振り払って力強く答えました。


52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/08(日) 23:04:11.47 ID:OgZG+FJaO

赤鬼「それは分かってます。でも私、やっと気づいたんです。本当に大事なものに」

赤鬼「だからもし千早ちゃんがまた私の近くにいてくれるなら…………他のものを失っても、もう後悔することはありません」

緑鬼「……そう。ま、そこを理解してるならいいわ。じゃあ千早に会いに行きましょうか」

赤鬼「…………え? 律子さん、千早ちゃんの居場所知ってるんですか!?」

緑鬼「これでも一応鬼の大将だからね。……ほら、いつまでも座ってないで立ち上がりなさい」

赤鬼「は、はい……」


緑鬼は赤鬼の手を引いて立ち上がらせますが、それからその場を動こうとはしませんでした。


53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/08(日) 23:05:55.01 ID:OgZG+FJaO

赤鬼「あの、それで千早ちゃんはどこに行ったんですか? 結構遠い場所なんですか?」

律子「いいえ、全然。だって、千早なら最初からずっとあなたの目の前にいるんだもの」

赤鬼「目の、前……?」


何のことだか分からない赤鬼でしたが、少しの間扉を見つめてはっと気がつきます。


赤鬼「ま、まさか……」


ガチャ





青鬼「……グスッ……はるかぁ……!」



青鬼の家の扉は驚くほど簡単に開き、玄関には赤鬼と同じくらい涙でボロボロの青鬼がうずくまっていました。


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