国王「さあ勇者よ!いざ旅立t「で、伝令!魔王が攻めてきました!!」完結編

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625 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/25(日) 21:28:06.02 ID:h4w+AuR50

黒騎士「はっ! 客人の迎えの時間が!」

黒騎士「父上、母上! 少しの間席を外しますぅ!!」ピュー

氷姫「あっ、逃げやがった」

雷帝『あの顔、想い人はいるのだろうな』

氷姫「いるわね」

雷帝『………』

氷姫「何しょげてんのよ」

雷帝『しょげてなどおらん!』

626 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/25(日) 21:28:49.98 ID:h4w+AuR50

ヒュー ドンドン!


氷姫「あ、もう祭典が始まる」

雷帝『なんだ、まだこちらは揃ってないというのに』

氷姫「まあ、宝典劇まではまだ時間もあるわ」

雷帝『…そうだな』

氷姫「ふふ。今年の宝典劇、あんたの役は火炎山の龍剣士がやるらしいわよ。ちょっと男前すぎるわね」

雷帝『…お前は、毎年私の配役が決まる度に冷やかしてくるのを止めろ』

氷姫「だって、おかしいんだもん」クスクス…

雷帝『………しかし』

雷帝『こうして、酒を片手にあの戦いを振り返ることがあろうなんて、思いもしなかったな』

氷姫「まあね」

627 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/25(日) 21:29:36.50 ID:h4w+AuR50

氷姫「あんたなんか、"魔王様が逝かれたのならば、私もお側に!"とかなんとか騒いで大変だったもんね」

雷帝『むぐっ…』

氷姫「はは。まあ気持ちは分かるけどさ」

雷帝『…』

氷姫「――………ジーさんも炎獣も死んじゃって」

氷姫「みーんな、いなくなっちゃってさ」

雷帝『…』

氷姫「………ふがいないったら、ありゃしなかったよね」

雷帝『実際』

雷帝『お前が隣に居てくれなければ、私はおめおめと生き延びた己を許すことは出来なかったろう』

雷帝『今でも許すことが出来ているかは分からんが』

氷姫「…うん」

氷姫「………身体も、心も、ボロボロになってさ………」

氷姫「………ほんと、よくここまで生きてきたよね」

雷帝『ああ…』

氷姫「――でもね」

628 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/25(日) 21:30:27.39 ID:h4w+AuR50

氷姫「でも、多分………あたしはいまだに受け入れられずにいるんだ」

氷姫「魔王が――」



氷姫「――魔王が、自ら命を投げ捨ててしまったこと」




雷帝『………』

629 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/25(日) 21:31:10.62 ID:h4w+AuR50

雷帝『魔王様』

雷帝『………私だって、受け入れられるものか』

雷帝『あの魔王様が、自ら命を絶たれるなんて』

雷帝『死よりも過酷な呪いの最中にあったとしても、あの方が生きていなくては…っ!』

雷帝『そうでなくては…っ、………そうでなくては!』

氷姫「………うん。そうね」

氷姫「あたしたちを残して死んじゃうなんて…あんまりだよね」



氷姫「バカだよ…魔王は」

630 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/25(日) 21:31:52.10 ID:h4w+AuR50

氷姫「魔王」

氷姫「あたしさ、全部終わったら、あんたに謝ろうと思ってたんだよ」

氷姫「昔、冥界の修行の時にさ、あんたに酷いこと言っちゃったからさ」

氷姫「覚えてないだろうけど、それでもさ、あたし…」

氷姫「…」

氷姫「あたし、あの頃は炎獣が好きでさ」

氷姫「炎獣はあんたのことが好きで…雷帝だって、あんたのことが好きだった」

氷姫「妬いたな、ほんと」

氷姫「でもさ…」




氷姫「………もう、そんな事もひとつも、あんたに伝えられないじゃんか」


氷姫「死んじゃったらさ…」

631 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/25(日) 21:32:44.45 ID:h4w+AuR50

雷帝『――魔王様…っ』

雷帝『あなたは私のたちの魂だった…!』

雷帝『あなたが笑うから!』

雷帝『だから、私たちはあの過酷な戦いでお互いを信じあっていられた…!』

雷帝『………どうして、どうして逝かれてしまったのですか………』

雷帝『あなたがどんなに己に価値が見出せなくなっても』

雷帝『あなたに生きていて欲しいと願う者は沢山いた…っ!』

雷帝『あなたが生きているだけで………』


雷帝『あの戦いで失われた沢山のことが報われたのに――!』

632 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/25(日) 21:33:30.45 ID:h4w+AuR50

氷姫「………ね」

氷姫「あたしたちが子供を育てて、あんなに大きくなったって知ったら、魔王、どんな顔したかな?」

雷帝『………』

雷帝『すごく、すごく驚いて…それから、優しく笑われるだろう』

雷帝『良かったね、と喜んでくれる』

氷姫「そうね…きっとそうよね」


氷姫「………ねえ、魔王。こんな事考えてばっかだよ、あたしたち」

氷姫「あんたがいたから、あたしは生きてる」

氷姫「あんたのおかげで、あたしの手には希望が残ってる」


氷姫「なのにさ」




氷姫「――その後の世界に、あんたが居ないなんて………あんまりだよ」

633 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/25(日) 21:34:24.70 ID:h4w+AuR50


雷帝『きっと』

雷帝『きっとまたどこかで会えるはずだ』

雷帝『………盲信だと言われても、私はそう信じる』

氷姫「………………うん」

雷帝『魔王様………』

雷帝『あなたが居なくなったあの日から――』

雷帝『もう、今日で二〇年になるのです』

雷帝『沢山のことが変わり………』

雷帝『………沢山のことが新しく始まりました』





バタンッ!

黒騎士「父上、母上!」

黒騎士「お客さまをお連れしました!」



氷姫「ふふ………ようやく来たってわけ?」

634 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/25(日) 21:35:17.28 ID:h4w+AuR50

親爺「よ、よう。魔族の姉ちゃん」

氷姫「姉ちゃん、ってアンタねぇ」

氷姫「今や見た目はアンタのがオッサンでしょうが」

親爺「まあ、そうだけどよぉ」

氷姫「はーあ。あの時はあんなに可愛らしい坊やだったのに」

親爺「うるせぇ! 人間は歳食うのが早いんだよ! …ったく、目が見えないんじゃねぇのかよ」

氷姫「見えなくたって分かるわよ」フフン

雷帝『彼女は、こちらに寝かせよう。背負ってくるのは骨が折れたろう?』

親爺「ああ、すまねぇ。頼むよ」

親爺「ほら、赤毛。着いたぜ…」


赤毛「………………」スヤ…


635 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/25(日) 21:36:09.82 ID:h4w+AuR50

雷帝『後の二人はどうしたのだ?』

親爺「ええっと、もうすぐ来るはずなんだが」

氷姫「早くしないと、宝典劇が始まっちゃうわよ?」

親爺「おかしいなぁ………」

「おーい! 金髪ぅ!」

親爺「お! きたきた。おーいっ、こっちだ! 坊主! 三つ編!」


《世界改変の日から、今日でちょうど二〇年っ!》

《輝かしい記念の日となるこの祭典に、相応しい劇をご用意いたしましたっ!!》


氷姫「ちょっと、ほんとに劇始まるってば!」

黒騎士「お客人は、こちらに席を用意したので…」

親爺「ほら、早く早く!」


雷帝『………ふふ』

雷帝『全く騒がしい限りだ』

雷帝『だがまあ………』



雷帝『――こういうのも悪くはない』



雷帝『今は、そう思える』

636 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/25(日) 21:37:27.88 ID:h4w+AuR50

《伝説に綴られた、最後の魔王勇者大戦…!》

《その記憶を風化させぬよう、宝典劇が始まり今日でそちらも二〇年!》

《記念すべき式典は、復興を遂げたこの始まりの地、港町で行われます!》

《それではいよいよ始まります!》


《物語は、後に英雄と謳われる魔王と四天王が、港町に迫るその時から幕を開けます!》


《それは皮肉にも、当時の賢王が勇者に旅立ちを命じるその瞬間でした!》


《魔王来襲の報せを手に、伝令は王城の謁見の間に駆け込むのです………!》





親爺「おおっ…、いよいよか…!」

氷姫「………今年もこの子は、眠ったままか」

親爺「ん? …ああ」

赤毛「………………」

親爺「あの時…俺たちを助けてくれた日から………赤毛はずーっと眠りについてる」

親爺「俺としては慣れっこだけどな。………でも」

637 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/25(日) 21:38:25.52 ID:h4w+AuR50

親爺「なあ、赤毛」

親爺「そろそろ目覚めてもいいんじゃあないか」

親爺「俺たち、約束通り、あれからずっとこうして待ってるんだぜ………」


赤毛「………………」
















赤毛(…あれ?)

638 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/25(日) 21:39:06.99 ID:h4w+AuR50

赤毛(懐かしい声がする)


赤毛(それにこの匂い)


赤毛(潮風の、優しい香りがする………)



キラ…



赤毛(光だ)


赤毛(――ああ。大きな町が見える)



「………。…」

「…っ。………」



赤毛(何か………聞こえる)

赤毛(あたし………………)

639 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/25(日) 21:39:56.36 ID:h4w+AuR50

赤毛(………あれは、劇?)



赤毛(王様みたいな格好の人が、舞台の上で何かを言っている………――)





国王「…よくぞ参った。勇者よ」

国王「女神の加護を、真の強さをもつそなたならば、きっと魔王を討てるはずだ」

国王「世界の重みをその肩にかけることを許せ」

国王「勇者よ! 遊撃隊として勇者一行を組織し、魔王を撃破するのだ!」?




赤毛(お祭りみたいに………みんなが劇に夢中になって)

赤毛(それとは別に、あたしを除き込む驚いた顔)

赤毛(そう。この人はきっと――)







親爺「っ!!」

親爺「………赤…毛………っ!!」


640 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/25(日) 21:44:08.72 ID:h4w+AuR50


氷姫(――ああ、そうだ)


氷姫(どんなに世界が変わったように思えたって)


氷姫(喜びは必ずどこかにあるはずだから)




氷姫(――希望は)


氷姫(あたしたちの胸の内に、あるはずだから………)


641 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/25(日) 21:44:50.83 ID:h4w+AuR50


氷姫(全ての運命が決められた戦いは)



氷姫(もう終わったんだ)



氷姫(あたしたちには明日を生きる権利がある)






氷姫(生きている限り、物語は続くし)

















氷姫(物語は、最後の最後までどうなるか分からないはずだから――――)



642 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/25(日) 21:45:53.73 ID:h4w+AuR50















国王「さあ勇者よ! いざ旅立ち――」




「で、伝令! 魔王が攻めてきました!!」
































643 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/25(日) 21:46:45.34 ID:h4w+AuR50


















世界のどこか



??「よっ、ほっ」

??「よいしょ…!」

??「………ふー、こんなところかな」

644 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/25(日) 21:47:39.16 ID:h4w+AuR50

??「今年はずいぶんいっぱい育ったなぁ」

??「ちょっと、植えすぎたかな?」

??「残らず収穫できるか分かんないや…」

??「冬を越える分の備蓄はもう充分だから、あとは………あ」

フワ…

??「気持ちのいい風………」

??「………ふふ」

??「風を気持ちいいって思えるようになったんだ………私」

??「………」

??「また、始めれられるかな?」

??「希望のある、生を………受け入れられるかな?」

??「ねぇ、どうかな。炎獣…」

??「………」

??「………うん、そうだよね」

??「きっと始められるよね」

??「あの日にもう、魔王は世界から消えたんだ」

??「もう、魔王と勇者のお話はおしまい」



??「今の私は、きっともう、魔王ではない私」


645 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/25(日) 21:48:41.14 ID:h4w+AuR50

??「だから始めよう」

??「私の、新しい物語を!」

??「そうして、会いに行こう!」




「――そう、今、ここから!」




646 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/25(日) 21:49:20.02 ID:h4w+AuR50






【もう魔王ではない彼女】






647 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/25(日) 21:50:00.64 ID:h4w+AuR50










FIN

648 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/25(日) 21:50:57.85 ID:h4w+AuR50


























これだけの質量の登場人物と物語を書けて、とても楽しかったです
次は勇者と女神のコメディもの書きたいなぁ


649 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/26(月) 01:32:43.80 ID:ScBPiqrI0
完結乙
面白かったです
650 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/26(月) 03:25:36.61 ID:wLZZs3L10
超大作
映画化決定
おつ
651 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/26(月) 12:11:09.94 ID:ockNmZy6O
完結乙です!
終わってしまった...
652 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/26(月) 19:47:32.23 ID:2kesMabA0
長い間乙カレー
653 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/27(火) 01:43:50.38 ID:G2eR7XaDO

冥王の件は回収せんのか…
654 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/27(火) 23:00:22.24 ID:GYQ0KKF+0
乙!!


655 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/01(土) 02:03:55.66 ID:oVrWudkUo
一昨日まとめサイトで見つけてから二日かけておってきました
感想お疲れ様でした!
次回作も是非よみたいです!
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