【ポケモンSM】ヨウ「夢か、約束か」

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1 : ◆g/SXBgh1y6 [saga]:2017/10/05(木) 21:17:21.86 ID:7wmCwCQ60
シロガネ山――。

ジョウト地方に位置する巨大な山であり、過酷な環境に加えどの地方よりも桁違いに凶暴な野生のポケモンたちが巣食っていることから、オーキド博士に認められたトレーナーだけが立ち入ることを許されている。

かつては、生ける伝説と呼ばれたトレーナーが修行をし、その力を高めた場所と言われており、そこで修行することはトレーナーにとって一種の名誉とトレーナーたちの間では語り継がれている。

その山頂にて雪が降り注ぐ中、少年と少女が向き合うように立っていた。

ヨウ「……」

リーリエ「……」

ヨウは迷いを湛えた黒い瞳でリーリエを、
リーリエは強い意志と決意で燃えた翠色の瞳でヨウを、それぞれ見据えていた。

お互いの手にはモンスターボールが握られており、今まさにポケモンバトルが始まろうとしていた。

身体を突き刺すような風が吹き荒れる中、奇しくも相反する両者は『その時』がやってくるまでの間、お互いから目を離さないまま、ここに至るまでの出来事を振り返っていた。

全てが始まったのは、半月ほど前のことだった。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1507205841
2 : ◆g/SXBgh1y6 [saga]:2017/10/05(木) 21:18:05.29 ID:7wmCwCQ60
ヨウ「夢か、約束か」

〜約束の章〜
3 : ◆g/SXBgh1y6 [saga]:2017/10/05(木) 21:19:14.64 ID:7wmCwCQ60
――わたしは……トレーナーになって……ヨウさんと旅をしたいな……

――夢と呼べるかわかりませんけど……かあさまのことも、全部片付いたら、してみたいと思ったことです




わたしが困っていると、いつもいてくれた男の子

その人は、スカル団に襲われた時も、エーテル財団に捕まった時も、かあさまとの決着の時も、自分のことのようにそばにいて戦ってくれて……わたしを守ってくれた

強くて優しくて、とっても大きな夢を持っていて、そんなあの人の温かさに触れて、いつのまにか惹かれて……

でも……かあさまの全身に回った毒を治すため、そしてわたしの夢を叶えるため、カントーに行くことになったのですけど、それでも彼に対する想いは日に日に強くなって……

だから、あの人がいない間、全身が引き裂かれるような孤独と戦ってきました

でも、そんな日々とはサヨナラです

だって、これからあの人のいる、アローラに戻るのですから!

そして、彼と交わした夢と約束を一緒に果たすのです!
4 : ◆g/SXBgh1y6 [saga]:2017/10/05(木) 21:19:42.07 ID:7wmCwCQ60
リーリエ「見てください、かあさま! アローラ地方が見えてきました!」

遠くに見えるアローラの島々を、わたしは嬉々とした表情で指さしました。
そんなわたしの様子を、かあさまは微笑ましげに見つめていました。

ルザミーネ「ふふっ、そんなにはしゃいじゃって……」

わたしは甲板から身を乗り出しながら、アローラの島の一つ――メレメレ島を眺めました。
あの島には、わたしを支えてくださった大切な人達が住んでいます。

ククイ博士、ハラさん、ハウさん

そして、ヨウさん

またみんなと出会える……そして、ヨウさんとの約束を果たせる。

そう思うと、自然にワクワクしてきました。ナッシー・アイランドで、ヨウさんと将来の夢を語り合った、あの時のように。
わたしは、ヨウさんから渡された大事な帽子を抱きしめながら、これから起きることに思いを馳せていました。

ハウ「おかえりー! リーリエ!」

ククイ博士「おかえり! リーリエ!」

バーネット「おかえりなさい、リーリエ」

リーリエ「……ただいま!」

メレメレの乗船場に着くと、さっそくみんなが出迎えてくれました。
特にバーネット博士なんて、帰ってきたわたしの姿を一目見て嬉しかったのか、目元から涙がこぼれています。
5 : ◆g/SXBgh1y6 [saga]:2017/10/05(木) 21:20:09.07 ID:7wmCwCQ60
ククイ博士「カントーはどうだったかな?」

リーリエ「はい! アローラの島巡りとは違った発見と冒険が多くて……とっても大変でした。けど、それ以上にトレーナーとしてたくさんの大切なコトが学べました」

バーネット「リーリエ……ちょっと、背が伸びたね」

ハウ「なーなー、カントーってどんなところだったー? どんなポケモン捕まえたのー?リーリエが体験したこと、教えてよー!」

ククイ博士「こらこら、そう急かすものじゃないよ。リーリエだって、帰ってきたばかりなんだからな」

リーリエ「ふふっ、わたしも……カントーで見てきたこと、みなさんにお話したいと思ってますから。大丈夫ですよ」

笑みを浮かべながらも、わたしは三人から目線を外して、船着場のあちこちを見渡しました。



ヨウさんは、来ていませんでした。
6 : ◆g/SXBgh1y6 [saga]:2017/10/05(木) 21:20:44.24 ID:7wmCwCQ60
仕方ないことです。あの人はアローラ地方を代表するチャンピオン。

リーグへの挑戦者の相手をするだけでなく、チャンピオンとして、アローラ地方のことを他の地方へPRしたり、トレーナーの模範となる活動をしなければいけません。
きっと、時間が合わなかっただけです。

それでも、あの人がこのアローラにいる――わたしの手の届くところにいる――それだけで充分です。

ハウ「どうかしたのー? リーリエ」

リーリエ「えっ? いえ、ちょっとぼうっとしちゃって……」

ククイ博士「実は、リリィタウンで君が帰ってきたお祝いをしようと思っているんだけど……どうかな?」

リーリエ「本当ですか? 嬉しいです! ぜひ行かせていただきます」

ククイ博士「それじゃ、さっそくハラさんにおいかぜ吹かせて会いに行こうよ!」

大切な人達に囲まれながら、わたし笑顔で快く了承しました。
わたしがいない間、アローラで何が起きたのか聞きたいですし、カントーではどんなことを体験してきたのか、たくさん話したいですから。

同時に……その笑顔の裏で、わたしは一番会いたかった、あの人がいないことに一抹の寂しさを覚えました。
7 : ◆g/SXBgh1y6 [saga]:2017/10/05(木) 21:21:15.26 ID:7wmCwCQ60
ハラ「それでは、リーリエが帰ってきたことを祝って――」

「乾杯!」

みなさんが唱和した後、それぞれが掲げたコップの中身を口にしました。モモンの風味が口いっぱいに広がります。

ハラ「リーリエ、よくアローラに戻ってきてくれました。このハラ、感激して筋肉が脈動しますぞ」

リーリエ「アローラの人たちには返しても返しきれない恩があります。その恩を少しでもお返ししたいですし、トレーナーになった今なら、旅立つ前には出来なかった事もきっと出来ます」

ククイ博士「カントーでトレーナーになったってことは、今の手持ちはカントーのポケモンで固めているのかな?」

リーリエ「はい! 今手持ちにいるのはピクシーさんと、キュウコンさんですが……」

ハウ「キュウコンって、たしかアローラに住んでるキュウコンと他の地方のキュウコンってタイプとか覚える技が違うんだよねー」

リーリエ「ええ、わたしは逆に、アローラのキュウコンさんがこおりタイプであることにびっくりしましたけど」

ククイ博士「是非アローラのキュウコンと他地方のキュウコンが使う技を比較してみたいね。今度勝負してみようよ」

バーネット「もうククイ君ったら、こんな時に研究の話は無し、でしょ!」

ククイ博士「おっとっと、そうだね」

「ハッハッハッハッ!」

ハラさんとハウさんのお屋敷で行われている、帰ってきたわたしを歓迎するささやかな宴にみんなの笑い声が響き渡ります。
その笑い声を聞いて、帰るべき場所に帰ってきた安心感が蘇ってきた気がします。


――でも、やっぱりその輪の中にヨウさんはいませんでした。
8 : ◆g/SXBgh1y6 [saga]:2017/10/05(木) 21:21:44.24 ID:7wmCwCQ60
どうしてヨウさんだけ、ここにいないのでしょうか。
チャンピオンのお仕事が忙しいのもありますけれど、ヨウさんもハウさんたちと一緒にアローラを旅した大事な人です。
あの人も欠けちゃいけないはずなのに……。

思い切って、聞いてみようかな……。

リーリエ「ハラさんは今でも四天王のお仕事を?」

ハラ「うむ、毎日のようにアローラを制するためにやってくる挑戦者の相手をしておりますな。戦うたび、挑戦者をハラハラさせますぞ」

リーリエ「では、チャンピオンのヨウさんは……お元気にしていますか?」

すると、時間が止まったようにみなさんの動きがぴたりと止まりました。
そして笑顔が消えて、苦いものでも飲み込んだように辛そうな表情に変わっていくのが分かりました。まるでその言葉が来て欲しくなかったかのように……。

ハウ「ヨウはねー……今、アローラにいないんだー……」

リーリエ「え……?」
9 : ◆g/SXBgh1y6 [saga]:2017/10/05(木) 21:22:51.03 ID:7wmCwCQ60
その夜、わたしはどうしてもエーテルパラダイスに帰る気になれなくて、ククイ博士の研究所のロフトを使わせていただきました。

そのままソファベッドに寝転がりながら、さっきハウさんたちから聞いた話を、反芻しました。
アローラを旅立ってからも、博士は掃除をしてくださったようで、ソファベッドもあの時のまま、綺麗な状態を保っていて、程よい寝心地です。

でも――アローラは暖かい気候のはずなのに、とっても肌寒く感じます。

リーリエ「ヨウさん……どうして?」

クッションを抱きしめながら、寂しさをつい言葉に出しました。
ふと、机の上に置いたヨウさんの帽子と、ハウさんから渡されたマスターボールを見ていると、先ほどの、屋敷での出来事を思い出しました。
10 : ◆g/SXBgh1y6 [saga]:2017/10/05(木) 21:23:21.51 ID:7wmCwCQ60
ハウさんから放たれた言葉は、わたしの頭にアームハンマーを放たれたような衝撃を与えました。

リーリエ『ヨウさんがアローラにいないって、どういうことですか?』ガタガタ

気が付けば、わたしはこわいかおでハウさんに詰め寄っていました。自分でもどうしてここまで、冷静さを失ったかわかりません。

バーネット『落ち着いて、リーリエ。ちゃんと話すから』

バーネット博士にたしなめられて、わたしはもとの席に座りました。それでも、わたしの胸の内側は嵐のように荒れ狂っているのがわかります。

ハラ『彼がアローラを出て行ったのは、今から数ヵ月ほど前のことですな』

ククイ博士『あいつは、自分の夢を叶えるためにチャンピオンをやめたんだ』

リーリエ『ヨウさんの夢……』

ハラ『ヨウはこう言ってましたな』

――僕は僕を受け入れてくれたこのアローラが好きだ。島巡りの時も、みんなが一丸となって応援してくれた。出来ることなら、ずっとここに住みたい。だけど、いつまでもここでチャンピオンの座であぐらかいていたら、僕の夢が遠のいてしまう

――チャンピオンを防衛している時やバトルツリーに行っているとき、アローラだけでなく、色んな地方のトレーナーと戦った。そこでは様々なトレーナーとポケモンたちが僕に多様な戦術を見せてくれた。僕は自分の視野がとても狭いということを理解したよ

――僕は世界中を回ってあらゆるポケモン、そしてトレーナーたちと戦いたい。改めてそう思ったんだ。そのためには、アローラのチャンピオンでいるだけではダメなんだ

ククイ博士『島巡りを終えて、ポケモンリーグのチャンピオンになる……それだけでも普通の人には大変なことなのに、彼はチャンピオンが自分にとって通過点に過ぎないと言い切ったんだ』

ハラ『彼の抱える壮大な夢と、それに向かう力と覚悟が、あの頃の彼には備わっていました。それがこのハラにもひしひしと伝わってきました』

だからヨウさんはチャンピオンを辞退して、アローラを発ったのです。自分の夢を叶えるために。
11 : ◆g/SXBgh1y6 [saga]:2017/10/05(木) 21:24:53.90 ID:7wmCwCQ60
リーリエ『それじゃあ、今のチャンピオンは誰が……?』

ハウ『おれだよー。本気のじーちゃんにも勝ってー、ヨウにも何度か勝つ手前まで追い詰めたことあるからねー』

ハラ『我々四天王もしまキングたちもハウがチャンピオンになる事へ反対する理由もありませんからな。……ただ、リーグ本部にチャンピオンを変えるための手続きをするのは大変でしたが』

ククイ博士『それでもすごかったぜ! ハウの実力を見るため、カントーからやってきた四天王やジムリーダーに一歩も引かない戦いをしたんだからな』

ハウ『だからー、ヨウが帰ってくるまでの間はーおれがチャンピオンの椅子を守るのー。ヨウがアローラから帰ってきてーおれと戦うまでは誰もチャンピオンにさせないからねー』

リーリエ『……ヨウさんは、どこに行ったのでしょうか?』

ククイ博士『……わからない。あいつは誰にもどこへ行くか言わなかったからね。ヨウのお母さんも旅に出ることは知ってたんだけど、そこんところ心配してるん』

リーリエ『……』

納得できません。

あの人がみんなに黙ってどこかへ旅立つなんて。

それに、わたしとの約束も、どうなるんですか?

カントーにいたとき、寂しくて、心細かったわたしを支えてくれた一番の理由が、あなたと交わした約束だったのに。


ずっとアローラで、待っててくれるはずじゃ、なかったんですか?

ハウ『あのねーリーリエ』

床に視線を向けているわたしに、ハウさんはなにかを差し出してきました。
それは、どんなポケモンも必ず捕まえられるという最高の捕獲性能を持つボール――マスターボールでした。
12 : ◆g/SXBgh1y6 [saga]:2017/10/05(木) 21:25:22.18 ID:7wmCwCQ60
そのマスターボールには、見覚えがありました。
このボールがいつ、どこで使われたのか、そして、このボールの中には、どんなポケモンさんが入っているのか、今でも覚えています。

リーリエ『それはソルガレオさん……ほしぐもちゃんのボール、ですか?』

ハウ『うんー。ヨウが、「リーリエが帰ってきたら渡して欲しい」って言ってたからー。おれや博士の言うこともきちんと聞いてくれて、いい子だったよー』

リーリエ『……ありがとうございます』

ほしぐもちゃんの入ったボールを受け取りながら、わたしは困惑するしかありませんでした。
なぜヨウさんは、わたしにほしぐもちゃんを託すようなことを……? ほしぐもちゃんは、あなたと一緒に旅することを望んでいたのに。

まるでわたしたちの関係を断ち切るようにも見えたのは、気のせいでしょうか。

リーリエ「ヨウさん……あなたはどこにいるんですか?」

ヨウさんに逢いたい。
逢って、自分の気持ちを全て伝えたい。

あの人の心を、わたしで埋め尽くしたい。

一体いつからでしょうか。ヨウさんに、こんな気持ちを抱いたのは……。
13 : ◆g/SXBgh1y6 [saga]:2017/10/05(木) 21:26:11.63 ID:7wmCwCQ60
ヨウ『君は……?』

あの人と初めて出会ったのは、リリィタウンの近く――マハロ山道。
エーテルパラダイスからほしぐもちゃんを連れ出して、まだそう月日が経っていない時です。
その頃のわたしは、自分の意志も持てず、臆病な人間で――目の前でほしぐもちゃんがオニスズメさんに襲われても、足がすくんで動けませんでした。

ヨウ『あの子は、君のポケモンかい?』

リーリエ『あの、その……助けて……ください……ほしぐもちゃんを!』

リーリエ『オニスズメさんに襲われ……でも……わたし怖くて……足がすくんじゃって……』

ヨウ『そうか、ちょっと待ってろ』

わたしが弱々しい言葉を言い終えるよりも先に、ヨウさんは吊り橋を走って、揺れて崩れそうな吊り橋をものともせず、すぐにほしぐもちゃんをオニスズメさんから助け出しました。


結局、ほしぐもちゃんの力で橋は崩れてしまったのですが、カプ・コケコさんが助けて頂き、あの人は、かがやく石を授かったのです。

そして、ヨウさんたちはアローラの風習である島巡りを始め、わたしはほしぐもちゃんを元の場所に返すため、一緒に各地を旅しました。

あの頃は本当に楽しかった……。ククイ博士の言葉を借りるのなら、発見、体験、大冒険の毎日で、わたしもほしぐもちゃんも、自分が追われているという立場を時折忘れてる時があったほどです。

……ですが、ヨウさんと出会って最初の間、わたしはヨウさんを財団の人間と疑っていました。

その時のわたしは、かあさまの言いなりになっていたことに加えて、ほしぐもちゃんを守るために見知らぬ人たちに敏感になっていて、周りの人達全員が敵――それどころか、お世話になったククイ博士やバーネット博士でさえ、心の奥底では疑いの目を向けていました。


わたしは、自分の家族も、お世話になった人達のことも、誰も信じることが出来なかったのです。


ですが、そんな凍てついたわたしの心を溶かしてくれたのは、アローラの方々の大らかな人柄や、いっしょに来てくれたククイ博士やハウさん、そしてヨウさんです。

そしてヨウさんは島巡り中にも関わらず、わたしに色んなことを教えてくれました。
14 : ◆g/SXBgh1y6 [saga]:2017/10/05(木) 21:26:38.25 ID:7wmCwCQ60
バシャバシャッ!!

リーリエ『……』

ヨウ『!』

ヨウ『よぉ、リーリエ』

リーリエ『ヨウさん……。なにをなさっているのですか?』

ヨウ『水切りだよ。こうやって石を投げると……』シュッ!

バシャバシャッバシャッ!

リーリエ『まぁ……』

ヨウ『決まるとかっこいいだろ? リーリエもやってみなよ』

リーリエ『え? でもわたしは……』

ヨウ『まーまーそういうなって。ほしぐもちゃんもリーリエのかっこいいところ、見てみたいだろ?』

コスモッグ『ピュイ!』

リーリエ『はぁ……分かりました。一回だけですよ?』スッ

リーリエ『……えいっ』ブンッ

ポチャン

リーリエ『……』

ヨウ『……』クスッ
15 : ◆g/SXBgh1y6 [saga]:2017/10/05(木) 21:27:11.08 ID:7wmCwCQ60
ヨウ『リーリエ、そんな石じゃ飛ばないよ。なるべく平べったい石を選ぶんだ』

ヨウ『それで、下から投げるんじゃなくて、手首のスナップを効かせて、握り方もこう』

リーリエ『こ、こうですか?』

ヨウ『そうだよ。それでやってみな』

リーリエ『……えいっ!』ビュン

バシャバシャッ!

リーリエ『あ……』

コスモッグ『ピピュイ!』

ヨウ『おーっ! 結構飛んだじゃんか。初めてにしちゃ飲み込みが早いなぁ』

リーリエ『そ、そうでしょうか?』テレテレ

ヨウ『あぁ、リーリエには石投げの才能があるのかもな』

リーリエ『それは喜べばいいのか……イマイチ分かりませんね』
16 : ◆g/SXBgh1y6 [saga]:2017/10/05(木) 21:27:40.16 ID:7wmCwCQ60
そして、アーカラ島では……。

ヌイコグマ『クゥー……』パタッ

ヨウ『よく頑張ったね、ニャヒート』

ニャヒート『にゃあ!』

ヨウ『ふぅっ、随分倒したな。最初、仲間を呼ぶのはやっかいと思ってたけど、ポケモンを鍛えるのにはうってつけだね』

リーリエ『……』

ヨウ『ン? どうしたんだ、リーリエ』

リーリエ『ヨウさん……わたし、よくわからないのです』

ヨウ『何が?』

リーリエ『ヨウさんやハウさんがポケモンさんと一緒に戦ってる姿を見てると、未来への扉を開けてるみたいで、素敵だなって思うんです』

リーリエ『けど、ポケモンさんが傷ついていると、つい目を背けたくなる時もあって、さっきもヌイコグマさんがダメージを受けたときも……』

ヨウ『……そういえば、最初に僕とハウが戦った時も、ゼンリョク祭りの時も、そう言ってたね』

リーリエ『……はい』

ヨウ『リーリエは、ポケモンが戦うのを見るより、触れ合っている方が好きかい?』

リーリエ『はい……というより、今まで勝負とは無縁の生活を送っていたから……というのもあるのですが……』

ヨウ『……そっか』
17 : ◆g/SXBgh1y6 [saga]:2017/10/05(木) 21:28:39.54 ID:7wmCwCQ60
ヨウ『確かに、君のような人から見れば、ポケモン勝負は野蛮なものに見えるかもしれない。時折、目を覆いたくなる光景もあるから、苦手になるのも分かるよ』

ヨウ『でもね、リーリエの言ってたように、トレーナーたちはポケモンと一緒に未来への扉を開けているんだ』

ヨウ『その扉の先にあるモノ……叶えたい夢のためにね』

リーリエ『夢?』

ヨウ『それは人それぞれだよ。例えば、たくさんのポケモンと出会いたい、強いトレーナーと戦いたい、ポケモンを深く知りたい――老若男女、みんな夢を抱いて生きていくんだ』

ヨウ『トレーナーは、自分のポケモンにその夢と誇りを乗せているんだよ』

ヨウ『そして、ポケモンたちは、そんなトレーナーたちの力になりたいのかもしれないね。そのためなら、傷つくことだって厭わない』

ヨウ『だって、ポケモンにとっての夢は、トレーナーの夢と一緒なんだから。僕はそう思うよ』

ヨウ『そして僕も、ひとりの男としてニャヒートたちと夢を追い続けているんだ』

ニャヒート『にゃあ!』

ヨウ『夢もないまま、ただなんとなく生きていく。そんな空っぽの人生なんて、つまらないじゃないか』

リーリエ『……』ポカン

ヨウさんは石投げのような遊びから、トレーナーの在り方まで、色んなことを、わたしに教えてくれました。

もともとポケモンさんが傷つくことが嫌だったわたしは、ヨウさんの話を聞いて考えを改めて……そうしたら自然と、世界が広くなっていったのです。

子供のような無邪気さを見せたかと思えば、わたしと同い年の人とは思えないような大人びた考えと、それを実行できる行動力もあって……不思議な方でした。

だからこそ、わたしは次第にあの人に惹かれたのかも……。
18 : ◆g/SXBgh1y6 [saga]:2017/10/05(木) 21:29:11.48 ID:7wmCwCQ60
気が付けば、ヨウさんと一緒にいる時間が多くなっていました。

いっしょにブティックで服を見たり、ポケモンセンターのカフェでカントーでのお話を聞いたり、トレーナーの視点でポケモンさんについて教えてくれたり……時には、偶然を装って、待ち伏せなんかもしちゃったり……。

きっと迷惑だったのかもしれないのに、ヨウさんは嫌な顔せず、こんなわたしに付き合ってくれました。

次第に、ほしぐもちゃんだけだったわたしの心は、ヨウさんで彩られていきました。

そして島巡りの最中……。

ウラウラ島で、ヨウさんがアセロラさんの試練を受けた直後、スカル団の方たちが襲ってきたのです。
その際人質として子供たちのヤングースさんが、スカル団のアジトがあるポータウンに連れ去られてしまい、交換条件としてヨウさん一人で来るよう言われてしまったのです。

ハウ『ポケモンを返してほしければ、ヨウ一人でポータウンに来いって、あいつら言っていたよね……』

アセロラ『スカル団の連中はポータウンを根城にしてるの。15番水道にいる着物の人を探せば、力になってくれるかも……』

子供『これ、あげるから……ヤンちゃん、ヤングース……のこと」

ヨウ『ふしぎなアメ……。わかった、必ず助け出すから、僕を信じて待ってて』

ヨウさんは出口へと向かいました。わたしはたまらず、ヨウさんの手首を掴んだのです。

リーリエ『本当に……行くんですか?』

ヨウ『子供に任せられたんだ。ここで放り出すわけにも行かないだろ』

リーリエ『……でも』

このまま行かせたら、ヨウさんが帰ってこない気がして、胸が詰まるような感覚がしました。ヨウさんを失いたくない。

ヨウ『心配してくれているのか。大丈夫、あいつらには慣れているし……なにより、僕をお呼びなんだろ? それなら堂々と行ってやるのが筋さ』

そのままヨウさんの手首がするりとわたしの手から抜けると、わたしたちに背中を向けてエーテルハウスを出て行きました。

ヨウさんの背中を見て、こんな時、何もできない自分が無性に悔しかったことと、ヨウさんに対する憧れと不安さは、今でも覚えています。
19 : ◆g/SXBgh1y6 [saga]:2017/10/05(木) 21:30:07.07 ID:7wmCwCQ60
残されたわたしはハウさんやエーテルハウスの子供たちをスカル団から守るため、幹部のプルメリさんに連れられて、エーテルパラダイスに帰ることになったのですが、ほしぐもちゃんがかあさまの計画に利用されようとしていました。

その時も、ヨウさんはエーテル財団の職員さんも、スカル団も押しのけてわたしのそばに現れてくれました。

ヨウ『リーリエ、無事かい?』

リーリエ『……! ウソ……です。ヨウさん……が、助けに来てくださるなんて……。あ、ありがとうございます……!』

そしてほしぐもちゃんを取り戻すことはできたのですが――。
かあさまはグズマさんを連れてウルトラホールへ消えていって、ほしぐもちゃんは姿が変わって動かなくなってしまいました。

結局わたしは、守ろうと思って行動しても、ヨウさんやハウさんに守られてばかりでした。

立て続けに起きた辛い出来事に、わたしは気丈に振る舞うフリをしてかあさまのベッドに飛び込んだのですが……。余計悲しみが増して、無力感に苛まれてベッドの中で泣いて……。
気を紛らわせるために屋敷の外へ出ると、そこにはヨウさんがいて、月明かりに照らされるアローラの海を眺めていました。

リーリエ『ヨウさん……』

ヨウ『よぉ、リーリエか。眠れないのかい』

リーリエ『えぇ、まぁ……ヨウさんは?』

ヨウ『同じだよ。たくさん動き回って疲れてるってのにな。きっと夜のテンションって奴の仕業だね』

リーリエ『夜のテンション……?』

ヨウさんの言葉の意味もわからないまま、しばらくわたしとヨウさんは黙って海と月を眺めることにしました。
遠くを見つめるヨウさんの横顔を見ていると、自然に口から言葉と想いが、滑り落ちてきました。

リーリエ『不思議なんです』

ヨウ『ん?』
20 : ◆g/SXBgh1y6 [saga]:2017/10/05(木) 21:31:05.14 ID:7wmCwCQ60
リーリエ『かあさまはわたしに……ほしぐもちゃんに、あんなヒドイこと、したのに』

リーリエ『かあさまがいなくなって……辛いんです』ツーッ

リーリエ『こんなにも胸が張り裂けそうで、わたし、どうしたらいいのかわからなくって……!』フルフル

ヨウ『……僕に聞かれたって、分からないよ。自分の親がいなくなるっていうの、まだ分からないからさ』

でも、とそこでやっとヨウさんはわたしへ顔を向けました。

ヨウ『ひとつだけ言えるのはさ、失っちまったんなら、取り戻せばいいんじゃないか?』

リーリエ『取り……戻す』

ヨウ『僕は君たちの家庭の事情がよく分からないけど、もし僕が君の立場だったらそうする』

ヨウ『無理矢理にでもウルトラホールから引っ張り出して、自分たちだって生きていることを、伝えてやるのさ』

リーリエ『言い方がちょっと乱暴な気がしますが……』

リーリエ『……そうですよね。諦めなければ、きっと見つかりますよね』

けれど、まだわたしの中で悲しみがくすぶっていて……ひとりぼっちのような気がしてならなくて――だから、ヨウさんにお願いしました。

リーリエ『少しの間だけ……甘えさせてもらって、いいですか?』

ヨウ『……いいよ』

わたしはそっとヨウさんの背中に手を伸ばすと、彼をぎゅっと抱きしめました。

ヨウさんよりわたしの方が背は高いので、抱きしめてもらう形としてはちょっぴり変な感じでしたが、それ以上にヨウさんのぬくもりが、悲しみで濡れていたわたしの心を癒してくれました。

リーリエ『ヨウさん……わたし、頑張ってみせます』

リーリエ『絶対にかあさまもほしぐもちゃんも、取り戻してみせますから……』

リーリエ『だから……そばで見守っててください』

ヨウさんは手を伸ばしてわたしの頭を撫でると、

ヨウ『ああ、頑張れよ』

リーリエ『ふふっ……ヨウさんからいっぱい、パワーもらっちゃいますね……』

困っている時も、悩んでいる時もいつもそばにいて……助けてくれた。
わたしにとってあの人は――かあさまから離れて、ほしぐもちゃんと一緒にあてもなく暗闇の中を彷徨っていたわたしを照らして導いてくれた、太陽のような人です。

ヨウさんがいてくれたから、わたしは頑張ることが出来ました……。
21 : ◆g/SXBgh1y6 [saga]:2017/10/05(木) 21:32:09.50 ID:7wmCwCQ60
そしてナッシー・アイランドで雨宿りした時には、あの人の夢と憧れ――わたしがカントーへ旅立つきっかけの一つを聞くことができました。

リーリエ『アローラの雨……スカート、少し濡れました……』

リーリエ『……ヨウさん。わたし、雨を見ると思いだすことがあるのです』

ヨウ『なにを思い出したんだ?』

リーリエ『映画の真似をして、雨の中で歌い踊っていたら、驚いたかあさまが傘もささずに飛びだしてきて……そしたらかあさま、笑顔で……いっしょに歌ってくれたのです……』

リーリエ『もちろん、ふたり風邪をひき……一緒に寝ることになったのに、わたし嬉しくて、何度も何度も、かあさま、起こしちゃって……』

ヨウ『……』

リーリエ『なのに……かあさま、ウルトラビーストのコトだけ考えるようになって……ヌルさんや、ほしぐもちゃんを……』

リーリエ『……わたし、正直、わからないのです』

ヨウ『なにが?』

リーリエ『さっきのように、私と一緒に歌を歌ってくれた、優しいかあさまがいることを、今でもはっきり覚えています』

リーリエ『でも、自分のわがままのために、ほしぐもちゃんやヌルさんにひどいことするかあさまもいて……』

リーリエ『だから、なにが正しくてなにがいけないのか、よくわからなくなって――』

リーリエ『ククイ博士やバーネット博士のように、親切にしてくださる方がいることが分かっても、心のどこかで大人は怖くて、誰も信じることが出来なくなって……』

リーリエ『実はヨウさんのことも、最初に会ったときは、エーテル財団の追っ手と疑ってました……』

ヨウ『……』

ヨウ『そうだな、あんな大きな組織から逃げ出したら、「いつか見つかって捕まってしまうかもしれない」っていう恐怖に付きまとわれるからね』

ヨウ『だから、誰だって信用できなくなる気持ちは分からなくもないな。僕が君の立場だったら、同じ考えをしてたかもしれないな』

ヨウ『……でもね、君に優しくしてくれたルザミーネさんを信じるのか、それとも、エーテルパラダイスで見せたあのルザミーネさんを信じるのか、結局何が良くて何が悪いのか、それは君自身が決めることだよ』

ヨウ『難しいことかもしれない。だけど、誰かに判断を委ねていきながら生き続けても、なにも進歩できないよ』

リーリエ『そう、ですよね』

リーリエ『変わることって、難しいですね。こうやって頑張っても、まだ何もできなくて、なにも決められなくて……』

するとヨウさんは、自信を失っているわたしの右肩に、優しく手を添えてくれました。

ヨウ『大丈夫、これから変えていけばいい。少なくとも、君は変わろうと努力しているんだから』

リーリエ『……ヨウさん』
22 : ◆g/SXBgh1y6 [saga]:2017/10/05(木) 21:33:46.75 ID:7wmCwCQ60
リーリエ『そういえば、聞きそびれていたことがありました』

ヨウ『なんだい』

リーリエ『アーカラ島でわたしが、ポケモンさんが傷つくのを悩んでいたとき、あなたは「トレーナーとポケモンは一緒に夢を追いかけている」とおっしゃってましたね』

ヨウ『そうだっけ?』キョトン

リーリエ『もうっ! ……それで、その時はヨウさんの話に聞き入って、つい忘れていたのですが……』

リーリエ『ヨウさんがガオガエンさんたちと一緒に叶えたい夢って、なんですか?』

ヨウ『僕の夢か?』

ヨウ『僕の夢は、ポケモンマスターになることだよ』

リーリエ『ポケモン……マスターですか?』

ポケモンマスター――ポケモンにおける、ありとあらゆる強さを極めた人に贈られる、至高の称号。

ポケモンリーグを制覇したり、ポケモン図鑑を完成させただけではそう呼ばれることはまずないです。

長いポケモントレーナーの歴史の中でも、未だにポケモンマスターと呼ばれる人はいません。あの『生ける伝説(リビングレジェンド)』と称された最強のトレーナーのレッドさんですら、そう呼ばれたことは一度としてないのだから。

そんな、右も左もわからない子供が見るような夢を、あの人は本気で目指していたのです。
23 : ◆g/SXBgh1y6 [saga]:2017/10/05(木) 21:35:08.77 ID:7wmCwCQ60
ヨウ『きっかけは……本当に幼い頃、親と一緒に見たカントーのポケモンリーグの実況を見た時だね』

ヨウ『テレビ越しにトレーナーとポケモンたちが繰り広げる丁々発止の攻防の果て……最後にフィールドのど真ん中で、周りの人から祝福されながら新しいチャンピオンが生まれた光景を見た瞬間、僕は決めたんだ』

ヨウ『あれを超える何かになりたいってね』

リーリエ『ああなりたい、ではなくて?』

ヨウ『……』コクン

ヨウ『アローラの島巡りだって、始まりに過ぎないよ』

ヨウ『お楽しみはこれからだ』ニッ

リーリエ『……すごいです』

リーリエ『やりたいことが決まって、それに向かってもう努力しているなんて。やっぱり、すごいです』

リーリエ『わたしはまだ……そういうはっきりした夢は持ってないです』

リーリエ『持ってないですけど……』

リーリエ『わたしは……トレーナーになって……ヨウさんと旅したいな……』

ヨウ『……』

リーリエ『夢と呼べるかわかりません……ですが、かあさまのことも、全部片付いたら、してみたいと思いました』

ヨウ『……いいんじゃないかな。ささやかだけど、やりたいことがあるだけでも』

ヨウ『きっと叶うよ。諦めなきゃね』

リーリエ『はい! 絶対に叶えてみせます!』ニコッ

ヨウさんがポケモンマスターになるところを、そばで見ていたい。

ただヨウさんとずっと一緒にいたい。

あの人に、わたしの全てを知って欲しい。そして、ヨウさんの全てを、わたしは知りたい。

それだけなのに、そんなあいまいな言葉でごまかして、自分の気持ちに正直になれないまま、わたしたちは笛を手に入れて、ポニ島の祭壇へ向かい、全てを終わらせました。

だけど、チャンピオンになって、みなさんに囲まれて笑い合っているヨウさんを見ると――。どうしてだろう? 手の届かない、遠い存在に見えて、切なくなってしまいました。苦しくて苦しくてたまらない。

リーリエ(ヨウさん……)

やっぱりわたしは、あの人のことが好きで好きでたまらないのです。



自分の本当の気持ちに正直になって、そして初めて叶えたい夢が見つかったのは、あの人がアローラのチャンピオンになった後、ヨウさんが……

――ラリオーナッ!!
24 : ◆g/SXBgh1y6 [saga]:2017/10/05(木) 21:39:03.61 ID:7wmCwCQ60
リーリエ「……!」

ほしぐもちゃんの声?

ソルガレオ「ラリオーーナッ!!」

リーリエ「ほしぐも……ちゃん?」

気が付けば、わたしは奇妙な浮遊感と供に、暖かくて心地よい空間にいました。
そして、わたしの目の前には、ほしぐもちゃんがいました。
きっとわたしは、ヨウさんとの思い出を回想していくうちに、夢の世界に入ってしまったのでしょう。

ソルガレオ「ラリオォ」スリスリ

リーリエ「まぁ……ほしぐもちゃん、お久しぶりです!」ナデナデ

ほしぐもちゃんがわたしとの再会を喜ぶように歩み寄って、身体を摺り寄せてきました。わたしも、ほしぐもちゃんの大きな頭を優しく撫でてあげました。

以前ヨウさんが、ソルガレオははがね・エスパーの二種類のタイプを持っていることをわたしに話してくれました。

エスパーやゴースト、あくといったタイプのポケモンは、人の精神や心に干渉する力を持っていると本で読みました。だから、ほしぐもちゃんも、こうやってわたしの夢に入ってくることも、おかしなことではないハズ。

ソルガレオ「ラリオ……」

リーリエ「ほしぐもちゃんも……ヨウさんがいなくなって、寂しいのね……」

ソルガレオ「ラリオーナ」

リーリエ「ほしぐもちゃん……?」

ほしぐもちゃんが咆哮を上げたかと思うと、わたしの目の前に映像が浮かんできました。まるで、シアタールームでスクリーンを見ているような感じです。

リーリエ「ヨウ、さん……」

その映像に映っていたのは、悲しげな微笑みを浮かべていたヨウさんでした。
25 : ◆g/SXBgh1y6 [saga]:2017/10/05(木) 21:39:53.06 ID:7wmCwCQ60
これは……ほしぐもちゃんから見た、ヨウさんでしょうか?

ヨウ『ごめんな……ソルガレオ。僕はもう、君と一緒にいるわけにはいかないんだ』

ソルガレオ『ラリオーナ!』

カプッ

ヨウ『あ痛たっ!』

ソルガレオ『ガウウ……』ググッ

ヨウ『ソルガレオ……』

ヨウ『僕も君とは別れたくないさ。君は、僕とリーリエの思い出の象徴だ』

ヨウ『だからこそ、僕たちが紡いだ島巡りの思い出を、僕の夢で汚したくない』

ソルガレオ『ラリオ……』

ヨウ『リーリエが戻ってきたら、キミは僕ではなくリーリエの夢を叶えてやりな』

ソルガレオ『ラリオーナ……』

ヨウ『そんな顔するなよ。永遠の別れじゃないんだ。きっとまた会えるさ』ナデナデ

ヨウ『その時まで、サヨナラだ』スッ

シュンッ!

そしてほしぐもちゃんは、マスターボールから放たれた赤い光に包まれたところで、わたしは目を覚ましました。

リーリエ「……」

朝日を浴びて、ぼんやりさせた頭をなんとか覚醒させながらもわたしは夢の中でほしぐもちゃんが見せてくれたヴィジョンを何度も反芻しました。

わたしにはヨウさんの言葉の意味がわからなかった。

疑問の果てにわたしが得た結論は、たった一つ――。

ヨウさんに会いたい。

ヨウさんに会って、どうしてほしぐもちゃんを置いていっちゃったのか、どうしてヨウさんの夢がわたしたちの思い出を汚すことになるのか、聞かなきゃ。

そして、ヨウさんと交わした約束と――わたしの夢を叶えるのです!

ポニ島から始まったわたしとヨウさんだけの旅路は、まだ一歩踏み出したばかりなのだから。
26 : ◆g/SXBgh1y6 [saga]:2017/10/05(木) 22:29:03.50 ID:7wmCwCQ60
目覚めたわたしは、最初にエーテルパラダイスへと戻ることにしました。

理由は二つ……ひとつはビッケさんやにいさまに帰ってきたわたしの顔を見せたかったこと、そしてもうひとつは、ひょっとしたらにいさまならヨウさんのことを何か知ってるかもしれないという――女の勘です。

早速わたしは博士たちに別れを告げて、メレメレ島の連絡船に乗ってエーテルパラダイスに向かいました。

ビッケ「お嬢様、お帰りなさいませ」

船着場に到着すると、早速ビッケさんと、先に戻っていたかあさまが出迎えてくれました。

ルザミーネ「ふふっ、久しぶりに知り合いと会えて楽しかったかしら?」

リーリエ「はい! ハウさんたちといっぱいお話できて……とっても楽しい時間を過ごせました」

リーリエ「……ところで、にいさまは?」

グラジオ「ここだ」

久しぶりに聴くにいさまの声が、中央エレベーターから聞こえてきました。
にいさまはエレベーターから降りると、アローラを出た時と変わらないおかしなポーズとしかめっ面のまま、わたしに近づいてきました。

グラジオ「……よく、戻ってきたな」

リーリエ「……はい!」

顔こそ無愛想そのものでしたけれども、その声色はとても喜びに満ちているものでした。
わたしもにいさまに会えて嬉しいことをアピールするように、にこやかに笑顔で返しました。
27 : ◆g/SXBgh1y6 [saga]:2017/10/05(木) 22:29:35.25 ID:7wmCwCQ60
目覚めたわたしは、最初にエーテルパラダイスへと戻ることにしました。

理由は二つ……ひとつはビッケさんやにいさまに帰ってきたわたしの顔を見せたかったこと、そしてもうひとつは、ひょっとしたらにいさまならヨウさんのことを何か知ってるかもしれないという――女の勘です。

早速わたしは博士たちに別れを告げて、メレメレ島の連絡船に乗ってエーテルパラダイスに向かいました。

ビッケ「お嬢様、お帰りなさいませ」

船着場に到着すると、早速ビッケさんと、先に戻っていたかあさまが出迎えてくれました。

ルザミーネ「ふふっ、久しぶりに知り合いと会えて楽しかったかしら?」

リーリエ「はい! ハウさんたちといっぱいお話できて……とっても楽しい時間を過ごせました」

リーリエ「……ところで、にいさまは?」

グラジオ「ここだ」

久しぶりに聴くにいさまの声が、中央エレベーターから聞こえてきました。
にいさまはエレベーターから降りると、アローラを出た時と変わらないおかしなポーズとしかめっ面のまま、わたしに近づいてきました。

グラジオ「……よく、戻ってきたな」

リーリエ「……はい!」

顔こそ無愛想そのものでしたけれども、その声色はとても喜びに満ちているものでした。
わたしもにいさまに会えて嬉しいことをアピールするように、にこやかに笑顔で返しました。
28 : ◆g/SXBgh1y6 [saga]:2017/10/05(木) 22:30:51.03 ID:7wmCwCQ60
グラジオ「リーリエ……朗報だ」

わたしとにいさまは、アローラにいた頃の昔話や、カントーに行ってる間、財団で起きたことなどに花を咲かせながら保護区を歩き回っていると、にいさまが切り出してきました。

グラジオ「オマエと母上がカントーに行ってる間……行方不明になっていた父上の居場所が、分かった」

リーリエ「それは本当なのですか?!」

わたしは思わず身を乗り出しました。

とうさま――モーン博士は、わたしが幼い頃に、ウルトラホールの実験中にほしぐもちゃんを残して行方不明になったのです。そしてかあさまが代わりに、ウルトラビーストの研究を始めるようになったのです。

……思えば、この時から全ての歯車が狂ったのかもしれません。

グラジオ「まだ本人と断定したわけじゃないが、黒に近いグレー……という奴だな。間違いなく、その人はモーン博士だ」

リーリエ「とうさまは……どこにいらっしゃるのですか?」

グラジオ「このアローラから遥か北東にある無人島……そらをとぶかライドギアのリザードンを使わない限りたどり着けない群島だ」

リーリエ「無人島……ですか?」

グラジオ「あぁ、無人島と言っても、相当人の手が入っていたがな。最初に見たときは驚いたが……父上はそこの管理人をしているようだ」

リーリエ「管理人? 管理ってなにをしてらっしゃるのですか……?」

フッ、とにいさまは苦い笑顔を浮かべました。

グラジオ「ヨウのポケモン、らしい。なんでも、島巡りの最中、ヨウがリザードンに乗って空を探索している時に偶然見つけたようでな……そこで父上と知り合ったらしい」

グラジオ「そこで父上に頼まれて、無人島をポケモンの楽園にするために、ポケマメやらきのみやら栽培をしたり、温泉を作ったりと……協力してリゾートのように改造したんだとよ」

リーリエ「……ヨウさん」
29 : ◆g/SXBgh1y6 [saga]:2017/10/05(木) 22:32:09.80 ID:7wmCwCQ60
こんな奇妙な偶然、あるのでしょうか。

まさかヨウさんととうさまが仲良くしていたなんて……。もしも、この事実がわたし達の耳に入っていたら――きっと、あの悲劇は起きなかったのかもしれなかったのに。

グラジオ「だが、すぐに解決というわけにもいかないみたいだ。父上はどうやら、記憶を失っているらしい」

リーリエ「記憶を?」

グラジオ「一度、直接会いに行ったんだよ。父上に」

リーリエ「……それで?」

グラジオ「オレのことはおろか、かあさまも、エーテル財団のことも何一つ覚えていなかったんだ。覚えているのは二つ……自分の名前と、ポケモンが好き、ということだけだ」

グラジオ「あくまで父上はオレをヨウの友人、という風に扱ってるみたいだ」

リーリエ「それでも……記憶を失ってたとしても、とうさまが生きてくれただけでも充分です! 記憶がなくなっても、ゆっくり思い出していけばきっと……」

グラジオ「ああ、それに……前のようにいきなりいなくなる、というのも、無さそうだしな」

リーリエ「でも、どうしてにいさまが、父上と会うことができたのですか?」

すると、にいさまの顔が暗くなっていきました。

グラジオ「……ヨウがアローラからいなくなったことは、聞いたか?」

リーリエ「……はい」

グラジオ「ヨウが、旅立つ前にその無人島の場所を教えてくれたんだ。『僕が捕まえたポケモンを頼む。その島にはポケモン好きで色々詳しいおじさんがいるから、きっと仲良くなれる』だとよ」

グラジオ「だから今は、オレ『たち』があいつのポケモンを管理してるのと同時に、父上の記憶を回復させつつ、ポケリゾートのノウハウをここで活かせないか、意見交換をしている」

リーリエ「……でも、ヨウさんには、感謝してもしきれません。かあさまを助けてくださっただけでなく、とうさまも見つけてくださったなんて……」

グラジオ「あぁ、そうだな」

リーリエ「改めてわたし……ヨウさんに会いたいです。会って、みんなが心配してること、それからとうさまを見つけてくれたお礼も言って、それから……」

グラジオ「ずいぶんあいつに、熱心なんだな」

わたしの言葉を、にいさまが呆れたようにも、笑ったように言って遮りました。
30 : ◆g/SXBgh1y6 [saga]:2017/10/05(木) 22:34:15.99 ID:7wmCwCQ60
グラジオ「どうしてヨウに会いたいんだ?」

リーリエ「……わたしは、ヨウさんと約束したんです」

そう言って、わたしはヨウさんの帽子を取り出して抱えました。

リーリエ「わたしがトレーナーになって、アローラに帰ってきたら、お互いに借りた大事なものを返した後、一緒に旅をして、ポケモンマスターを目指そうって」

リーリエ「わたしは……かあさまを治療するだけでなく、ポケモンマスターになろうとするヨウさんにふさわしい人になるためカントーを旅してきました」

リーリエ「正直なことを言えば、どこまで強くなれたかわかりません。ですが、昔のように何もできない自分と決別した今なら、ヨウさんと一緒にポケモンマスターを目指せると思っています」

リーリエ「ポケモンマスターになる上で、あの人はきっと過ちを犯すこともあります。今回がきっとそうです」

リーリエ「あの人は時々……自分の夢を叶えることに熱心になるあまり、周りが見えなくなってしまうこともあって……時には自分自身すら、傷つけてしまう時もあります」

リーリエ「もし夢への道を踏み誤っていたとしたら、かあさまにしてあげたように、わたしがヨウさんを元の道に戻してあげるのです!」

リーリエ「だからわたしは、ヨウさんとの約束を果たすため、そしてヨウさんを助けるために、あの人に会うのです」

グラジオ「……」
31 : ◆g/SXBgh1y6 [saga]:2017/10/05(木) 22:34:48.35 ID:7wmCwCQ60
グラジオ「オマエらは本当によく似ているな。口を開けば夢に約束、か」

グラジオ「あいつが戻ってくるまで、待つ気はないのか?」

リーリエ「ありません。できるなら、今すぐにでも逢いたいです」

グラジオ「……」フゥ

グラジオ「あいつは今も、オマエの言う通りポケモンマスターへの道を突き進んでいるだろうな。なりふり構わず、誰にも頼らず」

グラジオ「だからと言って、リーリエの気持ちを無視していい理由にはならん。オマエがそこまで言うなら、とことん2人で話し合うべきだ」

リーリエ「!」

グラジオ「オレはあいつの居場所を知ってはいないが、探す手伝いぐらいはできる。オマエがその気だと言うならな」

リーリエ「にいさま……ありがとうございます!」

グラジオ「フッ、礼ならアイツを連れ戻してから言うんだな。それに、オレもシルヴァディも、まだあいつに勝っていないからな」

リーリエ「でも、どこから探せばいいのでしょうか……手がかりがないので、困りました」

グラジオ「まずはあいつの家から探してみたらどうだ?」

リーリエ「ですが、ククイ博士によると、ヨウさんのおかあさまですらどこへ行ったか知らないらしくて……」

グラジオ「あいつが無計画のまま、遠くへ行くとは思えん。親が知らなくても、何かしら行き先のヒントになるものが家に残されているハズだ」

リーリエ「分かりました。わたし、さっそく行ってみます!」

グラジオ「オレも、別のやり方であいつの行方を追ってみるつもりだ。家で何か見つけたら、すぐに教えてくれ」

リーリエ「はい!」
32 : ◆g/SXBgh1y6 [saga]:2017/10/05(木) 22:35:36.52 ID:7wmCwCQ60
今日はここまで。

USUM発売までに終わるといいなぁ……
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/06(金) 13:32:33.65 ID:5Tr3QS4Vo
期待
34 : ◆g/SXBgh1y6 [saga]:2017/10/06(金) 16:21:34.38 ID:NVCz4dhw0
ヨウさんがどこへ行ったのか、その手がかりを探すため、わたしはメレメレ島へとんぼ返りすることになりました。

ヨウさんの家は、ハウオリシティのはずれにあるので、船着場から歩いてそう時間はかかりませんでした。

……そういえば、ヨウさんのおかあさまとは、あの人が島巡りを始める頃とゼンリョク祭り、そして島巡りを終えてお祝いのお祭りをした時にお会いしたことがありましたね。

とても明るくて、気さくな方でしたが……わたしのコト、覚えていらっしゃるのでしょうか?

ヨウさんはおかあさまに、わたしのこと、話したことがあるのかな……?

そう考えると、なんだか恥ずかしくなって、家の目の前に立っているというのに、とっても緊張しました。

ここでモジモジしてても仕方ありません! みんなからもらった勇気で、チャイムを押すのです! えいっ!

ピンポーン

「はーい!」

ガチャッ

ママ「どちら様……あら、まあ! リーリエちゃん!」

リーリエ「あ、あの……お久しぶりです」ペコリ

ニャース「ぬにゃあ」

玄関から出てきたのは、あの頃と変わっていない――ヨウさんのおかあさまでした。ヘアバンド替わりにサングラスで茶色の髪を後ろに伸ばしていて、口元に明るい笑みをたたえています。

そばには他の地方でよく見る姿のニャースさんが、ひょこひょことやってきて、わたしに挨拶するように声を上げました。
35 : ◆g/SXBgh1y6 [saga]:2017/10/06(金) 16:22:24.91 ID:NVCz4dhw0
ママ「久しぶりね〜! ヨウからカントーに行ったって聞いたけど、いつごろ帰ってきたの?」

リーリエ「は、はい、えっと……昨日です」ドキドキ

ママ「あらそう。さぁせっかく来たんだから上がって、上がって!」

リーリエ「お邪魔します……」

おかあさまに連れられる形で、わたしは初めて、ヨウさんの家に上がりました。
……ヨウさんが見せる明るさは、きっとこの人に似たのでしょう。

家に上がって椅子に座らせていただくと、おかあさまは冷えたモーモーミルクを出してきました。

わたしの好きな飲み物……ひょっとしてヨウさんがおかあさまに教えたのかな、なんて思っていると、

ママ「あなたがカフェでよくモーモーミルクを飲んでいるってヨウから聞いたのだけれども……お口に合うかしら?」

リーリエ「あっ、はい! ありがとうございます!」

ママ「うふふ、あの子……島巡りが終わったら、よくあなたの話をしていたの。今でもよく覚えているわ〜」

リーリエ「どんな話をなさっていたんですか?」

ママ「そうねぇ……方向音痴で色んな街に着いてはすぐ道に迷ったり、人に頼りっぱなしで振り回す場面が多い子だったって」

リーリエ「……」ガックリ

ヨウさん……そんな風にわたしを見ていたのですね。でも、よく道に迷っていたのは本当ですし、ヨウさんやハプウさんばかり頼っていたのも事実です。ヨウさんがいなければ、かあさまを助けられたかどうかも、分からなかったです。

こうして見ると、本当にわたしは情けない人間です。だからこそ、カントーに行って、トレーナーとして自分を鍛えてきたのですが……。

ママ「でもね、ヨウは口癖のように言ってたわ。それでも、あの子なりに目標を作って頑張ろうとしている、そばで応援してあげたいって」

リーリエ「!」

ママ「ヨウがあんなこと言うの、初めてだったからびっくりしちゃったわ。いつもポケモンのことばかり考えていたから、彼女もきっとポケモンじゃないかってヒヤヒヤしてところよ」

ママ「きっとあなたが、ヨウを変えてくれたのね」

リーリエ「そんな……わたしは何も」
36 : ◆g/SXBgh1y6 [saga]:2017/10/06(金) 16:23:19.05 ID:NVCz4dhw0
ヨウさんがわたしを変えてくれたのに。

あの人がいなければ、わたしは、何もできず、かあさまの思惑通り、アローラがウルトラビーストさんに蹂躙されていくのを、自分の無力さに後悔しながら黙って見守っていたのかもしれません。

リーリエ「あの、おかあさま」

ママ「なあに?」

リーリエ「わたし……ヨウさんを探しているのです」

わたしはエーテルパラダイスでにいさまに話したように、ヨウさんのおかあさまに、自分は何のためにカントーへ行ったのか、夢に向かうヨウさんへの想いを明かしました。

リーリエ「もしもヨウさんが自分の夢の所為で苦しんでいるのなら、わたしは助けたい」

リーリエ「わたしは……ヨウさんと一緒に夢を追いたいのです。わたしは、あの人の支えになりたい……」

リーリエ「だからわたしは、ヨウさんを見つけたいのです」

わたしは、ヨウさんから渡された、大切な帽子をテーブルの上に置きました。

ママ「それって、ヨウが被っていた……」

リーリエ「はい……。ヨウさんから借りた……大事な帽子です。いつか立派なトレーナーになってアローラへ帰ってきたとき、わたしが渡したピッピ人形さんと引き換えにこの帽子を返す……それがあの人と交わした約束なのです」

ママ「まぁ、あの人形はあなたのだったのね」

ヨウさんのおかあさまは優しく微笑んでいました。

ママ「……ヨウは幸せ者ね。こんな健気な子が、そばにいてくれるなんて。ママ、ちょっと感動しちゃったわ」

リーリエ「あ、ありがとうございます」
37 : ◆g/SXBgh1y6 [saga]:2017/10/06(金) 16:24:23.86 ID:NVCz4dhw0
ママ「でも、ごめんね。わたしもヨウがどこへ行ったか、分からないの。連絡もひとつもよこさないし……」

ママ「子供はいつか旅に出るものだけど、やっぱり子供が無事かどうか、心配しちゃうわよね」

リーリエ「そう、ですね。ヨウさんは一人でなんでも背負おうとする方ですから……」

リーリエ「あの……もしよろしければ、ヨウさんのお部屋、見させて頂けませんか?」

ママ「え?」キョトン

わたしのふいうちに、おかあさまは一瞬びっくりしたようでした。

リーリエ「えっと、ひょっとしたら、なにか手がかりがあると思って……」

ですが、私の言葉を聞いてすぐに笑顔に戻ると、

ママ「ふふっ、探偵さんみたいなことを言うのね。いいわよ、あの部屋がヨウの部屋よ」

と、おかあさまはひとつのドアを指さしました。
茶色のドアには『ヨウ』と書かれた札がピンで止められていて、あのドアの向こうにヨウさんのお部屋があることがひと目で分かります。

初めて入る、ヨウさんのお部屋。他人に見せたことのないプライベートな部分。

リーリエ「失礼……します」
38 : ◆g/SXBgh1y6 [saga]:2017/10/06(金) 16:25:16.65 ID:NVCz4dhw0
恐る恐る、わたしは室内に入りました。そこで見たものは――。

広々とした部屋。

青いカーペット。

地球儀とノートパソコンが乗っている机。

テレビのそばに置いてある名前の知らないゲーム機器。

大きいベッド。

ピカチュウさんのぬいぐるみ。

ニャースさんに傷付けられたであろう、メタモンさんのぬいぐるみとポケじゃらし。

わたしが借した、ピッピ人形はありませんでした。

わたしはにいさま以外の男の子の部屋を覗いたことはないけれども、きっと、普通の男の子の部屋って、こういうものなのかもしれない。
そう思わせるほど、ヨウさんの部屋は、目立ったものが無かったのです。

これがヨウさんの部屋……。

ううん、これが全てじゃない。
あの人には、誰にも話していない秘密がある。

ヨウさんが、わたしにしか教えていない秘密が。
39 : ◆g/SXBgh1y6 [saga]:2017/10/07(土) 00:33:51.54 ID:aN9NWr+b0
わたしはまず、最初に目に付いた机に近付くと、その引き出しを開けました。

一段目の引き出しの中にあったのは、ヨウさん手作りのポケモン図鑑のノートでした。

とても年季が入っていて、ぺらぺらとページをめくっていると、カントー地方のポケモンさんのスケッチと一緒に、身長や体重、生態や覚える技に至るまで、1ページ1ページ、びっしりと書き込んでいてびっくりしました。

きっとこれは、トレーナーになる前、ヨウさんがポケモンさんの観察をして、勉強をしていたのでしょう。

その下には『カントーのベッド感触記録』という厳重に鍵がかかった革の手帳を見つけました。

そういえば、ヨウさんは昔、ベッドにとってもこだわりがあると話していました。

きっとこれは、さっきのポケモン観察記録と同じ、様々なベッドの寝心地を確かめた記録帳、といったところでしょう。


これはこれで気になるのですが……今回のコトとは関係ないと思います。

二段目の引き出しを開けてみると、今度は『トレーナーアナライズノート』と書かれたノートを見つけました。

ページをめくってみると、ホウエン地方のチャンピオンを勤めていらしているダイゴさんやわたしが初めてジム戦をしたカントー地方のジムリーダーのカスミさんなど、有名トレーナーについて使用ポケモンの傾向から、戦術、そしてその対策まで事細かく分析していました。

その中で、わたしは2人のトレーナーに注目しました。
40 : ◆g/SXBgh1y6 [saga]:2017/10/07(土) 00:34:57.83 ID:aN9NWr+b0
レッドさんと、グリーンさん。

2人とも、世界に名を馳せる伝説的なトレーナー。ヨウさんもこの2人に注目しているのか、他のトレーナーさん以上に徹底的な分析を行っていました。
特にレッドさん……この人に関しては、顔写真を赤丸で囲みながら、使用ポケモンから経歴に至るまで、びっしりと書き込んでいました

『レッド マサラタウン出身』

『10歳の誕生日にオーキド博士からピカチュウを貰い、マサラタウンから旅に出る』

『大企業シルフカンパニーを占拠していたロケット団を一掃』

『チャンピオングリーンのサンダースにピカチュウをぶつけ、最後は持久力が決め手となり、勝利』

『シロガネ山で長期間の修業中、ジョウト地方出身のトレーナーに敗北。その後、世界各地の大会に参戦する』

『イッシュ地方のホドモエシティで行われたPWTにグリーン以下カントーのジムリーダーと供に参加。各地のトレーナーを退け、レッドが優勝を収め、生ける伝説と讃えられる』

改めて、レッドさんの偉大さが伝わってくると同時に、彼を乗り越えることが、ポケモンマスターへの大きな一歩となるという彼の意志が、ひしひしと伝わってきました。

そこで、あることを思い出しました。
ポニ島には強いトレーナーさんが集まる、バトルツリーという施設があって、そこのバトルレジェンドとして、レッドさんとグリーンさんが呼ばれている……とにいさまから聞きました。

この事をヨウさんが見逃す訳ありません。
41 : ◆g/SXBgh1y6 [saga]:2017/10/07(土) 00:36:32.34 ID:aN9NWr+b0
チャンピオンの座を守る一方でレッドさんとグリーンさんに挑むため、バトルツリーへ戦いに挑んでいるのは間違いありません。

きっと、ヨウさんはレッドさんとグリーンさんと戦って、彼らから強くなるためのコツか何かを聞いて、それを実践するため、アローラを去ったのかもしれません。

リーリエ「バトルツリー、そこに行けばきっと……」

バトルツリーに行けば、ヨウさんに会える手がかりがある。わたしはそう確信しました。これは大きな収穫です。

ノートを引き出しの中へ仕舞って、元の状態に戻すと、不意にクローゼットと思われる折戸が視界に映りました。

リーリエ「……」

あの中にあるもの……そこには、もしかしてヨウさんが言ってた――。
わたしは折戸に手を掛けるとそれを右にスライドさせました。
42 : ◆g/SXBgh1y6 [saga]:2017/10/07(土) 00:37:44.23 ID:aN9NWr+b0
リーリエ「……!」

折戸の向こう側にあったのは、おおよそこの歳の子……ましてやヨウさんのような人はとっくに卒業しているであろう玩具の山でした。

ミニチュアの電車や車。

バスケットボール。

メタグロスさんのフィギュア。

ゲームのソフト。

アートパネル。

ポケモンさんが描かれた、キラキラ光るカードの入ったホルダー。

他にもたくさん……。

そのどれもが、キレイに飾られていました。

間違いありません。
ここがヨウさんにとって、絶対に触れられたくない秘密の場所。

そして、あの人がポケモンマスターになるためのもうひとつの大きな理由。
43 : ◆g/SXBgh1y6 [saga]:2017/10/07(土) 00:38:37.75 ID:aN9NWr+b0
一見すれば、ヨウさんが小さい時、親に買ってもらったおもちゃを大事に取ってある空間かもしれません。
だけど、ここにあるおもちゃ全てが、元々ヨウさんのものではないのです。

全て、ヨウさんがカントーの友達から『勝ち取った』モノ――あの人が背負っているモノの象徴なのです。

それを知ったのは、ヨウさんがチャンピオンになって数週間が過ぎたある日のこと――。
44 : ◆g/SXBgh1y6 [saga]:2017/10/07(土) 00:41:38.41 ID:aN9NWr+b0
わたしは、ウツロイドさんの毒からかあさまを助けるため、治療法がないか、アローラ中を奔走していました。

その日のわたしは、傷や状態異常を自ら治せる、しぜんかいふくの特性やじこさいせいの技を覚えられるポケモンさんから、毒の治療に応用できないかククイ博士にお話を聞いて、そこから得た情報をエーテルパラダイスに持って行こうと研究所を後にした時でした。

帰り道、わたしはリリィタウンに向かっていくヨウさんの姿を見つけました。

ヨウさんはチャンピオンの防衛、わたしはかあさまの治療法を探すので忙しく、殿堂入り後はお互い会うことも無かったのでした。

なので、久しぶりに姿を見てお話がしたくてわたしはヨウさんの後を追いかけました。

ですが、わたしに気付いていないのか……ヨウさんはグングン進んで、メレメレの花園へと足を踏み入れました。

お日様を浴びて、黄金色に輝く花畑の中で、ヨウさんはしばらく進んでいったかと思うと、身をかがめてどこかへと姿を消してしまいました。

わたしは一瞬ためらいました。

メレメレの花園は、凶暴ではありませんが、ポケモンさんが飛び出してくるからです。

島巡りを始めた時も、ほしぐもちゃんがバッグから飛び出して、遠くに行ってしまった時も、わたしは怖くて花園に足を踏み入れられず……結局、わたしを探しに来てくれたヨウさんが、代わりに行ってきてくれました。
45 : ◆g/SXBgh1y6 [saga]:2017/10/07(土) 00:42:32.70 ID:aN9NWr+b0
でも、あの時のようにわたしは弱くありません。ゼンリョクの姿になって、強くなった――。

そう自分を鼓舞して、わたしはスプレーも使わず花畑を突き進んで行きました。ポケモンさんが襲って来るようなコトにならなかったのは幸いでした。

そして、ヨウさんがいなくなったところを調べてみると、まるで花や草に隠れるように、小さな抜け穴らしきものを見つけました。

リーリエ(こ、この中にヨウさんが入っていったの?)

こんな小さな穴、通れる自信が無かったのですが……なんとか通り抜けることに成功しました。

そこは、薄暗い洞窟でした。
ズバッドさんやディグダさんを避けて奥へ進んでいくと、目の前に澄んだ水を湛えた、湖が広がっていて、差し込んでいる陽の光が印象に残っています。

アローラは自然に富んでいる地方で、たくさんの美しい自然の風景もばっちり目に収めて来たつもりなのですが、光と影、そして水が織り成す神秘的な場所を目の当たりにして、「アローラにこんな美しい場所があったなんて」と感動を覚えました。

そしてヨウさんは、その湖を、水着姿でのんびり泳いで――というより、ぷかぷかと水に浮かんでリラックスしていました。

ヨウさんはすぐにわたしの気配を察したのか、わたしのいる方向へ振り向きました。

リーリエ『よ、ヨウさん。お久しぶりです』

ヨウ『リーリエ? どうしてここに?』

リーリエ『その、ヨウさんを見つけて、話しかけようとつい追いかけたらここに来て』

ヨウ『あーなるほどなぁ。いつかはバレると思ったけどね……』

ここは僕が見つけた秘密の場所なんだ、とヨウさんは洞窟を紹介するように片手を広げました。
46 : ◆g/SXBgh1y6 [saga]:2017/10/07(土) 00:44:17.23 ID:aN9NWr+b0
ヨウ『静かでポケモンも少ないし、ゆっくり休めるんだ。どうだ、リーリエも水浴びで涼んでいかないか。気持ちいいぞぉ』

リーリエ『いえ……水着も持ってきていないので――』

バシャッ!

リーリエ『ひゃあ!』

ヨウ『ははは! 水も滴るいい女ってな!』

リーリエ『……』ポタポタ

リーリエ『ヨウさん! お気に入りの服なのに!』プンスカ!

ヨウ『服って汚れてなんぼのもんだろ?』

リーリエ『ひどいです! ひどすぎますっ!』

わたしは怒りのままリュックを投げ捨てると、ヨウさんに逆襲するために、着の身着のまま湖に入り込んで、ヨウさんに突撃しました。

リーリエ『服を台無しにして! 許さないですっ!』バシャッ!

ヨウ『おおっ、ドサイドンに負けない勢いだ!』バシャッ!

そうやって互いに水を掛け合っていると怒りで昂ぶっていた気分が、冷水と疲れでどんどん落ち着いてきて、最後はふざけあうような形になって、収まりました。

ヨウ『……』

リーリエ『……』

ヨウ『……ふっ』

リーリエ『ふふふっ!』

ずぶ濡れになっているわたしたちの姿はなんだか間抜けに見えて、おかしくって揃って大きな笑い声をあげちゃいました。こんなこと、初めてです。

リーリエ『もうっ、ホントにひどいです。ヨウさん』

ヨウ『悪かったよ……僕の服でよければ貸してあげるから、乾くまで着てなよ』

リーリエ『……着替えてるとこ、覗かないでくださいね』

ヨウ『見ないよ』
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