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177 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/02/03(土) 20:06:42.36 ID:atIyUbQCo
===
一コマおしまい。…あー、星梨花からなでなでご褒美もらいたい
178 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/02/03(土) 21:43:51.37 ID:bUy111Fdo
乙
俺もなー!星梨花に優しく撫でて欲しいなー!
179 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/02/04(日) 23:13:05.64 ID:SH0SrFxno
星梨花になでなでされたらそれだけで3日は寝ずに仕事出来そう
180 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/02/06(火) 14:13:40.98 ID:0ypyzIt3o
・特になんでもないネタ
まつり「プロデューサーさん。姫、レッスンのし過ぎで足が痛いのです」
P「ほーう」
まつり「だから、ね? プロデューサーさん」
・可憐に足をくねらせるまつり。「ふっふっふ」と妖しく微笑み返すP。
P「馬鹿め! 俺がなんでも言うことを聞くと思ったら大間違い!!」
P「召使いじゃあないんだ。ええ歳してかわい子ぶりっ子しおってからに――」
P「――あ、もみもみもみ……」
まつり「それでもまつりの言うことを聞いてくれるプロデューサーさんは優しいのです」
P「当然だろう!? キュートなまつりのこの足だぞ」
P「疲れたままになんてしておけるか! 丁寧に揉まねば罰もあたるっ!」
まつり「だからまつりは、そんな優しいプロデューサーさんが」
まつり「大好き、なのです♪」
P「はーはっは! もっと褒めて!」
朋花「……ホント、色ボケダメデューサーですね〜」ズズッ
P(うっ、それでも天罰が!?)
181 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/02/06(火) 14:31:38.38 ID:w8+wcLshO
あのセリフ姫は構ってほしいだけなんじゃないかと思ってしまう
182 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/02/06(火) 23:02:09.77 ID:3nOQU3640
姫はエスコートされたいんだよ。「姫」としての扱いを要求していらっしゃる。
183 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/02/12(月) 16:34:19.06 ID:6j8GrbgEo
「なっ、なあ! プロデューサー」と、昴は少し緊張しているような面持ちで俺に声をかけてきた。
一旦仕事の手を休め、何事だろうと彼女を見る。
「どうした昴? また野球をやってて怒られたか?」
「大丈夫、今日はまだな。……じゃなくて、プロデューサーに確認したいことがあってさ」
「確認? ……先に言っとくがキャッチボールもダメだからな」
ちなみにキャッチボールだけではなく、
劇場内ではバレーもバスケもドッジボールも禁止。
原則、許可の無い球技全般がご法度だ。
「それはとっくに分かってるって! ……あ、あのさ? プロデューサーは、その、俺と……」
そう言って、急にもじもじとしおらしい態度をとる昴。
……なんだ? 今日はまだとか言ってたし、
まさかもう既に花瓶やらなにやらに被害を出した後だとでも――。
それで、いつものように一緒に謝ってくれとかそういう相談か?
「俺のこと、えぇっと――嫌いじゃない、よな?」
窺う昴は上目遣い。
思いがけない質問だが、昴のことをどう思ってるかと問われれば。
「ああ、別に嫌いじゃないぞ」
仕事も遊びも一生懸命前向きに。
そんな彼女を嫌ってる人間の方がこの世に少ないと思うんだが。
184 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/02/12(月) 16:36:14.68 ID:6j8GrbgEo
「ホントか?」
「ああ」
「プロデューサーは俺のこと、嫌いじゃない?」
「だからそうだって言ってるだろ」
「なら、それってつまり好きってことか?」
「……えっ?」
「嫌いじゃないなら、好きってことだろ? 好きじゃないなら、嫌いってことだし」
「まあ……そういうことならそうなるかな」
なんだそのゼロか百かの極端な例は。
……けれどもだ。俺が答えた途端に
嬉しそうな笑顔を浮かべた昴の気持ちに水を差すのは気が引ける。
……ならば俺が取るべき道は。
ここは一つ、彼女の望む回答をだ。
「俺は昴のことが大好きさ。その証拠にいつだって大事にしてるだろ?
キャッチボールにも付き合うし、怒られる時は一緒だし」
「だ、だよな? そうだよなっ!!」
すると昴ははしゃぎながら、羽織っているジャケットの両ポッケから小さな何かを取り出した。
「へへっ。……だったら、そんなプロデューサーにプレゼントだ!」
それは昴の手の平にも収まるサイズの球体で。
周囲を包んでる銀紙に描かれたプリントによって野球のボールにも見える。
……と、言うかボールだ。いわゆるベースボールチョコレートの一種。
それが四つ五つと昴の両手に握られている。
「これ、チョコレートの中に野球関係のミニチュアストラップも入っててさ。
ついつい買いすぎちゃったんだけど、流石に全部は食べれないし」
「ああなるほど。その処理を俺に手伝ってほしいと」
事情を理解した俺が素直にそう言って頷くと、
昴はチョコレートを手渡しながら照れ臭そうにこう続けた。
「それに、こういうのは好きな人に渡したいからさ――」
「なにっ!? す、昴! それってつまり……!」
「あっ……ち、違う違う! 俺が好きな人じゃなくて、俺のことを好きな人に渡したいってことだよ!」
二人同時に驚いて、慌てた様に昴が言う。
「だって……。嫌いなヤツから貰っても、嬉しくなんてないだろうし」
「それでさっきの質問か。……なにを心配してたかしらないが、俺は昴ことを嫌ったりなんてしてないさ」
「……うん」
だから俺は、彼女に満面の笑顔を見せてやった。
言葉は心からの本音であり、信じてくれるといいんだが。
185 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/02/12(月) 16:37:31.72 ID:6j8GrbgEo
――そうしてその反応を確かめようとする俺に、
昴は銀紙の包みを剥がしながらぽつぽつと。
「プロデューサーにはいつだって、一杯迷惑かけてるから。内心じゃ俺のこと嫌いかもしれないって。
……ほら、俺ってよく怒られるし、その度にプロデューサーも一緒に謝ってくれるだろ?」
手の平の上、剥き終わったチョコレートを指でころころと転がしながら恐る恐ると俺を見た。
「だからホントは嫌われてるんじゃないかって。……怖かったんだ、凄く」
「昴……」
「でもさ、さっきのプロデューサーの笑顔を見て、嘘じゃないって分かったから」
言って、彼女は普段通りの明るい笑顔を取り戻すと。
「なあなあ、一緒に食べようぜ、チョコ。早く食べないと溶けちゃうよ」
「……ああ、そうだな!」
ちなみに、二人で食べたチョコレートの中からは
最初にされた説明の通りオマケの入ったカプセルが。
俺が中身を確認した途端、昴は「ああっ!」と声を上げた。
「いいなー……。プロデューサー、それシークレットだ」
出て来たのは有名球団のマスコット。話を聞けばポーズが普通と違うらしい。
……じぃっとこちらを見つめる彼女の眼差しが言っている。
「昴、これいるか?」
「くれるの!?」
「もちろんさ。俺と昴の仲なんだし」
渡してあげると昴は子供のように喜んだ。
いや、実際まだまだ子供なんだけどね。
「えっへへ。なんか催促しちゃったみたいだけど――」
それでも、彼女の嬉しそうな姿が見れるなら満足だ。
昴は早速貰ったストラップを自分のスマホに取りつけると、
元気溢れる笑顔で改めて、俺に向けてこう言ってくれたんだ。
「ありがとな、プロデューサー! ……やっぱ俺も、プロデューサーのこと大好きだぜ♪」
186 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/02/12(月) 16:39:25.86 ID:6j8GrbgEo
===
一コマおしまい。昴はお気に入りなんだけど、紗代子同様可愛く書くのが難しい。
187 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/02/12(月) 16:43:37.85 ID:6j8GrbgEo
おっとミス。上の話、昴の一人称は俺じゃなくてオレです。失礼しました。
188 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/02/13(火) 03:39:56.65 ID:dQX7nbiWo
・雑スレのネタ拾い
紬「プロデューサー、これをどうぞ」
紬「? どうして意外そうな顔をなさっているのです?」
紬「私は日頃のプロデュースに感謝できないほど不義理な人間ではありません」
紬「ですから、それは正真正銘確かな義理チョコレートでありまして……えっ!?」
紬「……本命じゃなかったのが残念だ?」
紬「まっ、まったくあなたと言う人は!
私がこのような物を義理で渡すような恩知らずな人間だとでもいいたいのですか!?」
紬「あ、う、それなら本命じゃないかと言われても……!」
紬「べっ、別に私は愛だの恋だのそう言うわけでは」
紬「あ、あえて言うならば、その心は……す、す」
紬「…………好き?」
189 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/02/13(火) 16:01:15.53 ID:etY+3EDwO
乙女すばるん超かわいいぞ
紬はなんか先輩も同じ事言いそうな気がするな
190 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/02/20(火) 13:17:33.78 ID:pl59Y+6Mo
そら「麗花さん、今回の撮影は」
麗花「ふぁい」パリ、ポリ、パリ、パリ
P「普段通り、家に居る時みたいにリラックスした気持ちで臨んでくれ」
麗花「分かってます。任せてください!」
P「……とは確かに俺も言ったけどさぁ」
麗花「ところでプロデューサーさんもお菓子とジュース、どうですか?」トクトクトクトクトクトクトク…バシャー
麗花「あっ、ジュースこぼれちゃった」フキフキ
そら「あの、撮影セットを汚すのはほどほどにしておいてくださいね?」
191 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/02/20(火) 13:19:07.74 ID:pl59Y+6Mo
===
一コマおしまい。限定じゃなくてホント良かった…! 良かった…!
しかもパジャマ姿とか最高だよ!
192 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/02/20(火) 18:28:41.93 ID:VqA0/HsVo
―それからしばらく―
そら「うん! 良いんじゃないでしょうか」
そら「最高の一枚ができましたのでぜひご確認を」
P「おお、これは……!」
https://imgur.com/fJ1L5NF
P「色気の中に可愛さのある、素敵な一枚だと思います!」
P「麗花、今日の仕事は文句なしにバッチリだ!」
麗花「ふふふっ。わーいわーい、褒めて貰っちゃった♪」
麗花「じゃあじゃあ今すぐ、ご褒美の撫で撫で〜とギューのハグもして下さい!」
P「え゛っ」
そら「…………!」スッとカメラを構えるその道のプロ
P「いや、でも、まだスタッフさんたちもここにいるし」
麗花「……それじゃあ二人きりだったらいいんですか?」
P「え、えぇっと、そういう意味でも無いんだけど……」
麗花「なら、ほら! 早く早やく♪」
P「そ、そうだ!」
P「そらさんや皆さんも麗花を止めるのを手伝って――」
そら「私たちは一向にかまいませんよ?」
スタッフ「そうですとも!」
麗花「だ、そうですプロデューサーさん」
P「アナタ達のね、目が冷やかしてやろうって言ってますから!」
193 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/02/20(火) 18:33:08.75 ID:VqA0/HsVo
===
わーい! あまりに嬉しくて続き書いちゃった
https://i.imgur.com/ntkKun4.jpg
https://i.imgur.com/Bp8utqU.jpg
194 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/02/21(水) 04:22:24.28 ID:1SjjCCIn0
つむつむに目が行くwwww
195 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/02/21(水) 11:27:04.29 ID:iyORZsCzO
つむつむ4のインパクトが強い
とはいえぷっぷかさんおめでとうな
196 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/02/27(火) 15:53:35.54 ID:yCnrSL9vo
===R1.「ある日の光景。衣装合わせ」
アイドルたちの衣装合わせ。
これが中々どうして手間がかかり、時間の必要な作業でもある。
なにせただ歌えればそれで良いというワケじゃない。
飛んだり跳ねたり回転したり、ダンスも魅力なのがアイドル。
激しい動きに装飾が飛んで行ったりとか、振り付けに支障が無いかの確認作業はいつだって骨がおれるものだ。
「その点、今回の衣装は楽ですよね。なんてったって制服だから」
ここは765プロ劇場ドレスルーム。出来立ての衣装を胸に抱いて、はしゃぐエレナたちを眺めて俺は言った。
次回公演の目玉となるユニット、エレナと美也の『CleaSky』。
テーマは青春。それに合わせて衣装もシンプルなセーラーだ。
今回も衣装を用意してくれた青羽さんは俺の言葉にうなずくと。
「でもこれで結構難しいんです。特に今回は派手な小道具やアクセサリーもつけられませんでしたし、
シルエットはスッキリ、それでいて華やかさと爽やかさを演出するというのはですね」
「……す、すみません。なんだか軽はずみなこと言っちゃって」
「あっ……いえ、大丈夫です! 気を悪くしたりなんてしてませんから」
謝ってから「しまった」と思う。
よく見れば彼女の目の下にはクマがあって、
青羽さんが睡眠不足であることをハッキリくっきりと語っていた。
つまりそれだけの時間を費やして、試行錯誤の末に生まれた衣装があのセーラー。
決してお手軽簡単になんて作られてはない作品で、
それは俺なんかよりも衣装を着た少女たちの方がずっと分かっているようだった。
197 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/02/27(火) 15:56:52.51 ID:yCnrSL9vo
「凄いよミサキ、ジャストフィット!」
「それにとっても軽いですね〜。普段学校で着ている物よりも、随分と動きやすいですよ〜」
試着室から出て来たエレナと美也がそれぞれ衣装の感想を言う。
二人の心からの賛辞に青羽さんも満足そうな笑顔になる。
「本当に? だけど通気性とか色々と、実際に動いてみないと分からないこともあるからね」
「そうですね。これから二人には実際にステージに立ってもらって」
「プロデューサー、リハーサルするノ? 今から? すぐ?」
「なんと〜。それでは靴も履き替えなくてはなりませんね〜」
ワイワイと賑やかになるドレスルーム。
それにしても制服姿の二人って言うのは結構新鮮なものなんだな。
まだ学生なのは知っているけども、どちらかと言えば彼女たちと劇場で会う時は私服を着ている方が多い。
他は衣装だったりレッスン用のジャージだったり。
考えてみると、俺はこうした学生らしい姿を目にする機会が少なかったんだなと思わされた。
そんな俺の視線が気になったのか、こちらを向いた美也が言う。
「おや〜? なにやらプロデューサーさんはセーラー服に興味深々、といった顔をしていますな〜」
するとエレナの方は俺の傍まで寄って来て、顔を覗き込むようにこう続けた。
「それとも衣装の方じゃなくて、制服を着た女の子に興味シンシン?」
「う、む。返事に困る訊き方をするな……。それじゃあ俺が制服好きのヘンタイか、
はたまた女学生に興味のあるヘンタイみたいになるじゃないか」
198 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/02/27(火) 15:58:36.06 ID:yCnrSL9vo
そして、そうなってしまっては俺が困る。
ただでさえ普段から多くの誤解と共に生きてるのに。
これ以上厄介な業は背負いたくない!
思わず頭を抱えれば、エレナと美也がそれぞれ俺の隣に立ってからかうように密着する。
……どうもウチのアイドルたちは年上を困らせて楽しむ傾向にあるようだ。
「だからそういう事を止めないかって!」
「うふふ〜♪ そういう事とはどんなことでしょ〜?」
「照れない照れない、プロデューサー。ほらほらステージまで一緒にイコっ♪」
その時、青羽さんが何かに気づいた様子で手を叩いた。
「あっ! プロデューサーさんはスーツですし、そうして並んでると先生みたいにも見えますよ」
先生だって? なるほど、そういう風に見えると言えば見えるものなのかもしれないが。
でもそれじゃ、今度は生徒に手を出すヘンタイに……。
「先生……。それもまたよいですな〜」
「じゃあじゃあ今からプロデューサーは、ワタシたち二人のティーチャーだネ!」
けれどもだ。困った生徒たちは教師を悩ませることも好きなようで。
「ワタシたちのダンス、しっかり傍で見て欲しいヨ〜」
「はい〜。隅々まで、じっくり見てもらいたいですね〜」
そうしてドレスルームから俺を連れ出そうとする彼女たちは声を揃えて続けたのだ。
悪戯者の笑みを浮かべ、お願いするように「ねっ、先生?」と。
199 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/02/27(火) 16:01:35.52 ID:yCnrSL9vo
===
一コマおしまい。今回のセーラーはすねとふくらはぎのラインが非常に良く、「dear...」を踊らせると特にイケナイ気持ちになりますね。
200 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/02/28(水) 00:26:06.34 ID:MaJygciqo
地味めなスカートかと思いきやプリーツに少し模様入ってるところにこだわりを感じた
あの衣装良く出来てる
201 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/03/13(火) 21:40:33.61 ID:N0yNt449o
放課後聖母倶楽部「現代花咲か娘奇譚」
===
「枯れ木に花を咲かせましょう」これは日本の有名な民話『花咲か爺』からの一文だ。
その内容については今さら説明するまでも無いだろうが、
基本的にはまず人の良い老夫婦が紆余曲折を経て枯れ木に花をつけることができる不思議な灰を手に入れる。
その後、お爺さんがこの灰を使って桜を咲かせてみたところ、
偶然通りかかったお殿様に「見事だ」と褒美を貰ってめでたしめでたし。
色々悲しいことはあったけど、最後はハッピーエンドとして物語は幸せのうちに幕を閉じる。
「でもこの話、色々とオカシイことも多いんです」と七尾百合子は指を立てた。
「まず物語には決まって犬が出てきますが、この犬の出自が結構トンデモ設定で。
老夫婦が元々飼ってた以外にもどこかからふらりとやって来た、いじめられているところを助けてあげる、
それに川から流れて来た桃を割ったらその中に入っていたりとか――」
「待って下さい百合子さん。それだと桃太郎じゃありませんか〜?」
「はい、その通りなんです朋花さん! ビックリですよね。他にも犬じゃなくて猫が出て来るパターンだってあるんですよ」
「……猫、ですか?」
「ええ! それも三毛の雄猫が――そう言えば三毛猫の雄は珍しくて、船に乗せると福を呼び、
遭難しなくなるって話もあったから、その辺りから富や財産の象徴として登場したのかもしれませんね!」
そうして百合子は「ああ、でも」と歯切れも悪く眉をしかめると。
「……だけど結局、犬でも猫でもお隣に住む意地悪なお爺さんを怒らせて殺されちゃう運命で。
その後は動物を埋めた場所からにょきにょきと大きな木が育つことになるんですよ」
物語中に命のやり取りが出たところで、話を聞いていた天空橋朋花は
「いつ聞いても随分残酷なお話です〜」と小さくかぶりを振るのだった。
202 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/03/13(火) 21:41:46.15 ID:N0yNt449o
天空橋朋花と七尾百合子。二人は互いに同学年、同クラス、同倶楽部に所属する出来立ての友人同士であり、
予定の無い日の放課後は図書室において席を並べ、朋花に助けを求めてやって来る
"相談人"を待ちながらそれぞれ調べ物や読書をして過ごす活動パターンを基本としている十五歳。
そんな二人がこうして屋外の風に吹かれながら、それこそ民話談義に花を咲かせている
――という状況にあるのは何かしらの"相談事"を朋花が引き受けたからだと言っていい。
実際、彼女たちの前にはまだ花をつけてない大きな桜の木が一本、ぽつねんと立っているのである。
ここは朋花たちが通っている学校の裏手に位置する山――生徒から呼ばれる名前もそのものズバリ裏山だ――
その登り口に入る手前、昼間でも物寂しい雰囲気のある格好のホラースポットでもあった。
……俗に、『人を喰うお化け桜』として七つ以上ある七不思議の一つとして数えられたりするアレだ。
銀色に光るステンレス製のバケツを抱えた百合子が言う。
203 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/03/13(火) 21:42:42.71 ID:N0yNt449o
「でもそうして育った木を使ってお爺さんが臼を作らなきゃ、さらにはそれを燃やさなくちゃお話が進みませんからね」
「それは、そうなのでしょうけれど……」
「直接遺灰を撒くワケじゃ無い分気持ちは良いじゃないですか。……少なくとも、今の私はホッとしてます」
言って、百合子はバケツ一杯に詰められた桃色の灰へと目を落とした。
そう、これこそ我らが『放課後聖母(マリア)倶楽部』に今回持ち込まれたオカルト絡みの相談で。
歴史だけはやたらと長い学校の用務用具管理者に代々伝わる桜を咲かせる道具だった。
ズバリ、このお化け桜の花は人為的に咲かせられていたのである。
今年も例年通りなら、用務員のお爺さんがコッソリと樹齢百年をゆうに超える老桜に
出処不明の灰を撒き、それは見事な花を咲かせるところだったのだが……。
204 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/03/13(火) 21:43:45.27 ID:N0yNt449o
チラリ。百合子は桜の木の傍に佇む顔見知りの用務員に目をやった。
朋花もいつものように扇子を取り出しパタパタ顔を扇いでいる。
しばらくそのまま待っていると、急に生暖かい風が二人の足元を抜けていった。
朋花がピシャリと扇子を畳み、それを合図に百合子も桃色の灰を手に掴む。
「それじゃあ行きます。……枯れ木に花を――」
「咲かせましょう〜♪」
朋花も音頭に加わって、百合子がぶぁっと灰を風に乗せるよう舞いあげた。
視界がたちまち桃色に染まる。細かく上がったその桃色は、空中であっと言う間もなく
見慣れた花びらに変化すると寒々しい枝を広げた老木を包み込むように流れていく。
まるで枝しかない桜の木に吸い寄せられていくようであった。
ぐるぐると空中で円を描く様は海中を泳ぐ魚の群れをも思わせる。
逢魔が時、昼と夜とが混ざり合う黄昏が照らすステージ上。
灰は舞台を彩る紙吹雪の如く辺りを満たして枝につく。
「はぁ〜……凄い!」
思わずそんなため息が漏れる幻想的な光景だが、同時に美しすぎる物はこれほどまでにも
人を空恐ろしい気持ちにさせるのだ――とも改めて百合子は実感した。
205 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/03/13(火) 21:44:42.90 ID:N0yNt449o
……とはいえ、自らの手で花を咲かせる行為自体はなんと心躍り楽しいことか!
気づけば百合子はニコニコと夢中で灰を振り撒いていた。
風に舞う花びらを眺める朋花もまんざらではない様子であり、
そんな二人のことを老人も穏やかな微笑みをもって眺めている。
そのうちに桜も満開となり辺りもすっかり暗くなった。
月の光を浴びて立つ老桜は実に魔性の輝きを放っており、
百合子もまだまだ灰の残りを撒こうとして――
そんな彼女の手をピシャリ! くるりと振り返った朋花が扇子を使って止めさせた。
「百合子さん、余り心を奪われないように」
そう言う彼女の視線は先ほどから桜を見上げる用務員――先週、この木の下で息を引き取った老人の背中に向いている。
彼の死因は急な心臓発作とされていたが、まるで桜の幹に抱き着くように倒れていたと言うその死にざまは、
生徒たちの間に「やはり桜に喰われたのだ」という噂話を流行らせた。
そんな彼が今日の放課後、灰の入ったバケツを手に図書室の扉を叩いたのだ。
心残りである桜の花を咲かせてほしい……と朋花に"相談"するために。
206 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/03/13(火) 21:45:43.35 ID:N0yNt449o
今、老人は晴れやかな面持ちで桜の木の下に立っている。
まるでこの植物の美しさに心奪われてしまったように枝と花とを見上げている。
そんな彼の視線が自分の方へと向けられて、百合子は思わず身震いした――ああそうだ。
目の前の彼は生前となんら変わらぬ姿かたちをしているが、その心はやはり死人なのだ……老人が言う。
「また、咲かせてくださいねぇ」
返事は待ってくれなかった。
百合子の見事な灰の撒きっぷりに、この子ならば大丈夫だと安心して逝ったようにも思われるし、
単に心残りであった仕事を押し付けられただけにも感じられる。
だがどのみち真実を知る機会はたった今の瞬間に失われ、
百合子はどこからどう見ても中身がただの灰に戻ったバケツを手にポツンと取り残されていた。
朋花が、そんな百合子の隙の多さに呆れた様子で首を振る。
「百〜合〜子〜さ〜ん?」
「はいっ!? な、なんでしょう?」
「まんまと憑りつかれてしまったようですね〜。
本来、ああして死者と約束を交わすのは大変危険な行為なんですよ〜」
「そ、そうなんですか? アレでも、約束しちゃったことになるんですか!?」
「勿論です。死者を見れば押し売りと思え……来年もこうして花を咲かせないと、最悪憑り殺されてしまうかも――」
「うえぇぇぇっ!!? いっ、嫌です! そんなの絶対嫌ですうぅぅ〜〜〜!!」
イヤイヤと首を振る百合子。一人真相を知る朋花が、
「まぁ、それについてはおいおい考えて行きましょう〜」と面白そうにくすくす笑う。
そうして二人の間に吹いた風が件の老樹『人喰い桜』――その昔は一晩限りで花をつけ散らす、
美しくも不思議な一夜桜と呼ばれていた――の花びらを攫って空高く舞い上げるのだった。
207 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/03/13(火) 21:49:12.35 ID:N0yNt449o
===
一コマおしまい。自分は諸星大二郎さんの「栞と紙魚子」シリーズが好きでして、
今回のはそんなイメージでいつか書きたいなと思ってた話の一つです。
208 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/14(水) 13:09:50.76 ID:DKhLsDXuO
いい雰囲気だった
厄介な幽霊だけど百合子は絶対楽しんでいただろうし朋花もかなりノリノリだったろうな
乙
209 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/03/18(日) 05:55:03.51 ID:kkq5ItiRo
<略>
百合子、百合子、落ち着いて。プロデューサーさんが来たら自然な感じでいつも通り。
ああ、でも、少しは恥ずかしいから視線はちょっと下に伏せて。
「お、おはようございますプロデューサーさん!」
「ああ、百合子か。おはよう」
ふぅ! いつものように頼れる声……。でも待って! 今回は妄想にすぐ飛ばない。
そう、今の私がするべきはお願い事。
今日は私の誕生日なんだから、そのお祝いに軽ーい感じで、そう軽く「今日は私、誕生日なのでお祝いにハグ、とか……!」
なんてなんて言っちゃったりしちゃったりお願いしますって言ってみたり!
「ハグ? ああ、そんなものいつでもお安いご用さ」
「ええ!? ……へっ? ふひゃあ!!?」
でもなんで!? どーしてこんなことになるの!!
嬉しさの余りに跳ね上げた顔。視界に入るあの人の顔。
それから、プロデューサーさんの腰に抱き着いている麗花さんと、
彼に肩車されてる環ちゃんと、まるで恋人同士みたいに二人で腕を組んでる翼……。
お目当てのプロデューサーさんプラス三人分の視線を浴び、私は思わず固まった。
そして、ついさっきのお願いを打ち消すために口を開く。
「……なっ、なんでもありません。聞き流してくださ――」
だけどプロデューサーさんは空いてる両手をわきわきさせ、「試してみるか」って口調でこう言ったの。
「……一応、前なら空いてるけど。お姫様抱っこになるんだけど」
「うっ、ぐぅ……。それは魅力……!」
結局、抱っこしてもらった。
待ちわびていた一年に一度の特別な日は、こんな気恥ずかしいハプニングから始まったというワケだ。
……今思い出しても赤面物の、まさに若気の至りでした。
―七尾百合子の自伝より紹介―
210 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/03/18(日) 05:57:28.67 ID:kkq5ItiRo
一コマおしまい。でも正直、ハグ発言より画面右上にある顔アイコンの方が(笑いの)衝撃は上だった
211 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/20(火) 13:18:58.15 ID:pk/DfWYoO
百合子はそういう若気の至り多そう
212 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/03/28(水) 21:36:16.52 ID:k7TRFAPB0
エミリー「星梨花さん? 星梨花さ〜ん?」トテトテ
エミリー「……おかしいですね。一体どこへ行ってしまわれたのでしょう?」
エミリー「――あら?」
エミリー「仕掛け人さま。この箱一杯の夢の星は?」
P「……それかい? それはね、欲が残した星屑だよ」フフフッ
エミリー(目……目が、まるでパイから飛び出たお魚のように)
琴葉「プロデューサー! 次の公演は灼熱少女らしいですよ!」
P「……そうみたいね。だけどドリンクもジュエルもからっけつさ」ウフフ…
琴葉「ど、どうしちゃったのプロデューサー?」
エミリー「さ、さあ? 皆目見当がつきません……」
213 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/03/28(水) 21:40:52.57 ID:k7TRFAPB0
===
一コマおしまい。リーダーは上位に来ない(ハズ)よね……?
エミリーはお迎えできたので、桜餅を食べる話とか書きたいです。
214 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/28(水) 22:51:00.42 ID:2+yL74Ovo
前回美希上位だった事思い出したいか?
月末限定が姫だったらまぁ琴葉上位でしょ
月末限定が琴葉だったらまぁ頑張れ
215 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/29(木) 03:16:13.15 ID:OuWkRHTf0
スターゲイザーパイのことかww
おつ
216 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/03/30(金) 23:36:12.96 ID:Utw2bSui0
読み返した後、「エミリー、パイって言っちゃってる」と気づいた間抜けにございます
それはさておき桜餅の話が書けましたのでよろしければ。
【ミリマス】金髪撫子と桜餅
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1522418652/
217 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/04/01(日) 00:58:54.73 ID:jK2Q58Cl0
歌織「プロデューサーさんのうそつき」
琴葉「うそつき……」
麗花「うそつきー♪」
P「う、嘘じゃない。嘘じゃないってば!」
P「本当に麗花と茜が二人いたの! 青羽さんたちもみんなで宇宙に行っちゃって……!」
P「どうして信じてくれないんだーっ!?」
218 :
◆Xz5sQ/W/66
[saga]:2018/04/01(日) 01:02:20.84 ID:jK2Q58Cl0
一コマおしまい。実にミリオンらしい飛びっぷりにスペースウォーズへの布石、小鳥さんのモデルやあの曲の実装とか…!やり過ぎだぞ!!いい意味でね!
しかも「うそつき」に歌い分けあるとか感謝しかない。やーふーっ!!
219 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/01(日) 14:46:54.31 ID:pYI5fBU+O
桜餅のやつはあなただったのか
さすがのエミリーも少し驚いてるならパイって言いそうな気もする
220 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/04/01(日) 23:45:12.22 ID:jK2Q58Cl0
【嘘つき未来ちゃん】
未来「四月一日はエイプリルフール!」
未来「今日は嘘をついても怒られない日なんだよね〜」
未来「……よし! 折角だから私もとびっきりの嘘をついちゃおーっと!」
===
未来「ふんふんふーん、おむかえーにーきたぜー♪」
ガチャ
未来「おはよう美也ちゃんまつりちゃん!」
美也「おはようございます未来ちゃん」
まつり「はいほー! グッドモーニングなのです」
未来「ねえねえ聞いて聞いて、私今日ね」
未来「ここまで来る途中で百万円入った袋を拾ったの!」
221 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/04/02(月) 00:12:29.28 ID:z9nKZ76J0
未来「ねえねえ聞いて聞いて、私今日ね」
未来「ここまで来る途中に百万円入った袋を拾っちゃった!」
まつり「ほ? 百万円……」
美也「お〜! それはそれは、キチンと交番に行きましたか〜?」
美也「道で落とし物を拾った時には〜、お巡りさんに届けないと〜」
未来「うーん、最初はそのつもりだったけど……」
未来「こんな偶然滅多にないと思ったから、誰かに見せたくてそのまま持って来ちゃった!」
未来「ほら見て、これがその袋」ドサッ
美也「なんと〜、確かにこの小さなビニール袋の中身」
まつり「お金の束でいっぱいなのです」
未来「でしょ?」
222 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/04/02(月) 00:14:44.58 ID:z9nKZ76J0
未来「お金の束が一つ、二つ、三つ、四つ――」トントントントン…
未来「六つ、八つ、七つ〜」トントントントン…
まつり「……………ほ?」
美也「おや〜。未来ちゃんの手に掛かれば、百万円もまるで積み木のようですね〜」
未来「積み木? ……言われてみるとそんな感じかも!」
未来「こうしてこうして――じゃじゃーん、ピラミッド完成!」
美也「お〜!」パチパチパチ
まつり「お見事、流石は未来ちゃん」パチパチパチ
未来「でへへ〜」テレテレ
まつり「――ところで」
まつり「机の上に積み上げたお金、姫には未来ちゃんが言った以上の額があるように見えるのですが」
まつり「これはまつりの目の錯覚、なのです?」
美也「む〜……。確か、こうしたお札の束は一つでちょうど百万円」
まつり「それがひー、ふー、みー、よー」
まつり「数え間違いで無いなら十個分……。百万円が十個あれば――」
まつり「全部で一千万円になるのです!」
美也「っ!? なんと、一千万……!」
みらい「っ? いっせんまん……!!」
まつり「そう、一千ま――……!!?!? いっしぇんまんっ!!?」
223 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/04/02(月) 00:15:43.23 ID:z9nKZ76J0
まつり「……はぁっ!? いっせ、いっしぇしぇ、いっせんまん……!?」ガタガタガタ
美也「はて〜?」
未来「あれ、まつりちゃん――」
まつり「み、みみみ、未来ちゃん!」
未来「へっ? わっ! な、なに!?」
まつり「こんなのドコで拾ったの!? 落とし物にしちゃ額が多すぎ――ゴホンっ!!」
まつり「……ドコで拾って来たのです? ただの落とし物にしては額が巨大すぎるのです!」
まつり「きっと落とし主さんも途方に暮れているのですよ! 今すぐ警察に届けないと――」
ピンポーン
美也「おや〜? どなたか来ましたよ〜」
未来「私出て来る!」
まつり「ま、待つのです! その前に机の上のこのお金を――」
224 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/04/02(月) 00:16:28.60 ID:z9nKZ76J0
未来「はーい! どちら様ですか?」ガチャ
・「どうも突然すみません。私ミリオン署の者なのですが」
未来「ミリオン署……。あっ、警察?」
美也「警察……」
まつり「警察っ!?」
・「少々お話を伺っても構いませんか? 実は、この辺りで強盗事件がありましてね」
・「そこの公園なんですけど。犯人が被害者から一千万円の入った袋を奪ったっていう」
・「――心当たり、ないですかねぇ? 誰かの悲鳴を聞いたとか、怪しい人物を見かけたとか」
未来「悲鳴……。人影……」
未来「うーん……ありません!」キッパリ
・「……本当に?」
未来「はい! ホントです。……私が嘘をついてるように見えますか?」じーっ
・「えっ? いや、うぅん……」
・(確かに、この子が本官を見る目は真っ直ぐな――いかにも何も考えてない)
・(馬鹿っぽい。いや、馬鹿そうな。馬鹿ではないけど隠し事は出来そうにないといった感じの真っ直ぐな目)
225 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/04/02(月) 00:17:26.81 ID:z9nKZ76J0
・「――いえ。嘘をついてるようには見えませんね」
未来「ですよね!」
・「……すみません、お手数をおかけいたしました」
・「また何か思い出したりした場合には署へと連絡してください……では、私はこれで」
未来「はーい。頑張ってください」
未来「――ふぅ」
未来「美也ちゃんまつりちゃん。お客さん警察の人だった!」
美也「おや、もうお帰りになってしまったのですか〜。折角お茶が入ったのに……」ショボン
まつり「いやいやいや」
未来「なんかね、事件の捜査をしてたみたい」
未来「『強盗事件の心当たりはありませんか?』なんてドラマみたいに訊かれちゃった!」
まつり「いやいやいやいや」
まつり「ある! あるある! 大有りなのですっ!」
まつり「心当たりと言うより現物が! 一千万が確かにココにあるのです!!」
226 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/04/02(月) 00:18:14.73 ID:z9nKZ76J0
未来「……? うん、一千万はここにあるよ?」
美也「袋に入ってありますな〜」
まつり「まつりが袋に戻したのです! ついでに落とし主にも返すのです!」
まつり「今から警察に持って行って、事情を話して渡すのです〜!!」
まつり「でないとここにいる三人とも、強盗事件の犯人にされてしまうのですよ……」
未来「えーっと……なんで?」
まつり「お金がここにあるからです!」
美也「ではお金をなくせば良いんですね〜……。むむむ〜」
美也「おお! 閃きましたぞ〜。三人でパーっとこのお金を、使ってしまうのはどうでしょうか〜」
まつり「そういう話でもないのです!」
まつり「と、いうかそれをすると本当に犯罪に……。絶対ゼッタイダメなのです!」
まつり「二人とも分かっているのです? ね? ねっ!?」
227 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/04/02(月) 00:41:03.53 ID:z9nKZ76J0
===
未来「――で、静香ちゃんはここまで聞いてどう思った?」
静香「……え?」
未来「私の話を聞いた感想! 面白かった〜、とかビックリした〜、とか!」
未来「なにかないの〜? ねえねえねえ〜!」
静香「ちょ、ちょっと待って未来。感想だとか何だとかより」
静香「――オチは?」
未来「へっ?」
静香「話のオチよ。結局その後どうなったの? お金はキチンと届けたの?」
未来「えっ? あ、それはね。ええっと……」
静香「未来、まさかとは思うけど――」
静香「『エイプリルフールだもん、全部嘘だよ。静香ちゃんってば本気にして〜』なんて」
静香「人をおちょくるようなコト言わないわよね?」
未来「……うっ」
228 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/04/02(月) 00:41:38.94 ID:z9nKZ76J0
静香「『考えて無い』なんてのもナシよ。私の休み時間を使わせてる分」
静香「しっかりと落としてもらわなくちゃ――認めないから!」
未来「あ、あー……えっと、それなんだけど」
静香「ええ」
未来「……嘘なの」
静香「………………はぁ?」
未来「だ、だから今の話は――嘘なの。まつりちゃんとか美也ちゃんとか、警察の人とか嘘だったの」
静香「み〜ら〜い〜……! アナタって子は本当に!」
未来「ああ!? でもでもでもでも静香ちゃん、待って!」
静香「下らない話で人の時間を無駄にさせ――ひっ!!?」
229 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/04/02(月) 00:42:09.42 ID:z9nKZ76J0
――だがその時、未来が半泣きになりながら机の上に取り出した物を見て静香は言葉を失った。
それは彼女が学校で使っている鞄。
チャックを開け、逆さにされたソレから転がり出した物は。
未来「だけどお金を拾ったのはホントなの。……ねえ静香ちゃん。私、このお金どうしたらいい?」
未来「交番に持ってって、け、警察に捕まっちゃったりなんてしない? 教えて静香ちゃあぁ〜ん!!」びぇぇ〜ん!!
静香「えっ? ええ!? 嘘……嘘ぉ!!?」
230 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/04/02(月) 00:54:34.50 ID:z9nKZ76J0
一コマおしまい、思いつきネタだったので凄い雑。冒頭と静香のエイプリルフール言及が無い方がスッキリする話になった気も……
ところで【】でタイトル書くのって便利ですね。みんなこぞって使うワケだ。
231 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/03(火) 11:44:58.53 ID:U4cr5MAPO
事実は小説より奇なりとはいうがさすが未来ちゃ
232 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/04/04(水) 00:33:35.08 ID:8dUjzhtS0
【ふと思った揉んで】
恵美「ねえ琴葉。ユニットで撮った集合写真なんだけどさ」
琴葉「うん。それがどうかした?」
恵美「なんでこう……。胸に手を当ててるのかなーって」
恵美「しかもアタシと違って真ん中に。こう、何かを隠すように」
琴葉「そ、それは……。その、やっぱり胸元の露出が気になって」
琴葉「つい、隠しちゃっただけ。……た、他意は無いの! ホントよ!?」
恵美「……他意?」
琴葉「…………っ!!」
恵美「それは例えば……谷間とかいうヤツのことだったり?」
琴葉「……!!?!?」
233 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/04/04(水) 00:34:08.75 ID:8dUjzhtS0
恵美「――フッ」
恵美「大丈夫だって。琴葉にも胸はついてるじゃん!」
琴葉「そ、そりゃ! 胸ならあるわよ、女だもん!!」
琴葉「気にしてなんてないんだから……! 私だけ歳の割に小っちゃいんじゃないかな、とかなんとか」
琴葉「こんな慎ましボディであんな衣装を着るのはファンをガッカリさせちゃうんじゃないかとか」
琴葉「思ったりなんて……して、ない……」
恵美「……ごめん。泣かせるつもりじゃなかったのに」
恵美「ねぇ、アタシで良いなら協力する!」
恵美「琴葉の胸が育つまで、いくらでも揉んだげるから!」
琴葉「恵美……!」
恵美「琴葉……!」
もみもみもみ……。
琴葉「――って、なんでお腹なの!?」
恵美「ご、ごめんごめん! こっちのが揉み心地ありそうだったからさ〜」
234 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/04/04(水) 00:40:40.00 ID:8dUjzhtS0
一コマおしまい。琴葉上位ですね。貯蓄無いのですね。イベントは無理なく楽しみます
235 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/04(水) 02:34:48.40 ID:8WGEFZLm0
1ヶ月後そこには腹筋の美しい琴葉が……!
なんつって
おつ
236 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/04/07(土) 04:06:32.34 ID:KtlsomHC0
君は劇場の廊下に響く胸を締め付けるような女性の泣き声が、
きっとここから聞こえてきていると確信してその赤い扉に手をかけた。
だがしかし、扉を開ける際にはもう少しばかり警戒するべきだったろう。
扉を開けて僅か三秒。気づけば体は床の上、痛む背中に目をつむれば、その腹の上に伸し掛かる確かな重量やーらかさ。
「な、なんだ!?」と目を白黒させる間もなかった。
「動かないで! 大人しく……。大人しく抵抗しないでください」
はて、それは激しく抵抗なさいと言うことなのか? 違った。
声の通りにもがいてみれば、たちまち「ひゃん!?」と少女の悲鳴が耳をうち。
「やだ! どこ触ってるんですか!?」
「プ、プロデューサーさん。動いちゃ、だ、ダメです!」
制止に入った別の人物に、君は両手を無理やり抑えられる――。
改めて自分の置かれた状況とやらを見てみると、君は二人の少女の手によって絶賛拘束中と相成った。
相成っていた。相成っていることを説明すると、その両足は七尾百合子の尻の下へと敷かれており、
両腕は篠宮可憐の両手によって床へと押さえつけられていた。
237 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/04/07(土) 04:08:01.71 ID:KtlsomHC0
二人とも普段の大人しい……そう、大人しい姿からは想像のできない過激な行動を取っているとも言えたのだが。
「プロデューサーさんも悪いんですよ?」
二人と共に部屋にいた、第三の少女が口を開く。
「美味しそうな匂いをプンプンさせながら私らの前に現れるもん。……それで襲われたって、なあ?」
「ええ、仕方ないです!」
「ふ、不幸な出会いと言いますか……」
「とにかくタイミングが悪すぎたんですね。牙がうずきよるんですわ」
そうして少女、横山奈緒は鋭く尖った二本の牙をその唇から覗かせると、
顔の青い君の傍へとしゃがみ込みニヤニヤ笑って言ったのだ。
「暴れたりしたらいけませんよ? ……私らの小腹満たしたってな♪」
吸血鬼少女たちの口が開く。君は痛みに思わず顔を歪める。
チュッ、チュッ、チュッと口付けの音が重なりあい、朦朧とする意識の中、
君は全身から血が抜けていくことに奇妙な快感と多幸感を覚えてその身を震わせるのだった。
生命点を三点引き、まだ意識があるなら39へ。
もしも生命点が尽きたならば、己の運の悪さを恨みながら14へ行け。
【ゲームブック、『パニックシアター・ホラ一発』より抜粋】
238 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/04/07(土) 04:08:31.79 ID:KtlsomHC0
一コマおしまい。生命点が残っていれば三人娘とのムフフルートだったとかなんだとか。
239 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/07(土) 10:19:36.17 ID:eQFVjzK5o
生命点残り1あったんで39以降の文章はよ
240 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/07(土) 10:27:25.15 ID:fsrhSUo1O
嘘つけ少なくともぴったり0だろ
241 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/04/17(火) 04:17:44.66 ID:QyzDaU9I0
【ネコデューサーさんと私】
その黒猫は少女のことを「志保君」と気取った態度で呼んでいた。
一時は「北沢君」と呼んでいたが、ある時「北じゃわ君」とドヤ顔のままで舌を噛んでしまい、彼女に大笑いされてからはもっぱら「志保君」呼びである。
その代わりと言っていいものか、志保は「プロデューサーさん」と彼を呼んでいた。
他に「ネコタチ」「おやぶん」「毛玉」に「にゃーご」、そうして「ツメツメトギトギシッポフリ」なんてあだ名もあるが、
志保はもっぱら彼の役職である「プロデューサー」に僅かばかりの敬意を込めた「さん」をつける呼び方で通している
とはいえ面目を潰したかいもあった。
それ以来何となく二人は打ち解けて、今では二日に一度、夕食を共にするほどの仲。
242 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/04/17(火) 04:19:10.69 ID:QyzDaU9I0
自慢のヒゲをひくひくさせ、月明りの下では銀灰色にもなる毛並みを商店街の中に吹く風にそよがせ
「志保くん志保くん、僕は鰹が食べたいな」なんて、今夜のおかずで悩む少女に貴重な意見をくれたりする。
志保が行きつけにしている魚屋「いけす」の前に立ち、その黒猫はちょろっと舌なめずりしてみせた。
普段は大きく真ん丸な、琥珀の瞳が細くなる。
ヒゲの動きも見る限りどうやら期待してるようだ。
だが志保は、無言で鰹の値段を確かめると。
「……ダメです。献立も候補だけなら決めてますし」
「なんとっ!?」
「それに今日は二階堂で特売をやっていて……。早く行かないと売り切れちゃう」
243 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/04/17(火) 04:21:00.80 ID:QyzDaU9I0
【ネコデューサーさんと私・2】
白米と味噌汁を載せたおぼんを持って志保が来る。
「どうぞ」
「ありがとう」
お礼を言って受け取ろうとした黒猫に、志保がストップをかけた。
それから彼女は手際よく味噌汁をご飯にぶっかけると。
「かつおぶしは多めがいいですか?」なんて戸惑う彼に尋ねたのである。
「猫まんま……」
「そうです。お好きだろうと思って」
「君はなにを食べるんだい?」
黒猫の質問に志保が黙ってお皿を指し示した。
野菜の炒め物と甘酢ダレに絡めた鶏肉が白いお皿に盛られている。
244 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/04/17(火) 04:24:49.43 ID:QyzDaU9I0
「なるほど、こいつは旨そうだ」
世辞ではなくてそう思った。しかし黒猫の言葉を受けた志保は。
「何言ってるんですか、こっちは私たちのおかずです」
「志保君」
「なにか?」
「君には気遣いと言うものがないのかな」
「ありますよ」
志保が「愚問ですね」といった顔で彼を見た。
黒猫が鶏肉の皿を自分の前に動かして言う。
「なら、少しはおかずをわけなさい」
「味が濃いのは苦手かと思って」
「味噌汁だって濃いじゃないか!」
「判断するにも、せめて一口飲んでからにしてくれませんか? ちゃんと薄味にしてあります」
245 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/04/17(火) 04:26:00.70 ID:QyzDaU9I0
【ネコデューサーさんと私・3】
「志保君、猫にネギ類は厳禁だよ」
「劇場で過ごすようになってから、気づいたことがいくつかあります」
黒猫が食卓へと弾いた玉ネギを指でつまみ、志保は淡々と話し続ける。
「一つ、アナタは見た目が猫であること。二つ、猫に近い習性も持っているということ」
「よく見てるね。感心感心」
「三つ、それほど猫に似ているのに、食べ物は人と同じ物を好んで食べること」
そうして、志保は黒猫が皿の上から避けた玉ネギをすっかり元に戻してしまうと。
「ネギ、食べられますよね? 単に嫌ってるだけで」
「流石、鋭い観察眼」
「弟のお手本になるよういやいやせずに食べてください」
「……我輩、たまねぎはいやー」
「あーん」
「むぐぐぐ……!」
「はい、口を閉じてしっかりと噛む。最悪丸呑みだっていいですから」
246 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/04/17(火) 04:28:37.82 ID:QyzDaU9I0
一コマおしまい。だいぶ以前に書き出しとやりとりだけ考えていた人外Pネタからの一編。
個人的には気に入っている一人と一匹の雰囲気ですが、長編向きじゃないのでここで紹介。
247 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/17(火) 22:08:41.26 ID:HsurbA5/0
志保も猫もかわいい。猫は人外Pに向いてるかわいい
248 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/18(水) 01:11:02.74 ID:BtMEVUya0
あ、これすごく好きだわ
おつ
249 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/18(水) 15:03:10.05 ID:q42lp/9IO
人外Pと志保は相性いいな
250 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/04/19(木) 19:35:17.67 ID:RL03X4Tj0
===
・ある日のことである。ご存知、765プロ事務所で怪しく笑う男が一人。
P「ふ、ふふふ! ふふふふふっ!!」
P「雨にも負けず、風にも負けず」
P「社長の無茶振りにも耐えて仕事を頑張った甲斐があった!」
P「遂に! 遂に俺も念願のボーナスを手に入れたぞ!!」
P「さーて何に使おっかな〜♪ 旨い物食って、欲しい物買って」
P「――おっと! でもでもその前に」
P「ほれ見ろ律子! 全部千円札だからこの厚み……!」パララララ
P「むははははははっ! 机にも立つ!」ドーン!
律子「はいはい良かった良かった凄いですね」
律子「でも目障りですからさっさと鞄にしまってください」
P「……ちぇっ、ノリが悪いな〜。――あっ、音無さんも見てみてこれ!」パララララ
小鳥「まあ凄い! 額はともかく、お札がこれだけあるとやっぱり見応えありますね」
P「でしょでしょ? いや〜、流石音無さんは話が分かる!」
P「どっかの誰かさんとは大違いな――」
律子「…………」ジトー
P「ひぇっ」
251 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/04/19(木) 19:37:07.96 ID:RL03X4Tj0
小鳥「ところでプロデューサーさん」
P「はい? ……なんです、その笑顔で差し出された右手」
小鳥「この前、たるき亭の支払い立て替えましたよね。私」
P「あっ……」
小鳥「なんだかちょうど良さそうだから、たった今返して貰えますか? 千円♪」ニコッ
P「そ、そりゃ、まあ、返しますけど。踏み倒す気だって無いですけど」
P「だけど八百円もいってなかった気が……」
小鳥「やだもう! そんなの利子ですよ。利子」
小鳥「親しき中にも礼儀ありって昔から言うじゃありませんか♪」
P(そーゆー使い方だったろうか)
252 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/04/19(木) 19:37:53.45 ID:RL03X4Tj0
P「まっ、構いませんけどね。俺と音無さんとの仲ですし」
P「いつもお世話になってるお礼にジュースでも奢ったと思いますよ」
小鳥「毎度!」
律子「プロデューサー」スッ
P「……なんだ律子。お前まで左手出してきて」
律子「さて問題。お世話になってるのは果たして小鳥さんだけなのかどうか?」
P「ちっ、ほらもってけ!」チャリン
律子「ええ〜、お札の方が良いな〜」
P「厚かましい奴!」
律子「あっははは、冗談ですよ。第一、私なんかがたからずとも――」
ズダダダダダッ! ガチャ、バターン!
亜美「兄ちゃんお金入ったって!? なんか美味しい食べ物ご馳走してー♪」
真美「真美たち贅沢言わないから! お菓子でもいいし、オモチャでもいいよ?」
亜美真美「ねえねえねえねえねえねえねえっ!」
律子「ご覧の通り、他にいくらでも敵は居るワケですし」
P「ぎゃーっ!!?」
253 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/04/19(木) 19:41:23.67 ID:RL03X4Tj0
===
一コマおしまい。副産物的に生まれたネタで、他に使い道もないからここで消化
254 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/20(金) 13:04:58.16 ID:M8p1T6KfO
万札は崩したが最後一瞬で消えるよね
255 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/04/21(土) 08:37:24.41 ID:SE5eH/sS0
【あるセレブとプロデューサーの話】
彼女はとても美しかった。立っているだけで華があった。
立ち振る舞いも優雅でしなやか、人を虜にしてしまう魅力を持ち、恋をさせるだけの力も持っていた。
そうして、気の毒にも一人の男が恋に落ちた。
男は恋文の代わりに名刺を取り出しこう言った。
「突然ですが失礼します。アイドルに興味はありませんか?」
「それは……わたくしに言われたのでしょうか?」
「はい、是非、ウチの事務所に。貴女ならトップアイドルも夢じゃない!」
彼女、二階堂千鶴は驚きながらも誘いを受けた。
男はアイドルを育てるプロデューサー。
二人でアイドル界のトップを目指す、二人三脚の日々はこうして始まったのである。
256 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/04/21(土) 08:38:46.05 ID:SE5eH/sS0
さて、この二階堂千鶴という女性は実に見事なセレブだった。
用意されるゴージャスな意匠の衣装を着こなし、
どんな現場においても常に堂々とした態度で胸を張って、
決して仕事の手は抜かず、スタッフへの気遣いだってできる。
「セレブですもの。当然ですわ」それが彼女の口癖。
高飛車な言葉遣いとは裏腹な、千鶴の丁寧な仕事ぶりは世間にも認められ人気となって花を開く。
一方、彼女を芸能界へと引き込んだプロデューサーは冴えなかった。
衣装を用意すれば金を掛け過ぎ、どんな現場においても常に腰は低く、
仕事のやる気は空回り、スタッフへ迷惑をかけることだってしばしばだ。
「真にすみませんでした!」それが彼の口癖。
男の割には背も低く、若干猫背であるためか千鶴と並べばたっぱで負け、
ますますみすぼらしさと情けなさが目立ってしまうような始末。
257 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/04/21(土) 08:40:28.50 ID:SE5eH/sS0
当然、関係者の中には陰口を叩く輩も現れる。
「彼女だって気の毒なもんさ。やり手のプロデューサーと組めばもっと人気も出るだろうに」
けれど、千鶴はこういった風評を涼しい顔で受け流すと。
「気にすることなどありませんわ。わたくしはプロデューサーの言葉を信じて今までやってきたんですもの。
……だから俯くのはもうおよしなさいな。セレブたるわたくしのプロデュースを任せているのですから、
貴方もそれに相応しいよう、シャキッと顔を上げていてくれなければ困りますのよ?」
「ん……。困らせちゃうのはよくありませんね」
「理解したならば背筋を伸ばす! さあプロデューサー、次のお仕事は何ですの?
ジャンジャン、ジャ〜ンジャン持って来てくださいまし!」
微笑みは自信に溢れていた。
男は彼女の笑顔に支えられる形で精一杯プロデュースを頑張った。
相変わらず失敗と成功が交互に訪れる日々だったが、
オーディションが上手くいった夜にはささやかな祝勝会を二人で開き、
逆に仕事でミスをした時には反省会をして語り合った。
そんな時、決まって二人の間には千鶴が差し入れとして持って来た揚げ物が置かれているのだった。
「"トンカツを食べて勝負に勝つ"。うちのお母……ではなく我が家のシェフはそれが口癖で」
「洒落た口癖じゃあないですか。実際このトンカツだって絶品だし、コロッケだって美味しいです!」
「ふふっ。その言葉、わたくしから確かに伝えておきますわ。シェフもきっと喜ぶと思いますし」
258 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/04/21(土) 08:41:40.92 ID:SE5eH/sS0
===
ところが、だ。ここに公に出来ない秘密がある。
コツコツと積み重ねて来た二人の関係を根底からひっくり返しかねない程の。
「千鶴さん、ただいま」
「お帰りなさい。今日はいつもより少し遅めですのね」
「思ったより収録が長引いちゃいまして……。クタクタですよ」
「まあ、それはお疲れでしょう? さあさ、こっちにいらっしゃいな」
部屋の中の電灯がともる。背広を脱いだ男は食卓を整え腰を下ろす。
「……この匂い、コロッケかな?」
「ふふっ。大好物、でしたわよね」
「はい、とっても! 本当に、千鶴さんがくれるコロッケはいつも美味しくって――」
そうして不意に箸を止めた。同時に一人芝居も幕を下ろす。
マンションの自室、孤独な食卓。白米が盛られた茶碗と皿のコロッケ。
時刻は零時をとうにまわり、テレビもついていない部屋の中は実に静か。
その、いかにも深夜然としている室内には、男の他にもう一つだけ人の形をした物が存在した。
人形。リアルな、大人の女性を模したソレは、彼が多くは無い貯金で購入に踏み切った自我を持たない偶像(アイドル)だった。
259 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/04/21(土) 08:43:13.47 ID:SE5eH/sS0
本物と遜色のない艶と手触りを持った高品質なウィッグ。
人の肌により近いと謳われる最新型のシリコンボディ。
胸は豊満、腰はくびれ、ヒップもすこぶる魅力的。
その身を包む衣装だって、人気のアイドルがアパレル誌の表紙を飾った時に着ていた衣装と同じ物。
全身合わせて三桁万円のコーディネート。
決して安くはない買い物。
だがお陰で、男は心の平穏を手に入れた――ハズだったのに。
しかし、なぜ変わらず気持ちは虚しいのか?
「千鶴さん……!」
ため息。深く一つついて、男は対面に座る人形を見やる。
生身の人間とは違って変化することの無い表情。均等の取れた美。
永遠に保たれたまま優しく向けられる微笑みが、かえって"彼女"の作り物感を浮き彫りにする。
260 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/04/21(土) 08:44:12.53 ID:SE5eH/sS0
そしてその顔は、何を隠そう件の二階堂千鶴に酷似していた。
当然だろう。わざわざ彼女にそっくりな人形を選んだのだ。
いや、正確にはそうなるよう男がオーダーしたのだから。
今や技術の進歩は凄まじく、たった一枚の写真さえあれば精巧なヘッドをこしらえることは不可能じゃない。
そうやって作られた愛しい女性を模したドール。
一般には到底理解されない捻くれてしまった恋煩い。
しかし、だからといって彼の行いを人倫にもとると非難してしまっては可哀想だ。
なぜならこれは純愛の、ある種最も清らかな形であるかもしれないのだから。
正座した男は両膝に自分の拳を置き、人形の顔を真っ直ぐ見つめて決意の言葉を口にする。
「千鶴さん、俺、頑張ります。今以上にもっともっと。もっと、貴女を輝かせるためならなんだってやります」
さらには猫背を曲げて身を乗り出し、薄く笑って続けるのだ。
261 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/04/21(土) 08:45:47.27 ID:SE5eH/sS0
「きっと、貴女の役に立てる男になりますから。相応しい男になりますから!
……だから、その、見捨てないでください。今は……まだ、頼りなくても……」
その時、男には人形の印象が変わったように感じられた。
僅かながら、いつも間近で見ている本物の面影に近づいたように感じられた。
瞬間、彼の心の虚しさも少しばかりだが和らいで――そうして考えるに至ったのだ。
もしかすると、自分が頑張れば頑張る程に目の前の人形は本物に近づくんじゃないだろうか?
だとするなら、それが胸に空いた穴を埋めるための唯一で絶対の手段なのではないだろうかと。
男が尋ねるように彼女を見た。
目の前の千鶴は無言のまま、彼を肯定するように優しく微笑み続けるのだった。
262 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/04/21(土) 08:48:38.81 ID:SE5eH/sS0
一コマ…というか一幕おしまい。『互いに秘密を抱える二人の関係の行く末は、さて?』的な
263 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/04/22(日) 08:41:39.36 ID:YcDGP+Tn0
【あるセレブとプロデューサーの話・2】
===
いつ頃から、とハッキリ意識していたワケじゃない。
けれども最近のプロデューサーは、以前よりデキる人になったと千鶴には感じられるのだった。
なにより謝罪の回数が目に見えて減った。
「すみません」と謝るよりも「任せてください」と胸を張る方が多くなった。
それに伴って千鶴の仕事も増えている。
進む道のりは順風満帆、何一つ不安がる理由は無いはずなのに、なのに、彼女の心は落ち着かない。
「プロデューサー。最近は忙しすぎるんじゃありませんこと?」
現場から現場への移動時間。
千鶴は男の運転する社用車の助手席で揺られながら、ポツリと呟くように尋ねてみた。
「お仕事が順調なのはわたくしも喜ばしいですけど、最近の貴方は顔色も少し優れませんし……」
「だから、俺が無理をしてるって言うんですか? 大丈夫です。むしろ調子はいいぐらいで」
「……本当に? そうは見えませんわ」
264 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/04/22(日) 08:42:33.91 ID:YcDGP+Tn0
赤信号で車が止まる。千鶴はそっと視線だけを男へ向けてその顔色を窺った。
血色が良いとは言えない肌、心なしかこけたようにも見える頬、眼のふちには睡眠不足からできるくま。
だが、その目だけはギラギラとした光を纏って前を見つめ、先に述べた不調の兆しを影の中へと隠してしまう。
「やっぱり、千鶴さんは優しいですね」
「えっ」
不意に彼から声をかけられ、千鶴は驚いたように顔を上げた。
同時に、盗み見でもするように彼の様子を観察していたことに対する恥ずかしさも感じて赤くなる。
「裏方仕事の俺なんかよりも、この忙しさには貴女の方がよっぽど参っちゃってておかしかないのに。それなのに、俺なんかの心配をしてくれて」
「そ、それは当然、心配だってするでしょう! 貴方はわたくしの大切な……プ、プロデューサー、なのですから」
「……ありがとうございます。俺、その言葉だけでまだまだ頑張れるって思えますよ」
そうして男は微笑むと、車を信号に合わせて発進させた。
現場へ到着するまでの間、二人がそれ以上の会話を交わすことは無かった。
265 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/04/22(日) 08:43:57.69 ID:YcDGP+Tn0
===
「それじゃあ千鶴さん、また明日」
「ええ、ごきげんよう。……また明日」
別れ際の挨拶、いつものやり取り。
まだデスクワークが残っているプロデューサーを乗せた車はクラクションを鳴らして走りだす。
その、遠ざかっていく姿を見えなくなるまで見送ると、千鶴は自宅へ帰るため歩き出した。
以前、プロデューサーに言われたことがある。
「家の近くで降ろさなくても、このまま直接送って行きましょうか?」と。
けれど千鶴は丁寧にその申し出を断った。
男が自分の身を心配して言ってくれた事は理解していたが、
彼女にはどうしても受け入れられないワケがあったからだ。
理由(ヒミツ)。もしバレれば、二人で築いてきた信頼と信用を手酷く裏切ることになる程の嘘。
街灯の光を浴びながら進む暗い夜道。コツコツと響くヒールの音。
千鶴の目指す先に住み慣れた我が家が見え始める。
それは一般的な造りのマンション。何の変哲も無い賃貸の住居。
けれども、だけれど、少なくとも……その建物は千鶴のようなセレブが住むには相応しくない。
だが確かに、彼女はココに住んでるのだ。"セレブ"二階堂千鶴が暮らしている家。
鍵穴に鍵をさし込んで扉を開け、彼女は「ただいま」と呟き中に入る。
266 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/04/22(日) 08:45:25.80 ID:YcDGP+Tn0
狭い玄関で靴を脱ぎ、暗がりの中手探りで電気のスイッチを入れた。
そうして明かりに照らし出された室内はみすぼらしいとまでは言えないが、
それでも庶民的な雰囲気からは到底脱することもできず。
押入れの中に畳まれた布団、ブンブン唸りをあげている冷蔵庫、
小さなテーブルは使い込まれ、置かれたテレビも古い型。
鮮やかさの欠片も転がらぬ地味な一室、独り暮らしの女性の部屋にしては随分と落ち着いた印象を見る者に与える部屋の中で、
窮屈そうにスペースを占拠している立派な衣装タンスだけが場違いのように目立っていた。
「……はぁ、疲れた」
ペタンと畳の上にお尻を下ろす。ぐでんと倒した上体を小さなテーブルへと預け、
その冷たさをほっぺで感じながら長い、長い、息を吐き出す。
誰にも知られてはいけないホントの自分。
"セレブ"という仮面を脱ぎ捨てた後に残る等身大の二階堂は、千鶴という人間は極一般的な生まれの女だった。
これが、彼女の抱える嘘だ。
世間ではセレブアイドルとしてブレイクしている千鶴の誰にも言えない秘密だった。
勿論、箱入りお嬢様が世間の厳しさを知るためにあえて……なんてバックストーリーなどありはしない。
その証拠に、千鶴の両親は娘が住んでいるマンションから少し行った先の商店街で元気に肉屋を営んでいる。
……だから実家が金持ちであるなどでもなんでも無い、ましてお嬢様であるなどとんでもない。
267 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/04/22(日) 08:46:30.07 ID:YcDGP+Tn0
そんな千鶴が一人暮らしを始めたのは彼女が大学に通い始めてから。
アイドルにスカウトされたのも大学における学園祭、そこで開かれたミスコンで優勝したのがきっかけだった。
今では学業と仕事の二足わらじ。家に帰れば服装もラフに、作り置きしていたおかずをチンすると、
テレビを観ながらもそもそ遅い夕食を食べるような暮らしを送っている。
「あまり面白い番組も無いですわね……」
とはいえ、ザッピングしながらこぼす言葉遣いからも分かる通り、
千鶴が自身の"セレブらしさ"を磨き始めたのは大分昔のお話で。
今となっては言葉遣い、立ち振る舞い、容姿に関して言えば本物と並んでも殆ど遜色の無いレベル。
後はそう、有名になりお金さえあれば……。
夢にまで描いていた姿、その理想を叶えられるかもしれないのだ。
その為の格好の手段としてのアイドル。
千鶴には転がり込んで来たチャンスを逃すつもりなどさらさら無い。
……ふとチャンネルを変える手が止まった。
テレビ画面には自分の姿が映っていた。衣装を着て、歌を歌い、輝きに満ちた自分の姿。
その視線はカメラに向けられているようだったが、当の本人である千鶴はハッキリ覚えている。
彼女はこの時スタジオの奥、カメラの後ろに居たプロデューサーへ向けて歌声を送っていたことを。
「……わたくしは幸せ者。優しい人と逢うことができて」
268 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/04/22(日) 08:48:04.19 ID:YcDGP+Tn0
一幕おしまい。ところで、書いてる途中で千鶴さんが実家住まいっぽいことに気づいてしまったのは内緒
269 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/23(月) 22:59:28.71 ID:AwuyDprL0
乙です。千鶴さんはまだ明かされてないコンプレックスありそうで好き
270 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/24(火) 21:52:41.68 ID:/0oo9mbKo
病んでるPを千鶴さんは癒せるのかねぇ
乙
271 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/04/30(月) 12:55:32.55 ID:DgOgOi+x0
そして、その度にこのみは毒づくのだ。
顔には笑顔を浮かべたまま、心の中では唾を吐く。
「ええ、ええ、そうでしょうとも。学生ねぇ……小学生とか、その辺でしょ?」
===【わーきんぐ・パイロットの1】
「小学生とかその辺だよ。このジョークセンスにはお手上げだね」
そう言って男は、目を通し終わった書類をデスクの上に放り投げた。
頭の後ろで両手を組み、渋い顔のまま天井を見る。
「日頃の感謝にありがとう、サンキュー、だから『39プロジェクト』……社運を賭けた計画の名前がこんな理由で決まっちゃあ、
担当する社員のモチベーションアップには到底繋がらないと思わないかい?」
すると、彼から少し離れた場所に立っていた眼鏡の女性は振り返り。
「分かりやすさはイメージ戦略の基本ですよ、基本。なにより覚えやすいですし、
変に気取った名前をつけるよりかは余程宣伝効果も期待できます」
スケジュールを書き込むために置いてあるホワイトボードの前に立つと、マーカーを手に取りキャップを外す。
男は、彼女の一連の動作を何とはなしに眺めながら。
「でもさ、響きが悪いでしょうよ? 第一産休だなんて縁起でもない」
「産休じゃなくてサンキューでしょ! ……全く、難癖付けてる暇があるなら仕事の手を進めりゃいいのに」
「そいつがさっきも言った通り、とんとやる気が起きんのよね……」
「……呆れた! 名前のせいにしなくたって、アナタのやる気の無さはいつものことじゃあないですか」
心底「どうしようもないな!」といった表情でそう返すと、
彼女は両手を自分の腰にやり、当てつけのように嘆息した。
男が誤魔化すように口笛を吹く。
どうやら女性の言葉通り、彼はサボりの常習犯らしい。
272 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/04/30(月) 12:57:36.43 ID:DgOgOi+x0
男は椅子に座ったままで伸びをすると、掛けてあった黒のジャケットに袖を通し、
組んでいた痩せ気味の足を解いてからやにわに立ち上がった。
「んじゃ、そろそろ出掛けてくらぁ。律子、留守番よろしくさん」
「一応伺いますけども、どこ行くんです? プロデューサー」
「もち、お仕事」
「……とかなんとか言っちゃって。いつも喫茶店のお世話になってるの、社長も薄々気づいてますよ」
女性には笑顔だけを返し、男はオフィスを後にする。
今、彼が立っている場所はありふれた雑居ビル内のワンフロア、そこを出てすぐに広がる廊下だった。
765プロダクション――というアイドル事務所の名前を耳にしたことはないだろうか?
もしなければ、それは男の営業努力が足りてない確たる証拠だろう。
彼の名は高木裕太郎。765プロ会長である高木順一郎の息子に当たり、自称、頭脳明晰でいなせな二枚目、将来有望なナイスガイ。
しかしその人柄を知る者たちからは、もっぱら役職である「プロデューサー」又は「プロデューサーさん」と呼ばれており、
他にも「ドジ」「間抜け」「お人好し」「嘘つき」、「お調子者の色キチガイ」など、など。おおよそ不名誉な肩書きには困らない生活を送っていた。
そんな高木が鼻歌なんて歌いながら、廊下の先にあるエレベーターの前までやって来る。
昇降ボタンを一押しして呑気に待つこと三十秒。
うんともすんとも言わない箱に「ちくしょう」と軽く舌打ちして。
273 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/04/30(月) 12:58:50.70 ID:DgOgOi+x0
「オンボロめ! 久々に直ったと思えばまーた故障してらぁ」
仕方がないので階段を使って一階へ。途中、買い物に出ていた事務の女性とバッタリ遭遇した高木は、
「丁度良かった」と彼女から、差し入れの缶コーヒーを手渡された。
「今からお出かけなんですか?」
「ええ、今度の仕事に思うトコがあってちょっくら現場の様子見に。お暇なら小鳥さんも一緒します?」
すると、小鳥と呼ばれた女性は「残念でした」と茶目っ気タップリに肩をすくめ。
「私にもお仕事はありますから。今日中には律子さんと一緒に告知の内容をまとめなくちゃ」
「……ははあ! どうりでお菓子を買い込んで来たワケだ」
高木は冗談めかしてそう言うと、小鳥が抱えている大きな買い出し袋に目をやり合点がいったと手を打った。
……それで機嫌を損ねたように小鳥がプイッと顔を逸らす。
「皆の為のおやつなのに! 嫌味めいたこと言うならプロデューサーさんの分はありませんよ」
「嘘うそ、冗談ですってば。誰も仕事にかこつけたお菓子タイムだなんて言ってません」
「むぅ……。たった今言ってる」
「こりゃ失敬!」
高木は悪びれた様子も見せずに謝ると彼女の横を通り抜けた。
階段を降りていく彼の背中を目で追いつつ、小鳥が上から呼びかける。
「車で行くなら安全運転。気を付けて行って来てくださいね」
「分かってますって。ついでに送迎も済ませて戻りますから……あっ、それとね小鳥さん」
そうして振り返った高木は、「なんです?」と訊き返した小鳥に憎めない笑顔でこう続けた。
「その位置からじゃ丸見えになってますよ」
「すけべっ!!」
274 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/04/30(月) 13:01:13.18 ID:DgOgOi+x0
===
事務員小鳥とひと悶着。ビルから出た高木は近所の駐車場までやって来た。
左手には筒入りのポテトチップスを持っていて、出来たばかりの頭のこぶを右手で「いちち」と押さえている。
「まっ、スカートも覗けてポテチも貰えりゃコブ一つぐらい儲け儲け」
そうして、停めてあった社用車の鍵を開けると運転席へと乗り込んだ。
助手席に放り投げられるポテトチップス。
ジャケットのポケットから缶コーヒーを取り出すとドリンクホルダーに移し替え、彼は車を軽やかにスタートさせた。
道路に出れば、三分の一ほど開けられた窓から新鮮な空気が入り込む。
そうやって涼やかになった車内に流れるのは、アイドルが進行を務めているラジオ。
パーソナリティの少女は今、空気に溶けるような透明感ある声で番組宛のメールを読み終わると。
「四つ葉ウサギさんが言う通り、夏休みもそろそろ終わりですね。ラジオをお聴きの皆さんも、夏の思い出はできましたか?
私は、そうだなぁ……。この前のイベント直前にした合宿が、一番大きな思い出かな」
しみじみと、かつ丁寧に。少女はこの夏の思い出を振り返る。
トークは八月の初めに行われたライブイベントを中心に、準備の為に行った合宿、
そこで起こった数々のハプニングや面白エピソードを披露して締めくくられた。
「それじゃあ、八月も残り少なくなっちゃいましたけど、夏の青空にピッタリな曲を流しますね。
CMで使われた曲だから、『聞いたことあるよ』って人も多いんじゃないかな? ――『How do you do?』です。どうぞ!」
275 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/04/30(月) 13:03:07.71 ID:DgOgOi+x0
スピーカーから紹介されたばかりの曲が流れだす。
高木はハンドルを握る指でリズムを取りながら、目に入ったスーパーの駐車場へと車を乗り入れ時計を見た。
オーディオのパネルに示された時刻は午後二時過ぎ。
寄り道するには十分過ぎるほどの余裕がある。
しばらくすると、両手に大きなビニール袋を持った高木がスーパーから姿を現した。
買い込んで来たのは多様な清涼飲料水と保冷目的のロックアイス。
それらを荷台に常備してあるクーラーボックスに仕舞ったら、
高木は再び車を発進させ、目的地に向かって飛ばす、飛ばす。
数分後、生憎の赤信号で足止めを喰らってしまった車内にて、
ラジオの少女がリスナーへのお別れの言葉を口にした。
「――お相手は萩原雪歩でした。来週もまた、この時間にラジオで会いましょうね」
===
受け取ったメッセージに「分かりました」と返信する。
少女はスマホをバッグに片付けると、変装用の帽子をキチンと被り直し、ラジオ局の玄関扉から外に出た。
そうして、その足で駐車場まで歩いて行き、目的の車を発見した彼女は後部座席へと乗り込んで。
「プロデューサー。お迎えありがとうございます」
「なんの、仕事だからね」
運転席で待っていた高木にお礼の言葉を一声かけ、少女は社用車の座席に腰を下ろす。
説明するまでも無いだろうが、彼女こそ、つい先ほどまで高木が聴いていたラジオに出ていた萩原雪歩その子だった。
高木も弄っていたスマホをポケットにしまい、駐車場から車を出す。
雪歩は車窓の景色を眺めながら、荷物を自分の膝に置き、ホッと安心した様子で息を吐くと。
276 :
◆Xz5sQ/W/66
[sage saga]:2018/04/30(月) 13:04:58.16 ID:DgOgOi+x0
「それでそのぉ……。今日のお仕事はどうでしたか? プロデューサー、聴いてくれました?」
「勿論、途中からでも良いなら聴いてましたよ。始めた頃と比べたなら、トークも大分こなれて来たんでないかい」
「ホントですか? ……本当に?」
「ホントだとも。俺はよく嘘つきって人に言われるけどね、誰かを褒める時には嘘をつけない性分なの」
そうして、高木は運転しながらこう続けた。
「だからご褒美だって買ってあるのさ。雪歩、後ろ覗いてごらん」
「後ろ?」
「来る途中にちょいと冷蔵庫なんてこしらえてね。
いつものクーラーボックスに飲み物なんかを入れてるから、どれでも好きなの取んなさいな」
雪歩が言われるままに荷台を覗けば、なるほど、そこでは"いつものクーラーボックス"が振動に揺られてゴトゴト重そうな音を立てていた。
これはシュークリームやケーキ、プリンといったアイドルたちのおやつを運ぶのに使われたり、
今回のように大量の飲み物を保存するため常日頃から積まれている物で。
「こんなに沢山、どうするんです?」
疑問に思って雪歩が訊けば、高木は笑っただけで答えなかった。
彼には質問の答えを勿体ぶるという少々困った癖がある。
とりあえず、このまま真っ直ぐ事務所へ戻るつもりは無いらしい。
雪歩は即席の簡易冷蔵庫からお茶のボトルを選び出すと、居住まいを正して外の景色に視線をやった。
そうしてそのまま考える。
この車が一体ドコへ向かってるか? ボックスの中の大量の飲み物は何のためか――。
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