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白望「古参、新顔、ニューフェイス」
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57 :
◆Xk..svTef9j1
[saga]:2017/09/25(月) 19:41:43.53 ID:AUPcYDZ90
だから豊音は、ここに一人で来ることにした。
ひとり遊びに慣れた身の気軽さで、さっさとここへやって来てしまった。
まだ数ヶ月の短い付き合いだから断言はできないけれど、これはおそらく豊音の悪い癖なのだと思う。
五人で一緒にいても、まだひとり遊びの癖が抜けていないのだ。
部活が終り、五人が揃っているときに「猫を見に行く」と、ひとこと言えばよかったのに。
そう言えばみんなだって付き合ってくれただろうに、豊音はそれをしない。
白猫に最初に会ったあの日、手洗い場で一人で笑っていたことにしてもそう。
『いやぁ。あの子がどっか行っちゃってから、入れ違いでシロが来たから……』
あのときは、その言葉の意味がまったくわからなった。
意味を考えようともしなかった。
しかし、豊音がこの子をシロと呼んだいまなら、なんとなく察しはつく。
この子がいなくなり、入れ違いでシロに会ったことで、豊音はおそらく「シロの正体はぐうたらで甘ったれな野良猫だった」とか「シロが猫に化けていた」だとか、そんな他愛ない空想に耽って笑っていたのだろう。
ここ数日、豊音は誰かが中座するたびに窓辺に立ち、植え込みを見ていた。
今日の休憩時間もそうだが、思えばあれは、シロがいなくなったタイミングで猫が来ているかどうかを確認していたのだ。
つまり豊音は、シロと白猫を同一視する空想を、ここ数日ずっと一人で楽しんでいたことになる。
58 :
◆Xk..svTef9j1
[saga]:2017/09/25(月) 19:43:17.47 ID:AUPcYDZ90
それを口に出してくれればシロをからかうネタにでもしてやったのに、豊音は一人で空想することを、一人で猫を弄って遊ぶことを選んでしまう。
もちろん、五人でいるからといって、常に全員で協調しなければいけない決まりなんてない。
たとえばシロの奴は教室でも部活でも、あのマイペースな姿勢を崩さない。
シロに関してはそれでいい。
地元が同じだし、いまさら縁が切れるとも思えない関係だから、好きにすればいいと思える。
けれど豊音に関してはそうはいかない。
豊音とエイちゃんに関しては、時間がないのだ。
さきほどの、三年生が去った運動部の様子を思い出す。
別の方向を向いていても、それでいいと思えるほど、私たち五人がセットでいられる時間は長くはない。
となれば豊音を、こちら側に引き寄せる努力を、惜しまずにはいられない。
私は豊音の横にしゃがみ込んだ。
59 :
◆Xk..svTef9j1
[saga]:2017/09/25(月) 19:44:00.75 ID:AUPcYDZ90
胡桃「確かに、それっぽいよね」
豊音「え?」
胡桃「その猫。うちのシロっぽい」
豊音「胡桃もそう思う?」
胡桃「思う。ぽい。……シロー」
「ウニャウ」
シロ猫に手を伸ばす。
今度は逃げない。豊音を通じて人に馴れたのか、私が差し出した指先の匂いを嗅いで、額をこすりつけてくる。
呼んだら来るぶん、本家シロより可愛げがある。
胡桃「シロの奴、さぼりたいがために、とうとう猫に化けだしたのかと思ったよ」
豊音「……ふふ。似たようなこと、私も考えてたよ? 道理でシロはぐうたらさんなんだなーって。猫ならしょうがないよなーって」
胡桃「もう、この子を代わりに練習させようか」
豊音「ええ? だってさ、君。どうー? エースポジションいけるー?」
「……」
豊音「あ、黙った。こういうとこシロっぽいよー、この子ー」
胡桃「ふふ」
努力を惜しまない――なんて言ってみても、結局やることはこうやって、豊音と遊ぶだけなんだけども。
60 :
◆Xk..svTef9j1
[saga]:2017/09/25(月) 19:44:43.14 ID:AUPcYDZ90
豊音が内に篭り、胸に秘めてしまった何かを、目につく限り、ひとつでも多く拾いあげる。
それくらいしか、私にできることはない。
今になって、塞とシロが二人をべったり甘やかす気持ちがわかった気がした。
時間がないなら思い切り優しくしてしまえばいいというのも、わからなくはない。
胡桃「さあ、今日もおなか触らせてもらうからね!」
「ミャウ?」
豊音「もう私たちなしじゃ生きられない体にしてあげるんだからー」
それから私たちは、マッサージに飽きたシロ猫が去るまでの間を、その場で過ごした。
眼が慣れていたために意識していなかったが、気づけば辺りは完全に暗くなっていた。
校内から僅かに感じられた人の気配が、もうほとんど絶えてしまっている。
胡桃「帰ろうか」
豊音「うん」
豊音とふたり、今度こそ家路に着く。
61 :
◆Xk..svTef9j1
[saga]:2017/09/25(月) 19:45:59.61 ID:AUPcYDZ90
胡桃「……ん?」
途中、ふとした瞬間、私たちの歩幅が合っていることに気づいた。
私は普通に歩いているだけなのに。
胡桃「……ふふ」
うまく笑いを噛み殺し切れなかった。
いつからだろう?
おそらく、出会った当初からだ。
豊音と並んで歩いた場面を思い起こしてみても、特に辛いと感じた記憶はない。
少し駆け足になった覚えならある。
しかし少なくとも、豊音が先ほどのように、まったくついていけない速さで先に行ってしまうことは一度もなかった。
豊音「なにー? なんで笑ってるのー?」
胡桃「なんでもない」
豊音「ええ? なにー? 教えてよー」
胡桃「なんでもないったら」
もどかしげに、しかしどこか楽しそうに、豊音は私を見下ろす。
私は豊音から視線を外し、口元を隠した。
私が一人で笑う理由は、豊音には教えないでおこう。
槓
62 :
◆Xk..svTef9j1
[saga]:2017/09/25(月) 19:46:32.96 ID:AUPcYDZ90
以上で終了です
ありがとうございました
63 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/26(火) 01:03:59.54 ID:sz7LEk7Yo
乙
いい宮守でした
64 :
◆Xk..svTef9j1
[saga sage]:2017/09/27(水) 20:11:39.48 ID:azWsX3x10
まとめで気になるご指摘いただいたので修正します
>>44
と
>>56
を、以下のレスに差し替え
65 :
◆Xk..svTef9j1
[saga sage]:2017/09/27(水) 20:14:47.71 ID:azWsX3x10
>>44
を↓に
胡桃「首輪してないね。野良かな?」
豊音「どうだろう。それにしちゃ懐きすぎだよー、無防備すぎー」
胡桃「だよね」
豊音「お前さん、そんなんで大丈夫ー? ワイルドライフ平気ー?」
豊音の心配をよそに、猫はとうとう、お返しとばかりに豊音の手をグルーミングし始めた。
甘噛みをまじえ、白猫は豊音の手をしぺしぺ舐めている。
本当に野良猫なのか疑わしくなるが、触ると毛並みに隠された肢体は、野良猫らしくやせ細っていた。
豊音が羨ましくなって、私も頭に手を伸ばした。
すると。
「……!」
胡桃「あ」
頭上に正面から手を伸ばしたのがいけなかったのか、猫は細めた眼をぱっと見開き動きを止めた。
私も猫の頭上で手を止める。
猫は寝転んだまま、私の手を凝視。
「ミャウ!」
そして猫パンチ。
胡桃「あいた!」
しまった……失敗。
「……」
猫は身を起こし、てててっと私たちから距離を取った。
そして一瞬こちらを一瞥し、その後はもう振り返ることもなく、全力ダッシュで走り去ってしまった。
胡桃・豊音「あー……」
二人して落胆の声を漏らす。
66 :
◆Xk..svTef9j1
[saga sage]:2017/09/27(水) 20:18:41.82 ID:azWsX3x10
>>56
を↓に
見たままつけた名前、というわけではないのだと思う。
我らが先鋒さまを意識しての命名なのは、名を呼ぶ豊音の楽しげな顔を見れば明白だった。
豊音「ご飯あげるねー」
豊音は通学バッグから猫缶を取り出し、ぱかりと開けている。
「! ウニャー!」
自分の食事だと気づいた猫が、しゃがみこんだ豊音の膝に前足をのせて荒ぶっている。
豊音「まってー、スカートに爪たてないでー。はい、どうぞ」
慌てて缶を地面に置く豊音。
ものすごい勢いで猫缶に食いつく白猫。
そういえば、数日前に少し触ったとき、ずいぶん痩せていると感じたっけ。
豊音が誘いを断った理由にも、これで察しがついた。
気ままな野良猫のあの子が、明日もあの植え込みにやって来る保証はない。
豊音は次にいつ会えるかわからないあの子に、餌をやるチャンスを逃したくなかったのだろう。
豊音「まだここにいてくれてよかったよー。しかしあれだよね、君らはほんと、大急ぎで食べるよねー。もっとゆっくりでいいのにー」
まるで人間に対するときのように、普通のトーンでしゃべる豊音がおかしい。
胡桃「ふふ」
堪えきれず笑いながら近づくと、豊音はびくりと体を震わせて、こちらを振り返った。
豊音「胡桃ー」
どことなくバツの悪そうな表情。
胡桃「疲れてたんじゃなかったの?」
少し意地悪を言ってみる。
豊音「あ、ああー……っと。えっと。えへへぇ……」
豊音は口ごもり、何かを誤魔化すように頭を掻いて笑った。
嘘がばれていることは、今の一言で伝わったようだ。
嘘をついてまで一人で来ることはないのに……とは思うけれど、豊音としては、ひとりで来るほうが気楽だったのだろう。
数日前、私はこの白猫から猫パンチをくらっている。
白猫は豊音によく懐くが、私には馴れてくれない。
あの日、猫を逃がした私は豊音に謝った。
あの程度のことで謝罪を受けるのが、友達付き合いに慣れていない豊音には気が重かったのかもしれない。
豊音のことだから、私がまた猫パンチをくらって怪我でもしたら――なんてことも考えていたのだろう。
67 :
◆Xk..svTef9j1
[saga sage]:2017/09/27(水) 20:21:03.09 ID:azWsX3x10
修正できてすっきり
今度こそ終了です。ありがとうございました。
68 :
◆Xk..svTef9j1
[saga sage]:2017/09/27(水) 20:22:45.40 ID:azWsX3x10
HTML化依頼はすでに出してあります
念のため
69 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/27(水) 22:13:52.05 ID:FgC9PAZa0
おつ。
良かったですっ
70 :
◆Xk..svTef9j1
:2017/10/06(金) 14:37:57.29 ID:10FTisI70
PIXVに転載することにしました。
71 :
◆Xk..svTef9j1
:2017/10/06(金) 17:11:31.38 ID:10FTisI70
ピクシブURL
https://www.pixiv.net/member.php?id=27992934
ていうかいつ落ちるのこのスレ
72 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/25(土) 18:47:59.90 ID:qgPSebfs0
お疲れ様でした。
とっても良かったです。
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