姫川友紀「その手に掴むもの」

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39 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 22:37:35.92 ID:A4BQZlQT0

涼(……ん、あれ?)


涼「友紀さん、今なんて…、」

友紀「それじゃあ気を取り直して! 行こっか、涼ちゃん!」

涼「ぎゃおおん! …ひ、引っ張らないでぇ〜……!」



――



40 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 22:38:44.27 ID:A4BQZlQT0

友紀「……と、いうわけで。そこそこ大きいショッピングモールに来ました!」

涼「どこ向いて喋ってるんですか?」

友紀「何でもない!」



友紀「エプロン、どこに置いてあるかなぁ」

涼「雑貨のところかな……あ、あそこに案内板がありますよ」

友紀「雑貨、雑貨…これ?」

涼「2階みたいですね」

友紀「よし、レッツゴー!」

涼「おー!」

41 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 22:39:13.17 ID:A4BQZlQT0

【キッチン雑貨コーナー】


友紀「おぉー、カワイイのいっぱいあるね!」

涼「そうですね。あ、このミトンいいなぁ」

友紀「ミトン! 良いよねぇ。フィット感といい、軽量感といい……」

涼「買っちゃおうかな」

友紀「一緒に買ってあげようか?」

涼「でも…」

友紀「良いの良いの! 2対2の大型トレードってことで、ね?」

涼「……ありがとうございます!」

友紀「さてさて、肝心のエプロン置いてある場所は…あっちだっ」
42 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 22:40:17.18 ID:A4BQZlQT0
友紀「涼ちゃんにはどんなのが似合うかな」

涼「うーん、緑とかは好きですけど」

友紀「緑、みどり……おっ、これとか」パッ

涼「ちょ、ちょっとかわいすぎないですか?」

友紀「あー、確かに。フリフリしすぎてるかな」

涼「もうちょっとシンプルな方が好きかも」

友紀「シンプルなやつ……むむむ」
43 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 22:41:16.02 ID:A4BQZlQT0

友紀「……これっ」スッ

涼「無地っ!?」

友紀「ちょ、ちょっとシンプルすぎたか…」

涼「すごいや、もはやただの布ぐらい何も描かれてない…」

友紀「次! 次のやつ!」



友紀「エプロン1つ選ぶのもむっつかしいんだなー……あっ!?」

涼「どうしたんですか?」

友紀「こ、これはッ」
44 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 22:41:53.82 ID:A4BQZlQT0
友紀「キャッツ公式、ねこっぴーエプロン、だと……!」

涼「ねこ…?」

友紀「しかも、地味に今年のバージョン…。なんてことだ…生きていたのか……」

涼「ええと、それもキャッツのグッズなんですか?」

友紀「うん! あたしの持ってるエプロンとは、別のやつみたい。ほら、ここのマークの位置が違ってて…」

涼「へ、へぇ」

涼(よく分からないけど…)


友紀「ヤバい、ヤバいよこれ……欲しくなってきた」

涼「あはは…」

友紀「涼ちゃんのエプロン買いに来たはずが、こんなものに出会えるなんて…」
45 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 22:42:59.90 ID:A4BQZlQT0

友紀(エプロンあんまり使わないから、持っててもしょうがないかな。…でも、欲しい)

友紀(いつか使う日のために、今買っておくのが正解かも。着る機会なんてあるか分かんないけど)

友紀(着てるの見たら、何て言うかな。新しいのだよって、気付いてくれるかなぁ……)


友紀(……って、いやいやっ! なんでプロデューサーに見せる必要があるの?!)

友紀(そりゃ、見てほしいのはやまやまだけど。別に、今それ関係ないし!)

友紀(っていうかエプロン姿見せるって何!? どんなタイミングでエプロン着て台所に立つっていうのさ!)

友紀(意味分かんない! 満塁のファーストゴロで1塁踏みに行くぐらい意味がわからないよ! あたしのばかっ! 何のための前進守備だ!?)



 ひめかわは こんらんしている ▼


46 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 22:43:42.20 ID:A4BQZlQT0

涼「あの、友紀さん?」

友紀「……ハッ。な、何かな」

涼「なんだか顔が赤いですけど、大丈夫ですか」

友紀「ぅぁ……へ、へーきへーき! 料理のイベントでは着ないといけないもんね、エプロン!」

涼「イベント?」

友紀「お仕事なら仕方ないよね、うんうん」

涼「…ええと。良く分かりませんけど、それよりも」

47 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 22:44:46.17 ID:A4BQZlQT0
涼「それ、買うんですか?」

友紀「う、うん。悩んでる」

涼「だったら、私にも貰えませんか」

友紀「え?」

涼「2つ買ってお揃いにしましょうよ」

友紀「でも……良いの?」

涼「はい! 友紀さんの好きな球団なら、私も興味あります」
48 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 22:45:27.50 ID:A4BQZlQT0

涼「それに、普通のじゃなくこういうものの方が、友紀さんから貰ったーって感じがあって嬉しいですから!」

友紀「そ、そう? 涼ちゃんがそう言うなら……」

涼「お願いします! …って、貰う側なのに、偉そうにすみません…」

友紀「……あはは。涼ちゃん、ほんといい子だねぇ」


友紀「うん、買っちゃおっか! 自分へのプレゼントだ!」

涼「はいっ」

友紀(……よしっ)

49 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 22:46:02.60 ID:A4BQZlQT0

アリガトウゴザイマシター


友紀「さて、目的はこれで達成した訳だけど…」

涼「まだ何かありますか?」

友紀「んー…せっかく来たのに、このまま帰るのも勿体ないなーって」

涼「なら、適当に回ってみましょうか」

友紀「だねっ! よーし、姫川探検隊、出発!」

50 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 22:46:48.13 ID:A4BQZlQT0
――


涼「靴売り場、ですね」

友紀「スパイク売ってるかなぁ」

涼「いやあ…流石に置いてないかと」

友紀「そっかー」

涼「スポーツショップにはあると思いますよ?」

友紀「あ、確かにそうだね。次はそこに行こっか!」

涼「はい。…あ、このシューズカッコいいなぁ」

友紀「ほぉー、涼ちゃんこういうのが趣味なんだね。あたしは……」

51 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 22:47:47.47 ID:A4BQZlQT0
――


涼「友紀さんは、スカートとかって穿きます?」

友紀「普段着では、あんまり…」

涼「あ、やっぱり」

友紀「動くのに邪魔だし、なんかスースーするのが気になるっていうか」

涼(わかる)

友紀「まぁ、着てみればそれなりに気に入ってくる時がほとんどなんだけどね」

涼(……わかる)

友紀「だから、こういうスカート売り場、しっかり見たことないんだ」

涼「なるほど…」
52 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 22:48:22.58 ID:A4BQZlQT0
友紀「ステージではけっこう着てるし、衣装の方は着慣れてきたつもりなんだけど」

涼「ぼ……私は、衣装もまだ慣れない時が」

友紀「そうなの?」

涼「蒸れるし、ちょっとこすれるというか、食い込むのが苦手で……」

友紀「あぁー…。たまにいるよね、食い込んでくる手ごわいのが」

涼「そうなんです! 私だけじゃなく、みんなそうなのかなぁ」

友紀「んー、今度みんなにも聞いてみよう」

53 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 22:49:32.98 ID:A4BQZlQT0
――


友紀「アクセサリーかぁ」

涼「友紀さん、こういうの好きですか?」

友紀「うーん。買うのはヘアピンと、たまにネックレスぐらいかな」

涼「…ヘアピン」

友紀「ピンだけは、けっこう数持ってるんだよ? あたし」

涼「そうなんだ…」

涼(プレゼント、その手があったのか……自分が普段使わないから、思いつかなかった)


友紀「チャラチャラいっぱい付けるの、あんまり好きじゃなくってね」

涼「ふふ、運動する時に邪魔だから、ですか?」

友紀「あははっ、そうかも!」
54 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 22:50:09.95 ID:A4BQZlQT0
友紀「涼ちゃんは?」

涼「そうですね……私もあんまり付けないので、自分で買ったことはないかもしれません」

友紀「お。ってことは、貰う側だな?」

涼「はい、ファンの方々からよく頂くんです、アクセサリー」

友紀「モテモテだねぇ、このこのー」

涼「あはは…」

55 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 22:50:50.53 ID:A4BQZlQT0
涼「でも、結局付ける機会が少ないから、ちょっと申し訳なくって」

友紀「それ分かるなぁ〜。色々貰えるのはすごく嬉しいんだけどね」

涼「LIVEで衣装着る時に、付けれるものは少しでも付けるようにしてるんですけどね。腕輪とか、ブローチとか」

友紀「へぇ…」

涼「プレゼントちゃんと受け取ってます、ありがとうって。ファンの方に伝えられたら良いと思って」

友紀「な、なんて思いやりの心だ……」

友紀(その手があったか、なるほど。賢いなぁ)


涼「思いやりだなんて、そんな…」

友紀「アイドルの鑑だね。…おっと、これは」
56 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 22:51:38.24 ID:A4BQZlQT0
涼「腕輪、ですか?」

友紀「うん。ちょっと目に入ったんだけど、どうだろ」

涼「ひまわりの腕輪かぁ。良いですね」

友紀「あたし、ひまわり好きなんだ!」

涼「ふふ。夏っぽい感じ、ぴったりです」

友紀「でしょ〜? "サンフラワー"ってユニットもやっててさ」

涼「ユニット…」

友紀「うん。早苗さんでしょ、夕美ちゃんに唯ちゃん、それに仁奈ちゃん! 良いチームだなって自分でも思うよ」

57 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 22:52:23.02 ID:A4BQZlQT0
涼「……実は私、ユニットって組んだことないんですよね」

友紀「あ、そうなんだ?」

涼「今までずっと、ソロの活動がほとんどでしたから」

友紀「あたしも、基本的には1人でやってくのが多いからなぁ」


友紀「でも、ユニット活動も良いものだよ? 他にも組んでる子は…智香ちゃんでしょ、晴ちゃん、幸子ちゃんに紗枝ちゃん、それから……」

涼「け、けっこういますね」

友紀「ふふ、まぁそれなりに。みんなと一緒に練習してステージに上がれるのって、それだけで楽しいし、心強いっていうかさ」

涼「ふむふむ」

友紀「何より、みんなで心を1つにできるって、なんだか嬉しいなって。やってて思った!」

58 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 22:53:08.62 ID:A4BQZlQT0
涼(ユニットか。事情が事情だし、正直あんまり考えたことなかったけど)

涼「……ちょっと羨ましいかも」

友紀「涼ちゃんもいつか、いいユニット仲間に会えるよ、きっと!」

涼「そう、だと良いですね」

友紀「あれ…なんか他人事?」

涼「そ、そんなことないですよ! ユニット、組めると良いなぁ」

友紀「……ま、いっか」



友紀「よし、次行こう!」

涼「はい!」
59 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 22:53:34.13 ID:A4BQZlQT0


――――――



―――






60 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 22:54:03.59 ID:A4BQZlQT0

友紀「お買いもの、終わりー!」

涼「見て回るだけでも、楽しかったですね」

友紀「色々目移りしちゃって、ちょっと首が…」

涼「あはは。私もです」

61 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 22:54:42.03 ID:A4BQZlQT0

友紀「大分時間潰したつもりなんだけどなぁ」

涼「連絡、ありましたか?」

友紀「うーん……電話もメールも来てない」

涼「そうですか」

友紀「呼ばれてないってことは、まだ帰っちゃダメってことだよね」

涼「ですね…」


友紀「……そうだっ、涼ちゃん、これからまだ時間ある?」

涼「はい? えぇ、大丈夫ですけど」

友紀「ちょっと行きたいところがあるんだよね」

涼「どこですか?」

62 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 22:55:29.33 ID:A4BQZlQT0
友紀「すっごく気持ちいいところ!」

涼「……えっ」

友紀「なんか、身体動かしたくなってきちゃってさ!」

涼「ちょ、あの、それって…」

友紀「さあ行くよ! 付いてきて!」

涼「ぎゃおおおん! ちょっとぉー!?」



――



63 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 22:56:02.59 ID:A4BQZlQT0

【バッティングセンター】


友紀「ヘイヘイ、カモーン! ピッチャーびびってるぅー!」キンッ

涼「……あの、友紀さん?」

友紀「ちょっと待って涼ちゃん、まだボール来るから!」

涼「あ、はい」

涼(気持ちいいところって…。どこかと思えば、バッティングセンターか…)


友紀「今日はオレ流ならぬ、あたし流 神主打法! ぃよいしょーー!」カーン!
64 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 22:56:42.61 ID:A4BQZlQT0
涼「……良い当たりだなぁ」

友紀「おっ、分かる?」

涼「あっいえ、何となく。ボテボテより、上に飛んでく方が良いのかなと思って」

友紀「ふふ、良いセンスしてるね……っとぉ!」カキーン!


テーレッテレー♪


涼「えっ?」

友紀「おっ、ホームラン! 1本目〜!」

涼「当たった…」
65 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 22:57:30.39 ID:A4BQZlQT0
友紀「おじさーん、今のホームランあたしねーっ!」

「おぉーやるねぇ。はい、1回無料券」

友紀「すぐに使っても良いかな?」

「はいよ」

友紀「よっしゃー!」

涼「すご…」

友紀「やったね、バースデーアーチ! 今のホームランは、涼ちゃんに捧げる……よっ!」カキン!

涼「あっ、これも惜しい!」

66 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 22:58:08.51 ID:A4BQZlQT0
友紀「ちぇ、2打席連続とはいかなかったかぁ」

涼「上手なんですね、友紀さん」

友紀「まぁね〜。ちっちゃい頃からずっとやってた、しッ!」キーン

涼「小さい頃?」

友紀「うん、お兄ちゃんとキャッチボールしたりね」

涼「へぇー…」

友紀「未来の日本代表、なんて昔は言われてたもんよ!」

涼「そうだったんですか」



涼「そんなに上手なら、野球部でも大活躍だったんだろうなぁ」

友紀「………っ、」


ボスッ
67 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 22:59:08.73 ID:A4BQZlQT0


涼(あれ、見逃しかな)


友紀「……う、うん。そう、だね」

涼「友紀さん、野球部だったんですよね?」

友紀「うん、入ってたよ。…マネージャーで」

涼「あれ? でもさっき、ずっと野球やってたって…」

友紀「…ぇと。選手としては、中学生ぐらいまで……だったかな。あんまり覚えてないや、あはは……」

涼「そうなんだ。すごいなぁ!」

涼(中学生っていうと、僕ぐらいの頃の話かな。僕、友紀さんぐらい運動できる自信ないよ……うん、すごいや)

友紀「………」
68 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:00:11.61 ID:A4BQZlQT0
涼「ボール、来ませんね」

友紀「……ぁ。そ、そっか、もう終わりか。ボーっとしてた」

涼「? どうかしたんですか」

友紀「ううん、何でもない!」


友紀「そ、それより……ほら! 次は涼ちゃんの番!」

涼「えぇっ、私?! 友紀さん続けてできるんじゃ…」

友紀「良いから良いから! 1回分奢ったげる」

涼「でも私、やったことないですよ?」

友紀「大丈夫、とりあえずやってみなって! 楽しいから!」

涼「そ、そうですか。じゃあ……」

友紀「ふぁいとっ」
69 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:00:50.94 ID:A4BQZlQT0
――


涼「ぜ、全然打てなかった…」

友紀「うーん、腕だけのスイングになっちゃってたねぇ」

涼「すみません…」

友紀「謝ることないって! 練習すれば、上手く打てるようになるから!」

涼「うぅ」

友紀「次、あたしのスイング見てて? もっとこう腰を使ってだね……」

涼「はい、今ケージから出ま…」


ガッ


涼「あっ」
70 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:01:19.99 ID:A4BQZlQT0
涼(やば…、足元のでっぱりに躓いて……!)


友紀「体重は右足に残し…え?」

涼(目の前には友紀さんが……ぶつかる……っ!)


友紀「ちょちょっ、涼ちゃ、あぶなっ


むにゅ



友紀「ひゃっ…」

71 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:01:56.36 ID:A4BQZlQT0
涼(ゆ、友紀さんに受け止めてもらう形になってしまった)

涼(両手に、何か柔らかいものがふにゅっと…ってそんなことより!)


涼「ご、ごめんなさい友紀さん! 大丈夫ですか?!」

友紀「ぅ、うん…だいじょうぶ、だけ、ど……」

涼「すみません、足元躓いちゃって…!」

友紀「あ、あぁ、うん。そう、なんだ」

涼「…ホッ、怪我がなくて良かった」

友紀「……うん」
72 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:02:29.64 ID:A4BQZlQT0

友紀「…え、えーっと…」

涼「や、やっぱりどこか痛みますか?」

友紀「……ぁ、あたしの番かなっ! 打ってくる!」

涼「あ、はい。どうぞ」

友紀「よ、よーし…打つぞ〜……」



友紀(今、触られたよね…?)

涼(やっぱり本物は、触り心地がちょっと良いんだなぁ)

友紀(ま、まぁ。涼ちゃんが相手なら、女の子に触られたみたいで割と平気、かな。うん)


73 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:03:25.49 ID:A4BQZlQT0

友紀「……って、そんなわけあるかぁっ!」グワラゴワガキーン

涼「わぁっ すごい打球」


テッテレー



涼「またホームラン…」

友紀「あぁぁああ、もうっ! なんかすっごいモヤモヤする!」

友紀「涼ちゃん!!」

涼「は、はいっ」ビク

友紀「今日はこれから、あたしの気が晴れるまで付き合ってもらうから!!」

涼「えぇっ?! それ、どういう…」

友紀「青春の、バカヤローーッ!!!」ガッキーン



――――

――



74 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:06:30.18 ID:A4BQZlQT0

《Side R》


涼「た、ただいま、公園…」

友紀「いやぁ、楽しかったねー!」

涼「そうですね…はは……」

友紀「いっぱい打てて、満足満足! ほんっと気持ちよかったよ!!」

涼(結局友紀さんは、あれから4回もホームランを打って大暴れだった)

涼(『今年の三冠王はいただきだ!』…なんて言ってたけど。三冠王って何だろう。ホームランをたくさん打てばなれるのかな)


友紀「んー、ちびっこ達はもう帰ってるかぁ」

涼「そうですね…って、まだやるつもりだったんですか」

友紀「いやぁ…流石にちょっと疲れちゃったし、もう無理だよ」

75 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:06:59.23 ID:A4BQZlQT0
友紀「さてと。買い物もしたし、いっぱい遊んだし。今日はここらで解散かな」

涼「ですね」

友紀「明日はどこ集合にする? プレゼント渡すの、またここで良いかな」

涼「明日ですか…」

友紀「それとも事務所にしよっか。今度は、あたしが涼ちゃんとこに遊びに行こうかな」

涼「……それも、良いですけど」

友紀「あ。でもあたし、朝はダメかもないかもしれない」

友紀「ほら、明日起きれる自信なくって。できれば、集合も午後からだと嬉しいんだけどな……」
76 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:07:34.77 ID:A4BQZlQT0
涼「…えっと、」

友紀「ん? どしたの」

涼「その、大変身勝手なんですけど」

涼「……貰うんなら、今が良いかな、なんて」

友紀「今? 別に構わないけど…。明日じゃなくって?」

77 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:08:10.72 ID:A4BQZlQT0
涼「……実は明日、大事なミーティングがあるんです」

友紀「大事な…」

涼「武田さんのこと、覚えていますか」

友紀「うん。『プロ野球ハイライト』の」

涼「『オールド・ホイッスル』ですよ…」

友紀「あっはは! 冗談冗談」


涼「…武田さんと、うちの社長と。私の今後を左右する、大事な決め事をするんです」

涼「番組への出演ももう決まってますし、これからのスケジュールも埋まってしまってて」

涼「だから、明日からは時間が取れなくって……」

友紀「…そうなんだ」
78 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:09:31.63 ID:A4BQZlQT0

友紀「じゃあ、はいっ」

涼「!」

友紀「へへ。1日早いけど…誕生日おめでと、涼ちゃん」

涼「…ありがとうございます。大事に使います!」

友紀「うん! ねこっぴーをよろしくね!」

涼「…あの、」

友紀「?」

涼「……。友紀さん、ちょっと良いですか」

79 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:10:31.12 ID:A4BQZlQT0
友紀「ど、どしたの? 急に改まって」

涼「今日会いに来たのには、理由があったんです」

友紀「…あ、うん。プレゼント、ありがとね!」

涼「あぁ、いえいえ、どういたしまして……って、それだけじゃなくて」

涼「誕生日もそうですし、バレンタインの時お世話になったお礼をしに来たっていうのも、もちろんあるんですけど」

友紀「お礼なら、さっき……、」


涼「1つだけ、謝らなければいけないことがあるんです」

友紀「…謝る」

涼「はい」
80 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:11:50.13 ID:A4BQZlQT0

涼「さっきも言いましたけど、明日からすごく大事な用事があるんです。私にとって、すごく大事な」

涼「もう少ししたら、私を取り巻く環境が色々変わって…しばらくドタバタするし、周りも騒がしくなると思うんです。きっと」

友紀「ふんふむ」

涼「今を逃したら、もう友紀さん達とは、しばらく会えなくなるような…そんな気がして」

涼「だから、今日直接会って伝えなくちゃ駄目だと思いました」

81 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:13:08.38 ID:A4BQZlQT0

友紀「……前にも、こんなことあったよね」

涼「はい」

友紀「それは、必ず謝らなきゃいけないことなの?」

涼「アイドルとして、そんなのは些細なことだからと。前に友紀さんは、私を止めてくれましたね」

友紀「…そうだったかな」

涼「だからこそ。今日の私は…アイドルじゃない、秋月涼として。友紀さんに伝えに来たんです」

友紀「涼として…」
82 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:14:04.25 ID:A4BQZlQT0
友紀「もしかして……アイドル辞めちゃう、とか」

涼「いえ。アイドルは、辞めません」

友紀「そ、そっか。良かった」

涼「…そうだな。まずはそちらの報告からしなきゃいけないですね」


涼「私、別のプロダクションに所属することになったんです」

83 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:15:27.42 ID:A4BQZlQT0
友紀「…移籍するってこと?」

涼「あっいえ、移籍ではなく……名義を残して掛け持ち、というか」

友紀「??」

涼「今後は、2つのプロダクションに在籍しながら活動することになる…というか。あんまり上手く説明できないんですけど」

友紀「球団に所属しながらプロ野球の選手会にも入る、みたいな感じかなぁ」

涼「ええと…? まぁ、そんな感じだと思います……多分?」

友紀「ふーん?」
84 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:16:27.85 ID:A4BQZlQT0
友紀「…ねぇねぇ、どこの事務所に行くの?」

涼「それは、」

友紀「涼ちゃんぐらいのアイドルなら、大手かな。765さんとか?」

涼「…」

友紀「あっ! もしかして…あたしたちのとこだったりして!」

友紀「謝るって、うちに来るの秘密にしてたから、とかかな?」

友紀「うちの事務所、ルームがあんまりおっきくないからなぁ。涼ちゃんが来たら、また狭くなっちゃうね! あははっ」
85 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:17:07.01 ID:A4BQZlQT0
涼「……すみません、友紀さん」

友紀「…うん」

涼「とても、とっても魅力的なお話なんですけど。…友紀さんの事務所ではないんです」

友紀「じゃあ?」

涼「まだ、言えません」

友紀「まだ…」

涼「正式に発表があるまでは、私の口からは…」

友紀「……そっか」

涼「きっと、ビックリさせてしまうから」

86 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:18:44.27 ID:A4BQZlQT0
涼「謝りたいというのも、それに関係してることなんです」

友紀「…」

涼「私、友紀さんに隠していたことがあるんです」

涼「友紀さんだけじゃありません。今まで私を見てくれていた人、みんなに」

友紀「……どんな、隠し事?」

涼「…それも言えません。今はまだ」

友紀「まだ、か」

涼「近い内に必ず、表沙汰になることなんですけど…上の偉い人たちから、箝口令が出てしまって」

友紀「…そういう業界だもんね」

涼「本当なら、この話題を出すことすらNGかもしれませんが…友紀さんなら内緒にしてくれると信じて、言いました」


涼「私からは何も言えないくせに、こんな話を持ち出してしまって…本当にすみません」

87 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:19:38.03 ID:A4BQZlQT0

涼「自分でも分かってるんです。曖昧にぼかして、今はただ謝ることしかできないなんて……そんなの、ズルいですよね」

涼「でも、どうしても謝りたかったんです。みんなに嘘をついて隠している自分が許せなくて」

涼「友紀さんやお世話になったみなさんに、本当の自分を隠したまま、もうずっと会えなくなるんじゃないかと思ったら……そっちの方が、絶対に後悔しそうで」

友紀「それで、わざわざあたしに会いに」

涼「あっ…えっと、プレゼントを渡したかったのも、本当なんです…。ついでとかではなくってですね……」

友紀「ふふ、分かってるよ。ありがと」


涼「本当に…すみませんでした」

涼「許してください、だなんて言いません。ただ、どうしても謝りたかった。それだけなんです」

友紀「そっか」

涼「……ごめんなさい」

88 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:20:04.84 ID:A4BQZlQT0


友紀「…許すもなにもさ、」

涼「え?」

友紀「別にあたし、怒ってなんかないけど」

89 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:21:26.85 ID:A4BQZlQT0
友紀「誰にだって、隠し事の1つや2つあるって」

涼「で、でも」

友紀「大切なのは、相手を大切に想う気持ちがあるかじゃないかなぁ」

友紀「謝りたいって気持ち、涼ちゃんからはしっかり伝わったよ」


友紀「あたしたち、友だちで、仲間でしょ?」

涼「友紀さん……」

友紀「だったら、気にすることなんて何もないんだよっ」

涼「…良いんですか?」

友紀「うん! 気持ちを真っ直ぐ投げ込んできてくれて、ありがとね涼ちゃん」

90 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:22:55.26 ID:A4BQZlQT0
涼「……どうしても都合が合わなくて、七海さんと裕美さんには、直接は会えませんでした」

友紀「なら、いつかあたしから言っておくよ」

涼「お願いします」


友紀「…1つだけ、良いかな」

涼「? 何でしょうか」

友紀「その新しい事務所ってさ…、」

91 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:23:27.22 ID:A4BQZlQT0

友紀「涼ちゃんは、行くの嫌?」

涼「っ!」

友紀「本当はやりたいことがあるのに、仕方なく……とかだったら。それは良くないよね」

友紀「涼ちゃんはそこでちゃんと、やりたいことできる? 心に嘘、ついてない?」

涼「……」
92 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:24:59.45 ID:A4BQZlQT0
涼「…嫌なんかじゃ、ありませんよ」

涼「むしろ、自分から進んで入りたいと思ったくらいなんです」

友紀「うん」

涼「私、夢がありました。憧れというか、目標というか…」

涼「アイドルになったのも、その夢を叶えるためだったんです」


涼「大変だったけど、自分なりに少しずつ進んできて……あと一歩のところまで来てるんです」

涼「夢を実現させるチャンスが、ようやく転がり込んできたっていうか」

友紀「…それが、その事務所なんだ」

涼「はい。このチャンス、逃す訳にはいかないんです」
93 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:25:54.23 ID:A4BQZlQT0

涼「……諦めたくない」

友紀「…っ!」

涼「きっとこれからも、辛かったり苦しいことはたくさんあるかもしれない。所詮は、叶わない夢かもしれない」

涼「みんなに受け入れてもらえるか不安もあるけど、それでもやりたいんです!」

涼「夢は、夢じゃ終われないから」

涼「…僕が背負う夢は、もう僕だけのものじゃないから」
94 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:26:59.81 ID:A4BQZlQT0
友紀「……そっか。なら、大丈夫だね」

涼「心配してくれて、ありがとうございます」

友紀「良いの良いの♪」


友紀「ねえ、涼ちゃん」

涼「はい?」

友紀「……いや、涼っ!」ガシッ

涼「は、はいっ」

涼(右手を、掴まれた)

95 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:28:20.82 ID:A4BQZlQT0

友紀「…」ギュ

涼「友紀さん?」

友紀「……」ニギニギ

涼(手を調べられている…?)


涼「あ、あの」

友紀「うん。良い手してるね、やっぱり」

涼「へ?」

友紀「大きくて、力強くて、ガッシリしてて……」
96 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:29:09.79 ID:A4BQZlQT0

友紀「これが…さっき、あたしの…っ」ゴゴゴ

涼「いだ、いだだだ! ちょ、友紀さ……?!」ミシミシ

友紀「……とにかく。立派な手だよ」


友紀「涼の手は、ちゃんと夢を掴める手だ」

涼「そう、でしょうか…あいてて……」
97 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:30:38.78 ID:A4BQZlQT0

友紀「大丈夫、涼ならできる。きっと叶えられるよ」

友紀「正直で、真っ直ぐで、すっごくいいヤツだもん。涼の頑張りは、きっとみんな見てくれてる!」

涼「はい…」

友紀「それに、アイドル応援団長の、このあたしがついてるんだからね」

涼「…えへ、頼もしいなぁ」

友紀「でしょ〜? へへっ」

98 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:31:36.90 ID:A4BQZlQT0
友紀「涼の夢、あたしは応援する!」

涼「……ありがとうございます」

友紀「周りの目なんか気にしないで、強気でガンガンかっと飛ばしていけば良いんだよ!」

涼「大事なのは心、ですよね」

友紀「うんうん! 目指せ、アイドル界の二刀流! ってね」

涼(ッ!)

友紀「頑張るんだよ、涼!」

涼「…はいっ」


涼(友紀さん。あなたは、やっぱり……)

99 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:32:21.58 ID:A4BQZlQT0

――


友紀「……もうこんな時間かぁ」

涼「あ…そうですね。日が暮れちゃう」

友紀「そろそろ、あたしも帰って良い頃かな?」

涼「えぇ、きっと」

友紀「今日ぐらいは、事務所でビールもおっけーだよね♪」

涼(昨日も飲んだんじゃあ…)

涼「…帰る前に、Pさんに連絡してみると良いんじゃないでしょうか」

友紀「うん、そうする! 楽しみだなぁ〜」

100 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:33:16.96 ID:A4BQZlQT0
涼「それじゃあ、私も帰ろうかな」

友紀「……そうだね」

涼「はい」


友紀「今日は、本当にありがとね。涼ちゃん」

涼「……こちらこそ、ありがとうございます。とっても楽しかったです」

友紀「へへっ。武田さんとか、夢子ちゃんにもよろしく」

涼「分かりました。お2人にも、どうかよろしく伝えてください」

友紀「まっかせて!」

101 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:33:49.76 ID:A4BQZlQT0

涼「では、お元気で」

友紀「またねー♪」フリフリ

涼「また…」


テクテク…


涼「…」



涼「……っ」ピタ

102 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:34:24.93 ID:A4BQZlQT0

涼「…友紀さん!」クル

友紀「お?」

涼「聞いてください、友紀さん! 私……ううん、」



涼「僕は! これからも、僕の夢を追い続けますっ!」

友紀「!」

103 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:35:10.36 ID:A4BQZlQT0

涼「何があっても負けません!」

涼「今よりも、もっともっとカッコよくなりたいからっ」

友紀「…うんっ」

涼「夢を諦めた人、見失いかけてる人……そんな、誰かの力になりたいから!」

友紀「うん、うん!」

涼「絶対にあきらめない! 必ず、トップになってみせます!!」

友紀「よく言った!」

涼「だから、見ててください!」
104 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:36:12.05 ID:A4BQZlQT0
涼「今度は、もっとカッコいい僕として! いつかまた友紀さんに会いに来ます!」

友紀「うんっ!」

涼「その時は! 一緒にキャッチボール、してくれますかーっ?!」

友紀「もっちろん! いつでもおいでー!」

涼「ありがとうございます!」

友紀「待ってるからねー!」ブンブン

涼「それじゃあ!」

友紀「ファイトー! 涼ーーッ!!」



タタタ…


105 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:36:46.99 ID:A4BQZlQT0

友紀「強い子だな、本当に」

友紀「…」

友紀「手、か」


友紀「良いなあ……」



…pipipipi

106 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:37:29.28 ID:A4BQZlQT0

pipipi…


友紀「…電話」

友紀「プロデューサーから」

友紀「………」



ピッ

友紀「もしもーし。あ、プロデューサー! お疲れさま」

友紀「そろそろ戻って良いの? ちょうど良かった、今行こうと…」

友紀「…ぅえ、迎えに来る? ……う、うん。そっか…。えっとね、今公園で……」



――


107 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:40:47.75 ID:A4BQZlQT0

《Side Y》


P「…あ、いた」

友紀「おそーい」

P「悪い悪い、ちょっとちひろさんに捕まってな」

友紀「ちひろさん? なんで?」

P「領収書出せって。少しぐらいなら、経費で落とせるかもしれないんだと」

友紀「…なるほど」
108 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:41:54.97 ID:A4BQZlQT0
友紀「何を買ってたのかなぁ? うん?」

P「いや何って……食べ物とか、飲み物とか」

友紀「ケーキもある?」

P「それは、これから取りに…。もしかして、秋月さんから聞いた?」

友紀「うん! 準備終わるまで帰って来るなって」

P「良かった。ちゃんと会えてたんだな」


友紀「で、ビールはあるの?」

P「お前なぁ…」

友紀「どうなの? ねえねえ!」

P「……500を1本。今日だけな」

友紀「うわーい! やったー!!」

P「どんだけ喜ぶんだよ」
109 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:42:30.36 ID:A4BQZlQT0

友紀「それを聞いちゃ、うかうかしてられないね! 早く事務所に戻らなきゃ!」タッ

P「あっおい、待てって」

友紀「はやくはやくぅー!」タタタ

P「走ってもビールは逃げないぞー」


P「…って、足はえー……」


110 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:43:20.84 ID:A4BQZlQT0
――


友紀「ケーキだぁ!」

P「ちょっと小さかったか…? 人数分大丈夫かな」

友紀「大丈夫だって! ほら、後は帰るだけだよ!」

P「待て待て、ケーキ持ってるんだから。流石に歩いてだろ」

友紀「……ん、そっか」

P「焦らなくて良いんだよ、ゆっくりで」

友紀「はーい」
111 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:44:20.31 ID:A4BQZlQT0
P「…げ、もう薄暗い」

友紀「日が暮れるの、早くなったよね」

P「だな。この時間、こないだまではまだ明るかった気がするのに」

友紀「秋だねえ………っくしゅっ」

P「寒い? 上着いるか」

友紀「ううん、平気!」

P「なら良いけど」

友紀「きっと誰かがあたしのウワサしてるんだね。ほら、誕生日だし!」

P「なんだそりゃ」
112 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:45:15.30 ID:A4BQZlQT0

P「風邪ひくなよ? 涼しくなってきたのは良いけど、薄着じゃもう肌寒いくらいなんだから」

友紀「涼しい…」


友紀「秋の月に涼しい、か。ふふ、この時期にぴったりだね」

P「ん? 月はまだ出てないぞ」

友紀「なんでもなーいよっ」

P「ああそう」
113 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:46:08.31 ID:A4BQZlQT0

P「…で、ユッキは今日何してたのさ」

友紀「うん、涼と遊びに行ってたんだ!」

P「りょう? ……あぁ、秋月さんか」

友紀「涼もね、明日誕生日なんだって。知ってた?」

P「へぇ。いや、知らなかった」

友紀「2人でプレゼント選んだりしたの!」

P「どうせだったら、うちに寄ってケーキでも食べていけば良かったのに」

友紀「…ううん。明日から、ちょっと忙しいみたいだし」

P「そっか」
114 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:47:24.77 ID:A4BQZlQT0
友紀「これね、涼から貰ったプレゼント!」

P「おー、リストバンドだ」

友紀「かっこいいでしょ? タオルも貰ったし、早速使っちゃった」

P「似合う似合う。その袋も?」

友紀「これは……自分にプレゼント!」

P「欲張りなやつめ」

友紀「へへへ。プロデューサーは、何をくれるのかなぁ」


P「……あげないって言ったら?」

友紀「FA移籍してやる」

P「大袈裟…」

友紀「誠意は言葉じゃなくってね…」

P「冗談だよ。一応用意してるから、後でな」

友紀「わーい!」
115 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:48:16.96 ID:A4BQZlQT0

P「それにしても、珍しいね」

友紀「なにが?」

P「名前。呼び捨てにしてるの、初めて聞いた」

友紀「あぁー、そうだねぇ…」

P「秋月さんと何かあったの?」

友紀「……ふふっ。それは、プロデューサーにもナイショ」

P「ふーん?」

友紀「女の子には、秘密があるものなんだよ♪」
116 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:50:49.39 ID:A4BQZlQT0

P「……何か変なモンでも食ったか」

友紀「どういう意味?!」

P「だって、そんな女子力に溢れた言葉、普段は使わないでしょ」

友紀「あ、ひっどーい! あたしだって正真正銘、花も恥じらう乙女座の女なんだよ?」

P「いや、それは知ってるけど…」

友紀「……ふんっ。今日はいつもより、女の子の気分なだけだし」

P「女の子の気分、ねぇ」

友紀「ふーんだ」
117 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:51:25.11 ID:A4BQZlQT0

P「なに、少しは女の子扱いした方が良い感じ?」

友紀「…普段はしてないような言い方だね」

P「そんなつもりでもないけどさ」

友紀「良いもん、どうせあたしなんか」

P「なんなら、手ぇぐらい繋いでやろうかなって」

友紀「……っ」

118 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:51:57.39 ID:A4BQZlQT0

P「ははは、なんちゃっ…



キュッ


P「……て?」

119 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:52:29.21 ID:A4BQZlQT0
友紀「…」

P「あの、ユッキさん?」

友紀「左手、空いてたから」

P「お、おう」

友紀「今日くらい良いでしょ」

P「……別に良いけど」
120 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:53:10.10 ID:A4BQZlQT0


友紀「…」ニギ

P「…」

友紀「……良いなぁ、男の人の手」ボソ


友紀「あたしも欲しかったなぁ」

友紀「…なーんて」

121 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:53:48.74 ID:A4BQZlQT0
P「……ほんと、大丈夫かお前」

友紀「…大丈夫だよ」

P「つらいなら、少し休んでいこうか?」

友紀「平気。遊びすぎて、ちょっと疲れちゃっただけだから」

P「疲れてるなら尚更、」

友紀「大丈夫だってば」

P「…そ」

友紀「うん」

122 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:54:36.91 ID:A4BQZlQT0

P「……まぁ、何があったのかは聞かないけどさ」

友紀「そこは聞いてよぉ」

P「あ、聞いても良いなら聞くぞ」

友紀「あー…やっぱりダメ。ナイショ」

P「どっちだ…」
123 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:55:48.21 ID:A4BQZlQT0

P「…その、」

友紀「?」

P「何て言うか…アレだ。えーっと」

P「…んん〜〜…」

友紀「な、なに唸ってるの」

P「……よしっ」
124 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:56:46.96 ID:A4BQZlQT0
P「俺は今から、超恥ずかしい独り言を言います」

友紀「う、うん」

P「できれば、耳を塞いでもらえると助かる」

友紀(手繋いでて塞げないんだけどな)



P「…なんでセンチになってんのかは知らないけど」

P「友紀が女の子で良かったって。俺はずっと思ってるから」

友紀「…へ」
125 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:57:39.35 ID:A4BQZlQT0
P「男だったら、野球の道に進んでたのかもしれない。もしかしたら今頃、プロで活躍してたりして」

P「でももしそうだったら、今のお前とは会えてなかったし、こうして誕生日祝うなんてこともなかったと思う」

P「俺は今こうして横にいてくれる、女の子の友紀が好きだから。この出会いには感謝してるわけ…」

P「…で、だな……」

友紀「…」


P「……っだぁぁあ恥ずかしい!」

友紀「な、なな…っ、」
126 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/14(木) 23:59:21.98 ID:A4BQZlQT0
P「何だコレめっちゃ恥ずかし……」

友紀「す すすっ、すきって…」

P「…待て、もしかしたら今の超キモかったんじゃないか?」

友紀「あうぅぅぅ……っ」

P「落ち着け俺…。深呼吸、深呼吸」フー

友紀「あ、あたしも。吸ってー……」


P「…なんか、すまん。急に変なこと言って」

友紀「う、ううん…」

P「聞かなかったことにしてくれても、構わないから」

友紀「…」
127 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/15(金) 00:00:21.66 ID:DFI7p8B60
友紀「……ふ、ふーん、そっかそっかぁ」

友紀「プロデューサー、あた、あたしが…す、すきなんだ」

P「いや、ちがっ、お前がってそういうことじゃなくて、」

友紀「…きらい?」

P「…嫌いじゃない」

友紀「じゃあ好きってことだね」

P「いやほら、好きっていうのはだな、お前が男じゃなく女だからというところに係ってるのであって」

友紀「へえ〜、ふーん」

P「話をちゃんと…っ」

友紀「好きかぁ、へぇ…」


P「……もういいやそれで」ハァ

128 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/15(金) 00:00:56.36 ID:DFI7p8B60
P「だから耳塞げって言ったんだ…」

友紀「いやぁ〜聞いちゃったものはねぇ」

友紀(女の子で良かった、だって)

友紀「ふふ。そっかぁ」


友紀「……うん、ありがと。えへへっ」

P「…おう」

129 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/15(金) 00:01:31.77 ID:DFI7p8B60
P「……なあ」

友紀「んー?」

P「もう手離して良いか」

友紀「なんで?」

P「すげー恥ずかしいから」

友紀「んー…」


友紀「ダメー♪」ダキッ

P「ちょっ」
130 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/15(金) 00:02:03.03 ID:DFI7p8B60

友紀「あたしも、プロデューサーのこと好きだよっ!」

P「だから、そういう意味じゃ」

友紀「あたしのはそういう意味だから!」グイ

P「どういう……っておい引っ張んな、危ないから!」

友紀「ぎゅーっ」

P「力強すぎだろ! 放せっ」
131 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/15(金) 00:02:42.64 ID:DFI7p8B60

友紀(……公園で待っている間、ずっと考えていたことがある)

友紀(涼の手が、夢を掴む手なら。あたしの手は何のためにあるんだろう、って)


友紀「ね、プロデューサー。聞いて?」

P「聞くけど…これ、歩き辛くない?」

友紀「つらくない!」


友紀(今ちょっとだけ、その答えが分かった気がするよ)

132 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/15(金) 00:03:59.61 ID:DFI7p8B60

友紀「あたしさ、野球が好き」

P「お、おう。知ってるけど」


友紀(あたしの手では、どうしても届かなかった夢があって)


友紀「でね? 今はアイドルも好き!」

P「……何だ突然」

友紀「プロデューサーのことも好きだし、ファンも仲間も、みんなまとめて全部大好きだよ!」


友紀(でもだからこそ、今この瞬間がある。だったら…っ)


友紀(だったら。きっとこの手は、好きなものを掴むための手なんじゃないかって。そう思った!)
133 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/15(金) 00:04:50.57 ID:DFI7p8B60
友紀「こうして好きがどんどん増えてくのって、すっごく幸せなことだなって思うんだ」

友紀「プロデューサーに会えて、ほんとに良かったよ! 好きをいっぱいくれて、ありがとね」

P「わかった、分かったから。一旦離れて…」

友紀「放さないっ」ギュ

P「いっだだだっ! 腕もげる!」


友紀(バットにマイク、ビールでもプロデューサーでも、何でもバッチ来いだよ)

友紀(1度掴んだ"好き"……あたしはもう、手放すつもりはないからね)


友紀「覚悟しててよ? 絶対、ぜーったい離さないから」

友紀「離れたくないってそっちからも言わせるぐらい、あたしのこと、もっと好きになってもらうからさ!」

友紀「これからもこうしてずーっと、あたしとバッテリー組んでいてほしいなっ! プロデューサー!」
134 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/15(金) 00:05:28.17 ID:DFI7p8B60
P「……よくもまぁ、恥ずかしげもなく言えるなお前」

友紀「恥ずかしくなんかないよ? だって本音だもん」

P「さいですか」

友紀「うんっ」


友紀「…なんでこっち見ないの?」

P「見れるかバカ」

友紀「あ、もしかして、照れてる?」

P「うるさい。照れてない」

友紀「やーい照れてるー! 珍しいー♪」

P「しょ、小学生かお前は…」
135 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/15(金) 00:05:59.22 ID:DFI7p8B60

P「……そっちこそ、覚えとけよ」

友紀「んー?」

P「さっき移籍するとかなんとか言ってたけど、そんなの知らん」

P「FAだろうがポスティングだろうが、お前には絶対させてやらないから。いいな」

友紀「…」
136 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/15(金) 00:07:24.71 ID:DFI7p8B60

友紀「え、ちょ、今何て言ったの…?」

P「は?」

友紀「ごめん、周りの音でよく聞こえなくって」



P「……知らん!」スタスタ

友紀「うぁっ、ちょっとー!」

P「くっそぉ…。バカ、あほ、野球脳、たらし、ガサツ、バカ、声でかい、それから……、」

友紀「なんか悪口言われてる気がする!?」

P「うっさい! 帰るぞ、ほら」

友紀「待ってよぉ……とりゃっ」

P「ええい引っ付くな!」

友紀「良いじゃん、くっついてた方があったかいし!」

P「さっき寒くないって言ってたろ」

友紀「急に冷えてきたのっ」

P「嘘つけ」

友紀「あーさむいさむい! 今日は寒いなー♪」

P「やれやれ…」


P「……まぁ、寒いなら仕方ないか。うん」





おしまい

137 : ◆uMEAzbBMSc [saga]:2017/09/15(金) 00:10:31.66 ID:DFI7p8B60
おわり

ユッキも涼ちんも誕生日おめでとう


重大発表する直前ぐらいの時間軸を想定……という補足だけ、最後にさせてください

ディアリースターズと876コラボイベントに思いを馳せつつ

138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/15(金) 02:40:03.81 ID:WPzA9Czpo

乙女なユッキはええのぅ
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