輿水幸子「ボクのなつやすみ」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/11(月) 17:25:49.17 ID:4sMggCAno

二階の、陽当たりのいい廊下を歩いて行った先に、滅多に人の立ち入らない小さな部屋がある。

祖母から聞いた話では、幸子の父親が昔使っていた勉強部屋だという。

幸子は数年前、一度だけそこへ入ったことがある。

その時はまだ小学校低学年だったので中の様子をはっきりと覚えているわけではないが、物が少なくて殺風景な、つまらない部屋だったということはぼんやり記憶に残っている。

「ここ、なんのお部屋?」

「ここはねぇ、おまえのお父ちゃんがおまえと同じくらいの頃から使ってた部屋なんだよ」

幼かった幸子はそんな話を聞かされても何を感じたらいいか分からず、祖母に手を握られながら薄暗い部屋をぼうっと眺めるばかりで、なんとなく居心地の悪い思いがした。

そうして祖母はしばらく黙ったまま幸子の様子を伺った後、「すまんねえ、なんも面白いもんがなくて」と言って静かに扉を閉めた。

幸子にとって、この屋敷での一番古い思い出は、その時の祖母の寂しそうな表情と、同時に自分がなぜだか悪いことをしてしまったような罪悪感の、切ない体験と二重になって心に残っていたのである。


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