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梨子 「ひぐらしのなく頃に」
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76 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 01:05:56.69 ID:dLHNu4/I0
梨子 「曜ちゃん? どうしたの?」
曜 「……あっ、ううん…なんでも」
花丸 「内浦の怒り…。それに触れた者に罰を与えているのは、オラのお寺の仏様だって言われてるんです」
梨子 「そうだったんだ…」
花丸 「そもそも、仏様と神様は全くの別物ずら! 仏様は罰なんて下さないし、そもそもオラのとこの仏様はそこまで器小さくないずら!」
地団駄を踏みながら、花丸ちゃんは誰に向けているわけでもない抗議を繰り返す。
寺で育った者として、それを侮辱されるような噂話は、それほど癪に障るものらしい。
花丸 「だからオラは、この呪いの本当の根源を探すために研究してるんです!」
曜 「……。」
77 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 01:06:31.32 ID:dLHNu4/I0
ルビィ 「は、花丸ちゃん。少し落ち着いて…」
花丸 「はっ…! ご、ごめんなさいずら…」
梨子 「気持ちはわかるよ。でも花丸ちゃんがそう言うってことは、呪いは根も葉もない噂ってこと?」
花丸 「少なくともオラはそう考えてるずら。オラの寺の尊厳のためにも、一刻も早くこの呪いを解き明かすんです!」
梨子 「理由は違くても、目的は同じね。私もこの呪いを解明したいと思ってたの。協力するよ、花丸ちゃん」
花丸 「本当ずら!?」
花丸ちゃんの目が突然キラキラと輝き出す。
この目、この表情は、後輩という立場が使える最大の切り札だと思う。
78 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 01:07:15.35 ID:dLHNu4/I0
花丸 「じゃあ、なにか分かったら教えて欲しいずら!」
梨子 「えぇ、もちろん」
千歌 「梨子ちゃん、そろそろ行かないと時間が…」
梨子 「本当だ…それじゃあね、2人とも」
ルビィ 「はい! …あっ、そうだ。飴よかったら食べてください」
千歌 「いいの!? ありがとう!」
曜 「……ありがと、ルビィちゃん」
79 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 01:07:46.20 ID:dLHNu4/I0
ルビィ 「梨子さんもどうぞ」
梨子 「うん、ありがとう」
貰った飴は、りんご味と書かれた包装紙に包まれていた。
梨子 (今日は、いちご味じゃないんだ)
……? “今日は”?
あれ? なんだろう、この違和感。
ルビィ 「……? どうかしましたか? 梨子さん」
梨子 「…ルビィちゃん。私、前にもこうやってルビィちゃんから飴をもらったことってあったっけ?」
ルビィ 「いえ…そもそもルビィが梨子さんと会ったのは、今が初めてですよ?」
80 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 01:08:11.29 ID:dLHNu4/I0
梨子 「……そう、だよね。ごめんね、変なこと聞いて」
ルビィ 「…? いえ、ルビィは大丈夫ですけど」
千歌 「ほら梨子ひゃん、いふよぉ!」
梨子 「…って、もう飴食べてるし。じゃ、今度こそバイバイ」
花丸 「はい、さようなら」
81 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 01:08:42.10 ID:dLHNu4/I0
千歌 「梨子ひゃん、食べないの?」コロコロ
梨子 「私は後で。だってこれからパフェ食べるんでしょ?」
千歌 「あっ…そうだったぁーっ!!」
梨子 「まったくもう…」
曜 「………。」
梨子 「……? 曜ちゃん?」
顔を俯かせ、黙り込んでる曜ちゃんを不思議に思った。いつも笑っているような曜ちゃんのこんな表情は初めて見た。
…曜ちゃんの頬を伝って、涙が流れ落ちたのを、私は見逃さなかった。
ーーーーーー
ーーーー
ーー
82 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 01:09:41.25 ID:dLHNu4/I0
〜花丸宅〜
善子 「へぇ、じゃあ協力してくれる人が増えたのね。良かったじゃない」
花丸 「頼りになる先輩で心強いずら」
善子 「なによ! 私じゃ心もとないって言うわけ!?」
花丸 「だって善子ちゃん、役に立った試しがないずら」
善子 「何をーっ…! ありとあらゆる呪いをマスターした私より、呪いに詳しい者なんていないわっ!」
花丸 「今のは自白ともとれるけど?」
善子 「ちがわいっ! 私は何もしてないってば!」
83 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 01:10:28.51 ID:dLHNu4/I0
善子 「…で? この前買ってきた本にはなんかヒントはあったの?」
花丸 「ううん、全然。…やっぱり、これは呪いなんかじゃないんだと思う」
善子 「人為的なもの…ってこと?」
花丸 「そう考えるのが一番自然…だと思う」
善子 「だとしたら…一体誰があんなことを」
花丸 「……。」
ふと、沈黙が流れる。
花丸は俯き、なにか言いたげに両手の指を絡ませたり、口先をもごもごさせている。
善子 「…なにか言いたいことあるんでしょ」
花丸 「……うん。実はその…」
84 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 01:11:06.86 ID:dLHNu4/I0
善子 「神具?」
花丸 「うん。淡島神社ってあるでしょ?」
善子 「あぁ、あの山の中にある」
花丸 「あの神社には、幾つか神具が奉納されてるんだけど、実はその中にね…」
善子 「まさか、呪いに関係しそうなものがあったとか?」
花丸 「そうなんずら。…詳しいことは分からないけど、人に使うと、その者のありとあらゆる感情を引き出す神具があるという話を気いたずら」
善子 「ありとあらゆる感情…それがあの狂人化のこと?」
花丸 「そう考えれば、辻褄が合うずら」
85 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 01:11:54.08 ID:dLHNu4/I0
花丸 「その神具の副作用として、使用者はその後、感情を失うと言われてるずら」
善子 「引き出した分を失うってわけね…それなら、狂人化からの無気力症も説明がつく」
花丸 「ただ問題は、その神具がとっくの昔に失われているということで…」
善子 「失われた?」
花丸 「失くしたって言った方が正しいのかな? もう淡島神社に、その神具含め、他のものもほとんど残ってないんずら」
善子 「失くしたって…そんなおもちゃじゃあるまいし…」
花丸 「とにかく、今後は呪いによるものというよりも、オラはその神具によるものと考えるつもり」
善子 「そうね…私も神社について調べておくわ」
86 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 01:12:22.06 ID:dLHNu4/I0
善子 「…色々考えたら、なんだか眠くなってきちゃったわ。ずら丸、ちょっとここで寝かせて」
花丸 「いいけど…おばさんに怒られても知らないよ?」
善子 「だぁーいじょー……ぐぅ…」
花丸 「早っ!? ……はぁ、オラも眠くなっちゃったずら」
花丸 「…おやすみ、善子ちゃん」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
87 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 01:15:42.84 ID:dLHNu4/I0
〜鞠莉の家〜
古びたアパートの一室。鞠莉さんは今ここで一人暮らしをしている。
両親の反対を押し切り、ひとりこの街に残ることを決めた鞠莉さんは、社長令嬢という肩書きに相応しくない暮らしをしている。
梨子 「…その空気清浄機、果南さんの家にもありました」
鞠莉 「それはそうよ。ダイヤが私たちに譲ってくれたんだもの」
梨子 「2台もですか? しかも結構最新型に見えますけど…」
鞠莉 「内浦の怒り…狂人化の原因は感染力の強いウイルスによるものって噂が流れた時があってね」
空になったタンクに水を注ぎ、鞠莉さんは優しく微笑みながら話を続けた。
88 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 01:16:13.10 ID:dLHNu4/I0
鞠莉 「狂人化を引き起こすvirus…その対策方法は空気清浄機とかで出来る限り空気を綺麗な状態に保たせること…」
梨子 「それはお医者さんとかが?」
鞠莉 「さぁ…誰が言ったんだっけ。そもそもウイルスなんて噂に過ぎなかったし」
梨子 「お店とかでもやけに見かけると思ったら、そんな過去があったんですね」
鞠莉 「みんな必死になって空気清浄機を買いに走ってね…。あの時の電気屋さんのニヤケ顔は忘れないよ」
皮肉的にも取れる笑いを浮かべ、つられて思わずこちらも笑いがこぼれた。
鞠莉 「こんなもの買う余裕なんてなかった果南の家とかに、ダイヤは当主さんに上手いこと交渉してpresentしたのよ」
梨子 「あれっ…でも…」
89 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 01:16:55.77 ID:dLHNu4/I0
鞠莉 「黒澤家と私達は敵対してたはず…でしょ?」
梨子 「はい…。鞠莉さんはもちろん、果南さんもホテル建設肯定派だったって聞いたので」
鞠莉 「ふふっ、それには大人…いえ、こどもの事情があったのよ」
梨子 「こどもの事情…?」
鞠莉 「私と果南、そしてダイヤは幼なじみでね。だから周りに隠れて助け合ってるってわけ」
梨子 「もしかして…夏休み中鞠莉さんの姿が内浦から消えたっていうのは」
鞠莉 「ダイヤに匿ってもらってたの。流石に学校の監視下から長く外れると、何されるか分からないからね」
梨子 「……。」
90 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 01:17:34.34 ID:dLHNu4/I0
鞠莉 「…それで? 今日ここに来たのは別の要件があったんでしょ?」
梨子 「はい…その…」
ぎゅっと拳に力を入れる。
…本当に聞いていいことなのか、分からない。でも、聞かないといけない。
深呼吸をし、覚悟を決めて鞠莉さんに質問をぶつける。
梨子 「…千歌ちゃんのこと、鞠莉さんはどう考えているんですか?」
鞠莉 「…高海千歌さん?」
梨子 「はい。…呪いのことで、色々疑いをかけられてるみたいで」
鞠莉 「…さては、果南のこと知っちゃったでしょ?」
梨子 「…はい」
91 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 01:18:29.47 ID:dLHNu4/I0
梨子 「幼馴染みにさえ疑われるなんて、とてもじゃないけど見てられなくて」
鞠莉 「うん、そうだよね」
梨子 「鞠莉さんがもし疑ってないのだったら、果南さんを説得してほしいと…!」
鞠莉 「うーん…説得かぁ」
鞠莉 「残念だけど、私も千歌さんを全く疑ってないわけじゃないよ?」
梨子 「…っ! 鞠莉さん…」
92 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 01:18:58.38 ID:dLHNu4/I0
鞠莉 「もしかしたらこの呪いは本当に超常現象なのかもしれない。けど人為的なものである疑いがある以上、真っ先に疑われそうなのは黒澤家か高海家。それは分かるでしょ?」
梨子 「でも…っ!」
鞠莉 「でもno problem。果南もきっと、本気で千歌さんを疑ってるわけじゃないから」
梨子 「でもそんな風には…」
鞠莉 「梨子、こんなこと言うのは都合がいいって言われるかもだけど」
鞠莉さんは髪をかきあげ、真剣な表情でこちらを見つめる。反射的に、背筋を伸ばす。
鞠莉 「まずはあなたが、みんなを信じてみたら?」
梨子 「鞠莉さん…」
93 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 01:20:14.72 ID:dLHNu4/I0
鞠莉 「それに、果南の説得なら、もう大丈夫だと思うよ?」
梨子 「えっ…それって…」
鞠莉 「…ほら、もう遅いよ。今日は帰りなさい」
梨子 「…はい。お邪魔しました、鞠莉さん」
鞠莉 「Bye、梨子」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
94 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 01:21:08.12 ID:dLHNu4/I0
〜帰り道〜
鞠莉 『まずはあなたが、みんなを信じてみたら?』
鞠莉さんに言われたその一言が、ずっと頭の中でぐるぐると回っていた。
…そういえばそうだ。一番人のことを信じようとしてなかったのは、私だったかもしれない。
ひとり夜道を歩いていると、後ろから視線を感じた。恐る恐る振り向くと、そこにいたのは見慣れた顔だった。
梨子 「千歌ちゃん…! 何してるのこんな時間に」
千歌 「それはこっちのセリフだよ、梨子ちゃん」
千歌ちゃんが少しづつ、ゆっくりと歩み寄ってくる。…相手は千歌ちゃんだと分かっているのに、得体の知れない圧力に、思わず後ずさってしまう。
千歌 「さっき、鞠莉さんの家にいたよね?」
95 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 01:21:56.32 ID:dLHNu4/I0
梨子 「う、うん…」
千歌 「何話してたの?」
梨子 「な、何でもないよ。ただの世間話だよ」
千歌 「ふーん…そっかぁ」
千歌ちゃんが髪をかきながら、はぁと息を漏らす。そして再びこちらを向いたかと思うと、普段の千歌ちゃんからは想像出来ないような鋭い目線で、私を睨みつけた。
千歌 「さっきからね、くしゃみが止まらないんだ。誰か千歌の噂話でもしてるのかなぁって」
梨子 「そ、そうなんだ…」
千歌 「ねぇ梨子ちゃん、嘘ついてるでしょ」
96 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 01:22:52.70 ID:dLHNu4/I0
梨子 「わ、私嘘なんか…!」
千歌 「梨子ちゃん、私のこと疑ってるんでしょ? それを鞠莉さんに相談して…」
梨子 「違う! 私は…」
千歌 「嘘だッッッッ!!!!!」
千歌ちゃんの叫びに、体が芯から震える。
今まで溜め込んできた、我慢してきたものを一気に吐き出すかのように、千歌ちゃんは叫び、涙を流した。
千歌 「ねぇなんで…? なんで誰も私を信じてくれないの…?」
梨子 「千歌ちゃん、聞いて! 私は千歌ちゃんのこと信じてる!」
千歌 「だからそれが嘘だって言ってるんだよ!」
97 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 01:24:31.97 ID:dLHNu4/I0
梨子 「千歌ちゃん…」
千歌 「もう無理なんだよ…分かってる。自分でもわかるんだよ」
千歌ちゃんは背中に手を回し、ジリジリと近寄ってくる。
千歌 「私はもう誰からも信じられないし、私も誰も信じられない」
梨子 「千歌ちゃん、そんなこと…」
千歌 「だから…私はっ!!」ブンッ!
梨子 「ひぃっ…!」
奇跡的に千歌ちゃんの包丁を避けられた。
しかし千歌ちゃんの攻撃は止まらない。私の体を刺そうと、一切手を休める様子はない。
98 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 01:25:23.75 ID:dLHNu4/I0
千歌 「避けないでよ…早く楽にしてあげたいんだからさぁっ!」
……だめだ、話が通じるとは思えない。
これが…狂人化だろうか?
梨子 (とにかく…逃げないとっ!)
千歌 「あはは…あはははははははっ…!!! 待ってよぉ…梨子ちゃんっ!!!」
99 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 01:25:59.43 ID:dLHNu4/I0
梨子 「はぁっ…はぁっ…! そうだ、曜ちゃんのところ! 曜ちゃんに会えば千歌ちゃんも落ち着くかも!」
曜ちゃんの家に向かって全速力で走る。
後ろから聞こえる足音はやむ気配すら見せないが、もう後ろを確認する余裕はない。
梨子 「…着いた! 曜ちゃん、曜ちゃぁんっ!!」
曜 「……梨子ちゃん? どうしたの…って、千歌ちゃん?」
梨子 「助けて! とにかく中に入れて!」
千歌 「…曜ちゃんに匿ってもらう気? 無駄だよ、梨子ちゃん」
ーーーーーー
ーーーー
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100 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 01:26:42.28 ID:dLHNu4/I0
〜曜の部屋〜
曜 「千歌ちゃん…もしかして…」
梨子 「多分、狂人化だと思う」
曜 「そっか…そうなんだね」
梨子 「なんで!? 呪いの対象になるのは、街を裏切った人だけじゃ…!」
曜 「うん…そういうことになってるね」
梨子 「そういうことになってる? ねぇ、どういうこと?」
1階から、窓ガラスの割れる音が聞こえてきた。
千歌ちゃんが階段を1段1段のぼり、徐々に私たちのいる部屋に近付いてくる。
曜 「……ごめん、私行くよ」
梨子 「曜ちゃん!? 何言ってるの、危ないよ!」
101 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 01:27:32.46 ID:dLHNu4/I0
曜 「梨子ちゃん。私、梨子ちゃんに伝えなきゃいけないことがあるんだ」
梨子 「伝えなきゃいけないこと…?」
曜 「今千歌ちゃんがこんな状態になっちゃってるのは、全部私のせいなんだ」
梨子 「えっ……?」
曜 「だってね…」
曜 「内浦の怒りは、私の作り話なんだよ」
梨子 「……嘘」
102 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 01:28:13.21 ID:dLHNu4/I0
曜 「建設現場で次々と狂人化事件が起きて、真っ先に千歌ちゃんの家が怪しまれた」
曜 「私、見てられなかった。千歌ちゃんが周りから追い詰められて、どんどん人間不信になってくのは、見てる私でさえ辛かった」
梨子 「だから、千歌ちゃんから疑いの目を逸らすために…」
曜 「うん、作ったんだ。呪いの逸話を」
梨子 「そんな…」
曜 「でも、無意味だった。呪いの話が広まっても、結局その呪いを裏から操っているのは高海家だとか言われて…」
梨子 「……。」
103 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 01:28:53.90 ID:dLHNu4/I0
曜 「そして余計、千歌ちゃん達に非難が浴びせられた。狂人化事件の被害者とか、その遺族とかからね」
扉が突然、大きな音を立てて揺れる。
千歌ちゃんが向こう側から、扉を力任せに叩き続けている。
曜ちゃんはドアノブに手をかけ、鍵をゆっくりと回し始めた。
梨子 「……! 曜ちゃん、ダメぇっ!」
曜 「梨子ちゃん、お願いがあるんだ。この馬鹿げた呪いを…狂人化を引き起こしてる犯人を、探してほしい」
梨子 「そんな…私なんかに…」
曜 「できる。梨子ちゃんなら出来るよ。だって…」
104 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 01:29:31.53 ID:dLHNu4/I0
曜 「梨子ちゃんは、人を信じる天才だもん」
梨子 「……っ!!」
曜ちゃんが勢いよく扉を開けると、外にいた千歌ちゃんが驚き仰け反る。千歌ちゃんが体制を崩したところで、曜ちゃんが体を押さえつける。
梨子 「曜ちゃん…っ!」
曜 「梨子ちゃん、早く!!」
梨子 「曜ちゃん…! 曜ちゃんっっ!!」
曜 「……信じてるよ、梨子ちゃん」
梨子 「ううっ…うわぁぁぁっ!!!」ダッ!!
105 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 01:30:02.25 ID:dLHNu4/I0
走った。
ただひたすらに、走った。
後ろから聞こえる、曜ちゃんのだんだん小さくなっていく声と、千歌ちゃんの叫び声に耳を塞ぎながら。
梨子 「ごめんなさい…! ごめんなさい!」
梨子 「私がちゃんと、千歌ちゃんに気持ちを伝えられていれば!」
梨子 「もう絶対に失敗しない…! 絶対にっ!!」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
106 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 01:30:33.98 ID:dLHNu4/I0
〜その頃 果南宅〜
果南 「くそっ…! 治まれ…治まれってばぁっ!」
自分の頬を何度も殴りつける。
少し油断すると、理性が完全に失われてしまいそうになる。狂人化まであと1歩なのだろうと、自分でもわかるくらいの状態だ。
果南 「なんで…! 私はまだこんなとこで…倒れるわけにはいかないのにっ!!」
果南 「鞠莉…守れなくてごめん。ダイヤ、裏切ってごめん」
ふと机に目をやると、持って帰ったまま結局手をつけていなかったみかんが一つ、置かれていた。
果南 「……私、最低だ。幼馴染みのことすら、信じてあげられなかったなんて」
107 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 01:31:00.76 ID:dLHNu4/I0
皮を丁寧に剥き、みかんを1片口に放り込む。
果南 「……おいしぃ…お…いし…ぃよ…!」
果南 「千歌…疑ってごめん。こんなに美味しいみかん、捨てちゃってごめん…」
果南 「………ごめんなさい、みんな」
みかんが床に叩きつけられる音をきっかけに、私の意識は完全に闇の中へと消えていった。
ーーーーーー
ーーーー
ーー
108 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 01:31:36.87 ID:dLHNu4/I0
〜夜道〜
地獄…今、沼津が完全にその状態にある。
千歌ちゃんだけじゃなかった。街の人々のほとんどが、狂人化している。
梨子 (なんで…なんでこんなことにっ!?)
正気を保っている私を狙って、街の人々が襲いかかってくる。千歌ちゃんからだけならまだしも、この人数相手では流石になす術がない。
撒いてもまいても、次から次へと狂人化した人が湧き出てくる。
……ついに囲まれた。
梨子 (ここまで……なの? 曜ちゃん、私…!)
109 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 01:32:14.72 ID:dLHNu4/I0
頭に鈍い感覚を覚えた。
頭を触ると、掌にベットリと血がついていた。
地面の冷たさを直に感じながら、決意する。
もし、もう1度チャンスが貰えるなら。
もしもう一度、みんなを救える機会が得られるのなら。
絶対に失敗したりしない。
必ずみんなを…
そして、必ず呪いの原因を…
梨子 (……絶対に、突き止める…!!)
ーーーーーー
ーーーー
ーー
110 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 01:32:51.41 ID:dLHNu4/I0
ひぐらしのなく頃に
【嘘話し編 ―完―】
111 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 01:33:41.71 ID:dLHNu4/I0
本日はここまでとさせていただきます
読んでいただきありがとうございました。第3編に続きます
112 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 20:48:28.34 ID:dLHNu4/I0
【神隠し編】
113 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 20:49:01.82 ID:dLHNu4/I0
〜バス 車内〜
千歌 「私、実は知ってるんだ」
果南さんの家へと向かうことになった私たち3人は、バスの最後尾に並んで座っていた。
千歌ちゃんはみかんが沢山入った紙袋を両腕の中に抱きながら呟いた。
梨子 「知ってるって、何を?」
千歌 「果南ちゃん、私が持っていったみかん、毎回食べずに捨ててるの」
梨子 「そ、そんな…!?」
114 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 20:50:12.08 ID:dLHNu4/I0
千歌 「あっ、勘違いしないでね!? 果南ちゃんはそんな悪い人じゃないの! ちゃんと訳があって…!」
梨子 「訳…?」
千歌 「ほら、私色々と疑われてる立場だからさ。果南ちゃんも疑心暗鬼になってるんだよ」
梨子 「だからって、捨てることないじゃない…」
千歌 「でももし私が呪いを引き起こしている犯人とかだったら、みかんに毒を盛るくらいは平気ですると思うよ」
梨子 「……まさか、本当に毒を?」
千歌 「そんな訳ないじゃん! 入れてないよ!」
曜 「そうそう。それに千歌ちゃんにそんな器用なことは出来ないよ」
115 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 20:51:07.04 ID:dLHNu4/I0
曜ちゃんは紙袋からみかんを一つ取り出し、皮をむいて1片口の中に放り込んだ。
千歌 「むー、失礼な」
梨子 「曜ちゃんは千歌ちゃんのこと、本当に信頼してるんだね」
曜 「勿論。親友は信じるものでしょ」
千歌 「よ、曜ちゃん…!」
梨子 「でも幾ら何でも、 呪いなんて根も葉もない噂を広めるのはちょっと…」
曜 「そ、それは千歌ちゃんのためだもん!」
千歌 「全く役に立たなかったけどね」
曜 「ち、千歌ちゃんまで…」
千歌 「あはは、冗談だってば」
116 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 20:51:36.25 ID:dLHNu4/I0
千歌ちゃんは曜ちゃんの持っていたみかんを2片ちぎりとると、自分と私の口にそのみかんを押し込んだ。
千歌 「でもね、私嬉しかったよ。疑いこそ晴れなかったけど、自分のためにそこまでしてくれる人がいるってだけで、十分支えになったよ」
曜 「千歌ちゃん…」
梨子 「…みかん、おいしいね」
千歌 「よかったら幾つか持って帰って?」
梨子 「うん、ありがとう」
117 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 20:52:12.64 ID:dLHNu4/I0
曜 「…でも、本当に原因はなんなんだろうね」
梨子 「呪いが作り話となると、しっかりとした原因があることになるよね」
千歌 「一時期、ウイルス性の感染症が原因って噂されたことあったんだよ」
梨子 「そうなの?」
曜 「そうそう。みんな対策に必死になってね。ほら、ここら辺ってどこに行っても大体空気清浄機が置いてあるでしょ?」
梨子 「そういえば学校にも置いてあったね」
曜 「それがその時の名残でね。確か黒澤家が、みんなに空気清浄機を買うように呼びかけたんだよ」
118 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 20:53:04.12 ID:dLHNu4/I0
千歌 「学校には市から提供されたんだよね。本当、黒澤家の力って凄いよ…」
梨子 「で、結局それは効果あったの?」
曜 「うーん…微妙かな。そもそもウイルスっていうのも噂に過ぎなかった訳で、それが本当に意味があったのか分からない」
千歌 「現に、設置後でも狂人化は起きてたもんね…。確かに数は激減したけど」
梨子 「……なにか、別の原因があるのかも」
思考を巡らせていると、目的地であるバス停の名前がアナウンスされた。
慌ててボタンを押し、バスから降りる。
みかんを数個入れただけなのに、鞄が随分重くなったように感じた。
ーーーーーー
ーーーー
ーー
119 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 20:54:20.96 ID:dLHNu4/I0
〜果南宅〜
果南 「はい、これお返し」
千歌 「また干物ー!?」
果南 「文句は母さんに言ってよ」
果南さんは洗剤で赤く荒れてしまっていた手にハンドクリームを塗りながら、千歌ちゃん達と談笑していた。
こうして見ると、この2人が疑い疑われている関係とは到底思えない。
千歌 「…じゃ、そろそろ帰ろっか」
果南 「今日は早いね。なんか用事でもあるの?」
120 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 20:54:50.60 ID:dLHNu4/I0
曜 「駅前で待ち合わせてる人がいるんだ。だからそろそろ行かないと」
果南 「そっか、じゃあ急がないと」
梨子 「お邪魔しました、果南さん」
千歌 「お邪魔しましたー」
果南 「……うん、ばいばい」
121 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 20:55:26.80 ID:dLHNu4/I0
曜 「…果南ちゃん、今回は食べてくれるかな」
千歌 「どうだろう。…多分無理じゃないかな」
梨子 「……あっ、ごめん! 私、果南さんの家に忘れ物しちゃったみたい…」
曜 「本当に? じゃあ戻ろう」
梨子 「あっ、いいよいいよ。先に駅行ってて」
千歌 「…分かった。じゃあ待ってるね」
梨子 「うん、ごめんね」
曜 「ねぇ千歌ちゃん。梨子ちゃんもしかして…」
千歌 「…うん、多分」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
122 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 20:56:28.23 ID:dLHNu4/I0
〜果南宅〜
梨子 「…果南さん」
果南 「…っ!? り、梨子!?」
果南さんの手に持たれていたゴミ袋に目をやる。…何十個ものみかんが、中に入れられていた。
果南 「駅前に向かってたんじゃ…」
梨子 「…気になったんです。そのみかんのこと」
果南 「バレちゃったか、食べてないこと」
123 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 20:57:00.63 ID:dLHNu4/I0
梨子 「千歌ちゃんがせっかく持ってきてくれたんですよ?」
果南 「そんなことは分かってる…! でも仕方ないじゃんか。もう私は…」
梨子 「信じられないですか? 幼馴染を」
果南 「幼馴染みだとか、そうじゃないとか関係ない。…もう私は誰も信じられないんだよ」
梨子 「…街の人たちから受けた仕打ちのせいですか?」
果南 「……。」
果南さんはゴミ袋を傍らに置き、髪をそっとかきあげる。
124 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 20:57:32.53 ID:dLHNu4/I0
果南 「私が必死に消してたあの落書き…実は誰がやったのかだいたい検討はついてる」
梨子 「そうだったんですか?」
果南 「その人たちはお父さんとも仲良くしてて…時々一緒にご飯を食べに行ったりもした。だけど…」
梨子 「狂人化事件が起きてから、周りの態度が変わった…ですよね?」
果南 「厳密には違うかな。お父さんが小原家と提携して、事業を始めるってことが周囲に伝わった時点で、周りの対応は冷たくなった」
果南 「…人の友情とか信頼とか、こんな簡単に崩れるんだなって知った」
125 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 20:58:25.44 ID:dLHNu4/I0
果南 「そもそも目に見えもしないものを信じていた私が馬鹿だったんだよ」
梨子 「果南さん…」
果南 「千歌だって、私がこんなことしてるって知ったら、きっとすぐに私のことなんて嫌いになる」
梨子 「そんなこと…!」
―その時、果南さんの目が突然大きく見開かれた。信じられないものを見た、そんな風に。
後ろを振り返ると、そこには千歌ちゃんの姿があった
果南 「千歌…!」
梨子 「千歌ちゃん!? それに曜ちゃんも…駅に行ったんじゃ」
126 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 20:59:17.74 ID:dLHNu4/I0
千歌 「だめだよ梨子ちゃん、嘘なんかついちゃ。忘れ物なんてしてなかったくせに」
梨子 「……ごめん」
千歌ちゃんはゴミ袋に目をやる。
捨てられたみかんを見て「やっぱり」と呟き、悲しげに微笑んだ。
果南 「千歌…! 違う、これは…!」
千歌 「いいよ果南ちゃん。私知ってたんだ、いつもみかんが食べられてないって」
果南 「そんな…」
曜 「千歌ちゃん、知ってていつも果南ちゃんにみかんを私続けてたんだよ。いつか自分を信じて、食べてくれる日が来るって」
127 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 20:59:47.52 ID:dLHNu4/I0
梨子 「…本当に美味しいんですよ、このみかん」
自分の鞄からみかんを取り出し、果南さんに見せる。
果南 「そのみかん…千歌のやつ?」
梨子 「はい。いくつか貰ってたんです」
皮をむき、みかんを1片食べてみせる。
…うん、やっぱりおいしい。
梨子 「果南さん、みんなに信じてもらえなくなって、いつしか果南さん自身も誰も信じられなくなっちゃったんですよね」
果南 「あ、あんたに何が分かるのさ!」
128 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 21:00:15.50 ID:dLHNu4/I0
梨子 「…何となくですけど、分かる気がするんです。微かですけど残ってるんです。人を信じることが出来なかったから起きてしまった惨劇を」
曜 「梨子ちゃん…」
梨子 「…これも、誰から聞いたか忘れちゃったんですけど」
『まずはあなたが、みんなを信じてみたら?』
梨子 「人から信じられるためには、まずは自分がみんなを信じてみようって、そう思うんです」
手に持っていたみかんを1片ちぎり、果南さんに渡す。
129 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 21:00:55.54 ID:dLHNu4/I0
果南 「まずは…自分が…?」
千歌 「果南ちゃん、私ね…!」
千歌 「私、果南ちゃんがみかんを捨ててるって知った後でも、果南ちゃんを嫌いになんてなったこと一度もなかったよ」
果南 「どうして…」
千歌 「だって私、果南ちゃんのこと大好きなんだもん!」
果南 「……っ!」
130 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 21:01:31.41 ID:dLHNu4/I0
曜 「…果南ちゃん、これが千歌ちゃんの本当の気持ちだよ」
梨子 「この言葉なら私、信じてもいいと思います」
果南 「……。」
果南さんは手のひらの上のみかんをじっと見つめ、次第にその目に涙を浮かべ始めた。
果南 「…後輩に諭されるなんて、私もまだまだだなぁ…」パクッ!
千歌 「…! 果南ちゃん!」
梨子 「食べて…くれた!」
131 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 21:02:29.23 ID:dLHNu4/I0
果南 「……すっぱい」
千歌 「あはは…果南ちゃんがなかなか食べてくれないから、旬が過ぎちゃったんだよ」
果南 「…冬に持ってくるの、待ってるよ」
千歌 「……! うんっ!!」
132 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 21:02:59.58 ID:dLHNu4/I0
曜 「…ありがとう、梨子ちゃん」
梨子 「そんな、私は何も…」
曜 「ううん。梨子ちゃんのお陰だよ。私は何も出来なかったから」
梨子 「…私は人を信じることしか出来ないから」
曜 「なんか、懐かしいフレーズだなぁ、それ」
梨子 「それはそうよ、だって…」
梨子 「曜ちゃんが言ってくれたんだもん。私は人を信じる天才だって」
曜 「…?」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
133 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 21:16:14.36 ID:dLHNu4/I0
〜駅前〜
千歌 「ルビィちゃーん! お待たせー!」
ルビィ 「あっ、千歌さん! …どうしたんですか? なんか目の周りが赤いような…」
曜 「あぁ、さっき果南ちゃんちで泣い…」
千歌 「なんでもないなんでもないから!」
梨子 「恥ずかしがることないのに…」
曜 「…で、どうしたの? 急に呼び出したりなんかして」
ルビィ 「それが実は!」
134 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 21:16:52.09 ID:dLHNu4/I0
梨子 「呪いの正体が分かった!?」
ルビィ 「多分…ですけど」
曜 「やっぱり、人為的なものだったってこと?」
ルビィ 「詳しい話は、花丸ちゃんから…」
千歌 「花丸…ちゃん?」
花丸 「お待たせずらー!」
梨子 「あぁ…あの子が花丸ちゃん?」
135 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 21:17:36.54 ID:dLHNu4/I0
花丸 「はじめまして。国木田花丸、1年生です」
ルビィ 「花丸ちゃん、色んな本とか読んで、呪いについて調べてたんです」
千歌 「で!? 原因ってなんだったの!?」
花丸 「まだ確定ではないんですけど…」
花丸ちゃんは淡島神社に祀られていたと言う、とある神具の話をしてくれた。
どうやらその神具を使うと、人の感情のありったけを引き出し、その後無気力症に陥らせると言う。
曜 「…話を聞く限り、内浦の怒りと一致してるね」
梨子 「てことは、その神具が使われたってこと?」
花丸 「まだそれは分かりません。でもそう考えていいと思います」
136 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 21:18:05.58 ID:dLHNu4/I0
千歌 「もうすぐ分かるかもしれないんだね、この呪いを引き起こした犯人が」
花丸 「取り敢えずオラは、この神具について調べを進めるずら」
梨子 「私達も、神具のことを知ってる人がいないか調べてみるね」
ルビィ 「…いよいよ、なんですね」
曜 「あれっ、そういえばルビィちゃん、こんなことして大丈夫なの?」
梨子 「どういうこと? 曜ちゃん」
137 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 21:18:44.03 ID:dLHNu4/I0
曜 「いや、これでもルビィちゃん黒澤家の娘だし」
ルビィ 「これでもって…」
曜 「ダイヤさんとかはなるべく呪いの詳しい話について、関わらないようにしてたイメージがあるから」
ルビィ 「……。」
梨子 「黒澤家も色々疑われてるみたいだからね…」
ルビィ 「…ルビィは大丈夫なんです」
138 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 21:19:20.70 ID:dLHNu4/I0
千歌 「大丈夫…ってどういうこと?」
ルビィ 「確かに、黒澤家内では極力呪いに関する発言をしないようにと言われてます」
曜 「じゃあ…」
ルビィ 「でもルビィはいいんです。だって…」
ルビィ 「ルビィはもう、黒澤家の人間じゃないんです」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
139 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 21:21:16.78 ID:dLHNu4/I0
〜2年前〜
ルビィ 「お母様…今なんて?」
黒澤母 「習い事を全てやめて良いと言ったのです。近頃やる気も無かったでしょう?」
ルビィ 「でも、今まで何が何でも続けさせようとしてたのに、どうして…!」
黒澤母 「あなたをおもってのことですよ、ルビィ」
ルビィ 「ルビィのことを…?」
140 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 21:22:06.42 ID:dLHNu4/I0
黒澤母 「……それと、上京したいということでしたが、大学は東京の大学を受けなさい」
ルビィ 「で、でも! 大学はここからでも通える所にしなさいって!」
黒澤母 「確かに、黒澤家の血を継ぐものとして、本来はこの地にとどまるべきです」
ルビィ 「なら、ルビィもお姉ちゃんみたいに…」
黒澤母 「ルビィッ!!」
ルビィ 「ぴぎっ…!?」
141 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 21:22:48.62 ID:dLHNu4/I0
黒澤母 「あなたは一度、黒澤家という呪縛から開放されるべきです。今のままの環境では、あなたのためにはなりません」
ルビィ 「そんな…ルビィは…! 黒澤家の者として誇りを持って、毎日毎日…!」
黒澤母 「ルビィ、あなたは自由になれるのですよ? 私は、あなたの可能性に期待しているのです」
ルビィ 「……そういう、ことなんですね」
黒澤母 「ルビィ…?」
142 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 21:23:18.66 ID:dLHNu4/I0
ルビィ 「…習い事、辞めます。大学は東京に行こうと思います」
黒澤母 「…えぇ。あなたはそれで良いのですよ」
ルビィ 「私は、黒澤家の者として未熟でした。ご期待に応えられず、申し訳ありませんでした」
ルビィ 「……“お母さん”」
――私は、黒澤家から捨てられた。
私はお姉ちゃんみたいにはなれなかった。
私が、未熟だったから。
ーーーーーー
ーーーー
ーー
143 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 21:23:56.79 ID:dLHNu4/I0
梨子 「…そんなことが」
ルビィ 「ルビィが悪いんです! お母さんの望むように育つことが出来なかったから…」
花丸 「ルビィちゃん、そんなこと…」
曜 「でもだったら、見返してやらなきゃ!」
ルビィ 「見返す…?」
千歌 「そうだよ! 呪いの原因を解明して、黒澤家の疑いを晴らせば!」
梨子 「うん、きっとお母さんも認めてくれるよ」
ルビィ 「……本当ですか?」
144 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 21:24:25.98 ID:dLHNu4/I0
花丸 「ルビィちゃん、一緒に頑張るずら!」
ルビィ 「…うん! ありがとう花丸ちゃん! じゃあさっそく調べに行こう!」
花丸 「あっ、ルビィちゃん!? 待ってよー!」
梨子 「…行っちゃった」
千歌 「ルビィちゃん、相当嬉しかったんだろうね」
145 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 21:25:03.95 ID:dLHNu4/I0
曜 「…ルビィちゃん、優しい子なんだ。だから、ダイヤさんみたいにはなれなかったんだ」
梨子 「…黒澤家の器じゃなかったってこと?」
千歌 「ひどいよ! だからって娘をそんなふうに扱うなんて!」
曜 「…ルビィちゃんのためにも、早く呪いの謎を解かないと!」
千歌 「そうだね…私たちがやらないと!」
梨子 「…黒澤家なら、何か知ってるんじゃないかな」
146 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 21:25:40.50 ID:dLHNu4/I0
曜 「神具のこと?」
梨子 「うん…。この街のトップなら、この街のことなんでも知ってるんじゃないかなって」
千歌 「でも危険だよ! もしかしたら、闇の中に葬られたり…!」
曜 「ドラマの見すぎだよ千歌ちゃん」
梨子 「でも、何もないとは言いきれない」
曜 「…行くんなら、用心しなくちゃね」
147 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 21:26:14.11 ID:dLHNu4/I0
梨子 「それに私、ルビィちゃんのことも聞きたい。どうしてルビィちゃんを捨てるようなことをしたのか」
曜 「それは私も気になる。…結局、最終的に黒澤家に行くことになるのは避けられなさそうだね」
千歌 「…問題は、いつ行くかだね」
梨子 「出来ればルビィちゃんが家にいない時がいいよね。…となると」
曜 「じゃあ今度の土曜日、私がルビィちゃんを呼び出すよ。その間に2人で行くって感じでどうかな」
千歌 「…うん! それでいこう」
148 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 21:27:06.40 ID:dLHNu4/I0
梨子 「じゃあ3日後…千歌ちゃんの家に集合で」
千歌 「うん。…じゃあ行こっか」
千歌 「パフェ食べに!」
曜 「忘れてなかったんだ…」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
149 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/10(日) 21:27:41.59 ID:dLHNu4/I0
本日はここまでとさせていただきます。
神隠し編、続きます
150 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 21:58:34.75 ID:GPWsP05p0
〜3日後 果南宅〜
果南 「…さすがに毎日みかん食べると飽きるよ。こんなに食べられるかな…」
みかん、確かに美味しいんだけど。
飽きたとは口にしながらも、不思議なことに食べる手は止まらない。
果南 「…あっ、ダイヤからメールだ。珍しいな」
果南 「……。……嘘」
果南 「大変っ…千歌達にも早く伝えないと…!」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
151 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 21:59:26.21 ID:GPWsP05p0
〜その頃 黒澤家前〜
千歌 「携帯…切った方がいいよね。会話中に携帯とか鳴らしたら日本刀で斬られるかも…!」
梨子 「千歌ちゃんは黒澤家をなんだと思ってるの…?」
千歌 「まぁ冗談はこのくらいにして…」
梨子 「半分本気だったでしょ」
千歌 「…ルビィちゃんはいないよね?」
梨子 「朝には外出したって。多分そろそろ曜ちゃんと合流する頃だと思うよ」
千歌 「すごいなぁ…私なんて待ち合わせのギリギリに家出るのに」
152 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 22:00:15.85 ID:GPWsP05p0
梨子 「千歌ちゃんは時間にルーズすぎ。…さて、そろそろ行こっか」
千歌 「うん…。緊張するなぁ…」
梨子 「昔は協力関係だったんでしょ。その時の感覚で行けば大丈夫よ」
千歌 「うん、頑張る!」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
153 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 22:00:50.74 ID:GPWsP05p0
〜黒澤家 客間〜
黒澤母 「…………。」
ダイヤ 「…………。」
千歌 「…………。」
梨子 「…………。」
千歌 (ほ、ほら梨子ちゃん! なにか話してよ!)
梨子 (えぇっ!? 無理よ、こんな空気で話を切り出すなんて…)
千歌 (私だって無理だってぇ…)
黒澤母 「……あの」
千歌 「ひゃいっ!?」
154 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 22:01:33.56 ID:GPWsP05p0
黒澤母 「なにか御用があったのではないですか? 高海さんがどうしてもと仰るので、こちらも予定をあけたのですが…」
千歌 「ご、ごめんなさい! 用事はちゃんとあって、その…」
ダイヤ 「……はぁ。あなた方2人で来られたということは、あの話でしょう?」
梨子 「……はい。内浦の怒りについて、ダイヤさんが知っていることを教えて欲しいんです」
黒澤母 「申し訳ありませんが、黒澤家の敷地内でそのような話は…」
梨子 「お願いしますっ! どうしても、この呪いの原因を突き止めなくちゃいけないんです!」
155 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 22:02:09.06 ID:GPWsP05p0
黒澤母 「…あなた、過去に何かありまして?」
梨子 「えっ…?」
黒澤母 「この街に越してきて1ヶ月程と聞きます。それなのにそれほどのお覚悟…過去に何か呪いによる被害を受けたように感じます」
千歌 「梨子ちゃん…」
ダイヤ 「あなたの目は、まるで狂人化事件の被害者の目と同じです。この呪いに対して、確かな恨みがあるような…」
黒澤母 「ダイヤさん」
ダイヤ 「…失礼しました、お母様」
156 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 22:02:51.11 ID:GPWsP05p0
黒澤母 「…私共とて、呪いの原因究明を諦めた訳ではありません。しかし、ウイルス性の感染症などという根も葉もない噂を信じ、市民に警告をするような有様」
ダイヤ 「私共も、もうお手上げの状態なのです」
千歌 「…梨子ちゃん、どう思う?」
梨子 「…嘘をついてるようには思えない。問題は、神具のことを認知しているかどうか」
ダイヤ 「神具…? 神社などに祀られているものですか?」
梨子 「淡島神社…かつてあの神社に、とある神具が祀られていたことをご存知ですか?」
157 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 22:03:21.90 ID:GPWsP05p0
黒澤母 「淡島神社のことは存じておりますが、神具のことは今初めて…」
千歌 「黒澤家でも、知らないことはあるんですね」
梨子 「ちょっ…千歌ちゃん!」
黒澤母 「ふふっ、黒澤家とて、街のことを隅から隅まで把握出来ている訳ではありません。もし全てを知っていたら、そもそもこんな呪いにこの街を蝕ませたりするものですか」
当主様は自虐的に笑って見せた。
…なんだか、必要以上に緊張していたことが、馬鹿らしく思えた。
黒澤母 「…それで? その神具とやらがこの呪いに関係しているとでも?」
158 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 22:04:20.80 ID:GPWsP05p0
梨子 「はい。実はその神具は人に使うと、その者のありったけの感情を引き出し、その後に無気力症に陥れるらしいんです」
ダイヤ 「…話を聞く限り、内浦の怒りと一致していますわね」
黒澤母 「淡島神社のことの資料でしたら、書庫に幾らかあるかも知れません。すぐに探させます」
当主様は使いに書庫から淡島神社の資料を探すよう命じ、手元にあったお茶を上品に飲み干した。
ダイヤ 「…では、本が見つかりましたら私からお伝えします」
黒澤母 「よろしくお願いします、ダイヤさん。…では、私はこれで」
梨子 「待ってください! …もう一つ聞きたいことが」
159 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 22:04:52.10 ID:GPWsP05p0
ダイヤ 「聞きたいこと?」
千歌 「……。」
梨子 「はい。ダイヤさんの妹…黒澤ルビィちゃんのことです」
黒澤母 「…っ! あなた…!」
梨子 「…その反応、やっぱり何もないとは思えませんね」
梨子 「単刀直入にお聞きします。どうして実の娘を捨てるような真似をしたんですか?」
黒澤母 「……? 捨てる?」
160 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 22:05:40.95 ID:GPWsP05p0
梨子 「ルビィちゃんから直接聞きました。私が未熟だったから、黒澤家に見捨てられた…と」
ダイヤ 「ルビィ、そんなことを…」
黒澤母 「…私は、ルビィを捨てるようなことはしていません」
梨子 「でも、ルビィちゃんが確かに…!」
ダイヤ 「ルビィは勘違いしているのです。おそらく私達の意図を汲み取れていないのですわ」
梨子 「……それって、どういう…」
言い終わる前に、私の携帯に電話がきた。
この場の空気を一掃するかのように鳴り響いた着信音によって、私たちの会話は遮られてしまった。
161 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 22:06:39.47 ID:GPWsP05p0
梨子 「…電話? 曜ちゃんからだ」
千歌 「ちょっ…ちょっと梨子ちゃん! 斬られるよ!」
梨子 「まだ言ってたの…」
黒澤母 「お友達からですか? …どうぞ、出てください」
梨子 「すいません、少し失礼致します」
通話ボタンを押し、客間を後にする。
廊下に出てから携帯を耳にあてると曜ちゃんに突然大きな声を出され、思わず「きゃぁっ!?」と声が漏れる。
曜 「た、助けて梨子ちゃん!!」
梨子 「どど、どうしたの曜ちゃん…そんなに慌てて」
162 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 22:07:19.04 ID:GPWsP05p0
曜 「大変なんだよ…街の人が! 街の人がぁっ!」
梨子 「よ、曜ちゃん。少し落ち着いて…」
ダイヤ 「梨子さん! 少しよろしいですか?」
梨子 「ダイヤさん…?」
ダイヤ 「電話先のお相手…もしや外におられるのですか?」
梨子 「えっ、はい。曜ちゃんが駅前に」
ダイヤ 「すいません、少し貸してください!」
私の返事を待たず、ダイヤさんは私の携帯を無理やり奪い取った。
163 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 22:08:03.02 ID:GPWsP05p0
ダイヤ 「もしもし曜さん!? そちらの現状を教えてください!」
曜 「ダイヤさん!? いやその…街の人達が一斉に狂人化しちゃって…!」
梨子 「嘘…!」
曜 「私みたいにずっと外にいた人とかは大丈夫なんですけど、室内にいた人はみんな…!」
ダイヤ 「一斉に狂人化…? そんなことがあるわけないでしょう!」
曜 「でも本当なんです! とにかく街が今大混乱で…!」
ダイヤ 「……っ! お母様!」
ダイヤさんは私に携帯を乱暴に返し、客間へと戻って行った。私もダイヤさんに続き、部屋に戻る。
164 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 22:08:30.90 ID:GPWsP05p0
千歌 「梨子ちゃん…! 大変なんだよ、今沼津中で狂人化が!」
梨子 「うん。今曜ちゃんから聞いたとこ。でもどうして…」
ダイヤ 「こんな時にルビィは一体どこへ…」
梨子 「…! ルビィちゃんなら多分…。もしもし曜ちゃん?」
曜 「それが…ルビィちゃんがまだ来てないんだ。約束の時間から1時間は経ってるのに!」
ダイヤ 「そんなことありえません! ルビィは誰よりも時間に律儀です!」
165 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 22:09:32.94 ID:GPWsP05p0
大混乱、まさにその状態。
沼津中で狂人化が起こり、曜ちゃんは今必死で逃げ回っている。
ルビィちゃんは行方不明…もう私達は、何から手をつけたら良いのか分からなくなっていた。
梨子 「ダイヤさん…一体どうすれば…!」
ダイヤ 「そんな、こんな状況私には! お母様、一体私達は何をすれば…!」
黒澤母 「…………。」
ダイヤ 「……お母様?」
当主様は、一向に黙り込んでいた。
…やっと口を開いたと思えば、ボソボソと何かを呟きながら、客間から出ていってしまった。
166 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 22:10:23.62 ID:GPWsP05p0
千歌 「…? 当主さん?」
2.3分経っただろうか。
突然客間の障子が、勢いよく蹴り飛ばされた。
そこにいたのは、日本刀を携える当主様だった。
ダイヤ 「お、お母様…!?」
千歌 「や、やっぱり日本刀持ってたんじゃん!」
梨子 「当主様…!? お願いします、落ち着いて!」
私たちの言葉は届く気配すらなかった。
もう私達は、逃げることしか出来なかった。
ーーーーーー
ーーーー
ーー
167 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 22:11:10.29 ID:GPWsP05p0
梨子 「あれも狂人化ですか!?」
ダイヤ 「…おそらく。お母様は突然あのような行動をとるお方ではありません」
…必死で走っている内に街へ出た。
そこに広がっていた光景は、地獄だった。
千歌 「あれ……もしかして…死体…?」
ダイヤ 「あっ……あぁぁぁ…あぁぁ!!!」
梨子 「酷い…」
おそらく狂人化した人にやられたのだろう。
体は刃物で何回も刺されたのか、傷だらけの死体が目に見える範囲だけでも3体はあった。
168 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 22:12:10.11 ID:GPWsP05p0
梨子 「どうして…どうしてこんなことに…っ!」
――体に電撃が走った、そんな感覚がした。
左腕が自由に動かない。
……違う。左腕が“無い”んだ。
千歌 「…………!」
ダイヤ 「梨子さんっ!!!」
169 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 22:13:02.93 ID:GPWsP05p0
最後の気力を振り絞り、後ろを振り向く。
日本刀を構えた当主様がそこにいた。
私めがけて日本刀を再び振りかぶる。
梨子 (……ここまでなんだ、私)
救えなかった。
また、この街を救えなかった。
170 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 22:13:48.16 ID:GPWsP05p0
…………“また”?
自分の頭の中によぎったこの言葉に、とてつもない違和感を覚えた。
この言い方ではまるで、私が以前にもこの街を救えなかった経験があったみたいではないか。
梨子 「……私は、何を…」
……ひぐらしのなく声が、微かに聞こえる。
今の時期では、少し季節外れだろうか。
確か、ここに越してきた時もひぐらしが鳴いていたっけ。
171 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 22:14:45.51 ID:GPWsP05p0
……私はあの時、人を信じることが得意ではなかった。だから、一番信じるべき人間を疑ってしまった。あれは私の失態。
その失態が招いた惨劇…千歌ちゃんの狂人化。
そして次は…思いを口にすることが出来なかった。しっかり相手を信じていたのに、それを相手に伝えきれなかった。
その結果引き起こった惨劇…この街の終わり。
梨子 (……そっか、全部思い出した)
172 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 22:15:30.04 ID:GPWsP05p0
私がこの街に越してきたのは、もう3度目。
そして3回とも惨劇を食い止められなかった。
…前回私言ってたっけ。「絶対に失敗しない」って。馬鹿みたい。
梨子 (…………。)
ふと、自分の携帯が光っていることに気付く。
1時間ほど前に、果南さんからメールがあったみたいだ。
173 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 22:16:23.32 ID:GPWsP05p0
ダイヤ 「うぐぅっ……!」
千歌 「ダイヤさんっ!」
ダイヤさんが私を庇い、体を斬られる。
梨子 (ごめんなさい…ダイヤさん。私のせいです…わたしが何も覚えてなかったから…!)
174 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 22:16:58.41 ID:GPWsP05p0
――自分でも不思議だ。
私の体は、まだ諦めようとしていないらしい。
携帯を開き、果南さんのメールを確認する。
……せめて、今回がダメだとしても、“次”にヒントが残せれば。
梨子 (……ダイヤさんがくれた時間、無駄にしません!)
175 :
◆bx6hWDVQmQ
:2017/09/11(月) 22:17:25.41 ID:GPWsP05p0
9/14 (土)15:30
From : 松浦 果南
宛先 : 高海 千歌 渡辺 曜 桜内 梨子
件名 : 気をつけて
ーー
ダイヤからメールがあったんだけど、狂人化を引き起こすウイルスが、今日突然活性化してるって噂が広がってるみたい。
情報源がわからないんだけど、用心するに越したことはないね。今日はできるだけ外に出ない方がいいかも。
あと空気清浄機はちゃんと付けておいてってダイヤが言ってたよ。
気をつけてね
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