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【モバマスSS】世にも奇妙なシンデレラ
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45 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/08/29(火) 23:31:58.35 ID:3y5COwSS0
早苗さんとはそこでお別れして、私も検査に参加させてもらいました。
私服から、丈の短い作務衣のような服に着替えました。薄緑色のそれは検査衣と言うそうです。私は入院したことがありませんから、それを着るのは初めての経験でした。
身長、体重、スリーサイズやBMI。そのあたりは、事務所に申告していたものと特に変わっていません。身長とバストだけ、すこーし数字が増えていたぐらいです。視力や聴力も落ちていないようで、安心しました。
学校でもやったことがあるようなものが終わると、今度は病院にしかない設備を使った検査を受けました。
正直、何をされているのかは全然わかりません。ただ出してもらう指示に従うだけ。
X線だとか、体脂肪率を測るだとかまではわかったんですけど。血液うんぬん、内臓の活動かんぬんと言われてもさっぱりです。
でも、やってくれた看護士さんは、悪いところがあったらちゃんと詳しく説明もしますから、と優しく言ってくれました。だから、わからなくてもきっと大丈夫でしょう。
最後に全身を機械の中にすっぽり入れてしまうMRI検査を受けて、私の健康診断は終わりました。小さくしか明かりが灯っていない狭い空間に入っていくのはほんのわずか、なんとなく怖かったですが、特に何も起こることはありませんでした。
46 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/08/29(火) 23:32:39.34 ID:3y5COwSS0
全ての検査を終えて、もともと着ていた私服に着替えて受付に行きました。そこで、今の時点でわかっている結果を改めて教えてくれると聞いていたからです。
「難しい検査の結果は、問題がある方のみ後日通知しますので。だいたい二週間後をめどにしておいてください」
「はい。わかりました」
受け取った結果を持って、空いているエントランスのソファに座りました。
身長170cm。ミリ単位で、少しだけ伸びていました。
体重56kg。グラム単位で、少しだけ増えていました。身長も伸びていましたし、仕方ないですね。
BMIは19.38。体重と身長から求められる体型の指標となる数値です。これは平均、やや痩せ型に入るそうです。特に体にこだわりはありませんが、やっぱりアイドルですから。あまり体型を崩すのはよくありません。安心しました。
B-W-Hは105-64-92。バストが少しだけ大きくなっていました。他は誤差の範囲だと思います。
うーん、あまり大きくなり過ぎても、邪魔になってしまうんですけどね。どうしようもないです。
視力も聴力も問題はなくて、歯も大丈夫。
47 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/08/29(火) 23:33:06.13 ID:3y5COwSS0
その場でわかる結果については、学校でもらえる『健康の記録』に載っていそうなものばかりでした。
ただ、これは学校の検査にはなかったな、というのが一つ載っていました。
体脂肪率。
私の欄には22%と書いてありました。
身体の22%が脂肪。もしかしたら少し太っているのかも、と思いましたが、これも女性にしては平均か、やや痩せ型だそうです。
ほっとしました。
「……うん?」
ほっとしたんですが、どうしてか、何か魚の小骨のようなものが、喉に引っかかったような気がしました。
なんだろう?
なにかおかしなところ、あったかな。いいえ、ないはずです。ありません、よね?
しばらくその場で考え込みました。
でも、そのときはそれの正体がわかりませんでしたから、少し気を引かれつつも女子寮に帰りました。
48 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/08/29(火) 23:33:54.75 ID:3y5COwSS0
私はよく、おおらかだね、だとか、小さなことは気にしなさそう、というふうに言われます。
実際これはそのとおりで、私は細かいことはあまり気に留まりません。気になっても、すぐに忘れてしまいます。
なのに、病院のエントランスで感じた奇妙な違和感は、自室に帰ったあとも取れませんでした。
窓の外で日が完全に沈んで、食堂で夕飯を食べて、浴場で一日の汚れと疲れを落として、また部屋に戻りました。
それでも、あの違和感が取れません。
自分で言うのも変かもしれませんが、なかなか無いことです。何がそんなに気になってるんだろう? ちゃんと本格的に考えてみることにしました。
胸の前で腕を組むと、嫌がるように私の胸は形を変えました。
思い返します。ついさっきのできごとですから、そこまで苦労もなく思い返せます。
49 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/08/29(火) 23:34:32.26 ID:3y5COwSS0
あのとき見ていたのは、身長や体重や、視力、聴力、歯の様子と──。
──スリーサイズと、体脂肪率。
ハッとしました。
テーブルの上に置いてあるペン挿しからボールペンを一本抜き取り、カバンからはメモ帳を取り出しました。
私の体脂肪率は22%でした。スリーサイズは105-64-92。
これ、ちょっと変じゃないですか?
そう思ったんです。
50 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/08/29(火) 23:35:26.00 ID:3y5COwSS0
体脂肪率は、体脂肪のキログラムを全体重で割った百分率のはずです。そうすると、私の体脂肪の重さは体重56kgに0.22をかければ計算で出すことができます。
私の全体脂肪は、およそ12.3kg。
次に、私のスリーサイズ……もとい、バストサイズを見ました。105cmのKカップ。
昔に、地元のどこかの局のバラエティで見たことがあったんです。今の私の胸のサイズと同じぐらいの人の、乳房の重さを測る一幕を覚えていました。
確か、片方で3kg。合わせて6kg。私の感覚に照らしても、これは大きく外れていないように思います。
……おかしいですよね。乳房って、そのほとんど全てが脂肪でできているはずなんですから。
胸以外の私の体には、たったの6.3キロしか脂肪がついていないことになってしまいます。
あまり使いこなせていないスマートフォンで、インターネットに接続しました。
一般的な女性のデータは、検索すればすぐに出てきました。
私の年齢の女性の平均身長は157cm。平均体重は52kg。平均カップ数はCだそうです。
Cカップの胸の重さも、調べてみれば出てきました。だいたい500g。
私と同じで平均やや痩せ型の体脂肪率だとすると、世の平均的女性の体脂肪は11.4kgあります。胸以外にも、10kg以上の脂肪が付いていることになるんです。
51 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/08/29(火) 23:35:54.53 ID:3y5COwSS0
さらに言えば、私は身長が高いです。平均よりも13cmも。どう考えたって、10kg以上は胸以外にもないとおかしいんです。
私は牧場の手伝いやアイドルの仕事で体を使ってますから、そこそこ筋肉質ではあります。でも、それにしたってここまで脂肪がないのはおかしい。
「うーん……?」
もしかしたら、身体に異常があるのかもしれません。あまりにも脂肪がないと、何か悪いことがあるんでしょうか。
調べてみました。
体温や筋力の低下。ホルモンバランスの異常。生理不順。
どれも心当たりはありません。体の調子はバッチリです。ということは、身体についている脂肪の量に問題はない?
もしかしたら、測定ミス? それともインターネットが間違ってるのでしょうか?
そんな風にいろんなことを疑ってから、不意にこんなことを思いました。
52 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/08/29(火) 23:36:42.42 ID:3y5COwSS0
『私の胸は、脂肪でできてはいないのでは?』
53 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/08/29(火) 23:37:12.82 ID:3y5COwSS0
それは突拍子もないことです。もちろん、わかっています。でも、こうやって考えれば他のことの辻褄は合いますよね。
なんだか、今までの人生何も思うことなく連れ添ってきた身体の一部分が、急に不気味に思えました。
せっかくお風呂にも入ったのに、イヤな濃い汗がひたいから頬へと伝いました。
では、ここには何が入っているんでしょう──?
片側3kgもあれば、どんなものが入るでしょう。
小さな米俵? 小玉スイカ?
54 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/08/29(火) 23:38:03.03 ID:3y5COwSS0
「小さめの赤ちゃんぐらいなら、入っていてもおかしくありませんねー……」
唐突に、口をついてそんな言葉が出ました。
妙な汗が出ているのに、背筋はぞくりと冷たくなったような。
一度気になってしまうと、それは頭から離れなくなってしまいました。そんな、そんなことって。
ない。ないです。あるわけないのに。
身じろぎもしていないのに、胸が震えた気がしました。鼓動が伝った揺れにしては大き過ぎるぐらいに。
無性に怖くなって、歯磨きもせずにお布団に包まって目を閉じました。
今日の検査の詳しい結果は、二週間経てばわかります。わかってしまう。
二週間後が、来て欲しくないな。そんな子どもっぽいことも思いました。
目をぎゅっと閉じても、なかなか寝付けませんでした。こんなにも夜が長く感じたのは、初めてのライブの前日ぐらいです。
55 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/08/29(火) 23:38:40.95 ID:3y5COwSS0
翌朝、私はお仕事が入っていたので、しょぼつく目をこすりながら身支度をしました。少しですが眠れたのがよかったのか、不安は薄れていました。
寝間着にしていたものを脱いで、まずは下着を。
「ん……あれ?」
身体に感じた窮屈な締め付け。
ブラが、キツくなっていました。
お了い。
56 :
◆77.oQo7m9oqt
[sage saga]:2017/08/29(火) 23:40:33.24 ID:3y5COwSS0
終わりです。
体脂肪率はどう足掻いてもわかんないので、BMIからこんなもんかなと推測しました。
やべ、独自設定ありって書くの忘れてた。失礼いたしました
57 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/30(水) 00:48:36.16 ID:E2FI5PHeO
まあ表記通りなら楓さんとかヤバイレベルだし多少は鯖読んでるだろ……
58 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/30(水) 10:42:14.72 ID:Jv/LtaxNo
発想に敬服した
59 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/30(水) 20:09:30.17 ID:VANLPh5F0
影のやつけっこう雰囲気好き
ところでスレタイに参加型って書いた方がよくないか?
60 :
◆XUWJiU1Fxs
[sage]:2017/08/30(水) 20:59:32.51 ID:329xTyVto
少しだけお借りします
61 :
◆XUWJiU1Fxs
[sage]:2017/08/30(水) 21:00:01.50 ID:329xTyVto
乃々「人生には……どうしても選択を強いられる時があって……」
凛『乃々、今日は一緒に服を見に行こうね』
まゆ『乃々ちゃん、輝子ちゃんと一緒に映画を見に行きましょうね』
乃々『うぅ……服を見に行ってから映画に行く折衷案は……』
凛&まゆ『ダメ!』
乃々「まだこういうのはかわいい方で……いや、もりくぼ的には選ばれなかった方に対する罪悪感に押しつぶされそうなんですけど……」
乃々「……本当はこんな話している場合でもなくって。だって」
カチッカチッ
タイマー『残り3分』
乃々「目の前に……爆弾が……」
62 :
◆XUWJiU1Fxs
[sage]:2017/08/30(水) 21:00:54.97 ID:329xTyVto
森久保乃々
『紅か蒼か――』
63 :
◆XUWJiU1Fxs
[sage]:2017/08/30(水) 21:01:22.23 ID:329xTyVto
どうしてこうなったのか、私にもわかりません。机の下でウトウトとしていたまでは覚えているんですけど……気が付けばこんな密室で目の前には如何にも爆弾です言わんばかりのビジュアルの物体……。自分でもびっくりするくらいの速さで扉まで駆け出しましたが、やはりというべきか重くて開きそうにありません。
「どうして……私がこんな目にぃ……」
爆弾処理なんてむーりぃー……と言いたいところですが、ご丁寧にペンチまで用意してくれていて、紅いコードと蒼いコードが並んでいます。何も言われなくても察しました。どちらかのコードを切れば爆弾は止まるけど、もし間違えたら……BOMB。
正解は二つに一つ。今私は、人生最大の選択を強いられることになったんです……
64 :
◆XUWJiU1Fxs
[sage]:2017/08/30(水) 21:02:32.68 ID:329xTyVto
「そ、そうです……こういう時はどこかにヒントが」
前に凛さんがスマホでプレイしていた脱出ゲームを思い出しました。あの手のゲームはプレイする以上必ず脱出の鍵となるヒントがあります。そうじゃなければ遊びとして成り立ちません。現実に起きている非日常と一緒くたにするのもナンセンスくぼな気がしますが……私は震える足で部屋の中を隅から隅まで探しました。カチカチと規則正しく刻まれる時計の音に急かされるように。机の下、カバンの中、新聞の隅、こんなところにあるはずもないんですけど……。
「くそげー……です」
結論、何にもありませんでした。だけどここで諦めるもりくぼではありません。アイドルをやっていくうちに、自分に少しだけ自信を持った私は次なる手を考えていました。それは二択なら絶対に外さないであろう相手にコンタクトをとること。
「茄子さんなら……」
鷹富士茄子さん。彼女の幸運、を通り越した豪運ならばきっと正しいコードを選べるはず……そう思って携帯電話を開いたんですけど……。
65 :
◆XUWJiU1Fxs
[sage]:2017/08/30(水) 21:03:31.31 ID:329xTyVto
「け、圏外ぃ……」
無常にも画面には圏外の二文字が出ていました。これは諦めて死を選べということでしょうか……。それがもりくぼの運命ならば受け入れるしか……。
「……いや、そんなのはむーりぃ−……」
この爆弾の威力がどれだけのものか分かりませんが、もし私以外にも犠牲者を出したとしたら……そうなれば森久保は人類の戦犯です。末代まで恨まれます……いや、その末代になる可能性が大きいんですが……。二択のフィフティフィフティなんですけど……。
ほかの人を巻き込まないためにも、私は考えます。どちらのコードを切れば助かるのか……ヒントがない以上、これは最早ギャンブル。直感で選ぶしかないです。
66 :
◆XUWJiU1Fxs
[sage]:2017/08/30(水) 21:04:14.37 ID:329xTyVto
「ど・ち・ら・に・し・ま・し・ょ・う・か・か・み・さ・ま・の・い・う・と・お・り」
私の指は紅いコードを指していました。神様が言うんだからこれは正しいはずです。だから私は紅いコードを……。
『運命の紅い糸を、切るんですかぁ?』
切ろうとした瞬間、まゆさんの声が脳内に響きました。そう、紅い糸なんです。運命の、という枕詞がつくことに定評のある紅い糸なんです。
「で、でも神様が選んだわけですし……あれ?」
ふと思いました。そもそも神様が選んだのは、切るべきコードなのか残すべきコードなのか――。どっち、でしたっけ?
「いや、こういうのは普通切るべきコードで……でも現実というのはフィクションのように行かないことがままあるわけですし、運命の紅い糸を切ったら爆発するって映画もあったような……だから切るべきコードは蒼いコード……」
『ふーん、乃々は蒼いコードを切るんだ。ふーん』
今度は凛さんが脳内に出てきました……もう、勘弁してぇ……。
67 :
◆XUWJiU1Fxs
[sage]:2017/08/30(水) 21:05:55.35 ID:329xTyVto
そんなこんなで、爆弾のタイマーは残り3分を切ったんです。ラーメンを作っても間に合いません。コードを切ろうとするとその度に頭の中で不安やら良からぬ考えがよぎって、なかなか行動に移せずにいました。いっそ机の下というシェルターに隠れるべきかと思いましたが当然守ってもらえるわけがなくて。覚悟を決めなきゃと思ってはいるんですが……。
『紅いコードを切ったらダメですよ、乃々ちゃん』
『蒼いコードが正しいよ、乃々』
脳内まゆさんと脳内凛さんは合いも変わらず自己主張を繰り返します。そのうち取っ組み合いに発展するのではと言わんばかりです。
「うぅ……どうしたら……」
コードを切ったからといってお二方との縁が切れるわけじゃないんですけど……いや、間違えたら爆発して何にも残らないんですが……。刻一刻と迫るタイムリミットの中、私は目をつぶりました。あれこれ考えても先に進めないのならば、直感を信じるしかないと。
68 :
◆XUWJiU1Fxs
[sage]:2017/08/30(水) 21:06:32.24 ID:329xTyVto
「大丈夫……今日のもりくぼはやれる気がします」
ペンチを持つ手の震えは止まりませんが、それでも少しはマシになったと思います。気が付けば脳内の2人も黙って私を見てくれています。そうです、また服を買ったり映画を見たり……お仕事をしたいから。
「ここで死ぬなんて、むーりぃー!」
どちらのコードを切ったのか、暗闇の中の私にはわかりません。ただ目を開くと、そこには残り3秒の時点で止まったタイマーと切られた蒼いコードがあって……。
「凛さん……ごめんなさい」
この部屋から出たら一緒に服を買いに行こう、と強く思うのでした。
69 :
◆XUWJiU1Fxs
[sage]:2017/08/30(水) 21:07:19.46 ID:329xTyVto
「無事に帰れそうです……生き残りくぼです……」
ガチャリ、と鍵が回る音がするとあれだけウンともスンとも言わなかった扉が自動的に開いていきました。私は軽やかな足取りで扉の向こうに待っている、外へと足を踏みだし……。
「あれ?」
ガチャリと閉まる重い扉と私を照らすのは太陽の光……ではなくうす暗い電灯の光。無機質な部屋に響くのはカチカチと言う音。
「え、えぇ……」
紅いコードと蒼いコードと……黄色いコード。密室の中に、爆弾がありました。
70 :
◆XUWJiU1Fxs
[sage]:2017/08/30(水) 21:07:57.26 ID:329xTyVto
森久保乃々
『紅か蒼か黄か』
71 :
◆XUWJiU1Fxs
[sage]:2017/08/30(水) 21:08:53.28 ID:329xTyVto
以上です。失礼いたしました
72 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/09/01(金) 00:12:39.89 ID:gRyzT9wx0
少し長いですが、投稿させていただきます。
73 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/09/01(金) 00:13:27.02 ID:gRyzT9wx0
安斎都「おお、この雰囲気……」
都「まるで探偵が、事件の謎を解き明かすための独白のような……!」
都「はっ、失礼失礼。で、でも、ドラマやマンガに出てくるような探偵って、本当にカッコいいですよね!」
都「私もあんな風に、すらすらと事件の全貌を暴いてみたいものです……」
都「おっと、いけないいけない!」
都「探偵の道は長く険しいもの……!」
都「毎日ちゃんと、頑張らなきゃですね!」
都「……あ、でも今日はもう遅いので、ちょっとお休みしちゃっていいでしょうか?」
『睡眠探偵』
74 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/09/01(金) 00:14:04.26 ID:gRyzT9wx0
「謎は全て解けました!」
そう叫んだ安斎都は、公園の遊具の中を覗き込んだ。
「迷子のネコちゃんは、ここに……あれ?」
「おいおい都、またハズレかぁ?」
呆れるように呟いた拓海に頭をいじられながら、都は首を捻った。
「うーん、おかしいですね……、私の推理では……って拓海さん! 頭をわしゃわしゃしないでください!」
「ん? ああ、悪い悪い、ちょうどいいところにあったもんで」
「しかし、どこにいるんでしょう……」
「それがわからねぇから探してるんだろ?」
ピピピピピ
「おっと、すまねえ、アタシだ。……もしもし? ああ、夏樹か、お、本当か! わかった、事務所の裏の路地だな。サンキュ!」ピッ
「夏樹が見つけてくれたみたいだ。戻るぞ」
「わ、私も、今から聞き込みをしようと思っていたところで」
「はいはい、わかったわかった」
75 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/09/01(金) 00:14:44.27 ID:gRyzT9wx0
安斎都は、世にも珍しい探偵アイドルだ。
いや、珍しいというか、そもそも競合相手なんているのか。という話ではあるのだが。
アイドルとしてのレッスンやお仕事の傍ら、事件を探しに東奔西走。
事件に出会えば、真相を探しに東奔西走。
とはいっても、ここはアイドル事務所であって、探偵事務所ではない。事件と言っても小さなものばかりだ。
76 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/09/01(金) 00:15:49.36 ID:gRyzT9wx0
〜〜〜〜〜
「はぁ〜……」
「都ちゃん、ため息ですか……?」
「はっ! よ、頼子さん! お恥ずかしい……」
「いえこちらこそ、いきなり声を掛けてしまって」
「そ、それで、どうしましたかっ! 事件ですか!」
「いいえ、違いますよ。少しおしゃべりでも……と。何か悩みがあるなら聞きますが……?」
「いえいえ! 私に悩みなんてないですよ! さっきのは……、そう! 深呼吸!」
まあ冷静に考えて、先ほどの"お恥ずかしい……"という反応こそため息を認めているようなものなのだが、頼子は言及しないことにした。
「それならよいのですが。……何か話したい時には話してください。私でも、聞き役くらいにはなれるでしょうから」
「ありがとうございます! その心遣いだけで十分ですよ!」
77 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/09/01(金) 00:16:32.20 ID:gRyzT9wx0
実のところ、安斎都は悩んでいた。
アイドルとしては、まあいい。
仕事がそこまで多いわけではないが、それでも着実に前に進んでいる実感はある。
歌も、ダンスも、最初は酷いものであったのだが、それなりに形になっているように感じる。
また、"探偵アイドル"という(多少ニッチな)キャラクターもあり、万人受けとは言わずとも、多少のファンだっているのだ。
プロデュース方針にも不満はなく、都自身の意志を尊重してくれている。
しかしながら、探偵としての自分はどうだ?
前に進んでいるか? 「探偵です!」と胸を張って言えるか?
人捜し、身辺調査、捜し物、ケンカの原因究明、などなど……
探偵として、全力で取り組んでいるつもりではある。しかし、それが解決に繋がることはほとんどなく、空回りすることばかりだ。
"探偵は勘が鋭いものだ"と、よく目にするが、残念ながら都の直感は当たらない。
このままでは"探偵アイドル"ではなく、"探偵の真似事をしているアイドル"になってしまう!
そういう焦りが都の中にはあった。
……ファンや仲間はそんなことを承知の上で、都を応援しているのだが。
78 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/09/01(金) 00:17:16.90 ID:gRyzT9wx0
〜〜〜〜〜
(ふぅ……、疲れました)
この日、レッスンが少し長引いた都は、帰り道を歩いていた。
ドラッグストアの前を通りがかったタイミングで、ふと足が止まる。
(ああ、そういえば、変装用のマスクを切らしていましたね)
外の暗さと対比されて、ドラッグストアの中は眩しいくらいだった。
初めて入った店ということもあり、目当ての棚がなかなか見つからない。
(この棚は……、違いますね、しかし広いお店です……)
(こっちは……? ああ、睡眠導入剤ですか、寝つきの良さには自信があります。私には不要ですね)
そんなことを考えながら、別の棚へ目を移そうとした都であったが。
ふと、視界の端に、引っかかる文字列があった。
(?)
しゃがみこみ、目を凝らす。
「睡眠探偵剤……?」
79 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/09/01(金) 00:18:19.84 ID:gRyzT9wx0
『この薬を服用するだけで、眠っている間にどんな難事件でもたちまち解決!』
『迷子探し、つまみ食いの犯人当てから、暴行、強盗、殺人事件まで!』
『さぁ! これであなたも名探偵だ!』
「……はい?」
説明を読みながら、都は呆れていた。
(まったく……、マンガじゃないんですから)
袋を裏返すと、そこには赤字で注意書きが。
『※1日に服用できるのは1回だけです。1日に2回以上服用すると』
「目が覚めないことがあります……?」
背筋が少し、冷たくなるのを感じた。
(な、なるほど、冗談にしてもよくできていますね……)
(……まあ、何か話のネタになるかもしれませんし)
そう、自分に言い訳じみた言葉をかけながら、都はそれを、カゴに放り込んだ。
80 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/09/01(金) 00:19:05.97 ID:gRyzT9wx0
〜〜〜〜〜
翌日、お昼を少し過ぎたくらいの時間に事務所に入った都であるが、なにやら事務所が騒がしい。
見ると、悲しそうな顔をした龍崎薫と、慰めるように神谷奈緒、北条加蓮が立っていた。
「おや、どうかしましたか?」
「おお、都か、おはよ」
「ちょっと、薫ちゃんが、ね」
「?」
本人に聞くのが早いということなのだろう。
「どうしたんですか?」
「かおるの……プリンが……」
「ほほう……」
どうやら、冷蔵庫に入れてあった薫のプリンが、誰かに食べられてしまったらしい。
薫の話では、昨日の仕事帰りにプロデューサーに買ってもらったのだが、交通渋滞に巻き込まれたせいで事務所に戻るのが遅くなってしまい、翌日食べようと冷蔵庫に入れておいたとのこと。
しかし、薫が先ほど出社した時にはなくなっていたようだ。
「なるほど、任せてください! 必ずやこの事件、解決してみせます!」
「ホント!? みやこちゃん、お願いしまー!」
純粋な目で都を見つめる薫。
これで何もわからなかったら申し訳ないのだが、そんなことは考えていられない。
81 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/09/01(金) 00:20:00.44 ID:gRyzT9wx0
「それで、午前中にこの事務所に来たのは……」
ちらとホワイトボードに目を向ける前に、すでにチェックを済ませていた奈緒が口を開いた。
「杏ときらり、夏樹と李衣菜、周子と紗枝の6人みたいだな。ちょうど2人ずつで、1人で来た人はいないみたいだ」
「みなさんから話は聞いたんですか?」
「あ、それは私が聞いた。さっき電話でね」
加蓮が声を出す。
「もちろんみんな、食べてないって。杏とか周子が怪しいかなって思ったけど、証人がそれぞれいるからね」
「なるほど……」
「あ、あと杏が、"冷蔵庫は開けたけど、プリンはなかった気がするんだよね"って言ってたよ」
「ほう……、杏さんときらりさんは、1番早く事務所に来ていたようですが」
「そうなんだよなー、朝早くだから、その時点からなかったのかな? 昨日の夜、薫のプロデューサーが帰る時には、まだあったみたいなんだけど」
「それは……」
「23時くらいだって」
82 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/09/01(金) 00:20:27.90 ID:gRyzT9wx0
「むむむ……、これは難事件ですね……」
「みやこちゃん、はんにんわかった……?」
「えっ!? あ、も、もちろんです! この名探偵・安斎都はお見通しです!」
「ホント!? だれ? だれ?」
「うっ……」
「おい都……わからないならそう言っても……」
その時、都は昨日のことを思い出していた。
(た、確かカバンに入れっぱなしだった気が……)
カバンをガサゴソと探ると、その袋が見えた。
「す、すいません、ちょっと座ってもいいですか?」
「あ、来てから立ちっぱなしだもんね、ごめんごめん」
「いえ……よいしょ」
都の手には、袋から取り出した薬が1つ。
(まあ、ダメでもともと……ですしね)
ちょうど、3人が都から目を切った瞬間、ゴクリ、と飲み込んだ。
カクン
「むぅ、ここに書いてない人がふらっと立ち寄ったのかなー……?」
「それだと見つけるのは難しそうだよね」
「うーん……、あれ? みやこちゃん?」
異変に気がついたのは薫。さっきまで普通に座っていたはずの都が、顔を下に向けている。
「お、おい、都、どうした?」
奈緒も慌てて声を掛ける。
「え? このタイミングで寝ちゃったの? 疲れてたのかな」
と、加蓮が言い終えるのと、都の口が動き出すのは同時だった。
「謎が解けました」
83 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/09/01(金) 00:20:57.38 ID:gRyzT9wx0
「えっ!?」
薫と奈緒の声が重なる。
しかし、その次の発言を待たずに、都は言葉を続ける。
「昨日のプロ野球、見ましたか?」
「大変盛り上がっていましたね。特にキャッツのゲーム」
「日を跨ぐほどの延長大熱戦の末、12回のウラにキャッツの劇的なサヨナラ勝ち! 凄まじいゲームでした」
いきなり昨日の野球の結果を語り出す都に、他の3人は口を挟めない。
「そういえば、このゲーム、始球式を務めたのは、この事務所の誇る野球大好きなあのアイドルだったそうです」
「きっと、最後の最後まで、試合の行く末を見守っていたことでしょう。まさか始球式だけやって帰るなんてそんなことはありえない」
「彼女のプロデューサーさんは、試合後に彼女を車で引き取りに行ったのだと思います。しかしここで問題が起きます」
「……泥酔した彼女が車の中で眠ってしまったのです」
「彼女のプロデューサーさんは困りました。女子寮に送るにしても、自分は中には入れない。他の部屋のアイドルも寝ている時間だ」
「そこで彼は苦肉の策を取った。ひとまず、彼女を事務所に寝かせるという手段です」
「そして早朝に目を覚ました彼女は、冷蔵庫で見つけたプリンを食べ、帰宅した……」
「昨日の夜中から、杏さんときらりさんが来るまでの間が犯行時刻なら、これ以外にありえません。それに……」
「ほら、今日のレッスン予定表、お昼からのレッスンが1件、中止の×印が書き込まれていますよ。"体調不良"って」
「……姫川、という文字の上に」
84 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/09/01(金) 00:21:54.69 ID:gRyzT9wx0
「な、奈緒」
「あ、ああ! 電話してみる……。あ、もしもし! 友紀か!?」
『う、うぅ……奈緒ちゃん……? 声、おっきいよ……』
「今朝、事務所来たか!?」
『事務所……? 来たというか……いたというか……』
「手短に聞くぞ、プリン食べたか?」
『プリン……? ああ、食べちゃった……。お腹空いてて……』
「はぁ……」
『あれ? もしかして、奈緒ちゃんのだった……? ごめんごめ』
「もしもし!!! 友紀お姉ちゃん!!!」
『は、ひゃい!?』
「かおるのプリン、食べたの!?」
『うぇ!? あ、あれ薫ちゃんのだったの!?』
「もー!!!」
『ご、ごめん! い、今から買ってくから! ね?』
「こんどから、ちゃんと確認しなきゃダメ!」
『は、はいぃ……』
85 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/09/01(金) 00:23:05.24 ID:gRyzT9wx0
さて、20歳が9歳に叱られているという、なかなかレアな状況ではあるのだが、それを見た都は、とにかく混乱していた。
目を覚ました瞬間、薫が電話に向かって怒っていたのだ。どうやら、相手は友紀で、しかも犯人だったらしい。
あの薬を飲んだ瞬間から今までの記憶が全くない。
もちろん、そんなこととはつゆ知らず、奈緒は都に声をかける。
「おい都! お手柄だな!」
「ふぇ!?」
加蓮も、心からの賛辞を送る。
「すごいじゃん、見直したよ」
「え? は、はい」
「いやー、推理を披露する都、まるで本物の探偵みたいだったぞ!」
「そ、そうですか! そうでしょう、そう……でしょう」
「みやこちゃん! すごい! たんていさんだ!」
「! は、はは……」
「お、そうだ、ついでに、あたしの髪留めがどこにあるか、捜してもらえないかな? 昨日、事務所でなくしちゃって……」
「も、もちろんお安い御用です! この安斎都に……」
そこまで口にしたところで、注意書きが脳裏に走った。
『1日に服用できるのは1回だけです』
(1日に2回以上服用すると……)
続く言葉を思い出し、冷たい感覚が蘇る。
「お、おおっと! 急用を思い出しました! すみませんが私はここで!」
「え? お、おう。気をつけてな?」
直前の言葉を覆し、走り去る都。少し、気持ちを整理したいという思いもあった。
86 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/09/01(金) 00:24:13.98 ID:gRyzT9wx0
〜〜〜〜〜
夜、驚きと、混乱と、そして少しの期待で、都はなかなか眠ることができなかった。
いろいろ考えてみたのだが、やはり結論は出ない。
あの後、何人かに"お手柄だったらしいね"と褒められた。どうやら、薫が言って回っているらしい。
それ自体悪いことではないのだが、なにぶん記憶がなく、詳細を聞かれても答えに窮してしまうのは問題だ。
それでも、薫の笑顔と"すごい! たんていさんだ!"という言葉は、都の気分を高揚させるに十分足るものであったのだが。
幸い、袋にはまだたくさん薬がある。
(も、もう1度、機会があれば確かめてみましょう……)
そう思いながら、都は眠りに落ちていった。
87 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/09/01(金) 00:25:27.46 ID:gRyzT9wx0
〜〜〜〜〜
次の機会はすぐにやってきた。
ある日、女子寮の廊下を歩いていた都は、不安気に話をする美穂とみくの2人とすれ違った。
「おはようございます。なにかお悩みですか?」
「あ、都チャン」
「お、おはよう……」
「はい、おはようございます! それで……」
「あのね、あ、あんまり大きな声で言わないでほしいんだけど――」
「ふむ、ベランダに干していた美穂さんのタオルが盗まれた……と」
「う、うん……」
「みく、最初はね? ドロボーかなって思ったんだ。でも、今のところ被害はそのタオルだけなんだって。ドロボーなら、普通下着とか持っていくよね?」
「み、みくちゃん、下着とか言わないで……」
「にゃっ、ごめんごめん」
「なるほど……。詳しく話を聞いてもいいですか?」
そう言いながら、3人は共有スペースへ移動し、ソファへ腰掛けた。
しかし、都の目的はもちろん、話を聞くことではなく、"座る"ことだけだ。
1通りの話を2人から聞いた都は、わざとらしく眉をひそめる。
そして薬を口に入れ……、飲み込んだ。
「なんでタオルなんだろうね?」
「わ、わたしの服なんて盗っても……」
カクン
「謎が解けました」
88 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/09/01(金) 00:26:14.61 ID:gRyzT9wx0
「……え?」
みくは驚きで声を上げ、美穂は言葉の意味がわかっていない様子だ。
「み、都チャン?」
「みくさん、以前、寮の裏にネコが捨てられていたことがありましたね。その時、みくさんがそのネコの段ボールに、ご自身のタオルを入れました」
「え? そ、そうだけど、もうだいぶ前だよ? そのネコチャン、もう大人だし」
「話は変わりますが、先ほどおふたりと話していて、私はある感覚を覚えました。……同じ匂いがしたんです。美穂さん、最近、洗剤を変えましたね?」
「う、うん! この前、みくちゃんに勧められたやつに変えたけど」
「みくがずっと使ってるやつだよ」
「捨てネコにタオルをあげた時から、同じものを使っていた……ですよね?」
「うん……えっ? まさか……」
「みくさんの部屋は寮の2階にあります。また、この建物の周囲には木などがあまりなく、1階以外のベランダから誰かが入るのは至難の業です……。それがたとえ、ネコであっても」
「ど、どういうこと?」
「あのネコにとって、この洗剤の匂いはまさにお母さんのようなものです。そして、美穂さんの部屋は1階」
「そ、そっか……! わたしのタオルから、みくちゃんのタオルと同じ匂いがしたから……!」
「おや、ちょうど……」
「み、美穂チャン! 見て! 窓の外!」
「あ! ネコちゃん! わ、わたしのタオル咥えてる!」
「都チャン! すごい! すごいにゃ!」
「ん、んん……?」
「ありがとう都ちゃん!」
「え? ……あ、お、お安い御用ですよっ」
まどろみの中で目を覚ました都であったが、2回目であるために理解は早かった。
どうやら、またしても自分の意識が失われている間に、事件は解決を迎えたらしい。
(この薬……本物なんですね……!)
89 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/09/01(金) 00:26:48.12 ID:gRyzT9wx0
〜〜〜〜〜
この一件を皮切りに、都のウワサは瞬く間に事務所内に広がっていった。
これまで都をあまり頼っていなかった者も、都の凄さを目の当たりにして、驚くばかりだ。
そして、都にとっての転機が訪れる。
ある時、ウワサを聞きつけたのか、都にあるテレビ番組への出演オファーが舞い込んできた。
何年も前の未解決事件についていくつか取り上げ、情報提供を呼びかける番組だ。
場合によっては改めて捜査のやり直しがなされ、この番組によって解決に繋がる事だってある。
もちろん、都に事件解決を求めているわけではない。緊張感のあるスタジオで、多少なりとも雰囲気を良くしてくれれば。
あわよくば、新しい視点からのコメントが1つでも飛べば。というくらいの期待値ではあったのだが。
撮影が開始され、最初の事件について司会が語り始めた。当然のことながら、警察が何年かけても真相にたどり着けない事件だ。
都が概要を聞いた程度で何か得られるものはない。それでも懸命に、聞き、考え、時にコメントを求められ、的外れな回答だってたくさんあったが、撮影は進んでいった。
お守り代わりにポケットに捻じ込んだ薬も、使う機会はなさそうだ。こんな難事件をいきなり出てきた自分が解決するなんて現実的ではなく、下手な注目を集めてしまう。
90 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/09/01(金) 00:27:44.91 ID:gRyzT9wx0
(次が最後の事件ですか……)
最後の事件まで番組が進むと、スタジオに現れたのは少女。見るに年齢は都より少し下くらいだろうか。
自己紹介を済ませた少女は、どうやらこの事件の遺族らしい。
少女が事件の概要を語り始める。他の事件と同様に聞いていた都は、その事件が紐解かれるにつれて、自分が聞き入っていることに気がつかなかった。
聞けばその少女は、まだ小学校低学年のころ、父、母、兄、妹の家族全員を、押し入った強盗に殺されてしまったという。
寝静まった深夜に犯行がなされたが、偶然にも友人宅に泊まっていた少女は助かったということだった。
その日家に帰り見た、血濡れた寝室と無残な家族の姿を、少女は今でも夢に見るという。
涙ながらに語る少女。歳の近い都の目には、涙と、怒りの色が浮かんでいた。
(どうしてあの子がこんなに悲しまなければいけないんでしょうか? 何をしたというのでしょうか)
(どうして犯人は……のうのうと逃げ暮らしているのでしょうか?)
都の指先が、ポケットの中の薬に触れる。
不自然とか、注目を浴びるとか、そんなことは問題ではない。
目の前に困っている人がいて、それを解決する力があるのに、使わないなんて。
(探偵として、ありえません!)
カクン
「謎が解けました」
91 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/09/01(金) 00:28:26.40 ID:gRyzT9wx0
〜〜〜〜〜
その日から、都の生活は一変した。
探偵のようなアイドルか、アイドルのような探偵か。
いずれにせよ、テレビにドラマに引っ張りだこ。その合間に、謎を次々と解き明かしていく。
1日に1回という制限はあったが、"集中力を使うから"などと誤魔化し続けた。
眠った彼女が決まって使う『謎が解けました』というフレーズは瞬く間に流行語。
決まって顔を下に向け、事件の真相を語る都についた呼び名が。
「"睡眠探偵ミヤコ"さん、お疲れ様です」
「……頼子さん。普通に呼んでください」
「……お疲れのようですね、都ちゃん」
「そう……ですね、忙しくなっちゃいましたので」
失礼します。
と言い残して、都は事務所を後にした。
92 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/09/01(金) 00:29:10.15 ID:gRyzT9wx0
人気が爆発してから早数ヶ月、もちろん疲れはあったのだが、都の心は2つの感情で支配されていた。
まず1つ、焦燥感。
「あと3つ……」
薬の残りが少なくなってしまっているのだ。
ここまで都が出世できたのがこの薬のおかげであることは間違いない。
それだけに、この薬がなくなってしまったらどうなってしまうのか。
何度もあの店に通っているのだが、同じ薬が姿を現すことはなかった。
しかし、その焦燥感よりも強く、都の心には、大きな、大きな、罪悪感が生まれていた。
"自分はみんなを騙している"という感覚が、ジワジワと都の心を蝕んでいる。
事務所だけならまだいい。しかし、ファンやスタッフまで、みんなが自分を名探偵だと信じて疑わない。
"探偵になりたかった"都は、奇しくも"探偵であることを望まれる"という状況に苦しんでいた。
この日も雑誌にラジオにテレビに大忙し。
1つの事件を解決して事務所に戻る頃には、すっかり暗くなっていた。
93 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/09/01(金) 00:29:53.37 ID:gRyzT9wx0
(ふぅ……あれ、明かりがついていますね)
「お疲れ様です」
「ああ、都ちゃん、遅くまでお疲れ様です」
「よ、頼子さん、こんな時間までどうしたんですか?」
「……」
「確か、明日はソロイベントでしたよね? 早く休んだ方が……」
頼子は少し言い淀み、やがて、意を決したように口を開いた。
「都ちゃんを、待っていました」
「……え?」
94 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/09/01(金) 00:30:39.42 ID:gRyzT9wx0
「単刀直入にお聞きします。都ちゃん、何か、隠していることがありますね?」
「なっ……」
「最近の都ちゃんは、とても……苦しそうなんです」
「そ、そんなことは……」
「何というか……、これは私の傲慢なのかもしれませんが……、まるで助けを求めているような」
「……っ!」
「私は以前、こう言いました。"何か話したい時には話してください"と」
「……」
「……私では、頼りになれませんか?」
「そ、そんなことは」
「都ちゃんの、力になりたいんです」
真剣な目で都を見つめる頼子。
心から、都のことを気遣ってくれている。
(これ以上……頼子さんを騙すのは……)
都が、ゆっくりと語り始めた。
95 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/09/01(金) 00:31:13.96 ID:gRyzT9wx0
〜〜〜〜〜
「……そう……だったんですか」
薬について、一連の話を聞いた頼子は、袋の注意書きを読みながら、目に見えて絶句していた。
無理もないだろう。本人以外にこんな話を信じさせるのは難しい。
それでも。
「……信じられませんよね?」
「いえ、都ちゃんを信じます」
「軽蔑……しないんですか?」
「誰にだって、悪い夢を見ることはありますよ」
きっぱりと言い放つ頼子。さらに続ける。
「……辛かったですよね?」
そう言って、都の頭を優しく撫でる。
初めこそ堪えていた都であったが、次第に、涙が溢れてしまった
96 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/09/01(金) 00:32:22.35 ID:gRyzT9wx0
〜〜〜〜〜
「お恥ずかしいところをお見せしました……」
落ち着きを取り戻した都は、バツが悪そうに目を逸らす。
「いえ、お役に立てたのなら、何よりです」
「わ、私はここで失礼しますね。明日のイベント、見に行きます! 頑張ってください」
「はい、ありがとうございます。ああ、都ちゃん」
部屋から去ろうとする都の後姿に、頼子は言葉を掛けた。
「薬がなくなってしまったら、次は都ちゃん自身の力で進む時です。都ちゃんなら絶対、大丈夫ですよ」
97 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/09/01(金) 00:33:28.88 ID:gRyzT9wx0
〜〜〜〜〜
「謎が解けました」
翌日。
珍しく、この日の都は完全にオフ。
夜からの頼子のイベントを見るため、一旦事務所へ立ち寄り、リハーサルが終わるであろう頃合いを見計らって、夕方くらいに向かおうと考えていた。
さて、昼くらいに事務所に着くと、何人かが捜し物をしている。
聞けば、事務所のどこかで李衣菜がギターピックを落としてしまったらしい。
有名ギタリストから譲り受けたもので、何としても見つけたい、と。
当然ながら、都にその依頼が飛び込んできた。
どちらにせよ今日は仕事はないし、断る理由もない。
それに、一刻も早く、薬を使いきりたいとも考えていた都は、これをすぐに解決し、イベント会場へ向かった。
98 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/09/01(金) 00:34:37.19 ID:gRyzT9wx0
「ええっと、控え室は……」
会場に入った都は、関係者区画を歩いていた。
といっても、きっと頼子は集中していることだろう。顔だけ見て、すぐに引っ込むつもりと決めていたのだが。
しかしながら、どうも人の流れがせわしない。まるで何か……
(トラブルでもあったんでしょうか……?)
そして、頼子の控え室に辿り着いた都は、なぜか開けっ放しのドアを覗き込み、言葉を失うことになる。
99 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/09/01(金) 00:35:33.41 ID:gRyzT9wx0
そこには、無残にも引き裂かれた衣装と、壊されたアクセサリが散乱していた。
傍の椅子に座っている頼子の表情は悲痛と、そう呼ぶ他にない。
「え……? な、なんで……、よ、頼子……さん……?」
「……都ちゃん」
「……何が……起きたんですか」
「……わかりません。リハーサルを終えて戻ると……このような」
「だ、誰が……」
頼子は、黙って首を横に振ることしかできない。
許せない。許せない。許せない。
絶対に許せない。
こんなことが許されていいはずがない。
思わず、カバンの中に手が伸びる。しかし。
『1日に服用できるのは1回だけです』
あの注意書きが、都の手を止める。
さらに。
「……都ちゃん、あの薬を使おうとしていますね? 大丈夫です。私は、大丈夫ですから」
気配を察した頼子が、都を気遣う。
(頼子さんは、こんな時にも私を気遣ってくれる)
(辛いはずなのに、悔しいはずなのに……!)
しかし、今に限っては、その優しさは、逆効果だったのかもしれない。
「やっぱり、許せません……!」
都が、既に指先に触れていた袋を取り出した。
100 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/09/01(金) 00:36:30.12 ID:gRyzT9wx0
都が薬を取り出すのを見て、当然頼子は止めにかかる。
しかし、その前に、気がついた。
昨日、見せてもらった時と比べて、間違いなく……、減っている。
「都ちゃん、昨日、話をしたときには残り2個だったはずです。もう1つはどこへいったんですか」
「……いえ、不注意で落としてしまい」
「ウソです。……今日、既に服用したんですよね?」
「……」
「それなら、余計に使わせるわけにはいきません」
「で、ですが! 頼子さんの大事な……!」
「大丈夫です。衣装も、装飾品も、いつかは壊れます。今、事務所から替えの衣装を届けてもらっています。間に合わないとは思いますが、その衣装でなんとか」
「ダメです!!!」
突然の大きな声に、思わず頼子も驚く
「だって、頼子さん、今日に向けてずっと、ずーっと、頑張ってきたじゃないですか! レッスンも、衣装合わせも、一生懸命に!」
「……都ちゃん」
「だから、許せません……、そんな努力をあざ笑う犯人を……!」
「で、ですが、落ち着いてください……!」
「大丈夫です。100%覚めないとは書いてありませんし。このままじゃ、私なんかにはどうせ……」
「み、都ちゃんは、そんな薬なんてなくても名探偵のはずです」
「いいえ、言ったじゃないですか……。私は名探偵なんかじゃないんです。私は普通の女の子で、事件解決は全部この薬のおかげ」
「そんなこと……」
「怖いんです」
「え?」
101 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/09/01(金) 00:37:22.59 ID:gRyzT9wx0
俯いた都が、か細い声で言葉を続ける。
「みなさんが、私に期待してくれています。それが、その期待を裏切るのが、とても怖いんです」
「何度も、何度も打ち明けようと思いました。"実は全部ウソだ"って。"私はみんなに期待してもらえるような人間じゃないんです"って!」
「でも言えなかった……! 私は卑怯者です。自分で手に入れていない栄光を、さも自分のものであるかのように振り回した。とんでもない卑怯者なんです」
「だから、これは報いなんです。もし私が目を覚まさなくても、それは仕方のないことなんです」
「ちょうどこの薬がラストです。見ていてください、頼子さん。探偵安斎都、最期の――」
パシィ!!!!!
「……」
「痛い……ですよ」
「……」
「どうして、頼子さんが泣いているんですか」
「どこへ……行ってしまったんですか?」
「……どういう」
「あの頃の都ちゃんは、どこへ行ってしまったんですか」
「……私は私です」
「困ってる人がいたらすぐに駆けつけて『任せてください!』って大きな声をかけていた都ちゃんは……」
「……」
「謎を解くために、どんな小さな手がかりも見逃さないために、服が汚れるのも厭わず、皆の為と奔走していた都ちゃんは……!」
「……」
「私が大好きだった都ちゃんはどこへ行ってしまったんですか!」
102 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/09/01(金) 00:38:42.99 ID:gRyzT9wx0
頼子からこんなに大きな声を聞くのはいつぶりだろう。
いや、初めてのことかもしれない。
目に涙を浮かべる頼子は、口を開き、次の言葉を紡ぎ始める。
「……覚えていますか? 始めて私と都ちゃんが話したときのこと」
まるで懐かしむように。
「事務所の廊下で落し物を探す私に、都ちゃんが声を掛けてくれたんです。『どうかしましたか』と」
都はまだ俯いている。
「まだ事務所に入ったばかりの私にとって、あの時の『任せてください』が、どれだけ嬉しくて、どれだけ心強かったことか」
「都ちゃんは、とても一生懸命に、探し物を手伝ってくれました。私の通った廊下や部屋をくまなく、這いつくばるくらいに」
「そして、見つけてくれたんです。……見つけ出してくれたんです」
「その時の喜びは、言葉では言い表せません。探し物が見つかったことはもちろんです。しかし、それ以上に」
「私のために、こんなにも真剣に悩んで、考えて、探してくれる。そんな都ちゃんと出会えたことが、仲間になれたことが、本当に嬉しかった!」
「……っ!」
頼子の一言一言が、突き刺さる。
「思い出してください、都ちゃん。まだ遅くありません」
そうだ。なぜ忘れていたんだ。
「思い出してください、皆の為に、たとえ解決できなくても、懸命に謎に立ち向かう都ちゃんを」
カッコいい探偵に憧れた。
スマートに事件を解決に導く探偵に憧れた。
でもその探偵だって、地道な調査と、細かい推察を重ねて、重ねて、重ねて。
やっとの思いで真相を暴き出す。
だからカッコいいんだ。だから、憧れたんだ。
今の私は
こんな私は
――探偵なんかじゃない!!!
「探偵・安斎都を、思い出してください!!!」
103 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/09/01(金) 00:39:34.77 ID:gRyzT9wx0
少しの沈黙。そして。
「ふふふふふ……」
俯いていた都が、顔を上げた。
そこに浮かぶのは……笑顔。
「ありがとうございます、頼子さん」
どこか吹っ切れたような、そんな笑顔。
「……もう、大丈夫ですか?」
「ええ! 安斎都、完全復活です! もうあんな薬には頼りませんよ!」
「……ふふっ、よかったです」
「ご心配をおかけしました! 探偵アイドルとしてまだまだ活躍しなければですからね! こんなところで眠ってはいられません!」
「それでこそ、都ちゃんです」
「さてさて、早速、目の前の謎に挑まなくてはですね!」
「あ、で、でも、今しがた、事務所から新しい衣装が届いたみたいですし、多少開演を推してはいますが、このままなら支障はないかと……」
「いえ! それとこれとは別問題です! 悪を見逃すなんて探偵失格ですから!」
「ですが、手がかりもないですし……」
「そうですね……、ですが、探偵の武器は足だけではないんですよ!」
「え?」
「頼子さん、1つ、お願いを聞いてもらってもいいですか?」
104 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/09/01(金) 00:40:27.86 ID:gRyzT9wx0
〜〜〜〜〜
――大変長らくお待たせいたしました。ただ今より開演となります。
予定の時間を過ぎても始まらないことに観客が疑問を抱き、そろそろ苦情の1つでも飛んでこようかというタイミングで、放送が響いた。
ステージの上には人影が1つ。
カッ! という音と同時に、スポットライトがその人影に注がれる。
そこには。
「みなさんっ、こんにちは! 安斎都です! あっ間違ってないですからね! これはちゃーんと、頼子さんのイベントですからっ!」
唖然とする観客達。
無理もない。待てども始まらないイベントが開演したと思えば、ステージ上には何かと話題の探偵アイドル。
まさか、頼子の身になにか……? トラブルが起きたのか……?
そんな空気を感じ取ったのか、都は続ける。
「心配いりませんよ。頼子さんは舞台袖で、今か今かとスタンバイしています!」
安堵する観客の顔が見える。
「むむっ! "じゃあなんでお前はいるんだ!"と思った方がいますねっ! 説明しましょう!」
「実は先ほど、"落し物"をしている人を見かけたんです。"顔はわかっている"のですが、いかんせんこの人数から探すのは至難の業……!」
「そこで、こうして呼びかけることで"自首"してほしいんです!」
わざと事件めかした言い方をしていると思ったのだろう。観客から笑い声が聞こえた。
……もちろん、特定の人物に向けたものであるのだが。
「ああ、警備員さんに特徴は伝えてありますので、逃げられませんよ〜?」
「まあ私も鬼ではありません。自首してくれれば罪は軽くなりますからね!」
またも笑い声。
「私からは以上です! さてさてみなさんお待ちかね、頼子さんの時間ですよ! 安斎都でした!」
笑顔で深々と頭を下げた都は、闇に消えていった。
105 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/09/01(金) 00:41:12.58 ID:gRyzT9wx0
〜〜〜〜〜
翌日の事務所。
「お疲れ様です、都ちゃん」
「あっ頼子さん! 昨日は本当にお疲れ様でした!」
「いえ、こちらこそ。……おかげ様で犯人も捕まりましたし」
「本当によかったです……」
「でも、あの場に犯人がいなかったら、どうするつもりだったんですか……?」
「いえ! "犯人は現場に戻ってくる"と言いますし! 犯人なら、イベントが壊れる瞬間までその場にいるだろうと考えたんです」
「なるほど……。流石、名探偵さんですね」
「えへへ……。そ、それより! イベントの後、私はすぐに解放されましたが、頼子さんは警察から話を聞かれていたんですよね……? あっ、決して探偵として1回受けてみたかったなあなんて思ってないですよ!」
「ふふっ、そうですね。……ああ、そういえば」
「?」
「犯人は自首した理由について、こう言っていたそうですよ」
『まさか安斎都がいるとは思わなかった。逃げられないと感じた』
「ふふん! ……ま、まあ、その名声は私の力ではないですが」
「たとえそうでも、追い詰めたのは都ちゃんですよ」
「て、照れます……。探偵は話術も武器ですからね!」
「これから先も、活躍を期待していますね? 名探偵さん」
「はい! 任せてください!」
106 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/09/01(金) 00:42:30.16 ID:gRyzT9wx0
「……頼子さん」
「はい?」
「ありがとうございました」
「都ちゃん?」
「私は、ずっと眠っていました。この薬を初めて手にした時から」
都が薬を取り出す。
「目を覚ましてくれたのは、頼子さんです。本当にありがとうございました」
「……力になれたのなら、嬉しい限りです」
「でも」
「?」
「1つだけ、謎が残っています」
「そ、そうなのですか……?」
「昨日、聞き間違いでなければ頼子さんは『私が大好きだった都ちゃんは』と言っていましたよね?」
「えっ!? あ、ええと……」
まさか掘り返されるとは思ってもみなかったのだろう。明らかに頼子がうろたえている。
「それを聞いてから、いえ、それよりも前からだったかもしれません。頼子さんの顔を見ると……ドキドキして……」
「え?」
「……そこで、この謎を解くことを、睡眠探偵ミヤコの最後の仕事にします」
そう言って、都が最後の薬を口に含む。
「……まあ、自分でもわかっているんですけどね」
小さな呟きが頼子の耳に届いた時にはもう。
カクン
目の前には、何度も見た姿勢の都が。
「謎が解けましたよ」
「頼子さん。私は――」
――少し震える都の手には、まだ最後の薬が握られていた。
おわり
107 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/09/01(金) 00:43:10.02 ID:gRyzT9wx0
ありがとうございました
108 :
0/183
◆E.Qec4bXLs
[saga]:2017/09/01(金) 22:54:45.14 ID:+FZOeqSl0
ちょっと書かせていただきます
109 :
3/183
◆E.Qec4bXLs
[saga]:2017/09/01(金) 22:56:03.58 ID:+FZOeqSl0
恋人に刺された。
モバP(以下P)「参ったな・・・こういうのはヤンデレキャラの領分だろうに」
俺は自室用のデスクチェアーに腰掛け、そう呟いた
カーペットを汚している液体の赤さがまゆのことを思い出させる
決して「ヤンデレ」というワードに反応したのではない、あの子はいい子だから
腰から包丁の柄が生えたまま、もう30分になる
ちなみに刃の方は背骨の近くの太い血管に食い込んでいるのだろう
清良や早苗に見せるまでもなく致命傷である
少なくとも刺された直後は間違いなく致命傷だった
なのに、スタミナドリンクを飲んだらちょっと治った
110 :
3/183
◆E.Qec4bXLs
[saga]:2017/09/01(金) 22:56:31.40 ID:+FZOeqSl0
モバP「○○まで死ねません」
111 :
6/183
◆E.Qec4bXLs
[saga]:2017/09/01(金) 22:57:21.48 ID:+FZOeqSl0
俺はこれでも延べ183人のアイドルをプロデュースしてきたプロデューサーである。
同僚のサポートだったり、提携している他事務所の子を短期プロデュースしたり
ただでさえ多めの自分の担当アイドルに飽き足らず大なり小なり手を貸してきた
プロデューサーの能力は豊富な経験で決まると信じて居た俺はそういう風に実績を積んだ
そして今日までのところそれは成功していた
担当中のアイドルとの仲も上々だし、
引退したアイドルとも、良き友人としての関係を改めて築けた
だから毎年200枚近い年賀状が届く
そこそこの彼女も出来たし、出世したし、いいマンションに部屋も構えた。
P「まあ、その自宅でその彼女に刺されたんだけど」
今、立ち上がると出血が悪化して死ぬ
俺は椅子のキャスターを利用して座ったまま部屋を移動した。
動いた軌道に沿って赤いラインが野太くついてくる。
沙紀ならこれもアートというだろうか
P「こうして見るとまるで俺が血抜きされているみたいだな」
しかし葵や七海がここでマグロ解体ショーを実演してもここまで部屋は汚れないだろう
112 :
35/183
◆E.Qec4bXLs
[saga]:2017/09/01(金) 22:58:59.74 ID:+FZOeqSl0
彼女が俺に対する刃傷沙汰に及んだ原因は俺にある
長くアイドルと接し、彼女らの魅力に当てられ、または磨き上げている内に俺の女性観が変わってしまったのだ
”魅力あるものは独占せず、世界に知らしめすべし”
プロデューサーとしてはそれは褒められたことだろう
ゆかり、桃華、雪乃、紗枝、琴歌、星花、千秋、詩織らのような清楚さ
加奈、美里、美由紀、菲菲、ライラ、芽衣子、薫、みりあ、のような愛嬌
瑛梨華、フレデリカ、あずき、仁美、アヤ、聖來、ヘレン、亜季、美羽、いつき、柚のような溌溂さ
俺はそれらを飾り立て、磨き上げることに喜びを見出していた
いつの間にかそれがプライベートにまで侵食していたのだろう
アイドルではない、どこに見せびらかすでもない恋人に対して俺はひどく冷めていたのだ
彼女は言った。
「かわいいアイドルに囲まれて、わたしに飽きたんでしょう!」
俺は言った
「そんなことはない、だって君と彼女らはそもそもステージが違うんだから」
ありすでも自重するであろう論理だった
論破でもなんでもない途方もない失言だった
なので言葉ではなく暴力でやり返され今に至る
113 :
38/183
◆E.Qec4bXLs
[saga]:2017/09/01(金) 23:00:00.24 ID:+FZOeqSl0
P「そりゃ・・・長いこと、セックスレスだったし、不満もたまるかぁ・・・」
独り言でも喋ってないとつらい、黙ると腰の激痛に意識を向けそうになる
俺は飛鳥の饒舌さを再現するつもりで話しながら椅子で移動する
P「一度美しいもの目を焼かれてしまうとそれ以外のものが色あせて見える・・・果たして本当にそうだったのだろうか。
美醜は相対的なものに完結してしまうのか?自身にとってのみありうる絶対的な美の存在は許されないのか?
そうだ、俺はもっと気の利いた言の葉を以て恋人を繋ぎとめ、剣を突き立てることもなかったのではないか?
『僕は世界に通用するアイドルを育て上げているが、君は僕の中ではずっと一番さ』なんてそれぐらい囁くこともぼろろろろろろろろげれぼろろろろろろろろろろ」
思わず嘔吐した
セリフが臭かったからとか、飛鳥に全然似てなかったとかではなく体に無茶をさせすぎたらしい
慌てて、胸ポケットから取り出したスタドリを一気飲みした
せり上がっていた嘔吐物がドリンクの清涼感を打ち消しつつ食道を下る
P「・・・・・・・・・ふうっ」
はい、回想と反省はおしまい
真奈美やあいを真似た指パッチンで頭を切り替える
ここからは生きるための話をしよう
114 :
50/183
◆E.Qec4bXLs
[saga]:2017/09/01(金) 23:01:46.87 ID:+FZOeqSl0
俺は後ろから腰を刺された。
なぜなら自宅にもかかわらず机で仕事をしていたからだ
彼女は本気で怒っていたというのに俺が相手していたのは画面に表示されたエクセルだった
パソコン、と聞くと泉やマキノを思い出したが彼女らに連絡はとれない
なぜならこのパソコンはあくまで事務作業用なので漏洩を危惧してオフライン設定のままなのだ
なので刺された直後、俺にできたのは部屋から出て行った彼女を追うのでもなく通報するのでもなく
机の引き出しに入っていたぬるいスタドリを飲むことだけだったのである
どうせ死ぬのなら飲み残しのないようにしようと呷ったところ寿命が延びたのだ
楓や志乃にあと礼子が言っていた。「酒は百薬の長」だと
俺の場合スタドリのおかげで致命傷を遅延できている
だがそれも体感で2,3分くらい。実際はもっと短いだろう
さっきの椅子移動でカラーボックスの上に転がっていたスタドリをチャージしたがその効果も長くない
都のような探偵なら部屋を歩き回りながら考えるのだろうが、
俺は動けない、椅子を動かせても椅子の上から動けない
歩いて病院には行けないのだ
P「つまり、そういうこと・・・」
スタドリが切れたら死ぬ
パンが切れたみちるのように、メガネが尽きた春菜のように、ドーナツが朽ちた法子のように
ヒロイン補正の消えたほたるのように、ギャグ補正の消えた加蓮のように、電池が切れたのあのように
115 :
53/183
◆E.Qec4bXLs
[saga]:2017/09/01(金) 23:03:21.50 ID:+FZOeqSl0
P「オーケーオーケー、まずは物資確保だ・・・俺の家のスタドリ在庫は?」
今俺がいるのは仕事部屋の壁際
元々窓際にいたのを移動したのだ
ここまで確保したスタドリは3本、摂取したのは2本
P「そーっと動け、そーっとだ・・・」
部屋の入り口に向けてつま先歩きで椅子を動かす
出入り口のそばには小型冷蔵庫がある。そこにはスタドリのストックがあったはずだ
P「といっても少ないだろうが・・・」
でも最終目的地はリビングだ。
そこにある通常サイズの冷蔵庫ならもっとたくさんのスタドリを補充できる
大事の前の小事というのかはともかくまずはそこに至るまでのスタドリが必要だ
ゴツリ、とキャスターが何かに食い止められた
振動が腰に伝わる、出血が増えた気がした
慌てて三本目の蓋を開ける、星型の飾りが指にくい込んだがどうでもいい
P「しまった・・・手持ち最後を飲んでしまった」
キャスターがボールペンを踏んでいたらしい
これを無理に乗り越えるリスクは冒せない
万にひとつ、椅子が転倒したら死ぬからだ
俺はふーっと息を吐くと、たった一本のペンを迂回して冷蔵庫に向かう
壁に貼られていた智香のポスターと目があった。どうやら応援してくれているらしい
ちなみにその隣では友紀がキャッツを応援していたし茜がボンバーのポーズをしていた
腰の血管がボンバーしているので笑えない
116 :
57/183
◆E.Qec4bXLs
[saga]:2017/09/01(金) 23:04:55.55 ID:+FZOeqSl0
俺の仕事部屋は無駄に広い。壁から入口まで5メートル以上はある
手持ちのスタドリがなくなったせいで背筋が寒くなってきた
血が足りなくなってきたのを感じる
P「着いた・・・!」
思わず手を伸ばそうとして、腰に激痛が走った
嘘である。
激痛はずっとそこにいる。それがよりひどくなっただけだ
高級マンションの部屋は大きいが冷蔵庫は予想外に小さい
P「座ったままでは開けられない・・・」
そうだ、いつもはしゃがんで開けていたんだった
俺はさながら車椅子生活中の腰痛持ち、前傾もできない
バリアフリー、という言葉が浮かんだ
あとクラリスの慈愛顔も連想した。あまねく人々に平等な愛を
P「何か、何かないか・・・」
ピチョン
滴った血がやけに大きな音を立てた
タイムリミットは近い、スタドリを切らすとゼロになる
汗が止まらない。首が痒くなってきて思わず掻いた
指にネクタイが引っかかる。ニュージェネの子達が選んでくれたものだ
自宅でも仕事スタイルだったことに今更、思い至った
P「・・・・・・」
案を一つ思いついた。
ネクタイを慎重に解いていく
噴き出す汗で指が滑る
響子が整えてくれた結びをほぐす
そして体から外したネクタイを一本の紐のように構える
むつみがロープを持ったときのように
そして時子の鞭のように振るった
117 :
62/183
◆E.Qec4bXLs
[saga]:2017/09/01(金) 23:06:24.44 ID:+FZOeqSl0
かちりと冷蔵庫の取っ手にタイピンが引っかかる
あれはニューウェーブが選んでくれたものだ
そのままゆっくりと後退していくと軽い抵抗の後、冷蔵庫は開いた。
P「よしよし・・・蓋さえ開けば何とかなる」
”本当に困ったとき、身の回りの物を有効活用すればなんとかなるのだ”
幸子が体を張ったロケでそう学んだらしい。
冷蔵庫の中にはびっしりと小瓶が詰まっていた
その全てがスタドリ、その全てが延命剤、命綱
P「まるで宝石箱やぁ・・・なんでやねん」
智絵里や笑美を思い浮かべながらセルフツッコミ
気を取り直して瓶を取得しようと手を伸ばすが、俺は甘かった
扉ですら手が届かなかったのに、その奥に手が届くわけがない
P「(まずい、まずいぞ・・・スタドリを眺めながらスタドリ不足で死んでしまう・・・)」
焦りすぎて声が出ない、目も掠れてきた
スタドリがなければもっと早く訪れていたであろう死に至る症状
こんなとき舞や千枝みたいな背の小さくて気が利く子がいれば取ってくれるのだが・・・
ここにはアイドルはいない。俺は自力で命を繋ぐのだ
そうだ、仕事と一緒だ
仕事がなければ生きていけない
スタドリがなければ仕事ができない
だから、スタドリがなければ生きていけない
118 :
64/183
◆E.Qec4bXLs
[saga]:2017/09/01(金) 23:07:33.36 ID:+FZOeqSl0
腰から血を滝のように流し、
血液の代わりにスタドリを摂取して延命している
この状態はそんな世界の縮図だ
気がついたら足の感覚がなくなっていた
震えるばかりで満足に地面を蹴ることもできない
P「(そりゃ腰を刺されているんだ・・・足腰が立たなくなるのは時間の問題だった・・・)」
目眩がする、きらりに抱きつかれた時のように視界が揺れた
もしかしたら地震かも知れない、
俺はバランスを崩し椅子から振り落とされた
小さな冷蔵庫も巻き込んで倒れこむ
あ、死んだ
捻転していく視界の中、レナがコイントスをしていた
ピンチの今こそ逆転のチャンス、とでも言いたいのか?
119 :
70/183
◆E.Qec4bXLs
[saga]:2017/09/01(金) 23:08:35.82 ID:+FZOeqSl0
いつもアイドルの傍にいた
後ろから背を押してやった
前に立って手を引いてやった
横に座って励ましてやった
いつもスタドリを備えていた
飲めば元気が沸いてきた
アイドルに取り残されないように
アイドルと共に戦うために
アイドルと壁を乗り越えるために
アイドルプロデュースが俺の喜びで
スタドリがなければそれも果たせない
だからスタドリは俺の喜び
本質はその液体にあらず
生きる意味なのだ
食欲、睡眠欲、性欲、出世欲、承認欲、顕示欲etc、etc・・・
人間はいつも形なき喜びを求めている
ラブとピースを謳歌する柑奈のように
女性の胸部を登頂する愛海のように
ロックを希求する李衣奈のように
未来からの予兆を待つ朋のように
女子力を探求する美紗希のように
はっぴーを振りまくそらのように
120 :
77/183
◆E.Qec4bXLs
[saga]:2017/09/01(金) 23:10:12.06 ID:+FZOeqSl0
P「(リビングだ・・・そこなら携帯電話も冷蔵庫も玄関への道も・・・)」
果たして俺は生きていた
椅子から倒れ、冷蔵庫の瓶も盛大に転げていったのにも関わらず
今こうして、少しずつスタドリを飲み、腕の力だけで床を移動している
P「(歌鈴がスタドリの空き瓶で転んだ時のことを思い出すぜ・・・)」
エジプトのピラミッドの時に、イースター島のモアイの時に
それは大昔の人間が巨大な岩を運搬するための手段
俺は床にうつぶせに倒れてしまったが、そこから床と体の間にスタドリの瓶を敷いていったのだ
空き瓶が転がると同時に体が前に進むように、いくつもいくつも敷いていく
こうして床と自分の間の摩擦を無効化すれば弱った腕の力でも進めるというわけだ
一本飲んでは体の下に押し込んで、腕の力を振り絞って床を押す
P「(うおお・・・根性だ・・・地面を泳ぐんだ・・・)」
櫂の水泳や麻理菜のサーフィンをイメージする
飲みながら廊下に置いていく、飲みながら廊下を進む
どうしてこんなに広い廊下なんだろう、広い家を買ったからか
イヴのように質素な住まいにしておくべきだったのか
乃々や輝子のように狭いテリトリーに満足しておくべきだったのか、答えはわからない
P「(体重がかかってお腹が痛い・・・しかし背中には包丁が・・・)」
妙な諺だが「腹に背は代えられない」ということか
だが、腰の方がもっと痛いので耐えられる
菜々だって腰痛に悩まされながらもステージに立ったのだ、プロデューサーの俺が弱音を吐くわけには行かない
121 :
78/183
◆E.Qec4bXLs
[saga]:2017/09/01(金) 23:11:52.44 ID:+FZOeqSl0
うつ伏せのままガブガブとスタドリをラッパ飲み、こぼれた液体が顎を濡らす
血液とスタドリの混じったなにかの液体がカーペット用に廊下を汚した
気の遠くなるような体感時間の末、ようやくリビングに通じる扉に着いた
這いつくばった態勢ではノブに届かないのではと気を揉んだが
彼女が出て行くときにちゃんと閉めなかったらしい。扉は薄く空いていた
進み方はそのままに扉を頭で押しのけるようにして
ついにリビングにたどり着いた
俺はスタドリを転がしながらカーペットの上を滑っていく
P「(助かった・・・冷蔵庫も、そして携帯電話もある・・・!)」
冷蔵庫までまっすぐ行こうとして、この態勢では扉が開けられないことに気づく
予定変更、さきに携帯電話を手に入れる
ソファのそばに置かれたテーブルなら地面からでも手が届く
確か私用の携帯電話はそこに置いていた。
広い部屋を盛大に汚しながら横断する
恐らくとっくに血は足りていない、
スタドリの回復分だけで動いている
小梅の好きなゾンビのように這っていく、這っていく
122 :
90/183
◆E.Qec4bXLs
[saga]:2017/09/01(金) 23:14:59.34 ID:+FZOeqSl0
残り5メートル
〜卯月「頑張ってください!」〜
残り2メートル
〜恵磨「いっけーーーーー!!!!」〜
残り1メートル
〜珠美「忍耐ですぞ!P殿!」〜
アイドル達の幻聴に頭がくらくらしながらテーブルの上を五指で探りまわる
リモコンや雑誌に紛れて、確かな感触があった
携帯電話に手が届いたのだ
P「あっ、そうだ充電切れてたんだ・・・」
アイドルのケアも兼ねて仕事用の携帯電話ばかり使い、私用のものは自宅に放置していたからだ
それで彼女からの連絡も彼女への連絡も蔑ろにしていた
そういう態度も刺される原因の一つだったのだろう
P「俺はここで死ぬのか・・・」
俺はできる限りみんなの顔を思い出そうと最後に脳を振り絞った
有香、ゆかり、亜里沙・・・
沙理奈、千夏、瑞樹・・・
藍子、夏樹、久美子・・・
思い返せない数のアイドルの顔を思い出す
走馬灯をアイドルだけで埋め尽くさんと
”今回の俺”はどうやらここまでだ・・・
123 :
?/183
◆E.Qec4bXLs
[saga]:2017/09/01(金) 23:18:18.77 ID:+FZOeqSl0
P「ところで何人くらい名前出せた?」
こずえ「えっとねー・・・きゅーじゅーにん・・・」
P「90人か・・・半分ってとこかー・・・」
こずえ「けーたい・・・じゅーでんしてたらもっとできたのー」
P「そうだな、あの辺で精神的にガクっときたからなー・・・そこで意識切れちゃったよ」
P「・・・よし!もう一回だ!」
芳乃「了解でしてー」
P「よーし次は183人全員の名前出すぞー!」
124 :
13/183
◆E.Qec4bXLs
[saga]:2017/09/01(金) 23:22:30.84 ID:+FZOeqSl0
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
恋人に刺された
モバP「参ったな、こういうのは巴の好きな任侠映画や小梅の好きなスプラッタ、あとはあとは・・・」
俺は自室用のデスクチェアーに腰掛け、そう呟いた
カーペットを汚している液体の赤さがまゆのことを思い出させる
・・・・・・あとレッドバラードの千夏、アヤ、礼子、千秋、あいも思い出した
決して「ヤンデレ」というワードに反応したのではない、あの子はいい子だから
腰から包丁の柄が生えたまま、もう30分になる
・・・・・・響子や蘭子が台所に立ったときに使っていたものとよく似ている
ちなみに刃の方は背骨の近くの太い血管に食い込んでいるのだろう
清良や早苗・・・・・・あと喧嘩慣れしてそうな拓海に見せるまでもなく致命傷である
少なくとも刺された直後は間違いなく致命傷だった
なのに、スタミナドリンクを飲んだらちょっと治った
125 :
◆E.Qec4bXLs
[saga]:2017/09/01(金) 23:23:15.06 ID:+FZOeqSl0
モバP「アイドル全員の名前を挙げるまで死ねません」
126 :
◆E.Qec4bXLs
[saga]:2017/09/01(金) 23:24:37.84 ID:+FZOeqSl0
元々単発であげようと思っていたネタなのですがついこちらに書いてしまいました
ありがとうございました
テーマは不条理コメディです
127 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/03(日) 23:02:53.74 ID:tjIn0ES/o
完成しましたので投稿します。
一部の方にとって不快な内容かもしれませんがこらえてください。
128 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/03(日) 23:03:37.90 ID:tjIn0ES/o
まゆ「まゆはプロデューサーさんのためだったらなんだってできます。」
まゆ「いつだって、私はプロデューサーさんのことを想っています…。」
まゆ「時々、『愛が重い』っていう人もいますけど、まゆにとってそんなことはどうでもいいの。」
まゆ「まゆは一番好きな人を想っていればそれだけで…。」
『愛の重さ』
129 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/03(日) 23:04:31.04 ID:tjIn0ES/o
佐久間まゆはライブツアーの最中である。
たった今、3カ所目の公演を終え、ちょうど折り返し地点というところまできた。
P「まゆ、お疲れさま。今日のライブは今までで最高の出来だ。」
まゆ「ありがとうございます…♪最高のまゆをお届けできました…♪」
気分の高まりか、はたまたライブの疲れか、息が上がっている。
しかしその顔は満面の笑みであった。
P「プレゼントボックスもこんなに来てるぞ。こりゃ全部読むのは大変だなぁ」
まゆ「まあ、うれしい♪ちゃんと読んで、ブログも更新しなきゃですね…♪」
プレゼントボックスの中は色とりどりのファンレターや地元のお菓子など、さまざまなものであふれていた。
P「ほら、これなんて見てみろ。まゆのイメージにぴったりって感じの封筒だぞ。」
まゆ「本当ですね。最近、こういうファンレターが増えましたね…♪」
白のメールに、赤のリボンがぐるぐる巻きにしてある、いかにも『まゆのファン』からのファンレターだ。
P「量が多いから、明日事務所でゆっくり読むといい。とりあえず冷えるから着替えておいで。」
まゆ「はぁい♪」
130 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/03(日) 23:05:02.60 ID:tjIn0ES/o
その夜、まゆは自室で日課になっている日記をつけていた。
まゆ「今日はプロデューサーさんに…うふふ♪」
ご機嫌で日記を書き終え、翌日の持ち物を整理していると、かばんの中から一通の封筒が出てきた。
まゆ(あら、誰からだろう…それにいつの間に…?)
見覚えのある封筒。プロデューサーがプレゼントボックスから取り出して見せた、あのファンレターである。
まゆ「プロデューサーさんったら、おちゃめなんだから…♪」
ぐるぐる巻きのリボンを丁寧にとり、封筒を開ける。
一枚の真っ白な便箋に、まるで印刷したかのようなきれいな明朝体で一言
『まゆすき』
と書かれていた。
まゆ「…?」
この他に何か入っているかもと思い、封筒を逆さにして振ってみたり、中をのぞいてみたりしたが何も出てこない。
四文字のひらがなが書かれた便箋一枚、ただそれだけが入っていたのだ。
まゆ(どういうことかしら…?)
あまりにも唐突で、あまりにも短い愛の告白にまゆは困惑した。
考えてもわからないので、今日は寝て明日プロデューサーに聞いてみよう。そう思い、まゆは就寝することにした。
131 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/03(日) 23:05:29.20 ID:tjIn0ES/o
……
翌日、事務所について真っ先にプロデューサーに聞いた。
まゆ「プロデューサーさん、おはようございます。」
P「おう、おはよう。昨日届いたファンレター、まとめておいたぞ。」
まゆ「ありがとうございます。ところで、昨日まゆのかばんにお手紙入れたりしましたか…?」P「手紙?」
プロデューサーの反応を見て、手紙を入れたのは彼ではないことを悟った。
まゆ「…いえ、何でもありません。」
つまり、『プロデューサーではないだれか』が、かばんの中に手紙を入れたのだ。
いったい誰が、何の目的で入れたのか、皆目見当がつかない。考えすぎると気味が悪くなってしまうので考えるのをやめた。
何かの拍子にいたずらのつもりで入れたファンレターが混じってしまったのだ。そうに違いない。
まゆはそう言い聞かせ、このとは忘れることにした。
『まゆすき』
132 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/03(日) 23:06:01.97 ID:tjIn0ES/o
昼
みくと美穂、そしてまゆの3人でランチに行く約束をしていた。
店員「こちら、メニューでございます」
みく「ここ、カルボナーラがすごくおいしいの!」
美穂「すっごいおしゃれなお店…もうちょとおめかししてこればよかったかな…」
まゆ「うふふ…美穂ちゃん、あまり気を張らなくても、とってもかわいいですよ。」
みく「ねえねえ、何頼む?」
美穂「どれもおいしそうで目移りしちゃう〜…」
3人でページをめくっていると、メニューの間から何かの紙が落ちた。
みく「あ、なんか落ちたよ?」
美穂「これは…手紙?」
真っ白な便箋に、リボンの形のシールで封がしてある。
ふと、昨晩の出来事が脳裏に浮かぶ。
恐る恐る美穂から手紙を受け取り、封筒を開ける。
中からは花柄のかわいい便箋に、丸くて小さい文字で一言
『まゆすき』
と書かれていた。
みく「まゆチャンそれ何?」
まゆ「さあ…なんでしょうね?さあ、早くメニュー決めましょう」
133 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/03(日) 23:06:34.96 ID:tjIn0ES/o
なんとかその場はやり過ごし、食事後二人とは別れ、一度事務所に戻ることにした。
まゆ「プロデューサーさん…」
P「ん?どうした。」
まゆ「これ…」
先ほど店で拾った手紙を渡す。
P「…まゆ宛てのファンレターか?」
まじまじと手紙を見る。
まゆ「…開けてみてください…」
P「なんだおいちょっと怖いな」
プロデューサーが封筒を開ける。
花柄の便箋に件の4文字。
P「…何かのいたずらか?」
まゆ「今朝、プロデューサーさんに話そうとしたことは、それについてなんです…」
昨晩あったこと、先ほど起こったことについて話した。
P「二つ目は店員の小粋なジョークなんじゃないのか?」
Pはどこか抜けていた。
まゆ「だとしたら、なぜ店員さんはまゆがお店に行くのを知っていたのでしょうか…」
P「うん、さっきの撤回。おかしいわ。ちょっと一ノ瀬探してくる。」
まゆ「志希さんですか…?」
P「あいつならDNA鑑定とかさらっとやってくれそうだ。たぶん喜んで飛びついてくるぞ。」
134 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/03(日) 23:07:03.87 ID:tjIn0ES/o
……
志希「なるほどねー。誰の仕業か調べたいってことねー。」
P「やってくれるか?」
志希「最短でも一日はかかるから、ゆっくり待っててねー。」
まゆ「できるんですね…ありがとうございます、志希さん。」
志希「いやー、こっちとしても久々に面白い材料が見つかってホクホクだよー。」
P「じゃあ、頼むぞ。報酬は弾む。」
志希「期待しないで待ってるよー。にゃははー。」
……
まゆ「……」
P「不安か?」
まゆ「はい…ちょっとだけ、手紙が怖くなりました…」
P「何かあったら頼ってくれていいから、かまわず俺を呼ぶこと。いいな?」
まゆ「はい…ありがとうございます…」
いつでも連絡してくれていい。
いつもならこれほどうれしいことはないのだが、今は不気味さと恐怖があり、喜べるどころではなかった。
P「何なら、今日は収録の打ち合わせだけだから、終わったら送るよ。」
まゆ「プロデューサーさん、すき」
P「とりあえず、終わるまではここで待っててくれればいいぞ。」
まゆ「……はい」
ジョークのつもりで言ったがスルーされてしまい、少し頬を膨らませてみた。
135 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/03(日) 23:07:35.66 ID:tjIn0ES/o
プロデューサーが打ち合わせに行き、一人になってしまった。
さすがに数時間一人なのは心細かったので、プロジェクトルームに行くことにした。
ルームでは桐生つかさが台本を読んでいた。
つかさ「お、まゆ…どうした?」
まゆ「つかささん、こんにちは。」
つかさ「何があったか話してみろよ。何か手伝えるかもしれないだろ?」
まゆ「…つかささんにはお話しします。実は…」
何かにすがりたかった。つかさは信頼できるので話すことにした。
つかさ「なるほど、知らない間に誰からかわからない手紙か。」
まゆ「ええ…」
つかさ「本当に手紙のほかには何も入ってなかったのか?」
まゆ「はい、手紙だけですけど…」
つかさ「毛髪とかチリとか、本人を特定する材料は?」
まゆ「そこまでは…今志希さんに調べてもらっていますけど…」
つかさ「なんかあってからじゃ遅いから、誰でもいいから頼れよ?」
まゆ「はい…じゃあ、甘えちゃおうかしら。」
つかさ「なんだ?できる範囲なら力になるぞ?」
まゆ「飲み物、一緒に買いに行きませんか?」
『まゆすき 尊い』
136 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/03(日) 23:08:04.66 ID:tjIn0ES/o
……
P「まゆ、お待たせ。打合せ終わった!」
まゆ「…!」
プロデューサーに駆け寄り、強く腕にしがみつく。
つかさ「気をつけて帰りなー」
プロデューサーに連れられてまゆは寮に帰ることにした。
事務所の駐車場。営業用、ロケ用、さまざまな車が止まっている。
最新の車もあるが、各部署に割り当てられている車は異なる。
P「すまんな、ぼろいセダンで」
まゆ「プロデューサーさんとなら、どんな車でも大丈夫です♪」
少しだけ強がってみた。
P「そうかい……」
プロデューサーが助手席に目を落とす。
ドアを開けず、その場で固まってしまった。
まゆ「……プロデューサーさん?」
まゆもプロデューサーの視線の先を見る。
P「……冗談きついぜ…」
助手席に白い封筒が置いてある。
P「車の鍵は適当にとった。まゆと一緒なのは誰も知らない」
まゆ「ここにまゆ達が来るのは誰も知らないはずなのに…」
扉を開け、封筒を手に取る
P「……中身、見るか?」
まゆ「プロデューサーさんが見てください…」
P「開けていいのか?」
まゆ「お願いします…」
封筒をプロデューサーが空ける。
中からはリボンで装飾された便箋。
やや乱雑な文字で一言
『まゆすき 尊い』
とだけ書いてある。
P「少しパターンが違うな。」
まゆ「誰がどうやって仕込んだのでしょうか…」
P「まあ、ここにとどまっていても埒が明かん。」
まゆ「…そうですね…」
車に乗り込み、寮方向へ向かう。
その後は何事もなく、寮についた。
まゆはいつもと同じように日記を書き、就寝。
しかし、手紙の差出人が気がかりでどうにも寝付けなかった。
まゆ(一体だれが何の目的でこんなことをしているんだろう…)
137 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/03(日) 23:08:32.41 ID:tjIn0ES/o
しばらくの間、このようなことが続いた。
ある日は学校の机の中に、ある日は靴箱にぎっしりと、ある日は郵便受けに。
どれも同じような白い封筒。赤で縁取りがしてあったり、シールが貼ってあったりと、少しずつ違った。
ただ、中身はいつも、1枚の便箋に一言
『まゆすき』
とだけ書いてあった。
まゆは不可思議で奇妙な現象によって疲弊していった。
138 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/03(日) 23:09:00.42 ID:tjIn0ES/o
……
とある朝
?「まゆチャン早く起きるにゃあ!!」
まゆ(みくちゃん…?)
寝起きの目をこすりながらドアを開ける。
みく「どうしたのこれ!?すごい数のファンレターだけど…」
まゆの顔が青ざめていく。
自室の扉を開けると、山のような手紙が置いてある。
恐怖のあまり腰が抜けてしまった。
まゆ「みくちゃん、今すぐプロデューサーさんを呼んでください…」
みく「ヴェ!?い、いきなりどうして…」
まゆ「お願いです…」
まゆは今にも泣きそうであった。
みく「わかったにゃ。Pチャン呼ぶけど、その前に着替えておこ?」
139 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/03(日) 23:09:29.02 ID:tjIn0ES/o
しばらくして、プロデューサーが女子寮に駆け付ける。
P「何があった!?」
みく「Pチャン、これ…」
床に散乱した大量の封筒を指さす。
気味が悪くて誰も触らなかったのだ。
プロデューサーはそのうちのいくつかを手に取り、中を確認する。
『まゆすき』
『まゆすき…まゆすき…』
『まゆすき!!!!!』
表記にぶれはあるが、どれも同じ内容。
それが111通。一晩の間に、まゆの部屋の前に置かれたのである。
みく「これ、警察に通報したほうがいいんじゃ…」
P「さっき一ノ瀬から手紙の分析が終わったって連絡があったから、それを聞いてからでも遅くない。」
みく「でも早くしないと…」
P「犯人を刺激しかねないから慎重にやらないといかん。」
みく「それは…そうだけど…」
まゆ「まゆも、通報はちょっと待ったほうがいいと思います…」
みく「まゆチャンも!?」
まゆ「今はまだ実害はないですけど、通報したことがわかったらどんなことをされるかわかりませんから…」
P「とにかく、事務所まで行って、一ノ瀬から結果を聞こう。」
140 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/03(日) 23:09:55.72 ID:tjIn0ES/o
プロデューサーとまゆ、そしてなぜかついてきたみくの3人で、志希が勝手にラボにしている事務所の一室まできた。
P「来たぞー。」
志希「お、よく来たねーふた…3人?」
みく「みくは付き添いだよ?」
志希「まあいっか。じゃあ、分析の結果、教えるねー」
P「ああ、頼む」
志希「まず、手紙と封筒からは、まゆちゃんとプロデューサー以外の指紋や体液の後は見つからなかった。」
P「…マジか」
志希「手紙以外に毛髪とかも見つからなかったよ。」
まゆ「そうですか…」
志希「で、これが一番面白いんだけど…」
志希「この文字、インクとかじゃなくて紙が直接黒くなってるんだよねー」
みく「それ一番わからないにゃ…」
志希「つまり、誰が作ったかも、どうやって作ったかもわからないってこと。」
P「ここまで来て手掛かりなしか…」
まゆ「じゃあ、一晩で111通もの手紙を、誰にも気づかれずにまゆの部屋の前に置くのは…?」
志希「同じ女子寮のだれか、って考えるのが自然だけど、たぶん違うよねー。」
P「車内に手紙置いておくとか普通に考えてできないもんな。」
まゆの瞳からは光が失せている。
P「…まゆの今日のスケジュール、断っとくよ。」
まゆ「いえ、今日のレッスンは合わせの日なので…まゆのわがままを通すわけには…」
志希「うーん、やめといたほうがいい気がするけどー、行くなら止めないよー?」
141 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/03(日) 23:10:24.26 ID:tjIn0ES/o
レッスンルーム
P「レッスン着、持ってたんだな。」
まゆ「予定は変えられませんから…」
P「さすがにロッカー空けて手紙出てきたら引くな。」
まゆ「…プロデューサーさん?」
P「すまん、ジョークのセンスがなさ過ぎた。」
ロッカーの中からは手紙は出てこなかった。
まゆが着替え終わるまで、プロデューサーは暢気にコーヒーを飲んでいた。
しばらくして、付き添っていたみくが出てきた。
みく「Pチャン、やっぱりまゆチャン帰ったほうがいいにゃ…」
P「…まさか」
みく「着替え入れた袋から出てきた…」
P「…トレーナーさんに入っておく。今日はまゆと一緒にいてやってくれ。」
顔面蒼白になったまゆを支えてみくが出てきた。
プロデューサーの運転する車で寮まで戻った。
車の中で、小刻みに震える彼女は、さながら狼に怯えるウサギのようでもあった。
142 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/03(日) 23:10:51.73 ID:tjIn0ES/o
寮に着き、まゆが落ち着くまで3人はまゆの部屋にいた。
昼前にプロデューサーは打ち合わせのために事務所に戻り、昼過ぎにはみくもレッスンのため事務所に行った。
再びまゆは一人になった。
先ほどの手紙は開封するのが怖くなり、そのままごみ箱へ捨ててしまった。
まゆ(こんなのが毎日続いたら、気がおかしくなっちゃう…)
現時点でも十分に神経は衰弱していた。
食事をとる気にもなれず、自室のベッドの上で数時間座りっぱなしだ。
このままでは、プロデューサーに心配をかけてしまう。明日からは普通にふるまおう。
顔を洗って気分を変えようと立ち上がった時だった。
143 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/03(日) 23:11:19.54 ID:tjIn0ES/o
カサッ
机のほうから、紙の擦れる音がした。
先ほど捨てた手紙がごみ箱から出ている。
できればもう触れたくはないが、中身を確認しないとまたごみ箱から出てくるような気がしてならなかった。
恐る恐る手を伸ばし、糊付けされた封を丁寧にはがし、震える手で便箋に書かれた文字を確認する。
144 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/03(日) 23:12:19.11 ID:tjIn0ES/o
『まゆすきまゆすきまゆすきまゆすきまゆすきまゆすきまゆすきまゆすきまゆすきまゆすきまゆすきまゆすきまゆすきまゆすきまゆすきまゆすきまゆすきまゆすきまゆすきまゆすきまゆすきまゆすきまゆすきまゆすきまゆすきまゆすきまゆすきまゆすきまゆすきまゆすきまゆすきまゆすきまゆすきまゆすきま文字数』
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