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【モバマスSS】世にも奇妙なシンデレラ
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295 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/10/01(日) 10:57:18.95 ID:wj96qBmlo
アイドルとしての寿命も一年未満やったんかい……
乙
296 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/10/04(水) 19:50:49.22 ID:F2x1bood0
短いですが投稿させていただきます。よろしくお願いします
297 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/10/04(水) 19:51:17.66 ID:F2x1bood0
初めまして。○○大学の文学部に所属している鷺沢文香といいます。趣味は読書です。昔から本を読むのが好きだったので文学部を志望しました。
最近、同じ学部の方に勧められて自分でも物語を綴ることを始めてみました。彼女曰く「自分だけの物語を書いてみるのは楽しいよ。体験談なんか入れてみると感情移入がしやすいから筆も進むしね♪」とのことでした。
298 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/10/04(水) 19:51:52.49 ID:F2x1bood0
「君、アイドルとか興味ない?」
眼鏡を掛けた明るいスーツの男性は私、鶯琴香の手を握りながら興奮気味に尋ねてきた。
「あの…ええと…」
答えあぐねている私に男性は続ける。
「大丈夫!大丈夫!見学してからでいいからさ!連絡先を渡しておくからいつでも連絡してきてよ!じゃあね!」
男性はアイドルのプロデューサーらしく所属事務所はCGプロダクション。CGプロダクションといえば人気アイドルを何人も輩出している大手で芸能界に疎い私でも知っている。
299 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/10/04(水) 19:52:32.30 ID:F2x1bood0
・
・
・
・
・
今日はここまでにしておきましょう。明日もう一度見直してみて不要な部分を無くせば読めるものにはなると思います。いつか『私』の物語を読んでくれる人もいるのでしょうか。その日が来るかは分かりませんが。
「まさか来てくれるとは思わなかったよー!! 嬉しいなぁ。ささ!座って、座って!京子ー!お茶を入れてもらっていいか?それに摘める位のお菓子も!」
名刺に書いてあったCGプロダクションを訪れるとそこには何人もアイドルが雑談をしたり、テレビを見たり、電話をしたりとそれぞれが楽しそうに過ごしていた。
「あの…それでアイドルのことなんですけど…お誘いお受けしようと思います。ご迷惑をおかけするかもしれませんがよろしくお願いしますね。プロデューサーさん」
「本当にかい?やった!今日はパーティーだ!ヒャッホウ!」
プロデューサーさんは嬉しそうに跳ねながら手を叩き、アイドルはその様子を見て茶化し、それにプロデューサーさんが「なんだよ!!」と突っ込んだりとプロダクション内の雰囲気は明るいものだった。
300 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/10/04(水) 19:53:16.33 ID:F2x1bood0
『私』もこのプロダクションの一員でいることができるんでしょうか?少し不安です。
301 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/10/04(水) 19:54:02.58 ID:F2x1bood0
・
・
・
・
「プロデューサーさん…引っ込み思案で何事にも怯えていた私をここまで引っ張ってきてくれたのは貴方です。月が綺麗ですね」
月が照らすのは私達2人だけ。ライトも無い丘の上で『私』はプロデューサーさんに自らの思いを告げる。
「ごめん、君の好意は受け取れない。俺は好きな人がいるんだ。だから…ごめん」
いつも戯けているプロデューサーさんは真面目な表情で『私』見つめる。その眼は『私』ではなく他の子を見ているのだろう。
302 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/10/04(水) 19:54:46.86 ID:F2x1bood0
悲しい。悲しい。悲しい。悲しい。悲しい。悲しい。悲しい。悲しい。悲しい。悲しい。悲しい。悲しい。悲しい。悲しい。悲しい。悲しい。悲しい。悔しい。悔しい。悔しい。悔しい。悔しい。悔しい。悔しい。悔しい。悔しい。悔しい。クヤシイ。クヤシイ。クヤシイ。クヤシイ。クヤシイ。クヤシイ。クヤシイ。クヤシイ。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。
ダカラ
303 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/10/04(水) 19:55:41.98 ID:F2x1bood0
「私こそゴメンナサイ。でもずぅっと一緒、ですよ?」
プロデューサーさんの首筋に2つの牙を持った電気を帯びているスタンガンを当てる。首筋に当たるとそれはパチリと強く光りプロデューサーさんの意識を刈り取った。
304 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/10/04(水) 19:56:19.20 ID:F2x1bood0
・
・
・
「おい、文香!これは何のつもりだ!離せ!この!くそッ!」
檻に必死に掴みかかって『私』に吠えるプロデューサーさん。ああ、なんて可愛らしいのだろう。今は彼の眼は『私』を見ていないが何れはきっと『私』のことしか考えられなくなるだろう。ライターで錐の先端を炙りながら考えていた。
305 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/10/04(水) 19:56:47.45 ID:F2x1bood0
「ああ、文香!文香ぁ!どこに行っていたんだ!寂しかったよぉ…なんで2週間も会ってくれなかったんだ…暗いし寂しいし死にそうだったよ」
ぽっかりと空いた眼孔が『私』を見つめる。これが欲しかった。プロデューサーさんの眼の入った瓶を撫でる。食べてしまいたいほど可愛らしい。
「大丈夫ですよ、プロデューサーさん。『私』だけが貴方のアイドルなんですから。だから貴方も『私』だけをミテクダサイネ?」
『私』だけの物語(プロデューサーさん)。読んでくれる人は1人だけ。作者と読者だけでいい。その関係が続く限り2人の世界は永遠なのだから。
306 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/10/04(水) 19:57:17.05 ID:F2x1bood0
これにて投下は終わりです。ここまで読んでいただきありがとうございました
307 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/10/04(水) 20:07:19.39 ID:F2x1bood0
忘れていました。タイトルは「うつろ」です
308 :
◆/tT5hkyI4g
[saga]:2017/10/04(水) 20:29:08.28 ID:4vaHGXF9O
上げさせていただきます。少し解釈が異なる場合があります。ご注意ください。
309 :
◆/tT5hkyI4g
[saga]:2017/10/04(水) 20:30:57.94 ID:4vaHGXF9O
ちひろ「あーあ、この前古本屋で買った紅白シマシマおじさんを探す絵本、答えに赤いマジックでバツがついちゃってる……あ、もうカメラ回ってますか?……コホンッ」
ちひろ「さて、『耳だけ極楽』というお話があります。念仏を聴いた『だけ』で実行はせず、知った気になった男。彼は死後、耳だけ天国に行き、体は地獄に落ちてしまった……そんなお話」
ちひろ「知ったつもりというものは恐ろしいもので、自分はそれを理解していると思い込んでしまうため、それ以上その知識に深く入り込もうと思わない」
ちひろ「場合によっては本当の知識を教えられてもそれを信じることが出来ない、酷いときはそれを嘲笑って断ずる」
ちひろ「これは案外誰にでも起こり得る弊害です。人間は中途半端に頭のいい生き物ですからね」
ちひろ「間違い探しなんて良い例です。一度は思ったことありませんか?『◯つも間違いなんてないよ』と。全部みた つ も りになっているんですね。俗にいうアハ体験などの『変化』も同様で、中々気付けない」
ちひろ「ここで大事なのは、テーブルの上の間違いより先に、自分というそれに気付くこと。決してそのままにしてはいけません」
ちひろ「放置された自分という『間違い』は真実に届くことはなく、それどころか無意識のうちに新しい『間違い』を生み出し肥大化し……」
ちひろ「そのうち、この絵本のように……ふふ♪」
『まちがいさがし』
310 :
◆/tT5hkyI4g
[saga]:2017/10/04(水) 20:37:35.57 ID:4vaHGXF9O
注・P視点でお送りします。
ガチャリ、という金属音が無人の事務所に響く。
「おはよーございまーす、と……一番乗りだな。さて仕事仕事」
最近現場に出ることが多かったせいか、書類仕事がたまりにたまってしまっているので今日は一日デスクワークだ。俺は現場の方が性に合うのか事務仕事は苦手なのでこうして早めの出勤というわけだ。
「社畜はつらいよっと。書類は引き出しにためてあるから……ん?なんだこれ」
いつもの席に着くと、俺の机の上に明らかに仕事とは関係のない陽気な文面の紙切れが置いてあり、そこにはこう書いてあった
『チキチキ☆抜き打ち間違い探し・全4問
全問正解→おめでとうございます!あなたはアイドルのみんなから信頼してもらえる立派はプロデューサーです
3問正解→惜しい!あなたは特に大きな歪みもなくアイドルを導けるプロデューサーです
2問正解→ピンチ!あなたはアイドルたちと何度もすれ違いをしますが、上手く取り繕うことはできるプロデューサーです
1問正解→残念!あなたはアイドルをトップに連れて行くのにはちょっと相応しくないプロデューサーです
では、頑張ってください!
※明確な間違いがある以上、言い訳等は一切受け付けません』
ひょうきんな書き味とは裏腹に結構物騒な物言だなぁ、と思いながらその文章を読み終えた。
そんなことより、間違い探し?周りを見回してみるが問題のようなものは見当たらない。ちひろさんの悪戯か?いや、彼女は昨日から二日間の出張だ。
……まぁ一応注意しておこう。なにかあったら自然にわかるだろうし。
おっと開始が遅れた。さーて、仕事だ仕事。
311 :
◆/tT5hkyI4g
[saga]:2017/10/04(水) 20:43:03.59 ID:4vaHGXF9O
ーーーーーーーーーーーーー
ガチャ
「おーすプロデューサー、今日は随分早いな?」
「おう、おはよう拓海。今日はやることが山積みなんでな」
そういいつつ目の前の担当アイドルの一人、元ヤンアイドル向井拓海の方を向く。……間違いとか特にはないな。別に顔が里奈ってわけでもないし、胸部が減ってたりもしてない。
「……ジロジロ見てんじゃねぇ、殴んぞ?」
よし、本物だ。
「すまんすまん。あれ、今日のレッスンってこんな朝からだったか?」
「話逸らしやがって……おう、本当はレッスンまでもうちょっと時間があるんだけどよ、ちょっと調子がいいんで自主練しときたくて、昨日の宿泊先から直で原付きトバしてきた!」
「昨日……たしか海辺での撮影か。うまくやれたか?」
「最高!水着でバイク乗り回す気持ちよさったらねぇぜ!」
「お、おう。海の方はどうだった?」
「あぁ!流石のアタシも海とあったらこの身朽ち果てるまで泳ぎ回るしかねぇってもんよ!」
「で、朽ち果て過ぎて早苗さんに投げ飛ばされたと」
「い、言うな馬鹿!」
「ははっ、拓海らしいよ」
「……おう。じゃ、ちょっくら行ってくる」
P「おう、行ってら〜」
バタン
……なんか最後素っ気ない態度取られたか?まぁそんなお年頃ってやつだろう。
別に事務所とかに異常があるわけでもなさそうだし、拓海もいつも通りだったし……やっぱりイタズラか何かだろう。
ブブーッ
312 :
◆/tT5hkyI4g
[saga]:2017/10/04(水) 20:48:38.43 ID:4vaHGXF9O
拓海が出かけて1時間ほど経った頃。
ガチャッ
「プロデューサー、おっはよ〜★」
と、若く元気に満ち溢れた声で挨拶してくれたのはカリスマJKアイドル城ヶ崎美嘉の妹、ちびギャルアイドル城ヶ崎莉嘉だ。
「おう、莉嘉か、おはよう」
「……うん!今日は凸レーションでミニライブだよね!?プロデューサーは来るの!?」
「すまん、俺は今日は一日ここでデスクワークなんだ。きらりの言うことをちゃんと聞くんだぞ?」
「そっか……わかった!絶対盛り上げてくるからプロデューサーも頑張ってね!」
「おう!成功するって信じてるぞ!みんなの力は俺がよくわかってるからな!」
「……」
まるで落ち着かない子犬のようにはしゃいでいた莉嘉が急にその挙動を止めた。
「?どうかしたか?」
「ホントに?」
「?」
「プロデューサー、本当にアタシたちのことわかってくれてる?」
「……勿論」
彼女たちのことを考えなかったことなんて殆どない。それだけは誓って言える。
「……お仕事行ってくるね」
そう一言告げ、自慢の金色のツインテールを揺らしながら仕事に向かってしまった。
……拓海と同じだ。話が終わって出ていくときになると元気がなくなっているように見える。となれば、もっと現場までついていった方がいいのかも知れない。
ブブーッ
313 :
◆/tT5hkyI4g
[saga]:2017/10/04(水) 20:53:55.43 ID:4vaHGXF9O
昼過ぎ。今日は忙しいのでカロリーとメイトになれる食品で昼食を済ませた。
バターン
「おはようございます。ふふーん、かわいい僕の出社ですよー」
「おはよう、幸子。というわけで巴とイチゴパスタ食レポ行ってら」
「え、僕そんなの聞いてませんよというか誰ですかこの真っ黒な人たちは待ってくださ」
ずるずる、と引き摺られていく幸子。幸子のために村上家のちょっぴりゴツいお兄さん方に送迎をお願いしておいたのだ。
次は何をさせようか……楽屋のお茶請けに百味ビーンズとかを仕込むドッキリとかいいかもしれない。
ブブーッ
314 :
◆/tT5hkyI4g
[saga]:2017/10/04(水) 21:04:54.00 ID:Q2Ts9Z3PO
カロリーとメイトになりきれなかったのか、結局おやつにたらふく菓子を摘んでしまった午後三時過ぎ。
「こんちわーす……」
その挨拶とともにオレンジ色の髪と緑ジャージに眼鏡……もといオタク系アイドルの荒木比奈がひょっこり顔を出す。
「おう、比奈か。今日は春菜と一緒に◯◯さんとこで打ち合わせだっけか」
「そうっす。その事でプロデューサーさんに相談があるんすけど……」
「相談?なんだ?」
「今度の春菜ちゃんとのステージなんすけど、眼鏡で出たいなーって……」
「んー……?お前は前までの自分を抜け出したくて眼鏡を取ったんじゃないのか?」
「いやーそうなんすけど、たまにはありのままの自分をさらけ出してみるのも良いんじゃないかなって」
「比奈」
「はい?」
「そんな生半可なスタンスで自分を変えるなんて言ってたのか?違うだろ?お前のコンタクトは変化の象徴だ。そのままでいい」
「で、でも、春菜ちゃんも眼鏡があった方がいいって」
「春菜には俺から話をつける。とにかく、意志を捻じ曲げるような言動には気をつけて欲しい」
「は、はいっす。じゃあお仕事行ってきます……」
バタン
……ふぅ、我ながらかなり険しく接してしまった。けど、彼女はステージでは眼鏡を取り、それ以外では普段通りの眼鏡。それが彼女の求めた彼女。それが荒木比奈であるべきなんだ。
ブッブーー
……今日はちょっとスピーカーの調子が悪いのかよく雑音が鳴る。クイズ番組の不正解時に流れるSEに似ていると思ったが、まぁ単なるノイズだろう。今日の俺はミスをしていない。
315 :
◆/tT5hkyI4g
[saga]:2017/10/04(水) 21:14:32.08 ID:Q2Ts9Z3PO
「ふぅ……と、もうこんな時間か」
気がつくと外は既に夜が更けてしまっていた。早めに始めたからか、定時+ちょっぴりで退社できそうだ。
「今日はもう戸締りしちゃっていいかなっと」
そう独り言をいいつつ、俺は事務所の窓を閉め、電気を消して回る。
「しかしこの紙は結局なんだったんだ……?」
そう呟き、朝机の上にわかりやすく乗っていた紙を改めて見つめる。変なことがあったとすればどこからともなく雑音が響いたことくらいだが、それが間違いとでもいうのか?やっぱり単なるイタズラだったのか。
ガチャリ
「仮眠室は……うん、誰も残っていないな」
とは言え、もしこれが関係者ではなく部外者によるものだったとしたら不味いし、警備体制強めた方がいいか?なんて考えつつ事務所を後にし
くらっ
ーーーようとしたところで、視界が180度回転した
「……っ!?」
何が起こったのかさっぱりわからない。理解できることといえば、今自分は確実に倒れているだろうということくらいか。
「あれ?疲れ、てんの、か……」
今日は一日中デスクワークだからな、とは思ったが流石にこれは異常だ。
「(仕方ない……今日はここで寝よう)」
幸いなことに今俺は仮眠室のドアを開けたところにいる。止むを得ず、床を這ってソファーによじ登った。
『結果発表……全問不正解。
残念です。あなたとアイドルの絆は頂点に立つ前に必ず千切れます。そうなる前に……
さようなら』
何か聴こえた気がしたが頭には入ってこない。どれが地面でどれが空なのかもわからずただ眩む視界の中、意識が薄れていく感覚だけがあった。
316 :
◆/tT5hkyI4g
[saga]:2017/10/04(水) 21:20:22.33 ID:Q2Ts9Z3PO
undefined
317 :
◆/tT5hkyI4g
[saga]:2017/10/04(水) 21:24:42.88 ID:Q2Ts9Z3PO
undefined
318 :
◆/tT5hkyI4g
[saga]:2017/10/04(水) 21:27:02.53 ID:Q2Ts9Z3PO
翌日、カーペットにボディプレスをかましたところで目が醒める。いつもの俺の家ではない。
「いてて……んー、そうだ、昨日急に眠くなったもんだから事務所で寝たんだった」
最近は仕事が安定していたため、仮眠室を使うのは久々だったが、起きて直接出社できるのもたまには悪くない。
「もうちひろさんあたりは来てる頃かなっと」
今日は結構みんなの仕事に同行できるし、できるだけコミュニケーションを取っていければ昨日の素っ気ない態度も改善できるだろう。
ガチャ
「おはようございまー……す……」
仮眠室の鍵を開け、朝の挨拶をすると
「……おはようございます。失礼ですが、どちら様でしょうか……?」
俺が昨日まで座っていた席に見知らぬ男がいた。お客様だろうか?それにしてはまるでここの社員と言わんばかりの雰囲気が気に入らない。もしかしてここの新人か?そんな話は聞いていないが
「えっと、自分はここのプロデューサーですが……あなたこそどなたですか?」
仕方ないので自己紹介をすると、目の前の男は納得するどころか更に怪訝な表情を浮かべ
「……?ちひろさーん?」
と、うちの事務員と同じ名を呼んだ。
「はーい?」
俺のよく知るふんわりとした口調で出てきたのはやはり俺のよく知る顔立ちと蛍光色がやや眩しい制服を着た千川ちひろさん。
319 :
◆/tT5hkyI4g
[saga]:2017/10/04(水) 21:31:18.21 ID:Q2Ts9Z3PO
「ちひろさん!誰ですかこの人は!新人にしても勝手に俺の席に座るなんて常識がないんじゃないですか!?」
理解が追いつかないのと、寝起きだからか口調が乱暴になってしまう。
「……えっと?」
……その反応はどういう意味ですか?何故俺の方を向いて怯えている?不審者はそっちの男じゃないんですか?
「……なんですか?まるで、俺のこと知らないみたいな……反応して……」
そう言葉を絞り出す。同時に嫌な予感が頭に引っ付いてどうしても取れない。待ってくれ、その答えだけは
「……此方では彼以外のプロデューサーは雇っておりません。従ってあなたのような方も存じ上げません」
最後の望みはすこぶるたやすく砕け散った。
「だそうです。何故貴方が仮眠室から出てきたのかは不明ですが、当方としましても大事にして信用を失っても不都合です。今回の件は不問と致しますので、どうかお引き取りをお願いします」
「……は?……え?はい、大変失礼しました……?」
生まれて初めて、ものの数分で全てを没収される喪失感というものを味わった。出来ることなら未経験で終わっておきたかった。
320 :
◆/tT5hkyI4g
[saga]:2017/10/04(水) 21:38:37.64 ID:Q2Ts9Z3PO
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
……あれから呆然とした意識が戻らないまま、早朝から公園に佇んでいる。失職者かよ。……その通りだった。
陣中が未だに痛む。あの後事務所に入ってきた拓海に思いっきり叩き込まれたものだ。
『拓海!!お前は俺の事覚えてるよな!?長い付き合いだろ!?』
彼女の両肩を思いっきり掴んでそう叫んだ。返事はグーパンだった。俺が知らない男にこんなことされたら絶対そうする。こっちが訴えたところで正当防衛が成立するだろう。
「そうだ、連絡先は……」
スマホを取り出し、通話アプリを開く
「……一人くらい残っててもいいもんだろうがよ……」
まるで俺がプロデューサーだったのが全部夢だとでも言いたげに、俺のスマホからはアイドル関係の一切合切が消えてしまっていた。
「……ん?メール?」
ふとメール一覧を確認すると、『答え合わせ』というタイトルのメールがあり、動画が一本添付されていた。
321 :
◆/tT5hkyI4g
[saga]:2017/10/04(水) 21:50:01.95 ID:Q2Ts9Z3PO
その動画を再生してみると、そこには事務所が映し出されていて、昨日俺が話をしたアイドルたちとコミュニケーションを取っていた。
『「おーす、プロデューサー」
「向井さん、おはようございます。海辺での収録、お疲れ様でした。すみません、泳げないのを知っていながらこんな仕事をあててしまって」
「恥ずかしいから言ってくれんな……いーんだよ、すぐ助けてもらったし、楽しかったから」
「でしたら、幸いです」
ーーーーーーーーーーーーーーー
「プロデューサー、おっはよ〜★」
「おはようございます。その口調はお姉さんの真似ですか?」
「あったりー!Pくんすごーい☆」ギュッ
ーーーーーーーーーーーーーーー
「おはようっす、プロデューサー」
「おはようございます。おや、荒木さんは吉岡さんの真似ですかね。……そうだ、この前伺ったサイバーグラスの企画通りましたよ!」
「おぉ!流石プロデューサーっス!春菜ちゃんも喜びまス!」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「かわいい僕がやってきましたよ」ばーん
「おはようございます。輿水さんは……少し雰囲気が柔らかくなりましたね。ですが、僕は以前の自信に満ちた輿水さんの方が好きですかね」
「……フフーン!それでこそカワイイボクにふさわしいプロデューサーさんです!」
「はい、そちらの方がカワイイですよ」
「そうでしょうそうでしょう!よーく分かってるじゃないですか!」
「そしてそんなカワイイ輿水さんには、バラエティ方面一切ナシのソロライブの企画書をお持ちしました!」
「……わぁ……!お任せください!カワイイボクが最高のステージにしてあげますから!」』
322 :
◆/tT5hkyI4g
[saga]:2017/10/04(水) 22:04:26.65 ID:Q2Ts9Z3PO
動画はここで終わった。
「え?間違いって……そういうやつ……?そんなの、小さなもんd」
言おうとして、すぐにその口を塞いだ。ナイフがあったら今すぐこの口を切り落としてやりたい。
「まさか、俺は、俺は……」
昨日の俺は、それ以前の俺は。気付く。気付くさ。あれだけやれば流石に。あれだけやってようやく。
「あ、ぁああ……」
体の震えが止まらない。吐きそうだ。
昨日の記憶を反芻させる。俺は彼女たちに何をしていた?彼女たちにはこれが向いていると思い込んで新しいことを何もさせてこなかったんじゃないか?
ぷらん、と脱力した腕に力が戻ってこない。たぶん疲弊とは違うものだろう。
俺は昨日、間違いを間違いと気付けていない裏で、アイドルたちの意志・本質を理解し切れず、正しくない方向に導いていた。
いや、恐らく俺の方は昨日より前からずっと間違いを続けていたのだろう。
挙げ句の果てにはそれらを棚に上げ、間違いの存在すらわからなかったにも関わらず文句を吐こうとしたなんて、虫の良すぎる話は存在しない。
思えばこの間違い探しは俺にとってラストチャンスだった。これをきっかけに自分の思い込みを改めることが出来れば……もう少し未来は変わった……のかも知れない。
後悔先に立たずとはよく言ったもので、悔いて悔いて悔い終わった頃にはもう全てが終わってしまっていた。俺が今更何をしようが、彼女たちが進めていなかった時は今更巻き戻しようがない。
「……本当の間違いは俺だった……」
微塵もかっこよくない台詞を吐き捨てる。気付けば俺の足はとある場所を目指して力なく歩きだしていた。
323 :
◆/tT5hkyI4g
[saga]:2017/10/04(水) 22:16:40.77 ID:Q2Ts9Z3PO
マンションの自分の部屋の前に立つと、俺の部屋には違う苗字……恐らくあの男の名前が表札に刻まれていた。まぁそうだろうなと予感はさせていた俺はまだふらついた意識の中で、階段を登っている。元々帰るつもりはなかった。
コツ、コツ、コツ
「(……あの苗字。あの男、どこかで見たと思ったら以前入って半年もせずにウチを辞めた奴だ)」
カチャ、ドンッ!ガコッ!!
……この場所には行ったことがなかったからわからなかったが、結構立て付け悪かったんだな、このドア。
「(……そうだ、アイツは入って数ヶ月もしないうちに俺から担当を引き継いだ娘に大きな仕事を持ってきた)」
カツ、カツ、カツ
誰もいない場所だからか、革靴が地面を叩く度に少し心地のいい音が響く。
「(俺は正直彼に嫉妬した。だからその担当アイドルを下げる風潮をネットに流し、プロデューサーの方は担当についてのちょっとした解釈違いに対してしつこく口出しし、言いふらしもした。その結果彼は自分から辞めていった)」
ヒュゥ、と向かってくる風が、吹き出る汗を乾かし、体がだんだん冷えていくのがわかる。
「(……なにがその子らしさだ。自分の理想を押し付けただけじゃないか。彼女らが変わろうとしていたら即刻否定。現状維持にはしる。だから未だに凸レーションに固執する。だから比奈の成長を促してやれない。幸子にはバラエティばかり取らせる)」
どの道、もう俺には彼女を導く資格はないし、むしろ彼が先導を切って進む今こそが、あのプロダクションの本来の姿だったのだろう。
だから
とんっ
間違いは、紅く塗りつぶすとこにした。
ぐしゃっ
『終わり』
324 :
◆/tT5hkyI4g
[saga]:2017/10/04(水) 22:20:04.69 ID:Q2Ts9Z3PO
終わりです、ありがとうございました。
325 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2017/10/04(水) 22:43:21.19 ID:MPbYTksVO
卯月「もう一人の私がやっておいてくれたらいいのに」
卯月「皆さんは、そういう事を考えた事はありませんか?」
卯月「夏休みの宿題、もう一人の私がやっておいてくれれば気兼ねなく遊べるのに」
卯月「テスト前の勉強、もう一人の私がやっておいてくれれば徹夜せず寝られるのに」
卯月「体力測定のマラソン、もう一人の私がやっておいてくれれば疲れずに済むのに」
卯月「なんでも言う事を聞いてくれるもう一人の私がいたら、とっても楽に毎日を過ごせると思うんです!」
卯月「でも、もし本当にそうなったんだとしたら」
卯月「……少し、不安になりませんか?」
『another our』
326 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2017/10/04(水) 22:44:09.73 ID:MPbYTksVO
こんにちは、島村卯月です!
最近は少しずつ暑さが薄れてきて、過ごしやすい日々が続いてますね。
夏休みはもう終わっちゃいましたけど、もうすぐまた連休がきます。
何しようかな。
せっかくの三連休なんですから、楽しまないと勿体無いです!
……なんて、言ってる場合じゃないんです。
目の前に積み上げられた問題集が、机と私の心に強い圧力を掛けます。
明日から中間テストなんですよね。
こんなことなら夏休みももっとちゃんと勉強しておけばよかったのに……
なんて、後の祭りすぎますよね。
もっと言うと、この宿題は一週間前に出されたんだから少しずつやっておけば良かったんですが。
テスト前の宿題っていっぱいありますし……
でもお仕事忙しかったし、夜はお友達と電話したいもん……
「終わらない……ママー!」
呼んでも助けなんて来ません。
当たり前ですよね、もう深夜2時になっちゃってるもん……
眠いけど、早く終わらせなきゃ……
でも、そろそろ寝ないと明日起きられない……
「うーん、もう一人の私がやっておいてくれればいいのに」
疲れてるんでしょうか。
でも、こういう状況になると多分みなさんも考えた事があると思うんです。
私が寝てる間に、もう一人の私がやっておいてくれたらいいのになーって。
……うん!明日早く起きてやる事にします!
目覚ましのアラームを五時半にセットして、私は布団に潜り込みます。
目も身体も疲れていたからか、直ぐに私の意識は薄れていきました。
327 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2017/10/04(水) 22:44:47.65 ID:MPbYTksVO
ーーピピピッ!ピピピッ!
うーん……あと五分……はっ!
急いでスマホをつけると、表示された時刻は七時ジャスト。
五時半から五分ごとに鳴り続けてたアラームの十九回目にしてようやく起きることが出来た私は、飛び起きて机に駆け寄りました。
まずいです!宿題終わってないし今日のテスト範囲まだ復習し切れてません!
どうしましょう!
今からやって間に合うかな!
それともいますぐ学校に行って友達に少し手伝って貰って……
とにかく、早く着替えなきゃです!
それにしても、なんだかすっごく身体が重いです……
寝るの、いつもより遅かったからでしょうか……
……あれ?
机の上に広げられた問題集。
その解答欄全てに、答えが書き込まれていました。
ペラペラとページを捲ると、それは最後のページまで同じで。
要するに、私の宿題は終えられていて……
……私、寝る前に解き終えましたっけ?
それともママがやってくれたんでしょうか?
不思議です、どうしてでしょう?
うーん……
と、問題集を捲っていて気付いたんですけど、なんとなく全部の問題に見覚えがあるような気がします。
こう、一回解いたことがある問題、みたいな感じで。
って事はつまり……
……どういう事なんでしょう?
あ、悩んでる暇はありませんでしたね!
急いで支度して朝ごはんを食べて、私は学校へ向かいました。
328 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2017/10/04(水) 22:45:31.02 ID:MPbYTksVO
一限目は数学Bのテストです。
開始のチャイムと共に問題用紙を捲れば、確率や数列の問題がズラリ。
どうしよう、どの公式を使えばいいんだっけ……
うーん……そもそも、公式がどんな式だったか覚えてないよ……
……あれ?
公式を思い出せず、行き当たりばったりで解き進めていたんですが。
何故か、解けました。
なんででしょう?
理解出来てなかった筈なのに、すらすらとはいかずもそこまでつっかからず答えまで辿り着けたんです。
その後の問題も、何故かこうすれば解ける気がする、やなんとなくこんな感じかな……で解けて。
最終的に、解答用紙のほとんどが埋まりました。
授業で一度習っていたから、頭のどこかできちんと記憶されていたんでしょうか?
それにしても、テスト問題に似た問題をつい最近解いた気もします。
えっと……そうです、昨晩睨めっこしていた問題集ですね。
でも、私は最後までは終わらせられなかったのに……
329 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2017/10/04(水) 22:46:15.20 ID:MPbYTksVO
私の疑問なんて知らないと言うかのように、テスト終了のチャイムは鳴りました。
そして疑問だらけなのに解けてしまったテストの解答用紙が回収されてゆきます。
そしてその後に、宿題だった問題集も回収されました。
「ねぇ卯月ちゃん、どーだった?」
「え、私ですか?!えっと……多分、埋める事は出来たかな」
「結構難しかったけど、宿題と殆ど同じ感じの問題だったよね」
「俺ノー勉だけど8割いったわ」
テスト後の休憩時間中、クラスのお友達との言い訳合戦タイムです。
でも、私の頭の中はそれどころではありませんでした。
終わらせてない筈な問題集が終わってて。
暗記した覚えのない公式を覚えてて。
解いた覚えのない問題を、解いたことがある気がして。
これって……
……睡眠学習?
なんだか意味が違う気がします。
えっと、つまり。
これって……
寝てる間に、もう一人の私がやっておいてくれた……?
そうとしか思えません。
でも、本当にそんな事なんてあるんでしょうか?
確かに、朝起きたとき全然寝れてなかった感じはしましたけど……
それは、本当に全然寝れてなかったから……?
考えは全くまとまりませんでしたけど。
その後のテストも、何故か大体解くことができました。
330 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2017/10/04(水) 22:47:00.09 ID:MPbYTksVO
テスト期間なので、レッスンはお休みです。
家に帰ってお風呂に入った後、私は昨日と今日あったことを思い返しました。
もし本当にもう一人の私がやっておいてくれたんだとしたら、それってとっても凄い事じゃありませんか?!
だって、勉強しなくてもテストが解ける様になるんです!
それに、宿題だって気にせず遊ぶこともできますし。
あと、自分は徹夜しなくてもよくなって……
さて、そんな事を考える私の前には。
英語の教科書とノートと単語帳が広がっています。
明日の最難関科目は英語ですから。
少しでも沢山、英単語を覚えなきゃです。
それに、英語のノートも提出しなきゃいけないんです。
授業中に教科書の英文を和訳したところを、ノートに記入する。
それ自体は別段大変な事じゃないんです。
きちんと毎回授業に出てれば、ですけど。
……ノート、空白多いなぁ。
お仕事で出席できなかった回の部分は、和訳をノートに書いていません。
だから今から、教科書の英文を訳さなきゃいけなくって。
運が悪い事に、英語の授業がある日は高頻度でお仕事がはいっていて。
今から全部訳していたら、徹夜でもしない限り他の科目に手が回りません。
うーん、取り敢えず少しずつ進めましょう。
331 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2017/10/04(水) 22:47:31.48 ID:MPbYTksVO
「うぅ、終わらないよ……」
時計の短い針が真上を差す頃。
和訳作業は、大体六割くらいしか終わっていませんでした。
まだ地理と国語もあるのに……
あと英単語覚えて、古文単語覚えて……
でも、そろそろ眠くなってきました。
このまま続けても、きちんと頭に入る気がしません。
今回こそ、明日早く起きてやりましょうか……
……あ、そうでした。
もう一人の私がやっておいてくれれば、私は寝ても問題ないんじゃないでしょうか?
そう考えた私は、さっそく布団に潜り込みました。
もしダメだった時の場合に備えて、アラームは昨日と同じく五時半にセットします。
お願いします!頑張って下さい、もう一人の私!
自分自身に願いを託すと、私の意識は直ぐに薄れてゆきました。
332 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2017/10/04(水) 22:48:04.93 ID:MPbYTksVO
ピピピッ、ピピピッ。
アラームの音で眼が覚めると、時刻は六時半でした。
急いで英語のノートを開くと……やりました!
全部和訳して記入されています!
古文単語と英単語帳をペラペラ捲ると、何故だか大体覚えています!
やっぱり、もう一人の私がやっておいてくれたんですね!
その代わり、とっても眼と身体が重いですけど……
五時半にアラームをセットしてあるのに私が今起きたって事は、ついさっきまで私は勉強していたのかもしれません。
それでも、辛い過程を飛ばして結果だけで済むのはとてもありがたいです。
意気揚々と学校へ向かい、テストに臨みます。
解答欄は大方埋まりました。
333 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2017/10/04(水) 22:48:40.51 ID:MPbYTksVO
……眠いです……
ある日、事務所でレッスンが午前中も午後も入っている日の事です。
昨晩かなり遅い時間までクラスの友達と通話しててとっても身体が重い日に、ニュージェネレーション三人でお喋りしながらレッスンルームへ向かっている時。
凛ちゃんと未央ちゃんの声が時折遠く聞こえるくらい、私はかなり疲れていました。
正直に言えば一時間くらい寝たいです。
言い訳をさせて貰えるなら、昨日は学校でマラソンもあったんです。
本当は、帰って直ぐ寝ようとしたんですけど……
友達と少しおしゃべりしたくなっちゃって……
遅くまで通話していた昨晩に後悔しつつ、私は歩きました。
「大丈夫?卯月」
「え?あ、はい!頑張ります!!」
二人に迷惑かけちゃいけませんよね。
でも、今のコンディションでレッスンして最後まで体力保つかな……コンディション管理はアイドルの必須要項なのに……
反省して、今日はいつも以上に頑張らなきないけません。
私たち三人のライブも近付いてきてますし。
……うぅ、どうせなら。
このレッスンも、もう一人の自分が受けてくれればいいのに。
334 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2017/10/04(水) 22:49:39.67 ID:MPbYTksVO
「お疲れ様、卯月」
「お疲れーしまむー!」
……え?
「あ、あれ?レッスンは……きゃっ!」
気が付けば、私はレッスンルームの鏡の前に立っていて。
突然襲いかかってきた疲労に、思わずその場で座り込んでしまいました。
「おっとっと、大丈夫?」
「さっきまで、あんなに頑張ってたからね。少しストレッチしよっか」
「え、えっと……レッスンは……」
「何言ってるのさしまむー、今丁度終わったところでしょ?」
え?
つ、つまり……
また、もう一人の私がやっておいてくれたんでしょうか?
「それにしても凄かったね。卯月、いつもより動きがキビキビしてたって言うか……」
「うんうん!なんだか頑張り過ぎって感じもしたけどね。今になって疲労がきたのかな?」
「あ……え、そ、そうですね!もうすぐライブですから。島村卯月、頑張りました!」
よくやく頭の整理が追いついてきました。
やった記憶はありませんが、私たちの曲のダンスを完璧に覚えています。
今ならバッチリ踊れそうです。
その分、今になって一気に疲れが襲ってきましたけど。
「部屋に戻って、少し休んでから帰る?」
「そうですね……結構疲れちゃいました」
335 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2017/10/04(水) 22:50:24.30 ID:MPbYTksVO
「三人ともお疲れ様。特に卯月、トレーナーさんが褒めてたぞ」
「お疲れ様、プロデューサー!」
「お疲れ様です、プロデューサーさん!」
私たちの部屋に戻ると、プロデューサーさんが迎えてくれました。
ライブが近付いてて私たちよりもハードな量の仕事をこなしている筈なのに、笑顔でこっちに手を振ってくれて。
それだけで、私の心はあったかくなります。
「ね!ほんと凄かったんだよ、今日のしまむー!」
「あ、何か飲むか?今ちひろさんいないけど、俺でよければお茶淹れるぞ」
「あ、大丈夫です!私が……あれ?」
自分が思っている以上に、私の身体は疲れているみたいです。
座ったソファから立ち上がれませんでした。
「座ってなって、疲れてるだろ。時間あるなら少し寝てったらどうだ?」
「そうですね。すみません、少しだけ休ませて貰います」
プロデューサーさんが淹れてくれたお茶を飲んで。
凛ちゃんと未央ちゃんとお話ししてるうちに、気づけば私は夢の世界へ落ちていました。
336 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2017/10/04(水) 22:52:32.44 ID:MPbYTksVO
それから、私は事あるごとにもう一人の自分に押し付けてきました。
模試前日の勉強や数学の予習。
長距離走やシャトルラン。
疲れた日のレッスンや苦手な俳優さんとの収録。
そしてその全てを、もう一人の私は完璧な形でこなしてくれました。
私は完全に依存しきっていました。
都合の良い、全てを押し付けられる私自身に。
なんて、楽な人生なんでしょう。
なんて、苦のない人生なんでしょう。
嫌なこと、辛いことを全て押し付けて。
私はその結果だけを受け取ればいい、なんて。
でも、やっぱり。
私は不安でした。
本当にこのまま、いつまでももう一人の私が存在してくれるんでしょうか?
本当にこのまま、ズルし続ける人生でいいんでしょうか?
ほかのみんなが頑張っているのに、私だけそれをしないでいいなんて。
みんなが苦労しているからこその喜びを共有してる中、私だけそれを実感出来ないなんて。
337 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2017/10/04(水) 22:53:11.56 ID:MPbYTksVO
そして、ライブを二日後に控えた私は。
今までで一番の悩みを抱えていました。
それは、プロデューサーさんの事です。
今まで一緒に進んできてくれたプロデューサーさんに、全てを打ち明けるかどうか。
信じてもらえないかもしれないけど、怒られるかもしれないけど。
これからは迷うことはあっても、きちんと自分自身の力で乗り越えます、と。
たとえ何を言われても、どんな結果になっても。
私は受け入れようと思っています。
でも、その為には。
私はきちんと、自分の言葉で打ち明けなきゃいけなくて……
もう一人の自分が、私の代わりに打ち明けてくれれば……
……その考えを、やめなきゃいけないんですよね。
でも、もうずっと頼りっきりで。
今更自分を信じる事ができなくて。
依存してる事は分かってても、抜け出すのは怖くて。
「どうしよう……私……」
悩んで、考えて、決意は固まらなくて。
眠りに落ちたのは、かなり遅い時間でした。
338 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2017/10/04(水) 22:53:50.69 ID:MPbYTksVO
朝、太陽の陽で私は目を覚ましました。
アラームが鳴るまで、まだ三十分もあるくらいの時間です。
遅くまで寝れなくて、目が重い筈なのに。
いつもだったら、二度寝しようかな、なんて考える筈なのに。
……よし、頑張ります!
心はどこか晴れ晴れとしていて、射し込む光は心地よいです。
決意は固く、今にでも飛び出したいくらい。
私は決めたんです!
きちんと全てを伝えて、今後はちゃんと自分の力で乗り越える、って。
今まででお世話になってきたもう一人の自分とはお別れして、自分を信じよう、って。
ズルなんてせず、頑張って、今まで以上に頑張って。
私は、島村卯月は、堂々とステージの上に立ちたい、って。
「行ってきます!」
かなり早いですが、私はすぐ支度を終えて家を飛び出しました。
いつも通っている道も、時間と気持ちが違えば全く別の風景です。
その全てが心地よくて、なんだか楽しくなって。
私は笑顔で、道を歩きました。
339 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2017/10/04(水) 22:54:28.19 ID:MPbYTksVO
「おはよございます!島村卯月です!」
「お、おはよう卯月。早いじゃないか」
事務所へ着くと、プロデューサーさんは既にパソコンとにらめっこしていました。
こんなに早い時間から、プロデューサーさんは頑張ってたんですね。
改めて、感謝の気持ちでいっぱいです。
「プロデューサーさん!少しだけ、お話ししてもいいですか?」
「ん、いいぞ」
迷いはありません。
心は変わりません。
私は一切合切包み隠さず、今までの出来事を語りました。
340 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2017/10/04(水) 22:55:13.76 ID:MPbYTksVO
「……なるほどな。俄かには信じがたいけど……でも、卯月はそれを俺に話してくれたんだな」
「はい!私、決めたんです。自力で乗り越えなきゃ、意味がありませんから!」
自分と、プロデューサーさんと約束しました。
きちんと自分で努力して、これからももっと輝きたいから。
全てを伝えて、本当によかったです。
悩んでクヨクヨしながら続けてても、きっと良い結果にはならなかったでしょうし。
今は、とても心が軽いですから。
「ありがとう、卯月。俺は卯月のそう言うところが大好きだぞ」
「……えっ、あ、あの、それって……」
ぷ、プロデューサーさんの事だから深い意味はないのかもしれませんが。
もしかしたら、もしかしたりして……
「つまり、あの……!」
プロデューサーさんは、私のことを……!
と。
そう、尋ねようとした時でした。
341 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2017/10/04(水) 22:55:59.65 ID:MPbYTksVO
「……あ、あれ?私、なんで事務所に……?」
私の口が、勝手に動きました。
「どうしたんだ?卯月。何かあったか?」
「……いえ!大丈夫です!」
……え?ど、どう言うことですか?!
急いで頭をまわそうにも、別の思考に邪魔されました。
唐突に、全く違う言葉と思いが頭に流れ込んできたんです。
『結局、頼っちゃったんですね。でも、これからは本当に自分の力で頑張りますから!』と。
……嘘、ですよね?
私、自分で決意したつもりだったのに……
自分で覚悟を決めて、自分の言葉で伝えたつもりだったのに……
私は、押し付けられた側の……!
『それに、本当に今回は自分で決めた事ですから!もしかしたら、もう一人の私が力を貸してくれたんでしょうか?なら、もう大丈夫です!』
ねぇ!
私の頑張りは、全部作られたものだったんですか?!
私の決意は、全部押し付けられたものだったんですか?!
私は……!
『そろそろ、凛ちゃんと未央ちゃんも来ますよね。明日はライブですから!いつも以上に気をつけて通しのレッスンをしなきゃいけません!島村卯月、頑張ります!』
届いてよ……!
ねぇ、私!
私が少しでも『もう一人の自分がやってくれたら』なんて考えたら。
それだけで……!
少しずつ、自分の意識が薄れてきました。
体も、自分の意思では動きません。
プロデューサーさんとお話しをする私は。
とても、幸せそうで。
342 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2017/10/04(水) 22:56:45.79 ID:MPbYTksVO
……い、嫌です!
私、消えたくない……!
もしかしたら、今まで押し付けてきた私もこうだったんでしょうか?
願った私が、自分の意思だと思い込んで頑張って。
新しい私が作られて、結果だけを受け取って。
こんなのって……!
そんなの嫌です!
消えたくない!
これからも沢山の私が消えていくなんて!
そんなの……!
やだ……!やだよ!
誰か助けてよ!私を止めてよ!
消えたくないよ……!怖いよ!
私はーー!
343 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2017/10/04(水) 22:57:24.00 ID:MPbYTksVO
「さ、頑張ってこい!」
「はい!島村卯月、頑張ります!」
私たちのライブが始まります!
さっきまで、緊張して足がすくんじゃって。
もう一人の自分が、なんて考えちゃってましたけど。
私は自分の力で乗り越えるって決めたんですから!
「最高のステージにしますから!プロデューサーさん、見ていて下さい!」
344 :
◆TDuorh6/aM
[saga]:2017/10/04(水) 22:58:46.75 ID:MPbYTksVO
以上です
お付き合い、ありがとうございました
そろそろHTML化依頼を出してこようと思います
投稿して下さった方々、読んで下さった方々
本当に、ありがとうございました
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