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安斎都「高峯のあの事件簿・夏と孤島と洋館と殺人事件と探偵と探偵」
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86 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 19:06:48.24 ID:Ahhc8lJY0
47
逢伊江館・1階・食堂
櫂「だから、今すぐ探しにいかないと!」
光「一人にするわけにはいきませんっ!」
紗南「犯人が隠れてるかもしれないんだよ」
櫂「隠れてるわけないじゃん!隠れる場所なんてないんだから!」
のあ「南条光」
光「あっ、高峯さん!」
のあ「話は聞いたわ。ありがとう」
光「でも……」
櫂「皆部屋にいるんでしょ、なら犯人は何も出来ないよ!」
由里子「それって……」
櫂「犯人は宿泊客のうちの誰か、に決まってる!」
のあ「……否定はしないわ」
櫂「渚ちゃんは散歩してるだけかもしれないし、今のうちに探さないと!」
のあ「そうね。でも、一人には出来ないわ」
櫂「また、それ……」
のあ「真奈美」
真奈美「なんだ?」
のあ「集めた方がいいかしら」
真奈美「いいかもしれないな」
のあ「西島櫂」
櫂「なにさ」
のあ「捜索へ行きましょう」
櫂「アンタは信頼できるの?」
のあ「もう一人いればいいでしょう。南条光、いいかしら」
光「ああ!」
のあ「真奈美」
真奈美「どうすればいい?」
のあ「大西由里子と一緒に他の宿泊客を集めて」
真奈美「了解だ」
のあ「まゆと三好紗南からも離れないように」
真奈美「わかってる」
櫂「早く、行こう!」
のあ「わかってるわ。南条光、屋敷内は調べたかしら」
光「もちろん!離れとプールも見て来た!」
のあ「不審者は」
紗南「いなかった……はず」
のあ「そうなると、外かしら」
光「おそらく」
のあ「行きましょう」
87 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 19:08:32.37 ID:Ahhc8lJY0
48
希砂二島・逢伊江館前
櫂「渚ちゃーん!」
光「よしっ、電灯がついた」
のあ「隠れられそうな場所はあるけれど」
櫂「おかしいな、大声なら裏のビーチまで聞こえるはずなのに」
光「渚さーん、どこだー」
のあ「ひとまず、正面ビーチへ行きましょう」
光「ああ、階段を降りて……はっ!」
のあ「……何か」
光「海!」
櫂「海がどうしたの?」
光「違う、ネットのところ!」
のあ「まさか」
櫂「そんな、嘘でしょ!」
のあ「西島櫂、待ちなさい!」
88 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 19:09:33.71 ID:Ahhc8lJY0
49
希砂二島・正面ビーチ
のあ「ためらわずに飛び込んだわね……」
櫂「渚、愛野渚!答えろ!」
光「叩いても反応がない……」
のあ「西島櫂、変わりなさい」
櫂「でも!」
のあ「救命措置を出来るのにしていないのなら、わかってるということ」
櫂「……そうだよ」
のあ「ありがとう」
光「どうなんだ……?」
のあ「残念だけれど」
光「溺れたのか?」
櫂「泳げるし、それに」
のあ「泳いでいた服装ではないわね」
光「それじゃあ……」
のあ「海に投げ入れられた時点で呼吸はなかったようね。死因は……」
櫂「……ねぇ、首」
のあ「彼女も首の骨を折られてるわね」
光「なんて、酷いことを……」
櫂「殺人だって、こと!?」
光「連続殺人……!」
のあ「そういうことになるわ」
櫂「どうして、渚ちゃんが殺されないといけないのさ!」
のあ「間中美里と愛野渚の関係性は」
櫂「ないよ、初対面……のはず」
のあ「……考えても仕方がないわ」
櫂「……そうだね」
のあ「ここで寝かせておくわけにはいかないわ」
光「夜風が、冷たいな」
櫂「あたしが運ぶよ……いいでしょ」
のあ「お願いするわ」
櫂「渚ちゃん、行こう。ほら」
光「偽るのは辛いだけじゃないのか……」
のあ「辛くても受け入れたら立っていられないこともあるの」
光「……そっか」
のあ「戻りましょう」
89 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 19:11:04.87 ID:Ahhc8lJY0
50
逢伊江館・1階・間中美里の執務室
由里子「むむぅ……」
のあ「犯人は考えてるわね」
由里子「防犯カメラの記録がほとんどないじぇ……」
のあ「データは本島に保存していた。便利な時代も考えものね」
由里子「過去の映像も見れないし、お手上げ」
のあ「犯人への手掛かりはまだなし、と」
雪菜「あのぉ……」
のあ「寝かせてくれたかしら」
都「はい……大変なことになりましたね」
雪菜「……寂しいかもしれませんけど、少しホールでお休みしてもらいましたぁ」
のあ「大西由里子、大ホールのカギは閉めておいて」
由里子「わかった」
のあ「他の人は食堂に揃ってるかしら」
雪菜「はい」
都「でも、皆さん説明を求めています」
のあ「……説明ね」
由里子「アタシの仕事だよね」
のあ「お願いしていいかしら」
由里子「こうなったら、絶対にお守りする」
都「頼もしいです、私も手伝います!」
雪菜「でもぉ……」
由里子「犯人がいるのもわかってるし……それでも」
雪菜「……はい」
都「……はぁ」
のあ「落ち込むのはわかるわ」
都「不謹慎かもしれませんけど、事件が起こってもワクワクしません」
雪菜「当たり前ですよぉ……探偵よりも警察が今は必要ですぅ」
都「探偵って何なんでしょう」
のあ「……」
由里子「気落ちしたら、犯人の思うつぼだじぇ」
雪菜「はい」
都「今は何よりも、状況をみんなで確認することが必要です」
90 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 19:12:32.77 ID:Ahhc8lJY0
51
逢伊江館・1階・食堂
頼子「連続殺人……となったのですね」
沙理奈「連続殺人ねぇ……」
麻理菜「大変なことになったわ」
頼子「重要なことは」
悠貴「はいっ、えっとメモしましたっ」
都「私も一応しました」
悠貴「死因は同じですっ」
朋「首を絞められたことだったわね」
海「本島までの移動手段もない」
光「そして、何よりも」
都「通信手段が使えません」
悠貴「電話も」
朋「ケータイも」
麻理菜「無線とかないの?」
由里子「本当はあるけど……」
椿「使えない、と」
沙理奈「孤立してるということは間違いないのね」
悠貴「はいっ!」
紗南「でも!朝には人がくるんだよね!」
頼子「その通りです」
櫂「だけど……」
麻理菜「そうはいかないわ」
沙理奈「アタシ達が出れないのだから、犯人も出れないってことでしょ?」
雪菜「今も犯人が島の中にいるってことですぅ……」
海「それもあるけど……」
櫂「島の中じゃないよ」
のあ「……」
櫂「渚ちゃんを殺した犯人は」
悠貴「この中にいるって、ことですよねっ!」
91 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 19:14:08.82 ID:Ahhc8lJY0
52
逢伊江館・1階・食堂
悠貴「あれ?」
アヤ「なんで、そんなにテンションが高いんだよ……」
光「人を疑うのは良くない」
悠貴「でも、可能性が一番高いと思いますっ!」
海「それは、わかってるけどさ……」
麻理菜「犯人を捕まえないと、次の事件が起こるわ」
悠貴「その通りですっ。ね、都さん?」
都「え、私ですか?」
悠貴「孤島の洋館で殺人事件ですよ、殺人事件!」
真奈美「趣味が悪いぞ」
悠貴「都さん、探偵の出番ですよっ!」
真奈美「……のあ、どうする?」
のあ「……話は後で」
悠貴「ここに全員いるのだから、犯人を見つけましょうっ!」
都「……」
悠貴「本物の探偵になるチャンスですよ?」
雪菜「本物ってなんでしょうかぁ……」
悠貴「あるいはヒーローになるとか?」
光「へっ?」
悠貴「スクープショットがあるかも」
椿「え?」
悠貴「私も挑戦したいですっ!」
のあ「……」
頼子「乙倉さん、落ち着きましょう」
悠貴「あっ、はい、話し過ぎちゃいましたっ」
頼子「安斎さんのお話も聞いてみましょう。どう思っていますか、安斎さん?」
都「あの、私は」
92 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 19:15:21.10 ID:Ahhc8lJY0
頼子「正直に言ってください。この状況は危険ですよ」
都「そんなに乗り気じゃありません」
頼子「あなたがやりたかったのは、所詮ごっこ遊びだったと」
都「殺人を喜ぶ人になったら、終わりです」
のあ「……その通り」
都「悠貴さん、やっぱりやめましょう。集まっていれば犯人も手出しできません」
のあ「ふむ……」
都「みなさん、どう思いますか」
真奈美「私は賛成だ」
のあ「私もよ。犯人を捕らえるのは私達の誰の仕事でもないわ」
まゆ「……そうなんですかぁ」
光「アタシは賛成だ!」
朋「あたしも。推理でも占いでも結果がわかることがいいことばかりじゃないもんね」
悠貴「えー」
沙理奈「犯人をこのままにしておくの?」
アヤ「一晩もか」
こずえ「ずっと、おきてるのー……?」
櫂「そんなの……」
都「でも、それが一番安全です」
櫂「……」
朋「櫂ちゃんは、納得いかなそうね」
海「仕方ないだろ……友達が亡くなってるんだから」
頼子「私からいいでしょうか」
都「はい、どうぞ」
頼子「私はあなた方を信じることは出来ません」
93 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 19:16:32.56 ID:Ahhc8lJY0
53
逢伊江館・1階・食堂
沙理奈「……」
都「どういう意味でしょうか?」
頼子「ここまでを振り返ってみましょう。間中さんを殺すことができたのは」
麻理菜「少なくとも、部屋に迎えられる人」
沙理奈「……全員じゃない」
頼子「通信手段が途切れました。大西さん、あなたがやったのでは?」
由里子「なぁ!なに言って」
頼子「あなたを信頼する理由もありませんから。説明も嘘かもしれませんね」
のあ「……」
頼子「櫂さん」
櫂「まさか……」
頼子「愛野さんを殺したのは、あなたではありませんか?」
櫂「ふざけないでよ!」
頼子「その怒りも本当かわかりません」
のあ「古澤頼子、口が過ぎるわ」
頼子「そもそも犯人は単独犯なのですか?」
都「違う、と?」
頼子「私は何も信じていません。例えば……」
朋「あたし達がなにか?」
頼子「共犯者がいるなら、色々と出来るでしょう」
海「違う、ウチらは何もやってないからな!」
雪菜「そうですよぉ!私達は屋敷にもいないんですよぉ!」
朋「ちょっと!犯人呼ばわりは酷いんじゃない」
94 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 19:17:36.74 ID:Ahhc8lJY0
頼子「ごめんなさい、気分を悪くするつもりはありません。私はただ可能性を述べたいと」
光「可能性……」
頼子「間中さんと愛野さんに殺人に結びつく関係性は見えていません」
沙理奈「本当にただの快楽殺人犯だって、言いたいの?」
頼子「はい」
悠貴「ということは……」
頼子「犯人が、あるいは犯人達がこの場で凶行に移ったのなら」
悠貴「全員は助からないかも」
頼子「ええ。大多数は助かるかもしれません、でも誰かが殺されるかもしれません」
光「そんなことはさせない!」
頼子「正義感だけでは人は救えません。あなたはただの少女なのですから」
光「……」
頼子「自分をあるいは大切な人を、その誰か、にしたくないのなら」
雪菜「集まってる方が危険ってことですかぁ……」
頼子「はい。乙倉さん」
悠貴「はいっ、なんでしょう?」
頼子「私は乙倉さんが犯人でないことを知っていますから。お部屋に戻らせていただきます」
悠貴「あっ、待ってくださいっ」
頼子「みなさん、くれぐれもご自愛ください。最後に自分を守れるのは、自分だけですよ」
95 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 19:20:28.73 ID:Ahhc8lJY0
54
逢伊江館・1階・食堂
まゆ「みなさん、お部屋に戻ってしまいましたねぇ……」
由里子「だじぇ……」
のあ「戻ってしまったのは」
真奈美「言い出した当人の古澤君と連れの乙倉君だ」
まゆ「沙理奈さんと麻理菜さんも」
椿「アヤさんもこずえちゃんと紗南ちゃんを連れて戻ってしまいました」
光「アヤさんは、二人を守るためにそうしたんだと思う」
都「おそらく、他の人も同じ考えです」
のあ「藤居朋、井村雪菜、杉坂海も戻ったわ」
都「彼女達は離れですから、屋敷よりは安全だと判断したのかもしれません」
まゆ「食堂にいるのは……」
のあ「真奈美、まゆと私」
椿「私と光ちゃんと都ちゃん」
櫂「私は戻って一人になるのは怖いからさ……」
由里子「アタシもそれは同じ」
まゆ「あの……のあさん」
のあ「何かしら」
まゆ「のあさんは、犯人を突き止めないんですかぁ?」
のあ「私は安斎都と意見は同じよ」
真奈美「そうか。なら、私はのあに従うまでだ」
椿「私はここに集まっていた方がいいと思ったので……」
光「でも……」
都「光ちゃん、どうしましたか」
光「もし、ここに犯人がいないなら」
櫂「いない、なら?」
光「アタシ達はお互いを守れると思うんだ。だけど」
都「だけど、皆は守れません」
光「ああ。それじゃあ、意味がないと思うんだ」
96 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 19:21:02.68 ID:Ahhc8lJY0
由里子「犯人は私達の中にいない可能性もあるし……」
のあ「そうね」
光「皆の気持ちもわかる。だから、犯人を見つけないと行けないと思うんだ」
真奈美「勇敢だな」
都「……」
光「さっきは反論できなかったけど」
都「光ちゃんの気持ち、わかりました」
由里子「うんうん、協力するじぇ!」
まゆ「私達も協力できますよ……ね?」
のあ「断る理由はないわ」
真奈美「そうだな」
のあ「だけれど、私達は私達の安全を優先するわ」
光「ああ」
都「この島と屋敷の構造を知っているのは」
由里子「アタシはそれなり」
都「私は調べていましたから」
のあ「目的は探偵気取りだとしても」
櫂「調べていたのは本当だもんね」
都「その、間抜けなことを言うかもしれませんけれど、気分も良くないですけれど……」
光「うん」
都「私は、探偵になります」
97 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 19:23:51.05 ID:Ahhc8lJY0
55
逢伊江館・1階・食堂
椿「わかりました。協力します、都ちゃん」
光「ああ、何でも言ってくれ!」
真奈美「決意は聞いた」
のあ「それで、どうするのかしら」
都「まずは……」
櫂「……へっくし!」
まゆ「お体が冷えましたかぁ?」
櫂「そうみたい……海に飛び込んでから着替えてないし……」
椿「体を拭く時間もありませんでしたから……」
櫂「お風呂、入っていいかな……いや、ダメか」
まゆ「……のあさん」
のあ「大浴場の方がいいかしら」
真奈美「お湯も溜まっているからな」
都「個室に籠るよりは、良いかと」
櫂「……ごめん」
光「謝らなくていいんだ。お互い様だからな」
椿「お着替えを取りに行きましょうか」
櫂「誰か、ついてきてもらっていい?」
都「わかりました。えっと」
真奈美「私と南条君で行こう」
のあ「お願いするわ」
都「私達は先にスパの方に行きましょう」
まゆ「安全を確かめておきますねぇ」
98 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 19:24:51.09 ID:Ahhc8lJY0
56
逢伊江館・ジャグジー・更衣室
都「西島さんはシャワーを浴びていますが」
のあ「屋敷の様子はどうだったのかしら」
真奈美「異常はなかった」
光「静かでした。その」
真奈美「誰も被害者にはなりたくないだろうからな」
まゆ「……」
椿「犯人は誰なんでしょうか……」
都「今、どんな心境なのでしょうか」
まゆ「……わかりませんねぇ」
真奈美「目的は」
のあ「わかるわけないわ」
都「動機から辿るのは、オススメしません」
光「そうなのか?」
都「偏見が入りますから」
まゆ「それは……正しいと思います」
都「全部、ドラマの受け売りですけど」
のあ「……」
真奈美「ん……?」
櫂「誰だっ!」
99 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 19:25:33.88 ID:Ahhc8lJY0
光「どうした!?入るぞっ!」
のあ「タオルを持って行きなさい」
櫂「窓の外、人影が!」
光「窓の外か!櫂さん、タオルを」
櫂「うん」
椿「光ちゃん、危ないですよっ!」
光「誰だっ!?」
まゆ「人影が……」
光「追いかけるか!」
都「追いかけないでくださいっ!」
のあ「真奈美」
真奈美「追うか」
のあ「戻ってくるのならば」
櫂「もしかして……危なかった?」
光「足跡は、そこまで来てますね」
都「櫂さん、顔は見えましたか?」
櫂「ううん、見てない」
光「フードを被っていたように見えた」
櫂「うん」
真奈美「逃げるには狭い島だ」
櫂「犯人……やっぱり島のどこかにいるのかな」
のあ「隠れる場所はほとんどないわ」
都「隠れられるとしたら」
まゆ「屋敷の中……とか」
光「やっぱり、追うのは危険か?」
真奈美「犯人に勝てるなら」
都「やめておきましょう」
光「うん……わかった」
都「でも、島の奥の方に逃げて行きました」
のあ「つまり」
都「屋敷に戻るなら、離れの隣を通過しないといけません」
由里子「隠れる所もないじぇ」
真奈美「目撃しているなら、彼女達か」
都「櫂さん、お風呂は大丈夫ですか?」
櫂「うん、冷えは収まったかな」
都「櫂さんが着替え終わったら、離れに話を聞きに行きましょう」
100 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 19:26:53.95 ID:Ahhc8lJY0
57
逢伊江館・中庭・離れ
由里子「んー?」
まゆ「出ませんねぇ……」
櫂「まさか!」
都「椿さん、電気ついていますか?」
椿「ついてません。お部屋の中にいるのでしょうか」
光「由里子さん、マスターキーは?」
由里子「隠してあるじぇ」
櫂「そうなんだ」
椿「カーテンがしまっているわけではありませんから、光ちゃん、懐中電灯を」
光「はい」
都「誰も……いませんね」
のあ「どこに行ったのかしら」
真奈美「荒らされている様子もないな」
都「屋敷にいるのでしょうか」
まゆ「でも……」
都「参りましたね」
由里子「さっきの人影を見てないじぇ……」
のあ「素知らぬ顔で屋敷に戻っている可能性もあるわね」
光「追った方がよかった、のか」
椿「いいえ、光ちゃんにそんな危ないことはさせられません」
まゆ「まずは、離れの3人を探しましょうか……?」
都「それが良いと思います」
光「その後は」
都「犯行時の証言を集めましょう。必ず、答えは見つかるはずです」
101 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 19:28:25.42 ID:Ahhc8lJY0
58
逢伊江館・1階・ロビー
櫂「あれ?」
椿「何をしてるんですか、古澤さん」
頼子「実は、乙倉さんがどこかに行ってしまって」
のあ「一人になるのは危険よ」
頼子「それは、私に言っていますか」
真奈美「両方だ」
都「探しに行かないといけませんね」
まゆ「はい」
都「でも、一度に多くの人間が行動するのは危険ですね」
光「さっきみたいに、屋敷を自由に出入りされるかもしれない」
由里子「それなら、アタシがロビーにいるじぇ」
のあ「真奈美、まゆと一緒にいてちょうだい」
真奈美「ああ。ロビーに二人、残りは食堂でいいだろう」
都「名案だと思います」
光「組み分けはどうするんだ?」
都「櫂さん、高峯さん、私で離れの3人と乙倉さんを探しに行きましょう」
櫂「えっ、あたし?」
都「あ、嫌なら大丈夫ですよ」
櫂「そういうわけじゃないんだけど、あたし調査とか向いてないし……」
都「一緒にいてくれるだけで心強いですから」
櫂「……わかった」
のあ「了解したわ、安斎都」
102 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 19:28:55.57 ID:Ahhc8lJY0
都「ロビーを見ててくれるのは」
光「アタシと由里子さんがここに」
都「お願いします」
真奈美「私と佐久間君は食堂に」
椿「私も食堂にいます。それと」
頼子「私、ですか……?」
都「信じられない気持ちはわかりますが、一人でいない方がよいかと」
頼子「私も乙倉さんを探しに行きたいところですが……待っています、荒事に巻き込まれたらひとたまりもありませんから」
都「木場さん、お願いします」
真奈美「任された」
都「高峯さん、櫂さん、行きましょう」
櫂「でも、みんなどこにいるんだろう?」
頼子「2階の自室以外には誰もいないかと」
都「なら、地下でしょうか」
103 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 19:31:16.75 ID:Ahhc8lJY0
59
逢伊江館・地下・娯楽室
朋「あら、あんた達どうしたの?」
都「朋さん。雪菜さんと海さんは?」
朋「そこで映画を見てるけど。悠貴ちゃんもあそこで本を読んでる」
櫂「やっぱり、何事もなかったね」
のあ「そのようね」
都「ご無事で安心しました」
朋「その言い方……なにかあったの?」
都「実は不審者が」
海「不審者……」
雪菜「そんなぁ……」
朋「映画見てていいのに」
のあ「離れからこっちに移動したのね。杉坂海、理由は?」
海「一度は離れに戻ったんだけどさ」
雪菜「ちょっと、あの……」
櫂「あの?」
朋「ヒマだったのよ」
都「そうですか」
朋「みんな、寝そうになるくらい」
櫂「……それは、大変だ」
雪菜「だから、私の提案で移動したんですよぉ」
都「理由はわかりました。移動したのは何時ですか?」
雪菜「どれくらい前だったでしょう?」
海「えっと……」
朋「あんた達、お風呂入ってた?」
櫂「うん。あたしがワガママ言って」
朋「入った後ぐらいね、こっちが移動したのは」
都「フム。離れから、誰かを見ましたか?」
海「外に、出てた人がいたかどうか?」
のあ「そうね」
雪菜「見てないですねぇ……」
櫂「本当に屋敷から誰も出てないのかな」
朋「うーん、いないと思うわ」
104 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 19:32:00.56 ID:Ahhc8lJY0
櫂「見てないってことは」
都「仮定ですが、タイミングを計っていた」
海「見てた、ってことか?」
都「はい。屋敷からでも人の動きは見えるはずです」
櫂「なら……」
朋「狙われてた、ってことかしら?」
都「そうは言いませんが」
櫂「でも、それなら部屋が庭よりの人なんじゃないのかな」
のあ「201号室と202号室」
都「松本さんと沢田さんが201号室ですね」
雪菜「そこにいる、悠貴ちゃんが202号室ですねぇ」
のあ「同室は……古澤頼子ね」
朋「でも、ちょっと待って」
海「朋、何か言いたいの?」
朋「櫂ちゃんも203号室じゃないの?」
櫂「でも、あたしは部屋にほとんどいないし」
朋「あ、そっか」
雪菜「あれ、お風呂に入ったんじゃないですかぁ?」
朋「納得しかけたわ。部屋に戻ってるじゃない」
雪菜「屋敷に戻る時は、電気がついてましたよぉ」
櫂「電気、消し忘れたかも。カギは閉めなかった」
都「なら、誰でも入れるということですね」
櫂「なら、不審者が誰かも特定できない?」
のあ「そのようね」
朋「ねぇ、聞いていいかしら?」
都「どうぞ」
朋「犯人、やっぱりこの中の誰かなの?」
都「それは……断定できませんが」
朋「そっか……」
海「ごめんね、協力できなくてさ」
雪菜「ずっと離れにいたので、状況がわからないんですぅ」
都「気に病むことではありません。ご情報ありがとうございます」
櫂「でも、これで聞いてみればいい人はわかったよね」
のあ「そうね、そこの彼女かしら」
都「悠貴さんにお話を聞いてみましょう」
朋「櫂ちゃんは、私達といるかしら。それくらいしか協力できないし」
櫂「そうする」
都「のあさん、話を聞きに行きましょう」
のあ「ええ」
105 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 19:33:01.95 ID:Ahhc8lJY0
60
逢伊江館・地下・娯楽室
都「悠貴さん」
悠貴「都さんっ」
都「お話を聞きたいのですが」
悠貴「もしかして、事件を解決する気になりましたかっ?」
のあ「……」
都「そんなところです。どうして、単独で行動を?」
悠貴「だって、頼子さん何も話してくれなくて退屈だったんですっ」
のあ「退屈は危ないわね」
悠貴「起きてるんですけど、寝てるような、そんな感じで」
都「古澤さんは言い訳になりません。危険ですよ」
悠貴「でも、犯人を見つけてしまえば安全ですっ」
都「それはそうですが」
のあ「話を変えましょう。禅問答よ」
都「そうですね。悠貴さん、何か気づいたことはありますか?」
悠貴「そうだ、この本見てくださいっ」
のあ「その本は、初めて見たわ」
都「どこにありましたか?」
悠貴「このテーブルの上ですっ」
都「意図的に出したのでしょうか」
のあ「何の本なのかしら?」
悠貴「ミステリーですっ」
のあ「もしかして、孤島の洋館が舞台かしら」
悠貴「すごいっ、どうしてわかるんですかっ?」
のあ「……悪趣味ね」
都「何か、ヒントになることは」
悠貴「うーん……ぜんぜん違うお話なんです」
106 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 19:34:34.52 ID:Ahhc8lJY0
のあ「ただのかく乱かしら」
都「意味のないノイズ情報かもしれません」
悠貴「一応メモしておきますねっ」
都「悠貴さん、屋敷の外を移動する人を見ましたか?」
悠貴「えっ、何かあったんですかっ!?」
のあ「知らなそうね」
都「地下に来た時に、あちらの3人はいましたか?」
悠貴「はいっ」
都「部屋から出て、すぐに地下室に?」
悠貴「食堂は誰もいなかったので、一回りしてから地下室に来ましたっ」
のあ「人の気配は」
悠貴「なかった、と思います」
都「鉢合わせなくて、何よりです」
悠貴「そう言えば、気になったことがあるんですっ」
都「何かあったのですか?」
悠貴「温室の電灯がチカチカしてましたっ」
都「温室の電灯が、なぜでしょう」
悠貴「そうだっ、これで読みましたっ!」
のあ「何をかしら」
都「あれ、ここも電灯の調子が……」
悠貴「電源に負荷をかけて、ブレーカーを落とすんですっ!」
バチンッ!
107 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 19:36:48.24 ID:Ahhc8lJY0
61
逢伊江館・地下・娯楽室
雪菜「きゃあ!」
悠貴「真っ暗ですっ!」
海「雪菜、落ち着いて!?」
都「落ち着いてください!ただの停電です!」
のあ「ケータイくらい、持ってるでしょう」
悠貴「そうだっ、ケータイ、ケータイっと」
海「雪菜、ほら、大丈夫だから」
雪菜「海ちゃん……」
海「よしよし。大丈夫だから」
のあ「乙倉悠貴の話を信じるとするなら」
都「ブレーカーが落ちただけですね」
悠貴「直しに行きましょうっ!」
のあ「待ちなさい……行ってしまったわ」
都「追いかけましょうか」
のあ「ええ」
都「みなさんは、明かりを確保して、待っていてください!」
108 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 19:37:50.61 ID:Ahhc8lJY0
62
逢伊江館・1階・ロビー
悠貴「わっ!」
のあ「おっと、危ないわ」
都「ひっ!」
頼子「みなさん……ご無事ですか」
のあ「……驚かせないでちょうだい」
都「幽霊かと思いました……」
頼子「屋敷中、停電のようです。地下室もでしょうか」
のあ「ええ。食堂もかしら」
頼子「はい」
悠貴「頼子さん、落ち着いてますねっ」
頼子「いえ……落ち着いてきたのですよ」
都「由里子さんと光さんはどちらに?」
頼子「ブレーカーを見に行きました。私はここで見張りを」
悠貴「誰か移動していました?」
頼子「いいえ」
都「ブレーカーはどちらに?」
頼子「電源は屋敷の北側にあるそうですよ」
のあ「大西由里子がいるなら、時期に復旧するでしょう」
頼子「あら……復旧したようですね」
都「光ちゃん、由里子さん!」
由里子「ふー、一番大きなブレーカーが落ちてただけだったじぇ」
光「びっくりしたぞ!」
都「由里子さん、温室の操作はわかりますか?」
由里子「温室?」
悠貴「過度に電力を使ってるみたいなんですっ」
光「停電の原因はそれかっ!」
由里子「すぐに直すじぇ!操作盤は温室内だし!」
光「行こうっ、由里子さん!」
頼子「停電の件は無事に解決のようですね」
都「しかし、犯人は屋敷の構造を知り尽くしていますね」
悠貴「やっぱり、怪しいのは職員さんでしょうか?」
のあ「可能性としてはあるけれど」
都「どこに行くのですか?」
のあ「無事の確認に。古澤頼子、ここを任せていいかしら」
頼子「もちろんです。大西さん達が戻ってくるまで、ここにいましょう、悠貴さん」
悠貴「はいっ」
のあ「食堂に戻るわ」
109 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 19:39:58.12 ID:Ahhc8lJY0
63
逢伊江館・1階・食堂
まゆ「のあさん」
真奈美「のあ、無事だったか」
のあ「無事だったようね……疲れたわ」
まゆ「どうぞ、こちらへ」
のあ「座るわ……ほら、まゆ」
まゆ「わっ……どうしたんですかぁ?」
都「自然と膝の上に乗せましたね……」
のあ「ちょっと緊張したわ」
まゆ「のあさん、くすぐったいですよぉ」
真奈美「停電の理由はわかったか?」
都「はい」
椿「何だったのですか?」
都「ブレーカーが落とされました、人為的に」
真奈美「人為的か」
のあ「温室の照明と空調を過度に動作させていたようね」
まゆ「でも……誰が」
都「わかりません」
真奈美「フム……」
のあ「真奈美」
真奈美「なんだ?」
のあ「全員の無事の確認と、証言を聞いてもらってきていいかしら」
真奈美「わかった。のあはどうする?」
のあ「ここで、まゆから癒し成分を吸収するわ」
まゆ「のあさん、髪を嗅がれるのは……恥ずかしい……」
真奈美「わかった。行ってくるとしよう」
都「私も行きます」
椿「都ちゃん、私が行きましょうか?」
都「いえ、探偵の務めですから」
真奈美「助手には慣れてる。行くとしよう、都君」
110 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 19:42:02.83 ID:Ahhc8lJY0
64
逢伊江館・1階・食堂
頼子「みなさん」
のあ「二人は帰って来たかしら」
悠貴「はいっ」
頼子「コーヒーでもいれましょうか。インスタントしかありませんか」
まゆ「それなら、私が……」
頼子「離してくれなさそうなので、私がやりましょう」
椿「手伝います」
頼子「大丈夫ですよ。座っていてください」
悠貴「よいしょっ」
頼子「夜も更けてきました。眠気はありませんか」
悠貴「大丈夫ですっ!」
頼子「江上さんは、いかがですか」
椿「正直、疲れて眠気が……」
のあ「仕方がないわ」
悠貴「ドキドキしませんかっ?」
頼子「ドキドキは、疲れるものですよ」
のあ「まゆは、大丈夫かしら」
まゆ「大丈夫ですよぉ。のあさんは」
のあ「大丈夫よ。コーヒーは必要だけれど」
頼子「電気ケトルは便利ですね、お湯がもう沸きました」
悠貴「古澤さん、お砂糖とミルクを入れてくださいっ」
頼子「はい、どうぞ。皆さんは」
椿「どうしましょうか」
のあ「ブラックでいいわ」
まゆ「私もお砂糖とミルクを……」
椿「私もそうします」
頼子「どうぞ。インスタントですが、良い匂いがします」
悠貴「ありがとうございますっ!」
頼子「椿さんもどうぞ」
椿「ありがとうございます。頼子さんは、お疲れではないですか」
頼子「ゆっくりと休んでいますから」
のあ「それなら、いいけれど」
頼子「朝は来ます。何もなければ、それで終わりです」
のあ「……」
悠貴「静かなのはつまらないですねっ」
椿「そうですね、お話しましょうか」
111 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 19:43:39.06 ID:Ahhc8lJY0
65
逢伊江館・1階・食堂
椿「まぁ、カワイイわんちゃんですね」
まゆ「下の美容室さんの愛犬なんですよぉ」
真奈美「のあ!」
のあ「真奈美、どうしたの?」
真奈美「藤居朋はいるか?」
頼子「藤居さんですか」
悠貴「いないですっ」
のあ「地下室には」
都「いないんです」
櫂「てっきり、のあさん達と一緒に探しに行ったのかと」
のあ「他の人達は」
真奈美「自室だ。部屋からは出ていないそうだ」
都「アヤさんに至っては、最初はドアも開けてくれませんでした」
のあ「藤居朋は」
真奈美「2階にはいない」
櫂「ロビーとか通ってないの?」
椿「古澤さん、見ていませんか」
頼子「いいえ」
都「移動したなら、停電中でしょうか」
悠貴「探してきますっ」
頼子「乙倉さん、待って……行ってしまいました」
櫂「追いかけてくる!」
のあ「真奈美、交替。探しに行くわ」
まゆ「なら、まゆも」
のあ「まゆはここにいなさい」
まゆ「どうして、協力させてくれないんですかぁ」
のあ「……」
都「まゆさん、ここにいてください。高峯さん、行きましょう」
のあ「ええ。それにしても、どこに行ったのかしら」
112 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 19:45:12.33 ID:Ahhc8lJY0
66
逢伊江館・1階・ロビー
都「藤居さんもいませんが」
のあ「それ以前に、誰もいないわ」
都「由里子さんと光さんも探しに行ったのでしょうか?」
のあ「乙倉悠貴と西島櫂もどこに行ったのかしら」
都「2階にいた方は見ていないそうですが」
櫂「あれ?」
都「櫂さん、キッチンから出てきましたが」
櫂「悠貴ちゃんは?」
のあ「そこにはいなかったの?」
櫂「うん。最初に行った、地下にもいなかったけど」
都「見失った、ということですね」
櫂「そういうことみたい。しまったなぁ、朋さんがいたのは地下だから地下に行くと思ったのに」
のあ「大西由里子と南条光は見たかしら?」
櫂「そう言えば、いなかった」
都「屋敷にいないということは」
のあ「外に探しに行ったのかしら」
櫂「でも、良かった」
都「何がですか」
櫂「一人で犯人と鉢合わせしなくて」
のあ「……」
都「屋敷の外に行ってみましょうか」
のあ「ええ」
都「櫂さんはどうしますか?」
櫂「悠貴ちゃんを探したいところだけど、食堂に戻るよ」
のあ「わかったわ。私達は外へ」
都「はい。行きましょうか」
113 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 19:46:20.11 ID:Ahhc8lJY0
67
逢伊江館・中庭・離れ前
光「うーん?」
由里子「むぅ……」
のあ「ここに居たのね」
都「どうしましたか?」
光「朋さんがいないことを聞いてたから、探そうと思ってたんだ」
由里子「そうしたら、離れの方から物音と明かりが」
光「それで、来てみたんだけど」
由里子「これ」
都「丸めたタオルが光ってますね」
光「見てくれ、あそこにもあるぞ!」
都「フム、島の奥の方にもありますね」
のあ「中身は、電池式の小さなライト」
由里子「誰かが落とした?」
都「かもしれませんね。離れの中は?」
光「誰もいない」
のあ「そうなると……」
都「投げ入れた、ということでしょうか」
由里子「屋敷から?」
光「明かりが見えているのは」
都「沢田さんと松本さんの部屋ですが」
のあ「別に、違う部屋でもいいでしょう」
光「でも、なんでここに落とすんだ?」
由里子「目的がわからないじぇ」
光「あっ、電気が消えた」
都「屋敷、全部……?」
のあ「……まずいわ」
都「戻りますよ!」
由里子「もしかして、おびき出された?」
光「そういうことだっ!」
114 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 19:47:55.56 ID:Ahhc8lJY0
68
逢伊江館・1階・食堂
のあ「真奈美、まゆ!」
真奈美「のあ、無事か」
まゆ「まゆは、ここにいますよぉ」
のあ「停電はいつから」
真奈美「つい先ほどだ」
椿「突然でした。今度の原因は何でしょうか……」
のあ「二人いないわ。古澤頼子と西島櫂は?」
椿「部屋の外を見に行ったのでしょうか……」
のあ「見ていないの?」
真奈美「出て行った足音はしたが」
まゆ「追うのは危険だって」
のあ「真奈美、ありがとう」
真奈美「どういたしまして」
のあ「ブレーカーを落とした、だけかしら」
真奈美「誰が、だ?」
のあ「ここにいない誰か」
ガシャーン!
真奈美「何の音だ!?」
椿「ガラスが割れたような音がしました!」
まゆ「どこから、ですかぁ……?」
のあ「屋敷内なのは、間違いないと思うけれど」
椿「でも……なんでしょう」
のあ「何か気づいたことがあるのかしら」
椿「ガラスが割れる音以外にも何か……」
真奈美「ブレーカーは」
のあ「大西由里子達が見に行ってくれてる」
椿「時期に戻るでしょうか……」
まゆ「古澤さんと西島さんも戻って来ませんねぇ……」
真奈美「だが、動くのが得策とは思えない」
のあ「復旧まで待つしかないわ」
115 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 19:49:18.82 ID:Ahhc8lJY0
69
幕間
逢伊江館・1階・キッチン
頼子「電気は戻りませんが……ここにいたのですね」
頼子「乙倉さん」
頼子「今は私一人ですよ。二人でいなさいとうるさい探偵さん達は無視しています」
頼子「あら、話すことは出来ませんか?」
頼子「死んではいませんね、呼吸もあります」
悠貴「たす……けて」
頼子「そう言えば、ライフセーバーがふたりいましたね」
悠貴「あ……」
頼子「一人は亡くなっていますが、もう一人は健在です。あなたが落としたブレーカーを見に行っていますよ」
悠貴「……」
頼子「正解のようですね。ですが、あなたは間違えました」
頼子「ここは殺人鬼が自ら演出し、主役を務める舞台です。あなたはこんな舞台に立つ役者なのですか?」
頼子「役者ではなく、観客でいれば良かったのに」
頼子「でも、特別扱いですよ。刃物が使われたのは、あなただけです」
悠貴「ふ……る……」
頼子「助けて欲しいですか」
悠貴「さ、わ……」
頼子「私は舞台を見ている観客ですから。私に、殺人鬼の舞台を捻じ曲げる力はありません」
頼子「そんな弱々しくに睨まないでくださいな。あなたはあなたの意思で舞台にあがったのです」
頼子「舞台に口を出すだなんて無粋でしょう。演者は観客のせいにせずに、自らの創作物に全ての責任を持つべきです」
悠貴「犯人……わたし……わかって…………」
頼子「待ち伏せしたのですか。私は、知っていますから言わなくて良いですよ」
頼子「パンフレットも前情報も大切な楽しみの一部ですから。少しだけ乙倉さんにもお話しました」
頼子「私は彼女の邪魔をしません。しかし、舞台に上がることは拒否します」
悠貴「ぇ……」
頼子「スポットライトはないので、主役は自分で注目しないといけませんから」
頼子「聞いてくれたのなら、教えてあげたのに」
悠貴「……」
116 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 19:50:18.15 ID:Ahhc8lJY0
頼子「呼吸が弱くなってきましたね」
頼子「電気が復旧しましたね。時間が掛かり過ぎです、乙倉さん、やり過ぎですよ?」
頼子「さて……私にも時間が必要ですね」
頼子「連れを失った哀れな被害者にならないといけませんから」
悠貴「は……あ……」
頼子「スクラップブック、彼女に取り上げられなかったのですね」
頼子「見せてください。良く出来ていますよ」
頼子「だから、没収です。まだ、銀髪の探偵さんに私達を知られるには早いですから」
悠貴「ぁ……」
頼子「このページだけは、ポケットに入れておきますね」
頼子「目ざとい探偵さんなら、これに気づくでしょう」
頼子「私は罪人が裁かれることで、気分が軽くなる平凡で甘美な感覚を捨てきれないのです」
悠貴「……」
頼子「顔を見せてください、良い表情ですよ」
頼子「死というものは様々な感情が積み重なるもの。乙倉さんの積み重なった気持ちが見えます」
頼子「様々な感情を頂きました。でも、捨てましょう」
頼子「同行者の死体を見つけた、哀れな女性の面だけを見せましょう」
頼子「お休みなさい……乙倉悠貴」
悠貴「……」
頼子「さて」
頼子「目の前に同行者の死体があります。懐いてくれる中学生」
頼子「学芸員として働いている普通の女性。文系として生きて来た大人しいタイプ」
頼子「死体なんて見慣れているわけありません」
頼子「ならば、声をかけるでしょう。体をゆするでしょう」
頼子「手際のよい死亡確認なんて、するわけありませんね。ふふっ、反省です」
頼子「体に包丁が突き立てられていて、出血していたら、きっと悲鳴をあげて腰を抜かすでしょう」
頼子「信じられなくて、誰かに縋るでしょう」
頼子「縋るならば、誰にしましょうか。銀髪の探偵さんか助手さんにしましょうか」
頼子「そうしましょう。そうと決まったら、心をそぎ落としましょう」
頼子「それでは」
頼子「乙倉さん……こんなところで寝ていてはいけませんよ」
頼子「乙倉……さん?」
頼子「どうしたので……刺されて……血が……」
頼子「きゃあ!」
幕間 了
117 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 20:06:07.92 ID:Ahhc8lJY0
70
逢伊江館・1階・食堂
椿「ひ、悲鳴です!」
まゆ「一体どこから……」
真奈美「古澤君、だろうか」
のあ「真奈美」
真奈美「わかってる。いくぞ、佐久間君」
まゆ「え……わかりましたぁ」
のあ「江上椿、ここにいる全員で様子を見に行きましょう」
椿「はい」
のあ「真奈美、行くわよ」
真奈美「了解だ」
118 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 20:07:55.86 ID:Ahhc8lJY0
71
逢伊江館・1階・キッチン
のあ「何があった……のかしら」
頼子「高峯さん……あれを……」
のあ「無理に話さなくてもいいわ。真奈美、抱き付かれてしまったからお願い」
真奈美「了解した」
まゆ「……悠貴ちゃんが」
椿「……そんな」
頼子「……生きています、よね」
真奈美「残念だが、もう息はない」
頼子「そんな……私のせい、です」
のあ「そんなことは、ないわ」
頼子「一人にさせなければ、良かった。停電になる前に見つけてあげないといけなかったのに……」
のあ「……」
都「どうしましたか!?」
まゆ「見ての……通りです」
光「次の被害者、か」
のあ「江上椿、古澤頼子をお願いしてもいいかしら」
椿「はい。大丈夫ですか、古澤さん」
頼子「いいえ……」
椿「仕方がありません……どこかに」
都「ロビーに光さんと由里子さんがいます。そこへ」
椿「そうします。頼子さん、歩けますか」
真奈美「しかし、だ」
のあ「どちらが先かしら」
まゆ「あれ……」
都「割れた音はこれだったのですね」
真奈美「変だな」
のあ「荒らされているというほどではないけれど」
まゆ「散らかっていますねぇ……」
真奈美「血も散乱してる」
都「どうして、犯人は刃物を」
のあ「どういうことかしら」
119 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 20:08:58.87 ID:Ahhc8lJY0
都「何でしょう、こだわりだと思ったのですが」
まゆ「……包丁はどこから」
真奈美「そこだ」
のあ「キッチンから。一番手に取りやすいところにあったようね」
まゆ「なんだか、行き当たりばったりのような……」
真奈美「計画性がない、その可能性は」
都「む……それは難問ですね」
まゆ「悠貴ちゃんは、このまま……なんですかぁ……?」
真奈美「この様子だとあまり移動はできない」
のあ「寝方だけは変えてあげましょうか」
真奈美「そうだな」
のあ「これでいいかしら」
都「少しでも、楽になってくれるといいのですが」
のあ「しかし……どうしようかしら」
都「……おや、これは」
櫂「誰かー!」
都「櫂さん?」
まゆ「声は下から、ですかぁ」
真奈美「のあ、下だ。西島櫂が呼んでいる」
のあ「無事だったようね」
真奈美「いや……そうではないようだ」
まゆ「どういうことですかぁ……?」
真奈美「都君、光君と地下室の二人を呼んできてくれ」
都「……わかりました」
真奈美「のあ、食堂の階段から降りていけるか」
120 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 20:10:23.11 ID:Ahhc8lJY0
72
希砂二島・崖の階段下
のあ「西島櫂!」
櫂「ごめん、また飛び込むはめになった」
のあ「そんなことはどうでもいいわ。藤居朋は」
櫂「残念だけど……溺れたわけじゃないみたい」
のあ「……こっちは首を折られてるのね」
櫂「こっち、って?」
のあ「乙倉悠貴が亡くなったわ」
櫂「どこで!?」
のあ「キッチンよ」
櫂「しまった……外じゃなかったのか」
のあ「どうやって、見つけたの?」
櫂「割れた音もしたけど、水の音がしたから」
のあ「水の音?」
櫂「気のせいかと思ったんだけど、崖の方を見たら」
のあ「ふむ……」
櫂「食堂に誰もいなくてびっくりしたけど、そっちもか……」
雪菜「朋ちゃん!!」
海「朋……」
雪菜「朋ちゃん、起きてください!起きてください……」
海「雪菜……朋はもう……」
のあ「……」
海「……殺されてる」
雪菜「そんなの、信じられないですよぉ」
海「でも……」
雪菜「海ちゃんは、何とも思わないんですかぁ!」
海「違う……」
雪菜「殺人犯を許せるんですか!?」
海「そんなこと、言ってないだろ!」
櫂「……」
121 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 20:11:25.25 ID:Ahhc8lJY0
海「ごめん、朋……」
雪菜「どうして、朋ちゃんが狙われないといけないんですかぁ!」
海「雪菜、落ち着きなよ」
雪菜「いやです!殺される理由なんてないのに、それなら、私だって」
海「雪菜!」
雪菜「……だって」
海「ダメだって、言っちゃったら本当になる」
雪菜「……でも」
海「気持ちはわかるよ……でも、今はやめよう」
のあ「……」
雪菜「……ここは涼しいですぅ」
のあ「屋敷に連れて行ってあげましょう」
櫂「なら、私が運ぶよ。濡れてるから、大丈夫」
海「お願い」
櫂「うん」
雪菜「……」
のあ「井村雪菜、戻るわよ。足元に気をつけて」
雪菜「あの……高峯さん」
のあ「どうしたのかしら」
雪菜「どうして……ここなんですかぁ」
のあ「……」
雪菜「ごめんなさい……わからないですよねぇ」
のあ「ええ」
雪菜「戻ります……朋ちゃん、体を拭いてあげないと」
122 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 20:13:10.46 ID:Ahhc8lJY0
73
逢伊江館・1階・食堂
真奈美「藤居君は、大ホールに寝かせた」
雪菜「体は拭いてあげましたぁ……タオル、ありがとうございました」
由里子「大丈夫……じゃないよね」
雪菜「……ごめんなさい」
海「雪菜が謝ることじゃないよ」
雪菜「はい……悪いのは、犯人ですからぁ……」
海「……」
雪菜「櫂さん、朋ちゃんを見つけてくれてありがとうございました……」
櫂「……ううん、感謝されるようなことはしていない」
海「それでも、言わせてほしいんだ」
櫂「……そう」
まゆ「櫂さん、濡れは大丈夫ですかぁ?」
櫂「ちゃんと拭いたから大丈夫。もう、お風呂に行くわけにはいかないし」
都「しかし……これで被害者は4人になりました」
のあ「……」
真奈美「一つだけ、言っていいか」
都「はい」
真奈美「おそらく、殺されたのはつい先ほどではない」
雪菜「……どういうことですかぁ」
真奈美「最初の停電か、その後には亡くなっていた」
海「……そんな」
都「どこかに隠していたということですか」
椿「そうだと……思います」
まゆ「さっきの割れる音も……」
都「朋さんの遺体を海に落とすことを、隠そうとしていたのかもしれません」
のあ「……」
海「その前に見つけられたら……冷たい思いもしなくてよかったのに」
123 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 20:13:37.65 ID:Ahhc8lJY0
頼子「もう、イヤです……」
光「気持ちは一緒だ」
頼子「なんですか。あなたは、友人を殺されてなどいないでしょう」
光「同じ島で過ごした仲間だぞ!そんな簡単に切り捨てられるわけないじゃないか!」
椿「光さん……立派ですけれど、ここは抑えてください」
頼子「……すみません、大人気ありませんでした」
光「いいや、アタシも悪かった。ごめん」
都「しかし、どうしましょうか……ん?」
真奈美「どうした?」
都「沢田さん、どうしました?」
麻理菜「え、ううん、何でもないから」
由里子「行ってしまったじぇ……」
都「いや、様子がおかしいですね」
光「一人だったな?」
まゆ「はい。目が合いましたけど……」
のあ「目が合うということは」
都「誰かを探していたということでしょう」
光「でも、いなかった」
都「話を聞きに行きましょう。高峯さんと光ちゃん、一緒にいいですか」
光「ああ!」
のあ「了解したわ」
124 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 20:14:46.04 ID:Ahhc8lJY0
74
逢伊江館・2階・201号室
コンコン
都「沢田さん、いらっしゃいますか」
麻理菜「いるけど、何かしら」
のあ「……」
光「話を聞きに来たんだ。何かあったのか?」
麻理菜「いいえ、大丈夫だけど」
光「そうは見えなかった。力になるぞ」
都「松本さん、どちらにいらっしゃいますか?」
麻理菜「……」
のあ「慌てすぎよ」
都「見つからないのですか」
麻理菜「……ええ、そうよ」
光「相談してくれればいいのに」
麻理菜「それは、その……」
都「そもそも、どうして一人で?」
のあ「……」
125 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 20:15:36.99 ID:Ahhc8lJY0
光「都さん、探すのが先だ」
都「そうですね。行く先に心当たりはありますか」
麻理菜「プールだと思うんだけど」
都「なにかありましたか」
麻理菜「入り口にカギがかかってるの」
のあ「カギ……」
光「閉めたか?」
都「いいえ。由里子さんが隠しているはずですが」
のあ「フム。大西由里子にカギを借りに行きましょうか」
都「ええ。沢田さん、食堂にいて頂いていいですか」
麻理菜「……」
光「一人は危険だぞ」
麻理菜「いいえ、断るわ」
のあ「……」
都「なら、一緒に探しに行きましょう。それで、良いでしょうか」
麻理菜「……ええ」
126 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 20:18:17.18 ID:Ahhc8lJY0
75
逢伊江館・ジャグジーとプール・入口
のあ「カギが閉まっている理由は?」
由里子「マスターキーは持ってかれていないし……」
光「指紋認証の金庫で厳重だったな」
のあ「更に、大西由里子の執務室の床下にあったものね」
由里子「プールのカギは、これ、っと」
都「他の窓も閉まり切ってます」
由里子「つまり、中で閉めたってことだじぇ」
麻理菜「サリナが、ってことかしら」
都「それはわかりません」
光「開いたぞ」
都「明かりもつきました」
のあ「気をつけて、何者かが潜んでいるかもしれないわ」
光「更衣室には誰もいない」
都「ジャグジーもいないようですが」
麻理菜「……」
由里子「プールサイドは走ると危ない……あ」
のあ「松本沙理奈はいたわね……無事ではないけれど」
麻理菜「そんな……」
光「プールに浮いてる……」
都「密室に彼女だけ……」
由里子「あたしがプールサイドにあげるから、触らないで」
のあ「お願いするわ」
由里子「更衣室からタオル持ってきてもらっていい?」
光「わかった」
麻理菜「……無事なの?」
由里子「よいしょ……待ってて」
都「……」
のあ「……」
光「由里子さん、タオル……どうなんだ……?」
由里子「残念だじぇ……」
麻理菜「そんな、嘘でしょ?」
由里子「首……折れてるし……」
都「嘘では、ないようです」
麻理菜「私達が被害者になるなんて、そんなの聞いてないわ!」
のあ「……」
光「気持ちはわかるぞ。でも、落ち着いて」
127 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 20:19:18.26 ID:Ahhc8lJY0
麻理菜「落ち着いてなんか、いられないわよ!」
都「沢田さん」
麻理菜「なによっ!?」
都「聞いてない、とはどういうことですか?」
のあ「私には、ここに来て動揺し始めたように見えたけれど」
麻理菜「……」
由里子「何か、知ってるとか……?」
都「沢田さん、このままでは被害者が増えるだけです」
のあ「おそらく、そうでしょうね」
都「答えてください。なぜ、松本さんが殺されたことに対して悲しむのではなく慌てているのですか」
麻理菜「それは……」
のあ「……」
麻理菜「……」
都「あなたが犯人ではないのなら、可能性は限られます。本来は犯人に殺されない立場、つまり」
麻理菜「共犯じゃないわよっ!」
都「なら、なんなのですか」
麻理菜「ただ、言われたとおりにやっただけ……」
都「犯人は誰なのですか」
麻理菜「知らないの!ただ、依頼されただけ!」
都「人が殺されているのに、共犯じゃないと言うんですか」
麻理菜「あんたに、何が」
都「何もわかりません。だから」
のあ「……」
都「沢田さん、皆の前で何をやったのか教えてくれますか」
128 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 20:20:32.16 ID:Ahhc8lJY0
麻理菜「……」
のあ「高みの見物は終わりよ。あなたも被害者になりうるのだから」
都「お願いします」
麻理菜「……わかったわ。私も殺されたくないもの」
都「あな……ごほん、ありがとうございます。由里子さん、食堂へ沢田さんを」
由里子「わかったじぇ」
都「皆を食堂に集めてください」
光「犯人がわかったのか?」
都「いいえ。でも、わからないからです。もう逃しはしません」
のあ「その根拠はどこからくるのかしら」
都「私の正義を信じます」
のあ「……それでいいわ。私に何かすることは」
都「アヤさん達を呼んできてもらえますか」
のあ「わかったわ。南条光、一緒に行きましょう」
光「わかった」
都「それと」
のあ「それと?」
都「推理で犯人を見つけます。その時に、少しだけ頭を貸してください」
129 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 20:21:58.14 ID:Ahhc8lJY0
76
逢伊江館・2階・205号室
アヤ「何のようだ?」
こずえ「ふわぁ……」
紗南「アヤさん、せっかく来てくれたんだから」
アヤ「今は、そういう時じゃない」
光「アヤさんの気持ちもわかるよね、のあさん」
のあ「そうね。あなた達は部屋から出たのかしら?」
紗南「ううん。一回も出てない」
のあ「停電の時もかしら」
アヤ「そうだ」
こずえ「あや、さなといっしょにだっこしてくてたのー……」
のあ「そう」
アヤ「アタシは戦えない。だから、それぐらいしかできない」
のあ「あなたは強いわね」
アヤ「それで、来たからには理由があんだろ?」
のあ「食堂に降りてきなさい」
アヤ「……」
のあ「あなた達の探偵を信じるならば」
紗南「都さん、何かわかったの?」
光「違う。わかるんだ、これから」
のあ「そういうこと。あなた達の証言も欲しい」
アヤ「そうか……」
こずえ「あやー……?」
アヤ「わかったよ。紗南、自分の身は自分で守れ」
紗南「もちろん、だってアヤさんのこと守ってたもんね」
アヤ「ああ……そうだった。信じるよ」
のあ「準備は」
アヤ「大丈夫だ」
光「行こう」
130 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 20:23:31.62 ID:Ahhc8lJY0
77
逢伊江館・1階・食堂
まゆ「紅茶を……落ち着いてくださいねぇ」
都「みなさん、集まりましたか」
のあ「ええ。まゆ、座りなさい」
まゆ「はぁい」
由里子「ホワイトボードは持って来たけど……」
都「ありがとうございます」
アヤ「……寂しいな」
海「だって……5人もいなくなってる」
頼子「……その通り、です」
都「全員いますね?」
のあ「204号室はいるわ」
真奈美「のあ、佐久間君、それと私は無事だ」
まゆ「はい……」
椿「206号室もいます。都ちゃんと光ちゃんと私です」
アヤ「205号室もだ」
こずえ「ふぁ……」
紗南「こずえちゃん、もう少し我慢してね」
都「残念ながら、他の部屋は被害者が出てしまいました……」
雪菜「……朋ちゃん、どうして」
海「雪菜……」
櫂「渚ちゃんも……」
頼子「乙倉さん、ごめんなさい……」
都「松本沙理奈さんも亡くなってしまいました」
麻理菜「……」
雪菜「犯人はわかったのですんかぁ……?」
都「いいえ。でも、わかります」
海「……信じて良いのか」
のあ「信じるしかないでしょう」
雪菜「わかりました……」
都「ありがとうございます」
真奈美「そもそもの発端は」
由里子「美里さんの死体を見つけたから……」
都「その通りです。はじめましょう」
131 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 20:24:52.86 ID:Ahhc8lJY0
78
逢伊江館・1階・食堂
都「美里さんの遺体を発見したのは、由里子さんですね」
由里子「うん」
都「発見場所は」
のあ「間中美里の部屋」
椿「時間的にはお休みの時間です」
都「由里子さん、どうして間中さんの部屋に?」
由里子「それは、ネットが繋がらなくなったから」
のあ「原因は」
光「島の中央にある電波塔の故障だ」
都「その通りです。由里子さん、どうでしたか」
由里子「絶対によく知ってる人間の仕業だじぇ」
のあ「私の感想も同じ」
都「時系列順ではありませんが、重要な点が一つ」
真奈美「それは、何だ?」
都「電波塔や停電の件といい、引き起こした人物は屋敷の構造を熟知しているようです」
アヤ「全部、偶然じゃないってことか」
都「はい」
アヤ「でも、知ってる人なんてほとんどいないだろう」
こずえ「ゆりこ、しってるのー……」
由里子「でも、電波塔の構造なんてしらないじぇ」
紗南「凄い電気に詳しい人がいるとか」
頼子「そうでしょうか……どんな知識も一朝一夕には身に付きません」
真奈美「その通りだ。なら、どう考える?」
都「天才になる必要なんてありません」
櫂「どういうこと?」
都「事前に知らされていればいいだけです」
海「知らされてる、人なんて」
麻理菜「……」
都「沢田さん、何か知っていますか」
132 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 20:28:16.56 ID:Ahhc8lJY0
79
逢伊江館・1階・食堂
麻理菜「……知ってるわ」
真奈美「何を、だ?」
麻理菜「電波塔を壊したのは、私と沙理奈だから」
光「本当なのか……?」
麻理菜「ええ、今更嘘をついても仕方がないでしょう」
雪菜「……」
海「雪菜、今は聞こう」
都「どうやって、壊したのですか」
麻理菜「理屈はよくわからないけれど、言われたとおりに」
光「誰に、だ」
頼子「犯人……ですか」
麻理菜「依頼主はわからない」
アヤ「わかんねぇ、って」
麻理菜「沙理奈と私に提示された条件の一つが、依頼者の情報を漏らさないこと」
のあ「個人的な興味なのだけれど、どこから依頼されたのかしら」
麻理菜「メールで来たわ。どこの人材派遣会社から漏れたかはわからない」
まゆ「沙理奈さんと前に会ったと言っていましたけれど……」
麻理菜「お仕事の時よ。その時は、コンパニオンだったわね」
のあ「依頼方法はメール」
麻理菜「それと郵便で資料が来たわ」
由里子「メールアドレスとか住所とかで追跡できないの?」
のあ「出来るかもしれないわね」
真奈美「だが、この場面で役に立てるのは難しいな」
麻理菜「さっきも言った通り、誰かはわからない」
都「送られてきたのは」
麻理菜「一連の騒動の起こし方」
都「それだけ、ですか」
麻理菜「それだけね。目的はわからなかった」
櫂「殺人だとわかっていたら、引き受けなかった?」
麻理菜「……どうかしら。報酬も良かったし、少しスリリングじゃない」
雪菜「な……!」
麻理菜「……間違いだったのは、わかってるわよ」
都「……」
頼子「目的が殺人だと気づいたなら、どうして、そこで止めなかったのですか」
雪菜「そうですよぉ、朋ちゃんは停電がなければ」
海「犠牲にはならなかった……」
麻理菜「共犯なら、殺されない」
雪菜「自分のために、続けたんですかぁ!」
133 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 20:29:54.09 ID:Ahhc8lJY0
麻理菜「ええ……殺されないためには共犯であり続けないといけなかった」
のあ「目的が殺人だとわかりながら、その判断が下せたのなら冷静ね」
真奈美「だが、それも思い込みだ」
都「相手は、そんなことを気にしてはいませんでした」
麻理菜「沙理奈は殺されたわ」
都「犯人と連絡は取っていたのですか」
麻理菜「いいえ。誰が犯人かも知らないのに、どうやって」
頼子「……」
椿「でも、それなら」
都「犯人は沢田さん達のアクションに合わせて犯行を続けた、と」
アヤ「……ヤバイ奴じゃないか」
光「殺せそうな人から……殺していった」
由里子「げぇ……」
頼子「それなら……動機が」
海「ない……」
のあ「そうかもしれないとは、感じていたけれど」
都「場所と状況は計画的です。でも、行動は行き当たりばったり」
真奈美「なら、可能性はある」
のあ「ええ」
都「綻びは、見つかるはずです」
134 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 20:31:54.24 ID:Ahhc8lJY0
80
逢伊江館・1階・食堂
都「話を戻しましょう。沢田さん、電波塔を破壊したのは何時ですか」
麻理菜「ほぼ12時。由里子さんの悲鳴が聞こえた時には私は部屋にいたわ」
都「誰か、美里さんの部屋に出入りした人を見ましたか?」
麻理菜「いいえ。静かだったけれど」
アヤ「大体部屋にいたんじゃないか。紗南はいなかったけどさ」
のあ「南条光と三好紗南は地下室から、悲鳴を聞いてロビーへ」
都「櫂さん、渚さんはこの時にはいなかったのですか」
櫂「……うん」
真奈美「愛野君が殺害されたのは」
都「美里さんよりも前の可能性があります」
のあ「殺害の理由は」
都「考えたくはありませんが、犯人と居合わせたから」
櫂「……」
麻理菜「犯人なら、やりかねない」
真奈美「この段階では、犯人は完全に成功していいる」
都「通信が出来なくなる前に、犯行も遺体も見つかっていません」
のあ「判断材料は不足」
椿「そうですね……わかっていたのなら」
雪菜「殺人は、続かなかったのに……」
由里子「監視カメラの映像もなし……」
都「犯人はこの時点では、わかりません」
アヤ「……なら、どこでわかるんだ」
こずえ「おへやにもどったのー……」
アヤ「アタシはもうこれ以降のことは知らない」
紗南「古澤さんの提案で、部屋に戻ったから」
頼子「……その通りですね。良い選択ではありませんでした」
のあ「そうとも言い切れない」
真奈美「実際に、桐野君達は無事だった」
麻理菜「……私が犯人にタイミングを与えなければ」
のあ「思い切りが良すぎるわ、犯人はどんな思考をしているのかしらね……」
都「今は悔やんでもしかたがありません」
櫂「次に起こったのは……」
椿「不審者が見つかりました」
135 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 20:34:03.77 ID:Ahhc8lJY0
81
逢伊江館・1階・食堂
アヤ「不審者?」
櫂「うん、あたしがお風呂に入ってる時に」
椿「渚さんのために、海に飛び込んだので」
海「今は、大丈夫なのか?」
櫂「ちゃんと拭いたし、今は大丈夫」
雪菜「さっき、少しだけ話を聞いたんですけどぉ……」
海「離れから屋敷の地下室に移動した、後なんだよね」
都「そうですか、麻理菜さん」
麻理菜「どうして、私に聞くのかしら」
都「あなたか松本さんである可能性が一番高いからです」
麻理菜「その通り。あの不審者は私よ」
真奈美「その答えで、別の可能性が否定された」
都「島に別の犯人が潜伏しているという可能性が否定されました」
頼子「……」
都「沢田さん、どうやったのですか」
麻理菜「やり方は単純。私達の部屋は中庭側でしょ」
真奈美「私達が移動しているのを見ていたのか」
麻理菜「ええ」
海「ウチらも、か?」
麻理菜「正解。地下室に行ったのを確認してから、私と沙理奈は移動したわ」
椿「別行動……」
都「沢田さんは、ジャグジーに変装して現れた」
麻理菜「見つかって、すぐに島の奥へ」
まゆ「もしかして、すぐに引き返してきたんですかぁ……?」
麻理菜「そうよ。離れには誰もいないし」
光「待ち伏せしてれば、止められたのか」
麻理菜「止められないと思うわ」
のあ「なぜ」
麻理菜「沙理奈が上から見てるのに?」
136 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 20:34:49.20 ID:Ahhc8lJY0
都「ふむ。沙理奈さんがサポートしていたのですね」
麻理菜「誰もそこにいないことは、沙理奈が確認していた」
都「待ってください。松本さんも移動したと言っていました」
麻理菜「行く前に、温室の細工をしたから」
雪菜「停電の原因……」
真奈美「ふむ」
都「古澤さん、お聞きしたいことが」
頼子「……なんでしょう」
都「悠貴さんが移動したのは海さんが移動した直後だと思うのですが」
頼子「外は見ていなかったので、時間までは」
都「すぐに探しに行かなかったのですか」
頼子「戻ってくるのを待つ方がよいかと」
真奈美「だが、戻ってこなかった」
頼子「はい。なので、探しに行きました」
のあ「私達と会ったわね」
都「悠貴さんが、沢田さんと松本さんを見ていた可能性は」
頼子「わかりません……」
のあ「タイミング的には、見ていない可能性が高いわ」
麻理菜「それは当然よ」
都「もしかして、見ていましたか」
麻理菜「少し扉を開けただけで、充分に足音が聞こえたわ」
137 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 20:35:37.41 ID:Ahhc8lJY0
まゆ「わかってたんですねぇ……」
麻理菜「そういうこと。私も沙理奈も見られていない」
椿「私達はお屋敷に戻りましたけど……」
都「古澤さんとロビーで合流して、二手に分かれました」
のあ「私と、安斎都、西島櫂は地下室へ」
真奈美「残りは食堂で待機だ」
頼子「私も食堂に」
雪菜「皆さんが来た時は停電の少し前でしたぁ」
海「ああ、悠貴ちゃんと雪菜とそれに」
雪菜「朋ちゃんはまだ、いましたぁ……」
都「そこで、停電が起こりました。そうですね?」
麻理菜「ええ。仕掛けはわかってるかしら」
由里子「うん、温室でブレーカーを落とした」
麻理菜「その通りね」
真奈美「問題は、停電後だ」
アヤ「アタシ達は部屋から出てない」
紗南「それは本当だよ」
海「朋がいなくなった……」
138 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 20:36:22.51 ID:Ahhc8lJY0
82
逢伊江館・1階・食堂
都「1回目の停電が起こりました」
真奈美「ああ」
光「アタシと由里子さんは、ブレーカーを見に行ったんだ」
由里子「頼子さんにロビーにいてもらったじぇ」
頼子「はい」
雪菜「朋ちゃん、見ていませんかぁ……?」
頼子「いいえ。出てきたのは、高峯さん、都さん、それと……」
のあ「乙倉悠貴」
都「その通りです」
光「3人ともロビーですぐに合流した」
頼子「そうですね……」
都「地下室はどうでしたか」
櫂「いたのは、あたしと二人」
雪菜「海ちゃんに手を繋いでもらいましたぁ」
海「雪菜、すごい混乱してたしさ……」
櫂「だよね?」
海「うん」
雪菜「朋ちゃんは着いて行ったとばかり……」
都「いなくなったのは停電中ですか?」
櫂「停電が回復した時には、地下室には3人しかいなかった」
真奈美「なら、藤居君はどこに行ったんだ?」
由里子「ロビーに出てきてない……?」
海「出てない、ってどういうこと」
都「部屋は、5つあります」
のあ「娯楽室、書庫、倉庫」
頼子「階段がある部屋と」
由里子「残り一つは?」
都「階段下」
139 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 20:37:39.00 ID:Ahhc8lJY0
由里子「機械室?隠れられなくはないけど……」
都「朋さんが、倉庫のカギを持っていた可能性は?」
真奈美「カギは由里子君が隠していたはずだ」
のあ「機械室のカギは?」
椿「そう言えば、写真を撮ってました」
都「南京錠があるはずです」
由里子「そもそも、機械室は違うじぇ」
都「違うとは」
由里子「南京錠のカギは、会社のメンテスタッフしか持ってないはずだじぇ」
麻理菜「それって、これかしら」
由里子「え……?」
都「どうして、それを」
麻理菜「一緒に送られてきてたわ」
都「どこのカギが知っていましたか」
麻理菜「いいえ。入ってただけ」
雪菜「どういう意味ですかぁ」
のあ「見る限り、特殊な南京錠ではないようね」
真奈美「同じ鍵が世界中にいくらでもありそうだな」
光「入れるという意思表示なのか」
海「……なら、誰がカギを持ってたの?」
都「犯人か」
真奈美「藤居朋のどちらか」
雪菜「朋ちゃんが、隠していたんでしょうか……」
のあ「それは、わからない」
都「……」
のあ「安斎都、話を進めましょう」
都「そうしましょう。朋さんがいなくなったことがわかったのは」
雪菜「真奈美さんと都ちゃんが見回りに来たからですぅ」
真奈美「ああ。全員食堂にいた」
都「停電中にどこに居たかの話を聞きましたが」
麻理菜「その時は部屋にいたけれど」
アヤ「アタシも、だ」
頼子「悠貴さんと私は食堂に」
都「地下室に行った時に、雪菜さんに聞かれました」
雪菜「朋ちゃん、食堂にいるんですかぁ、って」
真奈美「実際はいなかった」
140 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 20:38:09.18 ID:Ahhc8lJY0
櫂「それであたしが食堂に行ったけど、いなかった」
頼子「それで、悠貴さんが出て行ってしまいました」
櫂「全然、追いつけなかった」
のあ「理由は」
頼子「考えたくもありませんけれど……」
椿「次の犯行を起こさせようとした……とか」
都「沢田さん達の次の動きもありました」
麻理菜「タオルを巻いたライトを、落とした」
光「アタシと由里子さんはつられて、外に行ってしまった」
由里子「ブレーカーを落としたのは」
麻理菜「私と沙理奈じゃないわよ」
のあ「……違う」
頼子「なら……どなたなのですか」
まゆ「……」
雪菜「あの……もしかしたら」
都「気づいたことでもありますか」
雪菜「悠貴ちゃん、だったのかも……」
都「それならば、合点がいきます」
真奈美「やはり、機会をうかがっていた」
頼子「犯人をおびき出す、そんな危険なことを……」
のあ「結果は失敗だった」
141 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 20:40:13.09 ID:Ahhc8lJY0
都「一人だけ殺害方法が違いました」
真奈美「刺殺だ」
光「なんで、食堂だったんだ?」
麻理菜「食堂だったのなら、心当たりがあるわ」
都「それは、排水ですか」
麻理菜「正解。落とせるのよ、人間一人くらいは海に」
雪菜「……なんて、こと」
椿「何かが落ちる音は、その音だった……」
真奈美「藤居君の遺体は、そこにあったのか」
都「そのようです」
のあ「……安斎都、次の出来事は」
都「櫂さんが、朋さんの遺体を見つけてくれました」
櫂「うん、あたしも水の音を聞いたからさ」
都「ですが、その前です。松本さんが殺害されたのは」
真奈美「プールに自分で移動したようだが、何時だ」
麻理菜「停電とか死体が見つかった時よ。騒ぎの隙に移動した」
のあ「誰か、見ていたとしても離れるのは簡単そうね」
都「沢田さん、プールでは何を」
麻理菜「指示は、明かりをつけること、温水装置を切ること、人が来たら追い返すことだったわ」
のあ「フムン……」
都「何かのアリバイ作りのように思えますが」
アヤ「……いや、どっちかをおびき寄せただけだ」
麻理菜「……殺すための指示」
由里子「で、でもカギはしまってたじぇ!」
142 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 20:45:31.63 ID:Ahhc8lJY0
のあ「その通り」
由里子「こっちは正真正銘、スペアなんかないし」
櫂「密室だった?」
雪菜「そういうことですねぇ……」
都「藤居さんの遺体を櫂さんが引き上げてくれた後に、沢田さんが食堂へ来ました」
光「理由は、戻ってこなかったから」
麻理菜「そう、沙理奈が時間になっても帰ってこなかった」
真奈美「まずはプールを見に行った」
麻理菜「でも、カギがかかっていて入れなかった」
都「そこで、私達の所に様子を見に来ました」
のあ「その後に、私達とプールへ」
由里子「カギを開けて」
のあ「松本沙理奈の遺体を発見した」
麻理菜「……ええ」
都「沢田さん達が行ったことは、これで全てですか」
麻理菜「ええ、通信を切ること、停電を起こすこと、人をおびき寄せること、プールにいること」
海「その後が、今」
アヤ「そういうことだな」
椿「事件は、これで全てです」
光「犯人はわかったのか」
のあ「安斎都、どうなのかしら」
都「高峯さん、屋敷の見取り図を貼ってください」
のあ「わかったわ」
都「直感は外れるタイプです」
まゆ「そうなんですかぁ……?」
都「だから、全てを出すまでは犯人が誰かを決められませんでした」
海「なら、今は……」
雪菜「朋ちゃんを誰が殺したんですかぁ!?」
都「おかしくありませんか」
椿「何がでしょうか……」
143 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 20:46:17.03 ID:Ahhc8lJY0
都「朋さんを海に落とす必要性がわかりません」
のあ「……」
都「しかも、悠貴さんがキッチンで刺殺されるような事態を招いているにも関わらず」
海「必要な行動だって、ことなのか」
都「はい。では、この島の地下を見てください」
光「配管が通ってるのか?」
都「落とした排水を海まで届ける配管があります。例えば、プールの水を抜くための」
由里子「うーん……?」
都「どうして、水に遺体を浮かべていたのか。それは死亡時刻を誤魔化すためでも何でもなく」
のあ「……もう大丈夫かしら」
都「逆だったんです」
頼子「……逆」
都「犯人にこそ、水に濡れている理由が必要だった」
まゆ「え……」
都「犯人はあなたです」
のあ「……」
都「西島櫂さん」
144 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 20:47:38.41 ID:Ahhc8lJY0
83
逢伊江館・1階・食堂
頼子「……」
海「……本当なのか」
櫂「ふーん。それで?」
椿「それで、って……」
櫂「あたしが犯人だと言われただけ、探偵気取りの子供に」
都「な……」
のあ「……」
真奈美「冷静に」
都「ゴホン。わかりました。質問をします、いいですか」
櫂「いいけど」
都「殺人犯はあなたですか」
櫂「最初からそう聞けばいいのに」
まゆ「なんでしょう……」
アヤ「こずえ、紗南、近くに来い」
こずえ「あやー……だっこー……」
由里子「様子がおかしいじぇ……」
櫂「正解だよ。あたしが殺人鬼なんだ」
145 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 20:48:39.15 ID:Ahhc8lJY0
雪菜「どうして、そんな軽々しく言えるんですかぁ!」
海「雪菜、相手しちゃダメだ……ぜったいにおかしい」
櫂「スコアは悪くなかったかな」
紗南「スコア、って、ゲームじゃないんだよ!?」
櫂「そうだ、写真とか撮った?」
椿「私に言っているのですか……?」
櫂「そうだけど。シャッターチャンスだよね?」
椿「ふざけないでくださいっ!」
雪菜「この人、どこかに縛って閉じ込めないと危険です!」
櫂「友達が殺されたからって必死過ぎない?安心していいよ、もう生き残ったから」
まゆ「……ひどい」
櫂「生きてるなら、死んじゃった奴より偉いに決まってるじゃん」
雪菜「なぁ……」
海「ふざけるな!」
櫂「あらら、怒鳴られた。そうだ、探偵さん」
都「あなた、何を考えてるのですか」
櫂「あたしが質問する番だから。いいよね?」
都「……どうぞ」
櫂「探偵さんは話を聞きたいでしょ?」
のあ「……」
櫂「答えないの?」
都「私は残された人達のために、聞かないといけません」
櫂「わかった。まだ、人が来るまで時間があるし、暇つぶしが出来ないとね」
頼子「……」
アヤ「こいつ、拘束しておかないとヤバイぞ」
櫂「やだなぁ、もう試合には負けてるんだから。大丈夫だって」
光「……念のためだ」
のあ「真奈美」
真奈美「わかった。西島櫂、受け入れるか」
146 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 20:49:47.71 ID:Ahhc8lJY0
櫂「もちろん。でも、条件が一つだけ」
都「……聞きましょう」
櫂「探偵さんの推理とあたしの答え合わせを、皆で聞く。いいでしょ?」
のあ「……どうかしら」
アヤ「聞きたくもないが」
櫂「なら、話さないだけ」
アヤ「仕方がない」
雪菜「朋ちゃんの話を……」
海「聞かせてもらうから」
由里子「美里さんの仇も……」
頼子「乙倉さんについて、も」
真奈美「いいか。手を出せ」
櫂「はい。でも、残念だったな」
都「何が、ですか」
櫂「高峯さんと木場さんがいなければ、体格差で何とかできそうだったのに」
由里子「真奈美さん、お願いするじぇ。念入りに」
真奈美「……ああ」
都「あなたの夜はこれで終わりです」
櫂「わかってるよ。そんなの、ずっと前からさ」
都「真奈美さん、終わったら始めましょう。全ての話をしてもらいます」
147 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 20:50:56.25 ID:Ahhc8lJY0
84
逢伊江館・1階・食堂
雪菜「大丈夫ですかぁ……?」
櫂「うん。手も足も椅子から離れないけど、逃げようとしなければ苦しくない」
アヤ「どうして、オマエが言うんだよ……」
櫂「それじゃどうぞ、探偵さん」
都「お聞きします。まずは、沢田さんについて」
麻理菜「どうして、沙理奈を殺したの」
櫂「たぶん、勘違いしてる」
都「勘違いとは」
櫂「だって、共犯が誰か知らなかったし」
麻理菜「知らない、ってどういうこと」
櫂「ま、目星はついてたけど」
のあ「つまり、あなたではない」
都「指示したのは、あなたではないのですか」
櫂「あたし、そういうの考えるの苦手だし」
由里子「おかしいじぇ」
櫂「会場を用意するのは、役者の仕事じゃないしさ」
海「なら、誰なんだ」
櫂「うーん……知らないけど、心当たりはあるよ」
頼子「……」
雪菜「……」
櫂「間中さんじゃないのかな」
由里子「へ……?」
紗南「そんなはずないよ!」
由里子「そうだじぇ!」
櫂「殺しちゃったから、もう何もわからないけどね」
のあ「可能性は、否定できないけれど」
椿「屋敷のことも知ってて……」
真奈美「状況も操作できる」
都「だから、彼女を殺したのですか」
まゆ「自分が疑われないために……?」
櫂「心当たりはさっき、思いついただけ」
のあ「ということは、理由はもっと単純なのね」
櫂「せっかくの、なんだっけ密室だったかな」
頼子「クローズドサークル、ですか」
櫂「それそれ。せっかくのお楽しみは長く楽しまないとね」
アヤ「……」
148 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 20:52:16.20 ID:Ahhc8lJY0
櫂「単純に殺しやすかったのもあるけど」
都「どういうこと、ですか」
櫂「執務室に来たら、拒むわけにはいかないでしょ」
雪菜「……そうですけどぉ」
光「もしも、だ。それを見られてたらどうしたんだ?」
櫂「あたしのスコアは2で終わっただけ」
のあ「2?」
櫂「思い出した、さっきの推理当たってたよ」
真奈美「順番の話か」
櫂「そう。最初は渚ちゃんだよ」
149 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 20:53:57.06 ID:Ahhc8lJY0
85
逢伊江館・1階・食堂
海「……最初に連れを殺したのか」
雪菜「何を考えて……」
真奈美「殺害場所は」
櫂「砂浜。そうじゃないと海に運べないし」
都「動機は何なのですか」
櫂「動機?」
都「はい。友人を殺す理由を教えてください」
海「……」
雪菜「上手くいかないことがあったとか……」
櫂「ふっ、あはは」
椿「何かおかしいことを、言いましたか?」
櫂「そんなことない。良い友達だった。辛いことも楽しいことも共有できた」
海「それなら、なんで……」
櫂「その質問がおかしいよね」
こずえ「みんな、いっしょなのー……?」
櫂「こずえちゃんの言う通り、命は平等なんだよ。あたしが差別するわけないじゃない」
由里子「眩暈がしてくるじぇ……」
櫂「だから、命を奪うか否かの判断材料にはならない」
真奈美「大層なことを言っているようだが」
のあ「……ただの快楽殺人犯」
都「それなら」
櫂「なに?」
都「いえ、今はやめておきましょう。あなたの行動について聞かせてください」
150 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 20:56:18.70 ID:Ahhc8lJY0
86
逢伊江館・1階・食堂
まゆ「あの……」
都「どうしましたか」
まゆ「気になったことがあって……」
のあ「ジャグジーでの不審者についてかしら」
まゆ「はい」
都「私も気になっていました。ですが、あなたが犯人ならば合点がいきます」
櫂「例えば?」
まゆ「全部、あなたが仕組んだこと……」
光「そもそもお風呂場に移動したのは」
櫂「あたしのためだからね」
麻理菜「自分で、移動したの?」
櫂「感謝して……いや、あたしがするほうか」
麻理菜「言っている意味がわからない」
櫂「早めに見つけてあげて、逃げる隙をあげた。着替えで時間を稼いだ」
光「そうか、自分で見つけたのか」
櫂「でも、よく考えたら逆だよね」
麻理菜「私が捕まったら、終わりだから」
のあ「結果的に、次の犯行は起こったわ」
櫂「屋敷から連れ出すことが成功したから」
光「停電が引き起こされた」
都「思い出しましたが、地下へ行くときに妙な反応をしていました」
櫂「あたしが?」
のあ「……」
都「少し驚いたような反応をしていました」
櫂「皆に着いて行かない方が自由に動けそうだったからね」
都「ですが、地下室に来ました」
櫂「あの状況で、残るのは不自然でしょ」
のあ「……そうね」
151 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 20:56:53.63 ID:Ahhc8lJY0
櫂「停電は地下にいる時に起こっちゃったし、悠貴ちゃんがすぐにタネ明かしするし、失敗だったかな」
海「でも、朋は」
櫂「うん。チャンスは生かさないとね」
雪菜「朋ちゃんは、どうしたんですかぁ……」
櫂「あたしとのあさんに着いて行った。でも、階段の下まで」
真奈美「そこで、何をした」
櫂「気絶させて、階段室の倉庫に閉じ込めた。ああ、カギはあたしも持ってるよ」
都「その後に、素知らぬふりをして地下に戻ったのですか」
櫂「うん。二人はこっちを気にしてる余裕なんてなかったし」
都「朋さんをその後、どうしたのですか」
櫂「隙を見て、キッチンに運んだ。殺したのは、2回目の停電の時かな」
海「待って、なら……」
雪菜「朋ちゃんは、まだ生きてたんですかぁ……?」
櫂「そうだよ。運んでる時に見つかって、死んでたら言い訳できないでしょ」
雪菜「そんな……だったら」
櫂「殺される前に見つけられたら良かったのにね」
海「どうして、そんなに他人事なんだよ!」
櫂「他人だから。そこまで思い入れがないんだ」
雪菜「あなた、って、人は……なんて、ことを」
のあ「……次へ」
152 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 20:57:47.86 ID:Ahhc8lJY0
都「あなたも島の構造を知っていたのですが」
櫂「島の構造については、多分麻理菜さんと同じ人にあたしも聞いてた」
都「朋さんをキッチンに運び、下に落としたのと」
櫂「沙理奈さんを殺して、海から出てきたのは探偵さんが言った通りだよ。正解」
海「聞いていいか」
櫂「いいよ」
海「朋を殺した理由は、朋にないんだな」
櫂「もちろん。強いていうなら、あたしの近くにいたから」
雪菜「そんなぁ……」
アヤ「……まだ、動機があった方が良い」
櫂「でも、配慮はしたよ」
由里子「配慮……」
櫂「苦しませないから。首を折って終わりにしてる」
雪菜「……そんなので、納得するわけないじゃないですかぁ」
頼子「違います……」
櫂「何が?」
頼子「乙倉さんは、なぜ刺し殺されているのですか」
櫂「……」
都「犯行の全貌はわかりました。西島櫂さん、あなたが犯人です」
真奈美「状況と彼女の証言も一致した」
櫂「そもそも、警察が来たら確実にわかるでしょ」
のあ「ええ、そうでしょうね」
都「なぜ、殺人を犯したのか」
櫂「さぁ、なんでだろう」
都「乙倉さんに、何か言われましたか」
櫂「……」
まゆ「どうして、それは答えられないんですかぁ」
都「もう一歩だけ踏み込みます。いいですか」
のあ「ええ」
都「あなたが殺人に至った動機を、引き出します」
153 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 21:00:06.42 ID:Ahhc8lJY0
87
逢伊江館・1階・食堂
櫂「そんな理由を聞いてどうするのさ」
都「古澤さんが言った通り、乙倉さんだけ殺害方法が違います」
真奈美「凶器は包丁だ」
のあ「キッチンにあったもの」
都「計画的に準備した凶器ではありませんでした」
光「なんか、おかしいぞ」
都「あなたの目的が快楽殺人であるなら」
櫂「そうだね」
真奈美「先ほどの発言は、なんだ」
都「配慮と言っていました」
櫂「それが?」
都「あなたの美学を覆す理由があったのですか」
櫂「……」
都「ふー……よし」
のあ「……」
都「西島櫂さん、質問をしています。答えてください」
櫂「答えない」
まゆ「あれ……?」
櫂「そんなことを答える義務がどこにあるのさ」
都「理由が快楽殺人でないから、ですか」
櫂「……」
都「あの、高峯さん」
のあ「何かしら」
都「ひとつ、お聞きしていいでしょうか」
のあ「どうぞ」
都「彼女の、この殺人は初めてだと思いますか」
頼子「へぇ……」
のあ「私はただの物好きだから、半信半疑で聞いてちょうだい」
都「はい」
のあ「初犯ではないわ」
真奈美「私は、そんな物好きの意見に同意だ」
のあ「殺人を犯しているわ、おそらく同一の、首を絞めることで」
都「答えてください、どちらですか」
154 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 21:01:03.16 ID:Ahhc8lJY0
櫂「そうだよ。はじめてじゃない」
真奈美「だから、行動に迷いがない」
櫂「ま、そういうこと。経験が力になるのは、どんなことにも共通してるから」
都「どなたですか」
櫂「知り合いだよ。水泳の」
のあ「そちらで捕まるのも時間の問題」
雪菜「だから……事件を起こした」
櫂「思ったよりも、やってみたら楽しかった」
まゆ「……」
都「質問をします」
櫂「あたしに?」
都「あなたは嘘をつきました」
櫂「あたしは正直なつもりだけど」
都「自分の気持ちを嘘で塗り固めれば、正直な気分になれます」
櫂「……何が言いたいのさ」
都「これを、乙倉さんが持っていました」
頼子「乙倉さんのメモ帳……ですか」
都「その切れ端のようです」
麻理菜「何か、書いてあるの」
都「西島櫂さんと沢田麻理菜さんのことが書いてあります。この様子だと他の人のことも書いてあったページもあるでしょう」
櫂「……」
都「私が皆さんからお聞きしたことのような簡単なプロフィールと」
のあ「他には」
都「大会の成績と所属していたクラブ名」
麻理菜「私のことは」
都「派遣会社や参加されたイベントの名前が書いてあります」
真奈美「ネットで調べられそうなことだな」
麻理菜「そうね、心当たりがあるわ」
櫂「あたし、それなりに有名選手だったから」
都「あなたの成績が落ちていた、と書いてあります」
櫂「……それが」
都「乙倉さんに藤居さんの遺体を発見され、待ち伏せされました」
櫂「そうみたい」
雪菜「朋ちゃん、見つかってたんですかぁ……」
頼子「……ごめんなさい」
155 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 21:03:03.92 ID:Ahhc8lJY0
都「何か言われましたか」
櫂「……」
都「例えば、殺人の動機について」
櫂「何が、言いたいのさ」
都「乙倉さんはこの状況すら楽しんでいるようでした」
雪菜「……」
都「あなたが犯人だとわかっていたから、動機について推測していた」
のあ「……」
都「ただ無邪気に、自分の危険も顧みずに、あなたの本当を言い当てた」
櫂「本当、って何さ」
都「彼女もスポーツ選手でした」
櫂「……」
都「年齢はずっと下。あなたにもそんな年齢があった」
櫂「……」
都「だから、わかるけれどわからなかった」
櫂「……」
都「あなたは、快楽殺人犯なんかではありません」
櫂「……」
都「衝動殺人を嘘で塗りつぶした、ただの弱い人間です」
真奈美「……」
櫂「なにが……」
のあ「……」
櫂「お前にあたしの何がわかるっていうんだよ!」
156 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 21:05:03.92 ID:Ahhc8lJY0
88
逢伊江館・1階・食堂
雪菜「ひぃ!」
海「雪菜、大丈夫だ」
雪菜「海ちゃん……」
櫂「なんだ、なんだよ、あたしのことをわかったふりしてさ!」
真奈美「残念だが」
のあ「声を荒げた今のあなたが」
都「本物のあなたです」
まゆ「……」
櫂「だから!」
真奈美「君は殺人を嗜好する異常者ではない」
都「全ては嘘です。事実を積み重ねても、あなたは変わりません」
櫂「わかったふりしないでよ!あたしにはそれだけじゃないんだ」
頼子「……それ」
櫂「違うって言ってるじゃないか!」
由里子「話を聞いてなくない……?」
椿「そのようですね」
櫂「あたしだって、まだ変わるチャンスがあるんだって!」
のあ「……」
櫂「あたしは、進むんだ!挫折も執着も否定も殴り倒して、次へ進むんだ!」
雪菜「……」
櫂「なのに!どうして、わかったふりをするんだよ!」
都「あなたは、血も涙もない殺人鬼ではありません」
櫂「諦めなければ叶う時期は、あたしにはもう過ぎたのに、何がわかるのさ!」
海「……そうなら、殺人を犯してもいいのか」
櫂「あたしは変わらないといけないんだ。執着を捨てられるなら、殺人鬼だっていい」
157 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 21:07:21.03 ID:Ahhc8lJY0
紗南「……本当に?」
櫂「……何が」
紗南「本当に、捨ててよかったの?」
櫂「……」
紗南「だって、泳いでる時は」
櫂「うるさい!あたしが何者だろうが、今の状況は変わんないだろ!」
紗南「……」
158 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 21:09:05.77 ID:Ahhc8lJY0
アヤ「紗南、今は聞こえない」
紗南「……うん」
櫂「あたしは最初の殺人を犯した時から、こうなるしかないんだ!もう、これしかないんだよ!」
まゆ「……でも、事件は終わりました」
櫂「終わってない、終わらせない。あたしは、あたしなんだから」
のあ「彼女が認めないなら、ずっとこのままよ」
まゆ「……でも」
のあ「西島櫂、あなたは罪を償う気持ちはあるのかしら」
櫂「あたしはもう罰を受けてる。気が狂うほどに」
のあ「だめそうね。法にのっとった罰を受けなさい」
真奈美「それが人の掟だ」
都「最初の殺人は衝動でした」
アヤ「だけど、それが間違いだ。何があっても、耐えないといけなかった」
頼子「乙倉さんと……被害者を重ねたのですか」
都「そのようです。そして、他の殺人は」
真奈美「自身の変化を肯定するための行為だ」
都「あなたは乗ってしまった。この場を用意した者に」
由里子「辞めるタイミングだって、いくらでもあったはずだじぇ」
紗南「……」
光「でも、人はそんなに強くない」
都「でも、集まれば強くなれます」
櫂「スイマーは孤独なんだ」
紗南「違うよ。勘違いしてる」
櫂「……そうかもね」
都「反省は」
櫂「ないよ。どうして、なのさ。この気持ちになる状況が悪いんだ」
雪菜「どうして……どうしてですか!」
海「雪菜、すわり……」
雪菜「いいんですか!?」
麻理菜「……」
由里子「……」
159 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 21:10:29.51 ID:Ahhc8lJY0
雪菜「この人、ずっとこのままですよぉ!間違ったのに何も変わらない、変わる気もない、それじゃあ、それじゃあ……グス……だって……」
海「……」
雪菜「朋ちゃんが……報われない……大切な友達が、いなくなったのを……認められない……」
まゆ「……」
櫂「だから、他人の事情なんて知らないよ。あたしの事情も、わかんなくていい」
海「……雪菜」
雪菜「朋ちゃん……朋ちゃん……」
海「部屋に戻るよ。雪菜がこんなんだから」
都「はい。ありがとうございました」
のあ「朝になれば、人がくるわ」
真奈美「その朝も、もうすぐだ」
海「ありがと。じゃあね」
頼子「ふぅん……」
都「事件の顛末は以上です」
光「凄かったぞ!」
都「褒められてもあまりうれしくありません」
のあ「そういうものよ」
都「そういうもの、ですよね」
由里子「ここで、あたしが見てるじぇ。皆は休んで」
真奈美「お言葉に甘えることにしよう」
都「はい。おやすみなさい」
櫂「……」
のあ「おやすみなさい」
都「……」
160 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 21:10:58.94 ID:Ahhc8lJY0
椿「都さん、皆さん行ってしまいました。由里子さんに任せて帰りましょう」
都「あの、聞いていいですか」
櫂「……あたしか」
都「水泳を教えることは好きですか」
櫂「好きだよ。だから、さ」
都「本当は、慰めが欲しかったわけではないのですね」
櫂「わからない。でも、もうお前は選手としてはダメだって言われてたら」
都「……」
櫂「今のあたしがあたしの全て。だから、そんなイフはないんだ」
都「由里子さん、お任せします」
由里子「名探偵、お疲れ様だじぇ」
161 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 21:12:50.73 ID:Ahhc8lJY0
89
翌朝
希砂二島・船着き場
のあ「……明るいわね」
真奈美「目に痛い」
のあ「来たわ」
真奈美「おや」
楓「おはようございます。お散歩ですか?」
のあ「違うわ。あなたこそ、どうしたのかしら」
楓「時々来るようにツアー会社からお願いされているので。安心と防犯のためですよ」
真奈美「今日来ることは決まってたのか」
楓「そうですけれど……」
のあ「……」
楓「何か、ありましたか」
のあ「留美の同僚なだけあるわね。隠しきれなかったわ」
真奈美「隠すつもりもないが」
楓「まず、すべきことは」
真奈美「人を動かすことだ」
のあ「一緒に来た職員は、このまま本島に戻った方がいいわ」
楓「はい」
真奈美「6人くらいは乗れるか?」
楓「大丈夫です」
のあ「子供と保護者は先に本島に戻してあげたいの。いいかしら」
楓「わかりました。お伝えしておきます」
真奈美「江上君と桐野君を呼んでくる」
のあ「お願い」
楓「了解してもらいました。高峯さん、案内をお願いできますか」
のあ「ええ。話は屋敷に向かいながら」
楓「はい」
162 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 21:14:01.11 ID:Ahhc8lJY0
90
逢伊江館・玄関ホール
アヤ「おはよ」
椿「おはようございます」
のあ「おはよう。寝れたかしら」
アヤ「向こうで寝なおす」
のあ「説明が大変そうだけれど」
椿「それは、大人の仕事ですから」
アヤ「少なくともあいつらよりは大人だからな」
のあ「……そうね」
楓「しばらく本島にいらっしゃいますか」
アヤ「ああ」
楓「おそらく、私ではありませんが警察にご協力を」
椿「わかっています」
楓「お願いします」
都「椿さん、お待たせしました」
紗南「アヤさん、こずえちゃん連れて来たよ」
こずえ「あやー……」
アヤ「よし。こずえ、紗南、行くぞ」
光「アタシは残っても大丈夫だぞ」
のあ「任せなさい。任せるのも勇気の資格よ」
光「わかった。頼む」
椿「そうかもしれません。すみませんが、お先に失礼します」
楓「はい。お疲れ様でした」
都「あの、のあさん」
のあ「何かしら」
都「本島にいますので、帰る前に会えますか」
のあ「ええ。新しいことがあったら教えるわ」
都「ありがとうございます。お願いします」
のあ「また」
都「はい」
楓「行ってしまいましたけど、いいのですか」
のあ「ええ」
楓「彼女が事件を解決してくれたと、先ほど言っていましたが」
のあ「事実よ」
楓「あなたではなく」
のあ「私ではないわ」
楓「……」
のあ「犯人と遺体のどちらから、見るかしら」
楓「ご遺体の方へ。よろしいでしょうか」
のあ「わかったわ。大ホールへ」
163 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 21:15:27.04 ID:Ahhc8lJY0
91
逢伊江館・1階・大ホール
楓「……」
真奈美「ここにいたのか」
のあ「真奈美」
真奈美「警察への連絡と本島に戻れるようにお願いはしておいた」
のあ「ありがとう」
真奈美「高垣巡査部長、様子は」
楓「私は遺体を見るプロではありませんが」
のあ「感想は」
楓「犯人は殺し屋にでもなるつもり、だったのですか」
真奈美「……」
楓「首を折ることに美学を持った、殺し屋に」
のあ「……私にはわからない」
楓「……失礼しました。状況は確認しました」
真奈美「元刑事とはいえ、突然の事態だ」
のあ「理解は追いついているかしら」
楓「問題ありません。先輩から、心構えだけは教わりました」
のあ「そう」
楓「事件が起こってからしか来れないことが多いのが、警察です」
のあ「……そうね」
楓「スーパーヒーローじゃないのだから、絶対に間に合わない。なら、慌てる理由なんてないと」
のあ「留美らしい、割り切り方ね」
楓「……こうやって行動には移せますけど」
真奈美「気持ちは割り切れないか」
楓「はい……平穏を守っている方がきっと私には向いています」
のあ「……」
164 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 21:17:25.96 ID:Ahhc8lJY0
雪菜「あれぇ……開いてます」
のあ「井村雪菜」
雪菜「真奈美さん、おはようございますぅ」
真奈美「おはよう。少しは眠れたか」
雪菜「はい……朋ちゃん、見て良いですか」
楓「……」
のあ「構わないわ」
雪菜「ありがとうございますぅ……朋ちゃん、犯人捕まったから、安心してねぇ……」
真奈美「……」
楓「西島櫂さんとお会いします。良いでしょうか」
のあ「ええ」
楓「小さいですが、留置場も本島にはあります。そちらへ」
雪菜「あの……」
楓「どうしましたか」
雪菜「海ちゃんを探しに屋敷に来たんです、見かけませんでしたかぁ?」
のあ「杉坂海?」
真奈美「見かけてはいないが」
雪菜「どこに行ったんでしょうかぁ……」
真奈美「キッチンは入りたくないだろう、そうなると」
のあ「誰かに会いに行ってるのかしら」
真奈美「会うとしたら」
のあ「西島櫂くらいしかいないと思うわ」
雪菜「……あまり、会いたくないです」
楓「私が話をしますので、安心してください」
のあ「食堂へ行きま……」
な、なにやってるんだ!
雪菜「由里子……さん?」
のあ「食堂から」
楓「急ぎましょう」
165 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 21:20:11.59 ID:Ahhc8lJY0
92
幕間
逢伊江館・1階・食堂
由里子「うー……ねむい……」
頼子「由里子さん、お茶はいかがですか」
由里子「おっ、ありがと」
頼子「朝で気温が下がりましたし、温かいお茶にしました」
由里子「ふぅ……落ちつくじぇ」
頼子「湯呑は熱いので気をつけてください。西島さんは……」
櫂「……すぅ」
由里子「この通り、ウトウトしてるじぇ」
櫂「……呼んだ?」
頼子「何か、飲まれますか」
櫂「いらない」
頼子「そうですか」
海「おはよ」
由里子「海ちゃん、どうしたの?」
櫂「……」
頼子「海さんにもお飲み物を……」
海「ごめん」
由里子「ごめん?」
頼子「……」
海「アンタ、言い分は変わった?」
櫂「何を今更変えるのさ。あたしはこのあたしのままだよ。逆に聞くけど、変わったなんて言って信じるの?」
海「信じない」
櫂「なら、答えは出てるんでしょ」
海「出てる」
頼子「海さん、お茶はいかがです……」
海「どいて」
166 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 21:21:26.64 ID:Ahhc8lJY0
頼子「……お邪魔のようでしたね」
由里子「へ…」
櫂「そっか。もう、あたしはあたしの話ですら主役じゃないのか」
由里子「な、なにやってるんだ!」
頼子「……悪は砕けました。報いは必然ですよ」
幕間 了
167 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 21:22:07.12 ID:Ahhc8lJY0
93
逢伊江館・1階・食堂
楓「由里子さん!」
由里子「駐在さん、あ、あれ……」
海「は、はぁ……あぁ……」
楓「真奈美さん、彼女をお願いします」
真奈美「了解した。杉坂海、そのバットを渡せ」
海「……ほら」
楓「凶器は金属のバット……傷は頭部と首。由里子さん」
由里子「……」
楓「由里子さん、処置を」
由里子「あ、うん、やるじぇ!」
のあ「古澤頼子、何があったのかしら」
頼子「……」
のあ「古澤頼子、聞きなさい」
頼子「……あ、高峯、さん……」
のあ「外へ出ていなさい。話は後で聞くわ」
楓「杉坂さん、でしたか」
海「……そうだけど」
由里子「楓さん……その」
楓「わかっています。もう、息はありません」
海「……」
のあ「行動の結果で顔を青ざめさせるようなら、なぜそんなことを」
雪菜「あれ……海、ちゃん……?」
真奈美「井村君、入ってこない方がいい」
雪菜「え……なに……?」
海「雪菜……ごめん」
のあ「真奈美、彼女を外へ」
真奈美「わかった」
雪菜「海ちゃん……殺しちゃったの……?」
海「……」
168 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 21:24:27.84 ID:Ahhc8lJY0
真奈美「井村君、ここは出てくれ」
雪菜「海ちゃん、何をやってるんですかぁ!」
海「……復讐かな」
雪菜「そんなの、朋ちゃんも望んでませんよぉ!」
楓「……」
海「わかってるさ。けど」
雪菜「けど、じゃないですよぉ!海ちゃんだって、家族がいるのに!」
海「雪菜だって、聞いただろ」
雪菜「……」
海「どうやっても、コイツは然るべき報いは受けないよ」
楓「違います。彼女は法により裁かれるはずでした」
海「そんなの、知ってるから。誰でも知ってる。だから」
のあ「……」
雪菜「だから、海ちゃんが、やった……の?」
海「……」
雪菜「そんな必要ないのに……私だってそんなこと思ってない……」
海「わかってるよ。昨日の言ってたことも混乱してたからだって、わかってる」
雪菜「なら……やめて、言ってくれたら……絶対にそんなことさせなかったよぉ……」
海「雪菜、ごめん、二人も友達をいなくさせた」
雪菜「うぅ……ぐすん……」
海「のあさん、真奈美さん、雪菜お願い出来るかな」
真奈美「……ああ」
のあ「……」
海「お巡りさん、連れてって」
楓「……わかりました」
由里子「この事件の終わりが、これ……」
雪菜「……ぐすっ」
のあ「杉坂海が終わらせた。許されるべき方法ではないけど、それは事実よ」
真奈美「終わりにしよう。後は、警察の仕事だ」
のあ「……ええ」
169 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 21:26:17.20 ID:Ahhc8lJY0
94
7月26日(日) 午後
希砂本島・フェリー乗り場・休憩室
真奈美「ただいま」
まゆ「真奈美さん、お帰りなさい」
のあ「状況は」
真奈美「取り調べは終わりだ。自由にしていいそうだ」
のあ「……そう」
まゆ「長かったですねぇ……」
真奈美「遺体と沢田麻理菜、それと杉坂海は本土の船の中だ」
のあ「希砂島で今日やらないといけないことは、ないわけね」
真奈美「そういうことだ」
まゆ「まゆ……疲れちゃいました」
のあ「私もよ」
真奈美「帰るとしようか」
のあ「そうね。真奈美、フェリーの時間は」
真奈美「次のフェリーには間に合わないな」
のあ「次は」
真奈美「1時間後」
のあ「わかったわ。少し、出てくるわ」
まゆ「どこに行かれるんですかぁ?」
のあ「安斎都に会ってくるわ。喫茶店でお茶でもしてなさい」
真奈美「わかった。佐久間君、行こうか」
まゆ「はぁい。のあさん、気をつけてくださいねぇ」
170 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 21:27:16.52 ID:Ahhc8lJY0
95
希砂本島・船着き場
のあ「安斎都」
都「のあさん、お疲れ様です」
のあ「お疲れ様。江上椿達は」
都「取り調べも終わりました。ホテルでゆっくりしてます」
のあ「そう。帰りは何時かしら」
都「予定通りに夕方です。のあさん達は」
のあ「1時間後に島を出るわ。お別れね」
都「ええ。お聞きしていいですか」
のあ「何をかしら」
都「探偵なのですか?」
のあ「知っていたのね」
都「いえ、さっきネットで調べました。オシャレなホームページがありましたよ」
のあ「黒川千秋に言われたから、変えたのを見たのね。真奈美のセンスで外注したわ」
都「さすが、真奈美さんですね」
のあ「ええ。自慢できるわ」
都「でも、私に仕事は譲りました」
のあ「別にあなたに譲ったつもりはないわ」
都「なら、どうして探偵をしなかったのですか」
のあ「依頼を受けていないから、加えて朝に警察が来れば解決だから、かしら」
都「違います。それだけではありません」
のあ「その通り。私は探偵業よりも優先するべきことがあった」
都「はい」
のあ「真奈美とまゆを危険にさらさないこと」
171 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 21:28:09.00 ID:Ahhc8lJY0
都「やっぱり、そうでしたか」
のあ「桐野アヤのようにすべきだったかしら」
都「部屋に押し入るのは時間の問題だったと思います」
のあ「考えたくないけれど、そうね」
都「事件は解決しました」
のあ「でも、被害者は出たわ。探偵は、ほとんど事件が起こってからしか出番がない」
都「事件が進んでいく辛さも、この身をもって感じました」
のあ「探偵はそんな仕事よ。名声なんてあげられない、ただ待つだけの仕事なの」
都「わかっています」
のあ「人間も世の中も、悪い所ばかりが見えるの」
都「そうかもしれません」
のあ「警察でもない。法の後ろ盾もない」
都「はい。それでも、私にはあります」
のあ「なにが」
都「私の信じる正義があります」
のあ「それを持ち続けなければ探偵としてはいられない。それでも、探偵でいるのかしら」
都「はい。私の憧れですから」
のあ「物好きね」
都「そちらこそ」
172 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 21:28:51.86 ID:Ahhc8lJY0
のあ「先輩として忠告しておくけれど、儲からないわよ」
都「そうなのですか」
のあ「資産家の道楽なのよ」
都「黙ってもらえてたら、夢を見続けられたのに」
のあ「殺人事件に遭遇して、気分が上がらないあなたなら現実も見えるわ」
都「褒め言葉です、よね?」
のあ「受け取り方はあなたに任せるわ」
都「そういうことにします」
のあ「今度はうちに遊びにいらっしゃい。推理小説はいくらでもあるわ」
都「ぜひ」
のあ「私の家族を助けてくれてありがとう、探偵さん」
都「こちらこそありがとうございました、探偵高峯のあ」
のあ「握手を」
都「はい。これからの検討を祈って」
エンディングテーマ
The brightNess
歌 高峯のあ&木場真奈美
173 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 21:30:21.70 ID:Ahhc8lJY0
エピローグ
幕間
その人は洗面台で泣いていました。
同行者は殺人の被害者と加害者となり、彼女は一人です。
とめどない涙を流しきるように、顔を洗っていました。
洗い流せば、別の顔が見えてきます。
ぴたりとすすり泣きは止まり、彼女は顔をあげました。
頼子「こんにちは、化粧師」
赤みのがかった髪を取り出したクリームで黒に塗りつぶしていきます。
雪菜「私は井村雪菜ですよぉ」
黒くなった髪を後ろで結びました。ウェーブのかかっていた赤髪はもうありません。
頼子「あなたと名前を結びつける術を私は持っていません」
雪菜「本当に井村雪菜ですよぉ。ほら」
専門学校の学生証が私の足元に滑ってきました。それを拾い上げます。
頼子「本当に在籍しているのですか」
雪菜「堂々としていれば気づかれないものですよぉ」
頼子「偽物ですね」
雪菜「差し上げますよぉ。いらなければ捨ててくださいねぇ」
手慣れた様子で、彼女の仮面が変わっていきます。
頼子「どうやったのですか」
雪菜「沢田さん、西島さん、杉坂さんのどなたですか」
頼子「沢田さんは聞く必要はありません」
雪菜「西島さんですか」
頼子「本人から十分に聞きました」
雪菜「彼女の気持ちは面白かったですかぁ?」
実年齢に似合わないほどの厚化粧を施しています。
頼子「とっても」
雪菜「良かったぁ」
随分と年上になったようです。毒々しい赤いルージュが素顔の美しさを消しました。
174 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 21:32:20.60 ID:Ahhc8lJY0
雪菜「一緒にいた女の子、死んでしまいましたね」
頼子「舞台にあがるなら、それ相応の覚悟をしなければなりません」
雪菜「あなたも死ねば良かったのに」
そう思ってくれなければ面白くありませんね。
頼子「もとより、その覚悟ですよ」
雪菜「もしも、あなたが死んだのなら」
大きめのサングラスに、大きめのストローハット、化粧と不釣り合いな白いワンピース。
雪菜「私があなたになりますよ」
頼子「私の代わりに続けるものなんて、ありませんよ」
雪菜「あなたが見ている風景を、私が見てみたいだけです」
頼子「化粧師である方が、きっと楽しいと思います」
雪菜「キャリーケースを使う?いらないから、捨てちゃおうと思ってぇ」
頼子「いりません」
彼女の手には大きめのハンドバッグだけ。愛用の化粧ポーチはそこにしまいました。
雪菜「それじゃ、ここに置いておくけど黙っておいて。いいでしょ?」
口調も変わりました。すれ違うだけの人々に、井村雪菜と見分けられる人はいないでしょう。
頼子「その代わりに、質問をしていいでしょうか」
175 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 21:34:19.79 ID:Ahhc8lJY0
雪菜「なんか、聞きたいことでもあるの?」
頼子「杉坂海を犯行に走らせましたが」
雪菜「家族思い、友達思いのお姉さんをあの状況で狂わせるのはカンタン」
頼子「楽しかったですか」
化粧師は少しだけ驚いたようでした。その際に現れた年相応さをかき消して、言いました。
雪菜「ええ、とっても」
頼子「ふふ……それならば良いです」
雪菜「アンタともあの人とも久しぶりに会えてよかったわ」
頼子「さようなら、化粧師。市立美術館でいつでもお待ちしています」
雪菜「ばいばーい」
不格好に腰をくねらせて、井村雪菜はどこかへ行ってしまいました。
私も少し神妙な顔しながら、帰宅することにしましょう。
学芸員さんに戻らないといけませんから。
幕間 了
終
製作 tv○sahi
176 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 21:36:37.37 ID:Ahhc8lJY0
次回予告
本日の気温33℃。室温10℃。今日はクリスマス。
第6話
イヴ・サンタクロース「高峯のあの事件簿・プレゼント/フォー/ユー」
に続く
177 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 21:37:51.36 ID:Ahhc8lJY0
オマケ
撮影中の相談事
悠貴「頼子さん、頼子さん」
頼子「悠貴ちゃん、どうしました?」
悠貴「役について質問していいですか?」
頼子「ええ、どうぞ」
悠貴「いつものままでいいと言われたんです」
頼子「私もそう思います」
悠貴「そうですか?もっと悪い顔してると思うんですっ」
頼子「それは悪いことだとわかっているから、ですよ」
悠貴「えっと、どういうことですかっ?」
頼子「彼女は純粋に楽しんでるだけなんですよ。悪いことを悪い顔でしてるわけではありません」
悠貴「なるほど?」
頼子「リラックスしましょう。何も考えずに、お芝居を楽しみましょう。ね?」
悠貴「はいっ」
178 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 21:39:31.17 ID:Ahhc8lJY0
P達の視聴後
PaP「なぁ」
CoP「どうしましたか」
PaP「これまでがんばってきたもの、諦めるのは大変か?」
CuP「えっ、Paさん、プロデューサー辞めるんすか?」
PaP「アホか。今更、辞めるわけないだろ」
CoP「突然辞めたら、路頭に迷うだけです」
CuP「他の仕事できなそうっすもんね」
PaP「お前は口を慎め。だが、質問の答えはわかった」
CoP「それなら、いいです」
CuP「そんじゃあ、今日も輝く日のためにがんばりましょー」
179 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 21:42:57.69 ID:Ahhc8lJY0
あとがき
だいぶお待たせしました。
西島櫂は、出会いによって人生が変わってしまうキャラクター。誰に出会わせるかで、色々な物語が広がる。
書いてみてわかったけど、都の口調が硬めで探偵もの向きね。みんな、書くと良いよ。
次回は、
イヴ・サンタクロース「高峯のあの事件簿・プレゼント/フォー/ユー」
です。
それでは。
180 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 21:44:14.94 ID:Ahhc8lJY0
高峯のあの事件簿
第1話・ユメの芸術
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1472563544/
第2話・毒花
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1475582733/
第3話・爆弾魔の本心
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1480507649/
第4話・コイン、ロッカー
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1484475237/
第5話・夏と孤島と洋館と殺人事件と探偵と探偵
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1503557618/
第6話・プレゼント/フォー/ユー
第7話・都心迷宮
第8話・佐久間まゆの殺人
第9話・高峯のあの失踪
第10話・星とアネモネ
最終話・銀弾の射手(完)
更新情報は、ツイッター@AtarukaPで。
181 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/24(木) 22:07:52.79 ID:aiZnF8MS0
おつ、今回も面白かった
次も楽しみにしてる
182 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/25(金) 08:28:02.63 ID:j5Mq0Tn7o
ホームズ読んだことないけど、モリアーティって頼子みたいだったのかなと
モリアーティよりっち乙
183 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/25(金) 10:01:33.92 ID:t9i7LNBDO
おつですー
待ってましたー
櫂くんのセリフに胸熱
184 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/25(金) 10:06:13.02 ID:7om3ByO60
もうやめないかと諦めていた
希望をありがとう
185 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/25(金) 20:23:45.63 ID:r05CVk0GO
読み終わりー
前半はモバマス小ネタ豊富、後半はサスペンスでたのしかった
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[ Aramaki★
クオリティの高いサービスを貴方に
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