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安斎都「高峯のあの事件簿・夏と孤島と洋館と殺人事件と探偵と探偵」
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1 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 15:53:38.85 ID:Ahhc8lJY0
あらすじ
ここは殺人鬼が自ら演出し、主役を務める舞台です。あなたはこんな舞台に立つ役者なのですか?
前話
小室千奈美「高峯のあの事件簿・コイン、ロッカー」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1484475237/
あくまでサスペンスドラマです。
設定はドラマ内のものです。
それでは、投下して行きます。
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1503557618
2 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 15:55:16.82 ID:Ahhc8lJY0
メインキャスト
高峯のあ
木場真奈美
佐久間まゆ
高垣楓
間中美里
大西由里子
古澤頼子
乙倉悠貴
藤居朋
杉坂海
井村雪菜
沢田麻理菜
松本沙理奈
西島櫂
愛野渚
江上椿
桐野アヤ
三好紗南
遊佐こずえ
南条光
安斎都
3 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 15:56:03.68 ID:Ahhc8lJY0
序
命は何よりも尊いものだって、言う。
ならさ、その命を。
その命が自分のものになったら。
何よりも尊いものを手に入れたってことになるのかな。
そっか。
こんなにも簡単だった。
人生は舞台だって、言う。
一人一人が主役の舞台だとか。
主役だけが、舞台の幕をおろすことが出来る。
だから、主役は交代だ。
こんなに簡単に主役になれるんだ。
変われるんだ。
首を掴んだ腕に力を込める。
耳でかすかな呼吸を聞いた。
目で怯えた表情を見下ろした。
手のひらで首の脈動を感じた。
頭に血が上っていたのが嘘のように、あたしは落ち着いていた。
大丈夫、窒息させるつもりなんてないから。
息が出来なくて死ぬなんて、嫌だもんね。
安心して。
ちゃんと折るから。
折ってしまったから。
序 了
4 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 15:59:20.18 ID:Ahhc8lJY0
1
7/24(金) 午後
希砂本島・フェリー乗り場
希砂本島
ジェットフェリーで約3時間。周辺の小さな島を含めて、観光地として人気。
高峯のあ「良い天気ね……」
高峯のあ
日焼けしているイメージが浮かばない銀髪の美女。職業は自営業。
木場真奈美「佐久間君、荷物を持とうか」
佐久間まゆ「いえ、大丈夫ですよぉ。よいしょ、っと」
木場真奈美
高峯家の居候。職業はボイストレーナーなど歌のお仕事。
佐久間まゆ
高峯家に居候。星輪学園高校の2年生。お料理と編み物が好きな優しい女の子。
のあ「真奈美に甘えてもバチは当たらないわよ」
真奈美「キャリーケースぐらいは持とう」
まゆ「あっ、ごめんなさい……」
真奈美「感謝の方が良い」
まゆ「そうですね、ありがとうございます。真奈美さん」
真奈美「どういたしまして」
5 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 16:00:16.17 ID:Ahhc8lJY0
のあ「真奈美の荷物は少ないわね。リュックサック一つだけ」
真奈美「2泊3日ならこんなものだろう」
まゆ「まゆの半分くらいですねぇ」
真奈美「のあは珍しく大荷物だな」
まゆ「望遠鏡を持って来たんですよねぇ」
のあ「星が綺麗なそうだから」
真奈美「確かに、そんなことを言っていたな」
まゆ「留美さんが、ですかぁ?」
のあ「言っていたのは留美だけれど、そう思ってるのは留美の友人ね」
真奈美「フェリー乗り場で迎えてくれると言っていたが」
のあ「どこかしら。長身だから、目立つらしいわ」
まゆ「のあさん、あの人ですかぁ?」
のあ「写真で見た顔ね。なんで、旗を持ってるのかしら」
真奈美「気づいたみたいだな。旗を振ってくれてる」
まゆ「高峯様、歓迎って書いてありますねぇ」
真奈美「お手製のようだ」
のあ「見かけよりお茶目な性格のようね」
真奈美「さて、行くとしようか」
のあ「はじめまして。高垣楓ね」
高垣楓「ようこそ、希砂島へ!」
高垣楓
希砂本島の駐在さん。階級は巡査部長。刑事だったこともあるとか。
6 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 16:01:37.25 ID:Ahhc8lJY0
2
希砂本島・フェリー乗り場
楓「はじめまして。高垣楓です」
のあ「留美から聞いてるわ。高峯よ」
真奈美「木場だ」
まゆ「佐久間まゆ、です。こんにちは……高垣さん」
楓「お会いできて光栄です」
真奈美「こちらこそ。おかげで良い旅行が出来そうだ」
楓「感謝をするのはこっちの方です」
のあ「キャンセルが出たと聞いてるわ」
楓「ええ。それなので、留美さんに連絡してみたのですけれど」
真奈美「忙しいと断られて、こっちに話が来た」
まゆ「普通より安かったですけど、大丈夫なんですかぁ?」
楓「はい、無駄にしてしまうよりはいいですから」
のあ「そう」
真奈美「和久井警部補とは同僚だったのか?」
楓「直接の同僚ではありませんけれど、刑事だった頃にお世話になりました」
のあ「どうして、島で駐在をしてるのかしら」
楓「良い所ですよ?ケータイもインターネットも通じますし、ほらコンビニもそこに」
まゆ「本当ですねぇ」
のあ「ここが不便かどうかではなく」
7 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 16:03:17.79 ID:Ahhc8lJY0
楓「そうですね、刑事にはあまり向いてなかったのかもしれません」
まゆ「刑事さん、大変でしたか……?」
楓「今となってはわかりませんけれど……でも」
真奈美「でも?」
楓「今は、お仕事も島での生活も楽しいですよ」
のあ「そう。留美みたいな生き方が全てじゃないわ」
楓「留美さんの生き方も憧れますけれど……そうだ」
まゆ「これは……綺麗なビンですねぇ」
のあ「何かしら」
楓「本島で製造しているソーダです。このソーダは評判の良いそうだ、ふふっ」
まゆ「……良いソーダ?」
楓「差し上げます」
まゆ「ありがとうございます」
楓「お二人は、お酒はお好きですか?」
のあ「思考が鈍るものは嫌いなの」
楓「残念……こちらも是非と」
真奈美「日本酒か?」
楓「希砂島の名酒です。島のお魚とあいます」
のあ「そういえば、留美から聞いたわ。お酒好きなのね」
楓「ふふ……住みたくなりました?」
のあ「楽しそうで安心したわ」
真奈美「日本酒は頂いて、いいか?」
楓「どうぞ」
真奈美「雪乃君と飲むとしよう」
のあ「あら、雪乃はお酒を飲むの?」
真奈美「結構、いける口だぞ。のあも来るか?」
のあ「考えておくわ。クルーザーの出る時間になるわよ」
真奈美「そうだったな。ツアー会社の窓口があると聞いたが」
楓「あちらです。ご案内しましょうか?」
のあ「お願いするわ」
8 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 16:05:12.65 ID:Ahhc8lJY0
3
希砂本島・フェリー乗り場
楓「美里ちゃん」
間中美里「楓さん、こんにちはぁ」
間中美里
希砂本島にあるツアー会社勤務。のあ達が申し込んだツアーの企画とガイドを担当する。
楓「ツアーの人、お連れしました」
真奈美「予約した木場だ。よろしく頼む」
美里「お待ちしておりましたぁ。木場さんですねぇ」
真奈美「それと連れの」
のあ「高峯よ。こっちは佐久間」
美里「短い間ですけどぉ、よろしくお願いしますねぇ」
まゆ「こちらこそ、よろしくお願いします」
美里「楓さんも今から希砂二島にいらっしゃいますかぁ?」
楓「遠慮しておきます。お約束通りに」
美里「そんなに遠慮しなくてもいいのに」
楓「お言葉だけいただきますね。高峯さん、私はここで」
のあ「案内ありがとう」
真奈美「話はまたの機会に聞くとしよう」
楓「ええ、ごゆっくり」
美里「希砂二島行きのクルーザーは準備出来てますよぉ」
真奈美「さて、ゆっくりするのは宿に着いてからするとしよう」
まゆ「はい」
美里「簡単にツアーについてご確認しますねぇ」
真奈美「ああ」
美里「ご予約は3名様、キャンセルが出て急だったのに前入金助かりましたぁ」
のあ「どういたしまして」
美里「宿泊先はここからクルーザーで30分の希砂二島ですぅ」
まゆ「そこに洋館があるんですよねぇ」
美里「はい。ケータイもインターネットもつながるので、快適ですよぉ」
真奈美「ふむ、便利な時代だな」
9 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 16:06:19.88 ID:Ahhc8lJY0
美里「食料品と日用品はストックがあるので自由に使ってください。もし、コンビニで欲しい物があるなら今のうちですよぉ」
のあ「買うものはあるかしら」
真奈美「ない」
まゆ「大丈夫ですよぉ」
美里「島では私ともう一人職員がずっと、食事時間の前後はシェフとスタッフがいますので、お声がけくださいねぇ」
まゆ「はぁい」
美里「海とプールはご自由に使ってくださいねぇ。ただ、事故にはお気をつけて」
のあ「ええ。自己責任で」
美里「ライフセーバーと救命処置の資格は、私ともう一人の職員は持ってるんですよぉ」
真奈美「なかなか、がんばってるな」
美里「大変でしたぁ。急病でも本島には病院もありますしぃ、必要以上に心配しないでくださいねぇ」
のあ「ええ。もちろん、こちらでも気をつけるわ」
美里「最後ですけどぉ、ごめんなさい」
のあ「謝られるようなこと、あったかしら」
美里「私達の会社は小さい会社なのでぇ、イベント等は何もありません」
真奈美「聞いた通りだな」
美里「至らないところもありますが、2泊3日ごゆっくり」
のあ「ええ。楽しみ方ぐらいは自分で作るわ」
まゆ「何にもしないのも、素敵ですよぉ」
美里「ありがとうございますぅ。実はぁ……」
のあ「何かしら」
美里「この便で島へ向かう人は既にお揃いなんですよぉ」
真奈美「待たせてしまったかな」
美里「いえいえ、まだ時間前ですからぁ。さぁ、出発ですよぉ」
10 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 16:07:26.00 ID:Ahhc8lJY0
4
希砂二島・船着き場
希砂二島
希砂本島から約30分。岩場と小さな砂浜しかない無人島だったが、バブル時に洋館が建った。
船着き場
希砂二島の東側。ビーチ近くの岩場と歩道までつながっている。
美里「到着〜、皆様足元にお気をつけてくださいねぇ」
のあ「ふむ……良い所ね」
真奈美「ビーチの桟橋は使わないのか?」
美里「水深が足りないんですよぉ。ヨットとかに使ってくださいねぇ」
のあ「海も綺麗ね……」
美里「晴天続きでしたからねぇ」
まゆ「のあさん、上を見てください」
のあ「あら、本当に崖の上に立ってるのね」
真奈美「土台はしっかりとしていそうだな」
まゆ「眺めが良さそうですねぇ。遮るものもありません」
のあ「二回、事業者が失敗したと聞いたけれど」
美里「ありがとうございましたぁ、行ってらっしゃいませ〜」
のあ「あら、クルーザーは?」
美里「夕食スタッフを呼びに行きましたぁ。さっきの話ですけど、本当ですよぉ」
まゆ「そうなんですかぁ?こんな立派な建物なのに」
のあ「立派だからでしょうね。どうやって投資費用を回収するつもりだったのかしら」
真奈美「島の改造と建物はバブル時代に」
のあ「改装とインターネットはITバブルの頃かしら」
美里「その通りですぅ」
まゆ「どうして、失敗したんですかぁ?」
美里「ここは、失敗してませんよぉ?」
のあ「失敗したのはどちらも本業の方だったらしいわ」
真奈美「行政とツアー会社に買われた。残念ながら、元の所有者の助けにはならなかった」
美里「その通りですよぉ。景観と環境の維持まで、私達の使命ですぅ」
まゆ「へぇ……ステキ」
美里「もちろん、利益は上げますよぉ」
のあ「わかってるわ。費用に見合う価値があるならば」
美里「期待していいですよぉ。でも、私からアドバイスです」
真奈美「なんだ?」
美里「今日は島の散策だけにして、明日思いっきり遊ぶのがオススメですぅ」
のあ「そうね」
真奈美「慌てることは何もないからな」
のあ「部屋に荷物を置きに行きましょう。散策はその後に」
11 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 16:10:25.08 ID:Ahhc8lJY0
5
逢伊江館・2階・のあ達の寝室(204号室)
逢伊江館
あういえかん。希砂二島に建つ洋館。2階建ての本館、離れ、ジャグジー+プールからなる。成金趣味が隠しきれてない。
まゆ「わぁ……見てくださいっ」
真奈美「高台に建っているだけあるな。海が一望できる」
のあ「南窓と東窓、両方海が面してるのね」
まゆ「まぁ、本当ですねぇ」
真奈美「東は船着き場か」
のあ「南は砂浜の方ね。バルコニーは、部屋にはないのね」
まゆ「のあさん、星は見えそうですかぁ?」
真奈美「バルコニーは共用のものか」
のあ「そっちの方が良さそうね。担いできたから疲れたわ」
まゆ「よいっしょ、っと」
真奈美「聞いてはいたが、一番良い部屋みたいだな」
のあ「そのようね」
まゆ「お風呂も綺麗ですよぉ」
のあ「大浴場もあったわよね?」
真奈美「ああ。大浴場というよりはジャグジーだ」
まゆ「そうでしたぁ」
のあ「無駄に天然温泉よ」
まゆ「そうなんですかぁ?」
のあ「海底より下から掘り出したらしいわ」
真奈美「金はある所にはあるんだな」
のあ「あるべき所でないから、逃げて行ったのよ」
まゆ「えいっ」
真奈美「ベッドに飛び込むのはお行儀が悪いぞ」
のあ「……」
真奈美「のあも、しれっと無言で倒れこむな」
12 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 16:11:08.81 ID:Ahhc8lJY0
のあ「ベッドは良いわ。真奈美、手を」
真奈美「はいはい」
のあ「まゆも立ちなさい」
まゆ「はぁい。散策ですかぁ?」
のあ「ええ。島の裏側にも行けるようだし」
真奈美「他の宿泊客にも挨拶しておくとしようか」
のあ「そうね」
まゆ「のーあさんっ」
のあ「どうしたの、手を伸ばして」
まゆ「起こしてください♪」
のあ「まだ寝転んでるのね。子供ね、ほら」
まゆ「ありがとうございます。さぁ、行きましょう」
のあ「今日は元気ね。行ってしまったわ」
真奈美「……」
のあ「真奈美、どうしたの?」
真奈美「のあと同じことしただけじゃないか?」
のあ「何のことかしら?」
真奈美「無意識か」
まゆ「のあさん、真奈美さんー」
のあ「呼んでるわよ」
真奈美「まぁ、いいか。行くとしよう」
13 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 16:12:37.55 ID:Ahhc8lJY0
6
逢伊江館・2階・階段前
立て看板『危険だから、立ち入り禁止だじぇ』
真奈美「上には行けないのか」
まゆ「カワイイ絵が描いてありますよぉ」
のあ「手描きのようね。外からは屋上があったように見えたけれど」
美里「あらぁ、お散歩ですかぁ?」
のあ「ええ」
真奈美「屋上には行けないのか?」
美里「ごめんなさい、行けないんですよぉ」
のあ「なぜかしら」
美里「柵が低くて危ないんです。職員以外は入らないでくださいねぇ」
のあ「そういうことね」
まゆ「間中さんは、2階に何かご用ですか?」
美里「夕方にいらっしゃるお客様のために、お部屋の点検ですよぉ」
真奈美「まだ、来てないのは」
まゆ「あそこの部屋ですかぁ?」
のあ「西向きの部屋、202号室」
美里「はい。午前中は部活の練習をしてから、だそうで」
まゆ「学生さん、なんですかぁ?」
美里「そうみたいですねぇ、あっ、ヒミツですよぉ?」
のあ「それくらい自分で聞き出せるわ」
真奈美「会話をする気があるんだな」
まゆ「まぁ、珍しい」
のあ「何よ、その反応は」
美里「うふっ。私はお仕事に戻りますねぇ」
14 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 16:14:57.17 ID:Ahhc8lJY0
7
逢伊江館・1階・玄関ホール
玄関ホール
南側に面した玄関から屋敷内へ続くホール。ガラス張りの温室に面していて、開放感がある。
のあ「さっきも気になっていたのだけど」
真奈美「あの温室に入れるのか?」
のあ「そう。玄関の隣にある、あそこ」
まゆ「職員さんがいらっしゃいますよぉ」
のあ「お聞きしたいのだけれど」
大西由里子「んー、何かあった?」
大西由里子
本ツアーのアルバイト。夏の祭典に向けての軍資金作りに加えて、長い時間が確保できる一石二鳥のバイトだじぇ、とのこと。
のあ「この温室に入っていいのかしら」
由里子「もちろんだじぇ。花屋さんのオススメだから、近くで眺めていいよ!」
まゆ「ありがとうございますぅ」
由里子「もうユリユリの時間だから、何でも言っていいじぇ」
真奈美「君の時間、か?」
由里子「語ると長くなるけど……」
のあ「なら、簡潔に」
由里子「夜勤だから?」
まゆ「なるほど」
由里子「さて、肉体にエネルギーを入れたら、心にもエネルギーを入れるじぇ!ばいばい!」
まゆ「心のエネルギー……?」
のあ「さようなら」
真奈美「ということだ。入ってみようか」
15 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 16:18:34.50 ID:Ahhc8lJY0
8
逢伊江館・1階・温室
温室
屋敷の南側に面した温室。ガラス張りで目にも楽しく、光と温度の制御装置も完備、ただし強力なので電力過多に注意。
まゆ「赤が鮮やかですねぇ」
のあ「そうね。これは、何かしら」
真奈美「ホウセンカだ」
のあ「物知りね」
真奈美「ここに説明書きが」
のあ「あら、そこにあったのね」
まゆ「こっちは、ベルガモットみたいですよぉ」
真奈美「どちらも今が開花時期か」
のあ「季節によって変わるのかしら?」
まゆ「そうかもしれないですねぇ」
遊佐こずえ「ふわぁ……ぼうえんきょうのおねえさんだー……」
遊佐こずえ
205号室。町内会のツアーで訪れた小学生。のんびりとした性格。保護者は本島のホテルに滞在しているとのこと。
のあ「間違ってはいないわ」
まゆ「あらぁ、一人ですかぁ?」
こずえ「そう……ぼうえんきょう……」
のあ「まだ夜には早いわ」
桐野アヤ「こずえー、いたいた」
桐野アヤ
205号室。とある町の青年会員。面倒見のよい姉御肌。こずえとは仲が良いご様子。
16 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 16:19:18.84 ID:Ahhc8lJY0
こずえ「あや……いっしょにおほしさまみるのー……」
アヤ「星はまだ出てないだろ。さっきから、望遠鏡を気にしてんだ」
のあ「船でもそんな話をしてたわね。いいわよ」
アヤ「何がだ?」
のあ「一緒に、星を見ましょうか」
こずえ「やったー……あやもいっしょにみるのー……」
アヤ「わかった、って。迷惑じゃないか?」
のあ「良いものは共有した方がいいわ。物証と同じよ」
真奈美「一言余計だ」
のあ「2階のバルコニー、あるでしょう?」
アヤ「ここの真上だよな?」
のあ「ええ。夕食後、20時ぐらいに来なさい。準備はしておくわ」
アヤ「ありがとな。こずえも、ほら」
こずえ「のあ……ありがとー……」
アヤ「呼び捨てにするのが治らないんだよな」
のあ「構わないわ」
まゆ「うふっ、カワイイと思いますよぉ」
アヤ「それなら、いいんだけど。ついでに平仮名みたいな発音だしさ」
真奈美「のあのことを言ってるなら、平仮名だぞ?」
こずえ「じー……」
アヤ「そんな目で見るなよ。自分の名前もカタカナだけどさ」
17 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 16:20:24.12 ID:Ahhc8lJY0
まゆ「アヤさんはどうして、カタカナだと思ったんですかぁ?」
アヤ「ノアはカタカナっていう先入観があってさ。それに」
真奈美「それに?」
アヤ「なんか、カタカナっぽいし」
のあ「私、カタカナっぽいかしら」
真奈美「気分はわかる。カタカナっぽいな」
のあ「そうかしら。気にしたこともなかったわ」
こずえ「あやー……そふぁーにすわりにいくのー……」
アヤ「こら、急に走ると危ないって言ったろ。まったく……」
真奈美「気をつけるんだぞ。島内は危ないところもあるだろうからな」
アヤ「ありがと。良かったら、気にしてくれると助かる」
まゆ「わかりましたぁ」
アヤ「また、夜にな。こずえ、連れて行くから」
のあ「ええ。待ってるわ」
18 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 16:21:17.16 ID:Ahhc8lJY0
9
逢伊江館・1階・ロビー
ロビー
天井は特徴的な形をした吹き抜けと無駄に豪華なシャンデリアが特徴的。
のあ「さっきの子が言っていたソファー、って」
真奈美「あそこだ。ホールに置いてある」
のあ「パーティやダンスのためのホールかしら」
真奈美「もともとはな。今はあの通り」
のあ「大きなテレビとソファーが置いてあるだけね」
真奈美「イベントもなく、ゆったりとした時間がコンセプトだからな」
のあ「物は言いようね」
真奈美「おや、社交場は好きだったか?」
のあ「言わなくてもわかるでしょう」
真奈美「そう言えば、掃除をしていたら、ドレス姿の女の子の写真が出てきた」
まゆ「まゆも、見せてもらいましたぁ」
のあ「……」
真奈美「満面の笑みだったな。きっと、ドレスでお出かけが嬉しかったのだろう。な、佐久間君?」
まゆ「ええ、きっとそうですよぉ」
のあ「遥か昔の話でしょう。今はキライよ」
真奈美「つれないな」
まゆ「でも、のあさんらしいです」
のあ「良い方にとっておいてちょうだい」
真奈美「食事くらいなら、いいか?」
のあ「そうね。別に人の話を聞くのがキライなわけでも、人がキライなわけでもないわ」
真奈美「なら、何がキライなんだ?」
のあ「定型文通りの会話よりも何より、立ってることね」
真奈美「……意外だ。ランニングを嗜む人物とは思えない発言だな」
のあ「人は止まるために立つ必要はないでしょう?」
真奈美「確かにその通りだが」
まゆ「ねぇ、のあさん」
のあ「どうしたのかしら」
まゆ「あの子……」
のあ「扉に入って行ったわね」
真奈美「キッチンか?」
のあ「キッチンはその隣。オヤツには遅すぎるわ」
まゆ「入っていいんでしょうか……?」
真奈美「どうだろうな。そもそも何があるんだ?」
のあ「行ってみればわかるわ」
19 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 16:22:57.99 ID:Ahhc8lJY0
10
逢伊江館・地下・階段室
階段室
屋敷の東側。更に東奥に行くと物置がある。
まゆ「部屋の中にあったのは……」
のあ「地下への階段」
真奈美「そして、降りた先にも扉だ」
まゆ「階段下のお部屋は南京錠が掛かっていますねぇ」
真奈美「そして、こちらの扉には貼紙だ」
貼紙『ご自由にどうぞぉ。足元には気をつけてくださいねぇ』
のあ「入ってよさそうね」
まゆ「そういえば、娯楽室があるそうですよぉ」
真奈美「娯楽室というよりは」
のあ「心置きなく時間を無駄に出来る部屋、だとか」
真奈美「音が聞こえるな。何か、流してるのか」
まゆ「開けてみましょうかぁ」
20 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 16:25:07.27 ID:Ahhc8lJY0
11
逢伊江館・地下・娯楽室
娯楽室
地下にある娯楽室。非常に広々とした部屋に偏ったラインナップを揃えている。
真奈美「どことなく暗い照明に」
のあ「ビリヤード台」
まゆ「棚もいっぱい。本とか時計とか……」
真奈美「何かと思ったら、ビデオテープが棚に並んでるのか」
まゆ「こっちの棚はゲーム機ですよぉ。あらぁ、ここのは持ちだされてますねぇ」
真奈美「ビデオは随分とジャンルが偏ってるな……」
のあ「大きなテレビが二つ。本当に大きいテレビ」
真奈美「ブラウン管の高級品だな」
のあ「昔はそうだったのでしょう。あら」
三好紗南「わっ!」
三好紗南
205号室。ゲーム以外もしなさい、と町内会のツアーに応募された。しかし、親の予想に反して、彼女は楽しそうに出かけて行った。
21 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 16:25:45.87 ID:Ahhc8lJY0
のあ「ごめんなさい。物陰で見えなかったわ」
紗南「レトロゲーはやっぱりシビアだなー。お姉さん達、得意?」
のあ「得意ではないわ。真奈美、出来るかしら」
真奈美「人並みには」
紗南「なら、一緒にやろ?せっかく色々なゲームがあるから、遊びつくさなきゃ!」
まゆ「こんにちはぁ。あら、さっきの子じゃないですねぇ」
紗南「都ちゃんのことかな?」
のあ「都?」
紗南「うん、そこの倉庫じゃない方の部屋に入って行ったよ」
まゆ「倉庫は、立ち入り禁止みたいですねぇ」
紗南「カギもかかってたから、入れないよー」
真奈美「ふむ。そっちは何かあるのか?」
紗南「物置と本棚だったかな。レアアイテムは、やっぱりカギのかかった扉の先だよね」
のあ「そう。真奈美、彼女のお相手をしてあげなさい」
真奈美「ああ。何をしようか」
紗南「格ゲー見つけてきたんだ」
真奈美「ふむ……いいだろう」
紗南「負けないぞー!」
のあ「まゆ、向こうの部屋へ行ってみましょうか」
まゆ「はぁい」
22 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 16:28:44.56 ID:Ahhc8lJY0
12
逢伊江館・地下・書物庫
書物庫
娯楽室の南側にある書物庫。こちらもラインナップが偏っている。
まゆ「わぁ、本がいっぱいですよぉ」
のあ「ふむ、書物庫のようね」
まゆ「でも、なんだか……見覚えがあるような……」
のあ「気のせい……でも、なさそうね」
まゆ「のあさんも、そう思いますかぁ?」
のあ「いいえ。本当に見たことがあるからよ」
まゆ「どういうことでしょうか?」
のあ「あそこの棚、よく見てみなさい」
まゆ「えーっと、あれ?」
のあ「家の書斎と同じ並びで同じ本が並んでるから、当然よね」
まゆ「なら、ここの本を集めた人は」
のあ「私と同じ悪趣味を持っているようね」
安斎都「ふふ、気が付きましたか!」
安斎都
206号室。町内会のツアー参加者の一人。虫眼鏡とショルダーバッグ、そして室内なのにハンチング帽。
まゆ「こんにちはぁ」
のあ「何に気づいたの?」
都「ふっふっふ、聞きたいですか?」
のあ「ゴキゲンね。聞かせてちょうだい」
都「こちらの本棚、世界で一番有名な推理小説が並んでいます」
まゆ「はい。大切にしてそうですねぇ」
都「保存状態はとても良いです、しかも初版」
のあ「当然でしょう」
まゆ「当然ではないと思います……」
都「隣には、サスペンスドラマのビデオテープばかり。ゲームも推理ゲームがたくさん」
まゆ「そうだったんですかぁ?」
のあ「ふむ」
都「しかーし!」
23 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 16:30:06.47 ID:Ahhc8lJY0
まゆ「しかし?」
都「ここはどこですか?」
のあ「地下室まである洋館」
まゆ「小さな島」
のあ「電波は通じるけれど」
都「思いませんか?」
まゆ「事件でも起こりそうですか?」
のあ「……」
都「その通りッ……と言いたいところですが」
まゆ「違うんですかぁ……?」
都「事件は起こらないので、勝手に探偵ごっごをしていたようです」
のあ「物好きね」
都「それで、そこの本棚です」
のあ「本棚……」
都「旅行客が自由に手を取れますが、それでも保存状態は良いと思いませんか」
まゆ「そうですねぇ……でも、これだけ汚れているような」
都「はい、この中には」
のあ「あなたは見たのかしら」
都「はい」
のあ「まゆ、見てみなさい」
まゆ「はぁい。えっと、中には」
のあ「まゆ、背表紙」
まゆ「あらぁ、画用紙が入ってますねぇ」
24 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 16:30:46.95 ID:Ahhc8lJY0
のあ「これは、屋敷の見取り図かしら」
都「はい」
まゆ「手描きですねぇ。この部屋は、ここですか?」
のあ「そのようね。隣は娯楽室、カギのかかった部屋は」
都「職員の人によると、寝具を入れてる倉庫だそうです」
のあ「隠し部屋とかはないのね」
都「ええ、そこまで趣味に走れなかった?」
のあ「人を迎え入れる所に、そんなものを入れる方がおかしいわ」
まゆ「でも、ロマンがありますよぉ」
都「ロマンは大切ですッ!」
のあ「そうかしら」
都「そう言えば、自己紹介してませんでした。206号室の安斎都です」
のあ「高峯よ。こっちは佐久間」
まゆ「3日間、よろしくお願いしますねぇ」
都「はいっ!私はこの屋敷の調査を進めます、それではっ!」
まゆ「お気をつけて」
都「そうだ、何か気になることがあったら教えてください。調べに行きますから!」
のあ「ええ。見つけておくわ」
25 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 16:32:15.82 ID:Ahhc8lJY0
13
逢伊江館・地下・娯楽室
紗南「よしっ!」
のあ「真奈美」
真奈美「お見事だ」
紗南「あっ、さっきのお姉さん聞いてよ!」
のあ「うちの真奈美が何か粗相をしたかしら」
紗南「この人、素人じゃないね」
のあ「その通り」
まゆ「深い意味はないですよね……?」
真奈美「少しだけ自信があったが、この通り」
のあ「負けたのね」
紗南「ホントに強かったよー。でも」
まゆ「楽しそうですねぇ」
真奈美「満足してくれたなら、何よりだ。私はこれで失礼しよう」
紗南「えっと……いつでも挑戦を待ってるよ!」
26 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 16:34:01.04 ID:Ahhc8lJY0
14
逢伊江館・1階・食堂
食堂
広々として清潔感のある食堂。下品な高級さを隠す工夫がされている。
真奈美「南側、東側も海が見えるのか」
まゆ「綺麗ですねぇ。水平線まで見えます」
のあ「あら、崖側の庭もあるのね」
真奈美「一段下げて、柵を隠してるのか。考えられているな」
沢田麻理菜「こんにちは。さっきのクルーザーで来た人?」
松本沙理奈「そうじゃない?銀髪の人、目立つし」
沢田麻理菜
201号室。趣味はサーフィン。希砂二島は波が高くないので、のんびり過ごすとのこと。
松本沙理奈
201号室。ほら、人が集まっちゃうでしょ?こういう所を探してたの、とのこと。
のあ「ええ、合ってるわ」
まゆ「こんにちはぁ」
麻理菜「こんにちは。3人で旅行?」
のあ「ええ。そちらは」
麻理菜「こっちも同じ。サリナが静かなところが良いって」
沙理奈「ほら、アタシ人を集めちゃうから」
麻理菜「女の人だけだものね」
沙理奈「でも、もしかしたら、オンナノコも魅了できるかも?ねぇ、一緒に遊ばない?」
まゆ「まゆ……ですか?」
麻理菜「健全な淑女になりたかったら、オススメしないわよー?」
沙理奈「ちょっと危険な方が、魅力的よ♪」
のあ「うちの子にはまだ早いわ」
沙理奈「うふっ」
麻理菜「ちょっと、気になったんだけど」
真奈美「どうした?」
麻理菜「3人で来てるの?」
のあ「そうよ」
27 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 16:34:47.34 ID:Ahhc8lJY0
沙理奈「マリナが気になってるのは、そうじゃないでしょ?」
麻理菜「ええ。どんな関係なの?友達?」
まゆ「えっと……」
のあ「そちらこそ」
沙理奈「アタシ達は、そうねぇ」
麻理菜「私達は友達よ、ね?」
真奈美「どうして、疑問形なんだ?」
麻理菜「正直に言うと、会うのは2回目なのよ」
まゆ「そうなんですかぁ?見えないです」
沙理奈「なんとなく、気が合うのよね」
麻理菜「知り合いくらいかな?」
沙理奈「だから、お互いのことを話してるとこ」
のあ「そう」
沙理奈「そっちは?」
のあ「そうねぇ……」
まゆ「……」
のあ「同居人よ。私が大家」
まゆ「……そうなんですよぉ」
麻理菜「そうなの?」
真奈美「間違いはない」
沙理奈「へぇ、旅行も一緒なんて、仲が良いのね♪」
のあ「……そうね」
麻理菜「そうだ、コーヒーでもいかが?」
沙理奈「お茶菓子も自由にもらっていいのよ」
のあ「今は遠慮しておくわ。島の探索がまだなの」
沙理奈「そう?」
麻理菜「なら、夕ご飯の時にでも。またね」
28 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 16:36:31.94 ID:Ahhc8lJY0
15
逢伊江館・中庭・離れ前
離れ
畳でしか眠れない人は一説には1千万人と言われる。高級リゾートこそ、和室は必須なのだ。
まゆ「大理石のお庭に」
真奈美「噴水」
のあ「彫刻」
真奈美「成金趣味をどうこう言うつもりはないが」
のあ「少なくともそこにある離れとは合わないわね」
まゆ「そうですねぇ。噴水は水も流れてないし……」
藤居朋「海ちゃん、雪菜ちゃん、行くわよ!」
井村雪菜「朋ちゃん、待ってくださいぃ〜」
藤居朋
離れに宿泊。占い好きの専門学校生。今回の旅行は自分が見つけたのよ、と自慢げだったとか。
井村雪菜
離れに宿泊。メイクが得意な専門学校生。特徴的なぬいぐるみといつも一緒。
朋「あら、こんにちは!」
まゆ「こんにちはぁ」
のあ「あなた達は離れに泊まってるのかしら」
朋「そうよ。そっちは?」
真奈美「204号室だ」
雪菜「海が見える部屋でいいですねぇ」
朋「そうなのよ。部屋はいいけれど、眺めはね……」
杉坂海「朋、そんなに慌てるなって」
杉坂海
離れに宿泊。お裁縫が得意な専門学校生。朋は妹みたいで可愛いよ、年上だけどさ。
朋「海ちゃん、遅いわよっ!」
海「どうして、そんなにはしゃいでるんだ?」
朋「……」
のあ「首を傾げたわ。まるで」
真奈美「どうしてはしゃがないのか、と言いたげだ」
海「いや、ウチもテンションがあがってないわけじゃないから」
朋「なら、問題ないじゃない?」
海「雪菜、そう思うか?」
雪菜「えっとぉ、楽しんだもの勝ちですよぉ」
海「雪菜が言うなら、そうなんだろうな」
朋「ちょっと、あたしの時と違くない?」
海「はいはい。行こっか」
のあ「どちらに?」
朋「砂浜よ。良い物が見られる気がするの」
のあ「そう」
朋「それじゃあね」
まゆ「はい。今日からよろしくお願いしますねぇ」
29 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 16:38:27.82 ID:Ahhc8lJY0
16
逢伊江館・ジャグジーとプール
ジャグジーとプール
ジャグジーは天然温泉という豪華さ。温水プールは廃熱と太陽光を利用している。
のあ「こんにちは」
愛野渚「あっ、こんにちはっ!」
愛野渚
203号室。ポニーテールが似合う溌剌としたスポーツ女子。8月は合宿と練習のバスケット漬けの月になるとか。
真奈美「ここは、更衣室か」
まゆ「一つしかないんですねぇ」
渚「だって、男の人はいないでしょ?」
のあ「そう言えば、そうね」
渚「そっちはジャグジーで、結構広いよ」
まゆ「まぁ、キレイですよぉ」
渚「凄いよ、天然温泉だって」
のあ「向こうの扉は」
渚「プール、どうだった?」
西島櫂「深さが変わるプールだったよ。練習向きじゃないね」
西島櫂
203号室。渚とこの島を訪れた。水泳に打ち込んでいる。三好紗南曰く、水属性。
30 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 16:39:18.41 ID:Ahhc8lJY0
渚「まさか、練習するつもりだったの?」
櫂「しないよ。お休みも大切だもんね」
渚「そうそう。がんばり過ぎは敵だよ」
櫂「それに、泳ぐなら海だよね。せっかく、島に来たのに」
真奈美「確かに」
のあ「なら、どうしてプールもあるのかしら」
櫂「確か、温水プールにもなるんだよ」
まゆ「冬用ですか?」
渚「そうなの?」
櫂「知らない。雨の時とか?」
真奈美「プールはともかく、ジャグジーは良さそうだ」
櫂「うん。部屋のユニットバスじゃ、味気ないからさ」
のあ「そうね」
櫂「そう言えば、島の裏側には行った?」
のあ「いいえ。まだよ」
櫂「泳がない方がいいけど、裏にも砂浜があるんだ」
渚「良い所だったよ」
まゆ「のあさん、真奈美さん、行ってみましょう」
のあ「そうね」
真奈美「どう行くんだ?」
櫂「この建物と離れの間の道から、道なりに行けば着くよ」
渚「途中で塔があった。電波塔なのかな?」
まゆ「そう言えば……見えましたねぇ」
のあ「ありがとう。行ってみましょう」
31 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 16:40:15.64 ID:Ahhc8lJY0
17
希砂二島・中心部・電波塔
電波塔
島の中心にある電波塔。塔そのものは古い。
看板『高電圧注意・立ち入り禁止』
まゆ「これが、電波塔ですねぇ」
真奈美「そのようだ」
のあ「こんな大きな設備はいるのかしら」
真奈美「さぁな」
まゆ「でも、これで電波を受信してるんですよねぇ」
のあ「違うわ」
まゆ「違う?」
のあ「受信するには本土からも離れすぎてるわ。しているのは、発信」
真奈美「電話もインターネットも海底ケーブルか何かだろうな」
まゆ「それなら、要らなんですかぁ?」
のあ「ケータイが通じるのはいいことよ」
まゆ「そうですけどぉ……」
真奈美「あるいは、災害時とかに役立つかもしれない」
のあ「世界から隔離されたいと言っても、現代人は現代人」
真奈美「完全に隔離されたら、パニックだ」
まゆ「なんだが、ロマンがないです……」
のあ「人間はワガママなのよ」
まゆ「仕方ありません……ステキを探しに行きます……」
のあ「一緒に行くわ。まゆ、少しお待ちなさい」
32 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 16:43:20.10 ID:Ahhc8lJY0
18
希砂二島・裏のビーチ
裏のビーチ
島の北側にある小さな砂浜。高い木に囲まれて、神秘的な雰囲気。
まゆ「のあさん、見てください」
真奈美「陽があまり当たらない砂浜の様だ」
のあ「だから、神秘的に見えるのかしら」
まゆ「うふふ……あらぁ」
のあ「どうしたの?」
まゆ「あそこの岩場、誰かいますねぇ」
江上椿「光ちゃん、はい、ポーズ♪」
南条光「こうだっ!」
江上椿
206号室。とある町の青年会員。島の景色と自然な表情を撮るつもりです、町の皆様のために。人に見せられないものは私の秘蔵コレクションにします。
南条光
206号室。町内会ツアーの参加者。どこかで見たポーズを決めている。
真奈美「のあ、特撮は?」
のあ「どういう意味かしら」
真奈美「精通しているか?」
のあ「映画などに用いられる特殊な撮影技法なら知っているわ」
まゆ「たぶん、そういうことじゃないと思います……」
のあ「妖精の写真で騙されたくないもの」
真奈美「佐久間君は、子供の頃、見ていなかったか?」
まゆ「まゆは、見てませんでしたねぇ」
真奈美「私は見ていたかな。今思えば、もう少し女の子らしいものを見ていれば良かった」
まゆ「真奈美さんは素敵ですよぉ」
真奈美「ありがとう」
椿「こんにちは」
光「こんにちはっ!」
33 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 16:44:36.08 ID:Ahhc8lJY0
椿「お写真を撮っていいですか?」
真奈美「ああ。たくさん撮ってくれ」
まゆ「どうぞぉ、キレイですよねぇ」
のあ「どうして、二人は下がるのかしら」
椿「ふふっ、3人で並んでくださいな」
のあ「だそうよ」
真奈美「そういうことなら」
椿「はい、チーズ」
光「うんうん。今度は、こう!」
まゆ「こうですかぁ?」
椿「はい、いいですよー」
光「いいよっ!」
椿「冗談はそのくらいにしておいて」
真奈美「冗談だったのか……」
椿「写真のデータ、後でお分けしますね」
まゆ「まぁ……ありがとうございます」
光「そうだっ、どこかワクワクするような所を見つけなかった?」
椿「あるいは、オススメの写真スポットとか」
光「ほとんど椿さんと見て回ったんだけど」
のあ「そうなると、提案は難しいわね」
光「そっか」
椿「でも、場所は変わらなくても」
まゆ「人は変わりますよぉ」
光「なるほど。じゃあ、屋敷に帰ろうっ」
椿「はい。もう日が傾き始めましたね」
光「じゃあね、また会おうっ!」
真奈美「ああ」
のあ「私達も戻りましょうか」
まゆ「島は一通り見ましたか?」
のあ「おそらく」
真奈美「正面のビーチくらいか」
のあ「そろそろ、最後の便が来る頃ね」
真奈美「挨拶に行くとしようか」
34 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 16:45:38.16 ID:Ahhc8lJY0
19
希砂二島・正面ビーチ
正面ビーチ
パラソルなどが常備されている遊泳用のビーチ。遠浅で安全に楽しめる。
真奈美「彼らが夕食のスタッフかな」
美里「みなさん、島はいかがですかぁ?」
のあ「良い所ね」
美里「ご不便があったら、何でも言ってくださいねぇ」
まゆ「はい」
美里「それでは、お夕飯の準備がありますので、失礼しますねぇ」
のあ「クーラーボックスを運んでいったわね」
まゆ「多分ですけど」
のあ「言ってみなさい」
まゆ「お料理はほとんど出来てるのかなぁ、って」
真奈美「私も佐久間君と同意見だ」
まゆ「キッチンが充実してないのかなぁ……」
真奈美「単純にガスを節約したいだけかもしれない」
のあ「ふむ。色々あるのね」
乙倉悠貴「こんにちはっ!」
乙倉悠貴
202号室。歌奈中学校で陸上に勤しんでいる。カワイイリュックサック姿。
まゆ「こんにちはぁ」
のあ「あら……?」
悠貴「皆さんもご宿泊ですかっ?」
まゆ「はい。お一人、ですかぁ?」
悠貴「違います。中学生一人だと心配ですからっ」
まゆ「中学生なんですかぁ、背が高くて羨ましい……」
悠貴「古澤さーん、こっちですっ!夕暮れがキレイですよっ!」
真奈美「おや」
古澤頼子「乙倉さん、待ってください。荷物を減らせば良かったでしょうか」
古澤頼子
202号室。市立美術館の学芸員。東郷邸の事件で、のあ達と面識がある。
35 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 16:46:48.96 ID:Ahhc8lJY0
悠貴「持ちますよっ」
頼子「ありがとうございます」
まゆ「あら……お久しぶりです」
頼子「お久しぶりです。一緒のツアーだったのですね」
まゆ「……あの」
頼子「成宮さんは元気にしていますよ。作品にも精力的です、もちろん学業も」
まゆ「それは……良かったです」
頼子「お元気でしたか?」
まゆ「はい」
頼子「話は成宮さんから聞いています。お世話になっています、高峯さん、木場さん」
のあ「お久しぶり。美術館の方は」
頼子「皆様のご厚意のおかげで、来館者数も増えています」
のあ「ところで、乙倉悠貴」
悠貴「はい?呼びましたか?」
のあ「彼女とは知り合いだったのね」
悠貴「はいっ」
のあ「何時からかしら」
頼子「さて……校外学習の時だったでしょうか」
悠貴「私は小学生でしたっ。親切に教えてくれて、今もお話を聞いてもらってるんですっ」
のあ「そう」
頼子「市立美術館は乙倉さんのお家からは遠くありませんから」
悠貴「古澤さん、見てくださいっ!洋館ですよ、洋館!」
頼子「実は由緒ある洋館なのですよ」
真奈美「そうなのか?」
頼子「ええ。実際にある洋館をモチーフにしていますから」
悠貴「楽しみですっ。だって、事件が起こりそうですっ!」
頼子「ふふ……そうですね」
真奈美「今、なんて?」
悠貴「古澤さん、先に行ってますね!」
36 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 16:48:17.88 ID:Ahhc8lJY0
頼子「気をつけてください。午前中に部活の練習をしていたと思えないほど、元気ですね」
のあ「あの子、事件でも起こりそうと言ったのかしら」
頼子「ドラマの見過ぎですよ。そう、モデルとなった洋館の名前を知っていますか?」
のあ「知らないわ」
頼子「ジェンセンス邸です。向こうでは首なし幽霊の館と呼ばれていますね」
まゆ「……え?」
頼子「冗談ですよ」
真奈美「君は自分の職業を自覚してくれ」
頼子「本当なのは洋館の名前だけです。しかも、日本にあります」
まゆ「まゆ、信じちゃいましたぁ……」
頼子「お騒がせしました。乙倉さん、待ってください」
まゆ「真顔で冗談を言う人だったんですねぇ……」
真奈美「前に会った時も、独特なペースで話をしていた気がするな」
のあ「彼女の知識と見方も、それを産み出す要因かしら」
真奈美「だが、夏の島に来るイメージはなかった」
まゆ「私も、です」
のあ「彼女、ミステリーも読むと言うし」
まゆ「クールに見えましたけど」
真奈美「内心、ワクワクしてるのかもな」
のあ「そうね」
真奈美「誰かさんみたいに」
のあ「誰かさん、って誰かしら」
真奈美「それは、のあに決まってるだろう」
のあ「私じゃないわよ。戻りましょうか」
真奈美「正直じゃないな」
のあ「私は二人と旅行に来れて、嬉しいだけよ」
真奈美「……」
まゆ「真奈美さん……」
真奈美「ああ、佐久間君」
のあ「どうしたのかしら。置いていくわよ」
まゆ「ストレートな言葉はドキドキします……」
真奈美「見かけと比較して、感情表現の成長が遅いからなぁ……」
37 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 16:50:20.17 ID:Ahhc8lJY0
20
7/24(金) 夕食後
逢伊江館・大ホール
大ホール
屋敷の南西側にある大ホール。特にイベントもないので、大きなテレビとソファーしか置かれていない。
まゆ「のあさん」
のあ「まゆ、どうしたの?」
まゆ「間中さんからお飲み物を頂きました。いかがですかぁ?」
のあ「いただくわ。何を貰って来たのかしら」
まゆ「隣、失礼しますねぇ。のあさん、紫と黄色どちらがいいですかぁ?」
のあ「紫と黄色……美味しそうな色ね」
まゆ「黄色はバナナがメイン、紫は……ヒ・ミ・ツ、です」
のあ「なら、紫を頂くわ」
まゆ「はぁい、どうぞ」
のあ「ありがとう」
アヤ「おっ、紫の選んだんだ」
のあ「甘酸っぱくて美味しいわよ。その緑色は何かしら」
アヤ「ゴーヤ」
まゆ「ゴーヤー……」
アヤ「こずえには飲ませられないけど、ウマいぞ?」
のあ「本当かしらね……」
アヤ「その紫色の、何なんだ?」
のあ「まゆ、何かしら」
まゆ「ドラゴンフルーツだそうですよぉ」
アヤ「へぇ。そう言えば、希砂本島の売店にポスター貼ってあったな」
のあ「島の名産なのかしら」
こずえ「あやー……」トテトテトテ
アヤ「こずえ、ジュース貰ったか?」
こずえ「もらったのー……」
38 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 16:51:42.71 ID:Ahhc8lJY0
アヤ「綺麗なオレンジだな。マンゴーか?」
まゆ「パパイヤだそうですよぉ」
こずえ「あたりなのー……」
アヤ「こずえ、こぼすと行けないから座るぞ」
のあ「真奈美は?」
まゆ「夜風に当たってくるそうですよぉ」
のあ「そう」
まゆ「のあさんは、何を?」
のあ「これを」
まゆ「小説ですかぁ?」
のあ「読んだことがないものを見つけたから」
まゆ「面白いですかぁ?」
のあ「いいえ。面白かった本は幾らでも下にあるわよ」
アヤ「なら、そっち読まないのか?」
こずえ「ずずー……」
アヤ「こずえ、音を立てるのはお行儀が悪いぞー」
のあ「どうして?」
アヤ「いや、こっちが聞いてんだけど」
のあ「覚えてるなら、意味ないでしょう」
アヤ「……は?」
こずえ「のあ、おなじー……」
のあ「あなたはわかるのね。そういうことよ」
アヤ「あのさ」
まゆ「私は違いますよぉ……」
アヤ「だよな。そこの妖精達が普通じゃないよな」
39 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 16:54:46.26 ID:Ahhc8lJY0
21
逢伊江館・崖側の庭
崖側の庭
食堂から見える庭。東側の岸壁に面している。
真奈美「おや……階段があるのか」
雪菜「下に行くのは、危ないですよぉ」
真奈美「井村君か。君も夜風に当たりに来たのか?」
雪菜「そうですよぉ。真奈美さんもですかぁ?」
真奈美「そんなところだ。この階段、下まで行けるのか?」
雪菜「間中さんにお聞きしましたぁ。排水口があるらしいですよぉ」
真奈美「排水口?」
雪菜「プールとか屋敷とかのです。ゴミ拾いとかするそうですよぉ」
真奈美「ほう。掃除でもするのか?」
雪菜「階段は危ないので、お掃除する時は船で行くそうですよぉ」
真奈美「ふむ、現実的だな」
雪菜「星空も海もキレイですねぇ」
真奈美「のあが望遠鏡を持ってきてるんだ。深夜に来てみたまえ」
雪菜「わぁ、いいですねぇ。ぜひ」
真奈美「ああ」
雪菜「この階段……やっぱり、ロマンティックですねぇ」
真奈美「そうだな。どのあたりが?」
雪菜「人魚が泳ぎを休めて、歌っていそうですぅ」
真奈美「詩人じゃないか」
雪菜「うふふ。真奈美さんは、どこから来ましたか?」
40 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 16:56:01.32 ID:Ahhc8lJY0
真奈美「どこから……君は?」
雪菜「海の向こうからです」
真奈美「なら、私もだな。とても遠くから」
雪菜「海外ですかぁ?」
真奈美「ああ。今は日本に帰って来たが」
雪菜「どうして」
真奈美「どうして、か。まぁ、目的通りだな」
雪菜「目的?」
真奈美「もともと日本で働きたかったんだ。そのためかな」
雪菜「へぇ……」
真奈美「君は、何か目標はあるか?」
雪菜「ファッション関係とかメイクさんとかになりたいですねぇ」
真奈美「専門学校生だったな」
雪菜「はい。朋ちゃんと海ちゃんと同じ学校です」
朋「あ、いたいた。雪菜、お風呂行こ?」
雪菜「はぁい。それじゃあ、失礼しますねぇ」
真奈美「ああ。学業も頑張りたまえ」
41 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 16:57:12.89 ID:Ahhc8lJY0
22
逢伊江館・1階・キッチン
キッチン
食堂の北側。宿泊客が自由に使えるスペースがある。冷凍食品や島の名産品が入った冷蔵庫も自由に使える。
頼子「あら」
まゆ「こんばんはぁ。飲み終わったカップ、洗いましょうか?」
頼子「それでは、お願いしてもよろしいですか」
まゆ「はぁい。青色ですねぇ、何を飲んだのですかぁ?」
頼子「牛乳とブルーハワイのシロップを混ぜたものです。隠し味はレモンでした」
まゆ「ブルーハワイ……」
頼子「人工的な甘みが欲しくなる時もありますよ」
まゆ「そうですかぁ……?」
頼子「お話をしても良いですか」
まゆ「どうぞ」
頼子「お元気でしたか」
まゆ「はい。二人とも良くしてくれます」
頼子「考えることがありますか?」
まゆ「何を、ですかぁ」
頼子「自分だけ幸せでいいのか、とか」
まゆ「それなら……のあさんは言ってました」
頼子「聞かせてくれますか」
まゆ「逃げないことにしたんです」
頼子「逃げない、ですか」
まゆ「幸せになることから」
42 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 16:58:44.48 ID:Ahhc8lJY0
頼子「なるほど」
まゆ「顔を下げないで、楽しく過ごすことにしました」
頼子「大切なことですね。良いと思いますよ」
まゆ「古澤さんは、楽しいですか?」
頼子「日常が、でしょうか?」
まゆ「お仕事とか」
頼子「好きなモノの近くにいられる学芸員になれました。充実していますよ」
まゆ「ご家族はいらっしゃいますか」
頼子「家族、ですか……」
まゆ「……ごめんなさい」
頼子「謝ることではありませんよ。父も母も兄弟もいませんが、人には恵まれています」
まゆ「大切な人がいるのですかぁ?」
頼子「……ええ」
まゆ「まぁ、素敵ですねぇ」
頼子「あなたもその一人になれますよ」
まゆ「うふふ……どうすればいいんですかぁ?」
頼子「素直に。自分の心が求めるように振る舞えばいいのですよ」
まゆ「素直に……?」
頼子「志向を凝らした芸術よりも、美しいものですよ」
まゆ「そうでしょうか……?」
頼子「ええ。もしも」
まゆ「もし……?」
頼子「それを阻む何かがあるのなら、助けになります」
まゆ「……」
頼子「とはいえ、私にはお話することくらいしか出来ませんけれど」
まゆ「そうですねぇ……」
頼子「深刻に思わないでくださいね。気分を変えたい時、新しい感情に触れたい時、美術館に来てください」
まゆ「はい。あの」
頼子「なんでしょうか」
まゆ「海はお好き、ですかぁ?」
頼子「いいえ。私が好きなのは」
43 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 16:59:42.11 ID:Ahhc8lJY0
まゆ「島ですかぁ?」
頼子「人、ですよ。人の動き、人の気持ち、人の関係」
まゆ「人……」
頼子「お話できて楽しかったです。2泊3日、よろしくお願いします」
まゆ「こちらこそ、よろしくお願いします」
頼子「私は部屋に戻ります」
まゆ「あら、もうお休みするんですかぁ?」
頼子「今日は静かな夜を楽しみます。お休みなさい、佐久間さん」
44 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 17:00:40.74 ID:Ahhc8lJY0
23
逢伊江館・大ホール
悠貴「よいしょっ」
都「テーブルとイスを持ってきました!」
のあ「見つけるのが早いわね」
都「私は屋敷の構造を把握するために、一通り回りましたから」
悠貴「私は島も屋敷も一通り走ってきましたっ」
のあ「着いたばかりなのに元気ね……」
都「ということで、始めましょう!」
悠貴「はいっ」
都「先ほど地下室で見つけた、地図の書かれた画用紙を持ってきました」
悠貴「屋敷の見取り図が描いてありますねっ」
のあ「不完全な部分は、追加していきましょう」
悠貴「つまりっ」
都「偉大な先人に習って、探偵ごっこをします」
悠貴「なるほどっ」
のあ「まずは、屋敷の1階から」
悠貴「ここが大ホールですねっ。南西側です」
都「はい。昔はもっとインテリアや美術品があったようですね」
のあ「売られてしまったのかしら。北に行きましょうか」
都「ええ。大ホールの北側には執務室」
のあ「北と南で二部屋」
悠貴「北側の部屋が、由里子さんの部屋ですっ」
のあ「南側が間中美里の寝室ね」
都「ええ。困りごとがあったら、二人の部屋へ」
悠貴「はいっ」
のあ「北西端はお手洗い、職員用」
都「北側は階段ですね。テラスを挟んで、東と西にあります」
悠貴「テラスは、ティーテーブルが置いてありましたっ」
のあ「景色は良かったかしら?」
都「一面の緑で癒される……かもしれません」
のあ「そう……話を戻しましょう」
都「ロビーを挟んで、西側に大ホールと執務室は言った通りです」
悠貴「北側は階段とテラスですっ」
のあ「南側は玄関と温室ね」
都「そして、東側ですね」
のあ「東側の一番北は」
都「階段室ですね」
45 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 17:01:24.12 ID:Ahhc8lJY0
椿「あら、何をしてるのですか?」
悠貴「探偵ごっこですっ」
椿「楽しそうです、参加していいですか?」
都「ぜひ!」
のあ「続きを。階段室の南側は」
悠貴「キッチンと食堂ですねっ」
椿「お庭もあって、キレイですよ。さっき、お写真を撮ってきました」
のあ「写真データ?」
椿「皆さんにお渡ししようかと」
都「これは、松本さんですね」
悠貴「わぁ!モデルさんみたいですっ!」
椿「ありがとうございます」
都「小腹が空いたら、ここですね」
のあ「ええ。江上椿、写真は他にもあるの?」
椿「はい。見たかったら、言ってくださいね?」
都「もちろんです」
悠貴「それじゃあ、階段室の下ですねっ」
都「階段は地下室に続いていました」
悠貴「階段室がありましたっ」
都「階段の真下は機械室のようです。使われていないようですが」
悠貴「大きな扉の先は」
のあ「ロビーの真下に広い娯楽室」
都「玄関側にはこちらも大きな書庫です」
悠貴「さっき、入れないところを見つけたんですけど」
都「そこは倉庫ですね」
悠貴「倉庫?」
椿「こちらですね。鍵は職員さんが持っているそうですよ」
のあ「位置的には従業員部屋の下なのね」
都「地下室は以上ですね」
46 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 17:02:19.09 ID:Ahhc8lJY0
悠貴「次は、2階ですっ」
椿「2階は客室ですね。とっても広くて解放感があります」
都「部屋番号は北西側から逆時計回り」
のあ「共同トイレが西端の最北」
悠貴「201号室は、松本沙理奈さんと沢田麻里奈さんですっ」
椿「二人ともお綺麗です。水着が楽しみです」
都「202号室は、古澤頼子さんと」
悠貴「私ですっ!中庭がキレイに見えるんですよっ」
都「中庭には、離れ、プールとジャグジーがあります」
悠貴「排水は海に流してるんですねっ」
都「温泉は海底からくみ上げているそうです」
のあ「下水管が地下に埋まってるのね」
悠貴「地下にも施設があるなんて、秘密基地みたいですっ」
都「ええ。地上に話を戻しましょうか」
のあ「離れには、藤居朋、杉坂海、井村雪菜の3人が宿泊」
椿「203号室は西島櫂さんと愛野渚さんのお部屋です」
悠貴「二人ともスポーツ選手で、とっても爽やかなんですっ」
都「確か、水泳とバスケットボールでした」
椿「泳げない人は教えてもらうといいかもしれませんね。泳ぎは得意ですか?」
のあ「苦手ではないわ」
都「204号室は、高峯さん達のお部屋ですか?」
のあ「その通り。私、高峯のあと木場真奈美、佐久間まゆの3人で利用しているわ」
椿「あの、景色はどうですか?」
のあ「一番眺めが良い部屋ね。キャンセルが出て、幸運だったわ」
椿「後で、お部屋をお訪ねしても良いですか?」
のあ「どうぞ」
椿「ありがとうございます」
47 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 17:02:50.70 ID:Ahhc8lJY0
悠貴「205号室と206号室は町内会ツアーのお部屋ですっ」
椿「はい。205号室はアヤさんが、206号室は私が保護者役です」
のあ「205号室は、桐野アヤ、三好紗南、遊佐こずえ」
都「206号室は、椿さん、光ちゃん、そして私が宿泊してます」
のあ「これで全部ね。間取りは似たようなものかしら?」
椿「そうみたいです。ベッドは人数に関わらず3つ、ユニットバスも付いています」
のあ「ふむ」
悠貴「あの、屋上は行けないんですかっ?」
のあ「危ないから、立ち入り禁止だそうよ」
悠貴「そうですか。眺めが良さそうなのに……」
都「忘れていましたが、203号室と204号室の間にあるスペースは」
椿「バルコニーです。海に面していて、水平線まで見えますよ」
のあ「バルコニー……」
都「どうしましたか?」
のあ「星の時間ね」
悠貴「星の時間?」
のあ「ええ。良かったら、バルコニーまで来てちょうだい」
48 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 17:04:09.48 ID:Ahhc8lJY0
24
逢伊江館・2階・バルコニー
真奈美「のあ、盛況か?」
のあ「それなりね」
雪菜「わっ、見てぇ!」
櫂「流れ星!」
沙理奈「願い事よ!」
こずえ「おねがいごと、するのぉー?」
雪菜「いっちゃいました……」
櫂「次は流れないね……」
沙理奈「流れ星が来るように、祈ってみる?」
櫂「流れ星に?」
のあ「本末転倒ね」
こずえ「のあー……おほしさまみるのー……」
真奈美「盛況だな」
雪菜「真奈美さん、来てたんですかぁ?」
真奈美「ああ。星はキレイか?」
櫂「凄いよ、満点の星空!」
真奈美「のあ、今夜は何が見どころだ?」
のあ「目の前に蠍座が見えるわ」
こずえ「あかいおほしさまー……」
櫂「獅子座は見えないの?」
のあ「獅子は太陽と共に登るわ。昼が獅子の時間よ」
櫂「そっか、そう言えば勉強したような」
49 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 17:06:30.87 ID:Ahhc8lJY0
こずえ「あかいおほしさま、もっとみたいのー……」
のあ「望遠鏡は合わせたわ。覗いてみなさい」
こずえ「わー……」
雪菜「蠍座生まれの人、誰かいましたかぁ?」
真奈美「宿泊客の中に、いたか?」
のあ「間中美里。11月6日生まれ」
こずえ「すごいのー……さりなもみるのー……」
沙理奈「ありがと。わっ、凄いわね!」
櫂「いつ調べたの?」
のあ「安斎都が教えてくれたわ」
真奈美「そう言えば、聞かれたな」
沙理奈「銀髪のお姉さん、他に見どころはあるのかしら?」
のあ「そうね。見えるかしら」
櫂「何が?」
のあ「円環の星」
こずえ「えんかんー……?」
雪菜「わっかのある星ですかぁ?」
沙理奈「木星とか?」
櫂「もしかして、海王星?」
のあ「正解は土星。肉眼でも見えるわ」
真奈美「どこにだ?」
のあ「蠍座の右上よ。望遠鏡を貸してちょうだい」
櫂「あれかな?」
雪菜「あれでしょうかぁ?」
のあ「……今日はいい日ね」
こずえ「のあー……」
のあ「どうぞ、見てちょうだい」
こずえ「おほしさま、しましまー……」
のあ「土星の縞模様と環がよく見えるわ」
櫂「こずえちゃん、見て良い?」
こずえ「いいのー……」
櫂「本当だ、しましま」
50 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 17:07:18.96 ID:Ahhc8lJY0
のあ「遠く離れていても、見える所に星はあるわ」
真奈美「どういう意味だ?」
のあ「事実を述べただけ」
真奈美「よくわからない」
櫂「雪菜ちゃん、どうぞ」
雪菜「ありがとうございますぅ」
のあ「だけれど、時には遠い世界に目を向けるのもいいわね」
櫂「そうかもね。海の底とか」
のあ「そうね。海の底は難しいけれど」
櫂「今は、水面だけでいいかな。月明かりが反射して、キレイだよ」
雪菜「本当ですねぇ」
こずえ「ふわぁ……」
沙理奈「あら、こずえちゃんはおねむかしら?」
のあ「そろそろ終わりにしましょうか」
沙理奈「そうね。こずえちゃん、部屋までいこっか?」
こずえ「さりなー……だっこー……」
沙理奈「はいはい、甘えん坊さんね☆」
のあ「望遠鏡はここに置いておくわ」
真奈美「独り占めもいいかもしれないな」
櫂「わかった」
のあ「おやすみなさい。良い夜を」
51 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 17:08:46.06 ID:Ahhc8lJY0
25
7/24(金) 深夜
逢伊江館・地下・娯楽室
のあ「……誰かいるわね」
紗南「あっ、どうしたのー?」
のあ「本を探しに来たの、あと夜食も」
紗南「ポテチだ、ちょうだーい?」
のあ「一袋あげるわ。だけれど」
紗南「条件があるんだね!なに?」
のあ「少なくとも食べ終わったら、寝なさい」
紗南「えー。夜更かしが趣味なのにー」
のあ「明日、泳ぐことになるでしょう。疲れてるとケガの元よ」
紗南「うーん、でも」
のあ「私は保護者じゃないわ。だから、言うだけ。あなたが選びなさい」
紗南「むー、わかった。そうするよ」
のあ「それがいいわね。私は本を探すわ」
紗南「ポテチのお礼に、探すの手伝うよー。どんな本をお探しかな?」
のあ「読んだことがない本を」
紗南「なら、これとか?」
のあ「何かしら」
紗南「ゲームの歴史を描いた本だよ。開発者とかの話とか一杯入ってるんだ」
のあ「ふむ、それでいいかしら」
紗南「はい。お姉さんも、ゲームに興味を持ってくれたらいいな!」
のあ「検討しておくわ。ありがとう、おやすみなさい」
紗南「おやすみー」
52 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 17:09:41.96 ID:Ahhc8lJY0
26
逢伊江館・2階・のあ達の寝室
のあ「ただいま」
真奈美「飲み物は見つかったか?」
のあ「サイダーを。フルーツ味みたいね」
真奈美「それはよかった」
のあ「まゆは?」
まゆ「すー……すー……」
真奈美「ぐっすりと寝てるよ」
のあ「そう……楽しんでくれてるかしら」
真奈美「そうだな。私からのアドバイスだ」
のあ「何かしら」
真奈美「自分が楽しめ。佐久間君がそれでいいと思えるように」
のあ「……そうね」
真奈美「そういうものだ」
のあ「わかったわ。全力で海に臨むわ」
真奈美「いや、そこまで気合を入れなくても」
のあ「日焼け止めを入念に塗れば……」
真奈美「のあ、人それぞれだ」
のあ「……そうね。無理する場面でもなかったわ」
真奈美「ああ。それにしても、ポテトチップスなんて食べるんだな」
のあ「旅行だもの。真奈美も食べるかしら」
真奈美「いただこう。乾杯はサイダーでいいのか?」
のあ「ええ。まゆを起こさないように、静かに」
真奈美「ああ、乾杯」
のあ「乾杯」
53 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 17:12:17.23 ID:Ahhc8lJY0
27
幕間
希砂本島・港周辺
楓「もしもし、留美さん」
和久井留美『楓、どうしたのかしら?』
和久井留美
刑事一課和久井班班長。階級は警部補。趣味が仕事でも夏休みは取りたい。
楓「お時間、大丈夫ですか?」
留美『大丈夫よ。まだ職場だけれど』
楓「あら……事件ですか?」
留美『どざえもんが出たのよ』
楓「水死体……事故じゃないんですね」
留美『首の骨が人為的に折られてたら、事故で片づけるのは無理よ』
楓「なるほど……」
留美『それで、話はなに?』
楓「今日、高峯さん達が希砂島に来ましたよ」
留美『そう。仲良くしてたかしら』
楓「ええ、とっても」
留美『ならいいわ』
楓「留美さんとも、久しぶりにお会いしたいです」
留美『機会があれば、と言いたい所だけど』
楓「署から遠く離れられませんか?」
留美『希砂島で事件でもない限りは、避けるわ』
楓「残念です」
留美『逆に楓がこっちに来てくれるといいのだけれど』
楓「それもいいかもしれませんね」
留美『駐在だから離れたくない気持ちもわかるけれど』
楓「お見通しですか」
留美『楓、刑事一課に戻ってこない?』
楓「お仕事に不満がありますか?」
留美『いいえ。私の下についてくれる二人は若いのによくやってくれるわ』
楓「なら、そのお二人に期待しましょう」
留美『それでも、実力がわかってる部下が一人くらい増えてもいいかと考えてる』
楓「……本気ですか?」
54 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 17:13:10.84 ID:Ahhc8lJY0
留美『柊課長を通せば、こっちに来れるわ』
楓「方法はわかっています。留美さんはどう思ってますか?」
留美『さっきのは私の個人的な事情。楓がやりたいようにすればいいわ』
楓「なら、答えは決まっています。この島にいます」
留美『そう』
楓「お邪魔しました。ちゃんと休んでくださいね?」
留美『わかってるわ。のあ達によろしく』
楓「はい……おやすみなさい」
留美『おやすみ』
楓「……曲がりませんね、留美さん」
幕間 了
55 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 17:59:17.94 ID:Ahhc8lJY0
28
翌日
7/25(土) 午前
希砂二島・正面ビーチ
真奈美「素晴らしい天気だ」
まゆ「そうですねぇ」
真奈美「のあはまだ着替えてるのか?」
まゆ「そろそろ来ると思いますよぉ」
真奈美「確認してないが、着にくい水着だったか?」
まゆ「どんな水着なんでしょう?」
真奈美「さぁ?」
まゆ「のあさーん、こっちですよぉ」
のあ「言われなくても来てるわ」
真奈美「……上着は暑くないか?」
のあ「暑いわ」
まゆ「もしかして……とっても過激な水着なんですかぁ……?」
のあ「何を言ってるのよ」
椿「わぁ!まゆちゃん、カワイイ水着です!」
のあ「そうでしょう」
真奈美「なんで、のあが答えるんだ」
まゆ「椿さん……ありがとうございます」
椿「写真を撮らせていただいても良いですか?」
真奈美「ああ」
椿「なので、高峯さんも上着を脱いでください」
のあ「そうするわ」
まゆ「……」
真奈美「……」
椿「カッコイイです!」
のあ「そうかしら」
まゆ「……とってもカッコイイデザインの競泳水着ですね」
真奈美「デザインが凝り過ぎてる。きっとオーダーメイドだぞ、あれ」
56 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 18:00:02.09 ID:Ahhc8lJY0
椿「並んでくださーい」
のあ「写真の後でいいのだけど、頼みたいことが」
真奈美「どうした?」
のあ「日焼け止めを塗ってくれないかしら」
まゆ「……手と足と顔しか出てませんよぉ?」
真奈美「自分でやれ」
椿「スマイルですよー、はい、ポーズ!」
57 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 18:02:35.33 ID:Ahhc8lJY0
29
希砂二島・正面ビーチ
のあ「……」
麻理菜「あら、ここでなにしてるの?」
のあ「見ての通りよ。保護者をしてるわ」
海「どっちの?」
麻理菜「ゆっくりと平泳ぎしてる方?」
海「綺麗なフォームでクロールしてる方?」
のあ「両方よ。あなた達は?」
麻理菜「私はウィンドサーフィンを」
海「ウチはサーフィンを」
のあ「そう。良い趣味を持ってるのね」
麻理菜「だって、この島は波が穏やかだから」
海「ちょっと、刺激不足だもんねッ♪」
のあ「どういうことかしら?」
麻理菜「じゃあ、教えてね!」
海「こちらこそ、先生!」
のあ「……ああ、いつもと逆なのね」
58 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 18:04:18.59 ID:Ahhc8lJY0
30
希砂二島・正面ビーチ
のあ「……」
まゆ「うふ……ふふふ」
櫂「二人は黙々と何してるの?」
のあ「見ての通り、砂の城を」
まゆ「はい、うふふ……」
のあ「そっちは?」
櫂「こっちは……来た来た」
こずえ「さなー」
紗南「こずえちゃん、準備できた?」
こずえ「できたのー」
都「櫂さん、お待たせしましたッ!」
櫂「水泳教室だよ」
のあ「そう」
櫂「泳ぎは得意?」
のあ「苦手ではないわ」
櫂「連れの人は?」
まゆ「まゆは少しだけ……」
のあ「真奈美は筋力トレーニングのために泳いでるだけよ。得意なわけじゃないわ」
紗南「さっきからずっと泳いでるよね」
櫂「へー」
紗南「たぶん、得意なのは櫂さんだけかな?」
のあ「海で波に乗ってる二人は?」
櫂「生き延びる程度だって」
のあ「上手そうね……」
59 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 18:04:50.85 ID:Ahhc8lJY0
まゆ「間中さんと大西さんは、ライフセーバーの資格を持ってるそうですよぉ」
櫂「そう言えば、言ってたね。あたしも救命措置は定期的に習ってるよ」
紗南「でも、水属性のスピードフォルムは櫂さんだけだよ」
都「櫂さんは競泳選手なんですよね?」
櫂「うん。それに、人に泳ぎを教えるのも好きだよ」
のあ「それは良かったわ」
こずえ「およぐのー……」
櫂「3人とも、泳ぎはどのくらい出来るの?」
都「えっと、それなり?」
紗南「コントローラーが欲しい」
こずえ「たいへんなのー……」
櫂「よし、教え甲斐がありそうだね」
紗南「よろしくお願いします!」
櫂「それじゃあ、念入りに準備体操からね」
都「はい!」
60 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 18:07:34.63 ID:Ahhc8lJY0
31
希砂二島・正面ビーチ
のあ「よし、出来たわ」
まゆ「出来ましたぁ……」
のあ「でも、所詮は砂上の楼閣……」
まゆ「ええ……明日には無くなってしまう……」
真奈美「砂上の砂の楼閣だから、それは儚いものだな」
のあ「お帰りなさい、真奈美」
真奈美「ただいま。波が穏やかで、気分が良く泳げた」
まゆ「どうですかぁ?」
真奈美「立派だ。ということで、カメラに収めておこう」
椿「立派なお城ですね」
のあ「あなた、ずっと写真を撮っているの?」
椿「いいえ、こずえちゃん達と泳いだりもしてますよ」
のあ「なら、いいけれど」
椿「うんうん、愛情たっぷりなお城です」
真奈美「そうか?」
椿「はい、とって……も」
のあ「どうしたのかしら?」
沙理奈「すっかり、置いて行かれちゃったわ。マリナは楽しんでるわね」
椿「あ、あわあわ、ご立派です……」
まゆ「松本さん、こんにちはぁ」
沙理奈「良い天気ねぇ。太陽がアタシを呼んでるみたい、あなたもそう思うでしょ?」
のあ「いえ、別に……」
61 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 18:09:02.72 ID:Ahhc8lJY0
椿「その通りですっ!」
のあ「……どうしたの、大声だして」
椿「お写真を、撮ってもいいでしょうか!?」
のあ「本当に、どうしたの?」
沙理奈「あらー、アタシの魅力にやられちゃった?いいわよ☆」
椿「ありがとうございます!」
沙理奈「ポーズとか、こう?」
椿「なんて、ことでしょう……セクシーがギルティですよ……私のアリスが目覚めてしまいます……」
のあ「変なこと言ってる方が、マシかしら」
椿「……」
真奈美「無言でシャッターを切る方が、むしろ怖いな」
沙理奈「はい、お・し・ま・い☆」
椿「え、ええ、そんなぁ……」
沙理奈「これから自然なショット、綺麗に撮ってよね☆バイバイ♪」
椿「は、はい……」
まゆ「投げキッス……」
椿「はぅう……キレイですぅ……ムフフ」
のあ「江上椿、こんな人だったかしら?」
まゆ「真夏の太陽と水着は人を惑わせるんですよぉ……」
真奈美「使いどころ、あってるか?」
椿「はっ!」
真奈美「正気を取り戻したか」
椿「自然なショット、そうでした。私はそういう写真が得意なのに……巨乳美人のポージングなんかに気を取られて……」
のあ「青年会のお姉さんが戻ってきたわね」
椿「あんなところやこんなところを、ゆるみきったあられもない、ハプニングショットを撮るのよ、椿……!」
のあ「気のせいだったわ」
こずえ「つばきー、ぴーす……」
椿「はーい。こずえちゃん、海は楽しいですかー?」
まゆ「えっと……」
真奈美「写真が好きなのも人が好きなのも本当の彼女だ、多分」
のあ「やっぱり、太陽が人を惑わすのよ」
真奈美「……そういうことにするとしよう」
62 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/24(木) 18:10:18.38 ID:NBqunrF+O
待ってた
63 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 18:10:34.66 ID:Ahhc8lJY0
32
希砂二島・正面ビーチ
紗南「うぅ、ぜえぜえ……」
都「はぁはぁ……」
美里「あらぁ、お疲れ様ですねぇ。お水をどうぞぉ」
紗南「ありがと……」
都「ごくごく……生き返ります」
のあ「西島櫂はスパルタだった、というか」
紗南「体育会系だよ……」
櫂「みんな、おつかれ!」
紗南「こずえちゃんはおやすみ?」
こずえ「すーすー……」
櫂「おねむみたい。よしよし」
紗南「アヤさん、連れて来るね」
都「お疲れ様でした!でも、泳ぎが上達した気がします!」
櫂「そう、だったら午後も」
都「それは、遠慮します」
櫂「そっか、残念」
美里「西島さんもお水をどうぞぉ」
櫂「ありがと」
美里「高峯さんはいかがですかぁ?」
のあ「私はいいわ。そろそろ、お昼でしょう?」
美里「ええ、そのためにお声がけに来たんですよぉ」
櫂「お昼?」
美里「海といえばぁ」
都「海……」
櫂「海の家……」
64 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 18:11:33.86 ID:Ahhc8lJY0
こずえ「すー……」
都「砂の味がする……」
櫂「ラーメン?」
のあ「焼きそば」
美里「カレーとラーメンですよぉ」
櫂「へぇ。なんか以外」
美里「でも、本島のホテルシェフがレシピを提案した一品ですよぉ」
都「なんと、これは調査不足でした」
美里「本島のホテルと中華料理屋さんでも取り扱ってるので、行ってみてくださいねぇ。どっちもアレンジが効いてて美味しいですよぉ」
のあ「ふむ。興味深いわね」
都「こうしてはいられません、行きましょう!」
櫂「そうだね、お腹もすいてきたし」
こずえ「こずえも……」
櫂「起きた?一緒にご飯行こっか?」
美里「泳いだ人はちゃんとシャワーを浴びてから、食堂まで来てくださいねぇ」
のあ「ええ。私も真奈美とまゆを呼んで、行くとしましょう」
65 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 18:13:33.17 ID:Ahhc8lJY0
33
7/25(土) 午後
逢伊江館・大ホール
まゆ「美味しかったですねぇ」
のあ「ええ」
まゆ「のあさんは海に行きませんか?」
のあ「少し休んでから、行くわ」
まゆ「ならぁ……まゆも休憩します」
雪菜「よいしょ」
由里子「井村ちゃん、ありがとう」
雪菜「どういたしましてぇ」
のあ「その箱は何かしら?」
由里子「ボードゲームだじぇ」
まゆ「ボードゲームですかぁ?」
雪菜「泳ぎ疲れたら、ゆっくりと遊ぶのもいいですよぉ」
由里子「その通りだじぇ!」
のあ「仕事はいいのかしら?」
由里子「ふっふっふ、これも仕事。お客様のため」
まゆ「そうなんですかぁ?」
由里子「倉庫を掘り返したお宝、遊んでくれると嬉しいじぇ」
雪菜「お二人はお好きなのはありますかぁ?」
のあ「カタン、ブロックス、モノポリー、ドミニオン、トランプ、ウノ」
まゆ「人生ゲームもありますよぉ」
由里子「景気が良い時代の、3面構成!ほぼお金を失わない、気分の良くなる人生ゲームランキング1位だじぇ!」
雪菜「あれ、真奈美さんはどちらですかぁ?」
のあ「海に行ったのかしら」
まゆ「そうみたいですねぇ」
由里子「人数が足りないなら、呼んで欲しいじぇ」
まゆ「はぁい」
雪菜「でもぉ、まだ早いですよねぇ」
まゆ「せっかく、キレイな海なんだから、楽しまないと……ですねぇ」
雪菜「お楽しみはこれからですよぉ。私は先に行ってますねぇ」
66 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 18:15:48.39 ID:Ahhc8lJY0
34
希砂二島・正面ビーチ
朋「こうかしら?」
光「違うよっ!こう!」
のあ「彼女達は、何をしてるのかしら」
真奈美「ポーズを決めてるな」
朋「こうね!」
光「そうだっ!」
のあ「真奈美、どこに行ってたの?」
真奈美「どこにも行ってないが」
のあ「狭い島とはいえ、人間の視界には広いわ」
朋「あたし、ヒーローに向いてるかしら?」
光「もちろんだよ!」
朋「そうね、名前も決めましょ!」
真奈美「林の中を見て来てみた」
のあ「探検家のようなことをしてるのね」
真奈美「何も見つからなかったが」
のあ「そもそも、そこまで深くないでしょう」
光「名前か!武器とかないある?」
朋「武器?」
光「武器は、持ってないな。特技とか?」
真奈美「ああ。宝を隠すには向いていないな」
のあ「地面も硬いものね」
朋「そうね、好きなのは占いね!」
光「占い、ラッキー、魔法……うーん」
頼子「フォーチュンは、いかがでしょう」
朋「幸運を呼ぶ、ってことね。フォーチュンクッキーとかいうでしょ?」
光「なるほど!それじゃあ、フォーチュン仮面とか」
朋「仮面はちょっと」
真奈美「フォーチュンヒーロー、とかな」
のあ「安直じゃないかしら」
朋「気に入ったわ!」
のあ「……」
頼子「ふふ」
67 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 18:19:16.26 ID:Ahhc8lJY0
光「フォーチュンヒーローは決まったところで」
のあ「どうして、こっちを見るのかしら」
朋「シルバークイーンね」
のあ「私は、確実に悪の幹部ね」
光「メタリックウルフ」
真奈美「光栄だ」
光「そして」
頼子「私、ですか?」
朋「浮き輪も水着もカワイイわね」
のあ「暖色の水着をチョイスするとは意外だったわ」
光「うーん……」
頼子「どうぞ?」
光「エレガントコマンダー?」
頼子「ありがとうございます。司令官なのは気になりますが」
朋「あたしの意見は違うわ!」
光「どういうことだ!?」
朋「ムーンナイトシーフよ!」
光「なんだって!」
朋「怪盗とか似合いそうでしょ」
光「表の顔は美術館の学芸員、でも裏の顔は!」
頼子「ふふっ、それもいいかもしれませんね。それでは、海に浮かんできます」
のあ「行ってしまったわね」
真奈美「しかし、何故怪盗だと?」
朋「それは」
光「それは?」
朋「なんか、モノクルが似合いそうじゃない?」
のあ「つまり、勘と」
光「良いじゃないか、直感は大切だからな!」
真奈美「だそうだ。シルバークイーン、参考にするがいい」
のあ「ラジャー、メタリックウルフ」
朋「あんたたち、仲良いわね」
68 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 18:21:02.42 ID:Ahhc8lJY0
35
希砂二島・正面ビーチ
まゆ「のあさん、あらぁ?」
のあ「まゆ、どうしたの?」
まゆ「アイスクリームを由里子さんからいただきましたぁ」
のあ「まぁ、美味しそうね。いただくわ」
まゆ「どうぞ。のあさん、その笛とバットはなんですかぁ?」
のあ「バットは使わないことになったけれど、笛を使うのを頼まれてるの」
まゆ「笛……ですかぁ?」
悠貴「準備できましたっ!」
アヤ「よーし」
渚「ワクワクしてきたッ!」
まゆ「ビーチフラッグですかぁ。旗は2本……」
のあ「では、位置について。レディ……」
悠貴「はいっ」
アヤ「……」
渚「ふー……」
ピー!
まゆ「わぁ、早い……」
アヤ「おっりゃあああ!」
渚「よし、決勝進出!」
悠貴「やりましたっ」
アヤ「あっちゃー、流石陸上部」
悠貴「えへへ」
アヤ「手も足も長くて、羨ましいな」
渚「まだ13歳なのにね。将来有望だよッ!」
アヤ「悠貴、13なのか」
悠貴「はいっ。アヤさんみたいな、カッコイイ人になりたいな」
アヤ「いやいや、カワイイ方がいいぞ?」
渚「決勝やろうよ!のあさん、お願いしていい?」
のあ「どうぞ。準備を」
まゆ「旗はここでいいですかぁ?」
悠貴「はいっ、渚さん、お願いしますっ」
渚「うん、負けないからね!」
のあ「セット。レディ……」
69 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 18:21:57.07 ID:Ahhc8lJY0
悠貴「ふふっ……」
渚「ふー……」
ピー!
アヤ「おっ?」
のあ「……」
まゆ「二人とも飛び込みましたぁ……」
渚「……あー!」
アヤ「おー、悠貴、やるな!」
悠貴「えへへ、ぶいっ!」
椿「良い笑顔です」
アヤ「椿、いきなり現れないでくれよ」
椿「さっきから、ずっといましたけど?」
アヤ「気配を消すのもやめてくれ」
渚「スタート良かったと思ったのになァ」
のあ「スタートは良かったわ」
アヤ「さすが、バスケ選手」
のあ「でも」
まゆ「走るのがとっても早かったです……」
悠貴「練習、がんばってますからっ」
渚「相手は走るのが本職とはいっても、負けるのはくやしいなー」
真奈美「おや、楽しいそうなことをしてるじゃないか」
のあ「真奈美は、得意かしら」
真奈美「人並みには」
アヤ「なんとなくだけどさ、この人の人並みは人より凄そうな気がすんだよ」
まゆ「確かにその通りですねぇ……」
悠貴「木場さんもやりますかっ?」
真奈美「こういうのは人を集めるものだ。波に乗ってる人達も集めてくるとしよう」
渚「のあさんも選手する?なんか速そうだし」
のあ「遠慮するわ」
アヤ「運動は苦手なのか?」
のあ「そうでもないわ」
まゆ「のあさん、がんばってください」
のあ「……偶には走ろうかしら」
アヤ「よし、ならアタシも集めてくる。ガイドさん、ライフセーバーの資格あるって言ってたよな?」
悠貴「はいっ、言ってました!」
のあ「いつの間にか、人が集まって来そうね……」
まゆ「でも、楽しいですよぉ」
のあ「思ったのだけれど」
まゆ「どうしましたかぁ?」
のあ「思ったよりも体育会系が多いのね、今日は」
70 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 18:23:33.86 ID:Ahhc8lJY0
36
希砂二島・正面ビーチ
まゆ「あっという間に決勝です……」
のあ「そうね」(予選敗退)
由里子「決勝進出者を紹介するじぇ!」(審判)
悠貴「おっー!」(準々決勝敗退)
美里「はぁい、まずはぁ」(準決勝敗退)
由里子「参加者最長身、スイマーは砂浜でも速かった!」
美里「最後の飛び込みで負けてしまいましたぁ」
由里子「西島、櫂!」
渚「櫂、がんばれー!」(予選敗退)
櫂「はは、何か恥ずかしいな」
渚「慣れてるんじゃないの?」
櫂「最近、そんな声援はご無沙汰だからさー」
由里子「意気込みを」
櫂「えっと……頂点目指してがんばります!」
由里子「対するはー!」
美里「彼女も海と砂浜の申し子ですよぉ」
由里子「波のためなら、コンパニオンもなんのその、最年長でも手は抜かない!」
真奈美「砂の走り方で差が出てしまった」(準決勝敗退)
のあ「真奈美にも出来ないことがあるのね」
由里子「沢田ー、麻理菜!」
麻理菜「さっきの説明、褒められてる?」
沙理奈「褒められてるわよ?」
椿「はい、その通りです!」(写真担当)
麻理菜「まぁ、いっか」
由里子「美里さん、ご褒美は?」
美里「準備しましたよぉ」
海「おっ?」(1回戦敗退)
美里「こちらですよぉ」
71 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 18:25:34.93 ID:Ahhc8lJY0
由里子「こ、これは希砂島お土産詰め合わせグッズだじぇ!」
美里「4千円相当ですよぉ」
由里子「お買い求めはフェリー乗り場だじぇ!」
朋「いつのまにか、宣伝になってるわね」(予選敗退)
由里子「両者、位置に着いて!」
麻理菜「櫂ちゃん、よろしくねっ!」
櫂「こちらこそ!」
由里子「セット、レディ」
麻理菜「ふふ……」
櫂「ふぅ……」
ピー!
悠貴「立つまでが速いですっ」
真奈美「ふむ、砂に足を取られない走り方があるんだな」
由里子「最後のダイブだぁー!」
美里「勝者はぁ……」
櫂「あー!」
麻理菜「やったわ!」
櫂「くっそー、もう少しだったのに!」
美里「勝者は、沢田麻理菜さんですぅ」
麻理菜「トレーニングの成果がでたわ!」
由里子「商品贈呈だじぇ!」
沙理奈「さすが、マリナ!」
麻理菜「やるからには、勝たないとね!」
椿「ムフフ♪ツーショットは最高ですっ!」パシャパシャ
由里子「乗り過ぎたじぇ……」
美里「でも、偶にはいいですよぉ」
由里子「そう言ってくれると、助かるじぇ」
美里「そろそろ夕方ですからぁ、上がってくださいねぇ」
のあ「もうそんな時間かしら」
美里「夕焼けは、シャワーを浴びてから見るのがいいですよぉ」
真奈美「薄暗がりだと足元も危ないからな」
櫂「麻理菜さん」
麻理菜「どうしたの?リベンジマッチ?」
櫂「水泳対決とかは」
渚「負けず嫌いはいいけど、明らかな自分の分野で戦うのはやめよ?」
72 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 18:27:20.42 ID:Ahhc8lJY0
37
7/25(土) 夕方
逢伊江館・ジャグジー・更衣室
まゆ「の・あ・さ・ん……♪」
のあ「……」
都「どうして、そんなにゆっくりなのですか……?」
まゆ「逃がしませんよぉ……」
のあ「真奈美は……いないわね」
悠貴「事件ですかっ?」
まゆ「うふふ……」
都「違うと思うのですが……まゆさんは手に何を持ってるんですか?」
まゆ「さぁ……髪の毛を梳かさせてください……!」
悠貴「違いましたっ。先に食堂に行ってますっ!」
都「あ、はい」
のあ「まゆ、髪はちゃんと洗ってるわ」
まゆ「知っています……」
のあ「なら、大丈夫よ。髪もそのうち乾くわ」
都「私も髪を乾かさないと、そうだ、光ちゃんも」
まゆ「それじゃ、ダメなんですよぉ!」
都「……ちょっと、興味が湧いてきました。なぜ、まゆさんはそう思うのですか?」
まゆ「都ちゃん……聞いてください」
のあ「ええ、聞いてちょうだい。失礼するわ」
まゆ「お座りしてくださいねぇ……の・あ・さ・ん♪」
都「私は座った方がいいと思います、悪いことが起きます」
73 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 18:28:07.01 ID:Ahhc8lJY0
まゆ「のあさん、シャンプーは持ってきましたかぁ?」
のあ「いいえ。備え付きのを使ったわ」
まゆ「……優さんから貰ったシャンプーを使ってくださいねぇ、必ず」
都「どういうことでしょうか?」
まゆ「こんなにキレイな髪をしてるのに……のあさんが守らないならまゆが守ってあげないと……うふふ」
のあ「……」
都「つまり、まゆさんはお髪の手入れをしてくれるわけですね」
まゆ「そうですよぉ……ずっと、言ってます……」
真奈美「どうした、お叱りでも受けてるのか?」
のあ「真奈美」
まゆ「真奈美さん、のあさんの髪のお手入れをしたいんです……」
真奈美「いいじゃないか。してもらうといい」
のあ「別に、そこまで気にするものじゃないわ」
真奈美「のあ、太田君から貰ったコンディショナーは使っているか?」
のあ「そんなもの貰ったかしら?」
真奈美「佐久間君、一から聞かせてやれ」
まゆ「はぁい……真奈美さん」
のあ「安斎都」
都「太田さんが誰か知りませんが」
まゆ「太田優さんは、のあさんの髪を見てくださる美容師さんですよぉ……」
都「せっかく美しい髪の毛をしてるので、まゆさんの言うことを聞きましょう」
のあ「あなたは味方だと思ったのに」
まゆ「さぁ、のあさん、準備はいいですかぁ……?」
74 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 18:29:46.88 ID:Ahhc8lJY0
38
夕食後
逢伊江館・1階・ロビー
美里「んー……疲れましたぁ」
のあ「お疲れ様。お見送りが終わったところなのね」
美里「あらぁ、伸びしてるところを見られちゃいましたぁ」
のあ「問題ないわ。お仕事は終わりかしら?」
美里「はい。由里子さんにお仕事はバトンタッチして、少しお休みしますねぇ」
のあ「ええ」
美里「だけど、気になったことがあったらお部屋まで来てくださいねぇ」
のあ「わかってるわ」
美里「高峯さん、良い夜を」
のあ「眠るには早いけれど、お休みなさい」
美里「あのぉ、最後に一つだけ聞いていいですかぁ?」
のあ「もちろん。なにかしら」
美里「どうして、ツインテールなんですかぁ?」
75 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 18:30:55.99 ID:Ahhc8lJY0
39
逢伊江館・地下・娯楽室
頼子「こんばんは。何かお探しですか?」
のあ「私は読んだことのない本を。そちらは」
頼子「見たことがないものを探しています」
のあ「抽象的ね」
頼子「具体的に言うと、美術品です」
のあ「ふむ。期待をする気持ちはわかるわ」
頼子「しかし、目ぼしいものは見つかりませんでした」
のあ「この屋敷を手放す前に、お金に換えられるものは換えるでしょうね」
頼子「残念です。あそこの倉庫が怪しいと思うのですが」
のあ「カギがかかっているわ」
頼子「ええ。間中さんに言って無理に開けてもらうものでもありませんし」
のあ「開けたところで、何もないわ」
頼子「ええ……そうだ、これを」
のあ「それは?」
頼子「読んだことがない本をお探しということでしたので」
のあ「見たことはないわね」
頼子「当然です。自費出版の自伝ですから」
のあ「……暇な人間もいたものね」
頼子「不動産で資産を泡のように膨らませて、弾けることなど知らない人間の傲慢さを感じ取ることが出来る、名著ですよ」
のあ「少しだけ興味が出たわ。貸してくれるかしら」
頼子「どうぞ。あちらの棚に同じ本が数冊おいてあるので、返却はそちらへ」
のあ「ありがとう」
76 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 18:31:35.63 ID:Ahhc8lJY0
頼子「この娯楽室を作った人物は、いつも事件が起こることを期待しながら客を招待していたそうですよ」
のあ「悪趣味ね……最初の文から吐き気がするわ」
頼子「あなたは、悪趣味な金持ちではありませんか」
のあ「さぁ。傍から見れば、同類かもしれない」
頼子「違いますよ。なぜなら、同じ人間などいないのですから」
のあ「フォローになってるかしら、それ」
頼子「解釈はご自由にどうぞ……あら、もうこんな時間ですね」
のあ「まだ夜の始まりの時間だと思うのだけど」
頼子「はい。だから、ゆっくり眠ります。おやすみなさい、高峯さん」
のあ「おやすみなさい」
頼子「そうだ、最後に一つだけ」
のあ「ツインテールはまゆにされたわ。似合ってるとは、思わないのだけれど」
頼子「あら、既に誰かに聞かれていましたか?」
のあ「ええ。屋敷の前で江上椿には写真を撮られて、一緒にいた松本沙理奈には本気かどうかわからない褒め言葉を頂いたわ」
頼子「似合ってますよ。佐久間さんと仲が良さそうで、安心しました」
のあ「ええ。問題なくやれてるわ」
頼子「……そうでなくては、面白くありませんから」
のあ「何か言ったかしら?」
頼子「何も。お楽しみはまだまだこれからです、おやすみなさい」
77 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 18:33:25.65 ID:Ahhc8lJY0
40
逢伊江館・2階・のあ達の寝室(204号室)
のあ「ただいま」
まゆ「のあさん、本はみつかりましたかぁ?」
のあ「ええ。真奈美は……寝てるわね」
まゆ「ずっと泳いでましたからねぇ」
のあ「今日の夜は静かね」
まゆ「泳ぐのって疲れますから……ふわぁ」
のあ「まゆも私を待ってなくていいわ」
まゆ「そうですねぇ……でも」
のあ「でも?」
まゆ「少しお話したいかなぁ、って」
のあ「いつでもできるわ。今じゃなくても、いつでも」
まゆ「うふふ……そうでした」
のあ「そうなるように努力するわ。だから、おやすみなさい」
まゆ「……はい。信じてます」
のあ「ええ。私は髪型、ほどいていいかしら」
まゆ「はい……でも、髪の毛はこれから大切にしてくださいねぇ」
のあ「わかってるわ」
まゆ「おやすみなさい、のあさん」
78 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/08/24(木) 18:49:12.53 ID:7V7sLfssO
新作来てた!!待ってた!!
79 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 18:53:27.35 ID:Ahhc8lJY0
41
7/26(日) 0:25
のあ「文章力はあるわね……ゴーストライターでも雇ったのかしら」
のあ「日が変わったわね、そろそろ私も眠ろうかし……あら」
のあ「……」
のあ「どうして、圏外なのかしら」
うぎゃああああ!
のあ「大西由里子と思われる悲鳴、1階から」
真奈美「どうした!?」
のあ「あの音量で起きれるのね。動き出しも早い」
真奈美「悲鳴だった。のあ、見に行くぞ」
まゆ「……むにゃ、真奈美さん……どうしたんですかぁ……」
のあ「真奈美はまゆを見てて。私が見てくるわ」
真奈美「わかった。気をつけろ」
のあ「ケータイが圏外になってるわ、覚えておいて」
真奈美「……それは人為的なのものか」
のあ「わからない。行ってくるわ」
80 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 18:55:36.42 ID:Ahhc8lJY0
42
逢伊江館・1階・ロビー
のあ「大西由里子!」
由里子「あ、あ、あれ……」
のあ「俗にいう腰が抜けてる状態ね」
紗南「どうしたの!?」
光「悲鳴が聞こえたんだっ!」
のあ「二人とも地下室から来たわね。夜更かしはいけないわよ」
光「何があったんだ?」
紗南「由里子さん、部屋に何かあるの?」
由里子「だ、だめだじぇ!」
のあ「三好紗南、南条光、二人はここにいて」
由里子「お願いするじぇ……」
のあ「間中美里の執務室、ね」
81 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 18:58:34.88 ID:Ahhc8lJY0
43
逢伊江館・1階・間中美里の執務室
のあ「間中美里……」
のあ「息は……ないわね」
のあ「死因は扼殺かしら。殺されてから、時間は経っていない」
のあ「誰でも迎え入れる人物と部屋での犯行」
のあ「叫ぶ間もなかった、ようね」
のあ「問題は……」
のあ「どうやって次の犯罪を止めるか」
82 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 19:00:56.28 ID:Ahhc8lJY0
44
逢伊江館・1階・ロビー
のあ「大西由里子、状況はわかったわ」
光「何があったんだ!?」
のあ「結果としては最悪。間中美里が殺されたわ」
紗南「え……?」
由里子「やっぱり、死体」
のあ「確認したのかしら」
由里子「ライフセーバーの研修は受けてるし……」
紗南「ほ、本当なの?」
のあ「人の眠りを妨げてまで、ゲームに興じる趣味はないわ」
光「まさか、殺人事件が起こるなんて」
のあ「大西由里子、立てるかしら」
由里子「ふー、冷静に冷静に」
のあ「間中美里の部屋に行った理由は」
由里子「ネットがつながらなくなったから……あー!?」
のあ「やっぱり。切断するような原因は屋敷内かしら」
由里子「屋敷にはケーブルを引いてるだけだから」
のあ「電波塔」
由里子「見てこないとっ!」
のあ「わかってるわ。でも、一人は危険よ」
由里子「……」
光「なら、アタシが!」
のあ「大西由里子、私はあなたを信用していいかしら」
由里子「疑ってる……いや、職員失格だし……」
のあ「あなたが犯人でないならば、そうではないわ。あなたがすべきことは」
由里子「警察に連絡?」
のあ「ええ。南条光」
光「どうするんだ?」
のあ「電波塔は私が見に行くわ。質問に答えて」
光「なんだ?」
83 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 19:01:32.25 ID:Ahhc8lJY0
のあ「三好紗南といつから娯楽室にいたかしら?」
紗南「えっと、10時にはいたと思うよ?」
光「5話くらい見てたから、本当だ」
のあ「信用するわ。そもそも」
紗南「そもそも?」
のあ「あなた達の背丈では無理でしょうね。少なくとも同程度かそれ以上」
紗南「それなら犯人がわか……あれ?」
のあ「まゆと遊佐こずえ、あなた二人以外は犯人の可能性はありそうね」
光「そんな……」
のあ「私はあなた達を信じるわ。絶対に二人で行動すること。いいわね?」
紗南「わ、わかった」
のあ「皆の状況を確認して。皆を守ってちょうだい」
光「わかった!」
のあ「ただし、個人の部屋には入らないこと。大部屋の場合は扉を開けておくこと。いいわね?」
紗南「怖いこと言う……」
光「でも、やるしかない」
のあ「お願いするわ。まずは私達の204号室へ」
光「木場さんは信頼していいのか?」
のあ「ええ。アリバイは私が保障する。二人とも良く寝ていたわ」
紗南「わかった。木場さん、頼りになりそうだし」
のあ「もちろん。行きましょう、大西由里子」
84 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 19:03:11.57 ID:Ahhc8lJY0
45
希砂二島・中心部・電波塔
のあ「暗いわね」
由里子「電灯があるはずなのに、消えてるし……」
のあ「電波塔は、ダメそうね」
由里子「じぇ……電源もケーブルも大元から切られてる」
のあ「人為的に破壊したのね。なら、誰かがここにいた」
由里子「ネットが切れる直前に?」
のあ「大西由里子、ネットが切れた時に何を調べたかしら?」
由里子「えっと、配線にPCに無線LANルーターに……」
のあ「そのうちに帰ってくる時間はあるわね」
由里子「ダイタンすぎるじぇ……」
のあ「単独でも犯行は可能。目的は」
由里子「ここを孤立させる、とか」
のあ「そういうこと。少なくとも一晩は犯人のための時間が確保されてしまった」
由里子「犯人は、推理小説の読み過ぎだじぇ!」
のあ「それにしても……妙ね」
由里子「妙?」
のあ「手際が良すぎるわ」
由里子「へ?」
のあ「短時間で確実に破壊してる。犯人は詳細まで知ってるわよ」
由里子「そんなことできるのは……」
のあ「間中美里かあなたくらいかしら」
由里子「違うじぇ!流石の美里さんも電子機器までは」
のあ「戻りましょう。わかったことは」
由里子「孤立した……」
のあ「その通り。孤島の屋敷で殺人事件が起こったわ」
由里子「どうすればいいんだ……」
のあ「……」
由里子「高峯さん、どうしたら……高峯さん?」
のあ「……決めたわ」
由里子「決めた……?」
のあ「戻りましょう。私は私がやるべきことをやるだけよ」
85 :
◆ty.IaxZULXr/
[saga]:2017/08/24(木) 19:04:34.29 ID:Ahhc8lJY0
46
逢伊江館・1階・ロビー
由里子「監視カメラの映像を調べてくるじぇ……」
のあ「待ちなさい。一人にするわけにはいかないわ」
由里子「……」
真奈美「のあ」
のあ「真奈美、まゆは」
まゆ「まゆはここですよぉ」
のあ「真奈美から離れないでちょうだい」
まゆ「わかってます。何か私にできることはありませんかぁ?」
のあ「ないわ」
真奈美「南条君に何があったかは聞いた」
のあ「彼女達は信頼できるかしら」
真奈美「嘘をついている様子はない」
のあ「そう」
真奈美「それで、状況だが」
のあ「どうだったのかしら」
真奈美「一人を除いて、部屋にいた」
櫂「なんで、わかってくれないのさ!」
まゆ「いないのは……203号室の愛野渚さんです」
真奈美「他の宿泊客は」
のあ「食堂にいるのね。話を聞いてくるわ」
真奈美「待て」
のあ「何かしら」
真奈美「のあを一人にするわけにはいかない」
のあ「私ならヘイキよ」
真奈美「本人がヘイキだと言っても、私はのあと佐久間君を危険な目にあわせるわけにはいかないんだ」
のあ「……わかったわ」
真奈美「大西君も食堂へ。いいかな?」
由里子「わかったじぇ」
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