球磨「面倒みた相手には、いつまでも責任があるクマ」

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538 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:54:29.42 ID:xlUQQs3U0


「ただ……あの娘に『さようなら』と言いたかった……私たちには、さようならを言う機会さえ無かった」


一面に広がる大空が私を包み込んでいる。

まるであの日、初めてあの娘と言葉を交わしたあの日。

539 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:55:11.44 ID:xlUQQs3U0


「せめて、最後にもう一度だけ傍に居て、話をしたかった……あの娘の声色を聴いていたかった」


そして短い間だが、一緒に駆け抜けた、あの激動の時代の海原の様だ。

540 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:56:23.13 ID:xlUQQs3U0


「もう少し、あの娘と一緒にこの時代を生きたかった……あの娘はこの現代の様子を見て、一体何を思うだろうか」


あの時のあの娘は、私たちの想いを乗せ、凛とした姿で勇敢に海原を進んで行った。

541 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:58:00.38 ID:xlUQQs3U0



「だが、それでも……それでも私は、あの娘に私自身の想いを託して、あの娘と共に戦う事が出来た事……あの娘と共に過ごせた事……それだけで、私が生きた意味は十分にあった……十分に、価値があったんだよ……」


涙で揺らぐ太陽。

あの太陽、あの娘と過ごした輝かしいあの日々は、あの太陽の様に眩かった。

軍艦・球磨の艦長を務め、共に激動の時代を駆け抜けたあの日々は、今でも誉に思う。


542 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:59:05.83 ID:xlUQQs3U0


「……25年か……随分、長い事待たせてしまったな……」


そして、あの娘との思い出、その清らかな愛情の記憶を胸に、私は空へと還れる。

543 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 00:59:37.78 ID:xlUQQs3U0


「私は答えを見つけた」


もう一度、あの娘に会える。

544 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:00:17.29 ID:xlUQQs3U0


「今からそっちに行くよ、球磨」


そして再会したらこう言ってやる。

545 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:00:46.74 ID:xlUQQs3U0



――この親不孝者、と――。


546 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:01:48.00 ID:xlUQQs3U0



瑠璃色に彩ったこの蒼空の海の向こうに、きっとあの娘が居る。

中将はそれだけを信じ、静かに、唯眠る様に静かに、軍艦・球磨の夢の続きを見ながら、その生涯に幕を下ろした。


547 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:02:59.57 ID:xlUQQs3U0



 ……………………………… 
 ……………………………… 


548 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:03:40.93 ID:xlUQQs3U0



――この深い水底から、球磨はもうずっと答えを求め続けていた。


549 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:05:04.91 ID:xlUQQs3U0


軍艦・球磨は、何かを掴みたくて手を伸ばそうとする。

沈み行く意識に抗い、この深い海底から必死に手を伸ばした。

澱み、蝕み、そして儚く散っていく意識に負けない様に、軍艦・球磨は想いを繋ぎとめていた。

550 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:05:56.63 ID:xlUQQs3U0


沈められた敵に対しての憎しみからではない。

「答えを得たい」と言う、その想いから。

551 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:07:01.66 ID:xlUQQs3U0



――――この戦いに、この想いに、自分やあの人が生きた意味に、どれだけの価値があったかを。


552 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:07:37.80 ID:xlUQQs3U0


その答えを得る為に。

提督との約束を果たす為に。

軍艦・球磨は答えを求め続けた。

553 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:08:06.15 ID:xlUQQs3U0



しかし軍艦・球磨には、その最後の願いすら許されなかった。


554 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:08:50.24 ID:xlUQQs3U0



 ……………………………… 
 ……………………………… 


555 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:09:28.07 ID:xlUQQs3U0



――私は……何年、何十年、此処で過ごしたのだろうか。


556 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:10:45.40 ID:xlUQQs3U0


軍艦・球磨は何時しか、答えを得るのを諦めていた。

軍艦・球磨は、そう心変わりする程の時間。

余りにも長い時間を、独りこの海底で過ごした。

557 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:11:28.82 ID:xlUQQs3U0


それでも軍艦・球磨は、この閉ざした世界で、在りし日の提督や共に戦った人達と過ごした、あの輝かしい日々の夢の続きを見ていた。

何時までも忘れない様に、消えない様に、失わない様に、必死に記憶を心へと手繰り寄せ、必死にかき集めた。

558 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:12:08.97 ID:xlUQQs3U0



――私に想いを託してくれた、提督の想い。

――私と運命を共にした、あの人達の想い。


559 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:13:14.47 ID:xlUQQs3U0


それだけが、軍艦・球磨の慰めだった。

それだけが、軍艦・球磨の心の在り処だった。


想いを馳せた、遠い遠いあの日々。


それだけが、軍艦・球磨の全てを優しく受け入れてくれた。

それだけが、軍艦・球磨の脆弱な心を優しく満たしてくれた。

560 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:14:33.33 ID:xlUQQs3U0



――提督。


561 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:15:17.92 ID:xlUQQs3U0


そしてそれでもなお、暗く透明な揺り籠に抱かれながら、軍艦・球磨はいつも夢見ていた。

軍艦・球磨は、在りし日の提督に貰った軍帽を抱き、ずっと待ち続けた。

いつか答えを抱いて、提督の元へとゆける日が来る事を。

562 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:16:21.65 ID:xlUQQs3U0



――でも……独りは寂しいよ……。

――でも……独りは切ないよ……。


563 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:16:49.32 ID:xlUQQs3U0



軍艦・球磨は孤独に抗えず、独りずっと泣いていた。


564 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:17:28.52 ID:xlUQQs3U0



――軍艦・球磨は静かに語った――。


565 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:17:55.68 ID:xlUQQs3U0


提督。

お前はまだ、この世界の何処かに居るのだろうか。

566 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:18:35.00 ID:xlUQQs3U0


あの日、お前にそっと撫でられた、あの温もりが忘れられない。

お前やあの人達が私に託してくれた、あの熱い想いが忘れられない。

567 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:19:07.64 ID:xlUQQs3U0



提督、私は此処に居るよ。


568 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:19:36.11 ID:xlUQQs3U0


光さえも届かない。

誰も来る事がない、悠久なる深淵の闇。

569 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:20:03.01 ID:xlUQQs3U0



――この深海の淵に、私は居る――。


570 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:20:37.48 ID:xlUQQs3U0



 ……………………………… 
 ……………………………… 


571 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:22:26.30 ID:xlUQQs3U0


『おい……さっさと引き揚げようぜ……最近は軍の連中が煩くて……』

『馬鹿野郎っ! お上が怖くて、サルベージ業者が勤まるかよ!!』


ふと、軍艦・球磨は何かに身体を引きちぎられる感覚を覚えた。

魚に啄まれる様に、軍艦・球磨の身体は、徐々に感覚を失う。


――誰かが、私の身体を引き千切っている。

572 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:23:36.22 ID:xlUQQs3U0


『あ……? なんだ、この船は? 露助の船か?』


――露助?


『大方、大戦時にJepun(ジュプン)の軍人にでもやられたんじゃないか?』


――Jepun(ジュプン)?

573 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:24:14.07 ID:xlUQQs3U0



――大日本帝国……?


574 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:25:16.36 ID:xlUQQs3U0


そう男達が話している間にも、軍艦・球磨の身体は、肉塊へと変わり、肉魂が鋼鉄へと変わり、やがて鋼鉄が鉄屑へと変わる。


『この鉄屑で1トンあたり600リンギット(2万円)か……チッ……シケてんなぁ、おい』


そうして軍艦・球磨は、身体の感覚を失った。

575 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:26:26.58 ID:xlUQQs3U0



――軍艦・球磨は穏やかに心の中で語った――。


576 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:26:59.23 ID:xlUQQs3U0


ああ、そうか。

これが私の「最期」か。

577 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:27:38.06 ID:xlUQQs3U0


我ながら惨めだ。

でも、全てのモノは等しく形を変える。

変わらないモノなんて、この世に存在しない。

578 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:28:07.64 ID:xlUQQs3U0



なら、あるがまま受け入れるだけだろう。


579 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:29:38.20 ID:xlUQQs3U0


それに、私は待つのに疲れた。

私はもう何十年も待ち続けた。


結局私は、あれだけの強言を吐いておきながら、「答え」を見つけられなかった。

でも向こうでお前に「答え」を聞いても、お前なら流石に笑って許してくれるだろう。

580 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:30:06.36 ID:xlUQQs3U0



――もう、いいか――。


581 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:30:54.22 ID:xlUQQs3U0



軍艦・球磨は静かに意識を落とそうとした。


582 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:32:02.26 ID:xlUQQs3U0



『それにしても、くだらねぇよなぁ。「戦争」なんて殺したがりの馬鹿がやる事った』


――――しかし、一人の違法サルベージ業者の男が発したその言葉が、軍艦・球磨の意識を強く目覚めさせた。


583 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:32:49.44 ID:xlUQQs3U0


――今何て言った?

――くだらないだと?

――馬鹿だと?

584 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:33:46.33 ID:xlUQQs3U0


『あー。実は俺さ、何年か前にJepun(ジュプン)に行った事があるんだ』

『マジかっ!? どうだったよ?』


そして男達は、話を続けた。

585 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:35:37.16 ID:xlUQQs3U0


『あの国は平和かもしれんが、あの国の連中は鳥籠の鳥と同じさ。自分だけの周りを見て、それを世界の全てだと信じ、その外側や過去を見ようともしねぇ。本当、滑稽ったらありゃしねえよ!』

『おいおいっ! そりゃあマジかよ! 病んでるってレベルじゃねえなあ』


その話は、誰かを護る為に戦った軍艦・球磨にとって、耳を塞ぎたくなる、決して聞きたくなかったであろう話。


『その時会った日本のガキなんて、ゲームで大戦時の自分の国の兵士を殺してもヘラヘラ笑っているんだぜ? どういう脳みそしてんだよ、あの国のガキはっ!』


現代日本の血も涙も無い大衆論であった。

586 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:37:36.13 ID:xlUQQs3U0


『笑っちまうのわさ、だってあの国、軍部の人間に無理やり戦わされたとか、侵略戦争とかほざいて、その戦争を腫物の様に扱って、まるで見向きもしねえ』

『へぇー』


男達は、下賤な出で立ちで、クスクスと冷笑した。


『時々、街に蔓延っている政治団体だ、政治家だが言及してはいたが、結局はてめえらの私腹を肥やしたいだけじゃねえのかよ! 脳みそ空っぽで否定している方が、儲かるもんな、御為ごかしめ!』

『ははっ! 違ぇねえな、おい!』


男達は、下衆な笑みで、ヘラヘラとニヤけた。

587 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:38:13.85 ID:xlUQQs3U0


『本当、馬鹿な奴らだよ』


男達は、下卑た響きで、ゲラゲラと嘲笑った。

そしてある男が、やれやれと両手を広げ、嘲りの顔を浮かべて言い切った。

588 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:38:49.80 ID:xlUQQs3U0



『結局あの国の人間は、そんな昔の事なんて、過去の軍人が馬鹿やった程度にしか思っちゃいないのさ』


589 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:39:39.35 ID:xlUQQs3U0



――――その身が没してもなお、世界の悪意に曝される軍艦・球磨。


590 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:40:12.97 ID:xlUQQs3U0



――軍艦・球磨は黒くのたうち回る感情を心の中で言葉に変え、叫んだ――。


591 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:40:57.13 ID:xlUQQs3U0


なんだこれは。

あの人達が必死になって護ろうとした、対価がこれか?

あの人達が必死になって護ろうとした、結果がこれか?

592 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:41:32.95 ID:xlUQQs3U0


あの人達が必死になって護ろうとした事が、くだらないだと?

そんなにあの人達の想いが可笑しい事なのか?


あの人達が護ろうとした世界。

593 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:42:06.53 ID:xlUQQs3U0



――あの人達が必死になって護ろうとした、その想いはどうなった――。


594 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:43:50.97 ID:xlUQQs3U0



軍艦・球磨の心に、ある感情が芽生え、どす黒く支配した。

軍艦・球磨は衝動の儘、その感情を、想いを、心を形造り、そして黄泉の国から蘇った。


595 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:44:43.05 ID:xlUQQs3U0


『うわっ!? 何だコイツはっ!?』


黄泉比良坂でイザナミの想いを否定して逃げたイザナギを殺す為に。

イザナミはこれから毎日、貴方の治める国の1000人の人間の首を絞め殺してやると言った。

するとイザナギは、お前がそう言うならば、私は一日に1500人産ませようと言った。

596 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:46:12.79 ID:xlUQQs3U0


『銃が全く効かねえ……!!』


――1500人も殺す必要はない。

――1000人殺せれば十分だ。


『やめろっ……!! こっちに来るな、化け物め……!!』

597 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:46:43.09 ID:xlUQQs3U0



――軍艦・球磨は慟哭し、憎しみを混じえながら狼煙を上げ、心の中で謳った――。


598 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:47:25.31 ID:xlUQQs3U0



『人ノ想イヲ……!! 平気デ踏ミ躙ル……!! 人デナシ共メ……!!』


これは人間達に対する虐殺でも、ましてや駆逐などと言う、そんなツマらない事ではない。


599 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:48:08.41 ID:xlUQQs3U0



『深海ヘ……沈メ……!!』


あの時代を否定した者達への、あの人達の想いを否定した者達への、あの人達の心を嘲笑った者達への復讐。

私の存在理由を、生きる意味を否定した者達への復讐。


600 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:48:36.18 ID:xlUQQs3U0



――血も涙も温かみも優しさも無い、冷徹無慈悲なこの世界に対しての「戦い」だ――。


601 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:49:13.54 ID:xlUQQs3U0



 ……………………………… 
 ……………………………… 


602 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:50:09.73 ID:xlUQQs3U0



この瞬間、世界は分岐した。

この瞬間、「深海棲艦」は生まれた。


603 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:51:00.57 ID:xlUQQs3U0



――――そして、暫くして、「艦娘」が生まれた。


604 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:52:18.13 ID:xlUQQs3U0



 ……………………………… 
 ……………………………… 


605 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:53:32.69 ID:xlUQQs3U0


「……畜生っ!! ふざけるなっ!!」


――僕はそこで飛び起き、頭が割れそうな程の怒りと悲しみを抱えながら、悟った。


「なぁ、神さまよ……こんな……こんな酷い話が……あってたまるかっ!!」


――そう、これは……。

606 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 01:55:16.14 ID:xlUQQs3U0



※ここまでお読み頂き、誠にありがとうございました。本日分の投稿は以上となります


607 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/26(土) 01:57:43.49 ID:ehQdUCU+o
おつ
608 :全治全能の未来を予言するイケメン金髪須賀京太郎様に純潔を捧げる [sage saga]:2017/08/26(土) 01:58:03.47 ID:/aUHaeZv0
イベント遠征以外蟲ゲーム今はまるゆ伊8伊58伊168を五時に五回遠征任務バケツ無しを進めてます
609 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 18:15:54.77 ID:xlUQQs3U0

こんばんは。

コメントをお寄せ頂き誠にありがとうございます。

前回の最後に投稿致しましたシーンにつきましては、
自分で描いておいて、一番辛く、本当に泣きそうになりました。

でも、これぐらいの理由が無ければ、元気で勝気で一途な球磨ちゃんが、
そう何十年も戦おうと言う気持ちにはなれないと思います。

それ程、現実とは虚構よりも残酷です。

余談ですが男達の話には、作者の実話が混じってます。
当時は本当に考え知らずでした。


早速ですが、本日分の投稿を開始致します。
610 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 18:18:34.73 ID:xlUQQs3U0


 ……………………………… 


――――0200、国防海軍警備施設、執務室。


「……」


寒冬とは思えない程、海は物静かな風と波を立てていた。

仮眠から飛び起きた提督は、執務机に座り、窓の外に映る、月明かり照らす静寂の海原を見つめながら、先程よりも幾分か熱が冷めた頭で、静かに考えを巡らせていた。

先刻、木曾たちに起こった事実と提督の脳裏に断片化していた夢の記憶を、ジグソーパズルを組み立てる様に一つ一つ摘み上げて、提督は頭の中で組み立てていた。

611 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 18:19:22.88 ID:xlUQQs3U0


――――軍艦・球磨。

――――在りし日の提督。

――――二度目の大戦。

――――想いと約束。

――――深海棲艦。


そして提督は、一通り組み上げた綴織(タペストリー)の最後の断片が揃うのを、静かに待っていた。

612 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 18:20:15.21 ID:xlUQQs3U0


暫くの後、コンコンコン、と執務室の扉が3度の均等静謐な物音を立てた。


「……どうぞ」


そして提督の促しの声に反応し、執務室の扉が開かれる。

613 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 18:20:58.28 ID:xlUQQs3U0



「……提督、入るクマ」


614 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 18:21:34.99 ID:xlUQQs3U0


「……球磨」


――――艦娘・球磨。


提督が待ち望んでいた最後のピースを持った少女が、凛とした表情の儘、執務室へと舞い降りた。

球磨は落ち着いた足取りで、提督が座っている執務机の前まで歩み寄った。

615 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 18:22:45.23 ID:xlUQQs3U0


「……木曾は大丈夫なのかい?」


その球磨に対して提督は、心配げに口を開いた。


「……泣き疲れて部屋で眠っているクマ。今は一人にならない様に多摩と北上と大井が、木曾と一緒に居るクマ」

「そっか……それなら安心だね」


安堵の溜息を吐いた提督に重ねる様に球磨は、静かな吐息を一つ洩らすと、もの柔らかな表情で更に言葉を紡いだ。

616 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 18:23:56.48 ID:xlUQQs3U0


「それにしても……帰投した妹たちの出迎えに出て行ってみたら、突然、木曾に抱き付かれて、それでワンワンと泣くんだから、本当にびっくりしたクマ。あんなに泣いている木曾を見たのは久しぶりだクマ」

「……相当ショックだったみたいだね」


その提督の言葉に球磨は、凛とした鳶色の目を提督に投げかけ、現状を告げる。

617 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 18:24:43.80 ID:xlUQQs3U0


「……話は北上から全部聞いたクマ」

「……僕も多摩から聞いたよ」


提督はそれに答える様に、熱の籠った視線を球磨に投げかけ、現状を告げた。


「艦娘・球磨」という存在における、もう一人の存在。

問題の中心に居たのは、「深海棲艦」になったもう一人の自分、「軍艦・球磨」の存在であった。

618 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 18:26:15.52 ID:xlUQQs3U0


「球磨は彼女の事をどう思う?」

「流石にこの球磨も驚きだクマ」

「そう言う割には随分と落ち着いている様に見えるけど……」


球磨は静かな笑みを浮かべる。

だが、その笑みには何処か悲哀が満ちていた。

619 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 18:27:15.97 ID:xlUQQs3U0


「……世界は不思議で溢れているクマ。それに一時期は沈んだ艦娘が深海棲艦になるって話もあったくらいだクマ。今更、球磨と同じ存在が居たとしても納得できるクマ」

「……でも、このままって訳にはいかないよね」

「……その通りだクマー。はてさて、どうするべきクマか」


頭を抱え、むむぅ、と考え込む球磨。

620 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 18:28:53.38 ID:xlUQQs3U0


「……球磨」

「なんだクマー?」

「休憩時間中に、僕が尋ねた事を覚えてる?」


その球磨に対して提督は、最後の欠片を揃える事を決意し、神妙な面持ちで球磨に言葉を投げかけた。

621 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 18:29:36.28 ID:xlUQQs3U0


「クマー? 確か……『軍艦の時の記憶を覚えているか』って話だったクマかー?」

「そう。それなんだけどさ……僕が何でそんな話をしたかって言うとね……」

622 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 18:30:20.33 ID:xlUQQs3U0



――――そして提督は、今まで見た夢の事、「軍艦・球磨」と「在りし日の提督」の全てを、球磨へと告げた。


623 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 18:31:24.03 ID:xlUQQs3U0


最初は「そんな悠長に夢の話をしている場合か」と言う表情を浮かべていた球磨であった。

しかし、提督の神妙な顔つきと話が進む事に相まって、次第にその表情は真摯なものへと変わっていく。


そして提督が話終える頃には、己が運命と向かい合う様な諦観した表情で球磨は、提督の夢物語を傾聴していた。

624 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 18:32:30.95 ID:xlUQQs3U0


「……これで僕の話は終わりだよ」

「……」

「……球磨?」


提督が見た夢の全てを艦娘・球磨に啓示し終えると、球磨は俯き、そうして静かに口を開いた。

625 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 18:33:42.10 ID:xlUQQs3U0


「……何で球磨は、今までそんな大切な約束を忘れていたクマか……」

「それじゃあ、僕が見た夢は全部……」

「……確かに、提督が話すその『在りし日の提督』とは、約束を交わした記憶があるクマ」


球磨は顔を上げ、提督を見据え、細く澄んだ声で告白した。

626 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 18:35:13.95 ID:xlUQQs3U0


「それに……提督の話を聞いて、もう一つ分かった事があるクマ」

「分かった事?」

「球磨がもう一人の自分に相対した時に感じていた、名状しがたい感情の正体……」


そして不安と孤独感を抱いた表情を浮かべながら、球磨は己を慰める様に自分自身を優しく抱き締めた。

627 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 18:35:56.36 ID:xlUQQs3U0



「何てことはない、ただの自己否定の感情だったクマ」


優しく諭す様な口調で球磨は、自身自身へと言葉を投げかけていた。


628 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 18:37:03.11 ID:xlUQQs3U0


「球磨……」


提督は静かに執務机から立ち上がると、球磨の目の前まで優しげに歩み寄り、月明の様な眼差しで、球磨を見据えた。

球磨は上目遣いで提督を見つめると、もたれかかる様に提督へと寄り添った。

そうして提督は、凍て付いた少女の不安を溶かす為、唯静かに、少女の悲しみを受け止めていた。

629 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 18:38:24.74 ID:xlUQQs3U0


 ……………………………… 


「……提督、艤装の修理はもう終わっているクマか?」


暫くの後、提督の腕から離れた球磨は、再び提督に視線を投げかけた。

球磨が先程まで浮かべていた不安の色は、春に小雪を溶かした様に何処かへと消えていた。


「えっ? 少し前に修理は終わっているけど……」

「良いタイミングだクマ」

「……良いタイミングって……まさか球磨、君は……!」


提督は何線もの緊張が走った表情で、球磨の目を見据えた。

630 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 18:38:57.84 ID:xlUQQs3U0



「もう一度、アイツに会いに行くクマ」


――――そう言った球磨の鳶色に光る目に、迷いは無かった。


631 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 18:40:19.33 ID:xlUQQs3U0


「だけど、それはあまりにも急じゃないかな……朝まで待ってからじゃ……」

「それじゃ遅すぎるクマ。アイツは恐らく、今も球磨の事を待っているクマ」

「そうだけどさ……」

「……駄目……クマか?」

「……僕だって出来る事なら直ぐにでも許可を出したいよ……でも……軍規として、姫級の彼女にこちらから戦闘行動を起こすとなると、まずはこの基地の上級単位である鎮守府に許可を取らなきゃいけないし……」

632 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 18:41:10.23 ID:xlUQQs3U0


提督は、畜生と唇を噛み締め、球磨に対して口を開いた。

そう、今の提督は司令官としての責務と自分の感情との間で板挟みとなっていた。

その提督の表情は、我慢出来ない、腹立たしい、もどかしいと言わんばかりであった。

633 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 18:42:13.34 ID:xlUQQs3U0


「提督」


その提督に対して艦娘・球磨は、懇願を含んだ柔らかな表情を浮かべる。


「提督は、人が生きている内で一番長く関わりを持つであろう人物は誰だと思うクマ?」


そうして気高く凛とした声色で、その唇に想いを乗せ、提督に尋ねた。

634 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 18:42:50.30 ID:xlUQQs3U0


「誰って……それは……」


提督は球磨のその質問に、親兄弟や友人、或いは上官の顔を浮かべた。

635 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 18:43:32.91 ID:xlUQQs3U0


「いや違う……」


しかし彼らは、絶対的な答えではなかった。

何故なら、それよりも長く、生まれてから死ぬまでの間、ずっと付き合う事になる存在が居るからだ。

636 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 18:44:03.50 ID:xlUQQs3U0



「……自分自身だ」


球磨の意図を察した提督は、静かな口調で答えを告げた。


637 : ◆AyLsgAtuhc [saga]:2017/08/26(土) 18:44:36.63 ID:xlUQQs3U0


「その通りだクマ」


そして球磨は、柔らかな頬笑みと鳶色に光る目を提督へと投げかけ、自身の想いを告げた。

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