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球磨「面倒みた相手には、いつまでも責任があるクマ」
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161 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/21(月) 23:41:38.87 ID:XBnaHpLy0
「煙幕展張にゃ!」
殿を務めていた多摩は、煙幕弾を射出し、直ぐに姫の視界を遮った。
海面を切り裂いて球磨に近付くと、容態を確認しながら、無線越しに言葉を投げかけた。
「こちら軽巡洋艦・多摩っ! 作戦司令室、聞こえるか!」
162 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/21(月) 23:42:57.09 ID:XBnaHpLy0
多摩は球磨の身体を抱きかかえ、己が間隔を頼りに、姫の居る方向へと指を示し続ける。
木曾、北上、大井は、多摩が指差した煙幕で視界が遮られた方向、姫が居るであろう方向に、ありったけの砲弾を叩き込んでいた。
『多摩っ! 一体そっちはどうなってるんだっ!? 球磨は無事なのかいっ!?』
「提督、説明は後にゃ! 球磨ちゃんは、見た感じ傷は酷いけど致命傷ではないにゃー! 直ぐに離脱するにゃー!」
『そうか……よかった……!! 直ぐに救護班を手配するよ! 至急、近くを航行する鎮守府主力部隊と合流、その護衛と共に帰投してくれ!』
「了解にゃ! 各員、砲撃しながら後退にゃ!」
163 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/21(月) 23:44:07.45 ID:XBnaHpLy0
その言葉を皮切りに、球磨を担いだ多摩が筆頭、次いで壁となる様に北上と大井、そして木曾を殿に、姫の方向に対して引き撃ちしながら後退を始める。
姫の姿は、煙幕が晴れる頃には霧中で視認出来ない程の距離にあり、十二分に逃げ切れる距離まで広がっていた。
164 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/21(月) 23:44:48.10 ID:XBnaHpLy0
『オ前ノ、ソノ目……』
そして撤退の際中、多摩に担がれた球磨であるが。
球磨は薄れ行く意識の中、木曾が援護に入る直前、姫が球磨に対して投げかけた言葉を、唯々心の中で反芻していた。
165 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/21(月) 23:45:51.41 ID:XBnaHpLy0
『……未だ、誰かの想いを胸に抱いて戦っているという訳か……その想いが、踏み躙られたとも知らずに』
166 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/21(月) 23:47:23.23 ID:XBnaHpLy0
※ここまでお読み頂き、誠にありがとうございました。本日分の投稿は以上となります
■修正■
>>50
本日の軍務である近海海路の海上警備任務の為、
↓
本日の軍務である近海航路の海上警備任務の為、
167 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/22(火) 01:39:02.99 ID:OLLeivpA0
おつです!
皆かっこいいけど、展開もなかなか早いw
168 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/22(火) 12:42:04.90 ID:bwQy79q20
乙
169 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/22(火) 15:17:50.83 ID:po2Xo0pvo
おつにゃ
170 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 21:49:04.65 ID:a8pmz1XW0
こんばんは。
コメントをお寄せ頂き誠にありがとうございます!
早速ですが、本日分の投稿を開始致します。
171 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 21:50:09.52 ID:a8pmz1XW0
………………………………
◆第2章:胸秘めた想い一つ
………………………………
172 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 21:52:28.24 ID:a8pmz1XW0
――――1941年11月、1520、佐世保鎮守府近郊、寺島水道、艦隊泊地。
『……うぅ……別に、退屈してない。充実してるっ』
――また、僕は夢を見た。
相変わらず天気は良く、海風は冷たく、季節は冬の初めである様に思われる。
無造作に着込んだ士官外套をはためかせ、参謀飾緒をその内側から見え隠れさせる男が一人。
「軍艦・球磨」の上甲板、その艦首付近に佇む男が一人。
以前見た夢では「大佐」と呼ばれていた男だ。
173 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 21:53:59.04 ID:a8pmz1XW0
「……そう言う割には、随分と不服そうだな」
だがその顔は、以前見た夢の時よりも、幾分か歳を重ねており、白髪が多く見受けられた。
大佐は艦首付近の手摺鎖に両手を置き、眼前に広がる大海原を見据え、重苦しく官製煙草の紫煙を燻らせていた。
174 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 21:55:42.44 ID:a8pmz1XW0
「うるさいっ! お前以外に喋れる奴が居ないのが悪い!」
そうして艦首付近には、大佐以外誰も居ないのにも関わらず、我儘娘が父親に「寂しかった」と噛み付く様な声色が響いていた。
175 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 21:57:32.23 ID:a8pmz1XW0
――その声色は、僕が知っている「艦娘・球磨」の声色と全く一緒だった。
176 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 21:59:28.33 ID:a8pmz1XW0
「それよりも参謀長の仕事はどうした?」
「視察だと言って抜け出してきた。今の私は『少将』だ。誰にも文句は言わせんよ」
以前、「大佐」と呼ばれていた男は、その上の将官である「少将」に地位を上げている事を告げた。
この階級から「閣下」「司令官」、あるいは「提督」と呼ばれるようになり、戦隊司令官、艦隊参謀長、海軍省各局長、軍令部各部長等を務めるなど、その影響力は帝国海軍の中でも絶大であった。
少将は今、艦隊泊地に停泊する「軍艦・球磨」に「視察」と言う名目で乗艦していた。
時折、慌しく歳の若い水兵たちが上甲板を往復する様子が伺えたものの、流石に自分たちの雲の上の存在である海軍少将が居る艦首付近に近付こうとする物好きは誰も居なかった。
故に少将は、誰にも話を聞かれる事無く、軍艦・球磨との会話を続けていた。
177 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 22:03:35.72 ID:a8pmz1XW0
「それに……せっかくの娘の晴れ舞台だしな。まぁ、馬子に衣装だな」
そう言った少将は、先程まで海に投げかけていた視線を、軍艦・球磨の艦橋や奥の中央甲板、そして備え付けられた主砲へと移した。
少将の場所からは艦橋や砲塔が邪魔して見え辛かったが、件の3本煙突の隣には内火艇が搭載されている。
中央甲板奥の魚雷積み込み用吊り柱(ダビット)付近には砲弾や魚雷が均等に並べられており、先程から水兵たちがせっせと最下甲板にある弾薬庫にそれらを運んでいた。
近代化改装によって後甲板に設置された航空機射出装置(カタパルト)の上に、九四式水上偵察機が一機、何時でも発艦出来る状態になっていた。
また主砲や甲板は、普段よりもずっと手入れが加えられ、見違えるほど綺麗に磨き上げられていた。
178 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 22:06:17.29 ID:a8pmz1XW0
軍艦・球磨は呆れた様な声色で、少将に言葉を返した。
「相変わらず少将はひねくれている。それに球磨は、少将の娘になった覚えはない」
その言葉に少将は、咥えていた煙草を噛み締め、むっとした表情を浮かべ、口を開いた。
「どれだけ貴様と一緒に居ると思っているんだ。2年近くの馬公での任務だけでは飽き足らず、艦長の任を解かれた後もだ。陸地任務で横須賀から呉に訪れた時は大体、貴様が居る。一寸前まで貴様が悠々と予備艦暮らしを送っている時もな。運命の悪戯か、私は今や貴様の生まれ故郷である佐世保の参謀長だ。これだけ長く一緒に居れば、貴様は私にとって娘の様なもんだ」
少女に対して早々と言葉を並べ、辛辣に捲し立てる少将の顔。
その言葉と声色とは相反して、むっとした表情から段々と嬉しそうな笑みを浮かべた。
そう話す少将は、どこからどう見ても反抗期の娘と話す父親の姿にそっくりであった。
179 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 22:07:15.80 ID:a8pmz1XW0
「……それとも、私に娘と呼ばれるのは嫌かね?」
そして自身が浮かべている表情に、はっとした少将は、表情を隠す様に笑みを無表情へと変え、咳払いの後、少し悲しげな口調で少女に尋ねた。
180 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 22:09:04.04 ID:a8pmz1XW0
「……ふっふっふっ〜、球磨を選ぶとは良い選択だ!」
だが少将の予想に反し、軍艦・球磨は歓楽の声を上げ、少将の言葉を受け入れた。
181 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 22:11:06.60 ID:a8pmz1XW0
少女の満面の笑みの返答に、「気恥ずかしい」と言わんばかりの柔らかな笑みを浮かべた少将。
ふいと少将は、とある文豪の随筆にあった『檣(マスト)の上へ帽子をかぶつてゐる軍艦』という紀行文の一節を思い出し、少女が軍帽を被り、こちらに向かって手をぶんぶんと振いている軍艦・球磨の姿を連想した。
「ふと思ったのだが……球磨型、つまり同型艦は、球磨も含め五隻存在している筈だ」
「そうだ。多摩、北上、大井、木曾、そして球磨の五隻だ」
「球磨みたいに話せる軍艦は、この中には居ないのか?」
それもあってか少将は、軍艦・球磨に疑問を投げかけた。
「一緒になる事は多々あった。だが、いくら呼びかけても、うんともすんとも返事しない」
そう尋ねられた軍艦・球磨は、暫く考えた後に、しょんぼりと口を開いた。
182 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 22:12:00.32 ID:a8pmz1XW0
「そうか、それは残念だな」
「……もし仮に、球磨と同じく軍艦に意志があったとしたら、どんな感じだと思う?」
「そうさなぁ……」
二本目の煙草に火を着け、煙を一口飲み込んだ少将は、腕組みをしながら、自身の考えを並べていった。
183 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 22:13:10.92 ID:a8pmz1XW0
「多摩は猫の様な性格だろう。自由奔放、悠々自適」
「多摩だけにか? えらく安直な発想だ。にゃあにゃあ」
「吾輩は多摩である、か」
少将は青年の時に文芸誌で読んだ小説の題名を引き合いに出し、その安直な発想に自分自身で苦笑していた。
そして猫の声真似をする軍艦・球磨に対し、少将は話を続けた。
184 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 22:15:48.27 ID:a8pmz1XW0
「北上、大井は今年、重雷装艦として改装を受けたな。ある意味、五姉妹の中でも取り分け仲が良さそうだ。仲良き事は美しき哉」
「君は君、我は我なり、されど仲良き。この先50年ぐらいはずっと一緒に居て欲しい」
「えらく遠い未来だな」
50年先の世界はどうなっているのか。
少将は想像を巡らすものの、全く想像が及ばなかった為、思考を停止させた。
それに艦艇の寿命は短い。
恐らく叶わぬ願いだろうと少将は思い、言葉を紡いだ。
185 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 22:17:13.78 ID:a8pmz1XW0
「木曾は末っ子だな。私の経験上、末っ子は一番上の兄姉を他の兄姉以上に特別視する傾向がある。良かったな、球磨。姉の背中をとてとて追う、可愛い妹が出来たぞ」
「女々しい、それでは球磨型の名が泣く。木曾が球磨型で最年少なら、木曾には球磨以上に凛々しくなって欲しいとは思う」
「そう言う割には、声色に説得力が全くないぞ」
そうやって喋る軍艦・球磨の声色は、まだ見ぬ妹に想いを馳せ、胸躍らす姉娘の姿そのものであった。
186 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 22:18:13.33 ID:a8pmz1XW0
「……もし叶うなら、何時かそんな日が来て欲しい」
軍艦・球磨は暫くの後、ふう、と溜息を吐き、現実に引き戻される事を憂いた声色で、少将に呼びかけた。
「……そうさな、何時かそんな日が来るといいな」
少将は足元に置いておいた灰皿を拾い上げ、先程までふかしていた煙草の火をもみ消した。
187 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 22:19:23.48 ID:a8pmz1XW0
「それにしても『合衆国及日本国間協定ノ基礎概略(ハル・ノート)』か……」
そして球磨と同じく、溜息を吐き捨て、本題に入った。
188 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 22:20:35.07 ID:a8pmz1XW0
「確か先日、米国の国務長官から出された提案書だったか?」
「ああ、その通りだ」
189 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 22:21:17.51 ID:a8pmz1XW0
この時既に、世界は戦火の炎に焼かれており、大日本帝国もまた、激動の時代、その更なるうねりに呑み込まれようとしていた。
190 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 22:23:05.74 ID:a8pmz1XW0
「昨今の日・米英情勢はもう最悪だ。先の米国の『対日石油禁輸』なんて殊更酷い。知っての通り、我が国は資源輸入国だ。特に石油資源は国家の血とも言える。石油9割は輸入、内7割は米国からだ。それが絶たれたとなると、これはもう死ねと言っている様なものだろう。お陰で軍部のお偉いさん方はお冠だ」
悩ましい、と言わんばかりの表情で空を仰ぎ、少将は話を続けた。
「そして今回の提示だ、これが起爆剤となった。もし模那可(モナコ)や呂克松堡(ルクセンブルク)の様な小国でも、同じ様な案を突き付けられたならば、同じく米国と戦うだろう。それぐらいの条件だ」
少将は官製煙草の箱を懐から取り出し、軽く振ってみるが、一本しか残ってなかった。
191 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 22:26:42.19 ID:a8pmz1XW0
「それにしたって米国は、いくら弱小国とは言え、日本に対する交渉を酷く曖昧なものに済ましている。『まさか日本が米英に対して宣戦布告何てしないだろう』という奴さん達の過小評価もあるかもしれんが……」
溜息を吐き捨てた少将は、残りの一本を口に加えると、ぐしゃりとその箱を握りつぶした。
「こうまでしてこちらを煽ってきたとなると、米国政府には厭戦感情が蔓延している世論を揺り動かす思惑があるのだろうな。特に同盟国の英国は、対独戦線もある。世界一の国力を持つ米国には、当然『連合国』陣営として、『大義名分』の元で参戦して欲しいだろう。それに今の日本は、開戦に燃える軍部が政治を担い、世論もまた『いよいよ始まる』と奮起している……丁度良い口実だ」
「つまり……球磨たちは、まんまと一杯食わされたって事か?」
その話を聞いていた軍艦・球磨は、「いけ好かない」と言わんばかりの声色で、口を開いた。
192 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 22:27:52.40 ID:a8pmz1XW0
「……まぁ、表向きはそうなってはいるが、実際はどうだか知らんよ」
「ん? 一寸待て、それはどういう事だ? 何と言うか、参謀長らしからぬ発言だ」
先程の話とは裏腹な、少将の何とも曖昧な答えに疑問を抱いた軍艦・球磨は、少将の真意を確かめる様に言葉を返した。
少将は煙草に火を付けると、息を整える様に、煙で肺を満たした。
193 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 22:29:59.17 ID:a8pmz1XW0
「確かに……私は少将で参謀長だ。ある程度の極秘情報も上から降りてくる。だが、一人の人間である以上、手に入る情報には限りがある。他にも他国の密偵による陰謀説、軍部の暴走、非白人に対する侵略戦争、地政学見解による太平洋における日米の覇権争い、歪んだ経済状況の末路……実に様々な思惑や理念が交錯している……どれが正解か……一概には言えんよ」
「他者の心の内幕までは語れないという事か。結局、真実は藪の中か」
「そういう事だ。全員が本当の事を言っているのかもしれないし、誰かが嘘をついているのかもしれない。或いは、全員間違った事を言っているのかもしれんな……少なくとも言えるのは、この国は二度目の大戦を経験するであろうという事だけだ」
そうして少将は、再び両手を手摺鎖に置くと、白波を穏やかに立てる寒海に視線を戻した。
その目はとても醒めているモノであった。
194 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 22:31:31.69 ID:a8pmz1XW0
「歴史は繰り返す、か……結局、それが正しい選択なのか球磨には分からん」
軍艦・球磨は、歴史と言う濁流に対する無常さと憂いに沈んだ声色で、少将に言葉を投げかけた。
少将は一服、紫煙を燻らせた後、軍艦・球磨に言葉を返した。
195 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 22:34:13.26 ID:a8pmz1XW0
「そうさな。一見、堅牢に思える道義心と言う城壁でさえ、時代の濁流によって、いとも簡単に押し流されてしまうものだ……関東大震災直後の未曾有の大混乱を知っている球磨なら周知の事実だろう」
「……いい加減な噂話で、他国民が虐殺された事件……無政府主義者が軍部の人間に殺された事件……人間という生き物は、大きな出来事に混乱している状態では、倫理観に反した事を容易に行う生き物だと常々思う」
「その通りだ。過去の歴史としてその事件を見据えている我々から言えば、愚かな行いとしか言いようがない……だが、果たして同じ状況になって、同じ様に正常な判断を下せるのか? 私には断言できないし、断言できるほど私は聖人君子でもない。我々が出来る事と言えば、その様な愚かな行為を戒めとして、その出来事を後世に伝えていく事だけだ」
「それ程、善悪の定義や真実とは脆いモノなんだな」
少将と軍艦・球磨は、人間という生き物の浅ましさや業を嘆く様に、話を続けた。
196 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 22:35:25.04 ID:a8pmz1XW0
「……そしてこれからの話だ。戦争が始まったら、悲しきかな善と悪、敵味方と言う二項対立でしかお互いを区別せざるを得ない。そうでもしないと、自分や家族……ひいては国を護れないからな」
「世知辛いな」
「ああ、世知辛い」
お互いの溜息の呼吸が、虚空に響いた。
そうして少将は、醒めた目で、手摺鎖を強く握り締めながら、言葉を紡いだ。
197 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 22:39:40.54 ID:a8pmz1XW0
「……とは言うが、実際はそんな簡単に割り切れる話じゃないんだ。歴史は常に次の時代の潮流に合わせて書き換えられる。帝国が悪い、米英が悪い。そんな短絡的な問題じゃない。元来、絶対的な真理なんて、誰もがおいそれと証明できる訳がない。何が正しいか、間違っているか何て、時代や地域よって変わる。だが……」
そう言いながら少将は、先程火を付けたばかりの煙草を、さっさと足元の灰皿に押し付けた。
「もし正しい事があるとすれば、それは極めて個人主義的な思考、個々の信念……即ち、清らかな想いだけだ」
「……清らかな想い?」
そうして少将は踵を返し、軍艦・球磨の羅針艦橋付近を見据え、口を開いた。
「そうだ。それは時に他者の想いとぶつかり合い、どちらかが負けるという、自然淘汰の一幕に過ぎん。自分が想いを抱き、正しいと信じた結果だ。結果がどんな形であれ、責任は自分自身で負わねばなるまいて」
軍艦・球磨の艦橋を見据えた少将の目は、真剣であった。
198 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 22:41:00.28 ID:a8pmz1XW0
「だがな球磨、これだけは努々忘れるな。他者の清らかな想いという領分、その深淵を侵す者には、それ相応の報いが返るだろう」
「……分かった。努々忘れない」
その少将の言葉に軍艦・球磨は、大きく頷く様に力強く答えた。
199 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 22:42:25.52 ID:a8pmz1XW0
「……何が本当の事で、何が正しくて、何が間違っていたか……何度も言う様に、そんな歴史の真実なんて、時代や時間と共に、後世の歴史家たちによって絶えず変化し、そして書き換えられる。何にせよ、何かしらの解釈は加えられる事だろう」
その声を聞いた少将は、更に言葉を続けた。
「そして、この戦争の先に、きっと華やかしい未来が待っている。群衆も軍人も一部を除いて、皆そう思っている。そう、私たちが最善手だと思って始めた事だ。もう誰にも止められん」
200 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 22:43:56.65 ID:a8pmz1XW0
ふと、思い出したかの様に少将は、軍艦・球磨に対して、言葉を投げかけた。
「球磨は……確か、第三艦隊、第十六戦隊所属だったか?」
「そうだ」
「私も第五艦隊隷下の司令官として戦う事になった」
「なるほど……なら、『提督』と呼んだ方がいいか?」
軍艦・球磨の問いかけに、少将は暫くの後、答えた。
201 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 22:44:43.86 ID:a8pmz1XW0
「私はどちらでもいい」
「なら、今後は『提督』と呼ぶ」
202 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 22:45:23.21 ID:a8pmz1XW0
――私も……随分と遠くへ来てしまったな。
軍艦・球磨の「提督」という呼び掛けに少将は、何とも言えぬ寂寥感を胸に、心の中で呟いた。
203 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 22:46:01.29 ID:a8pmz1XW0
「……てーとく」
「……何だ?」
軍艦・球磨は、早速「提督」へと呼びかける。
204 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 22:46:42.53 ID:a8pmz1XW0
「提督は……この戦争に勝てると思うか?」
だが、その声色は不安を孕んでいた。
205 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 22:48:41.19 ID:a8pmz1XW0
「……蜘蛛の糸を掴む様なものだな……私も昔、視察に行った事があるが、米英の国力は計り知れん。帝国軍人の言う台詞では無いが、この戦争、九分九厘負けるだろう」
「やはりそうか……」
軍艦・球磨は落胆の声を上げた。
その言葉を聞いた少将は、軍人らしく後ろで手を組むと、カンカンと軍靴を鳴らし、主錨鎖を跨ぎながら、言葉を吐いた。
206 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 22:50:38.11 ID:a8pmz1XW0
「……だが可能性はゼロではない。開戦から1年……いや、半年が勝負の分かれ目だな」
その少女の落胆の声を紛らわせる様に、少将は言った。
「幸いにもこちらの兵の士気は高い。それまでにある程度、こちらが勝利を残し、かつこちらが妥協する形で米英と講和に持ち込むしかない。それ以上、戦争が長引くなら、物資不足は免れん。ジリ貧は必須。結果、我々は大敗する」
だがその言葉が、気休め以上の意味を成さないであろう事は、お互いが分かっていた。
207 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 22:51:33.78 ID:a8pmz1XW0
「……開戦となった場合、大日本帝国が生き残るには、もはやそれしか道は残されていないだろう……まぁ、戦争なんて一つの時代のうねりに過ぎん。自然を人間が制御出来ないのと同様、軍人である私にも、軍艦である球磨にも、こればっかしはどうする事も出来ない」
「時代のうねりか。なんだかやるせない」
「……そうさな」
そう返した少将は、暫くの間、艦首付近の鉄板装甲の上をのそのそと歩いていた。
208 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 22:52:35.78 ID:a8pmz1XW0
その少将の姿を見据えていた軍艦・球磨。
「……前からずっと気になっていた」
球磨には、その少将の姿が一軍人と言うよりかは、むしろ一学者の様に思えてならなかった。
209 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 22:53:31.16 ID:a8pmz1XW0
「提督は何で、軍人になった?」
そうして軍艦・球磨は、長年気になっていた問いを、少将に対して投げかけた。
「……どういう事だ?」
その言葉に少将は、足を止め、怪訝そうに顔を上げた。
210 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 22:54:24.46 ID:a8pmz1XW0
「球磨は提督ともう何年も一緒に居たから分かる。正直言って提督は……軍人にしては、些か繊細過ぎる」
そして軍艦・球磨は、少将の核心に迫る為に、言葉を続けた。
211 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 22:55:33.02 ID:a8pmz1XW0
「本当は戦いたくない、誰も傷付けたくない、血だって見たくない。提督が何時もそんな顔を浮かべている事を、球磨は知っている」
「……」
「今だってそうだ。平然と隠しているつもりだろうけど、素面に見えるその瞳の奥、その誰かの事を憂いて潤んだ提督の目を、球磨は知っている」
その言葉に少将は、思わず艦橋から視線を逸らし、軍艦・球磨の慧眼に対して感服の微笑を浮かべた。
212 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 22:56:23.15 ID:a8pmz1XW0
「そんな男が何故、戦いに身を投じる立場の人間になったのか……球磨はずっと気になっていた」
軍艦・球磨は、母親が子を諭す様な柔らかな声色で、少将に尋ねた。
213 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 22:57:16.43 ID:a8pmz1XW0
「……私が選んだのではない。天に選ばれ、流れの儘なっただけに過ぎん」
軍艦・球磨の言葉に、暫く俯いていた少将。
少将は顔を上げると、諦観を含んだ笑みを浮かべ、軍艦・球磨に答えた。
214 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 22:58:52.50 ID:a8pmz1XW0
「私はかつての憧れの様に、軍人でありながら小説家として大成する事を夢見ていた。だが所詮、私は有象無象の一人に過ぎなかった。志半ば、私は諦めた……だが、今にして思えばそれで良かったのだと思う」
「どうしてだ?」
「私は悟ったのだ、天命をな。天は二物を与えん。私に与えられたのは少将と言う地位と、それを可能にする能力だけだった。だから、それを生かす事に決めたのだ」
少将の「天命」という言葉を口にしたその表情は、「天命」に対する一種の畏怖と敬虔の念が含まれていた。
215 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 23:00:51.31 ID:a8pmz1XW0
「そして私は自分勝手な男だ。私は他者の為に生きようとした事は一度もない。その分、他者にも干渉しない。他者の行くべき道を決めるのは、あくまで他者自身だからな」
「まるで個人主義者の様な言いぐさだ」
「そうさ。私は個人主義者だ」
軍艦・球磨の的を射た言葉に少将は、「その通りだ」と言わんばかりの笑みを投げかけ、己の考えを述べた。
216 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 23:02:31.10 ID:a8pmz1XW0
「私は何処の党派や思想団体にも属さない。何故なら、人は群れれば群れるだけ、他者に考えを委ね、自身で考える事を放棄するからだ。中道で無ければ、全てを哲学的に批判しなければ、目に見えない大切なモノを何処かで見失ってしまう」
「目に見えない大切なモノ?」
「政治や損得さえも超越した、自身がかつて抱いていた信念、清らかな想いだ。それらが失われた時、人は自分の生きる意味さえも見失う」
217 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 23:03:35.87 ID:a8pmz1XW0
そうして少将は、一点の微睡の無い目を掲げ。
「だからこそ私は、私が生きている意味を見出す為、軍人として国民を、ひいては国を護る任……誰かを護る為の任に、私は就いているのだ」
――――自分自身の清らかな想い、己が「生きる意味」を軍艦・球磨へと宣言した。
218 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 23:04:32.37 ID:a8pmz1XW0
「それが提督が軍人になった理由でもあり、提督の清らかな想い、提督の生きる意味という事か」
その宣言を聞いた軍艦・球磨は、その想いを飲み込むように反芻した。
219 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 23:06:24.90 ID:a8pmz1XW0
「そうだ。陳腐で使い古された言葉だが、その奥底に私は、眩い程の輝きを、私にとっての生きる意味を見出したのだ。その為なら、私の命など安いモノだ」
そして少将は、信念と熱量を纏った眼差しを掲げ、艦首旗竿に揺蕩う日章旗を見据えた。
「だからな、球磨。帝国海軍の代表として告げる」
少将のその目は、とても言葉では言い表せない程、激しく熱く輝いていた。
220 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 23:07:14.31 ID:a8pmz1XW0
「海の上では私たち人間は無力だ。どんな形であれ、私たちの代わりに戦って欲しい。私たちを、この国を護って欲しい。そして、その先にある、平和を勝ち取って欲しい」
その少将の瞳は、月明かりの様に静かに、強く輝いていた。
221 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 23:08:32.19 ID:a8pmz1XW0
「これが私……いや君に乗艦して戦うであろう水兵たち……私たちの想いだ」
ここまでギラギラと血潮を滾らせた様な目を抱いた人物を、軍艦・球磨は今まで見た事が無かった。
暫くの間、沈黙と緊張の線が、辺りに走っていた。
222 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 23:09:12.62 ID:a8pmz1XW0
「……言わずもがな」
そして軍艦・球磨は、口を開いた。
223 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 23:10:31.24 ID:a8pmz1XW0
「球磨は誰かを護る為に軍艦として生み出された存在だ。お前たちの想いを乗せて戦う。それが球磨の生まれた意味であり、球磨の存在理由だ」
少将の想い。
その月明かりに負けないくらいの満面の笑みを浮かべた声色で、軍艦・球磨はその想いを胸に秘めた。
224 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 23:11:26.56 ID:a8pmz1XW0
「ありがとう」
思わずその声色に負けそうになった少将は、それと同じぐらいの熱量、だが優しげな声色で、軍艦・球磨に言葉を返した。
225 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 23:12:20.74 ID:a8pmz1XW0
「……一寸、長居し過ぎたな」
少将は、ふと思い出したかの様に懐中時計に視線を落とし、隅にあった灰皿を拾い上げると、中空へと言葉を投げかけた。
「球磨、私はそろそろ行く。次はお互い、戦場で会おう」
「また会おう、提督」
226 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 23:13:26.35 ID:a8pmz1XW0
――――そして二人は、暫しの別れを告げると、其々の戦いの場、その世界の濁流へと身を投じて行った。
227 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 23:15:37.49 ID:a8pmz1XW0
………………………………
――――1941年12月8日未明、アメリカ合衆国ハワイ準州オアフ島、真珠湾。
様々な思惑、理念、そして清らかな想い。
それらはやがて全てが絡み合い、グチャグチャと粘着質な音を立てながら凝固し、楔となりて歴史に打ち込まれる事であろう。
『・・‐・・ ・・・(ワレ奇襲ニ成功セリ。突撃、雷撃隊)』
攻撃隊隊長・淵田美津雄中佐の搭乗する九七式艦上攻撃機から、第一航空艦隊司令部の旗艦である「空母・赤城」宛てに、モールス式信号の電文が発信される。
そうして「真珠湾奇襲攻撃作戦」の始まりを告げた。
228 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 23:16:49.80 ID:a8pmz1XW0
人間が狂乱して「虎」に変わり果てると言う逸話は、東洋ではポピュラーな話である。
だが、一つの戦争の始まりを告げる言葉が奇しくも同じ単語であったと言う事は、単なる偶然なのだろうか。
或いは何かの本質の一端を言い当てた言葉なのだろうか。
今この時をもって、賽は投げられた。
大日本帝国はこの先、赤黒く染まった大戦という斜陽の道程を歩む事になるだろう。
果たしてその行いは、時代に、人々に、そして後世に対してどんな傷痕を残す結果となるのだろうか。
229 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 23:17:37.68 ID:a8pmz1XW0
――――後の歴史書に『大東亜戦争』或いは『太平洋戦争』と綴られるであろう、凄惨な悲劇の幕が切って落とされたのであった。
230 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 23:18:28.25 ID:a8pmz1XW0
………………………………
………………………………
231 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 23:19:38.78 ID:a8pmz1XW0
「……本当……何なんだろう、この夢は……」
――僕はそこで、夢から覚めた。
232 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 23:22:51.24 ID:a8pmz1XW0
………………………………
――――1520、国防海軍警備施設、執務室。
『もう少しで死ぬところだったクマー!』
そう叫んでいたのは、以前、命の危機を救った駆逐艦娘小隊が所属する鎮守府司令官から、その感謝の印として贈られた鳳梨酥(パイナップルケーキ)を栗鼠の様にぷっくらと頬を張らせながら食べている、艦娘・球磨であった。
先週、遭遇した姫にこっ酷くやられた球磨は、帰還後、有無を言わさず入渠ドッグで高速修復材を用いた集中治療を受けた。
その後、球磨の傷は綺麗さっぱり癒えたものの、酷使しまくった艤装のダメージが思った以上に大きかった為、艤装の修理が完了するまでの数日間、後援救助部隊の旗艦は多摩に任せ、執務室で秘書艦業務に精を出す結果となった。
233 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 23:35:20.15 ID:a8pmz1XW0
「まったく……」
そして大きな安堵の溜息を吐き捨て、湯呑を片手で持ち、同じく感謝の印として贈られた烏龍茶を渋い顔で啜る提督は、執務室の一角に備え付けられた応接机に球磨と対面して座り、球磨曰く「ゆとりの行動」を取っていた。
つまるところ、3時のおやつの休憩時間であった。
球磨と提督は、球磨が着任した際に買い揃えた中々にして上物の茶器揃で、のんびりと一服していた。
234 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 23:37:26.44 ID:a8pmz1XW0
「……確かに、姫級があの海域に展開しているとは思わなかったし……そこは僕のミスでもあるよ……でも正直なところ、球磨だったら、適切かつ妥当に攻撃をいなして、さっさと離脱するかなと思ってたから、そこまで心配はしてなかったんだけどさ……」
鳳梨酥をモグモグとにっこり嬉しそうに食べる球磨を見ながら、提督は烏龍茶を一口啜り、言葉を紡いだ。
235 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 23:38:34.08 ID:a8pmz1XW0
「まさか姫級に対して単騎で突貫仕掛けるとは思わなかったよ……しかも僕の再三の呼び掛けを一切無視してさ……本当、勘弁してくれよ……」
「……ごめんなさい」
しゅんと上目遣いで申し訳なさそうに謝る球磨の姿を見て、提督もこれ以上怒るに怒れず、溜息をもう一つ吐いて、球磨に問いかけた。
236 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 23:40:58.17 ID:a8pmz1XW0
「それにしても本当……何時もの球磨らしくないよ。どうしてそんな考えに至ったんだい?」
「……正直、球磨にもよく分からないクマ」
しょんぼりとした顔の儘、鳳梨酥を摘まんだ球磨は、腕を組み、頭の上に疑問符を浮かべながら答えた。
237 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 23:43:45.82 ID:a8pmz1XW0
「だけど姫と対峙した時、球磨は名状しがたい感情に支配されたクマ」
「名状しがたい感情?」
そして球磨は、重苦しい顔を浮かべ、その時の出来事を回想した。
238 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 23:45:00.81 ID:a8pmz1XW0
「……怒り、恐怖、嫌悪、悲しみ、そして憐れみ……それらがグチャグチャに入り混じった様な感情……球磨にもその感情が何処から来たのか分からなかったクマ……そうして、球磨はある考えに至ったクマ」
一つ一つの感情を紐解く様に語っていく球磨に対して、提督は訪ねた。
「ある……考え?」
その問いかけに、球磨は一呼吸の後、重い表情で答えた。
239 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 23:46:02.35 ID:a8pmz1XW0
「あの姫を何が何でも倒さなければならない、と」
240 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 23:49:32.13 ID:a8pmz1XW0
その球磨の言葉を聞いた提督は、烏龍茶をまた一口啜り、自分の首に手を添える。
「……」
そしてそれ以上、話を続けるべきか悩み、言葉を探していた。
その様子を察した球磨は、先程の表情とは打って変わり、悪戯な笑みを含んだ表情を、提督へと投げかけた。
「それにしても……普段、冷静沈着な提督があんなに叫んでる姿を見たのは球磨も初めてだクマー」
「……僕だってあんなに叫んだのは本当、久しぶりだよ……まぁ、何はともあれ、人死には無かったんだ。これで良しとしよう」
241 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 23:51:37.33 ID:a8pmz1XW0
そう言ってほっと胸を撫で下ろした提督。
それに対して球磨は、まるで「この場に居るのは間違いなのではないか」とでも提督に言いたげな表情を浮かべた。
「……でも、艦娘以前に、球磨たちは軍人だから、死ぬ事は当たり前だクマ。まだ人死にが出てないとは言え、提督はもうちょっと慣れた方がいいクマー」
「……軍人だから死ぬ事は当たり前とは言ってもなぁ……それは十二分に理解してはいるが……自分が居なくなる事よりも、球磨に限らず、見知った顔がある日突然居なく事の方が、ずっと辛いんだよ……」
242 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 23:53:12.47 ID:a8pmz1XW0
そう答えた提督は、机に肘を置きながら、こめかみを手で押さえた。
そして唇を悔しげに噛み締めた提督の表情は、重く、苦しそうであった。
恐らく昔の出来事を想起してるのか、目が潤んでいる。
提督の過去に何があったのか、球磨には分からなかったが、話の流れから察する限り、恐らくはそう言う事なのだろうと思った。
球磨は小さく吐息を洩らし、物優しげな表情を浮かべ、提督に対して穏やかに諭した。
243 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 23:56:23.44 ID:a8pmz1XW0
「本当、提督は軍人に向いていないクマ。何で提督が未だに軍人をやっているのか、球磨にも分からないクマー」
「……以前、所属していた降下救助員や特警隊の奴らにもよく言われたよ。『お前は優秀だが、如何せん優しすぎる。お前の精神がぶっ壊れる前に辞めた方がいいぜ』ってね」
提督は大きく溜息を吐き、残りの烏龍茶を一気飲みしてから、頭を抱え、球磨に愚痴をぽいぽいと投げかけた。
「こんな事だったら司令官なんて引き受けなきゃよかったよ……誰だよ、地位が上がれば役得が増える何て言った奴は……地位が上がれば上がる程、役損ばかりが増えていくじゃないか……あの時点で退職しとけば良かったんだ……そもそもあの時、海軍に入隊しなきゃ……」
244 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 23:57:14.54 ID:a8pmz1XW0
――そこまで言うなら辞めればいいのに。
球磨は純粋な親心からそう思ったが、それが口に出される事は無かった。
何故なら、そう毒づきながら話す提督の目は、とても言葉では言い表せない程、激しく熱く輝いていたからだ。
245 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 23:58:24.51 ID:a8pmz1XW0
――球磨は思った――。
提督が言っている事は、恐らく本心だろう。
しかし、それを差し置いた「何か」が提督の心にあるのも確かだ。
第一に、いくら後詰の司令官とは言え、司令官という地位を得るには、数々の難易度の高い課程や試験、それをパスするだけの資質や才能、そして相応の実績が無ければ、決して得られる地位では無い。
246 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/22(火) 23:59:29.14 ID:a8pmz1XW0
そして、これ程の信念と熱量を纏った眼差しを掲げた人物を、球磨は知らない。
これ程、ギラギラと血潮を滾らせた様な目を抱いた人物が、果たしてこの世にどれだけ存在するのだろうか。
――恐らく提督には提督なりの、己が精神、ましてや命さえも厭わない想いがあるからこそ、今この場所に立っているのだろう――。
247 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/23(水) 00:01:32.13 ID:sdjKegg/0
………………………………
一通り仕事の愚痴を溢した提督は、ふう、と溜息を吐き、呆れ顔の球磨を見据えて、申し訳なさそうに口を開いた。
「ごめんね、色々愚痴っちゃって……司令官って立場上、こんな弱音を吐けるのは球磨ぐらいしか居ないからさ」
「なぁに、気にするなクマ。これも秘書艦業務の内だクマ」
だが球磨の呆れ顔には、不思議と優しさが混じっていた。
248 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/23(水) 00:02:51.64 ID:sdjKegg/0
「なぁ、球磨。変な事を聞くようだけどさ」
その表情を見た提督は、ふと、思い出したかの様に尋ねた。
「球磨には、軍艦の時の記憶ってあったりするのかい?」
249 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/23(水) 00:04:36.73 ID:sdjKegg/0
以前見た「軍艦・球磨」と「少将」の夢。
それが只の夢なのか、何かの意味を孕んだモノなのか。
提督は気になり、「艦娘・球磨」に尋ねた。
250 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/23(水) 00:05:50.80 ID:sdjKegg/0
「正確には魂だけクマ。それでも、断片的になら思い出せるクマよ」
そして球磨は、その提督の質問に少々訝しげな表情を浮かべながら、提督に答えた。
「そっか……なら、聞いてもいいかい?」
「別にいいけど……」
球磨は、顔に恥じらいの朱を掠めながら、提督に告げた。
251 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/23(水) 00:11:02.81 ID:sdjKegg/0
「……正直言って球磨の歴史(過去)なんて聞いてもちっとも面白くないクマよ? 他の艦艇みたいに『沈んだ敵艦の水兵を助けた』みたいな美談も無ければ、『艦体が真っ二つになっても最後まで勇猛果敢に戦った』なんて武勇伝もない。ましてや『相次ぐ激戦をほぼ無傷で生き延びて武勲を立てまくった』みたいな伝説めいた幸運譚もないクマー」
薄紅に頬を染めた球磨は、もじもじとしながら、提督に言葉を繋げた。
252 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/23(水) 00:11:55.36 ID:sdjKegg/0
「それでも……聞きたいクマか?」
「うん、それでも僕は聞きたいんだ。そうした歴史舞台の裏側で、球磨が一体何をしていたのかをね」
その球磨の言葉に、提督は即答した。
その提督の言葉に、球磨は真ん丸と目を見開き、そして嬉しそうな笑みを浮かべた。
253 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/23(水) 00:13:21.21 ID:sdjKegg/0
「……分かった、それなら話すクマ」
「ありがとう」
「ちなみに球磨自身もうろ覚えの部分があるから、もし間違っていたりしたらごめんクマ。それと、最初っから話すとなると、ちょっと話が長くなるクマー」
「それでも構わないよ」
「まぁ、まだお茶も残ってるし、茶菓子の足しにでもすればいいクマ」
254 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/23(水) 00:14:27.80 ID:sdjKegg/0
――――そして艦娘・球磨は、静かに語った。
――――己が生きた激動の時代、その歴史の一幕を。
255 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/23(水) 00:17:23.66 ID:sdjKegg/0
「球磨が生まれたのは1919年頃、丁度、大正の真ん中ぐらいだったクマ。『八四艦隊案』で産み出された球磨は直ぐに『シベリア出兵』の為、シベリアへの軍の上陸を掩護したり、中国沿岸の哨戒をしていたクマー。『シベリア撤兵』の際にも旅順を拠点として中国沿岸の哨戒任務に従事していたクマ。この頃の球磨は、意外どころかメチャクチャ優秀だったクマ! 向かうところ、敵なしだったクマー。でも、撤兵の翌年……『関東大震災』によって世の中の常識が全てぶち壊され、国内は未曾有の大混乱に陥ったクマ。あの当時はもう本当、しっちゃかめっちゃかだったクマ。まぁ、そんな時代に球磨は生まれたクマ」
――――球磨の生まれた時の事。
「海軍の迷走はこの時から始まっていたのかもしれないクマ……陸軍との方向性の違いによる不仲、海上航路(シーレーン)保護の理解不足……極めつけは『八八艦隊計画』。知っての通り、戦艦8、巡洋艦8、第二線の主力艦8の計24隻を8年周期で補充する計画だクマー。正気の沙汰とは思えないクマ。そんな大艦隊を平時に持ってたら、日本経済が傾くどころか、国庫が吹き飛んで、然る後ペンペン草も生えないレベルだクマー。日露戦争でバルチック艦隊を撃破した事にどれだけ浮足立ってたクマかー? ……いや、よくよく思い返してみたら、あの当時は他国も頭のネジが全部吹き飛んだ様な計画を立ててたクマー。だから共倒れになる前に『ワシントン軍縮条約』で主力艦の保有制限が設けられたクマ」
――――海軍の迷走。
256 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/23(水) 00:22:32.27 ID:sdjKegg/0
「そういえば俗に言う飴と鞭の法律『普通選挙法』と『治安維持法』の制定も、それから数年後の出来事だったクマ。世の中が段々とキナ臭くなり始めたのもこの頃だったクマ。そして……球磨の名付け親でもある『大正天皇』が崩御され、また時同じくして、当時の文豪が自ら命を絶ったクマ。『ぼんやりとした不安』とはよく言ったものだクマ。超個人的な理由で自ら命を絶ったとはいえ、これから先の出来事を考えると、そうした動乱の時代を予感した様に思えなくも無かったクマ。そうして『大正』の時代が終わったクマ」
――――激動と混沌の「大正」の終焉。
「『大正』が終わり、『昭和』に入って球磨を待っていたのは『世界恐慌』という混迷だったクマ。ニューヨーク株式が大暴落を起こし、世界経済は地に落ちたクマ。一度目の大戦で景気を良くした事を良い事に、加減も知らずバカスカ投資しまくるからこんな事になるクマー。あれ……? 昨今にも似た様な話があった気がするクマー?」
――――そして動乱と混迷の「昭和」の始まり。
257 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/23(水) 00:29:13.34 ID:sdjKegg/0
「これにより日本経済も地に落ち、深刻な社会不安が、国内に鬱積していったクマ。そして『ワシントン体制』と『中国ナショナリズム』の挟撃に対する現場の憤懣が頂点に達し、関東軍が政府決定なしに中国の鉄道を爆破、自衛と言う名目で攻撃を行い、同地を占領。知っての通りこれが『満州事変』だクマー。日本の『国際連盟』脱退もこの頃だクマ。そして世論が軍部支持に傾向した事により、文民統制が完全に崩壊、軍国主義に走り出したクマ。ちなみにこの時の球磨は、高雄だったり馬公だったり旅順だったり、中国沿岸を行ったり来たりしていたクマー」
――――「満州事変」という種火、国際社会からの孤立。
「これもあり、日中関係は緊張を増し始め、そして偶発的とは言え『盧溝橋事件』が発生、『日中戦争』が始まったクマ。たった数発の銃声から始まった戦争が、次第に全面戦争へ、そして泥沼化していったクマ。そうした中、先の第一次世界大戦後に敷かれた『ベルサイユ体制』に対しての不満が爆発したドイツ世論、ひいてはちょび髭のアドルフおじさんがポーランドに侵攻、英仏による宣戦布告よって『第二次世界大戦』が始まったクマ。また日本、ドイツ、イタリアが『三国同盟』を締結した事によって、日本は完全に『枢軸国』陣営に就いたクマ。そして日中戦争の長期化の原因の一つである米英の中国に対する物資支援、後は『ABCD包囲網』などによって、ここからどんどん日・米英関係が悪化していったクマー。……はてさて、この頃の球磨はと言うと、日中戦争始めの頃は、第三艦隊所属として日中戦争に従軍したり、第四艦隊隷下の潜水戦隊の旗艦として活躍したりもしてたけど、既に艦齢は20年近く経っていたクマ。流石の球磨もここまでクマ、後は予備艦生活でのんびり余生を過ごそうかと思った矢先に……」
――――「日中戦争」の泥沼化、「第二次世界大戦」の始まり。
258 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/23(水) 00:29:56.52 ID:sdjKegg/0
「『太平洋戦争』が始まったクマ」
――――そして「太平洋戦争」の始まり。
259 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/23(水) 00:34:20.11 ID:sdjKegg/0
「第三艦隊の『第十六戦隊』に配属された球磨は、『真珠湾攻撃』直後、『比島(フィリピン)攻略作戦』に参加して部隊の上陸を掩護したクマー。その後、新編された『第三南遣艦隊』の旗艦として戦線に立ったクマ。フィリピンの海で球磨は、敵艦をちぎっては投げまくったクマ。やっぱり球磨は、意外と優秀クマー! ……そういえば上陸作戦の時、球磨に搭乗していた特別陸戦隊がザンゴアンガに上陸して、取り残されていた同胞を救出したクマー。流石、海兵団の古強者が多いだけあって、そのお手並みはとても鮮やかだったクマー! 球磨も見習いたいクマー!」
――――帝国の快進撃、栄光の半年。
「……だけど、それは泡沫の栄光だったクマ。開戦から六ヶ月後、突如告げられた『ミッドウェー海戦』の大敗によって、これ以降、日本は敗退の道を辿る事になるクマ。それでも、その裏で球磨は、来る日も来る日もせっせと働き続けたクマ」
――――歴史の分岐点、日出る帝国の斜陽の始まり。
260 :
◆AyLsgAtuhc
[saga]:2017/08/23(水) 00:37:40.00 ID:sdjKegg/0
「部隊の仲間には『足柄』や『長良』が居たクマ。それに馬公で丁度一緒になった『摩耶』とも出撃した事があるクマ。第三南遣艦隊の旗艦の後は、再び『第十六戦隊』へと戻り、『鬼怒』とも一緒に戦ったクマ。後は『北上』と『大井』とも一緒になった事があるクマ。そう言えば……北上と大井はこの基地に居るとして、確か皆は、提督の知り合いの鎮守府に所属していた筈だクマー! 久々に会いたくなったクマ―!」
――――共に戦地を駆け抜けた戦友たち。
「フィリピン侵攻作戦が一段落した安堵からか、球磨は『水雷艇・雉』を連れて夜な夜なノロノロと航行していたクマ。だけど、それがいけなかったクマ。未明道中、米魚雷艇に遭遇、それにいち早く気付いた水兵はサーチライトを照射、同時に奴さんの雷撃が始まったクマ。そして……反航戦で衝突すれすれまで接近された球磨に対して、奴さんは魚雷二発を発射。そこで一発が艦首に当たったクマ! この球磨をもってしても、ここまでと覚悟したクマ……だけど何故か魚雷は爆発しなかったクマ。なんと命中した筈の魚雷は、ぽきりと真っ二つに折れて沈んで行ったクマー。恐らくあの場に居た全員が首を傾げていたクマ。まぁ、そんな訳で球磨は九死に一生を得たクマー。あの時は本当、もう少しで死ぬところだったクマー」
――――幸運を味方に付けた一戦。
「ある日シンガポールにイタリア巡洋艦が停泊していたクマ。だけどそのイタリア艦は、言ってしまえば裏切る可能性があったクマ。何故なら、イタリアの降伏は、既に時間の問題だったからだクマ。そしてイタリアが正式に降伏した直後、シンガポールに停泊していたイタリア巡洋艦が突如として行方を眩ませたクマ。直ぐに球磨はその巡洋艦を追いかけたクマー。だけど……奴さんがどんな手を使ったかは知らないけど、結局目標を発見できず、そのまま逃げられてしまったクマ……あの時の出来事は本当に屈辱だクマ……! その四日後には、サバンに停泊していたイタリア潜水艦の連中とも一悶着起こしたし……そもそも向こうの態度が、滅茶苦茶いけ好かなったのが悪いクマ……! ……あんのヘタリア人ども……今思い返してみても腹が立つクマー! クマ―!」
――――イタリア人に2度も酸苦を舐めさせられた事。
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