女「私はこの世界をクズだと思っている」

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1 : ◆/97y8QDp8w [saga]:2017/08/17(木) 20:21:18.20 ID:nDsOg8QVO
男「はぁ……今日から始業式か」

男「二年生になってもぼっちなんだろうなぁ……」

男「まぁ気楽でいいけど」

男「みんな歩きスマホして登校してる……。まぁ僕も本読みながら登校してるし人のこと言えないけど……」

女教師「こら!歩き通学中の携帯電話は禁止よ!」

男「やべ……本隠さないと……」



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1502968878
2 : ◆/97y8QDp8w :2017/08/17(木) 20:22:50.48 ID:nDsOg8QVO
遅筆ですが、書きたい欲あったので投稿します。

ゆっくり付き合い頂ければ。
3 : ◆/97y8QDp8w :2017/08/17(木) 20:23:59.16 ID:nDsOg8QVO
ガラガラ

クラスメイト達「ざわざわ……」

女子生徒「春休みにさぁ〜、イケメン君に告られてさぁ〜」

男子生徒「えぇー!まじかよお前、あいつと別れたのかよー!」

男「……」

(退屈だなぁ……。寝たふりしよ)



ピンポンパンポーン

スピーカー『全校生徒は、始業式を始めますので体育館に集合してください』

ざわざわ……ざわざわ……

男(……一番最後に出よ)

4 : ◆/97y8QDp8w [saga]:2017/08/17(木) 20:25:51.93 ID:nDsOg8QVO
―――体育館

ざわざわざわざわ…………

学年主任「始業式を始めるので静かにしなさい」

男(うるさいなもう……早く静かにしろよ……)

ざわ……

キイィィーン ゴゴッ

校長「ん゛ん゛っ……皆さんおはようございます」

男(この時間に何の意味があるんだよ全く……)
5 : ◆/97y8QDp8w [saga]:2017/08/17(木) 20:27:03.33 ID:nDsOg8QVO

校長「であるからして、今後も我が校の生徒として慎みのある―――云々」

男(ふぁぁー、眠。早くおわんないかな)

学年主任「えー、では各担任の教師を紹介します」

男(あー、帰ったら昨日買った小説読もう)

学年主任「それでは、各クラスにクラス分けが表示されてますので、1組から順に退館してください」

ざわざわ……


6 : ◆/97y8QDp8w [saga]:2017/08/17(木) 20:29:25.14 ID:nDsOg8QVO
―――教室

ざわわ……ざわわ……



男(プリント貼ってあるけど、人多すぎるな)


野球部男子「やったぁ!!同じクラスじゃん!」


ケバい女子「えー、ブス美と離れるの嫌だよぉ〜」


ざわざわ……


男(まだ20分もあるな……)


男(ひと段落着いてから確認するか……)


スタスタ……。


男「どうせ早く行っても一人で狸寝入りをする羽目になるだけだろ。自動販売機いこ」


7 : ◆/97y8QDp8w [saga]:2017/08/17(木) 20:31:28.26 ID:nDsOg8QVO


シーン……

男「さすがに誰もいないな」


男「まぁ、みんなクラス替えで忙しいだろうし」

ピッ ガコン


男「ふぅ。やっぱ静かだと落ち着くなぁ」


男(いつか就職して、めんどくさい人付き合いもしなくちゃいけないことを考えると……こんな時間は今しかないのだろうか)


男「んっ?」


パタッ……パタッ……


男「あー、めんどくせ。もう誰か来た……」


女「……」



8 : ◆/97y8QDp8w [saga]:2017/08/17(木) 20:32:31.43 ID:nDsOg8QVO

男(赤色のネクタイ……同学年か。クラス分けの答え合わせが終わったのかな……だとしたらぼちぼち人増えそうだし、戻るか……)

ピッ ガコン

男「……」

スタスタ……

女「……?」

女「おい、君」

男「……?」

男(うわぁ、話しかけられた……めんどくさい。しかも何だよこの子、頬にガーゼ当ててるし。怪我してんのかよ)

女「ちょっと待ってくれ」

男(かかわりたくないな……)



9 : ◆/97y8QDp8w [saga]:2017/08/17(木) 20:33:08.58 ID:nDsOg8QVO
男「なんだろう。僕はまだ今年度の配属先のクラスも確認していないから、教室に戻って確認するところなんだけれど」

女「……いや、すまない。別に君に絡むつもりはないのだけど、なんだ。君、お釣りを忘れているようだったから」

男「お釣り?」

チャリッ

女「今年度から缶コーヒーは百十円に値下げされてるようだ。私も引っかかってしまった。私は百二十円しか入れてないから、二枚のうち一枚はきっと君の物だろう」

男「律儀な奴だな。十円くらい、大体のやつなら気にせずポケットにしまってしまうものだと思うけど」

女「何を言う!一円に泣くものは何だと言う言葉があるくらいだ。親から金を貰っているうちは、例え一円でも大切にするのが道理だ」

男(なんだ、ちょっといいやつじゃん。話し方変だけど)

男「成程、正論だよ。ありがとう、恩にきるよ」

女「あぁ、呼び止めてすまなかったな」

スタスタ……
10 : ◆/97y8QDp8w [saga]:2017/08/17(木) 20:34:24.04 ID:nDsOg8QVO
男「今年も3組か……」


男「三年生は一階だから楽だな」


男「担任も同じみたいだし、気が楽だな」


ガラッ


ざわざわざわ……


男(やっぱうるせえな……)


男(僕の席は……前の方か)
11 : ◆/97y8QDp8w [saga]:2017/08/17(木) 20:35:30.54 ID:nDsOg8QVO
設定ミス

>>1

二年生じゃなくて三年生

申し訳ない
12 : ◆/97y8QDp8w [saga]:2017/08/17(木) 20:36:57.12 ID:nDsOg8QVO


男「ふぅ……」


男(勉強道具全部しまっとこ)


キーンコーンカーンコーン

ガラッ

担任「はいみなさん、チャイムが鳴ったので席についてくださいね」


担任「今年度も三組の担任をすることになりました。みなさんよろしくお願いします。それでは、新しいクラスになって沢山思うところもあると思いますが、先ずは出席を取っていきたいと思います。元気よく返事してくださいね!」


担任「男君!」


男「はい」

13 : ◆/97y8QDp8w [saga]:2017/08/17(木) 20:38:46.11 ID:nDsOg8QVO

ガヤガヤ……


男(今日すごくいい天気だなぁ)


男(外でゆっくり本を読みたいけど……流石に今日はダメかな)


担任「―――さん!……あれ?女さん、欠席かしら?」


気怠げな男子生徒「先生、女さんさっき保健室に行くの見たよ」


担任「そう、登校はしているのね。後で連絡しておかなくちゃね」


男(さっきの女子生徒かな……保健室行ってたっぽいし)
14 : ◆/97y8QDp8w [saga]:2017/08/17(木) 20:39:57.51 ID:nDsOg8QVO



担任「―――それでは年間の行事予定表が配られたら、春休みの課題を回収します!それで今日の始業式は終わりです」

キーンコーンカーンコーン

担任「それでは皆さん、明日から入学式までは通常通りの授業になりますので、時間割をよく確認してくださいね。これから卒業まで、よろしくお願いします!」

男(ふぅ……)

ざわざわ……

男(あと一年、なんとなく過ごせば高校生活も終わりか……それにしても、先生は若いから人気があるな。どうでもいいけど)

チラッ

チャラ男「今年先生が担任でマジラッキーなんですけどwwwほんとマジ俺本気だそっかなwww」

担任「はいはい、ならいつもより勉強していい大学入ってくれると先生嬉しいなー」

パチッ

男(あ、やべ……目があった)

15 : ◆/97y8QDp8w [saga]:2017/08/17(木) 20:41:25.21 ID:nDsOg8QVO



担任「チャラ男くん、その前に遅刻減らさなきゃダメよ!明日もちゃんと来なさいね!」


チャラ男「ウィッスwwちーっすww」

スタスタ

男(あ、こっちくる。めんどくさい)


担任「男君、今年もよろしくね」


男「えぇ、よろしくお願いします。僕に何か用事がありましたか?」


担任「ええ、大した用事じゃないんだけどね」


担任「女さんの分のプリントを帰り際に、保健室に届けてくれないかしら?」


男(何で僕が……今話してたチャラ男に頼めよ……)


担任「本当は今日はダメだけど、屋上の鍵、申請してたことにしてあげるから。ねっ?」


僕「……わかりました。後で鍵、取りに行きます」


16 : ◆/97y8QDp8w [saga]:2017/08/17(木) 20:42:36.84 ID:nDsOg8QVO


男『説明しよう。我が校の屋上は任意的に開放して良いことになっている。
理由は様々だが、部活の練習であったり、文化祭の練習であったり、その他学校生活に必要な場合は、申請さえ出せば自由に開放できる。
しかし、これは模範的な生徒であることが前提条件で、通常一人では鍵を貸し出しすることはできない。と、生徒手帳には記入されているのだが。
そこら辺のルールは、経年によってなんとなく緩和されていき、むしろ視聴覚室や武道場、モニタールームなど普段授業や部活で使用されない部屋が増えていくうちに、その規律すら忘れられていき、今では屋上を開放する規律など誰も必要としていない。
そこに目をつけた僕は、駄目元で放課後の開放を申請してみたところ、すんなりと許可をもらえるようになったので、特に用事がない晴れの日などは、静かな屋上で読書をするようになった。
風を感じる校舎での読書は、僕の数少ない楽しみである。』
17 : ◆/97y8QDp8w [saga]:2017/08/17(木) 20:43:52.46 ID:nDsOg8QVO



男(流石に始業式の日までは、と思っていたが、今日はかなりいい天気だし、気温も暖かくなって来た頃だ。)


男(家に帰っても誰もいないし、昼食も外で済ますように言われてるし、売店で昼食を買って本の続きを読むのも良いかもしれない)



僕(女さんとやらに受け渡すプリントは、もう使っていないクリアファイルにまとめといてやるか。これごと彼女に渡せばそれで任務は簡単に達成だ)


18 : ◆/97y8QDp8w [saga]:2017/08/17(木) 20:44:59.13 ID:nDsOg8QVO

―――校舎


ガヤガヤ……


男「始業式なのに結構人いるな」


男「それもそうか。半数以上は部活動してるもんな」


ざわわ……ざわわ……ざわわ……

男「げっ、売店も行列出来てるよ」


男「後でよる時にはまともなもん残ってないな……」
19 : ◆/97y8QDp8w [saga]:2017/08/17(木) 20:46:06.50 ID:nDsOg8QVO
―――保健室

ガラッ

男「三年の男です。クラスメイトのプリントを持って来たんですけど」


(保健医の女性は、眼鏡を少し下げながらこちらを見る。まだ初老のようだが、どうやらすでに老眼らしい)

保健医「あぁ、女ちゃんのクラスメイトね。この娘、まだ寝てるみたいだから先生が預かっておくわ」



男(任務完了だ)


男「それじゃ、失礼します」

ガラッ


男(教室からは僕の方が先に出たので、多分先生はしばらく職員室には戻らないだろう)


男(昼食の調達を済ませるか)
20 : ◆/97y8QDp8w [saga]:2017/08/17(木) 20:48:32.10 ID:nDsOg8QVO

―――売店
男「人結構減ってる。よかった」


おばちゃん「いらっしゃい。もうあんま残ってないよぉ〜」


男「……やっぱりか……」


男(袋詰めのスティックパンとラスクしかない……)


男「まぁ、仕方ないか……これとカフェオレください」


おばちゃん「はいよ、358円ね」


男(むしろこれだと、本を汚す心配もないのでちょうど良いかも)


男(職員室行くか……)
21 : ◆/97y8QDp8w [saga]:2017/08/17(木) 20:49:37.87 ID:nDsOg8QVO

スタスタ……

担任「あら男くん。書類は届けてくれたかしら?」

男(先生、ちょうど戻るところだったのか)

男「はい。女さんは寝ているようでしたけど」

担任「あら、それは残念ね」

男(馬鹿な。好都合だよ)

男「そう言えばちょうど僕も職員室に行こうとしていたところです。鍵をお借りしたいので」

担任「あはは、相変わらず固いわね、男くん」

担任「一緒に職員室行こっか」
22 : ◆/97y8QDp8w [saga]:2017/08/17(木) 20:50:39.14 ID:nDsOg8QVO

担任「女さんね、君と同じで周りに馴染めないんだって」


担任「一年生の時に編入して来たらしいんだけど、それから周りと打ち解けないまま過ごして来たみたいで」


男「僕の場合は自己責任ですよ」


担任「あはは、そうだね。でもまぁ、私が今年受け持つようになって、少しでも何か変われば良いなと思ってるんだけどねぇ」


男「それで、同じ境遇の僕に渡しに行かせたわけですか」


担任「あら、バレちゃった?」


担任「まぁでも、少しずつでも変わって欲しいなぁ」


僕「多分余計なお世話だと思いますよ。僕も彼女も」


担任「えー、そうかなぁ」
23 : ◆/97y8QDp8w [saga]:2017/08/17(木) 20:52:16.32 ID:nDsOg8QVO


職員室

担任「申請書は私が提出しておくから、いつも通り気が済んだら返しに来てね」


男「えぇ。ありがたくお借りします」


(校内はすっかり静けさを取り戻している。

帰宅部の生徒たちはもう学校を出ているようで、部活動に励む生徒も今は昼食をとっているようだ。)


(少し気の早い運動部員が準備運動を始めている。

こんな光景を見ると、ふと思いつくことがある。

『この日常は、くだらなく平和だ』

平和に日々が過ぎて行くことは素晴らしいことなのだろうが、

日常に刺激がなくては生きてる意味を問うこともある。)

(だから、他の生徒たちは暇を見つけてはゲームセンターやカラオケに行くのだろうし、僕だってこうやって屋上へ本を読みに行くのだろう。

日常の中にあるちょっとした非日常感を求めて。)


(平常運転する日常は、きっとそれだけで退屈なのだ。)
24 : ◆/97y8QDp8w [saga]:2017/08/17(木) 20:53:31.14 ID:nDsOg8QVO

屋上

ガチャッ

―――ヒュオッ

男「っ……」


男「はぁ……風気持ちいいなぁ」


男「……気温もいい感じだな」


男「日陰は……あったあった。あそこに座るか………よいしょっと」

ガサガサ


男「昨日買った新人作家の本、いいとこでとまってたんだよな。こっちから読むか」
25 : ◆/97y8QDp8w [saga]:2017/08/17(木) 20:55:06.40 ID:nDsOg8QVO




男「……」

(主人公が、夕焼けをバックに、ヒロインに作品のタイトルになっている言葉を告げるところだった。
恐らくここが、この本の一番の見どころなのだろう。)


男「……」

―――ガサガサ


男「ふぅ……ん、パンもラスクももうないや……」

パタッ

男「しかし、またいい作品に出会えたなぁ」


男「まだ30分しか経ってないや」


男「ゴミは袋にまとめておいて……」


男「もう一冊読むか……ガリレオも買ったし」



男「…………」


男(ダメだ、さっきの作品のインパクトが強くて頭に入ってこない)


男(ガリレオは毎度読んでるから……新鮮味はないし)


男(それに昨日少し夜更かししたから眠い……)


男「ダメだ、寝よう」

ガサゴソ

男「zzz……」


26 : ◆/97y8QDp8w [saga]:2017/08/17(木) 20:57:26.76 ID:nDsOg8QVO
ソヨソヨ……
ビュォッ………パチッ

男「んん……」

チラッ

携帯『16時44分』

男「え……やばっ!」

男「どうやら熟睡してしまったようだな……。はぁ……」

男「んんっ、ふぁあ……。まぁ焦っても仕方ないか。それより……」

男「綺麗な夕日だなぁ。風情があっていいや」
27 : ◆/97y8QDp8w [saga]:2017/08/17(木) 20:58:43.16 ID:nDsOg8QVO


男「さっきの小説も、クライマックスのシーンじゃやけに夕焼けが印象的だったなぁ」

男「フェンスが邪魔でよく見えないな。潜ってみるか。向こうに柵もあるし大丈夫だろう」

ごそごそ

男「やっぱり綺麗だ……」

風「ビュォッ」

僕「風も気持ちいいなぁ……」

?「おい、君!」

僕「……?あ、君は」

女「そんなところで何をしているのだ!」

僕(どうしたんだ?そんなに焦って……)

28 : ◆/97y8QDp8w [saga]:2017/08/17(木) 20:59:37.14 ID:nDsOg8QVO


女「はっ……いや、すまない。君を驚かせるつもりはなかったのだ。しかし、少し一緒に考え直さないか」

男(さっきはボサボサだったけど、実は長くて綺麗な髪をしてるな。よくみると結構可愛らしい……)

男(ガーゼ当ててる頬が気になるけど……いや待て、そんなことよりもしかして……)

男「あの、女さん……だっけ?君は多分……」

女「少し私の話を聞いてくれ、クラスメイトくん」

男(いや、まずお前が人の話を聞け)

29 : ◆/97y8QDp8w [saga]:2017/08/17(木) 21:01:43.15 ID:nDsOg8QVO

女「私はこの世界をクズと思っている」





男「……えっ?」




30 : ◆/97y8QDp8w [saga]:2017/08/17(木) 21:02:46.53 ID:nDsOg8QVO


女「君の思うように、生きる価値もない世界かもしれない。何の罪もない人が虐げられ、罪を犯したものがのうのうと生き永らえて甘い汁を吸う。そのような世界だ、くだらん」


女「だからこそ私は、むしろ生きてやろうと思っている。この救いようのないクソみたいな世界にある、救いようのある何かを掴むために、生きてやろうと思うのだ!」



男「クックッ……」

女「な、何が可笑しい!」

男「ハッハッハッハッ!」

女「なっ……///笑うのをやめろっ!」

男「あー、可笑しい」

女「な、何だ君は、生意気だぞ!今にも死のうとしている分際で!」

男「ははっ、全くやめてくれよ。僕はここで夕日を見てただけだ」

女「何だと!」カァー///
31 : ◆/97y8QDp8w [saga]:2017/08/17(木) 21:03:27.32 ID:nDsOg8QVO

男「あー、こんな面白い事も、現実にあるもんなんだね。それで女さん、こんな時間に、どうしてこんな所にいるんだろう?」

女「あぁっ、そうだ。私は君に用事があったんだった。保健室にプリントを届けてくれたのは君だろう?担任の先生に挨拶に伺った時、ついでに君がここにいることを聞いたのだ」

男「それで、わざわざお礼を言いに来てくれたわけか。お釣りのことといい、本当に律儀な奴だな君は」

女「あぁ、やはりあれは君だったのか。通りで見覚えがあると思ったのだ」

男(気づいてなかったのか)
32 : ◆/97y8QDp8w [saga]:2017/08/17(木) 21:04:27.24 ID:nDsOg8QVO

女「あーいや、お礼を兼ねてももちろんそうなのだが。ほら、君ファイルごと私にくれただろう」

男「あぁ、それはもう使っていないものだから、必要なければ処分してくれて構わないのだけれど」

男(何だ、そんなことか。本当にどこまでも律儀な奴だ)

女「ニヤリ……」

男「……?」

女「”まるでステンドグラスみたいだ”」

男「????」

女「”割れる瞬間の方が綺麗に見えるなんてさ”」
33 : ◆/97y8QDp8w [saga]:2017/08/17(木) 21:05:19.87 ID:nDsOg8QVO

男(何だか聞き覚えがあるような……いや、正確には見覚えか?……そういえば、あのクリアファイルはいつの……ハッ!)

男「返せ」

女「さぁ、どうしたものかな」

ズリズリ

(フェンスから出る。)

男「返せ」

女「冗談だ、勿論返すよ。君のものだしな。プリントも助かった、礼を言う」
34 : ◆/97y8QDp8w [saga]:2017/08/17(木) 21:06:05.47 ID:nDsOg8QVO

女「しかし、蒸し返すようだが、純粋に良い詩だった。私は好きだ。他にはないのか?」

男「作家になるのは諦めているけど、詩ならどうかと一度書いてみただけだよ。残念ながら後にも先にもこれっきりだ」

女「そうか、残念だな」

男「まぁ、お互い恥ずかしいものを見られたってことで。痛み分けで頼むよ」

ガサゴソ
(鞄にしまう)

男「さぁ、日も暮れたし、そろそろ先生に鍵を返しに行かなくちゃ」

女「職員室までお伴しよう」
35 : ◆/97y8QDp8w [saga]:2017/08/17(木) 21:06:49.23 ID:nDsOg8QVO

屋上扉前

ガチャガチャ

男「これでよし」

ヒョコッ
女「あれ、その南京錠は閉めなくても良いのか?」

男「うん、これは巻いているだけなんだ」

男(女さん、初めて気づいたけど案外背が低いな。僕だって、男子の中では少し背の低い方だけど……それでも10センチ以上差があるぞ……)

女「そういえば、君の名前は男と言うそうだな」

男「うん、先生に聞いたのかい?」

女「ああ、良い名前だなっ」

男(なんで上から目線なんだよ……まぁいいけど)
36 : ◆/97y8QDp8w [saga]:2017/08/17(木) 21:08:00.92 ID:nDsOg8QVO
女「ときに、男」

男(偉そうな話し方をする上に、呼び捨てかよ)

女「男は、放課後はいつも屋上にいるのか?」

男「いつもじゃないけど、天気が良くて、放課後にすることがない日は大体いるよ」

女「そうなのか。屋上で一人きりとは、健全な男子高校生たるもの、もっと楽しい放課後を過ごしてはどうだ?」

男「放課後まで保健室で寝て過ごす奴に言われる覚えはないな。」
37 : ◆/97y8QDp8w [saga]:2017/08/17(木) 21:08:59.74 ID:nDsOg8QVO

男「それに、僕は屋上で一人きりで本を読むのが楽しみなんだ。充分楽しい放課後を過ごしているよ」

女「おぉ、男は活字を嗜むのか」

男(先生は、こいつ友達いないって言ってたのに……なんでこんな人懐こいんだよ。めんどくさい)

男「……あぁ、そういえば、ずっと気になって居たんだけど、女さんってどうしてそんな、侍のような話し方をするんだ?」

女「いやぁ、これには深くはなくとも、恥ずかしい訳があるのだが」

女「私の父方は、実は由緒正しい貴族の血が流れて居てな」

女「そして、私の父自身もやり手の青年実業家だったらしく、物心もつかぬ幼い頃は、私の家もそれなりに裕福な家だったと聞いた。私は、そんな父の事を小学生の頃に祖母から聞いて、尊敬していてな」

女「父の娘であることに恥じないよう、規律正しい話し方を、幼いながらに勉強しようとしたのだが」

男(お父さん、もう亡くなってるのか……深くは聞かないでおくか)

女「しかし、私は男のように活字の本を、当時は全く読めなくてな。資料として取り入れるものが、漫画やアニメなどしかなかったのだ」

女「そして、当時は敬語と謙譲語の違いがわからなくてなぁ……。気づいた時にはこのような話し方が定着してしまっていたのだ……にひひ」
38 : ◆/97y8QDp8w [saga]:2017/08/17(木) 21:09:51.85 ID:nDsOg8QVO


女「あぁ、しかし今は違うぞ。変わらず漫画やアニメなども好きだが、活字の本も嗜むようになった。最近では〇〇という新人作家が私の中ではイチオシでな」

男「その人のデビュー作、さっきまで読んでいたよ」

女「ほう、やはり本の見識が広いな。そうかそうか、当然抑えているか。私もあの作品から入ったのだ」

男「三作品出しているみたいだね。まだ読んではないけど、手は出すつもりだよ」

女「そうか、ならば詳しくは言うまいが、他の二作もやはりいい作品だった」

男(こんなに同級生とまともに会話を交わすのは、もしかすれば高校に入ってからは初めてかもしれないな)
39 : ◆/97y8QDp8w [saga]:2017/08/17(木) 21:12:36.33 ID:nDsOg8QVO

職員室

男「失礼します」

担任「あら、男君。今日は随分遅くまでいたのね」

男「えぇ、少し居眠りしてしまいまして」

担任「あら、寝不足は体に毒よ」

女「先生、先程はどうも」

担任「あら、女さん。無事男君と会えたのね。良かったわ」

女「えぇ、おかげさまで、男にも挨拶が出来ました」ピトッ
(腕を組む)

担任「あら、もうそんなにも仲良くなったのね。先生も嬉しいわ」

男(やめろ、仲良くなってない)


担任「二人とも、クラスにも少しずつ馴染めるといいわね」

女「えぇ、ご心配をおかけしますが、一年間よろしくお願いします」

男「それでは失礼します」

担任「えぇ、また明日ね」
40 : ◆/97y8QDp8w [saga]:2017/08/17(木) 21:13:18.33 ID:nDsOg8QVO


男「それじゃ、また明日」

女「……」テコテコ

男(なんなんだ一体。用事は済んだはずだろうに)

女「男も、クラスに馴染めていないのか?」

男「……別に、僕はあまり人と絡むのが得意じゃないと言うだけだ」

女「ほう、コミュニケーションが苦手という様子は見受けられんが」

男「得意じゃ無いってのは、好きじゃないって意味の方だよ。自分の意思で馴染んでないだけだ。気にするな」

スタスタ……

テコテコ……

男(まだ後ろをついてくる……)

41 : ◆/97y8QDp8w [saga]:2017/08/17(木) 21:14:31.02 ID:nDsOg8QVO

女「健全な男子高生たるもの、友人の一人や二人は残しておかねば、先の未来苦労するというぞ。男にもそういう間柄の人間はいないのか?」

男「いないよ。必要ない」

女「しかしだな」

男「うるさいなぁっ!」


男「僕が可哀想に見えてるなら余計なお世話だ。僕は僕の価値観がある。君のものさしで僕を測るのはやめてくれないか」


男「大体、君の方こそ、保健室に書類を届けてくれるような友達すらいないようじゃないか。先に自分の心配をしたらどうなんだ?」


女「……」ジワッ……

男(しまった、少しきつく言い過ぎた……)


42 : ◆/97y8QDp8w [saga]:2017/08/17(木) 21:15:49.12 ID:nDsOg8QVO

女「仕方ないだろう。皆も私のような気味の悪い女には近づきたいと思わない」

男「…………気味が悪いって、話し方のこと……じゃないんだよな?」

女「……男は、私の噂を知らんのか?」

男「……なるほど、想像はついたよ」

(大方、彼女にはそれなりに深刻なバックグラウンドがあって、きっとそれはあまり気持ちのいいものではないのだろう)

(そして、編入後にどこからかその情報をリークした誰かがその噂を広めて、彼女の居場所を奪ってしまったのだと推察する)

(なんともまぁ、物語で言えば割とありふれた話だ。それでも、そんなことは僕には関係ない。)
43 : ◆/97y8QDp8w [saga]:2017/08/17(木) 21:16:48.85 ID:nDsOg8QVO

男「あのな……。僕は他人のものさしで君を測ることだってしないんだ。僕は僕の価値観でしか他人を見たりしない」


男「噂がなんだか知らないが、僕には関係のないことだし興味もない。それとも、その噂は君にとっても君を測るのに十分な物なのか?」


女「それは……」


男「だったら、君自身がそんなくだらないものさしで君を測ることをやめたらどうなんだ」


男(やめとけよ、柄でもない)


男(他人に興味はないはずのこの僕が、何をどうして他人のことでこんなにも怒っているんだろう……馬鹿みたいだ)

44 : ◆/97y8QDp8w [saga]:2017/08/17(木) 21:17:42.29 ID:nDsOg8QVO



女「男は……いい奴だったんだな」ジワッ

女「ずっ……んなごっ……いわれ……ぅう……」ゴシゴシ……ズビッ

男「……何言ってるかわからないよ」
ハンカチを取り出して渡す。

男「はぁ……他の生徒たちが君に対してどうやって接して来たのか、少しだけわかった気がするよ……」

男「苦労したんだなぁ、君は」

女「ぅう……んっ……皆は悪くないのだ」

男「全く……なんなんだよ、お人好しかよ」

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