【艦これ】「泊地を継ぐもの」

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208 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/09/21(木) 13:35:32.45 ID:yoGsi3kr0
「司令、来たんですね。北上さんを止めてください」

「……北上との約束なんだろ?」

「……」

「そだよ。五月雨ちゃんと約束してたのに、私が来たら入らせてくれないの。入ろうとしたら、めっちゃどなってきて、しかも突き倒された」

 妹は不機嫌そうに言うと、立ち上がり浴衣の埃を払う。

「だって、あんな約束、北上さんが一方的にしてきただけじゃないっ!!」

「そんなことないし。私は五月雨ちゃんがオーケーしてくれたの覚えてるもん」

 喧嘩は平行線をたどる。

「五月雨、どうして北上をいれたくない?」

 私が横から五月雨に尋ねる。その質問に五月雨は膨れた顔で私を睨み返す。

「だめなのはだめだからです!!」

「何がだめなのかい?」

「…………」

 沈黙する五月雨に私は近づき、正面に立つ。

「……五月雨、僕たちはさ、一緒に生活する家族なんだよ。僕だって北上だって五月雨には自分の部屋みせているし、夕飯の時に言ったように隠し事はしてない。だからさ、五月雨も恥ずかしがらなくていいんだよ。それに北上はすごく楽しみにしていたんだ。約束というのもあるけど、五月雨にはそれを理解してほしい」

 私は五月雨に視線を据えてそう言葉を紡いだ。

 目の前の彼女は、口を固く閉ざしてそれを聞いていたが、やがて、嘆くようにため息を吐いた。
209 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/09/21(木) 13:36:24.25 ID:yoGsi3kr0
「やっぱり、司令は私の味方じゃないんですね。大好きな妹さんの味方なんですね」

「そんなことない、五月雨の事も味方だ! 味方だから…………っ!」

 私は必死の言葉でそう伝える。しかし、五月雨の焦点は後ろの妹にあっていた。

「……ッ! 五月雨ちゃん、なんで知っているの!?」

 後ろを振り返ると、妹は驚愕な表情をしていた。そうだった。関係がばれている事を妹はまだ知らなかった。

「北上、五月雨には私らの関係はばれている……」

 私の言葉に妹は「そっか」と一言納得した返事をした。

「――私たちは確かにこの泊地では家族みたいな存在です。司令も北上さんもここでは大事な家族と思っています。でも、やっぱり公私の分別をつけることは大切です。そして、それの境界線を私はこの部屋に引くべきだと思います」

 五月雨は開き直ったような口調で、私と妹に対してそう意思を示した。

 ただ、彼女の言葉には矛盾があった。五月雨は北上の部屋によく泊まっているし、つい昨日も一緒に私の部屋で仲良く寝たばかりであるからだ。

「五月雨、嘘を吐かないでくれ。五月雨はそんなこと考えない!」

「…………」

 図星だったようだ。思わず私はため息を吐いてしまう。それを見た五月雨は申し訳ないような面立ちをして頭を下げる。
210 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/09/21(木) 13:37:11.42 ID:yoGsi3kr0
「ごめんなさい。でも、私はこれだけは譲れません。これからも司令と北上さんと仲良くしたいから……。北上さんと司令にはこのことを分かってほしいです」

 私はそう言われ何と返せばよいか戸惑った。

 理由は分からないが五月雨もまた、明石中佐と同じように自分に心のバリアを二重三重に張っている。

 本当はもっと水入らずで、そういうとこを相談しながらお互いの関係を深めていければいいのだが、そう簡単ではない。

 おそらくこれ以上言っても彼女は通さないだろう。
 
「分かった。こっちこそ、詰め寄ってごめん。……北上、そういうことだから、戻るよ」

 心のつっかえが取れないとてももどかしい気分であるが、私は五月雨に背を向ける。

 妹はまだ、五月雨の方を向いたまま突っ立っていたので、私はそっと肩を叩く。妹は我に返る訳でもなく、突っ立ったままだったので、先に戻ることにした。
211 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/09/21(木) 13:38:05.25 ID:yoGsi3kr0
「――――豊後水道沖夜戦事件」

 妹から発せられたその言葉に私は反射的に立ち止まる。な、なぜ妹がそのワードを!?

「五月雨ちゃん、その事件の生き残りなんだってね」

 続けて妹はそう口にする。私は心臓の高鳴りを抑えながら、静かに彼女の方へと身体を向けた。まさか……ね。

「えっと、北上さん、豊後水道沖夜戦事件って何のことかなぁ?」

 五月雨は知らないのか、事件について訊き返す。

「私、聞いたよ。五月雨ちゃんも分かってるだろうけど、今日ね、私、五月雨ちゃんの妹に会ったんだよ」

 土佐沖ノ島泊地の涼風のことだ。なるほど、あの時、やはり涼風は姉のことを妹に色々尋ねていたのだろう。

「うん、私もその涼風には遭って、追いかけられたよ。でも、その子、他の五月雨と勘違いしているの。だから私はその五月雨じゃないんですよ」

 五月雨は落ち着いた表情で、そう返す。

「じゃあ質問変えるけど、なんで五月雨ちゃんは五日くらい前に吹雪ちゃんの指輪を見つけたときに、指輪を借りたの? あと、吹雪ちゃんのネックレス持って行ったのって五月雨ちゃんでしょ?」

 妹の言葉に五月雨の表情が硬くなる。
212 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/09/21(木) 13:39:36.07 ID:yoGsi3kr0
「あの〜、北上さん、吹雪さんの指輪を借りたことと涼風に何の関係があるのかな?? あと、私のことを犯人にするのやめてください! 私はネックレスの事は知りませんから」

「……知らないフリをしないで! 私は五月雨ちゃんの事ぜんぶ聞いているの。五月雨ちゃんが部屋に入れてくれないことも何となく分かってるんだよ!」

 語気を強めて問い詰める妹に、五月雨は黙る。

 そして妹は浴衣の裾からスマホを取り出した。

「私ね、今日、涼風ちゃんと対戦したあとに、ラインのID教えてもらったの」

 そう言って、ラインのアイコンを妹はタップする。

「あれってそうだったのか……。つまり、試合中に涼風に話しかけられてたのって本当は何だったんだ?」

 私も気になることだらけで、妹に口をはさむ。

「それはね、ホントの事言うと、涼風ちゃんが、『君のとこの五月雨は一回死んでいる』って言われたんだよー」

「……私を死んでいるなんて、失礼なひと。そんな人の言うこと信じているの??」

 五月雨は顔をしかめながら妹に口を尖らす。

「もちろん、私だって最初は何言ってるんだろーこの子って思ったよ。だけど、とても伝えたいって意思を感じたのさ。んで、試合中には涼風ちゃんから、五月雨ちゃんの事について三つ聞いたよ。

 一つに、五月雨ちゃんが涼風ちゃんの姉であること。二つに、五月雨ちゃんは二カ月半前の事件で轟沈していること。三つに、五月雨ちゃんの階級は轟沈後の昇進を含むと中佐になっていること。以上をね」

 妹は三本指を立てて振りながら、そう言った。
213 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/09/21(木) 13:40:27.52 ID:yoGsi3kr0
「二カ月半前は八島にいるし、さっきから言ってますけど、私の妹は平群島泊地の所属なんですよ!! 変なこと吹聴されたんですよ。北上さんはっ!」

 五月雨は紅潮して妹に反論する。妹はそれを聞いて小さくため息を吐いた。

「もう、妹の涼風ちゃんが今のを聞いたら悲しむよ? 私だって衝撃的だから、試合中は半信半疑でいたよ。で、試合後に涼風ちゃんの方から、さっきのこと色々教えたいなってラインのID教えてくれたの」

「…………」

 五月雨の方は妹の言葉に返すこともなく、黙ったままであった。

「まー、はやいとこ、私が涼風ちゃんの話を信じた理由を教えてあげる」

 そう言って、妹は、スマホをポチポチする。そして、五月雨にスマホの画面を見せた。

「…………ッ!!」

「――涼風ちゃん、今年の春に、ここ来たって言ってたよ。これはその時の写真なんだってね。これって、涼風ちゃんと五月雨ちゃん、そしてここに前までいた吹雪ちゃんと秋月ちゃんだよね?」

「…………」

 五月雨は黙ったまま、妹が見せるスマホの画面を凝視した。
214 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/23(月) 10:18:12.31 ID:0rR/t9eDO
続きはよ
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