ある門番たちの日常のようです

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335 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/10/03(火) 22:33:08.43 ID:4G/CO/uY0
地下……か。高度数千メートルの上空から地面の下までとは、世界中で活動する俺達“海軍”の仕事場は縦向きに対しても際限がないらしい。マントルと宇宙空間に行く機会がありゃ地球上の完全制覇達成だ。

(,,゚Д゚)「……って、宇宙は地球上には含まれないわ」

( ̄⊥ ̄)「?」

(,,゚Д゚)「いや、こっちの話だ」

アホな自己問答は置いといて、ガングートが地下にいるならそれが拘束であれ寝返りであれ周囲に護衛の兵力も付いている。当然そいつらは今の伊-401による空襲から逃れているので、相応の戦力が俺達の足の下に隠れていることになる。

加えて、軍事基地の中枢部ならたとえ地下であっても防御機構も充実しているだろう。幸いにして「案内役」がいるため幾らか脅威は減る……と思いたいが、攻略に手間がかかるのは想像に難くない。

なかなか骨が折れそうな案件に、思わず顔が渋くなる。だが、やらないわけにも行かないのが努め人として辛いところだ。
336 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/10/04(水) 21:46:46.38 ID:KBfEQrQA0
(,,゚Д゚)「Ostrich、裏口の制圧はどうなっている?」

( ゚∋゚)《OstrichよりWild-Cat、既に突入・制圧に成功した。Верный以下ロシア兵にも欠員無しだ》

(,,゚Д゚)「OK、そっちももう話を聞いてるかも知れんが敵は未だ地下に戦力を温存している可能性が高い。更にГангутが囚われていた場合こっちもかなりの確率で地下に拘束されている。

そっちに地下への入り口はあるか?」

俺達の正面には【風と共に去りぬ】のスカーレット=オハラが澄まし顔で降りてきそうな雰囲気の螺旋階段が(幾らか内蔵と肉塊をぶちまけられた状態で)上下に伸び、階段両脇の柱にはエントランスの古風な情景を破壊しないよう気を遣われた趣向でエレベーターが備え付けられている。裏口が同じ形で下に降りられるかどうかは不明だが、二手から攻め立てられるならそれに越したことはない。

………しかし艦娘が“古めかしい建物を好む”ってのは確かだが幾ら何でもこの内装は古すぎやしないかね。学のない俺でも18世紀とかそこらに流行ったデザインだってなんとなく解るぞ。

( ゚∋゚)《あぁ、こっちには地下へと続く螺旋階段がある。特に破壊されてもいない、突入は可能だ》

(,,゚Д゚)「ファルロ、表と裏以外に地下階段やエレベーターはあるか?」

( ̄⊥ ̄)「ない、この2箇所だけだ」

(,,゚Д゚)「よし」

なら、ガングートや敵の残党を逃がす心配も無い。後は幾らか準備を整えて踏み込むだけだ。

(,,゚Д゚)「Wild-CatよりSparta、そっちの戦況はどうだ!」
337 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/10/04(水) 21:49:04.05 ID:KBfEQrQA0
無線自体は直ぐに繋がったが、そこからしばらく耳に届いてくるのは銃声や爆発音、そして人の叫び声ばかり。一向に返答はないまま、たっぷり20秒ほどの時間が過ぎる。

《此方Sparta、鎮守府南部区画より突入したがさっきも言ったとおり敵多数に囲まれている!》

そろそろ焦れてきた頃に飛び込んできた返事は、まるで1キロも向こうから声を届かせようとしているかのような叫び声。鼓膜がびりびりと痛むほど震え、思わず一瞬無線から耳を離した。

《戦力比は当方22名に対し敵は少なく見積もっても600〜700!

B級のゾンビ映画みたいな光景だ、お宅の筋肉質な顔馴染みならさぞや大喜びだったろうな!

まぁ、俺の好みはラブロマンスなワケだが!》

ジョークを交える程度にはまだ余裕があるらしいが、BGMの戦闘音は全く収まる気配がない。

【晴嵐】に近接航空支援の要請をした際に妙に慌てた声だったため気になっていたが、本当に人間“嫌な予感”というのはとても良く当たる。

(,,゚Д゚)「Wild-CatよりSparta、敵部隊の内訳を知らせろ。それとそっちに着いてる艦娘の兵装残弾は?」

《基地内から出てきたロシア軍の軍服を着込んだ奴等が30程度施設内から撃ってきてる、後のは鎮守府の外からだ!

ほとんどは元ムルマンスク市民と思われる、服装にも武装にも統一感がない。銃器すら装備してない奴も向かってくるぞ!》

《【Sparta】長良よりWild-Cat、装備の25mm連装機銃は残弾4割ほど!まだ戦えるけどそろそろ厳しいよ!

Chaser、そっちの状況も教えて!》

《【Chaser】川内よりWild-CatそれからSparta、こっちも多数の民兵に囲まれた!

14cm連装砲もそろそろ弾切れになる。敵は10人倒すと15人追加される有様だ、とても間に合わない!》

《あー、RabbitよりWild-Cat並びにSparta、割り込みになるがいいか?》

(,,゚Д゚)「……どうぞ」

Rabbitの指揮官とは、国籍が違うが顔馴染みだ。表向きの顔が在日米軍の軍曹であるそいつとは、合同訓練の際にたまたま近くに配属された時二回ほど他愛のない雑談を交わしている。

軽口の多い男だが、根は真面目で任務にも忠実だ。こいつが味方との通信を遮ってまで話に割って入るなんてことは、滅多にない。

それがよほど重要な報せで無い限り、そして───

《制圧した大学の屋上より市街地の大通りを鎮守府へ進軍する“市民”を多数確認した。

………数え切れないがまぁ3000は越えてそうだな。スクラム組んで道を埋め尽くしながら進んでいくぞ。

速度から逆算して、あと10分ほどで鎮守府に侵入する》

────よほど悪い報せで無い限り。
338 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/04(水) 21:53:55.14 ID:KBfEQrQA0
( ゚∋゚)《……急に沸いてきたな》

(,,゚Д゚)「大方待ち伏せだろうよ、引きつけて鎮守府ごと包囲して殲滅って寸法だ。……元からか即席かは解らんが」

ムルマンスクの総人口に対する兵力として考えると少なすぎるが、俺達空挺部隊にとっては悪夢のような物量だ。

ある意味、今までで一番厄介な戦法を取られていると言っても過言ではない。まともに戦えば艦娘の戦闘能力を持ってしても押し切られる。

(,,゚Д゚)「Wild-Catより統合管制機、此方に航空支援は回せるか?」

('、`*川《此方管制機、空母艦隊の奮戦でムルマンスクの制空権を一時的に確保。長い時間ではありませんが偵察ヘリを何機か南に回せます》

俺達が向こうに合わせてまともにやってやる必要など皆無だが。

(,,゚Д゚)「出せるだけ出してくれ。三分で良い、指定の区域に全火力の投射を」

('、`*川《受諾しました。後方待機中のMH-6【リトルバード】が90秒後に掃射を開始します》

(,,゚Д゚)「Coyote、SpartaとChaserに【晴嵐】による航空支援を。Rabbit、大通りの民兵に【リトルバード】の空襲に併せて艦砲射撃をぶち込め。残弾は考えなくていい、壊滅するまで撃ちまくれ」

《【Rabbit】卯月より【わいるどきゃっと】、それ大丈夫かぴょん?大通りを進んでる民兵集団、銃火器を装備してる奴等が少ない上女の人や子供もたくさん居るみたいだけど》

(,,゚Д゚)「あぁ、だがそいつらは全て“敵”だ」

《了解だっぴょん》

卯月の方も、今の問いかけにはあくまで確認の意味は無かったのだろう。あっさりとした口調で引き下がり、1秒後には艤装に弾薬を装填したらしき金属音が響く。
339 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/04(水) 22:04:58.87 ID:KBfEQrQA0
殲滅は無理だろうが、“敵”が前時代の市民革命のような密集陣形で進んでくるなら艦砲射撃と【リトルバード】による空爆で相当な打撃は与えられる。鎮守府到達までの遅延・時間稼ぎは十分にできるはずだ。

その間に、俺達で地下を一気に制圧する。

( ̄⊥ ̄)「………」

(,,゚Д゚)「提督、何かご意見や注文があれば聞きますが」

( ̄⊥ ̄)「………いや、何でも無い」

此方を見てくるファルロに話を振ると、向こうはなんとも複雑な表情を浮かべつつもそれ以上は何も言わず引き下がった。

通信が全て明確に聞こえたとは思えないが、俺の言っていた内容さえ解れば“海軍”が何をしようとしているのか推測するのは容易いはずだ。密造酒に手を出すほどこの街の住人に愛着を持っているファルロからすると、民兵への攻撃は“元同僚”に対する時ほど割り切れるものではないらしい。

(,,゚Д゚)「ファルロ、俺とお前で先行だ。道案内は頼むぞ、特にトラップや防御システムの無力化はお前らにかかっている」

( ̄⊥ ̄)「…………。解っているさ、解っているとも」

そんな葛藤は俺の知ったこっちゃないが。

(,,゚Д゚)「Ostrich、突入を開始しろ!」

( ゚∋゚)《了解!》

(,,#゚Д゚)「Breaching!!」

階段を一段降りる。大理石の階段を軍靴が踏みしめる音が響く。

《Seeker-01より地上部隊各位、指定ポイントに到着。

間もなく攻撃を開始する、付近部隊は衝撃に備えろ》

本舎の上空を、何機かのヘリコプターのローター音が通過していった。
340 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/04(水) 22:10:25.62 ID:KBfEQrQA0
鎮守府の電源は生きているはずなのだが、地下への階段を照らすのは緑色の非常灯だけ。お世辞にも十分な光量とは言い難く、踊り場の所だけがストリップ・ショウの舞台上のように照らし出されている。

(,,゚Д゚)「ライト点けろ!」

( ̄⊥ ̄)「暗がりはなるべく作るな!とにかく広い範囲をくまなく照らせ!」

俺自身特別仕様の軍用懐中電灯をAK-47の下部に装着し、スイッチを入れながら後ろの奴等に向かって叫ぶ。ファルロ達ロシア軍もちゃんと装備していたようで、18個の白く丸い光が途端に地下行き階段のあちこちへと伸びる。

(,,゚Д゚)「Clear!」

( ̄⊥ ̄)「そのまま降りろ!行け行け行け!」

踊り場まで何事もなく辿り着いたところで、そのままライトを下へ向ける。映し出されたのは階段の終わりに立ち塞がる鉄製の扉で、右側の壁には新築マンションのオートロックを思わせる機械のプレートが埋め込まれていた。

扉の前や周囲には人影が無く、階段から扉までは5メートルにも満たない細い一本道で隠れるような場所もない。俺とファルロはハンドサインで江風達に着いてくるよう合図を出しながら、一息に残りの階段を駆け下りて扉にピタリと身を寄せる。

(,,゚Д゚)「扉を開ける方法は?」

( ̄⊥ ̄)「カードキーとパスワードだ。キーは当然私が持っている」

そういってファルロは胸元から銀色の薄いプラスチック製の板を取り出す。小さな長方形のそれが、早い話この扉を開けるカードキーなのだろう。

( ̄⊥ ̄)「パスワードの方も、変えられるのは艦娘提督である私だけだから問題なく開けることができるが………どうする?」

(,,゚Д゚)「どうするもクソもないさ」

扉に窓はなく、中の様子を伺うことはできない。時雨や江風に破壊させてもいいが、かなりの厚さを持つそれは艦娘の力でも正直破壊できるか微妙なところだ。下手に曲がるだけになって開けられなくなれば、それこそ突入にいらない時間を食う。

入り口での待ち伏せという不安要素に目をつぶっても、ここはファルロに開けて貰うしかない。

(,,゚Д゚)「時雨、江風、正面に立って警戒。西井、ランディ、二人を援護できるよう一段上で射撃体勢」

「りょーかい」

「あいよ!」

「了解です」

「Yes sir」

4人分の返事がこだまし、それぞれが配置についたのを見届けて合図を出す。ファルロは頷くと、手元のカードキーをプレートに当てて表面に現れた数字パネルを手早く操作していく。
341 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/04(水) 22:15:41.84 ID:KBfEQrQA0
数秒間、沈黙の中にパネル操作の電子音だけが響く。それは一際高い沸騰したやかんみたいな音を残して終わりを告げ、開く扉の隙間から空気が逃げる「プシューーッ」という間の抜けた音が後に続いた。

そして扉の中から漂ってきて頬を撫でたのは、背筋が思わず震えるような外と遜色ない温度の“冷気”。

「Clear!」

「異常なし!敵影無し!」

(,,;゚Д゚)「………」

(; ̄⊥ ̄)「………」

中を覗いた時雨達が異口同音に叫ぶが、俺とファルロは扉を挟んで浮かぬ表情で顔を見合わせる。

(,,;゚Д゚)(………室内で空調が効いてない?)

(; ̄⊥ ̄)(階段もそうだが、電力が生きているのに何故……)

あぁクソ。この手の不吉な予感は基本的に当たると相場が決まっている。

だが、突入せず退却という選択肢は残念ながら皆無だ。

(,,#゚Д゚)「行くぞ!突入!!」

(# ̄⊥ ̄)「Вперёд!」

柄にもなく胸の内に沸いた不安を押し潰すように、ファルロと共に入り口を跨いで地下へ踏み込む。

電灯一つまともに点いていない廊下が、冷たい風を吹かせて俺達を出迎える。
342 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/04(水) 22:17:29.02 ID:KBfEQrQA0
銃口とライトを、次々と辺りに向けていく。俺と時雨、江風、そしてファルロの四つの白い光が廊下を行き来するが、閉じた鉄製の扉が並ぶだけで人影や気になるものはない。

………強いて一点挙げるなら、足下でぴしゃぴしゃと音を立てる水溜まりだろうか。

(,,゚Д゚)「こんなところまで雨漏りとは、建て直しをオススメするよ提督殿」

( ̄⊥ ̄)「ご意見ありがたく頂戴しよう、なんとか軍の上層部から予算を勝ち取らなければいかんな」

冗談めかしてそんな台詞を交わしてみるが、不穏な空気は益々重く俺達の肩にのしかかる。

“海軍”として初めての作戦に参加したときだって、それに六年前だってこんな気持ちにはこれっぽっちもならなかった。

(,,゚Д゚)「地下二階へは?」

( ̄⊥ ̄)「直進400M、突き当たりを左折して300Mで入り口だ。開ける方法は地下一階と同じ。

途中にセンサー式の機関銃や催涙ガスの噴出口があるが……この調子だとおそらく機能していないぞ」

「そりゃまたグッドニュースだね。うれしさのあまり泣けてくるよ」

直ぐ後ろで時雨がうんざりとした様子の声を上げる。こいつもどうやら経験則から地下の状態が碌なものじゃないと悟ったらしい。これから降りかかってくるであろう「厄介ごと」に、早速嫌悪感丸出しだ。

「ところで、廊下の両側にある幾つかの扉は?まさかターミネーターでも極秘裏に開発して格納しているとか?」

( ̄⊥ ̄)「いや………衛兵の詰め所と武器庫、それから監視所だな。

因みにこれらの扉も戦車道で使われる特殊カーボン製だ。かなり分厚く造られている、艦娘とはいえ駆逐艦の攻撃じゃ例え砲撃でも破壊は難しい」

「……ご丁寧にどうも」

(,,゚Д゚)「部屋の数は?この両側の4部屋だけか?」

( ̄⊥ ̄)「この階にはここだけだが地下二階にも同じ形で4部屋と非常用の食料庫、資料庫が一つずつ。それから最下層には詰め所が四つある。

収容人数は司令室や独房も含めれば200と少し詰め込める」

(,,゚Д゚)「……Ostrichが突入した側も?」

( ̄⊥ ̄)「構造はほぼ同様だ」

最大総兵力は400人前後。他区画や本舎地上階にいた戦力を差し引けばこの半分から1/3程度といったところか。

骨は折れるが、対処できない人数差じゃない。
343 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/04(水) 22:20:34.39 ID:KBfEQrQA0
(,,゚Д゚)「各位、部屋と上階からの物音に警戒しつつ進軍しろ!村田、直井、このまま入り口を確保しておいてくれ!異常があれば直ぐに無線で連絡を!」

「「了解!」」

「ギコさン、扉は開けて中も確認するかい?」

(,,゚Д゚)「藪蛇って言葉もある、入り口にブービートラップだけしかけて無視しろ」

ハンドサインを何人かの兵士に向けると、彼らは頷いて一斉に扉の前へ散る。普通に出てくれば足首がある場所に、ワイヤーやロープを用いた簡単な引っかけが施される。

( ̄⊥ ̄)「……行け」

ファルロも顎で指して味方に指示を出す。先程“海軍”の兵士達が仕掛けたトラップに、ロシア兵が手榴弾を添えて引っかかった瞬間ピンが外れて爆発するように一手間を加えた。

……もしも俺達だけだったらこの仕掛けは作れなかったので、思わぬ形でファルロ達の存在に感謝する。技研が造ったあの狂気の沙汰の塊で同じ罠を作れれば、下手をすると俺達が1人残らず生き埋めだ。

(,,゚Д゚)「………行け!」

罠が誤作動しないこと、そして扉が開かないことを確認し、村田達二人を残して歩を進める。

ぴしゃぴしゃと、足下では相変わらず不快な水音が小さなしぶきと共に鳴り続ける。

「……まさか水没しないだろうね、この地下施設」

( ̄⊥ ̄)「この建物は海に直接繋がっていないからほぼ有り得ないが………何故だ?」

「だって、妙に磯臭いよ?この水」

(,,゚Д゚)「………」

時雨に言われて、犬のように自身の鼻をひくつかせ、初めて気づく。

確かに、これは紛れもなく嗅ぎ慣れた“海の臭い”だ。

それも外から漂ってきたとかそんなレベルの生ぬるいものではない。明らかに、足下や周囲から直接俺達の鼻に届いている。
344 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/04(水) 22:26:05.54 ID:KBfEQrQA0
重苦しく、不気味さを増していく辺りの空気とは裏腹に何事もなく5分弱の進軍が終わる。ロシア国旗が描かれた壁がライトに現れたところで素早く辺りを見回し、人影が無いことを確認。

俺と時雨が先行し、曲がり角の壁に身を寄せてゆっくりと覗き込む。そのまま飛び出して廊下の先までライトで照らすが、300M向こうの扉に至るまで人影はやはり皆無だ。

( ゚∋゚)《此方Ostrich、地下二階へと続く階段を視認。人影は無い》

(,,゚Д゚)「こちらWild-Cat、同じく。村田、其方に異常は?」

《ありません。部屋、上階どちらにも新たな動きは見られず。強いていうなら外で【リトルバード】による空襲が行われているぐらいです》

(,,゚Д゚)「OK。

Ostrich、突入しろ。俺達もかちこむ」

( ゚∋゚)《了解。Good luck》

(,,゚Д゚)σ「其方こそな」

( ̄⊥ ̄) ))

時雨と江風を直ぐに援護できるよう位置に着かせて、俺とファルロでさっきと同じように扉に張りつく。……更に強くなった磯の香りに、思わず同時に顔が歪んだ。

( ̄⊥ ̄)「……いいか?」

(,,゚Д゚)「いつでも」

俺が頷いたのを見て、ファルロが再びカードキーを取り出して手元の電子プレートに近づけ────

(,,;゚Д゚)「「…………っ!!?」」( ̄⊥ ̄;)

操作をするよりも先に、凄まじい潮の香りを冷気と共に吐き出しながら扉が勢いよく開いた。
345 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/04(水) 22:35:23.99 ID:KBfEQrQA0
.







『─────キャハハハ、キャハハハハハハハ!!!!』








.
346 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/10/04(水) 22:43:01.39 ID:KBfEQrQA0
………最初に外でその声を聞いて以来、俺はずっと“幻聴”だと思っていた。だが、どうやら間違った認識だったらしい。

玩具で遊ぶ赤ん坊を思わせる、甲高くて無邪気で、しかしどこか神経を逆なでする笑い声。【Helm】から逃げる際に俺の耳に微かに届いたそれと寸分違わぬものが、よりはっきりと暗い廊下に木霊する。

「……!」

「いっ!?な、なんだよこの声!」

場違いなその声を聞いて反応したのは、今度は俺だけではなかった。時雨の表情が一瞬で真剣なものに代わり、江風はびくりと身を震わせ首を竦める。二人を含めた全員が、一斉にアサルトライフルを構えて声が聞こえてきた方向───扉の向こう側に銃口とライトを突きつけた。

「ウァッ…………』

「撃て!!!」

地下二階へと続く階段の手前に立っていたそいつは、ファルロ達と同じロシア軍の服装に身を包みながら武器を持っていなかった。攻撃せずにただ立っていただけのそいつに、しかし時雨の号令の下全員が同時に引き金を引く。

俺とファルロの間を、熱と火花を撒き散らしながら弾丸の雨が駆け抜ける。肉を無数の鉄塊が貫き断裂する音が直ぐ後ろで途切れることなく鳴り続ける。

ぼとり。

俺の足下に何かが転がり落ち、視線を向けるとそれは人の右手だった。

(,,;゚Д゚)「……クソッ」

悪態が、喉の奥から零れた。別段この程度のグロ画像は見慣れて久しいし、それこそ地下に踏み込む直前エントランスでぶちまけられた肉片と内蔵の山の方がよほど光景としてはよほど凄まじい。

そう、別段今の悪態は目の前の光景に漏らしたもんじゃない。微かに聞こえてくる「音」に対するものだ。

「ウァ……アァ……』

………嗚呼畜生。ふざけんな、あり得ねえだろ!

なんだってこの銃声の中で、弾雨の中で、それを食らってる奴の足音と声が聞こえてくるんだよ!!!
347 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/04(水) 22:46:07.98 ID:KBfEQrQA0
本日ここまで、新敵の正体はまた明日に。

皆さん歯は奥までしっかり磨きましょう(歯髄炎で死にかけながら)
348 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/05(木) 01:35:13.74 ID:/Y5TNyZA0
おつおつ
てか本当にお大事に…歯の類は本当に辛い(^_^;)
349 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/10/06(金) 00:06:48.97 ID:aiRar0RB0
(,,;゚Д゚)「野郎!」

「ヴァッ……』

出口に差し掛かった“そいつ”の顔に肘打ちをぶち込んで押し返し、身体を反転させAK-47の銃口を向ける。扉を挟んだ反対側でファルロも同じ動きをするのが視界の端に写り、更に二つの火線が蹈鞴を踏んで後退した奴の両肩に突き刺さる。

断裂音がして、左手も肘の下から先が消えた。吹っ飛んだ腕はぼんっ、ぼんっと体育館の床に弾むバスケットボールのような音を残して階段の下へと転がり落ちていく。

「こいつ……なンで……!!」

当然の話だが、人間の身体は18挺のアサルトライフルから放たれる弾丸に身体中を穴だらけにされて生きていられるほど丈夫ではない。だが、弾雨の只中に立つその男………“男のようなもの”は、まだ動いている。

「なっ……ンで!死なねえンだよ!!!!」

肉片が削られて四肢のあちこちから骨が垣間見え、両腕が欠損し脳漿が頭からこぼれ落ちて行く中でも未だに声を放ち前進を続ける。最早人間としての原型すら徐々に崩壊しつつあるその物体の姿を目の当たりにして、江風が叫んだ。

その声が震えていた理由は、おそらく通路に充満する冷気のせいではない。
350 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/06(金) 00:24:33.44 ID:aiRar0RB0
ファルロがほとんどただの赤い塊と化した上半身から射線を下にずらし、“男”の膝に向かって弾丸を放つ。5.45x39mm弾が膝関節の骨と筋肉を粉砕し、欠落した左足が血の噴水に押し出されて左腕同様階段を滑り落ちた。

「アッ………アッ………』

(; ̄⊥ ̄) 「……いったい何だこいつは!」

膝から下が消え去って太腿が地面に着き、それでも“男”は血の跡を残しながら失われた腕を伸ばして此方に向かってくる。額に汗を浮かべながら張り上げるファルロの問いかけに応えられる者はおらず、銃弾を撃つ手は止めないまま全員がじりじりと“男”の歩みに追い立てられるようにして少しずつ廊下を後退していく。

「イギッ』

(,,;゚Д゚)そ「ぬおっ!?」

「ひぃっ!?」

「っ……っ………!」

“男のようななにか”が、二階への入り口から3メートルほども進み出た頃だったろうか。

突然、上半身が内側から破裂した。ピンクと白が混じった脂肪の塊が此方に飛んできてピチャピチャと顔や腕に張りつき、江風は更なる悲鳴を残して尻餅をつく。

時雨は辛うじて悲鳴を漏らすことは避けたようだが、寸前までは行ったようで噛みしめられた唇からは一筋の赤い血が流れ出ている。







『キャハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!!』

次の瞬間、聞こえてきたのはあの“笑い声”。

『キャハハ、キャハハ、キャハハハハハハハハ!!!!』

肉塊の下から現れたのは、一人の赤ん坊だった。
351 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/06(金) 00:26:02.13 ID:IM96gqTGo
なんだ、チェストバスター(PT)か
352 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/10/06(金) 00:49:58.67 ID:aiRar0RB0
赤ん坊………ああそうさ。こいつは間違いなく赤ん坊だ。

0.5mあるかも怪しい小さな身体に、明らかに関節がしっかりとしていないバタバタと動かされる手足。全体的に丸っこい体型、無邪気に上がる笑い声。全て間違いなく赤ん坊のそれさ。

『キャッキャッキャッ、キャハハハハハ!!!』

そいつが笑っている場所が、内蔵が撒き散らされてぽたぽたと足下に血だまりを作り続けている屍の上でなければ。

そいつの笑い声が、どこか“奴等”の典型的な鳴き声に類似した特徴を持っていなければ。

そいつの首から上が、立派な顎と角を持った胴体と同じぐらいの大きさの物体────よりはっきり言えば、深海棲艦の非ヒト型を小型化させてそのままひっつけたような形状でなければ。

或いは、俺も人並みにその存在を“可愛らしい”と思う余地があったのかも知れない。

「──────Fuck!! Fuck!! Fuuuck!!!!」

『キャッ、キャッ、キャッ♪』

“海軍”兵の一人が、半狂乱で叫びながらAK-47の引き金を再度押し込む。だが放たれた弾幕は、肉塊のベッドの上ではしゃぐ赤ん坊には一発たりとも届かない。ほんの鼻先数センチで不可視の“殻”に弾かれて火花を散らす銃弾を見て、赤ん坊はいないいないばあでもされたみたいに手を叩いてはしゃぎだした。

「Son of a bitch……!」

その様子を見て、更に別の兵士が懐から黒いナイフを取り出す。深海棲艦との白兵戦用に造られたそれを逆手に構えたそいつは、血走った眼で赤ん坊に飛びかかる。

『───イヒヒヒヒヒッ!!!』

その瞬間、一際大きな笑い声を上げて赤ん坊の頭部が肥大化した。

バグン。

そんな、形容しがたい“咀嚼音”を最後に、飛びかかった兵士の身体は足首だけを残して消滅する。
353 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/06(金) 09:26:56.39 ID:Q97Eht8ZO
『アンム、アンム、アンム………』

人一人を丸呑みにするため2m四方まで脹れあがった赤ん坊の───深海棲艦の頭部は、口の中でしばらく獲物をもごもごと遊ばせた後に大きく喉を鳴らして嚥下した。口の端からはみ出ていた腕が噛み千切られてこぼれ落ち、水溜まりに音を立てて落下する。

『キュヒィイイイイ………』

頭部の肥大化は例えば、ナマズが餌を食うために大口を開けたような一時的なものではないらしい。ゲップと思わしき生臭い息を吐いた奴の頭部は一向に縮まる気配がなく、それどころか胴体も間を置かず頭部に続いて膨張を開始した。

『ギッ、ギギギィッッッッ…………』

人間には「成長痛」なんてものがあるが、深海棲艦にも共通するのだろうか。既に“赤ん坊”からほど遠い存在に変貌しているその生物は、胴が変態しだすと同時に激痛を堪えるかのごとく食いしばった顎の隙間から歯ぎしりのような摩擦音を漏らす。

『グッ………アァアアッ!!!!』

それは“成長”であり、“退化”でもあった。

丸太のように図太くなった胴体は、残っていた寄生主の下半身を押し潰してズンッと床を揺らす。そこに先程まで生えていた手足はなく、俺達のライトを反射してヌラヌラと不気味な光沢を放つ青白い皮膚が存在するだけだ。

ビシャリ、ビシャリ。

目の前の生物がのたうつ度に、水音がして磯臭い液体が壁や俺達の身体にかかる。元よりあった分より明らかに嵩が増したそれを見て、俺はようやく廊下に撒き散らされていたそれらが“そいつ”の身体から分泌されているのだと理解した。

『─────ォギァアアアアアアアッ!!!!!』
354 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/06(金) 22:30:06.77 ID:1qa5QjZrO
毎度更新を楽しみにしてるけど、歯は大丈夫何だろうか…
355 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/10/07(土) 23:00:52.58 ID:j0u6iqnt0
外観こそ歪なオタマジャクシだが、大きさは今や胴体と頭部を含めて5,6Mは越えた化け物。

神話に出てくる怪物蛇の幼体だと言っても信じてしまいそうなそいつの、強大極まりない肺活量を一杯に利用した咆哮が廊下に木霊する。物理的な衝撃すら感じる大音声を間近に聞き、鼓膜が痛みを伴いながら破れる寸前まで震動し、口から新たに撒き散らされた潮の臭いがする水分を全身に浴び────間抜けなことに、ここまでされて俺達はようやく我に返る。

『マァアアアアアアアッ!!!!』

(,,;゚Д゚)そ「跳べぇえーーーーーーーーっ!!!!!」

「っ、うわっ!?」

廊下を巨頭で埋め尽くし、壁を粉砕しながら此方へ飛びかかってくる化け物。俺達は一斉に後ろへ跳び退がる……が、粘液に足を取られた一人が転倒しあろうことか化け物の進路上に身を投げ出す形になった。

「ひっ」

悲鳴を上げる間もない。助けを求めてこちらに伸びた手は虚しく宙を掴み、そのまま残った手首が床を転がる。

「飯島がやられました!」

(,,;゚Д゚)「撃て、撃て、撃て!!!」

(; ̄⊥ ̄)「Огонь!!」

床から飛び起きた俺とファルロが声を限りに叫び、残り17挺となったアサルトライフルが一斉に火を噴く。
356 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/07(土) 23:48:31.75 ID:j0u6iqnt0
廊下をほぼ隙間無く埋めるほどデカイ相手に対して、5メートルと離れていない位置からの銃撃。きっとチンパンジーだって外さないに違いない。

『キィアアアアアアアアアッ!!!!!』

頭部を覆う真っ黒い表皮の上で銃火が爆ぜて廊下を照らす。案の定とでも言うべきか効果は無く、満腹からは程遠いらしい化け物は蛇の如く床を這って俺達へと躙り寄る。

狭い廊下で蠢くせいで、壁や天井が突き崩されて廊下が上下左右に広がっていく。

「どいて!!!」

(,,;゚Д゚)「っ」

(; ̄⊥ ̄)「うわっ…!?」

後ろで時雨が叫ぶ。壁に身を寄せて道を空ければ、AK-47の火線が犬のション便に見えてしまうような強烈な掃射が重厚な発射音と共に駆け抜けていった。

「くっ、たっ、ばっ、れっ!!!」

『ギィイイイッ!!?』

時雨の25mm連装機銃のフルオート射撃を浴び、化け物の進撃が止まる。艤装といっても機銃、それも対戦闘機用じゃ威力不足だろうが、流石に超至近距離からとなると幾らか効果はあるようだ。

『ギィッ、グゥウウウウッ!』

小さな呻き声を漏らしてガチガチと歯を鳴らすが、通常兵器とは桁違いの圧力の前に進むことはできない。弾丸に砕かれた甲殻の破片が、パラパラと床に散らばった。
357 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/10/08(日) 08:27:13.41 ID:X++56mtf0
undefined
358 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/08(日) 08:31:00.90 ID:X++56mtf0
(;゚∋゚)《Wild-Cat、こちらOstrichだ!裏口で新型の深海棲艦と交戦中!》

(,,;゚Д゚)「奇遇だな、こっちも同じ状況だ!敵の形状は!?」

(;゚∋゚)《地下二階への突入口に立っていたロシア軍兵士1名の“内部”から乳幼児型の幼体が出現、その後交戦中に肥大化!現在は蛇、或いはオタマジャクシのような形状の非ヒト型深海棲艦になりこちらに攻撃を仕掛けてきている!》

(,,;゚Д゚)「こっちと同型か!」

記憶する限り、過去に深海棲艦の幼体が確認されたという話は聞かない。オマケにそこから成長した姿も完全に新型個体だ。

つまり俺達とOstrichは、10分と経たない間に世界中の研究者とカンザス州のマッド共が涎を垂らして羨む大発見を二つも体験したことになる。

………別に喜ばしくもなければ、これっぽっちも望んじゃいなかった体験だが。

(;゚∋゚)《どうする?一度退くか!?》

(,,#゚Д゚)「いや、なおのことガングートの安否確認を急ぐ必要がある!押し通るぞ!!」

(#゚∋゚)《Alright!!》

幸いにして、時雨の機銃が直撃しているということは船体殻は機能していない。つまり見た目通りの下級種の可能性が高く、それなら知能も大したことはないはずだ。

やりようを工夫すれば幾らでも手玉に取れる。

(,,#゚Д゚)「白兵戦闘、用意!!」

指示を飛ばしつつ、俺自身ベルトにさしていた白兵戦闘用のブレードを抜いて柄に着いたトリガーを押す。

(; ̄⊥ ̄)そ「おおっ!?」

せいぜい20cm程だった刃渡りがビデオで早送りされたタケノコの生長のように伸びる。一瞬で三倍近い長さまで達したそれを見て、ファルロが驚きの声を上げた。

玉石混交を地で行く技研の数々の開発装備だが、少なくともコレに関しては俺は大いに気に入っている。勿論短い状態のままでも対人や対ヒト型では致命傷を与え得るので、ここより更に狭い通路や室内でも取り回しが利くのが大きい。

(,,#゚Д゚)「江風、白兵装備で後続!時雨、奴を大きく怯ませて隙を作れ!!」

「りょーかい!」

「しくじらないでよ!」
359 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/08(日) 10:06:28.01 ID:ADV0ZPzsO
憎まれ口を叩きつつも、時雨の行動は迅速だった。25mm連装機銃を素早く構え直し、動きの激しさに反して眠たげに半開きにされていた奴の眼球へと銃火を叩き込む。

『ギュエアッ!!!!?』

悲鳴を上げて奴が頭を跳ね上げる。天井にドデカイ穴が開いて頭部の上半分が埋まり、青白く光る胴体が剥き出しになった。

どうも地上階まで貫通したらしく、調度品だったと思われるどこぞの偉人の胸像やら格調高い意匠の家具やらが降ってきて地面に叩きつけられていく。それらの合間を縫って、俺はブレードを、江風は手斧を構え奴の胴めがけて飛び込む。

(,,#゚Д゚)「ゴルァアッ!!」

革袋いっぱいに詰め込まれた腐肉に刃を突きたてている気分になる、あの不快な感触が手先から伝わってくる。こみ上げてくる不快な感情を努めて抑え付けながら、相撲の力士を二人ぐらい纏めて飲み込めそうな図太い胴に刃を横断させた。

『      !!!?』

真下で聞く羽目になった奴の悲鳴は、世界中の文豪を束にしてもきっと文字で表現することはできまい。とにかくおぞましい、この世のものとは思えない“音”だったとだけ聞いておく。

あんな気持ちになったのは非番の日に双子共と提督についてカラオケに行き、そこで兄の方の歌声を聞いたとき以来だ。

あの時俺と提督はよく生き延びられたと思う。

「そぉおおいっ!!!!」

『グケッ』

がくんと姿勢が崩れ、天井から抜け落ちてきた奴の頭部。目元辺りの高さに差し掛かった奴の頭部めがけて江風が手斧を振り下ろすと、締め上げられた鶏みたいな声を最後に化け物の悲鳴が途絶える。序でにいうとその声も、勢いよく頭部が壁に叩きつけられた轟音のせいで本当に辛うじて聞こえたのだが。
360 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/10/10(火) 21:50:38.45 ID:jnMs5GG00
濛々と舞い上がり辺りに充満した土煙は、廊下の湿った空気と上に口を開けたデカイ換気口のおかげで幸いにも直ぐに収まる。天井から入ってくる地上階のライトが、事切れた化け物を照らし出した。

(,,;゚Д゚)「……」

手斧による裂傷が右側頭部の中心にざっくりと刻まれ、傷口を境として頭部全体がダンプカーに全速力で衝突されたかのようにへし折れ拉げている。左側は壁に完全にめり込み、殴打されたときの衝撃で飛び出した眼球が真下に転がっていた。

何というか……“斬撃”を受けた屍には逆立ちしたって見えっこない。

(,,;゚Д゚)「……その白兵武器、ハンマーだったか?」

「は?いや、斧だけど?」

俺の疑問に、江風は心底不思議そうな表情を浮かべて右手に持った得物を掲げる。天井からの照明に照らされたそれは確かに紛うことなく斧であり、黒い刃が鈍く光っている。幾らか分厚いことは事実だが、それでもあくまで想定されている用途は明らかに“切断”だ。

少なくとも、夢の国で電飾を発光させてエレクトリカルパレードに参加していそうな造形のデカ物を“叩き潰す”ようには、設計されていない。

「なぁギコさン、これがどうしたンだい?」

(,,゚Д゚)「………いや、何でも無い。すまんな、変なことを聞いた」

「疲れてんのかい?しっかりしてくれよな」

(,,゚Д゚)「あぁ、気を引き締めておくよ」

深く考えるのはやめよう。非常識が服と筋肉を纏っているような指揮官の下にいるこいつらを、常識で語るのがそもそも間違っている。
361 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/10(火) 22:02:25.44 ID:jnMs5GG00
ブレイドを振り上げ、一度潰れた頭部の鼻先辺りを斬りつける。ついで目元と胴にも一撃ずつ加え、身動き一つないか、微かな息づかいでも聞こえないか全神経を集中して探る。

本当はこの僅かな時間でも切り上げて地下二階へ踏み込みたいところだが、相手は深海棲艦だ。一秒の油断が原因で部隊が全滅したっておかしくない。

(,,゚Д゚)「こっちの“新型”は江風が撃破した!Ostrich、そっちは!?」

( ゚∋゚)《Верныйが無事始末してくれた!流石は元とはいえ“海軍”出身者だな、あっという間に沈めやがった!

────Ups……》

賞賛の声が、無線の向こうであっという間に悪態混じりの呻き声に変わる。

理由は聞くまでもない。………たった今、俺もその「原因」に直面したのだから。

(,,゚Д゚)「…………クソッタレ」

下から、地下二階から迫る足音。50、いや、100は越えるだろうか。猛然と、俺達の方へ駆け上がってくる。

『『『キェアアアアアアアアアアアアッ!!!!!』』』

極上の玩具を見つけたとびきりしつけの悪いガキで構成された集団が声を限りに上げているような、不快なわめき声を伴って。

(,,#゚Д゚)「くるz『ギィヤァアアアアアアアアアアッ!!!!』

他の奴等に叫ぶより前に、先陣を切って地下通路から勢いよく飛び出した“人影”。頭の左半分が破裂していたそいつは、傷口から生えた黒い頭部と青白く粘着質な光を放つ胴体を持った何かを勢いよく俺に伸ばしてきた。

『キィアアアアアッ───ア゛ッ』

(,,#゚Д゚)「まだ来るぞ!」

ブレイドを翻して、歯をかちかちと鳴らしながら迫ってきた“何か”の首を切り落とすと、青い液が噴き出して床や壁を塗らす。間を置かず、階段口で倒れ込んだそいつの胴を踏み散らして互いに押し合いひしめき合いながら更なる群れが廊下へと溢れ出る。

あぁ畜生、ジョージ=A=ロメロはもうあの世に逝ったはずだろ!

今更ゾンビとエイリアンの夢のコラボだなんて勘弁してくれや!!
362 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/10(火) 22:48:23.02 ID:jnMs5GG00
(; ̄⊥ ̄)「Огонь!Огонь!Огонь!!!」

『『『キャアアアアハアアアハハハハッ!!!』』』

床に伏せた俺と江風の上を、ファルロ達ロシア兵と“海軍”兵の一斉射が飛び過ぎる。腐りかけの人体が銃火の雨で弾け飛ぶ音が頭上から降ってくるが………足音は押しとどめられつつも止まる気配は全くない。

『ジャギャアッ!!!』

「ウァッ……」

“奴等”の内の一体が胸元を破裂させ、そこから凄まじい速度で伸びていったエイリアンもどきがロシア兵の一人に食いつく。喉元を食いつぶされたそいつは呻き声すらまともに上げられず、そのまま頭部を引き千切られ血潮を天井めがけて噴き上げた。

『ギイィッ!!!』

(,,;゚Д゚)「っの野郎!」

別のエイリアンもどきが、今度は再び俺に狙いを定めて首を突き出してくる。咄嗟に床を蹴って仰向けに転がり狙いを外すと、上半身だけ起こして刃を力一杯横に振る。ブツリ、と断裂音がして、切断された頭部だけ残して白い胴体が制御できなくなった消防車のホースのように体液を撒き散らしてすっ飛んでいく。

『ギィアッ!!!』

「おりゃぁっしょいっ!!!」

江風の方に襲いかかった首も、手斧で頭部を唐竹割りにされて絶命する。立て続けに2体がやられて流石に少し怯んだのか化け物共の攻勢が緩んだ隙に、俺と江風は床から起き上がってファルロと時雨達の下まで一度後退する。

『ギッ、ギッ……』

『ギァアアア………』

ファルロ達の猛射によって群れを構成する個体の大半が人体部分に大きな欠損が発生しているものの、奴等それ自体がダメージを受けた様子は無く胸や腹、うなじ、肩口など様々な場所から生える何十という寄生体はウネウネと元気かつ不気味に蠢いている。

ただし、“生長”を始める個体は今のところ見られない。まぁ、向こうもこれだけ密集していると流石に全個体が一斉にあの巨大な姿へ生長というのは難しいのだろう。
363 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/11(水) 01:16:05.99 ID:cRjMX2aA0
これはまたえげつない
化け物相手に特化した戦力でもいれば違いそうだけど、小型かつ俊敏な駆逐艦だから室内戦もいけるのか…
364 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/13(金) 23:24:27.58 ID:m2mV5F3y0
そして俺達としても、例えデカかろうが翻弄した上で各個撃破できる一体一体よりも数に任せて押し寄せられるこのやり口の方が遙かに厄介だ。

幸いなことに耐久力・生命力はこの形態だと非ヒト型の深海棲艦と比較しても大きく劣るようだが、こっちの銃撃がほとんど役に立たないことには変わりが無い。必然、火力が不足している俺達は白兵戦闘を強いられるわけだがそうなると数的不利の影響が諸に出る。

最悪、乱戦の最中時雨や江風に“事故”が起きないとも限らない。

『『『ギイイイイイイッ!!!』』』

(,,#゚Д゚)「ゴォルアッ!!」

「いただき………おわっ!」

「っ、気色悪い上に鬱陶しいね!!」

一気に六体、襲いかかってきた寄生体。弾幕射撃とブレイドで何体かを跳ね返すが、時雨や江風の追撃は他の個体に邪魔されて届かない。いやらしくタイミングをずらしての攻撃で一気に弾くこともできず、みすみす無傷での撤退を許す羽目になった。

やはり、複数体が一度にまとまってこられると一気に対処が辛くなる。

「少尉、このままでは危険です!既に鎮守府内に侵入しているSpartaチームに援軍の要請を!」

(,,;゚Д゚)「んな余裕が向こうにあると思うか!」

「っ、そういえば通信で民兵の包囲下に……!」

声を掛けてきたそいつは小さく呻いて唇を噛むが、残念ながらその答えは50点。

まだ“民兵による人海戦術”だけで済んでいるなら、どれだけ幸いか。
365 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/13(金) 23:33:36.59 ID:m2mV5F3y0
そして、人生ってのは“希望的観測”はほとんど当たらないくせに“悪い予感”は概ね現実になる、クソゲーオブザイヤーも真っ青の超絶鬼畜仕様だ。

《Spartaチームより空挺部隊各位、応答を願う!》

程なくして無線から聞こえてきた叫び声によって、俺が想像した“最悪”は既に現実になっていたことを知る。

《当方を包囲していた民兵集団より多数が深海棲艦に類似した生物へ変態、攻撃を受けている!!もう6人やられた、至急増援を頼みたい!!》

《ChaserよりSparta、こちらも同様の状態だ!周囲に“新型”の深海棲艦が少なくとも20体前後、三名が死亡!》

《Coyoteより各部隊、伊-401中破!艦載機の発艦困難!》

《こちらRabbit、“大物”が複数体俺達の方に向かってきている。拠点の維持は困難、悪いが離脱する》

《対空砲火が激しすぎる、そこら中に敵艦が沸いて出やがった!航空支援の継続が困難、Seeker全機速やかに後退しろ!》

(,,;゚Д゚)「……ド畜生!!!」

無線機を地面に叩きつける代わりに、全力でブレイドを振り下ろす。唐竹割りにされた寄生体の屍が、床に落下してビクビクと跳ね回る。

「…っ!なぁギコさン、今の通信ってヤバくねえか?!」

(,,#゚Д゚)「ああとんでもなく激ヤバだ!てめえの上司の映画趣味並みにな!!」

「それホンッッットにヤバいね。どうすんのさ」

(,,;゚Д゚)「どうするってもなぁ……」

はっきり言ってしまうなら、“どうしようもない”。その気になればル級までは縊り殺せるあの筋肉野郎ほどの武力も、十の戦力で万の敵を翻弄し選るロマさんほどの知力も俺には無い。逆に時雨と江風に、“あの”青葉のように単騎で云十体の深海棲艦を薙ぎ払える力量は流石に備わっていない。
366 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/14(土) 00:12:33.72 ID:1FFMfYnF0
────あぁ、本当に。自身の置かれた状況が、ロクでもなさ過ぎて笑えてくる。

(,,#゚Д゚)「ファルロ、一つだけ朗報だ!!」

(; ̄⊥ ̄)「この状況のどこが!?」

(,,#゚Д゚)「ムルマンスクの民間人もてめえの同僚も、とりあえず大半は本意で“反逆者”になったわけじゃねえってことが解った!!」

どうやっての部分は不明だが、ともかくこの街にいた人間の大半は“深海棲艦”と化した。元々圧倒的だった物量に「質」が加わり、街の至る所で分断包囲されている俺達には増援の見込みもなく、機甲戦力は皆無で艦娘戦力も乏しい。

そしてこれほど危機的な状況であっても───寧ろ危機的な状況であるからこそ、俺達のやらなければいけないことは変わらない。

今の目的は一つ。ロシア軍の新鋭艦娘【Гангут】の迅速な救出と鎮守府施設の奪還。しかもさっきまでと違い、身体に化け物を寄生させたゾンビの群れを薙ぎ倒しながら爆撃が始まる前に完遂するという条件付き。

困難なんてもんじゃない。孤立無援、四面楚歌、最低最悪にも程がある任務。





だからどうしたって話だ。

「この状況で何笑ってんのさ、気色悪いなぁ」

(,,゚Д゚)「ただの苦笑いだ、他意は無いさ」

地獄の底よりよっぽど酷い戦場も。

ジェームズ=ボンドが音を上げてもなんの不思議もない、絶望的な難易度の任務も。

クソッタレた、B級映画モンスターの出来損ないみたいな奴等との戦争も。

今に始まったことじゃあない。

(,,#゚Д゚)「総員、構え!!!」

全てが、俺にとっては“日常”の一部だ。
367 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/14(土) 00:14:58.76 ID:1FFMfYnF0
.





(,,#゚Д゚)「────突撃だゴルァッ!!!」






.
368 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/14(土) 01:01:04.64 ID:1FFMfYnF0











彡(゚)(゚)《イスラームの奴等が絡んでましたわ》

(゚、゚;トソン「…………」

日本国内閣総理大臣・南慈英からアポイントも無しに突然かかってきた電話。ワケもわからずに取ったトソン=カーヴィルに叩きつけられた、第一声がこれだった。

二重三重の衝撃に、最早自分が何に驚いて黙ってしまったのかすら把握できていない。何の事前連絡も無しに突然電話を掛けてきたこの島国の長の傍若無人さに対してか、突然飛び出してきた“イスラーム”という単語に対してか、或いはそれらに何一つ反応を返せずフリーズしてしまった自分自身に対してか。

彡(゚)(゚)《おーい、寝とらんやろなpresident》

Σ(゚、゚;トソン「はっ…?」

呆けて現実から離れかけた彼女の意識を、耳元でがなり立てる彼独特のイントネーションを持つ英語が繋ぎ止める。……危ないところだった、首脳会談中に意識を失い返事できずとなれば口うるさいマスコミ共が嬉々として健康不安説を書き立てるところだったろう。

(゚、゚;トソン「失礼、Mr.MINANI。それで、イスラームが絡んでいたというのは今回のムルマンスクの件で間違いありませんか?」

彡(゚)(゚)《当たり前やんけ。ワイらが情報せなあかんこの手の話題なんて今はこれくらいしかないやろ》

なるべく丁寧に話そうと心がけるトソンに対し、南の口調はよく言えば砕けた、率直に言えば品位の欠片もない喋りでズケズケと会話を進めていく。

舌が錐でできている、などと他国のメディアでも取り上げられることがしばしばあるが、会話の主導権を握る機会がなかなか得られないため特にトソンは彼のしゃべり方を苦手としていた。
369 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/14(土) 11:18:04.74 ID:aBmWUyDA0
おつおつ
ここまで悲惨な展開だと泣けるな…
370 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/14(土) 21:59:44.39 ID:1FFMfYnF0
いけない、いけない。

トソンは胸の内で自分自身に冷静になるよう言い聞かせる。

(-、-トソン(彼のペースに引っ張られてはいけません。いい加減、こちらも慣れなければ)

かれこれ八年になる付き合いの中で解ってきたことだが、ヨシヒデ=ミナミの粗暴極まる言動の数々は半分は素だがもう半分は彼の意図的な演技だ。相手が呆気にとられているうちに話を進めてしまう、こいつは何をしでかすか解らないと警戒させる、怒り狂えばつけ込んで自分が主導権を握れるように誘導する等、相手の反応に併せてカメレオンのように対応を変化させていく。

相手の力量や状態を見極めて交渉を優位に進められるだけではなく、国内に対しては“世界に物を言える首相”をアピールして相当数の固定支持層を──激烈なアンチと共に──生み出すことに成功している。

特に若年層の支持や注目を引きつけて政治的関心を高め、日本全体の選挙投票率を20%も跳ね上げたのは彼の隠れた功績だ。

味方にするとこちらの胃を締め上げつつも頼もしい存在になってくれるが、敵になるとこれほどやりにくい人物は今の国際社会にはいない。そして、真の意味での「味方」など国際外交においては存在しない。

長年の同盟国である日本でもそこは変わらない。そも、無二の友邦であるこの東洋の島国とアメリカはつい70年前まで太平洋の海原で殺し合いをしていたのだ。

電話の向こうに聞こえないよう鋭く小さく息を吐く。この男は今は敵でもあり味方でもある、気を抜かずに当たらなければ。

(゚、゚トソン「随分と報告が早いですね。まだムルマンスクは戦闘中だというのに」

彡(゚)(゚)《スギウラ准将からリアルタイムでの報告があったんでな。“海軍”最高司令官殿に共有をってワケや》

その名を聞いて、脳裏に浮かぶのは日本軍から“海軍”に派遣されている将校の顔。

あぁ、あの国は厳密には“自衛隊”だったか。准将への任命ということで一度顔合わせはしたが、眼鏡の奥で常に不機嫌そうな目付を光らせていて雰囲気に隙が無い男だった。ミナミとはまた別ベクトルで苦手な印象を持ったことを覚えている。
371 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/14(土) 22:03:24.75 ID:1FFMfYnF0
それにしても、“最高司令官殿”か。

先程冷静になるよう自らに言い聞かせたばかりにもかかわらず、トソンは思わず不快げに眉を顰める。
 _,
(゚、゚トソン(どの口が言いますか)

“海軍”の存在を知る国家の間では、この組織はアメリカ合衆国が日本を“追従させて”作った超法規的なものだと認識されている。実際最高指揮権は合衆国大統領である自分に帰属しているし、No.3に当たる総提督もアメリカ海軍のアルタイム大将の兼任だ。上層部の凡そ7割強もアメリカからの人員提供であり、軍内での権限は極めて大きい。

あくまでも、“名目上”は。

(゚、゚トソン「……お気遣い感謝致します。“海軍”最高司令補佐官殿」

彡(゚)(゚)《“部下”として当然の役割や、礼なんていらんやで》

……嗚呼、奴の薄ら笑いが目に浮かぶ。噛みしめられた奥歯の音が向こうに届いていないことを願わなければ。

“海軍”は実質的に、国際社会の一部に黙認させた上で日本からアメリカへと行われる艦娘という【兵器】のレンドリースだ。一方で日本側も事実上アメリカ合衆国の兵器・人員の一部をある程度自国の裁定で動かせるようになっているため、Win-Winどころか日本の方が“海軍”によって得ている利益は寧ろ大きい。

さらに日本は、戦後復興時など比べものにならないほどの支援をもアメリカから勝ち取っている。それは確かに法外極まる額の“見返り”だが、合衆国単体で深海棲艦の圧倒的物量に対応する際に要する戦費よりは遙かにマシという絶妙な額でもあった。結論アメリカとしては、“安い買い物”と割り切ってこの要求を飲みざるを得ない。

加えて言えば、“海軍”それ自体で振るわれる権限も実質的には日本の方が大きい。

確かに上層部の人員供給はアメリカが大半を占めるが、彼らは殆どが日本側からの強力な推薦があって着任している。これがまた在日米軍の元指揮官に日系三世、親族に親日的な人物が多い家系の生まれ、単純に日本文化贔屓など「よくもこれだけ探したな」とトソン達が感心してしまうほどの所謂知日派揃い。

おまけに実績・実力も相応と「推薦」を突っぱねる隙は1セント硬貨の厚みほども見当たらず、彼女達は上層部の編成を日本側の案に委ねざるを得なかった。
372 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/14(土) 22:08:20.79 ID:1FFMfYnF0
現場レベルの提督達に至ってはほぼ全員が日本人であり、戦場における艦娘運用のノウハウをアメリカの人材に学ばせる機会も限られている。技研での新兵器開発や艤装改良も本部こそアメリカに置かれているが主導は日本企業と日本側の技術者達で、寧ろアメリカはわざわざ資金を提供して日本の研究を支援しているような立ち位置という有様だ。

結論として、日本とアメリカ合衆国の“艦娘格差”を減少させるために“海軍”が発足されて以降も、その差は全く縮まっていない。どころか、艤装改良や戦術面で寧ろ更に広がりつつある。

太平洋戦争後70年、事実上属国同然であった島国が超大国たるアメリカに肩を並べ、どころか越えるというのか。

(゚、゚トソン(忌々しい)

トソン=カーヴィルは決して悪辣な人間ではない。魑魅魍魎が跋扈する政治の世界においては寧ろ善良で純粋な人間性を持ち、少なくともドイツへの核兵器投射に憂いを浮かべられる程度には“正義感”も備わっている。

だが、彼女もまた人間である前に“政治家”であり何よりも「アメリカ合衆国大統領」である。彼女にとっての「正義」とは第1に祖国アメリカの国益であり、その他のありとあらゆる事柄は瑣事にあたる。祖国の権益に傷を付け名誉と覇権を脅かす存在があれば、それはトソンからすればどのような経緯があろうとも紛れもない悪徳だ。

彼女にとって、今の日本は同盟国でも友邦でもない。潜在的な敵性国家であり、アメリカ合衆国の国益を損なう「悪」に他ならない。

鉄槌を下す必要がある。少なくとも、彼女達合衆国にとって「悪」とはならない程度の存在になって貰わなければ。
373 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/14(土) 22:18:42.94 ID:1FFMfYnF0
………とはいえ、それは“今”ではない。

(゚、゚トソン(今は、日本を排除することで失われる“国益”の方が日本自体に侵されるそれよりも遙かに大きい)

【深海棲艦】という人類共通の敵がアメリカにとっても重大な脅威である限り、其方への対処を優先する。

敵の敵は味方、だ。日本との「水面下での戦争」は、深海棲艦の脅威が縮小されるか───かの島国が深海棲艦を上回る脅威となり得るまではお預けだ。

(゚、゚トソン「それで、ミナミ首相。イスラームの介入規模は?」

彡(゚)(゚)《入ってきた情報を聞く限りせいぜい4〜500人程度ってところやな。練度は極めて低いらしいから有名所でもない》

ミナミにとってもそれは同じなのだろう。最高司令官補佐の役割という名目で主要な“海軍”関連の情報を一手に握る権限を持ちながらアメリカへの情報共有を怠ったこともないし、“海軍”の権益も独占するような真似はせずアメリカや協力国に一定以上の見返りが出るよう気を配ってはいる(その気配りがまたトソンからすれば小賢しいのだが)。

トソン=カーヴィルもヨシヒデ=ミナミも、幸いなことに今戦うべき相手を冷静に見極められる程度には優れた政治家だった。

彡(゚)(゚)《大方独仏のいざこざでロシアが動いたことに対する威力偵察の一環やろ。ロマ助は首謀者の確保を潜入部隊に命じたらしいがおそらくほぼ意味は無いで》

(゚、゚トソン「捨て駒にされるような下部組織なら自分たちが誰に依頼されたのかすら知らないでしょうからね。そもそもその500人が一つの組織なのかすら怪しいです」

ヨーロッパ方面からの避難民受け入れの影響などで周辺国の混乱が激しかったとはいえ、500人規模の危険思想を持った集団だ。そんなものが一時に動くならロシアや日本の情諜報機関か、アメリカのCIAが爪の先程の兆候でも事前に察知して報告を上げていたはずだ。

優秀な組織なら或いはそれだけ大規模に動いても捕捉されない可能性もあるが、前線から届いた直々の報せによってその可能性も潰えた。
374 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/14(土) 22:29:25.51 ID:1FFMfYnF0
(゚、゚トソン「より小さな泡沫組織がバラバラに国境を越え、ムルマンスクに各自の方法で辿り着いた………これなら我々が初動を捕捉できなかった理由も、練度の極端な低さも説明が付きます。

それでも、あのロシアが最重要防護拠点までみすみす侵入を許してしまったことは信じられませんが」

彡(゚)(゚)《そら、協力者が現地以外にもおったんやろ。大手のイスラーム組織は特に艦娘保有国にとっては最重要監視対象、指示を出すだけならともかく支援だけでも足が着きかねん。間違いなく、かなり強力な外部の援護があったはずや》

(゚、゚トソン「……それ、下手したら国家単位で我々の側に内通者がいたことになりますよ。洒落になりません」

彡(゚)(゚)《ワイら日米ですら裏じゃ利権争いの真っ最中やぞ。今更やんけ》

(゚、゚;トソン「………」

本当にこの男は、言いにくいことをズケズケズケズケ。

彡(゚)(゚)《おっ、大丈夫か大丈夫か?》

(-、-;トソン「ええ、ええ、お陰様で健康ですよMr.Minami。

……しかし妙ですね。外部協力者がいたにしろ、やはりムルマンスクがあれほどあっさり陥落した理由が解せません。内部協力者と言っても、まさか街中の人間が一人残らずロシアに反旗を翻したというのはあまりに非現実的すぎて────」

彡(゚)(゚)《……その事ですが、President.》

この男にしては丁寧な、そして深刻な響きの声が受話器から聞こえてくる。

その事に、トソンが訝りを覚える間すらなく。
375 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/14(土) 22:30:46.13 ID:1FFMfYnF0














彡(゚)(゚)《前線から報告がありました。“海軍”部隊と交戦中のロシア兵反乱部隊並びに民兵が多数、深海棲艦に変態したそうです》

(゚、゚トソン

(゚、゚トソン「は?」

ヨシヒデ=ミナミの口から、ツァーリ・ボンバをも凌駕する爆弾が放たれた。
376 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/14(土) 22:46:46.24 ID:1FFMfYnF0
間抜けな、呆けたような声が出たきり自分の口は動かない。何か言葉を返すべきなのかも知れないが、肝心の言葉が喉まで上がってこない。

脳内はまるで、ホワイトハウスの壁のように真っ白だ。

辛うじて機能を保っている耳に、ミナミの声が淡々と響く。

彡(゚)(゚)《まず言っておきますが、これは完全なオフレコですわ。ロシア連邦と日本、そして今し方のお宅らアメリカ合衆国。この三国の政府関係者しか知らん。現場レベルからの報告はこの三国以外には絶対に流さないようアルタイム総提督に厳命してある。いつまで保つかは解らんがしばらくは漏れんと思います》

(゚、゚;トソン「っ……ハァッ!ハァッ……ハァッ……」

ようやく呼吸が回復したが、朝の日課であるランニングをした直後よりも息が上がっている。落ち着くためにコーヒーを流し込もうとカップを手に持ったが、ぶるぶると震えて中身は一滴残らず机の上に飛び散った。

(゚、゚;トソン「………そんな、バカな」

ようやっと絞り出せた声は、我ながら情けなくなるほどにか細く何の意味も無い呟きだ。手の震えを抑えようと握り拳を握ってみたが、爪が掌に食い込むほど強く力を込めても止まらない。

(゚、゚;トソン「幾ら何でも馬鹿げています、手垢が付いたB級モンスター映画の設定じゃあるまいし。人間が深海棲艦に?たしかに奴等の個体の中には【ヒト型】もいますが、明らかに馬鹿げた話です」

彡(゚)(゚)《ワイもそう思ってましたしそう願ってました。だから現場から訂正が入るか完全に裏が取れるまで、この事について触れもしなかったし口止めも徹底した。

が、訂正どころか現地の統合管制機から映像付で全く同様の報告がアルタイム総提督に入ったそうです。確定ですわ》

(゚、゚;トソン「………そんな」
377 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/14(土) 22:56:19.45 ID:1FFMfYnF0
undefined
378 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/14(土) 22:59:07.75 ID:1FFMfYnF0
ようやく動悸や震えは治まってきたが、思考はまとまらないどころか益々混乱が酷くなる。

ミナミはオフレコだと言うが、そんなもの当然だ。この情報が事前の十分な対策もなく民間に漏れれば、凄まじい混乱が巻き起こる。

特に混乱の最中にある欧州でこの情報がリークされれば、恐慌に駆られた国民によって早晩国家規模の大暴動へと発展してもおかしくない。東西両方面の戦線は、確実に瓦解するだろう。

彡(゚)(゚)《ワイ自身はまだ映像を直に見たわけやないが、どうも【非ヒト型】の完全な新型らしいですわ。正確な数は不明も、“発症者”は膨大で投入された空挺部隊は全滅の危機。現地部隊はロシア軍にも協力を得てヘリ部隊による航空支援も試みているものの、対空砲火が激しく進捗は芳しいと言い難いとのこと》

(ノ、-;トソン「………」

最早真偽を問う声すら上げる力も無く、顔を右手で覆ってトソンは項垂れる。

アメリカ代表の戦車道チームが親善試合で何の手違いかウガンダにボコボコにされたときも、最初に深海棲艦が出現したときも、贔屓チームであるボルティモア・オリオールズが27点差で負けたときだってこれほどの脱力感と絶望を感じはしなかった。

彡(゚)(゚)《一つだけよかったことがあるとすれば、ムルマンスクが陥落した何よりの理由が見付かったことです》

(-、-;トソン「はっきり言って未だに信じられませんし信じたくもない理由ですがね……」

街中の人間が狂って三流テロリストに全住人を上げて加担したのは身体の中に深海棲艦の幼体が潜んでいたからで、テロリスト殲滅後はその怪物共の襲撃をうけて世界最強の精鋭部隊が全滅の危機に陥る………さっきは「B級モンスター映画の設定」何て言ったが、大幅に訂正だ。B級映画だって今時こんなばかばかしい脚本は没になる。

(゚、゚トソン「まぁ現実に起きてしまったことだから受け入れざるを得ないとして、今度はまた別の問題が出てきますよ。

まず、深海棲艦はどうやってムルマンスクの人々の大半に“幼体”を植え付けたのか。

次いで、イスラームの武装勢力を手引きした“外部”の人間達はムルマンスクの状況について事前に知っていたのか。どちらも、誇張表現無しに人類全体の存亡に関わる極めて深刻な疑問です」
379 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/10/14(土) 23:19:46.02 ID:1FFMfYnF0
前者については説明するまでもない。ムルマンスクの惨劇が東京やニューヨーク、モスクワなど大都市圏で再現されれば起きる被害は計り知れない。寄生体の侵入経路を速やかに調べ上げ、何としても再発を防止する必要がある。

そして、後者の問題。

それは最早、外交戦だの人類同士の啀み合いだのといったものを超越している。明確な、深海棲艦に対する利敵行為に他ならない。

(゚、゚トソン「何れの問題も、“海軍”は勿論のこと民間に露見する危険性がない範囲内であらゆる国の諜報機関と連携していく必要性があります。

とはいえ、何の手がかりもない中で突き止めなければならないのは至難の業ですが……」

彡(゚)(゚)《その事ですが大統領、もう一つの朗報があります。生研が、面白い情報を上げてきました》

(゚、゚トソン「生研………ですか」

トソンの表情が、再び不快さで微かに歪む。生研────深海棲艦生態研究所は、技研の本部同様アメリカに本拠地が置かれている機関だ。確かに主導はやはり日本企業と日本の研究チームだが、何故自国内に施設がある機関の報告を太平洋を挟んだ海の向こうから電話を通して又聞きしなければならないのだろうか。

本当は嫌味の一つも言ってやりたいが、事態が事態だ。トソンは不満をぐっと呑み込むと、沈黙を以てミナミに続きを促す。

彡(゚)(゚)《大統領は、“異常甲殻生物”による鎮守府の襲撃事件を覚えてますか?》
380 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/15(日) 02:27:29.59 ID:D0IfAc0A0
政治力たけえええ
それにまさかのオマール海老www
381 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/15(日) 10:18:39.14 ID:+kfp7z4y0
オマール海老は草
382 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/15(日) 17:36:04.25 ID:z62ncUu3o
関連事件がオマール海老で良かった
まかり間違って乳首相撲とかだったら……
383 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/15(日) 22:05:46.83 ID:wDrjxZvA0
(゚、゚トソン「忘れるはずがないじゃないですか。あれほどの事件なのに」

これもまた、ある種のB級映画臭がする事件の一つだ。

去年の夏頃、ルソン島に建設されていたアメリカ海軍所属の警備府が壊滅したのを皮切りにアジア各国の軍事施設や鎮守府が連続的に襲撃されるという大事件が発生した。目撃証言や僅かに回収された映像の解析などから襲撃者が深海棲艦ではない可能性が指摘され東南アジア諸国はパニックになり、一時はベトナムやミャンマー、インドシナが情報開示を求める国民の大規模な暴動によってあわや内戦状態に陥りかけるという事態に発展している。

当然公表されていないが“海軍”の鎮守府も複数が破壊されていたためアメリカ軍内でも警戒を促す声が強く、ある事情から動かせる戦力が大きく限られていたこともあって形振り構わず中国に掃海を要請する案まで出たほどだ。

敵の正体は不明、目的も不明という緊迫した状況は、一ヶ月ほどで唐突に終わりを告げる。日本に差し掛かった際、最初に“餌場”として選んだ場所が海軍内で知らぬ者はいないと言われるほど(悪)名高いある鎮守府だったところで襲撃者達の運は尽きた。

(゚、゚;トソン「あの鎮守府もう少し手綱をどうにかできないんですか?国際問題一歩手前でしたよアレは」

彡;(゚)(゚)《………まぁ、その辺りはワイもロマ助に任してあるんで》

連続的かつ周期的だった襲撃があまりにも唐突に止んだため、不審に思った“海軍”の某准将は次の襲撃を予想されていた地点の近隣に陸海問わず調査の手を伸ばした。程なくして件の鎮守府でその襲撃者達────エビ目(十脚目)・ザリガニ下目・アカザエビ科(ネフロプス科)・ロブスター属、所謂【オマール海老】を元気に胃袋に詰め込んでいる提督と指揮下艦娘達の姿が発見され事件は間抜けな幕引きを迎える。
384 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/15(日) 22:08:53.13 ID:wDrjxZvA0
トソンの言う国際問題一歩手前とは、“海軍”制度の関与国に解決に至る経緯を報告したところ「馬鹿げた作り話をした挙げ句今回の事件の全容を日米が隠蔽しようとしている」とドイツや中国を中心に非難が沸き上がったことだ。

いやまぁ実際真実を包み隠さず言っていたので非難されてもこちらとしてはどうしようもないことだったのだが、もしトソン自身が向こうの立場だったなら同じ反応を返していただろう。

さぁ想像してみよう。何処かの国の外交使節が秘密裏にやって来て、深刻な表情で以下の報告を口にする。

連続襲撃事件の犯人は異常発生・異常成長した甲殻類、もといオマール海老でその犯人は所属鎮守府で極秘裏に殲滅された後そこの提督と艦娘達に喰われました、と。

(゚、゚トソン(胸ぐら掴んで顔面に全力で平手打ちぶち込みますね)

ハイスクール時代にソフトボールとカラテで鍛え上げた身体を存分に活かすときが訪れることだろう。

(゚、゚トソン「しかし、あの事件に関連した報告ってあまりにも遅すぎませんか?もう一年以上経ってるんですよ?」

彡(゚)(゚)《この件については解決した時点で優先順位は圧倒的に低くなっていたのが一番の原因ですわ。生研はあくまで深海棲艦の生態研究が本分、幾ら関連が深そうな存在とはいえ海老やザリガニは本職やない。

それに、あの時は“マレー沖”の直前でしたから》

(゚、゚トソン「……そういえばそうでしたね」

当時、東南アジアのマレー半島近海では輸送型の深海棲艦が数体から十数体の規模で航行している姿がたびたび目撃されていた。事態を重く見た各国は日本、アメリカ、オーストラリア、インドの4カ国と艦娘部隊を中心に連合艦隊を編成しつつ当海域の警戒を優先しており、“海軍”の戦力も其方の方面に若干偏重した編成を行っている。
385 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/15(日) 22:16:37.69 ID:wDrjxZvA0
連続襲撃が起きた海域で“海軍”鎮守府まで大きな損害を受けたり各国の対応が後手に回ったのも、確実視されていたマレー半島方面での深海棲艦による大規模襲撃に備えて戦力を移動させていたことが大きい。生研もその頃は過去の戦闘データから深海棲艦側の主力艦隊出現地点を可能な限り正確に割り出すことに全勢力を注ぎ込んでいたはずだ。

事件の発生によってマレー沖のそれらが陽動ではないかという見方もでて来るほどだったので、襲撃者判明後も当然関連性自体は疑われている。だが、そもそも深海棲艦の出現前後は周辺海域で魚介類の取れ高が爆発的に上昇するという元々の傾向や米海軍が自分たちの基地を「たかだかデカくなった甲殻類の群れ」に蹂躙されたという事実を公にしたがらなかったという政治的な理由、そして何より事件解決の直後から懸念されていた深海棲艦の大規模攻勢の開始など様々な事象が重なって“海軍”を含めて人類はこの事件を本格的に追究する機会を逸した。

そして海戦────約70年前、同海域でプリンス・オブ・ウェールズが水底に沈むこととなった戦いに準えて【第二次マレー沖海戦】と公称された戦闘での連合艦隊側の歴史的な勝利に世間が沸き立つ裏で、この“異常甲殻類事件”は今まで誰も掘り下げずに放置されていたというわけか。

(゚、゚トソン「………なんとも締まらない経緯ですが、まぁ状況が状況でしたしよしとしましょう」

これほど重大な事柄を“お蔵入り”寸前まで放置してしまっていた生研に言いたいことは山ほどあるが、続報がなかなか入らないことに訝しみつつ確認を疎かにしていた自分にも非はある、とトソンは息をつく。それに生研の夜を日に継ぐ解析のおかげで、イ級一匹すら近隣に上陸させることなく深海棲艦主力部隊を殲滅できたのだ。

(゚、゚トソン「しかし、去年の事件を今更蒸し返して解ったこととは何ですか?しかも今回の“人間の深海棲艦への変態”に関連して。

そもそも深海棲艦が関与しているのは確定として、こいつらが何故鎮守府を襲ったのかも──────」
386 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/15(日) 22:26:26.80 ID:wDrjxZvA0
彡(゚)(゚)《あんたの考えてるとおりですわ、President》

三度の沈黙が意味するところを、ミナミは直ぐに理解した。

彡(゚)(゚)《奴等が何故鎮守府を襲ったのか……この疑問は厳密に言うと正しくない、んなもん深海棲艦が関与したからってのはアホでも解る。核となる問題は何故“あんな場所の”鎮守府を襲ったのか?何故“あのタイミングで”襲ったのか?》

襲撃された鎮守府や基地は、何れもフィリピン海側に点在している。別段、それらが目標になったこと自体は不思議では無い。何れも人類にとって十分重要な拠点であったし、“海軍”所属の精鋭部隊や艦娘にも犠牲が出た。被った損害は甚大極まりない。

奇妙なのは、これらの攻撃を【第二次マレー沖海戦】と連動しているものとして見た場合だ。

彡(゚)(゚)《もしもマレー沖海戦に対してフィリピン海の連続襲撃が陽動なのだとしたら、遅すぎる。

逆だとしたら、多すぎる》

前者を目的とする場合、必要なのは動きを読ませず人類側の戦力を分散させることだ。甲殻類たちの襲撃が本格化した時点では人類側は既にマレー沖方面での大規模海戦を“確定事項”として読み切っており、其方側への戦力の結集は疾うの昔に完遂している。あの時点で再びフィリピン側へ戦力を動かすことは“したくてもできない”段階ですらあり、最大の目的を達成することは完全に不可能になっていた。

では後者はどうか。オマール海老たちの襲撃経路がマレー沖の“陽動”に対するものだとすれば、それは確かに動きとしては成功したといえる。

しかしながら、囮であるはずのマレー沖で払った深海棲艦側の代償がミナミの言うとおりあまりにも多すぎる。いかに深海棲艦の無尽蔵な物量を持ってしても、500隻規模の大艦隊で編成の半分近くがeliteかflagship、何より実に20体近い姫級という膨大な戦力はおいそれと捨て駒として使えるような代物ではないはずだ。
387 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/15(日) 22:56:00.38 ID:wDrjxZvA0
undefined
388 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/15(日) 22:59:10.56 ID:wDrjxZvA0
彡(゚)(゚)《一応、二正面作戦────両方が本命だったという考え方もまぁできなくも無い。せやけど今度は、向こうの戦力編成が歪です。

デカ物が一匹混じっていたとはいえ所詮甲殻類。戦力が乏しかった東南アジアならいざ知らず、たかだかザリガニの群れが日本近海に突入したところで“あの鎮守府”でなくとも遅かれ早かれ殲滅できた筈や。二正面と言うには片方の本気度が低すぎる》

疑問はあとからあとから沸いてくる。

何故、深海棲艦は数ある水生生物の中からわざわざオマール海老を選んだのか。

何故、ヨーロッパでそうしたように奇襲成功後電撃的に内陸まで浸透しなかったのか。

何故、深海棲艦は大量のオマール海老を操ることができたのか。

では逆に深海棲艦と何の関係もないのではないかと問われると、今度は最も巨大で困難な問題が残る。

何故このオマール海老たちは、わざわざ鎮守府を餌場にしようとしたのか。

だが、そもそも深海棲艦側もオマール海老たちの存在を感知していなかったが、“異常甲殻類”の出現自体には深海棲艦が関わっていたとすればどうだろうか。

彡(゚)(゚)《こいつらと深海棲艦は関係あるのか、ないのか。この二択で考えていたからワイらは速い段階で答えに辿り着くことができなかった。

“関係はあったが関連はしていなかった”─────だからこそ、あの襲撃事件は誰も予想ができない形で発生したんですわ》

もしも、“そう”ならば。確かに疑問の全てに合理的な説明を付けることができる。

だが同時にそれは、人類側の対深海棲艦戦略を根本から崩壊に追いやりかねない。
389 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/15(日) 23:08:55.53 ID:wDrjxZvA0
彡(゚)(゚)《あのザリガニ共は別に操られてなんかいなかった。明確に自分らの意志でフィリピン沖の軍事施設を襲撃したんです。

では何故そんな意志を奴等が持ったのか────思えば簡単な話や。この世界で、わざわざ鎮守府を狙って襲撃する“水生生物”なんて現状この世に1種類しかおらへん》

受話器を握りしめて戦慄するトソンを尻目に、ミナミは淡々と説明を続ける。

だが、彼女がもし冷静なら途中で気づくことができたかも知れない。

彼の声も、僅かに震えていたことに。

彡(゚)(゚)《厳密に言うと、ムルマンスクの新型は寄生体なので必ずしも直接の繋がりがあるとは言えん。だが、間違いなくメカニズムを説き明かす大きな手助けにはなる筈や……一刻も早く、なってもらわな困る》









《生研による“異常甲殻類”の解剖結果や。

保管されている個体の内大凡六割前後で、甲殻の構成物質が駆逐イ級のそれと酷似した物に変容していることが判明した。

寄生どころやない、奴等自体が【深海棲艦化】しとったんや》
390 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/15(日) 23:09:56.91 ID:wDrjxZvA0
体調が壮絶な状態なので本日ここまで。明日最終更新致します
391 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/16(月) 00:04:07.30 ID:K6kp7CRe0
んなもん食って大丈夫……なのか(納得)
392 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/16(月) 01:20:46.85 ID:3GoZqfPA0
おつおつ
確かに正体不明な各地での襲撃は国際問題だけど、事の顛末があれじゃ下手な冗談過ぎて手に負えないな(白目
おまけに仕掛け側が禁忌すら厭わないんじゃ、常識の尺度で測れる訳ねえ…
393 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/17(火) 00:35:47.40 ID:J7X7k69g0









伸びてきた顎を身を捩って躱す。サーカスの曲芸師か新体操のオリンピック選手かといった姿勢から足を振り上げ、寄生体の胴に蹴りを打ち込む。

無論、奴等にそれが効くなんて端から期待してはいない。目的は蹴りの勢いを利用して、より早く床に倒れ込むこと。

(,,; Д゚)「ぐっ………!?」

後頭部はなるべく打ち付けないよう尽力したが、それでも転倒によるダメージを皆無にはできない。一瞬背中に走った強い衝撃で呼吸が詰まった。

僅かコンマ一秒前に俺の身体があった位置を、黒い顎と白く長い胴がもう一つ駆け抜けていく。頭上40cmほどで鳴った「ガチン」という牙の噛み合わせ音に、流石に少し背筋が寒くなる。

(,,;゚Д゚)「っふ!!」

『ギュエッ……?!』

そのまま下側にある寄生体の胴を両足で挟み込み、腹筋懸垂の要領で上半身を跳ね上げる。心底から不快なぬめぬめとした感触と魚の腐敗臭に酷似した臭いに耐えながら蛇のように身体を巻き付けブレイドを振り下ろすと、苦悶の声を残して頭部がぽとりと床に落ちた。

(,,#゚Д゚)「ゴルァアッ!!!」

『ギィッ!!?』

くたりと力が抜けた胴体を離して床に着地し、すぐさま伸び上がってもう一閃。今度は頭部を斜め後ろから直接斬り払うと、前半分を失った寄生体は一つ短い断末魔を残して永久に沈黙する。
394 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/17(火) 00:42:56.76 ID:J7X7k69g0
『シァッ!!!』

「少尉!!」

(,,;゚Д゚)「っ」

風切り音。迫ってきた3体目に対して反応が遅れる。咄嗟にブレイドを上段に構えて軌道を遮るが、襲いかかってきた個体は火花を散らして一瞬逸れただけ。奴はそのまま黒い刃に胴を巻き付けてこちらの動きを封じると、俺の頭を噛み砕こうと大口を開けた。

「頭下げて」

(,,;゚Д゚)そ「ぬわーーーーーーーーーっち!!!!?」

後ろから声と共に飛来した“何か”が頭頂を掠めた。じんじんとしびれるような痛みと微かな熱が感じられ、目の前を散った髪の毛が数本焦げ臭さを漂わせながらひらひらと落ちていく。

『グギュアッ……?!』

投擲された“くない”は、寄生体の喉奥に飛び込んでそのまま胴を貫通する。奇しくも本職の忍者がかつて使っていたものと同様の色合いになっているそれは、天井に勢いよく突き刺さってコンクリート片を撒き散らした。

「ワザマエッてね!」

『『ギャァッ!?!』』

『シューー………』

自分で言うのかとツッコむ間もなく、更に三つのくないが投擲される。天井を這うようにして向かってきた寄生体の内2体が縫い止められるような形で頭を撃ち抜かれ、躱した残りの1体も蛇の威嚇音に酷似した音を残して宿主の元へ戻っていく。

………まぁ、助かったのはともかくとして、だ。

(,,#゚Д゚)「────殺す気かクォラァッ!!」

「なんだい?礼はいらないよ」

(,,#゚Д゚)「ベイズ=マルバスかてめぇは!!!」

そういやスターウォーズ史上最高傑作との声も多い【ローグ・ワン STAR WARS STORY】のDVD/Blu-rayは書店からコンビニまで全世界で発売中だったな!ここから生きて帰ったら内臓を質に入れてでも買うぞゴルァッ!!
395 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/17(火) 01:04:29.38 ID:J7X7k69g0
「時雨姉貴、ギコさン、喧嘩は後回しにしてくンな!まだ来るぜ!!!」

「うぇえ……」

(,,;゚Д゚)「ちぃいっ!!」

間抜けな内容で無駄な体力を消耗してしまったことに舌打ちを漏らしつつ、力が抜けた蜷局からブレイドを引き抜く。

(,,#゚Д゚)「ふんっ!!!」

『ギッ………ジャア゛ア゛ア゛!!?』

フェンシングの要領で放った突きに、寄生体の頭部が刺さる。刃を口の中にねじ込みながら回転させてやると苦悶の声が漏れ、勢いよく突き通した後刀身を跳ね上げたところで頭部の上半分が断裂してその声も止まった。

『『ギャアッ!!!』』

そこに、次の襲撃。俺の首元と股ぐらを食いちぎろうと、2体の寄生体共が上下に分かれて俺へと狙いを定めてきた。

(# ̄⊥ ̄)「ヨシフル、屈め!!

Огонь!」

(,,゚Д゚)「おっと!」

時雨よりも遙かに良心的な注意喚起に膝を折りつつ、上から全体重を掛けて足下を狙った方の頭に刃を押し当てる。さくり、とまるでたくあんに包丁を入れたかのような手応えを残して両断された頭部が床に横たわる。

『ギッ………ギゥッ………!!』

“上”を担当した方も、開かれていた口にファルロ達が弾幕を集中したおかげで文字通り弾幕を腹一杯“食らう”ことになってしまった。幼体故の脆さもあるのか致命的には到底ならないにしろ幾らかダメージも受けたようで、一瞬空中で動きを止めた後突撃を中断して離脱を謀る。

「でいりゃあっ!!!」

『ギッ!!?』

無論、その隙を改白露型駆逐艦は見逃さない。壁を利用して跳び上がり、寄生体の喉元を鷲掴みにして斧を振るう。

乾いた炸裂音と共に、その個体の頭部が破裂した。
396 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/17(火) 06:03:07.05 ID:J7X7k69g0
幾らかの攻勢を捌き、僅かに敵から繰り出される攻め手の間隔が空いた。機を逃すわけにはいかない。

(,,#゚Д゚)「Go!!」

「了解!!」

「Yes sir!!」

俺と江風を追い抜いて、“海軍”兵士が二人更に前へと出る。片方が構えているのは俺の持って居るものと同じ伸縮式のブレイドで、もう一人は左手の下側にレーザーポインター付属の小型ボウガンを装着している。

「Shoot!!」

『ギィイイイッ!!?』

ボウガンが起動され、黒い矢が一本風を捲いて飛翔する。100M程向こうで通路を埋め尽くしながらイソギンチャクのように蠢いていた寄生体が、1体頭を射抜かれて床に落ちる。

「シッ!!」

暗闇に紛れて横合いから攻撃を謀った1体は、ブレイド持ちの方が振り下ろした斬撃によって首を落とされて絶命する。

「よっ、お見事!」

江風が、その兵士の手捌きに感嘆の声を上げた。実際まだ年若い──おそらく俺や美子よりも年下の──そいつの斬撃は美しさすら感じられ、俺も正直危うく見とれて動きを止めかけたほどだ。

「お兄さンやるねぇ!今度手合わせしてぇや!名前はなンてぇンだい!?」

「艦娘のお嬢さんにお褒めにあずかれるとは光栄ですな!」

江風の喝采にやや頬を染めつつも、そいつは“次”に備えて構えを崩さぬまま声を張り上げる。

( #・ω・)「カラマロス=オオヨド!以後お見知りおきの程を!!」
397 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/17(火) 06:50:10.70 ID:J7X7k69g0
(,,#゚Д゚)「ぬぁっ!」

若い兵士───カラマロスの真横に踏み込みながら、襲撃を試みた寄生体を斬り付ける。怯ませ跳ね返すことには成功したが薄皮を裂いただけで殺すことはできず、さっきの鮮やかな技の直後ということもあり小さな舌打ちが漏れてしまう。

( ;・ω・)「すみません少尉、私何か粗相を……?」

(,,;゚Д゚)「あぁいや、単に自分の不甲斐なさに吐き気がしただけだ」

不安そうに眉を顰めたカラマロスに「心配すんな」と手を振ってみせる。

(,,゚Д゚)「にしてもカラマロス、ねぇ。日本人としてはなかなか珍しい名前だな」

(  ・ω・)「父は日本人、母はアメリカ人と日本人のハーフですから。所謂クォーターという奴ですよ」

そう言われて横目で改めて容姿を軽く観察したが、確かによく見ると顔立ちは若干掘りが深く眼が僅かに青みがかっていて日本人離れしている部分がある。もう一つ特徴としてはどこか表情に「しまり」がなく、軍人というよりはどこかの街角でパン屋でも営んでいる方がよほど様になりそうだ。

(  ・ω・)「生まれは日本ですが親の都合で深海棲艦出現前に渡米して国籍もアメリカですからね!海兵隊からスカウトされました!」

しかも現場からの叩き上げかよ、益々見えねえな。

( #・ω・)「はぁっ!!」

(,,#゚Д゚)「オラァッ!!!」

腹でも食い破ろうとしたのだろう。俺とカラマロスに、同時に微妙な高さで向かってきた2体の寄生体。

二人で刃を振るうと、同時に二本の胴が千切れとんだ。
398 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/17(火) 07:46:25.42 ID:J7X7k69g0
足下でビクビクと痙攣する死骸二つを蹴散らして、俺とカラマロスは同時に前へ踏み込む。俺は上へ、カラマロスは下へとそれぞれブレイドを一閃させた。

ぶちゅんっ、ぶちゅん。生々しい切断音が連続して鳴る。斬って落とした頭が床や壁に着くより早くもう一度、今度は横向きに刃を薙ぐ。

突進してきた勢いそのままに胴の中程まで真っ二つに裂かれながら進んだあと、手元の寄生体の胴からぐたりと力が抜け廊下の向こうで宿主も膝から崩れ落ち前のめりに倒れ込んだ。

「Enemy coming!!」

ボウガンを構えた奴が大きな声でそう叫び、同時に廊下の向こう側で大量の「気配」が蠢くのを感じた。

『『『キィヤァアアアアアアアアアアアッ!!!!』』』

「うっわぁ……」

「グロっ」

100は確実に越える犠牲を経て、ようやくチェストバスターの出来損ないたちは俺達が無力無抵抗な餌ではないと自覚したのだろう。癇癪を起こした子供の金切り声のような声を何十と合唱させ、宿主であるロシア兵の肉体が崩壊していくのも構わず廊下を比喩表現ではなく端から端まで埋め尽くしながら一斉にこちらへと向かってくる。

(,,#゚Д゚)「ファルロ、時雨、江風!!」

(; ̄⊥ ̄)「Да-с!!」

「了ッ解!!」

「これで機銃はカンバンだよ、無駄撃ちにさせないでよ!!」

残ったロシア兵のアサルトライフルと、二丁の25mm連装機銃が咆哮する。無数のマズルフラッシュが瞬いて身を伏せた俺達三人の頭上を熱風が駆け抜けていき、嵐のような銃火は迫り来る「壁」に真っ向から衝突した。
399 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/17(火) 13:43:28.87 ID:J7X7k69g0
AK-12や25mmが吐き出す空薬莢が床で跳ね、甲高い金属音を幾つも奏でる。幼体とあってどうやら奴等は艤装がまだ発達していないらしく、数の力で強引に弾幕を突破しようとするのみで反撃の砲火は一向に見られない。

『ギッ……ガッ……!』

『キィイイッ、キィイイッ!』

各個撃破される攻撃法を改めただけ非ヒト型としては上出来なオツムだが、奴等は廊下で互いに胴が絡みついてしまうほどの密度でひしめき合いながら向かってきた。

そうなると、こちらは別に寄生体全体に満遍なく攻撃をする必要は無い。口を開けている、他と比べて突出しているなどして怯ませやすい個体に火線を集中すれば、必然的に残りの個体も動きが阻害され群体全ての進撃が止まる。

「25mm機銃、撃ち止めまであと40秒!」

「我々のAK-47も同じく!」

(; ̄⊥ ̄)「AK-12はまだそれなりに余裕があるが、そもそもの数が少ない!我々だけでは押しとどめられないぞ!」

とはいえ、例え幼体でも深海棲艦を怯ませるのだから並大抵の火力集中では到底それは適わない。既にこの場に到着するまでに結構な量を消費していた俺達の弾薬は、極限まで上げざるを得なくなった射撃ペースによってほぼ完全に底を尽きつつあった。
400 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/17(火) 15:01:10.16 ID:J7X7k69g0
ゴクリと俺の喉が唾を飲み下す。

弾幕射撃の終わりが近づくにつれて、流石に胸の鼓動が早くなる。

(,,゚Д゚)「……いいか、絶対にタイミングはずらすなよ」

(? ・ω・)「Yes?sir」

一応カラマロスに言った体を取っているが、それは半ば自分に向かっての言葉だった。

一瞬の、それこそ刹那の遅れが全てを台無しにしかねない。全神経を集中し、「その時」に備える。

「あと十秒!!!」

江風が銃声と奴等の苛立ちの声が入り交じる中で声を張り上げる。“何が”とは言うまでもないことだ。

手が震えそうになるのを、皮膚が破れるほど強く拳を握って押さえつける。完璧なタイミングで動くことができるよう、全身の感覚を研ぎ澄ませる。

五秒前。

4、3、2、1─────







0。

「…………っ!」

時雨が息を呑む音が伝わり、銃火がピタリと止む。

最後の一つとなった空薬莢が、チャリンと床で弾む。
401 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/17(火) 15:12:31.03 ID:J7X7k69g0
瞬間。

全身の関節とバネを稼働させ、伏せていた床から跳ね上がる。

号令なんて掛けない。その「瞬間」すら無駄な時間だ。

叫び声など上げない。肺一杯に溜め込んだ空気は、全て前へと進むために使う。

顔など上げない。上げた分だけ体面積が増えて、コンマ一秒でも空気抵抗による遅れが出る恐れがある。

距離にしてたった5メートル。その5メートルを詰める時間を極限まで短縮するため、体の全ての機能を「前進」のために稼働させる。

2歩。奴等との距離を零にするまでに要した、俺たちの歩数だ。それは走ると言うよりは、いっそ「跳ぶ」と表現した方が良いかもしれない。

(,,# Д )「   !!!」

( # ω )「──────」

声を出さずに、しかし俺達は雄叫びを上げて、各々の得物を振り上げる。

そうして俺達“海軍”兵は、俺とカラマロスを先頭に寄生体共の群体の只中へと斬り込んだ。
402 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/17(火) 16:58:13.79 ID:dgywwIiA0
流石に精鋭部隊だけあって獅子奮迅の様相だけど、それに比べてもベルリン戦線で駆け引き頼りでドクの拾ってきた勝ちがどんだけ凄いのか…w
403 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/17(火) 18:08:00.10 ID:J7X7k69g0
そこから先のことは、丸ごとごっそり記憶にない。なにせ印象としては廊下が丸ごと敵になっていた状態に近いので、いちいち“思考”それ自体を挟んでいる暇が無かった。

幾つの寄生体を殺したのかも、どれだけ“元”ロシア兵の屍を踏み越えたのかも、何リットル頭から奴等の体液を浴びたのかも解らないまま、ただひたすら目の前で動く物に対してブレイドを振るい続ける。

「──────Stop!!」

多分この先一生忘れることはできないほど手に刻み込まれた、寄生体のぶよぶよした胴を斬る感触からはかけ離れた「手応え」。聞き覚えがある英語での叫び声に、ようやく俺は我に返る。

(;゚∋゚)「………ジャパンがサムライ・カントリーだったのは確か3世紀近く前の話じゃなかったか?未だにTUZIGIRIだかBUREIUTHIだかが横行してるなんて知らなかったぜ」

(,,;゚Д゚)「…………Ostrich?」

(;゚∋゚)「ああ、紛れもなくな。無我夢中だったのは解るが敵と味方の区別ぐらいは流石に付けながら暴れてくれ」

筋骨隆々のダチョウ野郎はそう言って、熊手のような見た目の自分の白兵装備から俺のブレイドを外す。

そして、辺りを見回すと低い声でこう言った。

( ゚∋゚)「All clear」
404 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/17(火) 19:20:57.35 ID:J7X7k69g0
異常なし。そう告げるOstrichの言葉に、俺はようやく辺りを見回

(,,; Д )「ゴホッ、ヴォエエエエエエエエッ!!?」

「おわぁっ!?」

「汚っ!?」

……す前に、身体をくの字に曲げて胃からせり上がってきたモノを口から勢いよく吐き出す。たっぷりバケツ一杯分にはなりそうな吐瀉物が床にぶちまけられ、近くまで駆け寄ってこようとした時雨と江風が寄生体に襲われていたときよりも更に機敏な動作で跳び下がる。

( ゚∋゚)「……激しい運動は苦手だったのか、知らなかった」

(,,;-Д-)「喧しい……オォエエッ……」

どうにも倉庫で食らわせた肘打ちを根に持っているらしいOstrichがあからさまな皮肉を飛ばしてくるが、立て続けに襲ってくる嘔吐きのせいで反撃もままならない。忌ま忌ましさに目を眇めて睨み付けてみるが、あちらはどこ吹く風でそっぽを向きやがった。

それにしても、ノンストップで戦闘行動を続けた結果の疲労もそうだが何よりも臭いによる嘔吐感の後押しがあまりにもキツい。傷みきったくさやを周囲に吊されているような感覚には併行する。

「なぁ、大丈夫かギコさン?拭くものならあるぜ?」

(,,;゚Д゚)「……あぁ。すまん、助かる」

最初こそ逃げたものの、直ぐに戻ってきた江風が僅かに小首を傾げてハンカチを俺に渡してくる。おいおい天使かよ。

「靴にかかった」

(,,;゚Д゚)そ「いっつ!?いっっっつ!!?」

最初こそ逃げたものの、直ぐに戻ってきた時雨が脹ら脛に蹴りを入れながらさりげなく吐瀉物の飛沫を俺に擦り付けてくる。なんだこの邪神の申し子。
405 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/17(火) 20:58:10.78 ID:J7X7k69g0
undefined
406 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/17(火) 21:04:27.10 ID:J7X7k69g0
執拗に脹ら脛の破壊を目論む白露型駆逐艦2番艦の喉に親指をぶち込んで黙らせる。邪神(駆)は激しく咳をしながら「美少女にしていい仕打ちじゃない……」だのなんだのほざいていたが知ったことではない。

拳じゃないだけありがたいと思え。

(,,゚Д゚)「………しかしまぁ、アレだ。派手にやったもんだな我ながら」

ようやく呼吸が落ち着いてきたので、壁に寄りかかりながら今度こそ周囲を見回す。

例によって「Clear」な景色かどうかは置いとくとして、とりあえず寄生体の殲滅に成功したのだけは間違いないようだった。無論、撃ち漏らしや新手の襲撃に備えて気配や物音には可能な限り注意を払っているが、今のところその兆候はない。

(,,゚Д゚)「………」

廊下には、まるで悪趣味な絨毯のように寄生体とその“宿主”の死骸が折り重なり転がっている。奴等を殺害した際に撒き散らされた膨大な量の青い体液は床に溜まりすぎて大凡1cm前後の「深み」が生まれ、歩く度にパシャパシャと先程までより大きい水音がするようになっていた。

(,,゚Д゚)「こっち見んな」

仰向けになって虚ろな眼で俺を見上げていた“宿主”を足で蹴り転がす。死者への冒涜?ただのたんぱく質と脂質とカルシウムの塊に冒涜もクソもあるか。

「………」

「………どうしたン時雨姉貴」

「いや、ちょっと指先が寒くてね」

いやに静かなので奇襲でも企てているのかと時雨の方を見やると、地下道全域にくまなく転がる死体の山を見てやや挙動不審になりながら江風のスカートの端を摘まんでいた。強がりを口にしてはいるが、若干顔色が悪い。目線が警戒心とは別の色を浮かべてきょどきょどと足下の屍体を行き来している。

というか、割とはっきり怖がってないかアレ。

(,,゚Д゚)(………そういやホラーには別に耐性ないッつってたなあの人)

あまりにも“らしくない”怯えように面食らったが、直ぐに邪神の親だm……こいつの保護者の言葉を思い出して納得する。

寄生体もグロテスクさは折り紙付きだが、その寄生体に食い尽くされた屍体はバリエーション豊富な上にほとんどが戦場ではお目にかかれないようなおどろおどろしい外見に変形してしまっていた。ただの戦死体ならいざ知らず、映画に出てくるゾンビを数倍酷くしたような損壊具合のものに四方八方を囲まれると流石に穏やかではいられないらしい。
407 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/17(火) 21:22:30.00 ID:J7X7k69g0
一瞬今日一日の仕打ちに対する仕返しでもしてやろうかと暗い感情が胸の内を過ぎるが、直ぐに却下する。

まず時間の無駄だし、助けて貰った数も多いのだからフェアではないし、何よりその後何百倍で返されるか。ハイリスクローリターンというより遠回しな自殺にしかならない。

(,,゚Д゚)「Ostrich、外の状況は?」

( ゚∋゚)「Coyote、Sparta、Chaserは相変わらずの状況だ。かなりの寄生体並びに新型を撃破したが、どの部隊も同行している艦娘は小破か中破の損傷を受けている。Rabbitは乱戦圏外に離脱して支援砲撃に移ったが、残弾少なく火力も不足とあり戦果は殆ど上げられていない」

(,,゚Д゚)「市街地北部はどうだ?」

( ゚∋゚)「【Caesar】指揮下の主力部隊は上陸を試みていた深海棲艦主力部隊を約7割撃沈・撃破。ロシア軍増援部隊と合力し港湾部をほぼ完全に制圧し俺達の方に幾らか人数を回してくれるらしい」

………腕時計を見やると、俺達が地下施設へ突入を開始してからだいたい30分程度が経過していた。

っかしーな、30分前までの通信思い返すと北の部隊も比較的一進一退の戦況だった筈だが。キングクリムゾンか?スタンド攻撃なのか?

( ゚∋゚)「一方で、コラ湾を封鎖していた艦隊はロシア海軍の主力部隊帰還まで耐えきれなかった、相当な損害は与えたらしいが敵艦隊に突破を許し、トゥロマ川に多数の新手が侵入・南下中。

迎撃態勢構築の都合から、こちらに向ける戦力は“少数精鋭”でいくとのことだ」

(,,゚Д゚)「少数精鋭………あっ(察し)」

街を埋め尽くす寄生体並びに新型の運命が今この瞬間に決まった。まぁ十字架は切ってやらないし哀悼の意も捧げないが。
408 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/17(火) 21:49:57.68 ID:J7X7k69g0
一時間後ぐらいに地上で広がるであろうここの数百倍凄まじい地獄絵図を想像してしまい、再び吐き気がこみ上げてくる。まぁ俺達の苦境を救いに来てくれるのだから文句は言えないが。

それに、図らずもぶら下げる「餌」が用意されているのはありがたい。俺は無線機を外に繋ぎながら時雨たちの方を見やる。

(,,゚Д゚)「江風、時雨。

地上部隊が寄生体並びに敵新型艦多数と交戦中。特にSpartaチームを筆頭に物量差と火力差に圧されて相変わらずの大苦戦らしい」

地下室に反響する銃声、砲声、爆発音、そしてガラスに爪を立てて引っ掻いたときのような不快感を掻き立てる“奴等”の鳴き声。無線が繋がったにもかかわらず返答は全くないが、それが却ってあいつらの窮状を解りやすく示していた。

(,,゚Д゚)「一階で村田達と合流して至急救援に向かえ。市街地北部からロマさんも援軍を寄越してくれたらしい、そいつらが到着するまで耐えるだけでいい」

「了ッ解………はしたけどさ、ここは大丈夫か?」

(,,゚Д゚)「地下三階の制圧がまだだが、撃破した寄生体の数や現状1体も上がってくる気配がない点から考えておそらく下に居る奴等は残っていたとしてもごく少数の可能性が高い。俺達だけでも対処はできるが、逆に地上のSpartaたちが全滅すると上から雪崩れ込まれる。それも大群がな」

ぶっちゃけあの悪魔超人とその愉快な仲間達が来る時点で上の敵は殲滅が決まったようなものだし到着まで保たせるぐらいならSpartaたちも余裕だろうが、万に一つも何かの手違いで増援到着前に全滅した場合為す術が無くなるのも事実だ。本当に限りなく起きる可能性が低い事例に対する備えではあるものの、この点はあながち“方便”ではない。
409 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/17(火) 22:58:54.06 ID:J7X7k69g0
(,,;゚Д゚)「それに外は状況を聞く限り新型の非ヒト型が主力で寄生体の割合は低いようだ、こっちならそこの2番艦でもビビらずに………」

「ねぇ、誰がビビってるって?」

口を滑らせたことに気づいて慌てて言葉を切るが、1歩遅い。案の定というかなんというか、あからさまに時雨の目付きが不機嫌なものに変わる。

「心外だね、ちっともビビってないのに勝手に怖がったことにされるのは流石にプライドが許さないな。どこが怯えているように見えたの?そりゃこいつらは気色悪かったけど仮にも艦娘だよ?それもクソ映画を倉庫一杯詰め込んでハイター博士を狂信して幽霊と肉弾戦やらかす提督の元で鍛え上げられた艦娘だよ?この程度の奴等屁でもないから。なんならここで布団敷いて爆睡してみようか?」

……この異常な負けず嫌いぶりもどこぞの提督閣下に繋がる面がある。めっちゃ早口で捲し立てる2番艦は完全に意固地になっており、どう宥め賺したって自分が怯えていたと認めることになりかねない行為には頑として首を縦に振らないだろう。この場では一応臨時の上官は俺なので強権発動してやっても良いのだが、それはそれで間違いなく禍根を残す。

次に別の作戦で一緒になったとき今度こそ脹ら脛を完全に破壊されかねないのは御免被りたい。俺はとっとと切り札を切ることにした。

(,,゚Д゚)「これは独り言だが、増援部隊はおそらく【Fighter】と思われる」

………何故かは知らないが、俺の眼には時雨のケツで尻尾がちぎれるように振られ、頭に耳がピンと立つ様が有り有りとイメージできた。

因みに、どちらも犬の奴だ。
410 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/17(火) 23:20:36.10 ID:J7X7k69g0
足下に溜まった寄生体の体液がパシャリと激しく跳ねる。原因は、時雨がもの凄い勢いで両足を揃えたため。

かつてこいつが見せた中で間違いなく──そもそも誰に対してもやっていた記憶が無いが──、最も美しく相手に対する敬意に満ちた海軍式敬礼がそこにはあった。

「駆逐艦時雨、猫山義古“海軍”少尉の命を受けこれより友軍の支援任務に就きます!

ほら何してんのさ江風行くよハリーハリーハリー!!!」

「ちょっ、待っ、落ち着け時雨姉貴………ぬわーーーーーーっ!!!?」

自らの妹の首根っこをふん捕まえてその場から脱兎の如く──いや、走狗の如く駆けていく2番艦。引き摺られる江風の悲鳴がエコーを残しながら遠ざかっていき、大凡三秒ほどでそれは痛々しい苦悶の声に変わった。

俺は、若干の後悔と共に無線を別のチャンネルに繋ぐ。

(,,゚Д゚)「村田、お前傷薬持ってる?」

《は?一応軍支給の応急処置薬は何種類か持っておりますが……》

(,,゚Д゚)「間もなくフリスビー追っかけてる犬がそっちに着くから、それに引き摺られてる奴に使ってやってくれ」

《はぁ………》

通信を切った後、ロマさんか先輩辺りに金を渡して江風に美味いもんでもごちそうするよう依頼しておこうと心に決める。

「………あの時雨、本当に“海軍”の出身なのかい?」

Верныйが、少し驚いた様子で眼を丸くしながら俺に尋ねてくる。こいつはR-18Gにもバッチリ対応しているようで、“元同僚”という付加価値付にも関わらず特に動揺した様子は見られない。

「あんなに破天荒な艦娘がいるとはね。“海軍”も掃きだめから少しは変わったのかな?」

(,,゚Д゚)「期待を裏切るようで悪いが今も昔も“海軍”は“海軍”だ。何も変わっちゃいない」

あの時雨とアイツが所属する鎮守府が突然変異と言うだけの話で。
411 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/18(水) 23:57:49.30 ID:nPAdxYNC0
( ̄⊥ ̄)「しかし、あの二人をここから離脱させて大丈夫か?確かに今のところ新手は上からも下からも来る様子は無い、でも油断すべきではないと思うが」

(,,゚Д゚)「合理的な判断って言ってくれ。少なくとも油断した覚えはない」

Верныйに続き、ファルロもAK-12に新しい弾倉をぶち込みながら質問をぶつけてくる。

不安に思う気持ちは解らんでもないが、こっちは艦娘が実装される前から6年間奴等と直接ステゴロを繰り広げて生き残ってきた身だ。その辺りの嗅覚には自信がある。

(,,゚Д゚)「絶対と断言はしないが、限りなく100に近い確率で寄生体共は全滅したか地下三階に残っていたとしても雀の涙だ。

もしも相応の個体数が残っていたとしたら、間違いなく今この瞬間も俺達は襲われてる」

( ̄⊥ ̄)「む………」

情けないが、こうして会話こそできているものの嘔吐感や倦怠感さえ未だ微かに残っている。動けたとして、もう一仕事か二仕事できれば御の字。火事場の糞力で辛くも生き延びたさっきのような真似は絶対にできない。

( B・ω・)「………」

ちらりとカラマロスの方を確認するが、真っ青な顔色で床に座り込んでいてこちらもあからさまにガス欠中。

Ostrichはマスクで表情がよく解らないが、肩で息をしており身につけている軍用スーツは所々が破けて血が滲んでいる。特に左膝にはかなり大きな裂傷が口を開いていて、どれだけ控えめに見ても“無事”ではないだろう。

他の生き残りも似たり寄ったりの状態で、艦娘のВерныйですら足取りが若干覚束ないほどの疲労を抱えている。おまけに弾薬もほとんど素寒貧。

寄生体の脆弱さを考慮しても、数に飽かせてすり潰そうと思えば極めて容易く殲滅できる圧倒的な戦力差だ。本当に向こうが余力を残しているなら、見逃す理由が一つも無い。
412 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/19(木) 00:00:19.15 ID:rNOvS3K00
「時雨と江風が離脱するまで待っていた可能性は?向こうからすれば艦娘戦力が減ってくれた方がやりやすいよね」

(,,゚Д゚)「目の付け所は流石“元海軍”だが」

この台詞に、大いにВерныйが嫌そうな顔をしたが無視して続ける。

(,,゚Д゚)「これだけこっちが疲弊してるなら、好機と捉えて寧ろ多少の犠牲と引き替えに艦娘の方もまとめて殺りたがるはずだ。艦娘は現状奴等の唯一無二の天敵なんだからな、1隻でも少なくなってくれる方が奴等からしても良い」

加えて、さっきの通信を聞く限り地上は主戦場だった北部が制圧されて少数ながら戦力を転用する余裕さえ出てきているのだ。わざわざ戦況が挽回されつつある地上に出してしまうという手は、閉所で動きや展開できる火力を制限できるという地の利を捨てることも併せてはっきり言って最悪手に近い。

(,,゚Д゚)「以上の理由により、深海棲艦側も地下戦力はズタボロの俺達に追撃を加えられるほどの余力すら残ってないと見ることができる。

俺が知らないムルマンスクの機構などにこの仮説を覆しかねない材料があるならその限りじゃないがな」

( ̄⊥ ̄)「………いや、ない。流石は歴戦の“専門家”だ。大変失礼ながら、私は君のことを直情的な軍人だと思っていたから驚いたな」

(,,;゚Д゚)「仮にも指揮する立場がそんなバカだったらつとまるはずもねえし疾うの昔に死んでるだろ常識的に考えて。つーか本当に失礼だなオイ、それは胸の内にしまっといて良いだろ」

一応本気であの状況に参っていた時雨をこれ以上長居させるのは忍びなかったという心情的な理由がメインではあるが、かといって部隊が全滅する確率を大幅に上げてまで艦娘の心的状態を配慮してやれるほどの人情家でもフェミニストでもない。

もし敵にまだまだ余力があり襲撃が現実的なら、寧ろビビっていることを煽りまくって士気爆上げで恐怖を忘れさせる方向に舵を切る予定だった。

この場合、切り抜けられたとしても突破後に俺の脹ら脛が無事でいられるかどうかはかなりの賭けになるが。
413 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/19(木) 00:04:32.13 ID:rNOvS3K00
あと、俺の方でも個人的になるべく時雨と江風は可能なら遠ざけておきたかったという事情があるのだが………まぁ、これについては伝える義理はないので黙しておく。

(,,゚Д゚)「────さて、と」

万全の調子とは言いがたい。【ワールド・ウォーZ】の原作小説とブラピ主演映画の内容並みにかけ離れている。原作云々抜きにしてもアグレッシブなだけであんな甘噛みしかしねえゾンビを俺はゾンビと認めねぇ。

だが、倦怠感と吐き気は運動に支障を来さない程度まで治まり手足の痙攣も止まった。少なくとも、通常種のイ級二匹程度なら造作なく相手取れそうだ。

なおも身体の状態を脳内で丹念に確認しながら、目の前の“扉”に視線を向ける。

(,,゚Д゚)「ファルロ、この鎮守府の地下司令室ってのは………」

( ̄⊥ ̄)「あぁ、ここだ」

俺達の目の前には、近未来的な造形をした横開き式の扉が一つある。地下へと続く道すがら眼にしたものも万全のセキュリティが為されていたが、この扉は厳重さのレベルが他に比べて明らかに違う。

やや丸みを帯びてこちらにせり出してくるような形をしたそれは分厚く、耐火性と耐衝撃性に極めて優れていると解る。左側の壁に突き出した操作用と思わしき端末機械は非常に薄く、一目見た限りはただのガラス板にしか見えない。

俺は例えば、その扉が最重要政治犯を隔離するための牢獄だと言われれば余裕で信じてしまっただろう。

( ̄⊥ ̄)「我がロシア連邦共和国の要地防衛施設だぞ?当然“頭”にあたる司令部の守りは一際固いさ」

俺が──そしておそらくはOstrichとカラマロスも──面食らっていたのを察したか、やや誇らしげな様子でファルロが言う。

( ̄⊥ ̄)「アメリカ合衆国のホワイトハウス並みにガードは堅いさ………まぁ、それも内側から崩されてしまえば何の意味も無いがね」

自嘲気味にそういって小さく笑い声を上げた後、ファルロは端末機械に歩み寄りその表面に触れる。ブンッ、と低い起動音がして表面が青く光り、幾つかのパネルが現れた。

( ̄⊥ ̄)「………幸い機械は生きているようだが、そりゃロックは掛けられているな。

解錠するのに少し時間をくれ」

(,,゚Д゚)「了解。……Верный、そっちの人員で弾残ってる奴連れて扉の正面に着け。開いたとき中に居る奴が味方とは限らん」

「……解ったよ」

おーおー、嫌われてますこと。筋金入りだねこりゃ。
414 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/19(木) 00:14:05.75 ID:rNOvS3K00
“海軍”は基本的に人間も艦娘も尋常ならざる強さや秀でているどころじゃない一芸とひき替えに脳のネジを吹っ飛ばしたような奴等の集まりだが、極稀にこのВерныйのように純真さを失っていないのに成り行きから“海軍(吹きだまり)”に流れ着いてしまう奴もいる。大半はなんだかんだと過ごす内に馴染んでいく(残念ながらいいことではない)けれど、“まともな”艦娘たちはそれでも少なくない数がここのあまりにも自分たちの志や表向きの世界のあり方とのギャップに苦しむことになる。

一応去ることを認められていないわけではないのだが、抜ける際は色々と特殊な“教育”が施されることになる場合が多い………が、このВерныйはどうやら事情が少々特殊らしい。

(,,゚Д゚)(俺には今更関係ない話だがな)

しかし、随分と減ったもんだ。一ダース以上居た人数は、今やファルロとВерныйを併せて6人か。半分以上がやられた計算になる。

俺の側にいたファルロ達は後方からの支援射撃がメインだったしOstrichの側もそうしていた筈なので、本来なら損害は“海軍”よりも遙かに受けにくい。とはいえ、深海棲艦との【近接戦闘】に一般の軍人が慣れている筈がなく、寧ろ損害は少ないと見ることもできる。

それに今回の場合、未だかつて世界で確認されたことがないチェストバスターもどきが相手だったせいで“海軍”兵士もかなりやられている。地上階においてきた四人と時雨、江風を抜いた16の内、生き残れたのは俺、Ostrich、カラマロス含めて7人。こっちも生存率は50%以下だ。

(,,゚Д゚)「…………カラマロス、もう動けるか?」

(  ・ω・)「は、なんとか呼吸も戻りました。正直長くは無理ですがまだ戦えます」

そりゃ上出来。

(,,゚Д゚)「司令室が空振りだった場合独房も見に行く必要が出てくる、二人連れて地下三階に行く階段を確保してこい。

突入の必要は無いし、万一寄生体や深海棲艦が上がってきた場合直ぐに逃げることも許可する。何か起きたら直ぐに無線で知らせろ」

(  ・ω・)「Yes sir」

(,,゚Д゚)「残りの二人は地下一階に上がる階段の方の確保だ。ここに来るまでに寄生体は殲滅したはずだが、地上階から降りてくる個体が絶対0だとは言い切れない。こっちも、何かが起きたときの連絡は直ぐに寄越せ。交戦の必要は無い、一目散に離脱しろ」

「了解です」

「Yes sir」
415 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/10/19(木) 00:21:04.86 ID:rNOvS3K00
そう返事を返しながらも、カラマロス達は少し不審げな様子で顔を見合わせる。

俺の指揮に従うと、この場に残る“海軍”の戦力は俺とOstrichだけになる。“本当に大丈夫なのか”という不安を抱いているようだったが、俺が特に指示を更新することなく黙っていると戸惑いながらもそれぞれの持ち場へと駆け足で去っていった。

「………戦力ヲ分散サセスギデハ?」

(,,゚Д゚)「とはいえ司令室に間違いなくГангутがいるという保証もないだろ?あくまで“候補”の一つに過ぎない以上、次の動きへの備えも必要だ」

ぎこちない英語で質問してきたロシア兵にそう答えながらも、俺は自身の口からすらすらと出てくる“方便”を鼻で笑う。

断言するが、カラマロス達を行かせた意味はおそらくない。“次の動きへの備え”なんてものは不要だ、なぜならГангутは間違いなくこの司令室の中に居る。

根拠なんてものはない。言うなれば虫の知らせ、予感って奴だ。

そして、俺達はよく知っている。






( ̄⊥ ̄)「解除完了!開くぞ!」

“悪い予感”ほど、良く当たるってことを。
416 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/10/19(木) 00:23:22.03 ID:rNOvS3K00








その威圧感すら感じる重厚な造りとは裏腹に、扉はとてもあっさりと左右に開いた。

少し拍子抜けするが、考えてみれば当然だ。基地の中枢たる部屋に入るのにいちいちそんなに時間を食っていたら、下手したらその間に敵の大群に上陸されましたなんてこともあり得る。

いの一番に視界に飛び込んできたのは、予想に反して煌煌と点いていた照明の白い光。薄暗い廊下の光量になれきっていた俺の眼は不意打ちを諸に受け機能を一時的に停止する。

(; ̄⊥ ̄)「……………Гангут!!!」

手で光を遮り必死に室内に向けて目を懲らす俺の斜め前で、ファルロが叫ぶ。驚きと、心の底からの喜びを湛えた声だ。

(,,゚Д゚)「………!」

少しずつ司令室の明るさになれてきた俺の眼もまた、部屋の奥にいる1人の女の────1隻の“艦娘”の姿をようやく視認した。
417 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/10/19(木) 00:27:37.99 ID:rNOvS3K00
いかにもありとあらゆる情報を流すことができますと言わんばかりの、映画スクリーンのような巨大なモニターの手前。両側に十台程度ずつ並ぶコンピューター群の間に伸びた通路の最奥で、その艦娘は椅子に腰掛けていた。

白い帽子に、白いコート、そして白を基調としたセーラー服。まるでこのムルマンスクの気候に併せたような意匠の服だが、襟元から見えるインナーは茶色に近い赤色だ。すらりとスカートから伸びた細いが引き締まった脚に履かれるのは、コートとは対照的に黒いタイツ。

被った帽子から零れ出ている銀髪は艶やかで、照明の光を反射してキラキラと輝いている。俯いているため顔立ちは見えないが、資料を確認した限りやや尊大な印象を与える目付きだがかなりの美人だったと記憶している。

そう、奴は、Гангутと思われる人影は俯いている。

椅子に腰掛け、両手両足をだらりと投げ出し、ぴくりとも動きやしない。

「………Гангут!無事だったの!?」

(; ̄⊥ ̄)「気を失っているのか!?直ぐに解放を」

(#゚∋゚)「Stop!!」

駆け寄ろうとしたファルロとВерныйに、雷のような怒号が背中から叩きつけられる。思わず動きを止めた二人の前に立ち塞がり下がらせながら、Ostrichは右手に奴の白兵装備である黒い鉤爪を装着していた。
418 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/19(木) 00:29:38.51 ID:rNOvS3K00
「アッ………アァ……」

さっきの叫び声に反応してか、ぴくりと手足が反応する。微かに呻き声を漏らしつつ、Гангутはゆっくりと顔を上げる。

「アァ……アァァ………」

白目を向いていた。口の端からは涎が止めどなく流れ、清潔な服のあちらこちらに汚らしい染みを作る。

だが、Гангут(と思われるもの)が気にする素振りは一切無い。

ゆらり。

夏場にアスファルトの上で揺れる陽炎のように、身体をゆっくりと揺すりながら彼女は立ち上がる。相変わらず白目は剥かれたままで、がくんがくんと首が据わらない様子は生まれたての赤子を思わせる。頭の揺れに従って、口角から唾液が数滴飛び散り床に落ちた。

「ウァアーーーーー…………」

間の抜けた、ともすれば欠伸とも取れる声を長く長く漏らす。知性がこれっぽっちも感じられない、動物的な行動に思わず息を呑む。

「………Гангут?」

(; ̄⊥ ̄)「…………」

ほんの一瞬だけ、あの艦娘がとてつもなく寝起きが悪いタイプで目を覚ました直後は例外なくあんな感じになっているのではと無駄な希望を抱いてファルロとВерныйに視線を送る。……が、当然そのアテは外れた。二人はただただ混乱した有様でかつての僚艦の、部下の痴態を眺めている。

(;゚∋゚)「………Wild-Cat」

(,,;゚Д゚)「あぁ、どうやら遅かったらしいな」

Ostrichに声を掛けられ、頷く。

詰めが甘いものの妙に統率が取れた動きをする寄生体を見て、薄々感じていた違和感は正しかったことが最悪の形で確定した。どうか“そうなりませんように”という願いは、残念ながら神には届かなかったらしい。

(,,;゚Д゚)「クソッタレ、【裏返り】だ!」
419 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/19(木) 02:50:15.50 ID:4GN7on8A0
おつおつ
仕掛け側がどうあれ、人類にとっての主要拠点の崩壊確定か…
420 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/20(金) 19:40:17.24 ID:15Nl2k2u0
これって明確に同じ世界観の話ある?あったら全部読みたいんだけど
421 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/20(金) 19:44:35.24 ID:h3CksNhQo
酉でググれば全部?出る
422 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/20(金) 19:56:19.72 ID:HLwV7I1A0
ttp://elephant.m.2chblog.jp/tag/%E2%97%86vVnRDWXUNzh3
↑まとめサイトであれだけど、作者の前シリーズとかがこちらに

ttp://elephant.m.2chblog.jp/article/52198542?guid=ON
↑こっちがコラボ相手の( T)シリーズ(色々話題に出てるネタがこっち
423 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/21(土) 02:20:26.74 ID:9he//26/o
>>421-422
ありがt……歌丸とかも繋がってる……?
424 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/21(土) 03:13:48.29 ID:M9olXEdA0
>>423
そこは流石に違うけど、( ^ω^)・流石兄弟・('A`)のシリーズが同じ世界線
日本側の色んな話と独軍所属の('A`)が奮闘してる欧州戦線があって、まずそっちを読んでみたらいいかも

…久々に色々と読み返してみて、日本というか海軍側が異次元過ぎて笑ったw
425 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/21(土) 14:38:44.69 ID:u+oWGrCOO
「──────ウゥッ、ウアァアアアアアッ!!!』

「ヒッ」

「сатана………」

ロバート=ブルース=バナーがハルクに変身する時みたいな凄まじい声量の雄叫びが空間全体を震動させ、ロシア兵が全員怯えた表情で後退る。反射的に四人ともAK-12を射撃体勢で構えたが、最早物理的な圧力すら感じられる声に圧倒されて引き金を引くことはできなかったようだ。

『イギィイイイッ……グァッ、アァアアアアッ!!!」

「っ……」

艤装を装備した艦娘の膂力は人間など比べものにならない。そして艦娘の中でも、艦の等級によって出せる能力には大きな差がある。

こんなに激しく暴れられては、近づきたくても近づけない。全身を内側から火箸で突かれているかのように身悶えのたうつГангутの姿を、俺達はただ黙ってみていることしかできない。

歯痒い状況に、Верныйが下唇を噛みしめる。

《少尉、いったい何が起きたんですか!?》

(,,#゚Д゚)「敵襲を受けただけだ、増援は必要ない!各位、持ち場を離れるな!!」

(; ̄⊥ ̄)「っ……!?」

当たり前の話だが、あれだけの大声ならば当然同じ階に居るカラマロス達のところからは余裕で聞こえる。無線機からの声に強めの一喝を返し、“敵”という語感にファルロがぎょっとして俺の方を振り向いた。
426 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/21(土) 14:41:03.36 ID:u+oWGrCOO
その間にも、Гангутの狂態は治まらない。床に仰向けになり、激しく身体を波打たせ、喉から凄まじい叫び声を出し続ける。

「ゥア゛ア゛ッ……』

────やがて、“それ”は起きた。

( ゚∋゚)「………色が」

最初に変化を始めたのは、Гангутの髪の色だった。振り乱される銀髪が先端から4、5センチほどにかけて黒ずんでいく様を、Ostrichが見つける。

「ギッ………っ!!?』

瞬間、最後に一度びくりと震えて身体を大きく反らせたままГангутの動きが完全に止まった。

(;゚⊥゚)「………こ、これは」

髪の変色が、先端から全体へと瞬く間に拡大する。シルクの布の上にインク壺でもひっくり返したみたいに、引きずり込まれそうな程深い“黒”が白銀を塗りつぶしていく。

パキパキと乾いた音がして、彼女の皮膚が剥離していく。剥がれ落ちた皮膚は床に落ちる度黒い靄のようなものを発して消えていき、靄は彼女の周りで絡みつくように渦巻いている。

肌の色は「白」という点は変わらないが、健康的な瑞々しさは失われ体温が感じられない病的なものへと変化する。皮膚の剥離に応じてやがて服からも黒い靄が立ち上りはじめ、そこから数秒と経たずにどろりと全て溶けてしまった。

『……………アァアアア』

“彼女”の喉から迸っていた、苦悶の叫びが安らかな吐息へと変わる。服が消失し生まれたままの姿に戻った状態を恥じ入る素振りすら見せず、ゆっくりと立ち上がる。

今やそこに、艦娘【Гангут】の姿はどこにもない。

蝋人形のように血の通っていない肌。動きに合わせて揺れる、黒く暗い髪。ガラス玉のように無機質な青い眼。

『…………アァ、アァアアアアッ!!!!』

────その眼の奥に煮えたぎるのは、俺達“人間”に対する身震いするような激しい憎悪。
427 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/21(土) 14:42:31.76 ID:u+oWGrCOO
『人間………ニンゲン…………沈メテ、沈メテ………殺シテヤル!!!!』

壊れたレコーダーのような、周波数の合わないラジオのような、ひび割れた声。一際大きな声で俺達への底なしの殺意を喚きちらしながら、奴はこちらに向かって一歩踏み出す。






(,,゚Д゚)「────五月蠅え」

それは、俺が奴の眼前まで飛び込んだのとほぼ同じタイミングだった。

(,,#゚Д゚)「────ッ!!」

『カッ………!?』

奴の髪と同じ、無機質な黒い輝きを放つ刃を一閃する。身を守るため咄嗟に掲げられたが遮るよりも早く、首筋に俺のブレイドがめり込む。

(,,#゚Д゚)「ゴルァッ!!!!」

勢いそのままにブレイドを振り抜くと、【戦艦ル級】の頭部は胴を離れ、傷口からは青い体液が迸った。

「ヒィイイっ………!?」

そのまま高々と舞い上がったル級の首は、天井にぶち当たって軌道を変えるとロシア兵の一人の足下で跳ねる。

尻餅をついたそいつのズボンの股ぐらに、じんわりと湿り気のある染みが広がっていく。
428 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/21(土) 15:08:44.65 ID:u+oWGrCOO
頭を失って床に仰向けに倒れ、噴き出る血に併せてビクビクと震える胴。

俺は振り切ったブレイドを逆手に持ち替えると、人間なら心臓がある場所に刃を突きたてる。

マナーモードのガラケーよろしく蠢いていた首無し屍体は、もう数秒ほど地面でのたうった後ゆっくりと動きを緩めやがて完全に止まった。

( ゚∋゚)「…………そこまでする必要あったか?」

(,,゚Д゚)「トドメを刺しておいて損は無い。世界中のイカレ頭脳が集まった“海軍”の生研がまだ解き明かしきれてない相手だぜ?」

ヒト型は急所がほぼ人間と一致しており、特に首は即死に追い込めるため白兵戦において真っ先に狙われる箇所だ。過去に斬首した屍体が復活したという話も聞かない。

だが、“裏返り”に関してはまだ“海軍”でもごく少数しか確認できていない特殊事例だ。何が起こるか解らない以上、渡る石橋は念入りに叩いておいて損は無いだろう。

(,,゚Д゚)「本当はミキサーにぶち込んで粉々にしてぇぐらいなんだがな。

ファルロ、他に敵影はねぇみたいだし、残念ながら“目的”は果たされちまった。俺とOstrichでカラマロス達を回収するから先に」

ガチャリ。

金属音と共に、俺の後頭部に冷たい何かが押しつけられる。

(,,゚Д゚)「……………はぁ」

ため息は幸せを逃がすなんて迷信があるが、既に十分不幸せな今の状態でついても問題はないだろう。

(,,゚Д゚)「何の用だ?Верный」

「何の用か、だって?」

うんざりした口調で後ろの暁型駆逐艦2番艦に声を掛ける。返ってきた声は、しぃが以前俺に作ってくれた手作りパン(という名の撲殺兵器)よりも固い。

マジで何だったんだあのパン。某筋肉が両手の握力総動員して握りつぶせないって完全に未知の物質なんだけど。
429 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/21(土) 15:35:51.07 ID:u+oWGrCOO
「惚けないで欲しいね。何の用かなんて解ってるくせに。

……アレは、いったい何?」

(,,゚Д゚)「アイツ曰くパンらしいがなぁ……試しで適当に投げつけたら防弾ガラス割れたときは何事かと」

(?゚∋゚)「何の話だ……」

(,,゚Д゚)「間違えた、こっちの話だ」

「ふざけないで」

イジェメックP-443の銃口が、より強い力で頭に押しつけられる。押された振りをして少しだけ頭を動かしOstrichの方を見ると、視界の端に映った姿から察する限り奴も同様に銃を向けられているようだ。

二挺拳銃かい、格好いいね。艦娘の腕力なら拳銃程度の衝撃容易く抑え込める、照準のブレはあまり期待できない。

「私達の仲間が、Гангутが、“艦娘が深海棲艦に”変わった。艦娘として戦争に参加してからも、“海軍”にいた頃だって一度もそんな話は聞いたことがない。

例えば他の皆がそうなってしまったような、寄生体によるものとも変態の仕方が明らかに違った。

そして、即座に敵と断定したり“裏返し”なんて言葉が直ぐに出てくることから考えて、貴方たちはこの事象の存在を知っていた」

仲間を目の前で凄絶極まりない形で失った事に対する悲しみのせいか、俺達が情報を隠していたことを知っての怒りによるものなのかは判別がつかない。

ただ、俺を詰問する声はほんの僅かにだが震えていた。

「洗いざらい、今のことについて話して貰おうか。じゃなきゃ、貴方の頭に風穴を開ける」

(,,゚Д゚)「それやったら日米と“海軍”敵に回すことになるから洒落にならねえぞ」

「昔、祖国のアニメでやっていたこの言葉が私は大好きなんだ。バレなきゃ犯罪じゃない」

(,,゚Д゚)「やべえよやべえよ……ファルロ提督殿、オタクの艦娘を何とかしてくれ。このままじゃ国際問題まっしぐらだ」

( ̄⊥ ̄)「…………」
430 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/21(土) 16:45:39.74 ID:u+oWGrCOO
ガチャリ。

そんな音が五つ、後ろで聞こえた。

(,,゚Д゚)「………おい、そりゃあ看過しかねるし笑えねえ」

流石に、面食らう。おそらく部下共々俺とOstrichに向かってAK-12を構えているであろうムルマンスク鎮守府の提督に、俺は険しい声を投げかける。

(,,゚Д゚)「何の真似だゴルァ。異国のとはいえ曲がりなりにも階級が上の人間に対して言葉遣いが酷すぎるって話なら今更だぞ」

( ̄⊥ ̄)「許可を出したのは私自身だ。そのことにとやかく難癖着けるほど器は小さくない。

………だが、これほどの重大事を隠し立てしていた得体の知れない軍事組織の人間を信用してやれるほどできた人間でもない」

ファルロの口調はВерныйに比べれば冷静で、語尾に震えや動揺も見られない。

それでも、腹の内からふつふつと沸き上がってくる隠し切れないほど大きな怒りは有り有りと感じることができた。

(# ̄⊥ ̄)「ヨシフル=ネコヤマ少尉、事象の存在どころか、“これ”がГангутの身にも起こる可能性があることすら事前に知っていたのだな!?何故、何故それを黙っていた!!?」

(,,゚Д-)「端的に言うと超機密事項だからだ。“海軍”ですら、上層部とごく一部の精鋭部隊しかこの事は知らない。

ネタばらしをすると時雨と江風を突入前に地上に行かせたりカラマロス達を遠ざけたのもそれが理由だな、本当はあんたらも遠ざけたかったが、納得しないだろうからやむなく同行させた」

(# ̄⊥ ̄)「この………っ!」

(,,゚Д゚)「怒らないでくれねえかなファルロ=ボヤンリツェフ提督。俺としてはアンタのことは気に入っていたし、この件を黙ってるのははっきり言って本意じゃなかったんだ。

俺はアンタと敵対したくない、もし希望があるなら“可能な限り”聞くぜ」

(# ̄⊥ ̄)「ならばあの現象について教えろ!“裏返し”とは何か、どうやってГангутが戦艦ル級になったのか、そして貴様らがあの現象についていつから知っていたのか、全てをだ!!」
431 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/21(土) 17:21:13.05 ID:u+oWGrCOO
(,,゚Д゚)「残念ながらそれは“可能な限り”の範囲外だ」

(# ̄⊥ ̄)「このっ……!」

(,,゚Д゚)「だが、教えてやれる方法はある」

銃の引き金を引きかけたらしいファルロの動きが止まった。逆に、Верныйはその動きで頭蓋骨に穴を開けさせるつもりなんじゃないかってくらい一際強く銃口を当ててくる。

(,,゚Д゚)「これは“海軍”のみが把握してる極秘事項だ。ならば“海軍”に入れば良い。

ファルロ提督、アンタウチの軍に入らねえか?ロシア軍の籍も別に抜く必要は無いし、その実力なら十分に」

………二十云年の人生で初めて知った事実。耳元でイジェメックP-443を撃ち鳴らされると五月蠅さのあまり痛みと吐き気を覚える。

別に知りたくはなかったし、今後役立つ情報でもないが。

「私を怒らせないでくれ…………!」

煙を立ち上らせてまだ微かに熱を持っている銃口を再び突きつけながら、“信頼”の名を冠する駆逐艦の不審に満ちた怒声が響く。

「“海軍”の存在が世界の助けになっていることは私も十分承知しているさ。でも、それを差し引いてもあの組織はあまりにも腐りすぎている!アメリカと日本の利権を守るために作られて殆ど私物化され、外交の道具として駒のように人間や艦娘を使い玩ぶ組織に私達の司令官を入れろって!?

冗談じゃないよ、絶対にそんなことさせるもんか!」

(,,゚Д゚)「………やれやれ、美しい上官への敬愛に涙が出てくらぁな」

しかも、だいたい事実なので言い返せやしない。いやホント、こいつが“海軍”にしばらくでも大人しく所属してたのは奇跡か何かだな。

(,,゚Д゚)「で、提督殿はどうする?あんたも部下と同じ意見か?」
432 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/21(土) 18:46:40.39 ID:u+oWGrCOO
( ̄⊥ ̄)「………」

(,,゚Д゚)「言うまでもないことが、軍組織が腐ってるのはどの国も同じだ。深海棲艦なんざそっちのけで陸海軍の主導権争いに国家間の艦娘利権の奪い合いなんてのは日常茶飯事、寧ろ“海軍”の存在によってそれらは緩和されている面すらある」

「詭弁を言わないでくれ!!!」

(,,゚Д゚)「認めたくない気持ちは解るが事実だ。日米の艦娘利権を守るという点が組織された最大の理由なのも事実だが、俺達の存在は間違いなく国連なんざ比べものにならない強力な抑止力だ。それに、内部に入ればそこから“海軍”の体質を変えるトロイの木馬にだって成れるとは考えられないか?」

「っ………!!!」

Верныйが言葉に詰まる。反論できないほど俺が正論だったというわけではない。どうも向こうの怒りが天元突破して言葉に詰まったようだ。

(,,゚Д゚)「んで、どうするよ提督殿。“海軍”のモットーは来る者は拒まずだ。ロシアも日米へのパイプが更に太くなることを考えれば“海軍”への協力を惜しむとも思えない」

( ̄⊥ ̄)「………」

(,,゚Д゚)「後ろでいきり立ってる駆逐艦も、アンタの命令なら聞くだろうしな。再入隊ってのは聞いたことないが多分受け入れてくれる。

祖国のためにもなって、アンタの部下を苦しめた【世界最強の軍隊】を内側から変えることも出来る。どうだ?」

( ̄⊥ ̄)「…………。すまない、少尉」

下ろされかけていたAK-12が、再び構え直される音。

それが何よりも雄弁に、俺に拒絶の意志を伝えてきた。

( ̄⊥ ̄)「私は祖国の利益以上に、自分の部下の気持ちを慮りたい。ましてや君達は共闘する相手に隠し事をした信用ならない存在だ、その誘いは受けられない」

「司令官………!」

(,,゚Д゚)「……そうかい」
433 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/21(土) 19:17:41.56 ID:u+oWGrCOO
(,,゚Д゚)「残念だよ」

それは、望んでいた答えとは真逆のもの。その一方で、絶対にそう返ってくると予想がついていたものでもある。

だから俺は、躊躇無く次の行動に移ることができた。

「えっ」

しゃがみ込む。ただそれだけの単調な動きだったが、何の予備動作も必要ないため兆候を掴まれて先手を打たれる心配は無い。射線から、視界から唐突に目標が消えたことで、虚を突かれたВерныйの反応が一瞬遅れた。

「……………っ!!?」

俺が床に手をついたところで、奴はようやく銃の照準をこちらに向けた。

だが、その時には俺は既に持っている。

先程銃口を突きつけられた際に捨てていた、足下のブレイドを。

(,,゚Д゚)「────っ!」

振り向く。銃声が鳴る。頬を弾丸が掠めていくが、お構いなしに刃を一閃させる。

(;゚⊥゚)「やめっ」








鮮血が飛び散る。

暁型駆逐艦2番艦の首が、胴体を離れて宙を舞った。
434 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/21(土) 19:52:03.79 ID:u+oWGrCOO
銀髪の美少女の首は、呆けた表情を浮かべたまま宙を舞う。そのまま床で一度バウンドすると、ル級の生首に引き寄せられるようにして転がっていきその横で停止した。

( ゚⊥゚)「あっ、」

(#゚⊥゚)「ァアアアアアアガアアアアア!!!!!」

そこまでの動きを見届けて、ようやくファルロ=ボヤンリツェフは「何」が起きたのかを理解したらしい。ワケのわからない、最早人語の体を為していない叫び声を上げてAK-12をこちらに向ける。

(,,゚Д゚)「遅ぇ」

(;#゚⊥゚)「グゥッ………アァアああああああっ!!!!!」

その時には既に懐に飛び込んでいた俺は、ブレイドで両手を小銃ごと斬り落とす。ファルロは一瞬凄まじい痛みに顔を歪めたが、常軌を逸した精神力でこれを堪えると俺ののど笛に噛みつこうと顔を飛びついてくる。

(,,;゚Д゚)「っ、野郎!」

(; ⊥ )「アガッ………」

腹に膝を入れ、そのまま胸に刃を突き通す。口からどす黒い血が噴き出して、弱々しい息を漏らしながら地面に倒れ込んだ。

(#゚∋゚)「ふんっ!」

「ヴェッ」

「ゴガッ」

Верныйが始末された時点で、Ostrichもまた動いている。入り口に待機していたロシア兵4人の内2人の頭を振り向き様に鷲掴みにすると、それぞれ司令室の扉に叩きつける。

「イガッ!?」

「чёрт!!!」

更にもう一人、首根っこをふん捕まえて床に引き倒すと喉を踏み抜いて首の骨を折る。流れるような殺戮で残りが自分一人になったところで、そいつはようやく脳が再起動したらしく悪態と共にOstrichに向けて銃を構えた。

「─────クハッ……!?」

そして、俺が横から投げつけたブレイドに頭を刺し貫かれて前のめりに崩れ落ちる。
435 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/21(土) 20:11:33.89 ID:u+oWGrCOO
(; ⊥ )「ゴハッ、ガハッ……ハッ、ハッ……」

(,,゚Д゚)「……ん?ああ」

束の間訪れた静寂は、直ぐに激しく咳き込む声によって破られた。其方に視線を向けると、血だまりの中でなおも起き上がろうともがいているこの鎮守府の提督殿の姿があった。

まぁ、間もなく「元」が役職名の前につくことになるが。ロシア軍にも2階級特進ってあるんかね。

(?゚∋゚)「………最後の言葉でも聞いてやるために生かしたのか?」

(,,゚Д゚)「まさか、単なる殺し損ねだ」

正直なところ、腕を斬り落とされてもなお反撃してくるとは思わず胸を狙った突きは手元が狂ったことは否めない。心臓をぶち抜くはずだったブレイドは僅かにズレたようで、辛うじて即死は免れさせたらしい。

(; ⊥ )「お前………何故……Верныйまで………」

最後の情けで早くトドメを刺すためブレイドを構えて近くまでいくと、荒くか細い呼吸の中で辛うじて声を絞り出し向こうが問いかけてきた。

(,,゚Д゚)「っしょ」

( ⊥ )・∴∵゚。「バファッ」

だが、聞く気は無いのでとっととル級の時と同じように心臓を刺し貫く。ファルロは最後に一度だけ息と血を吐き出して、それから永遠に沈黙した。

( ゚∋゚)「……終わったか?」

(,,゚Д゚)「終わった。カラマロス達を呼ぶぞ、撤収だ」
436 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/21(土) 20:34:42.42 ID:u+oWGrCOO
別に、いまわの際の問答ぐらい答えてやってももう任務に大きな支障は無い。だが、その“必要”もないのなら別に聞かない。

ファルロの実力は高かったし、僅かな交流だったが垣間見えた人間性には尊敬も感じていた。“海軍”への誘いの言葉に込めた本気も、決して小さくはない。

でも、“それだけ”だ。

(,,゚Д゚)「カラマロス、任務は終了した。

撤収するぞ。司令室前で俺達と合流しろ、速やかに地上階に移動する」

《了解です。………あの、ファルロ提督達ロシア軍部隊は………》

(,,゚Д゚)「司令室内に待ち構えていた深海棲艦の【寄生体】に攻撃を受けВерныйを含めて全員が死亡。また、Гангутも既に殺害されていた。生き残ったのは俺とOstrichだけだ」

《……………》

(,,゚Д゚)「どうした?早く戻ってこい」

《…………………Yes?sir》

最重要機密を知られ、“海軍”に反抗的な思想を持ち、何の手違いか【記憶処理】も施されないままの艦娘を抱え、唯一あいつらが生き残る道だった選択肢を捨てた。あのロシア人達との数時間の交流が、奴等を“殺さない”理由としてこれらを凌駕することは有り得ない。

(,,゚Д゚)「Wild-Catより統合管制機」

('、`*川《こちら管制機、どうしました?》

ファルロ=ボヤンリツェフは、変わらない。

今までに積み重ねてきた屍の山に。

これから進む先に伸びる骸の道に。

たった一つ屍体が増える。










(,,゚Д゚)「任務を完了した。これより離脱を開始する」

俺の“日常”においては、ただそれだけの話だ。
437 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage]:2017/10/21(土) 20:42:00.61 ID:u+oWGrCOO
ようやくあとエピローグ書いて終わりますぅうううう……2ヶ月半もかかるってなにやってんだあたしゃ…。

本日or明日、どちらかの深夜でエピローグ投下して完結です。

後もう少しだけお付き合い下さいませ!!!
438 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/21(土) 21:50:11.87 ID:NsqY5VKio
おつおつ
439 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/21(土) 22:38:52.00 ID:M9olXEdA0
えげつねえええ…となったけど、事ある毎にリスクを増やすなんて無理だはなあ…
これだけ無双してても「目撃者無し」ともなれば、武勇伝もあったもんじゃないのが勿体無いがw
それとキングダム最新刊発売やったぜ
440 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/10/21(土) 23:52:11.63 ID:qyTbpVtSO







《臨時ニュースです。ロシア連邦政府は本日未明、深海棲艦からムルマンスク並びにその周辺都市への攻撃を受けていたと発表。世界各国に大きな衝撃を与えています》

《CNNの取材に寄れば、アメリカ合衆国政府はこの襲撃事件を“把握していなかった”とコメント。在ロシアアメリカ人に犠牲者は確認されていないとも併せて発表しました》

《ロシア国防省は情報の隠蔽を“国内外の混乱を避けるため”とした上で、深海棲艦の完全な撃退に成功したと戦果を強調》

《しかしながらムルマンスクが被った損害は極めて甚大であると見られ、一説にはほぼ全ての住民が犠牲になったとも───》

《国内外ではチェルノブイリ原発事故以来となる国家ぐるみの大規模隠蔽に非難の声が噴出。特にムルマンスクに親族がいた人々を中心に、ロシア連邦各地で反政府デモが次々と発生しています》

《中東のイスラーム武装勢力の複数が動画サイトに声明を発表。これらは何れもムルマンスクはロシアが【艦娘】という神の意志を冒涜する存在を重用したために不幸に見舞われたのだという内容のもので間接的に【艦娘】制度それ自体への批判も含まれ────》

《日本海上自衛隊の第1防空機動艦隊を主力とした、二本、インド、アメリカの連合艦隊はアラビア海に到達。しかし一部中東国が【艦娘】戦力を含んだ艦隊の接近や領海の通過に難色を示しており、補給要請も保留されていることから欧州への艦隊到達は想像以上に難航しています》
441 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/22(日) 00:01:50.07 ID:oKNZ8oGNO
《偉大なる総書記様は深海棲艦という大いなる脅威に対抗するべく人民の団結を促すと同時に、“叡智の炎”を我が国も一刻も早く手に入れる必要があると決断した!》

《北朝鮮国営テレビの核開発の再開宣言とも取れるこの発表について、アジアを中心に世界中で動揺が広がっています》

《フォックス=カーペンター国務長官はCNNの取材に対し、事実確認中であることを理由にコメントを差し控えました》

《茂名官房長官は緊急記者会見を開き、北朝鮮のこの放送について「もし本心からの宣言なら言語道断だ」と強い不快感を示しました》

《中国政府は未だコメントを発表していませんが、インド、マレーシア、フィリピンなどアジア各国は「人類の団結を乱す行為だ」として北朝鮮を痛烈に非難。日本の意見に同調する動きを見せています》

《欧州各国の殆どとロシア連邦が日本の非難声明に追従する中、イギリスはこの件についても沈黙を保つ様子》

《北朝鮮の深海棲艦を口実とした核武装開発の再開は今後中東を中心に各国へと飛び火する可能性が懸念され、アメリカを中心に各国の警戒が強まるものと見られます》
442 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/22(日) 00:06:30.07 ID:oKNZ8oGNO






彡(-)(-)「───『我々の正直さが他国にとって実は恐るべきものだ、などと我々自ら大まじめに信じていたのは、我々には何も見えていなかったということであった』」

目の前に座る男───日本国首相、南慈英の静かな声が部屋に響く。噛みしめるように瞑目しながら諳んじられるその台詞は、ある程度知識(間違っても「教養」ではない)がある自称平和主義者が耳にすれば即座に口角泡を飛ばし噛みつくことだろう。

彡(゚)(゚)「『これによって大国の信用と、とりわけ小国の好意を容易に得られると思っていたのだ』

ホンマ、ええこと言っとるわ」

( ФωФ)「アドルフ=ヒトラーの言葉でありますな」

彡(゚)(゚)「せや」

我が輩の言葉に、首相は頷く。彼はつい1分前まで国内外の様々なニュースを矢継ぎ早に映していたテレビにちらりと視線を向けた後、ふぅと息を吐きながらリモコンを右手から机の上に投げ捨てた。

彡(゚)(゚)「何度読んでも、感心すると同時に笑ってまうわ。“これはどこの島国に向けられた言葉やろなぁ”って。

国際社会においては、善良も正直も美徳と違う。ただひたすらに忌むべきものであり、最大の害悪や。それを、“戦前”の日本は解っていなかった」

( ФωФ)「仰るとおりです」

彡(゚)(゚)「今のニュース見たやろ。全ての国が“自分たち”の事だけを考えて最も大きな利益を得ようと互いに横目で睨みあっとる。

そして、それこそが【外交】の最も正常な姿なんや」

ここで首相の言う「戦前」とは、無論第二次大戦のことではなく(いや、あながち其方も間違いではないのだが)深海棲艦との戦争を指す。日本の外交が「お嬢さんをあやすようなもの」と揶揄されていた時分であり、今でも十二分にお花畑な国民の脳が「平和」というドラッグによって完全に機能を失っていた頃でもあった。

日本にとって最大の幸運は、奴等との戦争が始まる直前に「ちょっとした刺激」を求めて──断言するが彼奴らの大半はまともな政治思想を持って政治家を選んでいない──国民が南慈英を首相に押し上げた点だ。これで共栄党や民心党が引き続き政権を握っていたらと思うと、背筋が凍る。
443 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/22(日) 00:18:08.65 ID:oKNZ8oGNO
突如現れた未知の敵に対する、国会を通さない独断での自衛隊防衛出動決定。それは確かに“議会制民主主義”の大原則を無視した行動であり、やっていることは軍事独裁者と変わらないという意見も表面上は正しい。実際、これらの意見・批判は政権奪還を狙う野党を中心に発覚直後から噴出し今でも政権反対派の主要な批判点の一つでもある。

だが、彼らはそもそも国体が守れなければ議会制民主主義もクソも無いということを毛頭理解していない。

深海棲艦という、“突如”現れた膨大な戦力を持つ謎の侵略軍。そんなものを相手取って、会議を開き自衛隊の運用が正しいことか話し合い決議しまた会議を開き……などとやっていれば、おそらく海上防衛線の構築すらまともにできぬまま日本本土は奴等によって蹂躙されていただろう。日本がもしも完全に壊滅していればおそらく【艦娘】技術の実装もできていないか或いは大幅に遅れていたはずで、割りと大まじめに今頃世界が滅亡間近だった可能性も否めない。

だから我が輩は、テレビで単細胞な評論家がしたり顔をしてこの事を批判するときに失笑を禁じ得ない。

そのおかげでお前がそこに存在できているということが解らないのか、と。

彡(゚)(゚)「とりあえずロマ助、ようやってくれたわ。これで今回も、“計算通り”にワイらが一番大きな見返りを得られる」

( ФωФ)「首相、いい加減その“ロマ助”というのはやめていただけると助かるのであります」

彡(゚)(゚)「何でやロマ助」

( ФωФ)

彡(゚)(゚)「どないしたんやロマ助」

( ФωФ)「……もういいです」

まぁ、だからといって我が輩個人がこの男が好きかと問われれば答えはNoだが。

ロマ助って何なのである犬猫じゃあるめぇし。
444 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/22(日) 00:19:23.18 ID:oKNZ8oGNO
思考が苛立ちから明後日の方向にズレてしまったので、深呼吸して心を落ち着ける。

全く、この首相閣下とどこぞの筋肉提督だけは本当に心の底から苦手である。

( ФωФ)「先ず、既にご存じのことと思われますがムルマンスク戦の最終的な結果報告から一応。

ロシア連邦軍との共同作戦の結果、同市をはじめトゥロマ川沿岸都市全ての防衛に成功。攻勢をかけてきていた深海棲艦は、増援も含めて9割強を撃沈。ベルゲンより来襲した敵【泊地】航空隊に関しても、約7割を撃墜し甚大な損害を与えました」

彡(゚)(゚)「まぁあのキン肉マンの鎮守府とロマ助のコンボやからなぁ。そこに二大国の援護もあればそらそうよ」

向こうは純粋に褒めたつもりなのかも知れないが、“アレ”とセット扱いされて無意識に眉間に皺が寄ってしまう。この無神経さもまた、我が輩がこの男をいまいち好かない理由だ。

彡(゚)(゚)「んで、こっちの被害は?」

( ФωФ)「投入戦力の3割程度が。一時の死傷率に比べれば圧倒的にマシであるが、まだ高いですな」

彡(゚)(゚)「“海軍”は組織の特性上戦力の大規模な拡充・補充ができへんからな。大正義アメリカがバックアップにいるとはいえ何とか損耗は抑えんと」

( ФωФ)「艦娘部隊には轟沈者はいません。ただ、コラ湾を封鎖した艦隊は流石に数的不利が厳しく半数が中破以上の損害を受けているのであります。

それと………“青葉”が中破状態で保護されました」

彡;(゚)(゚)「ファッ!!?」
445 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/22(日) 00:42:30.59 ID:oKNZ8oGNO
首相が上擦った声で驚愕の声を上げ、椅子からずり落ちる。アニメキャラクターのように大袈裟だが、言ってしまえばこれでも妥当どころか若干控えめなリアクションと言える。

なにせ、我が輩がわざわざ強調するような青葉と言えばあの筋肉達磨の鎮守府に所属する悪鬼羅刹しかいないのだから。

彡;(゚)(゚)「うせやろ……あの青葉がそんな大ダメージ受けるとか、ゾーマでもおったんか?」

( ФωФ)「ゾーマ如きがあの青葉を止められるのかは議論の余地がありそうですが、より厄介なものが………【バグ】が、来ていたと」

彡(゚)(゚)「……! なるほどな、納得したわ」

( ФωФ)「本人の証言や戦闘スタイルから察するに、おそらく例の重巡リ級eliteかと。向こうも無傷ではなかったようですね。青葉曰く中破に近い損害は与えたらしいであります」

何故突然ヨーロッパからロシアくんだりまで移動してきたのかは不明。だが、あの青葉と互角に渡り合える戦闘センスに深海棲艦としては豊かすぎる表情、わざわざ味方を囮にしておびき寄せてからのタイマンという見ようによってはこちらをなめているとしか思えない戦法などはアルカンタラマールやベルリンの情報で浮かび上がってきた同個体のイメージと酷似する。少なくとも偽物・見間違いの線は極めて可能性が低い。

( ФωФ)「寧ろ、良く中破で済んだと感心するところだったかも知れませんな。あのリ級eliteがどれぐらいで復活できるのかは解りませんが、しばらく動けないとしたら特に東欧連合軍の反攻作戦には大きな好機になります」

彡(゚)(゚)「はー……しかし予想以上にきっっっつい戦場やったんやな。こんなことならガス田開発の日本参画とГангутの譲渡以外にもロシアにふっかけとけばよかったわ」

(;ФωФ)「…………は!?」

今度は、我が輩が驚愕の奇声を上げる番だった。
446 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/22(日) 00:47:41.34 ID:oKNZ8oGNO
やっぱ今夜中は流石に無理やったか……明日(というか、今日)、正真正銘の最後更新
447 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/22(日) 01:07:02.22 ID:N1Mbfp8A0
おつおつ
この世界の北を筆頭にしたお花畑共は、本当に幸せなんだろうけど殲滅されればいいのにw
首相やるやん…と言うか、国として致命的なスキャンダルをもみ消して貰ったなんて、それこそ独裁的な国だと尚更内外問わずバレたら即死するはなw
448 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/22(日) 01:24:47.91 ID:7hDIrAMMo
おつです
大魔王より強いリ級エリート……
449 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/10/22(日) 23:12:33.87 ID:N6bKefKp0
(;ФωФ)「し、首相!い、今何と!?」

彡(゚)(゚)「せやからロシアが北極海で躍起になってやってるガス田開発の護衛役を日本の艦娘が内密に負担する代わりに、ガス田のプロジェクトに日本の企業も噛ませてこっちにクソ格安で天然ガスを売るよう圧力を───」

(;ФωФ)「そっちではないのである!いや、そっちも色々おかしいけど!!」

ただでさえシェールガス革命以来不安定な状況になりつつあった大得意先・ヨーロッパ市場の物理的壊滅で、死活問題に直面しているロシアの天然ガス事業。そこに横槍入れるって鬼か何かかと思ったが、それ以上に重要な「資源」についての言及に思わず椅子から立ち上がる。

(;ФωФ)「天然ガスの後です、後!!Гангутを譲渡させたと言いましたが………!」

彡(^)(^)「おう、正確には日本やなく“海軍”にやがな」

三国志に登場する曹操孟徳は、その辣腕から【治世の能臣、乱世の奸雄】と謳われた。ここまでの危険人物だと実際に“能臣”たり得るかは不明だが、少なくとも“奸雄”であることは間違いない眼前の男は事も無げにそう言って不敵な笑みを浮かべた。

笑うといっそう醜男だなこいつ。

彡(゚)(゚)「今滅茶苦茶失礼なこと考えんかったか?」

( ФωФ)「気のせいでありますハハハハ」

彡;(゚)(゚)「お、おう」

釈然としない表情を浮かべつつも、南首相はそれ以上追求してこなかった。

彡(゚)(゚)「まっ、元々民間に存在がバレるとマズい“海軍”は別として、ムルマンスク防衛にはアメリカ軍もかかわっとったからな。ロシアが“単独で防衛した”っちゅー体裁を保つためにこれらの情報は関係国に口止め。更にムルマンスク基地の再建に日本からノウハウと資金を提供するついでに、他に建造済だったГангутを“将来的なロシア国防力増大のための研修”名目で海軍に強奪したんや」

(;ФωФ)「…………」

資金・ノウハウ提供の“代わり”ではなく“ついで”という言い方を聞く限り、おそらくこの男Гангутの提供もロシア連邦に対する「貸し」にしてある。

幾ら亡国の危機を救って貰ったとはいえ最新鋭かつ最重要軍事機密を分捕られながらそれすら日本への「借り」として扱われるロシア政府の面々には、流石の我が輩も同情の意を禁じ得ない。

彡(゚)(゚)「そこまでやっても連日反政府デモなんやから可哀想やなって」

すげぇ。「可哀想」の部分に1ナノミクロンも感情が籠もっていないのである。
450 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/10/22(日) 23:13:36.60 ID:N6bKefKp0
ツッコみどころは山とあるが、日本にとって最大限の“国益”をとりまとめたのは間違いないのでコメントは差し控えよう。それに、Гангутが“海軍”に提供されるなら先に知っておきたいこともある。

( ФωФ)「Гангутの配置先はどこになるのでありますか?単艦か複数かによっても編成が変わってきますが」

彡(゚)(゚)「2隻来る予定やが片方はアメリカ側が管理してる鎮守府に配属されるよう手配したから問題あらへん」

さりげなくアメリカにも恩売りつけてやがる。しかも自国じゃなくて他国の艦娘で。

彡(゚)(゚)「んで、ウチに来る方のガンちゃんやが、筋肉んとこに送るやで」

( ФωФ)

彡(゚)(゚)「筋肉んとこに送るわ」

( ФωФ)

彡(゚)(゚)「………筋肉んとこに」

( ФωФ)「聞こえているので三回言わなくても大丈夫であります。つーか正気か貴様」

彡;(゚)(゚)「ワイは仮にも一国の首相で、お前の階級“海軍”ではともかく日本国内やと一等海尉の筈なんやが……」

あぁ畜生、胃が痛むのである。

( ФωФ)「一番練度が高い……というか明らかに一線を画した鎮守府ですから戦力強化“のみ”で見たら最も適した選択であることは認めます。

しかしながら、一番頭のネジが外れてる鎮守府もあそこであります。首相はドイツから様変わりしたビスマルクについて怒りの電話が連日飛び込んできたことをもうお忘れですか?」

彡(゚)(゚)「あれは滞在先だった大洗警備府の影響もあったし最終的にドイツも戦力強化を感謝しているからセーフ」

( ФωФ)「何一つセーフじゃねえよ」

毟り取るようにして向こうの権益に手を出した挙げ句希少な最新鋭艦娘を頭のおかしい変態にして突っ返したとなれば、怒り狂ったロシアが深海棲艦そっちのけでこっちに銃口を向けてくるのではと不安になる。流石にこれは極端に過ぎる予想だが、ドイツの時のように半ば笑い話で済む程度の問題で終わるとは思えない。

彡(゚)(゚)「何を勘違いしとるのか知らんけど、これはロシアの要望も入れてのことやで?」

…………は?

彡(゚)(゚)「あの筋肉共の暴れぶりを知ったロシア政府から直々の使命や。艦娘戦力に乏しい分、極限まで質を高めた戦艦娘が1隻欲しいからそこに送って鍛えてくれってな」

( ФωФ)「デアリマスカ」

世界は順調に狂いつつあるようだ。

我が輩が想像していた方向性とは少し違うが。
451 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/10/22(日) 23:20:37.69 ID:N6bKefKp0
彡(゚)(゚)「………さて、今回もしっかりと日本にとっての“国益”は確保した。

せやけど、そろそろもう一度“世界全体”で物事を見なあかん段階でもある」

南首相はそう言って足を組み、より深く総理執務室の椅子に腰掛けた。

その眼差しは今までと一転して険しく、微塵の戯けも存在しない。

彡(゚)(゚)「単刀直入に聞くで。この戦争で、“人類”は“深海棲艦”に勝てるか?」

( ФωФ)「無理であります」

故に、我が輩も誤魔化しや皮肉を挟まず真剣に答える。

( ФωФ)「各国の足の引っ張り合いがどうとか、そう言う次元ではありません。深海棲艦と人類の間には、それだけ互いが保有する物量に差があります。場合によっては、質の面ですらその内凌駕される………或いは疾うの昔にされているかも知れません」

彡(゚)(゚)「………悲観的な内容であること自体は予想しとったけど、そこまでかい。ムルマンスクで与えた打撃は少しとはいえ影響せんのか?」

( ФωФ)「ムルマンスクの艦隊はただの偵察部隊です、首相」

彡;(゚)(゚)「………」

蒼白になった首相の頬を、冷や汗が一滴伝っていく。とはいえ、“青葉中破”の報の時に比べて動揺は遙かに小さい。

向こうにとっても、ある程度予想済のことだったようだ。

( ФωФ)「存外驚かないものですな」

彡;(-)(゚)「前線からの報告でどうも臭い雰囲気はあったからな。それでも“どうか予感が外れますように”と願ってたんやが」

湯飲みを持ち上げ、グビリと大きく喉を鳴らして茶を飲み干す。落ち着いたらしい首相は、汗をハンケチで拭いながらこちらに視線を戻した。

彡(゚)(゚)「一応聞こうか。最終的に【第二次マレー】にすら匹敵するほどの巨大艦隊がただの偵察部隊に過ぎないと思う理由を」

( ФωФ)「【Black Bird】の襲撃が少なすぎる。突入時に30機前後が襲ってきた後は音沙汰無し、もしあの攻勢が本攻めならこんなことは有り得ないのであります」

【Black Bird】───ルール地方上空でアメリカ空軍のストライク・パッケージを一方的に殲滅し、ベルゲンでは北欧連合空軍を蹂躙した深海棲艦側の最新航空兵器。球形の機体にカラスの羽根のような両翼と二本の足を持つという特徴的なフォルムからその名前が着けられている。

武装は、凡そ近代戦闘機と威力の差がほぼ無い機関砲のみ。大きさは大凡通常種のイ級と同程度なので視認はできるし、どうやら空対空ミサイルによるロックオンも可能だという。最高速度はマッハ1.9〜2.1と深海棲艦や艦娘達の艦載機基準で考えれば破格といっていいが、F-15やF-35と大差があるわけではない。

はっきり言って、カタログスペックだけなら近代戦闘機にとっては的がデカくなった分寧ろ従来の敵艦載機よりやりやすい面すらあるだろう。
452 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/10/22(日) 23:22:47.79 ID:N6bKefKp0
では、何故【Black Bird】がこれほど恐れられ、実際に人類の航空機を相手にして一方的に制空権を奪うことができるのか。最大の理由は、その旋回性能にある。

奴等は、超音速域においての“自在な旋回”を可能とする。

( ФωФ)「ロックオンしても後ろを取っても、此方の最高速に匹敵する速度で急上昇や急降下をして視界から消える、振り切ったと思っても音速旋回で此方は為す術無く後方に占位される……たった一晩で、人類が保有する既存の戦闘機は全て過去へ置き去られました」

唯一の弱点は火力の貧弱さだが、空対空戦闘においてはそれでも十分すぎる破壊力を持つ。あの航空力学を無視した馬鹿げた旋回性能があればさしたる問題にはなるまい。

( ФωФ)「確かに護衛航空隊はかなり速い段階で奴等の接近を捕捉していたから、少なくともルールほど一方的になった可能性は低い。だが、F-35といえどあの黒鳥相手では勝算は1割もあるまい。それでも、向こうはその1割で受ける損害すら嫌ってろくに戦闘せず離脱した。

向こうにとって今回のムルマンスク攻撃が、我が輩たちが思っていたよりも遙かに価値が低かった証左であります」

彡(゚)(゚)「その1割すら嫌いたいほど向こうにとって希少な兵器だった可能性もあるやろ」

( ФωФ)「完全に否定はしません。が、深海棲艦が正真正銘“本腰”を入れた欧州攻勢においては深海棲艦側はベルゲン上空に50機を越える黒鳥を投下しました。

そしてこの戦闘においては、向こうは僅か四機ながら被撃墜機を出しています。損耗を嫌ったとしても、やはり此方を一機も撃墜せず退くのはやり過ぎと言わざるを得ません」

彡(゚)(゚)「………まぁ、そっちの方が合点はいくわな。何の工夫もなく同じやり口にボコボコにされた敵の爆撃部隊の醜態にも説明がつくわ」

ふむ、やはりどんなに気にくわなくても理解力の高い相手との会話は疲れなくて済むからいい。
453 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/10/22(日) 23:25:21.49 ID:N6bKefKp0
( ФωФ)「仰るとおり、“以前より数を増やした”以外の変化を見せず結局青ヶ島やベルリンと同じ轍を踏んで壊滅した空襲部隊の愚かさも、“奴等が主戦力ではない”と考えると納得できます。

学習能力が無いか単純な練度が低いか、奴等にとってどれだけ失おうとも痛くも痒くもない戦力がそれなりに人類にとって重要な拠点に派遣された、これがおそらく今回の真相です」

彡(゚)(゚)「では、その“威力偵察”で奴等が見たかったものとはなんや?」

( ФωФ)「寄生体という新たな個体種を試したかったのもあるでしょうが……最大の目的は人類側の“対応力”の限界を見極めることではないかと」

ヨーロッパにおいて広大な橋頭堡の建設を許し、人類の勢力は大きく減退している。この状況で連続的にムルマンスクを失陥すれば我が輩たちが窮地に陥ることは、深海棲艦側もよほどのバカでなければしっかりと理解していたはずだ。

だから奴等は、仮に我が輩たちが“偵察”と事前に見破っていたとしても相応の戦力を投入して迎撃せざるを得ない規模の艦隊を差し向けてきた。一応許す範囲で出し惜しみはしたが、それでもこちらの“限界”を向こうがある程度推測するには十分だろう。

彡(゚)(゚)「向こうが此方の限界を悟り本格的な大攻勢に転じてきたとして、何年耐えられる?」

( ФωФ)「“海軍”、日本、東欧連合軍、アメリカ、インド、ロシア………これらを主力に持ち堪えて五年。希望的観測で中国とイギリスも勘定に入れて七年といったところです」

我が輩もまた、喉を潤すため湯飲みに口をつけ傾ける。冷め切ったほうじ茶の渋みが、舌の上に広がった。

( ФωФ)「なお、これは深海棲艦側が“現状維持”の戦力でこのまま戦争を続けた場合と仮定しての試算です。向こうの進歩速度が我が輩たちのそれを上回れば、人類滅亡のタイムリミットは無制限で切り上がっていくのであります」
454 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/10/22(日) 23:33:30.78 ID:N6bKefKp0
コチコチコチコチコチ。

総理大臣執務室の壁に掛けられた時計が、静まり返った部屋の中に五つ音を刻む。

彡(゚)(゚)「……………キッツいなぁ」

5秒間続いた沈黙に終止符を打ったのは、この国の最高権力者の方だった。

彡(゚)(゚)「五年、或いはそれ以下か。艦娘利権盾に取った今の外交路線じゃもう時間が足りないやんけ」

( ФωФ)「間違いなく足りません。が、首相には引き続き今の方針で各国をとりまとめていっていただきたい」

彡(゚)(゚)「……日本を中核とした、【世界統合海軍】の設立なぁ」

( ФωФ)「ええ。深海棲艦の無限に等しい物量と人類が相対するためには、これ以上の策は存在しません」

彡;(゚)(゚)「うーーーーん…………」

南首相は難しい表情で腕を組み天を仰いだ。

ギョロリギョロリ、不気味に大きい両眼が天井を意味もなく見回す。

彡;(-)(-)「そら、アンタの立案通りに行けば軍事的にも大きいし、日本にとってもこの上なく巨大な利益が転がり込む。そう言う意味ではワイも賛成やで?

でも、時間はあるんか?」

( ФωФ)「作ります。

先も言いましたが、保って五年という時間は“双方が”なんの進歩もなく現有戦力でぶつかり続けた場合の試算であります。我が輩たちの技術革新や軍拡の速度が向こうを上回れば、逆転とまでは至らずともこれを引き延ばすことは幾らでもできる」

彡(゚)(゚)「儲からなくなるのは嫌やけどこの際国益ガン無視して連合軍設立の方に全リソースツッコむのも」

( ФωФ)「6年前付け焼き刃の団結で深海棲艦への対抗を声高に叫んでいた国際社会が今どんな有様か、首相閣下はお忘れでありますか?」

彡;(゚)(゚)「むむむ」

( ФωФ)「何が むむむ だ!」
455 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/22(日) 23:45:25.13 ID:N6bKefKp0
無論我が輩としても、“日本の国益”など人類が完全に消滅すれば戯れ言にすらなりはしないと理解している。だから多少は我が国にとって不利益が生まれようとも、より迅速かつ強固に“超国家的な軍事機構”を作り出す方法があるなら其方を優先することは吝かではない。

だが、現実はどうだろうか。滅びの危機にあるヨーロッパですら、未だ完全な団結は為されていない。誰もが“自分は滅びずに済むかも知れぬ”となんの根拠もない希望に縋り、国家の指導者共は国益ですらない“私益”が揺らぐことを恐れて隣国の危機に目をつむり耳を塞ぐ。

我が輩が敬愛して止まぬ眼鏡フェチ漫画家の現行作品で、かつて第六天魔王と呼ばれた男が口にしていた台詞を思い出す。

( ФωФ)「『奴らがどんなに強大だろうが領主は軍権を絶対に手放さねぇよ。

その「世界滅ぼし軍」に最後の城を攻められて最後の尻に火がついて腹切る直前までそのまんまだバーカ』」

彡(゚)(゚)「ホンマノッブはええこと言うわ」

(′ФωФ)「偉人の含蓄ある名言の後に漫画の台詞を添えるとは我ながら低俗でしたな」

彡(゚)(゚)「いやいや、ワイも漫画は好きやで……それに、その台詞は多分真理やしなぁ」

国家権力が存在する限り、そしてその中に為政者達が抱える「個人の権益」が内包される限り、彼らの多くが軍権を手放すことは有り得ない。なぜなら軍権とは、多くの事柄からそれらを守ることが、或いはそれらを肥やすことができる存在だからだ。

故に、軍権が及ばぬ範囲から奴等の権益を奪い取り、それらを担保に軍権を“差し押さえる”必要がある。そして必死に働けば権益と軍権を増やして返してやると、餌をちらつかせて手懐け、忠実な猟犬として解き放つ。

困難で遠大な話だが、そうでもしなければ深海棲艦の物量に即時対応できる軍事機構は設立し得ない。

そして“艦娘”という深海棲艦に対抗できる資源の最大保有国が日本である以上、この島国が政治力を最大限に活用してこれを成し遂げるしかないのである。
456 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/23(月) 00:24:24.00 ID:wQDSgDey0
首相は、懐から葉巻を取り出すと口に咥えて火を付ける。しばらく紫煙が先端から立ち上る様を物憂げな表情で眺めた後、彼はおもむろに口を開いた。

彡(-)(-)-~「………ま、ワイはあんたほど頭はようできとらん。実際、【統合海軍】設立の道筋についても代案が有るわけでもない。

現状はこれが“最善の道”やし、ワイも日本が富む上に世界も守れるなら一石二鳥や」

一際大きく煙を吐き出しながら、彼は我が輩を真っ直ぐに見据える。

決意の感情が奥に揺らめく、力強い瞳だった。

彡(゚)(゚)「こっちはどんな小汚い手使ってでも【統合海軍】設立に向けての動きを加速させるよう最大限努力したる。そっちも、なるべく深海棲艦の奴等に苦い汁を飲ませ続けてあらゆる策を用いて粘り倒してくれや」

( ФωФ)「…………当然のことです」

…………好き嫌いと、その人物の有能無能は別次元の問題だ。

やはり我が輩は南慈英という人間を好きになれないが、それでもこの男が日本国首相だったという幸運を感謝する。

彡(゚)(゚)「しかし粘り倒す言うても、アテはあるんか?人類側の今の技術や外交事情で生産力・戦力増産の面で深海棲艦と競争するのはどう考えても無謀の極みや。となると次に打つ手は“質”の向上に伴う少数精鋭での穴埋め、せやけどこの戦況でそんな穴埋めができるクラスと言えば、それこそ“海軍”並みの────」

( ФωФ)「首相………否、“海軍”総司令官補佐」

提示された疑問を半ばで遮り、我が輩は一束の資料を掲げてみせる。

( ФωФ)「その件ですが、“アテ”は既に用意してあります」







表紙には、気怠げな目付きをした一人のドイツ軍人の写真が添えられていた。
457 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/23(月) 00:39:01.89 ID:wQDSgDey0










「─────ってことは、戦車は全部点検が終わっているって事だな?」

「ええ、彼女の管理はしっかりしているのでチェック漏れが無いことは解っています」

「連携予定のストーシュル少佐の機甲部隊は?」

「予定配置についたってさっき連絡があったんです!イタリア軍の空軍部隊も出撃、15分後には攻撃を開始するんです!」

「ミルナやジョルジュも準備は終わってたわよ!廊下ですれ違ったけどやる気満々だったわ!」

「………じゃあ俺作戦開始まで何もしなくてよくね?つーか何もさせないでくれ、頼む」

「ダメよAdmiral!部下の士気を上げるのも貴方の役目なのよ!?」

「そのAdmiralってのマジでやめろ。それに俺が出て誰の士気が上がるんだよ」

「少なくともデレ中尉の士気は跳ね上がるのは解ってます」

「…………なんでそこでツンの名前が出てくるんだ?」

「僕、たまに少尉の頭がいいんだか悪いんだか解んないです………」

「だいたいなんで俺が指揮官なんだ………階級はミルナ中尉の方が上だし頭のできもティーマスの方がいいし───Verdammt」

嗚呼、マンドクセ。
458 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/23(月) 08:01:49.54 ID:Y16554wWo
いいねぇ
459 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/23(月) 14:54:37.55 ID:5y0bXKYA0
ロマさんも南総理も凄すぎるなw
それに皮肉気味でもあるけど、その政治力・外交力の一端をあの面々が支えてるのがなんとも
460 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/23(月) 21:34:07.29 ID:wQDSgDey0
よく、ドイツ語は演説向きの言語だって話を耳にする。何でも勇壮な響きの単語が多くアクセントも相手を「のせ」やすいため、大衆を高揚させ煽動する際に大きな助けとなるらしい。

まぁ、政治家なんていう七面倒な職につく予定もなければハーケンクロイツを掲げてミュンヘン辺りで崇高な使命を胸に抱いて決起する情熱も持ち合わせていなかった俺にとっては、はっきり言ってどうでもいい話だ。

………どうでもいい話、だったのだが。

(#゚д゚ )「─────Achtung!!!」

('A`)「…………コッチミンナ」

今俺は、1000人強の武装した兵士達の前でそんなドイツ語の特徴を最大限に生かす必要性に直面している。ミルナ中尉の(無駄に)良く通る声で全員が一斉に直立不動となり、心ない部下達によって壇上に追いやられた憐れな痩せぎすの陸軍少尉へと視線を集中させる。

あの大侵攻によって最前線都市に様変わりしたドレスデンは、今では東欧連合軍にとって重要な軍事拠点の一つだ。住民は悉く強制的に疎開させられ、元から済んでいた奴等は誰一人残っていない。変わって今街の中に居るのは、俺達ドイツ連邦軍を含む【東欧連合】に参加した国から派遣された軍人達。

今俺の後ろにある元ショッピングモールも、今や立派な軍事施設に様変わりだ。広場には兵士と整備済のPT-91【トファルディ】並びにレオパルト2、それに大小様々なタイプの輸送ヘリや戦闘ヘリが家族連れの代わりに雁首を揃え、屋上には即席の対空機銃座が晴れ渡った空ににらみを利かせている。

別段俺にとっての故郷だったり、或いは初恋の相手とのロマンスとかがあった思い出の地だったりというわけではない。それでも、ごく普通の営みが築かれていたはずの街が戦場になる事への哀愁を禁じ得ず────

( <●><●>)「少尉、貴方が街の光景に思いを馳せ憂うフリをしてこの場をうやむやにしようと思っているのは解ってます」

('A`)「ナンノコトデスカナ」
461 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/23(月) 21:37:19.71 ID:wQDSgDey0

壇上で後ろに立つティーマスが、小声で囁きながら俺の脚を他の奴等にバレぬよう小突く。痛みに顔を少ししかめながら誤魔化してみせたが、眼前の1000人分を遙かに凌ぐ強く鋭い眼光を背に感じたので直ぐにやめた。

('A`)「………つってもさ、真面目な話俺に何を言えってんだよ。割とマジでイヨウ中佐何を考えて俺をこの場に引っ張り出したの?階級だって高くねえしミルナ中尉やサイ大尉みてえに気が利いたことも言えないっての。いじめ?いじめなの?」

( <●><●>)「別段気の利いた事なんて言わなくていいですよ。貴方の口べたさ加減じゃ泣いてる5歳児だってあやせやしないでしょうに」

('A`)「お前俺の部下だよね?実は俺の暗殺を狙ってる悪の組織の手先とかじゃないよね?」

ぶっちゃけ事実なのがまた悲しくなる。

( <●><●>)「それと、少尉は“ドク=マントイフェル陸軍少尉という存在”が声を掛けることの効果をどうも過小評価している節がある。

別に上手くやらなくていい、少尉が言いたいことを適当に並べるだけで十分です」

('A`)「心温まる激励どうも」

デキる部下を持って幸せだね、あぁ。涙を禁じ得ないよ。

('A`)「………………はぁ」

とはいえ、この場に立ってしまった(立たされてしまった)以上逃げ場はない。それに、時間も刻一刻と迫っている。

('A`)「──────今回の作戦で、あんたらの指揮を取るドク=マントイフェル陸軍少尉だ」

だから俺は、部下のアドバイスを受け入れつつ観念して口を開いた。
462 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/23(月) 21:47:42.69 ID:wQDSgDey0
機動迎撃大隊………イヨウ中佐曰く「何でも屋」。それを構成するのが、ジョルジュ、ミルナ中尉、サイ大尉、ツンの四人を先頭に俺の前に並ぶ約1000人。

居並ぶ顔ぶれは本当に様々だ。ドイツ・フランス合同旅団から引きぬかれたフランス兵もいれば、サイ大尉に着いてきて共に編入されたアメリカ海兵隊もいる。俺やミルナ中尉の部下だった顔ぶれもちらほらあるし、どうも学園艦から志願してきたらしい年端もいかねえガキも、ほんの数人だがツンの後ろで列に加わっていた。

だが、今はその誰もが緊張と隠し切れない恐怖を浮かべて俺に視線を向ける。

無理もないよな。なんせ、今から参加させられる作戦が作戦だから。

('A`)「さっきも聞いたとおり、俺達の“この部隊”としての初出撃は間もなくだ、作戦要綱に変更はほぼない。

現在このドレスデンに向かって南進している深海棲艦の群体を、市街地付近まで引きつけて機甲戦力を集中運用し攻撃。

陸空連合軍並びに艦娘部隊との緊密なる連携によってこれに甚大な損害を与えた後、反転攻勢を以て敵制圧下に置かれたラーデンボイル、マイセンを奪還する。

今回の目的はただ敵の攻勢を押しとどめるだけじゃない。直後に行われる反攻戦まで含めての1セットになる」

要は、機動防御戦術の発展系と言える。地獄のヨーロッパ戦線における反撃の始まりとしてはなかなかど派手な花火になることは間違いない。

当然、「成功すれば」というのが大前提だが。

('A`)「進撃してきている深海棲艦の数は、あくまで概算だが優に300を越える。それも、後方での敵の動きを見るにこの一波ではほぼ間違いなく終わらない。

おまけに何とか敵の攻勢を撥ねのけて攻勢に出ることができたとすれば、戦線維持のため更なる増援が派遣される可能性が高い。

少なくとも、第二次マレー沖海戦の4倍弱。総司令部が計算している、俺達を含むドレスデン防衛軍が相手取らなければいけない深海棲艦の総数だ」

「「「………!」」」

1000人が、ほぼ同時に息を呑む音が広場に満ちる。
463 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/23(月) 22:00:49.00 ID:wQDSgDey0
('A`)「隠し事は苦手なんではっきりと言うが、この作戦の成功確率は低い。どれだけこっちに都合よく計算しても30%あるかないかってところだ。よしんば成功しても、ドレスデン防衛軍が受ける損害は計り知れない。

それは、この大隊も同じだ。何人死ぬか────いや、何人しか生き残れないかは、正直俺にも解らない。全滅したって何もおかしくない」

…………ほれ見ろ、素直にミルナ中尉やサイ大尉に任せりゃいいものを俺にやらせたばっかりにこのざまだ。今やサイ大尉の後ろに並ぶアメリカ海兵隊を除いた全員が葬式場のように陰気な顔つきで俯き、今にもすすり泣きが聞こえて来かねない。
  _
(;゚∀゚)「………」
 _,
ξ゚听)ξ「………」

ジョルジュが「オイオイ大丈夫かよ」とでも言いたげに目配せを飛ばし、戦車隊の乗組員達が並ぶ列からはツンも怪訝な表情で俺を睨む。

そんな顔しないでくれよ。なにせ俺は純粋な人間なんでね、副官に真摯にアドバイスを受けたから実行しただけさ。

……そうだな、どうせなら“徹底”するか。別に俺だって、率先して部隊の労働意欲を下げたいわけでもない。

せめて、せいぜい肩の力を抜いてこいつらが戦えるよう努力しよう。

('A`)「………そんな、地獄そのものの方がよほどマシな作戦に、今からあんたらは駆り出される。一応この大隊の現場指揮官である俺は、きっとあんたらにこう言わなきゃ行けないんだ。

祖国のため、人類のために、命をなげうって戦えってな」

('A`)「でも、俺はそんなこと死んでも口にするつもりはない。

俺自身、そんなことこれっぽっちも思っちゃいない」
464 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/23(月) 22:22:23.55 ID:wQDSgDey0
現状を説明したときよりも、ずっと大きなざわめきが目の前で飛び交う。アメリカ海兵隊の奴等ですら、少し驚いた表情を各々に作って俺の方を見ていた。

('A`)「俺は一介の陸軍少尉に過ぎない」

それらをあえて完全に無視して、言葉を続ける。俺の、「思ったままのこと」を。

('A`)「身体能力は高くないし、射撃の腕も至って平凡。ハリウッド映画の主役みたいに特別な能力も無ければ、後ろにいる戦場の女神様みたいに大昔の軍艦の力を宿してもいない」

「………フフンッ♪」

ξ#゚听)ξ

Bismarck ziewが、褒められたと見るや誇らしげに背後で鼻を鳴らす。瞑目し腕を組んでふんぞり返ってる様が有り有りと目に浮かぶ。

……ところで、ツンがやたらと不機嫌そうな理由が解らん。

('A`)「そんな俺が、祖国ドイツの命運やら地球人類の存亡やら背負えると思うか?勘弁してくれ。んなもん乗せられたら重量オーバー、一瞬でぺちゃんこになっちまう。

そんなもん押しつけられても迷惑なだけなんだよ、面倒くせぇ。何千万だか何億人だかの運命について考える余裕なんてない、俺は俺自身の世話で一杯一杯だ。

だから俺は、自分のことだけを考えて、自分のためだけに戦う」
465 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/23(月) 22:52:11.99 ID:wQDSgDey0
いつの間にか、ざわめきは止まっていた。ミルナ中尉達の後ろに整列する1000人は、俺がつらつらと並べた軍人にあるまじき怠惰な心情に呆気にとられている。憤るべきか、ジョークとして笑うべきか………互いに顔を見合わせ首を傾げている。

('A`)「この中に、スーパーマンみたいに深海棲艦を拳一つで粉砕できる奴はいるか?いたら手を上げてくれ」

誰も、手を上げない。

('A`)「日本の特撮ヒーローのように、全長40Mの光の巨人に変身できる奴は?」

誰も、手を上げない。

('A`)「闇の魔法使いみたいに、短い呪文一つ唱えるだけで敵を殺すことができる奴は?」

誰も、手を上げない。

('A`)「じゃあ、何の特殊能力も持たない“普通の人間”は?」

────ツンやミルナ中尉を含めて、全員の手が一斉に上がった。

('A`)「これで解っただろ?今この場に、“人類の命運”なんていうバカでかいもんを、“祖国の名誉”とかいう無駄に重いもんを抱えられる特別な人間なんて一人も居やしない。強いていうならBismarckだが、あいつにしたって幾ら何でも一人で全人類の救世主になれってのは無理難題だ。そんなこと、お伽話に出てくる完全無欠の主人公にしか許されない」

('A`)「…………だから、俺達が“そんなもの”のために戦う必要はない。命を賭ける必要はない。

ただ、俺達自身のために戦う必要はある」
466 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/23(月) 23:21:09.40 ID:wQDSgDey0
('A`)「深海棲艦は、俺達人類を明らかに皆殺しにしようとしている。

だから“対話”で解決なんてできやしないし、戦わずにいればどのみち俺達はいつか一人残さず殺される」

('A`)「“スーパーヒーロー”がいないのは、ここに限った話じゃない。世界中がそうなんだよ。どうか誰かあいつらをやっつけてくださいって願ったところで、誰もやっつけちゃくれない。

なら、俺達でやるしかないだろ?」

嗚呼、畜生。

やる前はあんだけ文句たらたらだったのに、小っ恥ずかしい。

(#'A`)「国家の名誉?人類の存続!?んなもん、俺達自身が死ねばケツ拭く紙ほどの役にも立ちはしない!せいぜい家族がいたときに、雀の涙ほどの見舞金が送られるぐらいだ!

そしてそんな端金一回貰うよりも、てめえと百万遍言葉を交わす方が家族もてめえ自身も嬉しいだろうがよ!!」

言葉に熱が籠もるのを、抑えられない。
467 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/24(火) 00:26:09.30 ID:hkVftlJ20
(#'A`)「俺達はいったい何のために生きてきた!?これから先何のために生きていくんだ!?

国家のためか?人類のためか?違う、俺達自身のためだ!俺達自身が生きたいから生きていく!」

('A`#)「俺達がこの場で武器を取り、押し寄せてくるディープワン共に立ち向かう理由は何だ!?名誉のためか?自己犠牲のためか!?違う!俺達自身のためだ!

俺達が明日を生きるために、今日という日を戦い抜くために銃を取る!!」

いつの間にか、俺は声を限りに叫んでいた。

大隊の奴等は、身動き一つしない。全員が真剣な表情で、痩せぎすな陸軍少尉の言葉を聞いている。

(#'A`)「大隊指揮官として、俺から作戦前に一つだけ“厳守”すべき命令を一つだけ出す!

生き抜け!!生きて、生きて、生き抜け!!!」

('A`#)「戦場に出る以上死ぬときは死ぬ、だから“死ぬな”なんて無理難題は言わない!だけど、“生きる”努力だけは絶対にやめるな!弾薬が切れたら奴等の眼球にナイフを突きたてろ!脚が折れたら這ってでもその場から逃げろ!腕を失ったら歯で噛みつけ!

どうせ俺達の戦いぶりなんざ、何百年経ったって“お話”になんてなりはしない!艦娘というヒーローの横で、こんな人達も居ましたって十把一絡げに纏められて終わりだ!」

('A`)「ならば安心して、美しく死なずに意地汚く生き足掻け!!名誉をかなぐり捨てて運命に中指突きたてて、最後まで生きるために戦い続けろ!!国家だの人類だのへの貢献のためなんて“言い訳”は許さない!!死にたくないと自分が思う限り、諦めずに生き続けろ!!」
468 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/24(火) 00:50:42.85 ID:hkVftlJ20
(;'A`)「そして………グゥエッホグエッホ」
  _
( ゚∀゚)「よーよー、のど飴いるかドクwwwwww」

息が切れ、激しく咳き込む。張り詰めていた空気が途端に弛緩して何人かが苦笑いを漏らし、それはジョルジュの茶々によって全員の爆笑へと伝播した。

俺自身、咳き込みながら思わず笑ってしまう。全く、慣れないことはするもんじゃない。

とはいえ、さっきまでの葬式場みたいな雰囲気は全員から綺麗さっぱり消えていた。

('A`)「……ゴホン。

さて、今日この日より、俺達は腐れ深海野郎共に反撃を開始する!さっきも言ったが、これは俺たち一人一人が、自分のためにやる戦いだ!」

(#'A`)「国土を取り戻すためじゃない、俺達がビールを飲み交わせる酒場を取り戻すための!

軍人として栄誉を得るためじゃない、俺達が人間として生きて笑い続けるための!

人類のためじゃない、俺たち自身のための!」


(#'A`)「俺達の、平穏でつまらない“日常”を守るための戦いだ!!

総員、戦闘準備急げ!!」 







「暁の水平線を、取り戻しに行くぞ!!!!」

「「「「Jawohl!!」」」」
469 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/10/24(火) 01:06:28.60 ID:hkVftlJ20






《緊急ニュース速報です。先程東欧連合軍総司令部より発表があり、ドレスデン近郊において発生した深海棲艦との戦いに圧倒的勝利を収めたとのことです》

《機甲師団と空軍の緊密な連携によって張り巡らされた重厚な阻止火力戦の前に、深海棲艦側は序盤で甚大な損害を受ける形になり─────》

《ベル=ラインフェルト陸軍統合司令官のコメントによると、正確な数は把握していないものの損害は投入戦力の10%に満たないものと見られ………》

《連合軍部隊は速やかに反転攻勢を敢行、深海棲艦側に支配されていた幾つかの都市を奪還した模様で────》

《総司令部発表によれば、艦娘【Bismarck ziew】と陸軍戦力を統合した混成機動部隊が極めて大きな役割を果たし連合軍の勝利に繋がったと………》

《苦境が続くフランスや北欧三国では、この勝利に人々が大きく沸き立っています》

《この勝利に乗じて東部戦線でもポーランド軍を主力とする連合軍機甲師団がオーデル川を渡河。橋頭堡の確保に成功したと大々的に報じており────》

《日本のミナミ首相は東欧連合軍の歴史的勝利を賞賛し、彼らの奮戦に応える意味でも艦隊の到着は不可欠であると中東諸国に圧力を───》

《ベルリン、パリ、ベルゲンの相次ぐ失陥以来絶望的な状況が続いていたヨーロッパにあって、この勝利は非常に大きな意味を持つことでしょう。

トソン=カーヴィル大統領はホワイトハウスから、「この勝利は明け方に水平線から顔を覗かせた太陽の如く人々の心に希望の光を灯すだろう」と談話を発表、フランスへの支援も本格化させていく見込みで────》
470 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/24(火) 01:10:03.11 ID:hkVftlJ20




〜ある門番たちの日常のようです〜

完!これ
471 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/10/24(火) 01:19:14.41 ID:hkVftlJ20
と、言うわけで、記念すべきマッスル鎮守府との本格的なクロスオーバー第一作目完結と相成りました。マッスルさん、魅力的なキャラクター達をこの複雑怪奇な(だけの)世界観に貸していただきましてありがとうございます。感謝のしようもありません。

そして支援レスを下さった読者の皆様、本当にありがとうございます。今回リアルとss内双方での大小様々なやらかしからストーリーが遅々として進まない中、それでも温かいお言葉を掛けていただいたことで何とか無事完走させることができました。ただ、書いてる間にキングダム発売日が過ぎてしまったときは本気で絶望しか感じなかったです。

もしマッスル鎮守府シリーズのほうはまだ未読だよという方がいらっしゃいましたら、エレファント速報はじめ幾つかのサイトで纏められておりますので是非お目通しください。

ここで出てきた( T)や青葉は本来の魅力の1/100も引き出せていないので、是非脊髄反射で暴れ回るキチガi………ゆるふわ愛されコメディをお楽しみいただければと思います。











因みに責任は負いかねます。
472 : ◆vVnRDWXUNzh3 [saga]:2017/10/24(火) 01:26:02.56 ID:hkVftlJ20
で、以降の展望ですがちょっと今作の反省点があまりにも多すぎるので諸々の見直しをしてからという形になりますので、やや期間が開く可能性が高いと思われます。ただ、間にミセ*゚ー゚)リと( ^ω^)それぞれの短編を上げるかも知れないのでそっちは書くとしたらそこまで時間はかからないかも知れないです。

では、今回はこれにて。

皆様、重ね重ねありがとうございました。
473 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/24(火) 01:31:35.21 ID:hkVftlJ20
このssはss速報vip、ギコ猫、しぃ猫、杉浦ロマネスク、やきうのおにいちゃん、地獄の血みどろマッスル鎮守府シリーズの提供でお送り致しました


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 (ヨ?)              (?E)
 / |      ?  ?       | ヽ
 \?\/(ФωФ)/彡(゚)(゚)ヽ/ /
  ?\(uu     /    ?uu)/
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`/ イ~   (((ヽ
(  ノ      ̄Y\
| (\ ∧_∧ | )
ヽ ヽ`( T)/ノ/
 \ | ⌒Y⌒ / /
  |ヽ  |  ノ/
  \トー仝ーイ
   | ミ土彡/
   )   |
   /  _  \
  /  / \  ヽ
  /  /   ヽ |
474 : ◆vVnRDWXUNzh3 [sage saga]:2017/10/24(火) 01:33:51.13 ID:hkVftlJ20
過去作一覧
歌丸「お待たせいたしました」提督「大喜利のコーナーです」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1464871917/

ダージリン「こんな言葉を知っていて?大喜利はいいぞ」歌丸「三枚やって」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1469614519/

( ^ω^)はホームレスのようです
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1488188452/

( ・∀・)戦車道連盟広報部のようです
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1488284987/

( ´_ゝ`)流石な鎮守府の門番さんのようです(´<_` )
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1489148331/

( ^ω^)戦車道史、学びます!のようです
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1489304048/

川 ゚ -゚)艦娘専門店へようこそ!のようです
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1489478497/


('A`)が深海棲艦と戦うようです
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1489759020/

( ^ω^)戦車道史、教えます!のようです
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1490100561/

|w´‐ _‐ノv空に軌跡を描くようです
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1490532219/


l从・∀・ノ!リ人 流石なれでぃたちの大騒動のようです
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1491313655/

( ^ω^)その時、戦車道史が動いた!のようです
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1491739394/

( ´_ゝ`)流石な鎮守府が安価で運営されるようです(´<_` )
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1492601807/

川д川 ある鎮守府が呪われたようです
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1493264370/

('A`)はベルリンの雨に打たれるようです
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1494212892/

では、HTML申請して参ります
475 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/24(火) 01:46:49.42 ID:IKCJPG/A0
お疲れさまでした!
若干成長してるドクにも、サラッと勝利をかっさらった面々にもワロタ
…待ちわびてたであろうリ級を、相打ち気味でも行動不能にしてた青葉もMVPなんだからこの世界は恐ろしいw
476 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/24(火) 06:39:51.90 ID:LdDUkyA/O
乙、今回もおもしろ熱かった

タイトルにもなったのにほとんどギコに出番取られた流石兄弟ェ……
477 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/24(火) 07:30:23.98 ID:4okm0Y3Xo
激しく乙

>>476
今回の門番はギコとしぃのことだぞ
478 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/24(火) 07:45:52.89 ID:eL5oZ3UcO
おつおつ
479 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/24(火) 14:16:48.45 ID:byI1dPxFO

マッスルの方よく知らない身としてはなんじゃこの時雨ってなった
480 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/24(火) 14:44:55.27 ID:DS9wnwVSo
まあ乙
他所とクロスする意味が欠片もわからんかったが
481 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/10/24(火) 20:16:58.72 ID:Oi2HNaCRO

マッスル鎮守府の人とのコラボは良かったと思うな。あくまでもマッスル鎮守府全開過ぎずに素材を殺して無い感じが絶妙。

マッスル鎮守府の人は早く過去話書くんだよ。おうあくしろよ
482 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/25(水) 01:23:48.83 ID:/YuoaphA0
元々日本側の描写がブーン先生と流石兄弟の所属している所くらいだったし、世界を滅ぼしかねない深海側の大攻勢を跳ね退ける「人類側の主力」として海軍が打ち出されその一部としての投入されたんだから重要かと。
…ギャグテイストでもかけないと、禁断の破壊兵器の大規模実戦投入によって、人類のパワーバランスごと崩れかねないしw

それにマッスル鎮守府の新作にも期待せざるをえないしなあw
483 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/27(金) 21:00:43.36 ID:EVDukzoe0
一気読みした
今回特にファルロとか容赦ない展開だったから読むのに体力使ったわ
ともあれ乙
484 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/31(火) 21:12:08.88 ID:stTq/B2l0
お疲れさまでした!
今回もとても楽しく読ませていただきました。
続編も期待してます!
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