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勇者「遊び人と大罪の勇者達」
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875 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 00:49:07.08 ID:BTByofbZ0
遊び人は勇者を背負った。
大罪の装備を置き去りにして、出口へとゆっくり進んだ。
勇者「えっ、ちょ、ちょっと。いてて……」
勇者は思わず笑ってしまった。
勇者「建物でも破壊して、移動の翼で逃げるのか?」
遊び人「それは難しいね。結界が何重にも覆っているみたいなの。爆発呪文を一度唱えても全部壊しきれないな」
勇者「じゃあどうするんだよ」
遊び人「だから、逃げるんだってば」
広大な教会の中で。
嫉妬の勇者から離れるように、遊び人は勇者を背負ってとても遅い速度で歩いていた。
出口までの距離は長かった。
876 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 00:50:33.88 ID:BTByofbZ0
嫉妬「……もう少し賢い女だと思っていたのだが。その男と冒険をしていた時点で、たかが知れていたというわけだ」
嫉妬はうんざりした表情で、同じ様に歩みを進めた。
嫉妬「もう、こいつらはいらないのか?」
嫉妬は地面に散らばった6つの大罪の装備のそばにたどり着くと、遊び人に尋ねた。
遊び人「あなたはそれを欲しいんでしょ?」
遊び人は歩みを止めた。
勇者をゆっくりと降ろした。
勇者が遊び人を見上げると、口にやくそうのようなものを含むのが見えた。
遊び人は振り返り嫉妬に正面から向き合った。
嫉妬「欲しいかだと?くだらない質問だ。時間稼ぎのつもりか」
遊び人「時間稼ぎする時間なんてないよ。寿命が尽きてしまうんだもの」
嫉妬「だとしたら答えてやろう。俺はずっとこれらを求め続けていた」
嫉妬「お前を孕ませ、大罪の一族を復活させる日が待ち遠しいぞ。我が子を寿命の素材にして永遠に生きる日々がな」
遊び人「そう。あなたの気持ちはわかったわ」
遊び人「他人を羨んで生きてきた嫉妬の勇者さん。それらがどうしても慾しいのね」
遊び人「『喉から出た手で殺してしまうほどに』」
877 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 00:52:16.01 ID:BTByofbZ0
嫉妬「貴様!!何をするつもりだ!!」
遊び人の足元に、魔法陣が現れていた。
遊び人「『我から能力を奪い給え。我の全うせし職業を奪い、彼の者へふさわしい大罪の職業を与え給へ』」
遊び人は強制転職呪文をつかった。
嫉妬の勇者に命中した。
嫉妬「ぐぁっ!!!」
嫉妬は強制転職させられた。
遊び人は今までに身に着けた遊びに関する知識を全て忘れてしまった。
遊び人は今までに覚えた道楽のスキルを全て忘れてしまった。
遊び人は”遊び人”の職業を失い、”大罪の賢者”へと職業を戻された。
勇者「どういうことだよ!!」
遊び人「学び尽くすことのできない人生だったけれど、遊び尽くすことはできたみたい。勇者のおかげだね」
遊び人「これで職業の枷は取れたわ。呪文も使い放題」
遊び人「遊び人の宿命は、最後は賢者として人一倍働くことだって決まってるのよね」
878 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 00:53:09.43 ID:BTByofbZ0
嫉妬「ふざけるな!!」
嫉妬は焦燥に駆られていた。
強欲の都で遊び人の祖父から『遊び人』への強制転職呪文をかけられそうになったことを思い出していた。
もしも遊び人にされているのであれば、逃げるしか選択はなかった。
嫉妬「くだらんやつめ!!やはり時間稼ぎか!!」
嫉妬は首飾りを発動し、外に張られている結界を自身に対してのみ無効化した。
嫉妬は懐にしまってあった移動の翼を使用した。
嫉妬「止むをえん!!」
嫉妬はにげだした。
しかし、まわりこまれてしまった!
遊び人「逃げたい時に限って逃げられないってこと、教えてあげるわよ」
嫉妬「なっ……」
遊び人「『かさ』」
嫉妬の頭上に巨大な葉っぱが現れた。
遊び人「『あめ』!」
滝のように降り注ぐ水が嫉妬を地面に打ち付けた。
嫉妬「ぐはっ……!!」
879 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 00:54:58.36 ID:BTByofbZ0
嫉妬は無様に地面に転がった。
嫉妬「はやく、対抗呪文を唱えなければ……」
“遊び人”に転職させられていると思っていた嫉妬は、意思の薬を口に含んだ。
しかし、効果はなかった。
嫉妬「……この感覚は」
嫉妬は異変に気づいた。
勇者「……一体何が」
勇者も状況を把握しきれていなかった。
嫉妬「これは、漏出?」
嫉妬は自分の体内から、凄まじい速度で時間が流れていくのを感じた。
その時、地面に散らばっていた大罪の装備が震えだした。
嫉妬「まさか!!俺の職業は!!」
嫉妬「”大罪の賢者”!!」
嫉妬の首飾りを除く6つの大罪の装備から、”大罪の賢者”を飲み込もうとする青白い手が伸びた。
最も近い距離にいた嫉妬の全身を、6つの手が絡め取った。
嫉妬の首飾りから出現した大罪の手は、自身の宿り主を守ろうと、6つの手に抗った。
880 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 00:57:39.85 ID:BTByofbZ0
勇者「ふざけるなよ……」
勇者は涙を流していた。
強制転職呪文だけは、絶対に使用してはいけないという取り決めをしていたのだった。
勇者「大罪の賢者に戻ったら、お前もあの手に飲み込まれるじゃんかよ……」
里の賢者を全滅させた腕を、防ぐ方法などあるはずもなかった。
遊び人「勇者、聞いてほしいことがあるの。まだ2人が生き残る方法が一つだけありそうなの」
遊び人「私も強制転職呪文を使う想定をしていなかったから、今閃いたばかりなんだけど。それに嫉妬の首飾りの対象化が、奴の意思に関わらずに発動するってことに賭けるしか無いんだけど……」
勇者「なんでもいい、話してくれ」
遊び人「あの手が嫉妬の精霊を破壊したあと、一体だけ精霊が残るはず。ここで重要なのはね、嫉妬の職業の果たす役割についてなの」
遊び人「強制転職呪文はね、本来なら踏むはずの転職の過程を大幅に省略しているの。そのせいか、前の職業の名残がどうしても色濃く残ってしまうの」
遊び人「私が大罪の賢者から遊び人になっても寿命の漏出がとまらなかったように。嫉妬が神官から大罪の賢者に転職をしても、神官としての名残は残る。つまり、嫉妬がその場で復活することには変わりないの」
遊び人「6つの装備に宿る大罪の手を嫉妬は攻略化、無効化するはず。今度は、嫉妬の首飾りに宿る白い手は私に伸びてくる。里を滅ぼした最強の手だけれど、たった一つだけ食い止めることの出来る呪文が存在するの」
遊び人「里が滅ぼされた時と違って、今は嫉妬の首飾りが存在する。だからね、勇者が……」
バリリリンン!!!!!!
遊び人の言葉を遮り、精霊の砕ける音が響いた。
死の刹那、嫉妬は大罪の手に対する強烈な感情が芽生えた。
881 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:00:02.64 ID:BTByofbZ0
大罪の手に飲み込まれた嫉妬は精霊を破壊され、死亡した。
嫉妬に残された一体の精霊の加護によって、その場で蘇生をすると即座に嫉妬の首飾りを使用した。
嫉妬の首飾りは、たとえ大罪の賢者であろうと、自身の宿り主への殺意は芽生えなかった。
嫉妬の首飾りは、他の6つの大罪の手を攻略化し、無効化した。
6つの大罪の手は、寿命を奪う意思を失い、各々の装備の中へと吸い込まれていった。
嫉妬「……はぁ……はぁ」
嫉妬「……愚かな。こいつだけは、俺にも止められんぞ……」
嫉妬「何もかも終わりだ……お前らの命も、俺の永遠の命も……」
嫉妬「俺達の未来は、失われたんだ……」
嫉妬の首飾りから、大罪の手が遊び人へと伸びた。
882 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:01:23.13 ID:BTByofbZ0
伸びてくる大罪の手に対して、遊び人は片手を前に突き出した。
勇者「遊び人!!」
遊び人「あのさ、勇者」
里の大賢者と呼ばれる者達が、あらゆる呪文を放っても防ぐことのできなかった大罪の手。
しかし、当時彼らが放った呪文は、全て生き延びるための呪文だった。
大罪の一族には広く知られていない禁術が、1つだけあった。
それは、威力、持続性において、非一族の世界で最強とされている呪文だった。
遊び人「寿命泥棒で、ごめんね」
遊び人は呪文を唱えた。
遊び人「『総魔力放出呪文(くろいいと)』」
遊び人のひとさし指から、一本の黒い糸が伸びた。
883 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:02:10.43 ID:BTByofbZ0
遊び人の寿命と引き換えに、膨大な力が解き放たれた。
遊び人の中に生きる命の秒数が、凄まじい速度で減少しはじめた。
遊び人「くっ……!!」
勇者「遊び人!!」
黒い糸は、大罪の手に真っ向から衝突した。
嫉妬「全ての魔力を消費する禁術!!」
嫉妬「寿命を魔力に変換する大罪の賢者が使用することは、確実な死を意味するはずだ!!」
嫉妬「俺を殺すためだけにこんな……!?」
嫉妬「いや、奴らの狙いは!!」
884 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:02:39.82 ID:BTByofbZ0
勇者は、嫉妬の王国で遊び人と交わした会話を思い出していた。
遊び人『嫉妬の首飾りは、自分を死に至らしめた呪術に対して効果を発揮するでしょう?初見の呪術の吸収、つまり攻略化によって寿命は大きく浪費する。でも、一度攻略化した呪術に対する無効化にはほとんど消費しないみたい』
遊び人『だから、例えば魔王が独特の呪術で嫉妬を殺害したとして。殺害されたタイミングでの攻略化には寿命を大きく消費するんだけど、二度目以降の戦闘で魔王がどれだけ呪術を放っても、ほとんど寿命を消費せず無効化できるの』
勇者『一度死ぬことが前提の装備なんだよなぁ。それこそ精霊の宿った勇者しか使えないような装備じゃん』
遊び人『そうでもないみたいよ。一度攻略化した呪術に対しては、他の者が嫉妬の首飾りを装備しても無効化はできるみたい』
勇者『じゃあ俺が首飾りを奪えば、魔王も倒せるってことか。便利だな』
885 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:03:52.03 ID:BTByofbZ0
―――――。
勇者「……そうだ」
勇者「今の俺の寿命でも、嫉妬の首飾りなら……!!」
勇者「まだ、可能性はある!!」
勇者「遊び人!!」
遊び人「……うううう」
遊び人「あぁああああああああああ!!!!!!」
遊び人は全身に力を込めた。
嫉妬「貴様ぁ!!!」
遊び人「必死で抵抗してくるってことは、やっぱり対象化していなかったようね!」
遊び人「この呪文を使える術士は、世界にそういないでしょうから!!」
886 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:06:05.24 ID:BTByofbZ0
里最大の呪力を持つ遊び人の呪文は、大罪の手の力をわずかに上回っていた。
遊び人「あんたは…寿命を奪うだけでしょ…」
遊び人「こっちは、寿命削って生きてるのよ!!」
黒い糸は大罪の手を削りながら突き進んだ。
遊び人「私は、私は……」
遊び人「私も……」
遊び人「私の命を願う人達の、寿命を背負ってここまで……」ポロポロ…
遊び人「寿命を奪って……」ポロポロ…
遊び人は、涙を流し始めた。
遊び人は、最高峰の賢者でありながらも。
心は、脆い少女でった。
遊び人「私は……みんなを死なせてしまっただけの……」
倒れていた勇者は、ぼろぼろの身体を起き上がらせて叫んだ。
勇者「お前はただの野菜泥棒だろ!!」
遊び人「……勇者?」
勇者「俺はなんて呼ぶんだよ!!自分を頼ってくれたたった一人の女の子さえ守れなかった俺は!!」
勇者「いつまで……!いつまで経っても……!」
勇者「俺は、人殺しだから!!」
遊び人「私は、寿命泥棒だから……」
勇者「寿命泥棒なんかじゃない!!生きる意味そのものを俺にくれただろ!!」
勇者「生きてるだけの時間が生きてる時間じゃないって、遊び人が教えてくれたんだ!!」
勇者「今までの冒険は、永久の命で世界を支配するよりも、ずっとずっと価値のある時間だった!!
勇者「だから!!」
勇者「これからも、2人で生きるんだよ!!!」ポロポロ…
勇者は涙を流した。
遊び人は、自分の中にあたたかい気持ちが沸くのを感じた。
遊び人「…………弱み」
遊び人「優しすぎるところ」
887 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:09:16.50 ID:BTByofbZ0
遊び人は全ての力を糸に注いだ。
遊び人「はぁあああああああああ!!!!!」
寿命を最大限に込め、遊び人の攻撃力は最大に達した。
嫉妬「ぐぁっっっ!!?」
黒い糸は、大罪の手を突き破った。
嫉妬「ガァッ……」
黒い糸は嫉妬の首を貫いた。
死の刹那、嫉妬は遊び人の放った禁術に対して強烈な感情が芽生えた。
ガラスの激しく割れる音が聞こえると同時に、嫉妬がその場に倒れ込んだ。
嫉妬は首から血を流したまま地面に横たわった。
肉体保護の棺桶が出現することも、復活することもなかった。
嫉妬は全ての精霊を失い、絶命した。
勇者達は勝利した。
888 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:10:51.96 ID:BTByofbZ0
勇者「まだだ……!!」
勇者は状況を確認した。
嫉妬の首飾りから現れた大罪の手は敗北を認め、嫉妬の首飾りの中に潜り込んでいった。
他の大罪の装備は嫉妬の首飾りに無効化されたままであり、同様に大罪の手が出現する気配はなかった。
問題は、遊び人であった。
遊び人「……はぁっ……くっ!!」
遊び人の指からは未だに総魔力放出呪文が発動し続けていた。
嫉妬を撃退した遊び人は、寿命の漏出を必死に制御しようとしているものの、呪文はとめどなく流れ続けていた。
せめて建物を崩壊させないよう、手を突き出したまま同じ位置に固定しようとしていた。
889 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:13:08.69 ID:BTByofbZ0
勇者はぼろぼろの身体を引きずり、嫉妬の勇者の亡骸を目指した。
今こうしている一刻一刻により、遊び人は死へと確実に近づいていた。
勇者「くそっ……動けよ!!」
遊び人による癒やしの術は、勇者を完全な回復には至らせなかった。
勇者の足の指はいくつか折れており、足には痺れが残っていた。
勇者「術者が死んだ今、マフウジは解けているはず!!」
勇者は回復呪文を唱えようとした。
しかし、魔力が足らなかった。
勇者「嘘だろ……」
勇者は惨めさに打ちひしがれていた。
自分の戦闘能力の無さによって魔剣による破壊も果たせず。
今も小さな回復呪文を使うほどの魔力さえ残っていない。
勇者「魔剣で打ち倒せていたら……強制転職呪文を放つ必要なんかなかった。そしたら、白い手も出現しないまま、他の禁術や、総魔力放出呪文を唱えられた」
勇者「体力と寿命に余力さえあれば……もっと、もっと時間に余裕が……」
勇者「俺の、俺の実力さえあれば……」
勇者は後悔で泣きながら、傷んだ身体を引きずった。
890 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:14:30.43 ID:BTByofbZ0
時間をかけて、勇者は嫉妬の勇者の亡骸までたどり着いた。
勇者「……これを使えば」
勇者は嫉妬の亡骸に触れた。
込み上がる感情を押し留め、嫉妬の首飾りを奪った。
勇者は嫉妬の首飾りを装備した。
勇者「そして……」
勇者は、遊び人の手から伸びる黒い糸を見つめた。
発動時とは比べ物にならないほど細くなっており、今にも消えてしまいそうだった。
勇者は嫉妬の首飾りに込められた、嫉妬の感情を呼び起こした。
勇者の中に、憎しみにも似た紫色の感情が噴出した。
勇者「…………」
勇者「失せろ」
勇者はくろいいとの呪文を無効化した。
総魔力放出呪文は消滅した。
891 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:15:50.28 ID:BTByofbZ0
勇者「はやく……」
勇者「はやく、全部届けないと……」
勇者は、目の前に散らばる大罪の装備を見つめた。
手が、震えた。
自分がこれから行う手作業と移動に、この世界で最も大切な存在の命が賭かっていた。
自身の残り寿命の心配など、一切頭になかった。
勇者「これらを、全部、遊び人のところまで……」
暴食の鎧。
色欲の鞭。
傲慢の盾。
憤怒の兜。
嫉妬の足枷。
強欲の腕輪。
嫉妬の首飾り。
勇者「これらを、全部……」
両手で、抱えきれる量ではなかった。
勇者「……間に合うのか?」
途端に、勇者の全身から汗が吹き出た。
892 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:18:04.96 ID:BTByofbZ0
手ぶらでここまでたどり着くのもやっとだったのに、装備を持っていけるだろうか?
これだけの数を運ぶには、往復しなければならないだろうか?
嫉妬の首飾りを遊び人につけたあと、他の装備を支配するのに寿命は消費するのだろうか?
全て身に付けた後はどのように寿命の吸収を行うのだろうか?
こんなに震えた手と足で持っていけるだろうか?
何が最も必要なことなんだろうか?
どうすればいいんだろうか?
勇者「……どうすれば。どうすれば……」
混乱した頭で、勇者はわけもわからず装備を抱え込んだ。
勇者「……うわ、わっ!」
カラン!!カラン!!
両手で精一杯抱えようしたが、震える手から装備が落ちてしまった。
893 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:18:50.13 ID:BTByofbZ0
勇者「あ、あそびにん!」
勇者は震える声で呼んだ。
勇者「こ、こっちに来てくれ……!」
勇者「じ、じかんが……じかんが……」
勇者「おれひとりじゃ……」
俺は、何をやっているんだろうか。
俺は、どうしてこんなに無力なのだろうか。
遊び人はどんな目で自分を見ているのだろうか。
遊び人は今も生きているんだろうか。
遊び人は。
遊び人は。
遊び人は…………。
遊び人「勇者」
絶望で打ち震えている勇者を、やさしく呼ぶ声が聞こえた。
勇者が顔をあげると、遊び人はにっこりと笑っていた。
勇者「……遊び人?」
手の甲を見せ、小指だけを突き立てていた。
遊び人「はい、喜んで」
遊び人は、足元から崩れ落ちた。
894 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:19:22.45 ID:BTByofbZ0
【TIPS】
『大罪の力』
短命な寿命で生まれつく、賢者の一族がいた。
彼らは人間に巣食う7つの欲望を元に、禁忌の呪文を発動した。
儀式は失敗し、欲望は分裂し、7人の勇者の元に装備の形となって届けられた。
暴食の鎧
色欲の鞭
傲慢の盾
憤怒の兜
怠惰の足枷
強欲の腕輪
嫉妬の首飾り
欲望に応じた能力をもつこれらの装備の伝説は広まり。
7つの大罪、と呼ばれるようになった。
895 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:20:47.92 ID:BTByofbZ0
【epilogue】
あれから、幾月も過ぎ。
〜怠惰の王国〜
国王「祝福じゃ!!パレードじゃ!!」
国王「世界は、平和となったのじゃ!!」
怠惰の王国では、魔王消滅の日を記念して祭りの準備が行われていた。
案内人T「……ようこそー。怠惰の王国だよー……」
案内人T「ふわ〜あ……」
怠惰「あなた、ちゃんと働きなさいって」
案内人T「……いいじゃん別に。奴隷を解放した英雄がよく言うよ……」
怠惰「まったく」
怠惰は顔をしかめたが、諦めて故郷の中に入っていった。
怠惰「世界を救った本物の英雄達を、見習ってほしいものだわ」
896 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:21:26.23 ID:BTByofbZ0
大罪の力。
魔王消滅の噂で喜んでいる世界に対し、伝説地味た装備の話は。
面白半分の噂話として広まることはあれど、事実の出来事としては誰も信じようとはしなかった。
ましてや、大罪の装備のために奔走した、元案内人と遊び人の物語などは、誰にも語り継がれることはない。
はずだった。
897 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:22:09.25 ID:BTByofbZ0
決戦の夜、怠惰は一人の研究者と魔王城へと向かった。
同僚「こんなことしてる場合じゃねえんだよ!!封印の壺が割れたんだ!!あいつらに会いたいならまずはそっちを……」
怠惰「いいえ、もうここに訪れているはずよ。もしかしたら、決戦の真っ最中かも」
同僚「それはねーよ。明日、嫉妬に精霊の補充を行う予定だったんだ。奴らと戦うなら、当然その後を選ぶだろう?」
怠惰「嫉妬は大罪の装備だけを欲してるんじゃない。あの遊び人の女の子も欲しているの。あの子達が挑む程度の状況でなければならないの。占い師がそう告げたのよ」
同僚「はん!占いなんかが根拠かよ!めでたいやつらだぜ!!」
怠惰「いいから。早く魔王城の頂上まで向かうのよ」
同僚「お前と一緒に仲良く飛んでるところを見られたら極刑もんだぜ。俺にだって愛する家族がな……」
怠惰「あの王国で育つ子供の未来なんて、変えるに越したことはないでしょう?」
同僚「……ちっ。面倒なやつだな」
怠惰「面倒なやつは嫌い?」
同僚「いや、好きだったよ」
怠惰「あら、昔の恋人?」
同僚「そんなんじゃねーよ」
898 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:22:54.50 ID:BTByofbZ0
怠惰「おかしいわ。いくら探しても見つからない」
同僚「妙だな。警護の魔物の数も最小限しかいない。それに、開かずの間がいくつか開かれていた」
同僚「奴らがこの城のどこかで決戦しているとして。きっと、特別な手順を踏まないとその部屋には入れないようになっているんだ」
怠惰「どうやって見つけるの?感知呪文?」
同僚「それだけ厳重に隠された場所があるとして、直接感知は無理だろう」
怠惰「だったら、全てを差し引く方法で……」
同僚「夜が明けちまうよ。こういう時は手探りで探すしかねーんだよ」
怠惰「研究者なのに!!」
同僚「地道が最も効率的なことだってあるんだよ」
899 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:23:41.54 ID:BTByofbZ0
2人は時間をかけて魔王城内を探索したものの、隠し部屋を見つけられずにいた。
一度城外に出て、外から周囲を調べてまわっていた。
同僚「あれは……」
怠惰「鳥の魔物ね。どうかしたの?」
同僚「王国から嫉妬様宛に手紙を飛ばした魔物かもしれない」
同僚は鳥が旋回している近辺まで近づいた
怠惰「ここが怪しいってわけ?」
怠惰は城壁を眺めながら尋ねた。
同僚「……ああ。ここ、妙じゃないか」
同僚は外壁に触れた。
同僚「魔力の流れがおかしい。結界が損傷している」
怠惰「……言われてみれば、そんな気がしないでもない」
同僚「というより、これ、ヒビじゃねえな。線が貫通してやがる」
怠惰「線?」
同僚「貫かれたような跡がある。しかも、何重にも張られた結界全てを貫いている。こんな攻撃呪文みたことねーぞ……不自然過ぎる」
同僚「探ってみるぞ」
900 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:24:19.49 ID:BTByofbZ0
怠惰「なによ、ここ……」
同僚「教会だと!!」
巨大な教会を発見した同僚と怠惰は驚愕していた。
同僚「扉があるな」
怠惰「入るわよ」
同僚「だが……」
怠惰「あなたは入らなくていいわ。私だけで入るから。家族が心配なら帰ってちょうだい」
同僚「誰のおかげでここまで来れたと思ってやがる」
同僚「……研究者の好奇心を舐めるな。行くぞ」
901 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:25:47.13 ID:BTByofbZ0
怠惰と同僚は、建物に入った瞬間に身震いした。
見覚えのある3人の人物が、全員横たわっていた。
同僚「……おい、嘘だろ!!」
同僚「嫉妬だ!!死んでいる!!」
同僚「何故だ!精霊の加護を6つ体内に宿してあったはずだ……」
怠惰「ねえ、こっちに来て!!」
怠惰は同僚を呼んだ。
そこには、男女の遺体が並んで横たわっていた。
怠惰「この女の子、勇者とずっと一緒に旅をしていた遊び人……」
同僚「傷跡が見えない。何かの呪いで殺されたのか?」
怠惰「それにしては、穏やかな表情をしているけれど……」
怠惰は懐から布を取り出し、遊び人の顔にかぶせた。
902 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:27:19.45 ID:BTByofbZ0
同僚「……おい、なんだよこれ」
勇者の遺体を注意深く観察した同僚は、声を荒げた。
同僚「こいつ……」
同僚「自殺してやがる……」
怠惰は息を飲んだ。
亡骸の傍らには毒針が転がっていた。
同僚「致死性の非常に高いものだ。腕に刺されたあとが残ってる」
同僚「しかも、なんだこいつの格好は」
勇者の遺体には、独特な装飾の鎧、兜、腕輪、足枷、首飾りが身につけられていた。
また、すぐ傍には鞭と盾が転がっていた。
怠惰「……大罪の装備よ」
怠惰の勇者は、怠惰の足枷を拾った。
怠惰「でも、おかしいわ。呪力を、一切感じないの」
同僚「どういうことだ?」
怠惰は他の装備についても触れながら、確信を深めた。
怠惰「装備に込められた寿命が、空になっているのよ。1つの里の賢者全員分の命の力がね」
怠惰「この男は……勇者は。全ての大罪の装備を身に着け、寿命を吸い尽くして」
怠惰「半永久的な寿命を得たあとに、自殺したのよ」
怠惰「きっと、もう二度と、この装備を巡って争いが起きないように」
同僚「でも、どうして自殺を……」
怠惰「……ほんとうね。最悪ね」
怠惰「この女の子は、決してこんな最後を勇者に望んでいなかっただろうに」
903 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:29:59.21 ID:BTByofbZ0
同僚は移動式の結界を創った。
勇者と遊び人の亡骸を運んだ。
怠惰「私達も、決着をつけなくちゃね」
同僚「……本気なのか」
怠惰「ええ。怠惰の監獄を解放させるわ。投獄されている大賢者も、怠惰の足枷の効果が抜けて力を取り戻している頃よ」
怠惰「あなたは、そうね、魔王を討伐したらどうかしら」
同僚「はは。勇者様じゃあるまいし」
怠惰「でも、あなたなら出来るんでしょう?」
同僚「……結界を組み替えて、装置の出力をいじればな……」
怠惰「冗談で終わらせるつもりはないでしょうね」
同僚「……逃げ出す権利はないのか?」
怠惰「逃げなくてはいけない時があるのと同様、戦わなくてはいけない時があるでしょう」
怠惰「私達しかいないわ。協力者を増やしながら、怠惰の監獄の地と嫉妬の王国に革命を起こすの」
怠惰「一人の勇者と遊び人がどのような旅をしてきたか、軌跡を辿って事実を集めて、物語を世界に伝えながら、世界が果たすべき使命を示すの」
怠惰「生き残ったものたちによって、できることをするの」
同僚「……なんだよ、冒険譚の作成でもすんのかよ。すっかり怠惰らしさをなくしてしまったな」
怠惰「これでも怠け者に寛容になったほうよ」
同僚「わかったよ。手伝ってやるよ、その、物語のお披露目をよ」
同僚「そのかわり、エピソードには俺の親友の話を大きく裂いて貰うからな。あと、俺の活躍も」
怠惰「頼もしい限りだわ。一人の臆病な勇者が、世界を救うまでの物語」
同僚「逃走から始まり、闘争で終わる物語か」
怠惰「良いこと言ったつもり?」
噂話は、やがて物語となった。
物語は、冒険譚として編纂され。
冒険譚の内容は、やがて。
誰もが信じる、伝説となった。
904 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:31:41.09 ID:BTByofbZ0
暴食の村は、民が標準的な体型に戻った後、食の産業を発展させた。
色欲の谷は、民が規律を整えた後、男女の色模様を許容した文化を発展させた。
傲慢の街は、民が謙虚さをそなえた後、世界的なコンテストの開催地になった。
憤怒の街は、民が冷静さを取り戻した後、治安の維持に国力を注いだ。
強欲の街は、民が奉仕の心を抱いた後、貧困国の再生に資金を投じた。
怠惰の監獄は革命を起こし、嫉妬の王国で働いていた故郷の奴隷を開放し、怠惰の勇者を英雄として新たな国家を建設した。
嫉妬の王国は一度瓦解したものの、他者に尽くす志を持った者達が集い、医療魔術に関する研究を発展させた。
特別な力がなくとも、世界は成長する。
時間の経過によって。
個人の努力によって。
人々は、罪を贖い続ける。
怠惰の王国には、今尚多くの巡礼者が訪れる。
二つの並んだ墓標を前に、人々は祈りを捧げる。。
伝説が記された大理石には、このような文字が刻み込まれていた。
『贖罪の勇者達、ここに眠る。』
905 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:32:28.32 ID:BTByofbZ0
【勇者と遊び人の思い出】
封印の壺が割れる、少し前の時間のこと。
〜ほらあな〜
勇者「なあ遊び人」
勇者は上体を起こして言った。
勇者「もしも明日、世界が滅びるとしたらなんだけど」
遊び人「パフパフしてほしいの?」
勇者「ぶはっ!ゲホっ……コホッ……」
勇者に甚大なダメージ。
勇者「何言ってんだよ!」
遊び人「する胸がないっていいたいの!?」
勇者「いや、そういうわけじゃない!!」
遊び人「じゃあどういうわけよ」
勇者「……したい」
遊び人「じゃあ、する?」
勇者「……しねーよ」
遊び人「ふーん」
906 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:33:30.03 ID:BTByofbZ0
遊び人は勇者の問いかけをよそに、道具袋をあさっていた、
遊び人「ねえ、食べ物入ってるけど、おなかすいてない?真夜中だけど」
勇者「普通に減ってる」
遊び人「食べる?」
勇者「そんな気分じゃない」
遊び人「じゃあどんな気分?」
勇者「そうだな」
勇者「俺は、ここまで来れたんだという傲慢な気持ち」
遊び人「おっ、自信があっていいね」
勇者「同時に、何も考えずただ寝ていたいという怠惰な気持ちもある」
遊び人「いつもの私達じゃん」
勇者「あとは、嫉妬の勇者を破壊せしめたいという憤怒の気持ち」
遊び人「それは私も一緒」
勇者「あとは、優秀で非の打ち所のない仲間に、嫉妬する気持ち」
遊び人「嘘ばっか」
勇者「ちょっと嘘かな。100のうち、99が尊敬だから」
遊び人「……もう」
907 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:37:25.28 ID:BTByofbZ0
勇者「あとはお金がほしいな。勇者城を建設したい。これは強欲な気持ちかな」
遊び人「今のたった数十秒のうちに、勇者は7つの大罪を犯した。7倍大罪人だよ」
勇者「しょうがないよな。生きてるんだから」
遊び人「7つの大罪の感情は、誰の中にも存在するってことだよね」
勇者「ああ。けれどそれは、相手との関係によって罪ではなくなると思うんだ」
遊び人「関係によって罪ではなくなる?」
勇者「傲慢に話すのを笑顔で聞き入れてくれる関係性もある。一緒にだらだらすることを望まれる関係性もある。嫌な人からは手を触れられるのも嫌だけど、好きな人とは唇を重ねたいとさえ思う」
勇者「つまりさ」
勇者「本来罪となるそれらの行為が、罪でなくなるように生きることが大切だったんだ」
勇者「誰が罰さなくとも、一人で抱えていたら罪の意識を7つの欲望に感じてしまうかもしれないけど」
勇者「それを認めてくれる人とであれば、それらは罪ではなくなるんだ」
勇者「受け容れてくれる人を探したり、受け容れてもらえるような自分になることこそ、人生という冒険の醍醐味だったんだ」
勇者「誰もが勇者になれるんだ。自分の中に感じる罪の意識と、向き合おうとするものはみんな勇者なんだ」
勇者「生きることそのものが、7つの大罪と向き合う旅だったんだ」
908 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:38:12.19 ID:BTByofbZ0
遊び人「……7つの大罪と向き合う旅か」
勇者「いつまで続くかな」
遊び人「もしかしたら、明日世界が滅んじゃうかもしれないからね」
勇者「そうだな」
遊び人「でも、私はいいと思ってるの」
勇者「どうして」
遊び人「こうしていられるから」
勇者「そっか」
遊び人「薄い返事だね」
勇者「嫉妬が望むのはむしろ永遠の世界だからな」
遊び人「世界の滅亡と似たようなものよ」
勇者「そもそもその質問が好きじゃないからな」
遊び人「そうだったっけ?」
909 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:40:26.89 ID:BTByofbZ0
勇者「だからさ。えーと」
遊び人「ん?」
勇者「その、えーっとさ」
遊び人「なによ」
勇者「あした、世界が滅ばないとしたら?」
遊び人「えっ?」
勇者「もしもの話だって。明日、世界が滅ばないで、俺達も生き延びるとしたら?」
遊び人「うーん。そんなの明日考えればいいじゃない」
勇者「そう考えてると、一生明日が訪れないだろ」
遊び人「勇者は、何かいい考えでもあるの?」
遊び人は尋ねた。
勇者「遊び人」
遊び人「うん?」
勇者「好きだ。この戦いが終わったら、俺と結婚してくれ」
遊び人「えっ」
遊び人は、驚きのあまり口を開けていた。
勇者「笑うなよ」
遊び人「驚いてるのよ!!け、結婚だよ?」
遊び人「そ、その前にお付き合いとかは……」
遊び人は、言葉を止めた。
異性としての交わりこそなかったものの。
この冒険以上に、相手のことを理解できる付き合いなど存在しないと思った。
勇者「返事は?」
遊び人「……私達は、明日からも生きるんだよね」
遊び人は、ここで全てを完結させたくないと思った。
死を悟った想い人同士の約束としてではなく、現実の出来事として。
未来に実現させることを願った。
遊び人「……返事、あとでもいい?」
勇者「ええー!?」
遊び人「大丈夫!勇者が勝ったあとに、ちゃんとするから」
勇者「……負けたら?」
遊び人「勇者の身体がみじん切りにされても、私だけは勇者の勝ちだって信じてあげるから」
勇者「無理がないか?」
遊び人「無理なんかしないわ」
遊び人「だって、遊び人だもの」
少女は笑顔で答えた。
世界は、つくづくおそろしい。
とてつもない大罪人がいたものだと、遊び人は思った。
遊び人と大罪の勇者達 〜fin〜
910 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:44:40.21 ID:BTByofbZ0
おしまいです。
大長編にも関わらず、読んでくださりありがとうございました。
(文字数はおよそ325,000字だそうです)。
私自身の感想を書くと止まらなそうなので、代わりに皆さんの感想を頂けると幸いです。
おまけですが、その他紹介致します。
[紹介]
・ツイッターアカウント
踏切交差点
@humikiri5310
フォローしてくれるととても嬉しいです。
気軽にリプライでご感想もください。
・他作品はこちらです
女「人様のお墓に立ちションですか」
女「また混浴に来たんですか!!」
男「仮面浪人の道」
あらためて、最後まで読んでくださりありがとうございました。
ずっと書いていたくなるくらい、自分でも大好きな物語でした。
最後に次作予告で終わりたいと思います(夏投稿予定)。
911 :
◆uw4OnhNu4k
[saga]:2018/04/30(月) 01:48:26.24 ID:BTByofbZ0
「私の病名も診断してくれたら、あなたをほどいてあげる。叶わなかった恋の呪縛から」
“青春コンプレックス”
廃墟で出会った美少女から、男は病名を告げられた。
ありきたりに浮かぶ真夏の象徴への殺意。
それは白い入道雲。
プールの消毒液の匂い。
真夏のアスファルト。
椅子の裏に吊るされた雑巾。
掲示板に刺された画鋲。
給食袋をかけるフック。
線路の上を歩く、麦わら帽を被った、白いワンピースの少女。
手に入れたかった、二度と手に入らない青春。
「あの時ああしていれば」
同性の親友もいた。
尊敬できる先生もいた。
愛情深い親もいた。
なのに、振り向いてくれなかった、たった一人の女の子。
隣にあの人がいないというただそれだけで、人生は絶望そのものだった。
『だから、今から過去をやり直してみない?自分の未来と引き換えに』
次作:「青春ゾンビと廃墟の少女」
あり得たかもしれない過去は、諦めるには美しすぎた。
912 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/30(月) 07:34:15.89 ID:j0n652w+O
混浴の人だったかあ
またド嵌まりしちゃったぜ
お疲れ様でした
913 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/30(月) 07:42:37.83 ID:5XIQnY4TO
乙
1スレ完結とは思えないレベルの骨太ストーリーでした……!
914 :
訂正>>874
[saga]:2018/04/30(月) 09:14:09.82 ID:BTByofbZ0
>>874
削除文
『勇者「一か八かの作戦があるんだ」
勇者「先に、遊び人があいつの精霊を一体破壊してくれ。そのあと、2人で自殺を図る。神官としてのあいつの目の前に現れた瞬間に、魔剣で攻撃すれば……」
遊び人は首を横に振った。
遊び人「無口詠唱で肉体保護の呪文をかけているみたいなの。仮に魔剣で精霊は斬れても、通常攻撃によるとどめを刺せないわ。毒針を刺しても、状態異常回復のやくそうや呪文で治癒してくるでしょう。私達の得意技を嫉妬は熟知しているはずだもの」
勇者「そんな……」
勇者は絶望の表情を浮かべた。 』
この時点で勇者の精霊の加護は破壊されていたので、自殺という手段は取れませんでしたね。
915 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/30(月) 14:27:56.60 ID:FGRlK5aDO
乙乙
面白かったです
途中で水を差すのもあれなので今更ながら怠惰についての指摘
7つの大罪中の怠惰とは単に怠ける事ではなく
信仰に対する怠惰つまり不信心って事なのです
いかにもキリスト教らしい罪ですね
916 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/30(月) 17:15:56.51 ID:txO6cCwN0
乙
917 :
1
[saga]:2018/05/01(火) 20:14:04.35 ID:xutyr4hN0
今全部見返している途中なのですが、矛盾点やわかりづらい点が多々ありました…。大きなとこだけ明日まとめて解説します。気になる箇所があればおっしゃってください。
>>915
怠惰は本来そういう意味を示していたんですね。その点盛り込めばもっと内容が深くなったと思います(笑)気を遣って最後に教えてくださってありがとうございました。
918 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/05/11(金) 13:05:01.21 ID:e3MXXibp0
解説は無さそう…なのかな?
919 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/06/27(水) 07:18:21.56 ID:RTwAERUDO
乙
920 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/26(木) 01:57:41.94 ID:Nk0HCJUL0
ほ
921 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2018/08/22(水) 23:31:06.58 ID:idj8MCJKo
おつおつ
勇者は救われたのか?
922 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/03(土) 03:20:12.01 ID:0rK5U5eX0
てす
923 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/05/29(金) 06:50:42.40 ID:VeiGlgruo
スレが残ってるから敢えて書かせてもらう
久し振りにワクワクしながら徹夜で読んでしまったくらいに凄く良かった
乙
924 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2023/12/10(日) 07:36:43.98 ID:9/E2mls70
>>923
ありがとう。 踏切交差点
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クオリティの高いサービスを貴方に
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