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勇者「遊び人と大罪の勇者達」
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723 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:21:11.42 ID:/yKl3BVY0
〜旧決闘場〜
嫉妬「よく来てくれた」
怠惰「足枷を持ちながらの移動はしんどいですわ。これだけは肌身離さず持ち歩けと嫉妬様から言われてるから仕方ないですけど」
嫉妬「君のそばにあるのが一番安全だからな」
怠惰「このまま故郷を離れてたら故郷の囚人がやる気を取り戻してしまいそうです」
嫉妬「そうだな。全員に脱走されてしまうかもしれん。先日、あの男にも逃げられたそうじゃないか」
怠惰「……っ!!も、申し訳ございません!!」
嫉妬「俺は気にしていない。逃げ回るしか脳のない雑魚だ。あの男に私怨があるのは君の方だろう」
怠惰「ええ。あいつがのうのうと余生を過ごすことは私が許しません」
嫉妬「ふん、私怨を晴らすのは大罪の装備が見つかってからにしてほしいものだ」
怠惰「はい……。ところで、これを」
怠惰の勇者は報告書を嫉妬に手渡した。
怠惰「怠惰の装備が故郷に与える影響の記録です。いつものように、定刻に看守に記録させたものを集めています」
嫉妬「君自身が書いてある箇所もあるだろう。そこを読むのが愉しみでな」
怠惰「自分の装備の特徴について記して置きたいですから。私の身の回りの世話人、私と会話する道具屋、装備の持ち主である私と直接触れ合うものについての記録も残しています」
怠惰「ただ、申し訳ございませんが、世話人の勘違いか私の記載した今回報告分は破棄してしまったようで……」
嫉妬「そうか。殺したか」
怠惰「クビにしただけです」
嫉妬「相変わらず甘い女だ」
怠惰「ところで、嫉妬様は連日ここで研究者と何をしているのですか」
嫉妬「自動感知呪文の調整をしている」
怠惰「自動感知呪文?」
怠惰は地面に描かれた巨大な魔法陣を見た。
【TIPS】
嫉妬の王国には、二つの決闘場がある。
旧決闘場。新決闘場。
旧来使っていた決闘場が老朽化し、近年になってから新しい決闘場がつくられた。
旧決闘場は現在研究施設として使われている。
嫉妬の勇者が奴隷時代に、実験台にされていたのもこの旧決闘場である。
724 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:22:32.37 ID:/yKl3BVY0
嫉妬「感知には二種類の方法があるのは知っているな」
怠惰「1つは直接対象を絞り出す感知です。もう1つが、対象以外の要素を全て特定し、全体から差し引く感知です」
嫉妬「そうだ。差し引く感知は時間と魔力こそ膨大にかかるものの、世界規模の広さを範囲の対象にすることを可能にし、感知対策も無効化できる。エルフの里の特定も、魔王城の特定も、この方法によって可能にしてきた」
嫉妬「数多の勇者共の捕縛にもこの方法を使った。暴食の勇者、色欲の勇者を運良く感知にかけることもできた。大罪の装備は手放していた後だったがな」
怠惰「それで大罪の装備も?」
嫉妬「傲慢の盾は感知にひっかけることができた。赤い糸の呪文に気付く前は散々錯乱させられたがな。今は特集な物質であればたいてい感知することができる」
嫉妬「だが、封印の壺だけは別だ。あれは感情を物に閉じ込める研究によって造られた。直接にせよ間接にせよ感知をしようにも、ただの特徴のない壺に過ぎないのだ。世界中の壺と同じ扱いのため対象を絞りきれない」
嫉妬「だが、大罪の装備を抑え続けるには限界がある。壺が割れた時には、自動感知呪文が暴食の鎧と色欲の鞭を感知する」
怠惰「あの……その魔法陣の感知呪文を使えば、あの勇者も……」
嫉妬「ふはは。それは無理だ」
怠惰「感知の力を割くのさえもったいないと?」
嫉妬「ただの特徴のない壺と一緒だ。航海士だったか、無職だったか忘れたが、あの程度の男はあまりにも多すぎる」
怠惰「そうですか……」
嫉妬「もっといい方法がある。あの遊び人を日時指定で処刑すると脅せばよい」
怠惰「お姫様からも言われました」
嫉妬「不満か?」
怠惰「勝てない戦いに挑むような奴ではありませんよ」
嫉妬「利口ではないか」
怠惰「勝つための脳がないだけです」
725 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:24:07.76 ID:/yKl3BVY0
怠惰「今日私をここにお呼びた理由は何でしょう。大罪の装備の発見は、封印の壺が割れるまでの時間の問題に思えます。何もせず待っていれば自然と……」
嫉妬「怠惰の勇者らしい発想だ」
怠惰「申し訳ありません」
嫉妬「君の言う通りだ。だが、俺のやることはただ寿命を延ばすことだけではないのだ」
嫉妬「この旧決闘場は、研究施設の他にもう一つの顔がある。地下室にもう一つの”檻”としての役割がな」
怠惰「檻ですか。私の故郷と同じですか」
嫉妬「こちらに閉じ込めているものは人間の貴族などではない。そこでだ、怠惰の装備が与える影響を見せてくれ」
怠惰「はぁ、囚人ですか……。怠惰の足枷を使うまでもない対象だと思いますが」
嫉妬「そうかな」
怠惰「もしや、ドラゴンやゴーレムのような魔物でしょうか。あ。あるいは、勇者の生き残り……」
嫉妬「どちらかといえば、勇者に近いかもしれん」
地下の奥にたどり着いた嫉妬は、檻の中の”ソレ”を怠惰に見せた。
怠惰の表情は、凍りついた。
726 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:24:50.83 ID:/yKl3BVY0
遊び人が嫉妬の王国に囚われてから、時は過ぎ。
三ヶ月以上が経った。
その間に、嫉妬の王国は以前にも増して勢力を伸ばし。
怠惰の監獄には多くの罪なき人々が収監され。
魔王が君臨していた頃、いや、その時以上にも増して。
世界は不機嫌な表情を見せるようになっていた。
ただ1人を除いて。
研究者「国王。緊急のご報告です。自動感知に波形の乱れが現れました。封印の壺の耐久が間もなく尽きる前兆です」
嫉妬「ほほう、ようやくか」
嫉妬「いよいよ、俺の欲望を永遠に満たし続ける世界が訪れる」
「にへへへ!!そこの旅人のお姉さん!!どうですかこの僕のバニー姿!ようこそこの……」
旅人「ギャー!!!」
いや、ただもう1人を除いて。
727 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:26:05.12 ID:/yKl3BVY0
〜祭り 当日〜
お姫様「はぁー、退屈。嫉妬様は怠惰の女の故郷に行っちゃうし。お祭りの祝日で相手してくれる研究者もいないし。まぁそれは計画が順調に進んでるってことなんだろうけど」
お姫様「ねえ、あんた。独りぼっちって虚しくない?」
遊び人「…………」
お姫様「怠惰の監獄でもないのに死んだみたいな表情してるんじゃないわよ」
お姫様「ねえ、あんた、嫉妬ってしたことある?」
お姫様「私はあるわよ。金が無限にあるような地位に生まれて、音楽の才能も、術士としての才能にも恵まれて生まれてきたこの私でさえね」
お姫様「母親の愛情に恵まれている女を見ると、殺してやりたくなった」
お姫様「一番求めたいものを得られないから心に闇が生まれるの」
お姫様「持っている本人を見るなら憎悪。受け取っている他人を見るなら嫉妬。私は母を憎悪し、母親の愛情を受け取っている小娘に嫉妬した」
お姫様「もういいんだけどね。私には嫉妬様がいるから。それに、お父さんはちゃんと私のこと愛してくれてたっぽいし」
遊び人「…………」
お姫様「男に愛されないのが一番可哀想なことよ。本当に惨めな女。自分のせいで親がイカれた研究を続けて、里が滅んで、遊び人になってやっと出会った男にまで見捨てられた」
お姫様「嫉妬様はあんたを何かの材料として手元に残しておきたいみたい。もう人間としての余生じゃないわね」
遊び人「……見捨てても許してあげる。とかさ」
お姫様「は?」
遊び人「自由に生きて、っていうのはやさしさなんだろうけど。それは、以前の私なら平気で言ってた言葉なんだろうけど」
遊び人「勇者はきっと助けに来てくれる。そう信じてる。だから、見捨てたら許さないんだ」
お姫様「……羨ましい頭ね」
728 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:26:37.38 ID:/yKl3BVY0
夜になった。
お祭りが始まり、王国中は賑わいに包まれた。
奴隷は自由こそないものの、主人が家を留守にするため、一時的に労働から解放された。
色とりどりの呪文が夜空に打ち上げられ、鮮やかに城下町を照らした。
“魔王消滅の日”
世界中でそう噂されたのがこの日である。
嫉妬の王国だけでなく、世界中が今日という日を祝っている。
遊び人「そんな日に、嫉妬の勇者は怠惰の監獄に何をしに行ってるんだろうか」
遊び人「そんな日に、私はこんな場所でどうして閉じ込められているんだろうか」
遊び人「はぁー、勇者のお金使ってカジノに行って、大負けしてやりたいなぁ……」
729 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:27:39.45 ID:/yKl3BVY0
〜怠惰の監獄〜
高速移動型の鳥型の魔物が、手紙を運んできた。
怠惰「嫉妬の勇者様の文章だわ」
“怠惰の装備を奪い取った、勇者の徒党について記した後、この魔物を送り返せ”
怠惰「なによそれ」
怠惰は窓を開けて外を見る。
いつも通りの、ひとけの全く感じさせない虚しい故郷の夜だった。
怠惰「この魔物に遅れて、嫉妬の勇者様が今こっちに向かっているということよね」
怠惰「こんな記念すべき日に!!冗談じゃ済まされないわ!!」
怠惰「”魔王を討伐したのは嫉妬様なんだもの”」
怠惰の勇者は一言書き添え、手紙を魔物にくくりつけて送り返した。
“情報は嘘です。貴方が不在の嫉妬の王国に、侵入しようとしている者がいるはずです”
怠惰「嫉妬様への報告書が、世話人の勘違いで捨てたものだと思っていたけど……それがもし誰かに盗まれたものだとしたら。私の字体を模倣して、嫉妬様に手紙を送ったに違いない」
怠惰「私と嫉妬様の関係を知っていて、私の住処を知っていて」
怠惰「嫉妬様に敵対しているもので、私を知っている者。私の字体を判別した者」
怠惰「あいつ!!!!」
730 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:28:24.56 ID:/yKl3BVY0
〜嫉妬の王国 出入り口〜
怠惰「はぁ…はぁ…やっとたどり着いたわ」
怠惰は王国内に入ろうとした。
案内人G「待ちたまえ!!!!俺が案内してやろう!!!」
怠惰「急いでいるのよ。もうここの国のことは知ってるわ」
案内人G「今夜まつりが行われてることもか?」
怠惰「全部知ってるわ。邪魔よ」
案内人G「…………」
案内人G「確認案内料20,000Gになりまーす!!!」
怠惰「はぁ?」
案内人G「確認案内料、いただきまーす!!!貰うまで通せませーん!!!!お祭り見れませーん!!!!」
怠惰「ふざけるんじゃないわよ……」スタスタ…
案内人G「盗っ人だぁああ!!!情報の盗っ人が現れたぁああああああ!!!誰かお金を取り返してくれぇえええ!!!」
ザワザワ…
怠惰G「な、なによ!!こんなことで時間取ってる場合じゃないのよ!!」
怠惰G「は、払うわよ!!」
チャリン
怠惰は20,000Gを手渡した。
案内人G「うっほほー!!毎度ありー!!」
怠惰「後で覚えておきなさい……」
怠惰は怒りを抑えながら、王国内へ駆けて行った。
案内人G「はっはー!!愉快愉快!!」
案内人G「ようこそ!!強欲の都へ!!!」
731 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:28:58.78 ID:/yKl3BVY0
怠惰「な、なによこれ!!!!?」
怠惰は王国の中の情景を見て驚いた。
酒場主人「今夜は酒乱じゃなく、淫乱じゃああ!!!!!///」
バニーガール「いらっしゃいー!!お姉さんこれからいい店来ない?」
半裸の姿の男女が、まつりの熱に浮かれながら痴態を曝け出していた。
案内人S「お姉さん、お店をお探しですか」
怠惰「どうなってるのよ!!王国の中にこんな乱れた一画が出来てたなんて……」
案内人S「好きな男性のタイプはございますか。筋肉質、知的、肥え気味。お好みの職業もあればあわせて……」
怠惰「私が探しているのは普通の男よ!頼りない感じで、体格は貧弱な……」
案内人S「こんな感じでしょうか」ボロン
案内人Sはマントを脱いだ!
案内人Sがあらわれた!!
怠惰「っ!?」
怠惰は案内人Sを蹴り飛ばした。
案内人S「いひひひ!?!!いだいぃいいい!!!///」
怠惰「訳がわからないわ……」
怠惰の勇者は再び駆け出した。
案内人S「……色欲の谷へようこそ///」
732 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:29:33.42 ID:/yKl3BVY0
怠惰「慌ててたから、来る場所を間違えたのかしら。でも街並みは記憶のままだし……」
怠惰「あの、ちょっと聞いてもいいかしら」
案内人B「…………」ムシャムシャ
怠惰「ここの国の名前を教えて貰える?」
案内人B「……この肉は、ラム肉……」ムシャムシャ…
怠惰「違うの。肉じゃないの。国。ニクじゃく、クニ」
案内人B「このラム肉は……」
怠惰「だから、肉じゃなくて……」
案内人B「このクニの……」
怠惰「うん!」
案内人B「このクニのラム肉は美味……」
怠惰は案内人Bを蹴り飛ばした。
案内人B「うぼろろろ……」
怠惰「どいつもこいつも使えないわね!!」
733 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:30:26.64 ID:/yKl3BVY0
怠惰「何かがおかしいわ。祭りだからって、ここまで雰囲気が……」
案内人P「あらあら、お困りのようで。迷子の子供かい?」
案内人P「何でも知ってるこの俺が、特別に案内して差し上げてもいいが?」
怠惰「……案内人?」
案内人P「見ればわかるだろ?天才的な案内人だって」
怠惰「さっきから話しかけてくるのは案内人ばかり……」
怠惰「この異様な空気が洗脳によるものだとしたら、まだ洗脳にかかっていないものをこいつらが選んで話しかけている……?」
案内人P「何をぶつぶつ言ってるんだ?」
怠惰「教えて欲しいことがあるんです」
案内人P「ぐははは!!よろしい、特別にこたえてやろう!!」
怠惰「ここは、なんていう名前の場所ですか?」
案内人P「…………」
怠惰「あの」
案内人P「頭を地面に擦り付けてから、もう一度尋ねなさい」
怠惰「っ!?」
案内人P「なんか文句でもあるのか?教えてあげなくてもいいんだが」
怠惰「…………っ」ググッ…
怠惰は、腰を降ろし、地面に頭をつけた。
怠惰「……この国の名前はなんですか?」
案内人P「傲慢の街に決まってるだろ。馬鹿か」
怠惰「傲慢の街は遥か遠方にあるはずです、ここは嫉妬の王国のはずです」
案内人P「傲慢の街……嫉妬の王国……」
怠惰「あなたはいつからここで働いているのですか?」
案内人P「俺は……ずっとここで……案内人として……」
怠惰「目を覚ましなさい!!ここは嫉妬の王国よ!!あなた、冒険者の格好をした男に何かを吹き込まれたんじゃないの!?」
案内人P「俺は……この街を……傲慢の街だと旅人に伝え続けてきた……ま、ま、間違いなど許され……」
怠惰「目を覚まして!!」
案内人P:この街は世界で1番凄い街さ!!どのくらいすごいかって?手で表現すると……
怠惰「目が虚ろになった。神官が同じ表情をするのをみたことがある。もう何を話しかけても無駄ね……」
怠惰はあたりを見渡した。
店主「この店の料理は世界で一番うまいんだぜ!!」
客「この俺は、どんなにクソな料理でも世界で一番うまく感じる才能があるんだぜ!!」
怠惰「案内人の性格が、そのまま住人にも感染(うつ)されている……」
怠惰「以前王国を訪れたときも、おかしなやつらが声をかけてきた。そして、そいつらはどれもこの国の住人ではなく、旅の者だった」
怠惰「7つの大罪の地の影響を色濃く与えやすい案内人と、影響を色濃く受けやすい旅人」
怠惰「あいつが、仕込んでいたっていうの……」
734 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:31:30.09 ID:/yKl3BVY0
〜回顧〜
「あのー、すみません。旅の商人をしているものなのですが、ちょっと道を教えていただきたくて」
勇者「それはあの分岐点を右に進んで、それから……」
「わかりました!ありがとうございます!」
怠惰「勇者、何やってたの?」
勇者「道聞かれてさ、教えてた」
剣士「おとといも、その数日前も聞かれてなかったか?」
勇者「あー、確かに言われてみれば」
怠惰「よその国の人からしたら、そんなに賢そうに見えるのかしらねえ?」
勇者「全然納得してない顔」
剣士「冒険者が道を尋ねるのは、ある特徴を持った相手だって聞いたことがある」
勇者「なにそれ。気になる」
剣士「この人なら、助けてくれそうだって思う相手に人は道を尋ねるそうだ」
怠惰「信頼そのものじゃない」
剣士「実際どうしてくれるかはともかくな」
勇者「一言多いなぁ!!……あっ」
怠惰「ん?」
勇者「やべ、教えた道間違えたかも!」
剣士「ほらな」
勇者「ちょっと追いかけるわ!!」
タッタッタ…
怠惰「……なるほど」
怠惰「助ける力があるかじゃなくて、助けようとしてくれるかどうかってことなのね」
735 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:32:15.32 ID:/yKl3BVY0
TIPS
【案内人の特徴】
・案内人はその村に入ってきた者とファーストコンタクトを取る職業である。
・案内人が告げる街の名前を冒険者は疑うことなく信じる。
・入り口付近に立つ待ち人を冒険者は案内人と判断する。
【勇者の才能】
・よそ者と住民の判別の的中率が高い。
・声をかけられやすい。
・よその国の案内人を洗脳する話術を持つ。
736 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:33:29.71 ID:/yKl3BVY0
〜旧闘技場前〜
怠惰「凄い人だかりね……」コツン
案内人H「痛ってぇええええええええ!!!!!?」
案内人H「ぶつかってんじゃねえよぉおおおおおおおおおおお!!!?」
怠惰「……はぁ、またか」
案内人H「表出ろやあああああ!!!!」
案内人H「ってここ表じゃねえかぁあああああああああ!!!!!!!!」
怠惰「時間がないの。寿命に命は変えられないわよね」
怠惰は、道具袋から怠惰の足枷を取り出した。
怠惰「宴はおしまい」
案内人H「うらぁああああああ!!!!!!!!!!」
両足に足枷をはめて、怠惰は祈りを込めた。
怠惰「廃人と化せ」
怠惰の足枷が鈍く光った。
旧闘技場の周辺の道に立っていた大勢の人が、重なる様に地面に横たわっていた。
怠惰「うぐっ……さすがにこの人数にかけるのは代償が大きいみたいね……」
怠惰は心臓部分の胸部を抑えながら、死体のように転がっている人の群れの上を歩き出した。
737 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:34:38.73 ID:/yKl3BVY0
旧闘技場の中に入り、怠惰は地下室の前へと辿り着いた。
一人の女性が座り込んでいた。
案内人T「…………」
怠惰「あなたも邪魔する気?」
案内人T「……喋りかけないでよ。さぼってるところなんだから」
怠惰「……あなた、もしかして、アカデミーで一緒だった」
案内人T「あれ……怠惰ちゃん?」
怠惰「何してるのよ、こんなところで」
案内人T「何って、故郷の案内人よ」
案内人T「故郷のみんなは嫉妬の王国に連れて行かれちゃったけど。故郷で働くことを許された奴隷は、定期的に嫉妬の王国と行き来することになってるの。故郷は気が重くなる瘴気で満ちて働けなくなってしまうから」
案内人T「嫉妬の王国で休養する間は、私達は働かなくてもいいの。はやく交代の日が訪れないかなぁ……」
怠惰「今の故郷はつらい?」
案内人T「そりゃあね。夢も希望もないよ。でも、頑張る気力もないから、希望を打ち砕かれる絶望もない」
怠惰「そう……」
案内人T「そろそろ魔法石に触らなくちゃ、さぼってるのがばれちゃう」
怠惰「あのね、あなたが今いるここは……」
案内人T「なに?」
怠惰「いいえ。何でもないわ。お勤めごくろうさまです」
案内人T「えへへ。働いてないよ」
怠惰「ちょっと教えてくれる?勇者のやつここを通っていかなかった?」
案内人T「さっき通っていったよ。門番もさぼって寝てたからすんなりとね。まだ戻ってきてはないなぁ」
怠惰「わかった、ありがとう。またね」
案内人T「またね〜」
738 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:35:29.15 ID:/yKl3BVY0
研究所地下内の複雑な経路を抜け、怠惰は探し求めていた相手と対峙した。
その男は、痩せ細った女性を両腕に抱えていた。
「相変わらず凄いね。これだけ事前準備を尽くしたのに、立ちはだかってくるなんて」
怠惰「逃げること以外を覚えたのね。どうしてここにその子がいることが特定できたのかはわからないけれど。あなたの冒険は今度こそ終わりよ」
「いつまでもにげることを許してくれないんだな」
怠惰「あなたを逃げさせないことが、私の死なない甲斐といってもいいほどなんだもの」
「弱者の僕は、そんな風でありたかった。その強さも、賢さも、全てが妬ましかった」
怠惰「一番この王国にふさわしいことを言うじゃない」
「もちろん。今や、この国の案内人なんだから」
勇者「ようこそ。嫉妬の王国へ」
勇者があらわれた!
739 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:36:25.76 ID:/yKl3BVY0
勇者は遊び人を地面にそっと横たわらせた。
遊び人「……ごめんね。無理やり来させちゃって」
勇者「小指のずっと見えてたし。気づいてたし」
遊び人「ほんとう?」
勇者「こっちだって色々準備整えてたのに、毎日ガンガンに引っ張りやがって」
遊び人「3ヶ月も待ちくたびれたよ。いつから気づいてた?」
勇者「こっちのセリフだよ。いつから巻き付けた?」
遊び人「勇者が寝てる時」
勇者「いつでも寝てたからなぁ、昼過ぎまで」
遊び人「ふふっ、たしかに」
勇者「遊び人」
遊び人「なに?」
勇者「今日は、たたかう」
勇者は剣を抜き取った。
怠惰「……いいじゃない。精霊の加護がなくなった今、本当の死の恐怖を思い知らせてあげるわ!!」
740 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:37:15.49 ID:/yKl3BVY0
怠惰は声こそ荒げながらも、頭の中は冷静だった。
怠惰の足枷を使用し、剣を交えることもなく戦闘を終えるつもりであった。
怠惰は道具袋に手を伸ばした。
同時に、勇者も道具袋に手を伸ばした。
怠惰は足枷を掴んだ。
勇者は複数の魔法石を掴んだ。
ブオン!!
地下室の灯りが全て消えた。
怠惰「くっ……消灯させたのね。相変わらず正面から戦わない男ね」
怠惰は構わず装備を取り出した。
勇者「それだけじゃない」
地震のような音が頭上から響いてきた。
「おいこのやろおぉおおお!!ゲームのはじまりの合図が鳴ったぞぉおおおお!!」
「勝利条件が表示されたぞぉおお!!」
「一番最初に虹色の卵を見つけたやつは……30万Gだと!!?」
怠惰「足音がする……!自分の位置を把握させないつもりね!!」
怠惰は神経を尖らせた。
左手で剣を構え、右手で装備を地面に落とした。
わずかな動きも捉えようと、暗闇を注意深く見つめた。
ピカン!!!
怠惰「くっ!!?」
眩いばかりの光が勇者の剣先から輝き、怠惰の瞳に映った。
741 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:37:52.83 ID:/yKl3BVY0
怠惰「ど、洞窟照らしの呪文!!それも、無口詠唱で……」グラ…
勇者は怠惰を地面に投げ倒した。
怠惰の勇者は頭を強く打った。
カランカランという音、ドタドタという音、するりと右手から物が抜ける感触。
混乱する頭でも、大切なものがこの一瞬の間に、憎しみの対象から奪われていることを理解していた。
「おい、真っ暗だぞ!!灯りをつけろ!!」
お祭りのゲームに夢中になっていた住民は叫んだ。
魔法使いが洞窟照らしの呪文を唱えた。
怠惰「ぐふ……」
「お、おい。何寝てるんだ?」
怠惰「この研究施設でゲームだなんて、許されるわけもない。賞金なんて嘘っぱちよ」
「ないってどういうことだよぉおおお!!!?ふざけんじゃねえぉおおおお!!!?」
怠惰「怒りっぽい住民ばかりね。おそらく憤怒の案内人から噂を流されたんでしょうね。当人も騙されてるんだろうけど」
怠惰「虹色の卵なんて……人をどこまで侮辱したら気が済むのかしら」
怠惰は惨めさに打ちひしがれながら、立ち上がろうとした。
しかし、自分の脇にあったはずの足枷が奪われていることに気づき、立ち上がる気力を失った。
怠惰「あんな装備に頼ろうとしたから、負けたんだ。最初から私も明かりをつけていればよかったんだ」
怠惰「ここのところ、戦闘をさぼっていたから、勘が鈍りすぎちゃったみたい」
怠惰「嫉妬様に、殺されちゃうだろうなぁ……」
怠惰「また、逃げられちゃった」
742 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:38:25.60 ID:/yKl3BVY0
怠惰は、勇者が人混みに紛れ、地上に逃げ込んだものと思い込んでいた。
勇者「おい、どこ行くんだよ!!」
遊び人「……見て欲しいものがあるの。聞いた話を紡ぎ合わせただけで、確証はないんだけど」
遊び人は自分を抱える勇者に指示を出し、地下内の別の場所に移動させていた。
勇者「もしかして、憤怒と傲慢の装備があるのか?」
遊び人「それはここにはないよ。嫉妬の王国に影響を与える装備を、あいつはこの王国に置きたがらないみたい」
勇者「確かに、混乱は生じやすくなるからな。奴隷を統治する国ならなおさら、不安定な要素は置きたくないだろうし。実際俺がやった作戦も、いろんな国の要素をこの国に集めることだったし……」
遊び人「何してたの?」
勇者「あとで説明するよ」
遊び人「わかった。ところでさ、強くなったね」
勇者「えっ、さっきのか。あんなの……」
遊び人「私のこと持ち上げてるじゃん。お姫様抱っこ」
勇者「こっちか。お前が軽くなったんだよ」
遊び人「そうかなぁ」
勇者「そうだよ」
遊び人「お姫様抱っこする人は、どんな人か知ってる?」
勇者「王子様?」
遊び人「残念、勇者様でした。だから、勇者様抱っことも呼ぶの」
勇者「余計なこと喋るとつかれるぞ」
遊び人「余計じゃない人と喋ることに余計なことなんてないよ」
勇者「ど、どうも」
遊び人「あはは。照れてる」
743 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:39:18.40 ID:/yKl3BVY0
勇者「はぁ…はぁ…、まだか。あんまり寄り道してると、嫉妬の勇者が……」
遊び人「この先だよ。ごめんね、もう自分で歩くから」
遊び人はふらふらの状態であったが、勇者の肩を借りながら歩き出した。
長い廊下だった。
奥に大きな檻と魔法陣、そして巨大な結界と鎖が見えた。
勇者「何だよあれ、何が閉じ込められているんだよ」
遊び人「魔物だよ」
勇者「魔物?」
勇者はコツコツと歩き出した。
遊び人「私を救いに来る者もいないと笑っていたお姫様は、いろんなことを話してくれたわ」
遊び人「魔族には四天王と呼ばれる強大な存在がいた」
遊び人「砂の怪物。それは砂粒の魔力の集まりのような存在で、大きな一体の魔物でありながら無数の魔物の群れでもあった。あらゆる物理攻撃が効かないとされていた。しかし、暴食の鎧を身に付けた暴食の勇者によって食された」
遊び人「夢を司る球体。戦闘者を自分の夢の世界の中に引きずり込むの。そこは球体がかつて訪れていた場所で、夜が開けるまでに幼い頃の球体を見つけ出して破壊しないと夢に飲み込まれるの。色欲の鞭を装備した色欲の勇者によって、安眠を妨害させて撃退した」
遊び人「召喚を司る少女マリア。自分で創造した絵を具現化させたり、対象者のコントロールを得る人形を吐き出すことができる。憤怒の兜を身に付けた憤怒の勇者によって倒された」
遊び人「再生を司る巨壁。膨大な体力を持ち、自身を完全回復させる祈りの呪文を唱えることができる。攻撃の祈りもとても強力で、相手を腐敗させる光を放ち、それには回復の呪文を無効化する禁術級の状態異常が付与されている。強欲の腕輪を身に着けた強欲の勇者によって倒された」
遊び人「そして、側近と呼ばれるもの。精霊殺しの陣の設計者。魔剣の管理も任されていた。罠の呪文を得意とし、いかなるところからの攻撃も反射すると言われていた。怠惰の足枷を使用した怠惰の勇者によって、衰弱死させられた」
遊び人「彼、彼女らは主君を守るために存在していた。特殊なまじないによって、主君自ら手出しをしなければ相手からも気づかれない、村や街のような守護の中に隠れていたの。守護者がいなくなったことで、主君は認知不可の領域から放り出された」
遊び人「彼はかつての世界の支配者。魔族の頂点に立つもの。嫉妬の勇者を精霊ごと一度殺害するも、ストックされていた精霊により復活され、再び戦いを挑まれた。嫉妬の勇者を殺害足らしめた彼独特の呪術は全て攻略化・無効化され、二度目の戦闘では為す術もなく倒された」
遊び人「嫉妬の勇者は、その存在を殺害しなかった。強力な呪力をもつものとして、この奥に閉じ込めた」
勇者「それじゃあ、まさか……」
勇者達は偉大な存在の前に歩み寄った。
漆黒のローブに覆われた、人型の魔物が立っていた。
勇者「こいつが、魔王!」
魔王があらわれた!
744 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:39:59.96 ID:/yKl3BVY0
幾重にも張り巡らされた結界のせいで、容姿をはっきりと確認することは難しかった。
勇者「魔王は生きていたんだ!!この世から消えてなどいなかった!!」
遊び人「ええ。でも、これを生きているといっていいのか……」
遊び人「魔王の消滅の噂と同時に、瘴気は薄まり、魔物の出現もずっと少なくなったわ。それはもうこの魔王の力が世界に及ばないことを意味しているんだと思う」
勇者「それじゃあ、こいつは何のために閉じ込められているんだよ」
遊び人「……触媒よ」
勇者「触媒?」
遊び人「巨大な魔力を持つものは、特殊な呪文の発動を成功させやすくするの。里にいた頃の幼い私がそうであったように」
勇者「呪文って、どんな……」
勇者はつぶやきながら、大きな空の容器があることに気づいた。
勇者「あの空の容器は、何に使うんだ?」
遊び人「……空じゃないわ」
勇者「でも、何にも入って」
遊び人「私には、精霊が見えるから」
勇者「それって……!」
遊び人「ここで勇者を殺して、宿りついた精霊を保管しているよの」
遊び人「あなたと旅をしてから出会った、勇者達の精霊もそこに……」
崩れそうになった遊び人を、勇者が支えた。
その時だった。
「おーい、そこにいるのは誰だ。魔王様の手下かぁ?」
研究者Aがあらわれた!
745 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:40:48.83 ID:/yKl3BVY0
勇者「遊び人、下がれ!」
勇者は剣を構えた。
「庶民共がぞろぞろ大事な研究施設に入っていくもんだから驚いちまったよ。門番はサボってるし、住民は血気盛んだし、この王国はどうかしちまったんかね。それとも、全部あんたの仕業か?」
勇者「ぐっ……」
「西方の国に伝わる物語だったか。笛を吹いた少年に町の子供がついていき、ほらあなの中に閉じ込められてしまうお話は」
「よその国の案内人がこの国に何人も紛れ込んでいた。捕らえて状態異常を回復する呪文を何度もかけて、ようやく記憶を取り戻したようだった。ある一人の案内人を名乗る男に話術で洗脳され、ここに連れてこられたって」
「まずは旅人を騙すところから始めたんだろう。嫉妬の王国に他の大罪の性格を持ち込み始めたんだ。そして嫉妬の王国の住民にも次第に影響が伝播し始め、今夜のお祭りの開けたムードによって各国の色が爆発した」
「嫉妬の性格という統一した性格によって秩序が保たれていたこの国だったが。大食らい、変態、自慢屋、怒りん坊、がめついやつ、サボり人が溢れ出したら秩序なんて崩壊する。現に今、脱走や反乱を試みている奴隷への対応で兵士共は必死だ」
「世界のどこにあるかわからぬ物を探すのに必死で、研究者はこの国の異変にろくに目を向けようとはしなかった。庶民と触れるようなことも普段からしないからな」
「本当に見事だ。並大抵の洗脳術じゃない。案内人という職業の特権を、才能を、ここまで活かす者がいるとは思わなかった」
「で、だ」
研究者は懐から魔法石を取り出した。
「戦闘用の術士に危険信号を知らせておいた。間もなくここに来る。彼らにここの存在は秘匿なんだが、まああとで全員分記憶を消せばいいだろう」
「さて、目的を話してくれないか。怠惰の足枷を奪い、魔王の膝下まで来たわけを」
研究者が右手を振りかざした。
勇者が反応するよりも早く、怠惰の足枷が小さな結界の中に封じ込まれた。
746 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:41:22.13 ID:/yKl3BVY0
勇者「くそっ!」
遊び人「そんな……。ごめん、私がこんなとこに寄ろうって言わなければ……」
勇者「こいつを気絶させて結界を解いて、足枷を使って全員気絶させれば済む話だ」
「ただのガリ勉だと舐められちゃ困るな」
研究者は頭を指でかいた。
勇者「行くぞ」
勇者は地面を蹴った。
研究者は空中に小さな結界を創った。
勢いよく駆け出した勇者のみぞおちにめり込んだ。
勇者「ぐぉっ……」
研究者「空中に固定する結界だ。僕が飲み物をちょっと置きたくなった時なんかに使う」
勇者「うぁああ!!!」
勇者は小さな結界を避け、再び勢いよく駆け出した。
研究者は再び右手をふるった。
勇者「うぁっ!?」
勇者は足を空回りさせ、激しくころんだ。
研究者「時縮化の呪文だ。少し足をはやくしてやった」
勇者「く、くそっ!!」
勇者は怒りの形相を見せた。
勇者「死ね!!」
やけっぱちな言葉を吐き、剣を投げつけた。
研究者「ぶははは!!小悪党のセリフじゃないか!!」
研究者は再び結界を出して、剣を弾こうとした。
その瞬間に、剣先から眩い光が放たれた。
研究者「なっ!?」
研究者の前に出現し始めていた結界は消滅した。
剣を避けるため強引に研究者は身体を反らした。
勇者「うおらぁあああ!!!!」
勇者はすてみでたいあたりした。
研究者のふところに向かって突撃した。
747 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:42:22.39 ID:/yKl3BVY0
勇者「いっ……」
勇者「痛ぇえええ!!!」
「ごめんごめん、身体のまわりに結界をつくることにしたんだよ。間一髪だ」
研究者は右手を勇者の頭にかざした。
「燃やすことも、突き刺すことも、頭ごと結界に閉じ込めることも何でもできる。大人しく処刑されるのを待つんだな。今すぐ死ぬよりかはいいだろう?そうでもないか?」
勇者は身動きが取れなくなった。
「恋人との冒険ごっこもおしまいだ。さて、奥にいるお嬢さんも大人しく……」
遊び人は、研究者の顔を見つめていた。
「ん、どうした?」
遊び人「……えっと」
「惚れたか?」
遊び人「い、いいえ……」
「違うのかよ。じゃあいいや」
遊び人「あの、お父さん……」
「いやいや。なにそれ、そういう甘え方するから許し方してもらおうってこと?ダメダメ。愛する妻と息子は裏切れないよ」
遊び人「ち、違います!」
遊び人「わ、私の父の知り合いですか?故郷の研究書物の挿絵にあった似顔絵に、見覚えが……」
「…………」
「あ、あんた……」
同僚「あの馬鹿研究者の娘か!?」
748 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:42:49.73 ID:/yKl3BVY0
同僚「ま、まてまて。えーっと」
同僚「嫉妬の奴隷が脱獄した時に、バカ上司に逆らってあいつは左遷されて」
同僚「大罪の賢者の里を滅ぼすようなことをやらかした。そこの里から生き延びた少女が一人いて」
同僚「その子は最近捕らわれて、この国のどこかに幽閉されていて」
同僚「と思ったら抜け出して、今ここにいる、ってことか」
同僚「まじかよ……。俺もあの嫉妬様脱獄事件が起きてから、結界の開発に関わってたもんだから、あんたの情報なんかろくに入って来なかったんだよ……」
同僚「……困った。これは非常に困った」
遊び人「何が困ったんですか?」
同僚「俺は、あんたの父さんのことが好きだったんだ」
勇者「えっ……」
遊び人「え、えええええ!!?」
同僚「おい男引くなよ。それは勘違いだよ。というかなんで嬢さんは嬉しそうな顔をしてるんだ?」
749 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:43:42.24 ID:/yKl3BVY0
遊び人「ち、父と……ぶふぉっ……!わ、わたしの父とどういう関係で?」
同僚「ただの同僚だ。理屈っぽくて、小難しい話をするやつだが、親父さんのために研究を続ける熱心なやつだった」
同僚「俺がこの仕事を辞めようか迷った時も励ましてくれたりしてな。なかなか大変な仕事でな、周りはやめて楽になれなんて気軽に言うんだけど、あいつだけは熱心に引き止めてくれたんだ」
同僚「少し前のことになるが、俺の開発した結界のおかげで1つの町を自然災害から救うことができた。他国を侵略してばかりのこの王国の研究者として働いて、あんなに感謝されることになるとは思わなかったよ。実は、今の妻ともそこで出会ったんだ」
同僚「返そうにも返しきれない恩を受け取ったまま死なれちまったんだ。またあいつと仕事ができたらどんなにいいだろうって今でも思うほどだ」
同僚「うーん、どうしたものか……」
同僚が頭を抱えていると、足音が近づいてきた。
同僚「まずいな。仲間が来てしまった」
勇者「ええー……」
遊び人「あなたが呼んだんじゃん……」
同僚「大丈夫だ。この国の結界は、俺の管轄そのものだ」
同僚は右手を空中に突き出し、ゆっくりと円を描き始めた。
石臼がひかれるようなごろごろとした音が聞こえた後、カチッ、という音が聞こえた。
同僚「ほら、持て。ちょっと特殊な仕組みで、脱出呪文は使えないのでな。常に持ち歩いてる」
懐から移動の翼を3つ取り出し、念を込めた。
同僚「仲良く頭をぶつけるぞ!!」
遊び人「ちょ、ちょっと!!」
三人は地下で移動の翼を利用した。
天井をすり抜けて、地上へと降り立った。
人気のない、修理中の屋外便所にたどり着いた。
750 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:44:53.47 ID:/yKl3BVY0
同僚「王国の外に出て、移動の翼を使え。さすがに国に張られた守護を全て解くことはできん。かなりの人数と時間を要する」
同僚は移動の翼を何枚も手渡した。
同僚「悪いが、俺ができるのはここまでだ。今すぐ地下に戻って、他の研究者には悔しそうな顔をする予定だ。家庭ある身なんでな」
遊び人「充分です。本当にありがとうございました」
同僚「あんた、そこの子を守ってやれよ。その子に生きててほしいと願った者達のためにも」
勇者「はい」
同僚「達者でな。こんなクソまみれの王国、さっさと滅ぼしてくれ」
研究者は移動の翼を掴み、念じた。
地面に吸い込まれるように、瞬く間に姿を消した。
751 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:45:52.80 ID:/yKl3BVY0
勇者「……遊び人」
遊び人「ええ。今度こそ逃げましょう」
勇者「ここまでうまくいくとは思わなかった。もう切り上げどきだ」
勇者「とにかく、王国の外まで!!」
勇者達は走り出した。
祭りで浮かれる人混みの群れに逆らい、王国の外へと。
赤い糸の呪文で結ばれている2人だったが。
自然と、手を繋いでいた。
もう、はぐれないように。
もう、はなれないように。
もう……。
ゴォオオオオオ…………
遊び人「な、なんなの……」
ゴォオオオオオオオオ…………
遊び人「あの巨大な黒雲は……」
勇者「遊び人、伏せろ!!」
―――雷が降り注ぐ一瞬、世界は無音に包まれた―――
752 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:46:57.41 ID:/yKl3BVY0
王国の広場には、巨大な大穴が空いていた。
そこは奇しくも、かつて奴隷に空から降り注いだ精霊が宿った場所であった。
脱走を試みていた数多くの奴隷は、黒焦げの死体となった。
住民も、奴隷も、貴族も、研究者も、全員が恐怖に引き攣った顔をしていた。
嫉妬「異変は薄々感じていたが。それよりも大事な用事に最近追われていたのでな」
嫉妬「さて。この国の誇りを取り戻そうではないか」
祭りの陽気さは消え去り、一瞬にして冷たい空気が辺りに流れた。
遊び人「どうしよう……嫉妬が到着したんだわ」
遊び人「もしも、勇者が案内人だってことがばれたら、直接感知で特定されてしまうわ。この国にいる案内人はそう何十人もいないはずだし……」
勇者「いや。それは大丈夫なはずだ」
勇者「俺は今日感知呪文に一度もひっかかっていないんだ。さっきの研究者も、案内人が混乱の源だと踏んでおきながら、感知呪文で探したとは言っていなかった」
勇者「王国内だと移動呪文が唱えられないように、感知呪文を唱えられない制限があるんだ。自動感知呪文のような巨大な装置を除いて」
遊び人「……なるほど。この王国の中で感知呪文を使う者がいるとしたら、それは嫉妬の勇者を暗殺したい敵対国なんかに違いないよね」
勇者「今はとにかく、王国の外へ逃げるんだ」
753 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:49:08.10 ID:/yKl3BVY0
勇者達はにげだした。
しかし、まわりこまれてしまった。
兵士「これより、一切の出入りを禁ずる!!」
兵士「王国を囲うように見張りを張り巡らせた!!」
遊び人「どうする、勇者。術士があちこちに……それに、戦闘用の魔物も、王国を囲うように配備されているみたい。王国の中でじっと隠れてる?」
勇者「研究者がいうには、結界の調整には数日要する。感知呪文の規制を解いたら、”案内人”にフィルターを掛けて俺を探すつもりだろう」
遊び人「為す術ないね」
勇者「そうだな。様子もわからないし、とりあえず、脱ごっか」
遊び人「はっ?」
〜防具屋〜
遊び人「どう、似合う?」
遊び人は魔法のドレスを身に付けた!
勇者「もっと黒くてピチピチした格好の方がよかったんじゃないか?」
遊び人「バニースーツ着させようとしないで。また殴っちゃうよ」
勇者「しばらくは様子を伺おう。隙きを見て逃げ出すんだ」
遊び人「隙きなんて見せてくれるかなぁ」
勇者「数時間後の俺が頑張って作り出してくれるさ」
遊び人「おお、頼もしいね」
勇者「まずは腹ごしらえでもしよう」
遊び人「いいね。なんか、ひさしぶりだね」
勇者「なにがだ?」
遊び人「こういうのだよ。こんなことをしてる場合じゃないのに、こんなことをしている感じ」
勇者「そうだな。こういうの、久々だな」
754 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:50:07.64 ID:/yKl3BVY0
勇者「ふぅー、食った食った。横になりてぇ」
遊び人「こんな非常時に」
勇者「なーんかいい脱出方法ないかぁ〜」
遊び人「いい仕事ないかなーみたいなノリで言わないで」
勇者「足枷を使って国民全員気絶させるとか」
遊び人「何人いると思ってるのよ。それに寿命がどれだけ消費されるか……」
勇者「実際、どれくらいなんだろうな。各装備の寿命の消費量」
遊び人「個人の寿命がどれほどのものか不明だから実験さえできないけど。使用感による目安はあるってお姫様が言ってた」
遊び人「嫉妬の首飾りは、自分を死に至らしめた呪術に対して効果を発揮するでしょう?初見の呪術の吸収、つまり攻略化によって寿命は大きく浪費する。でも、一度攻略化した呪術に対する無効化にはほとんど消費しないみたい」
遊び人「だから、例えば魔王が独特の呪術で嫉妬を殺害したとして。殺害されたタイミングでの攻略化には寿命を大きく消費するんだけど、二度目以降の戦闘で魔王がどれだけ呪術を放っても、ほとんど寿命を消費せず無効化できるの」
勇者「一度死ぬことが前提の装備なんだよなぁ。それこそ精霊の宿った勇者しか使えないような装備じゃん」
遊び人「そうでもないみたいよ。一度攻略化した呪術に対しては、他の者が嫉妬の首飾りを装備しても無効化はできるみたい」
勇者「じゃあ俺が首飾りを奪えば、魔王も倒せるってことか。便利だな」
勇者「というか、無効化に寿命ほどんど使わないなら、強欲の都の時の戦闘みたいに嫉妬はマハンシャなんかかける必要なかったんじゃん」
遊び人「吸収するより跳ね返す方がいいでしょう。それに、寿命なんてたとえ一時間でも削りたいものではないんだから。塵も積もれば山となるもの」
勇者「嫉妬は大罪の装備を全て集めて、何をするつもりなんだろう」
遊び人「永遠の命でも欲しいんじゃないかな」
勇者「永遠の命かぁ」
755 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:51:21.44 ID:/yKl3BVY0
2人は出店で販売されていた、魔物のお面を被りながら王国を歩いた。
巨大な落雷により、お祭りムードは消え、人々は緊張感に包まれていた。
勇者「……嫉妬の勇者だ。遠くに見える」
遊び人「私達を探しているのかしら」
勇者「どうしよっか。さっきの修理中のトイレを壊して、下水管の中にでも隠れようか?汚物に塗れるかもしれないけど、絶対探して来ないと思うんだ」
遊び人「うーん……やだなぁ。命と天秤にかけるなぁ……」
勇者「あっ、研究者が誰か連れて出てきたぞ」
遊び人「……怠惰の勇者だね」
勇者「…………」
遊び人「こ、殺されちゃうのかな」
勇者「…………」
嫉妬「なんだこの有様は」
怠惰「申し訳ございません……」
嫉妬「怠惰の装備が盗まれたというのは、事実とは異なるのだな?」
怠惰「いえ……」
嫉妬「いえ?」
怠惰「う、奪われました……」
嫉妬「奪われた?誰に?」
怠惰「ゆ、勇者です……」
嫉妬「…………」
嫉妬は、怒りの形相を見せた。
嫉妬「無能がぁ!!!!」
嫉妬が放った雷撃によって、付近にいた住民は焼かれた。
倒れて痙攣する者がいても、全員恐怖で身動きが取れないようであった。
嫉妬「来い!!」
嫉妬は怠惰を掴んで。引きずり出した。
人垣がさぁーと開いて道を開けた。
遊び人「まずい、こっちに来るわ!!」
勇者「教会がある!!とりあえず入るぞ!!」
756 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:51:51.01 ID:/yKl3BVY0
〜教会〜
遊び人「通り過ぎたようね」
勇者「暴君だな。かつて自分が奴隷にされていたからか、住民に対する容赦がないな」
遊び人「あー、本当に心臓に悪いね。いつ死ぬかもわからないって気持ち、ずっと忘れてたから」
勇者「……ごめん」
遊び人「どうして謝るの?」
勇者「精霊の加護がないから……」
遊び人「そこっ!!?」
勇者「えっ?」
遊び人「あははは!!!」
2人しかいない教会で、遊び人は大声で笑いだした。
勇者「……怒るよ」
遊び人「あはは、ごめんごめん。大きな心でやさしく受け止めて」
遊び人「ねえ、だってさ。精霊の加護もないのに、救いに来てくれた方がよっぽど嬉しいことだと思わない?」
勇者「嬉しい嬉しくないの問題じゃないだろ……」
遊び人「嬉しいことは問題にならないのよ」
757 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:52:44.75 ID:/yKl3BVY0
勇者「今更聞くのも恥ずかしいんだけどさ。どうして俺なんかを頼ってくれたんだ。精霊の加護があったからかな……」
遊び人「頼る?何を偉そうなこと言ってるのよ」
遊び人「強そうだとか。賢そうだとか。お金を持っていそうとか。はたまた精霊の加護があるからとか。あなたの長所を頼って一緒に冒険をしようとしたんじゃないのよ」
勇者「じゃあ」
遊び人「放っておけなかったの」
勇者「なんだそれ」
遊び人「なんだろうね、よくわかんない」
遊び人はニッコリと笑った。
遊び人を救うまでの三ヶ月間、勇者は心身をすり減らして動き続けた。
動きながら、身体を鍛えて、動きながら、賢くなった。
勝ててよかった、と勇者は心底思った。
今、この瞬間のためだけにも。
寿命を削り、気力を削り、努力をした甲斐があったと。
少しでも生まれ変わった自分に、彼女の笑顔に、安堵した。
758 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:54:11.58 ID:/yKl3BVY0
遊び人「はぁー。教会でこんな大声で笑ったの初めて」
勇者「神官もいないしな。お祭りだからだろうか」
遊び人「ねえ、この建物、本当に教会なのかな?」
勇者「教会だろ。外から見た時十字架のマークあったし。立派な教卓も前方に置いてあるし。横に長い椅子も見覚えのある形だし」
遊び人「うーん。明かりも付いてるし、鍵もかかってなかったし、確かに機能はしてるんだろうけど」
勇者「何がそんなに気になるんだよ」
遊び人は教卓の方に歩いていった。
遊び人「呪文集があるわ」
勇者「それがどうした?」
遊び人「たぶんね。今ここは、アカデミーの代わりに使われているのよ」
勇者「こんな小さな建物なのに?」
遊び人「孤児か、あるいは奴隷の子供のための施設なのかもしれない。肉体労働以外の仕事にも従事させるために」
遊び人「嫉妬はさ、今神官の職業をしているわよね。だから、精霊の加護を持つ者がこの国で倒れた場合、嫉妬の前で蘇ることになると思うの」
遊び人「もしも他に神官がいたら、その神官近くで蘇ってしまうことになるわよね。各国の勇者の精霊を集めている嫉妬からしたら、他の神官のところで蘇られて逃亡でもされるのは痛手よね」
遊び人「だから、おそらくこの国にいた神官を全員クビにしたはず。自分だけがこの国の神官となるために」
勇者「……なるほど」
遊び人「この発見を嫉妬の撃退に活かせないかな?」
勇者「うーん、もう俺達に精霊の加護もないしなぁ。特に々思い浮かばないな」
勇者「それに、今日はお祭りだろ?神官も息抜きに各国から来ているんじゃないかな」
遊び人「うーん……」
759 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:56:19.25 ID:/yKl3BVY0
勇者達が考えあぐねていると、拡声石によって王国中に嫉妬の声が響き渡った。
嫉妬『国王が留守の間に、随分浮かれていたようだな』
嫉妬『勇者と遊び人、お前らもまだこの王国の中にいるはずだ』
嫉妬『俺は今から国民の前で3つのことを言わせてもらう』
嫉妬『1つ。怠惰の勇者を捕らえた。浮かれて奴隷の統治すらもできなくなった国民への見せしめとして、今から1時間後にこの女を新闘技場にて処刑する』
嫉妬『1つ。勇者よ、1時間以内に怠惰の足枷を持って遊び人を闘技場に連れてくれば、お前の命は保証する。好きな国へ飛ぶがよい。奴隷を統治するこの国では、約束を反故にすることの弊害は大きいから安心しろ。お前一人の命が救われようが俺にとってはどうでもよい』
嫉妬『1つ。いかなる者もこの国を出ることは許さない。脱出は不可能だ。王国を囲うように術士を配備しており、結界で出口を塞いでいる。移動の翼で空から脱出しようとするものは、俺が全て落雷で撃墜する。飛行系の魔物も配備している』
嫉妬『利口な選択をすることだな』
遊び人「勇者……」
勇者「…………」
勇者「3つのことを言うときにさ。1つ、1つ、1つ、って三回言うよりもさ」
勇者「1つ、2つ、3つって言ってくれる方がわかりやすいんだよな」
遊び人「…………」
勇者「状況はだいたいわかったよ。逃げるのは簡単だ」
遊び人「えっ?」
勇者「出入り口付近にいる見張りを、怠惰の足枷で無力化すればいい」
遊び人「結界はどうするの?」
勇者「遊び人が分析して、俺が呪文で解くよ」
遊び人「呪文……そういえば、勇者、あなたどうして呪文を……」
勇者「精霊が信頼してくれたんだ。基本的な結界破りも、時縮化の呪文も、理論だけは強欲の都で師匠に叩き込まれたから唱えることはできる」
遊び人「こんな短期間で精霊に信頼してもらえるなんて……勇者、頑張ったんだね」
勇者「……あ、ああ」
恥ずかしい話を、打ち明けることはできなかった。
勇者はまた、ずるをした。
封印の壺のダミーを隠した術士の一人と、強欲の都で再会した。
勇者の案内人としての才能を発揮させながら、監視の目を通り抜け、かつて修行に励んだ研究施設へと潜り込んだ。
そこで”大罪の枕詞”を付与する呪術を再びかけてもらっていた。
以前は肉体強化の呪術だったが、今回は魔力強化を目的として。
寿命を精霊に差し出す身体になった。
一月も経つと元通りになる、一時しのぎのものだった。
今まで誰かが積み重ねてきたものに、簡単に追いつけると信じることができなかった。
ただ、遊び人にそのことを打ち明けて、”寿命泥棒”だと悲しませたくはなかった。
760 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:56:59.67 ID:/yKl3BVY0
遊び人「ねえ、いいの?」
勇者「…………」
遊び人「怠惰の勇者が処刑されても」
遊び人「ずっと、悔やんでるんでしょ?」
勇者「全部過去の話を聞いたのか」
遊び人「聞いた。勇者が中々話したがらなかった過去も、全部」
勇者「失望した?」
遊び人「本人しか本人の気持ちなんてわからないよ」
勇者「俺が遊び人のこと裏切るとは思わなかったか?」
遊び人「うーん、あまり」
勇者「一度仲間を裏切ったのに?」
遊び人「一度仲間を裏切ったから、ずっとそのことを後悔しているんでしょう?」
勇者「もう剣士は死んでしまった。償うことなんてできないよ」
遊び人「償いたいの?」
勇者「わかんないよ」
遊び人「このまま逃げて、大丈夫なの?」
勇者「敵国の中で大人数相手に、救えっていうのかよ」
遊び人「自分に嘘をつかないでよ……」
勇者「なんだよそれ。どうしてお前が泣いてるんだよ」
遊び人「あなたが泣いているからよ!!」
勇者「……っ!!」ポロポロ…
遊び人「勇者」
遊び人「戦いましょう」
761 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:57:37.18 ID:/yKl3BVY0
たたかうとは、怠惰の足枷を使う、ということを意味していた。
寿命の価値を知っている遊び人が、それほどまでに戦うことを要求するのは。
それが、今の勇者にとって、命に天秤にかけるほど大切な選択であると確信しているからに違いなかった。
勇者「……失敗したら、死ぬ間際後悔するぞ」
遊び人「その時はめちゃくちゃ恨むよ。だから失敗しないでよ」
勇者「大きな心で受け止めてくれ」
遊び人「人間だから無理だと思う。死の恐怖は善悪を超越するから」
勇者「経験者は語るか」
〜新闘技場〜
嫉妬「間もなくだ。また見捨てられたようだな」
怠惰「…………」
嫉妬「いつまでも隠れて、馬鹿なやつだ。明日には王国内での感知呪文が可能になるよう調整をしている。案内人に対象を絞れば見つかるまで時間もかかるまい」
嫉妬「自動感知呪文の魔法陣はいじりたくないのでな。怠惰の足枷に対象を絞る場合、また全世界から対象を差し引いていく必要がある。俺が直接見つけてやれば問題あるまい」
嫉妬「さて、目立つところに移動しよう。国民を楽しませるのも国王の義務なのでな」
762 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:58:15.18 ID:/yKl3BVY0
闘技場には大勢の国民が呼び寄せられていた。
お面をつけた2人は、人混みに紛れながら闘技場の中央を眺めた。
遊び人「怠惰の勇者が放り出されてる。剣を持ってるということは、魔物と戦わせられるのかした」
勇者「もうあいつの考えることは嫌というほどわかるよ。勇者という存在にあてがう魔物といったら、ただ一人しかいない。ほら、地下から出てきた」
闘技場の隅を見ると、地下室への出入り口から、さきほど勇者達を助けてくれた研究者が出てきた。
出てきた多くの研究者のいずれもが、疲労と困惑に満ちた顔をしていた。
嫉妬「さあ、剣をとって、戦え」
嫉妬は怠惰に告げた。
地下から、人形の魔物が出てきた。
嫉妬「闘技場の歴史上、最も見ることを望まれた戦いであろう?」
嫉妬「勇者と、魔王の戦いは」
闘技場に魔王があらわれた!
763 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2018/04/15(日) 18:58:36.31 ID:pfhvxYoC0
どうなる?
764 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 18:59:30.84 ID:/yKl3BVY0
国民のざわめきの中、怠惰と、魔王は立ち尽くしていた。
怠惰「……あなたも懲り懲りよね。魔族の王としての誇りを持って生きてきたのに。大罪の装備なんかが現れたせいで、人間のおもちゃにされて」
怠惰「戦う気なんかないのでしょう。封印されている間もずっと、死ぬことを考えていたんじゃないかしら」
怠惰「あなたに、戦う理由はある?」
魔王は答えなかった。
ただその場に立ち尽くしていた。
怠惰「あなたに勝ったら、私は自由になれるのかしら」
怠惰「ここから外の世界に、救いなんかなかったから、ここに来たというのにね」
怠惰は、詠唱を唱えた。
怠惰『フルゴラ!!』
雷撃の呪文が魔王に迸った。
魔王「……自殺だと」
魔王「余を見くびるな」
魔王はぼろぼろになった怠惰の勇者を見下ろし、言った。
怠惰「げはっ!!ごぼっ……」
怠惰の唱えた呪文は全て、魔王の無口詠唱のマハンシャによって跳ね返された。
魔王「我を倒すほどの首飾りが、あの愚者の手に渡ったことだけが残念だ」
魔王「貴様を殺すついでに、あの白衣を来た男共も道連れにしてやろう」
魔王は右手を高く掲げた。
禍々しい黒玉が出現し、エネルギーを蓄え始めた。
怠惰「や、やめて……」
魔王「さらばだ、勇者」
765 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 19:01:10.11 ID:/yKl3BVY0
理不尽な、世界だった。
生まれてくる価値のない、人生だった。
信頼するに値しない、人々だった。
死ぬ理由がないという理由で、生きることを強要され。
いざ、生きることを望んだ時には。
全身から脳裏まで震えるほどの恐怖に包まれながら、殺されてしまう。
ねえ。
確かに、こんな世界。
怠惰「……見捨てたくも、なるよね」
魔王の攻撃力が大幅に下がった。
魔王の防御力が大幅に下がった。
魔王の素早さが大幅に下がった。
魔王の魔力が大幅に減った。。
魔王の反応力が大幅に下がった。
魔王の集中力が大幅に下がった。
魔王の判断力が大幅に下がった。
魔王の決断力が大幅に下がった。
魔王の呪文が怠惰に放たれた。
怠惰「きゃぁあああああ!!!」
魔王の攻撃をあびて、怠惰は吹き飛んだ。
怠惰「……痛い!!痛いぃいいい!!!」
怠惰「痛いよぉ……ううっ……」ポロポロ
勇者「泣くなよ。俺だって我慢してたんだから」
怠惰「……勇者?」
勇者「さすが魔王だけあるな。大罪の装備を使っても、呪文の威力がここまでしか落ちないのか」
怠惰「……いまさら罪滅ぼしのつもりで救いに来たなら、逃げたほうがいいわよ」
勇者「罪なんて滅ぼせるかよ。俺が望んだのは世界が滅ぶことだけだ」
766 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 19:01:55.25 ID:/yKl3BVY0
怠惰「魔王に怠惰の足枷が及ぼす効力については実験済みだわ……」
怠惰「その結果、勇者による勝率は2割程度だということが判明したの」
勇者「ま、まじかよ」
怠惰「嫉妬の首飾りくらいよ、魔王を完全に手懐けるほどの力を持つ装備は」
怠惰「逃げるならさっさと逃げなさいよ……」
勇者「ああ、逃げるさ。逃げることしか能がないからな」
勇者「今度は、お前と一緒にな」
勇者は怠惰の手を引っ張った。
怠惰は反射的に手を振り払った。
怠惰「……逃げるわ。でも一人で立てるから」
勇者「自由にしてくれ」
勇者たちはにげだした!
767 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 19:03:56.94 ID:/yKl3BVY0
術士「逃がすな!!」
術士たちがあらわれた!!
勇者「何の意味もなく、こんなだせえ靴履くかよ!!」
勇者は装備していた怠惰の足枷に祈りを込めた。
行く手を阻もうとしていた術士達は、全員その場に倒れ込んだ。
勇者「うぐっ……」
怠惰「ゆ、勇者」
遊び人「勇者、こっちよ!!」
虹色に爆発する小さな花火を遊び人はばらまいていた。
パニックになった観客者は慌てて道を退けた。
勇者「……遊び人としてのスキルが大役立ちだな」
遊び人「あっ、確かに!初めて遊んで役に立ったかも!」
場外へ出た勇者達は、王国の出入り口付近へと走り出した。
勇者「もう少しだ……」
遊び人「勇者、顔色悪いよ?」
勇者「なんだか、けだるくて……」
遊び人「やくそうかなんか……」
「止まれ!!今すぐ降伏しろ!!」
術士A,B,C,D,Eがあらわれた!!
遊び人「きりがない!!」
勇者「こっちもきりなく攻撃するまでだ……」
勇者は怠惰の足枷を使用した。
術士達は瞬く間に地面に倒れ込んだ。
遊び人「行くよ、勇者!また敵が現れる前に……」
勇者「…………」
遊び人「勇者?」
勇者「……駄目だ」
遊び人「どうしたの?」
勇者「足が……重くて動かない……」
勇者はその場に座り込んでしまった。
「いたぞ!!」
術士A,B,C,D,E,F,Gがあらわれた!!
768 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 19:04:54.52 ID:/yKl3BVY0
怠惰「副作用よ」
遊び人「副作用?」
怠惰「怠惰の足枷の使用には、寿命の消費だけじゃなくて、使用者の気力を奪う反動もあるの」
遊び人「そんな……」
怠惰「残念ながら、私も魔王との戦いで魔力があまり残ってないわ」
遊び人「だったら、私が足枷を装備して……」
怠惰「ただでさえ寿命が少ないんでしょ、やめておきなさい」
怠惰は服の内側から、薬草を取り出した。
怠惰「ほら、飲みなさい」
勇者「…………」
怠惰「口を開けて」
ぼぉーっとしていうことを効かない勇者の口に、怠惰はやくそうをねじ込んだ。
遊び人「何するの!?」
怠惰「即効性があるから、大丈夫よ」
怠惰「これは、意思の薬と呼ばれるもの。私が名付けたんだけんどね」
遊び人「意思の薬?」
769 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 19:05:55.57 ID:/yKl3BVY0
勇者「……ありがとう」
勇者は立ち上がった。
勇者「もう少しだ」
怠惰の足枷を再び使用した。
術士「……ぐぁ……」
術士達は気絶した。
怠惰「怠惰の足枷によって故郷に影響が色濃く出てからしばらくして、新種のやくそうが育ち始めたの」
怠惰「飲み込んだもののやる気、戦闘、意思、そういったものを一時的に高める効果がある」
遊び人「……そういえば、暴食の村でも新種の植物が育ったって言ってた。真実草っていう、飲んだものに秘密を吐き出させる薬……」
怠惰「怠惰の装備による影響を、植物たちは克服しようとしたのよ。このままじゃ枯れて死んでしまうから突然変異を起こしたのか。あるいは、怠惰の装備があっても生き残りやすい種類の植物の繁栄に偏ったのかはわからないけど」
怠惰「生きることを、植物は切望した。そして、これを食したものはその意思を与えられる」
怠惰「いくつか持っておきなさい。怠惰の装備の呪いさえ乗り越えるとても強力なものよ」
遊び人「……それって、嫉妬の勇者も持っているの?」
怠惰「残念ながらね。これを口に含んで戦われたら、少なくとも気絶はしないわね」
770 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 19:06:29.20 ID:/yKl3BVY0
勇者達は王国出入り口の結界箇所までたどり着いた。
勇者「遊び人、どうなってる?」
遊び人「……やっぱり。憤怒の城下町で使われていたものと同じ。時縮化の呪文で崩せるわ」
勇者「本物の結界を用意して練習する時間が取れなかったんだ……うまくいくかな」
怠惰「自信がないならどいてなさい。代わりに、場外にいる魔物を追い払う呪文でも唱えてて。低級呪文のはずよ」
勇者「ええーっと……」
遊び人「ほら、昔勇者が大蛇から私を助けに来てくれた時。吟遊詩人が」
勇者「ああ!追いかける途中で聞こえてきた!!試してみる!!」
勇者は剣に祈りを込めた。
勇者が剣を爪でひっかくと、特殊な音が響き始めた。
魔物の群れが遠のき始めた。
遊び人「勇者、本当に呪文に強くなったのね!」
勇者「……ま、まぁな」
771 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 19:07:51.71 ID:/yKl3BVY0
パキ…。
パキパキ……。
遊び人「もうすぐ!!」
パキパキパキ…………
パキン!
遊び人「開いた!!」
人一人通れるほどの隙間が、結界から生じた。
怠惰「はぁ……はぁ……先に行って。時間が経つと閉じるわ……」
「こっちだ!!」
研究者A,B,C,D,Eがあらわれた!!
勇者「遊び人急げ!!」
772 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 19:08:51.09 ID:/yKl3BVY0
勇者「……やるしかない」
勇者は意思の薬を飲み込んだ。
勇者「うぉおおお!!!」
勇者は怠惰の足枷を使用した。
研究者達は、耐えきった。
怠惰「まさか……」
研究者「意思の薬の成分を凝縮した薬瓶を飲み干してきたのさ。なかなかいけた味じゃなかったがね。術士共はただの時間稼ぎ要員さ」
勇者「……ぐっ…ぅ……」
研究者「閉じろ!!」
研究者は結界を施そうとした。
怠惰「勇者!!逃げて!!」
怠惰は、虚ろになっている勇者を結界から押し出した。
外から遊び人が引きずり出した。
結界は閉ざされた。
怠惰の勇者が取り残された。
773 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/15(日) 19:09:43.36 ID:/yKl3BVY0
遊び人「勇者!!意思の薬を!!」
遊び人は勇者の口に意思の薬を含ませた。
研究者「くそっ!!あいつらを捕らえなければ意味がない!!今すぐ結界を解除するんだ」
研究者達は結界の解除を始めた。
瞬く間に結界がほどかれ始めた。
怠惰「……逃げて」
勇者「馬鹿言うな……」
怠惰「あの時とは状況が違うから……」
勇者「俺自身も違うから……」
怠惰「わかってるよ。もう、いいんだって」
怠惰「なんだか、疲れちゃったしさ」
怠惰が、何年ぶりかの笑顔を勇者に向けた。
勇者「なんだよそれ!!」
怠惰は勇者の言葉に応えず、祈りを唱え始めるた。
結界の崩壊の速度が少し緩んだ。
研究者「邪魔な女だ!!」
研究者は風の呪文を唱えた。
怠惰の身体は切り刻まれた!!
勇者「怠惰!!!」
774 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/15(日) 22:57:35.12 ID:mJbV6Ie7O
なんで俺こんな名作を知らなかったんだろう
775 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/16(月) 00:21:44.09 ID:HDdFD9bn0
乙
776 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/16(月) 01:40:48.92 ID:hTLEd+NDO
乙
777 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/16(月) 23:44:41.53 ID:kvW2N9mC0
怠惰「勇者……」
怠惰「あんた、強くなったね……」
勇者「何言ってんだよ……今もこんな無力で……」
怠惰「……命懸けであの子を助けようとしたんでしょ。死ぬと決めた人間は、強くなるのかしらね」
勇者「違う!!本気で生きると決めたんだ!!」
勇者「だから、怠惰も一緒に!!」
怠惰「馬鹿。10年遅いわよ……」
「来い!!逃げられるぞ!!数で押せ!!」
術士A,B,C,D,E,Fがあらわれた!
魔術師A,B,C,D,E,Fがあらわれた!
怠惰「勇者、逃げなさい!!」
778 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/16(月) 23:45:15.35 ID:kvW2N9mC0
勇者「…………」
怠惰「何してるの!!はやく!!」
勇者「……うぉおおおおおおおおお!!!!!!!」
勇者「うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
遊び人「勇者!!!!」
勇者は怠惰の足枷をつかった!
「ぐぁ…………」
バタリ。
バタリ。バタリ。
「…………ぁ……」「……うぉ…………」
バタバタバタバタ。バタリ。
ドサドサドサ……
バタリバタリバタリバタリ……。
怠惰の周囲を囲っていた者は全て倒れた。
勇者「…………ぁ…………」
勇者は廃人となった。
779 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/16(月) 23:45:51.15 ID:kvW2N9mC0
遊び人「勇者……しっかりして。ねえ、勇者」
遊び人は意思の薬を勇者の口の中に押し込もうとした。
勇者はだらりと口を開け、よだれを垂らした。
遊び人「ねえ!!勇者!!しっかりして!!」
遊び人は怠惰の足枷を勇者から外そうとした。
しかし、頑丈に縛り付けられており、外すことができなかった。
嫉妬「ちょうどいい頃合いだな」
嫉妬の勇者があらわれた!
遊び人「なっ……」
780 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/16(月) 23:46:21.71 ID:kvW2N9mC0
嫉妬「怠惰の足枷を攻略化していないのでな。体内の精霊の補充はそうやすやすとできないもので、攻略化のために殺される気にはなれなかったのだ。雑魚どもがいい身代わりになってくれた」
嫉妬「さて。約束は破られたわけだ。三人まとめて処刑するとしよう」
嫉妬は結界を開き始めた。
怠惰「勇者を連れて移動の翼で逃げなさい」
遊び人「でも……」
怠惰「私が食い止めるから!!」
遊び人「……わかった」
遊び人は移動の翼を使用した。
嫉妬「愚かな……。焼き尽くしてくれる」
嫉妬「『レヴィアタン』!!」
嫉妬が呪文を唱えると、黒雲が夜空に出現し始めた。
バチバチ、バチバチ、と、遠くの夜空から黄色い閃光が弾き始めた。
781 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/16(月) 23:47:11.46 ID:kvW2N9mC0
満身創痍になりながらも、怠惰は立ち上がった。
怠惰「はぁあああああ!!!!」
怠惰は近くで気絶していた兵士の剣を取り、嫉妬を切りつけようとした。
嫉妬「小癪なやつだ」
嫉妬は身を翻し躱した。
嫉妬の呪文は中断され、黒雲は霧散した。
嫉妬「先に死にたいようだな。『マハンシャ』」
怠惰「魔法をかけるつもりもないわ。通常攻撃は首飾りの攻略化の対象外なのでしょう」
嫉妬「通常攻撃が俺の弱点だと思いこんでいるならめでたいことだ」
嫉妬は剣を抜いた。
782 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/16(月) 23:47:43.85 ID:kvW2N9mC0
怠惰「がふっ!!ぐふっ!!」
嫉妬「口ほどにもない」
嫉妬は左腕を突き出した。
火の玉が怠惰の腹部に直撃した。
怠惰「ぐぁ…………」
嫉妬「剣技だけでも倒せる確証はあるが、やつらを今すぐ撃ち落とさねばなるまいのでな。呪文と剣術の組み合わせが最も強かろう」
嫉妬「さて」
嫉妬は再び祈りを唱え始めた。
嫉妬「『レヴィ……』」
嫉妬は後ろを振り返らないまま身を反らした。
怠惰「はぁ……はぁ……」
嫉妬「……かつて拾ってやった恩を忘れたか」
嫉妬「あの勇者の方が、そんなに大切か」
嫉妬の勇者は、屈辱の形相を浮かべた。
嫉妬「貴様から絶命させてやろう!!」
783 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/16(月) 23:48:22.81 ID:kvW2N9mC0
勇者を抱えたまま、遊び人は夜空を飛んでいた。
幸いにも、黒雲の気配に怯えた鳥獣の魔物は遠くに逃げていた。
勇者「……あ、遊び人……」
遊び人「勇者!!」
勇者「怠惰は……?」
遊び人「……勇者。今は逃げるしかないの……」
勇者「怠惰は……?」
遊び人「あなたは悪くない。仕方のないことなの……」
勇者は朦朧としながらも、王国の方にクビを向けた。
さきほどまで自分達がいた場所の頭上に、黒雲が立ち込めていた。
勇者「……おい。あそこ。あそこにいるんだろ……」
勇者「戻らないと……怠惰が……」
遊び人「勇者……駄目なのよ……」
勇者「なんだよ……なんだよそれ……」
勇者「ひどい……ひどいよ……」
勇者「やっと、やっと。変われるかもしれないって思ったのに…………」
勇者「なんだよこの世界……ひどいよ……」
勇者「こんな……、こんな世界なんか……」
784 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/16(月) 23:49:12.79 ID:kvW2N9mC0
『やっほー、年下のお子様くん』
『その呼び方やめろって』
『今日も稽古さぼったって聞いたよ』
『瞑想の練習してたんだよ』
『家のお布団の中で?』
『まあな』
『はぁー。将来好きな女の子が出来た時に守れなくなっちゃうよ』
『女子なんて興味ねーし!』
『うっわ、ガキ』
『せめてお子様くんにしてよ』
『現れてから強くなるもんじゃないのよ』
『強くならないと現れないから?』
『違うの。現れてから強くなろうとしても、間に合わなくなることがあるから』
『よくわかんねーよ』
『瞑想ばっかりしているからよ』
『うるさいなー』
『ねえ、じゃあさ。好きな女の子がいないなら、今は私のために強くなってよ』
『な、なんだよそれ!』
『将来の練習だと思ってさ』
『はぁー!明日も瞑想するし!!うるせーし!!』タッタッタ…
『あはは、子供だなぁ』
785 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/16(月) 23:51:59.09 ID:kvW2N9mC0
勇者「……う、うぐ……」
勇者「……うぐ……!!」
遊び人「勇者?」
勇者「……うううぉおおおああああああああああ!!!!!」
勇者「うあぁあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
嫉妬「『レヴィアタン』!!」
黒雲から雷撃が落下した瞬間。
勇者「うぉおおおおおあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
夜空から眩いばかりの、青白い光が現れ。
遊び人「この光は!!!」
勇者の身体に直撃した。
786 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/17(火) 01:30:12.74 ID:54ZHoJkDO
乙
787 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/17(火) 22:52:57.26 ID:plqGsBdE0
嫉妬「どういうことだ!!」
嫉妬「何故、肉体保護の棺桶が!!」
落雷が怠惰に直撃した後、その場には1つの棺桶が残されていた。
遊び人「い、今のは!!精霊の光り!!」
遊び人「勇者の体内の中に、精霊が宿ってる!!」
遊び人「でも、どうして!ここ数年、勇者の誕生なんて一人も聞かなかったのに」
遊び人「…………」
遊び人「もしかしたら」
遊び人「あの地下室で、闘技場で、、勇者が”魔王の生存を認知したこと”に鍵があったのかもしれない」
788 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/17(火) 23:01:49.65 ID:plqGsBdE0
遊び人「精霊は元々、人間の魔王討伐の使命を補助するために降臨していた」
遊び人「魔王消滅の噂によって、勇者は魔王の生存を信じなくなった。そのせいで、精霊の降臨自体を受け容れる姿勢が失われていた」
遊び人「勇者が魔王の生存を認知した今、精霊も勇者に宿る意義を見つけたんだわ」
遊び人「だとしたら、パーティの結成も可能になっているはず!」
遊び人「勇者!!怠惰はきっと無事よ!!」
勇者「……うぅ……うぐ……」
遊び人「どうしたの!?精霊の降臨に痛みが伴うなんて話は……」
勇者「……あ……あし……あしが……」
遊び人が勇者の足を見ると、どす黒い痣で覆われていた。
遊び人「怠惰の足枷の副作用……」
789 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/17(火) 23:03:17.57 ID:plqGsBdE0
神官「ちきしょー、せっかく祭りに訪れたってのに、入場制限ってなんだそりゃ。遅くまで教会に残って老人共の悩みを聞くんじゃなかったぜ」
遊び人「地上に神官がいる!」
遊び人「大罪の装備による身体への影響は、一回の死亡で治るはず……」
遊び人「勇者、よく聞いて」
勇者「……うぐ……」
遊び人「一回自殺を試みるわ。そしたらすぐに足枷を脱いで、私と怠惰を蘇らせるの」
遊び人は勇者の道具袋から、短剣を取り出した。
遊び人「迷ってる時間はないわよね……」
遊び人「勇者、行くわよ!!」
遊び人は勇者の首に短剣を突き刺した。
棺桶が出現し、勇者の死体を保護した。
遊び人「大丈夫ってわかってても心臓に悪いなぁこれ……」
遊び人「……んっ!!!!!」
遊び人はナイフを自分の首に突き刺した。
棺桶が出現し、遊び人の死体を保護した。
勇者、遊び人、怠惰の3つの棺桶は精霊によって即座に神官の前に運び込まれた。
790 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/17(火) 23:03:53.53 ID:plqGsBdE0
勇者「……ぷは!!」
勇者「蘇った……んだよな?」
神官:ようけんはなんですか。どくをちりょうしますか。のろわれたそうびをかいじょしますか。しんだなかまをよみがえらせますか。
勇者「仲間を……っ!?」
勇者「うげぇえ!!なんだこの気色悪い感触!!」
勇者は足元を見ると、足枷が不気味な魔力を放っているのを感じた。
勇者「のろわれたそうびを解除してくれ!!」
神官:のろわれているそうびはありません。
勇者「なんだよそれ!!じゃあ仲間!!仲間を蘇らせてくれ!!まずは遊び人から!!」
神官:8000Gになりますがよろしいでしょうか
勇者「高くなってるし!!なに!?ここ物価高いの!?」
勇者「なんでもいいから蘇らせてくれ!!」
神官:うけたまわりました。
791 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/17(火) 23:07:38.82 ID:plqGsBdE0
遊び人「……ぷはっ!勇者!!」
勇者「ぐぅのおおお!!!」
勇者「脱げた!!」
勇者は怠惰の足枷を脱いだ。
勇者「次は怠惰を蘇らせてくれ!!」
神官:2000Gになりますがよろしいでしょうか
勇者「あれ、昔の方が高かった気が……まあいい、お願いする!」
神官:うけたまわりました。
神官:怠惰の魂をこの世に……
神官は祈りを始めた。
遊び人「あ、あのさ!!勇者!!」
勇者「ん?」
遊び人「ありがとう!」
勇者「えっ」
遊び人「あ、ありがとうって言ってんの!」
勇者「……へへっ。どういたしまして」
792 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/17(火) 23:08:37.19 ID:plqGsBdE0
怠惰「……んんっ……」
勇者「寝起きのところ悪いが、急ぐぞ。追手に見つかる前に」
怠惰「……眠い……あと5分」
勇者「はぁ?」
怠惰「……風邪引いたっぽい……今日休む……」
勇者「おいどうした。なんだその定番のセリフは。お前が仮病なんて、熱でもあるのか?」
遊び人「熱があったら仮病じゃないから!さっさと行くわよ!!」
勇者達は移動の翼を使いながら、遠くへ逃げた。
さきほどまでの絶望は過ぎ去り。
混乱や恐怖とは無縁の、静かな夜の空に出た。
勇者達は、にげきった。
793 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/17(火) 23:11:13.34 ID:plqGsBdE0
3人は移動の翼で夜の空を飛び続けた。
怠惰は自分が蘇ったことの意味を理解しているはずだが、そのことについて言及してこようとはしなかった。
遊び人「うう、夜の飛行は冷えるなぁ」
遊び人「ねえ勇者、足はもう大丈夫?」
勇者「うん、平気。びっくりしたよ。気味の悪い痣みたいなのもできてたし」
怠惰「……大罪の装備をずっと身に着けるなんて、愚かにもほどがあるわ」
怠惰「装備の種類にもよるけど、怠惰の足枷はすぐに装備者を飲み込もうとする傾向が強いわ。私も戦闘中以外は基本身に付けないようにしていたもの」
遊び人「嫉妬なんかいつも首飾りつけてるんじゃないの?」
怠惰「身につけることの副作用が元々少ない装備なのかもしれないけれど。それ以上に、嫉妬の勇者自身が装備を上回るほどの感情の強さを持っているのよ」
遊び人「…………」
794 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/17(火) 23:13:02.20 ID:plqGsBdE0
怠惰「ところで、私達はいつまで飛び続けるつもりなの?」
遊び人「とにかく遠くへ行ってるつもりだったけど。見覚えある地域に出てきたね。庭の宝の村もこのあたりじゃなかったっけ」
勇者「そう言われればそうだな」
遊び人「せっかく蘇えらせてくれたところ悪いんだけどさ。一度ここら辺りで自殺しておきましょうか」
勇者「なんで!?蘇生にいくらかかると思ってんだ!!」
遊び人「気づかない内に鳥系の魔物が尾行してるかもしれないじゃん。精霊の加護による転送なら完全に巻くことができるでしょ。念の為よ。命はお金より大切でしょ?」
勇者「また見つかるよりましか。よし」
勇者は短剣を取り出した。
遊び人「ナイフは慣れないなぁ。毒針もまた買わないといけないね」
怠惰「毒って苦しくないの?」
遊び人「ちょっと痺れて気絶する感覚かなぁ。精霊による死の恐怖の柔和のおかげかもしんないけど。本当はのたうちまわるほど苦しかったりして」
勇者「怖いこと言うなって。ナイフが嫌なら飛び降りるぞ」
遊び人「あっ、それいいかも!!」
勇者「じゃあ決まりだな」
怠惰「本気で言ってるの!?」
遊び人「本気だよ!!」
勇者「本気で死ぬぞ」
地上より遥か上空で、3人は移動の翼に祈りを込めるのをやめ、手放した。
3人は凄まじい速度で落下し、地面に激突した。
パーティは全滅した。
795 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/17(火) 23:13:37.75 ID:plqGsBdE0
〜教会〜
神官「…………」
勇者「無事蘇ったか。むしろ無事じゃなかったから蘇ったという方が正しいか」
勇者「さて、遊び人を……」
勇者「…………」
勇者「神官。怠惰を蘇らせてくれ」
怠惰「……んん」
勇者「目が覚めたか」
怠惰「……ええ。酷い悪夢を見た気がする」
勇者「高い所苦手だったっけか」
怠惰「…………」
怠惰「私を先に蘇らせたのは、何か意味があるんでしょう?」
勇者「……ああ」
勇者「怠惰」
勇者「……あの時は、本当にごめん」
796 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/17(火) 23:14:27.50 ID:plqGsBdE0
怠惰「…………」
怠惰「ごめん、か」
怠惰はそうつぶやくと、勇者の持っていたナイフを奪った。
怠惰「そうやって、罪を贖った気になって生きていくのよね!!」
怠惰「この、人殺し!!」
怠惰はパーティからぬけだした。
勇者「怠惰っ!?」
怠惰のこうげき!
勇者「ぐばっ……」
怠惰のふりかざしたナイフは勇者の首を掻っ切った。
勇者は死亡した。
神官の前で、勇者は蘇った。
怠惰「償えないわよ!!」
怠惰はナイフを勇者の心臓に突き刺した。
勇者は死亡した。
神官によって勇者は蘇った。
怠惰「剣士はもう帰ってこないのよ!!」
怠惰は勇者の腹部にナイフをめった刺しにした。
勇者は死亡した。
勇者は蘇った。
797 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/17(火) 23:14:56.69 ID:plqGsBdE0
怠惰「どれだけ、どれだけつらい日々を、剣士を大切に思っていた人達が過ごすことになったと思うの!!これまでも!!これからも!!」
怠惰は勇者の額にナイフを突き立てた。
勇者は死亡した。
勇者は蘇った。
怠惰「あんたの!!あんたの弱さのせいで!!!」
怠惰のこうげき!
勇者は殺された。
勇者は蘇った。
勇者は殺された。
勇者は蘇った
勇者は……
…………
……
798 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/17(火) 23:16:48.43 ID:plqGsBdE0
怠惰「はぁ……はぁ……」
返り血で真っ赤になった怠惰は、その場に座り込んだ。
勇者「…………」
怠惰「…………」
怠惰「なんか、言いなさいよ……」
勇者「…………」
怠惰「…………」
怠惰「本当に、あんたなんかパーティじゃなければよかった」
怠惰「…………」
怠惰「精霊がさ、あんたにまた宿ったわよね」
怠惰「精霊は勇者にのみ宿るものだと思っていた。でも、精霊は、勇者じゃないあんたに宿った」
怠惰「勇者という資質を持ったものが精霊を呼び寄せやすかっただけで。勇者という資質を持たなくとも、ふさわしい思いを持つものに精霊は宿るのかもしれなかったのね」
怠惰「私はさ、私に宿るはずだった精霊が、背中におぶっていたあんたに奪われたものだとずっと恨んでいたけれど」
怠惰「あの精霊も、はじめからあんたに宿るつもりだったのかもしれないね。だとしたら、理不尽に責めていたかもね。今更わかんないけどさ」
怠惰「幼馴染としての私達は、うまくやっていけてたのにね。冒険者というパーティメンバーになった途端、何もかもがうまくいかなくなってしまったね」
怠惰「一緒にいることの目的が違うだけで、同じ相手でも、全く関係性って変わってしまうものなのね」
怠惰「どうして私に怠惰の装備が現れたのかずっとわからなかった。幼い頃から努力してきたし、怠惰なあんたを憎んですらいたのに。それこそ、あんたにこそふさわしい装備よ」
怠惰「きっとね、私は最も怠惰を知る必要のある勇者だったのよ。怠惰という感情から、過去への向き合い方を学ぶべき勇者だったって」
799 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/17(火) 23:17:43.95 ID:plqGsBdE0
怠惰「7つの大罪は。人間に救う7つの欲望は、幸せと隣にあるものだった」
怠惰「食べること。愛すること。誇ること。熱くなること。欲すること。羨むこと。そして、さぼること」
怠惰「怠惰って、7つの大罪の中で唯一特別なものだと思わない?」
怠惰「他の6つの大罪が『求めることの幸せ』だとしたら、唯一怠惰のみが『求めないことの幸せ』なのよ」
怠惰「何者かになりたいと思っても、何もしたくなかったあなた」
怠惰「何も積み重ねずに過ごす日々に自分を呪っていたあなた」
怠惰「そんなあなたが望む日常は、やはり、何もせず、ただ日々を過ごすことなのよね」
怠惰「大切な人と、だらだらと」
勇者「……そんな日常、今ではもう手に入るかどうか」
怠惰「勇者」
怠惰「魔王城へ行きなさい」
800 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/17(火) 23:19:50.60 ID:plqGsBdE0
勇者「魔王城……」
怠惰「傲慢の盾、憤怒の兜はそこに保管されているわ。主なき魔王城は今は誰でも認知することができるから入れるはずよ」
怠惰「嫉妬はね、世界を統一する計画を立てているの。嫉妬の王国と、魔王城を拠点にね」
怠惰「主要な居住区を結ぶように一定間隔で建物を建造し、人間と魔物を等間隔に配備する」
怠惰「全ての村、町、都、里、谷、人間の住まうところを繋いで1つの王国にする」
怠惰「全ての洞窟、塔、祠、そして魔王城、魔物の住まうところを繋いで1つの王国にする」
怠惰「そして二つの王国を結び、自分が両者の世界の王となる。」
怠惰「あんたが嫉妬の王国に各国の案内人をばらまいたのとは訳が違うわ。7つの大罪を、7つの大罪の装備によって管理するの。完全な世界統治よ」
勇者「こんな広い世界で居住区を全て繋げるなんてこと可能なのか?どれだけの月日が……」
怠惰「小さな村から洞窟まで全てを網羅するなんて到底できないわ。嫉妬がやろうとしていることは、今ある世界を支配することじゃない。新しい世界を作り上げることなのよ」
怠惰「そのためには、自分の王国に繋がれないような地域は破滅させてもいいとの考えよ。大罪の7つ装備の力を利用すれば、世界を破壊するのは容易いから」
怠惰「ねえ、勇者」
怠惰「世界を救って」
801 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/17(火) 23:21:29.15 ID:plqGsBdE0
勇者「…………」
勇者「……冗談じゃない」
怠惰「!?」
勇者「世界なんて救うつもりはない」
怠惰「冗談で言ってるなら……」
勇者「冗談じゃない!冗談だなんて冗談じゃない!!」
勇者「世界が嫌いなんじゃない。歩み寄っても受け入れられない、自分自身が大嫌いだった!」
勇者「それを認めたくなくて、世界が嫌いだなんて自分に嘘をついているうちに、本当に世界のことが嫌いになってしまった」
勇者「でも、そんな自分のことを、許してくれる存在がたった一人だけ現れた」
勇者「だから……俺は、その子のためだけに戦うよ。それがたまたま、世界を救うことにつながろうが、知ったことじゃない」
怠惰「……まわりくどいわね。以前にまして、ひねくれものね。良い開き直りっぷり」
怠惰「おかげさまで、あんたがあいつを倒しても、あんたが死んでも、どっちにしても気が晴れそうだわ」
勇者「それはよかった」
802 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/17(火) 23:30:46.27 ID:plqGsBdE0
怠惰は教会の出口へと歩んだ。
勇者「どこへ行くんだ」
怠惰「あんたがいる以外のどこか」
勇者「正解だな」
怠惰「あなたは、償えないわよ」
勇者「うん」
怠惰「今から世界中の人を救っても、そのことに変わりはないわ」
勇者「うん」
怠惰「でも。それは私も同じこと」
怠惰「私は、大切な感情の1つを乗り越えることができなかった。それがきっと、怠惰の感情」
怠惰「つまり、人間らしさを許すことをできなかったのよ」
怠惰「あーあ。嫌だわ。悪人が目の前にいるのに、自分を嫌悪してしまうこの世界なんて。滅んじゃえばいいのにね」
勇者「…………」
怠惰「今はもう滅んでほしくないのかしらね」
怠惰「ねえ」
怠惰「命懸けで、助けに来てくれたこと、感謝するわ」
勇者「……うん」
怠惰「それじゃあね。勇者」
勇者「うん。怠惰」
勇者・怠惰「さようなら」
803 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/17(火) 23:47:27.54 ID:plqGsBdE0
遊び人「……よっこらしょ。って、なんじゃこの血の海はぁああ!!?」
勇者「…………」
遊び人「無反応だし」
遊び人「あれ、怠惰の勇者は?」
勇者「……パーティから出ていった」
遊び人「そっか」
勇者「…………」
遊び人「これだけ血液を生み出せる方法があれば、賢者の石つくれちゃう気がするんだよねぇ」
勇者「…………」
遊び人「…………」
遊び人「私は、出ていかないからね」
勇者「…………」
遊び人「ギャンブルで遊ぶお金がなくなっても」
遊び人「精霊の加護がなくなっても」
遊び人「早起きしなくても。魔物と戦わなくても」
遊び人「私のパーティは、勇者だけだよ」
勇者「…………」ポロポロ…
遊び人「ほら、こっち向いて」
勇者「なんだよ……」
遊び人「ただいま」
勇者「……ああ!!」
勇者「おかえり!!」
804 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/18(水) 00:59:13.76 ID:h5HxVKtb0
乙
805 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/18(水) 02:23:12.37 ID:8b7CRenDO
乙
806 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/23(月) 23:20:46.22 ID:9XHV72F70
【嫉妬の勇者の思い出】
〜思い出 1〜
女奴隷「わたしたち、自由よ!!」
青空の下。
女奴隷は、自分を地獄の王国から連れ出してくれた男奴隷に言った。
嫉妬「慣れないものだな。枷をつけられて生きてきたせいで、自由を後ろめたく感じる」
女奴隷「わたしはずっと夢見てた。地獄みたいなこの人生を、救ってくれる何かが起こるって」
女奴隷「そしてあなたに救われた。私が白衣の男たちによってひどい目に遭わせられているときも、いつも味方でいてくれた」
嫉妬「……俺はただ」
女奴隷「勇者は、優者」
女奴隷「人にやさしくすることもまた、選ばれし者にしかできない行為なのよ」
嫉妬「自由に浮かれて綺麗事を話すか。生きることは地獄の塊だったはずだ」
女奴隷「綺麗事を抜きにしたら、何も話せなくなっちゃうわ。だって、生きることは本当に綺麗なんだもの」
女奴隷「私はこの世界が大好きよ。長生きしたいと思うくらいに」
嫉妬「長生きか。そんな言葉ろくに口にしたこともなかった」
女奴隷「さっさと死んでしまいたかった?」
嫉妬「ああ」
女奴隷「どうして死ななかったの?」
嫉妬「何か起こるかもしれないと期待していたからな」
女奴隷「そして起こった」
嫉妬「…………」
女奴隷「私達もこれで、立派な冒険者の仲間入りよ」
嫉妬「魔王なんぞに挑むほど、俺はこの世界を救いたいとは思っていないぞ」
女奴隷「それは私も。とにかくね」
女奴隷「この世界が大嫌いでも、長生きしたいと思える人と出会えたら、それはやっぱり生きててよかったってことなのよ」
女奴隷は笑った。
807 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/23(月) 23:21:25.69 ID:9XHV72F70
〜思い出 2〜
女奴隷「……ガハッ!!ガハッ!!」
嫉妬「どうした!!何故棺桶が出現しない!!」
巨大なネズミ型の魔物を撃退したあと、女奴隷が激しく咳き込んだ。
嫉妬は混乱に陥りながらも、どうぐ袋に入れていたやくそうを女奴隷に使用した。
しかし、効果はまったくなかった。
「生死には全く影響を及ばない呪いだからね。菌、と呼ぶんだ。毒と似たようなものだけど、そこらのやくそうでは治せないよ」
青い服を身にまとった男が突如現れた。
嫉妬「誰だお前は……僧侶か?」
「そんなに出来た存在じゃない。鼻持ちならない職業さ」
男は自分の額を指で叩いた。
「失礼するよ」
男は女奴隷の胸部に手を置いた。
嫉妬「お前!!何をする!!」
「解決するのさ」
賢者「それが僕の職業の役目だからね」
808 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/23(月) 23:22:51.25 ID:9XHV72F70
〜思い出 3〜
今夜も、女奴隷は賢者の語る物語をうっとりと聞いていた。
賢者「道具屋の娘に失恋した夜に、鍛冶屋の青年は嘆いた。世界は、なかなか認めてくれないものだと」
賢者「死んではいけないと言ってくれる人はたくさんいても、あなたと生きたいと言ってくれる人は1人も現れてくれないと知った」
賢者「彼の親友は励ました。今まで積み上げたものがなかった者でも、意思の切り替えによって、一日にして何もかもが変わることもあると」
賢者「そして鍛冶屋の青年は決めた。今まで嫌々してきた、代々引き継がれてきたこの仕事で輝いてみせようと」
賢者「彼は細長い筒に、魔法を取り入れることを試みた。それが今の魔法銃の起源だと……」
…………
女奴隷「……zzz」
賢者「もう寝たか。あれだけせがんできたのに」
嫉妬「子供のようなやつだからな」
賢者「なあ、僕の話は退屈だったか?」
嫉妬「そんなことは決してない。何故?」
賢者「嫉妬が退屈そうな表情をしていたからさ。心配になったんだ」
嫉妬「退屈なものか。毎晩毎晩、人に語れるだけの話をよく引き出してこれるものだと感心していたほどだ」
賢者「それは褒められているのかな?」
嫉妬「生まれも育ちも違うからな。かなわない」
賢者「……そんなことないさ」
嫉妬「何を言う。魔法使いの都の出身なんだろう?」
賢者「これを旅の仲間に話すのは生まれて初めてかもしれないな」
嫉妬「何だ?実は王子様か?」
賢者「実は僕も、奴隷出身なんだ」
賢者の男は、照れくさそうに笑った。
どういうわけかもわからないが。
嫉妬はこの時、自分の胸の中に、紫色に鈍く光るものを感じた気がした。
809 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/23(月) 23:23:33.32 ID:9XHV72F70
〜思い出 4〜
キスをしていた。
女奴隷が賢者に惹かれていることはわかっていた。
それでも、救世主である自分を選んでくれると信じていた。
翌朝起きると、2人は何でもないような顔をして話しかけてきた。
パーティメンバーを一人追加しよう、賢者が言った。
賛成よ、と女奴隷が言った。女性の仲間がほしいわ、と。
どういうつもりなのだろう。
もうひとりの女と俺が結ばれれば、自分達の仲も隠す必要がなくなるとでも考えているのだろうか。
俺はパーティメンバーを増やすつもりなどない。
減らせばいいのだ。
810 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/23(月) 23:27:27.75 ID:9XHV72F70
〜思い出 5〜
女奴隷「どうして賢者を殺したの!!」
激しい雨の中。
賢者は血を流したまま倒れていた。
嫉妬「……彼には、故郷に妻がいる」
嫉妬「酔った勢いで打ち明けてきた。君は旅の間だけの女だって。遊び相手に過ぎないと」
女奴隷「嘘よ!!」
嫉妬「僕を疑うというのか」
女奴隷「あの人を信じているのよ!!」
嫉妬「信じたい気持ちと真実には何の関係もない」
女奴隷「どうして殺したのよ!!」
嫉妬「許せなかったからだ!!」
女奴隷「どうしてあなたが!!」
嫉妬「君のことが好きだからだ!!」
女奴隷「…………」
嫉妬「もう一度、2人で冒険をやりなおさないか」
嫉妬「自由を感じていたあの頃に戻ろう。二人だけで、行きたい場所にだけ行って、それで……」
女奴隷「…………あなたの気持ちはよくわかった」
女奴隷は短剣を取り出した。
嫉妬「何をする!!」
女奴隷「錯覚を守るためなら、人は命懸けで狂うのよ。信じたことを真実にするの」
女奴隷「わたしは、あなたの物にはならない」
女奴隷は、短剣で自身の首を切り裂いた。
女奴隷は血しぶきをあげ、地面に倒れた。
女奴隷は死亡した。
嫉妬「……棺桶が出現しない。パーティから抜け出したということか」
嫉妬「……ふ。ふふふふ!」
嫉妬「俺は、選ばれなかったというわけか!!!」
嫉妬「ははははは!!!!」
嫉妬「ヒヒヒヒヒ!!!ハハハハハ!!!」
嫉妬は二つの死体の横で、狂ったように笑い転げた。
それは世界では、ありきたりな痛みであっても。
生まれてから奴隷として育った嫉妬にとっては、世界はあまりにも小さすぎた。
1つしか希望のない世界から、その1つが奪われた時。
嫉妬の中の何かが壊れた。
811 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/23(月) 23:28:59.62 ID:9XHV72F70
〜思い出 6〜
「どうされましたか?何かよくないことでも……」
馬車の中から降りてきた若い女の魔法使いが、嫉妬の顔色を心配して尋ねた。
今や、嫉妬の仲間は30人を超えていた。
しかし、精霊の加護が及ぶパーティメンバーとしては誰一人として選出されていなかった。
嫉妬「なんでもない……悪い夢を見た……」
「貴方様にも、そういうことがあるのですね」
魔法使いは小さな笑顔を見せた。
「嫉妬様、緊急のご報告です。さきほど戦士が、深手の傷を負って帰ってきました。今は僧侶が治療中です」
嫉妬「相手は?」
「女一人です。高価な装備を揃えていたので、金目のものを奪おうと戦士は考えていたようです……」
嫉妬「勝手な真似はするなと言っただろう。相手は魔法使いか?」
「それが、戦士はうめきながら、こう言ったんです」
「雷に、襲われたと……」
嫉妬「……女勇者か。面白い」
嫉妬は剣を握った。
今や彼の強さは、他の勇者の中でも群を抜いていた。
812 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/23(月) 23:31:33.42 ID:9XHV72F70
〜思い出 7〜
怠惰「貴方様は、何を目指しているのですか」
怠惰は嫉妬に尋ねた。
嫉妬「……どういう意味だ」
怠惰「気分を害されたのなら申し訳ございません」
怠惰「ただ、あなたは嫉妬の首飾りを手に入れ、この国を治め、魔王を撃退し捕縛しました。今や世界最強の勇者です」
怠惰「なのに、あなたは全く満たされていないようにみえます。今はまだ何かの途中にしか過ぎないと」
嫉妬「そう見えるか」
怠惰「はい」
嫉妬「埋められない心の穴がある場合、どうすれば良いと思う?」
怠惰「代わりのもので満たす、ですか?」
嫉妬「新しい心に取り替えるのだ」
嫉妬「俺はこの世界に復讐を果たす。永遠にな。俺以外の全ての人間が、地獄を見続ける世界にさせてやるのだ」
嫉妬「数え切れぬほどの人が住まうこの世界で。自分以外の幾千幾万を超す全ての人間が、自殺を図る光景はさぞかし美しいとは思わんか?」
うっとり笑う嫉妬を見て、怠惰は恐怖に震えた。
そんな怠惰の頭に、嫉妬はやさしく手を置いた。
嫉妬「お前は見捨てないでやろう。俺の隣で黙って見ていろ」
怠惰はその言葉に感激し、安堵して目を閉じた。
嫉妬には人を惹き付ける不思議な魅力があった。
それは、創られた魅力であった。
自分が他者に打ち明けた真心を裏切られた人間は、虚飾を磨く生き方に変わる。
あるがままの自分というものを捨て、嫉妬は世界を手に入れるのにふさわしい自分を演じ続けた。
かつて手に入れられなかったものが手に入るようになった嫉妬は、しかし満たされなかった。
それはもはや、自分自身ではないからだ。
嫉妬「……どうすれば、満たされるかだと」
嫉妬「俺以外の全ての人間の心を、空虚で満たした時であろう」
失われたものを、取り戻すのではない。
得られなかった世界を、嫉妬は壊そうとしていた。
嫉妬の勇者達 〜fin〜
813 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/23(月) 23:37:59.97 ID:9XHV72F70
次回で最終章です。去年の夏から書き始めましたが、今週中に完結する予定です。
ネットで読むには大変な量の物語ですが、お付き合い頂きありがとうございました。
814 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/24(火) 02:00:12.29 ID:NdpHUhQDO
乙
終わっちゃうのか…
815 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/24(火) 08:34:33.13 ID:eLiqNQsDO
全裸待機
816 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/24(火) 18:47:01.82 ID:lRAHu/8S0
乙
817 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/28(土) 22:21:15.06 ID:ih6hDcQ/0
お姫様「ねえ、そこのあんた。勇者って奴のことを知らないかしら」
奴隷「……存じておりません」
お姫様「あっそ」
お姫様「どうして私がこんな仕事を……。これで今日何人の奴隷と話したことか」
案内人T「ふぁーあ」
お姫様「あいつも奴隷の格好してる。サボってるように見えるけど」
お姫様「ねーねー。あんた勇者って奴のこと知ってる?怠惰の牢獄の地の出身なんでしょ」
案内人T「知ってるよー」
お姫様「ラッキー!!じゃあさ、あいつの両親が今どこにいるか知らない?この王国で奴隷として働いてるのかしら?」
案内人T「勇者の親かー」
案内人T「父親はどこかで生きてるかも知らないな。母親は昔に亡くなったんじゃなかったっけ」
818 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/28(土) 22:21:56.68 ID:ih6hDcQ/0
勇者「止まって」
遊び人「えっ?」
勇者「罠がある」
草むらの中を歩いていた遊び人が足元に目を凝らすと、毒矢の罠が仕掛けてあった。
遊び人「うわっ!ほんとだ!よく気づいたね」
勇者「細い糸が空中に光った気がしてさ」
遊び人「勇者、なんだか変わったね」
勇者「俺が立派になりすぎて寂しくなったか?」
遊び人「誇らしいよ。でも確かに寂しいかも」
勇者「なんだそりゃ。心配すんなって。俺がいくら最強になろうとも、俺は俺のままだぜ」
勇者が照れながら歩いていると石に躓き、木に固定されていた毒矢の本体に首から刺さった。
遊び人の前に棺桶が現れた。
遊び人「…………」
遊び人「一生心配するっての!!」
819 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/28(土) 22:22:37.80 ID:ih6hDcQ/0
ズゴゴゴ!!ズゴゴ!!
遊び人「重い!!棺桶引きずるのにブランクあったからな」
遊び人「えーっと、この先に村が一個あるんだったな。教会で蘇らせてもらおうっと」
〜教会〜
遊び人「蘇らせてください」
神官:25,000Gになりますがよろしいでしょうか
遊び人「はいはい。25G」
神官:お金が足りません
遊び人「えっ、出してるよ」
遊び人は25G差し出した
神官:25,000Gになりますがよろしいでしょうか
遊び人「…………」
遊び人「ええぇえええええええ!!?」
神官:おお、勇者よ。死んでしまうとは情けない。
勇者「ぷはぁ!!」
勇者「あれ、遊び人のやつ棺桶に入ってやがる」
勇者「魔物にやられたのかな。それとも引きずるのがめんどくさくなって自殺したとか?」
勇者「困るんだよなぁ。遊び人の蘇生代馬鹿高いんだから」
勇者「でもおかしいな、この村初めて来た気がするんだけど……まあいっか」
勇者「遊び人を蘇らせてくれ」
神官:8000Gになりますがよろしいでしょうか
勇者「ひょえー。仕方ない。頼む、蘇らせてくれ」
神官:承りました
神官:遊び人の御霊を呼び戻し給え
820 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/28(土) 22:23:24.33 ID:ih6hDcQ/0
遊び人「…………」
勇者「蘇ったな。なあ、魔物にやられたのか?引きずるの大変かもしれないけど遊び人の蘇生代金ってかなりの値段が……」
遊び人「勇者様」
勇者「うん。ん。ん?さま?」
遊び人「私めの命に比べてあなたの命があまりにも尊かったので、もう死ぬしかないと……」
勇者「いやいやどうしたいきなり。神官、呪いか毒がかけられてるみたいなんだけど」
遊び人「私と離れていた短期間で精霊の信頼をそこまで勝ち取るなんて……」
遊び人「もはや私三人分よりも価値ある人間に……」
勇者「意味わかんねえって。それより飯食いに行くぞ。旨いもの食おうぜ」
遊び人「ご一緒させて頂きます」
勇者「うわーやりづれぇ」
821 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/28(土) 22:25:27.77 ID:ih6hDcQ/0
ふたりは、暇だった。
嫉妬の王国の自動感知呪文は、封印の壺に対象を設定をされている。
一度勇者達の持つ大罪の装備に対象を定め直した場合、またこの世界の全てから対象物以外の要素を差し引く必要があるため、膨大な時間がかかる。
だから、封印の壺が割れるまでは、嫉妬の王国が勇者達を見つけることはない。
魔王城に踏み込むのであれば、封印の壺に入った暴食の鎧と色欲の鞭を手に入れてから向かうのが賢明であった。
一度、強欲の都の近くにあった転職神殿の占い師に相談をしても、同じような回答が返ってきた。
それまでの時間、2人はとくに生き急ぐわけでもなく、今までのようにのんびりと冒険をしていた。
そして、幾日が過ぎた。
822 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/28(土) 22:26:32.26 ID:ih6hDcQ/0
〜ほらあな〜
夜中、勇者はふと目を覚ました。
勇者「あれ、遊び人?」
首を動かして辺りをみまわしても、遊び人の姿は見えなかった。
ふと、自分のお腹の上に使い古された赤色のメモ帳が乗っているのに気づいた。
“お花をつみに行ってきます”
遊び人「あら、起きてる」
勇者「お花は見つかったか」
遊び人「排泄しながら探したけど見つからなかった」
勇者「いやもうそれ綺麗な表現で隠そうとした意味ないから」
遊び人「寝起きなのにツッコミ頑張るなぁ」
遊び人は勇者の隣に寝転んだ。
遊び人「冒険譚はそこらへんの描写が甘いよね。魔王との決戦中に尿意を催すことだって現実ではあり得るのにさ」
勇者「世界の半分はいらないから、尿意の半分でも消してくれとか心の中で願うんだろうな」
遊び人「描写するに値しない些細なことが大切だったりするからね」
勇者「本当だよ。新品の革靴履いて足にできたマメが痛いとかな。毒地でもないのに歩く度にダメージ負うからな」
遊び人「職業が遊び人だと自己紹介する時にけっこう世間に気まずい思いをするとかね。賢者見習いとか言うけど杖も持ってないとかね」
勇者「戦闘中も、敵にジャンプして斬りかかろうとしてる時に『やべ、財布落としちゃうかも……』とか気になったり」
遊び人「うふふふ」
勇者「あれ、今のそんなに面白かった?へへ」
遊び人「ねえ、気づいてた?」
勇者「なにが?」
遊び人「ここさ。私達が暴食の村につく前に寝ていた洞窟じゃない?」
823 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/28(土) 22:28:55.13 ID:ih6hDcQ/0
勇者「あっ!そう言われれば見覚えある!いつの間にそんな遠くまで」
遊び人「裏を返せばここからあんな遠くの場所まで行ってたってことだよね」
勇者「そっか。なんだか信じられないな」
遊び人「何に対して?」
勇者「うーん。今までの軌跡ぜんぶ」
勇者は立ち上がり剣を構えた。
遊び人「勇者、何を」
勇者「『太陽を追い求めし夜の女王よ。その黄金の輝きの一部を我が剣に授けよ!!』」
勇者「『アカリン』!!」
勇者は洞窟照らしの呪文を唱えた!
遊び人「わっ!!」
眩いばかりの光が洞窟の中を照らした。
遊び人「凄い!!」
勇者「……どうも」
勇者自身が驚いていた。
遊び人奪還のために強欲の都の術士にかけてもらった大罪の枕詞が、時間の経過によって解けていたにもかかわらず、呪文を簡単に使用できるようになっていた。
勇者「こいつのおかげかな」
勇者は自分の胸に手をあてた。
勇者「以前俺に宿っていた精霊は、やっぱり不本意で俺に宿ったんじゃないかって思う」
勇者「ふさわしくないものにふさわしくない幸運が訪れたら、それは不幸の始まりになるんだろう」
勇者「今は自分のことを認められるようになったと思う」
遊び人「何をいまさら。勇者はずっと凄かったじゃない」
勇者「ありがとな」
勇者は思った。
自分で自分を認められるようになったのは、自分を認めてくれる人が現れたおかげだと。
824 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/28(土) 22:32:36.62 ID:ih6hDcQ/0
遊び人「すっかり目が覚めちゃった」
勇者「夜更かしはよくないぞ」
遊び人「なんで寝なくちゃいけないんだろう。睡眠時間がなくなれば生きてる時間がぐんと増えるのに」
勇者「俺は寝るの好きだけどなぁ」
遊び人「そういえば私も好きだった」
勇者「遊び人はさ、長生きしたい?」
遊び人「うん。絶対したい」
勇者「やっと肯定してくれるようになった」
遊び人「後ろめたさを感じても。罪悪感を感じても。私のためにそれを手に入れようと頑張ってくれる人の前で、嘘をつくのはやめることにしたの」
遊び人「まぁ、己が命のために呪われた装備を集めるなんて、悪役側みたいだけどね。物語なんかじゃ、永遠の命を望む悪者に限って不運にも死んじゃうんだよね」
遊び人「今になって、寓意がわかった気がするよ。そういう物語に現れていた悪役は、もしかしたら本当に永い命を手に入れていたかもしれない。けれど、ただの長寿は生きている意味そのものではないってことだったのかも」
遊び人「今が好きだから今を延ばしたくて永遠を望む、なんて人いないんじゃないかな。今が好きなひとは、今しか見ないんだもの。今を永遠に感じてるんだもの。まだ来ぬ未来ばかり生きてるひとは、どんなに長生きしても生きたことにはならないのよ」
勇者「おとぎ話なんか気にするなよ」
遊び人「ねえ勇者」
遊び人「私を救ってくれて、ありがとう」
勇者「まだ何にも解決してないよ。あれもこれもどれも」
遊び人「そうだね」
遊び人「でも、今こうやって、2人で楽しいじゃん」
あらゆる障害を二人の力で乗り越えることができなくても。
あらゆる障害を差し置いて、二人で幸せを感じることはできる。
遊び人「さて、二度寝しよっか」
勇者「…………」
勇者「なあ遊び人」
勇者は上体を起こして言った。
勇者「もしも明日、世界が滅びるとしたらなんだけど」
825 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/28(土) 22:33:45.46 ID:ih6hDcQ/0
【TIPS】
『ヒロイン』
やさしい女の子のこと。
ヒロインは最初に現れている。
主人公の男の子は、旅をして、成長をして、色んな異性と出会うが。
結ばれるべき人は、最初からいる。
強くなっても。富を得ても。
誰のために強くなったか。誰のために富を得たか。
それを忘れずにい続けられたからこそ、強さや富を失わずに済んだのだ。
主人公のヒロインがたまたま第1話に現れるのではない。
最初から最後までヒロインを守り続けたから、男の子は主人公になれたのだ。
『ヒーロー』
ヒロインを守る、何者でもない男の子のこと。
826 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/28(土) 22:35:50.45 ID:ih6hDcQ/0
〜嫉妬の王国〜
キィイイイイン!!!!
研究者A「自動感知呪文が反応した!!封印の壺が割れた証だ!!」
研究者A「全員叩き起こせ!!嫉妬様にも早くご報告を!!」
研究者B「嫉妬様は、現在例の場所に……」
研究者B「何故こんな時に。仕方ない、鳥獣の魔物で伝令を送れ。俺達は暴食の鎧と色欲の鞭を回収しにいくぞ!!」
キィイインン!!!
遊び人「……っ!?」
遊び人「今の感覚!!」
遊び人「勇者!!封印の壺が割れたみたい!!」
遊び人は、大罪の装備の独特の魔力を感じた。
勇者「どの方角からだ」
遊び人「……おおよその方向だけど。花の香りの村の方面にあるみたい。私が気配をたどれば見つかると思う」
勇者「少し遠いな。嫉妬の王国の研究者たちも自動感知呪文の装置で気づいたはずだ。急ぐぞ!!」
幸いにも、封印の壺は花の香りの村の隅に埋められていた。
勇者「間に合ったな」
勇者達は暴食の鎧と色欲の鞭を手に入れた。
遊び人「強欲の都にいた術士の一人がここに埋めに来たのよね。私達の訪れたことのある場所でよかった」
勇者「これで暴食の鎧、色欲の鞭、怠惰の足枷はこちら側に。そして傲慢の盾、憤怒の兜、強欲の腕輪、嫉妬の首飾りは相手側にあることになったわけだ」
遊び人「勇者、自動感知呪文はこの二つの装備の居場所を特定し続けるよ。ここに追手が来ても、感知呪文の装置があるのは王国の旧決闘場の中だからすぐに私達の居場所がばれることはないけれど。ずっと逃げ続けることは無理だと思う」
遊び人「もし、今持っている装備を放棄すれば……」
勇者「そんなことしたくはないだろ。正直にわがまま言えって」
遊び人「……そうだね。勇者」
遊び人「嫉妬の勇者と、戦って欲しい」
遊び人「勝って、装備を全部手に入れて欲しい」
遊び人「わたし、長生きしたいんだ!!」
827 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/28(土) 22:45:54.95 ID:ih6hDcQ/0
〜魔王城〜
移動の翼を使い、勇者達は魔王城の前にたどり着いた。
魔王が君臨していた頃に施されていた結界は、全て解除されていた。
勇者「怠惰が言ってた。ここに、全ての大罪の装備がある」
遊び人「少し前に偵察で訪れた以来だね」
勇者「魔王という主なき今でも、禍々しさを感じるな。他の勇者達も、かつてここに訪れてきたんだよな。魔王討伐、その目的を果たすために」
勇者「さて、律儀に正面玄関から入る気はない。近道するぞ」
勇者は再び移動の翼を取り出した。
勇者「どうする?」
遊び人「なにが?上階に直接飛ぶんでしょ?」
勇者「移動の翼を身体中に身に着けて飛んでみるか?」
遊び人「えっ?」
勇者「ほら、俺が負けちゃう可能性もなくはないじゃん。明日死んじゃうとしたら、移動の翼を身体中につけて飛んでみたいって、食い逃げで捕まってた時に言ってなかったっけ?」
遊び人「……覚えててくれたんだ」
遊び人「もう。食い逃げって言わないの!!」
遊び人のこうげき!
勇者に3のダメージ!
勇者「はぁ!?」
遊び人「生きることだけ考えて!ほら、はやく行くよ!!」
遊び人は嬉しそうな顔をして言った。
828 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/28(土) 22:50:54.13 ID:ih6hDcQ/0
勇者達は魔王城の上階にたどり着いた。
遊び人「……さて」
遊び人「ここからは私の出番ですかね」
勇者「無理はしないでくれよ。先日の実験の時も……」
遊び人「心配ご無用。というより、心配してくれる人がいるうちは安心しちゃうってもんだよ」
遊び人は道具袋から”意思の薬”を取り出した。
遊び人「怠惰の足枷の呪いさえも克服する薬」
遊び人「わたしの遊び癖も、乗り越える意思をこれは与えてくれることがわかった」
遊び人「物体感知の呪文を唱えるわ」
遊び人は意思の薬を口に含んだ。
両手を組み、目を閉じた。
―――キィイイン。
――――――キィイイン。キィイイン。キィイイン。
遊び人「……全て捉えたわ。でも完全な結界が張られているみたい」
遊び人「大きな障害物だけでも取り除いておこうかしら」
遊び人「『開け〜、ゴマ』!!」
――――パキン!! パキンパキンパキン!!!!
遊び人「はぁ…!はぁ…!」
勇者「大丈夫か!?」
遊び人「……成功したみたい。防御壁を私の魔力が上回った……。各部屋への扉は全て開けたわ。結界がいくつか張られてるみたいだけど」
勇者「さすがだな。反則地味た力だ」
遊び人「装備は全て魔王城の中にあるよ。早く行きましょ……」グラ…
立ち上がろうとした遊び人は、ふらついた。
勇者「立てるか?」
遊び人「……ごめん。やっぱり遊び人が真面目に仕事しちゃうと反動がきついみたい。人それぞれに見合ったお仕事があるものね」
勇者「ゆっくり休んでてくれ」
遊び人「お言葉に甘えて」
勇者は遊び人を背負った。
829 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/28(土) 23:02:07.44 ID:ih6hDcQ/0
遊び人「まずはそこの大穴に落ちて」
遊び人が背中から指示を出した。
勇者「死なないかな?暗くて何も見えないぞ」
遊び人「さっき感知呪文を唱えた時に、ついでに場内の構造は全て把握しておいたから安心して」
勇者「すげえ……」
遊び人「地面に砂が敷き詰められているの。着地の衝撃で足が砕けると思うけど、回復呪文を唱えれば問題ないよ。もう勇者も有能な術士だしね」
勇者「まじかよ」
遊び人「移動の翼を使用しながら優雅に降りる方法もあるわ。今の魔王城は特殊道具も特殊呪文も使い放題よ」
勇者「それを先に言ってくれ」
勇者達は移動の翼を使いながら大穴の中に飛び降りた。
遊び人の指示に従い砂の上を歩いた。
勇者「砂漠を歩いてる感覚だな」
遊び人「うーんと、あと3歩」
勇者「あー、ここらへん?」
遊び人「うん。この真下」
勇者は遊び人を背中からおろした。
勇者「砂堀りの時間だな」
勇者は砂を掘り起こした。
しかし、いくら砂を掘っても、無尽蔵に砂が沸いてきた。
勇者「なんだこれ。永遠に穴を掘れる気配ないぞ」
遊び人「完全結界が張られてるのね。私の出番みたい」
勇者「大丈夫か?」
遊び人「駄目でも、やるしかないもの」
遊び人は意思の薬を口に含んだ。
集中した後、呪文を唱えた。
遊び人「『あめ』!!」
すると、遊び人の手の平から水が勢いよく降り注ぎ始めた。
830 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/28(土) 23:06:04.52 ID:ih6hDcQ/0
水は砂の中に吸い込まれていった。
しかし、砂は乾燥したままであった。
勇者「どういうことだよ。水が消えてくぞ」
遊び人「これでも吸収されてるはずよ。砂がものすごく乾燥してるっていえばわかるかな。喉がカラカラの勇者に、ちょっとやそっと飲み物与えても満足しないのと一緒だよ」
勇者「だとしたらこの砂喉乾きすぎだろ。雨というより滝が流れ込んでるってのに乾いたままだ」
遊び人の手の平からはゴオゴオと音を立てながら、凄まじい量の水分が流れ出ていた。
遊び人「ちょっとずつ染み込んできてるよ」
遊び人の言う通り、じっと見ていると砂が湿りはじめ、固まった。
遊び人「充分みたいね。掘り起こしてみて」
勇者「任せろ」
勇者は砂の固まりをどかした。
すると、兜が現れた。
勇者は憤怒の兜をてにいれた!
勇者「おわっ、こんなにあっさり」
遊び人「言っておきますけど、樽いっぱいの水を何百個分も局所に流せる呪文使いなんてそうそういないんですからね……」
遊び人は額から汗を流して言った。
勇者「がんばったな。よくできました」
遊び人「もう……。それにしても、嫉妬も厄介な結界を張ってくれたなぁ」
勇者「おそらくこの結界は嫉妬の首飾りで攻略化済みなんだろう。無効化すればあいつはいつでも自由に取り出せたわけだ」
勇者「よし、次の装備を探しに行くぞ。ほれ、おんぶ」
遊び人「すみませんねぇ。お邪魔します」
遊び人は勇者の背に乗った。
831 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/28(土) 23:07:35.93 ID:ih6hDcQ/0
人形がいっぱい飾られている部屋に着いた。
桃色で装飾されたかわいらしい部屋だった。
勇者「うげっ、魔王って悪趣味だな」
遊び人「魔王の部屋なわけないでしょ。あなたが憤怒の城下町で2人の過去を演説したでしょ。ここは召喚を司る四天王、マリアの部屋に違いないわ」
遊び人「寝具の横に置いてある、大きな人形を調べてみて」
勇者「大きな人形っていうか」
勇者は人形の前に立った。
勇者「これ、魔王に似てね?小さいけど」
遊び人「体内に装備の気配を感じるわ」
勇者「腹かっさばくか?」
遊び人「攻撃すると起動する危険性が高いよ。人形と戦闘になるわ。ちょっとおろして」
勇者「おいおい、大丈夫かよ」
遊び人「意思の薬はまだたくさん残ってるよ。怠惰の監獄の地からたくさん取ってきたじゃない」
勇者「俺が心配しているのは……」
勇者の言葉をよそに、遊び人は呪文を唱えた。
遊び人「『みつ』!!」
遊び人の手の平から、黄色の液体が流れ出した。
液体は人形の口の中へと流れ込んでいった。
勇者「また水か」
遊び人「水じゃないよ。蜜だよ」
勇者「似たようなもんだろ」
遊び人「お酒の成分も混ぜてるんだから」
勇者「なんで人形に酒を……うわ!」
いきなり人形は表情を浮かべた。
勇者「生きてる!」
遊び人「大丈夫。じっとしてて」
人形は最初は驚いた表情を浮かべていたものの、液体の味が気に入ったのか、頬を紅潮させ満足げな表情を浮かべた。
勇者「ちょっとかわいいな」
遊び人「ちょっとかわいいね」
832 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/28(土) 23:18:16.89 ID:ih6hDcQ/0
人形はしばらく液体を飲み続けていたが、やがて顔が青ざめてきた。
頭をふらふらと揺り動かしながら、次第に気味の悪い声を出すようになった。
遊び人「色欲の町の宴の席でお姉さんに囲まれて、調子乗った後の勇者みたい」
勇者「なにそれ!?全然記憶ないんだけど!!」
遊び人「でしょうね」
ビチャビチャ!!!
勇者「うわっ!?」
人形は身体をくの字に曲げて吐き出した。
黄色の液体に混じり、大きな物体がゴロっと吐き出されてきた。
魔王の人形は気絶した。
遊び人「……勇者」
勇者「わかってるよ。俺が取るっての」
勇者は傲慢の盾をてにいれた!
勇者はボロ布で盾を拭ったあと、道具袋に盾をしまった。
勇者「なんだか笑っちゃうよな」
遊び人「なにが?」
勇者「嫉妬の勇者がここに隠したんだろ?こんなかわいい部屋に来て、人形の中に大罪の装備を隠すなんてさ」
遊び人「……たしかに。こんなに分散させて、なんだか違和感が……」バタ…
遊び人はまたしても倒れてしまった。
勇者「もう限界じゃんかよ!!やっぱり一旦……」
遊び人「……次のフロアに行きましょう」
勇者「でも」
遊び人「占い師は今日が決戦たるべき日だと言っていたわ。他に選択肢はないのよ」
遊び人「今度は、あっちの方向に行って」
勇者「……わかったよ。ほら、おんぶ」
遊び人「うん」
遊び人は勇者の背に乗った。
遊び人「……勇者の手、ねばねばする」
勇者「吐瀉物だと思うと嫌になるだろ。俺の手汗だと思ってくれればいい」
遊び人「……わーい、べとべとの勇者の手汗だー」
力ない声で、遊び人はいつものバカバカしいやりとりを行った。
833 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/28(土) 23:19:51.98 ID:ih6hDcQ/0
遊び人を背負っている時に、呼吸がかなり乱れていることに気づいた。
勇者「本当に消耗が激しいな」
遊び人「……正直ね。お父さんの願いで賢者の真逆の職業に強制転職されたのに、賢者のお仕事してるんだもの」
勇者「身体の拒否反応か。例えるなら、戦士が呪文を使ったり、僧侶が肉弾戦をしたり、盗賊が寄付活動してるようなものか」
遊び人「よくパッと思いつくね」
勇者「勇者が逃げ回ってるようなものか、ってたとえも思いついたけど、俺は逃げるの大好きなんだよなぁ」
遊び人「……知ってます」
遊び人「そこの壁、攻撃してみて」
勇者「ここか?」
勇者は剣を構えると、壁に攻撃した。
剣は壁をすり抜けた。
遊び人「幻影呪文がかけられていたみたい。そのまま入って」
勇者達が壁の中を抜けると、大広間のような場所に出た。
勇者「だだっ広い部屋だな」
遊び人「一番奥まで進んで」
勇者「ここ横切っていくのは怖いな」
遊び人「大丈夫。ここに装備以外の気配はなかったから」
遊び人をおぶりながら勇者は大広間を歩んでいった。
大広間に奥までたどり着いた。
勇者「大きな石がある」
遊び人「この中から装備の気配がする」
勇者「どうする?」
遊び人「生き物じゃないみたいだし、とりあえず攻撃してみたら?」
勇者「よっしゃ」
勇者は剣を構えた。
勇者「ふぅー……。行くぜ!!」
勇者「死ねぇええ嫉妬ぉおおおおおおお!!!!!!!」
勇者のこうげき!
石の表面に切り傷を与えた。
勇者「やったか!?」
石の表面はただちに自己修復し、切り傷は消えてしまった。
勇者「なっ!?馬鹿な!?」
遊び人「今の一連の勇者、完全に悪役だったよ」
834 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/28(土) 23:27:28.57 ID:ih6hDcQ/0
遊び人「体力を回復しつづける結界ね。自身だけを回復し続ける賢者の石みたいなものかな」
遊び人「ちまちまと攻撃を与えても壊せないね」
遊び人は意思の薬を取り出した。
薬を持つ遊び人の手は震えていた。
勇者「待って!!いいこと考えた!!」
遊び人「なに?」
勇者「大罪の装備の力を借りる」
遊び人「何の装備をどう使うの?」
道具袋の中には、暴食の鎧、色欲の鞭、傲慢の盾、憤怒の兜が入っていた。
勇者「ええーっと……」
遊び人「大罪の装備は理性を飲み込む力を持つってこと、散々聞いてきたでしょう?このサイズの石を壊す分だけに使うには、あまりに装備の使用経験が足りないよ」
勇者「じゃあどうすれば」
遊び人「私が呪文を使うのよ」
勇者「もう駄目だって!!」
遊び人「死にはしないから」
勇者「死ななければ何でもいいのかよ!!」
遊び人「そうだよ。生きていればそれでいい」
遊び人は意思の薬を口に含んだ。
遊び人「生きていれば、なんとでもなるもの」
遊び人は祈り始めた。
遊び人「大罪の装備を使って破壊しにくい結界が揃っていたのは、偶然じゃないのかもね」
遊び人「嫉妬の勇者の考えてることが、だんだんわかってきた気がするよ」
遊び人「こんな繊細で強固な結界を一人で壊せるのは、私しかいないでしょうから」
遊び人「『さん』!!」
遊び人が呪文を唱えると、手の平から液体が垂れ始めた。
石に水滴があたると、煙を出して溶け始めた。
835 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/28(土) 23:39:12.62 ID:ih6hDcQ/0
勇者は注意深く、割れた石から出てきた腕輪を掴んだ。
強欲の腕輪をてにいれた!
遊び人「液体って便利ね……」ドサ!
遊び人は倒れた。
勇者「遊び人!!」
遊び人「へへ……働きすぎちゃったな……」
勇者「無理し過ぎだ。本当に限界だ」
遊び人「……そうね。それが奴の狙いだったのよ」
勇者「どういう意味だよ。さっきも嫉妬の勇者が考えてることがわかった気がするって」
遊び人「きっと、私が意思の薬を使ってこの結界を破壊することは想定済みだったんだよ。罠といってもいいかもしれない」
勇者「あいつは精霊を破壊されるのを恐れてるんだろ。あいつの隠していた大罪の装備をまんまと奪って。それがあいつの狙いだっていうのか?」
遊び人「ぎりぎり私達に勝てる状況を考えたのよ」
遊び人「あまりに盤石な態勢で構えると私達がまた逃げるとも限らない。あまりに無防備だと私達に倒されるでしょう?九分一分の勝利ではなく、六分四分で勝つことを考えたのよ」
遊び人「ちょっと気になるものを感知したの。そこの階段を降りていった先に行ってほしいの」
勇者「もう呪文は使うなよ」
遊び人は返事をしなかった。
836 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/28(土) 23:40:02.05 ID:ih6hDcQ/0
歩いている途中、遊び人はまた話をし始めた。
遊び人「マリアの部屋の話に戻るけど。かわいいお人形さんの中に傲慢の盾を入れたのは、きっと敬意なのよ」
勇者「敬意?」
遊び人「魔族に対する敬意。憤怒の兜は砂の中に埋めてあった。あの大穴の中は、砂の怪物と呼ばれる四天王の部屋だったんだと思う。強欲の腕輪のあった大部屋はきっと、再生を司る巨壁の部屋」
勇者「魔王を捕縛して触媒代わりにしているのに敬意だなんて」
遊び人「大罪の装備がなければ人間は魔族に勝ち目はなかったでしょ」
遊び人「倒した敵に敬意を払うことで、それに打ち勝った自身の価値を認めてるだけかもしれないけれどね」
遊び人「着いたみたい。そこの扉を開けて。鍵は壊してあるから」
837 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/28(土) 23:44:18.18 ID:ih6hDcQ/0
扉を開けると、暗闇が広がっていた。
勇者「真っ暗だな」
遊び人「何も見えないね」
勇者「でもなんだろう。なんか、花の香りがする気がする……」
遊び人は勇者の背中から降りた。
勇者「立てるか?」
遊び人「勇者がいれば」
遊び人は勇者に寄りかかりながら、暗闇の中を進んだ。
遊び人「ここらへんね。勇者、目をつむって」
勇者「うん」
勇者は目を閉じた。
遊び人「『ほし』」
838 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/28(土) 23:47:18.00 ID:ih6hDcQ/0
ドサッ…
勇者「遊び人!?」
勇者が目を開けると、遊び人が倒れていた。
勇者「また結界を破ったんだろ!!意思の薬を使って!!」
遊び人「……ここは夢を司る四天王の部屋だったのよ。星明りのおかげで、いいものを見つけられたわ」
遊び人の右手には紫色の輝剣が握られていた。
勇者「精霊殺しの魔剣……」
遊び人「これで秘宝とも呼ぶべきものは全部奪えたわ。あとは、ひとつの大罪の装備を気配を感じるだけ」
勇者「それが嫉妬の首飾りなんだろ。遊び人がこんな状態でいけるかよ。一旦どこかの村に避難して……」
遊び人「駄目みたいだよ」
勇者は振り返った。
いつの間にか、さきほどまで歩いてきた道は消滅していた。
代わりに、地面には赤い絨毯が敷かれており、一直線の道が生まれていた。
勇者「やっぱり、全部奴の罠だったんじゃないか!」
遊び人「赤い糸の呪文と似たようなものね。4つの秘宝に糸を巻き付けてあったのよ。全てに絡めたられた結果、ここまでおびき寄せられた。絶妙な数と配置のバランスだったわ」
遊び人「でもね、罠にひっかかったとは言い切れないわ。嫉妬にとってもこれは苦肉の策だったのかも。肉を切らせて骨を断つために、どこまでの肉を差し出すべきか彼自身図りかねていたのよ」
勇者「ふざけんなよ。赤い絨毯の上なんて、魔王との決戦かよ」
遊び人「私はカジノをおもいだすけどな」
勇者「それだったらどんなにいいことか」
遊び人「ふふ。あれはあれで命懸けの決戦だったじゃない」
839 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/28(土) 23:56:54.90 ID:ih6hDcQ/0
〜魔王城 最深部〜
勇者と遊び人は絨毯の上を歩いた。
一本に進む真っ直ぐな道。
2人は、見覚えのある形状の建物にたどり着いた。
勇者「魔王城に、一番似つかわしくないだろ」
円形状の屋根。
先端に聳える十字架。
明かりを取り入れるステンドグラス。
勇者「決戦の場は、教会か」
嫉妬「……来たか」
勇者達が扉を開けると、嫉妬の勇者が座っていた。
勇者「魔王の玉座に座ってんじゃねーよ。卓上で説教でもしてろ」
勇者「大罪の装備はあるだけ奪ってやったぜ。全部手元に置いておけばよかったのに」
嫉妬「いつまでも逃げられては、俺も老人になってしまうのでな。寿命が尽きなければの話だが」
嫉妬「お互いわかっていたはずだ。今夜この状態で対峙することを」
嫉妬「貴様らも強欲の都の近くにある転職神殿に行ったのだろう。そして例の占い師に尋ねたはずだ。最も俺様に挑むべき時はいつかとな」
嫉妬「俺も同様に尋ねた。貴様らの挑戦を受けるべき時はいつかとな。それは、お互い同じ今日という日に当然なろう」
嫉妬「俺が勝利する可能性を確保するにあたって、その賢者の女の意思を削ることが重要な要素だった。精霊を殺す力を持つからな。俺も全ての呪文を攻略化しているとはいえない。大罪の一族というイレギュラーを相手にしたくはないのでな」
嫉妬「お前らにとっては精霊殺しの装備の数が重要な要素だ。通常攻撃でいくら俺を殺しても、精霊は死なないからな」
840 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/28(土) 23:57:41.43 ID:ih6hDcQ/0
嫉妬「さて、交渉といこう」
勇者「交渉?」
嫉妬「貴様達のこの旅の目的は1つだ。そこの遊び人の寿命を延ばすために大罪の装備を7つ集め、寿命を吸い取りたいのだろう?」
嫉妬「今すぐ叶えさせてやろう。装備を持って俺のところまで来い。寿命を何十年分か吸ったあとは自由なところへ逃げればいい」
勇者「信じられるかよ。お前が首飾りを投げて寄越せ」
嫉妬「威勢だけはいいな。守る力もないというのに」
勇者は顔を赤くした。
嫉妬「戦う手間を省いてやると言ってるんだ。お前らなど殺すのは容易い」
遊び人「勇者、信じる必要ないよ。こいつが私を嫉妬の王国に監禁してたのは、大罪の賢者の生き残りである私の力を必要としていたから。きっと、特殊な儀式の触媒か何かに私が必要なのよ。生きて逃がすつもりなんかない」
嫉妬「それは早とちりもいいところだ。確かにお前らは引き裂かれるかもしれん。そこの女は必要なのでな」
勇者「てめぇ……」
嫉妬「だが、勇者。お前は逃してやろう」
勇者「逃がす……?」
嫉妬「お前は無傷で逃してやる。なんなら、怠惰の代わりとして俺の片手にしてやってもよい」
嫉妬「お前は面白い存在だ。憤怒の街で会った時から、異様な速度で成長を遂げた。賢者のような慎重性をそなえながら、勇者としての無謀さもそなえている、腹心の部下とはならないだろうが、俺を愉しませる働きぶりをしてくれるだろう」
嫉妬「どうだ。世界の半分をやるから、俺の仲間にならないか?」
嫉妬は手を差し出した。
遊び人は勇者を見た。
勇者は嫉妬をまっすぐ見つめて言った。
勇者「俺は無謀なんかじゃない。恐れ知らずじゃない」
勇者「勇気は、出すのが怖いからこそ価値があるんだ。誰よりも臆病な俺が勇気を出すほど、この子は価値有る存在なんだ」
勇者「俺の世界の半分は、ここにある!!」
遊び人「むわっ?」
勇者は遊び人の頭に手を置いた。
勇者「そして、もう半分はここにな!!」
勇者は自分の胸を叩いた。
遊び人は、照れくさそうにクスクス笑った。
遊び人「他の世界はないのかしら」
勇者「あいにく、俺も勇者なりたてなんでな。他の世界など知った事か」
そういいながら、命がけで勇者は立つ。
勇者「この子は俺が救う!!」
勇者「大罪を贖え、嫉妬!!」
たたかおうとする男を見て。
全身が震えた。
自分を守ろうと立つ男の表情は、こんなにも頼もしいものなのかと驚いた。
委ねたいと思わせる安心感があった。
紛れもなく、勇者と呼ぶべき存在であった。
伝説が生まれてから、伝説の姿が生まれるのではない。
名も無き時代から、既にそこにいるものたちは、伝説だと感じているのだ。
これが、英雄の姿なのかと。
841 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/29(日) 00:00:48.51 ID:lRCTzg150
嫉妬「……くだらん!!」
嫉妬「命を賭してまで守るべき他者など、存在するものか!!」
嫉妬は、妬みと嫉みの入り混じった形相で勇者を睨みつけた。
嫉妬「四肢をもぎ取ったあと再び尋ねてやろう!!そこの女の命と自分の命のどちらが大切かとな!!」
遊び人「あなたの望みは何なの?魔王を倒した存在として、世界の英雄になること以上の栄誉なんて……」
嫉妬「俺を奴隷として散々虐げてきたこの世界の、英雄になれと言うのか!!」
嫉妬「強国の姫君と結婚し、民の模範として清く正しく生きろというのか!また魔物の残党狩りなどにでろと言うのか!!笑わせてくれる!!」
嫉妬「俺はこの世界の王になるのだ!!全ての人間と、魔物の王に!!」
嫉妬「そして、俺以外の全ての人間は奴隷として生きるのだ!!」
嫉妬「暴食!!」
嫉妬「俺は俺が選ぶものを食すことを許される!夫婦の妻の人肉を食しても、夫は俺に感謝しなければならない!!」
嫉妬「色欲!!」
嫉妬「俺は俺が選ぶ女を犯すことを許される!街中の美しい女をすれ違いざまに犯しても民は見過ごさなければならない!!」
嫉妬「憤怒!!」
嫉妬「俺は好きな感情を出すことを許される!気まぐれに人を殺す!気に食わなかったら殺す!!気にいっても殺す!!」
嫉妬「傲慢!!」
嫉妬「民は俺をあがめ無ければならない!全ての民は俺が命じた時に俺に祈りを捧げる!!灼熱の地域で飢えている時でも、極寒の地域で疲弊している時でもな!!」
嫉妬「怠惰!!」
嫉妬「俺は何も生み出さぬことを許される!!民が必死に生み出したあらゆる財産は、俺の所有物となる!!」
嫉妬「強欲!!」
嫉妬「俺は更なる命を求める!そこの女との子供を生み、大罪の賢者の一族を復活させる!!我が子の寿命を大罪の装備に吸収させ、俺は永遠の寿命を得続ける!!」
嫉妬「嫉妬!!」
嫉妬「そして、勇者共!!俺の可能性を奪う可能性を持つ者ども!俺の欲望の一部を既に叶えしものども!こいつらから精霊の加護を奪い取り、俺は絶対的命の保証をする!」
嫉妬「人間にとっての最大の欲望は何か!!人間を支配することだ!!」
嫉妬「俺は、国王、勇者、魔王を超えた存在となり、この世界に君臨する!!!」
嫉妬「7つの大罪の装備を全て身につけることによって寿命を吸い生き続け、そして全ての欲望を満たし続ける!!」
嫉妬「俺は永遠にこの世界を支配するのだ!!!」
勇者「……てめぇ」
勇者「ふざけんじゃねえ!!!」
遊び人「勇者……」
勇者「色欲!!」
勇者「この子と大所帯をもつのは、この俺だ!!」
842 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/29(日) 00:06:27.77 ID:lRCTzg150
誰もが、美味しいものを食べていられる世界。
誰もが、美しく思う人と愛し合っている世界。
誰もが、自分で自分を誇りに思っている世界。
誰もが、感情を出すことを許されている世界。
誰もが、自由にゆったりと過ごしている世界。
誰もが、求め続ける事を認められている世界。
誰もが、他者を尊敬し合うことのできる世界。
暴食、色欲、傲慢、憤怒、怠惰、強欲、嫉妬。
7つの欲望が大罪と呼ばれたのは。
これらの世界が、諦めざるを得ない、夢物語であるからだ。
【最終章 魔王城 『命を越えた時間』】
けれど、たった1つだけ。
世界が滅ぶ、1日前に叶えることができるとしたら。
何をしてみたいですか。
まして。
これらの願いを超えるほどの出会いが、僅かにでもあるのなら。
そのためだけに、生きていたくないですか。
843 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/29(日) 02:09:09.34 ID:SjD+g+AR0
乙
844 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/29(日) 21:16:58.45 ID:C5ujVBbk0
今日はあるかな
845 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 00:10:02.97 ID:BTByofbZ0
勇者「遊び人」
勇者は小声で尋ねた。
勇者「移動の翼で逃げ切れないかな。これだけ大見得を切った後に逃げ出せたら最高だろ?」
遊び人「私も考えたけど、ここだけ建物の周囲に結界が施されてるみたいなの」
勇者「そうか……」
勇者は地形を確認した。
建物は見た目こそ教会であるものの、広大な面積や、障害物の少なさ等から見て、明らかに戦闘場としての構造をしていた。
上を見上げると、豪華な装飾が施された照明が吊るされていた。太陽の光を吸収する発光石が埋められているものだ。
勇者「移動の翼を使っても、ふしぎなちからでかき消されるわけじゃないんだろ。遊び人、建物上部に吊るされている巨大な照明のところまで飛ぶんだ。その上に乗っかって避難しててくれ」
勇者「俺は大罪の装備を使うから。理性を失った時、遊び人を攻撃してしまうかもしれないから」
遊び人「……うん。わかった」
846 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 00:11:57.49 ID:BTByofbZ0
勇者「あと、もう一度確認したい。あいつの体内にはいくつの精霊が宿ってる?」
遊び人「……大きな白い塊になってて数がわからないの。でも、憤怒が精霊を破壊した時に、ゆらぎが生じて数を確認できたわ。その時は6つだった。そして、強欲の都で破壊したから、5体のはず」
遊び人「一度とどめを刺すのに使用した呪文や装備が全て攻略化されるとして」
遊び人「暴食の鎧。色欲の鞭。憤怒の兜。傲慢の盾。怠惰の足枷。強欲の腕輪」
遊び人「憤怒の兜と強欲の腕輪は攻略化済だから、大罪の装備だけだと4体分しか倒せない」
勇者「魔剣もある。あいつは精霊を犠牲にしてまで攻略化はしないって怠惰が言ってた。それでちょうど5体分だ」
遊び人「……そっか」フラ…
遊び人は、また倒れかけた。
勇者「遊び人!!」
勇者が抱きかかえると、身体中が震えていた。
顔は青ざめており、鼻からは血が出ていた。
遊び人「それに、あと、1回……」
勇者「えっ?」
遊び人「あと1回だけなら、呪文を使えると思うから……いざという時は……」
勇者「いざなんて起こさせない!なんなら、あいつの首飾りを奪えば勝利は確定なんだ」
勇者「勇者の俺に戦わなくていいって言ってくれただろ。遊び人のお前には戦わせないよ」
遊び人「私は、寿命泥棒だから……。勇者の寿命、また減っちゃうから……」
勇者「そんなことないよ。あいつ倒して、2人で1000才まで生きるんだろ?」
遊び人「……そうなの?」
勇者「今決めたんだ。ほら、行って来い」
遊び人「……うん。照明の上で遊んでくるね」
勇者「その意気だ」
遊び人は移動の翼を使用した。
847 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 00:12:40.64 ID:BTByofbZ0
嫉妬「大事な打ち合わせは事前にしておくんだったな。まだ1回呪文を使えるそうじゃないか」
勇者「遊び人様の出る幕なんかねーよ」
勇者は大罪の装備を取り出した。
嫉妬「そうか。確かに貴様らは幸運だ。失われた精霊の補充の準備をしていたが、明日整うはずだった」
勇者「明日まで延期しなくてよかったのかよ」
嫉妬「私もそうしたい気持ちは山々だったのだが。貴様らとの力の均衡が揃うのは今日だというからな」
嫉妬「強力な魔族に対抗できるよう精霊が人間に宿るのと同様、世界は平等を望む傾向にあるらしい」
嫉妬「嫉妬の首飾りがこちら側にある以上、俺は平等とも思っていないがな」
848 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 00:13:17.92 ID:BTByofbZ0
勇者「話を延ばして明日にまで延ばすつもりかよ。こっちは生き急いでるんだ」
勇者「さっそくだが、俺の故郷からのお返しだ」
勇者は怠惰の足枷を装備した。
勇者「廃人と化せ」
勇者は怠惰の足枷を使用した。
嫉妬の攻撃力が極限まで下がった。
嫉妬の防御力が極限まで下がった。
嫉妬の素早さが極限まで下がった。
嫉妬の魔力が0になった。
嫉妬の反応力が極限まで下がった。
嫉妬の集中力が極限まで下がった。
嫉妬の判断力が極限まで下がった。
嫉妬の決断力が極限まで下がった。
嫉妬は足元から崩れ落ちた。
勇者は剣を構えながら嫉妬に近づいた。
嫉妬は目を閉じていた。
勇者「このまま、首飾りを奪えば……」
849 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 00:14:13.86 ID:BTByofbZ0
勇者は嫉妬を殺害しないよう気を付けた。
大罪の装備を使用して殺害してしまえば、嫉妬の首飾りによって攻略化され、復活後の戦闘では無効化されてしまう。
裏を返せば、殺害に至らせなければ、いくらでも装備の効力を発揮できるということであった。
勇者「一生うなだれててくれ」
勇者は嫉妬の首飾りを奪おうとした。
その時嫉妬の目が開いた。
嫉妬は剣を握っていた手を動かした。
勇者は咄嗟に、怠惰の足枷を履いたまま嫉妬を首を踏みつけた。
足枷の底の無数の針が貫通し、嫉妬の首に突き刺さった。
嫉妬「ガァ……」
バリィイイイインン!!!!
嫉妬の精霊は破壊された。
死の刹那、嫉妬は怠惰の足枷に対する強烈な感情が芽生えた。
嫉妬は絶命した。
850 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 00:15:05.92 ID:BTByofbZ0
嫉妬は即座に棺桶に保管された。
神官としての職業が、嫉妬自身を蘇らせた。
嫉妬は復活した。
勇者「まずい……!!」
勇者は後方に飛び退き、距離を取った。
勇者「意思の薬を使用していたんだな!!」
嫉妬「その通りだ。だが、さすがは怠惰の足枷の効力だ。お前など簡単に斬りつけられたはずだったのだが」
嫉妬「いきなり首飾りを奪いに来るとはな。弱者にふさわしい戦い方だ」
嫉妬は余裕の表情を見せた。
嫉妬「さて、間もなくお楽しみが届くぞ」
勇者「何を……」
その時、上空から大きな声が聞こえた。
遊び人「勇者!!!精霊のゆらぎが見えたの!!」
遊び人「精霊が、まだそいつの体内に5体いるの!!」
遊び人「強欲の都での戦闘から、1体分補充していたんだわ!!」
851 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 00:16:01.77 ID:BTByofbZ0
嫉妬は笑いだした。
嫉妬「貴様らがのこのこ逃げている間に、俺ものんびりと待っていたわけではない」
嫉妬「精霊の取り込みには7体という上限がある。加えて、1体の取り込みには数ヶ月以上の歳月を要する」
嫉妬「憤怒の勇者に破壊された分は、王国に保管してある精霊のストックから吸収させてもらっていた」
嫉妬「さて、貴様らの計算によると、どうやらあの遊び人も一度は呪文を使う必要が出てしまったな」
勇者「くっ……」
勇者は怠惰の足枷を使用した。
嫉妬「無駄だ」
嫉妬の首飾りが鈍く光った。
嫉妬の攻撃力は変わらなかった。
嫉妬の防御力は変わらなかった。
嫉妬の素早さは変わらなかった。
嫉妬の魔力は変わらなかった。
嫉妬の反応力は変わらなかった。
嫉妬の集中力は変わらなかった。
嫉妬の判断力は変わらなかった。
嫉妬の決断力は変わらなかった。
嫉妬に変化は生じなかった。
嫉妬「貴様ごときの所有物に対する妬みが、1つ減ったというわけだ」
嫉妬「無効化に消費する寿命は僅かとされているのは聞いておろう。無数に唱えようが貴様の寿命が尽きるほうが先だと思うが」
勇者「俺は、俺に出来ることをやるだけだ!」
勇者は怠惰の足枷を脱いだ。
勇者は暴食の鎧を取り出した。
852 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 00:16:39.69 ID:BTByofbZ0
勇者が装備を身に付けようとしている間に、嫉妬は薬瓶を飲んでいた。
勇者「……魔力を回復する薬瓶か」
嫉妬「こればかりは精霊の加護による復活でも回復できんのでな」
嫉妬「『マハンシャ』」
嫉妬の身体を魔法反射壁が覆った。
勇者「なんだか、人間らしい戦い方をするじゃんか」
勇者「『マハンシャ』」
勇者は新しく覚えた呪文を唱えた。
勇者の身体を魔法反射壁が覆った。
嫉妬「俺達ほど人間らしい人間もそうはいないだろう。人間らしさの欠片も無い人間こそ、最も人間らしいというものだ」
勇者「……これからの俺を見て、もう一度同じことを言えるのかよ」
勇者は暴食の鎧を身に着けた。
853 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 00:18:46.43 ID:BTByofbZ0
勇者「…………フー。フー」
勇者は目を血走らせて周囲を見た。
勇者「フー。フー。フー……」
今にも死んでしまいそうなほどの飢えを感じていた。
目に映る光景全てを胃袋に収める衝動に駆られた。
嫉妬「魔法壁ほど焼き尽くしてくれる!!」
嫉妬「『レヴィアタン』!!」
嫉妬が呪文を唱えると、雷撃が勇者に向かって迸った。
勇者「ウガァアアアア!!」
ゴクリ……。
勇者は雷撃を飲み込んだ。
嫉妬「……なら、分裂なら防げまい」
嫉妬は剣を収め、炎の玉を両手に創り出した。
嫉妬が呪文を放つと、勇者の両脇へと呪文が飛んだ。
勇者「ウガァアアア!!」
勇者は自身の身体の大きさ以上に口を広げ、バクン、と二つの玉を同時に飲み込んだ。
嫉妬「なるほど。だが」
嫉妬はその隙に勇者の懐へと入った。
嫉妬「終わりだ」
嫉妬は勇者の喉元へと剣を突き刺した。
勇者「ギッ……!!」
854 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 00:19:21.75 ID:BTByofbZ0
勇者は目を反転させた。
しかし、暴食の鎧は勇者の胃袋を休ませなかった。
勇者が喉を動かすと、突き刺さった剣は胃袋へと流れていった。
嫉妬「……化物か」
勇者は嫉妬の右腕を喰らった。
勇者の喉の傷はたちまち癒えた。
勇者「ウゥウウゥワアアアアアアア!!!!!」
勇者は大口を開けた。
嫉妬の身体を超えるほどの大穴が目の前にあった。
嫉妬「これが、暴食の鎧の力か」
勇者は嫉妬を、丸ごと飲み込んだ。
勇者「……グェップ」
バリィイイイイイン!!!
精霊の砕ける音が勇者の胃袋から響いた。
死の刹那、嫉妬は暴食の鎧に対する強烈な感情が芽生えた。
855 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 00:19:52.55 ID:BTByofbZ0
遊び人「どうしたのかしら……」
遊び人が上空から勇者を見下ろしていると、勇者が呻いているのが見えた。
勇者「……ウオェ。ウボェ……」
勇者「オェエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!」
勇者は大口を開け、胃袋に飲み込んだものを吐き出した。
嫉妬「……くそが。地獄のような居心地だったぞ」
嫉妬は簡単な浄化呪文を自分にかけた。
勇者「……うおぇ。うげぇええ……」
正気を取り戻しかけた勇者は、暴食の鎧を脱ぎ捨てた。
勇者「……お前のクソ不味さが、胃袋から口内にまで広がってきたぞ……うぉええええ!!!」
ビチャビチャビチャ!!!!
嫉妬「口に合わなかったようで残念だ」
嫉妬は鈍い光を放ち終えた首飾りを撫でた。
856 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 00:21:06.14 ID:BTByofbZ0
勇者「残り4つ……」
勇者「頼んだぞ、俺の相棒よ」
勇者は色欲の鞭を取り出した。
嫉妬「俺を興奮させようというのか?」
勇者「野郎同士で交わる趣味はねーよ。少なくとも俺はな」
上空から聞こえる声を無視して、勇者は色欲の鞭を装備した。
勇者「…………ハァ…ハァ…」
勇者は肉体が高潮していくのを感じた。
勇者「陵辱…シテ…ヤル…」
嫉妬「弱き者が高き者を抱くことなどできないのだがな」
嫉妬「『レヴィアタン』!!」
嫉妬は電撃呪文を唱えた。
勇者は鞭をふるった。
撫でられた電撃は従順になり、鞭にまとわりついた。
勇者「『火炎ノ精』!!!」
勇者は火炎呪文を唱え、空中に浮遊させた。
勇者「『氷水ノ精』!!!」
勇者は氷水呪文を唱え、空中に浮遊させた。
勇者「『風塵ノ精』!!」
勇者は風の呪文を唱え、空中に浮遊させた。
勇者「交ワレ!!」
勇者は鞭を無茶苦茶に振り回した。
相異なる4つの属性は、お互いを相殺し合うことなく交わり合いだした。
鮮やかな四色の呪文は、溶け合いながら変色をした。
857 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 00:22:08.76 ID:BTByofbZ0
嫉妬「馬鹿な……!3属性以上の合体だと!」
勇者「ウグッゥゥゥゥゥゥウ!!!」
勇者は一層激しく鞭を振り回した。
呪文はお互いを激しく求めあった。
鞭には、鮮やかな漆黒色が纏わり付いていた。
勇者「ウァアアアアアアア!!!!」
勇者は鞭を嫉妬に叩きつけた。
嫉妬は咄嗟に結界を張った。
鞭は結界の表面で弾かれた。
嫉妬「はぁ…はぁ…威力はないようだな…」
嫉妬「……なっ!?」
鞭に纏わり付いていた漆黒色が結界に纏わり付いた。
黒色はウヨウヨと無数に分裂し、一つ一つが小さな生命体として運動を始めた。
結界はゴリゴリと削れていった。
勇者「破レ!!!!」
結界は瞬く間に崩壊し、黒色の粒の波が嫉妬の身体に覆いかぶさった。
嫉妬「……グァアアアアアアアアア!!!!」
嫉妬の髪、眼球、胸、下半身。
身体の隅々にまで行き渡った生命は表面から食い破った。
無数の命の種子は、嫉妬の心臓を食い破った。
バリィイイイイイン!!!!!
ガラスの割れる大きな音が聞こえた。
死の刹那、嫉妬は色欲の鞭に対する強烈な感情が芽生えた。
858 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 00:22:50.73 ID:BTByofbZ0
勇者「ハァ……ハァ……」
勇者「ハァ……ッ!?」
一度死亡した嫉妬は、精霊の加護により復活した。
嫉妬の首飾りが鈍く光ると、黒色の生命はお互いを憎み合い始めた。
先程まで協力しあっていた無数の命は、自分の欲望を最優先させ殺し合いを始めた。
勇者は途端に空虚さと罪悪感に襲われた。
鞭はもはや艶めかしさを失っていた。
勇者は色欲の鞭を手放した。
嫉妬「命を奪う種子か。寿命を食らう鞭にふさわしい使い方であったぞ」
嫉妬「さて、次はどうする?」
859 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 00:23:44.29 ID:BTByofbZ0
勇者「残り3体……」
勇者は傲慢の盾を取り出した。
嫉妬「虫唾が走るな。俺様の装備を貴様が使っているのを見るとな」
勇者「くれたんじゃなかったのかよ」
嫉妬「貴様に永遠の命などふさわしいものか。傲慢も甚だしい」
勇者「だったら余計にこの装備が俺にふさわしいじゃねえか」
傲慢「奢るものは久しからずという言葉も知らないのか」
勇者「そうやって傲慢を知った気になってることを、傲慢っていうんだよ!!!
勇者は傲慢の盾を使用した。
860 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 00:24:30.31 ID:BTByofbZ0
嫉妬はほくそ笑んでいた。
勇者は傲慢の盾の効力を、傲慢の勇者の話から聞いた限りで知っている。
一方、嫉妬は一度傲慢の盾を長い間保有していた。
当然、その効力については熟知している。
嫉妬は剣を懐にしまった。
勇者「くっ!」
嫉妬「お気づきの通り。その盾は、攻撃を仕掛けた者にしか効力を発揮しない」
勇者「だったら、一方的に殴りつけて……」
嫉妬「『風塵の精』!!」
嫉妬は自分の周囲に、高速で蠢く風の刃を出現させた。
嫉妬「あくまで防御としての役割だ」
嫉妬はそういうと、地面に座り込んだ。
地面に魔法陣を描き、詠唱を唱え始めた。
上空から遊び人の声が響いた。
遊び人「勇者!!そいつの詠唱を中断させて!!」
遊び人「大量召喚の術式よ!!」
861 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 00:25:05.81 ID:BTByofbZ0
遊び人「無数の小さな魔物を出現させるつもりなの!!傲慢の盾で全滅させようものなら中毒で倒れるか、寿命が尽きてしまうわ!!」
勇者「どうすりゃいんだよ!!」
嫉妬の周囲には風塵が巻き起こっており、傲慢の盾を前にして突き進んでも勇者の身体を守れそうにはなかった。
また、嫉妬にかけられている魔法反射を打ち砕くほど、勇者は強力な魔力を持っていない。
遊び人「武器を持ち替えて!!」
勇者「何にだよ!!」
遊び人「早く!!」
勇者が慌てふためいていると、頭上から魔法銃を発射する音が聞こえた。
862 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 00:25:36.73 ID:BTByofbZ0
遊び人「きゃああああああああああ!!!」
吊るされた巨大な照明ごと、遊び人が頭上から落ちてきた。
異変に気づいた嫉妬は召喚の呪文を中断した。
同時に、嫉妬の周囲を覆っていた風塵は消え去った。
嫉妬「まずい……!」
嫉妬は咄嗟に、遊び人の落下地点を予測し風塵の呪文を唱えた。
風は切り刻む刃としてではなく、衝撃緩和としての役割を果たした。
勇者「っっっ!!!!」
勇者の突き出した魔剣は、嫉妬の身体を掠めた。
嫉妬は反射的に態勢を変え、勇者の攻撃を躱していた。
863 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 00:27:14.36 ID:BTByofbZ0
嫉妬「……貴様」
嫉妬「仲間の女を囮にして敵に救出させ、その間を突いたか!!」
嫉妬「どこまでも勇者にふさわしくない奴だ!!」
嫉妬は怒りの形相を浮かべた。
嫉妬「『レヴィアタン』!!!!」
勇者「ぐぁあああああああああ!!!!!」
勇者は雄叫びをあげた。
嫉妬「この俺を侮辱するような真似をしてくれたな!!!」
嫉妬は勇者の右腕をめがけて剣を振るった。
嫉妬「お前はただでは殺さん!!その寿命が尽きるまで、永遠に拷問を加えてやろう!!」
嫉妬は勇者の左腕をめがけて剣をふるった。
勇者「ぐぅぅうううあああ!!!???」
嫉妬「貴様は!!貴様は!!!」
嫉妬は勇者の身体をめがけて何度も剣をふるった。
嫉妬の前には、四肢を切断され、血しぶきをあげている勇者の姿があった。
嫉妬は屈み込み、倒れている勇者に顔を近付けた。
嫉妬「貴様だけは死ぬことさえ許さん!!!!」
勇者「それは助かる」
嫉妬の背後から、大きな盾が振り落とされた。
嫉妬「ガァ……!?」
盾の下部の先端が、嫉妬の首の骨を折った。
バリリイイイインン!!!!!
精霊の砕ける音が響いた。
死の刹那、嫉妬は傲慢の盾に対する強烈な感情が芽生えた。
864 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 00:28:26.01 ID:BTByofbZ0
勇者は遊び人の元まで駆け寄った。
勇者「無茶すんなって言っただろ!!」
遊び人「あいつは私を守らなくちゃいけないから……でも、精霊を1つ破壊できた」
勇者「お前を守らなくちゃいけないのは俺だっての」
嫉妬が召喚及び風塵の呪文を中断させ、遊び人が落下した直後、勇者は魔剣を持ち嫉妬に近づいた。
魔剣による攻撃は失敗したが、左手で傲慢の盾を構えていた。
怒りに身を任せた嫉妬は勇者を攻撃したため、傲慢の盾が発動した。
傲慢の盾の能力は、錯覚。
相手が自身を勝者だと思いこむような幻想を見せつける。
嫉妬は己の理想の光景を思い描いた結果、本来何もない空間に、勇者が瀕死になりかけている幻想を見ることとなった。
勇者「残り2体……」
865 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 00:29:14.31 ID:BTByofbZ0
勇者「遊び人。頼みがあるんだ」
遊び人「うん」
勇者「俺が魔剣であいつの精霊を破壊する。そしたら……」
遊び人「呪文を使って最期の精霊を破壊してほしいんでしょ?」
勇者「……悪い」
遊び人「帰ったらゆっくり寝るから大丈夫だよ」
勇者「聞いておきたいことがある」
勇者「あいつがイレギュラーと呼ぶような呪文はあるのか?あいつがまだ絶対に対象化していないような……」
遊び人「無いって言ったら絶望だよね」
勇者「笑うしかない」
遊び人「負けて無理やり笑う必要なんかないよ」
遊び人は声を潜めて勇者に言った。
遊び人「お姫様から情報を掴んでるの。嫉妬は、禁術に対する対象化をいくつか行えていない。撃退できる呪文は覚えてるわ」
勇者「……わかった」
遊び人「さっ、早く終わらせてカジノにでも行きましょ。私は後ろで見守ってるから」
勇者「緊張感の無いやつだ」
勇者は再び力を込めて魔剣を握った。
866 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 00:30:59.40 ID:BTByofbZ0
嫉妬「俺に剣技で挑むか。裸で臨むようなものだが」
勇者「こいつにも手伝ってもらう」
勇者は、既に攻略化されている強欲の腕輪を装備した。
勇者の意識ははっきりとしていた。
勇者「やはり、理性を奪うような装備じゃないんだな。通常時と感覚は違うけど、闘志が沸くような感じだけだ」
勇者は魔剣を構えた。
勇者「やっぱり最後は、捨て身しかねえよなぁ!!」
勇者は嫉妬に向かって突進した。
嫉妬「愚かな」
嫉妬「『レヴィアタン』!!」
嫉妬から雷撃が迸った。
勇者「『マハンシャ』!!」
勇者が一度呪文を唱えると、嫉妬の周囲を32個の魔法反射鏡が覆った。
雷撃は乱反射し、嫉妬自身を襲撃した。
嫉妬「仕方あるまい」
嫉妬の首飾りが鈍く光った。
強欲の腕輪は黄金色の輝きを失い、32個の魔法反射壁は1つにまで減った。
瞬時に背後を取っていた勇者は、魔剣を嫉妬に突き出した。
勇者「くらえ!!!」
しかし、嫉妬は振り返らないまま剣を後ろ手に持ち、勇者の攻撃を防いだ。
勇者「なっ!?」
嫉妬「……気配が丸わかりだ」
嫉妬は勇者を蹴りつけた。
勇者「ぐはっ!!」
867 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 00:32:00.34 ID:BTByofbZ0
勇者「だったら……」
勇者は攻略化済みの憤怒の兜を取り出し、装備した。
勇者「ウグググ……!!!!」
勇者は魔剣を口に加え、獣のような姿勢を取った。
勇者「ウグァアアアアアアア!!!!」
一瞬の速度で、嫉妬の懐へと入った。
嫉妬「無駄だと言っておろう」
嫉妬の首飾りが鈍く光ると、勇者の頭は急速に平静を取り戻した。
嫉妬「遅すぎる。攻撃も直進的だ」
嫉妬は再び勇者を蹴りつけた。
勇者「ぐぼっ……!!」
勇者は無様に吹き飛んだ。
勇者「…………ぐっ」
勇者は無口詠唱で、中級の回復呪文を唱えようとした。
嫉妬「『マフウジ』」
呪文は勇者の魔法反射を突き破った。
勇者は呪文を封じられた。
嫉妬「教会で憤怒に身を委ねるのは、どこぞの勇者と似た者だな」
嫉妬「そういえば、かつてパーティメンバーであった僧侶の女から教えてもらったことがある」
嫉妬「あなたは救われていますか、との問いかけの意味はこうであるらしい」
嫉妬「あなたは神の怒りから救われていますか。であると」
嫉妬「貴様は怒りから見放されて絶望しているようだがな」
868 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 00:32:30.05 ID:BTByofbZ0
嫉妬は倒れて呻いている勇者の手を踏みつけた。
勇者「っっっ!!?」ポキ…
嫉妬「返して貰うぞ」
嫉妬は魔剣を拾い上げて、装備した。
嫉妬「精霊を破壊できる手段の数が揃えば俺に勝てるとでも思ったか」
嫉妬「自分の実力不足を考慮に入れなかったことを嘆くんだな」
嫉妬は勇者の身体に魔剣を突き刺した。
バリリリンン!!!
精霊の砕ける音が響いた。
嫉妬「命はまだ奪わん。拷問がまだ足りていないのでな」
869 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 00:33:39.92 ID:BTByofbZ0
勇者「ぐぼっ……ぐぶっ!!」
嫉妬は勇者を蹴りつけた。
勇者「うぼぉぉええ……」ビチャビチャ…
遊び人「勇者!!!」
勇者は嫉妬に嬲られ続けていた。。
嫉妬「殺さぬ程度に抑えるのも難しいな」
嫉妬「貴様にも寿命を分け続けて、数百年以上拷問を与え続けようとも思っているのだが」
勇者「……うううぁああ!!」
勇者は身体を無理やり引きずった。
嫉妬「まだ抗うか。よろしい。絶望するまで好きにさせてやろう」
870 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 00:36:32.92 ID:BTByofbZ0
勇者「お前……なんかに……」
勇者「遊び人の時間を渡せるか!!」
勇者は再び、大罪の装備を全て取り出した。
勇者は暴食の鎧を装備した。
勇者は色欲の鞭を装備した。
勇者は傲慢の盾を装備した。
勇者は憤怒の兜を装備した。
勇者は怠惰の足枷を装備した。
勇者は強欲の腕輪を装備した。
勇者は攻撃をしかけようとした。
しかし。
勇者「…………ッッッッッ!!!!!」
嫉妬「愚か者め」
勇者「イィ、イギギギギ!!!??」
勇者「ギィイイヤアアアアアア!!!!!」
遊び人「勇者!!!」
勇者はのたうちまわった。
6つの欲望が装備者のコントロールを奪い合った。
勇者は痙攣をし、泡を吹き出した。
嫉妬「無様な格好もいいところだ!!」
嫉妬「どうして嫉妬の首飾りが7つの大罪の装備において頂点に君臨するか理解していないようだな!!」
嫉妬「この装備がなければ他の全ての装備を同時に操ることもままならない。寿命の吸収もこの首飾りがあるからこそできることなのだ」
嫉妬「生命の安全を確保できる日までは精霊を温存し、攻略化を躊躇していたが。貴様のおかげで手間も省けた」
嫉妬「見世物はもうそのへんでよい」
嫉妬が勇者に近づいた。
871 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 00:37:52.36 ID:BTByofbZ0
勇者「……ぐぁああああ!!!」
勇者は渾身の力を振り絞り、大罪の装備の力を全て発動した。
勇者「ググッ……ググッ!!!!」
大量の寿命の消費と引き換えに、凄まじい呪力の気配があたりを包んだ。
嫉妬はため息をついた。
嫉妬「……貴様を活かすのは辞めだ。寿命がいくらあっても足りなそうだ」
嫉妬の首飾りが光ると、呪力の気配は瞬く間に霧散した。
勇者はほとんど意識を失いながら、嫉妬を前に棒立ちに立っていた。
嫉妬「……お遊びにはもう飽きた。死ぬがよい」
嫉妬「『レヴィアタン』」
我を失っている勇者に、嫉妬は雷撃を放った。
しかし、勇者の身体は動き、雷撃を躱した。
872 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 00:38:46.67 ID:BTByofbZ0
遊び人「飽きてないよ。私はまだまだ、遊んでいたい」
遊び人は手を突き出し、小指を巧みに動かしていた。
勇者は朦朧とした意識のまま、遊び人のコントロールに従い移動をした。
嫉妬「赤い糸の呪文か。自分を守れなかった男のことが、そんなに愛おしいか」
無様によろけながらも、勇者は遊び人の元へたどり着いた。
遊び人「おかえり、勇者。がんばったね」
倒れ込んだ勇者は、顔だけを動かした。
視界の中に、人間の女が映り込んだ。
勇者「……ウグァアアア!!!」
勇者は目の前の肉を食したくなった。
勇者は目の前の美貌を犯したくなった。
勇者は目の前の命を軽んじたくなった。
勇者は目の前の存在に激怒をぶつけたくなった。
勇者は目の前の存在を支配したくなった。
勇者は目の前の存在に全てを投げ出したくなった。
勇者は大罪の装備の力を使用しようとした。
しかし、寿命が足りなかった。
嫉妬「もはや、装備の使用に必要な最低な寿命さえ残っていないのだろう。端数分だけの時間しかそいつには残されていない」
嫉妬「せめて、冥土の土産にそいつが望む快楽でも与えてやったらどうだ?」
嫉妬はあざ笑うかのような目で蔑みの言葉を投げた。
873 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 00:42:56.50 ID:BTByofbZ0
遊び人「……そうね」
遊び人「罪じゃないもの。罪じゃなかったもの」
遊び人「これらの装備を持っていた勇者達もきっとそうだったはず。誰も、欲望なんて制御することなんてできなかったと思う。抗うことはできても、打ち克つことなんてできなかったのよ」
遊び人は勇者に身についていた装備を一つずつ丁寧に外した。
遊び人「欲望に苦しめられた彼ら彼女らはきっとこう思ったのよ。満たせぬ欲望があるくらいなら、いっそのことなくなってしまえばいいと」
遊び人「7つの大罪に勝る8つ目の欲望があるとするなら」
遊び人「それは、禁欲ね」
勇者の装備は全て外された。
嫉妬の暴行によって、身体はぼろぼろになっていた。
遊び人「がんばったね」
意識の失いかけた勇者に遊び人は言葉をかけた。
遊び人「正直なところさ」
遊び人「生きることは、つらいよね」
遊び人は、困った表情をしながらも、笑顔で言った。
遊び人「ずっとずっと、遊んでいたいよね」
遊び人は、勇者の前で祈るように手を組んだ。
嫉妬「……これは!!」
嫉妬「感じたことのない生命の流れ!!何をするつもりだ!!」
嫉妬は咄嗟に、防御呪文を唱えた。
遊び人「ねえ、勇者」
遊び人「ありがとう」
勇者「…………」
遊び人「戦ってくれて、ありがとう」
遊び人からやさしい気持ちがあふれだした。
瀕死の勇者の傷が癒え始めた。
勇者の出血が止まった。
874 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 00:48:31.53 ID:BTByofbZ0
嫉妬「何をするかと思えば!!」
嫉妬「書物で目にしたことがある!遊び人という職業を極めた者のみが発動することができる癒やしの技!!」
嫉妬「ふははは!!これは驚いた!!賢者になるための踏み台に過ぎないその職業を極めた愚か者がおろうとはな!!」
嫉妬は愉快そうに笑った。
勇者は意識を取り戻した。
勇者「……ここは」
遊び人「教会の下。あるいは私の膝の上」
勇者は記憶をたどりながら、心から悔やんだ表情をした。
勇者「……駄目だった。まだ奴の体内に2体の精霊がいる」
勇者「遊び人の呪文で1つ破壊しても、1体残ってしまう……」
勇者「俺が強ければ……魔剣で倒すこともできたのに……」
勇者は打ちひしがれた表情をしていた。
勇者「一か八かの作戦があるんだ」
勇者「先に、遊び人があいつの精霊を一体破壊してくれ。そのあと、2人で自殺を図る。神官としてのあいつの目の前に現れた瞬間に、魔剣で攻撃すれば……」
遊び人は首を横に振った。
遊び人「無口詠唱で肉体保護の呪文をかけているみたいなの。仮に魔剣で精霊は斬れても、通常攻撃によるとどめを刺せないわ。毒針を刺しても、状態異常回復のやくそうや呪文で治癒してくるでしょう。私達の得意技を嫉妬は熟知しているはずだもの」
勇者「そんな……」
勇者は絶望の表情を浮かべた。
勇者「俺が、弱いばっかりに……」
遊び人は勇者の背中を撫でた。
遊び人「勇者。こんな時どうすればいいか知ってる?」
勇者「わからないよ」
遊び人「逃げるんだよ」
875 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 00:49:07.08 ID:BTByofbZ0
遊び人は勇者を背負った。
大罪の装備を置き去りにして、出口へとゆっくり進んだ。
勇者「えっ、ちょ、ちょっと。いてて……」
勇者は思わず笑ってしまった。
勇者「建物でも破壊して、移動の翼で逃げるのか?」
遊び人「それは難しいね。結界が何重にも覆っているみたいなの。爆発呪文を一度唱えても全部壊しきれないな」
勇者「じゃあどうするんだよ」
遊び人「だから、逃げるんだってば」
広大な教会の中で。
嫉妬の勇者から離れるように、遊び人は勇者を背負ってとても遅い速度で歩いていた。
出口までの距離は長かった。
876 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 00:50:33.88 ID:BTByofbZ0
嫉妬「……もう少し賢い女だと思っていたのだが。その男と冒険をしていた時点で、たかが知れていたというわけだ」
嫉妬はうんざりした表情で、同じ様に歩みを進めた。
嫉妬「もう、こいつらはいらないのか?」
嫉妬は地面に散らばった6つの大罪の装備のそばにたどり着くと、遊び人に尋ねた。
遊び人「あなたはそれを欲しいんでしょ?」
遊び人は歩みを止めた。
勇者をゆっくりと降ろした。
勇者が遊び人を見上げると、口にやくそうのようなものを含むのが見えた。
遊び人は振り返り嫉妬に正面から向き合った。
嫉妬「欲しいかだと?くだらない質問だ。時間稼ぎのつもりか」
遊び人「時間稼ぎする時間なんてないよ。寿命が尽きてしまうんだもの」
嫉妬「だとしたら答えてやろう。俺はずっとこれらを求め続けていた」
嫉妬「お前を孕ませ、大罪の一族を復活させる日が待ち遠しいぞ。我が子を寿命の素材にして永遠に生きる日々がな」
遊び人「そう。あなたの気持ちはわかったわ」
遊び人「他人を羨んで生きてきた嫉妬の勇者さん。それらがどうしても慾しいのね」
遊び人「『喉から出た手で殺してしまうほどに』」
877 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 00:52:16.01 ID:BTByofbZ0
嫉妬「貴様!!何をするつもりだ!!」
遊び人の足元に、魔法陣が現れていた。
遊び人「『我から能力を奪い給え。我の全うせし職業を奪い、彼の者へふさわしい大罪の職業を与え給へ』」
遊び人は強制転職呪文をつかった。
嫉妬の勇者に命中した。
嫉妬「ぐぁっ!!!」
嫉妬は強制転職させられた。
遊び人は今までに身に着けた遊びに関する知識を全て忘れてしまった。
遊び人は今までに覚えた道楽のスキルを全て忘れてしまった。
遊び人は”遊び人”の職業を失い、”大罪の賢者”へと職業を戻された。
勇者「どういうことだよ!!」
遊び人「学び尽くすことのできない人生だったけれど、遊び尽くすことはできたみたい。勇者のおかげだね」
遊び人「これで職業の枷は取れたわ。呪文も使い放題」
遊び人「遊び人の宿命は、最後は賢者として人一倍働くことだって決まってるのよね」
878 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 00:53:09.43 ID:BTByofbZ0
嫉妬「ふざけるな!!」
嫉妬は焦燥に駆られていた。
強欲の都で遊び人の祖父から『遊び人』への強制転職呪文をかけられそうになったことを思い出していた。
もしも遊び人にされているのであれば、逃げるしか選択はなかった。
嫉妬「くだらんやつめ!!やはり時間稼ぎか!!」
嫉妬は首飾りを発動し、外に張られている結界を自身に対してのみ無効化した。
嫉妬は懐にしまってあった移動の翼を使用した。
嫉妬「止むをえん!!」
嫉妬はにげだした。
しかし、まわりこまれてしまった!
遊び人「逃げたい時に限って逃げられないってこと、教えてあげるわよ」
嫉妬「なっ……」
遊び人「『かさ』」
嫉妬の頭上に巨大な葉っぱが現れた。
遊び人「『あめ』!」
滝のように降り注ぐ水が嫉妬を地面に打ち付けた。
嫉妬「ぐはっ……!!」
879 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 00:54:58.36 ID:BTByofbZ0
嫉妬は無様に地面に転がった。
嫉妬「はやく、対抗呪文を唱えなければ……」
“遊び人”に転職させられていると思っていた嫉妬は、意思の薬を口に含んだ。
しかし、効果はなかった。
嫉妬「……この感覚は」
嫉妬は異変に気づいた。
勇者「……一体何が」
勇者も状況を把握しきれていなかった。
嫉妬「これは、漏出?」
嫉妬は自分の体内から、凄まじい速度で時間が流れていくのを感じた。
その時、地面に散らばっていた大罪の装備が震えだした。
嫉妬「まさか!!俺の職業は!!」
嫉妬「”大罪の賢者”!!」
嫉妬の首飾りを除く6つの大罪の装備から、”大罪の賢者”を飲み込もうとする青白い手が伸びた。
最も近い距離にいた嫉妬の全身を、6つの手が絡め取った。
嫉妬の首飾りから出現した大罪の手は、自身の宿り主を守ろうと、6つの手に抗った。
880 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 00:57:39.85 ID:BTByofbZ0
勇者「ふざけるなよ……」
勇者は涙を流していた。
強制転職呪文だけは、絶対に使用してはいけないという取り決めをしていたのだった。
勇者「大罪の賢者に戻ったら、お前もあの手に飲み込まれるじゃんかよ……」
里の賢者を全滅させた腕を、防ぐ方法などあるはずもなかった。
遊び人「勇者、聞いてほしいことがあるの。まだ2人が生き残る方法が一つだけありそうなの」
遊び人「私も強制転職呪文を使う想定をしていなかったから、今閃いたばかりなんだけど。それに嫉妬の首飾りの対象化が、奴の意思に関わらずに発動するってことに賭けるしか無いんだけど……」
勇者「なんでもいい、話してくれ」
遊び人「あの手が嫉妬の精霊を破壊したあと、一体だけ精霊が残るはず。ここで重要なのはね、嫉妬の職業の果たす役割についてなの」
遊び人「強制転職呪文はね、本来なら踏むはずの転職の過程を大幅に省略しているの。そのせいか、前の職業の名残がどうしても色濃く残ってしまうの」
遊び人「私が大罪の賢者から遊び人になっても寿命の漏出がとまらなかったように。嫉妬が神官から大罪の賢者に転職をしても、神官としての名残は残る。つまり、嫉妬がその場で復活することには変わりないの」
遊び人「6つの装備に宿る大罪の手を嫉妬は攻略化、無効化するはず。今度は、嫉妬の首飾りに宿る白い手は私に伸びてくる。里を滅ぼした最強の手だけれど、たった一つだけ食い止めることの出来る呪文が存在するの」
遊び人「里が滅ぼされた時と違って、今は嫉妬の首飾りが存在する。だからね、勇者が……」
バリリリンン!!!!!!
遊び人の言葉を遮り、精霊の砕ける音が響いた。
死の刹那、嫉妬は大罪の手に対する強烈な感情が芽生えた。
881 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:00:02.64 ID:BTByofbZ0
大罪の手に飲み込まれた嫉妬は精霊を破壊され、死亡した。
嫉妬に残された一体の精霊の加護によって、その場で蘇生をすると即座に嫉妬の首飾りを使用した。
嫉妬の首飾りは、たとえ大罪の賢者であろうと、自身の宿り主への殺意は芽生えなかった。
嫉妬の首飾りは、他の6つの大罪の手を攻略化し、無効化した。
6つの大罪の手は、寿命を奪う意思を失い、各々の装備の中へと吸い込まれていった。
嫉妬「……はぁ……はぁ」
嫉妬「……愚かな。こいつだけは、俺にも止められんぞ……」
嫉妬「何もかも終わりだ……お前らの命も、俺の永遠の命も……」
嫉妬「俺達の未来は、失われたんだ……」
嫉妬の首飾りから、大罪の手が遊び人へと伸びた。
882 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:01:23.13 ID:BTByofbZ0
伸びてくる大罪の手に対して、遊び人は片手を前に突き出した。
勇者「遊び人!!」
遊び人「あのさ、勇者」
里の大賢者と呼ばれる者達が、あらゆる呪文を放っても防ぐことのできなかった大罪の手。
しかし、当時彼らが放った呪文は、全て生き延びるための呪文だった。
大罪の一族には広く知られていない禁術が、1つだけあった。
それは、威力、持続性において、非一族の世界で最強とされている呪文だった。
遊び人「寿命泥棒で、ごめんね」
遊び人は呪文を唱えた。
遊び人「『総魔力放出呪文(くろいいと)』」
遊び人のひとさし指から、一本の黒い糸が伸びた。
883 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:02:10.43 ID:BTByofbZ0
遊び人の寿命と引き換えに、膨大な力が解き放たれた。
遊び人の中に生きる命の秒数が、凄まじい速度で減少しはじめた。
遊び人「くっ……!!」
勇者「遊び人!!」
黒い糸は、大罪の手に真っ向から衝突した。
嫉妬「全ての魔力を消費する禁術!!」
嫉妬「寿命を魔力に変換する大罪の賢者が使用することは、確実な死を意味するはずだ!!」
嫉妬「俺を殺すためだけにこんな……!?」
嫉妬「いや、奴らの狙いは!!」
884 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:02:39.82 ID:BTByofbZ0
勇者は、嫉妬の王国で遊び人と交わした会話を思い出していた。
遊び人『嫉妬の首飾りは、自分を死に至らしめた呪術に対して効果を発揮するでしょう?初見の呪術の吸収、つまり攻略化によって寿命は大きく浪費する。でも、一度攻略化した呪術に対する無効化にはほとんど消費しないみたい』
遊び人『だから、例えば魔王が独特の呪術で嫉妬を殺害したとして。殺害されたタイミングでの攻略化には寿命を大きく消費するんだけど、二度目以降の戦闘で魔王がどれだけ呪術を放っても、ほとんど寿命を消費せず無効化できるの』
勇者『一度死ぬことが前提の装備なんだよなぁ。それこそ精霊の宿った勇者しか使えないような装備じゃん』
遊び人『そうでもないみたいよ。一度攻略化した呪術に対しては、他の者が嫉妬の首飾りを装備しても無効化はできるみたい』
勇者『じゃあ俺が首飾りを奪えば、魔王も倒せるってことか。便利だな』
885 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:03:52.03 ID:BTByofbZ0
―――――。
勇者「……そうだ」
勇者「今の俺の寿命でも、嫉妬の首飾りなら……!!」
勇者「まだ、可能性はある!!」
勇者「遊び人!!」
遊び人「……うううう」
遊び人「あぁああああああああああ!!!!!!」
遊び人は全身に力を込めた。
嫉妬「貴様ぁ!!!」
遊び人「必死で抵抗してくるってことは、やっぱり対象化していなかったようね!」
遊び人「この呪文を使える術士は、世界にそういないでしょうから!!」
886 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:06:05.24 ID:BTByofbZ0
里最大の呪力を持つ遊び人の呪文は、大罪の手の力をわずかに上回っていた。
遊び人「あんたは…寿命を奪うだけでしょ…」
遊び人「こっちは、寿命削って生きてるのよ!!」
黒い糸は大罪の手を削りながら突き進んだ。
遊び人「私は、私は……」
遊び人「私も……」
遊び人「私の命を願う人達の、寿命を背負ってここまで……」ポロポロ…
遊び人「寿命を奪って……」ポロポロ…
遊び人は、涙を流し始めた。
遊び人は、最高峰の賢者でありながらも。
心は、脆い少女でった。
遊び人「私は……みんなを死なせてしまっただけの……」
倒れていた勇者は、ぼろぼろの身体を起き上がらせて叫んだ。
勇者「お前はただの野菜泥棒だろ!!」
遊び人「……勇者?」
勇者「俺はなんて呼ぶんだよ!!自分を頼ってくれたたった一人の女の子さえ守れなかった俺は!!」
勇者「いつまで……!いつまで経っても……!」
勇者「俺は、人殺しだから!!」
遊び人「私は、寿命泥棒だから……」
勇者「寿命泥棒なんかじゃない!!生きる意味そのものを俺にくれただろ!!」
勇者「生きてるだけの時間が生きてる時間じゃないって、遊び人が教えてくれたんだ!!」
勇者「今までの冒険は、永久の命で世界を支配するよりも、ずっとずっと価値のある時間だった!!
勇者「だから!!」
勇者「これからも、2人で生きるんだよ!!!」ポロポロ…
勇者は涙を流した。
遊び人は、自分の中にあたたかい気持ちが沸くのを感じた。
遊び人「…………弱み」
遊び人「優しすぎるところ」
887 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:09:16.50 ID:BTByofbZ0
遊び人は全ての力を糸に注いだ。
遊び人「はぁあああああああああ!!!!!」
寿命を最大限に込め、遊び人の攻撃力は最大に達した。
嫉妬「ぐぁっっっ!!?」
黒い糸は、大罪の手を突き破った。
嫉妬「ガァッ……」
黒い糸は嫉妬の首を貫いた。
死の刹那、嫉妬は遊び人の放った禁術に対して強烈な感情が芽生えた。
ガラスの激しく割れる音が聞こえると同時に、嫉妬がその場に倒れ込んだ。
嫉妬は首から血を流したまま地面に横たわった。
肉体保護の棺桶が出現することも、復活することもなかった。
嫉妬は全ての精霊を失い、絶命した。
勇者達は勝利した。
888 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:10:51.96 ID:BTByofbZ0
勇者「まだだ……!!」
勇者は状況を確認した。
嫉妬の首飾りから現れた大罪の手は敗北を認め、嫉妬の首飾りの中に潜り込んでいった。
他の大罪の装備は嫉妬の首飾りに無効化されたままであり、同様に大罪の手が出現する気配はなかった。
問題は、遊び人であった。
遊び人「……はぁっ……くっ!!」
遊び人の指からは未だに総魔力放出呪文が発動し続けていた。
嫉妬を撃退した遊び人は、寿命の漏出を必死に制御しようとしているものの、呪文はとめどなく流れ続けていた。
せめて建物を崩壊させないよう、手を突き出したまま同じ位置に固定しようとしていた。
889 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:13:08.69 ID:BTByofbZ0
勇者はぼろぼろの身体を引きずり、嫉妬の勇者の亡骸を目指した。
今こうしている一刻一刻により、遊び人は死へと確実に近づいていた。
勇者「くそっ……動けよ!!」
遊び人による癒やしの術は、勇者を完全な回復には至らせなかった。
勇者の足の指はいくつか折れており、足には痺れが残っていた。
勇者「術者が死んだ今、マフウジは解けているはず!!」
勇者は回復呪文を唱えようとした。
しかし、魔力が足らなかった。
勇者「嘘だろ……」
勇者は惨めさに打ちひしがれていた。
自分の戦闘能力の無さによって魔剣による破壊も果たせず。
今も小さな回復呪文を使うほどの魔力さえ残っていない。
勇者「魔剣で打ち倒せていたら……強制転職呪文を放つ必要なんかなかった。そしたら、白い手も出現しないまま、他の禁術や、総魔力放出呪文を唱えられた」
勇者「体力と寿命に余力さえあれば……もっと、もっと時間に余裕が……」
勇者「俺の、俺の実力さえあれば……」
勇者は後悔で泣きながら、傷んだ身体を引きずった。
890 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:14:30.43 ID:BTByofbZ0
時間をかけて、勇者は嫉妬の勇者の亡骸までたどり着いた。
勇者「……これを使えば」
勇者は嫉妬の亡骸に触れた。
込み上がる感情を押し留め、嫉妬の首飾りを奪った。
勇者は嫉妬の首飾りを装備した。
勇者「そして……」
勇者は、遊び人の手から伸びる黒い糸を見つめた。
発動時とは比べ物にならないほど細くなっており、今にも消えてしまいそうだった。
勇者は嫉妬の首飾りに込められた、嫉妬の感情を呼び起こした。
勇者の中に、憎しみにも似た紫色の感情が噴出した。
勇者「…………」
勇者「失せろ」
勇者はくろいいとの呪文を無効化した。
総魔力放出呪文は消滅した。
891 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:15:50.28 ID:BTByofbZ0
勇者「はやく……」
勇者「はやく、全部届けないと……」
勇者は、目の前に散らばる大罪の装備を見つめた。
手が、震えた。
自分がこれから行う手作業と移動に、この世界で最も大切な存在の命が賭かっていた。
自身の残り寿命の心配など、一切頭になかった。
勇者「これらを、全部、遊び人のところまで……」
暴食の鎧。
色欲の鞭。
傲慢の盾。
憤怒の兜。
嫉妬の足枷。
強欲の腕輪。
嫉妬の首飾り。
勇者「これらを、全部……」
両手で、抱えきれる量ではなかった。
勇者「……間に合うのか?」
途端に、勇者の全身から汗が吹き出た。
892 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:18:04.96 ID:BTByofbZ0
手ぶらでここまでたどり着くのもやっとだったのに、装備を持っていけるだろうか?
これだけの数を運ぶには、往復しなければならないだろうか?
嫉妬の首飾りを遊び人につけたあと、他の装備を支配するのに寿命は消費するのだろうか?
全て身に付けた後はどのように寿命の吸収を行うのだろうか?
こんなに震えた手と足で持っていけるだろうか?
何が最も必要なことなんだろうか?
どうすればいいんだろうか?
勇者「……どうすれば。どうすれば……」
混乱した頭で、勇者はわけもわからず装備を抱え込んだ。
勇者「……うわ、わっ!」
カラン!!カラン!!
両手で精一杯抱えようしたが、震える手から装備が落ちてしまった。
893 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:18:50.13 ID:BTByofbZ0
勇者「あ、あそびにん!」
勇者は震える声で呼んだ。
勇者「こ、こっちに来てくれ……!」
勇者「じ、じかんが……じかんが……」
勇者「おれひとりじゃ……」
俺は、何をやっているんだろうか。
俺は、どうしてこんなに無力なのだろうか。
遊び人はどんな目で自分を見ているのだろうか。
遊び人は今も生きているんだろうか。
遊び人は。
遊び人は。
遊び人は…………。
遊び人「勇者」
絶望で打ち震えている勇者を、やさしく呼ぶ声が聞こえた。
勇者が顔をあげると、遊び人はにっこりと笑っていた。
勇者「……遊び人?」
手の甲を見せ、小指だけを突き立てていた。
遊び人「はい、喜んで」
遊び人は、足元から崩れ落ちた。
894 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:19:22.45 ID:BTByofbZ0
【TIPS】
『大罪の力』
短命な寿命で生まれつく、賢者の一族がいた。
彼らは人間に巣食う7つの欲望を元に、禁忌の呪文を発動した。
儀式は失敗し、欲望は分裂し、7人の勇者の元に装備の形となって届けられた。
暴食の鎧
色欲の鞭
傲慢の盾
憤怒の兜
怠惰の足枷
強欲の腕輪
嫉妬の首飾り
欲望に応じた能力をもつこれらの装備の伝説は広まり。
7つの大罪、と呼ばれるようになった。
895 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:20:47.92 ID:BTByofbZ0
【epilogue】
あれから、幾月も過ぎ。
〜怠惰の王国〜
国王「祝福じゃ!!パレードじゃ!!」
国王「世界は、平和となったのじゃ!!」
怠惰の王国では、魔王消滅の日を記念して祭りの準備が行われていた。
案内人T「……ようこそー。怠惰の王国だよー……」
案内人T「ふわ〜あ……」
怠惰「あなた、ちゃんと働きなさいって」
案内人T「……いいじゃん別に。奴隷を解放した英雄がよく言うよ……」
怠惰「まったく」
怠惰は顔をしかめたが、諦めて故郷の中に入っていった。
怠惰「世界を救った本物の英雄達を、見習ってほしいものだわ」
896 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:21:26.23 ID:BTByofbZ0
大罪の力。
魔王消滅の噂で喜んでいる世界に対し、伝説地味た装備の話は。
面白半分の噂話として広まることはあれど、事実の出来事としては誰も信じようとはしなかった。
ましてや、大罪の装備のために奔走した、元案内人と遊び人の物語などは、誰にも語り継がれることはない。
はずだった。
897 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:22:09.25 ID:BTByofbZ0
決戦の夜、怠惰は一人の研究者と魔王城へと向かった。
同僚「こんなことしてる場合じゃねえんだよ!!封印の壺が割れたんだ!!あいつらに会いたいならまずはそっちを……」
怠惰「いいえ、もうここに訪れているはずよ。もしかしたら、決戦の真っ最中かも」
同僚「それはねーよ。明日、嫉妬に精霊の補充を行う予定だったんだ。奴らと戦うなら、当然その後を選ぶだろう?」
怠惰「嫉妬は大罪の装備だけを欲してるんじゃない。あの遊び人の女の子も欲しているの。あの子達が挑む程度の状況でなければならないの。占い師がそう告げたのよ」
同僚「はん!占いなんかが根拠かよ!めでたいやつらだぜ!!」
怠惰「いいから。早く魔王城の頂上まで向かうのよ」
同僚「お前と一緒に仲良く飛んでるところを見られたら極刑もんだぜ。俺にだって愛する家族がな……」
怠惰「あの王国で育つ子供の未来なんて、変えるに越したことはないでしょう?」
同僚「……ちっ。面倒なやつだな」
怠惰「面倒なやつは嫌い?」
同僚「いや、好きだったよ」
怠惰「あら、昔の恋人?」
同僚「そんなんじゃねーよ」
898 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:22:54.50 ID:BTByofbZ0
怠惰「おかしいわ。いくら探しても見つからない」
同僚「妙だな。警護の魔物の数も最小限しかいない。それに、開かずの間がいくつか開かれていた」
同僚「奴らがこの城のどこかで決戦しているとして。きっと、特別な手順を踏まないとその部屋には入れないようになっているんだ」
怠惰「どうやって見つけるの?感知呪文?」
同僚「それだけ厳重に隠された場所があるとして、直接感知は無理だろう」
怠惰「だったら、全てを差し引く方法で……」
同僚「夜が明けちまうよ。こういう時は手探りで探すしかねーんだよ」
怠惰「研究者なのに!!」
同僚「地道が最も効率的なことだってあるんだよ」
899 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:23:41.54 ID:BTByofbZ0
2人は時間をかけて魔王城内を探索したものの、隠し部屋を見つけられずにいた。
一度城外に出て、外から周囲を調べてまわっていた。
同僚「あれは……」
怠惰「鳥の魔物ね。どうかしたの?」
同僚「王国から嫉妬様宛に手紙を飛ばした魔物かもしれない」
同僚は鳥が旋回している近辺まで近づいた
怠惰「ここが怪しいってわけ?」
怠惰は城壁を眺めながら尋ねた。
同僚「……ああ。ここ、妙じゃないか」
同僚は外壁に触れた。
同僚「魔力の流れがおかしい。結界が損傷している」
怠惰「……言われてみれば、そんな気がしないでもない」
同僚「というより、これ、ヒビじゃねえな。線が貫通してやがる」
怠惰「線?」
同僚「貫かれたような跡がある。しかも、何重にも張られた結界全てを貫いている。こんな攻撃呪文みたことねーぞ……不自然過ぎる」
同僚「探ってみるぞ」
900 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:24:19.49 ID:BTByofbZ0
怠惰「なによ、ここ……」
同僚「教会だと!!」
巨大な教会を発見した同僚と怠惰は驚愕していた。
同僚「扉があるな」
怠惰「入るわよ」
同僚「だが……」
怠惰「あなたは入らなくていいわ。私だけで入るから。家族が心配なら帰ってちょうだい」
同僚「誰のおかげでここまで来れたと思ってやがる」
同僚「……研究者の好奇心を舐めるな。行くぞ」
901 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:25:47.13 ID:BTByofbZ0
怠惰と同僚は、建物に入った瞬間に身震いした。
見覚えのある3人の人物が、全員横たわっていた。
同僚「……おい、嘘だろ!!」
同僚「嫉妬だ!!死んでいる!!」
同僚「何故だ!精霊の加護を6つ体内に宿してあったはずだ……」
怠惰「ねえ、こっちに来て!!」
怠惰は同僚を呼んだ。
そこには、男女の遺体が並んで横たわっていた。
怠惰「この女の子、勇者とずっと一緒に旅をしていた遊び人……」
同僚「傷跡が見えない。何かの呪いで殺されたのか?」
怠惰「それにしては、穏やかな表情をしているけれど……」
怠惰は懐から布を取り出し、遊び人の顔にかぶせた。
902 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:27:19.45 ID:BTByofbZ0
同僚「……おい、なんだよこれ」
勇者の遺体を注意深く観察した同僚は、声を荒げた。
同僚「こいつ……」
同僚「自殺してやがる……」
怠惰は息を飲んだ。
亡骸の傍らには毒針が転がっていた。
同僚「致死性の非常に高いものだ。腕に刺されたあとが残ってる」
同僚「しかも、なんだこいつの格好は」
勇者の遺体には、独特な装飾の鎧、兜、腕輪、足枷、首飾りが身につけられていた。
また、すぐ傍には鞭と盾が転がっていた。
怠惰「……大罪の装備よ」
怠惰の勇者は、怠惰の足枷を拾った。
怠惰「でも、おかしいわ。呪力を、一切感じないの」
同僚「どういうことだ?」
怠惰は他の装備についても触れながら、確信を深めた。
怠惰「装備に込められた寿命が、空になっているのよ。1つの里の賢者全員分の命の力がね」
怠惰「この男は……勇者は。全ての大罪の装備を身に着け、寿命を吸い尽くして」
怠惰「半永久的な寿命を得たあとに、自殺したのよ」
怠惰「きっと、もう二度と、この装備を巡って争いが起きないように」
同僚「でも、どうして自殺を……」
怠惰「……ほんとうね。最悪ね」
怠惰「この女の子は、決してこんな最後を勇者に望んでいなかっただろうに」
903 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:29:59.21 ID:BTByofbZ0
同僚は移動式の結界を創った。
勇者と遊び人の亡骸を運んだ。
怠惰「私達も、決着をつけなくちゃね」
同僚「……本気なのか」
怠惰「ええ。怠惰の監獄を解放させるわ。投獄されている大賢者も、怠惰の足枷の効果が抜けて力を取り戻している頃よ」
怠惰「あなたは、そうね、魔王を討伐したらどうかしら」
同僚「はは。勇者様じゃあるまいし」
怠惰「でも、あなたなら出来るんでしょう?」
同僚「……結界を組み替えて、装置の出力をいじればな……」
怠惰「冗談で終わらせるつもりはないでしょうね」
同僚「……逃げ出す権利はないのか?」
怠惰「逃げなくてはいけない時があるのと同様、戦わなくてはいけない時があるでしょう」
怠惰「私達しかいないわ。協力者を増やしながら、怠惰の監獄の地と嫉妬の王国に革命を起こすの」
怠惰「一人の勇者と遊び人がどのような旅をしてきたか、軌跡を辿って事実を集めて、物語を世界に伝えながら、世界が果たすべき使命を示すの」
怠惰「生き残ったものたちによって、できることをするの」
同僚「……なんだよ、冒険譚の作成でもすんのかよ。すっかり怠惰らしさをなくしてしまったな」
怠惰「これでも怠け者に寛容になったほうよ」
同僚「わかったよ。手伝ってやるよ、その、物語のお披露目をよ」
同僚「そのかわり、エピソードには俺の親友の話を大きく裂いて貰うからな。あと、俺の活躍も」
怠惰「頼もしい限りだわ。一人の臆病な勇者が、世界を救うまでの物語」
同僚「逃走から始まり、闘争で終わる物語か」
怠惰「良いこと言ったつもり?」
噂話は、やがて物語となった。
物語は、冒険譚として編纂され。
冒険譚の内容は、やがて。
誰もが信じる、伝説となった。
904 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:31:41.09 ID:BTByofbZ0
暴食の村は、民が標準的な体型に戻った後、食の産業を発展させた。
色欲の谷は、民が規律を整えた後、男女の色模様を許容した文化を発展させた。
傲慢の街は、民が謙虚さをそなえた後、世界的なコンテストの開催地になった。
憤怒の街は、民が冷静さを取り戻した後、治安の維持に国力を注いだ。
強欲の街は、民が奉仕の心を抱いた後、貧困国の再生に資金を投じた。
怠惰の監獄は革命を起こし、嫉妬の王国で働いていた故郷の奴隷を開放し、怠惰の勇者を英雄として新たな国家を建設した。
嫉妬の王国は一度瓦解したものの、他者に尽くす志を持った者達が集い、医療魔術に関する研究を発展させた。
特別な力がなくとも、世界は成長する。
時間の経過によって。
個人の努力によって。
人々は、罪を贖い続ける。
怠惰の王国には、今尚多くの巡礼者が訪れる。
二つの並んだ墓標を前に、人々は祈りを捧げる。。
伝説が記された大理石には、このような文字が刻み込まれていた。
『贖罪の勇者達、ここに眠る。』
905 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:32:28.32 ID:BTByofbZ0
【勇者と遊び人の思い出】
封印の壺が割れる、少し前の時間のこと。
〜ほらあな〜
勇者「なあ遊び人」
勇者は上体を起こして言った。
勇者「もしも明日、世界が滅びるとしたらなんだけど」
遊び人「パフパフしてほしいの?」
勇者「ぶはっ!ゲホっ……コホッ……」
勇者に甚大なダメージ。
勇者「何言ってんだよ!」
遊び人「する胸がないっていいたいの!?」
勇者「いや、そういうわけじゃない!!」
遊び人「じゃあどういうわけよ」
勇者「……したい」
遊び人「じゃあ、する?」
勇者「……しねーよ」
遊び人「ふーん」
906 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:33:30.03 ID:BTByofbZ0
遊び人は勇者の問いかけをよそに、道具袋をあさっていた、
遊び人「ねえ、食べ物入ってるけど、おなかすいてない?真夜中だけど」
勇者「普通に減ってる」
遊び人「食べる?」
勇者「そんな気分じゃない」
遊び人「じゃあどんな気分?」
勇者「そうだな」
勇者「俺は、ここまで来れたんだという傲慢な気持ち」
遊び人「おっ、自信があっていいね」
勇者「同時に、何も考えずただ寝ていたいという怠惰な気持ちもある」
遊び人「いつもの私達じゃん」
勇者「あとは、嫉妬の勇者を破壊せしめたいという憤怒の気持ち」
遊び人「それは私も一緒」
勇者「あとは、優秀で非の打ち所のない仲間に、嫉妬する気持ち」
遊び人「嘘ばっか」
勇者「ちょっと嘘かな。100のうち、99が尊敬だから」
遊び人「……もう」
907 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:37:25.28 ID:BTByofbZ0
勇者「あとはお金がほしいな。勇者城を建設したい。これは強欲な気持ちかな」
遊び人「今のたった数十秒のうちに、勇者は7つの大罪を犯した。7倍大罪人だよ」
勇者「しょうがないよな。生きてるんだから」
遊び人「7つの大罪の感情は、誰の中にも存在するってことだよね」
勇者「ああ。けれどそれは、相手との関係によって罪ではなくなると思うんだ」
遊び人「関係によって罪ではなくなる?」
勇者「傲慢に話すのを笑顔で聞き入れてくれる関係性もある。一緒にだらだらすることを望まれる関係性もある。嫌な人からは手を触れられるのも嫌だけど、好きな人とは唇を重ねたいとさえ思う」
勇者「つまりさ」
勇者「本来罪となるそれらの行為が、罪でなくなるように生きることが大切だったんだ」
勇者「誰が罰さなくとも、一人で抱えていたら罪の意識を7つの欲望に感じてしまうかもしれないけど」
勇者「それを認めてくれる人とであれば、それらは罪ではなくなるんだ」
勇者「受け容れてくれる人を探したり、受け容れてもらえるような自分になることこそ、人生という冒険の醍醐味だったんだ」
勇者「誰もが勇者になれるんだ。自分の中に感じる罪の意識と、向き合おうとするものはみんな勇者なんだ」
勇者「生きることそのものが、7つの大罪と向き合う旅だったんだ」
908 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:38:12.19 ID:BTByofbZ0
遊び人「……7つの大罪と向き合う旅か」
勇者「いつまで続くかな」
遊び人「もしかしたら、明日世界が滅んじゃうかもしれないからね」
勇者「そうだな」
遊び人「でも、私はいいと思ってるの」
勇者「どうして」
遊び人「こうしていられるから」
勇者「そっか」
遊び人「薄い返事だね」
勇者「嫉妬が望むのはむしろ永遠の世界だからな」
遊び人「世界の滅亡と似たようなものよ」
勇者「そもそもその質問が好きじゃないからな」
遊び人「そうだったっけ?」
909 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:40:26.89 ID:BTByofbZ0
勇者「だからさ。えーと」
遊び人「ん?」
勇者「その、えーっとさ」
遊び人「なによ」
勇者「あした、世界が滅ばないとしたら?」
遊び人「えっ?」
勇者「もしもの話だって。明日、世界が滅ばないで、俺達も生き延びるとしたら?」
遊び人「うーん。そんなの明日考えればいいじゃない」
勇者「そう考えてると、一生明日が訪れないだろ」
遊び人「勇者は、何かいい考えでもあるの?」
遊び人は尋ねた。
勇者「遊び人」
遊び人「うん?」
勇者「好きだ。この戦いが終わったら、俺と結婚してくれ」
遊び人「えっ」
遊び人は、驚きのあまり口を開けていた。
勇者「笑うなよ」
遊び人「驚いてるのよ!!け、結婚だよ?」
遊び人「そ、その前にお付き合いとかは……」
遊び人は、言葉を止めた。
異性としての交わりこそなかったものの。
この冒険以上に、相手のことを理解できる付き合いなど存在しないと思った。
勇者「返事は?」
遊び人「……私達は、明日からも生きるんだよね」
遊び人は、ここで全てを完結させたくないと思った。
死を悟った想い人同士の約束としてではなく、現実の出来事として。
未来に実現させることを願った。
遊び人「……返事、あとでもいい?」
勇者「ええー!?」
遊び人「大丈夫!勇者が勝ったあとに、ちゃんとするから」
勇者「……負けたら?」
遊び人「勇者の身体がみじん切りにされても、私だけは勇者の勝ちだって信じてあげるから」
勇者「無理がないか?」
遊び人「無理なんかしないわ」
遊び人「だって、遊び人だもの」
少女は笑顔で答えた。
世界は、つくづくおそろしい。
とてつもない大罪人がいたものだと、遊び人は思った。
遊び人と大罪の勇者達 〜fin〜
910 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/04/30(月) 01:44:40.21 ID:BTByofbZ0
おしまいです。
大長編にも関わらず、読んでくださりありがとうございました。
(文字数はおよそ325,000字だそうです)。
私自身の感想を書くと止まらなそうなので、代わりに皆さんの感想を頂けると幸いです。
おまけですが、その他紹介致します。
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踏切交差点
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フォローしてくれるととても嬉しいです。
気軽にリプライでご感想もください。
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女「人様のお墓に立ちションですか」
女「また混浴に来たんですか!!」
男「仮面浪人の道」
あらためて、最後まで読んでくださりありがとうございました。
ずっと書いていたくなるくらい、自分でも大好きな物語でした。
最後に次作予告で終わりたいと思います(夏投稿予定)。
911 :
◆uw4OnhNu4k
[saga]:2018/04/30(月) 01:48:26.24 ID:BTByofbZ0
「私の病名も診断してくれたら、あなたをほどいてあげる。叶わなかった恋の呪縛から」
“青春コンプレックス”
廃墟で出会った美少女から、男は病名を告げられた。
ありきたりに浮かぶ真夏の象徴への殺意。
それは白い入道雲。
プールの消毒液の匂い。
真夏のアスファルト。
椅子の裏に吊るされた雑巾。
掲示板に刺された画鋲。
給食袋をかけるフック。
線路の上を歩く、麦わら帽を被った、白いワンピースの少女。
手に入れたかった、二度と手に入らない青春。
「あの時ああしていれば」
同性の親友もいた。
尊敬できる先生もいた。
愛情深い親もいた。
なのに、振り向いてくれなかった、たった一人の女の子。
隣にあの人がいないというただそれだけで、人生は絶望そのものだった。
『だから、今から過去をやり直してみない?自分の未来と引き換えに』
次作:「青春ゾンビと廃墟の少女」
あり得たかもしれない過去は、諦めるには美しすぎた。
912 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/30(月) 07:34:15.89 ID:j0n652w+O
混浴の人だったかあ
またド嵌まりしちゃったぜ
お疲れ様でした
913 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/30(月) 07:42:37.83 ID:5XIQnY4TO
乙
1スレ完結とは思えないレベルの骨太ストーリーでした……!
914 :
訂正>>874
[saga]:2018/04/30(月) 09:14:09.82 ID:BTByofbZ0
>>874
削除文
『勇者「一か八かの作戦があるんだ」
勇者「先に、遊び人があいつの精霊を一体破壊してくれ。そのあと、2人で自殺を図る。神官としてのあいつの目の前に現れた瞬間に、魔剣で攻撃すれば……」
遊び人は首を横に振った。
遊び人「無口詠唱で肉体保護の呪文をかけているみたいなの。仮に魔剣で精霊は斬れても、通常攻撃によるとどめを刺せないわ。毒針を刺しても、状態異常回復のやくそうや呪文で治癒してくるでしょう。私達の得意技を嫉妬は熟知しているはずだもの」
勇者「そんな……」
勇者は絶望の表情を浮かべた。 』
この時点で勇者の精霊の加護は破壊されていたので、自殺という手段は取れませんでしたね。
915 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/30(月) 14:27:56.60 ID:FGRlK5aDO
乙乙
面白かったです
途中で水を差すのもあれなので今更ながら怠惰についての指摘
7つの大罪中の怠惰とは単に怠ける事ではなく
信仰に対する怠惰つまり不信心って事なのです
いかにもキリスト教らしい罪ですね
916 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/30(月) 17:15:56.51 ID:txO6cCwN0
乙
917 :
1
[saga]:2018/05/01(火) 20:14:04.35 ID:xutyr4hN0
今全部見返している途中なのですが、矛盾点やわかりづらい点が多々ありました…。大きなとこだけ明日まとめて解説します。気になる箇所があればおっしゃってください。
>>915
怠惰は本来そういう意味を示していたんですね。その点盛り込めばもっと内容が深くなったと思います(笑)気を遣って最後に教えてくださってありがとうございました。
918 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/05/11(金) 13:05:01.21 ID:e3MXXibp0
解説は無さそう…なのかな?
919 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/06/27(水) 07:18:21.56 ID:RTwAERUDO
乙
920 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/07/26(木) 01:57:41.94 ID:Nk0HCJUL0
ほ
921 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2018/08/22(水) 23:31:06.58 ID:idj8MCJKo
おつおつ
勇者は救われたのか?
922 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/11/03(土) 03:20:12.01 ID:0rK5U5eX0
てす
923 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/05/29(金) 06:50:42.40 ID:VeiGlgruo
スレが残ってるから敢えて書かせてもらう
久し振りにワクワクしながら徹夜で読んでしまったくらいに凄く良かった
乙
924 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2023/12/10(日) 07:36:43.98 ID:9/E2mls70
>>923
ありがとう。 踏切交差点
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