勇者「遊び人と大罪の勇者達」

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65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/04(金) 00:58:13.59 ID:fGn313Xj0
>>64

確かにややこしかったですね。

[主人公側]
勇者
遊び人

[暴食の勇者側]
暴食
魔法使い
戦士=見張り

>>60の勇者「…………」も誤記入です。表記に気を付けます。
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/04(金) 01:00:22.71 ID:fGn313Xj0
戦士「身体を見る限り、この街の住民ではないようだな。まだまだ痩せている」

勇者「この街に来て少し肥っちゃいましたけどね」

戦士「何を目的にこの街へ?」

勇者「魔王のいなくなった今の世界でこそ、冒険家はかなりの勢いで増えつつありますよ」

勇者「私は探し物をして色んな場所をまわっているんですが。来たこともない場所に来るのは、それだけで目的になりますよ。ほら、こうして美味しいご飯にも出会えた」

戦士「…………」

戦士「不健康な人間が増えた。この街で、異様な食料成長が始まってからだ。他の王国から研究者がやってきては、土だの、水だの勝手に持ってきているが、原因を特定できていないと聞く。魔王がいなくなったから土地の性質が変わったんじゃないかと結論づけたらしいがな」

戦士「ところで」

勇者「あい?」

戦士「棺桶を引きずって宿屋に入る、不審者の目撃情報があった」
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/04(金) 01:01:37.36 ID:fGn313Xj0
キン!!

戦士「お前、勇者の仲間だな!昨日はこそこそ隠れていたようだが!!」

勇者「なっ!!」

戦士「どうなんだ!!」

勇者「ええ!!?」

戦士「勇者の自殺にあわせてお前も短剣を自分の首に刺したのか!?」

戦士「それとも棺桶の中に入ってたのはお前か?だとしたらあの勇者はどこにいる?教会ですぐに蘇生させなかった理由はなんだ?」

戦士「さては!!ダミーか!!昨日の棺桶はトラップか!!」ムシャムシャ

戦士「中に誰も入っていなかったのか?それとも誰か生きている仲間が入っているのか?」ムシャムシャ

勇者「ふぁ、ふぁ!!?」

勇者「このひと、食べ物を頬張りながら、わけわかんないこといってるアル」

ゆうしゃはこんらんした!

勇者「アカデミーで呪文の授業についていけなくなった頃のことおもいだして、つらいアル」

ゆうしゃはにげだした!!

戦士「くそ!待て!」

ゆうしゃのばらまいた毒草が戦士の口の中にはいった!

戦士は思わず飲み込んでしまった!

戦士「うぼぉおおえええ!!!!」
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/04(金) 01:02:52.84 ID:fGn313Xj0
勇者「くう、持ってたアイテムも道具屋でほとんど売っちまった」

勇者「神官さん!遊び人を蘇らせてくれ!」

神官「2000G頂きますがよろしいですか」

勇者「相変わらずたけぇなおい!!でもお願いします!!」

神官は祈りを唱えた!

神官「遊び人の御霊を肉体と結合したまえ!!」

神官は祈りを唱えた。

棺桶は消え去り、遊び人は復活した。

遊び人「……ゆ、ゆうしゃ」

遊び人「勇者!!」
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/04(金) 01:04:26.06 ID:fGn313Xj0
遊び人「勇者!!あのね!!」

勇者「何も言わなくてもわかってる。お前が俺のことをどう慕っていたのか」

遊び人「へっ?」

勇者「それよりも、自分は大きな魔物を倒したという妄想に駆られ、わけわかんないことを口走ってる日銭稼ぎに追われてる。逃げるぞ!」

魔法使い「『呪力を放ちし掌よ。主の唇と仲違いせよ』」

魔法使い「『マフウジ!』」

勇者は呪文をつかえなくなった。

勇者「誰だお前は!」

遊び人「あなたはこの前の!!」

魔法使い「追い詰めたわ。移動の翼も使わずに走って逃げるなんて」

遊び人「勇者ちゃんとメモ書き読んだんだよね!?なんで追い詰められてるの!?」

勇者「////」

遊び人「なんで照れてんの!?」

戦士「お前らを生け捕りにする。じきに俺らのリーダーも来るだろう」

神官「戦闘は外でしてくだされ!」

魔法使い「万が一にも移動の翼を持ってるかもしれないからね。ここで捕まえて連れてくよ!」
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/04(金) 01:09:05.77 ID:fGn313Xj0
【TIPS】

呪文。

呪文は大気に満ちる精霊の力を借りて発動する。

精霊が信頼を置いたものは、幼子から老人までだれでも呪文を発動することができる。

古来より口承されている言葉としての呪文「マフウジ」「マハンシャ」「ネムリン」などの略称はあるが、魔力の低いもの、精霊の信頼が低い者はより丁寧に呪文の発動を依頼する必要がある。

精霊は人を選ぶ生き物であるからだ。

最たる象徴として、勇者という職業のみに限り、1体の精霊が宿り、精霊の加護を授ける。

信頼は職業だけではなく、その者の実力によっても積み重ねられる。

精霊から絶大な信頼を勝ち取った者は、念じるだけで精霊の力を最大限にまで引き出すことができる。

精霊は善悪で判断しない。

精霊から絶大な信頼を置かれたものは、言葉を発さずとも呪文を唱えることが可能となる。

「無口詠唱」が可能な者はこの世に僅かであるが存在する。

その代表格が、魔王であった。
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/04(金) 01:11:23.10 ID:fGn313Xj0
勇者「……ふん」

勇者「その程度の呪文制御で、何かが変わる勇者様かよ!!」

魔法使い「なんですって!?」

勇者「『地獄にて罪人を引きずりし鬼々よ。その地獄車を以て、汝の敵を破滅たらしめよ』」

勇者「『鬼想ウ日ノ終焉ノ始マリノ終ワリ(ファイヤー・デ・ファンファーレ)!!!』」

勇者の血気が上昇した。

勇者「くらええええ!!!」

戦士は勇者を切りつけた。

勇者「ゴボェォオェ……」

勇者は力尽きた。

遊び人「呪文なんてろくに使えないのに……」
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/04(金) 01:13:20.07 ID:fGn313Xj0
遊び人「神官様。勇者を蘇らせて下さい」

神官「はい。3Gね」

魔法使い「えっ!?何よその値段!!!」

神官「はい、蘇ったよ」

勇者はよみがえった!

戦士「はやい!!」

勇者「ぷは!よくもやってくれたな。本当の特技を見せるときが来たようだ」

勇者「くらえ!!『すてみ』!!」

勇者はすてみで戦士にぶつかりにいった!

戦士は勇者を切りつけた!

勇者は力尽きた。

遊び人「蘇らせて下さい」

神官「3Gね。はい、蘇ったよ」

勇者「ぷはっ!」

勇者「うおらああああ!!!」

勇者はすてみで戦士にぶつかりにいった!

戦士「またっ!」

戦士は思わずたじろいだ!

勇者は戦士に全力でぶつかった!

戦士「ぐほおお!!!」

戦士に大きなダメージ。

勇者は棺桶に入った。

遊び人「はい、3G」

神官「あいよ」

勇者「ぷは!」

勇者「うおらあああああ!!!!」

勇者はすてみで戦士にぶつかった!!

戦士「ぐおお!!?」
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/04(金) 01:14:48.77 ID:fGn313Xj0
魔法使い「なにあの命の安っぽさ!!」

戦士「魔法使い……あいつ中々に強いぞ」

遊び人「はい、3G」

勇者はよみがえった!

戦士「まずい、次が来る!」

魔法使い「ちょっとまって!!防御力を今上昇させ……」

遊び人「相手も勇者一行よ!!気にせず突っ込んで!!」

勇者「おらぁああああ!!!」

勇者は戦士にぶつかった!!

戦士「ぐはぁ!!」

勇者「   」ポクリ

勇者は力尽きた。

遊び人「はい、3G!」

勇者「ぷは!」

魔法使い「まずい!回復を優先しないと!」

勇者「うおらあああ!!!!」

勇者は戦士にすてみでぶつかった!

戦士「ぐぉお!!!」

勇者は力尽きた。

戦士「はぁ……はぁ……」
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/04(金) 01:16:58.51 ID:fGn313Xj0
遊び人「そこの戦士はなかなかレベルが高いようだからね!蘇生にも数千Gはくだらないでしょうね!!」

遊び人「私みたいに半永久的にお金を払い続けることなんてできないわ!!オホホホオホ!!」

遊び人は神官に3G払った。

勇者はよみがえった!

遊び人「さあ、やっておしまい!!」

勇者「ううぉおおおお!!!!」

勇者は戦士にすてみでぶつかった!

勇者は力尽きた。

戦士「ぐぁああああ!!!」

戦士に大きなダメージをあたえた!

遊び人「はい、3G!」

神官「はいはい」

勇者はよみがえった!

戦士「はぁ…!はぁ…!くそっ!!」

勇者「うおらあああああああああああ!!!!」

魔法使い「や、やめて!!!」

魔法使い「私たちは、精霊の加護を壊されているの!!」

遊び人「えっ」
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/04(金) 01:18:10.17 ID:fGn313Xj0
ブオン――

勇者ははじかれた。

勇者は力尽きた。

「俺の仲間を傷つけないでくれ」

遊び人「(ブオン、って聞こえて剣を振りかざす効果音だと思ったけど)」

遊び人「(巨漢の人がお腹で弾いただけだった。それで私のパーティのリーダーは力尽きた)」

遊び人「あなたは……」

「大人しくついてきてくれ。さもなくば、蘇生後も苦しむほどに君の仲間を黒焦げにするよ」

遊び人「まさか」

「そう。元々は魔王討伐を目指して旅立った」

暴食「元、勇者だ」

暴食の勇者があらわれた!
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/04(金) 01:18:59.78 ID:fGn313Xj0
暴食「僕らのことをこそこそ嗅ぎ回っていたようだね」

遊び人「(食べ物の臭いを嗅ぎながら寝転んで監視していただけだけど)」

遊び人「あの、私のパーティの勇者も蘇らせていいですか?」

戦士「さっきの男が勇者だったのか!どおりで勇敢な攻撃を!」

魔法使い「無謀というんじゃ……」

遊び人「はい、3G」

神官「おわりました」

勇者はよみがえった。

勇者「うおらあああ!!!」

勇者はすてみで走りだした!

遊び人「止まれ!!止まりなさい!!ドウ!!ドウドウ!!」
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/04(金) 01:21:32.94 ID:fGn313Xj0
〜富豪の館〜

遊び人「本当だよ!この人には精霊が宿っていない!」

暴食「君は、精霊が見えるのか?」

遊び人「うん。精霊は勇者という職業の者に宿るでしょ。宿っている精霊を私は目視することができるの。その精霊の加護が及ぶパーティメンバーまではわからないけど」

勇者「精霊がいないのに、本当に勇者なのか?」

暴食「それを証明するのは簡単だ」

暴食の勇者は手をかざし、呪文を唱えた。

遊び人「おっ!」

小さな雷が宙に舞った。

暴食「勇者にしか使えない雷の呪文だ。ご存知だろう。今のは威力を弱めたが」

暴食「俺らの命は一度きり。死んだら終わりだ」

勇者「…………」

遊び人「…………」

勇者「あばばば」ジョボボボボ…

遊び人「おろろろ」ビチャビチャ…

勇者「さ、殺人者になるところだった……」

遊び人「殺人教唆の罪に問われるところだった……」

戦士「あれくらいで死にはせん!」
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/04(金) 01:22:20.82 ID:fGn313Xj0
遊び人「あのぉ……」

勇者「これ、全部無料ですか?」

勇者達の前のテーブルには豪勢な食事が並べられていた。

遊び人「そこじゃないでしょ!」

暴食「気にせず食べてくれ。せっかくこうして出会った勇者仲間だ。君たちが処刑の王国の追手には見えないしね」

遊び人「でも……」

暴食「食べられることは、幸せだ。魔王を倒すことなんかどうでもいいと思えるくらいにね」ムシャムシャ

勇者「わかります。動物型の魔物を焼いて食ったことありますもん」

遊び人「うへぇ、あったね」

魔法使い「……まだいいわよ」

戦士「おい、魔法使い」

遊び人「?」
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/04(金) 01:24:06.46 ID:fGn313Xj0
暴食「冒険者に食糧問題は付き物だ」

暴食「僕らも一度餓死して全滅したことがある。魔王城の近く、魔域の手前まで行き着いたときだった。近くに人間の住む町なんかなくて、ひたすら消耗に耐えるだけの日が続いた。その時は死の恐怖に怯えたよ」

遊び人「精霊の加護があるのに?」

暴食「肉体の損傷が激しいほど魂と肉体の結合が困難になり、復活後のペナルティーも大きくなるのは知ってるだろう?」

遊び人「ええ」

暴食「魔物に焼き殺されたり、体を粉微塵に吹き飛ばされて死んだことは無数にある。ただ、餓死して死んだことはなかった」

暴食「焼き殺された場合は、焼かれる前の身体で復活させてもらえる。ただ、餓死はどうなのかわからなかった。餓死する直前の身体で蘇らせられたところで、また数秒もしないうちに餓死してしまうんじゃないかと気が気でなかった」

暴食「そして、実際に餓死して全滅してしまったことがある。植物の魔物に身体を拘束されて、自殺すらできない状態で数日間も過ぎたんだ」

遊び人「でもあなた達は生きている」

暴食「蘇ったさ。でも、餓死からの復活による副作用は最悪だった」

暴食「肉体が復活するのは、餓死一歩手前の状態だ。骨と皮みたいな状態だった。そのまま復活してはまた即死してしまう。だから、精霊は俺が死なないように工夫をした」

遊び人「工夫?」

暴食「肉体にふさわしい大きさに魂を削ったんだ」

遊び人「どういうことですか?」

暴食「余裕がなくなるということだ。この贅肉みたいなものがなくなる」ブヨン

暴食「余裕がなくなると、荒むだろ?金があるものが盗人になんかなるものか。腕力があるものが子供を刺殺したりするものか。賢さを認められてきたものが人を騙したりするものか」

暴食「人間の心が少し失われた。以前ではためらっていたことも、平気で行えるようになった」
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/04(金) 01:27:00.26 ID:fGn313Xj0
暴食「こんな冒険譚を小さい頃に読まされたことはなかったか?」

暴食「魔王を倒そうと旅している勇者の苦悩の物語。飢えに喘いでも食料を住民から分けて貰えない。魔物を倒しても魔物からの報復を恐れられ町を守り続けるよう拘束される。その特殊な力を調べようとする者達から人体実験をさせられる。旅が進むにつれて人間に対して憎悪を募らせていく話だ」

暴食「魔王城にたどり着いた勇者は、魔王を切りつける。人間の感情をほとんど失いながらも、勝利を噛み締めている時に、赤い返り血を浴びているのが目に入る。そして気づいた。魔王もかつては人間で、勇者と呼ばれる存在であったと。そして今や自分が人間への恨みを持つ、魔王となったのだと」

暴食「魔物を見て魔物に近づくんじゃない。人間を嫌って魔物に近づくんだ」

勇者「作り話じゃないのか?勇者だったら精霊の加護で蘇る。その元魔王も勇者だったのなら、近くの教会で復活したら騒ぎになるよ」

暴食「おとぎ話だからな。でもな、これらが全部創作であると思うか?」

勇者「何が言いたい」

暴食「大罪の装備で不健康な食料を提供しようが、俺らの心は痛まないってことだ」

勇者「…………」
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/04(金) 01:29:33.24 ID:fGn313Xj0
暴食「ところで、さっきから食事に手をつけていないようだが。やはり気にめさんか」

遊び人「大罪の装備の影響がなくとも、敵の陣地に入り込んで安心して食べ物なんか食べられないわよ。何が入ってるかわからないわ」

暴食「まだ信用していないか。でも大皿だ。俺たちも同じ皿から飯を取って食っている。見た目で毒があるかわかるような食事でもあるまい」

暴食「お前らのそういう警戒心を読んで、席も先に自由に座らせた。食器に毒が入れてあると思われるかもしれないと思ってな」

魔法使い「そういうと余計怪しいと思われちゃうわよ」

暴食「怪しいと思われて良いだろ。実際、後ろめたいことばかり俺達は抱えているんだから」

暴食「だがな、うまいぞ?それに、食べてくれたら信頼してくれたとわかる。お互い口も軽くなると思うが」

遊び人「……でも」

暴食「毒が入っていると思ってるのか?だったらともに死ぬまでだ。はっはっは!」

魔法使い「相変わらずでしょ、うちのリーダー」

勇者「話題変わるんだけどさ」

遊び人「どうしたの?」

勇者「さっきのおとぎ話の魂の話聞いてたら怖くなっちゃって。俺の命の使い方大丈夫かな?人間の心失われたりしないかな?」

魔法使い「さっきの戦闘はやばい」

戦士「あれは問題だろ。というか切られる時痛いだろ」

勇者「それがさ、あんまり死の恐怖とか痛みの感覚がないんだよ」

暴食「それは精霊の加護のおかげだ。特にお前の場合、全然信頼がないんだろう。多少の痛手を負うだけですぐに棺桶に移される。すてみのとっしんだけで普通あの世行きになるものか。過保護なんだ」

勇者「過度に保護されてる結果すぐに死にまくってるってこと?」

勇者はこんらんした!

勇者「タベル!!」バクバク!!

遊び人「食の楽しみに逃避すな!」
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/04(金) 01:31:23.76 ID:fGn313Xj0
暴食「ふはは。いいよな、食べ物は。忘却、逃避、そんなことにも使える」

暴食「暴食をして肥えてしまった人間は後ろ指をさされるが。暴食の代わりに自分を癒す方法がなかっただけなんだ。その者から暴食を取り払ったら、痛みを浴び続けるだけだ」

暴食「生きるために食べるという意味では、生きていくために必要最小限の食事を摂ることと、悲しみを誤魔化すために無駄に油の乗った食事を食べることは同じだろう?」

暴食「みんな忘れたがってるんだよ。食べたがってるんじゃない。食べるという生きていくために必要な正義の行為をしていることで、目を背けたい問題を先延ばしにすることを自分に許しているんだ」

暴食「自分には今色んなものがつきまとっているけれど、自分は今食事をしている。食事は絶対に必要な行為だ。そして幸せな行為だ。だから今、食べているこの時間は正しい。この時間だけは、あらゆる立ち向かうべき困難から目を背けても許される、とな」

暴食「そんなことを続けても、魂は全く肥っちゃくれないんだがね」

勇者「うめぇ!うめえなあこれ!」ハフハフ!

遊び人「(勇者も何かから逃避したがってるのかな……)」
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/04(金) 01:33:36.01 ID:fGn313Xj0
魔法使い「はあ、また食事中に小難しい話してるよ」

暴食「食事の場でしか腹を割って話せないことがあるだろう」

魔法使い「腹を割ってくれるといいんだけどね」

勇者「うめぇ!!これもうめぇ!!」ガツガツ!

魔法使い「その前に腹を下しそうね」

遊び人「あなた達の目的は何?勇者として冒険していたはずなのに、この村に住んで、大罪の装備を利用して食料を作り出して」

魔法使い「聞き方が悪いわね。勇者として冒険していたけれど、魔王も無事他の勇者によって倒され、パーティメンバーと安住の地を見つけ美味しい食料を提供している、と考えてよ。もう充分な理由じゃない?」

遊び人「大罪の装備には代償が伴います」

暴食「寿命が縮むのだろう」

遊び人「それを知ってて!」

暴食「一度だけ、装備を身に着けたことがある。魔域にいた時だ。強大な魔物を一人で倒す時に、使用した」

暴食「一回の戦闘で寿命がごりごりと削られていく感触を味わったよ。この装備は寿命を食い物にしているんだとね」

魔法使い「ねえ、やっぱりあなたあの鎧を恐れているのね。近くに置いておきたくないのね」

暴食「…………」

戦士「僧侶殿のことと関係が……」

遊び人「僧侶?」

魔法使い「私は!!私はあの子の死を彼がいつまでも悼むのはおかしいと思うわ!!あの子が自ら生きることを拒否したんじゃない!!」

戦士「僧侶殿の信仰の問題だ!!生を放棄したかったわけではない!!」

魔法使い「何が違うのよ!!」

魔法使い「私達が、私達が生きるために……食べたのに……あの子は最後まで魔物を食べることを拒否して、餓死したのよ!!」

魔法使い「精霊の加護が破壊されていたというのに!!」
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/04(金) 01:40:57.69 ID:fGn313Xj0
今日はここまでです。明日は仕事の都合で投稿が難しいかもしれません。おやすみなさい。
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/04(金) 02:50:19.33 ID:2EiWrIY90
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/04(金) 08:54:57.99 ID:5iDLDHPHO
omoroi
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/04(金) 09:42:13.57 ID:mCWwWNKPo
あほの子の勇者かわいい(精霊並感)
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/04(金) 18:48:56.14 ID:lnxLmCxpo
どの勇者SSでも僧侶はいい子で不憫だな
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/05(土) 20:02:25.12 ID:ob1U7I8l0
【TIPS@】

精霊の加護。

その存在に、魔王は頭を悩ませていたという。

人間最強の生物――勇者――であっても、戦闘能力は魔王に圧倒的に劣っていた。

形態変化を使うまでもなく、魔王は数々の勇者を蹴散らしていった。

しかし、勇者という職業の恐ろしさは、やり直しがきくことにあった。


勇者は学習する。


魔王の行動パターンを知り、対抗策を広大な人間の土地から集めてから何度も挑んでくる。

初期の魔王は単純な対応策しか持たなかった。

勇者を捕縛し、自殺を封じ、復活を阻止する。

しかし勇者はその対策も練った。

特殊な魔力を込められた毒薬を飲んでから戦いを挑み、魔王に監禁された場合に供え自動的に死ぬように備えた。

魔王が更なる対抗策を練っても、精霊の加護を持つ勇者一行(通常4人)は、繰り返しを基本に置いた戦略で戦いを挑んでくるため、為す術がなかった。

さらに、勇者のパーティー同士が繋がり、12人の勇者一行が魔王に立ちはだかったことまである。

その時、魔王は寿命を対価に第二形態にまで変身を遂げたという。
(勇者殺しの勇者、が現れたという噂が広まってからは、徒党を組むということもなくなってはいったが)。

繰り返しという勇者の特権に危機を覚えていた魔王は、本格的な対策を練り始めた。
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/05(土) 20:13:07.14 ID:ob1U7I8l0
【TIPSA】

魔王と四天王の協議の結果、3つの案に絞られた。

@ 魔王城の牢獄内に神官を置く。
A 人間界にいる神官を殺害する。
B 精霊を破壊する。

@ のアイデアは最適に思えた。

勇者の復活時点は、死んだ瞬間から遡り、一度訪れたことがある居住地の中で最も距離の近い場所に存在する教会内の神官の目の前である。

魔王は、牢獄の中に勇者の復活地点をつくり、自殺を図ったとしても牢獄の中で復活するよう企てた。

しかし、これはできなかった。

神官という職業を侮っていた。

人間の神官そのものは、決して高尚な存在ではない。

盗みを働くこともあるし、貧しき女性を金で揺さぶることもある。

しかし、こと勇者復活に関しては、別の人格が宿るようだった。

神官は魔域の中のエリアを決して勇者復活の時点としてふさわしいと認めることはしなかった。

虫の息の勇者と神官に洗脳の呪文をかけても、無意味だった。

魔域は魔物の領域であり、人間の領域ではない。

人間の領域でしか神官の役目を果たすことはできない。

結局、魔王城から最も近い距離にある町の神官の前で復活してしまうのであった。
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/05(土) 20:15:04.59 ID:ob1U7I8l0
【TIPSB】

では、その町を攻略するのはどうか?

A 人間界にいる神官を皆殺しにする、に絡めて検討をした。

勇者ほどではないにしろ、神官も選ばれたもののみなれる職業であった。

神官を皆殺しにすれば、精霊は神官を仲介にした勇者の蘇生ができなくなる。

少なくとも魔王城付近の神官だけでも殺すべきだと言われた。

しかし、人間も巧妙だった。

魔王の領域「魔域」があるように、人間にも人間の領域がある。

「町」「村」「里」「城下町」などである。

中でも、魔王城から最も近い距離でありながら、滅ぼされずに生き残り続けている町の守護は強力で、魔王でも攻略することが容易ではなかった。

感知呪文を使っても感知できない。
目の前にあっても気づかない。
気づくには「人間の心を得る」ことが必要だが、それは魔族としての誇りを捨てることであった。
魔王は当然これをよしとしなかった。

人間の領域を破壊することはできても、創造することは極めて困難であった。
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/05(土) 20:19:21.70 ID:ob1U7I8l0
結局、実際に実行され、劇的な効果を示したのが

B 精霊を破壊する。であった。

精霊の加護に悩まされているのであれば、その精霊を殺してしまうという取り組みだった。

魔王は勇者との戦闘を通じてデータを蓄積した。
繰り返しによって成長していたのは勇者だけではなかった。
勇者が訪れる度に様々な魔法陣を敷き、精霊が救済に来た時の反応を確認した。

精霊の加護の流れは大まかにこのようなっている。

精霊は勇者の魂の中に宿っている
→精霊はパーティメンバーの魂を勇者の魂に常につなぎとめている
→パーティメンバーが死んだ場合、精霊は棺桶を放り投げる(肉体の保護)
→パーティメンバーが全滅した際、精霊は勇者の魂から飛び出し、メンバーを神官の元まで瞬時に運ぶ。
→神官は勇者の肉体を修復し、魂と結合させる
→勇者復活

パーティメンバーが全滅した瞬間、精霊は飛び出す。

その瞬間に精霊を殺害する魔法陣を、魔王は創り出した。



魔王に十数回目の勝負を挑んできた勇者がいた。

魔王は勇者を呪文で焼き尽くした後、目に見えない存在――精霊――がいつものように出現したのを感じた。

勇者の魂から飛び出し、塵となった勇者と、その仲間の遺体を神官の元に届けようとしたのだろう。

瞬時に移動する精霊よりも早く、魔法陣は発動した。

 「バリンィイインン!!」 

ガラスが割れるような激しい音が聞こえた。

そして、勇者は蘇ることはなかった。

勇者の肉体から飛び出た精霊を破壊することを可能にしたのだった。


さらに、砕けた精霊の魔力をもとに、「魔剣」という1つの武器を創り出した。

これは、精霊を斬りつけることのできる武器である。

魔王は勇者を殺害できるようになった。

魔王軍は全盛を誇った。

魔王軍は世界を支配しつつあった。

しかし。

大罪の装備が世界に散らばった数ヶ月後に魔王は力を失った。
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/05(土) 20:25:49.57 ID:ob1U7I8l0
口論する戦士と魔法使いを遮り、暴食の勇者が僧侶の過去について語りだした。

暴食「魔王城の内部に侵入したことがあった。そして魔王の側近の一人と戦闘状態に入った」

暴食「側近は不自然に逃げ始めた。追いかけると、大きな広間におびき寄せられた。おそらく、魔法陣が見えないように敷いてあったのだろう」

暴食「本領を発揮した側近の呪文にやられ、僕らは全滅した。そして、通常通り教会で目覚めた。ところが、いつもと違う感触があった」

暴食「死の感触だ。日常だった『生』が突然日常ではないことに気付かされた」

暴食「恐怖で震えたよ。そして、初めて精霊を目撃した」

暴食「真っ白に輝く、ガラスのような生き物だった。眩しくて輪郭を捉えきれなかったけれど、羽根のようなものをパタパタと力なく羽ばたかせていた。俺は危機感を覚えて、急いで仲間を全員復活させた」

暴食「直後だった。ガラスが割れるような激しい音が聞こえた。後に、魔族が敷いた魔法陣によって精霊が殺されたとわかった」

暴食「敵の魔法陣も完全には発動しなかった。おそらく、魔法使いが放った自己犠牲呪文によって、魔法陣が損傷していたのだろう。精霊は即死せず、僕らを神官の元に運んでから力尽きた」

暴食「何もかもが狂った気がしたよ。勇者としての特権を失い、勇者ではなくなった気がした」

暴食「呪文の威力も著しく落ちたし、意思の疎通も以前のようにうまくいかなくなった。精霊の恩恵は思ったよりも多かったことに失ってから気付かされた」

暴食「精神的にも、死んだら蘇れはしないだろうという確信が自分たちを臆病にさせた」

暴食「それでも僕らは魔域に再び進んだ。怯んでいる暇はなかった」
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/05(土) 20:33:22.95 ID:ob1U7I8l0
暴食「魔族が人間の町になかなか侵入できないように、僕ら人間が魔域、とりわけ魔王城に侵入することも困難なんだ」

暴食「どうしても進むのが無駄に思える道があるだろ?道と認識するのもバカバカしいと感じるような」

暴食「魔王城の入り口には同じ守護がが、とりわけ強力な力でかけられている。魔族の魂を持つものにしか関心が向けられないような工夫がね。魔王城が目と鼻の先にあっても、古びた井戸並の興味しかそそられない」

暴食「しかし僕は奇跡的に認知することができた。どうしてだと思う?」

勇者「……人間としての魂が、削られていたから」

暴食「そう。肉体の激しい損傷や餓死によるペナルティで魂が削られ、少しだけ魔族に近い人間になっていた。よく刑務所にいる罪人が魔域に迷い込んだことがあるとうそぶくことがあるみたいだけど、それはほら話ではないと思うよ」

暴食「側近は精霊の加護の破壊に失敗したとわかっていただろう。そして、大広間までおびき寄せて僕達と戦ったということは、魔法陣はそんなに容易につくれるものではないはずだ。だから僕達が再び侵入するまでに、魔法陣の修正を行う必要がある」

暴食「死の恐怖に怯えながらも、相手の準備が終わる前に魔王城への侵入を再度試みた」

暴食「魔王と戦闘する気など失せていた。だが、魔王が所持しているという精霊殺しの剣だけでも手に入れようとしたんだ。魔王だって、肌身離さず持ち歩いているわけじゃないからね」

暴食「けれど、手に入れることはできなかった。魔族の会話から知ったのは、既に精霊殺しの魔剣は何者かが魔王から奪っていたということだけであった」

暴食「魔王城から出ることを決めた時、側近と再び遭遇してしまい、退却。命からがら逃げ延びた」
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/05(土) 20:35:20.65 ID:ob1U7I8l0
暴食「困ったのが帰り道だった。これは浅はかだったんだが、魔王城の外側だけじゃなく、内側からも認知に対する防衛を施したようだった」

暴食「出口がわからなくなった。そして魔王城の中を歩き回っていると、入ってきたときとは異なる場所に出る扉を見つけた」

暴食「紫色の空に覆われた、砂漠のような場所だった。振り返ると魔王城は消滅していた」

暴食「人間の街に行こうと、移動の翼に念じても、効力がなかった。なんというか、空を飛ぶ想像を頭の中で虚しくしているだけという感触だけしかなかった」

暴食「食料も尽きかけていた。そこで僕たちは殺した魔物を食した」

暴食「ひどいものだった。魔域に巣食う魔物の味は生まれてから口に入れたもののなかで最悪だった。人間界にいる魔物とは比較にならない。吐き気を抑えて飲み込んだ。味こそ最悪だったが、空腹は満たされた」

暴食「人の形をした魔物もいたよ。他の魔物と違って、緑色の血液を有していた。僕と、戦士と、魔法使いは食した」

暴食「しかし、僧侶だけは食べようとはしなかったんだ」
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/05(土) 20:39:18.08 ID:ob1U7I8l0
暴食「ある日、魔法使いが倒れた。魔法使いを背負って歩いていた、戦士も倒れた。僧侶は不思議と、体力が残っているみたいだった」

暴食「僕は仮死草を二人に飲ませた。このまま2人を引きずって歩き続けるか、僕と僧侶だけ人間界に戻り、王国の力を借りて再度侵入するかどうか迷った」

暴食「だが、二人を置いて、僕と僧侶で王国に戻ってから、またそのエリアを探し出すのは不可能に思えた。それに、王国はどこも勇者に請求することが多すぎる。あの頃はとくにそうだった」

暴食「結局、僧侶が魔法使いを、僕が戦士をひきずっていくことにした」

暴食「装備も全て砂漠に捨てた。背負うのに重りは少しでも減らしたかった。魔物が現れたら一発でおしまいだ」

暴食「僕らが持ったのは、魔物の死骸と、毒草だけだ」

暴食「特殊な毒草で、口に含むと一時的に疲れを忘れさせてくれた。時間が経った後の疲労感は酷いものだったけどね」
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/05(土) 21:05:54.69 ID:ob1U7I8l0
魔法使いは泣いていた。

戦士は泣いている魔法使いをなだめた。

暴食「僕は最後の力を振り絞って、魔法使いと戦士をおぶってあるき続けた」

暴食「幸運なことに、青みががった人間界の空が見えてきた。その付近にまでいけば、移動の翼を使用できるはずだった」

暴食「しかし、最悪なことに、巨大な砂の魔物が現れた」

暴食「終わりだと思った。装備も全て置いてまるはだか。仮死状態の仲間が二人と、少し空腹の満たされた勇者が一人。勝ち目はなかった」

暴食「絶望していたその時、空から青白い光がそばに落ちてきた」

暴食「精霊を失った俺が、今度は何に選ばれたのかと思ったよ。最後の晩餐でも降ってきたのかとな」

暴食「ところがそれは、鎧だった」

暴食「俺は導かれるがままに鎧を身に着けた。そして、かつてないほどの食欲が沸いた。目の前の砂の魔物が、砂漠に埋まる魔物の骨が、地面に広がる砂までがごちそうに見えた」
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/05(土) 21:06:59.65 ID:ob1U7I8l0
暴食「気づいた時には、俺は巨大な砂の魔物を食していた。見上げるほど巨大だった化け物は、俺の胃袋の中に収まった」

暴食「魔物を食した俺は腹が満たされ、力がみなぎるのを感じた。同時に、命がすり減った気がした」

暴食「力の対価だったのだろう。鎧がまるで、俺の寿命を食ったとでもいわんばかりに喜んでいたように感じた」

暴食「魔物を食べ尽くした俺は、一瞬、二人の仲間を見た」

戦士「…………」

魔法使い「…………」

暴食「恐ろしい考えに囚われたが、微かに取り戻した理性に従い鎧を脱ぎ捨てた」

暴食「魔物を倒した後、移動の翼を使用できる境界に入ることができた。そして高度な文明を持つ都に飛び、二人を無事復活させることができた」

暴食「そして、俺達は冒険を辞めた。使命感を失った」

冒険「かつて餓死しかけた時に寄り、ろくに助けてくれなかったこの村に居住をかまえた。大罪の装備の影響力を利用し、俺らは食物を育て、金持ちになり、空腹とは無縁の生活をおくることができるようになった」

冒険「これが俺たちの物語だ。魔王ではなく胃袋に負かされた惨めな旅だった」

遊び人「…………」
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/05(土) 21:12:35.73 ID:ob1U7I8l0
暴食「さあ、次はお前らの番だ」

暴食「大罪の装備とはなんだ?お前らの冒険の目的はなんだ?」

遊び人「それは……」

勇者「大罪の装備とは、人間の7つの欲望に基づく装備だ。大罪の賢者の一族が儀式によって創り出した、」

遊び人「勇者、話すつもり!?」

魔法使い「私達だって話したんだからいいじゃん!ねえねえ、7つの欲望って何?大罪の賢者って何よ?」

勇者「暴食、色欲、傲慢、憤怒、怠惰、強欲、嫉妬の7つの欲望だ。それぞれの欲望に基づく装備品が世界各国に散らばり、その欲望にふさわしいとされる者に届くと言われている」

勇者「暴食の鎧は、あんたを持ち主に選んだんだ。もともと大食らいのやつに届くと思ったが、そうではないらしい。大罪の装備には何かしらの基準があるようだ」

勇者「大罪の賢者とは、非常に強力な呪力を持つ代償に、短命な寿命しか持たぬ一族だ。里の者は生まれながらにして賢者の職業であり、強力な呪力と引き換えに常に寿命を身体から漏らしている状態にある」

勇者「その一族が行おうとした儀式は、寿命の転移だった。ある者が持つ寿命を、他の者に移すものだ。ところがその儀式は何者かの手によって巧妙にねじまげられ、大罪の装備製作の儀式にとってかわられていた」

遊び人「勇者、駄目よ。話しすぎよ」

魔法使い「それでそれで?」

勇者「寿命の転移呪文の魔法陣は完全に書き換えられていたわけではなかった。より高度で、禁忌の領域に踏み込むものに書き換えられていた」

勇者「7つの大罪の装備は1つでも強力な力を持つ。けれど、それら全てを身に着けることで……」

遊び人「もうダメだってば!!」ガバ!

勇者「ぐむむ……」

遊び人「まさか、あんたたち!!」

暴食「毒を飲むなら一緒に飲むと言っただろう。食事の中に判断力を鈍らせる、真実草と呼ばれる毒草を入れさせてもらった」
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/05(土) 21:16:37.60 ID:ob1U7I8l0
遊び人「卑怯よ!!」

暴食「僕らも食したのだから同じだろう。それに、何もかも話すほど強烈なものではない。本来ならば泡を吹きながらでも舌の呂律だけをまわしつづけて、自分の出生から話すような強力なものだ。実際、俺も一箇所だけ嘘をつかせてもらった」


暴食「大罪の装備は7つ集めると何かが起きるのだな。そして、魔王を倒したものがいるとされる処刑の王国の者は大罪の装備を集めている」

暴食「処刑の王国の動きは確かに妙だ。魔王討伐後に、なぜか全国各地にいる勇者を呼び集めた。そして、王国に向かった勇者は二度と姿を現していない」

暴食「さあ、7つの装備を身につけると何が起こるのだ。答えろ」

暴食は勇者に迫った。

遊び人「駄目よ!!」

戦士は立ち上がり、遊び人を勇者から引き剥がした。
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/05(土) 21:45:17.93 ID:ob1U7I8l0
暴食「話せ。もう隠す必要はない」

暴食「全てを話せ」

勇者「大罪の装備は……」

遊び人「勇者、だめ!!」

勇者「大罪の装備は……どんなことがあっても……」

勇者「お前らから、奪い取るつもりだ」

勇者は思っていたことをそのまま口に出してしまった。



魔法使い「……そんなことばかり考えながら今日はここにいたってことね」

遊び人「勇者……」

暴食「あの鎧は渡さない。俺たちはこの村で、それなりの権力を手にしながら、今後も一生生きていくつもりだ」

遊び人「この村への食べ物の恨みを晴らしながら?」

暴食「食べ物の恨みは恐ろしいというだろう」

遊び人「…………」

暴食「だが、そうだな」

暴食「お前が俺より暴食にふさわしいことを証明できたら、大罪の装備を渡してもいい」
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/06(日) 08:20:36.92 ID:CnIAUNhGo
なんかぬけてない?
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 09:47:13.35 ID:ypTt4u9i0
>>102
抜けてました。おみそれしました。

>>96>>97の間

暴食「やがて、最後の食料も尽きた。魔物を食べないと言っていた僧侶用の食料も尽きた」

暴食「僧侶の体力も尽きた。魔法使いをおぶってあるくどころか、自分一人でもまともに歩けなくなっていた」

暴食「僧侶は、俺が戦士と魔法使いを背負って、歩き続けるように言った」

暴食「最後に彼女は、隠し持っていた食料を俺に差し出した。俺はそれを食し、いくらかの体力を取り戻し、2人を背負って歩き続けた」

暴食「僧侶は姿を消していた。最期の体力を振り絞って、俺から姿を隠したんだ」
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 09:52:21.30 ID:ypTt4u9i0
魔法使い「何言ってんのよ!」

遊び人「勝敗はどう決めるの?」

暴食「断食で対決するんだ。より長い間食べ物の摂取を拒んだほうが勝ちだ。真実薬を飲めば、どれだけ断食できたか嘘は言えない」

暴食「君たちが勝利したら暴食の鎧をくれてやろう」

遊び人「私達が負けたら?」

暴食「真実薬を吐くまで飲んで貰う」

暴食「大罪の装備に、少し興味がわいたからね」
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 09:59:46.55 ID:ypTt4u9i0
〜二組のパーティが別れた後〜

魔法使い「どういうつもりなのよ!!ただでさえ中毒性の高い食べ物をずっと食べてきたのよ?あいつらのほうがずっと有利よ!」

戦士「悪い冗談だと思ったぞ」

暴食「今日はたくさん真実薬を飲み込んだ。冗談で言っているわけではない」

暴食「俺は死なない。敵と毒を飲む覚悟で挑んだ。なんなら、餓死するまで耐えてやるさ」

魔法使い「本当に、何を考えてるのよ……」

暴食「僕が負けると思う?」

魔法使い「…………」

魔法使い「信じてるから、私たちは今日までついてきたのよ」

暴食「勝利を信じてもらえて何よりだ」

魔法使い「勝つかはわからないわよ」

暴食「えっ」

魔法使い「あなたが負けるならしょうがない。私にとっての信頼はそういうものなの」

暴食「そうか。そっちのほうが嬉しいよ。でも大丈夫だ。食に関して、僕は誰にも価値を譲るつもりはない。それが、食をしないということであっても」

戦士「話は戻るが、一つ聞きたいことがある」

戦士「あの勇者たちに嘘をついたといっていたが、どこだったんだ?全部真実を話していたように聞こえたが」

暴食「…………」

暴食「君たちにも内緒だ」
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 10:04:13.32 ID:ypTt4u9i0
遊び人「どういうつもりなのかしら!断食で勝負だなんて。あんなこと言って、私たちを弱らせて自分たちだけはご飯を食べるつもりじゃないかしら」

勇者「やつらのほうが圧倒的に戦闘能力が高い。まともに剣技で対決したほうが明らかにこちらに分が悪いのに、あえてあんな勝負をもちかけてきたんだ。何か意味があるんだ」

遊び人「そうはいっても、勇者もどうして乗ったのよ!!負けたらあいつらに大罪の装備の在り処を全て吐いてしまうのよ!」

勇者「食べてはいけないものを食べたら吐いてしまうのは真実草を食べているときに限らない」

遊び人「本当に、何考えてるのよ」

遊び人「本当に……」

遊び人「…………」

遊び人「真実草、まだ利いてるのよね?」

勇者「そうだと思う。自分に実感はないけど」

遊び人「あのさ。私が死んでた三日間、どんな贅沢したの」

勇者「霜降り肉を食べてた。バニーガールのダンスを見ながらね。いやぁ、復活させるのが遅くなってわるかった」

遊び人「…………」

遊び人「そう。よかったわね。おやすみなさい」
107 :全治全能の未来を予言するイケメン金髪須賀京太郎様に純潔を捧げる [sage saga]:2017/08/06(日) 10:28:50.01 ID:nxoMlVsA0
勇者突如現れた全知の須鎖之御之命之命現実神イケメン金髪王子須賀京太郎に処女膜捧げる女勇者破瓜する
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/06(日) 10:54:22.71 ID:Arp0/lmKO
おt
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 12:10:38.48 ID:ypTt4u9i0
〜断食1日目〜

暴食「あそこの区域にいる家畜は隣の村に出荷してくれ。移動のための魔物使いを一人手配しておいた。それから……」

…………

戦士「勇者、仕事をして無駄な体力を使うと賭けに不利になるぞ」

暴食「食を欲する気持ちという点では巨漢はふりだけど、生き延びるという点では圧倒的に有利だよ」

暴食「より食事の必要ないものに食欲があり、より食事が必要あるものに食欲がないのはなんとも皮肉なことだと思わないか」

戦士「そういうことにも頭を使うと余計エネルギーがなくなるぞ」

暴食「食べるということについて考えるのが好きだ。そのために食べているといっても過言ではない」
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 12:11:39.56 ID:ypTt4u9i0
勇者「……zzz」

勇者「……zzz」

勇者「……zzz」

遊び人「全力でエネルギーを節約する気だよこの人。朝から晩まで宿屋で寝る世にも珍しい冒険者だよ」

遊び人「食べて寝ると牛になるっていうけど、牛のように寝て食べないつもりだよ」

遊び人「ううー、宿代稼ぐために働かなくちゃ!!遊び人なのに〜!!」
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 12:13:03.12 ID:ypTt4u9i0
〜断食2日目〜

暴食「ふぅー、今日も一仕事した」

戦士「勇者、仕事は休めといっただろ」

暴食「気が紛らわせるからかえっていいんだ」

戦士「手が震えてるな。ただの食欲だけでなく、大罪の装備の影響を受けた食料を食べられなくなって、禁断症状がでているんだろう」

暴食「一度悪事に染まった男が正義に寝返ると死ぬのと似ているな」

戦士「またわけのわからんことを。無理してると身体を壊すぞ」

暴食「なぁに。魔王の手下と戦うわけでもない。こんな勝負朝飯前だ」

戦士「朝飯すら食べることのできない勝負なわけだが」

暴食「無理をするなというならこっちのセリフだ。戦士も俺にあわせて断食してるだろ」

戦士「……お見通しであったか」

暴食「その気持だけで胸がいっぱいだ」

戦士「でも腹は空っぽか」

暴食「はは、よしてくれ」
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 12:15:16.75 ID:ypTt4u9i0
遊び人「やばいこのアイスクリーム!!口の中でパチッシュワって!!はじけるうまさ!!」

遊び人「野菜も、その野菜を食べた牛もめっちゃうまい!!」

勇者「…………」グゥ~…

遊び人「あっ、起きてたんですか勇者様。お見苦しい所お見せしました」モグモグ

遊び人「ううー、ほっぺが落ちるうぅううう!!」

勇者「…………」グゥ…

勇者「あのさ……」

遊び人「はい」

勇者「なんか頭の中がお祭り騒ぎみたいな感覚であんまり記憶ないんだけど。あの日の夜の俺って、変なこと言ってなかった?なんか、贅沢してたとかなんとか……」

遊び人「自分の腹に手をあてて聞いてみればどうですか?」

勇者「…………」プヨン

勇者「ちょっと肥ったかも」

遊び人「これから痩せるといいですね」

勇者「どうしてさっきから敬語なの?ちょっと怖いんですけど」

遊び人「心配ご無用。大丈夫、あなたは賭けに勝ちますよ」

勇者「うん……応援してくれるんだ……うれしいなぁ……」

遊び人「私が食べさせませんもの」

勇者「…………」
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 12:16:01.89 ID:ypTt4u9i0
〜3日目〜

遊び人「暴食の勇者も外であまりみかけなくなったな。つらいんだろうか」

遊び人「勇者のこともさすがに心配だな」

コンコン

遊び人「入るよ?」

勇者「…………」

遊び人「寝てる?」

勇者「起きてる」

遊び人「体調、大丈夫?」

勇者「わからない。でも、なんていうかな」

勇者「懐かしいんだ、この感覚。遊び人と出会う前、一人で冒険してた時に俺も飢えてた時期があったんだけど」

勇者「何も食べないと、俺の場合は足が痺れるんだった。身体の中で生まれ変わるべきものが生まれ変わっていないというかさ。蓄積した痛みが流れてくれないというか」

勇者「お腹が空いたら、お腹が苦しいんじゃないんだな。空腹なのに食べ物がないと思う、心が苦しいんだな」

遊び人「勇者……」
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 12:17:48.55 ID:ypTt4u9i0

〜6日目 夜〜

遊び人「もうだめ!もうだめよ!いつまで二人とも続ける気よ!!」

遊び人「勇者の胃袋にご飯を詰め込まないと!」

遊び人「こんな賭け事おかしいわよ!!魂が削れるとか削れないとか以前に、こんなの生きた拷問よ!!」

遊び人「暴食の鎧は頑張って盗めばいい!!」

遊び人「勇者、入るからね!!」

ガチャ!

遊び人「…………」

遊び人「いなくなってる」

遊び人「夜食でも、こっそり食べに行ったのかな。私も小さい頃によくやったなぁ」

遊び人「…………」

遊び人「いいのよ、それで」

遊び人「生きるために食べるか、食べるために生きるか、か」

遊び人「食べるために生きてると思う瞬間が、生きてる中にはきっとあるよね」

遊び人「私もお腹空いたな。甘いものでも食べに行こっと」
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 12:19:39.99 ID:ypTt4u9i0
痩せた勇者と、痩せた暴食は森のなかで遭遇した。

暴食「こんな夜中にわざわざここまでくるとは。こっそりきのみでも食べに来たのかな。それとも、鎧を盗みに来たのか。残念ながら、もうここにはないぞ」

勇者「…………」

勇者は首を横に振った。

暴食「そういうことを疑って、俺が待ち伏せてるんじゃないかと思って会いにきた、というように解釈してやろう」

勇者は首を動かさなかった。

暴食「いずれにせよ真実草が真実を吐くさ」
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 12:21:27.80 ID:ypTt4u9i0
暴食「思い出話をしてもいいか」

暴食「俺は子供の頃、腹が減るということがどういうことかわからなかったんだ」

暴食「食欲、という感覚がまったくわからなかった。恵まれた地域で生まれて当たり前のように3食食べてきたというのもあるが、俺の体質の問題でもあったのだろう。勇者に生まれついたこととは全く関係なしに、俺固有の体質だ」

暴食「周囲の子供がお腹が空いたと言っていることの意味がわからなかった。どういうことか聞いてみても、お腹が痛いという精一杯の答えしか返ってこなかった。それから俺はお腹が痛くなると、お腹が減ったと親に言うようになって、飯を出されるという笑い話のようなことがあった」

暴食「お腹が空くという感覚を徐々に理解しはじめ、勇者として旅立ってからも、時々わからなくなった。戦士や魔法使いが文句を言う中、俺は空腹を多少感じながらも飯を食べたいという気持ちにはあまりならないことがあった。僧侶も、一度も不平を言ったことはなかったがな」

暴食「食べてる間にはわからない食べるということの意味を、食べない今になって思い出したよ」

暴食「いつもあって当たり前だったものがなくなってから理解できるのが人だ」

暴食「食事はまだいい。いただきます、ごちそうさま、という呪文があるから人は食事のありがたみを日頃から忘れないでいられる」

暴食「いつもいて当たり前の存在にはなんと言えばよかったのだ。おはようも、おやすみも、とても足りる言葉じゃない」

暴食「俺は、愛しているなんていう言葉を、最期の時まで使う勇気が出なかった。勇者と呼べる男では、なかったんだ……」ポロポロ…

暴食「僧侶……あと1日だけ……違っていたら……。お前はどうなっていた……二人とも生きていたのか、それとも死んでいたのか……。その死は、今の俺の命より劣る価値のものなのか……」

暴食「俺は、何のためにこれからも食べ続けなければならないのだ……」
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 12:22:04.73 ID:ypTt4u9i0
暴食は涙を流した。

勇者は乾いた手を肩に置いた。

痩せた顔をあげた暴食の勇者に言った。

“はら へったな”

そして、ひどく咳き込んだ。

暴食の勇者は、勇者の酷いかすれ声にほとんど聞き取ることができなかった。

暴食「お、お前!!」

暴食「水すら、飲んでいなかったというのか!!」
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 12:22:48.72 ID:ypTt4u9i0
〜暴食の勇者の館〜

戦士「ひとまず水を飲ませて寝かせておいた」

遊び人「勇者!!」

勇者「……よっす」

遊び人「ほら、支えてあげるから起き上がって」

遊び人「スープにパンをひたした食べ物だよ。よその国の素材を取ってきたの」

勇者「…………」

遊び人「食べて」

勇者「…………」

遊び人「食べなさい」

勇者「…………うん」

勇者「……いただきます」
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 12:23:17.94 ID:ypTt4u9i0
勇者「…………」ゴックン

勇者「……ああ」ポロポロ……

勇者「……あぁ……あぁ……」

勇者「なんだよ、なんだよこれ……」

勇者「うめぇ……」ポロポロ…

遊び人「よかったね」

勇者「ううう……ひぐっ……うめぇよお……」

勇者「うわぁあああんん……」ポロポロポロ……
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 12:24:11.87 ID:ypTt4u9i0
魔法使い「ほら、勝負はあなたの勝ちよ。よく耐えたわね。食べなさい」

暴食「…………」ゴクリ…

暴食「うぅ……あぁ……」

暴食「うぐ……」ポロポロポロ……

魔法使い「あれだけ暴食の装備の影響を受けた食物を食べてた男が、よその村の普通の食事を摂りたがるなんてね」

暴食「あぁ…あぁ……」モグモグ

魔法使い「そして、魔物に八つ裂きにされても泣かなかった男が、ご飯を食べて泣くなんて」

魔法使い「僧侶。あなたの勇者は、今も勇者のままでいるわよ」ボソ
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 12:25:15.66 ID:ypTt4u9i0
勇者「……よし。もう行こう」カチャリ

遊び人「どうしたの?まだ全部食べてないじゃない。ゆっくりでいいよ」

勇者「勝負に負けたんだ。大罪の秘密を全て話すわけにはいかない。館の外に出て移動の翼を使用するんだ」

サッ…

暴食「空から降り注ぐ雷撃の呪文を使用する勇者を相手に、そんな愚かな逃亡を図ろうとする勇者がいるとはな」

遊び人「暴食の勇者!」

暴食「同じ釜の飯を、拒んだ者同士」

暴食「腹を割って、話をする時が来た」
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 12:25:51.84 ID:ypTt4u9i0
〜数日後〜

魔法使い「ああーおながずいだよぉ……」ブルブル…

戦士「まったくだ」

暴食「清き泉の里がこの森の奥にあるという。もう少し探索してみよう」

魔法使い「もう近くの町に戻ってご飯食べようよ〜。暴食を楽しもうよ〜」

暴食「それでもいいが。せっかく昔みたいに痩せてスリムになったのに、もったいないなぁ」ボソ…

魔法使い「…………」

魔法使い「も、もう少し探索をがんばりましょうか」
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 12:27:23.11 ID:ypTt4u9i0
戦士「なあ勇者」

暴食「何だ」

戦士「どうしてあいつらに大罪の装備を渡してしまったのだ」

暴食「これで聞かれるのは10度目くらいじゃないか。言っただろう」

暴食「あんな危険なものを持ち歩きながら旅には出たくない。装備の魅力に取りつかれ、いつ身に付けてしまうかもわからない」

戦士「それは奴らも同じでは」

暴食「あいつらは大罪の装備を封印する壺を持っている。壺の中にある物は魔力を外に漏らさない。俺も目の前で確認した。明らかに壺より大きい装備が中に吸い込まれ、存在を一切消したかのように収まった」

戦士「だったらあの村のどこかに隠しておけばよかっただろう」

暴食「俺はもう、あの装備の影響で、人の寿命を食らう食物が出ることを望まなくなったんだ」

戦士「…………」

暴食「削れた魂の欠片を、今回の1件で少し取り戻すことができたらしい」

暴食「それに、あいつらも言っていただろう。あの村から今すぐ逃げ出せと。大罪の装備を目当てに必ず処刑の王国の者が訪れると」

暴食「縁を切ったほうがいいものなのだ。俺達は空腹に喘ぎながら、こうして旅をするのがお似合いなんだ」

暴食「そうさ。俺はもう一度、こうやって、お前らと冒険がしたかったんだ」
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 12:28:11.70 ID:ypTt4u9i0
魔法使い「……くくっ」

魔法使い「……ぷはっ!」

戦士「……くく。はは!」

魔法使い「あははは!!!」

暴食「な、なにがおかしい!」

魔法使い「こんな巨体の勇者一行なんている!?」

戦士「以前、例の勇者が面白い独り言を言っていた。世界を救った勇者が巨漢でも、世界は讃えてくれるのかと。石像は痩せた形でつくられるんじゃないかと」

暴食「あいつもよくわからないことを考える」

魔法使い「でも気になるんでしょう?私達さ、あいつらの冒険についていかなくてよかったのかな。それなりに戦力にはなれたと思うけど」

暴食「あの者たちは二人でパーティを組んでいる。4人まで精霊の加護を受けられるというのに」

暴食「俺達のように、何かしら事情があるのだろう」
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 12:28:41.21 ID:ypTt4u9i0
暴食「そんなことを話している間にだ」

魔法使い「わぁ!!泉がある!!喉乾いた!!」

戦士「俺もだ」

ゴクゴクゴク……

戦士「あー、生き返る」

暴食「戦士。俺がどうしてあいつらに大罪の装備をわたしたか、別の方法で説明できそうだ」

戦士「どういうことだ?」

暴食「水を飲んでくれ。飲める限界まで」

戦士「まあいいが」ゴクゴク…
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 12:31:16.34 ID:ypTt4u9i0
戦士「……ふぅ。もう飲めん」

暴食「よし、ではもう一口飲んでみろ」

戦士「馬鹿にしてるのか!」

暴食「いいから、飲んでみろ」

戦士「まあ飲めんこともないが……よし」

ゴクゴク…

戦士「うう……」

暴食「もう一口だ」

戦士「……吐く時は勇者の頭から吐いてやるからな」ゴクゴク…

戦士「ぷはぁ、もう無理だ……」

暴食「もう一口」

戦士「今度こそ本当に無理だ!」

暴食「そうか。悲しみを受け入れている状態もそれと似ている」

戦士「はあ?」

暴食「最期の一口の前に、たまたまあの勇者が訪れただけだ」

暴食「俺はあの勇者と遊び人に救われたんじゃない。あの二人が訪れた時、たまたま俺は時の流れによって救われつつあった。そして最期のひとくちを飲み終わり、大罪の装備を手放した」

暴食「時は最良の薬。良薬は口に苦し。と、言うだろう」

暴食「冒険に挫折した時から流れていた時間は苦く苦しいものであったが、俺の乾きもいつのまにか救われていたということだ。まさに最期の5日間、俺は最良の薬を食べ続けていたわけだ」

戦士「勇者、お前は僧侶のことを、やはり……」

魔法使い「ねえねえ!あっちに木の実が生えてるよ!!食べてみようよ!!」

暴食「痩せるんじゃなかったのか」

魔法使い「一口だけ!」

暴食「本当に一口でやめられたら、俺は奇跡を信じるぞ」

キィィイイイン――――

暴食「うぐっ……!」
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 12:35:06.41 ID:ypTt4u9i0
戦士「大丈夫か勇者!」

魔法使い「どうしたの!?」

暴食「今、耳鳴りが聞こえたような……」

戦士「耳鳴り?」

魔法使い「感知呪文?でも私たちには何も…」

ヒューーーーーー……

魔法使い「……なに、この森がざわつく感じは」

戦士「構えろ。何かが来るぞ!」


「こんな森の奥にいるなんて。おかげで見つけるのにだいぶ手間がかかったよ」

「感知呪文の対象を勇者に絞った。だからお前らのような、選ばれなかった存在には当然ひっかからない」

戦士「誰だ貴様は!」

「醜かったなぁ。あの村の連中は、どいつも、こいつも、醜い身体をしていた。全員殺してやろうかと思うほどにね」

「君達もだ。君も、君も、君も。全員、肥えた豚みたいな身体で生きている。そんな身体で勇者を名乗るのは、他の勇者に対する侮辱だ」

魔法使い「な、なによこいつ……!!」

戦士「貴様は誰だと聞いている」

「今は、こう名乗っておこう」

「勇者を、殺す者だと」

戦士「勇者、下がっていろ!!」

戦士「処刑の王国の手先め!!!」

戦士が切りかかった。

「手先じゃないんだけどなぁ」

謎の男は手の平をかざした。

戦士「うぉおお!!!」

魔法使い「戦士、気をつけて!!」

男はため息をついた。

男の手の平から、風の刃が飛び出した。

戦士「ぐぁあああああ!!?」

「剣を抜くのもめんどうだ」

魔法使い「今のは!!呪文の詠唱に唇を動かしていないわ!!」

魔法使い「無口詠唱(むこうえいしょう)!超上級魔術よ!」
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 12:36:01.24 ID:ypTt4u9i0
魔法使い「戦士、私の後ろに下がって!!」

魔法使い「『火の中で踊りし精霊よ。冷たき魂の持ち主を焼き付く……』」

魔法使いが詠唱を始めると、男が杖を振った。

魔法使い「んー!んー!」

「口も開かなければ少しは痩せるだろ」

暴食「目的はなんだ」

「心当たりがあるだろう」

暴食「腹を探るのはやめてくれないか」

「そんな醜い腹、探りたくもないね」

「裂いてやる」
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 12:37:10.99 ID:ypTt4u9i0
戦士が蛇のような動きで近づいた。

戦士「喰らえ!」

男は魔法使いに手をかざした。

魔法使い「『焼き尽くし給へ!!』」

魔法使い「!?」

中断していた呪文が強制的に発動され、火の玉が戦士に浴びせられた。

戦士「ぐぉおお!!!!!!」

魔法使い「戦士!!!」

処刑人「ははは。仲間割れでも起こしたのかな?」
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 12:39:48.96 ID:ypTt4u9i0
また誤字…謎の男は処刑人(仮)という認識で。
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 12:40:45.80 ID:ypTt4u9i0
数分の後。

あたり一面の木は倒れ、焼け焦げていた。

戦士と魔法使いは倒れ、暴食の勇者がぼろぼろの姿で立っていた。

暴食「なんてやつだ……最大雷撃呪文が効かないなんて……」

「噂には聞いていたけど、精霊の加護を壊されているんだろう。勇者としての特権をほとんど失ったようなものじゃないか」

「俺がそこにいる仲間を殺してしまうかもしれないよ?そろそろ装備したらどうだ?」

「選ばれたんだろ。暴食の鎧に」

暴食「なるほど、それが目当てか」

「どこにある?」

暴食「……食べちまったよ。デブだからな」

「だったら、全部吐き出しやがれ!!」

男は暴食の勇者を戦闘不能にさせた。

処刑の王国に連れ去り、拷問を加えた。

暴食の勇者達は、全滅してしまった。
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 12:41:21.64 ID:ypTt4u9i0
遊び人「どう、かな?」

勇者「おお」

勇者「おお、おお!」

遊び人「なによ」

勇者「おお、おお」

遊び人「おおってなによ!はいかいいえでいいから答えてよ!」

勇者「はい!はいはい!!」

勇者「似合うじゃん!!」

遊び人「えへへ、どうも」

遊び人 E 皮のドレス(Sサイズ)
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 12:42:39.14 ID:ypTt4u9i0
遊び人「ふんふーん。こんなおしゃれな装備着て冒険できるのいいなぁ」

遊び人「ふふふんふーん」

勇者「楽しそうで何よりだ」

遊び人「あのさ、勇者」

勇者「ん?」

遊び人「今回さ、ご飯我慢してまで戦ってくれてさ……」

遊び人「その、あ……」

勇者「あ?」

遊び人「あ、えーと」

遊び人「あ……」グゥ〜

勇者「ぐふっ!」

遊び人「…………」

遊び人のこうげき

勇者に5のダメージ

勇者「いって!!」

遊び人「お腹鳴ったくらいで笑わないでよ!」

勇者「だからって殴るこたぁないだろ!」

遊び人「虫の居所も悪くなるわよ!」

勇者「それは腹の虫かな?」

遊び人「……こんの馬鹿勇者!!!」

あ、から始まる言葉は、いつも言いづらい。
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 12:43:54.98 ID:ypTt4u9i0
【暴食の勇者の思い出】

〜旅の途中の思い出〜

戦士「またこの乾いたパンもどきか」

暴食「値段が安い。腹にもたまる」

魔法使い「テンションあがんないわー。あんたも抗議しなさいよ」

僧侶「ふふ、私はこれでかまいません。修道院にいた頃も、食事は質素でしたから」

魔法使い「僧侶がそんなんだから、うちらの勇者は食費を全部武器と防具にまわすんだよ」

暴食「必要最低限に全てを振り分けてるだけだ」

暴食「宿も道具も武具も食事も、全て生きるために必要なものだ。それ自体が目的となってはいけない」

魔法使い「はいはい。大人しく食べるわよ」ボリボリ…

僧侶「いただきます」モグモグ
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 12:44:27.03 ID:ypTt4u9i0
〜魔域の思い出@〜

暴食「戦士と魔法使いに仮死草を飲ませた。俺が戦士を背負うから、僧侶は魔法使いを背負ってくれ」

僧侶「わかりました」ニコ

暴食「…………」

暴食「お前はいつもそうだな」

僧侶「なんでしょう?」

暴食「何も文句を言わない。黙って受け入れる。腹が減ったとすら言わない」
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 12:45:11.99 ID:ypTt4u9i0
暴食「お前は不思議な存在だ」

僧侶「天然ですか?天然って言われるのは僧侶の宿命です」

暴食「まぁそれもあるんだが」

僧侶「やっぱりありますか」

暴食「お前は不満を言うべきところで言わない。僧侶という職業のものはみんな、不満を吐くべきところで吐かず、悲しむところで何ともないような表情をする義務でもあるのか」

僧侶「人それぞれだと思いますが。あっ、あの紫色の雲、鳥の形みたいですね」

暴食「そういうところだ。わざとらしい。人間らしくしてみろ」

僧侶「人間らしくですか」

暴食「何でも言ってみろ」

僧侶「お腹がすきました」

暴食「焼き焦げたからすの死骸ならある」

僧侶「食べていいんですか」

暴食「魔物の肉もあるが、魔物は食べないんだろ」

僧侶「食べますよ」

暴食「なんだと?」

僧侶「戦士さんと魔法使いさんの体力の減りのほうが早かったものですから。私が食べる分を少し減らそうと思ったんです。魔物の肉はそれなりのエネルギーをたくわえていますし」

暴食「僧侶という職業だから、魔物を入れることに信念上の抵抗があったのかと……」

僧侶「前線で戦う仲間を後ろからただ癒やすだけ。それが僧侶の務めで、できることの限界ですから」
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 12:46:26.02 ID:ypTt4u9i0
暴食「魔物の肉だ。魔法使いの火で炙ってあるから、食べても腹はくださない。多分」

僧侶「では、ありがたく」

僧侶「いただきます」

僧侶は魔物の肉片を口にした。

暴食「どうだ感想は」

僧侶「…………」

暴食「はは、なんだその苦そうな顔は」

僧侶「私は我慢して動物の死骸を食べていたつもりでしたが、みなさんも中々魔物を食すのに我慢されていたようですね。戦士さんの表情を見てある程度察していたつもりでしたが」

暴食「やっぱり我慢してたんじゃないか」

僧侶「食べられるだけでありがたいことです」

暴食「俺はくそまずいと思うだけだがな」

僧侶「そうですか」
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 12:47:46.85 ID:ypTt4u9i0
暴食「まずいって言ってみろって」

僧侶「言いたくないことはいえません」

暴食「僧侶だからか?」

僧侶「私だからです」

暴食「死ぬまで不満を言わないつもりか?こんな勇者について来たくなかったって言ってみろ」

僧侶「今日は一段と機嫌がわるそうですね」

暴食「そうだね。でも安心していい。間もなく僕も餓死するだろう。だから、僕への恨みを言うんだ」

僧侶「思ってもないことは、なおのこと言えません」

暴食「本心をさらけ出す相手がいないことは不幸な人生だと思わないか」

僧侶「本心をさらけ出してまで嫌われたくない相手がいる人生は幸せだと思いますよ。本心をさらけ出せることが幸せなことであればこそ」

暴食「……説教がましい僧侶だ」

僧侶「それも僧侶の務めです」

139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 12:51:45.22 ID:ypTt4u9i0
理解してくれる人がいるのなら、他(タ)の人にはむしろ誤解された方がいい。

〜魔域の思い出A〜

僧侶「……勇者様」

暴食「喋るな。酷い掠れ声だ。無駄な体力と水分を使うな」

僧侶「ついに、立てなくなりました。私を置いていってください」

暴食「それはできない」

僧侶「かっこうつけないでください」

暴食「違う。俺も立てなくなったんだ。戦士のやつ、装備を外しても重すぎる。これならもっと飯を節約したほうがよかったくらいだ」

僧侶「そうですか。それじゃあ戦士さんに加えて魔法使いさんを背負っていくことはなおのこと無理ですね」

暴食「ああ」

僧侶「だったら、一人であるき続けて下さい。4人がいなくなるより、1人が生き残るほうが良いでしょう」

暴食「無慈悲な僧侶だ」

僧侶「悲劇が起こった際に『神などいない』と言う者が多くいます。しかし、これはおかしな話です。もしも慈愛や道理や成就した願いで満ちたこの世界であったなら、人が神を信仰することはなかったと思うのです」

暴食「……以前のお前なら決して言わなかったような言葉だな。信仰を捨てたか」

僧侶「いえ、布教活動です。神などいないと嘆きたくなる世界だからこそ、人は神を信仰するのです」

暴食「俺は改宗する気はない」

僧侶「そうですか。嫌なら1人で去ってください」

暴食「無理だ」

僧侶「もしかして、一人でも立てませんか」

暴食「それくらいの体力は残ってる。だが、お前と二人じゃなきゃ立てないんだ」

僧侶「…………」

暴食「勇者という職業の信仰上の問題でな」
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 13:03:41.40 ID:ypTt4u9i0
暴食「俺の両親を殺した恨みを糧に、今まで魔王討伐の冒険をしてきたが」

暴食「糧にするものを間違えたな。こんなことなら、お前らと、もっと美味いものでも食べておけばよかった」

僧侶「魔族に大切な存在を殺されたのはあなただけではないですよ。ここまでたどり着けたのも、あなたが必要なことだけを選んでくれたからです」

暴食の勇者は短剣を腰から抜いた。

暴食「こんな食えないものなんかに金を使うんじゃなかった」

暴食「俺らは、空腹に殺されるんだ」

暴食は諦めたように目を瞑った。

僧侶「…………」

僧侶「……私は、食料をずっと持っていました」

暴食は起き上がった。

暴食「なんだと!?」

僧侶「みなさんの命を救ってまで、私はこの食料を差し出すつもりはありませんでした」

暴食「自分のために隠し持っていたのか?」

暴食は裏切られた思いがした。

僧侶「でも、あなたは無意味なことをしてくれました。自分だけなら助かるかもしれないのに、一緒に残るという、愚かな選択をしました。あなたは命を差し出してくれたんです」

暴食「さっきから何をぶつぶつ言っている!早く出すんだ!」

暴食の勇者は僧侶を見た。

ぼろぼろの服に、痩せた身体に、ペラペラの道具袋がひとつ。

暴食「……僧侶、気でも触れたか」

隠し持つことなど、できるわけがなかった。

暴食は絶望し、再び横になり目を閉じた。

僧侶「喉とお腹を満たしたあなたは力を取り戻し、2人を背負って外まで再び歩き出すのです」

僧侶は1人、語り続けた。

確信した目を以て。
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 13:09:23.03 ID:ypTt4u9i0
〜魔域の思い出B〜

暴食「…………」

僧侶「…………」

暴食「…………」

僧侶「…………」

暴食「…………」

僧侶「…………」

暴食「…………」

僧侶「…………」

僧侶は何か言いたげに、力なき手を動かした。

暴食「……どうした」

僧侶は掠れた声で言った。

“い き て”

指先で暴食の勇者の唇にそっと触れた後、自身の身体を指差した。

そして、力尽きた。



暴食は、妄言だと思っていた僧侶の言葉の全てを理解した。



これから引きずっていかなければいけない仮死状態の仲間が二人。

命絶えた仲間が一人。

喉の渇きと空腹に飢え動くことのできない自分。

喉の渇きと空腹さえ満たせば動き出すことのできる自分。

一人の勇者はこの日、勇者であることを辞め。

人間であることを辞めた。



暴食の勇者の前に大罪の装備が現れるのは、それから1日後のことだった。
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 13:10:57.01 ID:ypTt4u9i0
暴食の勇者達 〜fin〜
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 13:13:09.77 ID:ypTt4u9i0
『英雄色を好む』

性欲のことを”色欲”という言葉で表すこともあるように、性は色で表現できる。

例えば

「愛する者との性の営みは神様からのプレゼント」

ということを表現したければ、2つの色を混ぜれば良い。

1つの色ともう1つの色が混じり合うことで、新たな色が生まれる現象は、2人の男女が重なることで新しい世界が開けるのに似ている。

ヴァージンロードで花嫁が着ているのは、純白のドレスだ。

自分の色を1つの色と混ぜる覚悟の表現だ。

1人と1人が出会うことで、新しい快楽や幸福感が生まれるだけでなく、それこそ、子供が誕生する。


「不特定多数との乱れた性欲は邪(よこしま)だ」

ということを表現したいなら、多数の色を混ぜればいい。

摩擦を繰り返した性器のように色は黒く染まるだろう。

恋愛が桃色で。

愛情が薔薇色ならば。

性欲は、何色か。

一つだけ、わかることは。

どうやら英雄は、邪な色であるということだ。

【第2章:色欲の谷 『快楽を刺激する鞭』】

とある勇者は、モテたくて、強くなった。
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 13:14:20.10 ID:ypTt4u9i0
遊び人「キャー!!!なに脱衣場に来てるのよ!!覗き!!最低!!!」

遊び人「しかも私の脱いだ服持ってるじゃない!!服泥棒!!変態!!」

勇者「ち、ちがうんだ!!さっき買ってきたバニースーツを置いただけなんだ!」

勇者「強制的にバニースーツしか着れない状況を生み出そうとしただけで、覗きでも服泥棒でも……」

つうこんのいちげき!

勇者に45のダメージ!

勇者「かはっ……」

遊び人「世界を救う勇者を名乗る者が、こんな変態で許されると思ってるの!」

勇者「英雄色を好むというだろ?これは俺の英雄である証明でもあるわけで……」

遊び人「だったら絵の具でも食べてなさい!!」

遊び人は化粧用の染料を勇者の口に突っ込んだ。

勇者「もががが……」

遊び人「そんなにバニーガールが好きなら、そういうお店でもなんでも行けばいいじゃない!!」
145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 13:15:18.37 ID:ypTt4u9i0
勇者「お、おはよう」

遊び人「…………」

勇者「街の人に聞いたら、目的の谷は近いそうだ。今日一日歩けばたどり着くって」

遊び人「…………」

勇者「き、昨日は俺もどうかしてたんだって。ちょっと夜外を歩いてたら、旅の商人がいたものだから。気になってみてみたら、それはそれは艶やかな……」

遊び人「…………」

勇者「冒険に出発しようか!!」



勇者と遊び人は途中で立ち寄った町を後にし、谷を登り始めた。

1日中無言であるき続け、日も傾いた時。

谷の中にある、歓楽名所にたどり着いた。
146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 13:17:40.36 ID:ypTt4u9i0
案内人「あおっ///あおんっ!!よ、ようこそ///」

案内人「ここは、おおん!今では///『色欲の谷』と呼ばれているほど、おませな場所だよ///おおん!!!」

案内人「ここでは他人に危害を加えない変態行為や、お互いの合意に基づくありとあらゆる性的な行為が許されているよ!!おんっ!!」

案内人「男だけのパーティや、変態的な欲求を持つ金持ちが、最近ではよく訪れるよ!!オオン!!////」

勇者「……三角木馬に座ってる案内人は初めて見た」

遊び人「ここは無関係そうね。次の街いきましょう」

勇者「いやいや。どう考えても大罪の1つ『色欲』に関係してるだろ!」
147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 13:18:36.96 ID:ypTt4u9i0
勇者「ムッチムチの肉体をひけらかすかのように歩く女武道家。透き通るような衣装を着てほほえむ踊り子」

勇者「普通の街では見かけないような大人な店がいっぱいありやがる」

勇者「股間への誘惑が凄過ぎ……。ごほん。性器への刺激が強すぎる谷だぜ」

遊び人「今何を言い直したつもりだったの?前後で発言の酷さが変わってないんだけど?」

勇者「まあ俺は全然女子なんかにキョーミねーけどな」

遊び人「うわっ、出た。童貞呪文『ジョシキョーミネーシ、ダチトイルホウガタノシーシ』」

勇者「わ、わりいかよ。それにドウなんちゃらなんて言ったことないだろ!」

遊び人「ぷぷ。そうでしたね、魔法使い様」

勇者「転職した覚えもねーよ!」

遊び人「勇者も初めて私とあった時はかわいかったなー。ろくに目も合わせてくれなかったし」

遊び人「それが今では……」

勇者「目以外も合わせる仲になるとは」サワ

遊び人「髪の毛一本触れるな変態」ドム

勇者「うごお……」
148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 13:19:39.25 ID:ypTt4u9i0
宿屋「2名ですか?」

勇者「はい。同じ部屋で」

宿屋「あいよ。今夜はお楽しみだね」

勇者「はい!!」

遊び人のこうげき!

勇者「ぐはっ!何すんだ!」

遊び人「どうせこのあと回復すんでしょ」

勇者「ドSか」
149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 13:20:27.81 ID:ypTt4u9i0
〜夜〜

遊び人「ぎゃあ!!」

半裸の勇者があらわれた!

遊び人「半裸で風呂から出てくるなっていっつも言ってるでしょ!!」

勇者「やべやべ、ついな。でもよく考えてみろよ。服を脱いでわざわざ裸になったってのに、お湯を浴びて出たらまた服を着るってどういうことだよ?せめて半分は裸でいさせてくれよ」

遊び人「わけのわからないことを」

勇者「気持ちいいぞ!!お前にもオススメ……ぐは!!」

遊び人「そんなに半裸でいたいなら、半裸で冒険してなさいよ」

勇者「それは……いいかもなぁ///」

遊び人「教会の神官様にお金渡したら、この人にかけられてる呪いでも落としてくれるのかしら……」
150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 13:21:38.00 ID:ypTt4u9i0
遊び人「この余りものの布のシーツで部屋仕切るから。こっから先には立入禁止ね」

勇者「毎度のことながらうるさいな」

遊び人「私は勇者様の中に巣食う魔物が覚醒しないか心配で心配で」

勇者「まぁ夜の街に繰り出すかもしんないけどな」

遊び人「勝手にすれば」

勇者「やきもちやくなって。安心しろ。俺は一人でしかしないよ」

遊び人「キモいから!なにやさしい口調で言ってんのよ!夜の街に出ていっていいから!」

遊び人「はぁ、最初の頃の勇者はかわいげがあったんだけどなぁ」

勇者「またその話かよ」

遊び人「はじめて二人で宿に泊まる時に、部屋を別々にするかどうか聞かれたときよ」

遊び人「顔を真っ赤にして、別々って言おうとしてるあんたを遮って、同じ部屋にしてくださいって言ったらきょどりまくってて」

遊び人「お金の心配のことを話したら、あんた頭下げて、外で寝るなんて言い出して」

遊び人「純朴な勇者様はいずこへ……」

勇者「あの頃と何も変わってねえよ」

遊び人「少しも大きくならないまま?」

勇者「心はな。心の話だから、下半身を見て言うな」
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 13:23:11.45 ID:ypTt4u9i0
勇者「おはようございます」

宿屋「きのうは おあずけでしたね」

遊び人「何聞き耳立ててんのよ!!変態宿屋!!」

宿屋「ううっ///」

勇者「昨日はちょっと。仕事で疲れてるんだって言って背を向けて拒んでしまったんです」

遊び人「あんたも何いってんの?」




遊び人「今日も凄い景色ね。お店から連れ出してきた女性と手をつなぎながら、半裸で外をスキップしてる住人がたくさんいるわ」

勇者「住人じゃないんじゃないかな。きっと他の街に住んでいる人が多いよ。僧侶とか神官なんか特に、普段自分たちの街で抑えてる分ここで激しくやってるんだろう」

遊び人「失礼よ。あなたみたいな変態とは違うんです」

勇者「俺は大した変態じゃないさ。この谷のお店に入るとしても、普通のバニーガールのいるお店にしか……」

遊び人「あっ、戦士がおもてなししてくれる店があるみたいよ。男性限定で。行ってくれば?行きなさいよ。行きなさいってば」

勇者「押さないで!!押さないで!!」
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 13:24:31.19 ID:ypTt4u9i0
遊び人「もう。何しにこの谷に来たんだか。これからどうするの」

勇者「大罪の装備について情報を集めながら、日銭を稼ごう。ほとんど手持ちもなくなっちまったからな」

遊び人「冒険者用のクエスト依頼が掲示板に張り出されているわね。どれどれ」

【指名手配犯】

・キラーパンツァー:下着どろぼう。四足歩行で人の敷地に入り、干してある下着を口に咥えて去っていくのが特徴。猫型の魔物の被り物をしている

・オナミック:宝箱の中に入り込み、下腹部を露出させた状態で自慰行為をしている。宝箱を開ける冒険者は基本的に男性なため、男色の可能性が高い。宝箱の底に穴を開けており、被ったまま高速で逃げる。

・パンチラの翼:天井の下でスカートを履いた女性に話しかけ、移動の翼を持たせるのが反抗手口。パンチラ目的と思われる。


<解決済>
ヤマタノオロチ?:近隣の街にて村娘が攫われる事案が発生。村娘が定期的に1人いなくなることから、古より伝わる伝説の竜の仕業だと村人は叫んでいる。
結果:近隣の街に済む富豪の息子の色男が女性をはべらせて囲っていただけであった。その人数は8人。八股の愚か者であった。
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 13:25:14.41 ID:ypTt4u9i0
遊び人「性にまつわる案件ばかりじゃない!」

勇者「他人への迷惑がかかる変態行為は禁止されてるからな。度を越したプレイに手を出してしまったんだな」

遊び人「案内人なんて変な椅子に座ってたけど、あれはいいの?」

勇者「仕事だからしょうがないだろ。痴漢も覗きも関係性によって罪かどうか決まる。夫が妻の尻を揉んでも痴漢にはならない。お客が嬢のエッチな姿を見ても覗きにはならない。だが、通行人が通行人に手を出したら変態行為だ」

遊び人「いつになく真面目に語るわね」

勇者「さて、変態を成敗して、稼いだお金でキャッキャウフフなお店にでも……」

「キャー!!どろぼう!!」

勇者・遊び人「!?」
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 13:26:10.45 ID:ypTt4u9i0
「ハフハフ!ハフハフ!アオーン!!!」

勇者「全裸の男が下着を咥えて四足歩行で走ってるぞ!!」

遊び人「ギャー!あれどろぼうなの!?それ以上の何かでしょ!!」

勇者「あいつがキラーパンツァーだな!!よし、捕まえるぞ!!」




勇者「止まれ!!」

キラーパンツァー「ガルルルル……」

キラーパンツァーがあらわれた!

遊び人「うう、直視できない……」

勇者「その下着を俺に返してもらおうか!!」

遊び人「あんたのじゃないでしょ!!」

キラーパンツァー「ジュルルルル……」

遊び人「ただの中年のおっさんじゃん……なんでこんなことしてんのよ……」
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 13:26:53.59 ID:ypTt4u9i0
キラーパンツァー「オハエラハオレノハマヲフルトイフノハ……」

遊び人「下着咥えて喋ってるから何言ってるかわかんないわよ」

勇者「お前らは俺の邪魔をするというのか」

キラーパンツァー「ウハレハハハノフハハヘイヒルノヲホヒトヘフ、オノヘホヒフヲヘイヘヘントシタハホデハフフホノイヒハア」

遊び人「勇者!!こんなわけわかんない変態さっさと倒すわよ!!」

勇者「生まれたままの姿で生きるのをよしとせず、己の恥部を平然とした顔で隠すその生き方」

キラーパンツァー「ヘオホホヒホオホフ。イハホホヒンノフハハヲホヒホホヘ。イヒハイホウヒイヒフホヒハヒハ」

遊び人「露出狂をやめて囚人服でも着るがいいわ!!」

勇者「獣にも劣る。今こそ真の姿を取り戻せ。生きたいように生きる時は来た」

遊び人「なんで下着咥え語がわかるのよ!!」

勇者「読める…読めるぞ!!」

遊び人「誰にも読めない石版を自分だけ何故か解読できるようなかっこよさはないからね!!しかも言ってる内容かなり真面目なんだけど!!」

勇者「ほひふほひはひひひょうひははふは?(こいつの下着に興味はあるか?)」

キラーパンツァー「ハァ、フヘフハハヒハハホウ(まぁ、くれるならいただこう)」

勇者・キラーパンツァー「ふぁっふぁつふぁっ!」ケタケタ!

遊び人「何であんたも話してるのよ!てかこっちなんで見て笑ってんの!?なんて言ったのよ!!」
156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 13:27:52.51 ID:ypTt4u9i0
遊び人「くっ、見ながら戦いたくないという点で幻術魔法をかけられているようなものね……」

勇者「変態同士仲良くしたいが、こっちも日銭を稼ぐ運命を背負ってるんでね!」

ゆうしゃのこうげき!

すてみでたいあたりをした

しかし身をかわされた

遊び人「動きがはやいわね!」

キラーパンツァー「がるるる!!」

キラーパンツァーのこうげき

四足歩行をやめ、遊び人の前で仁王立ちをした。

遊び人「ぎゃぁっ!」

遊び人は咄嗟に目を瞑った!

遊び人「こ、殺すしかない!!殺すしかないわこいつ!!」

勇者「お、落ち着け!!てめぇ、女性の前で裸をさらけ出すなんてゆるさねえ!!」
157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 13:28:24.92 ID:ypTt4u9i0
勇者の攻撃!

勇者「れろれろれろれろくちゅくちゅくちゅ……」チュパチュパ…

勇者はキラーパンツァーのブツを直視しながら、口でいやらしい音をたてた。

キラーパンツァー「…………オェエエェエエエエエ!!!」

キラーパンツァーの口から下着がこぼれ落ちた。

キラーパンツァーのブツが縮んだ。

勇者「今だ!!」

勇者はすてみでキラーパンツァーにぶつかった!

キラーパンツァー「ぐぬぬ……!!」

キラーパンツァーは倒れた。

勇者「やっ……たぜ」

勇者「これが新技『精神的すてみ』だ……」

勇者は力尽きた。

遊び人「な、なにが起こったの!?さっきの音は何!?」

遊び人はおそるおそる目を開けた。

遊び人「なにこの惨状……」
158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 13:29:38.71 ID:ypTt4u9i0
〜翌日〜

遊び人「勇者、昨日はすごかったね!!谷中の女性から感謝されてたじゃない」

勇者「ふはは。くるしゅうない」

遊び人「下着なんて自分の分身みたいなものよね。それを盗まれたらたまったもんじゃないわ」

勇者「下着は分身か。いいこというなぁ……」

遊び人「そういう言葉でしみじみされても困ります」

勇者「はは、別にいいじゃねえか……!」

ピキン!

勇者「!?」

遊び人「どうしたの?」

勇者「感知した。指名手配犯が近くにいる」

遊び人「えっ?」

勇者「あの洞窟の入り口にある宝箱。人間が入ってる。オナミックってやつだ」

遊び人「凄い!!感知呪文覚えたの!?」

勇者「いや、そうじゃない。そうじゃないんだ……」

勇者は顔を物憂げに伏せ、過去を眺めるような面持ちでつぶやいた。

勇者「俺と同じ、変態のにおいがするんだ……」

遊び人「シリアスな感じで言うのやめてくれる?」
159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 13:30:42.74 ID:ypTt4u9i0
勇者「宝箱を上から抑えろ!!」

ガシ!

遊び人「どうすんの!?」

勇者「街まで引きずれ!!」

バタバタ!!

遊び人「ぎゃあー!宝箱が暴れだした!!」

勇者「地面と擦れて痛いんだろう!!だが、こんな変態なやつだ!!じきにその痛みに病みつきになるはずだ!!」

勇者と遊び人は宝箱を上からおさえながら街まで引きずり続けた。

砂利道の上を通った時の阿鼻叫喚は凄かったが、段々喘ぎ超えにかわっていった。
160 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 13:31:32.38 ID:ypTt4u9i0
〜さらに翌日〜

「いだぁああいいい!!!」

石でできた架け橋の近くを歩いている時のことだった。

勇者「どうされました!?」

町娘「うう……頭が架け橋の天井にぶつかって……」

町娘「お財布を落とされましたよって、男性に手渡されて。よく見たら羽根みたいなもので。そしたら風が巻き起こって身体が飛んで」

町娘「架け橋の下にいたもので、天井に頭がぶつかっちゃって……いたた……」

町娘「天井にぶつかった時、狂喜している声が聞こえました。痛みを堪えながら、犯人をひと目見ようと必死に目を開けると、一瞬のうちにいなくなっていたんです」

遊び人「パンチラの翼事件よ!!被害者は全員スカートを履いた女性で、渡されるのはいつも天井の下!この人もスカートを履いてる!!」

遊び人「天井に頭をぶつけさせることでパンチラの時間を増やし、ダメージも与えてすぐに追われないようにしているんだわ!」

勇者「…………」

勇者「失礼ですが、そのスカートの中身を拝見できますか」
161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 13:32:31.55 ID:ypTt4u9i0
遊び人「何言ってんのよ!」

町娘「いいですよ」バサリ!

遊び人「ちょっと!なにして!」

勇者「やはりな。見せパンだ。少し短いスカートだと、逆に履いている。俺も何度裏切られたことか」

遊び人「はぁ?」

町娘「ええ。見られるのは恥ずかしいもので……短パンを履いています」

勇者「犯人は彼女が天井にぶつかった時点で狂喜の声をあげていた」

勇者「つまりだ。普通なら舌打ちをするような場面で、相手の目的は達成されていたってことだ」

遊び人「どういうことよ」

勇者「考えろ……そして気づけ……共感しろ……全てを見落とすな」

勇者「移動の翼……スカート……天井……見せパン……」

勇者「…………!」

ピキン!
162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 13:34:24.81 ID:ypTt4u9i0
勇者「感知した。そして、真実を捕まえた!」

勇者「そこだ!!!」

勇者は近くでSMプレイに興じていたカップルの鞭を奪い取り、架け橋に向かって叩きつけた。

オナミック「ぎゃあ!!!」

フックのようなものを使い天井に張り付いていた男が落ちてきた。

勇者「お前は、スカートの中身を見たかったんじゃない!!」

勇者「天井に激突し、痛みに悶える女の子を見たかったんだ!!特にスカートの中身が下着の女の子は、手でスカートを抑えるために頭は無防備になるからな!」

勇者「この外道が!!変態紳士の楽園から追放されろ!!」

勇者は青年のふくろから落ちた翼を大量に取り出し、移動の念を込め、青年の腕に抱えさせた。

勇者「翼をもがれた堕天使と成り果てろ!!」

青年は石橋に全身をうち、気絶した。
163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 13:35:29.89 ID:ypTt4u9i0
〜さらに翌日〜


勇者「…………!」ピキン!

勇者「100m先、屋根の上。張り付いている男がいる。やつの狙いはなんだろうか」

勇者「考えろ……考えるんだ。」

勇者「……今日の天気は曇り。そういうことか!!」

遊び人「今ので何がわかったの!?」

勇者「雨の中に紛れて放尿するつもりだ!!きっと好きな女が家の中にいて、家を出た時に傘にかけるつもりなんだ!!現行犯で捕まえるぞ!!」

遊び人「何バカなこと言って……」

捉えられた犯人は、勇者の予測通りの犯行動機を述べた。




勇者「…………!」ピキン!

勇者「変態を感知した。相手は……旅の商人!!」

勇者「若い女性に渡す薬草だけ、脇に挟んでから渡してるに違いない!!」



勇者「……感知した!」ピキン!

勇者「……まただ!」ピキン!

勇者「……また変態がいる!」ピキン!


勇者は今までにないほどの恐るべき観察、想像、気付き、あらゆる力を総動員して輝かしい検挙をあげた。

勇者はこの谷の、英雄となりつつあった。
164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/06(日) 13:36:14.09 ID:ypTt4u9i0
勇者「…………!」ピキン!

勇者「この近くに変態がいる!!」

勇者「どこだ……どこに……。半歩分以内の距離に……」

勇者「なんだ、俺か」

勇者「わっはっは!!」

遊び人「…………」

「キャー!冒険者さまぁ!!」

「この間はありがとうございます!!」

「よかったら、今度私のお店にきてください!!無料でおもてなししますわ!!」

勇者「くるしゅうない!くるしゅうない!!ふっはは!!」

遊び人「さぞおもてのようですね。変態が許されるこの町で、変態を取り締まることで人気者になるなんて」

勇者「何日でも住んでいたい気分だ」

遊び人「ふーん……」

勇者「お金もだいぶたまったな。ちょっとした小金持ちだ」

遊び人「……何に使うの?」

勇者「そりゃあ、新しい装備買って、道具も揃えて、余った分は……」

勇者「…………」ニンマリ

遊び人「なによ今の顔!!」

勇者「ち、ちげーし!!」

遊び人「何が違うのよ!!」

勇者「じょじょじょ、女子なんてキョーミねーし!!」ドバドバドバ…

遊び人「凄い汗かいてるけど!!目が泳いでるけど!!」
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