勇者「遊び人と大罪の勇者達」

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565 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/02(火) 16:19:08.68 ID:do1GsOP20
勇者「…………」

勇者「お邪魔します」

遊び人「ふふ、いらっしゃい」

元々開いてない距離を、勇者は腰を動かして移動した。

勇者は遊び人の肩にもたれかかった。

遊び人「……私達が出会ってから、どれくらいになるんだろうね」

遊び人「二人きりで冒険している癖に。二人とも、心の底では意地でもお互いに縋ろうとはしなかった気がするな」

遊び人「私達、頑張らなかったもんね。どこかでは、諦めちゃっていた気もするものね」

遊び人「ねえ、勇者」

遊び人「私は私のせいで、もう誰かが傷つくところを見るのは嫌なんだ」

遊び人「もしも勇者が今苦しんでいるならさ。また、逃げ出したって……」

勇者「頼みがあるんだ」

勇者は遊び人の言葉を遮った。

遊び人「頼み?」

勇者は遊び人の肩から離れ、言った。

勇者「戦ってって、励まして欲しい。勝てって、応援して欲しい」

勇者「この時を逃したら。俺は一生変われないままだと思うから」

勇者「俺、強くなりたいんだ」

戦わなくてもいいと言ってくれた人のために、勇者は戦う。
566 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/02(火) 16:46:07.03 ID:do1GsOP20
ピキ…ピキピキ…

勇者「ウォラアアアア!!!!!!」

錬金「ほほお」

ガラガラ、という音とともに、結界は崩れ落ちた。

錬金「短期間でよくここまで強くなったものじゃ」

勇者「…………」

錬金「なんだ、その目は」

勇者「騙していたな」

錬金「何を」

勇者「6人の術士が囲っていた魔法陣。あれの正体が何かわかったんだよ」

勇者「俺に”枕詞”を付与させただろ!”大罪”という名前のな!!」



錬金「……前にも言わなかったか。時間がないと」

錬金「幼少の頃よりさぼってきたお前と、鍛錬を続けてきた勇者達。その差をどうやれば埋められると思う」

錬金「時間の差は、時間で埋めるしかあるまいて」

錬金「この世には強制転職呪文と呼ばれるものがある。それを少し改良した呪術を創造したのじゃよ」

錬金「お前の身体を変化させた。寿命と引き換えに、身体能力を増幅させるようにな」

錬金「大罪の賢者の一族が、寿命の漏れと引き換えに、呪力を手に入れたのと同じじゃ」

勇者「人の命をなんだと……」

錬金「内緒にでもしなければまともに戦ってくれないと思ったからの。安心せい。こんなまがい物の呪い、一月もすれば勝手に解けるわい。お前はノーマルのままじゃ。大罪の賢者に比べれば足元にも及ぶまい」

錬金「元に戻してほしければ、今すぐにでも戻してやるが」

勇者「……このままでいい」

錬金「そういうと思ったぞ」

勇者「あんたたちの手の平で転がされてばっかりだ」

錬金は誤魔化すように笑った。

錬金「じゃが、確かに心も身体も多少は強くなったようだ。今日はもう帰って良い。明日からの訓練はまた難易度をあげるからの」

錬金はそう言い残すと、帰っていった。



勇者はというと。

勇者「……えっ。うそ!」

勇者「あれ!ちょっと褒められた!?」

普段滅法厳しい実力者から、認められることの喜びを知った。
567 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/02(火) 18:14:03.24 ID:do1GsOP20
遊び人「おばちゃん、ごめんください」

寮母「あら、どうしたの」

遊び人「勇者に届け物があるんですけど」

寮母「なにそれ、大きな荷物だけど」

遊び人「剣なんです。特注品でつくってもらったのが完成して」

寮母「普通の荷物だったら私が預かるんだけどねぇ」

遊び人「じゃあ勇者が帰るまで待ってよっかな」

寮母「あの子の帰り最近とても遅いわよ」

遊び人「そうらしいですね……」

寮母「よかったら、勇者くんの部屋にそれ置いてきて貰えるかしら?」

遊び人「いいんですか?」

寮母「今日はお部屋の点検で生活術士の方が入るって伝えてあるから、見られてもいいように片付けてるはずだもの。それに、ずっと一緒に冒険してきた仲間なんでしょう。合鍵渡しておくから」

寮母「私は街中にちょっと買い物に行ってくるから。鍵はそこの机の引き出しの中にでもしまっておいてちょうだい」

遊び人「わかりました」
568 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/02(火) 18:16:04.44 ID:do1GsOP20
遊び人「ということで」

コンコン

遊び人「おじゃましまーす」

遊び人「本当だ。勇者にしてはけっこう片付いてる。今の私の部屋よりよっぽどマシだな」

遊び人「勇者は誰よりも早く起きて、誰よりも遅く帰って、この部屋で睡眠を取っていたんだね」

遊び人「ずっと一緒に泊まってたのに。今こうして、当たり前のように別室で暮らしてるのって、なんだか不思議な感覚だな」

遊び人「…………」

遊び人「剣を置いて、出るとしますかね」

遊び人「どうしようかな。部屋の真ん中に置いとけばいいのかな。万が一盗っ人とか入ってきちゃったら大変だな」

遊び人「洋服棚の中とかにしまっておいたほうがいいのかな」

パカ

遊び人「……あの野郎」

遊び人「色欲の谷で着せられそうになったバニースーツがかけてある。まだ諦めていなかったのか」

遊び人「昔洞窟の中にいたときも気持ち悪かったもんなー。身も心もニギニギされたくなったらバニースーツを着ろとかなんとか」

遊び人「この服装がそんなにいいかね」

遊び人「…………」

遊び人「…………」チラッ チラッ

遊び人「部屋には姿見もあるんだ」

遊び人「ちょ、ちょっとだけ」
569 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/02(火) 18:27:00.53 ID:do1GsOP20
遊び人「あっ」

勇者「…………」バサリ

勇者は道具袋を落とした。

遊び人「……えっと」

遊び人「剣、完成したんだって」

勇者「…………」

遊び人「そこに置いておいたから」

遊び人「では、これにて失礼」

勇者「ちょっと!!」

遊び人「なに?」

勇者「なんでバニーガールの格好してるの!?」

遊び人「うるさいな!!遊び人がバニースーツ着て何が悪いのよ!!」

勇者「ついに目覚めたのか!!やったぁああああ!!勝利の日が訪れた!!!!」

遊び人「ちょ、見るな!!観覧料500G!!10秒につき発生します!!」

勇者「払う払う!!1000秒は見る!!」

遊び人「やだ!!脱ぐ!!もう脱ぐ!!」

勇者「ええっ、脱ぐの!?500Gでぇえええ!!?脱ぐの!!?」

遊び人「脱がないわよ馬鹿!!!」

勇者「じゃあバニースーツ!!」

遊び人「嫌よ!!脱ぐわよ!!」

勇者「脱ぐの!!!?」

遊び人「もう!!!私のバカヤロー!!!!!」
570 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/02(火) 18:52:07.75 ID:do1GsOP20
遊び人はバニースーツの上から、元着ていた服装を身に着けた。

勇者「それはそれでそそるな……」

遊び人「自分の部屋に戻ったらちゃんと着替えるからね!!」

勇者「厳しい修行の良いご褒美が貰えたな今日は」

遊び人「ご褒美じゃないから!!観覧料5000G、慰謝料1万G、剣運び代1000G、払ってもらうからね!!私は今や強欲な女なんだからね!!」

勇者「いやいいよそういうの。強欲の腕輪の影響を受けてバニースーツ着ちゃったみたいな言い訳。誰もいない部屋でバニースーツ着るのなんて100%色欲だよ。お兄ちゃんは嬉しいよ」

遊び人「よりによってなんで今日に限って早いのよ……」

勇者「師匠も忙しいみたいだからな。本来俺の修行に付き合ってくれてるのがおかしいくらいなんだよ」

遊び人「師匠?」

勇者「あー、えーっと、遊び人のお爺ちゃんのこと」

遊び人「無理やりそう呼ばされてるの?」

勇者「ち、違うって!好きで呼んでるの!!本人は嫌がるけどさ」

遊び人「なにそれ。男心ってよくわかんないわね」

勇者「俺は女心がわかるけどな」

遊び人「はぁ?」

勇者「うさみみも付けてみたくなったらいつでも言ってくれ」

遊び人のこうげき!

勇者「ぐぼぉ……」

遊び人「まだまだ修行が足りないみたいね!!また鍛えてらっしゃい!!お邪魔しました!!」
571 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/02(火) 19:15:05.14 ID:do1GsOP20
錬金「……よし」

錬金「100点じゃ。今日はもう帰って良い」

勇者「やったー!!遊んでくるー!!」

錬金「馬鹿、子供か」

勇者「今日もありがとうございました!!」

勇者は錬金に一礼すると、部屋を出ていった。

部屋には筆記用具と、紙束が残されていた。

錬金「……頭の回転は鈍いが、記憶力は悪くないようじゃのう」

錬金「この数日間でよく全ての職業の特徴を覚えたわい。あの兜の世界で直接身体に叩き込んだおかげでもあるんじゃろうが」

勇者、音術士をはじめ、賢者、踊り子、呪術師等の特技と呪文、及び大型モンスターの特徴を全て頭に叩き込んだのだった。

錬金「勇者。お前がどう考えようと、精霊が宿っていることは、蘇りの効力を抜きにしても素晴らしいことなのじゃ」

錬金「精霊からの絶大な信頼を得て、無口詠唱を唱えられる魔王でさえ、その体内に精霊を宿すことはついぞ叶わなかったのじゃ」

錬金「精霊はこう考えたのじゃ。魔王であれ、勇者であれ、強きものは守るに値する」

錬金「だが、精霊を守ってくれるのは、勇者というものだけであると」

錬金「精霊が加護を与えるものは、精霊を守護する者だけなのじゃ」

錬金「守れるほどに、強くなるんじゃぞ」
572 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/02(火) 20:06:41.61 ID:do1GsOP20
勇者「遊び人とご飯食べに行くの、久しぶりだな」

勇者「最近全然会ってなかったから、妙に緊張しちゃうよな」

まだ夕日の残る都の中を、勇者は軽い足取りで歩いていた。

勇者「この数週間、本当にえぐかったな」

勇者「嘔吐なんて当たり前で。血も吐くわ、ストレスで顔面にぶつぶつができるわ」

勇者「師匠と実戦した時は骨もバキバキに折れたし。その後回復させられてまたすぐ戦闘で」

勇者「でも、それらに耐えて強くなろうと思い続けられたのは、全部遊び人のおかげなんだ」

勇者「自分に絶望して孤独に彷徨っていた時に、あの子だけは精霊の加護を抜きにして俺のことを見てくれて」

勇者「戦わなくてもいいって言ってくれたのは、あの子だけだった」

勇者「俺は、恵まれてるんだな。強くなる理由が先にあって、強くなろうと努力した」

勇者「普通は、強くなってはじめて、自分を慕ってくれる人が現れるものなのに。だからこそみんな、守るべき人がいない状態から強くなるのが世の常なのに」

勇者「俺は幸いにも、弱い時からあの子がいてくれた。にもかかわらず、強くなろうとさえしなかった」

勇者「負けたらどうなるか、目を反らし続けていた」



戦って、勝たなくちゃいけない日は訪れる。

その時負けたらどうなるかは明確で。

手に入れたかったものを手に入れられなくなるか。

失いたくなかったものを失ってしまう。



勇者「今は思う。あの子を守れるようになった強い自分の物語というものを見てみたいって」

勇者「隣にいてくれる女の子にふさわしい人になりたくて、男は強くなるんだ」

勇者「嫉妬を、必ず倒そう」
573 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/02(火) 23:27:24.12 ID:do1GsOP20
目覚ましの音は、いつも嫌いだった。

母親のぬくもりから引き剥がされ、冷たい世界に放り出される気がした。

お母さん。

自分を産んでくれた女性をそう呼んでいられたのは、いつまでだったろうか。

世界から無価値であると突きつけられながら、無理やり引きずり出されるようになったのはいつからだったろうか。

朝日も。鳥の鳴き声も。川のせせらぎも。

心地よいまどろみから自分を引き剥がすものは全て憎らしく思えた。

戦いたくない。

全てのことから逃げることを許して欲しい。

それが、許されないのだとしたら。

せめて、こんな風に。

やさしく手を握って、起こしてくれたら。
574 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/02(火) 23:27:56.48 ID:do1GsOP20
勇者「……お母さん?」

遊び人「ごめん、起こしちゃった」

真っ暗闇の部屋の中でも、ベッドのそばにいるのが遊び人だとわかった。

遊び人はもぞもぞと、掛け布団の位置を直すような動作をしていた。

勇者「俺、いつの間に」

遊び人「疲労が溜まってたんだね。帰り道からふらふらしだして、部屋まで連れてきたんだよ」

遊び人「修行、一段落したんだってね。おつかれさま。勇者も、緊張が解けて気が抜けちゃったのかもね」

勇者「……そっか」
575 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/02(火) 23:30:46.33 ID:do1GsOP20
遊び人「大変だったんだね」

勇者「…………」

勇者「うん、大変だった」

勇者「冒険譚を昔に読んでてさ。強い敵に勝てなかった勇者が、修行をして再び強くなる場面とかがあって、憧れも抱いてたりしたんだけど」

勇者「強くなるって、ただただつらい日々の連続だった。地味だし、面倒くさいし、泣きたいし、吐きそうになるしで、修行なんてのはやりたくないことの寄せ集めだった」

勇者「自分ひとりの野望のために生きている人には、強くなるための行為なんて絶対できないよ。だから正義はいつも悪を倒せるんだ」

少なくとも物語の中では、と勇者はぼそっと付け足した。

勇者「誰よりも頑張っていたつもりだったけど。修行場所に向かう途中、朝の暗闇の中で鍛錬をしている戦士や武道家を見かけた。修行場所から帰る途中、夜の暗闇の中で呪文の練習をしている魔法使いや僧侶を見かけた」

勇者「今守りたい誰かがいるのかもしれないし、そうでないのかもしれない。いずれにせよ、今の自分を変えるために日々を注いでいる人は、何かを壊したくて強さを欲しているんじゃなくて、何かを築きたくて強さを欲しているように見えた」

勇者「今強い人達って、人生のどこかで強くなろうとした人達だってわかったんだ」

勇者「遊び人も、俺の見えないところで頑張ってきたんだろ。これまでの冒険でも、この都に来てからの数週間の間にも」

勇者「聞かせてほしい。遊び人がした、努力の話」

遊び人「……うん」

遊び人「その代わり、勇者がしてきた努力の話も教えてね」

苦しいその時に、独りぼっちだったとしても。

それを乗り越えた後で、同じように乗り越えてきた人が、耳を傾けてくれる日はやがて来る。
576 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/02(火) 23:44:45.38 ID:do1GsOP20
〜宮殿 地下〜

強欲「戦いの日が近づいてきた。君たちも今日からはここに泊まれ」

宮殿の地下室にて、強欲は告げた。

勇者が修行を受けていた部屋の他にも、無数の部屋が存在していた。

強欲「封印の壺もここに保管していた。宮殿の最深部だ」

勇者「逃げる時どうするんだよ」

強欲「逃げるという選択肢は基本的にはない。奴らが同じ轍を踏むとは思えん。移動の翼や、精霊の加護による転送の対策を間違いなく講じてくるだろう。可能な限りの防衛策は当然施すつもりではあるが」

強欲「だからこそ、その裏をかいた戦略を立ててきた。作戦を遂行できれば問題はない」

勇者「……覚悟を決めるしかないか」

錬金「猶予はないんじゃ。封印の壺にもヒビがはいってきてるじゃろ」

遊び人「うん。表面が割れてきてる」

錬金「装備の魔力にたえきれなくなっておるんじゃ。割れたら最後、物体感知に容易にひっかかるぞ。人間の感知よりもずっと容易で、広範囲の距離で特定されるぞ」

錬金「逃げるのも、疲れたじゃろうて。勝って終わりにしようぞ」
577 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/03(水) 00:56:03.27 ID:Ru5fbabL0
【TIPS】

禁術が禁術足るのは、下記3つの要因のいずれかに当てはまることによる。

・殺戮性の高さ <例:総魔力放出呪文>
・影響力の強さ <例:音讎の呪文>
・術者へのペナルティ <例:強制転職呪文>

使ってはいけない、と言われるようになったのは。

それらが使われた過去において、数多くの不幸が生み出されたからである。
578 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/03(水) 01:12:29.04 ID:Ru5fbabL0
明日一通り投稿をした後に、再び書き溜めます。

当初の予定より大幅に文章が膨らんでしまい、
あらすじも一通りできているため簡潔に終わらせるべきか悩んだのですが、
納得いくまで文章を書き続けたいと思いました。

投稿当初から読んでくださっている方には申しございません。

新年も引き続きよろしくお願いします。
579 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/03(水) 01:33:54.90 ID:1Cl7f4sA0
580 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/03(水) 12:53:29.47 ID:Ru5fbabL0
お姫様「……ギャッ!!!」

強欲の都の敷地外で、お姫様はよろめいた。

研究員「何をしている。勇者感知は成功したのか」

お姫様「いたた……電流を流されたみたい……」

研究員「逆感知されたんだ。場所を変えるぞ」

「もう遅い」

移動の翼の羽根がぱらぱらと頭上から落ちてきた。

複数の術士がお姫様達を囲み込んだ。

上級術士「いきなり親玉の左腕が現れて光栄だぞ」

お姫様「誰が左腕よ!!右腕よ!!」

上級術士「そこの女は音を操る術士だ。白衣の男の結界には時縮化の呪文を唱えよ。後ろに魔物も複数体いるようだから気をつけろ」

術士達は詠唱を唱えると、耳の周りがシャボン玉のようなもので覆われた。

シャボン玉はどれも、統一された緑色に染まっていた。

お姫様「暗号術よ。あいつら同士の会話は通じるけれど、こちらからは解読もできないし音を伝えることもできないわ。緑色なんて、一番調節が難しい色なのに」

研究員「仕方ない。おい、魔物、出番だ」

研究員は牛型の魔物に命令をした。

研究員「すてみだ。行け」

魔物「ぐぉおお!!!」

牛型の魔物が突進するのを、術士達は躱した。

研究員は無口詠唱で、火炎の呪文を唱えた。

魔物「グモォオオオオオオオオ!!!」

魔物に火がつくと同時に爆風が起こり、胃袋の中から無数の鉄製の玉が飛び出した。
581 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/03(水) 12:54:54.23 ID:Ru5fbabL0
強欲「奴らが来たようだ。都の東側の入口から侵入してきたらしい」

遊び人「逆感知できる人なんて、旅に出てから初めてあったかも」

強欲「待ち構えてさえいれば、上級の術士なら誰でも出来る。随分舐めた真似をしてくれる。俺達も嫉妬の勇者の感知は何度も試みているが、対象は奴の所持物だ。逆感知の恐れもなく、感知の範囲も広いからな」

強欲「トラップで強力な呪いをかけられた装備を感知させられた時は、少々痛い目を見るが」

勇者「敵はどれくらいの人数で来ているんだ」

強欲「確認できたのは東門の数名だけだ。各方角から同時に侵入している可能性が高い」

強欲「都の中に既に何名かは侵入していたのだろう。外部にいるものを中から招き入れるのは容易だからな」

強欲「既に都中に警報は発令している。あとは宮殿に繋がる経路を、奴らが突破できるか否かだ」
582 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/03(水) 13:29:45.33 ID:Ru5fbabL0
お姫様「肉体強化、呪文反射、爆風緩和。奴らも戦闘が始まる前から、可能な限りの補助呪文をかけているわね」

研究員「西側からの連絡が途絶えた。侵入に失敗したみたいだ」

お姫様「使えないわね。そういえば、あの女はどこから侵入する予定か聞いてるかしら」

研究員「あの女?」

お姫様「もう1人の側近よ!根暗のくせに嫉妬様に妙に気に入られててムカツク奴……」

研究員「あの方は、嫉妬様と共に行動している」

お姫様「はぁ!?」

研究員「嫉妬様も、強欲の勇者を私達が打ち倒せるとは思っていない。最期の戦いには自らが出るとのお考えだ」

研究員「入り口を壊すのが私達の役目。最期の場まで伴うのがあの女性の役目。役目が分かれているんだ」

お姫様「……なによ。なによそれ。嫉妬様は、そんなこと……」

お姫様「あの女……許せない……ムカツク……」ギリリリリ…

お姫様「私の……私の居場所を……!!」
583 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/03(水) 13:31:27.30 ID:Ru5fbabL0
上級術士「見つけたぞ!!」

上級術士「巨大な結界を張って閉じ込めるんだ!!」

命令が他の術士に伝達され、詠唱を唱え始めた。



お姫様は立ち上がり、広けた空間に向かって歩んだ。

お姫様「私一人で充分だってこと、嫉妬様にもわかってもらわないと」

お姫様から独特の魔力の気配が広がった。

研究員「待て!!何を考えてる!!」

お姫様「この一月で私がどれだけ成長したか、みんなに聴かせてあげるのよ」

研究員「禁術を発動するつもりか!!味方もろとも破滅するぞ!!」

お姫様「『リコルダーティ』」

研究員「くそっ!!自分にかける羽目になるとはよ!!」

研究員は悪態を尽き、自分の周囲に結界を張り始めた。

お姫様「『スケルツォ』」

お姫様「『ベルスーズ』」

お姫様「『主を失いし旋律の怨嗟よ』」

お姫様「『仇讎曲を奏で給え』」

お姫様「『Morte』」

お姫様「『Tremolo』」




お姫様「『Sonate』」
584 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/03(水) 15:31:21.25 ID:Ru5fbabL0










――――トン


一滴の、静かな音が広がった。







585 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/03(水) 15:32:21.94 ID:Ru5fbabL0
研究員「……(うっ)」

研究員「(一体、何が……)」

簡易に張られた結界の中で、研究員は精一杯耳を抑えて身構えていた。


目を上げると、術士達が生気を失ったように、倒れているのが見えた。

お姫様は、ただ立ち尽くしていた。

その手に持つ鋭利な装備には血が滴っていた。

研究員「おい、どうなっている!そんな装備で倒したのか!?」

研究員「ちゃんと術は発動し……」

『グモォオオオオオオオオ!!!』

研究員「ひぃ!なんだ!」

研究員の耳の内側から、魔物の鳴き声が響いた。

『や、やめてくれ!!息子だけは!!』
『お前らはそれでも人間か!!!』

研究員「これは……」

『使えない研究者め……』
『もうここには来なくていい』

研究員「お、俺が、過去に聞いた……」

『……ごめんなさい。あなたとは……』

研究員「やめろ……やめてくれ!!」

過去に聞いた悲しい言葉の記憶が、激流のように研究員の脳内に鳴り響いた。


『嫌vぬあ;んbにあえb:ゔぁ憎ゔぁ;んれんぶpな』 『弱:k−0い3j5死m:ゔぁvりあ@bんじょいえk疎v;あvbギs』 『去gbbsんdvjsj;bjぬ;sb主;んfb;svkzんbおいっvbん;jsぬgjs;:gm』 『呪jvん;あんふいゔぉ@あ恨vんmfなあううrjvbんrんゔぁ;』『讐にvにあうえh8えjvまお;んゔあえrhb』







『産むんじゃなかった』
586 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/03(水) 15:32:54.60 ID:Ru5fbabL0
扉が開く音がした。

お姫様「……久しぶりね」

遊び人「あなたは!!!」

お姫様「この前は、エグい呪文を使おうとしてくれたじゃないの」

遊び人「さっきの魔力の気配……やはり、音讎の呪文を使ったのね!!」
587 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/03(水) 15:33:34.53 ID:Ru5fbabL0
TIPS

『音讎の呪文』

過去に聞いたことのある、忘れたい全ての音を一斉に呼び起こす呪文。

全ての音の再生が終わるまで呪文は解けない。

特徴として、対処が極めて困難なことがあげられる。

呪文の音が耳の鼓膜に届けば発動するため、手で耳を抑える程度の対処はもちろん、魔法反射や簡易結界でも防ぎ切ることができない。

完全な結界や、空間の空気を抜き取る呪文等、発動に時間がかかる対処呪文しか存在しない。

状態異常に分類されるため、精霊の加護がある者は自殺すれば解除される。
588 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/03(水) 15:34:44.03 ID:Ru5fbabL0
遊び人「音讎(おんしゅう)の呪文。私もまだ幼い頃に唱えてしまって、泣き続けたことがあるってお父さんから聞いたことがある」

遊び人「これが禁術とされるようになったのは。一度でも戦争に参加したことのある成人がかかった場合、必ずと言っていいほど自殺を試みるからなのよ」

遊び人「あなたが、ここまで来れたのも不思議なくらいに、感情ごと呼び起こす呪文なのに……」

お姫様「…………」

遊び人「まさか、あなた!!自分の耳を!!」

お姫様の両耳から、血が流れ出していた。

お姫様は不気味な笑みを浮かべながら、詠唱を始めた。

お姫様「『リコルダーティ・スケルツォ・ベルスーズ』」
589 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/04(木) 00:48:07.12 ID:GAmWAbrDO
590 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/04(木) 01:54:50.26 ID:JNFXVCVn0
強欲「……ふぅ」

強欲「まずは、一名捕らえたな」

強欲の勇者は、一瞬で完全な結界を出現させた。

お姫様は中に閉じ込められ、彫像のように動きを止められていた。

遊び人「こんな完全な結界をたった一瞬で!!一体どうやって……」

強欲「俺の実力が1だとしたら、こいつの力が99だ」

強欲は自分の腕をひらひらと振った。

腕輪が黄金色に輝いていた。

強欲「通常攻撃も、魔法攻撃も、道具の使用も、この腕輪は自分の望んだ威力にまで瞬時に引っ張り上げる能力がある」

錬金「油断するな。足音が聞こえる。おそらく時間差で味方を送り込んだのじゃろう」

錬金「なんとしてでも防げ。世界の命運がわしらにかかっている」

足音は大きくなり、白衣を来た男たちが次々と現れた。
591 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/04(木) 02:15:44.82 ID:JNFXVCVn0
錬金「はぁ…はぁ…」

錬金「これで、最後かの……」

迷路のように広がっている地下を移動しながら、勇者達は敵と対峙した。

しかし、あくまで戦闘の前線に立ったのは、錬金を始めとした宮殿に仕える術士達であった。




今回の戦いにおける最大の目的は、嫉妬の勇者の捕縛。

作戦の根幹に関わる教会への転送に関して ”絶対に勇者、遊び人、強欲の三人が死んではいけない” 理由があった。

強欲「……信号が入った。地上にある教会は、完全に結界を張られたそうだ。敵側の援軍の力はやはり教会の攻略に注ぎ込まれていたらしい」

強欲「だが、我らの大罪の装備に打ち克つことができるのは、同じ大罪の装備を所持している嫉妬の勇者しかいない」

強欲「奴は必ず自らここに来る。我らの側にある『暴食の鎧』『色欲の鞭』『強欲の腕輪』この3つの装備を全て使用しても、奴の体内に宿っている6つの精霊は倒しきれない。そして一度精霊を破壊した武器は嫉妬の首飾りによって攻略化される」

強欲「奴は死ぬことを恐れないはずだ。大罪の装備以外による攻撃で絶命しても、やつが転送されるのは、既に奴の手中に落ちた教会だと考えるはずだ」

強欲「なんとしてでも、先手で奴を絶命させ……」





嫉妬「誰を、どうすると言ったか」

無様に寝転がる研究者を蹴り飛ばしながら、嫉妬の勇者が現れた。
592 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/04(木) 02:16:23.18 ID:JNFXVCVn0
強欲「やっと来てくれたか。待ちわびたぞ」

嫉妬「教会を基地にしなくてよかったのか。何度でも蘇りが効いたぞ。貴様のかつてのパーティメンバーは四天王との戦いで全員死んだと聞いている」

強欲「俺を倒せるのはお前くらいしかいない。そして、お前に倒される時は、俺が精霊ごと殺される時だ。ならば、奥深くで休んでいるのがよいだろう」

嫉妬「なるほど、光栄だ」

嫉妬「といいたいところだが。あまりに無様な状況だ。他の者ではやはり、大罪の装備には手も足も出まいか」
593 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/04(木) 02:17:09.38 ID:JNFXVCVn0
嫉妬「それにしても、お前は本当に結界の中が好きだな」

嫉妬は結界に足を歩み入れた。

首飾りが鈍く輝いていた。

嫉妬「禁術を唱えて東の部隊を味方もろとも不能にさせたそうじゃないか」

嫉妬はお姫様を掴み、結界の外へと引きずり出した。

強欲「平気で完全結界の中に……。既に首飾りで攻略化(とりこみ)済みというわけか」
594 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/04(木) 02:18:14.09 ID:JNFXVCVn0
嫉妬「まずは、話の聞ける状態にせねば」

嫉妬が回復呪文を唱えようとすると、錬金が即座に動いた。

錬金「奴に動く隙きを与えるな!!」

錬金の命令と同時に、術士は詠唱を始めた。

誰よりも早く、錬金は呪文を発動した。

錬金「『魔壁剥がし』!!」

嫉妬「ほほう。人間に唱えられるものがいるとは」

錬金の杖からは緑色の蔓(つる)のようなものが伸びた。

しかし、枯れ葉の色に変色し朽ちてしまった。

錬金「これも攻略化しておったか……呪文中断!!」

術士達は詠唱を中断した。

錬金「奴は魔反射をかけておる。生半可な魔力では全て返り討ちにされるぞ」

錬金「後は任せたぞい、大将」

強欲「ああ。下がっていろ。生半可でない呪文で魔壁ごと吹き飛ばしてやる」



他の術士は後ろに下がり、強欲と嫉妬が対峙した。

嫉妬「強欲。身の丈に合わぬ願いを叶えようとする醜き心に選ばれた勇者よ!」

強欲「嫉妬。叶わぬ願いを手に入れた者を引きずり落とす醜き心に選ばれた勇者よ!」

嫉妬「拭い去る!!」

強欲「奪い取る!!」

2人は同時に呪文を唱えた。
595 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/05(金) 00:34:21.18 ID:WLApPFvDO
乙乙
596 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/06(土) 09:01:28.70 ID:nY42ru3vo
乙!
597 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 14:46:44.06 ID:cSlOzYY80
TIPS

『嫉妬の首飾り』

・攻略化…一度持ち主を破滅に陥らせたことのある呪文・特技・装備・道具等の情報を取り込む

・無効化…一度攻略化したことのある呪文・特技・装備・道具等の効力を消し去る。無効化の度に寿命を消費する。

通常攻撃は無効化の対象外である。
<例>色欲の鞭によって嫉妬の首飾りの所有者が倒され、攻略化した場合。
復活後、再び色欲の鞭によって攻撃された時に無効化を行うと、それは付与効果のないただの鞭の攻撃となる。
598 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 14:47:40.73 ID:cSlOzYY80
戦闘する2人を、遊び人は注意深く観察していた。

遊び人「大罪の装備の使用には寿命を消費する。それは嫉妬の首飾りにも当然あてはまること。だから、呪文の無効化に首飾りを多用するのは避けたいはずよ」

遊び人「マハンシャさえ唱えておけば、嫉妬は大概の呪文を防ぐことができる。そして、魔壁剥がしなどの特殊呪文だけを無効化すれば、実質全ての呪文を防げるといってもいい」

強欲「『雷槍で穿て、ペルクナス』!!」

強欲の右腕から7つの電気の槍が飛び出した。

嫉妬「無駄だ」

嫉妬の首飾りが鈍く輝いた。

強欲「勇者の呪文は当然攻略化済みというわけか。自分で自分に攻撃した時はさぞ痛かったろう」

嫉妬「残念なことに、この世の大概の呪文は攻略化済みだ」

遊び人「……やはりそう。強欲の腕輪、という装備を攻略化していなくとも。雷撃の呪文を過去に攻略化済みであったら、無効化されてしまうんだわ」
599 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 14:48:32.22 ID:cSlOzYY80
嫉妬「勝利のためならあらゆる手段を試みる強欲な勇者よ。その大胆さとは裏腹に、計画性、緻密性、慎重性をそなえた人物だという話をよく聞く」

嫉妬「我々のことや大罪の装備についてもこそこそと嗅ぎ回っていたようだが。その腕輪で精霊ごと倒したところで、俺は復活する。俺の体内には複数の精霊が宿っているのでな。そこの小娘から話を聞いたであろう」

嫉妬は遊び人を横目で見て言った。

嫉妬「俺を倒せる方法でも思いついたのなら、聞かせてほしいものだ」

嫉妬は右腕に大きな力を貯めた。

嫉妬「その前に、貴様が死ななければな!!」

嫉妬は雷撃呪文を、無口詠唱で唱えた。

強欲は相殺化しようと、雷撃の呪文を唱え返した。

しかし、強欲の放った雷撃は消滅してしまった。

強欲「ぐぉおおおおお!!!」

嫉妬「寿命さえ惜しまねば、いくらでも呪文を消すこともできるのでな」
600 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 14:57:59.46 ID:cSlOzYY80
遊び人「やはり、呪文同士の戦いでは勝ち目がないわね」

勇者「でも、憤怒は兜を装備して奴を倒したじゃないか」

遊び人「それは、嫉妬の首飾りにも攻略できない対象があるからよ」




強欲「……貴様の呪文の特徴は掴んだ」

強欲「あとは、俺の得意なこれだけで行くとしよう」

強欲は呪文の詠唱の構えを解き、通常攻撃の構えを取った。

強欲「行くぞ!!」

強欲は腕輪の力を全て、剣技に注ぎ込んだ。

嫉妬「ぐっ!!!」

剣を振るあまりの速度に、風を切る音が轟いた。

一度宙を切った風の音が、分裂したかのように幾重にも重なって響いた。

強欲「この腕輪は一太刀の振るいで幾百かの攻撃を加える!!」

強欲「通常攻撃に関しては、首飾りの力を存分に発揮できないようだな!」

嫉妬「大罪の腕輪め……」

嫉妬は呪文を繰り出しながら、強欲と戦闘をしていた。

本来であれば、通常攻撃だけでは呪文と剣技の組み合わせに勝てるはずもないのだが。

強欲の腕輪の力により、あまりあるほど剣技の強さで圧倒していた。

強欲「終わりだ!!!」

強欲が剣は、防御呪文の障壁を突き抜け、嫉妬の胸に突き刺さった。

嫉妬「……がぁっ……」



バリイイィイイインン!!!

精霊が砕ける音が響いた。
601 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 15:04:58.78 ID:cSlOzYY80
〜決戦前日〜

錬金「強欲の勇者。そして勇者と遊び人。お前らは戦闘当日、絶対に死んではならん」

錬金「この地下内に、もう一つの教会を創った。ここじゃ」

宮殿地下の迷路のような道を歩き、異質な空間があるのを勇者と遊び人は目撃した。

神官「…………」

遊び人「神官様がいる」

強欲「普段は他の場所にいた神官だ。勇者復活の使命を帯びている。試しに一度自殺を試みたが、確かにここで復活をした」

強欲「地上に通常の教会が1つ。ここに新たな教会が1つ。戦闘で死んだ位置から、最も近い位置の教会で復活することになる」

勇者「一体、何のために……」

錬金「ここで、わしの長年の研究の出番じゃ」

錬金はそういうと、他の部屋の案内をした。

そこでは、見たこともない材質の塊を囲んで、多くの術士が作業に取り掛かっていた。

錬金「賢者の石の失敗作じゃ」

遊び人「賢者の石……」

錬金「硬度が極めて高く、魔法を跳ね返す性質をそなえておる。他にも様々な魔物の繊維を合成させておる」

錬金「この材質で出来た武器で切りつけたら攻略化されるかもわからんが。ただの空間として設置した場合に無効化はできまい」

錬金「この物質で出来た檻を作る。戦闘で死んだ奴を、この教会に転送させる。復活は神官の目の前。ここにあらかじめ檻を作成しておき、閉じ込めるというわけじゃ」

錬金「加えて、真上の部屋に、雨水を大量に保管しておる。やつがこの檻に入ったタイミングで、水を流し衰弱させる」

錬金「自然に存在しているものを、嫉妬の首飾りは攻略化できないはずじゃ。もしもあらゆるものを消滅させたりすることができるのであれば、傲慢や憤怒と戦闘している時に、空気を消滅させて窒息させて戦闘不能にでもしてたはずじゃな」

錬金「なんとしてでも奴を一度殺害する。そしてこの檻の中に出現させ、窒息させる。奴が衰弱している間に槍でも伸ばして首飾りを奪えば良い」





――――――――


602 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 15:08:53.18 ID:cSlOzYY80
強欲は、剣を嫉妬に突き刺したままであった。

嫉妬からは血が流れ出し、意識が遠のいているようにみえた。

強欲「朽ちてくれ」

嫉妬が教会へ転送される瞬間を待った。

檻の中に閉じ込め、水を流し、窒息させ、気絶したところで首飾りを奪う。

首飾りさえなくなれば、強欲の腕輪の力を以て、精霊ごと何度でも殺害をすることができる。

強欲「はやく、飛べ!!」

その時だった。

強欲「ぐぁっ!!!」

バコン!という音が一瞬聞こえたかと思うと、嫉妬に突き刺していた剣が弾け飛んだ。

強欲「木の音!!肉体保護の棺桶が出現したのだな!!」

しかし、音が聞こえたのは一瞬で、棺桶は目視する間もなく消滅したようだった。

遊び人「おかしいわ!!教会への転送がされるはずじゃ……」

混乱している一同の前で、一人の人物が口を開いた。



嫉妬「おお、私よ。死んでしまうとは情けない」

傷が完全に癒えた状態で、嫉妬の勇者が復活していた。
603 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 15:21:46.33 ID:cSlOzYY80
遊び人「どういうことよ!!絶命したはずよ!!なのに神官の元への転送もなく、そのまま復活をするなんて……」

嫉妬「ちゃんと神官の元で、俺は蘇ったさ」

嫉妬はにんまりと笑みを浮かべていた。

錬金「…………なるほどの」

錬金は何かを察したようだった。

錬金「勇者であることを捨てたか」

嫉妬「捨ててはいないさ。転職はしたがな」

嫉妬「俺の今の職業は、神官様だ」
604 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 15:24:53.45 ID:cSlOzYY80
嫉妬「俺は元々、今の俺が支配している王国の奴隷だった」

嫉妬「精霊が宿った俺は被験体にされ、様々な実験をさせられた」

嫉妬「俺が神官もろとも雷撃を落として自殺を試みた時に、不思議な現象が起きた」

嫉妬「一度目に落ちた雷は、俺と神官に直撃した。だが、俺はその場で蘇った」

嫉妬「二度目に落とした雷は、俺に直撃し、研究者が用意していた別の教会で俺は復活した」

嫉妬「一度目の雷で、何故俺だけ復活したのか。それは、タイムラグがあったからだ」

嫉妬「神官は、精霊からその職業を全うする能力を託されている。自分の身が滅びつつある時でさえ、気絶している時でさえ、勇者の蘇生を果たす。いうならば、神官の身体を通して、精霊の力が勇者を蘇生させていたわけだ」

嫉妬「自分自身が神官になった場合。死亡した時点で最も近い位置にいる神官は、俺自身であるため、他の神官の元へ送還されることはない。精霊の加護を宿している俺を、神官である俺自身が蘇生することになる」

嫉妬「かつて、魔王が神官を魔王城に置き、勇者の精霊の加護による逃亡を阻止しようとしたことがあった。これは失敗した。神官は自分のいる領域を、人間の領域であると認識できなかったからだ」

嫉妬「俺は俺自身の中に復活する。当然、人間の領域であると認識できる。魔王城の中であろうがな」

嫉妬「研究者共はこのタイムラグを何かに活かせないかと悩んだ末、答えを見つけられないままだった。しかし俺は、最も有効な活用方法を考えついた」

嫉妬「精霊の加護による、教会への転送の省略。これによって、結界の張られた教会に転送されるようなこともない。お前らもそのような作戦を立てていたのだろう」

錬金は焦りの表情を浮かべていた。

嫉妬「だが。この仕組の真価は別のところにある」

嫉妬「精霊殺しの陣による死亡の可能性の排斥だ」

嫉妬「俺の中に宿っている精霊が魂から飛び出すのは、俺が死亡した時だ。そこが精霊殺しの陣が敷かれているエリアであれば、俺の精霊は飛び出した瞬間に破壊される」

嫉妬「俺自身が神官であるため、精霊は転送する必要もなく、俺の魂から飛び出す過程も省かれる」

嫉妬「精霊殺しの陣によって俺は死ぬことはなくなったのだ」
605 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 15:33:06.51 ID:cSlOzYY80
遊び人「でも、神官は精霊に託された者のみがまっとうできる職業なんでしょ。通常の転職神殿でも、神官への転職はできないわ。そもそも、勇者という職業の者は転職自体許されていないはず!どうして……」

嫉妬「それはお前が一番よくご存知のはずだろう」

遊び人「……まさか」

遊び人「……強制転職呪文」

嫉妬「グリモワールと書かれた書物を見させて貰った。お前の父親は実に素晴らしい術を記載してくれていた」

錬金「あの馬鹿息子……」

錬金はショックを受けたような顔をした。

嫉妬「呪文の才能を持った術士が、真に対象者の転職を願った時にのみ使える禁術だ。『大罪の賢者』という、本来転職不可能な職業から『遊び人』に変えられたのも、この呪文の力だ。対価として、極めし職業1つ分のスキルの放棄という大きな代償がつくだけはある」

嫉妬「使用出来る器のあるものがいなかったのでな。自分自身で使用させてもらった。勇者という職業から、神官という職業へな」

遊び人「雷撃の呪文を使っていたはず……。勇者という職業を放棄したのではないの?」

嫉妬「悲しいことに、俺はまだ勇者という職業を極めていない。俺だけではない。古代の勇者は自身の力だけで魔王を葬った。大罪の装備等に頼らなければ四天王さえ倒せない今の世界の勇者に、勇者という職業を極めたといえるものはおらんだろう」

嫉妬「職業の格によって、極めの水準は大きく異る。例えば、遊び人という職業は極めるのに容易い。最低限度のレベルを積んで賢者に転職するのが通常だが。遊び人を限界まで極めれば、強制転職呪文で大罪の賢者になることも可能だ」

嫉妬「強制転職呪文は等価交換ではない。誇り高き職業のスキルを放棄して卑しい職業へ転職することもできれば、卑しい職業のスキルを放棄して誇り高き職業に転職することも可能だ」

嫉妬「俺も1つの職業を既に極めていたので、放棄させてもらった!!」

突如、嫉妬は怒りに歪んだ表情をして叫んだ。

嫉妬「奴隷という、忌まわしい職業をな!!!」
606 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 15:34:37.31 ID:cSlOzYY80
嫉妬は、再び淡々と語りだした。

嫉妬「嫉妬という感情は、敗者の感情だ」

嫉妬「この首飾りも、本来であれば最弱なものだ。一度、敗北をした相手にしか効力を発揮しない」

嫉妬「俺はそれを、自身の才覚で全て乗り越えたのだ」

嫉妬「どうする。強欲の腕輪の力はもう発揮しないぞ」

嫉妬「残りの大罪の装備で、時間稼ぎでもするか?」
607 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 15:37:40.19 ID:cSlOzYY80
嫉妬は、右腕に雷の力を蓄え始めた。

強欲「『マハンシャ』!!」

嫉妬「たいていの呪文は攻略化済みだといったはずだ」

首飾りが光ると、魔法障壁は粉々に散ってしまった。

強欲「くそっ!!」

強欲は通常攻撃を繰り出そうと、瞬時に飛び出した。

嫉妬「剣で雷を斬れるものか」

嫉妬は雷の呪文を放った。

強欲は腕輪に念じた。

だが、いつものような黄金色の輝き放つことはなかった。

強欲「ぐぁあああああ!!!!」
608 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 15:41:13.36 ID:cSlOzYY80
強欲「はぁ……はぁ……」

強欲の身体は、燃焼と再生を繰り返していた。

嫉妬「無口詠唱で回復呪文を唱え続けたか。素晴らしい集中力だ」

嫉妬「よかったな。回復呪文は攻略化の対象外だ。俺を敗北に至らしめるにあたって、敵の回復は間接的な要因にすぎないとの認識らしい」

嫉妬「さて、そろそろこいつにも働いてもらわねば」

隅で倒れていたお姫様に、嫉妬は回復呪文をかけた。

お姫様の体の傷が癒え、耳からの出血も止まった。

お姫様「……嫉妬様」

嫉妬「耳は聞こえるな。大罪の装備を後ろで隠れているやつらが守っている。奪ってこい。強欲は俺が相手をする」

お姫様「……かしこまりました」

お姫様は急激な回復に伴う副作用でよろけながらも、勇者達を見据えた。
609 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 15:42:34.55 ID:cSlOzYY80
強欲は叫んだ。

強欲「逃げろ!!例の場所で落ち合うぞ!!」

にげる。

作戦が完全に失敗にしたとわかった時に、発する命令だった。

ただがむしゃらに逃げ出して。あらかじめ定めていた『誓いの書簡の村』で落ち合うという、それだけの命令だった。

勇者「……やるしかないのか」

お姫様「あんたみたいな雑魚、一瞬で葬ってやるわよ」

目の前の女の子はぼろぼろになりながら立っているものの。

傲慢と憤怒の2人を相手に戦っていた、嫉妬の王国最強の術士である。

遊び人「勇者、どうするの」

遊び人は足を震わせながら尋ねた。

勇者「どうするって、逃げるしか無いだろ」

勇者「俺が道を切り開く。その間に、地上に逃げろ」

勇者「地上に出た瞬間、移動の翼で逃げるんだ。嫉妬が強欲と戦闘している今、空から雷で撃たれる恐れもない」

勇者「さあ!」

勇者と遊び人は、同時に駆け出した。
610 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 15:48:35.95 ID:cSlOzYY80
お姫様「待ちなさい!!」

ふらふらになりながらも、お姫様は笛を口に咥えた。

勇者は、瞬時に飛び出し、一瞬でお姫様との間合いを詰めた。

お姫様「なっ!!」

勇者「うぁああああ!!!」

勇者はお姫様を蹴り飛ばした。

お姫様「うぅ……おぇえ!!!」

お姫様「う、うそ……」

吹き飛んだお姫様が他の楽器を取り出すも、勇者に一瞬で間合いを詰められた。

お姫様「なんて速度……」

勇者はお姫様の楽器を吹き飛ばし、再び蹴りを加えた。

吐瀉物の音が響いた。
611 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 15:50:20.43 ID:cSlOzYY80
お姫様「く……くそ……雑魚だったはずなのに……おえぇえええ……」

お姫様「……女の子に……暴力振るうなんて……」

勇者「剣を心臓に刺すよりはマシだろ」

お姫様「……舐めやがって。殺さなかったこと、後悔させてやるわ!!」

お姫様は、簡易的な呪文を詠唱した。

しかし、それ以上に早く勇者は距離を詰め、腕を斬りつけた。

お姫様「いやぁあああああああ!!!」
612 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 15:51:23.75 ID:cSlOzYY80
お姫様「いだい……うぐっ……どういうことよ……」

勇者「ずるをしたんだよ。大罪の賢者の力に近づこうと、寿命を肉体強化にまわす呪いをかけてもらったんだ」

勇者「今の俺は、大罪の無職といったところだけどな」

遊び人が出口を駆け上がっていくのを、勇者は見届けた。

自嘲的に言いながらも、勇者はこの場を制したことに達成感を覚えていた。

勇者「少しだけ、強くなったんだ」

今強い人達は、人生のどこかで強くなろうとした人達。

勇者も、強くなった。

他者との戦いに、勝てるほどまでに。

勇者「殺さなければ、後悔するんだったな」

勇者は剣を大げさに構え、突進をした。

お姫様「ひっ……」

お姫様は怯んだ。

勇者「うぉらあああ!!!!!!」

勇者は横を素通りすると、遊び人の後に続いていった。

お姫様「……へっ?」

勇者「殺せるわけないだろ」

勇者「女の子に救って貰った人生なんだから」

勇者達はにげだした!
613 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 15:56:30.00 ID:cSlOzYY80
勇者は宮殿の1Fに出た。

勇者「酷い……」

味方の術士が血を流しながら、横たわっている惨状を目の当たりにした。

勇者「遊び人!!どこにいる!!」

宮殿には複数の出口がある。

勇者は迷いながらも、正面玄関に向かい、空の真下へと出た。

空を見上げるが、遊び人の姿はなかった。

勇者「もう逃げ出せたのか。他の出口からでたのかもしれない」

勇者「よかった」

勇者は安堵した。

自分も誓いの書簡の村に飛び立とうと、移動の翼を取り出そうとした。

勇者「……なんだ、この感覚」

気だるさが、どっと勇者を襲った。

嫌な予感がし、勇者は辺りを見回した。
614 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 15:58:16.34 ID:cSlOzYY80
前方の広場に、人影が見えた。

髪の長い女性が1人立っており。

その傍らでは。

勇者「遊び人!!」

ぼろぼろになった遊び人が横たわっていた。



勇者「……許さない。嫉妬の仲間か!!」

勇者は剣を構え、遠く離れた女性に向かって叫んだ。

勇者「お前は一体……」

「そんな遠くから話しかけないで、もっとこっちに寄っておくれよ。この子みたいに、雷で撃ち落としたりやしないからさ」

勇者は、背筋が凍る思いがした。

「これでも威力を弱めてあげたんだ。その証拠に棺桶が出現していないだろ」

長い黒髪を持つ女性は、淡々と勇者に話しかける、

「精霊の加護なんてものに頼っているから、命に危機感を持たないんだよ。あんなもの、無い方がマシだと思わない?」

「ねえ、勇者」

勇者「嘘だ……」

倒れていた遊び人は、痛みに耐えながら勇者に尋ねた。

遊び人「……勇者。こいつを、知ってるの……?」

「知ってるも何も」

ショックを受けている勇者に変わって、美しい女性は代わりに答えた。

怠惰「同じ故郷出身の、元パーティメンバーよ」

怠惰の勇者が現れた!
615 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 16:00:48.09 ID:cSlOzYY80
勇者「ど、どうして……」

勇者「ち、違うんだ……俺は、あの時……!!」

勇者は混乱している!

怠惰「久しぶりの再会で、いきなり言い訳だなんて。相変わらず、情けない男だね」

勇者「なんで……死んだと思っていた……」

怠惰「死んだと思ってた、って。遠回りな言い方をするんだね」

怠惰「勇者は、私達を殺そうとしたんじゃない」

遊び人「なによそれ……」

勇者は怯えた目で遊び人を見た。

勇者「やめろ、違うんだ……」

怠惰「こいつはね」

勇者「やめろって!!!」

叫ぶ勇者を見て、怠惰は笑みを浮かべた。

怠惰「ははーん。この女の子には聞かれたくないってことかしら。確かに、精霊の加護だけが唯一の存在価値であるあんたに、その取り柄を根本から否定するような話だもんね」

勇者「やめてくれ!!!!!!」

勇者は錯乱した!!
616 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 16:02:46.20 ID:cSlOzYY80
勇者「うぁあああああああああああ!!!!!!!!!」

勇者は怠惰に向かって、すてみで突進をした。

怠惰「相変わらず、考えることから逃げてばっかりね」

怠惰「あなたが見捨てたこの命を、これが救ってくれたのよ」

“怠惰の足枷が鈍く光った。”

勇者「…………がぁっ……」



勇者の攻撃力が極限まで下がった。

勇者の防御力が極限まで下がった。

勇者の素早さが極限まで下がった。

勇者の魔力が0になった。

勇者の反応力が極限まで下がった。

勇者の集中力が極限まで下がった。

勇者の判断力が極限まで下がった。

勇者の決断力が極限まで下がった。

勇者の生きる意志が極限まで下がった。

勇者は力が抜け足元から崩れ落ちた。

勇者は廃人になった。

勇者「……………………ぁ………」


勇者は虚ろな目をして、四肢をだらりと投げ出していた。

口は薄く開き、端からよだれが垂れていた。

遊び人「勇者っ!!!」
617 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 16:03:50.07 ID:cSlOzYY80
怠惰「さて、と」

怠惰は、腰に2本携えている剣のうち、1本を取り出した。

怠惰「貴重な素材を殺すなとはあの方から言われているけど。あなた達は転送を利用して逃げ回るのが得意みたいだからね」

怠惰「私の仕事は、大罪の賢者の生き残り、あなたを連れて帰ることだもの。こいつの精霊の捕縛は二の次よ」

怠惰の勇者は、紫色に輝く剣を両手で持ち、横たわる勇者の横で高く持ち上げた。

遊び人「紫色に輝く剣……」

遊び人「せ、精霊殺しの魔剣!!」

怠惰「さよなら」

遊び人「やめて!!!」

怠惰の勇者は、魔剣を深々と勇者の身体に突き刺した。



ガラスの砕ける大きな音が響き渡った。
618 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 16:04:41.43 ID:cSlOzYY80
遊び人「あ……あぁ……」

遊び人「ゆ、勇者……」

遊び人「精霊の光が……見えないよ……」

わなわなと震える遊び人を見て、怠惰の勇者は苦笑していた。

怠惰「やだ。そんな悲しい顔しなくてもいいのよ。魔剣は精霊だけを斬りつけることのできる剣。刃は人間には触れられないのよ」

怠惰は剣を引き抜き、鞘に収めた。

勇者の胸部の装備に穴は空いておらず、出血の様子も見られなかった。

怠惰「それよりもね。そいつは、死んで誰かが悲しむような、ろくなやつでもないのよ」

怠惰「よかったじゃない。これで、自動的にパーティメンバーも解除されるわ。もう二度とこいつと一緒に冒険しなくても済むのよ」
619 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 16:08:18.32 ID:cSlOzYY80
怠惰「どうやらあっちも終わったみたいね」

嫉妬の勇者が、強欲の勇者を引きずって表に出てきた。

怠惰「楽勝でしたか?」

嫉妬「こいつの仲間の老人が、強制転職呪文をかけてきた。奴が大元の開発者だったみたいだ。危うく遊び人にされるところだった」

怠惰「ふふふ。遊び人になったあなたは見てみたかったかも。防げたのですか?」

嫉妬「禁術はマハンシャでは防げない。嫉妬の首飾りで攻略化したこともない。だから、姫様に身代わりになってもらったよ」

怠惰「お姫様も可哀想に。酷い王子様に使い捨てにされて」

嫉妬「遊び人から音術士に戻るのは、時間はかかるが簡単だ。転職に必要な最低限度の経験を積むのに時間はかかるがな」

嫉妬「お前の方は、首尾良くいったようだな」

怠惰「ええ。しかし、大罪の賢者の脱走の可能性があるため、勇者の精霊の加護は破壊致しました。申し訳ございません」

嫉妬「俺もこいつらとの鬼ごっこには飽きていたところだ。これで大罪の装備はすべて揃った。あとは時間をかけて我々の計画を進めれば良い」

怠惰「ついにこの日が訪れましたね」

嫉妬「ああ。どれほど待ちわびたことか」

怠惰「この女はあなた様に差し上げます」

怠惰の勇者は遊び人を見下ろしていった。

怠惰「そして、この勇者は、私が責任をもって、故郷に連れ戻します」

嫉妬「なるほど、あの地か。任せよう」
620 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 16:15:55.60 ID:cSlOzYY80
嫉妬は狂喜に満ちた表情を浮かべていた。

嫉妬「俺の持つ嫉妬の首飾り。お前の持つ怠惰の足枷」

嫉妬「この前の侵略で奪った憤怒の兜。傲慢の盾」

嫉妬「先程こいつから奪った強欲の腕輪」

嫉妬は足元に投げ出した強欲の勇者を見下ろした。

嫉妬「そして」

嫉妬は遊び人から道具袋を奪い取った。

嫉妬「封印の壺の中に閉じ込められている、暴食の鎧、色欲の鞭」

嫉妬「大罪の7つ装備。ついに、すべてを手に入れた」

嫉妬「ただの寿命の延長なんぞで、俺は満足しない」

嫉妬「永遠に、この世界の支配者となるのだ」



嫉妬は、都の支配者足る強欲の頭を掴み、電流を流した。

都の結界は解かれ、外で待機していた魔物の侵入を許した。

研究者達も嫉妬の元に集まり、手配を整えた。

遊び人は、嫉妬の王国へ連れて行かれ。

勇者は、怠惰の勇者とともに故郷へと連れて行かれた。









パーティは、解散した。






621 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 16:18:35.40 ID:cSlOzYY80
【強欲の勇者の思い出】

錬金「……久しぶりだな、若造。わしの研究室に勝手に入ってくるなと言ったのを忘れたか」

若き青年に、堅物そうな男性は言った。

強欲「研究が進んでいるか尋ねに来たんだ。世界一の錬金術師に」

錬金「ふん、くだらん。錬金術師など今この世界にいるものか。賢者の石でさえ創造できん癖に。死者の復活に取り組むなど、狂気の沙汰だと思わんか」

錬金「金と酒と女に溺れた凡人の方がよっぽど健全じゃ。」

強欲「あんたの口からそんな言葉が出るとは」

錬金「これでも昔はヤンチャで優秀な研究者での。地位も名誉も欲した。贅沢な暮らしもな。あの頃は健全じゃった」

強欲「でも、今のあんたは研究を続けている。亡くなった奥方を蘇らせるために」

錬金「人の傷心の理由に興味があるだけなら帰ってくれ。魔王討伐の旅の途中ではなかったか」

強欲「パーティが全滅したんだ。他の者は、みな死んでしまった」
622 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 16:21:48.67 ID:cSlOzYY80
錬金は驚いた顔をした。

錬金「なんと……。精霊の加護はどうした」

強欲「精霊殺しの陣の上で戦ったんだ。魔王城の中で、四天王の一体を相手に」

錬金「そやつは、一体どんな」

強欲「再生を司る四天王だった」

錬金「再生?」

強欲「魔族は人間とは比較にならないほどの体力を有している。そのせいか、回復呪文の効果は薄い。人間が生き延びることを優先しているとしたら、魔族は破壊することを優先とした戦闘能力を有している」

強欲「奴は、膨大な体力を持ちながらも、自身の体力を全快させることのできる巨大な魔物だった。人間の場合に生じる回復呪文に伴う副作用も、一切抜きでな」


強欲「奴の攻撃パターンは二つ。祈りを捧げた後の全体攻撃。そして、祈りを捧げた後の完全回復」

強欲「祈りの時間は長く、行動速度だけは劣っていたといえる。祈りを捧げている間に俺達は攻撃を加え、やつが祈りを終えそうになったら遠くへ離れて防御の結界を張る。そして再び祈りを唱えたところを攻撃する」

強欲「奴は俺らを見くびっていたと思う。攻撃の回数こそ多いものの、回復の回数は非常に少なかった。俺らがコツコツとやつに貯めていたダメージは、本当に些細なものだったのだろう」

強欲「奴の回復が再生だとして、攻撃は腐敗だった」

強欲「放射線状に伸びる腐敗の光は、強力な防御結界さえも溶かした。部屋が広大で逃げ切ることなど出来ずに、攻撃される度に防御の結界で防いだ。」

強欲「行動を繰り返す度に俺らは体力や魔力をすり減らしていった」
623 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 16:25:43.30 ID:cSlOzYY80
強欲「戦士が、身体の一部を溶かされた。僧侶が回復呪文を唱えても、再生したそばから腐敗してしまう。禁術級の状態異常だ」

強欲「勝ち目がないと思った俺達は、逃げ出そうとした。しかし、いつの間にか入り口が消滅していた。おそらく、奴の細胞が壁として埋め込まれていたんだ。俺達が入る時は腐敗した状態で地面に溶けていて、回復の祈りとともに壁として再生したんだ」

強欲「魔法使いが爆発呪文を唱えてそこら中の壁に穴を開けようとしたが、材質は極めて頑丈で、削る程度だった。奴の身体で構成されていた入り口の壁が一番脆いと考え、必死で探した」

強欲「だが、結界を張れる僧侶の魔力が尽きてしまった。奴が腐敗の光で攻撃してきた時に、僧侶が俺らの前で仁王立ちした。光は彼女だけに注ぎ込まれた」

強欲「美しかった彼女は一瞬で腐敗した。灰色の、ドロドロの液体になって地面に解けた。しかし、肉体保護の棺桶が出現し、彼女だった物質はその中に保管された」

強欲「奴が再び祈りを捧げている間に、入り口らしき箇所を見つけた。魔法使いは爆発呪文を一心に打ち込んだ。奴の細胞の壁が大きく削れたが、奴は二度目の攻撃を繰り出してきた」

強欲「次は戦士が仁王立ちをした。逞しかった身体が一瞬で腐れ落ちた。彼にも肉体保護の棺桶が出現し、ドロドロの液体を包み込んだ」

強欲「魔法使いが再度爆発呪文を唱えると、人が一人分やっと通れるくらいの穴が空いた。すると、魔法使いが俺を強引に引っ張った。彼女は仁王立ちをして俺をかばった」

強欲「後ろで彼女の溶ける音を聞きながら、穴を通って入り口から出た。精霊殺しの陣の及んでいない範囲に無事に戻った」
624 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 16:28:00.51 ID:cSlOzYY80
強欲「俺はそこで1つの大きな疑問とぶつかった」

強欲「精霊は勇者である俺の魂の中に宿っており、パーティメンバーの魂と俺の魂を常につなぎとめている」

強欲「パーティメンバーが死んだ場合には肉体保護の棺桶を召喚させる。そして、パーティメンバー全員が全滅した際に、勇者の魂から飛び出して、メンバーを神官の元まで運ぶ」

強欲「俺が死んだ場合、精霊は俺の魂から飛び出す。しかし、精霊殺しの陣が敷かれているエリア内に仲間がいる。そうなると、精霊は彼らを助けないのではないかと」

強欲「一度国に戻り、兵士を引き連れて棺桶を取り戻しに行こうと決めた」

強欲「だが、仲間4人で登ってきた魔王城を、一人で脱出するだけの体力も魔力も俺には残っていなかった。上級の魔物に囲まれた時に、俺は仕方なく自殺をした。精霊殺しの陣のある部屋に連れ戻されたら終わりだと思ったからだ」

強欲「教会で目覚めた。あたりを見回しても、仲間の姿は見えなかった。同時に、自分の右腕に見覚えのない腕輪が巻かれているのを確認した」

強欲「見たこともないほどに強力な装備を得た俺は、上級の術士を引き連れて再度魔王城に侵入した。今までの苦労が何だったのかと思うくらいに、四天王の部屋に容易にたどり着いた」

強欲「奴が一度目の攻撃のための祈りを始めた時に、俺は奴の体力を半分削った。防御の結界で一度目の攻撃をやり過ごすと、奴は回復のための祈りを唱え始めた。俺はその間に奴を絶命させた」

強欲「部屋の隅に、異臭を放つ棺桶が3つ転がされていた。俺はそれを精霊殺しの陣の外まで引っ張り出した」

強欲「途中で出くわした魔物は全滅させていたから、術士には元来た道を通って帰ってもらった。俺はその場で自殺を試みて、仲間とともに教会へ転送され、蘇生されることを試みた」

強欲「再び教会で目覚めたものの、俺はまたしても一人だった。棺桶に入っていた仲間は転送されていなかった」
625 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 16:35:16.90 ID:cSlOzYY80
強欲「俺は今の状況を整理した。そして、精霊がどのように行動したのか、1つの想像に行き着いた」

強欲「最初の戦闘で俺が自殺した時。精霊は俺の魂から飛び出した。まずは俺の棺桶を掴んだだろう。そして、仲間の元へ向かおうとしたはずだ」

強欲「そこで、精霊殺しの陣の敷かれている部屋に入ろうとした。自分を焼き切るような魔力を感じ、その部屋に入ることを恐れた」

強欲「しかし、精霊は勇者が魔王を倒すことを補助しなければならない使命を帯びている。当然勇者の仲間の救済も含まれている。しかし、救済しようとすれば、自身が消滅し、勇者の保護ができなくなってしまう」

強欲「世界の均衡を保つための勇者補助、という精霊の使命において、棺桶の教会への持ち運びは義務となっている。そのため、精霊個人の独断で、棺桶の転送を保留するという行動に出れなかったのであろう」

強欲「矛盾を解消しようとした精霊は、強引な手段に出た。俺と仲間の、パーティメンバーの契を解消したんだ」

強欲「精霊は勇者である俺だけを教会へ運び、義務を果たした」
626 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 16:36:33.06 ID:cSlOzYY80
錬金「……そうか」

錬金「お前が手にした腕輪は、大罪の装備に違いないじゃろう。おそらく、強欲の腕輪と呼ばれるものじゃ」

錬金「強欲だから、選ばれたのではない。強欲になるから、選ばれたのじゃ」

錬金「改めて問おう。お前の望みはなんだ」

強欲「…………」

強欲「金でも何でも、欲しいものはすべてかき集めてやる。この街ももっと発展させて、世界中から優秀な人材が集まるような都にしてみせる」

強欲「だから。俺が持って帰った3つの棺桶の中に眠る、腐敗した泥を再生してほしい。あの世に行った魂をこの世に呼び戻す研究を続けて欲しい」



今まで手にしてきた現実で価値あるものが、全て虚構だと知った。

金は命より軽い。

命のためならば、人は全てを差し出し、奪う。

命を手に入れようとする時に最も。

人は強欲に忠実となる。



強欲「俺の仲間を、生き返らせてくれ」



強欲の勇者達 〜fin〜
627 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 16:38:22.64 ID:cSlOzYY80
しばらく間をあけて、怠惰編を投稿します。
ご愛読ありがとうございます。
628 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/08(月) 21:14:09.75 ID:2jLvg47DO
乙です
629 : ◆uw4OnhNu4k [sage]:2018/01/16(火) 23:31:41.17 ID:ToQeKPLT0
仕事が繁忙期に入りほとんど書く時間が取れず、
次の投稿が3月下旬になりそうです。
GW前には完成出来るように努めてみます。
ご支援してくださってる方には申し訳ありませんが、
もうしばらくお待ち頂けると幸いです。
630 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/02(金) 02:10:43.64 ID:UmFP4B0r0
応援してます
631 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/22(木) 01:04:33.16 ID:sFdH0VF70
☆ゅ
632 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/17(土) 20:22:10.65 ID:uzWLd5/40
『努力』

好きな仕事。好きな家。好きな場所。好きな食べ物。好きな服。

運が良ければ、好きな人も。

努力によって手に入れられる価値あるものは多い。

努力といって具体的には、勉強をしたり、身体を鍛えたり、価値あるものを提供することなどが挙げられる。

労苦に耐えてでもほしいものがあるならば、努力は必要だといえる。

労苦に耐えてまでほしいものがないならば、努力は必要ない。

多くの人間は、楽園を望む、

楽園とは、努力をせずにあらゆるものが手に入る場所のことである。

楽園を手に入れるには、皮肉なことに、対価として人生一生分の努力を要する。

楽になるために、苦労を伴うのであれば、人は楽などいらないと言ってしまう。

怠惰に生きるためならば、人は手段を選ばない。

頭を働かせずに済むために、いくらでも知恵を絞る。

身体を動かさずに済むために、いくらでも口を動かす。

身体を鍛えるのも。

知識を身に付けるのも。

めんどうくさい。

めんどうくさいという、ただそれだけの理由で、全て億劫になってしまう。

周囲の信頼を失って、居場所を失ってでも、剣を振るったり、活字を読み込むことなんて、ごめんなのだ。

横たわり、何もせずに過ごした時間を全て鍛錬に費やしていれば。

愛する人が燃えることも、憎き相手が嘲笑うことも、防げたかもしれないというのに。

後悔するとわかっていながら、動かない。

自分を磨かず生きてきた青年は、本音に気付いた。

【第6章 怠惰の監獄 『努力の足枷』】

世界を救うくらいなら、二度寝した方がマシだ。
633 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/17(土) 20:23:57.48 ID:uzWLd5/40
嫉妬「くそが!!!」

嫉妬の王国の地下牢で、嫉妬は怒りに呻いた。

嫉妬の足元には割れた壺の破片が散らばっていた。

嫉妬「本物の封印の壺はどこにある!!あの遊び人を電流の拷問にかけたが、在り処を知らなかった!!妙な仕込みをしていやがった!!」

怠惰「勇者も同様です……」




勇者「……ざまーみろ。見つかりやしないさ」
634 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/17(土) 20:26:29.90 ID:uzWLd5/40
強欲の都での決戦前日。

強欲は、都にいる上級の術士を全員集めた。

封印の壺と全く同じ見た目の壺を複製しており、たった1つの本物と偽物を混ぜてランダムに彼らに渡した。

彼らは、各々の思う場所へ飛び立ち、壺をひと目のつかないところに隠して、完全な結界を施した。

嫉妬に敗北した場合の対策であった。

もしも嫉妬に敗北した場合、壺を隠した上級術士達は都から逃げるように言い渡されていた。敵の拷問にかけられて、自分の隠した壺の在り処を吐かないようにするためである。

本物の封印の壺がどういうものであるかわからない以上、嫉妬の勇者が壺の場所を感知することはできない。

大罪の装備と違い、封印の壺は独特の魔力を放たないため、感知は極めて困難なのだ。

だが、安堵していられる時間は長くはない。

勇者「封印の壺はヒビが入っていた。大罪の装備の魔力に耐えきれずに、やがて割れてしまう。そしたら奴らに感知される可能性が極めて高まる」

勇者「その前に、なんとかしないと……」

そうはいっても。

懐かしの故郷で。

囚人服を着せられ、牢獄の中に閉じ込められている勇者にとって、状況は、絶望的であった。
635 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/17(土) 20:29:55.51 ID:uzWLd5/40
勇者「ううううぐぁああああああああああ!!!!」

勇者は檻に捨て身でとっしんした!!

檻に1のダメージを与えた。

勇者「ぐぅえええっ!!!??」

勇者「いってぇええええええ!!!!!!」

勇者は大きなダメージを負った。

勇者「うぁああああああああ!!!!」

勇者は檻に捨て身でとっしんした!!

檻に1のダメージを与えた。

勇者「うぐぁ……」

「さっきからうるさいなぁ。やめるか、そのまま死ぬかどっちかにしてくれよ」

隣の牢獄からの苦情には耳を傾けず、勇者は檻を睨みつけた。
636 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/17(土) 20:47:09.75 ID:uzWLd5/40
怠惰の監獄と呼ばれるようになった勇者の故郷は、特殊な事情で捕まった者達が投獄されている。

盗みや殺しなどの罪を犯したものではなく、王族、貴族、研究者、政治犯など、人質や重要な情報を知る人物が投獄されている。

屈強な戦士や、上級術士等もいるが。

「諦めなよ。ここから脱出できた人は未だ一人もいないって話だよ」

勇者「…………」

「檻自体が特殊な素材で出来てるんだ。物理攻撃が効かないのはもちろん、呪文も全て反射されてしまう」

「なによりも、この地には呪いがかけられているんだ。向かいの囚人達を見てご覧よ」

勇者は反対側の牢獄を見た。

ぐったりとうなだれている、白髪の男性がいた。

「あれでも名のある賢者だったんだ。嫉妬の勇者からの協力の要請を断ったらしい。かつての英雄達も、ここに来たら廃人さ」

「僕たちももうじきああなるさ」

この地に連れてこられてから、身体に気怠さが重くのしかかっているのを感じていた。

勇者は気づいた。

怠惰の勇者が支配するこの地は、怠惰の装備によって無気力化されているのだと。

脱出を試みようと檻にダメージの蓄積を続けていた者も、一週間も経てば無気力になり、動かなくなってしまうのだった。

「楽観的に考えようよ。僕らは働かなくて済むんだ。かつてのここの住人は、嫉妬の王国の奴隷にされてるって話だよ。それに比べたら……」

勇者「えっ……」

勇者が息を飲んだ時に、足音が近づいてきた。
637 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/17(土) 21:06:54.92 ID:uzWLd5/40
怠惰「仲良くおしゃべりだなんて。もうあの遊び人のことは見捨てたのかしら」

勇者「怠惰……」

怠惰「勇者。故郷に帰ってきた感想はどうかしら?」

勇者「どういうことだよ!!どうして嫉妬の勇者の仲間になってるんだ!!それに、故郷のみんなが奴隷になってるって……」

怠惰「最後の最後に事情を知ってあれこれ言うなんて。まるで、魔王討伐前までは冷たい対応だったのに、魔王討伐後に勇者を英雄扱いする国民みたいね」

怠惰は呪文を唱えながら檻に触れると、鍵が開いた。

怠惰「さあ、これで逃げられるわよ」

勇者「えっ」

怠惰「あの時、私達を見捨てた時みたいにね」

怠惰は勇者を蹴り飛ばした。
638 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/17(土) 21:08:32.60 ID:uzWLd5/40
勇者「がぁっ……」

怠惰「よくも、ぬくぬくと生き延びていてくれたわね」

怠惰は勇者を殴りつけた。

怠惰「過去を全部捨てて、やり直そうとでもしたわけ?」

怠惰は勇者を殴りつけた。

怠惰「失われた者達は、決して戻らないというのに」

怠惰は勇者を殴りつけた。

怠惰「今を救って、過去を塗りつぶそうとするんじゃないわよ」

勇者「ごぼっ…………」




勇者は視界がぼやけていった。

薄れゆく意識の中。

このまま自分は、死すべき人間なのかもしれないと、思ってしまったのだった。
639 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/18(日) 01:13:39.12 ID:2zTPbsaX0
乙待ってた
640 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/19(月) 00:10:56.45 ID:GdHXJLsA0
やった、更新されてる!
641 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 15:02:12.84 ID:sWHyAgRB0
【怠惰の勇者の思い出】

怠惰「どんまいどんまい」

剣士「そう肩を落とすなって」

勇者「そう言われても……。俺も2人のいる選抜クラスに入りたかったよ」

剣士「気持ちはわかるが、勇者だってろくに鍛錬してなかったじゃないか」

怠惰「ちょっと剣士!!試験前に勇者はちゃんと体力づくりしてたって!!勉強が足りなかっただけよ!!」

勇者「あの、全然フォローになってないんだけど……」

剣士「いずれにせよ幼馴染は幼馴染だ。年齢は違えどな。これからも休日には遊び相手になってやるさ」

勇者「べつにいいし…」

怠惰「拗ねちゃって。やっぱり年下のお子様はかわいいなぁ」

勇者「まーたそうやって!!」
642 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 15:08:47.10 ID:sWHyAgRB0
〜数年後 試練の谷〜

鳥の魔物は羽根の中に魔力の渦を溜め始めた。

大気が震えた。

怠惰「『フルゴラ!!』」

怠惰が呪文を唱えると、空から雷撃が降り注いだ。

しかし、虹色の鳥獣はびくともしていないようだった。

怠惰「何度やっても電撃が効かないわ……。何よ、こんな化物出るなんて、試験官は一言も説明してなかったのに……」

剣士「珍種が谷に迷い込んだんだ。俺がひきつけている間に、怠惰は勇者を連れて逃げろ!!」

剣士は気絶寸前で呻いている勇者を見て言った。

怠惰は勇者を背負った。

勇者「ぐぼ……」

勇者の口から出た血が怠惰の肩についた。

怠惰「本当に、剣士だけを置いていくなんて……」

剣士「はやくしろ!!!」

鳥の魔物は羽根を広げた。

溜め込んだ風の魔力が、剣士に向かって飛び出した。

怠惰「剣士!!!!」



怠惰が叫んだ時。

空から青白い光が注いだ。

青白い光は気絶している勇者と怠惰を包み込んだ。

怠惰「な、なによこれは!!」

鳥の魔物が放った風の呪文は、剣士の身体を貫いた。

その瞬間、棺桶が出現し、剣士の身体を保管した。
643 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 15:12:24.78 ID:sWHyAgRB0
教会で3人は目覚めた。

夜になると、怠惰は一人で長老の屋敷に赴いた。

長老の言葉に怠惰は驚いた。

怠惰「間違えた?」

長者「そうとしか考えられん」

長老「精霊はお主に取り付くはずじゃった。幼き頃から雷の呪文を操りし、勇者の資質を持って生まれた者。その者の強い心の動きに呼応して精霊は現れた」

長老「ただしその時に背中に勇者を背負っていた。精霊は誤ってあやつに取り付いてしまったのじゃろう。ろくに鍛錬もせず、呪文も使えぬあいつに、勇者の資質があるとは思えん」

怠惰「だったら、もう私に精霊の加護が取り付くことは……」

長老「ないじゃろう。お主は精霊の加護のない勇者となり、あやつは勇者でないのに精霊の加護を持つ者となったのじゃ」

長老「急遽だが、旅立ちの時は来た。本来であれば、お主と、剣士と、優秀な術士をつけて冒険させる予定じゃったが」

長老「勇者を連れて行け。戦闘の役には立てずとも、精霊の加護はあるだけで役立つ」

長老「なんせ、殺されても死なないからの」
644 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 15:15:52.99 ID:sWHyAgRB0
〜旅の途中〜

今日も帰り道は険悪ムードだった。

剣士「お前がそんなんだから、せっかく仲間になってくれたあの魔法使いも見切りをつけて出ていったんだ!!」

勇者「そんなこと言われたって……」

剣士「なんで戦おうとしないんだ!!」

勇者「できることはやってるよ!!俺の実力なんて最初から百も承知だったじはずじゃないか」

剣士「お前があの時!!」

怠惰「もううるさいよ……。宿に戻って休もう。クエストは無事完了したんだから」


お金だけはたくさんあった。

剣士も怠惰も戦闘能力にはかなり秀でており、キメラ狩りなどの上級クエストもクリアすることができた。

しかし、いつしか、良質の宿屋に泊まるときも、3人分の個室を取ることが増えていった。



勇者「くそ!!馬鹿が!!」

勇者「どうして俺が冒険なんかでなくちゃいけねーんだよ!!」

勇者「もう起きたくない。一生寝てたい。何も背負いたくない。何も考えたくない」

勇者「できねーよ。もう逃げさせてくれよ。努力したくねーよ」
645 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 15:16:56.77 ID:sWHyAgRB0
勇者こそ、最初は喜んでいた。

親しく、憧れの幼馴染の2人と、一緒に冒険ができると。

しかし、2人には才能があったし。

今まで積み重ねてきたものの差もあまりにも多すぎた。

勇者「努力が足りないっていうけど。才能があったら、俺だって努力していたさ」

勇者「センスがないんだよ。自分でもわかるんだ」

勇者「剣術の訓練なんてそう。パターンの記憶しかできない。これからどんなに頑張っても、100万通りある戦い方の、千通りの戦い方を暗記して終わってしまうだけだ」

勇者「剣士なんて身体の中に無限の戦い方の記憶が埋め込まれてるみたいだ」

勇者「呪文だって怠惰みたいに使いこなせない。呪文書に向き合っても、理論をまるで理解できない。感覚で唱えられる天才型でも決して無い」

勇者「はあ、嫌だな。寝たくないな。明日起きたくないな」

勇者「幼馴染とか、性格がどうとか関係ない」

勇者「人間関係って、実力で決まってしまうんだ」

勇者「レベルがあがったら遊び人にでも転職しようかな。そしたら戦えなくても許してくれるかな」

勇者「それとも、俺が、冗談言ったり、変な踊りを踊っても、あの2人は白い目で見てくるだけかな」

勇者「昔みたいに、もう笑い合ったりできないのかな」
646 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 15:19:23.40 ID:sWHyAgRB0
〜幻の巣〜

剣士「また、あの時と同じか……」

町を壊滅に陥れた魔物の討伐に来ていた。

それは、巨大な虹色の鳥の魔物だった。

剣士「成長しているのは人間だけではないってことか」

怠惰「剣士、無謀な攻撃はしないでよ。頂上まで着くのにこれだけの日を要したのよ。ここではあいつの魔力で移動の翼が効力を失うんだから。これで教会に転送されたら、こいつはまた卵を持って他のエリアへ……」

剣士「わかってる」

剣士「勇者、俺と怠惰がやつを引き付ける。その間にお前はたまごを奪うんだ」

勇者「…………」

剣士「どうした、できないのか?」

勇者「……やるよ」
647 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 15:32:15.42 ID:sWHyAgRB0
剣士と怠惰が魔物の注意をひきつけている間。

魔物の巣に勇者は駆け寄った。

勇者「これが……大賢者の言ってた……」

虹色の小さなたまごを掴んだ。



勇者が駆け戻ってこようとしたとき、鳥の魔物は振り返った。

そして、たまごを抱える勇者を見て、雄叫びをあげた。

剣士「まずい、気づかれた!!」

魔物は毛を逆立て、勇者に向かって駆けてきた。

怠惰「勇者!!はやく自殺してよ!!たまごの所有権は今私達にあるわ!!」

勇者「い、いきなり言われても困るよ!!」

両腕でたまごを抱えながら、勇者はパニックに陥った。

魔物が足を伸ばし、勇者の首を引き裂こうとした。

勇者「うわぁ!!」

勇者は身体をのけぞらし、思わず手を顔の前に出した。



勇者の腕は引き裂かれた。

勇者の両手から大量の血が溢れ出した。

卵は地面に落下し、割れてしまった。

怠惰「卵が!!!」

勇者「……うぐぁあああ!!!」

勇者「いだい!!!いだい!!!!か、回復!!はやく!!!」

怠惰はショックのあまり呆然としていた。

魔物さえ、割れた卵を見つめながら、動きを止めてしまった。
648 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 15:36:48.94 ID:sWHyAgRB0
剣士「おい、この無能」

剣士は痛みに呻いてる勇者の胸ぐらを掴んだ。

剣士「これで、1つの町の命が無駄になったぞ」

剣士「お前には精霊の加護しかないのか。お前自身の価値はどこにあるんだ。お前は何のために生きてるんだ」

剣士「どうして俺達と一緒にいられる。平気で歩いてこれたんだ。飯を食って、寝てこれたもんだ。俺らがどんな思いを抱えてきたかなんて、お前は一生知ることはないんだろう」

剣士「お前なんか、仲間にするんじゃなかった」



剣士は怒りにまかせて言葉を吐くと、割れた卵を見つめたままの魔物の背後に忍び寄っていった。

勇者は霞んだ景色を、ただ不思議な気持ちで見ていた。

迷惑をかけないように、行動してこなかったことで今まで怒鳴られていたのに。

いざ、役に立ちたいと思って動いてみたら、また失望された。

両手から血を流しても心配などされないくらいに、自分はこのパーティで無価値な存在となってしまった。

勇者「…………」

憎しみがわいた。

幼い頃より誰よりも早く起きて剣術の訓練をしていた剣士。

幼い頃より誰よりも遅くまで呪文集を読み込んでいた怠惰。

そして、今ある時間を過ごしたいように過ごしてきた勇者。

自業自得の報いを受けただけに過ぎないのに。

勇者は、世界に、2人に憎しみを抱えた。

勇者「……滅べ。滅んでしまえ」

勇者「自分を認めてくれない、こんな世界……」

勇者「魔王に滅ぼされてしまえ……」

勇者はつぶやいた。
649 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 15:45:30.40 ID:sWHyAgRB0
魔物は身体を起こすと、目を閉じた。

虹色の羽毛が真っ赤に色を変えた。

魔物は振り返り、剣士に向かって羽根を向けた。

剣士「まずい……」

剣士が防御の姿勢を取るよりも早く、飛び出した羽根が剣士の身体に刺さった。

バサバサと音を立てながら、無数の羽根が剣士の全身に刺さっていく。

身体中からどばどばと血が溢れ出した。

剣士「……ガ……ゴ……ギギ……」

目をまわしながら剣士は崩れ落ちた。



異変は明らかだった。

怠惰「……どういうことよ」

怠惰「ねえ、なによ。どうして棺桶が出現しないのよ!!」

怠惰「精霊の加護を防ぐ通常攻撃なんて理論上ありえないわ!!どういうことなのよ!!」

怠惰「……まさか」

怠惰は、勇者を見た。

勇者はもがれた両手を突き出し、朦朧としながらうすら笑いを浮かべていた。

怠惰「あんた……まさか!!」

怠惰「パーティを解除したのね!!」
650 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 15:46:38.16 ID:sWHyAgRB0
バサバサという音が再び響き、怠惰は鳥の魔物を振り返った。

羽根の色は虹色に戻っていたものの、魔力を蓄え、次の攻撃準備にうつろうとしていた。

怠惰「こ、ころされる……」

怠惰「し、しぬ……」

怠惰の全身に汗が吹き出た。

足が震えてまともに立てなくなった。

怠惰「う、うそでしょ……し、しにたくない……」

怠惰「勇者、ちょっと、冗談でしょ……」

怠惰は震えながら勇者に近づいた。

両手から血を流していた勇者は、出血多量で死亡した。

棺桶が即座に勇者を保管し、精霊が出現し、教会へと転送した。

塔の頂上には、剣士の死体と、伝説級の鳥の魔物と、怠惰だけが残された。

怠惰「……はは、見捨てられた。し、死ねってことなのね……」

怠惰「やだ……。死にたくない……」

怠惰「だ、誰か助けて……」



怠惰が恐怖で震えていると、鳥の魔物は気が変わったのか、魔力を溜めるのをやめた。

そして、剣士の亡骸に近づいた。

くちばしを伸ばし、死体を貪りはじめた。

液体の飛び散る音が響いた。

怠惰はよろけ、転びながら、今まできた道を急いで引き返していった。
651 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/22(木) 00:50:01.52 ID:xeSHWv790
652 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/22(木) 01:52:05.72 ID:crdEtf/DO
653 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/24(土) 08:10:25.70 ID:TCmnjeZu0
〜翌日〜

「おーい、生きてるぅ?」

勇者「……うぐ……」

「ここからじゃ見えないけど、ひっどい音が聞こえてきたよ。なんか、昔仲間を見捨てて逃げたそうじゃないか。殺されないだけましだよ。毎日拷問攻めにされたっておかしくない」

勇者「……俺を殺せない理由があるんだと思う。あいつらの求めてるものについて、俺が何か知ってるかもしれないと思ってるんだ」

「でも、もう拷問にかけられたんだろ?吐かずに耐えたっていうのかい?」

勇者「俺自身でさえ大した情報ではないと思っていることが、奴らにとっては大きな価値を持つことがある。電撃流しの拷問はそういう繊細な情報の引き出しには不向きなんだ」

「ふーん」

勇者「それより、この数日間で俺以外に投獄されたやつを知らないか。職業は遊び人で、女の子なんだけど」

「私のこと?」

勇者「……そういう冗談はいい。とにかく、何か知ってることがあったら何でも教えてくれ」

「今夜のご飯は肉が出るよ。楽しみでしょ」

勇者「そういう冗談は良い」

「自分では大したことないって思ってることでも、誰かにとっては大事な情報かもしれないってさっき自分で言ってたじゃん」

勇者「俺が言いたいのは」

「カリカリしないでよ。ここは怠惰の監獄だよ?焦ってどうするのさ」

勇者「その焦りも消えてしまったらどうするんだよ」

「その時は今の意識さえ消えてしまってるんだ。怠惰に生きていけばいい」

勇者「ふざけた理屈だ。そんなの、死んだらどうせ無になるから、死んでも構わないって言ってるようなものじゃんか」

「死んでもかまわないけどなぁ」

勇者「口だけだ。いざ死に直面したら」

「うぐっ!!!!」

勇者「な、なんだよ」

「うぐっ……おぇええ……」

勇者「布の音……衣類を首に巻き付けてるのか!?」

「……こ……に……」

勇者「お、おい!!誰か!!誰か!!」

「こんやは……おにく……」

勇者「…………」

「本当に死ねばいいって思った?嫌だよ、生きたいから生きてるんだもの。死にたくないから生きてるなんて言ってる奴らはみんな嘘つきさ。おやすみ」

654 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/24(土) 08:11:56.02 ID:TCmnjeZu0
〜翌日〜

ガン!ガン!

「……うるさいなぁ。また檻を破ろうとしてるの?」

勇者「……救いにいかなくちゃいけない人がいるんだ」

「遊び人の女の子を探してるって言ってたね。恋人なの?」

勇者「そんなんじゃない」

「それじゃあ片想い?」

勇者「…………」

「あっ、ちょっとイラッとしてる」

勇者「パーティメンバーだよ。もう、今は違うかもしれないけど……」

「なにそれ」

勇者「俺の中に宿っている精霊を破壊されたんだ。パーティメンバーは精霊の力を授かったものが、仲間として認識することで結成される。その精霊がいなくなってしまえば、もう効力は無いんだ」

「えっ、職業勇者だったの!?」

勇者「違う。精霊が宿っただけの無能だよ。だからここに閉じ込められてる」

「本当の職業は何なの?」

勇者「無職だと思う。でも、案内人に向いてるって言われたことはある」

「なにそれ、面白いんだけど。珍しいじゃん」

勇者「ありがとよ。ところで、あんたとおしゃべりしている暇はないんだ」

「いくら体当りしても無駄だよ」

勇者「今の俺は身体能力を強化されているんだ。その代わり寿命を消費しやすい体質になっているけど。1ヶ月もきれたら効果が消えてしまうらしい。まあ、あんたには何のことだかさっぱりだろうけど……」

「人そのものに枕詞をつけたんだね。『大罪の』って。怖いことする人もいるもんだよね。大罪の一族でさえその枕詞は中々つけないものなんだよ。超優秀な賢者ならともかく」

勇者「大罪の一族を知ってるのか!?」

「…………」

勇者「知ってるんだな?」

「…………」

勇者「えっ?なんでいきなり黙った?」

「些細な情報に驚くと相手は喜んでもっと大きな情報を教えてくれる。大きな情報に興味がそそられないふりをすると相手はムキになってもっと細かい情報を教えてくれる」

勇者「……ふ、ふーん。大罪の一族か、どうでもよさそうな話だな」

「じゃあ話さなーい」

勇者「絶対言うと思った!!」

「絶対言うと思ったって絶対言うと思ってたからもう話さない」

勇者「絶対言うと思ったって絶対言うと思ってたからもう話さないって絶対言うと思っ」

「絶対言うと思ったって絶対」
655 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/24(土) 08:12:45.14 ID:TCmnjeZu0
〜翌日〜

勇者「いいこと考えた」

「どうぞ」

勇者「死んだふりをすればいい。そしたら死体だと思って引きずり出してくれる。食事が来たときにでも試そう」

「今まで誰も試みなかったと思う?」

勇者「どうなったんだ?」

「死体には魔弾が撃ち込まれるんだ。死んだふりをしている生者じゃないか確かめるために。ここの食事は魔力を奪う素材が使われているから、防御呪文も唱えることはできないよ」

勇者「抜かり無いな」

「そういえば体当たりばかりで、呪文を使おうとはしなかったね。普通みんな呪文から試そうとするもんだよ」

勇者「ろくに使えないんだよ。精霊の信頼が一般人よりも全然無いんだ」

「精霊の加護がついてたのに?変なの」

勇者「あんたはどんなのが使えるんだ」

「ドラゴンになる呪文とか」

勇者「えっ!?」

「使えたら楽しいだろうなあって妄想する呪文」

勇者「はいはい」

「想像は魔法だよ。実際に目の前に現れるか現れないかの違いだけだ」

勇者「かなり大きく違うと思うんだけど」

「こんな独房の中で発狂せずにいるのに必要なのは、頭の中の世界をひろげることだよ」

勇者「あんたはいつからここにいるんだ」

「いつからだと思う?」

勇者「俺と同じくらいからじゃないのか?」

「そういうことを想像するだけでもいい訓練になると思わない?」

勇者「何の訓練だよ。妄想か?」

「呪文の訓練だよ」

勇者「えっ?」

「頭の中に強く思ったものだけが、目の前に現れるんだよ。だから、現実を大切にしたければしたいほど、想像することをやめちゃ駄目だ」

勇者「そっか……。たしかに、そうかも。俺も自分の願いを浮かべて……」

「肉肉肉肉肉」

勇者「せっかくいい話だったのに」

その夜の食事は質素なスープだった。
656 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/24(土) 08:14:01.10 ID:TCmnjeZu0
〜翌日〜

「貴族が貴族である所以は、努力をしなくていい人間であるからだよ。つまり、働かないっていうのは偉いってことなんだ」

勇者「遊び人が聞いたら泣いて喜びそうな言葉だな」

「奴隷が何を強いられているかといえば、労働の二文字に尽きるよ。奴隷が反乱を起こしたのは、命を賭けてでも、働くことを辞めようとしたからだよ。それこそ、命がけの労働から逃げるためにも」

勇者「嫉妬の勇者は元奴隷だって言ってた」

「同情するかい?」

勇者「俺の育ったこの地域は、奴隷制度なんてものとは無縁だったから。正直、あんまり想像できないよ。それに労働はまた別問題だろ。今の時代王様だって忙しそうに働いているさ。職業あるものみな労働者さ」

「だとしたら職業無きあんたは最も偉大な存在だ」

勇者「はいはい」

「誰だって労働なんてしたくないのさ。労働せずに色々なものを手に入れられるならそれがいいに決まってる」

勇者「俺も努力は嫌いだった」

「努力と労働はまた別だよ。最低限を求めるのが労働で、最大限を求めるのが努力なんだから」

勇者「正反対だな」

「働いてる人々がみんな最大限の幸福を追求しているように見えるかと尋ねられたら、そんなことはなさそうに見えるだろう?頑張って何かを入れることより、頑張らないことの方が楽なんだもの」

勇者「頑張らない方が楽なのは当たり前だろう?」

「好きな人と結婚して、子供を産んで、幸せな家庭を持つ可能性をあげるくらいなら、訓練もせずに怠けていた方がましだ、ってことの何が当たり前なのさ。ありふれた怠惰というのは、実に非常識なことなんだよ」

勇者「なんで俺は頑張れなかったんだろう」

「人が今までやってきたことを繰り返すのは、生き残る確率が高いからに違いないからじゃないかな。昨日と同じ道を通れば、新たな危険に遭遇せずに済むからね。変化に適応できない生物から死ぬというのに、皮肉な話だよ」

勇者「平穏に生き伸びることだけを考えて怠惰に過ごしていたら死にたくなる人生を送ってしまったわけか」

「人生皮肉だらけだね」
657 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/24(土) 08:26:10.11 ID:TCmnjeZu0
〜翌日〜

「精霊が失われたとわかった時どんな気持ちだった?」

勇者「自分が失われたような感触だった」

「それは精霊への愛情?」

勇者「違う。精霊の加護がなくなったことによって、自分の唯一の取り柄がなくなってしまったという絶望」

勇者「それは、今まで隣にいてくれた人が、離れていくかもしれないという恐怖でもあった」

「離れると思う?あんたの大事な遊び人さんとやらは」

勇者「……あの子は多分、そういう子じゃない。俺と冒険を始める理由に精霊の存在はあったかもしれないけど。精霊がいなくなったからって、人を見捨てるような子じゃない」

「だとしたら、離れていくのは君自身からだね。精霊のいいない素の自分に失望されるのが怖くて、距離を置かれる前に距離を置こうとする未来が見えるよ」

勇者「…………」

「だから今までの人生努力していた方がよかったのに」

勇者「みんなが口にするセリフだろそれ」

「才能によって人望を得た人は『自分から才能が失われたら何も残らない』という負の側面に目を向ける。努力によって人望を得た人はそうは思わない。才能は手に入れる過程がなかったから一瞬で失うことを想像しやすいけど、努力は積み上げた過程があるだけ失った自分を想像しにくい」

「努力によって培ったものを失った自分なんて、所詮過去の自分に過ぎないからね」

勇者「あんたは今までの人生努力してきたのか」

「もちろんさ。毎日寝てても飯が運ばれてくる生活を追い求めてきたさ」

勇者「夢がかなったというわけか」

「肉肉肉肉肉」

勇者「今夜叶うといいな」
658 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/24(土) 08:59:06.96 ID:TCmnjeZu0
〜翌日〜

勇者「…………」

「…………」

勇者「…………」

「……何考えてたの?」

勇者「何も」

「嘘ばっかり。真面目なこと考えてたんでしょ」

勇者「精霊って何なんだろって考えてた」

「ふーん。で、何だったの?」

勇者「信頼そのものだった」

「信頼?」

勇者「人間の信頼を具現化したものだった。って、精霊を目視したことはないけどさ」

勇者「精霊が人を信頼するんじゃなくて、人に宿る信頼度こそが精霊の力足り得るんだって」

「よくわかんないな」

勇者「実力の高い人は精霊の力をより借りられるようになって、呪文の威力が増すだろ。最たるものが無口詠唱だ。そして、無口詠唱を唱えられる代表的な存在が魔王だった」

勇者「でも、精霊は魔王に宿ったことはかつて一度もない。精霊が力を貸すのはいつも人間だった」

「それは世界の力の均衡を保つためじゃないの?」

勇者「遊び人から聞いたことがある。精霊は、精霊を守ってくれる唯一の存在が人間であると信じていたと」

勇者「俺は、俺に奇跡的に宿りついてくれた精霊を、守ってあげられなかった。精霊は最初から俺に失望していたし、最後の瞬間まで思った通りの出来損ないだった」

勇者「一度でいいからさ。信頼されてみたかった。信頼されるような自分になるべきだった」

勇者「変わりたくても、変われなかった」

勇者「多くの人間は、努力する人間が好きだ。それは多くの人間が、変わりたくても変われないからだよ」

勇者「頑張っても変われないんじゃなくて。変わりたいのに頑張れない」

勇者「頑張ったら、変われるというのに……」

「……一度でも頑張ったことあるの?」

勇者「最近、少し頑張ってた。でも、間に合わなかった」

勇者「三つ子の魂は百までっていう通り、俺の性根が腐っていることはきっと死ぬまで変わらない」

勇者「けれど。後悔の日々の積み重ねの先に、自分の中に新しい魂が宿ることもあると思うんだ。ひねくれていた頃の自分では決して信じられないようなほどの、希望や善意に満ちた自分がさ」

勇者「戦わなくていいと言ってくれた人のために、戦おうって思ったんだ」

勇者「俺だけじゃない。今まで散っていった数多くの勇者の願いはきっと一緒だったに違いない」

勇者「好きな人が、遊んでいられる世界をつくろう」

「…………」

勇者「遊び人という職業を生むために、賢者という強き職業が存在しているのかもしれない」
659 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/24(土) 09:51:08.54 ID:TCmnjeZu0
〜翌日 深夜〜

コンコン

勇者「なに?」

「あっ、起きてた」

勇者「眠れないからな。あんたと同じだ」

「へへっ。あのさ、暇だから昔の話でもまたしてよ」

勇者「どんな?」

「将来の夢とか」

勇者「冒険譚を自分で書くのが夢だった」

「へー!意外」

勇者「俺も世界各地の異変を自分の目で見て。冒険譚を自分で書いて。故郷のやつらから尊敬の眼差しを集めようなんて妄想して」

勇者「認められること、見られることばかり考えて、誰のことも見てあげようとはしなかった。そのせいで、今や監獄となった故郷で、こうして閉じ込められることになった」

勇者「悔いだらけだな。自分には才能もないって努力もしないで。故郷のやつらが今の俺を見たらどうおもうかな。駄目なままだって思うかな」

勇者「こんなところに閉じ込められたら、怠惰の呪いがなくても過去を思い出して廃人になりそうだよ」

「…………」

「今まで馬鹿なことしちゃったね」

勇者「本当だよ」

「まして、才能なんてものに縋ろうとするなんてさ」

「才能って、誰もができないことを自分だけはできることを言うでしょ」

「努力って、過去の自分ができなかったことを今の自分ができるようにすることを言うでしょ」

「努力しておけば、とにかく間違いは起きなかったのにね。他人よりいくらスピードが遅くてもさ。昨日の自分より今日の自分が遅いってことは絶対ありえないんだから」

「一歩も進まなくても他人により秀でるのが才能だとしたら、昨日の自分より一歩秀でることが努力なんじゃない?なんだか、そっちの方が幸せを感じて生きられそうじゃない?」

「だからさ」

「今から、また変わればいいじゃん」

勇者「でも、どうやって……」

「こうやって」





ガチャリ。




660 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/24(土) 10:33:32.52 ID:TCmnjeZu0
勇者「……えっ」

勇者が格子に手を触れると、扉箇所が開いた。

今夜は曇りなのか、月明かりも差しておらず、いつも話していた相手の顔をろくに判別できなかった。

勇者は驚きを抑えつつ、小声で尋ねた。

勇者「鍵を盗んだのか?」

「持ってた」

勇者「持ってた?」

「看守だから」

勇者「はっ?あれ、いつも食事を運んできた看守は……」

「役目が細かく分かれててさ。死んでるかもしれない人に魔弾を打ち込んで生存確認なんかをするのが僕の役目なんだ」

勇者「隣の部屋の囚人かと思ってた……」

「隣の部屋は今空き部屋だよ。労働者を強いられている奴隷という意味では、囚われていることに変わりはないんだけどね。みんなと違って故郷にいられるだけましかも」

「今まで騙しててごめんね。本音を聞きたかったんだ。もうちょっと聞きたかったけど、看守は一定期間ごとに交代されるんだ。怠惰の装備とやらの影響で看守自身が働かなくなってしまうからね」

看守は勇者の手を引くと、監獄の外へ連れ出した。
661 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/24(土) 10:35:00.04 ID:TCmnjeZu0
勇者「……えっ」

勇者が格子に手を触れると、扉箇所が開いた。

今夜は曇りなのか、月明かりも差しておらず、いつも話していた相手の顔をろくに判別できなかった。

勇者は驚きを抑えつつ、小声で尋ねた。

勇者「鍵を盗んだのか?」

「持ってた」

勇者「持ってた?」

「看守だから」

勇者「はっ?あれ、いつも食事を運んできた看守は……」

「役目が細かく分かれててさ。死んでるかもしれない人に魔弾を打ち込んで生存確認なんかをするのが僕の役目なんだ」

勇者「隣の部屋の囚人かと思ってた……」

「隣の部屋は今空き部屋だよ。労働者を強いられている奴隷という意味では、囚われていることに変わりはないんだけどね。みんなと違って故郷にいられるだけましかも」

「今まで騙しててごめんね。本音を聞きたかったんだ。もうちょっと聞きたかったけど、看守は一定期間ごとに交代されるんだ。怠惰の装備とやらの影響で看守自身が働かなくなってしまうからね」

看守は勇者の手を引くと、監獄の外へ連れ出した。
662 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/24(土) 10:36:44.42 ID:TCmnjeZu0
「勇者、無理しないでね。でも、頑張るんだよ」

「戦い続けなければいけない、なんてことはない。勝ち目のない相手と戦って、負けて死んじゃったらどうするの」

「逃げ続けてもいい、なんてことはない。守るべきものを守れなくて、生きがいを失っちゃったらどうするの」

「選択肢は2つあったんだ。戦い続けるか、逃げ続けるか、じゃなくて。今日は戦って、明日は逃げて、を繰り返してもよかったんだ」

「でも、とりあえず今は逃げなきゃだね。そして戦って、守りたい女の子を守りなよ」

「ついでに、故郷のみんなも救ってね」

暗闇の中、ほんのりと笑みが見えた。

「勇者、おかえり」

「そして、さよなら」

看守は手を振ると、元来た道を戻っていった。





涙がとまらなかった。

勇者「……なんだよ。なんだよそれ」

勇者「だって、こんなことしたら」

勇者「あんた、殺されるだろ……」

故郷を後にし。

勇者はにげだした。






変わろうとしているあなたの、目指している姿をこそ、あなたらしいと言ってあげるの。

怠惰の勇者達 〜fin〜
663 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/24(土) 18:44:01.11 ID:QRhFWagoO
1レス貼り付けミスしました…外出中なので帰ったら修正します。
664 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/25(日) 00:56:45.58 ID:jqWNyRsV0
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