乙倉悠貴「追い風が恋を連れてくる」

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102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/10(月) 23:43:11.75 ID:otTlPJINo

『転んだこともありました。引っ張り起こしてくれましたよねっ』


私が、私のことを信じてあげられなくて、何度も困らせちゃいました。
そのたびに一緒に悩んでくれて、私ならどんなことだって跳べるって言ってくれました。


『一緒にいると楽しくって、笑っちゃって。私ずっと恋だって気づいてなかったんです』


好きにだって、ちゃんと理由があるんですね。
落ちるような恋もステキだけど、考え過ぎちゃうような恋で良かった。

もしサイコロを振り間違えて、振り出しに戻されても、
思い出を1つ、1つ拾っていったら、
きっと私、また恋してるって分かると思うから。


『今しかないから、ちゃんと伝えますっ』
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/10(月) 23:43:39.32 ID:otTlPJINo

プロデューサーさん――

もう何かを与えてもらうだけじゃダメなんです。
あなたにも、私の気持ちを伝えたいんです。



『センパイっ、好きですっ! これからもずっと一緒に走ってくれませんかっ』



生まれてはじめて、好きだと伝えました。
真似っこなのかもしれない。ただのお芝居なのかもしれない。
でも誰かに伝えたいこの気持ちだけは、ニセモノなんかじゃありませんっ。

ドキドキで苦しくて、怖くて、ふわふわして、恥ずかしくて。

響いたはずのカットの声は、
一瞬の風になって通り抜けていってしまったような、そんな気がしました。
104 :9. ミックスジュースのいうとおり [saga]:2017/07/10(月) 23:44:08.03 ID:otTlPJINo



「それでは、みなさま、ドラマスペシャルの撮影お疲れ様でしたー!乾杯!!」

「「「「乾杯!」」」」


監督さんのよく通る声がお店の中に響きます。
なんとかすべてのシーンを撮り終えて、こうして打ち上げを迎えることができました。
他の出演者の皆さん、スタッフの皆さん……そして私とPさんも。

子どもたちの席に座らされた私は、先輩方に囲まれて、たくさん褒められています。

最後の告白シーン私もドキドキしちゃったよ! あんなに足速いなんて知らなかった!
撮影中もたくさんお話ししたのに、まだまだ話題は尽きません。

困った顔をしたり、あいまいな相槌を浮かべたり、目の前がぐるぐるしながらも。

それでも、年齢も、アイドルも関係ない、
一緒に走ってきたメンバーとして、ここにいることができる嬉しさを感じています。
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/10(月) 23:44:34.46 ID:otTlPJINo

気がつくと先輩たちは、恋バナの方にヒートアップし始めています。

さすがについていけなくなって、逃げ出そうかと振り返ると、
大人たちの席に座っているプロデューサーさんは、スタッフさんたちと楽しそうです。

隣の女性スタッフさんがお酒を注ぐたびに、
「ありがとうございますっ」とか言って、笑いかけています。

それも、お酒のせいか、少し顔を赤くさせながら。


ぷくーっと頬を膨らませたくなります。
これはあとで追求しないといけませんねっ。

そんなありきたりな反応をしている私に少し驚いて、苦笑いをしました。
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/10(月) 23:45:06.49 ID:otTlPJINo

――――――
―――

「はい、それではお手を拝借。よーぉっ―」

パンッ

打ち上げがひとまず終わったところで、私とプロデューサーさんは抜け出してきました。
最寄りの駅までの道のりを2人で歩いていきます。


「やー、飲んだ食った喋った。悠貴の方もなんだか楽しそうだったな?」

「は、はいっ! で、でも見てたなら助けて欲しかったですっ」

「ごめん、ごめん」


少し酔っ払っているプロデューサーさんが、にへらと笑います。
はじめて私に向けられた表情は、なんだかふにゃふにゃして可愛いものでした。

プロデューサーさんもこんな顔するんだ。
また、1つ、プロデューサーさんのことを知って、嬉しくなります。
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/10(月) 23:45:33.70 ID:otTlPJINo

でも、それはそれ、これはこれです。


「ダメですっ、許してあげませんっ」


私は笑って、プロデューサーさんにずいっと詰め寄ります。
これは、隣の女性スタッフさんにデレデレしてた分です。


「えー。そ、それじゃあ、お詫びとご褒美を兼ねて、何でも言うことを聞くよ」

「何でもですかっ?」


そう言われると、私の心がちょっぴり跳ねます。
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/10(月) 23:46:08.19 ID:otTlPJINo

「俺のできる範囲でね」

「じゃあ、えっと、その……お願いがあるんですっ――」


私は、1つだけお願いをしました。
それは、プロデューサーさんにとっては小さなものでも、
今の私にとっては、大きな、大きなお願いです。

望んだものに向かってまっすぐ。
私の少し震えた声は、暑い夏の夜に溶けていくようでした。
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/10(月) 23:46:37.00 ID:otTlPJINo



「おじゃまします」

「どうぞっ、Pさん。あ、これ、なんか照れますねっ!」


あの夜、私は自分のお部屋で2人でお祝いがしたいとお願いしました。
小さなテーブルの上は、ケーキやら、お菓子やらでいっぱいです。

プロデューサーさんには、高いお店とかに連れて行っても良いんだぞ?と聞き返されました。
これがいいんです。私はきっぱり言えたでしょうか。


「そういえば飲み物、買わなくて良かったのか?」

「はいっ!とっておきがあるんですっ」


きょろきょろと落ち着かなさそうなプロデューサーさんに、私は笑って答えます。
いつもは支えてもらってますけど、たまには私がPさんをリードしたいから。


「Pさん、一緒に、ミックスジュース作りませんかっ?」
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/10(月) 23:47:03.61 ID:otTlPJINo

――――――
―――

ベビーリーフ、バナナ、ヨーグルト、牛乳、はちみつをミキサーに入れて、スイッチオンっ。
ごーっと音をたてて、ミキサーが回り始めます。
ちょっとした待ち時間がやってきました。


「へー、野菜のミックスジュースってこうやって作るのか」

「はいっ!こうすれば苦い生野菜だって、なんとかなりますっ」


備え付けの小さなキッチンに2人並んで、なんでもない話をします。

いつもはどうしていいか分からない待ち時間も、
一緒にいてくれる人がいるだけでこんなに違うんですね。


「悠貴が趣味の欄に書くくらいだもんなぁ。それ系のCMとか取って来れないかな」

「Pさんっ。今くらいはお仕事のこと、忘れましょうっ
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/10(月) 23:47:29.49 ID:otTlPJINo

私の好きなことを2人で一緒にする。
改めてやってみると、こんなにドキドキすることはありません。

私が好きなことを、プロデューサーさんも好きになってくれたら嬉しいんです。
大人でも、子どもでも、アイドルでもない、私をもっと知って欲しいんです。

そうしたら、私は、自分がどれだけあなたを想っているのかを知って、
そして、もっと、もっとあなたのことを好きになります。
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/10(月) 23:47:57.40 ID:otTlPJINo

やっぱり今はまだ子どもかもしれませんけど、
今まで一緒に頑張ってきたプロデューサーさんに認めてもらえたら……
私、もっとかわいくなれる気がするんですっ!

いつかプロデューサーさんもびっくりするくらいに。


だから、プロデューサーさん、これからも私をいっぱい、かわいいって褒めてくださいっ!

アイドルとしての可愛いを、私がずっとなりたかった可愛いを、
いつだって、ていねいに教えてくれるのはプロデューサーさんだけですっ。
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/10(月) 23:48:27.25 ID:otTlPJINo

アイドルになって嬉しかったこと、数え切れないくらいあります。
悲しかったことや辛かったことだってたくさんあります。

きっとこれからもそんな毎日が続いていくのでしょう。


今はこれでいいんです。
触れ合って、甘い言葉を囁き合って、なんて、まだまだ私には恥ずかしいから。


アイドルとしての夢も、可愛くなりたいってことも、
走ることも、小さな恋のキモチも、
ぜんぶまるごとミックスジュースにして。

そうしたら、何気ない毎日だって、きっと生まれ変わります。
もっと、ずっと楽しくなります。
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/10(月) 23:49:25.08 ID:otTlPJINo

パチンとミキサーのスイッチが鳴りました。
それは、なんだかスタートを告げるピストルの音みたいです。

止まったミキサーから、並んだ2つのコップに半分ずつ注いで。
それぞれがコップを取ったなら、乾杯の合図にお互いの目を見つめ合って。


私、恋をしたんですっ。 きっとこの先もずっと――
そんな私とあなたを、今日と明日を、このジュースが繋いでくれますように。


「Pさん、悠貴特製のミックスジュースっ。どうぞ召し上がれっ!」
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/10(月) 23:49:55.68 ID:otTlPJINo


おしまい。
こんな子がいる陸上部に入りたかった。
乙倉ちゃんはかわいい、やったぜ。
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/11(火) 01:06:21.64 ID:jiMC3UZ80
乙、乙倉ちゃんは恋を知ったんですね
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/11(火) 03:03:22.65 ID:TDkpgEW6o
おつおつ
悠貴ちゃんきゃわわ
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/14(金) 11:01:07.35 ID:5b5Bjuako
おつ
読みやすいしとても良かった
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/14(金) 14:27:51.61 ID:LdHvCkA9O
いい話だった、掛け値なしに
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